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裁判員制度・刑事検討会(第17回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年5月16日(金)10:00~11:40

2 場所
永田町合同庁舎第1共用会議室

3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(説明者)
遠山 叡 日本新聞協会 人権・個人情報問題検討会幹事
雨宮秀樹 日本雑誌協会 編集倫理委員会委員長
石井修平 日本民間放送連盟 報道問題研究部会長
(事務局)
大野恒太郎事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
ヒアリング

5 議事

(1) 日本新聞協会からヒアリングを行った(説明資料は別添のとおり)。概要は以下のとおり。

・ 裁判員制度の設計に当たっては、「開かれた司法」の実現という観点から、「表現の自由」「報道の自由」に十分配慮すべきである。
・ 裁判員等の個人情報をすべて非公開にするような制度設計とはすべきでない。
・ 裁判員を退いた人にまで接触禁止の網をかけるべきでない。
・ 「偏見報道禁止」等の規定については、全面削除すべきである。
・ 「裁判員等の秘密漏洩罪」については、守秘義務が課せられる内容の範囲や期限をより明確にすべきである。
・ 報道機関による取材・報道の自主ルールを作成する用意がある。

 引き続いて質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

・ 公正な裁判が行われていることへの信頼を確保するとの理由で、裁判員等の個人情報を非公開とすることを見直すよう求めるとのことだが、公正な裁判が行われるためには、先入観を捨て、証拠と法に基づいた判断が行われることが重要なのであって、個々の裁判員の名前や経歴は関係ないのではないか。
 回答:裁判員を具体的に特定する情報を非公開とすることは理解できる。しかし、裁判員が自ら名乗り出る場合にまで、個人情報を全面非公開とすべきか疑問である。また、どういう人が裁判員となっているかが明らかにされなければ、裁判員制度の定着には結びつかず、裁判体の年齢構成や裁判員の職業は公開することが望ましい。

・ 守秘義務が課せられる内容の範囲や期限の特定を求めているが、どのように特定すべきと考えているのか。
 回答:守秘義務の必要性は理解する。しかし、裁判終了後の検証報道や学術研究を可能とするため、守秘義務を無期限に課すことは適当でない。一定期間後は、プライバシーに関する事項を除き守秘義務を解除すべきである。また、守秘義務が課せられる内容の範囲も、無制限とせずに制限列挙すべきである。

・ 新聞協会の加盟各社は、裁判の取材に関し、記者に対してどのような研修を行っているのか。
 回答:加盟各社において、それぞれに取り組んでいる。新聞協会としての対応は今後検討したい。

・ 職業裁判官は一生守秘義務を負っているが、裁判員はそれと異なるということか。
 回答:裁判員は、一般市民から一回の裁判限りで選ばれるので、事情が異なる。裁判員としての経験を次の世代に語り継いでいかないと、「開かれた司法の実現」という目的が達成できないので、裁判員としての職務終了後は、裁判員制度への提言や自分の意見の表明を認めるべきである。

・ 裁判員等に対する接触規制を設けるべきでないという意見は、裁判員経験者に裁判員を経験しての感想や提言を語ってもらうことを念頭に置いているのか、それとも、担当事件の内容に関して職務中の裁判員等に接触することも許されるべきという趣旨か。
 回答:職務中の裁判員が不適格者であるという疑義が生じた場合に、本人に直接取材することはあり得る。担当事件の中身に関しては、裁判員には守秘義務が課せられているのだから、接触規制を設ける必要はない。また、裁判員が個人的な意見を表明することは許されるべきと考える。

・ 裁判を事後的に検証するために、裁判員等に守秘義務を課すべきではないというが、今でも、裁判手続は公開の法廷で進められ、判断の中身は判決書で明らかになっている。裁判員制度の導入後は、今まで以上に裁判を検証する必要があるということか。
 回答:裁判員制度の透明性を高め、裁判の公正さを担保するために、評議の中身について事後検証することが重要である。

(2) 日本雑誌協会からヒアリングを行った(説明資料は別添のとおり)。概要は以下のとおり。

・ 裁判手続の開始前に関し、「報道機関は、…事件に関する報道を行うに当たっては、裁判員、補充裁判員又は裁判員候補者に事件に関する偏見を生ぜしめないように配慮しなければならない」という規定を設けることは妥当ではない。このような配慮義務を法律で定めることは、たとえ罰則を設けないとしても、報道の自由を脅かすものである。当面は、関係団体による自主的な検討と試行を優先させるべきである。
・ 裁判手続の係属中に関し、「何人も、裁判員又は補充裁判員に対して、その担当事件に関し、接触してはならない」という規定については、その必要性はそれなりに認められるが、あらかじめ厳しく禁ずるのではなく、報道機関の良識と自主判断に任せるのが妥当である。
・ 裁判手続の終了後に関し、裁判員の秘密漏洩罪に関しては、秘密保持義務の範囲を縮小すべきである。「何人も、知り得た事件の内容を公にする目的で、裁判員又は補充裁判員であった者に対して、その担当事件に関し、接触してはならない」という規定は、報道の自由に対する過剰な規制であり、不当なものと考える。基本的には、現に裁判員等である者に対する接触の禁止も含めて、接触禁止の規定は全面削除されるべきであるが、少なくとも、禁止される接触を、裁判員の秘密保持義務の違反になるようなものに限定すべきである。また、少なくとも判決宣告後は、裁判員による論評を自由とし、接触禁止も解除すべきである。

 引き続いて質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

・ 評議の秘密の保持は、裁判の独立の基盤をなすものであり、これは、報道機関にとっての取材源の秘匿と同じくらいの価値を有するものであると思われるが、裁判員裁判において、評議の秘密は保持されるべきと考えるのか、それとも、評議の内容は公開されるべきと考えるのか。
 回答:裁判員制度という新しい制度が導入されるに当たっては、それが公正に運営されているかをチェックする必要がある。不適格者が裁判員になるなど、評議の公正さに疑義が生じた場合には、取材・報道することも必要となるので、全面的に接触を禁止することは適当でない。

・ 評議の公正さが疑われる場合とは、具体的にどのような場合を想定しているのか。
 回答:裁判官が裁判員の意見を強引に抑えたり、偏った意見の裁判員が合議体の構成員となることが考えられる。

・ 裁判員の適格性について疑義が生じた場合にその裁判員に接触することは、たたき台のいう、「担当事件の内容に関し」、接触することに当たらないと解釈することもできるのではないか。
 回答:そのような解釈にはならないのではないか。

・ 判決確定後に、評議の秘密は守られるべきと考えるのか、それとも、評議の秘密を公開すべきと考えるのか。
 回答:評議における発言者名は伏せるとしても、評議の過程は明らかにされるべきである。

・ 裁判員に接触しなければ知り得ないこととして、どのようなものを想定しているのか。裁判員と接触して何を知りたいのか。
 回答:裁判の係属中は、裁判員のバイアスの有無について、本人に直接取材して確認する必要がある。また、裁判の終結後には、評議においてどのような意見が示されたか明らかにされるべきである。

・ 報道等によって裁判員が偏見を持ったか否かは選定手続でチェックできるとしながら、他方、裁判員としての適格性については、選定手続におけるチェックだけでは足りず、これに加えてメディアがチェックすべきという趣旨か。
 回答:そもそも、一般の健全な社会人から選ばれる裁判員が、報道に触れることで偏見を持つことなどあり得ない。また、裁判員不適格者の排除に関しては、選定手続によるチェックが完全であるという保証はなく、報道機関によるチェックが必要である。

(3) 日本民間放送連盟からヒアリングを行った(説明資料は別添のとおり)。概要は以下のとおり。

・ 「偏見を生ぜしめる行為」が禁止されているが、具体的にどのような行為を指すのか極めてあいまいであり、削除すべき。
・ 裁判員等に事件に関する偏見を生ぜしめる行為を、万人について禁止することは問題。現行の職業裁判官に対する働きかけについては何の法的規制がないことや、一般的な規制が表現の自由・報道の自由を制約する危険性も考え、見直すべき。
・ 事件の審判に影響を及ぼす目的で、裁判員等に対し、担当事件に関する意見を述べたり、情報を提供することが禁じられているが、このような抽象的規定では、通常のニュースや番組もこれに含まれると解釈されるおそれがあるので、構成要件を厳格にして、報道の自由が侵される可能性をなくすべき。
・ 裁判員制度は国民参加型の司法制度であり、裁判員になって感じたこと、経験したことが社会的に共有されることが重要であるから、公判後においては、裁判員経験者の発言する権利とそれに対応する取材の自由が確保されるべき。
・ 裁判員等に対して、公判後においても罰則付きの守秘義務を課すことについては、裁判員等への精神的負担を軽減するためにも、秘密とすべき範囲をできる限り明確にし、かつ限定的なものとすべき。
・ 公判中については、公正な審理を確保する観点から、裁判員等の氏名以外の個人情報に一定の保護が必要な場合も想定されるが、公判後においては、本人が特定されるような情報を報道してよいかどうかの判断は、裁判員等経験者本人にゆだねるべき。
・ 裁判員等への接触禁止は、報道機関にとっては取材の禁止を意味するが、公判後においては取材を認める必要がある。なお、公判中であっても、例外的に取材を行うことはあり得るし、容認されるべき。
・ 裁判員制度の設計にあたっては、法律による規制・制限は最小限なものとし、可能な限り報道界の自律的取組みにゆだねるべき。

 引き続いて質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

・ 裁判員等への接触禁止に関し、有名人が裁判員となった場合に、本人が了解していれば接触が許されるべきとする理由は何か。
 回答:本人が了解している場合に接触を禁止する理由はない。また、裁判員制度に対する国民の関心を高めるためにも、そのような場合には報道を認めるべきである。

・ その場合、有名人は何を語ってもよいという趣旨か。
 回答:有名人であるか否かにかかわらず、守秘義務等に関する制度の枠組みの中で対処すべきことであろう。

・ 守秘義務について、公判中と公判後で分けて考える理由は何か。
 回答:公判中は、判決確定に至る議論が行われているということで、報道機関にも一定の節度ある対応が必要であろうが、公判終了後は、国民に開かれた制度である裁判員制度の趣旨に添った運用がなされているかどうか、事後検証する必要がある。

・ 検証とは、具体的にはどのようなことを考えているのか。
 回答:例えば、職業裁判官と裁判員の関係に関して、制度がどういうかたちで運用されたのかを報道する義務があると考えている。

・ 公判と判決書は公開されるわけだが、これだけでは正しい裁判が行われていることの検証には不十分であるという理由は何か。
 回答:合議において職業裁判官と裁判員との関係がどのようなものであるかを検証する必要がある。

・ 裁判官による裁判員への議論の押し付けなど、例外的な場合を想定しているのか、それとも、一般的に、裁判員が加わったことによって裁判がどう変わったかということを検証するのか。
 回答:裁判員制度の導入とは具体的にどういうことなのか、検証する仕組みが必要である。その中で、裁判官が裁判員に不当なプレッシャーをかけるということも想定している。

・ 裁判の検証は、公開されている証拠と結論の照らし合わせだけでは不十分ということなのか。この点に関し、取材の体制は確立しているのか。さらに、取材に当たって、記者に対する研修はどの程度しているのか。
 回答:取材の体制は今後検討すべきことであるが、裁判の取材の重要性は以前より増していると考えている。研修については、各社でいろいろやっていると思うが把握していない。

・ 報道機関の自主的努力は、どういうところに気をつけるべきと考えているか。
 回答:裁判員への配慮は重要であり、新しい取材ルールを自主的に検討していきたい。

・ 取材ルールの適用範囲は、民放連への加盟社本体だけなのか、それとも、取材の外注先にも適用されるのか。
 回答:外注先も含めて適用されるべきと、個人的には考えている。

3 次回以降の予定
 次回(5月20日)は、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入に関する検討を行う予定である。

(以上)