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法曹制度検討会(第20回)議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年9月9日(火)13:30〜15:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤 眞(座長)、奥野正寛、岡田ヒロミ、小貫芳信、釜田泰介、木村利人、佐々木茂美、田中成明、中川英彦、平山正剛、松尾龍彦(敬称略)
(説明者) 稲田伸夫(法務省刑事局総務課長)
小池 裕(最高裁判所事務総局審議官)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、植村稔参事官

4 議題
(1)検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合の、退職手当や共済関係等の面での適切な配慮
(2)その他

5 配布資料
【事務局配布資料】
○資料20−1検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合の、退職手当や共済関係等の面での適切な配慮 検討のたたき台(案)
○資料20−2公庫等への出向制度
○資料20−3官民交流法による交流派遣制度
○資料20−4たたき台案による制度の具体的概要図
○資料20−5国家公務員退職手当法 抜粋
○資料20−6国家公務員共済組合法 抜粋
○資料20−7国と民間企業との間の人事交流に関する法律(官民交流法)

【法務省配布資料】
○資料 平成16年度増員要求について

【最高裁配布資料】
○資料 平成16年度増員要求について

6 議事

【伊藤座長】所定の時刻でございますので、第20回法曹制度検討会を開会させていただきます。お暑い中、またご多忙のところご出席いただきまして、ありがとうございます。
 議事に先立ちまして、事務局から配布資料の確認をお願いします。

【植村参事官】それでは、配布資料の確認をさせていただきます。
 事務局からお配りいたしました資料は、資料20−1から資料20−7でございます。また、法務省、最高裁から、次第に記載しましたとおりの資料のご提出がありましたので、ご紹介いたします。以上でございます。

【伊藤座長】それでは、本日は、まず次第にございますとおり、「検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合の、退職手当や共済関係等の面での適切な配慮」についての議事をお願いしたいと思います。
 最後に、関係機関タイムといたしまして、平成16年度の増員要求につきまして、法務省、最高裁から報告をお願いいたします。
 それでは、早速議事に入ります。まず、事務局から、資料20−1の「検討のたたき台(案)」について説明をお願いいたします。

【植村参事官】それでは、事務局資料20−1の「検討のたたき台(案)」について、説明させていただきます。まず、「検討のたたき台(案)」の「(参考)」の部分をご覧ください。
 皆様ご承知のとおり、司法制度改革審議会意見書は、検察官制度の改革の一環といたしまして、「検事を、一定期間、一般の国民の意識・感覚を学ぶことができる場所で執務させることを含む人事・教育制度の抜本的見直し」を提言するとともに、裁判官制度の改革の一環といたしまして、「多様で豊かな知識、経験等を備えた判事を確保するため、原則としてすべての判事補に裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませることを制度的に担保する仕組みを整備すべきである」ことを提言しております。
 そして、該当部分に下線を付けておきましたが、このような仕組みの円滑な運用を図るため、意見書は、検察官や裁判官の身分を離れた検事、判事補が、弁護士経験を積んだ後に、検事、裁判官に復帰した場合には、退職手当や共済関係等の面で適切な配慮がなされることが望ましい、としております。
 この点につきましては、委員の先生方に思い出していただきたいのですが、昨年5月の第4回の当検討会におきまして、法務省、最高裁から、それぞれの検討状況のご報告をいただくとともに、検事、裁判官に復帰した場合に退職手当や共済関係等の面で適切な配慮を行うことにつきましては、法的措置が必要であるので、推進本部事務局において検討してもらいたい、とのお話をいただいたわけであります。その後、当事務局において検討してまいった次第であります。
 その結果、結論から申しますと、事務局といたしましては、この「検討のたたき台(案)」に記載いたしましたとおり、「検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合に、退職手当や共済関係等の面で適切な配慮を講ずるため、いわゆる官民交流法類似の法的制度を創設してはどうか」と考えるに至りました。この間の事情をご説明いたしますとともに、この方向での立法化につきまして、委員の先生方のご理解を賜りたいと考えるものでございます。
 まず、ご存知のこととはいえ、改めて、検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合に、どうして、退職手当や共済関係等の面で適切な配慮が必要となるのかについて、ご説明をさせていただきたいと思います。
 公務員の退職手当の関係は、事務局資料20−5になりますが、ここに公務員の退職手当に関しての法律でございます国家公務員退職手当法の抜粋を入れております。ご覧いただきますとお分かりのとおり、一旦公務員の身分を離れる場合には、その時点でそれまでの勤続年数等に応じた退職手当を支給することになります。そして、その後、再び公務員になった場合には、その時点を起算点といたしまして、勤続年数がもう一度改めて算定されることになるわけであります。ところが、退職手当というのは、連続する勤務年数が長い方が有利な取扱いを受ける制度とされておりますので、連続して勤務した場合に比べますと、不利益な扱いを受けるということになるわけであります。
 また、公務員退職後の年金の関係は、その次の資料20−6に抜粋いたしました国家公務員共済組合法によって定められておりますが、年金は、組合員期間が長い方が有利な制度とされております。したがいまして、一旦公務員の身分を離れますと、その離れていた期間の分だけ、不利な取扱いを受けるということになるわけでございます。
 このような不利益な取扱いは、現行の退職手当、年金の制度からみた場合には、至極当然のことであります。しかしながら、弁護士経験を積むために、判事補、検事が、退官して、すなわち、公務員を退職して弁護士経験を積もうといたしますと、意見書が指摘しておりますような適切な配慮をしない場合には、判事補又は検事の身分を持ちながら、すなわち国家公務員の身分を維持しながら、弁護士経験以外の経験を積む者、例えば行政省庁や民間企業での経験を積む者、また、海外留学等の経験を積む者との間で、処遇上の差異が生ずることになるわけであります。
 ところで、これまでの検討会でもお話がございましたとおり、判事補には憲法上の身分保障がございます。弾劾裁判や職務執行不能の裁判によって罷免される場合を除きますと、自らの意思に基づくのでなければ、裁判官の身分を失うことはございません。検事の場合も、検察庁法による身分保障がございまして、検察官適格審査会の議決を経て免官させる場合などを除きますと、自らの意思に基づくものでなければ検察官の身分を失うことはないわけでございます。
 このように、弁護士経験をしてもらうにつきましては、当該判事補又は検事の自発的な意思に基づくことになります。そこで他の経験をする同僚の裁判官や同僚の検事との間に処遇上の差異があるのでは、せっかく弁護士会に受け入れ態勢をお作りいただいたとしても、誰も弁護士経験を希望せず、制度が機能しないということになりかねないわけでございます。
 このようなニーズを背景といたしまして、事務局として検討してまいったわけであります。
 現行法制上、公務員が一旦退職した上で外部に派遣され、その後、再び公務員に復帰する場合に、退職手当や年金の関係で不利益が生じないようにする制度といたしましては、いわゆる公庫等への出向制度がございます。最高裁や法務省は、従来から派遣先からの依頼を受けて、裁判官や検察官に預金保険機構等に出向してもらっていると聞いておりますが、この制度に則ってのものであります。資料20−2にはこの制度の概要を記載いたしました。この制度につきましては、特別の法律があるわけではございません。先ほどの事務局資料20−5にお示しいたしました国家公務員退職手当法の第7条の2、資料20−6にお示しいたしました国家公務員共済組合法第124条の2等におきまして、特例を定めるという方法で制度を作っております。
 資料20−2にお戻りください。この資料に記載いたしましたとおり、この制度の目的は、出向者に公庫等の業務を行わせること自体にございます。図を見ながら説明をお聞きいただければと思いますが、出向者は、任命権者等の要請に応じまして、公務員を退職いたしまして公庫等に出向し、その業務に従事いたします。給与は公庫等から受けることになります。その後、公務員に復帰した場合には、国家公務員退職手当法や国家公務員共済組合法に定められました特例措置によりまして、退職手当、年金に関しまして、公庫等への出向期間が国家公務員としての在職期間に通算されることになります。
 このような措置は、公務員でないにもかかわらず、公務員であったこととして取り扱うというものでございまして、いわば退職手当制度、年金制度の大原則を破るものでございます。国民の税金を使ってこのような特例措置を講ずるものでございますから、派遣先の公庫等として認められるためには、厳しい法律上の要件が課せられております。その3つを記載してございます。
 その第1は、派遣先が、公庫その他特別の法律によって設立された法人であるということでございます。その第2は、派遣先の業務が国の事務又は事業と密接な関連を有するものであることでございます。その第3は、公庫等に出向中、その者が退職した場合には、国家公務員としての勤続年数を公庫等職員としての勤続年数に通算して、公庫等が退職手当金を支給することが定められていることでございます。これは少しお分かりにくいかもしれませんが、まず国家公務員を退職するときに、例外的にこの制度による場合には退職手当は支払いません。支払わない状態で公庫等に行ってもらうわけでございます。公庫等に出ている間に、何らかの理由で退職する場合には、国家公務員として勤務していた期間も合わせて、公庫等で勤務していたものと同じように扱って、公庫等で退職手当を払うということでございます。
 以上、申し上げましたような厳しい要件を満足するもののみが、出向先として認められているわけであります。
 そこで、判事補や検事の弁護士経験の制度目的、それから受入先につきまして、今ご説明いたしました公庫等への出向制度の目的や派遣先として認められる法律上の要件に関して比較をしてみますと、まず、公庫等への出向制度の目的は、国家公務員としての知識、経験を生かして公庫等の業務に従事させること自体にございます。これに比べまして、弁護士経験制度の目的は、弁護士経験を積むことによって培った多様かつ豊かな知識、経験を裁判官や検察官に復帰して以降の職務に生かすことにございます。したがいまして、制度の目的は非常に対照的なものになっているということでございます。また、派遣先として認められる法律上の要件についてみますと、第1の、派遣先が、公庫その他特別の法律によって設立された法人であるということや、第2の、派遣先の業務が国の事務又は事業と密接な関連を有するものであるという点は、弁護士事務所における経験であることからいたしますと、満足することは困難といわざるを得ません。第3の、退職手当の点につきましても、弁護士事務所に負担していただくことは相当に困難であると思われます。
 このような制度目的の相違や派遣先として認められる法律上の要件をみてみますと、公庫等への出向制度をモデルとして、判事補や検事の弁護士経験制度において、退職手当や年金についての特例措置を講ずる法的制度を作ることは困難であると思われます。委員の皆様の中には、もともと公庫等への出向制度をモデルとする必要はないのではないか、とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。判事補や検事の弁護士経験制度について、国家公務員としての身分を離れて弁護士経験を積み、その後裁判官や検察官に復帰した場合には、退職手当や年金について、弁護士経験を積んでいた期間も公務に従事していた期間とみなす、という規定を法律で作ればよいのではないか、というお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
 しかしながら、そのような法律を作ることは、既にご説明いたしましたとおり、公務員でないにもかかわらず、公務員であったこととして取り扱うというものでございまして、退職手当制度、年金制度の大原則を破るものでございます。国民の税金を使ってそのような特例措置を講ずることにつきましては、国民が納得できるような実質的な根拠が必要になってくると思います。そして、その実質的な根拠としてはどのようなものが考えられるかということになりますと、結局のところ、公庫等への出向制度における制度の設置目的や、この制度において要求されているような派遣先として認められるための法律上の要件である、ということになると思います。したがいまして、結論といたしまして、弁護士経験制度について、完全に公務員の身分を失って出て行く制度として特例措置を講ずることは困難であるといわざるを得ないと考えております。
 続いて、今回の事務局からのご提案の土台となっております、いわゆる官民交流法による制度のご説明をいたします。事務局資料20−3をご覧ください。この制度は、民間の効率的・機動的な業務遂行等の体得による人材育成、すなわち、民間企業での経験を復帰後の公務に活用することを目的とするものでございます。制度目的といたしましては、判事補や検事の身分を離れて弁護士としての経験を積んだ後、裁判官や検察官に復帰し、その後判事や検事として活躍することを目的としております弁護士経験制度と軌を一にするものでございます。
 官民交流法の制度におきましては、各省庁の職員は、一旦人事院に異動をした上で、国家公務員の身分を有したまま、民間企業に派遣されることになります。民間企業の業務に従事し、公務には従事いたしません。給料も全額が民間企業から支給されます。公務員の身分を失いませんので、民間企業に派遣中の期間も国家公務員としての在職期間に通算されることになり、退職手当や年金の関係で不利益を被ることはありません。
 以上のような官民交流法の制度を参考にいたしまして、制度設計をいたしましたのが、事務局資料20−4の「たたき台案による制度の具体的概要図」でございます。この制度の目的は、先ほどもお話いたしましたとおり、弁護士経験を通じて多様で豊かな知識・経験を備え、裁判官・検察官に復帰後の職務に活用することにございます。
 裁判所事務官や法務事務官として、国家公務員の身分を失うことなく弁護士登録をし、弁護士業務を行います。もちろん公務には従事いたしません。国からは給与の支給は受けず、受入先の弁護士事務所に雇用されまして、弁護士業務を行い、給与を受けることになります。公務員の身分を失いませんので、弁護士経験中の期間も国家公務員の在職期間に通算されることになり、退職手当や年金の関係で不利益を被ることはありません。
 以上が、官民交流法類似の法的制度の概要でございます。これまでお話ししてまいりましたとおり、現行法制上、裁判官や検察官の身分を離れて弁護士業務を経験した者が、裁判官や検察官の身分を離れることなく行政省庁や民間企業における経験や海外留学等の経験を積んだ者と比べまして、退職手当や年金等の関係で不利益を被らないようにするためには、官民交流法類似の法的制度しか実現の可能性がないということを是非ともご理解いただきまして、「たたき台(案)」の方向性について、委員の皆様方のご了解を賜りたいと考える次第でございます。
 以上でございます。

【伊藤座長】それでは、ただいまの事務局からの説明につきまして、まず、ご質問がございましたらお願いします。どうぞ、木村委員。

【木村委員】ただいまのご説明をいただきまして、よくその背景が分かりまして、この方向がうまくいけば、大変いいのではないかという印象を持ったわけですが、官民交流法の一部改正により行うという見通しもあるのですか。内容によって、国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部改正の可能性があるのかどうか。例えば、本日ご配布いただきました資料20−7の1ページの第2条の2項でございますが、「この法律において『民間企業は』とは」として、一、二、三、四と書いてあって、五には、「その事業の運営のために必要な経費の主たる財源をその事業の収益によって得ている本邦法人であって」と書いてあるわけですが、ただいまの図が書いてある資料20−4を見ますと、上から3番目の「○」に「弁護士事務所(弁護士又は弁護士法人)」となっています。法人でない弁護士事務所も対象にすることもあり得るわけですか。

【植村参事官】お答えさせていただきます。説明がちょっと足りなかったかもしれませんが、今回ご提案をさせていただきましたのは、官民交流法に類似した新しい制度を新法によって作るということでございまして、官民交流法を一部改正するということを考えているわけではございません。また今、委員からご指摘のあったような点は、行き先について、弁護士法人又は個人の弁護士の事務所を想定した条文にしていくということになります。

【木村委員】そうですか。それは大変結構なことだと思います。そうしますと、引き続き関連しているのでございますけれども、資料20−7の5ページでございます。新しい法律ができるということで、是非ご考慮いただければと思いますが、第10条に「(交流派遣職員の職務)」が規定してございまして、第10条の2項では、国家公務員法第101条の規定は、交流派遣職員には適用しないということなのですが、国家公務員法第101条というのは「(職務に専念する義務)」で「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と規定してございます。新しい法律では、資料に書いてあるような規定と同じように適用しないことになる予定であると理解してよろしゅうございましょうか。

【植村参事官】まさに委員おっしゃるとおりでございまして、条文そのものはまだ検討中でございますが、趣旨としては、官民交流法第10条の規定と同じ趣旨の規定が置かれると考えていただいて結構でございます。

【木村委員】そうですか。関連しますが、国家公務員法第102条ですと「(政治的行為の制限)」、例えば政治的な行為に関与し、「選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」とか、あるいは第103条ですと「(私企業からの隔離)」とか、そういう制限についてもお考えいただく余地は残していただくのでしょうか。この制度では、職務を離れて、確かに公務員としての身分は残るとしても、弁護士の業務として、あるいは結果的に、何らかの意味の政治的なかかわりを持つことになり得る可能性もあるかと思いますが、その点について、国家公務員法の規定によって一切できないということになるような方向なのでしょうか。それとも、弁護士業務を遂行上、その自由を保障するということになるのでしょうか。

【植村参事官】政治的行為の制限についてお答えいたしますと、先ほど事務局の提案を絵にしたものをご覧いただいたと思いますが、身分としては、判事補の身分を離れて裁判所事務官、検事の身分を離れて法務事務官という記載をしてあったと思います。したがいまして、国家公務員の身分は残るわけでございますね。だからこそ、処遇の面で不利益を避けることができるわけです。そういうことになりますと、政治的行為に関する国公法の第102条の規定も適用になると考えております。
 しかし、事務局といたしましては、そのために実のある弁護士経験を積むことに関して何らかの障害になるとは考えておりません。
 以上でございます。

【伊藤座長】とりあえず、ご質問としてはよろしいですか。

【木村委員】分かりました。

【伊藤座長】また、後でご意見を承りますけれども、どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】事務局のご説明はよく分かりましたが、4点についてご質問します。
 まず、改革審のいう裁判官・検察官の「身分を離れて」ということの解釈の問題になるのですが、この事務局提案によりますと、いわゆる裁判所法、検察庁法による裁判官・検察官の身分を離れれば、国家公務員法にいう国家公務員としての身分は保持したままで良いという解釈かと思うのですが、そういう解釈で間違いないかどうかということが第1点。
 第2点は、先ほど処遇上の差異がある、あるいは不利益になる、というご説明がありましたが、これは具体的にどのような差異、不利益があるのかどうか、試算された結果でそういうご説明になったかどうか、お尋ねします。
 第3点は、現行の国家公務員法や人事院規則などにいう政治的行為の制限、または禁止についてもう少しご説明願いたい。これは身分上の大事な留意点になろうかと思いますので、この辺のご説明をもう少ししていただきたい。
 第4点は、懲戒の問題なのですが、国家公務員としての身分を保持して弁護士登録をし、弁護士活動を行ったときに、例えば、弁護士としての懲戒の対象になるような事案が起きたときは、第一義的には弁護士会が懲戒の対象として取り上げることになるかと思うのですが、国家公務員としての身分は保持しているわけですから、国家公務員法上の懲戒の問題はどのように考えるのか。要するに、二重の懲戒処分ということがあり得るのかというのが第4点の質問です。以上です。

【植村参事官】それでは、お答えをさせていただきます。まず、第1点の「身分を離れて」の解釈でございます。仮に、ご指摘をいただきましたような「身分を離れて」という文言に、単に裁判官や検事の身分を離れるだけではなくて、国家公務員の身分も離れるということを含んでいるとすれば、事務局の提案というのは、国家公務員の身分は残りますので、意見書に沿わない提案と言われても仕方がないと思っております。
 そこで、改めて審議会の議事録を読ませていただきました。事務局といたしましては、審議会当時、議論の焦点となり、審議会として意見の一致をみたのは、裁判官の身分を有し、裁判官の給与をもらいながら弁護士事務所で経験を積もうとしても、法廷活動ができず、「お客様」になってしまうのではないか、判事補に実のある弁護士経験をさせるためには、判事補の身分を離れ、弁護士登録をして、弁護士活動をしてもらうことが必要でないか、という点であったものと理解をいたしております。
 それ以上に、裁判官の身分を離れてという点について焦点を当てて議論が行われたわけではなく、この点につきましては、議事録の内容から直ちに、裁判官の身分を離れてと意見書が書いているのは、国家公務員の身分を離れてということを意味するとは事務局としては考えておりません。また、既にこの3月の当検討会で、いわゆる他職経験の制度について議論をいただいたわけでございますが、裁判官が検事に転官した上での行政省庁での経験、それから、判事補の身分のままでの民間企業経験や海外留学経験も意見書にいう経験に含まれるという取りまとめをいただいておりまして、弁護士経験をする者以外は、判事補の身分や検事の身分を持ったままでの経験を行うわけでございまして、判事補に様々な経験をさせて、多様で豊かな知識・経験等を備えた判事を確保するというこの制度全体からみましても、裁判官の身分を離れるのは、裁判官のままでは弁護士登録をして弁護士業務に従事することができないからである、と理解をするのが自然であると考えております。
 そういたしますと、事務局の提案が、審議会意見からみて許容されるものかどうか、という問題は、事務局の提案が実質的にみて審議会意見に沿わないものとなっていないかどうか、すなわち、審議会意見は、実のある弁護士経験を積むことを求めているわけでございますから、公務員の身分が残ることによって、実のある弁護士経験を行うことについての障害が生じることはないか、という観点から、実質的に考えるべきではないか、と考えております。
 そして、事務局といたしましては、提案させていただいた官民交流法類似の制度において、そのおそれはないものと考えております。
 繰り返しになりますが、この制度の下におきましては、判事補、検事は、裁判所事務官、法務事務官の身分は保有するものの、公務には従事いたしません。したがって、また、国から給与を支給されることもなく、弁護士登録をした上で弁護士業務に従事し、給与も弁護士事務所から受けることになります。当然のことながら、具体的な弁護士業務について、最高裁、法務省から監督を受けるものでもございません。したがいまして、弁護士として十分に実のある経験をすることができ、提案させていただきました制度は、そういう意味で、意見書の趣旨に反するものではないと考えている次第でございます。
 それから、第2点の処遇上の問題について、具体的に試算をしたのかということでございますが、これは最高裁で行っていただいておりますので、後ほど最高裁からお答えいただければと思います。
 それから、第3点の政治的行為の関係でございます。先ほど木村委員からもお尋ねがあったわけでございますが、弁護士経験を行う間は裁判所事務官になっているわけでございますが、裁判所事務官の身分を有する以上、一般の裁判所事務官と同様の政治的行為の禁止又は制限を受けることになると考えております。これは国家公務員の政治的中立性を保持するために、その身分に着目して課されるものでございますから、現実には職務を行わないという理由でこうした制限や禁止が及ばないとすることはできないと考えております。
 具体的には裁判所職員の政治的行為に関しましては、裁判所職員臨時措置法において準用いたしております国家公務員法第102条、それから、裁判所職員に関する臨時措置規則において準用しております人事院規則14—5、14—7、これによりまして、一般の国家公務員と同様に禁止又は制限されているわけでございます。また、他の公務員と同様に、公職選挙法によりまして、その地位を利用し選挙運動及びこれに類する行為をすることが禁止されているわけでございます。
 こういう制限は課せられることになるわけでございますが、事務局といたしましては、弁護士経験をするに当たりまして、こういった制限が課されることが、弁護士としての業務に直ちに影響するものではないと認識しております。現在でも国家公務員の身分と弁護士の身分との両方をお持ちの方はいらっしゃいます。それから、来年の4月に司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律が施行されますので、そういたしますと、現行の弁護士法の第30条の1項と2項による公職就任制限がなくなります。そういたしますと、現行法以上に公務員の身分と弁護士の身分の併有が広く一般的に認められることになるわけでございます。公務員の身分を持っている以上、政治的行為の制限がかかってくる方々が出てくるだろうと思いますが、具体的な弁護士業務にそれが直ちに影響して、両立しないものであるとはみていないということでございます。
 それから、第4点の懲戒の点でございますが、ご質問の最後の点は、弁護士法による弁護士会又は日弁連の懲戒と国家公務員法に基づく懲戒が両立するのか、あるいは二重なのかというお話でございましたが、これは類型によっては二重に懲戒権が行使される場合もあり得ると考えております。
 もう少し懲戒についてご説明をさせていただきますと、裁判所事務官や法務事務官としての国家公務員の身分は残ることになりますので、国家公務員としての信用失墜行為の禁止、国家公務員としての守秘義務、そういった規制がかかってくるわけでございまして、これらに違反した場合には、懲戒処分を受けることもあり得ると考えております。
 しかしながら、事務局といたしましては、国家公務員法上の懲戒処分を受ける場合として、具体的に想定しておりますのは、国家公務員としての信用失墜行為に該当するような非行行為があった場合、例えばいわゆる破廉恥犯でございますとか、弁護士業務に関連してあり得るとすれば、依頼者から預かったお金を、そんなことはないと思いますが、横領してしまうとか、そういったいわば私生活上の非行や弁護士活動に関連して刑罰法規に該当するような場合ではないかと考えておるわけであります。冒頭お答えいたしましたように、何かありましたときには、弁護士会の懲戒権も同時に発生することになりますので、通常の場合には弁護士会の方で懲戒権の行使が行われるのではないかと考えておる次第でございます。

【伊藤座長】それでは、先ほどの処遇上の不利益について、最高裁からご説明ください。

【最高裁(金井参事官)】最高裁の金井でございます。
 この立法ができなかった場合の具体的な不利益に関するお尋ねですけれども、三つほど試算してみたところを申し上げたいと思います。
 まず、退職手当の関係ですけれども、現行の国家公務員の退職手当制度を前提にして考えてみましたところ、これは様々な要素が絡み合って金額が出てくるものですから、一義的にこれというはっきりとした金額を算出するのはなかなか難しいわけです。どういう時期に弁護士の経験をするのか、それからその期間によっても異なってまいりますけれども、仮に弁護士として2年間仕事をするという前提に立ち、裁判官に復帰した後、定年まで勤務するという条件で計算してみますと、少なくとも150万円ほどの減額になってくるのではないだろうかと考えております。
 それから、次に年金、共済長期給付の関係ですが、こういった法的手当がされない場合には、現行の給付水準を前提にして計算してみますと、その差額は、今、退職手当の際に申し上げたと同じように条件が絡み合ってくるわけですけれども、弁護士経験2年で、復帰後、定年まで勤務した場合の試算では、年額にして約9万円ぐらいの減額になるのではないかと思っています。
 それから、もう一つ、住居の面の問題も出てくるかと思っています。判事補の場合、全国異動の官職であるというようなこともありまして、転勤先で宿舎・官舎に入ることが多いところです。仮に完全に公務員でなくなるということになりますと宿舎に入れない。このようなことも実際上の出費増につながってくるかと思っておりまして、具体的には、各地での住居を確保するために要する費用程度が不利益額になってくるかと思っております。
 目につくところ、三つにつきまして検討してみたところでございます。

【伊藤座長】ありがとうございました。松尾委員いかがでしょうか。よろしいですか。

【松尾委員】はい。

【伊藤座長】どうぞ、平山委員。

【平山委員】私の方からもいくつかの点についてご質問したい。松尾委員の質問とかなり重なる部分があるかと思いますが、まず最初に、公務員の身分を離れた上で、退職手当、共済関係等の面で適切な配慮を講ずることがなぜできないのかについて、その障害が何かということにつきまして、もう少しご説明をいただきたい。先ほどのご説明で、資料20−3の官民交流法の考え方によると、その障害がなくなると聞こえるのですが、しかし、国の仕事をその間していないという意味では同じですね。公務員の身分が残っておりましても、例えば2年とか3年は国の仕事はやらないわけでありますから。そうすると、公庫等への出向の場合は国の関連の仕事に従事しているからいいが、弁護士の場合は国の関連の仕事はしていないから、退職手当等について、特別立法することは困難だと。こういうようにお聞きしました。そこで、今度は次の官民交流法の考え方によれば説明できるのではないかというご説明だと思うのですが、官民交流法の考え方によりましても、3年間なり2年間は公務あるいは類似のことには就業しないわけでありますから、その間、税金を使うという意味では、同じことにならないのかという気がいたしております。特別立法することには障害があるということですが、むしろ、この他職経験制度は、審議会意見書が日本の司法、裁判所の改革について、21世紀の裁判官を育てるには、身分を離れて弁護士経験をさせる制度がいいのではないか、という国家目的をはかる国策ではないかと思いますので、その線からいけば、少なくとも特別立法が可能なのではないか。官民交流法の改正ですとなかなか難しいのかもしれませんが、新法をわざわざお作りいただくということであれば、なお、それは検討する余地があるのではないかというのが私の第一の質問でございます。障害についてのご説明が、今一つ納得できないという面がございますので、是非、障害について、もう少しご説明をいただきたいと思っております。
 それから二つ目は、弁護士業務を行う上で国家公務員の身分が残っておりますと、支障がないかという点でございまして、弁護士はご承知のように、人権擁護、社会正義の実現という、時として、国家権力と対峙しなければいけないことも避けられないのです。そういう場合に国家公務員の身分が残っていては、私は義務の衝突みたいなものが起きないのかという心配をいたしておりまして、例えば、具体的に、国家賠償請求、国を相手にする訴訟、あるいは担当裁判官個人を訴える場合とか、裁判官の忌避とか弾劾、あるいは刑事弁護で違法収集証拠などにつきまして検察庁と争うというような場合、それから選挙関連事件など、こういうところで極めて、ある意味では権力と対峙してこそ真の弁護ができるという場面がありますが、そういうときに何らかの制約といいますか、内なる制約かもしれません、内心の問題かもしれませんけれども、そういう制約が起きるような気がいたしまして非常に心配いたしております。そのような制約があっては官製の弁護士ではないかと言われかねないと思いまして、大変心配いたしておりますので、そういう制約、日常の弁護士業務には影響がないのだということについて十分ご説明を賜りたい、と思うわけであります。
 それから、松尾委員からもお話がございましたけれども、懲戒の問題ですね。弁護士自治の最大の眼目になっておりますのは、懲戒権の帰属の問題でありまして、弁護士の場合は、弁護士会の懲戒権が第一順位といいますか、優先するということについて、きちんとご回答なり手当をしていただかないと、弁護士自治との関係で、会員の中に疑問を持つ者があってもおかしくないということを感ずるわけであります。
 それから、また第三には、これは検察官の他職経験でございますが、法務事務官という提案でございますけれども、法務事務官になりますと、例えば刑事弁護の関係で何か支障はないのかという気がしますし、法務省の職員という形で刑事弁護をやるわけでありますから、これも少しいかがなものかという気がします。普通の公務員とはちょっと違った意味で何か問題がないのかというのを私は心配いたしております。その点は、裁判所事務官もあるいは同じことかもしれません。官民交流法の場合は人事院に出てから、他職へ行くという形がありますが、この形でなくて、裁判所事務官、法務事務官でなければいけないというご提案について、もう少し理由をお聞きする必要があるのではないか、と考えております。
 いずれにいたしましても、私個人といたしましては、審議会の意見書やその討議内容を素直に読みますと、公務員たる身分も完全に離れて、3年なりの間、弁護士経験をさせようということだったように思うのですけれども、しかし、いろいろ事務局でご検討いただいた結果、なかなかその実現が困難というようなことであれは、ご提案のものも検討に値すると思っておりますけれども、何しろ弁護士会といたしましては、つい最近この話をお聞きしたということで、今までは公庫等への出向制度ぐらいまでのところはあらかじめ研究しておりましたけれども、官民交流については全然考えていなかったこともあります。特に一般会員が、このスキームについての受け手でございますので、会員たちに十分納得を得るための議論をしておかなければいけないのではないかと思います。日弁連に尋ねてみましたところ、9月19日に日弁連の理事会にかけるということになっておるようでございますので、そのあたりまで十分に弁護士会として、この制度の受け手として、このご提案について検討させていただく余裕がほしいと思っております。どうぞ、ご配慮いただきたいと思います。

【植村参事官】それでは、ご質問の部分につきましてお答えをさせていただきたいと思います。
 まず、一つ目の、「裁判官の身分を離れて」ということに関連いたしまして、公庫等出向のスキームの場合と官民交流法類似のスキームによる場合で、いずれも国の仕事をしていないという点では同じなのであるから、その辺がどうもしっくりこないというご指摘と思います。
 事務局としても、当初は、公務員の身分を離れて、帰ってきた後、共済とか退職手当で不利益を被らないような制度としてはどういうものがあるかということで公庫等出向のスキーム等に至ったわけでございまして、その制度につきましては、先ほどご説明したところでご理解はいただいたのではないかと思いますが、あくまでも公庫等出向のスキームでは、出向先の仕事が、そこで良い仕事をすることが目的になっておるわけでございます。また、公庫等への出向制度というのは、法律上当然にもとのところに戻ってくることを法的制度として保障する制度にはなっていないのです。公務員の身分を法律上ははっきりと遮断した上で出て行って、そこで仕事をし、かつ戻ってきた場合に優遇措置を講ずるスキームをとるとすると、その場合には、先ほど申しましたように受入先の要件が非常に厳しくなるというのが、現行法制であるということでございます。
 それに比べまして、官民交流法というのは、実は成立したのは比較的最近のことでございます。資料20−6に成立した年を書いてあったと思いますが、これは平成11年にできた法律でございます。官の方も民にいろいろ見習って改めることがあるのではないかと、おそらくそういう流れがございまして、各省庁の職員を民間企業に派遣して、そこで仕事をさせる。この制度においては戻ることが制度の大前提といいますか、最初からそう決まっておるわけでございまして、身分としても国家公務員の身分を残したままで行って帰ってくるという制度設計になっているわけでございます。国家公務員の身分がなくなってしまう場合に、退職手当の制度とか年金の制度で優遇する措置というのは、行き先に非常に厳しい要件のあるもの、すなわち公庫等への出向のスキームしか認められてこなかったわけです。それが、社会の大きな流れの中で、民間にもたくさん学ぶことがあるのではないかということで、こういう新しい法律ができました。事務局としては、この法律をモデルとすることで、政府部内で調整をしようと努力を続けてまいっているところです。ですから、官民交流法に準じて制度設計をすれば、簡単に政府部内の了解がとれるというようなものでは毛頭ございません。
 委員がおっしゃったように、民間に出ている間に、国の仕事をしない点では同じでございますが、そうはいっても、民間に出ている間の経験を、帰ってきた後の公務に役立てるのだということで、官民交流法の制度ができ上がったわけでございまして、そういう意味で、この官民交流法の制度では、公務員の身分を持っていることによって、当初から行って帰って来ることが前提になっている。こういう制度であれば、先ほど平山委員がご指摘になったような、税金を使って、退職手当の問題とか年金の問題をクリアーするということが平成11年に至って認められたというわけです。それを今度の制度に何とか使うということを考えて、委員がおっしゃいましたように、意見書が提言している判事補や検事に弁護士事務所での経験を積ませることがいかに大事かということを政府部内で説いてまいりまして、ようやく光明が見えてきたわけでございまして、それで今回のご提案に至っているということでございます。

【平山委員】それを、なお一層、特別立法という方法でご尽力はできないか。

【植村参事官】それは、結局国家公務員の身分を完全になくして行けないかということでございますが、それは現行法の大きな二つの制度とは異質の制度でございますので、ずっと今まで政府部内で調整してまいったことからいたしますと、実現は不可能であると判断した次第で、今回の提案になっているわけでございます。
 それから、2番目の点でございますが、弁護士業務の内容について、国家公務員の身分を持つことによって何らかの支障がないのかと。あるいは義務の衝突のようなことがないのかと、こういうお話だったと思います。この点につきましては、今回は裁判所事務官や法務事務官の身分を持つことによって、こういう類型の事件はやってはいけないとか、例えば国を相手にする国家賠償訴訟でございますとか行政訴訟、さらには、もともと刑事事件は、弁護人は国に対して当然対峙して仕事をするわけですから、そういう類型に加えてもいいのかもしれません。このような類型の事件ができないような制度では、委員がおっしゃるように、事務局としては意味がないと思っておりまして、ここは何としても制限のない業務ができるということを維持していきたいと考えております。
 ただ、その点を法案に書くかどうかということになりますと、また別問題でございまして、弁護士登録して弁護士になるわけでございますが、弁護士というのはそういう業務制限がないわけでございます。何でもできるわけでございますから、何らかの制約をしない限り、当然のこととしてあらゆる業務に従事していただけると考えております。
 それから、三つ目の懲戒の問題でございましたが、申し訳ないのですが、これはご趣旨が、よく分からなかったのですけれども、優先するということをおっしゃったと思いますが。

【平山委員】弁護士業務の、業務上のことについての懲戒は、弁護士会だけでいいのではないかということは言えないのでしょうかということです。

【植村参事官】法制度としては、弁護士法上の日弁連や弁護士会の懲戒権と、国家公務員法上の公務員が信用失墜行為を行ったような場合の懲戒権というのは、趣旨、目的を異にいたしますので、法制度的には優劣関係というのはないだろうと思っております。ですからケースによって両方が発動される場面があり得るだろうということは先ほど申し上げたとおりでございます。
 ただ、運用上の問題として、結果的に見て、通常の弁護士業務の過程で、国家公務員法の懲戒権が問題になるのは、恐らく先ほど申しましたように、預かり金を横領してしまったとか、そういう刑事罰が予想されるような類型だろうと思います。そういう意味で、これは法制的にというのではなくて、運用の要素が入ってくるものと思いますが、そういう意味でみれば、事務局といたしましては、委員がおっしゃるように、弁護士会の懲戒権の問題として、事実上第一義的に処理されるであろうとは思います。
 それから、最後のご質問については、官民交流法においては、各省庁の職員が一旦人事院職員に異動してから民間企業に出ます。まず、この趣旨からご説明した方がよろしいと思うのですが、これは各省庁と民間企業の間には、いわゆる許認可の関係とか契約関係がある場合がございまして、各省庁の職員のままで民間企業に行きますと、公務には従事しないとはいっても、世間から見ると官民癒着でないかというような疑いを持たれかねないということで人事院職員にした上で民間企業に派遣していると聞いております。
 それともう一つは、人事院というのは、中央人事行政機関といわれておりまして、広く国家公務員の横並びの制度についていろいろなお仕事をされております。その中には、例えば研修制度というようなものも入っておりまして、人事院は中央の研修機関として、例えば課長研修とか課長補佐研修とか、そういった各省庁から受講者を集めまして研修などをやっておられます。
 そういう意味で、この官民交流法による制度というのは、まさに各省庁横断的な制度でございまして、そういうことからみても、また先ほど申しました実質的配慮から、各省庁の職員をそのまま民間企業に出すのに問題があることからも、一旦送り出す役所として人事院はまさに適切であるということがいえるわけでございます。
 これに比べまして、まず、実質的な根拠のところから説明をいたしますと、最高裁と派遣先の弁護士事務所、それと法務省と弁護士事務所との間には、今、申し上げましたような各省庁と民間企業との間におけるような許認可の問題とか契約の問題というのはないといっていいだろうと思います。したがいまして、そういう意味で、人事院が関与するようになりました実質的な根拠が今回の場合にはないと事務局は認識をいたしております。
 それから、二つ目でございますが、裁判所の職員は、直接国家公務員法の適用がないということになっているわけです。公務員には一般職の公務員と特別職の公務員があるのですが、国家公務員法の適用対象というのは、一般職公務員でして、裁判所の職員というのは特別職ということで、一旦国家公務員法の適用を排除しております。これは国会職員なども同じでございます。おそらく三権分立の建前から、行政の中には組み入れないということだろうと思います。一旦外した後、事柄によっては、一般職の国家公務員と非常に似た部分もございますので、裁判所職員臨時措置法を作りまして、基本的には国家公務員法を準用しております。ただ、準用する際に、例えば「人事院」というのが出てくるところは「最高裁判所」と読み替えております。「人事院規則」というところは、「最高裁規則」と読み替えております。つまり三権分立の建前から、行政の職員は人事院が中央機関としていろいろなことをやるわけですが、裁判所職員については、これを最高裁がやることに法制上なっているわけでございます。
 したがいまして、今回の制度で申しますと、まず実質的な根拠が見出し難かったという点と、それから、今申しましたような国家公務員法制の観点からみて、一旦国家公務員法の適用を排除して、さらに臨時措置法によって大体準用しているわけですが、しかし、その場合には人事院の役割は最高裁がすることになっておりますので、人事院に判事補を出すというのはなかなか法制的には説明できないだろうと思っております。
 それから、検事については、そういう意味で申しますと、行政の職員でございますので、その意味から、法制上の問題は裁判所の場合と異なると思います。ただ、冒頭申しました実質的根拠の点からいうと、官民交流法で人事院を介在させている実質的な根拠は、検事の場合にも妥当しないと思っています。それからもう一つは、先ほど人事院を中央人事行政機関と申しました。各省庁横並びの制度については人事院が担当していると申し上げましたが、今回、検事を弁護士事務所に派遣するのは、法務・検察の職員の中の検事というごく限られた職種の人でございます。人事院は中央で横断的にいろいろな能率関係、研修関係のお仕事をされていますけれども、実は、各省庁もそれぞれ各省庁の職員を対象とする研修制度をお持ちになっているわけですが、今回の制度は、法務・検察の職員の中の検事だけが対象になりますので、人事院に出す妥当性は非常に低いと考えております。
 このような実質的な理由と法制上の理由から、今回の二つのケースについては、それぞれ裁判所事務官、それから法務事務官でよいと考えております。

【伊藤座長】それでは、どうぞ。ご質問でも結構ですし、さらにご意見でも結構ですので、各委員からご発言ください。どうぞ、中川委員。

【中川委員】たたき台で一つ質問があるのですが、日弁連にお聞きした方がいいのかもしれないですが。この絵でみますと、日弁連と最高裁、法務省の間で運用要領というものを決めますと、それから、各弁護士事務所から、日弁連が募集をすると書いてありますね。この場合に、日弁連の役割というのですか、実質的にこれは何をやろうというのですか。つまり、取りまとめみたいなものなのか、あるいはある種のコントロールといいますか、お前のところの事務所はだめだよ、ということをやりたいというのか、この辺のところをまず教えていただけますか。

【植村参事官】まず、事務局からご説明をさせていただきたいと思うのですが、私のご説明がちょっと足りなかったのかもしれません。「たたき台(案)による制度の具体的概要図」の中の運用要領と書いてあるところや、弁護士事務所から日弁連の募集と書いてあるところは、これは法律には書かないことを考えております。これは、運用上の問題ですが、分かりやすくするために書き込ませていただいております。
 この制度を円滑に進めていくためには、最高裁判所、法務省が直接弁護士事務所とおやりになるだけでは足りなくて、日本弁護士連合会に制度全体の面倒をみていただかなければうまく動かないだろうと思っておりまして、その意味で運用のレベルの問題として、最高裁、法務省とまず日弁連で話し合いをしていただいて、そこで大きな意味でのいろいろな運用についての事柄を相談していただいて、それに基づいて最高裁、法務省が弁護士事務所と取決めをすると。取決めは官民交流法に倣っているわけでございますが、そのようにしたいと考えております。
 募集もそういう意味で、官民交流法の場合には、民間企業から直接に人事院の方に行くわけでございますが、この新たに作る制度におきましては、運用上の問題でございますが、弁護士事務所から一旦情報を日弁連に上げていただいた上で、最高裁、法務省とまたご相談いただいて順調な運用をしていただければと考えた次第でございます。

【伊藤座長】どうぞ、木村委員。

【木村委員】資料では予定される法律には書かないような、矢印がいろいろあるということなのですが、例えば新法を作ると、前文か、あるいは目的でいろいろ書くことになると思います。その目的というのは、意見書に沿った形の内容になるかと思います。もう一歩進めますと、今年の3月18日の検討会で、最高裁の事務総局から配られた資料によると、多様な経験の制度的担保について、「この仕組みにより弁護士、検察官等他の法律専門職の職務経験又はこれと同視しうる経験を積むことを制度的に担保するものとする」としており、「下級裁判所裁判官指名諮問委員会において、この制度による多様な経験を積んだことが判事指名の検討の上で重要な考慮要素となることを確認してもらうことを検討」するというようなことが具体的に書いてあるのですけれども、これも目的の中に入れて書くのか、それとも隠れるのか、についてちょっとお伺いしたいのです。これは相当はっきりした意見書に沿った目的で、これを積極的に推進する、それが指名に積極的な要素として働く、ということを目的条項の中に入れるのかどうか。私は入れた方がいいのではないかと思うのですが。これは意見です。

【植村参事官】ご意見として承っておきますが、法律の目的は、まさに法律の目的を書くわけでございまして、委員がご指摘になりました下級裁判所裁判官指名諮問委員会で、この制度による多様な経験を積んだことが、判事指名の検討の上で重要な考慮要素となることを確認してもらう、というのは、思い出していただきますと、この判事補を弁護士事務所に出す、あるいはその他いろいろなところに出すということを制度的に担保しなさい、と意見書でいわれておりましたので、最高裁の方で検討されて、最高裁の裁判官会議で議決するとか、あるいは指名諮問委員会における判事指名の検討の上で考慮要素とするとか、という提案を最高裁の方でされて、その提案を検討会の委員の先生方にご了解をいただいたという経緯でございますので、その方向でおやりになるだろうと事務局としては思っておりますが、今回の法律に直接この関係が絡んでくることは想定はしておりません。

【伊藤座長】どうぞ、田中委員。

【田中委員】質問と要望と、両方あるのですけれども、いろいろ苦心されて、現行制度との整合性の下で、こういう方式でおやりになろうということについては、それでやらざるを得ないと思います。ひとつ気になっているのは、今、リーガルサービスセンターの問題が出てきていますが、このセンターを作って検察官とか弁護士がリーガルサービスセンターで活動するという制度ができたときに、その場合には公庫型で扱えるのか、官民交流型になるのかということを考えてみると、あちらの方は、これから制度設計をするので、不確定なところが多いと思うのですけれども、あちらの方はもしかしたら公庫型のような仕組みでもできるようにも思えますし、そうでもないような気もしますが、そういうこととの整合性というのは、まだ今のところ検討はしていらっしゃらないわけですか。あちらの方とは一応別に、こちら側だけ検討していらっしゃるということでございますか。

【大野次長】これからの検討事項ですけれども、いわゆる司法ネットの運営主体というのは、本日の検討で二つ出てきましたスキームの中で、公庫型のスキームに乗りうる余地もあるわけです。ただ、その場合でも、当然、運営主体で働く場合には弁護士として働くことになるわけですから、判・検事の身分を離れて、弁護士として登録することが前提になっていると考えております。
 その場合、年金や退職手当の関係を官民交流型でカバーするのか、それとも公庫型でカバーするのかについてはこれからの検討であるということでございます。

【伊藤座長】どうぞ、釜田委員。

【釜田委員】今回のこの審議会の意見書、基礎には、おそらく日本もどこかで法曹一元化する方向性を探るべきであるというご意見、あるいはそれが将来望ましいのであるというのがあったのではないかと思うのですが、しかし、いきなりそういう制度に切り換えるということはできなかったために、少しでもそういう色彩の制度を現行制度の上に組み立てて、より良いものにしていくためにはどうすべきかというようなお考えがあって出てきたご提案でないかと思います。ですから、基本原則から考えますと非常に無理があるところがございまして、おそらく弁護士会の方ではすっきりしていない部分があって、何かこのままの形で移行するのは抵抗を感じるとお考えになられる節があるというのは、私もよく理解できるわけであります。
 ただ、これは制度全体、今の改革が行われています全体を考えてみますと、新しい法曹の養成制度が来年からスタートしまして、それが5年、10年、20年と進んでいきますと、法律家も増えてきまして、また、そこでの法曹三者になる人々の交流が非常に深まっていって、その結果、遠い将来には日本でも今の制度と違った法曹一元に非常に近いようなものが実質上でき上がってくるようなことも思えるのです。ただ、問題は、それは非常に遠い将来のことでありますので、現行の人員の下でどうするのかということになりますと、判事補制度というものが一体どういう意味を持つのか。これ自体に対するいろいろな評価が出てくるわけでありますが、これは現行制度の下では、憲法上も身分が保障された職でありますので、この審議会意見書が指摘されましたようなことを強制するということはちょっとできないことでございますね。
 先ほどご提案がございましたように、判事補の方の自主的なご意思でもってそういう経験を2年なり、あるいは人によっては、3年か4年か5年か、そういうものを自ら積んでみたいという、その自主性を待つということでございますから、現行の制度を前提にすれば、何らかのご自身が予定していなかったような不安要素というものが当然出てくると思います。ですから、そういうことを考えますと、最低限の、今の人生一番最後のところの年金とか退職金のところに対する不安要素というものを除去して、そして積極的にご自身がそういう経験を一定期間を積むのだということで、どんどん出て行かれるというような流れになっていくということを、側面から支えるような制度に持っていく必要があると思います。
 そのときに、私は日本の社会全体の流れの中ではこの制度は、過渡的なもののようにも感じるのです。これは10年、20年、30年も続くということでなくて、おそらく現在いらっしゃる方と、それからここ数年、10年ぐらいでしょうか、続いて誕生される判事補の方が適用対象になるのだけれども、それからまだまだそういうものが続いていくというようなことはちょっと私自身は考えられませんので、これは過渡的な今の措置として最大限一番良いものを考えて、積極的にそういう方向へ持っていくためにはどうしたらいいのだろうといった観点から考えてみる必要があると思いながら、先ほどのご提案をお伺いしていたのです。現在の中で考えますと、毎年誕生される判事補の方の中に、少しでも格差が生ずることによる不安というものがないように環境整備するというか、過渡的な措置として、ひとまずやってみるというのがいいのではないかと思います。
 これはいろいろな側面が重なっていますから、完全な姿にはなかなか今現在ではならないのではないかという感じを受けます。ですから最大限ご検討いただきまして、これが今の段階で、ベストとして出されたもので、今いろいろご意見が出ていましたようなものを加えて、ご検討いただいて、なお、良いものがあるのであれば、それを付け加えていただくということは当然でありますので、とにかく審議会意見書の提言が実現するようにひとまずやってみるというのが、私は良いのではないかというような印象を持った次第です。

【伊藤座長】どうぞ、岡田委員。

【岡田委員】最終的にこの問題を解決するのはお金の問題だろうと思います。ですから身分を離れて弁護士になる場合、公務員の身分も離れてということになれば、確かに理想だと思うのですけれども、現実がそれに伴わないということであれば、弁護士会としても多分どこかで手を打たなければいけないというお気持ちは多分にあるだろうと思います。もう一つは、公益のためには弁護士会もある程度は我慢しなければいけない部分もあるだろうと思います。そのようなことを承知の上で、今、日弁連として議論を進めていらっしゃるところだろうと思いますが、ですから、議論に不信感があると、せっかくの制度も機能しないので、日弁連として納得できる議論を時間がある範囲でやっていただいた上で、最高裁とうまく話し合いをするなりして、決めていただいたらと思います。

【平山委員】座長、よろしゅうございますか。

【伊藤座長】どうぞ、平山委員。

【平山委員】今の関連ですけれども、先ほど最初にも申し上げましたけれども、私個人的には、理想的なものは完全に公務員の身分を離れてだと思っておりますけれども、この事務局でご検討いただいている案は、何とか判事補がこの制度に参加しやすくして、スタートさせたいという案だと思います。そういう意味で、弁護士会に他職経験のため来たい人たちが、いっぱい来ていただくということも大切ですので、弁護士を経験しようとされる方が行きやすいということは必要だと思いますので、そのあたりを弁護士会としても十分検討させていただいて、みんなが納得できるようにする必要があると思っておりまして、今日は弁護士会の方も全然まだ検討が進んでおりませんので、できましたら、もう一度検討会の機会をいただいて、議論させていただきたい。そして、事務局のたたき台が、今のところベターだということであれば、そういう方向でやっていただくことになるかと思いますけれども、是非時間を若干いただきたいというのが私の要望ですね。

【伊藤座長】どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】身分を離れてということについては、理念的には私は正しいと思いますし、尊重すべきだという基本的な考え方を持っております。そこで、「身分を離れて」の解釈はどうなのかということを先ほど質問したわけであります。ただ、身分を離れてという高い理念と、その反面、復帰してくる裁判官・検察官に対して適切な配慮を講ずるということは、一見、無理な制度ではないかという感じさえ受けます。しかし、両方とも大事なことだと理解しますので、どのように整合性のある制度設計するかです。その一つとして、事務局がいろいろとご苦労され、提案されたものと思っております。
 改革審意見書が指摘した弁護士経験を中心にした他職経験ということの重要性、それによって大きな効果が期待されるということを考えますと、理念と待遇面の配慮が両立する何らか適切な制度設計、立法化は必要と考えます。
 それはなぜかというと、多くの判事補がこの弁護士経験に積極的に参加し、多様な知識と豊富な経験を得るという、裁判官改革の方向性を制度的に整備しなければならないからです。受け入れ側の弁護士会も会内での討議を重ね、意見の相違を越えて大局的に理解し、納得して、実効ある制度になる方向に集約すべきでしょう。結論として裁判官の他職経験が司法信頼のための実りある制度にするということだと思います。
 そういう意味で、まだ日弁連もはっきりしたご意見がないようで、検討中だということですが、今後も率直な議論を重ね、前向きの結論が出されるのではないかと考えております。

【伊藤座長】先に佐々木委員からどうぞ。

【佐々木委員】この制度の目的を達成して、所期の成果を上げていくためには、判事補の主体的な、積極的な取組が必要だと思うわけであります。そこで一言だけ、弁護士会の方で考えていただけるとは思いますけれども、現に判事補をあずかり、現に現場で判事補に弁護士事務所へ行っていただく作業を我々が担うわけでございますけれども、それに当たって一番大切なことは、弁護士事務所で実りある体験ができるかどうか、すなわち、事務所の職務内容、従事する職務内容が判事補にインセンティブを与えるものか、動機付けとなるようなものかというところですので、この点を、まず強調しておきたいと思うわけでございます。したがって、そこを離れて、この制度の運用はできない、勧める者としてはなかなか難しいだろう、と思っております。
 ただ、釜田委員も松尾委員もおっしゃいましたけれども、送り出す者としては、できる限り環境・条件を整備していく責務があろうかと思いますので、種々の民間企業、海外留学、あるいは行政官庁へ行く者との処遇上の差異をできるだけ緩和していただくと、より一層運用面ではスムーズになるのではないかということだけは申し上げられると思っております。以上です。

【伊藤座長】どうぞ、木村委員。

【木村委員】私も退職手当や共済関係等の面での適切な配慮というのは、特に若い新進気鋭のこれから司法の分野で大活躍しようとしている人たちにとって、大事な要件だと思います。私も学生を教えているわけですけれども、この頃は、もう既に会社に入るときから退職金を計算している学生もいるぐらいですので、何かせちがらい世の中になってきたかなと思ったりするのですが、これに並んで、先ほどから植村参事官、金井参事官からもご指摘がございました、住むところの問題は、若い人にとって、大変に大きい問題になりますので、そこのあたりも不公平感のないように、結局は、公務員宿舎に継続して入居できることになるような配慮があるとすれば、公務員という身分がつながるということになるのだと思いますが、本来的には、日弁連が、先ほど釜田委員がいわれたような大きいスケールでこれを考えるとすれば、例えば日弁連がマンションなどを所有して、そういうところに一時的に入っていただくとか、あるいは第三者の財団を作るとか、何かそういうことまで本当はやらなくてはいけないかと思います。
 先般の資料などによりますと、これは裁判官という身分を持ったままで、民間企業へ行かれた方が、昭和62年から平成14年までの15年間に56人の方がいらしたというわけですが、この場合は、金井参事官の方にお伺いしなければ分からないと思います。恐らくは判事補として公務員宿舎に住んで民間企業に行かれたのかと思いますが、民間企業はご存知のように、非常にすばらしい社宅を持っているところがあって、判事補の方でそういう社宅に入ったという方もいらっしゃるかもしれないと思うのですが、現状の住居について、ご自宅から通っている方とか、自分でお金を出している方については住居手当が出るのかどうかとか、最高裁では日本全国の地域で宿舎のキャパシティーがどれくらいあるとか、そういう統計があるのでしょうか。
 私は、住むところも非常に重要な要素になってくるということをきちんと考えていかなければ、若い人へのインセンティブにならないのではないかと思いますが、今、最高裁としては、全国でどのぐらいの宿舎があるのでございますか。

【最高裁(小池審議官)】 今、手元にありませんけれども。

【伊藤座長】それでは、大変有益なご意見を多数承りましたが、それらを踏まえて、日弁連として、やはり受け入れていただかないと、制度の運用というのはおよそ考えられないと思いますので、先ほどの平山委員のご発言のような形で処理をさせていただきたいと思いますが、ただ、スケジュールとの関係で、日弁連でご検討になるというのですが、どのくらいのことを考えておったらよろしいのでしょうか。

【平山委員】私が聞いているところでは、総会にかけるのには間に合いませんが、今月19日に各地の会長が主なメンバーとなっています日弁連理事会が開かれる予定で、理事会には執行部から頭出しは先日していただいておりますので、そこで議論していただいて、結論が出てくるのではないかと期待いたしております。ですから、その後ということで、是非お願いしたいと思います。

【伊藤座長】事務局はどうでしょうか。

【植村参事官】事務局といたしましても、今、座長からもお話がございましたとおり、この制度で判事補や検事を実際に受け入れていただくのは日弁連でございますので、今、平山委員の方からご説明があった進行であれば、結構でございます。

【伊藤座長】よろしいですか。それでは、この議題につきましては、次回の検討会で継続してご意見をいただくことにいたしたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、法務省、最高裁から、平成16年度の増員要求についての報告をお願いしたいと思います。まず、法務省からお願いいたします。

【法務省(稲田課長)】法務省の刑事局総務課長をしております稲田でございます。
 それでは、平成16年度の概算要求におけます検察庁職員の増員についてご説明をさせていただきます。お手元に法務省配布資料ということで、「平成16年度増員要求について」という1枚紙をお配りしているところでございます。これがまさに要求の内容そのものでございまして、平成16年度につきましては、検事について56名、検察事務官について147名の要求をいたしております。
 ちなみに平成15年度に行いました要求数は、検事は50名、検察事務官は120名でございました。それに対しまして、平成16年度は若干数の増加をさせているところでございます。
 ちなみにその背景を若干ご説明いたしますが、検事につきましては、既にこれまでも何度かご説明をいたしましたが、平成8年度以降、毎年30名から40名程度の増員が認められてきておりまして、累積で今年度までに280名の増員が図られてきております。しかしながら、まず、現在の治安状況といたしまして、従来にもなく治安の悪化が深刻化しておりまして、先日も全閣僚をメンバーとする犯罪対策閣僚会議が招集されまして、世界一安全な国日本の回復に向けて、犯罪に強い社会を実現するということがモットーとされておりますので、その刑事司法システムの中核を担う検察といたしましても、我が国の治安の回復を図っていくという観点から、まず、治安を脅かす犯罪処理体制を確立するために必要な人員を要求するということにいたしておりますし、さらに司法制度改革、とりわけ先の通常国会におきまして、裁判の迅速化に関する法律が成立いたしまして、刑事裁判の充実・迅速化を進めることが、私ども検察にとりましても責務とされたところでございます。そのために、これを積極的に推進していくための体制整備が必要となります。さらに、先ほどの治安の悪化に呼応いたしまして、公判請求件数が増加しております上に、複雑かつ困難な事件も増えておりまして、立証責任を負います検察の役割はますます増大しているということで、こういう刑事裁判の充実・迅速化のための体制の確立のためにも相当数の要員が必要になると考えております。
 その他、特捜・財政経済事犯処理体制の充実という、従来から非常に大きな問題となっている点もございます。
 これらを合わせまして、検事56名、検察事務官147名の増員をお願いすることとしたところでございます。法務省といたしましても、司法制度改革審議会意見書及びこれを受けた司法制度改革推進計画におきまして、検察官の大幅増員、検察事務官の適正な増加が政府の方針として示されていることを踏まえまして、今後も検察体制の充実強化が図られるように最大限努力していきたいと考えているところでございます。
 以上でございます。

【伊藤座長】ありがとうございました。それでは、最高裁からのご報告をお願いいたします。

【最高裁(小池審議官)】最高裁の審議官の小池でございますが、簡単に16年度の増員要求についてご説明申し上げます。お手元の「平成16年度増員要求について」という資料をご覧いただきたいと思います。
 平成16年度の増員は、ここにありますように、裁判官52人、書記官75人、家裁調査官5人という要求をしております。ちなみに昨年度(15年度)の予算では、ここにありますように、裁判官45人、書記官47人、家裁調査官5人ということでございました。
 裁判所は、司法制度改革審議会におきまして、主要な事件について現在の審理期間を大体半分にするためには、様々な手続改善あるいは当事者の準備活動等の諸条件がこれから進んでいくという条件の下で、今後10年間で約500人の増員が必要であるという意見をお示ししたところであり、また、今年の1月には、この検討会で、さらなる増員の必要性が出てきている、すなわち司法制度改革の進展によって更なる増員の必要性が出ているということについてご説明したところであります。
 また、事件動向をみますと、ここに四つ掲げてございますが、民事訴訟事件は、高値安定という状況でありますし、よく新聞報道されますような、知的財産事件への対応強化ということも課題となっております。それから、倒産事件が非常に増えている。そして、今もお話がありましたように、刑事関係の事件も増加している。家事事件につきましては成年後見の問題、あるいは人事訴訟が今度家庭裁判所に移るということもございまして、そこの態勢強化ということも課題になっているわけでございます。
 このような事件動向あるいは改革の推移ということを考えまして、この司法機能の充実という観点から、前にも申し上げました計画性を持った増員を今後とも図っていきたいと思っております。その一環として、16年度には、ここに掲げてありますような増員要求をすることにしたということでございます。
 以上、ご報告でございます。

【伊藤座長】ただいまの法務省、最高裁からのご報告に関しまして、何かご質問、ご意見等はございますか。どうぞ、木村委員。

【木村委員】法務省配布資料ですが、平成15年度予算の「(定員振替を含む)」というのは、どういう意味ですか。

【法務省(稲田課長)】これは、法務省に公安調査庁という外局がございますが、そこの定員を二人、検察庁の定員に振り替えておりまして、その分を含めているという意味でございます。非常に細かい話で恐縮でございます。

【木村委員】そうですか。

【伊藤座長】よろしいですか。

【木村委員】はい。

【伊藤座長】それでは、予定の時間を若干過ぎておりますので、本日の議事はこのあたりで終了したいと思います。次回は10月21日、午後1時30分から予定しておりまして、裁判官の人事評価の仕組みの整備等につきまして議事をお願いしたいと思います。
 なお、本日議論していただきました「検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合の、退職手当や共済関係等の面での適切な配慮」につきまして、臨時の検討会をお願いする可能性がございます。その場合には、本日に引き続いて意見交換をしたいと思いますが、開催することが決まりましたら、事務局からご連絡をいたしますので、よろしくお願いをしたいと存じます。

以 上