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知的財産訴訟検討会(第10回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年7月15日(火)13:30〜17:20

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬厚、加藤恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉亙、中山信弘(敬称略)

(事務局)
古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、平瀬知明参事官補佐

4 議題
(1)推進計画について
(2)民事訴訟法の改正について
(3)知的財産訴訟における専門的知見の導入に関する改善の方向性
(4)「知的財産裁判所」に関する検討

5 配布資料
資料1:知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画(抜粋)
資料2:知的財産訴訟における専門的知見の導入に関する改善の方向性
資料3:「知的財産裁判所」に関する検討
飯村委員配布資料:知財裁判所の在り方についての検討課題と意見
最高裁判所資料:定塚誠「知的財産訴訟の現状と展望」NBL765号20頁ないし32頁(2003年)

6 議事
(1) 推進計画について
 事務局より、資料1に基づいて、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」について説明がされた。

(2) 民事訴訟法の改正について
 小野瀬委員より民事訴訟法改正法の成立及び国会での審議の経過・内容が説明された。その後、最高裁判所事務総局行政局第一課長定塚誠氏より、最高裁判所資料に基づき、民事訴訟法改正に伴う運用の準備状況について説明がされた。

(3) 知的財産訴訟における専門的知見の導入に関する改善の方向性
① 事務局から、資料2の1頁から12頁に基づいて第5回及び第7回知的財産訴訟検討会における議論の概要並びに具体案について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○透明性・中立性の確保が最重要課題である。B案を基調に考えてきたが、最終的にはA−2案との折衷的なものでいい。透明性・中立性の確保のため、資料2の最終頁の⑨が必要。⑦については、どの程度透明性・中立性の確保に資するのか疑義があるとの意見もあったし、⑧については、調査事項の明示で十分だとの意見もあった。権限の拡大については、裁判長の指揮下にあるということを前提にすれば、③や④についても、これを認めてよいのではないかとの議論であった。また、技術系裁判官については、D案がいいと思う。

○侵害訴訟において攻撃防御を一か所で行うための制度を作るべきであり、そのため、将来的な姿としては、D案プラスA−1案を支持する。しかし、D案が実現するのはかなり先になるので、次善の策として、C−2案プラスA−1案で当面運用してはどうかと思っている。A−2案まで権限を強く拡大する必要はない。

○技術系裁判官の法律的素養としては、何を考えているのか。

○法律の側面と技術の側面の両方を兼ね備えている必要があると思うので、特許庁の審査官・審判官、技術に詳しい弁護士・弁理士、さらには企業の知財部員にまで広げてもいいと思う。もっとも、相当程度の選定基準は必要だと思う。ただし、単独ではなく、合議体の中の一構成員である裁判官というイメージ。

○裁判官が裁判する上で何が必要かということから考えるとすると、C案では、サポートしてくれる人がいなくなり、いわば裁判官は丸腰になってしまうので、現実的でない。B案については、専門委員が導入されるのに、なぜそれに類似するものを作らなければならないか分からない。透明性・中立性の確保といっても、裁判官については、何から何まで開示しなくてはならないわけではないのに、なぜ調査官だけに突出して透明性・中立性を要求するのか分からない。そうすると、理想はD案として、A−2案がいいと思う。
 ただし、報告内容の開示は、安易にするべきではない。報告書の内容と判決とが完全に同じなら裁判官はいらないことになるし、両者が違うと当事者としては耐えられないということになる。いたずらに紛争を拡大するだけ。必要に応じて心証を開示するのがよい。

○知財協の議論では、技術系裁判官のイメージはD案であった。C案の意味での技術系裁判官については、法曹の資格を持っていなくては安心して見ていられないというのが大方の意見だった。
 もっとも、裁判官を補佐する役割は、いずれの案をとるにしても必要だと思うので、その意味ではA案がいいと思う。ただし、調査官が裁判官とどのようなコミュニケーションをしているかに興味があり、これを開示してほしいと考えている。期日に立ち会ったり、証拠調べなどの時にも立ち会っているというのが重要だと思うので、A−2案が望ましい。
 A案があれば、B案はいらない気がする。専門的知識だけを期待するのであれば専門委員で十分である。

○もともと調査官は裁判官の分身だと思っているのでA−2案がいい。報告内容の開示については、裁判の途中で開示してもらう必要はなく、調査官が、評議でどのような意見を述べたか、どのようなレポートを出したかを判決の中で明らかにしてもらえば足りると思う。裁判官が調査官のレポートなり参考意見に依拠して判決を書いた場合には、判決に添付するなどの形で明らかにしてもらえばいい。途中での開示は必要ない。

○ロースクールを前提にすれば、D案が将来型としてはあり得ると思う。その場合でも、今の調査官類似のサポート体制は必要で、A−2案がいいと思う。現行の調査官の行っている業務は、頻度の差はあるがA−2案と大差ない。他の案との比較では、A−1案では、現在できることもできなくなってしまうし、報告内容の開示についてもユーザーのニーズにこたえられない。B案は、専門委員制度ができた後では、同じ制度を作る必要もないと思う。C案は、報告内容の開示がされず、ユーザーのニーズを満たさないことになる。

○A−2案がいいと思う。D案については、これをできるだけ早く実現してほしい。

○D案は、当然の前提。これを前提にしても、サポートは必要である。C案は、裁判官に近いもので、好ましくないと思う。B案は、専門委員制度がある以上、意味がないと思う。そうすると、A−1案かA−2案かのいずれかに落ち着く。どちらが良いかは、ユーザーのニーズやフィージビリティーなどによると思う。

○D案については、理科系の裁判官も現にいるが、バックグラウンドがどうかではなく、判断結果や論理が正に試されている。バックグラウンドで問題解決するというものではない。C案、B案については、好ましくないと思う。A案に関しては、権限を明らかにするということは大切だと思うので、A−1案かA−2案のミックスでもいいと思う。
 報告内容の開示については、問題がある。裁判官によって、訴訟を進めていく上での問題意識などにより様々なバリエーションがあり、これを一律に開示すると悪影響があり、紛争解決に妨げになると思う。

○訴訟の実情や、ユーザーのニーズを考慮するべきである。A−2案に意見はない。

○D案が実現するまでの間C案というが、D案が実現するまでの期間が10年間とすると、その間の時限立法にするというのか。裁判官が専門とする技術が常に訴訟で問題となるわけではなく、D案が実現するかどうかが、サポーターの権限や役割を規定するのに決定的なのか。

○現在はドッグイヤーとも言われ、D案が実現するまでの10年間は捨て置けない期間だと思う。何らかの措置をしてほしい。10年後にD案が実現すれば、少しはよくなっていると思う。

○D案は、裁判官が亀の甲にアレルギーを感じないという程度の問題なのではないか。

○D案における裁判官は、もう少しレベルが高いものだと思っている。そのくらいの有意差を持った裁判官でなくてはいけない。

○理系は余りにも細分化している。造船工学の専門家に造船の事件がたまたまくればいいと思うが。

○科学技術一般の知識レベルはかなり上がっている。その範囲でカバーしてもらえるものと思っている。

●現在の裁判官の理解には不足はないというのが前回の意見だったと思うが、より技術の高度な事件が増加することを前提にして、技術の高度な部分については、専門委員のサポートでは足りず、それを前提としても、さらに、裁判官自身が深い理解をする必要があるという意味でC案なのか。

○技術が高度になってくれば、これに対応して法の適用も複雑になってくると思う。その際に裁判官側の専門性が必要ではないかと思う。技術については、調査官又は専門委員が補充するが、これを受容できるだけの専門性が裁判官にも必要である。

○D案の完全無欠の裁判官がいたとしてもサポートが必要である。調査官についての問題が顕在化していないことと専門委員制度が導入されることを前提とすると、本当に権限を拡大する必要はあるのか。変えないという選択もある。他方、もう少し自由に活動してもらうということを考えると、A−2案もあり得る。

・ 以上の議論の結果、A−2案を支持する見解が比較的多かったものの、更に議論を踏まえて事務局で議論を整理することとなった。

② 事務局から、資料2の13頁から14頁に基づいて期日における権限に関する具体的方策案及び報告内容の当事者への開示方法に関する具体的方策案について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、●:事務局)

<資料2・13頁の甲案・乙案・丙案に関して>

○調査官経験者への調査結果によれば、期日に立ち会うということはかなりある。当事者に直接釈明を求めることも、一部の裁判体である。知財訴訟では、そもそも証拠調べ自体が少ないが、準備手続での証拠説明には立ち会うことがある。和解は、大方は技術的事項ではないので、調査官の立会いに適しているまでは思わないが、場合によっては技術的事項も問題なる。そうすると、甲案、乙案、丙案を分けて考える必要はなく、いずれも認めることでいい。

○調査官が期日等に立ち会っているというのは、自分の認識とは違う。

○特許庁としても、調査官経験者に定量的なアンケートをした。これによれば、期日に立ち会うことはあるし、釈明をすることもあるし、準備手続での証拠説明に立ち会ったこともあるし、和解に立ち会ったこともないわけではないとのことであった。

○個別の事件で期日に立ち会うかどうかはケースバイケース。一律に立ち会っているという事実はない。

○実務的には、甲・乙・丙案のいずれもあったらいいと思う。

○甲・乙・丙案の三つを認めればいい。

○甲・乙・丙案というのは、これらの権限を当然に権限を持つということなのか、裁判官が求めることができるということなのか。

●前提とする案の考え方にもよろうか。A案やB案によれば、裁判官をサポートするものなので、裁判官が求めるのに対して、C案によれば違ってくる。

○甲・乙・丙案は、現在でも禁止されていないのではないか。

●権限としては、現行法上、命を受けての調査・報告の権限しかない。権限の明確化を図った方がやりやすくなるのではないか。

○甲・乙案については、できるということを確認する意味で規定を設けることについては何ら問題がない。丙案について、立ち会うことであればできると思うが、「関与する」ということであると、調停委員などとの切り分けが必要になるのではないか。

○C−2案を前提にすれば、自動的に甲・乙・丙案のすべてとなる。

・ 以上の議論の結果、基本的な考え方としては、甲案、乙案、丙案のいずれの権限も、これを認めるという方向で更に検討を進め、細部についてはなお検討をすることで一致した。

<資料2・13頁のイ案ないしヌ案に関して>

○ハ案を考えている。簡潔な報告書を中間的に開示することで、当事者が意見・反論をする機会を設けてほしい。ただし、これを聞いた結果としての報告書については、非開示で構わない。

●事後的な開示については、判決の結果と調査官の意見とが違っている場合に、控訴を誘発するという指摘がある。

○裁判官が採用しない調査官の意見については、開示しなくてよい。判決理由の記載では足らず、是非オリジナルの報告書を見てみたいと思う。判決理由には、報告書を再構成なり再整理するなりして、書くことになる。

○報告書を添付するというが、これは判決の一部になるのか。なるとしたら理由の一部か。

●判決と一体のものになる。理由の一部に必ずしもなるわけではない。

○報告内容を見て、一定の反論をしたいというニーズはあると思うが、産業界にも、報告書が開示された場合、本当に裁判システム全体としていいのかという意見もある。報告内容を開示することは調査官の自由を縛ることになる。裁判システムをスムーズにすることがユーザーの利益にもなると思うので、報告書を開示しないというヘ案でもいいのではないか。

○報告内容は、分からない方が良いという人もいるが、大半の人は見たいという意見。もっとも先端的な部分については、専門委員が対応するのであり、その余の部分について、すべて開示されるというのも問題だと思う。ホ案も魅力的である。

●ホ案で、その時期との関係を問題にするのは、準備段階であればより開示の方向になり、判決が近くなり心証に近い報告書であれば開示に消極になるという趣旨である。

○A−2案を前提にすると、調査官は、裁判所の内部機構にすぎず、専門家の意見は参考意見にすぎない。そうすると、調査官の報告書だけ特別扱いするのは整合性が取れない。報告書は、最終段階になってから作成されることが多いようであるが、これは評議の資料そのもの。評議については、これを非公開として裁判官に対する外部の圧力から保護しているのに対して、調査官だけがこれを受けられないのは不都合である。
 イ案は支持しにくい。ロ案も、技術的部分とそれ以外を切り分けにくい。ハ案も同様。ニ案は、ユーザーのニーズに合致していない。ホ案も、イ案からニ案の問題が残ってしまうので、結論としてはヘ案がいい。もっとも、全く開示しないとかえって訴訟の進行に悪影響であるから、リ案などを考えるべき。これによればユーザーのニーズにも合致するし、調査官制度の位置づけにも問題がない。

○裁判官と調査官は、報告書以外でも意思疎通がされているのか。

○主任裁判官と調査官は、頻繁に意思疎通している。日々あるいは期日前後において、いろいろなやり方がある。

○調査報告書だけを開示するシステムにはどのような意味があるのか。

○ケースバイケースなので何とも言えない。今後出てくる証拠を予想しながら報告をすることもあるので、このような報告書は、かなり当事者に誤解を与えると思う。その意味で、報告を開示することに意味のあることもあるし、かえって紛争を拡大することもあり得る。

○報告書を開示すると、報告書を作成せず口頭の報告に移るなどの弊害はあるのか。

○必ず弊害があると思う。

○開示するとなるときれいな報告書を作らなくてはならないが、きれいなものを出すのは労力が大変なのではないか。

○現在の報告書は、当事者の主張を正確に要約するなどの点には気をつかっていない。公開を前提にすると、きれいに書きたいという気持ちから、労力が事件解決に向かわないで、当事者向けにお化粧することに向いてしまうという面はあると思う。

○リ案が担保されれば、報告書の開示にはそれほどこだわらないと言うのが大方の意見。

・ 以上の議論の結果、イ案ないしヌ案に関しても、更に検討を進めることとなった。

③ 事務局から、資料2の15頁から16頁に基づいて権限の範囲に関する具体的方策案、専門委員としてどのような者を活用すべきか(いわゆる給源)及び専門員との関係はどうあるべきかということに関する具体的方策案について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○資料2の15頁のeがいい。

○C−2案を前提に考えると、aからdは少なくとも含まれる。技術的事項と法律事項の区別は困難で、eも含むことになると思う。同様に、法律事項・技術的事項の双方に権限を有するとするべき。

○aからdまでを入れるのはいいとして、eを入れると、混乱することがあるかもしれない。

○それについては、C案を前提にしないのなら、裁判官の命を受けてという制限で対応できるのではないか。

○裁判長の許可を得てというのが専門委員の仕切であるので、C案をとらない場合には、裁判長の関与がどのようになるのかということを考えるべきである。

○C−2案をとる場合には、損害額などの法律的事項についても、技術等の専門家が判断できるとすべきである。

○給源は資料2のままで良い。一方、専門委員との関係については、専門性の高い技術については、専門家の間でも意見が食い違うこともあるので、このようなところまで専門委員で処理しようとすることについては、慎重な検討が必要ではないか。

○除斥・忌避・回避の規定がきちんと適用されるという前提であれば、企業の知財部員も活用してよい。

・ 以上の議論の結果、専門委員としてどのような者を活用すべきか(いわゆる給源)及び専門委員との関係はどうあるべきかということに関する具体的方策案については、大方の意見の一致を見たが、権限の範囲に関する具体的方策案についてはさらに検討を進めることとなった。

(4) 「知的財産裁判所」に関する検討
① 事務局から、資料3の1頁から18頁に基づいて第7回知的財産訴訟検討会における議論の概要、「知的財産裁判所」に関する第8回知的財産訴訟検討会の概要及び「知的財産裁判所」に関する意見等について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○EUについて「超国家的」とあるが、EUは国家連合的なもので、国内法との関連性が強いと認識している。裁判制度も国内的な制度と連関があるのではないか。超国家的という言葉が一人歩きすると困る。

●これまでの欧州特許は、各国の特許の束であった。これから構想されている共同体特許権は、今までの各国の特許の束を離れて、別の特許権を作ろうとするものである。

○特許は特殊型。EU全体で効力を有する共同体特許権を作り、訴訟の面から言えば、共同体特許裁判所を作るとしているのであって、この面からは超国家的である。

② 事務局から、資料3の19頁から23頁に基づいて説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○ 飯村委員配布資料に基づいて見解を発表。
 知財裁判所を創設すると裁判のスピードが速くなるということではない。知財に関わる人間の関心の深さと、関わりのない人間の関心の乖離がある。今は、多くの優秀な裁判官が知財を希望している。別の紛争解決システムを作ると、この在り方如何によっては、一般の裁判官の関心が薄れてしまい、人事ローテーションの問題で解決できないことがある。
 知財のスペシャリストで固めた方が良いという意見もあると思うが、東京高裁の現状を見ると、知財で長い経験を持つ人だけでなく、一般の事件を担当していた裁判官もおり、むしろこのような人から新しい審理方法の芽が出てきている。
 特別の裁判所を設立することは、司法の根幹にかかわること、一旦決めると後戻りできないことからすれば、慎重な検討が必要である。
 一番懸念されるのは、裁判官の視野が極めて狭くなり、適切な判断ができないのみならず、これを変えようとしないことである。知財訴訟にだけ精通していても、これをうまくできるものではない。民事訴訟一般や行政訴訟の変化に影響を受けて、在り方を変えていく必要がある。今の知財訴訟はダイナミックに変化しているが、これは、一般訴訟からの刺激によるところが大きい。
 通常裁判所との相互関係についても問題。本来は、特別の裁判所は、通常裁判所の制度に限界が出てきてから考えるべきもので、通常裁判所の体制整備が先である。特別の裁判所ができると、利点はある。しかし、人が配置されて組織ができると、大した利点でないにもかかわらず、誇張する傾向や硬直化する傾向がある。相互補完が成立する状況での競争関係が重要である。同じような専門性を要する訴訟類型として労働事件などもある。
 職分管轄についても問題がある。現在は、事件を移送することで解決されている。特別の裁判所を作るとすると、通常事件を扱う裁判所と特別の裁判所との間の管轄の問題が生じる。いったん職分管轄を定めてしまうと、管轄問題が生じ、エネルギーがこれに裂かれてしまう。キャラクターの事件などの生成途中の権利についての取扱いはどうするのかなど、ユーザーの便宜に沿わないことになってしまう。この点の慎重な議論が必要。
 著作権や不正競争事件については、地域密着型の事件もあれば、東京でやってほしいという事件もある。これを東京ですべてやるとすれば、ユーザーの要求に沿わないことになるし、これを知財高裁の担当から除くとすると、これもユーザーのニーズに沿わなくなる。

○知財の世界では、専門家の存在意義が過小に評価されすぎていると思う。そういう意味で、慎重な議論をした方が良いと思う。専門裁判所を作るのであれば、地裁が最初であるべきである。また、審決取消訴訟について、検討せずに、専門裁判所を作るというのは理解できない。旗を立てるという意見もあったが、国家の政策として旗を立てるだけというのはあり得ない。内実がなければならない。内実をなしにして、看板だけを掛けても何の意味もない。

○民事訴訟法が前提になっていることと、判例の事実上の統一ということがあるのだと思う。

○一般的に、特別の裁判所は地裁が最初だと言えるのか。CAFCやドイツの特許裁判所は、高等裁判所レベルであり、事情に応じて成り立ちが違うのではないか。知財については、特許の有効性の問題が、侵害訴訟と審決取消訴訟の双方で係属するなど、特殊性があるのではないか。

○行政処分の違法性が、二つの場所で係属するのは、国家賠償と処分取消訴訟など行政訴訟では一般にあること。

●知財高裁を創設することを前提にしたとして、形が大切であるという意見と、機能的なものも大切であるとの意見もある。機能が大切であるとする意見にも、判例統一を強調する見解や、技術系裁判官導入の前提になるという見解がある。どういう意味で必要なのかということも明らかにして、意見を頂けると助かる。

○高等裁判所の段階で特別の裁判所を作ることは不自然ではない。準司法機関についての不服の訴えは高裁に行くことがままある。専門性のある事件については、ある一つのところで集中的にやるのがいいと思う。また、こういう仕組みになっているということを、国民に知らせる方が、より合理的な解決を求めるという意識が高揚すると思う。

○知財高裁を作るとすれば、看板でしかあり得ない。知財が特殊で、審理を促進するために特別の裁判所が必要だというのであれば、地裁を議論しないのはおかしい。なぜ高裁かというのは、CAFCのまねだと思う。知財裁判所と名前が付いても、諸外国で、その成り立ちや機能は全く違う。弊害についても、十分議論していく必要がある。

○知財高裁の効果は、看板だけだと思う。それではいけないという意見もあったが、そうであれば国家戦略を考える場所でもう一度やり直すしかない。また、民事訴訟法の改正については、どう評価するのか。

○民事訴訟法の改正と、知財高裁を作るのは違うと思う。看板で皆が満足するのであれば、それはあり得る。しかし、知財特有の裁判制度を考えるのであれば、地裁から考えるべきであるし、広い意味での裁判所であると理解する審判部との連携も考えずに進めるのはおかしい。

○東京高裁に専属管轄化することについては、余り反対はなかったと思う。そうであれば、これをまとまった単位として、別の名前を付けることに特に差し支えがないのではないか。

○今回の民事訴訟法は、審理の充実・迅速化を図ることが改正の趣旨。どのレベルで専門裁判所を作るかは、専門裁判所をどういう理念で作っていくかの問題である。

○看板をというのが主たる議論のように思うが、看板だけではなく実質的な意味はあるのではないかと思っている。

○司法への期待感の表れである。早期判断の統一や、技術的にしっかりしてほしいと期待がある。民事訴訟法の改正も含めて、少しずつ改革が進んでいるが、今回の民事訴訟法の改正が、今の日本における実体面でのコンセンサスだと思う。これを前提に、集中して行うことによるメリット、アナウンスメント効果を付加することは意味が大きい。事実上のものができるのであるから、アナウンスメント効果をつけ、更に、デメリットをなくせばいいと思う。
 知財高裁ができても、そこでずっと裁判官が過ごすわけではないと思う。視野の広さと専門性を両立させる人事の仕組みが必要。知的財産の場合には、国際性が強い。視野が狭ければ、アメリカ等の外国の裁判官と比べてられてしまう。また、技術進歩が早いので、視野が狭くては社会の期待に応えられない。
 著作権や不正競争防止法については、民事訴訟法の改正でもいろいろ議論があったが、今の民事訴訟法の仕組みがいいと思う。
 東京高裁に集中されるのであるから、場所は東京で良い。事実上の知財高裁を法律上の知財高裁にすればいい。案件が増えれば、体制を整備すればいいこと。

○現在の集中とどこが違うのか。職分管轄についてはどうなのか。

○管轄の内容は、看板変えること。今回の民事訴訟法の改正に基づく事件をそのままスライドすることでいい。

○入り口でもめて訴訟がかえって長くなることもあるのではないか。

○全体の内で、入り口の問題がどれくらい発生するか、それにどれだけ時間をかけるかという問題だと思う。

●専門性を高めるという実質はないのか。以前の9つの提言や朝日新聞のインタビューなどでは、そのような趣旨の発言だったと思う。

○現時点では、看板だけだと思う。現時点では、技術系裁判官を一緒に導入する必要はないと思っている。集中することで、裁判官の専門性が高まり、またサポートする体制を整備することによって、専門性が高まると思う。

●将来的にはともかくとして、現時点ではということか。

○そのとおりである。

●特別の裁判所を作るとすると他の裁判所はその部分の管轄権がなくなるのではないか。また、民事訴訟法では「特許権等に関する訴え」として曖昧に規定し、移送することで対応しているが、特別の裁判所を作るとこのような対応はできなくなのではないかとの指摘があったが、これについてはどう考えるのか。看板だけであっても、現状は変わってしまうのではないか。この点について、検討してほしい。

○世界中で特別の裁判所を作る時には、視野が狭まる問題と職分管轄の問題が大議論になる。これを議論する必要がある。

○知財高裁を作るに当たって、看板を立てる効果があることは認めるが、それ以外の内容を一切変えなくても知財高裁を作ることで必然的に生じる問題がある。これが何かということの解明と、弊害についての対策が必要。また、看板以外に、例えば技術系裁判官というような内実を考えるのであれば、これについても慎重な議論が必要。

○職分管轄に問題があることは認識している。主たるニーズのポイントは、純粋な特許の侵害事件であり、これは知財高裁で当然扱ってもらえると思うので、ニーズのほとんどは満たすことになる。また、看板以外にも、期待的機能がある。周辺的な事件については、多少時間がかかってもやむを得ない。

○純粋でない特許事件については、通常裁判所でやっても良いのか。

○特許の侵害事件については、知財高裁でやってもらえると思っている。

●知財高裁ができれば、内外にアピールすることができるという前提に付いても議論するべきであると思う。特許専門の裁判所を作るという考え方は、CAFCの設立の際に否定された考え方。これを日本が取れば、日本が進んでいると見られるのかについては、議論が必要。

○無効審判を廃止するべきかという点については、その存続を前提に今後検討を進めるということでいいか。

○一審を含む知財裁判所を作ってほしいというのが究極の希望であるが、それに至らないのであれば、無効審判の存置が必要である。

・ 以上の議論の結果、知的財産裁判所についても、種々の意見があり、更に検討を進めることとなった。

 次回検討会(9月4日(木)13:30〜17:00)では、侵害行為の立証の容易化のための方策に関する検討を行う予定。