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法曹制度検討会(第9回)議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成14年9月10日(火)13:30〜17:10

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤 眞(座長)、岡田ヒロミ、奥野正寛、小貫芳信、釜田泰介、木村利人、佐々木茂美、田中成明、中川英彦、平山正剛、松尾龍彦(敬称略)
(説明者) 伊礼勇吉(日本弁護士連合会副会長)
明賀英樹(日本弁護士連合会司法改革調査室嘱託)
勝丸充啓(法務省刑事局総務課長)
小池 裕(最高裁判所事務総局審議官)
金井康雄(最高裁判所事務総局人事局参事官)
(事務局) 大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、植村稔参事官、小林徹参事官

4 議題
(1) 企業法務等の位置付け−司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格の付与を行うための具体的条件を含めた制度整備
(2) 弁護士法第72条について、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め検討した上で、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保すること(企業法務との関係その他について)
(3) 民事調停、家事調停の分野におけるいわゆる非常勤裁判官制度の具体的な制度設計について
(4) その他

5 配布資料
【事務局配布資料】
[民間等における実務経験を経た者に対する法曹資格の付与]
○資料9−1 「企業法務等の位置付け」について(再補足版)
[弁護士法72条の予測可能性の確保のための措置−企業法務との関係その他について]
○資料9−2 弁護士法72条についての司法制度改革審議会での主なやりとり
○資料9−3 企業法務関係資料 その2
[その他]
○資料9−4 法曹制度検討会 今後の開催予定(案)
○資料9−5 法曹制度検討会 進行の枠組み(案) その2
【日弁連・最高裁配布資料】
○資料 いわゆる非常勤裁判官制度の創設について(法曹制度検討会における共同説明・骨子)
【法務省配布資料】
○資料 平成15年度増員要求について
【最高裁配布資料】
○資料 最高裁判所一般規則制定諮問委員会関係資料
  • 資料1 最高裁判所一般規則制定諮問委員会議事概要(平成14年7月31日開催)
  • 資料2 下級裁判所の裁判官の指名過程に関与する諮問機関の設置に関する基本論点
  • 資料3 下級裁判所の裁判官の指名過程に関与する諮問機関の設置に関する論点メモ
○資料 平成15年度増員要求について
【委員配布資料】
○「企業法務と弁護士法72条」(中川委員)

6 議事

【伊藤座長】それでは、所定の時刻でございますので、第9回の「法曹制度検討会」を始めさせていただきます。いつものことでございますけれども、お忙しい中、御出席いただきまして、ありがとうございます。議事に先立ちまして、事務局から配布資料の説明をお願いいたします。

【植村参事官】それでは、配布資料の確認をさせていただきます。
 本日、事務局から新たにお配りいたしましたのは、次第に書いてございます資料9−1から9−5まででございます。
 そのほか、席上配布資料といたしまして、司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格の付与を行うための具体的条件を含めた制度整備の問題についての事務局資料6−3から6−8、前回、お配りいたしました資料8−1、更に当検討会での進行の枠組み案でございます資料3−1を改めて配布させていただいております。
 このほか、中川委員から「企業法務と弁護士法72条」と題する資料の御提出をいただきました。後ほどのプレゼンテーションの際にお使いになると伺っております。
 また、日弁連、最高裁から次第に記載いたしましたとおりの資料の御提出がありましたので、御紹介いたします。
 更に日弁連から、司法修習生の修習カリキュラムについての資料が席上配布されております。司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対して、法曹資格の付与を行うための具体的条件を含めた制度整備の問題についての御議論の参考にしていただきたいとのことでございます。
 そのほか、日弁連から前回までに配布されました資料のうち、本日の御議論に必要な資料が席上配布されております。
 以上でございます。

【伊藤座長】それでは、本日の議事でございますが、次第にありますとおり「企業法務等の位置付け−司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格の付与を行うための具体的条件を含めた制度整備」の問題について、これは前回からの継続でございますけれども、引き続いて御議論をいただきたいと思います。
 (2)といたしまして、弁護士法72条の規制対象となる対象範囲に関する予測可能性を確保することに関し、会社形態の多様化などの変化に対応する見地から、企業法務等との関係、その他の観点からの検討、これをお願いしたいと思います。具体的には親子会社の問題につきまして、中川委員からお話をお願いしております。中川委員、後ほどどうぞよろしくお願いいたします。
 さらに3番目といたしまして、民事調停、家事調停の分野に、いわゆる非常勤裁判官制度を導入するための法改正につきまして、前回最高裁、日弁連から合意について簡単な報告をしていただきましたが、本日は具体的な内容をお話しいただいて、御質問等があればお願いしたいと存じます。
 その後に、既に御承知のとおりでございますが、10月31日午前中に、追加の検討会を開かせていただきたいと思っておりますが、そのようなお願いをすることになりましたことや、今後の進行予定等につきまして、事務局から説明がございます。
 最後に、関係機関タイムといたしまして、最高裁から裁判官の任命手続の見直しに関する一般規則制定試問委員会における検討経過について、また、法務省、最高裁から平成15年度の増員要求について、報告をお願いしたいと存じます。
 早速でございますが、前回に引き続きまして、企業法務等の位置づけに関連した議論を続けたいと思います。そこで、資料9−1につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

【小林参事官】それでは、資料9−1をご覧いただきたいと思います。この資料9−1は、前回ご議論いただいた点を踏まえまして、前回提出いたしました資料8−1を若干補足させていただいたものでございます。補足しました点を中心にご説明いたしたいと思います。
 まず、2ページ目をお開けいただきたいのですが、「検討すべき課題」ということでございますが、このうち①の「検討の対象として考えられるもの」についてでございますけれども、これまでも口頭ではご説明しておりましたけれども、国会議員との関連で地方議会議員の扱いでございます。地方議会議員につきましては、法令の立案とは申しましても、国会議員の場合とは異なり、地方自治体によりまして、かなり業務は多様ではないかというふうに考えられまして、定型的な評価という意味からはなかなか難しいものがあると考えられますので、企業法務や公務員と同じような扱い、これは具体的にはご議論いただいておりますような経験年数、あるいは研修を必要とするかどうかという点を含めまして、そういったものと同じような扱いにするのが適当ではないかと考えております。
 それから、③の2つ目の○でございますが、経験年数のご議論でございます。経験年数につきましては、前回いただきましたご指摘を踏まえまして、2行目でございますが「業務の内容や判定、研修などの補完的措置の議論とも関連するが」ということにつきまして、触れるようにいたしております。確かに理論的には前回ご指摘をいただきましたように、業務の内容をかなり限定するとか、あるいは判定を相当厳格に行う、こういったような形で、いわば絞り込みをかければ、あるいは経験年数というのは若干短縮できるということはあり得るわけでございますけれども、現実問題といたしましては、多種多様な専門的な実務経験を、この候補者となる方に余り過度な負担をかけないで、どこまできめ細かく評価し切れるかという問題もございますので、この点は是非ご理解をいただければと思います。その上で、前回、10年程度ということでお示しをしたわけでございますが、前回のご議論を踏まえまして、10年程度の内容として、7、8年から10年という形で補足をさせていただいております。
 前回のご議論の中では、10年は必要というご意見と、それから10年は若干長いのではないかというご意見がございましたが、その辺り、大きな考え方という面から見ますと、方向性は近いのではないかということで、具体的なご提案もありました7〜8年から10年ということで、とりあえずここではまとめさせていただいております。
 勿論、5年で十分というご議論もあると思いますので、その辺りは引き続きご検討いただければと思います。
 めくっていただきまして、併せて前回ご指摘をいただきました経験年数の通算の必要性につきましても、検討課題として補足をいたしております。前回、私の方から積極的な考え方、消極的な考え方、2つの考え方をご紹介させていただきましたが、基本的には社会的な実態や、あるいは現行の5条2号が通算を認めているということも十分踏まえて、柔軟に対応していくべきではないかと考えております。
 最後に、その次の○でございますが、研修につきましては、前回これを必要とするというご意見が多かったというように記憶いたしておりますが、その場合の簡単なイメージを例として補足させていただいております。
 内容的には、これまでご議論いただいてきましたように、弁護士倫理も含めまして、民事弁護、刑事弁護など裁判実務を中心に、期間も含めて、その大要は国が定めることになると思いますが、具体的な実施主体は日弁連など、適切な機関にお願いするということが考えられるのではないかというふうに思っているところでございます。
 補足的な説明は以上でございます。

【伊藤座長】それでは、早速議論をしていただきたいと思いますが、前回の議論の概要、ただいまの事務局の説明と重複するところがございますが、ごく簡単に私の方から整理をさせていただきます。資料9−1に沿って申しますが、①の対象につきましては、企業法務、国会議員、地方議会議員、公務員等について考える。
 国会議員については、前向きに検討するということ自体について、それほど認識の違いはなかったかと思いますが、企業法務とは異なる国会議員の職務の特性に応じた取扱いをすべきである、具体的には5条2号と同様に扱うべきではないかという意見が多かったように思います。
 法曹資格の内容につきましては、弁護士資格、これはご異論がなかったように思います。それから、③の実務経験の評価につきましては、裁判手続関係、契約関係、法律の立案関係といった業務の内容に着目しつつ、弁護士業務に結び付くような適切な業務に限定するような工夫をする。
 経験年数も、今、説明があったとおりでございますが、5年で足りるというご意見もございましたし、5年では短い、かといって一律10年では長いのではないかというご意見が比較的多かったように思います。
 それから、研修については、弁護士の業務、あるいは責任の性質を考えて、義務的なものとする。経験した事務の内容を認定する仕組みが必要だと。このようなことでご意見が出されたように思います。
 そこで、早速、それぞれの点につきまして、前回からの議論を引き継ぎまして、審議をいただければと思います。どうぞご自由にご発言ください。

【田中委員】質問でもあるのですけれども、経験年数の問題ですが、審査する機関を国かどこかにつくった場合、例えば7年とか8年と決めておいて、非常に濃密な、ほとんど弁護士さんと変わらないような業務をやっている人については5年くらいにするというふうな裁量的な判断がどの程度できるかという問題です。そういう形にできるのならば、今まで意見が対立している点は、大体標準的なものを決めておいて、あとはその業務内容と見比べて、期間を定めていくことにすれば、最初は少しもたもたするかもしれないですが、ある程度事例が積み重なると、大体こういう職務でこの程度やっていればこの程度だという一種の相場みたいなものができて、それで運用できるようになるということも考えられます。そういう弾力的な制度設計が可能なのか、どうなのでしょう。

【小林参事官】先ほどの補足説明でも若干触れましたけれども、判定のところが非常にきめ細かく、本当に弁護士さんとしての能力が足りているかどうかということについて、相当きめ細かく判断ができれば、今、委員がおっしゃったような方式というのも十分可能ではないかと考えるわけでございますけれども、現実問題のことを想定しますと、法律一般の学識を問うというケースであれば、かなり判定方法もいろいろございますから、可能ではないかと思いますけれども、今回の対象になっているのは、とにかくいろいろな社会的実務、特にその専門性を評価しようということになりますので、そこら辺りは、少なくとも制度発足当初はなかなか難しいのではないか。先生おっしゃったように、だんだん相場感みたいなものができ上がってくれば、その辺り、かなりきめ細かな判断、客観的な判断ができるようになるのではないかと思いますれども、制度発足当初のことを考えますと、なかなかそれは難しいのではないかなというのが率直な感じでございます。

【中川委員】私も今の田中先生の意見に割合近いのですけれども、例えば最低5年という形にしておきまして、今、小林さんの方からご説明があって判定の際の具体的条件というのが書いてありますね。これがちょっとよく分からないのだけれども、この具体的条件の方をどういう条件にするかというものを、それこそ具体的にしておけばどうか。
 例えば、抽象的に申し上げますと、企業法務などの場合は、高度な、あるいは多様性のある契約事務を経験したとか、あるいは多様性があって、かなり高度な紛争処理事務を経験したとか、そういう形で経験の内容というものを少し具体的にしておくということも考えられるのではないかと思うのです。年限の方は最低5年くらい必要だろうということで、ミニマムの年限を決めておいて、あとは判定事項の方に任せるというやり方はできないだろうかという気がいたします。

【木村委員】先日の討議の折にも、経験年数だけを切り離すのではなくて、実務の内容に即して考えなければいけないのではないかというご指摘が委員の方からあったように思うのですが、前回の会議の中川委員のご発言によりますと、仮に司法試験合格後に企業に入って実務を行うにしても、ほかの司法試験を合格していない人とは格段の差はあるけれども、それにしても5年はかかるということでした。一人前になるのに、5年はかかるとなりますと、やはりそれ以後、一人前になってから以後、最低5年くらいは研修して、今、中川委員の言われたような高度な実務を恐らくやることになると思いますので、私の感じでは、極めて多様な企業の形態があって、非常に大きい企業で、幅広く活動している企業から、小さな企業に至るまでいろんな企業がいっぱいあり、かつ、企業法務の実務の内容が極めて多様であることから、大体標準的に独立したところから5年くらいは必要ではないかと思います。したがって、10年というのが基本的にはどうしても必要になる。そのくらいの年限がないと、確かに時代は動くし、企業の実務内容も相当早く変わるかと思いますが、特に司法試験合格後に、少なくとも10年お働きいただいた方々については、法曹資格の付与という観点から、制度上整備するということが望ましいのではないか。一般のコンシューマーの方から見ますと、せめてそのくらいの体験を持った人にお仕事をしていただくということの方が望ましいのではないかというふうにいえるのではないかと思うのですが、いかがでございましょうか。

【岡田委員】私のイメージとして、判定というのがよく見えないのです。本当に国でどういう形でやれるのかどうかというのが見えないものですから、どうも経験年数というのがあれなのですが、やはり判定のやり方によっては経験年数というのも短くなったり、長くなったりできるのかと思うのですけれども、今、木村委員の10年というのはちょっと先を考えると、前回に戻るのですけれども、ちょっと長いのかという感じもするものですから、判定の段階で、その方がどういうことを今までやっていらしたかというのが加味されれば、経験年数というのは短くできるかなと思うのです。
 これは国がやらなきゃいけないですかね。例えば最終的に国が認可するという形で、弁護士会に選んでもらう。最終的にこの方たちは弁護士になるわけですから、弁護士会が受け入れるのであればという感じもするのですけれども、その辺はどうなのでしょうか。やはり最初から判定は国がやってということなのでしょうかね。

【小林参事官】判定の問題につきましては、国家資格であるということでございますので、中立・公正性という観点からは、やはり国が責任を持って行うべきではないかと考えております。更に、中立・公正性を追求すると申しますか、その場合にはそれに適当な機関、委員会のようなものを設けて、そこで議論するということはあり得ると思いますけれども、何か特定の一団体にお願いするという性格のものではないのではないかというふうに考えております。

【平山委員】私は、研修の在り方とも絡みますけれども、やはり弁護士法4条が司法修習を終えた者に法曹資格を与えると規定した意味は決して軽くないと思っているのです。大分、時代は変わってきておりますけれども、弁護士法4条は司法試験に合格した人に法曹資格を与えるとはなっていないので、修習を終えた者としたことの意味は、弁護士法の1条から3条、基本的人権の擁護と、社会正義の実現を本当にやっていくのには、偏らないで、プロフェッションとしての一定の教育を受けて、そういうものが取得されていなければいけない。単に専門的知識だけでは駄目なのだというふうに考えたと思うのです。
 そういうことを考えますと、後ほどちょっと弁護士会の方から、今日は資料を出しておりますけれども、司法修習でどういうことが行われているかということも、我々は一応見ておく必要があり、それともう一つは、やはり弁護士法5条2号で5年以上と書かれているわけですね。これと併せて検討しないと、いきなりこれと同じ5年でとするのは、ちょっとどうかという気がいたしておりまして、その辺りもきちっと踏まえて考えたらどうかと思うのです。
 しかし、この前申し上げましたように、法曹養成制度が司法試験、点数のみの試験から、今度はプロセス教育に変わると聞いております。そこで実が上がれば、法曹というプロフェッションとしての教育が行われるわけでありますから、今よりは緩くなっていいと言いますか、そういうことが言えるのではないかと思いますので、その辺りを立法の段階でどう考えておくかということで、私などはこの前も申し上げましたけれども、点数のみの試験制度下では、2年の司法研修というのは大変な意義があったと思っておりまして、そのお陰で今日の法曹があるのかと思っておりますが、それにこだわることではありません。新しい時代に、新しい法曹がどうやって育つかという問題でしょうから、そんなことを考えますと、今日弁護士会が出しました現在の司法修習ではどんなことが一体2年なり1年半で行われているかということについても、若干、踏まえてやった方がいいのかということを思いまして、できれば説明をさせていただきたいと思います。

【伊藤座長】それは研修との関係ではなくてですか。

【平山委員】研修との関係でございますけれども、弁護士法4条は司法修習を終えた者となっているわけです。その例外として、恒常的なものをつくるわけでございますから、そうすると、今までは司法修習においてどういうことをやっていたのだということをきちっと踏まえないと、単に例外をつくるというだけではどうかと。やはり、前回ほぼ一致しているのは、フル規格の法曹なのです。ある専門を取得された方々が、この中に入ってくる。例えば企業ですと、一定の種類を5年間とか10年間全力でやってこられて、その部分ではものすごく鍛練されると思いますけれども、一般のフル規格ですと、刑事弁護もやらなければいけないし、いろんなことをやらなければいけませんので、その部分について、やはり司法修習が果たしてきた役割というのは踏まえて、議論しておいた方がいいのではないかと思いまして、私は7、8年は必要ではないかというふうに実は考えておりますけれども、こだわりませんけれども、そういうことをきちっと議論しておいた方がいいのではないかという気がします。

【伊藤座長】恐らくその認識は委員の皆さん共有で、したがって研修を義務づけるというところへ出てくると思います。私が、余り自分の意見を言うのはどうかと思いますが、例えば5年なり7、8年なり10年といろいろ考え方がありますが、いずれにしてもそういう経験を持った人について弁護士資格を認めても、その人がその次の日から直ちにジェネラル・サービスを提供して大活躍するということは、恐らく平山先生の事務所で研修所を出て、司法修習を終わってきた人をその翌日からばりばり仕事をさせるということは多分ないのと同じで考えられず、そこは弁護士としての出発点だろうと思うのです。ですから、余り長い経験年数を要求すると、その人が弁護士として登録してすぐに、それまでに10年、20年弁護士をやってこられた方と伍して仕事をするというイメージになってしまうのではないかという印象がございます。かといって、具体的にそれが何年がいいのかということは別の話ですけれども。

【小貫委員】年数の問題は、今日中に結論づけなければいけない問題なのかどうかなのです。実は今日、田中委員と中川委員の話を聞いていまして、従前と発想が違うというか、全く別の観点から意見を出されたように私は理解したのです。前回の議論では、画一的に年限はどの位がいいだろうかという議論であったのですけれども、今日のお二人の委員の意見を聞いてみますと、実質論であり、もっと実態的に判断できないかという発想なのです。実態的に判断するには、どんな手法で、どんな要素を考慮したらいいのだろうかということが前提として検討されていないと、制度をつくってみたけれども動かないということになるのではないでしょうか。お話を伺っていると、実質的判断とは、個人的にはなかなかいい意見だと魅力を感ずるものですから、事務局の議事日程上、その点を研究する時間的余裕が若干取れるものかどうか、お伺いした上で意見を決めさせていただきたいと思っているのです。

【中川委員】確かに小貫委員がおっしゃるように、企業法務で働いている方のイメージをお持ちでないと、なかなかその実態に結び付かないのだと思うのですけれども、一番端的に申し上げますと、例えば司法試験を通って入社されて10年企業で働いた方というのは、もう外に出られません。恐らく企業法務マンとしてずっとお勤めになると思うのです。だから、制度そのものが、例外はあるとしても、何のためにつくった制度か分からないことになるのではないかとも思います。では5年だったらどうかというと、実は私は申し上げませんでしたけれども、これには悩ましいところがありまして、5年間企業で飯を食って外へ飛び出そうという人が入ってくる可能性があるのです。つまり、これを「通り道」にしてしまうと、自分は将来ビジネス・ローヤーになってやろうという人が来て、5年間きちっとビジネスを勉強して飛び出していく人が出てくるのです。これは国家的には大変いいのかもしれませんが、企業の側から見ますとこれは非常に困ったことになりまして、つまり、そういう方がどんどん増えてくると、企業はそういう人を採用しなくなりますから、その結果、制度が枯渇するということで、これまた具合が悪いことになるのではないか、そういう問題があるのです。制度そのものに含まれている基本的な問題点なのです。
 では、年限としてはどの辺がよいかということになりますと、どこを取ったってそのような問題が出てくることは避けられませんから、私は年限などは余り問題ではなくて、その人が企業でどういう経験なり勉強をしたかという実態の方が大切であると思うのです。前から申し上げておりますけれども、文房具屋の契約では困るのです。やはり、高度で多様性のある、この多様性とはどういうことかと言いますと、単に物の売買ではなくて、賃貸借だとか、金銭の貸借だとか、請負だとか、労働事件、不動産関係もあれば動産関係もある。いろいろな取引上のトラブルの解決、訴訟などそういったものを全部経験して、その経験がかなり高度だということが認められる人に対してはいわゆる専門性を付けた人であるとして認定していいのではないかという感じなのです。そうであるとすると、そういうところで経験された人であれば5年で十分だと思いますし、そういう経験がなかなかできない会社であれば何年経っても同じような気がするのです。
 ですから、どこでどんな経験をされたかというところを判定の段階で実態的に判断をしていただくということが一番望ましいのではないかということです。ミニマム5年として、判定の中身を具体的にしていただければどうかということを申し上げているわけです。

【木村委員】今のご意見も非常に説得力があるのですが、やはり後の経験年数の通算ということもございまして、今、会社で優秀な方を採用しても割と早くお辞めになる方も何人かいると聞きますが、この頃のの若い人の定着率はどうですか。

【中川委員】定着率は会社によりますが、法務部の場合はものすごく定着率はいいのです。というのは、元々法務の仕事をやりたいという人が来ますので、結構定着率はいいようです。

【木村委員】確かに会社によるのだろうと思うのですが、そういう観点から考えますと、10年経つともう会社に飼い慣らされて外に出る人がいないという、先ほどのご発言ですが、必ずしも今はそうではなくて、比較的意欲的な若い年齢層の方が増えてきているので、企業を渡り歩いて、通算年限での資格をクリアーしようという感じの発想を最初からお持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんし、10年経っても外へ出ていく方はいらっしゃるのではないでしょうか。

【中川委員】大きな企業の場合は少ないのではないでしょうか。日本はまだまだ人材の流動性が低いものですから。

【木村委員】私の予想では、これはやはり今後の制度設計と随分かかわってくると思うのです。法曹資格の取得にこのルートがあるということになりますと、将来ロースクールができて、ロースクールの教育制度の拡充の中で、企業にお入りになって何年か経てば、例えば5年で法曹資格が付与されるとなったら、確かに企業に行く人のルートができると思うのです。ですから、やはり何となくそちらに行くと、それなりの経験と時間がかかるのだという覚悟を持たせるような年限が必要になるのではないでしょうか。
 企業の中で法務担当の専門家として働くことに使命感を持っておやりになることの重要性、それと、経験を踏まえて、その結果として資格が与えられるという、制度の在り方、制度設計から考えていきますと、やはり10年くらいとしておくのが、先ほどの中川委員のご発言の趣旨にも沿うと思いますし、国家的なスケールから見ると余りプラスにならないのではないかというご心配を取り除くためには、むしろ10年くらいの方がいいのではないかと考えますが、いかがでございましょうか。

【奥野委員】木村委員はご専門のようですが、私は専門ではないので企業法務がどのような業務であるかもよく存じ上げませんし、弁護士にどのくらい本当に法律的な知識が必要なのかよく分からないので、そういう意味で5年がいいのか、10年がいいのかは率直に言って私には判断がつかないのです。そういう意味で私が言えることは、もう少しプロセスについてといいますか、もうちょっと外形的なことしか言えないのですが、2つのことを申し上げたいのです。
 1つは、経験年数をポストというよりも業務の内容に着目しつつ判定するということをおっしゃっている以上は、これは別に試験をやれという意味ではないと思うのですが、業務の内容を狭くするか広くするかによって、経験年数の年限を短くしたり長くしたりするということもある程度裁量として可能だと思うのです。ただ、年限を何年と切ってしまったら、それより低くすることは法律上できないことになるため、余り長くし過ぎると手を縛り過ぎることになるのではないかと思うのです。むしろ、年限は少し短めにしておいて、その上でポストの範囲を少し加減することによって、法的な妥当性というか、将来のフレキシビリティーを付けておくのがいいのではないかというのが1点です。
 もう一つは、別にここまで考える必要はないのかもしれないのですが、経験年数の合算の話でいうと、弁護士法5条2号と合算する可能性はないのだろうかということです。要するに5条2号を既に4年9か月やっている場合、企業法務では例えば10年必要であるとされているるとすると、企業法務をさらに5年3か月やらないと10年にならないことになるというのでは、ある意味少し極端過ぎると思うのです。
 そういうことから考えると、理想形としては本当に内容は分かりませんし、地方議会議員とか国会議員もいることなので、私は本当にいいのかどうかということはよく分からないのですが、ロジカルに言えばこちらも5年にしておいて、合算をして全部5年としておいて、どういう業務をしてきたかに応じて業務の内容を、どのくらい広く取るか狭くするかということで、ある種の裁量をやるという方が論理的ではないかと思うのです。ただ、それが本当に実態に即しているかどうかは私は素人ですので、よく分かりませんが。

【松尾委員】難しい問題なので、単に経験年数が5年か10年かという問題ではないわけで、その人がどのくらいの専門的な能力があるかどうかということなのです。中川委員の話は非常に魅力的な話だと思って聞いておりましたが、そういう状況であれば私は経験年数を思い切って要件から外してもいいくらいではないかとも思えるのです。暴論かも分かりませんが、一つの考え方です。
 それはなぜかというと、やはり大きな会社、小さな会社、あるいはどのような仕事を具体的にやってきたかということについては、相当ばらつきがあると思うのです。したがって、それをもって単に5年とか10年といってもしようがないがないのではないか。中川委員も言われたように、企業の実態から見ると悩ましい問題もあるということなどを考えると、だからどうなるのかと思うのです。それよりも高度の専門性を有するものがあって、それが客観的に評価されて、その評価はどうやって行うのかというイメージはちょっと分かりませんが、要するに客観的に評価されて、法曹資格を付与するという形の方向の方が、実態に合っているのではないか。ここで5年だ10年だと言っても余り意味がないのではないか。いささか暴論かも分かりませんが、そういう気がいたします。
 しかし、そうはいっても弁護士法5条2号との関係、5年ということがありますから、それとの整合性をこれとの関係においてどう考えるかという問題は残ってくると思います。全く新しい発想をするのか、弁護士法5条2号との関係で考えなくてはいけないのか、そこのところは非常に悩ましく難しい問題だと思います。
 前回、私が7、8年と言ったのは何も5年と10年の真ん中を取ったわけではありませんが、前回の論議の中で経験年数を決めるということになれば、5年はちょっと短い感じがするし、10年は長い感じがするというのは率直な意見で、そういう年数を具体的に申し上げた次第であります。

【伊藤座長】いかがでしょうか。どうぞ佐々木委員。

【佐々木委員】私も前回意見を申し上げたわけですけれども、中川委員のおっしゃった点もよく分かるのでありますけれども、1つ対象者が、実は企業法務以外に公務員全般、それから先ほどの事務局の説明では、地方議会議員という対象者の多様性、それからそこで行われる業務を抽出しましたとしても、法令の立案作業、審査作業、契約関係、あるいは裁判手続関係、そのうちに絞りをかけたとしましても、その対象そのものがそれぞれの地方議会議員、公務員等でばらけてくる。こういう問題を根本的にはらんでいるのではないかと考えています。
 したがいまして、弁護士法5条2号にあるような、ポストに着目した、簡易裁判所判事であるとか、検察官であるとか、司法研修所教官であるとかそういう方々がやっておられるものはいわばコアの面でとらえられやすい。したがって、5年以上という実務経験でそれなりの道ができるだろうという運びになっていると思うのですけれども、今、申し上げた対象者の多様性と、職務内容、業務内容のつかみ方の難しさ、そういう点からしますと、スキームとしては、やはり5条2号に対応するような関係でいうと5年以上というわけにはいかず、やや長目のものが必要ではないかと考えているわけです。
 この前も10年というのは、十年ひと昔で、余りにも長過ぎるという感じを持ちますけれども、そこのところは我々が現実にやっている判事補のシステムを見ましても、7、8年も経ってくると、それなりに訴訟運営そのものに慣れてくるということから言いましても、また、中川委員がこの前、5年で一人前になるが、やや複雑あるいは多様なものに対処するには、また別だとおっしゃっていますので、その積上げのところは2年ないし3年、大事ではないかと考えておりますので、スキームとしては5年というのは5条2号との対応関係からまずいのではないかという意見です。

【伊藤座長】そうすると佐々木委員、具体的に確定的なとは申しませんが、例えば松尾委員がおっしゃったような7年とか8年とか、そういったものが一つの線と承ってよろしいですか。

【佐々木委員】はい。7年、8年と申し上げたい。第5条2号を動かせないならば、という前提です。

【伊藤座長】いかがでしょうか。どうぞ、釜田委員。

【釜田委員】私はこの前ちょっと申し上げたのですが、この研修がどの程度充実したものになるかということによって大分変わってくるのではないか。日弁連の方でもし相当な時間と言いますか、ご努力をいただきまして、そういう充実したものを提供していただけるであれば、私は資格付与の要件のところは、一応今の5年という数字がどういう意味なのか、私もよく分かりませんが、5年にそろえて、各地区の弁護士会に登録を認められる前に、相当長い何かを課すというのがいいような感じを持っているのですが、そういうことは可能なのですか。あるいは非常に煩しいことを日弁連にお願いするようなことになるのでしょうか。

【伊藤座長】これは平山委員にお伺いした方がいいと思いますが、一般的に弁護士自身に対しても継続的な教育が必要だと、その重要性が言われていると思いますし、そういったことを踏まえると、恐らく弁護士会としては非常に積極的に取り組んでいただけるのではないかと思いますが、平山委員、いかかでしょうか。

【平山委員】弁護士会が強制加入団体として今後も維持していくことになりますと、やはりコアの問題は綱紀・懲戒をきちっとやることと、会員の研修をきちっとやって、いい弁護士を維持していくということはものすごく大事だと思っておりまして、そういう点からいたしますと、弁護士会がこの問題でも事前研修をフル規格の弁護士ということであれば、登録前に、事前研修を一定程度はやっていただいて、そして法曹資格を取得していただくという形のことを是非提案したいというのが日弁連の意見だと思いますし、それは必死になってやると思います。副会長も来ていますから、何かお聞きいただいてもいいですけれども。

【日弁連(伊礼副会長)】副会長の伊礼でございますが、本日お手元に配付されておろうかと思いますが、「個別弁護実務修習事項一覧」というのがございます。それから、資料2、3は、研修所におきます前期・後期の修習日程表でございますが、お示しをいたしましたのは、仮に事前研修をやっていただくとなった場合に、研修の中身をイメージして先生方に議論をしていただく手助けのために、こういうことを現在の修習生は研修を行っておりますよということでお示しをさせていただいたということであります。
 これとは別に、弁護士登録をしましてから、弁護士会の方では、初期研修、5年研修、10年研修、20年研修、最後は30年研修までやりまして、弁護士業務の充実・向上、それから弁護士倫理の研修を行って、質の維持・向上に努めておるということであります。
 お示ししました個別修習の一覧表はたまたま55期生、もうじき卒業ですけれども、その人たちに現実にやってもらった弁護実務修習の中身でございまして、たまたま東京弁護士会のものが手に入りましたので、こういうことでやらしていただいたということであります。
 中身ですけれども、こういうことをやっておるということです。まず刑事と民事に大きく分けまして、その中で入り口の方から、最後の執行に至るまで、書面の作成、具体的な折衝、公判立会い、裁判立会いとか、そういうものをすべて指導教官と一緒になって、実際に来た事件に沿いながら研修してもらっておるということでございます。
 この期間、これだけたくさんの業務を今は3か月でやるのです。従来は4か月でしたけれども、1か月縮まりまして3か月でこれをやるということですので、相当ハードなことをやっていて、修習生たちから、きついなということを伺っております。これくらいやらないと、2回試験はとても通らないというような現状になっておるわけであります。
 そういうことを踏まえまして、前回の私の方でプレゼンさせていただいたのは、研修は6か月程度は必要なのではないでしょうか。弁護士修習だけでも、こういうことが3か月かかります。それ以外に前期・後期で3か月、それから刑事裁判、民事裁判、検察修習と、それぞれ裁く側、裁かれる側というふうな双方から見るために、今は1年6か月かかっておりますが、企業法務を十分経験された皆さんに、そんなたくさんのことは申し上げられませんので、せめてその3分の1の6か月程度は必要ではないでしょうかということを申し上げたということです。これは内容をよくご覧いただきながら、また、質問ありましたら、お答えさせていただきたいと思います。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。

【佐々木委員】研修に関連して事務局にもちょっとイメージをお聞きしたいのですが、この場合の研修というのは、それぞれ職業をお持ちの方を現場から抜いてやる形になるわけですが、その在り方として、今説明なさったような集合研修、弁護士さんの事務所へ配置した上で平日も勤務時間中も行うというパターンなのか。それとも、夜間であるとか、祝日・休日を利用してやられるのか。その辺の具体的なイメージはどういうふうにお伺いしたらいいのでしょうか。その辺り説明を伺いたいなと思っていたのです。

【小林参事官】研修の具体的な期間なり内容については、今後検討させていただくということで考えておりますが、今、おっしゃった点に関して言えば、今回の研修の趣旨が通常の実務経験ではなかなか培えないような弁護士として必要なものを身に付けていただくということからすれば、その割合はともかくとして、弁護士さんの事務所に行かれて業務を行うようなもの、今の委員のお話で言えば、日中を使うようなもの、こういったものも含まれると考えております。

【伊藤座長】よろしいですか、では、木村委員お願いします。

【木村委員】今、いろいろお話をお伺いしたわけですが、これは非常にテクニカルな法律実務についての研修内容のご紹介でございましたが、私ども一般の市民の立場から見ますと、一番大事なのは弁護士倫理と言いますか、弁護士の社会的正義の実現と人権の擁護という基本的な精神にのっとった倫理的な研修を、今までビジネスの目からしか見ていなかった方々、企業法務専門でビジネスの存続のための企業法務をしてきた方々が、弁護士資格を得た後に、本当に社会的正義のための人権の擁護のために闘えるのかというところを基本的に押さえるような研修をしてもらわないと困ると思うのです。
 これは中川委員も先般発言されていましたが、この発言の内容は後でちょっとお確かめいただければと思いますが、ビジネスにとって必要なのは、むしろ正義の味方という発想ではなくて、ビジネスの業務に本当に詳しい、きちんとした経験と知識を持ったすばらしい人が欲しいのであって、建前上の正義とか人権の擁護ということではない方の方が望ましいというふうに発言されたのが私は非常に記憶に残っているのですが、もしそういう方々が企業の中で長年知識と経験を積まれて、弁護士の資格を得られた場合に、やはり基本のところを押さえませんと、これは日本の人権の擁護と社会的正義の実現のためにお働きになられた弁護士会にとって、違ったお考えの方がお入りになる可能性があるので、ここら辺はきちっとやるという明白なステートメントが必要になるかと思うのですが、今日は私ちょっと失望しましたのは、私どもが望んでいるのは、こういう個別弁護実務修習ということではなくて、どういうような心構えで日本弁護士連合会は、そういう企業法務をやってきた人に教育をしようとしているのか、その理念をお伺いしたいのです。

【日弁連(伊礼副会長)】わかりました。お出ししましたのは、個別修習の際、指導教官が教えなければならないのはこういうことですよということでありまして、弁護士会の方では、当然、今おっしゃった弁護士倫理、それから基本的人権の擁護、社会的正義の実現とか、弁護士法1条に書いてあることを徹底的に教えるということはやっておりまして、これは集合修習ということで、弁護士会が主催いたしまして、各班に分かれております修習生を集めまして、弁護士倫理を教え込むということはきちっとやっております。それを実践する場として、個別修習を行いまして、修習の担当弁護士に対しましても、今、木村先生のおっしゃった弁護士の基本的な守るべき倫理、あるいは使命、こういうことは徹底的に教えてもらうという作業はやっております。ただ、これに書いていないだけでありまして、別途、合同修習という項目がありまして、そこで教えているということでございます。
 それだけではなくて、研修所で前期修習のときに教えているということもあります。研修所でも教えますし、弁護士会に来ても教えますし、更に個別修習のときにも教えるということで、おっしゃっていることは十分承知した上で教えているということはご理解いただきたいと思います。

【木村委員】大変心強い発言をお伺いして嬉しく思うのですが、因みに日弁連の方からできましたら、資料としてどのような弁護士倫理にのっとってどういう研修をしているか。弁護士会の方の雑誌の後ろの方に研修の内容その他についても書いてございますが、一応我々の検討会としても、今後のこともございますので、そういうことを踏まえた資料をもしご提出いただければ大変ありがたいと思います。

【日弁連(伊礼副会長)】持ってきてはおるのですけれども、まだコピーしておりませんので、事務局を通じまして、出させていただきまして、先生方のご検討をお願いしたいと思います。

【伊藤座長】また事務局を通じてお願いします。

【中川委員】ちょっと木村先生に誤解を与えるような発言を前にしたかもしれませんが、企業法務の大きな仕事の1つは、コンプライアンスということなのです。これは特に最近、企業にいろいろ不祥事がありまして、何か悪いことをしている奴らばかりだというイメージで企業法務は一体何をしているのだという印象をお持ちかもしれませんが、企業法務の柱の一つはコンプライアンスということでありまして、これはものすごいエネルギーを社内の啓蒙なり、違法性をなくす健全性の確保に注いでいるのは事実でございます。ですから、決して企業の利益のためだけに一生懸命やっているのではなくて、今、一番問題になっていますのは、法務部長というのは、だれの味方なのかということを今企業法務で議論しておりまして、首をかけてやるべきなのかという議論もあるくらいで、それが企業法務だというふうにご認識いただきたいと思います。
 それから一言だけ、この弁護士法の関係なのですが、私はこの前もちょっと申し上げましたが、フル規格の弁護士さんというのが本当にこれから世の中で必要なのかということを思っておりまして、資質的にはそれなりの法曹者でないといけないのですが、医者と同じでございまして、ある専門分野での専門性を発揮すればいいと。そういう弁護士さんも多数いた方が市民のためにはいいのではないという意見を持っておりまして、全部を、今、日弁連がお考えになっております何でもできる弁護士さんということに仕立て上げる必要性は、私は日本では余りないのではないか。むしろ各分野でそれぞれ専門性を発揮できるような人たちをたくさんつくるべきではないかと思っておりまして、弁護士法との対比で企業法務の問題を考えるのはちょっとおかしいのではないかなと思っておりますので、一言意見として申し上げておきます。

【伊藤座長】それでは、大分時間を取って意見をいただきまして、特に経験年数については、難しい問題がございます。5年という意見もございますし、10年という意見もございますが、先ほど日弁連からもご説明いただいたように、弁護士会としても、この種の研修についても、大変意欲的に取り組んでいただけるという前提を持って考えたときに、例えば7年とか8年というのを目途にして、しかし、ご発言の中にございましたように、とはいえ、いろいろやっている仕事の内容については、必ずしも一義的にこうならいいとか、そういうふうに言えないもので、どうしても判断の余地があるということでございますので、目途として7年とか8年というのを最低限にするという辺りのご意見が多かったという程度のまとめにさせていただいてはいかがでしょうか。もし、そういうことで差し支えなければ、と思いますが、よろしいでしょうか。どうぞ、木村委員。

【木村委員】本日、小林参事官の方からご提出していただいた資料の中には、10年程度と括弧してあって、7、8年から10年となっていますが、10年程度という何かそういう立法上の用語があるのですか。

【小林参事官】特にございません。それで、7、8年から10年とさせていただいた趣旨は、先ほど来お話がありましたように、判定、何をするかということで考えますと、どこでどのような業務をしたのかということについての判定ということになるわけでございます。そうすると、どういうような業務ということをどこまで厳密に書いていけるかということによって、そこの年数も変わってくる可能性があるということで、そこは少し幅を持ってご意見を伺った方がいいのではないかということで幅を持たせていただいたわけです。

【木村委員】本日の資料としてこの鍵括弧が出てきたのですね。

【小林参事官】そういうことですね。法令としては、少なくとも原則は決めなければいけないと。それに例外を認めるかどうかということはありますけれども、原則としてはどこかで切らなければならないということです。

【木村委員】私は原則は10年というふうに思いますが。

【伊藤座長】そういうご意見があることは承りましたし、5年というご意見を述べられた方もいらっしゃいますけれども、大多数のご意見という意味で、10年ということも勿論あり得る話ですが、一応ミニマム7、8年と、場合によってはそれが延びることもあり得べしという程度のご意見が多かったというふうにまとめさせていただいてよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。
 そのほか、通算については、これは弾力的に認めるということでよろしゅうございますね。
 それから、研修の内容は国が定めて、実施については日弁連ないし弁護士会がその実施に当たるということ、それから、研修の細部については、事務局がいろいろ各方面の意見を聞いて検討して、また、今日の木村委員のご意見もございましたけれども、検討会でどういう内容のものになるかを報告していただくということにしたいと思います。
 それから、判定機関が国であることは、岡田委員、よろしゅうございますね。
 国会議員については、2号の取扱いと同様の扱いにするということで、それぞれについて若干自分は違うというご意見の方もいらっしゃるかとは思いますが、多くのご意見ということでとりまとめさせていただければと存じます。

【平山委員】研修は事前研修ということでよろしいのですよね。

【伊藤座長】事前とおっしゃるのは。

【平山委員】つまり最終的な法曹資格を与えるのには、その研修を得ているという意味です。

【伊藤座長】わかりました。

【小林参事官】そのとおりです。

【田中委員】先ほどの経験年数と同じような話なのですけれども、研修の中身につきましても、中川委員の意見にかなり賛成でして、本当にフル規格の弁護士向けの研修をやって意味があるかどうかというのはかなり疑わしいので、一応司法修習とのパラレルで議論していらっしゃいますが、基本的にはメニューを広げて、本当にコモン・ベーシックなものはどうしてもやらなければならないとしても、あとは選択科目をたくさん増やして、この人にはこれを研修してもらうが、これは免除するというふうな弾力的な研修をしないと、画一的に何時間やって云々というのは、さっきの経験年数の話と同じで、余り制度を活用する意味がなくなるという気がします。この事前研修には私は懐疑的でして、皆さんやるとおっしゃっているから強いて反対しないのですけれども、やったとしてどの程度意義があるのか、疑わしいと思っております。本当に自分がやりたい研修は自分でやると思うので、最小限の担保を本当に研修をやって確保できるのか疑わしいと思いますので、とにかく参入制限的な研修をやるにしても、土日にやるとか、夜間にやるとか、いろいろな配慮して資格を取りやすいようにしないと、ウィークデーに何日も研修を受けるというのは、企業に勤めている人は、それだけでも意欲をなくしてしまうと思います。その辺り、十分弾力的な制度設計にしていただかないと、研修の効果も上がらないのではないかと思っていますので、ご配慮いただきたいと思います。

【木村委員】私は田中委員とちょっと意見が違って、やはり研修というのは、基本的な職業規範意識、職業倫理意識といいますか、それにとって共通の、例えば、弁護士なら弁護士、医師なら医師、技術者なら技術者としての共通の規範意識の形成のために極めてこれは重要であると思うのです。弁護士業務というのは、確かに新しい時代のニーズに応えて、特に専門的な知識を持った人が必要になってくるということは言うまでもないことなのですが、その背景には、例えば、医者でもそうですけれども、基本的に共通する、倫理規範意識を持つ共同体によって職業意識が形成されるわけですので、そういう意味から言いますと、特に専門に特化した弁護士がこれから必要になることは言うまでもないことながら、それはそれでそうなのですけれども、しかし、研修の極めて重要な意味が私はあると思いますので、余り研修を軽く考えるという方向性には、私は極めて懐疑的なのですが、その点は、田中委員も余り軽く考えているわけではないとは思いますが。

【田中委員】私が言っているのは、そういう意味ではなくて、法曹のコモン・ベーシックとしての研修は大変重要だと思うのです。しかし、画一的なメニューを決めて、何時間とにかくやりなさいというふうな、画一的な規制というのは何でもありがちなのですが、それは意味がないという趣旨でして、コモン・ベーシックとしての研修の意味については木村委員と一緒です。

【平山委員】先ほど、いったん議論が終わったことですが、中川委員の御発言との関係で、若干、付け加えさせていただきたいのですが、フル規格の、要するに法曹資格というのと、中川委員が述べられましたとおり、そうでなくてもいいのではないかと、言わば、制限のあるといいますか、そういう議論はあると思いますけれども、やはり現在は、フル規格の弁護士が基盤としてはあって、その上にそういう得意分野を持った人たちがおられるというのを改革審議会のペーパーは全体として書かれていると思っておりますので、全部分極化していくということには、ちょっと異論がありまして、やはりフル規格というのは押さえておいて、その上で自分はこの分野というものを磨いていくということの方が、私は日本の弁護士の今までの歴史を考えてみますと大事ではないかと思っておりますので、一言付け加えておきます。

【伊藤座長】わかりました。この問題は、将来の弁護士像にかかわるところで議論は尽きないと思うのですが、余り一般的に議論してもどうかと思いますので、また、研修の内容、細部等につきまして一定のものをお示しして、それを巡って御意見をちょうだいするという形でやりたいと思います。
 それでは、次の問題、弁護士法72条の問題にまいりたいと思います。72条の規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保する。このことに関しまして、会社形態の多様化などの変化に対応する見地から、企業法務等との関係、その他の観点から検討を行うということでございます。
 そこでまず、中川委員からお話をお願いして、その上で審議をお願いしたいと思います。では、どうぞよろしく。

【中川委員】それでは、少々お時間をちょうだいいたしまして、御説明申し上げます。
 お手元に「企業法務と弁護士法72条」というレジュメをお配りいたしましたので、それを見ながらお聞きいただきたいと思います。
 まず、問題の所在でございますけれども、レジュメの一番最初に書いてございますように、親会社の法務部門が、分社化などで独立したグループ内法人に対して、有償で法務サービスを提供することが、弁護士法72条に触れるかどうかという点が一つ。
 もし触れるというのであれば、どういう形で弁護士法72条の規制内容との関係を明確にしたらよいかというのが、審議会がお示しいただいている問題点ではないかと思います。
 これにつきまして、審議会の意見をいま一度確認をいたしますために、レジュメの「別紙」の1枚目の一番上に「審議会意見」というのを記載しておきましたが、これは今、座長が言われましたように、弁護士法72条については少なくとも規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するため、隣接法律専門職の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め、その規制内容を何らかの形で明確化すべきであると言っております。
 そこで、まず問題になります会社形態の多様化などの変化というのは、一体どういうことを言っているのかということから御説明したいと思います。最近の企業でございますけれども、経営の効率化ということを追及するために、合併とか統合などを繰り返しておりまして、特にバブルの崩壊以降は日本経済が国際的な競争力を失ったと、それをもう一度回復しなければいけないということで、大変激しい企業統合、あるいは再編というものが必要になっております。新聞などで報道されます、いろいろの企業の合併、事業の統合、あるいは持株会社化、そういう動きなどは全部そういう競争力の回復というような観点で行われているものでございます。
 そういう状況の中で、昨年の4月に商法が改正されまして、施行されたわけですけれども、事業再編の典型とも言える分社化、つまり会社分割という制度が新設されました。これが大変産業界にはインパクトが大きゅうございまして、この法律ができまして会社分割の手法を利用した事業再編の流れが、非常に加速される、一気に加速されるという動きが出てまいっております。
 いささか技術的になって恐縮でございますけれども、分社化というものは一体どういうものであるかということを少し御説明させていただきますと、レジュメの一番最初の1ページ目でございますけれども、分社化というのは会社の一部を分けて、簡単に言いますと手足なら手を1つ取って、それを新しい新会社として発足させるということなのですけれども、大きく分けますと、機能を分割する分社化と、事業を分割する分社化というのがございます。
 機能を分割する分社化というのは、例えば家電メーカーさんなどをイメージしていただくと分かるのですけれども、家電メーカーさんというのは今まで製造と販売とを一緒にやっておられます。作ったものを自分で売るということをやっておられましたが、作るということと売るという機能を分けまして、販売の方だけを新設した新会社に全部移管して、販売の方はその子会社の方で専門的にやらせると、自分の方は製造に特化するというのがいわゆる機能分割的分社化と言っております。
 事業分割というものは、ある事業部門、今の家電メーカーさんの例で申し上げますと、例えばエアコンを作っている部門とか、冷蔵庫を作っている部門とか、半導体を作っている部門とか、いろいろ部門がございます。その部門の一部、例えばエアコンの部門を全部切り出しまして、これを新しい新会社に移管する。全部切り出すというのはどういう意味かと言いますと、その部門にあります人、設備、ノウハウ、もちろん特許とかそういうものも含めて、商圏、販売ルート、そういうものも全部一括切り出しまして、それを新会社に移管する。つまり事業を全部分割して、新しい新会社に移すというのが事業分割的な分社化というように言われているわけでございます。
 何のためにそういうことをするのかということなのですが、これはいろいろ目的がございますけれども、一番大きなのは、昨今企業の体力というものが非常に衰えておりまして、不採算の部門を抱えておりますと、他の部門の足を引っ張りまして、全体として成績が悪くなる。だから、例えば悪い事業部門を切り出しまして、それを子会社化してその子会社で頑張れということにして、その悪い部門を独立させて、そこで頑張らせる、成績を上げさせるということとか、あるいは他社も同じような状況にありますから、他社の悪い部門とこちらの会社の悪い部門とをくっ付けて、そこで統合と言いますか、違う会社同士の同じ事業部門をくっ付けて、そこで競争力を高めるとか、そのような目的を持って分社化します。
 それだけではございませんが、もっと積極的なものもありまして、非常にいい業績を上げている部門、これも切り出しまして、それで例えば株式上場をねらっていくと、これは親会社に利益を還元することになりますから、そういう積極的な分社化もありますけれども、消極、積極、両方あるということでございます。
 分社化される場合の新設会社は、いろいろな形態がありまして、100%の子会社もある場合もございますし、それから過半数を持っている子会社、完全子会社ではないけれども子会社ということもありますし、他社との統合の場合には、50:50ということもあります、これはいろいろなケースがございます。
 こういう分社化をできるだけやりやすくするということで、先ほど申し上げました商法改正が行われまして、非常に早い時間と安いコストでできるようになったわけでございます。従来は、分社化をやろうと思いますと、いわゆる商法的に言いますと、営業譲渡ということになりまして、臨時の株主総会を開くとか、あるいは譲渡した資産につきまして、検査役による裁判所への報告が必要だとか、ものすごい手間と時間が必要であったわけですけれども、今後の新しい会社分割制度を使いますと、こういう手続はもうほとんど簡略化されまして、非常に早い時間と安い経費でできるということで、非常にこれは画期的な制度だと言われております。
 具体的にどういうケースがあったか、これは皆さんもよく御存じだと思いますけれども、例えば野村証券という大きな証券会社がございますが、あれは今野村ホールディングスという親会社になっております。これは野村証券が自分の事業部門を、先ほど申し上げましたように全部分社化いたしまして、すべての事業部門を独立した子会社にしたわけでございます。自らはその子会社の株式を保有する親会社ということになりまして、逆に言うと野村ホールディングスという親会社の下に、従来の事業会社が全部ぶら下がっていると、これは100%でございますけれども、100%の子会社が幾つかぶら下がっているというようなことになったわけです。
 伊藤忠商事と丸紅が、鉄鋼部門をそれぞれ切り出しまして、1つの鉄鋼販売会社というものを作っております。これは、事業統合のケースです、自ら切り出した事業部門を他社とくっ付けて1つの新しい事業会社を作るというケースもございます。
 非常に大型のものとしては、みずほ銀行、これも3つの銀行が1つのみずほホールディングスという持株会社を作りまして、その傘下に一つ一つの銀行がぶら下がると言いますか、子会社としてぶら下がるという形態にくくり直しておりますという具合に、もう枚挙にいとまがございませんで、実は去年の4月に商法改正が施行されまして、そこからわずか1年間で五百数十社の会社がこの制度を利用したということが統計上わかっておりまして、この傾向は今後ますます加速されていくのではないかと思います。
 前置きが長くなって申し訳ございませんでした。こういうことで、企業法務とどういう関係があるのだということでございますけれども、実はこういう分社化ということに対して、企業法務が一つ迫られている問題がございます。それは基本的には、企業グループ、今までは極端に言えば一つの自社の中でサービスをしておればよかったのですが、それが要するに企業グループという形でどんどん拡散していくわけです。そうしますと、これは企業法務に限らないのですが、企業グループ全体の安定性と言いますか、企業統治、ガバナンス、これをどのように取っていくかという問題が実は企業の中で出てきておりまして、特に企業法務は先ほど申し上げましたように、コンプライアンスの部分を担当しておりますので、今まで自社だけで済んでいたガバナンスを、企業グループ全体に及ぼす必要があると。そういう問題に直面しておりまして、これはどうやってやったらいいのだということが、実は大きな問題でございます。
 そういう意味で、先ほどの木村先生の御質問ではございませんけれども、企業法務のまず第一の目的であります、親会社を含めた企業支配、あるいは企業統治というか、そういうものを今後どうやって高めていくか、あるいは拡散しないようにしたらいいかということを、企業法務というのはいつも考えているのだということをまず御理解いただきたいと思います。
 ちょっと余談になりますけれども、こういう企業グループに対してスタッフ部門が、いろいろなサービスを提供するという形は、もう実はずっと前から行われておりまして、企業法務だけが非常にビハインド、弁護士法との関係でビハインドしていたわけでございます。
 例えば、資金調達、財務、これは余ったお金、あるいは足らないお金、企業グループの中でいっぱい会社がありますが、それぞれの事情がありますね。それをそれぞれの会社が銀行などから借りておりますところは非常に不効率でありますので、企業グループの中にいわゆる銀行のようなファイナンス会社、ファイナンスセンターを作りまして、その会社がそれぞれのグループ内の企業に資金を提供したり、あるいは余ったお金を預かって運用したり、そういうことをずっと前からやっております。
 それから、そういう財務だけではなくて人事、例えばグループ内の必要な人間を一括採用するとか、必要な人を派遣するとか、研修をやるとか、あるいは人事というのは健康保険の計算とか、社会保険料がどうだとか、給与の計算だとか、いろいろな事務がございまして、そういう人事的な事務センターを企業グループの中に作る。あるいは、それぞれの会社がいろいろな物資を運送するわけですが、グループ内に一つのトランスポートを専門にする会社を作りまして、それが運送をグループの会社に提供するとか、そういう具合にスタッフ部門のサービスをグループに及ぼすという傾向、これはもうかなり前からやっておりまして、むしろ常識になっているわけでございますけれども、企業法務の法律サービスだけがそういう意味ではビハインドしていったという事情がございます。
 そこで、このレジュメの2ページにまいりますけれども、そういう経営の実態を踏まえまして、企業法務と弁護士法72条とどのように関係づけていけばいいのかということでございますけれども、結論的に申し上げますと、レジュメに書いてございますように、親会社、あるいは親会社が設立する法務サービス会社がグループ企業に対して、自社と同様の法務サービスを提供することは、弁護士法72条の問題ではないのではないかというように考えられるわけでございます。
 その根拠は、幾つかございますけれども、まず第一に、さきに御説明いたしましたように、親会社の法務部門が分社化などでグループ会社になった会社、そういう会社に法務サービスを提供することは、法形態の違いというのはございますけれども、実態的に考えますと従来の自社内サービスとほとんど異なるところがない。常識的に、それが弁護士法に抵触すると言われるのは、ちょっとおかしいのではないかということでございます。これは法律論ではないのではないかと言われますと困るのですが、一般常識として合わないなということでございます。
 弁護士法の72条、これは「別紙」の1枚目の上から2つ目に書いてございますけれども、これの文意を見ますと、報酬を得る目的で法律事件、その他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱い、これらの周旋をすることを業とすることができないと、だから報酬を得る目的で法律事務を業として行ってはいけないというように読めるわけですけれども、これは不特定多数の顧客を相手にした規定ではないかと思っておりまして、企業法務の場合、つまり他人性、他人に対するサービス提供というのが弁護士法72条だと思うのですが、先ほど申し上げましたようなグループ内企業に対するサービス提供というのは、どうもそういう意味で他人性がないのではないかと、特定の人に対するサービス提供ではないかというように思えまして、この点が基本的に違うのではないかと思います。
 その「別紙」の3つ目に書いてあります、最高裁の判例があるわけですけれども、弁護士法72条の立法趣旨につきまして判例が言っておられますのは、これはちょっと堅苦しい文章なのですが、真ん中辺りから読みますと、世上には、弁護士という資格もなく、何らの規律にも服しない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事務に介入することを業とする例もないではなくて、これを放置すると当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正・円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、かかる行為を禁圧するために設けられたのが立法趣旨であると最高裁は言っておられます。
 企業法務が身内のグループ企業に向けて行うサービスといいますのは、この立法趣旨から言いますと、他人の利益を損なうわけでもございませんし、それから大体報酬を得る目的というのはないのです。これは後で御説明しますけれども、最低限の事務費というのは徴収する場合がありますけれども、いわゆるここで言っておりますような利益を得る、報酬を得る目的、あるいは他人の利益を損なうというようなことは全くないわけでございまして、判例の述べる立法趣旨からも抵触の可能性が極めて低いのではないかと思います。
 ただ、弁護士法に抵触しないのだという考えを仮に御承認いただくとしましても、それではグループ企業というのはどの範囲で考えるのかという問題は残ってくると思います。グループ企業なら何でもよいというのでは、ちょっとそれは問題でございまして、そこをどのように、つまり他人性がないということは、親会社と一心同体だと、一心同体とみなされるグループ会社というのはどの範囲であるのかという問題は、これは考えておく必要があると思います。
 私は、その点につきましては、外見的に見てもはっきりしていて、しかも実態的にも問題のない範囲ということになりますと、それは連結子会社ではないかと思っているわけでございます。連結子会社ということで、グループ企業というものを特定したらどうかということを御提案したいと思っているわけです。
 そこで、では連結ということは一体どういうことなのかということなのですが、これは経理上の概念ですので、もうわかっておられる方には誠に申し訳ないので、馬の耳に念仏なのですけれども、単純に申し上げますと連結というのは、親会社とその下にある子会社全体を一つの会社に見立てるということで、法形態はもちろん違うわけですけれども、経理上、経理処理の決算上はこれを一つの会社と見立てまして、親会社と子会社の資産・負債・損益、こういうものを全部合算して1つの連結財務諸表というものを作るというのが連結という趣旨でございます。
 したがいまして、子会社が幾つあっても、何百あっても、連結されてしまえば1つの連結財務諸表というものができ上がるわけでございまして、その中身は全然わからないわけです。どこの会社がどういう状態なのかは全然わかりません、全部合算されてしまいますので、グループ企業トータルとしての結果が示されるということが連結ということでございます。
 欧米では、御存じのように連結制度を採用しておりまして、もうほとんど全部連結ですけれども、日本でも今だんだん連結の時代になってまいりまして、税制や法制もその方向で着々と準備が進められております。少なくとも株式を公開しております上場会社は、今連結が義務付けられておりまして、連結財務諸表しか公開しないという会社、単独のものを公開するところもありますけれども、ほとんどはもう連結財務諸表で公開しております。株式市場も、連結決算の数字で株価が形成されるというように日本もなってきております。それから、平成17年の3月期の決算ですから、あと3年ぐらい後でしょうか、その決算期から商法上の大会社、これは資本金が5億円以上もしくは負債が200億円以上という会社は、全部連結で決算をやりなさいということを義務付けられることが決まっております。ちょっと話が細かくなって恐縮なのですけれども、連結する会社は、原則といたしまして、株式を50%以上保有する会社で、かつ親会社が支配権を持つ、あるいは経営責任を負っているという会社でございます。50%以下、例えば40%はどうかという問題もありますが、40%以上でも経営権をきちっと握っている会社は、例外として連結をしてもいいということになっておりますが、原則として50%を超える、つまり51%以上の子会社を連結するということになっております。
 通常その連結会社、子会社のトップは親会社から派遣されますし、資金の調達とか、あるいは経営方針につきましては、親会社の意向が反映されるということで、親会社の支配・統制の中に入っている会社だと御理解いただいて結構だと思います。
 そういうことで、連結子会社と言いますのは、もう完全に親会社と一心同体であるとみなされておりまして、例えばある企業グループがございまして、連結子会社はものすごい赤字だというのもあるのです。これは新設、例えばさっきの例で申しますと、半導体の事業を切り出して小会社化したような場合は、当初はものすごい、何千億円という単位の赤字になることがございます。けれども、それは親会社を中心とした企業グループ全体で見ますと、そのグループ自体が健全だという場合は、全く問題がないわけでございまして、そういう赤字会社であってもグループ全体が健全であれば健全だとみなして、我々は取引をするということになっておりまして、要するにグループ全体をいつも見ているというのが連結経営ということの実態的な意味ではないかと思います。
 なおもう一つ申し上げておきたいのが、企業法務がグループ企業向けに法務サービスを提供する場合、若干の事務経費を徴収するということをさっき申し上げました。事務経費というのは、法務部の人件費の一部であるとか、あるいは資料代とかコピー代とか、そういうものがございますね。これは徴収するということになっておりまして、これだけ取り上げれば有償だということになります。
 何でそんなことをするのかということなのですが、これはいろいろな事情があるのですが、1つは税務上の事情がございまして、無償でやりますと贈与になりますから、やはり一定の必要なコストは徴収しないといけない。
 それから、コスト意識と言いますか、子会社向けにいつでもただでそういうものを提供いたしますと、子会社にモラルハザードが起きまして、ちょっと頼めば何でもやってくれるというのでは困りますので、これだけコストがかかっているのだという意識づけをする。そういうためにも、これは徴収しなければならないわけでございますけれども、これで利益を得る目的ということは決してありません。
 ちょっと話がややこしいのですが、自社内、自分の会社、相手が子会社でなくても自社の中でスタッフ部門が営業部門に何かサービスをするときも、これは社内割掛けという形でコストを徴収する仕組みにどの企業もなっております。そういうコストを採算の中に折り込んで、営業はもうけなさいよということになっておりまして、もちろん一件一件どのサービスに幾らということはやりません。そのようなことはしませんが、年間幾らというようなことで社内割掛けをいたしまして、これをコストとして間接部門は営業部門から徴収します。これは帳簿上だけの話で、現金なんか動きませんけれども、帳簿上そういうやり取りをしております。それを、今度企業グループ内でやるだけの話でございまして、それをもって有償とか報酬というにはなりにくいのではないかと思っているのが一つです。
 更に、今のは連結しない会社のことを申し上げたのですが、連結いたしますと先ほど申し上げまたように、親子間の損益・資産・負債が全部合算されます。その関係で親子間の取引というのはゼロにするのです。これは連結消去と申しておりまして、親と子の間の取引がなかったことにするというルールになっております。したがいまして、一旦は親会社が子会社から事務経費を徴収いたしましても、それは決算上は連結消去で全部消してしまう、だから親会社の利益とはいたしませんし、支払いを行った子会社の方も子会社の経費には計上しないということでありまして、最初から何もなかったことにするというのが連結のルールでございます。
 そういうことで連結子会社ということにグループの範囲を特定すれば、有償性の問題もそれで一応解決するのではないか、解決というのはおかしいですけれども、なくなってしまうというようにも思っておりまして、72条の中で一番大切な他人性ということと有償性ということが、連結子会社ということで範囲を特定いたしますと、一応回避できる。理論的にも回避できると思うわけでございます。
 以上申し上げましたことを前提にして、この問題をどのように措置すればいいか、これは余分なことなのですが、ヒントになるかなと思って申し上げたいのですが、1つは法解釈です。これは例えば法務省とか、あるいは日弁連の方でいいと思うのですけれども、法解釈を明確にするという方法があるのではないか。つまり企業法務のこういうグループ内サービスに対して、72条はどういうことになるのかということについての法解釈です。
 もう1つは、もしそれが無理であるというならば、これは法律改正しかないということだと思うのですけれども、これは「別紙」の1枚目の一番下に書いておきましたが、平成14年7月23日に総合規制改革会議が中間とりまとめということで御発表になっております中に、弁護士法72条の見直しというのがございまして、これは大変激烈な考えなのですが、法廷外法律事務について弁護士以外の専門家、隣接法律専門職に限定しないで行えるようにすること、少なくとも会社がグループ内の他の会社の法律事務を有償で受託できるようにすることを含めて、消費者保護の必要性が薄い対事業所向けサービスについては、直ちに業務独占範囲外とすることという、大変過激な意見も出ているわけでございまして、これはいろいろな反対意見もありまして、行き過ぎかとも思うのですけれども、こういう意見もあるということを踏まえて、何らかの改正ということが考えられるのではないかと思います。
 更には、どういうのがあるかわかりませんけれども、第三の方法もあるかもわかりません。
 以上、いろいろ申し上げまして、大変御理解いただきにくい点もあったかと思うのですけれども、要するに企業法務が親会社と連結されるグループ会社に法務サービスを提供するということは、自社内でのサービスと本質的に同じだと、弁護士法の問題にするということ自体が若干不自然ではないかという点がポイントでございます。
 また、これからの時代の流れであります企業統合とか連結経営ということを考えますと、先ほど申し上げました財務とか人事とか、あるいは物流サービスと同様に法務のサービスというものも、グループ単位で行われて当然であると思いますし、それが日本企業の活性化ということにつながっていくのではないかと思っている次第でございます。
 ちょっと長くなりまして恐縮でございますが、一応御説明を終わらせていただきます。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。それでは、質疑に入る前にここで5分ほど休憩を取りたいと思いますので、5分後に再開いたします。

(休 憩)

【伊藤座長】それでは、再開いたします。先ほどの中川委員のお話につきまして、御質問がある方は是非お願いしたいと思います。
 それでは、平山委員からお願いします。

【平山委員】大変よく分かる御説明をいただきました。それから、また意見ということでは全くございませんで、本日は単純にお聞きしておきたいということでございます。
 1つは、中川委員のお話は、連結子会社の範囲でいいのではないか、つまり他人性をどこで縛るかという問題でございますが、これが非常に難しい問題があるように思いますが、連結子会社になりますと、財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の8条の4項の問題でございますね。そうするとどうしても単純明快ではないような気がいたしまして、それと連結をどこの時点で判断するのかというのと、それより前とか後ろの、つまりこの法律相談には応じていいかどうかという問題の時系列とかで、多少ぎくしゃくしないかということを心配いたしておりまして、例えばそういう意味では客観的な二義を許さない、商法の211条の2のような過半数の株を持っているというようなことですと、極めて明快です。私も基本的に72条は親会社、子会社の一定の範囲でいまや適用するのはどうかと思いまして、中川委員がおっしゃるように、最終的には解釈をきちっと固めるという方向で解決できるのではないかと思っておりますが、その範囲をどうするかということについては、規則でいくと例えば財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則4項の2号ですと、ロ、ハ、ニという形で、いろいろなものが出てきまして、外からはわかりにくいということで、それが法律解釈の基準としてすぐ使えるのかどうかについて、若干の疑問を持っておりますのが1点でございます。
 2つ目は、親会社、子会社の間でも利益相反行為というのが実際には起こり得るのではないかということで、そういう場合に例えば親会社の法務部員に弁護士がなっているケースがありますね、そういう場合に子会社との間の仕事をやる場合に、弁護士の中立義務というものの衝突が、利益相反が起こり得るということが気になりまして、経済的観点だけでやれるのかという心配をいたしておりまして、そんなところについて今日は私の意見ではございませんが、疑問点としてお聞きしておきたいということでございます。

【中川委員】確かに連結する会社の範囲というのは、ものすごい複雑でございまして、法律も多岐にわたっておりますし、確かに厳密に言えばかなり複雑だと思います。それは商法で言う子会社と言った方が簡明だと思います。ただ、そうしますと範囲が広くなりますね。私はちょっとおもんばかりをやりまして、子会社と言いますのは、とにかく株式の50%以上を保有すれば全部子会社になりますから、ものすごい数になりまして、それよりは連結、これは理屈はそうなのですけれども、実際どこを連結してあるかというのは、有価証券報告書で、どの会社もきちんとディスクローズするわけですから、連結可能性のある会社でも連結してないところもございますね。結果的に連結した会社と私は理解して、連結子会社ということを申し上げているのです。
 だから、その方が範囲も狭いし、外見的にもどこどこを連結しているのだというのをディスクローズしておりますから、子会社というよりは連結した子会社と言いますか、連結可能性のある会社ではなくて、連結した子会社ということに絞った方がいいのではないかということで、そう申し上げたわけです。

【平山委員】非常に意を用いていただいていると思いますが、何となく法律解釈として。

【中川委員】法律解釈はおっしゃるとおりだと思います。
 それともう一つ、連結した会社と言いましても、これはものすごい数でございまして、実際にはそのようにはならないだろうと、連結した会社の中でも特に重要な会社というものはありますし、そういうところへのサービスというのが実際問題としてはあるだろうというように思います。
 それから、利益相反の問題は、これはわからないのですが、もうちょっと具体的に言えば、どういうことになるのでしょうか。

【平山委員】例えば、何か子会社が事業を展開しようとすることについて、親会社の方は待ったをかけるというような形の、あるいはそういう経営理念みたいなもので対立というのは起こり得るのではないかという気がするのですけれども、そういう場合に上から親会社の法務部員の弁護士が、子会社の相談に応じていく場合に、実際問題としてはいろいろな人間の感情のようなものがありますので、経済計算だけではいけない部分が起こり得ないかというのが、実際はわかりませんけれども、心配事としてはあるなと思います。

【中川委員】それは違法なことということでおっしゃっているのでしょうか、それとも営業政策とか。

【平山委員】そうですね。

【中川委員】それは実際あるかもしれませんが、理屈から言いますと、親会社の企業統治と言うか支配と言いますか、営業政策は必ず親会社の支配に服するというのが子会社の意味ですので、基本的には営業政策上の利益相反関係はないというとらえ方をしていかないと、親子間の企業統治というのは成り立たないのです。
 実際問題としては、変な社長がいて、私はどうしても親会社の言うことを聞かぬぞというのはいると思います。だけど、それは人事権を発動して取り替えるとか、そういうことで結局は統治を進めていくわけですから、暫定的にそういう問題が起こるとしましても、長期的にはないと見ておかないといけないと思うのですけれども。

【平山委員】特に私が心配いたしますのは、100分の40の株式保有であっても連結子会社の要件を満たせば入ってきますね。過半数を得ている場合は当然中川委員がおっしゃるようなことになる可能性が非常に高いのですけれども、40%という場合に、恐らく独自の道を行きたいという企業というのはある程度はあって、そこのところの指導を、上の方の法務部員になっている弁護士が子会社の相談を受けてやるときには、なかなか難しいことにならないかということを心配しております。

【中川委員】ただ、40%以上、50%以下の場合は、実質経営権を持っていなければいけないということになっているわけです。つまり支配権がないといけないということになっておりまして、具体的には社長を派遣している。あるいは、大半の役員が親会社の人だということでございますので、経営権は及んでいると。経営支配権は持っているというのが前提でございますので、その意味では50%超と同じではないかと思います。

【平山委員】疑問点だけでございます。

【伊藤座長】弁護士法72条違反かどうかという問題は別として、当然例えば親会社、子会社間の取引に関して、双方代理の問題だとか、弁護士法25条の関係の問題だとか、それはまた別の話になりますね。

【平山委員】今日の御説明は、特に財務諸表が出てきましたので、そこのところをお聞きしておきたいという意味でございます。

【伊藤座長】では、木村委員、どうぞ。

【木村委員】大変に限られた時間の中で、詳細かつ明快にお話いただきまして、どうもありがとうございました。知らないことがいっぱいありまして、大変教えられたのですが、事実関係だけ2つお伺いしたいのですけれども、1つは連結子会社の概念が欧米では非常に受け入れられているというお話でしたが、欧米諸国と日本との違いがいろいろあるのだと思いますが、例えばアメリカの親会社が日本の子会社、しかしそれは日本の会社であるわけです。それとの連結というコンセプトでいるのか、あるいは日本が、例えば国名を挙げれば韓国とか台湾とか中国とかに子会社を持っている場合に、そちらも連結して考えるような発想で今行われているのか、そこら辺の現状がどうなのかというのが1つの質問なのです。
 もう一つの質問は、先ほど法令とか各種規定を遵守して、そして公正かつ公平な業務遂行を行うことがコンプライアンスであるということになるかと思うのですけれども、そういうコンプライアンスの1つの企業の在り方として、企業倫理というのを今いろいろな企業で作っておりまして、例えばアメリカのIBMにしても、日本の沖電気とか、NECとか、アンリツとか、テイジンとか、それぞれ企業倫理というのを作って、ある会社によっては、例えばIBMのような会社は社長名で企業の行動理念としてそういうものを出したりしているのですが、そういう在り方というのが法務の担当なのか。例えばいろいろな企業でさまざまな問題が起きてきていますけれども、それは全然違うところで、現状は法務の方に全く関係なく行われてきたのか。例えば中川委員の会社にも恐らく企業倫理があるかと思うのですけれども、そこら辺の実際立案して、それがどう行われているか。企業によっては大変教えられるのですけれども、よき企業市民としての、私たちは会社の活動に支障を来す行為や、社会に迷惑をかける行為をしないために、法令や定款を始めとする社内規則を守りますとか、あるいは人権尊重、企業倫理の中に一人一人の人権を尊重するとか、セクシャルハラスメントを行わないとか、プライバシーを侵害しないとか、いろいろなことが含まれた、まさに法務的な内容が企業倫理の中に入ってきているのですけれども、それは実際に法務でやっていることなのか、社長室なのか。そこら辺のところが外から見えないので、その2つの点について、現状がどうなっているかということを、この弁護士法72条と先ほどのサービスの提供を行うに当たっての背景、親会社のそういう企業理念が企業倫理という形で生かされているとすれば、それがどういうようになっているかという2つの点について、お教えいただければ大変ありがたいのでございますけれども。

【中川委員】まず、最初に海外子会社を連結するかどうかと。これは、世界的にもそういうことになっております。
 例えば、アメリカの企業がたくさん日本へ来ていますね。日本で子会社を作っております。これは、全部アメリカならアメリカの本社の連結になっておりまして、実はそれは我々が非常に困ることなのです。と言いますのは、日本の会社であるのにもかかわらず、発表する必要がないものですから決算を発表しないわけです。
 だけど、我々はアメリカの本社とやるのではなくて、日本にあります会社と取引をしたいのですが、結局そこはどうなっているかわからないのです。世界を連結した一本の財務諸表を出してきますので、それで判断するしかないという、実は若干困ったようなことにもなっているのですが、アメリカとかヨーロッパはみんなそういう形で、全世界のものを連結して一本にしております。
 日本も同じでございまして、例えば我々も海外に子会社を持っておりますが、そういうものは連結をいたしますので、やはりこれは全く同じなのです。ただ、日本と欧米と決定的にまだ違いますのは、税制が連結ではないのです。だから、アメリカなどは決算をいたしますと、それで税金を払います。だけど日本はまだ完全に連結納税になっておりませんので、合算された結果で納税するというところまでまだいっていないのです。情報公開は連結でやるけれども、税金の方は単独で払っているというような少し変な形になっておりまして、まだそこら辺が完全ではない。だけど流れはそうなっていますので、将来的には全部一体になっていくだろうと思っております。
 それから、コンプライアンスの方なのですが、これは日本でも各会社が御指摘のとおり、今、いろいろなものを作っているのですが、余りワークしてないので、いろいろな問題が出てくる。日本経団連も御存じのように今度改定するとか何か言っておりますのは、日本経団連で作ったコード・オブ・コンダクトがあるのです。それが余りワークしないというので、そこへ罰則を付けるとか、いろいろなことをやっておりまして、各会社もそれと似たようなものを持っております。
 これは、普通だれがやるかと言いますと、大体担当の役員がいるのです。コンプライアンス・オフィサーとか言って、役員クラスの人がコンプライアンスを実現する責任を取っておりまして、組織的には検査部とか、検査室とか、そういう監査役とは別の、いわゆる執行部が行う検査という組織を持っておりまして、それを使って社内の違法、あるいは不当性、そういうものをチェックしていくという組織になっておりまして、企業法務は、その相当の部分を手助けする。リーガル・コンプライアンスと言っておりますけれども、法的な面から、そのコンプライアンス・オフィサーの下で協力をしていくというのが一般の会社のやり方だと思います。
 具体的には、あちこちの部署を回って契約書をチェックするとか、話を聞いて何か違法なことをやっていないかとか、そういうことを常に巡回してチェックしていくというようなことをやっている状態だと思います。

【伊藤座長】ほかにいかがでしょうか。どうぞ、松尾委員。

【松尾委員】2点質問です。考え方の中に、親会社が中心となって形成した、法務サービス会社という言葉が使われていますね。この法務サービス会社というのは、どうも一般的に聞き慣れないのですが、これはどういう組織形態を持つものかどうか。実際にあるのかどうか。これが1つ。
 もう一点質問なのですが、グループ会社の定義の中に関連会社というのがあるのですが、これは連結のいろいろな考え方から言うと、72条との関係で考えられている法的サービスの対象にはならない会社と見ていいのでしょうか。その2点です。

【中川委員】法務サービス会社というのは、そういう定義があるわけでも何でもございませんで、親会社の法務部門が、直接サービスをしてもいいし、法務サービス部門を親会社から切り出しまして、それこそ分社化して、その分社化された会社がグループ内企業にしてもいいと。
 実例があるかと言われますと、これはごく少数ですがございまして、ある大手の商社でございますけれども、名前は忘れましたが、ちゃんとした名前のサービス会社を作っておりまして、それがグループ内企業に有償でサービスをしていると聞いております。ただ、一般にたくさんあるかと言われますと、ほとんどそういうものは見かけない。もう一つ関連会社で、これは少し誤解を招いて申し訳ございませんでした。関連会社というのは、商法特例法の定義なのですが、実は子会社でない会社、つまり50%以下の株式を保有する会社ということでございまして、これは先ほどの私の提案の中では全く除外をして考えております。これは無数に、しかも支配権がないという問題がありますので、これは除外です。

【伊藤座長】ありがとうございました。よろしいですか。

【松尾委員】はい。

【伊藤座長】ほかにいかがでしょうか。どうぞ、田中委員。

【田中委員】法務サービス会社を作った場合に分社化しても、これは少し問題があるのではないですかね。法務サービス会社を分社化して、それが中に1つあるというのも、これは少し違うような感じがするのですけれども。

【中川委員】これは感覚の問題かもしれませんね。自社で大きな組織を抱えて50人ぐらいおりますね。そういうものと、それが外へ出たものとどこが違うのかという話で、理論の問題ではないような気もするのです。

【田中委員】少し法的に難しいなという感じがするのですけれども、弁護士会に弁護士事務所の法人化問題との関連などについても聞いた方がいいと思うのですけれども。

【平山委員】我々もそこは非常に難しいと思っておりまして、今日は意見を申し上げませんが、それを目的とした会社になってしまうということになると、なかなか大変だという気がいたしておりまして。

【松尾委員】アメリカのローファームみたいなもので分社化されたという、そういう印象ですか。

【中川委員】いや、そういう実例が余りないものですから、何とも言えないのだけれども。

【田中委員】たまたま今年の夏にアメリカに行ったときに、弁護士さんがローファームを企業コンサルティング会社と一体的に作って活動しているケースが結構あるということを聞いたのですけれども、法務サービス会社となってくると、弁護士法人に近い形で独自に活動するようになっていく感じがします。

【中川委員】企業側はそこまでは全然考えておりませんで。

【奥野委員】田中先生がおっしゃっていることも、平山さんがおっしゃっていることも、私には全くわからないのですが、要するにローファームにして外のグループ外の仕事まで請け負うならば、それは現状の弁護士法72条に触れるでしょうと。私自身は、本当は72条はおかしいと思っているのですが、それはともかくとして、72条に触れるけれども、しかし72条は変えないと、変えないのであれば、そういう外の仕事はできないわけですね。別会社にはなるのだけれども、グループ内の仕事しかできないわけです。
 そういうことになったならば、単に会社法人という名前が付くだけであって、感覚的に少し奇妙かもしれないけれども、何がいけないのだというのが私の印象でありまして、具体的に言えば、例えば1つの例として、どうしてこういう分割をするかという1つの端的な例を挙げてみれば、雇用とか賃金の給与体系の問題があるのです。給与体系が、例えば普通の従業員だと、月給制にして固定給プラスボーナスというものとしなければいけない。
 ところが、例えば法務の方に関しては、もう少し年棒とか、そういう別形態の雇用体系、給与体系にしなければいけないかもしれない。それを同じ会社の中で、普通の賃金プラスボーナス制と、年棒制の方が一緒にいると、労働組合問題とか、いろいろな問題が出てくるかもしれない。だったら会社形態を別にすることによって、そういう問題を解決しましょうというのが、例えばですけれども、こういう会社分割をする1つの理由なのですね。
 だから、そういうことから考えれば、少し奇妙な感じがするけれども、72条で縛ってある以上は、ほかの企業、グループ外のことはどうせできないのだから、そういう意味でもう少し企業グループ全体としてのフレキシビリティーを上げて、さっき中川さんがおっしゃったみたいに、日本の企業の活性化をして、国際競争力を高めるためには、そういうことも考えてもいいではないか。別にそうしなさいというのが私の意見ではないですが、それはそもそもおかしいという議論にはならないのではないでしょうかというのが、私の申し上げておきたいことで、本当は中川さんがお答えになるのでしょうけれども、横から一口はさませていただきます。

【伊藤座長】中川委員がおっしゃっているのは、もちろんそういうことですね。第三者に対してサービスをするという趣旨のものではないという、その辺りはまたいろいろ議論があるかと思いますが、次回にまた続けて議論の部分を続行いたしますので、大いに御発言いただければと思います。

【平山委員】奥野先生にも次回に是非またお話を伺いたいと存じます。

【伊藤座長】まず、次回につきましては、日弁連からこの問題についての説明をしていただきまして、その後に本日の中川委員のお話、その他の意見交換を踏まえて、更に審議をお願いしたいと考えております。
 それでは、次の議題でございます、民事調停、家事調停の分野に、いわゆる非常勤裁判官制度を導入する場合の、具体的な制度設計、これにつきまして、最高裁及び日弁連から報告をお願いいたします。

【最高裁(金井人事局参事官)】それでは、今、座長から御紹介がありました件について、最高裁と日弁連と共同でこの場で報告させていただきます。
 まず私の方から御報告をさせていただきたいと思います。
 前回も最後のところで御説明させていただきましたけれども、最高裁判所と日本弁護士連合会は、昨年の12月7日に弁護士任官等に関する協議のとりまとめをいたしました。また、今年の4月16日に開催されたこの検討会における協議結果も受けまして、民事調停事件、それから家事調停事件の分野において、いわゆる非常勤裁判官制度を導入することについて、本年3月からおおむね月2回のペースで協議を重ねてきたところでございます。
 その結果、協議が整いまして、8月23日にこれから御報告申し上げますような内容の新しい制度の創設に向けてお互いに協力していきましょうということで合意した次第でございます。
 本日は、お手元に共同説明の骨子というのをお配りさせていただいております。
 その添付資料といたしまして、前回御報告いたしました合意書面を付けてございますので、主に共同説明の骨子に即しまして、御説明させていただけたらと思っております。
 まず「2 創設を目指す制度の目的(別紙1項関係)」というところから始めさせていただきたいと思います。この共同説明の骨子では2というところに書いてございますが、この関係は、むしろ添付されている合意書面をごらんいただいた方がおわかりいただけるかと思うのですが、創設を目指す制度の目的ということで、合意書面に記載されておりますとおりです。裁判官の給源の多様化・多元化を図り、21世紀の我が国における司法を担う質の高い裁判官を安定的に確保するために、弁護士からの裁判官任官を大幅に拡大することが極めて重要であると。また、それとともに、司法制度をより利用しやすく、わかりやすく、頼りがいのあるものとする必要がある。
 そこで、当面民事調停事件及び家事調停事件の分野に、弁護士が非常勤の形態で調停主任または家事審判官たる裁判官と同等の立場で調停手続を主宰する制度を創設することによりまして、弁護士から常勤裁判官への任官を促進するための環境を整備するとともに、併せて調停手続をより一層充実・活性化しましょうという目的の下に制度を創設していこうということで、合意が整った次第でございます。
 次に「3 創設を目指す新しい制度の骨格(別紙2項関係)」ということでございます。共同説明の骨子の1枚目の下半分をごらんいただけたらと思います。
 まず「(1)担当職務等」ですけれども、民事調停法、それから家事審判法を改正することによりまして、弁護士が民事調停事件、家事調停事件に関しまして、非常勤の形態で、調停主任または家事審判官たる裁判官と同等の立場で調停手続を主宰することができる制度を創設することを目指したいということでございます。
 具体的には、調停手続を主宰するほか、民事調停法17条所定の決定、家事審判法23条、24条所定の審判もできるようにしましょうということで合意いたしております。
 ちなみに、民事調停法17条の決定とか、家事審判法24条の審判というのが書かれておりますが、これは調停に代わる裁判と言われているものでございます。調停成立に至らない場合に、裁判所は公平を考慮し、また調停の申立の趣旨に反しない限度内で裁判をすることができるという仕組みがございます。この裁判は、当事者が2週間以内に異議申立をいたしますと、その裁判は失効してしまいます。異議申立がない場合には、裁判上の和解とか、確定判決と全く同一の効力を有するという仕組みでございます。
 家事審判法23条の審判という記載もされておりますが、こちらは今申し上げたのと少し仕組みが違いまして、合意に相当する審判と呼ばれているものでございます。例えば、婚姻とか、養子縁組の無効・取消しを求める場合がございます。本来、人事訴訟事件として解決されるべき問題なわけですけれども、これが家庭裁判所に調停ということで申し立てられまして、当事者間の合意が成立するというようなことがございます。その場合に、その合意が正当と認められるときには、家庭裁判所は合意の内容どおりの審判をするということができることになっております。これが23条の審判と呼んでいるものであります。
 今、御説明したような裁判も今回構想されている非常勤の弁護士に担ってもらおうということを検討している次第でございます。
 この関係で、担当職務につきまして、もう少し詳しく御説明させていただきたいと思いますが、この合意をとりまとめるに当たりまして、最高裁、日弁連、双方の協議員において意見が一致した点がございますので、この共同説明骨子の1枚目の下の方のア、イ、ウ、それから次のページにエと書かせていただいておりますが、そこをごらんいただけたらと思います。
 まず、民事調停に関しましては、簡裁のほか、地裁の民事調停についても担当職務とすることを考えております。
 イでございますけれども、家事調停につきまして、一般調停事件のほか、乙類調停事件についても担当職務としようということを考えております。
 ウというところをごらんいただきたいのですけれども、担当する事件といたしましては、法律実務家としての知識、経験を活かすことができるそういう事件を担当していただこうと。それから、非常勤という勤務形態でございますので、それに適合した事件が配てんされるように配慮する必要があるということで、協議員の間では意見が一致しております。
 1枚めくっていただきまして、2ページ目になりますが、エというところで書かせていただいておりますのが、今回の合意は、調停事件の分野におけるものでございますけれども、それ以外の分野への導入につきましては、昨年12月の弁護士任官等に関する協議のとりまとめにもあるとおり、今後最高裁において研究し、協議するということで協議員間で意見が一致しております。
 次に「身分関係等」について御説明させていただきたいと思いますが、骨子の3の(2)というところに書かせていただいております。
 まず第一に、この制度の担い手の問題です。制度創設の目的にかんがみまして、5年以上の経験を有する弁護士のうちから、最高裁判所が任命する制度ということで合意いたしております。この協議の過程で、任期につきましても議論がされております。骨子に書かせていただいておりますが、任期について2年とし、再任を妨げないが、制度創設の目的にかんがみまして、多数の弁護士が経験できるような運用を基本とすることで協議員間で意見が一致しております。
 身分関係はどのようになってくるかということですが、基本的には裁判所に属する者ということで、裁判所職員臨時措置法により準用されます、国家公務員法の規定が適用されることになるわけですけれども、調停手続の主宰者としての職務内容を踏まえまして、職権行使の独立性等について法令上独自の規定を設けることで合意しております。
 具体的には、この骨子のア〜エまで書かせていただいているとおりでございます。
 まず、アですけれども、独立して職権を行使する旨を明確にするということでございます。
 イの除斥等について裁判官の場合と同様の扱いにすること。この除斥の問題ですが、事件の当事者であるとか、事件自体と特殊な関係を持っているということになりますと、その公正さについて疑念が生じますので、そういう場合には事件の職務執行から排除される仕組みが民事訴訟法等々でございますけれども、そういったことにつきまして、調停事件を扱う裁判官と同等の扱いにしましょうということで合意しております。
 ウのところですが、政治活動の制限につきまして、裁判官の場合と同様に、積極的に政治運動をしてはならない旨を明らかにしましょうということでございます。
 エで書かせていただいていますが、その地位の重要性にかんがみまして、一定の事由に該当する場合を除いては、その意に反して解任されることがない旨の身分保障をすることも検討したいということでございます。
 最後に「制度化の時期(別紙3項関係)」についてでございますが、説明骨子の4というところに記載させていただきました。本協議の結果を踏まえまして、平成15年通常国会への法律案の提出を目指して、推進本部に協力しながら制度化に向けた準備を進めましょうということで合意しております。
 協議の過程では、双方の協議員の間におきまして、平成15年度中にも実施できるように努めましょうということで意見が一致しておりますので、それを前提に準備を進めていきたいと考えている次第でございます。
 以上、弁護士会、裁判所間で合意された制度創設の中身を御説明させていただきましたけれども、最後に最高裁と日弁連とでこの合意につきまして、どのように受け止めているかというところを多少付言させていただきたいと思います。
 まず、裁判所の方でございますけれども、今回の合意ですが、昨年12月7日の弁護士任官の推進に関する合意に引き続きまして、今回更に民事調停事件、それから家事調停事件の分野において、今御説明いたしましたような、いわゆる非常勤裁判官制度を創設することについて合意に至ったということは、誠に意義深いものと受け止めている次第です。
 この制度の創設によりまして、弁護士任官を促進するための環境を整備するとともに、併せて調停手続をより一層充実・活性化していくことが期待されますので、今後お互いに協力して今回の合意の趣旨に沿った制度が創設されるように努力していきたいと考えているところでございます。

【日弁連(明賀弁護士)】日弁連からも簡単にコメントさせていただきます。直接当事者から話を聞いて、それを法的に整理して認められるか否かを判断していく作業というのは、弁護士が行う日常業務の大きな部分を占めます。その弁護士としての経験を非常勤裁判官として活かして、調停の充実・活性化に貢献したいと考えています。
 また、弁護士が裁判官の職務の一部を直接経験することを通じて、裁判官の職務に対する理解も深まると思われます。
 当初は、数十人の規模で実施するということで、数年で100 人以上の規模となるように考えていますけれども、裁判官に任官しようとする際の垣根も低くなって、弁護士任官を推進する大きな制度的基盤になると考えています。
 弁護士の職に就きながら、調停分野との限定はあるものの、非常勤の形態で裁判官と同等の職務に従事するようになることは、今後の司法の在り方に大きな影響を及ぼすことになると考えます。イギリスなどでは、非常勤裁判官制度が幅広い分野で行われています。我が国では初めて創設するものですので、調停での実績を踏まえて、将来のさらなる制度的発展を期したいと考えています。以上です。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。それでは、ただいまの報告に関しまして、質問ないし御意見がある方は、どうぞお願いいたします。

【岡田委員】私は消費生活センターで相談を受けていまして、この調停にはものすごく関心を持っております。
 現在、特定調停では、先ほど民事調停法17条決定というものが出ましたけれども、多重債務で活用されており、特定調停以外でも、例えばクリーニング屋さんとのトラブルなんかを調停に持ち込んだりしていると聞きます。消費生活センターで消費者がどうにも納得しないような案件の場合は、裁判に誘導すると、センターが手を引いたというような受け止められ方が、まだどうしても消費者にされるのですけれども、その前に裁判ではなくて調停という制度があるということで随分誘導する機会が多くなっています。そういうこともありまして、前回もすごくいい制度だなと思ったのですが、今日お話を聞きまして、前回以上にすごく前向きにと言いますか、私がちょっと注文したようなものも入っているような気もするものですから、最高裁と日弁連の協議を大変評価したいと思っております。
 この制度自体が、弁護士任官のワンステップだということを言われて、私は是非ともこういう制度は続けてほしいということを申し上げたのですが、その辺が2番目の「併せて調停手続をより一層充実・活性化すること」という文言で読めるのかなと思います。
 地裁の民事調停についても担当職務とすること。乙類調停事件についても担当職務とするということ。それから次の調停以外の分野にも、これから最高裁で検討したいということ。この辺に関しては、前からすると私たちにとっては数段利用しやすい調停になるのかなと思いました。
 ちょっと質問なのですが、先ほど言いました調停以外の分野というのがもう一つ見えないので、最高裁としてはどういうことを想定なさっているのか、もし今お答えいただけるのであれば、お答えいただきたいということ。あと「(2)身分関係等」のところで任期が2年で、多数の弁護士云々というのがあるのですが、あと弁護士経験5年以上というのがありますが、例えば定年ではないけれども、その辺は特別ないのでしょうか。私どもも最近、相談員の定年と言われ出したので少し気になるのです。以上、2つです。

【伊藤座長】それでは、今の段階でお考えがありましたらどうぞ。

【最高裁(金井人事局参事官)】まず、最初のお尋ねですけれども、調停事件以外の分野についてどう考えているかということですが、これは非常に難しい課題でございまして、私どもといたしましては、今回調停の分野で全く新しい制度を作ろうとしておりますので、この枠組みをきちんと作り、円滑に立ち上げて十分な機能を発揮できるようにしていこうと、これに全力を傾けたいと思っております。作業としてはそういう作業をしているわけです。
 では、それ以外のところへの拡大ということを考えてみますと、まずは調停の分野でやってみまして、どういうように機能していくのだろうかと。毎日お見えになるわけではなくて、今回でも少なくとも1週間に1回以上ということを考えているわけですが、そういう形での勤務形態でうまく仕事をしていただけるのかどうかというところが1つ問題としてあるように思います。
 もう一つは、利用者と言いますか、国民の皆様方がこの制度をどう受け止めていかれるのだろうかという、そこら辺の問題もございまして、そういうところも十分見ながら、実証的に研究をしながらこの先のことを考えていきたいということで、余りお答えにはならないかもしれないのですが、そのように思っております。
 2番目のお尋ねで、年齢をどういうように考えているかと。

【岡田委員】何歳までならなれるかと。

【最高裁(金井人事局参事官)】これも非常に難しい問題なのですが、この制度の目的として1つございますのは、やはりこの経験をしていただいて、裁判官の職務の内容をよく御理解いただいた上で、できれば常勤の裁判官になっていただきたいという思いがございます。それを考えますと、余り高年齢では常勤裁判官になれませんので、そことの兼ね合いがございまして、その点について弁護士会とはさまざまな議論をさせていただきまして、協議委員間で意見がまとまったことといたしましては、常勤裁判官への任官を視野に入れて考えますと、年齢55歳前であることが望ましいと、そういった方々を非常勤裁判官としてお迎えしていきましょうという合意をいたしております。

【日弁連(明賀弁護士)】少し補充をさせてもらいますけれども、諸外国の制度では調停ということだけではなくて、範囲の制限はあるにしましても、ほとんど判決まで非常勤裁判官制度が採られているわけです。ただ、今回は日本で初めて創設する制度だということで、最高裁からの説明がありましたように、まず調停に導入する。その実績を踏まえてさらなる範囲拡大を考えているということで、これを積極的に導入して、できればそういう非訟事件だとか、実際の訴訟事件だとか、どこまで範囲を広げていくかということを是非検討していきたいと考えております。

【伊藤座長】よろしいですか。

【岡田委員】はい。

【伊藤座長】では、松尾委員。

【松尾委員】制度の創設の目的に掲げておりますように、弁護士任官の環境整備、それから調停手続を一層充実・活性化するという2点ですが、どちらも非常に大きな問題でありまして、私は高く評価したいと思います。
 特に、私は家事調停委員をやっている関係上、調停手続を活性化するということは、非常に望ましいことでありますので、運営次第でありますが、この制度を作ることによって、調停実務そのものが充実・活性化されるものと期待しています。
 それから、ここの担当職務においても、私たちが非常に期待する部分がかなり合意されておりまして、特に異論はありません。
 ただ質問したいのは、一番下なのですが、担当職務の中で「非常勤という勤務形態に適合した事件が配てんされるように配慮すること」とありますが、これは具体的に何を考えておられるのか。
 例えば、非常勤裁判官で調停に来られる方は、週に1回ぐらいと聞いているのですが、そういう勤務実態であるから、やはり長期化するような、あるいは複雑な事件は配てんしないようにという趣旨のことを言っているのかどうか、その辺のところを少し明確にしてほしいと思います。
 それから調停以外の分野については、具体的にどういうようなことが考えられるか、今、最高裁でもいろいろお考えになっているので、私がとやかく言うことはありませんが、いずれにしても調停以外の分野にまで広げていくという考え方は取ってほしい。つまり、そういう方向性は常に考えていただきたいと期待いたします。
 もう一つの質問は「(2)身分関係等」の中に「法令上独自の規定を設定」とありますが、ここにア〜エまでありますけれども、内容はともかくとして、法令上独自の規定というものが、他の分野でこういう規定があるのかどうか、その辺を確認したいと思います。
 いずれにしても、この問題について最高裁と日弁連が合意されたということは、創設の目的からいっても、先ほど申し上げましたように、非常に評価し期待するものであります。ただ1つ日弁連に注文したいのですが、実際にどういう方が非常勤の裁判官になるかということは、現場では非常に関係のあることです。というのは、調停委員をしている経験から率直に申し上げますと、非常に有能でやりやすい、家事調停業務を非常に理解された弁護士が代理人に付かれるときには、非常にやりやすく当事者のためにもいいわけです。ところが、必ずしもそうではない方もいらっしゃることも事実でありまして、中には形式的に調停前置主義だからやっているのだというような方もいます。それは調停に対する信頼に関わる問題です。ですから、非常勤裁判官をだれにするか、それは恐らく日弁連で選考され、推薦されるものと思われますので、本当に調停業務というものを理解される非常勤裁判官にふさわしい人材を推薦し、選考していただきたいということであります。お願いいたします。

【伊藤座長】まず先に、金井さんからどうぞ。

【最高裁(金井人事局参事官)】まず、非常勤という勤務形態に適合した事件とは、どういうことを考えているのかというお尋ねかと思いますが、例えば調停事件の中には、裁判所職員と密接な連携を図りながら仕事していかなければいけない事件というのもございます。あるいは、緊急の事態に対応しなければいけないことが、類型的に考えられる事件というのもございます。そういった事件については、やはり非常勤という勤務形態には適合しないのではないかと思っているのですが、難しい事件をやってもらわないということではなくて、むしろベテランの弁護士としての知識、経験を生かせる事件という観点からいたしますと、法律実務家としての経験を十分に発揮していただける、争点が複雑だったり、そういうものについてやっていただきたいという思いがございますけれども、勤務形態との関係では少し配慮していかなければいかぬのではないかと思うのです。
 例えば、子の面接交渉を巡る事件だとか、子の監護に関する事件というものを考えてみますと、なかなか当事者間の対立が激しくて、場合によっては奪い合いの形になっていくとか、裁判官として面接交渉の過程で適切な指示を早急に出さなければいけないということもあり得るかと思うのです。
 そういうことを考えて、先ほど申し上げたような事件配てん上の配慮をしましょうという合意をしているわけです。

【松尾委員】その問題は、実際にどういう事件か初期の段階ではわからない場合もありますし、今おっしゃった例示から言うと、やはり内容的に難しい、複雑な事件の範疇に入るケースかとも思われるのですが、この辺が少しあいまいな表現になっていますから、お尋ねしたわけです。

【最高裁(金井人事局参事官)】そこは、やはり事件が申し立てられた段階で、類型として緊急な対応を求められる事件かどうか、職員との日々の密接な連携の上に処理していかなければいけない事件かどうかというような判断をしていこうと考えております。
 それから、2番の法令上独自の規定を設けるということに関してのお尋ねもございました。これは弁護士会との協議の過程で、いろいろ研究もさせていただきまして、例えば国の組織の中にも行政委員会の委員等につきましては、その職務、地位の特殊性を考慮して、独自の規定が設けられている例が幾つかあります。
 今回の非常勤の裁判官につきましても、調停手続の主宰者というお立場に立っていただくわけですので、そういう職務の重要性にかんがみまして、それにふさわしい規定を設けていこうということを考えている次第であります。

【日弁連(明賀弁護士)】身分で法令上独自の規定で、他の分野でどういう規定があるかということに関しましては、例えば独立で職権を行使するだとか、その意に反して解任されないというところでは、独禁法で公正取引委員会委員について定められています。その意に反して解任されないというのでほかの法律では、例えば公害等調整委員会設置法で、公害等調整委員、国家公務員倫理法で国家公務員倫理審査会委員とか、そういうのが独自の規定があるという他の分野での法律の例です。
 もう一点、日弁連に注文をいただきましたが、おっしゃることは非常にもっともなことだと思います。ですから日弁連としましても、この制度にふさわしい人を非常勤裁判官として推薦する仕組みを作りたいと考えています。
 現在、弁護士任官で8ブロックで適格者選考委員会という形で弁護士だけではなくて、市民も加わっていただいて、そこで調査して評価して推薦するという形態を取っています。非常勤の形態ですから、それがそのまま適用されるかは別にしまして、8ブロックでの適格者選考委員会でできるだけ市民も加わった形で適格者を選考していく。そのシステムを非常勤制度にも是非適用して、適任者を推薦していきたいなと考えております。

【釜田委員】「(2)身分関係等」のところで、5年以上の経験を有する弁護士のうちから、最高裁が任命されるということですか。この経験年数を10年ではなくて5年とされた積極的な理由がおありなのですか。

【最高裁(金井人事局参事官)】私どもが考えてみましたのは、調停手続の中で、調停の主宰者として当事者をうまくリードしながら問題点を整理して合意に導いていくという役割を担っていただくわけです。
 想像しますに、弁護士さんの職務活動の中で、そういう仕事というのは結構多いのではないかと思っております。ですから、5年やっていただければそういった経験は十分に備えられるのではないだろうかということで、一応5年ということを考えております。

【釜田委員】しかし、将来裁判官としてたくさん出ていただくという目的もお持ちなのですね。そうしますと、先ほど英国で非常に活発に活用されているということで、弁護士さんから裁判官になられる場合は、大体10年ではないのですか、違うのですか。日本の10年も、何か関係があると思うのですが、これは10年でなくてもいいのですか。

【最高裁(金井人事局参事官)】実は、弁護士任官の協議を昨年12月に取りまとめておりますけれども、その中では弁護士任官制度の上では、弁護士経験5年を一つの要素にしておりまして、更にもう少し幅広く人材を得るということで、弁護士会の御要望も踏まえまして、3年ぐらいのところまでは考慮の対象にしましょうということにいたしております。ですから、そういう弁護士任官についての取りまとめも頭に置きながら、今回の5年という数字は出てきております。

【日弁連(明賀弁護士)】釜田委員がおっしゃるように、イギリスでは基本は10年の経験、職務によっては7年以上というのがありますが、実際に非常勤裁判官になるのは15年以上ぐらいが多いみたいです。今、最高裁から説明がありましたように、弁護士任官も含めて考えて、まず5年以上ということで合意に達したというわけです。

【伊藤座長】釜田委員よろしいですか。

【釜田委員】はい。

【伊藤座長】どうぞ、木村委員。

【木村委員】御説明ありがとうございました。別紙の1ページですが「いわゆる非常勤裁判官制度の創設について」ということで、8月23日付で最高裁判所と日本弁護士連合会で正式に出てきたわけで、この文章の2行目のところに「平成14年4月16日の司法制度改革推進本部の第3回法曹制度検討会における協議結果を受けて」という文章をきちんと入れてくださったのは大変いいと思うのです。
 これは、私どもが新聞記事、その他を読みまして、こういう非常勤裁判官制度の創設について、最高裁判所と日本弁護士連合会が決めたというような形で新聞記事がよく書かれるのです。
 しかし、実際は検討会で専門家でない方々も加わったところで、公平な審議、協議会を受けてやったわけですので、今後こういう形できちんとした文面を新聞記事にも書くように記者レクのときには是非お願いしたいと思います。
 例えば、私は昨日アメリカから帰ってきたのですが、飛行機の中で読んだ朝日新聞には、法曹養成の方の検討会の中で、法曹三者は合意して、法曹三者とは、つまり最高裁と法務省と日弁連が合意して、ロースクールの教師に実務家を積極的に雇用するという方針でいくというようなことが、法曹三者で決まったと出てくるわけです。
 しかし、恐らくその背景には、法曹三者ではない方々も入れて討議して、しかも審議会の透明性とかを踏まえてやっているわけですので、そういう形で出てきますと、私どもが新聞記事を読みますと、また最高裁と日弁連と法務省が勝手に決めていろいろなことをやっているという印象を受けると思うのです。
 ですから、座長としてはそういうところに必ず1行入れて、検討会でやったものを踏まえてというような記事にする方向にしないと、マスコミの記事の取扱い方によって、せっかく審議会でいろいろな意見を出してきたのが、何かまた元に戻っていくような傾向で取る人もなくはないと思いましたものですから、できれば私の希望としては、本来ならば最初の1行目に審議会の意見書を踏まえてというのがどこかに入りませんと、そもそも弁護士任官等に対する協議自体は、審議会の意見書を踏まえて始まったわけでございますね。ですから、それが入りませんと、最高裁と日弁連はとなりますと、これも突如として出てきたという感じになりますので、ですからその辺に1行あった方がいいのではないか。しかし、これは8月23日に既に出ているわけでございますので、これを修正するわけにはいかないと思いますので、これはこれでいいです。
 関連してお伺いしたいのは、本日お配りいただいた9月10日付の書類の2枚目でございますが「(2)身分関係等」というところの「ウ 政治活動の制限について、裁判官の場合と同様に積極的に政治運動をしてはならない旨を明らかにすること。」、これは割合に大事なことになってくるのだろうと思うのですが、弁護士として職業上、非常に自由に自分の主義主張を明確にして、恐らくはっきりと政治的な見解を持っていろいろな活動をしておられた方もいるので、急に裁判官になっても黙るというわけにいかない方もいるのではないかと思うのですが、この政治活動の内容ですが、これは狭義の政治活動と理解してよろしいのでしょうか。
 ということは、例えば市民活動を一般のNPOとか、いろいろな形の市民活動に弁護士の方々が積極的なイニシアチブを取って従事していらっしゃる方が多いと思うので、任官に当たっても、リーダーシップというよりかは、いろいろな形でそういう分野に残る可能性もあるかと思うのですが、それを一般的なNPOを含める市民活動などを政治運動としてとらえてしまうと、広義の政治活動ということになるかと思いますが、その点について、ドイツなんかでは、裁判官というのは政治的な見解について自由に表明できるというようなことになっているようですので、むしろ今までの日本の裁判官の在り方自体にもいろいろな問題があるのかと思いますが、そこら辺で任官に伴う政治活動の内容について一言ここで御意見をお伺いしたいと思うのですけれども、いかがでございましょうか。

【最高裁(金井人事局参事官)】今のお尋ねの前に、いろいろおっしゃられたことにつきまして、少し私どもの基本的な考え方を申し述べさせていただきたいのですが、木村委員が御指摘の合意文書でも、頭書きの締めくくりの文章は、以下の内容の新しい制度の創設に向けて、協力することを合意したということになっております。
 これは、こういうことを考えているわけです。本来立法というのは、もちろんここで御議論いただきまして、推進本部に担っていただいて法律案を作り、国会で審議していただくという仕組みで動いていきますので、最高裁と日弁連との間の協議というのは、ここの場での御議論、それから推進本部事務局での法律案の策定の材料提供と言いますか、こういう形での立法を是非お願いしたいという作業であったわけです。その意味も込めて、この頭書きに今申し上げたようなことを書かせていただいているという次第でございまして、そこは御理解いただけたらと思っております。

【木村委員】ただ流れとしては、基本的には審議会の意見書の方向で来ているわけですね。

【最高裁(金井人事局参事官)】それを踏まえまして、また本部事務局で是非法律案を作っていただく際の参考にしていただきたいということです。
 それから、積極的に政治運動をしてはならないということでございますけれども、これから立法あるいは規則なりでここをきちんと明確にしていかなければいけないと思っております。
 その際にどうなるかということですが、仮に積極的に政治運動をしてはならないという条文を作ったといたしまして、その持つ意味内容がどういうことになるかということでございますけれども、裁判官の場合と同じ表現ぶりにいたしましても、その場合の中身につきましては、担っている職務内容との関係で相対的に禁止される行為が決まってくるのだろうと思うわけです。ですから、裁判官と全く同じ表現ぶりになったとしても、その禁止される行為は、その職務との関係で違ってくるだろうと私自身は思っているのですが、それ以上に具体的にどうなっていくかというのは、この場でお答え申し上げるような準備ができていないということが正直なところでございます。

【日弁連(明賀弁護士)】先ほど申し上げました独禁法だとか、公害等調整委員会の設置法でも同じような規定があります。これも非常勤で、そういう国家の判断を担当する者が、こういう行為をしてはならないというような規定が現行法上は定められております。そういう規定があるので、今回も最高裁と日弁連との間で、非常勤裁判官というからには、裁判所法上もあるということで、そういう規定は置かざるを得ないということは考えています。
 ただ、非常勤という性質上、先ほど金井さんの方からもありましたように、ほとんどが弁護士としての職務を行っているわけですから、そこで余りにも規制的になること自体は本来の趣旨に反することになりますので、非常に解釈の幅があるという形で、私個人としては考えています。

【木村委員】これを読みますと、積極的に政治運動をしてはならないというのは、消極的なものはいいということになるのですか。

【最高裁(金井人事局参事官)】積極的に政治運動をしてはならないという文言は、裁判官についても使われていますし、今、明賀弁護士からも御紹介をされたように、ほかの委員についても使われております。そういう中でどういう解釈が取られているのかということを考えながら意味内容を定義していくということかと思っておりますけれども。

【日弁連(明賀弁護士)】一般的には、議員になるだとか、政党のリーダーになるだとか、そういうのが積極的な政治活動という形で解釈されるのが私は一般ではないかと思います。だから、それ以外のことは基本的にはいいのではないかと私個人としては考えますが。

【木村委員】これは、特に弁護士業務をしていた方が、非常勤裁判官になるに当たって、割合にいろいろな問題が出てくる可能性がありますので、やはりきちん対応していただくということで御了解いただければと思いますが、思想、信条の自由と関わってくると思うのです。しかも非常勤ですから、その点はきちんと対応しませんと、社会的な正義の実現のための弁護士業務と抵触する可能性がないわけではないというように、人によっては解釈することになる可能性があると思います。

【最高裁(金井人事局参事官)】お考えはよくわかりました。ただ、今回担当していただく職務としては、最後は民事調停法17条の決定だとか、家事審判法23条及び24条所定の審判までしていただくということですので、そういう担い手として政治的に公正・中立であることが求められることは明らかだと思うのです。ですから、そこは基本として押さえておかなければいけないと思います。
 政党、その他の政治団体の役員となるというのは、積極的に政治運動をしてはならないという事柄のほかに、よく条文上立てられる事柄でございますので、政党その他の政治団体の役員となることが積極的な政治運動をすることとイコールだということにはならないかと思っておりまして、もう少し積極的な政治運動というのは中身のある事柄だろうと思います。

【伊藤座長】時間もございませんが、田中委員何か。

【田中委員】ここも検討してもらったらいいと思うのですけれども、1つは、これは一体裁判官なのかどうなのかと、非常勤裁判官というのは従来から、イギリスの非常勤裁判官の制度を出されたのですけれども、私の知っている限りは実態はかなり違うと思いますので、これはむしろ調停主任とか、何かそういうことになってくるので、そうなると法令上独自の規定をしたり、あるいは任命手続をされるときに、下級裁判官の任命手続に近い方向でやろうと考えていらっしゃるのか、それとも今の調停委員の任命を少し丁寧にやるというような形でいらっしゃるのか、その辺りが何となく裁判官なら裁判官だとおっしゃるのですけれども、裁判官とはかなり違うので、むしろ今まで現に調停で弁護士がやっておられたことに少しその権限が増えたというようなとらえ方が実態だと思います。そういった場合の任命手続をどうするのかということについては、さっき松尾委員がおっしゃったように、やはり弁護士会と裁判所で話し合ってこの人がいいだろうということではなくて、例えば調停委員の人も入れて、この人がいいかどうか考えるとか、何か任命手続の工夫も要るのではないかと思うのですけれども、非常勤裁判官は、都合のいいときは裁判官で、都合が悪いときは非常勤だと説明していらっしゃるような感じがして、これは本当に弁護士任官につながっていく制度になるのかどうか、その辺りをきちんと手続的に詰めてやらないと、単に今まで弁護士が調停委員をやっているのに少し権限が増えただけだというように終わってしまう可能性もあるので、その辺りを、今、下級裁判所の裁判官の任命手続も検討していらっしゃるわけですから、それとのパラレルの関係も見て、本当にどの程度裁判官なのかということも少し詰めておかないと、今後の制度でこれが弁護士任官につながっていくのか、ここで止まってしまうのかということについて、かなり重要な問題だと思いますので、余り非常勤裁判官、非常勤裁判官と言って、これが出てきたから何かうまくいくのだという方向の議論だけやっていると少し具合が悪いような気がしたので、これは今後検討してもらったらいいので、意見だけですけれども。

【平山委員】ちょっと関連でよろしいでしょうか。私は、日弁連と最高裁の方でこういう協議が整ったというのは、歴史的に大変よかったと思っております。
 ただ、この検討会では、立法作業に関与するということになれば、一体この中の「(1)担当職務等」とか、あるいは「(2)身分関係等」の中で、どの部分が法律に定めることによって実現していくことになるのか、どの部分が裁判所の規則に定めることによって実現していくことになるのか。
 例えば、2ページの「(2)身分関係」のところのア、イ、ウ、エというさっきから議論になっているところがございますが、これは法律の改正でという意味ですね。

【最高裁(金井人事局参事官)】まず、裁判所の方からどんなことを考えているのか申し上げたいと思いますが、これは法律と規則と両方併せて法令上きちんとしなければいけないと思っているわけです。その上で、どこまで法律で書くのか、どこまでは規則に任せるのかというところは、極めて立法技術的な問題ですので、これから先、本部といろいろ御相談しながら仕分けていくことになるのかなと思っております。

【日弁連(明賀弁護士)】この点につきましては、最高裁と日弁連との間の協議では、どこまでを法律にするか、どこまでを規則にするかということについてまで細かいところまでの詰めはできていないのが現状です。そこにつきましては、金井さんもおっしゃるように、今後詰めていく作業ですが、先ほど紹介しましたように、法律で独自の規定を設けている例がありますので、是非この検討会でも併せて検討いただければと考えます。

【植村参事官】事務局から一言申し上げますが、最高裁と日弁連で、具体的な制度設計に踏み込んだものが出てまいりましたので、これを受けまして私どもといたしましては、法制上のいろいろなルールもございますので、その辺も十分勉強いたしまして、関係方面とよく調整をさせていただいて、法律で決めるべきものは法律で決め、最高裁の規則で決めるべきものは、最高裁の規則で決めていただくことにしたいと存じます。
 更に申しますと、お聞きしたお話の中には、運用の話が入っているような気もいたしておりまして、そういうものは法令レベルではなくて、最高裁の方の運用でやっていただくことになるのではないかと考えております。

【伊藤座長】それでは、今、植村さんからの発言がございましたので、本日の報告自体については、皆さん積極的に支持していただいているように思いますので、具体的な法案作成について事務局の方でよろしく進めていただきたいと存じます。
 それでは追加の検討会の開催及び今後の進行予定につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

【植村参事官】それでは、まず、10月31日午前10時から午後0時までお願いいたしました、第11回検討会の追加について御説明をさせていただきます。
 最高裁裁判官の選任等の在り方について、最高裁裁判官の地位の重要性に配慮しつつ、その選任過程について透明性、客観性を確保するための適切な措置、この問題の検討に関しましては、既に釜田委員にキャップになっていただきまして、伊藤座長、田中委員、ほか4名の方々に外国制度の調査を進めていただいているところでございます。
 検討会への御報告でございますが、当初10月8日の検討会を予定しておりましたけれども、検討会委員以外の調査グループの方々とのスケジュールが合いませんで、改めて皆様の御都合をお尋ねいたしまして、10月31日の午前中にセットをさせていただいた次第でございます。
 皆様方、お忙しいところ本当に恐縮でございますが、どうぞよろしくお願いをいたします。
 続いて、資料9−5に基づきまして、今後の法曹制度検討会における進行の枠組み案について説明をさせていただきます。
 本日、改めて席上配布させていただきました資料に、第3回検討会におきまして議論していただきました資料3−1がございます。
 第3回検討会におきまして、皆様方の御了解をいただきまして、その後、この枠組みに沿って検討をしていただいてまいりました。この段階で改めて相当数の事項につきまして第一次的な検討をお願いしております日弁連、最高裁に、それぞれの検討スケジュールをお伺いするなどいたしまして、整理させていただきましたものが、資料9−5進行の枠組み案・その2でございます。資料3−1と資料9−5を比較していただければおわかりいただけると思いますが、資料3−1におきまして、9月から12月までの第Ⅱ期、15年1月から3月までの第Ⅲ期に御検討をお願いしておりました事項は、すべて資料9−5のそれぞれの期に入っております。ただ、第Ⅱ期の裁判官制度に関する事項につきましては、最高裁の検討スケジュールをお伺いいたしまして、順序が入れ替わっているものがございます。
 また、資料9−5の第Ⅱの弁護士制度、裁判官・検察官制度の冒頭には、資料3−1には入っておりませんでしたが、本日御審議をいただきました2つの事項、すなわち司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対して、一定の具体的条件の下に法曹資格を付与すること、それから、民事調停、家事調停の分野におけるいわゆる非常勤裁判官制度という事項が入っております。
 更に第3−7−(2)企業法務等の位置づけ−いわゆる特任検事、副検事、簡易裁判所判事の経験者の活用等を検討し、少なくとも、いわゆる特任検事経験者に対して法曹資格を付与すること、ということにつきまして、資料3−1におきましては、第I期の最後に御審議をお願いすることにしておりました。ただ、皆様方に御了解をいただいた上で、推進計画上、平成15年通常国会に法案提出を予定しております、いわゆる特任検事経験者の活用等のみを先行して御審議いただきました。残りました副検事、簡易裁判所判事の経験者の活用等につきましては、前回の検討会におきまして、小貫委員から、この問題については、特任検事や企業法務等とも論点が重なったり、関連するところが多いので、余り時期をずらさないで議論することを検討してもらいたいという趣旨の御意見をいただきました。
 私ども事務局としては、誠にごもっともな御意見であると思っているわけでございますが、資料9−5の第Ⅱ期をごらんいただきますとおわかりのとおり、第Ⅱ期も第I期同様御審議いただかなければならない数多くの事項がございます。既に、時間の調整がつかなかったという面もございますが、一期日の追加をお願いしたところでございまして、事務局といたしましては、資料9−5に記載いたしましたとおり、第Ⅲ期での御審議をお願いしたいと考えております。この点につきましては、是非御理解を賜わりたいと思っております。
 なお、資料9−5でお示しいたしました進行の枠組みでございますが、これも現段階でのものでございまして、第一次的検討をお願いしております日弁連、最高裁の具体的な検討の進捗状況いかん等によりましては、更に動くことがあり得ないわけではないと思っております。その辺りにつきましては、どうぞ御理解をいただきたいと思います。以上でございます。

【伊藤座長】追加の検討会につきましては、御多忙のところ恐縮でございますけれども、よろしく御協力ください。それからただいま植村参事官から説明がありました、今後の進行等について何か御質問はございますか。よろしいですか。
 それでは、あと関係機関タイムということで、もう少しお時間をちょうだいしたいと思います。
 最高裁から、裁判官の任命手続の見直しに関する一般規則制定諮問委員会における検討経過についての報告をお願いいたします。
 では、小池さんどうぞよろしく。

【最高裁(小池審議官)】最高裁の審議官の小池でございます。それでは、手短かに報告をさせていただきます。お手元に一般規則制定諮問委員会の関係資料がございますので、それをごらんいただきたいと思います。
 既に当委員会で御報告いたしましたように、最高裁は審議会意見、更には推進本部の計画を踏まえまして、一般規則制定諮問委員会に対しまして、下級裁の裁判官の指名過程に関与いたします諮問機関の設置に関する調査審議を諮問いたしました。
 第1回会議が、去る7月31日に開催されました。本日は、その概要について簡単に御報告したいと思います。
 会議では、資料2、資料3とあります基本論点、あるいは論点メモというところに従いまして審議をいたしまして、資料1にありますような概要の状況になったわけでございます。
 概略を御報告いたしますと、第1回の会議ではまず委員長を選任いたしました。これは、元最高裁判事で弁護士の遠藤光男委員を委員長に選任したわけでございます。そして協議に先立ちまして、席上に配布いたしました論点メモというものに基づいて、幹事から説明を行いまして議論を行いました。これは、審議会意見を踏まえまして、この諮問委員会で、この問題について基本点から議論を行っていただくという考えによるものでございまして、従来の規則制定諮問委員会の運営からすると、一からたたいていくような形になっております。
 第1回会議では、議事概要をごらんいただきますと御理解いただけると思いますが、問題の全体像、あるいは骨格を把握するために、機関設置の要否、その法形式、組織、所掌事務等々、各論点全般にわたって一通りの協議がなされたわけでございます。
 どのような議論があったかと言いますと、まず、最高裁にこういった指名過程に関与する委員会を設置することについては、御異論がございませんでした。そして、この委員会を法律で設置するか、あるいは最高裁規則で設置するかについては、規則がよいという御意見の方が多かったように思いますけれども、やはりその内容次第ではないかという御意見が出されまして、更に中身を詰めてから改めて議論をしようということになりました。それから所管事務でございますが、これは最高裁の諮問を受けて裁判官として任命されるべき者を指名することの適否を審議し、その結果に基づいて最高裁に意見を述べることとするということ。あるいは、最高裁は任官希望を持っている者については、全員を諮問の対象にすると、諮問から落とすことはしないということについては意見の一致を見ました。
 ただ、更に委員会が適任者を独自に推薦することができるか、そういう推薦機能を持つことにすべきかという点については、更に議論することになっております。
 それから、委員会に下部組織を設置することについても御異論はございませんでした。ただ、下部組織の機能の在り方については、時間もございませんでしたので、今後議論することになったわけでございます。これが中身でございます。
 それから、この委員会の議論の公開の点につきましては、従来、一般規則制定諮問委員会というのは、非公開で運営いたしておりましたが、今回の委員会は、委員の方々の御議論を経て公開を認める方針といたしました。
 その内容は、当委員会と基本的に同様でございまして、なるべく早く議事概要を作成、公表し、発言者の名前の入った議事録を公表する等々、マスコミの傍聴を認める等の扱いも含めて、この検討会と同様なものでございます。言わば、開かれた委員会としております。
 今後の進行について少し御説明いたしますと、この委員会は、今後9月20日、10月22日、11月22日と開催されることが予定されております。
 この間、当検討会は10月8日、11月12日に開催が予定されておりますが、ちょっと間に別の日が入ったという点は今日御報告がありましたけれども、委員会の審議状況につきましては、10月8日あるいは11月12日の当検討会で是非御説明の機会をちょうだいいたしまして、また委員の方々からの御意見を伺えればと考えております。
 当委員会で出されました意見につきましては、最高裁で開いております委員会の方に紹介いたしまして、それを踏まえて、更に委員会での審議を充実させて進めていきたいと考えている次第でございます。
 簡単でございますが、以上、御報告申し上げました。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。ただいまのお話について、御質問等ございましたらお願いします。
 よろしいですか。どうもありがとうございました。
 いずれにいたしましても、今、小池さんからお話がございましたが、最高裁から検討状況の報告を今後いただくとともに、それにつきまして当検討会で質疑、あるいは意見交換の機会を持ちたいと思います。どうぞ、その節にはよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。
 それでは最後になりますが、法務省、最高裁から、平成15年度の増員要求についての報告をお願いしたいと存じます。
 まず、法務省の勝丸さんからお願いします。

【法務省(勝丸刑事局総務課長)】法務省刑事局の総務課長の勝丸でございます。検察庁職員の増員について御説明させていただきます。
 検事につきましては、平成8年度以降、毎年30名から40名程度の増員が認められてきたところでございます。累積で241 名の増員が図られております。
 しかしながら、平成8年から平成13年までのわずか数年間に、刑法犯の件数が約4割も増え、勾留人員、公判請求件数についても3割以上増加するなどしておりまして、その中身を見ましても、殺人、強盗など凶悪な事犯や、来日外国人による犯罪が増加しているなど、憂えるべき状況にございます。
 例えば、若干の数字を挙げますと、公判請求件数が平成8年は9万8,000 件程度でございましたが、平成13年度では13万件を超えており、悪質な犯罪が急増しております。
 こうした犯罪情勢を受けまして、国民の皆様の治安に対する意識は急速に変化しております。すなわち世論調査によりますと、日本の誇りは何かということを内閣の方で聞かれるわけですが、この点につきましては、平成10年までの日本の誇りというのは、治安のよさということがずっと1位でございました。ところが、平成12年に大きく変化いたしまして、治安のよさというのは、第4位まで後退しております。
 その一方で、内閣の世論調査で今後よくなってほしい生活環境は何かということをときどき聞くわけでございますが、項目が10個ほどございまして、そのうちの治安のよさというのは、平成8年までは10位の最下位でございました。ところが、これも平成13年の調査でころっと変わりまして、治安を何とかしてほしいというのが一気に4位にまで上がっております。治安に対する国民の危機意識も急速に高まっていることがうかがわれるのであります。
 加えまして、先般顧問会議におきまして、小泉総理からも2年以内の裁判を実現するようにとごあいさつをいただきまして、公判の充実・迅速化も喫緊の課題となっております。
 先ほど申しましたように、公判請求件数が増加しているだけではなく、その内容も複雑かつ困難な事件が増えておりまして、裁判におきまして立証責任を負担する検察の役割というのは増大の一途をたどっているところでございます。
 このような検察を取り巻く情勢を踏まえまして、お手元に資料をお配りさせていただきましたが、資料のとおり、来年度の概算要求におきましても、刑事裁判の充実・迅速化への対応、特捜・財政経済事犯への対応、治安を脅かす国際組織犯罪への対応の要因として検事50人、検察事務官120人の増員を求めているところでございます。
 法務省としましても、司法制度改革審議会の意見を受けまして、司法制度改革推進計画において、検察官の大幅増員、検察事務官の適正な増加が政府の方針として示されたことを踏まえまして、今後も検察体制の充実強化が図られるよう最大限の努力をしてまいりたいと考えております。以上でございます。

【伊藤座長】では、続きまして最高裁の小池さんからお願いいたします。

【最高裁(小池審議官)】それでは最高裁から、平成15年度の増員要求の状況について、御説明いたします。お手元に一枚紙の資料がございますが、ごらんいただきたいと思います。
 ただいま、法務省から御紹介がありましたように、審議会の意見にもこういった態勢の面でも強化しなければいけないということが意見で盛られてございます。
 今回の増員要求につきましても、そういった審議会意見を踏まえまして要求を立てたわけでございますが、その内容について申し上げたいと思います。
 中身は、このペーパーにありますように、民事訴訟事件、倒産事件、あるいは民事執行事件、あるいは家庭事件、つまり家裁事件の充実強化のために裁判官45名、書記官75名、家裁調査官5名という増員要求をしたわけでございます。
 これまで、平成10年以降の5年間、すなわち平成10年から平成14年の間につきましては、裁判官については195人、判事60人、判事補135人の増員を最高裁は行ってきたところです。裁判所は、審議会におきまして、主要な事件につきまして、現在の審理期間をおおむね半減するためには、手続の改善や、当事者の準備というようなもろもろの条件がございますけれども、今後10年間で約500人の増員が必要という意見を示したところでございます。裁判所といたしましては、今、増加傾向にございます各種事件の動向に照らしまして、これを適切に処理解決していくための態勢を確保するとともに、審議会で求められております司法機能を充実させるという観点から、計画性を持った増員を図っていきたいと考えているわけでございます。
 このような観点に立ちまして、冒頭御説明いたしましたような増員要求をしたということでございます。以上、御報告させていただきました。

【伊藤座長】どうもありがとうございました。ただいまのお話について、何か御質問等ございますか。どうぞ、木村委員。

【木村委員】全体の審議会の意見書の動向に沿って、こういう対応を早急に示して、やはり日本の司法が国民に開かれたものになるために、どうしても増員が必要だということは、大変に理解できました。特に御説明いただいた各要点につきましては理解できましたが、検事50人とか、裁判官45人というのは、実際上なりたい人もいっぱいいて、そして50人とか、45人というのは、希望者がいっぱいいるけれども、その中から選んでこれだけの人数は間違いなくとれるという人数になるわけでございますね。

【法務省(勝丸刑事局総務課長)】50名につきましては、要求数でございますので、私どもとしても是非満額査定をいただきたいと思っておりますけれども、満額はどうでございましょうか、できるだけ最大限の努力をしたいところでございます。

【木村委員】私が言っているのは、例えば、研修所を終わられた方で、間違いなく50人なら50人という人数に見合うだけの検事の希望者がいるわけですか。

【法務省(勝丸刑事局総務課長)】それにつきましては、最近犯罪が非常に増えているということ、あるいはそれを摘発している検察の役割が重要となってきているということもあり、希望者は非常に増えておりまして、本当は全員になっていただきたいのですが、とりわけ優秀な方に我が道に来ていただければありがたいと思っております。50名をはるかに超える数が希望してくれるものと期待しておりまして、現にそうなっております。

【木村委員】今までも検事さんになりたい方が大勢いたのだけれども、実際は定員がないためになれなかったというケースがいっぱいあったわけですね。

【法務省(勝丸刑事局総務課長)】50名というのは、増加を求めている定員の数でございまして、今後ともその程度の数は続けていきたいと思っておりますけれども、毎年の採用者数にしますと、70名あるいは80名ぐらいの数になりますが、それを超える方が希望されている実情がございます。
 ただ、いろいろな修習の課程で志望を変更される方もございますし、あるいは適性もございましょうし、それに近いところへ最終的に落ち着いていくことが多いのが実情でございます。

【最高裁(小池審議官)】裁判所の方を少し申し上げますと、判事補の方は心配ございません。一時期景気がいいころは、何か弁護士さんの方に流れていって、なかなか辛い時期もございましたけれども、今はそこは心配はございませんが、判事の方は10年の法曹としての経験がいりますので、判事補を採用しても10年かかります。
 そうしますと、判事30人という増員をするときには、今、非常勤云々というお話がございましたけれども、まず弁護士さんからの任官というものが大いにあって、併せて判事補が実って10年ということになるのがいいのですが、この辺を見通して30人というところは、これは大丈夫という見通しは立ててございます。あとは予算折衝の中で、この45人という数を是非実現させて、私どもは充員という言葉を使いますが、そこはOKだからちゃんとこの枠をくださいと、こういう交渉をしてまいりたいと思っております。

【木村委員】関連して、先ほどの質問で少しお伺いしたいのですが、今の最高裁判所の一般規則制定諮問委員会の議事の概要のところに「※ 速報のため、事後修正の可能性あり」ということで、今日は御配布いただいたわけですが、発言者の氏名が出てませんね。これは会議で出ないということに決まったのですか、それとも事後に氏名は入るのですか。

【最高裁(小池審議官)】事後に議事録本体が出まして、それはインターネットに載りますので、こちらの速報はこういう形で出させていただいていると。

【木村委員】そうしますと、インターネットには全部発言者の実名が入るわけですか。

【最高裁(小池審議官)】もっと逐語的な議事録として全部載っておりますので、是非ごらんいただければと思います。

【木村委員】透明性があって、大変いいと思いました。

【伊藤座長】それでは、予定した時間が参りましたので、本日の議事はこの辺りで終了したいと思います。
 次回は、10月8日午後1時30分から午後5時まで、今回に引き続きまして、弁護士法第72条の規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保することに関し、会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係その他の観点からの検討をお願いしたいと思います。具体的には、先ほどお話が出たとおりでございますが、親子会社の問題につきまして、日弁連からお話を伺いたいと、その上で質疑・応答、意見交換をしたいと存じます。その後に、最高裁に、その諮問を受け、下級裁判所の裁判官として指名されるべき適任者を選考し、その結果を意見として述べる機関を設置するとともに、その機関が十分かつ正確な資料・情報に基づき適任者の選考に関する判断を行い得るように適切な仕組みを整備すること、この問題につきまして、最高裁に、次回期日までの検討状況の御報告をお願いして、質疑、意見交換をしたいと存じます。
 本日の検討会の模様につきましては、恒例でございますが、会議終了後に、私から報道関係の方に対しまして、いわゆる記者レクを行います。
 それでは、大変長時間ありがとうございました。また、次回どうぞよろしくお願いいたします。

(以上)