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裁判員制度・刑事検討会(第8回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成14年10月15日(火)13:30~16:50


2 場所
 司法制度改革推進本部事務局第1会議室


3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、清原慶子、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、平良木登規男、廣畑史朗、本田守弘(敬称略)
(事務局)
古口章事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について


5 配布資料
資料:外国法制に関する参考資料


6 議事

 「裁判員制度・刑事検討会における当面の論点-刑事裁判の充実・迅速化-」(第2回配付資料2)に沿って、刑事裁判の充実・迅速化に関する当面の論点について議論が行われた。
 議論の概要は、以下のとおりである。

(1) 充実した争点整理のための新たな準備手続の創設

ア 争点整理の程度について

・ 我が国では、供述の真偽を判断する科学的基準が確立されておらず、裁判官の経験に基づいて判断されている。供述の信用性判断の原則としては、秘密の暴露を含む供述は信用性が高いという基準と、弾劾証拠と抵触しないものは信用性が高いという基準があるが、それ以外は裁判官の個人的な感覚に基づき信用性判断が行われている。新たな準備手続が行われ、争点整理・証拠開示が行われれば行われるほど、事前に弾劾証拠の存在が明らかになってしまうため、公判の反対尋問で弾劾証拠を示されることにより証人の証言が崩れるということがなくなることになる。そうなると、内容的に相対立する証人Aと証人Bの証言が反対尋問でも崩れないまま残るという状況が生じ、その場合、素人である裁判員では、例えば証人Aの方が声が大きいから信用できる、証人Bの方が瞳が澄んでいたので信用できるといった判断をされかねず、実体的真実から遠ざかるおそれがある。そのような面もあることを念頭に置く必要がある。

・ 真実の解明が大事であることは、司法制度改革審議会の議論でも前提となっており、それを前提に他の要請とのバランスをどうとるかという問題として議論されたという認識である。

・ 現状の刑事裁判では、争点整理は、まったくなされていないのか。第1回公判期日までの間に、いかなることを優先的に当事者が明確化することが充実・迅速化のために必要かということについて共通認識はあるのだろうか。

・ 司法制度改革審議会の議論では、多くの事件においては、当事者間での話し合いや裁判所のあっせんにより、かなり争点整理ができているが、事件によっては第1回公判期日までに争点整理がまったくできておらず、審理の当初は何が争点か、審理がどう進むのか不明で、審理がかなり進んでから初めてそれらが明らかになるということもあるという指摘があった。

・ 証拠関係が複雑であったり、取り調べる証人の数が多いような大きな事件では、どこが争点であるのか明らかでないもの、また当事者が明らかにしようとしないものがある。裁判所も当事者の中に入っていって争点整理を行うことが好ましいのだが、予断排除の定めが刑事訴訟規則にあるために、裁判所が慎重になってしまい、そういった形での争点整理が十分できないという面がある。また、現状において争点が明らかになっているといっても、「犯人性を争う。」「共犯ではない。」といった程度で、それ以上具体的な事実についてまで争われる点が明らかになっておらず、焦点がはっきりしないまま証拠調べが行われることも少なくない。このような現状をどう変えていくのかというのが、今回の改革の課題であると認識している。

・ 裁判員制度が採用されるという前提で新たな準備手続を考える必要があり、現行の手続を踏襲するのではなく、素人にとって分かりやすくするための争点整理という観点が重要である。争点整理は、証拠の具体的な内容まで立ち入ったところまで行う必要はないのではないか。むしろ、裁判員に対し、何について判断をすればよいのかが提示されるようにすべきであり、裁判官、検察官、弁護人に明らかになるというだけでなく、素人の目にも分かるような具体的な争点が示されるような準備手続を作るべきである。

・ 最低限、どのような事実について争いがあるのかを明らかにしないと困るので、新たな準備手続の段階で、検察官が冒頭陳述のようなものを出して、弁護側がそれについて争う点を明らかにするということが必要であると思う。

・ 裁判員事件では、1回結審を目指すべき場合も多いと思われるが、それが可能となるように争点整理をすべきである。

・ 争点整理は、具体的な事実関係のレベルまで行うべきである。公訴事実を争う、違法性阻却事由がある、責任阻却事由があるというだけでは足りず、間接事実を含んだ事実の認否に加え、被告人側の方で積極的な主張があるのであればそれを明らかにし、それに検察官が応答するという形で争点を定めていくのがよい。裁判員事件では、そこまで争点整理を行わないと、審理計画を策定することができず、裁判員制度自体が成り立たなくなってしまう。

・ 昭和30年代に新刑訴派と呼ばれる裁判官たちが、集中審理を実現するため工夫をし、それを踏まえて刑事訴訟規則も改正された。そして、その時点では、その裁判官たちのもとでは集中審理が行われていたが、その後、学生・公安事件や大きな財政経済事件があり、うまく行かなくなってしまったという経緯があったと記憶している。そこで、現行の刑事訴訟規則のどこに問題があったのかを考えてみると、刑事訴訟規則194条の3において第1回公判期日後の準備手続で行うべきこととされているような事項を第1回公判期日前にできるようにすればよいのではないか。それができなかったのは、予断排除の原則に触れるという考え方があったからであるが、それは予断排除の原則というものにとらわれすぎている。刑事訴訟規則194条の3に定められている事項を前倒しして行うというのが有効な方策だと考えられ、それによって、裁判員事件だけではなく全事件について、相当程度争点整理ができることになろう。

・ 争点整理をすべての事件について一律に行うことができるのか。被告人と弁護人との間でコミュニケーションがとれていない事件では、争点整理をある一定の線までやるということはできないのではないか。このような場合には「すべて争う。」ということにすれば、それを前提に審理計画を策定することができるのであり、それも一つの争点整理と言うことができるのではないか。また、争点整理は、証拠開示との関係も重要であり、証拠を検討しないと、まだ争点を明らかにできないということもあろう。このように、個々の事件において事情が異なるのであるから、新たな準備手続は、様々な事件を柔軟に受け止められる制度にすべきである。

・ 「すべて争う。」というだけでは、検察官立証の予定は立てられるけれど、弁護側の立証の予定が分からないため、審理計画をきちんと立てることはできないのではないか。証拠を見ないと分からないといわれる点も、それはどういう事項についてかを具体的に明らかにすることはできるのではないか。

・ 例えば、目撃証人が1人だけ検察官から請求されているが、弁護側ではアリバイを主張するかもしれないという事件では、他に目撃証人がいるのか否かということを確認しないと、アリバイを主張するのか否か明らかにすることはできないということはある。

・ 細部にわたって争点を明らかにすることとするには、そうすることができるだけの基盤があるか否かを考える必要がある。被告人と弁護人との間のコミュニケーションがとれない事件では、すべての事実を否認するというのもやむを得ない。争点整理の程度は、事実関係の認否ができるための条件がどこまで保障されているのかによるであろう。また、コミュニケーションがとれている事件でも、争点を明らかにできるか否かは、目撃証人が1人だけなのか否か、証人の供述内容はどのようなものであるのかによって異なってくるであろう。

・ 争点整理は、これをすることができる事件では、これ以上できないというところまでやるべきである。新たな準備手続においては、証拠の採否決定までしなければ意味がなく、それができるまで詰めて争点整理をすべきである。被告人が黙秘している場合、「争う」とだけ述べる場合には、それに応じた立証計画を立てなければならないが、予め公判回数の見通しを立て、それに従って公判を行うためには、準備段階で明らかにしなかった主張を公判で主張することは認めないこととするということが必要となろう。公判段階で初めて主張を出すことを自由に認めるのでは、審理計画が大きく変わってしまうことになるので、予め明らかにしなかった主張についての制限を設けるべきである。

イ 争点明示の義務付けについて

・ 義務付けの前提として、訴追側が、起訴状だけではなく、冒頭陳述で明らかにされるような内容の事実を被告人側に提示することが必要である。それを前提に、具体的にどこをどう争うのか明らかにするというのが合理的な制度設計である。そして、義務付けるということであれば、特別の例外的事情がない限り、後の公判での主張が制限されるということになるのではないか。

・ 争点明示の義務付けをした方がよいと思うが、その前提として黙秘権との関係を検討すべきである。また、争点を明示する形式については、文書や電話でのやり取りによって示すことに限る必要はなく、事件によっては、刑訴規則178条の10のように裁判所、検察官、弁護人が顔をそろえた打合せの場で行うことができるようにするなど、柔軟な扱いを可能にすることが必要である。

・ 被告人側に争点明示義務を課さなければ、現行の制度と異ならない。

・ 義務として規定する必要はない。主張制限は義務違反に対するサンクションとしてではなく、そうしなければ裁判員制度が円滑に運用できなくなるのでそのような制限が設けられるべきだと考えている。具体的な争点を明らかにするか否かは、そのような制限が付される可能性のあることを覚悟のうえ弁護側が選択すべき事柄と考えるべきである。

・ 主張制限を設けることは必要である。準備手続において主張を明らかにしておかなければ後からのそれを主張することが制限されるとすれば、それは義務付けということではないか。

・ 刑事訴訟法上の黙秘権と、憲法上の自己負罪拒否特権とを区別して議論すべきである。憲法38条1項と刑事訴訟法311条は、同一の内容の規定ではない。憲法38条1項との関係では、検察官が主張を明らかにして、それに対して被告人側が争点を明らかにさせるというのは、被告人に不利益な事項を無理に明らかにさせるという性質のものではなく、被告人側の防御という基本的には被告人に有利なことを明らかにするよう求めるだけであること、また、明らかにするのは主張予定の事項であって、いずれ公判では明らかにするものであることからすると、少なくとも憲法上禁じられている不利益な供述の強要をしているものではないと理解して制度設計することが可能であると考える。

・ 憲法との関係は、そのとおりであろう。もっとも、刑事訴訟法上は、黙っていてもいいという黙秘権がある。冒頭陳述のようなものに対する認否というが、何も話さない被告人の事件の場合には、すべてを争うという形での争点明示が許されるべきであり、検察官の主張に対する応答は様々なものがあっていいと思う。ただ、公判段階で予想もしなかった主張が出た場合には、不意打ちになるし、公判手続が中断されることになるので、それについては別に対処する必要がある。

・ 検察側から冒頭陳述で明らかにされる程度の事実が提示されれば、弁護側も争うべき点を明らかにすることができるのではないか。

・ 多くの事件では争う点を明らかにすることができるであろうが、黙秘権と調和させる必要がある。例えば、アリバイについては、原則として、公判前の段階で明らかにすべきであり、明らかにされたアリバイに対する弾劾証拠を検察官が開示するという仕組みを設けることによって、アリバイの主張制限などのサンクションを設けることは必要かつ可能であろう。

・ 刑事訴訟法311条により、被告人には終始沈黙することが認められているけれど、被告人側が防御のために何らかの主張をするつもりなら、公判の終了までにはともかくそれを明らかにせざるを得ない。しかし、それは被告人側の選択によるものであって、そのことを強要しているわけではないから、刑訴法311条に反するものでないことは明らかである。そうであるとすると、同じように全く黙っていてもかまわないけれど、もし何らかの主張をするつもりなら、新たな準備手続の段階で明らかにしてもらいたいと要求することが、果たして、そしてなぜ刑事訴訟法311条に反することになるのか。

・ 刑事訴訟法311条により供述しなくていいということになっているから、明らかにしなくていいということであろう。弁護人が主張を明らかにできるような条件整備があって初めて主張制限などの工夫の余地が出てくる。

・ 条件整備ができたとしても、黙秘権との関係で争点明示の義務付けということがそもそもできるかどうかということは論理的に別次元の問題だろう。争点明示の義務付けが憲法38条1項や刑事訴訟法311条に抵触するというのであれば、例えば証拠開示が幅広く認められるとしても、問題は解消されないように思う。

・ 検察官立証が弱いという判断を弁護側がする場合はあり得るので、全部争うという形での争点整理はあり得る。また、検察官が立証に失敗することがあり得るので、それを見越して、弁護側としては積極的主張をしない方がいいという戦術的判断をする場合もある。もっとも、主張を明らかにしないことにより主張制限を課されても、その不利益は戦術的判断の責任として甘受すべきである。

・ 例えば、正当防衛の主張があるのであれば、公判前に明らかにすべきである。刑事訴訟規則194条の3に規定されていることが第1回公判期日前にできるとすれば、公判前に明示させることの根拠になり得る。

・ 「すべて争う。」という主張が多くなっては困るのであり、それをなくすような制度設計をすべきではないか。また、実体的真実確保の観点からは、公判段階になって初めて提示される争点だとしても、理由がありそうな主張を制限するのは実際上難しいのではないか。また、主張制限をすると、公判での制限をおそれて、予備的主張が沢山出され、所期の目的に反する結果となったというのが、民事訴訟における準備手続に関する経験である。

・ 公判での主張立証の制限を認めないと、有効な争点整理ができなくなる。検察側から冒頭陳述に相当する内容が明らかにされれば、被告人は自分の行動について最も良く知っているのであるから、通常その主張を明らかにすることができるはずである。特段の理由もなく、公判段階で初めて主張することを認めるべきではない。控訴審における立証に関する刑事訴訟法382条の2でも同じようなシステムになっている。審理予定期間の見通しを立てて裁判員を選任し、裁判員もその予定期間を前提に都合を合わせて裁判員になるはずなのに、公判になってから新しい主張を持ち出すことを無制限に認め、予定の審理期間を安易に超過してしまうことを認めるような制度設計では、裁判員制度は成り立たない。

・ 公判段階で初めて主張が出てきた場合には、そのことが裁判員の心証に不利に影響することが考えられるのであり、裁判体が、公判段階で初めて主張が出た場合に事実上不利益な推認をする可能性があるということにより、審理計画の確保が担保できるのではないか。

・ 公判で初めて主張がなされた場合に不利益な推認をするということはあり得るかもしれないが、不利益推認だけで、公判段階で初めて主張が出ることを防ぐのに十分といえるのか。また、それでは、仮に新たな主張が出た場合の審理計画が狂い、予定期間が延びてしまうという問題についての対応策にはならないのではないか。

・ 主張制限を認めるにしても、その例外は認めざるを得ず、その範囲がどれくらいかという問題がある。真の争点が明らかにされないと、証拠調べをしていても何の意味があるのか分からない。予断排除の原則の制約の下でも、本当に争いがあるところは十分に調べるが、無駄な証拠調べは避けようという裁判所からの説得に応じる義務を当事者に課すことくらいはできるのではないか。

・ 被告人の無実を明らかにするような決定的な証拠が提出されるというような場合は例外とせざるを得ないであろうが、事前準備の段階で既にそのような証拠がありながらその段階では出さず、公判段階まで待っているというようなことがそもそも考えられるか。

・ アリバイについても、例えば、2~3年前のことになると、被告人本人が分かっていない場合もあるので、それを念頭に置いた議論をすべきである。

・ 新たな準備手続において、証拠請求に対する意見を聴取し、証拠決定ができるとすべきであるが、その場合、審理計画が崩れないように証拠調べ請求に対する意見や証拠決定が容易に変わらないように担保する必要がある。そのために、穏当な形としては、変更があった場合には、変更の理由を説明する義務を課することなども考えられよう。

・ ある事実を争わないとしつつ、当該事実を証する書証を不同意にすることが自由にできるというのでは困る。例えば、保険金目的殺人事件で、保険契約状況を争っていないのに、その点に関する書証を不同意にすることができるというのはおかしい。

・ 争いのない事実については合意書面を作ることもできるのであるから、そのようには直ちには言えず、証拠の種類によって異なってくるのではないか。

・ それは裁判員の加わっているような公判で書証を用いるにはどうすればよいかという問題であり、争いのない事実に関する書証について不同意とすることができるかどうかの問題とは別問題ではないか。

・ 供述調書の記載の一部に同意できないというのは、その部分の供述が示す事実を争っているということにほかならないのではないか。

ウ 争点整理以外に行うべき事項について

・ 証拠調べ請求、それに対する意見聴取、証拠決定は原則としてできるようにすべきである。訴訟手続上の問題、例えば、証拠能力の問題についても、公訴事実の存否と直接関わり合いがない場合には処理できるのではないか。もっとも、証拠能力の問題のうち、自白の任意性の問題は、任意性の判断のための事実関係は自白の信用性の判断のためのものと密接不可分な関係にあるから、それについての証人尋問等は公判段階で行うのが相当である。違法収集証拠と主張されている証拠についても、例えば、薬物の所持事案のように証拠の獲得過程の立証が犯罪事実の立証と重なるような場合があり、そのような事案の場合には、新たな準備手続の中で判断することが妥当か、疑問がある。また、刑事訴訟法321条1項2号に基づく検察官調書の証拠能力の有無のように、事柄の性質上公判段階で判断するほかないものもある。

・ 本案以外のことはできる限り新たな準備手続において解決すべきである。実況見分調書などの一定の範囲の証拠については、新たな準備手続において証拠決定を済ませておけば、公判段階で楽になる。

・ 裁判員事件では、弁護側請求証拠についての証拠決定もすべきである。ただ、そうする場合、強制権限がない弁護人側は証拠収集に時間と労力がかかることになるので、十分な準備をできるようにすべきであり、その結果準備に時間を要することもあるであろう。十分な準備の保障が、被告人側の主張制限の前提でもある。

・ 裁判員にとっての分かりやすさと被告人に不利にならないようにするために、証拠決定までできるようにすべきであり、準備段階の期間は長くなるであろうが、判決までのトータルの期間は現状よりも短縮されるように留意する必要がある。

・ 公判前になるべく処理するということに賛成である。裁判員が有罪無罪の判断及び量刑の判断に専念できるようにすることが必要不可欠である。自白の任意性の有無を含めた証拠能力の有無の問題も公判前に解決すべきである。

・ 証拠の採否の判断のために、証人尋問や被告人質問が必要なものは公判段階で処理すべきである。

・ 実況見分調書などの作成の真正の判断などは、新たな準備手続において行ってもよいであろう。

・ 公開の法廷で審理するのが大原則であり、公訴事実の立証に結びつくようなものは公開の法廷でやらなくてはならない。純粋に手続的な事項に関するものは公判前に処理してもよいと考える。

・ 自白の任意性の判断が公判廷で行われるとすると、その任意性が否定され、証拠としては用いることができないと判明したときにも、既にその自白に裁判員が触れてしまっていることになるという問題があるのではないか。

・ そのような問題はあるが、仕方がない。自白が排除された場合には、裁判員にもそれはないものとして判断してもらうように説明して、そのようにしてもらうしかないであろう。

・ 裁判員が証拠能力のない証拠に触れるというのは問題である。裁判員には、裁判官によるスクリーニングを経た証拠のみを見てもらうべきである。

・ 期日指定を含む審理計画の策定、証拠開示の要否の裁定も新たな準備手続の中で行われる必要がある。

・ 鑑定の要否の決定や鑑定人尋問も、できる範囲で新たな準備手続において行うべきである。できない場合に、公判段階ですることになるのは仕方がないが、そのために公判が中断してしまうという問題については、別途対処方法を考える必要があろう。

・ 責任能力の有無の鑑定は公判でせざるを得ないのではないか。

エ 新たな準備手続の主宰者について

・ 証拠能力の判断をする際に証拠の内容に触れると、裁判員と裁判官とで保有する情報の範囲が異なってしまうので、そのような場合の公判前の証拠能力の判断は受訴裁判所とは別の裁判体が判断することにすべきである。もっとも、新たな準備手続の主宰者は、公判の設計図を描く裁判所であるから、受訴裁判所にすべきである。

・ 証拠の内容まで入って判断すると、裁判官と裁判員との間で前提知識が異なることになり、審理・評議における議論に支障をきたすという懸念があるので、新たな準備手続の主宰者自体、受訴裁判所とは別の裁判所にすべきである。

・ 公判に入ってからでも、裁判官が訴訟手続上の判断をすることはあり、その結果裁判官と裁判員との間で情報格差が生じることになる。そのような情報格差は、一定の事項については裁判官だけで判断するとする以上、必然的に生じるものであり、公判段階では認められるのに、新たな準備手続では不可としなければならない理由はあるか。

・ 受訴裁判所は、公判段階で被告人の身柄関係の案件も処理するので、その結果、一定の情報格差が生じることになる。しかし、だからと言って、それを用いて裁判官が裁判員との議論に不当な影響を与えるということはあり得ない。

・ 身柄関係の処理も受訴裁判所と別の裁判所でやることにすればよい。また、大抵の問題は公判前に解決されるので、公判段階で訴訟手続上の問題を処理することによる情報格差が生じるということはまれであろう。

・ 自白の任意性があるか否かは心証形成の中核にあるものであり、その判断は判決をする裁判官がすべきである。受訴裁判所が主宰しないと、きちんとした準備手続をすることはできない。裁判官と裁判員との情報格差はやむを得ないものであり、裁判官が多くの情報を持っていて心証を裁判員に押しつけるということを懸念するようであるが、そのようなことは裁判官はしないという前提で考えるべきである。仮にそのような押しつけがなされたとしたら、裁判員は却ってそれに納得しないと考えられ、裁判員となる国民を信頼すべきである。

・ 審理計画を策定したものが審理を担当すべきであり、受訴裁判所が主宰すべきである。現行法の下でも、採用されていない証拠を提示命令により裁判官が見ることがあるのであるから、現行制度と大きく変わるわけではない。証拠とならないものに基づいて、評議などで裁判官が発言したり事実認定をするとは考えられない。

・ 受訴裁判所が主宰すべきである。もっとも、第1回公判期日前については、裁判所が証拠の内容を見ることを認めるべきではない。現行の公判開始後の準備手続並みの争点整理を行うのであれば、証拠の中身に触れるわけではなく、心証を形成することにはならないので、問題はないであろう。

・ 証拠の内容に一定程度触れないと争点を十分に明確にすることはできない。誰が何を言ったのかを明らかにしないと争点整理も証拠調べの要否も判断できないので、その限度で証拠の内容に触れるということはあり得る。両当事者の主張を聞いている時に、一方の当事者から明らかにされた証拠の内容をそのまま信用する裁判官はいない。

・ 立証趣旨程度を聞くことは証拠の内容に触れていることにならないが、調書そのものを見ることや証言を聞くことは、証拠の内容に入ることになり、それは行き過ぎではないか。

・ 予断排除の原則との関係をどう考えるかは現行のような裁判官だけによる手続においてと同じはずである。裁判員事件に特有のものとして新たに問題になるのはむしろ情報格差の問題であり、それが許容できる範囲のものか否かということではないか。

(2) その他

 事務局から、7月5日の顧問会議でとりまとめられた「顧問会議アピール」及び同会議における小泉内閣総理大臣(司法制度改革推進本部長)あいさつを受けて、第1審の裁判の結果が2年以内に出るようにするための出発点となる法的措置を具体的に検討し、平成15年通常国会に所要の法案を提出することを目指したいとの説明がなされた。

7 次回以降の予定

 次回(11月20日)は、引き続き、刑事裁判の充実・迅速化に関する検討を行う予定である。

(以上)