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裁判員制度・刑事検討会(第7回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成14年9月24日(火)13:30~17:50

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 池田修、井上正仁、大出良知、清原慶子、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、平良木登規男、廣畑史朗、本田守弘(敬称略)
(説明者)
中川 英彦 住商リース株式会社取締役副社長
長谷川裕子 日本労働組合総連合会労働法制局長
岡村  勲 全国犯罪被害者の会代表幹事
杵淵 智行 警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長
山田 幸彦 日本弁護士連合会司法改革実現本部副本部長
三浦  守 法務省刑事局刑事法制課長
今崎 幸彦 最高裁判所事務総局刑事局第一課長
(事務局) 大野恒太郎事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
ヒアリング

5 議事
   (□:座長、○:委員、●:事務局)

□ それでは所定の時刻ですので、第7回の裁判員制度・刑事検討会を開会させていただきます。御多忙の折、御参集いただきましてありがとうございます。珍しく鼻風邪を引いておりますのでお聞き苦しいかもしれませんが、お許しください。
 本日は、前にお諮りしたとおり、ヒアリングを実施することとなっております。席上にヒアリング実施次第というのをお配りしていると思いますが、そこに記載されているとおり、まず日本経済団体連合会、日本労働組合総連合会及び全国犯罪被害者の会からそれぞれ御推薦をいただいた方に順番に御意見を述べていただき、続いて警察庁、日弁連、法務省、最高裁判所の順に御意見を述べていただこうと思います。
 具体的な進め方ですが、それぞれの方に15分程度、口頭で御意見を述べていただきまして、引き続き、それぞれ10分程度の質疑応答の時間を設け、合わせてお一人大体25分程度の所要時間で進めさせていただきたいと思います。したがいまして、本日は7人の方においでいただいていますので、全体の所要時間は25分かける7で、おおむね3時間と見込まれます。少し長いものですから、4番目の警察庁の方のヒアリングが終わった段階で10分程度の休憩時間を設けるということにさせていただきたいと思います。質疑応答につきましても、そういうことですので、できるだけ時間を意識し内容の濃いものにするために簡潔にお願いできればと思います。
 それでは、早速、ヒアリングに入らせていただきたいと思います。
 まず、日本経済団体連合会から御推薦いただきました住商リース株式会社取締役副社長の中川英彦さんでございます。どうぞよろしくお願いいたします。

(中川氏) 中川でございます。お呼びいただきまして大変ありがとうございます。
 今日は私は経済界代表というよりも、一人の国民として、しかも裁判員制度に的を絞りましてお話させていただきたいと思っております。
 経団連さんからお話を伺いましてから、大分前でありましたけれども、裁判員制度につきまして私の周りの人の意見をできるだけたくさん聞こうと思いまして、いろいろな人の意見を聞いてまいりました。その結果でございますけれども、誠に残念と言うべきか、多くの人の反応が、この制度に対して大変ネガティブであるなという感触を受けたわけでございます。
 ネガティブの中にも2種類ございまして、最もプリミティブな反応は、そういう面倒なことに関わりたくない、嫌だというのが一つでございます。入り口での拒絶反応ですね。それからもう一つは、その制度そのものの意義はよく分かるし、国民としての義務であればできるだけ協力はしたい、けれども、今、日本でそこまでやるのが本当にいいんだろうか、少し早過ぎるんじゃないでしょうかという意見がございまして、この制度に対する不安感みたいなものを示される方が結構ございました。
 この二つは、ちょっと種類は違うんですけれども、要するに、国民の公共意識といいますか、公的な活動に参加する意識がまだまだ未成熟だなと感じました。お上はお上、自分は自分、何でそんなところに自分が他人のために行って面倒なことをしなきゃいけないのかというような気持ちの表れでございますし、また、理解をする人も、理解はするんだけれども、裁判という日常生活から最も離れた遠い世界にいきなりその主役として引っ張り出されて、知識もない者が裁判官というプロと対等に何かをしなければいけない、そんなことはできるわけがないじゃないですかという反応でございまして、全体として、私は、この制度と一般の国民の方の意識がものすごい乖離しているなということを実感したわけでございます。
 実は、私は、もうちょっとポジティブな反応もあっていいんだろうなと思っていたのですが、残念ながらそういうような感じでございまして、これは大都市におられる社会的にも活躍されている、意識もそれなりに高い方の御意見でございますので、もうちょっと高齢の方とか、あるいは地方の方に行けば更にそういう感じが強くなるのではないかというのが実感でございます。
 国民の反応を一般論にしてはまずいんですけれども、私の周りではそういう反応が多かったものですから、だから反対というのではなくて、だからこそこういう制度を入れて、それでできるだけ国民の公共精神を養成するようにしなければいけないということを強く私は思ったわけでございます。公共精神の養成の場としては、こういう制度は絶好の場だと思いますし、また、刑罰に市民感覚を反映させると納得性のある裁判が導き出せるという意味でもこれは大変大きな意義を持っていると思っておりまして、是非ともこの制度が将来にわたってうまくワークするように制度の設計をお願いしたいというふうに私は強く思っております。
 そこで、そういうことを前提にいたしまして、この検討会でお考えいただきたいことを二、三意見として申し上げたいと思います。
 一つは、今のような国民意識を前提にいたしますと、この制度がうまく機能するかどうかということの最大のポイントは、国民の負担をどれだけ軽くできるかということにあるような気がいたします。負担が重ければ重いほど国民の参加率というものが下がりまして、下手をすると制度そのものが危うくなるということも考えられるわけでございます。
 実は、私は、アメリカに8年ばかり駐在して、現地の会社でリーガルマネージャーをやっておりましたが、そのときに民事事件ではございましたけれども、陪審裁判というものを幾つか経験をいたしました。そのときの印象でございますけれども、訴訟社会と言われるアメリカでも陪審員に指定されるということは大変な負担でございまして、特に会社のエグゼクティブとか忙しい人とか、あるいはお医者さんとか、そういう人たちはあの手この手で陪審員になることを避けまして、実際にどういう人が陪審員になるかといいますと、比較的時間のある学生さんとか、主婦の方とか、あるいはお年寄りとか、そういう方が陪審員として選ばれるのが実態じゃないかという印象を持ったわけでございます。実感といたしましては、呼ばれた人の3割か4割ぐらいの人は何らかの形で出頭してこないとか、あるいは、出頭しても陪審員に選任されることをうまく避けていたというふうな印象でございます。
 日本では非常に国民一般の反応がネガティブでございますので、そういうことを考えますと、そういう現象が起こらないとも限らないわけでございまして、それだけやはり負担を小さくしておくということが最大のポイントであろうかと思います。これが第1点でございます。
 第2点は、制度を徐々に育てていくという感覚で取り組んでいただきたいと思うわけでございます。小さく産んで大きく育てるという言葉がございますけれども、この裁判員制度というのは、陪審とも違いますし、またいわゆる参審制度とも違っておりまして、いわば日本特有の制度である。未知の国家的プロジェクトと言ってもいいんでしょうか、そういう非常に新しいものでございますので、最初から完璧なものをつくろうということではなくて、試行錯誤を重ねながら時間をかけて欠点を修正しながら、だんだんいい制度に育て上げていくという考え方が望ましいのではないかと思っております。小さく産んで大きく育てる、急がば回れということがございますけれども、そういう精神で取り組むのが適切ではないかということでございます。
 ちょっと総論的なことで恐縮でございましたけれども、そういう考え方を前提にいたしまして、具体的に制度について二、三御意見を申し述べたいと思います。
 一つ目は、裁判員制度の対象となる犯罪の範囲についてでございます。これはいろいろな議論があることを承知しておりますけれども、最初から大きな網を広げるというのではなくて、やはり死刑とか無期懲役などを含む重犯罪に限るべきではないかと思います。重要な経済犯罪とか少年犯罪にも適用したらどうか、市民感覚が生かせるのではないかという意見のあることも承知しておりますけれども、それはとにかく将来に回すとして、まずはやはり国民の理解の得やすい、限られた範囲でスタートすべきだと思います。法定合議事件だけでも年間四、五千件あるということでございますから、国民の負担という観点からすると、これだけの数でも相当のものになるんじゃないかという気がいたします。
 二つ目は、裁判員の人数についてでございます。これもいろいろ意見はございますが、多くても裁判官と同数若しくはそれ以下にしてはどうか。例えば、裁判官3名とすれば、裁判員は2人から3人、全体で5、6名の合議体にするということが適切ではないかと思います。人数につきましては、陪審制との関係もありますし、いろいろ議論があることでございますけれども、人数が多ければ何か多角的な検討ができるんじゃないかというと、そうとも限りませんで、その反対の結果になることも私たちの企業の中の経験では結構あることでございます。したがいまして、実質的な議論を期待するというのであれば、やはりそれなりのコンパクトな集団として考えておかなければならないのではないでしょうか。また、人数を増やせば増やすほど国民の負担が重くなりますし、実務的にも、人が集まらない、その結果、裁判が遅れるというようなことも考えられますので、人数の点についてはできるだけコンパクトがいいという意見でございます。
 評決についてでございますが、裁判員が関与するのは有罪、無罪の判断及び量刑だけということにいたしまして、裁判手続その他については意見を言うのは自由でございますけれども、最終的には裁判所の決定にお任せするのがいいのではないか。それから有罪、無罪の判断、それから量刑の判断につきましては、裁判官と裁判員全員の多数決で決定するのが望ましいのではないかと思います。ただし、仮に可否同数になったというような場合を想定いたしますと、その場合にはやはり法律家としての専門性を十分に尊重するという意味から裁判官の決定に従うということが適当ではないかと思います。この点は若干憲法問題とも関連する問題でございますので、十分考える必要があると思います。
 裁判員の選任についてでございますけれども、選挙人名簿から無作為に抽出するということはそのとおりだと思います。ただ、名簿から抽出された方がどのようにして具体的事件の裁判員になるのか、その決定方法が大変問題ではないかと思います。アメリカみたいに全員法廷に呼びまして、法廷で長い時間をかけて決定していくというやり方はいかがなものかと思います。したがいまして、どういうふうに言ったらいいのか分かりませんが、委員会のようなものを設置して、名簿から選ばれた裁判員候補者の中から、例えば、欠格者とか、あるいは除斥事由をお持ちになっているような方は包括的にふるいにかけておきまして、残った適格者をプールして、具体的事件についてはそのプールされた人の中から選ぶというような、何かそういうワンクッション置くような方法があればいいのではないかと思っております。要は、公平性ということと、それから実務的に迅速かつ選びやすい方法を両立させる方法を模索しなければいけないと思います。
 選ばれた裁判員を危険から保護するとか補償するとかという問題があるように思います。これにつきましては、場合によっては報復の問題もございますし、それからマスコミから様々の攻撃を受ける可能性もあるわけでございまして、恐怖を感じると言うと行き過ぎかもしれませんけれども、そういう不安を感じる方も結構多いのではないかと思います。したがいまして、一定の事件からは裁判員を除くとか、あるいは法廷に顔を出さずに裁判に参加する方法なども考える必要があると思いますし、それから身辺警護あるいは情報漏れを防ぐ方法など、この点につきましては国民の不安あるいは恐怖感を取り除く様々な方法を講じていただく必要があるように思います。
 審理が非常に長期にわたる場合、これは私もアメリカで経験いたしましたが、3か月も4か月もホテル住まいを強制されるというようなこともございますけれども、これは生活にもろに響くわけでございます。そういう場合には、やはり金銭的にもできるだけ手厚く補償し、国民の側に損失感が出ないように、国もあるいは企業もそうでございますけれども、十分な配慮をする必要があるんじゃないかと思います。
 最後に、公判手続についてでございますけれども、公判手続を集中的にやるというのは当然のことといたしまして、公判手続が裁判員にとって極めて分かりやすいものにならないといけないと思います。何を裁判員が判断したらいいのか、いわゆる争点がどこにあるのか、それから何を証拠として判断したらいいのか、そういうような点につきまして、どういうガイダンスの方法があるのか分かりませんけれども、適宜適切にその裁判員に対してガイダンスが行われて、裁判員の人たちが焦点をそこに合わせていけるようにする工夫を公判手続の中で行っていく必要があるかと思いまして、この点も大変重要なポイントだと思っております。
 そういうことでございますけれども、この制度を発足させる前に幾つかやっていただきたいと思うことがございますので、提案をさせていただきたいと思います。
 一つは、言うまでもないことでございますけれども、国民に十分なPRをしていただくということでございます。幾らこの制度が法律的な義務とは言いましても、現在のところは国民にとって何のメリットも感じられませんし、どちらかと言うとこれは迷惑な制度だととらえる方の方が多いのではないかと思います。したがいまして、義務とか理念とかを強調するのではなくて、裁判員として裁判に参加するということがいい経験になるんだ、人を助けることにもなるんだ、そんなに難しいことでもないんだということをいろいろな形で積極的に前向きのことをPRしていただきたいと思うわけでございます。例えば、区役所かどこかに行けば、裁判員というのはこんなことをやるんだよというPRのビデオがあるとか、そういうふうなことで非常に身近なものとして裁判員制度を具体的にPRしていただくことが必要じゃないかと思います。
 それから、教育の面についてですが、私も経団連にお願いしまして、初等教育の教科書をチェックしてみたんですが、司法についての記述というのはものすごいわずかでして、何も書いていないに等しいので、これではとてもという感じがするものですから、初等教育の段階から裁判についての関心を持たせて身近な存在にしておくことが大切だと思います。
 実際に裁判員になった人が充実感を持って、あれはやはりしんどかったけれども良かったなという結果でお帰りいただき、それを口コミで周りに伝えていただく。そういう充実感のある役割だというふうにならずに、反対になりますと、どんどん萎縮していくことになりますので、ここは是非考えていただきたいと思います。
 第2は、これは制度的に可能かどうか私もよく分かりませんが、試行期間、トライアルみたいなものを設定できないだろうかと思います。いきなり制度を発足させるのではなくて、例えば、1年ならば1年ぐらいトライアル期間というものを定めまして、その間に実際やってみる、軽い事件は実際にやってもらったらいいと思いますし、難しいものは裁判員に選ばれるけれども評決はしない、あるいは、練習として評決するというような形でトライアルをやりまして、そこから出てくるもろもろの問題点を検討、解決した上で本格的な実施に移すということが考えられないだろうかと思うわけでございます。
 以上が、大体私の裁判員に関する意見なんですが、最後に一つだけ付け加えますと、この裁判員制度というものをできるだけ陪審に近づけたいという御意見があることを承知しております。それに対して、裁判に市民の感覚を反映させることで十分だという意見があり、この二つが相対しているように思いますけれども、その根底には職業裁判官だけで行われる現在の司法というものをどう評価するか、あるいは、信頼するのかしないのかという問題が横たわっているように思います。その点につきましては、これはアメリカの経験を踏まえて申し上げるんですが、陪審制は、自分が選んだ陪審員である、だから、その判断が間違っていても甘んじてそれを受け入れようという社会的な風土があって初めて成り立つ制度だというふうに私は思っておりまして、まだ日本では残念ながらそこまで民意が形成されているとは思われないわけでございます。そういう意味で、日本型の裁判員制度も、陪審ではございませんけれども、かなりのところまで踏み込んだ制度だと思っておりまして、この制度を成功させるためには、余り理念に走らずに、現実を踏まえた実現可能なものにするということが最も大切だというふうに思っておりますので、一言だけ付言させていただきたいと思います。以上でございます。

□ どうもありがとうございました。
 それでは、続いて質疑応答に入らせていただきたいと思います。ただいまの御意見につきまして、どなたからでも御質問、御意見をどうぞ。

○ どうもありがとうございました。一つ、お考えを更に詳しく伺いたいのは、選任のところで委員会等で適任者を選出してはどうかという御提案をいただいたのですが、この委員会はどういうメンバーでどういう形で構成したら有意義とお考えでしょうか。イメージで結構ですので、お考えを教えていただければと思います。

(中川氏) 余り深く考えておりませんですぐ申し上げられませんけれども、私のイメージは、余り国民とかを参加させた委員会ではなくて、裁判所の中にそういう選任委員会、裁判官とは申しませんけれども、裁判所に附属する委員会みたいなものをつくって、そこがふるいにかけるといいますか、そういう方法はいかがかなというふうに漠然と思っておりました。

○ どうもありがとうございました。

○ アメリカと日本の刑事司法の違いを表す言葉として、日本では「石は沈まなければいけない、木の葉は浮かなければならない」というふうに考えられている。一方、アメリカは「浮いたものが木の葉であり、沈んだものが石である」というふうに理解されているというふうに言われているんですね。
 今回の改革は、場合によっては、日本の刑事司法をアメリカ型の事実認定、要するに、「石だから沈まなければならない」から「沈んだから石だ」という方向に変えていく可能性がないわけではないんですね。そういうようなことについてはどのようにお考えでしょうか。何も石だから沈まなければいけないという発想にこだわる必要はないので、これからは、沈んだものが石だというふうに認定しようというふうに社会が変わっていっても、それはそれでいいんだという御意見なのか。いや、そうではないという御意見なのか、ということです。

(中川氏) そうではないと思いますね。この裁判員制度というのは、考えようによっては非常にうまく考えられていると、私は思います。いわゆる参審制でもございませんし、陪審の場合は、今、先生のおっしゃったとおりなんですけれども、裁判員制度は、やはり両方の知恵で、皆が納得できる判決を導き出そうというふうにしておりますので、今おっしゃった中間をねらっているのではないかというふうに私は思います。アメリカのように陪審制で、沈んだやつは沈んで仕方がないんだという社会にはやはりすべきではないと思います。

○ どうもありがとうございました。特に私が大変共感を持ったというか、お教えいただいた点は、国民の今の意識と、今議論されていることとの間に大変乖離があるけれども、だからといってやめるのではなくて、だからこそこの制度を取り入れて公共精神を養成していく必要があるという御指摘には大変勇気づけられました。
 私は、審議会の意見書も、今の裁判制度がいいか悪いかということではなくて、まさに今、中川さんがおっしゃったような視点から、この制度を提言しているというふうに理解をしておりまして、その意味で、恐らくは、最後におっしゃった、充実感を持って帰ってもらえる、そういう役割にしないといけないということともつながっていくんだろうと思います。
 それで、この点は全く同感でありまして、充実感を持っていただくためには、やはりその個々の具体的な仕事の内容を理解ができてやりがいのあるものにしていく必要がある。そして、そこには専門家の裁判官もいるわけで、その裁判官との間では十分な議論が行われる。ですから、そこでは対等な議論が行われるとか、その裁判官が十分なサポートをしてくれるとかということも重要になると思うんです。
 先ほど言ったのは、御指摘のような制度の考え方からいくと、つまり、充実感を持って、公共精神を持って仕事に取り組んでもらうという発想からすると、また逆の制度設計、例えば、コンパクトかどうかという点は別の視点もあり得るのではないだろうか、別の設計もあり得るのではないか。つまり、国民がそれぞれ統治主体として参加をしてその役割を果たすという意識を持ってもらうための別の制度設計、もう少したくさん入ってもらうとか、そういう点に結び付いてもおかしくないのではないかなという気もちょっとするんですが、いかがでいらっしゃいましょうか。

(中川氏) やはり議論というのは、私は少人数でやるべきだと思います。取締役会などの議論が、今、よく行われておりますけれども、どんどん人数を減らしていて、結局、収まっている議論というのは、最大10人ぐらいならば何とか合議体になるというのが私どもの実務感覚でございまして、本当に本音を出し合った議論でなければ充実感というのはないんですね。儀式になってしまいます。
 したがいまして、先生のおっしゃるのも分からないことはないですけれど、別の意味で、皆集まったなということはあると思いますけれども、やはり議論の中身を考えますと、余り大きな合議体にしない方がいいのではないかなというのが実感でございます。

○ 二つほどお伺いしたいと思います。
 一つは、裁判員になる人を送り出していく条件として、例えば、企業としてどういうような方法が考えられますでしょうか。先ほど生活に影響する部分だとか、仕事に影響する部分のお話がありましたけれども、そういった部分というのは企業としてどういうような手段を講じるとカバーができるのでしょうか。
 それからもう一つは、裁判員となる人の身辺の安全の保護のことについて少し言われましたけれども、具体的にこういう策を講じてほしいとかというような問題というのはありますか。例えば、企業に関係するいろいろな事件だとか、そういうのが裁判員制度にかかる可能性もあるわけですけれども、そういった部分についてはこういう手当てが今のところ必要だと思うというふうにお考えになることがありますでしょうか。

(中川氏) 最初の御質問ですけれども、企業は恐らくこの制度について割合賛成していると思います。それで、実際に社員が呼ばれて裁判員となって、どれぐらいの期間になるかは別として、仕事を抜けなければいけないというような場合には、多分就業規則その他を変えまして、ありていに言えば有給休暇として取り扱う、アメリカなども全部そうなっておりますけれども、そういうことになるのではないかと思います。
 ただ、困るのは、お金だけでは済まないわけで、その仕事をする人がいなくなってしまうんですね。だから、その代替の人を手当てするとか、あるいは長期の場合には本当にだれか雇ってこなければいけないとか、そういう具体的な問題が発生いたしますし、それからお客様との関係とかもありまして、あいつがいないと困るなというお客様がいるんです。そういうのをどうするか、これは非常に切実な問題でございますけれども、そういうものも含めて、それは何とかしなければ仕方がないという感覚が一般的ではないかと思います。
 したがって、先ほど申し上げた、負担を軽減というのはそういう意味もあったんですけれども、企業としても、手当てがしやすいように、やはり短い期間で済ませるとか、あるいは半日だったら残り半日は仕事ができるようにするとか、そういう何か具体的な手当てを是非お願いしたいということが企業側からの要望になって出てくると思います。
 それから、身辺警護は、余りないと思うんですけれども、仮にそういうことがありましたら、これは隔離しか方法が無いんじゃないか。隔離というのはいろいろな意味がありますけれども、人間の顔を出さない、知らされないようにする、それから、物理的に隔離すると言いますか、ホテルなどを手当てしたりしてそこから通っていただくとか、これは大変な不自由を強いることになりますが、安全を確保するにはそういう方法しかないんじゃないかと思います。

□ ほかにも御質問がおありになるかと思いますが、後の方もおられますし、時間が押していますので、これくらいにさせていただきたいと思います。
 本日はどうもありがとうございました。
 それでは次に、日本労働組合総連合会から御推薦いただきました、同総連合会労働法制局長の長谷川裕子さんです。どうぞよろしくお願いいたします。

(長谷川氏) 長谷川です。本日は、このようなところにお招きいただきましてどうもありがとうございます。それでは、レジュメに従って私どもが考えております裁判制度について意見を申し上げたいと思います。
 1ページ目に「国民の司法参加」と書いてございますが、これは、司法制度改革審議会意見書の中で国民の司法参加について記載されたところをあえて抜粋してまいりました。なぜそうなのかと申し上げますと、やはり今回、司法制度改革審議会は、陪審制度でもなければ参審制度でもない、我が国の新しい裁判員制度を導入するということを意見提案したわけでありまして、それに至るまでいろいろな見解が意見交換されまして、その中でたどり着いたのが意見書の中身であります。したがって、この検討会での具体的な裁判制度の設計に当たっては、この意見を何度も何度も振り返っていただきたいということと、それから恐らくいろいろな意見が出されてくると思うんですが、そのときに必ずここの問題についてもう一回戻って、我が国の裁判制度はどうあるべきかということを考えていただきたいと思いまして、非常に長くですけれども、あえてここで記載させていただきました。皆さんはご存じだと思うんですけれども、それでもやはり見ていただきたいと思います。
 「国民の一人ひとりが統治客体意識から脱却して、自立的でかつ社会的責任を負った統治主体として、互いに協力しながら自由で公正な社会の構築に参画し、この国に豊かな創造性とエネルギーを取り戻そうとする志であろう。」「国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共的意識を醸成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められている。」「国民主権に基づく統治構造の一翼を担う司法の分野においても、国民が、自律性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般について多様な形で参加することが期待される。」「国民が法曹とともに司法の運営に広く関与するようになれば、司法に対する国民の理解が進み、司法の国民的基盤が確立される。」「法曹の専門家である法曹と国民が、相互の信頼の下で、十分かつ適切なコミュニケーションをとりながら協働していくことが求められる。」「国民は、法曹とのコミュニケーションの場を形成・維持するようにつとめ、国民のための司法を国民自らが実現し支えることが求められる。」「一般国民が裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する支持が深まり、司法は強固な国民基盤を得ることができるようになる。」「刑事事件について、広く一般国民が裁判官と共に責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである。」「裁判員の選任については、選挙人名簿から無作為抽出したものを母体とすべきである。」このことについて、是非きちんと踏まえた検討をしていただきたいと思います。
 それでは、具体的には2ページになりますが、「国民が裁判員としてやりがいのある仕組み」をきちんとつくることが必要なのではないかと思っています。私もいずれ自分がこの社会に生きている限り、一度は当たるのではないか、是非経験してみたいと思っているわけですが、自分自身も含めて国民が裁判員としてやりがいのある仕組みをきちんとつくることではないか。
 一番重要なのは、裁判員の数だと思っております。裁判員の数はできるだけ多くと書いておりますけれども、なぜ多く必要なのかということについて是非私は申し上げたいと思っております。先ほども申し上げましたけれども、この裁判員制度の制度設計に当たっては、裁判員が主体的、実質的に関与することを確保するとか、国民が裁判官のお手伝いをするのではなくて、国民が裁判を行うようにし、裁判員は決してお客様であってはいけないというふうに思っております。国民が主権者として裁判に参加して判断する制度であり、参加する国民の一人一人には資格、知識、経験は何ら求められていないわけでありまして、社会常識は国民によって一人一人異なりますし、多様な社会経験を評議に反映させることにより評議の実効性が保障されるのではないかというふうに私は考えます。
 裁判員の具体的な数でありますが、裁判員には、是非、裁判官に影響されないで、集団で十分な議論ができて社会常識が反映される数が必要なのではないかと考えております。既に日本には、国民が主権者として参加、判断する制度として検察審査会制度があります。私どもの構成組織の役員の方がこの制度で審査会の委員になったとき、本当に自分の責任を非常に重く感じたというふうに述べておりますように、私どもには既にこの検察審査会制度があるわけでありまして、この審査会は民意を反映するための国民参加の数を11名であるとしたわけです。この11名というのは、非常に貴重な数字なのではないかと考えております。さらに、我が国で過去に行われた陪審制度では陪審員の数は12名であったということもきちんと踏まえておくべきではないかと考えております。
 ヨーロッパやアメリカはどうかということでありますけれども、アメリカの多くの州の刑事事件の陪審員は12名でありますし、フランスは裁判官が3名で陪審員9名というのは非常に参考になる数字なのではないかと思います。私どもも、司法制度改革審議会に参加していた高木などともいろいろな意見交換をしたわけでありますけれども、裁判員の数は裁判官よりも多い数、倍数だという意見をずっと持っておりましたが、先日ある会議の席上で、矢口さんが、裁判員の数は11名でいいのではないかというのを聞きましたときに、私はびっくりしまして、それと同時に、自分の考えが何かこれまでの裁判制度にずっと引きずられてきたのではないかというふうに思いました。
 よく考えてみたら、その11名というのは、例えば、陪審員が12名だとか、検察審査会が11名という数であれば、何も無謀な数字ではなくて、ある意味では、集団的な議論するときの11名という数は、これまでの歴史の中での知恵だったのではないかと思っております。したがって、多様な国民の意見を反映させ、公正で安定的な、より正確な判断を保障するという観点からは、裁判員の数は11名か12名が適当ではないかと思っています。かつ、11名とか12名よりも少ない数では、やはり意見書の裁判員制度の趣旨から逸脱するのではないかと私は考えております。
 次に、裁判官の数でありますが、裁判官は1人でもよいのではないかと思います。一つは、意見書が言うように、重大な刑事事件に裁判員制度の適用があるとしても、裁判官が3名の今の仕組みを維持する必要はないのではないか。現行の裁判で裁判官3名となっているのは、裁判官だけで裁判する仕組みの中の話でありまして、今度新しく裁判員制度ということが導入される中では、新たな裁判官の数についても検討する必要があるのではないかと考えております。裁判員制度は国民が裁判に参加する新しい制度でありますし、合議体の在り方も新しい発想にすべきであるというふうに考えております。裁判員制度により裁判での裁判官の役割は、法律専門や手続問題のプロとして裁判を指揮することでありまして、それから事実問題について裁判官としての経験を生かした意見を述べることなのではないかというふうに考えております。
 裁判官3名は本当に必要なのか。もし裁判官が3名必要だとすれば、3名のそれぞれの役割は何なのか。それを国民に対して、国民が納得できるような説明が必要なのではないかと思います。先ほど、裁判員のところでも申し上げましたけれども、矢口提案では、経験豊かな裁判官1名で足りるのではないかというふうに提起しております。国民の側から見た場合、経験のない、あるいは経験の少ない判事補が入る必要性は見当たらないわけでありまして、また裁判員としての国民は全員がそこで初めて出会う人たちなわけです。しかし、裁判官同士はお互いに知り合いなわけでありまして、そういう意味では裁判員がある種の力を感じてしまうのではないかと思います。したがって、裁判官は1名でもよいのではないかと考えたわけであります。
 次に「公判の在り方」でありますけれども、公判審理は見て聞いて分かるものに是非改革をしていただきたいと思います。そのためには、集中審理と連日的開廷が是非必要であると考えております。裁判員は、法的知識や経験もなく裁判の審理に臨むことを前提に公判の在り方を考えるべきでありまして、現在の裁判のように細かな書類を隅々まで読む審理は裁判員には無理であると考えます。法律家には便利であっても、国民には非常に不便な膨大な資料提出のやり方は根本的に改めるべきであるというふうに思います。国民が国民としての義務を十分に果たせるように、見て聞いて分かる審理にしなければならないと思っています。
 次に、裁判員となる国民の多数は働いておりますので、そのことを踏まえて法廷は集中審理・連日開廷とすべきでありまして、その集中審理や連日開廷の障害となっているものについては改革を図るべきであると思っております。証拠開示や公判準備手続制度の充実などの整備を行い、労働者、裁判員に大きな負担がかからないような制度改革を行うことが必要なのではないかと思います。
 次に、評議と評決と判決についてであります。裁判官のみで行う現在の裁判では、裁判官からきちんと説明をしてもらうことが必要でありますけれども、裁判員が入った裁判ではそのプロセスを国民に分かりやすくすることが裁判の正当性を担保することに役立つのではないかと考えまして、評議や評決の場所や方法などについても、裁判員が萎縮することのないような配慮が必要であると思います。
 それから、評決の方法については書面による秘密投票として全員一致としていただきたいと思います。
 なお、公務執行妨害だとか名誉毀損、わいせつの概念が争われる表現の自由に関する犯罪などについては、裁判員だけの独立評決制度を設けるべきではないかと考えています。このことは、先の司法制度改革審議会のときに私どもの連合の副会長の高木が提起した制度であります。
 審理の終了後は直ちに評議をしていただいて、判決を公判廷で言い渡すべきであるというふうに考えますし、判決書は、判決後直ちに作成して現行のような詳細な長いものである必要はなく、簡潔なものに変えるべきであると考えます。なるべく裁判員である労働者が何回も足を運んだりすることは本当に時間的に困難であるわけですから、裁判員の人々が必ずきちんとかかわれるようなものにすべきだと考えております。
 なお、今回、裁判員は量刑に参加することになるわけですが、量刑判断に関する何か新たな制度が必要なのではないかと思います。量刑をどのようにして裁判員の人が決めるのか、その情報だとか、そういうものの提供なども必要なのではないかと考えております。
 次に、4ページでありますが、対象事件であります。意見書は、裁判員制度の対象事件を法定刑の重い重大犯罪とすべきであるとして、事件数も考慮の上、なお十分な検討が必要であるとしております。法定刑の重い重大犯罪に限定せずに、国民の関心が高くて、社会的にも影響の大きい事件も対象とすることを検討すべきであると思います。そして、できるだけ多くの国民が裁判員として裁判に関与するということと、国民の社会常識を事件に反映すべきという観点から、贈収賄事件だとか、公務員の汚職だとか、公職選挙法違反だとか、政治犯などに対しては国民が判断するにふさわしい事件も対象とすべきであるというふうに考えております。
 次に、裁判員の主体的・実質的関与に対する支援であります。評議において裁判員と裁判官は対等でありますが、裁判員が裁判官の意見に影響されることなく議論を尽くすには、各プロセスにおいて裁判員に対する十分な説明が必要であるというふうに考えております。陪審制度では裁判官の説示があるわけでありますけれども、裁判員制度においても裁判官の説示、この説示という言い方がどうかというのは少し検討していただきたいのですが、そのようなものとか、説明のような制度が必要なのではないかと考えております。それから、裁判員に分かりやすい訴訟の進行が必要でありまして、そのためには新たに入る裁判員制度導入による法廷技術の研究が我が国で必要なのではないかと考えます。
 3番目でございますが、「労働者が裁判員として出頭しやすい環境の整備」であります。ここのところは、私ども労働組合が非常に強く言わなければならない課題だというふうに考えております。
 一つは、公民権行使の確保できるような環境の整備が必要であることと、旅費とか日当の支給は是非必要であるということを申し上げたいと思います。裁判員及び裁判員候補者が出頭しやすい条件整備としてですが、労働基準法の第7条に裁判員になることを使用者が妨げてはならないということをきちんと明記すべきであると考えております。なお、日当だとか交通費の支給は是非実現していただきたいと思います。それから、就業規則への明記だとか、ある一定の規模の企業で公休的な取扱いができるような制度の導入だとか促進だとか、そういうことについても検討していただきたいと思います。
 なお、労働者が裁判員になることによって不利益な取扱いが行われないような不利益取扱いの禁止も是非きちんと規定していただきたいと思います。裁判員になることで昇進が遅れるとか、昇格が遅れるとか、何らかの賃金カットが起きるとか、そういうことのないような制度設計をしていただきたいと思います。
 なお、新しい裁判員制度が導入されることになりまして、裁判員とはどういうことなのか、それから国民が司法に関与するということはどういうことなのかについて、学校教育はもとよりですが、企業内の企業研修、企業教育、それから地域社会の社会教育の中でも非常にこれは徹底していただきたいと思います。国民が裁判員になることは国民の当然の義務であるということについて、そういう教育が非常に重要だと考えております。
 最後に、司法制度改革の実現に当たって、私は、この検討会の委員の責任は大変重大であると思っております。司法制度改革審議会の委員の13人は2年間かけまして、全員の合意でもって司法制度改革意見書を提出したわけであります。国民は、この検討会で司法制度改革審議会の意見書に沿った、新しい、国民が実質的に司法に関与する裁判員制度を設計することに非常に期待していると思っております。私も、この検討会に非常に大きな関心を持っております。いつか必ず私も裁判員になる日がくるだろうということを自分の中に戒めながら、どういう制度設計がされるかということについて、今後も関心を持っていきたいと思っております。
 以上です。

□ どうもありがとうございました。長谷川さんには、裁判員第1号として参加していただけるような制度設計ができればいいのですが、無作為抽出だとそうもいかないかもしれませんね。
 ちょっと時間は押していますけれども、ただいまの御意見につきまして御質問なり御意見がありましたらどうぞ。

○ 御提言の中で、審理の中で見て聞いて分かる審理が大事だということをおっしゃいました。それは誠にそのとおりだと思うのですけれども、素朴な疑問として、一般国民の方が重要な決定をするときに、書類を読むということは幾らでもあると思うんです。ですから、見て聞いて分かるようにということを強調されたんですけれども、やはり裁判という重大な決定をする場合に、私自身は書類を読むということも非常に重要な要素になると思うんです。その辺りのことはどういうふうにお考えになりますか。

(長谷川氏) 全くそのとおりだと思います。
 ただ、あえてここで見て聞いてと言いましたのは、私も何回か裁判を傍聴したこともありますし、自分のところの組織で関わったものもあるからですけれども、裁判は本当によく分からないです。いつも裁判が終わりますと、すぐ会議を開いて、弁護士の先生に、「先生、今日の裁判はどういうことだったんでしょうか。」と聞くわけですね。そうすると、弁護士の人が、「今日は、要するに、向こうがこう言って、こっちはこう言って、こうしたんです。」と、そうやって説明していただいて、そういうことだったのかと、これは本当にそうです。
 書面がいっぱいあるわけですから、全くそれを無視するということではなくて、無論読むことは重要であります。でも、それを基本にしながらも、やはり見て聞いて理解できるようなものが必要なのではないかという意味であります。

○ 今日はありがとうございました。4ページ目の3で「労働者が裁判員として出頭しやすい環境の整備」ということで挙げられた点は、私も非常に重要だと思うんですけれども、長谷川さんの御関係のところで、一般の労働者がこの裁判員制度に対してどのぐらい関心あるいは周知度があるかというような調査をなさったことがあるかどうか。もしなければ、どのくらいの関心度があるかということを感触でお話しいただきたいのが一点です。それから、企業にもちろん司法教育の徹底を求めたいところでもあるんですが、組合等で独自にこの裁判員制度などについて自発的に学ぼうとか、考えようとか、そういう機運がどの程度おありになるか。労働者の動きについて更に教えていただければと思います。

(長谷川氏) 司法制度改革審議会が発足したときには、正直言いまして労働組合の中でも司法改革に関心を持つ人は本当にごくまれでした。恐らく、当時は、委員になった高木委員と、担当者は私でしたが、私のところだけでした。
 ただ、これではいけないと思いまして、シンポジウムをやるとか、ポスターを作るとか、リーフレットを作るとか、そういう活動をしていったり、それから、日弁連が東京タウンミーティングをやったときに、皆さんもどうぞ御参加くださいとか、そういうことをやりながら、そうしているうちに、マスコミで司法制度改革に対するいろいろな記事が出るようになってくると、組合関係者の関心も、司法改革は今何をしているのかとか聞くようになってきました。最近では、例えば、もう少し司法改革のことについてシンポジウムをやってほしいという意見も寄せられています。
 ただ、それがすべての労働者が関心を持っているかといったら、それはちょっと違うと思うんですけれども、関心はそうやって広まっていると思うんです。それと同時に、もし例えばこの裁判員制度ができたときには、あなたは今回、裁判員になっていただくかもしれないというものがくるとなれば、やはり労働者はまじめですから、もらったらそれはどうしようかと考えると思いますし、それを実施するまでの間に恐らくいろいろな教育だとか、そういうことも行われると思いますので、国民と言いますか、労働者の関心は高まっていくと思っております。無論、労働組合としても、この制度がきちんと新たに発足するとなれば、どういうことが必要なのかということについて研究したり、会議を開いたり、シンポジウムを開いたり、勉強会を開いたり、研修会を開いたりということも必要ですし、今日のところは就業規則への明記だとか公休の取扱いというふうに書いてありますけれども、各企業で恐らくそういうものの勤務の扱い方はいろいろ異なるはずなんです。特別休暇にするところもあるし、出勤したものとみなすという扱いもありますし、欠勤扱いにするとか、いろいろあるわけですから、そういうものを労働協約なり就業規則の中でどういうふうに明記するのかというのは、労働組合の恐らく団体交渉事項にならざるを得ないわけですから、そういうことについても準備をしていかなければならないと考えております。

○ どうもありがとうございました。

○ 連日開廷の限界はどのぐらいだとお考えですか。要するに、何日間までだったら耐えられるか。例えば、2週間だとか3週間だとか、とてもそんなものは無理で1週間が限度だとか、労働者としての考え方で結構ですけれども。

(長谷川氏) それは、恐らく検討会でもいろいろ議論があると思うんですけれども、例えば、企業の規模だとか、そういうものによって随分違うと思うんですね。例えば、法律で、裁判員になる場合は特別休暇とする、出勤扱いとするというところであれば、それは耐えられると思うんですけれども、そうでない、例えば、10人未満の中小企業だとか、そういうところになってくると、期間に対してはかなり大変だと思います。
 しかし、それは制度を入れることによって、使用者も労働者も、これが自分たちの非常に重要な義務なんだとなれば、またそれは変わってくるのではないかと思います。それは制度設計の仕方と、これ以降の何年かそういう教育だとか周知活動をやると思いますけれども、その中で徹底させることではないかと思います。だから、そのためにもやはり迅速化、そのための事前準備をどうするかということが重要なのではないかと思います。

□ 以上でよろしいでしょうか。私自身もまだいろいろお聞きしたいことはあるのですけれども、時間との関係でこのくらいにさせていただきたいと思います。本日はどうもお忙しいところをありがとうございました。
 それでは続きまして、全国犯罪被害者の会代表幹事の岡村勲さんです。どうぞよろしくお願いします。

(岡村氏) お忙しい中をお呼びいただきまして、誠にありがとうございます。
 今度の司法改革は21世紀を見据えた大改革であって、国民のための司法、国民に信頼される司法をつくるということが大眼目だと承っております。
 ところで、刑事司法は、一般の国民にはほとんど関係がございません。刑事司法に関係のあるのは、加害者、被告人と被害者であると言っていいでしょう。そうしますと、被告人と被害者に信用されない、信頼されない刑事司法というのは、国民に信頼されない刑事司法と言っても過言ではないと思います。
 ところで、私たち犯罪被害者の会は約200人の会員がおりますし、会員以外にも、私が被害者に会った人の数は数えられないぐらいでございます。その被害者の中で、今の刑事司法を信頼しておりますかという質問をしますと、ほとんど全員に近い人が信頼していないと答えます。中には怨嗟の念さえ持っております。恨みを持って今の刑事司法を見ているわけでございます。
 なぜかと申しますと、まず犯罪被害者は何よりも真実を知りたいのです。どうしてこういう犯罪が起こったか、どういうふうにして身内が殺されたのか、この真実をまず知りたいのが第一でございます。それから、無念の思いに駆られます。当然のことながら、復讐権を奪われた被害者としては、国が代わって処罰をして無念を晴らしてもらいたい、こういう念に駆られるのも、これまた当然なことであります。
 この二つの念があるものでありますので、捜査に協力いたします。葬式の済まないうちから事情聴取が始まり、夜もほとんど寝られません。もうこれ以上遺体を傷つけないでくれと言っても、持って行って遺体を解剖しますと言う。そして、遺体の解剖が済むと、今度は取りにきてくださいと言われます。これは遺族の費用持ちであります。そしてまた、家の中、家の周囲で犯罪が起こりますと家宅捜索が行われます。この家宅捜索が終わるまでホテル住まいを余儀なくされます。数日間、数十万円を出してホテルに住んだという被害者もおります。
 また、家の中はかき回されて一方的に書類を任意提出されます。任意提出であるから拒否すればいいと言われるかもしれませんが、そういう余裕はありません。必要な書類を司法警察員がざっと書いて目録を作って、任意提出書類に判子をついてくださいと言われると、どうぞどうぞということでサインをする。それも、今言ったような二つの理由を達成するために協力するわけでございます。
 ところが、だんだん様子が変だということが分かってきます。まず、起訴、不起訴をするのに被害者の意見を聞いてもらえません。殺人だと思っていたのに、5日間輸血をしたために5日間生きた。それで傷害致死になったと、こう言って傷害致死にさせられたというケースもある。これも、法廷に行って初めてそれを知ったという被害者もおります。輸血しなければ、刀にさらしを巻いて刺したんですから、当然、殺人罪でしょう。そう思って協力を被害者はしたんですが、傷害致死だということで起訴されているということであります。
 そしてまた、被害者の協力があって初めてできたはずの起訴状、冒頭陳述書、論告要旨、判決、控訴趣意書、被害者には、その写しさえもくれません。報道機関には配布しても、被害者にはくれないんです。私自身、くださいと言ったら、閲覧謄写権で謄写しなさいと言われて、私は何万円かかけて謄写しました。これらは何部も作るわけですら、どうしてその1部を協力者にくれないのでしょう。
 私は一審判決に不満であって控訴をしました。控訴趣意書を作るについて、検察官と何回も打合せをして協力しました。ところが、控訴趣意書をくれないんです。当日読み上げる要旨はくれましたけれども、厚い控訴趣意書は幾ら頼んでもくれない。最高検の許可がなければやれませんと言ってくれない。これも仕方がないから、私はお金を出して謄写しました。
 なぜでしょう。一般の雑誌や新聞の取材を受けますと、必ずありがとうございましたと言ってでき上がったものを送ってきます。中には、原稿の段階で送ってきます。これでいいでしょうかと確認してきます。ところが、起訴状や控訴趣意書はこれでいいかという確認がないばかりか、送ってもこない。くれと言っても、お金を出して買えと言う。こんな被害者をばかにしたことがあるでしょうか。
 また、法廷では一般の傍聴人と全く同じに扱われる。私は、入口で荷物のチェックもされました。優先傍聴券とは言っても、並ばないで傍聴券がもらえるだけであって、その後は全く同じです。法廷によっては、一番前の列は報道機関がずらりと占める。報道機関がいないときでも、そこには座らせてくれません。そして、用語が全く分からない。甲一号証、乙何号証、これは同意しますか、同意しません。何が何だかさっぱり分からない。そして、現場写真も実況見分調書も法廷には回ってまいりません。被害者は、情報提供が極めて不十分なために、事実を把握することがなかなかできない。警察も詳細なことは教えてくれません。今は大分教えてくれるようになったけれども、まだまだ不十分です。大体、家族が殺された場合に、苦しかったか、安らかにいったか、どんな死に方をしたかということを知りたいのは、遺族の共通の心理です。髪の毛一本どこに落ちていたかということも知りたいんです。だけど、その詳細を教えてくれない。せめて法廷で知ろうと思っても、現場写真すら見せてもらえないんです。こういう状況にある。
 そして、発言できない。被告人は、被害者の名誉を毀損することを平気で言います。私の場合もそうでしたけれども、死人に口なしです。加害者いわく、被害者が飛びかかってきたからとっさに刺したと。私の家内は1メートル50足らず、糖尿病でやせ細っておりました。とても風防を付けた宅配便に化けたたくましい加害者に飛びつけるようなものじゃありません。そういうことを平気で言う。なぜ飛びついてきたのかと言うと、精神がおかしかったからじゃありませんかと言う。下見に来たときに、雨戸をがらがら、ばんっとやってにたにたと笑って見回していた。そういうことを3回もやっている。精神がおかしかったんじゃありませんかと、こう嘘をつくんです。それに対して傍聴席から反論できない。切歯扼腕する。反論をすればすぐ退廷させられるんです。
 犯罪被害者の会の会員で、強盗で家族が殺された人がいました。法廷で通訳の言葉が低くて聞き取れない。高くしてくださいと言ったら、発言してはいけませんと言われた。それでも、依然としてマイクの音量が上がらないために、高くしてくださいと言ったら退廷させられちゃったんです。
 もう一人、池袋の通り魔事件にあった娘さんの親は、やはりマイクが低くて聞こえない。そこで休憩時間に裁判所に対して、高くしてくれませんかと言ったら、傍聴人に聞かせるために裁判をしているんじゃないと言われたんです。これが日本の司法です。だんだん被害者は、司法は自分達のためにやってくれているのではない、と思い始めたとき捜査や公訴提起は公の秩序維持という公益のためにやるのであって、被害者のためにやるのではないという、あの傲慢不遜な判決にぶち当たるんです。
 そこで、日本の司法というのはおれたちの味方ではない。こんな司法なんか無い方がいい。こんなもののために税金を払いたくはないというふうな気に、私の周辺の被害者は全員なっております。国民のための司法と言われるときに、被害者の声をどの程度審議会の先生方は理解しておられたのか。私には不思議でなりません。
 私たちは、裁判の道具として使われたくないんです。私たちは事件の当事者です。傷つけられたのは、裁判官でも検察官でも弁護人でもありません。被害者なんです。その被害者を蚊帳の外に置いてしまう今の刑事司法、これを信頼しろと言ってもそれは無理というものです。
 実は、犯罪被害者の会では、ドイツとフランスに調査団を派遣しました。2週間の予定でしたが、私は、今日の公聴会に出席するために、一昨日ドイツの調査を終えてフランスに回らないで帰ってきたばかりでありますが、ドイツでは日本と同じように、20年前までは被害者は蚊帳の外に置かれておりました。それに対して、被害者をこのような状態に置いていいのかという疑問が大きく提示されて、今では検事と同等に公訴参加をし、被告人と対峙して座っています。そして、証拠を提出し、裁判官の忌避を述べ、無罪判決に対しては控訴の手続さえもできる。全部の犯罪についてではありませんが、重大の犯罪についてはそういうふうに被害者の思いを達成させるようになってきているんです。
 そこで、私たちは、裁判官、検察官、弁護士に質問してみました。被害者を法廷に入れることによって、感情的になったり、応報的になったりして裁判が混乱することはありませんか、日本ではよく言われますが、と言いますとけげんな顔をしておりました。被害者が法廷に入るのは当たり前じゃありませんか。20年前はそういうような意見がありました。しかし、やってみると全くその心配はありません。公訴参加人にも弁護人を付けます。加害者にももちろん付けます。だから理性的な行動をしています。むしろ被告人の方が騒いだりすることはありますが、被害者は自分がここで騒げば自分の方が不利になるということは分かっているし、そういうふうな心配は一つもありませんという明確な答えが数か所で返ってまいりました。
 そして、私は、検察官と被害者と権限がどういうふうに違いますかと言いますと、ある裁判長はじっと考えていました。そうですね、二つあるでしょう。検察官は在廷義務がありますが、公訴参加人には義務がありません。それから、検察官は被告人に有利な証拠を出すこともできます。しかし、公訴参加人は参加人に有利な証拠は出せますが、被告人に有利な証拠は出せません。この2点だけが違いますと言いました。
 そして、検察官と公訴参加人は打合せはしますか、証拠の提出などについて食い違いが出ませんかと言いますと、打合せはよくしているようですが、主張や提出する証拠が食い違っても何も構いません。裁判官は公平に裁判するだけです。極端な例を挙げますと、公益の代表者である検察官は無罪の論告をすることがあります。それに対して、被害者は、とんでもない、これは有罪である。求刑はこうすべきであると言って意見を述べます。裁判官は、検察官の無罪の論告を退けて、公訴参加人の言うとおりの判決をするという例も、まれではありませんということでありました。
 こういうようになって初めて、被害者は納得するんです。自分たちもやるだけのことをやったという気になる。今までのように欲求不満で言いたいことも言えないで、言えば退廷させられる。言うときには、証人となったとき、反論の証言をするだけです。気の抜けたビールのようなものです。ドイツの場合は、その場で反論できる。その結果、やれるだけはやったよ、もう仕方がなかったんだよと言って仏様に報告することができるんです。今の日本では判決を受けて、やれるだけのことはやったよ、これで勘弁してくれと仏前で言える被害者がいるでしょうか。私の場合は、家内を身代わりにしてしまいました。本来ならば、私がここにいるべきではありません。ここに座るのは家内かもしれません。家内を見殺しにして、おめおめと生きていけるかという思いに絶えず駆られているんですが、それでも、私が訴訟の中に入ってやれるだけのことをやったならば、どれだけ気が楽になるかもしれません。
 今の日本の刑事訴訟というのは、被害者を苦しめるだけです。言いたいことも言わせない。傍聴席で何か言えば退廷させられる。司法の思い上がり、お白洲的な裁判を感じます。被害者を放置しておいて、国民に信頼される司法をつくるというのは、私から言えば、全く滑稽そのものであるということであります。
 フランスにおいても、なお附帯私訴という制度もあって、これはドイツでは余り使われておりません。なぜ使われないかと言いますと、裁判官が嫌がる。刑事裁判官は民事の勉強をしていない。ここで民事訴訟を持ってこられると面倒臭いというのが真意のようです。面倒臭いから附帯私訴の申入れを却下する。その却下には理由を書く必要もありません。異議の申立ての制度もありません。しかし、連邦司法省の説明では附帯私訴制度はもっと活用すべきで、附帯私訴が原則で却下は例外とするよう法改正を考えているという話でした。一つには、却下の場合には理由を付す。却下決定には異議の申立てを許す。そのように改めると言っていました。
 なお、東ドイツにおいては、統合前は附帯私訴は盛んに行われていたそうであります。スウェーデンなどでも行われているということであります。フランスでも行われております。
 足りないところは、私の出した意見書に譲ることにいたしまして、時間がきましたので、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

□ どうもありがとうございました。それでは御質問、御意見のある方どうぞ。

○ 1点だけお聞きしたいと思います。麻原裁判で、被害者の数を当初起訴したものよりかなり絞り込んだということがありました。その結果、かなり迅速に進んでいるということも言えます。この点について、被害者としてどのようにお考えでしょうか。

(岡村氏) 私は、裁判というのは社会の浄化作用だと考えております。洪水が来たときには、洪水を浄化するための装置が要る。それにもかかわらず、真水をつくるような装置を使っている。装置は破壊されてしまいます。私は、今の日本の刑事訴訟は真水をつくるばかりの装置であって、大洪水の場合の装置ではないと思っています。絞り込むことも、私は、やむを得ない一つの選択だと思いますし、また、被告人が暴れて出廷しないときには法廷に出ないでも裁判はできるし、初めから出頭させないという制度をつくることも必要かと思っております。

□ 私から、関連した質問なのですけれども、被害者の方がたくさんおられるような場合、そのお一人お一人についてどういう被害を受けたのかということをきちんと真実を知らせてほしいという思いがあられるということは御指摘のとおりだと思うのですが、それと同時に、他方で、事実が多数になると証拠調べ等にそれだけ時間がかかってしまうというところがあります。被害者の方の御心情としては、どちらに重きを置かれるのでしょうか。選択は難しいと思うのですけれども、裁判というものが一定の適正な速度で進められれて、なるべく速やかに判断が下されるということが大事なのか、それとも、被害者一人一人についてきちんとした真実が認定され、明らかにされるということが大事なのか。具体的なケースへの対応になってきますと、そこが非常に難しい話になると思うのですが、どういうふうにお考えでしょうか。

(岡村氏) どういう事件を頭に浮かべればいいのか……。

□ 特定の事件ということになると差し障りがありますが。

(岡村氏) 被害者が大勢で加害者が1人というふうな場合だと、すごく簡単ですね。一つの事実でいいわけですから。

□ ただ、その被害を受けた状況が被害者ごとにそれぞれ違っているというような場合もあり得ると思うのですね。そういった場合に、例えば、検察官が起訴をするときに起訴状に被害者を一部だけに絞り込んで書くとしますと、他の被害者やその関係者としては、うちの関係はどうなるんだという思いに駆られるというようなことも聞いたことがあるのですが、他方、その事件の訴訟を集中して迅速にやるためには、ある程度絞り込まざるを得ないというところもある。その辺が非常に難しいところだと思うのですが、被害者の方のお立場としては、そういった点についてどういうふうに思われるのだろうか、というのが私のお聞きしたいことです。

(岡村氏) 絞り込まれた方ですか。それから外れた方ですか。

□ うちの方は削られても、とにかく早く決着をつけてほしいということなのか、それとも、やはり自分の関係もきちんと真実を明らかにしてほしいということなのか、どちらのお気持ちの方が強いのかということです。

(岡村氏) 私は、やはり絞り込まないで全部やってもらいたいと思います。ただ、そのときに審理のやり方が、いわゆる弁護人側が、これはちょっと差し支えるかもしれませんが、依頼者が刑事訴訟法であるのか被告人であるのか分からないような弁護をやりますと、かなり絞り込まなければいけなくなるんです。これは大変どぎつい言い方ですけれども、私は、そういう大事件については、訴訟のやり方によって、余り絞り込まなくても、かなりやれる方法があるのではないかと思いますし、先ほど言ったような精密司法でないやり方、そういうやり方の装置をつくるべきじゃないかと思います。

○ 大変貴重なお話を伺いまして、ありがとうございました。それで、手続的に被害者の方たちがいろいろと不十分だとお考えになっていらっしゃるというお話はもっともな御意見も多くあるというふうにお伺いしたんですが、ただ、お伺いしていまして、裁判である以上、被告人が必ずしもイコール加害者というわけではないというケースがあることは、もちろん言うまでもないことだと思いますが、そういうことになったときに、先ほど被害者の方たちがいろいろとお知りになりたいとか、無念の思いを晴らすというようなことでお考えでいらっしゃることを、刑事司法という場面は、もちろんそこで可能なことは、そこで実現できればそれにこしたことはないと思いますけれども、それと併せてそういった思いを晴らす手立てというようなものについて何かお考えのことがあればお教えいただければと思います。

(岡村氏) 刑事司法以外の場でですか。

○ それと関連することでも結構ですけれども、同じような、例えば、当然犯人だと思っていらっしゃった場合に、刑事裁判の場でそうでないという結論が出る場合は当然あるわけですね。それでも、やれることはやったんだから、それで納得いくんだということでも、一つはあるのかもしれませんけれども、しかし、だからと言って、被害者の方にとってみれば、その被害は現実には残るわけですので、それに対する何らかの対応は必要だということにもなろうかと思うわけです。ですから、それを刑事手続における真相の解明とか、加害者に対する刑罰というようなことだけではない形で、被害者の方たちに対するケアと申しますか、対応ということが、どういうことであれば可能だというふうにお考えでいらっしゃるのか、お教えをいただければと思います。

(岡村氏) 例えば、迷宮入り事件などですか。

○ そうですね。そういうことも含めてということになると思います。

(岡村氏) 迷宮入り事件の被害者というのは、本当に毎日苦しんでいますね。家をだれかがこちらを向いて通っていきますと、あれが真犯人じゃないかとか、ごとっと音がすると、また襲ってきたんじゃないかとか、何年たっても怖がっています。だけど、これのケアをどうするかというと、これは、やはり、警察官によく見回りをしてもらうとかしか仕方がないです。
 それからもう一つ、確実にあれが真犯人である、うちの事件の真犯人はもう一人殺しているという場合もあります。そこの現場に行くところまではちゃんと写真に残っているし、その現場を下見に行ったこともあるけれども、その目撃者が言葉のはっきりしない人で、よく分からないということで、警察も検察庁も、あれが真犯人だと言っていながら起訴できない。この家族はものすごく苦しんでいます。だけど、これをどうやってケアするかというと、私には答えが見つかりません。気の毒で、私は電話もできないという状況です。ちょっとお答えになりませんけれども。
 先ほどの○○委員の御質問は、私のお答えとは論点が違っていたかもしれません。

○ 座長の質問と合わせてということで結構です。

□ ほかの委員が手を挙げられていないので、もう一つだけお伺いしたいのですが、一般的な質問でちょっと恐縮なのですけれど、今度、司法制度改革審議会が提案し、現在、我々が検討している裁判員の制度ですね。国民の間から選ばれた人たちが、職業裁判官と一緒に、有罪、無罪の判定も、量刑も行うという制度ですが、被害者の方々の立場から見ると、この制度というのはどういうふうに映るのか、あるいは、この制度についてどういうお考えをお持ちなのか、お聞かせ願いたいのですけれども。

(岡村氏) 被害者の立場からということになりますと、今までの裁判のようなやり方ではなかなか裁判員という方は大変でしょうね。膨大な資料を読むのか読まないのか、直接審理ということになるとかなりの人の証言を聞かなければならないということになります。一般論としてでありますが、被害者という立場から言いますと、例えば、性的被害の被害者は、裁判員が守秘義務を守ってくれるかなという心配が一つあります。それから、隣の人がもし裁判員になったらどうするだろうというような心配があります。だから、裁判員の選び方、守秘義務、それから、恥ずかしい思いをした事件を裁いた人と顔を会わせることが事件が終わった後もないような処置、選び方、こういうことをやっていただきたいと思います。

□ ほかの方、よろしいですか。それでは、本日はどうもわざわざお越しいただき、ありがとうございました。
 続きまして、警察庁から杵淵刑事指導室長でございます。よろしくお願いいたします。

(杵淵氏) 警察庁刑事指導室長の杵淵でございます。本日は、刑事司法制度を検討していただきます上で御留意いただきたい事項といたしまして、「犯罪情勢の現状と警察活動を取り巻く課題」ということにつきまして御説明させていただきたいと考えております。資料をお配りしておりますので、御参照いただきながらお聞きいただければ幸いでございます。
 まず、第一に「犯罪情勢の現状」というふうに題しております。刑法犯の状況でございますが、「10年間で100万件増加した刑法犯」とございますが、図表1を御覧ください。平成13年の刑法犯認知件数は、273万5,612件と、戦後最高を記録しておりまして、過去10年間で100万件の増加となっております。刑法犯の検挙率は19.8%となりまして、戦後初めて20%を割り込むこととなりました。本年の上半期の刑法犯認知件数は、135万1,727件、前年同期に比べますと、4.9%増加しておりまして、犯罪情勢は大変厳しい状況にございます。
 図表2の刑法犯認知件数の内訳を見ていただきますと、刑法犯認知件数の9割近くを窃盗犯が占めていることがお分かりいただけるかと思いますが、最近の窃盗犯の増加が刑法犯の認知件数全体を押し上げる形となっているところでございます。
 次に、10年間で重要犯罪が倍増しております。図表3を御覧ください。警察では、刑法犯のうち、国民の生命、身体及び財産を侵害する度合いが高く国民の脅威となっている犯罪、具体的には、殺人、強盗、放火、強姦の凶悪犯に、略取誘拐、強制わいせつを加えたものを重要犯罪と定め、重点的に捜査活動を行っているところでありますが、平成13年の重要犯罪の認知件数は2万1,530件と、平成4年と比較して2.1倍ということでございます。平成13年中は、御案内のとおり、大阪府池田市内の小学校におきます多数殺人等事件や、青森県弘前市内の消費者金融におきます強盗殺人放火事件等、国民の治安に対しての不安感を増大させる凶悪事件の発生が目立ったと認識しております。
 重要犯罪のうち、特に強盗について見ますと、図表4を御覧ください。平成13年の強盗の認知件数は6,393件、平成4年と比べますと、2.9倍という大幅な増加を見ております。中でも路上強盗の認知件数が、平成4年と比べますと4.5倍と急増しておりまして、また、その検挙人員の7割近くを少年が占めているという特徴がございます。
 刑法犯の3点目といたしまして、重要窃盗犯の増加という特徴がございます。図表5を御覧ください。警察では、窃盗犯の中でも国民の権利侵害の度合いが高い手口として、具体的には、侵入盗、自動車盗、ひったくり、すりの四つの手口につきまして、重要窃盗犯と定め、重点的に捜査活動を行っております。平成13年の重要窃盗犯の認知件数は、44万3,502件と、平成4年と比べて43.3%の増加を見ております。特に最近目立つ犯罪といたしまして、ピッキング用具を使用した侵入盗並びに自動車盗が挙げられます。
 図表7は、主要5都県におきます、ピッキング用具を使用しました侵入盗の認知件数の推移を示すものでございますが、平成12年の大幅な増加に対しまして、捜査、防犯両面から警察としても施策をいろいろと推進しました結果、平成13年には減少を見てはおりますが、平成14年上半期に入りますと、再び増加傾向にあるなど、依然予断を許さない状況にあると考えております。
 次に、自動車盗の認知件数につきまして、図表8を御覧ください。平成13年には6万3,275件と、平成4年と比べて1.8倍となっております。平成13年9月には、政府におきまして、自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチームといったものを設置し、これにより取りまとめられております自動車盗難等防止行動計画というものがございます。これに基づきまして各種施策を推進しているところでございまして、平成14年上半期におきます自動車盗の認知件数は、3万474件ということで、前年と比べますと4.5%ほど減少しておりますので、対策の効果が現れつつあるかなとは見ておりますが、大変問題のある状況ではございます。
 また、先ほど窃盗犯の大幅な増加が刑法犯の認知件数全体を押し上げていると申し上げましたが、図表6を御覧いただきますとお分かりになると思いますが、重要窃盗犯以外の窃盗犯の認知件数が窃盗犯の全認知件数の8割以上を占めている状況にございます。
 次に、「少年犯罪」について御説明をいたします。少年犯罪は、まず多発という問題がございます。少年犯罪につきましては、図表9を御覧ください。平成13年の刑法犯少年の検挙人員は、13万8,654人と、平成10年以来3年ぶりの増加となっております。過去10年間の人口比の推移を見てみますと、平成4年の11.8から増加を続け、平成13年には16.0と、成人と比べますと8.9倍となっております。少子化により少年人口が減少する一方で、少年検挙人員が増加しているため、人口比は上昇しているところであります。
 次に、非行の凶悪化、粗暴化でございます。図表10のとおり、平成13年に凶悪犯で検挙いたしました少年は、2,127人と、5年連続で2,000人を超える高水準で推移しております。依然として深刻で予断を許さないと考えておりますが、その中でも、粗暴犯につきましても、図表11のとおりで、平成13年に粗暴犯で検挙した少年は、1万8,416人と増加傾向にございます。非行の凶悪化、粗暴化の傾向がうかがえるところであります。
 少年犯罪の3点目としまして、少年による路上犯罪の多発という問題がございます。ひったくりにつきましては、図表12のとおりでございますが、平成13年の少年の検挙人員は、2,190人と3年連続して2,000人を超え、平成4年の3.6倍の増加を見ております。また、ひったくりの総検挙人員に占めます少年の割合は、71.2%でありまして、先ほど述べました路上強盗の検挙人員に占める少年の割合も7割に近いことと合わせまして、少年による路上犯罪が多発しているということがうかがえるところであります。
 大きな3点目としまして、「来日外国人犯罪の現状」でございます。まず、来日外国人犯罪の多発している状況についてでございますが、来日外国人犯罪の検挙状況の推移は、図表13のとおりでございます。平成13年の検挙件数は2万7,763人、検挙人員は1万4,660人と、平成4年と比べ、それぞれ2.3倍、1.6倍ということになっております。
 そして、来日外国人犯罪につきましては、凶悪化、組織化、全国への拡散という特徴が見られます。過去10年間の来日外国人犯罪の凶悪犯の検挙状況を図表14で示しております。検挙件数、検挙人員ともに増加傾向にあり、平成13年は、平成4年と比べまして、それぞれ1.9倍、2.2倍となっております。中国人を始めとする来日外国人がグループで資産家と見られる個人の居宅や、いわゆる風俗店に押し入り、家人や従業員を緊縛して金品を強取する事件が頻発するなど、手荒い手口で敢行される犯罪が多く見られます。来日外国人犯罪の凶悪化の進展が大変懸念されるところでございます。
 図表15でございます。平成13年中の刑法犯の検挙件数を共犯形態別に見た資料でございます。日本人は共犯事件比率が18.3%と、単独による犯罪が目立ちますのに対しまして、来日外国人は共犯事件比率が55.9%と、日本人に比べまして3.1倍となっております。来日外国人が敢行する組織窃盗事件や組織的な強盗事件が目立っておりまして、来日外国人犯罪の組織化が進展している表れと考えております。
 図表16を続いて御覧ください。平成4年から平成13年の来日外国人刑法犯検挙件数の増加率を発生地域別に比較しますと、警視庁管内が1.1倍と横ばいになっております一方、他のブロックでは、北海道の10.7倍、四国の9.0倍、中部の8.5倍というようなところを始めとして、すべて大幅な増加率となっておりまして、来日外国人犯罪は、当初、東京集中という部分もございましたが、今や全国に大変拡散をしているという傾向がうかがわれるところでございます。
 来日外国人犯罪の3番目としまして、その温床となる不法入国、不法滞在という点に目を向けてみたいと思います。平成13年の来日外国人検挙人員のうち、不法滞在者は7,435人と、全体の50.7%を占めております。刑法犯検挙人員全体に占める割合が19.2%でありますが、そのうち凶悪犯検挙人員に占める不法滞在者の割合は44.7%と高い割合を占めておりまして、こうした点も無視できない部分だと考えております。
 4番目に、「組織を背景とした犯罪」について御説明したいと思います。まず、覚せい剤事犯であります。大量押収が続いております。図表17を御覧ください。平成13年の覚せい剤事犯の検挙人員は1万7,912人と、依然高水準での推移が続いております。平成13年の覚せい剤の押収量は406.1キログラムと、過去6番目の大量押収を記録しております。これまで以上に巧妙な密輸入の手口が目立っているところでございます。また、覚せい剤事犯の総検挙人員の約4割は暴力団員であり、また、イラン人密売組織が薬物の不正取引に深く関わっているなどの特徴が見られるところであります。
 次に、けん銃の押収丁数の推移でございます。図表18を御覧ください。平成13年のけん銃の押収丁数は922件と、平成4年と比べて528件減少しております。その多くは海外から密輸入されたものと考えられますが、部品に分解して航空機の預託荷物として密輸入するなど、その手口は多様化、巧妙化しておりまして、押収が年々困難化しているという実態がございます。
 暴力団犯罪の検挙状況の推移についてでございます。暴力団構成員及び準構成員の総数は、平成4年のいわゆる暴力団対策法施行後、平成7年まで減少しているところでございますが、平成8年からは増加に転じております。内訳につきましては図表19で示しておりますが、構成員数は減少しておりますが、準構成員数は増加しておりまして、暴力団の不透明化が進展しているところであります。
 暴力団犯罪の取締りにつきましては、図表20の暴力団犯罪の検挙状況の推移を御覧ください。過去10年間の検挙状況について、基本的に大きな変化はありませんが、平成13年中の特徴としましては、平成13年の上半期に、首都圏を中心に対立抗争が相次ぎ、対立抗争の発生回数が81件と前年に比べて増加したことが挙げられます。
 また、金融不良債権関連事犯の検挙状況の推移につき、図表21に示しておりますが、依然暴力団が債権回収を妨害することにより利益を得ていることがうかがわれるところであります。また、公的融資制度を悪用した詐欺事件等も増加しており、融資過程においても暴力団等の資金獲得活動が見られるところでございます。
 大きな2といたしまして、このような状況の中、「警察活動を取り巻く課題」について御説明をさせていただきたいと思います。1は、「警察官1人当たりの業務負担の増加」についてであります。当然のことながら、刑法犯認知件数の大幅な増加に伴い、警察官の業務負担は増加しております。また、平成13年の110番通報受理件数は、図表22でお示ししているとおり、平成4年の1.8倍、平成13年の相談取扱件数は、図表23のとおり、平成4年の3.0倍と、それぞれ大幅に増加しており、警察官1人当たりの業務負担の増加が著しくなっております。諸外国と比較しましても、平成13年度の警察官1人当たりの負担人口は、552人でありまして、平成4年の559人に比べますと、わずかに改善されておりますが、なおアメリカ合衆国の385人、イギリスの395人、ドイツの315人、フランスの293人といった数字と比べますと、負担が大きいという状況にございます。
 2点目として、「来日外国人犯罪の増加にともなう業務負担の増加」について御説明します。先ほど述べましたとおり、来日外国人犯罪が増加しておりますが、来日外国人犯罪の捜査は、言語、習慣等を異にする外国人の被疑者や参考人を相手とするものでございまして、日本人のみを関係者とする犯罪の捜査とは異なる困難を伴っております。具体的には、通訳を介した取調べになりますため、日本人被疑者の取調べに比べ、多くの時間と労力を要する点や、被疑者が被害者と同国籍の来日外国人の場合は、被害者本人や本国の家族などに危害が及ぶことを心配して、被害者から警察に対する通報や協力が得られにくいといった点が、来日外国人犯罪捜査における負担となっております。
 取り巻く課題の3点目としまして、「警察官の受傷事故等」につきましてでございます。警察官の職務執行自体の困難化というのを私ども感じております。最近、警察官の職務質問等に対しまして、凶器を用いて抵抗する事例が散見されるなど、警察官が職務執行に伴い受傷事故に遭遇する事案が目立ってきております。平成13年におきましては、警察官が自らの身の危険を顧みず犯人逮捕の職務を執行し殉職する事案が、4件発生しておりまして、4人の警察官が殉職いたしました。統計的にも、図表24を御覧いただきますと、警察官に対する公務執行妨害の認知件数は、平成13年は2,039件でございまして、平成4年と比べますと2.3倍という増加を見ております。
 4点目といたしまして、「留置場の不足」の問題でございます。被留置者収容状況につきましては、図表25で示してございます。平成13年におきます被留置者の年間延べ人員は、約440万人でございまして、平成4年と比べて2.1倍という数でございます。内訳を見ますと、平成4年と比べて、女性が2.7倍、少年が2倍、外国人が4.4倍と、いずれも大幅に増加しております。収容基準人員に対する被留置者の割合であります収容率は、平成14年5月13日現在の数字ですが、警視庁が112%、大阪府警察が109.2%、栃木県警察が129.9%、静岡県警察が98%と、大都市及びその周辺部における収容力は限界に達しております。また、移監待機率、被留置者数に占めます拘置所等への移監を待っている者の割合でございますが、これは、平成14年5月13日現在で、全国平均においても17.9%と高率でありますが、特に、警視庁が19.4%、栃木県警35.1%、静岡県警22.0%と、首都圏周辺部におきまして高い移監待機率を示しておりまして、高収容率の一因となっていると考えられるところでございます。
 5点目といたしまして、「国民の意識、社会環境の変化等」を挙げさせていただいております。警察に対する協力意識の変化と聞き込み捜査の困難化の問題でございます。近年の急激な社会環境の変化によりまして、地域社会の連帯意識が弱くなるなど、人と人とのつながりが希薄化してきた結果、警察に対する協力意識も変化してきております。その結果、聞き込み捜査の困難性が増しております。図表26に示しますとおり、聞き込み捜査を端緒に主たる被疑者を特定した刑法犯検挙件数は減少しているところでございます。
 次に、警察に対する期待と要望の増大という点でございます。警察に対する国民からの期待や要望が増大しております。相談取扱件数の大幅な増加につきまして、先ほど申し上げました。相談の内容もさまざまでございまして、地域社会や家庭で本来解決されるべき問題が警察に持ち込まれる傾向が強まっているというふうに、私ども認識しているところでございます。また、告訴・告発の受理・処理状況は、図表27のとおりでございまして、平成13年の受理件数は、3,319件、平成11年と比べますと39.9%の増加でございます。また、複雑な権利関係を背景に有するものが多いため、処理するために相当の期間を要する場合もございます。
 次に、大量生産・大量流通の著しい進展と物からの捜査の困難化についてでございます。大量生産・大量流通の著しい進展、経済のグローバル化等に伴いまして、輸入品を含め、多種多様の物品を大量かつ容易に入手し、消費することができるようになりましたので、物からの捜査が困難になっております。図表28を御覧いただきますと、被害品の移動経路を捜査することによって犯人を割り出します、盗品等捜査というのがございますが、これを端緒に主たる被疑者を特定した窃盗犯検挙件数は大きく減少していることがお分かりいただけるかと思います。
 以上、申し上げましたとおり、我が国の犯罪情勢、また、警察を取り巻く課題は、大変に厳しいものとなっております。もちろん、警察としましては、いろいろな対策に取り組みまして治安の回復を図っていきたいと考えているところでございますが、今回の検討項目の制度設計に当たりましては、このような厳しい情勢にあることを踏まえていただきまして、例えば、警察の業務負担が増加するとか、証拠の収集が困難化するというような、我が国の治安を更に悪化させることにつながるような要素が入らない配慮を是非加えて検討をお願いしたいと考えております。また、本検討会の検討項目には、捜査公判手続の合理化、効率化を図るための方策という項目もございますので、この点につきましてもよろしくお願いする次第でございます。以上でございます。

□ どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御意見について御質問のある方、どうぞ。

○ 2点ほど御質問させていただきたいと思います。
 まず、図表の4について質問させていただきますが、強盗の認知件数の推移で、認知件数総数と路上強盗の数が書いてあるわけですが、路上強盗以外の強盗の形態は押し込み強盗ということになるのでしょうか。そうすると、押し込み強盗の件数が多過ぎるように思うんですけれども。

(杵淵氏) 路上以外の強盗ということでございますので、基本的に屋内に対する強盗と考えていただいてよいかと思いますが、統計的にそこから外れておりますのが何かということを持ち合わせておりませんので、基本的には、今の路上以外のものということでいいかと思いますけれども。

○ 屋内強盗。

(杵淵氏) 路上以外ですので、屋内に対する強盗というふうに考えてよろしいと思いますし、路上以外の屋外施設における強盗といったものがあるかということかと思いますが。

○ 屋内強盗と言った場合には、個人の住宅の場合もあるし、例えば、会社の事務所のようなものもあるわけですね。それから、居直り強盗も入っています。国民の立場から言うと、自宅にちゃんといるときに、自宅に人がいると知って押し込んでくる、いわゆる個人住宅に対する押し込み強盗がどれだけ増えるかが、ある意味では、基本的な治安のバロメーターだという見方もできると思うんです。しかも、犯罪の悪質化というもののバロメーターでもあると思うんですけれども、そういう意味での数字は、まだ資料がここの席にはないということでしょうか。

(杵淵氏) そういう観点よりも、どちらかと言うと、今日お持ちしましたのは、特に路上の犯罪が、引ったくりと合わせまして、非常に多発化傾向にあることを御説明したいということでお持ちしましたので、強盗が増えていること自体が大変問題だというのが基本認識でございますが、あえて通常のいわば強盗のイメージの部分を強調する意図がなかったのでこういう形になっているというふうに御理解いただきたいと思います。

○ 個人の居宅に対する侵入、あるいは強盗というのも徐々に増えておりますけれども、急激には増えておりません。専ら、個人の居宅以外の事務所、深夜スーパー、あるいは倉庫等への強盗については、顕著に増加傾向が見られるところであります。不安感という点では個人の居宅に対する場合とは差異があろうかと思います。

○ もう一点、これもなかなか答えにくい質問だと思うんですけれども、一貫して犯罪が増えているということは顕著に認められるわけですが、原因についてどのようにお考えでしょうか。もちろん、犯罪の発生というのは複雑多岐な原因があるわけで、それは一概に言えないということはもちろん承知しているんですが、殊にこの犯罪の著しい増加傾向と日本の刑事司法の一般予防効果との関係、要するに、もう少し端的に言えば、日本の刑事司法は一般的予防効果がもう無くなってきつつあるのではないか。要するに、今の刑事司法では犯罪と闘えないのではないかという懸念もあると思うんですが、そういう点についてはどのようにお考えでしょうか。

(杵淵氏) 大変お答えの難しい問題でございます。犯罪の増加の原因につきましては、これだと言うことは、やはり困難と認識しておりまして、経済事情や社会環境の変化、それから、国際化の影響というのもかなり大きいかなと思います。
 それから、社会の規範意識の低下というのは、やはり私ども痛切に感じているところでございまして、こういう事情が複雑に絡み合っているんだろうと思います。先ほど申し上げましたとおり、外国人の刑法犯検挙件数は非常に増加しておりますし、また、凶悪化の傾向もございます。あるいは、組織化という意味では、犯罪を解明する上でも、組織的な犯罪ほど解明が難しいという問題もございます。あとは、やはり少年の問題が、私どもは非常に深刻な問題なのではないかと思っておりまして、この辺りが規範意識の問題とどうつながっていくのかという辺りも非常に問題視しているところでございますが、さて、刑罰制度がどうかという辺りになってまいりますと、私どももそこまで分析できているものでもありませんし、私どもで全部承知できる部分でもございませんので、そこは、今は、私からは何ともコメントし難いというところでお許しいただきたいと思います。

□ 私も、1点うかがいたいのですが、今日の御報告で触れられていなかった点ですけれど、最近、犯罪が大幅に増えている。ところがそれに対して、検挙率は非常に下がっている。これは、新聞等でも報道されていましたが、その検挙率低下の原因というのはどこにあるのかということと、それに対してどうすればいいとお考えなのかということをおうかがいしたいと思います。

(杵淵氏) 検挙率の低下の原因につきましては、先ほど取り巻く課題でも申し上げましたとおり、まず従来の捜査でやってきたものが難しくなったということがあります。先ほども申し上げましたが、聞き込み捜査の問題、あるいは、盗品などからの捜査、こうした従来の手法を活用した捜査の困難化ということがございますのと、やはり、急激に犯罪認知件数が増加しましたので、私どもは犯罪の認知の事務処理に追われて、検挙が追いつかないような状況もできているかというふうに考えております。
 窃盗犯に典型的だと思いますが、まさに検挙した被疑者の取調べで手口的に分析してこの被疑者かもしれないというような形を、余罪という形でこれまで随分割り出してきて、そういう意味では検挙率を高める一つの形になっていたわけでございます。一つ一つの直ちに結び付かなかったものが、ある被疑者を検挙した結果として新たに解決していく。こういうことが、発生に非常に追いまくられるために、取調べに時間をかけられずということで、勢い余罪の解明がなかなか困難になっているという状況などがございます。
 さらに、来日外国人の問題、これも、捜査をする立場としては大変困難でございます。被疑者の調べも困難でございますし、その被疑者をめぐりましていろいろな証拠を収集する過程でも、外国人の方からの情報収集あるいは証拠化という形になってまいりますので、被疑者の通訳というのは非常に問題視されて、いろいろ私どもも施策を打ってきましたけれども、捜査員が外国人の方から聞き込んでこなければならないとか、そういった点もございますので、被疑者だけでなくいろいろな部分で負担が多い捜査になってございまして、こうしたものが複合して検挙率が低下しているんだろうと思います。
 これにつきましての対策でございますけれども、私どもとしましては、まず犯罪の発生状況に合わせて、それをよく分析して、それに対して組織、体制、人の配置、こうしたものを考えていこうというようなことも考えております。もちろん、科学的な捜査力の強化ということで、いろいろな鑑識技術等も高度化しておりますので、一段とそれらの高度化を図りながら、また、多くの府県警察がそうしたものを導入できるようにということで進めているようなこともございます。態勢の強化という意味では、増員を図っていくというような形で進められるところもございますし、他方、増員を図っていただくだけでなく、内部の合理化も進めて、内部捻出をして人を生み出し、今で言えば、特に街頭の犯罪とか、そういった点の問題とか、あるいは、多くのパトロール活動に人を割くといったことなどなど、いろいろとそれぞれ検討しているところでございまして、これが決め手ですということはありませんが、いろいろな対策を採らせていただいているところでございます。

○ 今日の御報告と少しずれるかもしれませんが、意見書との関係でお教えいただければと思うのは、一つは、今度、裁判員制度というのが導入されまして、証拠を専門家でない市民の人が吟味をするというシステムになるわけですね。そういう制度の導入を前提にして、証拠収集の在り方ですとか、あるいは、証拠の作り方ですとか、そういったものについて、何か今、既に御検討していることがあれば教えていただきたいというのが一つです。もう一つは、取調べの可視化の問題で、状況をその都度書面化するという提言もなされておりますけれども、それについては、何か御検討が進んでいるのかどうかをお聞かせいただければと思います。

(杵淵氏) まず、裁判員制度の結果として、証拠にどういう影響が出てくるのかという点につきましては、まさに逆にと言いますか、私どももどうなるんだろうということを非常に心配をしております。今日申し上げた情勢の中で、最後に御配慮いただきたい事項としても、やはり、そこがどうなっていくのかという点もよくお考えをいただきながら、どういう影響になっていくのか、仮に捜査に影響するのであれば、それが悪い方向に働かないような施策も併せてセットで動かなければ、我が国の治安に責任を果たしていけないだろうという問題意識は持ってございます。
 ただ、これがどうなるのかというのは、私どももよく実は分からないところでございます。前に司法制度改革審議会の席で、たしか私どもにやはりヒアリングの機会がございましたときに、委員の方から、よりち密化するのではないかというようなお話をされた場面もございましたが、逆にそういう形になるとなれば、私どもとしては、今この大変厳しい中、更に合理化も図らなければいけないという状況の中で、そういう方向に働くのはいかがなものかという気持ちは持っております。いろいろ本来の制度の中でどう考えるべきかということとも絡みますから、一概に私どもの観点からだけ申し上げられるものではないと思っておりますけれども、そういった点も十分御考慮いただきながら進めていただくべき課題だと思っております。
 取調べの記録の問題についてでございます。これにつきましては、確かに司法制度改革審議会意見書でも取り上げられ、また、その後、司法制度改革推進計画が定められておりまして、平成15年半ばごろまでに書面による記録を義務付ける制度の導入につき、所要の措置を講じるというふうになってございまして、現在、それぞれ取調べ機関を担当する省庁において検討をしているという段階でございます。まだ、いろいろ技術的、実務的な見地から検討はしておりますが、何分、日々大量に行っている業務の中でどうやってやっていくのかというようなことも含めまして、あるいは、証拠の確保の観点、証拠隠滅とか、そういうほかの捜査上の支障が生じないのかといった問題等も含めまして、多々検討する項目がございますので、今はまだ内部でいろいろなことを検討しているという段階でございまして、今の段階で御報告申し上げるような段階ではございません。

□ それでは、このくらいにさせていただきたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。それでは、28分くらい後ろに押しているのですけれども、ここで10分ほど休憩させていただきます。

(休 憩)

□ それでは、再開させていただきます。次に、日本弁護士連合会から山田幸彦弁護士です。よろしくお願いします。

(山田氏) 日弁連の山田でございます。今日は、日弁連の意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、感謝をしております。
 日弁連は、かねてから陪審員制度の導入を提唱してきたわけでございますけれども、司法制度改革審議会の意見書を受けまして、あるべき裁判員制度の具体的制度設計について検討してまいりました。8月23日の理事会におきまして、裁判員制度の具体的制度設計に当たっての日弁連の基本方針を採択し、また、裁判員制度の具体的制度設計要綱につきましても、会内外で検討の素材として活用することを承認いたしました。
 日弁連は、裁判員制度の具体的制度設計に当たっては、まず第一点として、広く一般の国民が真に裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる制度にすること、第2として、この制度の導入を契機にそれにふさわしい形に刑事手続を抜本的に改革をするということ、この2つが必須であるというふうに考えております。そして、特にその中で重点的に取り組むべき事項として、5項目を挙げました。以下、その5項目について説明をさせていただきます。
 まず、裁判員の主体的・実質的参加の確保のために必要な事項でございますが、これは、第1項と第3項が関連をしております。その1といたしまして、裁判員と裁判官の数、割合についてでございます。日弁連は、裁判員は裁判官の3倍以上でなければならないというふうに考えております。これは、裁判員制度を無作為に選任をされ、その事件だけを担当する一般の国民が本当に主体的、実質的に参加することができる制度にするのか。あるいは、これまでどおりの裁判官中心の、いわば形だけ国民に参加させる制度にしてしまうのかということを左右する極めて重要な項目だと考えております。専門家である裁判官にごして裁判員が意見を述べ、判決内容の決定に影響を与えることができるためには、一般国民である裁判員の数が裁判官よりも相当多くなければなりません。
 諸外国の例を見ても、例えば、フランスは、一審では裁判官3人に参審員9人、控訴審では裁判官3人に参審員12人、イタリアでは裁判官2人に参審員6人、スウェーデンでも裁判官1人に参審員3人となっております。また、最高裁の調査された資料によりますと、フランスでは、参審員が意識の上で裁判官に負けているということを感じにくい理由の一つに、参審員の数、割合が裁判官に比べて大きいということがあるというふうに報告をされております。そして、そのような構成が評議の実効性の観点から見て不都合だという報告はありません。また、我が国でも、検察審査会は、11名の委員で審議をしておりますけれども、十分実効的な議論が行われておりまして、日弁連がかつて行ったアンケートでも、その経験者は高く評価をしております。特に、裁判員制度は、陪審制でもない、参審制でもない、新たな参加制度として構想されたものでございまして、ドイツのような、職権主義的で裁判官主導の色の濃い参審制度をそのままモデルとすることは不適切だと考えます。
 また、裁判員制度は、諸外国の参審制と違って、選別された一部のいわば有識者だけが相当期間、任期制で担当するということではなくて、陪審制と同じように、事件ごとに一般国民から無作為抽出で選ばれるということになっております。そのような裁判員が、裁判官と対等に裁判内容の決定に主体的、実質的に関与できるためには、諸外国の参審制における以上に裁判員と裁判官の数、割合について配慮しなければなりません。
 全国の弁護士会や市民団体は、各地で模擬裁判をやっております。日弁連は、その経験を集約するために、今月7日に交流会を開催いたしました。その若干の資料を7、8で提出をいたしましたけれども、模擬裁判の会場でくじで選んだという裁判員を含めまして、市民が立派に裁判員を務めることができるということとともに、併せて、異口同音に裁判員の数、割合が重要である、裁判員が自信を持って発言できるためには、裁判員は裁判官よりも相当多数でなければならないという指摘が続きました。また、そのことを裏付ける心理学的な研究も進められていると聞いております。
 なお、基本方針には記載されておりませんけれども、制度設計要綱の30ページを御覧いただきますと、裁判官の数を2人とする考え方が示されております。諸外国の参審制では、必ずしも裁判官の数は3人とは限りません。日弁連は、今年6月に、イタリアへ調査団を派遣いたしましたけれども、そこで、市民が裁判官役として対等の立場で加わるんだから、裁判官は3名である必要はない、裁判官が3名だというのは、結局、裁判内容を決定するのは裁判官だという考え方の表れだということを、現地の裁判官が述べておりました。これは、資料9に少し紹介しておりますけれども、日弁連は、裁判官は3人である必要はないというふうに考えております。
 次に、評議、評決のルールの確立についてでございます。裁判員が主体的、実質的に裁判内容の決定に関与できるためには、評議や評決の在り方が非常に重要でございます。裁判官は、法律知識と長年の裁判経験において明らかに裁判員に優越しております。評議のルールを決めなければ、その裁判官の意見でほとんど誘導されてしまうおそれがございます。裁判員と裁判官との協働が一方通行の説得というものであってはならないと思います。この点につきまして、例えば、イタリアでは、評議では、まず参審員から、しかも、年齢の若い順に意見を述べるようにするというふうにしておりまして、参審員の意見を引き出すためのルールを定めております。同様の規定を持つ国はほかにもあると聞いております。我が国でも、裁判員の実質的参加を確保できるような評議に関するルールを決める必要があると思います。
 また、公開法廷での裁判官から裁判員への法律問題や争点などに関する説示につきましても、裁判員は、陪審制と同じように、事件ごとに一般国民から無作為に選ばれた人であること、それゆえに、裁判官の説明は、決定的に重要な影響を与えるであろうということを考えまして、公正さを担保するために取り入れるべきであると考えます。先ほどの交流会でも、大変強く指摘されたことが報告をされております。
 評決の方法につきましても、裁判員が主体的な判断に基づいてできるように、工夫する必要がございます。最高裁の資料によれば、フランスでは、参審員が裁判官から一方的に影響を受けていると感じていないことは、秘密投票制度によって担保されているという報告がございます。そして、そういう評議の結果、できるだけ全員一致を目指して努力をして、それが困難な場合には、審議会の裁判官又は裁判員のみによる多数で被告人に不利な決定をすることはできないようにするという枠組みの下に、特別多数決により決するべきであると考えます。ドイツ、フランスを始め、特別多数決を採用している参審制の国は多く存在しております。
 次に、大きな第2点といたしまして、直接主義、口頭主義の徹底についてでございます。審議会の意見書は、直接主義、口頭主義の実質化が必要であるとして、伝聞法則の運用を誤った結果として、書証の取調べが裁判の中心を占めるようなことがあれば、公判審理における直接主義、口頭主義を後退させ、伝聞法則の形骸化を招くことになりかねない、問題の核心は、争いのある事件につき直接主義、口頭主義の精神を踏まえ、公判廷での審理をどれだけ充実、活性化できるかというところにある、裁判員の実質的な関与を担保するためにも、こうした要請は一層強いものになる、というふうに述べております。
 現在の刑事裁判は、捜査段階で作成されました膨大な調書を証拠として採用しまして、これを裁判官が法廷の内外で子細に読み込んで、いわば職人的なやり方で心証をとり判決をするということが中心になっております。調書間の整合性に注意を払うという点では精密司法でございますけれども、実態は、書かれた書面を中心にする調書裁判でありまして、刑事訴訟の原則である直接主義、口頭主義は空洞化していると言っても過言ではございません。
 このような刑事裁判の現状については、かねてから各方面から大きな批判がございます。特に、裁判員が関与する裁判では、法廷外で調書を回し読みして心証を形成するということはできません。諸外国でも行われておりますように、ごく例外を除いて、捜査段階の調書は証拠として採用しないこととして、公判における生の供述によって心証を形成するという刑事裁判本来の姿にしなければならないと思います。そのためには、単なる運用の改善にとどまらず、刑事訴訟法321条1項2号、3号の見直し、廃止などを含めて伝聞証拠に関する条文の改正をする必要がございます。
 また、調書の任意性をめぐって争いになって、取調べ捜査官や被告人の尋問が延々と続いて裁判が長期化するということも、我々がよく体験するところであります。集中審理が求められる裁判員裁判では、このようなことは許されません。調書の証拠法上の取扱いをどうするかということは別にいたしまして、任意性をめぐって争いが生じないように、捜査過程をビデオや録音テープによって記録化すること、すなわち、捜査の可視化ということが是非とも必要でございます。この関係についても、資料で提出をしておりますので御覧いただければありがたいと思います。
 次に、集中的証拠調べに対応して、公正で充実し、被告人の防御権を保障した審理を行うための条件といたしまして、4項、5項を挙げております。刑事裁判は、検察官が公益の代表者として有罪の立証に努め、一方、弁護人は、被告人の人権の立場から、言わば逆の側からその事件に光を当てて、その双方の活動が十分保障され展開されることによって初めて真実が明らかとなり、適正手続の保障の要請にもかなうものであると考えます。被告人の防御権を保障し、公正で充実した審議を行うためには、捜査段階で収集された証拠が事前に開示されなければなりません。制度設計要綱17ページ以下で引用しておりますように、例えば、国際人権規約委員会は、日本政府に対しまして、日本の法律と実務を弁護側があらゆる証拠資料にアクセスすることが保障されるように改めることを勧告しております。取り分け裁判員制度では、裁判員の長期間の拘束を避けるために必然的に集中的審理となります。証拠調べはスピーディーに進みますので、早い段階で証拠が完全に開示をされて、それを弁護側が検討し、反証の資料を集めたりして準備をするための十分な準備期間を保障するということが必須の条件でございます。
 昨年11月に開催されました、最高裁主催による刑事事件担当裁判官協議会というのがございましたけれども、そこでは、検察官は、第1回公判前に、取調べ請求予定の証拠のほか、被告人の供述調書、証拠物、鑑定書、検証調書、実況見分調書など客観的証拠は、原則として開示しなければならず、検察官が不開示について主張立証責任を負うとする意見が多数であったと報告をされております。
 資料といたしまして、後で開示された証拠が無罪判決に重要な役割を果たした事例を幾つか提出をしておきましたので、是非御参照いただきたいと思います。また、このほか証拠開示がなされなかったために審理が長引いた有名な事件としては、甲山事件などがございますし、いったん有罪判決が確定をして、その後、検察官手持ちの未開示証拠が重要な役割を果たして再審となった事件も幾つかございます。証拠開示の重要性が御理解いただけると思います。
 また、被告人の身体拘束制度についても、抜本的に改正されなければならないと考えます。被疑者、被告人の身柄が長期間拘束されたままで、接見交通権にも制約があるという状況では、到底集中的審理に対応するための十分な事前準備や、公判ごとのその準備を迅速で的確に進めていくということは、非常に難しいわけであります。その詳細は、制度設計要綱の11ページ以下に記載をしておりますけれども、この点につきましても、単なる運用の改善にとどまらず、保釈の原則化などの勾留制度の改革、あるいは、刑事訴訟法39条3項の削除を始めとする接見交通権の実質的保障の確立は是非とも必要であると考えております。
 最後に、国民の司法参加は、今回の司法改革の目玉でございます。市民に直接かかわるだけに、市民やマスコミなどの関心も極めて高いものがございます。審議会の意見書は、21世紀の社会は、国民が自立的で、かつ、社会的責任を負った統治主体として社会の構築に参加していくことが必要であるというふうにしております。市民を信頼し、そのような社会にふさわしい参加制度と刑事手続の改革を検討して方向付けをしていただくようお願いをいたしまして意見陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。

□ ありがとうございました。それでは、ただいまの御意見について御質問、御意見をどうぞ。

○ 今のプレゼンテーションと、それから前回配られました制度設計要綱に基づいていろいろ質問したいことはあるんですけれども、時間の関係もあるので、3点ほど質問させていただきます。
 第一点は、今のプレゼンテーションにはなかったんですけれども、制度設計要綱の19ページに裁判所の証拠開示とあります。これは決定についての問題だと思いますが、日弁連の意見では、「裁判所の開示に対しては検察官が不服申立てはできないが、弁護人の不服申立ては可能とすべきである」と書いてあるんですが、その理由が分からないんです。どういう理由なんでしょうか。

(山田氏) この点につきましては、基本に全面的に証拠開示がされるべきだという考え方がベースにございまして、いったん裁判所のスクリーニングを経て開示すべきだとなったものについては、検察官の方は原則として従うべきであるという考え方に基づいております。

○ ここで議論してもしようがないので、それはそれにして、2番目に、これは、プレゼンテーションにもあったんですが、制度設計要綱の30ページの裁判員と裁判官の数、裁判官の在り方についてという部分があります。ここで、日弁連の意見では、裁判官の数は2人、裁判員の数は9人、死刑事件については12名となっておりまして、その主な理由として、事実認定に関しては裁判員と裁判官は同等の能力を有すると考えられること、それから、裁判に国民の多様な意見を反映させるという要請があること、これが大きな理由として掲げられると思うんです。
 事実認定に関して裁判員が裁判官と同等の能力を有していることが、なぜ裁判官の数を2人とすることに必然的に結び付くのか、ここに書いてあることから読んでいくとよく理解できないですのですが。制度設計要綱では、裁判員制度は、裁判官の法的知識と一般人の様々な社会経験に基づく事実認定能力を協働させることに最大の意義があるとありまして、裁判官の法的知識と裁判員の事実認定能力と、こういうふうに分けて書いてあるんですけれども、これは、裁判官は事実認定には関与しないという趣旨なのかどうか。そうであるとするならば、審議会の意見書が提言する裁判員制度の導入の趣旨とは異なるのではないかという気がするわけです。意見書では、御存じのように、裁判官と裁判員は共に評議し、有罪、無罪の決定つまり事実認定を行い、刑の量刑を行うこととすべきとしているわけです。
 それからまた、裁判員の数については、裁判に国民の多様な意見を反映させる要請から9人又は12人とされているわけですけれども、事実認定に多様な意見を反映させるという趣旨がよく理解できない。将来のあるべき制度や政策を決定するに当たりまして、国民の多様な意見を反映させるというのならば、よく理解できるわけでありますけれども、事実認定は、過去の事実を証拠によって認定するわけでありまして、証拠の評価が多様な意見によって左右されるというのがよく分からない。こういう場面で働くのは、まさに審議会の意見書が言うように、国民の健全な社会常識ではないのかという気がするわけです。
 また、審議会の意見書では、裁判員は、裁判官と基本的に対等の権限を有することとされているわけでありますけれども、日弁連の指摘するとおり、その裁判員が事実認定に関しては裁判官と同等の能力を有するのであるならば、その数について裁判官の数よりも多くしなければならないということには理論的に結び付かないのではないか。裁判員の裁判内容に対する主体的、実質的関与の確保、評議の実効性の確保という観点から見ても、事実認定に関して裁判官と同等の能力を有し、かつ、基本的に裁判官と対等の権限を有する裁判員を前提とする限り、その数を裁判官の4.5倍又は6倍にする理由というのが、私の方からは若干見出し難いという気がするんです。
 今申し上げましたところは、主に制度設計要綱に書いてあることを前提に、理論的にどうも分からないところを申し上げたわけであります。そこのところを御説明いただければと思います。

(山田氏) 十分お答えができるかどうかは分かりませんけれども、一応私の方からお答え申し上げます。
 法定合議事件というのは3人の裁判官で行う、それ以外にいわゆる単独事件というのがございますけれども、法定合議事件がなぜ3人になっているかということを考えますと、これは、法定合議事件では法律問題が、一般的に特に難しいからということではなくて、法律問題というのは、単独事件でも同じようにあるわけですが、重大な刑罰を科す可能性がある事件であるだけに、事実認定と量刑について慎重を期すということが恐らく3人で合議すべきだということの要請につながっているという理由だと思います。
 そういう点から見てみた場合、今回、裁判官以外に裁判員が加わる場面というのは、まさにそういう事実認定と量刑に関する部分でございまして、一般の国民が、裁判官にプラスして、何人かが多様な社会経験を持った一般市民が、事実認定と量刑に加わるということですので、裁判官が常に3人でなければならないという要請はないのではないか。むしろ、事実認定、量刑については、一般国民が加わることによって、裁判官だけよりはより手厚い判断がその結果、期待できるのではないか。先ほど、私は、イタリアの裁判官が言っておられたことを引用いたしましたけれども、裁判官を増やすということではなくて、裁判官の数が仮に減ったとしても、一般国民が加わることによってむしろ事実認定であるとか量刑については、よりバランスのとれた慎重な判断ができるということになるのではないかと思っております。
 そういう考え方、つまり、裁判官だけが、法律問題だけではなくて、事実認定あるいは量刑についても主体として中心にやるんだという考え方に立たなければ、2人、あるいは、場合によっては、1人でも適切だという考え方が十分あり得ると思っております。
 それから、1対1で、要するに、同等の能力があるというならば数が多くなければならないというのはおかしいじゃないかという御意見がありましたけれども、私どもとしては、裁判官は、やはり法律問題あるいは裁判の経験をたくさん持っているので、1対1、1人対1人で、議論をする能力を含めて、全く対等であると考えているわけではないわけです。むしろ、一般国民が適切な数、参加をするということによって同等の力を発揮できるというふうに考えておりまして、全く裸で、どんな審理を持ってきても1対1で全く対等であるというふうに考えているわけではございませんので、その点は御理解をいただきたいと思います。
 それから、いろいろな社会経験のある人の意見を反映するということについても、多様な意見の反映ということで御質問がございましたけれども、これは、陪審の場合によく言われますが、少数ではなくて、陪審の場合には5人以下であれば、アメリカなどでも憲法違反だという判決が出ておりますけれども、いろいろな経験を持った人たちが、一人一人は、場合によっては、偏った意見を持っているかもしれないけれども、そういう人たちがいろいろな意見をぶつけ合わせることによって、結果として妥当な結論に達するというのが市民参加における考え方だというふうに思っております。そういう意味で、いろいろな意見の方を参加させるということが非常に大事であり、そのためには一定の数が必要であると考えております。

□ 一点確認なのですけれども、8月23日付の基本方針は理事会で決定されたということなのですが、それと実現本部という名前で出ているものとの関係はどうなのですか。いずれも、日弁連の会の総意として採択したということなのでしょうか。さきほどの御説明ですと、必ずしもそうではないような印象を受けたのですけれど。

(山田氏) この基本方針の方は理事会で正式に決定をいたしましたもので、会の意見というふうに御理解いただいて結構です。実現本部となっております制度設計の方につきましては、率直に申し上げまして大変多岐にわたっておりますし、まだこれからいろいろな項目がここで検討されて、多分見直しをしながら検討していかなければならない性質のものだと思っておりまして、とりあえず現時点で会内外で検討の素材として活用するということについての承認を得たということで、内部の細かい条文の提起がすべて日弁連案として固まった、将来とも動かないという趣旨ではなくて、一つの方向性についての提言として十分御検討いただきたい、尊重していただきたいというふうに思っておりますけれども、今、申し上げたようなものだと御理解いただければ結構です。

○ そうすると、私の理解では、これは日弁連のプレゼンテーションで使用される予定であるのでよく読み込んでくれということではなかったかと思います。それで読んで質問したわけですけれども、前提が違ってくるということになるわけですか。

(山田氏) そういう意味で十分検討していただけるのは大変ありがたいわけでありまして、軽いものとして見ていただくというのではなくて、是非ここで生かしていただければ大変ありがたいということです。

○ 今、幾つか私の質問と答えが必ずしも一致しないところがあったんですけれども、そこはままあるのでここはこれでやめておきます。
 3点目に、制度設計要綱の33ページの裁判員の資格要件のところで、普通公共団体の議会の議員の選挙権を有する者とすべきであるとされている点についてです。その理由としては、裁判員制度は、国民が統治の主体として役割を果たすものであって、民主国家の統治の基本は地方自治であると書いてあるんですけれども、裁判作用というのはまさに国権の作用であって地方自治とは関係ないんじゃないか。地方自治が民主国家の統治の基盤をなすということであれば、裁判制度だけではなくて、ほかのものだってみんな普通公共団体の選挙人ということになるだろう。現行法上は、地方自治法と公職選挙法、いずれも日本国民である20歳以上の者というふうになっているから特に問題はないのですが、ここに外国人参政権うんぬんと書いてあります。こうなってくると全然違ってくるわけです。地方自治からいきなりそこにいくのかというのは、私は理屈としてよく理解できないんですけれども、いかがなんでしょうか。

□ そこは、本日の段階では、そういう問題があるという御指摘にとどめていただけますか。それ以上立ち入りますと、議論になると思いますので。

○ 基本的なコンセプトとして、刑事手続を抜本的に改革すべきだということが出てきますが、手続をどの程度大きく変えるかというのは、現状が、言ってみるとどの程度だめか、あるいは問題があるかということと密接に結び付くだろうという気がするんです。そういうことを前提にすると、この現状認識というのは相当ひどいということになるのかどうか、この点をお尋ねしたいと思います。

(山田氏) 大変端的な御質問ですのでこちらも端的に申し上げますけれども、日弁連の刑事弁護センターという刑事弁護を一生懸命やっている弁護士が多く参加している委員会がございますが、そこを中心にずっとシンポジウム等をこれまでやってきておりますけれども、弁護士会では、現在の刑事司法について、先ほど私が申し上げました調書裁判という言葉と人質司法という言葉、これは、ほぼ弁護士の中では共通の理解、皆がそれを共有しているものとなってきております。そういう意味で、現状の刑事裁判について厳しい評価をしている。
 調書裁判は、先ほど申し上げたようなことで、捜査段階で作成された調書が実際の刑事裁判の中で極めて大きな役割を果たしている。仮に弁護側がそれについていろいろ意見を申し上げたとしても、ある段階では実際にほとんど証拠として採用されるということが非常に多いということです。
 それから、人質司法というのは、これも、勾留とか接見交通とか、そういうことに関連をするわけですけれども、基本的になかなか身柄が出してもらえない。そういうことによって、要するに争っていれば保釈が認められないということで、不本意だけれども、ある部分は争いがあるけれども、早く出たいというためにやむを得ず認めるとか、いろいろな形で弊害が出てきているということも随分指摘をされております。そういう意味で、その2点は、何としてもこの機会に是非大きく改革をしていく必要があるというふうに考えております。

□ その点は、審議会のヒアリングでも、本日傍聴されている浦弁護士が日弁連を代表してプレゼンテーションされて、その際の文書に詳しく書かれているのですが、今もそれと基本的な認識は変わっていないということですね。

○ 1点だけすみません。この裁判員制度が刑事裁判に入るということは、弁護士さんのお仕事としては、今まで以上に被疑者、被告人の方との関係がもちろん第一義的には必要なんですけれども、裁判において果たす、あるいは裁判の法廷において必要とされる資質というものも変わってくる可能性があると思うんです。これは、日弁連を代表してというよりも、山田さん個人の御意見で結構なんですが、裁判員制度が導入された刑事裁判において、弁護士としてどのような資質とか能力とか、そういうものを高めていくことが必要と認識されているか。その点について、簡単で結構ですので御紹介くださいますか。

(山田氏) 先ほどから大きな改革をせよということを申し上げておるわけですけれども、率直に申し上げまして、こういう制度が導入された場合に、相当弁護士自体がいろいろな意味で改革を迫られるというふうに考えております。
 一つは、今御質問にありました資質ということにつながるかどうか分かりませんけれども、やはり法廷での弁論とか、あるいは尋問とか、そういう直接主義、口頭主義の要請に耐え得る、そういう弁護活動というのは、これまで弁護士自身が本当にやり切れていたのかどうかということを考えた場合、その点は、これまでの法曹養成のトレーニングの問題を含めて必ずしも十分ではなかったのではないかと、私は個人的には思っております。そういう意味で、いわゆるパフォーマンスだけに流れていいとは私は全く思いませんけれども、法廷での説得というんですか、弁論といいますか、そういうものがやはり弁護士自身に相当要請されてくると考えております。
 それから、もう一つは、弁護態勢といいますか、弁護士の事務所の在り方その他を含めて、こういう集中的審理に対応できる弁護士をたくさんつくっていかなければならない。現在の時点でそれが果たしてどうかと言われますと、それはやはりこれから努力していかなければならない大きな課題ではないか。そういう意味で、一生懸命これから公設事務所のことを含めて努力をしていきたいと考えているところです。

□ 1点だけおうかがいしたいと思います。評決は、秘密投票によることとすべきだとされていまして、これは、フランスの制度などを念頭に置かれていると思うのですけれど、フランスの場合は、評決にあたって設問を幾つかして、それぞれの問についてイエスかノーか秘密投票で答えさせるという形を取っているのですね。そういう方式ですと、判決は、それぞれの問に対する結論をつなぎ合わせるだけのものということになる。例えば、こういう犯罪事実がありましたか、これについて正当防衛の主張がなされているので、正当防衛は成立しますかと、そういうふうに幾つかに分けて質問をし、それぞれについてイエスかノーかを答えさせるという形で決めていくわけですが、そういった結論をつなぎ合わせる程度の判決理由で十分だというふうにお考えなのでしょうか。

(山田氏) これも大変難しい御質問ですが、十分な評議をするということが前提になっておりまして、箇条書き的につなぎ合わせるということではなくて、評議の過程で、今先生が御指摘のような中身について十分議論をし、その争点と争点をつなぐ中身についても一定のコンセンサスを形成していくということは当然期待されているというふうに私どもは考えております。そういう意味で、判決自体が全く箇条書き的なものでいいとは思っておりません。
 ただし、現在のような非常に分厚い判決書が常に要るのかということを考えると、それはやはりそうではないだろうということです。

□ それは、それとして別に検討すべき問題だと思いますけれども、秘密投票ということと実質的な理由についての合意形成ということとは二律背反するように思うのですが。

(山田氏) 私どもとしては、十分な評議をして、その結果、最終的にそれぞれの論点について結論を出すときには、一般の無作為抽出の人たちの中には、よくしゃべる人もあれば、なかなかそういうところでは十分発言できないが、しかし、いろいろな議論を聞いていても必ずしもなびいていない方も多分あるだろうという感じがするものですから、やはりそこのところはきちんと保障していく必要があるのではないかと考えてそういう提案をしております。

□ 裁判官についても秘密投票にすべきだということでしょうか。

(山田氏) 特に区別する必要はないと思っております。

□ 分かりました。ほかによろしいですか。
 それでは、どうもありがとうございました。
 続きまして法務省から三浦刑事法制課長です。よろしくお願いします。

(三浦氏) 法務省の三浦でございます。本日は、この検討会でヒアリングの機会を与えていただきまして誠にありがとうございました。お手元には、「裁判員制度・刑事検討会における当面の論点に関する意見」という表題のペーパーを用意させていただいております。時間の関係がございますので、その要点をかいつまんでお話をさせていただきまして、残りはそのペーパーを御覧いただければと思います。
 まず最初に、今回の刑事司法制度改革の視点がどうあるべきかということにつきまして、私どもの考えているところをお話させていただきたいと思います。我が国の刑事司法におきましては、いわゆる適正手続の確保というものが大事であることはもちろん言うまでもないわけですけれども、それとともに、実体的な真実の解明ということと、それから、犯罪者の改善更生ということが非常に重要視されてきたと考えております。我が国におきましては、手続さえ適正に行われていれば、結果は誤ってもいい、あるいは、誤っていてもやむを得ないという考え方は、一般的には受け入れられていないと考えているところであります。大多数の国民は、真犯人でない者が犯人として処罰されるということが許されないのは当然でありますけれども、それと同時に、処罰されるべき真犯人が処罰をされないで済まされてしまうということも、やはり許されないという感情、正義感を有しているというふうに考えているところであります。
 このように、事案の真相を解明して真の犯人に反省を求め、事案に応じた適正な処罰を科するということこそ、国民が刑事司法に求めているものでありまして、公益の代表者であります検察官は、そのような国民の期待に十分こたえなければならないと考えております。また、現にそのように努めてきたからこそ、刑事司法は、一般の国民の信頼と理解を得てきたものというふうに考えているものであります。
 また、現在の社会といいますか、社会全体が事後監視・救済型の社会に移行するということにつれまして、社会のセーフティネットとしての刑事司法の役割は一層重要なものになるというふうに考えられます。
 他方、我が国の刑事裁判の実情を見ますと、司法制度改革審議会の意見でも指摘されておりますとおり、通常の事件につきましてはおおむね迅速に審理がなされているものの、国民が注目する、特に重大な事件にありましては、第一審の審理だけでも相当の長期間を要するものが珍しくなく、この点の改善なくして国民の期待にこたえる刑事司法はあり得ないというふうに考えるところであります。
 こうした国民の期待にこたえる刑事司法の改革を実現するために、審議会意見が提示した施策を一体的、総合的に推進することが重要であると考えております。すなわち、例えば、裁判員制度の導入は、裁判員の負担を軽減しつつ、充実した審理を行うという観点から、刑事裁判の迅速化の重要な契機となるものであります。このように、各施策は密接に関連しておりますので、全体としてバランスのとれた制度を構築することが必要であるというふうに考えております。
 その制度設計に当たりましては、今申し上げましたような、国民が求めている実体的真実の追求と犯罪者の改善更生に向けての努力を軽視いたしますと、刑事司法が国民の信頼を失うということにもなりかねないわけでありまして、この点に留意する必要があります。刑事司法制度改革を考える上では、このような我が国の刑事司法の長所を生かして発展させ、強化するということが重要であると考えます。
 こういった基本的な視点に立ちまして、以下、各論点について若干述べさせていただきます。
 まず最初に「刑事裁判の充実・迅速化」についてであります。
 第一に、刑事裁判の充実・迅速化を実現するためには、審議会意見が提言するとおり、十分な争点整理のための新たな準備手続を創設する必要があると考えます。特に、裁判員制度対象事件につきましては、裁判員にとって分かりやすい裁判を実現するとともに、可能な限り審理期間を短くして裁判員の負担を軽減するという見地から、その他の事件と比べて、より徹底した争点整理が必要不可欠であると考えられます。
 そこで、以下、裁判員制度対象事件における争点整理の在り方を念頭に置きまして意見を述べさせていただきます。
 まず、準備手続の主宰者につきましては、公判審理の充実・迅速化のために行うという目的からすると、受訴裁判所が主宰するというのが効率的かつ合理的であると考えております。
 それから、争点整理の在り方ですけれども、事前準備において十分な争点整理を行うためには、事案に応じて相当具体的に主張が明らかにされる必要がありまして、被告人側におきましても、最低限検察官の主張に対し、具体的に争点を明示する義務を負うというものとすべきであります。また、準備手続におきましては、主張の交換による争点整理のみならず、証拠の取調べ請求も行い、裁判所において、可能な限り、その採否決定を行うものとする必要があります。
 そして、準備手続における争点整理の実効性を担保するためには、例えば、準備手続段階で明らかにしなかった主張あるいは証拠調べ請求をしなかった証拠については、原則として公判段階で提出することが許されないものとすることや、被告人自身の行動など、被告人の応答を十分に期待できる部分につきましては、争点を明らかにしない場合、何らかの不利益措置を講ずるということも検討に値するものと考えられます。
 2番目といたしまして、刑事裁判の充実・迅速化を実現するためには、十分に争点整理が行われ、明確化された争点を中心に連日的開廷による集中審理が行われるようにすることが不可欠でありまして、そのための手段の一つとして証拠開示の時期、範囲等についてのルールの明確化が求められるものと考えられます。しかしながら、証拠開示の拡充には、証人威迫、罪証隠滅や関係者の名誉、プライバシーの侵害などの弊害を伴うおそれがありまして、審議会意見も指摘するように、証拠開示のルールを検討するに当たっては、これらの弊害を防止することができるようなものとする必要があります。
 こうしたことを踏まえまして、証拠開示の時期、範囲等に関するルールは、争点整理と関連付けられたものとすべきであります。
 ルールの具体的在り方については、今後更に検討する必要があると思いますけれども、当事者主義の基本原則でありますとか、証拠開示に伴う弊害を防止する必要といったものを踏まえたものとすべきでありまして、また、証拠開示とセットで争点整理の実効化のための措置を導入して裁判の充実・迅速化に資するものとすべきであると考えております。
 検察官手持ち証拠の全面的開示を求める見解がありますが、これは、今申し上げましたような証拠開示のルール化の趣旨に沿わないものであり、また、現行の当事者主義的訴訟構造にも矛盾するものでありまして、およそとることができないと言わざるを得ないと考えております。
 3番目といたしまして、「連日的開廷の確保のための関連諸制度の整備」といたしまして、連日開廷の原則を法律に明示することに加え、例えば、2年以内というような、起訴後一定期間内に第一審の判決をするよう努めるものとする旨の規定を法律に設けるということも十分検討に値すると考えております。
 4点目ですが、「直接主義・口頭主義の実質化を図るための関連諸制度の在り方」についてであります。直接主義・口頭主義の実質化のために必要なことは、争いのある事件につきまして、集中審理の下で、明確化された争点をめぐって当事者が活発に主張、立証を行う公判審理を実現するということであります。
 この点に関連しまして、裁判員制度の導入に伴い、伝聞法則を徹底し、自白調書や検察官面前調書等の供述調書を証拠にすることはできないということにすべきであるという見解がありますけれども、裁判員が関与するからと言いましても、争いのない事実についてまで証人尋問によって立証しなければならないというのは合理性がありません。さらに、事案の真相の解明という要請に照らしましても、現在以上に書面の証拠能力の要件を厳格化する必要はなく、また適当でもないというふうに考えております。
 さらに、裁判官、裁判員が公判廷外で公判記録を読むことを禁止すべきであるという見解もありますけれども、公判廷において、長時間にわたる証人尋問などを一度聞いただけですべて記憶し、他の証拠と対照して何が真相であるのか心証を得るというのは不可能な場合も多々あると言ってよいと思われます。証拠として採用された供述調書等の書証はもとより、証人尋問調書についても、裁判官、裁判員が必要に応じてこれらを読み直すことは当然許されるべきであると考えております。
 それから、5点目といたしまして、裁判所の訴訟指揮の実効性を担保するための具体的措置であります。簡単に申しますと、こういった刑事裁判の充実・迅速化の実効性を担保するためには、やはり、裁判所の訴訟指揮に当事者が従わなかった場合に一定の制裁を加えることができる制度、あるいは、弁護人が訴訟指揮に従わずに退廷、欠席した場合でも、審理を空転させないで対処し得るような何らかの制度の導入というものも検討すべきであるというふうに考えております。
 6点目といたしまして、「捜査・公判手続の合理化・効率化を図るための方策」についてであります。これにつきましては、争いのある事件についての審理の充実・迅速化を図る裏返しといいますか、その関連で、やはり、争いのない比較的軽い事件の処理、捜査・公判につきましては、例えば、略式手続の対象事件の拡大など、既存制度の改革が考えられますほか、いわゆる有罪答弁制度の導入というものも検討に値するというふうに考えております。
 次に大きな柱としまして、刑事訴訟手続への新たな参加制度、いわゆる裁判員制度の導入について意見を述べさせていただきます。
 まず1番目といたしまして、「裁判官と裁判員の役割分担の在り方」でありますが、法律解釈や訴訟手続上の問題についての判断は、やはり、判例・学説等を踏まえて専門的な知識、判断に基づいて統一的になされる性質のものでありますから、職業裁判官にゆだねられるべきであると考えております。
 2番目としまして、「裁判体の構成」についてでありますが、裁判員と職業裁判官とがそれぞれの長所、持ち味を生かしつつ、いずれもが、主体性を失うことなく、相互の信頼関係の下で十分なコミュニケーションをとりながら協働していくためにも、また適正な判断の確保という点や国民の負担の軽減といった観点からも、少人数の裁判体が適切であるというふうに考えております。
 3番目といたしまして、「裁判員の選任方法・裁判員の義務等」についてでございますが、裁判員の選任につきましては、欠格事由や除斥事由、忌避制度などを含めまして、公平な裁判所による公正な裁判が確保できるような適切な仕組みを設けることが不可欠であります。また、当事者に理由を示さない忌避を認めることも必要であるというふうに考えております。
 「裁判員の義務等」につきましては、裁判員候補者や裁判員に出頭の義務や評議等に関する守秘義務を課すことや、裁判員が法廷外において担当事件に関する情報を得ることを禁止することなどが考えられます。そのほか、裁判員の保護、さらには、法廷外における裁判員の接触の禁止等も必要であると考えられます。
 4番目といたしまして、「対象事件の範囲」でありますが、審議会意見の趣旨などを踏まえますと、法定刑の重い、いわゆる法定合議事件のうち、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件といったものも一つの考え方と思います。なお、裁判員に対する危害や脅迫的な働きかけのおそれが考えられるような組織的な犯罪、あるいは、テロ事件などの特殊な事件につきましては、対象事件から除外することも検討の余地がありますが、第一義的には、裁判員に対する保護措置を講じた上で、裁判員制度が機能するように努力するべきものであるというふうに考えております。
 それから、「公判手続の在り方」でありますが、検察官調書等の証拠書類をより分かりやすいものとしたり、書証の朗読方法を工夫するなどの手当てを図った上で、職業裁判官が記録の見方など、技術的な事項について裁判員の知識を補うなど、運用上の工夫をすべきものと考えております。
 「上訴の在り方」につきましては、控訴審は、現行制度同様、職業裁判官が裁判体を構成し、いわゆる事後審として審議を行う方法で検討するのが相当であると考えております。
 最後に、「公訴提起の在り方」について、これも、ごく要点だけ申し上げますと、まず「拘束力のある議決の種類・要件」でありますが、不起訴相当の議決のみに拘束力を要するのが相当であると考えております。
 そして、検察審査会が拘束力のある議決をする場合には、あらかじめ検察官の出席を求め、その意見聴取を必要的なものとすべきでありますし、検察審査会が拘束力のある議決を行う前に、検察官が、検察審査会の指摘、疑問を踏まえて再捜査し、処分を再考する機会が認められる必要があるというふうに考えております。
 それから、「拘束力のある議決後の訴追及び公訴維持の在り方」についてでありますが、公訴維持の主体は、やはり、裁判所が検察官の職務を行うものとして指定した弁護士、指定弁護士といったものとするのが相当であると考えております。
 以上でございますが、なお、取調べ過程・状況の記録制度につきましては、司法制度改革推進計画におきまして、被疑者の取調べの適正を確保するため、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入することとして、平成15年半ばころまでに所要の措置を講じるということとされておりまして、法務省におきましては、取調べに関する運用の在り方や組織の在り方を踏まえた、技術的、実務的な見地からの検討を行っているところであります。また、法務省のほか、捜査機関を所管する関係省庁の対応の統一を図るために、取調べ過程・状況の記録制度に関する関係省庁の連絡会議というものを既に設置してございまして、法務省といたしましては、今後とも関係省庁間で緊密に連携しながら適切に対応してまいりたいと考えております。
 以上でございまして、その他の点につきましてはペーパーを御参照いただければと思います。以上でございます。

□ どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御意見について御質問のある方、どうぞ。

○ 改革審の意見で、裁判員事件については、特に直接主義・口頭主義の実質化ということが盛んに言われているわけでありますけれども、改革審の意見は、同時に、現在の証拠法のシステム全体を大変革しろというところまではいっていないわけでありまして、御指摘にあったとおり、調書というものが今後も証拠になる可能性は幾らでもあるわけですし、裁判員事件でありましても、争いのない事件も裁判員事件になる可能性があるわけですから、そのような場合にはやはり調書が証拠になるという事態が想定できるわけです。
 しかし、一方で、裁判員の方がいらっしゃるというときには、直接主義・口頭主義の実質化ということがやはり重要なわけで、そういう前提を踏まえて、検察官として将来公判を担当する場合に、例えば証人尋問のやり方ですとか、あるいは捜査におけるこれまでの調書のつくり方、そういうところにやはりそれなりの違いは出てくるだろうし、いろいろとそれに対する対応もお考えになっていると思います。その辺りの御意見があればお聞かせいただければと思います。

(三浦氏) 裁判の充実・迅速化ということが、特に裁判員制度の下で強く要請されるということでありますが、先ほども申し上げましたように、あるいは、意見書の中で述べられておりますように、直接主義・口頭主義といったもののポイントは、要するに、争いのある事件について、まさに、集中審理の下で、整理された、明確化された争点に絞って当事者が活発に主張立証をし合うということにあるんだろうと思います。
 したがいまして、何と言っても、争点整理をきちんと適切に行うということが大前提であると思います。それを行った上で、明確化された争点について充実した審理を迅速に行うということなんだろうと思います。ですから、言ってみれば、充実・迅速化あるいは口頭主義・直接主義というものの結果として、不十分な資料ですとか、あるいは、あいまいな記憶で裁判をしてほしいということでは決してないんだろうと思いますので、委員もおっしゃるとおり、書証、書面というものも、そういった貴重な証拠資料として活用されるべきであろうと考えております。
 ただ、裁判員制度を前提にいたしますと、そういった書証を含む証拠を分かりやすく提示して、適切な判断がされるような仕組みといいますか、運用といったものは工夫する必要があるだろうと考えております。したがいまして、例えば、証人尋問であれば、その争点に絞ってポイントを突いた尋問を行う、あるいは、反対尋問を行うといったことも重要ですし、争いのない事項については、書証を活用して立証を合理化する、同意書面で立証するということも必要でしょうし、また、書証の取調べにつきましても、少なくとも重要書証については、朗読あるいは丁寧な要旨の告知といったものも必要であろうと考えます。捜査におきましても、そういった公判における書証の活用あるいは朗読、要旨の告知を念頭に置いて、より簡にして要を得た分かりやすい調書といったものが運用上も必要になるのではないかと考えているところでございます。

○ 日本の治安が悪化しているというのは、警察庁からも御説明があったとおりだと思っているわけで、当然刑事司法もそれに対して有効に対処しなくてはいけないというふうに考えるわけです。
 ところで、今回の改革によって裁判員制度が導入されると、判断主体も変わってくるし、準備手続の徹底というような形で立証方法も変わってくる。およそ捜査というのは常に司法というか、裁判の在り方をにらみながらされるものだと理解しているわけですけれども、そうなってくると、新しい裁判制度が、何らかの影響を、その立証の仕方ではなくて、捜査そのものに一定の影響を与えるという可能性は否定できないわけだと思うんです。その点について、法務検察としてはどのようにお考えになり、何かの対策をとっておられるのかどうかという点についてお伺いしたいと思います。

(三浦氏) 直接的なお答えになるかどうか分かりませんが、御承知のように、近年非常に犯罪が増えて凶悪犯罪が激増している。それから、外国人犯罪も増えているということでございまして、その中身も、非常に複雑、巧妙化しておりましたり、組織犯罪といった形で、犯罪の組織化ですとか国際化といったものも非常に進んでいるということでございますので、裁判員制度を含む刑事司法の手続の変革ということを離れましても、犯罪の実情自体が非常に捜査を困難にしてきているということは言えるんだろうと思います。冒頭に申し上げましたように、国民が事案の真相を解明して犯人に対して適切な科刑をして改善更生をさせるということを期待しているとすれば、やはり、そういう困難な犯罪情勢に対して、捜査機関においても、捜査能力の向上のため当然日々努力しなければいけないことでありますけれども、捜査手法を含めていろいろと研究、検討を続ける必要はあるだろうと思っております。
 審議会の意見の中でも、新たな時代における捜査・公判手続の検討が指摘されておりますし、具体的にも、刑事免責を含む新たな捜査手法でありますとか、あるいは、参考人の供述確保なり保護の措置といった新しい課題というものも検討課題として挙げられておりますので、私どもとしても、そういった課題を引き続き考えていきたいと考えております。

○ たくさんあるんですけれども、とりあえず2点伺いたいと思います。
 一つは、証拠開示の関係ですけれども、証拠開示のルールの決め方について、当事者主義の基本原則ということを挙げておられます。これは2か所で出てきますけれども、持っている当事者の自由にゆだねるということではないという御理解で法務省もあろうとは思うんです。つまり、事実の解明を裁判所との関係での当事者に任せるとか、あるいは、そういう場合に両当事者の間での武器の対等とか公正とかフェアとかということも、恐らく当事者主義という言葉の中に当然含まれて御理解いただいていると思うんです。そうだとすると、特にそのフェアという点から御覧になったときに、具体的な証拠開示に関するルールについてはどんなものをお考えでいらっしゃるのかという点です。
 もう1点は、裁判員制度ですけれども、刑事司法の点、刑事司法改革の点からの裁判員制度についての御意見を承りましたが、意見書では、もう一面、国民参加という点、先ほどのヒアリングで、連合の長谷川さんは、統治主体ということをおっしゃいましたし、日本経団連の中川さんは、公共精神の学校という言葉をお使いになりましたが、そういった側面から、法務省としては、この制度の具体的な制度設計について、そういった精神をどのように生かしていこうというふうにお考えなのか。その2点について承りたいと思います。

(三浦氏) 当事者主義の原則の関係につきましては、フェアということをお話になりましたけれども、我が国の公判で当事者主義がとられているということは、基本的には、それぞれの当事者が証拠を収集して主張立証をし合い、その活動の中で真実が発見されて裁判所が心証を得ていくという仕組みを前提にしているんだろうということでありまして、一方の当事者が収集した証拠を、他方の当事者が、言ってみれば、全面的に見るとか、一定の範囲で必ず見るという性質のものというのは、その当事者主義の考え方からは出てこないのではないかというのが申し上げた趣旨であります。
 それで、具体的なルールにつきましては、今後検討されるべき事柄であると思いますけれども、そういった当事者主義の原則というものも踏まえた上で、先ほど申し上げましたように、もともとこの証拠開示というのは、刑事裁判の迅速化の一つの手段として、争点整理をきちんと行っていくために、そのルールの明確化の必要があるということで組み立てるべきものだと考えておりますので、そういった目的ですとか、審議会の意見書にも触れられているような証拠開示による弊害の防止といったものを踏まえまして、具体的に検討されるべきものだろうと考えております。
 それから、裁判員制度の国民参加の意義でありますけれども、これは、審議会の意見書にも触れられておりますが、国民が裁判官、職業裁判官と協働して評議をして結論を出していくということの中で、そこに国民の健全な社会常識を反映させることによって、その結論に対する国民の理解、支持を得る、それによって、司法が国民的基盤を確立するということなんだろうと考えております。そういう意味で、いわゆる統治主体の議論ということは私どもの観点とは違うのかなというふうに思っております。

○ 今、少し話題になったことなんですが、争点整理として御主張のところのイメージでちょっと分からないところがあるのでお教えいただきたいんですが、受訴裁判所が主宰されるということで、その後、具体的に争点整理に当たっては、検察官の主張に対して具体的な争点を明示する義務を被告人側にも負わせるというような御主張でいらっしゃいますね。それで、その場合にどの程度までの中身を一体想定されているのかですね。その後を拝見しますと、裁判所においては、可能な限り証拠の採否を決定するということになっています。ただ、この範囲では証拠の中身についてまで触れることを前提にしているわけではないんだろうと思うんですが。
 それと証拠開示との関係なんですが、サンクションまで用意して争点整理に応じることを要求するとすると、当然のことながら、その証拠が前提としてある程度分かっていないと対応できない場合というのが起こってくるのではないか。そうなってくると、それは、受訴裁判所が対応して、そこまでの手続を進めるとなったときには、今度は受訴裁判所が関与したことによって、裁判員制度だったりした場合に、裁判員との間に、予断排除の問題はともかくとして、情報格差が起こってくるということは、当然想定されることになる可能性もあり得るわけですね。ですから、その辺の関係をどう見ていらっしゃるのか。
 それから、弁護側つまり被告人側が争点整理に応じる義務があるというようなことになったとき、それからそのルールをつくるときに争点整理との関係で証拠開示の関係の整理を主張されているわけですけれども、そうなったときに弁護側が争点について具体的提示をした場合、つまり検察側の主張に対応する形でない形で反論を用意するというのは当然あり得ることですね。そういうことで、弁護側が争点を設定したときには当然その争点にかかわって証拠開示というものも認められるべきだということになるのか。その辺をも含んだ御主張だというふうに理解していいのかどうかということです。幾つかアトランダムにごちゃごちゃに言いましたが、申し訳ありません。

(三浦氏) いろいろ絡んでおりますので、結論的に、こういう形のルールがいいと、今全体像がお示しできる状況にはございませんが、考え方として、既に現在も検察官は請求予定の証拠を開示する仕組みになっておりますし、結局、それを超えてどこまで何を開示する仕組みにするのかという議論をする場合には、やはり、争点整理を行って充実・迅速化に資するという考え方を外してはいけないだろうと思っております。したがいまして、被告人、弁護人の方で争点を明示した場合に、それとの関連で証拠開示というものを考えるという考え方があり得るんだろうということが一つでございます。
 それから、裁判所、特に、受訴裁判所が証拠の中身に触れることについては、御指摘のとおり、予断排除の問題ですとか、あるいは、裁判員との関係とか、更に検討すべき問題はあろうかと思っております。ただ、まさに連続的、連日的な開廷を行う、訴訟を迅速化するということを考えた場合には、できる限り争点を整理する、主張の整理にとどまらず、可能な限り証拠の整理というものも行うことが望ましいわけでありまして、そういう意味からすると、請求証拠についての争いというのはいろいろな形があり得るところではありますけれども、可能な範囲で裁判所がその採否を決定するという仕組みというのは不可能なことではないのではないか、あるいは、検討すべき課題ではないかと考えているということであります。それは、あくまでも争点を整理する限り、あるいは、証拠の採否を決定する限りで裁判所が関与するということでありまして、裁判員との情報の格差というのは一つの考慮すべき点かもしれませんけれども、そのこと自体で不可能になる話ではないという感じがいたします。

○ 今日いただいた意見書の8ページの裁判体のお話なんですが、少人数の裁判体とか、比較的少人数の裁判体とかという表現が出てきていますけれども、どのくらいのイメージで法務省は考えていらっしゃるんですか。

(三浦氏) この点は、特に今の段階で具体的な数字を明示いたしませんでしたが、私どもの考えておりますことは、ここに記載したとおりであります。最終的に、具体的にどのくらいの数字が適当かというのは、恐らく制度全体の絡みの中で決まってくる話であろうかと思っておりますので、今の段階で具体的に何人という形の数字はお示しいたしませんが、こういった趣旨を踏まえて、少人数の裁判体ということで構成されるべきであるというふうに考えているということでございます。

□ 時間が押せ押せなもので、申し訳ないのですけれども、このくらいにさせていただきます。どうもありがとうございました。
 それでは、長い時間お待たせして申し訳ございませんでした。最後になりますけれども、最高裁判所の今崎刑事局第一課長から御意見をお願いしたいと思います。

(今崎氏) 裁判所の意見につきまして、詳細はお手元に配付いたしました書面のとおりでございますので、以下要旨について申し述べたいと存じます。
 まず、裁判員制度につきましてですが、司法制度改革審議会意見は、刑事訴訟手続におきまして、広く一般の国民から選任された裁判員が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきであると提言したわけでございます。そこで、裁判所は、裁判員制度が導入されれば、その制度運営の主要な担い手となるわけでございまして、そのような立場から、まず踏まえるべき基本的な考え方を3点ほど指摘したいと存じます。
 一つ目は、「裁判官と裁判員との間の適切な協働関係の確保」ということでございます。審議会意見は、裁判員制度の意義として、裁判官と裁判員とが相互のコミュニケーションを通じてそれぞれの知識、経験を共有し、その成果を裁判内容に反映させる点にあると指摘しております。そのためには、法曹と国民とが相互の信頼関係を基礎にし、互いに長所を生かし合い、足りないところを補い合う適切な協働関係が確保されるということが不可欠であります。
 具体的な制度設計に当たりましては、両者の間に十分かつ適切なコミュニケーションが確保され、それによって、裁判員が審理の内容を十分に理解した上で裁判官と実質的な評議を行い、その結果として両者の意見が反映された裁判内容が決定されるような仕組みが考慮されなければならないと考えます。これにより、適正な手続の下で真実を解明するという刑事司法の目的を実現しつつ、一般国民の視点を刑事裁判に反映させ、刑事裁判をより国民に身近で分かりやすいものにする、そして、裁判に対する国民の信頼を一層高めることになるというふうに思うわけであります。
 2点目は、「国民の負担」の観点でございます。裁判員制度の導入に当たりましては、国民の負担という観点が特に重要であると考えます。裁判員制度の導入は、裁判員として参加を求める個々人に対してはもとより、社会全体に対し大きな負担を負わせることになると考えます。これが国民に受け入れられ、進んでその協力を得られるためには、裁判員制度についての十分な理解が前提となることはもちろんですが、参加を求められる裁判員にとって負担の少ない手続とすることが強く求められると考えます。
 3点目は、「憲法との関係」でございます。裁判員制度の憲法適合性の問題につきましては、種々議論がございまして、いまだ十分に収れんしているとは言えないと考えます。前回も熱心な御議論をいただいたところでございますが、裁判所といたしましては、特に裁判体の構成及び評決の在り方について、この観点から慎重に検討する必要があると考えているところでございます。
 続きまして、「裁判員制度の基本的枠組みについて」を申し述べます。まず、「対象事件の範囲」ですが、裁判員が参加する対象事件については、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい法定刑の重い重大犯罪とすべきであるとの審議会意見の趣旨を踏まえ、かつ、対象事件の範囲が先ほど申しました国民の負担に直結するという問題も合わせ考えますと、少なくとも制度導入の当初においては、特に重大な事件に限定するというのが相当であると考えます。
 例えば、死刑又は無期刑を法定刑として含む罪、あるいは法定合議事件のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪のうち、いずれかとすることが考えられると思います。
 2番目に「裁判体の構成」でございます。裁判官と裁判員が、共通の証拠を吟味し、問題点について実質的な評議を行い、判決として国民に分かりやすく示すということは重要でありまして、裁判体の規模もこのような協働作業が実質的にされるようなコンパクトな構成とすべきであると考えます。
 3番目に「裁判員の権限」であります。裁判員は、事実認定及び量刑について裁判官と同等の評決権を有するものとすべきであります。他方、法律解釈及び証拠の採否などの訴訟手続上の判断は、裁判官が判断するとするのが相当であると考えます。
 4点目に「上訴の在り方」ですが、控訴審は、事後審として第一審判決の当否を審査するという専門性、技術性の高い判断を求められます。また、控訴審では書面審査が中心となります。一般国民の健全な社会常識を反映するという裁判員制度の趣旨に照らせば、控訴審に裁判員制度を導入することはその意義に乏しく、かつ、裁判員にも過重な負担を求めるものでありまして、控訴審については裁判官のみの構成とすることが相当であると考えます。
 なお、控訴審裁判所が裁判員の参加した第一審裁判所の事実認定や量刑を尊重するようにするため、制度上、運用上の手立ての要否については検討も考えられると思います。
 次に、「裁判員選任手続の在り方」について申し述べます。裁判員の選任方法につきましては、選挙人名簿から無作為抽出したものを母体とすべきとする審議会意見を前提とし、かつ、裁判体の規模でありますとか、裁判員の負担等を考慮しますと、公平な裁判を保障するという観点から、一定の選定手続を経るとともに、裁判員としての責任を果たすことが著しく困難と思われる者については免除を認めるなどして、裁判官と協働して裁判内容の決定に関与するにふさわしい者を選任するということが考えられます。
 なお、具体的な制度設計に当たりましては、その手続自体に伴う裁判員候補者の負担を軽減するため、召喚前の調査、質問等を活用することなどを検討する必要があると考えます。
 4番目に「公判手続等の在り方」でございます。裁判員制度の下でも、適正な手続で事案の真相を明らかにするということを刑事手続の目的とすることは同じであります。また、それを可能とする刑事訴訟の基本構造にも変わりはないと思います。ただ、裁判員が実質的に評議に参加し判断するというためには、裁判員が理解しやすいような審理を実現すること、できる限り審理を集中して裁判員の負担を軽減することが重要であるということは申すまでもございません。
 そこで、まず一つ目に、十分な争点整理を前提とした審理を実現することが重要であり、後にも述べます、新たな準備手続において、争点整理を徹底して行うことが必要であると考えます。また、裁判員に証拠調べの内容を理解してもらうために、争いのない事実と争点とを区別し、証拠調べを争点に集中することが重要であると考えます。争いのない事実については、書証の同意による取調べや合意書面等を活用し、争点に絞った証人尋問を徹底する必要があると思います。
 審理の長期化を避ける必要があり、十全の審理計画に基づき、連日的開廷を原則とする集中的な審理を実現する必要があると思います。その前提としては、新たな準備手続において争点整理を前提とする審理計画の立案を徹底するとともに、連日的開廷に耐えられる弁護士の態勢の整備も必要となると思います。
 第2に、「刑事裁判の充実・迅速化について」の意見を申し述べます。
 一つは「充実・迅速化に関する基本的な考え方」でございます。我が国の刑事裁判は、大部分の事件については、おおむね迅速な審理がされていると考えます。しかし、なお一部の事件について審理が長期化しているということについては、改めて申し上げるまでもございません。先般、司法制度改革推進本部の顧問会議によるアピールを受けまして、小泉総理が裁判の結果が必ず2年以内に出されるよう提唱されたわけでございますが、これは多くの国民の率直な感覚を反映したものであろうと思います。刑事裁判のこれからの姿を検討するに当たり、この点は十分念頭に置いておく必要があると思います。
 取り分け、裁判員制度を導入した場合には、裁判員の理解や記憶の保持を容易にして裁判官との実質的な評議を確保するとともに、その負担を軽減するため、特に、審理の充実・集中化を図り、連日的な開廷を行って迅速な裁判を実現することが不可欠であります。
 そこで、「新たな準備手続の創設と証拠開示のルール化」ということに入らせていただきます。
 まず、「新たな準備手続の創設」であります。刑事裁判の充実・迅速化のためには受訴裁判所が主宰する新たな準備手続を創設するとともに、その実効化を図るため、当事者に争点の明示義務を課すことが肝要であります。新たな準備手続において、検察官、弁護人は、そこに書いてございますような、それぞれの点を、そして、受訴裁判所は、それぞれ3、4にあるような点を行うということは、一つ考えられると思います。
 第2点に「証拠開示の拡充」でございます。争点整理を徹底させ、公判の当初から集中審理を実現するためには、適正な範囲での証拠の開示が行われることが不可欠であります。そのため、新たな準備手続において、検察官が事案の解明に必要な証拠を早期に弁護側に開示するとともに、弁護人が検察官請求証拠以外の証拠開示を請求した場合に、裁判所が、検察官の意見を聞いた上で、開示の当否について裁定する手続を設ける必要があると思います。もとより、適正な範囲での開示の判断基準のルール化が求められるということになると考えます。
 続きまして、「争点中心の証拠調べの実施」であります。新たな準備手続において、争点を明確化した上で、争いのない事実関係については同意書証あるいは合意書面を活用し、争点の判断に真に必要な証人尋問を行って、争点中心の証拠調べを実施する必要がございます。なお、自白の任意性、信用性が争点となった場合には、取調べの過程や状況に関する必要な判断資料を確保し、適正かつ迅速に審理、判断することができるような制度上、運用上の方策を講じることができれば、審理の迅速化、充実化に資するところが大きいと考えます。審議会意見が取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入すべきと提言していることからすれば、自白の任意性、信用性が争点となった場合には、少なくともこの記録を証拠として取り調べることが運用上、制度上確保できなければならないと思います。
 4番の「審理の充実・迅速化を担保するための方策」でございます。まず、争点整理を徹底した上でも、多数の証人尋問が必要となる事件というものはどうしてもございます。開廷間隔を短縮し、連日的開廷を行うため、連日的開廷が原則であることを法律上明示するとともに、公職選挙法の100日裁判の規定に倣い、審理期間や開廷ペースについて法定化することが有効であると考えます。
 次に、迅速な裁判を実現していくために、適切な訴訟指揮権の行使と、当事者がこれに従うというルールが不可欠であります。そこで、訴訟指揮権の強化を図るとともに、当事者の不当な言動、逸脱的な訴訟活動等に対する有効かつ適切な規制が加えられるようにすることを検討する必要がございます。
 3番目に、審理が長期化している事件の中には、検察官の起訴事実すなわち訴因が多数に上るため、必要な証人数が極めて多く、以上のような手段を尽くしても、なお審理に長期間を要するような事件もございます。このような事件については、起訴のありようをも視野に入れた検討が必要であろうと考えます。
 最後に、連日的開廷を原則とする集中審理を実現するためには、特定の事件に専念し、連日的、集中的な期日指定に応じ、かつ、実質的に検察官と対等に訴訟追行を行い得る弁護態勢を構築する必要があると思います。
 第3に、「検察審査会制度の在り方について」簡単に付言いたします。「検察審査会の機能の充実・強化等」につきまして、まず、検察審査会の起訴相当の議決については、検察官が不起訴にした事件を起訴して裁判にかけるべきという判断を示したものでありますから、この起訴相当の議決に法的拘束力を与えるべきであると思います。なお、検察官に再捜査の機会を与えなければ起訴相当の議決をすることができないとすることについては、検察審査官の意見を公訴権行使に直裁に反映させるという点からは問題がないかという気がいたします。
 次に、審査手続の充実でございます。検察審査会の議決に公訴提起の効力を認めるためには、検察審査会の審査手続の充実を図り、十分な審査と適正な判断を保障することが必要であります。そこで、検察審査会が起訴相当の議決を行うためには、検察官から必要的に意見聴取を行う制度が考えられます。また、検察審査会が起訴相当の議決をするに際しては法律専門家による助言を求めることのできる制度が確立される必要があると思います。
 最後に、検察審査会の機能の充実・強化を図る上では、大都市での事件数の増加と審査の長期化に対応する必要がある一方で、事件数が極端に少ない庁も見られるなど、配置が著しくアンバランスとなっている点も考慮する必要があると思います。検察審査会の配置を合理的なものに組み直すということも必要であり、検察審査会法の改正を検討する必要があると思います。 以上でございます。

□ どうもありがとうございました。それでは、ご質問をどうぞ。

○ 3点ほどお聞きしたいと思います。まず、7ページに、当事者には争点の明示義務を課すべきであるとありますが、検察官はともかくとして、被告人側に明示義務を課すということと黙秘権との関係については、どのような御意見なのかというのが第1点であります。
 第2点目は、8ページで、弁護人が検察官請求証拠以外の証拠開示を請求した場合とありますが、この場合の弁護人が証拠開示を請求する場合の特定性についてはどのようにお考えなのか。例えば、被告人の職務権限に関する証拠を開示されたいという程度の特定でいいのか。そうではなくて、証拠の題目、表題まで特定して請求しなければいけないというふうにお考えなのか。その点についての御意見をお願いします。
 3点目は、11ページで、起訴のありようも視野に入れた検討が必要であろうとありますが、訴因多数といった場合に、3つの形態が考えられると思います。一つは、被害者が全くいない犯罪で訴因がいっぱいあるという場合、それから、被害者は一人だけれども訴因はいっぱいあるという場合、被害者そのものが多数であるという場合、前二者はその訴因を絞り込むということについては余り問題はないかもしれないと思います。しかし、被害者そのものは多数いるという場合、日本では余り例はありませんが、将来50人、100人の連続殺人事件が起きた場合に、100人も被害者がいたのでは、とてもじゃないから2年間では終わらない、だから、本当は殺人の被害者は100人いるんだけれども、それを5人にしてくれというようなことをお考えなのか。その3点について御意見を伺いたいと思います。

(今崎氏) まず1点目の争点の明示義務の点でございますが、これは、もちろん制度設計の在り方次第では、黙秘権との関係を十分考えなければいけないというふうには考えております。したがいまして、これはまさしく制度設計次第であろうとは考えられます。
 ただ、申し上げたいのは、やはり新たな準備手続が機能するためには当初の段階できちんとした争点整理がされることが必須でありまして、そのためには準備手続の段階では結局何もしないでいいんだという制度にしてしまったのでは、その実が上がらないだろうという問題意識があるわけでございます。ただ、○○委員が御指摘のような点はもちろん考えられると思いますので、そういった点について目を配りながら制度設計を考えていく必要があるということは考えております。
 それから、証拠開示について弁護人の証拠開示の請求の特定性はどの程度であるかという御質問についても、私どもとしては、まだその証拠開示の具体的なルールについて、こういったものといったところの確たる意見があるわけではございません。やはり特定性自体が実際に実務を動かしていく上では大変重要な問題になってくるだろうということは十分認識しておりますので、そういった点をよく考えながら進めていきたいと思っております。
 最後に、訴因多数事件の関係でございます。これは、先ほど岡村氏のときにも議論になったわけでございますが、やはり多数訴因事件というのは、今、御指摘になったとおり、特に被害者の問題というのが非常に大きな要素になってくることは、私どもとしても十分承知しております。ただ、やはり、これも第1点目と似たようなことを申し上げるんですが、裁判所としては、充実・迅速した審理を行った上で、例えば、総理がおっしゃったように2年以内に判決をするということになると、それでは、皆様御承知のような非常に多数にわたるような事件があって、絶対量としての証拠調べが、毎日やっても2年以内に終わらないという事件が仮にあったときに、裁判所としてそれにどういうふうにしていったらいいかという問題意識はやはり常にあるわけでございまして、そういった点を申し上げたわけでございます。以上でございます。

○ 裁判員制度について2点伺います。一つは、裁判体の構成について3ページに記載がございますけれども、裁判官と裁判員が、共通の証拠を吟味し、実質的な評議を行い結論に到達し、更に判決として国民に分かりやすく示すことが重要だということですが、この趣旨については、恐らく異論がないのではないかと思いますが、そこから、協働作業が実質的になされるような制度というのはコンパクトな構成であるという結論になる、その理由をお聞かせいただきたいということが一つです。
 もう一つは、憲法との関係に言及しておられまして、特に、私が注目したのは、論点として裁判体の構成と評決の在り方を具体的に指摘しておられる点であります。先ほどコンパクトな構成という御提言があるんですが、そのような制度でないと憲法問題が生じるのかという点です。また、評決の在り方は、今日は言及がありませんでしたけれども、どういう問題点があるとお考えなのか、お願いいたします。

(今崎氏) まず、最初の構成の関係でございますが、私どもが考えているのは、こういうことであります。つまり、裁判員制度を実際に実施するということになると、やはり事実認定、量刑についてかなりち密な相当立ち入ったことについての議論をしていく必要があるだろうという意識があるわけであります。そのときに、私どもの裁判官としての経験からということになってしまうのかもしれませんけれども、余り多くの人たちが集まって、非常に細かな点、あるいは、多岐にわたる事実認定上あるいは量刑上の配慮を要する点について、論点について議論をする、そして、結論をどんどん詰めていく、さらには、ここにも書いてありますが、それを判決として書くということを前提にすると、やはり、ある程度多数の合議体では、実際にはそういった詰めた議論ができないのではないかというふうに考えるからであります。それが1点でございます。
 それから、2点目の憲法の関係についての御質問ですが、この憲法の問題は、言い出しておいて何だと言われそうですが、私どもとしては、若干答えにくいところがありまして、事務局としては、最終的には憲法問題というのは司法権の行使主体である最高裁判所が判断することになるので、なかなか先取りした言い方はやりにくいんですが、ただ、やはり前回の議論でも、職業裁判官が基本的な要素であるというような点については、さほど異論がなかったように聞いていたんですけれども、もしそれが前提となった場合に、例えば、構成を考える上で、そういった主要な要素である、あるいは、基本的な要素であるということが解釈上影響してこないんだろうか、あるいは、評決の問題についても、解釈上、それを考慮すべき必要があるのではないかといった問題意識は、私どもは常に持っておりまして、その点をやはり問題提起として挙げさせていただいたという趣旨でございます。

□ 私から確認させていただいてよろしいですか。4ページの上訴の関係で、なお書きのところなのですけれども、第一審裁判所の事実認定や量刑を尊重するようにするために、制度上、運用上の手だての要否について検討するとされているのですが、ちょっと分かりにくいので、例えば、どういうアイデアがあり得るのか、示していただけますか。
 それから、10ページの自白の任意性、信用性が争点になる場合に、取調べ過程の記録を証拠として取り調べることを運用上確保するというのはよく分かるのですけれどもが、制度上確保するとも言われていますね。それは、どういう意味なのでしょうか。「制度上、運用上」ではなく、「運用上、制度上」と制度の方が後ろにきているものですから、何を意味しているのか、ちょっと疑問に思うのです。
 3点目は、書かれていないことなのですけれど、12ページの記述との関係で、検察審査会が起訴相当とし、検察官の再考を経るかどうかは別として、公訴が提起されて裁判所に行った場合に、訴追を担当するのは、前に審議会でヒアリングをしたときには、裁判所の意見としては、検察官がやるべきだという御意見だったわけですが、その点は今も変わっていないのかどうかですね。その3点を教えていただきたいと思います。

(今崎氏) まず、最初の、上訴の在り方についての「なお」で書いた点については、今、座長がおっしゃったとおり、裁判所としてこれといったものを、今、確定しているわけではないんですが、やはり、一つの在り方としては、事実認定あるいは量刑不当の場合も、控訴事由をある程度絞るというような考え方があり得ないか、著しい事実誤認とか量刑不当といったようなことが一つ考えられないかというようなことをアイデアとして考えております。
 それから、次の10ページの「運用上、制度上、確保」できるという、この「制度上」は何を意味するのかという点でございますが、これは、必ずしもはっきりした内容があってこう書いたわけではございません。と申しますのは、あくまでも、この審議会意見がこういう提言をしたことに対応して、そういうものができるのであれば、やはり充実・迅速の審理の観点から、きちんとそれに対応した手立てが必要になるだろうということで書いたものでございます。運用上が先にきているのは、別に他意があったわけではありませんで、両方があり得るだろうといった辺りからこう書いたものでございます。
 それから、最後の、検察審査会の議決があった後の訴訟追行主体については、御指摘のとおり、裁判所としては、やはり検察官が追行されるというのも十分考えられるのではないか、検察官というのは、やはり公益の代表者でありますので、検察官の当初の起訴、不起訴の判断とは違ったものに基づく訴訟追行であっても、そういった検察官が訴訟追行されるということ自体は十分制度としてあり得るのではないかと考えております。ただ、同時に、指定弁護士によって行うという御意見も出ておりまして、両方について更にこちらとしては検討していきたいと考えております。

○ 先ほど法務省の方にもお伺いしたところでありますが、争点整理を受訴裁判所が御担当になるということになったときに、いろいろと御配慮はされた御主張になっているかと思いますし、予断排除というような問題が直接その問題かどうかというのはあれですが、絡む可能性があるというようなことで、内容いかんによっては、先ほどちょっと申し上げたように、裁判員制度を取った場合に、裁判員との間の情報格差というのは問題にならざるを得ない場合があり得るかもしれないと思うんですが、その点については、どういう御配慮といいますか、この主張との関係でいくとどういう点をお考えでいらっしゃるのか、ちょっとお聞かせいただきたいと思います。

(今崎氏) 情報格差の問題ということで、具体的にどういう点が問題になるのかを、私はうまく理解しているかどうかが分からないので、ピンボケの答えになるかもしれないんですけれども、基本的には、裁判員制度の下でも、裁判員と裁判官の役割分担の在り方としては、証拠の採否の判断自体は、やはり職業裁判官の方で行うんだろうと考えておりまして、準備手続の段階でのその判断も、同様に裁判官が行うものだろうと考えております。したがいまして、その意味で、裁判官がその証拠の採否のためにある程度の情報を持っていて、裁判員にはその情報が知らされていない場合というのは、手続をつくっていく上ではあり得る選択ではないかと、私は思っております。

○ 2年以内の判決という点なんですけれども、前にいただいた資料だと、一審判決まで2年以上かかっている裁判というのは、年間200件ぐらい確かあったと思うんです。それで、最高裁が今日出された、こういう制度上、運用上の改善措置を講じると、事態がどういうふうに変わっていくのかということを伺ってみたいなという気がするんです。なかなか難しいとは思うんですが、制度的な改正という手段を講じないと、ここで提案されているような解決できないような長期化した裁判というのはどのくらいありますか。あるいは、言い方を換えれば、運用上工夫を凝らしていけば、今2年を超えて長期化しているような200件ぐらいの裁判というのはどの程度解消できるのでしょうか。

(今崎氏) 7月31日現在で、2年を超えて係属している事件が、全国で、人数にして186人、件数にして125件ございます。その中には、もとより裁判所の努力が十分でないがためにそういう結果になっているという例も、多分たくさんあるんだろうと、率直に言って、思っております。
 ただ、訴訟の迅速化というのは、実は、今議論していたわけではなくて、何十年と先人から議論をして積み重ねてきたものでございます。その間、これと言った大きな制度上の改変はなく、運用上の努力といいますか、運用上の工夫を極限まで重ね、繰り返してきて現在に至っているわけでございます。幸いにして、何とかその苦労が実り、かつ、やはり両当事者、検察官、弁護人からの協力もいただいて、何とか全体としては少なくはなってきたんですが、依然としてこういった件数がある。
 私どもの考え方としては、これ以上、更に訴訟を迅速化させるということであれば、やはり制度上の手立てがどうしても必要であろう。ましてや、裁判員制度を導入する以上は、裁判員にも負担の少ない、しかも、分かりやすい集中した審理が行われるためには、これらの方策をとることがマストであるというふうに考えてはおります。

□ まだいろいろと御質問や御意見があり、腹膨るる思いを抱かれているかもしれませんが、それは、今後の議論の過程で出していただくとして、予定の時間を大幅にオーバーしてしまいましたので、このくらいにさせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
 それではこれで、本日のヒアリングを終了いたしたいと思います。
 最後に、事務局の方から事務連絡があるようですので、お願いします。

● まず、いつも申し上げていることですが、国民の皆様から事務局に寄せられた御意見につきまして、これまでの検討会でもその目録を席上にお配りしておりますが、本日も、その後更に寄せられた御意見について追加の目録を作成いたしました。この目録に目を通していただいた上、御覧になりたいものがございましたら、適宜の機会に事務局の方にお申し付けいただければと思います。
 次に、本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープの不開示決定に対する取消訴訟の提起について御説明申し上げます。本検討会の各会合の内容につきましては、議事録作成のため録音をしておりますけれども、第1回会合の内容を記録した録音テープについて、3月14日に情報公開法に基づく開示請求があり、4月10日付で不開示決定を行ったところであります。これにつきまして、5月7日に異議申立てが行われ、当本部からの諮問により、現在情報公開審査会で審議中であります。これと併せまして、不開示決定に対する取消訴訟が提起され、9月20日に訴状の送達を受けたところでございますので、お知らせいたします。以上です。

□ これで、本日予定された議事は終了しましたので、閉会とさせていただきます。次回は、10月15日午後1時30分からですので、よろしくお願いいたします。長時間どうもありがとうございました。