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裁判員制度・刑事検討会(第29回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年11月11日(火)13:30~17:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入」及び「刑事裁判の充実・迅速化」について

5 配布資料

資料1 考えられる検察審査会制度改正の概要について
資料2 「考えられる刑事裁判の充実・迅速化のための方策の概要について」の説明

6 議事

 議論の概要は以下のとおりである。
 まず、前回に引き続いて、第28回検討会配布資料1「考えられる裁判員制度の概要について」(以下「座長ペーパー(裁判員制度)」という。)に沿って、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入について、議論が行われた。

(1) 理由なし忌避ができる数について(座長ペーパー(裁判員制度)2(9)イ(カ)関係)

  • 裁判員の人数にもよるが、相対的に裁判員としてより適格な者を選ぶという観点からは、多くの候補者の中から裁判員が選ばれるのが望ましいので、理由なし忌避ができる数については、裁判員の人数が仮に4名だとすると、それと同数かそれより1名少ない数という座長ペーパー(裁判員制度)の案が妥当である。もっとも、裁判員が6名とした場合、5名ないし6名を理由なしで忌避できるというのはは少し多過ぎるような気もする。
  • 前回の検討会で裁判員の人数を3名という意見を述べたが、それを前提にした場合には、理由なし忌避の数は2又は3と考える。仮に、裁判員が4名とする場合には、座長ペーパー(裁判員制度)にあるとおり、理由なし忌避の数を3又は4とするのが妥当である。裁判員の人数より理由なし忌避の数が多くなると、当事者が裁判員を恣意的に選ぶことになるという懸念がある。また、裁判員の数の6倍くらいの裁判員候補者を裁判所に召喚しなければならないと思われるので、裁判員の数が増えると裁判員候補者を集めるのが大変になるということも考慮する必要がある。
  • 公正な裁判所を構成するための制度としては、理由なし忌避以外の欠格事由や除斥や理由付き忌避などもあるのであるから、裁判員の人数と理由なし忌避の数をリンクさせて考える必要はないのではないか。裁判員の人数が9名だとしても、理由なし忌避の数は3又は4ということも十分あり得ると考える。
  • 理由なし忌避の数は、公平で質の高い裁判員の確保の要請と、裁判員候補者の召喚などの現実の事務負担や訴訟戦略的な忌避権行使による選任手続の長期化の防止の要請との間バランスをどう取るかという問題であるが、裁判員の数を4人とした場合、それと同数程度の理由なし忌避というのは、バランスが取れているのではないか。
  • 座長ペーパー(裁判員制度)に書かれているとおりでよい。裁判員の質の確保の観点に加え、比較法的・沿革的な観点からしても、裁判員の人数と同数程度とするのが適当である。
  • 裁判員の数の6倍もの裁判員候補者を召喚することになるのであろうか。
  • 召喚する裁判員候補者の数は、辞退をどの程度認めるかにもよるであろう。
  • 座長ペーパー(裁判員制度)の案で結構である。米国などでも、理由付き忌避をすることは実際上難しいようである。そのような実情に照らすと、公正な裁判の実現のために理由なし忌避が果たす役割は大きいと考える。

(2) 裁判員の保護及び出頭確保等に関する措置(座長ペーパー(裁判員制度)8関係)

  • 9月の検討会以降、新聞協会の方で、最高裁の事務総長及び法務省の事務次官と面会して、9月に表明した指針について説明し、今後もそれぞれ協議を続けていくことになった。日弁連とも意見交換をする機会を設けることになっている。また、協議の場に、幹事社のほかに全国紙なども加わることになるなど、報道の側で、自主的ルールの策定に向けた努力をしているところである。
     裁判員等の個人情報の保護に関しては、自己や家族の安全などが脅かされるという不安を裁判員等に持たせることになるから、氏名や住所の公表はすべきではない。しかし、すべての情報を非公開にすることが公共の利益に適うのか、という疑問がある。例えば、性犯罪を男性だけの裁判官と裁判員によって裁いた場合には判断にどのような傾向があるのか、というようなことは、研究する価値があるであろうし、報道の対象にもなり得るであろう。個人情報の保護に傾きすぎて公共の利益を図ることが損なわれることになるということは避けるべきである。裁判員等の年齢や職業など個人の属性に関する情報は、氏名や住所とは異なる扱いをすることも考えられるのではないか。
     裁判員等に対する接触の規制に関しては、裁判係属中であれば、接触を禁止することは当然であると考える。もっとも、例えば、雑誌協会が以前のヒアリングの際に述べていたように、裁判員が被告人と特別な利害関係を有しているというような情報を得た場合には、それを確認して報道するために接触するということは、望ましいことではないが、例外的に許されるべきではないか。他方で、裁判員又は補充裁判員であった者に対する接触まで禁止してしまうと、裁判終了後にそれらの者を取材して、裁判に関する検証や論評をすることがしにくくなるので、禁止すべきではない。
     裁判の公正を妨げる行為の禁止に関しては、「偏見を生ぜしめる行為」や「裁判の公正を妨げるおそれのある行為」というのはあいまいで問題があるのではないか。訓示規定として設けるとしても、そのような規定が存在するということ自体により、メディア規制の効果を持つことにつながりかねないことをおそれる。表現の自由の侵害の問題も生じかねないので、訓示規定とすることにも消極である。裁判の公正の確保は大事だが、法律上の規定を設ける代わりに、報道機関が策定する自主的ルールにより解決できる問題が多いであろうと思う。以前説明したとおり、自主的ルールというものはいい加減なものではない。今のところ、メディア側によりたたき台や座長ペーパー(裁判員制度)についてメディア規制であるという批判がなされていないのは、公正な裁判を確保するために種々の安全装置を講じる必要があると考えているからであるが、制度設計の在り方次第では、それはメディア規制であり、裁判員制度そのものにも反対であるという論陣を張る報道機関が出てくることをおそれている。
  • 裁判員への接触禁止や裁判の公正を妨げる行為の禁止などの措置がメディア規制になるから裁判員制度そのものにも反対する報道機関が出てくるというのは、筋違いではないか。裁判員制度への賛否は、それ自体として、国民的・社会的な見地から判断されるべき事柄であろう。
  • 新聞協会が策定する自主的ルールは、いつごろ出来るのか。
  • ある民間テレビ局が集団的過熱取材が問題になったことを契機に社内で自主的ルールを策定しているが、それには1年を要している。一つの社内でのルールの策定に1年を要しているということであり、新聞協会では各社からの意見を積み上げて合意を形成していることからすると、そう簡単には策定できないであろう。
  • 自主的ルールを策定するのに、最高裁や法務省や日弁連と協議しているのは、どのような理由によるものか。
  • 各地の事情に応じて協議機関を設けるという考え方もあるし、意見交換を行って、より良いルールを策定したいということである。
  • 評議の秘密を守ることによって、評議において自由な意見が表明されて公正な裁判が行われることが重要であり、評議の秘密が守られない可能性があると公正な裁判が崩壊することになる。このような評議の秘密を守る趣旨からすると、裁判が終了した後でも、裁判係属中と同じ守秘義務を設けることの必要性は変わらない。
     裁判員等への接触の禁止も、裁判員等の守秘義務を守るために、妥当である。
     裁判の公正を妨げる行為の禁止についても、裁判の公正を妨げてはならないことは当然のことであり、それを法律に規定することは当然である。もちろん、報道機関が策定する自主的ルールによって裁判の公正が妨げられないことになるのが望ましいし、国家権力の行使の公正さの確保のために報道が果たす役割は重要であると考えているので、できる限り早く自主的ルールを策定していただきたい。
  • 性犯罪事件における裁判員の性別構成如何によって判断に一定の傾向があることが判明したとして、それをもとに具体的な制度の改善ができるのか、という疑問がある。
     裁判員等の個人情報に関しては、個々の事件を離れた統計資料として性別や年齢などが明らかにされるのは別として、裁判員等に無用の負担をかけないために、座長ペーパー(裁判員制度)に記載されている案以上の情報を公開する必要はない。
     守秘義務違反をしょうようする行為を禁止するのは当然であり、接触禁止に関する座長ペーパー(裁判員制度)の案は当然である。この点については、たたき台の案でもよいくらいである。裁判員等であった者に対する取材行為の規制も、裁判員等であった者は一定範囲の情報について守秘義務がある以上、それを守るために必要である。
     裁判の公正を妨げる行為の禁止については、座長ペーパー(裁判員制度)の案に賛成である。「偏見」という用語は、法律などでも使われているのであって、その意味内容が本当にあいまいなのであろうか。
  • 裁判の公正を妨げる行為の禁止規定は、当初は必要とも考えたが、新聞協会などが素早い対応をしているようであるので、訓示規定であるにしても、法律に規定しない方が適切ではないかと考える。ただ、できる限り速やかに報道機関による自主的ルールを策定していただきたい。
  • 仮に裁判員の構成如何によって判断に一定の傾向が出てくるということがあるとしても、それは、一定数の事件について統計的処理をしてはじめて検証できるのであり、特定の事件の結果だけを捉えて一定の傾向があるということはできないだろう。したがって、統計数値が必要とは言えても、個別具体的な事件ごとに裁判員の年齢などを明らかにする必要があるということにはならないのではないか。
     ある裁判員が被告人と特別な利害関係を有しているか否かを確認する目的で接触することは、「職務上知り得た秘密を知る目的」に該当しないのではないか。また、以前の検討会では、利害関係を有しているのではないかとの疑いがある場合には、当事者や裁判所にそのことを知らせてその点を正させるのが筋だという意見もあったところであり、適切な例とは言えないのではないか。
  • 裁判の終了後は、裁判の公開により司法の在り方はどうあるべきなのかという提言や研究のための情報を提供するという公共的利益がより前面に出てくることになると思われるので、裁判員等が負う守秘義務の範囲は、裁判係属中と終了後では異なってくるのではないか。
  • そのように考えると、裁判官についても、守秘義務の範囲が裁判終了後には変わるということになるのではないか。
  • 守秘義務の範囲について、職業倫理として守秘義務を負う裁判官と、事件ごとに無作為抽出で選ばれる裁判員とを、全く同じように考えるべきなのであろうか。
  • 裁判の終了後であっても評議の中身が明らかにされると、評議において自由な意見交換ができなくなるという点は、どのように考えているのか。
  • 評議の経過は、裁判終了後であっても、守秘義務の対象となる、と考えている。
  • 裁判終了後になってはじめて守秘義務の対象から外れるようなものとして、どのようなものを想定しているのか。
  • 例えば、事件に関する自分の意見である。
  • 裁判終了後、裁判員が自分の意見を明らかにすることができるとすると、もし全員が明らかにした場合には、評議の内容が半分以上明らかになってしまうのではないか。また、裁判員が正確でないことを明らかにした場合、裁判官には守秘義務があるので反論することができず、誤った情報が流通し、その結果、裁判に対する信頼が不安定になる。
  • 守秘義務の範囲が、裁判官と裁判員とで異なってよいというのは、両者が対等であるということに反する。対等である以上、権限も義務も同じにすべきである。
     接触禁止の問題も、マスコミに接触されるのを避けたいということから裁判員になりたがらない人も多いであろうから、裁判員の保護という観点から考えるべきである。そのような観点からすれば、裁判員等の個人情報の保護に関する座長ペーパー(裁判員制度)の案は当然であり、裁判員等の年齢などは個別の事件に関して報道するほどの重みはない情報である。裁判員等に対する接触の規制についても、裁判員等の守秘義務を破る目的で接触することを禁止することは、裁判員等の保護の観点から当然である。何が秘密かは問題になり得るが、それは、他の秘密漏えい罪についても存する問題であり、裁判員制度に特有の問題ではない。
  • いわゆるメディア・スクラムからの裁判員等の保護は、法律による規制よりは、報道機関による自主的ルールの策定によるべきである。裁判官と裁判員の対等というのは、権限の行使において対等ということであるし、裁判官や調停委員に対する接触禁止はないこと、裁判官による守秘義務違反には罰則がないことも考慮に入れるべきである。裁判員等の個人情報については、プライバシーの保護がその趣旨なのであるから、プライバシーが侵害されない情報は公開されるべきであるし、接触禁止の規定や裁判の公正を妨げる行為の禁止の規定を設けることには反対である。
  • 職務上知り得た秘密を知る目的で接触することについて、報道機関による自主的ルールによる対応だけでよいと考えるのはなぜか。
     秘密を知ろうと接触されることによる負担について、裁判官などはそれを最初から覚悟した上で職業に就いていると言えるが、無作為に選ばれた者である裁判員に対して、ただ守秘義務を守りなさいとすることだけで、接触による負担に対する保護として十分なのか。守秘義務を破らせようとすることを禁止してはならないという理由があるのか。
  • 守秘義務を破らせようとする行為に対して、裁判員等は自力で防衛しなさいとするのは、裁判員等の保護への配慮に欠けるのではないか。
  • 裁判員等であった者に対し、その者の意見を知る目的で接触することを許すということにすると、例えば、暴力団員が被告人になっている裁判の終了後、その暴力団構成員が、裁判員等であった者に対して、「評議でどういう意見を言ったのだ。」と言って接触することも許されることになる。そのようなことが許されるのであれば、裁判員になることを嫌がって人が集まらず裁判体が構成できなくなるかもしれないし、裁判の公正も確保できなくなるのではないか。また、メディアだけ禁止の対象から除外することが果たしてできるのか。
  • そのような場合は、裁判員等への威迫罪で対応できるのではないか。
  • 威迫罪ではまかなえない場合があるであろう。
  • 接触禁止は、自主的ルールで決める事柄ではないであろう。当然、法律で規定すべきである。
  • 裁判員の保護及び出頭確保等に関する措置については、座長ペーパー(裁判員制度)の案のとおりでよい。手続は公判廷で行うことにより公開されているし、裁判体の判断については、その結論と理由が判決に示されることにより、裁判の公開の要請は満たされる。裁判体の判断は、そこに至るプロセスより、最終的な結論と理由が批判に耐えられるかどうかが大事なのである。裁判終了後に裁判体の構成員が「本当は違う結論だった。」と言っても、それを根拠に当事者は判断の正当性を争えない。手続と判断の結論と理由以外の部分を公開しないと公開性が不十分だというのは、理解できない。
  • 評議における発言内容について後で批判されたりするおそれがなく、自由に意見が言える雰囲気を作る必要があるので、評議の秘密を守る必要があるし、関係者のプライバシーも守られるべきである。裁判の公正を妨げる行為の禁止については、「報道機関において自主的ルールを策定しつつあることを踏まえ、更に検討するものとする。」とする座長ペーパー(裁判員制度)の案でよい。

(3) 証拠調べ手続き等について(座長ペーパー(裁判員制度)4(7)関係)

  • 裁判員が十分に心証を取れるように分かりやすい証拠調べをすべきであり、座長ペーパー(裁判員制度)に書かれていることはできる限り法案化して欲しい。また、連日的開廷のための試みを今の段階からでも行ってもらいたい。例えば、公判調書の作成の問題についても、公判手続を録音・録画することも含めて検討してもらいたい。検討の結果、運用でまかなえないような部分については、刑訴法や刑訴規則の改正などの方策が必要となることもあるであろう。
  • 裁判員制度の発足までに、供述調書の作成状況のビデオによる録画の検討もしていただきたい。

(4) 裁判員等の秘密漏洩罪について(座長ペーパー(裁判員制度)7(2)関係)

  • 裁判員等であった者について、裁判への信頼の確保、評議における自由な意見の表明の確保、事件関係者のプライバシーや秘密の保護という守秘義務の保護法益からすると、「各裁判官及び各裁判員の意見」と「職務上知り得た他人の秘密」のみを、守秘義務の対象とすべきである。これに対し、意見の「多少の数」については、公にされてもよいのではないか、と思う。多数決制であることは法律上明らかにされるのであるから、多数決だったということを明らかにすることに問題があるのか。また、「裁判官が十分に意見を述べさせてくれた(くれなかった)。」とか、「最初は有罪の意見が多かったが、判決に書いてあるような証拠評価上の問題点が指摘され、結局無罪の判断になった。」とか、「検察官の求刑は最初は軽すぎると思ったが、他の事案の量刑等に照らして考えて、評議の結果適当であると考えるようになった。」というようなことを明らかにすることは、国民に評議の在り方や雰囲気を伝えることになるという意味があるので、「評議の経過」も守秘義務の対象から外すべきである。
  • 例えば、「6対1で有罪判決となったが、自分は無罪という意見だった。」と言われると、他の人は有罪の意見であったことが明らかにされることになるが、その場合、他人の意見を明らかにしているのではないか。自分の意見を明らかにして欲しくないと思っている人の立場はどうなるのか。
  • 評議における判断の過程は、判決書の中で整理して明らかにされる。「評議の経過」を守秘義務の対象から外すことがなぜ必要なのか。
  • どのように評議が行われるのか、ということを評議の実際について知らない国民に知らせるという意味がある。また、裁判員だった者が、評議の場で自由な意見表明をすることができたということを語ることができる場がないというのは、おかしいのではないか。
  • 結局、評議の具体的内容を明らかにしないと、それに加わったことのない人に評議の様子を分かってもらうということはできないのではないか。
  • 評議の在り方や様子などは、模擬裁判などで広報活動をしていけばいいのではないか。
  • 実際に裁判員としての職務を経験した人の話こそ国民は期待し、役立つのであろう。
     「6対1」の例については、有罪無罪という最終的な結論については「多少の数」を明らかにしてはいけない、というルールを作ればいいのではないか。そもそも、守秘義務の規定の用語が、旧裁判所構成法以来のままでよいのか、ということも考える必要がある。
     罰則についても、他の秘密漏洩罪で懲役刑が定められているのは、人の秘密を漏らした場合だけであるから、評議の秘密を漏らした場合には罰金刑だけということになるのではないか。また、裁判員による秘密漏洩については、専門家として選任され任期がある調停委員や司法委員よりは、個別の事件ごとに無作為に選ばれる検察審査員による場合と同じように考えるべきであるから、検察審査員による秘密漏洩の場合と同様に罰金刑だけでよいと考える。
  • 例えば高額の金銭の支払いを受けて秘密を漏洩したような場合にも、罰金刑だけで十分なのか。
  • 秘密を漏らされた被害者の立場からすると、懲役刑も選択できるようにすべきである。
  • 守秘義務の範囲を明確にしないと、裁判員は不安になるのではないか。自分の意見や感想を述べることを秘密漏洩罪の対象から外すべきではないか。
  • 自分の意見を述べることを禁止の対象から外すべきかどうかということと、禁止の範囲が明確かどうかとは、別の問題であろう。

(5) 裁判員の要件について(座長ペーパー(裁判員制度)2(1)及び(2)関係)

  • 裁判員制度は国民参加の制度であるから、年齢20歳以上とすべきである。20歳の者と25歳の者とで社会経験の点でそれほど差があるのかは疑問であるし、20歳以上25歳未満の者は、800万人以上いて、そのうち大学生でない者は6割くらいいる。また、20歳以上の者は、被告人として裁判員裁判を受ける可能性もある。参政権の年齢の引き下げを公約にしている政党もある。
     また、中学校を卒業したということは、いつ、誰が判断するのか。もし、質問票に中学校を卒業していないと回答した場合に、それ以上調査をしないということだとすると、ただし書の意味がないのではないか。ここは「日本語を理解できる者」と改めて欲しい。
  • 質問票には、中学校を卒業したかどうかだけでなく、ただし書きに当たるような事情があるかどうかなどについても質問することになるのではないか。
  • 年齢要件については、裁判員として司法権の行使に関与することを、選挙権と類比して考えるのか、それとも被選挙権と類比して考えるのか、ということであろう。今回の国民参加の趣旨からしても、ある程度社会経験がある者の方がよいのではないか。また、25歳未満の者も、永久に裁判員になることができないというものではなく、何年か後に25歳以上になれば裁判員になる資格を得るのであるから不当ではないだろう。
     学歴要件については、「中学校卒業と同等以上の学識を有する者は、この限りでない。」というただし書があるのであるから、中学校を卒業していないという回答をしてきた場合であっても、当然に裁判員候補者にならないということではなく、裁判所に召喚し、経歴などの質問等をした上で要件を充たしているか否かの判断することになるのではないか。要は、裁判員の要件に関する調査の仕方の問題であって、裁判員の要件の定め方の問題ではないのではないか。

 続いて、第28回検討会配布資料2「考えられる刑事裁判の充実・迅速化のための方策の概要について」(以下「座長ペーパー(充実・迅速化)」という。)に沿って、刑事裁判の充実・迅速化について議論が行われた。

(6) 取調べ請求証拠以外の証拠の開示について(座長ペーパー(充実・迅速化)第1の3(3)関係)

  • 座長ペーパー(充実・迅速化)の考え方自体は相当である。ただ、表現が複雑であるので、できるだけ運用による幅が生じず、正しく運用されるような表現にすべきである。そのような観点からすると、「事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし」という部分は不要ではないか。例えば、検察官から、犯行現場を目撃したAの供述調書が請求され、加えて、犯行後の状況を目撃したBの供述調書が請求されている場合に、Bの供述調書の証明力を判断する必要があるということで証拠開示の請求があった場合に、アからクの類型に該当する証拠の開示が認められることになるのか。特に「検察官請求証拠の構造等に照らし」という要件があると、Bの供述調書の信用性の有無にかかわりなく、Aの供述調書が信用できれば犯罪事実を認定できるというような事案では、Bの供述調書の証明力を判断するために必要な証拠は開示されないということになるのではないか。「検察官請求証拠の構造等に照らし」という要件があることによって、運用に幅が出てきたり、余分な争点が生じてくるのではないか。
  • 証拠開示をするか否かは、開示の必要性と開示による弊害の衡量に基づく判断ということになるが、必要性の程度を判断するに当たっては、事案の内容と検察官請求証拠の構造を考慮に入れざるを得ないのではないか。それらを必要性の判断要素として明記することによって、被告人又は弁護人が開示請求をするに当たってそれらを考慮した開示の具体的必要性を明らかにしなければならないことがより明確になるという意味があるのではないか。
  • 「事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし」という部分を削り、「重要」という部分を「必要」と改めるべきである。また、アからクの類型は、類型的に証拠開示の必要性が高く、弊害が生じるおそれが低いものであるから、「開示の請求があった場合において、開示の必要性、開示によって生じるおそれのある弊害の有無、種類、程度等を考慮して、相当と認めるときは、当該証拠を開示しなければならないものとする。」という部分を、「開示の請求があった場合には、開示しなければならないものとする。ただし、開示によって生じるおそれのある弊害の有無、種類、程度等を考慮して、不相当と認めるときは開示しなくてもよいものとする。」として、アからクの類型に該当する証拠は開示の必要性が明らかにされれば原則的に開示されるものとすべきである。
  • アからクのすべてが、一般的・類型的に証拠開示の必要性が高く、開示による弊害のおそれが低いものと言い切れるかどうかは問題であろう。
  • 原則と例外という形で規定するという意見には賛成しがたいが、「事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし」という部分は不要ではないか。それらは、開示の必要性の判断要素にはなるであろうが、開示の必要性は弁護側として当然明らかにしなければならないはずであり、判断要素を明記しなくても弁護側は明らかにすることになるであろうから、明記するか否かで必要性に関する判断が異なってくるものではないであろう。
  • 開示の必要性と弊害を総合考慮して開示するか否かを判断すべきであるから、原則と例外という形で規定するという意見は採れない。必要性の判断要素として、事案の内容、証拠構造があるのであるから、それを明記した方が、証拠開示のルールとして明確になるのではないか。
  • アからクのうちには、類型的に開示の必要性が高く、弊害のおそれが低いものもあるが、オ、カの類型については、必ずしもそうとは言えないので、一律に原則開示とすべきではなく、開示の必要性と弊害を比較衡量して判断する枠組みがよいであろう。そのような枠組みにしても、その他の類型については通常は原則的に開示されるという結果になるのではないか。
  • 必要性が認められれば、アからクの類型に該当すれば原則開示にして、開示するのが不相当な場合に例外的に不開示にするという枠組みにしてもいいのではないか。
  • 開示の必要性が大きければ、弊害がある程度あっても開示すべきであるというように、必要性と弊害の程度を比較衡量をして個別的に開示するか否かを判断することになるのであるから、座長ペーパー(充実・迅速化)のように、その判断枠組みを素直に表現するのがよいだろう。
  • 座長ペーパー(充実・迅速化)にある「重要」と「必要」との関係はどうなっているのか。どちらかに統一すべきではないのか。検察官としては、立証に必要な証拠は証拠調べ請求しているのであり、極端に言えば手元に残している証拠はいわば役に立たない証拠であるから、開示の必要性や相当性というのは認めにくく、原則開示とした上で、不相当と認める場合に不開示とする方が、検察官にとって判断しやすいのではないか。
  • 証明力を争う具体的主張が出れば、検察官は開示の必要性の判断をできるのではないか。「重要」というのは、必要性にはその程度に大きな幅があるので、その必要性を具体的に明らかにしてもらうという趣旨を表現したものであろう。
  • 弁護人の立場からは、形式的なものであっても証拠の一覧表の開示は有用なものである。被告人側の主張の明示と絡めたその利用の仕方については、以前の検討会で述べたとおりである。また、真実発見の要請や被告人に有利な証拠の埋没という事態を防止するために、アからクの類型に、「検察官の主張を弾劾する可能性があると検察官が思料する証拠」という類型を加えてもらいたい。
  • 座長ペーパー(充実・迅速化)の案による証拠開示の全体の枠組みを前提に考えた場合、それでは具体的にどのような証拠が開示の対象から漏れて埋没することになるのか。
  • 例えば、犯罪発生後初期の段階で被告人以外の者であるAを被疑者として捜査を行っていた場合の、捜査報告書などがそれに当たるのではないか。
  • そのような報告書が常にかつ当然に、検察官主張事実を弾劾する可能性があるものと言えるかは疑わしい。これに対し、例えば、アリバイを主張し、他の者が犯人である可能性があるということを争点としていくならば、そのような報告書も争点に関連する証拠開示の枠組みで開示の対象になることがあるのではないか。
  • 特定の検察官請求証拠の証明力を判断するのに必要であるという形で開示を請求していけば、相当幅広く開示の対象になっていくのではないか。
  • 被告人以外の者が被疑者として捜査の対象になったということは、被告人が犯人であるという検察官の主張を弾劾する材料になり得るであろう。Aの自白調書がある場合には、座長ペーパー(充実・迅速化)の仕組みでは開示されることになるのか。
  • Aの自白調書が検察官請求証拠の証明力の評価に関連性を有するのであれば、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な証拠ということで、開示の対象になるだろうが、そのような関連性も認められないのに、ただ他の者が捜査のある段階で被疑者として取り調べられていたというだけで、開示すべきだとする理由があるのか、よく理解できない。
  • 座長ペーパー(充実・迅速化)の案による証拠開示の全体の枠組みを前提にすると、「検察官の主張を弾劾する可能性があると思料する証拠」というのは最終的には開示の対象になるので、類型として別途掲げる必要はないのではないか。そのような抽象的な要件の類型を掲げるのではなく、まず、特定の検察官請求証拠の証明力の判断の必要性を具体的に明らかにして証拠開示を受け、それを踏まえた具体的主張をすることによって、類型として別途掲げるのと同じ趣旨が実現できるのではないか。そのような類型を別途掲げるという見解は、結局、事前に証拠を全面的に開示すべきであるという考え方にほかならないのではないか。
  • 早い段階で、「検察官の主張を弾劾する可能性があると検察官が思料する証拠」が開示されれば、被告人側は主張の明示をして争点形成をしやすくなるのではないか。
  • 検察官の主張を弾劾する「可能性」と言われても、被告人側からの事件に関する具体的な主張がなければ、検察官は判断できない。

(7) 次回以降の予定

 引き続き、刑事裁判の充実・迅速化に関する検討を行い、その後、公訴提起の在り方について議論を行う予定である。

(以上)