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法曹制度検討会(第24回)議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年12月8日(月) 10:30〜12:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局 第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤 眞(座長)、太田 茂、岡田ヒロミ、奥野正寛、釜田泰介、木村利人、 佐々木茂美、田中成明、中川英彦、平山正剛、松尾龍彦(敬称略)
(説明者) 黒川弘務(法務省大臣官房司法法制部司法法制課長)
尾崎純理(日本弁護士連合会副会長)
(事務局) 大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、植村稔参事官

4 議題
(1)弁護士法第72条について、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め検討した上で、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保すること(企業法務との関係その他について)
(2)営利業務に従事する際の弁護士の行為規範
(3)その他

5 配布資料

【事務局配布資料】
[弁護士法第72条の予測可能性の確保のための措置−企業法務との関係その他について]
○資料24−1 司法制度改革審議会意見抜粋・司法制度改革推進計画抜粋
○資料24−2 法曹制度検討会(第9回)関係資料
①法曹制度検討会(第9回)議事録抜粋
②資料9−2 弁護士法第72条についての司法制度改革審議会での主なやりとり
③資料9−3 企業法務関係資料 その2
④中川委員配布資料 企業法務と弁護士法72条
○資料24−3 法曹制度検討会(第10回)関係資料
①法曹制度検討会(第10回)議事録抜粋
②資料10−1 親会社、子会社等の法令上の定義
○資料23−4 犯罪の成立要件・メモ
○資料24−5 最高裁平成14年1月22日第三小法廷判決
○資料24−6 参照条文
○資料24−7 判例時報1775号46頁(資料24−5の判例の解説部分)

【日弁連配布資料】
[営利業務に従事する際の弁護士の行為規範]
○資料1営利業務の届出等に関する規程
○資料2営利業務に従事する弁護士に対する指導・監督に関する基準の概要

【法務省配布資料】
[弁護士法第72条の予測可能性の確保のための措置−企業法務との関係その他について]
○資料 グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について

6 議事

【伊藤座長】所定の時刻でございますので、第24回の法曹制度検討会を開会させていただきます。御多忙の中、御出席いただきまして、ありがとうございます。
 それでは、議事に先立ちまして、事務局から、配布資料の確認をいたします。

【植村参事官】それでは、配布資料の確認をさせていただきます。
 本日は、事務局から資料24−1ないし24−7を配布させていただきました。また、日弁連、法務省から次第に記載しましたとおりの資料の御提出がありましたので、御紹介をいたします。以上でございます。

【伊藤座長】本日は、まず、次第にございますとおり、議事(1)の問題、具体的には、弁護士法第72条と親子会社の問題につきまして、議事をお願いしたいと思います。
 引き続いて、議題(2)の、営利業務に従事する際の弁護士の行為規範の問題についての議事をお願いしたいと思います。
 それでは、早速議題(1)につきまして、議事をお願いしたいと思います。
 この問題につきましては、昨年、第9回検討会、第10回検討会におきまして検討していただきました。その結果、検討会における議論を踏まえて、本部事務局と法務省で更に検討し、その結果を検討会に報告してもらうことになっておりました。本日は、弁護士法を所管しておられる法務省から、グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係につきまして、司法制度改革推進計画で求められております「措置」として、法務省の解釈を示していただくことにいたしました。
 その後、事務局から、法務省の説明に関連して説明をお願いしてあります。では、法務省からよろしく御説明をお願いいたします。黒川さんどうぞ。

【法務省(黒川課長)】失礼します。着席のまま説明させていただきます。お手元に「グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について」と題する一枚紙を配らせていただいておりますので、それを眺めながらお聞きいただきたいと思います。親子会社、グループ企業間の法律事務の取扱いに関する弁護士法第72条の本文の適用関係について、弁護士法を所管する法務省としての一般的な解釈を示させていただきたいと思います。
 まず初めに、これまで検討会において議論されてきましたグループ企業の中には、法第72条本文の隠れた構成要件である「他人性」の要件を欠くものがあるのではないか。例えば完全親子会社間の法律事務の取扱いは、法第72条との関係では、他人の法律事務を取り扱ったことにはならず、同条に該当しないのではないかという論点についてですが、法務省としては、完全親子会社であっても、法人格が別である以上は、「他人性」の要件を欠くとして同条の構成要件に該当しないとすることは困難であろうと考えております。
 他方で、法務省としては、そもそも親子会社やグループ企業間で現実に行われていると考えられる法律事務の中には、弁護士法第72条のほかの構成要件要素、後に申し上げますが、「報酬を得る目的」や「法律事件」の要件との関係で同条に該当しないものもあるのではないかと考えております。そこでこれらの点を中心に、法第72条について、法務省としての考え方を御説明したいと思います。
 ただし、法第72条は罰則の構成要件の規定でございまして、その解釈・適用は捜査機関、最終的には裁判所の判断にゆだねられるものですから、ここで法務省としての見解をお示ししたとしても、それは捜査機関が具体的事件において同条をどのように解釈・適用して捜査を行うかとか、また、裁判所が刑事あるいは民事の具体的事件において、同条をどのように解釈するかが拘束されるものではございません。これからお示しする解釈については、そのような留保付きでお聞きいただきたいと思います。
 まず、報酬を得る目的という要素について御説明しますと、法第72条本文は「報酬を得る目的」で行う行為を規制しております。この報酬は、現金に限らず物品や供応を受けることも含まれ、額の多い、少ないは問わず、第三者から受け取る場合も含まれると解されておりますけれども、他方で、無償で受託する場合は報酬を得る目的があるとは言えません。また、実質的に無償委任と言える場合であれば、特別に要した「実費」、実費部分を受領しても報酬とは言えないと思われます。
 問題は、この「実費」の範囲だと思われますが、当該委任事務を行うために特別に費やされた、例えばコピー代等のようなものはこの「実費」に含まれる可能性がございますが、他方、人件費のように、当該事務を行うために特別に費やされたとまでは言えないものは、全体として報酬と評価されることが多いのではないかと考えております。
 次に「法律事件」という要素についてでございますが、この法律事件といいますのは、法第72条本文に、「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して」と書かれております。このうち「その他一般の法律事件」が何を指すかについては、一般に法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件とされておりますけれども、この点について、いわゆる「事件性不要説」と「事件性必要説」という考え方がございます。
 「事件性必要説」というものは何かと申しますと、例えば列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、言い換えれば、事件というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要するとしております。つまり紛争性がある程度成熟して顕在化しているものであれば、法第72条の規制の対象になるけれども、そうでない場合には、つまり事件性がない場合には法第72条の規制の対象にはならない、というのが「事件性必要説」です。
 法務省としては、事件性不要説は相当ではないと考えておりまして、事件性必要説が妥当だと考えております。その理由はいろいろございますけれども、事件性不要説では、処罰範囲が著しく拡大してしまいますし、本来、弁護士法第72条が想定している射程の範囲を超えるような事柄についてまで処罰の対象としてとらえてしまうことになるからという点が一番大きい理由になっています。事件性不要説の場合、新たな権利義務関係が発生すれば、すべて「その他一般の法律事件」に該当することになりますので、例えば一般の業者が仲介業を行う賃貸住宅の賃貸借契約や不動産の売買契約の締結作用等もすべて法律事件に該当することになってしまって相当ではないと考えています。
 法第72条が弁護士の職務を定めた法3条1項に比べて、限定的な文言を用いていることからも分かるように、弁護士法は刑罰をもって、弁護士以外の者が弁護士の業務一般について行った場合を処罰するのではなく、事件性がある法律事務を行った場合に処罰する趣旨であることを定めたものと考えるのが適当であろうと思われます。
 以上の理由から、法務省としては、いわゆる「事件性必要説」に立っているわけですけれども、その場合、争いや疑義としてどの程度のものが必要かが次に問題となろうかと思います。この点、ここに争いや疑義が抽象的又は潜在的なものでもよいと考えてしまいますと、事件性不要説と同じ結論になってしまいますので、争いや疑義は具体化又は顕在化したものであることが必要と考えます。
 以上の一般論を踏まえまして、いわゆる企業法務において取り扱われる法律事務について、「事件性」の有無に関して検討を行いたいと思います。
 まず一般的に企業の法務においては、大きく分けて、このレジュメにも書かせていただきましたが、①契約関係事務、②法律相談、③株式・社債関係事務、④株主総会関係事務、⑤訴訟等管理関係事務等の事務が行われているとされておりますので、このような類型別に考えていきたいと思います。
 実際の案件としては、類型ごとに一律に決まってくるものではなく、個別具体の事例において結論は異なろうかと思いますけれども、とりあえず類型に沿って説明をしたいと思います。
 まず①の契約関係事務は、紛争が生じてからの和解契約の締結等は別としまして、通常の業務に伴う契約の締結、これは法律上の権利義務に関しての具体化又は顕在化した争いや疑義があるとは言えないと考えられますので、このような契約の締結に向けての通常の話し合いや法的問題点の検討は「事件性」のない法律事務であると解されます。
 ②の法律相談は、例えば顧客との間で発生したトラブル等具体的な紛争を背景にしたものであれば、「事件性」のある法律事務であることが多いと解されます。
 ③の株式・社債関係事務は、例えば新株発行に際して行う法律事務は、一般的には事件性のない法律事務であると解されますが、他方、新株発行の適法性、有効性、名義書換等に関する具体的な紛争がある場合は「事件性」があることが多いと解されます。
 ④の株主総会関係事務は、例えば株主総会の開催について、商法等の関係法規との適合性を確保するための法律事務は一般的には「事件性」のない法律事務であると解されます。
 ⑤の訴訟等管理関係事務は、具体的な訴訟の存在を前提とするものですから、一般的には「事件性」があると解されるのではないかと思います。
 以上、簡単でございますが、いわゆる企業法務における法律事務の取扱いについて、法第72条本文の適用関係について、法務省としての解釈を示させていただきました。
 お時間いただきましてありがとうございました。

【伊藤座長】引き続きまして、事務局からの説明をお願いします。

【植村参事官】ただいま法務省からグループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について、法務省としての見解を説明していただきました。このうち法務省資料の「1 はじめに」の部分で、「完全親子会社であっても、法人格が別である以上は、『他人性』の要件を欠くとして同条の構成要件に該当しないとすることは困難」とされた部分につきまして、昨年9月の第9回検討会、10月の第10回検討会における議論との関係もございますので、事務局からも御説明をさせていただきたいと思います。
 まず昨年の検討会における議論について簡単に振り返っていただきたいと思います。事務局資料の24−2に、第9回検討会議事録の関係部分の抜粋等、資料24−3といたしまして、第10回検討会議事録の関係部分の抜粋等を取りまとめております。
 第9回検討会、第10回検討会での議論の内容でございますが、資料24−3①の法曹制度検討会(第10回)議事録抜粋の10ページを開いていただきたいと思います。下の方に、伊藤座長の御発言がございます。それまでの議論につきまして、「前提として整理をさせていただきますと、親子会社とかグループ会社の間の法律事務の取り扱いについて、形式だけ見ると、それは弁護士法72条本文に抵触するように見えるけれども、実質的に見ると、弁護士法72条の下でも解釈上、これに抵触しない部分があるのではないか。そういう解釈をすることでよいのではないか。恐らくここは共通の前提になっているかと思います。その上で、それではどういう範囲を画するかということだと思いますが、その前提の部分はよろしゅうございますね」と取りまとめておられます。
 この取りまとめに続きまして、範囲の問題について議論をしていただきました。親会社が子会社の100%の株式を所有する場合、すなわち完全親子会社間であれば、許容すべきであるという見解、商法上の親子会社、すなわち親会社が子会社の株式の50%を超える株式を所有する場合には許容してよいとする意見、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条による親子会社の定義によるとする意見など、様々な御意見がございました。
 このような御議論のうち、資料24−3①の今度は23ページをお開きください。冒頭に伊藤座長の御発言がございまして、「熱心な議論をいただきまして、この問題、今後どうするかということでございますけれども、弁護士法を所管しておられる法務省に仮に解釈を示していただくということであっても、いろいろな検討がなお必要かと思います。そこでこの検討会での議論は一応ここで止めておいて、この議論を踏まえて本部事務局と法務省で更に検討していただいて、またその結果をこちらに示していただくということでよろしいでしょうか」と取りまとめていただいたわけでございます。
 このようないきさつを受けまして、本日示されましたのが法務省の見解でございます。法務省資料の「1 はじめに」の部分で、「完全親子会社であっても、法人格が別である以上は、『他人性』の要件を欠くとして同条の構成要件に該当しないとすることは困難」とされております。
 まず「構成要件」という用語が出てまいりますが、資料24−4を御覧ください。
 法律的な意味で犯罪とは何かと申しますと、資料に記載いたしましたとおり、構成要件に該当し、違法かつ有責な行為を指します。このうち構成要件該当性というのは、要するに外形的に刑罰規定に触れる行為を行ったかどうかという問題でございます。例えば傷害事件を例にとりますと、他人を殴ってけがをさせますと、傷害罪の構成要件に該当することになります。構成要件の機能は、法律によって構成要件を定めることにより、刑罰権の発動される行為を外形的に明確にし、これに当たらない限り、罪に問われることがないことを明らかにするというところにございます。すなわち構成要件に該当しないということになると、およそ刑罰の世界から解放されるということになるわけであります。
 傷害罪の構成要件に該当することになりますと、通常は違法であると評価されることになります。これを「構成要件の違法性推定機能」などと呼んでおります。ところが他人からいきなり殴りかけられたため、自分の身を守るために、他人を殴ってけがをさせる場合もございます。これが事務局資料24−4の違法性阻却事由の例2として記載いたしました正当防衛です。正当防衛であると認められれば、刑法36条1項により犯罪は成立いたしません。更に構成要件に該当し、違法な行為を行っても、責任能力の例1にありますとおり、心神喪失の状態であれば、刑法39条1項により犯罪は成立いたしません。このように、構成要件該当性が認められても、違法性や有責性が否定されれば、犯罪は成立しないわけでございます。
 これまでの御説明からお分かりいただけると思いますが、法務省資料の「1 はじめに」の部分に、「完全親子会社であっても、法人格が別である以上は、『他人性』の要件を欠くとして同条の構成要件に該当しないとすることは困難」とありますのは、親会社が100%の株式を所有する子会社であっても、法人格を異にする以上、犯罪成立要件のうちの構成要件該当性、すなわち刑罰規定に外形的に該当することは否定できないという趣旨であります。
 それでは、弁護士法第72条については、傷害罪における正当防衛のように、構成要件には該当しても、違法性がなく結局犯罪は成立しないと判断されるような場合がないのかが問題となります。考えられるのは、違法性阻却事由の例1として記載いたしました正当行為に当たる場合であります。
 実は弁護士法第72条そのものではございませんが、弁護士法第73条について、そのあたりに関係する判断を示した最近の最高裁判例がございます。資料24−5として配布いたしました平成14年1月22日の第三小法廷の判決でございます。
 弁護士法第73条の規定につきましては、事務局資料24−6の参照条文を御覧ください。73条は、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」と規定しておりまして、73条違反の行為につきましては、77条により、72条違反の行為と同様の刑罰が定められております。73条に定めた行為は、72条の構成要件には該当いたしません。しかしながら、他人の権利を買い受けて、自己のものとして、自己の権利として実現することを許せば、72条の規定が潜脱されるおそれがございますので、このような規定を設けたものと言われております。
 資料24−5の最高裁判例に戻っていただきますが、最高裁判例となった事例は、ゴルフ会員権の売買等を業とする会社が購入したゴルフ会員権等に基づいて、ゴルフクラブに対して預託金の返還請求をしたことが、73条に違反するかどうかをめぐって争われたものでございます。
 事務局資料24−5の4ページをお開きください。関係するのは、「(2)原審の上記2(2)の判断について」というところでございます。「弁護士法73条の趣旨は、主として弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される。このような立法趣旨に照らすと、形式的には、他人の権利を譲り受け訴訟等の手段によってその権利の実行することを業とする行為であっても、上記の弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、同法73条に違反するものではないと解するのが相当である」といっております。
 この事例は民事紛争でございましたので、刑事関係を念頭に置いての説明はございません。そこで、資料24−7の判例雑誌に掲載されました解説をお読みいただきたいのですが、24−7の3枚目をお開きください。その二段目でございますが、「なお、法73条は刑罰法規であり、本判決の説示する場合には、正当な業務行為(刑法35条)として違法性が阻却されるとの位置付けになると思われる。本判決は、法73条の要件に当たる行為であっても、違法とはいえない場合があることを明示したものと」といっております。つまりこのような場合、法73条の構成要件には該当するけれども、刑法35条によって犯罪の成立が否定されるということであります。
 ここで注意していただきたいのは、構成要件該当性においては、行為を外形的、類型的にとらえて判断いたします。それとは異なり、違法性の判断については、先ほど例に出しました傷害罪における正当防衛の成否でも同じなのですが、個別具体的な事件ごとに実質的に判断されるということであります。
 そこで、先ほどの最高裁判例におきましても、御説明いたしましたような法解釈を述べた上で、「これを本件についてみるに」という以下で、当該事件に即した判断に踏み込んだ上、更に事実認定が必要であることから、事件を高等裁判所に差し戻しているわけであります。
 以上、お時間をいただいて御説明してまいりましたところから考えてみますと、今回、法務省が「完全親子会社であっても、法人格が別である以上は、『他人性』の要件を欠くとして同条の構成要件に該当しないとすることは困難」とされましたのは、完全親子会社の場合であっても、親会社の法務部門が子会社の法律事務に関与する場合、実質的に見て違法性を帯びることがあり得るから、構成要件のレベルで犯罪の成立を否定することは相当でないという判断をされたものと理解をしております。  以上、法務省から示された見解との関連で事務局から説明をさせていただきました。

【伊藤座長】それでは、ただいまの法務省及び事務局の説明に関して、まず御質問があれば承りたいと思います。どうぞ、どなたからでも結構です。どうぞ、木村委員。

【木村委員】いろいろ御説明いただきましてありがとうございました。きょう御配布いただきました資料の「はじめに」という第1のところでございますけれども、そこのおしまいの方で、今、黒川さんから御説明いただいたように、「法務省の見解を示しても、それは、捜査機関や裁判所の解釈を拘束するものではないことを留保する」ということで、非常に明確にこれはお書きいただいておるわけですが、質問が三つばかりございます。前に議論したときの議事録を今事務局から御配布いただきましたが、検討会では、既にいろいろなことを、例えば改正がいいのではないかというようなことを、私も、また中川委員も奥野委員も言っているわけですが、そうでなくて解釈ということに取りまとめていただいてこういう結果になったかと思うのですけれども、この文書の性格、例えば我々の検討会で出てきた文書という性格なのか、それとも法務省として何かきちんとした形で解釈を対外的に示すような文書として公文書に残るのか、そういう場合に、例えば「捜査機関や裁判所の解釈を拘束するものではない」とは言いながら、捜査機関や裁判所がこの文書をある程度リファーすることもあり得るのかどうか。つまりこの文書の性格について第1にお伺いしたいと思います。
 第2番目が、この文書が引用されることも可能性があるのかどうかということ。
 第3に、解釈ということですが、立法化については一切その余地がないということかと思いますが、そうなりますと、この文書は非常に重要なものになるわけです。私は、これが非常に重要な意味があるということをどこかで言う必要があるのではないかと思うのです。その三つの点につきまして、お答えいただければと思いますが、いかがでございましょうか。

【伊藤座長】黒川さん。

【法務省(黒川課長)】文書の性格も私からでよろしいでしょうか。

【植村参事官】補足することがあれば、補足させていただきます。

【法務省(黒川課長)】文書の性格はもちろん、この検討会から、前回の協議を踏まえて、法務省として、各方面の意見を聞いて、もう一度検討し直してこの場で報告しろという御下命を受けまして、法務省は省内できちんと協議をした上で、法務省全体の意向として、この検討会に報告させていただいたということでございます。
 したがって、この文書の意味はどう見るかはまた別の問題かもしれませんが、ここの場で公表させたいただいた以上、全体が議事録としてオープンになってまいりますし、法務省がこの場でこういう意見を省の意向として申し上げたということは、先々捜査機関や裁判所がどう参考にしてくれるか分かりませんが、少なくとも一顧だにされないということにはならないと思いますが。

【伊藤座長】もし何かあれば。

【植村参事官】今の黒川課長の御説明で尽きているかとは思うのでございますが、司法制度改革推進計画上は、これは資料24−1にも記載しておきましたけれども、「弁護士法第72条について、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係を含め検討した上で、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保することとし、遅くとも平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部及び法務省)」と書かれております。
 これは昨年の検討会でも、私から木村委員の御質問について答えたところだと思いますが、本部が措置を講ずる場合には、通常立法措置になるわけですが、この問題に関しましては、問題の性質上、法務省から同省としての解釈を示していただくことで、この所要の措置を講ずることにしたわけでございます。そういう趣旨でございます。これでよろしいでしょうか。

【木村委員】はい。

【伊藤座長】どうぞ、岡田委員。

【岡田委員】私がまだ正確に解釈してないのかもしれないのですけど、この法務省の弁護士法第72条の関係について、まず100%の株主の会社であっても、それは別会社であるから構成要件に該当する。そして、報酬を取るということと、法律実件の2つの解釈として、報酬というのは、実費においてはいいが、人件費とかそういうものを取るとすれば、それは法第72条に違反する。
 次に、法律事件のところで、1番目の契約関係の事務と株式・社債関係の事務、それから株主総会関係事務、これについては事件性がないと解釈していらっしゃるのですが、そうすると報酬を取ったとしても、こういう事件に関しては、親会社がやっても良いと解釈できるわけです。そうすると、今までよりは、これが明白になったと言えるのではないかと思うのですが、それでよろしいのでしょうか。

【伊藤座長】ちょっと確認的になりますが、黒川さん。

【法務省(黒川課長)】特に前段の岡田委員がおっしゃられたことは全く論理的にそのとおりでございます。後段の評価については、私どもとしてもありがたいと思っております。

【伊藤座長】そういうことでよろしいでしょうか。お考え、御理解のとおりだということですけれども。

【平山委員】私も質問よろしいですか。

【伊藤座長】すいません、ちょっと待ってください。岡田委員、どうですか。

【岡田委員】そうすると、それ以外のものについては、報酬を取らないでやれば、法第72条に違反しないよということですね。

【法務省(黒川課長)】はい、そういうことでございます。

【岡田委員】分かりました。

【伊藤座長】どうぞ、平山委員。

【平山委員】この法務省のペーパーは、「1 はじめに」、それから「2 報酬を得る目的」、「3 法律事件」とございますが、これはすべて構成要件該当性の問題として考えるということのペーパーと理解できるのではないかと思いますけど、そういうことでしょうか。そういうことですよね。

【法務省(黒川課長)】はい。

【平山委員】そこで、我々が、前に本法曹制度検討会第9回と第10回で議論しておりました際は、どうも構成要件該当性の問題に絞っていたわけではなくて、違法性のことも有責性のことも考えていろいろ議論していたと思いますが、そのこととの関係で、黒川さんの方から、あの議論は構成要件該当性の問題として、まず議論しないとだめだよというようなことについて、少しお示しいただくと分かりやすいと思います。例えば今の植村さんの方の解説もございましたけど、「1 はじめに」のところの「他人性」だけが、ある意味では構成要件と読める部分がございまして、そうではなくて、これは構成要件の一部ですよね、厳格に言うと。そして、「2 報酬を得る目的」も、これはペーパーとしては構成要件の一部。「3 法律事件」も、構成要件の一部と私は読むのだろうと思いますけれども、我々の今までの議論とそこのところがちょっとかみ合わないように思いますので、法務省としては構成要件問題で全部これは解決すべきではないのかということをおっしゃっているのかどうか。

【法務省(黒川課長)】まず法務省が構成要件要素しかコメントしてないのではないかということについてはそのとおりでございます。だからといって、一般論として構成要件に該当した事案について違法性が阻却されることがないと申し上げていることは全くございませんで、そこは植村参事官が御説明されたとおりです。違法性阻却のありようというか、具体的場合にどういう場合があるかということについては、なかなか個別事案ごとに様々な要素を考慮して裁判所が判断される事柄ですので、ここで省の見解として明確な形で御説明することがしにくい事柄であることを是非御理解いただきたいと思います。

【平山委員】はい。3番目の事件性のところについては。

【法務省(黒川課長)】事件性については、これは構成要件要素と我々は解釈しております。

【伊藤座長】どうぞ、御質問があれば、松尾委員。

【松尾委員】各論点についての法務省の御見解ですが、これは法務省としては、こういうことを言っているのではないかと私は理解しています。確認したいと思います。
 法務省としては、弁護士法第72条は刑罰法規である。したがって、構成要件を厳格に解釈すべきであるという考え方から、法第72条を見直ししても、確かにその違法性阻却の場合もあるのでしょうが、基本的には慎重でなければならないと、こういう御見解かどうか。
 それから、具体的に企業法務等に関係して、法第72条を見直すにしても、具体的にどう見直すのかということは実態上非常に難しいのではないかというお考えを持っておられるように見えるのですが、そういうことなのかどうか。その見直しのいかんによっては、いわゆる事件屋等の暗躍による弊害が起きるということもお考えになっているのではないか。したがって、結論的に法第72条の規定は、現行どおりとして、法第72条に抵触して違反するか、あるいは一見抵触しているように見えても、正当業務として違法性が阻却されるかどうか、こういったことをよく吟味しなければならないし、最終的にはそれは裁判所が個別的に判断するものである、こういうお考えの御見解かどうか、確認したいと思います。

【法務省(黒川課長)】今、松尾委員から多々御指摘ございましたが、いずれも正確な御指摘だと思っております。刑罰法令について解釈は厳格にしなければいけないということはまずそのとおりでございますし、弁護士法第72条の見直しをどのようにして考えていくかということについても、社会経済実態としての違法性の評価というのは、これまた案件によって、時代の推移によって、企業法制のあり方によって相当変遷するものですので、これを一律に構成要件要素として別法で規律していくというのはなかなか難しいのではないかと思っております。
 また、事件屋その他がはびこることを危惧されているのではないかというのはまさにそのとおりであって、法第72条の本則の趣旨、立法の沿革や、また機能している実態から見ても、その点をターゲットに考えておりますので、全くそのとおりでございます。最後の御指摘についても、まさに委員御指摘のとおりの認識でおります。

【伊藤座長】それでは、どうぞ御意見も含めて御発言をお願いできればと思います。どうぞ中川委員。

【中川委員】構成要件という切り口からおまとめいただきまして、大変ありがたいと思います。特に法律事件、事件性の問題につきまして、これは従来からもいろいろな議論がございまして、私は何も企業の代表でも何でもないのですけれども、企業サイドの考え方は非常に慎重でして、こういう事件性のないものも、場合によっては、弁護士法の問題になるのではないかというおそれがあって、その辺から非常に活動が鈍かったという面もございました。その点、本日の御見解で非常にクリアーになったということは一つの大きな進展ではないかと思います。
 もう一つの大きな問題は、この「他人性」の問題です。私の率直な感想は、民事の世界では、例えば連結会社などは一体になっておりまして、法人格というものの垣根というか、塀が非常に低くなっております。それが実態なのですが、刑事になりますと、途端に100%子会社でも他人だというのは、何か非常に乖離があるような気がするのです。それは刑事と民事の違いだと言われれば、そうなのかもしれませんけれども、それはそれとして、今、植村さんから御説明ありました、いわゆる正当業務行為、ちょっと言葉が硬いですが、社会的に認められるといいますか、弊害を生じない、社会的に常識として認められる範囲は何かと。ここのところをはっきりしませんと、企業の皆さんとしては動きにくいという感じがするのです。
 しかし、法務省としては、ここまでしか言えないと。あとは裁判というか、個別具体性の問題だと言われると、それもそうだと思うのですけど、それでは物事が動かないということがございまして、そこをどうするかということを皆さんのお知恵を拝借したいような気がするのです。これは法律の世界ですと、それで終りになってしまうのだけれども、実務の世界に置き換えて考えますと、今まで日弁連さんの方でも、この辺がどういうお考えだったのかということがはっきりしなかったみたいです。我々の方は連結子会社ということを言っているのですが、その辺の一番利害関係をお持ちになっている、例えば日弁連の方がどうお考えになっているのかというあたりもよく聞いて、これは法務省とは無関係になってきますけれども、企業サイドと日弁連サイドとで一つのコンセンサスというか、そういうものができたらいいのではないかという気もするのです。そういう解決の方法というのはいかがなものですか。これは皆さんの御意見を聞きたいと思うのですけれども。

【伊藤座長】どうぞ、今の中川委員の御発言に関して、委員の方で御発言があればどうぞ。どうぞ、平山委員。

【平山委員】私の方は、前回の第9回、第10回のところで申し上げたとおり、実は「他人性」のところについても、御提案の法務省の案のように構成要件該当性、違法性、有責性と分けてはいません。大まかに言いますと、日弁連の理事会などは100%子会社の場合ははいいのではないかというようなことのアプローチの議論が一つありました。
 そこでは、私は、個人的には、ます、上場、非上場のいかんを問わず、すべての会社で、親子会社の場合は、親会社が子会社の50%を超える株式を所有し、子会社を支配していることを横軸とし、更に、それに加えて、中川委員が主張されている財務諸表規則第8条の適用を受ける会社間であることを縦軸とし、その範囲内の親子会社間においては、弁護士法第72条の「他人性」を有しないものと解決してよいのではないかと言っていたわけであります。
 それから、事件性の方につきましても、あまりこういうはっきりした区切りをつけるのではなくて、社会的に相当なものはそれを基準にすべきではないかというようなことを言ってきたと思いますけれども、本日法務省のこの見解が出てみますと、これはこれとして、例えば刑法的な解釈論としてはこうだろうという気がいたしますが、今の実務の方の、つまり取扱いをどうしていくかということは、いわば今次の最高裁の弁護士法第73条の判決が多少方向性を示していると思いますけれども、構成要件該当性、違法性、有責性というようなことを言っていてはなかなか我々の実務の方が動きませんので、むしろ社会的に認められ、許容される範囲は一体何なのかということで、例えば経済界や我々が考えて、これは誰が見ても、これを取り締まりの対象にしないでいい範囲というのがあるのではないか。そういうものを実務が形成していけば、これは構成要件には該当しているけれども、違法でないということを言うのかどうかは別といたしまして、許されるということで。これを大まかに言えば、正当な業務行為として、例えば親会社が子会社の、しかも上場会社の財務諸表規則第8条でしばれる連結会社などにつきましては、この範囲では、社会的相当行為ではないかというような一つの形が出てくれば、これが許されて、法務省の方でもわざわざ取り調べて起訴ということは実際にはないのではないかと思います。そういう実務の形成の方がむしろ大事なのだということを、中川委員がおっしゃっていると思いますが、我々の方も前に行った第9回、第10回で、型どおり言っておりますけれども、その後の日弁連の議論などはむしろ社会的相当行為、あるいは正当行為がどの範囲かということで、みんなが納得できるような方向に行けばいいという議論も非常に高まっているように聞いておりますので、きょう日弁連からも来ておりますので、もしよろしければ、その後の雰囲気などについても、座長の方でお聞きいただければ進むのではないかという気がいたしておりまして、ちょっと御提案でございます。

【伊藤座長】今の件は、もちろん私も自分の意見として、今後の制度の安定的な運用にとって関係団体、関係機関が協議をされて、しかるべく、ある程度の基準といいますか、取扱いが形成されることは望ましいと考えておりますが、この場で別にそれをやるということは予定をしておりませんので、ここでは委員の間での御議論を踏まえて、今後の参考にしていただければ、それで十分なのではないかと考えているところでございますので、むしろ委員の方から御発言をいただいてと思います。

【平山委員】委員の意見を聞いていただいた上でですね。

【伊藤座長】どうぞ、太田委員。

【太田委員】今までの議論の中で、100%子会社の問題、ある意味で、せっかくと申しますか、日弁連の側からそのような一つの明快な基準の考え方も出されたのに、何か法務省がまだそれでも固いというような受けとめ方があるのではないかとやや危惧するのですけれども、私は構成要件という観点からしますと、100%子会社だからということだけをもって一律に該当しないというのは、やはりリスクが大きいと思います。
 具体的な例で申し上げますと、私が現に東京地検で直接捜査を指揮していた事件で、右翼のグループが日常的に非弁活動をやっていたケースがありました。ほとんど弁護士同然にやっているのです。この事件は、ある会社のオーナーから委任を受けまして私的整理に介入し、弁護士同然に振る舞って債権者である多数の金融機関等を相手に億単位の債権のいわゆる損切り交渉をする。そして多額の報酬をもらっていたという事案であり、これを現に捜査して起訴したのです。非常に巧妙にやっているのですが、この事案では、親子会社という関係にはなく、そのグループの摘発は単純に可能だったのです。ところが、もし、100%子会社であればおよそ「他人性」がないということを基準として明確にしてしまいますと、彼らがどうやるかというと、すぐに知恵を働かせて、例えば暴力団とか右翼のフロント企業が、オーナーから全株式を二束三文で買い取って、100%子会社の法律問題だから、他人性はないから罪にならないというエクスキューズをするような事件が発生することも容易に予想されます。このように、構成要件のレベルで、あまりに一律に問題ないのだいうことを言い切ってしまいますと、それを抜け道として、悪質な手口の非弁活動が暗躍するおそれがあると思います。
 では、今度、構成要件の下の違法性のレベルがどうかと申しますと、検察庁が捜査し、起訴し、あるいは不起訴とする場合には事案によっていろいろなものがあり、特に不起訴の場合でもいろいろな証拠の厚みによってその理由が違ってくるわけです。例えば、ほとんど真っ白で嫌疑なしとして不起訴にする場合もあれば、かなりグレー、黒に近いけれども、有罪にするには証拠が十分でないということで嫌疑不十分にする場合もあり、また、。一応証拠上は明らかで起訴すれば有罪にはなるが、全体としての犯情には酌量の余地が多々あって、犯情軽微だから起訴猶予にするという場合もあるわけです。そのような判断は個々の事件の背景や経緯をも踏まえ事件の具体的内容に関する詳細な証拠関係に基づいて判断するものですので、それを今回示した以上に一般的にクリアーな目安等として示すことは難しいのではないかという感じがいたします。
 もう1点、さっき中川委員がおっしゃったように日弁連との話し合い等でいろいろ議論されるのは、私は個人的に大変結構ではないかと思うわけですね。そういう議論が深まることは非常に大事で、その議論の内容に合理性があって、なるほどというものであれば、検事を法的には拘束するものではないとしても、実際上、検事は告発を受けて動く場合が多いですから、恐らく告発そのものがないということも考えられます。また、そのような議論が深まっていけば、、検事が事件に着手すべきかどうか、仮に着手した場合でも、最終的に起訴するかどうか、起訴した場合に有罪に持ち込めるかどうかという様々な判断をする場面において、そのように深まっている議論の内容を、検事としては当然尊重して参考にし、理解しながら最終的な判断をすると思われますので、検事が法的な拘束は受けないとしても、そのような議論が深まることは、私は個人的に大変結構で、むしろ大いにやっていただければよいのではないかという感じがいたしております。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。いかがでしょうか。どうぞ、釜田委員。

【釜田委員】特に、新しい意見というわけではございませんが、この議論、以前から伺っていますと、英米法でコモンローとエクイティの論争というのがございますが、日本の場合、議会が国会を制定しましたとおり、弁護士法等の規定がございますね。これを文字どおり適用していきますと、中川委員が疑問をお出しになっているような、本来、適用対象にならないようなものがいくらか浮かび上がってくるわけです。そういうものに対する救済策というものが、日本の司法の場合には、本来的にそういう議会法を論理的に適用した場合に起こりうる矛盾・不合理性、あるいは相当性のない結論というものを本来救済していいという、そういう伝統的な権限が日本の司法には与えられていない。それは歴史的な背景がありまして、司法も行政も立法も同時にスタートした機関でございますから、本来的に持っている正義の実現、そういうものは薄いわけでございますが、刑法第35条の正当行為を読んでみますと、正当な業務行為は罰しないと書いてありまして、これはあいまいな概念ですから、一体どんなものがそこに入ってくるかという不安を与えるわけです。
 これはいわば今のような脈絡で言いますと、日本の国会が司法に是正権といいますか、英語で言いますとエクイティの権限を付与した一例ではないかと思うのです。ですから、これ以上に明確化するということは、本来的に国会も考えていない。もし考えているとすれば、今回資料としてお配りいただきました平成14年1月22日の最高裁判決の後に、議会でこれを修正する、いわゆる弁護士法第73条の解釈は誤りであるということで改正後に激しい動きが起こるはずです。そういうものが起こってないということは、そこに暗黙の前提がございました是正権というものを司法に与えたという意識があるのではないか。
 だから、これは確かに国民の側から見ますと、不安感を与える抽象的な文言になっているのですが、これ以上は具体化できないのではないか。そこはいわゆる相互の機関同士の関係でございまして、司法に任せるという構造になっているのではないかというのが、私の感想でございます。

【伊藤座長】どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】法務省の立場からいえば、これは刑事局だと思うのですが、弁護士法第72条は、刑罰法規ですから、こういう構成要件のレベルで物を考えざるを得ないというのは当然だと思うし、これは私も理解できます。
 しかし一方では、中川委員もおっしゃるように、民事関係の観点から見れば、企業形態が非常に多様化しているわけですし、具体的に企業法務の活動があるし、その役割も非常に大きなものになっているという現実がある。そこのところの間をどう調整し、調和させていくかという問題だと思うのです。現行法の枠内で考えると、法務省の見解のように、「他人性」の問題にしても、報酬の問題にしても、一般の法律問題にしても、今まではっきりしてなかった部分について、ある程度明解にされている。しかも基準だと思います。これはこれで分かると思います。だけど、現行法の枠内だけでやると、現実の実務の中で非常に窮屈になり、解決が難しい問題が出てくると思います。先ほどの事件屋の問題も含めて。
 そこで、私はこれは飛躍した考え方かも分かりませんが、「企業法務法」みたいなものを新しく制定して、そこで「企業法務士」というような資格を設けて、その資格を持っている者が、例えば子会社などに対して法律上の相談を受けるとか、経費は受け取るとか、そういった思い切った大胆な発想が考えられないかどうか。もちろんそうした「企業法務法」というものを構想したときには企業法務の定義は何かとか、企業法務以外の同じような、こういうビジネスをやっている分野との線引きはどうなのかとか、民間企業と法律の規律といったものをどう考えるべきかとか、あるいは弁護士人口が増加して、企業法務の中に参入してくる事態になってくると、そうした問題との絡みをどう考えるか。いろいろなことを総合的に考える必要があると思いますが、現行の枠内だけでなくて、もうちょっと発想を変えたやり方というものは何か考えられないか、意見であり、要望です。

【伊藤座長】ありがとうございました。どうぞ、奥野委員。

【奥野委員】私は法律は素人なので、ついつい経済学的に考えてしまうのですけれども、ただ、この話は刑事事件なので、極めて難しいのだろうということは私なりによく分かります。ただ、いわゆるこういう趣旨の話を考えますと、まず第一に経済活動に関して、とりわけ法律関係に関する経済活動に関してどういう影響を与えるだろうか。例えば国際競争においてどういう影響を与えるのだろうかというようなことが少し気になるのです。もう一度繰り返しますけど、私は法律の専門家でないので誤解しているのかもしれませんけれども、一般的に言うと、なぜ企業がグループ企業ということが問題になってきているかということを考えると、これは国際的な流れとか時代の流れというものがあるのだろうと思うのです。企業というのは非常に大きくなってきて、しかもいろいろな場面場面で違う対応を迫られるような時代になりつつある。
 そうすると非常に固定的な企業とその間に所属する弁護士の間の関係では、だんだん対応できないような時代になりつつあって、そのときに多分、必要なものとして出てきた一つの考え方が、法務部門を別会社にしてしまって、それが例えば企業間を動いたり、売買できたりとか、あるいは人と人との関係をもう少し企業の組織の中で少し切り離すことによっていろいろな自由度を与えることができるようになる。これは法務部門だけでなくて一般論ですけれども、起こりつつあると私は思っておりまして、だからこそ、例えば会計・財務においても、連結という概念が出てきていますし、税法上もそういう連結ということが起きてきています。
 これは経済活動をスムースにさせるために、こういう法務部門を独立化させて、自由な活動をさせるということは、多分経済活動上望ましいと、あるいは競争力を高めるといいますか、そういう側面が多分あって、これは私の憶測ですけれども、外国ではそういうことは自由に行われている国も多分あるでしょうから、そういう可能性があるわけです。そうだとすると、日本がそういうことをしばってしまうと非常にやりにくくなるのかということを少しおそれているわけです。
 他方、太田委員がおっしゃったような危険といいますか、問題はあるわけで、ただ、そこのところも、これは刑事ではなく、普通の民事であれば、今までであれば、原則禁止というような形でしばってきたものを規制緩和ということで、原則はむしろ自由にしてしまって、事後的に問題がある事案が発生したときには、それを後からチェックしましょうという形になってきたと私は理解してきていて、そこのところとこういう刑事事件の場合の難しさというのをどう解決していったらいいのかについては、これはむしろだめだという方向でお考えになるよりも、これは皆さんがさっきからおっしゃっていることだと思うのですけれども、できるだけこういうことがスムースに行える、しかし問題は起こらないというような形で、できるだけ解決する方法をお考えいただけないかと思います。
 今、松尾委員がおっしゃったことも一つですけれども、例えば「他人性」の要件を欠くからだめと一律に言うのではなくて、何か適格性を備えた場合にはいいかもしれないというような形で、新しい解釈なり立法なり、そういうことをお考えいただく方向で解決していただけないかと思います。すいません、長くなりました。

【伊藤座長】それでは、法務省から示された解釈そのものについては、委員の間でも御了解をいただいたように思います。その上で、委員の間から、今後のあるべき運用について、有益な要望や御意見をちょうだいしたように思いますので、これはもちろん当検討会の記録として対外的にも示されるわけでございます。関係機関や関係団体としては、是非これを踏まえて、中川委員からの御発言もございましたような方向で検討されることは、これは座長としての取りまとめというよりも、私自身の意見としてそうあってほしいという気がいたします。その点では、奥野委員の御発言と全く共感するところがございます。というようなことで、よろしければ、この問題はこの程度にさせていただきたいと思います。
 引き続きまして、議題(2)の営利業務に従事する際の弁護士の行為規範の問題につきまして、議事をお願いしたいと思います。黒川さん、どうもありがとうございました。
 この問題につきましては、昨年の第3回検討会におきまして、日弁連からプレゼンテーションをしていただき、検討を行いました。その結果、営利業務に従事する際の弁護士の行為規範の問題につきましては、検討会における議論を踏まえて、日弁連において更に検討し、検討が熟したところで検討会に報告をしてもらうことになっていたわけでございます。そこで、本日その御報告をお願いしたいと思いますので、尾崎副会長、よろしくお願いいたします。

【日弁連(尾崎副会長)】日本弁護士連合会の副会長の尾崎と申します。第二東京弁護士会の会長も兼務しています。本日は弁護士法第30条の改正につきまして、営利業務の自由化に対する弁護士会の対応につき御報告させていただきたいと思います。
 御存じのように、今年の通常国会におきまして、司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律が成立し、同法により弁護士法第30条も改正されました。これにより、従来弁護士が営利業務へ関与することは事前の許可制であったものが、事後の届出制となったものです。この制度改革により、弁護士が営利業務にかかわる機会がこれまでより増えると思われ、これに伴う弁護士会の対応が求められていた課題でございます。
 弁護士法第30条の改正の趣旨でございますがこの弁護士法第30条がこのように事前規制から事後チェックに改正された趣旨は、弁護士が司法制度改革審議会の意見書に示されたその役割、すなわち様々な分野に進出して、法の支配を社会の隅々にまで広げるという弁護士の役割を果たすという点にあり、また規制緩和の流れにも対応した制度改革であると理解しております。したがって、この改正に伴い、弁護士が一般企業やこれまで以上に様々な分野へ進出し、弁護士職務全般が活性化していくものと考えております。弁護士法第30条の改正に伴う執務環境の変化でございます。 ところで様々な分野へ進出していくことは、ほとんどの弁護士にとっては新しい経験であり、これまでの通常の執務環境とは異なる世界へ入っていくことになります。特に営利を追求するという経済活動の一般原則が支配する営利業務にかかわっていくことは、弁護士の活動の基本である利益相反行為の禁止、守秘義務などの関係で、新たな問題を生じさせる可能性があります。
 そこで弁護士会としての具体的な対応でございます。
 弁護士会としては、この新たな問題に対応するために、営利業務に従事する弁護士に対して、適切な指導・監督を行い、もって弁護士に対する国民の信頼を確保するようにしなければならないと考えております。
 そこで、届出事項及び名簿の管理でございます。資料1「営利業務の届出等に関する規程」というものを御覧いただきたいと思います。これはさきの11月に開かれました日弁連の臨時総会において決議された規程でございます。前述の弁護士法改正により、営利業務従事弁護士について、商号、業務の内容等を届け出ること、弁護士会に営利従事弁護士の名簿を備え付け、公衆の縦覧に供することが定められたのを受けて、弁護士会としてもそのように会規を整えました。これは弁護士に事件を依頼しようとする者が、当該弁護士が営利業務にかかわっている否か、またかかわっているとして、どのような業務であるかを知ることによって、依頼するかどうかの判断の一助として、また弁護士会がこれらの職務についている弁護士を指導・監督する際に容易に連絡がなされ得るようにするための制度です。このように届けられた情報を管理することで、弁護士がどのような分野へどのくらい進出しているかという検証を行うこともできると考えております。
 営利業務に従事する弁護士の指導・監督でございます。
 先ほど申し上げたとおり、営利業務に従事することにより、これまでの弁護士の基本的な遵守事項である利益相反行為の禁止や守秘義務などにつき、弁護士の品位保持との関係で新たな問題を生じさせる可能性があります。
 そこでこのような改正に伴い、予想される品位を損なう行為をピックアップし、大まかな基準として、日弁連及び各弁護士会が営利業務に従事する弁護士を指導・監督する際の基準として規則を設けることとしました。大まかな基準を示すこととしたのは、規制緩和との関係で、弁護士法第30条の制限が緩和されたことにかんがみ、あまり細かい規制を設けることはかえってこの自由化の方向に逆行するものと考えたものです。しかし、各弁護士会の指導・監督に従わないような場合には、弁護士法第56条の品位を損なう行為としての懲戒の対象となり得ることになります。このような基準に基づき、運用の中で事例が集積されていくことになります。
 資料2を御覧いただきたいと思います。弁護士の営利業務についての弁護士会及び日本弁護士連合会が指導及び監督を行う場合における基準の説明でございます。
 以上の観点から、現在、弁護士の営利業務について、弁護士会及び日本弁護士連合会が、指導・監督を行う場合における基準という規則を制定する方向で、内容を検討している段階です。ほぼ要綱案がかたまりつつある状況ですので、簡単に内容を御説明いたします。資料2を御覧いただきたいと思います。
 この基準案は、設置の目的を明らかにするとともに、日弁連及び弁護士会が営利業務に従事する弁護士の職務が適正に行われるよう指導・監督する際の基準を定め、具体的な指導・監督基準を置くという構成になっております。
 具体的な基準としては、(1)情報の不当利用の禁止、(2)利益相反行為の禁止、(3)係争権利を譲り受ける行為の禁止、(4)勧誘の禁止、(5)地位の不当利用の禁止から構成され、最後に(6)で、これらから漏れる行為についても、その品位を損なう行為の禁止として指導する構成となっております。
 個々の条項についての具体的な内容については、本日は時間もないことから、御説明は省略させていただきますが、基準の設け方といたしましては、今挙げさせていただきました各項目について、弁護士の職務を行う際と営利業務を行う際の両面から規定するという方法を考えております。
 スケジュールでございますが、今後、本日皆様からちょうだいいたします御意見を参考にさせていただいた上で、平成16年4月からの改正弁護士法施行に間に合うように、理事会で検討し成案としていきたいと考えております。
 御清聴ありがとうございました。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。ただいまの日弁連からの御説明につきまして、まず、どうぞ、御質問ございましたらお願いします。どうぞ、田中委員。

【田中委員】これは営利業務に従事する弁護士に関する指導・監督の問題だけを、弁護士倫理とはまた別に規定されるという趣旨ですか。その中に取り込まれるという趣旨ですか。

【日弁連(尾崎副会長)】要するにこれは基準でございますので、各単位会におきまして、弁護士法第30条で品位を損なうべき非行に当たるかどうかの解釈基準として定めさせていただくということで、いわゆる今改定作業中の弁護士倫理では、これの根拠となるような条文が入ってくるかと思います。現在のところは、弁護士法第56条、品位を損なうべき非行、そこから直接規定を根拠として、この基準を定めようとしているわけでございます。

【伊藤座長】どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】基準について6項目禁止事項が入っておりますが、これに違反した場合に何らかの制裁、例えば綱紀懲戒の対象になるのかどうか、その辺はどういう関係になっているのでしょうか。

【日弁連(尾崎副会長)】先ほど言いましたように、これは弁護士法第56条の品位を損なうべき非行の一つの解釈基準でございますので、他の要件等々も絡んできますが、懲戒の対象の際に、これは一つの基準として参考とされるということになると思います。

【伊藤座長】どうぞ、木村委員。

【木村委員】今、御説明いただいて少し分かりかけてきたのですが、これは全体的な構想から言いますと、日弁連の弁護士の倫理綱領とリンクさせるという必要性があるように思います。ですから、これはこれなりに基準の概要ということで、こういう形で表記せざるを得ないかと思いますけれども、本来ならば、前文で弁護士としての倫理綱領を守る責任と義務とがあるということがどこかに入るべきだと思います。これでは全部が禁止の条項が続くだけのことです。単に禁止するというのではなくて、もっと積極的に我々日弁連としては弁護士倫理に基づいてこういう業務を行っていると。にもかかわらず、これについての基準はこうこうこうであるみたいな、もう少し前向きの積極的な表明を全体の弁護士綱領との関連との中で表明する必要があるのではないかと思います。一読すると、確かに品位を維持し、弁護士会に対する社会的な信頼を確保するというのですけど、弁護士倫理も綱領も何もこれには出てこないですよね。懲戒されるのかどうかも分からないという、何かこれは非常に甘いものになっていると私には思えますけれども。

【日弁連(尾崎副会長)】弁護士法第30条、現在までは許可制であったわけですよね。これが原則自由化した。その趣旨を考えますと、自由化したけれども、またそれに対する禁止規定を大きくかぶせてしまうのはいかがなものかと考えておりまして、したがいまして、この自由化の中でいろいろな問題点が出てくるかもしれない。それについて、各個別事例に応じて、とりあえずは品位というレベルのところで処理していって、いろいろな事例の集積を待った上で、全体的にこういうことをやってはいけませんということをもう少し明確に示していきたいと思っているので、この段階であまり抽象的に網をかぶせてしまうとかえって逆効果かと思いまして。

【木村委員】網をかぶせるというのでなくて理念の問題なのです。例えば、お伺いしたいのですけれども、弁護士会に登録して、弁護士になるときにどういうセレモニーというか、儀式とか何かあるのですか。例えばアメリカの弁護士会にしても、あるいは医師会にしても、職業的なプロフェッションになる場合の宣誓の儀式とか、そういうのがいろいろあるのですが、日弁連では何かそういう、単位弁護士会の倫理綱領も含めて、そういうことについて、自分は職業専門家として社会に対して責任を果たすプロフェッションとしてのセレモニーみたいなものは何かあるのですか、それともないのでしょうか。

【日弁連(尾崎副会長)】私も30年も前なので、何をやったか忘れてしまったところもあるのですが、そういう宣誓というようなことはないような気がするのですけれども、しかしながら、新人弁護士になりましたら、弁護士の倫理の問題であるとか、会務活動の説明であるとか、そういったものは新人研修というものをやらさせていただいています。
 それから、また、倫理に関しましては、10年ごとにまた研修をする。それは義務化しているというところでございまして、そういう形での継続的な教育もしているということでございます。

【木村委員】変わって質問ですけれども、今、お話の中に現在改定が進行中の弁護士綱領というお話がございましたが、これは改定が進行中ということは、これは会員の方々はもちろん御存じかと思いますけれども、非常に大事な改定になると思います。こういう一連の司法制度改革の推進の流れの中での新しい改定になりますので、その点につきましては、特別の事務局その他がありますのでしょうか。そして、具体的な改正の重要なポイントはどういうことなのかということを一言もしお聞かせいただければと思います。これとのリンクとの関連ですね。やはり理念的なものをどうしてもやらなければならないという観点からすると、これは大変に大きい出来事が今進行中なのだと思います。そういうことも含めて、副会長の尾崎さんの御意見をお伺いできれば。

【日弁連(尾崎副会長)】これは改定作業中で、第1次案はことしの6月にできまして、各単位会等々に意見照会をいたしましたが、その際にはパブリックコメントを求めて、広く一般からも意見をもらっている。それから、また、この改定作業におきましては、委員は弁護士だけではなくて、外部の方々も5人入っていただいて、一緒にその改定作業を進めてきたということでございます。その後、各単位会の意見照会等々いただきまして、現在2次案が大体でき上がりつつあって、もう一度、これを意見照会して、それでファイナルなものにまとめていきたいと思っております。
 我々はこれから毎年3000人の法曹が出てくる。そして5万人の弁護士の時代を迎える。そこで弁護士のアイデンティティーは何であるのかということを少し言っておきたい。そして、倫理性の点については、高度の専門性と高い倫理性と言われていますので、そこをうたい上げると同時に、各行動規範についても、5万人の時代でございますので、もう少し今の倫理綱領よりも、分かりやすく新人でも、それを見て、何をやってはいけないのかというのが分かるような形での規程に変えようと今作業中でございます。

【伊藤座長】どうぞ、御意見でも結構ですので、御発言ください。どうぞ、中川委員。

【中川委員】これを拝見していまして、一番難しいのは、利益相反行為ですよね。ここには二つのことが書かれていると思うのですが、「営利業務に際し、弁護士として受任している事件の依頼者の利益と相反する行為」とは、既に第三者の事件を受任していて、その事件との関係で、営利業務とバッティングするようなことがあってはならないという意味でしょうか。

【日弁連(尾崎副会長)】これは二つの方向からの規制でございまして、つまり最も単純なのは、そういうことがあるかどうか、分かりませんが、自分が雇用されている会社を被告とする事件は受けてはいけない。弁護士の職務だけでなくて、弁護士の職務と営利業務に従事している者、その間での利益相反行為を禁止している。弁護士業からも禁止するし、営利業務を行っている方からも禁止すると、そういう双方向からの禁止規定にするということでございます。

【伊藤座長】中川委員、もし何か具体的なことがあったら示していただいた方がいいように思いますが。

【中川委員】要するに、何というか、二枚看板なのですよね。片一方では営利会社といいますか、利益を擁護しなければいけないと。しかし、それを擁護することが、例えば弁護士倫理なり、社会正義に反する、そういう場面で、これはどう読むのだろうか。営利企業を営むものの利益と相反する行為をしないということは、これは世界中といいますか、いつも問題になる点なのです。だから、ここのところをアメリカみたいに、とにかくクライアントの利益は最優先するのだと。それの中で、正義とか人権を実現していくのだという非常に明確な哲学のある国は別ですけど、日本は逆ですね。今の弁護士法が、「人権擁護と社会正義の実現を目的とする」とこうやっているものですから、営利企業の利益は尊重しなくていいのかと。何というのですか、非常に表現しにくいのですけど、いつもそこでバッティングが起こる。これを具体的にどう解決されるかというのが一番大きなポイントだと思うのですが。

【伊藤座長】例えば、さっきは一番分かりやすい例で、雇用されている企業を被告とする事件を受任してはいけないと。もう少しこれを考えられるときにいろいろな例をお考えになって、こういう形にまとめられたと思うのですが、そんな具体例をお聞かせいただけると、委員の方々の参考になるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

【日弁連(尾崎副会長)】例えば、どういうケースがあるかなかなか難しいのですが、営利業務を行っているときに、弁護士として受任している依頼者がありますね。それに不利益なような営利業務を行ってはいけないということを具体的に考えております。

【中川委員】それは全体の場合ですね。

【日弁連(尾崎副会長)】そうですね。

【中川委員】しかし、そうすると、今度は営利企業に対して不利益を与えることにならないかという問題も出てきます。

【日弁連(尾崎副会長)】そうですね。しかしながら、そこは。

【中川委員】実質的に受けている方が、先のクライアントの利益を最優先するのだというのであれば、それはそれでまた分かるのですけれども。だから、私は何もここで御説明していただきたいと言っているのではなくて、大変にこれは難しい問題がいっぱいありますので、これだけでは新しく営利企業に就職される弁護士さんにとって不十分ではないかと。もう少し具体的に、非常にマージナルな事例をいくつか列挙して、その場合、どうするのかという御検討を是非やっていただきたいと思っているのですが。

【日弁連(尾崎副会長)】具体例に即して、また更に深化していく必要があるかと思います。要するに弁護士というのは、こうなったらば、どちらかはやめなさいみたいな感じになります。ただ、事件を依頼していた場合は、やめて済むという話でもなくなるようなところもございますので、御指摘の点も踏まえながら、こういうものは具体例の集積の中でもう少し明確な基準を示していきたいと思います。

【伊藤座長】先に奥野委員。

【奥野委員】今のに関連してなのですけれども、経済活動上、利益相反行為がよく起こる典型例の一つは、金融機関で、例えば銀行業と証券会社が銀行業を通じて知った相手先のいろいろなところを使って、証券でやるというようなことありますね。そういうときに、単なる精神的な禁止規定というものだけで、いわば利益相反的な行為をしたか、しないかということを事後的にチェックすることは非常に難しくて、普通の今の金融業などだとファイアーウォールを作りなさいと。例えば普通の弁護士活動をしている人は、弁護士事務所の中では、もう一つ、利益活動をするにしても、普通の弁護士活動している人は、営利業務の方には関与させないようにしなさいと。要するに人でもって分けてしまうというような形でファイアーウォールを作るわけですね。
 何か精神的な規定だけではなくて、もう少し事後的にきちんと実行可能な、とりわけ、どなたかおっしゃいましたけれども、後で問題にしたときに、きちんとそういうことが起きたのかどうかということを判別できるような仕組みをできれば本文にやられた方がいいでしょうし、そうでないにしても、中川委員がおっしゃっているように、事例に即して、もう少し何か作っていただいた方がいいように思います。

【日弁連(尾崎副会長)】御指摘いただいたのは、利益相反というよりも、情報の不当利用の禁止というところではないのかと思うのですけれども、それについても、一般的に双方向からの禁止規定は置くつもりでございますが、それをより具体化したものについて、どの段階で可能なのか。それは先ほど言いましたように、事例集積を待たないとなかなか書き込めないところもございますので、その辺も御理解いただいた上で、御要望として承っておきたいと思います。

【伊藤座長】情報の不当利用という形で出てくる場合もあるかと思います。それから、今、奥野委員がおっしゃったのは、そもそもそういう利益相反的な可能性のある業務に従事させることのないように、当該営利企業の中での規律を考えるべきだということですので、両面あり得るのではないかと思いますけれども、どうぞ、木村委員。

【木村委員】尾崎副会長の言われた具体的な事例の中でいろいろなケースが蓄積されるというのは大変大事なことだと思うのです。今まで許可制でやってきた中でいろいろ日弁連の中に、今、奥野委員の話されたような事例が恐らくはあったのではないかと思われるのです。現行でもいろいろな問題があったと思います。それで懲戒について、「自由と正義」中にも出ています。私がお伺いしたいのは、アメリカでは職業専門団体の倫理規程に基づいて、毎年数多くの事例についてのファイルが出まして、例えばアメリカの医師会では、自分並びに自分の子ども・親族については、診断や治療してはいけないという倫理規程があるのです。ところがいろいろな中で、それに関連して、例えば遠隔地で医者がいない場合には例外にするとかいろいろなことで倫理についての考え方の事例のファイルが蓄積されていきまして、AMA(アメリカ医師会)のコード・オブ・エーシックスというのは膨大なものになっていくわけです。これはアメリカン・バー・アソシエーションでもそうですけれども、日弁連ではこういうことになって、特に新しい展開の中で、そういうような事例のファイルを恐らく蓄積してこられたかと思うのですが、今後そういうことをやるつもりであるのかどうか。事例のファイルは現状でもあるのでしょうか。
 そして、また私の考えでは、それがやはりパブリックアクセスというか、皆さんにも分かるような形で、アメリカでは全部ホームページに出ていまして、そういう傾向なのですが、今後、今、副会長さんの言われたような具体的な事例でいろいろな倫理的諸問題のファイルを蓄積していくことの意味の重要性を、先生はどう思われるかということをお伺いしたいのです。

【日弁連(尾崎副会長)】まず最初の質問でございますが、ファイルはあるのですが、極めてアナログ的でございまして、正直言ってあまり使えないファイリングで、キーワードが何であるかということで引けるような形にしなければいけないだろうと思いまして、今回、先ほど言いました倫理の改定をする作業中にも、そこは私どもは少し整理していかなければいけないのかなと。
 ただ、去年度からは、懲戒事例については要旨を日弁連調査会で作成し、きちんと公表するようになりまして、そこからはかなり事例的に集積できるようになりつつありますので、そういったことも参考にしながら、会内・外にも非常に分かりやすいものにしていく必要、委員の御指摘のことについては、私は全く同感するところも多いところかと思います。御指摘の点については、更に我々としてはそういう作業を進めていきたいと思います。
 それから、今まで企業と弁護士業等がフリクションを起こしたケースがあるか、こういうようなケースがあるかどうかということでございますが、基本的には避けているような感じで、あまり私自身は懲戒事例としては見たような記憶はないのですけれども、企業に入った場合は、個々人の自覚でやってきているようでございます。しかしながら、個々人の自覚で済むような話でもございませんので、御指摘のように、今までの事例の中で参考となるようなものがあるかどうか、その点も含めて事例集積をしていきたいと思っております。

【木村委員】私が知っている範囲では、企業に一旦社員として就職した者が、司法試験に合格して、そして研修所に行っている間にそれを企業がサポートして、そしてまた帰ってきたときに雇用したという事例があるのです。その人につきましては、企業の中に自分の弁護士事務所を持って、そして仕事をしていたというケースがあるのですけれども、それは確かにいろいろな問題点が含まれているなと思いました。これは具体的な事例で一つの会社の事例ですけれども、これから、そういう形でのいろいろな企業法務のあり方、弁護士業務のあり方が特定の会社の中に弁護士事務所を開くというようなことになる可能性もありますので、その点につきましても、やはり監督・指導ということが必要になってくるのではないかということを思いましたものですから、質問させていただきました。

【日弁連(尾崎副会長)】これは修習も、結局企業法務経験者については修習も必要なくなってくるような時代も出てきますので、そういう時代も踏まえまして、御指摘の点についても検討していきたいと思います。

【伊藤座長】そういたしますと、御意見伺っていますと、どうぞ、岡田委員。

【岡田委員】お願いなのですが、今までは弁護士業務だけに関しての倫理規程とか、品位を損なう行為という考え方であったのが、今度は営業をやるということで両面から考えなければならないわけで、なかなか弁護士会としては大変だろうなと思います。
 一方で、一般の国民からすると、弁護士というのは正しいことをやる、原則正しいと思っているので、その部分では、弁護士は尊敬されているのだという理念といいますか、それを是非とも再確認していただいて、営業をやるについても、国民の信頼を裏切らないような弁護士さんになっていただきたいと思います。

【日弁連(尾崎副会長)】我々業界、弁護士は国民の信頼というのが裏打ちされている。それで初めて成り立っているものであると考えておりまして、御指摘の点は新人の時代から、生涯現役である時代、ずっとそこは継続的に我々としては学んでいかなければいけない点だろうと思っております。御指摘のことは、誠にごもっともであると思っています。

【伊藤座長】どうぞ、平山委員。

【平山委員】私も弁護士の一人で、本日の皆さんの御意見大変よく分かりました。特に中川委員が御指摘されている、つまり、今までと違いまして、届出だけで我々が積極的に外へ出ます。そうすると、いわば義務の衝突といいますか、それが起きてくるだろうと。例えば取締役として出て行きますと、そこの企業の目的等がございまして、そこに忠実でなければいけないということと、それを忠実に実行することにおいて、弁護士でもありますので、弁護士としての倫理とかいろいろなものがあって、内心においては非常に衝突が起きてくるだろうと。そういうときにどうするかということが非常に難しい問題だと思っておりまして、それを尾崎さんなどが中心で検討しているところでございまして、それは我々全員でそういうことを考えておりまして、せっかく自由化したのに、それを絞ってしまうということでは、この法改正の趣旨がむだになりますから、そこも考えまして、今、鋭意やっていると、こんな状況ではなかろうかと思います。

【伊藤座長】そういたしますと、全体的なことでは、弁護士倫理、懲戒との関係についての御意見が何点かございましたし、また、内容につきましても、その具体化のあり方などについての御意見、御要望がございました。冒頭に御発言ございましたように、この当検討会での意見を御参考にしていただけるということでございますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。
 それでは、尾崎副会長、どうもありがとうございました。

【日弁連(尾崎副会長)】どうもありがとうございました。

【田中委員】議論が何となく、こういう営利事業に従事する場合の倫理の話になりましたですけれども、私はどちらかというと、今までこういう営利事業に従事する場合に、ああしたらだめ、こうしたらだめという規制が多過ぎたと思うので、さっきの中川委員がおっしゃった親子会社とかの中に、弁護士が企業の中に入って行っていろいろ活動するときに利益相反の問題等非常に難しい問題があると思うので、従来はこうだから、こうだという形でなくて、まさに本日の議題の前半で議論になったようなことも併せて検討していただいた方がいいのではないかと思います。

【伊藤座長】是非その点もよろしくお願いいたします。どうも尾崎副会長ありがとうございました。
 それでは、予定の時刻まいりましたので、本日の議事はこのあたりで終了したいと思いますが、いかがでしょうか。どうぞ、平山委員。

【平山委員】座長、少しお時間をいただいて、私は、実は次年度からの裁判官、検察官の増員につきましての要請をいたしておりますけれども、この趣旨は、今次の改革が非常に大きな司法ということを目指して、閣議決定もされており、それから、特に法科大学院が来年からスタートして、いよいよ3000人の合格者が出てくるという時代です。そして、裁判の迅速化法というのがこの前国会を通過いたしまして、そこでは附帯決議が今回できちんとついておりまして、増員問題についてきちんとやれと、こういう趣旨が出てきていると思いますので、本検討会では何回か報告を受けて御議論いただいておりますけれども、できましたら、これについてすぐということでなくても、長期的な計画は、ここも御議論いただいて、本部に上げて、御検討を是非裁判所におかれても、法務省におかれても進められるようなことも議論するのが今次の制度の改革に合っているのではないかと思います。特に迅速化法のときには私も国会に行きましたけれども、これは裁判官の増員、検察官の増員をしていかないと新しい時代になかなか対応できないのではないかということもございますので、今までも座長に取り上げていただいて報告を受けたりしておりますけど、時間があれば、次回でも次々回でも1回議論をするようなことを御検討いただけないかと思います。これは本部の問題でしょうけど、私は今日お願いしたいと思います。本部事務局に要望書を出しておきましたので、そのことを申し上げておきたいと思います。

【伊藤座長】それでは、その点は承ったということにいたします。
 それでは、本日の検討を終了いたしまして、当検討会といたしましては、推進計画で定められた事項のうち「副検事、簡易裁判所判事の経験者の活用等の検討」が残っております。次回期日につきましては、追って御連絡をさせていただきたいと思いますので、また、御参加方よろしくお願いを申し上げます。
 それでは、本日はこれで終わります。どうもありがとうございました。