6 議事
(□:座長、○:委員、●:事務局)
□ それでは、時刻になりましたので、第8回の「裁判員制度・刑事検討会」を開会させていただきます。
本日も、充実した議論になりますよう、御協力のほどよろしくお願いいたします。
最初に、既に御承知のことと存じますけれども、顧問会議における顧問のアピール等を受けて、第一審の裁判の結果が2年以内に出るようにするための措置というものが検討されているようです。その点について、議事に入ります前に事務局の方から説明があるそうですので、お願いします。
● 御案内のとおり、本年7月の顧問会議におきまして、顧問のアピールと、これを受けました総理大臣のごあいさつの中で、迅速な判決、迅速な権利の実現を図り、司法を国民にとって頼りがいのあるものにしていくために、裁判の結果が必ず2年以内に出るように改革することが必要であるとの明確な御指摘をいただきました。
これを受けまして、事務局といたしましては、第一審の裁判の結果が2年以内に出るようにするための出発点となる法的措置を具体的に検討し、平成15年通常国会に所要の法案を提出することを目指してまいりたいと考えております。
法案の具体的な内容につきましても、早急に詰めてまいりたいと考えているところでございます。
以上です。
□ ありがとうございました。今の点について、何か御質問おありでしょうか。どうぞ。
○ 聞いてもしようがないのかもしれないんですけれども、刑事事件で、例えば、オウムの事件なども含めて、例外なしで第一審判決を2年以内で出すという前提で考えておられるんでしょうか。
● 法案の具体的な中身が決まっておりませんので、なかなか難しいところもありますが、基本的には、すべての事件について2年以内に第一審判決を出すことを目指すためにどうしたらいいかということを考えていくということではないかと思います。
○ 顧問会議は2年以内と言ったことについて、何か根拠があるんですか。
● 裁判の充実・迅速化の趣旨にかかわることでございますが、広く国民が納得できる合理的な期間内に第一審判決が出なければいけないということであると考えられます。その合理的な納得できる期間というのは、何年かということになりまして、そこは、顧問の皆様あるいは総理大臣が、大所高所から判断して、2年以内ということになったものと理解しております。
□ 司法制度改革審議会の議論の中でも、国民の皆さんが納得できる期間はどのくらいか、常識的に見てどれくらいの期間なら許されるだろうかという話は多少出まして、そのときに2年という数字が出たことはあります。ただ、みんながそういう意見だったということではありませんけれども。
○ 日本人の感覚だと、こういう場合大体3年ですね。
□ ○○委員の感覚と顧問の方々の感覚とは多少異なるのかもしれませんが、本検討会での検討事項にも関連のあることですので、また、具体的な案あるいは法案が出た段階で、御説明をしていただくこともあり得ると考えています。
この点は、これくらいでよろしいですか。
それでは、御承知のように、今日から刑事裁判の充実・迅速化の方にテーマを移し、それについての議論に入ろうと思います。
この刑事裁判の充実・迅速化につきましては、裁判員制度についてと同様に、大体3回ぐらい第1ラウンドの議論を行うのが適切ではないかというふうに考えております。
このテーマについての議論も、基本的には、最初に配布し御了承を得ました論点ペーパーに沿って、議論を進めていくということにさせていただきたいと存じます。
今日どこまで議論を進めるのか、進められるのかということにつきましては、議論の進行の状況や時間との関係を考えながら、合理的な時間の範囲内でできるところまで議論をするということにさせていただきたいと思います。そして、次回その続きを続けていくという形で進めさせていただければと存じます。
中身に入ります前に、これも事務局の方で、関係する外国法制に関する参考資料を用意して下さったとのことですので、それについて、まず事務局から御説明をお願いします。
● 用意いたしました資料は、イギリスとアメリカの証拠開示等に関する法制、条文の資料でございます。
まず、資料1は、「1996年刑事手続及び犯罪捜査法(仮訳)」という法律の第1章ないし第4章のうち、イングランド及びウェールズにおいて適用される条文の仮訳でございます。各条文の内容は、当方で把握できた範囲内で、法律制定後2000年までの改正を反映したものでございます。
簡単に内容を御紹介しますと、第1章は、検察官が証拠調べにおいて使用する予定のない証拠の開示について定めたものです。
その枠組みの概略を御説明いたしますと、第3条は、検察官は、まず、「被告人にいまだ開示されていない検察側の資料であって、検察官の主張を弾劾する可能性のあると思料するも の」を開示しなければならず、そのような証拠がない場合には、その旨を通知しなければならないとしております。この第3条に基づく開示を、同法は、第1次開示、プライマリー・ディスクロージャーと呼んでおります。また、検察官は、第1次開示と同時に、機密証拠ではない証拠のリストを交付しなければならず、その根拠規定が第4条でございます。
第5条ですが、第1次開示又は開示する証拠がない旨の通知を受けた被告人は、弁護側陳述書、ディフェンス・ステートメントと呼ばれる書面を裁判所及び検察官に対し提出しなければならないと定められております。第5条第6項によりますと、弁護側陳述書において、一般的な用語で防御方法の種類、内容を明らかにし、争点を提起する事項を示し、個々の争点についてこれを提起する理由を明らかにしなければならないとされております。さらに、同条第7項は、アリバイを主張する場合には、アリバイ主張を裏付ける証人の氏名及び住所、又は、当該証人を特定するのに役立つような情報を含む、アリバイ主張の詳細を弁護側陳述書において検察官に開示しなければならないと規定しております。なお、同法には規定がありませんが、鑑定を利用する予定の場合にも、鑑定書及び鑑定資料を開示するべきことが、別途規則で定められているところでございます。
第7条ですが、同法に従って被告人が弁護側陳述書を提出すると、検察官は、被告人に対して、「被告人の弁護側陳述書によって開示された被告人の防御方法を補強すると合理的に期待される可能性のある」、あらゆる未開示の資料を開示しなければならず、もしそのような証拠がない場合には、検察官は、その旨を被告人側に通知しなければならないとされております。弁護側陳述書を受けた上でのこの開示を、第2次開示、セカンダリー・ディスクロージャーと同法は呼んでいるところであります。
なお、以上のとおり、検察官は、第1次開示又は第2次開示の基準に該当する資料を被告人に開示する義務を負っていますが、当該資料を開示することが公益に反すると考える場合には、裁判所に対し、その資料の不開示を命ずる命令を発するよう申し立てることができるとされております。これは、第3条第6項、第7条第5項に定められております。
第10条は、検察官による開示の期限の不遵守それ自体は手続停止事由とはならないとしておりますが、被告人の公正な裁判を受ける権利を侵害すると認められる場合には、手続の停止事由とすることを妨げないとしております。
第11条は、被告人の開示義務違反に関する規定でありまして、第3項は、裁判所又は裁判所の許可を受けた検察官は、適当と認める論評を加えることができ、裁判所又は陪審員は被告人の罪責を判断する際に、適切と認められる推認をすることができると定めております。もっとも、第5項によりますと、そのような推認のみによって被告人を有罪としてはならない旨が定められております。
第17条、18条は、同法に基づいて開示された証拠及びそれに記録された情報の守秘義務を定め、義務違反に対する罰則を定めております。
第2章は、第22条以下でございますが、これは、捜査機関よる証拠の保存、記録等に関する運用規程の作成を国務大臣に義務付け、運用規程に盛り込まれるべき内容などについて定めたものでございます。
第3章は、陪審員選定の前の段階で、争点整理等を目的として開催される、準備審問、プレパラトリー・ヒアリングスという手続について規定したものでございます。25ページの第29条によりますと、重大又は複雑な経済事犯を除く、複雑又は陪審審理に長時間を要すると見込まれる事件において、争点の特定や審理計画の策定などを行うことを目的としたものであるとされております。第31条では、準備審問において裁判官が行うことができることが規定されておりまして、裁判官は、検察側主張の主要な事実や、それに関連する証人や証拠物件などについて記した起訴事実記載書を交付すること等を検察官に命ずることができるとされており、被告人との関係では、一般的な用語で防御方法の種類、内容を明らかにし、検察側との間で争点にしようとする主な事項を記載した弁論書を交付することなどを被告人に命ずることができるといったようなことが定められております。第34条は、検察官及び被告人が準備審問において明らかにした主張を、陪審審理開始後に変更した場合の取扱いについて規定したもので、一定の場合には、変更したことから、陪審員は、適切な推認をすることができるなどとされているところであります。第37条、38条には、準備審問における手続の報道に関する規定が置かれております。
第4章は、陪審審理開始前の審問、これを「公判前審問、プレトライアル・ヒアリング」と呼んでおりますが、その手続における裁判官の決定権限などについて定めたものであります。
資料2以下は、アメリカの法制に関する資料でございます。御案内のとおり、アメリカにおきましては、連邦及び各州ごとにそれぞれ異なる法域を形成しているわけでありますが、ここでは、連邦及び代表的と思われる幾つかの州の証拠開示等に関する法制についての資料を準備いたしました。
最初の資料2は、アメリカの連邦の法制に関するものです。
第16条が、被告人の請求があった場合に、検察官が開示すべき証拠を定めたものであり、検察官は、そこに定める類型の証拠を開示しなければならないとされております。具体的には、若干長いんですけれども簡単に申し上げますと、まず、(A)が被告人の供述になります。(B)が被告人の前科の記録であります。(C)が一定の書類及び有体物ということで、この「一定」の内容については、そこに記載されているとおり、被告人の防御の準備に重要なもの、公判で検察官が主立証の証拠として用いようとするもの、又は被告人から取得し、あるいは被告人に属するものといったような要件になっております。(D)が一定の検査及び試験の報告です。(E)が専門家による証言ということでありますが、公判において検察側立証に用いようとする専門家による証言を開示すべきであるとしたものです。
そして、3ページの上の方、(a)(2)項でありますが、「開示に服さない資料・情報」ということで、検察官や捜査機関の内部文書は開示に服さないことや、さらに、検察側証人の供述は、原則として開示の対象とはならないことが定められております。証人の供述については、主尋問終了後に証言と関連を有する部分を開示すべきことが、第26.2条に定められております。
(b)(1)項ですが、被告人が公判において提出予定の(A)書類及び有体物、(B)検査及び試験の報告、(C)専門家による証言を開示すべきことを定めておりますが、検察官による開示が先行することが条件となっております。
4ページの下の、(d)(1)項ですが、開示制限命令についての規定でありまして、当事者の十分な主張立証があるときは、裁判所は、開示の禁止、制限又は延期などの命令を発することができること、裁判所は、その主張立証を相手方当事者の関与しない手続で行うことを許可することができることが定められております。(d)(2)項は、当事者が証拠開示義務に従わなかった場合に、裁判所は、開示命令、公判期日の延長、公判への証拠提出の禁止などの命令を発することができるということを定めております。
5ページ以下の、第12.1条から第12.3条でありますが、これらの規定は、被告人がアリバイ、心身喪失などを主張する意図がある場合には、公判前にあらかじめ検察官に通知すべきことを定めております。
以上が資料2でございまして、資料3以下がアメリカの各州の法制についてでありますが、各州とも、基本的な構造は、連邦と同様に、検察側及び被告人側が相手方に開示すべき証拠の類型を規定する一方で、開示義務に服さない証拠の類型を定め、さらに、証拠開示の制限及び開示義務の不履行に関する規定を設けるというものになっております。
詳細につきましては、ここで個別に御紹介する時間がございませんので、資料を御覧いただくことといたしまして、もちろん網羅的なものではございませんが、こちらで目についたところについて若干御紹介させていただくこととしたいと思います。
まず、資料3は、カリフォルニア州の法制に関するものですが、カリフォルニア州の規則は、まず、第1054条に目的規定を置いておりまして、真実の解明を促進すること、裁判に要する時間を短縮することのほか、被害者及び証人を危険や嫌がらせなどから保護することなどが目的として挙げられているところであります。
そのような被害者及び証人の保護に関する規定として、第1054.2条におきまして、弁護人は、検察官から弁護人に開示された被害者、証人の住所又は電話番号を、裁判所の許可なく被告人や被告人の家族などに開示してはならないといったことが定められております。
また、カリフォルニアにおきましては、連邦とは異なりまして、検察官、被告人が公判に召喚予定の証人の供述も開示対象とされています。
資料4は、イリノイ州の法制に関するものですが、検察官及び被告人双方の開示義務が、ここに紹介した範囲では、ほかよりもやや広いという印象を受けるところであります。第412 条の(a)ないし(c)項で、検察官から被告人側への証拠開示について規定をしておりますが、召喚予定の証人の供述、共同被告人の供述、証人の前科記録、さらには、被告人の罪責を否定する方向に働き、又はその刑を軽減するのに資する証拠といったものも開示すべきものとしているところであります。
一方、第413 条ですが、これが被告人側から検察官への証拠開示の規定でありますが、ここでは、開示すべき証拠の類型を定めているほか、5ページの(d)項では、ヒアリング又は公判において被告人が主張する予定の防御方法について検察官に通知することが義務付けられております。
資料5は、マサチューセッツ州の法制に関するものでありますが、マサチューセッツ州では、第14条(a)(2)項に「裁量的開示」と題された条項がございまして、そこに規定されているように、開示の要否が裁判所の裁量によって決定される部分が大きくなっております。また、被告人側に対する証拠開示が認められた場合には、被告人側から検察側への互恵的な証拠開示が認められているという構造になっています。
最後に、資料6でございますが、資料6は、ペンシルバニア州の法制に関するもので、「非公式な開示」と題されている第573 条(A)項により、検察官及び弁護人は、この規則に基づく証拠開示が要求される前に、当事者間で証拠開示に関する問題を解決するよう誠実に努力しなければならないという規定が置かれております。
(B)項、(C)項は、それぞれ、「検察側による開示」「被告人側による開示」について定めておりますが、義務的に開示すべき類型と、裁判所の裁量により開示が命じられる類型がそれぞれ定められているという構造になっております。
簡単でございますが、以上です。
□ ありがとうございました。何か御質問があれば、どうぞ。
○ 専門の立場から外国法制について若干の補足説明をさせていただければと存じます。最初のイギリス法でございますけれども、事務局が説明された、「1996年刑事手続及び犯罪捜査法」に直接定められている訳ではありませんが、陪審裁判が行われるような重大事件については、最初に、検察側が、公訴事実を証明するのに使う証拠、イギリスではそれは主として証人尋問によりますから、公判に喚問する予定の訴追側証人がどのような内容を証言するかを明らかにする資料など、訴追側が攻撃に使う証拠をまず開示することになっていると承知しております。このような訴追側立証に用いられる証拠は、ユーズド・マテリアルと呼ばれております。その開示をした後で、まだ開示されていない証拠・資料、これはアンユーズド・マテリアルと呼ばれていますが、それについてどのような資料をどのような手順で開示するかという事柄について規定したのが、資料として配付されました「1996年刑事手続及び犯罪捜査法」であるという位置付けになると思います。
もう一点、アメリカにつきましては、御説明がありましたとおり、証拠開示に関する手続は州・法域によっていろいろな型があり、統一的な基準があるわけではないのですけれども、もう一つ、合衆国最高裁判所のブレイディという判決によって確立された憲法解釈上のルールがあり、これにつきましては全法域に統一的に適用されることになっております。この判例に拠れば、被告人側の防御にとって重要ーマテリアルという言葉を使っておりますがー、重要でかつ無罪方向、あるいは刑を軽くする方向に働き得る資料については、検察官は、一般的に開示の義務を負うとされております。その開示時期についてまでは述べられておりませんが、憲法の適正手続保障の観点から検察官にはそういう資料について被告人側に対する開示義務があるとされているところです。その内容については、例えば、ペンシルバニア州に関する資料6の1ページの(B)(1)(a)に規定されていますように、多くの州で、こういう形で、被告人の罪責、量刑の判断上重要で、被告人に有利に働く証拠は見せなさいという形で、制定法に取り込まれている例が多いと思います。以上でございます。
□ ○○委員は、御承知のように、この問題についての専門家ですので、恐らくお話をお願いすれば、まだまだお話していただけるとは思いますが、議論の中でまた、ここはどうなっているのかといった形で○○委員に適宜質問させていただくこともあるだろうと考えています。
一点だけお聞きしたいんですけれども、アメリカの場合、証拠開示命令に従わない場合には、公判を延期したり証拠を排除するという制裁が予定されているようですけれども、イギリスの場合は、公判を停止するというふうに書かれていたと思うのですが、この「停止」というのはどういう意味なのでしょうか。資料1の9ページの第10条2項によると、「手続停止」となっていますね。これは延期なのか打ち切りなのか、どちらなのでしょうか。
● その点につきましては、今直ちには分かりかねます。
□ では、ここは調べていただくことにしたいと思います。私も学者の端くれなものですから、ちょっと疑問に思うとつい口に出してしまいました。
ほかによろしいですか。それではまた、議論の中で、適宜御質問ないし御意見をいただければと思います。
以上の事務局の方で用意して下さったものに加えまして、○○委員が、おそらくこれだけだと英米に偏り過ぎているということから御配慮下さったのだと思いますが、ヨーロッパの手続について一覧性のある資料を用意して下さいました。御説明をお願いできますか。
○ そんなに説明に時間は掛かりません。今、座長からお話がありましたように、英米の法制については事務局の資料がありますので、ヨーロッパの代表的な国ではどんなふうになっているのかということを、下に表示した文献から表にしてみました。
今、御説明があったように、イギリスでは、例えば、検察側の主張を弾劾するような証拠を出せとか、アメリカも、証拠の類型によって開示の範囲を広げていくというような動きが英米の特徴だろうと思います。
ヨーロッパの場合は、上にあるように、職権主義ということも影響しているせいもありまして、大体半分に折った上の段の一番下の「証拠開示の範囲」というところですけれども、そういった類型化とは別に、原則として、もちろん例外はあるわけですけれども、すべての訴訟記録が裁判所に行くということもあって、被告人、弁護側ですべての証拠にアクセスができるという法制になっております。
細かな公判準備段階のいろいろな法制についても、一応一覧表にしてございますので、また何かの御参考になればというふうに思います。
□ どうもありがとうございました。
それでは、中身の議論に入らせていただいてよろしいでしょうか。第2回の検討会で配布し、今日もお手元に行っていると思いますが、「裁判員制度・刑事検討会における当面の論点」と題するもののうち、副題が「刑事裁判の充実・迅速化」となっているペーパーに沿って議論をしたいと思います。
第1番目の「充実した争点整理のための新たな準備手続の創設」ということから入っていきますと、既によく御承知とは思いますが、この点につき、司法制度改革審議会の意見は、第1回公判期日の前から十分な争点整理を行い、明確な審理計画を立てられるよう、裁判所の主宰による新たな準備手続を創設すべきであると提言しています。
その具体的な制度設計について御議論いただくということになるわけですが、これについては、細かく議論しますと、本当にいろいろな項目が考えられるわけですが、今日は第1ラウンド目でありますので、まずは制度の大きな骨格について御議論をお願いしたいと考えております。
このペーパーでは、まず1の項目の最初の○が、だれが準備手続を主宰すべきかという論点になっておりますけれども、だれが主宰するかということは、恐らく、新たな準備手続の具体的な内容がどういうものになるかによって違ってくるといいますか、それと連動している面があるように思われますので、順序が逆になりますけれども、まず準備手続の具体的な内容について議論をし、それを踏まえてその手続の主宰者をだれにするべきかについて議論をするということにした方がよろしいのではないかと思います。そういう形で議論を進めさせていただいてよろしいでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
□ それでは、まず、準備手続の具体的内容をどのようなものとするのかですが、恐らく最も中核になるのは、具体的にどの程度まで争点整理をするのかということになるだろうと思います。その点について、皆さんはどういうイメージといいますか、どこまで、どの程度の争点整理をすればよいと考えておられるのか、まず、その辺から御意見を伺い、それを最初の手がかりにして次に進んでいくことにしたいと思いますが、どなたからでも結構です。いかがでしょうか。
○ この問題については、この制度をどういうふうにするかということが、今後の刑事司法に与える影響というのは、かなり、私の用語で言えば、極めて甚大なものがあるだろうと思います。
実務家サイドから申し上げますと、裁判員裁判を行うために充実した準備手続が必要であること、証拠整理や争点整理が必要であるということは、よく分かるんですが、これが実務的にどういう影響を持つのかということについて、私なりに懸念しているところがありますので、そこからまず申し上げさせていただきたいと思います。
日本では、残念ながら、証言の真偽を判断するための科学的な基準が確立されておりません。各裁判官がそれぞれの知見・経験に基づいて、それぞれの判断基準を持っているという状況です。それは、ある程度共通化されている部分もありますが、あくまでも裁判官の具体的な経験に基づいているものであって、科学的な根拠があるものではありません。そういう中にあって、唯一証言の真偽を判断する有力な基準というのが二つあります。
一つは、秘密の暴露を含んだ供述は信じていいというもので、もう一つは、弾劾証拠とぶつからない証拠は信じていいというか、逆に、弾劾証拠とぶつかる証拠は信じてはいけないというもので、その2つの基準があると思います。それ以外については、ほとんど裁判官の個人的な感覚で、証拠の信用性を判断しているというふうに考えざるを得ないと思います。
つい最近も、痴漢の刑事事件で無罪になった事件が、民事事件で有罪になっています。同じ被害者の証言について民事裁判官と刑事裁判官とで評価が違ったということで、有罪と無罪が分かれているというのが、今の日本の裁判であるということです。それが良いのか悪いのか、これは今の段階では言いませんが、いずれにしても、そういう大きな基準は二つしかないところで、準備手続が充実して、争点整理が行われ、証拠の開示が細かく行われれば行われるほど、秘密の暴露はともかくとして、弾劾証拠は事前にすべて明らかになってしまうということになります。それは、一定の証言をさせて、「あなたこう言っているけれども、違うね」という形で使う隠し玉がなくなるということを意味していると思います。
そのような隠し玉がなくなると、AとBが互いに対立している証言をしている、A証言は反対尋問では崩れない、B証言も反対尋問で崩れていないという状況、要するに、反対尋問にさらされたA供述とB供述がそのまま対立していて、どちらの証言を信用するかを判断する合理的な基準がないという状況が出てくる可能性は十分にある。その場合、どういう理由でA供述を信用するか、あるいは、B供述を信用するかが問題になりますが、そこに裁判員が入ってくるわけですから、「あの人は証言の声が大きいから、あの人の言っていることが本当かもしれない」、あるいは、「あの人は目が澄んでいるから、あの人の言っていることは本当かもしれない」というようなことで、真偽の判断を行う可能性もないとは言えない。
そういう意味では、今回の新たな争点整理というものは、実体的真実から遠ざかると、実体的真実よりも訴訟的真実の方に近づくというふうに働く制度だというふうに言える余地をかなり残していると、私自身は思っております。
ですから、この制度設計をするときには、哲学の問題として、実体的真実はある程度あきらめてもいいと、訴訟的真実でいこうではないかというふうに割り切ってしまうか、あるいは、そういうふうに割り切るのは、日本の場合は適当ではなく、新しい制度の下においてもできる限り実体的真実の発見というものを追及すべきだというスタンスに立つのか、その二つのスタンスのどちらをとるかで制度設計の仕方もかなり違ってくるんではないかというふうに思います。
私は、確かに刑事司法に対する国民参加を実現するという理念は立派なものだと思いますが、それが実体的真実の発見にもたらす影響について、審議会でどの程度議論されたのかということについては、記録を見ながらはなはだ疑問に思った部分もあるということを、率直に御報告したいと思います。
□ 御批判はそれなりに理解したつもりですが、一言弁明させていただきますと、審議会でも、真実の究明、事案の真相の解明ということが大事であるということは、多くの委員が当然の前提にしていたと思います。そのことを念頭に置きながら、しかし、それとは別の要請にもどう応えようか、その間のバランスをどう取るのか、一般的に申しますと、そういう性質の議論だったように思います。少なくとも私などは、そういう問題意識は持っていました。
今のお話は、争点整理についてはもちろんですが、証拠開示などについても、どこまで開示するのか、あるいは、どういうものは開示しないのか、そういった点の議論にも結び付く問題だろうと思いますので、またそういうところで御意見を出していただければと思います。
では、争点整理としてどの程度まで行う必要があるのか、行うべきなのかということですが、これは皆さん十分御承知だと思いますが、争点整理ということだけ抽象的に取り出して議論しますと、非常に多様な意見が出てき得ると思いますけれど、ここでの争点整理の目的はあくまで公判を充実しかつ迅速なものにするということにあり、そのための争点整理でありますので、そのために何をすべきかということに帰着すると思うのです。その点に御留意いただいて、御議論下さればと思います。
○ 一点、現状の問題点というのは何かということをまず確認しておきたいんですが、現状では、今回問題提起されているような、いわゆる争点整理というのは、全くなされていないのでしょうか。あるいは、現状、第1回公判期日を迎えるまでの間の進め方の中で、今回の機会に改善するとしたら、優先的にどういうところをまず訴訟の当事者が明確にすることが、この刑事裁判の迅速化のために不可欠だということが分かっているのか。ですから、今までの状況の中で、当然要件として挙げられているものはあると思うんですけれども、本当に全く争点整理がなされてないのかどうかということについて不確かなものですから、現状でお分かりのところを教えていただければと思います。
□ 審議会でもその点は議論をいたしまして、議事録を御覧いただければ、ある程度のことは触れられていることがお分かりだと思いますし、審議会のヒアリングで法曹三者の方からヒアリングをした中でも言及されているのですけれども、事件によって事情は様々でして、多くの場合は、裁判所があっせんするなり、両当事者が話し合って、かなりの程度争点整理もできているともいわれるのですが、事件によっては、そういうことが十分できず、争点整理が全くできていない場合もある。そういう場合には、公判を開始する時点で、どの点が争点なのか、どういう証拠が出てきて、どういう形で審理が進んでいくのかについても、必ずしもはっきりした見通しが付けられないまま審理に入らざるを得ず、審理がかなり進んだ段階でだんだん争点が見えてきたり、新たな争点が出てくるという状態で、計画的な審理ということからは隔たっている。そういった指摘もありまして、それが審議会の議論では前提になっていたと思います。実情については、恐らく○○委員が、最もお詳しいと思うのですが。
○ 小さな事件で、そんなに争いもなければ、検察官と弁護人の方でここは問題があると言っていれば、証拠調べの範囲というのもそれなりに限られているので、だれが考えても、この辺りの証拠を調べれば、その事件の解決にはなるだろうということになるわけです。そういう事件ではそんなに問題ないわけですが、大きな事件になると、特に、証拠が多い、そして、証人尋問もかなりの人数を聞かないといけないかもしれないという事件で、どこに争点があるかというのは、なかなか明確にならないことがあります。しかも、明確にならないというよりも、しない事件というのもあるわけです。
それについて、裁判所も、できるだけそういうところに入って行って、証拠調べの前に、争いがあるのはどこか、それについてはどういう証拠を調べるのかを決めていくのが好ましいんですけれども、裁判所側から見ると、一つ非常に大きな障害となる要因があります。それは、今の刑事訴訟規則に予断を抱いてはいけない、そこまで入ってはいけないという規定があるものですから、公判前の争点整理をどこまでやっていいんだろうということで、裁判所は慎重になってしまうんです。
そのために、なかなか両当事者間でどこに本当の争いがあるのかというのをきちっと決めてから証拠調べに入れないというところがあるんです。争点についても、一応決まっていると言える事件でも、私は犯人ではないとか、私は共犯者と言われているけれども共犯ではないとか、そういう段階での争点整理にとどまっていて、もっと細かい、この人はこういうことを言っている、そこが問題なんだと、あるいは、こういう証拠があるけれども、そこが問題なんだというところまでなかなか入れない。しかし、本当は、その辺りまで分かってないと、なぜその証拠を調べるのかということが明確にならなくて、焦点がはっきりしない証拠調べになってしまうんではないかと思います。
大きな事件で、特に時間がかかっているのはなぜかというと、大きな原因はそういうところにあるわけですから、その辺りのことをもっと的確に迅速にしていくにはどうしたらいいかということが、今回の充実・迅速化の一番大きな問題なのではないかというふうに理解しているんです。
○ そうすると、構造が少し多層化しているというか、本当に殺人なのか、例えば、傷害致死なのか、あるいは正当防衛なのかとか、一般的に言えば、そういうところが争点のように思えるんですが、しかし、その裏のところに、今、○○委員がおっしゃったような、そのことを証明するときに、この証拠が適切なのか、こういう証人が必要なのかというところまで争点整理をするというような多層的な争点整理が必要ということになるんでしょうか。
□ 多層的といいますか、被告人が争っている場合、結論としては、自分は犯人ではないと主張するか、刑事責任を負わないと主張するか、どちらかになると思うのですが、しかし、その前提として、その結論を導く理由というものがあるはずなのですね。正当防衛だという場合もあれば、アリバイがあるという場合もありますし、いろいろな理由となる主張があるわけで、その主張をまた支える事実というものがある。そういうふうに、まさに多層化しているわけです。そのそれぞれについて、どういう証拠を調べればいいのかということが問題になってくるわけで、委員のお言葉で言えば、多層化されている事実のどこまで整理していくのか、さらには、それを証するために取り調べるべき証拠まで整理するのかどうか、そういう問題だろうと思うのです。
○ やはり、裁判員制度が採用されて、素人の裁判員が加わってくるという前提で、どういう準備手続でなければならないのかということを考えてほしいというふうに思うんですね。つまり、今やっている刑事訴訟規則などに基づくような準備手続をそのまま踏襲するのではなくて、素人が入ってくる、素人の人にも判断が下せるような、そういう準備手続をきちんと行った上で公判が開かれるというものでなければいけないというのが一番の大前提だと思うんです。
そのときにどの程度まで、言わば争点整理がされていく必要があるのかというお話だと思うんですけれども、今、○○委員がおっしゃったような、証拠の具体的な内容にまで立ち入って、かなり固めたところで、どういうものであるべきかということを示す必要まではないのかなというふうにも思うんですね。とてもそれは最初の段階でできる話ではないから、ある程度、第1回公判の前に、裁判員が一体どこに目をつけて、何を聞いていればいいのか、何について自分の判断を固めればいいのか、そういうものが分かるような、そういう骨格が、検察側、弁護側、双方から提示されて、どこを本当に争おうとしているのかというのがはっきり明示される、そういうものであるべきだというふうに思います。
ですから、訴訟の関係者である裁判官、それから、検察官、弁護人という、言わば三者の目で明らかになっている争点だけにとどまらず、実務的な争点にとどまらず、そこに加わってくる素人の目にも分かるような具体的な争点が示されるような準備手続がつくられるべきだというふうに、基本的には思います。
□ もっぱら国民参加ということとの関連でお考えのようですが、審議会の意見では、争点整理は、より広く一般的に、裁判を充実、迅速化するために必要だということになっていますので、○○委員が証拠整理をするとおっしゃるのは、ちょっと趣旨が違うのではないかという気がします。
○ ちょっと先に行き過ぎたかもしれませんが、先ほど座長も言われたように、争点というのは、やはりもう少し細かい事実、どのような事実に争いがあるのかということまで決めておかないと、少なくとも困るのではないかということだと思うんですね。現在の起訴状というのは公訴事実というのを極めてコンパクトに書いたものですけれども、その後、公判になると、検察官が冒頭陳述というのをやるわけですけれども、私のイメージとしては、準備手続の段階で検察官が冒頭陳述的なものを出して、そして、それに対して、弁護側が、そのうちのどれについて争うのかということを示す、少なくとも、そこは必要ではないかというふうに思います。
○ もう一つ、今の○○委員の御意見に全く賛成なんです。なぜかと言いますと、裁判員が加わるような裁判だと、一回結審ということも相当あるだろうと思うんです。そういうものをむしろ目指すべきだと思うんです。そうすると、一回結審できるためには、少なくとも冒頭陳述で、検察側が立証しようとしているような内容、それに対して弁護側が反証しようとしている内容、そういうものが出ていないと、一回結審できないだろうと思うんです。
ですから、そのぐらいの内容を持った争点整理をしておく必要があるのではないかというふうに思います。
○ ○○委員と同じような意見になるかもしれませんけれども、この準備手続で何をやるのか、とりあえず争点整理に限って言わせていただければ、これは、審理計画を定めて、それに基づいて一括して期日を定めて、充実した、しかも、迅速な裁判をやろうということになるわけですから、その争点の整理というのはかなり具体的にやっておく必要があるんだろうと思います。
例えば、公訴事実の成否を争うとか、抽象的に違法性阻却事由があるとか、責任阻却事由があるとかいうだけではなくて、検察官の方からある程度具体的な事実主張を最初にやって、弁護側から間接事実も含めた形での認否というのをやってもらう。認否をやってもらった後、今度は、弁護側から積極的な主張があるならそこで明らかにしてもらうと、それに対して、また、検察官が認否するなり、別の反論があるなら反論を明らかにするという形で、あとこれは証拠開示と絡んでくるんですけれども、争点整理に限って言えば、そういったお互いのやり取りの中で自然と最終的な本当の争点というのが定まっていくという形にするのがいいんではないか思います。
これができないと、先ほど○○委員も言われましたが、これは、一般の事件でもそうなんですが、取り分け裁判員制度を導入した場合に、きちっとした審理計画が立って期日指定ができてないと、裁判員制度そのものが崩壊してしまう可能性もありますので、細かく間接事実を含めた形での認否と争点整理といったものを進めていく必要があるんではないかという気がしております。
□ 我々法律専門家は分かっているつもりですが、「間接事実」というものについて、他の方にも分かるように、具体的に例を挙げて説明していただけますか。
○ 例えば、あるAという事実があるとき、これを直接見ている人がいれば、直接証拠になるんですけれども、そうではなくて、それを推認させるような別の事実が、間接事実です。そういったものがあれば、それを検察官が具体的に主張できるものは主張すると、それについても弁護側の方で違うなら違う、その事実は認めるなら認めますという形で認否をするということです。
□ 分かりました。
○ ちょっと古い話になりますけれども、昭和30年代に、いわゆる新刑訴派と言われた裁判官たちがいて、その人たちは、集中審理とか、あるいは事実審理を充実させるためにどうしたらいいかということを考えて、今の刑事訴訟規則に改正したということがありました。
実際に、その時点で、その裁判官たちは、集中審理をやって、かなり大きな事件でも1回で終わるとか、数日で終わってしまうというようなやり方をやっていた。ところが、そのうち、学生事件とか労働公安事件、あるいは、財政経済事犯の大きいものとかがでてきて、どうもそれがうまくいかなくなってしまったというような経過にあるように私は記憶しております。そうだとすると、今の刑事訴訟規則の、特に準備手続について、どこがどういうようにまずかったのかというようなことを考えるというのが、一つの方法だろうと思います。
そういう観点から見ていきますと、準備手続の内容として刑事訴訟規則194 条の3でかなり体的なことが定められている。これらを第1回公判期日の前にできるというようにを考えたらいいんではないかという気がします。
つまり、どうして事前準備が第1回公判期日前にできなかったかというと、要するに、先ほども出てきましたけれども、予断排除ということにとらわれ過ぎている。ここのところをなくして、第1回公判期日前に準備手続を前倒しできないかというようなことを考えるというのが有効な検討方法であって、この考え方は、裁判員制度には役立つし、一般の事件にも役に立つことになるんではないかと思います。
□ 具体的には、刑事訴訟規則194条の3に掲げられているようなことを、公判前の段階に前倒しで行えば、かなり効果があるのではないかということでしょうか。
○ そうです。相当程度の準備ができるんではないかと思います。
□ ○○委員、どうぞ。
○ さっき○○委員からもお話がありましたように、今、多くの事件では、特に、争いのない事件では、公判の前にいろいろ争点までお互いに交換しあった準備がなされているだろうと思います。
この新しい準備手続、争点整理手続は、私も充実させることは必要だという意見です。ただ、一律に「こういう準備手続でやりましょう」ということができるかどうかというのは、なかなかそうはいかないのではないかと思うんです。
さっき○○委員からもありましたように、この争点整理が何のために必要かというと、充実した公判審理ができるために審理計画を立てることだとすると、要するに審理計画がきちんと立てられればいいわけです。
事件の具体的な状況によって違うんではないかと申し上げたのは、一つは、被告人との関係です。これは、審議会でも議論になりましたけれども、例えば、被告人と弁護人とが一切コミュニケーションが取れないというようなケースもないではない。現にあるわけでございますけれども、こういう場合には、例えば、一律にここまではやりましょうという準備手続をつくっても、なかなかできない部分があるだろうと思うんです。
審議会でも話題になったんですけれども、その場合には、すべて争うという争点整理というのが可能ではないかという御意見がありました。そうだとすると、すべて争うということを前提にした、きちんとした審理計画というものも立てられるわけですから、それも一つの争点整理の在り方であろうというふうに思います。
もう一つは、証拠開示との関係がやはり重要だろうと思います。十分開示されていれば、弁護側の方でも、ここはこうということが言いやすいことがあるかもしれませんし、まだここの開示が不十分だと思うのであれば、ここについてはまだ準備ができないということもあるだろうと思うんです。
ですから、今申し上げたような具体的な状況によって、審理計画の立て方というのは、それぞれ個々のケースによってあり得るわけで、何か一つのものをこうやりましょうという形でかっちり決めてしまうのは、どうだろうかという気が今の段階ではしております。
□ 御趣旨がいまひとつ分からなかったのですけれども、言われたような場合がすべてではないわけですね。だから、手続を設けても良いが、そういう特別の場合を柔軟に受け止められるような形にすれば、今おっしゃったこととは矛盾しないということでしょうか。
○ そうです。
□ もう一つ、すべて争うというのは、確かに争うということははっきりしていますけれども、どういう点をどういうふうに争うのかという争点ははっきりしていないわけですね。その意味で、それで争点整理と言えるのか、そういう場合に本当に審理計画をきっちり立てられるものなのか、疑問があるのですが。
○ その場合には、事実を一つずつ立証していく計画を立てるということになると思います。
□ 検察官立証の審理計画は立てられるでしょう。しかし、その後の審理計画については、分からないわけですね。被告・弁護側が、どこで、どういう防御方法を出してくるかは、検察官立証終了までは分からない。そういう形で審理計画を立てるということですか。
○ そうですね。
□ 証拠開示との関係でも、ここのところは提出されない証拠も見ないとどういう主張をすべきか分からないとおっしゃった点ですが、その「ここのところ」ということも言えないのか、という疑問があるのですけれども。
○ 例えば、目撃証人がいたというケースがあったとします。そうすると、例えば、検察側が目撃証人一人だけを請求していたとすると、仮に、被告人がアリバイを主張する可能性があるときに、ほかに目撃証人はいないのですかと、ほかの証拠はないのですかということをやはりきちんとチェックしないと、その点については何とも言えないということはあると思うんです。
□ しかし、そのアリバイないし、当の場所に被告人がいたということに関連する証拠があれば見せなさいという程度のことは言える、ということではないですか。
○ 私が申し上げたのは、それは段階の問題で、開示の程度によっても変わってくるのではないか。それは、今、座長がおっしゃった趣旨です。
□ 分かりました。ほかに、御意見はございますか。
○ 一般的に、裁判員が入って、集中的に審理するということになったときに、その準備が必要であるということについては、恐らく異論はないんだろうと思いますし、私もその点については異論はないわけです。
問題は、今お話を伺ってみてもそうなわけですが、最終的には後でまた議論になることですけれども、要は最終的にできるかどうか、やる必要があるということと同時に、できるかどうかということが問題にならざるを得ないだろうというふうに思うわけで、今、○○委員がおっしゃった点もそこにかかわるんではないかというふうに思うわけです。
ですから、どこまでやれるかということも、どこまでできるかという面を多分に含んでいるということだろうと思うんです。ですから、細部にわたって双方ある程度納得して、法廷に出すための準備、細かい争点までということになってくれば、当然その争点に認否までするということになるんでしょうし、そうなってくると認否ができるかどうかという基盤を確保しているかどうかという問題になると思うんです。ですから、今の、ほかに目撃者がいるかどうかということについて、弁護側が確認できないのに認否をしようと言っても、なかなか弁護側としてもそこについては答えは出せないということになる可能性が高いわけですので、条件次第ではかなり細かいところまでいけると私も思うし、そういう条件が整えられるならばいくということが望ましいということになるんだろうと思うんです。
ただ、被告人と弁護人の間のコミュニケーションが取れないという場合については、今、座長がおっしゃったことでいいんだと思うんです。ともかく、すべて争うというのは、当然のことながら、検察はこことこことを立証してくるということになるわけでしょうから、それについて個別的に判断を求められれば、その個別すべてについて現時点では否認するという答えになってくるんだと思うんです。それ自体は、やむを得ない場合があり得るんだろうと、私も思いますので、ともかく一般的な形では、個別の細部にわたった争点整理、場合によっては認否までということもあり得ると思います。しかし、それができるという条件がどこまでちゃんと保障されているかということにかかわるんではないかという気がいたします。
□ 証拠開示のところで、恐らく話がでると思うのですけれども、目撃証人の場合、検察官は、被告人がその場所にいたということを、その証人の証言によって立証しようとするわけですが、弁護側としては、被告人と全くコミュニケーションが取れないような例外的な場合は別として、コミュニケーションが取れる場合には、「被告人は、そこにいなかった。目撃証人が見たというのは被告人ではない。」という形で、争点としては出させるわけですね。だから、そういうことによっても、大分前提が違ってくるような感じがするのですけれども。
○ 今の場合は想定が少し違うんではないかと思うんですけれども、具体的に言うと、目撃証人と言われるものも、弁護側からすれば、否定的な目撃証人というのもあり得るわけですね。
□ それは分かるのですけれども、被告人と弁護人がコミュニケーションを取れる限りは、被告人としては、「私は、あそこにいませんでした。あの検察側が出してきている目撃証人が言っていることはうそです。」ということは言えるわけでしょう。そういう形で争点を明示することはできるのではないかという、素朴な疑問があるのですけれども。
○ ただ、その場合であっても、目撃供述の中身がいろいろとあり得るわけですね。ですから、相手の言っている目撃供述との関係で、どこを弁護側としては反証するかとか、どこを主張するかということについては、一人の目撃証人しかいないのか、それが複数あり得るのか、しかも、中身の程度というものがどの程度かということによって、やはり事情が違ってくる場合があるんではないかと思います。
○ 争点整理をどこまでやるかということで、これは、できる場合とできない場合があるわけだから、一応できる場合を前提にして言うと、これはもう因数分解でこれ以上因数分解ができないというところまでやるべきだと思います。要するに、審理計画を立てるためにやるわけですから、その審理計画とは何かというと、どういう事実について、どういう証拠を調べるか、どういう証人を調べるか、それは検察側証人、弁護側証人、両方ですね。その証拠の採否決定まで当然せざるを得ないわけで、どういう論点について、どういう証人を何人やるか、そこまでの判断をする。しかも、弁護人がいろいろ証拠請求するのを、不必要なものは却下することができる。検察側の証拠請求も不必要なものは却下するということが、的確になされなければいけないわけです。
ですから、そういうところまで、的確にできるところまで争点を詰めていく、争点整理をしていくというのが大原則だと思います。
審理期間は裁判員もいる以上、当然、二日で済むものは二日で、一日で済むものは一日の方がいいわけですから、もうできる限り細かく争点を詰める。ただ、それは、当然、弁護側の出方によって黙秘の場合もあるでしょうし、おっしゃっているように、争うとしか言わない、俺はこれ以上絶対に言わぬぞという人もいるでしょうし、そういう場合は、それを前提にした立証計画にならざるを得ないわけですけれども、基本的に弁護側が応じるということになれば、もうできる限りとことんまで詰めていくと、とにかく争点はこれ以外ないというようなところまで絞り込んで、迅速にやるというのが大原則だというふうに思います。
□ 事前にそこまで明らかにできなかったという場合は、どうなりますかね。そういう状態でも、ともかく公判を開かざるを得ないわけですけれども、特に裁判員制度の場合、審理期間がどのぐらいかかるか予めは分からないということになってしまいますね。
○ 何日かかるか分からないという状態では、公判に入れないということではないでしょうか。
□ そうすると、どうなりますか。被告人側としては、とにかく全部争いますが、争い方は明らかにしませんという場合、どうなりますかね。
○ 当然、証拠は全部不同意ですね。そうすると、不同意にされた証拠を法廷に出すのに必要な日数ということになりますね。当然、その場合には、ここまで先走って言ってしまっていいのか分からないけれども、弁護側が準備段階でしなかった主張を公判段階でできるのかという問題があって、私は、どこかで主張制限をかけないと、裁判員制度は動かないと考えています。例えば、準備段階では何も言いませんよと言っておいて、さあ裁判員を集めて裁判を始めましたといったときに、いきなりそれまで全く想定されていなかった主張を出すと、そうすると、当然、もう一回争点整理をやり直さないといけない、新しい証人も出さなければいけないとなったら、当然審理計画は変わってくるわけですから、最初1週間で済むはずだったものが1か月掛かるかもしれないということになってしまう。そうなったら、いったん裁判員は解散ということにならざるを得ないかもしれないわけです。ですから、いつの時期を想定するかは別にして、やはり原則として主張制限というものは設けるべきだと思います。
□ それは、争点整理の実効性をどうやって担保するのかという、少し先の問題だろうという気がしますが。
○ 議事進行ないし議論すべき論点に関して、ひとこと発言致します。先ほど来皆様の御意見をずっと聞いておりますと、最初は、争点整理の全体的なイメージをお話するということであったわけでけれども、いろいろな方が異なった様々の事件のイメージを持ってお話しになっている。特に、これまでは、非常にぎりぎりの、かなり特異な事例についてどうするかというところに話が行ってしまっているように思われます。もちろん、私もぎりぎりの設定についてそれぞれの答えはあるつもりですけれども、とりあえずは、○○委員が争点整理で何をどこまでやるかということで、準備手続と呼ばれている手続でできる事柄に関する基本的なアイデアを出されたように、まずは、ごく普通の、しかし、それなりに争点を整理しなければならないような通常の事件を想定して、これについて、準備として何をするのか、どういうことをする必要があるのか、それが現行の制度とどこが違うのかというようなところを順次はっきり議論していった方がいいように思うのでありますけれども。
□ その点は確かにそうなのですけれども、後で出てくる証拠開示と密接に関連しているものですから、今問題になっているところをある程度議論しておかなければいけないような感じがするのです。
冒頭では、非常にぼわっとした議論の求め方だったものですから、ちょっと不安に思われたかもしれませんが、できるだけ審理計画をきちっと立てられるような形の争点整理が望ましいということでは、そんなに異論はないようですけれども、そこまでいかなかった場合にどうするか。また逆に、そういうきちっとした争点整理ができ、審理計画を立てられるようにするためにはどうすればいいのか、そういうことが次に来るのかなというふうに思います。
○○委員の言われたことを念頭に置きながら、もうちょっと先で議論させていただきたいと思います。先ほど○○委員が踏み込まれた点なのですけれども、争点整理の実効性をいかにして担保するのかという点で、いきなり主張制限というところに話を持って行かれたのですが、その前に、この前のヒアリングでも、たしか法務省と最高裁の意見の中で、争点明示を義務付けるべきではないかという指摘がありました。主張制限などのサンクションを設けるとすれば、その前提として、争点明示の義務付けについてきちんと議論しておく必要があると思うわけです。論理的には、義務付けというものがなくても、何らかの実効性担保の措置を取るということはあり得るとは思いますが、議論のステップとしては、まず、義務付けることの可否や、義務付けるとしても、どういう形の義務付けがあり得るのか、そういった点について御議論いただいておいた方がよいと思います。どうぞ。
○ それでは、争点明示の義務付けという事柄に関連して意見を申し上げます。今、座長がおっしゃった、弁護側、被告人側の主張・抗弁、争点を提示することの義務付けの前提として、先ほどどなたかがおっしゃいましたとおり、訴追側が、今の起訴状に書いてある程度の事実だけではなくて、現行の制度で言えば証拠調べの冒頭に行われる冒頭陳述と同じような程度・密度の具体的な事実関係を主張としてまず提示するというのが前提だろうと思います。訴追側の主張する事実が抽象的なレベルに留まっていては、被告人・弁護人側としても防御の、すなわち争点形成のしようがないからです。そこで検察官からまず具体的な事実の主張をしていただく。
それだけの密度の訴追側主張事実が提示されたということを前提にして、今度は、防御する方からその具体的な事実について、どこをどう争うのかということを具体的に言っていただく、主張していただく、ということは、極めて合理的な制度設計だというふうに思っています。
被告人側の主張を言っていただく、すなわち争点を明示することを義務付けるということの効果は、結局、その義務を果たさなかった場合には、法律的には、そこで言わなかったことは特段の理由がないのに後から言うのはおかしいであろうというような形で、一種のサンクション、主張制限というような形で現れることになろうかと考えます。そして、そのような効果を生じさせるためには、まずその大前提として検察側がそれなりの具体的な事実を主張し、これに対して、どこをどう争うのかということを弁護側が主張すると、これがまず第1段階の出発点になるのではないか。それを相互に交換していくうちに、理想形は、先ほど○○委員が言ったように、ぎりぎりの本当の争点が浮かび上がってくるというところまで行くかもしれません。いずれにしろ、当事者間での具体的な事実の主張の交換というのが、基本的な枠組みとして想定されるのではないかというイメージを持っております。
□ ほかの方いかがですか。
○ 私は、被告人本人がこの犯罪を犯したというふうに自分で認識して自白していてという多くの事件の場合には、争点明示義務を課すとか、そういうことはスムーズにいくと思いますし、当然そういうふうにしていただいた方が準備手続の中で争点が明確化され、円滑に公判が進むということで、当事者にとってそれぞれ意義があると思うんです。
ただ、先ほど○○委員もおっしゃいましたように、被告人とその弁護人が会っていたとしても、被告人が弁護人の方にすら黙秘しているとか、とにかくそのことについてコミュニケーションができないというときに、それでも、被告人の方に、裁判の公正さを担保するために争点は明示すべきであるというふうに、義務を課するかどうかということについては、私はそれは是非課した方がよいとは思いますし、被告人のためになるとは思うんですけれども、黙秘権との関係を検討する必要があるということは明確にしておかなければいけないと思うんです。
つまり、私は、個人的には、争点明示義務というか、明示することの有利性というのを被告人にも理解していただいて、そういうことができるような制度ができることが、全体的な公正な裁判のために必要だと思うんです。ただ、憲法とか刑事訴訟法の今までの観点からいけばクリアーしておかなければいけないのが、黙秘権との関係と思うのです。
もう一つは、争点明示義務といったときに、更に先のことになるかもしれませんけれども、今の刑事訴訟規則の第178 条の10の第1項には、裁判所は適当と認めるときには、検察官及び弁護人を出頭させた上で打ち合わせを行うことができるが、その場合には事件につき予断を生じさせる恐れがある事項にわたることはできないとありますが、このように裁判所と当事者が直接会って争点をそれぞれ明示しあって調整することが必要な事件と、文書で示し合うなり、電話とかで口頭で言い合って済ませることができる事件とがあるかもしれなくて、そういうときの争点明示義務自体は同じかもしれませんけれども、争点整理手続を実際に運用していくときの手続については、やはり柔軟性を確保しておかないと、すべての事件で直接会って、明示義務があって、それぞれ会った上で争点を出すことを義務化するのが現実的かどうかということも、論点にはならないかなというふうに思います。
□ 準備手続の実際のやり方という点は、配慮しないといけないと思います。
最初の点については、両極の例を挙げられましたが、そのうちの被告人が全面的に認めている場合ですけれど、その場合には争点というのは本当を言うとないわけですね。他方の極として、弁護人と全然コミュニケーションが取れない場合があるということでしたが、問題は、むしろ、そういった両極の中間にある場合をどうするのかということではないでしょうか。
つまり、被告人と弁護人とのコミュニケーションが十分できている場合、さらには不十分ながらもできている場合、そういった場合はどうなのか、多くの場合はそういうことではないでしょうか。
○ ですから、個人的な意見を申し上げましたように、争点は明示していただくような制度設計が望ましいのではないかと思っておりますが、そのときにクリアーしなければいけないのは、争点を明示すべきだということの論拠を示すということだと思います。争点を明示しなくてもいい、被告人は黙秘できるではないかという論理はあり得ると思うんです。私は、その辺は、専門家ではありませんけれども、争点を明示すべきだということを、制度としてきちんと義務化できるだけの論拠を示して、現行の憲法、刑事訴訟法との兼ね合いをクリアーした上で、争点明示義務を課すことがいろんなケースで共通して望ましいというふうに思います。
□ そこはおっしゃるとおりだと思います。結論としてどうかは別として、黙秘権との関係が問題になるということは間違いなく、それは議論しなければならないと思います。その場合に、私が、あえて極端な場合ではなくてと申し上げたのは、コミュニケーションがおよそ取れないというのはかなり特殊な例で、そういった特別の事情がある場合は、また別の論理が立つかもしれないですけれども、そうではなくて、弁護人と被告人とが一体的な関係にある通常の場合に、争点明示を義務付けることが果たしてできるのかどうかということが、委員が指摘された論点を議論するときにまず出発点として考えるべき設定であるように思うからです。
その場合に、いや憲法上の権利保障がある、あるいは刑事訴訟法上何も言わなくていいことになっているのだから、争点の明示を強いられるいわれはないという議論はもちろんあり得るわけで、それについて、どういうふうな答えをするのかということだと思うのです。
○ そこの問題が解決されれば、私は、当事者にとっても争点を明示して裁判に臨むことが一番望ましいのではないかと思うんです。そこが理論的なところで気になりました。
□ 最初に手を挙げられたのは、○○委員ですね。
○ 義務付けが必要かどうかという観点から言えば、これは、義務付けをしなければ現行の制度と何ら変わらないわけです。先ほど○○委員から御提示がありましたように、規則に争点の整理も入っているんですけれども、これは単にすることができるとなっているだけで、実際にはされないまま、本当は争点になってないのに、争点があるかのような状態で審理が続けられて、審理の最後まで来たら全然争点ではないことが分かったという事件もよく見るわけです。
やはり、きちっと審理計画を立てて、充実した裁判をやろうと思えば、この争点の整理というのは義務付けておかなければ、その義務付けの効果がどうなるのかというのはまた後で議論するとしまして、そこはまずやっておかなければ現行制度から何も進まないという気がします。
○ 私は、争点明示義務はなくてもいいと思うんです。争点明示義務を課したとしても、裁判官が弁護人に直接的に強制して争点を言わせるわけにいかないわけですから、そういう意味ではサンクションをかけるというところで担保する以外ないわけですね。そうすると、考えられるのは主張制限ぐらいしかないわけだと思うんです。
ですから、主張制限をかければ、争点明示義務は本来必要がないのではないかと、法文の書き方はいろいろあると思いますけれども、いわゆる義務として規定する必要はないのではないかと思います。
先ほど主張制限と言いましたけれども、あれはサンクションとして言っているのではなくて、裁判員制度を導入する以上は、どこかで主張制限を入れないと、そもそも裁判員制度が動いていかないわけですから、そういう意味では私は主張制限と申し上げたわけで、サンクションという意味で申し上げたわけではないんです。
□ その主張制限を結び付けることによって、争点を明示しなさいということを間接的に言っているわけですね。それは、義務付けと言えなくはないですよね。
○ でも、争点を明示するか否かは弁護人の自由なんですね。要するに、争点を明らかにしないで、全部争いますと言ったまま、主張制限を受ける方がいいのか、争点を整理してきちっと明らかにして闘った方がいいのか、それはもう弁護人と被告人の裁量の問題だと考えます。
今、○○委員は、争点を明示した方が被告人に有利だとおっしゃいましたけれども、普通はそうだと思うんです。けれども、弁護人と被告人の考え方によっては、争点をはっきりしないで公判に行った方がいいと考える場合もないではないと思うんです。
ですから、そういう意味では、そこは裁量の問題として残しておいた方がいいのではないかと思います。
○ 今、○○委員がおっしゃった、争点明示義務の話ですけれども、無理やり言わせるという意味の義務付けではなくて、争点を明示しなかった場合にどういう法的効果が生ずるかということであって、余り基本的には考え方は変わらないんではないかと思います。
○ 私もそう思うんですけれども、要するに、サンクションを課することができるとすると、逆に言えば、それは義務付けなんだと思います。そのときに、いわゆるそこのところは義務だと一般的に言うかどうか、それだけの違いだろうという気もします。
ただ、私は、やはり争点整理を明らかにするためには、それだけのことをやらせないといけない、やらなければできないので、そこは、義務だと一般的に言っておく方がいいだろうという気はします。
○ 先ほど○○委員が、憲法との関係、黙秘権との関係ということをおっしゃいましたが、争点を被告人、弁護人側から提示していただく、これを義務付けるという制度を考える場合、まず、前提として、「黙秘権」と漠然と言われていることと、憲法が保障している事柄とは、区別して議論しておかなければいけないと思います。
憲法38条に書かれているのは、「何人も自己に不利益な供述を強要されない」ということです。これが憲法の保障内容です。これと、「黙秘権」と称されていること、すなわち、刑事被告人は一切何もしゃべらない自由があるということとは、必ずしも同じではない。憲法との関係で言いますと、私が先ほど言いましたとおり、まず検察側が具体的な主張事実を述べたことに対して、被告人、弁護人側からどこを争うのか、どういう弁解があるのかということを提示していただくということは、そもそも被告人の犯罪事実を証明する不利益な証拠を、無理やり強要して言わせているという話では全然ない。そこで弁護人、被告人側に主張・提示していただくのは、防御方法であって、基本的には被告人側に利益に働く類型のことを言っていただくということが想定されているわけです。それは、不利益な供述を求めている制度とは言えないであろう。
さらに、そもそも準備段階の段階で言っていただくべき事柄は、被告人側が将来公判で主張する予定の抗弁、防御方法でありまして、それは、もし本当にそういうことを主張するのであれば、結局は、公判が始まってから、いつかはどこかで主張するかどうか被告人側に決断が求められるはずの事項です。それを、公判が始まる準備段階に前倒しにしてあらかじめ言っておいていただくように要請するものです。それに対して、また検察側から新たな主張をするなりして、主張を交換することになるというイメージです。これは、少なくとも、憲法が禁止している自己負罪の「強要」には当たらず、憲法とは基本的には衝突しないというふうに考えて、制度を設計することはできるだろうと思います。
○ 憲法との関係は、私もそうではないかと思うんですが、ただ、刑事訴訟法上、黙っていてもいいという権利もあるわけですね。そうすると、黙っていてもいい権利と調和する争点明示義務というものでなければいけないのではないかと思うんです。どうも今、イメージとして提示されているのが、例えば、検察官が冒頭陳述書に書かれるような事実を提示して、それのどこを認め、どこを争うかというようなイメージが出ているものですから、ちょうど民事裁判の準備書面に対して認否するというイメージと重なるんですね。
そうなると、争い方というのが、さっき言ったこととも重なりますが、一つの争い方に収れんし過ぎていないかと。さっきの何も言わなくてもいいという法的な地位と衝突しないかということなんです。
つまり、実際、これはどれぐらい起こるか分かりませんが、何もしゃべらない被告人がいる可能性があるわけです。そのときにはどうするのか。それはもう争いますと、争うという争点を明示したんだというふうに制度として扱ってもらうような争点明示の在り方というものが、やはり必要なのではないかと思います。
ただ、黙っていて何も言わないと、では、全部争うという争点整理をしましょうと、それに沿った審理計画をつくって、それで公判に行きましょうということにした。ところが、公判に行ってから全然予想もしなかったアリバイの主張が出たということになると、これはまた別の考慮が必要だろうと思います。つまり、不意打ちになるわけですし、裁判員の裁判の場合には、そこで中断という問題も出てくるわけで、それについては、また別の理念に基づく、別の配慮が必要だとは思いますが、少なくとも検察側の主張に対する応答の仕方にはいろいろあっていいんではないかと思います。つまり、繰り返しになりますが、冒頭陳述書に書かれるような個々の事実、さっきの○○委員の言葉で言えば、因数分解し切れないところの事実まで認めるという、争点の明示の仕方もあるし、そうではない争点の提示の仕方も残しておいていただかないといけないという気がします。
□ さっきの私の質問には、ちょっと答えていただいていないような気がするのですけれど。トータルに争いますと言った場合、検察側立証についての審理計画は立てられるのですけれども、その後どうなるかは分からないわけですから、どうやって全体の審理計画を立てるのでしょうか。
○ それは、さっき申し上げたように、弁護側のものについて、不意打ちになるようなものについては別の配慮が必要でしょうということです。
□ どういう配慮ですか。あらかじめ明らかにされていなかった主張が公判で初めて出てきたという場合に、相手方に準備の時間を与えるためには、結局、公判手続を停止して、一定期間空けて次回公判をやるということしかないと思うのです。そうでなければ、手続を全部御破算にして、最初からやり直すかでしょう。
それが不都合だということならば、○○委員が言うように、主張制限という形で、そのような新たな主張は出させないこととする。無論、○○委員がおっしゃるように、場合によっては、やむを得ない理由で最初の段階では出せなかったものが後で出てくるということもあり得ますので、そういうものまで制限するのは妥当でない。ですから、その辺をどういうふうに組み立てるべきかということを考えるために、極端なところから発想していくのでは全体の制度が違ってくるような感じがするのです。
○ 質問ですが、私は実務をやったことがないのでうまく想像できないんですが、先ほど言ったように、前提として検察側が具体的詳細に証明しようとする事実を述べたにもかかわらず、被告人・弁護人側が、それに対して、なぜ争うべきところを争う、争わないところは争わないという主張をその段階で明らかにすることができないのか、それがよく分からないのです。諸外国の法制にも、特にアリバイ主張については、先ほど座長のおっしゃったような問題があるので、アリバイについては最初の段階で主張し、その証拠も示すことを被告人側に義務付け、後から不意打ち的に主張した場合には、むしろそういう主張は認めないとか、あるいは、陪審だったとすれば、何でそういうのが後で出てくるんだということで、かえって被告人に不利益に推認される場合があるわけです。
○ 多くのケースでは明らかにすると思いますし、今もそうだと思います。ただ、私が申し上げているのは、さっきからサンクションを伴った争点明示義務ということが話題になっていますので、ただ黙っていてもいいという他方の法律上の制度もあるから、それとは調和するようにしてほしいと言っているだけなんです。全部の事件で弁護側がそれをやることは考えられないと思います。
今のアリバイも、私がさっき申し上げたように、例えば、だれが見ても後から出てきた事実に基づいてアリバイを主張することが合理的だと思われるような、またまた更に極端なケースは別として、例えば、分かっているのに言わなかったという場合は、それは、○○委員がおっしゃるように、私は最初から言うべきだと思うし、それなりの制度をつくるべきだと思います。それは、例えば、御指摘のようなアメリカでも、アリバイの証人を出せと、それと併せて検察側にそれを弾劾する証人までちゃんと出せと、そういった仕組みをつくることによって、一定のサンクションを伴う、○○委員の言葉で言えば主張制限ということになるのかもしれませんが、そういったことはあり得るだろうし、また不意打ちを防止することは、裁判員による裁判の集中審理ということを実現するためには必要なことだと思います。
ただ、一般論として、サンクションを伴う認否というのが民事的なイメージでずっと来たものですから、黙っていてもいいという権利とは両立した方がいいと、それだけのことです。
□ 「法律上の制度」というのは、被告人は終始沈黙することができるとしている刑事訴訟法311条のことを言われているのだと思いますけれども、公判段階でももちろん被告人にはそのような権利があるわけですが、公判段階で最後まで黙っていたらその防御方法は出てこないわけですね。その防御方法が意味を持つためには、被告人側はどこかの段階で主張せざるを得ない。これは強制でも何でもないわけです。まさに被告人と弁護人が自らの意思で選択することですね。
そうだとすると、公判段階で出すつもりがあるなら、それを準備手続の段階で出してくださいということが、どうして刑事訴訟法311 条に反することになるのか、疑問なのですが。
○ そういう場合は出した方がいいのではないですかと言っているわけです。
□ その場合、前の方で出してくださいと言ったときに、意味があるのは、○○委員がおっしゃったように、準備手続の段階で出さなければ後の公判の段階では出せないとすることだろうと思いますが、その段階で出せなかったような特別な事情がある場合は別ですけれども、その段階でも出せるようなものを前倒しで出してくださいとうことが、どうして刑事訴訟法311条 に反することになるのか、そこがよく分からないのですけれども。
○ 反すると言ってるのではなくて、刑事訴訟法311 条の権利を行使して、何も言わない人はいると思うんです。もちろん、さっきのようなアリバイについては、仮にアリバイを例に取りますと、弁護側のアリバイ証人を弾劾するものまで検察側が開示するような仕組みを前提にした上で、一定の法的な効果を伴う制度というのはあり得るだろうと思うのです。だから、それは別に刑事訴訟法311 条に反するというふうに言うつもりはありません。
ただし、そういう主張もしない、あと検察側が最初に明らかにした事実などについて、何も言いませんということもあり得るわけですし、まさにそれが刑事訴訟法311 条の場合だろうと言っているわけです。
□ しかし、公判段階につき主張制限を設けるとしますと、何も言わないということが本当に権利であれば、○○委員が指摘されるように、そのような不利益を科すことは刑事訴訟法311 条の権利を侵害するという議論に恐らくなってくると思うのです。けれども、もし言うことができ、そのつもりもあるなら公判前に言ってくださいということが刑事訴訟法311 条に反しないとするならば、その段階で言えたのに言わなかったときは後の公判では主張できないことにしても、刑事訴訟法311 条とは両立することになるように思うわけです。
つまり、全く黙っているのもいいけれど、そのままで行くと公判では主張が制限されるという効果が生じることになるわけですが、それでいいのでしょうかということです。それで問題ないとすれば、刑事訴訟法311 条とは抵触しない形で制度設計できるかもしれない、そういうことだと思うのです。
○ はい。
○ 今、恐らく○○委員の言われているところを、もう少し別の角度で忖度すると、例えば、アリバイが完全に成立するという証拠を持っていたんだけれども、主張しなかった。公判が最後まで進んで、その段階でその証拠を出そうと思ったときに、最初に言わないからだめだ、出せないと、ここまでいくかということを懸念されているんではないかという気がします。このときに全く例外を認めないのかどうかというと、これについては、また別の配慮が必要なので、そういう極端な場合は除いて、一般的に出せるものを出さないとだめだという議論なんだと、そういうことでいいわけですね。
○ 私は、今のアリバイの主張に重きを置いて述べたのではありません。
□ 被告人と弁護人との間でコミュニケーションがつかなかったような場合についてですか。
○ そうではなくて、コミュニケーションが仮についたとしても、民事で言えば、原告側の請求原因事実についての認否をしない場合があるというだけの話なんです。抗弁は出すかどうかはまた別の、○○委員、○○委員がおっしゃったような、アリバイなどは、また別ですけれども、民事で言う請求原因事実についても何も言わないという場合を言っているだけなんです。その請求原因事実についても、それは何らかの法的なサンクションを伴った認否をしないといけないという制度をもしつくるとしたならば、民事と違って、刑事では黙っていてもいいというのがあるものですから、それとはうまく調和するようにつくった方がいいんではないかと、それだけのことです。
□ そこをまさに議論しているのだと思うのですけれども、前の段階で言えたのに言わなかったという場合、後ろの方でそれを持ち出すことはできないことになるのではないでしょうか。
○ それは、言えたのに言わなかったかどうかの問題ではなくて、刑事訴訟法311 条は言わなくていいということになっているわけですから、言わなくたっていいんではないかということでしょう。
□ ですから、先ほどから御質問しているのです。被告人側の主張を意味ある形で裁判所に取り上げてもらうためには、公判段階でいずれにしろ持ち出さざるを得ないわけでしょう。
○ それは分からないわけでしょう。だから、さっき出たように、弁護側としてはそういう弁護方針を採ることだってあり得るわけですね。さっき言ったように、もう一つ配慮する必要があるのは、先ほど私が言ったことにかかわるんですが、結局、今のイメージがあって、それぞれイメージが違っている部分があるものですから、だから、本当にそこまでの環境整備ができるということになるのか、ならないのかということについて、ここでの議論がはっきりしないときに、今そこでサンクションまで認めるという議論をしにくい部分があるんではないですか。
ですから、現行法を前提として言う限りは、弁護側がどういう方針を採るかということは、いろいろと方針を採り得るわけであって、言えるんだったら言うべきではないかと言うけれども、それ自体だって準備手続の段階では弁護側がどうするか判断できない場合だってあり得るわけですね。
○ それは準備手続の問題ではないですか。
○ だから、準備手続をやるということで準備手続においてそこまで答えられるようにするための、条件整備をここまでやる、やった以上はサンクションはあり得るんではないかという議論があればいいんですが、ここでは、そこまで詰めないで先に行った方がいいと思うんです。
□ そこの御議論は分かるのですけれども、幾ら条件整備をしたって、もし基本的な原理に抵触するとすれば、そういう制度は採れないわけでしょう。
無論、刑事訴訟法311 条はいずれにしろ法律上の規定ですので、憲法に反しない限り、その規定を含めて考え直しましょうという議論だってできるとは思いますが。
○ ただ、○○委員も、そこのところは考慮の余地はあるということをおっしゃっているわけで、それは制度設計の仕方によるのであって、絶対的に抵触するといふうに○○委員は言っていたわけではないでしょう。
□ ですから、論点を確認するために御質問しているのです。
○ ただ、それは今そこまで詰めてみても、第1ラウンドでそこまで、まさに法的サンクションを認めるか認めないかというような話まで詰めてしまうのはまだ早いんではないですか。
□ 結論を出すという話ではなくて、本当に憲法上、法律上の問題をクリアーできるのでしょうかということです。○○委員は多分証拠開示のことをおっしゃっていると思うんですけれども、そちらで幾ら広く条件整備ができたとしても、争点明示のところが黙秘権と抵触するのではないかという問題は残るように思うのです。証拠開示を幾ら広げてみても、何も言わないというのが被告人の権利だから争点明示の義務も負わせられないということならば、義務付けはできないはずですから、そうなのかどうかについて、やはりきちんと議論をしておく必要があるのではないでしょうか。
その上で、義務付け得るという解釈の余地があるというところになったときに、それでは前提となる条件との関連でどういう政策的な判断をすべきか、論理としてはそういう順序になると思うわけです。
○ 先ほど、座長が、全部争いますというのはどうかということをおっしゃっていましたけれども、基本的に検察側の証拠は一応そろっているけれども、よくよく見ると非常に弱いと、これは場合によったら、全部法廷に出して、反対尋問をすれば全部崩れて無罪かもしれないという場合があり得るんですね。ですから、各構成要件について全部争いますというような争点整理というのは十分あるわけだと思います。
□ 整理はされていないけれども、争うということは分かるということですね。
○ 整理というのは、どこを争うかを明示するということだと思うんです。ですから、全部を具体的に争うと言えば、それはちゃんと争点を明示したことになると思うんです。
ただ、争点整理というと、認めているところもちゃんと出しなさいと、ここは認めてここは争うというのが争点整理だというと、それはおかしくないかと思うんです。全部争うなら単に争いますと一言しか言わないと、では、どこを争うのかと聞かれると、それは言わないというのは争点整理にはならないと思うけれども、全部ここもここも、結局全部争っていることになりますよというのであれば、それは十分有効な争点整理だと思います。
○ 争点整理と言った場合に、通常の事件でどこまでできるかということだと思うんです。やはり極端な事件はやろうと思ってもできないということがあり得ると思う。そのような事件は、そのことを前提にして、審理計画等を練っていかなければいけない。これは当然なんだけれども、例えば、具体的な事件で、今までと違って、この事件ではどこを争いますかと、正当防衛なら正当防衛ですよ、ではその点についてどうですか、ということができないかということなんだと思うんです。私は、第1回公判期日前に、それはやってもいいし、やるべきだと思う。例えば、さっきから言っているように、刑事訴訟規則194 条の3は、刑事訴訟規則193 条との関係で、第1回公判期日前はできないということだけれども、ここのところが、第1回公判期日前にできるということになると、これは恐らく事前準備ができる根拠になるだろうと思います。今、これができないものだから、先ほど○○委員から出たように、刑事訴訟規則178 条の10を使って、いわゆる事前準備的なことをやっている。でも、194 条の3に規定されたことが何で第1回公判期日前にできないかというと、その理由は、予断の問題だけなんです。私は、これは簡単に外すことはできるだろうと思います。
そういうことで、194 条の3はかなり使えるので、そこで規定されていることを準備段階、つまり第1回公判期日前にできるというように考えていくべきであり、その旨の規定を置くべきだと思います。
○ 正当防衛を主張しますと言っただけでは足りないわけでしょう、これからは。
□ ○○委員が問題にされているのは、ちょっと違う角度かなと思います。○○委員がおっしゃる、全部争うという場合に、ここの争点はなぜ争う、どういう理由で争うということは本当に言えないものなんでしょうか。
○ 言おうと思えば言える場合もあります。
□ 言える場合でも、言わなくていいということですか。
○ 戦略的に言いたくないと、言わない方が有利かもしれないという判断をすることがあり得ます。
□ それは、ともかく弁護側としては、検察側が自ら立証に失敗することがあるかもしれないということを期待して、そのような判断をするということですか。しかし、失敗しなかった場合はどうするんですか。
○ それはしようがないんじゃないですか。
□ しようがないかもしれませんが、そこで初めて積極的抗弁をすることもあるかもしれませんよね。
○ 全部争うという状態で公判に入りました。裁判員を入れました。では、改めて正当防衛を主張しますというのはだめだと私は言っているわけです。だから、検察官が立証に失敗すると思ったらそういうふうに言えばいいわけです。
□ それは被告人側の判断であって、その判断の責任は負いなさいということですね。そうだとすると、言っていることに余り違いはないような感じもするんですが。
○ 恐らく今の○○委員の立証の失敗の話は、要は、検察官の請求した証拠の証明力なり証拠能力を争いますと言っているのと同じで、そういう意味ではそこに争点ができているんじゃないかという話だと思うんです。
○ 私はそういうことを言っているわけじゃありません。例えば、殴ったら殴ったという事実を争いますということで、自白の信用性とか任意性だけを争うという趣旨ではありません。
□ 要するに事実を全部争いますということですね。その場合に、もし、正当防衛ということも言いたければ、準備手続で予備的に主張をしておけということですね。
○ ここで正当防衛を主張しないとまずいかもしれないと思ったら、それは準備段階で言うべきでしょう。それはまさに被告人と弁護人の判断の問題です。
□ どっちを選択するかは、被告・弁護側の自由というか、判断なのだということですね。そして、それに伴って何らかの不利益が生じたとしても、しようがないということですか。
○ ミスった場合はしようがない。
□ 非常にすぱっとした御意見で、よく理解はできるのですが。
○ ○○委員のその考え方に基本的に異論はないです。
□ あとお一方、○○委員の御発言を最後にして、ちょっと休憩を入れさせていただきたいと思います。
○ 今の、すべて争うのも許されるということですが、そういう例外があるかどうかは別として、それが多くなると困るんですね。今の状況と余り変わらないようになってしまうわけです。それを変えるのはどうしたらいいかというのが、今回、法律なり規則を変えるんだったら、考える必要があると思います。前と同じですよということでは困るんじゃないかということが一つあります。あとは主張制限についてですが、実際には、今ごろ持ち出してもそれはないでしょうということで、ほとんどの場合には、被告人の供述なりの信用性が否定されるということで、後から持ち出された主張は多分排斥されることが多いんだと思うんです。ただ、本当に後から持ち出された主張に理由があるのに、やはり主張するのはだめだと言って法的に制限するのはなかなか難しいのではないでしょうか。民事訴訟の準備手続というのが旧民訴にもあって、陪席裁判官なりが準備手続をやって、争点整理をして、証拠調べに入ろうということでやったんですが、それがうまくいかなかったと言われています。それには幾つか理由があるんですが、その一つとして、失権効を恐れていろんな主張が出てきてしまう、つまり、予備的な主張だとか、いろんな主張が出てきて、それを狭められなかったというようなこともあったと聞いています。強力なサンクションを、どんなときでも課するとすると、そのような副作用があることも考える必要があると思います。また、実体的な真実をと言っている刑事裁判で、事実に反したところで効果を与えてしまうというのはなかなか難しいんじゃないかなと思いますので、そこら辺も含めて、それでも充実した訴訟になるように十分な争点整理が事前の段階でできるような制度はないのかというのを考えるべきじゃないかと思うんです。
○ 基本的に裁判員制度である以上、どこかで割切りが必要なんじゃないですか。
□ その点、休憩の後にまた、ほかに担保の方法があるのかどうかという点も含めて議論を続けたいと思います。10分ほど休憩させていただきます。
(休 憩)
□ それでは、再開させていただきます。
最後に○○委員がおっしゃった点を念頭に置きながら、争点整理を実効的なものとする制度、その実効性を担保する制度としてどういうことが考えられるか。さっき○○委員が言われたのも一つの方法ですけれども、それ以外にどういうことがあるのかですが、その点についてちょっと御意見を伺っておきたいと思います。いかがでしょうか。
○ 争点整理の実効性担保については、証拠開示のところとも絡んでくると思うんですけれども、やはり、基本的には失権効というのを認めておかないと争点整理ができないだろうと思います。だから、そこは失権効というか、後で公判に至って、準備手続の段階で明らかにしなかった新たな主張立証は許さないとする必要があると思うんです。要は、検察官の方で冒頭陳述的なもの、それが冒頭陳述と同じかどうか分かりませんが、そういうものとそれに必要な証拠をある程度開示しますね、それに対して、弁護側から主張、反証、認否があると、それを繰り返していく。そうすると、検察官が主張する事実あるいは証拠というのはどういうものか、被告人の方に全容は大体分かるはずなんです。
それを前提として、自分の行動については、被告人は一番知っているわけですから、きちっとした応答ができるはずなんです。そこでちゃんと準備手続をやっておかないと、さっき言ったように、きちんとした審理計画も立てることができないし、期日指定もできません。そこに争点整理の眼目があるわけですから、それを公判段階になって、特段の理由もないのに新たな主張を無制限に許してしまうということになれば、裁判員制度そのものが働かなくなってくるだろう。そういう意味では、やはり準備手続で主張しなかった点については、原則として公判手続では主張できないようにすべきだと思います。
やむを得ない理由あるいは正当な理由がある場合は、例外的に主張できるようにする必要はあると思いますが、その場合でも、その理由は、やはりきちんと疎明してくださいという話になると思うんです。
現行の刑訴法382 条の2も、これは控訴理由の制限ですけれども、同じような形のものを規定しているわけです。
□ 聞いている人にもう少し分かりやすく説明していただけますか。
○ 要するに、第一審で取調べを請求しなかった証拠、これは控訴審では原則として請求できない。ただし、やむを得ない事由があったことを疎明した場合には例外的に請求できるとされているのです。このように、同じような主張立証の制限のシステムは現行法でもあるわけです。
それから、それはなぜそうしないといけないかということになると、先ほどの裁判員制度と切り離して考えられないだろうと思います。
まず、争点整理に基づいて審理計画が立てられて、それに基づき期日指定がなされ、審理予定期間が決まるわけです。それで、裁判員を選ぶときは、その審理予定期間を見越して裁判員を選任することになるだろうと思います。そして、裁判員の方だって、当然、その期間を前提にして、自分たちの仕事の都合をつけたりして公判に臨もうとする。それを、後でどんどん主張を許すことになれば、審理予定期間について全然見通しが立たなくなってしまう。裁判員に対し、それに全部応じろと、そんな無茶な議論はないわけです。そんな過酷なことを裁判員にやれと言っても、しょせんそれは無茶でしょうという気がするんです。
最初に立てた審理予定期間というのが安易に変更されるような制度設計をしてしまえば、恐らく裁判員制度は働かないという気がするんです。そういう意味で、原則として準備手続で主張できるのにしなかったもの、これは、後で主張することは許しませんという制度をつくっておくべきだろうと思うんですね。
○ そこは、私も、実効性を持った制度設計ということは、準備手続を設ける以上考えるべきだという基本的な姿勢については異論は基本的にはないんです。ないんですが、今のお話を伺っていると、そのことは、事実上そういった不利益を被るというようなことでは済まない問題なのかどうかですね。ですから、それは、今、ここで詰めた議論をしてしまうことについての危惧ということを先ほど申し上げましたけれども、それも背景にはないわけではないですが、それと同時に、今のお話ですと、例えば、検察側が、準備手続で、それなりに冒頭陳述的な主張をされて、それについて弁護側が、応答しなかったというようなことになったときには当然のことながら、公判のところで、それが事実上、公判になってから、突然争点化させたというようなことはある意味では分かるわけです。分かるわけですから、それは裁判員に与える心証ということで言ったときにも、当然のことながら、それはなぜ言わなかったのかという印象は残るわけですから、それについて明確な形での弁明なり主張なりというようなことで、そこをどこまで認めるかという問題はあろうかと思いますけれども、そこのところが、そうなったときに、それほど今、○○委員が危惧されているような形での事態が動かなくなるというようなことがあり得るのか、そこのところがイメージとしてまだ分からない。
○ 期日が延びるからそうなるんです。
○ 期日が延びるということになるかもしれませんけれども、ただ、それは具体的に、では、その主張自体について採用するかどうか、つまり、証拠の採否の問題についてどうするかということにも絡んでいると思いますけれども。
○ 公判段階で、新たな証人申請をするわけですから。
○ ですから、そこのところも実は準備手続のところで何をするかということにかかわりますよね。
□ ちょっと整理させていただくと、○○委員は、実効性を担保するためには、制度として主張制限、○○委員がおっしゃるのと同じようなものを設けるべきだという御意見なのに対して、○○委員は、制度としてそういうものを設ける必要があるかどうか分からないということですね。後者の御意見は、要するに、準備段階で主張しなかったのに突然出してきたということを、裁判官や裁判員が適宜考慮に入れて判断すればいい、つまり、これはどうも怪しい、突然何かいかにも言い訳のように出してきたと、そういうふうに不利益に斟酌してもいいし、そういうことで十分担保できるじゃないかということですか。
○ 絶対できるという言うつもりは今の段階ではありませんけれども。そういうことで対応できる、実は、先ほど言いませんでしたけれども、これは余り議論するつもりはありませんので、一応主張だけしておきます。○○委員の憲法38条1項についての理解と私の理解はちょっと違うというところもある、そういうことが前提になっているからですけれども、刑事訴訟法311 条との関係で、全く抵触しないとはやはり言いにくいというところがあるだろうということも前提になっているからというところがあります。もちろん、先ほど申し上げたように、その他の条件が整ってくるという中で、工夫はあり得るというふうには考えていますけれども、ただ、なかなかイメージとして、今お話を伺っている限りは、そう固まったものとしてなかなか見えてこない段階で、サンクションだけが先走りするというのは、どうもちょっと筋が違うのではないかという感じがするんです。事実上というようなことで対処するということがあり得ないのかどうかをむしろもう少し詰めてみた方がいいということではないかと思います。
□ 御意見は分かりますけれども、不利益な推認にしても、それは一種のサンクションに違いはないですね。それで十分かどうかという点については、不利益推認をされては困るので、普通に判断すれば、みんな準備手続で言いたいことは言うだろう、そういうことによって担保できるだろうというのは、一つの御意見だと思います。しかし、それと同時に、○○委員とか○○委員が問題にしているのは、公判で突然新たな主張を言い出された場合、あらかじめ決めていた期日設定とかそういうのが崩れてしまうことになるので、それをどうするのかということなのです。それについての御回答はないのですよ。そこも、お考えいただきたいと思います。
もう一つは、刑事訴訟法311 条あるいは憲法38条と抵触しないとも言い切れない、抵触する可能性があるとおっしゃった点は、やはり先ほどの問題に帰ってくるわけで、そこも是非お考えいただきたいのですが、仮に幅広く証拠開示を認めたとして、その問題は解消できるのですかということです。論理的に、それでは解消できないだろうと思うのですね。幾ら自由に証拠が見られるからといって、争点明示の義務付けが本来自己負罪拒否特権や黙秘権と抵触するのであれば、その権利を制限していい、その点は無視していい、ということにはならないだろうと思うのです。ですから、黙秘権との関係の問題と証拠開示の問題は別の問題なので、そこはやはりお考えいただかないといけないかと思います。
○ ですから、先ほど言いましたように、そこで今、決着をつけるべく議論をするつもりは、とりあえずないんですが、ただ、そういう可能性が否定できないというふうに私は思いますので、そこは考えます。
□ それでは是非お考えください。今、争点整理の実効性を担保する方策としては、二つ出ましたけれども、さっき○○委員は、主張制限という形ではなかなか難しいのではないかとおっしゃいました。要するに、時期に遅れたようにも見える主張だけれども、もし真実だとすれば、被告人は無罪だという主張をしようとしているときに、それは主張するな、その点についての証拠も出すなというのは難しい、そういう御趣旨だったと思うわけですが、しかし、もしそうだとしますと、主張制限に代わる担保方法というのは他にあるのか、ということなんですけれども。
○ 主張制限の制度を設けるとしても、例外的には新たな主張は認めざるを得ないんだろうと思うんです。例外の範囲はどうなのかということの方が問題で、あとは、それとの裏返しで、どの範囲で争点明示義務を課すことができるかということになると思います。そして、その義務を課すことについては、やはりそれは当事者である以上、すべて相手方の手の内を見るだけでよいというのは問題があります。実際、今まででも、私は準備手続の段階で、どこが本当の争うところなのか言ってもらわないと、証拠調べしていても、何に意味があって証拠調べしているのか分からないからなどと言って説得することもあったわけです。何が本当に争いのあるところか分からなければ、この証人の一言一言すべてに意味があるのか、あるいは、これは問題だけれども、ここはどうということないのか、そういうことが分からず、ものすごく無駄なんですね。
そういう意味では、裁判所は、当事者に対して、今の予断を抱かないという、予断排除の制約がある範囲内でも、裁判所も本当に争いがあるところは十分調べますが、争いのないところでは両当事者みんなが無意味な時間を費やすのはやめましょうと言って説得しているわけですけれども、多くの方はそれに応じてくださるわけです。
それで、そのような説得に応じてもらえるだけの義務化は可能ではないかと思います。もっとも、それが全部の範囲でできるのが望ましいと思うんですが、そこはどうなのかというような問題はあるかもしれません。
□ ちょっと極端な例を出したのですけれども、別に真犯人がいるとか、アリバイを決定的に証明できる証人がいるというような場合は、それが前から分かっていたら、まず出すだろうと思うのですね。そういうのを出さないでおくということは、ちょっと考えられない。それ以外のところでも、最初から出そうと思えば出せるんだけれども、かなり決定的な立証を後まで出さないままでいるということが、果たしてあるのかどうかですね。そういうことがあった場合には、今皆さんがおっしゃるように、ちょっとそれは主張制限の例外とするということにせざるを得ないかもしれないということなんだろうと思うのですね。
○ 実務的に申し上げますと、例えば、アリバイ、そんなものは最初から本人だったら分かっているだろうというのが前提の議論だと思うんですが、これは必ずしもそうではないわけです。1か月前の事件で捕まっていればそうかもしれないけれども、2年前、3年前の事件で捕まることだってあるわけですから、贈収賄で5年前の事件で捕まる可能性だってあるわけですから、5年前の何月何日どこで何をやっていたか、すぐ捕まった途端に思い出す人は余りいないわけですよ。
ですから、若干そういう問題もあるんですが、その辺のことは念頭に置いて議論しないといけないですね。
○ 事件を審理していて、一番影響されるのは、有罪か無罪かというところに絡む主張だと思うんです。裁判長によっては、例えば、事前準備をしっかりやって、そして、それ以外のことはできるだけ認めないというやり方をやっている人は幾らでもいるわけで、それができるときであっても、やはり今のような事態が出てくる。その場合には元に戻って、もう一回そこをやらせましょうということになると思う。今までの実務だと、恐らく、事件における主張あるいは証拠の重さと、どの程度主張が理由あるかということについての見通しがあって、その見通しとの関係で認めるか否か決めてきたんだと思うんです。今まで、例えば、アリバイとか正当防衛とか、極端な例を挙げていたけれども、そうではないものが幾つかあり、それらについてどうするかということでしょう。
○ さっきからずっと失権効というか主張制限という議論でしたけれども、それ以外の点として次のような問題もあると思います。現在の制度では法廷で行っている証拠調べ請求をし、証拠に対する意見を言い、証拠決定をするということをある程度準備手続でやるということを前提にしてですが、それで審理計画を立てるということになりますと、例えば、書証の請求に対する同意の意見とか、不同意であったら証人尋問請求しているというものが、第1回公判期日になった途端に、同意の意見にしていたものについて、あれはやはり不同意だとかという形で、同意の撤回とかが自由に行われるようになりますと、審理計画は全部だめになってしまいます。ですから、その辺はやはり準備手続で行われた証拠決定、また、その前提となっている証拠意見等は、何らかの形で自由に変更できないように担保する必要がある。それをどう担保するかいろいろなやり方があるでしょうけれども、マイルドな形としては、例えば、従前の意見を変える理由をちゃんと言ってもらうとか、あるいは、裁判所がその点について釈明を求めるといったことが考えられるのではないでしょうか。もちろん、例外はあると思うんですけれども、準備手続で行われた証拠決定の前提になっている事柄は、できる限り維持されるようなシステムないし運用は絶対に必要であると思います。
○ 今でも同意の撤回はできないでしょう。
○ 今でも第1回公判後の準備手続であれば、そこでの同意、不同意というのは当然それは拘束力があって、それを前提として次に進められますので、同じような効果がある必要があるということですね。
○ それはちゃんとしておかないとということです。
○ 準備手続の中で、争点を明確にして、争わない事実に関する書証をどんどん不同意にされるというのも困ります。つまり、極端に言えば、ここは認めますと、争いませんと、言っておいて、それに関する書証を全部不同意にするというようなことが起きてもまた困るんですね。
○ ただ、それもどういう書証を前提にするかによって議論は分かれると思います。さっき争わない事実とおっしゃいましたが、それについては合意書面をつくるとかということは当然あり得るわけですし、それをただ、検察官面前調書を全部出してきて、それに不同意という話になるかどうかという問題でもあるわけです。ですから、そこはちょっと証拠の問題について、まだこれから議論する必要がある部分があると思うので、それを済ませた上でそれは議論した方がいいと思うんですけれども。
それから、さっき忘れたことをちょっと思い出したので一言だけ。今、○○委員の言ったことにかかわるので。つまり、さっき座長が言ったこととの関係でいけば、私も、第1回公判期日前の準備手続において、ある程度形成された争点についての否認なら否認というようなことで、決まったことについて後で覆すについては、それは一定の拘束力を認めざるを得ないわけであって、そのことを認めることによって事実上、さっき言った措置はできるのではないかというふうに考えているということです。思い出したことだけちょっと申し上げておきます。
○ ○○委員の言われたことは、事実を認めておきながら、でも、その事実を証明する書証について全部不同意というのはやはり困るということなんですよ。
○ ですから、それは書面として、○○委員は、つまり、書証についてどういう内容のものとしてイメージされておっしゃっているのか分からないということで、私は言っただけです。
○ とりあえず今の検察官面前調書などをおっしゃっているのではないですか。
○ ですから、それについては今ここの段階でどうのこうのという話にはならないのではないですかということを申し上げます。
○ そうではない、それはやはり議論しないといけないと思います。
○ では、議論すればいいと思うんです。
○ それはやはり準備手続の中で、何回かやっていくうちに、意見交換していって、事実は争わないけど書証は不同意にするなどというような部分は残らないように詰めていくんじゃないでしょうか。
○ 最終的にはそうならないと困るんですね。
□ ○○委員が問題にされているのは、ちょっと違う論点なのではないかと思います。先ほど問題提起されたのは、事実は争わないけれど、それに関連する書証は不同意にしますといったことは許されるかどうかということでしょう。一方、○○委員が問題にされているのは、供述調書を公判廷でどれだけ使えるのか、使うのかということで問題にされているわけですね。この二つの問題は、論理的には違う問題だと思うのですけれども。
○ 今のように整理してくださればそれで結構です。
○ どういう調書を前提にするかということにもよるのですけれども、事実は争わないけれども、調書の取り方が困る、ということはあるんですね、実際に。争わない事件でも、調書を不同意にするということはあるわけです。それは、見方によっては、重要な情状事実を争っているということになるのかもしれませんけれども。
□ 調書を不同意にすることによって、何を争うのですか。
○ 例えば犯行態様ですね。
○ だから、犯行態様はやはり争っているわけでしょう。
○ だから、何を争っているかということですね。
□ それは、調書の取り方に問題があるので、そこを問題にするということですか。そうじゃないんでしょう。
○ そうではなくて、その調書に表現されている事実というものと、現実に被告人が主張している事実とは違うということです。
□ それは、やはり、検察官が主張する事実と被告人のそれとが違うので、争っているということではないでしょうか。
○ そういう争点の整理の仕方がいいのであればいいわけです。ただ、今のは、簡単に一般化して、公訴事実を認めるなら全部同意しろということであれば問題があると思います。
□ 公訴事実を認めるなら検察官請求書証について全部同意しなければならないということではないでしょう。
○ 先ほど私が述べたことも、そういうことではありません。
□ 全面的に認めます、被告人もそのとおりだと言っている、重要なところで食い違いはありませんと。そういう場合のことを言っているのですか。
○ 公訴事実の一部はもう争わないというような場合、例えば、保険金目的の殺人事件で、銀行口座でお金が動いたり、保険契約が締結されているというような事実があるときに、それらの事実は全然争いませんと言いながら、これらの事実を立証するための書証を全部不同意にされたのでは、何のための争点整理かということになるんです。
○ 何を対象に被告人が認めると言っているのかという前提が、○○委員と○○委員との間で違うから議論が合っていないわけです。例えば、公訴事実を前提にして、認めると言っているのであれば、それから直ちに認めている部分の調書は全部同意にしないとおかしいという結論は出てこないわけでしょう。ただ、新しい制度では、新しい冒頭陳述類似のものは明らかにされるわけですね。そこで明らかにされた事実について、認める、認めないということをやっていくと、冒陳のこの行は認める、この行は認めないというように、ものすごく細かくなっていくわけですから、その細かいレベルで認めると言った事実については、それを立証するための書証を不同意にするというならばおかしいでしょうということです。ですから、そういう意味ではお二人の御意見は合っていると思うんです。
□ かなり御意見が出たと思いますので、次に移らせていただきたいと思います。
次に議論していただきたいのは、ここまでは争点整理ということで議論してきたのですが、新たな準備手続においては、争点整理がもちろん中心になるわけですけれど、それ以外にも、どういうことをどこまでやるべきなのかという問題があろうかと思います。つまり、争点整理に加えて、幾つかのことをその段階でやっておいた方が、審理計画を立てていく上で効果的である、あるいは、不可欠だということもあろうかと思いますので、どのようなことをどこまで行うべきなのかという点について御意見をお伺いしたいと思います。
○ 争点整理以外に考えられることとしては、訴訟手続上のいろいろな問題の裁定、特に証拠能力にかかわる問題は、裁判員事件であれ、そうでない事件であれ、公訴事実の存否と直接かかわりがないという場合であれば、事前の準備段階で処理できるものはした方がいいのではないかと思います。ただ、具体的に考えていきますと、公判で争いになり得るのは、一つには自白の証拠能力・任意性の問題があり、それからもう一つ争いがあり得るのは、違法収集証拠ですけれけども、自白については、皆さんよく御存じのとおり、その獲得過程の任意性の問題と中身の信用性というのが密接不可分で、任意性判断のための証拠調べというのは、信用性にも深くかかわっていますから、これはむしろ公判でやるのが適当ではないかと私は思っています。
□ いきなり証拠能力の問題を挙げられましたけれども、その前提としては、争点整理のほかに、証拠調べ請求も準備手続でやるということなのでしょうか。
さらに、証拠能力の判定を準備手続で行うということは、証拠の採否の判断も準備手続で原則としてするということですか。
○ 先走ってすみません。証拠調べ請求も、現在は、公判前の段階ではできませんけれども、公判期日に行っているように、一方当事者が証拠の取調べ請求を行い、それに対して、相手方が意見を言う、書証であれば同意不同意といった意見を言い、あるいは、取調べに異議があるかどうかという意見を言い、それに対して、裁判所が証拠決定をするというところまでは、新たな準備手続において済ませることとするということが考えられます。その過程で、先ほど述べた訴訟法上の問題、例えば、証拠の証拠能力が争いになった場合には、基本的には、そこで処理できるものは処理するということが考えられます。
□ 証拠能力の判断はちょっと次の問題としておくとして、証拠調べ請求をし、できれば証拠の採否も決めるべきだという御意見ですね。その証拠採否の中には、証拠能力の有無の問題もあれば、要否や関連性の有無の問題もあると思うのですけれども、まず、大枠については、御意見いかがでしょうか。
○ できるだけのことは準備手続で済ませてほしいというふうに思うんですよね。例えば、実況見分調書だとか、現場の状況とかそういうものですね。こういうものについては、データ的なものであれば、そこの段階である程度合意することができるのではないかと思うんですけれども、もちろん、争いになるいろいろな部分もあるでしょうけれども、そういうような、証拠の内容によってもある程度区分する必要があると思うんです。つまり、一定のジャンルの類型の証拠については、準備手続の段階で、証拠採否の決定ができないかと、そういう手続を済ませておけば、第1回の公判でかなりのことができるというふうに思うんですよね。できるだけの部分を準備手続のところに繰り入れるということができないかというふうに私は思うんですけれども。
○ 裁判員裁判というのは、準備手続で証拠の採否の決定までするというのは当然の前提だと思いますね。裁判員を集めてから、そこで証拠の採否を決定するということは、私は考えられないと思いますね。もちろん、これは、弁護側請求の証拠も含めて、採否は、全部準備手続で決定するということだと思います。
□ ほかにいかがですか。
○ 私も、今のお二人の委員と同様の意見なんですが、それはひょっとしたら従来の裁判に慣れている方にとっては、第1回公判前に、準備手続というところで、第1回の公判が行われてしまうというようなイメージに変わるのかなと思ったりするんですね。起訴状朗読とか冒頭陳述とかというところが、準備手続の段階で、当事者に共有されるということなので、ひょっとしたら、イメージの大きな変換ということになるのかななどと思いながら、今聞いていたんです。ただ、そのことを受容して、特に裁判員が参加する裁判を一番分かりやすく、しかも、被告人にも不利にならないように進めていくためには、準備手続の中で証拠の採否とか、証拠能力の点などについても判断していくことが必要かなというふうに思います。
ただ、その中で、ひょっとしたら、第1回公判が開かれてからの裁判日程は短縮されるかもしれないけれども、準備手続の期間というのは、従来よりも長くなってはいけないと思いますので、やはりそこのところの短縮も考えながら、実効性というか、そういうのはしていかなきゃいけないのかなと思うんですね。
だから、証拠の採否の判断というのが、比較的短期間にできるのかどうかというところはちょっと質問させていただければと思います。
○ 準備手続は長くなります。準備手続を短くしようというのは暴論だと思います。
○ いやいや、準備手続を短くしようと申し上げたんじゃなくて、今までは公判手続の長さというところに注目されて、準備手続は短かったようにお聞きしたんです。そうであれば、準備手続が長くなるということは、当然公判は短くなるということで、全体としては今までと変わらない可能性もあるぐらいのイメージなんですか。
○ いや、そうではないんです。
○ そうではないですよね。
ですから、私は、あくまでも相対論で言っています。絶対的に短くしてくれと申し上げているのではなくて、相対的に今までよりも準備手続期間は長くなると思います。それは認識しています。そのぐらい徹底していただかなきゃいけないと思いますが、しかし、裁判全体の迅速化ということであれば、準備時間は長くなるけれども、公判は短くなると、全体として今までと同じであるんだったら、それは問題だと思うので、全体としては短くなるようにしなくてはいけないということが言いたかったのです。
□ お二人が言っておられることは、そんなに矛盾はしていないと思いますが。
○ 私としては認識は同じだと思っているんですが。
□ 全体としておっしゃっていることは間違いないと思うのですが、しかし、縮めるということだけが問題なのではなくて、中身を充実させ、その結果として期間を縮めるということでなくてはいけない。それでは、どこを充実させるかというと、それは公判であるわけ、公判を集中し、充実したものにし、その結果として迅速化を図る。それはなぜかというと、特に裁判員が加わるからということだと思うのです。だから、仮に全体としてかかる期間は同じであっても、公判の方に重点を置き、そこを集中し、充実したものにするということが要点であるはずです。むろん、準備手続のところにも無駄に時間を使うというのではなくて、全体としてスピードアップしましょうということは確かだと思うのですが。
○ 例えば、2年なら2年でいいんですね。どういうことになるかというと、準備期間が1年10か月、公判が1か月ということだってあるんです。むしろ準備期間をしっかり取らないと、充実して短期間な公判というのはできないです。申し上げましたけれども、弁護側の請求証拠についての採否も準備手続で決めると言っているわけですから、弁護側は、捜査段階ではほとんど動けないわけです。それから、強制的に証拠を収集する権限も持っていないわけです。弁護側が証拠収集をするということは、非常な労力と時間がかかるわけです。それを、例えば、1か月のうちに弁護側の証拠も全部請求しなさいよ、おまけに主張制限までかけますよと言いだしたら、これは裁判ではないんです。
ですから、私は、主張制限と言っていますけれども、その代わりに、非常に長い、長いというか、何をもって十分と言うか別ですけれども、とにかく十分かつ充実した準備手続を経て、初めて主張制限ということが言えるわけであって、準備手続も短くして全体で短くしましょうということは、これシステムを殺してしまうと思います。
○ 繰り返し申し上げますが、裁判の公正さ、充実と迅速化というのが、私たちに与えられた課題だと思っておりますので、それを実現するために、やみくもにただ期間を短くなれば、それで私たちの課題達成ではないということは、○○委員と同じように認識していると思います。
ですから、証拠の要否とか証拠能力ということも、しっかり準備手続段階でしていただけたらと思うんですが、きっとそれには時間がかかるんでしょうねということで確認をさせていただいたので、趣旨は極めて近いと認識しております。
□ 私から見れば、ほとんど同じだと思いますが。
○ 全体の枠組みとして出た、なるべく公判前に全部済ませておくという意見に賛成です。裁判員の方々には、来ていただいてからは、有罪・無罪の判断と量刑の判断、これが意見書が期待している大きな責務の二つですけれども、これに専念できるという体制を取っておかないと、この制度は長続きしない恐れがある。つまり、余り過大なものを、いろいろなものまでやっていただくというのではなくて、本当にやっていただきたいものを効率的に充実してやっていただくということが必要だと思いますので、私は、さっき○○委員のおっしゃった証拠能力まで含めて、準備段階ですべて解決しておくということが必要だと思います。
○ 自白の任意性の判断も含めてですか。
○ 任意性の判断も含めてです。
□ ちょっと整理させていただくと、証拠能力と言っても、いろいろあると思うのですが、その中で○○委員が言われたのは、自白の任意性の判断については、信用性の判断とも絡むので、裁判体のフルメンバーの前で判断するのがいいだろうという御意見ですね。そのほかの証拠能力に関する点は問題ないのですか。
○ もう一度整理して申しますと、まず準備手続において証拠決定までやるとすると、その前提として証拠能力の判断が出てくるであろう。その証拠能力が問題になるのは、多く考えられるのは、一つは自白の証拠能力、つまり任意性についてであり、もう一つは、違法収集証拠排除の問題がある。
今までの御意見では、証拠能力の問題もできる限り片付けておいた方がいいという御意見も出ていましたけれども、私の考えでは、少なくとも自白の任意性につきましては、簡単に言うと、二度手間になるおそれがあると考えます。
□ それ以外で何か問題になるところはありますか。
○ 違法に収集された証拠物の証拠能力についてはまだ考え中です。といいますのは、事案によっては、証拠能力に関する判断がほとんど犯罪事実そのものの立証と重なるパターンもあるのではないか。例えば、違法収集証拠の排除が最も問題になるのは、法禁物を所持していたところを現行犯逮捕されたというような場合です。
□ 法禁物というのは、例えば、覚せい剤ですか。
○ はい。覚せい剤を持っていたという事案で、その覚せい剤の発見の過程に捜査の違法性があったかということが争点となり、証拠能力があるかないかという判断をすると、ほとんど犯罪事実の証明と重なってしまいますので、これを準備手続でやって、そこで覚せい剤を証拠とすることができるかどうかについて決着がつけば有罪か無罪か決着がついてしまうというパターンの事例があり得ると思います。ですから、そのような場合に、本当にそういう問題も全部準備手続で判断するのがいいのか、それとも、公判手続で罪体そのものの立証と重なってくるような場合には、別途考えられるのではないかとも思っております。
□ 要するに、基本的に、準備手続でできるものはやった方がいいのだけれども、事柄の性質によっては、公判に留保した方がいいものもあるのではないかということでしょうか。
○ おっしゃるとおりです。そして事柄の性質上、公判段階でしか問題にならないような証拠能力の問題もありますので、それは仕方がない。例えば、2号書面の証拠能力の問題は公判開始後にしか生じないわけです。
□ 専門でない人には分からないかもしれませんので、もう少し説明していただけますか。
○ 申し訳ございません。簡潔に説明させていただきます。「2号書面」というのは、刑事訴訟法321条1項2号が、伝聞証拠の例外として証拠とすることを認めている検察官の作成した供述調書のことでございます。最初に証人尋問が行われまして、証人が、公判期日において、以前に検察官に対して述べた供述調書の中身と違う内容の証言をした場合には、刑事訴訟法上、一定の要件があれば供述調書それ自体が証拠として認められる場合があります。この問題も、証拠能力の問題の一つであります。しかし、これは、今、御説明しましたとおり、まずは証人が公判期日に証言しないことには、当人の捜査段階における供述調書との食い違いという問題は発生し得ませんので、それは事柄の性質上、公判廷で問題になると思われます。
○ 証拠の採否の判断のために、証人尋問、あるいは被告人質問が必要な場合は、全部公判でやるべきで、準備手続でやるべきではないと考えます。したがって、自白の任意性の判断も、当然、これは公判でやるべきだということになります。
それから、先ほどの、覚せい剤で現行犯逮捕されたという場合の、現行犯逮捕が適法だったかどうか、これも逮捕警察官の証人尋問が必要になるわけですから、公判でやるべきだと考えます。ただし、事実関係が全く双方争いがないが、その法的評価を巡って、不適法か適法かという争いの場合は、準備手続でやっても構わないというのが私の意見です。
○ 証人は全部公判でと言われたけれども、場合によっては、準備手続で証人尋問をしてもいいのではないでしょうか。
○ 私が言うのは、証人尋問が必要な場合は、基本的には事実関係に争いがある場合でしょう。
○ 今、例えば、○○委員から出た、実況見分調書の作成の真正の立証のために作成者を呼ぶとか、そういう種類の証人尋問はやっておいてもいいのではないでしょうか。
○ 私は、事実関係を争うのであれば、公判でやるべきだと考えます。
□ ただ、訴訟法上の問題について判断するのは裁判官だというのが多くの方の意見でしたね。そうしますと、さっき○○委員が出された例は、本案の事実認定にかかわり、一つの証拠調べが証拠能力の判断と信用性の判断両方に意味を持ち得るというような場合でしたけれども、今の書面の作成の真正というのは、本案の事実認定にはかかわらないわけですね。そのような証拠能力に専らかかわる事実、つまり、訴訟手続上の事実と言われているものについての証拠調べを、証拠能力を満たすための要件があるかどうかを判定するために行うという場合でも、証人調べだから公判廷でやれということですか。
○ そういうことです。
□ それは、なぜですか。
○ 具体的な事例は、ここではちょっと出せませんけれども、確かに理屈の上でそれは単にそういう証拠能力を付与するための技術的な証人尋問だということになるんですけれども、それが採用されたならば、その信用性については当然争うことになると思うんです。その信用性判断は当然裁判員もやるわけですから、裁判員の目の前でそれをやるということに、それなりの意義はあると思うんです。
□ そこは分けられないものですか。信用性を争う場合には、また作成者を呼んでくるなりして・・・。
○ 作成者の証人尋問を二度やるわけですか。二度手間になるくらいだったら、私は、最初から一度だけやるとした方がいいと思うんです。
□ しかし、信用性については争われないかもしれないですよね。
○ 実務的には、作成の真正を争うときには、信用性についても一言、二言言いたいということではないかと思います。
□ 不同意にしているのだから、信用性も争うだろうということでしょうか。御意見は分かりました。
○ 基本的には、今の考え方には割と私は賛成なんです。つまり、裁判というのは、公開の法廷で行われなければいけないという大原則があるんで、有罪か無罪か、いろんなことが問題になるときに、原則に戻って公判でやるというのは必要だと思うんです。そのときに、公訴事実に結び付くようなものというのは、必ずやらなきゃいけない。
それから、先ほど出た、例えば、信用性と任意性が絡まるもの、これも公判でやらなければいけない。ただ、実際の問題として、そこまでいかない、本当に単なる手続的な問題にとどまるものがあって、そこで有罪・無罪が決まるのではないのであれば、それは、私は、準備手続で判断しても構わないだろうという気がしています。
□ その場合、例えば裁判員制度の場合、裁判員がいる場で、手続上の問題と実体の問題とが混然一体となったような証人尋問をやって、結局、問題の証拠について、証拠能力を否定し、証拠としなかった場合にも、問題はないんでしょうか。
○ 問題はあるけれども、ある意味ではそういうのはしようがない。
□ 一体として行うことの利点を重視するのか、それとも、今のような問題点に配慮して、できるだけ別にやるようにするのか、どちらに重点を置くかという問題なのでしょうね。
○ 公判でやるべきだと思います。手続と実体の両方が問題になるということがはっきりしていればね。つまり、手続的なもの、さっき言った、訴訟手続上の事実にのみ関連するのであるならば、これは全部準備手続で判断しても構わない。だけれども、実体に絡まるんだったら、公判でやるべきだと思います。
□ 仮に後で証拠能力が否定された場合には、その証拠は使えないのですよということをはっきり告げて、心からぬぐい去ってもらうということになりますか。
○ 結果的にそういうことになるでしょうね。
□ 今の手続ではそうなっているわけですけれども。
○ そこが、今度、裁判員の裁判になる場合には大きな問題だと思うのです。今、裁判官だけの裁判の場合には、そういうふうなことでやっているわけですけれども、やはり、「これは証拠能力はありませんでした、だから、心からぬぐってください」ということでいいのかということなんです。
私がさっき申し上げた提案は、そういうことを考えて、なるべく裁判員には裁判官のスクリーニングを経た証拠、つまり法律のスクリーニングを経た証拠に接してもらう。そして、有罪・無罪と量刑を判断していただくということにすべきだと思うのです。
そうすると、では、同じ裁判体の中で裁判官と裁判員とで持っている情報が違ってしまうということもあり得るわけですけれども、私は、その意味で、その証拠能力の判断の手続というのは、別の裁判体がやるべきだと思います。準備手続については、私は、まさに公判手続の設計図を描く手続ですから、受訴裁判所がやらなければ意味がないと考えています。けれども、証拠が違法か違法でないか、排除すべきか、すべきでないかというのは、必ずしも公判の設計図とはかかわらない。それは、さっき公判でやるべきだという御意見もありましたが、私も、それは、公開の法廷で、別の裁判体がやるということはあり得るのではないかと思っています。
□ それは主宰者の問題ですね。
○ それに関係します。
□ その点は主宰者について議論するところで御質問することとして、先を急ぎますが、証拠能力の判断については、どこまで準備手続において行うことができるのかという点で、できないものはしようがない、事柄の性質上、公判段階でやるしかないものもあることは確かだと思うのですけれども、本当にどこまでできるのかというところで、少し皆さんの御意見が食い違っているというか、感触が違うように思われます。そのほかにも、証拠開示が問題になれば、準備手続で判断をするということになるのだろうと思いますが、その点も含めて、他に準備手続において行うべき事項について御意見はありますか。
○ 期日の指定は、是非きちんとやってもらわないといけないと思います。
□ 争点整理と期日の指定ないし審理計画ですね。
○ 証拠開示の裁定でも、証拠を見ないで裁判所がやれるものは受訴裁判所が主体でもいいと思うんです。それは多分争えないと思います。それで例えば検察側から、これは開示できないとして、具体的な弊害のおそれが主張されて、では、本当にそうなのかということを判断しなければならない、そのために証拠の中身を見る、ということになったときに、では、受訴裁判所と同じ裁判官がするのかという問題はあると思います。
□ その点は、また後で議論しましょう。
○ 前回も、私言いましたけれども、訴訟が遅れる大きな原因の一つになっている鑑定についても、できる範囲で準備手続においてやるべき事柄ではないかと思っております。
□ できない場合はどうするのですか。
○ これはどうにもしようがない。
□ 公判廷で新たに必要性が問題になったら、それはやむを得ない。その場合に、時間が掛かるという場合には、それはそれとして対応を考えるということなのでしょうか。私が先走って言ってしまうのも何なんですけれども。
○ 特に、責任能力に関する鑑定はそうせざるを得ないですね。薬物鑑定その他は準備手続でできるかもしれないですね。
○ できない場合というのは、例えば、どういう場合ですか。
□ 公判の途中で鑑定の必要性が出てくるということはあり得るわけでしょう。再鑑定の必要だとか。その点は、後でも議論する機会があると思います。
もう1点、さっき○○委員がおっしゃった、手続の主宰者なのですが、○○委員の御意見では、争点整理とか大部分の事柄は受訴裁判所の裁判官が主宰者になるけれど、証拠能力については、別の裁判体に判断させるべきだということでしょうか。
○ そうすべきだという意見です。
□ その点は、他の皆さんの御意見はいかがですか。
○ 先ほど私が発言しなかったのは、余り先走るといけないと思ったので、やめたんですが、つまり、争点整理というものを実効化させるためには、かなりのところまで準備手続でやらざるを得ないだろうと思うんです。私は、証拠能力問題についても決着をつけるということでいいんじゃないかと一応思っているんです。
その場合、やはり主宰者をどうするかという問題が、どうしても引っ掛かってくるだろうと思うんです。ですから、証拠の中身にかかわる判断をせざるを得ないというところまで裁判官が関与するとなったときに、これは、前から申し上げていることですけれども、やはり実際に審理に入ったときに、どうしても裁判員との間に、情報格差という言い方が正確かどうか分かりませんけれども、もちろん、いろいろと配慮が必要で、皆さんその辺のところは当然の前提としていろいろとお考えでいらっしゃるだろうと思いますけれども、裁判官と裁判員が共同して議論をするとなったときに、いろいろと危惧がありますから、それが既に公判が始まった段階で証拠について前提的な知識なり認識が裁判官と裁判員とで違っているということだとすると、後での議論に支障を来すということは懸念されることになるんだろうと思うんです。そうだとすると、その部分をもしそこまで踏み込んだ準備手続を認めるということになれば、主宰者をどうするかというところでの配慮がどうしても必要になってくるんじゃないか。
私も、場合によっては、証拠開示も、争いになったときには当然中身に触れた裁定をせざるを得ない場合も出てくると思うんです。そうなったときに、裁判体を分けるということが考慮されるべき場合が出てくるんだろうと思うんです。やはり、突っ込んだ準備手続をやればやるほど、配慮が必要になってくるんじゃないか。
どちらかを取るべきかということでは、今の流れでは、準備手続として、私は、突っ込んだことをやるんだということで、それは一つの方法だろうと思うわけです。だとすれば、そこは主宰者を分けるということを考える必要があると思います。
□ 最後の部分がよく分からなかったのですけれども、準備手続そのものの主宰者を受訴裁判所の裁判官とは別にすべきだという御意見ですか。
○ そうです。
□ ○○委員は、証拠能力の判断についてのみ主宰者を分けるという御趣旨ですね。
○ 一部について、主宰者を分けるということです。
○ そこは、私としても、○○委員の説もあり得るなと思っています。
□ 危惧されることもあり得るのでと言われましたが、その「危惧」というのはどういうことなのでしょうか。
○ つまり、情報格差が起こるということです。
□ 格差は起こることは確かですけれども、そのために危惧されることもあるので分けるべきだと言われたのはどういう意味なのですか。
○ そのことが、一般的に、裁判員と裁判官によるその後の審理あるいは評議というものに影響を及ぼすのではないかということです。
□ しかし、一方で、訴訟手続上の判断は裁判官が行うべきだと言っているわけですね。そうすると、それに必要な範囲で裁判官と裁判員とで触れる事柄が違ってくるということは当然あるわけでしょう。公判廷でやれば一緒かもしれませんが、公判になってからも、公判外の準備手続でいろんな訴訟手続上の判断をしなければならないということはあると思うのですけれども、それもできなくなってしまうということにならないんでしょうか。そこでも情報の格差は生じてきますからね。
例えば、さっきの話で行きますと、自白の証拠能力が問題になった場合に、公判前の準備手続の段階で判断できなくて、公判段階でそれが新たに問題になってきたときに、それについての審理を裁判員の前でやると、場合によっては、自白の存在だけじゃなくて、概要も明らかになるかもしれない。それはまずいとすると、公判段階での準備手続で任意性についての調べをやらなければならない。そうしますと、その場合の主宰者は、受訴裁判所の裁判官でしかあり得ないと思うのですが、情報に格差が生じるわけでしょう。情報格差を問題にする立場にたつと、これもいけないということにならないと一貫しないように思うのですが。
○ そこのところの現実的な可能性というのは、今の御発言だけでは判断できないんですが、自白の任意性についてですね。
□ それは一例にすぎないので、公判手続を進行している間に、公判とは別のところで判断せざるを得ない事柄というものはあり得ると思うのですが。
○ 具体的に言うと何がですか。
□ 要するに、証拠の内容に触れるという場合です。
○ そういう問題が起こってくる。それは、具体的に言って、今の自白の任意性の問題だったら、私がさっき言ったことでいけば、公判前に処理できる。
□ それが後で問題になるということはあり得るわけでしょう。公判段階で初めて問題になったときには、その点について判断しなくていいということですか。
○ 自白の任意性について、さっき言ったように、準備手続の段階でその採否について判断するという前提を取ったときに、なおかつ公判段階で出てくる問題なんですか。
□ 準備手続の段階でできればいいのですが、できない場合もあり得るのではないでしょうか。
○ そのできないケースについて具体的に述べていただけますか。
□ 公判段階で初めて自白の任意性にかかわる新たな事実が出てくることだってあるわけでしょう。
○ さっきの話をどこまで考えるかという問題ですけれども、つまり、準備手続での準備作業というものをある程度確定的なものとして公判に入るという前提で言ったときには、そこのところは、もちろん、絶対ないというつもりは、私もありませんけれども、かなり限定されると思うんです。
□ 限定されればいいんですか。
○ ですから、今の案は、私が言っているのは、そういう前提であればこそ、主宰者を別にすべきだということです。そこは一体のものですから。主宰者を分けて、準備手続を包括的、徹底的なものにして公判に入るということになれば、さっき言ったように、そこで出てこなかったものが後で出てくるということは、極めて例外的な場合だということになると思うんです。
□ そうですかね。
○ 情報の格差というのはどうしたって出てくるんです。この前から話があるように、例えば、身柄関係の処理についてだれがやれというんですか。勾留するか保釈するかについて、裁判官がやれと言っていて、それには裁判員を関与させるな、関与しなくていいと言っていたら、そこには格差という表現がいいのかどうか分かりませんけれども、そういう情報量の違いは出てくるんです。しかし、その違いが出るから、それでは裁判官が裁判員との議論において不当な影響を与えるようなことをやるかというと、そんなことはあり得ないですよ。
○ 身柄の問題については、別の裁判所でやるということにして何か問題があるんですか。今はそうじゃないから、そういう前提でおっしゃっているかもしれませんけれども、そこも分ければいいんです。
□ 例えば、保釈の判断についてですか。
○ そうです。
□ それは事件の実体の判断と絡んでくるのではないですか。
○ 絡んでくるということで、むしろ、むやみに絡めることに問題があるという考えもあるわけで、だから、身柄問題も、我々のところで扱うべきだという議論になると思うんで、それはそれでまた御報告をいただければと思いますけれども、やはり権利保釈だということの意味を考えれば、今の実態こそが問題だという議論は当然あり得るわけです。
□ 今検討しているのは実態の話ではなくて、制度の問題ですが。
○ ですから、その制度を前提とした運用の問題であるわけですから。
□ そういう話ではないと思うのです。いずれにしろ、訴訟手続上の問題とか法律問題は裁判官に判断させるということになれば、そのために別途審理というか、証拠調べ等をやらないといけない必要性というのはあり得るわけでしょう。
○ それは否定しません。
□ その場合に、情報格差という問題はどうしても出てくるわけで、それは不可避だろうと思うのですね。○○委員の意見は、要するに、大抵の問題は前倒ししてできるはずで、そこで解決するから、例外的にしか情報格差は起こらないという前提での話だと思うのです。そこがちょっとほかの方とは食い違っているように思うのですけれども、いずれにしろ、大きいか小さいかは別にして、情報格差はあり得るわけで、そのことを前提にして、争点整理の手続を別の裁判官にやらせるべきなのか、やらせるのは適切なのか、それとも、受訴裁判所の裁判官がやる必要があるのか、やることが適切なのか、そういう問題だと思うのです。
○ いずれにしろ情報格差が起こるにしても、徹底した準備手続をやるとすれば、そこはやはり程度の問題ということになってくると思うんです。
□ 反対の面で言うと、受訴裁判所とは別の裁判官に争点整理や審理計画の決定などをやらせて、本当に意味あることができるのかどうか、そういうこととの相関で決まってくる問題だろうというのが、整理させていただいた趣旨なのですけれども、ほかの方の御意見も伺いたいと思います。
○ まず、○○委員の意見ですが、準備手続と公判は同じ裁判体がやって、証拠の採否だけ、証人尋問等を含めてほかの裁判体でやれということですか。
○ 証拠の中身にかかわらない採否の判断は、受訴裁判所でいいのです。
○ そうすると、例えば、被告人の自白調書の任意性が問題になった場合には、それは別の裁判体がやれということですね。しかし、任意性があるかないかというのは、まさに裁判官の心証形成の中核的な部分なわけです。それを本来判決を書く裁判官とは別の裁判体がやるということになると、公判を担当する裁判官は責任を持った判決を書くということは不可能になると思うんです。
心証が食い違ったときにどうするのかというのは、要するに、判決書を書く裁判官の心証形成過程の中の重要なファクターである任意性判断とか、そういうものを他の裁判官がやるというのは、私はあり得ないと思います。そういう意味で、それは同じ裁判官でなければいけないというのが私の意見です。
それから、準備手続をする裁判官と公判をする裁判官は別か同じか、これは同じでないと、きちっとした準備手続はできないだろうというふうに思います。そこで出てくる情報格差の問題、それは情報格差というか、その事件に対するいろんな知見の差、知識の差、これはやむを得ない。多分○○委員が心配しているのは、そういう情報を裁判官がたくさん持っているから、それを用いて裁判員をねじ伏せて、裁判官の心証を裁判員に押し付けるのではないかということで、それが、○○委員が先ほど言われた懸念の主たる部分だろうと思いますけれども、そういうことはないし、本来裁判官はそういうことはしないという前提で、この裁判員制度は考えておかなくちゃいけないというか、しないという前提で考えるべき制度だと私は思います。さらに、もう少し踏み込んで言えば、どの程度の情報の差があるのか分かりませんが、それで裁判員がはいはいと納得するか。裁判員だってそう簡単に納得しないんじゃないか。きちっと筋が通っていれば納得するし、裁判官が筋が通っていないところを押しつけようとしたって裁判員は納得しない。その辺は国民を信頼すべきだと私は思います。
○ 基本的には、今、○○委員のおっしゃったとおりで、受訴裁判所が準備手続を行うべきであろうと考えます。付け加えて言うことは余りないんですが、先ほど、予断排除の関係で、例えば、証拠の内容を見るということをおっしゃいましたけれども、現行法だって、刑事訴訟規則で、証拠能力の判断のためには提示命令を出して証拠の内容を見ることができるとされているわけです。しかし、その証拠に証拠能力がないということになれば、裁判官は、それに基づいて裁判しないという前提で制度はできているわけで、そんなに心配する必要はないであろうと思います。情報格差のお話も出ていますけれども、証拠にできないものに基づいて、裁判官が何かを言うとか、認定することはおよそ考えられないわけで、そこは○○委員がおっしゃるように、ちゃんと現行の制度の下で動いてきたものを前提として考えばいいんだろうと思うんです。
やはり、計画を立てた人の方が公判での訴訟指揮もきちっとできますし、審理計画を立てればきちっとできるし、いろんな紛争が起きてもきちっとした裁定ができるでしょう。公判の進行をスムーズにし、充実した裁判をするためには、やはり準備手続というのは受訴裁判所がやるべきであろうというのが私の考えです。
○ 私も、結論として、受訴裁判所が準備手続をするということについては全然異存がありません。ただ、準備手続、特に第1回公判期日前の準備手続でどこまでできるかというと、これは問題があるので、証拠の中身に触れるようなことは基本的にはやってはいけない。これを前提にしなきゃいけないんだろうと思うんです。
□ 証拠の内容を見るということですか。
○ そうです。証拠を提示させて、中身を見て、それからということは基本的にあってはいけないと思うんです。そこまでやると、今の手続の前提を崩してしまうことになるんじゃないかなという気がするんです。
□ どうしてですか。
○ つまり、今の建前というのは当事者主義を取っているところから来ていると思うんです。争点整理をするということは、中身に触れることとは関係ないと思うんです。いわゆる争点整理というのは、心証を採るためにやっているんじゃなくて、公判手続を効果的に進めるためにやっているわけです。
例えば、第1回公判期日前に任意性が問題になった。ところが、どうも信用性と結び付きそうだというときに、任意性の有無の判断をやっていいかというと、私はやるべきじゃないと思うんです。
□ さっきの○○委員に対する質問と同じなのですけれども、公判段階に入ってから、準備手続で受訴裁判所が証拠能力の判断をやってはいけないのですか。
○ 公判が始まったら、これは恐らく問題ないだろうと思います。
□ それは、現在の○○委員が理解されているような予断排除の原則との関係で問題がないということなんでしょう。
○ はい。
□ そこのところは、前に公判段階でできることを公判前の準備手続で前倒ししてやることも、どこかに限界はあるかもしれないけれども、基本的に問題はない、刑事訴訟規則178条の10条第1項ただし書の制限は取り払うべきだとおっしゃっていたことと、矛盾しているのではないですか。
○ 私は、通常の、刑事訴訟規則194条の3に書いてある準備手続をやっている限りでは、普通は、これは手続的なことだから、準備的なことだから、訴訟をどうやって進めるかということだから、問題はない。だけれども、さっきから言っているのは、例えば、任意性に関しても、手続的な問題にとどまる場合があるだろう。これは、やってもちっとも構わない。だけれども、本当に内容に入ってまでいいのかというと、ここは内容に触れるところは避けるべきだという議論はあっても当然だと思います。
□ それは分かるのですけれども、そうすると、証拠開示の裁定などについても影響してきますね。
○ 影響してきますね。
○ 質問してよろしいですか。内容に触れるとおっしゃっていることの意味が問題ではないかと思うんです。○○委員は伝統的な予断排除の観念に、私から見ると、かなりこだわっておられるような感じがするんですけれども、先ほど来、話が出ておりますように、第一回公判前の新たな準備手続において証拠決定までするということは、当然ながら、裁判官は証拠に触れるわけですし、内容にも触れる。仮に裁判官がそこから起訴されている犯罪事実について心証を形成したら、それは予断だと思いますけれども、そうではなくて、先ほど来、話が出ている刑事訴訟規則192 条にあるように、証拠採否のために証拠に接触することはやむを得ない場合もあって、たとえ証拠の内容に触れても、そのことが直ちに予断排除の原則に衝突するとは、私は思えないんです。
要するに、事件の本体に関する心証を裁判官が一方的にあらかじめ形成してしまうことがいけないのであって、そうではない限りは、証拠の内容に触れたからと言って、理屈の上では、何ら予断排除の原則には抵触しないと思うんです。
○ 通常は、要否の決定だけであれば、内容には触れないのではないですか。
○ 私の意見は、更に言えば、後々出てくる証拠開示について裁定する場合には、まさにその対象になっている証拠というか、資料にも接触することになると思いますけれども、そういう場合も、私は、ぎりぎりのところは難しいかもしれないけれども、基本的には、受訴裁判所が、第1回公判期日前であっても、その裁定に必要な範囲で内容には触れることはできる、しかし、起訴された事実について心証をそこで形成するわけではないという整理で、予断排除の原則との関係の問題は解決できるのではないかと思っています。
□ 解決できるかどうかという点が意見が分かれるところなのでしょうね。発言を封じるわけじゃないのですけれども、多分、この点についてはこのまま議論を続けても平行線かなという感じがするものですから、ほかの方はよろしいですか。
○ 争点整理に関しても、証拠の中身に触れないと争点が明確にできないんじゃないかと思うんです。
要するに、こういう証拠で、この人が被告人をこの現場で見たと言っている。そういうことまで言わないと、そこが争いなのかどうかが明確にならないわけで、それでは本当に見たのかどうかを調べてみましょうというのが争点整理で、やはり中身に触れているんですね。それができないとなると、今回の争点整理というのも、非常に中途はんぱなものとなり、目撃者がいますよといっても、目撃者とはどんな人なのか、どの段階でのものなのか分からないので、やはり集中的な審理はできなくなるわけです。証拠の中身といっても、もちろん、その人の調書の中まで見せろとかいう話ではないと思いますけれども、その程度は証拠に触れるというのは、当然あり得るんじゃないかと思います。
今までは、それを予断だと言われるかもしれないということで、それは予断ではないという人もいましたけれども、予断だと言われないように自制しておきましょうということが多かったんです。しかし、両当事者の主張を聞いて、ここは争いがありますということを聞いているときに、一方の人から、この点についてはこういう証拠がありますよと言われて、だからといって、そのとおりだなと思う人はいないんです。それでは、そこを調べてみましょうということになるんです。そうじゃないと、証拠調べをしたところ、その人は見ていませんでしたということになったときに理由などは書けないですね。その場合に、もしこの人が見ていましたという理由を書いたら、それはもうそれでアウトなわけですから、両当事者の主張が明確になったところで証拠の内容に触れたからといって、予断というものにはならないんじゃないかというふうに思うんです。
○ 今のはそのとおりなんだけれども、問題は、そういうときに証拠の中身に触れることができるかということです。今聞いている限りでは、当事者の主張として出てきているのであって、裁判所が積極的に証拠はどうなっているかと見ているわけではない。だから、そこのところはかなり差があるはずじゃないですか。
○ 念頭に置いている「証拠の中身」というものの意味が違っているのではないでしょうか。例えば、立証趣旨程度は、少なくとも、私が申し上げている「中身」ではないのです。さっきお話が出た、「目撃証人がいます。例えば、Aさんという人で、被告人が犯行現場にいたことを立証します。」という程度のことは、私が言っている意味では、証拠の中身に触れることではないのです。Aさんの調書を読んだり、Aさんから直接話を聞く、これは、証拠の中身に触れることになるわけです。証拠そのものになるわけです。
証拠の中身に触れるのは、準備手続としては、公判裁判所が公判のテザインをする手続としては、行き過ぎではないかということを言っているのです。だから、どんな証人ですかということを聞くことなどは、別に構わないわけです。
さっき○○委員が、今でも提示命令を掛けて中身を見ているとおっしゃいましたが、それはそのとおりなんですけれども、今度は、裁判員が同じ制度の下で、本当の中身ですね、例えば、こういう自白をしましたということまで、多くのケースでは出てくる。さっき座長がおっしゃった自白の内容の概要まで出てくるわけです。そういうものに触れることがいいのかどうかということを私は問題にしているわけで、今の制度についてどうこうと言っているわけではないのです。
もともとそういった証拠能力の問題というのは、問題がある証拠は判断者に触れさせないようにしようという発想だったのだろうと思います。そうだとすると、プロの裁判官ではないわけですから、裁判員にはなるべくそういった配慮がより必要になってくるのではないかという意味でさっき申し上げたわけです。
□ そこのところで、裁判員にはなるべく触れさせないようにしようという点では余り争いがないと思うのです。
整理するとさっき言われたとおりだと思うのですが、その場合に裁判官が、証拠能力の判定に必要な範囲に限るとは言え、証拠の中身に触れてしまうと、その意味で情報に違いが出てくるということなのでしょう。
○ 情報が違うというのではなくて、○○委員のおっしゃったように、例えば、証拠の立証趣旨的なことであれば、私は、心証を形成しないということに賛成です。ところが、自白の内容あるいは調書の内容、それを読んだり聞いたりしたときに、心証を形成しないということが本当にあるんですかということなんです。
□ だけれども、現行法はそういう前提でできているのですよ。
○ 現行法は、そういう前提なのですけれども、今度の裁判員が入る制度で考えるときには、さっき情報の格差という言葉が使われていましたけれども、そういったものも含めて、もう一回そういった制度についても立ち戻って考えた方がいいんじゃないでしょうか。
□ 予断の問題との関係で考えると、今でも同じことがあるので、違いがあるとすれば、情報格差ということだと思うのですが、それが、許容できる範囲なのか、そうではないのかということだと思うのです。
例えば、2号書面の場合について言えば、公判廷における証言と照らし合わせて、調書の内容との間で本当に矛盾があるのかどうなのかという判断をするときには、証拠に触れざるを得ないわけですね。そういう判断もやらざる得ないときに、果たして全く情報格差を生じさせない、かつ完全に整合的な制度というものが組めるのかという問題だと思うのです。両方向の御意見があり得るというのは、これまでの議論で分かったと思いますので、1ラウンド目としては、このくらいでよろしいですか。
○ この問題は、制度的に本当にうまく機能させるためには、もっと細かいことを本当は決めなくちゃいけない。1ラウンド目ですから、そんなに細かいことはやらないというのは、よく分かるんですが、最終的には、お互いに手の内をさらした場合に、相手方の証人にどの範囲で接触できるかとか、そういう細かいところの制度設計を第2ラウンドでやるようにお願いしたいと思います。
□ 御意見を踏まえて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
私の腹づもりでは、証拠開示についての議論にも入りたいと思っていたのですけれども、今日議論していただいた論点以上に難しい問題かもしれません。今日の議論を踏まえながら、次回、証拠開示についての議論から入っていきたいと思います。
次回は11月20日の午後3時からということで、今日より始まりが遅いために時間的に窮屈で、よりインテンシブな議論にしていただかなければならないと思いますけれども、是非御協力の方お願いします。
事務連絡が事務局の方からあるということですので、お願いします。
● 1点目は、いつも申し上げていることでございまして、本日も、事務局に寄せられた御意見の追加の目録を配布させていただいておりますので、御覧になりたいというものについては、お申し付けいただければと思います。
それから、前に御報告申し上げましたように、本検討会のテーマについての御意見の募集を引き続き10月末までの予定で行っておりまして、その結果につきましては、できれば次回に御報告できればと考えております。
以上です。
□ それでは、本日は散会とさせていただきます。ありがとうございました。