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裁判員制度・刑事検討会(第22回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年7月18日(金)14:00~17:20

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員) 池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、本田守弘(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について

5 配布資料
資料1裁判員制度及び検察審査会制度についての意見募集の結果概要
資料2刑事裁判の充実・迅速化について(その2)

6 議事

○井上座長 所定の時刻ですので、第22回の裁判員制度・刑事検討会を開会させていただきます。
 御多忙の折、御参集いただきましてありがとうございます。
 最初に、御承知のとおり、事務局の方で、裁判員制度等のたたき台について、広く国民一般を対象にして意見募集を行ってきたところですけれども、その結果について、御報告があるそうです。お願いします。

○辻参事官 それでは、先日、事務局において行いました意見募集の最終的な取りまとめ結果について御報告いたします。お手元にお配りしております資料1が、意見募集の結果についての資料でございます。
 裁判員制度及び検察審査会制度についての意見募集を行ったわけですが、それぞれについてのたたき台を作成、公表いたしましたことを機会に、去る4月1日から5月31日までの間、司法制度改革推進本部のホームページ、新聞、法律雑誌及び政府広報誌等を通じて募集をいたしました。当検討会での検討事項に関する意見募集としましては、昨年8月から10月にかけて実施いたしましたものに次いで二度目となります。
 その結果、国民の皆様から多数の御意見が寄せられ、総数は郵便、電子メールを合わせまして842件に達しました。お手元の資料は、寄せられた御意見を個人・団体の別及び意見の内容に従って整理したものであります。なお、意見内容を引用するに当たっては、裁判員制度・刑事検討会における検討事項に関連する部分を引用し、誤字と思われる字は適宜修正しております。また、意見内容の整理に当たりましては、内容が同一であると認められるものを「(同文○通)」という形で示しております。
 次に、寄せられた御意見の内容について簡単に御紹介させていただきます。
 配布いたしました資料は3部構成になっておりまして、第1部が個人から寄せられた御意見、第2部が各種の団体から寄せられた御意見、第3部が団体において、個人の御意見を取りまとめた上でお寄せいただいた御意見となっております。
 まず、第1部の個人からいただいた御意見から紹介いたします。
 1の裁判員制度についての意見でありますが、(1)が裁判員制度の各論点に関する意見であります。1ページ以下には、専ら一つの論点についての意見を論点ごとに整理して順次記載しております。
 この中では、3ページ以下にありますとおり、特に裁判員を無作為で抽出することや裁判員の辞退事由を制限的にすることなど、裁判員の選任方法に関する意見が多く寄せられているところであります。
 次に、15ページ以下には複数の論点にわたる御意見を記載しておりますが、たたき台においてお示しした各論点を中心に様々な御意見をいただいております。例えば、裁判官と裁判員の人数については、裁判官を3人、裁判員を2ないし3人とするA案を適当とする御意見がある一方で、裁判官を1ないし2人、裁判員を9ないし11人とするB案を適当とする御意見も寄せられております。そのほかにも、評決、対象事件、裁判員の要件など、たたき台で複数の案が示されている論点について、それぞれの案を支持する御意見をいただいているところであります。
 また、複数案併記の形をとっていない論点につきましても、それぞれ、たたき台の案に賛成する意見、異論があるという御意見がございます。
 続いて(2)は、裁判員制度の導入に賛意・期待を示す意見でありまして、90ページから103ページの間に記載しておりますが、「裁判員制度を導入して、一般の人でも分かる司法制度にしたい」「司法はもっと一般人の意見を聴くべきだと思う」などの御意見が寄せられております。
 (3)は、裁判員制度の導入に反対し、あるいは懸念を示す意見でありまして、103から141ページの間に記載しておりますが、「自分の生活を犠牲にしてまで裁判員をする人がいるのだろうか」「素人に当事者の人生を大きく左右する判決をゆだねることには問題がある」などの意見が寄せられているところであります。
 (4)は、裁判員制度の導入に当たり、慎重な検討・国民的論議を要請する意見でありまして、141から149ページまでの間に記載しておりますが、「もっと一般の人の意見を聴くべきだと思う」「慎重の上にも慎重に考えて決めてほしい」などの意見が寄せられております。
 (5)は、その他の意見でありまして、149から159ページであります。「国民への司法教育の充実が欠かせない」などの意見が寄せられております。
 第1部の2は、検察審査会制度についての意見でありまして、159から175ページまでであります。法的拘束力のある議決の要件、議決後の訴追及び公訴維持の在り方、リーガルアドバイザーの委嘱など、たたき台でお示しした各論点及びそれ以外の点に関して様々な意見が寄せられているところであります。
 次に、第2部でありますが、先ほど御紹介したように、団体からいただいた御意見でありまして、176ページに記載しておりますとおり、31の団体から御意見をいただいておりまして、その内容を176ページ以下、226ページまでに記載しております。
 最後が、第3部ですが、団体を通じて寄せられた様々な御意見でございます。
 以上、簡単でございますが、御報告とさせていただきます。
 なお、意見募集の取りまとめ結果につきましては、司法制度改革推進本部のホームページにも掲載する予定でございます。
 以上です。

○井上座長 ありがとうございました。たくさんの御意見をいただきまして有り難く思っております。また、それを整理して、こういう形にしていただくのは、大変な労力だったと思いますが、事務局の方々に感謝申し上げたいと思います。我々としても、こういうものをも踏まえて、今後さらに詰めた議論をしていきたいと思っております。
 今の説明につきまして、何か御質問あれば……。今日いきなり渡された直後ですので、質問しろと言われても無理かもしれませんので、またおいおいということでよろしいでしょうか。
 それでは、本論に入りたいと思います。本日はまず最初に、前回に引き続いて、たたき台(その1)に沿って、「刑事裁判の充実・迅速化」に関する2ラウンド目の議論を続けるということになっております。言うまでもないことですが、各項目については、とりあえず裁判員制度対象事件を前提としてまず議論していただいて、その上で、それぞれの節目節目において、それ以外の事件についてはどうかという形で議論させていただくということにしたいと思います。
 まず最初に、たたき台(その1)の項目のうち残されているのは9だけですが、その9の「開示された証拠の目的外使用の禁止等」という項目から始めたいと思います。この項目は、開示された証拠の使用や管理の在り方の問題です。まず、「(1) 目的外使用の禁止」について御意見を伺いたいと思います。どなたからでも、どうぞ。

○酒巻委員 「開示された証拠の目的外使用の禁止」の(1)について、まとめて、私の考えているところを述べるとともに、刑事罰の部分については、事務局に御質問したいところもありますので、よろしくお願いします。
 まず、現在、断片的に刑事訴訟法等に、一般的に裁判の記録や公判に出される証拠書類や資料についての使用制限規定はあるのですが、いずれにしろ、証拠開示で得られた証拠資料について、訴訟関係人が、それを公判の準備、審理の準備という目的外に使用することは、明文の禁止規定の有無を問わず、許されないのは当然のことであろうと思っております。
 そういう意味で、まず(1)のアという形で、開示された資料について、審理の準備以外の目的で使用してはならないという一般的な禁止規定を定めることは必要かつ妥当なことだと思います。そして、当該訴訟手続内でそれに違反する行為があったときに、裁判所がイの形で、過料という形で制裁ができることにするということも、その義務を裏付けるという意味で、適切妥当なものだと思います。
 問題は、3番目のウですが、先ほども言いましたとおり、今のところ、こういう一般の義務付け規定はない上に、ウは、禁止違反行為に刑罰をもって対処するという規定でございますので、この点についてはやはり慎重に考えなければいけない。にわか刑法学者になりますと(笑)、これは要するに、従来存在していない処罰規定を設けるということですから、なぜこのような行為を処罰するか、その当罰性や、そもそもこれを処罰することによって守ろうとしている保護法益は何かということを、刑罰法令をつくるときは当然考えなければならないわけです。この点につきましては、事務局に対しまして、まず、この目的外使用禁止違反の罪というものの保護法益というのはどういうふうに考えているのかというのをお聴きして考えたいと思います。
 また、確かに前回、前々回で議論されましたとおり、証拠開示によって、あらかじめ関係者に示される資料の範囲が現在よりもかなり広くなる可能性はある。しかし、今までも、同じ程度ではないかもしれませんけれど、証拠開示はなされていたが、これまでは処罰規定まではなかった。開示の範囲が一層広がるであろうということに伴って、処罰規定を設けるという趣旨だろうと思うのですけれども、事情は変化するとはいえ、今までなかった、新たな処罰規定を設けることの当罰性というか、それを裏付ける考え方を聞かせていただければと存じます。
 刑罰の妥当性については、それをお聴きした上で議論したいと思います。

○井上座長 当罰性や保護法益は、目的外使用をしてはならないのは当然だと言われたことの裏返しの事柄ではないのですか。

○酒巻委員 刑罰というのは、最後の手段と一般に言われているところで、同じような法益を守るにしても、必要やむを得ないときに使うのだというのが一般に言われているところでありまして、より具体的に守らなければならない、少なくともそういうサンクションを使うためには、はっきりした保護法益や処罰の必要性を前提に考えなければいけないという趣旨でお聴きしているわけでございます。

○井上座長 いかがですか。

○辻参事官 事務局で考えたところでございますが、まず保護法益ということですが、今も座長からも御指摘があった、それはアの禁止の目的といいますか趣旨とも当然重なることになるわけだとは思いますけれども、一つは、証拠開示には当然弊害が伴い得るということで、例えば、罪証隠滅であるとか、関係者の秘密やプライバシーの侵害といった問題が指摘されているところで、開示された証拠が審理の準備以外の目的で使用され、内容が明らかになっていくということになると、そういう弊害が恐らく拡大していくであろうと思われます。そこの部分を防止するということに、一つはあるかなと考えております。
 また、そのような弊害は、ひいては、刑事司法の適正な作用を妨げることになります。当然、審判への影響というのもありますし、更にさかのぼれば、そういうことが起こり得るということで、捜査への影響ということも考えられますから、そのようなことを防ぐということであります。
 当罰性の問題につきましては、これはまさに、このような刑罰を設けることが適当かどうかという問題でございましょうから、この検討会で御議論をいただければと思いますが、たたき台といたしましては、この検討会におけるこれまでの議論で、開示証拠のコピーが、例えば暴力団関係者に流出している事例などがあるという御指摘等もございましたので、そういう御指摘等から一つ考えられるものとして、刑罰を案として考えてみたということであります。

○酒巻委員 広い意味では、刑事司法過程の健全な作用を保護するとともに、そこに出てくる、場合によっては、個人のプライバシー、名誉、安全など、個人の権利・利益も保護法益になっているというふうに理解しました。そういう重要かつ比較的明白な保護すべき法益があるということであれば、基本的には刑罰を使うことも適切ではあろうと思っております。
 もちろん私が刑法学者であれば、このまま条文になるとは思いませんけれど、仮に条文になるとすれば、ウの文言について、果たして構成要件が明確かどうかということ、どういう行為が捕捉されるのか、入らないのかという議論はあり得ると思いますが、基本的な方向としては賛成でございます。

○井上座長 これ自体としては平明な文章のように見えるのですけれども。たたき台の趣旨としては、イの過料とウの刑罰は、重畳的に用いることも可能だということでしょうか。

○辻参事官 現在の刑事訴訟法等で証人の証言拒絶等に過料と刑罰が両方定められているというのと同じ趣旨です。もちろん、ここでの御議論、検討の結果で、過料だけ、刑罰だけ、あるいは両方とするなど、そこはいろいろ案としては考えられると思います。

○井上座長 分かりました。ほかの方はいかがでしょうか。

○四宮委員 いくつかあるのですが、一つは、名あて人が被告人と弁護人になっていますけれども、検察官はどうかということです。つまり、弁護人から開示を受けるということが、この間の検討の結果であるものですから、例えば弁護人から開示を受けたものをほかの事件の捜査に使うとか、そういうことも考えられているのかというのが一つと、写しのほかに内容を使用するということが規制の対象の行為になっているわけですけれども、これはどんな場合を想定しておられるのかという、2点について伺いたいと思います。

○辻参事官 検察官につきましては、当然国家公務員でございますので、国家公務員法上の守秘義務というものが当然ございますし、それに必ずしも当たらない場合であっても、知り得た証拠そのもの、あるいはその内容を職務上に必要なこと以外に使用するということは、職務上の義務違反として、現に禁じられていると思われます。この違反に対しては、守秘義務違反であれば、刑事罰則を含めた手当てがなされておりますし、それ以外でも懲戒処分の対象に当然なるというふうに考えております。

○四宮委員 例えば、A事件について弁護側から開示を受けた証拠を、B事件の捜査に使うということは、それに当たるわけですか。

○辻参事官 別事件に使うことが、職務上必要である限りは、現行法では少なくとも許されるということだと思います。
 それから、写しと区別された内容とは何かということでありますが、写しというのは、通常、現代であればコピーをそのままどこかで使うということでありますが、それと区別した「内容」と書きましたのは、例えば証拠の中身をインターネットで公開するとか、そういうことも当然あり得るでありましょうが、そういう行為は許されるべきではないのではないかということでございます。

○樋口委員 以前にも申し上げたのですけれど、証人威迫とか証拠の隠滅のおそれがあるような事案におきまして、この開示の方法とか謄写の制限等の措置が適切に行われる必要があるというような意見を申し上げたのですけれども、さらにこの目的外使用の禁止といった措置が大変重要であろうと、それを罰則によってその使用の適正を図るということが大変重要だと思っています。
 それで、既に今、保護法益はなんぞやといったお話のやりとりの中で出てきているのですけれども、捜査のことについて申しますと、捜査に協力した者の供述が世間に流れ出る、流布するといったようなことがあると、これは多くの方の認識を得られているところではありますけれども、供述者自身の協力が得難くなるというだけではございませんで、そういったことが知られますと、一般的に国民からの捜査への協力というのが難しくなるということですね。
 自分が提供した情報が本来の目的以外には利用されないという信頼を持つことというのは、安心して協力できるというための基本的な要件なわけですけど、特に、供述調書のような高度の個人情報を内容とするような文書については、この取扱いについては、特に罰則でもってこういった担保が必要なのだろうと思います。
 ちょっと付け足しなのですけれども、今、法益のところで、刑事司法の健全な作用を担保する、ないしはそれを妨げるような行為を禁じて、それを罰則で担保するのだということでございましたけれども、もうちょっと付言させていただきたいのですけれども、刑事司法の作用、制度というのは、究極的にはと申しますか、最終的には、社会の治安・安全の確保に資するものであるべきではないか。これは要するに、学説的にはどうなのかといったら、全く疎いものですから、とんちんかんなことを申し上げているのかもしれませんけれども、そうあるべきではないかと考えるわけですけれども、そういった観点から申しますと、あらゆる刑事司法手続の出発点に位置する犯罪捜査が有効に機能するということは大変重要なことだと思います。有効に機能させるための最も基本的で重要な要素というのは、こういった国民の協力をいかに確保するか、ないしはそれを担保するかということではないかという感じがいたします。この点につきまして、制度的にきちんと担保するものとして、目的外使用の禁止といったものが大変重要であると思います。非常に二度も三度も繰り返してくどいことを申しましたが、以上でございます。

○大出委員 今、いろいろとこの規定があった方がいいという御趣旨の御意見を伺っていますと、具体的には証人威迫とか、それから証拠隠滅、プライバシー侵害というようなことなわけですけれども、ここでの文言、つまり「当該被告事件の審理の準備以外の目的」ということでいくと、それよりはかなり広いということになると思うのですね。ですから、準備の目的以外ということであれば、もちろん証人威迫であるとか、それはもちろん目的以外でしょうけれども、そこを主たる理由としているのであれば、ここまで広い文言である必要があるのかどうかというのはちょっと分からないのですが、例えば、許容される範囲には、何がどこまで入ってくるのかということになるわけですけれども、例えば私の関心などからすると、審理の準備以外、もちろん被告人又は弁護人が主体にはなっていますけれども、例えば事件についての研究のために資料を提供するとか、あるいは提供してもらうというようなこと自体は入るんですか。つまり、それは目的外使用になるのですか。
 それは研究者が使う場合もそうですけど、それ以外の場合に、例えば事件についていろいろな形で、先ほど言った証人威迫とかでない形で資料の提供を受けて、事件について検討するというようなことはあり得ることだと思うのですが、そういった場合はどうなるのでしょうか。

○井上座長 2番目は、具体的にどういう場合ですか。

○大出委員 例えば、同種の事件についていろいろと議論しておられる方たちの間で、その問題について検討する機会を持ってもらうとかですね。

○井上座長 開示された証拠をそのために使うという御趣旨ですか。

○大出委員 それも含めてということになりますね。

○井上座長 そういう場合が入るのかどうか、という質問ですね。

○大出委員 そうです。今、酒巻委員がおっしゃったことの中でいくと、これは、この間おっしゃったのかもしれませんが、現に審理中の場合なのか。終結後も含めてとおっしゃったのでしたか。

○井上座長 ほかの点も含めて3点御質問ということですね。いかがですか。

○辻参事官 1点目の研究目的ということですが、具体的にはどのような研究なのでしょうか。

○大出委員 つまり、具体的な事件について、いろいろな角度から、もちろん事実認定の問題も含めてでしょうし、あと手続問題も含めてですけれども、具体的な事件を素材にして研究をすることはいくらでもあることだと思いますけれど。現に私などもやることがありますけれども。

○辻参事官 ちょっと正確に理解できたかどうか分かりませんが、それは、事件の審理の準備を離れて純粋に研究をするということだと承ってよろしいわけですよね。

○大出委員 はい。

○辻参事官 だとすると、このたたき台の趣旨としては、基本的には事件の審理の準備以外という前提がある以上は、やはり外れていると言わざるを得ないかと思います。それから、その点は、審理の終結後にはどうなるのかという御質問がありましたが、たたき台の趣旨といたしましては、審理終結後も禁止というか、規制は及ぶと考えております。
 研究目的での訴訟記録の使用はあり得るところではあると思いますが、現行の刑事訴訟法等を見ますと、まず、刑事訴訟法47条により、公判廷にあらわれていない訴訟記録の公開は禁止されています。それから、審理中の訴訟記録の閲覧、謄写も基本的には弁護人あるいは被告人に限定的にしか認められておらず、一般には認められていません。確定後の記録の閲覧については、別途、刑事確定訴訟記録法が定められており、保管者である検察官が、犯人の更生の問題や、関係者のプライバシーの問題等を勘案して、一定の場合を除いて公開するという仕組みができております。このような現行の刑事訴訟法等の構造からいたしまして、開示された証拠をこれらとは違うルートで使用するのはいかがなものか、そのルートによるべきではないかという趣旨であります。
 それから、証人威迫などの目的以外の目的であればよいのではないかという御趣旨の御指摘であったように思いますが、直接、証人威迫の目的で使用するというのは、それは証人威迫そのものにほかならないのではないかと思われますので、許されないことは当然で、別途刑罰法令に当たるという場合もあるでしょう。しかし、直接的には、証人威迫等の目的がないという場合もあると思われます。当然でありましょうが、弁護人が誰かに開示証拠を渡すという場合に威迫の目的があってはならないのは当然でありますが、弁護人の手を離れて社会に出ると、それが証人威迫等に用いられる危険があるということではないかと思っております。

○井上座長 御質問に対する答えは、それでよろしいですか。

○大出委員 とりあえず、お答えは。

○井上座長 それで御意見は。

○大出委員 続けて言わないとまずいですか。

○井上座長 まずくはないですが、あればどうぞということです。もうちょっと後でも構いませんけれども。

○大出委員 せっかくですから。確かに、確定記録については正式なルートがあるということはそのとおりかもしれませんけれども、それだとしてみても、もちろん研究の方法等々にもかかわると思いますけれども、それから、現に審理中の場合にはそういうルート、現に刑事訴訟法上の建前というか、御説明になった筋はそれはそれであるかもしれませんけれども、それは、例えば、記録の利用が個別事件にかかわって、事件に関係する当事者等のプライバシーとか、あるいはその他の利害にかかわるということであれば、確かにそれは問題だということになるので、そういうところを言わば考えて規定が置かれているということも考えられますので、それ以外に純粋に研究上、事件を特定しないというようなこと、あるいは公表に当たってその点について十分配慮するというようなことを前提にして、記録を利用し、当該事件について検討を加えるというようなことはあり得ることだと思いますし、そのこと自体もすべて禁止されているというふうには考えがたい気がするのですが。御趣旨ですと、そういった場合もすべてこの場合には禁止ということになるのかどうかですね。

○井上座長 現行法で、禁止されていないのではないかということですか。

○大出委員 現行法でも禁止される場合もあるでしょうけれども、一般的に今申し上げたようなことであれば、利用可能だというふうに私など考えますけれども。

○井上座長 訴訟の進行中であってもですか。

○大出委員 進行中であってもですね。

○井上座長 そうでしょうかね。

○大出委員 そうでないと、もちろん先ほど具体的に保護法益ということでおっしゃって、現実に問題になるようなケースは当然許されないだろうと私も思いますけれども、それ以外に、特定事件という形で、具体的に表に出すことについて、全く配慮を欠くというようなことがない限り、それが審理中研究対象にされることがあってはならないということにならないと思うのですけれども。

○井上座長 それは、公判廷で証拠調べを経たものについてということですか。

○大出委員 経た場合であっても、ですから、それはもちろん先ほど言いましたように、最終的にその結果の利用の仕方という問題では配慮が必要だということになると思いますけれども。

○井上座長 まず、公判廷に証拠として出ていないものについては、刑訴法47条の規定で、原則としては公にしてはならないとされています。それは、学問研究目的である場合についても、当然当てはまるのではないでしょうか。

○大出委員 ただ、公と言いますけれども、最終的にそれが公になる……。

○井上座長 原則として、他に開示してはならないのでしょう。ただ、ただし書があるので、若干の緩和措置があるように読めますけれども。また、公判廷で証拠調べを経た証拠については、先ほど事務局から指摘がありましたように、別の規定で定められているわけですね。

○四宮委員 今のケース、時々あると思われるのは、弁護人が、例えば違法収集証拠を争うかどうか、記録の開示を受けて考えたときに、それで専門の研究者の方に相談をしようというようなことはあり得るかもしれないですね。

○大出委員 それは準備じゃないですか。

○井上座長 それは、審理の準備のために専門家の意見を聴くということではないでしょうか。そういった場合は、ちょっと話が別じゃないですか。

○四宮委員 47条との関係ではどうなんでしょうか。

○大出委員 座長の先ほどの御説明からすると、ただし書にそれが該当するということはないんですか。

○井上座長 判断権者がいるわけでしょう。その判断権者がそういうふうに判断すれば、このただし書きが適用されるという構造になっているのではないかと思います。ですから、大出委員が言われたように、目的とか使用の仕方によって、自動的に公開禁止の原則から外れるという構造にはなっていないように思います。原則としては公開が禁止されているが、保管している判断権者が、47条ただし書に当たるかどうかを判断し、それに当たると判断した場合には、除外されるということなんじゃないですか。

○酒巻委員 今、座長がおっしゃったこととほとんど同じことになりますが、少なくとも先ほど私が述べたように、現行の刑訴法の規定は断片的ではありますけれど、47条で裁判の始まる前は原則非公開ですね。それから、調べられたものについては、要するに、40条で、弁護人は閲覧・謄写、49条で、被告人は弁護人がいないときに限って閲覧だけできるとされています。そして、確定後は、刑事確定訴訟記録法によるというように、これら全体を総合すると、要するに、記録を本来使う立場にある訴訟関係人以外の者が、訴訟記録を利用しようとする場合については、どこかの段階で必ず、記録を保管している裁判所又は検察官の判断を経て初めて、それを見ることができるのだという建前で制度がつくってあることは間違いないですね。だから、もっとはっきり言うと、基本的にはそういう場合以外は、審理の準備という目的外には使ってはならないというのがこれまでの制度の建前であっただろうと思うんです。
 ですから、このたたき台は、証拠開示された資料について、目的外に使用してはならないという原則を明示し、さらに、違反があった場合の制裁を設けたものであると、こういう整理になるのではないかと理解しているのですが。

○井上座長 やや感想めいたコメントなのですけれども、今の時代は、特に個人情報の保護ということが強く求められるようになっています。その下では、人が自己のある情報を提供した場合にも、その情報の使用は、原則として、その提供の目的の範囲に限定される、という考え方になると思うのです。そういうこととこの問題とは、リンクしているようにも見えるのですね。
 そうだとしますと、さっき保護法益として言われたのは、刑事司法作用だとか証人の保護とか、そういうものに特化した形になっているのだけれども、個人情報の保護というような、より一般的な保護法益的なものにつながってくるようにも思えるのですけれども、その辺はいかがでしょうか。問題提起だけするのは無責任かもしれませんけれども。

○本田委員 先ほど樋口委員からも指摘があったのですけれども、捜査をするときに、参考人というのは、これは、当該事件の刑事手続の中で自分の供述が使われることを前提に事情聴取に応じ、供述調書の作成に応じているわけですね。それがいろんな研究とか、刑事手続以外のいろんなところに使われているということは全く想定してないわけです。彼らは、いろんなところで、自分の時間とか仕事の都合があっても、刑事手続が進んで適正な刑罰権が実現されることに協力するという目的の下で協力しているわけで、そういった点を全く度外視して何でも使っていいという話になるのか。目的外使用の禁止というのはもともとそういった要素もあるのではないかという気はしますけれども。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。

○四宮委員 今の座長のコメントなんですけれども、私もそれは考えるべき重要なポイントの一つだと思うんですね。ただ、他方で、とりわけ刑事裁判については、裁判の公開の要請というものもあるわけで、その兼ね合いだろうと思うんですね。そこを両方、どちらかを必ず優先するということではないと思いますし、もちろん個人情報の保護は重要ですが、他方で裁判の公開の関係、つまり公開そのものでないとすれば、公開の制度が意図したものについては考えておく必要があると思うんですね。
 それで質問なのですけれども、さっき辻参事官から、私の質問に対して、弁護側が検察官に開示した証拠について、ほかの事件で使用することは、検察官の職務上必要であれば許されるというお話がありました。それは弁護人にとっても同じことが言えるのかということなんです。ここはいろんな事例を想定するのはなかなか難しいのですけれども、例えば共犯事件の弁護人相互間でいろいろ打合わせをすることはあるのですけれども、そこで使うということは当該事件の被告事件の審理の準備ということになるのか、あるいはならないのかということもありますし、例えば同じ事件で、民事で国家賠償を起こして、民事事件で使うということもよくあるわけですけれども、そういう場合は、当該被告事件の審理の準備には当たらないと思いますが、さっきの職務上必要であればというようなものとして許されるのかどうか。

○井上座長 一つは共犯事件でしょうか。

○四宮委員 ええ。

○井上座長 共犯事件で共同審理を受けているという場合ですか。

○四宮委員 その場合もあるでしょうし、分離されている場合もあるでしょう。

○井上座長 両方あり得るということですね。もう一つは、同じ事件というか、同じ社会的事実に基づいて民事の訴訟を起こす、その準備に使うという場合はどうかということでしょうか。御質問は、たたき台の趣旨ということですね。そういう場合を含めるのがいいかどうかは、ここで我々が議論すべき事柄だと思われますので。

○辻参事官 まず、共犯者相互でどうかということでありますが、たたき台の趣旨としては、基本的には目的外ということになるのではないかと考えております。その理由としては、証拠開示の仕組みの中で、弊害ということを考えるとき、それは共犯事件の場合には、どの被告人について問題になるのかということによって、その弊害の有無、程度は当然変わってくるのではないかと考えられまして、当然、開示をする検察官あるいは裁定をする裁判所も、判断に当たってはそのあたりも考えて、開示をするかしないか、それが相当かどうかを判断するのではないかと考えられます。そうだとすれば、開示証拠を被告人相互間でやりとりすることは、被告人ごとに、弊害を考慮して開示の要否を判断するというルートがある意味バイパスされてしまうといいますか、抜けてしまうということになるのではないかと考えたところであります。
 それから、民事事件に使うのはどうかということですが、これは現行法でも問題になるところでありますが、先ほど申し上げたような現在の刑事訴訟法等における記録の公開といいますか、その利用の可能性についての構造に照らして、現在でも、開示された証拠を同一の社会的事実に基づくとはいっても、民事事件に利用するのは許されないという考えもかなり有力であると承知しておりますので、それに基づいて、このたたき台では、民事事件に使用するのも目的外使用であるという考えに基づいてつくっております。

○井上座長 最後の点は、最後まで民事訴訟では使えない、その証拠や書類を使えないという話ではないと思うのですね。刑事事件で開示を受けた証拠を、そのまま別の民事事件の証拠として出していくというのは、やはり目的外使用である。しかし、客観的に存在するその証拠自体を、正式の手続を踏んで、民事訴訟の証拠として出していくことは、別途考えられるという話ではないかと思います。

○四宮委員 民訴法の取寄せとかですね。

○井上座長 たたき台を読んでいて、そういうふうに思ったのですけれど。

○四宮委員 確かに、民訴法上、取寄せの手続はありますから、その手続に従えば、いずれはそういったルートで民事裁判に出る。だからいずれは出るというものも、その手続をとらない限りはいけないのだという形になるわけですね、今のお考えでいくと。

○井上座長 無論、そういった手続によれば、当然に民事裁判に出せるというわけじゃないでしょう。民事手続のための取寄せの必要性や相当性といった要件があれば、嘱託をする民事裁判所と嘱託を受ける刑事裁判所又は検察官の判断によって、取り寄せてもらえるということであるわけですね。

○辻参事官 証拠開示の判断は、検察官も裁判所も、当該事件における開示の必要性、弊害等を視野に入れて判断しているだけではないのかと思います。他方、民事訴訟における文書の取寄せ、送付嘱託ということになりますと、まず民事裁判所で送付嘱託をするかどうかという判断があり、そして、嘱託を受ける方の検察官又は刑事裁判所において、刑事事件の証拠を民事訴訟で使うことについての広い意味での相当性といいますか、適切かどうかということを、改めて、その枠組みの中で判断するのであろうと思います。すなわち、現在の刑事事件の審理の状況に照らして適当かどうか、民事訴訟で利用する必要性がどのぐらいあるのかどうかといったところを勘案して、送付嘱託というルートを使うかどうかが判断されるとすると、開示証拠は、さっきも申し上げたように、あくまでも証拠開示という枠組みの中で判断されたものですから、それとは違う要素の加わるべき文書送付嘱託に関する判断を、ある意味、やはりバイパスしてしまうことになることが、いいのかどうかという感じを受けるということで考えました。

○土屋委員 メディアの中で、一体どういう議論がされているのかということをちょっと御報告しながら、私の考え方を述べたいと思うのですが、ここで出されているのは被告人及び弁護人というたたき台であり、それから、今、四宮委員からは検察官も、つまり当事者も入るのではないかという御意見が出ましたが、その限りではメディアに直接的に関連する話ではないと思うのですけれども、例えばメディアの中で心配されているのは、法廷である証拠が取り調べられて、検事調書の要旨が朗読されたりして、例えばそういう調べが終わった後、その証拠の内容、それを記事などで書くということであれば、当然公開の法廷で行われたことなのだから許されるのではないだろうか、理屈として。
 それと同じように考えていった場合に、まだ開示されていない段階での証拠について、例えば、これはあまり公然と言える話ではないのかもしれないですけれども、たまたまいろんなルートで報道関係者が入手してしまった。しかも、その内容が世間の皆さんに知ってもらうのに値する内容だと考えたときに、それを報道してはいけないのであろうかという議論が出ております。これは当然目的外使用であることは明らかでありましょうし、それから、ここの当事者、被告人及び弁護人、あるいはその関係でいくと、共犯みたいな形で報道関係者が括られることもあるのではないかというような心配をする意見なども実際あるわけですね。
 そうしますと、このつくり方は少し広過ぎないかということを懸念する声が出ています。実際そういうことが起きるかどうか、何とも言えないのですけれども、ないとも言えない。例えばどんな具体例があるのかと思って、私一生懸命考えたりもしたのですが、過去の事例であまり思い当たらないのですが。

○井上座長 そういう調書等の内容が公然と伝えられた実例は、報道といってよいのかどうか分かりませんけれど、ありますね。

○土屋委員 それでしたら、いっぱいありますね。裁判になった事件もありますね。ですから、そういうところというのは、これはいいと言っている意味ではなくて、それをよしとする人たちもいるわけなので、そこのあたり、ちょっと微妙な問題があろうかなというふうに思っています。

○井上座長 最初におっしゃったことは、「開示された証拠の写し又はその内容」というのに入るのですか。公判廷で証拠調べがされ、例えば、調書の内容が朗読されたとして、それを聞いていて、その内容を報道するというのは、ここに入るのでしょうか。開示された証拠の写し又はその内容そのものではないですよね。たまたま前に開示された証拠の中身と一致しているということはあるかもしれないけれど、それは違うように思うのですが、たたき台の趣旨としてはどうですか。

○辻参事官 それは、内容が同じだった場合、どう考えるかという問題があるということだとは思いますが、基本的には違うということだと思いますが。

○井上座長 流れ出るルートがそもそも違うわけですね。2番目の問題はどうなんですか。

○辻参事官 2番目の問題は、私どもといたしましては、ここの問題ではあるのでしょうけれども、そこは、刑事訴訟法47条の趣旨にかかわることで、おっしゃったようなことは、そもそも、刑事訴訟法47条からしますと、現在も許されていないのではないかという気がいたします。証拠調べ前ということは、公判の開廷前でございますので、原則として、47条本文により公にすることは禁止されているということではないかということで、開示証拠の目的外利用という問題の、もう一つ以前の問題かという感じを受けますが。

○土屋委員 そのあたりは、5月に行われましたメディア関係のヒアリングの中で、どこの協会も言及しておりません。それはつまり、今参事官が言われた、そういう趣旨で、正面からできる話ではないのであろうという判断です。ですけれども、討議の過程ではそういう問題が浮上してきている。だから、ひょっとすると、何かどこかでそういう場面が生まれる可能性もあるかなということを心配しているということです。

○井上座長 そういう何らかの形で入手した場合のソースは、恐らく公にされないのだろうと思うのですけれど、それについて報道するメリットがある、報道すべきだというので報道したという場合に、果たして処罰していいかどうかは、もうワン・クッションある問題のような気がしますね。しかし、最初から特定の事件の被告人や弁護人、あるいは検察官に働きかけて、出させるというのは、それとは異なる問題だと思うのです。

○土屋委員 そこはかなり微妙なんですよね。働きかけるというか、言わば取材をして話をしている中に、実はこんなものあるよという話が出てくることがあるんですね。それを見せてくださいというようなことで見てしまって、これは報道した方がいいのではないかというようなことは実はかなり微妙なところで起こり得るんですね。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。

○池田委員 今の土屋委員からも指摘のあった、その内容というあたり、これはかなり問題になりそうに思うのです。確かに写しであれば、写しの範囲は明確なんですけれども、その内容というのはどこまで言うのかとなると、非常に難しい。本当に供述調書を一字一句書き直してやれば、これは写しを出したのと同じことになると思いますが、概要を、本当にポイントだけで、こういうことを言っている人が、あるいはこういう証拠があるんだけれど、どうなんだろうかということを、人に話す場合、例えば、被告人が目撃したという人がいるんだけれども、誰かほかに、このときに見た人がいないだろうかと探すとか、そういうようなときに使うことを考えると、その内容というのも、概要であれば許される場合があり得るのかなと思うのです。そこが非常に線引きが難しいと思いますね。

○??井委員 1点だけ、同じことなんですが、今、事務局の回答では、例えば共犯事件で、弁護団会議をやるときに、その内容を明らかにすることは、これに該当するということのようでしたが、池田委員がおっしゃるように、内容のとらえ方によっては、仮に今の事務局の回答のような運用がなされるとなると、共犯事件について弁護団同士で会議をするということがほとんど不可能になるのではないかと思うんですね。確かに、それは事務局がおっしゃるように、弁護人によって、開示されている範囲が違っており、例えば、私が開示されている証拠と、四宮弁護士が開示された証拠とが違っているとして、ところが私は四宮弁護士がどこまで開示されているか知らないということになりますと、弁護団会議では、この証拠は信用できる、この証拠は信用できないとか、この証拠とこの証拠は矛盾するというような証拠評価をするわけですから、どこまでその辺の議論をしていいか分からないということになってしまう。
 ですから、写しが禁止の対象になる、これは当然なのですが、内容となりますと、どこまでを禁止の対象にするか、ここは非常に微妙な問題だと思うんですね。だから、ここはもう少し慎重に詰めていただかないといけないかなというふうに思います。

○井上座長 他方、個々の被告人との関係で証拠開示の範囲が違ってくる場合には、特定の被告人にはここまで見せると何かの弊害があるかもしれないという判断があって、ある証拠を開示しないことにしたのに、別の被告人には開示されたその証拠の内容が前者の被告人に伝わってしまったら、証拠開示の範囲を限定した意味はなくなってしまう、というところがありますね。どこで線引きするのかが問題となるでしょう。

○??井委員 たたき台のこの表現でその線引きが的確にできるかということですよね。そこはこの表現だと難しいのではないか。内容自体も規制するという必要性があることは分かるのだけれども、この表現ではうまく規制できないのではないかという気がするんですね。

○井上座長 何かいいアイディアはありますか。

○??井委員 いや、ないんですね(笑)。

○池田委員 そういう場合には開示する検察官として何か条件を附したりしていることもあり得るわけですね。例えば、この事件は、特にほかの共犯者との間では慎重に扱ってくれとか、そういうのはあり得るんじゃないですか。

○本田委員 恐らく共犯者間の問題で言うと、例えば同じ共犯者間で、全く争ってない事件だと、そんなに弊害のおそれなどが被告人によって変わることはないと思うんですね。しかし、片方が否認している、片方が認めているということになると、罪証隠滅とか証人威迫のおそれが、それぞれ被告人によって異なってきますから、当然のことながら、ある証拠を、ある被告人には開示するが、他の被告人には開示しないという場合に、その証拠の開示を受けた弁護人が、他の被告人の弁護人にこれを見せることを前提にして検察官が開示することはあり得ないと思います。それが絶対駄目だということは、開示するに当たって、書面で一筆書いてもらうということまではないと思いますが、口頭なりで、それは当然注意するはずですね。
 そういう意味では、弊害の生ずるおそれというのは、被告人ごとに違うので、そこはきちんとしたものにしておかないと、何のための開示の制度かということが分からなくなってしまうだろうという気がしています。
 内容というのは、確かにちょっと分かりづらいという話があったのですけれども、要は、例えば写しそのものは当然駄目だろうということは皆さん大体おっしゃっていたのですけれども、要は、写しと実質的には同じものという限定は多分かかるのだろうと思うんですね。だから、写しじゃないんだけれども、どこか一字ちょこっと変えただけで、いや、これは開示証拠の写しとは違うから許されるのだというのでは、これは困るわけで、やはり、証拠開示された供述調書等の写しと全く実質的に同じようなものがそのまま出ていくのはおかしいのではないかと思います。
 それは、現在、公判で取調べが済んだ証拠であっても、やはり、刑訴法40条、49条で、閲覧・謄写については一定の制限があるわけですね。それとのバランスから考えても、そうなるのだろうというふうに思いますけれども。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。どうぞ。

○四宮委員 私は、このアのような一般的な規定を置くことは意味のあることであろうと思うんです。それも、特に法律家はプロフェッションとして義務を果たすことが必要だろうと思います。ただ、この内容も、今いろいろ議論が出たように、特に防御側から見ますと、防御のためにいろいろ使うということがあり得るわけで、特に心配なのは、「内容」という点で、ここはいろいろ意見が出ましたけれども、私も削除を含めて検討していただきたいと思います。
 それから、もう一つ、ここには「審理の準備以外の目的」とだけあるのですけれども、準備とは厳格に言えないけれども、先ほども検察官の場合に出たように、職務の必要上というようなことがあり得ると思うんですね。その意味で、例えば「審理の準備その他正当な目的の範囲内で使わなければいけない」とか、少し余裕を持たせた規定ぶりにならないかと思います。
 それから、罰則、特に刑事罰は、私は反対です。さっき酒巻委員から当罰性という、保護法益はよく理解できますけれども、当罰性との関係で言うと、もちろん、使用して、その結果、名誉が毀損されたり信用が毀損されたりという実害が発生すれば、それは問題ですので、それはそれで刑罰法規で対応できると思います。今度はこれは、言わば形式犯というのでしょうか、個人的な法益に関して言えば、実害が発生するかどうかは別にしてつくるということですから、私は慎重にすべきだと思います。
 これは、たしか前回にも申し上げたと思いますけれども、基本的には法律家の倫理の問題として決着をつけるべきだと思います。弁護士法では、弁護士の職務上知り得た秘密を保持する義務というのが明記されておりますし、もし、さっき申し上げたような内容でアというものが法制化されれば、その違反というものは懲戒事由になることは明らかであろうと思います。その意味から罰則については反対したいと思います。

○酒巻委員 四宮委員が、本来法律家の倫理の問題だとおっしゃって、それは私もそのとおりだと思うのです。ただこれは被告人がやった場合については、それでは対処できないので、その意味で、刑罰も含めた制裁は、私は必要だとは思うのですけれども。

○本田委員 私はこの禁止規定も罰則による担保も必要だと考えます。もともとこの証拠開示は審理の準備のために行われているわけで、当然目的に従って使用してもらうのが当然の話だろうという気がします。先ほど四宮委員から、単に形式犯、実際にプライバシーが侵害されるだとか、証人威迫が行われた場合とは違って形式犯ではないかという話があったのですが、それは全く違うだろうと思います。
 要は、先ほどちょっと申し上げましたけれども、参考人なり、捜査に協力する人は、刑事手続に使われることを前提に協力しているわけで、それがほかのものに使われたり、公にされたりすることになれば、捜査に対する協力は得られなくなってしまいます。信頼がなくなってしまうわけですから。そうすると、刑事手続そのものが進まなくなってしまうということです。実際に侵害されたら、それはそれで別途の処罰の必要もあるのでしょうけれども、そういうことが行われると、それが罰則でちゃんと担保されてない、それをやっても何の処罰も受けないことになれば、それは捜査に協力する人はいなくなってしまいます。そういう意味では、単なる形式犯という理解は間違っていると思います。
 一方で、検察官の場合は、先ほど事務局の方からも紹介がありましたけれど、懲戒あるいは守秘義務違反の懲役の罰則もちゃんと担保されて、そこできちんとした制度が動いているということですから、そのバランス上もきちんとしたものにしてもらわないと困るというふうに考えます。

○大出委員 今の本田委員の御説明の中で、刑罰法規に当たる場合以外で捜査の協力について、さらに協力を得られなくなる危険性があるようなケースというのは具体的にどういう場合を想定されているのですか。

○本田委員 例えばいろんな事件がありますよね。被害者もいるし参考人もいるでしょう。そういう人が捜査の必要上、自分のプライバシーに触れる部分、いろんなことを事細かに供述せざるを得ない場合があるわけです。その調書がどんどん外に出ていっても、それを止める手だて、罰則による担保によって止める手だてがないということになれば、そういうことになれば、参考人の協力も被害者の協力も得られなくなるおそれが強いということです。捜査そのものがうまくいかない。

○大出委員 現にプライバシー侵害というようなことになった場合について、ほかに措置することができないということになりますか。

○本田委員 名誉棄損になったら、それはそれでやるのだけれども、そこまでいかないとできないということでは駄目だということです。

○??井委員 例えば、ヤクザの事件で、目撃者が、自分の調書がもしかしたら、組長のところまで流されちゃうかもしれないと思ったら、目撃者は協力しない可能性が強いですよね。ですから、そういう意味では、実際に名誉棄損その他のそういう状況が起きたら、それはそれで罰せられるのだから、それ以外にこういう目的外使用のルール違反をした場合の罰則規定は必要ではないとはやはり言えないわけで、そういう罰則があることが担保になって、一般の人たちが捜査に協力するようになると思うんですね。
 ですから、そういう意味では、私もこのウという規定は必要だと思うのですが、また、同じようなことを申し上げて申し訳ないのですが、証拠の写しが流出した。例えば、それを週刊誌に売った。それが刑事罰の対象になる。ある意味で当たり前だと私は思うのですね。それは刑事罰の対象にならない方がおかしいわけで、それはそれでいいのですが、内容も刑事罰の対象になる、しかも、そこには体刑を含んでいるとなると、ここはやはり「内容」というような書き振りでいいのかということがかなり深刻な問題としてあるのだろうと思います。

○井上座長 どの程度なら、写しに近くなってくるんですか。

○??井委員 写しと同等のような詳細な、ある程度具体的な、誰が何言っているか、具体的な内容ですよね。抽象的な骨子のようなもの、誰が言っているか分からないというようなものであれば、それは法益侵害もないということになるわけですから、それは処罰対象から外れるのだろうと思うんですね。ですから、単に内容ではなく具体的な内容というか、具体性を持った内容だというようなところで規制する以外にないかなと思います。たたき台だと趣旨とか骨子でも全部内容だと、場合によっては結論も内容だということになって全部ひっかかってしまうということになると思うのですね。

○井上座長 このたたき台も、仮にこういう趣旨の規定を設けるとしても、このままの文言が用いられるという前提で作られたものではないと思うのですね。ですから、仮にそのような規定を設けるとした場合に実質的にどこまでを対象にするのか、それをここで御議論いただければよいと思うのです。もっとも、テクニカルに、うまく書けるのかなという疑問もないではないですが。

○大出委員 先ほど来申し上げておりますように、御説明を伺って、そういう場合が当然あり得るだろうと思いますし、それなりに必要な場合もあるのだろうと思いますけれども、このままだと、もちろんそれはテクニカルな問題かもしれませんし、書きぶりをどうするかということなのかもしれませんけれども、先ほど来例を挙げたケースで、必ずしも刑罰法規で対処しなければいけないかどうかというのは、つまり、新たな刑罰を設けるという形で対処しなければいけない部分かどうかというところまで、これだと含んでいる可能性がありますね。ですから、そこのところを。

○井上座長 先ほど??井委員や本田委員が挙げられたようなケースについては、どうなのですか。

○大出委員 そのようなケースについては、場合によってはあり得るだろうと。

○井上座長 場合によってはといいますか、そういう実質的な害、危険があるとお考えなのですか。それも疑問だということですか。

○大出委員 それはあり得るだろうと思います。そこは、ですから対処せざるを得ない場合があるかもしれない。

○井上座長 問題があり得るのは、それではどういう場合なのですか。実質的な危険とか、保護する必要がどうもなさそうなのに処罰の範囲に取り込まれてしまうのではないかということですか。それは、例えばどういう場合でしょうか。

○大出委員 例えば、先ほど言った研究目的ということがはっきりしていて、最終的には、それを公表するにしたところで、当該関係者についてのプライバシー等については十分配慮して、事件との関係での客観的な側面について言及するというようなことで処理をするというようなことは当然あり得るわけですね。あるいは報道の場合もそうかもしれませんけれども、そういった場合について、先ほど来問題にされている捜査への協力の問題、証人威迫、証拠隠滅、そういったたぐいに直接つながっていかない形でそれを利用することは当然あり得ると思うんですね。
 さっきのお話で、そこまで一応網にかかっちゃうわけですね。ですから、それを全部一律網にかかった状態で刑罰法規の対象にするのは、私は疑問があると言わざるを得ないと思うんですね。ですから、実際に実害が発生する、あるいは先ほど来のお話のようなところについて、刑罰法規で対処する必要があるとしても、刑訴法47条と同じような意味でただし書きというようなことになるのか、いずれにせよ、例外的に外す部分を具体的に規定するというようなことがあり得ないのかどうかですね。

○本田委員 研究用、研究のためにということをおっしゃったのですけれども、捜査記録、公判記録というのは、一つの刑事事件について、事実をきちんと認定して適正な刑罰権を実現するという目的のためのものなのですね。本来その限度で使われるべきはずであって、要は、ほかの参考人であれ、何であれ、自分の話したことが書かれたものが、その刑事手続以外で、研究用にほかの人が当然見てもらっていいということで協力しているわけではないわけです。それは違うと思います。
 例えば、現在の法律でも、刑訴法47条なり、あるいは刑事確定訴訟記録法の手続の中で公開しますということになっており、それを使って研究してもらうのは、それは結構ですけれども、それ以上に、直接、例えば将来公判廷で取調べもされない、争点整理のために開示された証拠がそのまま研究用に当然使えるのだという話にはならないと思いますけれども。

○酒巻委員 私も研究者ですが、この点については、大出委員と考えが違って、基本的な考え方は本田委員のおっしゃったとおりではないかと思います。特にここで保護しようとしている事柄の中には、先ほど来出ている捜査に協力しようという人たちを萎縮させてはならんというような要請が入っているとすれば、捜査に協力してしゃべろうとしている人は、捜査目的だから供述するのであり、これが、研究者である酒巻であろうが、ヤクザの親分であろうが、見られる相手が誰であれ、捜査機関以外の第三者が供述調書を見るかも知れぬということになれば、同じく萎縮効果を及ぼすことになるのではないかという理屈になるのではないですか。

○大出委員 その御趣旨自体は理解できますけれども、ただ、研究ということで対象化する場合には、まさにその過程自体、捜査の在り方自体も研究対象にする、あるいは審理の中身についての在り方自体だって対象化することは当然あり得ることであって……。

○井上座長 それはあり得るかもしれませんけれども、そのためにどこまでの資料を使ってよいかということは、別問題だと思いますが。

○大出委員 ですから、先ほどから言っているように、先ほど来御主張になっているような意味での、実害というのが正確かどうか分かりませんけれども、当該の協力者に対して何らかの形の萎縮効果を与えるとか、あるいは事件の成り行きに対して一定の影響があるような、そういう方法をとることが認められると言っているわけではないわけですね。ただ、先ほど言ったように、具体的な対象化をするからといって、それを公表する際の配慮の仕方とか、あるいは公表の時期の問題を含めて、研究者は研究者なりに配慮し、研究者倫理というかどうかはともかくとして、そういったことで配慮するということに当然なるわけですから、それを一律すべていかんという措置をすることが本当に妥当なのかどうかという問題だと思うんですけれども。

○井上座長 刑罰を科すかどうかはもう少し先の問題ですけれども、前提としているところは違うような気がするのですね。その理屈でいきますと、証拠開示をした証拠でなくても、あらゆる存在する証拠についてその論理は妥当するはずで、それなのに、なぜ、特定の目的で証拠開示された証拠だけがその対象になると言えるのか、ですね。
 個人情報の保護ということからしますと、刑事手続の目的のために情報提供がなされているのであるから、その情報を使うのも、その目的に従って正当な場合に限って許されているということになりますので、弁護側の防御に必要かつ相当な範囲で証拠を開示するということは、正当な使い方の一つであると言えるように思いますけれど、これに対して、そのようにして開示された証拠を、研究のために必要だからといって、当然に利用できることになるかというと、それは論理的に飛躍があるのではないかと思われるのです。
 私も研究者ですし、報道機関などもそうだと思うのですけれども、研究や取材をやっている人は貪欲なんですよ。そして、自分の目的は絶対だと思いがちなんですね。しかし、その目的のためにどんな手段でもとっていいのか、そこの問題だと思うわけです。そういうことが一般的、社会的に承認されるのならば、開示された証拠に限らず、学問研究の目的だったら見せてもらえることになるのかもしれないのですけれども、今の価値基準で果たして正当と認められることかどうかといいますと、苦しいのではないかという気がするのです。

○大出委員 その場合、ですから、刑罰の問題はともかくとして、例外的であるにせよ、それが利用可能なことというのは考える余地がない。それも考える余地がないということですか。

○井上座長 そこは、一番センシティブな部分ですよね。つまり、証拠としてまだ使われていない、使われるかどうかも分からないけれど、防御の準備のために必要だということで特に開示されているというときに、研究目的だからといって、見せることが本当に正当化され得るのか、という問題だろうと思うのです。大出委員は、それは当然可能なのだというお考えを前提にして議論されるものですから、ほかの方とずれてくるのだと思います。

○??井委員 その件は、基本的には検察官が呼んでいるから行く、あるいは弁護人が呼んでいるから行って説明してくれるわけですね。大出委員が、研究のために来てちょうだいと言ったら、誰もきっと来ないんですよね、極端なこと言うと(笑)。その辺のことをやっぱり考えて言わないといけない。あまりにも、研究者は独善性がちょっと、という感じがしますね。
 もう一つ、ここは縛りをきっちりしておかないと、逆に言うと、例えば研究者のところに出るかもしれないじゃないか、だから証拠開示の範囲を狭める必要があるということになる危険もあるので、ここはしっかりと決めておいて、それによって証拠開示の範囲が広がるといった制度でないと本当はおかしいわけですね。ですから、ここは今まで議論されているように、捜査のために協力した、捜査に使うということで収集されたものだということをしっかり押さえた議論でないといけないと思うんですね。

○池田委員 私も今の??井委員の意見と同じで、結局何らかの罰則が必要な場面があることは間違いないですね。どのような要件にするかというのはまだもう少し検討する余地があるにしても、証拠開示の裁定を裁判官はすることになるわけですけれども、弁護側、検察官側から、いや、開示するとこういう弊害があるよと言われたときに、このような目的外使用禁止の規定があるのとないのとでは大分裁定が違ってくるのではないか。あった方が信頼して広く認める方向になるのではないかという気がしているのですけれども。

○四宮委員 私がさっき申し上げた意見は、全くの規制なしにということでなくて、さっき申し上げたように、一定の条件を付けた上で、アのような大原則を置くことを前提にした話です。もちろん国民の協力ということが犯罪捜査にとって必要だということは十分理解をしているのです。もう一つ。もしこれがないと、いろんなものが全部出て行っちゃうようなニュアンスにも受け取れるのですけれども、ただ、そうではなくて、この間、証拠開示を議論したときに、裁判所の証拠開示に関する裁定の中に、開示方法の指定というのがありましたね。特に参考人などについては、住所や名前も含めた開示方法の指定というような形での保護も十分できるのではないかと思うのです。だから罰則でそういったものを保護をしていくのも一つのやり方なのかもしれませんが、私はむしろそういった開示方法の指定などを使ってやった方がいいと思います。
 さっき研究者の話が出ましたけれども、例えばそうでなく、こういう場合などもあり得ると思うんです。さっき座長がどんな場合がということをお話になっておられましたけれども、私が最初に事務局に伺った、同じケースについて国家賠償を起こすような場合。実際にあった事件で、被疑者の正式な逮捕前に令状なしに9泊10日させて、それは任意捜査ということで、そういう手続がとられたケースがありました。これは刑事事件の方は一審で、その捜査は違法であるという判断が出て、そして控訴審に事件は移ったのですけれども、控訴審に事件が移ったと同時に国家賠償の裁判を起こした。
 ここから先、意見が分かれるかもしれませんが、今の民事訴訟規則では、訴状には重要な書証の写しを付けろとなっています。今の国家賠償で一番重要な書証は、正式な逮捕前の9泊10日の取調べ経過の事実関係なんですね。これは一審の刑事事件で検察側から書証として一覧表が出ていたわけです。これが一番重要な証拠ですので、国賠を起こした原告は、訴状に書証の写しを付けて裁判を起こした。これについては、裁判所も、被告の県も、特に問題、異議は出ずに裁判は順調に進みました。
 これもさっきの事務局の御説明のように、いったん訴状だけ出しておいて、そして弁論準備、その民事訴訟の過程で取り寄せることはもちろん方法としてはあり得るわけですけれども、例えば今のようなものが訴状にいきなり添付されることによる弊害というのは一体どんなものがあるのだろうか。むしろ刑事事件については弊害はないし、民事訴訟についてはプラスになっていたという形なんですね。そして、それはさっきも申し上げたような、いずれは出てくるようなもので、客観的な事実だけが書かれているものであり、そういうものもあり得るわけですので、直ちに刑事罰に結び付けた規制というよりは、さっき申し上げたような、例えば倫理、後の証拠の保管とも関係すると思いますけれども、厳しい倫理と、証拠開示に関する、先ほどの開示の方法などの運用によって適正な結論を得ていくべきではないかと思います。

○本田委員 最初に、倫理で対応すべきであろうという御意見でしたが、確かに倫理に従ってきちんとやっていただければ何の問題もないわけです。しかし、現にこれまで開示された証拠のコピーが、暴力団関係者、第三者に流出したり、インターネット上に公開される、あるいは雑誌に掲載されるという事態が現に生じているわけですね。だから、倫理だけでは対応できないという現実があるわけです。
 それから、先ほど開示方法の指定によってできるのではないかというお話ですけれども、必ずしもそうはならない。すべてがそれで解決できるのなら、それは一つの方法かもしれませんけれども、例えば強姦の被害者の調書、どこをどうやって指定するのかといったって指定できないですね。被害状況全体が出るわけですから。だからすべては解決できないという問題があるわけです。
 それから、今、国賠との関係でいろいろ言われましたけれども、それは訴訟がすんなり進んだとおっしゃいましたけれども、それはどこでどう争ったか、民事ですから、争い方によって進んだ、進まなかったがあるのでしょうけれども、どうしてもそれが最初になければ、国賠訴訟が起こせなくて、なおかつうまくいかないという話ではないわけですね。現在のルールの中で、それは当事者として必要だと思えば出ていくでしょうし、それによって立証は十分できるわけですから。だから、物すごい大きな弊害とか被害が発生するようなおそれが一方であるのに、そういうところを遮蔽して、そういった、今おっしゃったように、公表は弊害ないじゃないかというようなところだけで全部罰則を削るのは少々乱暴な話ではないかと思います。

○樋口委員 また、元の軌道に議論が戻りまして、その先まで行ったのでもう申し上げる必要はないのかもしれないのですけど、目的を限定して開示されているわけですから、目的外使用ができないというのは当然の話ですよね。ですから、本来の論点は、目的外使用の禁止を罰則で担保するかどうかということであるべきなのだろうというのは常識的には思うのですけど、それはその先に話が行きましたのでいいのですが、もう一点なんですけれども、これも大体大勢そういう御意見なので、これまた相違点を殊更に申し上げるのは得かどうかという問題はあるのですけれども、保護法益のところは、参考人が捜査への協力が得づらくなるというのはそうなんですけれど、さらに、捜査そのものが有効に健全に機能すること自体が守られるべき利益なんだと表現されるべきではないかと思います。
 この場合では、確かに調書がまず念頭に置かれますから、調書に応じるかといった話になるのですけれども、それは何を意味しているかというと、刑事司法のスタート時点に位置する捜査が健全に機能すること、それが法益なのではないかと申し上げたいと思います。

○井上座長 一通り、御意見が出たと思いますし、今日はこの問題だけで終始するわけにいきませんので、先に進ませていただいてよろしいでしょうか。先ほど四宮委員からも、既に証拠の管理の話が出ましたが、(2)の方に話を移させていただきたいと思います。本来ならば、この辺で休憩とも思ったのですが、ここで休憩すると区切れが悪いものですから、もう少しやらせていただければと思います。
 「(2) 開示された証拠の管理」について、たたき台の案を一つの素材としながら、御議論いただければと思います。どなたからでも、いかがでしょうか。

○四宮委員 質問よろしいでしょうか。

○井上座長 どうぞ。

○四宮委員 「他人にその管理をゆだねてはならない」の「他人」には、被告人も入るという趣旨でしょうか。

○井上座長 たたき台の趣旨でしょうか。

○四宮委員 はい。

○井上座長 辻参事官、いかがですか。

○辻参事官 他人には被告人も入ると考えておりますが、およそ被告人に証拠の写しを渡して検討させる、読んでもらうということがいけないという趣旨ではございません。当然必要に応じて被告人自身が交付を受けて証拠を検討することはあり得べきであろうとは思いますけれども、「その管理をゆだねてはならない」と書きました趣旨としましては、仮に交付はしたとしても、その後の行く末にそれっきり関知しないというのはちょっと困るのではないかということでございまして、検討が終わる、あるいはもうちょっと広く言えば、訴訟準備上の必要がなくなれば、最終的には弁護人の方で管理をしてほしいという趣旨でございます。

○四宮委員 被告人自身が、その記録の交付を受けて検討するということの必要性については理解していただいているということでよろしいわけですね。

○辻参事官 今、申し上げたとおり、およそ被告人に交付してはならないという趣旨ではございません。

○酒巻委員 私はこのたたき台に賛成です。こういう資料の重要性とともに、それが目的外で第三者に流出することが甚だ望ましくないことは明らかですから、その管理の責任の所在をはっきりさせるということは大変よいと思います。そして、誰がそれをするかというと、まさに弁護人は、先ほど来話題が出ているとおり、法律家であり、そして現在開示された証拠をコピーしたりすることができる立場にあり、何でそうかと言えば、まさに法律家であり、倫理的な義務も負い、さらにひどいことをすれば懲戒にもなる、そういう方が管理者になるというのはまことに適切であろうと考える次第です。

○??井委員 ある意味ではばかみたいな質問かもしれませんが、最近は法律事務所と提携して、記録を管理する会社というのがあるんですね。そういう記録管理会社に記録の管理をゆだねる。これは他人にゆだねたことになりますでしょうか。

○辻参事官 記録管理会社というものを、すみません、不勉強でよく知らないのですけれども、そこの管理会社と、弁護人との関係がどうなっているかということだと思います。詳細は分かりませんが、管理会社にゆだねたとしても、あくまで弁護人が委託者であって、最終的な責任は委託者たる弁護人が持っており、管理会社が適宜処分するとか、他へ流すとか、契約上、恐らくそういうことではないのであろうと思いますので、そのように、最終的な責任は弁護人が負っているということであれば、よろしいのではないかという気はいたしますが。

○本田委員 このたたき台の案のとおりでいいと思います。まさに外に出ないというような、みだりに流出しないということを担保するための一つの規定ということで、こういう規定は置いておくべきだと考えます。

○井上座長 ほかの方、さらに何かございますか。特に付け加えることがなければ、このくらいでよろしいでしょうか。それでは、(2)はこの程度にしたいと思いますが、最後に、項目9の全体について、今までは裁判員制度の対象事件を主に念頭に置いて議論していただいたのですけれども、それ以外の事件についてはこのようにすべきだというような御意見があれば、伺いたいと思います。あるいは、この9の項目に関連して、こういう別の論点も議論すべきだということがあれば、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。よろしいですか。
 それでは、ここで、10分程度休憩させていただきたいと思います。

(休 憩)

○井上座長 それでは、再開させていただきます。
 休憩前までで、刑事裁判の充実・迅速化のたたき台(その1)に沿った議論をひとわたり行ったことになります。続きまして、事務局の方で、たたき台(その2)を作成してくれていますので、まず、その説明を伺いたいと思います。

○辻参事官 たたき台のその2につきまして、御説明いたします。表題に「その2」と付記してありますように、刑事裁判の充実・迅速化に関するたたき台その1の続きとなるものでありまして、連日的開廷の確保等や訴訟指揮の実効性確保などに関するものであります。たたき台のその1同様、その2でも、従前は議論が及ばなかった比較的細かな論点についても一応の案をお示ししておりますが、もとよりこれからの議論のたたき台として一つの案をお示ししたものにすぎないということは従前どおりであります。
 それでは、「第2 連日的開廷の確保等」から御説明いたします。
 たたき台では、「連日的開廷の原則」を法律において規定するものとしております。審議会意見においても、連日的開廷を可能とするための制度整備の一例として、連日的開廷の原則を法律において規定することが挙げられておりますし、本検討会におけるこれまでの議論におきましても、連日的開廷を確保する上で、その原則を法律に明記することは意味があることであるとの御意見が述べられたことを踏まえたものであります。
 次に、「第3 訴訟指揮の実効性確保」についてであります。
 1の「国選弁護人の選任」ですが、これは弁護人がなければできない準備手続又は弁護人がなければ開廷できない公判期日に、弁護人が不出頭である、あるいはそのおそれがある場合、又は弁護人が在席しなくなった場合に、裁判長が職権で国選弁護人を選任することができるとするものであります。本検討会におけるこれまでの議論において、訴訟指揮に不満を持つ弁護人が辞任をして出頭しなかったり、辞任をほのめかすなど不出頭のおそれがあることがあり、これに適切に対処することができるよう、私選弁護人が選任されている場合であっても、裁判所が併せて国選弁護人を選任することができる制度を導入すべきであるという御意見があったことを踏まえたものであります。
 現在の刑事訴訟法第289条第2項は、必要的弁護事件の公判期日に弁護人が出頭しない場合の国選弁護人の選任について定めておりますが、このたたき台の案は、公判期日に不出頭のおそれがある場合と準備手続に出頭しない、あるいは出頭しないおそれがある場合等にも国選弁護人を選任することができるとするものであります。
 項目の2は、「訴訟指揮権に基づく命令の不遵守に対する制裁等」であります。
 (1)は、「命令の不遵守に対する制裁」という項目ですが、これは訴訟指揮権に基づく命令を守らない場合に対する制裁に関するものであります。裁判所の訴訟指揮権に基づく命令違反のうち、公判期日等への出頭命令に従わないこと及び重複尋問等の制限に従わないことに対して、裁判所が過料等の制裁を科し得るとするものであります。
 これも本検討会におけるこれまでの議論におきまして、当事者が裁判所の期日指定に従わない場合、あるいは裁判所による重複尋問等の制限に従わない場合があり、それが審理遅延あるいは焦点の定まらない審理の原因になっているので、裁判所の訴訟指揮の実効性を担保するため、これに従わない訴訟関係人に対し、裁判所が直接一定の制裁を科し得る制度を設けるべきであるとの御意見があったことを踏まえたものであります。
 「(2) 裁判所による処置請求」ということでありますが、(1)による制裁を科したときに、裁判所は、制裁を受けた検察官及び弁護人について適当の処置、すなわち適当と認められる懲戒措置などを採るべきことを請求しなければならないとするとともに、請求を受けた者は速やかに適当と認める処置を採り、採った処置を裁判所に通知しなければならないとするものであります。
 現在の刑事訴訟規則第303条の規定を参考としたものでありますが、処置請求を必ずすべきものとなっている点、請求を受けた者は、速やかに適当と認める措置を採ることを義務付けている点において、規則の規定と異なっております。
 「第4 直接主義・口頭主義の実質化」についてであります。
 審議会意見は、裁判員制度における公判手続について、非法律家である裁判員が公判での証拠調べを通じて十分に心証を形成できるようにするために、口頭主義・直接主義の実質化を図ることも必要となると指摘しているところでありまして、その指摘をも踏まえまして、裁判員制度に関するたたき台の項目の「4 公判手続等」の「(6) 新たな裁判員が加わる場合の措置」及び「(7) 証拠調べ手続等」の項目に検討が必要と考えられる諸点を掲げ御議論をしていただいているところであります。
 それを受けまして、ここでは、裁判員制度対象事件以外の事件における直接主義・口頭主義の実質化に関し、裁判員制度のたたき台に掲げた諸点について、異なる考慮をすべきところがあるかという形で御議論していただくのが適当ではないかと考えたところであります。
 「第5 即決裁判手続の決定」と題しました項目についてであります。
 あくまで仮称でございますが、即決裁判手続という制度を新たに設ける案をお示ししております。これは争いのない事件につきまして、公訴提起後、できる限り速やかに公判期日を開き、簡易公判手続同様の簡易な手続によって審理し、原則として即日判決を言い渡すこととする手続でありまして、手続の合理化・効率化を図ろうとするものであります。なお、即決裁判手続の流れを示したイメージ図のようなものをお配りしておりますので、御参照いただければと存じます。
 「1 即決裁判手続の申立て」と題しておりますが、検察官による即決裁判手続の申立てに至るまでの手続に関するものであります。被疑者が被疑事実を認めており、かつ事案の性質や証拠の内容・量等にかんがみ、検察官が相当と考え、被疑者やその弁護人に異議がないときに、検察官は公訴の提起と同時に即決裁判手続の申立てをすることができるものとしております。
 「2 即決裁判手続の決定」という題でございますが、申立てを受けた裁判所が、即決裁判手続によって審判する旨の決定をするまでの手続に関するものです。即決裁判手続の申立てがあった場合、裁判所は当事者の意見を聴いて、できる限り速やかに公判期日を開くものとしております。そのようにできるようにするために、裁判所は国選弁護人を選任するときには、できる限り速やかにその選任を行うものとし、検察官もできる限り速やかに取調べ請求予定証拠を開示することにしております。
 また、裁判所は、即決裁判手続の申立て後に弁護人が選任された場合には、弁護人に異議があるかどうかを確かめるものとしております。そして、裁判所は、公判期日において、即決裁判手続の決定をすることになりますが、もとより被告人側が、公判期日に先立って、異議を述べた場合にはこの限りではありませんし、簡易公判手続同様、被告人が冒頭手続で有罪の陳述をすることを決定の要件としております。
 「3 即決裁判手続による裁判」ということでありまして、裁判所が即決裁判手続の決定をした事件の審理及び裁判に関するものであります。
 即決裁判手続の決定のあった事件の審理は、刑事訴訟法第291条の2の簡易公判手続の決定があった事件と同様の手続によるものとしております。
 具体的には、刑事訴訟法第307条の2、第320条第2項により、証拠調べの方式が簡略化され、また、当事者が証拠とすることに異議を述べた証拠を除き、伝聞法則が適用されなくなるというようなことであります。
 そのように、基本的には簡易公判手続と同様の手続によることとしておりますが、公判の合理化を進めるという観点から、更に工夫の余地があるかどうか、検討することも考えられるのではないかと思っております。
 (2)は、即決裁判手続による審理を行ったときは、裁判所は原則として、その期日に結審し、即日判決を言い渡すというものであります。
 (3)では、いったん即決裁判手続の決定があった事件について、裁判所が同手続によることが不適法あるいは不相当であると認めるに至ったときには、その決定を取り消さなければならないとしております。
 (4)は、(3)によりまして、即決裁判手続によることが相当ではないことを理由としてその決定が取り消された場合には、既に取り調べた書証については、刑事訴訟法第326条の同意があるものとみなすというものであります。例えば被告人が有罪の陳述を撤回した場合などが考えられると思います。
 被告人が有罪の陳述をし、即決裁判手続によることにも異議がなかったことから、適法に同手続による審理が行われたにもかかわらず、その後に有罪の陳述の撤回などがあり、同手続によることが不相当となったとしても、既に取調べ済みの書証については、その後の手続においても引き続き証拠能力を認めるのが相当ではないかとの考えによるものであります。
 「4 上訴」であります。
 即決裁判手続による裁判に対する控訴に関するものでありまして、ここはA案とB案の両案を記載しております。
 A案は、判決で認定された、罪となるべき事実に誤りがあることを理由として控訴をすることはできないとするものであります。即決裁判手続は、被告人側に同手続によることに異議がなく、また、被告人が有罪の陳述をした場合に行われるものであることから、罪となるべき事実に誤認があることを理由とする上訴を認めなくとも、被告人の権利保護に欠けるところはなく、一方、そのような上訴を認めると、上訴審で犯罪事実が争われ得ることを想定して、必要以上の立証・審理が行われる可能性があるなど、手続の簡易化の意義が減殺されかねないという考えによるものであります。
 他方、B案は、被告人の権利保護の観点から、控訴理由を制限するのは相当ではないという考えによるものであります。
 以上でございます。

○井上座長 ありがとうございました。それでは、今の説明を受けまして、たたき台の内容について御質問あれば、どうぞ。細かい点につきましては、むしろ、それぞれの項目についての議論の中で質問していただいた方が、効率的だと思いますので、この段階で是非確認しておきたいということがあれば、出していただきたいと思います。どうぞ。

○四宮委員 第4の「直接主義・口頭主義の実質化」のところですけれども、これでいくと、「裁判員制度対象事件以外の事件について、異なる考慮をすべきところはあるか」ということだけが書いてあるのですけれども、私としては、ここは非常に今回の刑事制度の改革の中で重要な部分ですし、前回、裁判員裁判のところで議論したことはもちろんですが、その際に、いろいろ関係者の意見も出て、特に検察庁の方で、今後いろいろ検討していきたいというお話もあった。過日の報道によると、それが一通りの取りまとめがなされて、直接主義・口頭主義の実質化ということが一つの柱であると伺っていますので、今日はここに行くのかどうか分かりませんが、それを是非御紹介いただいて、裁判員制度の下での事件についてもさらに議論を深めたらどうかと私は思うので、是非そうしていただきたいと思いますけれども。

○井上座長 それは、たたき台の中身についての質問というよりは、議論の進め方についての御意見でしょうか。

○四宮委員 進め方について。

○井上座長 その点については、この段階でやるのがいいのか、裁判員のところで集中的にやるのがいいのか、そういうことをも含めて検討させていただきますが、これまで裁判員の対象事件を主に念頭に置いて議論をしてきましたので、それ以外の事件については異なる考え方をすべきなのかどうかというのが、たたき台の趣旨ですよね。

○四宮委員 そうですね。

○井上座長 ですから、そこのところで、前に裁判員制度のところで行ったのと同じような議論をするのがいいのか、それとも、次の裁判員制度についてのおさらいの議論をするところでもう一回議論するのがいいのか、その辺も含めて、次回の進め方について考えさせていただきたいと思います。議論をしないということではなく、どちらにするのが全体として運びがいいのかということでありまして、考えさせていただければと思いますけれど、事務局としては、何かこの点、お考えがありますか。

○辻参事官 たたき台の趣旨だけ申し上げますと、先ほど申し上げたとおりでございますが、裁判員制度対象事件については、第2ラウンドの議論として、既に、直接主義・口頭主義の実質化という観点からの議論をしていただいたと考えておりますので、ここでは、それ以外の事件について議論していただくのはどうかと思ったということであります。もちろん裁判員制度対象事件について、更なる議論が必要であるということを否定するものでは全くございません。

○井上座長 裁判員制度についても、なお議論をしないといけないのはもちろんだと思うのですけれども、それをどの段階でするのが一番いいのかということだと思います。
 このたたき台(その2)につきましても、細かな点は、またそれぞれの項目についての議論の中で、御質問ないし御意見を出していただければと思います。先を急ぐようですが、中身の議論に入らせていただきたいと思います。たたき台の趣旨の確認や、議論の進め方という点については、繰り返す必要はないですね。それでは、早速実質的な議論に入りたいと思います。
 ひとまず、今日示してもらったたたき台(その2)の項目に沿って、議論を進めていくことにしようと思いますが、まず「第2 連日的開廷の確保等」のうち「1 連日的開廷の原則の法定」という点から御意見をいただければと思います。
 これまでかなり議論しました新たな準備手続や後で出てきます訴訟指揮の実効性確保といったことも、連日的開廷を可能にするという意味を持つものでありますけれども、ここでは、それ以外に連日的開廷を確保するためにどういう措置が必要であるか、といった観点から御議論いただければと思います。いかがでしょうか。

○??井委員 まず、連日的開廷の原則を法律において規定する、これは賛成であります。ただ、実際にそれが動いていくかどうかということが問題になるわけですが、実際に動かすためには、一つは夜間接見の問題、要するに、明日の公判で、今日の証人尋問の結果を踏まえた被告人質問をやろうというときに、今日のうちに当然打合せをしなくてはいかんということになります。今ですと夜間接見はあまりできないわけですけれども、ある程度遅くまで、職員の方の問題はもちろんあるわけですが、ある程度遅くまで夜間接見ができるというふうにしていただきたいということを是非お願いしたいと思います。
 それから、今現在は当事者が録音をするということは許されていないわけです。ですから、当事者が公判での証人尋問のやりとりを録音することを認めていただくか、あるいは公判終了後、直ちにダビングテープを裁判所からいただけるというふうな、どちらかにしていただかないと、これはとても連日開廷には対応できないと思います。
 それから、これはさらに先の話になりますが、接見の場合に当然真ん中に仕切りが入っていて、その仕切り越しにやりとりをするわけです。単に調書のこの部分はどうなのかということであれば、それで構わないのですが、細かいことになると、やはり図面を示して、細かい詰めの議論をするということも必要になる場合もあるわけですね。そうすると、これも予算措置が必要になって大変だとは思うのですが、そういう一枚の図面を両方で見ながら議論ができるというような設備なり、あるいは諸外国ではあるようですが、仕切りのない接見室を将来的に考えていただくと。その場合、今度はほかのものの持ち込みがないようなチェックをするシステム、いろいろ別の観点からの配慮も必要になると思いますが、いずれにしても、そういう接見をもう少し時間的かつ物理的に自由にできる仕組みということを将来的には考えていただく必要があるだろうと思います。

○井上座長 分かりました。ほかにいかがですか。

○辻参事官 ただいまの御指摘のあった点のうち、夜間の接見についてですが、承知している範囲で申し上げますと、原則的には午後5時までの執務時間内に接見していただくということで矯正当局は対応していると思いますが、夜間の接見を許さないという準則、そういうものがあるわけではないということでございまして、可能な範囲では夜間接見、夜間といいますか、勤務時間外の接見についても対応していると承知しております。ただ、前回の議論でも出ましたけれども、人員の限界等がございますので、可能な範囲ということになるということです。とりあえず現状の御説明です。

○四宮委員 監獄法の施行規則に執務時間内というのはなかったでしたか。監獄法施行規則の122条は「接見ハ執務時間内ニ非サレハ之ヲ許サス」としています。121条は、一般接見と弁護人接見を分けていますが、122条は分けていないんですね。

○辻参事官 矯正当局から聴いた範囲で、今申し上げたような運用になっているということでございます。

○四宮委員 これを改める方向で検討してもらうということになるのではないですか、違いますか。

○井上座長 そこも含めて御意見いただけると思いますけれども、もう一つの在り方としては、すべての公判期日を夕方まで全部やらないといけないということでもないのだろうと思うんですね。だから、そういう必要があるときには、ある程度早く公判をやめて、接見してもらうということだって、それはあり得ると思います。

○池田委員 今でも審理の重要なところで打合せが大事だとなれば、休廷して、そして裁判所の構内で接見してもらっているわけですが、これからも連日的開廷になって、確かに大事なポイントが出た段階で接見の必要がある、あるいは新しいことが出てきて、これは打ち合わせないと、とても次へ進めないというようなことがあれば、その日は早めにやめて接見の時間に充てるとか、裁判所も多分中間的な合議をその間にする必要も出てくるでしょうから、そういう工夫をすることは十分可能なのではないかと思いますけれども。

○井上座長 そういうことも含めて、かなり柔軟に対応していかなければならないのは間違いないと思いますね。

○四宮委員 ただ、今、??井委員がおっしゃったのは、多分検察官も同じセンスだと思いますけれども、例えば次の証人に移るとか、被告人質問が始まるというときは、今、池田委員がおっしゃったように、個々のポイントについて、その場で打合せをするというのではなくて、要するにおさらいをするわけですね。そうなると相当な時間が必要になってくると。ですから、A証人から今度B証人に移るとか、あるいは証人尋問が終わって被告人質問に移るとか、そういうときは、例えば裁判を早く終わりにしていただいて5時までに打合せが終わるかというと、なかなかそうもいかない。かといって、一期日間を置くことは裁判員の方にとっては迷惑だろうということになると、ここは??井委員がおっしゃることは、私は非常に大事な点だなと思います。

○井上座長 大事なことは間違いないと思うのですが、他方で現実的な問題があるものですから、その辺は柔軟な対応をしていかなければならないだろうと思います。

○本田委員 夜間接見、御趣旨はよく分かるのですけれども、現在の矯正の職員の数から言うと、夜間をすべて御希望どおり対応することはなかなか困難であろうと思います。今でもかなり柔軟にできる範囲でやっているのはやっているのですけれども、それは国家公務員の定員の問題もありますし、必ずしもそんなに多くなってない。特に現状は、御存知のような過剰収容の状態で、職員が非常に過重な勤務状態になっており、そこはちょっと御理解いただきたいと思います。趣旨は別に否定するものではありません。

○酒巻委員 先ほどの??井委員の御発言に関連して質問ですが、接見のことと併せて、テープ、録音のことをおっしゃいました。私、実務をやったことがないのでよく分からないのですが、具体的にはその日の公判を録音したテープを、明日に備えて聞き直すというのが絶対に必要だということですか。

○??井委員 という場合もあるということです。一応メモをとりながら、例えば主尋問をやっているのをメモをとりながら聞いていますが、翌日反対尋問というときに、全部一字一句メモ取っているわけではありせんから、そこはテープをいただいて、夜中にもう一回聞き直して、ここがおかしいとか、ということは必ず必要になる場面もあると思いますね。

○酒巻委員 これは想像ですが、連日的開廷が実現されればされるほど、そこまでの必要性はあまりないのではないかなということを思ったのでありますがいかがでしょうか。大学の授業でもテープ録っている学生はいるのですが、テープを聞き直すだけでもそれなりに時間掛かりまして(笑)、はなはだ非効率ではないかと思っております。本番をちゃんと聞けば、翌日はしっかりできるのじゃないかなと思ったりしたもので。

○??井委員 本来であれば、物的証拠その他、全部頭に入っていて、時系列も全部頭に入っているということが理想なんですね。ただ、私は残念ながら、そんなに優秀じゃないものですからなかなか頭に入らない。そうすると、今日言っていることの中に矛盾点があるかどうかというのは概ね分かるのだけれども、例えばそこにあった、あの証拠との日にちの前後関係が合っていたかなとか、そういう問題があるんですね。ですから他の証拠との突合をするという部分が必ず必要になってくる場合があって、その場合はテープあるいは速記録がないと正確な突合はできないと。例えば、そこが非常に重要なポイントで、反対尋問でそこを突くぞというときに、こちらが例えば記憶が間違っていて、そのために本来真実が出てくるところが出てこないということは十分あるわけですね。
 ですから、そういう意味では、連日開廷をやって、原則的に主尋問が終われば直ちに反対尋問をやるという前提になってもテープが必要であるということはあり得るということですね。常に必要だと言っているわけではありません。

○井上座長 そこは、テープがあった方がより良いという話だろうと思うのです。アメリカなどでも、連日開廷ですけれども、基本的には当事者は自分のメモによっているのですよ。検察官も弁護人も、その日の公判が終わった後、場合によっては徹夜で、自分のメモと記憶に基づいて、証人の証言内容や他の証拠を検討して、翌日の反対尋問に備えるということは珍しくないのです。無論、そういうやり方がベストだという意味ではないのですけれど、そういうやり方で大きな支障なくやってきているわけです。

○??井委員 私は不勉強だから、アメリカの制度はあまりよく知りませんが、少なくとも緻密さにおいては、アメリカと日本は違うと思うんですね。非常に微妙な違いを、お互い主尋問、反対尋問で突き合うわけですから、ちょっとメモと記憶だけというのは、検察官の立場からいってもどうかなと思う場面が出てくるのではないかと思いますね。

○井上座長 私の印象では、日本の弁護士さんも優秀じゃないというわけではないのですけれども、アメリカの公判では検察官も弁護人も本当に真剣勝負をしますし、反対尋問なども緻密なところは相当緻密ですよ。話がちょっと余計なところへ流れてしまったのですけれど。どうぞ。

○四宮委員 埼玉で連日開廷をやった事件がありましたけれども、あれは公判ごとにテープを弁護人に交付していたと聞いております。

○酒巻委員 1点だけ確認ですが、そうすると、これまでは要するに、期日の間があいていたから、そういう準備は余裕をもってできたが、しかし、毎日公判をやるとなれば、その部分を、これまでと同じ水準で準備をするためには、テープが必要だということですか。

○??井委員 今までは速記録で準備をしていた。

○酒巻委員 つまり公判の間があいていたから速記録が……。

○??井委員 速記録が間に合った。

○酒巻委員 分かりました。

○井上座長 ほかの論点についてでも結構ですが、いかがでしょうか。

○大出委員 ちょっと確認を。

○井上座長 どうぞ。

○大出委員 前回の議論のときに、たしか土日の開廷というようなことも話題になっていたような気がするのですが、これはもちろんそれを排除する趣旨ではないといいますか、その点については、どういう確認をするのかということなんですが、その可能性は当然お考えになっていらっしゃったのかどうかということと、先ほど夜間接見ということをおっしゃいましたけれども、今、土日の接見の問題も当然出てくるのだろうと思いますけれども、それは確認だけですけれども、事務局でお分かりになっていらっしゃるのかどうかということです。

○井上座長 まず、土曜、日曜の開廷という点は、ここでの問題との関連で、そういう御意見が出ましたでしょうか。ここでの問題は、連日的に開廷することを原則とし、それをどうやって確保していくかという話ですよね。それに対し、土日の開廷というのは、むしろ、特に裁判員の方達が出てきやすいようにする、そのために土日も開廷すべきではないか、そのようなコンテクストで話が出たので、たしか??井委員から御発言があったように思うのですけれど、議論のコンテクストが違うような気がします。連日的開廷の問題とも全くつながっていないわけではないと思いますけれども。

○大出委員 そのことが排除されているわけでなければ構いません。

○辻参事官 土日開廷につきましては、たたき台には掲げておらないわけで、前回、御議論いただいたときも、裁判所の執務時間の定め等々の問題もあるので難しいのではないかという御意見もあったような記憶がございますけれども、このあたりを含めて、必要であれば御議論いただくことではないかと思います。
 休日の接見につきましては、現状では、矯正当局と日弁連との間の協議に基づきまして、一定の範囲で休日の接見も行われていると承知しておりますので、そちらのそういう協議のレベルといいますか、運用の問題としてやるのか、あるいは、さらに制度的なものが何かあるのかという問題かと思います。

○池田委員 土日開廷の点については、前にも申し上げたように、かなり関係者がいっぱいいて、警備の問題、あるいは身柄を押送する問題、いろんなことが開廷には必要ですので、そこら辺はかなり難しいかなと思います。また、そのときに議論が出なかった点でちょっと追加しておきたいのですが、そのときに、裁判員には、土日の方が都合がいい人がいるだろうという話で、確かにそういう人はいるかもしれません。ところが、これからやろうという今度の裁判員制度の下では、準備手続で、誰をいつ呼んで証人尋問するとか、そういうことまで計画を立ててから裁判員を決めるんですね。そうすると日程的には当事者の都合、あるいは証人の都合とか、そういうことで先にある程度の日程を決めてしまわざるを得ないわけですから、その後になって、裁判員から、私らは土日がいいと言われたとしても、簡単に変えていけるかという問題もあるのかなという気はしますけれども。

○??井委員 この前、ちょっと申し上げたかもしれないですけど、金、土、要するに一日だったら休めますよと。だから、その計画が金、土というふうな形で、そもそもそういうふうに組めるということであれば参加できる人は増えるとは思いますね。

○池田委員 最初から金、土ともう組んでしまうわけですか。

○??井委員 だから、裁判員の都合を見て、金、土にしましょうかとか、土日にしましょうかでなくて、そういう組み方をすることができれば、参加できる人は増えるだろうなということです。
 もう一つは、私、一般のシンポジウムやなんかに行っていろいろ話をする機会がないわけではないのですが、そのときにも今のような話をすると、何で国民に今までない義務を課しておきながら、官の方は今までどおりなんだという声はかなり強く出てきて、私も説明するのに苦労するという状況はあるんですね。

○井上座長 分かりました。ただ、それは、さっき申し上げたように、問題の位置付けとしてはちょっと違い、裁判員の方にできるだけ出てきてもらいやすくする、その負担を少なくする方法として何があるかという問題だと思いますので、議論をもとに戻させていただきたいと思います。連日的開廷の原則を法定するということについてまだ御意見をいただいていないのですが、審議会意見では、例えばとして、連日的開廷の原則を法定化するというアイデアを挙げ、それを含めて、連日的開廷を可能とするための関連諸制度を整備すべきだとされているところです。審議会では、現在の刑訴規則にある同旨の規定を法律に格上げして明記すること自体に意味があるという意見がかなり強かったので、そういうまとめ方になったと記憶しておりますが、この点については、御意見はいかがでしょうか。

○酒巻委員 私は、今まさにそのことを申し上げようと思いまして、まず、このたたき台のとおり、連日的開廷の原則を法律に規定するのがよいと思いますし、その内容は、現在存在する刑訴規則179条の2をほぼそのままでも、私はいいのではないかと思っています。

○本田委員 私も法律レベルで、こういう連日開廷が原則であるということを宣言することは有効だろうと思います。連日的開廷の実現のためには、これまで議論がありましたように、争点整理のための新たな準備手続の創設であるとか、公的弁護制度の整備による、弁護人がこの刑事事件に専従できる制度の確立であるとか、あるいは今度成立した迅速化法で、第一審の手続は、2年以内のできるだけ短い期間に終結させるように裁判所及び当事者に所定の責務を課すと、こういったことと併せて、連日的開廷の原則を規則レベルから法律レベルに上げて規定するというのは、それだけの意味があるだろうと思います。
 そのほかにも、連日的開廷を可能にするためには、たたき台で後で出てきますけれども、訴訟指揮の実効性の確保といったようなことが同時に整備されていくべきだろうと考えます。

○土屋委員 実は、私もいろんな人から連日的開廷は一体どういうイメージなのだということを聞かれるんですね。今、お話に出たみたいに、土曜日までひっかかるのかとか、連日的の「的」とはどういう意味かとか、連日開廷と違うのかというようなことをいろいろ聴かれたりするわけです。言葉として「連日的開廷」というのは、ここで話している分にはいいですけれども、法律に書くときにはよろしくないだろうなと私は思っています。法律として規定することに私は意味があるという、酒巻委員の意見と全くそこは同じなんですけれども、書く場合には、できるだけ「連日的開廷」というような言葉でなくて、もっとどういうイメージなのかということが分かるような書き方ができないかなと思います。

○井上座長 その点について、私も審議会に参加していたものですから、少し御説明しますと、必ず連日開廷しなければならないとしますと、とにかく毎日びっしりとやらなければならないということになってしまう。今の規則の書き方ですと、「できるだけ」とされていますので、余裕が出てくるのですが、そのような余裕や例外を全く認めないということでは立ちゆかないだろう。連日的と「的」が付けられている趣旨は、可能ならば毎日ずっと続けて開廷してもらうのが一番いいのだけれども、いろんな事情や手続の進行の具合によっては、例えば週3日しか開廷できないとか、あるいは何日か間を空けなければならない場合も出てくるだろう。そういうことを一切排除するのでは、実際上やっていけないと考えられますので、「的」という言葉を入れたということであります。もっとも、法文にしたときに、その文言がなじむかというと、なじまないかもしれませんが、趣旨はそういうことでありまして、法制上、どういう文言の規定とするのが適切かは、先に考えてもらうというのが、審議会の考え方だったといえるように思います。

○四宮委員 法律にすることはいいのですけれども、法律に書くときに、裁判員の裁判の場合と、そうでない裁判の場合とで分けるのがいいのか、あるいは分けない方がいいのかという問題があるのではないかと思うんですね。と申しますのは、今、規則があって、しかし実態は連日的開廷にすらなっていない。私は少なくとも裁判員の裁判では連日開廷、つまり毎日やることがイメージできるような、もちろん何が何でも例外なしにということではなくて、今、座長おっしゃったようないろんな例外の場合がもちろんあるわけですから、そういった場合も取り込んだ、しかし原則として毎日やるというイメージが分かるようにする必要があると思います。
 ただ、他方で裁判員が入らない事件もたくさんあって、これも同じペースでやれればいいですけれども、なかなかそうもいかない場合もあると思います。例えば、大型の業務上過失傷害・致死などの事件、大規模な、例えば薬害ですとか医療事故ですとか、工場が爆発したとか、火災だとか、そういったものは、検察側にしろ弁護側にしろ、裁判が始まってからも時間が掛かる場合があるかもしれない。
 私、まだよく分かりませんけれども、そういった可能性のある、裁判官だけでやる事件と、裁判員が入る事件とを、同じ連日的開廷の確保ということで法律に括ってしまうのがいいのかどうかというのはちょっと迷っているんですけれども。

○井上座長 そこのところは、確かに、対象事件によって違ってき得るのですけれども、裁判員が入るかどうかという裁判体の違いによって、その原則が違ってきてもよいと言えるかどうかですね。審議会意見書の趣旨としても、刑事裁判一般について、連日的開廷というのがあるべき姿だということでありまして、刑訴規則にも書いてあるのだけれども、実体としてはそうなっていないので、あるべき姿に戻るといいますか、その規定の趣旨を実現する方向でいろんな制度を整備していこう。ただ、その中でも特に急務といいますか、裁判員制度の対象事件では連日的開廷が不可欠になるだろうから、その整備が特に急がれると、こういうトーンになっているわけです。
 ですから、裁判員制度の対象事件は連日的に開廷すべきだけれども、それ以外の事件ではそうでなくてよいといった書き方をすると、その趣旨に反すると思うのですね。確かに、おっしゃるとおり、対象事件の性質によってかなり事情は違ってくるので、そういった膨らみのようなものをどうやって出せばよいのかという問題だろうと思います。少し踏み込んで意見を言い過ぎたかもしれませんけれども、座長も時々は意見を言わないと、お前は意見を持ち合わせていないのかというふうに議事録を見た同業者などにからかわれるものですから、時々は意見を言わせてください(笑)。

○池田委員 今のと同じ問題意識だったのですが、今、座長の言われるように、確かに裁判員事件の方が、もちろん連日開廷の要請が強いわけですので、そちらを書かなければいけない。しかし、一般事件の方はそこまで要請は強くないけれども、でもその精神にのっとらなければいけないのも当然で、分けてしまうと、一般事件はゆっくりでいいのかという感じになって、これはまずいだろうと思うのです。他方、裁判員事件も一般事件も一緒に規定してしまったときに、今までと同じように、一般事件はそうはいってもうまくいかなかったというときに、その規定の全部の精神が崩れてしまわないかということが懸念されるので、特に裁判員事件ではこうだとか、何かそういう形の規定ができないだろうかと感じています。

○井上座長 法文のレベルで差をつけるのは難しいかもしれませんね。皆さんおっしゃっておられることの実質はそう違わないと思いますので、具体的なアイディアがあれば是非出していただければと思います。酒巻委員、さっき手を挙げられていましたね。

○酒巻委員 全く同じことを話題にしようと思ったのです。結構です。

○井上座長 ほかにはいかがですか。

○四宮委員 さっき御紹介があったように、意見書は、例えば法律でこれを明示することを始めとして、可能にするための関連諸制度を整備すべきであるといっており、一つの例として接見のことなどを??井委員がおっしゃったわけですけれども、そのほかに是非検討してほしいと思っているのは、一つは、さっき本田委員がおっしゃった十分な証拠開示を前提にした充実した準備ということがもちろん一つあるわけですが、身柄を拘束されている証人予定者がいる場合があります。我々弁護人は被告人とは一応時間の制限なしに、また立会いもなしに接見できるわけですが、証人予定者になりますと、これは一般接見になるわけですね。そして時間ということと、秘密ということは保証されなくなるわけです。これも連日的開廷を考えると、時間制限とか立会いの問題について配慮が必要ではないかと思います。
 それから、もう一つは、被告人との関係では、保釈の運用というものを検討し直してほしいと思います。やはり防御というのは身体拘束がない状態の方が最もよくできるわけですから、もちろんいろいろなケースがあるわけですけれども、運用の改善ということを是非お願いしたい。
 それから、さっき録音テープの話が出ましたけれども、これは前回も申し上げましたが、また、異論ももちろんあったわけですけれど、記録の問題、機械入力も含めた公判記録のつくり方というもの、これはいろいろまた技術も進んでいるようですから、記録制度についても是非検討してほしいと思います。

○井上座長 最初の、被告人以外の身柄拘束中の証人予定者との接見に関する御意見のうち、時間の制限が困るという点は、ここでの問題につながっているようにも思われるのですけれども、立会いの問題は連日的開廷の問題とどうつながってくるのですか。

○四宮委員 つまり、証人尋問をやる場合にはいろんなことを聴かなければいけないわけですね。それが立会いがあることによって制限される。そうすると効率的な尋問ができなくなる場合があるということです。

○井上座長 私は実務家でないためか、御趣旨がまだよく分からないところがあるのですけれども、そういう御意見だということは、分かりました。
 ほかにはいかがですか。まだ先もありますので、ここはこのくらいでよろしいですか。既に御意見が出たのですけれども、第2の全体について、裁判員制度対象事件以外の事件ではこうすべきであるといったことで、更に付け加えることがございましたらお出しいただければと思います。よろしいですか。
 それでは、次の「第3 訴訟指揮の実効性確保」という項目に移りたいと思います。そのうちの小項目の「1 国選弁護人の選任」という点から議論していただきたいと思います。先ほど説明を受けましたので、たたき台の内容はどういうものかということはお分かりだと思いますので、どなたからでも御意見をいただければと思いますが。

○四宮委員 質問よろしいですか。

○井上座長 どうぞ。

○四宮委員 現行法にも似た規定があるわけですが、私が理解する限りで、例えば弁護人が出頭しないときというのは、正当な理由なく出頭しないとき、というふうに解釈されていると理解していますけれども、このたたき台で、出頭しないとき、出頭しないおそれがあるとき、在席しなくなったとき、という三つの行為については、いずれも、正当な理由なく、という趣旨であるという理解でよろしいですか。

○井上座長 たたき台の趣旨ですね。どうですか。

○辻参事官 結論的には、正当な理由があって出頭しない、あるいは在席しなくなったというときに、被告人の意思に反して国選弁護人を附するということは恐らくできないということは間違いないと思います。刑訴法289条2項について、正当な理由がなく出頭しない場合と読み込むのかどうかについては、少し意見というか、解釈が分かれているようなところもありますが、いずれにしても、結論としては今申し上げたようなところであることは同じようであります。

○四宮委員 ここに「正当な理由なく」ということを明記することは考えられないのでしょうか。

○辻参事官 詰めて検討しておりませんが、刑訴法289条2項の場合も「正当な理由なく」と書いてないのですけれども、同項については、正当な理由があって弁護人が出頭しなかった場合でも、被告人が同意すれば国選弁護人を附してもいいのではないかという解釈もあるようで、これとの関係も含めて更に検討が必要ということではないかと思います。

○四宮委員 もう一点なのですが、「出頭しないおそれ」という場合はどんな場合を想定しておられるのか、伺いたいと思います。

○辻参事官 例えば、これは第1ラウンドの御議論で御指摘があったところですが、辞任してしまう、あるいは辞任を示唆しているとか、そういった例が挙げられておりましたので、そのようなものを考えてはおりますが、そのほかにも出頭しないことを公言しているといいますか、明言されているというような場合もあり得るかもしれません。

○井上座長 御意見をいただければと思いますが、どうぞ。

○本田委員 こういう制度は是非必要だと思います。特に裁判員制度の下で、連日的な開廷をしなければいけないときに、不出頭その他によって審理が進まないということになれば、裁判員制度そのものが動かなくなるということになろうかと思います。また、新しくできる準備手続のところにもこれはかけておかないと制度全体がうまく動かないということになってしまいます。
 先ほど四宮委員から、「正当な理由なく」と書いた方がいいのではないかという趣旨の御意見があったのですけれども、先ほど事務局から説明もちょっとあったのですけれども、裁判員裁判などで、審理が始まる前に当該弁護人が病気かなんかで出れなくなったというときに、被告人が、国選で結構ですと言っている場合には付けられるようにしておいていいのではないかという気がします。あらかじめ審理計画を立て、裁判員も、その審理計画による予定期間内で審理するということで参加しているわけですから、それを全部崩してしまうというようなことをあえてやる必要はないだろうという気がします。

○井上座長 被告人が同意している場合ということでしょうか。

○本田委員 ええ。

○井上座長 ??井委員、手を挙げておられなかったですか。

○??井委員 全く同じです。こういう制度がないと、裁判員裁判は動かないだろう。特に、裁判員を呼んで、さあ、やるぞと言っているときに弁護人が来ないというようなことがあっては、その事件の手続が進まないだけではなくて、日本の刑事司法全体に対する国民一般の信頼にも傷がつくと思うので、そういうことがないような制度はつくっておく必要があると思います。

○池田委員 私もこのたたき台のような案を設けることはよいと思います。今までの不出頭の例については、これまでも実際に出頭しなかったときだけではなくて、期日が近づいてきて、不出頭が明白であれば、多分、刑訴法289条2項に当てはまるとしてやっていたのではないかと思うのですけれども、現実に出てこなかった、期日になって出頭しなかったということになってから、初めて弁護人を選任するのでは、その期日は実質的な審理ができなくなるので、そういうおそれが明確なときに弁護人を選任できるというような規定にするというのは必要なのではないかと思います。

○井上座長 これが第3の「訴訟指揮の実効性確保」のところに位置付けられているのですが、確かに公判期日を指定することは訴訟指揮といえば訴訟指揮に属する事柄ですので、その実効性を確保するという位置付けでおかしくはないのですが、真のねらいは、皆さんがおっしゃっているように、むしろ連日的開廷ということを確保して実施していくために必要な手段だろう。「訴訟指揮の実効性確保」というと、何となくまがまがしいような気がしますし、ねらいは今申したようなところにあるので、位置付けが違う方があるいはいいのではないかという感じも持っているのですけれども。ちょっと余計なことを言い過ぎたかもしれませんが、さらに付け加えることがあれば、どうぞ。

○土屋委員 基本的には、私もこういう規定があるのはいいだろうなと思っているのですが、出頭しないおそれという、その部分がちょっと漠然としてないかなという気がするんですね。「出頭しないおそれがあるとき」ということが抽象的なものですから、これは相当弁護人が来ないということが確実な状況というのでしょうか、そのくらい高い状況で、その場合には国選弁護人が付く方がいいのかなという気もしておりまして、出頭しないおそれの中身をもうちょっと詰めておく必要があるかなという気がするんですけれども。

○井上座長 その点はいかがですか、そういう御意見が出ましたが。

○??井委員 出頭しないと思って国選付けたところ、もともとの弁護人が出てきましたという場合はどうか。別に、これは、国選弁護人を付けたからといって、それまで付いている弁護人の選任行為がなくなっているわけではないですよね。ですから、出頭しないおそれがあると思って国選を付けておいたら、私選弁護人が出頭してきたとしても、それはそれでいいわけですよね。その私選弁護人が出てきたら、あんた、もう弁護人じゃないよとなると困るけれども、そうでなければ、ある程度広く国選弁護人が選任できるようにしていいではないかという気がしますけれども。

○四宮委員 土屋委員と同じような感じですけれども、それでさっきおっしゃるようなことを質問したのですが、被告人の意に反する結果にケースによってはなるわけで、ですから、これはおそれというよりはもうちょっと限定して、出頭しないとき、若しくは出頭しないことが明らかであるというような規定ぶりにしたらどうかと思います。
 つまり、弁護人が出ませんよと言っている場合とか、確かに一回出頭しないという事実がないとこれが付けられない、というのは問題であるというのは理解できるのですけれども、さっきの辻参事官のお話では、におわせているという場合など、どうかなという気がするので、もうちょっと絞ったらどうかなという気がします。

○本田委員 明らかというなら当然付けなければいけないと思うんですけれども、要するに、おそれがあるときというのは、ほのめかすとか、そういうことだろうと思うんですが、そういうときに付けられないとすると、その後、出てくるかもしれないが、実際に、出てこない場合だってあるわけですね。しかし、裁判員制度の裁判を考えた場合に、裁判員も全部来てもらいました、証人にも全部来てもらいました、しかし、やっぱり、ほのめかしていたとおりに弁護人が来ませんでしたというとき、その期日を流してしまうことにしてよいのか、ということだと思うのです。それは国民に一定の負担をかけて出てきてもらって、例えば、その期日に、審理がある程度進むような審理計画を立てているときに、審理できないというのは、制度としておかしいのではないでしょうか。
 そこは、だから、さっき言ったように、もともとの弁護人と国選弁護人の2人の弁護人がいても別にいいわけで、出ておいでになるなら出ておいでになってちゃんと弁護してもらう。国選弁護人だって、もともとの私選弁護人と同じような姿勢で弁護するはずですし、被告人の意思に反してめちゃくちゃなことをやるわけではないわけですから、同じ弁護をちゃんと弁護士としてやるわけですから、そこを別に不安がる必要は何もないのではないかという気がします。

○??井委員 私はこういうルール自体は必要だと思っているのですが、これを置いたからといってうまく動くかなという感じを持つんですね。例えば多分これが活きてくるときというのは、期日指定で弁護人と裁判官の間に争いが起きた場合、つまり、そんな密に公判をやられてもできませんよと、そんなことやるのだったら、私は出頭しませんよという話になるような場合だと思いますが、そうするとほかの弁護士を付けるわけですね。しかし、新しく付けられた弁護士がきちんと対応できるのか。あらかじめ前から選任されていればいいのだけれども、いきなり選任されて、ちゃんと対応できるかというと、これはなかなか実務的には難しい問題がやはりあるなという感じを持つんですね。ですから、これは必要なのだけれども、これを置いておけば、絶対大丈夫というわけでもないから、ちょっと困ったなという感じは持っておりますけれども。

○井上座長 これですべてを解決するというものではないのだろうと思いますね。

○??井委員 新しく付けられた弁護人も困るよなと思います。

○井上座長 ??井委員なら大丈夫なんじゃないですか(笑)。

○辻参事官 今の点に関しまして、一つは、公的弁護制度の整備ということで、刑事事件に専従できる弁護人かどうかというところの問題もありましょうし、多少の準備期間は置くしかなくても、その後、さらに続けてできるのであれば、新しい弁護人にするのが意味があるという場合もあるのではないかという感じはいたしますけれども。

○井上座長 ほかに特に御意見がなければ、先に進んでよろしいですか。それでは、次が「2 訴訟指揮権に基づく命令の不遵守に対する制裁等」でして、「(1) 命令の不遵守に対する制裁」という点から御意見をいただければと思いますが、いかがでしょうか。

○四宮委員 質問よろしいでしょうか。

○井上座長 どうぞ。

○四宮委員 出頭命令というものなのですけれども、これはどういったものなのかというのが一つです。
 2番目に訴訟関係人ということですけれども、今の法律を見ますと、被告人については、召喚とか勾引とか、出てこない場合には、あるわけですね。それから保釈の取消しなどもある。証人についても、さっきちょっと話題になりましたように既に規定がある。そうすると、結局、検察官と弁護人なのかとなりますが、検察官に対する出頭命令というのは、一体どんなものなのだろう。つまり、検察官個人に対する出頭命令というのがあるのかどうかということで、もし、そんなものがないとすると、結局弁護人だけなのかなという感じがします。それが2番目の質問です。
 3番目に、賛成するか、しないかは別にして、不服の申立てというものは考えていないという趣旨なのかどうかということです。この三つです。

○井上座長 辻参事官、いかがですか。

○辻参事官 まず、訴訟関係人は、一般的には被告人、検察官、弁護人、補佐人等々で、一般的な用語例と同じということだと考えております。それから、被告人には、アの出頭の問題で言いますと、別の手段がございますので、出頭に関しては過料の必要性も考えにくいのかもしれませんので、規定振りとしてどうするかというのはまた別途検討する必要があるかと思っております。
 それから、出頭命令とは何かという御趣旨だったと思いますが、これは、現在の訴訟指揮権に基づいて、裁判所が関係人に対して、当該の期日あるいは公判準備に出頭しなさいということを命令することを想定しております。公判期日、あるいは公判準備への出頭義務というものが、公判期日等が指定された以上、弁護人あるいは検察官等に当然生ずるというふうにも考えられるわけでありますが、その点に疑義があり得るかもしれないということと、さらに制裁の発動としての前提として出頭命令があった方が明確ではないかという趣旨によるものであります。
 3点目が不服申立てでありますが、ここには書いてございませんが、特に過料の制裁を科すということになれば、即時抗告ということが当然考えられるのかなとは思います。

○井上座長 御質問に対する答えはそれでよろしいですか。

○四宮委員 はい。

○土屋委員 私も質問です。2ページ目の一番上のところに、適当の処置という言葉がありますけれども、適当の処置とは……。

○井上座長 処置請求のところですね。

○土屋委員 はい。

○井上座長 それは、もう少し先の(2)の話であり、今は(1)についての議論をしたいと思いますので。

○土屋委員 後ほどちょっと説明していただければ。

○井上座長 では、後でということにさせていただきます。

○酒巻委員 先ほどの辻参事官の御説明に対する確認ですが、私も出頭命令は気になりました。今は、池田委員にお伺いした方がいいのかもしれませんが、裁判長は公判について期日を指定し、それを通知することになっているわけですね。今の辻参事官の御説明ですと、公判の準備手続はともかくとして、公判についても毎回期日の通知と同時に、常に出頭命令を出すという、そういうイメージなんですか。そうでないと、不遵守の規定は全部働かなくなることになるのですが、そういう御趣旨でしょうか。

○辻参事官 毎回出すかどうかは、そこは裁判所の運用上の判断だということだと思いますが、出頭しないおそれがあるということで、特に出頭を確保する必要がある場合には出頭命令を出して、それでもなおかつ出頭しないときに、さらに過料の制裁を考えるかどうかという在り方があるのではないかということで考えたわけであります。

○井上座長 通常は出頭命令は出さないが、必要があるときには出頭命令を出すというイメージでしょうか。

○辻参事官 通常の場合、関係者は、当然出頭してくるわけですから、すべての場合に出頭命令が必要なわけではもちろんありませんので、必要な場合に出頭命令を出せばいいのではないかということです。

○井上座長 ほかの方からも、御意見を伺えればと思うのですが、どうぞ。

○本田委員 意見ですけれども、私は第1ラウンドでも申し上げましたように、裁判所の訴訟指揮を実効をあらしめるためにはこういった制裁は是非必要だと考えております。今までもこういったいろんな形で訴訟遅延を招くような行為が遺憾ながら行われているわけで、そこで裁判所がきちんとした制裁を担保としたそういった訴訟指揮権を持つことは是非とも必要だろうと考えます。

○酒巻委員 私も意見を申しますと、このような制裁措置の規定を設けることに賛成です。前にも言ったと思いますが、そもそも裁判所の訴訟指揮に訴訟関係人は従うというのが裁判制度というものを成り立たせている当然の大前提であり、そして現に多くの方は従っておられるわけでありまして、これは諸外国でもそうなのでありますけれども、例外的にそれに従わない不届き者がいるかもしれないといったときの最後の備えとして、このような制裁を置いておくことが必要であり、そのような究極の措置があるということを前提にすれば、現に裁判所がそれを使うかどうかということとは別に、より円滑な訴訟指揮に資するだろうと思います。

○井上座長 ほかの方、どうぞ。

○四宮委員 私は、第1ラウンドでも、基本的には、新しい仕組みと、新しい法曹倫理にゆだねるべきではないかと申し上げました。今も意見は同じなのですが、第1ラウンドでもいろんなことを何人かの方がおっしゃっていたと思いますが、新しい準備手続がつくられることとか、裁判員制度が導入されるという要素によって、これまでと状況が大きく違ってくるだろうと思います。
 今までこういった問題、特にアの問題などは、公判に入ってから審理の在り方をめぐってごたごたしたわけですけれども、そういった大きな状況の変化によって審理の在り方をめぐる紛議というものは大きく回避していけるだろうと思うのですね。そうすると、状況が大きく変わって、こういう場合が非常に極端な場合になるという意味で、過料等の制裁の実効性等にも疑問があると思います。
 意見書を、この刑事のところだけではなくて、ほかも見ますと、特に弁護士の社会的責任ということを非常に強調しております。意見書の78ページでは、弁護士が社会的責任を果たすとともに、職業倫理を保持し、不断に職務活動の質の向上に努めるべきであると言っております。
 特にイとの関係で注意を要する点は、弁護活動の限界の問題です。同じところで意見書は、弁護士の社会的責任というものは、基本的には当事者主義訴訟構造の下での精力的な訴訟活動など、諸種の職務活動によって頼もしい権利の守り手として、職業倫理を保持しつつ依頼者の、つまり国民の正当な権利利益の実現に奉仕することを通じて実践される、と言っているわけです。だから、社会的な責任を全うするということは、決して精力的な弁護活動と相入れないというものではなくて、精力的な弁護活動こそ社会的責任を全うするものと、少なくとも意見書は考えていると思います。
 そのことと併せて意見書は、84ページで、弁護士倫理等に関する弁護士会の体制の整備ということを言っておりまして、弁護士会が弁護士倫理の徹底・向上を図るため、その自律的機能を厳正に行使するとともに、弁護士倫理の在り方につき、一層の整備等を行うべきである。また、同時に法曹養成段階での倫理教育とか、継続教育段階での倫理研修というものの強化も併せて提言をしております。そういった全体的な意見書の中で考えますと、まさに新しい刑事制度、新しい法曹倫理の仕組みの中でこの問題を考える必要があると思います。
 長くなって恐縮ですが、弁護士会も新しい規範性を持った倫理規定として「弁護士業務基本規程」というものを現在策定中であります。また、懲戒制度も整備した新しい弁護士法というものも成立しております。それから、聞くところによれば、法科大学院においても、法曹倫理が必修ということが求められているというふうにも聞いております。

○井上座長 四宮委員、簡潔にお願いします。

○四宮委員 はい。結論ですけど、アにつきましては、既に昭和54年に刑事法廷における弁護活動に関する倫理規程というものがあって、この中で、「正当な理由のない不出頭、退廷及び辞任等、不当な活動をしてはならない」と明記されておりまして、もちろんこれに違反すれは懲戒になります。
 イの点では、さっき申し上げたような、弁護活動の正当性の範囲というものとの問題もありますので、ここも弁護士会の自律的な懲戒制度にゆだねることが相当なのではないか。つまり結論としては、弁護士会と裁判所と協力して、一層法曹倫理の徹底を図っていくということで、この問題を解決していくべきではないかと思います。長くなって恐縮です。

○井上座長 ちょっと揚げ足をとるようですが、アの方で、そういう倫理規程があり、正当な理由のない不出頭等がいけないこととされていれば、大体守られるだろうとは思いますが、しかし、それが守られない場合について、そのような正当な理由のない不出頭等がいけないことであるはずなのに、そのような倫理規程があることが、こういう制裁の規定を置いてはいけない理由になるのでしょうか。
 いけないことをやったのですから、懲戒となるとともに、過料も費用賠償もありという形にすることも、論理的には成り立つような気がするのですが。

○四宮委員 論理的には成り立つかもしれません。ただ、弁護士会の方で、そういった特別な、この関係についての倫理規程を持っているので、それでやったらどうかということです。

○井上座長 もう一つ、御留意いただきたいのは、裁判所の訴訟指揮の実効性の確保ということも意見書は言っているのです。その点も視野に入れて議論しないといけないのでして、意見書中のいま紹介されたところだけ捉えると、そちらの面だけに見えるのですけれども。

○四宮委員 私は両方考えたつもりですが。

○井上座長 ですから、実効性の確保という観点からは、仮にそういう訴訟指揮に従わない場合に懲戒ということだけで十分なのかどうかが問題になる。そういう議論だろうと思うのですね、ここのところは。

○四宮委員 私はそれでいくべきだと思います。

○本田委員 今、四宮委員からいろいろ意見が出たのですけれども、意見書に書いてあることは、まさにそのとおりで全く異論はないわけです。ちゃんとやっていただくように書いてあるわけですから。新しい制度云々という話もありましたけれども、新しい制度になろうとなるまいと、今おっしゃったことは当然弁護士としてやらなければいけないことだったわけですね。遺憾ながら、そうでない事例が現にあるわけです。将来そういうものがないという保証はどこにもないわけですね。それは、数の上で、多い、少ないの問題は別として。
 前の検討会のときに言いましたけど、例えばイの関係で言うならば、重複尋問というか、意味のない反対尋問を延々と続ける。例えば、「1か月足らず」と「20日余り」という供述調書の食い違いをずっと追求していく、あるいは「2~3日」と「約3日」という供述調書の違いに関する反対尋問を制限しようとしても続けていく、ということが現にあるわけですね。そこは、当然、裁判所の判断により、そういう重複尋問等を制限して、その上で、従わなければ一定の制裁を科すということです。もちろん、新しい制度、例えば、新たな業務規程といったものをつくられることは我々としても大歓迎ですし、その御苦労は多とするわけですけれども、それで本当に全部賄えるのかというと、そうはならないのではないかという気がするんですけれども。

○??井委員 弁護士会の倫理規程をどのように位置付けるかというのはなかなか難しい問題だと思っているのですね。私は今までおっしゃった意見とは全然別の観点からの意見なのですが、まず倫理規程については、民主的正当根拠を持ってないと、一業界団体がつくっている倫理規程であって、国民の代表が加わっているわけでもないし、国民の投票にさらされているわけでもないので、民主的正当根拠を持ってないわけで、そういう意味では、法律に制裁規定をもうけるべきかどうかという議論をしているときに、倫理規程があるからいいではないかというのは本当はおかしくないかと思います。
 それから、逆にすべてのことを倫理規程で賄うと言い出すと、倫理規程というのは、弁護士の身分の得喪にかかわるものですから、それで全部やらせてしまうと、逆に弁護士会の自治がおかしくなる。だから、ここは倫理規程は倫理規程、それから法律で定めるべきものは法律で定めるべきものときちんと書き分けるベきだと思います。そういう趣旨で、私はアの規定には賛成であるということです。

○井上座長 ほかの方は御意見いかがですか。四宮委員のように、倫理規程で十分賄えるのではないか、弁護士会を信頼してくれという御意見と、それでは不十分だという御意見、それに、それはちょっと筋の違う議論ではないかという??井委員の御意見がありましたが、特にほかに付け加えることがなければ、次に進みたいと思います。

○酒巻委員 イも済んだということですか。

○井上座長 イも含めて議論していただいたつもりなのですけれども。

○??井委員 アについては全くこのとおりなのですが、イについては、本田委員が指摘されたような問題があることは確かで、そういう場合は制限しなくてはいけない、これもよく分かるのですが、本来、制限してはいけないような尋問を制限してしまうということもそれはあり得るわけですね、裁判官も人間ですから、常にそこの判断が正しく行われるわけではない。イについては、これは不服の申立てを認める余地があるのではないかと思います。

○井上座長 アも、さっきの説明ですと、不服申立ての道はあるのだろうということでしたけれど。

○??井委員 それなら結構です。アについては、私は不服の申立てを認める必要はあまりないかなと思うんだけれども(笑)。

○井上座長 正当な理由があるか、ないか、というところで判断は分かれるかもしれませんね。

○酒巻委員 イにつきまして、今、不服申立てとおっしゃったのは、過料の制裁に対するものですか。

○井上座長 そうです。

○酒巻委員 分かりました。本当に細かいことですけど、イにつきましては、訴訟関係人の中には、被告人が含まれる。被告人本人がわあわあしゃべり続けているという場合も対象となり得るわけで、これは弁護士の倫理規程ではもちろん対処できないことであります。その点からも、イの制裁規定は必要だと考えます。

○井上座長 そのほか、仮に裁判官が不当に制限した場合には、恐らく訴訟手続上の法令違反の問題にもなり得ると思うのですね。そのような裁判官の措置のせいで十分な反対尋問ができなかった、あるいは十分な主尋問ができなかったということで、そちらの問題にもなり得ると思うのです。よろしいですか。
 先に進ませていただきます。「(2) 裁判所による処置請求」ですが、これについて御意見を伺いたいと思います。これに関し、先ほど土屋委員から御質問がありましたが、どうぞ。

○土屋委員 ここで言う適当と認める処置というのは一体どういうことなのか、事務局でも結構ですし、あるいは法務省、日弁連の方でも結構ですが、想定されるのは一体どういうことなのかということを伺っておきたい。

○井上座長 先ほどの辻参事官の御説明の中では、適当な懲戒措置等という言い換えだったように思いますが、もう少し詳しく説明していただけますか。

○辻参事官 これは刑訴規則、先ほど申し上げましたように、現行の刑事訴訟規則303条に倣ったものでありまして、可能な範囲で調べたところでは、適当な処置に弁護士法上、あるいは国家公務員法上の懲戒処分が入るのは恐らく当然だろうということだと思いますが、それ以外にどういうものがあるのか、実例はあまり承知していませんが、注意処分のようなものが入るのかどうかということかなと思っておりますが、それを含めて懲戒というふうに限ってしまうのか、限ってしまわないのかという問題があるということかなと思いますけれども。

○土屋委員 かなり幅広く考えていいんですか、まさに適当だと。

○辻参事官 何が適当な処置かということについては、そもそも懲戒処分をするのが相当かどうかというところをはじめ、それは、処置を求められた、監督権を持つ者の方で判断することだと思っていますけれども。

○井上座長 いきなり懲戒処分にいかないで、事実上の注意を促すとか、そういうこともあり得るということですか。いかがでしょうか、この点は。

○??井委員 いいのではないかと思います。もちろん、これは今座長がちょっとおっしゃっているように、適当な処置を採るべきことを請求されたけれども、弁護士会としては、これは採る必要なしという判断もあり得べしという前提でつくられているわけですよね。ですから、それであれば別にこれでいいと思います。

○井上座長 今の刑訴規則ですと、回答義務はあるのですよね。

○辻参事官 はい。

○井上座長 どういう措置を採ったか、あるいは採らなかったかということも回答するということですか、今の規則では。

○辻参事官 解釈がなかなか難しいというか、残念ながら、解釈を試みた文献があまり見受けられなかったのですが、そこは解釈を含めて検討いただくしかないと思います。

○井上座長 何らかの回答はするのでしょうね、説明責任みたいなものですから。

○??井委員 措置を採らないという通知はするということになるのではないかですか。

○井上座長 なぜ採らないのかということまで言うかどうかは別だということですね。ほかに、特に付け加えることがなければ、ここはこの程度にさせていただければと思うのですが。
 最後に、第3全体について、裁判員制度対象事件以外の事件に関しては何か特別の配慮をすべきであるということがございましたら、出していただきたいのと、この項目に関連して、こういうことも議論すべきでないかということがありましたら、御意見を伺いたいと思いますけれども。ここはよろしいですか。
 それでは、今日はこのくらいにさせていただければと思います。残った事項は、次回ということでよろしいでしょうか。

○四宮委員 次回、本田委員から、さっきちょっと申し上げましたけど、最高検察庁のプロジェクトチームの提言について何か御紹介いただけたらと思うのですけど、それも御検討ください。

○井上座長 そういう御紹介をいただくのがいいのかどうかという自体についても検討させていただければと思います。

○本田委員 もし必要な方がありましたら、次回持ってまいりますので、よく読んでいただきたい。

○井上座長 分かりました。それは、いずれどこかに公表されるのですか。

○本田委員 いや、もうしました。

○井上座長 新聞にはもちろんそうなのですけど、全文自体が公表されているのですか。

○四宮委員 インターネットにはどうですか。

○本田委員 それは載せても構わないと思います。

○井上座長 それ自体の性質としては、各検察庁への通知のようなものなのですか。

○本田委員 そうですね。

○井上座長 分かりました。その点、御意見をよく踏まえて、扱いを検討させていただきます。
 それでは、本日はこれで終了させていただきます。次回は7月29日です。どうもありがとうございました。