■:前回の検討会での議論を確認すると、
ア | 検討の対象としては、企業法務、国会議員、地方議会議員、公務員等について考えていくこととする。なお、国会議員については前向きに検討するが、企業法務とは異なる職務の特性に応じて、弁護士法第5条第2号と同様に取り扱うという意見が、多数であった。 |
イ | 付与される法曹資格は、弁護士となる資格とする。
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ウ | 実務経験の評価については、企業法務では裁判手続関係及び契約関係等、公務員では裁判手続関係及び法令の立案等の業務の内容に着目しつつ、弁護士業務に結び付くような適切な業務とする。 |
エ | 経験年数については、5年で足りるとする意見もあったが、5年では足りないが一律10年とするのは長いとする意見が比較的多かった。
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オ | 研修については、弁護士の業務に必要なものについて研修を義務付けること。
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カ | 経験した事務の内容を認定する仕組みが必要である。
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以上のような意見が出されていた。
○:必要な経験年数については、例えば1、2年であっても弁護士と同様の能力があるようであれば資格を付与することができるような、裁量的な判断ができるようにしてはどうか。制度創設の当初は判断が難しいであろうが、経験年数を最初から固定的に決めてしまわずに、業務内容を見てそれらの総和として判断できるよう、ある程度裁量的な判断ができるような幅のある制度を作ってはどうか。
●:判定をきめ細かく行うことができれば、対象者に弁護士となる能力があるかどうかを判定することは可能ではないかと考えられる。しかし、判定の対象となるのは、法律一般に関する知識ではなく、一定の実務経験を経ているかであるため、ある程度評価の相場感ができあがるようにならないと、そこまで判断を行うことは難しいと思われる。
○:経験年数を最低5年としておいた上で、さらに具体的条件を定めておく必要があるのではないか。企業法務の担当者は、かなり高度で多様な経験をしている。多様性があって高度な紛争処理事務を経験しているなど、経験の内容を明確にする必要があるように思われる。経験年数としては、最低5年は必要であろう。
○:企業法務については、多様な形態や規模の企業があり、また、企業法務の実務内容も多様であることからすると、企業法務担当者として大体一人前になるという5年から、さらに5年の経験を経る必要があるように思われ、結局、合計10年が必要になるのではないか。消費者の側からみると、弁護士資格を取得する者には、その程度の経験を積んでおいてもらいたい。
○:判定の仕方によって、必要とされる経験年数が変わってくるのではないかと考えられるが、10年とすることは長いように思われる。判定については、「国」が行うことになるのだろうか。あるいは、最終的に弁護士会がその者を受け入れることになることを踏まえると、「国」以外の機関が行うことも考えられるのであろうか。
●:弁護士となる資格は国家資格であり、公正性を担保する観点からは、「国」が判定するべきではないかと考えている。そのうえで、さらに中立・公平を確保するということであれば、委員会という形式もあり得ようか。
○:弁護士法第4条は、司法試験に合格した者ではなく、司法修習を終えた者に対して弁護士となる資格を与えると規定している。これは、弁護士法第1条から第3条の趣旨の実現のために、偏りのない気持ちを持っていることをも必要とした趣旨の、重要な規定であると考えられる。経験年数については、司法研修所で現在行われている司法修習の内容や、経験年数を5年以上としている同法第5条第2号の趣旨をきちんと踏まえた上で、決めるべきではないか。これらを併せて議論せず、いきなり第5条第2号と同じく5年としてしまうとするのは、やや疑問である。本件は、新しい時代にどのように新しい法曹をどう育てるかという問題であろうと思われるし、付与される法曹資格が刑事弁護も行うフル規格の弁護士資格であることからすると、これまでに司法修習の果たしてきた役割を踏まえて議論する必要があるのではないか。私自身は、経験年数としては7、8年は必要ではないかと考えている。
■:実務では経験できない部分について研修が必要であるという点では、全委員の間で認識が共通していると思われ、研修の内容について司法修習の内容を参考にする必要はあろう。また、この制度で弁護士資格を得た者が翌日から弁護士としてジェネラル・サービスを提供できるまでに活躍するということは、通常考えられない。このように考えると、経験年数については、弁護士としての出発点として必要な要件として検討すべきである。
○:その者の経験内容の実情を踏まえた実質的な判断ができるかどうかについて、検討しておく必要があろう。
○:司法試験合格後に企業法務で10年働くと、通常、企業から外へ出ようとする者はなく、そのまま企業法務マンとしてやっていくことになるのではないか。したがって、10年では長いと考える。他方、5年とすると、企業法務での実務経験をビジネス・ロイヤーになるためのバイパスにしてしまう人が増えるおそれがあり、結果的に、企業はそのような者を採用しなくなるおそれがある。
企業でどのようなことを行ってきたかという実態も大切ではないか。高度の専門性・多様性を備えるためには、様々な種類の契約やトラブルを全て経験している必要があろうが、そのような経験を得るために5年の経験年数で十分である場合もあれば、何年かかってもそのような経験らしい経験ができない場合もあると思われる。どこでどのような経験をしたかということを検討する必要があるのではないか。経験年数は最低限5年として、経験の中身を具体的に検討するのがよいのではないか。
○:経験年数の通算については、どう考えるのか。若い従業員の定着率の実情はどうか。
○:社員の定着率は会社によって異なるが、企業法務部員の場合には、元々企業法務に携わりたいという者が多いため、定着率は高い。
○:会社を渡り歩いて企業法務の経験年数が10年あり、その後に弁護士として企業外へ出る人もいるだろう。ロースクールにおける教育制度の拡充という動きの中で、この制度のようなルートをつくると、司法修習を経ないでこのルートを選ぶ者が相当数出てくることも予想される。したがって、この制度がそれなりの経験を経た結果として弁護士となる資格が与えられるというものであるという、この制度の在り方を明確にすることが、重要であると考えられる。このように考えると、10年の経験年数が必要ではないか。
○:経験年数について5年か、10年かは判断がつかない。
しかし,業務の内容によって、必要とする経験年数を裁量的に判断できるようにすることが考えられるのではないか。最低限必要とされる経験年数を定めると、それ以下の経験年数ではどのような場合でも資格付与がされないこととなる。
また、経験年数の合算については、弁護士法第5条第2号との通算を認めるのであれば、この制度の経験年数も同号と同じく5年以上として通算を認め、業務の内容の広狭に応じて、必要とする経験年数を裁量的に判断するという方法が論理的ではないか。
○:企業における経験内容がバラバラの状態であるという実態からすると、経験年数が5年か10年か単純に決められることではない。専門性を有することを客観的に評価することが大切であり、経験年数を要件から外すという方法もないではない。そうは言っても、弁護士法第5条第2号との整合性の問題があり、現行法とは全く異なった新しい発想をするのかは、難しい問題である。前回、経験年数として7、8年という意見を述べたが、その趣旨は、5年は短いが10年では長いと考えたからである。
○:企業法務以外に公務員や地方議会議員といった多様な者が対象とされており、また、業務内容についてもばらつきがあるという根本的な問題が含まれている。第5条第2号に列記されている簡易裁判所判事などが行っている業務は、法律事務としてのコアがあるため、5年以上の実務経験で足りるとされているのに対して、企業法務等は業務・職務の内容のとらえ方に難しさがあるため、第5条第2号の「5年以上」と比較して長めにする必要があるのではないか。
裁判官について言えば、7、8年経てば訴訟運営ができるようになる。また、以前に、企業法務についても、5年では複雑な問題に対応するまでには至らないことが紹介されたところであり、5年から積み上げた2、3年の期間は大切である。経験年数としては、5年ではなく、7、8年とすべきではないか。
○:経験年数は、研修がどのような内容になるかによって変わってくることではないか。もし、相当に充実した研修が提供がされるのであれば、経験年数の要件としては第5条第2号の5年とそろえることも考えられるのではないか。弁護士登録がされる前に研修を課すのが良いと思われるが、その研修の実施主体になると思われる日弁連側では、どのような研修が考えられているのか。
○:弁護士会が強制加入団体として今後も継続、維持するためには、研修をしっかりと行い、良い弁護士を維持していくことが大切なことだと考えている。事前に一定程度の研修を行ったうえで、法曹資格を付与すべきである。
□:現行の司法修習では、配布した資料のような研修を行っており、研修をしっかりと受けなければ二回試験は通らない。現在、司法修習は、刑事、民事を合わせて1年6か月の研修を行っているが、実務における経験があるため、せめて3分の1の6か月間の研修期間は必要ではないか。
○:研修のイメージであるが、平日に研修を行うことになるのか、それとも、夜間や祝祭日を利用して行うことを考えているのか。
●:研修の具体的内容については今後の検討課題であるが、弁護士事務所などでの実務研修を行うということであれば、少なくともその部分については平日に行う必要があろう。
○:テクニカルな法律実務についての研修も必要であるが、一般の人からすると弁護士倫理を身に付けてもらうことが大切なことである。特に企業法務に携わってきた者が、弁護士として、基本的人権の擁護、社会的正義の実現を図ることができるための研修を行うべきではないか。
○:企業法務の大きな仕事は、コンプライアンスが大きな仕事である。社内啓蒙を行い、法律違反をなくし、経営の健全性を確保するために力を注いでおり、法律企業の利益のためだけにやっているのではないことをご認識をいただきたい。なお、果たしてフル規格の弁護士と考えるべきなのかについては、疑問を感じている。
■:経験年数については、5年という意見や10年という意見もあったが、研修について弁護士会側では意欲的に取り組んでいくということ、また、経験した業務の内容について判断の余地がありうることを考慮して、最低7年とか8年というところを目途とするということでとりまとめることでどうか。
○:「10年程度」というような立法上の用語はありうるのか。私としては、原則として10年と考えている。
●:10年程度という用語は特にない。どこまで業務の内容を法律で定められるのかによって、経験年数も変わってくると思われたので、幅をもってご意見をうかがった方が良いと考えたものである。
■:10年という意見もあったが、5年という意見もあったところであるから、多数の意見として、10年ということもありうるが、最低7、8年ということでまとめさせていただきたいと思うが、どうか。(各委員了承)
■:その他の点については、
ア | 経験年数の通算は、弾力的に認める方向で考えること |
イ | 研修については、
- 資格を付与する前に行うこと
- 内容については、国が定めること
- 実施主体については、日弁連ないし弁護士会など適切な機関とすること
- 細部については事務局が各方面から意見を聴いて検討し、後日検討会で報告をすること
|
ウ | 判定機関は、国とすること |
エ | 国会議員については、現行の弁護士法第5条第2号と同様の扱いにすること |
以上のようなところが、多くの意見であった。
○:研修の内容については、一定の実務経験を経た者に対してフル規格の研修を行う必要性は乏しいのではないか。選択科目を増やしたり、科目免除を認めるなどの工夫が必要ではないか。研修の実施日についても、土日に行うなど企業に勤めている人が資格をとりやすいようにする工夫をすべきである。つまり、コモン・ベーシックの範囲での研修は必要であるが、その内容については、画一的なものではなく柔軟性があってもよいのではないか。
○:研修は、医師なら医師、技術者なら技術者の共通の規範意識の形成のために、極めて重要なものと考えられる。弁護士についても、基本的に共通する倫理・規範意識を持った者の共同体によって職業意識が形成されるのであり、研修の持つ意味は重要であると考えられる。
○:意見書の考え方は、フル規格の弁護士が基盤としてあって、その上に専門性を備えた弁護士が必要だという考え方であろう。
① | 中川委員からのプレゼンテーション
委員配布資料「企業法務と弁護士法72条」に基づいてプレゼンテーションがなされた。 |
② | ①について、次のような質疑応答がなされた。 |
○:親子会社の一定の範囲では、弁護士法72条を適用するのは相当でない場合もあり、解釈を確定させて対応すればいいと思う。範囲の問題については、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条4項に規定する「子会社」の定義は、外から見て分かりにくく、法律解釈の基準として使えるのかどうか若干の疑問がある。商法211条の2の規定(商法上の親子会社の基準)による方が明確ではないか。また、親会社、子会社間でも利益相反行為になる可能性もあるのではないか。
○:確かに、連結会社の範囲を定める法令は複雑であり、限界が微妙な部分がある。しかし、商法上の親子会社では範囲が広くなりすぎるし、現実に連結した会社に絞れば、情報開示の面から見ても範囲は明確であると考え、現実に連結している親会社と子会社の範囲としたものである。また、子会社は親会社の営業政策に服するものであり、基本的には利益相反という事態は起こり得ないし、会社支配権の行使によって解消されることになる。
○:子会社のうちでも、株式保有が40パーセントの会社などの場合は、独自の道を行きたいというケースもあるのではないか。
○:連結する会社に対しては、親会社の経営支配権が及んでおり、その点では、株式保有が40パーセントであっても過半数であっても同じであると思う。
○:日本の会社と海外の会社との連結の実態はどうなっているのか。最近の多くの企業が作っている企業倫理は、どこの部署で担当しているのか。
○:日本に限らず、海外の会社と連結することは、全世界的に行われている。企業倫理については、組織的には検査部、検査室といった執行部が担当している場合が多い。法務部門は、そのような執行部の下でリーガル・コンプライアンスの分野を担っている。
○:説明資料にある「関連会社」は、子会社でない会社、つまり株式保有50パーセント以下の会社で、支配権も及ばないものであり、本日議論しているグループ会社の範疇には入らないと考える。
○:法務サービス会社を作った場合にまで、親会社が子会社に対して提供する法務サービスと変わりがないと言うのは、少し違うような気がする。
○:親会社の法務部が子会社に対して法務サービスを提供する場合と、親会社の法務部が子会社として独立しグループ内企業に法務サービスを提供する場合とを区別する理由はないと考える。
○:法務サービス会社の設立目的によっては、弁護士法人と変わらない場合も出てくるのは問題ではないか。
○:法務サービス会社も、弁護士法72条が存在し、法改正をしない以上、グループ外へのサービスの提供はできないこととなる。企業が分社化する理由は様々であり、例えば、同じ会社の中で法務部門だけを別の雇用体系、給与体系にしたいというような場合には、会社形態を別にすることによって問題が解決することもある。そのような状況もある中で、日本の企業の活性化を図り、国際競争力を高めるためには、同じ企業グループ内では、親会社から独立した法務サービス会社によるサービスの提供については、弁護士法72条に抵触しないという解釈も必要ではないか。
■:次回はこの問題について、まず日弁連からプレゼンテーションをしてもらい、質疑応答、さらに意見交換をしたい。