① 法務省からの説明
法務省配布資料「グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について」に基づき説明がなされた。
② 事務局からの説明
事務局配布資料24-1から24-7に基づき説明がなされた。
③ ①、②の説明に対して、次のような質疑応答及び意見交換がなされた。(○:委員、●:事務局、□:日弁連、■:座長、▲:法務省。以下、同じ。)
○:御説明いただいた法務省の見解は、捜査機関や裁判所の解釈を拘束するものではないとのことであるが、法務省配布資料「グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について」はどういう性格のものなのか。
▲:法務省として当検討会で報告を行うに当たっては、関係各方面から意見を聞き、省内各局とも調整した上で、法務省全体の意向として取りまとめをした。捜査機関や裁判所が具体的にどのように取り扱うかは分からないが、世間に公表された法務省の解釈として、それ相応の重みのあるものとして扱われるのではないかと考える。
●:本日の法務省の解釈は、事務局配布資料24-1に記載した司法制度改革推進計画で求められている、弁護士法第72条における「規制対象となる範囲・態様に関する予見可能性を確保する」ための所要の措置として示していただいたものである。
○:「法律事件」の解釈として、法務省の見解のとおり「事件性必要説」に立てば、「事件性」のないものについては、報酬を得る目的であっても弁護士第72条違反とはならず、「事件性」のあるものについても、無報酬であれば同じく違反とならないという理解でよいか。
▲:そのとおりである。
○:その辺りが明確にされたことは、それなりの意味があると思う。
○:法務省からの報告は、第9回及び第10回の当検討会で議論した内容と切り口が違うと思う。今回は、「他人性」の要件を欠くとして弁護士法第72条の構成要件に該当しないとすることは困難だとし、また、他の構成要件要素についても解釈を示したということか。
▲:確かに法務省としては、構成要件の問題として説明させていただいた。しかし、構成要件に該当した事案について違法性が阻却されることがないというわけではない。個別の事案について、どういう場合に違法性阻却自由があるとするかは、明確に示すことは難しいと考える。
○:法務省が弁護士法第72条の問題を検討するに当たっては、同条が刑罰法規である以上、慎重にならざるを得ず、また、企業法務等の経済界の要請を受けて検討するとしても、事件屋等の暗躍を防止する必要もあることなどから、条文の規定は現行のとおりとして、最終的には裁判所の判断にゆだねられるとする結果になったのか。
▲:背景にあった事情は、いずれもそのとおりである。
○:これまで「事件性」に関する議論がいろいろとあったために、企業法務は慎重とならざるを得ず、日本企業の動きが鈍くなる場面があった。今回、構成要件該当性の切り口からまとめていただいたことによって、クリアになり、進展があったことはありがたいと思う。しかし、「他人性」の問題に関して言えば、民事では刑事のように厳格に解釈しないこともできるのではないか。解釈と経済の実態との間に乖離があることは問題ではないか。また、弁護士法第72条に該当する場合において刑法第35条の正当業務行為といえる範囲も明確ではないので、これでは企業側がスムースに活動できるようになるとは言えない。個別具体的な事案の最終判断は裁判所に任せるとしても、日弁連と企業側とが協議を行って、日弁連の見解を明確にした上で、コンセンサスを得ることはできないだろうか。
○:「他人性」の要件については、第9回及び第10回の当検討会でも様々な意見が出たところである。事務局資料27-5で紹介された最高裁の判例も一つの判断基準となると思う。正当業務行為として許容される範囲については、今後の実務動向によって形成されていくのではないか。
日弁連は、当検討会で議論した以降もいろいろと検討を重ねていると聞いている。
■:企業側と日弁連との協議は、別途進めてもらうのがよいと思う。
○:私の検事としての経験から考えると、例えば、100パーセントの完全親子会社は「他人性」の要件を欠くとの解釈を示したとしたら、いわゆる事件屋、総会屋といったグループは、巧妙に完全親子会社の外形を作り出して構成要件該当性を免れるというように、より悪質な手口を使ってくることは容易に想像できる。違法性については、個々の事件の内容に応じて捜査機関や裁判所が判断するものであり、それを拘束するものではないが、日弁連と企業法務とが議論を深めることは大変結構なことであると思う。
○:刑法第35条の文言が抽象的であるのは、「正当な業務」の解釈は最終的には司法に任せるべきであるという考えが前提としてあるからだと思う。
○:現行法の枠内で考えれば、法務省の見解は、一つの基準として価値があると思う。しかし、刑罰法規としての弁護士法第72条と企業法務側からの要請との調和を考えた場合、例えば、「企業法務法」を制定して「企業法務士」といった資格を創設するというような大胆な発想も必要となってくるのではないか。
○:親会社から、法務、会計、財務等の分野を独立・自由化させて競争力を高めることは、国際化社会における時代の流れであると思う。刑罰法規である以上慎重な検討が必要であることは理解できるが、親子会社の「他人性」の要件との関係においても、原則、自由化しておいて事後的に規制する方式の新しい基準を考えてみるのも一つの方法ではないか。
■:この問題については、いろいろな意見があると思うが、法務省の見解そのものは御了解をいただいたものと考える。司法制度改革推進計画にいう「措置」として法務省の解釈が示されたわけであるので、今回の検討はここまでとしたい。
① 日弁連からの説明
日弁連配布資料1「営利業務の届出等に関する規程」及び資料2「営利業務に従事する弁護士に対する指導・監督に関する基準の概要」に基づき説明がなされた。
② ①の説明に対して、次のような質疑応答及び意見交換がなされた。
○:営利業務に従事する弁護士に対する指導・監督に関する基準に従って、弁護士の行為に関する規定を別途作る予定なのか。
□:弁護士の行為に関するものは、別途会則を設ける予定である。
○:資料2「3」に掲げられた六つの禁止事項に違反した場合には、綱紀・懲戒手続に付されることになるのか。
□:その他の要件も関係してくるが、一つの基準として参考とされると思う。
○:資料2について、もっと前向きで、弁護士倫理にリンクさせるような、弁護士の営業の自由化に関する日弁連の声明的なものを、前文として盛り込むのはどうか。
□:この基準は、営利業務の自由化に伴う指導に関する基準であり、弁護士の品位に関する問題については事案の集積を待って検討していきたい。
○:営利業務に従事する弁護士に対して指導・監督を行っていく上で一番難しい問題は、利益相反行為をいかに規制していくかであると思う。日本の弁護士は人権擁護と社会正義の実現の立場から、依頼者の利益のみを追求することもできないという現実もある。この場で議論する必要はないが、もう少し、具体的で、分かりやすい事例を念頭においた規定とするための検討が必要ではないか。
○:これだけでは、弁護士個人に任せられる精神論的な規定で終わっていると思う。後で問題が起きないようにするためにも、もう少し実行可能な、具体的事例に即した規定を本文に盛り込んではどうか。
□:今後、具体的な事例の集積を待って検討したいと思う
■:そもそも利益相反的な可能性のある業務に従事させないことのないように営利企業の中での規律を考えるべきであるとの意見もあると思う。その両面からの検討も必要ではないか。
○:日弁連には、過去の弁護士倫理に関する事例ファイルのようなものは存在するのか。存在するとすれば、それは公開していくべきではないか。
□:存在しないわけではないが、残念ながら、有効に使える整理されたものではない。しかし、昨年度から懲戒事例の要旨について公表しているので、それも参考にしながら、今後は弁護士会の内外を問わず分かりやすい形で示していく方向で検討したいと考えている。
○:私たち一般国民は、弁護士は、原則、正しいことをするという意識を持っている。そこを再認識していただいて、営利業務を行うに当たっても、国民の期待を裏切ることのないようにお願いしたい。
○:これから社会の隅々まで進出していく我々弁護士にとって、義務の衝突は大変大きな問題であると思う。今回の弁護士法改正による営業の自由化を無駄にしないためにも、今後もしっかりと検討してくべきだと思う。
○:これまで営利業務に従事するに当たっては、禁止事項が多すぎたように思う。弁護士が企業の中へ進出した場合の利益相反等の難しい問題もあるが、企業法務部の活動の在り方とも絡めて検討して行く必要があると思う。
■:日弁連には、本日の当検討会での意見、要望等を参考にして、新制度の運営に当たっていただきたいと思う。