首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会裁判員制度・刑事検討会

裁判員制度・刑事検討会(第20回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年6月13日(金)14:00~17:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について

5 議事

 前回に引き続き、第19回検討会配布資料1「刑事裁判の充実・迅速化について(その1)」(以下「たたき台」という。)に沿って、刑事裁判の充実・迅速化について議論が行われた。
 議論の概要は、以下のとおりである。

(1) 検察官による事件に関する主張と証拠の提示
 たたき台の「3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

ア 検察官主張事実の提示について(たたき台3(1)の関係)

・ 公訴事実の認否が検察官主張事実の提示の後になるのは、違和感がある。

・ 新しい準備手続を公判手続が前倒しされたものと考えるとイメージしにくいが、主張や証拠を整理する手続であるので、公判で行われている認否とは異なる。

・ 被告人側は、検察官が立証する事実についての証拠をある程度見た上でないと認否できない。そうすると、検察官は認否前に主張事実陳述書を作成する必要が生じるが、捜査段階で争いある事件かどうかは分かるので、それを前提とした主張・立証の仕方を明示することになるだろう。また、公判審理では、公訴事実と重要な量刑事実に重点を置いた立証が望ましいので、主張事実陳述書はそのことを踏まえた記載とすることが必要である。その上で、提出しようとする証拠も厳選したベストエビデンスを示すことが必要である。主張事実陳述書は、事案によってはこれまでの冒頭陳述のように時系列に沿った物語式ではなく、どういう証拠で立証するのかを組み立てたものを示す必要がある。

・ 事前準備は一定程度証拠が開示され、これを検討した上で行わないと実効性がない。真っさらな状態で準備手続を進めると、かなり無駄が出る。

・ 認否前に主張事実陳述書を作成するとなると、基本的には否認を前提にした主張にならざるを得なくなり、無駄が多くなるのではないか。

・ 現行の当事者間の事前準備ができなくなるわけではないので、これによって争いのある事件かどうかが分かるから、それを前提として準備手続を進めることは可能である。

・ 確かに事前準備で確認すれば認否は分かるが、そのような確認を行うかどうかを運用に任せてよいのか疑問である。制度として整備すべきではないか。

・ 準備手続を始める時点で当事者間で争点等が整理されているときとされていないときがあろうが、整理されていない場合には、結局、準備手続で整理を始めるということになるにすぎないのではないか。

・ 検察官が主張事実を提示するときに、あらかじめ被告人がどの程度争うかを知っているかどうかでそのやり方が違ってくるのではないか。

・ たたき台は、予め知っていなくてもよいような制度になっている。

・ 被告人と検察官いずれか一方から手続を始めるほかないが、それをどちらにするかという問題ではないのか。現行手続では、まず被告人側が、起訴状謄本の送達と請求予定証拠の開示を受けて、事実上の事前準備のやり取りの中で認否等を行っているが、たたき台は、それより被告人側に手厚い制度としたものである。

・ 準備手続の実効性が上がるかどうかは、検察官主張事実がどの程度詳細に提示されるかに懸ってくる。認否不明のままでは、検察官は訴因立証のための必要最小限度の主張しかしなくなり、その後被告人側の主張を見ながら事実を追加して主張していくことになる。とすると、迅速性、効率性に欠けることにならないか。

・ 準備手続の中に認否手続を組み込んでも、検察官の主張や証拠開示がなければ被告人側が認否できないと言えば、結局検察官は被告人側が認否し得るだけの主張をせざるを得ないことになるのではないか。

イ 取調べ請求証拠の開示について(たたき台3(2)の関係)

・ たたき台3(2)を法律で制度化することに賛成である。当初から証人請求する場合でも、その供述調書を原則として開示するものとすることは、現行の刑訴法第299条第1項よりも開示の範囲がはるかに広くなり画期的である。

・ たたき台において証人の供述調書を開示することとした趣旨は、公判廷での予想される供述内容を被告人側にあらかじめ知ってもらい、反対尋問の準備をしてもらうことにある。その趣旨からすると、供述調書が複数ある場合でも、そのうち、公判で供述が期待される内容が過不足なく記載されているものを開示すれば足りることになる。この段階で開示されなかったものは、たたき台3(3)の開示の対象となり得る。
 「供述調書を開示することが相当でない」とは、例えば、他の事件に関係する事実や第三者のプライバシー・名誉を害するおそれがある事項が含まれており、その部分をマスキングすると分かりにくくなって、意味をなさない場合などが考えられる。

・ 証人の供述調書を開示する際には、特に組織的犯罪の場合に被告人に不利な証言をする証人の威迫や罪証隠滅を防ぐことを十分考慮する必要がある。そのため、たたき台7(1)のように、裁判所による開示の時期、方法の指定によって、開示の時期を検察官の主尋問終了後にしたり、閲覧にとどめ謄写は許さないなどの措置が適切に採られることが必要である。また、例えば、刑訴法第227条の要件を緩和して、証人が公判期日において前の供述と異なる供述をする可能性がある場合には、第一回公判期日前の証人尋問を認めるものとすることも必要ではないか。

・ 主尋問終了後に開示することとすると、そこで公判審理が中断することになるし、また、弁護人側はどのような内容の証言がなされるか分からないので、準備手続での争点整理が不十分となり、立証計画を立てることが難しくなる。
 また、供述調書ではなく供述要旨を記載した書面を開示する場合についても、具体的な供述内容を記載していないと、弁護人側は反対尋問の準備ができず、審理計画を立てることも難しくなる。

・ 裁判員裁判では、主尋問終了後直ちに反対尋問を行うことが原則となるので、主尋問終了まで供述内容を伏せたままというわけにはいかないだろう。

・ 開示不開示のどちらが原則かということではなく、具体的事件ごとに開示による弊害を判断せざるを得ないのではないか。

・ 様々な場合に備えて様々な装置が用意されていることが必要だということであろう。

・ 特に裁判員裁判の場合には連日的な審理が求められるので、主尋問終了後の開示は最終的手段と考えるべきである。また、現行法でも、氏名・住所を告知することになっているし、刑訴法第299条の2を始め、証人の安全保護や偽証教唆・証人威迫の防止のための措置が定められ、加えて、たたき台でも「相当でないと認める場合」は別途の措置を採ることとされており、これらを組み合わせることによって証人威迫等に対処できると考えられる。

・ 証拠開示の手続は弁護人がない事件にも適用があるから、被告人にも証拠書類の謄写を認めるべきではないか。

・ 現行刑訴法第40条及び第49条は、被告人に公判記録の謄写を認めておらず、これを踏まえて検討することが必要である。

・ 弁護人のいない被告人が単独で訴訟準備をしなくてはならない場合があるのだから、被告人にも謄写を認めるべきである。

・ 訴訟記録については秘密保持等の必要があるのだから、法律家であり、守秘義務を負う弁護人と被告人とで扱いが違っても、やむを得ない。

・ 必要があれば、弁護人を選任すればよいのではないか。

・ 被告人に謄写を認める必要はない。閲覧のみでも記録を読み込んでメモを取れば、十分な準備をすることは可能である。それが困難であれば、弁護人を付ければよい。弁護人は、守秘義務を負っており適切な対応が期待できるので、被告人とは実質的な差がある。

ウ 取調べ請求証拠以外の証拠の開示について(たたき台3(3)の関係)

・ たたき台を作成した立場から述べると、A案の「証拠の標目」には、供述調書、鑑定書、検証調書、実況見分調書等の証拠の類型は最低限記載することになると思われる。ただ、供述調書に供述人の氏名を記載するかどうかについては、両論あり得るだろう  B案の例としては、検察官請求証拠として、被告人が犯行現場にいたことを示す指紋や血痕、その鑑定書等があった場合、仮に犯行現場にいたのが被告人でなく第三者であることを示す他の痕跡があるならば、それを検討することはその検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であるので、犯行現場で押収された他の遺留物は開示対象となろう。
 また、B案では、検察官請求証拠の証明力を判断するのに重要であり、開示の弊害がない場合は、検察官の裁量で不開示とすることはできない。
 なお、たたき台7で裁判所が証拠開示に関し裁定する場合、裁判所は、検察官が開示の要否を決めた際の判断事項すべてについて改めて判断することになる。

・ B案が妥当である。A案では、捜査側の証拠構造や裏付け捜査の程度を被告人側に一目瞭然に明らかにすることになり、被告人側が捜査側の手の内をすべて把握した上で主張することを許してしまう。捜査力には限界があり、あらゆる弁解を想定した究極のつぶしの捜査をすることは物理的に不可能である。仮にB案を採った場合も、被告人側が訴追側の手の内を知り尽くした上で主張・反論ができるような事態にならないようにする必要がある。そのため、開示を求める証拠の類型及びその範囲の特定、当の証拠を検討することが重要であること等の開示の要件を厳格に解釈する必要がある。つまり、検察官請求証拠が信用できない理由や開示の必要性を具体的に明らかにした上での請求のみを許すような解釈・運用をすべきではないか。

・ 検察官請求証拠として犯行現場の目撃者の供述調書がある場合、他の目撃者の供述調書はその検察官請求証拠の証明力の判断するために検討することが重要であり、B案のカに該当するから開示され得ることになろう。

・ B案が妥当である。オの証人請求予定の者の供述調書と、カの検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書が開示対象の類型とされたことは画期的であり、十分評価できる。また、相当広範囲に渡り検察官請求証拠以外の証拠が弁護人側に開示されるので、その防御準備に非常に資することになる。
 特に、証人請求予定の者の供述調書については、3(2)で、その証言予定の事実が記載されている供述調書が開示されるだけでなく、その者の他の供述調書の中に、その者に対する反対尋問をする際に用いることができる、その供述内容を弾劾し得る事項が含まれているかどうかを検討することは、その者の供述の証明力を判断するために重要と考えられるので、3(3)で、その者の他の供述調書が原則としてすべて開示されることになるだろう。現行制度より開示の範囲が相当広がることになり、正に画期的である。証人請求予定の者の供述調書を開示するかどうかは、これまで証拠開示の要否をめぐって争いのあった事例のかなりの部分を占めており、その問題が解決されることになる。
 他方、捜査報告書は、B案のアないしキの開示対象類型には含まれておらず、実質的に実況見分調書に当たるような場合は開示対象となり得るだろうが、いわゆるワークプロダクト的な捜査報告書は開示対象には当たらない。しかし、被告人側による主張が明らかにされ、その主張との関連性、開示の必要性が認められれば、たたき台5の争点関連の証拠開示の対象にはなり得る。とすると、全体のシステムをトータルに考えれば、3(3)の段階では、これだけの類型の証拠開示がなされれば、十分であろう。

・ 検察官請求証人の供述の証明力を判断するには、その証人の供述の経緯を検討することが重要であると考えられるので、B案では、その証人の供述調書は開示され得る。
 B案では、証拠を検討することが「重要であること」は「開示の必要性」の内容をなし、このことと開示による弊害の有無、程度等を衡量して開示・不開示が決められることになる。

・ 請求予定のない参考人の供述調書は、カに当たらない限り開示されないので、開示対象とならないものの方が多いだろう。開示の範囲は現状より広がっていることは確かだが、この程度でよいかという問題はあるだろう。

・ 請求予定のない参考人の供述調書は、5の争点関連の証拠開示の対象となることは十分あり得ると考えられる。

・ 診断書は、B案イの鑑定書に含まれるのか。

・ 各類型に該当するか否かは実質で判断することになるので、含まれ得ることになる。

・ 通話記録、預金の出し入れの記録などの証拠物や実況見分調書に類するものは、タイトルが捜査報告書になっていても、B案では開示対象になるのか。

・ 同様に実質に着目して判断することになるので、基本的には含まれる。通話記録などは証拠物として差し押さえられている場合が多いので、その意味でも含まれることになろう。

・ 現行犯人逮捕手続書は、B案では開示対象になるのか。

・ 現行犯人逮捕手続書は、証拠法上は捜査官の供述書に当たると思われるが、検察官請求証拠との関係でオ又はカに該当すれば開示されることになる。例えば、公務執行妨害事件について、逮捕の状況について述べた警察官の供述調書が検察官から証拠請求されている場合は、当該警察官が作成した現行犯人逮捕手続書はカに該当することとなろう。

・ 現行犯人逮捕手続書については、別の切り口からの開示対象類型の立て方があるのではないか。つまり、「法令で作成が義務づけられている書面」という類型を立てることがあり得るのではないか。そうすると、実務で問題となる留置人出入簿等も開示対象となることからも、意味があるのではないか。

・ B案に掲げられている開示対象類型は、類型的に開示の必要性が高く、開示の弊害が比較的少ないものという趣旨によるものであるが、法令で作成が義務付けられている書面という類型は、それとは一致しないのではないか。

・ 法令で作成が義務付けられている趣旨は、事実関係を正確に記録し、手続が適正に行われていることを担保することにある。とすると、ある事件について法令で作成が義務付けられている書類は、検察官の主張と関連があるし、開示の弊害が少ないといえるのではないか。

・ 留置人関係の書類は、基本的には証拠として作成されているわけではない。また、それらの書類のプライバシー性が高いことからも明らかなように、法令で作成が義務付けられているからといって、開示に伴う弊害が少ないとは限らない。

・ 開示を求める証拠の範囲の特定方法はどのようにするのか。

・ 事案に応じて行うことになるが、例えば、「犯行現場に遺留され、押収された証拠物」、「同一の犯行状況を目撃した者の供述調書」などと特定することになる。

・ 「視力が弱いので眼鏡を掛けないと人相識別ができないが、犯行現場で犯人を見たときは眼鏡を掛けており、人相識別ができたので、Aが犯人である」との検察官請求の目撃者の供述証拠がある場合、その目撃の直前までその目撃者と一緒にいた者の「別れた時点まで目撃者は眼鏡を掛けていなかった」との供述を記録した供述調書は、開示対象となるのか。

・ 目撃者の目撃の時点と二人が別れる時点が時間的に接近していれば、目撃者が目撃した際眼鏡を掛けていなかったとの供述と同視できるので、カに含まれ得る。その場合は、目撃者が眼鏡を掛けていたかどうかについて知る者の供述調書、あるいは、目撃者の視認が可能かどうかについて知る者の供述調書と範囲を特定することが考えられる。

・ B案では、目撃者の目撃供述の信用性に関する参考人の供述調書という範囲の特定は可能か。

・ 範囲の特定を求めるのは、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要かどうかを判断するためであるから、「信用性に関する」との特定方法では、同じことを繰り返しているにすぎず、何らその判断の指針を示すことにはならないから、範囲が特定されていないことになろう。

・ B案では、今後導入される取調過程の記録書面は開示対象となるのか。

・ 取調過程の記録書面については担当省庁において検討段階にあり、どのようなものになるか判明していない現時点では、アからキのいずれかに該当するかどうかは何ともいえない。

・ 現在の取調状況報告書はB案で開示対象となるのか。

・ その文書は取調捜査官又は取調に立ち会った捜査官の供述書に当たると考えられるが、特定の検察官請求証拠との関係で、例えばカに該当することはあるだろう。

・ B案が妥当である。かなりの類型が掲記されている点で評価できる。ただ、実務的な観点からは、請求に当たって、開示を求める証拠の範囲の特定をうまくしないと開示されない場合があるので、標準的能力の弁護人であれば開示されるような範囲の特定方法を工夫する余地がある。

・ A案とB案は、互いに排斥する関係にないと考えている。また、B案が、掲記された類型について事前の開示を提案している点は高く評価できる。しかし、B案は、要件が分かりにくく、範囲の特定の仕方によって開示されたり、されなかったりする。掲げられている証拠は、類型的に検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であり、開示の弊害が少ないのだから、A案のように、原則的に開示することとし、弊害がある場合は不開示とすれば、要件が分かりやすく、開示される場合されない場合のばらつきが生じにくいのではないか。また、B案の「相当と認めるときは」という要件は、検察官に客観判断を求めている印象があり、違和感がある。その点からも、今提案した要件とするのがよいのではないか。
 また、捜査側の手の内を見せると虚偽の弁解を誘発するとの指摘があるが、新たな準備手続の目的を考えると、そのようなことがあってはいけないことなのかを考える必要がある。つまり、仮に虚偽の弁解がなされるのであれば、それを準備手続の段階でつぶしておくことが、公判の充実・迅速化に資することになるのではないか。その意味でも、早い段階から検察官と弁護人側で情報を共有することが重要である。
 さらに、開示対象類型として「被告人に有利となる証拠」という類型を付加すべきである。被告人側の主張の整理や争点の明示に役立つからである。そのような開示類型は外国にあるようである。
 また、A案を並立させるべきである。開示を求める証拠の類型と範囲を特定するために手掛かりとして、証拠標目の一覧表が必要となるからである。

・ B案で掲げられている類型の証拠を原則開示とすると、範囲を指定するまでもなく、すべて開示されることになるから、そのような一覧表は不要なのではないか。

・ 虚偽弁解が出ても構わないという意見であったが、処罰されなければならない犯人が処罰を免れる制度は絶対おかしい。虚偽弁解が出てもそれをつぶせなくなるということを問題としている。手持ちの証拠をすべて開示すると、様々な弁解を組み立てることが可能となるが、捜査は時間と人員の限界の下に行わなければならず、すべてのあり得る弁解を予想して予めつぶしておくというようなことは不可能である。例えば、取調べをしていない他人と通謀してつくられたアリバイをつぶすことは無理である。このようなことを許すと、実体的真実の発見からかけ離れることになってしまう。
 また、「被告人に有利となる証拠」を類型に加えるべきであるという意見であったが、被告人側の主張がなければ、何が被告人に有利な証拠かは一概に判断できない。
 検察官の主張明示と請求証拠の開示に基づいて、被告人側が認否又は主張を明示して争点を明らかにすることは基本的に可能と考えるが、争点整理促進のための証拠開示の必要性はあるだろう。しかし、この証拠開示は効果的な争点整理し資するという観点からなされるべきものであるので、併せて、準備手続において被告人側に争点を明示する義務を課すこと、争点を明確に整理した上で審理に入ることを確保すること、準備手続終了後に当事者が新たな証拠調べ請求をすることを原則として制限することなどの仕組みを整備することが不可欠の前提であると考える。このような仕組みにより争点整理が確実に行われることが担保されるならば、B案を採ることもあり得よう。

・ 被告人に有利な証拠かどうかは必ずしも明確に判断できない。アメリカの各州の立法例をみると、証拠開示のリストの中に被告人側に有利に働き得る証拠というものが掲げられていることが多いが、実際にこの規定が実際に働くのは、有罪判決を受けた者につき有利な証拠が後で見付かった場合に審理をやり直すかどうかを判断するに当たり、検察官が開示義務に違反していたかどうかが問題となる、といった局面である。このことを踏まえると、仮に同じルールをつくっても、実際には有利か不利かは準備手続の段階では分からないと思われる。
 また、証拠標目の一覧表については、たたき台3(3)B案を採っても、7(4)のとおり、裁判所が開示の裁定をする際に、そのような一覧表を利用し得ることになっているから、それで十分であろう。
 B案の証拠開示は、検察官の攻撃方法を弾劾するものであり、一方、5の証拠開示は被告人側の防御方法を積極的に裏付けるものであって、全体としてみても妥当な構造となっている。

・ 準備手続において、被告人側が証拠による基礎付けなしに弁解したとしても、検察官の立証にとって支障となることはないのではないか。検察官は証拠に基づいて有罪を主張しているのであるから、被告人側のそのような弁解は問題とならないはずである。

・ 準備手続における主張にとどまらず、それが公判審理に持ち込まれ、例えば、検察官等が取り調べていない者がいることが分かると、その者と通謀して、その主張に沿った証人が作り上げられる可能性がある。

・ 証拠がねつ造されることを前提とすることは疑問である。検察官は、ねつ造された証拠によって有罪の立証が困難になる程度の主張・立証しかしていないということはないはずである。検察官の立証が困難となるおそれは、抽象的なものにとどまり、具体的なものではない。
 証拠標目の一覧表のもつメリットは否定できないので、基本的にはB案でよいが、A案的な要素を採り入れる必要がある。

・ 基本的にB案が相当である。ただし、B案の要件は分かりにくく、被告人側が、開示を求める証拠の類型・範囲を特定した上、開示の必要性があり、開示による弊害がない場合には開示されるということでよいのではないか。

・ たたき台の4の被告人側の主張後に、証拠標目の一覧表に基づく証拠開示の仕組みを設けることは考えられるのではないか。B案は、事前開示の制度が設けられることになったという点で十分評価される。ただし、要件が明確になることが望ましい。

・ 証拠開示は、証拠を見ること自体を自己目的化して、その範囲の広狭を論じるというのは適切でなく、あくまで争点整理を目的として行われるものという趣旨を踏まえて考えるべきである。その観点からすると、B案で十分であり、一覧表がなければ争点整理ができない実質的な理由があるのか疑問である。

・ 争点の見落としを防ぐという観点からすると、どこまで証拠を見ることができるのかというのは大事なことである。
 証拠標目の一覧表については、それに証拠の内容まで記載すると、証拠を開示したことと同じことになってしまうから、それはできないであろう。そうすると、内容の分からない標目だけの一覧表を見たからといって、証拠開示請求が容易になるとは期待できない。そのようなことを考慮すればB案が妥当である。

・ B案でもこれまでと比べるとかなり広範囲の証拠が開示対象となり、弁護人が通常の対応をすれば必要なものはほぼ開示されることになるだろう。そういう意味では、要件をより分かり易くするという点で工夫の余地はあるものの、B案が妥当である。

(2) 被告人側による主張の明示
 たたき台の「4 被告人側による主張の明示」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

ア 主張の明示等(たたき台4(1)の関係)
 (ア) 主張の明示(たたき台4(1)アの関係)

・ A案が妥当である。特に、裁判員制度対象事件では、計画審理が必要であり、被告人側の主張が明示されることが不可欠である。検察官請求証拠の開示があり、3(3)の開示もなされれば、被告人としても、きちっと主張を明示すべきである。B案だと弁護人に主張義務と被告人との関係での誠実義務の衝突が起きてしまう。

・ A案が妥当である。B案だと、被告人が公判段階で新たな主張をすることが可能になり、準備手続での争点整理が不十分となり、計画的審理が困難となって、とりわけ裁判員制度がうまく機能しなくなる。

・ B案が妥当である。A案の方がB案より明示義務の課せられる主張の範囲が細かく定められている印象を受けるが、その理解を前提とすると、弁護側は冒険的な主張や全否認をすることがあり得ないではないから、A案では固すぎる。
 また、A案では、自己負罪拒否特権や黙秘権との関係や、被告人が無罪推定を受けている地位にあることとの関係で、議論になる可能性がある一方で、準備手続の実施は公判における不意打ちの防止が大きな眼目であるが、法律家である弁護人の協力が得られればその目的は十分達せられるから、B案を採るのが妥当である。ただし、A案が憲法に違反するとまで言っているわけではない。
 弁護人は被告人の意思に従うので義務の衝突は生じない。

・ A案とB案は、若干書き振りが異なっているが、義務の内容はほぼ同じで、基本的には、被告人に義務を課すかどうかの点が違うということである。

・ B案でも、弁護人は被告人の意思に反してまで弁護活動を行うことは考え難いので、義務の衝突は生じないのではないか。

・ 弁護人が被告人の意思に反することをするわけではないが、A案の方が弁護人が必要と考える弁護活動に従うよう被告人を説得しやすい。

・ 弁護人が被告人の意思どおりに認否するのであれば、被告人に義務を課しても実質的には異ならないのではないか。

・ 弁護人が被告人の意思に従って主張するにしても、被告人には黙秘権があるので、弁護人が発言することとは本質的に差異があるのではないか。

・ 被告人は、公判でも何かを主張しなければならないというわけではないが、主張しない限り取り上げてもらえない。A案は、そのように仮に公判で主張するつもりであれば、それを前倒しして、準備手続の段階で明らかにすることを求めているだけであり、主張するかどうかは被告人の自由であることには変わりはない。それなのに、どうして黙秘権に抵触するになるのか。

・ 不意打ち防止の観点からすれば、被告人のために主体的に訴訟手続を担っていく弁護人に主張明示義務を課せば、争点整理の目的は達せられる。

・ 現行刑訴規則第178条の10の事前打合せは、その参加者に、被告人は予定されていない。このことを踏まえると、争点整理や立証方針を明らかにする限りでは、弁護人がいれば十分であり、その意味では、B案が妥当である。

・ たたき台の4は、準備手続の出席者が誰かということを言っているのではなく、実体的な明示義務の有無や法的効果の帰属に関するものである。

・ A案は、被告人が準備手続に必ず出席して主張することを強制する趣旨ではなく、被告人の意を受けた弁護人が主張することで足りるが、被告人の主張を明らかにしなければならないということである。

・ 準備手続は、不意打ち防止という以上に、争点を明確にし、争点中心の充実した立証・反証活動をすることで裁判員制度を実効的なものにするという積極的意味がある。弁護人が協力するということだが、被告人にも義務が及ばないと、実効的な争点整理はできないのではないか。
 刑訴規則第178条の10の事前打合せは、被告人は出席しないが、弁護人が被告人と事実を確認した上で臨むので、その効果は被告人に及ぶことを前提としている。この事前打合せより後退する制度はいかがなものか。

・ 被告人にまで義務を課すと固い手続になり、被告人側が仮定的な主張を多数行うことになってしまう懸念がある。また、準備手続での供述の変遷が弾劾証拠として使われる可能性があることも考えると、公判で行われるべきことが前倒しで実質的に準備手続で行われてしまうことになるのではないか。一般的にはそこまで固い手続にしなくても十分争点整理は可能なのではないか。仮に被告人にも義務を課し、供述の変遷が弾劾証拠として使えるとすると、逆に争点整理が困難となり、準備手続が被告人の供述を保全するための手続になってしまうのではないか。

・ 現在公判で行われていることが準備手続に前倒しになるのは当然の前提ではないのか。

・ 準備手続はあくまで準備であり、公判の前倒しととらえると、A案では、手続が窮屈になり過ぎて妥当でない。

・ B案が妥当である。被告人に主張の表明を迫ることはあってはならないと思う。弁護人の主張は被告人の意思を踏まえたものなので、弁護人が主張を明らかにする義務を負えば、それで足りるのではないか。仮に被告人が公判でそれと異なる主張をすれば、準備手続でのやり取りが顕出されるのだから、「何で今ごろ言うのか。」ということで、裁判員や裁判官の心証が被告人に不利に働くのではないか。そう考えると、公判で自由なやり取りをさせればよい。

・ A案は、主張の表明を強制しているわけではなく、公判で主張するのであれば、それを準備手続であらかじめ明らかにすることを義務付けているにすぎない。

・ B案では、被告人は準備手続段階で主張する義務が課されていないのだから、被告人が公判で新たな主張をしたことについて、「何で今ごろ」ということで、心証形成上不利益に考慮することはできないのではないか。

・ 憲法の自己負罪拒否特権や刑訴法の黙秘権との関係を整理しておくべきである。
 A案は不利益な供述を強要するわけではないから、憲法38条1項の不利益供述の強要禁止、つまり、自己負罪拒否特権に違反するわけではない。また、A案を採ると、被告人は準備手続の段階である主張をすることを義務付けられることになるから、形式的には刑訴法311条の黙秘権に抵触するようにも見えるが、同条の趣旨は、憲法第38条1項の不利益供述の強要の禁止を保障することにあるので、その趣旨には反しないし、前述のとおり憲法自体に反するわけでもないから、立法政策として、A案を採ることは可能である。
 他方、B案を採ると、被告人は公判で自由に新たな主張をすることが可能となるから、手続の迅速・効率的な進行の観点からすると問題である。しかも、たたき台3(2)、(3)のとおり、検察側の証拠が相当詳細に開示された上で主張を明示するのであるから、A案のように、被告人にも義務を課すことが妥当である。

・ A案は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権との関係はクリアできると思うが、準備手続で被告人の主張を確認することが強調される印象がある。準備手続に重きを移しすぎるあまり、公開の法廷で裁判を受ける権利が害されることにならないか。特に、主張制限が課せられることになると、公判外の準備手続で主張しなければ公判廷で主張できないことになるが、問題はないのか。

・ A案は、公判廷で主張するのであれば、いわば、主張のノーティスとして、あらかじめ準備手続で明らかにしなければならないものとしているだけであり、その主張を改めて公判で述べることになるのであるから公開原則には反しないのではないか。準備手続で主張しないと公判廷で主張できなくなるということは、主張制限の問題であり、公開原則の問題ではないだろう。

・ 弁護人は被告人と打ち合わせして準備手続に臨むのだから、弁護人に主張させることにすれば、争点整理・立証方針はほとんど固まるので、B案でよい。

・ A案の「関連する事実の主張その他事件に関する主張」とは、どの程度のレベルのものなのか。アリバイや責任無能力を主張するというレベルなのか。間接事実のレベルまで主張する義務があるのか。

・ 主張のノーティスと考えても、それが内容の詳しいものであっても構わないだろう。

・ 争点整理が十分できるかどうかという観点から、主張すべき内容の詳しさの程度は決まってくることになろう。

・ 公判段階では主張するが準備手続段階では主張しないという被告人の言い分を認めなければならない実質的な理由はあるのか疑問である。また、弁護人にのみ主張明示義務を課した場合、弁護人の主張に被告人が拘束されないのであれば、争点整理として意味がないのではないか。

・ 同感である。「検察官が立証に失敗するかもしれないから、今は言わない。」ということなのか。

・ 主張制限をかけなければ、主張明示の義務を課したことにはならず、A案もB案も違いがないのではないか。

・ 8(2)、(3)で議論する主張・立証制限と切り離して考えると、A案を採ったとしても、被告人に主張明示義務を課していないのと変わらない結果になるかもしれないが、A案の場合、準備手続で争点整理を行うことが原則であるということが制度として現れているといえるのに対し、B案の場合、準備手続で主張するかしないかは被告人の自由であるというように受け止められよう。また、被告人が準備手続で何も言いたくないと言っているときに、A案であれば、裁判所あるいは弁護人が主張を明らかにするように働きかけることができるということになろう。主張立証制限をしなくとも、A案とB案はこのような点で異なることになる。

 (イ) 証拠の取調べの請求・開示(たたき台4(1)イの関係)

・ 主張明示義務を被告人にも課すべきであると考えるのと同様に、A案が妥当である。

・ 主張明示義務を被告人に課すべきでないと考えるのと同様に、B案が妥当である。

・ 4(1)アの場合と理由が共通になるのか。被告人に主張明示義務を課すべきではないと考える場合でも、論理的には、被告人に証拠調べ請求義務を課すA案を採ることは可能である。

・ 検察官は準備手続段階で取調べ請求予定の証拠をすべて開示して請求することになるのに、同じ当事者である被告人には、その義務が課されないことになるのか。そうだとすると、不均衡であり、疑問である。

イ 開示の方法(たたき台4(2)の関係)

・ 請求証拠を事前に適切に開示しなければ審理計画を立てることができず、争点整理を有効になし得ないから、たたき台の案どおりでよい。

・ たたき台の案は、被告人側請求証人について供述書等がない場合には、供述要旨を記載した書面を作成して開示するという趣旨か。

・ そのとおりである。被告人側としても、証人予定者と事前面接をして何を証言する予定であるのか把握しているものと考えられる。

・ たたき台の案どおりでよい。

・ 検察官も急に証人を立てる場合はその供述調書がないときがあり、その場合、たたき台の案では、供述要旨を閲覧させることになるのだから、これとの均衡からも、被告人側も供述要旨を閲覧させるべきであり、たたき台の案どおりでよい。

(3)次回以降の予定
 次回(6月27日)は、引き続き、刑事裁判の充実・迅速化に関する検討を行う予定である。

(以上)