○井上座長 それでは、定刻になりましたので、第19回の裁判員制度・刑事検討会を開会させていただきます。
本日も御多忙の折、お集まりいただきましてありがとうございます。
前回までに裁判員制度についての二巡目の一通りの議論を行いましたので、今回からは「刑事裁判の充実・迅速化」に関する二巡目の議論を行いたいと思います。
まず最初に事務局から連絡があるということです。
○辻参事官 日程の追加について御案内いたします。
これまでの予定では6月、7月で、6月27日、7月29日、2回の会合を予定しておりましたが、検討すべき事項がまだかなり残っているということなどを踏まえ、皆様の御都合をお聴きするなどして、6月13日午後2時からと、7月18日午後1時30分からの2回の会合を追加をさせていただきたいと存じます。
したがいまして、次回以降の日程は、お手元の資料2のとおり、第20回が6月13日午後2時から、第21回が6月27日午後1時30分から、第22回が7月18日午後1時30分から、第23回が7月29日午後1時30分からということになります。
追加日程につきましては、必ずしも御要望に沿えなかったところもございますが、御容赦いただきたいと存じます。以上です。
○井上座長 今、日程を確認していただきましたが、6月13日だけが午後2時からですので、お間違えのないようにお願いします。あとは午後1時30分からです。
今、説明がありましたように、7月の末まで5回会合があるということですが、「刑事裁判の充実・迅速化」についての二巡目のひとわたりの議論を7月29日の会合までに終えたいと考えておりますので、御協力のほどよろしくお願いします。8月は夏休みということで1か月ブレークを入れさせていただいた後、9月以降の検討会の日程と、そこから、どういう形で、どういう方法で議論を進めていくかということにつきましては、次回又は次々回あたりに御相談させていただければと考えております。
それでは本題に入りたいと思います。検察審査会制度や裁判員制度についてのたたき台と同様に、これまでの検討会での議論を踏まえ、事務局に、刑事裁判の充実・迅速化についてのたたき台を作成してもらっていますので、その説明をお願いしたいと思います。
○辻参事官 それでは、「刑事裁判の充実・迅速化について(その1)」と題しました資料1について御説明いたします。
まず初めに、このたたき台は、表題に(その1)と記載しておりますように、「刑事裁判の充実・迅速化」の論点のうち、「第1回公判期日前の新たな準備手続」に関するものです。
刑事裁判の充実・迅速化の論点といたしましては、連日的開廷の確保のための関連諸制度の整備など、そのほかにもあるわけでございますが、その他の論点に関するたたき台につきましても、順次作成の上、御検討いただくためにお示ししたいと考えております。
なお、このたたき台には、裁判員制度と同様、従前は議論が必ずしも及ばなかった比較的細かな論点についても、一応の案をお示ししておりますが、もとよりこれからの議論のたたき台として一つの考えられる案をお示ししたものにすぎません。
それでは内容について順次御説明いたします。
まず「1 準備的の目的等」です。
「(1) 準備手続の決定」は、第1回公判期日前に準備手続をすることができることを明らかにするものです。また、裁判員制度対象事件については、(3)に記載しておりますが、それは別といたしまして、一般的には、第1回公判期日前の準備手続は、争点整理や証拠整理を必要とする複雑な事件について行うこととなると思われますが、そのような事件かどうかを判断するに当たりましては、裁判所としては当事者の意見を聴くことが適当ではないかと考えられることから、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴くものとしております。
なお、このたたき台では、第1回公判期日前における準備手続の在り方について記載しておりますが、現在、刑事訴訟規則で規定されている第1回公判期日後の準備手続との関係等につきましては、別途、検討・整理を要するのではないかと考えております。
次に、「(2) 準備手続の目的」ですが、準備手続の目的に関するもので、アは、現行の第1回公判期日後の準備手続の目的を定めた刑事訴訟規則第194条第2項と同様に、裁判所は、公判の審理を迅速かつ継続的に行うことができるよう、準備手続において事件の争点及び証拠を整理するものとしております。
イは、同じく刑事訴訟規則第194条第3項にならいまして、訴訟関係人は、アの目的を達するため、進んで協力しなければならないとしたものであります。争点や証拠の整理という準備手続の目的を達するためには、当然のことながら、訴訟関係人の積極的な協力が不可欠であることから、その旨を明記してはどうかというものです。
「(3) 裁判員制度対象事件における必要的準備手続」ですが、これは、裁判員制度のたたき台においても記載したところですが、裁判員制度対象事件においては、準備手続を必要的なものとするというものです。審議会意見が指摘しているところでありますが、裁判員にとって審理を分かりやすいものとするため、公判は可能な限り連日、継続して開廷し、真の争点に集中した充実した審理が行われるようにすることが必要と考えられます。また、本来の職業等を有する裁判員が裁判に関与するに当たりましては、審理に要する見込み期間が事前に明らかになっていることが必須の前提と考えられます。
そのようなことを踏まえまして、裁判員制度対象事件においては、第1回公判期日前の準備手続を必要的とするというものです。裁判員制度の対象事件に関して、公訴事実に対する被告人の認否による区別は設けないこととしている審議会の意見を踏まえますと、公訴事実に関しては争いがなく、審理・裁判の重点が量刑であることを確認し、どの程度の審理期間を要するかなどを明らかにするために、自白事件でありましても、裁判員制度対象事件については、準備手続を必要的なものとすることが適当と考えたものであります。
「(4) 準備手続の主宰者」については、これまでの本検討会における議論を踏まえまして、A案とB案の両案を併記しております。
両案とも基本的には、受訴裁判所を主宰者としております。
ただし、裁判員制度対象事件について、A案は受訴裁判所を構成する裁判官が準備手続の権限を有するものとし、B案は受訴裁判所以外の裁判所が主宰するものとしております。
A案は、訴訟手続上の判断につきましては、裁判員は評決権を有しないものとするということを前提として、準備手続において事件の争点整理や審理計画の策定を行った裁判官が公判審理にも当たることとすることが、公判審理を円滑で充実したものとするという観点からも適当であるという考えによるものです。
B案は、同じ受訴裁判所の中の裁判官と裁判員との間で情報の格差が生じないよう、裁判員制度対象事件については、受訴裁判所以外の裁判所が主宰するべきであるという考えによるものです。
次に、「2 準備手続の方法等」について説明します。
(1)は、準備手続の方法に関するものであります。
アでは、裁判所が個別の事案に応じ、適当と認める方法を選択することができるよう、準備手続は、訴訟関係人が裁判所に出頭した上で行うことも、訴訟関係人に書面を差し出させて行うこともできるものとしております。現在の第1回公判期日後の準備手続でも同様とされているところです。
イでは、裁判所が、訴訟関係人に対し、主張、証拠調べ請求、さらには相手方の証拠調べ請求に対する意見について、釈明を求めることができるとしております。刑事訴訟規則第208条によりますと、訴訟関係人の主張や立証活動の不明瞭な点などにつきまして、釈明を求めることができるとされております。ただ、争点整理や証拠整理の実効性を高めるためには、裁判所が、準備手続において、訴訟関係人に対し、その主張等について釈明を求めることができる旨を明記するのでは相当ではないかという考えによりまして、この案を掲げたものです。
加えて、同じくイでは、裁判所は、被告人に対し、弁護人による主張等について確認を求めることができるものとしております。これも、いわゆる求釈明の一種と考えられますが、弁護人の主張等が被告人の意思に沿うものであるかを確認することが争点や証拠の整理に有益である場合もあるという考えによるものです。
また、ウでは、裁判所は、訴訟関係人が準備手続に提出する書面の提出期限を定めることができるものとしております。準備手続を円滑かつ迅速に進めるためには、書面提出の期限を定めることが相当である場合もあるという考えによるものです。
エでは、弁護人が準備手続に提出する書面に被告人の連署を求めることができるものとしております。イの後半と同様の趣旨でありますが、弁護人が提出する書面において述べられている主張等が被告人の意思に沿うものであることを確認する手段として、被告人の連署を求めることができるとするものです。
次に、(2)は、関係人が出頭した上でする準備手続の出席者に関するものです。
被告人は、準備手続に出席をすることができるとしつつ、基本的には検察官と弁護人が出席するものとしております。被告人が出席していなくても、弁護人は被告人との事前の打合せを踏まえて、準備手続に対応することができることも多いと考えられます上、機動的に準備手続を行うことができるようにするためにも、被告人の出席を必要的なものとまでしない方がよいのではないかという考えによるものです。
また、弁護人の主張等について確認を求めるなどのために、被告人の出席が必要となるということもあると考えられますので、裁判所は、必要と認めるときは、被告人の出席を求めることができるものとしております。
(3)は、準備手続の内容に関するものです。
これまでの本検討会における議論を踏まえ、事前に審理に要する見込み期間を明らかにした上で、できる限り連日的に開廷して、真の争点に集中した充実した審理が行われるようにするためには、準備手続でどういうことを行うことが必要かという観点から考えまして、準備手続では、特にアないしコに掲げた事項を行うことにしてはどうかと考えたものであります。
(4)は、「準備手続結果の顕出」という項目でありますが、刑事訴訟規則第194条の7にならいまして、準備手続の経過及び結果は、準備手続に係る調書の朗読等によって公判廷に顕出するというものです。
(5)は、「準備手続の充実」と仮に題しておりますが、準備手続を行うに際しての心構えとでもいうべきものでありまして、十分な準備が行われるようにするとともに、できる限り早期に集結させるように努めなければならないものとしております。
続いて、「3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示」について説明します。
(1)は、「検察官主張事実の提示」という項目であり、争点整理の第一歩として、検察官がその主張事実を提示するというものです。本検討会におけるこれまでの議論でも御指摘がありましたが、十分に争点整理を行うためには、まず、検察官が、公判で立証予定の具体的な事実関係を明らかにすることが必要であるという考えによるものです。
具体的には、検察官は、裁判所が定めた一定の期限内に、証拠により証明しようとする事実を記載した書面を、裁判所及び被告人又は弁護人に送付し、かつ、その証明に用いる証拠の取調べを請求しなければならないとしております。
(2)は、取調べ請求証拠の開示に関するものです。
刑事訴訟法第299条第1項を踏まえたものですが、このたたき台におきましては、イに掲げておりますように、弁護人に証拠書類等の謄写の機会を与えるものとしておりますほか、証人尋問を請求する場合には、その証人が公判廷において証言すると考えられる事実が記載された供述調書又は供述要旨を記載した書面を開示するべきものとしております。
これまでの本検討会における議論でも御意見があったところでありますが、検察官主張事実の提示と併せて、当初から検察官が証人尋問請求をする場合も含めて、検察官がその主張事実の証明に用いる証拠の内容を明らかにすること、すなわち、検察官の主張立証の全体像を明らかにすることが、争点整理の第一段階として必要であるという考えによるものであります。
(3)は、取調べ請求証拠以外の証拠の開示に関するものです。
このたたき台では、これまでの本検討会における議論等を踏まえまして、A案とB案を記載しております。
まず、A案は、被告人側による主張の明示前に、検察官から、被告人又は弁護人に対し、検察官が保管する証拠の標目を記載した一覧表を開示し、被告人・弁護人から一覧表記載の証拠の開示請求があった場合には、検察官は、弊害が生じるおそれのあると認めるときを除き、当該証拠を開示しなければならないというものであります。十分に争点整理を行うには、その前提として、検察官手持ち証拠はできるだけ幅広く開示されるようにする必要があるなどの考えによるものです。
B案は、簡略化して申し上げますと、被告人側による主張の明示前に、検察官請求証拠以外のものでも、一定の類型に該当し、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要と考えられる証拠を開示するというものです。より具体的に申し上げますと、被告人又は弁護人から、アないしキの類型に該当するもののうち、特定の類型及び範囲の証拠を検討することが特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることを明らかにして開示の請求があった場合、検察官は、その証拠の開示の必要性や開示に伴う弊害の有無、種類、程度などを考慮して、相当と認めるときには、その証拠を開示しなければならないというものです。検察官請求証拠の証明力を判断することができるよう、B案として記載したような証拠を検討する機会を被告人側に与えることが、証拠開示に伴うおそれのある弊害等にも配慮しつつ、被告人側の訴訟準備や争点整理を十分なものとするための証拠開示の在り方として相当ではないかという考えによるものといえます。
本検討会におけるこれまでの議論におきまして、被告人側がその主張を検討するに当たっては、検察官請求証拠以外の証拠の開示が必要である場合があるという指摘や、開示の必要性・重要性が高く、弊害の少ない一定類型の証拠については、あらかじめ開示すべきであるという指摘などがありましたことを踏まえたものでございます。
アないしキの類型につきましては、類型的な開示の必要性、重要性や、さらには弊害の程度を考慮して掲記してみたものであります。
B案において、開示が想定される若干の具体例を申し上げますと、例えば、被告人が犯行現場に居たことを示す特定の証拠物の証明力を判断するため、犯行現場に遺留され押収されたその他の証拠物の開示を求めたり、被害者の死因に関する鑑定書の信用性を判断するために、被害者の死因に関係するその他の鑑定書の開示を求めるといったことが考えられるのではないかと思われます。
次に、「4 被告人側による主張の明示」について御説明いたします。
(1)は、「主張の明示等」という項目であります。
アは、項目3による検察官主張事実や証拠の開示を受けての被告人側による主張の明示に関するものです。本検討会におけるこれまでの議論を踏まえまして、A案とB案の両案を併記しております。
A案は、被告人又は弁護人が公判廷において、検察官主張事実の全部又は一部を否認する主張、関係する事実の主張その他事件に関する主張をする場合には、準備手続において、あらかじめ、当該主張を明らかにしなければならず、検察官請求証拠に対する意見についても同様とするというものです。
B案は、弁護人が、項目3の検察官主張事実及び証拠の開示を受けた後、公判廷において検察官主張事実のうち、どの部分を争い、積極的にどのような主張をする予定であるかをできる限り明らかにするとともに、検察官請求証拠に対する同意、不同意等の意見を述べなければならないものとするというものです。
B案は、被告人がいかなる場合であっても、主張を義務付けられないようにするのが相当であるとの考え方から、弁護人にのみ、たたき台に記載したような主張の明示義務を課すものです。これに対し、A案は、公判廷においてもするつもりのない主張は明らかにする必要はないとすることで、被告人の黙秘権に配慮した上で、被告人にも主張の明示義務を課すものです。
次に、(1)のイは、被告人側の証拠調べ請求に関するものであり、アと同様、両案を併記しております。
A案は、被告人又は弁護人が取調べを請求する証拠があるときは、準備手続においてその取調べを請求し、かつ、これを開示しなければならないというものです。
B案は、弁護人のみにそのような証拠の取調べ請求及び開示を義務付けるというものです。
次に「(2) 開示の方法」という項目ですが、(1)イの被告人側による証拠開示の方法に関するものです。検察官による証拠開示の方法と同様、証拠書類の閲覧・謄写のほか、証人尋問を請求する場合にはその供述書等を開示すべきものとしております。検察官請求証人の場合と同様に、十分な争点整理、検察官側の訴訟準備、ひいては円滑な公判審理のためには、被告人側請求証人についても、その供述内容を準備手続段階で開示することが必要であるという考えによるものです。
次に、「5 争点に関連する証拠開示」という項目について御説明いたします。
4(1)により被告人側が明らかにした主張に関連する証拠について、被告人又は弁護人から開示を求める証拠の類型及びその範囲、当該証拠と被告人側の主張との関連性その他被告人の防御の準備のために開示が必要である理由を明らかにして開示の請求があった場合、検察官は開示によって生ずるおそれのある弊害の有無、種類及び程度などを考慮し、相当と認めるときには当該証拠を開示しなければならないというものです。
これまでの本検討会における議論において、証拠開示のルールは争点整理と関連付けたものとすべきであるという御意見や、一定類型の証拠をあらかじめ開示するとともに、その他の証拠については開示の必要性と開示による弊害とを考慮して開示の可否を判断することとすべきであるという御意見などがあったことを踏まえ、3(2)及び(3)による証拠開示に加え、検察官から、今述べましたような証拠を開示することが、被告人側の訴訟準備や争点整理を十分なものとするために相当ではないかという考えによるものです。
次に、「6 更なる争点整理と証拠開示」について御説明いたします。
このたたき台では、これまで3ないし5の項目で述べましたような形で、検察官側、被告人側が主張や証拠の開示を行うことにより、争点や証拠を整理をしていくものとしておりますが、被告人側の主張に対して検察官が反論し、さらに、被告人側がこれに反論するなど、更なる主張及び証拠の開示を行う必要がある場合には、引き続き、3ないし5と同様の手続を繰り返し、争点整理、証拠整理を行っていくという趣旨のものです。
続いて、「7 証拠開示に関する裁定」についてです。
(1)は、「開示方法の指定」という項目ですが、(1)のアは、裁判所が、3(2)又は4により開示すべき証拠について、その開示の時期、方法を指定する決定をすることができるというものです。これまで述べましたように、検察官は3(2)により、被告人側は4によりまして、それぞれその取調べ請求証拠を開示しなければならないという案を示しておりますが、開示によって弊害が生じるおそれがある場合もあると考えられます。そのような場合、およそ開示しないことは許されないと思われますが、このアは、開示をすべき者が、裁判所に請求をして開示の時期、方法を指定する決定を得ることを認めるものであります。
(1)のイにおきましては、これまでの本検討会における議論を踏まえまして、アの請求に関する決定、すなわち、特定の開示の時期、方法を指定する決定、あるいはそのような指定を求める請求を却下する決定のいずれに対しても即時抗告をすることができるというものです。
(2)は、「開示命令」という項目ですが、アは、裁判所は、検察官、被告人又は弁護人が、項目の3ないし5によって開示すべき証拠を開示していないと認めるときは、相手方の請求により、当該証拠の開示を命じなければならないというものです。
裁判所は、無条件で開示を命じることのほか、弊害が生ずるおそれ等を考慮して、特定の開示の時期、方法を指定した上で開示を命じることもできるものとしております。
3(3)や5では、検察官は開示によって生じるおそれのある弊害の有無、種類、程度等をも考慮に入れて開示をするかどうかを判断するものとしておりますが、開示によって弊害が生じるおそれがあると認めるときには、検察官は特定の時期、方法により開示をすることも許されると考えられます。被告人側としては、そのような開示の時期、方法に不服がある場合にも、7(2)による開示命令を求めることができるというものです。
(2)イは、(1)と同様に、アの請求に関する決定、すなわち、開示を命じる決定、開示を求める請求を却下する決定、さらには開示の時期、方法を指定する決定などに対して即時抗告をすることができるというものです。
(3)は、「証拠の提示命令」という項目ですが、証拠開示の裁定の手続に関するものであり、裁判所は、必要があると認めるときは、証拠の提示を求めることができるというものです。この場合、裁判所は、当該証拠を相手方に開示しないものとしております。
次は、「(4) 証拠の標目の提出命令」という項目です。
アは、(3)と同じく証拠開示の裁定の手続に関するものといえますが、裁判所は(2)アの開示命令を求める請求に関して決定をするに当たり、必要と認めるときは、検察官が保管する証拠であって、裁判所の指定する類型及び範囲に該当する証拠の標目を記載した一覧表の提出を命じることができるというものです。裁判所が開示命令を求める請求に関して決定をするに当たり、例えば、検察官が保管する証拠のうち、被告人側が開示を求めている類型及び範囲に該当するものとしてはどのようなものがあるかを把握することが有益なこともあるとの考えによるものです。
(4)のイは、そのような一覧表の被告人側への開示に関するもので、2案を併記しております。
A案は、裁判所は、そのような一覧表を被告人側に開示しないとするものです。当該一覧表を開示すると被告人側の証拠漁り的な開示請求に用いられるおそれがあるなどの考えによるものといえます。
B案は、当該一覧表は、裁判所の判断材料の一つとなったものであるから、弊害が生じるおそれがあるときを除き、当該一覧表を被告人側に開示するのが相当であるなどの考えによるものです。
続いて、「8 争点の確認等」について説明いたします。
(1)は、「争点の確認」という項目ですが、準備手続を終結させるに当たり、準備手続によって明らかになった争点を確認するというものであり、争点整理の結果を明確にしようというものです。
(2)は、「準備手続終了後の主張」という項目ですが、準備手続終了後に新たな主張をできるかどうかなどに関するものであります。本検討会におけるこれまでの議論を踏まえ、2案を併記しております。
A案は、検察官及び被告人又は弁護人は、やむを得ない事由によってすることができなかった場合又は証拠調べの結果に照らし、相当な理由がある場合を除き、準備手続終了後に、(1)により確認された争点と異なる主張をすることはできないものとするというものです。
公判審理の段階で、新たな主張をすることが無制約に許されるとすると、準備手続における争点整理が無駄となり、争点に集中した公判審理が実現されないこと、準備手続において策定した審理計画に従った審理はできなくなることなどから、当初の審理見込み期間を大きく超過することもまれではなくなるおそれもあり、特に裁判員制度対象事件では問題があることなどを理由とするものといえます。
B案は、A案のような制約は設けないというものです。そのような制約の制度を設けると、公判審理の段階で新たな主張を制約されることをおそれ、準備手続の段階で、考えられる主張はなるべくしておくということになり、かえって争点整理の目的を達することができなくなるおそれがあること、被告人の黙秘権との関係で疑問があり得ることなどを理由とするものといえます。
(3)は、「準備手続終了後の証拠調べ請求」という項目であり、準備手続終了後の新たな証拠調べ請求の可否などに関するものです。これも、本検討会におけるこれまでの御議論を踏まえまして、3案を併記しております。
A案は、検察官、被告人又は弁護人は、やむを得ない事由によって請求することができなかった場合を除き、準備手続の終了後に新たな証拠の取調べ請求をすることはできない、ただし、裁判所が職権で証拠調べをすることは妨げないというものです。(2)同様、公判審理の段階で、新たな証拠調べ請求をすることが無制約に許されるとすると、準備手続において策定した審理計画に従った審理はできなくなり、当初の審理見込み期間を大きく超過することもまれではなくなるおそれもあり、特に裁判員制度対象事件では問題があることなどを理由とするものといえます。
ただ、もちろん、準備手続において証拠調べ請求をしなかったことがやむを得ない事由による場合には制約はかからないものとし、また、真実発見という見地などからして、新たに請求された証拠の取調べが必要と考えられるときには、裁判所が職権で証拠調べをすることはできるとするものです。
B案は、趣旨としてはA案と同様のものといえると思いますが、やや切り口が異なりまして、検察官、被告人又は弁護人は、準備手続の終了後、新たな証拠調べの請求をしようとする場合において、裁判所又は相手方の求めがあるときは、準備手続においてその証拠調べ請求をしなかった理由を説明しなければならず、かつ、その説明に相当な理由がないときには、裁判所は当該証拠調べ請求を却下することができるというものです。
C案は、A案、B案のような制約は設けないというものであります。そのような制約の制度を設けると、制約をおそれ、準備手続の段階で、考えられる証拠調べ請求はなるべくしておくということになり、かえって証拠整理の目的を達することができなくなるおそれがあることなどを理由とするものといえます。
最後に「9 開示された証拠の目的外使用の禁止等」の項目について御説明いたします。
本検討会におけるこれまでの議論で、開示証拠のコピーが暴力団関係者に流出するなどの事例が生じていることから、証拠開示の拡充に際し、開示証拠の取扱いに関するルールが必要であるとの指摘があったことを踏まえたものです。
「(1) 目的外使用の禁止」という項目ですが、表題どおり、開示された証拠の目的外使用を禁止するものです。被告人及び弁護人は、開示された証拠の写し又はその内容を当該被告事件の審理の準備以外の目的で使用してはならないというものです。
証拠の開示は、あくまでも当該被告事件の審理の準備のためになされるものであり、しかも、その証拠には事件関係者のプライバシー・名誉に関する情報等が記録されていることなどから、目的外使用は許されないということを明らかにする必要があるという趣旨によるものといえます。
イ及びウでは、目的外使用に対し、過料、刑事罰をもうけるという案を掲げております。
(2)は、開示された証拠の管理に関するものでありまして、開示された証拠の写しは、弁護人が管理するものとし、被告人の防御のために必要な場合は別として、みだりに他人にその管理をゆだねてはならないこととするという案を掲げております。
少し長くなりましたが、以上です。
○井上座長 ありがとうございました。
たたき台について、ただ今、説明していただきましたが、この内容について御質問があれば出していただきたいと思います。御覧のとおり、非常に大部ですので、細かな点についてまで、今質問していただいても、あまり意味がなく、むしろそれぞれの論点について議論するところで改めて質問していただければと思いますが、この段階でとりあえず確認しておきたいということがございましたら、質問していただきたいと思います。
○酒巻委員 細かな点の質問ではなく、この制度全体に通じることについての確認なのですが、新たな準備手続は、第1回公判期日前に行われるということは、つまり公判期日外の手続であり、したがって非公開のものであると理解しておりますが、それでよろしいですね。
○辻参事官 恐らく原則的には非公開ということになると思いますが、公開していけないというところまでいくのかどうかについては、その点も含めて御議論いただくということではないかと思います。
○酒巻委員 分かりました。
○井上座長 もし、そういう点についても御意見があれば、後で当の項目のところで御発言いただけると思います。ほかにいかがですか。よろしいですか。
それでは、また、それぞれの項目のところで御質問があれば質問していただきたいと思います。
これからの議論の進め方なのですけれども、これまでと同じような形でよろしいでしょうか。基本的には、たたき台の項目に沿って議論を進めていき、必要に応じて、項目には直接には挙げられていないけれども、それと関連する事柄があれば、それについても言及していただく、という形で進めていきたいと思いますが、よろしいですね。
また、これも前回と同じですけれども、そういうふうに、たたき台の項目に関連して、こういうことも議論すべきではないかということがございましたら、これはそれぞれのまとまりのところの最後のところで出していただきたいと思います。時々、私は、先を急ぐあまり、たたき台に載っている項目を済ませると、では次と言ってしまって、御注意を受けますが(笑)、そういうことがあればどんどん御注意いただければと思います。
もう一つ、たたき台の趣旨、これは何度も繰り返してきたことなので、もう繰り返す必要はないかもしれませんが、念のために確認させていただきますと、このたたき台というのは、これまでの検討会の議論を整理したもので、これまで意見が分かれたような点については複数の選択肢が掲げられていると理解しております。また今後の検討会における議論は、このたたき台に記載された範囲に限定されるものではなく、例えばA、Bというような案が掲げられていたとしても、それとは違うCという案を提案することは当然可能ですし、また、このたたき台で取り上げられた論点以外の論点について意見を述べることも可能だというのが、我々の了解事項であります。
もう一点、議論の仕方に関連して申し上げたいと思います。刑事裁判の充実・迅速化というテーマの全体がそうなのですけれど、これから議論します第1回公判期日前の準備手続は、裁判員制度対象事件において行うということもあれば、裁判員制度対象事件以外の事件についても行うということが当然あるわけです。
そうしますと、議論の仕方としてどの辺に焦点を当てるのかということが重要になってくると思いますが、その際、裁判員制度対象事件であるかどうかにかかわらず同じような手続とすべきなのか、あるいはそこで何らかの差を設けるべきなのか、こういうことが一つ考慮すべき論点になろうかと思います。ここでの議論においても、皆さんがどちらを念頭に置いてお話しされているのか、これが食い違いますと議論がかみ合わなくなるかと思いますので、とりあえずは、刑事裁判の充実・迅速化の必要性がより高いと思われます裁判員制度対象事件を念頭に置きながら議論をし、それに加えて、それ以外の事件における準備手続の在り方が、裁判員制度対象事件と同じでいいのかどうか、異なったものにすべきなのか、あるいは、異なったものにし得るのか、そういったことを節目節目で議論していただくという形の方が議論しやすいのではないかと思います。そういうことでよろしいでしょうか。
(「はい」と声あり)
○井上座長 では、そのような形で議論を進めることといたします。
我々も疲労が重なってきておりまして、それが議論の中身に影響するようでしたら大変ですので、合理的な時間内で議事を終えるため、是非御協力ください。いつにも増して御発言は簡潔にお願いしたいと思います(笑)。
それでは、項目1「準備手続の目的等」の「(1) 準備手続の決定」というところから議論を始めたいと思います。これは、裁判所が必要と認めるときは、当事者の意見を聴いて、第1回公判期日前の準備手続をすることができるという内容ですが、この点についてはいかがでしょうか。
○??井委員 簡潔に申し上げますが、必要だと思います。以上です。
○井上座長 誠に簡明でありがとうございます(笑)。この点については、特にこのような定めは不要であるという御意見はなかったと思うのですが。どうぞ。
○酒巻委員 先ほど全体について質問したこととの関連で、学者としての頭の整理の質問をさせていただきたいと思います。新しい準備手続は、公判期日外の手続である。そうであるとすると、この準備手続は必要であるし、特に裁判員制度対象事件では後で出てくるように必要的に行うべき不可欠の重要な手続であると考えておりますが、その法律的な性質は、憲法の裁判公開原則の対象になっている「対審」ではない。そういう整理になるのだろうと思います。このような理解でよろしいでしょうか。
○井上座長 酒巻委員はそういう御意見なのですね。
○酒巻委員 「対審」ではないと整理することになると思います。
○井上座長 その点は、対審にすべきだという意見はあるのでしょうか。
○平良木委員 準備手続というのは、今まではほとんど非公開で行われていることであり、また、対審は公開するということが前提になっていますが、準備手続は非公開で行うべきだと思います。ですから今までと同じく対審でないという意見です。
○酒巻委員 私が憲法の公開原則との関係に触れましたのは、先ほどの事務局の御説明にもありましたとおり、新たな準備手続では、これまでの準備手続以上に、これまでであったら、公開の公判期日で行われていたような両当事者のやり取りが行われることになるだろうからです。この点につきましては、後に議論する、準備手続の経過と結果が公判期日で顕出されるという関係になっておりますので、特に憲法上の問題はないと考えております。
○平良木委員 それと併せて、例えば、刑事訴訟規則194条のように、第1回公判期日前は準備手続ができないというのがこれまでの刑事訴訟規則の在り方だったわけで、恐らく予断との関係を慮ってのことだろうけれども、新たな準備手続が、予断の問題とは関係ないということをちょっと確認しておいた方がいいだろうと思います。
○井上座長 準備手続でどこまでやるかということに関して、その議論は出ましたけれども、そもそも準備手続を第1回公判期日前に行うということ自体が、およそ予断の問題があるので駄目だという議論は出なかったように思いますが。
○平良木委員 ただ、現在の刑事訴訟規則がそうなっておるものですから、それとの対比でということです。
○四宮委員 座長がおっしゃったように、どこまでやるかということと、今の平良木委員のまとめ方は関係する問題です。つまり、新しい準備手続一切が非公開であるというような形でのまとめ方というよりは、確かに今議論が出ましたように、準備手続を第1回公判前に設けるということ自体については、予断排除の関係はないということでいいのですが、それは準備手続の中で何をやるかということと非常に関係しているので、そこは注意したいと思っているんですけれども。
○井上座長 その点は、皆さん、そういう認識であると思います。ですから、平良木委員の言われたのは、これまでですと、刑事訴訟規則の文言上、およそ準備手続を第一回公判期日前に行ってはいけないということであったけれども、その点はもうクリアしましたね、という、その限りで確認したいということであると思います。それから先のことは、今言われたように、準備手続の中身との関連で議論した方がいいと思います。そういうことでよろしいですか。
御異論がなければ、次に進ませていただきたいと思いますが。
○土屋委員 ちょっと気になったのですけど、裁判員制度対象事件では弁護人の意見を聴かなければいけないのではないかという気が私はしているのですけれども、そこまで書く必要ないのでしょうか。つまり裁判員対象事件というのは必ず弁護人が付くべきだと、私は考えているわけなんですけれども、この書き方だと、被告人又は弁護人の意見を聴いてとなっていますので。
○井上座長 先ほど説明ありましたが、裁判員制度対象事件の場合は必要的に準備手続を行うというのが、たたき台の案なのですが。
○土屋委員 ここで書いてあるのは「被告人又は弁護人の意見を聴いて」と、どちらかでいいという書き方になっていますよね。
○井上座長 たたき台の案としては、第1回公判期日前の準備手続について、裁判員制度対象事件の場合は必要的であるのに対し、裁判員制度対象事件以外の場合には裁量的なものとされており、後者の場合には「被告人又は弁護人の意見を聴いて」ということになっているものですから、今、御心配の点は、(3)の方ですべてカバーされていると思います。つまり、裁判員制度対象事件では、意見を聴くまでもなく、必ず準備手続を行うことになっているわけですから。それでよろしいでしょうか。
○土屋委員 はい。
○池田委員 土屋委員の御懸念は、「被告人又は弁護人」というのは、一方だけで足りるかと、こういう御懸念でしょうか。
○土屋委員 そういうことです。一方だけでいいのかという。
○井上座長 両方聴かないといけないのではないかということですか。
○池田委員 その辺りは、弁護人というのは、本来代理人であって、弁護人が固有的にできるものの場合は別ですけれども、ほとんどの場合、弁護人は被告人を代理するということが基本ですので、法文上は大体このような形で、「被告人又は弁護人」と書いてあれば、それは被告人の意向に反しないということが前提となっているという理解でいいと思いますけれども。
○井上座長 普通、弁護人が付いているのに、弁護人の意見を聴かないということはないのではないでしょうか。被告人だけ聴けばいいというものではないでしょう。
○池田委員 弁護人が付いているときに、弁護人を飛ばして被告人に聴くということはまず考えられないですね。
○井上座長 御懸念の点は、そういうことでよろしいですか。
○土屋委員 はい。
○井上座長 それでは、(2)に進みます。(2)は「準備手続の目的」ということですけれども、これは、さっきお話があったように、内容的には、現行の刑事訴訟規則194条2項、3項の規定にほぼ倣ったものです。それらは第1回公判期日後の準備手続に関する規定なのですけれども、それを前倒しするような形で、第1回公判期日前の準備手続の目的規定として持ってこようというのがたたき台であるわけですけれども、この点について御意見があれば伺たいと思います。
○本田委員 まさに現在の刑事訴訟規則の目的と同じことですから、ここは、たたき台のように、明らかにしておいた方がいいですね。
○四宮委員 目的はこういうことで、公判の審理が速く、続けて行われるということはもちろん必要なのですけど、その前提として、そこで極めて充実した審理が行われるという意味を、もしそういった趣旨も新たに規定を設けるのであれば、入れていただけたらより趣旨がはっきりするのではないかと思います。
○井上座長 「充実」という言葉を入れるべきだという御意見ですか。
○四宮委員 はい。
○井上座長 その点はいかがでしょうか。充実しないでいいという御意見はないだろうと思いますし、これまでも「充実・迅速」というふうに言ってきましたので、考慮に値するお考えだと思うのですけれど、ほかにはよろしいですか。
○酒巻委員 用語についての質問です。このたたき台は刑事訴訟規則の用語と同じで、私も全くこのとおりでよいと思うのですが、たたき台の「訴訟関係人」という用語は、被告人を含んでいる通常の刑事訴訟法の用語と同じと理解してよろしいですね。
○井上座長 刑事訴訟規則自体がそうなっているのでしょう。
○辻参事官 現行の刑事訴訟法、刑事訴訟規則で「訴訟関係人」という用語が使われているのと同様の趣旨でございますので、被告人を含むということです。
○井上座長 それでは、次の(3)に移りたいと思います。これは、先ほど土屋委員がちょっと触れられた点とも関連するのですが、裁判員制度対象事件については準備手続を必要的にする、必ず開かなければならないということにしようという内容になっております。この点はいかがでしょうか。どうぞ。
○池田委員 私は、このたたき台でいいのではないかと思います。裁判員制度対象事件は、特に公判前に具体的な審理計画を立てて審理に要する見込み時間をはっきりさせることが不可欠ですので、このように必要的とすることでいいと思います。裁判員制度対象事件でも事実関係に争いのない自白事件もありますけれども、自白事件でもどのような情状関係の立証をするのかというような点については、やはり予定が立っていないと困るわけですので、準備手続の在り方として、事件の争いの大きさ等によって、回数や形式、時間は濃淡様々あり、その事件に応じて行えばいいわけですけれども、裁判員制度対象事件では準備手続を必要的とするのがいいと思います。
○井上座長 そもそも被告人が事実を認めるかどうかということ自体、こういう手続がないと確認できないわけですよね。いきなり公判を開いて、既に裁判員も選んで裁判体を構成していて、審理を始めようとしてからその点を確認するのでは、事実を認める場合と争う場合とで審理の内容や審理に要する期間などが全然違ってくるので、対応が難しくなるわけですね。
○平良木委員 実際の問題として、いきなり公判を開くわけでなくて、事前に、書記官が入っていろいろ調整をすると思いますが、その段階で、「これは争いません」ということを言うことはいくらでもあると思うんですね。
○井上座長 それをきちんとした手続にしないでいいのかどうかということでしょうね。
○平良木委員 そうです。
○井上座長 確認するということですね。
○平良木委員 そうです。
○井上座長 どうも御注意ありがとうございました。
○平良木委員 いいえ。
○酒巻委員 私もこのたたき台でよいと思います。裁判員事件につきましては、今、池田委員からお話がありましたとおり、自白事件についても、準備手続を必要的に実施するということでよいと思うのですが、ただ、これまで準備手続というのは、あまり頻繁には行われておりませんでしたし、行われるとしても争いのある事件においてでしたので、争いのない裁判員制度対象事件において、量刑についての準備手続というと具体的にはどんなイメージになるのかが、いまことつ分からないところがあります。犯罪事実に争いのない裁判員制度対象事件の準備手続の内容は、どんな具合になるのでしょうか。
○池田委員 今回のたたき台に盛り込まれているものがすべて法律になるのか、規則になるのかというのはまた別だと思いますし、第1回公判前の事前準備について規定を設けると、第1回公判後のこれまで使っていた準備手続の規則は、その関係で手直ししていかないといけないと思いますが、準備手続を第1回公判前にするとして、事実関係に争いがなくても、量刑に関する事実、要するに計画性ですとか、犯意の発生時期ですとか、犯意の強さですとか、あるいは自分の役割ですとか、そういうことについてはかなり争いがあるものもあるわけですね。そういうものは当然その段階で、事実関係に関する争いとして浮かび上がってくると思いますし、また、それも全く問題がないということでも、今度は被告人の更生のための環境の整備ですとか、あるいは被害者との関係での示談交渉ですとか、あるいは情状証人、身柄を引き受けるような家族あるいは雇い主等がいるのかどうかとか、そういうことが審理の時間と審理する日時等との関係で、当然事前に分かっていないとセットできませんので、そのようなことが主な内容になっていくのかなと思います。
○酒巻委員 ありがとうございました。
○四宮委員 情状事実についても、例えば犯罪事実とは直接関係のない、被害者の宥恕の意思などについての証拠の開示というものがあり得ると思うんですね。今回構想されている広い意味での準備手続の中に証拠開示の問題が入るとすれば、争いのない、つまり公訴事実に争いのないものについても証拠開示が問題になる場合がないとは言えない。手続的なものもメリットがあるのではないかと思いますけど。
○井上座長 ほかにいかがですか。どうぞ。
○平良木委員 従前、争いのない事件については、書記官の訴訟進行管理といいますか、書記官が調整をしてきたのだと思うんですが、恐らく、このたたき台の趣旨というのは、裁判員制度対象事件は、大体重大な事件だから慎重を期して、争いのない事件でも、裁判所が主宰する準備手続を必要的にしようと、そういう趣旨ですね。そうだとすると、それはそれでいいと思います。
○井上座長 ほかによろしいですか。
それでは、次の「準備手続の主宰者」というところに進みたいと思います。この点は、第1ラウンドでは御承知のように意見が分かれたところで、そのため、A、B二つの案が併記されております。ここでは、一般の事件については両案とも共通しており、受訴裁判所が主宰するとする一方、裁判員制度対象事件についてはA案とB案とで結論を異にしています。これらの案について、あるいは、これとは別の案があるのではないかということでも結構ですので、御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
○??井委員 私は一巡目でも申し上げましたけれども、A案が妥当であろうというふうに思います。要するに心証形成過程であるわけですから、準備手続の裁判官と公判を担当する裁判官とが別々では心証が途中で分断されることにもなりかねないと思います。また、今の構想では、準備手続で証拠の採否を行うとされていますが、証拠能力だけの判断で事実認定で有罪、無罪が左右されてしまう場合もあるわけで、そういう場合も準備手続でやるという前提で議論されていると思うんですね。そうなってくると、判決を書く裁判官と違う裁判官が事実上重要な証拠決定をするということになりますので、その点で不都合だと思います。
○大出委員 心証形成に関して、今のような話が出てくると、それはB案でいくしかないという話になってくるわけでして、まさにフライングというか、語るに落ちたみたいな話ですね(笑)。
○??井委員 そういう言い方されると言わざるを得ないのですけど(笑)、要するに、争点を絞って、そこに集中して審理をしようというために準備手続があるわけですから、それは当然公判で争点について訴訟指揮をして心証を形成すべき立場にある裁判官が準備手続をやって、どこにどういう争点があるかということが明らかになっていくというのが手続上当たり前ではないかという趣旨のことを言ったわけです。
○井上座長 正確に言うと、準備手続を主宰する別裁判所の判断が、受訴裁判所の心証形成過程を拘束することになるのは相当ではないということですね。準備手続自体が心証形成過程であるということではない。
○高井委員 そういうことです。
○大出委員 私は準備手続の中身をどうするのかということに正にかかわるところですし、この間の議論ですと、最終的な着地点はまだ見えない部分もあるかなというふうに思っていまして、そういう状況で、A案という線もあり得るのかなというような気もしないではないという部分があったのですが、私は基本的にまだB案を維持すべきだと思っています。それで少し謙抑的に発言しようと思ったら、今、高井さんから話が出たものですから、これはまずいわけでして、いくら心証形成の過程のコントロールといいますか、そこへのつなぎであるとしてみても、そこでどういうことが問題になってきて、どの程度の比重を占めてくるのかということについて、裁判官だけが情報を持っているということになったとき、裁判員裁判になったとき、まさに心証形成過程では対等に全体として、同じ権限の下で平等にといいますか、心証形成ができるという条件が保障されてなければいけないわげてすね。
そういうことで考えてみても、今の限りであったとしても、まだそこには落差ができてしまうということに、どうも今のお話を聞いているとなりかねないという気がします。
○井上座長 着地点として違う案もありかなと思われていたときの前提になっているのはどういうことだったのですか。
○大出委員 つまり、証拠能力問題の、この間のお話で、私はそれを全面的に賛成しているわけではありませんけれども、ただ、調書の関係の証拠能力問題についての判断は後ろに行くという御意見の方は多かったですね。それでいいのかどうかという問題があるわけですけれども、私が申し上げていたのは、証拠内容に入らざるを得なくて、そこが証拠として、私はどちらかというと、準備手続においてかなりのところまで突っ込んで整理が行われた方がいいだろうという気がしているわけですね。ですから証拠能力判断などについてもそこでほとんど済んでしまうというようなことをイメージしている部分があるものですから、そうなってくると、かなり証拠の中身に入った整理なり準備が必要になってくるということがあり得るだろうと思っていたのですが、そこのところは必ずしもそこまで徹底しているということでもないのかなというような感じがあったものですから、まだ議論の余地がありそうだなと私は考えたということです。
○井上座長 そうですか。
○??井委員 準備手続では、今、証拠能力の問題がありましたけれども、基本的には証拠の中身には触れないわけですよね。争点がこうなっていますよと。この争点については、こういう証拠がありますと。それは認めますとか、認めませんとかやっているわけで、裁判官自身が証拠の中身を見るわけではないわけですね、基本的には。ですから、証拠についての心証ということは、基本的には抱きようもないわけです、中身に触れてないわけだから。だから事件の流れがどうなるのか、どれぐらい時間が掛かるかとか、どの程度の複雑さを持った事件なのかとか、そういうことについては一定の考え方は当然出てくるわけだけれども、証拠の中身についてのものはないんだから、そういう意味での心証の形成というのはありようがないわけで、その辺は区別して論じなければいけないと思いますね。事件の複雑さとか規模が大体分かってくるという意味でのものと、証拠の中身についての心証が形成されていくというものとはまた別の問題だから、そこは分けて議論するということです。
○池田委員 私もA案でいいと思います。今、大出委員の心配されている点については、第1ラウンドでも議論がありましたけれども、今度の準備手続では、どういう証拠を調べていくか、あるいはそこではどういう証拠が出てくるのかというのは多分両当事者から話が出てくると思うんですね。それがないとその人を本当に調べる必要があるのかということまで判断できないわけですね。この人を調べたいということを検察官が言う。弁護人は、いや、その人は要らないですよと言う。これだけでは判断できないわけで、それでは何でこの人が必要なのかということを判断できるかというと、例えば、検察官が、この人はこういうことを目撃したと、ここにいたということを立証できます、この人からこういうことを聴きますと言い、これに対し、弁護人は、いや、そんなこと言ったって、それはおかしいですよという話になるわけですね。そういう話があって、ようやくそれではこの人を調べようというのが判断できるわけで、検察官が、ある証人が必要だと言っても、中身まで分からないと、なぜ、それではその人を呼んでみなければいけないのかというのは分からないわけですね。
このように、そういうことまで聴かないと審理計画が立てられないわけです。それでは、それで予断を抱くかというと、それは実際に証言を聴いてみなければ分からないわけで、その聴くことこそが裁判なわけです。実際には、主張として、この人はこういうことを証言しますと言っていても、公判では、言えないこと、出てこないことはいっぱいあるわけです。ですから、それは、公判で聴くわけですから、公判こそが真剣勝負なわけで、それまではお互いに主張をぶつけ合っているだけですので、それによって予断を抱くようなことはないと思うんです。
昭和30年代の前半に、東京地裁の民事部で、ちょうどそのころ民事訴訟法が改正されて、準備的口頭弁論というのができるようになったので、新件部というものを作って、そこで主張整理をさせて、もう一つ、集中審理部というのを作って、そこで証拠調べをすればいいというようなことを考えていたのですが、それは3年ぐらいやって失敗に終わっているんです。それはなぜかというと、一番大きな原因は、準備手続を別の人がやるとやっぱりやり直さなければいけないということだったようです。実際に公判を担当する人は、かなり真剣に、こういう構成になれば、ここが大事になってくるというのを考えるわけですけれども、自分で担当しないとどうしてもそこは真剣味がないということもあるのかもしれないのですが、もう一回やり直さなければいけなかったというようなことがあって、それは失敗の試みだったというふうに言われています。このことからも分かるように、事件を最後まで判断する人が、どこを調べたいかという計画を立てられる制度でないと、うまく動かないのではないかという気がします。
○酒巻委員 今までいろいろ御議論がありましたけれども、私もA案がよいと思います。その大きな理由は、特に今池田委員がおっしゃった事柄でありまして、B案では、最も的確に争点整理を行い、公判を迅速・充実化をしなければいけない裁判員制度対象事件について、本来その審理を担当する受訴裁判所以外の人が準備をすることになり、今池田委員がるるおっしゃられたような問題があって、およそ適切でないと思います。
それから予断に関する問題については、第1ラウンドで議論されたとおり、裁判官が争点整理と審理計画策定のため証拠を見る、証拠に接する場合はあり得るわけですけれども、そこからいずれかの当事者に偏った一方的な心証を得るわけではないから、それが直ちに予断ということにはならないというのも池田委員のおっしゃったとおりだと思います。
大出委員は先ほど、予断の問題とともに、もう一つは、情報の格差ということをおっしゃったのですが、これについて私は大出委員に対し質問したいことがあります。裁判員は第1回公判からいらっしゃるわけですので、その前に準備手続を主宰している職業裁判官は当事者の主張や事件の証拠にある程度触れることになり、そのことによって、裁判官と裁判員との間に情報の量の差が生ずることになるのはそのとおりだと思います。私がお聴ききしたいのは、それで何か問題があるのかということなんです。裁判官が準備手続を行えば、第一回期日時点で、そうなるのは当然なのですけれども、そこに何か重大な弊害があるのかどうか。もし、それがあるのだとすれば問題ですけれども、私には具体的に特に重大な弊害があるとは思われない。
他方で受訴裁判所以外の裁判官が準備をするというのは、先ほど来指摘されていますとおり、はなはだ効率的でない、弊害の大きい不合理な制度であると考えます。それにもかかわらず、B案を述べられるのはどうしてか、どういう弊害があるとお考えなのかということなんですが。
○大出委員 一応御質問ですのでお答えします。もちろん今の酒巻委員のおっしゃったようなレベルでの話ということでいくと、そういうレベルで私もお答えすることになるのですけれども、つまり心証形成の場面というものへの、そこをコントロールするといいますか、当然そこも主宰する裁判所が担当することによって整理ができる、つまり責任を持って処理ができるという側面があることは間違いない。
であればこそ逆に、裁判所としてみれば、中身に触れる程度といいますか、そこも非常に微妙だと思いますし、いろんな場合があり得るだろうと思いますので、絶対的にこうだということは言いにくいと思いますけれども、やはり裁判所はプロでもあるわけですから、一定の方向を持ってその情報というものについて判断をしているわけですね。そのことは証拠調べに入って、具体的に事件を見ていくときの証拠判断のときに、やはり裁判員との間に証拠を見る見方だとか、ただでさえ、そこには落差があるのではないかというふうに言われているときに、更に事前にその証拠の方向性について一定の知識を持っていることについて、審理に当たって裁判員とは違った見方が可能になってくることがあるわけですね。
そうした場合に、それが最終的に評議に入って議論をするときに、事前にそれなりに分かっていて、その証拠について、一定の方向でちゃんと裁判官は見ているということを裁判員たちは分かっているわけですから、裁判官からある一定の強い意見が出たときに、それに対抗するということは非常に難しくなってくると思うんですね。
○井上座長 そこはちょっと議論がかみ合っていませんね。ある証拠の中身について一定の方向で、と言われますが、先ほどの池田委員の説明ですと、そういう判断をしているわけではない。この証人によってどういうことを証明しようとしているのかについて一方の当事者が提案しているときに、その提案していることが必要かどうかを裁判所は判断しているだけであり、証拠の中身についてどう評価するのかは、公判で証拠調べをした上で判断する事柄であるという整理だったわけですから。
○大出委員 だから、先ほどの例ではそういうふうにも思えないではない部分もありますけど、ただ、それでも実際に証拠判断をするとき、つまり、証拠能力について、証拠の必要性について判断するときに、中身を見て判断せざるを得ないのではないですか。
○井上座長 思えないでもないというと、それ以外に何があるのですか。
○大出委員 先ほどは証人の必要性についての判断ですよね。それ以外に、例えば、ちょっとここには出てきていませんけれども、具体的な中身を見て判断をせざるを得ないような証拠というのはありませんか。例えば鑑定なんかはどうですか。それ以外の証拠であっても、単に必要性について、一般的、抽象的に判断するというだけで判断がすべて決着つくということになりますか。
○井上座長 証拠の採否ですか。
○大出委員 ええ、採否について。
○井上座長 要するに、証拠の中身に触れて採否を決する場合には、証拠に触れることによって一定の評価をしてしまうのではないか、という前提に立つわけですね。
○大出委員 そういうことで、裁判官はその判断をするについて、少なくとも裁判員とは違った情報を得ている。つまり採否を判断するについても、少なくともその段階でこういう主張があるから、こういう主張内容の証人が必要だから判断をしてくれということで検察側から請求が来ているわけですね。先ほどその点は御指摘ありましたよね。
○井上座長 しかし、その主張を裏付ける証拠がありますと一方の当事者が言っているだけのことであって、その証拠が信用できるかどうか、どれだけの証明力を持っているのかは、証拠調べをして評価してみないと分からないというのが、現在の証拠採否の判断の在り方ではないですか。
○??井委員 この議論は当然議事録で国民の皆様が読むわけで、非常に分かりにくい議論になっていると思うんですね。ですから分かりやすく比喩を用いて話します。証拠の採否というのは、検察官は検察官で箱を出す、弁護人は弁護人で箱を出す。箱のふたは開いていません。そして、検察官は、この箱の中にはこういうものが入っていますと言い、弁護人は、いや、その箱の中にはそんなものは入ってないと言う。同様に、弁護人は自分の出した箱の中にはこういうものが入っています、品物が入っていますと言うと、検察官は、その箱にはそんなものは入ってないと言う。そのやりとりを聞いていて、裁判官が、この箱とその箱は、国民の皆さん、つまり裁判員と一緒にふたを開ける必要があるかもしれませんねと言って、その箱を集めてくる。例えば、検察官及び弁護人の双方から10の箱の請求があったときに5まで絞ったと。それで5まで絞りきったところで、国民の皆さんも入れて、では本当に、検察官や弁護人が言っているようなものが入っているかどうか、順番に箱を開けてみましょうねと箱を開けていくというのが公判の審理なわけです。
ですから大出委員がおっしゃっているように、この箱の中に何が入っているかということを事前に聞いていたから、本当に入っているかどうかについて心証を持っているはずだというのはちょっと筋が違う議論なんですね。
裁判官と裁判員との情報量の格差についても、Aという箱の中には何が入っているというふうに検察官は言っています。それに対して弁護人は、そんなもの入っていないと言っていますというようなことを最初の、準備手続の結果の顕出のときにやっておけば、情報量の格差もあまり問題ないわけで、要するに、公判で、よーいどんで箱を開けて中を見るというだけの話ですから、そこは区別して議論しないといけないし、ここは国民の皆さんにもそういうふうに説明していただかないといけないと思うんですね。
○大出委員 ちょっと確認というか質問です。
○井上座長 どうぞ。
○大出委員 先ほどの例は、そこで慎重な対応の仕方をすれば、中身に触れるということでなしにその判断はつく。つまり、それを公判で調べる必要があるかどうかという判断はつくというのは、さっき池田委員の御説明のケースですよね。これは実務的なところもあるのですが、私としては必ずしも分かってない部分があることは承知のとおりですが、具体的にそれより更に踏み込んで証拠の中身のところで一定の情報を得ないと、その採否の判断がつかないということはないのですか。
○??井委員 証拠能力で言えば、任意性の判断は、ある程度中身に触れないといけないでしょうね。
○大出委員 それが全部準備手続から落ちていくというようなことになれば、というのはさっき言った趣旨でもあるわけですから。
○??井委員 今までの議論では、任意性の判断なんていうのは公判でやるということがあったんじゃないですか。
○大出委員 そういうことでありますから、それ以外にはないということになりますか。
○??井委員 先ほど言われた鑑定書だって、いや、この鑑定書ではこういうことを書いてあるんですと言っているだけであって、実際に準備手続の段階で鑑定書をしっかり読んで、これは必要ですねとか必要でないですねとは言うわけではありませんからね。
○四宮委員 今、酒巻委員から仮にA案でと弊害があるのかという話でしたが、私は弊害があるかないかというよりは、少なくとも裁判官と裁判員が評議において対等だとされていて、それは、同じ1票を持っているというだけでなくて、裁判をする人として与えられる情報も同じであるということも一つあるのではないかと思います。ですから、なるべくそれぞれが与えられている、あるいは持っている情報に差がないというふうに見える制度、少なくとも形式的にはもちろんいろいろな違いがあるわけですけれども、事件の実質について、持っている情報には格差がないというふうに見える制度は必要だと思うんですね。その意味で、具体的な当該事件についての情報はなるべく差がないようにするということは、そういった対等性への信頼を担保するという仕組みとして私は理由があると思うんです。
私、皆さんがおっしゃっていることもよく分かるのです。私は、たしか第1回目の議論で、証拠の採否を決定する場合に、通常は証拠の標目、今の裁判で言えば証拠関係カードに書かれている立証趣旨程度のものがそれぞれお互いに出されて、そしてそれを基に裁判官が判断していくというようなイメージを持っていましたので、今の??井委員の比喩で言えば、箱を開けない状態のやりとりというふうに考えていましたから、それは決して中身に触れる、あるいは予断を与えるということではないだろうと申し上げました。ただ、物によっては、例えばインカメラ手続で、調書の中身ですとか、あるいは場合によっては証人のしゃべることを聞いたりすることがあるかもしれない。それから、さっきちょっと鑑定というのが出ましたけれども、例えば準備手続で再鑑定をする必要があるかどうかという判断をするとなると、前もって出ている、請求されていると申しますか、その鑑定書を読まずに再鑑定の必要性というのは判断できるのだろうかと思うんです。
私が裁判実務に疎くて、そうではないということであれば、また御教示いただきたいと思いますが、??井委員の比喩で言えば、準備段階であっても箱を開けなければ仕事ができないというものがあるとすれば、そこは別の裁判官にやってもらうということは必要なのではないかと思います。そうすることによって、さっき冒頭に申し上げたことに戻りますけれども、少なくとも実質的には格差がないと言える制度になり、対等性の担保のために役立つのではないかと思うからです。
○本田委員 私はA案でよろしいと思います。要は、一つは、受訴裁判所がちゃんと準備手続やっていかないと、その後の訴訟指揮はうまくいかないですね。準備手続を別の裁判官に主宰させたとしても、なぜ、そういう争点が整理されて、なぜ、そういう証拠決定されたかということを、その裁判官が詳細に引き継がないことには、受訴裁判所の裁判官はその後の訴訟指揮を適切に行うことはできないですね。しかし、そのように情報を引き継ぐとなると、何で別の裁判官に準備手続を主宰させるかという実質的な理由はなくなってくるのではないですか。
それから、情報の格差という話がさっきから話が出ているのですけれども、裁判官と裁判員の役割は当然この裁判員制度の中で違うわけです。事実認定と刑の量定は裁判官と裁判員が行い、それ以外のところは裁判官だけが行うわけで役割が違うのですから、それに伴い、情報の格差は当然出てくる。ただ、実際に裁判員が主体的に関与する事実認定と刑の量定については、公判廷で調べられた証拠に基づいてきちんと判断するわけで、そこは裁判官もそれに基づいて判断するわけですから、何らそこは不都合はないはずですね。情報の格差という御心配がさっきから出ているのですが、私はそこは全然心配ないと思っているんですけれども、あえて裁判員も同じ情報を得なければいけないということになるのならば、後で出てきますけれども、準備手続の経過と結果について詳細に書面に書いて、それが全部公判廷で裁判員に分かるようにしてしまえばほとんど済む話ですね。そのように思うんです。
○井上座長 四宮委員が言われた見かけということなのですけれども、事件についての情報というのは何なのか、そこが抽象的にしか述べられていないのですが、およそあらゆる情報に触れることを同じにしろということになるのかどうかということだろうと思うのですね。
本田委員の提示された問題というのは、訴訟手続上の判断をするときに、一定の情報を得ないと判断できないけれども、それが事件の実体についての判断に影響を及ぼすのか、それを裁判官が得たことによって裁判員とは違う心証形成の仕方に本当になるのかどうか、ということだと思います。
○四宮委員 私、そんなこと言ってないです。
○井上座長 しかし、それが、本田委員の提起された問題なのですよ。
○四宮委員 私が、別の裁判体がやる方がいい場合があると言っているのとは次元が違うわけですね。私は外からどう見えるかということをお話ししているわけです。
○井上座長 その、どう見えるかというところにその問題が含まれており、それにどう答えるかということが一つあると思います。
もう一つは、四宮委員が言われた再鑑定の要否などについては、一定の心証形成をしないと採否の判断ができないということはあると思うのですが、それを準備手続で全部賄えるかという問題ではないかなと思われます。だから、準備手続をどこまでやるか、全部やるのだということを前提にされているようですけれども、そうではなく、事件の実体について一定の心証形成をしないと判断できないようなもの、あるいは心証形成と紙一重のものまでそこでやっていいのかということは、また、準備手続の中身の問題としてあることは確かだと思います。
○四宮委員 順番にお答えすると、一つ目は、要するに私の発想は単純で、裁判員になったときにどう思うかということです。つまり裁判官と一緒になって議論しているけれども、裁判官は私たちとは別のものも、エクストラも見ているということ。その情報格差というものは問題になるだろうということです。
○井上座長 しかし、公判が始まってからも、途中で訴訟手続上の問題が出てきた場合に、裁判所は裁判員が必ずいるところで判断するとは限らないわけでしょう。裁判員のいないところで行った方がいいというものもあるかもしれない。そういう場合も出てくるわけですから、そういう場合と同じ問題ではないかと思いますね。
○四宮委員 できる限り制度として排除できるものは排除しておいた方がいいでしょうが、やむを得ないものはいくらでもあると思います。それは2番目とつながるのですけれど、例えば、任意性の立証は、信用性の立証と非常に密接に結び付くから、むしろ公判の中でやるべきだというのはありますね。鑑定も、心証形成して、そして初めて再鑑定の必要があると判断する。つまり、先に出ている鑑定書を読んで、これはまだちょっと分からないとか、あるいは偏っているとかということで再鑑定の必要があると判断する場合は公判でやるべきともいえます。ただ、裁判員制度を前提にしたときに、鑑定について、心証形成した後で裁判員の意見を聴きながら、再鑑定をするかどうかを議論して、そして再鑑定をしましょうと、公判を中断してやるのかどうかということですね。
○井上座長 そこは、ですから、準備手続の中でどこまでできるのか、あるいはすべきなのか、という中身の問題だろうと思うのです。
○四宮委員 鑑定の例ですが、鑑定の場合は、恐らくは準備手続でやっておかない限りは機能しないだろうと思うのです。そこは準備手続でやるということは前提になるのですけれども、そうだとすると、座長がおっしゃったように、心証形成という段階まで踏み込むので、別の裁判体がやったらどうかという発想になっていくということですね。
○井上座長 その限りにおいては一貫しているのですが、その前提となっているところ自体がそれでいいのかどうか、これはまた、中身のところで議論していただこうと思います。ほかにこの点について御意見はありますか。
○平良木委員 A案でいいと思います。理由は今まで出てきたところと同じです。
それに関連して、受訴裁判所を構成する裁判官ということになっていますけれども、裁判員の選任の手続との時期的な関係はどうなるんですか。
○井上座長 むしろこちらがお聴きしたいです。どうお考えですか。
○平良木委員 というのは、今まで、一定の準備手続が終わった段階で、裁判員の選任手続を進めるというようなイメージが強かったように思うのですが、そうなると、裁判官だけで準備手続をやるというのが当然の前提になるだろうと思います。
○井上座長 準備手続に裁判員が入るというお考えはどなたからも出なかったので、皆さん、裁判員の選任手続に先行して準備手続を行うということを当然の前提として考えてこられたのだと思いますが、ここで、その点を整理をしておこうという趣旨です。公判審理のためにどのぐらいの期日が掛かるのかということなど、そういうことが分かった上で選任手続に臨んだ方がいいだろう。そういうイメージだったように思います。そうなると、準備手続に先行して裁判員を選任するというのは難しいように思いますね。
○平良木委員 ですから、そういうことだとすると、準備手続から、当然、裁判員は除かれることになるのでしょう。
○井上座長 裁判官というのは、どこの裁判官なのかというのがさっきからの議論です。ほかにこの点、どうぞ。
○池田委員 四宮委員の言われた鑑定の関係についてだけ申し上げます。私の抱いているイメージでは、確かに、できるだけ準備手続で審理計画を立てなければいけない。そのために効率的に争点を整理していかなければいけないわけですが、鑑定についても、前々から何回か議論があって、ある程度のことは事前にできるだろうとされていました。責任能力が問題になりそうな事件の多くは、捜査段階で鑑定もしていることがあるわけですね。
その鑑定書は、当然この準備手続の中で弁護側にも開示されて、そして弁護人の方で検討された上で、それでいいのかどうかを判断されるわけですね。その結果、内容を争いますということになったときに、その段階で、裁判所の方で、改めて鑑定を採用できるかというと、捜査段階の鑑定書の中身について、これが本当に信用できるのかどうかというような、そういう判断までできなければ新たな鑑定の要否を決められないような微妙なものである場合には、多分できないと思うんですね。
各当事者の主張によれば、検察官の方は、実はこういう病気だけれども、それは責任能力に影響ないという判断ですと言い、一方、弁護人はそれについて、いや、その病気だったら、責任能力に影響あるんじゃないですかと言っているという場合、多分、ある程度は念のために、後で鑑定するとまた時間が掛かるということもあって、念のために準備手続の段階で鑑定しておこうという話になることが多くなるとは思うのですが、どうしても、最後はその点の証拠調べをしてみないと分からないという場合も残ると思います。そういうものについてまで、準備手続ですべてやれということは無理なのではないでしょうか。ほかの証拠を全部調べて、そして裁判官と裁判員で評議をしてやっぱりそこは問題だから、もう一度鑑定してみたいというような話になれば、公判段階で鑑定を行うことになるのは仕方ないのではないかと思います。そのような場合まで無理に準備手続でやらなければいけないということではないと思います。準備手続で行い得ることはできるだけ行うことが望ましいと思いますし、そのために念のため準備手続でやっておこうというふうにはなると思うのですけれども、公判審理を経てようやく鑑定の要否を決められる場合も一部残るのではないかと思っているのです。
ですから、準備手続で、本当に実体の証拠の心証形成というか、そういうところまで踏み込むというようなことはしないでも済むのではないかと思います。
○四宮委員 それを別の裁判体で行うというアイディアはどうですか。
○池田委員 それは別の裁判体でやっても多分無駄だと思うんですね。別の裁判体が両方の主張を聴いて、本当に必要かどうかというのを判断するためには、ほとんど受訴裁判所がやるのと同じようなことを調べないとできないわけです。それで別の裁判体がやってみたところ、受訴裁判所は、いや、その判断は違いますよということになったら全く無駄になるわけです。
○井上座長 無駄かどうかということとともに、それでいいのかどうかという問題もあり得ると思います。つまり、本来公判でやる裁判体があるのに、そこでやるべきことを前倒しで別の裁判所が同じようなことを行い、その上で一定の心証を前提にして、訴訟手続上の判断とはいえ、その判断を行う手続を置くのが果たして適切なのか、そこをどう考えるかだろうと思うのですね。無駄というだけなら、その無駄を覚悟すればいいのかもしれないのですけれども、そこがちょっと難しいところであるような気がします。
○??井委員 今の議論は、基本的には準備手続の内容をどういうふうにイメージしているかということとかかわってくると思います。私たちのイメージと多分大出委員のイメージしているものが違うから、今のような議論になると思うんだけれども、基本的に、準備手続というのは、細かく主張するにしても、主張は主張であり、そのように主張レベルで交通整理をするというものなのであって、主張を聞いているだけでは分からず、箱のふたを開けなければ分からないというものは、そもそも準備手続にはなじまないということです。ですから、そこをきちんと分けて議論していけば、あまり議論の混乱はないと思うんですね。
○大出委員 まさに、今、??井委員おっしゃったように、さっきの座長の整理を伺っていても、イメージの違いだという部分があるというのはそのとおりで、ですから私も最初に申し上げたように、A案でいけるかもしれないと申し上げたのはそういう趣旨だったわけですが、ただ、本当に中身に触れないですべてが処理がつくかということになったときは必ずしもそうでないということ、皆さんそういうこともあり得るということはお認めだと思います。
○??井委員 認めていません。
○大出委員 イメージの違いはあるということを前提とした場合に、この間いろいろと議論があったように、公判が連続的開廷というような形で始まった以上、できるだけ短い期間で連続的に開廷して、事件が終結を迎えるということを最優先すべきではないかというふうに私は考えているんですね。だとすると、それを前提に準備手続を考えるということになったときに、今の鑑定の問題などについても、そこの準備手続の段階で処理がつくものであれば、つけておく必要があるし、つけておいた方がいいだろうと思うのですが、だとすれば、そのための方策ということを準備手続にも考えた方がいいというのが私なりのイメージです。
○井上座長 そこは、そういう考え方を採るのか、あるいは、準備手続である以上、限界があると考えて、そこでできないものはやむを得ないという発想を採るのかということでしょうね。結局、準備手続の中で何をどこまでやるのかということと相関している話ですので、その中身の問題を議論する際に、また議論していただければと思います。
○四宮委員 ??井委員がおっしゃった主張を整理するということもそうなんですが、ただ、主張を整理するための証拠開示の問題があって、それを解決するためにはインカメラという場面がどうしても出てくるわけですから、その問題は残るのではないかと思います。
○井上座長 そこは、また証拠開示の議論ところでも、恐らく実質的に問題になると思いますので、ここは、とりあえず証拠開示というところまで踏み込まないで、一般的に誰が準備手続を主宰するのかという問題として捉えておいていただければと思います。
(4)については、このぐらいでよろしいですか。
○酒巻委員 現在の刑事訴訟規則194条の4には、合議体が準備手続をする場合も、合議体の構成員、いわゆる受命裁判官にこれをさせることができるという条文がありまして、それに当たるたたき台は特にないようですが、思いますに、例えば、裁判員制度対象事件であっても、自白事件で量刑が問題となるだけであるというとき、あるいは、裁判員制度対象事件ではなく一般事件で、事案複雑だけど裁判官3人全部が準備手続に出てこなくてもいいだろうというようなときがあり得ると思います。その場合、例えば合議体の構成員の1人が受命裁判官として準備手続を行うということはお考えなのでしょうか。
○井上座長 合議体でないとできないものもあるのではないですか。
○酒巻委員 確かに、刑事訴訟規則には、証拠決定などは受命裁判官では駄目で合議体で行わなければならない旨定めがあるんですけれども、裁判官1人で行っても適切と認められる事項はあるように思うのです。その点は、事務局はどのようなことをお考えでしょうか。
○辻参事官 御指摘のとおり、刑事訴訟規則には、準備手続における受命裁判官の制度がありますが、このたたき台は、その点には触れてないということでございます。受命裁判官の制度を設けるかどうかは御議論いただければと思います。
なお、裁判員制度のたたき台のときに、そこでいう「裁判官」という用語は余り厳密には使っていないという説明をいたしましたが、そういう意味では、ここでも同じかもしれません。ですから、事務局としては、裁判員制度対象事件において、受訴裁判所を構成する裁判官が仮に複数名であるならば、ここでも、その複数名の裁判官が準備手続の権限を有するという趣旨で書いてございますが、そのうちの1人、例えば裁判長格の方だけが、ここでいう「裁判官」であるとする制度という案もあり得ると思います。
ただ今御指摘のあった受命裁判官は、その問題とは別で、仮に複数名の裁判官が準備手続の権限を持つとしても、受命という制度を採るかどうかということなので、そういう意味では、その両方について、このたたき台では、余り触れてないということだと思います。
○酒巻委員 私の意見は、事件によって、いろんな場合が想定できますので、必ず合議体を構成する全員が準備手続を主宰しなくてもよい。しかし、証拠決定等、やはり公判を担当する裁判所としてやらなければならないものもありますから、それは除くとして、そうでない事項については、受命裁判官でもできるというふうにしておいた方がいろいろと機動性があってよいのではないかと思います。
○池田委員 私も、酒巻委員の意見に賛成です。受命裁判官でもできるようにしておく必要があると思います。
○井上座長 それは、やはり機動性の確保ということですか。
○池田委員 事柄によっては1人でできるようにしておかないと動けないときもあるということです。
○平良木委員 私も賛成で、これは今まで何度も言ってきましたけれども、現行の第1回公判期日前の事前準備でも、刑事訴訟規則第178条の10第2項の規定により、合議体の構成員が行うことができる。これと同じようにすることがいいだろうと思います。
○井上座長 この点、ほかに御意見がなければ、よろしいですか。
○四宮委員 今の、受命とは違うんですけど、御紹介までに、思い出したのですけれども、先週の刑法学会の「裁判員制度に伴う手続の刑事的な構想」という共同研究で、準備手続を、ある意味では、私が正確に今聞いていたという前提とすると、B案の亜流のようなものだと思いますが、合議体というのは、今、3人仮にいるとして、3人のうちの1人にこの準備手続を担当させて、そしてその人は本案の審理の合議には入らないというような御提案があったのではないかと記憶しているのですが、そんなアイディアが披瀝されたということだけ御紹介しようと思います。
○井上座長 そういう見解だけ紹介されると、それが一致した意見であったかのように聞こえてミスリーディングですので、敢えて付言しますと、一部にそういう意見もあった、ということです。
○四宮委員 フロアーからの発言としてありました。
○井上座長 ですから、その発言だけ取り出して紹介すると誤解をまねきかねないものですから、敢えて付言させていただいたわけで、ほかのところでの議論を紹介するときには十分御注意いただきたいと思います。
よろしいですか。もし、この点で御意見がなければ、ここでちょっと10分ほど休憩を入れさせていただきたいと思います。
(休 憩)
○井上座長 それでは再開します。
項目1についてですが、裁判員制度対象事件以外の事件で、今までの議論とは違う扱いにすべきであるとか、あるいは、同じでよいなど、裁判員制度対象事件以外の事件ではこうすべきだという御意見があれば伺っておきたいと思いますが、いかがでしょうか。
先ほどの鑑定の関係などは、どちらかというと、主として裁判員制度対象事件で問題になるように思いますが、それ以外の点では、基本的には同じよう扱いをするということでしょうか。
特に御意見がなければ、次の項目2に移りたいと思います。項目2の(1)は「準備手続の方法」ということですが、さっき説明していただいたように、アからエのようなことを行うことができるというふうにたたき台ではされているわけですけれども、いかがでしょうか。その点について、アからエのうちのどれかに絞った議論でも結構ですし、その他のアイディアもあれば出していただきたいと思います。どなたからでもどうぞ。
○四宮委員 質問ですが、先ほどの御説明では、アの「出頭した上で行い、又は訴訟関係人に書面を差し出させて行うことができるものとする」、これは現行の刑訴規則と同様という御説明だったと思いますけれども、今の刑訴規則194条の2は、原則として出頭させて行って、その方法に代え、又はこれを補うために必要と認めるときは書面を差し出させることができるとされていて、原則と例外のようにも読めるのですが、そういう理解ではないのでしょうか。
○井上座長 このたたき台の書き方が択一のような形になっているのだけれども、現行の規則の方は、原則と例外のような形になっているので、たたき台と現行の規則は同じ趣旨のものなのかどうか、こういうことですね。
○四宮委員 はい。
○井上座長 いかがですか。
○辻参事官 先ほど刑事訴訟規則と同様と申し上げた趣旨は、現行の規則でも両様の方法が、原則か例外かは別として、認められている、それと同じだという趣旨であります。現行の刑訴規則の準備手続が、原則と例外を設けているかどうかは、文言上はそのようにも思いますが、少なくとも、このたたき台の趣旨としては、適宜、事案や状況に応じて目的を達成するのに適当と思われる方法を選択すればいいのではないかという趣旨で記載しているということでございます。
○井上座長 たたき台の趣旨は、そういうことですけれども、四宮委員、その点について何か御意見はありますか。
○四宮委員 今度の裁判員制度を前提にしますと、裁判員制度対象事件が重罪事件であるということですから、その場合には自白事件であっても、証拠等がふくそうする可能性もあることを考えると、今の現行規則の定め方、これは形式的なものですけど、実質的な議論をなさるのであれば、そんなこだわりませんが、書き方としては、今の規則のような表現方法でよろしいのではないかと思いました。
○井上座長 必ずしも法規にするときにこのとおり書くという趣旨ではないように思いますが、四宮委員の御意見としては、出頭が原則ということでしょうか。
○四宮委員 はい。
○大出委員 確認ですけれども、刑事訴訟規則第194条の2第1項ただし書での確認というのは、手続的にいうとどういう方法をとられているのですか。書面を出させるとか、口頭で確認をするとか、つまりその意思とありますね。「あらかじめ出頭しない意思を明示した者がある場合において」という、その確認というのはどうするのですか。あまりやっている例がないのですか。
○池田委員 準備手続はかなりやっておりますけれども、大体が、公判廷で、被告人もいるところで、次のいついつに、こういうことで準備手続を行うということを決めるのですが、ほとんどの事件では、被告人は出てこないですね。出たいという被告人はあまり例がないですね。公判廷で、準備手続を行うことを決める際に、被告人の意思を確認すると、弁護人と被告人との信頼関係がうまくいっている事件では、普通、弁護人だけ出てくることになり、被告人は出てこないでいいということになります。公判廷で、準備手続をやるということを決めないときには、被告人を出頭させなければならないとなっていますので、召喚状を送ることになります。そのときには、あらかじめ出ないという意見を聴いているということはあまりなくて、召喚状を送っても、実際には出てこないということなんじゃないでしょうか。
○大出委員 このたたき台の場合は、訴訟関係人全員が最初から出てこないということがあり得るということを想定しているわけですよね。つまり「又は」以下の方は。この場合については、意思の表明についても書面かなんかで確認をするという手続になるんですか。
○井上座長 現行の刑訴規則第194条の2第2項の方法で準備手続を行う場合には、第1項は排除されるということになるのではないですか。必要と認めるときは、前項の方法に代えて、書面を差し出させることができるということですから、訴訟関係人の意思とは関係なくそういうことができるということだろうと思うのですが。
○??井委員 これは、裁判員制度対象事件だけではなくて、ほかの事件にも適用されるわけで、そうなってきますと、罪が軽くて比較的簡単な事件でも準備手続があり得るわけですね。ですから、そのような場合には、わざわざ出頭して行わなくても、書面の交換で済むという、そういう事件も一杯あるわけです。ですから、先ほど四宮委員は、前段の方の出頭が原則ではないかと言われましたけれども、これは事件によって、どちらが原則で、どちらが例外だというのはむしろおかしいというか、それはそれほど意味がないことで、事案に応じてどちらでもできますよという定め方をしておけば十分ではないかと思います。
○井上座長 一般の事件の場合には、そもそも準備手続をしないものがまずあり、その次に、準備手続は行うけれども書面で足りるという場合と、訴訟関係人が出頭する場合と、この3段階があるということなんでしょうね。
○酒巻委員 いろんなタイプの事件があると思いますので、裁判員制度対象事件で争いがある場合であっても、常に全部が出頭する必要はなくて、場合によっては、あるレベルでは、主張の交換を書面でやり取りすることだってあり得ると思うんです。ですから、そういう意味でも、規定振りはともかく、両様があると定めておくのが妥当であろうと思います。
○井上座長 ほかにはいかがですか。今のアに限らず、ほかの点についても御意見いただきたいと思います。
○??井委員 質問です。ウですけれども、書面の提出期限を定めることができるというのは当然だと思うんですね。ただ、この提出期限を破った場合に、何らかの制裁なりサンクションなりが科されるのか、それともこういうことは一切ないということなのか、ということですけれども。
○辻参事官 このたたき台自体としては、提出期限を守らなかった場合に、何らかの法的効果が生じるということにはしておりません。計画的に準備手続を進めていくためには、いついつまでに、これこれの書面を提出せよというようにして、手続を進められればいいのではないかという趣旨でウを記載してみたということです。ただ、提出期限を守らないということになりますと、例えばですが、どうしても守らなければ、そこで準備手続が終了せざるを得ない場合というのは出てくるのかもしれませんし、あるいは場合によっては、訴訟指揮権の実効性確保のところで問題になるような問題としてどう考えるのかということはあり得るのかもしれないということはあります。
○井上座長 現行の刑訴規則第194条の2第2項でも、「一定の期間を定めて、書面を差し出させることができる。」とされていますが、その場合、その期間を経過した場合のサンクションがどうなるかということは書いてないですね。
○??井委員 サンクションをもうけることはどうかと思うんですが、全くないと、従来の実務を前提にすると、だらだらと、どんどん長引いてしまうということもないわけでもないのかなという気がしないでもないんですが、これは皆さんの御意見を聞いてみたいなという感じはします。
○井上座長 いかがですか、今、出された問題については。
○池田委員 今の??井委員の懸念ですが、今回、裁判員制度対象事件を考えると、準備手続が必要的になるわけですけれども、だらだらとというのでは困るわけですよね。要するに準備手続で争点整理して、そして公判が集中してできるから、全体としてみれば、早くできるだろうというのが理想なわけで、むしろそうならなければいけないわけで、準備手続をだらだらやっていて、実際には、今の手続よりも時間が長く掛かったというのでは、これは困るわけです。そのためにも、準備手続を早期に終結させるように努めなければならないという努力義務が、たたき台の2(5)でも出てきますので、そういうことから考えると、当事者も協力していただけるでしょうし、裁判所も当然そういう頭で準備手続を進めていくのではないかと思います。
○本田委員 確かに提出期限を守らずに何もやらないときは準備手続そのものはできないわけですから、そういう場合は、直接のサンクションというのはなかなか難しいのかもしれませんが、例えば、私選弁護人だったら裁判所が解任することはできないのでしょうけれども、国選弁護人だったら解任してほかの人にやってもらうとかということを考えざるを得ないのではないかと思いますね。
○井上座長 ほかにいかがですか。今の点でなくても、ほかの点についても御意見あれば出していただきたいと思いますが、ここはこのくらいでよろしいですか。
それでは、次に移りますけれども、「(2) 準備手続の出席者」です。この点は、先ほど説明がありましたように、訴訟関係人が出頭した上で準備手続を行うという場合、具体的に誰が出席するのかということです。
たたき台としては、準備手続に必要的に出席するのは検察官及び弁護人とし、被告人は必ずしも出席しなければならないわけではない。ただ、出席したいというときには出席できるという形になっています。それに加えて、裁判所が必要と認めるときは被告人の出席を求めることができるという構成になっているわけですけれども、このようなたたき台を手掛かりに御意見をいただければと思いますが、どうぞ。
○酒巻委員 私はこのたたき台で結構だと思います。準備手続の出席者については、現在の刑訴規則第194条の2第1項の規定とはやや違った構成になっておりますけれども、しかし先ほど大出委員の御質問に対する池田委員のお答えにも現れていたとおりの実情・実務があること、それから被告人を必要的な出席者とする構成をとった場合には、これは言い換えると被告人が出てこないと準備手続ができないというような形になってしまい制度として適切でないと思います。もちろん必要があるときには、(2)のイで被告人の出席を求めることはできるわけですから、実質において特段の弊害はないと考えます。これで妥当だと思います。
○井上座長 ほかの方はいかがですか。
○??井委員 同意見です。
○本田委員 私も同意見です。
○井上座長 ここはよろしいですか。
次は「(3) 準備手続の内容」ですが、準備手続で、具体的に何を行うべきかということです。これは、現行の刑訴規則194条の3と比べてみると、ウ、キ、コというところが付加されている内容になっています。この点、準備手続を行うことによって、どのような公判審理とすることを目指すのかという観点から何をここの段階でしないといけないのか、すべきなのかということがポイントになるだろうと思われますが、このアからコに挙がっている事項についてでも結構ですし、そのほかに、こういうこともすべきではないか、あるいはアからコの中の、これはすべきではないのではないかと、そういう御意見でも結構ですので、御意見をいただければと思います。
ただ、例えば具体的に、ここで争点整理というのが挙がっていますが、争点整理を具体的にどうするかということは、後の項目3以下で議論することになっていますので、具体的な、より内容に踏み込んだ議論は後の方に残しておいていただきたいと思います。まず、ここでは準備手続の内容として、どういう事項を扱うのか、どういうことを行うのか、そういうことについて御議論いただければと思います。
○??井委員 質問ですが、キですけれども、事実の取調べがありますね。これも基本的には非公開でやるという前提でしょうか。
○辻参事官 ここは手続全体の公開、非公開と同様だと思いますので、原則非公開ということかもしれませんが、御議論をいただければと思います。
○??井委員 この事実の取調べの中には、例えば証人尋問等も入るのでしょうか。
○辻参事官 通常の決定手続における事実の取調べと考えておりますので、証人尋問も可能であると思います。そういう意味では、キ自体は、例えば準備手続でこういうことを行うと書いたからできるようになるという性格のものではないと思っておりまして、通常の決定手続に伴う事実取調べということでできるけれども、今、座長がおっしゃったように、準備手続の目的を考えて、運用としてどういうことをやることが適当であるかとか、心掛けるべきであるかとか、そういう観点からキのようなことも考えるべきではないかという趣旨で挙げているということです。
○??井委員 これも前から問題になっているのですが、例えば採尿手続について争いがあって、尿の証拠能力及び鑑定書の証拠能力が問題になっているという場合には、その判断は当然このキでやるということになりますか。
○辻参事官 位置付けとしてはそうなると思います。
○??井委員 そうですね。その場合に、殴ったとか殴らないということが争点になっている場合には、採尿した警察官の証人尋問をするということになるわけですね、準備手続の中で。
○井上座長 警察官とは限らないですけれども、そういう構成になり得るということですね。もちろん、それを前提にして、そういうことなら、それはそもそもここでやるべきではない、公判でやるべきだと、そういう御意見は当然可能だと思うのですが。
○??井委員 公開、非公開の問題は、あるのですが、例えばキだけは公開にするという制度の作り方もあり得るということでしょうか。
○井上座長 その点はいかがですか。要するに、ある部分、ある事項については公開が望ましいから、そこだけ公開するということですね。例えば、違法収集証拠の問題では、手続過程に違法があった、警察官が暴行を加えたかどうかということが争われる場合には公開にするということに意味があるというお考えなのでしょうか。以前から伺っていた高井委員の御意見だと、むしろ、事件が成り立つかどうかが決まるような手続はむしろ公判でやるべきではないかという御主張だったように思うのですけれども。
○??井委員 基本はそうなんですね。今の場合は事実認定を伴っているわけだから、裁判員を入れた公判でやるべきだというのが私の立場なんです。だけど、私のその意見がどうも少数説のようなので、仮に多数説の立場に立ったとしても、これはやっぱり、少なくとも裁判員は入れなくてもいいけれども、公開でやるということは必要ではないですかということです。
○井上座長 その理由はどういうことでしょうか。
○??井委員 それは、今まで証人尋問というのは公開でやるものだというのがあるわけですよね、一種の職業的な常識というか、だからちょっと違和感がある。要するに非公開にして証人尋問をするというのは、例外的な場合ですよね。
○井上座長 ただ、ほかの手続上の障害事由などの存否が争われる場合にも、証人尋問をするということはあり得ないわけではないですよね。そのような場合と違いがあるかどうかということだと思うのですが。
○??井委員 ただ、あくまでも例外的というような意識というか、感覚があるものですから、大上段に正面から原則非公開ですよというようなことはどうか。特に、それによって有罪、無罪も決定的に分かれてしまうような手続が非公開でいいのかという感じなんですね。感覚的なものですけれども。
○平良木委員 私も??井委員の意見に賛成で、むしろ今、問題になったような手続については、そもそも準備手続でやるには適さないのではないか。公判中心主義ということを考えると、少なくとも有罪、無罪が決まるような手続的な問題は、公判でやるのが筋ではないかというように思っていまして、その意味では、今の違法収集証拠の問題に関して言うと、準備手続を公開にしろというよりも、むしろ公判手続でやるべきだというように考えた方がいいだろうと思います。
○井上座長 覚せい剤の所持とか使用事件では、押収されたものが証拠に使えるかどうかによって有罪か無罪が分かれてき得るわけですけれども、裁判員制度の対象事件のような、重大な犯罪の場合に、いろんな証拠がある中の一部が違法収集証拠ではないかという主張があるような場合はどうなるのでしょうか。
○平良木委員 全部公開にするというわけにはいかないし、どういう枠組みであるかは、極めて微妙なところが出てくると思うんですね。ただ、公開については、運用の問題として残しておくのか、あるいは手続でそういう肝心なものだけは公開にするのだという定め方をするのかという問題はあると思います。
○井上座長 後者の場合、本当にそのように書き分けられるのでしょうか。
○平良木委員 その問題が確かにあると思います。
○本田委員 恐らく有罪、無罪がそれによって決定的に決まるのか、決まらないのかという基準を法文に書くということはできないだろうと思うんですね。例えば、刑訴法321条4項のとおり、鑑定書が真正に作成されたことの尋問などというものは準備手続で簡単にできるわけで、その内容面については、また別途、公判で証人尋問をやるということはあると思うんですけれど、そのように、準備手続でできるものはここでやれるような制度とすればよいわけですから、たたき台のキは、これはこれで入れておいていいのだろうと思います。また、そうすると、キの事項が書いてあるからといって、それを必ず準備手続でしなければならないという話ではないわけですから、そこは、事案によって、運用で賄うのがよいのではないのかなという気がします。
○??井委員 本田委員の意見と結論的には同じになるのですが、例えばキに該当すれば、必ず公開というのではなくて、例えば訴訟関係者からこれは公開でという提案があって、裁判所が判断した上、公開でやるというような余地を残すような制度の方がいいのではないかということです。
○井上座長 平良木委員は、準備手続の一部を公開するというよりは、むしろ、そのような重要なものは公判で行うべきであるという御意見なのですけれども。
○??井委員 私が今言いたかったのは、運用で公開することもできるような書き振りの規定にすべきではないかということですね。
○池田委員 非公開でもできるものを運用で公開してもいいというのはあり得るわけですね。今でも、制度の趣旨に反しない限り、本来非公開のものを、公開でやるということも可能だということがあり得るので、特に、キの場面だけ、公開の規定を置くというのも変な話だと思いますね。
また、最初の違法収集証拠の議論というのは、この第2ラウンドの最初の方でもありましたように、裁判員制度対象事件だと、多分実体にも絡んでくる場合が多いので、こういう専ら証拠能力の判断のためだけの事実調べというのは余り考えられないのではないかと思います。
裁判員制度対象事件以外の事件だと、専ら証拠能力の判断のための事実調べというものがあり得ると思いますが、それを公判廷でなく準備手続で行うとは思えないんですね。わざわざ準備手続で行う必要はないので、多分懸念されるようなことは起こらないのではないかと思います。
ここにキで書かれた「専ら証拠能力の判断のために」というのはいろいろなものがあるわけですが、裁判員制度対象事件を前提に考えると、例えば所在不明とか、あるいは死亡したとか、そういう本当に原始的な証拠能力の有無の判断もあるわけで、それを公判で裁判員のいるところで調べなければいけないというふうになるよりは、それは準備手続でもできるとしておいた方がいいのではないか。ですから、こういうキのような規定は置いておいた方がいいのではないかと思います。
○??井委員 1点だけ、これも一般的なことなんですけど、これも当事者とした身に付いた感覚で言うんですけれども、何も書いてなくても運用でできるのではないかとおっしゃっているのですが、確かにそのとおりですが、例えば当事者がこうしてほしいといったときに、裁判官がそれを受け入れてくれるかどうかということになると、多少書いてあった方が受け入れてもらいやすくなるというのが、当事者として身に付いた感覚なんですね。
○井上座長 実際問題として、証人を呼んで取り調べるところだけ公開にするというのは、同じ場所でやっていて、その場合だけ公告でもするのでしょうか。それもちょっと変ですね。そこだけ傍聴人が来るとも思えないのですが。
○??井委員 法廷の外にその旨書けばいいだけの話ですよね。
○井上座長 そのように、公開にこだわるのは、ちょっと奇妙な感じがしないでもないですけれど。
○??井委員 実際に傍聴人がいるか、いないかではなくて、姿勢の問題ということです。
○四宮委員 私も公開の法廷でやってほしいという感覚は??井委員と共有できますので、何か工夫ができたらと思います。
○井上座長 さっきの池田委員のお話ですけど、違法収集証拠でも事件の実体にかかわらないものが争いになることは十分あると思うのですね。例えば、捜索の過程に重大な違法があるが、事件の実体には全く関係ないようなものについて、証人調べをしなければならないという場合もあり得ると思うのですね。
○??井委員 例えば、凶器が被告人のところから出てきたとされているけれども、本当にそうなのかとか、その押収手続に問題があったのではないかというように、否認事件で凶器が被告人のところから出てきたかどうかが極めて重要という場合ありますよね。
○池田委員 被告人のところに凶器があったかどうかということは、事件の実体にも関係することではないですか。
○??井委員 そこにあったかどうかでなくて、その押収した手続が違法かどうかという問題ですね。だから、そこで証拠能力が排除されて、その包丁が証拠として出てこなかったら無罪の可能性も非常に強いという事例はあり得るとは思いますね。
○井上座長 そういう余地もあるということだけ指摘しておきたいと思います。
○平良木委員 言わずもがなかもしれませんけれども、例えば、刑事訴訟法321条3項、4項というのは、規定上、公判期日でという前提がありますね。ですから、準備手続で、例えば、検証調書とか鑑定書を採用するものとすると、これは、準備手続で真正立証をするということになるわけで、そこのところを確認しておいた方がいいだろうと思います。
○井上座長 それは、検証調書や鑑定書が真正に作成されたことについて供述させるという部分ですね。
○平良木委員 はい。
○井上座長 それも準備手続できるようにしろということですね。
○平良木委員 恐らく解釈でできるということだろうと思うんですが、刑訴法321条3項、4項では、公判期日とだけ書いてありますから、ここのところは手当てが必要かなと思います。
○井上座長 そこはかなり細かな問題になってくるのですけど、結局、伝聞例外にしていることの趣旨ですよね。公判廷に呼んできて、作成の真正についての質問をするということの意味がどういうことなのか、そういうことにかかわってくるということですね。
○池田委員 今の議論ですけれども、321条4項については、公判準備でもできるというふうに解されているんですね。実際にも、鑑定人などを出張尋問で行うというのはよくあることですので。
○平良木委員 3項も同じ議論で、今、恐らく解釈でそうなっているのだけれども、文言が「公判期日」と書いてあるので、ちょっと注意してもらった方がいいだろうという趣旨です。
○井上座長 公判準備でできるということの趣旨が、第1回公判期日が開かれた後でないと考えられないような趣旨であるのかどうかによって、現行法の下でも前に持ってこれるかもしれない。そういうことですね。
○平良木委員 そうです。
○井上座長 ちょっと聞いている方々には分かりにくかったかもしれませんが、そういう問題もあるということですね。
○平良木委員 非常に技術的な話です。
○酒巻委員 また、技術的な話に関する質問で恐縮ですが、現在の第1回公判期日後の準備手続において行い得る事項に関する刑事訴訟規則194条の3の規定は、立案者によれば、限定列挙だという考えなんですね。たたき台も同じ趣旨ですか。
○井上座長 このたたき台のアからコというのは限定列挙なのか、ということですね。
○辻参事官 (3)の柱書に「特に」と書いてございますように、たたき台としては、限定するつもりはありませんし、少なくとも、現行の刑事訴訟規則に書いてあって、たたき台に書いてない事項もあるのですけれども、それを排除する趣旨でももちろんないということです。
○酒巻委員 現在の刑事訴訟規則は、立案者によると、あえて訴因変更の許可決定とか訴因変更命令は除いているそうですが、新たな準備手続を行っている過程で訴因変更の必要が生じた場合、それを準備手続で行うことができるようにする必要があるのではないかと思います。
○井上座長 準備手続自体がある程度の期間続くという場合に、いろいろとやり取りを行っていると、訴因変更した方がいいのではないかということになる、そういった場合ですね。
○酒巻委員 はい、そうです。
○平良木委員 いわゆる訴因変更というのは、起訴状朗読に準ずるものだからということで公判でということですが、第1回公判前に手続を前倒しするのだとすると、両方あり得るかなと思いますけれども。
○井上座長 訴因変更というのは、言ってみれば起訴状の訂正のようなことですよね。それを準備手続の段階で行うという場合は……。
○平良木委員 そうです。ですから、そこのところが最初に明らかにされればいいわけなんで、それもあってもいいかなという気もしますよね。
○井上座長 理論的にはどうなんですか。
○平良木委員 起訴状が朗読されて、その後に訂正されるものだからやっぱり公判でやれということになる。ところが第1回公判期日前は、起訴状朗読というよりも、それはまだない段階で行われるもので、それをめぐってやるのだから、要するに当事者の納得、裁判所の納得というのがあれば、それは当然変えてもいいだろうという議論になるのではないかと思います。
○池田委員 第1回公判前でも訴因変更の申請はありますね。
○井上座長 そうだとすると、公判が開かれた後かどうかが問題ではないのですね。
○平良木委員 開かれてない段階でそれができるかどうかという、こういう問題ですよね、言ってみれば。当然できる。
○井上座長 できるということなのでしょう。
○池田委員 それはできる。
○平良木委員 できる。
○本田委員 公判期日が開かれないで、どんどん訴因を追加していく場合がありますから。
○井上座長 訴因の追加も広い意味での訴因変更の概念の中に含まれますね。これまで御意見があったように、準備手続において、訴因変更することを特に排除するものではないということでよろしいですか。
先ほど少し触れられました鑑定の問題は、この辺りで出てくると思うのですが、さっきもかなり議論しましたので、問題点はかなり明確になっているように思いますけれど、更に付け加えて御意見があれば伺いたいと思います。できるだけ準備手続でやっておくべきだという点では、それほど意見は違わないと思うのですね。ただ、そうはいっても、難しい場合が出てきて、そういう場合は公判の段階でも認めざるを得ないだろうということではないでしょうか。四宮委員も、その可能性を全く排除するわけではないのでしょう。
○四宮委員 しかし、それはどういう場合かですね。そして、その場合に公判に入ってから、裁判を鑑定の期間中断して、そしてまた裁判員に出てきてもらうということをするのかということですね。
○井上座長 ある程度の期間、裁判を続けていって、いろいろ調べた結果、ちょっと待てよ、最初の鑑定の結果でよいのか、という疑問が出てきたような場合に、もう鑑定はできないということでいいのかどうかということだろうと思うのですが。
○四宮委員 鑑定の必要性が公判の中途から発生したという場合は、これはしようがないと思うんですね。私がさっき話題にしたのはそういうことではなくて、準備手続で再鑑定の必要性を判断するのには、常に、ある鑑定書を判断の対象にせざるを得ない。読み込んで心証をとらなければいけないのではないかというレベルの話です。
○井上座長 分かりました。要するに、準備手続の段階でも、事件の実体について一定程度心証をとれば鑑定の要否を判断できるような場合に、それでも、あくまで公判廷で行うということにするのか、それとも前倒しして、別の裁判体ないし別の裁判官が心証をとって、それで判断するのか、そういう問題意識にたたれるわけですね。
○四宮委員 そうです。
○井上座長 先ほど触れたように、公判の途中で鑑定の必要性が生じた場合はどうですか。
○四宮委員 さっきおっしゃったようなことは、事前の鑑定が一切ないケースでも観念的にはあり得るわけですね。
○井上座長 そういうこともあるし、事前に鑑定は行っていたけれども、準備手続の段階では再鑑定というところまでいかなくて、後の公判の段階で再鑑定の必要が出てくるということはあり得ると思うのですね。そういう場合を排除していいのかどうかという話だと思うのです。手続の主宰者が事件の実体について心証をとらなければ再鑑定の必要性が判断できないという場合に、それを前でやるのか、それも併せて後ろでやっていいということにするのかと、そういうことだろうと思うのですよ。論点ははっきりしていますし、意見も大体出ているんですけれども、更に付け加えて御意見があればどうぞ。よろしいですか。もうちょっと議論しておいていただいた方がいいような気もしますが。??井委員、この点はどうですか。
○??井委員 たたき台は、かなりの事項を網羅しているし、それも制限列挙ではないということですから、これでいいのではないかと思いますが。
○井上座長 先ほどの論点についてはどうですか。
○??井委員 鑑定ですか。
○井上座長 ええ。
○??井委員 準備手続で鑑定の問題が出てきますよね。鑑定書が同意であったら、それで証拠で出てしまうから、それで終わりですよね。他方、不同意の場合には、例えば、弁護側が不同意としたのであれば、弁護側が別途鑑定嘱託して、弁護側の鑑定書を出すという手続になるのではないですか。それで検察官がそれに対して同意するのか、不同意にするのかを決める。多分不同意になるのでしょう。そうしたら、法廷へ行って、検察側、弁護側双方の鑑定証言をやる以外ないですねということになり、公判廷で証拠調べをすることになるわけでしょう。
ですから、四宮委員が再鑑定ということにこだわる理由が、分かりません。
○四宮委員 でも職権の場合があるのではないですか。
○??井委員 職権でというのは、当事者があまり強く主張しないのに、裁判官が鑑定書の中身を見て、それで再鑑定するかどうかを決めるという場面であれば、想定する必要があるのかなというふうに私自身は思っているんですね。四宮委員がおっしゃっているような意味での再鑑定というのはあまり想定しなくていいのではないかと思って、さっきからお聞きしているということですね。
○池田委員 先ほどある程度話しましたが、準備手続の段階で再度念のために鑑定をしておくということが、今よりはある程度広く行われるのではないかと思います。それとともに、今、??井委員も言われたように、弁護側ももっと鑑定について、その段階で、独自に証拠収集しておかないといけなくなるのではないかという気がしています。
それともう一つは、そうはいっても公判段階でようやくもう一度鑑定するかどうかの必要性が判断できる場合があると思います。今、確かに鑑定にかなり時間が掛かっていて、そこが訴訟の係属時間が長くなっている一つの原因になっていることがあるわけですけれども、鑑定の時間についてもっと短縮するようにすべきではないか。もっと口頭鑑定とか、今、民事の医療過誤訴訟などで鑑定方法をいろいろ工夫していますけれども、刑事でも、もっと工夫していかないといけないのではないかと思います。特に精神鑑定が問題になりますから、精神医学界の方ともっと話をして、より時間が掛からないような鑑定方法というのを考えなければいけないのではないかとも思っています。
○四宮委員 前も一回議論したと思いますが、要するに裁判所のやる鑑定の話なんですけれども、私が裁判員の立場に立って考えると、さっき座長のおっしゃったようなケースがもちろんないわけではないのですけれど、そういうケースはできる限り避けなければいけないと思います。つまり、審理を途中までやったけれど、鑑定が必要になったということで、また3カ月先に裁判所に来てくださいということはちょっと耐えられないと私は思うんですね。ですから、そういったことはなるべく避けなければいけない。そうするとやはり準備手続で、当事者自身が行う鑑定というものを活用することももちろんですし、場合によっては、裁判所で行う鑑定ということもあり得るのではないか。なるべくそういうふうに事前にいろんな可能性も考えて処理をしておくことが、特に裁判員の裁判を考えた場合には必要ではないかという趣旨で申し上げておりました。
○井上座長 おっしゃっている裁判所による鑑定というのは、当事者から申し出て、それで鑑定命令を出してもらうというものであるならば、それをもっと活用すべきだということで一致してくるのではないですか。
○四宮委員 その必要性の判断がありますね。
○井上座長 そこのところは、今よりは必要性の方に傾いた運用になっていくのではないかというのが池田委員の御意見であったように思うのですが。
○池田委員 はい。
○井上座長 当事者による鑑定というのは、現行法上、制度的にはないわけですね。
○四宮委員 さっきおっしゃったのは、つまり私的な鑑定をして、それを証拠として出すということですね。
○井上座長 証人として出していくということでしょう。
○四宮委員 ええ。いきなり、例えば裁判所の鑑定があるというよりは、訴訟法上の鑑定ではなくて、検察側も弁護側も、科学的な調査をしたが、それがお互いに見ればいろいろ問題があると言っている場合、更にそれをまた補う調査を自分たちでやればいいのかもしれませんけれども、やり方としては、それでは、裁判所の方でも鑑定をやってくださいということもあり得るのだと思うんですね。それはどっちにとっても。
○井上座長 だから、判断がつく限りは、前倒しでやるということを考えているのではないですか。
○四宮委員 また、さっきの議論の戻りますが、判断するためには両方の鑑定書の中身を読まなければできないのではないかということです。
○池田委員 すみません、もう一つ付け加えます。ドイツの制度として聞いた話なので、正確かどうか分からないのですが、ドイツでは、責任能力が問題になったときに、鑑定をした人が公判手続を最初から最後まで聴いていて、自分のもともとの判断に、法廷で聴いたことを加えたら、結論が違うのか、同じなのかというようなことについて、その鑑定人から更に意見を聴くというような手続があると聞いています。裁判員制度対象事件で、集中的な証拠調べができるのであれば、大事な鑑定人には公判審理の状況を聴いてもらい、そこで出てきた新しい事実も踏まえた上で当初の鑑定意見が変わらないのかどうかということを聞けば足り、あえて再鑑定までしなくても大丈夫な事件も出てくるのではないかという気がするんですね。そういう制度を考えてもいいのではないかという気がいたします。
○平良木委員 今の意見は大事な指摘で、例えば精神鑑定などは、鑑定資料の違いによって鑑定結果が違ってくるという場合が随分あるんですね。鑑定資料が共通だと、恐らくそんなに結論が違わないのではないかという場合があり得る。そうなると、鑑定資料がどの程度まとまった段階で鑑定するかというのは大きな問題だというように思いますので、そこのところの工夫は何か必要だろうという気がします。
○井上座長 それは、準備手続をどう組むのか、公判との仕分けをどうするのかという制度の作り方とはちょっとまた別の問題ですよね。
○平良木委員 違います。
○井上座長 そこは、実質的に考えていかなければいけないということですね。
○平良木委員 もしそういうことが必要だとすると、準備手続でやる、いわゆる再鑑定というのは、先ほど座長が言われたように極めて限定されたものにならざるを得ないだろうということになるだろうということです。
○井上座長 分かりました。鑑定については、更にまた議論をすることにして、この程度でよろしいですか。もしほかに付け加えて議論すべきことがなければ、次に進みたいと思いますが。どうぞ。
○四宮委員 準備手続の内容で、裁判員裁判を前提にしたときに、例えば補充裁判員の数をどのぐらいにしましょうかというのは、コの審理計画の策定に入るのかもしれませんが、そういったものも恐らく準備手続で話し合っておくことになるだろうと思います。もう一つは、裁判員との議論の際、その際に使われた言葉でいうと、裁判員に対する教示ということが話題になりました。そこで、私は、一般的な刑事裁判の諸原則等のほかに、個々のケースについての、例えば争点ですとか、証拠だとか、これは次の(4)とも関係するのですけれども、審理の冒頭に当たって分かりやすく事件の筋道なり、裁判員たちのガイドみたいなものを示すことが必要ではないかと申し上げましたけれども、もしそういうものが必要であるという立場に立てば、この準備手続の中で三者で議論しておくことが必要になるのではないかと思います。
○井上座長 それは整理の仕方なので、選任手続からそれに引き続く手続のところに、そういう手続を組み込むということも可能ですし、それはどこかではやらざるを得ない話ですよね。ただ、ここで補充裁判員の数までやるのかどうかですね。
○辻参事官 現行の裁判所法の補充裁判官の要否等について、三者で協議して決めるような性格なものなのかどうか承知していませんが、その点との兼ね合いも考慮しつつ、補充裁判員の数につき、それを準備手続で扱うべきことなのかどうかということを検討する必要があるのではないかと思います。
○井上座長 その点は、裁判員の選定のところで、付随して御議論いただければと思います。
○??井委員 合意書面を作る場合があると思うんですが、これで言うと合意書面を作るというのはどれに該当するんですか、今の案だと。
○平良木委員 ここには入らないでしょう。
○井上座長 両当事者間でやればいいことではないですか。
○平良木委員 当事者が合意のうえで作成するものでしょう。
○井上座長 両当事者が合意して作成するものですから、裁判所が乗り出していく問題でもないように思いますが。
○??井委員 それはやっぱり裁判所に乗り出してもらった方が合意書面はできやすいと思います。
○池田委員 当事者の作成を前提として、その取調べの請求をして、そして裁判所が証拠決定をするということでいいのではないでしょうか。
○辻参事官 証拠請求や証拠決定については、現在の刑事訴訟規則194条の3の準備手続の項目にも挙がっていますが、合意書面の作成となると、それは当事者間の話かなという感がしますけれども。
○井上座長 事実上は、準備手続を行っている過程で、当事者がそういう合意書面を作って請求してくることはあり得るのではないですか。協議をしている間に、ここの部分はまとまったから、そういうものを出しましょうということで両当事者が合意すれば、それはそれでいいんじゃないですか。
○??井委員 両当事者は認めているわけだし、合意書面を出されたらどうですか、というふうに、裁判官が促すというのことは、あり得るのではないかと思うのですが。
○井上座長 事実上、準備手続の過程でそういうことはあり得るとしても、それを準備手続で行うべきこととして規定するかどうかでしょう。裁判所が事実上行えるということと、法令上の権限として定めるということは、事柄の性質としては違う気がしますけれども。
○??井委員 先ほどはこれでいいんじゃないでしょうかと申し上げているわけですけれども、そう申し上げつつ、大丈夫かなという不安もあって、なぜかというと、今の調書は膨大な量が出てくるわけですね。調書の作り方が今と同じだという前提に立つと、たたき台に書いてあるような仕切りをしただけで、特に裁判員を入れた公判がうまく回っていくのかなという不安があるんですね。ただ、それは形を持った不安じゃないものですから、もっとはっきり言えと言われると言えないのですけれども、もちろんそんなことは、当事者の立証の方法に関することだから、当事者が自分で考えればいいのだという言い方ももちろんできるのですが、これだけで大丈夫かなという気はしているということですね。
○井上座長 分かりました。
○池田委員 今の??井委員の御懸念は、確かにそこは前から話題に出ているように、やはり両当事者とも証拠を厳選して、ポイントを絞って立証していくというようなことを考えていかないといけないわけです。そういう理解で両当事者に動いてもらえれば、この準備手続はこういう形でいいだろうと思います。証拠の範囲については、項目3の、検察官主張事実の提示と証拠開示のところで議論するように、検察官には当然考えていただかないといけないわけですね。また、弁護人の方も、それに対して反証を出す際に同じように考えていただかなければいけないので、それを前提とすれば、裁判所がやるべきことは少なくなるのではないかと思いますけど。
○井上座長 この点は、このくらいでよろしいですか。
それでは次に進みたいと思います。なお、言うまでもないことですが、争点整理と証拠開示の具体的な中身については、項目3以下で議論するということにさせていただきたいと思います。
次が(4)の「準備手続結果の顕出」ということですが、この点については御意見いかがでしょうか。
○酒巻委員 私はこのたたき台の案で結構だと思うのですが、本日、最初に御質問したこととの関連で申し上げますと、現在の準備手続もその内容は調書にして、それを公判期日に顕出するとされています。その趣旨は、かなり重要な事柄が準備手続で行われますので、公判中心主義、あるいは裁判公開原則の趣旨によりよく沿うということで、非公開の準備手続で行われたこともきちんと公判に顕出するのだということなのだろうと思います。
新しい準備手続は、私のイメージでは、特に裁判員制度対象事件で争いのある事案の場合には、両当事者が、準備手続において、もしそれがなければ、恐らく公判期日で行ったような主張を述べ、それに対する反論を行う。それも、証拠調べそのものではないですが、それぞれが証拠に基づいて主張と反論をする、というような主張の交換が行われるものだろうと考えています。そうだとすると、そのような準備手続の経過も含めて、これを公判期日において明らかにするというこのたたき台の案は、今申し上げた観点からもより重要であり、妥当なのではないかと思います。
○??井委員 イメージをはっきりさせるために2、3点、質問させていただきたいのですが、まず、たたき台の(4)の「調書」には、主張と争点整理の経過、つまり、最初にどういう主張が出て、それに対してどういう反論が出て、その後、さらに、その主張がどうなったかという、主張が仮に変遷しているとすれば、その主張の変遷過程であるとか、そういうものまで、この調書には記載されているという前提なのでしょうか。それとも一応経過及び結果と書いてあるけれども、そこまで深く書いてなくて、もう少しさらっとした、結論的に言えば、どういうふうに主張が変遷していったのか正確にはよく分からないというような簡単なものを念頭に置いておられるのかということです。
もう一つは、たたき台(4)の「当事者の提出した書面」というのは具体的にはどんなものをイメージされているのかということをお教えいただきたい。
○辻参事官 イメージとしましては、恐らく調書は準備手続の期日ごとに作成しますので、一回で終わらなくて、この期日はこういう主張、次の期日にはこういう主張ということになれば、当然その経過は顕出されることになるでしょう。また、当事者が当初提出した書面にある主張と証拠調べ請求が記載されており、次の機会に提出した書面では、それとは違う主張と証拠調べ請求が記載されているということがあれば、その変遷の過程は顕出されることになるので、主張の変化、証拠調べ請求の変化というものも顕出されるというイメージでおります。
それから、当事者の提出した書面とはどういうものかということですが、たたき台で申しますと、項目3のところで「検察官主張事実陳述書」と仮に名付けたようなものが当然これに当たるでありましょうし、それに対して被告人あるいは弁護人から反論を記載したような書面が出されるとしたら、それも、これに当たると考えておりますが。
○井上座長 御質問はそれでよろしいですか。
○??井委員 もう一点。例えば準備手続の過程自体に対する意見があったという場合があり得ますね。例えば、準備手続の進行が非常に不満であったということはあり得ると思うんですね。準備手続の進め方自体について、当事者が意見を記した書面も、ここでいう「当事者の提出した書面」に該当するのですか。
○辻参事官 準備手続の進め方ですか。
○??井委員 当事者の提出した書面というのは、準備手続終了前に、その過程で出した書面に限られるのかということです。
○辻参事官 それは、準備手続が終了した後に、その進め方についての不服あるいは異議のようなものを書いた書面という趣旨ですか。
○??井委員 そうだとしてもいいですね。
○辻参事官 あまり想定していなかったことではありますが。
○??井委員 準備手続の進め方自体に非常に不満があったということはあり得ないのかということです。
○井上座長 それは、公判で、弁護人や検察官が主張すればいいのではないですか。
○??井委員 それは多分言うということになると思いますね。
○井上座長 それだけでは賄えないんですか。何か抗議文を送って、それを読めということでしょうか。
○??井委員 それはないのですが、要するに、(4)は準備手続の流れを正確に裁判員に示すということですよね。そうであるとすると、今言ったような準備手続の結果そのものに対する検察官としての見方、あるいは弁護人としての見方を書いた書面を出すということもあり得るのではないか。
○井上座長 それは、事実として書かれてあることは間違いないが、しかし進め方が相当でないということなのでしょう。調書の記載が不正確だということだと、また話は別ですよね。
○??井委員 そうですね。
○井上座長 どちらの御意見なのですか。
○??井委員 そういうものすべていろんなものをもう少し包括的に含んだものです。
○井上座長 前者だと、まさに公判廷で言えばいいのではないですか。
○辻参事官 調書の記載内容に問題があるとすると、それは調書に対する異議の申立てとかそういう手続になるのではないかと思います。進め方に対する問題ということになりますと、それについての不服申立て、異議申立てというのがあり得るのかどうか分かりませんが、最終的には、訴訟手続上の法令違反になるのかどうかということで、控訴の問題なのかもしれないという気もしますが。
○井上座長 少なくとも何を言わんとされているのか、まだよく分からないのですが。
○??井委員 私自身も新しい制度ですから、どこか何か座りが悪いかなという感じですね。
○大出委員 今のお話ですと、準備手続の終結というのは、訴訟関係人の合意なしに終結ができるということなんですか。
○井上座長 それは、当事者に不満がある限りはずっと準備手続を継続すべきであるということですか。
○大出委員 いいえ、そうではないにしても、今のお話ですと、つまり公判を始めるわけですから、公判を始めるについて、何らかの、もちろん書面を最終的に結果報告するについても、その結果報告自体だって、そこでの準備手続の結果を容認するという関係人の間での合意なしに終結して公判に移行するということはできるのですか。そういうイメージなのかどうかという確認なんですが。
○辻参事官 そもそも、調書あるいは当事者が提出した書面に記載してありますので、準備手続で行われたことに関し、それが行われたか、行われてないかについて疑義が生じるということはあまり考えにくいのではないかと思われますので、調書の正確性の問題に最終的には帰結すると思います。
あと問題があるとすると、もう少し準備手続を進めるべきではないかという意見があった場合にどうするかということなのかもしれませんが、それは何をどうやるべきだという主張なのかということとの関係で、最終的には裁判所が判断せざるを得ないのではないかという感を持ちますが。
○大出委員 終結のさせ方についての規定がないということにならないのかどうかということですけれども、それはいいんですか。
○本田委員 いいんじゃないですか。
○大出委員 いいんですか。何となく終わるんですか。
○本田委員 裁判所が判断して、これで終わりですと言ったら終わるのではないですか。
○井上座長 争点整理が終わり、公判に臨みますという判断は、裁判所の権限になるのでしょう。
○池田委員 当事者に不満があって、ここら辺をはっきりさせてもらわないと予定が立ちませんと言っているのに、裁判所がもうやめましょうということは考えられないですね。逆に、当事者がもういいですよと言うけど、裁判所がまだまだやろうということも考えられないですね。
○井上座長 ??井委員がおっしゃっている不満というのは、まだよく分からないのですが。
準備手続を行ってきたけれども、思わぬ結末に至ってしまったということなのですか。
○??井委員 私も何か気持ちが悪いなという程度なんですね。
はっきりしたら、また申し上げます。
○酒巻委員 新しい制度であり、私もよく分からないので、皆さんの御意見を聴きたいのですが、この結果の顕出という作業が、第1回公判期日のどの時点でどのように行われるのかというイメージなんです。第1回公判期日は、通常、まず冒頭手続があり、そして証拠調べに入って、両当事者が、裁判員制度対象事件の場合には、それぞれ分かりやすい立派な冒頭陳述を行うということが予定されているわけですけれども、どのあたりで、準備手続の結果と経過というのが顕出されるのでしょうか。
○井上座長 要するに顕出の時期をいつにするかということですか。
○酒巻委員 どこでやってもいろいろなやり方があると思うので、法律で定める話ではないのかもしれませんが、イメージを知りたいということです。
○辻参事官 準備手続の内容には、証拠調べの請求、それに対する決定というものが恐らく含まれますので、公判期日における冒頭手続が恐らく先行するのではないかと思っておりますが、そこから先について、では冒頭陳述との関係はどうかと問われますと、そういう意味ではもう少し詰めて検討しなければいけないと思っております。
○井上座長 証拠調べの中身に入る前ですよね。採否の決定をやっているわけですから。
○辻参事官 広い意味での証拠調べ手続の冒頭部分ですね。個々の証拠調べよりは前になります。
○酒巻委員 冒頭陳述との前後関係や内容の重なり具合はどうなるのでしょうね。
○井上座長 冒頭陳述自体、準備手続の結果を反映しているところもあるから、その辺をどっちにするかという話ですね。
○平良木委員 内容によって違うんじゃないんですか。例えば、訴因又は罰条を明確にすることは冒頭陳述より前ですよね。
○井上座長 それはもっと前ですよね。そして、訴因とか主張の内容を明示するというのは、争点整理の結果としてどこかに出てくるんじゃないですか。
○大出委員 それは当然冒頭陳述に出てくるわけでしょう。
○井上座長 出てくるわけですね。
○平良木委員 その時点ぐらいまでにやらないと意味がないわけですよね。
○辻参事官 はい。
○池田委員 現行の準備手続でも結果の顕出というのはやっているわけですが、これは被告人が準備手続に出頭していないときもありますので、そのためもあって、準備手続でこういうことがあったということを公判に顕出しなければいけないのは間違いないのです。しかし、準備手続で何があったかということは、ほとんど分かっているわけですよね、当事者と裁判官のみんなが。それで、問題がなければ、この結果を顕出しますというだけのことで終わってしまうのですね。
今度の準備手続で、それでは何が必要になってくるかということだと思うのですが、準備手続で争点整理をして、みんなもう納得した上で、こういうことで行きましょうと言っているときに、いや、あのときにもこういうやり取りがあって合意に至りましたよとか、そういうことをいちいち顕出する必要はなくて、公判手続を進めていく過程で、もし違った経緯を出す必要があれば、その段階で、準備手続の結果とこの点が違うということを顕出していくという方法というのはあり得るのではないでしょうか。顕出という手続は必要なんですけれども、それは必ずしも全部繰り返さなければいけないという問題ではないのではないかと思います。
○井上座長 問題は2点あって、1点は、今でもそうですけど、裁判の公開の問題があるのと、もう1点は、一般的にではないのですけど、裁判員制度対象事件の場合に、裁判員との関係で少し別の考慮が必要になってくるかもしれない、そこがちょっと新しいところかなということです。
○池田委員 準備手続でまとまったとおりに公判でも進んでいれば、それはそれが顕出なのではないか。要するに、準備手続でまとまったとおりやっているわけで、そういうことが準備手続で合意されていたということになる。準備手続と違うことが行われれば、その段階で、その違う部分を顕出しなければならない、ということにはならないだろうか。そういうふうに顕出すれば足りると考える余地があるのではないかと思います。
○土屋委員 私は、裁判員の立場で考えると、準備手続の経過について事細かに説明されても困るかなという感じもちょっとあるのですね。ですから経過については、両当事者に争いがあって、もめた末にいろいろ証拠採否が決まっていったということになってくれば、それは、証拠調べの段階で、こういう経緯で、この証拠はこういう扱いになっていますというような説明が行われてもいいでしょうが、冒頭の段階であまり細かに経過に言及し、その結果こういう結果になっておりますということを逐一裁判員に対して細かく説明する必要があるのだろうかという気がするんですね。むしろ公判手続としては、明快である必要があると思うんですよ。だからあまり袋小路に入っていってしまうような事前の準備手続の経緯などについては、あまり細かく説明しなくてもいいのではないかという気が私はしているんです。
池田委員が今おっしゃったように、いろんな経緯はありましたけど、結果はこうですということですぐ分かるわけですから、重要な違法収集証拠であるとか何とかということが問題になるのでしたら、そこはその経緯は克明にお話ししていただく必要があるとは思いますけれども、できるだけ明快にというやり方でやっていただきたいなと思うんですけれども。
○本田委員 結論だけ顕出すればよいということですか。
○土屋委員 結論だけではないです。
○本田委員 結論だけというのはちょっと極端な言い方ですが、なるべく簡単にすべきではないかというお話があったのですけれども、果たしてそうだろうかなという気がします。現行制度ではどうなっているかというと、まず検察官が主立証を行い、それに対して被告人が主張反証し、さらに、それを受けて、また検察官が追加立証を行う。こういう順序で公判が進行していくわけですね。例えば、その過程で、被告人が虚偽の主張に及んでいたことが明らかになり、あるいは不合理に主張を変遷させた場合は、それは、裁判所が事実認定をする際の一つの資料になっています。特に、直接証拠がなく情況証拠の積み重ねによって公訴事実を立証せざるを得ないような事案では、被告人の主張の一部が虚偽である、あるいは被告人の主張が変遷していることを材料として被告人の主張・供述の信用性全体も弾劾することが、事実認定上、重要な意味を持つことになります。。
ところが、準備手続において争点整理を徹底してやらなければいけないというのはそうなんですけれども、その結果、今述べたような事実認定の資料が失われてしまうということになると、それは事案の真相を解明する上でマイナスということになってしまう。やはり、準備手続における主張の変遷についても、公判廷に顕出して、事実認定の資料となり得るようにすべきである。そうでないと、準備手続を徹底したがゆえに真相の解明が後退してしまうことになりかねない。それは何も裁判員を混乱させるような顕出の仕方をしなくていいわけで、きちんと整理すれば、誰でも分かるようになるわけですから、こういう主張があって、こういう主張が出てきて、最終的にはここで争点が明らかになりました、というように、そんなに裁判員が混乱するようなことにはならないと思いますが、主張の変遷はきちんと顕出しておくべきだと思います。
○土屋委員 一言だけ。私が言ったのも、今の本田委員が言われたことと内容は同じなんです。必要ないなんて言っているわけではなくて、できるだけ明快にと言っているのはそういう意味です。
○四宮委員 法廷において供述が変遷していったということが心証形成の資料になる。それはそのとおりだと思うんです。ただ、準備手続において、主張やら請求した証拠やらに変遷があった場合どうかということなんですが、今の法制度、今の準備手続でも結果を明らかにする手続は、準備手続の「結果」を顕出するという形になっています。
今日のたたき台では、「経過」という文言が新たに付け加わっているわけです。私は、なぜ「経過」が現行法と違って付け加わったかというのが一つ疑問としてあるのですけれども、恐らく現行法が結果を上程しなさいと言っているのは、準備手続の特殊性を考えているのだと思うのです。準備手続というのは、今ずっと議論されてきたように、公開ではない場所で、言わば形式ばらずに、お互いに準備に向けていろいろなことを言ったり出したりする、場合によっては、裁判官が釈明をしたり、当事者もそれに答えたり、撤回したり、あるいは追加したり、そういうことがあり得るわけですね。そういったフレキシブルなものだからこそ準備の実が上がるわけで、そういった経過が逐一期日ごとに調書にとられて、そしてそれが公判廷に必ず出るということになると、本当に今回構想している準備手続、つまり争点中心の円滑で充実した審理が行われるための準備手続の実が上がるのだろうかという気がします。
もう一つは、いつ、どういう段階で法廷に出すかというのはさっき議論されましたけれども、それも全くイメージしにくいのですが、私は土屋委員がおっしゃったことに全く賛成で、いろいろなやりとりが事細かに出されることは、裁判員に対して明確な争点と証拠を整理して示すという準備手続の目的に違うのではないかと思うのです。むしろ、さっき池田委員がおっしゃったように、でき上がったものを明確に裁判員に示すことが必要なのであって、それは正に本来は冒頭陳述の役割だと思うんですね。
ですから、ここは訴訟法上のいろんな手当てをする必要があるのかもしれませんけれども、基本的なざっくりとした発想としては、とにかくフレキシブルに準備をして、そしてみんなが合意をした争点と証拠を決めて、そしてそれで裁判員が何を判断するかをきちんと冒頭陳述で示して、そして証拠調べが始まると、こういう制度作りにした方がいいのではないかと思います。
○井上座長 現行の準備手続の調書なのですけれども、当事者が、例えばこういう主張し、その後、こういうことが行われたと、そういうことは記録しないのですか。
○池田委員 重要なことは、例えば、当事者が釈明したことですとか、そういうものは当然残ります。それから、証拠申請があった、それに対して意見がどうかということも当然残すはずですね。その過程で、いろいろ、どうしようか、こうしようかと、悩みながらこういう結論になったとか、そういう小さな経緯までは残らないと思いますけれども、ただ、日が変わるなりして、前の日には同意という意見であったのに今度は不同意になるとか、そうなると当然残るわけですね。ですから、多分、それは、現行の刑事訴訟規則の解釈でも、この準備手続の「結果」というのは、要するに、準備手続調書に残ったことをすべて顕出せよという趣旨で、残っているものはすべて「結果」なのだろうと思うんですね。
そういう意味では、今回、たたき台に、この「経過」という文言をわざわざ加えなくても、手続調書に残らなかったものを経過として出すというのは無理なわけですから、それは同じなのではないかという気がしているのですけれども。
○井上座長 分かりました。
○辻参事官 恐らく今池田委員から御指摘があったとおりで、現行の刑事訴訟規則194条の7の「準備手続の結果」というのは、四宮委員のおっしゃるような、最終的にどういう整理をしたかということに限られる趣旨ではなくて、準備手続を行い、調書に記録されたものを明らかにせよという意味なので、そういう意味では、たたき台は、そのあたりを明確にしたにすぎないような気はしております。
○本田委員 先ほど四宮委員が、公判廷の主張の変遷は当然考慮できるのだけれども、準備手続はフレキシブルにやるから、その分は顕出しないと言われましたが、それは実質的な理由になってない。公判廷ではなく、準備手続であっても、それは、お互いに真剣に、どういう主張をするか、どういう反証をするかということを繰り返していくわけです。同じような性質のやり取りなのに、現在の公判手続から準備手続に前倒しされたがゆえに、それは法廷に顕出されないという理由にはならないというふうに思います。
それから、もう一つ、これは質問なんですけど、先ほどから、裁判官と裁判員との情報格差はなくすべきだと盛んに強調されておられた趣旨と、今おっしゃっているように、準備手続における主張の変遷を公判廷に顕出すべきではないという趣旨とが、果たして合致しているのかという気がするんですが。
○大出委員 準備手続というのは、あくまで公判段階での審理というものを、争点を絞って、合理的に迅速に進めるためにやるわけですよね。まさに、公判段階が本案であって、そこでの審理をするためのまさに準備なわけですから、どうも本田委員のお話伺っていますと、準備手続段階での材料をも公判段階での心証形成に資するものとして利用とするという前提でお考えになっているのではないかと思うんですね。まさに心証形成は公判で行われるわけですから、スタートの時点でその公判が何を争点にして、どういう証拠でこれから手続が行われるかということが決まっているということが重要なのであって、それはまさに結果でしかないわけであって、経過がどうであったかということは、公判を進める際には問題にならないはずではないかと思うんですね。
○井上座長 今の準備手続でも、重要な事項については記録があって、それは顕出されることになっているわけですね。
○大出委員 現行の準備手続と今度の準備手続というのは、まさに裁判員制度対象事件の場合には第1回公判前に準備手続をやっているわけですね。
○井上座長 前提が少し食い違っているのかもしれませんけれども、何人かの方の前提は、現在、第1回公判期日後の準備手続で行っていることを時期的に前倒しして、第1回公判期日前に行うというのが、今ここで議論している準備手続であるというイメージなのですね。ですから、基本的には、現在の準備手続についてと同じようにしようとしているだけだという趣旨だと思います。
○大出委員 ですから、その準備手続の位置付け自体が、裁判員裁判の場合にいいのかどうかという問題ですね。情報格差の問題というのをもう一言だけ言いますと、情報格差の問題というのは、先ほど言ったようにまさに心証形成の有り様との関係での問題ですから、もし、準備手続でやったことを心証形成に資するものとして位置付けるということになってくると、それこそ問題なわけで、であればこそ、先ほど言ったように手続、主宰者を分けるという話になるわけでね。
○本田委員 違うと思います。
○大出委員 それは座長が言うように前提が違うんですよ。
○井上座長 右回りで回転する議論をするのか、左回りで回転する議論をするかの違いなのではないかと思いますね。比喩的に言えば。
○平良木委員 先ほど座長の言われたことと重なるのだろうと思うんですけれども、今の準備手続というのは、公判期日が開かれていて、その公判期日をうまく進めるためにその前に開いておくというものですね。だから、準備手続の結果をその都度その都度公判で出していけばいい。そのために準備手続に書記官も立ち会わせて、調書も作らせて、その調書を出すということになっているわけですね。
しかし、今度はそうではなくて、準備手続を全部第1回公判期日前にやっていくというわけだから、これは、準備手続は1回で終わらなくて何度も回を重ねることがあると思うんですね。そして、その都度その都度調書を作っていくことになる。そのときに、その都度その都度作った調書を全部出すのか、あるいは最後にまとめて1回で出すのか、この違いはやっぱりあると思うんですね。つまり、最後で、今までの書かれていることを全部まとめて調書を作って、それを、いわゆる第1回公判期日に顕出するというやり方も当然あり得るわけで、そこをどちらの方法でやるかというのはまだ決まってない。もし、全部の手続調書を出すのだということになると、当然、準備手続の経過が出てくるということになるのだから、準備手続の結果を全部公判期日で明らかにしなさいと言うかどうか、この違いだろうと思うということです。
○井上座長 少なくとも理屈の上では、準備手続を何回か行うということはあり得て、その場合、原則としては、その都度、重要な事項は全部調書に記載しておくということでしょう。
○平良木委員 そうです。
○井上座長 後でまとめて調書を作成するときは重要な事項の記載を省いていいというものでは多分ないだろうと思うのですね。いずれのときも、正確に何が起こったかを記載しておくということになるのでしょう。
○平良木委員 実際問題として、準備手続にそんなに手間が掛かるようなことというのは、やりませんよ。
○井上座長 どういう形で顕出するかというところは工夫の余地があると思いますけれども、調書に記載してあることは全て顕出するという形にすべきだというのが何人かの方の御意見であるのに対し、四宮委員と大出委員の意見は、最終的に整理されたことだけでいいのではないかというものであるわけですね。
○??井委員 私のイメージは、基本的に裁判員裁判の場合は準備手続が何回も行われ、各準備手続の調書だけでも、相当な量になるということがまず前提なんです。そうすると、仮にそれをどさっと出して、裁判員の人は読みなさいと言われても多分読めないと思うんですね。そうすると、その調書に基づいて、例えば半年なら半年掛かった準備手続の経過が分かりやすく頭に入るような書面を作らざるを得ないと思うんですね。たたき台の「要旨の告知により」というのは恐らくそういう趣旨だと思うんですね。そうすると、そのような書面は裁判所が調書に基づいて基本的には作るんだと思うんですが、当事者がその書面のとおりだと思えばいいんだけれども、そうではなくて、準備手続の経過をもう少しはっきり裁判員に分かってもらうためには、検察官としては、この部分を強調したいとか、弁護人としては、ここを言いたいというところが多分出てくると思うんですね。そういう書面が、たたき台の「当事者の提出した書面」になるのかというのが最初の問題意識だったんですがね。
○井上座長 そこは、そういうことまで想定しているわけでなくて、当事者によって準備手続の過程で提出された書面というのが、ここでの「当事者の提出した書面」ということだと思います。
○??井委員 ですから逆に言うと、今、私が言っているような書面も含めなくてはいけないのではないかと思うということがまず第1点です。
他方、そうは言っても、両当事者が冒陳をやることが予定されているわけですから、準備手続の経過・結果の顕出と、冒陳との関係はどうなるのか。そこが整理されていかないと、手続がうまく流れていかないのではないかという懸念があります。先へ行けば整理されるのかもしれないですが。
○井上座長 問題は二つあるように思うのですね。まず、準備手続における重要な事項については調書を作る。これは後で朗読するか、しないかは別として、その過程において何か間違ったことが起こったら検証しないといけないですから、そういう手続の記録は作らざるを得ないと思うのですが、それを、現在のように、朗読又は要旨の告知という方法によるべきかどうかは分からないですが、公判廷につなぐ手続が必要かどうか。必要だとして、それをどの程度行うのか・これが第1点です。
もう一つは、1点目とも関連しますが、準備手続の中で、各当事者の主張が変遷したことを、後の証拠の評価の材料として、あるいは、その主張の信頼性、信ぴょう性等に対する評価の材料として、公判廷で使うことができるかどうかということです。これらの問題点が、明確に区別されずに議論されているように思いますね。
○??井委員 最後におっしゃった論点については、これは使えなければおかしいのではないかと思います。どうやって裁判官の目の前に出すかというのはまた別の問題として、それは使えなければ証拠の評価は正しく行われることにはならないのではないかと思いますね。
○大出委員 いやいや、それはちょっと違うんじゃないかと思います。そこはイメージの違いなんだと思いますけれども、まだ私は先ほど座長が整理したイメージの片割れを引きずっているということかもしれませんけれども、そこは、まさに、準備手続で争点を整理し、証拠を整理して、裁判員と裁判官が同一の平面で心証をとるために公判を開始するという、それをまとめるために準備手続をやっているわけですよね。それを、準備手続でやった材料について、裁判員は直接そこに参加してない、しかも、それを書面か何かにしてまとめたものを公判に持ち出すことによって、そこでやられたことを公判段階になって、改めて心証を形成するための資料に使えるということになるのですか。
○??井委員 例えば、一番分かりやすいのは、被告人質問で、最初、被告人側はAという主張をし、それが次にBになり、Cになり、Dになったとしますね。最終的にはDという主張で固まったとする。当然、公判で被告人質問をすれば、Dという主張に沿う事実を、弁護人の質問に対しては答えるはずですよね。そのときに検察官が反対質問をするときに、あなたは今そう言っているけれども、一番最初のときはAという主張をして、Aに見合うこういう事実を主張していたんじゃないのと当然やりますよね。それをやっちゃいけないんですか。
○大出委員 証拠があって、証拠を公判に出せるというようなことであれは、それで追及されればいいわけでしょう。
○井上座長 かつてそういう主張をしていたという事実を弾劾の根拠として使えるのではないかというのが、??井委員の意見でしょう。
○??井委員 逆の立場だって同じですよね、それは。
○四宮委員 弾劾の事実として当事者が使うかどうかということと、それを冒頭陳述の前に、当事者の訴訟行為としてではなく、準備手続の結果を全部出すということがいいかどうかですね。
○井上座長 ですから、さっき整理させていただいたのです。つまり、準備手続で行われたことを公判につなぐということが必要かどうか、必要だとした場合に、どこまでの内容を読んだり告げるということをしなければならないのかという問題が一つと、後に、主張の変遷が問題になった場合に、主張が変わったという事実を用いて攻撃したり弾劾したりするということができるのかという問題がもう一つあるわけです。この二つの問題は別の問題だろうと思うのですね。
○四宮委員 さっきの繰り返しになりますけれども、そのつなぎ方は、訴訟法的にはよく分かりませんけれども、もちろん準備手続で何が行われたかということを記録することは必要です。一番最初におっしゃった点、それは必要なんだろうと思います。だけど、それがそのまま公判につながることが、裁判員の理解ですとか、あるいは冒頭陳述との関係でどうなのかという問題が一つある。
もう一つは、常に弾劾として使えるかどうかという問題がある。これも訴訟法的な理屈付けがどうなるのか、私まだ詰めて考えていませんが、準備手続というものは、いろいろな裁判官からの質問もあったりしながら動いていく、動的なものなのであると私は考えているわけです。
○井上座長 確かに、準備手続それ自体としては、争点や証拠を整理して、きちんとした審理計画を立てるということを目的とするものであるわけすが、問題は、その準備手続で行われたことが、公判廷で全く何の意味も持たないのかということなのですね。事実として行われているわけで、その事実を公判廷で証拠の評価なり弾劾の材料なりに使えないという理屈があるとすれば、それは何なんだろうか。そこが問題なのだと思うのです。
○大出委員 だからこそということだと思うんですね。とりあえず今座長が整理されたように、争点を整理、証拠を整理し、公判廷で立証するための材料が何かということ、それがまさに準備手続での最終目標であり、そのことが確定すれば、それをまさに公判に引き継ぐということが準備手続の役割だと思うんですね。何を引き継ぐかという意味でいけばですね。
○井上座長 そこは問題ないのですよ。
○大出委員 いや、それを前提にして考えたときに、それはいろんな紆余曲折があって、準備手続の中でのやりとりがあって、まさにそこへ固まっていくということで準備手続は行われているわけですから、もし準備手続でやったこと自体が、最終的に、公判でも心証、場合によっては弾劾というようなことも含めて心証をとるための材料に利用できるということであるとすれば、それは正に先ほどから言っていた情報格差の問題につながってくるわけですから、直接そこにかかわった裁判官のみが整理をしたというような情報が提供されてくるということではなくて、だったら、正に裁判員も準備手続に入っている必要があるということにもなりかねないわけです。
○井上座長 論理が飛んでいるのではないですか。
○大出委員 いいえ、正にそこの心証形成が問題なのです。
○井上座長 準備手続で心証形成をしているわけではないのです。しかし、準備手続で起こった事実というものは事実なのであって、それを後に、公判で援用できるかどうかという話なのですよ。
○大出委員 ですから私はそれはできないだろうと思うわけで、準備手続で証拠の採否について議論が行われ、採用できるということになった証拠を使って、公判廷で心証を形成すればよいわけです。
○井上座長 そういう問題じゃないのですよ。
○大出委員 そういう問題じゃないって、そういう問題として考えなければいけないんじゃないかというふうに私は言っているわけですよ。
○??井委員 例えば、さっきの被告人質問で、あなたは、今こうおっしゃっているんだけれども、そもそも準備手続の主張のときにはこういうふうな主張をされていましたよね。準備手続の最初の主張を前提にすると、今の供述されていることが事実と反しますね、矛盾しますよね、という質問はしてはいけないんですか。
○大出委員 私はできないと思いますね、それは。
○酒巻委員 その御意見は誠におかしいですね。
○大出委員 準備手続のイメージが違うんだろうと思いますけれども。
○酒巻委員 それ以外の点においても違います。
○井上座長 いや、そもそも問題のとらえ方が違うのですよ。
○大出委員 それでもいいです。
○酒巻委員 大出委員の御意見だと、現在、公判期日で普通に行われていることができなくなるという結論になりますよね。
○大出委員 どうしてですか。
○酒巻委員 今、??井委員がおっしゃったような例というのは、現在は、公判期日で見られるものであり、例えば、被告人が、公判期日において何らかの主張をした後、被告人質問で、検察官が反論したところ、その主張を変更したということが公判期日で起これば、被告人のそれぞれの主張の中身ではなく、そういう主張の変遷ということ自体が事実認定者にとって一つの判断材料になるわけですよね。
○大出委員 公判で起こればね。
○酒巻委員 要するに、準備手続のイメージとして、相互に主張を交換して争点を詰めていくということになれば、今述べたような主張の変遷が準備手続でも起こるであろうということです。そうすると、現在では公判期日で起こっているような主張の変遷が、準備手続に前倒しして行われると、それが事実認定に用いることができなくなるというのは変だろうということなんですよ。
○井上座長 もうちょっと分かりやすく言えば、準備手続でも何でもいいんですけれど、公判より前に公判廷外で、公判で供述していることと何か違うことを言っていたということが事実としてあった場合に、その事実に言及できないかという話だ思うのです。それがたまたま準備手続の中で起こったという場合に、準備手続だからそれは使えないという理屈があるのか、そういうことだと思うのですね。
○??井委員 例えば、警察段階では捜査のときにこんなこと言っていたでしょうとか、あなたは捕まる前に友達にこんなこと言っていましたよね、というふうに言うことができますよね。現在は。
○大出委員 それは、具体的に根拠は一体どういう形で示すのかということにかかわってくるでしょう。
○??井委員 根拠がある、ないは、先の問題です。
○井上座長 例えば、主張の変遷を理由に、その信憑性を弾劾する場合には、その人が以前に矛盾することを述べていたという事実を示す、こういう記録が残っていますよとか、それを聞いていた人がいますよとか、いろんな形で、その変遷を明らかにするということが現在でもあるわけで、それと基本的に同じ問題でしょう。
○大出委員 出せるということになればね。正に伝聞証拠だってあるわけですから。
○井上座長 そういう問題とは違うのではないですか。
○大出委員 いえいえ。
○井上座長 その問題とは違います。つまり、主張が変遷したという事実をもって弾劾することができるかということがまず問題としてあって、弾劾できるとした場合に、その事実をどのような方法で証明するかというのが伝聞証拠かどうかの問題であるわけですよ。
○大出委員 ちょっと考えてみます。
○井上座長 お考えください。
この(4)のところについて、ほかに違った視点で御意見があればどうぞ。
○酒巻委員 根源的な疑問でありますが、先ほど来、私は裁判公開原則あるいは公判中心主義と言われている事柄との関係がやっぱり気になっているわけで、準備手続では大変重要な事柄が行われる。証拠調べは行われませんけれども、主張の交換とか証拠決定が行われる。ですから、正にその内容、経過、結果を公判期日に顕出するというのは公判中心の裁判、裁判公開の趣旨からいっても不可欠なことだと思うのです。ただ、考えてみますと、この顕出というのは一体訴訟法上はどういう意味の制度なのかというのがいま一つよく分からないのです。これは理論的には考えておく必要があると思っております。
○井上座長 ほかによろしいですか。
それでは、(5)にの「準備手続の充実」に進みます。たたき台では、準備手続の心構えとして、十分な準備が行われるようにするとともに、できる限り早期に終結させるように努めなければならないということになっており、先ほど池田委員からもこれらの点について言及があったのですけれども、この項目について御意見があればお伺いしたいと思います。
○四宮委員 実際に、準備手続が、この目的、争点中心の円滑で充実した審理が行われるようにするために行われなければならない、ということはそのとおりだと思います。そのために、ここにあるように、十分な準備が行われるということが不可欠なのでありまして、もちろんその上でだらだらやらずに、できる限り速めにということもそのとおりです。ただ、そのような目的と、例えば今の刑事訴訟規則178条の4、これは第1回公判前の準備に関する規定ですけれども、「第1回の公判期日を定めるについては、その期日前に訴訟関係人がなすべき訴訟の準備を考慮しなければならない」としている規定の趣旨にもかんがみて、やはり十分な準備が行われるという点に力点を置いて制度設計をしてほしいと思います。
○井上座長 ほかには御意見はありますか。
○池田委員 当然両当事者に十分な準備をしていただかなければいけないことは間違いないわけですが、往々にして、準備のために、いつまで時間をくださいということを言われると、なかなかそれを短くすることが難しくなることもありまして、それは裁判所の訴訟指揮の怠慢かもしれないのですが、そういうことからすると、こういう規定を置いて、できるだけ早く準備をしなさいと言うことは必要なのではないかと思います。特に被告人が身柄を拘束されている場合に、第1回公判期日まで何か月も掛かるというのはどうだろうかという気がしますので、このような規定は必要なのではないかと思います。
○井上座長 今の御意見は、必ずしも四宮委員が言われたのと矛盾しているわけではないですね。
それでは(4)はこの程度にして、項目2について、裁判員制度対象事件以外の事件では、特に異なった扱いをすべきだとか、あるいはこういうことを考えるべきだということがありましたら、お伺いしたいと思いますけれども。よろしいですか。
それでは、本日はこの程度で打ち切らせていただき、次回また続行したいと思います。
先ほど冒頭でも申し上げましたけれども、次回は6月13日午後2時からですので、お間違いのないようによろしくお願いします。
それでは、本日はこれまでとしたいと思います。ありがとうございました。