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裁判員制度・刑事検討会(第9回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成14年11月20日(水)15:00~18:30


2 場所
 司法制度改革推進本部事務局第1会議室


3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、平良木登規男、廣畑史朗、本田守弘(敬称略)
(事務局)
大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について


5 配布資料
資料1 「裁判所における手続の迅速化促進方策」のイメージ
資料2 裁判員制度・刑事検討会開催予定


6 議事

(1) 事務局から、裁判の迅速化を促進するための法案の前提となる、裁判の迅速化を促進するための方策の枠組みについて、資料1に基づき、説明がなされた。
 同法案において、裁判所や当事者等に、できる限り2年以内に第一審の手続を終局させるように努力する責務を課すことが検討されていることを受けて、本検討会では、それ以上の法的効果を持った規定を別途設けるか否かにつき、他の方策とも併せて議論することとなった。

(2) 「裁判員制度・刑事検討会における当面の論点-刑事裁判の充実・迅速化-」(第2回配付資料2)に沿って、刑事裁判の充実・迅速化に関する当面の論点について議論が行われた。
 議論の概要は、以下のとおりである。

ア 充実した争点整理のための証拠開示の拡充

 証拠開示の時期・範囲等に関するルールをどのような内容とするか

・ 弁護側は、まず証拠開示を受けなければ、争点整理に対応することが困難ではないか。連日的開廷のために争点整理が必要であることに異論はないが、その前提として、弁護側が十分に対応できるよう条件を整備する必要がある。証拠開示の範囲はできるだけ広い方が望ましく、プライバシーの侵害や証拠隠滅など証拠開示に伴う弊害のおそれがある場合には、裁判所の裁定により不開示とすればよいのではないか。

・ 素人である国民が裁判員として公判手続に参加することになるのだから、公判開始前に争点と証拠が可能な限り明確に整理される必要がある。当事者間に争いのない点は事前の証拠開示により明らかにしておくなど、争点整理を促進するためにも、開示の範囲は広い方が望ましいのではないか。

・ 証拠開示と争点整理の在り方は、公判手続のみならず、捜査の方法にも大きな影響を与えることに留意する必要がある。刑事裁判は、本来、障害物の隠された状態での障害物競走のようなものであるはずなのに、公判前の証拠開示において、検察官が弁護側の主張を弾劾するために用意している証拠まで開示しなければならないとすると、公判は障害物の見える障害物競走へと変質し、その結果として真偽の判断が困難になると思われる。
 他方、検察官の主立証に必要な証拠が開示されるのであれば、弁護側が認否や争点の判断をするために、更なる開示が必要となる証拠はほとんど無いと思われる。
 こうした点を考慮すると、証拠開示の手続は、まず、検察官が立証しようとする事実とそれを立証する証拠を開示し、これを受けて弁護側が争うべき点があればその点を明らかにし、続いて検察官が明示されたその争点に関連する証拠を、被告人に有利・不利を問わず開示し、それを見て弁護側が先に示した争点を公判でも争うか、それとも撤回するかを決める、という順序で進めれば、最終的には、弁護側に必要な証拠はすべて開示されることになるし、本来隠されているべき障害物を不必要に明らかにするという不当なことも生じず、適切な制度となるのではないか。

・ 証拠開示の時期・範囲に関するルールを検討するに当たって念頭に置かれるべきなのは、証拠開示を争点整理と関連付けられたものにすること、証拠開示に伴う弊害を防止することができるものとすること、及び当事者主義の訴訟構造と反しないものとすることである。
 弁護人はあらかじめ広範な証拠開示を受けないと争点を明らかにすることができないという意見があるが、検察官の主張事実と請求証拠の開示を受けた上で被告人の言い分を十分に聞けば、何を認め何を争うかを十分に整理できるはずである。検察官が主張する事実について、被告人が否認したり、これを反駁する積極主張をしているときは、弁護人は、その旨を主張すればよいし、被告人が弁護人に対して事実を認めているが、弁護人としては、検察官請求証拠では当該事実を認めるのに不十分だと考えるときは、弁護人は、証拠の不十分性を主張すればよい。被告人が弁護人に対して検察官の主張事実を認めており、弁護人の目から見ても、検察官請求予定証拠で当該事実を認めるのに十分だと判断される場合についても、弁護側の認否・主張の前に検察官の請求予定証拠以上の証拠を開示すべき理由は見出せない。そうした開示は、被告人側に虚偽の主張を許すためのものになり、必要性も相当性も認められないだろう。
 したがって、まず検察官が立証予定の具体的な事実を現在の冒頭陳述書の内容程度に明らかにするとともに、その立証に必要な証拠を開示し、これを受けて被告人・弁護人が、検察官主張の具体的事実について認否と、主張があればそれをも明らかにすることにより、争点整理を開始し、次いで検察官が、明示された争点に関連して、適正な基準に基づき、被告人側に有利な証拠を含めて、更に証拠を開示するという制度とするのが妥当ではないか。

・ 現行法では、検察官が証人尋問を請求する予定の場合には、その証人の氏名・住所を弁護側に知らせれば足り、捜査段階における当該証人の供述調書を閲覧させる義務はないため、その開示を巡って紛争が生じることがあるので、検察官が証人尋問を請求する予定の場合には、当該証人が公判で証言することが見込まれる内容の供述を記載した供述調書をも開示することが望ましいのではないか。

・ そのような場合、的確な争点整理のためには、当該証人が公判で証言すると考えられる内容の供述を記載した供述調書を原則開示することとし、弊害がある場合にはその要旨を書面化したものを開示するというふうにすることが考えられる。

・ 現行法の枠組みを広げ、検察官の主張するストーリーとその素材とが明らかにされるのであれば、弁護側が認否や主張を明らかにすることは可能であるし、それに基づく相互の主張の交換により証拠開示の範囲を段階的に広げていくという制度も成り立つだろう。

・ 冒頭陳述書並に事実関係を明らかにする際には、検察官主張事実と証拠との関連を示すこともあり得るだろう。

・ 例えば、弁護側が「殺意を争う」と主張した場合でも、殺害の方法が異なるなど事案は様々であるから、それぞれの場合に応じて争点と関連する証拠を開示することになるのではないか。また、弁護側は、争点を実効的に整理するためには、間接事実を含む検察官主張の個別具体的な事実それぞれについて認否を明らかにする必要があり、単に「すべてを争う」と主張するだけでは足りないだろう。

・ 弁護側が「殺意を争う」という場合、殺意の認定に当たって、殺意についての被告人本人の供述はあくまで一つの要素に過ぎず、凶器、攻撃場所、動機、事後の行動など、様々な事情、間接事実が考慮されるので、個々の事件において、検察官がそれら様々な間接事実を主張し、そのうち、弁護側がどの事実を認め、どの事実を争うかによって、具体的な争点は変わってくる。そのように、個々の事件の細かい事実関係に応じて争点が具体化されていくのであり、それに応じて開示される証拠の範囲も変わってくることになると思われる。

・ 個々の事件ごとに証拠開示の範囲が変わることもあり得るだろうが、個々の具体的事実ごとに争点とするかどうかを明らかにした上で、関連性を判断して証拠を開示するという手続では、準備手続が煩雑なものになるという印象がある。もう少し効率的な準備手続とすべきではないか。
 また、証拠開示の在り方について、審議会意見書は、訴訟当事者の二極対立構造を健全に活性化することで真実に迫ることができるという考え方に立っているものと思われるが、特に活性化の必要があるのは弁護活動であることに異論はないはずであり、それを活性化するための手続が早い段階で必要ではないか。その意味で、証拠開示は段階的にではなく、あらかじめ一括して行うべきである。そのためには、証拠の中でも開示の必要性・重要性の高いもの、開示に伴う弊害の少ないものなどを類型化して原則開示とし、開示の要否・適否に争いがあるものについては裁判所が最終的に判断するということにすればよいのではないか。

・ 準備手続が煩雑になるというが、争点整理を実効的なものとするためには、間接事実のレベルまで踏み込んで争点とするかどうかを明らかにしていくということをやらざるを得ないのであり、そうすることにより公判の充実・迅速化が図れるのである。また、証拠開示を一括して行うことが争点整理とどう結びついてくるのか。

・ 証拠開示を早い段階で一括して行えば、弁護側が争点を整理するインセンティブが高まる。証拠についてまったく分からない状態でどこを争うかを判断するのと、一定の証拠を示された上で判断するのとでは違う。弁護人は、どのような主張が公判で通用しやすいかを証拠との関係で判断するのだから、事前に証拠が分かっている方が効果的に争点を整理できるのではないか。

・ それは、弁護側として、最初から確定的な主張をすることを求められ、後で主張を撤回したり変更したりできなくなることを懸念するためなのか。

・ 弁護側は、争点整理の過程で主張を撤回することはできるだろう。まず争うべき点を明らかにし、その争点に関連する証拠が開示されるというルールになるのであれば、開示された証拠を検討した結果等により、先に示した主張を撤回したり修正することもあり得るだろう。

・ 例えば、殺人事件では、被告人には自己の行為と被害者の死亡との因果関係が十分に分からないことがある。検察官請求予定証拠によれば因果関係が一応認められ、被告人も別に争わないが、その点に関する証拠が他にも存在するかもしれず、弁護人としては、その内容を確認する必要があると考えれば、因果関係について争うことが必要となる。被告人が本来認めるべき点を争うことは、被告人の更生のためにも望ましくないことであり、証拠の開示を受けるために、弁護人があえて争わざるを得ないということになるのは問題ではないか。弁護側が主張を明示することを前提に証拠が開示されるという仕組みを基本的に取るとしても、それだけでは問題がある場合があり、例外的な手当てを考える必要もあるのではないか。

・ 因果関係が問題となる事例に関しては、被告人には自己の行動と被害者の死亡との因果関係が分からないのだから、この点が争われれば、関連する証拠はすべて争点関連として開示されることになるだろう。

・ 争点整理の段階で予備的な主張をすることが被告人の更生に影響するかは疑問である。

・ 検察官が証人尋問を請求する予定の証人について、その証人の捜査段階における供述が変遷している場合には、すべての供述調書を開示することになるのか。

・ 検察官請求予定証人の供述調書については、まず、検察官が主張事実を立証するのに必要な範囲で供述調書ないし供述要旨を開示するのであり、そのうえで、その供述の信用性を弁護側が争うということになれば、具体的な争点に関連する部分についてさらに開示がなされることになるだろう。

・ 公判前に争点の整理がついている必要があり、そのためにはかなり広い範囲で証拠が明らかにされる必要があるが、弁護側が争う場合に検察官から争点関連の証拠が開示されるのであれば問題ない。証拠開示と争点整理の順序について、形式的にどちらが先かにこだわるつもりはないが、実質的に弁護側に必要な証拠がすべて開示されることが肝心である。検察官請求証拠以外の証拠の中に、弁護側に有利な証拠が存在する可能性も否定できないのではないか。

・ 因果関係などとは異なり、被告人自身の行動については、被告人は応答可能なはずであるから、被告人側に、認否や主張を明らかにしてもらう必要があるだろう。

・ 被告人の防御に必要かつ重要な証拠を公判前に開示すべきことについては争いはないのではないか。ただ、弁護側が争点として提示しない限りは、重要な証拠を検察官と共有できないとする考えは気にかかる。被告人にとって不利な行動まで明らかにしないと証拠開示を受けられないというのはおかしい。手順の違いだけで、必要かつ重要な証拠が結局開示されることになるというが、そうであれば、弁護側が争点を明示した後でないと証拠開示がなされないという制度にするのは不合理ではないか。

・ 例えば、被告人側が正当防衛の主張をするためには、暴行行為など自己に不利益となる外形的事実を明らかにしないと自分の行為の正当性を主張できないが、こういう場合はどうなるのか。

・ 被告人側として、正当防衛の主張をするか否かは、公判の最終段階ではいずれにせよ決断しなければならないことであり、それを前倒しして準備手続の中で明らかにすることが求められるに過ぎないのであり、不当なことではないのではないか。

・ 反対論の趣旨は、前倒しして主張を明示させられると、検察官の立証が失敗するかもしれず、それを待ってからその主張をするかどうかを決めるという利益が失われるということか。

・ 被告人が何も言わないという選択肢を排除することはできないだろう。

・ 被告人側が何も言わないまま公判が終わってしまえば、主張すべき点があったとしても取り上げてもらえないわけで、取り上げてもらうためには主張しなければならないはずである。

・ 弁護人の中には、どんな証拠があるのを見てからでないと主張できないと言う人が多いが、かなり広い範囲の証拠を見た上で争うかどうかの選択をしているのではないか。当初の段階では証拠が分からないので争うが、証拠開示を受けて証拠を見た上で納得したから争わないという選択をすることは十分あり得るだろう。しかし、準備手続において、最初に予備的に争うと言っておきながら、証拠の開示を受けた上でその主張を撤回すると、撤回せずに維持した他の主張も弱く見えてしまうので、弁護人としては、証拠をまず見た上で最初から主張を絞って出すということにしたいのではないか。数打てば当たるという形で予備的な主張を数多く出させるのでは、争点がぼやけてしまう。争点を明示しないと証拠が開示されないという制度は、弁護人にとってなかなか難しいのではないか。
 また、裁判所にとっては、争点が明確になるのは良いことだが、開示されていない証拠の中に重要な証拠が残されていないかという不安がある。弁護人も証拠を見た上で、これは争点でないと言うのなら良いが、明らかにされなかった別の所に真の争点があるようでは困る。

・ 真の争点が明らかにされないという懸念は、争点整理と関連付けた段階的な証拠開示によっても、基本的に解消できるのではないか。弁護人の力に左右される部分はあるが、弁護人にある程度幅広な主張を認め、例外も認めることで大部分は救えるのではないかと思われる。むしろ、手順の問題よりも、証拠が争点に関連するか否かについての検察官の判断が正確になされることをいかにして担保するかが問題だろう。

・ 検察官は、収集した多くの証拠の中から一番強い主張を組み立てるのであり、その主張との関連で開示された証拠だけを基に弁護人が最も強い主張を組み立てることができるか不安である。

・ 証拠には、検察官の立証責任を果たすために必要な証拠と弁護側の予想される弁解を弾劾する証拠の二種類があり、この二つは質が違うので、一緒に議論するのは妥当でない。例えば、アリバイについては、捜査側は、考え得るアリバイ主張の成否についても捜査をしておくものである。親しい友人の所に泊まっていたというアリバイ主張を予想して、友人A、B、Cの3人から、それぞれ犯行時に被告人と一緒にいなかったという調書が作成されていたという場合、段階的証拠開示であれば、被告人がまずAのところにいたという主張をし、これに対し、検察官がAの調書を開示したら、被告人は、Bのところにいたという主張に変更したという具合に順次主張を変更し、最終的に、検察官が事前に捜査をしていなかった、Dの所にいたというアリバイ主張になったとしても、被告人の弁解がAからDへと変遷した過程を公判で明らかにできる。ところが、これらの調書が一括して事前に開示された場合には、被告人は、当初から、A、B、Cの所ではなくDの所にいたと主張できるので、その供述の信ぴょう性を公判で判断することが難しくなる。仮にある程度の範囲の証拠を事前に開示させるとしても、検察官が弁護側の弁解を予想してあらかじめ押さえている証拠まで開示することを求めるのは適切でない。

・ アリバイ主張については被告人の記憶が定かでない場合もあり、被告人の行動を弁護側ですべて調べきれるものでもない。その場合、不確かな記憶に基づいてAの所にいたと供述することで、弾劾証拠を提示されて決定的なダメージを受ける危険性がある。弁護側が主張するためには、検察官にどのような証拠があるのか分からないと判断できない場合はあり得るのであり、不開示証拠に対する弁護側のアクセス可能性を保障することが必要ではないか。

・ アリバイ主張について、特定性をどれだけ求めるかは別問題であり、具体的なアリバイ主張をしないと証拠開示を認めない制度にすべきと言っているわけではない。友達の所にいたのだが、誰の所にいたかは分からないという主張に基づき、A、B、Cの調書の開示を認めるという制度設計はあり得る。

・ どこにいたかは覚えていないが、犯行現場にいなかったという主張でもよいのか。

・ 積極的に自分がどこにいたというのがアリバイ主張である。犯行現場にいなかったという主張は犯行を否認しているだけにすぎず、アリバイ主張とはいえない。

・ 事前準備は公判を効率的なものにするために設けられる手続であり、証拠開示に関しては、公判で生じる証拠開示に関する争いを前倒ししてどこまで解決するかということだと思う。例えば、現在の実務で、供述調書があるのになぜ検察官が人証を証拠請求するかというと、供述調書の開示に伴う弊害が予想されるか、あるいは、供述調書が弁護側から不同意とされることが見込まれるからだろう。最初から人証を請求する場合でも調書を開示するという制度にする場合、弊害があるものは別として、不同意が予想されるものでも開示するということだろうが、それが一部しか開示されない場合、残りを開示するのかどうかが公判で争いになるだろう。

・ 供述の信用性が争われれば、弊害がない限り、同一証人の供述調書は争点関連のものとして開示されるという仕組みを考えている。

・ 被告人側が争点を明示しない事件については証拠が開示されないことになるが、こうした事件の審理はこれまでも長期化しており、何も対策を講じなくてよいのか。

・ 当事者の対等性、公正な裁判の確保という観点から、証拠が偏在している刑事事件においては証拠の再分配なり情報の共有が必要である。

・ その点は一般論としては異論がないかもしれないが、「公正」ということについての考え方や当事者主義原則の理解の仕方は人により異なり得るので、具体論として議論すべきだろう。

・ 最終的に争点整理が必要であることに異論はないが、弁護人が納得して争点整理に応じられるトータルな環境の整備が必要であり、そのために被告人側にどの範囲まで証拠開示を保障するかを検討すべきであるから、争点整理が証拠開示の先という結論にはならないのではないか。

・ 機能的に証拠開示が行われることにより、争点整理が終わる段階では証拠開示の目的が達せられるのではないか。

裁判所が開示の要否を裁定する仕組みをどのようなものにするか

・ 開示の要否を判断する裁判官は、準備手続を主宰する裁判官で良いと思う。
 関連性の判断は、100人の検察官が評価したとして、全員が一致するという性質のものではない。本当は関連性があるのに関連がないと判断してしまう、あるいは証拠が存在しているのに見逃してしまうということはあり得る。したがって、証拠開示の制度設計に当たっては、関連性の有無についての判断が正しく行われる仕組みを整備しないと不十分である。最終的には、裁判官あるいは弁護人が開示の要否の判断に関与するという手続にしないと、本当の争点が見落とされる危険性はなくならない。ただし、証拠の中身まで裁判官が見るということになれば、別の裁判官が裁定することも選択肢としてあり得るだろうが、その裁判官が準備手続に関与していないと、開示の要否の判断は難しくなるだろう。

・ 一般的には、開示の要否の判断に当たり最も問題となるのは、プライバシーの侵害と証人威迫である。こうした典型的な問題について判断するのは、準備手続及び公判を将来担当する裁判官が望ましく、問題もないように思う。これまで、開示の要否の判断は、第一回期日後になされており、予断との関係で問題は生じなかった。新しい制度の下で開示の要否を裁定するためには、プライバシーや証人威迫についての判断のために証拠に接触せざるを得なくなるが、その点に限って証拠に接触するだけであるから証拠から心証を得ることとは区別できるのではないか。

・ 弊害のおそれの証明のためには、当の証拠だけでなく、供述者の地位等他の事実や証拠も弊害を示す材料として用いることを認めてよいのではないか。
 裁定に付される証拠はもともと開示したら困るというものだから、裁定手続に弁護人が関与することは適切でなく、インカメラで弊害を主張する検察官と裁判官だけが関与して行うこととし、弁護側との関係では適正な不服申立ての手続を設けることで対処すべきである。

・ 弁護人には証拠の中身を見せずに、裁定手続への立会を許すという方法もあるのではないか。

・ 裁定に際して弁護人から意見を聴取すべきことは当然であろう。

・ 裁定に際して、弊害、関連性、重要性を判断するには、事案が分かっていないと難しいが、弊害についての主張を具体的にしてもらえば、それ以上に事実調べまでする必要があるという場合は考えにくいように思われる。

・ 弁護人が開示を求めたものだけでなく、他の資料まで裁判官が目にすることになると、同じ裁判体の中で裁判官と裁判員との間の情報格差が問題とならないか。裁定手続は別の裁判官が行うこともあり得るのではないか。

・ 被告人の主張、争点が明らかになっているのに、検察官が関連性について判断できないことはないのではないか。

・ 検察官もミスすることはあり得るのであり、セイフティー・ネットは必要ではないか。

・ 詳細な事実調べを行うことは事前準備に適さないのではないか。書面の交換と関係証拠を見て判断するのが精一杯でないか。詳細な事実調べが必要になると、争点がそちらに移ってしまうので、裁定も事前準備と同じく受訴裁判所がやるのが筋だろう。

・ 裁定手続は別の裁判所が行うべきである。裁判官が証拠の中身の判断にどこまで関わるかが問題であり、中身に触れる判断をしないに越したことはないが、その結果として、手続が簡易なものとなることで、不開示決定がなされては困るのであり、裁定に必要な手厚い手続が求められるのではないか。検察官が不開示を求めることには合理的な理由が必要であり、その点について別の裁判所が判断できないことはないのではないか。

・ 逆に、事件の筋や争点整理が見えていないと、開示の判断が必要以上に謙抑的になる可能性もある。争点整理との関係で関連性を十分判断できるのは誰なのかということと、証拠に触れることによる問題点がクリアできるのかということを踏まえて調整する必要があるだろう。

裁定に対する不服申立てについて

・ 開示を決定する裁定に誤りがないという保障はないのだから、不服申立てを認めるべきである。開示決定により一旦開示されてしまうと、弊害は取り返しがつかないので、これに対しては直接の不服申立てを認めるべきである。他方、不開示の裁定については、直接の不服申立てを認めるのか、それとも本案判決への上訴の中で扱うことにするのか検討の余地がある。

・ 現在の実務では、不開示の場合には裁判所の職権が発動されなかっただけのことなので、不服申立ては認められておらず、偏っていると感じている。効率の問題もあろうが、基本的には開示、不開示のどちらにも不服申立てができる方が望ましい。

・ 不開示決定への不服申立てが本案判決への上訴に含めて対処されることになると、準備手続段階では決着がつかず、被告人側は争点整理に応じられないことにもなり、不当である。

・ 不開示の裁定についても直接の不服申立てを許すべきである。裁判の充実・迅速化のための争点整理であるから、論点を後回しにすることは今回の法改正の趣旨に反するだろう。

・ 準抗告手続が参考になるだろう。不服申立ての制度を設ける両当事者からの異議について対等に即時に処理すべきである。

・ これまでは、証拠開示命令は裁判所の訴訟指揮の一環としての、裁量に基づく職権発動であるという構成であったが、裁判として構成すれば両当事者から不服申立てできることになる。新しい裁定手続を訴訟指揮として構成するのは難しく、両当事者からの不服申立てを認めざるを得ないだろう。

・ 両当事者から不服申立てが認められるべきだろう。新たな準備手続での証拠開示の手続はこれまでの証拠開示命令より大事なものになり、不開示の判断も明確に示さなければならない。前倒しで争点について決定するわけだから、明確な手続にする必要があるし、当事者に不服を残したままでは次の段階に進めないだろう。

その他

・ 開示された証拠の保管に関するルールを定める必要があるのではないか。
 これまでも開示された証拠のコピーがマスコミや、暴力団関係者、インターネット上等に流出したことがあった。今後は証拠開示の範囲がさらに広がるのであり、また、昨今は個人情報の保護の必要性が高まっていることでもあるから、きちんとしたルールを定める必要があるだろう。開示した証拠については、当事者が責任を持って保管することとし、違反に対しては制裁を加えるべきである。

・ 開示証拠の目的外使用は、法曹倫理の問題ではないか。証拠開示の範囲が広がることによる弊害のおそれに対しては、個々の事件ごとに裁判所が弁護人限りへの開示を命じるなどの方法で対処すべきではないか。

・ 弁護人が供述調書を被告人に渡したきり、後は知らないというのもおかしな話であり、責任を持ってもらわないといけない。今でも現実に問題が生じているのであり、弁護士倫理だけで解決できる問題ではない。

・ 開示証拠の目的外使用はあってはならないことだが、例外的な事態であり、一律に形式的に規制することはできないのではないか。

・ 開示された証拠は公判への準備のために使うべきだということであり、難しい問題ではないはずだ。

・ 証人の供述調書が開示された場合に、当該証人へのアクセスを認めるかが問題となる。現行実務では、両当事者の相手側証人への接触は任意とされているが、検察官から弁護側証人への接触は比較的容易であるのに対し、弁護人が検察官証人に接触することは極めて困難であり、対等とは言えない。事前のアクセスを認めるのであれば、証人にヒアリングを受ける義務を課すなどルールを定めるべきであるし、そうすることができないならば、両当事者いずれについても事前接触を禁止するなど、対等な条件を設定すべきである。

・ 証人に当事者の事情聴取に応じる義務を課すというのは無理ではないか。

イ 連日的開廷のための関連諸制度の整備について

・ 連日的開廷について法律で規定することには意味があると思う。連日的開廷については、現在も規則で定められているが、あまり実効性があがっていない。公職選挙法の百日裁判の規定のように、具体的な規定になればなるほど効果はあるだろう。ただし、どこまで規定するかは、別問題である。

・ 連日的開廷は必要だが、そのための条件整備が問題である。条件が整わないままでは拙速の誹りを免れない。また、条件が整備できれば法定化しなくても対応できるわけだし、条件の整備が明確にならない段階での法定化には疑問が残る。何が何でも毎日審理を強制されるということも起こり得る。条件整備としては、例えば、公判の内容を確認するための公判調書をすぐに用意することが必要となる。また、弁護人が被告人と協議するための環境を整備することも必要となる。

・ 連日的開廷は法律に明記すべきである。裁判員制度はそういう覚悟で導入すべきであり、条件整備はそれとして考えればよい。

・ 前回の公判の調書ができあがるのを待ち、それを検討してからでないと反対尋問できないという現行の運用を前提にして考えるのは適当ではないのではないか。

・ 証人の連日尋問もあり得るわけで、裁判員も含めて考えると、評議の場でも公判における証人等の正確な供述内容を確認できるようにしておく必要があるのではないか。そのためには、リアルタイムの速記のシステムを導入する必要があるのではないか。

・ テープ録音で足りるのではないか。

・ テープだと検索が難しい。また、耳の不自由な人も裁判員になる。

・ 障害をもった人への対応のあり方と一般的な話とは別問題である。また、現実的には人の問題、財政上の問題もあり即時の調書作成ということは難しいのではないか。

・ 現状を前提とすると翌日までに公判記録を作成するのは無理であり、刑事訴訟法50条の規定について考えないといけない。反対尋問はその場で行うことが原則であり、確認のためには録音テープを残しておけば足りるのではないか。

・ 事前準備をしっかりしたとしても、生の証人尋問で初めて出てくる事実もあるから、被告人との打ち合わせが必要となる。しかし、現在は夜間接見が認められておらず、これを認めないと弁護人は連日的開廷に対応できないのではないか。

・ 勤務時間外に対応するためには新たな人員配置が必要であり、拘置所の人員が不足している中で簡単に解決できる問題ではない。

・ 「連日的」の意味であるが、週末を使うことがあっても良いのではないか。裁判員となる人のことを考えると、週末しか休めない会社員もいる。開廷時刻も、現在のように午前10時のままで良いのだろうか。一般の社会は、もっと朝早くから動き出しており、早い時間から始めれば午前中のうちに審理をかなり進めることができるはずだ。

・ 裁判所や当事者等に対し、2年以内に第一審手続を終局させるように努力する責務を課したとしても、責務に違反した場合の直接的な法的効果を設けることは難しいが、例えば、連日的開廷のための期日指定に理由なく応じない当事者への制裁、裁判所の訴訟指揮に従わない当事者への制裁等を設けることは必要であろう。また、私選弁護人が正当な理由なく連日的開廷に協力しない場合に併せて国選弁護人を選任することができるようにすることも考えられる。

・ 被告人が望まないのに弁護人の選任を強制することには疑問を感じる。

・ 必要的弁護事件において弁護人が出廷しない場合と同じことだろう。

・ 弁護人がエスケープすることは法曹倫理の問題として扱えば足り、制裁を科すことは疑問である。

・ 私選弁護人がいるのに国選弁護人を付さざるを得ない例は今でもある。被告人が結論の先送りを図っていると思われる場合などである。こうした場合、誠実な弁護人ほど被告人と職業倫理の間で板挟みになる。そうした理由で審理が遅れるのを避けるためには、国選弁護人を併存させることができるようにすることも考えられる。

・ 冒頭に説明のあった迅速化法案の準備に当たっては、2年という期間を何を単位に算定するのか、訴因が単数の事件と多数訴因の事件とを同じに扱っていいのかといった点についても配慮して、検討してほしい。

7 次回以降の予定

 次回(12月10日)は、引き続き、刑事裁判の充実・迅速化に関する検討を行う予定である。

(以上)