ア 日弁連からの説明
日弁連配布資料「弁護士報酬の透明化・合理化に関する規則の整備について(資料)」(案)等に基づき説明がなされた。
イ アの説明に対して、次のような質疑応答・意見交換がなされた。(○:委員、●:事務局、□:日弁連、■:座長、△最高裁。以下、同じ。)
○:日弁連配布資料1「弁護士報酬の透明化・合理化に関する規則の整備について(資料)」(案)3頁の報酬見積書の部分で「弁護士は・・・弁護士報酬見積書を作成して交付に努めるものとすること。」とし義務化していないのはどうしてか。
□:報酬に関する事項が記載される委任契約書の作成を義務化することもあり、限定した範囲で見積書の作成を義務化し、綱紀・懲戒の問題により強制するよりも、一般的に見積書を作成することとして今後見積書の作成が広がりやすいようにすること等を総合的に考え、「努めるものとする」という表現とした。
○:それぞれの弁護士が別々の報酬基準を作るということは、着手金と報酬金を分けずに一括した基準を作ることもあり得るのか。
□:そうすることもあり得る。
○:タイムチャージにするのか成功報酬とするのかなどの報酬の支払い方の選択肢は依頼者が多く持つべきであり、その選択肢については弁護士が説明をきちんとするような指導を行うべきである。
○:資料2のアンケートの結果はクライアントにどのように示すのか。
□:大量の集計結果を分かりやすく示すということで難しい問題であり、誤解・誘導のないように、かつ、広く知らしめるように現在検討中である。
○:弁護士の仕事は額の問題だけではなくサービスの質の問題があり、一概に高いので悪い、安いからよいとういう問題ではないと思う。そこのところをうまく伝える方法を考えた方がよい。アンケート調査結果を出す際にはそもそも報酬とはどのようなものであるのか、依頼人に説明するような文章をきちんと書くべきである。
○:今回のアンケート集計は現在の報酬規定に基づくものであるから、しかるべき時期に再度アンケート集計をする必要がある。
○:弁護士などの職業の場合は、サービスを提供する側と受ける側とで情報が完全ではなく、必要な時間の設定さえも難しいため合理的な価格の設定は困難である。価格設定を自由にして弁護士間の競争により価格が決まってくるようにするのが合理性追求の一つの考え方である。
○:弁護士報酬の目安が分かるようなものを出すことは、利用する市民の立場からすると大事なことである。市民が利用しやすいものとして出すことが大切である。説明義務の手当をきちんとやって欲しい。
○:現在弁護士には競争がないと思うので、今回の調査結果は利用者にとっては大切な機能を発揮するのではないか。
○:委任契約書の作成を義務化する方向性が出たことは評価できることであり、今後も前向きに取り組んでもらいたい。
■:多くの貴重な意見をいただいたが、意見書に例示されている事項についての規則の制定や「目安」の作成を通じての弁護士報酬の透明化・合理化についての基本的な考え方、今後の作業の進め方については、御理解いただいたものと思う。規則や「目安」の具体的内容についてはさまざまな御意見をいただいたので、それを踏まえ、時期を見て日弁連から御報告をお願いするということにしたい。
○:異議なし。
ア 最高裁からの説明
最高裁配布資料「判事補の経験の多様化について」及び「判事補の経験の多様化に関する資料」に基づき説明がなされた。
イ アの説明に対して、次のような質疑応答・意見交換がなされた。
○:よりよい裁判官を求めて最高裁が真摯な取組をしていることには敬意を表するが、審議会意見における他職経験の位置付けは、これまで行われている留学等の派遣制度の延長ではなく、判事のほとんどの給源を占めている判事補が他の法律事務を経験することにあるのではないか。審議会意見の他職経験について総論的な議論をしておく必要がある。
■:最高裁の説明も、審議会意見に従って判事補に裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませること、これを制度的に担保することを出発点としてなされており、むしろ中身を議論しながら、委員の見方として、このような経験・期間では十分に趣旨に応えていない、などの議論をしていただいた方が生産的ではないか。
○:基本的に多様で豊かな知識・経験を備えた広い視野の判事を確保するというシステムを整備していく必要があり、判事補の人材育成はその中の一つである。弁護士任官も別に検討しているのであり、座長の説明のように中身の議論をしながら検討すること自体に違和感はない。
○:実際に企業で判事補を受け入れたことがあるが、実社会で起こっていることと自分が蓄積している法律知識とが結びつくことに喜びを感じ、砂漠の砂が水を吸収するように経験することをどんどん吸収する方、コスト・マインドを実感できたと感想を話す方などもおり、民間企業を含め価値観の違う世界で仕事を経験してもらうことは非常にいいことである。こういう経験は裁判官だけでなく弁護士にも必要であるという思いを持っている。実際に起こっている社会現象、価値観の違い、文化の違いを吸収してもらうことが本来の目的ではないか。
○:価値観・文化の違うところで生活することは大事である。これからは海外経験は法律家の素養として必要であり、海外留学のプログラムは積極的に評価していいと思う。
○:民間企業などの受入先の開拓は大変だと思う。
○:民間企業への派遣は、判事補へのインパクトが大きい。海外留学をした判事補は新たな視点を得て裁判所に還元している。民間企業・海外留学とも最大限に機会を増やしていただきたい。最高裁の説明にあったように、ステップ1、ステップ2という形で若い判事補に新たな専門性や国際性に接する機会を増やすのはいいプランだと思う。
○:若い判事補時代に、大いに法曹三者以外の経験を積んでいただきたい。審議会意見の中で裁かれる者と裁く者という言葉が出てくるが、裁かれる者は弁護士ではなく一般の国民であると思うので、弁護士の経験も大事とは思うが、より幅広いいろいろな経験をしていただきたいと思う。弁護士にも海外での経験などを積んでいただきたい。海外留学については、期間は2年程度と思う。
○:裁判官は、法律知識や法技術的にはプロとの評価は高いが、市民感覚から乖離してしまっているのではないかという問題がある。弁護士経験をすることも大事で大いに経験して欲しいが、民間企業や留学でいろいろな価値観や文化に触れて広い視野をもってもらえる経験を積むことが重要ではないか。
○:判事補時代に、社会を客観化して見る時間を1、2年持つべきと思う。派遣されて疲れ切ってしまうような状況は良くないと思う。
○:法科大学院への教員派遣としての大学の教授・助教授の経験も新たなプログラムの一つとして考えていいと思う。
○:これまでは欧米諸国に留学しているが、今後はアジアの諸国にも対応できるような人も養成していかなければならないと思う。
○:既に他の仕事をしていたような者を積極的に採用するようなことは、判事補時代の経験とのバランスでどう考えているのか。
△:裁判所に入る前に多様な経験をすることは非常にいいことであり、採用の段階でいろいろな経験をした人が来るのは非常にいいことであると考える。
■:どのような経験が「裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験」に当たるのか、及び経験の期間はどの程度が相当かという問題については、方向性としては最高裁の検討内容を了解していただけたと思う。個別的な意見については最高裁はそれを尊重していただきたい。
○:制度的担保ということで、裁判官会議の議決により明確化し、それを通達という形にするとの話があったが、それはどういう効果を持っているのか。
△:制度的担保については、何を担保するかということで、判事補に多様な経験の機会を持たせることを最高裁が責任を持ってやっていくべきであるというところがコアな問題と思う。最高裁判所の裁判官会議で議決をすると、そこから一種の組織としての責任が生ずる。実際上、実施していくためには、担当セクションで計画を立て、派遣の手続をきちんと決める必要があり、それらをルール化する意味で、最高決定機関である裁判官会議の議決を経て、実践的・実務的ないわば実施要領を通達レベルで定めていくということである。
○:制度的担保となると、最高裁規則とする可能性や、法律、すなわち裁判所法42条の改正の可能性もあると思うが、法律改正となると裁判所では行えないため、裁判官会議の議決と新たに設置される下級裁判所裁判官指名諮問委員会における判事指名の検討の上での重要な考慮要素とすることが提案されているのではないかと思う。しかし、指名諮問委員会における重要な考慮要素といっても、例外的に他職の経験をしていないけれども非常に優秀な方がいた場合には、縛りがかけられず、制度的担保にはならないのではないか。最高裁としては最大の努力をしているが、意見書に対応できているかどうか、我々としてはこの制度的担保についてもう少し議論が必要ではないかと思う。
○:判事補を外部に派遣するという問題は、判事の人材育成の問題であり、最高裁には、第一次的に検討し、自律的に施策を推進してもらう責務があると考える。法律を改正して個々の判事補がその義務を負うような仕組みとして考えるのではなく、あくまで国家の責務として最高裁に主体となってもらわなければならない。また、判事補にも裁判官として10年間の任期保障があり、判事補の経験だけでは判事にはなれないというような法改正をするような議論となると、間接的に任期途中で退官せざるを得ないこととなり憲法上の身分保障にも疑義が生じることになる。判事補の希望も弁護士を経験したい者、留学したい者など様々であり、最高裁として、判事補の自発的な意思を尊重するシステムを構築する義務があると考える。そのためにも最高裁の最高決定機関である裁判官会議で議論の上、方針を明確にして議決し、その責務は自ら負ってもらうことが大事であると思う。多様な経験と言いながら身分を持ったまま行く企業や留学の経験はだめというようなことにならないように、自発的な判事補の自己研さんシステムを促進する責務を最高裁として宣明してもらいたい。また、実施要領等として通達でまとめた上で、下級裁判所裁判官指名諮問委員会の11名の委員に施策が守られていることを見てもらうとよいと思う。
○:今の話に大筋は賛成である。最高裁が主体ということであるが、弁護士の職務経験を積む制度については日弁連との提携・協力が必要不可欠であるが、この点は協議中か。
●:これは最高裁と日弁連が協力して作る制度であり、制度設計ができた後に御報告いただければと考えている。ところで、意見書でも「原則としてすべての判事補に」とあるが、それはどの程度のことを考えているのか。
△:委員の発言にもあったが、幅広い判事を育成するためにもできる限り多くの判事補に経験させたいと思うが、実際上の問題として、たまたま仕事の関係で(担当を離れることができず)外部派遣の機会を失するような場合も想定して、「原則としてすべての判事補」にこのような機会を与えるということを考えている。
○:法律に制度的担保を設け間接的にでも判事補(に退官)を強制することは、裁判官の身分保障を定めた憲法に抵触する問題が起こると思う。また、裁判所法42条では、検察官、弁護士、大学の先生なども規定されており、それとのバランスが大事であり、判事補だけを採り上げるのはいかがなものかと思う。さらに、この制度を実効的なものにするためには環境整備や条件整備が大事であり、今の段階で法律制度にしてしまって本当に働くシステムになるのかという危惧もあるので、裁判官会議の議決や下級裁判所裁判官指名諮問委員会を軸にした仕組みが一番現実的であるとの意見を持っている。
○:裁判所法42条の改正は裁判官の身分保障との関係で問題が残り、難しいと思う。裁判官会議の議決の重みを考えると最高裁の説明は妥当ではないかと思う。この問題は、基本的に最高裁に責務を負わせた上で、判事補が強制的に他職経験をさせられるのではなく、判事補がよりよい裁判官になるために自ら積極的に進んでやるというように意識を改革するような形に持っていくべきである。
○:押しつけられるのではなくできるだけ幅の広いメニューから本人が選べるようにするのが一番いいと思う。最初から判事としての適性を持った人もいるのだから必ずしも全員を出す必要はなく、自主的なキャリア・プランニング制度として考えて欲しい。
○:最高裁が、裁判官会議という最高決定機関で議決をして通達を出し、自主的でありなが自らプレッシャーを感じながらやるということでは、これで良いと思う。
■:意見の多数として、最高裁の説明にあったような、裁判官会議の議決、下級裁判所裁判官指名諮問委員会の考慮要素ということで主体的判断を尊重しながら制度的担保を図るという取りまとめとしたい。
○:弁護士の経験期間についての最高裁と日弁連との協議状況はどうか。
△:日弁連は3年を軸に考えているようであるが、最高裁としては10年の判事補の期間で、一人前の判事になるためにいろいろな経験、プロとしての仕事をしなければならないことを考えると、2年で十分であろうと考えている。検討会での審議結果を踏まえて今後協議を積み重ねていきたい。
□:弁護士として、相談を受けてから依頼者との信頼関係を築き判決を迎えるまでの期間を考えると、一審でも1年半、二審までいけば2年以上かかるので、3年程度必要ではないかということや、裁判所から検察庁に行く場合にも基本的に3年間とされていることなどから、弁護士会では3年間と言っている。
○:裁判所部内での判事補の意見はどうか。
△:3年という意見もあったが、大方の意見は2年ということであった。
○:企業の経験は大体1年程度で良いと思う。弁護士の場合は、期間については伸縮性のある制度にしてはどうか。
△:検討したいと思う。
○:3年は長い感じがする。
○:期間については、受入側の事情もあるので、例えば最低2年というような設定をすればよいのではないか。
■:最高裁と日弁連の間では現在協議中ということで、本日の意見も踏まえ、いい結果に到達するよう協議を続けてもらいたい。制度的担保については大方の意見として取りまとめをしたが、最高裁裁判官会議の議決、実施要領、下級裁判所裁判官指名諮問委員会における確認については、その都度、最高裁から当検討会に対して報告をお願いしたい。