【伊藤座長】おはようございます。所定の時刻でございますので、第11回の法曹制度検討会を開会させていただきます。本日も御多忙の中、お越しいただきましてありがとうございます。
本日は、外国等における最高裁裁判官の選任過程について、調査グループから報告をお伺いするということで、初宿、浅香、勝山、毛利の各先生にも御多忙のところ、御出席いただいております。どうもありがとうございます。
なお、本日の議事は、ただいま申し上げましたとおり、外国等における最高裁裁判官の選任過程についての調査グループからの報告が中心ということで、先生方からのお話を伺うという趣旨で、机の配置をこのような形に設定させていただきました。
それでは、議事に先立ちまして、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
【植村参事官】それでは、配布資料の確認をさせていただきます。
事務局からお配りいたしましたのは、資料11−1から11−4でございます。このうち、資料11−1と11−2が調査グループにお願いいたしました外国の最高裁裁判官の選任過程についての調査に関わるものでございます。それから、資料11−3と11−4が、これに引き続きまして、事務局の方からさせていただきます、かつて我が国に存在した制度等の説明に関する資料でございます。そのほか、浅香、勝山、毛利の各先生から後ほどの御報告にお使いになるレジュメをお預かりいたしましたので、席上に配布させていただいております。
なお、事務局、それから日弁連から、前回、木村委員から御要望のございました資料を席上配布しております。御参考にしていただきたいと思います。以上でございます。
【伊藤座長】どうもありがとうございました。
それでは、本日は「最高裁裁判官の選任等の在り方について−最高裁裁判官の地位の重要性に配慮しつつ、その選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置」の検討に関しまして、私自身もその一員でございますけれども、釜田委員に取りまとめ役になっていただきまして、外国の制度についての調査を進めてまいりました。その調査グループから報告していただくことにいたします。また、事務局から、これまで我が国に存在した制度等につきましても説明をしてもらうことといたします。
そこで、早速ですけれども、まず調査グループからの報告をお願いしたいと存じます。取りまとめ役の釜田委員、よろしくどうぞお願いします。
【釜田委員】おはようございます。それでは、私の方から当検討会より要請がございました調査の概要につきまして、御報告させていただきます。
まず、調査に先立ちまして、対象国、どの国の制度を調査するか、あるいは調査事項をどうするかということにつきまして検討をいたしました。今回の調査の目的は、現行の憲法下で日本の最高裁判所が新たに違憲審査権限あるいは司法審査権限といわれる権限を付与されたことと関係があるわけでございます。このような制度は、御案内のように、それ以前の日本の司法部には付与されていなかった権限でございます。この権限は世界的に見渡してみますと、150年間あまり、北米大陸におきまして、現在のアメリカ合衆国あるいはそれを構成しております諸州において長い間行使されてきたわけでございますが、その間、ヨーロッパ諸国あるいはその法制度の影響下にございました日本を含めてのその他の国々においても、この制度の導入につきましてはあまり関心を示してこなかったわけでございます。
そうようなことが長らく続きました後に、第2次大戦後でございますが、1945年を境にして、採用されました諸国の憲法において、この制度に対する関心が非常に高まってまいりました。そういうことから、この間の五十数年間に米国において長らく使われていながら、あまり世界から関心を示されてこなかったこの制度の導入という現象が起こってまいったわけでございます。我が国もその一つであるということでございます。
この制度は、もともとが英米系の制度でございますが、いわゆるフランス、ドイツを中心といたします大陸法系の諸国に広がった後、1990年代になりますと旧社会主義圏の諸国においても注目され、導入されるに至ったものであり、いわば20世紀の後半から今日にかけて、現在、世界的に注目されている制度と言ってもよいかと思います。それが各国の独立国家の枠を越えまして、今日ではEU等の国際的な組織においても注目され、導入されるに至っているということでございます。
そのような背景を前提にいたしまして、調査対象国の選定をいたしました。大体、20を越える国を対象国として選定したわけでございますが、その選定に際しましても、今、申し上げましたような制度の背景というものを前提にいたしまして、まず英米系の諸国というものを取り上げました。それから、その制度を後になって導入いたしましたフランス、ドイツをはじめといたしますヨーロッパの大陸系諸国、それからその延長線上で何らかの影響を受けながら、自国の制度を構築いたしましたその他のアジアあるいは中南米の諸国、地域の中からも幾つかを選定すべきであろうということで、本日配布させていただいております資料に挙がっていますような二十数カ所の国、地域を選定した次第でございます。
それから、次に対象事項、調査事項をどうするかということにつきましても、最初の会合でいろいろ検討いたしました。まずは各国の日本の最高裁判所に類似する機関に付与されている権限事項は何であるか、また、そこの構成メンバーである裁判官の選定過程における資格要件、あるいは選定過程で第三者の機関の関与があるかどうかというようなことを中心に調査すべきであろうというようなことを決めたわけでございます。その段階で、初宿先生に御参加をいただきまして、いろいろな方面からの御助言を賜った次第でございます。
そういうことで調査に踏み切ったわけでございますが、まず調査をどのような方法で進めるかということが最初の課題となりました。何せ、20を超える国と地域でございますので、まず日本の在外公館の御助力をいただくのがよいであろうということで、在外公館に調査を依頼するという形をとらせていただきました。
外務省本省の諸部局や、在外公館の皆様方には、こちらからの依頼に対して迅速に御協力を賜りまして、この間、次々と調査していただき、資料を御送付いただいた次第でございます。外務本省あるいは在外公館御勤務の方々がいろいろな御業務で御多忙であったことを考えますと、大変なお時間を割いて御尽力を賜ったことを感ずるわけでございます。この場を借りまして、御紹介を兼ね、関わっていただきました各方面の方々に御礼申し上げたく存じます。
それから、先ほど申し上げましたようなアメリカをはじめフランス、ドイツにつきましては、より詳細な調査が必要であろうと考えておりましたところ、ちょうどドイツ、フランスにおいて在外研究をなさっておられました毛利先生、勝山先生に現地で調査協力をしていただけるということになりまして、研究時間を割いて御協力を賜りました。それから、浅香先生には、特に日本から現地へ行っていただきまして現地調査をしていただくという貴重なお時間を賜った次第でございます。三先生にもこの場を借りて御礼申し上げたく存じます。浅香先生には、後ほど調査結果の全体の概観についても、ここで御見解を賜る予定でございます。
それから、今の三先生、初宿先生をお加えして四先生以外のお二人の方からも御協力賜りましたことを御報告申し上げます。お一方は、中南米の中からブラジルの最高裁について御調査いただきました佐藤美由紀氏でございます。中南米の法制度研究に明るい研究者の方でございまして、なかなか日本では把握し切れないブラジルの状況について詳細な調査をしていただきました。それから、もう一方は、台湾の最高裁の状況につきまして、ちょうど台湾からこちらへ御研究にいらっしゃっておられます蔡英欣氏の御協力を賜ることができました。
そのようなことから、本日、御報告させていただきますような調査結果を得ることができたわけでございます。本日の机上に御配布させていただいております一覧表があると思いますが、この一覧表は膨大な調査結果をもとにしまして、事務局の方でこれを大変明解な図表にしていただいたものでございます。実際の最初の資料というものを見ますと、大変大部なものでございます。その中から関連項目のところを簡潔に要約していただきまして、このような一覧表をお作りいただいたわけでございます。この作業は膨大な時間を要したものでございまして、私といたしましても、事務局の御尽力に対し、この場を借りて深く御礼申し上げたく存じます。
ただいま申し上げましたような経緯を経まして、今日の検討会で委員の皆様方に調査結果を御報告申し上げるに至りました。この一覧表等を御覧いただきながら、後ほどの各先生方の補足説明をお聞きいただきましたら幸いかと存じます。そういうことを前提にいたしまして、引き続き、浅香先生からこの調査結果の概要、全体像について御報告を賜りたく存じます。その後、各国の制度についての補足説明を御参加の先生方から賜ればと存じます。ひとつよろしくお願い申し上げます。
【伊藤座長】どうもありがとうございました。それでは、早速、浅香さんから全体的な説明をまずお願いいたします。
【浅香助教授】浅香でございます。本日はよろしくお願いいたします。
私の概観に関する資料としては、1枚の紙で「諸外国の最高裁裁判官制度の調査−概観」というこの資料に、簡単な目次的なものを示させていただきました。
ただいま釜田教授からお話がありましたとおり、事務局及び各国の大使館の皆様方に御尽力をいただきまして、二十数カ国につきまして幅広い調査をすることができ、これを私も拝見いたしまして、それぞれの国々の事情とか、政治制度、憲法制度などを彷彿とさせるものでありまして、学者としてはおもしろいなと思ったわけですけれども、これを全体としてどうまとめたらいいのかということでは大変頭が痛かったわけです。
ただ、もちろんこれら選ばれました諸国は、近代国家と言われるようなものでありまして、概ねこれらの国々は大きく3つコンセプトを持っているのではないでしょうか。若干の例外はありますが。まず第1が、法治国家ないし法の支配という考え方であります。第2が、民主主義というもの。第3が立憲制度というもの。この3つを大体共通して持っています。これらの3つの制度は相互に矛盾するものではないはずなのですが、これが、こと、裁判所制度に関わってきますと、若干、相互の関係というものが難しい。それぞれの国でそれをどう調整するのかということに苦慮しているということがだんだんとわかってまいりました。
まず第1に、法治国家、それから法の支配という考え方から裁判所制度に照射される考え方としては、司法権の独立というものがあります。もちろん、法というもの、あるいは裁判というものは、これは万人に対して公平でなければならない。そして、貧富あるいは身分、人種、民族、そういったものに関係なく、同じ法が同じように適用されなければならないという要請があります。そういうことから、裁判官を選ぶ場合には、法律家としての能力、それから専門性、法というのは、なるべく素人にもわかるようにという要請はある一方で、やはり高度なソフィスティケートされたような内容というものが必要となってきますので、そういう意味での法律家としての能力、そして専門性というものが裁判官に要求される。とりわけ最高裁の裁判官には要求されるというようなことがあります。そういうところで、やはり政治的、党派的な圧力がかかるということは必ずしも好ましくないということで、裁判官あるいは司法部の独立ということが強く言われるわけです。
ただ、この司法部の独立というものが何を意味するのかということは、必ずしも実は明確ではない。政治部門からの独立ということは強く言われるのですが、しかし、一般市民あるいは国民というものから果たして遊離していいのかということで、次の民主主義の考え方からの若干の調整が入る必要が出てくる。つまり、民主的コントロールをこの最高裁あるいは裁判所というものにどの程度及ぼしてよろしいのかということがあります。
とりわけ最高裁判所となりますと、一国の法を統一するという役割があるということで、その意味では必然的に政治的・社会的な影響力というものは当然に持つわけです。こういったところに属する裁判官を選ぶときに、あるいは裁判官が職権を行使するときに、これをどのように民主的なコントロールを及ぼしていっていいのか。あるいはそもそもそうすべきではないのかという議論ももちろんあるのですが、どの程度までそれが可能なのかという議論になってきます。
特に、この政治的・社会的影響力というものは、これは立憲国家においては特に強くなります。すなわち、立憲国家、成文憲法を持っているような国々におきましては、その憲法の内容というものをどのように保障していっていいのかということで、違憲立法審査制の要請が出てくる。とりわけ、これは人権保障をその憲法のもとに置いている場合には、いわば多数決民主主義の決定から少数者を守るという要請すら出てくるわけで、いわば民主的な決定に対する防壁の役割を果たさなければならない。
こういう役割は、文字通り、政治的・社会的影響力は強いわけですから、そういった違憲立法審査権を行使するような裁判所の裁判官にだれを選ぶかということは、必然的に政治性を帯びてくる。そして、その場合、選ばれる裁判官がそういった政治的・社会的な幅広い、日本的な言い方をすれば「太っ腹なものの考え方ができる」あるいは「大所高所からものを見ることができる」という意味での政治性、あるいは司法哲学というものをどう見るか、あるいは憲法体制というものをどう見ていっているのか、あるいは国の将来というものをどう見ていっていいのか、そういった幅広い識見を持つという意味で政治的なセンスを持った方を選ぶという、それはいいのかもしれませんが、問題はその政治的センスを持った人間を選ぶ際に、党派性を帯びてしまう。政治性のみならず党派性まで帯びてしまうということになると、これはやはり根本にある法の支配あるいは民主主義というものとどう調整していっていいのかということが大問題になってくるわけです。
そこで、各国それぞれ長い歴史がある国々があるわけですけれども、もちろん時代によってはかなり政治性、とりわけ党派性を帯びたような人選が行われたという歴史を持っている国が必ずしも少なくないわけですけれども、最近、特にこの数十年の中で、なるべくこの3つの司法権の独立、民主的コントロール、違憲立法審査制というものをうまく調整するようなシステムを何とかつくり上げようと努力している、そしてそれは日々また改革の提案がなされているという状況にあるということが言えると思います。
そこで、とりわけ違憲立法審査制との絡みで最高裁と言われるものの裁判官がどのように選ばれていっているのだろうかということを見ていくわけですけれども、その点で、この違憲立法審査制の行使の仕方は諸外国を大きく分けると2つになります。古典的な講学上の言葉として、よく「アメリカ型」あるいは「ドイツ型」と言われ、あるいは「付随的審査制型」と「抽象的審査制型」と言われます。
アメリカ型あるいは付随的審査制型といわれるものは、これは通常の司法権の最高裁裁判官、通常裁判所である最高裁判所が普通の事件を取り扱う、普通の民事刑事の事件を取り扱うときに、憲法問題が現れたときに、その憲法問題を取り扱う。そこで適用される法律などが合憲であるのか、違憲であるのかということを具体的事件のコンテキストの中で審査していくというものがアメリカ型あるいは付随的審査制と言われているものです。
それに対して、ドイツ型あるいは抽象的審査制と呼ばれているものは、通常裁判所は別にあるわけですけれども、それとは別個の憲法裁判所というものを設ける。別体系のものを作り上げまして、そこでは例えば新しい立法が作られたその前後、立法として成立する前かもしれませんし、それから成立した直後かもしれませんが、そこで抽象的にその法律が果たして憲法に適合しているのか否かということを審査するというものを主たる役目とする。そういう憲法裁判所を置く。そういうシステムがあります。
ただ、この点、若干御注意いただきたいのは、例えばアメリカ型と呼ばれている、付随的審査制を旨とし、通常裁判所が違憲立法審査権を行使するような国々であっても、例えばカナダとかブラジルもそうなのですが、そこに一部、抽象的審査権も与えているという例もあります。それから、またドイツ型あるいは抽象的審査権型あるいは憲法裁判所型と言われている国々であっても、具体的事件が通常裁判所で争われていて、そこで憲法問題が出てきたときに、その事件について、憲法問題についてのみということが通常なのですが、審査を行うということが行われています。ですから、いずれのタイプの国々でも若干のオーバーラップはあり得る。ただ、やはりシステム全体としましては、大きく分ければ、アメリカ型とドイツ型とに分けられるということであります。
諸国はこのように2つに分けられるのですが、まず最初にドイツ型あるいは憲法裁判所型の方を見ていきますと、こちらはいわば憲法裁判所と別個に通常の最高裁判所があるというシステムを採っています。通常の最高裁判所になりますと、普通の民事刑事事件を取り扱うというのが主たる任務になって、憲法問題は一応取り扱わないというシステムになっています。そういう国々におきましては、憲法裁判所というのは裁判官の数が少ないのに対して、通常の最高裁判所の裁判官の数は多い。これは、日本の帝国憲法下の大審院がそうだったわけですけれども、非常に数の多い、そしてまたキャリア裁判官、専門性の高い裁判官がそこに配置されているという傾向にあります。例えば、ドイツですと125人、通常最高裁にはおりますし、それからフランスですと112人というような数に対して、憲法裁判所の方はドイツが16人、フランスが9人というように、明確に裁判官の位置づけが異なっているということがあります。
これに対しまして、アメリカ型の最高裁判所と言われるもの、これは通常の事件とともに憲法問題も取り扱うということですが、これらの国々におきましては、最高裁の裁判官の数はむしろ少ない方になっております。ですから、ドイツ型でいいますと、憲法裁判所に近いような数、アメリカの場合には9人ということになっております。
若干戻りますが、憲法について抽象的審査を行うというのは、これは先ほども言いましたとおり、ドイツのように憲法裁判所を置く場合でありましても、またアメリカは抽象的審査を行いませんが、例えばカナダであるとか、ブラジルのように、通常裁判所で抽象的審査を行うということもありますが、こういう場合には一般には提訴権者が限定されているということは明確なルールになっています。
付随的審査を行う、つまり通常の事件、通常の民事刑事事件の中で憲法判断が必要になったときに憲法審査を行うというのであれば、提訴権者というのはこれは当然のことながら、一般の民事事件、原告、被告であり、また刑事事件の被告人であったりするわけですが、抽象的審査を必要とする場合に、だれが提訴できるかというと、一般の国民がだれでも提訴できるというものではなくて、例えば国によって大統領が名目上、提訴権者になる。その場合は、政府が実質的に提訴するかどうか判断を行う、あるいは議会の議員が行うとか、そういうふうに提訴権者が限定されているというのが抽象的審査においては当然のルール、これはほぼ諸外国においてそのようになっております。
そういうことですから、ドイツ型の憲法裁判所であれ、アメリカ型の最高裁判所であれ、抽象的審査を行うときについては、これはやはり数少ない事件について集中的に審査を行うということがもくろまれておりますので、それほど数の多い裁判官を必要としない。むしろ、数の多い裁判官がいますと、その間での意見の統一ということが難しくなるということがありますので、数をあえて少なくしているということはあるかと思います。
このような裁判官をどのように任命していっていいのかというようなことになりますけれども、ドイツ型のように特別の憲法裁判所を置いているところにおきましては、憲法裁判所の裁判官と通常の最高裁判所の裁判官とでは、これはかなりメリハリがある。すなわち、公式な任命権者は大体国家元首、国王であったり、大統領であったりという感じなのですけれども、実質的にだれがその候補者なり、最終的に事実上の決定を行っているのかといいますと、通常の最高裁判所に関しましては、これは司法部がかなり実質的に関与したシステムを採っております。
委員会をつくるなどしまして、そこでキャリア裁判官システムをとっているようなところですと、キャリア裁判官で経験豊富な人の中から最高裁の裁判官を選ぶというようなことが行われる。それに対して、憲法裁判所の裁判官につきましては、実質的にだれがこれを行っているかというと、政治部門において人選が行われているということがかなりはっきりしております。イタリアのように、その中に司法部門の代表者も審査というか、選抜に当たるというようなところもありますか、それはむしろ例外でありまして、政治部門の中で人選が行われている。アメリカ型のように、通常の最高裁判所が違憲立法審査権も行使するというような国々でも、状況はむしろ憲法裁判所と同様でありまして、政治部門が人選に主体的に当たるというシステムが主流になっております。
ただ、問題は政治部門といいましても、これがすべて一枚岩と限らないわけで、むしろ一枚岩であると、政治がまさに憲法問題、憲法判断に直接に影響を与えてしまうという恐れすらあるわけですが、その点で各国はそれをどのようにバランスをとるのか。例えば三権分立の問題として、とりわけ政治部門の中でも執行部と立法部のバランス、あるいは立法部の中でも政党間のバランス、あるいは連邦制の国々も幾つかあるわけですけれども、その場合には州の間でのバランスというものをどのようにとっていくのかということで、公式なチェック・アンド・バランスをとる国もあるし、非公式なやり方で、しかしそのようなチェック・アンド・バランスをとるということが実際に行われているわけです。
例えば、ドイツなどでは、後で詳しく説明もありますけれども、議会のうちの上院と下院で、憲法裁判所に指名する人数枠があらかじめ分けられていて、それぞれで選ぶ。しかも、それぞれの議会の中での政党間のバランスも、その中で非公式に、政党間の妥協の産物でもあるのかもしれませんけれども、行われますし、またそういった公式なやり方でのバランスをとる。2番目は、例えば一人の人選をするときに、アメリカはそうなのですけれども、大統領は指名するのだけれども、それに上院が承認人事を行うというやり方で、一人の人選について複数の実質的な関与者がいるというやり方がある。
第3のやり方は、実質的には単独の任命権者、あるいは実質的な指名権者というものがいるのだけれども、その中でバランスをとるメカニズムが働くということがあります。そのやり方としては、一つは、指名権者の方での配慮ということ、あまり党派的に指名権者、例えば実質的には首相が指名権者であったとしましても、自分の党派からばかり選ぶということは、それは憲法体制上好ましくないという配慮が働く、あるいは裁判官を選ぶという以上は能力の高い人でないと好ましくないという配慮が働くということはあります。とりわけ、最高裁判所あるいは憲法裁判所の裁判官のステータスが高ければ高いほど、そこに優秀な人、無能ではない人を選ぶということは、その任命権者自身のステータスにもかかってくる。無能な人を選ぶと、その選んだ人間も無能だと言われかねないという状況がありますので、そういう配慮が働く可能性があります。
あるいは、さらにはこれは制度上、あるいは非公式のとすら言えないのですけれども、それぞれの国々での政治体制、とりわけ二大政党制であり、政権交代ということが恒常的にある国ですと、例えば一方の政党が政権をとっているときに、そこで首相が指名する裁判官が党派的に選ばれたとしても、それは政権交代して、反対党が政権をとったときには、同じことをするという形でのバランスがとられるということがあるけです。極端な人選をしますと、反対党から当然批判が出るということはありますけれども、お互いに多少党派的な、自分はこのようなやり方を選ぶ、反対党は自分はこのようなやり方で選ぶという形でのバランスがとられるということがあるわけです。もちろん、それは事実上の政治制度というものが人選のバランスに働くという意味では、かなり危うい制度ではありますけれども、弊害を防止する装置として政権交代というものがあり得るということはあります。
ただ、いかなる制度をもちましても、三権分立というものは国々によって違いまして、チェック・アンド・バランスを、例えばアメリカの三権分立のようにはっきりとして、大統領と議会は、それぞれ現在のように大統領は共和党、議会のうち上院は民主党が多数であり、下院は共和党が多数であるというように、はっきりとしたチェック・アンド・バランスのある国ではそういったチェック機能がかなり強力に働くということはあり得るわけですけれども、それに対して議院内閣制になりますと、議会の多数党が首相を選んでおりますので、執行部と議会との利害が直接に対立するということはなかなかありませんので、そういう意味ではチェック機能は若干弱くなるという、制度上はそういうことがあります。それは国々の伝統というものがさらに影響を与えることはあるということになっております。
このようなやり方でいろいろな国々は、少なくとも無能ではない人を最高裁へ選ぶということが行われますし、それから過度に党派的に選んではならない、あるいは極端に政府寄りの人たちだけを最高裁であるとか、憲法裁判所に選んではならないというエートスが働いているということは言えます。
ただ、各国の制度を眺めてみますと、やはり隔靴掻痒の感は若干ある。それは、制度としてはこのようになっていますよという説明を受けても、実際はどのようにだれが選ばれているのかということの透明性が、どの国でも大なり小なり、不透明であるということはあります。
ただ、その点、不透明という意味合いが2つの意味に分けられると思います。
1つは、そもそもどのようなプロセスで、実際上の人選が行われているのかというプロセス自体が不透明である国というのがあります。その場合には、まさにブラックボックスの中から、最終的に選ばれた人が出てきてしまう。この人、一体、どのようにだれが選んだのだろうかということはよくわからないという国があります。アメリカは、大統領が一人を選ぶということは全くのブラックボックスであったりするわけです。その意味で、手続、プロセス自体、不透明であるという国があります。しかし、少なからぬ国におきましては、具体的人選がだれによって、どのような手続で行われているのかということが、比較的明確になっている国もあります。例えば、ドイツなどは政党間のバランスをとっているとか、それから上院、下院のバランスをとっているとか、そういうことまでは比較的わかっている。ただ、その政党間の非公式の交渉が行われているという中で、実際にその交渉の中でだれが候補にあがって、最終的にだれが出てくるのかという、その決定の内容あるいは手続自体は見えない。そこは非公開であるというのは、ほぼどの国でもそうなっているということになっています。
ですから、人選自体は不透明であるというのは、それに対して批判はそれぞれの国であるのですけれども、手続についてはあらかじめ定めてあって、その手続を踏まなければならないという意味での透明性があるという国というのは少なからずあるということになります。
その点、むしろ例外的に手続自体、公開されてしまうというのが、それはアメリカの上院の承認手続というもの、これは大統領が候補者を選ぶのは先ほど申したとおり全くのブラックボックスだったのですけれども、そこから上院の承認人事になると、これが一気に、すべてが公開されてしまう。そういう極端なシフトが行われているという意味では、アメリカというのはおもしろい国なのですけれども、本当に参考になるのかという点ではいつも考えさせられる国ではあります。
このような選任過程が一般的には密行性はあるけれども、透明性については国によって違うのですが、最近、いろいろ制度の改革などがなされるときに、候補者をどのように絞り込んでいくのかというようなことを考えるということで、委員会制度などをつくるというところはこれも少なからずあります。しかし、候補者を絞り込んでいく、あるいは候補者を評価していくという制度には3種類あります。
1つは、これは大体、下級審の裁判官を選ぶときに使われる委員会などではそうなのですけれども、裁判官になりたいというような人、あるいはキャリア裁判官の下級レベルから上級レベルに昇格させるというようなときには、候補者全員について、勤務評定というか、裁判官としての資質をあらかじめ評価して、「優れている」「まあまあそこそこ大丈夫だ」「だめだ」という3段階くらいに分けて、一応リストを作っていく。その中から、特に優れた人は大体選ばれるだろう。だめだと言われている人でも、いろいろな思惑から選ばれるという可能性もないわけではないのですけれども、そういうリストをあからじめ作っていくという、候補者全員についてのリスト、評価をあらかじめ行っていくという、そういうシステムはあります。
第2は、委員会の方で、任命権者が選ぶべき人はだれかということを、大抵、複数なのですけれども、2人とか3人とか4人とかその程度まで絞り込んで、この人から選んでいくべきだと考えますと、それは能力、資質とか考えて、場合によっては順位もつけて、だから任命権者の方としては、なるべく1位を選ぶべきだけれども、いろいろな政治的思惑から2位、3位の人を選ぶという可能性もある、そういうシステムがあります。
第3は、むしろこれは審査の順番が逆転いたしまして、まず任命権者が指名してしまう。それについて、その人が本当に大丈夫なのかということを別の機関が審査を行う。アメリカの場合はそうなのですけれども、そういう評価のやり方があります。この場合には、個人の評価ということがまさにあからさまになってしまうわけですから、評価される人間にとってはあまりうれしくないというような状況にはなります。
候補者を評価していくシステムとしては3つあるわけですが、ただ、各国の状況を見てみますと、やはり最高裁あるいは憲法裁判所というものに指名される人間、任命される人間というのは、少なくとも無能ではないという人が選ばれる。それから、憲法裁判所とかアメリカ型の最高裁判所というのは、裁判官の人数が少ないということは、年がら年中、裁判官を任命していっているわけではない。だから、ある時点において、選ばれるべき候補者として適格性のある人間というのは一人とは限らないわけですね。ある程度、人間がいる。その中から一人を選ぶというときに、それはこちらの人を選ぶべきではなかったという議論はできるのだけれども、実際、選ばれた人はだめだという議論はなかなかできない。その意味では、意外と実際に最高裁あるいは憲法裁判所に選ばれた人が全くの政治的、党派的配慮から選ばれてしまって、「本当はこの人は入るべきではなかった」とまで言われる例というのは実際それほどないというように考えられます。
雑ぱくな概観ではございましたけれども、以上でございます。
【伊藤座長】ありがとうございました。それでは、今の全体的な説明に引き続いて、浅香さん、勝山さん、毛利さんからそれぞれ担当国についての説明をお願いいたします。
引き続きますが、浅香さん、アメリカ、カナダ、オーストラリアについての説明をいただけますか。
【浅香助教授】私のもう一枚のレジュメがございまして、『最高裁判所裁判官の任命手続−アメリカ、カナダ』ということでございますが、若干、イギリスとオーストラリアにも触れさせていただきます。
イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアというのはいわゆる英米法諸国と言われる国々でありまして、イギリス法の影響をそれぞれ強く受けている法制度を持っている国々であると。こういう国々では、司法裁判所、司法権を担った裁判所というものが単一のシステムを持つ。つまり、それ以外の別個の特別裁判所は絶対に置かないというシステムがあるということになっております。
通常最高裁判所を頂点としたピラミッドを形成しており、しかも通常の最高裁判所というのが先ほども申しましたとおり、裁判官数が比較的少ないという体制になっております。ただ、今あげている4つの国々も一つのシステムというわけにはいかない。とりわけ、司法制度に関しましてはかなり違いがある。一方の極端にあるのがイギリスでありまして、これらの国々は法曹一元の伝統が強い。バリスターと呼ばれる弁護士の中から裁判官が選ばれ、それが裁判官として優秀であれば、さらに上級の裁判官に任命されていくというようなやり方になっている。しかも、その場合に選ばれ方も伝統というものが極めて強い。弁護士制度が強固な伝統を持っているということは不文のルールが極めて強固なわけですね。その伝統を破るということはかなりスキャンダラスな話である。ですから、90年代になりまして、イギリスでは政府が中心になって、司法制度改革を、民事司法をまずやり、そしてこれから刑事司法をやろうとしているのですけれども、それに対しての弁護士界、裁判官も含めての弁護士界なのですけれども、それらからの強力な抵抗がある。それは伝統があるから、伝統を破るということはいかに厳しいということが目の当たりにされているわけですけれども、それはある意味ではいい方向にも働くわけで、イギリスの場合は無能な人間が裁判官に任命され、それが最高裁判所の裁判官に任命されるということは、これはあり得ないとすら考えられるわけです。
それに対しまして反対の極にあるのはアメリカでありまして、アメリカの場合にはむしろ裁判所というものが政治的、社会的影響があるということについて、リアリズム的に反応する、そういう国になっています。ですから、州裁判所の場合には裁判官の選挙制度ということすら行われる。その場合でも、全く法律家としての経験のない人が裁判官になるということはかなり例外なわけですけれども、しかし必ずしも法律家として有能な人が裁判官になるかといえば、そうではない。むしろ、政治的、社会的に裁判官がどういう機能を果たすかということから、選挙制度すらあり得るというのがアメリカであるわけです。
カナダとオーストラリアというのはその両極端の間にあり、オーストラリアは比較的イギリスに近い型、カナダは比較的アメリカに近いというスペクトラムにあると考えます。ただ、憲法の問題に関しましては、イギリスは成文憲法を持っていないということでありまして、違憲立法審査制の問題はないということがあります。ですから、イギリスについては本日の報告ではこれくらいにさせていただきまして、あとはアメリカ、カナダ、オーストラリアについて報告させていただきます。
アメリカの場合には、連邦の最高裁判所というものがありまして、ここには1名の首席裁判官と8名の陪席裁判官がおります。これらはすべて大統領の指名、そして上院の助言と同意、これは実際、承認人事なわけですけれども、それによって任命されることになっております。
最高裁の裁判官に限らず、連邦の裁判官すべてなのですけれども、これは終身任期制、文字どおりの終身でありまして、本人が辞めたいと言うか、あるいは死ぬまで勤めることができる、そういう制度になっております。一応、弾劾裁判で有罪となりますと、解職されますけれども、最高裁の裁判官についてはまだ200年の歴史上、例はないということです。現在、この国の裁判官のうち、2名が女性です。
大統領はAttorney Generalと言われる法務総裁など、側近に補佐されて人選を行いますが、いろいろな要素を考慮することになっています。大統領自身の司法哲学に近い人を選ぶということは、それ自体問題はない。共和党の大統領ですと共和党に近い司法哲学を持った人が選ばれ、民主党の大統領ですと民主党の考え方に近い司法哲学を持った人が選ばれるということは、これはむしろ通例でありまして、ただし、法律家としての適格性のない人を指名するとなると大騒ぎになる。あるいはあまりにも極端にイデオロギーの強い人を指名すると、それが大騒ぎになるということは、ここ20年ほどの間に2件ございました。
アメリカの場合、それでも無能な法律家が選ばれるということはまずないわけです。ただ、法律家といいましても、アメリカの場合はいろいろな法律家がいる。法廷に出るというのが法律家の主たる任務ではなくて、特に連邦最高裁に選ばれるような人たちは何らかの形で政府あるいは議会の法務に関係する仕事をしていたという人が選ばれる傾向が強いということはあります。
それから、アメリカの法律家の場合は、職を数年ごとに転々とするというのが通例、むしろエリートであればあるほど、そういうことになるのですが、ただ最近選ばれている最高裁の裁判官は、9人のうち7名までが直前まで連邦の控訴裁判所の裁判官であると。ただ、これはそれまで、例えば大学教授をやっていた、あるいは司法省の高級公務員をやっていた、高級幹部をやっていたというような人が、いわばワンクッションとしてそこへ配置されるという傾向がある。その反面、連邦あるいは州の事実審の裁判官の経験者というのがあまりいないという傾向にあります。
アメリカの場合には大統領がそういう形で指名するのですが、一体、それがだれが指名に関与して、どのような形で選ばれるのか。最終的に大統領が本人と面接して、最終決定を行うということはわかっているのですけれども、それ以外に、だれが紹介して、候補者がそこに来るのかということについては全くのブラックボックスである。ところが、その後、大統領の指名後の手続が全くの公開になる。それが上院の承認人事ということで、公聴会が開かれ、指名された本人がそこへ呼び出されて、いろいろなかなり厳しい質問を受けるということが行われる。それから、ほかのさまざまな利害関係者、プレッシャーグループ、圧力団体などもそこに呼ばれて意見を表明するということが行われる。それがテレビのニュースでも紹介されたりするというようなことで、公開性、透明性がそこで出てくるということになっています。
この承認人事において特に重要とされるのが、これはアメリカ法律家協会(ABA:American Bar Association )というところが評価を行うというシステムでありまして、このABAにおきましてはイデオロギーは考慮しないのだけれども、あくまでも裁判官としての候補者の資質、能力であり、性格。例えば、法廷で裁判官席に立っているときに、弁護士を怒鳴りつけるとか、そういうようなことがないとか、そういう意味での能力を評価する。先ほど申し上げましたとおりの「十分能力がある」「能力がある」「能力がない」という3段階評価なわけですけれども、これまで大統領が選んだ人の中で、能力がない、不適格であるという評価をABAがしたことはないわけです。ですから、いろいろ論争を選ぶような人、イデオロギー的過ぎるというような人であっても、大統領はそこまでひどい人は選んでいないと。ひどい人を選んでいるとすれば、かなりきわどい、能力がないに近い人を選んでいるということは例がなかったわけではないのですが、全くだめだと言われるような人までは選ばれていないと言えるようなことになっています。
以上がアメリカの連邦最高裁の制度ですけれども、アメリカの制度を見る場合に州裁判所も若干注意が必要です。それは、日本の国民審査制度というのがアメリカの州、ミズーリ州の制度を模範にしたと言われているからです。アメリカでは、現在、州の裁判所については、21の州で「メリット・プラン」と呼ばれているものが使われています。これはどういうものかというと、裁判官指名委員会、これは通常は弁護士代表、市民代表、それから裁判官の代表というもので構成されるのですが、ここで候補者リストをつくりまして、その中から知事が裁判官を任命するという制度であると。最初は短期の任命にかかるわけですけれども、その後、州民が信任投票を行う。その信任投票で過半数の得票がなければ解職され、過半数の票が与えられれば、比較的長期の、大体6、7年から10年くらいの任期なわけですけれども、再任される。その後、また再び信任投票にかかって、それでまた再任されるということを繰り返していく。そういう制度をアメリカの州では採っているところがあるということになっています。
これに対してカナダですが、カナダの制度は首席裁判官1名、それから8名の陪席裁判官ということになっております。
一応、名目上の任命権者は総督なんですけれども、実質的には首相が指名しているということになっています。これは全くの首相の専権事項とされておりまして、その中でどのような形で人が選ばれているのか。恐らく司法大臣が補佐しているのだろうというところまではわかっているのですが、だれが選ばれているのかということは全くのこれはブラックボックスになっています。
下級裁判所の裁判官については、裁判官候補者評価委員会というものがつくられているのですけれども、そのようなことは最高裁についてはないということになっております。そのようなものですから、特にここ2回ほど、裁判官を選んだときに、メディアが本命だと思っていた人が選ばれないで、メディアが大して取り上げていなかった人が最終的に選ばれたということが続いたものですから、メディアはびっくりいたしまして、これは透明性がないのではないかということで、もっと透明性を高めてくれという議論をするのですけれども、実際、政府の方は政治日程にはそれは乗せない。
カナダの場合も二大政党制でありまして、どちらの政権も自分が政権をとっているときはフリーハンドを持ちたいということがあるようで、二大政党、どちらもこういう改革にはあまり乗り気でないというようなことだそうです。
ただし、今、申し上げました最近の2人の裁判官もそうなのですが、実際上、能力については、だれも文句のつけようのない人が選ばれているということはあります。カナダの場合は、比較的、州の最上級裁判所の裁判官から選ばれるということが通例になっておりますので、その点、能力については既に証明されているという人の中から選んでいる。しかも、首相が選ぶ場合にも、あまり党派性というものは露骨には出てきていないというようなことになっております。カナダの場合は、アメリカほどリアリズムに徹底しておりませんで、最高裁がやることは比較的穏健、しかし違憲立法審査制はある程度はきちんと処理しているという、そういう国であります。
カナダについて一つ重要なのは、カナダという国はケベック問題というのがありまして、ケベックの分離・独立問題がありますので、それだけではないのですけれども、州のバランスということについては非常に敏感であるということがあります。カナダで一番大きい州はオンタリオ州で、その次がケベック州なわけですが、9人の裁判官のうち、3人は必ずオンタリオ州、3人は必ずケベック州出身者でなければならない。残りの3人は西部とか東部で分配するわけですけれども、そのように厳格な人数枠というものが州で分配されているというのがカナダの特徴です。そこはカナダの国の事情というものが明らかにあるわけです。
最後に、手短にオーストラリアについて申しますと、オーストラリアの場合には1人の首席裁判官と6名の陪席裁判官についてやはり首相が実質的に指名を行っていくということになっております。オーストラリアも連邦制を採っているのですけれども、実際にはしかし6人のうち、ニューサウスウェールズ州という、シドニーのある州なのですが、ここの出身者がほとんどであるということで、政治的には州の間のライバル関係というものがないわけではないのですけれども、実際上、シドニーという大都市を抱えているニューサウスウェールズ州出身の法律家が選ばれるということがあります。以上、長くなりました。
【伊藤座長】どうもありがとうございました。次は、勝山さん、フランスについて説明をお願いいたします。
【勝山助教授】勝山でございます。よろしくお願いします。
お手元に「フランス破毀院裁判官の任命手続」というレジュメをお配りいたしました。まず、フランスの司法制度の大きな概観を御説明いたしますと、フランスには司法裁判所系統と別個に行政裁判所系統が置かれています。この司法裁判所系統の最上級の裁判所に今日お配りしていますフランスの破毀院というところがあります。日本の最高裁と全く同じではないのですが、司法裁判所系統の最高裁だということです。
それと、行政裁判所の方には、やはり最上級裁判所にコンセイユ・デタという機関が置かれています。こちらの行政裁判所系統の裁判官のキャリアステップというのはほとんど公務員とほぼ同じ形で、年功序列型にキャリアステップをしていくという形になっています。
この2つの司法裁判所系統と行政裁判所系統のほかに違憲立法審査権を与えられている機関が憲法院という名称ですが、それがまた別個に設置されています。先ほども御説明がありましたように、フランスの場合には英米系の違憲審査制度とは違いまして、具体的事件の中で憲法判断をするのではなくて、抽象的に、ある法律が事件とはかかわりなく、これが憲法に反しているか否かという形で審査を行います。フランスの場合には、法律が議会で可決されて、大統領が親署して、ようやく法律として施行される直前の状況になるのですが、議会が可決してから大統領が親署するその期間に、したがって法律が施行される前に違憲立法審査を行うという形になっています。
今日お配りしていますレジュメには書いておかなかったのですけれども、憲法院の裁判官といいますか、委員の任命過程を若干先に簡単に御説明しておきます。
憲法院は、ここでは裁判官と言わせてもらいますが、裁判官は全員で9名です。この9名は大統領がそのうち3名、上院議長が3名、下院議長が3名を任命することになっています。したがって、三権の中の他の機関の代表者が同じ数ずつ任命するという形で、そこで権力の分立を図っているという形です。
この9名の裁判官なのですが、任期が9年で再任は禁止されています。実際、この大統領、上院議長、それから下院議長が3名の憲法院の委員をどう選ぶかについては全く公開されていません。人選のプロセスは完全に個人的な選択に委ねられています。
そうなりますと、では憲法判断の方に非常に党派的な色が出てくるのかといいますと、フランスの中ではそれほど党派的な判断にはなっていないだろうという評価がされています。では、どうやって党派色を消すのかというところですが、これはまず憲法院の裁判官が任期が9年と長く、任命を行う者、大統領、上院議長、下院議長よりもまず長い任期でいるということで、自分が裁判官に任命されてすぐに大統領が代わってしまうというようなこともあり得ますし、そういう点でまず党派色を消す。それともう一つ、一番大きいのは再任が禁止されているということですので、いったん憲法院の裁判官に任命されてしまいますと、あとはその次もう一回裁判官に任命してもらおうということはできませんから、期待がないということで、まず個人的な中立・公正な立場で判断するというように言われています。
実際に任命されたこれまで歴代の憲法院の裁判官の経歴を見てみますと、大抵の人が弁護士であるとか、裁判官であるとか、大学教授でも法学関係の大学教授であるとかいう形、それと高級官僚で法務に携わっていたというような人で、法律専門家が約8割、これまで歴代の憲法院の裁判官を占めています。
憲法院の裁判官の任命過程について簡単にお話しさせてもらったのですが、それと別に、今日お配りしましたそこのレジュメにありますのが、司法裁判所系統の上級裁判所である、最高裁であると言ってもいいかもしれませんが、破毀院の任命過程についてです。フランスの破毀院の裁判官の任命におきましては、名目としては大統領が任命するということで、任命権者は大統領なのですが、その任命の過程におきまして、候補者の提案を行う機関というのが設置されています。したがって、諮問機関と言い換えてもいいかもしれませんが、そういう機関があるということで、少し参考になるかと思われますので、破毀院の裁判官の任命手続について少し詳しく説明させてもらおうと思います。
まず、第1の「任命手続」と書いたところなのですが、破毀院の裁判官は112名、我が国の最高裁と比べると比較にならないほど多くいます。フランスの裁判官制というのは、御存じのように、我が国と同じようにキャリアステップの職業裁判官制度をとっていまして、大体が大学を終えてから国立司法官学校というところに行きまして、そこで31カ月の研修を受けた後に、成績に応じて自分の行きたい地方裁判所のどこどことか、家庭裁判所のどこどこというような、日本で考えたらそういうイメージを持っていただければいいのですが、そういう裁判官職につきまして、それから徐々に、かなり年功序列的に上にあがっていく制度をとっています。
破毀院の司法裁判所の最高裁と位置づけられる破毀院の裁判官のほとんどがこのキャリアステップで下から上がっていく、生え抜き型の裁判官になっています。
「手続の流れ」ですけれども、破毀院の任命手続の流れなのですが、フランスでは司法系統の裁判官は4つのグレードに昇級グレードが分かれています。破毀院の裁判官は一番上の特級と呼ばれるところのグレードに位置づけられています。同じところに位置づけられているのが、日本でいいますと高等裁判所の長というあたりと同じレベルにあります。
この一番特級のレベル、特級のグレードに昇進できるという一定の要件が揃いますと、昇進リストと呼ばれる、特級のグレートの中に昇進することができるという人たちの名前が公開されます。そのリストに載った人たちの中から、例えば自分はそれでは控訴院の院長ではなく、破毀院の裁判官に次にポストが空いたらその職につきたいという人は、これを自ら司法省と司法官職高等評議会と呼ばれるところ、この2カ所に通知を行います。
実際に破毀院の裁判官の欠員が生じますと、司法監督高等評議会が候補者のリストを作成します。実際に希望通知を送ってきた者の中から、またそこで人選を行うということです。
その後、一定の数に絞った後に、今度は司法官職高等評議会という機関が全員でその対象者を個々に面接をしていくという過程を取ります。その後に、面接の結果を受けながら、任命提案の対象者を具体的に検討していくという過程を取ります。そして、任命提案の対象者が決定された後に、実際の任命権者である大統領府の技術顧問と司法大臣代理の2機関と準備会議をしまして、そこで意見のすり合わせというのを行います。その後、実際に提案決定がなされ、それが大統領に通知されるということになっています。
次に、任命提案対象者の決定の基準についてなのですが、フランスでは近年、非常に裁判官の任命過程の透明化・公正化というのに力を入れていまして、司法官職高等評議会でも随分個々の裁判官に自分が次どのような昇進ができるかというような基準をできるだけ公開して明らかにしていこうという努力をしています。
それぞれの昇給グレードに、次、ステップアップするには、例えばどの規模の裁判所において、所長のポストを何年以上務めたものであるとか、そういう形で具体的に基準を設けています。
破毀院裁判官の場合には、大体、年齢が52歳から61歳までという要件を設けています。破毀院裁判官の退官年齢は65歳ですので、63歳、64歳という年齢になってからの人はまず採用しないということと、それからあまり若いということになりますと、やはり裁判技術がまだ未熟だということで、大体、52歳から61歳という要件をつけているそうです。
それから、職歴要件はそこに書いておきましたが、パリの控訴院、日本でいったら高等裁判所と同等のものと考えていただければいいのですが、又はベルサイユ控訴院の部長裁判官もしくはその検察官を云々という形で、具体的にこういう基準を設けまして、これを個々の裁判官にも公開しています。
司法官職高等評議会が候補者リストをつくり、そして大統領に破毀院の裁判官の任命提案をするとお話ししましたが、この任命提案が大統領によって拒否されたということは今まで一度もありません。したがって、破毀院の裁判官の任命手続において、この司法官職高等評議会という機関の果たす役割は非常に大きいわけです。
そこで、最後になりますけれども、この司法官職高等評議会というのは一体どのような人によって構成されているのかということを御説明申し上げます。
構成をお話しする前に、まず権限ですが、司法官職高等評議会というのは、司法権の独立を保障しようというために創設されて、こういう機関を作らなければならないと憲法上規定されている機関です。
破毀院の裁判官の任命提案を行いますのは、この評議会のうち、裁判官部会というところです。評議会は裁判官部会と検察官部会の2つによってなされていますが、破毀院裁判官の場合は、当然、裁判官部会の方の管轄ということになります。
この裁判官部会ですが、今お話ししています破毀院の裁判官の任命提案を行うということ、それと控訴院長、大審裁判所長についても任命提案を行います。その下の下位にいる裁判官につきましては、大統領が最終的に任命するのですが、司法省の案に対して同意を与えるということまでの権限を持っています。提案ではなくて、司法官職高等評議会裁判官部会が同意しなければ、その下の裁判官を任命ができないということになります。それと、もう一つが裁判官の懲戒を裁定するというこの3つの権限を持っています。
どうやってこの裁判部会が構成されているかということですけれども、まずは大統領が構成員になります。それと司法大臣、それから裁判官5名、検察官1名、そしてコンセイユ・デタ、これは一番初めにお話ししました行政裁判所系統の一番上の上級裁判所ですが、このコンセイユ・デタが指名するコンセイユ・デタの評定官が1名、それからそのほかに大統領、下院議長、上院議長、これが各1名ずつ指名する有識者ということで、合計12名によって構成されています。
そもそもフランスは現在第5共和制なんですけれども、1958年に第5共和制が発足した当時は、この裁判官部会の構成員全員、大統領によって任命されるという形になっておりました。ただ、やはり大統領のみによって全員が任命されるということになりますと、司法権の独立というものが図れないということで、現在では大統領任命だけではなくて、上院議長、下院議長の任命権限も入れたり、また司法官の代表が構成員の半分になるような形での法改正がなされています。
それともう一点指摘させていただけると思いますのは、構成員の中で半分が裁判官又は検察官ということで司法官ですけれども、司法官の選任の民主化も近年図られてきまして、例えば破毀院の委員長のみが信任するとかいう形ではなく、裁判官からの互選という形で民主化を図ってきているというような形になっています。
最後になりますけれども、破毀院の裁判官の任命過程、ここまでできるだけ透明性・公平性というのを図ろうとしているフランスですが、まだ今後透明化を図っていこうという案があるということですので聞いてきたのですが、その一案として今考えているのは、破毀院の裁判官が任命される、その提案がなされた後に、現在は自分で通知を出してその後はだれが指名されるかというのは本人にはわからないわけですが、そうではなくて、実際に大統領に対して提案がなされ、大統領が最終的に任命をするその期間に、候補者のリストを対象者に公開して、一定期間、対象者が異議を申し立てることができるというようなシステムを今後導入していこうというような考えがあるということです。長くなりましたけれども、これで終わらせていただきます。
【伊藤座長】どうもありがとうございました。では、最後になりましたが、毛利さん、ドイツについてお話しください。
【毛利助教授】ドイツの最高裁判所裁判官の任命ですが、最初に裁判所の構成について申し上げておきますと、まず憲法裁判所が別にあるというのは既に浅香先生からおっしゃっていただいたとおりですけれども、それ以外の裁判所もフランス的にといいますか、行政裁判所は別にありまして、ドイツの場合、行政裁判所だけではなくて、さらに財政とか、社会裁判所いろいろあるわけですけれども、そうではない一般の民事刑事の事件の最高裁判所としてこの通常裁判所が設置されているということになります。これが非常に大きいということも先ほど既におっしゃっていただいたので、3番目の選出機関の説明に移ります。
通常裁判所の裁判官は連邦の法務大臣と裁判官選出委員会が共同で選出すると憲法上は定められています。ただし、憲法上2つ別の法務大臣と裁判官選出委員会という合議体との両者の意思が一致することが必要だという定め方なわけですが、法律で裁判官選出委員会の議長を連邦法務大臣が定めるということになっています。
その議長としては、法務大臣が投票権のない議長として裁判官選出委員会を開くということになっておりますので、事実上はその場で決まる、つまり裁判官選出委員会の過半数プラス議長である法務大臣がそれに同意すれば決まるということで、事実上は裁判官選出委員会の場で決まるということになっているようです。
その裁判官選出委員会といいますのは、ドイツは連邦制ですので、東西統一後は16州ありまして、16州の法務大臣と同数の連邦議会が選任した委員ということになります。この連邦議会による選任委員というのは、その連邦議会の各政党の会派の勢力分布に比例して分配されまして、その委員自体は議員である必要は法律上ないのですが、実際には、ほぼ全員連邦議会の、とりわけ弁護士の資格を持った、法曹資格を持った議員が各政党の比例配分で選ばれるということになります。
したがいまして、ここの裁判官選出委員会の法務大臣と議員ですから、大体、当然、党派的なわけですけれども、しかしながらどの党が多数をとるかというのは流動的でして、つまり各州の選挙というのは非常にランダムに行われますので、16州の政党関係というのはよく変わりますし、そういうこともありまして、裁判官選出委員会の中の政党レベルでの多数・少数関係は流動的だということがあります。
選出過程で、候補者について連邦通常裁判所は意見を述べるという制度になっております。通常裁判所は、これは私がインタビューに行ってきたのですけれども、通常裁判所としてはこの裁判官各候補者の適性についての意見を述べるのは非常に重視していて、各候補者の選任等、順序が逆になって申しわけありませんが、後で4のところで述べますけれども、各候補者について面接を行って、それでランクづけをしているのだということを非常に力説しておられました。しかしながら、この意見については拘束力はないわけで、現実にも、「不適格」と通常裁判所が言った候補者が裁判官に任命されて、通常裁判所にやってくるということはときどき起こっているようです。
その裁判官ですが、法的な条件としては法曹資格を持っていることと35歳以上であるということです。ただし、これは35歳以上だといって、本当に35歳で選ばれることがあるかというと、さすがにそういうことはないようで、それでも比較的若めですけれども、45歳から55歳程度になった裁判官が下級裁判所の裁判官から選ばれるということが大多数だと言われています。
つまり、大体、そのキャリア裁判官が大多数ということですが、連邦とか州の法務省で働いている人にも法曹資格の保持者、ドイツはかなり法曹資格を保持している人間が多いですから、裁判所ではなくて法務省で働いている人もいるわけで、そういう人から選ばれるという場合もあるということです。
もちろん、調査官、日本的になるかもしれないですけれども、若手のときに通常裁判所に調査官として勤務していたという人が、その後、また他の下級裁判所で裁判官として勤務した後に通常裁判所に戻ってくるということもあるようで、これは一つのキャリアの形成の仕方として割と確立したものであるようです。
実際の選考のあり方ですけれども、裁判官選出委員会で候補者を選んで、しかし裁判官選出委員会の議事自体は非公開ですので、どのように実際に選ばれているかわからないですけれども、実際には与党、野党のいわば実力者の話し合いでかなり決まってきているのだという話でした。
しかし、その際には、各州の連邦制ということもありまして、先ほどもカナダでのところで浅香先生が触れられたのと似たような事情でして、各州の均衡ということには配慮すると。あるいは女性の割合も、現状で約7分の1が女性ということですけれども、それは少なくとも維持するように考えられる。あと、各政党が候補者を出してくるときには、支持政党も影響すると言われています。ただし、下級裁判所の裁判官で、やはりそれなりの能力を持った人間というのが選出母体として意識されますので、あまり党派色が強いというわけではないようです。これは憲法判断の権限がなくて、通常の民事刑事の権限だけだというところももちろん影響しているわけですけれども、そういう意味であまり党派性が露骨に出ているというような評価はないようです。
次に、連邦憲法裁判所の方ですけれども、憲法裁判所は違憲審査権を集中して行使するわけですが、ただし抽象的違憲審査制の憲法の機関だというのが設立当初の趣旨だったわけですけれども、実際に継続する事件の数では、個人が提起できる、つまり個人の基本的人権、基本権侵害に対して、他の裁判過程、まさに通常裁判所までということに一般にはなりますけれども、それでも負けてしまったという場合に、それによって基本権侵害が救済してもらえなかったという場合には、他の一般の救済の手段を尽くしたということを前提にして、個人が連邦憲法裁判所に最終的な救済を求めるということで提訴できる、これを憲法異議と呼んでおりますけれども、そういう手続が設けられています。実際には、こちらが圧倒的多数を占めておりまして、いわば設立当初の趣旨であった抽象的な審査よりも、まさに個別の審査、個別の事件の審査を現在ではほとんど行うというのが実際の職務の在り方となっているわけで、その意味で裁判所としての性格が変わってきているとも言われております。
構成は憲法判断を行うということで、各8人からなる2つの法廷で、計16人しか裁判官はおりません。12年の任期で、再任は不可。ここに書いておきませんでしたけれども、定年が68歳と通常裁判所よりも3歳上の定年が設定されておりまして、12年の任期ですが68歳になれば退任するということになっております。
選出機関は、連邦議会と連邦参議院が半数ずつ選出することになります。連邦参議院はいわば一般の議会の二院ですけれども、連邦参議院の性格は微妙なところがありまして、連邦参議院はいわば議会といっても、各州の政府の代表の集まりという性格がありまして、国民が選んだ議会というイメージとはほど遠くて、各州の行政府のトップが集まってきているというようなところなわけですけれども、一応、それが日本語では連邦参議院と訳するのが定訳になっておりまして、それと連邦議会の2つが半数ずつ選出するということになっています。
しかしながら、連邦議会は自分で決めるのではなくて、委員会に委ねる。つまり、委員会での決定が連邦議会の決定となるということにしています。その委員会は秘密で会議をしますので、やはりここでも選出は秘密だということになります。連邦参議院については規定はないのですけれども、恐らく実際にやるときには秘密会でやるのが慣行となっているのだと思います。
特徴としましては、連邦議会、連邦参議院とも3分の2の多数が必要であるというのがミソのところでして、つまり3分の2の多数が必要ということになりますと、そのときの与党が自分の意思を押し通すということができないわけで、実際にはこの二大政党、ドイツは小さい政党もほかにありますけれども、いわゆる二大政党とされる政党が半分ずつを持株のようにして持っておりまして、自分の推薦した裁判官が引退した後の穴埋めは、引退した裁判官を推薦した政党がまた推薦するという形で持株制みたいなことで行われております。このこと自体にはちょっと批判もあるところですけれども、3分の2の多数が必要だという法律上の規定から、そうせざるを得ないということで慣行化しています。したがって、大体それは受け入れるということですが、あまりに党派的であるというような場合には受け入れを拒否するということがあって、人事がちょっと難航する場合もあります。
連邦憲法裁判所の場合には、通常裁判所のときのような裁判所自体が意見を述べるというような機会は公式には設けられておりませんで、その点で憲法判断ということからも、政治機関が選ぶという色彩は強くなっています。
選出される裁判官の法的条件は同様なのですが、35歳ではなくて40歳と5歳上がっている。もう一つ、各法廷の3人以上が最高裁判所、つまり通常裁判所とか行政裁判所の裁判官を3年以上務めた者である必要がある。その最高裁判所、通常裁判所等がいわばほぼキャリアシステムで上がってきた裁判官ですから、各法廷8人のうち3人ないし4人はそういうキャリア裁判官から選ばれる。その他の裁判官の特徴が大学教授からの選任が多いということでして、大体、現在では8人のうち4人が裁判官出身、4人が教授出身というような割合がほぼ維持されています。したがって、もし教授がやめたときには、あとはやはり大学教授の中から選ぶという慣行になっています。
これは憲法判断ということで、ドイツでも大学教授は法曹資格は持っていますけれども、あまり実務をやるということはない。アメリカほど実務と学会と交流があるわけではないので、大学教授を十何年あるいは何十年もやっているということだと、あまりすぐに裁判実務をやる能力があるとは思えないわけですけれども、やはり憲法判断のみを行うということからその方がいい、あるいは連邦憲法裁判所が戦後できた新しい裁判所だということもあって、当初から大学教授を入れて権威づけするということで図られた名残が現在でも続いているという、そのようなことがあるのでしょうけれども、そういうことでほぼ半数が大学教授から選任されているということになります。
大学教授は、しかながら裁判をやってきたわけではなくて論文を書いてきたということで、そうなると非常に党派性というのも、特にドイツの場合は明白でして、大学教授でも保守党の方に近いあるいは社会民主党の方に近いというのは明らかなわけで、政党が大学教授を推薦する際には、当然、そのことが考慮されるということであります。ただし、この場合でも先ほど言いましたけれども、あまり露骨に党派的で右過ぎあるいは左過ぎるという場合には,そもそも推薦いたしませんし、もし仮に推薦したとしても相手から難色を示されるということはあります。
また、地域バランスとか、女性の割合といったことも通常裁判所の場合と同じように考慮されているわけで、このようなことから一般に憲法裁判所の場合は特に政治機関がいわば自主的に裁判官を選んでいるので、党派性が出てくるのではないかと言われるわけですが、やはりドイツでも実際には裁判を行うときに党派性が明確に見えるということはないと言われているのが一般的な評価でして、これはフランスのときと同様、職権が独立して、しかも再任は不可ですから、指名してもらった人に気遣いする必要はないし、自分の考えを押し通せるということ。また少数意見を書けるわけですけれども、合議で一致した結論を出そうという方針は非常に強くて、アメリカなどですと少数意見という形で個別の意見がたくさん出るわけですが、ドイツの場合には憲法裁判所でも、制度はあるのですけれどもあまり出ないので、いわば8人が合議して、できるだけ一致点を見出そうという努力をすることで、そういう慣行になっているようです。したがって、出てくる結論はまあまあバランスのとれた結論になっているというのが一般的な評価のようです。
あと、改革の方針についてですけれども、現在、憲法裁判所の方は先ほど言いましたように、そもそも持株制みたいなものでいいのかというようなことが議論になっていますが、これも3分の2という規定から仕方がないというので、恐らくあまり変わらないだろう。通常裁判所の方は、裁判官選出委員会、こちらもやはり非公開なわけですけれども、これについて公開性を高めるべきではないかという意見はありまして、まさに現在、候補者にあがったけれども、落とされた、選ばれなかった、という下級裁判所の裁判官が「そういう選任は政治的で不当だ」という訴訟を起こしておりまして、一応、現在のところは連邦側が勝っている、つまり違法な選出ではないということになっているわけですが、しかしながら、その過程で任命過程が不透明だということがかなり言われまして、改正すべきかどうかというのは議論になるところです。
ただし、ドイツでも、人事とりわけこういう裁判官の選任をおおっぴらに公開でやるというのには非常に抵抗があるということ、これは通常裁判所のインタビューに行った裁判官自身がおっしゃっておられましたけれども、「アメリカみたいにおおっぴらにやるというのは非常に抵抗があるので、やはり公開の度合いを高めるのは難しいのではないか」ということもおっしゃっておられました。以上です。
【伊藤座長】どうもありがとうございました。
それでは少し時間が長くなりましたけれども、ただいま皆さんから説明していただいた点、全体につきまして、どうぞ御質問等お願いいたします。どうぞ、木村委員。
【木村委員】浅香先生をはじめ大変に詳しい御説明がありましてどうもありがとうございました。お三人の先生に一つずつお伺いしたいのは、浅香先生は最初に抽象的な審査と付随的な審査、それでアメリカが付随的な審査ということでしたが、リーディングケースについておうかがいしたいのです。例えば、付随的な審査で非常に画期的な具体的な事件としてどういう事件が最高裁であったのかというようなことです。例えば、フランスの場合には、勝山先生が、先ほどおっしゃいましたことに関連しますが、法律ができて、そしてそれがペンディングになっている間に、実際にvetoが成立して行われなくなったというような法律が実際にあるのかどうか。毛利先生にお伺いしたいのは、ドイツの場合、今変化が起きていて、個人の提起できる憲法異議ということで、先ほどの御説明では人権の問題とか人間の尊厳の問題、ドイツ憲法にそれが規定してあると思うのですけれども、そういうことをめぐる審査が圧倒的に多数になってきたというのですが、最近の具体的な事例としてどういうケースがあるのか、その3点につきまして、それぞれの先生に御説明いただければと思います。社会的にまた法的に裁判官の任命とも絡み合ってくる大きな問題だと思いますのでお伺いできればと思います。
【浅香助教授】アメリカの場合、付随的審査といいましても、原告の訴えの利益ということを非常に緩く認めるという傾向がありますので、実際、かなり抽象的審査に近いようなこともできると。だから、テストケースと言われるのですけれども、リーディングケースをつくるために、例えば既存の人権団体が原告を一人見つけてきて、付随的審査で具体的事件をつくり上げるということは、これは比較的あります。典型的なのが1950年代に遡りますけれども、当時、南部の諸州では、黒人の学校と白人の学校を分けていたと。それが人種差別に当たる、平等に反するということで、人権団体が訴え出まして、判決が出まして、それが違憲であると。私立学校は自由だけれども、黒人も白人も公立学校である限り、行きたい学校へ行けなければいけないんだというところまでは出たというのがあります。
また、刑事事件などで、例えばこれは70年代になりますけれども、リーディングケースとしましては女性の妊娠中絶の権利を認めたという、これは現在でも政治的に大きな争点になってしまったのですけれども、刑事事件で州によっては妊娠中絶をすることは医者に対して刑事罰を与えるという州もあったわけですね。それに対して、自分は妊娠中絶をすることは憲法上認められると思っているけれども、しかしこれをやると自分は罪に落とされるかもしれないという医者が形式上原告となって訴え出るという、そういう訴訟があって、結果的にその女性は基本的には憲法上妊娠中絶をする権利があるという判決は出ております。
【木村委員】1973年の米国連邦最高裁判所におけるRoe v. Wadeの判決では、女性のプライバシーの権利ということでしたね。それで結局、付随的審査でも、プライバシーの権利というのは憲法上確立したことになるわけですか。女性にとっては。
【浅香助教授】女性がそういう権利を持つということが言われたのですけれども、どういう権利を持つのかということは、その後のいろいろな付随的な審査ですから、具体的事件によって変わってくると。
例えば、妊娠中絶の手術を申し出て、24時間待たなければいけないという州法があった場合、それが合憲なのか違憲なのかとか。それから未成年の女性が「中絶をしたい」と言ったときに、親の承諾を得なければいけないのか要らないのかというようなことが、すべてその後の事件でまた争わなければいけないということで、ですから、女性の妊娠中絶の権利があるからといってすべて全くの自由だという話にならないのが付随的審査の決めのところでございます。
【伊藤座長】勝山さん、毛利さんも、恐縮ですが、時間の制約がありますので、ごく簡潔で結構ですので。
【勝山助教授】フランスも違憲判断というのを比較的高い確率で出ていると思うのです。2001年の数をとってみますと、16件中7件が違憲判断です。どんな例かといいますと、例えば今回の裁判官に関係するような問題でありますと、ジョスパンはもう破れたのですが、ジョスパンが首相のときに女性の進出を図ろうということで、司法官職評議会も最低4分の1でしたか、そこはちょっと覚えていないのですが、女性の枠を決めようという、それを法律をつくって議会では可決したのですけれども、憲法院の方はそれは男女という問題ではなくて、能力でしなければならないということで逆差別になるということで、それは違憲判断が出たと記憶しております。
【毛利助教授】憲法異議が数的には多いということを申し上げたのですけれども、政府とかあるいは州の政府が抽象的にその法律は違憲であるとして、連邦憲法裁判所に提訴するという、いわゆる抽象的規範統制といわれるものですけれども、それももちろん重要性を持っておりまして、現在だと移民法ですね。シュレーダー政権が移民法を基本的には緩和する形で改正したのですが、その合憲性が保守党が政権をとっている州から訴えられて今かかっておりますし、また政党禁止というドイツ特有ですけれども、闘う民主制で自由で民主的な基本秩序に反する政党は禁止できる、それが裁判所の権限なわけですけれども、その非常に重要な手続が現在極右政党に対してかかっております。かつては共産党とかネオナチの政党が禁止されたということがありますし、あと抽象的なものでは、ドイツでも70年代のブラント政権のときに中絶の合法化をしたのが胎児の人権を侵害するということで違憲だとされたケースなどがあります。
しかし、数的には多い憲法異議の方でも非常に重要な判決はもちろん多くて、圧倒的多数は理由なしで却下されるわけですけれども、ごく一部でも認められれば非常に注目を浴びるということで、最近ですと90年代に非常に注目されたのは、平和主義の活動家が軍の基地というか、軍が何かやっているところの前で、いわば兵士の前で「兵士は殺人者だ」というプラカードを掲げて、兵士を殺人者などということによって侮辱したといって刑罰に問われたので、表現の自由から有罪判決を破棄したというような事例とか、あるいは公立学校の教室に十字架をかかげることがカトリックの強い地域では許されていたわけですけれども、ドイツは政教分離が日本とかアメリカほど、あるいはフランスほど厳格に憲法で定めておりませんので、今まで許されていたわけですけれども、それを「どうしても嫌だ」という人が憲法異議まで訴えて、それは信教の自由を侵害して違憲だという判決が出て、非常に論議を呼んだところでして、両方あります。
長くて申しわけないのですが、先ほど性格の変化ということでは、リンバッハという女性の前憲法裁判所長が「憲法裁判所の本来の役割は憲法異議の方だ」というようなことをおっしゃって、抽象的な審査というのはやりにくいと。裁判所であるからには、具体的な事件があった方がいいということを、これは公的におっしゃっておられまして、これはまさに憲法裁判所のもともとの趣旨は抽象的な審査をするということですから、それからすると裁判所の長官がそういうことを言うというのは非常に注目すべき変化だろうと思います。
【伊藤座長】どうもありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。どうぞ、中川委員。
【中川委員】一つだけお願いします。憲法裁判所を置いている国の通常裁判所といいますか、裁判官の数はかなり多いですね。どの国も。ところが、逆に通常裁判所で憲法判断を行う国の裁判官の数はかなり少ないですね。インドネシアみたいに少し多めのところもありますけれども、このリストを見ますとかなり少ない。なんか逆みたいな感じがするのです。
というのは、一つの裁判所で通常裁判もやらなければならないし、憲法判断もしなければならない。だから、そっちの通常裁判所で全部やる国の方が裁判官の数が多くていいような感じがするのですが、逆になっていますね。それは、多分、要するに通常裁判の数を何かの形で絞っているとか、アメリカみたいにサーシオラーリという形に下ろして、そういうことになっているのかどうという点です。それを一つ教えていただきたいのと、そういう意味では日本は通常裁判所で全部やるわけですから、この裁判官15人という数が他の国に比べると非常に少ないというのか、あるいはこれぐらいでいいというのか。これはどれくらい受件するかという数にもよるでしょうけれども、相対的に見てこの15人という数は妥当なのかどうか、その辺、をちょっとお聞きしたいのですが。
【伊藤座長】我が国の制度の評価については、皆さんも個人的意見はお持ちでしょうが、今回の調査グループの報告という趣旨からは異なりますけれども、例えば浅香さん、アメリカの今おっしゃったポイントについて、どういう形で最上級裁判所に来る事件を制限しているとか、そういうことについてお話しいただけるでしょうか。
【浅香助教授】確かに、今の最高裁判所はすべての事件について裁量上訴制をとっておりますので、重要な事件しか取り扱わないということになっております。ただ、だからといって、憲法事件ばかり取り扱っているわけではなくて、例えば私が特に関心を持っております民事訴訟法についても、ときどき細々とした問題をやりますし、あるいは税法事件なども取り扱ったりということで、通常裁判所としての機能も、いわば車の両輪としてやっているということはあります。
ただ、アメリカの場合、伝統的にアメリカ、カナダ、オーストラリアがそうですけれども、英米法の国々というのはイギリスを模範にしておりまして、イギリスはやはり裁判官が少ないということなのです。そのかわり、パートタイム裁判官とか補助裁判官をいっぱい使うというシステムをとっておりまして、最高裁判所に限らず、裁判官のステータスというのが異様に高い。だからこそ、裁判所というものの権威が高いということがあって、それがまた憲法裁判所とか行政裁判所をつくらないという方にもつながっていくのです。だから、人数が少ないということがむしろステータスを高めるという役割を果たしているということがあると思います。
【伊藤座長】それでは、時間がかなり予定を超しておりますので、もしありましたらもう一方だけ。では、松尾委員、お願いします。
【松尾委員】いろいろ勉強になりました。ありがとうございました。一つだけお聞きしたいと思います。別に、日本の制度の評価をお聞きするわけではありませんけれども、かつて日本も裁判官任命諮問委員会というものがありました。そういう意味で、この透明性という点からいいますと、現行の日本の最高裁裁判官の任命の制度はかなり各国と比べても特徴のある制度と言えるかどうか、その点だけお聞きしたいと思います。
【伊藤座長】松尾委員が特徴のある制度かどうかという点での意見ということでありましたので、評価というよりも、では浅香さん、その点、どういうお考えか教えていただけますか。
【浅香助教授】国民審査制度というのは非常に特徴のある制度でございまして、ある意味では極端まで民主化を突き詰めた制度であります。それから、透明性についても、審査のやり方次第によっては極めて透明性の高い制度であると言えます。ですから、アメリカの制度もそうなのですけれども、任命過程自体が不透明、ブラックボックスであっても、その後で二次的な国民審査制度が副次的に透明性を高めるということであればバランスは取れるのですけれども、それが果たしてうまくいっているかというのは「評価」に当たります。ただ、国民審査制度というもの自体が極めて特徴的過ぎてしまって、諸外国であまりないので、これをどう評価していいのかというのは難しいところでございます。
【伊藤座長】どうもありがとうございました。まだ、いろいろ御質問があるかと思いますが、またそれは私どもで今回の調査や報告を基礎にして、次回以降、必要があれば調べたり、意見を伺ったりするということにさせていただきまして、若干の時間の延長をお認めいただいて、次に事務局から、これまで我が国に存在した制度等についての説明をお願いいたします。
【植村参事官】既に終了予定時刻となっておりますので、簡潔に説明させていただきたいと思っております。
まず事務局資料の11−3と11−4を御覧ください。資料11−3は、実は第36回の司法制度改革審議会におきまして、この問題に関して配布されました審議会事務局作成資料でございます。そして、11−4は、同審議会の議事録からこの11−3の資料についての審議会事務局長の説明部分を抜粋したものでございます。これらの資料につきましては、事前にお配りいたしましたので、目を通していただけたものと思いますが、先ほど来既にお話が出てまいりましたけれども、昭和22年、最高裁判所発足当初の最高裁判所長官の内閣による指名、それから最高裁判事の内閣による任命につきましては、当時の裁判所法の39条4項に定められました裁判官任命諮問委員会に対する諮問、これに対する答申を経て行われたわけでございます。
裁判官任命諮問委員会につきましては、資料11−3の3ページにございますとおり、裁判官任命諮問委員会規程というものが細部を規定しておりました。これは資料を御覧いただきたいと思います。
もう一ページめくっていただきまして、11−3の4ページでございますが、実際に15人の委員の方によりまして、第1回でございますので、15人の裁判官全員を決めるということで、合計139名の候補者があげられまして、うち48名の方は辞退されたようでございます。そして、91名の候補者の中から30名を決定いたしまして答申がなされました。この30名の中から長官のほか14名の最高裁判事が選ばれたということでございます。
しかしながら、この裁判所法制定当初の諮問委員会制度は1年足らずで廃止されております。その間の事情は、資料11−3の5ページ、それから資料11−4の2ページに記載のとおりでございます。
それから、資料11−3の6ページ以降を御覧いただきますと、昭和32年になりまして、第26回国会に提出されました最高裁の機構改革に関連する裁判所法の一部改正案についての記載がございます。この案は6ページにも書いてございますが、昭和20年代半ば、最高裁に未済事件が増加いたしまして、これに関連いたしまして、昭和27〜28年当時、最高裁の機構改革の議論が行われました。そして、法制審議会に対して「裁判所の制度を改善する必要があるか。あるとすれば、その要綱を示されたい」という趣旨の諮問が行われまして、昭和31年5月に答申が出ました。それが6ページの下の方にある「上告制度改正要綱案」というものでございます。これを受けまして、具体的な法案が次の7ページに記載しております「39条第3項の次に次の3項を加える。」という内容の法律案でございました。ただし、この一番最後に書いてありますが、「裁判官任命諮問審議会に関する事項は政令でこれを定める」となっておりまして、細かい点は政令で定めることが予定されていたわけでございますが、この11−3の別紙3、後ほど御覧いただければと思いますが、ここに出てまいりますとおり、国会で質問があったわけですが、政府の方からは「まだこの政令案というものは固まっておりません」という答弁がされております。
結局、この昭和32年の改正案は、資料11−3に出ておりますが、第28回国会まで継続審査されましたが、衆議院の解散によりまして廃案となっているということのようでございます。簡単でございますが、私どもからの説明は以上でございます。
【伊藤座長】ただいまの説明につきまして、何か今の段階で御質問があればいかがでしょうか。
もしよろしければ、事務局の説明に関しましてはまた次回以降、御質問等をお受けする時間があるかと思いますので、そのような扱いにさせていただきたいと思います。
それでは、予定した時間を若干超過いたしましたけれども、本日の議事はこのあたりで終了させていただきたいと存じます。
次回でございますけれども、11月12日、午後1時30分から午後5時まで予定しております。内容につきましては、第10回の検討会に引き続きまして、裁判官の任命手続の見直しについて最高裁の検討状況を御説明していただいて、質疑応答、意見交換をお願いしたいと存じます。それから、それに引き続きまして、本日、調査グループの皆さん、そして事務局から説明のありましたことを材料にいたしまして、最高裁裁判官の選任等の在り方についての議事に進みたい、このように考えております。
なお、本日の検討会の模様につきましては、会議終了後、私から報道関係者の方に対しまして、いわゆる記者レクを行いたいと存じます。長時間ありがとうございました。