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法曹制度検討会(第17回)議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年3月18日(火)13:30〜17:10

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤 眞(座長)、岡田ヒロミ、奥野正寛、小貫芳信、釜田泰介、木村利人、佐々木茂美、田中成明、中川英彦、平山正剛、松尾龍彦(敬称略)
(説明者) 永尾廣久(日本弁護士連合会副会長)
川上明彦(日本弁護士連合会弁護士制度改革推進本部弁護士報酬問題検討部会事務局長)
明賀英樹(日本弁護士連合会司法改革調査室嘱託)
小池 裕(最高裁判所事務総局審議官)
金井康雄(最高裁判所事務総局人事局参事官)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、植村稔参事官

4 議題
(1)弁護士報酬の透明化・合理化−弁護士報酬の透明化・合理化の見地からの個々の弁護士の報酬情報の開示・提供の強化、報酬契約書の作成の義務化、依頼者に対する報酬説明義務等の徹底
(2)給源の多様化・多元化−原則としてすべての判事補に裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませることを制度的に担保する仕組みを整備すること
(3)その他

5 配布資料
【事務局配布資料】
[判事補に多様な法律専門家としての経験を積ませる仕組みの整備]
○資料17−1 司法制度改革審議会意見書(抜粋)及び司法制度改革推進計画(抜粋)
○資料17−2 参照条文
○資料17−3 判事補に多様な法律専門家としての経験を積ませる仕組みの整備に関する主な発言(司法制度改革審議会第49回議事概要(抜粋)、同第59回配布資料「司法制度改革審議会意見書(案)(第一読会用、抜粋)及び同第61回配布資料「司法制度改革審議会意見書(案)(第二読会用、抜粋)添付)
○資料17−4 給源の多様化、多元化についての主なやりとり

【日弁連配布資料】
[弁護士報酬の透明化・合理化]
○資料1 「弁護士報酬の透明化・合理化に関する規則の整備について(資料)」(案)
○資料2 報告書(弁護士制度改革推進本部弁護士報酬問題検討部会) −アンケート結果に基づく市民のための弁護士報酬の目安−
○資料3 「司法制度改革審議会の意見書・公正取引委員会のガイドライン」

【最高裁配布資料】
[判事補に多様な法律専門家としての経験を積ませる仕組みの整備]
○資料 判事補の経験の多様化について
○資料 判事補の経験の多様化に関する資料
  ・資料1 外部に出ている判事補の現状
  ・資料2 判事補の民間企業等への派遣状況
  ・資料3 民間企業への派遣(1年)の例
  ・資料4 判事補の海外留学研究等の派遣状況

[その他]
○資料 地方裁判所委員会及び家庭裁判所委員会規則要綱
○資料 確認事項

6 議事

【伊藤座長】それでは所定の時刻でございますので、第17回法曹制度検討会を開会させていただきます。御多忙のところ御出席いただきましてありがとうございます。
 議事に先立ちまして、事務局から法律案の国会提出についての報告をお願いいたします。

【大野次長】私から報告いたします。
 当検討会で、御検討いただきました弁護士法の一部改正及びいわゆる非常勤裁判官制度の創設のための民事調停法、家事審判法等の一部改正に関しましては、3月14日に、これらを盛り込みました司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律案という形で閣議決定がございました。そして、同日国会に提出いたしました。
 本法律案につきましては、同じ日に国会に提出しました司法制度改革推進本部提出の他の3法案とともに、席上に配布させていただいております。委員の皆様方には法案作成に当たりまして、大変な御尽力を賜り誠にありがとうございました。

【伊藤座長】それでは、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【植村参事官】それでは、配布資料の確認をさせていただきます。本日、事務局から配布いたしました資料は17−1から17−4でございます。17−1は、議題(2)に関する意見書及び推進計画の(抜粋)でございます。17−2は、判事補を含む裁判官が身分を離れる場合に関しての参照条文でございます。17−3、17−4は、審議会における議事の抜粋でございますが、審議会の際は議題としては給源の多様化、多元化の中で議論されたために、給源の多様化、多元化全体の議事内容を17−4でお示しし、その中で議題(2)が取り上げられていると思われた部分、この部分には下線を付けておきましたが、その部分をさらに抜粋したものが17−3でございます。
 また、日弁連、最高裁から次第に記載いたしましたとおりの資料の御提出がありましたので、御紹介をいたします。以上でございます。

【伊藤座長】それでは、本日は次第にございますとおり、まず、(1)弁護士報酬の透明化・合理化の問題につきまして、日弁連に検討状況の御説明をお願いし、引き続いて議論をお願いしたいと思います。続きまして、(2)判事補に多様な法律専門家としての経験を積ませる仕組みの整備につきまして、最高裁に検討状況の御説明をお願いし、引き続いて議論をお願いしたいと思います。その後に、最高裁裁判官の国民審査制度の実効性を高める措置につきまして、事務局、最高裁からの報告を伺いたいと思います。最後に前回の法曹制度検討会の後、2月24日に開催されました最高裁判所一般規則制定諮問委員会におきまして、地方裁判所委員会及び家庭裁判所委員会規則要綱が答申されたとのことでございますので、それについて最高裁から報告をお願いしたいと思います。
 そこで早速議事に入りますが、まず、「弁護士報酬の透明化・合理化」の問題、具体的には意見書に例示されております「個々の弁護士の報酬情報の開示・提供の強化」、「報酬契約書の作成の義務化、依頼者に対する報酬説明義務等の徹底」に関する規則の制定、続いて、「アンケート結果に基づく市民のための弁護士報酬の目安」の作成につきまして、日弁連に検討状況の御説明をお願いしたいと存じます。それではどうぞよろしくお願いいたします。

【日弁連(永尾副会長)】それでは、私、担当しております日弁連副会長の永尾といいます。よろしくお願いいたします。
 本日、この問題を担当しております弁護士制度改革推進本部第三部会事務局長の川上弁護士も一緒に同席させていただいております。後で質疑のときには、主に川上弁護士に答えていただきますので、何とぞ御容赦よろしくお願いいたします。
 それでは、今、座長からのお話のとおり、まず、報酬情報の透明化・合理化の関係でございます。資料1がそうです。資料1に「案」というのが抜けているのであれば、私の方の事務の手違いです。これはまだ確定したものではございませんので、「案」というのが入った文書が正確なものでございますので、その点、御容赦いただきたいと思います。
 今、申し上げましたとおり、この弁護士報酬の透明化・合理化に関する規則の整備につきましては、現在、日弁連において検討中でございます。今年の秋に臨時総会を開くことになろうかと思いますが、そこで確定するということで、現在、弁護士制度改革推進本部の第三部会において検討中でございます。要するに全国の単位会に意見照会をいたしまして、その結果を踏まえて検討しているところでして、例えば、昨日もまた、いくつかの単位会から意見が上がってきたということもございます。もちろん日弁連の理事会には、その都度、案ということで、こういうものを検討しているということを報告いたしておりますが、まだ弁護士制度改革推進本部自体の了解も、理事会の了解ももちろん得ていないということで、総会に向けて今作業が進行中であるということでございます。
 この資料の案について、今から中身を御説明させていただきますが、この検討作業につきましても、後で目安の関係で御紹介させていただきますが、消費者、経済界、労働界、言論界の代表に参加していただいているということも併せて付け加えさせていただきます。
 そこで資料1の中身でございます。
 まず、第1に、「個々の弁護士の報酬情報の開示・提供の強化」ということで、個々の弁護士が報酬等の基準を作り、それを法律事務所に備え置くということでございます。そして、個々の弁護士の報酬基準の内容については、いろいろシステムがそれぞれあり得る。例えば従来の着手金・報酬、そういう制度に限らず、コンティンジェント・フィーというもの、アメリカで使われているようですが、その混合型を含めていろいろあり得るということで、そういう内容が明示されていなければならないということでございます。
 さらに弁護士は、自分のところの報酬の情報を開示・提供するということで、それに努めるということ。2ページですが、弁護士会もそれを受けまして、弁護士の報酬情報の広報に努めるということにしております。
 それから、第2でございますが、「依頼者に対する報酬等の説明義務等」ということで、依頼者に対して、明確かつ平易な表現をもって報酬のシステム、精算その他について、情報を提供し十分説明するということを義務付けております。
 これは2ページの一番下のところ、3行目にありますように、現行の報酬等基準規程にも説明ということ自体はあるわけですが、それをさらに詳しくしたいということでございます。
 3ページに行きまして、報酬見積書ということです。これは後で御質問もあろうかと思いますが、「○」の二つ目のところにありますように、当初、各単位弁護士会に意見照会したときには、法律事務処理を依頼しようとする者から申し出があった場合に、「受任しようとする場合」には報酬見積書を交付しなさいとしていたわけですが、今日お示ししている案では「受任しようとする場合」というのを削っております。申し出があったら報酬見積書の交付としております。ただ、これまた原案の段階では「見積書を交付する義務」とストレートにしていたわけですが、今のお示ししている案では「交付に努めるものとする」と内容が変わっております。これにつきましては、後で御質問いただけると思いますので、もう少し詳細な御説明をさせていただくということでよろしくお願いしたいと思います。
 現行の報酬等基準規程にも説明ということで、報酬説明書を交付しなければならないというようなことがあったわけですが、今回は「報酬見積書」を加えて、今、申し上げたようなことにさせていただいております。
 「第3 委任契約書の作成義務」ということで、受任をしたときには契約書を作成しなければならないとしております。ただ、「原則として」というものが入っておりまして、では原則でないときはどういうことかということで、後で御質問があろうかと思います。3ページの一番下のところに、原則の例外ということで、法律相談、顧問会社、緊急性があるとき、一回性の要素の強いもの、そういうのがこの例外に当たると考えられるのではないかとしております。この点、委任契約書の作成というのは、現在の報酬等基準規程にもあるといえばあるわけですが、第7条の2で「弁護士は、事件等を受任したときは、委任契約書を作成するよう努めなければならない。」というように、いわゆる努力義務になっていたわけですが、今回はそれを「作成しなければならない」と変更したということになります。
 最後ですが、委任契約書の内容について、システム、これが先ほど申し上げましたように従来とは違ったものがあり得ますので、そういうことを含めて、そして精算方法その他の特約条項を記載するということで、現行の説明義務よりもさらに詳しく委任契約書の中身を規定しているということでございます。
 以上のように、まずこの規則の整備を進めているということでございます。
 では、続いて目安の関係に移りたいと思います。
 本日、資料3ということでお配りさせていただいております。これを簡単に御覧いただきたいと思います。まず司法制度改革審議会の意見書で、先ほどの報酬情報の透明化・合理化とはまた別の話として、「報酬規定を会則記載事項から削除する」と記載されております。「報酬に関し、弁護士会が何らかの規定を策定する場合には、その策定過程を透明化すべきである。」ということでございます。こういう表現も受けまして、弁護士法第33条からこの会則記載事項が削除されるということが、先ほどの御説明にありましたように、国会に上程されることを踏まえまして、私たちとしましてはいろいろ検討いたしました。その検討の過程には、消費者、経済界、労働界、言論界、そういう方々の代表にも参加していただいて、ずっと検討してきましたが、昨年の10月、全国の弁護士にアンケートをとり、その回答を集約するという形で統計処理をするということを考えました。
 それについては、資料3に「公正取引委員会のガイドライン」というのを下の段に書いておりますので、その点を御覧いただきたいと思います。
 要するに、(2)のところで、「独占禁止法上問題とならない場合」ということで、①というのがございます。該当部分だけ読み上げさせていただきますと、「会員から報酬に係る過去の事実に関する概括的な情報を任意に収集して、客観的に統計処理し、報酬の高低の分布や動向を正しく示し、かつ、個々の会員の報酬を明示することなく、概括的に、需用者を含めて提供すること(会員間に報酬についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。)」ということになっております。
 ということで、この「過去の事実に関する概括的な情報を任意に収集して、客観的に統計処理」するということで、私たちとしてもそれを踏まえてアンケートを作るということにさせていただきました。要するに、一般市民にとって、大抵の方は一生に一度、弁護士に頼むかどうかということだろうと思いますが、そういうときに弁護士報酬が大体いくらぐらいになるのかと、こういうイメージを持てる、そういう市民のための目安ということを念頭に置いたわけです。したがいまして、事例も大体市民が依頼されるであろう、それが多いであろうという事例をいくつか設定させていただきました。現行の報酬規定はもっと事例自体はたくさんあるわけですが、たくさん事例を細分化していくと、いわばきりがないということでございますので、この後、中身を見ていただきますが、30ぐらいの事例ということでございます。事例でないところももちろんあるわけですが、基本的には市民のための目安ということで、市民が利用されるようなものということでございます。
 もう少し申し上げますと、例えば獣医師会の不妊治療はいくらだったと、そういうふうな単純な過去の統計資料というわけにはいきませんで、設問を作って、それについて弁護士が経験を踏まえていくらぐらいといった形の問い・答えになっております。このアンケートは全国2万人の弁護士に発送して2,200通、大体11%ほどの回答率ということで、年齢層も大体まんべんなく回答がなされているということございます。そういうことで中身をこの後、御紹介させていただきますが、その前に、先の「公正取引委員会のガイドライン」との関係でどうなったかという点の御紹介からさせていただき、さらに目安の中身を御説明させていただきます。
 公正取引委員会とは、このガイドラインがあるということで、時に市民代表の方も交えて公正取引委員会と協議をさせていただきました。今年に入ってからも何回か協議をさせていただいております。最初の段階では、過去の事実の統計資料なら構わないということだけれども、想定した事例ということではどうであろうかと首を傾げられるということもございましたが、前向きに弁護士業務の特質を考慮していただきました。
 私たちとしましては、今、申し上げましたように、過去の経験に則してといっても、具体的な事例を設定しないことには、問いにもならない、答えにもならないと、弁護士業務は統計性に乏しいということで、その業務の特質ということも縷々説明させていただきまして、2月の協議のときに、公正取引委員会については、ほかの業種とはちょっと違い、過去の事実についての単純な統計というわけにはいかないという業務の特質を御理解いただきまして、これから御説明しますような形で客観的なデータを示すということは有用であると。ユーザーから弁護士の選択が可能になるということで、基本的にこういうことで了解すると、そういう意思表明をしていただきました。
 ただ、同時に公正取引委員会からいくつか注文がついていることも御紹介させていただきたいと思います。例えば客観的なデータが提供されていることが重要なので、統計として正しく示す表現にして欲しいということで、文言についていくつかかなり細かいところも含めて御注文をいただきました。それから回答数が全体の11%ということについても、もうちょっと何とか上げてほしいと。それから、地域的にも、後で御紹介させていただきますが、すごく少ないところもございますので、もう少し絶対数を確保してほしい。それから、5年も10年も同じものというのでは困るでしょうということで、私たちも当然だろうと思います。
 それから、これは市民向けということで作っておりますが、企業についても統計を取って欲しいという注文もついております。引き続きいろいろ検討課題があるということでございます。
 それでは、これから資料2について御説明させていただきますが、この中で、「目安」という言葉をこれから御紹介いたしますが、弁護士にとっての目標値ではないということでございますので、「目安」という意味が何なのかということの言葉の問題もありますが、あくまでも日弁連弁護士会としては市民のための目安だということで、弁護士にとっての目標値ではないということでございます。
 だんだん時間がなくなりました。後でまた質問のときに詳しく御説明ということになろうかと思いますので、簡単にさせていただきます。3ページを御覧いただきますと、回答の集約状況が具体的に正確に書かれております。対象人員が1万9,000名ほどに対して、回答が2,269名、回答率が12%弱ということでございます。
 あとは4ページに全体の事例設定をしたものの目次がございます。どれでもいいのですが、いちいち御説明する時間がございませんので、大変申し訳ありませんが、例えば33ページで、遺産分割調停、市民が比較的頼むことが多い事案の1つだと思いますが、着手金をこういう事例の場合いくらぐらい弁護士はもらうかということで、例えば30万円前後が645人(29.7%)、50万円前後が958人(44.1%)、これは統計的な数字なわけですが、その下の方にコメントというのがございまして、今、申し上げましたように、「着手金は50万円前後が44%ほど、続いて30万円前後が30%ほどであり、30万円前後から50万円前後が目安となっています。」という表現にしております。続いて、報酬金のところを見ていただきますと、「目安」という言葉がないということから、日弁連、弁護士会もそれなりに工夫していることがこのあたりでも御理解いただけるのではないかと思うのですが、報酬金の方はこの統計を見ますといろいろなばらまいた数字になっております。そこで表現が、「100万円前後が32%ほどであり、続いて180万円前後が15%ほど、140万円前後が13%ほどになっています。」と、このところは目安がいくらとかは書いておらず、いろいろと市民にとっての目安、市民にとって分かりやすい説明ということで工夫をし、公正取引委員会からもアドバイスをいただいて作成を進めているところでございます。
 繰り返しになりますが、公正取引委員会からの注文も正面から受けとめているつもりですし、消費者、経済界、労働界、言論界などの代表の方の参加も引き続き得まして、本日の法曹制度検討会での先生方の御意見もさらに踏まえて、これを完成させて、先ほど申し上げましたように、日弁連の弁護士制度改革推進本部の了解、日弁連の理事会の了解ということで、総会に向けて作業を進めているということでございます。
 最後になりますが、司法制度改革推進本部の顧問会議で、私も傍聴させていただきましたが、佐藤幸治座長からも、弁護士報酬というのは、市民にとって弁護士の報酬がわからなくなるというのは大変困った問題だということで、そういうことのないように日弁連、弁護士会は是非取り組んで欲しいということを再三言っていただいております。それを受けまして、日弁連は弁護士報酬についても自己改革を進めてきたということで取り組んでおります。
 このように、繰り返しになりますが、報酬情報の透明化・合理化と併せて市民のための目安作りということで日弁連は取り組んでおりますので、是非御理解、御協力のほどよろしくお願いしたいと思います。以上でございます。

【伊藤座長】永尾副会長どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御説明につきまして、まず御質問をお願いいたします。どなたからでも、どうぞ、木村委員。

【木村委員】大変分かりやすく御説明いただいてありがとうございました。この弁護士報酬の透明化は、意見書の中にもはっきりと書いてあることで、日弁連がこのように対応してくださっているのは大変に素晴らしいことだと思います。先ほども既に永尾副会長からコメントが御報告の中にありましたけれども、例えば一般的報酬、1ページの一番下のところですが、「弁護士は、弁護士報酬の情報を開示・提供するように努めるものとすること。」ということが書いてあります。「努める」という言葉になっています。3ページのところでも、報酬見積書のところで「作成して交付に努めるものとすること。」と書いてあります。これは基本的には通常ですと、「見積書を作成し、交付する」というのが表現としてはいいと私は思いましたものですから、既にそういうの表現が最初の段階ではあったが、これをお作りになっていく過程で、「努める」と変わったということを言っておられたのですが、私自身も、これは今のこの時代に情報の開示・提供は当然のことであって、努めるも何も見積書を作成するのは当然のことだと思います。要するに訴訟依頼人といいますか、一般の消費者の方から考えるとそうなるのですが、これが変わった経緯ですね。そして、また一体これはどういう背景があって、実際にこれをやらなければいけないのか、「努める」としなければいけないのかということをお伺いしたいと思います。

【日弁連(川上弁護士)】第三部会で弁護士報酬の問題をやっております川上と申します。私は平成3年の中坊会長の時代からこの報酬の問題を長くやっておりまして、その反省もいろいろ含めまして、弁護士の習性も含めまして、木村先生のお話にお答えしたいと思います。
 もともとなぜ努力義務であって義務化しなかったのか、どうして変えたのかというお話だと思います。これをちょっと御説明させていただきたいと思うのですが、平成7年に、日弁連は大きく報酬規定を変えました。そのときに、実は平成7年のときには報酬の委任契約書作成に努めるということで、これが努力でありました。そして、そのかわりに報酬説明書というのを出しなさいと義務化しました。
 もともと弁護士というのは、依頼者に対しては、「あんた、契約書も作っておらんのか」と言う割には自分が作ってないと、こういう実態がずっと長くあったわけでございます。人のことを言う割には自分のことができてなかったという実態がありました。
 弁護士自身が契約書を作るということに関しては非常に実務との間にギャップがありました。そういうところから、今、弁護士に直ちに義務化してもなかなか辛いものが実務的にもあるかもしれない。したがって、ここはいわゆる努力目標にして、少し様子を見ましょう。そのかわり、依頼者の方から見積書というのが報酬説明書なのですが、出してくださいと言われればそれは出しなさいと、こういうことで平成7年にその内容の規定をおいたわけです。
 そして時は流れまして現在でございます。今度は委任契約書につきまして義務化したいと思っております。これは弁護士報酬の額がいろいろと流動的になる可能性もあります。それとともに手続的にトラブルにならないように、また説明を十分に弁護士がするように、ここはそんな弁護士が実務についてこれないとかどうかということではなくて、もうしなさいと。いわゆる委任契約書を作らなくてはいけないと。こういう形が必要だろうということになります。
 そうしますと、基本的には依頼をするときに、委任契約書を作ってしまえば、その前の見積は要るのかという問題が実はございます。弁護士の場合には飛び込みというケースも少のうございます。そういう関係もありまして、委任契約書を作ってしまえば、見積は要らないのではないかという発想がまずありました。しかし現在弁護士に対する要請としましては、セカンド・オピニオン、いわゆるこの弁護士さんはいくらぐらいか、この弁護士さんは意見はどうだろうとか、こういうことも聞きたいと。いわゆる医療の世界でもそうらしいですけれども、弁護士の世界でもそういうことになってきましたし、発展させるべきではないかということがございました。そういうところから、委任契約書を義務化及び見積書の交付についても、セカンド・オピニオンを広げる意味で義務化しようということで最初は考えました。
 ただ、弁護士の場合には依頼者との信頼関係を大変高く必要といたします。また、その関係がありまして、義務化するということは、日弁連の場合にはそれに違反いたしますと綱紀懲戒という問題がございます。非常に重要な問題になります。重要な問題であると同時に、義務化ということに関して、どのようにしたらいいか。逆に言いますと、その辺の調和がとれるのだろうか。原案ではいわゆる受任しようと思う人だけが見積書を出すことを約束しなさいと、こういうことを言ったわけです。要するに事件を受ける気がない人は出さなくてもいいというような義務化だったわけです。
 しかし、反省を込めまして、これではセカンド・オピニオンを得たりする報酬見積書の制度が広がっていかないだろうということで、事件を受けようという者だけが出す義務であってはならないだろうと。弁護士一般がもっと広く報酬見積書を作るような制度にしたいということを考えました。
 そこで、今言った綱紀懲戒等の問題もございまして、受任する気があろうがなかろうが、皆さんそれに努めなさいという形が一般的なところになったわけです。ただ、受任しようとする者だけが見積書を出すという制限を外しましたので、今度は弁護士一般に広くするということで日弁連は政策的に今考えているわけでございます。そうすると、いかに広く弁護士達が新たな考え方で、どういう見積書を作っていくか。実際弁護士の見積書というのは一体どのようなものでしょうか。それを考えますといろいろな知恵をたくさん得ていきたい。そしてどんどん広げていきたいというところから報酬見積書に関して今回変えましたところについては、より広げるためにこういう形で変えさせていただきました。
 一見しますと、義務化から落としているのではないかと見えますが、対象を広げることによって、こちらの方がより広がっていくのではないだろうかと部会としては考えました。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。いかがですか。

【木村委員】今、委任契約書の話がございましたが、それは見積を踏まえて委任契約書を作 る。つまり将来的構想としては、委任契約書と見積がセットになってくるということになるのですか。

【日弁連(川上弁護士)】今イメージしておりますのは、契約の前に見積があると。当然請負でもそうですけれども、まず見積が出てどうしようかなと考えてから委任契約に行くということですので、セットで、見積と委任契約が一緒というイメージではなく、時間的には、まず見積があって、次に委任契約があるということになります。

【木村委員】確かにこれは「努める」ということで、今回原案が出てきたわけですけれども、我々は考えると、ある程度はっきりと見積を出していただくような方向性が、それをつまり努めるのではなくて、それを「必ず」とすると、いろんな面で事実上は非常に困難が生ずるということでしょうか。みんなに一挙に今の段階で言うことは非常に難しい状況にあるのでしょうか。

【日弁連(川上弁護士)】難しい状況といいましょうか、確かにどんな見積書を作っていいのか、どういうものを義務化するか。ある面で弁護士は非常に生まじめでございます。どうしたらいいのだろうかということも考えると思います。見積書を広げていくという点からすると、義務化したら支障があるかということですが、そうした場合に、やはり今言った綱紀懲戒その他、来た人との関係での問題が、実際に実務がどう動くかちょっと見えてないところがございまして、最初から義務化をそこまでしてしまうのではなくて、少し弱めに感じるぐらいにしておいて、変な言葉ですが、様子を見たいというのではないですけど、そうした方が広がるのではないかと考えています。

【木村委員】もう一つ、その関連で言えば、例えば、資料1の1ページの一番最初のところですけれども「弁護士は、報酬情報の開示・提供に資するようにするため」とありますが、後の方ですと、「依頼者に対し」という言葉があるのですが、ここには「依頼者に対し」という言葉がないのですけれども、ここの箇所は、職業専門家としての説明義務という観点からこういうことを言っているのですか。

【日弁連(川上弁護士)】それは先生のおっしゃった御趣旨というように考えていただければよろしいと思います。

【木村委員】要するにプロフェッションとして、報酬情報の開示・提供に資するということが大事だということを恐らく言っているのでしょうね。ですから「依頼人に対し」という言葉、つまり目的語がないものですから、その点どうかなと思ったのです。もしそうだとすると、例えば通常、評価、見積としますと、お金のことだけではなくて、どれくらいの時間がかかるのか、そして、持っていき方によってどういう結果になるのか。それがそういかない場合にはこうなって、良くなればこうなってというようなことがあると思います。見積というのはお金のことだけではないわけですね。特に法律業務に関しましては。
 私から見ると、「弁護士業務並びに報酬の透明化」とした方がいいのではないかと思いました。これは報酬に特化して出てきた案ですが、通常の場合、これから依頼人と話する場合に、見通しとかそういうことも含めてお話しするわけですね。お金のことではなくて。それについての何かお考えはあるのですか。

【日弁連(川上弁護士)】それについては、2ページの「依頼者に対する報酬説明義務」という部分のことを、今、先生おっしゃられたのではないでしょうか。

【木村委員】報酬だけではなくて、かかる期間とかそういうことです。

【日弁連(川上弁護士)】おっしゃるとおりです。公正取引委員会にも理解していただきました中の一つに、弁護士の仕事の場合には相手があるものですから、一定の手続等だけで進んでいくものではないものですから、相手がしつこいのか、簡単な人なのかなどによって非常に変わるわけです。それだけに最初から、ボクサーではありませんが、相手の読みをして、どうなっていく展開だろうかということは、なかなか読みにくいところが司法でございます。確かにここでは、報酬の説明のことに特化しておりますが、もちろんそのときに説明にする当たって、報酬は働いた仕事量とかに大きく関わるわけですので、当然先生のおっしゃるとおり、調停の場合なのか訴訟なのか、交渉なのかとか、見通し金をどうするのか、そういうことも報酬等の説明義務というときには当然予定していると考えております。

【木村委員】わかりました。

【伊藤座長】どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】個々の弁護士の報酬情報の開示の件なのですが、確認するために御質問いたします。それぞれの弁護士はこのアンケートの結果に基づいて自分なりの報酬基準を考え、作成して事務所に備えると、こういうことになるわけですね。

【日弁連(永尾副会長)】アンケートは市民向けですので、また、それとは別に個々の弁護士が作るわけです。

【松尾委員】もちろんそうだと思いますが、アンケートの結果に基づいて、それぞれの弁護士が、市民のためにこういう基準でうちの事務所はやるということではないのですか。

【日弁連(川上弁護士)】今回のアンケートを受けまして、それをもとに報酬基準を作って、それに基づいて説明したり情報を流すといったお話だったかと思うのですが、アンケートは一定の目安でございますので、これを参考にするのか、参考にしないのか。それに関しまして各事務所の特殊性もございますので、必ずしもそれは全部は参考にするとは限りませんし、参考にする場合もあるかもしれませんし、そこは非常に幅が広いかと思います。
 各弁護士が作りました報酬規定は、これは自分のものですので、それは非常に丁寧に説明することになると思います。

【松尾委員】そうしますと、同じ単位弁護士会に所属している弁護士であっても、例えばA、B、Cとしますと、それぞれが違った報酬基準をそれぞれ出すこともあり得るわけですね。

【日弁連(川上弁護士)】あり得ます。

【松尾委員】あるいは、また地域性の問題で、ここの県の単位会ではこうだけれども、お隣に行けば、また違った基準が出ると、こういうこともあり得るわけですね。

【日弁連(川上弁護士)】はい。

【植村参事官】今の話ですが、単位会で決める基準というものはなくなるわけですので、単位会にたくさんの弁護士が属しておられて、お一人お一人が御自身の基準を定めるという意味ですね。

【日弁連(川上弁護士)】もちろんそういう意味に受け取っております。結果としていろいろと傾向が出るということです。

【松尾委員】単位会という言葉を使ったのは、同じ単位会に所属している個別の弁護士という意味で使ったわけで、単位会が云々ということではありません。
 もう一点、着手金と報酬金がありますが、これはずっと前からもこういう形でやっていますけれども、それぞれの弁護士の裁量判断で基準を作ることができるということになりますと、別に着手金あるいは報酬金と分けなくて、一括でといいますか、そういう報酬の基準を考えることもあり得るわけですね。

【日弁連(川上弁護士)】あり得ます。

【松尾委員】着手金と報酬金というのは、長い間の弁護士会の事情があることは十分知っておりますが、一般的にはなかなかその辺の理解ができずに、何か2回取られているというような感じを受けるという話を聞くものですから、その辺のところで今のような質問をしたわけです。

【日弁連(永尾副会長)】広報に努めるということがさらに必要になってくると思います。

【日弁連(川上弁護士)】着手金と報酬金の問題は、ほかの例えば売買や請負の手付金ではないかと言われるのですが、実は違うのですね。弁護士の場合の最初の着手金というのは、ファイトマネーといいましょうか、今からやっていくに当たっての戦うところのお金なものですから、それはファイトマネーと。やった結果、勝ちますと、成功報酬という形で、出来高のように成功報酬になると、こういう二本立てなものですから、最初、御理解いただくに当たって着手金、最初にもらうという意味もあるのですが、ファイトマネーと考えていただきますと分かり易いということで、これは今後も弁護士はもっと説明しなければいけないことかと思います。

【伊藤座長】中川委員、お願いします。

【中川委員】今、松尾先生が言われたことにちょっと関連するのですけれども、この「目安」というのが一体何なのかという問題があるのです。つまり目安と個々の弁護士さんがお出しになる個人の報酬の基準、これが一体どういう関係になるのか。ここがうまくいきませんと、今よりも混乱を起こすことになるのではないかとちょっと危惧するのです。といいますのは、「目安」というのは、これは見ても分かりますように、要すれば単なる統計なのです。今現在、弁護士さんがいくらチャージされているかという統計です。しかも、その統計のとり方がこれを見ますと大都市に偏っていますから、かなりこれは上振れているのではないかと私は思うのです。
 それを目安にしますと、例えば地域の弁護士はうまいことやれたなと思うのですね。地域の弁護士は、この目安を見せれば、つまり大都市の弁護士さんの報酬が目安になってくるわけですから、地域の弁護士は非常にいい条件になると思います。ということは、地域の依頼者の方は高くなるのではないか、まずそんな気がいたしますね。
 それから、仮に目安はこうですが、私はこうですよというときに、そのギャップ、価格差をどう説明されるのでしょうか。目安は例えば着手金100万円だと。だけど、私は200万円いただきたい。それはなぜかと。あるいは逆に目安は100万円だけど、私は50万円で結構ですと。それはなぜか。この説明はすごく難しいですね。そうすると依頼者にしてみれば、それをどう判断したらいいのか。目安を中心に判断したらいいのか、やはり個人の弁護士の規定で判断すべきなのか。そうはいっても、その弁護士を知らない初めての方ですと、それが高いのか安いのかという判断は非常につきにくいですね。そういう問題はどう考えておられるのかというのが一つの疑問です。
 もう一つは、大半の弁護士は、今、定額報酬、いわゆる着手金、成功報酬払いですが、タイムチャージもございますし、おっしゃったようないわゆるコンティンジェントのやり方もあります。それをどっちが選べるのか。つまりクライアントサイド・依頼者が望めば、弁護士の方もそうするというのか。あるいはそれは弁護士が選ぶというのか。あるいは合意で決めるというのか。この辺もあります。私はタイムチャージしかやりませんという弁護士がおられると、依頼者としてはほかのチョイスはもうないわけです。だから、できるだけ依頼する方の選択肢が多い方がいいと我々は思うわけでございまして、これとこれとがありますが、どれかをお選びくださいと。しかし、我々にも事情がありますから、そこは契約といいますか、委任契約で解決しましょうと。これは話はよくわかりますが、これしかないよと言われたら大変困ります。その辺はどうお考えなのでしょうか。

【伊藤座長】川上さんからお願いします。

【日弁連(川上弁護士)】今、中川先生の御質問は四つほどあったのではないかと私は理解しました。一つ目は、この「目安」というものと実際の具体的に出てくる各個人の弁護士のものとのずれというもの。一体「目安」というのは何なのかということでございます。それは今日お配りしました資料2を開いていただきまして、1ページの最初のところにあります「目安」と書いてあるところの中にありますが、この文章における「目安」とは、「市民が弁護士報酬の金額をイメージするための参考資料としようとするものです。」ということであります。実は弁護士の費用というものは、弁護士の敷居をまたいだら返してもらえるのだろうか、例えば5万なのか、50万なのか、100万なのか、1,000万なのだろうか、要するに全く分からないという方もたくさんいらっしゃるのではないかと思います。そういう中で、市民の方々が弁護士にいらっしゃるのは、先ほど永尾副会長が申しましたとおり、一生に1回とか2回の話でございます。したがいまして、この資料のここで言う「目安」というのは、市民の方々が、弁護士報酬のことが、今まで経験的にもよくわからないとか、そういう方々がイメージとして、このようなものだというイメージをつかんでいただく程度といったら失礼ですが、そういうものが、ここで出している市民のための弁護士報酬の目安と考えております。
 それで、先ほど申したとおり、弁護士の仕事は多種多様、内容的にも依頼者も異なります。その関係で、例えば「目安」にはこう書いてありますが、私はいくらですよということは、事件も中身も違いますので一概には言えないと思います。したがいまして、各個人になった場合には、一定のイメージを持たれた方がいらっしゃった場合に、十分、弁護士として、なぜ、この事件はそういう費用がかかるのかということの説明などをさせるということになるかと思います。そこでは個別事件ですので、イメージとして作った目安というものと、各個人のその人の事件を詳しく聞いたときに出てくる金額はずれるということになるのではないかと1点思います。「目安」と言っておきながら、高かったというときには、事件そのものが同じではないということと、十分説明を受けたときに、この弁護士はおかしいのかなとか、この弁護士はどうなのかということで、イメージのための目安が活きるのではないか、このように目安というものを考えております。これで御説明になったかどうかわかりませんけれども。

【中川委員】目安と実際出てくる金額がそれなりのずれならいいのです。目安と実際の金額が倍も違うとか3倍も異なるというと、どっちかがおかしいという話になりはしないかということです。そういうケースがあるのか、ないのか知りませんし、「目安」といってもものすごい幅があるわけでしょう。ものすごい幅がありますから、そもそも目安になるのですかという問題もありますね。相当混乱が起こるのではないかという感じを持っているのですが、どうなのでしょうか。

【日弁連(川上弁護士)】実例で申しますと、市民の方が非常に関心の深い、例えば離婚の場合を例にとって見ていただきますと、資料2の25ページを見ていただきたいと思います。離婚の場合には、ここでいう「目安」というものと、今、先生の御指摘の個別的事件の委任の具体的な内容が非常に似たようなものになるだろうなという内容でございます。ここを見ていただきますと分かりのとおり、3例設けているのですが、いわゆる離婚したいというだけのものと、親権者の指定とか慰謝料も付いたものもございます。しかし、どれも基本的には20〜30万円前後の着手金の幅になっています。離婚調停をやる場合には着手金が20〜30万、訴訟になったりしますと40万から50万ということもあるのですけれども、このところの統計は、これは結果を見ていますと、地方とか都市ではなくて、大体こういう傾向が出ているということがございます。
 したがって、離婚の場合には、今、先生が御心配されたような差が出て混乱を招くのではないかということに関しては、意外とここは少ないのではないかと思う部分でございます。
 その反面、先ほど永尾副会長が御説明させていただきました遺産分割調停に関しては、これは、報酬金のところが非常に幅広くなっています。これは手続、関与、いろんな評価のことで大変広くなりますので、こういう点では、先生おっしゃるとおり、「目安」というものが本当にあるのだろうかとか、目安というものと具体的な例が変わってくるのではないかということはあるかと思います。
 そういう関係で申しますと、ここに出ているのも、先生の御心配されている部分については、非常に狭いものと大きいものといろいろあるのではないだろうかとは思っています。ただ、こういうものを示すことを考えましたのは、平成7年の段階で、結局弁護士が報酬基準を使うときに、基準にはこう書いてありますが、私はこうしておきますよというような使い方だったという部分があったかと思うのです。そういうときにイメージ作りとして、目安というものが、事例だといくらぐらいなのだろうかということが欲しかったということがありましたので、先生のおっしゃられた危惧の部分もございますけれども、私たちの認識としましては、こういう目安、こういう事例に基づいたものが欲しいという声が強かったのではないかということもありまして、このようにしたということでございます。

【伊藤座長】その他の部分も御説明いただけますか。

【日弁連(川上弁護士)】少し力が入って、気合が入って申し訳ございません。  二つ目、地域差の問題でございます。これはちょっと今申し上げましたが、実は前は、私も統計を取ったりするときに、東京が例えば50万円、地方が30万円ということがあるかなと、地方の方が安いと感じたこともあるのですが、現在統計的に見ますと、今でも東京は高いのかもしれませんけれども、全体から見ると、私、名古屋ですけれども、名古屋が安くて、さらにまた小さい単位会では安いか、そうではないのではないかというと、意外と出た結果の目安だけを見ると、地方の弁護士はこんなに取れるのだからということにはならないのではないかという印象を持っております。
 したがいまして、これは分析に入ってしまいますが、ここに出ている数字は、大都市の数字とは必ずしも言えないのではないかと感じております。
 あと、価格との差額の実際の説明ということは、1番目にたくさんお話したとおり、目安と具体的説明の差額ということですので、先ほど御説明したことになるかと思います。
 それから、4番目のシステムの関係ですけれども、これは先生のおっしゃるとおり、依頼者が多く、いわゆる選択肢を持つべきだと思います。これは当然のことではないかと思います。ただ、実際上、私はタイムチャージしかやらないという弁護士が、しかもその地域に1人しかいなかった場合、これは弁護士活動の問題かと思いますが、弁護士の方は、私はこうやりますということに関しての十分な選択肢を説明することは、今後指導の中で当然行っていくべきことだと思っています。先ほどありましたとおり、タイムチャージしかやらないというような弁護士、そんな弁護士は嫌だと言っていただくような環境を日弁連としても作らなければいけないと思います。
 それから、結論だけ申しますと、選択肢を増やす方向で、しかも、弁護士がこれを選んでくれという形ではなくて、少なくとも合意の形でこれは進んでいくものだと思っております。

【伊藤座長】それでは、時間の関係もありますので、質問と申しましたが、御意見も含めておっしゃってください。どうぞ、田中委員。

【田中委員】アンケートの結果は、クライアントにはどういう形で示されるのですか。例えばある時点でアンケートをやったけれども、回答総数はわずか12%でこのような結果だということまで、みんなきちんとディスクローズして、各弁護士事務所へ行ったときにすぐ見えるようにしておくということにするのでしょうか。単に弁護士会へ行ったら分かるとか、ホームページ見れば分かるだけではなくて、弁護士のところに実際行って見積書をもらったときに、こういうものがすぐに参考にできるようにするのでしょうか。どういう仕方でこの目安をどの程度の詳しさで公表、情報公開されるのかということをお伺いしたいのですけど。

【日弁連(川上弁護士)】一定の考えを述べまして、もし田中先生にいい御案がありましたらお願いしますという感じのところがあるのですが。

【田中委員】示し方がいろいろ難しいという感じを持っています。

【日弁連(川上弁護士)】これだけ分厚いものをどのように市民に分かりやすく出すのかという技術的な問題がもちろんございます。しかも誤解を招かずに出さなくてはいけない、誘導してはいけないということがございますので、こういう分厚いものにするのか、違った形にするのか、実はこれは今第三部会でもどういう形にするのか検討中です。このまま出すということは、おっしゃるとおり、出せるところでは出せるのですけれども、本当の意味での、皆さんに読んでいただくときにはどうするのかということはまだ検討中でございます。

【日弁連(永尾副会長)】広く知らせるための方法をいろいろ知恵を集めるということで考えております。

【奥野委員】皆さんおっしゃっていることなのであまり長くしたくないのですけれども、弁護士の報酬というのは、基本的には木村先生がおっしゃったように、額の問題だけではなくて、サービスの質の問題がものすごく関わると思うのです。だから、ある意味で一概に高いからいいとか、安いからいいとかという問題ではないので、そこをもう少し情報としてうまく伝えるようなことを本当は考える必要があるのではないかというのが1点ですね。
 もう一つは、これは松尾先生などがおっしゃったことですが、例えば着手金とか報酬金、あるいは報酬の場合には、いくらお金が取れたかによって何%戻すという報酬率というのが場合によっては出てくる可能性もあるわけですね。そういう成功報酬の形式もありますし、タイムチャージもあれば、コンティンジェントもある。
 私は、これは選択肢として各弁護士に選ばせるかという問題ではないと思っていて、むしろ着手金の方で多く取りますよという人とか、報酬の方で取りますよとか、パーセンテージをそのかわり安くしますとか、人によって違いがあって、その競争でやることが大事なので、いわば弁護士の中での報酬と質を通じた競争の活性化をどう図っていくか、そこの視点を是非考えていただきたいと思うのです。
 そういう意味で三つほど簡単にお話をお伺いしたいのですが、一つは「目安」をどう出されるかということが一つの問題ですけれども、出されるときにどういう説明を付け加えられるのかということに関してもう少し考えていただきたい。とりわけ資料2の2ページ目、3ページ目に説明が付いているわけですが、基本的にそもそも弁護士に依頼した場合に、弁護士が多分出してくる報酬表が一方であって、もう一つ目安があるわけですけれども、必ずしも報酬表どおりに払う必要は多分ないわけで、それは交渉でいいわけですね。例えばですけれども。そもそも報酬とは何であるか、つまり顧客にとっては、ある意味でバーゲニングのようにたたけるものであるということをそもそもきちんとお書きになるべきだし、報酬の形も、着手金と報酬とか、いろいろなものがあるのですよということをもっときちんと出された上で、こういう目安みたいなものを出していただきたいと思うのですけれども、単に目安ということにばかりこだわらないで、そもそも報酬とは、弁護士業界にとって何なのかということを顧客といいますか、依頼人に説明するような文書をもう少し出していただきたいというのが1点です。
 あと二つ、もっと大きな問題が私はあると思っていまして、1つは紛争で、とりわけ着手金と成功報酬、これはどのぐらい今後残るものか分かりませんけれども、これをこのまま残しておくと、事後的に、着手金は非常に安いのだけれども、成功報酬を高く取るというケースが結構出てきたりして、あるいは離婚の慰謝料が非常に高かったりして、率でやると非常に高いお金を請求されたりとか、事後紛争が起きる可能性があると思うのですけれども、紛争処理をどこでやることになるのか、これはもちろん日弁連であまりやって欲しくないと個人的には思うのですけれども、いずれにしても、そこの透明化みたいなものはきちんとしておいていただきたいと思うので、そこをどうお考えになっていらっしゃるのかというのが1点です。
 もう1点は、質と額ということで、できるだけ依頼人にきちんと情報を伝えていくということになると、その情報を誰かがうまく伝える。例えば病院などでは格付け機関というのが、だんだん出つつありますけれども、そういうような、この弁護士が、例えば質はいいけれども報酬が高いですよとか、こちらは安いけど、質は悪いですよとか、そういうことを情報をもう少し弁護士さんと顧客との間で仲立ちをしてくれるような人がいるといいと思うのですけど、そういうことに関して、何か日弁連の方でお考えになっていらっしゃるのかどうか。それとの関係で、この「目安」の資料の生データ、これはそういう格付けなどをするときには必要なのかもしれませんけれども、その生データを今後どのようにお取扱いになるつもりなのか。別に全部お答えになる必要ありませんから、重要だと思われる点だけ教えていただきたい。

【伊藤座長】川上先生、お願いします。

【日弁連(川上弁護士)】奥野先生の三つの最初の部分は、これは目安のことを確かに書いてありますが、おっしゃるとおり、これでは初めての方が見たときにわかりません。どのように弁護士が動いてくれるのか、どんなふうにしてくれるのか。どのように動いてくれるのかというものついて親切なものが要るということは、実は第三部会での市民委員の加藤先生の方からも御指摘いただきまして、それで、とりあえず今弁護士報酬のことをやっておりますので、こういう形になっております。
 したがいまして、今、奥野先生がおっしゃられた件に関しましては、弁護士に頼むときにはどう動くのか、具体的にもう少し丁寧な説明、いわゆるバーゲニングの問題も含めまして、そういうものを入れたものになるかとは思っております。これは確かに報酬の問題だけでございます。
 2番目でございますが、着手金と報酬金の関係で、最後で報酬金をばっと取られれば、それはまた紛争になるかもしれない。これは極端な例、コンティンジェント・フィー(完全報酬主義)という場合にはそういうことも起こるかと思います。もともとコンティンジェント・フィーの場合も、これはインドの例なのですが、貧乏な方が、そういったときに、損害賠償の関係で、最初はお金がなくてもいいから、入ったときに弁護士に払えばいい。したがって、訴訟を起こして、きちんと権利を主張しましょうと、こういうことを補完するような制度として出てきたと理解しております。
 したがいまして、そのときに説明義務というのは、弁護士にとって重要ではないかと思います。着手金が多いか、報酬金が少ないかという、その内容も含めまして、弁護士の説明義務だろうと思います。そういうことから、今回、説明義務その他については強化した施策を日弁連としては採りたいと考えているのが2点目でございます。
 3点目のことでございますが、格付け機関の問題は、第三部会ではまだ検討していませんので、副会長からもし何かありましたらお願いします。

【日弁連(永尾副会長)】弁護士会として検討しているわけではありませんが、恐らく民間の機関がそういう形でいろいろ出していくという趨勢にこれから動いていくのだろうなと、お話を聞きながら思いました。

【伊藤座長】それでは、先に岡田委員からお願いしましょう。

【岡田委員】この「目安」のアンケートなのですけれども、これはあくまでも現在の報酬基準に基づいてのアンケート結果ですね。例えば着手金は10万円以上というのが今はありますよね。これからその効力がなくなるわけですから、当然変わってくると思うのです。どこの時点かで、またもう一回アンケート取らないといけないのではないか。いわゆる報酬の競争、弁護士間の競争ということでどうお考えになるかというのが質問です。
 あと意見を言わせていただきたいのですが、資料1の報酬見積書の部分ですが、見積書の申し出があった場合ということなのですが、消費者が申し出をするというのは本当に少ないのです。自分では本当は聞きたいのだけど、聞けない。申し出すれば答えてもらえるのだというのが分かっていても申し出できないというような状況なので、私たちの希望としては、ぜひとも委任契約する前に、やはりあなたの事件の場合は、このような流れになって、このような報酬になりますというのは是非とも示していただきたいと思います。以上です。

【伊藤座長】御質問と御意見の部分についていかがですか。

【日弁連(川上弁護士)】まず、最初の現在の報酬規定に基づいて、このアンケートが行われたのではないかということがあったかと思います。確かに今報酬基準は生きておりますので、そういう現行下ではございますけれども、アンケートの取り方としましては、この事例だったならばという、報酬基準にこだわらずに、これがあなただったらいくらにしますかという実勢をお尋ねしました。報酬基準で成果はいくらですかという質問ではありませんので、しかも希望価格でもなく、今までのあなただったらこれがいくらになりますかという、実情的なことをお聞きしたということがあります。
 2点目としましては、先生のおっしゃるとおり、これは公正取引委員会の方も同じ気持ちでございますけれども、アップ・ツー・デートなものにしてくれということですが、次にまたアンケートを取るのが、5年、10年経過してからではなく、できるだけ新しいもの、実勢に応じてやって欲しいということはございます。これに関しましては、できる範囲でもちろん日弁連としても努力していかなくはいけないことだと思っております。
 それから、2番目の御意見のありましたところに関しましては、確かに弁護士は、「先生、先生」と呼ばれているのは、単に、先生というのは偉いという意味でなくて、名前忘れても呼びやすいというだけかもしれません。先生と呼ばれる人にお願いする人から教えてくださいとか、申し出をするというのはなかなか難しいという、先生の御指摘だと思います。
 したがいまして、そういうところでの配慮、その他に関しては、今後弁護士の指導する場合でも、地道に行っていきたいと思っております。

【伊藤座長】それでは、先に釜田委員、お願いします。

【釜田委員】審議会では透明化と同時に合理化ということが出ております。料金の合理性というのは、これだけではなくて難しい点があるわけですが、こういうアンケートの結果、いろいろな数値が示されたわけですが、透明性はいいとしましても、合理性という点では、こういう数値はどういった機能、役割を果たすとお考えですか。個々の方が、今までにこういう料金を自分が請求したと、これは単なる事実ですね。しかし、将来、利用者としては、お支払いする額がサービスとの関係で合理性があるかどうかというところが一番の聞きたいところですね。そうしますと、こういった過去の数値で集められたことが、それとの関係ではどういった意味を持つとお考えになってアンケート調査をなさったのか、その辺をお聞きしたいのですが。

【日弁連(川上弁護士)】合理性と過去の結果との関係、その前にすみません、弁護士の合理化の問題に関しましては、実は今まで弁護士の報酬基準というのは主に経済的利益の大きさでやっていました。しかし、本当の意味での合理性はそうなのだろうか。経済的な部分もあるけれども、手数、どれぐらい時間を使い、どれぐらい頑張ったのかと、それが合理性につながるのではないかと思います。そういいますと、タイムチャージとかこういうものはかなり合理的な部分もあるかと思っております。
 ただ、従来の弁護士の報酬の組み立て方の中に、それなりに経験的に出てくる合理性というものもあったのではないかと思うのです。というのは、基準をいくら高くしていても、現実にそこまでは無理だよというのもあったかと思います。
 今、先生のおっしゃられた合理性を、過去との関係で直接説明してみることは非常に難しいのですけれども、我々の課題としましては、客観的に弁護士の作業量に応じた費用を産出する方法がまだないだろうか、原価を出したりとかできないだろうか、これも鋭意検討していくべきことだと思っています。
 過去の例に関しましては、そういう意味では合理性ということとどう直結するのかということになりますと、必ずしも、私はストレートに答えられませんが、過去の持っていたイメージそのもので、報酬感覚というものはこういうものだったと。これは合理性からいうと改めなくてはいけないものなのか、そのままでいいものかということの一つの材料提供程度ではないだろうかということで、先生のおっしゃられた合理性の問題は今後の課題だと思います。

【奥野委員】今のことに関して1点だけ。我々の学問がそういう学問なので、一言だけお話ししておきたいと思うのですが、我々は、弁護士とか医師とかは、サービスを提供する側とサービスを受ける側との間で情報が完全ではない、あるいはもっと言えば、そもそも誰にとってみても情報が完全ではないと考えているのです。ですから弁護士の場合には、そもそもその人にとっての時間の価値がいくらかもわからないし、そもそもこの事件のために時間をかけるのが合理的かも必ずしもよく分からない。そういう意味で、そもそも提供する側と受ける側で情報も完全ではないし、提供する側でさえ、本当に何時間必要かという合理的な時間の設定さえよく分からないという面があると思うのです。そういう意味で、こういう職業の場合には合理的な価格はなかなか決めにくい。そうだとすると、普通合理的なことを担保するのにはもう一つ別のやり方があって、それは競争でもって、とりわけ情報上フリーにあるサービスの受け手が有利になるような状況を作るのがいいだろう。そうするためには弁護士同士の間での競争がないといけない。そのためには価格が自由であることが大事だということで、いわば競争上決まってくる価格が合理的だと考えた方がよく、価格そのものの合理性を追求しているとかえってまずくなるのではなかろうか。そのように我々は考えています。念のため。

【伊藤座長】ありがとうございました。大変よく分かりました。松尾委員、お願いします。

【松尾委員】意見を述べます。市民のための弁護士報酬の目安を設けるということは、これは利用する一般市民の立場からいえば、非常に大事なことで必要なことだと私は思っておりますが、問題は、新しいこの目安を作ったとしても、利用しやすいものかどうかということによって市民が弁護士に依頼するかどうか、決まるぐらいの重きを持つものと思います。今、おっしゃった内容、この金額の点について、果たして合理性があるかどうかということも大きな問題になろうかと思います。
 ですから、まだ一般市民に対して、アンケートの結果を一つの目安とするためにどのように広報していくか、伝えていくか、決まってないようですが、これによって相当市民の受け取り方が変わってくると思うのです。この目安というのはどういうことなのか、どういう意味を持つものなのか、本当に一般市民のために利用できるものかどうかということが分かるような形のものを今後構築していかなければならないと思うのです。そういう意味では大きなポイントだと思います。
 それから、金額の合理性の問題ですが、例えばそれほど困難な離婚調停でない問題についても、代理人の弁護士が付くことがあります。それぞれの事情がありますから。ただ、資料2によると、着手金だけで見ても、20万から30万ということです。報酬金についても大体そのくらいになっているのですが、中には大して困難性のある離婚調停と思われない事件でも、50万とか60万の着手金あるいは報酬金が請求されるということになってくると、一般の市民としてはどう思うでしょうか。本当に50万も60万もするようなことなのか。果たして請求される金額に合理性があるかどうか。そういったことの説明義務をきちんと果たしていかないと、目安というものができたとしても、それに納得できないような事態も考えられますので、その辺の手当てはきちんとやっていただきたいと思います。
 もう1点の意見ですが、報酬見積の件です。これは弁護士の自己改革というような点から考えてみたら、私は前向きな考え方としては評価いたしますが、ただ、問題として、報酬見積の作成、交付に努めるということだけにしてしまうと、果たして具現化といいますか、実効性があるものになるかどうかという疑問があります。
 一つは、弁護士が果たしてこういったことに本当に積極的になれるのかどうか。それはなぜかというと、現行の報酬等基準規定の第7条からいって、説明義務にしても、委任契約の作成にしても、義務規定あるいは努力規定というものを設けられているにも関わらず、実態はほとんどこれが履行されていないようなことを伺っておりますので、果たしてここで報酬見積の努力規定を設けたとしても、弁護士サイドの方から積極的にこれに取り組んで見積書を出すということが本当にあり得るのでしょうか。ちょっと辛口の意見ですが、そのように思います。むしろ、面倒くさいことはなるべく避けようというぐらいの反発といいますか、抵抗感さえあるのではないかとも思われますので、これは考え方としてはいいけれども、実際問題として本当に実効性があるかどうかということについては、私はいささか疑問があります。
 もう一つは、これは利用する市民の立場からですが、仮にこういった見積ができるのだということになりますと、利用する方からいうと、本当にきちんとした見積ができるのかどうか、ある弁護士に頼んだら見積が出てきたが、別の弁護士に見積を頼んだら何か消極的で出てこない。もう一人の弁護士に頼んだら、これは物件や物品の取引ではないのだから、見積など簡単に出せないとか何とか言われて全く拒否される場合もある。これは義務規定ではありませんので、そういうこともあり得ると思いますね。そういったときに、市民側の反応としては、何だ、報酬見積のシステムはあるようだけれども、実際には何も的確な見積はされなかったではないか。こういった思いになってくると、これに対する不信感が逆に相当高まるのではないか。
 ですから、この報酬見積の問題よりは、その後の委任契約の作成義務に重点を置いた方がいいのではなかろうか。もう一度言います。報酬見積の考え方としてはいいのだけれども、本当に実際問題として実効性のあるものになるかどうか、それは弁護士の問題と市民側の受け取り方の問題があると思いますが、委任契約書の作成義務の方に重点を置いた報酬のシステム作りをされた方が実効性もあるし、現実的に評価できるものになっていくのではないでしょうか。
 そしてこの作成義務が定着して、一般市民も納得する形になった段階で、改めてこの報酬見積の方に踏み込んでいくというような形の方がいいのではないかと私は思うのですが、いかがでしょうか。

【伊藤座長】先ほど中川委員手を挙げられたと思いますが、どうぞお願いいたします。

【中川委員】確かに、これはサービス業に限りませんが、サービスの価格は競争で決まるのが原則なのです。しかし、弁護士の場合は競争がないのです。これは将来は数が増えるなどしてだんだん競争原理が働いて価格形成が行われると思いますが、現在はないと思います。そういう状況で、この目安というのは利用者にとっては、単なるイメージ作りとか、そういうものではなくて、もう少し価値が高いといいますか、機能を発揮するものではないかと思っております。審議会の意見書もそうなっていますね。何らかの目安を作った方がいいのだというのはその辺から出てきているのかなと思いますが、かなりこれは大切なものではないかという認識を持っております。
 そこで、今、このアンケートの結果をそのまま目安にしようという御配慮のようですけど、それは先ほど申し上げましたように単なる統計なのです。ここには価値が含まれていません。サービス業というのは、何で価格が決まるかといいますと、特に弁護士さんの場合は、どれだけ時間がかかったか、つまり時間、難易度、大変難しい事件なのか、かなり容易なものなのか、それから、もう一つは成功の度合いなのです。うまくいったというのか、半分ぐらいうまくいった、全然だめだったというのか。お金を払う方からしますと、この3要素を考えまして、いや、それぐらい払うのは仕方がないとか、それは高いとかということになるのです。
 私は、だから、この「目安」の中に、今言いましたような三つの要素を取り入れたようなものができれば、これは非常に合理性あるいは納得性が出てくると思っております。それを弁護士がお作りになるのは、公正取引委員会がどうこう言うわけですから、それだったら、むしろ第三者を入れた、こういう過去の統計も参考にし、今言いましたような三つの要素を加味したような、そういう何か第三者的なユニットを構成して、そういう人たちがこの程度でいかがなものかという基準みたいなものを作ったらどうかなという感じもいたしますね。
 これは自分の職業のことを他に任せるようで、それは嫌だということはあるかもしれませんが、このようにレンジのある地域差のあるようなものより、利用者の側にとっては説得力のあるものができるのではないかと思っていまして提言しているのですけれども、一つの考え方としてお考えいただいたらと思います。

【伊藤座長】木村委員、どうぞ。

【木村委員】「目安」という言葉はそもそもやめようという方向が基本的には出てきているわけです。「目安」という言葉の問題性を公正取引委員会から指摘されたわけです。今までやっていた目安という形で再びこれをやるということは、先ほど奥野委員も言われたように、競争の設定の中で目安を作ること、それ自体が間違いだと言われているわけですね、報告書の中には。ですから今の中川委員の意見とちょっと違って、これはむしろ中川委員が御指摘されたように、統計的処理の結果出てきて、それは価値判断がないままに出てきたということに意味があるので、ですから、ここにわざわざ「目安」と書いたところに問題が生じてくるのではないかと思うのです。むしろこれは統計的処理の結果出てきた報酬概要とか報酬イメージとか、そういう言葉にしないと、「目安」という言葉がまた独り歩きして、元通りになってしまう可能性があるのではないかいうことをちょっと感じたものですから、そのことを一つ指摘させていただきたい。
 最後に一言だけ言いますと、全般的に私はこの資料の案を見て大変方向性がはっきり出てきて、日弁連としての意欲がよく分かるのですが、ただ、我々の方から、私もアメリカに長くいまして、ともかく弁護士に相談すれば、お金を払うものだと、それは当然で、そして弁護士も相談を受けたら、お金は経費としていただくことになるのは当然だと、そういう黙約というか、当たり前のことです。日本では業務をやっていながら、お金を取れない弁護士もいるというお話を聞いたことがあります。どうもここで言っているのは、私は、弁護士報酬の透明化というだけでなくて、弁護士の業務に伴う事柄をはっきりさせるということ、業務に伴う報酬ですので、全体の文の作り方が、例えば弁護士は法律業務並びに報酬情報の開示というようにして、一番最初のところの法律事務、これは法律の用語で事務ということがあるのだと思うのですが、これも私が見ますと、事務というイメージと、法律業務というイメージと随分違うと思うのです。
 それから、資料1の1ページの「報酬基準の内容」のコラムの中を見ますと、「『弁護士報酬に関する基準』には、少なくとも、弁護士報酬等のシステム・・・」と書いてありますが、これは恐らく言っていることは、離婚とかそういうことなのかなという気がします。例えば、ここも少なくとも業務の内容、離婚の問題、交通事故、遺言作成いろいろありますが、そういうことに伴う弁護士報酬のシステムとか、そういう言葉が必要だと思います。全体的にそういう言葉が抜けていて、ともかく「弁護士報酬」という言葉が出ていて、なぜ弁護士報酬か、それはお仕事をしてくださるから弁護士報酬なので、例えば2ページの「第2 依頼者に対する報酬等説明義務等」というところでも、はっきりここには1行目に「明確かつ平易な表現をもって法律事務処理に関し」とありますが、「法律事務」というか「法律業務」だと思うのですけれども、「説明し、それに伴って、あらかじめ、弁護士報酬等の・・・説明する」という言葉がないと、この文章で読んでいけば、法律事務処理に関するお金のことだけ言っていると読めますが、業務のことを言ってもらたいというのが私の考えです。3ページにまいりますと、一番最後のところで「弁護士報酬等に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない」とありますが、これは大変な決断だと思うのです。「自由と正義」によると、日本弁護士の全体の30%の方が報酬契約をしてないようですが、それに対して、報酬を含めて委任契約書を作成しなければならないものとするという方向性が出たことは大変にいいことなので、これをそういう面で活かして、前向きに日本の司法改革の一端を是非担っていただきたいと、委員の一人として心から思っております。

【伊藤座長】個別的なことについてお答えいただく時間がないと思いますが、一言だけ、全体の意見について、何か御意見があればおっしゃってください。

【日弁連(永尾副会長)】資料3に意見書がございまして、「弁護士報酬については、利用者に目安が付きやすくする等の見地から」ということで提起されておりまして、最後に、「なお、報酬に関し、弁護士会が何らかの規定を策定する場合には」ということで、「目安」という言葉を使ってはいけないとはなってないと考えております。ただ、同じことをガイドラインの中で、括弧内に、確かに「会員間に報酬についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。」という指摘はございます。そこで「目安」というのは一体何なのかという問題があるということと、先ほど中川委員がおっしゃいました、非常に混乱が生ずるのではないかということにつきましては、現在、報酬等の標準を示す規定があるということでやってきたわけで、日弁連、弁護士会としては、こういうものが合理性があるといった考え方が一方であるわけです。今も持っているわけですが、法律から削除されるということを受けての取組みもせざるを得ず、進めているということで、混乱が生ずるということはある意味では必然であると思います。しかし、法律が改正されたときには混乱が生ずるのを少なくするということも、また広報とかいろんなことで工夫をしなくてはいけないと考えております。

【伊藤座長】それでは、いろいろ貴重な御意見をいただきましたが、意見書に例示されております事項についても、規則の制定や、「目安」という言葉自体が大変多義的な言葉なものですから、そのあたり、いろいろ認識が違うのかと思いますが、その目安の作成を通じての弁護士報酬の透明化・合理化についての基本的な考え方、今後の作業の進め方については御理解いただいたものと思います。ただ、規則の制定、目安の作成、これについてはいろいろ御意見をいただきましたので、それを踏まえて、また時期を見て日弁連から御報告をお願いするということでよろしいでしょうか。

(「はい」と声あり。)

【伊藤座長】是非そのようにさせていただきたいと思います。それでは、このあたりで10分ほど休憩をとりたいと思います。どうも御苦労さまでした。

(休 憩)

【伊藤座長】それでは再開させていただきます。次に判事補に多様な法律専門家としての経験を積ませる仕組みの整備の問題について審議をお願いいたします。
 事務局資料17−1にありますとおり、審議会意見が取り上げております仕組みの整備に当たって留意すべき点が四つございます。
 第1は、どのような経験が裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験に当たるかの点です。第2は期間の問題であります。第3は、判事補にこのような経験を積んでもらうことを制度的に担保する措置の問題であります。第4は、一旦裁判官の身分を離れた判事補が裁判官に復帰した場合の退職手当や共済関係等の面での適切な配慮の点ですが、この点は皆様御承知のとおり、既に昨年5月の第4回検討会におきまして、事務方に検討方をお願いしたところでございます。
 そこで本日は、最高裁から審議会意見を踏まえて、第1ないし第3の問題について、どのような検討をされてきたのか、最高裁の検討状況について説明していただいて、これらの論点についての議論をお願いしたいと思います。
 それでは、最高裁から説明をお願いいたします。

【最高裁(小池審議官】よろしくお願いいたします。
 最高裁から現在のこの問題の検討状況につきまして御説明申し上げたいと思います。お手元に「判事補の経験の多様化について」と題するレジュメがございますので、これに基づいて御説明申し上げたいと思います。
 まず、審議会の意見では、レジュメの第1の1の提言がございました。その内容は、要するにこれまでも御説明申し上げてきたとおり、総体として裁判官制度を多様で厚みのあるものとして築いていくために、弁護士等からの任官の促進を図るとともに、判事の主な給源となっております判事補に多様な経験の機会が与えられる、あるいは判事補が得られるようにすることが重要であるという認識に立ったものと理解しております。
 この問題について検討を進めておりますけれども、そこの基本的な考え方は、2のところに書いてあるものでございます。私どもはこの制度を、多様で豊かな知識、経験を備えた視野の広い判事を確保するための制度として、判事補の人材育成システムの一環として位置付けることを考えております。最高裁としては、判事補が法律家として大きく成長していくためには、配置や担当職務のあり方、あるいは司法研修所では一部、二部とございまして、二部が司法修習生の研修、一部ではいわゆる裁判官の研修・研究をやっておりますが、そういうところでのあり方をトータルに検討しまして、人材育成システムを充実していく必要があり、そういった、今申し上げましたものと有機的な関連性を持たせつつ判事補の外部経験、いわば外の風に当たる武者修行ということになりますが、そういった制度のあり方を検討していくということでございます。
 今、申し上げましたことは、いわば判事補の任期は10年でございますが、その10年を通じて、人材育成の点から、人事も含めてトータルの育成を図っていくという視点から、この外部への派遣、いわば武者修行の機会の問題について検討していくべきではないかと考えている次第でございます。
 その基本的な骨格は、次の「○」にございますように、外部経験の機会を、原則として、すべての判事補に与えること、それが第1。第2に、裁判官の身分を離れて、他の法律専門職の職務経験を積むことを基本とすること。第3に、こうした職務経験と同視できる程度に、裁判官の資質向上のために有益であると認められる経験の拡充を図っていくということを骨格としております。要するに幅広いチャンスと幅広いメニューを備えることがポイントと考えておるわけでございます。
 もちろん、この制度の実行に当たりましては、1ページから2ページにございますように、何といっても、判事補の出先、あるいは受け入れていただくところの確保を図るとか、裁判所の事件処理態勢、判事補が外に出ている期間、その代替者をどう確保するかという問題。それから、先ほどもお話がございましたけれども、弁護士になります場合には、裁判官の身分を離れるということになりますので、そういったところの手当て等も、そういういわば外的要因に係る事項も多うございますので、そういった整備状況を踏まえながら推進してまいりたいと考えております。
 具体的にどういう進め方をするかということでございますが、これが第2に示したところでございます。第1次ステップ、第2次ステップと二つの段階に分けて実行することが実際的ではないかと考えております。
 まず第1次ステップでは、要するに派遣数の充実を目標にしたいと考えております。できるだけ早く原則としてすべての判事補が裁判所の外の様々な経験の機会を得られるように、まず外部に派遣する数の増加を図る。その方法はそこに掲げましたように、新しいプログラムの整備、特にこれは弁護士事務所での職務経験が主なものになると考えておりますが、そういったものの整備でございます。また、(2)に掲げてありますような既存のプログラムを活用していくということを考えております。弁護士事務所での経験につきましては、後ほど詳しくお話ししたいと思います。
 既存のプログラムについては、2ページに掲げているところでございますが、もう少し詳しく申し上げますと、別添の資料1というのがございます。そちらを御覧いただきますと、これは現状でございますが、ここにありますように、民間企業、裁判所以外の行政機関等、あるいは在外公館、海外留学というところで、いわば外での風に当たってくるというシステムがございます。現在判事補というのは、1期当たり、毎年100人くらい採用しておりますけれども、大体各期当たり延べ人数ですと50人くらいの者が何らかの形でこういった機会があるということでございます。もちろん在外公館に行く者は海外留学の経験がありませんと仕事になりませんので、ここは重なるところはございますので、40人台、実数でいうとそのぐらいの者がそういった機会を経ているということでございます。
 どのようなところに行っているかというのは、資料2から4に掲げました。これを御覧いただきたいと思います。資料4の留学のところだけ少し御説明させていただきますと、大体3つの種類がございまして、一番上の青い枠で囲まれたものは、海外の特に裁判所等に出かけてくるということでございます。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスと掲げてありますけれども、裁判所や国立司法学院というところに行って、特にそういった国の実際の法曹と接触し、そういった関係機関、裁判所等に行って実務家としての視点で学んでくるというところでございます。これは期間は1年でございます。
 それから、二つ目のグリーンの枠で囲まれたものが、これは大学、ロースクールに行くのですが、大体ここに掲げてある大学、例えばノートルデイム大学とかワシントン大学ですと、既に30年ぐらい、ビジティング・スカラーという形で派遣をいたしております。そちらに参りますと、夏から語学の勉強などした後、9月からロースクールで勉強を始めます。日本法に関する講座などが開設されているところ、例えばブリティッシュ・コロンビア大学等では、せっかく日本から来たので英語で授業してくださいというようなことで授業したりしております。それから、特に5月から6月ぐらいにかけましては、裁判所、法律事務所、そういったところで実務的な勉強もしてくるということでございます。
 それから、赤い枠で囲まれた2年の長期在外研究でありますが、ここはいわゆるロースクールで2年間、研究的な要素で勉強してくるということで、学位も取ってくる、単位を取ってくるというところでございます。こういったものがございます。
 これが第1次的なステップということになりますが、次に第2次的なステップというところでは、今度は期間・内容の充実を図るということでございます。裁判所で原則としてすべての判事補が様々な経験を積むことができる。その期間も2年程度とするために経験先、あるいは期間・内容の充実を図るということを考えたいということでございます。
 次に弁護士の職務経験を積む制度ということでございますけれども、この問題につきましては、レジュメ、第3のところにありますように、判事補が弁護士登録をした上で、弁護士事務所において経験を積む制度という方向で検討しております。
 この制度を円滑に実施していくためには、日本弁護士連合会との連携・協力が必要でございますので、そこに掲げてありますように現在協議をいたしております。受入れ事務所の決定の手順等につきましては、大筋についての共通の認識ができているところでございます。この制度を円滑にするためには、判事補は進んで弁護士の職務経験をするということを選択する必要があるわけでございますので、審議会意見書に指摘されているような待遇面での不利益を被らないようにする設計というものの配慮も重要ではないかと考えております。
 最後になりますが、第4のところにございます制度的担保というところについて申し上げます。審議会意見では、「判事補が、この仕組みにより弁護士、検察官等他の法律専門職の職務経験又はこれと同視しうる経験を積むことを制度的に担保するものとする」と提言しております。制度的担保というのはいささか堅い言葉で、いかにも法律家風の言葉なのですが、要するにこういった外部での経験をするという制度を実効あらしめるための制度とし、骨抜きにしないようにしなさいということであると考えております。
 そういうことでございますので、私どもとしましては、レジュメの第4にありますように、まず、判事補の人材育成システムの一環として、この制度を位置付けておりますが、こういったすべての判事補に原則としてその経験を積む機会を与えることを明確化するため、最高裁の裁判官会議で議決するということを考えております。要するに三権分立の中の三権の一府でそういった方針の宣言を対外的・対内的に行い、そういう意思決定を明らかにするということでございます。これを受けて実施要領等を作っていく、具体的な実施上のルール作りをしていくということを検討しております。こういったものは恐らく通達レベルで対応していくのが適当ではないかと考えております。
 これに加えまして、ここでも御検討いただきました下級裁判所裁判官指名諮問委員会におきまして、この制度によって多様な経験を積んだことを、その判事指名の検討の上で、重要なファクターとすることを確認していただくということを考えております。この指名諮問委員会の構成は11人でございますが、裁判官が2人で裁判所外の委員が9人ということでございますので、こういった運用について、いわば外の目で判断していただくということは、こういった制度を実効的にさせるための一つの保証という大きな機能を果たせるのではないかと考えています。
 以上、意見書に書かれましたことにつきまして、このような検討を進めているということを御報告申し上げます。以上でございます。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。それでは検討をお願いしたいと思いますが、先ほど御紹介しました意見書が指摘している論点に沿った検討をお願いしたいと考えます。
 まず、1番目の論点、つまりどのような経験であればいいのかという論点と、それから、2番目の論点、どの程度の期間が相当かという点、これは不可分一体のものでありますので、一緒に議論していただく方がよろしいかと思いますので、まとめてお願いしたいと思います。ただ今御説明のあったペーパーの中では、「第2 今後の方針」の「1 第1次ステップ」、「2 第2次ステップ」において触れられている部分、どのような経験をどの程度の期間かという点についての議論をお願いしたいと思いますが、まず、ただ今の最高裁に御質問のある方お願いいたします。

【平山委員】座長。

【伊藤座長】はい。

【平山委員】その議論に入る前に、小池さんの方に質問をさせていただきたいことがございます。

【伊藤座長】その質問というのは。

【平山委員】個別の論点に入る前に、総論的な問題として、ご質問させていただきたい。よろしいですか。今の御説明の「判事補の経験の多様化について」という最高裁判所事務総局提出のペーパーに基づく説明を伺っておりまして、よりよい裁判官を求めて、最高裁判所が真摯な取組みをされているということには非常に敬意を表します。よく分かります。それで、今後もこの努力を是非お続けいただきたいと思うのですが、しかし、只今の最高裁の御説明は、本推進本部事務局から資料の17−3、17−4をお配りいただいておりますので、比較検討していただければわかることですが、司法制度改革審議会の意見書が言っておりますこととの間には、ちょっとこれは対応関係にないのではないかという心配をするわけです。つまり、全体としまして、最高裁判所でできることについて、現状の中でできるだけのことを検討したよというお話のように思います。
 しかし、審議会の意見書は「裁判官制度の改革」ということを言っておりまして、これは座長も御承知のように、平成12年の確か夏の、3日間の集中審議がありまして、この資料を見ますと、法曹一元を理念とする考え方の審議委員と、いや、キャリア制度がいいのではないかという考え方の議論が論争としてはありました。しかし、そういうことは、つまり100年後どうなるかは別として、あるいは50年後はともかくとして、今どう対応するかということについて、この審議会としては、裁判官の制度改革を考えようということに私はなっていると思うのです。
 その場合に、審議会意見書が言っている、他職経験というものの位置付けは、裁判所から本日ここに示されているような、これまでの海外留学その他やっておられるものの延長の議論ではないと思うのです。もちろん、これまでの派遣制度なども、今後も、是非続けて欲しいと思いますし、裁判官がこういうことで、より良いトレーニングを積まれることは、私は非常に素晴らしいと思いますので、是非やって欲しいのですが、審議会意見書が提案している「他職経験制度」は、もっと根本的なものではないかと思うのです。すなわち、今、判事補がほとんど裁判官の給源になってしまっているが、それをそのままでいいのかという議論があって、しかし、例えば「法曹一元」と言ってみても、直ちに実現するのは困難である現状を直視し、その対応としてどうするかということを議論した上で、例えば給源のほとんどを占めております判事補の方についても、判事補だけではなくて、他の法律事務も一定程度経験されることによって、十分、いわば給源の多様化、そういうことに耐えられるのではないかということから出てきているので、今までの派遣制度というようなことは、むしろ補完的なものとして、これは議論されているように思うのです。
 ですから、そういう点からいたしますと、小池審議官や金井参事官などの方々の、内部における尽力は非常に分かるのですが、私から言いますと、裁判所全体として改革すべきだというのは、裁判所の努力の中でできることのほかに、この推進本部が名宛人としてやれと言われている部分が私は明らかにあるのではないかと思いますので、そのあたりは区別していかないと、審議会意見書にまともに我々は取り組んでいることにならないのではないかという心配をいたしておりまして、例えば弁護士会への判事補の派遣については、日弁連と鋭意協議していただいていることも承知いたしております。今日もどのあたりがまだ対立点として残っているかというようなことについてはお聞きしたいと思っているのですけど、それはそれといたしまして、それはあくまで裁判所と弁護士会でできることについて協議されているということで、法制度をどうすべきか、審議会が投げかけております基本的な問題については、別な問題ではないかという気がいたしますので、総論的なことで議論をしておかないといけないのではないかという気がしたものですから。

【伊藤座長】平山委員に御意見の趣旨を確認させていただきますが、この最高裁から御説明いただいたペーパーで、一番最初に審議会意見がありますよね。この部分と、2以下の基本的な考え方に続く部分というのは対応してないということですか。

【平山委員】そうです。そのように読めるということです。名宛人が違うといいますか、つまり、小池さんの御説明は、判事補の人材育成というようなことで、非常に力を入れていただいて、それは私も分かるのですけれども、審議会意見が言っている他職経験というのは、もう少し裁判官の重要性というようなことについて重みのあることを考えるということで、今、法曹一元というようなことは神学論争としてどうかというのですが、キャリア制度でも非常に素晴らしい方もいるわけですから、むしろ多元的な給源制度を考えたらどうかというようなことを言っているような気がするのです。
 その中の1つとして判事補が裁判官以外の法律職を一定程度選別の上、本流としては何年間こなしたらどうですかということだと思うのです。そのことで今の裁判官の制度を改革できるのではないかという提言という気がしますので、今日のお話では、今の判事補の方々が、例えば、今までの派遣などで、これを全員に行き渡るようにしたいということにとどまっているのではないかなという気がちょっとするものですから。

【伊藤座長】平山委員の御意見は御意見としてわかるのですが、最高裁のペーパーも、この審議会意見の、判事補に、裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませること、これを制度的に担保することを出発点にして、今日のお話があったわけです。ですから、もちろんそれについて、先ほど御説明されたような内容が、平山委員の視点から見て十分でないとか、あるいは方向としてもっと違った方法を考えるべきだという御意見があるのは分かりますが、それは中身のことで議論していただいた方がよろしいのではないでしょうか。こういう経験ではだめだとか、あるいはこういう期間では十分趣旨に応えてないとか、そういう形で議論をしていただいた方が生産的で、その中で、お立場のようなことを背景にしていただいて、御発言いただければよろしいかと思いますが、いかがでしょう。

【平山委員】結構ですが、何となく単に判事補がいろいろなところに行くということを審議会意見書は言っているのではなく、原則的には、つまり基本として身分を離れて、一定のトレーニングをしなさいという制度をねらっているのであって、それを反対すればそれは別ですけれども、そのほかに補完的な制度としては、そのほかのもありますねと言っているように、私としてはこの資料17−3、資料17−4から読めるものですから。

【伊藤座長】そこは、また小池審議官は小池審議官でお考えがあると思うのですが。

【平山委員】反論があると思いましたので、質問したのです。

【伊藤座長】ただ、それをいくら議論していても、全然中身に入りませんので、むしろ中身を議論しながら、おっしゃるような御趣旨の御指摘をいただければいいのではないかと思いますので、是非、そのようにお願いします。どうぞ、田中委員。

【田中委員】今、平山委員のおっしゃったことの理解の仕方なのですけれども、基本的には、多様で豊かな知識・経験を備えた広い視野の判事補を確保するというシステムを構築するために、その中の1つとして、判事補の人材育成についての検討をやってきているので、そのほか、弁護士任官とかについても別に検討しているわけだから、これはこれとして、このような形で議論すること自体はそんなに違和感ないのですけれども。

【平山委員】それは私も賛成しているのです。

【田中委員】先生の理解は、判事補の人材育成だけに焦点を合わせていらっしゃるけれど、それは前提のための制度として、ワン・オブ・ゼムとして、位置付けられて議論するというのだから、これはこれで検討してよいと思います。ほかにいろいろな選択肢もあり得るというのはおっしゃるとおりだと思います。

【平山委員】いろいろな選択肢というのが、審議会意見書は、基本的にはこれだということを言っているのではないかということを言っています。全部で同じではなくて、基本的にはこれだと言っている部分があって、そのほかに補完的にこういうことも考えられるということです。私は、今おやりになっている派遣とかこういうことは素晴らしいことだと思うので是非やっていただいていいのですけど、それだけでは審議会意見書とは違うのではないかと思うのです。つまり補完的制度について充実させるとおっしゃっている意味ではよく分かるのですが、判事補が身分を離れて一定期間裁判官以外の法律専門職の経験をする制度という基本部分についての考えがまだ十分聞けなかったような気がするものですから、そういう意味です。

【伊藤座長】ただ、進め方として先ほど私申し上げたようなことでいかがでしょうか。

【平山委員】結構です。

【伊藤座長】それでは、そういう御意見がございましたが、先ほど小池審議官から御説明いただいた内容について、どのような経験か、どの程度の期間かというようなことについて、御質問があればどうぞお願いします。どうぞ、岡田委員。

【岡田委員】海外研修のところで、判事補の方が1年か2年留学するとあるのですが、判事になってからの、そういう海外研修というのがどの程度あって、どういう目的で、どのくらいの期間いらっしゃるのか。その辺をお聞かせいただければと思います。

【伊藤座長】小池審議官、もし今おわかりになれば。

【最高裁(小池審議官)】判事の場合には、研修といいますよりは、例えば司法制度改革等がございますと、外国の民事訴訟の迅速化というのはどういう形で進んでいるのかというような研究という形でまいります。ですから短いものは数週間、長いものですと数カ月ということで、それはそれぞれのテーマを持って研究に行くという形になっております。

【岡田委員】ありがとうございました。

【伊藤座長】よろしいですか。

【岡田委員】はい。

【伊藤座長】どうぞ、ほかに御質問があれば。御質問、適宜織りまぜていただいて結構ですので、むしろどのような経験か、どの程度の期間かということについて、御意見をおっしゃっていただいても結構だと思います。どうぞ、中川委員。

【中川委員】私は意見というより経験を少々申し上げます。住友商事で、私がたまたま法務部長をやっていたときに、横浜地裁だったと思いますが、若い3年目ぐらいの判事補を1年間受け入れたという経験がございます。非常にナイーブな方というか、素直な方で、とにかく、最初は本当に世の中のことが分かってないなというのが率直な感想でした。
 彼は毎日朝早く来まして、目をキラキラさせておられるのです。それは私らから見ますと、簡単な契約書を作ったり、法律相談に応じたり、そんなもの何だというような感じだったのですが、その方にとっては、社会で実際に起こっていることと、自分が蓄積している法律知識がそこで結び付くのですね。それが非常に嬉しいというか、まるで砂漠の砂が水を吸収するようにどんどん吸収されていくわけです。それに応じまして、だんだん難しい仕事、一緒にその日から、ワン・オブ・スタッフということで、お客様扱いを一切しないよということで、指導員と一緒にあちこちの営業の法律相談に応じたり契約書を書いたり、中国にも行ってもらい、最後はアメリカにも1カ月ほど出張してもらいまして、1年間終わりまして聞きましたら、とにかく大変ものすごい経験ができましたと言っていました。
 たまたま最高裁の人事局長さんにそのフィードバックということで、どうでしたか、という話を聞きました。多少リップサービスもあったと思いますが、裁判所の3年間には値しますというお話でして、「ああ、そうかと。それはよかったですね。」ということを申し上げたのですが、優秀な方を送っていただいたということもありましょうけれども、やはり実社会で何が起こっているか。それが法律として、どのように結び付くのかということを実感された点は大変大きかったのではないかと思います。
 それから、今現在、また、住友商事の話ですが、法務部で1人受け入れておりまして、これは東京地裁の刑事部の2年生ぐらいの方ですね。4カ月間の研修でもう終わりのようですが、たまたま御本人に私はちょっと聞いてみました。そしたら、彼女は、もう楽しくてしようがないという状況なのです。何が一番裁判所にいるのと違いますかということを聞きましたら、いろいろあるけれども、一番自分たちにないもので実感できたのは、コスト・マインドですというのです。世の中がコストというものに基づいて動いているのだというのが、本当に実感できたということをおっしゃっていまして、これは裁判の迅速化というのも、なぜそうしなければならないかというのは本当によく分かったとか、そういうことを言われていました。民間企業だけではないと思いますけど、そういう価値観の違う世界で、しかるべき期間、研修をやっていただくことは大変いいことであって、これは何も裁判官だけでないと思うのです。弁護士だって必要ではないかと思います。そういう感じを非常に強く持っておりまして、実際に起こっている社会現象、あるいは価値観の違い、文化の違い、そういうものを吸収していただくというのが本来の目的ではないかと思います。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。どうぞ、木村委員からお願いします。

【木村委員】今の中川委員の言われたこととちょっと重なってきますけれども、やはり価値観の違う世界で、今、最後に「文化」ということも言われましたが、暮らすという経験は、例えば海外留学あるいは海外での研修ということに反映されると思うのです。私は、日本の裁判所、司法内部におられる方は日本人だけを相手にするのではなくて、これからは外国の方々が数多く来日し、居住すると思われますので、そういう人たちの価値観も分かるような人材がどうしても法律家として必要になってくると思うのです。
 ですから、そういう意味では、海外での経験というのは日本人として当然のことにならなければいけない。特に法律専門家としては、違った文化圏の中で生活し、その中で裁判の制度を学んだり、あるいは単位を取ったり、研修したりするということは、いわば法律家の素養の一環として、特に判事補の時代に是非経験していただきたい。そのためには大体2年ぐらいが必要ではないかと思いますので、2ページの真ん中のところの「既存のプログラムの活用のための環境・条件の整備」の3番目に海外留学のところですけれども、これは今までのがあるけれども、積極的に評価していいと思います。私もハーバードにおりましたときに、日本の裁判官の方が来られまして、大変にまじめに熱心にハーバード・ロースクールの講義に出たり、地方の裁判所のセッションに出たりして、また法律家の方と意見を交換するのも目の当たりにしましたけれども、大変に真剣にまじめに取り組んでいる様子に、いろいろ私自身も教えられたわけですが、そういう意味から、この海外留学経験のプログラムというのは積極的に評価していいのではないかと私自身は思うのです。それが意見です。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。では小貫委員お願いします。

【小貫委員】私は意見ではなくて質問なのでございますが、よろしいでしょうか。
 経験内容としてどれがいいかという議論する場合に、受入れ先との関係が非常に大事になってくるのだろうと思います。いろいろな外部経験の現状をこのペーパーで見させていただきますと、ここならば裁判官の知識と経験を必要として、むしろ先方から頼んでも来ていただきたいと思うだろうなと思えるところもあるし、あるいは、これは最高裁の方からよく頼まないと、なかなか受け入れていただけないところもあるのかなというところもあるように思うのです。
 民間企業の場合は、役立ったというのは企業の側ではなく、恐らくこれは研修に行った人が役立ったという意味だと思うのです。私が聞きたいのは、実際にこういう受入れ先を開拓する御苦労とか、そういったところの現状を教えていただきたいということです。

【最高裁(小池審議会)】私は直接担当しておりませんので伝え聞くところですが、これはそれぞれ経済界の方ですと経団連や商工会議所、そういうところを窓口にしていろいろお願いしております。これは率直に申し上げまして、受け入れていただく企業の方では非常に御負担があると思います。実際、裁判官といっても派遣される企業のお仕事内容というのは外形的なものしか分かりませんので、いろいろ一から教えていただくということになります。大体導入研修のようなものをしていただいたりもしておりますし、実際上プログラムをいろいろ考えていただいていますが、かなりの方からいろいろしていただけるということで、恐らくそれを企画される方にも御負担をおかけしていると思います。実際上、これは主に研修所とか人事局が当たっていますが、やはり随分お願いをしてやっていただいているということです。
 ただ、ちょっとお聞きするのは、1ついろいろ仮説を立てて、とことん考え抜くというような裁判官の仕事の仕方というのは、ある意味で、企業の方ですと時間との勝負もありますので、落としどころ、落ち着き先というところから逆算して物事を考えていくというところがありますが、そのような経済合理性という問題と、私ども法律家の場合には手続合理性なり正義ですとか、そういうものが常にバックボーンとしてありますが、そこの思考の違う者がおるというところは随分参考にしていただけるのではないかと思います。
 私も個人的に金融機関で知り合いの人間がおりまして、そこを聞くと、今、リーガル・リスクというものが非常に問題になったときに、なるほど判事補が言っていた、ちょっとあのときは理屈っぽいと思ったということが、あるいは非常に正しいところを突いていたのじゃないかという話があったというところもありますので、少しはお役に立っているのではないかというところがありますが、バランスをみれば、これは企業の方に大変御負担をおかけしていると思います。そういう意味で、これから開拓していくときには、そこのところは十分わきまえてお願いしていくことが必要だと考えております。

【伊藤座長】佐々木委員から、先にお願いします。

【佐々木委員】今の小貫委員の関係で、民間企業と留学の点についてちょっと触れさせていただきたいのですけれども、私自身、当時、大阪高裁におりましたので、関西の企業の一部の方々にいろいろなお願いをしに行ったわけでございます。こういう開拓をしていく場合、物珍しいという点が関西ではございました。
 私としては送り出すという立場にあったものですから、東京だけではなしに地方のそういう大企業、松下とか日本生命もございましたですけれども、そういうところにお願いをして、関西でも判事補の派遣ということで出て行くようにしていただきました。その結果、企業の人事部長辺りに伺いますと、今、小池さんがおっしゃったそのとおりで、非常に堅いコアなしっかりした面を持っているということでした。様々な企画をやらせたり、あるいは生命保険では、新たな商品を作らせる会議に出席させて新たな保険の種類についてチームを組んで検討したり、いわゆる保険免責というところがありますが、その辺のことを、法的な枠組みについて立証責任とかいろいろ検討して約款を作成することに加わったというようなことを伺いました。そのように企業の方から見ても、今、中川委員がおっしゃったような印象を持っておられると思います。
 他方企業派遣が判事補に任官したものに与えるインパクトは非常に大きいということは明らかなところであります。今月も予定しているのですが、こういう国内の企業に出て行った人たちを集めて、大阪のほか広島など企業に出たことのない判事補にも来ていただいて、出た人に経験を報告してもらう会を催すことにしております。場合によっては、その人事担当者なども来ていただくことがありますけれども、非常におもしろいようで、判事補諸君が質問をしてくるというところがございます。そういうことを一つ紹介させていただきます。
 もう一つの留学でございますけれども、この前、若い人たちの留学についての意識を私自身で尋ねたのですけれども、行政部に属していた人にとっては、行政事件が海外でどういう形で門戸を開かれた形になっているかとか、あるいはどういったシステムになっているかということを本当に勉強したいのだと言っていました。今までやってきたことをもう一度海外で学び、違う目で見てみたいということもはっきり言っておりました。
 そして、また、留学から帰ってきた方ですけれども、大阪地裁では医事部を創設したわけですけれども、医事部あたりからアメリカへ留学した人がいるわけですが、アメリカのアリゾナ州で医事訴訟を全般的にどのようにやっているかというのを持ち帰りまして部内に還元しております。このようなことは、我々にとっても非常に新しい新鮮な角度になります。あるいは、ドイツのハンブルグへ行った者もおりまして、ここではADRが医事の関係で行われているわけですけれども、こういう問題について、新たな視点から、我々にないものを教えてくれます。本人もそういう諸外国の文化あるいはそういうところで暮らしていく辛さに耐えて、木村先生がおっしゃったようなところもあるわけですけれども、それを乗り越えているということで一段と大きくなっているのが実情がございます。
 したがいまして、この問題については、単にこれが既存のプログラムというよりも、これを最大限に増やしていただいて、いろいろな方々に機会を与えていただく必要があります。もちろん限りはありますけれども、そういうことでシステム化していただきたいということです。それを徐々にステップ1、ステップ2という形でやっていただいて、これらを増やしていただければ、私どもの世代の判事補とはおよそ違う状況になるでしょうし、若い判事補諸君にとっては、新たな専門性ですとか、あるいは国際性ですとか、そういうものを身につける度合いも格段違ってきます。新たな判事補の姿を私は期待しているわけでございます。そういう趣旨でこれは非常にいいプランであると考えております。

【伊藤座長】岡田委員、お願いします。

【岡田委員】民間企業のところで、資料3の販売業の例の下の方で、本社消費者サービス部で、クレーム処理をしたというのがあったのですが、こういうことを是非判事補の方には経験していただきたいし、可能かどうかは分かりませんが、消費者センターにも来ていただければいいなと思ったのです。審議会の意見書の中で、裁かれる者と裁く者という言葉がしきりに出てくるのですが、裁かれる者は、いわゆる弁護士さんだけではなくて一般の国民だろうと思うのですね。
 今回の司法制度改革というのは、一般国民から見て身近で分かりやすい司法制度が目的ですから、大いに法曹三者以外の部分の体験をしていただきたいと私たちは思うのです。もちろん弁護士の経験も大事だと思いますし、やっていただきたいのですが、若いうちにより幅広いいろいろなことを経験していただきたいというのが1つ。
 それから、平成9年に、私たち消費者センターでは画期的な集団訴訟になったのがココ山岡事件です。これは36地裁と2支部で集団訴訟が提起されたのですが、この案件の東京地裁の裁判長が、途中で4カ月か3カ月間、ドイツへ研究に行かれたのです。それで帰ってきてからのその裁判長のやり方が画期的だったのです。結論としては、東京地裁で全国の裁判の和解提案書、それが提示されて、各地裁はそれに基づいて合意するというようなやり方をしたというので、原告が消費者、被告が信販会社だったのですけど、両方ともが大変画期的な和解というか訴訟であるということと、それからそのやり方に関して、とても好意的というか感動しているのです。
 その判事さんは、たまたまドイツに行ったからではなくて、もともとそういうお考えの方だったかもしれないのですが、今までにないやり方をしたという意味では、原告の方の弁護団もすごく評価していたものですから、こういうのもやはり海外に行くことによって、私たちも知ることがでるし、是非とも若い判事補の方には、どんどんこれから海外へ行っていただきたいし、先ほどもありましたが、弁護士の方にもやはり行っていただきたいと思うのですけど、期間については2年ぐらい行っていただきたいと思います。判事の場合が研究で何カ月ということですので、長期で行くとすれば判事補のときしかないのではないかと思います。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。どうぞ、松尾委員お願いします。

【松尾委員】裁判官の問題は、法律知識、裁判上の法技術といったことについてはプロという評価は高いと思うのですが、一方では、一般の市民から見て社会常識の面でずれているのではないか、市民感覚からかなり乖離しているのでないかというような問題がずっと続いてきていたわけです。私の経験でも、判決などに接しますと、中にはこの裁判官は何を考えているのだろうと思ったこともあります。確かに法的には間違いないのだろうけれども、この裁判が何を意味するのだという観点からとらえてみると、また違った判断が出るのではなかろうか、そういう考え方はなかったのだろうかという思いを持ったこともあります。それが一般市民から見れば、裁判官あるいは裁判自体に対する批判的な感覚で見ていたものと思われます。司法に対する不信感というか、あまりにも一般常識から外れているのではないかとか、一般の市民感覚からかなり乖離しているのではないかというような言われ方をされて来たと思います。一般的な常識とは何かということになっていくといろいろな問題があるのでしょうが、少なくとも普通の人が、法律に詳しくない普通の人が考える考え方とは違うのではないかという思いはあったかと思うのです。
 そういう意味で、判事補の段階で、裁判官の職務を離れていろいろな経験をされることは非常に重要であるし、その経験を活かして、新しい司法、新しい裁判官の在り方といいますか、先ほど「新たな判事補制度」とおっしゃいましたが、私も全く同感でありまして、他職経験をすることで、市民感覚のある優れた判事補像を築いていって欲しいと思うわけであります。
 私も、随分前になりますが、かつて判事補を受け入れて短期間のおつき合いをした経験があります。そのときの経験を詳しく述べるつもりはありませんが、先ほど中川委員がお話になったようなことと全く同じでありまして、裁判官としてマスコミというものの使命感が分かったということで、単に原稿を書くとか、放送するとか、そういう技術的なことではなくて、取材し報道することがどんなに大事なのか、報道の自由というのはどういうことなのかがよく理解でき、よい経験をしたということでした。そういうこと自体が、単に法律経験をするというだけではなく、広い視野で今後の新しい裁判に向かっていけるのではないかと痛感されたと思います。
 そういうことで弁護士事務所に行って弁護士を経験するということも、私は基本としては大変大事なことだと思いますし、それは大いにやって欲しいと思いますが、それだけではなく、裁判官を離れて民間企業へ行くなり、海外留学するなり、そういうことによって、いろいろな経験をし、文化の違いも肌に感じ、そして、今後の自分の裁判なり、あるいは大きく言えば、司法制度をどうするかといった新しい広い視点を持ってもらうという経験を積むことが重要ではないかと考えます。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。それでは、先に釜田委員からお願いします。

【釜田委員】私はいろいろな経験をするということについて、これはあらゆることを経験しなかったら判断できない、判事としての職務を遂行できないということではないと思うのですが、それがなかったら務まらないということであれば、生涯の時間は全部そちらに費やされるということになりかねませんから、ちょっと問題があると思うのです。私は判事補10年間の時代に自由な時間といいますか、社会自体を客観化してみたり、突き放して考える時間、そういうものを1年なり、2年なり持ってもらうというのがいいと思うのです。判事になられてからいろいろな問題に直面されるわけですが、そのときのエネルギー源になるといいますか、そういった時間を是非持つべきだと思うのです。
 ですから、こういったいろいろな場所が候補地として、今までにも挙がっているわけですが、その場へ行って疲れ切ってしまうというような状況が出るとすれば、私はその辺はよく考える必要があると思うのです。それはどういうことかといいますと、これは質問にもなるわけですが、現在の判事補の方が10年間裁判所で勤務された場合に、どの程度そういう自由な時間を持てるのか、もう疲れ切ってしまっているのではないかと思うのです。言いますと、どんな社会でも、どんな組織でも忙しくなってきますと若い方へ若い方へ仕事を回す傾向があるわけです。それで便利ですから使い捨てにするという、使い捨てという言葉は悪いですが、どこでもそちらへそちらへと負担をかけさせ、それですり減らしてしまうということがあると思います。ですから、この前から言っていますように、社会が非常に多様化して、裁判所で扱われる事件の数が増えてくれば、全体の判事職が増えない限りは、一番若手のエネルギーのあるところへ、難解な作業といいますか、そういうようなものを押しつけると言ったら悪いですが、そのようなことになりがちなのかなと考えたりするのですが、現状はどうなのでしょうか。
 もし、そういうことがあるのであれば、私は2年間ぐらい、海外、国内を問わず、現場から外してあげて、集中して何か自由な時間を使うという時代があってもいいと思うのです。判事職というのは、当事者の方の言い分を十分に聞かなければならないわけです。人の意見を聞くということは相当心身ともに健全なエネルギーがないと私は務まらないと思うのです。私はそれがちょっと心配なのですが、現状はどうなのでしょうか。

【最高裁(小池審議官)】私も判事補のときは主観的には忙しいと思っておりましたけれども、今、裁判所で考えていますのは、判事補の時代は合議事件というところを中心に育てていくということです。合議事件というのは事件としても重いものでございますけれども、論点もたくさんあります。そういったところで、関連する判例は皆調べてみるとか、学説についても皆渉猟して考えてみる。そこで裁判官の生き方というのは、ある問題に遭遇したときに仮説をどれだけ立て得るのか、そしてそれが証拠との関係、法律との関係でどれが合理的なものなのかということを選んでいって、具体的妥当性を探ることが大きな仕事ですが、そこはまだスキルとそういうものが十分でないときはゆっくりと時間をかけてやる。また、合議の中で、自分の立てた仮説、あるいは選んだ説というものが正しいかどうか、結論が正しいかということを議論する。ここは時間的ゆとりを持って育てるという1つの方針がございます。
 そういう意味で、仕事を押しつけるとか、そういうようなところはないと思います。そこで合議する中で一番、これも前も申し上げましたけど、裁判官にとって重要なのは、事々紛争の本当のところはわからないが、そこを謙虚に聞いた上で、最後は判断するという剛直さが必要になります。謙虚さと剛直さというものが同居するという難しい作業です。その上、裁判長がやるというのは、最後は法廷の世界というのは論理だとか法とか証拠ということでしますけれども、実際うごめいている社会では、そういう論理的合理性というところだけで物事が決まるわけではなくて、あるところでは力で決まり、あるところでは経済合理性で決まり、あるところは地縁・縁故で決まります。紛争で苦しんだ方が法廷に出て来ますが、そのときにそういうところで苦しんできたね、でもここでは道理の、要するに論理的合理性の世界で思う存分主張してもらって、その証拠で判断しますということになるわけです。だから一度紛争のありようというものを、すぐ論理的合理性のところに飛びつくのではなくて、一度飲み込んでやるということです。判決なり、有罪判決を言い渡すというのは、まさに裁かれる人が本当に納得していただくというのはあり得ないかもしれないし、ストンと落ちるのは何十年先かも分かりませんが、そこを目指すというところは、やはり余裕のあるところでやっていくということで、そういう意味では合議は大事にしますし、判事補育成はそういう理念です。
 そういう意味では、外に出るというのは、そういう余裕のあるところもいいでしょうし、非常に忙しく、コストとか時間というところで勝負する世界というのを見てくるというのは、それはそれで判事補にとっていいと思います。高い山に登っていくときは、山の登り方はいろいろあるので、忙しいところに行くのもいいし、留学ということで、一度研究生活に近いところに戻るのもいいと思います。裁判官の仕事というのは、頂上というのは誰も見極めた人がいないのです。10年たつとこの辺、20年たつとこうと、永遠に見極められないのですけれども、一生懸命上に登ろうという世界ですから、どういう登り方もあっていいと思います。そのような思想でもって育てているということでございます。長くなって恐縮です。

【田中委員】裁判官の他職経験について、既存のプログラムの発展を考えていらっしゃるわけですけれども、判事の給源として大学の法律学の教授、助教授もありますし、審議会の意見書の中では、弁護士、検事と並んで大学の学者も出ているわけです。せっかく法科大学院との関連で、現役の裁判官、検察官の派遣の促進をするための手当てもしていただけるようでございますので、そういうことを考えると、法科大学院で教えるというのも、判事の一つの給源として、このプログラムの中に入れて、是非充実する方向でやっていただいたらと思います。それが、今、釜田委員がおっしゃったように、自由な時間を持ってもらうのか、忙しくなるかというのは、昔の大学とはイメージ違っているので、大学も結構忙しいですけれども、違った視点から物事を見ていただくということでは、これは既存のプログラムの活用だけではなくて、新たにプログラムの中には、是非法科大学院への教員の派遣もより良い判事を確保するための一つのチャネルとして入れていただきたいと思います。裁判所のためにもなるのではないかと思いますので、是非考慮いただきたいと思います。

【最高裁(小池審議官)】そこも含めて検討してまいります。

【田中委員】よろしくお願いします。

【伊藤座長】どうぞ、木村委員。

【木村委員】資料4ですけれども、判事補の海外留学研究等の派遣状況に関連して、先ほどのお話では40人ぐらい動いているということですが、お伺いしたいのは、これは基本的にそういうシステムがあって、そこに手を挙げて、公正な試験をやって、目標をはっきりさせて、それで選ばれて行くのでしょうか。それとも、君行ったらどうかいというようにして、上からの指示があって行くのでしょうか。そういう今までのこのシステムとして海外留学研究、裁判所派遣、大学派遣、長期滞在がございますけれども、それらに何か共通のシステムがあって海外留学ということがあるのでしょうか。例えば、これからそれを多様な経験の一つとしてカウントする場合、ただ行くというだけではなくて、何らかの意味のサーティフィケートなり、あるいはディグリーなり、何か成果を上げて帰ってくるということを担保にした方がいいのではないかと思うのです。その二つの点についてはどの様にお考えでしょうか。
 それから選考の過程をどういうふうにやっているのでしょうか。第2に、帰ってきてから、先ほどからいろいろ岡田委員の話もあって、うまく日本の裁判所にミートするような形で効果が出てきたような話もございましたが、帰ってきてからどうなったのかということについてもお伺いしたいと思います。
 それから最後にお伺いしたいのは、これを見ますと、これは当然なことなのですが、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、あとカナダが入って、これは我が国としては法的な制度の上でも学ぶべき多くの点を持っている先進法律諸国に留学している形になっているかと思うのですが、これから、日本が、アジアの中でのいろいろな人権問題を扱って、アジアの中で共同のコミュニティみたいな組織ができれば、人権裁判所みたいなところで仕事をするような方々も必要になってくるかもしれません。したがって、これから相当先を見通して、例えば中国とかベトナムとか、アジア諸国に行くようなシステムを作り、そういう人たちも養成していかなくてはいけないと思うのです。その辺の三つの点につきましてお伺いしたいと思いますが、いかがでございましょうか。

【最高裁(小池審議官)】留学の関係は、基本的には語学試験で選考していくというのか原則でございます。それから、2番目の学位という点でございますが、かつては各大学に行くときには、ちゃんと単位を取って、ディグリーを取るコースがあったのですが、死に物狂いで、本当に大学と自宅と図書館としかいないというような形で、頑張ってみんなやってきてくれるのですが、果たしてそれがいいかどうかというところで、しばらく前にそれを少し緩めまして、むしろ実務家として行くので、単位とかそういうところは取るのは結構だけれども、それは必須のものとはせず、むしろ、裁判所やローファームで、もう少し実務家としてのものを研究してくるようにしました。ただ、それだからといって緩んではならぬというところで指導しています。特にビジティング・スカラーで行っているところは大体継続的に同じ大学ですし、受入れの先生が決まっており、ずっと立派な諸先輩方だったというように言われておりますので、さぼるということもありませんし、テーマを持って研究に行っていますので月に一回はそれについての報告をしてもらうということで頑張って来てもらっていると思います。
 それから、帰ってきてからということですが、これはそれぞれ自分の行ってきたところについては、研究の結果をまとめて報告したり、雑誌に論文を書いたりしますし、あとは個々の事件の中で、先ほど岡田委員から御紹介がありましたけれども、恐らく御紹介された判事は、若い判事補のときにドイツに行っていて、判事になってから再度数か月間ドイツに行って研究してきたと思いますが、彼の仕事振りを見ていますと、常にドイツで勉強してきたということがベースにありまして非常に柔軟なのです。一つの手続運営というところでも、従来のものではなくて、現在の日本の法の中でも、ここまではできるはずだ、民事訴訟の母国がドイツというところがありますのでここまでできるはずだという幅を持った運営をしていってくれます。そういう形で活きていると思います。
 それから、アジアの諸国というところについては、今のところ留学という形はございませんが、現在、2代にわたって、ベトナムの法整備支援、これは法務省は非常に熱心にされておりますけれども、裁判所からもそういう若い人を送って、最初の人は、半年という約束だったのですが、引きとめられて結局延びてしまったのですが、今、2代目を送っているということです。これからのことを考えますと、そういうところに力を入れていくべきであると考えます。これは私どもは、担当セクションではそういう意識を持って検討を進めているところでございます。

【木村委員】アメリカで、私の知っているロイヤーでは、向こうにいる間に、非常に短期でも、地元のバー・エグザムも通って帰ってくるというように非常に優秀な人がおられるということが話題になったりしていますので、そういう点で、何らかの資格というのは、本来はあった方がいいかなという気がしましたものですから、一言言わせてもらいました。

【伊藤座長】どうぞ、奥野委員。

【奥野委員】それほど大きなことを言いたいわけではないのですが、一つは、多様で豊かな知識・経験を備えた判事を確保するという趣旨からいいますと、判事補の時代も大事なのかもしれませんが、本来はその前の若い青年の時代にいろいろな多様な経験を積むことが非常に大事で、今は日本はそれこそ終身雇用みたいな話がありますけれども、これからは多分そういうものはだんだん変わってくるでしょうし、法科大学院ができたらば、一遍どこかに職を得た人がもう一遍こういう分野に戻ってくるというようなこともあると思うのですが、そういう人をどのように、例えば積極的に採用するとか、それから、判事補になってからの、こういう他職経験とどういうバランスでお考えになるのかというのを一つはお聞きしたいのです。
 もう一つは、既存のプログラムということで、資料をいただいていますけれども、資料をちょっといやらしく眺めると率直に言って既存のプログラムの中に二つあるのではないかと思いました。一つは、例えば行政機関等というのが、まずは裁判官とそんなに違うのかなというのが一つありまして、もっと言えば、国税不服審判所なんていうと、これはある意味で裁判官に近いような気もするわけです。あるいは在外公館でも、例えば国連とかジュネーブというのは、これはひょっとしたら、司法に関するかなりの知識を必要とするか、向こうの赴任先で司法に関する知識を助言して欲しいがために行くのであって、あるいは行政機関もそういう部分があるのではないかと思いました。それに対して民間企業とか、海外留学というのはむしろそうではなくて、本当に裁判官にとって目を広げたり、視野を増やすという方向でいくのかという違いがややあるようにも思うのです。
 そういう意味で言うと、この辺のバランス、民間企業と海外留学と行政機関と在外公館、あるいは今後弁護士とか法科大学院とか増えるのかもしれませんけれども、そこら辺のバランスをどうお考えになるのか。一番最初に申し上げたこととの関連で言うと、そこと司法試験に合格する前のいろいろな経験とをどのようにバランスさせていくのか。その辺について、何かお考えがありましたらお伺いしたいと思います。

【最高裁(小池審議官)】まず第1の点は委員のおっしゃるとおりで、裁判所に入る前に、多様な経験をしていただくことは非常にいいことだと思います。ちょっと古い話で恐縮なのですが、私が裁判官になりました二十数年前というのは、そのときの裁判長クラスというのは経験がばらばらでした。陸士を出ているとか、海兵を出ているとか、要するにばらばらで、年齢もばらばらなのです。ですから、そのときに裁判官の多様性というのはあまり議論がなくて、もともと多様な方がいらっしゃいました。それだけに合議をしたときの議論というのは非常におもしろうございました。私も最初は刑事の担当でしたけれども、軍隊経験のある方が法廷でやるときの腹のすわり方というのは死線を越えてきたというので違うなというような勉強にもなりました。ただ、その後、ちょうど私ぐらいの世代が、今、裁判長の世代なのですが、やはり非常に経験も同一化してきているということで、これからは採用の段階でいろいろな方が来るというのは非常にいいことだと思っています。そういう意味で、先ほど平山委員からありましたが、給源の多様化というところは、やはり裁判所として目指していくべきであると思います。あまりモノトーンの組織というのはひ弱になると思いますので、そこは考えなけばいけないと思っております。
 それから、既存のプログラムをどのようにするかというのは、これまた今度新しいプログラムとの関係で、またその割合をどうしていくかというのは考えていく必要があると思います。
 それから、裁判官の、現在、行政官に出ているところも、これは例えば外務省に行ってODAの関係をやるとかという形で、かなり裁判官とは違う一種の企画的な要素ですとか政策決定ということでかなり異質な仕事をしていると思います。それから法案の立案というのも、これも裁判の仕事とはかなり違う仕事でございますので、そういうものの異質性があります。在外公館へ出て、例えばジュネーブなどへ行っている人も、これも全く違う経済交渉なんかも担当しているということでございまして、かなり様々なものと考えます。むしろ私どもも様々なところがいいのではないかということで、そういうところの交渉はしているという状況でございます。以上でございます。

【伊藤座長】それでは、個別的なことについては御注文、御意見がございまして、是非最高裁にはそれを十分尊重していただきたいと思いますが、大きな方向としては、先ほどの第1の論点、第2の論点については、海外留学あるいは在外研究の意味も含めて、最高裁の検討内容を了解していただけたのではないかと思います。
 そこで、第3の論点、つまり制度的担保のための措置について、先ほど最高裁のペーパーでは、第4のところに記載があったところで、最高裁判所の裁判官会議の議決、それから下級裁判所裁判官指名諮問委員会というような仕組みで制度的担保を図るというお話がございましたが、これについて、まず御質問があればお願いして、その上で御意見をちょうだいしたいと思います。どうぞ、木村委員。

【木村委員】先ほどのお話ですと、これは大変画期的だと思うのです。すべての判事補にその経験を積む機会を与えることを裁判官会議の議決により明確化するという、それは通達という形にするというようなお話で、その可能性があるということでしたが、その通達に拘束される対象は誰になるのですか。この通達というのは一体どういう効果を持っているのですか。

【最高裁(小池審議官)】まず制度的担保というところは、何を担保するかということですが、判事補に多様な経験の機会を持たせるということで、最高裁がそういうことを責任を持ってやっていくべきであるというところがコアな問題だと思います。そうだとすると、最高裁が責任を持ってやるということをどうするのかということについては、最高裁判所の裁判官会議で議決をするということになります。そこから一種の組織としての責任が生ずるということです。そのことによって、すぐ何か法的効果が生ずるという関係には立たないでしょうが、ただ、実際上それを実施していくには、ルール化する意味で、どういうセクションでそういう計画を立て、どういう手続でもって外に派遣するかということをきちんと決めなければいけません。それは非常に実務的なものでございますので、最高決定機関である裁判官会議の議決を経て、それを実践的・実務的ないわば実施要領というものを通達レベルで定めていくということになります。通達でございますので、これは状況に応じて柔軟に臨機応変に改善していくという形をとるのが適当ではないかという趣旨でございます。

【木村委員】ということは、その通達というのは、最高裁判所事務総局の担当者の方々を拘束し、かつほかの官庁の方々に、例えばこういうことでやると、それこそ簡単に言うと、財政的措置が必要になってくると思いますので、新たなプランでやるということについても、例えば財務省への通達が非常に重い意味を持っているとかということになってくるのですか。

【最高裁(小池審議官)】それは内部的にどういう形で事務を進めていくかというルール作りということです。それに伴う様々な財政的なもの、あるいは外との交渉というのは、またしかるべきセクションで進めていくということになろうかと思います。

【木村委員】それに関連して言いますと、大変にこれは素晴らしいことなので、私としては、最高裁判所の特に広報が、一般の国民が一番目にしやすい新聞・テレビその他のマスメディア、あるいは裁判所で出しているいろいろな広報誌に非常に積極的にアピールしていただくようなことを考えていただきたいと思います。内部だけで通達を作っておしまいになるようなことにならないように、それこそ担保していただきたいのですけれども。

【最高裁(小池審議官)】そこのどういう制度で、どういう意思決定をし、どういう運用をしているかというのは、通達というのはあまり読んでもおもしろうございませんので、よく分かりやすい形で、例えばインターネットに紹介するとか、あるいは裁判所の広報誌がございますので、そういうところに載せていくということはまた検討したいと考えております。

【平山委員】よろしいですか。

【伊藤座長】平山委員、どうぞ。

【平山委員】冒頭に質問したこととも絡むのですけれども、制度的担保というのは、この問題に関する審議会意見書の一番コアの部分ではないかと思っておりまして、最高裁の御提案では裁判官会議の議決ということでやっていただいて、また下級裁判所裁判官指名諮問委員会の考慮要素にするというようなことが書かれておりますが、審議会意見書は、むしろ判事の任命資格の問題について、きちんとこの際議論して欲しいということを言っているように私は思うのです。
 それはそうしますと、名宛人はこの推進本部ということになるのだろうと思います。裁判所でそれを決めるということになりますと、最高裁判所規則というのもあるのかなと思いますし、審議会の当時の議論では規則でいいのではないかという説もあったように思っております。つまり最高裁規則とか法律ということで、法律となりますと裁判所法第42条の改正と思いますけれども、それについては裁判所で直接できることではないので、裁判所でできることとすれば、裁判官会議の議決ということで、それは非常に大きなことと思います。それから、今度新しくできる下級裁判所裁判官指名諮問委員会での考慮要素というようなこともお出しいただいているのかと思いますが、例えば指名諮問委員会で重要な考慮要素といいましても、原則ですから、例外の方があって、他職経験してない人にも非常に中身は優秀な方もおられると思います。そういうのを果たして考慮要素ということで縛りがかけられるのかということになりますと、これは制度的担保にはならないのではないかという気がいたしまして、むしろ、そこはもう少し考えていただいて、裁判所は、審議会意見書が求めていることに最大の努力をされているのですけど、我々としてそれに対応できているのかという点は、もう少しこの制度検討会で議論しないといけないのではないかという気がいたしております。

【伊藤座長】この点は小池さんにお答えいただくというよりは、この検討会の委員の間で議論すべき事項だと思います。

【平山委員】私もそう思います。

【伊藤座長】どうぞ、佐々木委員、お願いします。

【佐々木委員】今の問題でございますけれども、判事補を外部に派遣するという問題について、判事補時代にいわば裁判官以外の武者修行を行って様々な経験を積んでもらって、判事としてより立派な、我々の判事補時代とは違った、そういうものになっていただくという問題のように思うわけでございます。これはまさに人材の育成と位置付けておられますけれども、まさにそのとおりでありまして、これは第一義的に最高裁に検討し、自律的にその施策を推進していただく領域の問題であろうかと思います。
 したがいまして、これは主体としては、最高裁に責務があるわけです。それを今おっしゃったような議論になりますと、責任の主体が判事補の方に転化されるように思うわけでございます。改正論になってまいりますと、個々の判事補がその義務違反、ペナルティーを背負う制度となってしまいます。これは本来の責務が国家にあり、最高裁に負ってもらうべきものを、個人としての判事補に負わせることになり、責務の主体が違うのではないかと考えます。
 そして、主体の転化の仕方も、そういうことになりますと、資料で今日も配られておりますけれども、判事補といえども憲法で10年間の任期の保障がございます。この経験だけで判事任官がだめだというように、法改正となりますと、判事任官には間接的とはいえ、任期途中で退官せざるを得ないことになり、憲法上の疑義さえ出てまいります。以上申しました意味は、責任主体の転化と転化の仕方が構造上、個々の判事補の問題になってしまい、しかも憲法上の身分保障さえ損ないかねないというやり方になるように思います。
 したがいまして、その問題については私は二重の疑問を持っております。先日も、大阪でのこの点の意見交換会を傍聴させていただきましたけれども、個々の判事補で出て行く人の中には一定数、やはり弁護士の経験もやってみたい、こういう意見の方もおられます。かなりの数おります。また留学したいという人もおり、今自分のやっている仕事をより一層海外の制度と確かめてみたいという人もいます。そういう自発的なシステムに構築することが最高裁の義務ではないでしょうか。責務の施策推進の主体も最高裁にあります。そして、それについておっしゃられた保障の形としては、最高裁の最高議決機関である裁判官会議できっちり議論していただいて、方針を明確に出していただく。そして、その責務は自ら負っていただくというスタンスの宣明、これが大事であろうと思います。そうしないと、我々下級審の現場をあずかる者、司法行政をあずかる者としては、同じような活動をしてまいれません。そのように考えるところでございます。
 それから、もっと申しますと、これは先ほどから多様な経験を議論しましたが、身分を有していてはいけないと形式的・画一的な形になりますと、これは民間企業とか、留学というのはだめになります。民間企業とか留学は身分を現実に持ったまま行くということになりますので、それではだめだと形式だけで切られてしまいますと、「多様な経験」と言いながら、企業とか留学とかはだめだという理屈につながるように思います。是非ここでは自発的な判事補の自己研さんシステムとして、これを促進する方向で最高裁に宣明していただきたい。
 そして、それをもとにして実施要領等通達でまとめていただいて、我々下部機関にも下ろしていただく。下級裁判所裁判官指名諮問委員会では、11人の外部の委員にこの施策を守っているかどうかを見守っていただいたらと思うのです。最高裁が施策を守っていただいているかどうか、これを検討していただき、判事指名の検討の際の考慮の材料にしていただくということで制度的仕組みとしてはいいのではないかと思っております。

【伊藤座長】どうぞ、木村委員。

【木村委員】今の佐々木委員のお話の大筋は賛成で、あくまでも最高裁が主体というですが、例えばレジュメの3ページを見ますと、「第3 弁護士の職務経験を積む制度」のところですが、日弁連と提携・協力がなければうまく働かないということで、「○」の2つ目を見ますと、「この制度を適切、円滑に実施していくためには、日本弁護士連合会との連携・協力が不可欠になる」ということは、弁護士経験というのは、最高裁だけではなく日弁連との関わりでもこれは大変に重要な問題だと思います。ここに書いてあるところによりますと、「『弁護士任官等に関する協議会』において協議中」ということですけれども、日弁連の方ではどうかということを、我々はまだ伝えられていませんけれども、どなたか担当の方がいらっしゃればお伺いしたいと思うのですが、協議中ということなのですね。

【植村参事官】最高裁のペーパーの第3に書いてございます「弁護士の職務経験を積む制度」は作っていただかないと困るわけでございます。

【平山委員】これからです。

【植村参事官】これはまさに運用問題でございますので、つまり、この第3の日弁連と最高裁が協力してお作りになる制度、これを法律で制度化するということはないと思いますので、そういう意味で運用問題だろうと思っておりますが、制度設計をしていただいた後に御報告をいただければと事務局では考えております。

【木村委員】そうしますと討議はどうするのでしょうか。

【植村参事官】まだ、これは検討途上だと思いますので、時期を見て、またお願いをしたいと思っております。

【木村委員】そうですか。

【植村参事官】それから、もう一つ、差し出がましいことはあまり発言したくないのですが、「原則としてすべての判事補に」という言い方が意見書にもございまして、最高裁のペーパーにも書いてあるのですが、その点についてどの程度のことをお考えなのかを事務局としてお尋ねしたいと思います。それが前提にならないと議論がしにくいという感じがしますので、お答えいただければと思います。

【伊藤座長】小池審議官お願いします。

【最高裁(小池審議官)】先ほど奥野委員からのお話もありましたけれども、幅広い判事を作っていくためにはできるだけ広くしたいと思うのですが、実際上の問題としては、担当している事件があまり長期化しては困りますけれども、ちょうどそういう外部の経験する時期にたまたま遭遇して、仕事の関係でそういう機会を失するということもございます。そういったような場合に、一生懸命仕事をしていたのに、これはいかんというようなことがあってはなりませんので、主にそういうものを想定して、原則としてすべての判事補にこういう機会を与えるということを考えているわけでございます。

【平山委員】今の関連でよろしいですか。裁判所からお出しいただきましたペーパーの3ページの第3の部分については、今日これから少しは質疑をするという意味は残っているのですね。この部分は終わったという趣旨になるのでしょうか。私はそのようには理解しておりませんで、ここは、例えば2ページの、小池審議官がおっしゃった原則として2年程度の云々というような記載がありますし、3ページでは、弁護士の職務経験については、時期とか期間というようなものについては、今、協議中だというようなことが書かれていたりしまして、これは終わったということでやっていただくとちょっと矛盾がございますので、もし、そういうことであれば、今日少し議論して、ここも説明していただいて、協議の相手方の日弁連が来ておりますので、どのあたりがまだ詰まっていないのかというようなことについてはお話しいただかないと、何となく第3はこのまま素通りでは、議論したことにならないように思います。

【最高裁(小池審議官)】ここで報告させていただきました趣旨は、弁護士の職務経験というのは非常に有力なものでございますけれども、これは受入れ先の問題がございますので、ある意味でワン・オブ・ゼムでございます。ただ、最も重要なものでございますので、弁護士会との協議は、現在こういう状況ですということを報告をさせていただきました。
 現在、受入れの手順の大枠については共通の認識ですが、期間ですとかどのタイミングの時期に行くのか、3年目でいくのか、6年目がいいのかですとか、そういうようなところは、協議中でございます。こういったものは協議が整いましたら、また関係機関タイムのようなところで、双方で御報告させていただければと考えております。

【平山委員】よろしいですか。今の説明ですと、ペーパーの2ページの第1次ステップ、第2次ステップということで囲いがございますが、ここでお書きになっているものには、弁護士任官は含まないものについて一応お書きいただいているという趣旨に理解してよろしいのですね。

(「入っているのではないですか。」と声あり)

【平山委員】入っているということであると、議論を少しさせていただかないと、先ほど了解した2ページの下の第2次ステップのところを、この検討会が了解したということにはならないと思います。

【伊藤座長】ちょっといろいろ論点が拡がっていますが、まず、先ほどの制度的担保のことを議論したいと思います。その議論を整理した上で、それで今の点についてお願いしたいと思います。

【平山委員】後でやっていただくと。それであればわかりました。

【伊藤座長】制度的担保については、先ほど平山委員からは、いわば判事の任命資格との連動において制度的担保を図るべきだという御趣旨の御意見ですね。

【平山委員】そうですね。

【伊藤座長】それに対しては、佐々木委員からは、あくまで判事補の主体的な判断を尊重しつつそれを促進するような制度的仕組みを設けるべきだということで、最高裁の考え方を基本的に支持されるような御意見がありましたので、その点、いかがでしょうか。

【平山委員】これは佐々木委員の御意見に対する反論といいますか、私が申し上げているのは、他の職の経験がなければ判事補を外されるとか、そういうことではありませんで、判事補から次の判事になるときの任命資格でしかないという意味ですから、誤解がないようにしていただきたい。

【伊藤座長】誤解はないと思います。

【平山委員】そうですか。

【伊藤座長】どうぞ、小貫委員。

【小貫委員】私は制度的担保については、佐々木委員の意見に基本的に賛成でございます。一つは、法律にそういう制度を作って、間接的にでも強制していくというのは、身分保障を定めた憲法との抵触問題というのが起こってくるのではないのかと思うのが一つと、もう一つ、これは審議会でもそういう意見が出ていたと思うのですけれども、裁判所法第42条では、検察官、弁護士、あるいは大学の先生などのことも書いてあるのですけれども、それとのバランスというのは大事な論点なのだろうと思うのです。判事補だけ取り上げてというのはいかがなものかと思います。三つ目ですけれども、先ほど、最高裁の御苦労も聞かせていただいたのですが、環境整備や条件整備というのは、非常にこの制度を実効的にならしめるためには大事なことなのだろうと思います。私は、現状ではそこまでの段階に至ってないというように思うところがございまして、それを今の段階でがちがちに法律上の制度にしてしまって、将来、本当に働くようなシステムになるのだろうかという危惧もありまして、基本的に今最高裁がいろいろお考えのような裁判官会議の議決と指名の際の指名諮問委員会のものを軸にしていくというのが一番現実的ではないかという意見を持っております。

【伊藤座長】どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】私も裁判所法第42条の改正というのは、裁判官の身分保障という問題から言うとかなり問題が残るのではないか、難しいのではないかと思いまして、法改正という考え方は基本的に持っておりません。
 そうすると、あとは最高裁の規則か、ここに書いているように、裁判官会議の議決のどちらかになると思うのですが、規則にするということは最高裁は全くお考えにならなかったのかどうか。いずれにしても、どちらかになると思いますが、裁判官会議の議決の重みということを考えますと、効果的であり、大変大事なことではないかと結論においてはそう思います。
 それから、2番目の諮問委員会の検討の上で重要な考慮要素にするということの確認ということになっていますが、重要な考慮要素というものは抽象的には分からないことはありませんが、具体的にどのようなことを考えていくべきなのか。例えば何年間、どこでどのような他職経験したのかという問題なのか、どういうふうに具体的にイメージすればいいのか。それから、確認ということも、これもどういった形で確認という作業を考えればいいのか。この辺の疑問がありますので、もしお答えできればお願いしたいと思います。
 基本的にはこの問題は、最高裁に責務があるという意見もありましたが、最終的には判事補が強制的に他職経験をさせられるのだということではなくて、むしろ判事補がより良き裁判官になるために他職経験を積極的に進んでやるのだという意識を改革するような形に持っていくべきだと思います。そういうことがうまくいけば、他職経験に対するいろいろな御議論があっても、そこは乗り越えられる問題ではないかと思っております。

【伊藤座長】この問題は大変重要な問題ですから、それぞれ御意見を承りたいと思いますが、どうぞ、中川委員。

【中川委員】私は、これは基本的にはキャリア・プランニングだと思っているのです。あまり耳なれない言葉かもしれませんけれども、企業の中ではそれは当たり前になっておりまして、要すれば、押しつけられた研修とか、押しつけられた他世界の経験というのはあまりよくありません。自分が自主的にどのように将来の10年、あるいはその次の10年を考えてどういう裁判官になるのがいいのか、どういう専門分野を自分で身につけていくのがいいのかということを本人が考えるのが一番いいのです。そういう意味では押しつけ研修ではなくて、できるだけ幅の広いメニューとチャンス、さっき小池審議官がおっしゃった幅を広げていただいて、それを本人が選べるようにやっていくという制度設計が一番いいのではないでしょうか。ただ、これは受入れ側の問題とかいろいろございまして、大変難しいのです。難しいし、お金もかかりますし、大変ですけれども、効果の意味ではそれが一番いいと思います。
 これからのいろいろな世界、多様化を考えますと、そういう専門裁判官というものもたくさん必要になってくると思いますし、それから必ずしも全員出す必要ないと思うのです。やはり判事として、当初から適性を持った方もいらっしゃるわけですから、そういう方を無理やり出すこともないと思いますし、あくまで自主的なキャリア・プランニング制度という形で考えていただいたらどうかなと思います。

【伊藤座長】ほかの方、いかがでしょうか。どうぞ、岡田委員。

【岡田委員】裁判官会議というのは司法行政の最高決定機関といいますか、そこで議決して、そして通達ということは、裁判所内部にいる方にとっては、法律に準ずるぐらいの力があるというように、元行政にいたものとしては感じるのですが、そういう面では自主的でありながら、かつやっぱりプレッシャーを感じさせるということではこれでいいのではないかと思います。

【伊藤座長】いかがでしょうか。今、御意見を伺っていますと、指名諮問委員会での考慮要素とする際の考慮の仕方について松尾委員から御意見がありましたが、基本的には最高裁のペーパーにございましたような、裁判官会議の議決、指名諮問委員会の考慮要素ということで、判事補の主体的判断を尊重しながら制度的担保を図るという御意見が多数のように思います。もちろん平山委員の御意見はあることは承っておりますが、この場の御意見はそれが多数であるというように受け取ってよろしいでしょうか。

(「はい」と声あり)

【伊藤座長】では、この点はそういう取りまとめにさせていただきます。
 その上で、先ほど平山委員の問題提起にあったところで、この第3の弁護士の職務経験を積む制度と、それから第1次ステップ、第2次ステップなどの関係ですが、むしろ平山委員からお考えを端的に述べていただいた方がよいかと思います。

【平山委員】私が第1次ステップ、第2次ステップというのは、例えば裁判所は期間はどういう期間をお考えになって計画されているのかが少し分かりませんし、例えば2ページの一番上のところでいきますと、「受入れ先の確保」、その次に「事件処理態勢の確保」というのが書かれておりましてこれもよくわかりません。それから、先ほど申し上げました、弁護士の職務経験ですが、これは審議会意見書では相当中心に議論されていると思うのです。その件については、これも裁判所としては、2ページの第2次ステップのところの原則として2年程度というようなことでお考えになっているのかどうかということですが、審議会ではもっと3年ぐらいやれという意見もあったように思いますので、そのあたりについては、今、裁判所と弁護士会の協議はどうなっているのかというようなことについて率直にお話しいただいた方がいいのではないかと思いましたので申し上げています。

【伊藤座長】小池審議官。

【最高裁(小池審議官)】まず、第1次ステップ、第2次ステップというところは、第1次ステップでも1年のものもあれば、2年のものもあるという形で、その受入れ先との関係で考えていくということになります。仕上がりが2年ということです。
 先ほども申し上げましたように、受入れ先というのは外的条件でございますので、いろいろ受け入れるところとお話ししながら進めるということで、数の点も期間の点もそういった状況を見ながらということになります。
 それから、裁判所の使命は、適正・迅速な裁判でございますので、事件が急増してきたときには、そちらの関係のあんばいを見ていくという必要が、国の組織としては当然でございますので、そういったものを考えていくことになります。
 弁護士会との協議でございますが、弁護士会の方は、前は弁護士経験は5年というようなことも言っておられまして、今は大体3年を軸に、3年ぐらいでどうだということを言っておられます。私どもとしては、ほかの外部経験というところの並びでいきますので、2年ということでどうかと考えております。10年の判事補の期間で、いろいろ勉強していかなければいけません。一人前になるためにはいろいろな経験、それからプロとして仕事をしていかなければいけません。その中での2年ということで、その武者修行の期間で多様な経験というのは十分だろうと、我々はこういう御意見を申し上げているところです。ここはそれぞれ弁護士会のお考えもありますので、なお、協議をして、私どもとしては御理解を得ていきたいと思いますし、今日の検討会での御審議の結果を踏まえて、また、協議を積み重ねてまいりたいと思います。

【伊藤座長】平山委員、いかがでしょうか。特に弁護士の経験に関して、2年、3年という考え方がおありでしょうか。

【平山委員】それは受入れ側でございますので、そういう意味では、日弁連の意見も今の状態はお聞きいただいた方がいいのかなと思います。

【伊藤座長】ほかの委員の方で、弁護士経験について、最高裁のお考えと、3年ぐらいが適当であるという日弁連側のお考えがあると御紹介がありましたが、その点について、何か御意見があれば、是非お願いします。

【平山委員】小池審議官のおっしゃっていることに間違いないと思いますけれども、日弁連もせっかく来ておりますので、議論状況だけをちょっと紹介していただいた上で、みんなで考えた方がいいのではないかという気がしますけど、どうでしょうか。

【伊藤座長】小池審議官のおっしゃっていることに間違いないと思いますが、何か特に付け加えられることがあればお願いします。

【日弁連(明賀弁護士)】弁護士の明賀です。期間の点については、小池審議官が説明されたとおりです。なぜ弁護士会が3年間ということを言っているかといいますと、まず、一つは、弁護士というのは依頼者との信頼関係を築いていって、初めから事件を作っていくことになります。そうしますと、初めから相談して裁判を起こして判決をとるということになれば、大体一審でも1年半、二審まで行けば2年以上というような期間がかかります。そういうようなことをいろいろな各種の事件で経験するという意味で、引き継げばすぐできるというものではなく、かなり各種担当するまでの期間が要りますので、そういう面で少なくとも3年ぐらい必要なのではないかというのが一つの考え方です。
 それから、裁判所から検察庁に行かれる場合でも基本的に3年間ということですので、一つの職務経験としてされるということでしたら3年間ぐらいが軸になるということで3年間ぐらいと考えております。そういう意味で、裁判所と弁護士会との意見がその点では少し意見の違うところがあるというのが現状です。
 もう一つ、これは意見の違いではなくて、協議する上で非常に大きいのは、初めに座長からの御説明にもありましたように、退職金ですとか共済関係の配慮の問題がありまして、これがはっきりしないと、なかなかほかの経験との対比で突破できない部分があります。そういう点が一つのネックになっているということを御理解願えればと思います。

【伊藤座長】それでは、ただ今日弁連からも補足的な説明がございましたが、3年か、2年かという部分は協議中だということなものですから、決まっているわけではないと思いますが、今、ここで御意見があれば、是非参考にしていただきたいと思いますので、いかがでしょうか。どうぞ、佐々木委員。

【佐々木委員】大阪管内で意見交換を行った際には大体2年が多かったわけですが、ほかの管内でもこれをやられていると思いますが、小池審議官もどこかに行かれたかと思いますけれども、それとの関係ではいかがだったのでしょうか。

【最高裁(小池審議官)】判事補の方も基本的には2年という意見が多うございました。もちろん3年という意見も出ておりましたけれども、大方の意見は2年ということでございました。

【伊藤座長】先ほど中川委員、松尾委員から、実際に判事補を受入れたという御経験がございましたが、そういったところからお考えになっていかがでしょう。どうぞ、中川委員。

【中川委員】よく分かりませんけれども、企業の場合は1年、2年なら十分だと思います。大体1年ぐらいでいいのではないかと思います。それから弁護士の場合は、よく分かりませんが、途中やめるということはできないのですか。例えば2年なら2年、伸縮を少しつけると。もう少しいた方がいいなと思えば少し延ばす。もうこれで十分だと思えば半年早くやめるとか、1年に短縮するとか、そういう何か伸縮性のあるような制度というのは無理なのでしょうか。

【最高裁(小池審議官)】今、そういう形は考えていなかったのですが、なお、検討したいと思います。やはり任命のタイミングとか、一つ人事のローテーションというところがありますので、そろえるという意味ではきりのいい時期が非常に制度としてはやりやすいということがございます。

【中川委員】3年というのはちょっと長いなという感じは少しいたします。

【伊藤座長】どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】2年か、3年かということについて、非常に難しい問題は、一つには受入れ側の事情によって違うと思うのです。例えば、今おっしゃるように、3年は長いかなという御意見も民間企業としてはあると思います。分かります。一方では、弁護士会の3年というのも、依頼者から相談を受けて、訴訟提起の手続をやって裁判まで関与していくということになってくると、2年というのはきついかなという感じも確かにあります。そうすると、受入れ側の事情によって、2年か3年かというのは変わってくるのではないかと思います。最低2年ということを確保しておれば、3年も受入れ場所によってはあり得るというぐらいのことではないかと私は今思っています。2年がいい、3年がいいという対立したものではないというように考えています。

【伊藤座長】ほかにこの点、御意見はございますか。特に弁護士経験についての期間、どうぞ、佐々木委員。

【佐々木委員】新任のときの合議体で鍛える場合が大阪ではほぼ2年、その後半年が非訟系を中心にやっています。新任の育成システムでも2年で、裁判官の中核的な訴訟事件を終えております。その対応関係から考えて、2年というのが普通の判事補諸君が行ってもいいなという気持ちになる期間であるし、他方新任判事補研修を担当する立場からもそういう感じがいたします。
 それから出す方としては、合議以外に、家裁であるとか、あるいは民事が終わったら刑事ですとか、そういうところも非常に大事でありますので、他流試合も結構なのですけれども、裁判所の内でも鍛えていきたいという気持ちもあります。そういう鍛える分野をしっかり身につけて判事になってもらいたいとも思いますので、期間は、こういう兼ね合いで考えるべき問題であろうと考えています。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。どうぞ、平山委員。

【平山委員】裁判所における人員の今の人数構成からいって、3年出すのは困難だということはあるのでしょうか。それはないのですか。つまり今の裁判所の人的資源といいますか、今の状態では3年出すのはなかなか大変だというようなことはないのですね。

【最高裁(小池審議官)】困難です。というのは、毎年100人としてその中からどれだけ出すかということになりますけれども、弁護士事務所に行きますのがどのくらいか分かりませんが、仮に50として、3年分だと150人ということになりますので、その分、陪席がいなくなるということですし、それがどのタイミングで出すかということで、特例の後ろ倒しという議論もしていますけれども、6年目以降ということになりますと、その分、どれだけ弁護士任官してくださるかというところに関わってくるわけです。要するに単独事件をやる人間がいないということになりますので、そことの相関ですのでそれは大きく違うということになります。

【平山委員】そういう点があるのであれば、むしろきちんとそれはおっしゃっていただいて、裁判官の数の問題もあるのであれば、今、大幅増をやれというようなこともありますし、いや、今の時局でそんな大幅増はだめだという意見もあるかもしれませんが、そこに大きく関係があれば、それは出していただいて、こういうことで難しいのだということを率直に言っていただいた方が分かりやすいのかなという気がするのです。

【伊藤座長】どうぞ、小池審議官。

【最高裁(小池審議官)】それは裁判官の増員のときにもいろいろそういうことは事情として、審議会の段階から申し上げておりますし、恐らく弁護士会との協議の中でも、そういった点は申し上げているはずでございます。

【伊藤座長】まだ、その点は協議中だということでございますので、今日の御意見も踏まえて、さらに協議を続けられて、是非いい結果に到達されるようにお願いします。
 先ほど制度的担保については大方の意見ということで取りまとめをさせていただきましたが、最高裁裁判官会議の議決、実施要領、下級裁判所裁判官指名諮問委員会における確認につきまして、その都度、最高裁から当検討会に対して御報告をお願いしたいと思います。
 予定の時間が来ておりますが、若干もう少しだけお願いをいたします。最高裁裁判官の国民審査の関係でございます。この点につきましては、昨年11月末の第13回検討会で議論をいただき、審査公報の内容について、検討会での議論を踏まえ、総務省において最高裁の協力も得ながら検討してもらうこと、最高裁のホームページについても検討会での意見を踏まえて充実化を検討してもらうこと、さらに総務省の検討結果についてはしかるべき段階で事務局を通じて報告をもらうということについて御了解をいただいたところでございます。
 そこで、まず総務省の検討結果について、事務局から報告をしてもらい、また、最高裁からもホームページの改善方策についての報告をお願いしたいと思います。どうぞ。

【植村参事官】お時間が参っておりますが恐縮でございます。説明をさせていただきます。
 ただいま座長からも御紹介がございましたとおり、昨年11月の第13回検討会におきまして、皆様からいろいろな御意見を出していただきました。それを踏まえまして、審査公報の内容について、総務省が最高裁の協力もいただきながら検討をされました。その結果、最高裁判所裁判官の国民審査に際しまして、審査対象となる裁判官に関する情報開示の充実を図るという観点から、皆さん御記憶にあるかと思いますが、審査公報の字数というのは制限がございまして、1,000字ということになっているわけですが、これを撤廃するという方向が一つでございます。
 それから、図表、写真等の使用制限も現行規定上はあるわけですが、これも外すという方向でございます。そして一定の枠を決めまして、それを自由に裁判官に御利用いただき、裁判官の略歴とか関与した主要な裁判、それからその他審査に関し参考となるべき事項を記載してもらうこととしたいということでございます。
 したがいまして、総務省では、昭和22年にこの制度が発足して以来現在の枠組みでやってきたわけでございますが、皆様方からちょうだいした御意見を踏まえまして、今申し上げましたような方向で、この問題について初めて制度改正を行うことになるわけでございます。以上、御報告をさせていただきました。

【伊藤座長】それでは最高裁から説明をお願いいたします。

【最高裁(金井人事局参事官)】それでは、最高裁のホームページの充実化の関係につきまして、私の方から報告させていただきます。
 昨年11月28日の検討会で、今後も最高裁ホームページを一層充実させることを通じて、最高裁裁判官に関する情報の開示をさらに図っていきたいということを御報告申し上げました。この検討会での御意見も踏まえまして、近くこのホームページを充実の方向に向けて改訂してまいりたいと考えておりますので、その点を御報告いたします。
 二つ考えておりますが、1点目は、最高裁の裁判官の紹介のコーナーにございます信条、趣味などというところですが、この紹介項目をより細目化いたしまして、各裁判官の人となりや考え方をより分かりやすく紹介することにしたいと思っております。
 それから、2点目でございますけれども、最高裁の裁判官の紹介のコーナーに、各裁判官が最高裁において関与した主要な裁判、これを紹介する項目を追加すること、一覧表の形で見ることができるようにすることを考えております。
 さらに、裁判の全文を見てみたいというような御希望があるときには、この一覧表からリンクされました最高裁判例集の該当ページにクリック一つでアクセスできるような形に改訂しようと考えております。
 今、申し上げました2点につきましては、現在ホームページを改訂するための作業を進めておりまして、できれば4月には準備ができたものから、実際のホームページに反映できるようにしていきたいと考えております。以上でございます。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。ただいまの事務局及び最高裁の御説明について、何か御質問や御意見はございますか。どうぞ、木村委員。

【木村委員】現段階では日本語だけなのですね。英語では出てこないのですね。

【最高裁(金井人事局参事官)】そのとおりです。

【木村委員】日本の裁判所というのは、国際的にも関心を持たれていて、例えば、最高裁の長官が誰かということなどを含めて英語でもって情報を得るためにインターネットにアクセスする方々が結構多いようです。日本の官公庁では、例えば厚生労働省や文部科学省などでは、生命倫理関連の立法などはすぐ英語に直してインターネットのホームページに掲載したりすることがありました。今後、最高裁でも英語で、少なくとも、最高裁の判事の経歴や最近の重要判例ぐらいは簡単にわかるような、ホームページの作成と充実をお考えいただければと思います。また予算がかかるかもしれませんが。

【伊藤座長】御指摘ありがとうございました。すいません、もう一つだけお願いいたします。最高裁一般規則制定諮問委員会における地方裁判所委員会及び家庭裁判所委員会規則要綱の答申について、これも最高裁から説明をお願いいたします。

【最高裁(小池審議官)】ごく簡単に御報告申し上げます。お手元にございます規則要綱ですが、これは2月24日に開催されました一般規則制定諮問委員会におきまして、この要綱が答申されました。従前、御覧いただきました案との変更点は、1の設置というところで、設置の目的を記載したこと、広く国民の意見を反映させるためというところが実質的な変更点でございます。
 また、末尾に運用上留意すべき事項として4点にわたって確認事項が付けられました。こういったものを踏まえまして、明日開催されます裁判官会議におきまして、この要綱に基づいて規則が制定される予定でございます。なお、施行しますのは8月1日を予定しております。
 以上でございます。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。何か御質問ございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、少し予定の時間を過ぎましたが、本日の議事はこのあたりで終了したいと思います。次回ですが、次回は4月22日、午後1時30分からを予定しております。弁護士の執務体制の強化、専門性の強化につきまして、議事を進めたいと考えております。
 どうも長時間にわたりましてありがとうございました。

以 上