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知的財産訴訟検討会(第12回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年10月6日(月)13:30〜17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬厚、加藤恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉亙、中山信弘(敬称略)

(説明者)
内閣官房知的財産戦略推進事務局 土井俊一参事官
長谷部恭男東京大学教授
戸波江二早稲田大学教授

(事務局)
古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、滝口尚良企画官

4 議題
(1) 知的財産戦略本部における専門調査会について
(2) 営業秘密が問題となる訴訟における公開停止についての憲法上の論点に関するヒアリング
(3) 侵害訴訟と無効審判の関係等について
(4) その他

5 配布資料
資料1:裁判の公開原則と「公序」概念に関するメモ
資料2:裁判の公開原則と営業秘密に関するメモ
資料3:営業秘密が問題となる訴訟における営業秘密の保護に関する論点
−公開停止を中心として−
資料4:人事訴訟法(平成十五年法律第百九号)抜粋
資料5:人事訴訟法案要綱案第五の四3(一)についての補足説明
「人事訴訟における当事者尋問等の公開停止と憲法第82条との関係について」
資料6:侵害訴訟と無効審判の関係等について
飯村委員配布資料:侵害訴訟と無効審判の関係等についての意見
内閣官房知的財産戦略推進事務局配布資料
:「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」の重要政策課題に関する専門調査会の設置について
:知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画(2003年7月8日知的財産戦略本部)

6 議事
(1) 知的財産戦略本部における専門調査会について
 内閣官房知的財産戦略推進事務局土井俊一参事官より、配布資料に基づいて知的財産戦略本部における専門調査会について説明があった。

(2) 営業秘密が問題となる訴訟における公開停止についての憲法上の論点に関するヒアリング
① 事務局から、資料3〜5に基づいて営業秘密が問題となる訴訟における営業秘密の保護に関する論点について説明がされた。

② 長谷部恭男東京大学教授及び戸波江二早稲田大学教授から、それぞれ資料1及び資料2に基づいて、営業秘密が問題となる訴訟における公開停止についての憲法上の論点について説明がなされた。その後、次のような質疑応答がなされた。(○:委員、△:説明者、●:事務局)

○ 憲法82条の判断の名宛人は裁判所であり、その裁判所が公開停止についてどこまで判断できるのか、公開停止をしようとする裁判所の行為が82条違反かどうかが、問われることとなる。仮に公開停止を立法化した場合に、その法律を運用する裁判官にとっては、公開停止の判断基準には何か違いは出てくるのか。法律上の要件が裸のままで憲法に違反するか否かを判断することになるのかどうか。

△ 違憲の判断は、法律自体が違憲になる場合と、個別のケースにおいて法律の適用行為が違憲になる場合の2通りがあるが、標準的な考え方は、適用行為の違憲の判断になる。例えば、営業秘密の保護に関して、公開停止の要件を定めた法律に従って判断した場合でも、適用行為が違憲となることはある。

△ 法律の合憲性と法律に基づいてなされた処分の合憲性は異なる。法律は合憲でも、処分が違憲とされることもある。

○ 裁判所が公開の判断を誤った場合に手続内での是正はどのようになされるのか。

△ 違憲の公開決定や非公開決定は、別途、即時抗告で争う道もあり、裁判の過程での瑕疵として上級審で是正されることとなる。ただし、非公開が違憲であるのに非公開にした場合には、基本的には、誰も争わないであろう。

△ 本当は憲法問題があるのにもかかわらず、負けた当事者がその点を争わずに事件が終わるというのはあり得ることである。

● 公開停止の法律の規定がない場合であっても、従前も憲法82条による公開停止は想定されており、そういう場合と根本的には異ならない。実際上は非公開が相当か否かについて当事者から意見を聴取することになろうが、意見聴取についての規定はなく、それをしなくとも違法ということにはならない。ただし、公開で審理すべきところを非公開で審理すれば、絶対的上告理由となるので、上訴の中で瑕疵を是正するのが筋である。

○ 今考えられている非公開の要件は、営業秘密に基づく事業活動の継続が困難で、陳述を欠くことにより現に誤った裁判がされるおそれがある、というものだが、そのような場面は、例えば、情報公開の秘密性の立証のような場面と本質的には同じと考えてよいか。

△ 無限定な秘密であるなら、非公開というわけにはいかず、差し当たり、知財においてこのような要件で非公開ということであるが、ご指摘のとおり、プライバシーのような基本的な問題はある。

○ 知的財産は国際的な問題であり、どこの国でも訴訟を起こし得る。日本では、営業秘密の保護は、厳格に運用されてきたと理解しているが、国際的に見た場合には、どのような位置付けなのか。

△ アメリカでも、控訴審レベルでトレードシークレットを害するという理由で非公開にすることは認識されており、トレードシークレットだから非公開にはできないことはない。

△ 国際的な知財訴訟の傾向としては、秘密保護の方向に行くのではないかと思う。

○ 憲法と民法とは文言が異なり、法的性質も異なる。民法でもって憲法を解釈することはできない。裁判に対する国民の信頼を確保するとの目的から公開原則の例外を解釈するという目的論的解釈は、文言を軽視しているのではないか。また、資料1の注2にある、82条前段が公開を制限しうる場合を例示するに過ぎないとする例示説は広い意味での「公序」の見解の中に入っているという説明は、無理やり「公序」というところに入れようとしているように思う。

△ 民法と憲法との間で「公序」の文言自体に違いがあるようには思えない。民法90条は、公序良俗と一括りにして法律行為の効力を否定する場合を規定している。これは、憲法に引き直すと、裁判公開の例外の定めを規定していることになる。ご指摘のとおり、目的論的な解釈になるのかも知れないが、法律的規範の問題というのは、全体的な規定の趣旨に照らして、どのような要件でどのような効果が見込めるのかを考える方が、憲法に限らず、民法の場合と同様に、適切な答えを導くことができるのではないか。

△ 問題は、本来の意味において、営業秘密が「公序」に入っていないことであるが、営業秘密を公開停止で保護しようとする場合には、憲法上の根拠をそこに求めるのが良いのではないかと思う。「公序」を厳格に考えて、営業秘密を排除するわけにもいかない。

△ 例示説は公序説に帰着するとの説明の趣旨は、例示説になると「公序」の他に何があるのかという議論に当然なるが、「公序」以外にあれもこれをということではない。どのような原則に基づいて非公開にするのかを考えた場合、公序説の考え方と軌を一にすることになるのではということである。

○ 最後の理屈の整理のところに飛躍があるのではないか。憲法は基本的な指針を定めているだけであって、それを具体化するのは実定法である。このことは82条でも例外ではない。結論的には、営業秘密が問題となる訴訟において非公開にできないという解釈はおよそあり得ない。あとは、理論的に正当化するだけのことであるが、無理に「公序」とすることには、違和感を覚える。

△ 裁判の公開停止が違憲か合憲かというのは、結局のところ個別の適用の問題であり、具体的な法律ができることとは関係ない話。すると、わざわざ法律を作るのではなく、憲法を直接適用すればよいのではないかとの議論もあり得るが、実際上の考慮があるので、法律をつくることにも意味はある。

△ 1997年の民訴法の改正の時に、一定の公開停止のルールを定めることについて提案があった時に、裁判官の決定権を奪うことから憲法違反ではないかとの有力な反対意見があったという経緯がある。一定のきちんとしたルールを定めた方が望ましく、資料はそのような趣旨で書いてあることをご理解いただきたい。

○「営業秘密に基づく事業活動の継続が困難になることが明らか」の要件は厳し過ぎるのではないか。ただ、「事業活動に著しい支障がある」という要件と両方を念頭に置いた時に、全く同じように感じた。もっと気が利いた要件はないのか。

○「営業活動に基づく事業活動の継続が困難」とはどういうことなのか。

● 必ずしも、法人全体の事業活動を指しているのではなく、「当該営業秘密に基づく事業活動」を継続することが困難という趣旨である。また、「継続が困難」とは物理的に困難という場合だけではなく、諸事情をみて、ある程度主観的なものも含まれると考えている。

○ 例えば、顧客名簿を知られたような場合を考えれば分かるように、ほとんどの営業秘密については、事業活動ができなくなるケースはほとんどないのではないか。

● 事業活動の継続が困難になるという要件に主観的な要素も含まれるとの解釈を前提にすれば、顧客名簿の場合も含まれ得ると考えている。

○ どちらかと言うと、著しい損害を被るというイメージを持っている。

○ 1997年の民訴法改正の頃の憲法82条の一般的な考え方は、現在とは違うという理解でよいのか。

△ この問題について研究している学者は少ない。基本的には、この考え方はあまり変わっていない。

● 公開停止の規定は、特許法や不正競争防止法において、類型的に営業秘密が問題となる訴訟について手当てしようと考えている。その他の知財訴訟については、憲法の規定に従って非公開審理は可能であるという理解でよいか。

△ そのような理解で良い。憲法82条2項に従って裁判官が判断できる。

○ 知財について国際的な観点はきわめて重要だが、憲法上の「公序良俗」の中に国際的な問題を織り込むのはきわめて困難であると思うが、どうか。「公序」の概念をそのように広く捉えることができるのか。

△ 憲法の条文だけでは解決策がでてこない。そこで憲法解釈がでてくる。少なくとも言えることは、いくつかの解決策のうちいずれかを選ぶかとすれば、それは「公序」しかあり得ない。

○ 同じような事件が世界のあちこちで生じて、他国は営業秘密の保護のため非公開にできるのに、日本ではそれができずに、穴があいてしまう。そのようなことは「公序」の概念に入らないか。適切な裁判の中に捉えることができるか。

△ 国際性と言っても、いろいろレベルがある。他国と不整合というだけではだめだが、事業の国際的展開の中で到底やっていけないというようなことがあれば、それは公序の中に入りうるであろう。

△「公序」の概念は広げざるを得ないのではないか。知財訴訟は国際性があって、公正な競争を確保することが公序ということになれば、当然、国際的な観点も入って来るのではないか。

○ 刑事法と民事法では公開に対する要請は当然違うのに、憲法上、営業秘密が漏れても仕方がないという議論がどのような観点で出てくるのか。国全体の健全な発展を考えたとき、必要なものは当然法律に書けば良いのであって、そのように条文が大事といったところでどのような利益があるのか。

△ 憲法学者も柔軟に考えるようになっている。

△ 最近は公開原則の転換ということが言われており、それは民事訴訟法全体の問題であると思う。例えば、口頭弁論中心主義も、実際上、形骸化してきている面もある。

○ 事務局案では訴訟類型を限定しているが、営業秘密が問題になる訴訟では、訴訟類型を限定することが前提条件となるのか。その他の類型でも合憲と判断する余地があるのか。

△ 前提条件にはならないと思う。そこは立法政策の問題。

△ 最終的には個別の適用場面における合憲性の判断の問題であり、立法するのは二次的な問題である。これ以外でも公開停止して合憲という場合は当然あり得る。

(3) 侵害訴訟と無効審判の関係等について
① 事務局から、資料6に基づいて侵害訴訟と無効審判の関係等について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○ 基本的に甲案を支持したい。紛争の一回的解決の観点からは、甲案の2の、侵害訴訟係属中は非権利者当事者による無効審判請求を遮断するという意見にならざるを得ない。ダミー請求の問題については、非権利者当事者が第三者を使って請求することを遮断することとしてはどうか。ただしこの場合、立証の問題がある。3の侵害裁判所における訂正の主張については、これを希望するものであるが、特許付与が行政処分であることを考えると、特許庁において訂正することも止むを得ない。乙案との関係については、無効審判を早期審理の対象とすることや進行調整をすることは、むしろこれを支持するものである。仮に、甲案の2のように請求を遮断したところで、訴外利害関係人による請求や侵害訴訟の直前における請求のことを考えると、早期審理は必要である。

○ 紛争の一回的解決の観点からは、訂正についても相手方は意見を言いたいところだが、その場合、無効審判における訂正請求が前提にならざるを得ない。だから、無効審判の請求の遮断にも、意味がないのではないか。

○ 訂正審判を認めるとかえって紛争の解決に時間がかかるのではないか。一回的解決を目指すのなら、訂正審判をあきらめるというのはどうか。

○ 侵害訴訟係属中という期間限定で無効審判を遮断する甲案であっても、侵害訴訟において非権利者当事者の無効主張が認められなかった場合、訴訟後に無効審判を請求できる。これは究極的な紛争の一回的な解決に沿うものではない。

○ 侵害訴訟において被告が負けた後に被告が無効審判を請求するケースはあり得るが少ないのではないか。紛争の蒸し返しの可能性があるという点については止むを得ない。

○ 乙案が合理的だと思う。侵害訴訟が係属したときは、有効無効の判断だけでなく侵害の論点も含めて全体的に解決することが、制度としては合理的で、無効審判請求の遮断については、①無効審判と侵害訴訟中の無効判断は制度としては全く別物であり、侵害訴訟中の無効判断は、拡充するとしてもあくまで合理的な範囲にとどまるのであり、それぞれの制度はそれぞれのメリットがありニーズがあること、②甲案は、対世効、職権審理、訂正請求に対する反論の機会といった無効審判制度の利点を利用できなくなる点で非権利者当事者に不利益をもたらすものだが、侵害訴訟の係属だけをもって、このように無効審判請求を遮断する合理的な理由はなく、また、侵害訴訟とは別に対世効の無効審判制度を認めるのが国際的動向でもあること、③反撃の手足を縛られることから、かえって事前又は事後に予防的な審判請求が増える可能性があり、全体的な紛争の解決が長引くこと、④侵害裁判所が無効審判で審理した方が良いと判断したケースまで、無効審判請求を遮断してしまうのは、両当事者にとって不都合であることを指摘したい。請求を遮断しないで明白性要件を撤廃した方が、念のための無効審判が減り、裁判所からの審判請求の促し、訴訟の中止規定の活用、早期審理といった形で判断齟齬を防止することができる。また、ダブルトラックだから新たな論点が増えるということもなく、侵害訴訟の方も無効審判を見ながら合理的な解決を図るであろうから、必ずしも、ダブルトラックであるから紛争の一回的解決が図れないことはない。

○ 無効審判請求を認めないとすると、予防的な無効審判が事後的に請求されるというのは乙案であっても同じであり、乙案であるからその防止につながるということはない。

○ 甲案との違いは、侵害訴訟の係属中に、無効審判において十分な判断ができることにあり、乙案の場合、あえて予防的な請求は起こすことはないだろう。どうしても不満が残るところに蓋をしても、後で歪みがでるので、蓋をしないほうが良い。

○ 乙案を支持する。産業界には甲案を主張する声もあるが、訂正について特許庁に戻し、さらに対審構造である無効審判で対応すべきということになると、それは乙案ということになるので、乙案が良い。

○ 2読のときに私見として乙案支持であることを述べたが、日弁連としてもほぼ乙案支持で意見が集約された。ダミー請求を回避できないので、乙案がベターである。進行調整や早期審理が今以上に活性化することになれば、ダブルトラックであっても問題はない。早期審理については、できれば立法による制度化をお願いしたいという意見があった。立法化する場合、訴訟が係属した場合の審理目標が規定されていれば良い。

○ 進行調整の立法化についてはどのようなものをイメージしているのか。

○ 乙案を敷衍して制度化を考えてみたらどうか。

○ 特許庁では、無効審判全体で現行の審理期間を短縮して、早期に審理する体制を構築することを考えている。立法化すると硬直的な対応になることを懸念している。早く審理することは重要だが、事案によって長いものも短いものもあり、一定の審理目標を設けることにはあまり意味がないのではないか。法制化については、特許庁として直ちに賛成する立場にはない。

○ 出来るだけ一回的な紛争の解決に近づけるために、甲案の1と2、乙案の3を組み合わせた案が良い。

○ 一回的な紛争解決という問題の立て方自体どうか。そもそも制度的に異なるものを一本化することはできず、侵害訴訟において無効の抗弁を認めるのは、理論的にも受け入れられない。したがって甲案は採用できない。丙案はキルビー判決を立法化しただけのものであるが、判例上の要件と法律の要件は異なることから、想定しない問題が生ずる可能性もある。消去法でいくと乙案ということになる。権利濫用抗弁の内容については、注1のような形の方が趣旨に沿っているので、よろしいのではないか。明白性要件については、それ自体独立して意味があるものではないが、それを撤廃することにどのような意味があるのか。

● 明白性の要件で担保していたものが、特別の事情の中に入ってくると考えるのか、それとも別途の手当てをするのか、様々考えられる。乙案は、明白性要件を条文で残しておこうということではない。なお、注1については、無効審判で無効事由を判断するのが本来的な筋であり、それを法文上に明らかにすることが必要になるかも知れないので、注記している。

○ 産業界のいう一回的な解決の実現はスローガンとしては理解できるが、そのためには、この程度の検討では無理であり、この検討会のスコープには入っていないことを理解すべき。乙案が良い。無効の抗弁は権利者のリスクとして当然に覚悟しなければならいことであり、あまり問題にはならない。無効審判については対世効という違う効果に対するニーズが必ずあるから、それを奪うのはいかがなものか。判断齟齬を防止するという点については、具体的なメカニズムを集中的に検討しなければと思う。

○ 問題の所在が良く分からない。フォーラムの一元化はそもそもユーザーニーズであるというが、究極のところ、2つの結論の違いが問題なのか、フォーラムが2つあって対応する負担が大きいのが問題なのか、その両方なのか、よく分からない。侵害訴訟をみても、明白性要件と無効審判請求の遮断に議論が集約している。明白性要件の予見可能性については確かに問題あると思うが、それは一元化とは全く関係ないことである。特許権は、普通の行政処分とは異なり、いつでも正規のルートで訂正ができ、付与した権利は私権に近い性格のものである。このように早期に権利内容が確定しないという特許特有の事情を背景として、キルビー判決は、紛争解決の迅速性の観点から緊急避難的に出されたものである。紛争の蒸し返しができないという制度的な裏付けが必要であったが、新無効審判では、何回でも有効性について争うことができることとなった。特許権侵害訴訟は、多くの場合、企業同士の争いであることから、今までどおり、裁判所の心証を開示しつつ和解的な解決を図るという実務を進めていくのが良いことから、強いて言えば丙案が望ましいのではないか。

○ 丙案が良い。今の判例で不自由はない。

● 問題の所在について確認したい。明白性要件に対しては、あえて対世的な判断を求めない者にとっても、無効審判請求をせざるを得ないということが一番大きな不満であり、甲案や乙案という意見が出てきた。甲案については、これを支持する者からも特許庁で訂正を行うことも止むを得ないという意見が出されたところだが、実務の知恵として、訂正審判について無効審判という当事者の対立構造中で処理されてきたのに、侵害訴訟が係属しているだけで、それができなくなる問題がある。丙案については、明白性要件をとることが、特許権者と非権利者当事者との間の利益衡量の観点から制度設計として妥当なのかというそもそも論があり、無効審判を請求せざるを得ないという不利益よりも判断齟齬や迅速な紛争解決という観点に重点を置くべきという議論がある。このような整理でよろしいか。

○「紛争の一回的解決」という言葉は多義的に使われている。事務局の説明に一点加えるとすると、権利の有効性の判断は、少なくとも特許の場合は侵害の判断と切り離せないから、侵害訴訟で判断して欲しいというニーズがある。無効審判では侵害の有無は判断せず、イ号物件との関係でないと権利の解釈が決まらないという本質的な事情があるので、侵害訴訟で判断するのが合理的ではないか。それは、紛争の一回的解決につながる。

○ 産業界は、当事者間における紛争の一回的解決を主張しているのであって、侵害裁判所と無効審判のダブルトラック自体が問題なのではない。ほとんどのケースでは、取引材料を作ることを目的として無効審判を請求しており、このような無駄な請求は認めるべきではない。ダブルトラックの関係では、乙案の2において裁判所と特許庁が互いに無効主張の内容を容易に入手できるようにし、2つのトラックが相互に密接に連携してくれば、我々の考えている一回的解決に近づいてくる可能性がある。

● 乙案の2のような手当てができれば、構わないということか。

○ そのような手当てができれば、仮に無効審判請求を認めたとしても、我々が考えている紛争の一回的解決に近づく可能性があると考えている。ただし、明白性要件を残すのは望まない。

○ 判断齟齬の防止のための制度を考えることは重要であり、翻って明白性要件が機能していたのか否かを考えないといけない。恐らく、機能していないだろうから、要件の撤廃に伴い別途の手当てをすればよいのではないか。明白性要件が唯一絶対的なものではない。

○ 再審事由に関して、侵害訴訟で特許が明らかに無効とされた後に、無効審判で特許が有効とされた場合、特許権の効力は原告の請求が不成立になっても何ら変わるものではないことから、理論的には再審事由になるはずはない。

○ 敗訴した当事者としては、不服を述べたいところだが。

● 特許の有効無効の確定は審決で確定することを前提として、侵害訴訟に被告とされた者には、権利濫用的な抗弁として、本来の特許の有効・無効の確定の途のほかに付加的に判断することができるとするものであり、しかも、理由中の判断に過ぎない。民事訴訟の場合は当事者主義であるから、行政処分である無効審判と同一レベルではなかなか議論できない。

○ その場合、再審事由にならないとしても仕方がないのではないか。無効審判請求が成立しなかっただけのことで、理論的にも再審事由は成り立たない。

○ 裁判所が誤った判断をしたのに、救済の道は閉ざされることになるのか。再審以外の道はないのか。

● 当事者間で既判力のある判決については、再審で審理されなければならないことになっている。

○ 再審事由とすることは、理屈上、難しいだろう。むしろ、侵害訴訟の口頭弁論終結後の侵害行為の方が問題ではないのか。それ以前の侵害行為については、諦めざるを得ない。

・ 以上の議論の結果、乙案支持が多かったものの、いずれの案についても支持する意見があったので、さらに事務局で議論を整理することとなった。

 次回検討会(11月10日(月)13:30〜17:00)では、知的財産訴訟における専門的知見の導入、侵害行為の立証の容易化及び知的財産裁判所に関する検討を行う予定。