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裁判員制度・刑事検討会(第26回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年9月22日(月)13:30~18:10

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 池田修、井上正仁、大出良知、清原慶子、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について

5 配布資料
資料1「刑事裁判の充実・迅速化について(その2)」の一部修正

6 議事

○井上座長 それでは、所定の時刻ですので、第26回裁判員制度・刑事検討会を開会させていただきます。本日も御多忙の折、お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 本日と次の第27回検討会では、前回、前々回の裁判員制度に関する議論と同様で、刑事裁判の充実・迅速化の問題と、検察審査会制度に関しまして、なお議論すべきと思われる論点について、おさらいの議論を行うということになっております。
 議論の進め方も、裁判員制度についてのおさらいの議論と同じように、とりあえずたたき台に沿って順次議論を進めていく、ということにさせていただきたいと思います。もちろん、すべての項目について、同じ比重で議論する必要はないと思いますが、どれを取り上げるべきかという議論を最初にしますと、それだけで終わってしまうかもしれませんので、とりあえずたたき台に沿って順次議論を進めていくということにさせていただければと思います。
 今、申しましたように、次の25日と2回にわたって議論するわけですけれども、この前2日間行った裁判員制度についての集中的議論と比べましても、午前中の分だけ時間が少ないですし、取り上げるべき項目はかなり多いですから、単なる繰り返しの議論は避けていただきたいと思います。また、意見が分かれている点についていは、できればすべての方から御意見をいただきたいと思いますので、お一人お一人の御発言はできるだけ簡潔にし、できる限り結論まで示していただければと存じます。
 一応私の心づもりとしては、本日は少なくともたたき台(その1)の項目については、議論を終えたいと考えております。そして、次回には、たたき台(その2)と検察審査会についての議論を行う。そのような配分でやりませんと、2回ではおさらいの議論といえども終わりませんので、そのことを念頭に置いていただき、よろしく御協力下さいますようお願いいたします。
 最初に議論に入る前に、事務局の方で検討会の議論を踏まえて、たたき台のうち、「即決裁判手続」の一部を修正したものを用意したということですので、資料として本日配付してもらっておりますけれども、それについて説明をしていただきます。また、事務連絡もあるそうですので、併せてお願いしたいと思います。

○辻参事官 刑事裁判の充実・迅速化に関するたたき台のうち、「第5 即決裁判手続」の一部の修正について御説明いたします。お手元の資料を御覧ください。
 即決裁判手続につきましては、本検討会における2巡目の議論において、手続の合理化、効率化に十分に資するものとするためには、上訴制限を設けるべきであり、その前提として弁護人の選任を必要的とするべきであるとの御意見、科刑制限を設けるべきであるとの御意見をいただいたところであります。
 そのような御意見を踏まえまして、たたき台を修正してみたものであります。修正点は4点ございます。
 項目順からいたしますと、逆になりますけれども、1点目は、項目5の上訴制限に関するものです。ここでは、再審事由があることを理由とする場合には、上訴制限が及ばないとする修正をしております。本検討会における議論において、同趣旨の御意見があったことを踏まえたものであります。
 2点目は、項目4の(3)ですが、科刑制限でありまして、即決裁判手続では、罰金刑以下の刑を科する場合を除き、実刑を科すことはできないとするものであります。上訴制限を設けるといたしますと、自由刑の実刑を科すことができるとするのは、相当ではないという趣旨によるものであります。
 3点目は、項目3の(5)ですが、即決裁判手続に係る公判期日は、弁護人がなければ開廷できないとするものであります。本検討会においもて、同趣旨の御意見があったところですが、上訴制限を設けることとする場合には、その前提として、被告人の権利保護のために弁護人を必要的とするのが適当であるとの趣旨によるものであります。
 4点目は項目の2でありまして、被疑者が即決裁判手続によることについて異議がないことを明らかにしようとする場合において、貧困、その他の事由により、弁護人を選任することができないときは、公的弁護人の選任を請求し得るとするものです。即決裁判手続に係る公判期日には、弁護人を必要的なものとするのと同様に、上訴制限を設けることとする場合には、被告人の権利保護のためにこのような制度を設けることが適当ではないかと考えたものであります。また、手続の合理化を図るという即決裁判手続の制度趣旨を十分に実現するという観点からも、このような制度を設けることが適当と考えたという趣旨によるものであります。
 次に、事務連絡でございますが、これはいつも申し上げていることであります。本日も国民の皆様から、事務局に寄せられた御意見の目録をお配りしておりますので、御覧になりたいというものがありましたら、事務局の方へお申し付けいただければと思います。
 以上でございます。

○井上座長 ありがとうございました。今の説明について、御質問があろうか思いますけれども、後に即決裁判手続について議論するところでお願いしたいと存じます。
 それでは、たたき台(その1)の項目から議論に入ることにさせていただきたいと思います。
 まず、たたき台第1の「1 準備手続の目的等」のうち、(1)の準備手続の決定」「(2)準備手続の目的」「(3)裁判員制度対象事件における必要的準備手続」についてですけれども、これまでの議論では余り御異論がなかった点だと思いますが、特に何か付け加えて御意見があれば伺いたいと思います。よろしいですか。
 それでは「(4)準備手続の主宰者」についてですけれども、これまでの議論では、A案を相当とする意見とB案を相当とする意見の両様の御意見があったと記憶しますが、この点についてはいかがでしょうか。

○酒巻委員 前と意見は変わりません。公判を担当する受訴裁判所が準備手続も担当するというA案が妥当だと思います。理由の詳細は以前の検討会において述べていますので、結論だけでいいかと思いますが、要するに、将来の公判を的確に進行させるという準備手続の趣旨、目的からして、公判担当裁判所が主宰するのが合理的で望ましい制度だと思いますし、特段の弊害、問題点はない。予断防止との関係についても、理論的な問題はないと考えております。

○四宮委員 私も基本的には受訴裁判所が主宰するA案でいいと思うのですが、これも前回申し上げたことですけれども、証拠の中身に裁判所が触れる場合には、ほかの裁判体が主宰者になるという制度がいいと思います。理由も前回申し上げましたけれども、事実に関して、裁判員と裁判官が持っている情報が対等であるという対等らしさと申しますか、そういったものが外から見えることが必要であろうということでございます。

○井上座長 証拠開示の裁定や、場合によっては証拠能力の有無の判断をするときに、証拠の中身に触れることがあり得るということですか。

○四宮委員 そうです。

○本田委員 私もA案が妥当だろうと考えます。理由は第2ラウンドで詳しく申し上げたとおりであります。
 証拠の中身に触れる場合は、別の裁判体という御意見があったんですけれども、これについては、現行法の下でも証拠決定をする場合には提示命令という形で行われているところですし、それによって裁判所が心証を形成するということはあり得ないわけですので、証拠の中身に触れる場合を例外にする必要はないだろうと考えます。

○酒巻委員 今の本田委員の説明に賛成ですが、更に付加して申しますと、証拠開示の裁定の場面で裁判官が証拠に触れる場合があることは間違いありませんけれども、そこから事件の実体について心証をとるということではありません。専ら裁定の判断をするために証拠に触れるということです。訴訟手続上の判断は裁判官が行うというのが前提ですから、裁判官と裁判員との間で情報の格差といわれている事態が生じることそれ自体はそのとおりですが、それが何か不当なことであるとは到底思われない。そうだからと言って、特段裁判官が裁判員に対して優位になるとか、事件の実体について心証をとっているということにはならない。したがって、伝統的な意味での予断排除の問題も生じないと考えております。

○大出委員 前回議論の中でこれは真意がどこにあるのかというのは必ずしも明確でないという部分もあるのかもれませんけれども、たしか髙井委員なり本田委員の方から、準備手続での準備行為というものから、実質的に心証を形成することがあり得るという御意見もあったりしているわけです。つまり、準備手続の結果のみではなく、経過をも顕出するということを主張されたところで、そういうことがあってなぜいけないのかという御主張があったように私は記憶しているものですから、準備手続というものが実体の判断に当たって一定の影響を及ぼすということがあり得るという御認識をお持ちなんではないかというふうに私などは思っていたわけで、その点をちょっと確認したいということです。
 そういうことがないんであれば、私は多分B案というのは私だけだったような話になってくるかもしれないんですが、今言ったような懸念がないということであれば、A案ということもあり得るかなと思っているわけです。
 ただ、四宮委員もおっしゃっているように、証拠に触れて、心証形成ということになる可能性がある場合については、受訴裁判所とは別主体ということを考える必要があるんじゃないかと思っています。
 ですから、全面的にB案で行くということに固執するつもりはありませんけれども、心証形成の可能性がある以上は、その点について配慮した手続というものを考える必要があるだろうというのが現在の考えであります。

○井上座長 多分誤解されているのではないかと思うのですが、準備手続の経過とか結果を公判に顕出するというのは、主張や争点整理の経過等を公判廷に出すことにより、それが場合によっては公判廷での証拠調べに基づく証拠の評価だとか、心証形成に影響を及ぼすことがあるということが主張され、議論されたのであって、準備手続の中で裁判官が心証をとり、それを公判に引き継いでいくということではない。そのようなことは、どなたもおっしゃっていなかったと思います。

○大出委員 それは私の誤解だったのかもしれません。

○井上座長 誤解だと思います。

○大出委員 いずれにせよそうであったとしても、証拠の中身に触れるようなことが想定される場合には、別の裁判体が主宰者となる手続を考える必要があると思います。

○池田委員 前回同様でA案で問題ないだろうと考えます。特にA案でないと、実質的な準備手続というのがうまくいかない。つまり、別の裁判体が主宰者になったのでは、準備手続と公判手続とがうまく一貫したものにならないおそれが非常に強いということを付加して述べておきたいと思います。

○平良木委員 私も基本的にA案が妥当と考えています。言ってみれば事前の準備手続というのは、これはもう当然のことですけれども、心証形成とか量刑判断に及ばないということが前提になっているはずで、準備手続で行われるのは、訴訟進行に関する極めて技術的なものであるので、A案でいくのが望ましいと考えます。

○髙井委員 私もA案が妥当と考えていて、その理由は皆さんがおっしゃっているのと同じです。付け加えることはありません。

○清原委員 私も当初からA案でよいと思っておりましたし、理由については、皆さんおっしゃったとおりですけれども、特にここのところは裁判の充実・迅速化、及び裁判員制度を円滑に進めていくときに大変重要な部分で、だからこそ受訴裁判所が主宰していただくのが一番合理的で自然ではないかなと考えています。

○土屋委員 B案のような考え方は、裁判の公正さを外から見やすくするという意味で、一種理想的な姿なのかもしれないなという気はするんですけれども、いろんな面で、私はA案の修正案みたいな形の方を支持したいと思っております。
 今まで話が出ているように、証拠の中身に触れるような手続になるとは思いませんけれども、そういうおそれが生じないように、極力した配慮した制度設計をしていただきたいということです。

○井上座長 最後の点ですが、具体的に制度設計はどのようにすればいいのでしょうか。証拠開示の要否とか相当性とかを判断するときに、証拠を提出してもらって、一定限度で見るひつようがある場合に、見方について気をつけろとおっしゃるのか、そういうことをやる以上は、四宮委員のおっしゃるように、別の裁判体に判断してもらうというのか、どっちの方なのですか。

○土屋委員 別の裁判体という考え方も分かるんです。煮え切らないような言い方をしていますけれども、現実の裁判所を見ていきますと、地方の裁判所などは裁判官の数も少ないし、別の裁判所にやってもらいましょうというふうに言ったところでなかなかうまくいかない場面もあるのではないかなということを感じてしまうんです。
 実際、そこまでしなくても、今の裁判所のやり方から見れば、それほど心配しなくてもいいのかなという気もしているわけです。ですから、一番最初のところで外から見たときの裁判の公正さを確保するには、理想的な姿としては、大出委員が言われたような考え方もあると思うんですけれども、現実的に考えたときに、そこまで心配する必要もないかもしれない。実際の裁判所の方の実情を考えても、そこまでしにくいのかなという感じを持ったりもしているということです。

○樋口委員 A案でよろしいと思います。

○井上座長 一応皆さんの御意見を伺いましたが、更に付け加えて御意見があれば伺います。

○四宮委員 本田委員と酒巻委員から私の説に反論がありましたけれども、本田委員のおっしゃるような現行法上も提示命令をやっていますという理由付けは、今度は裁判員が入るのですから、必ずしも妥当しないのではないかということと、酒巻委員がおっしゃった心証をとる訳ではないという点も、私も心証をとるからだめだと言っているわけではなくて、情報の対等らしさが外から見えることが大事だという、仕組みの問題として申し上げているということだけ付け加えたいと思います。

○井上座長 四宮委員に質問したいのですが、裁判員制度対象事件において、訴訟手続上の事項についての判断は裁判官のみで行うのであれば、公判手続に入ってからも、そのために裁判官だけが証拠に触れるということはあり得ることなのですが、そのことと、準備手続の主宰者に関する四宮委員のお考えとの整合性をどう説明されるのでしょうか。この問題は、これまでの議論でも出ていた点なのですけれども、そこはまだお答えになっていないような気がするのです。

○四宮委員 それは中断するのかどうか分かりませんけれども、私の考えを貫けば、公判手続に入ってからも、原則として別の裁判体に判断してもらうということになるんじゃないですか。

○井上座長 そのような取扱いは、実質的にみて、おかしくないですか。

○本田委員 今の座長の方からも質問が出されましたが、例えば公判段階での訴訟手続上の判断というのは、受訴裁判所を構成する裁判官がやるんだという前提に立てば、例えば保釈請求に対する判断とか勾留更新の判断を行うことになるわけですけれども、そこでも情報の格差というのは起きるわけで、その程度の情報格差が生ずるのは当然の前提になっているのではないか。また、それが不当だという話でもないだろうと思うんです。そして、公判段階での訴訟手続上の判断を全部別の裁判体が行うと言ったところで、それは現実的には無理な話です。

○四宮委員 そうすると、全部できるわけじゃないですか。

○酒巻委員 私の意見をもう一回言いますと、訴訟手続上の判断を受訴裁判所を構成する裁判官がするという制度の下では、情報格差が生ずることは間違いないわけですが、そのことは何ら問題ではないだろう。つまり、訴訟手続上の判断をするに際して裁判官は事件の実体について心証をとって、裁判員を説得するようなことをするはずがないので、問題はないという意見であります。

○井上座長 そこまで言い切れるかどうかが、恐らく意見が分かれるところなのでしょう。

○大出委員 裁判員の方たちは専門家でないということでお入りいただくについては、その役割を担うということが可能であり、また、できる範囲でお仕事をしていただくということで入っていただくわけで、そのときであっても、一般的には専門家と対等に議論ができるのかどうかということについては、懸念と言いますか、お入りいただく方たちも、内心心配をして参加されるということがあるわけですから、私は余りらしさというのは好きではありませんけれども、外形的にも裁判員の方たちがその点について、裁判官がただでさえ専門家であるにもかかわらず、手続的には自分のかかわらない手続にかかわっているということがあるということが前提でやった場合には、自分たちが理解できないところでの専門家としての判断があるんじゃないかという推測なり憶測を裁判員がするということは、ある意味ではやむを得ないことになってしまうわけで、できるだけそれを避けるべきなんであって、それは当然だというのは、やはり専門家の傲慢だと言われてしまうんではないかという気がします。

○井上座長 当然だというよりは、裁判官と裁判員の役割が違うので、情報の格差が生じること自体は不可避だろうということなのでしょう。

○大出委員 それをできるだけ小さくするという努力を我々はやはりすべきなんだろうと思うんです。不可避だということは分かりますけれども。

○酒巻委員 大出委員の意見を突き詰めると、訴訟手続上の判断についても、すべて裁判員もやらなければいけないという制度設計も考えなければならなくなる。

○大出委員 それはあり得ると私は思っています。蒸し返す気はありませんけれども、当初、そういう趣旨のことを申し上げたんです。

○池田委員 1点だけ、外から見える公正さというのを、今は裁判官は何によって担保しているかについて述べたいと思います。私たちが法廷をやって、その後学生とか修習生も含めてですけれども、話をする機会があります。そのようなときに、裁判官はほかのところで新聞を見ていて分かっているだろうとか、あるいはほかのことでこういうことを聞いて、それで判断しているのではないかということを言われることはしょっちゅうあります。それに対する私の答は、そのようなことで判断を決められるんだったら、こんな楽なことはない。しかし、裁判というのは証拠に基づいてやらなくてはいけなくて、その証拠に基づいてというのは、判決書できちんと書けなければいけないわけで、判決書に書けないことを書いたら、絶対にその判決は上訴審で破棄されるわけです。ですから、そういうことは絶対にしない。証拠に基づいて心証形成をしているので、そういう証拠にならないものというのが、心証形成を左右するということはあり得ないと思うんです。外から見える公正さというのは、今は理由を書かなければいけないというところによって担保されているのだと思います。

○大出委員 その点について異論があるわけでは全くありません。ただ、先ほど来議論しているのは、そのときにまさに証拠に実際に触れるということが裁判員のいない場で起こってくるということが問題なわけでして、そこをできるだけ、今、池田委員がおっしゃったような外形的にも公正性というものが確保されているということは、我々は手続としてできるだけ追求すべきだと。不可避だと座長がおっしゃったのも、そういう点があることは私も否定しませんけれども、その点をちゃんと裁判員が納得して、裁判官と共通の土俵の上にいるんだということが了解がつくような手続にしておく必要があるという趣旨で申し上げているんです。

○井上座長 それを、準備手続を受訴裁判所を構成する裁判官とは別の裁判官が主宰するという形で担保するのか、それとも、仮に公判で取り調べられた証拠以外のものによって心証形成するということがあっても、それは評議の中で明らかになるはずなので、その評議を通じて浄化されるだろうと考えるのか。そこが、考え方の分かれる点だと思うのです。

○大出委員 もちろんそうだと思います。ただ、後者の部分というのは、不信ということを申し上げるつもりは全くありませんけれども、これまでも我々にとってそこはブラックボックスとまでは言わないにしてみても、手続的に言うと、必ずしも見えない部分だったというのもあるわけですから、そこはどう見えるようにしていくのかということも考える必要があるだろうという気がするわけです。

○井上座長 申し上げているのは、裁判員の人には見えるだろうということなのです。それ以上に、裁判員以外の人にも見える形にしなければいけないのか、ということだと思うのです。
 次は、項目2の「準備手続の方法等」ですけれども、(1)の準備手続の方法と、(2)の出席者については、私の記憶では、これまでの議論で特に御異論はなかったように思いますけれども、いかがでしょうか。よろしいですか。
 それでは、(3)の「準備手続の内容」ですが、この点も、これまでの議論では余り御異論はなかったように記憶するのですけれども、いかがでしょうか。

○四宮委員 今の方法とも関係するのかもしれませんが、(3)の定め方では、「特に次のことを行うものとする」となっていて、現行規則が行うことができるとなっているものと、少し表現が改まっています。特にキのような事実の取調べ等、場合によって準備手続というよりは、公判廷で行うことの方が妥当だというものがあるかもしれません。あるいは、準備手続で行うけれども、これは恐らくこの手続は今皆さんが議論しているのは、非公開が原則という前提だと思いますが、場合によっては、公開して行うということもあるかもしれません。その辺は裁判官の判断によってフレキシブルに行えるように、つまり、準備手続で公開したり、あるいは準備手続で行う事項ではあるけれども、公判廷で行うこととしたり、その辺は裁判官の判断に委ねられているということが確認できたらと思っているんです。

○井上座長 公判廷で行った方がいいというのは、具体的にはどういう場合ですか。

○四宮委員 例えば前にたしか議論が出たのは、違法収集証拠の問題であるとか、そういうものも恐らくは観念的にはキに当たる可能性もあるわけですけれども、それが有罪・無罪に直接関係するような場合には公判廷で行う方が望ましいという意見がたしか多かったと思いますが、そういった場合を想定しておりました。

○井上座長 準備手続で行うが、その手続を公開するというのはどういう場合かについては、どうお考えですか。

○四宮委員 どういうケースか分かりませんが、今の証拠能力の有無の判断のうちでも、証人尋問をして事実の取調べをする場合というのが、あるかもしれません。例えば有罪・無罪に直結しないまでも事実関係に争いがあるというような場合です。もっとも、事実関係に争いがあれば公判でやるんですかね。

○井上座長 訴訟手続に関する事実で争いがあるという場合にも、いろんな場合が考えられますけれども、そういう場合をすべて、公判で事実の取調べを行うべきだということですか。

○四宮委員 公判で行うものと、準備手続で行うものとがあるのではないか。公判で行えばもちろん公開されますけれども、準備手続で行う場合でも公開してもよいのではないか。

○井上座長 争われるものは公判で行うべきだというのは一つの考え方だと思うのですが、そうではなく、準備手続で行っていいのだけれども、それを公開すべきだとする理由がよく分からないのですが。

○四宮委員 特にどういうケースがあるかというのは分かりませんけれども、法廷のドアを閉めないでおいたらどうかというだけなんです。
 例えば事実の取調べをするときに、場合によっては交互尋問を行うという場合があるとすると、そういった手続が公正に行われているということを公開することによって示すということもあり得るのではないかということです。

○井上座長 公正さを公開によって担保するということでしょうか。そういう御意見が出ましたけれども、どうですか。

○酒巻委員 今ひとつ分からないのは、もし公正さの担保という問題があるとすれば、準備手続を公開するということではなくて、別に公判手続でやればいいんじゃないですか。あるいは逆に準備手続で行った事柄を公判に顕出するという形でも問題はないように私は思います。証拠能力の判断のための事実取調べを公判廷で行うということは十分考えられると思いますが、もう一つの準備手続を公開するパターンというのは、余り必要性を感じないというか、その積極的な理由がよく分からないところであります。

○井上座長 たたき台は、証拠能力の判断のための事実取調べなどたたき台に挙げられた事項は必ず準備手続で行なわなければならず、公判で行うことはできないという趣旨でしたでしょうか。

○辻参事官 そのようなつもりはございませんで、例えば証拠調べ決定とか、およそ公判で行われることはないという事項はないのでありましょうから、たたき台の趣旨としては、最終的に法文にした場合に、この柱書きのところがこのままになるかどうかも、いろいろ法制的な検討をする必要もあるので、分かりませんけれども、「行うものとする」というたたき台の表現は、こういうことを準備手続で行うのだという趣旨をできるだけ表したいと思ったということでありまして、準備手続においてでしか行えないというつもりではありません。

○池田委員 私はたたき台の案で賛成です。専ら証拠能力の判断のための事実の取調べであれば、実体判断には結び付かないものなので、それに裁判員の方に関与していただく必要はないだろうと思います。証拠の能力の有無という前提問題はきちんと準備手続で処理をして、計画的な審理ができるようにする方がいいと思いますし、実体に関連するような場合には公判手続で証拠調べをすればよいことですので、準備手続でそういう必要がないものは処理しておく方がいいという、たたき台の考え方が望ましいのではないかと思います。

○井上座長 実体に関連する場合というのは、自白の任意性と信用性の判断がほぼ一体になっているような場合を考えておられるのですか。

○池田委員 それから、違法収集証拠だと主張されている証拠の証拠能力についての判断の前提となる事実の認定も、実体に関係してくる場合というのはかなり多いのではないかと思います。特に今回裁判員制度の対象になると考えている事件については、そうではないかというのは前にもお話ししましたとおりです。また、そういう証拠能力と実体の両方に関係する場合は当然公判段階で証拠調べなどを行えばいいと思います。しかし、鑑定書あるいは実況見分調書の作成の真正だけが問題であるとか、本当はだれが当該文書を作成したのかとか、あるいは供述者が所在不明又は供述不能になったのかどうかが問題になったときなどは、それらの点についての証拠調べに裁判員が加わる必要はないのではないかと思います。

○本田委員 私も池田委員と同じ考えでありますけれども、恐らく違法収集証拠であるとの主張がされている場合は、押収手続に関する手続調書は通常は不同意になりますね。そうすると、当然、公判廷で証人尋問を行うということになるのでしょうから、それ以外のところで公開して証人尋問を行わなければいけない場合というのが、四宮委員の話でも具体例が示されていないのでよくイメージが分からないんです。だから、専ら証拠能力の判断のための事実の取調べと言っても、書証に対する同意、不同意によっては、公開の法廷で行わざるを得ない場合も出てくるわけです。ですから、たたき台に示された案でも、そんなに不都合が出てくるとは思えないのです。

○井上座長 次に、「(4)準備手続結果の顕出」ですが、この点については、御意見いかがでしょうか。

○大出委員 先ほどちょっと申し上げましたけれども、前回も申し上げたことの繰り返しですが、あくまでも準備手続は準備ということになるわけで、先ほど準備手続でやるべきことについて、確認がされたわけですけれども、2の(3)ですね。そういった中身について、準備手続で行うというのは、あくまでも公判を迅速・合理的に進めるという準備のためということであるわけですから、経過としていろいろとう余曲折があったことについてまで顕出をする必要があるのかどうか。公判がスタートの段階でちゃんと進められるような態勢づくりができるということが重要だということになるわけですから、(3)で示されているような結果だけを示せばいいということになるのではないかと思うんで、この点に関する私の考えはは従前と一緒ということです。

○本田委員 私はたたき台の案でいいと考えております。その理由は、第2ラウンドと同じです。
 今、大出委員の方から結果だけという話かあったんですけれども、これは前の議論の際にも疑問点として申し上げたんですけれども、裁判員との情報格差ということを問題にされる大出委員が、準備手続の経過は裁判員に知らせるべきではないと言うのはどういうことなんでしょうか。

○大出委員 経過というものを裁判員が入って全部示すということであればいいですけれども、そこで経過が文字としてまとめられて顕出されるということになったときに、それが最終的に公判で心証形成に資する場合があるということになると、実際に準備手続の場面に立ち会っていた人間と、そうでない人間の間には当然格差が生じると思うんです。それをパーフェクトに100 %経過として顕出することはできないわけですから、必ずしもそうはならないんじゃないかということです。

○本田委員 議論が混乱していると思うんですけれども、要するに準備手続で裁判官がいろいろなことを行うことにより、心証をとるということはあり得ないという前提で、それはやらないという前提で話が進んできて、これが公判廷に結果として顕出されれば、同じ情報に裁判官も裁判員も同じレベルでそれに接するわけです。理屈としてはそうでしょう。

○大出委員 そこの前提が違うわけです。

○本田委員 ですから、手続調書の内容が正確に反映していないという問題があれば別ですけれども、準備手続の経過と結果が手続調書に正確に反映されている以上、裁判員も当然それを知るべきだろうし、同じレベルで裁判官と裁判員が知ればいいという話になるんじゃないですか。

○大出委員 経過をどういう形で顕出するか、今、想定されている限りでは、書面化するという形で顕出をお考えでいらっしゃるわけですね。直接その場面にいて、その手続に参加した人間と、そうでない人間では書面化されたものが法廷に顕出されたときに、本当に同一のレベルでそれを受け止めることになるのかどうかということについて、一緒じゃないかというふうに言えるのかという問題です。私はそれは言えないと思っているわけです。
 情報格差がそこで解消できるんじゃないかというのは、私の立場からすればあり得ないことであって、それが許容される場合と許容されない場合があるわけでして、このケースについては準備手続という形で、しかもそれが心証形成に影響を及ぼさないとおっしゃいましたけれども、公判段階になったときには、まさに顕出されたものによって、事態の進行如何によっては心証形成に資するということになるわけです。そうしますと、現場に立ち会い、直接の内容を見聞きした人間と、書面だけで報告を受けた人間、しかもそれが専門家と専門家ではないという問題も絡んでいるわけですから、そこは全く同じ平面で議論ができることにならないというのが私の意見です。

○髙井委員 例えば、準備手続の過程で検察官主張の犯行場所が弁護人の求釈明によって、最初はAだったのが、最終的にはDになったとしますね。もし経過を顕出しないということになると、公判段階ではDしか出てこないわけです。裁判員は、変転する経過は分からないわけです。しかし、裁判官はそれを知っている。こちらの方がよほど問題じゃないですか。

○大出委員 まさにそれは経過として、どういう経過があったのかということ自体について、問題になる場合とそうでない場合があると思うんです。つまり、単なる記憶違い、勘違いだということもあるわけですし、そのことを心証との関係でいったときには、具体的にそれは顕出しないということは、それから心証をとってはいけないということになるわけですから、そのことによって同じ平面に立つということが可能になってくるということだってあるでしょう。

○髙井委員 裁判官は検察官の主張がころころ変わって、ようやくDにたどり着いたことを知っているわけです。ところが、裁判員は全然知らないわけです。

○大出委員 そのころころ変わったということをどうやって顕出するのかという問題ですよ。そのときに、顕出することによって、本当にころころ変わったのが、どういう理由によって変わったのかについて、実際に顔つきを見るということまで、準備手続での心証を最終的に裁判官が知っているということにかかわって、同じような情報提供が裁判員に対して行われるのかという問題ですよ。中途半端な情報提供が行われることによって生じる混乱を避けるということであれば、そこはオミットするという方が賢明な方策だということになるのではないですか。

○髙井委員 大出委員の御意見であれば、それは経過を顕出することもOKだと。ただ、顕出する以上は正確に顕出しないさいという御意見にならないとおかしいと思います。

○大出委員 一番徹底するということになれば、その話を始めたら、当然のことながら裁判員も準備手続に参加するべきだという話になってくるんです。

○井上座長 大出委員の前提は、こういうふうに主張が変わっていきましたという経過を出しただけでは不十分で、その場の雰囲気とかを感じている人と、単に経過としてこういう事実があったという報告を受けただけの人とでは、評価が違ってくるだろう、ということですね。
 しかし、髙井委員や本田委員は、その点でそんなに大きな差が出るわけではなく、むしろ、当事者の主張がこういうふうに変わってきたということが後に証拠評価の上で意味を持つことがあるので、それは裁判員にも知らせて、裁判官と裁判員が同じ土俵で評価をした方がいいのではないか、というお考えだと思うのです。そこが意見の大きな分かれ目なのでしょう。

○平良木委員 準備手続が行われると、その都度調書が作られることとなっています。その調書を公判廷に顕出されなければいけないということだから、今の議論というのは言ってみれば当然のことなんです。しかも、もし仮に準備手続の段階で証拠が出てきたとしても、公判手続でそれを朗読するなりして顕出しないと、これも証拠にならないということは、今の証拠法則では当然のことなんです。
 ですから、ここに書いてあることはそれほど特別なことを言っているわけではなくて、従前行われていたことを確認しているだけだという気がするんです。

○大出委員 新しく裁判員が入って裁判をやるということになったときの準備手続の在り方としては、従前のとおりではよくないということなんです。従前のとおり同じように顕出するという方法でいいのか。それが100 %私はよかったかどうかということについては留保しますけれども、今までは同質の裁判官の方たちが準備手続というか、公判でおやりになるということで、そういうことも可能であったということになると思いますけれども、裁判員が入って、裁判員が心証をとることについて、専門家でないということを余り強調するつもりもありませんけれども、そういう立場にいる人間が心証形成の過程の中で、情報において、少しでも違った、質的に差があるものを前提にして心証形成をしなければいけないというのは、極力避けるべきだというのが基本的に私の意見です。

○酒巻委員 まず私の結論は、大出委員以外の方の意見に賛成です。確認ですが、大出委員が先ほどからおっしゃっていることを制度にするとどうなるのでしょうか。私の理解では、結局、一般国民である裁判員の方に準備手続から全部付き合ってもらうのがいいということになると思われます。しかし、ここでは、準備手続に関与するのは裁判官だけであるという前提で、どういう制度を考えるのかということが問題になっているのだと思いますが。

○大出委員 そうじゃないです。今の手続を想定する限りにおいては、準備手続における結論だけを公判に顕出すればいいという意見です。

○酒巻委員 何でそうなるんですか。

○大出委員 だって準備はあくまで準備じゃないですか。公判をさっき言った合理的、迅速に充実したものとして遂行するための準備活動ではないですか。

○井上座長 準備だという点では、平良木委員がおっしゃるように、現行法の下でもその準備手続きについて、経過も含めて公判に顕出するということはあることなので、、それは反論になっていなくて、むしろ、最初から言われているところが御意見の核心的な理由なのではないでしょうか。

○酒巻委員 それを制度化すれば裁判員の方にも最初から全部準備手続にも付き合っていただくということになるんじゃないですか。

○大出委員 そうはならないです。

○井上座長 そうするか、当事者の主張が変わったり、こういう経過でこういう争点に絞られたといった準備手続の経過を、公判の証拠評価の材料として用いることを断念するか、のいずれかになるのではないですか。

○平良木委員 顕出の在り方としては、大出委員がおっしゃるような在り方というのはあり得ると思うんです。例えば民事事件では弁論準備を行う場合、その最後に要約調書を作って、これ顕出するという形にしているんです。そういうやり方はあるんだけれども、今、刑事事件においてそこまでやるかどうかという問題だと思うんです。恐らくこの点については今までのやり方で十分で、特にそこで民事のように主張が錯綜してということはあり得ない。そうすると、今の刑事訴訟規則に基づく手続を前提にしたたたき台の4で十分だろうと思うのです。むしろそこで新たな手続をつくる必要はないだろうという気がします。

○四宮委員 前回申し上げたと思いますが、準備手続というもののイメージが、どうも様々なのではないかという気がしています。多くの意見は、現在行われているものと同じであるという理解のように思われます。しかし、私の理解するところでは、今の準備手続というのは、本来は公判でやるべきところを、準備的な事項については、事前に、言わば簡易な方法で処理をして、それを本来の公判手続に乗せると言いますか、そのような仕組みではないかと思うのです。特に裁判員制度が導入された場合における準備手続というのは、裁判員が入る公判で行われることを事前に一部行っておくというものではないのではないか、というのが私のイメージなんです。先ほど大出委員も準備とおっしゃったけれども、私は、準備手続はまさに舞台裏の準備であると考えます。そこではいろいろなことがあるわけで、例えばこれから議論になる証拠開示を経ながらまさに主張を明らかにしたり、裁判官から釈明を求められたり、主張を撤回したり、変えたりということが、あるのです。そういった舞台裏の準備をして、そして、裁判員が入る公判で何について判断してもらうかというターゲットを明確にして、その任務をはっきりさせる。そのために必要な情報を、そして必要な情報だけを正確に裁判員にスタートのときに伝える、という役割が準備手続だと思っております。
 そうだとすると、もちろん、準備手続の回を重ねればその期日ごとに調書をつくっていくわけですけれども、そういったものを具体的にどう裁判員に提示をしていくのかという問題もあると思うのです。ですから、私はむしろ準備を重ねてはっきりしたものを、主にそれは冒頭陳述においてだと思いますけれども、冒頭陳述という形で準備した結果を裁判員に提示していくということでないと、実効的な準備手続というものは行えないのではないかと考えております。
 その意味で、この案については、顕出という制度が今後の裁判員制度の下で引き続き必要なのかということについては、ちょっと疑問に思っています。準備をした上でその結果を冒頭陳述ではっきりさせればいいのではないかと思うからで、少なくともこの準備手続の経過というのは、なくてもいいのではないか。
 先ほど来、主張が変遷してきたことはどうするんだという疑問がありましたけれども、これは前回も議論になったと思いますが、それをどう公判で弾劾の資料として使うかという問題ですので、平良木委員がおっしゃったように、今の証拠法に基づいて運用していくと思うのですけれども、少なくとも準備手続は供述を取る手続ではありませんし、そういった実効的な準備という目的のために、なるべくここはシンプルにした方がいいのではないかと思います。

○髙井委員 今の四宮委員の発言についてですが、4の準備手続の経過・結果の顕出のような制度があると、実効的な準備手続ができないとおっしゃっている理由が私にはよく理解できないんです。

○四宮委員 この経過・結果を、どんなふうに書いていくのかということが問題だろうと思うのです。

○井上座長 うかがっていて、準備手続でいろんな経過を踏まえて主張などが整理されていくわけですが、その経過も公判に顕出されることになると、弁護側としては、自由に、余り身構えずにいろんな主張を言えなくなるではないか、というふうな趣旨に聞こえたのですが、そのような理解でよろしいでしょうか。

○四宮委員 そういうことではなくて、例えば今、実際に事前の準備でも行われている部分もあると思いますけれども、例えば弁護側にしろ、検察側にしろ、それぞれの主張をまさに整理をしていくプロセスがあるわけです。
 当てずっぽうでも何でも言っておこうということではなくて、実効的な充実した迅速な公判のためにいろいろ整理をしていくということはあるわけですから、何でも当てずっぽうに言っておけなくなるから困りますということではありません。

○井上座長 準備手続の経過も顕出されると準備手続の実効性が失われるとおっしゃる点が分からないというのが、髙井委員の御質問だろうと思うのです。準備手続においていろいろ整理していくというのはそのとおりだと思いますが、その過程を記録し、それを公判で明らかにするということをすると、準備手続における主張などの整理の実効性が阻害されるというのは、どうしてなのだろうかということだと思うのです。

○四宮委員 その都度その都度の自由な主張がしにくくなるという面もあるかもしれませんね。

○髙井委員 それは、公判廷での不意打ちができなくなるという趣旨ですか。

○四宮委員 公判廷で不意打ちはしてはいけないのです。不意打ちをしないために整理をするのです。

○髙井委員 そうですね。そうしたら、別にその結果及び経過を顕出するという前提でも、実効性のある準備手続はできると思うんです。
 もう一つ、整理整理と言われるけれども、それは当たっているかどうかは別にして、検察は検察なりに整理したものとして出してきているわけです。全く漠然とした主張を出してきて、星雲状態からはっきりさせましょうと言っているわけではなくて、検察は検察して輪郭のはっきりしたものを出してきて、それは弁護人から見て違うのであればどこが違うんですか、こうなんですかと争点を整理するためにいろんなところを主張して、争点を明らかにしていくわけだから、わけの分からないものを整理するというのとは違うと思うんです。そこを前提にして議論しないとおかしいと思うんです。
 だから、争点を明らかにするための手続なんだから、別にその経過と結果を公判廷に出すという前提でやっても、言いたいことが言えないとか、主張すべきことが主張できなくなるという場面は出てこないと私は思うんです。不意打ち主張を隠しておこうというのであれば別ですけれども、公判における不意打ち主張はお互いにしないことにするという前提で議論をするんであれば、顕出についてたたき台のとおりにすると実効性のある準備手続ができないというのは、同じ実務家としてちょっと理解できないんです。

○本田委員 先ほど四宮委員の方から、準備手続はいわゆる舞台裏の準備だという趣旨の話があったんですが、恐らくそれは違うんだろうと思うんです。現行の刑事訴訟規則が準備手続の結果を顕出しなければならないというのは、基本的には裁判の公開の要請だろうというふうに理解するのが素直だろうという気がします。
 具体的に言うと、例えば被告弁護側の主張が変わることもあるでしょうし、検察官の主張が変わる場合もあるかもしれない。準備手続というのは最初だけではなくて、公判の途中で行われることもある。公判での主張と、その後、準備手続をして、整理された主張が異なった場合に、なぜそういうふうに異なったのか、その経過が明らかにならないと、疑問に思っても分からないわけです。
 例えば検察官の主張であれば、殺人事件で、動機は例えば当初は保険金目的だったのが、怨恨という主張に変わりました。その場合に、なぜそういうふうになったのか。あるいは被告弁護側の主張で大きく変わる場合があるかもしれません。その場合、なぜそういうふうに変わったのかというのは、裁判員の方も分からないときちっとした判断ができないと思うんです。

○四宮委員 それは、中間の説示というものをやればいいんじゃないですか。公判の途中で変わった場合でしよう。

○井上座長 裁判官がこういうことがありましたよと裁判員に言うということですか。

○四宮委員 裁判員に、今度は主張が準備手続の結果で変わりました、という場合ですね。

○本田委員 私が言っているのは、裁判員もなぜ主張が変わったのかその理由を知りたいでしょう。それは明らかにしてやるべきです。

○井上座長 検察官の主張が変わることもあるし、弁護人の主張が変わることもある。そのときに、こういう経過でこういうふうに変わったのだということを裁判員に知らせる必要はないのかというのが、本田委員が言われていることで、多分四宮委員が言われたのは、変わりましたということだけを告げればいいではないかということなんでしょう。

○四宮委員 それは裁判官の説明の内容次第だと思います。

○井上座長 しかし、その説明として、こういう経過であったと言うのだったら、同じことではないでしょうか。

○平良木委員 四宮委員のイメージしているところが、前に指摘したことがありますけれども、刑訴規則178 条の10の事前の打合せのイメージではないかという気がするんです。
 それはそれとして、事前の打合せは制度として残ることは残るんだと思うんです。ですから、例えば裁判員制度の場合でも、本当に大変なものは準備手続になっていくし、そうなれば事前の打合せ程度で簡単なものは済む場合だってあり得ると思う。それは使い分けをしていくことに恐らくなってくるだろうと思うんです。

○井上座長 裁判員対象事件の場合には、必ず準備手続を行うということになっているわけですが、その場合でも、平良木委員がおっしゃっているのは、準備手続の前に両当事者間で打合せをすることはあるだろう。その上で正式な準備手続を開いて、公判期日の証拠調べの順序だとかを決めるということはある、ということなのではないでしょうか。

○清原委員 実務が分からないので、私も具体的なイメージをきちんと想像できていないかもしれないんですが、私はこの準備手続というのはあくまでも準備手続であって、公判と違うわけですから、そこのところが余り重くなり過ぎて、裁判官、検察官、そして弁護士の方だけで、あたかも本来的裁判の裁判員登場前の裁判のようなものをイメージしてはいけないと思うんです。あくまでも裁判は公判で行われるべきものである。そこのところは皆様と同じ認識だと思うんです。だからこそ、準備手続というのは、どういうものであったかということは、裁判員の方に要領よく簡潔に分かりやすく示される必要性がある。余りにも雰囲気を分かってほしいからという趣旨を尊重するのであるならば、それなら本来的に制度的に最初から準備手続にも裁判員の方が入っていただくのと同じになってしまうと思うんです。そうしないことに意味はあると思いますので、私はたたき台の案のようにきちんとしていただきたいと思います。
 ただ、たたき台では「調書及び当事者の提出した書面の朗読又はその要旨の告知により」とありますから、裁判の種別とか状況とか、朗読したらそれが数日も掛かるということにならないようにという含みもあってのことだと思うんですが、要は長さではなくて、経緯が明瞭に簡潔に分かるようにする必要があるのであって、これは大変大事なことだと思いますから、繰り返しになりますが、準備手続はあくまで準備手続であって、裁判ではないので、公開されないわけですから、だからこそ分かりやすく中身を知るためにたたき台の(4)は必要かあるではないかと思います。
 実務を知らないので、この辺が余り重くなり過ぎてはいけないんだろうなと思いつつ、軽くなり過ぎたら余り意味がないことになるんだろうなと思いますから、そのためにも、この(4)がないと、非常に準備手続の意義とか機能がかえって曖昧になるような気もいたしまして、実務の先生方で意見が分かれるくらいですから、本来的にどういう形が望ましいのかは、経験はないのですが、できる限り簡潔明瞭に経過と結果が示された方が後に裁判員が加わった裁判が充実するために必要なことだと、伺っておりまして、改めて認識します。

○井上座長 そこは恐らく、実際にそこでそんなに何日もかかるということは、どなたも考えておられないと思うのです。ただ、そういうふうに準備手続と公判をつないでおかないと、主張の変遷などが問題になったときに困るということを、経過の顕出も必要だとおっしゃっている方たちは言われているのだと思います。

○清原委員 その一番大事なところというか、本当に争点にもかかわることになってくるでしょうし、欠かせないものというのはあるように思うんです。

○井上座長 さっきの四宮委員の御意見ですけれども、現行の刑事訴訟規則194条の7による準備手続の結果を明らかにする手続というのは、公判廷でやるべきことを準備手続で行ったから、公判廷につないで公判廷でやったことにするというだけの趣旨では必ずしもないような気がします。やはり、準備手続で何が起こったかということは、事件を判断していく上で重要な場合がある。その場合に、公判で行われたことではないので、そのままでは、それを判断の材料として使うわけにはいかない。そこで、証拠として使うか弁論の全趣旨的な形で使うかは別として、そういうものを公判廷につないでおく。そのような意味を恐らく持っているのではないかと思うのです。
 そして、同じような意味を新しく導入される準備手続にも持たせることが必要ならば、何らかの形での公判へのつなぎが必要になる。準備手続の経過及び結果の顕出が必要だとされる方は、そういう議論をされているのだろうと思います。顕出というのは、準備手続を追体験するということでは必ずしもないだろうと思うのです。

○池田委員 準備手続については、前回座長が整理されましたが、準備手続と公判手続をつなぐ必要があるために、顕出の手続が必要だと考えます。そして、顕出のためには、たたき台には「経過及び結果」と書いてありますけれども、この前も言いましたが、それぞれの準備手続ごとに作成された準備手続調書に行われた事項が書かれていけば、それらはすべて結果ではないかという気がするんですが、いずれにしてもそれらは公判に出さざるを得ない。ただ、出し方はどうかというのが一つ問題としてあって、裁判員が準備手続においていろいろ錯綜した経緯をすべて分からなければ理解できない場合と、そういったものは捨象して、結果だけ分かった方が裁判員にとっては分かりやすいという場合とあると思います。多くの場合は後の方だと思いますので、そうだとすると、この顕出の方法というのは、結果をお互いに冒頭陳述はこういうことでまとまりましたというのを出してもらって、もし経過として違うことがあったということなら、それに付加してでも言えば足りるものではないかと思いますので、そこは運用による工夫の余地があり得ると思います。
 もう一つ、前回座長も言われたことで今日も議論になっているのは、準備手続の中で言われたこと等が、公判で証拠となるかという話があるわけですが、被告人が準備手続に絡むということはあり得るわけですけれども、その中で被告人が述べるものが何らかの形で証拠になるということはあると思うんです。ただ、その出し方というのは、どちらかの当事者が証拠として使いたければ、その調書を証拠調べ請求をするという手続にでもしないと、なかなか裁判員にとっては分かりにくいのではないか。裁判官だけが分かっているのは困るということもありますので、準備手続における供述が重要になるんだったら、その点を証拠化していくという方法を考えるべきではないかと思います。これはたたき台に書くこととは違うとは思いますが。

○井上座長 ほかにこの点で御意見はありますか。なければ次に進みたいと思いますが、よろしいですか。
 「(5)準備手続の充実」についてですが、ここは特に御異論がなかったように思いますけれども、よろしいですか。
 次は「3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示」ですけれども、「(1)検察官主張事実の提示」については、特に御異論はなかったように記憶しますので、特に付け加えることがなければ、次に進ませていただきたいと思いますが、よろしいですか。
 (2)についても、やはり当然だろうという御意見だったように思いますけれども、いかがでしょうか。よろしいですか。
 「(3)取調べ請求証拠以外の証拠の開示」ですけれども、この点につきましては、御承知のように、これまでも相当御議論いただき、A案を相当とする御意見、B案を相当とする御意見などが述べられたところですので、改めて御意見を伺いたいと思います。皆さんそれぞれ、これまで意見が出された点については十分御承知の上、ここに臨まれていると思いますので、それを前提とすることができるところは前提としていただいて、更に議論を発展させるという意味で、御意見をいただければと思います。できれば結論とその理由を簡潔に述べていただければと思います。

○酒巻委員 私は基本的にB案が妥当だと思います。この証拠開示のシステムの全体構造について一言だけ申しますと、まず検察官がその主張を裏付ける証拠を開示すること、加えてここに示された取調請求証拠以外の証拠の事前開示の部分があり、更に5の被告人、弁護人側が主張を明示するのに対応してこれに有用と認められる証拠開示が行われるという全体のシステムで見るべきものでありまして、総体として見ますと、従前の開示をめぐる紛争の基になっておりました多くの問題がこれによって解決されることが見込まれ、かつ一定の類型に当たる証拠については、従来よりも広い範囲で早期の証拠開示が実現することになると思われますので、B案が妥当だと考えます。
 なお併せて提案を申しますと、現在B案にはア~キまでの類型が挙がっているわけですけれども、以前に、いわゆる取調べ過程・状況の書面による記録が作成されるということが関係機関において検討され、この場でも報告されたわけですが、そこで作成される被疑者の取調べ経過にかかわる事柄は、捜査段階における被疑者供述調書の任意性、信用性を争う弁護人にとっては大変重要な基礎資料になると思われますので、その取調べ経過記録もB案の開示対象のア~キに付け加えて独立の開示対象類型として掲げるのが望ましいと考えております。

○髙井委員 私も前回同様B案が妥当だと思います。
 それから、先ほどの取調べ経過に関する書面はやはり類型として追加されるべきであるというふうに思います。

○大出委員 私は前回はB案ということだとしても、今、酒巻委員が言われたように、従前に比べればかなり前進した内容になっているんだろうと思うんですが、ただ、いろいろと御議論を伺っていた限りでは、果たしてそれで十分なのかという点については、私なりに懸念もあるので、これは四宮委員のお説であったのかと思いますけれども、そのリストの提出というのは加味して考えた方がいいだろうと思います。つまりA案も加味してということがあってしかるべきではないかと申し上げたと思うんです。改めて考えてみましても、やはりB案では、今、取調べ経過についての書面を追加するということがありましたけれども、それ以外、この間の御議論で伺っていたところで、捜査報告書全般はとりあえずこの類型からは落ちているわけです。
 そういったものがリスト化されて出ていったときに、どういう問題があるのかということについて、これもお伺いした経過もあるわけですが、そうしましたところ、捜査当局としては、もちろん御主張としては分かるわけですけれども、虚偽弁解を利用した攪乱といったことが起こってくるということが最大の理由であるということであったように思うわけです。しかし、そのとき私は申し上げたけれども、確かにそれはないことではないと思いますけれども、捜査当局にとってみれば頭の痛い問題だということがあるかもしれませんけれども、しかし、想定上の問題ということを前提として、リストを提出しないということが言えるほどウェイトの高い問題なのかどうかということであれば、むしろ捜査報告書のたぐいというものが従前起こってきた冤罪等との関係では、初動捜査の段階での捜査当局の動きというものが弁護側に分かっているということによって、冤罪の発生が回避できたケースというのは相当あると言ってもいいわけです。具体的なケースとしてそういうことが現実にあるわけですから、捜査の攪乱とか、そういう側面での虚偽弁解ということを問題にされるのであれば、冤罪の発生ということに対する配慮がもっとあっていいと思うわけでして、そういう観点からすれば、リストを出すということによって防止できる点があることについての配慮は必要なんだろうと思います。
 そういうことで考えますと、一覧表を提出していただくということをお考えいただく必要があるのではないか。その場合、一覧表の作成の負担の問題についての御主張があったように思いますけれども、これは刑罰権の行使にかかわる重大問題なわけですから、確かに負担であることは間違いないかもしれませんけれども、それは対応していただくというのが手続の公正性とか適正性を確保する上では必要だろうと思うので、やはりB案だけでは足りないということで対処していただきたいと私は思います。

○井上座長 結論としては、B案プラスA案ということですか。

○髙井委員 大出委員の御意見ですと、B案に挙げられた類型に、捜査報告書という類型を追加するのではだめなんですか。

○大出委員 ただB案の要件というのはいろいろと付いていますね。髙井委員もおっしゃったと思うんですが、捜査報告書を類型として追加するということは必須だと思いますけれども、果たしてそれだけでいけるのかどうかということについて、なお、私は疑義があって、前回髙井委員は、B案の要件からすると、相当腕のいい弁護士でないと出し切れないんじゃないかと発言されたと思うのです。

○髙井委員 腕のいい悪いによって左右されますよと言っているだけです。

○大出委員 ですから、左右されるわけでしょう。

○髙井委員 腕のない人はない人なりに証拠は開示されるんです。

○大出委員 つまり、そこのところはこの要件との関係で、つまり関連性だとか重要性だとか、そういったことについて弁護側がどこまで主張できるかということにかかわるわけです。

○髙井委員 B案の要件の主張ができないような人はA案のリストを見たって、どれから見るべきか分からないんですよ。同じことなんです。

○大出委員 それを言ってはおしまいで、それはまず出してみてからの話にしていただいた方がいいと思います。

○髙井委員 例えばリクルート事件では証拠として2,000 箱分を押収してきているわけです。その中には袋一袋ということで押さえてきているものもあって、それについて全部リストを作るというのは負担が重く、基本的に不可能なんです。

○井上座長 大出委員が「出し切れない」と言われた点がよく分からないのですが、要するに、B案はいろんな要件が重なっているので、こういった要件は不要だという御趣旨ですか。

○大出委員 リストが出てくるということになれば付加されているものが多いということは間違いないと思います。

○井上座長 付加されているのだけれども、それは意味がない、あるいは障害になるということですか。

○大出委員 ということがあり得るんじゃないかと。

○井上座長 それは、具体的にはどういう場合ですか。

○大出委員 それは個別のケースによると思うんですけれども。

○井上座長 それでは議論にならないので、具体的に例えば、こういう要件だったら、こういう場合に証拠が開示されない場合が出てくるが、それでは弁護側にとってこんな必要がある証拠が開示されないことになるのだという形の議論をしないと、抽象的に言っているだけでは、話は進まないと思うのです。

○大出委員 例えば捜査報告書などについて、具体的に例えば目撃者、あるいは犯行状況にかかわって情報を持っている人たちの聞き込み等々が行われている。それは場合によっては調書化されていないにしてみても、被告人とは別の者が犯人である可能性というものを示唆するような情報がそこに含まれているというようなものが捜査報告書として存在しているということは多分あり得ることだと思います。ところが、その点について、B案の類型では、そもそも捜査報告書が入ってくれば事情は違うかもしれませんけれども、入ってきていないという状況の下では、それが入ってきた場合であったとしても、検察側の立証との関係ではそういった可能性を示唆するものが検察側から出てこないときに、具体的にリストにそういうものがあるということでも示されないことには、弁護側がそのような捜査報告書について開示を要求するという手立てが果たして生まれるのかどうか。かなり捜査当局側では大網をかけて聞き込み捜査をやっているわけでしょうが、そういったもの、つまり初動捜査の段階で得られた被告人にとって有利な情報というものが出てくるということになるのかどうか。

○酒巻委員 冒頭に言いましたとおり、たたき台の3(3)の部分だけではなく、この証拠開示のシステムには、たたき台の5という部分があるわけです。大出委員の挙げられた例が問題になるのであれば、5の争点に関連する証拠開示のところで、必要性を示して開示請求のターゲットを示せば、開示されることになりますし、場合によってはそれに関係する証拠のリストは裁判官の手元に提出されるわけですから、個別に開示請求していけば目的は達せられるような仕掛けになっていると考えます。

○髙井委員 これは前回も言ったことで、ここで繰り返すつもりはないんですが、B案は書きぶりとしてやや分かりにくい。
 それから、実際に運用する立場から見ると、確かにこういうふうにしか書けないんだけれども、先ほど弁護人の能力のことが言われましたが、検察官の能力によって、この証拠は関係あるなと判断する検察官と、これは関係ないと判断して開示されなくなってしまうという部分は実務的にはあるであろうと思います。しかし、それはそれでやむを得ないかと思っています。

○井上座長 書きぶりというのは、要件の書きぶりということですね。

○本田委員 私もB案が妥当という意見です。これは第2ラウンドと同じで、理由も大体同じです。それから、先ほど捜査報告書云々の話が大出委員から出ましたけれども、そういった問題は次の段階での争点に関連する証拠の開示というところで十分解決できるようなシステムになっているので、何でもかんでも、取調請求証拠以外の証拠の開示のところですべてが解決されなければならないという問題ではないのではないか。それはお互いに争点を明確にしながら関連するものを開示していくんだという全体のシステムの中で考えれば十分だと考えます。
 それから、リストの話が出たんですが、これは前回もかなりいろいろ申し上げたんですけれども、証拠の標目を記載した一覧表にどこまで記載させるのかという問題が一つあります。単に標目だけ書いたんじゃほとんど意味がないだろう。では、証拠の内容まで書くとすると、これは実質的に全面的証拠開示と変わらないのではないか。そうすると、これに対する弊害というのは、これまで第2ラウンドでいろいろ申し上げていたとおりで、これは到底不可能な話だと言わざるを得ない。そうではなくて、供述者の氏名であるとか、当該事件における立場とか、供述対象事項とか、あるいは鑑定書の対象事項とかを記載するんだということにしたとしても、虚偽弁解の作出の恐れとか、罪証隠滅、あるいは関係者の名誉、プライバシー侵害といった弊害が生ずるのは避けられないことになるわけです。例えば、当該供述者が捜査機関の取調べを受けたことが明らかとなることがあります。しかも、それが被疑者として取調べを受けたということになれは、プライバシー侵害の恐れもある。また、自分が情報を提供したことを外部に明らかにしないということを条件に情報を提供する人もいるわけです。その上で供述書の作成に応じる者もいるわけですけれども、そのような者から捜査協力が得られなくなってしまう。また、供述者名を手がかりに罪証隠滅などを招く恐れも出てくる。加えて、一覧表に基づいて証拠を特定して開示請求がされれば弊害が生ずる恐れがない限り、全部開示しろというのは、まさに何か便宜に使える証拠がないかという探索目的の証拠開示請求を許容することになってしまうだろうと思います。更に一覧表に供述の要旨を記載するとなると、これは負担が大きくてとてもじゃないけれども、できる話じゃないです。仮に記載したとしても、記載した内容の要旨の正確性とか十分性をもって紛糾が生じ、かえって混乱するだけだということになってしまって、全部の事件について全証拠の一覧表を作れという話は到底現実的な議論とは思えない。

○樋口委員 もう既に申し上げたものと変わらないんですけれども、制度としてはB案ということでいいと思います。前回も申し上げたんですけれども、やはり「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために当該類型及び範囲の証拠を検討することが重要であることを明らかにして」という要件でありますとか、カの「直接関係する」といった辺りの解釈、運用は極めて厳格にされることが必要であると考えます。要するに、その趣旨は被告人に虚偽の弁解の根拠とするような材料を与えるという制度になってはいけないということです。それは何がまずいかと言いますと、結局、そういうことになりますと、被告人のあらゆる弁解を想定した徹底したつぶしの捜査が必要ということになろうかと思います。
 そのほかの検討テーマのところでも、前提として申し上げたんですけれども、刑事司法手続というのは、究極的には治安安全の確保に資するものでなければいけない。警察捜査というのは限られた公共財でございますので、それが余りこの辺りの手続を重くすることによって、その適正配分を害するようなものであってはならないだろうということでございます。
 それから、被告人に虚偽の弁解の根拠を与えかねないと考えられる証拠というのは、後のたたき台の4の被告人側による主張の明示があり、5の争点に関連する証拠開示の手続を経て、本来主張を待ってそれに関連する証拠として開示されるものがあるとすれば開示されるんだろうと思います。それは酒巻委員がおっしゃったところと趣旨は同じであろうかと思いますが、そのように考えます。

○四宮委員 私も酒巻委員がおっしゃるように、今回のたたき台の示している証拠開示制度、これを全体として考えるべきであることはそのとおりだと思いますし、全体として考えたときに、相当程度これまでのものを拡充する内容になっていると思っております。ただ、それで十分なのかという問題はあるだろうというのが私の意見です。
 結論は、前回申し上げましたように、AプラスB案ということであります。若干補足いたしますと、リストは有用ではないかと思うのです。B案で何が落ちるかという議論があって、一番有力なものは捜査報告書であろうと思いますが、リストのもう一つの使い方として、B案では、証拠の類型と範囲を特定して請求するわけですけれども、実際の具体的な事件では、どんな類型の証拠があるのかというのは、私ども弁護側にとって分からないわけで、そういったものを知るためには、やはりリストは重要であろうと思います。つまり、証拠の類型、範囲の特定の明示に役立つということと、争点の見落としがないかどうかを確認するという意味で、なおリストは有効ではないかと思うわけであります。
 リスト論に対する弊害について、今日もいろいろと主張されておりますけれども、要するに制度には、マイナス面もあればプラス面もあるわけで、プラス面としては私が申し上げたことが一つです。
 それから、虚偽弁解の誘発という点も逆に本当に罪を犯した人は虚偽の弁解をすることもあるかもしれないし、そうではない人が、そのリストからこういうことだったということを思い出して、主張していくこともあるかもしれません。それはプラス、マスナスあるわけで、一概にすべて弊害ばかりであるというふうにも思えないのであります。
 作成の負担の点もありますけれども、これは前にも申し上げましたように、新たに作るというよりは、いろいろ送致目録などを活用するということもあり得るのではないかと思います。
 むしろリストを不開示にする場合には、例えば鑑定書があることが分からなかったということもあり得るわけで、再審の段階でそういう鑑定書があったということが判明したというケースもあったと聞いております。
 いずれにしろ、プラス・マイナスあるわけですが、そういったプラスの面をより強調して、A案を併用すべきであると思います。
 B案について申し上げますと、酒巻委員がおっしゃった取調べ経過の記録を類型に付け加えることには賛成です。
 それから、髙井委員のおっしゃったB案の要件ですけれども、ア~キ、取調べ経過の記録書面を入れるとすればもう一つ増えるのかもしれませんが、そういったものは前回も申し上げましたけれども、類型的、あるいは定型的に防御のために重要であり、かつ弊害も少ないというものですので、いろいろ複雑な要件になっていますけれども、証拠の類型と範囲を特定して、なお弊害がない場合には開示をするという要件にしてはどうかと思います。
 もう一つ、これも前回申し上げましたが、前回は被告人にとって有利な証拠ということも申し上げました。有利というのがなかなか難しい表現なのかもしれませんが、例えば検察官の主張に反する可能性のある証拠とか、いろいろ伺うところでは、例えばイギリスなどのように、検察側の主張事実を崩すに足ると考える資料とか、いろんな表現方法はあると思いますけれども、表現方法はお任せしますが、そういったものを類型に入れていただけると、より一層争点の整理というものに役立つのではないかと思います。

○井上座長 御発言の趣旨を確認したいのですが、リストから思い出すことがあるというのはどういう場合でしょうか。

○四宮委員 私は、リストの記載内容として、最低限、例えば供述調書については、供述者と供述を録取した人と、供述年月日が、押収手続に関する書類であれば、差押えの場所が記載されていれば、そういったものから思い出すことはあるのではないかと思います。

○井上座長 そこが聞いていてよく分からないのです。

○酒巻委員 四宮委員がおっしゃっているのは、例えば大量の書類を自分の会社なり事務所から押収された場合に、リストを見ればその中に自分に有利な書類、メモとかが入っていることが分かる場合もあるのではないかということではないでしょうか。また、検察側の主張と対立する内容の別の鑑定結果があるかもしれないのに、リストがなければその存在自体が分からないのではないかということですね。

○井上座長 大量に書類を押収されたが、その中に有利なものがあるかもしれないという場合は、B案でも開示請求していけば開示されるようになると思うのですが。

○酒巻委員 それを今続けて言おうと思ったんです。四宮委員の御心配は、やはり弁護人がB案の枠組みを最大限活用することによって対処することができると私は思います。
 それから、さきほどの四宮委員御発言の中で、「有利な証拠」というのを類型として掲げるという点ですが、前にも申したとおり、アメリカの法規が「有利な証拠」という文言を使うのはあちらの最高裁判例のリステイトという由来があるんですが、むしろ我が方B案の「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するため」という要件により、結果として弁護人が有利に用い得る証拠は開示の対象になるのではないかと思います。

○平良木委員 私もB案でいいと思います。恐らく裁判員制度が動いていくと、証拠開示制度の運用というのはかなり動いてくる可能性というのはあると思うんです。それは拡大するか縮小するか分かりませんけれども、この段階ではB案で十分かなという気がしております。
 取調経過の記録をB案の類型に加えるべきという意見が出ましたけれども、それがここで開示される方がいいのかどうかというのは別問題にして、問題になった場合には、必ず開示されるということが望ましいと考えております。

○清原委員 私は四宮委員のおっしゃった、検察官が主張することと違う証拠になり得る可能性がある証人の供述調書なども、その存在が分かる方がいいとおっしゃった件なんですけれども、私は、たたき台3(3)のカは、そういうことも含んでいるのかなと広く認識していたのです。つまり、検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書というのは、直接関係するわけですから、検察官主張事実を補強する場合もあるでしょうし、矛盾する場合も含んでいるのかなと思っていまして、これがあることに非常に意味があると思っているのです。そのことをまず確認させていただいて、私はそういうことも含めて、このB案というのはかなり証拠開示の方向性として踏み出したものかなと思っていました。もし、検察官の主張に反する供述調書がカの中に含まれていないとしたら、含めていただけたらと思います。

○辻参事官 カにつきましては、検察官主張事実に直接関係するということになっておりますが、もう少しかみくだいて申し上げますと、同じ事項についての供述調書、それは今、清原委員から御指摘があったように、検察官の主張事実を補強する場合も、それと矛盾する内容で弾劾する場合も両方含むものとしてたたき台は作成しております。そういう意味におきましては、ア~キ、いずれのものも矛盾するものも当然含むと考えております。

○清原委員 そこで確認したいのは、こういうものがありますというリストがなければ開示請求できないのか、捜査の過程で証人の中に例えば同じ場所にいたんだけれども、検察官主張事実と異なる供述をした人の供述調書も開示してほしいということで、それが重要であるから、そして、そのことが弊害の有無や種類、程度等を考慮して相当であるならば、開示してくださいと請求すれば、リストがなくても、開示の請求をすることができるというのがB案ですね。

○辻参事官 それは御指摘のとおりであります。

○清原委員 ですから、あるかないかは聞けるわけですね。被告人も弁護人も。

○辻参事官 検察官が目撃証人を請求している場合に、同一の状況について目撃した他の証人、参考人の供述調書という形でで特定をして開示の請求があって、そのほかの要件についても必要な主張があったということになりますと、検察官としては、そのような供述調書がなければないという返事になるし、ある場合には、開示の要件の有無の判断をするということになります。

○清原委員 繰り返し確認してしまいましたが、カの類型にもそういうことも含めているのであるならば、そういう制度にしていただければよいと思います。
 もう一つ、これは先ほど髙井委員からも御指摘があったのてすが、B案は法律の条文を想定されて作成されているのかどうか。そういう文章になっているのであれば、配慮しなければいけないと思う点があります。つまり、弊害の有無と言った場合、どういう弊害を想定して、それがないことを言わなければいけないのか。その辺りは確かにこの文面だけでは分かりませんし、私たちが尊重しなければいけないプライバシーであるとか、罪証の隠滅を防がなければいけないとか、証人の供述をその氏名を明かさないという条件の下でしてもらったときのことなどなど、実務の方はこの文案を見れば思いつくのかもしれませんけれども、もう少しその具体的内容を明確に分かりやすく制度をつくっていただければと思います。
 いずれにしても、証拠を開示していく方向性というのが非常に大事ですし、これは酒巻委員がおっしゃったように後の5とか6とか7とかにみんな関係することなんですけれども、全体を見ても、ここのところはB案をとにかくきちんと堅持して、その上で運用のところで更に公正な仕組みをつくっていただければ、今までの制度以上に前進するのではないかなと、皆様の御意見を聞きながら思いましたので、是非そういう方向で進めていただければと思います。

○井上座長 その弊害の有無などは、B案では、第一次的には検察官が判断し、そこで問題が生じれば、7で裁判所の裁定を求めるという構造になっているわけですね。

○池田委員 前回の事務局の説明等を伺って、このB案でもかなりの証拠が開示される。今回のたたき台は、全体として弁護人が見たいと思うものが開示される仕組みになっているのではないか。要するに、現場の裁判官などでも、被告人の主張を裏付けるような証拠が最後まで開示されないという証拠開示のシステムというのは問題なのではないかという考えを持っているわけですけれども、今回のたたき台は、そこは開示されるような仕組みになっているのではないかと思いますので、B案でいいと思います。
 ただ、B案の要件については、先ほど来幾つか指摘がありましたけれども、結局はこれは主として弁護人に開示の必要性など言わせて、それを見て検察官の方で必要性と弊害を考慮して判断し、その判断に不満があれば裁判所はそれについて裁定するという形になるわけですけれども、被告人と弁護人から明らかにする必要があるのは、開示を請求する証拠の類型と範囲と、特定の検察官請求証拠の証明力を判断する必要があるということです。そして実際は、どの証拠についての証明力の判断のために、どういう類型のどういう範囲の証拠が必要かということを言えば、結局、あとは開示の必要性については当然弁護人が言わないと、検察官も分からないわけですし、裁判所も分からないのですから、「事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし」という要件の意味は余りないのかなという気がいたします。
 それと、「重要である」というのも、必要性というのと重要であるというのがどういうふうに違うのか。要するに、当事者が重要であると言いさえすれば、重要なのかどうかが結局は検察官にとっても裁判所にとっても判断根拠にはならないわけです。ですから、「重要である」という要件を残す必要があるのかちょっと疑問に思いますので、その辺りの要件はもう少しすっきりしたものでもいいのかなという気がいたします。
 もっとも、先ほどの清原委員の指摘がありました「弊害」については、弊害の具体的内容については、事案によって異なるので、たたき台のようにしか書けないように思います。

○井上座長 事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らして、検討することが重要だということになれば、それは必要だということではないか。そうであれば、開示の必要性というところと、重要であることというところをもう少し整理したらどうかという御意見ですね。

○四宮委員 二つほど質問というか確認なんですけれども、一つは、今、清原委員がおっしゃったカについてです。前回確か私の記憶では、髙井委員から目撃証人のケースが出て、目撃証人がメガネをかけていたかどうかが問題で、目撃証人AはメガネをかけていなったというBの供述調書がある場合に、それがカの類型に該当するのかという問題提起がありました。そのときには、事務局の方の回答は当たるのではないかという回答だったように記憶をしております。それに対して、更に目撃証人の信用性ということで該当するのかということでは、ちょっと漠然とし過ぎているという御説明だったような記憶なんです。
 そこで質問なのですが、例えば目撃証人Aが犯行を目撃した後に、例えば犯人は赤いシャツを着ていたということをBに述べていたというBの供述調書があって、被告人は当時赤いシャツは着ていなかったと主張しているケースの場合は、メガネの例と同じように、Bの供述調書が、カにいう検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書という類型に該当するかどうかなんです。

○井上座長 カにいう「直接関係する」というのは、何を意味するのかという問題だと思われますが、たたき台の趣旨としてはどうですか。

○辻参事官 今の設例の前提がよく分からなかったんですが。

○四宮委員 検察官が請求する目撃証人Aは検察官に対する供述調書の中では、犯人は黒い服を着ていましたと述べている。ですから、犯人は黒い服を着ているのを見ましたというAの調書が検察官から出てくるわけです。
 ところが、実際には、直後に友人のBに、「大変な現場を目撃したよ。事件があったんだけれども、犯人は赤い服を着ていた。」と言っていたとして、そのBは捜査官の取調べを受けて、Aは事件後にそういうことをBに言っていましたというBの供述調書があるという場合に、そのBの供述調書がカに該当するのか、というのが私の質問です。

○辻参事官 余りそのような事例を想定していませんでしたので、直ちにお答えするのは難しいところです。カに該当するような気もいたしますが、検討させていただきたいと思います。

○井上座長 Bの供述調書は、Aが、目撃の直後に、犯人は赤い服を着ていたとBに言っていたという内容ですから、検察官主張事実との関係は間接的であるように思えます。ただ、Bの供述調書は、Aが目撃した犯人は黒い服ではなく赤い服を着ていたということを証明するものだとして、検察官主張事実に直接関係するという見方もあり得るかもしれませんが。

○本田委員 Bの供述調書は、Aの供述の信用性を否定する弾劾証拠にはなりますが、実質証拠として使えるかというと、使えないのではないですか。そうすると、直接関係するというときに、何をどこまで立証事実との関係でどういうふうに仕分けするかという問題なのでしょう。

○髙井委員 今の場合、まさにAの供述の証明力を判断しているわけでしょう。

○四宮委員 カの類型で請求したときに、すべての検察官が、今言った私の例でのBの供述調書を開示してくれるならいいんですけれども。つまり、直接性の概念の問題なのですが、検察官申請証人の証言と矛盾するようなことを述べている人の供述調書も、カの類型に該当するということが確認されていればいいわけです。

○井上座長 それは警察、あるいは検察で違うことを供述していたという場合とは違いますね。

○四宮委員 目撃証人自身のことではないですからね。

○井上座長 供述調書に書かれた供述の主体は第三者だけれども、意味を持っているのは、目撃証人が違うことを言っていたということだという考え方ですか。

○四宮委員 そう受け取っていただけるならいいのですけれどけも、直接関係するというのは、目撃証人みたいな、言わば直接証拠といったふうに考えられると、Bの供述調書は開示されないことになってしまうのではないかと思うのです。

○髙井委員 直接関係するという文言があるために、かえって証明力を判断するだけのものがカットされてしまうという可能性がないかということを問題にされているのだと思います。

○井上座長 カの文言からすると、事実に直接関係するかどうかということで判断されるのではないか、ということですか。

○髙井委員 ここはもう少し考えていただく余地はあると思っているんです。

○井上座長 分かりました。

○土屋委員 取調べ請求証拠以外の証拠の開示については、非常に難しいところだと思って悩んでいます。私は単純に最初は一覧表が開示できればいいなと思っていたんです。そういうものが出てくれば、弁護側としても、主張がしやすいなと思っていました。ところが、前からいろいろお話を伺ってくると、B案でも結構証拠が開示されるなということが分かってきた気がします。ですから、あえて一覧表にこだわるつもりは今はありません。B案で、要するに、弁護側で主張が形成できるような、そして、弁護側が必要だと思うような証拠の開示が、検察官のし意的な判断で左右されるということがないような制度設計になるならば、基本的にB案の考え方でも私はいいと思います。

○井上座長 ほかにどうですか。

○本田委員 取調経過報告書を付け加えるという意見がありましたけれども、私もそれは加えるべきだという意見です。

○井上座長 その点については、付け加えるべきではないという御意見があれば言っていただきたいのですけれども。その点はよろしいですか。

○樋口委員 証拠類型として開示の対象になるのであろうと考えております。

○四宮委員 さっきの私の出したケースなども、リストがあれば便利ではないかというのをつけ加えたいと思います。
 もう一つ、酒巻委員に一つ質問というか、被告人に有利な証拠についての書きぶりのことなんですが、例えばイキリスで採用されているような「検察官の主張を崩す」という表現とかは考えられないものでしょうか。

○酒巻委員 確かにイギリスの法規ではそのような表現・文言が用いられています。「検察側証拠ないし主張の証明力・信用性を減殺する可能性のある資料」といった表現だったと思います。ただ、先ほども言いましたが、被告人に有利な証拠については、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要という部分で十分カバーされるのではないでしょうか。

○井上座長 検察官の主張を崩すと書くと、かえって要件として厳しくなるようにも見えます。崩れないんじゃないかと言われてしまったらおしまいなので、検察官の主張を崩すという表現では余り決定的にはならないのではないですかね。

○辻参事官 リストがあると、先ほどの設例で便利だとおっしゃる趣旨がよく分からなかったんですけれども。

○井上座長 いまの御質問の趣旨は、リストに証拠の中身は書いていないという前提に立つと、リストでは判定できないのではないか、ということですね。

○四宮委員 それはそういうふうには言えないと思います。

○井上座長 そこがよく分からないですね。結局、フィッシング・エクスペディションで、ここに揚がっている証拠はこういうものかもしれないから、試しに見せてくれと次々に言うしかない。そうではなく、リスト自体から判断できることが言えなければ、リストが役立つことを論証したことにならないと思われるのですが、そこがうかがっていて未だ分からないのです。
 私の予定では、もっと早くブレイクを入れるつもりでしたが、ここで10分少々休憩ということにさせていただきたいと思います。

(休 憩)

○井上座長 それでは、再開させていただきます。
 次の項目4の「被告人側による主張の明示」ですが、「(1)主張の明示等」のうちのア、これは被告人側による主張の明示に関する項目ですけれども、ここもこれまでかなり時間をかけて議論をしてきたところです。そして、被告人にも義務を課すA案が相当とする御意見と、被告人には義務を課さず弁護人にのみ義務を課すB案を相当とする御意見などが出されたところですけれども、いかがでしょうか。
 この点は、後で出てきます、8の「(2)準備手続終了後の主張」についてのこれまでの議論とも関係がありますので、そこでの議論をも踏まえ、あるいはそこでの議論をも想定してといいますか、見込んで御意見を伺えればと思います。

○清原委員 私、ここでは自分の意見をきちんとお話してないかと思いますので、口火を切らせていただきます。私は、4につきましては、A案で、やはり当事者である被告人の方も、弁護人の方も、しっかりと準備手続において、主張を明らかにしておいていただければと思います。
 そのことをきちんと押さえた上で、座長御指摘の8ページの「(2)準備手続終了後の主張」につきましては、これはB案でこのような制度は設けないものとする。ですから、不合理な、いわゆる後出し主張というのはないことが望ましいと思いますし、そのために準備手続をしっかりとやるべきだと思いますし、争点整理の実効性を担保していただくために、しっかりと裁判所に訴訟指揮を取っていただきたいというふうに考えていますけれども、しかしながら主張制限を置いてしまいますと、やはり裁判の中で、やはり主張というものが最後の最後に出てくるということはあることが想定されますので、そこについて制限する制度を設けてしまうのは望ましくないというふうに思いまして、主張明示義務についてはA案だけれども、主張制限は設けないということで、私としては個人的に意見をまとめました。

○井上座長 公判では、新たな主張をしてもいいということですね。

○清原委員 もちろん、それは望ましくはないと思いますし、きちんと準備手続において争点整理をして、それに従って公判を進めていただければと思っています。ただ、めったなことではないというふうに信じたいのですが、どうしても被告人が新たな主張をしたいというときに、場合によってはそれが新しい主張なのか、古い主張なのかというよりも、真実を明らかにするのが法廷であるならば、それをあらかじめ止めるような制度はない方がよいと思うのです。ただし、繰り返しになりますが、主張の明示はしっかりと準備手続においてしていただくという制度が、全体として基本だというふうに思います。

○井上座長 8の(2)の方は、後で議論していただくとして、ここでは、まず4の(1)に重点を置いて御意見を伺いたいと思いますけれども、いかがでしょうか。もちろん、関連させて今のように後の点にも言及して議論していただくことは差し支えありませんが。

○髙井委員 私は前回も申し上げましたけれども、被告人と弁護人の両方に主張明示義務をかけるというA案がいいと思います。理由は前回申し上げたとおりです。

○四宮委員 私も前回と同じて、ここはB案です。確かに準備手続において主張を予告して、公判での不意打ちを防止するという必要があることはそのとおりであります。ただ、その趣旨は弁護人に協力義務を負わせることで効果を発揮できるのではないかということであります。
 また、この点では黙秘権を巡っていろいろな意見があるということも聞いておりますので、むしろ被告人に義務を課すことは適切ではないのではないかと考えます。A案のような余り固い仕組みにしない方がよろしいのではないかと思って、前回と同じですけれどもB案がよいということです。

○井上座長 A案では黙秘権を侵害するという御意見ですか。

○四宮委員 いや、私はそうではありません。そういう意見もあるということです。

○井上座長 そういう意見もあるので、慎重に制度設計した方がいいという御趣旨でしょうか。

○四宮委員 あるので、新しい制度をつくるときには、慎重な方がよろしいのではなかろうかということです。私の意見については、前回申し上げております。

○酒巻委員 私は髙井委員、清原委員と同じくA案が妥当と考えています。被告人を除外するのは、第一に立法政策として望ましくない。準備手続を実効あるものにし、公判手続が後で混乱するおそれをできる限り避けるためには、被告人についても主張の明示義務を課すのが妥当だと思います。
 第二に、四宮委員は黙秘権との関係で、いろいろな議論があるとおっしゃいましたが、私は自己負罪拒否特権を保障した憲法38条1項に抵触するという問題は発生しないという議論の方が説得的であり、これを前提に法制度を設計するのが適切と考えます。

○本田委員 私も、主張明示義務は被告人と弁護人の両方にかけるべきだと思いますし、証拠調べ請求義務も両方にかけるべきだと思います。ですから、ア、イ、いずれもA案が妥当ということであります。
 理由については、第2ラウンドで申し上げたとおりなんですけれども、被告人にかけないということになると、幾らでも後で主張する権利を被告人に認めてしまうわけでして、そういうことが準備手続をつくった目的に沿うとは思えませんし、何のために準備手続をつくったんだということにもなるかと思います。特に、裁判員制度の場合は、きちんと争点が明らかになって、主張が明らかにされてないと審理計画も立てられないわけで、後出しの主張を幾らでもできるのだということにすれば、裁判員制度そのものがうまく働かないということになってしまいかねない。例えば、これは3日間の審理でできますよということで、裁判員の人に来てもらったら、新たな主張が次から次に出てきて、それが1週間、2週間と延びるというようなことを許すようでは、裁判員制度は全く動かないでしょうということです。
 しかも、このA案というのは公判廷において検察官の主張を否認する場合、あるいは、事件に関する主張をする場合には、準備手続で予め明らかにしておいてくれという話であって、これは準備手続を設けた趣旨からすれば当然の話で、先ほど弁護人の協力で何とかなるという話がございましたけれども、制度としてそれで担保できるような問題ではないと思います。
 黙秘権については、これが黙秘権を侵害するものではないということは、第2ラウンドでも申し上げましたけれども、そういう点でやはり裁判員制度をきちんとした制度として動かすためには、A案でなければならないと思います。

○樋口委員 アもイも、主張の明示義務、それから証拠調べ請求義務の主体に被告人を加えるべきであると考えます。
 理由については、A案支持の方々から述べられたところと同じであります。

○酒巻委員 黙秘権の問題について意見を付加します。全面的な黙秘の権利は刑事訴訟法により認められているわけでありますけれども、憲法との関係では、自己に不利益な供述を強要されないという、いわゆる自己負罪拒否の特権が基本的人権として保障されている。A案の制度は、前回も申しましたとおり、自己に不利益な供述をすることを被告人に対して無理やり法的に義務づけ、供述を強いているわけではないと整理・理解することができると考えられるので、心理的側面での「強要」という憲法問題は発生しない。

○井上座長 防御上の主張があるのならそれを明らかにしてもらうということを義務づけているだけだ、ということでしょうか。

○酒巻委員 主張明示の法的義務付けに伴う効果が、「強要」にあたるかという問題があり得るわけですが、ここでの主張明示義務付け自体については、主張をする時期を、公判期日から公判前の段階へと前倒しにするというだけであり、被告人が具体的な防御上の主張をするかどうかを決断する際に、被告人にとっては一定の心理的プレッシャーはあると思いますけれども、その決断に際してのプレッシャー自体は憲法が禁じている「強要」ではないと考えてられます。

○大出委員 ちょっと質問よろしいですか。その場合、黙秘権の告知も必要ないというお考えですね。

○酒巻委員 黙秘権の告知は、憲法により直接的に要求されるものではありません。

○大出委員 憲法とは直接関係ないにしてみても、この手続を進めるについて、それはもう一切関係ないことで、黙秘権の告知も必要ないということですか。

○酒巻委員 私の考えは、主張明示義務の制度を設けると、現在の刑事訴訟法311条の黙秘権の条文は、場合によっては改めなければならないと思っております。

○井上座長 刑訴法311条の規定を直さなければならないのか、準備手続における主張明示義務を定めれば、刑訴法311条もそれとの関係で部分的に修正されたというふうに考えるのか、可能性としては両方あり得るのではないでしょうか。それは、技術的な問題だと思うのですけれども。

○池田委員 前回お話しましたとおり、私はB案でいいのではないかと考えています。A案の趣旨は理解できますし、準備手続で争点整理をしたいということに反対するつもりは全くないわけです。けれども、私の準備手続のイメージでは、最後の準備手続の期日に被告人を1回呼んできて、こういうような進行予定になるけれども、それでいいかということを確かめる程度でいいのではないかと考えているのですが、被告人にまで義務を負わせるA案だと最初から毎回の準備手続に被告人を出頭させるという配慮をしていかなければならなくなるということなどを考えると、弁護人に義務を課すということで、争点整理というのは十分できるのではないかという気がしております。

○本田委員 弁護人にのみ義務を課すということになると、弁護人による公訴事実に関する認否や主張は、弁護人の固有権ということになるんですか。

○髙井委員 弁護人としては、被告人が違うことを言っているのに、義務があるから主張するよとは、なかなか言いにくいですね。被告人にも義務がかかっていれば、言いやすいですけれども、そうでなければ、被告人が私は何も主張しませんよと言っているときに、弁護人が主張しようというのはなかなか大変かなというふうに思います。

○本田委員 固有権と構成するのは、極めて困難、不可能ではないかという気がするんですけれども。

○井上座長 固有権というのは、弁護人独自の判断で一定の訴訟行為ができる権限だと理解されています。固有権ではなく代理権ということになりますと、最も厳しいものは被疑者・被告人の明示の意思に基づいてはじめて行使できるということになるのですが、より緩やかに黙示の意思に反しなければよい、要するに実質的に本人の意思に反しなければいいという場合もあり、そのように弁護人の権限については講学上3種類あるとされています。ですから、固有権ということになりますと、弁護人が独自の判断で訴訟行為ができるということになりますが、そのような構成にするのかどうか、という問題提起ですね。

○本田委員 固有権という構成にすることはできないと思いますけれどもね。

○四宮委員 理屈の点は別にして、私がイメージしているのは、髙井委員がおっしゃったように、被告人本人は一切何も言わないと言っているときに、このB案の下でも弁護人が何かを言うということは考えられないわけです。つまり、被告人が考えていることを越えて、その意味では固有に弁護人が何か舞台を設定するということはできないことになるのだろうと思います。
 ただ、私がこのB案を前提に考えていたのは、もし仮に被告人が一切言わないと、打ち合わせのときも私は一切しゃべりませんと言っているとすれば、もうその範囲でやらざるを得ないということです。もちろん、例えば、被告人が、現場にいて被害者ともみ合ったことは認めますが、正当防衛ですと言ったときに、正当防衛の主張を弁護人としてはするわけですね。ただし、B案でいけば、準備手続では被告人自身は特に何も言わないということになる。弁護人は、被告人との打ち合わせに基づいて、正当防衛を主張しますが、現場にいたことは争わないというような、別に争わないと言わなければいけないわけではないかもしれませんが、とにかく我々の主張は正当防衛ですと言うことになる。また、私が考えているB案では、裁判官が、さっき池田委員がおっしゃったように、準備手続の最後に被告人を呼んで、もし微妙なケースであれば被告人に確認をしたりすることが圧倒的に多いだろうとは思いますけれども、そこでも被告人が何も言わなくてもいいというだけのことなんです。ですから、被告人の言ったことと全然違うことを弁護人が行うということではないのですけれども。

○本田委員 被告人の主張に基づいて弁護人が主張を明らかにするということであれば、弁護人による主張明示の法的効果を被告人に及ぼしてもいいわけでしょう。なぜ及してはいけないのかが、よく分からないんです。

○四宮委員 どういう効果ですか。

○井上座長 分かりやすく言えば、被告人の主張に沿った主張を弁護人がする場合には、被告人と弁護人双方の主張だという形で構成したらどうですかということをおっしゃっているんだろうと思うのですけれども。

○四宮委員 被告人もそこに出さなければいけないんですか。

○井上座長 被告人の主張であるとして取り扱えなくていいのですか、というのが本田委員の問題提起だと思います。A案にしても、実際に被告人を準備手続に呼んで来て主張を述べさせるということまで意味しているのでは必ずしもなく、効果を被告人本人に帰属させるという趣旨だろうと思うのです。

○平良木委員 これも悩むところなんですけれども、実際の裁判をやるときに、先ほどもお話に出ていましたけれども、冒頭で被告人に対して終始黙っていてもいいよという言い方をする。恐らくそれは黙秘権の趣旨というのを手続の全体に及ぼしてということで、刑事訴訟法で憲法による保障を一歩広げているんだろうと思います。そういうことを前提にすると、やはりこの段階で主張明示義務があるんだというような言い方をするのは、ちょっと私には引っ掛かるところがあります。その意味では、やはりB案かなという気がしております。

○井上座長 そこの主張明示義務のところを、どうとらえるかですね。義務違反があった場合に、公判で主張することを許さないのかどうかという問題との結び付きも絡んでいるのでしょう。

○平良木委員 そうです。一番きつい意味で結び付いてしまうと、やはりちょっと差し障りがあるかなと思います。いずれにしても、これまでは、事実上の打ち合わせをしてその結果を書面化して残しておくというだけで、その後の訴訟手続にかなりその効果が及んでいるというのが実際だったと思うんです。それはある意味では、今まで訴訟指揮に委ねられていたところであって、 そこのところをはっきり法律に盛り込むようにするのがいいかどうかということだと私は思います。

○本田委員 A案は、公判廷で主張する予定のことについて準備手続において明らかにしなさいと言っているだけです。

○平良木委員 私が言いたいのは、一般論として、できるだけ明らかにしなさいということは、構わない。ただ、問題は義務として、はっきり書くのがいいのかどうかという問題だということです。

○本田委員 黙秘権との関係は関係ないように思うのですが、そこは意見が分かれるので、これ以上言いませんけれども。

○井上座長 刑事訴訟法上の黙秘権との関係は、いつ言うかということまで黙秘権による保障に含んでいると読めば、黙秘権との関係が問題になる。そうではなく、いつ言うかということは黙秘権とは関係なく、言うか言わないかは自由だけれども、公判で主張することを選択する以上は準備手続でそれを明らかにしてもらうというのは、公判で主張するのを時期的に前倒しすることを求めているに過ぎないということになる。その点での意見の違いだと思います。

○本田委員 それから、先ほども言った裁判員制度との関係で、B案のような制度をつくった場合に、例えば弁護人がこういう主張をしたから、それ以外の主張は被告人はしないという保障はないわけですね。本当にそれで裁判員制度が動くんでしょうか。ここは、実際この新しい制度を立ち上げていく上で、ものすごく重要な問題だと思うんです。この問題に対する答えをまだお聞きしてないような気がするんですけれども。

○大出委員 その心配については、誤解があったら訂正していただければと思うんですが、B案でも、準備手続のときに弁護人が少なくとも主張を明らかにするわけですね。ですから、それと別のことを被告人が公判で言えば、裁判員にとってみれば違うことを言っているというのが分かるわけですね。少なくとも、私の意見でも、準備手続の結果は公判で顕出されるわけですから、少なくとも弁護人がどういう意見を述べたのかということは、公判でその限りでは明確になるわけですから、それと別のことを被告人が公判廷で言い出せば、それはそこの間にどういう矛盾があるのか、あるいはそれは本当に弁明として通じるものなのかどうかというのは、すぐ明らかになるんじゃないですか。

○本田委員 そう簡単じゃないと思います。

○大出委員 どうして簡単じゃないんですか。つまり、それで制度が動かなくなるということには、私はならないというふうに思うんです。
 もちろん、いろいろと御議論を伺っている限りにおいて、私もなかなか難しい部分もあると思いますし、ただ黙秘権について私は私なりの意見があって、そこは言わないことにしますけれども、やはり被告人が準備手続の段階でということになったときに、弁護人との間で意思疎通が十分に行われるだろうと思いますし、いろいろと準備の段階でもいろんな手立ては講じるんだろうと思いますけれども、ただあくまでもそれは準備手続なんで、その段階で被告人が完全に、完全にというとおかしいかもしれませんが、弁護人と被告人との間で非常に、例えば正当防衛の問題なんかも含めてかもしれませんけれども、非常に微妙な法律的な要件にかかわる主張の内容のところで、完全に認識として一致して主張しているのかどうかということ自体について、微妙な場合というのはやはり生じ得るだろうと思うんです。準備段階では。ですから、準備手続の段階にまで完全に弁護人が主張したことと同じでなければいけないという前提で組み立てるということについては、やはりかなり無理があるという感じがするんです。ですから、そこは弁護人が主張して、そして先ほど言ったように、公判になって被告人の主張との間に齟齬が生じたということになれば、それはそれなりの評価しか受けないわけですから、それで制度が動かなくなるということはないというふうに私は思います。

○井上座長 公判で新たに主張をしたら、マイナスの評価を受けるという前提でいいのですか。

○大出委員 実態としてはそうなるんじゃないかということです。

○井上座長 公判段階で突然、被告人が、それまで言っていなかったことを言い出すということはあり得るわけで、その新たに言い出したことの中身が重要であったとしたら、証拠調べをしないといけないですね。そして、証拠調べをした結果、裏付けがとれたら、信用されることになるわけでしょう。

○大出委員 そうです。

○井上座長 ですから、問題にしているのはそういうことではなくて、突然主張が出てきたら、審理が予定どおり進まなくなって、審理計画を立て直したりしなければならなくなるだろうということを、本田委員はおっしゃりたいのだと思うのです。

○大出委員 そういうことがあり得るとすれば、それは否定するわけにいかないんじゃないですか。

○井上座長 ですから、これは後で議論する問題なんですけれども、準備手続終了後の主張立証の制限という原則を立てる場合の前提として義務を課すという構成にするのか、それとも義務は課さないで、後は運用で対応すればいいというふうに考えるのかということが分かれ目だと思うのです。

○大出委員 ですから、私は後者なわけです。

○本田委員 だから、準備手続において全然主張を明示しておかなくて、公判廷になっていろんな主張を始めて立証を始めたときに、被告人に義務をかけておかなければ、これは許さざるを得ないわけです。そうすると、ものすごく審理期間が延びる可能性があるわけでしょう。私が言っているのは、裁判員制度で、例えば、弁護人だけに義務をかけておいて、それで争点整理をして、では3日間で審理をしましょうとなったのに、被告人を公判廷に呼んで来てみたら、新たな主張を次々と出して、その結果、審理に2週間も3週間も掛かりますとなったら、裁判員はもたないでしょうと言っているんです。そういう制度をつくっていいのかということです。A案は単に公法廷で主張しようとするものについては、準備手続で明らかにするようにとしているだけの話で、やむを得ない事情があれば、後で証拠調べ請求もできるような制度になっているわけです。それなのに、B案を採って、裁判員制度を壊すような制度にまでしなければいけない理由が一体どこにあるんだというのが私の意見です。

○四宮委員 多分、準備手続終了後に主張が出て、それで証拠調べを必要とするケースというのは、本田委員が考えていらっしゃる場合と、B案に基づいて私が考えている場合とでは、ほとんどケースは余り変わらないように思うんです。
 B案を採ると、公判がぐちゃぐちゃになって裁判員制度が壊れるというふうにおっしゃるんだけれども、多くのケースでは準備手続を経て、それから証拠開示を経て、三者の間で争点を整理していく作業があるわけで、しかも弁護人は被告人と打ち合わせをした上で、その準備手続をして、そして裁判員を呼んだ公判に入るわけですから、B案になったときにすべてが後から証拠調べを要する主張が出てきて、裁判員制度が壊れるということになるわけではないと思います。
 ですから、結果的には恐らくはいずれの案によっても、運用は余り変わらないことではないかというふうに思うんですけれども。B案になってしまうと、全部の事件について後から証拠調べを要する主張が出てきて、裁判員が迷惑するということではないと思います。

○井上座長 問題は、運用がどうなるかではなく、制度の在り方としてどうすべきなのか、ということだと思うのです。

○髙井委員 弁護人としては、被告人が負ってないのに弁護人だけが義務を負ってしまうということ自体に違和感がありますね。基本的には、被告人と弁護人というのは一体として動くわけですから、B案のように、制度としてこういう弁護人と被告人を切り離してしまうという制度には違和感を覚えますね。
 仮にA案だったらどうなのか。A案でも、どうしても被告人が、義務があっても絶対主張しませんと、争点なんか明示しませんと最後まで言い張ったら、弁護人が勝手に争点を明示することはやはりできないわけで、では全部争うことにしましょうと、全部争点にしてしまうということになると思うんです。それを前提にして審理計画を組んでいただいて、途中で気が変わって何か言い始めたら、2週間掛かるところが10日で済むように、審理を予定より短くするというようにするというのが実務家の知恵だと思うんです。
 だから、その点では四宮委員がおっしゃっているように、実務は余り変わらないのではないかと思うのですが、制度の在り方としては、やはり被告人が右を向いて、弁護人が左向いていいというような制度のつくり方はおかしいと思います。

○土屋委員 私は以前と同じ意見でB案であります。被告人がどんな対応を取るにしても、仕方がないであろうと思います。決してそれがいいことだとは思いませんけれども、裁判員制度がうまく動かないのではないかというふうな懸念もそうかもしれませんが、それであっても被告人がそういう態度を取るならば、それを封じるべきではないだろうと思っています。

○井上座長 よろしいですか。関連するのですが、イの被告人側による証拠の取調べ請求に関する項目、ここも同じような問題なのですけれども、被告人にも証拠の取調べ請求義務を課すかどうかという点が論点です。
 これも、8の(3)の方の準備手続終了後の証拠調べ請求に関する問題とつながっている問題ですので、その点の議論をも踏まえ、あるいは見込んで御意見をいただければと思います。

○髙井委員 A案がいいと思います。ただ、突然公判になって違うことを言いだしたというときに、義務があるんだから、証拠調べ請求はもうだめだと、一律に却下することはやはりおかしいと思うんです。ですから、裁判所がこれは聞くに値する主張だと思えば、いったん手続を止めて、もう一回準備手続に移る場合があることはやむを得ないと思います。

○酒巻委員 証拠調べ請求につきましても、A案が妥当という意見です。被告人にも証拠の取調べ請求義務を課するのが妥当だと思います。準備手続終了後の証拠調べ請求につきましては、A案とB案の実質は同じだと思いますが、A案がよいと考えます。しかし、準備手続終了後の証拠調べの前提になるような新たな主張につきましては、論理的に一貫するのはA案なのかもしれないとは思うんですが、やはり途中で自ら主張し始めた被告人の発言を封じるということは、適切だとは思われませんので、特に主張制限までは設けないのが妥当だと思っております。

○井上座長 要するに、準備手続で主張した事実、あるいは防御上の事項については、新たな証拠調べ請求は原則として認めない。しかし、新たな主張が被告人の口から出てきた場合には、それは認める。つまり、主張明示義務はかけるのだけれども、主張制限はかけないということですか。

○酒巻委員 そうです。しかし、証拠調べ請求については、義務もあるし、原則として立証制限もかけるということです。

○井上座長 でも、新たな主張が出てきて、その主張に関する証拠調べが必要となれば、証拠調べ請求を認めるのでしょう。

○酒巻委員 やむを得ない事由であった場合を除き、証拠調べ請求を認めないわけです。

○井上座長 既に明らかにされている主張についての新たな証拠調べの請求は、原則として認めないけれども、準備手続終了後の新たな主張については、証拠調べ請求は原則として制限しないということではないのですか。

○酒巻委員 そうではありません。新たな主張をすることは制限しないけれども、その主張にかかわる証拠調べ請求を準備手続でしていなかった場合には、8の(3)のA案により原則として制限されることになるというのが私の考えです。

○井上座長 それですと、主張したいというのを聞いてあげるだけということになってしまいませんか。

○酒巻委員 もしその主張についてさらに証拠を調べたいと思えば、裁判所が職権で証拠調べすることを妨げるものではないとたたき台のA案ではなっているわけですから、それで対処すればいいと考えています。
少なくとも、たたき台の趣旨はそうじゃないですか。

○辻参事官 8の(3)のA案自体は、準備手続において明らかにされた主張にかかる証拠調べだけを制限するという趣旨ではありません。

○本田委員 私、先ほど主張明示義務のイについてはA案ということを申し上げましたが、その理由は先ほど申し上げたとおりです。
 それから、主張制限についてですけれども、本来は主張制限をかけるのが一貫するのかなという気がするんですけれども、実際の公判廷で被告人がしゃべり出したときに、それに発言禁止をかけて、それでストップさせるということが、実際の公判運営上それがいいのかどうかという問題が一つあろうかと思うんです。そこで、発言禁止まではしないで、しゃべらせるならしゃべらせていいけれども、その主張に沿う証拠調べ請求ができるかどうかというのは、手続全体との関係で、それは本当にやむを得ないものとして認められるかどうかを考えればいいので、立証制限というのは、そのままかかっていく構成でいいのではないかと思います。主張内容や手続全体を総合考慮して、やむを得ないものとして証拠調べを認めなければいけないのかどうかということを判断すればいいわけです。

○井上座長 「やむを得ない」というのが、その主張を出してくることが遅れたことがやむを得ないというふうに読むのか、そうではなく、その主張自体に理由がありそうな場合と読むのか、どちらなのでしょうか。

○本田委員 主張がどうも、後で出てきたんだけれども、これはどうも本当らしいということはあるわけです。そういう場合に、一つは裁判所の職権で証拠調べをする場合もあるかと思います。あとは、例えば、準備手続の段階では証拠の存在を知らなかったんだという場合も「やむを得ない」と言えるのではないかと思います。

○井上座長 そうすると、私が質問した両方の場合を含んでいるということですか。

○本田委員 基本的には、その立証を許すことがやむを得ないかどうかというのは、被告人の主張内容も含めて総合的に判断すればいいでしょうということです。

○井上座長 遅れたのがやむを得ないという場合だけではないということですか。

○本田委員 そうですね。その場合がほとんどなんでしょうけれども。

○井上座長 理屈の上だけの問題かもしれませんけれども、刑訴法の中には、期間を徒過したことについてやむを得ない場合は例外として扱うという規定がありますね。それと同じ意味だとすると、準備手続において証拠調べ請求をしなかったことについてやむを得ない事由がある場合ということになると思うのですが、主張内容から見て理由がありそうだから証拠調べをする必要が非常に強いので、審理計画を破ってでも新たな証拠調べをすることにメリットがあるという意味なのかどうか。ということを確認したかったのです。

○辻参事官 たたき台の趣旨を申し上げますと、8の(3)のA案自体は、やむを得ないというのはやはり時期的な問題として、準備手続では証拠調べ請求をしなかったことがやむを得ないという場合を想定しておりまして、主張に理由がありそうだという場合は、基本的にはイの職権証拠調べというところでカバーするということを想定しております。

○井上座長 分かりました。

○四宮委員 主張明示義務についてB案を申しましたけれども、それと同じ理由で証拠請求義務についてもB案です。

○井上座長 理由は同じということですか。

○四宮委員 はい。

○池田委員 先ほどの主張明示義務の関係で、被告人にも義務を課すという案を支持する人は、主張制限も課すために主張明示義務を課す方がいいと思われているのかなという考えもあって、A案というのは余りにもと思っているんですが、そこは主張明示義務は課しても、主張制限はしないという選択肢も十分ある、論理的にはあり得るとお考えなわけですね。主張制限はしないとすると、主張明示義務を課す必要があるのかなとも思いますが、ただ逆にB案については、先ほど質問があって、やはり固有権という構成は絶対あり得ないと思うのです。そうすると、やはり効力規定にすれば代理権構成になるわけで、もしそうしなければ、弁護人に協力義務を個別に負わせるということが考えられると思うんですが、それではB案より後退してしまいます。しかし他方で、B案ぐらいの義務づけは必要かなと思います。仮に主張明示義務に関するたたき台のA案だとすると、やはり引っ掛かるのは、「検察官主張事実の全部又は一部を否認する主張」とあると、検察官主張事実について個別に細かく認否を求めているような感じを非常に強く受けるところです。ですから、もしそうだとすると、もっとマイルドな形の、証拠調べが必要になるような主張、例えば英米法系ではアリバイ主張などをその対象としていますけれども、証拠調べを伴うために立証計画が変わってくるような主張については、準備手続において明示することを義務づけるというようなことは考えられるのかなと感じたところです。

○井上座長 明示を義務づける事項を特定するということですね。

○池田委員 証拠調べ請求義務については、前回B案でいいとしましたし、また8の(3)についてもB案でいいと言ったんですが、8の(3)で説明義務を課すのは、請求義務を課さないと説明義務を課せないのではないかという質問が出されました。そこは確かに請求義務を課せば、説明義務も課し得るわけですけれども、前回、説明義務の方は証拠請求者としての義務として課し得るのではないかというふうに話しましたが、今でもそれで説明はできるのではないかと思っています。
 現在も請求義務のない被告人が、公判の後の段階になって証拠を請求するときに、なぜ今の段階で請求するのかという説明を求めることになるわけですけれども、それはやはりその手続に立ち会って請求することができた人が、その証拠の取調べを請求しなかったということについて、つまり、請求義務を課すからではなくて、権利を有する者が権利を行使しなかったということについての説明を求めているだけではないかという気もいたしますので、そこは同じなのかなと思います。ただ、ここでこの請求義務についてどういうふうにするか、これはもちろん制度全体のバランスの中で考えるべきことだろうと思います。

○本田委員 分からなかったのは、証拠の請求者としての説明義務というのは、一体何に基づいてそういう義務が課されることになるのでしょうか。

○池田委員 何らかの説明をしないと証拠調べ請求を採用してもらえないわけですね。もちろん、何も説明しなくても構わないわけですけれども、それは採用されないということになるだけでしょうから。

○本田委員 主張があって、それを立証するためにこれを請求しますと言うだけではだめなんですか。

○池田委員 ですから、それだけで分かる場合もあるし、分からない場合には、なぜこの証拠が請求されるのか、つまりその証拠の必要性について述べないと採用されないですよね。

○酒巻委員 おっしゃっておられるのは、証拠調べ請求者は、証拠決定の判断材料として、証拠の関連性とか、必要性を説明するわけですが、その中には、なぜこの段階で請求するのかについて説明することも含まれるということですか。

○池田委員 はい。

○本田委員 8の(3)のB案では、準備手続において当該証拠調べを請求しなかった理由を説明しなければならないものとするとなっているわけですね。もしB案を取るとするならば、それを説明しないと、その説明に相当の理由がなければ、証拠調べ請求は却下されるわけです。例えば主張明示義務とか、証拠調べ請求の義務をかけていないにもかかわらず、証拠調べの必要性と関連性に加えて、準備手続において証拠調べ請求をしなかった理由を説明しないと却下されるということになるのですか。そこのところが、よく分からないんです。

○池田委員 私の考えでは、そういう説明義務は一般的に当事者としては負っているのではないかと思うのです。説明しないと、証拠は請求しても採用してもらえないわけです。

○井上座長 それが、証拠調べの必要性の判断要素に入ってくるかどうかという問題ですね。入ってくる場合があるということも分かるのですが、例えば、ある事実について、既に一定程度証拠調べがなされている場合に、後から別の証拠を新たに請求してきたのであれば、なぜあのときに請求しなかったのかということはあり得ますね。しかし、全く新たな争点について証拠調べ請求された場合にも、そう言えるかどうか。

○辻参事官 新たな争点の場合もそうなのですけれども、公判手続の冒頭で仮に請求してきた場合に、なぜ準備手続において請求しなかったのかということについて説明を求めることはできるかもしれませんけれども、証拠調べ請求者としての義務という説明だけでは、準備手続で請求しなかったことがいけないことだったという評価はできないんじゃないかという疑問があります。そして、いけないことだという評価がないと、請求を却下するということにはつながらないのではないかという気がします。つまり、準備手続での証拠調べ請求の義務がないとしたら、準備手続において請求しなかったことについてマイナス評価をしていいのかということが疑問なんです。

○池田委員 今の公判でも、前回の法廷では請求せずになぜ今回請求するのかというのは言えるわけですね。

○辻参事官 それは、やはり請求するまでの公判の流れというのがありまして、そこに遅れているからということですね。

○池田委員 準備手続に被告人は出席することができるわけですから、準備手続と公判手続は同じなのではないですか。

○本田委員 事実上説明を求めるのは構わないし、説明してもらうのもいいんですけれども、説明しなかったということを理由に、証拠調べ請求を却下することはできるのでしょうか。
 例えば、ある主張についての証拠調べの必要性があり、関連性もあるというときに、準備手続で請求していないことについて相当な理由を説明しないから却下する、ということができるのかということです。

○池田委員 後で必要性があるときには証拠調べすることができるというのは、A案でも職権でできるようにしているのですから、同じなわけですよね。

○辻参事官 やはり準備手続で証拠調べ請求することが原則ですというものがないと、公判の流れの中で遅れて請求された場合と違って、公判手続の冒頭で証拠調べ請求したことに対して、やはり遅れたとは言えないんじゃないかという疑問があるのです。

○池田委員 その点については、準備手続で争点整理を行うということは、当然被告人に分からせておくわけですし、そのために被告人にも準備手続の最後には出席してもらうわけですね。ですから、なぜ準備手続で請求しなかったのということは、同じように言えるんじゃないかと思うのです。

○井上座長 まだよく分からないのですが、ある事実について既に証拠調べが一応済んで、その後になって新たな証拠の取調べが請求されたという場合には、その証拠自体の取調べの必要性に加えて、請求が遅れたことの理由を加味して必要性の有無を判断するというのは、分からなくもないのです。しかし、今、辻参事官がおっしゃっているのは、冒頭手続のまだ証拠調べをしていない段階で新たな証拠調べ請求がなされたときは、請求が遅れたかどうかということよりは、その証拠を調べる必要性の有無だけで証拠の採否が判断されるのではないのかということ、つまり、請求が遅れたのは何故なのかということを加味して却下するということにはならないのではないか。そういうことでしょう。

○辻参事官 そうですね。特に証拠調べ請求義務を弁護人にだけ明示的にかけて、被告人を明示的に義務の対象から外した場合でも、そう評価できるのかという疑問も加えて出るような気もするんです。

○井上座長 そこのところは、議論が必ずしも十分噛み合ってないような感じがするのですけれども、とにかく池田委員の考え方としては、準備手続において請求しなかった理由を聞いて、うまく説明できなければ証拠調べの必要性の有無の判断に反映されることになるという御意見ですね。そういう考え方を前提にすれば、何も義務をかける必要はないのではないかということですね。

○平良木委員 今の池田委員の議論に関連するんですけれども、準備手続に協力する義務、これは恐らく弁護人であろうと、被告人であろうと、これは負っていると思うんです。
 ところが、黙秘権との関係が問題になり得るので、被告人に義務を課すことを明示的に法律に書かない方がいいということがあるだろうと思うんです。また、請求義務の有無の議論と切り離して、準備手続終了後の証拠調べ請求に関するB案のようなことを言うのは可能ではないかというふうに思っております。要するに、私は、準備手続における証拠調べ請求義務についても、準備手続終了後の証拠調べ請求についても、B案が妥当と考えています。

○大出委員 実質的な御判断として伺っている限りには、確かにそれはある得ることなのかもしれないという気もするんですが、私も4については先ほど申し上げたように、イの方もB案ということになるだろうと思いますし、そうした場合にはやはり8のところで(3)についてB案というのは、どうも分かりにくいかなという感じがするんで、本田委員等からの御主張もありますけれども、C案にならざるを得ないんじゃないかという感じがするんです。
 先ほど来御主張の弊害等については、それはやはり四宮委員もおっしゃいましたけれども、実質的なところで判断するということにせざるを得ないわけでして、やはり被告人との関係から言ってみても、そういう事態が起こり得るということを想定している以上は、やはりそれは何らかの形で制限を課するということにすることにはならないんだろうと思うので、実質的な判断をするにしてみても、C案でいかざるを得ないんじゃないかという感じがするんですけれども。

○井上座長 皆さんが考えているのは、ノーマルにいけば準備手続段階で主張などを示すでしょうし、それを守って粛々と審理は進むだろう。よほどのことがない限り、違うことを言い出したりしないだろう。こういうイメージなのですけれども、それを制度として担保するものを何も設けないでいいのだろうかというのが、一方の御意見が言わんとしていることであり、他方の御意見は、そこは運用により、みんな協力してそうなるはずだということなのだろうと思います。これ以上議論は進まないような感じがするのですが、更に御意見があればもちろん伺いたいと思います。

○本田委員 運用という意見があるんですけれども、準備手続を何のために設けるのか。争点を整理して、審理計画を立てて、充実した迅速な裁判をやりましょうという場合に、争点整理がきちんとできない、あるいは、そういった事態を想定した制度をつくらずに運用に任せるという話になると、何も準備手続なんかつくる必要はないではないかと、みんな良識に任せてやりましょうということにもなりかねない。しかし、それではうまくいかないから、いかない例があるから、きちんとした制度にして、争点整理が可能な限りできるように制度をつくりましょうということで、少なくとも公判廷で主張する予定の主張については明らかにしてくださいとし、それを立証する証拠は請求して開示してください、後でやむを得ない事由があれば別ですけれども、そうでないものについては立証制限をかけましょうとした上で、後で主張したことがどうも本当らしいということもあるので、その場合には職権による証拠調べを認めましょうということなんですね。それなのに、そのような制度を何もつくらずに運用に任せましょうということでは、一体何のための制度の議論をしているのかがよく理解できないんです。

○大出委員 先ほど申し上げましたけれども、やはりそこは実質的な判断が入っていると言えばそのとおりだと思いますが、つまり弁護人との間での打ち合わせなり準備手続段階で、当然意見交換もするし、主張もあると思いますが、さっき池田委員が言ったように、だからといって細かいところについてまでいちいち被告人がその段階で本当に理解しているのかどうかという問題と同時に、事実問題ということからいっても、例えば具体的なケースでも前にあった愛媛の事件なんかもそうだったというふうに言っていいと思うんですけれども、結局本人の認識の問題だということになると思いますし、その評価はいろいろと分かれるかもしれませんけれども、現実の問題としてはその段階で否認なり反論するという主張を行っていれば、あそこまでいかなかったわけですけれども、現実の問題としては公判終了直前になってそういう主張をするという形になったというケースだって、現実的に存在するわけですね。あれは弁護人が付いていたわけですから。そういうことで、被告人自身がどういう心理状態で、その事件に対してどう対応しているのかということについて、必ずしも準備手続段階ですべて確定して、そこで主張しなかったから後になってというわけにはいかないという事態が想定できるということもあると思うんです。そうなったときに、それにどう対応するかということを本当に考えておかなくていいのかという問題があると思うんです。

○井上座長 だから、そこは考えておられるのです。考えておられて、一般的に主張義務とか主張制限とか、あるいは請求義務、請求制限というのをかけた上で、やむを得ない場合の例外と職権による証拠調べにより、そういうものはカバーするという組み方にしようとしておられるのです。そういった義務や制限を設けなければ、御指摘のような場合は当然救われるのですけれども、ほかの面で問題が生じないか、というのがポイントだと思います。ですから、特殊例外的な事態が生じた場合に、何とかしなければいけないということでは一致していると思うのです。

○大出委員 先ほどの本田委員の御主張というのは、主張制限はかけないということですか。

○本田委員 そこは、本来ならかけるのが理論的かもしれないけれども、実際の公判で考えた場合に被告人が話し出したときに、発言を禁止して、それに従わない時には退廷命令というところまでできるのかということがあるので、そこは慎重に検討する必要があるというのが、私の考えです。

○髙井委員 これは、先ほど本田委員が言われたように、この準備手続をどういうふうに組むか、争点を整理していく手続をどういうふうに組むかということは、ある意味では裁判員制度が定着するかどうかの極めて重要なポイントだと思うんです。そして、こういう問題について、運用に任せるというような制度の組み方、運用が働く場面が非常に大きいような制度の組み方は、絶対に間違いというか、制度としてうまくいかないというふうに思います。そういう意味では、主張制限にしろ、主張明示義務にしろ、ある程度きちんとしたものをつくらないといけないというのがまず基本だと思うんです。
 もう一点、大出委員が言われるように、仮に主張制限をかけるにしたって例外はあるわけで、例外を全く認めない制度というのはあり得ないと思うんです。そこで、例外を認める制度として、どういう組み方がいいかという話になるんだと思うんですが、例外を認めつつも、輪郭はしっかりした制度でなければ使い勝手が悪いという観点から言えば、例えば8ページの(3)であれば、A案でいいのではないかと思うのです。これでも、裁判所が、時期的に遅れたものであっても、それに合理的な理由があると思えば、それは主張もさせると。時期的な理由ではなくて、今まで全く考えてもいなかったような主張なんだけれども、いきなり出てきたと、しかしそれはもしかしたら本当かもしれないと、従来の証拠調べの過程も踏まえてこれは本当かもしれないというふうに裁判官が思えば、職権で対応するというふうに組んでおけば、大出委員が心配されるような例外的な事象にも十分対応できるのではないかというふうに思っているわけです。

○四宮委員 私が申し上げているのは、全部運用でということではなくて、やはり準備手続の仕組み全体を考えて、その枠の中で、被告人の問題をどうしましょうかという議論をしているわけですので、何から何まで準備手続を全部運用でということではなくて、今度は非常にしっかりした準備手続が組まれているわけですから、その中でいろんな議論があって、被告人については外したらどうですかという意見だと思うんです。全部が全部運用でということではないだろうと思います。

○本田委員 今、しっかりした準備手続が組まれているわけですからとおっしゃいましたけれども、しっかりした準備手続になるかどうかは被告人に義務をかけるか、かけないかにかかっているわけで、そこでしっかりしたものかどうかという評価は大きく分かれるところだと思います。

○井上座長 問題は、しっかりしたものするためには何をしないといけないのかであって、四宮委員の御意見は、弁護人に義務をかけておけば、しっかりするだろうということであるのに対し、本田委員の御意見は、それでは十分ではないと、こういうことですね。

(清原委員退室)

○井上座長 次の「(2)開示の方法」ですが、ここは異論はなかったように思いますので、よろしいですか。
 次は「5 争点に関連する証拠開示」ですけれども、御意見があれば、どうぞ。

○髙井委員 これは前回も申し上げましたけれども、この書きぶりによく分かりにくいところがあるので、書きぶりを整理していただかなければいけないなとは思いますが、ここで明らかにされている考え方自体は、私はこれでいいというふうに思います。

○井上座長 書きぶりについては、この前に御意見が出たということですね。

○髙井委員 はい。

○井上座長 ほかに御意見は、どうぞ。

○酒巻委員 先ほど述べたとおりで、このたたき台に賛成です。ここは、システムとしての証拠開示制度の中で極めて重要な部分であり、とりわけ被告人側の積極的防御準備に資する証拠開示の範囲を従来より拡張するきっかけになる規定であろうと思います。

○本田委員 私もたたき台の案でいいと思います。理由は第2ラウンドで申し上げましたので、特に申し上げません。

○四宮委員 髙井委員と同じく、書きぶりを工夫してほしいという意見です。

○井上座長 では、よろしいですか。更に御意見がなければ、項目6に進みたいと思います。
 「6 更なる争点整理と証拠開示」という点ですが、ここも余り御異論のなかった点ではないかと思いますが、よろしいですか。
 次が「7 証拠開示に関する裁定」ですけれども、「(1)開示方法の指定」「(2)開示命令」「(3)証拠の提示命令」という点については、いかがでしょうか。よろしいですか。
 「(4)証拠の標目の提出命令」ですが、アのとおり、裁判所は検察官にそのような標目の一覧表の提出を命じることができるという点については、御異論はなったように思いますけれども、イについては御意見が分かれていたように思います。
 つまり、提出された一覧表を被告人側に開示しないというA案と、弊害がなければ開示するとするB案とで意見が分かれていたように思います。これは、一覧表にどの程度の情報を盛り込ませるべきかということとも密接に関連する点ですので、その点をも含めて御意見があれば伺いたいと思います。

○酒巻委員 私は、イについては、A案が妥当と考えます。
 今、座長が触れられましたとおり、ここで想定されている標目の一覧表は、検察官の証拠開示に関する判断が第一次的にあり、そこで開示がなされなかった場合に、弁護人側が裁判所による裁定を求めるという局面ですので、裁判所としては、証拠開示の裁定に当たって、具体的な弊害のおそれの有無とか、開示の必要性、対象証拠の防御準備にとっての重要性があるかという利益考量的判断が必要な局面であり、そのための判定素材として標目の一覧表が提出されるわけです。そこで、かなり具体的な、もとより具体的といっても証拠そのものではありませんが、裁判所の判断に役に立つような一覧表でなければ意味がないと考えてられます。
 裁判所の裁定のために使われるものですから、そこにある情報内容が多ければ多いほど役に立つであろう。他方で、場合によっては最終的に開示されない可能性もある資料の一覧表だということになりますので、それはまさに一覧表作成の趣旨目的に則して裁判所限りで御覧いただければ足りるものであろうと考えます。したがって、制度としては(4)につき、アのような標目の一覧表を裁判所に見てもらうことは大変望ましいが、それは裁判所限りでお使いいただければいいのではないかというのが基本的な考え方です。

○四宮委員 質問なんですけれども、裁判所が弊害がないと認めるのに開示してはいけないというのは、なぜなんですか。

○酒巻委員 それは、最初に言いましたとおり、そこだけを問題にしているのではなく、そのような弊害の有無を判断できる程度の情報内容を持った意味のある一覧表というのは、必然的に標目化された個別の資料について、例えば、だれが捜査機関による取調べを受けているとか、具体的な個人情報にかかわるような事柄が書かれることになるのだろうと思うのです。そうすると、もしそれ自体が開示されると、それがまた別途の弊害を生じるおそれがあるんではないかと思われるのです。

○髙井委員 四宮委員の質問に対する答えで、要するにB案は、弊害が生じるかどうかは裁判所が判断するわけですね。そうすると、検察官としては、検察官の弊害に関する判断基準と、裁判所の判断基準が同じかどうか分からないわけですね。そうすると、このB案にすると、もしかしたら裁判官が弊害がないと判断して外に出してしまうかもしれないという前提で、多分運用上は一覧表を作るようになるから、多分、一覧表に書く内容が薄くなるわけです。そうすると逆に裁判所は、一覧表に基づいて正しい判断ができなくなる。これから先は私の意見なんですが、この一覧表を裁判所に提出させるということは、この証拠開示の制度の大きな担保措置の一つのわけです。ですから、これが本当に有効に機能して、裁判所の判断が的確になされれば、ある程度証拠開示制度は有効に機能すると思うんです。
 そういう意味では、基本的にはA案にのっとって開示しない、その代わり、その一覧表にはできる限りの情報を盛り込んで、裁判所が、開示すべきかどうかを的確に判断できるようにするという制度にしておく必要があろうと思います。そういう意味では、私はA案でなければいけないと思います。

○四宮委員 私は、この(4)は、いい制度だと思いますが、例えば一覧表を1回だけ検察官が作って裁判所に出して、それで全部終わりということでもないのではないかと思うんです。裁判官が検察官に釈明を求めるということもあるでしょうし。そうだとすると、仮に最初の情報が薄かったという場合でも、裁判官に釈明をして、情報がふくらむということはあり得るでしょう。また、それはいいことだと思います。そのときに、だからといって、全部が全部弁護側に開示してはいけないということではなくて、そういった釈明なども通じて、裁判所がこれは開示しない方がいいなという判断をすれば、開示しないでいいというのがB案ですから、むしろA案というのは、やはり裁判所を信頼しないのかなという気がするんです。とにかく、いろいろなケースが考えられるわけで、弁護側としては、弊害がないと裁判所が考えてくれるものについては、情報の開示を受けた方が、裁定に対しても納得できるということもあるわけですので、私は裁判所の判断にゆだねるB案がいいと思います。

○井上座長 裁定に納得するかどうかのために一覧表を出した方がいいというのは、どういうことですか。

○四宮委員 例えば、即時抗告などをした場合です。もちろん、一覧表を見ることができない場合もあるわけですけれども、見ていて、裁判所が弊害がないと考えて一覧表を出して、それで裁判所の裁定はこうでしたということであれば、納得できる場合もあるのではないですか。

○井上座長 一覧表の提出、つまり、ある範囲に該当する証拠の標目を出させるということが、今おっしゃったことと、どう結び付くのですか。裁判所は、その一覧表に基づいて、弁護人、被告人が証拠開示を求めている証拠があるかどうかをチェックしていくということですね。弊害があるかどうかの判断については、当の証拠そのものを提出させて検討しなければならない場合がある。その上で弊害があるから開示させるべきでないという判断をする場合と、弁護側が求めているものに該当する証拠は存在しないという判断をする場合と、いろいろあると思うのですけれども、その過程で一覧表はどういう機能を果たすとお考えなのか、それに何を期待されているのかが、ちょっとよく分からないので質問したのですが。

○四宮委員 証拠の存否が争いになる場合に、裁判所の方で一覧表を作って出しなさいと検察官に命じると、それに基づいて、こういった証拠しかありませんということが具体的に出てくる。そのときに、裁判所の方で開示が求められている証拠は存在しないから開示命令を発しないというような決定をするときに、その一覧表の内容を見て弊害がないと考えれば、それを弁護人に交付してあれば、なるほどこの点についてはこういった証拠しかないのかと、それでないならばないで納得するということにもあるのではないですか。

○井上座長 証拠の内容は分からないわけですが、それでも納得しますかね。

○四宮委員 確かに内容は、分からないです。ただ、納得する場合もあるでしょうし、どんな証拠を検察側が持っているかというのを知っている場合と、それが分からない場合とでは、納得の程度は違うと思います。

○井上座長 お考えでは、証拠の存否が争いになったような場合に、意味があるだろうということですね。

○四宮委員 はい。

○本田委員 イの方はA案によるべきだと考えます。これは第2ラウンドと同じです。
 この一覧表というのは、最初からあるものではないわけですね。証拠開示の請求についての裁定をする場合に、裁判所が必要があると認めたときに、裁判所からの命令に基づき検察官が一覧表を作るわけです。そして、裁判所がそれに基づいて、例えば証拠の提示を求めたりして、開示の必要があるかどうか、開示による弊害があるかどうかを判断して、開示を認めるか否かという決定をするということになる。まさに、一覧表は、このような手続のために作るものであって、新たに検察官の方で作成するものです。しかも、それは裁判所の判断に資するために作るものであって、最初からこれを弁護人に開示することが予定されて作成されるものではない。
 弊害が生ずるおそれがあると認められたときには開示しないものとするとB案はなっているんですけれども、もしこういうことにすると、今度は弊害が生じるか否かを巡って紛争が起きますね。あるいは、先ほど髙井委員の方からお話がありましたけれども、どこまで、どういうことを書くかということも関連してくると思うんですけれども、当然、それは弁護側に開示されるということになれば、そんなに詳しいことは書けないわけで、ごくごく簡単なものになってしまうだろう。そうすると、裁判所の判断に資するためという一覧表の機能も阻害されてしまう。
 要は、一覧表を開示することによって、混乱が生ずるだけであって、裁判所がきちんと判断できれば、それでいいわけですから、それ以上に混乱が生ずるような制度にする必要は何もないというふうに思うのです。

○大出委員 私は結論的にはB案ということになるだろうというふうに思うんですが、今の本田委員の御説明も、確かに最終的に裁判所の裁定にゆだねるという枠組みになっているわけですけれども、しかし、そこはまさに紛議が生じているから裁判所の裁定にゆだねるという話になっているわけでして、もちろん裁判所を信用しろとおっしゃられれば、信用することについてもやぶさかではないわけですが、制度を組む以上、最終的な担保措置をどうするのかということを、やはり考えておく必要があるということになるわけでして、その場合に、さっき四宮委員がおっしゃったことにも私は理由があるだろうと思うわけでして、最終的に証拠の存否が問題になったときに、もちろん被告人側には何があるのかということは分からないという場合もあるわけですけれども、しかし、先ほど来の話からいっても、何もむやみやたらに弁護人が要求するということでは必ずしもないわけですから、ともかく一覧表が出てくるということによって、納得がいくということになるということは十分ある得ることだと思うんです。そうである以上は、やはりそこは裁判所を信用しろということだけではなくて、それを具体的に担保する方法というのを考えておいても制度を運用していく上では必要なことではないかと私は思うんですけれども。

○本田委員 今、存否が問題になる場合があるとおっしゃったんですけれども、検察官としては、命令されれば当然その範囲の証拠は全部一覧表に記載するわけですね。それ以上に、もし弁護側の方で、証拠が存在するということを言うのであれば、その証拠の開示請求をすればいいわけであって、何も一覧表を見なければ分からないという話ではないでしょう。存否が問題になるとおっしゃいますけれども。検察官があるけれども一覧表に書いていないということをおっしゃるのであれば、検察官がそういうことをするということはあり得ないわけです。

○井上座長 存在するけれど一覧表に書いていない場合は、いずれにしろ、その一覧表を見ても分からないですね。

○本田委員 分からないし、もし開示を求める証拠の内容が分かっていれば、それの開示請求をすればいいんです。

○井上座長 大出委員や四宮委員が言っておられるのは、要するに、開示すべき証拠が一覧表には載っているけれども、裁判官は弁護側が要求している開示証拠に当たらないと判断したという場合に、その裁判所の判断が間違っているかもしれないじゃないかということなのではないですか。そうであるとすれば、そういった判断ができる程度の情報は一覧表に盛り込まれていないといけないということになるのだろうと思うのです。
 しかし他方、そこまでの情報が記載された一覧表を開示してしまったら、証拠そのものを開示しているのとほとんど同じで、それはおかしいのではないか。つまり、開示すべきかどうかを判断する前に開示してしまっているのと同じことになってしまうわけで、それはおかしいのではないかということが問題とされているわけです。ですから、一覧表の開示の問題は、どこまでの情報を一覧表に書くのかということと相関しているのだろうと思うのです。

○髙井委員 大出委員が期待されるほど一覧表には効果はないんです。

○大出委員 もちろん、座長が言われたようなこともあるでしょうけれども、それ以外に、つまり被告人の記憶との関係からいってみても、あるいは事件を巡る状況、被告人側の主張との関係でいけば、こういう証拠があるはずだということですね。そういうようなことで、しかし、実際上、さっき本田委員がおっしゃった関係では特定はできないと、特定はできないけれども、こういう証拠はあったはずだというようなことの主張というのはあり得るわけですね。そのときには、直ちに一覧表が出てきたからといって、すぐこれだというようなことで特定することはできないのかもしれないけれども、しかし、出てくることによって内容との関係でいけば、なるほどこの証拠だ、あるいはそれは存在しなくても不思議じゃないというようなことについての判断というのはつく場合だってあると思うんです。

○髙井委員 内容がはっきり分かっているときは、当然内容を特定して請求するわけですから、当然裁判所も、具体的にこういうものがあるはずだというふうに弁護人側が主張しているということを前提にして一覧表を見るわけですから、そこで判断に誤りがあるとは思えないですけれども。

○本田委員 前提として、証拠があるはずだというのは、どういう根拠に基づいて、どういう場合が具体的に想定されるんですか。

○大出委員 例えば、被告人の事件とのかかわりでいろいろと経験していることとか、自分にとって有利な証拠があったはずだという場合です。

○本田委員 抽象的に言われても困るんですけれども。

○髙井委員 具体的に間々あるものとして、警察でぱっと見せられただけなので、どういう表題か分からないけれども、こういう内容の書面を見せられたとか、あるいはこういうことが書いてある調書を見せられたとか、そういうことはあるんです。だから、それを基にして、弁護人がこういう調書があるはずだとか、こういう証拠物があるはずだという主張をすることはあり得るんですね。

○井上座長 あと考えられるのは、被告人やその関係者のところから押収された物の場合でしょうか。こういう物があったはずで、これは弁護に有用だから開示してくれという請求を当然するわけですね。

○髙井委員 そういう場合は当然、具体的な証拠開示請求をするんです。

○井上座長 そういうことが、当然前提になっているのだろうと思うのです。ここのところだけみると、ここだけで勝負するみたいに見えますけれども、証拠開示の仕組を全体として見た場合、懸念されているような証拠が開示の対象から落ちてくるということになるのかどうかですね。

○本田委員 ただ、抽象的にあるはずだと言われても困るんです。取っかかりがないから。

○大出委員 ですから、そうではなくて、今、髙井委員がちょっと補足してくださったように、何も私も一般的、抽象的に言っているわけではなくて、想定される場合というのはあり得るわけです。

○酒巻委員 ですから、大出委員の想定に対しては、全体の制度としては、まず何を主張したいか弁護人、被告人の方で明らかにして、その主張を具体的に明らかにすればするほど、5の争点関連の証拠開示によって、検察官は証拠を見つけやすくなって開示されやすくなるわけでしょう。
一覧表というのは、最後の安全装置でして、安全装置としては、裁判所にできる限り具体的な判断をしていただけるような一覧表が望ましい。そうだとすれば、逆にその目的に従って、裁判所限りで目にされるものということでいいのではないかというのが私の意見です。そこから先をまだお互い疑うようになれば、もうどうにもならないという気がします。

○井上座長 以上で、8の(2)(3)については、ほぼ御議論は出たと思います。8の「(1)争点の確認」については、これまでの議論では特段異論がなかったと思いますので、先に進めさせていただきたいと思います。
 9の「(1)目的外使用の禁止」につきましては、アのところから御議論をいただければと思いますが、これまでの議論では、たたき台を相当とする意見のほかに、内容の目的外使用の禁止というのは広過ぎるのではないかという御意見、あるいは、審理の準備以外の目的という目的の範囲が狭過ぎるのではないかという御意見が述べられたところであります。御意見を承れればと思いますが、いかがでしょうか。

○大出委員 もういちいち細かいことを繰り返しませんけれども、やはり例外的に利用が可能な場合について配慮する規定を置いていただく必要があるだろうと思います。私は、前回、研究目的ということを申し上げたんですが、それにとどまらないというようなこともあろうかと思いますが、いずれにせよ、これで包括的にすべて目的外の利用ができないというようなことになるのは、ちょっと厳し過ぎるというふうに考えています。

○髙井委員 私は、目的外使用の禁止の規定自体はいいと思うんですが、審理の準備というのは、どの範囲なのかということが、やや不明確だなというふうに思います。これが余りにも狭く解釈されてしまうと、本来使用していい場合も使用できなくなってしまうというふうに思います。

○井上座長 例えば、どういう場合ですか。

○髙井委員 例えば、共犯者がいる事件で、別々に弁護人が付いていて、別々に証拠の開示を受けたとします。そのときにもちろん開示を受けたものの写しを共犯者の弁護人だからといって渡してしまうことが許されないのは当然なわけですが、「内容」というふうに言われてしまうと、それは非常に抽象的な内容から、具体的な内容までいろいろあるわけで、例えば否認しているのか、認めているのかとかというところまで許されないという話になってしまうと、共犯事件では利害関係が一致している限りでは共同防御ということがあるわけで、その共同防御ができなくなるのではないかというふうに思うのです。

○井上座長 それは、「内容」の方の問題じゃないですか。

○髙井委員 そうですね、「その内容」という意味で、「その内容」は何を差すのかということと、やはり「審理の準備」というときの準備がどこまでを意味するのかということです。

○井上座長 たたき台は「当該被告事件の審理の準備」としているので、当該被告事件でなければだめだということははっきりしているのじゃないですか。むしろ、今の設例は、「内容」の方にかかわってくるのではないですかね。

○髙井委員 そうですね、それもありますが、仮に当該被告事件といった場合に、厳密に言えば、共犯事件だって当該被告事件から外れてしまうわけですが、果たしてそれでいいのかなという感じがします。ですから、そういう意味では、被告人の防御のため、法廷における防御のためだったら使えるということでないといけないのではないかというふうに思います。ですから、たたき台のこの部分の書きぶりをもう少し考えていただきたいなとは思います。

○井上座長 今、想定されているのは、例えば共犯者の弁護人と打ち合わせをし、そちらの事件の事情も聞いて、当の被告事件の被告人の防御に役立てたいということですか。

○髙井委員 そうです。そういうことがあり得るわけですね。

○井上座長 その意味で、「当該被告事件の審理の準備」ではなくて、防御のために使うということであったらいいということですか。

○髙井委員 法廷における防御ならいいと、例えばその防御でも、いろんな運動を起こして防御したいという人もいるわけで、それはそれでいいという人ももちろんおられるわけだけれども、私はそこはちょっと広過ぎると思うので、だから法廷における防御というふうに言ったということです。

○井上座長 「審理の準備」ではだめなんですか。

○髙井委員 「審理の準備」の方が少し狭いように思うんです。これは語感の問題になるのかもしれませんけれども。

○井上座長 そこは、余り違わないような気もするのですが。

○髙井委員 そうですかね、ただこれはやはり罰則がかかってきますから、これはもう少ししっかりしたものにしないといけないと思います。

○井上座長 御意見は分かりました。

○四宮委員 私も、アの精神そのものはいいと思うんです。ただ、一つは「内容」というものがあいまいではないかという点が疑問としてあって、あるいはもう一つは、証拠の写し自体を使う場合でも、これで本当に禁止されていいのかという場合もあると思うんです。
 例えば、以前担当した同種事件が、現在受任している事件と非常に類似性があるということで、前にやった事件の記録を今の事件の弁護のために使うということになりますと、前の事件の記録については、当該被告事件の審理の準備以外の目的で使ったことになるのではないかと思うんです。それから例えば、これから刑事専門の弁護士事務所が増えてくると、そこでは、例えばいろんなケース研究等で実際にやった事件の記録を使うということも、内部の研究であっても、アに引っ掛かってしまうのではないかと思われるのです。そういったことなどを考えると、要するにこの目的外使用の禁止というものがねらっている精神というのは、前にも皆さんおっしゃっていましたけれども、個人の秘密やプライバシーの保護とか、あるいは最終的には適正な刑事司法の運用の確保ということだと思うんです。そうだとすると、その精神を守るのに、当該被告事件の審理の準備以外の目的で使う場合全部を禁止する必要はないのではないかと思うのです。今申し上げたような、それからさっき髙井委員がお出しになったような、いろいろなケースが考えられるわけですから、アはちょっときつ過ぎると思います。
 私の提案は前回も申し上げたかもしれませんが、証拠の写し自体と、それと実質的に変わらないものも私は目的外使用を禁止してもいいと思うんです。例えば、公判での取調べの前に外へ出してしまうというようなことは禁止してもいい。ですから、「証拠の写し又はそれに準ずるもの」というふうにしてもいいと思いますし、その代わりに「その内容」という部分は削除する。あとは、当該事件の審理の準備に加えて、例えば正当な使用とか、何かそういったものも是非入れてほしいと思います。
 罰則については、前回も申し上げましたとおり反対です。これは是非弁護士の場合には、本来は法曹倫理で賄うべきものと前回も申し上げましたけれども、それと同じように、今回も意見を述べたいと思います。

○井上座長 罰則については、後で議論したいと思います。私から質問してばかりで申し訳ないのですけれども、ケース研究などで使うというのは、開示されたけれども公判では証拠として使わなかった証拠の写しも、そういう目的で使うという趣旨ですか。

○四宮委員 ええ、そうです。

○井上座長 分かりました。

○本田委員 やはり、開示された証拠の写しを当該被告事件の審理の準備以外の目的で使用するということは禁止されるべきであろうと考えます。
 共犯事件の問題が先ほど出ていたんですけれども、要は、共犯者が何人かいて、彼らがどういう認否をしたかによって、弊害の問題がありますので、この調書は開示する、開示しないと変わってくるわけです。それにもかかわらず、例えばBの方で開示した証拠をAの方では開示できないのに、それをAがBの方から入手して使うというのは、やはり実質的には証拠開示制度を一部潜脱するような方法になるんではないかと思います。また、他の事件の記録を使いたいということであれば、例えば確定した記録であれば、刑事確定訴訟記録法がありますし、他の手続でも取り寄せることはできるようになっているわけですから、それらのルールの中で利用の可否が決せられれば済む話であろうと思います
 「内容」の問題については、「内容」というのが実際どの程度までを意味するのかというのはなかなか悩ましい問題があるのかもしれませんけれども、少なくとも現行法でも刑事確定訴訟記録法その他によって、開示がされているわけで、証拠の内容が無制限に開示されているわけではないんです。
 法廷で調べられたものについてはどうだということがあるんですけれども、例えば供述調書は全部朗読又は要旨の告知という形で取り調べられるわけで、目的外利用が禁止される「内容」というのが、その供述調書を逐語的に再現したようなもの、あるいはそれと実質的に同じようなものであるということは担保しておかないとまずいんだろうという気がします。

○酒巻委員 本田委員のおっしゃった意見に賛成です。特に「内容」という文言をどうするかは難しいとは思いますけれども、基本的にはたたき台のとおりでいいと思います。
 それから、髙井委員の提起された共犯事件の問題も非常によく分かるところがありますが、分離されている場合ですと、本田委員がおっしゃったように、この人にとっては弊害はないが、こっちにとっては弊害があるというような資料というのはあり得ると思います。やはりその点は考慮しなければいけないし、逆に自由自在に共犯者だから使えるということになりますと、分離されている別の共犯者についての弊害まで考慮して、結局、本来開示されるべきものが開示されなくなってしまうというようなことも考えられますので、基本的には、私はこのたたき台のとおりでいいと思っております。
 なお、前にも言ったと思いますが、弁護士が開示された証拠を訴訟準備目的以外で使用してならないのは当たり前のことで、倫理的な義務ではあるわけですけれども、被告人が目的外使用をするということが考えられる。被告人に対しては弁護士倫理に当たるようなルールはありませんので、ルールを明示してその違反に対するサンクションを定めておく必要があろうと考えます。

○池田委員 「内容」という言葉を残すかどうかについては、いろいろ議論になるところで、私ももう少し考えないといけないだろうと思います。例えば、「証拠の写し又はそれと同視できる内容のもの」というようにすることも考えられますが、それ以外はアについてはたたき台でいいのではないかと思います。

○樋口委員 結論は、たたき台の原案のとおりでよろしいかと思います。やはり証拠の開示の範囲を広げるわけですから、こういった目的外使用の禁止が是非とも必要であると考えます。その理由は、前にも申し上げましたけれども、国民が捜査に協力することをちゅうちょするような事態を招かないようにするといった観点から是非これは必要であろうということです。更に申し上げると、この「内容」については、もう既に御指摘がありましたように、写しと同等程度に、内容の詳細なものなのかなというふうに思います。つまり、同等程度に詳細なものを規制するのがよろしいのではないかと思います。

○平良木委員 刑事事件において開示された証拠を民事事件で使うということもできないという趣旨ですか。

○井上座長 民事事件における利用は、記録の取り寄せで対処することになるのではないですか。

○平良木委員 取り寄せで多くの事件はやっているんですが、事件によっては、取り寄せまでに時間が掛かるということで、実際に刑事事件で手に入れたものを証拠として利用するということは、今までも恐らくあったと思うんです。そういうことまで禁じるかということなんですけれども。

○髙井委員 刑事事件で手に入れた証拠を民事事件で利用するというようなことはないんじゃないですか。

○平良木委員 いや、ありますよ。

○井上座長 あったとしても、問題は、それでよかったかどうかということですよね。

○平良木委員 ですから、そういう場合まで禁じる趣旨かということを質問しているのです。

○井上座長 よかったということになれば、そういう場合を禁じる趣旨ではないということになるし、それは脱法行為だということになれば、禁じる趣旨だということになるわけです。

○酒巻委員 今まで開示された証拠を民事事件で利用することがあったかなかったかは別として、民事事件で利用したい場合には、送付嘱託などの公式のルートが存在しているわけですから、それによればばよいと思います。

○平良木委員 取り寄せ等に時間が掛かるなんてことは実際上ないんですかね。

○井上座長 民事事件において、取り寄せに時間が掛かることによって弊害が生じる場合はありますか。

○平良木委員 刑事事件の方は、これはちょっと前の話ですから、今はそのとおりかは分かりませんけれども、例えば、身柄拘束事件があった場合に、記録を取り寄せて民事の裁判所に記録を持っていかれると非常に困るという場合が出てくるんですね。

○井上座長 困るのは捜査機関ですか、刑事事件を担当している裁判所ですか。

○平良木委員 裁判所です。

○井上座長 裁判所が困るとして、その場合はどうすればいいのですか。

○平良木委員 実際上は、例えば取り寄せは事件が確定するまで待ってくれという扱いをすることになるのではないでしょうか。

○井上座長 待ってくださいと言われると、民事事件の方では、それを使いたいのだけれども使えないということになる。そこで、取り寄せの代わりに、弁護人に開示された証拠を使えるようにすればいいではないかということですか。

○平良木委員 そういうことです。

○四宮委員 今の刑事訴訟法では、関係する幾つかの規定があって、特に47条というのは、取調べ前に公にしてはならないという規定になっています。問題は、9で開示された証拠のうち、証拠調べされなかったものは、当然に47条に当たるだろうと思いますが、証拠調べされた証拠について、特に公判で取調べが済んだものについて、別に扱う理由があるかどうかなんですね。

○井上座長 それは、取り調べられた証拠になっているのではないですか。

○四宮委員 そうです。

○井上座長 そうすると、事件の判決が確定すれば、その証拠は確定記録の中に入っていますよね。

○四宮委員 確定すれば、何人もアクセスできるわけですね。問題にしているのは、取調べ後、確定前の段階のことです。例えば、公判廷で取り調べられますから、傍聴人、特にメディアの方が、その内容を報道するということはいいわけですね。

○井上座長 傍聴していてということですか。

○四宮委員 そうです。それで、「内容」というのをさっき私は外してほしいと申し上げましたけれども、さっきから出ているように、写しあるいは写しに準ずるものというふうに仮にしたとしても、写しに準ずる形で報道することは構わないわけですね。

○井上座長 証拠が公判廷で読み上げられれば、それを聞いて、全部克明にメモを取って報道することは、公開ですから、構わないのではないですか。

○四宮委員 そうすると、その場合、同じようなことを被告人、弁護人がするということは取調べ後であれば、特にこの禁止に当たらないという理解でよろしいわけですか。

○井上座長 それは話が全く違うのではないですか。おっしゃっているのは、証拠開示を受けた証拠が取り調べられたという時に、手元にあるその証拠の写しをそのまま公にしてもいいかということですか。

○四宮委員 そういう扱いなのかどうかということです。

○井上座長 それは、公開の法廷で読み上げられたのを報道機関の方などの傍聴人がメモを取って、こういうことでしたよと公にするのと同じなのですかね。

○四宮委員 同じに考えていいのかどうかですね。

○井上座長 四宮委員は、同じに考えていいというお考えなのですか。違うような気がするのですが。

○四宮委員 そうすると、47条が取調べの前後で区別している趣旨というのは、どう理解したらいいんでしょうか。

○井上座長 47条は、証拠そのもののことについて規定しているのでしょう。

○四宮委員 証拠そのものですね。

○土屋委員 私も繰り返しになりますから、詳しくは言いませんけれども、やはり報道にかかわる部分で心配しているところもありまして、そういう規制効果を持つ規定だというふうには余り受け止められないような制度設計をしてほしいと思うんです。
 今までに出ていますけれども、何か公共性を図る目的がある場合は禁止の対象から除外するとか、正当な目的がある場合には除外するとか、何かそういうような形の規定ぶりにできないかなという気がするんです。もちろん、たたき台で書いてあるような目的外の使用というのは望ましいとは思いませんから、こういう規定が置かれること自体には、私は反対ではありませんけれども、何かそこから除外規定みたいな工夫ができないかなと思っています。ちょっと、抽象的な形でどうかなと思うんですけれども、そういう公益目的とか、正当目的とか、何かそういった形の除外規定というのは考えられないのかなと思ったりしています。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。制裁といいますか、イ、ウについても御意見があれば承っておきたいと思います。既に何人かの方からは御意見が出たところですけれども、どうぞ。

○本田委員 やはり、イ、ウの制裁規定は必要だというふうに考えます。先ほど弁護士倫理に任せていいのではないかという意見がありました。弁護士倫理で本当に賄えるんだったら一番理想的なことで、本当にそういう違反がないと、目的外使用もないし、外に出ることもないということであれば、それに越したことはないんですけれども、現実には供述調書が外に出たりインターネット上に出たりする事例があるわけです。それは弁護士倫理が当然ある中でそういうことが行われているわけですから、弁護士倫理だけですべて対応できる問題ではないというのは、第2ラウンドで申し上げたとおりです。こういうことがないに越したことはないわけですけれども、だからといって弁護士倫理だけで対応するというのは無理じゃないかと思います。今述べたような現実がある以上は、それに対する制裁措置というのは設けておく必要があるというふうに思います。

○大出委員 弁護士倫理ということとの関係でいけば、もちろん、前にも検察官の方たちの身分の問題との関係でお話もあったと思いますけれども、まさに倫理の問題で懲戒対象になってくるということになれば、それは弁護士にとって非常に重たい制裁ということになるわけでして、懲役刑をもってするということが果たして妥当なのかどうかという問題になってくると思うんです。
 もちろん、例外的にそういうことがあり得るだろうし、現にあったということ自体は私も否定しませんけれども、果たしてそれだけで懲役刑をもって対応するというようなことが、果たして妥当なのかどうかということは、やはり検討の余地があるというふうに思うんですけれども。

○井上座長 御意見は、過料も含めて罰則を設けることにそもそも反対ということなのか、それとも、制裁を設けるのはいいけれども、懲役刑は行き過ぎだろうということですか。

○大出委員 どちらかというと、制裁はあり得るかもしれないというふうに思いますけれども。つまり、過料、あるいは罰金刑というようなことはあってもいいと思いますけれども。

○井上座長 自由刑は、ちょっと重過ぎるだろうということですか。

○大出委員 そうです。

○酒巻委員 私は、イ、ウ、すなわち、行政的な制裁と刑事罰、適切な量刑がどのぐらいかは判断できませんが、両方とも必要であると思います。弁護士倫理だけには任せられないという点が、第一の理由です。被告人について抑止する必要があるという点が第二の理由です。ただ、刑事罰につきましては、やはり構成要件の明確性という観点から、先ほどの「内容」という言葉をどうするかというのは、ちょっとこれから詰めていただかないといけないのではないかと思います。
 なお四宮委員が先ほど言った点ですけれども、公判手続で証拠調べされた証拠でありましても、それが公開の法廷で公になっていることは確かでありますけれども、しかし、現在の法制度は、その先は公判記録につづられた書類、証拠については、刑事確定訴訟記録法により一定の要件の下に、保管者の一定の判断を経て公にされるということになっています。その例外は、犯罪被害者の方による公判記録の閲覧及び謄写の制度です。そういう仕切りでありますから、公判期日に証拠調べされた書類でありましても、基本的には目的外使用は許されないという仕切りになるんだろうと思っております。

○井上座長 大出委員のように、制裁はあってもいいけれども、懲役刑は行き過ぎではないかという御意見についてはどうですか。

○酒巻委員 行き過ぎだとは思いません。なぜかと言いますと、証拠開示というのは、証拠調べ請求をするためだけに設けられた制度ではなくて、防御の準備のために様々な資料を、できる限り被告人、弁護人の方にも情報提供しようという趣旨の制度ですから、そこには、最後まで公にならない大変重要な個人情報であるとか、その情報を提供した人にとっては、絶対に裁判以外では表に出てほしくないという多数の個人情報、プライバシー、名誉にかかわるものが含まれている可能性があります。それが、防御の準備のためという目的を超えて公になるということは、これはその人にとって甚しい法益侵害であると考えますので、他の個人的な情報に対する侵害の犯罪類型と同程度の罰則があることは不当なことではないと考えております。

○井上座長 単なるルール違反ではなく、秘密漏洩罪に相当する実質を持つ場合があり、その場合には、それとのバランスで法定刑を考える必要があるという御趣旨でしょうか。

○酒巻委員 はい、そのとおりです。

○本田委員 検察官の場合は、国家公務員法の秘密漏洩罪の規定があって、これには当然懲役刑が付いているわけです。何でもかんでも一緒しろということを申し上げるわけではありませんけれども、それぐらい大事な法益の侵害が問題になっているということからいうと、懲役刑がここで法定刑として入るというのは当然の話ではないかというふうに思います。

○髙井委員 私も、これは非常に残念なことではありますが、イ、ウの規定はやむを得ないというふうに思います。
 罰金だけではどうかという御意見もあるようですが、例えば遺体の写真とか、そういうものを週刊誌に200 万、300 万円で売る、あるいは1,000 万円で売るということも事例としては考えられ得るわけですね。そのような事例に対して、では罰金50万円でいいのかとなると、それはやはりまずいだろうと思うのです。多分ないとは思いますけれども、そういう極端な事例を考えると、やはり罰金だけでいいというのは、なかなか言いづらいものがあって、懲役刑もやむなしというふうに思います。

○四宮委員 さっき本田委員から弁護士倫理では十分ではないというお話がありました。確かに残念なケースがありましたが、その一つのケースは、検察庁からの懲戒申立ての前に所属弁護士会が懲戒で立件して、そして資格を剥奪しております。そういった形での迅速で適正な対応を実際にやっているわけで、これは前回も申し上げましたけれども、まさに弁護士倫理の改定作業中でもありますので、是非そこにゆだねてほしいと思います。

○井上座長 被告人についてはどうですか。

○四宮委員 被告人についても、私は特に罰則を設けなくてもよろしいのではないかと思います。と申しますのは、実際にそういうことが罰せられなくていいと言っているのではなくて、現行法の中で、名誉毀損罪だとか、そういうもので対応していくことができるのではないかという趣旨です。

○井上座長 例えば、自分のところにある写しを第三者に渡しただけで名誉毀損罪になりますか。

○四宮委員 渡し方と、その内容にもよるんだと思いますけれども。

○井上座長 公然と事実を摘示していないのですから無理ではないでしょうか。名誉毀損罪が成立するには、「公然と事実を摘示」していないといけないわけで、名誉毀損罪の成立は、難しいのではないかという感じがしますけれども。

○酒巻委員 先ほど、土屋委員が正当化事由を制裁との関係でも書いた方がいいとおっしゃったと思うんですけれども、刑事制裁に関しては、一般論として刑法上の正当化事由があれば、違法性が阻却されて刑事罰が科されなくなるので、特に「正当な理由」がある場合を除外する旨の規定を設ける必要はないと思われます。

○池田委員 今回のこの罰則は、証拠開示の範囲をかなり広くすることの担保という役割もあるのと、残念ながら、目的外使用の事例がこれまでもあったということを考えると、たたき台のような罰則を設けるというのも必要ではないかと思います。
 刑の種類がどうかというのは、ちょっと余り考えていなかったんですが、今日の議論を聞いていると、このたたき台のようなものが必要な事案が考えられないわけではないだろうという気がいたします。

○井上座長 大体一通り意見を伺ったと思いますが、よろしいですか。
 「(2)開示された証拠の管理」ですが、この点についてはよろしいですか。
 それでは、たたき台の項目に沿って、一通り御意見を伺ったのですが、全体について更に御意見があれば伺いたいと思います。

○四宮委員 証拠開示義務違反に関して、サンクションを設けるべきではないかということを前回に申し上げました。特に、どのようなサンクションが考えられるかという問題もありますけれども、少なくとも、例えば絶対的控訴理由というような形で設ける必要があるのではないかと思います。

○井上座長 それは、検察官と弁護人の両方について言えることですが、主に念頭に置かれているのは検察官のことだと思うのですけれども、検察官が開示すべき証拠を開示しなかった、しかもその後も裁判所から開示を命じられたにもかかわらず証拠を隠していた、といった場合のことですか。

○四宮委員 そうです。

○井上座長 その場合に、その証拠の重要性の程度いかんにかかわらず、絶対的控訴理由とするということですか。

○四宮委員 はい。

○井上座長 公判の途中で分かった場合にはどうなるのですか。

○四宮委員 その問題はありますね。だから、その場合には、一番ドラスティックな方法として、公訴を棄却するということはあり得るのかもしれませんが、それは裁判官に任せるということでいいんじゃないかと思いますが。

○井上座長 任せるというのでは、制度論としては無責任ですね。破棄との関係で言うと、そのまま公判を進めてはいけないということになるのですかね。

○四宮委員 その場合の裁判官が取るべき手段は、前回も座長からも御指摘がありましたけれども、いろいろあるんだと思うんです。公判手続を延期するとか、いろんな場合が場面によって考えられるので、私は裁判官にどのようなサンクションを採用するかをゆだねたらどうかと考えます。もっとも、義務違反が余りにも不正義な場合には、手続を打ち切るということがあり得るのかもしれませんけれども。

○井上座長 法解釈でいくとしますと、いまのお考えは非常に大胆な解釈で、判決に明らかに影響を及ぼさないという場合もあり得ることを考えると、相対的控訴理由とするのが、今の制度にはむしろ整合的だと思うのですが、絶対的なサンクションが必要だということ御趣旨でしょうか。

○四宮委員 そうではないかと思います。

○井上座長 そういう御意見ですが、いかがですか。

○本田委員 第2ラウンドでも同じような議論があったんですけれども、前提として検察官が裁判所からの開示命令に対して従わないということは、まず考えられない。従わなければ懲戒事由にもなるでしょうし、そういうことをやるというのはまず考えられないでしょう。例えば、いろいろ争ったり、あるいは過失で気付かなかったという場合があるのかないのか、基本的にはそういうことはあり得ないと思うんですけれども、義務違反があったとしても、開示が遅れた場合などその程度にはいろんな場合があるわけで、義務違反の一事をもって直ちに公訴棄却というのは、いささか乱暴な議論だろうというふうな気がします。

○井上座長 仮に、有罪判決が出た後になってから、開示すべき証拠があることが分かった場合はどうですか。

○本田委員 それは、もしその証拠で無罪になるような場合だったら再審をやるべき話ですね。

○井上座長 再審か、事実誤認を理由とする上訴をするということですか。

○本田委員 もう有罪判決が確定した後ならば再審で、そうでなければ上訴審で争えばいいということです。

○井上座長 再審の場合、開示すべきだった証拠は新証拠になるということですか。

○本田委員 はい。

○髙井委員 私は、証拠開示のルールは、これはこれでそれなりによくできていると思っているんですが、やはり心配しているのは、開示義務の制度的な担保がないという点です。確かに検察官がそういうことをするはずがないというふうに信頼すれば、それはそれでいいんですが、私は若干本田委員とは立場を異にしていて、まず、少なくとも過失で開示すべき証拠を見落とすことはきっとあるに違いないと思っているんです。あるいは評価を間違えたという場合もあり得ると思います。それでも、本田委員がおっしゃっているように、それが後で分かって、それで事実認定が変わるというようなことであれば、判決が確定していれば再審、そうでなければ事実誤認を理由に上訴するというようなことで足りると思うんです。
 もう一つは、故意に出さないということは絶対にあり得ないのかと、そういうことは絶対にあり得ないという前提で制度設計してもいいのかということです。例えば、先ほどの開示証拠の目的外使用についても、弁護士はそんなことは基本的にはしないわけですね。しかし、場合によってはやるかもしれないじゃないかということで、目的外使用に対し罰則をかけるわけですね。そうすると、例えば法廷侮辱罪のようなものをつくって、故意の開示義務違反を処罰するというようなことを考える必要は全くないのかということになると、結論を私は決めているわけではないんですが、やはり検討はしてみる必要があるかなという感じがするんです。その方が制度的には安定しているかなという気もする。実際にそれが使われる場面があるとは思わないんですが。

○本田委員 実際は、そういった行為があれば、懲戒にはなるわけですね。ですから、そこのサンクションは用意されているということになるのではないでしょうか。

○髙井委員 それは、逆に言うと、弁護人だって懲戒により身分を失うじゃないかというのと同じことで、開示証拠の目的外使用については、果たしてそれだけでいいのかという前提で制度をつくっているわけで、確かに1,000 人検察官がいて、そのうちに一人そういうことをするのがいるとは思わないので、非常に希有で、仮にあるとしても何十年かに1回あるかどうかぐらいのことだろうと思うんですが、でもそういうことを全く考えなくて、性善説に立って制度というのを組んでいいのかなということは思うんです。

○井上座長 検察官が、故意に証拠があるのに出さなかった、あるいは、その存在を隠していたという場合のことですね。

○髙井委員 この証拠は本当は関連性があるんだけれども、ないことにしようという形で知らぬ顔をしていたという場合にはどうするか、ということは考えなくていいのかなという感じはするんですけれども。

○大出委員 私も今の髙井委員の意見に賛成なんですが、私は先ほど目的外使用の点については懲役刑を設けるべきではないと申し上げたので、それとのバランスということでいけば、それはその範囲にとどめるべきだと思いますけれども、しかし証拠開示については、非常に重要な制度だということは、皆さん認識されているところだと思いますし、もちろん、従前からの御意見でも、むしろ本田委員の御意見としてみても、制度をつくる以上、そこのところの担保がなくてもいいのかということについては、多分御異論がおありなんだろうと思いますので、やはりつくる以上は、罰則のありようについては検討の余地があるのかもしれませんけれども、担保規定を置くというようなことを考えてしかるべきだというふうに私は思いますけれども。

○井上座長 制裁を仮につくるとしても、これまで法廷侮辱罪というようなものがないわが国で、そのような形が取れるかどうかですね。実質的な何らかの犯罪規定ということになると、その法益侵害というのは何になるのでしょうか。

○髙井委員 やはり、司法の公正さに対する侵害ということだろうと思います。

○酒巻委員 私が知る限りアメリカの証拠開示のルールには、いろんなサンクションが書いてはあるんですね。その中に、四宮委員がおっしゃったように、正義に反するような事態の場合には、裁判長が公訴棄却するというのも含まれていることはそのとおりですけれども、それはそれでアメリカの裁判長の広い裁量権とか、いろんなことを背景にしていますので、それをそのままただ真似して我が国に持ってきても、公訴を棄却して、それでどうするんだという問題が残りますから、具体的な対応としては、開示義務違反が発覚した局面局面において、多くは先ほど本田委員がおっしゃったような形で救済はできるであろうと考えています。直ちに公訴棄却というのは、ちょっとその理由付けも難しいと思います。

○井上座長 恐らくアメリカで公訴棄却にする所があるとすれば、陪審裁判を前提に、重要な証拠が弁護側に開示されずに審理が進んでしまっている場合には、そこでその証拠を弁護側に開示しても取り返しがつかず、その陪審で審理を続けて判決してもらっては困るので、手続を打ち切るということではないかと思うのです。その場合、新たな陪審でもう一度審理をはじめから行うという可能性は排除されていないのです。ですから、アメリカでの公訴棄却は、事件を終結させるという意味での公訴棄却とは趣旨が違うのではないかと思います。これに対して、さきほど我が国で公訴棄却と言われたのは、それで事件を完全に終わりにしてしまうという趣旨のように思ったのですが、そうだとすると、理論構成が難しいような気がします。
 一通り御意見を伺いましたので、たたき台(その1)についての第2ラウンドのおさらいは、このぐらいさせていただきたいと存じます。それでは、次回は、冒頭に申し上げましたように、たたき台(その2)と検察審査会の点について、おさらいの議論をさせていただきたいと思います。
 次回は、25日の午後1時30分ということですので、よろしくお願いします。どうもありがとうございました。