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裁判員制度・刑事検討会(第5回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成14年7月10日(水) 13:30~16:55


2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室


3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、中井憲治、平良木登規男、廣畑史朗(敬称略)
(事務局)
大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入」について


5 議事

「裁判員制度・刑事検討会における当面の論点-刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入-」(第2回配付資料2)に沿って、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入に関する当面の論点について議論が行われた。
 議論の概要は、以下のとおりである。なお、委員1名から、書面で意見が提出された。

 (1) 裁判員の選任方法

 裁判員の選任方法に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

  • 裁判員制度は、国民に対してメリットがあるだけのものではなく、大きな義務負担をお願いするものである。したがって、国民にどの位の義務負担をしてもらうこととなるのかを検討会としても国民に発信する必要がある。裁判員制度が施行された時に、実際に、国民の方に来てもらえるのかということは、制度設計の段階から考えておかなければならない。

  • 裁判員は、判断力のある一般市民であることが望ましいが、現実には、選挙人名簿から無作為抽出した者を母体とする以上、国民の幅広い層から選出されなければならない。その上で、裁判員が出頭しやすい環境、出頭を確保するための措置、職務の公正さを担保するための措置等を考えていかなければならない。 

  • 被告人あるいは被害者の親族等であること、一定の前科があることなどについては、欠格事由として法律的に明示するべきである。裁判員の年齢に一定の上限を付けるべきか議論すべきである。ただし、高齢者や身体障害者については、辞退可能とするとしても、一律に欠格事由とするのは適切でない。また、身体障害のある裁判員については資料の理解や裁判員相互のコミュニケーション等に関して、補助が必要なので、そのための条件整備の在り方が課題である。

  • 障害者の社会参加を確保することは重要であるが、裁判を受ける被告人の立場や、円滑迅速な審理の確保という要請も考慮しなければならない。現に、アメリカ、ドイツでは、身体の障害のため職務を果たすことが困難な場合には陪審員又は参審員から除外する旨の規定が置かれているようである。

  • 心証は五感でとるものであり、視覚や聴覚等に障害がある場合には、補助者が付いたとしても、証人の証言の信用性等について十分に心証を形成することは困難であり、裁判員として参加することは難しいのではないか。

  • 検察審査会法においても、審査員につき障害を理由とする欠格要件が削除されている。個別の事件において支障があれば辞退等によって対応すればよく、一律に欠格事由とするべきではない。

  • 裁判員候補者の「忌避」については、「忌み避ける」というニュアンスがあるその言葉は適切でなく、「非選任」といった中立的な用語を使用することが望ましい。また、裁判員候補者の人権や心理的影響に配慮して、「非選任」の事由は明示しないことを原則とするべきである。さらに、選任手続が長期化するのを防ぐため「非選任」とすることができる人数には上限を設けるほか、候補者には、「非選任」があり得ることや、選任後の責務、守秘義務等について適切に伝えるべきである。  

  • 裁判員候補者の忌避については、アメリカと同様に、理由付き忌避と理由を示さない忌避の両方を設けるべきである。この場合、裁判員候補者の個人情報への両当事者のアクセスを認める必要があるが、その在り方については慎重な検討が必要である。

  • 欠格事由や除斥事由には当たらないものの、例えば、暴力団の周辺者や他事件の内偵中の被疑者等については、裁判員から排除していく必要性は高い。したがって、理由付き忌避に加えて、理由を示さない忌避を認めることが必要である。

  • 裁判員の選任に当たっては、できるだけ資質が高い人を選任すべきであるので、無作為抽出をした上で、選任委員会による選考を考えるべきである。委員会の構成としては、法曹三者の外、透明性確保の観点から有識者を加えることが考えられる。この委員会は、常置のものとし、欠格事由等のほかに類型化されていない事情についても判断する。理由を示さない忌避では、公正な裁判のための裁判員の質を確保できるのか疑問である。

  • 選任委員会の方式をとることは、資質の高い人というカテゴリーを作るものであり、広く一般の国民が参加するという司法制度改革審議会意見の趣旨と相容れない。

  • 選任委員会方式は実際にどういう基準で行うのか難しい。そのような方式をとらずとも、欠格事由、除斥事由等で実質的に対応することができる。

  • 裁判員制度については、国民の負担という消極的な側面を強調するだけではなく、国民が統治主体として司法に参加するという積極的な側面を強調する必要がある。また、選ばれた裁判員が不平等感を抱かないようにするため、できるだけ多くの国民が関わることも重要である。

  • 裁判員になることは、国民の権利というよりは、義務として基本的に設計されるべきである。裁判員候補者の辞退も簡単に認められるものであってはならない。出頭義務及び守秘義務を定めるとともに、これに違反したときの制裁も設ける必要がある。

  • 勤労者が裁判員の職務を行うことによって、職場で解雇されたり、不利益を受けることがないようにするなどの配慮をする必要がある。 

  • 真にやむを得ない場合は裁判員の辞退を認めるべきであるが、一度辞退したら終わりという制度のみではなく、別の機会まで出頭を延期することを認めるという方法をとることも考えてよい。

  • 検察審査会においても事務局では検察審査委員の出頭確保に苦労しているようである。裁判員が簡単に辞退できるものであっては困るが、定職を持ち能力のある国民が裁判員としての義務を果たしやすい環境を作る工夫が必要である。

  • 罰則で出頭を強制することが適切かには疑問がある。

  • 出頭しやすい環境を作った上で、その上で罰則をもって出頭を担保する必要がある。納税と同様、国民の義務と思ってもらわないと制度としては動かない。

  • 裁判員の旅費、日当を負担に見合ったものとして充実させるべきである。

  • 取材・報道との関係でも、裁判員に対する直接取材の問題、裁判員の個人情報に関する報道の問題等がある。

  • 裁判員に義務違反があった場合の解任、忌避の前提となる裁判員候補者の情報の取扱い、裁判員の安全の確保等の問題についても今後引き続き検討する必要がある。

 (2) 対象事件の範囲

 対象事件の範囲に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

  • 国民の関心の高い事件を対象にすべきという観点から、法定刑に死刑、無期懲役・禁錮を含む事件に加えて、故意の犯罪行為によって人が死亡した事件を対象事件とするべきである。故意の犯罪行為によって人が重傷害を負った事件をこれに加えることも考えられる。他方、法定合議事件には、文書事犯等、必ずしも国民の関心が高くない犯罪も含まれており、それを対象事件のカテゴリーとすることは適切でない。

  • 故意の犯罪行為によって人が死亡した事件というのは、少年法における原則的検察官送致の枠組みと同様の事件の範囲であり、国民にとって関心の高い部分といえる。

  • 法定合議事件を基本にしつつ、運転免許書偽造等の犯罪を除外するとともに、裁判員の心理的負担も考慮し、組織犯罪やテロ事件を除外するべきである。

  • 国民負担の問題を踏まえ、実際に制度をうまく機能させるために、当初は狭い範囲で実施して、後にこれを広げていくのがいい。その意味で、故意の犯罪行為により人が死亡した事件から始めるべきである。

  • 理念的に望ましい範囲について意見交換するとともに、裁判員制度が実効性をもって高質に行える事件数を検討する必要性が、当面はあると考えられる。

  • 小さく始めると、日本の立法の在り方からみて、そのまま固定されてしまう可能性が大きいから、本来あるべき対象を見据えて制度を設計するべきである。

  • 国民主権の理念も考慮する必要があり、法定合議事件を基本とし、国民の関心の高い事件という点から、それに加えて汚職事件を対象とするべきである。

  • 特定の罪種の事件を加えるとか、あるいは、除くというのは、意見の一致を見ることが困難ではないか。むしろ、死刑・無期なら死刑・無期、法定合議事件なら法定合議事件という形で一律に明確な線を引いた方が、理解を得られやすいのではないか。

  • 形式的基準で区切るべきであり、広く国民が参加すべきことを考えると、最低限、法定合議事件を対象とするべきである。

  • 確かに明確な基準は必要だが、法定合議事件といっても、例えば、薬物の営利目的所持や免許証の偽造等、必ずしも国民の関心が高いとはいえず、裁判員制度の対象とするほどでもないと思われる事件も多く含まれているから、法定合議事件を一般的に対象とするのは、範囲が広すぎると思われる。

  • 一般の国民が裁判員制度についてイメージしているのは、裁判官3人がいる法廷に参加することだと思われるので、法定合議事件をベースとするのがよいのではないか。文書偽造など必要のないものは、専門家で検討して個別に対象から外せばよいと思う。また、法定合議事件すべてとしても、その約7割は自白事件なのであるから、必ずしもすべての事件が参加するのに大変な事件ではないのではないか。

  • 組織犯罪やテロ犯罪については、安易に除外するのではなく、できるだけ裁判員に対する保護策を講ずることをまず考え、どうしてもやむを得ない場合についてのみ除外を考えるべきである。

  • 組織犯罪等の除外は設けざるを得ない。裁判員となる人も、裁判が終わった後は一般人として社会で生活を送っていくのだから、通常の暴力団事件などであっても怖いはずである。これらの事件を取り扱うのはプロの領域であって、国民に過大な義務を負わせるべきではない。もし、それができないならば、少なくとも裁判員の顔や氏名が分からないような仕組みを作ることが必要である。

  • 組織犯罪等の除外は認めるべきではない。これらの事件についても、主権者たる国民が裁判に参加することがふさわしい。アメリカの陪審制においても、そのような除外は認められていない。裁判員を政府が守ると表明することがテロ対策の上でも重要である。

  • フランスでは重大なテロリズムに関する事件は、参審員は加わることなく、職業裁判官のみによって審理している。比較法的にみても、必ずしも、国民参加の制度から組織犯罪等を除外していないわけではない。

  • 組織犯罪等を除外するとしても、その切り分けは実際上難しい。身に危険が及ぶ可能性のある事件ということだとすると、組織犯罪以外のものも考えられ、際限なく広がる可能性もある。

  • 組織犯罪等の除外はその区別が難しい。また、日本において、実際に、裁判員に対する現実的危険がどこまで存在するかにも疑問がある。

  • 組織犯罪等の除外は、現実に危険がどの程度有るかということよりも、裁判員がそのような危険があるかもしれないという不安を抱くことにより、公正な判断をすることが困難になる場合も考えられるので、どうすべきかという問題である。

  • 経済事犯等複雑な事件であっても、プロがわかりやすく説明すれば裁判員も十分対応できるから、裁判員制度の対象とすることに問題はない。

  • 多くの書類、証拠資料等の解析を必要とする経済事犯等については、比較法的に見ても、国民参加の対象から除外すべきだという意見が有力であり、裁判員が対応できるというのは楽観的すぎる。

  • 裁判員の負担を考えると、長期間裁判員を拘束することになるような事件を対象から除外することを考えるべきではないか。

(3) 公判手続の在り方

 公判手続の在り方に関して、主として以下のような意見が述べられた。

  • 例えば、書証の取調べに関しては、裁判員にその要旨が理解しやすいよう、パソコンプロジェクター、実物投影機の利用、要旨を書いた用紙そのものの配布など、ビジュアル化を工夫する必要がある。

  • 裁判員に論点を正しく把握させるため、公判の最初の段階で、検察側、弁護側がそれぞれ冒頭陳述を行うべきである。また、その内容は、現行のように物語的ではなく、それぞれの論点ごとに主張とそれに対応する証拠を区別して明示するようなものとすべきである。

  • 証拠の評価についての当事者の主張は、現在の実務では、論告弁論でやっているが、とりわけ間接事実の位置付けなどは、裁判員には分かりにくいと思われるので、個々の証人の尋問を終わるつどなどに適宜、当事者が主張を述べる機会を設けることも考えるべきである。

  • 検察官がA及びBという事実を用いてXという事実を証明しようとし、弁護人は、A及びBの事実は証拠上認められず、したがって、Xという事実も認められないとして争ったときに、裁判官がA及びBの事実は認められないとする一方で、取り調べられた証拠からCという事実が認められ、Cの事実からすると、結局Xの事実を認めることができるとすることがある。このCの事実の存否のように、公判で明示的に現れていなかった論点の存在は、プロには分かるが、説明を受けない限り裁判員には分からない。そこで、隠れた論点を公判廷で裁判員の前に明らかにする審理方法の工夫が必要である。例えば、論点整理義務のようなものとして、裁判官に対して、隠れた論点を含めて裁判における論点を公判廷で裁判員に明らかにする義務を負わせることが考えられる。隠れた論点のままだと、裁判員は裁判官から評議の際に説明を受け、その通りに受け取るしかなく、当事者が裁判員の心証に直接働きかけることはできないが、これにより、当事者としても、裁判官を介してではなく、裁判員の心証に対して直接働きかけることができるようになる。

  • 当事者の立証趣旨や証拠構造の主張に拘束力を与えることは困難であろう。また、裁判員の方が、裁判官が気付いていない証拠の意味づけを提示するということもあり得る。

  • そのような隠れた論点の存在を審理中に裁判所の方から明示することは、現在でも、不意打ちとならないように行われている。また、証拠の評価に関する合議は、公判期日ごとに行われ、相互に心証を確認し合いながら進んでいくものであり、裁判員が加わっても同様と思われる。

  • 裁判員制度の対象となる事件についても、争いのない自白事件が多いことを考えると、書証を用いることは不可欠だと思われるが、その作成の仕方や取調べ方法については、裁判員にわかりやすいものとする工夫が必要である。また、合意書面の活用も考えられる。

  • 国民の負担をできるだけ軽いものにするという観点から、争いのある事件については争点に集中したメリハリのきいた審理を行うとともに、争いのない事件については審理をできるだけ簡便にする工夫が必要である。書証についてもできるだけ分かりやすいものにし、証拠調べのやり方などについても、トレーニングを始める必要がある。準備手続がうまくいくならば、合意書面を活用することは十分考えられる。

  • 裁判員が公判廷外で記録を読むことを予定するのは適切でなく、あくまで公判廷で心証をとることができるようにすべきである。

  • 現行の供述調書は、公判で争われることがあることを想定して作られているのでどうしても詳細なものになる。それを前提にすると、要旨の告知を分かりやすくするといっても難しいところがある。争いのない事件や、争いのある事件であっても同意部分については、準備手続で合意書面を作成して、それを用いるようにすることを考えるべきではないか。

  • 裁判員が公判廷で心証をとれるように工夫することが必要である。検察側と弁護側の主張の要点を記載した簡単な書面を提出してもらえれば、理解が一層しやすくなる。

  • 要旨の告知は、もともと便宜的な方法なので、全部朗読を基本とするべきである。一部しか要らないなら合意書面にすればよい。

  • 法律家でない裁判員が心証をつかむためには、今までとは違う新しい方法が必要である。直接主義、口頭主義の原則に立ち戻って、法廷で目で見て耳で聞いて心証がとれるわかりやすい裁判とするべきである。もちろん、書証を一切使用すべきでないという趣旨ではない。

  • 重要な事実の認定はゆるがせにできず、書証は人証とともにその点で重要な役割を果たしている。また、何を証拠とすることができるかという問題とその取調べの方式とは別の問題である。

  • 要旨の告知により取り調べれば足りる書証については合意書面にすべきという意見は疑問。書証には、後にある主張がなされたときの反論のために作ってある部分もあり、そのような部分は、争いが顕在化していない時点では公判での要旨の告知も不要だが、そこが争点になると書証にあたって確認する必要がある。

  • 書証の取調べの在り方については、争いの有無、重要度等を考えてケースバイケースで行わなければならない。全部朗読を要するものもあれば、裁判員の負担の軽減のため、むしろ要旨の告知により取り調べるべきものもある。また、後で判決書を書くことを考えると、裁判員においても最低限の記録の読み直しが必要な場合があるはず。一度公判で聞いたからといってずっと記憶していられるわけではない。

  • 公判廷で裁判員が、「何が問題なのかよく理解できないが裁判官は分かっているようなので、後で、裁判官に聞こう」というようなことになってはならない。

  • 判決書は、プロが書く判決書と整合性がとれるようにするためプロの書く判決書に引き寄せるのではなく、むしろ、逆にプロの書く、裁判員制度対象外の裁判の判決書を裁判員制度のもとでの判決書に引き寄せるべきである。

  • 判決書を分かりやすいものとする必要があるという意味では、裁判員制度の導入に応じて職業裁判官のみによる場合の判決書についても見直しが必要となるかもしれないが、他方、司法制度改革審議会意見が、裁判員が加わった裁判体が下した判決についても事実誤認等を理由とする控訴を認めることとの関係などから、その「判決書には実質的な理由が示されることが必要」であり、「判決書の内容は、裁判官のみによる裁判の場合と基本的に同様のもの」とすべきだとしていることにも留意する必要がある。

 (4) その他

 その他、

  • 事務局から、7月5日の顧問会議でとりまとめられた「顧問会議アピール」及び同会議における小泉内閣総理大臣(司法制度改革推進本部長)あいさつについて説明がなされた。

  • 今後の検討の参考とするため、最高裁判所、法務省、日本弁護士連合会、警察庁のほか、経済界、労働界及び被害者関係の有識者からヒアリングを行うこととされた。

 (5) 次回以降の予定

 次回(9月3日)は、引き続き、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入に関する検討を行い、次々回(9月24日)は、ヒアリングを行う予定である。

(以上)