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裁判員制度・刑事検討会(第21回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年6月27日(金)13:30~18:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 池田修、井上正仁、大出良知、清原慶子、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、松川忠晴事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について

5 配布資料
資料1裁判員制度・刑事検討会開催予定

6 議事

○井上座長 それでは、所定の時刻ですので、第21回裁判員制度・刑事検討会を開会させていただきます。
 御多忙の折、お集まりいただきましてありがとうございます。
 本日も、前回に引き続き、「刑事裁判の充実・迅速化」に関する2ラウンド目の議論を行いたいと思います。たたき台の「刑事裁判の充実・迅速化」について(その1)」に沿って議論を進めていくことにしたいと思います。
 これまでもそうさせていただきましたけれども、議論の混乱を避けるために、各項目において、まずは裁判の充実・迅速化が要請される度合いがより強いと思われる裁判員制度対象事件を前提として議論をし、その上で、節目節目で、それ以外の事件についてどうすべきかという形で議論をするということにしたいと思います。
 前回は項目「4 被告人側による主張の明示」というところまで一通り議論をしましたので、今日は、「5 争点に関連する証拠開示」というところから議論を行いたいと思います。この争点に関連する証拠開示は、項目4の被告人側による主張の明示を受けて、その主張に関連する検察官手持ち証拠を開示する、その在り方に関するものでありまして、第1ラウンドでもかなり活発に議論がなされた点であります。たたき台では、被告人側が明らかにした事件に関する主張に関連する証拠について、被告人側から開示を求める証拠の類型及び範囲や、その証拠と主張との関連性などを明らかにして、開示の請求がなされた場合に、弊害等を考慮して相当と認めるときには当該証拠を開示しなければならないものとされています。
 ただ、項目3(3)においてA案、つまり検察官保管証拠の一覧表に記載された標目を特定して開示請求があったときは弊害が生じるおそれがない限り開示しなければならないとする案を仮にとった場合には、この項目5は、論理的には不要ということになるのではないかと思われます。そういう整理を前提にして、この争点に関連する証拠開示について、どなたからでも御意見をいただければと思います。

○??井委員 質問ですが、開示を求める証拠の類型というのは、5ページのアからキということを指しているという理解でよろしいでしょうか。

○辻参事官 アからキに限定されるものではないという趣旨ですが、内容としては同じようなものを明らかにする必要があるという趣旨です。

○??井委員 そうですね。それから、その範囲というのも、これは4ページのB案に出てくる、その範囲を特定という部分と同様の趣旨と理解してよろしいでしょうか。

○辻参事官 結構です。

○??井委員 それから、「関連性」というのは分かるのですが、「関連性その他被告人の防御の準備のために開示が必要である理由を明らかにして」とありますが、関連性を明らかにすれば、それで必要である理由を明らかにしたことになるという趣旨でしょうか。それとも関連性そのほかに必要性というものを主張しなければいけないという趣旨でしょうか。

○辻参事官 被告人又は弁護人の主張と開示を求める証拠の関連性というのは、開示の必要性の一つの要素であるというふうに考えております。関連性の程度には、非常に関連性の濃いものから、やや薄いもの、かなり薄いものといろんな程度があるのではないかというふうにも思われますので、どういうふうに関連して、どの程度関連があって、それがどう必要であるかということをここで明らかにする必要があるという趣旨であります。

○??井委員 そうすると関連性が薄いと判断された場合には、そのほかに必要性も主張する必要があるということでしょうか。

○辻参事官 関連性というのは、必要性の一要素ではないかと考えておりますので、必要性が薄いと思われるのであれば、それでもなおかつ必要であるという理由はどういうところにあるのかということを述べる必要があるのではないかという趣旨です。

○井上座長 関連性は必要性の一要素だということですね。

○辻参事官 はい。

○井上座長 関連性というのは一応前提にはなるけれども、それにも程度があるかもしれないので、場合によっては関連性にプラスして、どうしてこれが必要なのかということを言ってもらう、ということではないですか。

○??井委員 そういう説明ですと、最終的には「相当と認めるとき」ということになるわけだから、必要性という概念も必要ではないのではないかとも思うんです。当然関連性には程度があるわけですけれども、一方に弊害を生む程度というものがある。例えば関連性が濃ければ、ある程度弊害があっても、開示は相当ということになるかもしれないし、関連性が薄ければ、弊害がある程度あるということであれば、それは開示不相当ということになるのかもしれませんね。ですから、今おっしゃっているような趣旨であれば、「必要性」という概念は、必要ではないのではないかという気がするのですが。その方が文章が分かりやすいのではないかと思います。

○辻参事官 話が抽象的なのでなかなか難しいのですが、関連性の程度が弱いけれども、必要があるということであれば、そこを明らかにしないと、逆に多少とも弊害があるということになれば、開示は適当ではないのではないかという判断になりやすいのではないかと思います。

○??井委員 そうすると、関連性は必要性の理由の一つだけれども、関連性以外にも必要性の理由というのはあり得るではないかということですか。逆に、関連性はないけれども、必要性があるということはあり得るんですか。

○辻参事官 関連性がないと必要性を認めるのは難しいと思います。

○??井委員 必要性が認められるには、やっぱり関連性プラスアルファが必要ということになりますね。

○辻参事官 関連性プラスアルファで必要性が認められる場合が、あり得るのではないかということですね。

○??井委員 次の質問ですが、「弊害の有無」は分かりますが、弊害の種類としてはどのようなものが想定されているのでしょうか。

○辻参事官 これは一般に言われているとおり、罪証隠滅のおそれとか、プライバシーの侵害とか名誉毀損のおそれがあるといったものになると思います。

○??井委員 余罪が分かってしまう、あるいは逃亡中の共犯者の関係で、証拠を見せられないということもあり得ますよね。罪証隠滅のおそれもその弊害の内容になり得るということですね。

○辻参事官 はい。

○??井委員 その場合の罪証隠滅のおそれの有無の具体的判断においては、例えば保釈請求に対する判断をする場合の罪証隠滅のおそれの有無の判断と同じということでしょうか。

○辻参事官 保釈請求の場合は、保釈することによって罪証隠滅がなされるおそれがあるかどうかが問題で、証拠開示の場合は証拠を開示をすることによって罪証隠滅がなされるおそれがあるかどうかという問題なのではないかと思います。したがって、内容的に同じかと言われると、抽象的には同じでしょうけど、よって来る原因が違うので、違うということではないかと思いますが。

○井上座長 御質問の趣旨はどういうことでしょうか。

○??井委員 質問の趣旨は、これは弁護士会の一部に、というか、かなりの部分かもしれないのですが、現在、保釈における罪証隠滅のおそれが非常に広く解釈、運用されていて、否認をしていた場合にはほとんど保釈がある時期まで認められないというのが現実の問題としてあるわけです。そういうのを前提にしますと、証拠開示を請求する場合は否認しているということが多分多いので、罪証隠滅が弊害の内容として取り上げられてくると、ほとんどそれを理由に開示されないのではないかという心配をされている向きもあるので、一応罪証隠滅の有無、程度についてどのようなお考えでたたき台の作成がなされているのかということを確認したいと思ったというのが質問の趣旨であります。

○辻参事官 たたき台を作成した趣旨からすると、そこは保釈をした場合にどうなるかという問題と、証拠開示をして証拠の中身を見た場合に何が行われるかという問題とでは当然違うと思います。現実の問題といたしましても、現在も、罪証隠滅のおそれが、いわゆる訴訟指揮権に基づく証拠開示命令の判断の一要素となっているのだと思いますけれども、保釈を認められていない被告人の証拠開示命令の申出はすべて認められないということにはなっていないので、御指摘の心配は杞憂に終わるような気がいたします。

○??井委員 要するに証拠開示の基本的なルールをどう考えるかについては、ある程度機械的に、一定の条件を満たせば機械的に開示されるというほうが、システムとしては安定していると思うんですね。それが誰かの主観的な判断にかからしめられていると、どうしてもその判断の妥当性をめぐって妥当だ、妥当じゃないとやらなくちゃいけないわけで、それが訴訟の遅延にもつながってくるということもあるので、私の考え方としては、なるべく主観的な判断にかからしめないで、機械的に開示されるものと開示されないものが振り分けられていくというシステムにできないかというふうに思っているものですから、以上のような質問をした次第です。

○井上座長 そうできればいいのでしょうけれど、審議会意見書でも、証拠開示による弊害も十分配慮した制度設計をしなさいということになっていますので、その点にも配慮した制度設計をする必要があるのではないでしょうか。

○??井委員 私も弊害のおそれを無視していいと言っているわけではありません。

○井上座長 ですから、問題は、弊害の有無が機械的に判断できるかどうかということだと思うのですね。およそ類型的にこういうものは弊害があると言えればいいのですけれども、それを個別に判断する必要があるということなれば、主観的かどうかは別として、実質的な判断をせざるを得ないと思うのです。

○??井委員 もう一点いいですか。証拠開示をしない場合に比べたら、証拠開示をするということは、そこに抽象的な罪証隠滅のおそれというのは常について回るということは避けて通れないと思うんですね。ですからそういう意味では、罪証隠滅のおそれの考え方が、今、参事官も言われましたけど、保釈請求をするときの罪証隠滅のおそれ、それから証拠開示の相当性判断のときの罪証隠滅のおそれというのはやはりきちんと分けて考えるということで徹底されないと、制度の趣旨がなかなか実現されにくい場合もあるかと思うんです。

○井上座長 あまりそういう一般的な議論をしても生産的ではないので、もう少し具体的に突っ込んで議論できればと思うのですけれど、ほかの方はいかがですか。

○池田委員 今の??井委員が言われた、できるだけ類型的に考えて判断できればそれにこしたことはないというのは、裁定する側としては、そのとおりだと思います。ただ、それでも具体的に個別に判断せざるを得ない場合がどうしても残ってくることは間違いないわけです。事件の中身や、その事件での当該証拠の開示の必要性と弊害のバランスを考えざるを得ないので、前回議論の出た項目3のあたりまでは、類型的なものである程度とらえていけるけれども、項目5については、個別具体的な必要性というのを明らかにさせて、その上で弊害とのバランスを考えながら、開示の範囲を考えていこうという今回のたたき台の方向性は、私は基本的にはいいのではないかと思います。
 保釈の場合の判断とは大分違うのではないでしょうか。特に証拠開示の場合には、その証拠の必要性がかなり具体的に出てくるわけですね。ですからそういうものとのバランスを考えながらの罪証隠滅のおそれの判断なので、抽象的には罪証隠滅のおそれという同じ言葉ですし、また基本的なコンセプトは同じかもしれませんけれども、当てはめのところでは大分違ってくるのではないかと思います。

○井上座長 それと、制度としての安定性は、最終的に裁判所によって裁定されるということで担保されている面があるわけですね。そういう制度の全体構造の中でお考えいただければと思います。

○四宮委員 私も??井委員と同じことを実は考えていたのですが、5では争点関連、つまり弁護側が具体的な主張して、それとの関連での証拠開示ということですので、ここで言う関連性、これが必要性の一要素だということであるとすれば、必要性と言った方がいいのかもしれませんが、そこは相当出てくる場合が多いのだろうと思うんですね。そうだとすると、おっしゃるように、後で裁定の問題になるわけですけれども、弊害が想定されない限りは類型と範囲と関連性、言葉をかえれば必要性というものが示されれば、そんなに厳格に判断しないで開示の方向で運用していってもらえたらと思います。
 先ほど罪証隠滅の判断について、保釈との関係で参事官が杞憂だろうというお話があったので、杞憂であることを私も希望いたします。
 それともう一つ、先ほど座長のお話で、項目3(3)のA案、リストを事前に開示して、そこで開示請求があったものについて、一定の限度で開示をしていくものだとすると、論理的にはこの5は不要になるのではないかというお話がありました。前回の検討会で、私は純粋な意味での、たたき台に書かれたA案そのものとは別に、3(3)について、B案に加えてA案、リストを加味し、しかもその段階での言わば証拠あさりという懸念を排除するために、4の被告弁護側の主張を終えた後、つまりこの5の段階でそのリストを利用しての争点関連証拠開示というものも考えられるのではないかという提案をいたしました。
 A案のうち、そのような立場に立って考えますと、5のところでそれを活用することもあり得るのではないかと思います。

○井上座長 御発言の最初の部分は、運用でそうしてほしいということでしょうか。それとも、この弊害の有無等を考慮してという文言も置くべきではないということですか。

○四宮委員 できれば、たたき台の書き方を、開示の請求があった場合には、一つの書きぶりですけれども、開示によって、例えば弊害がないと認められる限り、あるいは弊害が予想されない限り、開示しなければならないというような書きぶりもあり得るのではないかと思いますけど。

○井上座長 そういう文言ですと、かえって開示される範囲が狭くならないですか。

○四宮委員 そうですか。

○井上座長 たたき台の書き方ですと、弊害があっても、必要性とのバランスを考えて、必要性の方が優先すれば開示するという形になっているわけですけれども、御提案のような書き方ですと、弊害がある限り開示しないということになり、開示の可能性は狭まりますよね。

○四宮委員 書きぶりについては、もうちょっと考えないといけないですね。

○井上座長 御発言の2番目の点がよく分からなかったのですけど、B案に加えてリストを開示し、そのリストを5に関係してどう使うということなのでしょうか。

○四宮委員 それはリストの作り方にもよるのだと思いますけれども、例えば類型ごとにリストを作るということもあり得るのではないかと思うんですね。リストの形式、内容等にもよると思いますけれども、少なくとも弁護側が主張する争点について関連するものというのがある程度分かるのではないかと思うんですが。

○井上座長 リストの作り方なのでしょうけれども、その作り方によっては、この5の書き方の方が実質的なようにも思うのですね。大体お考えは分かりました。

○樋口委員 3(3)のところでも御意見申し上げたのですけど、被告人又は弁護人の包括的、抽象的な証拠開示の請求を認めて、結果として、捜査の手のうちを十分研究された上で主張を組み立てられるというようなことになるのはやはり適当でないのだろうという意見なのです。この「被告人又は弁護人の主張との関連性その他被告人の防御の準備のために開示が必要である理由」の認定は厳格に行われるべきではないかということを申し上げたいと思います。
 なかなか事例を想定してどうだというのは難しいのですけれども、被告人が事件当日に犯行現場近くに散歩に出かけたのは確かだが、どのような経路で散歩をしたかはよく覚えていないというような事案で、現場付近で回収された防犯ビデオや、被告人を見かけた人から録取した供述調書を開示してほしいといったような請求を許すことになるのかどうか。もしそういった請求も認められるのだということになりますと、捜査側が駅やスーパーなどの特定の場所に設置されたビデオの回収をできなかったものがあったとしますと、被告人が写っているテープはないことを確認した上で、事件当日のことについての主張を組み立てることが可能になるのではないか。そうだとすると、それは適当ではないのではないかと考えます。
 5のところの要件として書いてあります事件に関する主張は、どの程度の具体性が必要なのか。それから、関連性についても、直接性といってもなかなかあいまいなんですけれども、直接性が求められるべきじゃないかと考えます。

○井上座長 今の御指摘は、3(3)の方の問題なんでしょうか、それとも5の方の問題なんですか。

○樋口委員 3(3)と5の切りわけの問題でもあろうかと思うんですね。

○井上座長 検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であるという証拠は、3(3)の方で開示されるわけですが、そこに入るのかどうかという問題なのか、そこには入らないとしても、5の問題になるのかということですね。

○樋口委員 3(3)と5とはどういう割り振りになるのかということです。もう一つ、こういう想定事例が考えられないかということで申し上げたいのですけど、被害者の例えば自宅の前で、ジャイアンツの帽子をかぶった男が被害者を刺すのを見たというAの供述調書が検察官から請求され開示され、例えば被告人の自宅から、同じタイプのジャイアンツの帽子が発見され、被害者自身もその日に被告人と会う予定である旨家人にも告げていたといったようなことも確認され、さらに被告人には殺害の動機があるなどの情況証拠もあるというケースを想定いたします。そして、このケースで、仮に、もう一つ、被害者の自宅の前で、ヤンキースの帽子をかぶった男が被害者と立ち話をしていたのを目撃したが、時間については自信がないといったBの調書があったといたしますと、前回の検討会で御説明いただいたことからすると、同一場面における他の目撃者の供述調書というのは、3(3)のB案でいきますと、証拠類型ではカなのですが、検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書ということですよね。しかし、今お話ししました想定事例は、3(3)ではなくて、この4(1)を受けて5による開示の問題ではないのか。すなわち被告人又は弁護人のより積極的な事実の主張がない限り開示されない証拠であるべきではないのかという理解をすべきではないかと思うのでございますが、いかがでございましょうか。

○井上座長 辻参事官、その点はどうですか。

○辻参事官 基本的には、3(3)のカでございますが、検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書というのは、ただいま御指摘がございましたように、同一の場面、同一の状況、同一の事項について供述しているというものを考えております。ただいまの設例だと、時間がはっきりしないということでありますので、同一の場面かどうかというとかなり疑わしいのではないかという気がいたしますので、最終的には直接関係するということの認定の問題になってしまうのかもしれませんけれども、やや外れるかなという感じはいたします。
 本当に事件発生と同じ時間にヤンキースの帽子をかぶった男と会っていたということになりますと、場所も同じということもございますので、これは同じ場面になるのかなと思います。

○井上座長 樋口委員による前者の想定事例については、どうですか。

○辻参事官 設例における被告人の主張がどういうものであるかということにもよるわけです。ある意味、現場付近に散歩に行っていたというのは不利でもあるわけですから、散歩に行っていたけれども、どうなんだという点がちょっとはっきりしないので、答えが申し上げにくいのですが。

○井上座長 3(3)には当たりにくいが、5に当たるかもしれないということですか。

○辻参事官 そうですね、5には当たるかもしれません。散歩には行っていたけれども、現場そのものには行ってなくて、現場の近くへ行っていたということになると、そのあたりの防犯ビデオがあるのであれば、それは5に当たる可能性はあると思います。ただ、逆にそれは捜査官側も当然確認しておられるわけでありましょうから、近くには行ったけど、現場そのものには行っていないという主張でありましたら、その付近のものは、それは確認する必要があるということになるのではないかという気はいたしますが。

○井上座長 検察官が、被告人が現場にいたのを見たという証人を取調べ請求する予定であるということになれば、かなり3(3)の方に近づいてきますね。

○辻参事官 そうですね。

○井上座長 3(3)による開示になるのか、5によるものになるのかは、検察官の立証の仕方によっても違ってくるということでしょうね。この点は、このくらいでよろしいですか。

○樋口委員 はい。

○酒巻委員 私は5について、基本的にこのたたき台の枠組みに賛成です。前回も申しましたが、証拠開示の制度は、ここだけを見るのではなく、前のところからの全体の構造の中での5の位置付け・機能を考えるべきである。5の部分は基本的な発想としては、既に検察側の立証材料について基本的な証拠の開示を受けた被告人・弁護人側が自ら主張を明らかにして争点を作り出す。そして、被告人側は、その具体的争点に関連し、必要性を明らかにして開示を求めるというものです。そして、5における判断の大きな枠組みは、開示の必要性と弊害との比較衡量によって最終的には開示が相当なものが開示されるというものであり、これは現在の最高裁判例の判断枠組みとも基本的に同じものであります。確かに、開示するか否かは第一次的には検察官が判断するわけですけれども、最終的には裁判所による裁定が可能であり、そこで決着が付く。以前に御説明があったとおり、裁判所の裁定の基準も同じ判断枠組みで行われるということであれば、個別具体的な対象の開示の可否について、そのような比較考量の基本的枠組みは適切妥当なものだと思います。
 ただ、先ほど証拠の類型について、基本的には3(3)のB案に出てくるような類型というような事務局のお答えがあったと思うのですが、この段階においては、開示の対象はそのような定型的な対象には限られないのではないか。3(3)のB案には、例えば捜査報告書などという類型は出ていないわけですけれども、5のところでは、具体的な争点に関連して弁護人が、例えばこういう事柄に関する捜査報告書があるなら出してくれというような形で出てくる可能性もあると思います。また、これは事務局に対する質問なのですが、例えばある証人予定者に前科があるかとか、あるいは偽証の前科があるか、あるいは暴力団の抗争事件などで、目撃者の一人が暴力団関係者であるかとか、このような事項は、捜査段階で調べられることはあり、証拠として存在しているかもしれないと思うのですけれども、これも争点に関連するということで、5による開示の対象になるのかどうかということをお聴きしたいと思います。

○井上座長 争点としては何を出しているのですか。

○酒巻委員 5が基本的に想定している争点というものは、通常、弁護側が積極的に自己に有利なことを主張することなのでしょうが、検察側証人の信用性を争うということも、広い意味で、争点であると考えられれば、5による開示の対象に入ってくるのではないかと思うのです。

○井上座長 証人の信用性を争うというのが、5で言う「争点」に当たるかどうかという質問ですね。

○酒巻委員 そうですね。

○辻参事官 例えば、今の設例で、目撃者が、被害者か被告人かいずれかの暴力団と同系列あるいは同じ組織の人間であるので、その供述にバイアスがかかっているというような主張があり、その主張を検察官側で争うのであれば、それも一つの争点にはなり得るのではないかと思います。

○本田委員 私はこのたたき台の案でよろしいと考えています。たたき台の3(2)、(3)のB案をとると、まず検察官が公判で主張しようとする具体的事実とその立証に必要な証拠を開示するわけですね。さらにその次の段階で、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために、重要な一定種類の証拠を開示するということになると、被告人・弁護人としては、検察官の主張立証の全貌を把握することが完全にできるわけですし、検察官請求証拠の信用性を吟味することができることになる。その上で被告人側が具体的な主張をして、その主張の関連性と弊害を考慮して、さらに証拠を開示するということになれば、要するに争点がだんだん絞られてきて、審理も促進されるでしょうし、一方、被告人の方としても十分な防御活動を行うことができるという、全体の制度としては非常にまとまった制度になるのではないかというふうに考えています。

○大出委員 1点だけ確認ですが、先ほど5の最終的な書きぶりの問題といいますか、運用の問題だというようなことのお話もありましたけれども、この「弊害の有無、種類及び程度」というのは、そのままその文言を使うという御趣旨での御発言ではなかったのだろうと思っていたんですが。つまり書きぶりとして、先ほど出ましたように、弊害の中身というようなものについては、具体的に先ほど出た証拠隠滅だとかプライバシー侵害の問題だとか、そういったものについては書き分けるということはせずに、このままの文言でいかれるというようなことまではおっしゃっていませんよね。

○井上座長 法文にする際の文言についてですか。

○大出委員 ええ。

○井上座長 そういうことは別に言っていないと思いますが、御提案としては、細かく書いた方がよいということですか。

○大出委員 先ほどの罪証隠滅のおそれというようなことについて、むしろ運用のところで保釈とは違ってくるだろうという御趣旨の説明は、そういうことなのだろうというふうに思いますけれども、しかしそこは、もし保釈と同じような文言が使われるというのが前提だと、そこは運用で何とかするということにも必ずしもならないのかもしれないという気もしますので、法文の点も考える必要はないでしょうか。

○井上座長 具体的にどのように書いたらよいとお考えなのでしょうか。

○大出委員 ですから先ほどのお話の中で、運用として、同じことにはならないだろうというお話がありましたですね。

○井上座長 事柄の性質上、違うのではないかという説明でしたが。

○大出委員 ですから、単に運用にゆだねるのではなくて、法文上その違いが明確になるようなことになるであろうということの確認です。

○井上座長 だとすれば、そのためにはどう書けばよいのかが問題ですが、より具体化するとしても、「罪証隠滅のおそれ」というふうに書くということになると思うのですね。その意味では、文言上は同じになるわけですよね。

○大出委員 ですから、そこのところを確認したかったのですが。

○井上座長 御心配の危惧というものを防ぐためには、罪証隠滅のおそれというのをさらに具体化して書くということになるのですか。

○大出委員 事務局の方で想定されていることがあるのかと思ったものですから確認したかったのですが、その点については考えた上で、また申し上げます。

○??井委員 先ほどの樋口委員の意見と若干関連するのですが、この争点関連の証拠開示について一番問題になるのはアリバイ主張との関連だと思うんですね。どこまで具体的に主張したら、アリバイ主張をしたことになるのか。昨日、一昨日のアリバイを聴かれるならいいけれども、いきなり5年前、6年前のアリバイを聴かれても、そう簡単に全部そらで思い出して主張することはできないわけですね。かといって、仮にアリバイ主張が出るなら、なるべく早い段階で、なるべく正確というか、はっきりしたアリバイ主張を出してもらいたいというのが検察側にとってもそうだし、弁護側でも裁判所にとってもそうだと思うんですね。
 そうなってくると、アリバイ関連については別の証拠開示ルールを考える必要があるのではないかと思うのです。例えば、私はその犯行現場にいなかったので人違いであることは確かだが、5年前のことだから、どこにいたかは主張できないというような主張を仮にした場合に、要するに人違いの主張をした時点で、被告人サイドから押収した証拠物、例えば被告人の自宅、あるいは被告人の会社のデスクから押収した証拠物で、被告人の行動に関するものについては、機械的に開示をする、という制度は考えられないか。
 私はそのときに、どこそこにいました、という具体的なアリバイ主張をすれば、それに関連して、これとこれを見せてもらいたい、ということを言えば、今のたたき台の書きぶりでも証拠が開示されると思うのですけれども。
 ただ、当時どこにいたか分からないけれども、犯行現場にはいなかったんです、という主張だけでは、アリバイ主張とは普通言わないですね。その程度の主張で、どこまで証拠が開示されるのかということはやはり考えておかなければいけない問題だと思います。
 今のような被告人サイドから押収された証拠物のうち、被告人の当時の、例えば犯行日が特定されていれば、その当日の行動に関するものというふうに限れば、罪証隠滅のおそれというものもあまりないわけだし、そもそもそれは被告人側から差し押さえられているわけで、それを被告人が再度確認をして、手帳や手控えを確認して、当時の記憶を喚起するということは当然あっていいわけですから、その範囲で機械的に開示をするという制度は十分考えられるのではないか、と思います。

○井上座長 問題にされていることは、犯行現場にはいなかったが、記憶がはっきりしないので、押収されたものの中に手帳があったはずだから、確認するためにそれを開示してほしい、といった場合が、5の枠組みに入るかどうか、ということですね。

○??井委員 記憶を喚起する材料としては手帳だけではなくて、いろんなものがあるわけですね。ですから、そこまで言わなくても、とにかくそういう人違い主張が出た場合には、被告人サイドから押収して、その被告人の行動について記憶を少しでも喚起させるようなものは開示をするということを、5の争点関連の開示とは別に設けてもいいのではないか。

○井上座長 5の枠組みでは適切な証拠開示は難しいということですか。

○??井委員 難しいし、弁護人の主張の仕方によって開示されたり、開示されなくなったりする範囲が非常に広くなると思うんですね。

○井上座長 むしろ、そういうものは機械的に開示されるようにした方がいいという御意見でしょうか。その点については、事務局の方の御意見はいかがですか。

○辻参事官 ??井委員の御意見は御提案ですので、御議論いただければと思いますが。

○井上座長 たたき台の案では、??井委員御指摘のような証拠が開示されにくいかどうかという問題だと思いますが。

○辻参事官 御指摘のあった証拠と同様の類型範囲の証拠を指定することは、このたたき台の5でも可能ではないかとも思われますが。

○??井委員 被告人に選択権のない国選弁護人が付く場合もあるわけですから、弁護人の能力の多寡によって、あまりに開示される証拠が違うというのは好ましい制度ではないと考えます。5のような書きぶりだと、明確なアリバイ主張であれば、問題は生じないと思いますが、そうでない場合、どこまで証拠が開示されて、アリバイ主張の手がかりがつかめるかということについて、かなり幅が出てきそうな気がするんですね。

○井上座長 御意見は分かりました。ただ、アリバイ以外の場合も、どういう主張をするかによって5による開示の範囲は違ってきますよね。その場合も弁護人の能力によって違ってくるということになるのではないでしょうか。

○??井委員 それはやむを得ないのですが、アリバイ主張というのは、ある意味では、決定的な主張ですよね。だからアリバイ主張の特殊性にもう少し着目すべきではないかということが言いたいのです。

○平良木委員 私は先ほど本田委員が言われたところに基本的に賛成で、その意味では、たたき台の表現ではちょっと分かりにくいかなという気もしないではないんですけれども、これでいいだろうと思っております。要するに被告人又は弁護人が新たに主張して、それを裏付ける証拠があるでしょうし、裏付けるものの種類としては、直接裏付けるものもあるだろうし、信用性を増強するものもあるだろうし、あるいは場合によっては被告人に不利な証拠を弾劾するものというのも含まれるだろう。そういうことだとすると、5はやはり先ほどの3(3)で出てきたものの補完的な役割を果たすことになるだろう。その意味でこういう趣旨のものを設けるというのは賛成だということであります。

○土屋委員 私はこういう極めて専門的な分野のことというのはあまり口を差し挟むべきではないと思っておりまして、あまり自分の意見も述べていないのですが、大体ひと渡り御意見を伺ったかなと感じたものですから、意見を述べたいと思います。
 今、??井委員の御意見を聞いていて心配になったのですけれども、私は基本的に証拠開示というのはかなり広いものであってほしいと思っているんです。全部という意味ではないということは第1ラウンドでも申し上げましたけれども、少なくとも弁護側がきちんとした主張を構築できるだけの範囲のものというのは開示されるべきであるというふうに思っています。類型的にアメリカのディスクロージャーみたいなものでしょうか、まず一定の証拠が当然に開示されてくるということですけれども、それはベースになることだと思うんですが、その上で、さらにアリバイの場合に別類型のものを設ける必要があるのかなという懸念が専門家の方に出てくるとすれば、それは要するに被告側から押収された証拠物の中に、いろいろと主張を構築する上で必要になるものがあるということのあらわれじゃないかなという気もするんですね。
 そうすると、一覧表というとどういうイメージのものなのかという質問を私はしていて、いまだにちょっとどうなんだろうと思っているのですけど、それくらい疑問があるならば、3(3)のA案の一覧表、B案+A案みたいな話になってしまうんですけれども、そういうものを出して、とにかくこういう関連のものが押収物の中にもありますよというようなことが分かるようにしておく、そういう考え方があっていいのかなというふうに思ったりもしました。

○井上座長 前にも議論したと思うのですが、一覧表やリストといっても、どこまでの内容が記載されたものなのかによって答えが全然違ってくるわけですね。多分、土屋委員の前提としては、中身がある程度分かるものを念頭に置かれていると思うのですが。

○土屋委員 そういうものであれば、問題は一遍に解決するのではないかというふうに思ったんです。

○井上座長 その点は違う御意見もあり、そのような内容のあるリストを見せるのだとすると証拠を全部見せるのと変わらなくなるという指摘があったわけです。ですから、そこのところは、前提しているところが食い違っており、そのどちらを選定にするかによって、あとの議論が全然違ってくると思うのですよ。

○土屋委員 そういうあたりの、樋口委員が懸念される部分とか、そういうことはよく分かるのですが、私は基本的にそういうふうに考えているということを申し上げておいた方がいいかなという感じを持ちました。被告人側が主張を構築することができるだけの開示という意味で、ちょっと心配もありましたものですから。

○井上座長 前者の点は、さっきから議論になっているように、5で本当にカバーできないのかどうかだろうと思うのですね。どこにいたかはよく覚えていないけれども、犯行現場にいなかったことは確かだ、自分はやっていないんだから。そのような主張を被告人がしているときに、5の枠組の下では、弁護人がどういうふうな形で争点として持ち出していくのかということになる。それと、証拠開示の請求をするときに、被告人はどこか別のところにいたので、押収されたものの中に、被告人の当時の行動を示すものがあるはずだ、もしそういうものがあれば開示してほしいというのと、どこが違うのかということが議論のポイントだろうと思うのです。

○本田委員 先ほど??井委員の御懸念の点については、恐らく今座長がおっしゃったように、犯行現場にはいなかったと主張し、いなかったことを指し示すような証拠の開示を請求すれば、そのような証拠は当然争点関連の証拠ということで開示されることになると思うんですね。ですから、5の枠内で十分解決でき、アリバイの場合について別のルートを作る必要はないのではないかと思います。

○酒巻委員 私も同意見で、特にアリバイだけ取り出して別のルールを作る必要はないと思います。

○井上座長 ??井委員は、それでは開示されないのではないかという御懸念をお持ちなのですが、今のお二人の方は、開示されることになるというお考えなのですね。

○??井委員 その問題に絡んで、例えばアリバイがないことを確認するために、捜査側は先回りをして捜査をするわけですね。まだアリバイの主張は出てないんだけれども、もしかしたら、主張をするかもしれないというので、想定される主張を全部先回りしてつぶしていき、その結果が捜査報告書なり参考人調書になっているということが行われています。
 仮に5のままだと、私はその場にいなかったと、やってないんだからいなかったと述べて、いなかったことに関連する証拠を全部出してくれということになりますと、仮に、今言った先回り捜査のときに、被告人は私のところにいませんでした、私のところに来ていません、泊まってませんという内容の第三者の調書だけならいいけど、もしかしたら、被告人が私の部屋に犯行当時来ていたかもしれませんという捜査報告書なり供述調書なりがあったりする可能性もあるわけで、それが開示されることになるわけですよね。
 私はそれが開示されるのはおかしいと思うんです。私はここで被告人サイドから押収された証拠物というふうに限って言うなら、開示するそれなりの理由があると思うのです。しかし、捜査側が想定してA、B、Cを取り調べて、A、B、Cの家には被告人は泊まっていませんでしたというA、B、Cの供述調書を作成したとする。ところが、それらを開示して、被告人側がDの調書はないということを確認した上で、犯行当時私はDのところにいましたと主張されるのが捜査側にとって一番困るわけですよね。ですから、5のような枠組だと、具体的なアリバイ主張がされる前に、そういうAらの供述調書まで開示されてしまう場合もあり得るのではないか。それはかえっておかしいのではないかと思うんですね。だから、そこは少しきちんと書き分けなければならないと思うんです。

○井上座長 その当時の動静に関する証拠ということで、アリバイを先回りしてつぶした証拠まで当然に開示されるというわけではないんじゃないですか。

○??井委員 アリバイをつぶしきれていないような証拠は開示されることになるのではないですか。

○井上座長 つぶしきれないというか、例えば犯行当時、被告人は私の家にいたかもしれませんという内容の供述調書は開示されなくてもよいという御趣旨ですか。

○??井委員 そのような調書が、アリバイに関する具体的主張が出る前に、最初に開示されるのは、私はかえっておかしくないかと思うのです。だから、基本的には、この制度の構想をするときには、まず、具体的な主張をしてもらい、それに関連する証拠の開示をしましょう。そして、その証拠の開示を受けて、さらにそれを踏まえて、また次の主張をしていただきましょうという具合に、主張が先に出てくるというのがこの制度を考える際の基本的なスタンスだと思うんですね。それなのに、今のように、先回りした部分まで最初に出るというのは、お互いがカードを切り合っていくという基本的な制度構想に反するではないかということを私は言いたいわけです。

○井上座長 要するに、自分のところに被告人がいたかもしれないというようなあやふやなことを言っている人がいるということが分かると、被告人側がそれに即座に飛びついて、犯行が行われたとされる当時その人のところにいたという主張を組み立てることになるが、それはおかしいということですか。

○??井委員 本来、証拠開示によってそういうことがあってはいけないわけで、そういうことに証拠開示が濫用されてはいけないわけですよね。そういう意味で、まだ記憶があいまいで、どこにいたか分からないけれども、犯行現場にはいなかったというときに、まず、手がかりになるもののうち被告人のものだけ開示しますから、ここでアリバイ主張をちゃんと組み立ててくださいよという形で証拠を開示する。その証拠を見て、次に、私は確かにこのときにここにいましたと主張し、その主張に関連するこういう証拠を開示してくださいと言って、その結果として最終的にアリバイをつぶしきれていないような証拠が開示されるということはいいと思うのです。

○井上座長 そうお考えであるということは、分かりました。

○??井委員 言いたいことは、たたき台の5ではあまりにも包括的にすぎるのではないかということです。

○井上座長 そこは、証拠の「類型」とか「範囲」という文言の解釈にも関わると思うのですね。恐らく??井委員は、その文言の下では、不必要に広く開示される可能性があるので、それよりは、被告人のところから押収されたものに限って具体的なアリバイ主張がなくても開示すべきだとお考えだということですね。

○池田委員 犯行当時に被告人が家にいたかもしれないという第三者の供述調書も、最終的には開示されないと困るんじゃないんですか。

○??井委員 そうです。

○池田委員 そうですよね。

○井上座長 ??井委員の御意見ですと、例えば手帳だとか、被告人のところから押収されたものをまず開示し、それを見て、具体的に犯行当時はここにいたはずだと主張してきた場合には、そういった第三者の供述調書も開示されることになる。しかし、そのような具体的なアリバイ主張を組み立てられなければ、その供述調書は開示されないということになるわけですが、池田委員の御質問は、それでいいのかということですね。

○池田委員 要するに最終的には何らかの形で開示できるような仕組みじゃないと困るだろうと思うのです。5の中で、確かに主張との関連性、必要性とその弊害との関係とありますので、開示される証拠は主張がどこまで明確なもので、どういうような内容なのかによって変わってくるのではないかと思います。例えば、被告人が犯行当時犯行現場にいなかったのは間違いないけれども、しかし、どこにいたかまだ思い出せないというときに、それが本当であれば、被告人がいたかもしれないという第三者の供述調書を開示することだっていいのではないかと思います。
 逆に証拠漁りのためにそういうようなことをしているということなら、それはまずいだろうということにはなるのかもしれませんけれども、最終的には開示せざるを得ないものをどの段階で開示するようにしていくか、弊害と必要性との兼ね合いを考えながら、どう進めていくかの話ではないかと思うのですけれども。

○井上座長 アリバイ主張を予想してつぶしの捜査をした結果として、ある所に被告人はいなかったということが確認された、それを明らかにする証拠は開示されないのではないですか。

○??井委員 それはそうです。

○井上座長 そうでしょう。高井委員の御意見は、むしろ、そういうものが開示されると、つぶしていないところが明らかになり、そこにいたと言った主張が出てくるというおそれがあるという話ではなかったかと思うのですね。しかし、池田委員のお考えは、確実ではないけれども被告人は自分のところにいたかもしれないと言っている参考人の供述調書はいずれにしても開示されないとおかしいので、5の段階で開示されても構わないではないか、ということだと思うのですが。

○??井委員 私の意見は開示されてはいけないと言っているわけではないんです。開示されるのはいいんです。それは開示されなければいけないんです。それは池田委員がおっしゃるとおり、開示されなければいけない。ただ、どの段階で開示されるべきかということを問題にしているわけです。

○井上座長 5の段階で開示されると問題なんですか。

○??井委員 5の段階の中にもいろんな段階があって、その第1段階ではなくて第2段階か第3……。

○井上座長 そこがちょっとよく分からないのですよ。5の段階で、被告人側が、被告人は現場にはいなかったが、どこにいたかはあまりはっきりしないので、被告人がどこかにいたということを何か裏付け得るような、あるいはそれにつながるような証拠があれば開示してほしいと請求すれば、開示されるわけですよね。

○??井委員 開示されます。

○井上座長 そうすると、ある人が、はっきりしないけれど自分の所に被告人がいたかもしれない、と言っているわけで、それがその段階で開示されたら、なぜ不都合なのですか。

○??井委員 ちょっと待ってください。まず池田委員の発言で二つの点でお答えする必要がありますから、それを片づけないと(笑)。まず、被告人がいたかもしれないという参考人の供述調書は私は開示されなくていいと言っているわけではなくて、開示されなければいけないと言っています。単に手順の問題を言っているのにすぎないのです。じゃあ、なぜ、手順をそこまでうるさく問題にするのかというのは多分別途議論の余地があると思います。
 第2点、それは、私は、今、池田委員の話を聞いていて、それはまずいよなと思ったのは、例えば、全部相当性判断の中で処理するとおっしゃいましたけれども、仮に弊害の中に、先ほど出たものだけではなくて、例えば虚偽弁解を構えるおそれがあるということが仮に弊害だとなると、これは非常に困った問題だと私は思います。今の池田委員のお話を伺っていると、そういう場合も弊害に含めて考えればいいではないかというふうな御趣旨のように聞き取れたので、ここはちょっとはっきりさせたいと思いますね。

○池田委員 私の考えでは、罪証隠滅のおそれには、確かに証拠を捏造するというのは当然入りますね。ただ、それとは別に、証拠開示の必要性の方が、主張がどうなってくるかによって大きく違ってくるのではないかと思うんですね。

○??井委員 例えば虚偽弁解を構えるおそれというのは、これは弊害になるんですか。

○池田委員 虚偽弁解のおそれだけでは弊害にはならないだろうと思いますけど、それに加えて他人への働きかけとか、あるいは証拠の捏造とか、そういうおそれがあれば、それは今までも罪証隠滅のおそれというふうに言われていますので、多分ここでも同じだろうと思います。虚偽弁解作出のおそれだけで罪証隠滅のおそれを認めるという考え方は今までなかったと思いますので、その考え方は難しいと思うんですね。

○??井委員 実際に他人に働きかける、あるいは証拠を捏造するという場合は当然罪証隠滅ですよね。それには全く異論はないのですが、それと切り離して、虚偽弁解を構えるおそれがあるという場合、例えば、今はどこにいたかははっきり言ってないけれども、例えば、被告人がいたかもしれないというAの供述調書を開示したら、被告人が、犯行当時Aさんのところにいましたと言い出すかもしれないというような場合に、虚偽弁解の可能性があるから弊害があり、そのAの供述調書は開示しないということになるんですか。

○池田委員 今の例でも、Aの供述調書によって本当にその記憶がよみがえる可能性だってあるわけでしょう。その記憶が正しいかもしれないでしょう。それなのに、虚偽弁解をするかもしれないから、開示するのはだめだというのはどうでしょうかね。

○??井委員 虚偽弁解作出のおそれだけなら、弊害に含まれないということですか。

○井上座長 話がどんどん脇の方へそれて行っているのですけれど、??井委員が最初に言われたことは、虚偽弁解作出のおそれは弊害には含めないのだけれども、そういうことがあったら困るから段階的に開示することにすべきだという御趣旨なんでしょう。

○??井委員 そうです。

○井上座長 むしろ、さっきの私の質問に答えていただいた方がはっきりすると思うのですけれど、ある参考人が、自分の所に被告人がいたかもしれないと供述しているけれども、検察官としては信用性がないと思っているので、それを証拠として使うつもりはないという場合にも、その参考人がそういう供述をしているということは間違いないので、この段階で開示したとして、何が悪いのですか。結局、それに基づいて被告人の方が虚偽弁解をするかもしれないということでしょう。

○??井委員 そういうことです。

○井上座長 でも、池田委員がおっしゃったように、それを見て思い出したということだってあり得るわけでしょう。

○??井委員 だから、その点について既に申し上げているように、まず、Aのところにいました、Bのところにいました、という主張が被告人の方から出て、それに対して、いや、Bはこう言っていますよと、その主張との関連で証拠が開示されるというのが本来の姿でしょうと私は言っているのです。

○井上座長 それはそうなんですけれども、??井委員が言っておられるように、被告人のところから押収されたものでは思い出さなかった、手がかりはなかったという場合に、別のところに手がかりはあるかもしれないのに、それは開示されないことになるわけですよね。

○??井委員 その段階では、そうです。

○井上座長 その段階というか、開示されないわけですよ、それでは。被告人は思い出せないのですから。

○??井委員 そうでもないと思います。

○四宮委員 どこにいたということは言えないわけですね。

○??井委員 どこにいたと言えればいいわけでしょう。

○四宮委員 言えないわけでしょう。

○辻参事官 ??井委員の段階的なという場合に、どういう主張があれば、被告人がいたかもしれないという参考人の供述調書が、5のスキームの下で開示されるのかというところをおっしゃっていただければ、皆さん分かりやすいんじゃないかという気がいたします。

○??井委員 自分のところから押収された証拠物を見て、それによっては、自分は、Aのところにいたというふうに思い出したつもりになったとして、私は犯行当時Aのところにいたんですと主張する。そして、その主張に関連する、その当時の自分の行動に関連する証拠はすべて開示してくださいと請求する。これはアリバイ主張ですから、Aのところにいた、あるいはいなかったということに限らず、当日の私の行動に関する証拠は全部開示してくださいと請求する。その段階で、はじめて、DならDの、被告人がいたかもしれないという供述調書は開示されるという開示の仕方が正しいのではないかと思うんです。

○井上座長 そういう主張もできなかった場合は、結局開示されないですよね。

○??井委員 そうですね。

○井上座長 開示してもらった証拠物では分かりませんという場合は、どうなるんですか。

○辻参事官 ??井委員がおっしゃる、被告人のところから押収してきた証拠物というものを見ても、なお思い出さないと被告人が言った場合にどうするかということが、??井委員の御提案の仕組みでは問題になるのかなと思います。

○??井委員 何らかの具体的な主張をしない限りは、要するにアリバイ主張ではないわけですから、その当時の行動に関するすべての証拠を開示しろという開示請求はできないのではないか。アリバイ主張がないんですから、それはそれで私はいいのではないかと思うんですけど。アリバイ主張しないでおいて、自分の行動に関する証拠を全部開示せよというのはやはりおかしくないかと私は思うんですね。

○井上座長 お考えは分かりました。そこは開示されなくてもしようがないということですね。

○??井委員 具体的な主張をしない限りでは、そうです。

○井上座長 論点は割とはっきりしましたし、??井委員のお考えも分かりましたので、ここの議論はこれくらいにさせていただきたいと思うのですけれども。

○大出委員 1点だけちょっといいですか。

○井上座長 はい。

○大出委員 先ほど??井委員がおっしゃっていたことと、今おっしゃっていること矛盾してないですか。

○??井委員 矛盾してない。

○大出委員 つまり弁護人の能力あるいは主張の仕方によって出てくる場合と出てこない場合が出てきてしまうというのは問題だと、先ほどもおっしゃっていたわけで。

○??井委員 最終的にそういう余地が残ることはやむを得ない(笑)。

○大出委員 いいです、分かりました。

○井上座長 どこかで割り切っておられるのですが、割り切る場面が他の方とはちょっと違うのですね。
 それでは、お許しいただいて、次に進みたいと思います。これまでは、一応裁判員制度を前提にして議論していただいてきたわけですが、項目5について、裁判員制度以外の事件の場合には違う形にすべきである、あるいは、こういった形にすべきだという御意見がございましたら、伺いたいと思います。なければ先に進みたいと思いますが、よろしいですか。
 次は項目6「更なる争点整理と証拠開示」で、既に??井委員がそこまで踏み込んで議論されているようなところがありますけれども、検察官が主張を明示し、それに対して弁護人が反論を明らかにすれば、それで争点整理終了ということではなくて、さらに主張の応酬やそれに伴う証拠開示が必要になってくるということです。これまでも、そういうことを前提に議論してきたのではないかと思いますが、そういうことでよろしいかどうか。この点は特に御異論もないのではないかと思いますけれど、何か御意見がございましたらどうぞ。

○池田委員 繰り返すというのは、必ずこの順序でなければいけないということではなくて、いろいろその事件によっては並行的になったり、あるいは順序が逆になったりすることもあるという趣旨で理解してよろしいわけですね。

○井上座長 たたき台の趣旨としてはどうですか。

○辻参事官 それは事案によって、どちらが更なる主張を更にするのかはいろいろだとは思います。

○井上座長 事案に応じて、かなり柔軟にやっていくということですね。よろしいですか。
 それでは、次が項目7「証拠開示に関する裁定」ですが、この項目は、証拠開示の要否等をめぐって、当事者間に紛議が生じた場合に、裁判所が裁定をする、その在り方に関するものです。
 まず(1)ですが、前にたたき台の趣旨を説明してもらったのはかなり前のことですので、もう一度確認させていただきますと、検察官は項目3(2)により、そして被告人側も項目4により、それぞれが取調べ請求する証拠を相手方に開示しなければならない。しかし、そういう取調べ請求証拠を開示することによって弊害が生ずるおそれがある場合には、証拠開示すべき立場にある検察官又は被告人側の請求によって、裁判所が特定の開示について、その時期、方法を指定する決定をすることを可能にするというのが、このたたき台の案です。そして、開示方法の指定を求める請求に関する決定、これは特定の開示方法を指定する決定とかそういう請求を却下する決定があるわけですが、そのいずれに対しても即時抗告をすることができることにしています。この2点について、どなたからでも結構ですので、御意見を伺いたいと思います。

○酒巻委員 ただいま御説明がありました開示方法の指定の部分については、基本的に賛成です。特にこの部分は、本来、原則として開示されるべき必要性の高い資料について、例外的に開示の時期や方法を弊害防止の観点から変更するというものですので、これでよいと思います。時期、方法の指定は、多分具体的には、本来は検察官の予定する証人の供述調書を早い段階で開示することが望ましいわけですけれども、どうしてもその調書の開示に弊害が、例えば証人威迫等のおそれが伴うような場合には、現在ですと、開示の時期につき主尋問終了後反対尋問前などという指定もあるわけです。しかし前にも言いましたとおり、今後は特に裁判員事件では主尋問、反対尋問は連続すべきでしょうから、例えば開示の時期の指定としてあり得るものとしては、主尋問が始まる数日前というような形で時期を遅らせることが考えられる。また、開示の方法の指定というのは、その調書の中に事件と関係のない第三者のプライベートなことが書いてあるような場合で、それが防御準備にとってはそれほど重要でないということであれば、その部分を墨塗りというか、一部削除して開示するということ等があろうかと思います。時期、方法の指定というのは様々で、今挙げた以外にも裁判所の裁量でいろんなことができると思います。基本的には開示すべき証拠でありますので、開示の時期や方法を指定して開示を行うというのは誠に適切な制度だと思います。

○井上座長 即時抗告については、いかがでしょうか。

○酒巻委員 これにつきましても、基本的には時期や方法の指定に関して不服があり得るわけですから、こういう制度を設けておく必要性、合理性はあると思います。ただ、即時抗告ということは高等裁判所で判断されるということですから、やや時間は掛かるのかなとは思いますが、制度としてはたたき台のように両方の当事者に不服を申し立てる機会を与えるのが妥当だと思います。

○井上座長 分かりました。ほかに御意見はございますか。

○四宮委員 これは質問なんですけれども、開示の時期と方法というものが、今、酒巻委員が二つばかり具体例をお示しになりました。特に時期について、私も今はこれまで行われてきた主尋問終了後反対尋問前という開示は、特に裁判員裁判の場合には避けなければならないものだと思います。ほかにどんな具体的な時期、方法の指定というものがあるのか、もし例をお持ちであれば教えていただきたいと思うんですけれども。

○井上座長 たたき台の趣旨に対する御質問ということですか。それとも、皆さんから御意見を募るということですか。

○四宮委員 たたき台の趣旨についての質問です。

○辻参事官 基本的には、酒巻委員の御指摘のとおり、事案に応じ開示の必要性と弊害の程度を勘案して、裁判所の裁量あるいは検察官からの提案を受けて工夫をしていただいて、できる限り開示をしつつ弊害を避けるようないろんな方法を考えていただくということだと思います。具体的な例につきましても、やはり酒巻委員から御指摘いただいたとおりになってしまうのですけれども、時期の問題としては、今ありましたように、主尋問の何日前までということで、若干時期を遅らせるというようなことも考えられると思いますし、一方で御指摘があったように、被告人側の主尋問後に開示するというのも、確かに連日的開廷等を考えると避けるべきだということはありますけれども、どうしてもそうすることが必要という事件があった場合には、それを排除するまでのことはないというか、その余地を否定するというのはあまり適当ではないかもしれないというふうには思っております。
 開示の方法の指定につきましては、今もございましたように、部分的に一部を墨塗りするとか、あるいは謄写ということに問題があるとすると、閲覧だけにとどめるというようなことも考えられると思います。

○井上座長 方法として、開示の相手方を限定するということはあり得るのでしょうか、例えば、弁護人だけ見てよいというように。

○辻参事官 弁護人だけに開示するというのも事案によってはあり得るかもしれません。

○四宮委員 墨塗りの場合は、取調べ請求証拠についてですが、いつかそれが解除されるということは想定されているんですか。それともその分は請求しないというなら別ですけれども、たたき台は多分そういう趣旨でないと思うんですね。墨塗りされた部分も含めて請求するけれども、開示について一定の指定をするということだとすると、そこはどうなっているんですか。

○酒巻委員 今、ここで問題になっているのは、3(2)の供述調書ですよね。だから、ここでの開示の目的は、本来は法廷で証言する証人が、前に何を言ったかを明らかにするということですよね。

○四宮委員 供述調書の場合はそうですけれども。

○酒巻委員 もし供述調書が開示できない場合は、調書じゃなくて要旨を書いたものが開示・事前告知される場合についての話ですから、直接調書そのものが証拠調べ請求される場合ではありませんね。

○四宮委員 たたき台では、証人の供述の内容が分かるものに限定していないですよね。

○池田委員 最初から証人を請求する場合、その証人の供述調書の閲覧の機会を与えることになってますから、その証言に直接関係しない部分があるときには、供述調書の抄本を開示するなり調書の一部を黒塗りするということはあり得るわけです。それ自体は必ずしも証拠調べ請求されるものではないから、最後まで黒塗りのままというのはあり得るということではないでしょうか。

○四宮委員 たたき台は、証人の供述内容を明らかにする場合に限定しているわけではないです。つまり、供述調書だけでなく、証拠書類について墨塗りするという場合も想定できるわけですよね。その場合、その墨塗りした部分はどうなるのですか。

○本田委員 例えば、日記帳とかそういうものがあって、いろんなプライバシーが書いてあるところで、事件と関係ないところは墨塗りしたままで、あとはそのままということはあり得るかもしれませんね。それから、供述調書にしても、その供述調書の中に共犯者に関する供述がいろいろ書いてあって、今すぐそれを開示しちゃまずいというようなものについては、その段階では開示せずに、共犯者が捕まってきた段階で開示しましょうということもあるでしょうし、それはいろんなものがあり得ると思うんです。一律にこうだと決められるわけではなくて、事件ごとに、証拠ごとに、このたたき台の趣旨に従って判断ていくしかないと思います。

○井上座長 そういうことだとすると、何が問題になるのですか。

○四宮委員 例えば日記の例などは、証拠調べ請求をどの範囲でするかという問題になるのではないのですか。

○本田委員 違うでしょう。日記というのは、その中の一部だけを証拠として出せば足りるというものではなく、日記帳全体が毎日書かれているということに一つの信用性が出てくるわけでしょう。だから日記帳は日記帳として証拠調べ請求するかもしれないけれども、関係ないところについては墨塗リすることもあるんじゃないですか。

○四宮委員 開示の段階では墨塗りされているわけですね。そして、この手続の流れでいくと、少なくとも準備手続の終了段階では、それは請求予定証拠ですから、それに対して弁護側が意見を述べ、裁判所が証拠決定するわけですね。

○井上座長 そうですね。

○四宮委員 そのときに、墨塗りした部分は請求しませんというなら、これは全然問題は別なんですけれども、今おっしゃったように、非常に重要な部分の信用性を判断するために、結局日記帳は全部証拠として請求するのだということになって、全部証拠として採用された場合には問題があるのではないか。

○井上座長 問題とされているのは、証拠開示の段階では墨塗りされているけれども、そこのところも証拠調べ請求の対象にはなっているならば、公判では証拠調べの対象になることになる。そうすると、弁護側としては、開示されたものは墨塗りされているので、その部分の内容を見ないまま公判に臨まなければならなくなってしまうということですか。

○四宮委員 そうです。

○井上座長 その点はどうなのですか。

○辻参事官 最後まで墨塗りのままというのは確かに難しいのかもしれません。ただ、証拠物に関しては、時期との組み合わせというのはあり得るのかもしれないとは思います。つまり、特におよそ関係ない人のプライバシーが記載されていて、特に事件との関連性もないという場合に、証拠物とすると全体が証拠になるということで、最後までそこを隠しておくというのはちょっと考えにくいのかもしれませんが、時期として若干そこは最初は隠して、後で開示するというのはあり得るのかもしれないとは思います。

○井上座長 今でもそうではないでしょうか。最初に開示する段階では墨塗りしていたとしても、その部分も証拠請求するときは、最終的に墨塗りした部分も開示しなければならないのではないですか。そこを確認したいということでしょうか。

○四宮委員 ただ、それが時期の問題ならば、ある程度理解はできますけれども、プライバシーの問題ということになると、あまり時期の問題とは関係ないわけですね。

○井上座長 しかし、その部分も証拠調べの対象にするということは、原則としては公開の法廷で証拠調べをするわけですから、証拠書類だったら朗読するとか、証拠物だったら展示するということをやらないといけないわけですね。公開を停止しない限り、その段階では内容は分かってしまうわけでしょう。

○四宮委員 私は、開示の時期、方法を指定する決定ができるという制度はいいと思っているんです。ただし、私が申し上げたかったのは、その証拠の信用性を弾劾する十分な機会は保障される必要があるということです。

○井上座長 そこは、最後まで開示しないままで通すとは誰も考えていないのじゃないですか。ほかに、御意見はございますか。

○池田委員 即時抗告については、開示命令との関係でも同じような問題があるかとは思うのですが、酒巻委員が先ほど言われたように、今回の特に裁判員制度を念頭に置いて準備手続できちんと審理計画を立てて、そのための争点整理をし、そして、そのための証拠開示もこの段階で行い、問題を解決しておくということが大事だと思いますので、そういう意味ではどこかで裁判所の証拠開示の裁定について、開示する方も開示しない方もその裁定に不服がある人には、何らかの不服申立の方法を認めておく必要があるというのは分かるんですね。
 ただ、今まで、現在の刑事訴訟法では証拠開示の関係については不服申立の対象にならない。訴訟手続に関し判決前にした決定ですので、刑事訴訟法420条により抗告の対象にならないということになっております。それは、現在の証拠開示の必要性というのは、審理の進み具合に応じて常に変わってくるからです。第1回公判期日では例えば証拠開示の必要性がないとしても、次の証拠調べの時点ではあるかもしれない。そういう非常に流動的な状況でいちいち不服申立てを認めて、手続が中断すると、かえって困るということもあって、不服申立てを認めるのが望ましくないということになっているためだと思うのです。そういう意味からすると、新たな準備手続のどこかの段階で一回は不服申立てを認めなければ仕方がないとは思うのですけれども、この準備手続の中で、事件によっては、開示の必要性が少しずつ変わっていく可能性もあります。少しずつ証拠開示が進んでいくことになると、その度ごとに、即時抗告を認めて、手続が中断してしまうというのは、煩わしくないかという懸念はあるんですね。ですから、開示しないという決定に対しては、不服申立ては最後の一回だけを認めるのでもいいのかなという気が私などはしているんですけれども、そのあたりはどうでしょうか。
 また、証拠決定については、この準備手続でも行えることになりますが、やはり刑事訴訟法420条で不服申立はできないわけですね。それとのバランスはどうなのか。つまり、開示についてだけ、今回は不服申立てを独立して認めるというのがよいのかという議論が必要ではないかと思います。ただ、準備手続の段階で解決しておかないと困るというのも分かりますので、何らかの不服申立てを認めるということには、私も異論はないのですけれども。

○井上座長 分かりました。御指摘の点は、開示の方法や時期の決定についても、ということですか。

○池田委員 方法や時期に関する決定は、大体、それぞれ検察官、弁護人一回ずつでしょうから、それはその都度不服申立てを認めてもいいのかなという気はいたします。

○井上座長 むしろ、(2)の方、開示しないという方ですね。その段階では開示しないということなのだけれども、次の段階に行ったら開示するかもしれないという場合にどうするかという点については、次のところで、御意見があれば伺いたいと思います。
 では、(2)の開示命令ですが、こちらの方は、(1)と違って、項目の3、4、5のいずれかによって開示を受けるべき当事者が、開示されるべき証拠が開示されていないと考えるときに、裁判所に開示命令を請求し、裁判所が、3、4又は5の開示の要件の有無を判断して、開示の要求を決するというものですね。
 ここでも、今、池田委員から出された点ですが、この裁定というか決定については即時抗告をすることができるとされています。請求に関する決定というのは、開示を命じる決定もあれば、その請求を却下する決定もあるだろうし、さらに開示をするときの時期、方法を指定する決定というものもそこに含まれるのだろうと思います。そういうすべてについて即時抗告をすることができるというのがたたき台の内容ですが、この点について、御意見をいただければと思います。

○酒巻委員 私はこの部分についても、たたき台の案に賛成です。これまでの証拠開示についての裁判所の裁定は、すべて職権判断ということであり、当事者に開示命令を請求する権利はないという形でした。その結果として、特に開示命令を発しないという判断がなされたとき、すなわち職権発動しないという場合には不服申立ができないという難点があったわけです。これに対して、このたたき台は明確にそれぞれ当事者の請求により裁判所に開示についての裁判を求めるという構成になっておりますから、開示命令請求権が存在し、裁判所はこれに対応して必ず開示するか、しないか、あるいは開示の時期、方法についての応答判断をすることになります。
 したがいまして、不服のある方は不開示という方向についても即時抗告という形で不服申立ができるようになっており、それは適切であると考えます。加えて裁定をする裁判所の判断基準は、前回出ましたとおり、たたき台の中に出てくる基本的には開示の必要性と弊害の有無等を比較衡量して相当と認める場合に開示を命ずるという、同じ基準に基づいてされるということが前提ですから、このような仕組みで結構だと思っております。
 不服申立ての件ですが、確かに即時抗告ということなりますと、私は実務の実情をよく知りませんが、やはり一遍高等裁判所に記録などが行くということですから、即時抗告に対する判断が出るまでそれなりの時間は掛かるだろう。先ほど池田委員の御意見では、不服申立てはどこかでまとめて一回というようなお話もあったのですが、この部分の開示というのは、まさに検察側の攻撃に対して、まずある程度のものを知った上で弁護側が争点を示すということの大前提になる場合があります。あるいは、争点を出した後に、これに関連する開示してほしい証拠を、場合によっては開示してもらえないかもしれないという局面でありますので、どこかで最後にまとめてということになりますと、結局十分な開示が受けられないまま弁護側が先に進まなければいけないというような事態も考えられてあまり望ましくない。ですからこれはその都度、開示について争いがあった場合には、不服申立をしていただいて決定をして、次に進んでいかざるを得ないのではないか。不服申立ての処理の間、少し手続は止まらざるを得ないのかもしれませんが、それはやむを得ない。事前の争点整理に資するという大局に鑑みれば、仕方がないのではないかと私は思っております。

○本田委員 私も(2)のアの方については、このとおりで結構だと思います。それから、即時抗告なのですけれども、私は、第1ラウンドの議論では、開示を命ずるものに対しては、弊害があるものを見せてしまったら回復できないので、即時抗告を認めてもらわないと困るけれども、不開示の判断に対する適法性の問題は控訴審で判断してもいいのではないかと申し上げたのですが、あまり賛同者はいらしゃらなかった(笑)。
 よくよく考えてみると、不開示の判断の場合はまとめて控訴審でというのもあり得ると思うんですけれども、争点整理の促進という観点からいくと、どうしても弁護側からすれば、いや、不開示だったら争点を明らかにしませんというような事態を招来しかねないという面もあるのかなと思います。ということになると、開示の場合も不開示の場合も即時抗告で解決せざるを得ないのかなという気はします。

○井上座長 証拠決定に対する扱いとの差異についてはどう説明しますか。

○本田委員 証拠決定というのは証拠調べするかどうかの判断ですね。証拠開示はどちらかというと、要するに開示することの弊害の有無といった方で判断していくわけで、証拠開示の問題はその前段階の話でしょう。必ずしも同一レベルで考えなければいけない話かなという気がするんですね。

○池田委員 私もまとめて一回で足りるとまで思っているわけではないですが、このあたりは、あるいは運用で工夫されて、例えば裁判所からしても、当事者の言い分、主張も聴いてみて、ある程度まとまった判断をせざるを得なくて、それがこれからの争点整理、証拠開示の大きな方向性を左右するのであれば、そこに不服のある人については不服申立ての機会を与えようということにはなるのだろうと思いますので、そういう意味では逐次、不開示の決定をするのではなくて、ある程度まとめて決定することになるのではないかという気もするんです。そういうような運用、判断を留保しておいて、一段階ごとに決定し、それに不服があるなら不服申立手続できちんと裁定してもらうという方がいいかもしれません。そういうことは、たたき台でも十分運用できるのではないかと思います。

○四宮委員 一つ確認なんですけれども、「開示をしていないと認めるとき」という中には、例えば時期、方法についても不服があるという場合、つまり、これは裁判所が命令した場合でなくて、検察官、被告人又は弁護人の開示の時期や方法についても不服があるという場合も含むということでよろしいのでしょうね。

○井上座長 アの第1段落のうち「証拠の開示をしていない」という中には、検察官が、例えば時期をずらすとか、あるいは一部を墨塗りしているという形で開示した場合に、完全に証拠開示していないじゃないかということで、この開示命令を受けることができるのか、ということでしょうか。

○四宮委員 ええ。

○井上座長 たたき台の趣旨としては、どうなのでしょうか。

○辻参事官 これは四宮委員のおっしゃるとおりだと思います。

○井上座長 この点はよろしいですか。それでは、ここで10分間休憩を入れさせていただきたいと思います。

(休 憩)

○井上座長 それでは、再開させていただきます。「(3) 証拠の提示命令」ですけれども、これは、(1)の開示方法の指定を求める請求、(2)の開示命令を求める請求、この両方の請求について、決定をするに当たって、開示の要否等が争われている当該証拠の提示を求めることができるということを内容としています。このたたき台を踏まえて御意見をいただければと思います。

○酒巻委員 証拠の提示命令について、たたき台の案で結構だと思います。この局面において裁判所に求められている判断は、問題になっている証拠・資料の防御にとっての必要性と弊害の有無の判断が中心となると思いますから、判断の素材として裁判所自身がどのような性質の証拠・資料であるかということを検討することが必要であり、その範囲でその目的のために提示を求めるというのは、裁判所の裁定を一層的確なものとし、開示の可否を争っている両当事者にとっても制度として誠に望ましいものだと思います。

○四宮委員 準備手続の主宰者のところの議論とリンクするのですけれど、私はそこでインカメラを実施して証拠の実質を認識するような場合には、別の裁判体ですべきではないかということを申し上げました。その関連で、この場合も提示の結果、証拠の実質を認識するようなものになる場合には別の裁判体で行うということも考えるべきであると思います。

○井上座長 そういう場合だけ、別の裁判体が主体になるべきだということですか。

○四宮委員 そうです。

○井上座長 証拠開示に関する裁定の主体として、裁判所が二種類登場してくるということですか。

○四宮委員 インカメラでないと判断できない場合には、ということです。

○井上座長 それ以外の場合には、公判を担当する裁判所でいいということですね。

○四宮委員 そういうことです。

○酒巻委員 四宮委員の御意見に対しては、私は別の裁判体にする必要はないと考えています。理由は前に申し上げましたので、繰り返しません。

○井上座長 その点は準備手続の主宰者のところで、もう一度御議論をいただければと思います。ほかに、こういう提示命令は要らないというような御意見は多分ないだろうと思うのですけれども、よろしいですか。
 次が「(4) 証拠の標目の提出命令」です。これはアとイから成っていますが、アは、(2)アの請求に関して決定をするに当たり、標目を記載した一覧表の提出を命じることができるというものです。そして、提出された一覧表を、被告人・弁護人に開示しないというのが次のイのA案で、それに対してB案は、弊害が生ずるおそれがあると認めるときは開示しないという案になっております。
 まず、アの方から御議論いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○酒巻委員 まず、アにつきましては、これは(3)の提示命令と一体として機能するものと理解しております。特に請求されている資料、弁護側が開示を求めている資料について、裁判所が的確な開示の要否の判断をするためには、このように検察官に対してどのような具体的な範囲の資料が手元に存在するのかということを、裁判所が知る必要というのは大いにあると思いますので、標目の一覧表の提出も妥当だと思います。ただ、この標目というものが具体的にどのようなものであるのかというイメージがいま一つはっきりしません。恐らくある特定の資料類型について、例えば誰々の供述調書であるとか、何々に関する捜査報告書であるとか、そのようなものではないかと想像しております。そういうものがまず作成され、その中から裁判所の判断でその一部の提示を求めて、さらに開示の要否、弊害等を判断すると、こういう組み合わせになると思われますので、そういう形でのリストの作成提出命令は妥当なものだと思います。

○井上座長 (3)と(4)の関係なのですけれども、今言われたように、まず一定の類型の証拠にはどういうものがあるのかという一覧表を出させて、その中から、これを見たいというので、(3)の提出命令が出るというのが、一つのパターンですけれども、(4)だけで判断できる場合もあるということなのかどうか。それとも(4)を最初に置かないで、いきなり(3)ということがあるのかどうか。(3)も(4)もなくて判断するという場合もあるのかどうか、この辺はどうでしょうか。

○辻参事官 事案によると思いますが、まず証拠の標目の一覧表ということでありますので、通常は、先ほど出たような類型、鑑定書なら鑑定書であると書き、供述調書なら供述調書と書く。そして、例えば、供述調書の場合、供述人の名前を書くのかどうかが問題になり得ますが、裁判所の判断の便宜という面からは書くのかなという気もしますが、イの相手方への開示という観点も考慮に入れて検討する必要があると考えています。
 裁判所としては、何も見ないで判断できる場合もなくはないと思います。類型及び範囲を特定して、その求められている類型及び範囲と検察官請求証拠との関係、あるいは被告人の主張との関係等を踏まえて、そこは確かに開示が必要だとか、不要だという判断を、外形的にできる場合もなくはないとは思います。ただ、裁定は一種の不服申立てで、最初に開示に関する検察官の判断がありますので、そこまで開示の可否に関する判断が明白な場合に開示命令が問題になるということは通常考えにくいとも思われ、そうであるなら何も見ないで判断できるという場合はあまりないのかもしれません。

○井上座長 (4)を前提にしないで(3)が出てくるのは、最初から証拠がかなり特定されているという場合ですか。

○辻参事官 証拠の特定の程度によるのだと思います。かなり特定した請求であれば(4)を前提としない、(3)の提示命令というのも当然あるとは思います。(4)の一覧表を見ただけで判断するということも、場合によってはあり得るのかもしれません。例えば、まず、被告人・弁護人の側で開示を求める証拠の類型及び範囲を特定した上で、その類型及び範囲に該当する証拠は何かということで、検察官から証拠の標目の一覧表を求めてみたら、既に全部開示済みでほかには該当する証拠はないということになると、それで終わりということもあり得るかもしれません。

○井上座長 一覧表がどれだけ詳しいかにもよりますね。詳しければ、その情報だけで判断できるかもしれない。詳しくなければ、それだけではなかなか判断できない。こういう関係になるのでしょう。

○池田委員 今の一覧表の情報がどの程度あるかということにも絡むわけですけれども、裁定する裁判所側からして、一覧表がなくても済む場合、一覧表が必要な場合、それから提示命令まで必要な場合といくつかあるわけです。一覧表の中でも、最初はある程度どんなものがあるかというだけのもの、供述調書だけとか、あるいは鑑定書だけとかいったもので足りる場合もあれば、もう少し詳しいものが必要になってくる場合もあるのではないか。提示命令まではいかないけれども、最初に出された一覧表だけではよく分からないから、もう少し詳しいものが必要になってくるという場合があるのではないか。裁判所が、釈明ということで、検察官に、実際にこれはどんなものなのか、と尋ねれば足りることもあると思うのですが、一覧表に書いて出してくれということがあってもいいのではないかと思うのです。その点については、もちろん先ほどイの方の弊害の問題とも絡むからということでしたけれども、たたき台の趣旨としては、そのようなことはできないというような趣旨なのでしょうか。それとも一覧表の内容というのは、いろいろあり得るという理解なのでしょうか。

○辻参事官 それはイの問題と絡んでくるのかなという気はいたします。一般的には、裁定に際して検察官の主張が何かということを当然聴くのが必要な場面もあるでしょうから、今、御指摘のとおり釈明ということで、一覧表に記載された特定の証拠の概略を教えてほしいというのはあり得るのだとは思います。それを一覧表の形式で求めることができるものとするか、あるいはもうちょっと一般的な釈明としてやるのかというのは、イの問題と絡んで御検討いただければと思います。

○清原委員 座長が問題提起された(3)と(4)の関係なのですけれども、一覧表が先にあって、それから提示命令というような流れになってしまうと、一覧表を作るということがかなり所与のこととなってしまいますが、それは、あらかじめ一覧表が必要なことになるかどうかの判断とかかわってくると思うんですね。
 実務を知らない者ですけれども、私などは一覧表を作るかどうかというのはかなり大きなポイントだと思っております。あらかじめ証拠の一覧表を作っておかなければならないととらえるか、あるいは(4)のアのように「請求に関して決定するに当たり、必要があると認めるとき」に事後的に作成するかによって、一覧表の項目の数であるとか、捜査しながら証拠をまとめながら、常にリストを作っておかなければいけないのか、ということが違ってくる。(4)のアであるならば、必要があれば事後的に作るわけで、かつ時間的制約のある中で作るとなれば、項目も決まってくるでしょう。いずれにいたしましても、座長が問題提起されたことは非常に重要なポイントだと思いまして、必要があると認めるときに一覧表を作って提出するのか、あらかじめ作ってあって、必要であるときに提出するのかということも含めて、(4)のアの問題は、(3)と絡めて重要だなと思うんです。
 また、アのところで、裁判所が必要とする範囲で一覧表の提出を命じて、裁判所が判断するために、これを活かすのだというふうに一覧表の役割を限定的にとらえるのであれば、当然イはA案になるわけですから、このあたりの一覧表の意味と、それをどういう目的で使うのかということの特定が第一義的に大事ではないかと思います。

○井上座長 2番目に言われたことは、アとイのどちらから発想するのかということだろうと思うのです。そこは重要なポイントで、最初に言われたこともそれと関連してくる問題だと言えますね。そういう問題提起がありましたが、その問題提起についてでも結構ですし、他の論点でも結構ですが、いかがでしょうか。

○四宮委員 裁判所が証拠開示をめぐる紛争を実効的に第三者として解決していくという仕組みとして、一定の範囲に該当する証拠の標目の一覧表制度というものは、非常にいいものだと思います。ですから、私は、この制度を何とか実現、定着させていきたいと思う者の一人ですけれども、今、清原委員から御指摘のあった、一体、いつ、どんなものを作るのかというのがなかなかそれぞれイメージしづらい部分があります。ただ、せっかくこういう制度を作るとすると、なるべくこれが実効的に有益な制度として機能することが必要だろうと思うのですけれども、そうだとすると、一覧表は、なるべく裁判所に見てもらって、証拠の中身という意味ではありませんけれども、いろいろ理解をしてもらえるものがいいのではないかというのが一つです。
 もう一つは、一覧表の作成時期の問題なのですけれども、ここでの紛争のテーマというのは、証拠の開示ですけれども、例えば開示を求める証拠に関連性があるのか、ないのかという問題もあります。もう一つは、そもそも開示を求める証拠があるのか、ないのかという存否の問題も多分あるだろうと思うんですね。そのときに、不幸にしてそういうトラブルになったという場合に、後から作る資料というものについて、これはまたイとも関連するかもしれませんが、当事者間での、残念ながらいろいろ疑義が残る場合もあるかもしれない。そうだとすると、例えば類型ごとに、確かに、今、清原委員がおっしゃったようになかなか大変な点もあるかもしれませんが、証拠の整理をされるときに類型ごとに、手持ち証拠についての一覧表を作成しておいていただいて、それで裁定といった手続になったときにそれを裁判所に開示していただくというような制度も考えていただく必要があるのではないかと思います。

○本田委員 今の四宮委員の意見なんですけれども、一定の類型ごとに全部あらかじめ一覧表を作るというのは膨大な作業になるんですね。しかも、作成した一覧表は、場合によっては使われないこともあるということになる。そういう一覧表をあらかじめ作ってくれと言われても、それは時間の制約の中で、不必要なものについてまで全部作るということは到底できない。必要があるときに、作れと言われれば、その範囲内で作るということでないと対応ができないというふうに考えます。

○大出委員 そういうことだとちょっと予想してなかったのですが、つまり作業が膨大だということになるであろうという予測はつかないわけでありませんけれども、でも捜査当局あるいは検察の方で証拠の一覧表というのはお作りにならないものなのですか。どうやって証拠を管理していらっしゃるんですか。

○本田委員 例えば、送致記録の中には簡単な証拠の標目みたいのを書いたものがありますけれども、それは追送致があったりしてばらばらになっているので、これをまとめて全部類型ごとに作り直すというのは、結局最初から全部作り直さなければいけないことになるわけですよ。また、検察庁で供述調書なんか作りますけれども、それについてはいちいち標目なんか作らないです。

○大出委員 それでいいのかなと思ってしまうんですが。そのように大変な仕事だということになってきますと、必要があるということで作成を命じられて、それからお作りになるのだというようなことになると、一体どれだけの時間が必要だという話なのかという問題が出てきませんか。

○本田委員 それは、一覧表の作成を求められる証拠の範囲と類型によるので、いちがいには言えないです。

○井上座長 一つは、範囲と類型が一定程度限定されるだろうということと、もう一つは、すべての事件について作らなければならないのかどうかという点が、違ってくるということなのでしょう。

○大出委員 まさにコンピュータ時代ですから、それはそれこそ整理をするのは前とは違って簡単になるはずですし、そこは作っていただくしか手がないんじゃないかという気がしますけれども。

○本田委員 事件数を考えてくださいよ。

○井上座長 樋口委員の御意見はいかがですか。

○樋口委員 いや、もう違った意見は言いようもないので(笑)。

○井上座長 結局は証拠開示の請求がないほとんどの事件を含めてすべての事件で一覧表を全部作れということまで果たして言えるのかどうかということでしょうね。現実問題として、最初から作れと言えるかどうか。

○大出委員 今の座長の御発言との関係でいくと、ある程度、一定の必要性があるものについては作っておくということを考えるといいますか、そういう指示の仕方ができるかどうかという問題でもあるわけですね、逆に言うと。こういう場合については一覧表を作っておくべきだというようなことが言えるということになるんですか。

○井上座長 制度としてですか。

○大出委員 ええ。

○井上座長 そういう考え方はどうですか。

○本田委員 検察官の方で、予想して一覧表を作っておけと命令するということですか。

○大出委員 ええ。

○本田委員 そんなのは不可能ですよ。だって、被告人が起訴後どう言うか予め分からないじゃないですか。私は、裁判所から具体的な事件の中で命令があれば、それは作りますと言っているんです。

○大出委員 そうしますと、座長が言っているのは、逆に何というか……。

○井上座長 私が言ったのは、最初から全部ということになれば、すべての事件について全部作らなければならなくなる。それと、個別にその必要に応じて作るのと、その大変さの違いというのはやはりあるのではないかということですが。

○大出委員 個別に必要であろうという場合を類型化して、一覧表を事前に作成するというようなことを制度的な枠として作ることができるのかどうかという問題ですよね。

○井上座長 私が言ったのは、むしろ事後的に作るというか、命ぜられたときに作るというものとの対比なのですが、中間形態として、論理的にはそれはあり得るかもしれないですけれど、そのような類型化が本当にできるのかが問題でしょうね。

○大出委員 できれば、それにこしたことないと思ったものですから。

○??井委員 まず、この問題については、事前に作っておくということについては何の実益もないということだと思うんですね。そもそも(4)のアの一覧表はなぜ定められているかというと、裁判所が検察官が提示してきたもので果たして十分かどうかということを判断するための一つの材料にするために作られているわけでありますから、裁判官が疑問を持たない限り、あらかじめ作っておく必要は全くないものだということですね。
 それから、当然これはイのA案でないといけない。裁判所に正しく判断をしてもらうためには、なるべく一覧表の情報量が多い方がいいということになります。これをB案にすると、当然情報量が少なくなる。その結果、裁判所の判断が常に正しくなるという保証がなくなるということになる。したがって、イについてA案をとるかわりに、この一覧表については、なるべく情報量を多くして、例えば証拠の類型、あるいは供述人の名前だけではなくて、どういう事柄に関する供述があったか、あるいはどういう事柄に関する鑑定書だということまで分かるようにするべきであると思います。

○清原委員 私は裁判所が証拠開示の判断についてきちんとやっていただくということが非常に重要なポイントだと思っています。裁判所の方にはしっかりと判断をしていただくということが、裁判の迅速化のためには不可欠だと思います。そうであれば、できる限りこの一覧表の提出などが必要ないぐらい、しっかりきちんとあらかじめ証拠が開示されていることが望ましいのですが、それでも何かさらに深める必要があったときに、こうした手続に進むことになるだろうと思います。
 ですから、どちらかといえば、こういうような手続を整えておくことで、最初の証拠開示の厳密さ、正確さ、望ましさ、そういうものが高まるための制度なのかなという感じもしておりまして、こういうことが頻繁に、一覧表の提出が求められるようなことがないようにすることが裁判の迅速化では最も必要なことではないかと思います。
 さらに裁判所の判断、裁判官の方の判断というものに対する、私は信頼を強く持ちたいと思いますし、改めて裁判官が証拠開示に関して、非常にいい意味での主導権を持って、手続を進めていただくことが重要ではないかなと思います。

○大出委員 つまり不信を申し上げるつもりもないのですが、先ほどのお答えだと、一覧表として提出された証拠というものが本当に手持ち証拠のすべてであるのかどうか、つまり類型化されて要求されている証拠のすべてであるかというようなことについての確認というのは一体どうするんですか。どういう形で確認ができることになるんですか。それがちょっとよく分からないんですよ。

○井上座長 現に証拠があるじゃないですか。

○大出委員 ですから、つまり一元的に管理されているということになってないという、先ほどのお答えのようにどうも聞こえるんですけれども。

○井上座長 一覧表のような形では管理していないというふうに言われただけでしょう。

○大出委員 ですから、先ほど言ったことでいきますと、そうするというのは、つまり一件記録として管理しているということは、逆に言えば、その一件記録についての何らかの形のリストはあるわけでしょう。

○井上座長 記録に編綴しているということでしょう。

○大出委員 編綴しているだけですか。だって、編綴も表には、通常、私なんかの認識では、編綴している以上は一番頭に一覧表があるんじゃないですか。

○井上座長 目次のようなものがあるのではないかということですか。

○本田委員 ですから、さっき言いましたように、送致事件の場合は、証拠の表も書いてありますけど、それは類型ごとに分けてない。また、検察官が調書を作ったとしても、送致記録の後ろに綴じて出すだけで、標目のようなものは作りませんよ。

○大出委員 これからは、それは当然、例えばコンピュータに入力するとかですね。

○本田委員 必要がないので、しません。

○大出委員 どうして必要ないのですか。それを作るときに、今までは手書きをされていたかもしれませんけれども。

○??井委員 手書きにしろ何にしろ、表を作ってないんだから。

○井上座長 さっきの問題にまた戻ってきて、そういうことを全部、おっしゃるような形で現実にできるのかどうかという問題だと思うんですよ。できるのにやっていないということではないのだろうと思いますが。

○本田委員 必要がないからやってないだけなんです。

○大出委員 できないわけじゃないんでしょう。

○本田委員 やったらものすごい作業量になる。人員を増やしてくれればいいですよ、お金出していただいて(笑)。

○大出委員 私は賛成しますよ(笑)。

○??井委員 大出委員の御発言の趣旨を善解すれば、要するに一覧表を作ったとしても、それに関連するすべての証拠がその一覧表に網羅されているかどうか分からないじゃないですかということを言いたいわけでしょう。

○大出委員 そうです。

○??井委員 だけど、それは基本的には検察官はその辺はきっちりやるという前提でないとこの制度は考えられないわけです。

○大出委員 ですから、それをどう担保しているのかということです。

○??井委員 この制度が出てくる問題はそういうことではなくて、証拠というのは、特に関連性の判断は見る立場によって違うわけです。それは検察官が隠すとか、隠さないとか、故意に関連性があるものを「ない」と言うと、そういうことではなくて、検察官は真実、これは関連性がないなというように判断しても、裁判官の目から見たら、これは関連性があるじゃないか、ということがあり得るということです。検察官は一見して、これは関連性ないと思っていたけれども、裁判官が見たら、これは関連性があるじゃないか。だから、これは提示命令をかけて、場合によったら開示しようというふうに考える手がかりを与えるためのものが一覧表なんです。
 ですから、そういう意味では、検察官の評価が不十分な場合を担保する、補正する、そのための手段だということで考えていただくと非常に制度の趣旨は分かると思うんですね。

○大出委員 だからこそ、最終的に先ほどのようなお話を伺っていると、その一覧表に、裁判所が関連性があるというふうに判断がされるかもしれない証拠までがちゃんと載っているのかどうかということをどうやって確認することができるんですか。

○井上座長 さっき言われたのは、そういう問題意識ですよね。要するに漏れているものがあるのじゃないですか、ということでしょう。

○大出委員 はい。その管理がちゃんとできているのかどうかということです。

○??井委員 それは制度を考えていく上で、どうしても考えなくちゃいけないことだとは思うんですね。ですから、それは一覧表を作れとか、作れないとか、そういうことではなくて、要するに故意あるいは重大な過失によって、本来、提示すべきものを提示しなかった、あるいは一覧表に登載すべきものを登載しなかった場合にどういうサンクションをかけるかという問題として論ずるべきであるということですね。

○池田委員 こういう問題にならないで、両当事者間で求めるものが開示されていけば、それにこしたことはないわけです。清原委員が言われたように、そういうことで進むことが望ましいんですけど、ただ、訴訟は対立する当事者の間で必ず争いごとが残りますので、そういう意味では、当然裁判所が裁定せざるを得ない場合が出てくるわけです。その場合に、一覧表というのは、私のイメージでは、弁護人が、こういうものがあるはずだ、あるいは、それに類するものが何かあるはずだというような主張をするときに、検察官が、それはないですよと応答するというようなときに問題になるわけです。検察官の方で、弁護人が主張するような証拠はあるけれども、弊害があるから見せられません、というのだったら、もう一覧表なんか作る必要はないわけですね。
 一覧表が必要になってくるのは、弁護人と検察官との間で証拠の存否について水掛け論になっているときで、その場合には、弁護人は、できるだけ広めの特定をして証拠の開示を求めてくると思うんですが、それに対して裁判所は、そうは言っても、それでは特定できないのではないか、弁護人が主張するような証拠があるのだったら、きっとこういう形のものの中にあるかもしれないから、検察官の方に、そういう証拠がどれだけあるのか出してみなさいよということで一覧表の提出を命ずると思うんですね。
 ですから、一覧表を最初から全部作る必要が本当にあるのかどうかというのはまた別の問題ですけれども、このたたき台で想定されているのは、そういう形の一覧表だろうと思いますので、それはやっぱり必要だろうという感じがするんです。その上で、その一覧表にどの程度の内容を書くのかということにもよるのですが、裁判官が一覧表では分からなかったら、さらに検察官に釈明して、一覧表に記載されているこれはどういうものなんでしょうかということを尋ねると思います。また、弁護人に対して、一覧表も出てきたけど、やっぱり検察官は「ない」と言っているし、一覧表にもそれらしきものがないと説明したときに、弁護人が、いや、絶対にこういう証拠があるはずだというようなところまで主張するのであれば、多分裁判所は、検察官に対して、さらにその類型のものをもっと釈明させるなり、あるいは提示命令をかけるということになると思うんですね。
 一番手間がかからないで、みんなが満足いく結論を得るための手段としてどういうものを作っていったらいいかという問題だと思うので、たたき台に示された骨組み自体は、私はある程度合理的な制度設計ではないかと思っています。

○井上座長 イの問題も密接に絡んでいるものですから、そろそろイに進みたいと思いますけれど、イの方についてはいかがでしょうか。

○大出委員 今のお話を伺っていますと、私はB案ということにならざるを得ないのではないかと思うんですね。弁護側自体が要求しているもの自体が、本当に一覧表の中に含まれているのかどうか、つまり弁護側が要求したものを検察側が一覧表として掲げているかどうかということについての確認ができない。
 今、池田委員がおっしゃいましたけれども、弁護側にしてみれば、そういうものがあるはずだというものが本当にリストに載っているのかどうかということを確認できないわけですね。そして、弁護側に見せられないということでは、最終的に、裁判所の裁定のためのリストにそもそも載っているのかどうかということ自体、弁護側は確認できないわけですから。

○井上座長 裁判所を信用できないということですか。

○大出委員 いや、そうじゃなくて、リスト自体が、果たして要求に沿った形で作られているのかどうかを確認できないということです。

○井上座長 それは裁判所がチェックするわけでしょう。

○大出委員 もちろんそうですけれども、ただ、裁判所自体も、そのとき信用する、しないではなくて、例えば検察側が、いや、それはない、と言われたときに、果たして、弁護側は見てないで主張したときに、裁判所として裁定できるような材料を確保できるのかどうかという問題でもあると思うんですね。弁護側としては、こうこう、こういうことで、こういう証拠があるはずだということを主張するわけでしょう。

○井上座長 それは、被告人側がリストを見るか、見ないかで違ってくるのですか。

○大出委員 例えば、リストに載っているかどうかについて、裁判所が、検察側の主張に沿って開示を命ずべき証拠がないという判断をしたとしますね。ところが弁護側としてみれば、いや、そうじゃないはずだと、こういう証拠があるはずだ、ということを言ったときに、リストなしに議論しても水かけ論になってしまう場合というのはあり得るわけですよね。

○井上座長 リストに載っているのだけれども、裁判所がミスをして、それは開示すべきではないという判断をしたという場合を問題にされているのですか。

○大出委員 そうではなくて、リストに載っているかどうか自体に疑義がある場合があり得るのではないかということです。裁判所はリストから判断するわけでしょう。

○本田委員 リストに載っていなければ、そのような証拠はないんです。

○大出委員 それでも、先ほど池田委員がおっしゃったように、弁護側としては、そんなことないんじゃないかということがあり得るわけでしょう。

○井上座長 問題とされていることが、ちょっとよく分からないのですね。裁判所もそれを見て、リストに載っていないという場合に、その裁判所の判断が誤っているということを追及することを可能にしたいということですか。

○大出委員 つまり検察側の判断によって、弁護側の主張内容についての理解が異なっていて、検察側がリストアップしてこないということがあり得る。

○井上座長 仮にそういうことがあったとして、それはリストアップされていないんでしょう。だから、裁判所も、リストにはないという判断を下すだけですよね。リストアップされていることを前提にしながら、開示の対象にはならない、という判断をしている訳ではないのです。それをさらに確認する必要があるのですか、という質問なんですけれど。

○大出委員 だとすると、つまり裁判所の判断としては、その証拠はないんだという判断をしてしまうということになりますよね。

○井上座長 載っていないので、ないようだと、こういうふうに言うわけでしょう。その際に弁護側として、いや、あるはずだということになる。

○大出委員 そうですね。そう言ったときに、それはどうなるんですか。

○池田委員 それはまた別の問題で、もう一度、今回のリストはこういう類型だけど、こういう別の類型のものはあるんじゃないかということを言ってもらうということではないでしょうか。

○井上座長 弁護側にリストを見せることによって、その問題が解決できる事柄かどうか。そういったことが仮にあったとして、弁護側にリストを見せることによって何がカバーされるのかという質問なのですが。

○大出委員 その場合に、弁護側が見ることによって、いや、実はこの証拠だということもあり得ませんか。

○井上座長 ですから、そういうことがあり得るのは、リストに載っている証拠について裁判所の判断が間違ったという場合ですよね。

○大出委員 間違ったということになるのかどうか、微妙だと思いますけれども。

○井上座長 微妙というのではなく、間違うことがあり得ると考えるから、確認するために、弁護側は見たいということなんでしょう。

○大出委員 はい。

○??井委員 イのB案を支持する理由を考えるとすると、それしかないわけですね。別に裁判所は関連性がないと判断しても、弁護人が見れば関連性があると判断できる場合があり得るので、弁護人にも見せなさいということは当然理屈としてはあり得る。ただ、その場合に、弁護人がその判断をしっかりするためには、証拠の内容がある程度分からないと判断はできないということになる。しかし、証拠の内容が分かってしまうと、逆にそれは開示したのと同じにならないかという問題が出てくるわけですね。
 ですから、二つの問題をどう総合的に考えるかということになってくるわけですが、私は冒頭に申し上げているように、ここは裁判官を信頼する以外にないのではないかと思うのです。裁判官しか一覧表を見ることができないことにするかわりに、情報量は非常にたくさんにして、裁判官が的確に判断できるようにしようという方がいいだろうというのが私の考え方です。

○四宮委員 ??井委員が最後におっしゃった点は私も賛成なのですが、もし、このリストが裁判所の要請によって後から作られるということだとして、リストが出た後も、いろいろ裁判官からの釈明があって、さらにまたリストに付け加えられたりすることもあるのかもしれません。そうだとすると、リストの内容とか、リストを開示することに伴う弊害といったものは、ケースによって大分濃淡があるのではないかという気がします。ですから、仮にリストが弁護側に渡ったとしても、常に弊害があるのかということはいちがいには言えないのではないかと思うのです。もちろん、なるべく裁判所に関連した事項が伝わった方がいいというのはそうですし、裁判所を信頼せよというのも、もちろんそのとおりで、B案でも、弁護側にリストを渡すか否かは全部裁判所にゆだねられているわけですね。ケースによってもいろいろ濃淡があるのではないかということと、それから、裁判所の裁定に対する納得性というものも加味すると、結局、裁判所にゆだねるということになる。
 A案では、極端なことを言えば、弊害が全くない場合も開示しないということになるわけですけれど、裁判所にすべてをゆだねるということでB案ということも、十分制度の趣旨と矛盾することではないのではないかと思います。

○本田委員 私はこの一覧表の開示の問題についてはA案で考えるべきだと思います。もともと、先ほどから話が出ていますけど、証拠の標目の一覧表というのは、既存の資料ではなくて裁判所の命令を受けて、裁判所が証拠開示の要否等の判断をより的確に行うために、裁判所の便宜に供するためにあえて作成して裁判所に提出するというものです。そういう目的からすれば、被告人側にこれを開示しなければいけない理由は、もともと、その目的からしてないのではないか。それから、こういうのを開示した場合に、様々な弊害が生ずるおそれは避けがたいのではないか。一つは、いわゆる探索目的の証拠開示請求のおそれというのが考えられます。何か有利に使える証拠はないかという探索目的の下に、一覧表に記載された各証拠について次々と開示請求がなされる。こういったことが懸念されるわけで、そうすると手続がそれで遅延してしまう。
 あるいは供述調書の供述者の氏名がもし一覧表に書かれるとすると、その名誉とかプライバシーを侵害するおそれがある。特に被疑者として取調べを受けている場合はなおさらそういうことが言えるのではないか。加えて、後で氏名が明らかになることを懸念して、捜査に対する協力が得られなくなるという事態が招来されたりする。あるいは供述者名を手がかりに、当該供述者に対する罪証隠滅工作や嫌がらせを招くおそれもあり得るだろう。もっともそういう場合は、B案からは、一覧表を開示しないことをすることができるのだからいいじゃないかという反論があるかもしれませんけれども、証拠そのものではなくて、標目の一覧表という、本筋から離れたところで弊害の有無とか開示の要否をめぐって紛糾が生じかねない。特に供述調書の標目の一覧表については、先ほど言いましたように、一般的に、プライバシーとかいろんな罪証隠滅工作という弊害が問題となり得るわけですから、無用な紛糾が頻発するおそれは極めて高い。
 それから、探索目的の方ですけれども、これは開示後の被告人の態度いかんによるわけですから、これを事前にそれを把握して弊害があるかどうかということの判断そのものができないではないかという問題もあって、制度の趣旨とそういった弊害を考えるならば、A案だというふうに考えます。

○池田委員 今、本田委員の言われた探索目的で、一覧表を利用することにならないかというのは懸念されるところであるのは分かりますし、またプライバシーの問題などを考えなければいけないのも分かるのですが、A案ですと全く一覧表を開示することはできないわけですね。それで本当に足りるのかなというのはちょっと疑問に思うのですね。恐らく、裁判所が一覧表を見て関連するものはないと判断したとしても、弁護人は、いや、絶対あるはずだ、と言っているときに、それは即時抗告されることになるわけです。そして、即時抗告されたときにも、これを見せないとなると、即時抗告審はリストを見ているけれども、弁護人は見ないで判断を受けざるを得ないわけですね。そうすると何か不満が残りはしないか。
 特にもし弊害があるのだったら、それは見せてはいけないのだと思うのですが、弊害のないものも場合によってはあるのではないか。本当に誠実な弁護人が、いや、本当にこういうものがあるはずで、検察官の方で何か勘違いしていて、このあたり、関連性があるはずなのに、どうも「ない」と言っているのは理解できないので、どんなリストを出してきているのか、ちょっと見せてほしいというときに、裁判官として、こんなリストが出てきていますけれども、その中に、本当にあなたが言うようなものがあるんですか、やっぱりないじゃないですか、というような場合です。そのような場合には、弁護人に開示するという必要がある場合があるのではないのかなという気がしていて、A案で本当にいいのか、B案を採って開示を認め得るという方がいいのかについては非常に悩ましいなと思っているんですけれども。

○井上座長 ??井委員が言われた問題はどうなのですか。弊害の問題だけではなくて、裁判所の実質的な判断を担保するためには、リストといえども、ある程度の情報量が載っていなければならない。他方、それが実質的であればあるほど、リストを見せれば、結局、証拠を開示したのと同じことになってしまう。証拠を開示をするかどうかの判断をする手続段階なのに、結果としては実質的に当の証拠自体を開示したのと同じことになってしまう。弊害がない場合でも、そこのところをどう説明するかということは、問題としてあるのだろうと思うのですね。

○池田委員 一覧表をどこまで書くかという問題と絡んでいると思うんです。

○井上座長 二律背反みたいなことで、リストを弁護側に開示するのだったら、本当に項目だけしか示していないものになりかねない。裁判所としては、その辺が板挟みになるのではないかと思うのですが。

○池田委員 一覧表を裁判所として弁護人に見せた方がいいんじゃないかと思う場合というのは、本当に最後のぎりぎりの非常に狭い範囲ではないかという気がするんですけれども。

○井上座長 裁判所としては、リストのどこを見ても関連するものはないという判断なのだけれど、弁護側の納得を得るために、弁護側にリストを見せるという余地は残したいということですか。

○池田委員 見せるだけではなく、裁判所も、何か説明するだろうとは思いますけど。

○井上座長 御趣旨は分かりました。

○本田委員 絶対あるはずだという弁護人の主張があったとき、どうするのだというんですけれども、ただ、絶対あるはずだ、と言われても、ないものは一覧表に書きようがないわけですね。例えば弁護人が調べたら、Aという人が警察の事情聴取を受けたということを言っていると、ちゃんと確認した。じゃあ、その調書はあるはずだろうと。こういう具体的なことが言われた場合に、Aの調書があれば、もちろん検察官は一覧表に書きますけれども、よくよく調べたら、事情聴取したけれども、調書はとってなかったということもあるわけですね。
 だから、それは裁判所の、先ほど言われた釈明のところで、きちんと解決のつく問題のはずなんです。だから、一覧表を見せたから、どうなるという問題ではないはずだと思うんですね。むしろさっき言ったような弊害を考えるならば、あるいは弊害が起きるかどうかも分からないところがあるわけですね、探索目的のところなんか。被告人がどう出るかによって決まるわけです。そういうことをいろいろ考えるとやっぱりA案だろうと考えます。

○井上座長 ほかに御意見はありますか。ひとわたり御意見を伺ったので、次へ進んでよろしいですか。

○四宮委員 その前にここで一応……。

○井上座長 私もちょっと1点、裁判員以外の事件の場合にどうするかということを確認するのを忘れていました。その点は、同じようなことでよろしいですか。四宮委員のお申し出は、それ以外の御意見ということですね。

○四宮委員 はい。

○井上座長 どうぞ。

○四宮委員 さっき一部話題になった、一覧表に載せなかったとか、あるいはこの開示命令が出て、開示命令に従わなかった場合のペナルティーです。開示を怠った場合は裁定の手続に行って、最終的に裁定によって解決されるということになるとは思いますけれども、そういった証拠開示をめぐる、さっき??井委員は「サンクション」という言葉を使いましたけど、ペナルティーというようなものについては議論しておく必要はないのでしょうか。たたき台にはそれはなかったのですけれども。

○井上座長 ??井委員が言われたのは、証拠を隠したような場合とか、リストに載せなかったという場合ですけれども、今、四宮委員が言われたのは、開示命令に誠実に従わなかったという場合についてでしょうか。

○四宮委員 ええ。

○井上座長 例えば、どういう担保の仕方があり得ますか。

○四宮委員 仮に開示すべきだという命令が出て開示されない場合に、その証拠の重要性ですとか質とかというものとも関連するのかもしれませんけれども、いろいろあり得るとは思うんですね。開示しない証拠だから、その証拠を将来使うということはないのかもしれませんけれども、例えば、証拠を禁止するとか、あるいは非常にこれも例外的な極端な場合かもしれませんが、手続を打ち切るということも考えられる。私、訴訟法的な構成はまだよく検討していませんけれども、それも一番極端な場合ですけれども、何らかの手続上のそういった問題にする。あるいはもう一つは、例えばそのまま判決が出た場合は、手続上の法令違反になるんですか。ちょっといろいろ分かりませんけれども。

○井上座長 訴訟手続の法令違反として構成して、それが判決に影響を及ぼすかどうかというところで判断するということですか。

○四宮委員 詳しく、どのようなサンクション制度を設けるべきだという点まで検討はしておりませんけれども、そういったペナルティーについて検討しておく必要があるのではないかという問題提起です。

○井上座長 酒巻委員、何か御意見ありますか。

○酒巻委員 諸外国の法制には、「サンクション」という言葉が多いと思いますが、四宮委員が御紹介されたように、訴追側に対する最も極端な極限的制裁として、検察の訴追活動が極めて不公正で正義の観念に反するという理由で、手続打ち切りという措置を挙げているのもあると思いますけれども。

○井上座長 日本で言うと公訴棄却ということでしょうか。

○酒巻委員 それから、証拠禁止というのは実はあまり意味がない。出さない証拠を出したら排除するというのはナンセンスな話であります。

○井上座長 一番極端なのは手続の打切りで、中間的には、手続を止めて準備期間を置くというやり方もありますね。

○酒巻委員 はい。そのとおりです。あとは、開示命令に従わないという当事者に対して、裁判所が直接法廷侮辱、コンテンプトの制裁を加えるとか、あるいは検察官に対する制裁として、懲戒処分とか様々なものが考えられると思います。命令に従わなかったら、理論的に必ずこうしなければならないという話ではなくて、政策的に多様なものがあり得るということだと思います。

○四宮委員 ですから裁判所が、言葉は熟しませんけれども、公正な措置をとることができる、みたいなものですかね。

○井上座長 現行の制度でも対応できるものと対応できないものとがありますね。特に裁判所侮辱的なものというのは、その制度自体、日本にはないわけですので、それをもし導入することを検討するということになれば、ほかのいろいろな訴訟指揮に従わない場合についても同様の扱いにするのか、というような話にもなりかねません。四宮委員の発言の趣旨は、開示命令に従う、あるいは誠実にリストを作成するということを担保する方策についても検討すべきではないかということですね。

○本田委員 検察官が開示すべきものを開示しなかったということですけれども、基本的にはそういうことは想定しがたいと、私は考えています。検察官は公益の代表者でもありますし、客観義務を検察官は負っているのですから、証拠を開示する法的義務がある場合に、あえて開示しないというようなことはまず想定できない。仮に百歩譲って、そのようなことをするならば、当該検察官は当然懲戒処分の対象にもなり得る。そういうことで、検察官が証拠開示に関するルールを遵守することは担保されているだろうというふうに考えています。
 それから公訴棄却の話が出ましたけれども、ルール違反といっても、その影響については様々なバリエーションがあるわけで、ルール違反という一事をもって、直ちに公訴棄却というのはいささか乱暴な話だと思います。そこはきちんとそういうふうに開示命令があった場合に開示するような担保措置はとられているわけだから、それで十分であろうというふうに考えています。

○四宮委員 一言だけ。もちろん開示命令に従ってもらうことは当然ですけれども、不幸にして、制度は違いますけれども、証拠が出ていなったというケースが実際にあったわけですから、万が一、こういうことがあった場合のペナルティーを考えておいた方がいいのではないかという趣旨で申し上げているわけです。

○井上座長 本田委員も担保措置が要らないと言っておられるわけではなくて、今でも十分対応できるのではないかという御意見であり、四宮委員の方は、それでは十分ではないのではないかという御意見であるということですね。論点が出されたということで、先へ進ませていただきたいと思います。

○大出委員 いいですか、今の点について。

○井上座長 どうぞ。

○大出委員 それは捜索差押えはできないんですか。現にあるということは分かっているんでしょう。

○井上座長 もちろん、分かれば、そういうことも可能でしょう。裁判所としては、提出命令をかけることもできるでしょうし。

○大出委員 ということにはなるわけですね。その確認だけです。

○井上座長 要件があれば、それはできるのでしょうね。

○大出委員 あるということが分かっていて、特定して提出命令かけているわけですからね。

○井上座長 提出命令というか開示命令を出して、それで出さないという場合に、裁判所として捜索差押えをするということですか。

○大出委員 つまり、公訴棄却という線ももちろんあり得るでしょうけれども、やはりそれが重要な証拠である場合には、やっぱり出してもらう必要がある場合というのがあり得るわけですから。

○本田委員 心配しなくても開示しますから(笑)。

○大出委員 本田委員がそうおっしゃいますし、私もそうだと思いますけど、現に私の経験したケースでも、これは証拠開示の勧告ですけれども、検察官はお出しにならなかったケースがやっぱりあるんですよね。表紙だけ出してきたという、非常にどういうことなのか私も分かりませんけど、表紙だけ出したという例があります。

○井上座長 個別具体的な事例については、立場により評価がすごく分かれると思いますので、それに踏み込むのは避けていただいて、捜索差押えといった強制処分をかけるということも、制度としてはあり得るのだろうとは思いますけれど。

○本田委員 そういう事態は起きないです。

○井上座長 よろしいですか。

○池田委員 一つ前に戻ってしまって申し訳ないですが、裁判員制度以外でも、準備手続を行えば、その中で証拠開示の手続ができるわけですが、裁判員制度以外ですと、準備手続が必ずしも必要的でないので、その場合の証拠開示のルールはどうなるのか。それから、特に裁判員制度でも可能性はあるわけですけれども、公判が始まってから、争点がまたちょっと変わってきてしまって、そこについての証拠開示が問題になるということもあるわけですね。そのときも、同じようにたたき台の証拠開示のルールが適用されるということでいいのではないかと思うわけですけど、そこは検討課題の一つかなと思います。

○井上座長 その点はいかがですか。今まで準備手続を専ら念頭に置いて議論してきたのですけれども、準備手続が開かれない場合、あるいは公判になってから証拠開示が問題になったような場合に、同じような基準とか手続を公判段階でも適用するのかどうか、そうすべきではないかという御意見なんですけれども。

○??井委員 裁判員裁判のときにはいったん中断することにならざるを得ませんよね。

○池田委員 裁判員裁判では、そういうことが起こらないようにすることがまず大前提なんですけれども。

○井上座長 極めて例外的にはあり得るかもしれないということですね。

○辻参事官 準備手続以外での証拠開示のルールは当然検討しなければいけないのですが、その際、争点整理との関連で証拠開示が組み立てられている部分があるというところをどう考えるか、具体的には主張明示義務であるとか、主張立証制限であるとか、そういう仕組みとの兼ね合いで、そこを切り離して考えていいのか、やはりセットなのかという問題があって、仮にセットであると考えるならば、たたき台の枠組みの開示が必要であるなら、準備手続をするべきであるという結論になる。その点に関する考え方次第かなということだと思います。

○井上座長 証拠開示が問題になるような事件は、争いがあるような事件でしょうから、大抵の場合は準備手続が開かれるのでしょうね。

○池田委員 公判段階で証拠開示をめぐる紛議が起こったときに、もちろん争点整理とは関係ないのですけれども、裁定の方法などは同じようなことを使っていくことになるのかなという気がするんですけれども。

○井上座長 審議会意見書の範囲としては、証拠開示は争点整理に関連してということなのですが、同じような手続を公判でやるということも、考え方としては十分あり得ると思うのですね。そこは、さらに今後検討するということでよろしいでしょうか。ここで急にお考えくださいと言っても、思いつきの議論しかできないと思いますので。
 先を急いで申し訳ないのですが、8の「争点の確認等」というところに移りたいと思います。まず(1)について御意見をいただければと思います。この点は、当事者双方がやりとりをしていくという過程を経て、明らかとなった争点を確認するということですので、当然のことなのかなというふうに思うのですが。

○平良木委員 どういう形で確認をするのかという問題はあると思うんですが。というのは、例えば準備手続を何回か重ねると、その準備手続の調書がすべて公判に出るだろうと思う。そこでいわゆる確認的に、こことここが争点ですねということにとどめるのか、あるいは民事的な要約調書とでもいいますか、最後に争点をまとめて、いわゆる確認したものを文章化してそれを出すのか、あるいは準備手続の調書にそこのところを明記するのか、そういう問題は残るだろうと思うんですね。

○井上座長 御意見はいかがですか。

○平良木委員 もし、準備手続でいろいろ述べたその変遷を公判に出したいというとすると、準備手続の調書をすべて出しておいて、そして最後にまとめる、それを準備手続調書に改めて残すというやり方があるかなという気もいたしますけれども。

○井上座長 まとめるというところは、裁判官が、中心になって、当事者双方に示して、これでよろしいですねと確認して、それを調書に残しておくということですか。

○平良木委員 争点を確認して、それを調書に残しておくのがいいだろうと思います。ついでにちょっと言っておきますと、今までも、準備手続ではなくて、当事者同士の打ち合わせでもやはり同じようにやって書面を残して、それを双方に配って、これでやりますよという確認をしてきたと思うのですが、これがやり方としては実効性があるだろうという気がします。

○井上座長 恐らく、どういうものにするにしろ、書面で確認するということは、確実性という意味で必要なんのしょうね。

○四宮委員 私も最後に書面で確認するというのがいいと思いますね。

○井上座長 いろんな書面の形があって、そこは工夫の余地があるということですね。

○四宮委員 はい。

○井上座長 よろしいですか。いずれにしろ、書面化した形で争点を確認するというのがいいのではないかということですね。
 それでは、次は(2)の「準備手続終了後の主張」についてです。これはたたき台ではA案とB案という両案が示されており、A案は、主張を制限をするというものであるのに対し、B案は、そういう制度は設けないというものです。
 これは当然、項目4(1)アの主張明示の義務付けという論点と関連するわけですが、4(1)アで主張明示を義務付けるというA案をとれば、8(2)でも主張制限を設けるというA案をとることに論理必然的になるかというと、必ずしもそうではないわけですね。主張明示を義務付けるのだけれども、主張制限はないということも、論理的にはあり得えます。
 4(1)アについては、既に随分議論をしていただいたのですが、必要に応じて、それにも言及していただいて結構だと思います。当然言及がなされるだろうと思いますけれど、それに言及しつつ、しかし、本体は8(2)のところに焦点を当てた議論をしていただければと思います。

○清原委員 先ほど(1)で確認方法として、最終的に争点を書面化して残すということもありますし、先ほどの4(1)と関連付けて考えるにしても、もちろん後から準備手続において明らかにしなかった主張とか証拠を出すということは、私は、本来、あってはならないことだと思うのです。しかし、このA案をとりますと、私はいかに書面で争点がはっきり示されていて、そして争点と異なる主張が出にくくしていたとしても、私は公正な裁判をしていくプロセスで、準備手続終了後に確認された争点と違うような主張なども出てくることを全く受け入れないというのは、それなら裁判しないで準備手続だけである程度のことはまとまってしまうかもしれない。
 裁判の迅速化、公正さのために、準備手続における適正な、あるいは有効な争点整理というのは不可欠だというふうに私は思いますし、それが担保されるためのこれまでの議論は非常に望ましい方向だと思っているのですが、ただし、A案のように主張制限をしてしまうというような制度にするところまでは必要ないのではないかなと思っておりまして、私はあえてB案を採り、A案のような制度はもうけないでいってはどうかというふうに思います。

○井上座長 このA案の除外事由でも不十分で、ものすごい制限になってしまうという御意見ですか。

○清原委員 この「やむを得ない事由によってすることができなかった場合又は証拠調べの結果に照らし相当な理由がある」ということがあったとしても、それをまた、その場合なのかどうかというようなことを判断する、また新たな主張がもともとの争点に含まれる主張なのか、それともそうではないのかというようなことを吟味するようなことに労力を割くのでは実効性があるのか、現実性があるのかなというところもありまして、かなり、4(1)の主張の明示というところで、ある一定の要求はしているので、それを信頼することにして、改めて主張制限の制度をもうけてしまうと、固過ぎないかという考えです。

○土屋委員 私、二つほど感じていることがありますので、ちょっと申し上げたいと思うんです。私も清原委員の意見とよく似ております。ただし、私はB案ではなくて、A案とB案の中間みたいな考え方なのです。A案的な方向も必要だろうなというふうに思っておりまして、全くなくていいのかなというのはちょっと気になるところです。
 まずA案に書いてある部分なんですけれども、一つ申し上げたいと思っているのは、被告人が主張ができない、被告人の主張を封じてしまうというのは、私はよろしくないだろうと思っております。前回申し上げましたけど、被告人は何を言ってもいいのだろうと私は思っていまして、ここでA案的な考え方をとるにしても、被告人は外すべきなのではないかと思っているということが一つです。
 もう一つは、清原委員が今言われたようにA案は私は強過ぎると思っていまして、全く主張できないというふうにすべきではないのではないかと思うんです。ただ、A案を置く趣旨は分かるので、そこで別の提案なのですけれども、一種の時期遅れで争点と異なるような主張を弁護人がするような場合、あるいは検察官がするような場合、そういう場合には、一定の不利益を受けるというのでしょうか、そういう規定みたいなものを置いてもいいのかなと思うのです。つまり、そのような場合は一種の信義則違反でもありますし、これまで行われてきた準備手続というのをひっくり返してしまって無にしてしまうわけですから、そういうようなことをする場合というのは、どうしてもせっぱ詰まって、そういう主張をしなければ、正しい裁判に行き着かないというような理由がある場合でなければだめなんだろうと思うんですね。
 そういうことがきちんと説明でき、また、そういう主張をする場合にはそれを立証できるということであるならば、それを排除する理由はないと思いますけれども、そうでないような場合には、殊さら裁判を混乱させるというようなことに結果としてなるわけですから、そういった場合には不利益を甘受するというのか、そういうような結果になっても仕方がないというような構成ができないかなと思ったりします。

○井上座長 不利益と言われたのはよく分からないのですが、具体的にはどういうことなのでしょうか。主張はさせるが、やむを得ないとか、そういうことには当たらない、正当な理由はないというような場合には、何らかの不利益を課すと言われた点なのですけれど。

○土屋委員 例えば、一番端的な例が事前準備段階で主張できたにもかかわらず、そういう主張をせずに公判に入ってから新しい主張をしてしまうというようなことがもし仮にあるならば、そういうことは望ましくないわけなので、そういう場合には、そういう主張をしたことが、裁判官なり裁判員の心証として、被告人の方に不利に受け取られる一つの材料として使われても仕方がないというような考え方ができないかなと思います。

○井上座長 事実上使うということですか。外国の法制では、例えば、被告人側が新たな主張をしてきた場合、以前にはそういうことは主張していなかったという事実について検察官が言及することができるといった法制をとっているところもあるのですけれども、そこまで認めるべきだということなのか、それとも事実上、証拠評価の際に、そういう経過も踏まえて、評議の中で議論してもいいということなのですか。

○土屋委員 そのあたりの作り方、外国の制度も私分かりませんので、何とも言えないので、そのあたりは専門家の方にお任せするしかないと思うんですけれども。言わばA案そのものではなくて、もうちょっとトーンダウンしたものかもしれません。

○井上座長 それは、被告人についてもということなのでしょうか。

○土屋委員 私、被告人については、主張を封ずるようなことをすべきでないと思っています。

○井上座長 今の御意見は、弁護人についてだけということですね。

○土屋委員 検察官、弁護人ですね。

○池田委員 私もこの主張制限のところについては、清原委員が言われたのと同じように、被告人が公判で別のことを言い出したからといって黙らせるというわけにはいかないのではないか。それは言わせておいて、もちろんそういう段階で言い出したということになると、それはそれなりに信用性の評価を当然伴うわけですけれども、そうは言っても、それを最初からだめだと制限するのは難しいのではないかと思います。
 今の土屋委員の話からすると、現行の刑訴規則1条2項に、訴訟上の権利は誠実にこれを行使し、濫用してはならないということがありますので、それによって、今までも、例えば時機に後れて突然主張しだしたものは誠実な権利行使に当たらないということで制限されたものもありますので、そのような配慮で対応できるのではないかと思うのですけれども。実際問題として制限することは難しいですよね。

○井上座長 権利を濫用した又は信義誠実の原則に反したからどうなるというのでしょうか。権利濫用というのは、そういう訴訟行為自体を無効にするとか、止めてしまうというところに結び付く論理だと思うのですが、そうだとすると、A案とあまり変わらないですよね。

○池田委員 主張すること自体を認めなければですね。

○井上座長 主張は許すけれども、権利濫用だというのは、どういう効果に結び付いていくのかが問題だと思うのです。土屋委員の言われたのとまた違う構成の仕方だとは思うのですけれども。

○池田委員 主張として、この刑訴規則1条2項違反のような権利濫用的なものがあり得ないとは思われないですね。そういうことはあるのではないでしょうか。今の検察官の、例えば訴因変更請求が非常に遅れて、しかも被告人側は防御をいろいろやってきたのに、突然後で変更を言い出したという場合、変更後の訴因をもとに審理をまたやり直すというのでは、今までの訴訟が何だったのかということになりますので、制限されるということはあり得るのかなと思うのですが。

○井上座長 その場合には、訴因変更請求という訴訟行為自体が無効である、請求の効果を認めない、ということに結び付いていくわけでしょう。もし、単純にその図式を公判での新たな主張というものに応用するとすると、法廷で主張はするのだけれど、それには何の訴訟法上の効果も認めないということになると思うのですが、そうであるならば、主張するのを止めることはできないけれども、何も聞いていないのと同じに扱うということになり、主張を止めることはできないとわざわざ言うことの意味がなくなってしまうのではないかという気がするのです。そういうことでうまく制度として組めるかどうかですね。
 仮にB案のような考え方とったとした場合に、池田委員の御意見でも、土屋委員の御意見でも、サンクションというとちょっと強過ぎるのですけれども、何らかの効果を結び付けることが必要になるのではないかということです。準備手続の中で争点整理をするのに、主張を明らかにしてもらい、それに一定の拘束性を認めないと、争点整理が実効性のないものになってしまうおそれがあるので、それをどう担保するのか、主張制限をしないB案的なものを前提にした場合に、その実効性をどう担保すればよいのかという点も、御議論いただきたいのですけれども。

○清原委員 主張制限というものを改めて設けるということはしないけれども、かねて御議論いただいた、この5ページの4(1)のところの、主張を、準備手続において、「あらかじめ明らかにしなければならないものとする」というところですね。要するに、主張を明示することについて、努力義務というか、公正な義務ををはっきりとしておくことで足りるのではないのでしょうかという思いもあるんです。準備手続における主張の明示義務というものがあれば、準備手続終了後の主張に関して、それを制限するというところまで厳しい制約をかけなくてもよいのではないかと思います。

○井上座長 その場合、制度として、義務が守られることをどう担保するのかということが御議論いただきたいところなのです。義務付けだけで十分担保できるのだということになるのかどうかということなんですね。さっきから別の場面では、義務付けだけでは足りないので、何かサンクションが必要なのではないかという議論をしていたわけですが、ここの場面については、義務付けでいいのかどうか。制度論としては同じような議論になるのだろうと思うんですけれど。

○??井委員 主張制限は必要だと思うんですが、A案は主張制限の案だと言われているのですが、果たしてこれで主張制限をかけたことになるのかというふうに思うんですね。要するにやむを得ない事由があった場合、あるいは証拠調べの結果に照らして相当な理由がある場合、多分ある程度まともな主張をすれば、ほとんど全部これにひっかかってしまうと思うんですね。ですから、そういう意味では、これは主張制限だと言われているけど、実質的にはほとんど主張制限になってないと思うんですね。だからといって、C案を提案しようという気はないので、基本的にはA案でいいんじゃないかと思います。要するに、A案でも、基本的にはほとんどこれによって被告人がまともなことを言い始めたときに、裁判官が、前に言ってないからだめだと制限することは基本的にはないだろうし、検察官は基本的にはそんなこと言っても通用しないだろうと思うんですね。あくまでもその主張をしようとする者を退廷させて、どんどん手続を進めるというようなことは基本的にはないと思うんですね。
 ですから、そういう意味では、A案を採用すれば争点整理が必ずしもきちんとできるとは思わないのですが、一応争点整理はある程度実効あらしめるためにも、これはA案程度の規定としか言いようのない規定だと思いますが、A案程度の規定は置いておいても、別に邪魔にはならないんじゃないですかという趣旨でA案に賛成です。主張制限をしっかりしましょうという意味でA案に賛成というわけではありませんが。

○井上座長 準備手続の段階で、当然主張できたはずなのだけれども、公判段階で突然出してきたという場合でも、その主張の内容が根拠のありそうなものであれば、制限はできないのではないかという御趣旨ですか。

○??井委員 そうです。例えば、準備手続では一切言っていなかったのに、公判でいきなり正当防衛の主張を始めたとして、黙れというわけにいきませんよね。そこで、ある程度聴いた上で、これはそうかもしれないなとなってくると、それまでの証拠調べの結果に照らし相当な理由がある場合に該当すると思うんですね。

○井上座長 証拠調べの結果に照らして相当な理由がある場合ということで、訴訟の進行状況を踏まえて、新たな主張が成り立つかもしれないと思う場合は、取り上げられることになるのではないかということですか。

○??井委員 そういうことですね。ですから、仮にA案という制度を置いて正しい判断ができなくなるおそれがあるということであれば、絶対置いてはいけないとは思うんですけれども、むしろA案を置いたとしても、正しい判決ができなくなるとは思えないので、そういう意味では主張制限にもならない。ですから、先ほどから申し上げているように、A案程度のものは置いてもいいんじゃないですか。

○井上座長 およそ成り立ち得ないような主張が突然出てきたときだけ制限されることになるだけだ、ということでしょうか。

○??井委員 太陽が西から昇るというような主張が突然出てきたというような場合は、これで制限することは可能かもしれませんけれども(笑)。

○平良木委員 その意味で言うと、B案でもほとんど同じ結論になると思うんですね。つまり、通りそうもないというような主張をしたときに、何でこんなこと今さら言うんだということになっていくだろうと思う。だから、そういうことからすると、??井委員の言っていることにある意味では賛成なんですけれども、A案、B案、これはほとんどそういう意味では実際上は変わらないと思うのです。ただ、問題はこういう形で、主張制限的な表現をするのが、今までの争点整理との関係でいいのかどうかということだと私は思います。それで、結論はもうちょっと考えないと、はっきり出せないのですけれども、少なくとも前回との議論の関係で言うと、被告人はやはり除いた方がいいということにここでもなってくるのだろう。そう考えますと、被告人の場合は、特に被告人がいろいろな意味で義務化されないことになると、被告人の権限を弁護人は代理行使できるわけですから、結局全部主張できることにもなりかねない。そうなると、A案、B案とで、どういうような違いがあるのかということになる。要するに最初に言った、いわゆる制度的にこういうことにしておこうよということの確認的な意味なのかなというような気もするんですが。

○本田委員 やむを得ない事由によって準備手続で主張を明示することができなかった場合には、当然公判廷で主張することができるでしょうし、証拠調べの結果に照らして相当な理由がある場合というのは、証拠の内容から見て、その主張がそれなりに合理的だと認められなければならないわけで、そんなに何でもかんでも主張できるということにはならないのだろうと思います。したがって、準備手続における争点整理の実効性を担保するという観点から言うならば、A案のように主張を制限をするということは十分に考えられると思うんです。
 ただ、先ほど実際的な問題が出たのですけれども、被告人質問をしていたら、被告人が、新たな主張を始めたとして、すぐ発言を禁止し、それに従わずしゃべったら退廷だという訴訟運営はなかなかできかねるのではないかなと思うのです。また、そのような訴訟運営はちょっと乱暴な感じを受けないでもないということになると、ここは慎重な検討が必要なのかなという気がします。むしろ実際的な理由で、慎重な検討をすべきだと思います。

○四宮委員 A案とB案とで違いがないのかというのはよく分かりませんけれども、ちょっと質問で、やむを得ない事由によってすることができなかった場合というのはどういうことなのかということなんですね。例えば強盗で起訴されて、準備手続段階では争わないということにしていたが、公判になってから、実はそれは被害者が債権者からの過度の取り立てで困っていたので、頼まれて仕組んだ狂言強盗だったのでお金は取っていませんということを言い出したとします。これはA案の制限の例外に当たるんですか。つまりA案、B案、違わないという意見もありましたけれども、たたき台の想定として、そういう場合はA案で主張できるのか、できないのかということなんですけれども。

○辻参事官 狂言強盗だったということを準備手続で言わなかった理由が何なのかというところが今の設例としてなかったので、それによるのでしょうけれども。

○四宮委員 つまり裏切られたということが分かって、公判になってから気が変わったということです。

○辻参事官 「やむを得ない」ということに関し、一つの参考になるのは、現在の刑事訴訟法382条の2の、控訴審における証拠の制限の規定であり、そこで「やむを得ない」という文言が使われております。それと同じ意味とは言いませんけれども、一つの参考として考えると、挙げられた事例については、やむを得ないとは言えないのではないかという気がいたします。

○四宮委員 ですから、A案とB案とでは違ってきますよね。

○井上座長 ??井委員のお考えですと、「証拠調べの結果に照らし相当な理由がある場合」の方でカバーできるかどうかという問題になる……。

○四宮委員 例えば、家に帰ってみたら家族が死んでいた。病死だと思ったんだけれども、そんな弁解は誰も信用してくれないと思ったので、準備手続段階では、殺人ということで通したけれども、後で公判で気が変わって、実はそれは病死だったんですと言い出したという場合はどうなるんですか。

○井上座長 気が変わるのですか。やっていないんだったら、やっていないと主張すべきなんじゃないですか。

○四宮委員 気が変わって、私が帰ったらもう死んでいたので、私が殺したのではありません、ということを公判になってから主張したという場合ですね。この場合は、やむを得ない事由によってすることができなかった場合に当たるかどうかですね。

○井上座長 それと、先ほどの狂言の場合と、どこが違いますかね。

○四宮委員 主張制限の例外に当たるのは、難しいわけですね。多分救われない。

○井上座長 どちらの設例でも、被告人が真犯人ではないというか、犯罪を犯していないという前提でおっしゃっているわけですね。

○四宮委員 そうです。つまり、A案によると、そういう主張が、公判段階で許されるのかということを知りたいわけです。

○井上座長 どうでしょうか。

○辻参事官 A案のとおりであれば、基本的には許されないと思います。

○井上座長 「やむを得ない」というところでは許されないということですね。

○四宮委員 基本的には、身代わりになってもだめなんですか。例えば、捜査ではこういうこともあり得るわけです。取調べがずっと続き、長い時間、長い日数続いて、なかなか想像しにくいことですけれども、被疑者の中には、本当に自分がやったかもしれないと思い込む人がいるんですね。それで、最初は、自分が犯人のはずはないと思っていたけれども、10日、20日と連日取調べを受けるうちに、ひょっとしたら、自分がやったかもしれないと思い込んで、自白をした結果、起訴されて、準備手続段階ではそのままで、公判に行ってから、いろいろな情報が入ってきて、ああ、そういえばやってないと。その日はどこか別にいたはずだということが分かって、私、やってません、と主張する、あるいはアリバイを主張する。

○井上座長 弁護人が早い段階で選任されて、被告人と接見をしていても、被告人は弁護人にもそういうことを言わなかった、ということが前提ですよね。

○四宮委員 両方あり得るんじゃないですか。これからの制度はもちろん公的弁護ですから。

○井上座長 しかし、被告人が弁護人に言っていれば、そこで争点になるわけでしょう。

○四宮委員 言っていればですね。

○井上座長 あくまで、弁護人にも言ってないという場合を念頭に置かれているということですね。

○四宮委員 そういうことです。それはやむを得ない場合に当たるんですか。

○井上座長 本人もそういう認識がなかったということでしょうか。

○四宮委員 そう思い込んだということです。

○井上座長 思い込んでいるかどうかというのはどうやって分かるんですか。

○四宮委員 それは後で弁護人に、いや、実はそう思い込んでいましたと。

○井上座長 本人がそう言っているということですね。いろんな場合があり得ると思うのですが、本人がとにかくそう言っているという場合に、やむを得ない場合に当たると言えるかどうかと、そういうことですね。

○??井委員 たたき台では、制度ですから、分けて書いてあるんだけれども、実際は主張だけしてということはあり得ないわけですよね。新しい主張をすれば、必ずそれに見合う立証を伴っているわけで、多分実務の世界では主張と立証は一緒になって出てきていると思うんですね。ですから、その主張に相当な理由があるかどうかとか、そういうことは基本的には分かると思うんです。

○四宮委員 それは次の(3)のA案と結び付けば出せないわけでしょう。

○??井委員 A案だとイがあるから、裁判所が、これは本当かもしれないなと思えば職権で証拠調べをできるわけですよね。だけど、例えば四宮委員がおっしゃったような例で、自分が犯人ではないと主張するにしても、自分が殺したと信じ込んでいたんです、と言うけれども証拠といったら何も出てきてないというよりも、むしろアリバイがあるんですといった主張とつながらないと、意味のない主張ですよね。
 そうすると、ポイントは、アリバイがあるかどうかということについて、合理的な理由があると判断されるかどうかということだと私は思うんです。そこで判断していけば、最終的には、それは的確な振り分けはできると思うのです。

○四宮委員 私が何でこんなことを伺ったかというと、確かに、準備手続を効率的、実効的なものにするというためにA案的な発想が出てくるのは理解できることなんですね。だけど、それでは、さっき清原委員が固過ぎるとおっしゃいましたけど、余りにも固過ぎる。準備手続をがちがちなものにしてしまい、真実発見を阻害することになる場合もあるのではないかということを懸念するんです。
 さっき私がお尋ねしたケースは、全部実際にあったケースで、後で無罪になっているケースなんです。もし、そういった主張そのものができない、あるいは立証制限の問題はまた後で議論されると思いますけれども、そういうことになると、そういった場合は救えなくなってくる。私は、被告人は全部後出し結構です、何をやってもいいんですということを言いたいのではなくて、そんなことをしたら、新しい準備手続制度そのものが無意味になるわけですから。ただ、さっきからずっと出ていますように、主張制限といった最後の段階で非常に強い効果を与えるのではなくて、最初の段階で、主張することがあったら、ちゃんと言ってくださいということは義務付けるというか、協力をするということをはっきりさせる。しかし、最後の段階の効果を余り固過ぎるものにすると、真実発見を妨げるおそれがあるのではないかというふうに思います。
 また、民事でも同じような規定がありますけれども、これはちょうど(3)のB案のように、相手方がなぜこんな後から出してきたのだという説明を求めることができるという制度にとどまっているわけですね。そういうことも考えると、ここはB案というふうにしておいた方がいいのではないかと思います。

○井上座長 ??井委員は、そこは固いものではないのではないかという受け止め方なんだろうと思うのです。ところが、そこは固いのではないかという受け止め方の方もおられる。そういうことかなと思うのですが。事務局の方で何か言いたいことはありますか。

○辻参事官 先ほどの思い込んだという例は、やはり事実認定の問題がどうしても絡んでいるので、それが本当なのかどうかという問題と、本当だとして、やむを得ない事由によってすることができなかったと言えるのかどうかという二つの問題があるのかなという気がいたします。

○井上座長 個別具体的な事件がどうであったかという点については、立場によって見方が違い得るので、個別の事件のことは別として、そういうものが仮にあったとしてという御意見であると受けとめさせていただこうと思います。
 話が(3)の方に入りつつありますので、この辺で(3)の方に移りたいと思います。これは(2)とも当然連動している部分もあるのですけれども、証拠調べ請求についての制限の問題です。A案、B案、C案の3案があって、A案とB案の方は一定の制限をかけるという点で共通していますが、そのうちA案は直截に新たな証拠調べ請求を制限するというもので、B案の方は、やや間接的な形になっています。一方、C案は、制限を一切設けないというものです。
 4(1)イの論点との関係をも考慮に入れつつ、必要に応じて、それにも言及しながら、御意見を伺いたいと思います。

○??井委員 私はA案でいいのではないかと思います。いわゆる公判における不意打ちというのが、従来は時々、検察官からも使われるし、弁護人からも使われて、それなりに効果を発揮する場合があるわけです。私個人は不意打ち戦法は嫌いじゃないんですけれども、裁判員制度の制度設計をする場合はあまり不意打ちを前提としたような制度設計はよくないのではないかなというふうに思います。そういう意味では、A案を採用して、公判になっていきなり証拠調べ請求するというようなことを検察官がやるということはやはりよくないと思いますし、弁護人がやるのもよくないのかもしれませんけれども、とにかく、そういう不意打ちを基本的にやってはいけないということにする。と同時に、公判段階ではじめて証拠調べ請求することがどうしても必要な場合はあり得るわけですから、裁判所が職権で判断して、証拠調べができるということにしてあれば、真実をなおざりにした判決に至るということにはならないというふうに思いますので、A案がいいのであろうというふうに思います。

○本田委員 私もA案が相当だと考えます。先ほど主張制限のところについては、検討の余地があると言ったのですけれども、少なくとも立証制限はきちんと設けておかないと、争点整理はほとんど意味をなさないということになります。立証制限を設けないとすると、後でどんどん証拠を出せば何でもできるということになってしまうんです。つまり、そういうことを許すとなると、検察官も当然反証を出さなければいけないので、途中でその都度審理は中断されることになって、当初の審理計画も立たなくなってしまうわけですね。特に裁判員が審理に加わる事件では、立証制限をもうけないということになってしまうと、裁判員制度そのものが成り立たなくなってしまう。先ほど??井委員からお話がありましたけれども、やむを得ない事由によって請求することができなかった場合は請求することはできますし、それに加えて職権の証拠調べということまできちんと担保としてとってあるということで、この程度の立証制限というのは、証拠開示との関係とも絡むのですけれども、絶対必要な制度だろうというふうに考えています。

○四宮委員 私はこういったものの必要性というのは理解できますし、原則として準備手続で請求しておくと定めるということは意義のあることだと思います。ただ、先ほどと同じ理由で、あまり固過ぎるものにはしない方がいいというのが私の考えです。B案も、さっきちょっと触れた民訴法的な制度ということで考慮に値するのですけれども、例えば準備手続で証拠調べ請求しなかったことに相当な理由があるとは言えないという場合でも、立証を制限してしまうのは、真実発見との関係では疑問がある場合がないではないと思うのです。つまり、そういう場合はB案では救えないということになるわけですね。
 他方、C案としても、裁判所が本当に無用、あるいは極めて不誠実であるなどと考える場合には証拠調べ請求を却下することもできるのだろうと思います。そうだとすると、準備手続の充実ということをもちろん前提にした上ですけれども、C案ということでいいのではないかと思います。

○井上座長 C案を前提にしても、証拠調べ請求が不誠実、あるいは濫用に当たる場合には却下できるだろうということですか。

○四宮委員 はい。

○井上座長 B案は、裁判所による職権証拠調べの余地を否定しているものなのでしょうか。

○辻参事官 職権証拠調べということ以前に、証拠調べ請求を却下することができるということですので、証拠調べが必要であるならば却下しなくてもいいのではないかと思います。

○井上座長 相当な理由がないと認めるときは、請求を却下しなければならないということにはしていないので、そこには裁判所の裁量の余地があるということですか。

○辻参事官 はい。

○池田委員 私もA案にはちょっとかたすぎないかという問題があると思います。もちろん後で意図的に証拠を後出しするというようなことは好ましくないわけで、そういう意味では、A案のように固くする必要があるという意見も分からないわけではないんです。しかし、その場合には、予備的な主張とか請求などいろんなものが出されてこないかというような懸念もあります。

○井上座長 準備手続においてですか。

○池田委員 そうです。そういうことで、B案のように、準備手続において証拠調べ請求しなかった理由についての説明義務を課すということで、十分準備手続の目的は達するのではないかと思うのです。C案のように全く効果を設けないというのはちょっとどうかなと思いますが、B案程度のものならいいのではないかと思います。

○大出委員 私は何も意見を申し上げてないのですが、いろいろとお話を伺ってもそうなんですが、必ずしも今の段階で絶対こうだという確信めいたものを申し上げることができないということがあって発言しなかったのです。その理由というのは、準備手続についてのイメージが、この間いろいろと議論させていただいて、少し想定していたものと崩れているかなという感じがして、今いろいろとお話出ましたように、A案というのは少し固いというふうに私も思いますし、ただ、??井委員がおっしゃったように、実質的には、(2)のところでも、A案というのもそんなに大したものではないという御主張もあるわけですけれども、どうも今の段階では、結論的に言えば、(2)ではB案、(3)であればC案を採らざるを得ないかなという感じがしています。ただ、いろいろとそこは考慮の余地があるのかなという感じもするのですが、いずれにせよ、今の段階では、被告人、さっきこれは土屋委員がおっしゃったことと近いかもしれませんが、被告人に足かせをかけるということで生じてくる事態だけは避けておいた方がいいかなというような感じが今の段階ではしますので、結論だけみたいなことになりますが、とりあえず私は(2)ではB案、(3)ではC案というようなことにせざるを得ないのかなというふうには思っています。

○井上座長 我々に残された時間はあまりないのですよ。ですから、この段階では、といったことをおっしゃらないで……。

○大出委員 準備手続との関係があるものですから。

○井上座長 はっきり御意見をいただいておかないと、最後まで「この段階では」ということを言われていたのでは、委員の不本意な結果になってしまうかもしれませんので、よくお考えください。

○大出委員 はい。

○酒巻委員 先ほど、四宮委員が、C案でも、何ておっしゃいましたか、不合理な証拠調べ請求の場合に……。

○井上座長 先ほど池田委員がおっしゃったような信義則違反とか権利濫用に当たる場合には証拠調べ請求を却下できるのではないかということだったと思いますが。

○酒巻委員 本当に理屈の問題だけなんですが、何の請求義務もない場合に、準備手続終了後の証拠調べ請求について、その中身がおよそ不必要で信用できないとか、不誠実な権利行使であるということで却下されるというのは分かるのですが、後から証拠調べ請求されたことから即それが不合理・不誠実だというふうに何で言えるのか、疑問があります。

○井上座長 四宮委員が言っておられるのも、準備手続でその義務があるということを前提にしているのではないでしょうか。その段階で明らかにしないでおいて、後で濫用的に出してきた場合には、却下できるのではないかという御意見じゃないのですか。そういうふうに受け取ったのですが、それでよろしいですか。

○酒巻委員 そうであれば、分かりました。

○平良木委員 このA案とB案というのは、実際に運用するとほとんど結論的に変わらなくなってくるだろうという気がするのですけれども、ただ、控訴に関する現行法を見ますと、「やむを得ない事由」という文言を使って制限している規定があって、そことの平仄を合わせるという意味ではA案でもいいのかなというように思うんですけれども。

○井上座長 違わないというのは、A案でもB案でも、結論として、証拠調べをする場合はするのであって、それを職権でするのか、弁護側の請求によって、その請求を却下しないという形でするのか、という形式上の違いがあるだけだということですか。

○平良木委員 そうですね。だから運用としてはほとんど、何も変わらないことになるのだろうと思うんですね。ですから、どういう表現するのが一番いいのかということになるだろうと思うんですね。その意味で言うと、A案は固過ぎるという意見も出ていますけれども、控訴審でも類似の文言を使っている。準備手続と公判は審級の違いじゃないですけれども、準備手続の重要性というのを考えると、A案でもいいのかなと思います。

○本田委員 四宮委員に若干質問したいのですが、権利濫用、あるいは信義則に反すると認められる場合には、証拠調べ請求は却下していいとおっしゃるわけですね。

○四宮委員 著しく不誠実な場合等にですね。

○本田委員 そうするとB案と、今、四宮委員がおっしゃったところの違いはどこにあるんですか。

○四宮委員 そこはちょっと難しいんです。

○井上座長 違いは、法律に書くか、書かないかなんでしょうね。

○四宮委員 それと説明義務が出るかどうかですね。

○井上座長 でも、何で言わなかったのかと聴くのでしょうね。

○四宮委員 それは聴くでしょうけれども、釈明としてはもちろん聴くと思いますけれども。

○本田委員 それで説明しなければ却下するでしょう。

○井上座長 そこは、説明義務があるということを法律に書くという選択肢と、一般則でいくので書かないという選択肢があり得るということなんでしょう。刑事訴訟規則には、先ほど池田委員から御指摘があったように、一般則を明記しているのですけれども、それの解釈でいけばよいということですね。

○四宮委員 そうですね。

○本田委員 もう一点、質問をよろしいでしょうか。これは前回の議論とも絡むのですけれども、4(1)アの主張明示義務のところで弁護人だけに義務を負わせるという説をとられて、同じくイの証拠調べ請求義務のところも弁護人だけという説をとられた方が、ここでB案ということになると、結局これは証拠調べ請求を被告人に義務付けているというふうになるのではないかなという気がするんですけれども。
 恐らくきちんとした制度にするためには、やはり主張明示義務も証拠調べ請求義務もこれは被告人にかけないと、要はここでしり抜けにしてしまったのでは、準備手続はほとんど無意味になってしまい、準備手続を何のためにやるのだと、争点整理は何のためにやるのだということになってしまうと思うんですね。特に、前回言い忘れたのですけれども、主張明示義務を被告人にかけずに、弁護人にだけかけるとすると、公判段階になって、被告人がその弁護人を解任してしまったような場合は一体どうなるのか、新たな主張が全部できるのかというような問題があって、そこも含めて、被告人に義務をかけないという考え方にはちょっと疑問があるのです。

○井上座長 御質問の要点は、準備手続段階で、被告人については主張明示や証拠調べ請求の義務をかけるべきではないという説に立ちながら、ここのところで被告人に少なくとも立証制限はかけるということは、理屈として成り立つのかということと、被告人に効果が及ばないとすると、例えば途中で弁護人が変わったり、解任された場合に、後からどんどん新しい争点とか証拠調べ請求を出せることになってしまうのではないかということの2つですね。

○本田委員 そうです。

○井上座長 準備手続で被告人には主張明示や証拠調べ請求の義務をかけないとおっしゃった方に対する質問だと思うのですが、その点はいかがお考えですか。

○池田委員 前回、4(1)でB案でいいと言ったわけですけど、それと8(3)は、直接論理的につながるということではないのではないか。要するに、証拠調べ請求をする人は、当然証拠調べの必要性等について、請求者として、それを述べなければ採用されないわけですよね。そういう請求者としての本質的な義務というような形で説明義務を課すというのは十分可能なのではないかと思います。

○本田委員 ここで問題にしているのは、被告人に準備手続における証拠調べ請求義務を認めないことと立証制限をかけるということとがつじつまが合うのかなということです。

○井上座長 被告人について考えた場合、A案を採ればもっと直接的ですが、B案を採った場合も、被告人が、準備手続で請求しなかった理由を説明をして、相当な理由があるものと認めてもらえなければ新しい証拠請求はできないということになりますが、それは、結局、被告人には、準備手続で請求する義務があるとは明示的に書いてはないけれども、その義務があるということになるのではないのですか。

○池田委員 結論的には、似たようになるとは思うのですけれども、論理的には準備手続における請求義務があるからだと言わなくても、B案の説明は可能ではないか。

○井上座長 準備手続段階で請求する義務がない場合に、準備手続で請求しなかったのだから公判段階では請求できないんだ、というふうに言えるかどうかですよね。公判段階だけをとってみれば、請求が遅れても別に何でもないということになる。今の制度と同じだというふうに考えれば、検察官の立証が終わって、後で弁護人側の反証の段階に移ったときに、証拠調べ請求が出てきたとしても、そこだけとってみれば、時機に後れていないわけですね。公判前に請求しなければならないという義務を前提にするからこそ、公判の段階になってから請求するのは問題だということが言えるのではないかという感じがするのですけれども。

○池田委員 現在の訴訟でも、かなり手続が進んだ段階で証拠調べ請求が出てくれば、説明させるわけですね。証拠調べの請求者としては、その証拠請求が認められるように、相手を納得させなければいけないわけですから、そういう説明をしなければならないという義務はいつでもついてくるわけですね。そういう事実として手続が進んできたことを前提として、証拠調べ請求をこの段階でやるならば、当然それまでの段階で請求しなかったことの説明をしないといけないわけです。B案についても、そういう説明は可能なのではないでしょうか。

○井上座長 公判の段階で、被告人側の反証段階の冒頭のところで請求せずに、かなり後になってから請求してきたという場合には、説明を求めているということなのですけれども、今、想定しているのは、弁護人については、準備手続段階で請求しなかったものについて、なぜ公判になってから請求するのか説明を求めることになるということです。被告人についても同じことになるのですけれども、被告人には準備手続で請求する義務はなく、弁護人の請求に拘束されないという構成をとった場合には、被告人としては、準備手続段階で別に請求しなくてもいいわけですよね。そうなのに、被告人についても、あなたは準備手続で証拠調べを請求しなかったのはどうしてなのか、と正当な理由を説明できない限りそんな請求は認めないと言えるのか、ということだと思うのですね。そこの説明をどうするのか。確かに、実態としては、準備手続では請求しなかったのに、何でいきなり公判で請求するのか、と聴くことにはなるかもしれませんですけど、問題は、そういうことを被告人はどうして説明しなければならないのか、ということだろうと思うのですよ。

○池田委員 その点については、被告人には証拠調べ請求する立場からして義務があるのだという説明は可能なのではないかと思うんですけれども。

○井上座長 争点整理での弁護人の請求の法的効果が被告人にも一体として及んでいれば、そういう説明義務みたいなものも導き出せるような気はするのですけれども。ほかの方は、いかがですか。

○平良木委員 確かに先ほど言われたように、いろんな理由で当初は主張してないが、後で主張をしようというときに、恐らくそれは事実上、裁判所は、なぜ、今ごろ主張するのだということを必ず聴くと思うんですね。そこのところは法的な義務があるのかどうかということとは別問題として、やっぱり訴訟の中でそういう質問の仕方はするんじゃないですか。

○井上座長 法的な義務がなければ、答えなくてもいいわけでしょう。

○平良木委員 もちろんそうですけれども、必ず聴くと思いますよ。それで、黙っていた場合に、そのまま証拠調べを認めるという人は、恐らくあまりいない。

○井上座長 問題は、被告人が答えなかった場合に、被告人の証拠調べ請求を却下することが本当にできるのかということですよね。

○平良木委員 証拠調べを却下するかどうかというのは、理由があるかどうかと、もう一つは、必要性の判断が入ってきますよ。ですから、その段階で、全体の流れを見て、結論の見通しとの兼ね合いでこれは立ちそうもないということになったら、却下するんじゃないですか。

○本田委員 被告人に、今ごろ、何で、あなたは証拠調べ請求するのだということを説明しろと言ったって、前に請求する義務がなければ、説明しなくていいわけですね。準備手続段階で義務がないのに、説明しなかったからといって、証拠調べ請求を却下できるか、という問題ですよね。さっき言われたように、新たな主張が出てきて、これはどうも本当らしいといったときには、例えば、今のA案でも、職権の証拠調べとかが、真実発見のための担保制度としてあるわけですね。それはそれでいいんですけど、その前提として、主張明示とか証拠調べ請求義務というようなものをかけないで、公判段階での制限というものをきちんと説明することができるのか。

○井上座長 いずれの案であっても、証拠調べの必要性がなければもちろん却下できることには違いはない。しかし、個々での問題を必要性の要件の判断にすべて解消しきれるのかが問題だと思うのですね。

○平良木委員 そうですね。

○辻参事官 今のお話は、恐らく、公判前に被告人に証拠調べ請求義務がないとして、被告人が、公判のそれこそ冒頭で証拠調べ請求を多数してきた場合に、その請求について、なぜ、準備手続で請求しなかったんだと聴かれて、被告人として、準備手続で請求する義務がなかったからです、という返答した場合に、それに対して相当な理由がないという評価、遅いという評価ができるのかという問題なんだと思うのですが。

○酒巻委員 今、辻参事官が整理されたとおりの問題だとすれば、やはり私は本田委員がおっしゃっているように、請求義務がないと、論理的には、証拠調べ請求を却下できる理由にならないと思います。

○平良木委員 ただ、その後で、いろんな事情が公判の中で出てきたときに、これは取り上げなければいけない場合というのはあり得るのでしょうね。

○井上座長 それは、A案やB案でカバーできているかどうか、できていないものがあった場合に、A案やB案ではおかしいのではないかという話に恐らくなるのだと思うのですね。それと、主張と証拠調べ請求を準備手続できちんとやってもらうことをどうやって担保すればよいのか、そういうことと一体の問題だろうと思うのですけれども。

○四宮委員 本田委員がいつも挙げられるのは大変、何といいますか、極端とまでは言いませんけれども、非常に例外的な場合で議論されているように思います。例えば解任の場合ですけれども、この場合は、義務をかぶせるかどうかとは別に、手続はそのまま進められない状態になっていると思うんですね。解任してしまうと、弁護人がいない状態になるわけですから。特に裁判員裁判の場合には、例えば、公判は停止なのか中断なのか、私ちょっと分かりませんけれども、準備手続を再開するということもあり得るのではないかと思うんです。そういうことも制度設計の場合には考えておいた方がいいのではないかと思います。

○本田委員 準備手続を再開するのはいいですよ。ただ、また解任したら、ずっと準備手続を続けるんですか。

○四宮委員 再開しなければならないと言っているのではないんです。どう考えても、もう一回争点整理をし直さなければ、スムーズな公判運営ができないという場合には、再開するということです。そして、それは裁判官が判断することですから、何も再開する制度を設けたからといって、ぐるぐる回るという意味ではないです。準備手続を再開するという場合も必要ではないでしょうかということです。

○本田委員 準備手続の再開を繰り返すということは当然考えられる事態であって、被告人に主張明示義務などをかけておかなくて、弁護人を解任した上で、法廷で被告人が新たな主張をどんどんし出したときに、止められるんですか。

○四宮委員 訴訟指揮の問題になるんじゃないですか。

○井上座長 実際上、そういう場合にどう対応するかということですね。
 さきほどから議論している問題は、要するに、準備手続の段階で弁護人だけに義務をかけて、それが被告人には法的効果を及ぼさないとなった場合に、被告人が自らの判断で公判廷で主張し、証拠請求をするということに対して、それを制限できないことになるのではないか。時機に後れたとか、権利濫用だという理由は立たないのではないか、という問題提起なのです。
 問題点を端的に言いますと、弁護人の場合は義務付けがあるので、制限できるのかもしれないのですけれども、被告人には何ら義務はないのですから、公判になってから主張や請求をするのも不当なことではないはずだと言われた場合に、どうするのか、ということだと思うんですね。

○平良木委員 ちょっと質問よろしいですか。

○井上座長 どうぞ。

○平良木委員 ここで準備手続を終えて双方の主張を固めた場合に、公判が開始された後に、そこはどういう影響を持つんですか。

○井上座長 準備手続で証拠請求をしますね。それで証拠決定をし、それを基に審理計画を立て、その計画に従って公判を勧めていくわけです。その場合に何もなければ、そのまま進むということになるのだけれども、新たな争点が証拠調べの中から浮かび上がってきたり、これは準備手続の段階では請求することができなかったということが分かったような場合は、それについても証拠調べをするというのがA案ですね。
 B案はもうちょっと中間的な案で、被告人側に遅れた理由を説明してもらうということにする。その説明がもっともだ、あるいは必要があると思った場合には請求を認めて、新たな証拠調べをするということです。
 C案の方でいくと、制限は設けないということになる。設けないということは、四宮委員の言われるような一般則による制限はあるのかもしれないですけれども、準備手続段階で請求する義務がない以上、一般則による制限も発動できるかどうかという問題があるということでしょう。
 そういった違いが出てくるということじゃないですか。

○平良木委員 前回、主張は、例えば、被告人に関して言うと、準備手続でしなかった事項について、第1回公判期日が始まった段階で、また主張ができるということは言われましたですよね。

○辻参事官 それは、主張制限をかけない場合、たたき台で言いますと、準備手続終了後の主張について、B案をとれば、そうなるということを申し上げました。
 その場合であっても、主張明示義務だけはかけるということもあり得るのではないかということを申し上げたということでございます。

○平良木委員 分かりました。

○井上座長 よろしいですか。まだまだ議論を続けないといけないところかもしれませんが、時間もかなり押してきましたので、項目8について、これまで裁判員制度を念頭に置いて主に議論してきたわけですけれども、裁判員制度以外の事件についてはどうであろうかという点について、御意見があればお伺いしたいと思います。基本的には同じということでよろしいですか。
 まだ、たたき台の項目9が残っていますが、今日はこのくらいで打切りにさせていただきたいと思います。
 もう一点だけ御意見をうかがいたいのですが、それは、9月以降のこの検討会の進め方でして、まず9月以降の日程について、事務局から説明していただきたいと思います。

○辻参事官 9月以降の日程につきましては、お手元の配布資料1のとおりとさせていただきたいと思っております。日程の調整につきましては、御無理をお願いしたところもございますし、必ずしも御希望にお応えできなかったところもございましたが、御容赦いただければ幸いでございます。また、御覧のとおり、非常に過密な日程となっておりますが、よろしくお願いいたします。

○井上座長 これは非常に苦心の作でありまして、必ずしも全員の方の御要望に沿えなかったと聞いておりますが、この日程でお願いできればと思います。といいますのは、御承知のように、我々の検討事項については、来年の通常国会に法案を提出することが目標として設定されていますので、それを考えますと、このくらいの日程を組まないと、最低限、実質的な検討をしたと責任を持って言えるだけの検討をしたことにはならないのではないかと思われるわけです。
 日程については、更にプラスアルファがあるかもしれませんが、とりあえずこれでやらせていただいてよろしいでしょうか。
 それでは、その日程を前提として、今後の議論の進め方について御相談したいのですが、法案の提出予定時期である来年の通常国会が迫っており、法律案の立案の責任を制度上負っている推進本部の事務局に、今後の作業スケジュールについてどうお考えか一応伺った上で、議論したいと思います。いかがですか。

○辻参事官 事務局として考えておりますところを御説明させていただきます。
 来年の通常国会に法案を提出する予定となっておりますので、そこからの逆算ということになります。事務局といたしましては、年内には新たな制度の基本的な在り方について顧問会議にお諮りし、条文案の作成作業等を進めていく必要があるのではないかと考えております。そのような日程を踏まえまして、それに間に合うように新たな制度の骨格案といった感じのものを作成したいと考えているところであります。
 このような当事務局の作業予定を踏まえまして考えますと、本検討会におきまして、これまで各テーマごとにたたき台に沿ってひとわたりの議論をしていただいたところでありますが、御意見が分かれた論点もありましたところですので、意見が分かれた論点を中心に今後更に議論を深めていただければと考えております。
 そして、具体的な時期につきましては、今の段階では確定的に申し上げることはできませんが、そのような、いわばおさらい的な御議論をも踏まえまして、事務局の方で、先ほど申し上げたような新たな制度の骨格案のようなものを作成して、それをこの検討会にもお示しして、御議論いただきたいと考えております。
 以上です。

○井上座長 ありがとうございました。今、説明をしていただきました事務局の作業予定を踏まえまして、座長として提案をさせていただきたいと思います。
 今の説明にありましたように、これまでたたき台に沿って各テーマごとにひとわたり2ラウンド目の議論を行ってきたところですが、意見がかなり分かれたところも少なくありませんので、これらの点については、更に議論を行う必要があるのではないかと思われます。
 そこで9月には、第2ラウンドで用いたたたき台を素材にして、これまでの議論で意見が大きく分かれた論点を中心に、おさらい的に、集中的に議論を行っていただくのが適当なのではないかと考えます。
 目安としては、9月中におさらいの議論を終えるくらいにしませんと、事務局の方の作業が困難になるだろうと思われますので、それくらいのお覚悟で臨んでいただくよう、お願いしたいと思います。
 具体的には、そういう考えもあって御無理をお願いしたのですけれども、9月の11日と12日は、一日半にわたる集中審議ということになりますので、最も検討すべき事項が多い裁判員制度関係のおさらいの議論を集中的に行うということにさせていただければと思います。そして、9月22日と25日の2回で刑事裁判の充実・迅速化及び検察審査会関係のおさらいの議論を行うということにさせていただけないかと考えております。
 ただ、今後の議論の進みぐあいにもよりますので、今申し上げたのも一応の予定というくらいのことにせざるを得ないかなというふうに考えております。
 その9月の後どうするかというのは、9月中のことも一応の予定だということですので、今の段階で確定的にこうしようと決めることはちょっとできないだろうと思います。ただ、具体的な時期は別として、そういう我々のおさらい的な議論も踏まえて、辻参事官の方から話のあったような骨格案のようなものを事務局の方で作っていただき、それについて、さらに我々として検討をするというステップでいくのが建設的かと思いますが、とりあえず9月はそうさせていただけないかと思います。その先については、9月の議論の状況も見ながら改めてまた御相談するということにして、ただ、大きな目標としては今申したような方向で進めていくということにさせていただけないかと思うのですが、いかがでしょうか。

○四宮委員 9月に骨格案が示され、9月の議論を踏まえて10月に言わば第2次の骨格案が示されるという理解でよろしいんですか。

○井上座長 そうではなく、9月はまだ第2ラウンドですので、第2ラウンドで使ったたたき台をもとに、おさらいの議論をするということを考えております。

○四宮委員 今いただいているたたき台を前提にしてということですか。

○井上座長 そうです。たたき台をめぐっていろいろ意見が分かれたわけですよね。そこの点について、もっと突っ込んで議論をしないと、今のままで骨格案を作れと言われても、恐らく作れないんじゃないかと思うのですね。従って、9月は第2ラウンドのおさらいということなのですけれども、よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございます。当面の予定としては、したがって、9月11日、12日は裁判員制度についての集中の議論、22日と25日で刑事裁判の充実・迅速化と検察審査会制度に関する議論ということにさせていただきます。
 今日は事務連絡はないということですので、これで本日の議事を終了したいと思います。次回は7月18日の午後2時からですので、よろしくお願いします。