○井上座長 所定の時刻ですので、第23回裁判員制度・刑事検討会を開会させていただきます。
本日も御多忙の折、御参集いただきましてありがとうございます。
本日も、前回に引き続き第2ラウンドの議論ということで、たたき台(その2)に沿って「刑事裁判の充実・迅速化」に関する議論を続けたいと思います。本日は、第4の「直接主義・口頭主義の実質化」というところからであったと思います。
たたき台についての議論に入る前に、関係省庁において検討されておりました被疑者の取調べ過程・状況の書面による記録制度の概要がまとまったということで、本検討会の参考のために御説明いただけるとのことであります。御承知のように、この制度自体はこの検討会の検討事項ではございませんけれども、関連するところもあると思いますので、御説明を伺って、この検討会における今後の検討に役立てていきたいと思います。関係省庁を代表しまして、法務省の野々上刑事課長から御説明いただけるということですので、よろしくお願いいたします。
○法務省刑事局野々上刑事課長 法務省刑事局刑事課長の野々上でございます。御報告させていただきます。
先ほど御紹介がございましたとおり、関係省庁によりまして、取調べ記録の制度について検討を重ねた結果、概要がまとまりましたので、御参考に報告させていただきます。釈迦に説法で恐縮でございますが、まず、枠組みの話から、配布させていただいている資料に基づいて御説明をさせていただきたいと思います。
司法制度改革審議会の最終意見書におきまして、太字になっておりますように、「被疑者の取調べの適正さを確保するため、その取調べ過程・状況につき、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入すべきである」とされたところであります。
これを受けまして、平成14年3月19日の閣議決定におきまして、国民の期待に応える司法制度の構築、「第2 刑事司法制度の改革」、その4(2)イにおきまして、「被疑者の取調べの適正を確保するため、その取調べ過程・状況につき、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入すること」とし、平成15年半ばころまでに所要の措置を講ずるとされました。
ここの括弧書きの中に省庁の名前が列記がされておりますが、これは捜査機関を抱える関係省庁がすべて列記されているということでございます。ここに記載された省庁で、関係省庁連絡会議を設置いたしまして、検討した結果ほぼ概要がまとまったので御報告させていただく次第でございます。
なお、法務省が事務局的な立場をしていた関係上、私から御説明させていただきます。続いて、取調べ記録制度の概要につきましては、色刷りの紙とA4版2枚のものと二つ用意してございます。まず色刷りの資料の方から御説明させていただきます。
取調べ記録制度につきましては、司法制度改革審議会の最終意見と司法制度改革推進計画閣議決定を受けまして検討を始めたものですが、概ね3点に留意して検討を行ってまいりました。
第1点は、「大量性」ということでございます。平成13年の実績で申しますと、勾留人員は12万人余りでございます。仮に一人の被疑者について10日間の取調べを行ったとしますと、記録は120万通に及ぶということでございます。こういう大量性に即して対応できるような制度にしていかなければならないというのが1点でございます。
第2点は、「供述人保護」でございます。これは、本記録制度は証拠開示の問題とは直接関係はしておりませんが、証拠開示の土台となる制度であると理解しております。それにしても組織的背景のある事件、あるいは内部告発に係る事件等の供述人保護は一定程度配慮しなければならないと考えております。その仕組みについては後ほど御説明いたします。
それから、「客観的・外形的事項の記録」ということでございます。本制度は、ねらいとしましても、入り口における紛議はなるべくなくして、これを証拠書類として活用していただいて公判の充実・迅速化を図りたいということでございまして、客観的・外形的事項を超えて公判廷において争いとなり得る事項を記録の対象とすると、本記録自体の信用性が裁判での争点となり、結局この記録が公判に提出できないということになってはかえって本制度の趣旨を損なう結果になるのではないかということで、記録事項は客観的・外形的事項としました。以上の3点に留意して制度の構築についての検討をしてまいりました。
その結果、「取調べ記録の要点」でございますが、これは捜査報告書の一種、すなわち行政文書ではなくて捜査書類として位置付けるということでございまして、司法警察から検察へ捜査書類として送致を受けまして、事件記録とともに保管するというスキームを考えております。これによって他の機関、警察が作成した書類も検察が保管することとなりますので、後の改ざんなどは防止できるものと考えております。
それから、記録事項でございますが、(2)に列挙してありますとおり、取調べ年月日、取調べ担当者、通訳人、取調べ場所、取調べ時間、被疑者の氏名・生年月日、逮捕・勾留罪名、被疑者調書作成の有無及びその数を記録することとしてございます。
また、被疑者が特定の被疑者調書の存在及び内容について明らかにして欲しくない旨の意思を表明した場合は、当該被疑者調書については、他の被疑者調書と別の欄に記載する。この趣旨は、現実に私の検事としての経験でも、暴力団犯罪等におきましては、首謀者、通常は組長とかそれに近い人物でありますけど、この者の関与を最初に供述した者は、自分が最初にそのことを供述したことは明らかにしてほしくないという申立てもある場合もございます。そのようなことを念頭において、A4版1枚程度の記録を作成することにしておりますが、そういう意思を表明した場合には、そういう意思表明があった供述調書の作成の有無、及び通数について、同じ紙には記載しますが、その他の調書の作成の有無、通数とは別の欄に記載したいと考えております。それをどうやって被告人側に開示していくかというのは、まさに証拠開示の問題として、将来的に御検討いただく問題ではないかと考えております。
それから、(3)において書いておりますのは、捜査書類でございますので、公判において、捜査段階における被疑者供述の任意性・信用性が争点となった場合、これを証拠として使用することを考えております。
以上が概要でございまして、それを文章にしたものがA4版の2枚紙でございます。以上のとおり、制度の趣旨としましては、身柄拘束中の被疑者の取調べの時間、調書作成の有無等、取調べの過程・状況に関する事項につき、書面による記録の作成・保存を義務付け、上司等による指導・監督の契機とすることにより、取調べの適正をより一層確保するとともに、公判段階において、捜査段階における被疑者供述の任意性・信用性が争点となった場合、捜査段階の取調べの過程・状況に関する客観的・外形的な証拠資料を提供することにより、公判審理の充実・迅速化に資することを目的とするものと考えております。
制度の概要でございますが、取調べ記録は、捜査官が取調べ室又はこれに準ずる場所において身柄拘束中の被疑者・被告人を取調べる場合において、1日単位かつ事件単位で、報告書の体裁をとった、以下の記録事項を内容とする取調べ記録を作成することとするということでございます。
①から⑪までについては、先ほど概要を御説明したところでございます。⑫としまして、その他参考事項とありますが、これは特異な言動、弁護人の接見の有無等、特筆すべき客観的・外形的事情が認められる場合に、必要に応じて記載するというものです。
申し遅れましたが、この制度につきましては、法務省・検察の場合におきましては、法務大臣訓令を制定することを予定しておりますし、警察の場合は犯罪捜査規範ないしこれに準ずる国家公安委員会規則で対応すると聞いております。
そういうことでございますので、すべて省令に書き込んでいくわけでございますが、「その他参考事項」に書いてあるのは、これは運用の目安として、こういうことがあった場合には記載するというような程度のものになろうかと思われます。
それから、取調べ記録の送致に関しては、他の事件記録が事件単位で送致されるのと同様に取り扱うこととしております。ですから余罪に関する取調べ記録は、当該余罪を送致する際に、同罪に関する取調べ記録として送致するということにしております。
ただ、検察の場合は送致という手続がございませんので、検察の場合はすべて一つの記録で保管することになると考えております。
供述人の保護については、先ほど御説明したとおりであります。
それから、正確性、客観性の担保としましては、先ほど申しましたとおり、まず検察官に司法警察職員から送致させることによって外形的に改ざん防止措置を講ずることとしておりますが、また、各捜査機関の規則、訓令、通達等により、法的な作成義務を課することとしておりますので、これに違反した場合には当然懲戒処分の対象となり得ると考えております。
また、これは刑法の解釈の問題としまして、これは他の捜査報告書同様、取調べ記録を破棄した場合には公用文書等毀棄罪が成立し、虚偽の記録を作成し、又は記録を改ざんする場合には、公文書偽造・変造の罪、虚偽公文書作成・変造の罪又は偽造公文書行使等の罪が成立するものと考えております。
なお、被告人の取調べ、すなわち起訴後においても、上申書等が提出されて、起訴後においても取調べをしてもらいたい旨の上申が被告人側からなされることもございまして、これに応じて被告人を取り調べた場合にも、起訴前同様の取調べ記録を作成することとしております。
最後に、「関係省庁連絡会議名簿」と題する資料がありますが、これは連絡会議の構成メンバーと、それらが抱えている捜査機関の名称を列記したものでございます。関係省庁連絡会議といたしましては、早々に最終案を固めて、あとは各省庁で作業を行っていきたいと考えているところでございます。
○井上座長 どうもありがとうございました。せっかくですので、今の御説明について御質問があれば、どうぞ。
○髙井委員 1点だけ、取調べ記録の中で、⑦、被疑者の入室時刻・退室時刻を特定して記載するとありますが、これは1日の取調べの中で入・退室を繰り返すということがあった場合は、その都度記録するということでしょうか。
○野々上課長 そのように考えております。
○大出委員 留意点として3点挙げていらっしゃいまして、最後のところで、客観的・外形的事項を記録するということにした趣旨というようなことの御説明がありました。確かに、もちろん紛議を生じるようなことは避けるべきだということで、こういった事項ということであるということであると思うのですが、取調べ記録の項目を拝見していますと、それ自体は客観的であるかもしれませんけれども、内容自体について争いを生ずる場合はあり得るということになりますね。例えば⑦の取調べ時間についても、記載されていた中身が本当にそうなのかどうか、これは密室で記録が作成されているわけですから、争いが生じ得る事項が、例えば被疑者調書作成の有無及びその数などほかにもあり得ると思うんですね。もちろんこれが先ほど懲戒対象になるようなことであったとすれば懲戒になりますけれども、争いが生じた場合に、それをどう最終的に確認するのか、確認方法について、それを担保する方法、それについての御検討は何かないのでしょうか。
○野々上課長 まず、例示として二つの点の御指摘があったかと思いますが、例えば時間の問題ですと、これは実は別途警察とかの留置場であれば、留置人出し入れの時刻の記録がございまして、取調べ時間は他の記録と対照可能であると考えておりまして、争われれば、そういった記録で取調べ記録の正確性を立証したいと考えておりますけれども、これらの事項であれば、まずは公判において証拠として提出して、それでいろいろ審議していただく方が実際的かなという感じはしております。
それから、調書を結局は隠したのではないかという紛議が生じるという御指摘でしたが、私どもとして、こういう制度を発足させるということでございますので、もちろんそれも隠してしまいますと虚偽の文書を作成したことになってしまいますので、ここはそれでしっかりやっていきたいと思っております。そこの点については、留置場からの出し入れ時間とか、そういう検証可能なものがないのではないかというような御指摘もあるかもしれませんけれども、そこは最後は検事なり警察官が証人尋問で答えて、そこで嘘をつけば偽証ということでございますので、これは他の捜査記録と同じように考えております。司法警察職員による取調べの場合ですけど、先ほど申したように検察官に取調べ記録を送致させることとしておりますので、通常はその段階から殊さらに虚偽を記載するということは考えにくくて、何か問題が起きてからそれをとりつくろうという問題が起きるのではないかと思いますが、それは検察官に送致させる制度を取り入れることによって防げるのではないかと思っておるところでございます。
○池田委員 取調べ過程・状況につき記録を残すということで、これまで訴訟においては、このあたりの事実を確定するだけでもかなり時間が掛かっていたので、そういう意味では非常にありがたい制度だと思うのですが、ただ、一つ気になるのは、事件単位でつくるということになると、事件に関係のない、例えば身上に関する供述調書を作成したときとか、あるいは並行して余罪にかかわる供述調書を作成した場合にはどういうふうに取調べ記録をつくるのか。そういう供述調書があるというのは取調べ記録から分かるのか。特に被告人について、いつごろどういう調べがあったのかというのが客観的に分かるものとして、先ほど野々上課長が言われたような、留置人出入簿というものも並行して調べる必要が出てくるのは分かるのですけれども、それがなくても取調べ記録だけで分かれば、それにこしたことはないように思うのです。そのあたりはどうお考えなのでしょうか。
○野々上課長 要は余罪に関する供述調書についての取扱いという御質問かと思いますが、これは取調べ記録自体は、起訴までは毎日作成しまして、それはすべて検察官のところに送られてくるということになります。そういう意味では、起訴までの20日間の間は1単位で作成されるものと実質的には同じです。ただし、余罪に関する供述調書作成の報告書は、それは本件と一緒に送られてくるものとは別にもう一つつくりまして、それはそれとして警察に保管しておいていただくということで、それは自動的には検察官の手元には届きません。ただ、起訴するまでに余罪の取調べかどうかにかかわらず、1日のうち誰が何時間取調べたかということはすべて検察官に報告が来ることになると考えております。ただ、余罪に関する供述調書作成の報告書だけはその余罪が送致されてきたときにその事件記録と共に送致されてくるということになります。
○池田委員 1日単位、事件単位でつくられるということですね。それで1日について1枚のものぐらいを考えておられるということですが、余罪に関する取調べ記録は、余罪を送致する際に送るとなっているので、その余罪について取調べようとしたけれども、結局余罪は立件されなかったというようなときにはその余罪に関する取調べ記録は検察官の手元にも来ないということにはならないのですか。
○野々上課長 「取調べ過程・状況の記録制度」の概要の第2の1に書いております⑩と⑪以外のものはすべて検察官の手元に来るということになります。それは事件単位というよりも、身柄を拘束している被疑者について、起訴までに警察が何日、何時間取り調べたかについてはすべて報告が検察官に来ますが、余罪に関する調書作成の有無ということだけに限っては、それは別のもう一枚同じものを作成してもらって、それは余罪送致のときに送致されるということになります。余罪に関する取調べが問題になれば、そうして別に作成された取調べ記録を警察に出してもらうことになってくるということです。
○井上座長 今の池田委員の御質問の趣旨は、事件単位、1日単位ということだと、例えば同じ日に、前半はA事件について取り調べ、残った時間で余罪のB事件について取り調べたという場合には、取調べ記録を2通つくることになるのか、ということなんでしょう。そして、2通作成されるとするならば、余罪のB事件に関する記録はどこへ行くのか、という御質問であろうと思うのですが。
○野々上課長 そういう意味では、例えば朝10時から12時までは本件の取調べをして、午後1時から5時までは余罪の取調べをしたということを仮定しますと、9時から12時まで、1時から5時まで取調べをしたということは、1枚の紙に書いてもらって、⑩、⑪については、本件のみについての調書作成の有無及びその数などが記録されることになります。余罪については、基本的なデータは同じですけれども、余罪に関する調書を作成しましたという記録は、余罪の記録として警察が保管しておりますので、検察官が自動的に分かるかというとそうではなく、警察に問い合わせなければ余罪に関する調書の作成の有無などは分からないということは、確かに御指摘のとおりかと思います。
○井上座長 今、考えておられるのはそういう内容だということですね。これは本検討会での直接の検討事項ではございませんので、今、御説明あったようなことも参考にしながら、今後議論していきたいと思います。
○四宮委員 質問ですが、④の取調べ担当者ということについて、例えば検察官の取調べの場合には、検察官と大体立会い事務官お二人いらっしゃるが、場合によっては、押送の警察官が室内にいる場合といない場合とがあると理解をしております。また、警察での取調べの場合には、取調べ担当の警察官の方が1人の場合もあるでしょうし、複数の場合もあると理解をしているのですけれども、取調べの場に、警察の場合には複数の人が出たり入ったりということもあり得るのだと思うのですが、そういう場合は、とにかく取調べに立ち会った方の名前は全部記載されるということなのでしょうか。それとも主任といいますか、主な人だけが載るのか、そこら辺は今どのようにお考えなのでしょうか。
○野々上課長 取調べの場に物理的に立ち入ったというよりも、取調べやその補助をした者は全員記載するけれども、単に資料を持って部屋に入っただけのような人は書かないということになるのではないかと思います。
○井上座長 このくらいでよろしいですか。時間もそれほどありませんので、特にさらに追加して御質問がなければ、この件についてはこのぐらいにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
それでは、本題に戻りまして、直接主義・口頭主義の実質化に関する議論に入りたいと思います。前回、事務局から説明がありましたように、裁判員制度対象事件の公判手続については、直接主義・口頭主義の実質化の観点をも踏まえて、既にたたき台に沿った第2ラウンドの議論をひとわたり行ったところであります。そこで充実・迅速化のたたき台(その2)に記載されていますように、ここでは、裁判員制度対象事件以外の事件における直接主義・口頭主義の実質化に関し、裁判員制度対象事件に関するこれまでの議論を踏まえつつ、それとは異なる考慮をすべきところがあるかどうかという形で議論をするのが適当であろうかと思います。そういうことで御意見を伺いたいと思います。
○四宮委員 前回も御相談申し上げたのですが、最高検察庁の迅速化に関する公判の在り方の提言、ちょっと今、正式な名称を思い出せませんが、それについてのお話は今日は特にないのでしょうか。できれば、していただいた方が有意義ではないかと思うのですけれども。
○本田委員 この前もちょっと申し上げましたけれども、一応提言を今日お持ちしておりますので、検討会が終わりましたら、皆さんに配布したいと思います。
○井上座長 私もあらかじめ目を通させていただきましたけれども、その提言は、最高検の方で、現行法制下で刑事裁判の充実・迅速化のために何ができるかという観点から、検察としてとるべき方策を御検討になって、その結果を提示されたという位置付けのものだろうと思います。内容的にもかなり多岐にわたっており、直接主義・口頭主義の問題だけにとどまらず、争点整理の在り方等を含め、刑事裁判の充実・迅速化の方策全般にわたっていろいろな提言をされていると理解しております。提言は、そのような性格のものですし、また本田委員は最高検という機関を代表してここに加わっておられるわけではありませんので、この場で、その提言について、本田委員からの説明をお願いしたり、それ自体について質疑や議論をするというのは必ずしも適切ではないと考えます。また、最高検の意見ないし方針だけを個別に取り上げて議論の対象とするのも適当ではないのではないかと、私としては考えています。
もちろん、後で本田委員からその提言を配っていただけるということですので、それを我々としても適宜参考にしながら議論をする。恐らく本田委員も、検察実務家として、それを踏まえながら、御自分の意見を述べられるでしょうし、我々も、その提言をも一つの参考にして、無論それだけではなく、いろんなものを参考にしながら、意見を闘わせるといいますか、述べていけばいいのではないかというふうに考えております。
この提言自体は、既に御存じだと思いますが、インターネットで一般に公開されているということですので、ここでも紙の形で配布されますが、それを読んで今後の検討の参考にしていけばいいのではないか、そういうふうに一応整理をさせていただきたいと思います。
○池田委員 その提言を私も読ませていただきましたが、それについては、また、これから議論するとして、その提言は、今の制度下でも、これだけ努力すれば、このように改善されるのではないかということで、それは非常に結構なことで、こういう努力を当事者として当然すべきであると思います。また、いろいろ訴訟関係人は努力すべきだと思うのですが、その提言を前提として、裁判員制度の場合にそれで十分なのか、そういう証拠調べをして問題が解決するのだろうかというあたりは次のおさらいの議論の際に検討することになるわけでしょうか。
○井上座長 前提としてと言われた点は、受け止め方がちょっと違うのですが、最高検の御提言は最高検としての御提言であって、内容的にも、現行法の中でこういうふうにできるだろう、こうすべきではないかという御提言です。この検討会にとっては、それは一つの参考であって、それをもちろん踏まえるとしても、それ以外にもいろいろなところからの提言があるわけですね。それらを含めて適宜参考にしながら、既に御了解いただいたと思いますが、第2ラウンド目のこれまでの議論を夏休みの間にそれぞれかみしめていただき、それぞれに考え方を発展させていただいて、9月に、他にもいろいろ重要な問題があるわけですが、それら全般について集中して議論をしたいと思うのです。その中で、今おっしゃったような議論も当然やることになるのだろうと思いますけれど、そういうことでよろしいですか。
○池田委員 はい。
○四宮委員 私、9月に、今、池田委員がおっしゃった最高検の提言とか、今日御報告のあった取調べの記録化というものが、裁判員制度の下でそれで十分なのか、というようなことも併せて議論されることは非常にいいことだと思うのですね。ただ、せっかく今日、直接主義・口頭主義の実質化、特に刑事裁判の充実・迅速化を図る上での、直接主義・口頭主義の実質化ということがテーマになっていて、また、法務省の方から取調べの記録化についてのお話がありました。もちろん9月のおさらいで、また再度議論していただくことは大変結構ですし有意義なことなのですが、せっかくですから、今日も、私個人は、確かに裁判員制度については4月に一度議論いたしましたけれども、裁判官による裁判の場合にも、現在特に取調べをめぐっての証拠調べに大変苦労しておられるということもありますし、少し議論したらいかがかと思うのです。特に取調べ、それは参考人、被告人・被疑者併せてですけれども、裁判官も今何を根拠に判断したらいいかという点に迷っておられるということですし、それが充実・迅速化との関係でも問題であるという御指摘もありますし、特に裁判員制度になりますと、結局裁判員が判断結果に責任を負うことになるわけで、問題は裁判員がその責任をどのような資料、どのような基準に基づいて果たすかということだと思うのですね。あいまいなものしか示されないというよりは、客観的な資料を示した場合の方が裁判員が自らの責任を果たすという意味でもフェアだと思いますので、できれば、今日はそういった形での、例えば取調べを録画して、裁判員、裁判官に示す方策なども議論していただけたらなと思っております。
○井上座長 御意見は分かりましたけれども、先ほど池田委員に対しお答えしたとおりでして、今のお話の中身も、結局、裁判員制度対象事件の場合に特にどういう配慮が必要かということが中心だったと思うのです。しかし、今まで、この論点だけでなく、他の重要な論点についても、第2ラウンドのひととおりの議論を行ってきたわけですね。それを踏まえて、さっきお話したように、夏休みにそれぞれお考えを深めていただき、9月に実質的かつ集中的な議論をしたいと、段取りとしては考えているわけです。今は、刑事裁判の充実・迅速化に関するたたき台に入っていますので、ここでは、裁判員制度の対象事件のところで議論したことを踏まえながら、それ以外の事件で、特に注意すべき点はあるか、異なった扱いをすることはあるか、という観点から議論をしているところなのですね。
そういうことですので、この段階で、この問題だけをもう一度取り上げて議論するのは適当ではないのではないか。無論、この問題は、それとして非常に重要なものであることは当然私も認識しているわけで、議論をしないと申しているわけではなく、夏休みに十分お考えいただきたいということなのです。今この段階でもう一度議論してみても、議論がそれほど深まるのか私としては疑問なものですから、先ほどのように整理させていただいたという次第です。
○四宮委員 この問題は、もちろん裁判員制度の場合に非常に重要な問題になるのですけれども、刑事裁判の充実・迅速化としても非常に重要な問題だと思っています。最近、裁判迅速化法が成立いたしましたけれども、参議院の法務委員会で付いた附帯決議というのは、まさに迅速化の関係で付いているんですね。「裁判所における手続の充実と迅速化を一体として実現するため」、途中省略しますが、「取調べ状況の客観的信用性担保のための可視化を含めた制度運用について検討を進めること」ということもありますので……。
○井上座長 附帯決議につきましては私も十分承知していますし、ここでも何度も申し上げましたけれども、基本的には共通した問題なのです。その中でも、特に裁判員が今度新たに入ってくるということで、それを念頭にまず議論しましょうということにし、そこで議論したことにさらにつけ加えて、裁判員制度対象事件以外の事件について別途考慮することがあるかどうかという議論をしてきたわけですね。その前提としては、裁判員制度を念頭に議論してきたことは、そういう特別の区別をする必要がなければ、当然一般の事件にも当てはまるということで議論してきたので、そこの認識は違わないと思うのですね。ですから、裁判員制度のところだけに封じ込めた形で議論をしようという整理をしてきたつもりはないのです。そこは御理解いただいていると思うのですけれども。
○四宮委員 分かりました。9月にまた議論されると期待しております。
○井上座長 もとに戻りまして、直接主義・口頭主義の実質化について、裁判員制度対象事件以外の事件において、特別の考慮すべき事柄があるかどうかという点で、御意見はあるでしょうか。
○酒巻委員 その点につきましては、特段異なる考慮をすべきところはないと考えています。裁判員制度対象事件でなくても、特に争いのある事件の場合には、当然ながら公判期日に証人尋問が行われ、争点に関する実質的な証拠調べが行われるわけですから、そこでできる限り、直接主義・口頭主義で争点に集中した審理を行うべき要請は全く変わらないと思われる。もろもろの点考えましても、要するに基本的には同じであり、特に異なる考慮をすべき点はないと思います。
○池田委員 基本的に私も酒巻委員と同じ意見です。ここで(6)と(7)というのがありますが、(6)の更新の場合には、特に裁判員制度の場合には以前の議論でもかなり工夫して行う必要があるという意見がありましたが、裁判員制度対象事件以外の事件の場合にはどのようにやるのか。今も公判手続の更新の方法は規則に書かれているわけですが、それをそのまま残しておいて裁判員制度における更新との二本立てにするのか、裁判員制度を主として念頭に置いたものだけにすればいいのかというあたりはまだ工夫の余地があるような気がします。二本立てでもいいかもしれないし、しかし、そうはいっても、裁判員制度の場合ほどていねいな更新手続までしなくていいとするのも変だと思いますので、非常に難しいところです。こういうことを考えながら、特に裁判員制度ではこうあるべきだという規定になるのかなと思います。
それともう一つ、(7)に関連して、鑑定のための事実調べもできる限り、公判開始前に行うことにするということですが、これを新たな準備手続でできるようにするということになると、それは全部の事件について行うということになるわけですね。そうであれば、同じでいいのかなとは思いますが、裁判員制度対象事件以外の事件では、実際には、裁判員制度のような集中的な審理の要請の度合いが若干減りますので、鑑定のための前提資料というのを証拠調べをしながら収集していって、公判段階で鑑定の要否を決める場合が多くなるのではないかという気はいたします。そうはいっても、最初にできるなら、それは行わなければならないというのは、裁判員制度対象事件でも裁判員制度対象事件以外の事件でも同じだろうと思います。
○井上座長 対象事件のところはまだはっきりしないのですけれども、一番時間が掛かるのは精神鑑定でしょうか。
○池田委員 鑑定の中では精神鑑定ではないかと思います。
○井上座長 もちろん、軽い事件でも精神鑑定を行うことはあり得ると思うのですが、比較的重い事件で行われることが多いとすると、事実上、裁判員制度対象事件に集中するということになるのですか。鑑定などは。
○池田委員 かなり重い事件は、事件を見ただけでも、これは鑑定が必要ではないかということを裁判所でも判断できることがあります。ただ、小さい事件でも、精神鑑定が問題になることは多くて、このような場合には証拠調べを進めてみないと鑑定の要否が分からないところもあるんですね。
○井上座長 分かりました。
○酒巻委員 いろんなこと考えた結果、特段の考慮は必要ない、裁判員対象事件と同じようにやるのが一番望ましいというのが私の意見なのですが、これは裁判官の方や弁護士さんにお聞ききしたいのですが、裁判員制度対象事件では準備手続が必要的ですね。この準備手続がうまく設計できた場合には、裁判員制度対象事件でないが、複雑な否認事件については当然十分利用価値があり得るから、これを使うのは問題ないと思います。そうすると、準備手続の結果を踏まえて、弁護人も必ず冒頭陳述をするという仕組みになっていたのですが、私自身は、否認事件の裁判員制度対象事件でないものにも、むしろその方が適切な方式ではないかと思っているのです。裁判官にとっては審理を進めるについてやはり分かりやすくなると思われます。弁護士さんにとって、これまでと違って、争いのある事件では、常に冒頭陳述を行うということに何か問題点、不都合な点はありますか。
○四宮委員 私はあると思いません。むしろそうした方が裁判官に理解してもらいやすいと思いますけれども。
○酒巻委員 というようなことも考えまして、結局、特段異なる考慮は必要ない、同じようにするのが望ましいと思っています。
○井上座長 基本的には、連日的開廷というものも、充実・迅速というものも、非裁判員対象事件にも要求されることですから、基本的には共通するというのはそのとおりだと思いますけれど、特にここだけは違うのではないかということがありましたら、御意見いただければと思います。
○大出委員 池田委員も、先ほど結論をお述べになったわけではないのだろうと思うのですが、一応確認のためということで申しますと、更新手続について別の方法はやはりお考えにならない方がいいという感じがしますので、それは同じでいいのではないかと。つまり、これまでは言ってみれば調書が多かったり、いろんな事情があって、そのことが時間上便利だということもあったのかもしれませんけれども、そのことが言わば調書裁判というような批判を生んできたということになっていますし、公判で心証をとるべきであるというのは裁判官の方でもそこは変わらない原則のはずですし、是非この機会に更新手続も、法廷で更新手続をする必要があるときには公判で心証をとれるような方法を考えるという方が多分筋なのだろうと思いますので、その点は是非そういうことでお考えいただく必要があるだろうと私は思っています。
○井上座長 調書裁判というのが、そういうのを念頭に言われているのかどうかについての理解は、人によって違いはあると思いますが、一つの御意見であろうかと思います。
それでは、先に進ませていただきまして、この第4に関連して、たたき台には項目として出ていない事柄であっても、御意見があればお伺いしたいと思いますけれども、特に何か付け加えて、こういう点もあるのではないか、あるいはこういう議論もすべきではないかということがあれば。
○土屋委員 直接主義・口頭主義の徹底というのですか、その点で要望みたいな話なのですけれども、結論から言えば、どういう方策が考えれるのか、もう少しアイディアを出し合う場をまとめのところで時間をとっていただけたらいいなと思います。つい先日、ある新聞が裁判員制度の世論調査の結果を載せましたけれども、それを読んでいると気になるのは、参加してくる裁判員が、自分たちがちゃんとした判断ができるだろうか。それから、出ていけるだろうか、そういう状況にあるのだろうか、そこのところに不安を覚えているということを痛感するのですね。そこを解消しないと、制度設計自体はどれだけ立派なものができたとしても、実際に制度が動いていかないということになりますから、そこのところをクリアーするためには、直接主義・口頭主義の実質化の徹底が必要なのだろうと思います。そのためにどういう公判であるべきなのか、どんな工夫が考えられるのか、どういうことをすべきなのかというあたりも夏休みの宿題として私も考えたいと思います。
○井上座長 その点は、既にたたき台の中でも、かなり多くの項目が挙げられていたと思うのですね。そういうものを手がかりにさらに議論をするということを考えております。御指摘のアンケートについては、私も見ましたけれども、回答者にどこまでの情報があってそういう不安を抱かれているのか、ちょっと分からないのですね。裁判など見たこともない、行ったこともないという方が答えておられるのか、それとも、今の裁判手続などもかなり分かった上で答えておられるのか、ですね。その辺もさらに情報を発信していって、それでさらにまた、御意見を聞いていくということが必要だろうと思いますし、分かりやすいということは皆さん当然前提にして議論してきたと思いますので、おさらいのところでさらに具体的に検討できればと思います。たたき台の項目ももう一度御覧になってお考えいただけると思いますけれども、ほかによろしいですか。
それでは、「第5 即決裁判手続」というところに進みたいと思います。たたき台としては、争いのない事件の手続の合理化・効率化を図るための一つの具体的方策として、仮称ですが、即決裁判手続の案を示した、そのようなものだと理解されます。
まず、総論的な議論を少しやっていただきたいと思います。争いのない事件の手続の合理化・効率化の方策として、全体について御意見があれば、出していただければと思いますが、いかがでしょうか。
○髙井委員 事務局が一生懸命努力して考えられたのだろうと思いますが、これは昨年議論した際に、この部分はあまり突っ込んだ議論になってないと思うのですね。ですから事務局としてもかなり案をつくりにくかったのかなという感じがするのですが、基本的にはこれは捜査段階ではなくて公判段階における手続の合理化を考えていると思うのですね。この案で果たして手続が合理化されるかどうか疑問だとは思うのですが、今の状況を踏まえて、最も大事なことは何かというと、捜査段階における合理化をどうするかということなのですね。今、人質司法だとかいろいろ言われていますが、身柄の拘束が長くなるのはなぜかというと、捜査機関としては、事実を認めている事件でも裏の裏までとらなくちゃいけない。もしかしたら、被疑者は公判廷に行って否認するかもしれないし、一審では認めても二審で否認するかもしれないということをいろいろ考えて、ありとあらゆる弁解を想定して、それを全部つぶすということをやっているために、本来、認めるのだったら、送致段階の証拠だけでも起訴できるような事件なのに、それを勾留して、かつ延長して裏の裏までとっているという作業を捜査機関はやっているわけです。
それで、公判廷で案の定争われたということになるとその捜査は活きてくるわけですけれども、多分半分ぐらいはそのまま事実を認めているわけですね。そして、事実を認めるのだったら、この捜査はあまり必要なかったねという事件も相当あるわけです。ですから裁判員裁判に向けて、捜査力なり、捜査関係者、あるいは司法関係者の時間を合理的に配分するということを考えるときには、捜査段階における合理化というものを考えない限り、制度はうまく回っていかないのではないかというふうに思っているわけです。そういう意味で、この案は捜査段階における合理化をある意味ではあきらめているという案ですので、もう少しここは検討していただいた方がいいのではないかと思います。
総論から言うと、要するに認めている事件については、極端なことを言えば、送致段階でも認めている事件は直ちに起訴してしまう。裁判官の前で認めたらそれで全部終わりとし、否認したら、また捜査に戻って勾留が始まるというふうにできないか。
その場合に、弁護人の立場から言うと、裁判官の目の前に行ったところ、いきなり実刑というなら、これはたまらないということは当然あるわけですから、そういう手続に乗っかって、直ちに公判に行った場合には、裁判官は執行猶予まではできるけれども、実刑判決はできないというようなしばりをかける。そのかわり被告人側は上訴はできないというふうにするということで、どう見てもこれは執行猶予だという事件は、右から左にどんどん起訴してしまうようにすれば、警察官の無駄な捜査も省けるし、検事の無駄な捜査も省ける。無駄な身柄拘束もなくなるということだと思うのですね。
ただ、この案を言うと、執行猶予判決の感銘力はどうなるのだという意見が当然出てくると思うのですね。しかし、執行猶予の感銘力をもともとあまり期待できない事案もいっぱいあるわけです。誰が見てもこんなのは執行猶予だという事案では、あまり感銘力というものは端的に言ってないわけです。感銘力という幻影を求めて過剰な負担をするというのはそろそろやめたらどうだと私は思うのですね。そういう意味では、例えば覚醒剤の自己使用で、これは明らかに執行猶予なんだけれども、この被告人のためを思ったら、2~3日間の逮捕勾留で釈放するよりも、20日勾留した方がいいという場合も刑事政策的にあるかもしれませんね。そういう場合は検察・検事の判断で勾留することがあってもいいかもしれない。
当然法律家が議論しているわけだから、法律の建前で議論するのは当然だと思うけれども、建前だけで議論していては追いつかない現実があるわけですから、建前だけではなくて、今まで金科玉条のように言われていた執行猶予判決の感銘力というものも、それが必要な場合と、そこはあきらめましょうよとという場合もあっていいわけだし、それから、上訴の権利は保障されなければいけないというのも、原則論としては当たり前なのだけれども、そう言っていても、一審で有罪判決が確定する人もいっぱいいるわけで、一審で確定するのだったら何で時間かけてここまで捜査を過剰にやったのかということもあるわけですね。ですから場合によったら上訴権を放棄するとか、初めから上訴権はないよというような制度を特別につくってもおかしくはないのではないかと思うんですね。
ですから、せっかくの機会ですから、現実をよく見据えて、本当に今の刑事司法もよくなるし犯罪も減るというような仕組みにするにはどうしたらいいかということを、いろんなタブーにとらわれないで議論することがあってもいいのではないかと思います。
○樋口委員 特にこの検討テーマについて強く感じるのですけれども、刑事司法に求められているものは何かという観点で、いろんな要素があって、その全体的なバランスの問題ではあろうと思うのですが、やはり欠くことのできない観点は、これは意見書の41ページにも書き込まれていますけれども、社会の秩序を維持して、国民の安全な生活を確保するということであり、この治安、安全の確保という観点は、これは大変重要な観点である。そういう審議が行われた結果、今回の検討会でもいろいろ制度設計が具体的に行われていると理解しているわけです。
やはり議論の前提で、現下の治安・安全の状況がどういう状況にあるかのかという認識は是非とも必要だと思うんですね。現下の非常に厳しい情勢の克服といった視点からどう設計するかということだろうと思うのですが、そういう観点からすると、そもそもは多分そういった審議会の流れからすれば、捜査の合理化・効率化が図られるものといった期待が多分込められていたものと理解しているのですが、このたたき台の即決裁判手続というのは、この原案のままでは全く捜査の合理化にはなってないと思います。
なぜ、そのようなことを申し上げるかというのは、やむにやまれないといいますか、看過できない背景事情ないしは実態があるからだということなのです。これも髙井委員が今おっしゃったのですけれども、現在の刑事司法の作用が十分に将来の犯罪の抑止に結び付いているのかというのはいろんな要素があるとは思うんですね。最終の科刑がどうなのかというものもあるし、いろんな処分結果がどう結び付いているかということもあるのですが、実態は御承知かと思いますが、刑法犯をとりましても、認知件数が7年連続で戦後最高を更新中なんですね。ということは、これは真摯に反省しなければならず、大変厳しい状況だということです。
これは警察捜査の在り方にも多々原因があると認識しておりまして、つまり、これも今おっしゃったのですが、犯人性がはっきりしていて、しかも被疑者が犯行を自認している事件の捜査書類の作成にどれだけの手間隙が掛かっているか。それと精密な裏付け捜査、これは黒を真っ黒にするための捜査に手間隙とられて忙殺されている状況ですね。そのため、特に、繁忙警察署の刑事では、新たな犯罪の検挙のための捜査に手が回らないという現状があるわけです。
ということで、このたたき台について、具体的に意見を申し上げたいのですが、このたたき台には、即決裁判が通常裁判へ移行した場合における捜査活動に対する手当がなされてないと思います。つまり、結果的に即決裁判に付される事案であっても、通常裁判に移行した場合に備えた捜査をやっぱりやっておかないといけないということになるわけでありまして、それでは捜査の合理化には結び付かないと思います。これは繰り返しなのですが、即決裁判によることが相当でないと判断された場合には、再度の公訴提起が行われることを前提に、公訴提起に向けての所要の捜査ができるような仕組みにしていただく必要があると思います。
○酒巻委員 髙井委員と樋口委員の捜査の省力化の必要性についての御意見に対する質問です。髙井委員によりますと、表現は正確でないかもしれませんが、要するに誰が見ても執行猶予に決まっているというような事件があるということで、例としては覚せい剤の自己使用をお挙げになりました。私も類型的にそういう事件があるのだろうとは思います。そして、本人が犯行を認めていて、犯人性も明白で、それにもかかわらず将来否認するかもしれないということを想定して裏付け捜査を一生懸命やっているという部分が無駄になっている場合も多いというのもよく分かるのです。ただ、捜査の過程では個々の被疑者の量刑の材料になるような事柄も随分調べているのだろうと思うのです。そうすると、誰が見ても執行猶予ということが、本当に個別の被疑者・被告人について言えるのかどうかというのはやっぱり気になるところでありまして、その辺をあまり省力化することが妥当なのかどうか、現在の刑事司法において、精密なのは、犯人性、犯罪事実の認定もそうだけれども、量刑にかかわる情状に関する事項も一生懸命調べていて、そこのところはあまり省力化するのは適切でないような気もするんですね。その辺のところはどのようにお考えかお聞きしたいと思います。
○髙井委員 例えば前科前歴がなくて初めて覚せい剤を使用したという事案で実刑判決はあり得ないですね。それは極端な例ですけれども、それに近いものは結構あるわけです。情状とおっしゃいますが、基本的には日本の場合は罪体そのものが情状的な価値を持っていて、それで判断される場合が多いんですね。もちろんそれだけではありませんよ。ただ、たとえば家庭環境が非常に重要な意味を持つというのはある意味では限られた場合で、かなりの部分はその犯した犯罪、結果、態様など、要するに罪体を調べていく過程で、おおよその情状も分かってきて、大体この事件の量刑もこの範囲におさまるだろうなということは見えてくるわけなんですね。ですから、今、私が申し上げているような処理をしたからといって、情状面で特におかしくなるという問題が生じるとは考えられないと思いますね。今、精密司法と言われましたが、精密司法が日本の社会の負担になっていて、精密司法は日本国民のためにならないと私は思っています。
○大出委員 質問なのですが、樋口委員と髙井委員の先ほどの御意見、大変興味深い御意見だというふうに伺いました。樋口委員の御意見のところで、再捜査といいますか、後での手当ての問題は先ほど主としておっしゃいましたけど、最初の段階で、先ほど髙井委員がおっしゃった、つまり事実を自認しているような場合はすぐ起訴してしまうというようなことにしてはどうかという点については先ほどの髙井委員の御意見と御一緒なのかどうかというあたりをお聞かせ願えればと思います。それはできれば、拘束期間の圧縮につながるというようなことがあれば一番いいわけですけれども、そういった点についてはどういうふうにお考えでいらっしゃるのか、もしお考えでいらっしゃれば、お聞かせいただきたいと思います。
○樋口委員 髙井委員がおっしゃったことと違わないのですけど、通常裁判に移行する場合には、それなりのさらなる裏付け捜査なり、証拠の収集が必要になりますね。ですから、移る段階で改めて所要の捜査のための期間が確保されないとまずいのだろうと思うのですね。ただ、再捜査の必要の有無の大小は、対象犯罪について、罪種をどうするか、ないしは罪種の中でも手口をどうとるかにもよると思うんです。今、対象の範囲はどういうものだろうと、それなりに想定して見ているのですけど、一般的に言うと、比較的犯行が単純で証拠の明らかな事件ということになるのだと思うんですね。
さらに具体的に罪種なり手口で言いますと、基本的には八十数%を占める窃盗が扱えないようでは意味がないと思うのですが、窃盗も手口が随分いろいろありますから、乗り物盗、かっぱらい、万引きあたりが件数も多いのですけれども、乗り物盗の中でも自転車盗、自転車盗は微罪で落とすのも随分あるのですけれども、そのあたりが対象になるのかなと思います。それから詐欺でも寸借詐欺や無賃乗車あたりは対象になり得るかとか、それから態様によっては、横領あたりでも偶発的で金員以外のものを対象とするようなものだったら対象にしてもいいのではないかとか、傷害・暴行でも被害者は明確なのですけど、偶発的な犯行で凶器が用いてなければいいのではないかとか、それから軽犯罪法や売春防止法や風営適正化法あたりであればいいのではないか。対象犯罪との関係でも、再捜査の必要性の大小なり有無なりが決まってくるのではないかとも思うんですけれども。
○大出委員 先ほどお伺いしたかったのは、犯行を自認しているときに、先ほど再捜査のことを主としておっしゃいましたけど、先ほど髙井委員は、ある程度犯行の自認があって、それなりの証拠があれば、すぐに起訴してしまえばいいのではないかという御趣旨の意見だったと思うのですが、その点について樋口委員はどう考えていらっしゃるのか、ということなのですが。
○樋口委員 起訴されればいいのだと思いますね。
○池田委員 通常裁判に戻る場合に、捜査段階にまで戻るということにすると、再起訴するということになると思うのですが、今の制度下では、最初の起訴はどうなるわけですか。
○井上座長 技術的には、恐らく何らかの手続的要件として、本人も認めていて、その手続でやることに最後まで同意していることを要求し、被告人の意思がひるがえれば、手続的要件が欠けるので公訴棄却をするという形をとらなければ、心配されているように、今までの制度ですと、そこから通常手続に移行して、起訴は起訴で有効だということにすると、髙井委員おっしゃっているように捜査段階に戻るという形にはならないわけですね。つまり、起訴自体が一回打ち切られるというか、訴追が打ち切られなければ、捜査の段階には戻らないということになります。そこのところが制度的に組み立てられるのかどうか。何か手続的要件にしない限りはちょっと無理かなという感じがします。
○髙井委員 それでもいいし、公訴を取消しにしてもいいし、とにかく一つの手続を間にかまさなければしようがないですね。
○井上座長 検察官が公訴を取り消すということもあり得るということですね。
○髙井委員 だから、そこら辺の手続をかませて捜査に戻すということですね。
○四宮委員 起訴したままで再捜査していくというのは難しいのですか。
○髙井委員 それは無理でしょう。被告人の立場のままであったら、その者に対する取調べをしにくくなるじゃないですか。
○井上座長 被告人を相手にということになりますので、十分な再捜査はなかなか難しいのではないでしょうか。
○四宮委員 一般の再捜査はできるわけですね。
○髙井委員 それはできますけど、被告人の取調べができなくなると、そのようなことになる制度を使うことを検察官は嫌がります。
○清原委員 髙井委員が率直に御指摘になりましたように、私も、この即決裁判手続(仮称)は公判手続の簡素化だけではなくて、捜査の簡素化ということにも配意した新しい手続の提案だというふうに認識しています。先ほど取調べ記録制度のところでも留意すべき点として指摘されていますように、勾留人員が増加していて、しかも捜査に入れない事件なども抱えているという樋口委員からのかねてからの御指摘もありますし、有効な捜査をしかるべき犯罪に関しては、特に重点的に行うということの必要などからも、あまり過重な捜査をしない簡素化あるいは意味のある合理化は必要だと思うのですが、他方、私は初犯で、あるいは執行猶予がつくというような犯罪を犯してしまったそういう人にとっては、早い段階で自分の犯した犯罪について自認をして、そして更生の道に入っていただくということも重要なことではないかと思うのですね。つまりあまりに当事者のみならず周辺の証拠固めに入るような、家族とか職場とかいろんなところの捜査もあって、自分が犯した罪が分かっているにもかかわらず重たい捜査が入って裁判も一回で終わらずに、早いものでも判決までに2回掛かるということでは、そのようなことが更生に寄与する場合もあるでしょうが、他方、そうではない部分もあると思いますので、早い段階で社会復帰とか更生とか、そういうところに入るという意味もあると思うんですね。
加えて、これは本当に被疑者というか、犯罪を犯してしまった人、被告人の人権の問題もありますが、罪種にもよるのですけれども、いずれにしてもすべて一律に捜査もし、公判もするということが本当に公正なことなのかどうかということを今問われているようにも思いまして、裁判の迅速化であるとか、あるいは裁判員制度を導入するということは、広い意味で本当に社会の中から好ましくない行為を厳しく見届けた上で、そういうことが再発されない、そういう抑止力、あるいは全体としての治安維持のためにあるわけですから、すべて広く、あまねく同じ程度で捜査をということではない在り方を提案していく上でも、即決裁判手続(仮称)は非常に意義があると思います。
したがいまして、これは総論的な意見ということで申し上げたのですが、各論に入るときには、即決裁判手続の申立てのところが非常に時期的にも重要な問題になってくると思いますし、捜査と裁判の連関性を明確にした適宜な時期にこの申立てをしてもらわないと、今までどおり捜査はかなりやった段階で申立てがあることになりますと、御提案のような趣旨が徹底しないでしょうから、非常に難しいことだと思いますが、いつこの即決裁判手続の申立てをしてもらうかというところがかなめになるのではないかと思います。
○井上座長 総論のところでは、捜査の合理化という観点からは、たたき台の案では不十分ではないかという御意見もかなり多かったのかなと思います。そういう点で一通り御意見が出たように思うのですが、いずれも、たたき台に出ている即決裁判手続を不要だという御意見ではなかったように思います。そこで、たたき台で挙げられているような各論的な事項についても御議論いただければと思います。
○四宮委員 私もこの提案は、要するに新しいものをつくろうという点ではいいのですが、目的と手段という点でもう一つはっきりしないと思います。先ほどから樋口委員や髙井委員から出ている意見に私も全く賛成で、めりはりのある捜査、公判ということで新しい効率的な制度というのは、被疑者、警察、検察、みんなにとって使ってみたいと思える制度でなければいけないと思うのですね。その意味で私も時期としては送致の時期、あるいは今の手続でいうと勾留請求段階での起訴という制度、さっき髙井委員は、そこからすぐに判決という形でしたけれども、私はもう少し、例えば14日ぐらいの日にちを置いて、弁護人も選任してというような、あるいは証拠を見せてということも考えておりましたけれども、少なくとも今で言う勾留請求段階での起訴、そういう制度を設ければ、恐らく相当な数の事件がそれに該当してくるだろうと思うのですね。
ただ、裁判所がその新しい効率的な手続を使うについては、当事者や被害者やその他のいろいろなことを考慮して判断することも必要だと思いますけれども、一歩踏み込んで、そういった、捜査を合理化する制度を是非この機会につくってほしいというのが総論的な私の希望です。
○樋口委員 合理化が必要だとは思っているのですけれども、合理化が目的ではないということを、当たり前なのですけれども、言っておかないといけないと思います。要するに捜査の負担を軽くしたいというわけでは決してございませんで、ということは二つ意味がありまして、執行猶予が分かっているものを執行猶予にするというのは抵抗があるんですね。執行猶予に感銘力がないのであれば、それ自体が問題だと思っていまして、その点は科刑制限をするのかどうかという問題とも結び付いてくると思います。
それと合理化というのは、貴重な公共財を投入するわけですから、治安・安全の確保により直接的に結び付くものに使う、振り向けるという意味での合理化が必要であるという趣旨で考えております。
○井上座長 分かりました。中身については、またいろいろ御意見は分かれるところだろうと思うのですが、全体として、限りあるリソースを本当に意味のあるところといいますか、争いがあったり、十分手当てをしないといけないというところに振り向け、そうでないところは身軽にしないと、制度全体がもたないという意味では、皆さんお考えは異なってないのだろうと思うのです。総論的な部分については、さらにこの先でまた検討するということでよろしいですか。
○池田委員 1点だけよろしいですか。
○井上座長 どうぞ。
○池田委員 樋口委員も言われたような捜査の合理化を達成するのは結構だと思いますし、そういう制度ができるのはいいと思うのですが、1点、先ほど四宮委員が言われたことですが、勾留請求段階で起訴のようなものをすることになったときに、そういう段階で弁護人を絡ませないで本当にいいのかという疑問があるのですけれども。
○四宮委員 私のアイディアは、起訴した段階で、要するに国選弁護人をつけるわけですね。弁護人がいればもちろんですけれども、弁護人がいない場合は国選弁護人をつける。そして、その後で、私が考えているような即決裁判手続によっていいかということを確認する公判期日を設けるわけです。つまり、起訴後14日以内に公判期日を入れてもらって、そこで「この手続ではこういう権利を放棄しなければいけません」という説明をするわけです。そこには弁護人もいるわけです。そこで「結構です」ということになると、そこで判決を言い渡して、そして上訴もしないというアイディアです。もし、そこで、「いや、私はやっぱり通常の裁判をやりたい」といった場合には、いろいろ技術的な問題について議論がありますけれども、それはまた元に戻すという考え方です。
○井上座長 捜査に戻すということですか。
○四宮委員 起訴されたままだと被告人を取り調べられないからという抵抗がありましたけれども、私はそのまま必要な捜査をしてもらって、そして、通常の公判手続を開くということでいいのではないかと今は思っておりますけれども。
○井上座長 四宮委員のお考えは分かりました。各論的な問題になってくると、手続的な保障をどうするかとか、弁護人がどこから付くかとか、そういった問題もあると思うのですね。本日はまだ総論的な御議論を伺っただけですので、それらの点は、夏休みにお考えいただいて、次の段階で詰めていくということにしませんと、何か茫漠とした議論だけで終わってしまいそうな気がしますので、今後の検討課題ということにさせていただければと思います。
各論的論点も、せっかくたたき台として出していただいていますので、それについても御議論をいただきたいと思います。一応ここでは(1)から(4)という項目が挙がっていますが、一応(1)から(4)という項目ごとに御意見を伺えればと思います。ただ、相互にいろいろ関連していますので、議論の中で関連するところに触れていただくことはもちろん差し支えございません。
項目(1)の即決裁判手続の申立てから御意見を伺えればと思います。
○酒巻委員 (1)にも、また全体にもかかわる質問なのですが、「申立て」の部分は検察官がたたき台に書いてある事項を判断して、相当と考えるときにこの申立てをするということになっています。全体に絡むのですが、後で簡易公判手続と同じような手続を行うということが出てくるので、私の理解では、この手続の対象事件は、現行法の簡易公判手続と同じなのかなとも思ったのです。ところが、たたき台ではそこについてはっきり書いてないものですから、対象事件について法定刑による枠はつくっていないという理解でよろしいのでしょうか。それとも、やはりこれは簡易公判手続の制度を利用してやるということになっておりますので、法定刑の重い犯罪は当然除かれるということなのでしょうか。
○井上座長 御質問は、対象事件というのは、現在の簡易公判手続が可能な事件の範囲に限るのか、それともたたき台に書いてあるように、「事案の性質、公判において取調べ……相当と思料する」という実質判断で決まるのか、たたき台の趣旨を確認したいということですね。
○酒巻委員 はい。
○辻参事官 たたき台としてはっきりしてないという御指摘はそのとおりかもしれませんが、たたき台を作成しました趣旨としましては、公判での手続がいわゆる簡易公判手続と同様ということでございますので、少なくとも同様の法定刑による制約、具体的に申しますと、刑事訴訟法291条の2のただし書きにあるような、短期1年以上の事件については除くという制約をかけるのが自然ではあると思っております。
○酒巻委員 今の御説明は、自然であるという表現でしたけれども、いろいろな考え方があると思いますが、私はそういうはっきりした枠があった方がいいのではないかと思います。
○井上座長 その理由は、短期1年以上の有期の懲役禁錮と無期の懲役禁錮、死刑に当たる罪、これは全部除かれているわけですが、そういう重いものについては、たたき台のような即決裁判手続によって処理するのはふさわしくないということですか。
○酒巻委員 そういうふうに私は思います。ですからたたき台の趣旨がそういうことであれば、それは妥当なことだと考えます。
○髙井委員 このたたき台に即した総論を申し上げますと、仮にこれで上訴制限を認めないことになると、現在ある簡易公判手続とどこが違うのでしょうか、あまり違わないのではないでしょうかということを言いたいと思います。そして、簡易公判手続の上に重ねて、さらに即決裁判手続をつくる意味はどこにあるのでしょうかと私は強く疑問に思いますね。そういう意味では、ほとんど制度として無意味ではないか。
あえて違いを探すとすれば、例えば各項目について、特に(2)以降になりますが、できる限り速やかにこれを行うということが何カ所も出てきて、要するにできる限り速やかに行うことに意味があるのだということになろうかと思うのですが、こういうふうに書いたとしても、実務はできる限り速やかには動かない、それが実務だと思います。これは率直に認めなければいけない。こういうものをつくったら実務が率直に動くと思ったら大間違いだと言わざるを得ない。仮に実務がひいひい言いながら、できる限り迅速にやるようになるとどういうことが起きるかというと、即決裁判手続をやると、できる限り迅速にやらなくちゃいけないから、忙しくてたまらないから普通の起訴をしようということになるわけですね。ですから、実務家として言えば、これはほとんど事実上動かせない制度だと私は思います。
○池田委員 今、あまり簡易公判手続は使われていないわけですが、その原因の一つとして簡易公判手続が取り消されたら、また同じような手続をしなければいけないということがあるのです。加えて、今までの簡易公判手続では、第1回公判期日を開いてみないと簡易公判手続によることができるかどうか分からないし、そこからの公判手続が簡単になるだけだったわけです。つまり、簡易公判手続では、第1回公判期日まで、検察官も多分通常の手続による場合と同じように準備して、弁護人も同じような準備をした上で、第1回公判期日に臨むことになるのですが、たたき台の即決裁判手続では、そのようなことがなくなるので、簡易公判手続とは違ってもっと早くなるのではないかと思います。それから、裁判所の側でも、ある程度件数があるところでは、専門的な部や係をつくって、即決裁判手続の対象となる事件が起訴されれば、何日か後に、何件もこういう事件ばかり処理するという日を設けるとか、検察官の側もそのような集中的な処理態勢を採るとか、弁護人の側も当番制みたいなものを設けて、その日には何件か担当するというようなことが可能になるのではないかと思います。
ですから実務的には全く動かないというものではないのではないか、実務的な工夫の余地はあるのではないかと思います。
○髙井委員 弁護人として言いますと、一つは、たたき台の即決裁判手続では、先ほどちょっと言いましたけど、おおよその予想はできても、どういう判決が出るか全く予想できないわけですね。例えば即決裁判手続をどうしましょうか、執行猶予になるでしょうかと被告人に聴かれた場合に、弁護人としては、多分それは執行猶予だろうなと思っても、何が起きるか分からないのだから、それは執行猶予だとは言えないわけですよね。私は執行猶予だと思うんだけど、それは相手のあることだから分かりません、最後は自分で決めなさいよと言わざるを得ないですよね。そうなってくると、なかなか弁護人の立場からすると、積極的に即決裁判手続でいいから、これを使いましょうよということはなかなか言いにくい制度だと私は思います。ですから、今のたたき台を前提にしたとしても、どこかで一種の科刑制限のようなものはできないのかと思うのです。科刑の上限がはっきり見えていれば弁護人としては使いやすいということは言えます。
もう一つ、これは起訴するのは検察官の権限ですから、こういう書きぶりになるのは当たり前なのですけれども、弁護人としては実際やってみて、早く起訴してもらってもいいと考えているのに、捜査機関は一生懸命裏付け捜査やっているという場合はあるわけです。そういうときに、弁護人から、今でも職権発動を促すということで、認めますから早く起訴してくださいよというようなことをやる場合もあるけれども、単なる職権発動ではなくて、何らかの形で弁護人から即決裁判手続を促すようなシステムはできないのか。もちろん被告人との協議の上ということになりますけれども、そういうような形にして、それに科刑制限などが加わってくると、弁護人としては非常に使いやすいのかなと思います。そういうような権限のようなものを被告人や弁護人に与えるというようなことにすると、事実上の捜査の合理化にもつながっていく要素はあると思いますね。
○本田委員 いろんな意見が出たのですけれども、私もたたき台の即決裁判手続でいくとするならば、要するに上訴制限がかからないと、この制度自体あまり意味がないだろうと考えています。要は認めている事件で問題のないものについて、被疑者の同意があって、それでその後、弁護人なら弁護人の同意を得る。その後、裁判所による相当であるかどうかの判断もある。加えて、有罪の陳述を撤回すれば、通常の手続に移るといういくつもの手続があるときに、これについて上訴を許すということになれば、何の合理化にもならないのではないかという気がします。
その場合に、ただ、いきなり上訴制限というのもなかなかきついのかなという気がしますので、公判段階で弁護人がついている場合が一つ条件としてあるのかという気がします。もう一つは、事実誤認を理由とする上訴が全然だめかというとそうではなく、例えば再審事由のうちの新規明白証拠が発見されたような場合に、裁判の確定を待たなければ再審ができないという理由はないので、恐らくその程度の上訴は許してもいいのではないかという気がします。
そういう上訴制限というものができれば、先ほど髙井委員がおっしゃった科刑制限というのも一つの要素として出てくるのかなと思います。ただ、科刑制限を設けて、弁護人の方からの申立てを認め、それで上訴も許さないとなると、まず、検察官がどう考えているのか探るためにまず申立てをしてみて、検察官が反対だとすると、これはだめだということになって被告人側で争い始めるという、変な制度になってしまいかねないので、そこはいろいろ難しい問題があるという気がします。
○酒巻委員 質問です。先ほどの私の質問の結果、これが簡易公判手続と対象事件が同じだということになると、それは必要的弁護事件でないものも対象として含んでいるということになりますね。そして、本田委員の御発言によると、必要的弁護事件でなくても上訴制限を考える場合には弁護人を選任するというお考えですね。
○本田委員 そうです。
○酒巻委員 それから、髙井委員は、即決裁判手続が始まる前の段階のところで、弁護人が当然いるという前提でお話をされているように思うのですが、たたき台は、弁護人が常についていることを想定していません。弁護人の必要性についてはどのようにお考えですか。
○髙井委員 その点では、弁護人が常にいるということを想定していない点において、私はたたき台には問題があると考えています。要するに即決裁判手続に乗せるためには弁護人が必要で、被告人自身にこういう手続がいいかといって、被告人1人に確認して手続を進めるというのは手続としてはいかがなものかと思います。
○四宮委員 私も科刑制限といいますか、つまり結果が予測できるということは、こういう制度を使う上で非常に重要であろうと思います。弁護人の選任の点については、すべて髙井委員の意見に賛成です。
ところで、検察官が刑について意見を述べるかどうかという点はどうなんでしょうか。つまり実質、通常の簡易公判だということで、最後の手続、論告求刑とか弁論とか全部同じだというならそれはそれでいいのですが、こういう手続は、今、髙井委員がいろいろ実務的なことをおっしゃったように、検察官との間での事実上のいろいろなネゴシエーションが必ず出てくると思います。そういう中で弁護人、あるいは被疑者もそうですけれども、いろいろな判断をしていくわけで、そこが、いわゆる取引を制度化しろと言っているのではないですけれど、検察官の科刑意見というものがきちんと法廷に出され、それに裁判所が拘束されるということではありませんが、それが少なくともこの制度について、両当事者が前提としているという形が裁判所に何となく伝わるという形ですね。つまり、そういったことにより、量刑の予見可能性があるから、当事者はこれを使っていくのだと思うんですね。そういう意味で、検察官の科刑意見というものが制度の中でどのように置かれるのかという点も重要ではないかと思います。
○井上座長 分かりました。たたき台の趣旨としては、事件の審理は簡易公判手続と同様にするということなのでしょう。
○辻参事官 検察官が公判で科刑意見を述べるということは同様だと思いますが、ただ、たたき台としましては、今、おっしゃったような事実上のネゴシエーションを前提としているかというと、そこはちょっと違うかなという気はいたします。そういうものを前提とした制度が適当かどうかはよく御議論いただきたいと思いますが。
○井上座長 考え方としては、2通りあり得ると思うのですね。つまり、検察官の裁量的な判断と位置づける考え方と、今おっしゃったような、一種取引的な部分を正面から組んでしまうという考え方です。後者も、論理的にはあり得るのでしょうが、そうなると、その適否についてはおそらく意見がかなり分かれるかもしれませんね。
○樋口委員 科刑制限については、制度を具体的に考えるとなかなかそこは難しいですよね。そもそものもっと根源的な問題かなと思います。
○井上座長 そうですね。略式の場合は罰金ということですので、割と議論がしやすいのですけれど、自由刑の執行猶予というのは、即決裁判手続に果たしてなじむのかどうか、ということでしょうか。
○本田委員 科刑制限のことを申し上げたのですけど、執行猶予だけというのはどうもしっくりこなくて、実刑であっても、ある程度のものは認めるべきではないか。先ほど樋口委員からお話があったんですけど、やはり刑事政策的に考えれば、その手続の中で感銘力を与えるとか、将来社会に戻って更生していく人間にとって、最初から執行猶予と決まっている場合とそうでない選択の余地があるというのとでは感銘力の点で違うのではないかという気がするんです。例えば実刑なら2年か3年、または執行猶予というような選択肢はあるのかもしれない。ただし、科刑制限はさっき言いましたように上訴制限があるという前提での話ですね。
○井上座長 その感銘力というのは、どの段階での感銘力なんですか。
○本田委員 それは刑事手続の中で、自分が犯した罪に対して正面から向き合うか、向き合わないかの話だろうと思いますね。
○井上座長 そうすると、刑が決まる、処分が決まるまでの間に、自分の犯した罪に向き合うかどうかという点を重視されているということですね。
○本田委員 そこは考えるべき要素だろうという気がするんです。
○井上座長 必ず執行猶予になるのであったら、どうせ実刑じゃないからということで、甘く見るのではないかという御意見でしょうか。
○本田委員 はい。
○髙井委員 今の本田委員が言われている点はある意味で重要なことで、日本の刑事司法が持っている本質的な欠陥だと思うのですね。要するにすべてのものを日本の刑事司法にかぶせているというか、刑事司法の責任にしてしまっている。本当はそんな感銘力というような抽象的なもので犯罪者を改善・更生をさせるのではなくて、もっと別の改善・更生をさせるためのいろんなメニューを本当は考えるべきなんです。それを全部刑事裁判だけで改善・更生させようと思っているのが本当はおかしいわけで、それ以外には確かに刑務所での行刑政策があり、保護観察官がいるなどいろいろありますが、それだけでは多分足りないんですね。
もう一つ、感銘力といいますが、こんな事件だと執行猶予だと、房の中で言われてきているわけですから、裁判官や検察官が思うほど感銘力はないんですね。だから裁判官や検察官はそういう意味では幻影を追っているんです。もしかしたら実刑かもしれない、執行猶予だったらどうしようか、その不安が改善・更生につながっていくかもしれないけれども、それは一過性で執行猶予判決をもらってしまったら忘れちゃうものなんですね。そうすると、それ以外に忘れた人がどうやって改善・更生していくかということを社会全体で考えなくてはいけないわけで、そういうことを考えないで、実刑になったらどうしよう、執行猶予でよかったということだけで再犯を防ごうというは、およそ無理だと私は思うんですね。
そういう意味で、今言っているような感銘力というのはもうあきらめて、そこはきちんと、あなたは執行猶予でいいと、そのかわり出たらこういうことをやるんだよ。執行猶予になったから何にも関係ないということではなくて、執行猶予になったけど、あなたはこういうことをしなければいけない、例えば被害者に対してこういうことをしなくてはならないというようなメニューをいっぱい用意することによって犯罪者を改善・更生に導くというのが本来の刑事政策ですね。
そういう意味では、今の日本の刑事司法というのは、身の丈以上のものを背負いこまされていて、それが回り回って日本の犯罪を増やしているというか、治安の悪さにつながっていると私は思います。
○清原委員 私、北多摩地区の保護観察協会の会長という責務を担いまして、改めて髙井委員が今おっしゃったようなことの大事さというのを保護司の皆様とお話しをしながら感じているところであります。
7月はちょうど社会を明るくする運動の月間でもありまして、いろいろなところで地域の本当にボランタリー、犯罪防止と更生にかかわる方たちとお話しをしておりまして、今、そういう方たちもちょっと元気を失っているというような状況があります。犯罪が深刻化しているということもありますけれども、低年齢化であるとか、あるいは地域がどのぐらい、そうした犯罪防止とか更生の力を持ち得るのかということで悩んでいて、幅ひろい市民にそうした更生に向けてのかかわりというのを持っていただかなければいけないなということを感じているわけです。
ですから今回直接的には即決裁判手続等の新しい制度が幅広い意味で刑事裁判以外にも刑事事件への関心を呼んでいくことが望まれるのですけれども、私も新たに自分が直面している経験の中から、今問題提起してくださったようなことに関連してというか、連携して進めていかなければいけないなと感じております。
○井上座長 それは、この検討会あるいは今回の司法制度改革の守備範囲に納まるかどうかという大きな問題でありますので、法務省等の関係機関で、即決裁判手続のようなものと結び付くことをもにらみながら、検討していただければと思います。即決裁判手続の方に戻りますと、科刑制限を設けるかどうかというのは一つの論点であることは確かですが、それ以外の点についても御議論いただいておいた方がよろしいかと思います。
○樋口委員 今の科刑制限のところについて一言だけよろしいですか。
○井上座長 どうぞ。
○樋口委員 私は、執行猶予判決には感銘力があるのだと思うんですけれども、ただ、制度を設けたときに、執行猶予相当でないものまで執行猶予という余地が生じるのでは、運用の問題かもしれませんけど、まずいのではないかと思うんです。
ただ、四宮委員がおっしゃったんですけど、私は1年なのか2年なのか、実刑も選択肢としてあり得るという制度がいいのではないかと思うんですけど、そうすると制度がそもそも使われるのかなというところがありますですよね。そこがジレンマだなと思うんですけれども。
○髙井委員 科刑制限をする場合に執行猶予でなければいけないというつもりはなくて、短期の実刑は選択肢としてあってもいいのではないですか。3年というと、これはちょっと問題があるので、せいぜい1年くらい……。
○井上座長 短期間の、例えば1年とか2年といった程度の実刑だったら、弁護人としては、被疑者に勧めるということはあり得るということですか。
○髙井委員 勧めるかどうか別にして、例えば、もし、被疑者から、「先生、実刑だったらどのぐらいになるでしょうか。」と言われたときに、「重くても、これは1年。」と言えますよね。
○井上座長 それで考えたらどうかと……。
○髙井委員 それを前提として考えたらどうかということは言えます。
○井上座長 さっきのお話ですと、実刑になるのだと、そういう勧めもおよそできないという趣旨の御発言だと思ったものですから。
○髙井委員 このたたき台では、実刑について上限がないじゃないですか。
○井上座長 それでは、弁護人としてはやりにくいということですか。
○髙井委員 それはやりにくいです。
○井上座長 なるほど。しかし、科刑制限の中身としては、実刑ということも考え得るということですか。
○髙井委員 3年はだめだと思いますけど、1年だったら、使えるのではないかと思うのです。
○池田委員 科刑制限として執行猶予の場合に限るというのは、そうすれば確かに利用者は多くなるかもしれないけれども、それはちょっと問題かなと思います。先ほどの感銘力の点も、確かに刑事司法が感銘力を与えている程度は非常に少ないのかもしれませんけれども、ただ、何もできないと思っているのでなくて、みんな司法に携わっている人は、警察、検察でもそうだと思いますけれども、裁判所も少しでも感銘力を与えようと思ってやっているわけで、その努力は必要だろうと思うのです。だから執行猶予のみという科刑制限を設けるというのは感銘力という点で問題かなと思うのです。もっとも、実刑もあるのであれば、どの程度までの刑にするという制限を設けるのは、当然考えられる選択肢ではないかと思います。
それから、あと上訴権の制限なのですが、常に弁護人を付けるのであれば、事実誤認を理由とする上訴を制約するというのは、それは一つの考え方であると思うのですが、その保障がないのに上訴権の制限を本当にかけてしまって大丈夫なのかという疑問があります。ほかの手続では何らかの不服申立てが認められるのに、この手続だけ制限するということで本当に大丈夫なのか。事実誤認については、多分判決後に予想より刑が重かったから、突然事実誤認を主張して控訴するということになっても、刑訴法382条の2の「やむを得ない事由」がないわけでしょうから、ほとんどその主張は制約されているのと同じではないかと思うのです。ですから、上訴権の制限をしなくても、同じような効果は期待できるのではないかと思います。
○髙井委員 私は科刑制限と同時に上訴制限もすべきだという立場なんですね。今、池田委員がおっしゃったことは、確かに裁判官の立場から見ると、そういうことは自分で判断するわけですから分かりますが、ただ、検察官として見ますと、それはどういう結論が出るか分からないわけで、そういう意味では、念には念を入れてということになりますから、そうするとどうしても上訴されたときに備えて捜査するという気持ちになってしまうものなのですね。ですから上訴制限がないと検察官としてはなかなか即決裁判手続を使いにくいと私は思います。
もう一点、逆に弁護人の立場から言うと、(3)不相当を理由に即決裁判手続が取り消された場合は、既に取り調べた証拠については同意があるものとみなすということになっているのですが、この点は弁護人からすれば使いにくいなと思います。もし、これで即決裁判手続に乗せて、それが取り消されたとすると、またゼロに戻してゼロから公判手続が始まるならいいのだけれども、既に証拠が刑訴法326条により出たことになってしまうということだと、その危険性はどうかなというふうにまた思いますね。
ですから検察官の立場で言うと、上訴されたらどうするのだということを考えると使いにくい。同じような感じで、弁護人側の立場では、刑訴法326条で証拠調べが固定されてしまうとやっぱり使いにくいと思いますね。ですから、ここはもし本当にこのたたき台をもとにして新しい制度を考えるのだったら、ここはもう少し考えていただいた方が、弁護人としては使いやすくなるのではないかと思います。
○酒巻委員 技術的な話と全体の話が絡むのですが、最初の1の(1)の部分で、髙井委員は、弁護人が選任されているのは当然の前提だという意味でたたき台には反対だとおっしゃいました。私はそれは非常によく分かるのでありますが、しかし、対象になる事件の重さとか形態を考えますと、すべてに最初の段階から弁護人がいるということを想定すること自体がかえって無理があるような気もします。公判が始まった段階では必要的に選任されて、このたたき台はそれも前提にはしてないと思いますけれども、弁護人がいるとすれば足り、手続の出発の段階では必ずしも弁護人がいなくても、あとの段階で出てこられればよいのではないかと思うのです。そういう意味で、特別の必要的弁護事件にするのであれば、1の部分はたたき台の枠に賛成です。
それから、技術的なことで恐縮ですが、今、髙井委員が触れられた3の(4)、1回即決裁判手続の決定をしたのだけど、後で取消しになった場合は証拠について326条の同意があったものとみなすという部分について、3の(3)に取り消されるのは一体どういう場合かというのが書いてありまして、二つの類型が書いてある。整理すると不適法な場合と不相当な場合が取り消されるということになると思います。
(4)は、そのうちの不相当を理由に取り消された場合には、刑訴法326条の同意があったものとする。たたき台をつくられた方の意見はよく分かりませんけれども、そうすると不適法を理由に取り消された場合は全部もとに戻るのではないか。現在の簡易公判手続は、途中でやっぱり自分は有罪の自認を撤回するというと、全部すべてもとに戻って全部正式裁判をやり直すということになっている。このような簡易公判手続のやり方を前提とすると、即決裁判手続では即日判決が原則ですからめったにないとは思いますが、一回は有罪を認めたけれど、審理をしている最中に、やっぱり撤回するとなった場合は、私の理解では、それまでの手続は不適法だったから、全部もとに戻らざるを得ないのではないかと思うのですが。
○髙井委員 撤回できるというふうにたたき台には書いてないのではないですか。
○酒巻委員 有罪の陳述はいつでも撤回できるんじゃないんですか。
○髙井委員 そうなんですか。
○井上座長 酒巻委員、このたたき台についての御質問をもう一回繰り返していただけますか。
○酒巻委員 ですから即決裁判手続の決定の前提の一つは、被告人が有罪を認めることとなっていますが、それを撤回した場合には、理屈の上では、3(3)の前段、つまり即決裁判手続の決定があった事件が、その前提を失い同手続によることができないものになったということになる。
○井上座長 そういう場合が、即決裁判手続によることができないものであると認めるときなのですか。たたき台はそういう趣旨なのか、まずそこをお尋ねしたいと思いますが。
○辻参事官 たたき台の2の(5)アで、有罪である旨の陳述をしなかったときには、即決裁判手続の決定をしませんので、決定の前提として有罪である旨の陳述をしたということが要件になります。おっしゃるとおり、即日結審が原則でありますので、あまり時間的な間隔がありませんので、あまりないとは思いますが、撤回はあり得るという前提であります。
○酒巻委員 論理的にはあり得ますね。
○辻参事官 有罪である旨の陳述が撤回されたときにどうするかというのは、たたき台としては不適法の方ではなくて、不相当の方で取り消されるということになるのではないかと考えております。
○酒巻委員 簡易公判手続における有罪陳述の撤回については、解釈が分かれています。撤回の場合は前提が消えたのだから、不適法という解釈もあり得るのではないかと考えますが。
○辻参事官 確かに、不適法という解釈も簡易公判手続に関してはあるようでありますが、このたたき台をつくった趣旨といたしましては、有罪の陳述の撤回は不相当として取り消すというつもりでございます。
○酒巻委員 たたき台の趣旨は分かりました。
○四宮委員 このたたき台では、証拠を裁判官が見ることが想定されているわけですが、その結果、有罪陳述にどうも疑念があると裁判官が考えた場合は不相当ということなんでしょうか。
○辻参事官 疑念というのはどういうことですか。
○四宮委員 本人は有罪と言っているけれども、どうも違うのではないかと考えたという場合です。
○辻参事官 そのような場合は、恐らく不相当ではないかと思いますけれども。
○井上座長 要するに、不相当というのは、通常の形の公判を開いて、証拠をじっくり調べる必要がある場合だということなんでしょう。
○辻参事官 そうではないかと思いますが。
○四宮委員 そうだとすると、同意があったものとするのはいかがなものかという気がするんですね。簡易公判手続の原則に戻って証拠調べをやり直すということで、もちろん同意、不同意など聞いてないのでしょうから、改めて同意、不同意を聞くという形にすべきなのではないでしょうか。
○池田委員 そういう事件だったら、正式の裁判でだって同意するんじゃないですか。後で同意を撤回するという話はちょっと考えにくいと思うんですね。ですから、その点はこのたたき台のようなものでいいのではないかという気がしますけれども。
○辻参事官 今、池田委員がおっしゃられたのと基本的には同じような考えでありまして、通常の手続で審判を行っても、証拠とすることにいったん同意して取調べ済みのものは、同意を撤回して証拠から排除することは原則としてはできないわけでありまして、それと同じような状況で、ここで言う即決裁判手続に同意した、あるいは有罪の陳述をしたというときに、それを撤回したとしても、証拠の調べ直しに至るような必要はないというか、今の通常の手続との並びからしても、そこまでの必要があるのかという趣旨でございます。
先ほど髙井委員から、弁護人として使いにくいのではないかという御指摘があったのですが、今でも、同意するかどうかという判断は公判の段階でされているわけでありまして、今申し上げたようにいったん同意して、取調べ済みになれば撤回はできないという制度になっておりますので、このたたき台の3の(4)の制度を設けたとしても、恐らく弁護人に求められる実質的な判断は同じであって、3(4)のような規定があるがゆえに即決裁判手続が使いにくいということにはならないのではないでしょうか。
○髙井委員 システムとして、(4)のようなものがあると、いちいち弁護人としていろいろシミュレーションして、こうだ、ああだと、同じかと、だったらこの制度を使うかというようなことをやる人もいるしやらない人もいると思うんですね。だから、一般論で言えば、そういうことでは使いにくいというふうにシステムとして使いにくいと思われるということもあるということが言いたいのです。具体的事件においていったん同意したら撤回できないのだから、それと同じというのとはちょっと場面の違う……。
○井上座長 辻参事官は、システムとして同じではないかということをおっしゃったわけですね。つまり、通常の公判でも、被告人が罪を認める場合には同意するでしょうから、それと同じ判断を弁護人側はするのではないかということです。それは、即決裁判手続なのか通常公判なのかという点での判断と論理的には関連しないのではないかという、御指摘だと思うのですけれど。
○髙井委員 非常に実務的なことを言いますと、即決裁判手続だから、まあ、いいかというところがあるわけです。確かに普通の裁判でも同意したものは撤回できないというのは当然ですね。そのかわり通常の公判だという前提でしっかり証拠を見て、同意、不同意を決めているわけです。これは非常に実務的な話です、建前ではなくて。ところが実際、例えば即決裁判手続に乗せる場合には、即決だからということで、ぎりぎり詰めて、同意、不同意を考えなくて、同意しておくかというようなところもあるわけです。
○井上座長 それはなぜなのですか。
○髙井委員 当然その手続に乗っかれば多少軽いだろうと考えるからです。
○井上座長 要するに、刑が軽いから、まあいいか、ということなんでしょう。
○髙井委員 そうです。ある程度量刑が軽くなると思っているわけです。つまり、即決裁判手続だからびっくりするような重い刑は多分科されないだろうと思っていて、それを前提にして同意、不同意の意見を述べるわけですね。ところが即決裁判手続の決定は取り消されて、通常の裁判になりましたとすると、弁護人として、あるいは被告人として当初予想していた場面と違う場面になるわけじゃないですか。通常の公判だったら、最初から同意してなかったかもしれませんよ、という部分があり得るわけです。通常の公判だったら、ここは不同意にするのだけれども、即決裁判手続だから同意してもいいかというようなところが多分出てくるわけです。
そうすると、即決裁判で手続が最後まで裁判が進んでいくことを前提にして同意なら同意したのに、その状況が変わっても、もとに戻らないのではちょっと使いにくいと思うわけです。そういう意味で、実務的には、それは通常の公判で同意したのとは場面が違うと思うのです。
○四宮委員 私も同じ感覚なんですけれども、はっきりさせておきたいのは、簡易公判手続と同じ手続になるということは、「同意します」とは言ってないということなんでしょう。刑訴法320条の適用はないということですから。多くのケースでは、今、簡易公判にしますと言っても、意見を聴かれるから同意するかどうか答えているけれど、制度としては聴かなくていいわけですね。ですから、弁護人としては同意と言わなくていいわけですね。そして、同意はしていなくても請求された書証は証拠として裁判官のところに行っているわけですね。そうだとすると、即決裁判手続が取り消されて、後になって、どうですか、と言われたときに、それは同意ですよ、と言われるのは困るということなんです。なぜかというと、今、さっき髙井委員がおっしゃったように、科刑制限もあって、結果が予測される場合を前提にしているのですが、即決裁判手続だから争わずにいこうということはいくらでも現実にあるわけですね。現に、例えば、本当はいろいろ言いたいこともあるけれど、執行猶予になるから認めようということはあるわけです。もちろん、これは理念的にはあってはならないことかもしれませんが、実際にはたくさんあります。
○井上座長 さっき想定された場面と何かそぐわない感じがするのですけれど。つまり、裁判所が有罪陳述について疑念を抱いたということを前提に議論されているのと、ちょっとそぐわない感じがして……。
○四宮委員 今はその問題を前提にはしていないです。3(4)だけの問題について発言しています。
○井上座長 3(4)の問題で、念頭に置かれているのが、裁判所として、当の事件に科刑制限のある即決裁判手続で審理していいのか疑問を抱き、通常の手続に移して、科刑制限を超えた重い刑を科そうとする場合であれば、通常の手続であったなら最初から争っていたのだから通常の手続に移ったときは不同意にする余地を残すべきだという議論も、分かるのですね。しかし、先ほどの前提は逆の場面で、そのままいったら有罪になるところを、裁判所が証拠を見て、もう少しじっくり調べた方がいいと判断したという場合ですから、その議論は何かずれているような気がするのです。それでちょっとよく分からないと申し上げたのですけれど。
○四宮委員 今、たたき台の3の(4)の「同意があるものとみなす」という部分プロパーの問題を議論していると思ったので……。
○井上座長 いずれにしても、テクニカルに言うと、同意とみなすということなので、同意があるわけじゃないんですよ。証拠採用されているということを前提にして、同意があったものと扱うというのが、このたたき台の趣旨だと思うのですね。
○酒巻委員 先ほど細かい議論をしましたけれども、その後に、辻参事官と池田委員の御説明を伺いまして、このたたき台の3(4)についての意見を言わせていただきますと、それは先ほどお二人が説明されたような理由は、私は説得的だと思いました。現段階ではこれはたたき台のとおり同意があったものとみなすということでいいのではないかと思います。
○本田委員 先ほど四宮委員からいろいろ話があった、同意、不同意はしてないじゃないかという話なんですけど、これは起訴した後、証拠はすぐ開示しているわけですね。それから、ずっと被告人とも打ち合わせているでしょうし、公判期日で有罪の陳述をすれば、当然それが出ていくことは分かった上で即決裁判手続に応ずるわけでしょう。それは証拠に同意するのと実質的に変わらないのではないですか。
○髙井委員 確かに開示された証拠を見ます。当然、被告人とも協議をする。ただ、そのときに、ここは確かに大筋ではこのAならAの調書、被害者の言っていることはそうなんだけれども、でも、こことここは違うんだよという部分はいくらでもあるわけですね。例えば殴ったといえば、そんな強く殴っていませんよとか、回数も違いますよという部分はあるけれども、殴ったこと自体は事実ですし、けがさせたこと自体もは事実ですという場合があるわけです。そのときには弁護人としては、違う部分があると言っても、殴ったのは事実でしょうし、けがをさせたのも事実だから、即決裁判手続で行きましょうということがあるわけですね。
ここのたたき台では科刑制限はありませんが、しかし通常の常識として、即決裁判手続でやろうかと検事が言い出せば、それなりに軽い量刑で済むのだなと普通は思うわけですよ。それが途中で、この事件は即決手続にはなじみませんよということになると、あの被疑者の言ったとおりにしておけばよかったのかという問題が出てくるわけですよね。だから、そういうとき、被害者の言い分を争う道が閉ざされてしまうということでは、弁護人としては使いにくい制度で、弁護人はなかなか使わなくなりますということが、言いたいことですね。
○本田委員 髙井委員のいろいろな御心配は分からないでもないんですけれども、たたき台では科刑制限は設けないことになっているわけですね。仮に科刑制限を設けたとして、裁判所の方が即決裁判手続では不相当で、通常裁判に移しますといったような場合に、その被害者の調書を同意したから、その後の手続で被害者を証人として呼ぶことは全くできないかというと、それは違うのだろうと思うのです。どういう理由で通常公判に移ったかによって、裁判所は当然証人として採用する場合もあるでしょうし、採用しなかったことが不相当というだけではなく不適法になるという場合もあるのだろうと思います。
○池田委員 上訴権制限ぐらい設けなければいかんと言っておきながら、一方では気が変わったら、それに拘束されるのは困るというのはどうもよく理解できないのですが。実務的に言いますと、最初の方は、四宮委員の言われたように、裁判所が有罪陳述がおかしいんじゃないかと思っているときには、いくら同意調書があっても、それだけで事実を認定するはずはないのですから、それは希有の心配だと思います。また、量刑が不相当ということで即決裁判手続の決定が取り消された場合には、今、本田委員も言われたように、本当は事実は違いますよという主張が説得的になってくれば、同意した供述調書の供述人に対する証人尋問だって可能なわけです。同意というのは必ずしもその内容をそのとおり、主張として全部認めてしまって自白したというわけではなく、同意というのは、あくまで証拠能力を付与するだけですから、調書の内容が疑問になってくれば、当然証人尋問を行う余地はあるわけですので、同意とみなされることを即決裁判手続によるか否かの判断材料として考えるというのは変なのではないかと思います。
○髙井委員 上訴制限との関係、矛盾してないかとおっしゃるのだけれども、これは矛盾してないわけです。要するに、上訴制限というのは、私の理解では、多分量刑はこの程度のものだろうなと考えて、即決裁判手続に乗っかり、結果は予想の範囲内のとおりになったのだから、文句を言っていけませんよという趣旨です。ところがこの程度のものだろうなと思って、その制度に乗ったところ、途中からおりろと言われましたという場合に、おりろと言われるのだったら、弁護人の立場としては、手続は初めからやって下さいよというのは当たり前じゃないですか。
それから、証人尋問を行えばいいではないかとおっしゃる。それは検察官とか裁判官の立場はそういうふうにおっしゃる。当然その気持ちは分かります。じゃあ、弁護人の立場で考えると、証人申請しても、裁判官は本当に採用してくれるのかどうか分からない。最初から不同意だと言えば、検察官が必要だと思えば証人を請求するし、要らないと思えば請求しないということだけのことですね。ところが、同意調書がある場合に、弁護人が、被害者を証人として呼んでくださいと言ったときに、採用される場合もあるかもしれないけれども、採用されないことだって十分あるわけで、そこは弁護人の立場と裁判官の立場では違ってくる。だから、弁護人としては使いにくいですよと私は言っているんです。
○四宮委員 私、冒頭にちょっと申し上げた、この目的と手段なんですけど、簡易公判手続という手続を使っていることにより、不十分な部分と過剰な部分とがあると思います。不十分なものは、また後で別のところで議論されるかもしれませんが、行き方が中途半端だという意味です。過剰な部分の一つは、3(4)の部分なんですね。上訴制限は仕組みのつくり方によっては考えられると思いますけれども、通常の適式の証拠調べというものをしないという形で始まっていて、それを取り消すという形になったのですから、それは適式の証拠調べに戻るというふうにするのが私は筋だと思いますし、現在の法律もそういうふうになっているわけですね。そこは私としては、3の(4)についてはもう一回考え直してほしいと思います。
○井上座長 通常の手続に戻っても、適式の証拠調べはするわけで、証拠採用のところだけの問題じゃないですか、3(4)で言っているのは。
○四宮委員 そこも含めて通常の手続にすべきであるというのが私の意見です。
○本田委員 今、四宮委員のお話を聞いていると、現在の簡易公判手続とどこがどう異なるのかよく分からなくなった。上訴制限はしない上に、有罪陳述を撤回したら、通常の同意、不同意をまた最初からやり直すということになると、今の簡易公判手続とどこがどう違うんですか。
○四宮委員 この部分は公判手続を使うというアイディアなんです。
○井上座長 メリットはどこにあるのかという御質問だと思うのですけれど。
○四宮委員 だから、私は本当は、最初に総論のところで述べたような制度の方がいいとは思っているんです。
○井上座長 御意見は、分かりました。
○酒巻委員 私は、最初に出た捜査の合理化に関連する話とこのたたき台の話とを混同しているのかもしれませんが、今、四宮委員や髙井委員が御議論しているときに問題にしているような事態というのは、例えばどういう事件を想定しているんですかというのをお聴きしたいんです。私はこの手続を使うのは、むしろ、そういう問題はほとんど発生しない、予測が立つような事件を今の簡易公判手続よりも早く処理するという想定で議論していたのですが。
○髙井委員 誰が見ても猶予と分かる事件と、私は確かにそう言いましたが、それは私の考える制度のことを言っているんですね。ところが、たたき台の即決裁判手続の制度は、誰が考えても執行猶予が明らかだという事件しか対象にしないことにはなってないですね。要するに、たたき台は、事実を認めていて、証拠の量もそんなに多くないという事件は検察官の判断でできますよと言っているわけだから、それはこの中には誰が見ても執行猶予が明らかではない事件も対象として入っているかもしれないわけですよね。
○井上座長 そこのところも、思い浮かべている制度の全体像のイメージがちょっとずれているのかなという感じがします。どっちが実務的、実際的か分かりませんけれども、恐らく判決まで即日でやりますから、今議論しているような事態はほとんど生じないのではないかと思うんですね。髙井委員が言っているのは、そうであっても、弁護人としては何か余地が残っていた方が使いやすいということで、そこをどう考えるかという問題だろうと思うのですね。
○髙井委員 即決裁判手続から外されたときはもう一回やり直しといった方が弁護人としては使いやすいと思います。
○井上座長 使いやすいというか、受け入れやすいということですね。ですから、非常に実際的なことを申しますと、原則として即日判決ですので、先ほど述べられた事態というのは、実際にはあまり想定されないわけです。それを想定してかかるべきかどうかというのは、理念の問題だろうと思うんですね。
○髙井委員 制度をつくる以上はなるべくたくさん使われなければ意味がないです。
○井上座長 ですから、そこは使う側の、要するに使いやすさというか、受け入れやすさということを考えるべきだということなのでしょう。
3(4)だけに集中して、議論がぐるぐる回り出しているのんですけれども、ほかの点も議論していただかないと先に進みませんので、是非その辺にも目配りをして議論していただきたいと思います。
○酒巻委員 再び質問です。このたたき台で、上訴制限を設けるというのは、事実誤認の上訴制限をするということですから、量刑不当を理由に上訴はできるということで、当たり前ですけど、それでよろしいのですね。
○辻参事官 たたき台の趣旨は、量刑不当を理由とする上訴はできるというものです。
○酒巻委員 そうすると、結局この即決裁判手続による判決が確定するのは、上訴期間が過ぎたときということですね。
○辻参事官 はい。
○四宮委員 1ですけれど、「捜査の結果」ということですが、この捜査の結果というのは、逮捕中に申立てをするということもあり得るし、また、勾留を延長した上で申立てをすることもあり得るという意味ですか。
○井上座長 たたき台の趣旨の確認ですか。
○四宮委員 はい。
○辻参事官 この点は、たたき台の文脈からですと、検察官の判断ということですので、検察官として尽くすべき、あるいはできる捜査をしたと判断した時点ということになるのではないかと思います。
○四宮委員 そこがさっきの冒頭の総論の議論ともつながるのですけれども、このたたき台の仕組みを前提とすると難しいということになるのかもしれませんが、即決裁判手続の申立てに対する何らかの時間的な制限といいますか、捜査が合理化できるようなものを盛り込むことは難しいのですか。
○井上座長 それは、即決裁判手続の申立ての判断を、例えば逮捕後3日以内にしなければならないという制限を設けるということですか。
○四宮委員 なぜ、その場合だけ即決裁判手続を使えるのかという問題はあるのですけれども、さっき言ったように、みんなが使ってみたいと思う制度にするということとか、特に警察の捜査の合理化のこととか考えると、何らかの時間的なものが入れられないだろうかなという気がするんですけれど。
○井上座長 逆の効果が生じないでしょうか。例えば、逮捕後5日経過するまでに申立てをしなければならないというふうにしますと、5日間を過ぎてしまったら、申立てができないということになってしまうのではないですか。
○四宮委員 そういう心配もありますね。
○井上座長 ですから、今おっしゃっていたことは、一番最初の総論のところの議論で違う枠組みを考えるのでしたら分かるのですけれど、たたき台を前提にすると逆効果となるのではないかという感じがしますね。
○四宮委員 結局総論の問題になっちゃうんですね。
○井上座長 そのような気がしますけれど。ほかの方、いかがですか。
○酒巻委員 私は、まだ全体について、なかなかどう判断していいか分からないところがあるのですが、一番最初の方で、樋口委員がいくつか、定型的な処理が可能なタイプの事件をお挙げになりましたね。そこで、何を私は聴きたいかというと、その種の事件について、例えば即決裁判手続に乗せるために逮捕中でも起訴すればいい事件もあり得るとの話もありましたが、検察官にとって、短い捜査期間で、定型的な事件で起訴するかどうかの、つまり起訴猶予で処理すべきタイプの事件と、起訴はして、しかし即決裁判手続に乗せて例えば執行猶予ぐらいで終わらせるタイプの事件というものの振り分けが、実務的にはできるものなんですか。検事をやったことがないので、お教えいただければと思います。
○本田委員 それは事案にもよりますし、捜査がどの程度できているのか、事案の軽重とか複雑さによって違うんですが、今だって、ある事件については、逮捕中在庁ということで処理している事件もあるわけです。これはもちろん略式ですから、罰金しかできませんけれども、そういったものが執行猶予から実際は懲役刑を求刑したいなと思ったら、現在は略式手続に乗せられないから、しようがないので正式に起訴するわけです。そういうときは別に10日間勾留しているわけでなくて、捜査が尽くされたと思ったら、そこで起訴してしまうということもあるわけですから、それは現在でもやっていることをそのままやっていけば、そんなに難しい判断であるとは思いませんけれども。
○四宮委員 また(1)の申立てについてですけれども、被疑事実を認めていることが要件になっています。確かに簡易公判手続は有罪の自認ということが要件になっているので、それとの整合性を考慮されたのだと思いますが、略式手続では特にこれが要件にはなってないと思うんですね。
○井上座長 略式手続の場合も、被告人がその手続によることに異議がないことを確認することが必要とされますが。
○四宮委員 ですから、略式手続では、被疑事実を認めているかどうかは、手続の要件とは別の問題であろうと思うんですが、即決裁判手続について略式手続的な構成というのはできないものでしょうか。
○井上座長 即決裁判手続によることについて異議がないことも確認するということなので、略式手続的な構成も組み込んでいるのではないでしょうか。
○四宮委員 両方組み込んでいるわけですね。
○井上座長 ええ。ですから、いろんな手続的な保障を全部組み合わせているのが、このたたき台ではないですか。
○四宮委員 手続的な保障はあるのですが、それに略式の場合と異なって被疑事実を認めているということが加わっているわけですね。
○井上座長 これは、しかし、検察官が判断するにあたっての要件でしょう。
○四宮委員 ええ。ですから、もし、例えば即決裁判手続によることには異議はないけれども、被疑事実については何も言ってないという場合も対象にできないものか、とも思うのですが。
○井上座長 それはちょっと……。
○四宮委員 事実上、今だって事実を認めていなければ略式手続にはならないのですけれど、制度の要件として、これはどうしても必要なんですか。
○辻参事官 実際問題として、そこの部分を変えることによってどういう違いが生まれるのかというのがちょっとよく分からないのですけれども。
○四宮委員 つまり自白のないものも観念的には対象事件になり得るということですね。
○井上座長 この手続で処理してもらっていいですよ。でも自分は罪は認めたくないということもあっていいではないかということですか。それは、アメリカにおける「不抗争の答弁」みたいなものを念頭に置いているのでしょう。
○四宮委員 ええ。
○井上座長 しかし、それは前提となる手続の仕組みが違うのではないかという気がしますね。アメリカの場合は、有罪答弁制度を前提にしていますので、同じような議論ができるのかどうか。それに、実は本当はやっていないのだけれども、通常公判に行ったら有罪にされると実刑にされるかもしれないので、執行猶予になるのなら即決裁判手続で有罪になってもいいと考えるような場合も、即決裁判手続で処理していいということになってしまいますよね。
○四宮委員 そういうことです。
○井上座長 そういうことを認めるのが、本当にいいのかですね。アメリカにおける不抗争の答弁は、それをやることに意味があるのです。それは、民事訴訟との関係でして、刑事事件で有罪の答弁をしてしまうと、その事件から派生する損害賠償訴訟などで、あなたは有罪の答弁をしたのだから、損害賠償の責任も負うと言われるのを、不抗争の答弁だったら、いや、自分は争わなかっただけで、別に事実を認めたわけではありませんと言うことができる。そういう意味があるので、そういう制度が生きているのですけれど、日本の場合、そういう意味はあるのですか。
○辻参事官 意味があるかどうかよりも、そういうことで簡略に処理してよいのかどうかという問題がかなり大きいような気がいたします。
○井上座長 さらにお考えください。
一応このたたき台の即決裁判手続については御議論いただいたのですが、これに関連して、さらにこういう点も議論したいということがございましたら、御意見いただければと思うのですが、よろしいですか。第2ラウンドのおさらいというか、おさらいでは済まないような濃密な議論の時間が9月に予定されていますので、そこのところで是非また御議論いただきたいと思います。
一応、第2ラウンドのひとわたりの議論をこれでおしまいにさせていただきたいと思います。前々回の検討会でお諮りしましたが、次回以降では、9月11日、12日に裁判員制度についての集中的な議論を、そして、9月22日と25日には刑事裁判の充実・迅速化と検察審査会制度についての集中的な議論を、それぞれしていただくことにしたいと思います。そこでは、それぞれ第2ラウンドの検討で用いてきたたたき台を素材としながら、意見の特に大きく分かれたような点を中心に、議論を詰めていただくということで御了解いただいていると思いますので、そういうことでよろしくお願いしたいと思います。
事務局から最後に何かありますか。
○辻参事官 いつも申し上げているところですが、事務局に寄せられました御意見の目録をお配りしておりますので、御参考にしていただきたいと思います。
○大出委員 おさらいのときに、取り上げるべき論点については、何らかの形で事務局で整理をされるのですか。それともここは問題だったと思うところをそれぞれが主張するということでよろしいのですか。
○井上座長 その点は、検討した上でお伝えしたいと思います。
本日はこれでよろしいですか。次回は9月11日の午後1時30分ということですので、よろしくお願いします。どうもありがとうございました。