【開会】
○伊藤座長 それでは、定刻でございますので、第12回知的財産訴訟検討会を開催させていただきます。御多忙のところお集まりいただきまして、ありがとうございます。
今回は、まず初めに営業秘密が問題となる知的財産訴訟における営業秘密の保護に関する論点について、裁判の公開停止を中心に、憲法を御専攻であり、特に裁判の公開について造詣の深い、東京大学の長谷部恭男教授、早稲田大学の戸波江二教授のお二人の先生からお話をいただき、質疑応答を通じて議論を深めていきたいと存じます。
長谷部教授、戸波教授におかれましては、御多忙の中、本日お越しいただきまして、心から御礼申し上げます。
また、休憩の後は、第1論点の侵害訴訟と無効審判の関係につきまして、3巡目の検討を行う予定でおります。
それでは、まず事務局からお手元の資料の確認をしていただきます。
○近藤参事官 それでは、配布資料について御説明いたします。
資料1としまして、長谷部教授のヒアリング関係のメモでございます。
資料2といたしまして、同じく戸波教授の営業秘密に関するメモでございます。
資料3は、事務局作成の、公開停止に関する論点をまとめたものでございます。
資料4は、公開停止についての人事訴訟法22条に関する抜粋でございます。
資料5は「人事訴訟における当事者尋問等の公開停止と憲法第82条との関係について」ということで、これはNBLの中から抜粋したものを配布させていただいております。議論の参考になるのではないかと思われます。
資料6は「侵害訴訟と無効審判の関係等について」、事務局のレジュメでございます。
そのほかの資料といたしまして、飯村委員配布資料として「侵害訴訟と無効審判の関係等についての意見」。
知的財産戦略推進事務局配布の資料といたしまして、「『知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画』の重要政策課題に関する専門調査会の設置について」という資料を配布させていただいております。
そのほかに、知的財産推進計画冊子。
それから、これは資料目録には記載しておりませんけれども、司法制度改革関係のパンフレットをつくりましたので、これも参考に配布させていただいております。
メインテーブルの席上ですけれども、大阪弁護士会の意見書、知財高裁に関するものですが、意見が事務局の方に送られてきましたので、参考に配布させていただいております。そのほか、NBLの「審決取消訴訟の新たな審理方式と新たな判決様式について」という、東京高裁の審理について。それから、大阪地裁の審理について、裁判所の方からの資料提供という形で、コピーを配布させていただいております。
資料は以上です。
【知的財産戦略本部における専門調査会について】
○伊藤座長 ここで、本日の本題に入る前に、知的財産戦略本部に設置されることになりました、専門調査会の概要について御説明いただきたいと思います。知的財産戦略推進事務局の土井参事官、御説明をお願いできればと存じます。
○土井参事官 お手元に資料を1枚用意させていただいております。「『知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画』の重要政策課題に関する専門調査会の設置について」という資料でございます。既に御承知のように、本年の7月8日に知的財産戦略本部におきまして、推進計画というのが策定されました。それと併せてお手元の資料の決定があったわけでございます。
資料の1の(3)でございますが「権利保護基盤の強化に関する専門調査会」、これを設置するということも本部で7月8日に決まってございまして、内容が3行書かれてございますが、「模倣品・海賊版対策、知的財産の専門人材育成、知的財産権利化促進や司法制度等、知的財産の権利保護基盤の強化(エンフォースメント)に係る課題に関する調査・検討を行う」ということでございます。
既に推進計画には、司法制度に関係する重要事項として、知的財産高等裁判所の創設を図るという項目がございますので、今後この専門調査会でそういう項目について御議論をしていただく予定でございます。
また、なにぶんこの専門調査会はまだ発足しておりませんで、詳細な資料等は御用意できませんが、第1回会合は明後日、10月8日の16時半から18時半を予定してございます。それ以降のスケジュールでございますけれども、今後専門調査会の委員の方に集まって決定していただくことでございますので、まだ確定ではございませんが、10月の下旬、11月の下旬、12月の上旬という形で、年内に4回の会合を予定してございます。
推進計画の中で、この権利保護基盤の強化に関する専門調査会に関係する事項としては、先ほど申しましたように、知財高裁の問題、それから特許審査の迅速化の問題、この2つの事項が、2004年の通常国会へ法案提出を目指し、あるいは通常国会へ法案を提出するという書き方になってございますので、この重要2項目が年内の最優先課題として議論されるものと考えております。
以上でございます。
【営業秘密が問題となる訴訟における公開停止についての憲法上の論点に関するヒアリング】
○伊藤座長 どうもありがとうございました。
それでは、早速本日の議事を進めてまいりたいと思います。事務局に営業秘密が問題となる訴訟の非公開審理の論点についてメモをまとめてもらっておりますので、まず事務局から説明をお願いします。
○近藤参事官 「営業秘密が問題となる訴訟における営業秘密の保護に関する論点−公開停止を中心として−」というものを御覧いただきたいと思います。
1番目としまして、訴訟において営業秘密が問題となる場面というのは、どういう場面が問題となるのかということで、まず訴え提起から始まりまして、争点整理、証拠調べ期日、それから証拠調べ期日の中でも、書証と証人尋問というものがございます。そういう中で、訴訟の証拠調べの関係につきましては、別の論点として文書提出命令、秘密保持命令ということについて、かなり御議論いただいているところでございます。
他方、証拠調べ期日のところでの証人尋問につきましては、公開停止ということが問題になるのではないかというところが、今回の位置づけということになります。
2番目に書かれております、「公開停止の要件」ということです。これが一番重要な要件になってくるかと思います。一緒に資料としてお配りをした、人事訴訟法の22条を御覧いただきますと、22条のところでは人事訴訟ということを限定しながら、「人事訴訟の目的である身分関係の形成又は存否の確認の基礎となる事項であって自己の私生活上の重大な秘密に係るものについて尋問を受ける場合においては、裁判所は、裁判官の全員一致により」、(1)に相当するのが「その当事者等又は証人が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずることが明らかであることから当該事項について十分な陳述をすることができず」、かつ、(2)に相当するものが「かつ」以下ですが「当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判をすることができないと認めるとき」、こういう場合に決定で、公開しないで尋問を行うという形になっております。
それを今回の営業秘密に置き換えて考えますと、先ほどの論点ペーパーの2のところで、特許権等の侵害や不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、そのような尋問事項が出てくる場合に、裁判官全員一致の決定により、次の(1)(2)の要件に該当すると認めるときに公開しないで行うと。
(1)の要件といたしまして、その当事者が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより、その営業秘密としての非公知性、秘匿性等が失われ、これによりその当事者の当該営業秘密に基づく事業活動の継続が困難になることが明らかであるから、当該事項について十分な陳述をすることができないという真にやむを得ない事情があること。
(2)の要件といたしまして、当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該営業秘密を判断の基礎とすべき特許権等の侵害又は不正競争による営業上の利益の侵害の有無について適正な裁判をすることができないという現に誤った裁判がされるおそれがあるということ。
この2つの要件ということで、言ってみれば人事訴訟と横並び的な要件で、公開をしないで行うことの要件というのを切り出した、こういうものが考えられるのではないかという、事務局で考えたたたき台というふうに考えていただければ結構だと思います。
これを基にして、3番目で、(1)の方は82条2項との関係で、大きな枠組みといたしまして、裁判の公開原則というのは、裁判が公正に行われることを制度的に保障したものであるので、裁判の公開を困難とする真にやむを得ない事情があり、かつ裁判を公開することによって、かえって適正な裁判が行われなくなると認められるという、いわば極限的な場合には、裁判を公開しないという考え方があり得るのではないかというのが1つでございます。
(2)の方は、そういう一般的な大枠の考え方を前提としまして、特に憲法82条2項の文言に即して考えた場合に、公の秩序を害するおそれというのは、どういうふうに考えるかということの、1つの考え方、こういうことを考えることができるかどうかということについて提示させていただいております。
これらについては、後ほど憲法の観点から長谷部先生、戸波先生から御意見を伺えればと思っております。
(3)ですが、知財訴訟の関係の中で、類型的に営業秘密が問題となり得るというものが、こういう限定でいいのかどうか、それについてまた検討会の委員の先生方に御意見をいただければと思います。
(4)は、公開原則の例外が不当に拡張されることになった場合に、憲法上の公開原則ということがありますので、やはりある程度の限界を考えなければいけないのではないか、この(2)のような考え方で十分かどうか、更に縛りをかけた方がいいかどうか、そういうことについて御意見をいただきたいと思います。
4番目については、これは公開停止の手続的な要件といたしまして、(1)と(2)はセットになっているものなのですが、まずあらかじめ当事者の意見を聴取しなければならないというのが、人事訴訟法上規定されておりますので、こういう規定を設ける必要があるのではないか。
更に(2)の方は、営業秘密の範囲等を確定するためには、更に何らかの手続というものが必要になってくるのではないか。その手続のイメージとしては、文書提出命令のところで議論したような、インカメラ審理に似たような手続ということが観念できるのではないかというのが(2)でございます。
(3)は、この非公開決定をした場合に、一緒に秘密保持命令を発することができるということを考えた方がいいのかどうか、その点についての御意見をいただきたいと思います。
(4)は、人事訴訟法上も規定がございますが、尋問が終了した時に公衆を再び入廷させなければならないということの規定を設けるということについてどう考えるか。
以上でございます。
○伊藤座長 それでは、引き続きまして、本日お越しいただきましたお二人の先生から、営業秘密が問題となる知的財産訴訟における公開停止についての憲法上の論点についてお話をいただきたいと存じます。
初めに、長谷部教授からお願いいたします。
○長谷部東京大学教授 東京大学の長谷部と申します。このような機会を頂きまして、ありがとうございます。
資料1と番号が振ってあるものがございます。こちらに沿って説明をさせていただきます。
まず最初に、憲法の定める公開原則の趣旨ということでございますが、これにつきましは、最高裁判所のいわゆる法廷メモ訴訟によりますと、裁判の対審及び判決が公開で行われるべきことを定める憲法82条1項の規定の趣旨というのは、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとするところにあることを明らかにしているところであります。
これは、憲法学界の中でも広く受け入れられている考え方でありまして、一般にはこの82条の定める裁判の公開原則は、裁判の公正さと、そうした公正な裁判への国民の信頼を確保するために、民事、刑事を問わずに、裁判手続の核心的な部分の公開を要求する原則だというふうに考えられているところであります。
他方、この82条の2項で、対審を非公開とすることができる場合を定めているわけでございます。そこでは、公の秩序又は善良の風俗を害する虞、そういう要件が、この非公開とする場合の規定として定められております。
この概念の理解につきましては、いろいろ考え方があるとされておりますが、大まかに申しますと、狭く解する説というのは、これは公共の安全を害するおそれがある場合、そして性風俗に関わる場合に限定をするということです。それ以外を広く広義説というふうにくくってしまいますと、こうした場合以外にも対審を非公開とする場合があるというのが広義説というふうにくくることができるかと思います。
その中で、まず狭義説と言われる議論の代表として、またその場合に特に引き合いに出される説といたしまして、いわゆる宮沢・芦部コンメンタールといわれる『全訂日本国憲法』という、これも指導的な憲法学界の注釈書でございますが、そしてまた佐藤功教授の『憲法』、これは有斐閣から出ているコンメンタールでございます。この2つのコンメンタールが、狭義説の代表というふうによく言われるわけですが、これからお話をしますのは、この2つのコンメンタールは、どれほど額面どおりに狭義説というふうに受け取っていいのかどうか、そういう話でございます。と申しますのは、この2つの注釈書は、いずれもこの82条でいう公の秩序又は善良の風俗というのは、民法90条の公の秩序又は善良の風俗と同じ趣旨であるというふうに言っているわけです。
この公序良俗というのは、もともと憲法学界において伝統的にいろいろ議論をされてきた概念というわけではございませんので、民法の公序良俗概念を参照するというのは、これは極めて自然な考え方の筋であろうかと思います。そうなりますと、民法の公序良俗というのは、民法学ではどう考えられているかということが問題になるわけです。これは私の同僚の民法の先生のおっしゃっていることを、そのまま右から左へ持ってきただけなのですが、少なくとも民法の起草当初においては、公序というのは行政・警察・司法等の国の制度に関わる事柄と、良俗というのは、性風俗に関わることである。大体狭義説のいう公序良俗と対応した概念になっているわけですが、ただ現在の民法の世界におきましては、この公序良俗両者は特に区別されることはない、一括して公序良俗と考えられて、法律行為の効力を否定すべき場合を広く指して用いられる。これが普通の使い方である。したがいまして、経済秩序、取引道徳、あるいは労働基本権等の保護に関わる事件でも、この公序良俗という概念に基づいて法律行為の効果を否定することが広く行われているというふうに言われております。
このような同様の意味の拡大は、この民法90条の母法、非常に大きな意味を持つ母法の1つである、フランス民法でいうところの公序良俗、l´ordre public et les bonnes moeurs でありますが、これにつきましても同じような展開を見ることができるわけです。このフランス民法につきましても、制定当初の公序良俗はかなり限定された形で理解をされておりましたが、その後はフランスでも公序概念の意味内容はどんどん拡大して、消費者保護や取引秩序の保護を目的とするような経済的秩序、あるいは労働者の権利を保護する社会的秩序等の概念、これがやはり契約の効力を否定すべき事由として解釈を通じて定着していると言われるところであります。
そこで先ほどの日本の憲法学界の注釈書の話に戻っていくわけですが、この2つのコンメンタール自身が指摘しているところなのですが、実は法律行為の効力に関する民法90条、そして裁判を非公開とすべき場合を定める憲法82条、これは趣旨、目的を異にするものであるから、この具体的な適用場面が一致すると考えるべき理由はないということを明言しております。
そういたしますと、おそらくこの82条がいうところの公序良俗、公序というふうに略して申し上げますが、この意味もやはり82条の趣旨、目的に沿って考えるというのが自然な考え方の筋ではないか。
そういたしますと、この82条というのは、これは冒頭に言いましたとおり、要するに裁判の公正さ、そして国民の裁判への信頼を確保するために公開原則を定めているということでございますから、むしろ対審を公開することで、裁判の公正さでありますとか、国民の裁判への信頼を損なうようなおそれ、高度の蓋然性と言い換えることができるのではないかと私は考えますが、それが認められる場合には、これは同条2項にいう公の秩序を害する虞がある場合と考えるべきではないかと思います。
したがいまして、例えば先ほどお話に出てまいりました人事訴訟の場合で申しますと、当事者等が自己の私生活上の重大な秘密に係る事柄について尋問を受ける、その尋問が公開法廷で行われることで尋問に対して十分な陳述ができない。そして、かつ、その陳述を欠くことによって、適切な裁判をすることができない。そのために結果としては適正な身分関係の形成や確認が行われない。そういう高度の蓋然性があるという場合には、これはやはり裁判所は裁判官の全員一致の決定で対審を公開しないで行うことができる。そういう考え方を取ることができると思われます。
かつ、こういった高度な蓋然性が認められるような場合に、あえて公開法廷での尋問を行うということになりますと、これまた国民の裁判への信頼を保つことにはならないのではないかと思われます。つまりこういった場合には、適切な裁判をすることができないおそれがあるわけでありますが、結局その結果裁判への国民の信頼も損なってしまうわけです。
したがいまして、憲法学者のよく使うジャーゴンで申しますと、こういった場合には、対審の公開を停止すべき、やむにやまれぬ理由、あるいは真にやむを得ない理由があると言うべきではないかと思われます。
こういった考え方の筋からいたしますと、この公の秩序を害する虞というものを、いわゆる狭義説が言っていると言われているように、公共の安全を害するおそれがある場合、そして性風俗に関わる場合と狭く限定するということには、さしたる理由はないのではないかという考え方になるわけであります。
この考え方を営業秘密が問題となる訴訟に当てはめようとするとどうなるかということですが、おそらく当事者が公開の法廷、営業上の秘密に係る事柄の陳述をするということになりますと、その結果営業秘密としての非公知性、秘匿性等が失われる。このために、その当事者の当該営業秘密に基づく事業活動が著しく損なわれることが明らかであり、そのためにこの事項については十分な陳述をすることができない。しかも、その陳述を欠くことによって適正な裁判を行うことができない。そういう高度の蓋然性があると認められる場合には、裁判所は裁判官全員一致の決定によって、対審を公開しないで行うことができると考えるべきではないかというのが、私の考え方でございます。
ちなみに、先ほど御紹介のあった人事訴訟法の22条の場合、公開停止の手続についての規定を置いているわけですが、この規定の根拠につきましては、おそらくいろいろな考え方があり得るだろうと思います。
私が今申し上げたような考え方だけで、公開停止の手続を定めているというのも、1つの見方だと思いますが、もう一つ、この人事訴訟というのは、身分関係という、実体的に見ても社会生活における公序を定めている。したがって、そういう身分秩序の適正な形成・確認自体が公の秩序に含まれている。そういう理解を前提にしているのだといたしますと、この営業秘密の保護の場合におきましても、この営業秘密の保護と知的財産権の適正な保護というのが、身分秩序の適正な形成・確認に匹敵するような意味における実体的な公序に当たるのかどうか、そういう論点が出てき得るだろうと思います。
私は、その点はおそらく考え方が分かれ得るところではないかと。まさにそのとおり、匹敵する公序に当たるという考え方もあり得ましょうし、果たしてそれが妥当かという考え方もおそらくあるだろうと思います。
ただ、これは私が勝手にそう思うだけですが、果たして人事訴訟法の22条の規定というのが、そういう実体的な公序の概念も含んだ根拠を前提として考えているのかどうかというのは、余り定かではないようにも思われますし、他方私が本日申し上げました理屈からすると、実体的な意味で公序に当たるかどうかというのは、少なくとも第一義的には重要な問題ではないということになろうかと思います。
最後に、これは付け足しになりますけれども、そうは申しましても憲法というのが、ことさらに裁判の公開原則を定めているということは、これはその重要性は軽視すべきではないと思いますので、したがいまして、公の秩序を害する虞というのは、単なる可能性では足りない、やはり高度な蓋然性が必要であるというふうに考えるべきでありましょうし、その点につきましては裁判官の全員一致の決定が必要だというふうに考えるべきではないかと考えます。
また、更にそうした決定を行うに先立ちましては、裁判所は各当事者の意見を十分に聴くべきではないかとも考えております。
以上です。
○伊藤座長 長谷部教授、どうもありがとうございました。
引き続き、戸波教授からお話をお願いしたいと存じます。
○戸波早稲田大学教授 早稲田大学の戸波と申します。
資料の2、少し長いですので、早口で説明させていただきます。結論的に申しますと、やはり私は裁判の公開原則というのは、現代社会では一定の範囲で例外が認められるのではないか、営業秘密についても例外となり得るのではないかというふうに考えるのですが、その例外の範囲を限定するという努力が必要ではないかということであります。
1のところで言いたいことは、なぜ裁判の公開原則が現代社会で最優先で守られなければいけない原則とは言えなくなっているのかということを、3つの点を挙げました。
第1は、裁判の公開はやはり密室裁判による不適正な裁判を排除するというのが一番大きな制度目的ですが、実際にはやはり裁判制度の合理化、近代化等々、それからその担い手の職業的廉直性ということによって、実際に不当な裁判が密室で行われるという可能性が少なくなっているということです。また、公正な裁判を担保する仕組みは、必ずしも公開裁判ばかりではなく、マスメディアによる報道等々によって、かなり裁判の公正が担保されるようになってきているという事情もあります。
第2は、裁判の公開を上回る非公開の必要性が、やはり社会的に広く認められるようになっているのではないか。特にやはりプライバシー的な事柄の保護ということが強く言われ、裁判の公開の下で、裁判の中で私的な事柄が扱われたときに、どうこれを保護するのか、裁判の公開ですべて出すのがいかがなものかということであります。
第3は、特に現在、司法改革が進んでおりまして、国民の利用しやすい裁判というのが改革の中心的な議論であります。後でも出てきますが、裁判の非公開というのは、まさに営業秘密の公開ということによって、営業秘密の保護を求める当事者は裁判をちゅうちょする事態も想定されるわけです。そうしますと、基本的な問題として裁判の公開と営業秘密の開示の対立の中で、営業の秘密を守るという必要も出てくるのではないかということでございます。
2ページ目にいきまして、82条2項の「公序」の意義につきましては、ちょっと教科書的ですけれども、裁判の公開と秘密の保護について学説が4つぐらい挙がっております。 秘密の保護のために、裁判の公開を停止してよいとする場合の根拠について、例示説というのが上から10行目のところにありますけれども、これは82条2項の公序良俗について、それが例示であるというふうに見る学説ですけれども、この例示説というのは、公の秩序又は善良の風俗、82条2項の公序の概念を非常に限定して解釈しており、したがって秘密はそれに当たらない、だから例示なんだという形で議論しているのですけれども、そのように限定することが妥当かどうか、むしろ公の秩序、公序の中に入れて解釈していく方が解釈としては適切なのではないかという批判を私は持っております。
非公開審理権説というのは、これは憲法32条の中の裁判を受ける権利に、非公開で審理を受ける権利が入っているという、これは意欲的な学説ですけれども、そこまで言えるかどうか。
国際人権規約14条説というのは、国際人権規約で公開の例外がかなり広く認められていることを根拠にする説です。これは国際人権上、あるいは他国の憲法実務などにおきましても、公開原則の例外が一般的に広く認められるという傾向がありますが、それの表れという点では評価されますけれども、憲法解釈としてはやはり公の秩序の内容、82条2項の公序の内容を少し広く解釈するのがよいのではないかと思います。そこで、差し当たり、長谷部教授も指摘されたように、民法90条とどう関係しているのかという話に進みます。
1つの例としまして、典型的な公序良俗違反として、暴利行為の例が挙げられまして、2つの例を引きました。1つは、バーのホステスが店に対して顧客の飲食代金債務を保証する契約をする。店にとっては保証が確保されるけれども、ホステスにとっては多大な負担を強いられるということで、これはケースによって無効とされたり有効とされたりしているようであります。
もう1つは、代物弁済の予約の事件、これも有名な事件で、結論的には品物全部の引換えでもって弁済するというのは不当であるという、公序良俗違反の判決が出ております。学説は今は違っているようですけれども。
いずれにしても、ここの2つの例に見られるように、契約に基づく財産上の不利益が民法90条との関係で問題となっていますが、そこでは一方当事者の財産権が不当に制限されており、それを公序良俗でもって救っているというのが基本的なスタイルということになります。
次のページにいきまして、そうすると憲法82条2項についても、財産的権利の侵害というのを考慮に含めることは、公序良俗の本来の意味からしても認められるのではないかということ、つまり、公序だからそれは公的なものであって私的なものは入らないということにはならないのではないかと考えられます。
それとの関係で、憲法でいきますと、民法90条が出てくるのは、いわゆる人権保障の私人間効力論であり、そこでは私人による人権侵害が、民法90条の解釈でもって救済されるという論理が学説、判例で採られておりますが、そこで救済されるべき人権というのは、選挙権のような対国家のみの権利というのを除くとして、あらゆる人権が考慮されることになり、営業秘密などについても財産権の一種、あるいは営業の一種として保護されることになります。
ついでに、現代の保護義務論というのを書きましたが、これは私が今勉強しているために書いたので、余り重要ではありませんが、1つ注意するのは、後との関係でいいますと民法90条の場合には、私人間の契約なのです。AとBとの間でもって契約を結んで、それが一般の社会秩序に照らして、一方が非常に暴利をむさぼる、一方が非常に不当な損失を被るというようなところで、裁判所が民法90条を適用してそれを排除するという構造になっている。そこでもって人権が出てきて、人権の保護が問題になります。3極間構造の話はもうちょっと後でもういっぺん触れますが、差し当たり人権の保護ということが民法90条の目的となる。人権の保護というのは、必ずしも公的なものばかりではなくて、私的な人権ないし人権の行使というものがあり得るわけですから、公益だからというような形の議論ではないはずです。
それを裏返して言いますと、そのページの下の方の「民法90条の公序良俗の意義は」と書いたところですけれども、社会秩序を乱す行為を排除する、つまり、権利を保護するというよりも、違法や不当な契約を排除するというところにどうも重点があるのではないかというのが、私の基本的な考えで、それは別の見方をすれば、つまり財産法の秩序だとか、契約の秩序の維持というのが公序良俗の目的であって、契約自由の原則でもって平穏な契約を結ばれればいいのですけれども、それを乱すような関与、介入、あるいは合意があった場合に、それを排除するというのが民法90条の意義ではないか。
そう考えますと、財産法の秩序とか、契約秩序の維持、それ自体がいわば公的な意味を持っているというふうにも言えるわけで、民法90条が私益の保護、実際にはバーのホステスの女性の経済的利益を保護するのですけれども、それ自体が契約自由の原則の下で公的な意味を持ってくるということではないか。
人権保護についても、考えてみますと、人権保護というのはそれ自体が一種の国家目的であるというふうにも言えるわけで、それに公的のものが入っているということであります。
以上のことを3点にまとめたのが、そのページの一番下の(3)のところで、次のページにいきまして、ただ憲法82条との違いをもう少し考えなければいけませんで、民法90条の場合には先ほど言いましたように、私人間の契約関係ですね。それに対して、裁判所が中立的な立場から、権利の衝突を調整する仕組みになりますが、82条の場合は差し当たり出てくるのは、裁判所と非公開を望む当事者との2極関係であって、民法の加害行為をするという第三者はいない、契約の一方当事者というのはいないと考えられます。
そうすると、私人間の対立する当事者の調整というより、むしろ82条の場合には、裁判所が公開原則を背負いながら、他方で非公開を望む当事者の権利利益の保護の必要性を考えて、公開にするか非公開にするかを決定するということになります。
それから、その2極構造、3極構造での公序の使われ方の違いといいますか、法律関係の違いというのが1つございます。
もう1つの違いは、82条の場合には、基本的にそこで求められているルールというのは、憲法原則としての裁判の公開なわけです。そうするとこれは、それ自体は行政の権力行使の透明性と、それからそれを構成する有力な原則ですから、それは一般に維持しなければいけない。例外措置は特に非公開とする必要性が強い場合に認められるということは、維持しなければいけないのではないか。
他方で、82条の裁判の公開原則それ自体は人権の制限をもたらすわけではないのですけれども、結果的にこの営業秘密との関係では、裁判を公開しろということによって、営業秘密も公開されると。それによって営業秘密の保持者の財産権なり、営業秘密なりが制約を受ける構造になっております。だから、その意味では公開原則そのものが人権制約的に作用するということも考えておかなければいけません。
それから、下の方で述べましたのが、これは長谷部さんも御指摘になり、事務局のメモにもありましたように、裁判の公開原則というのは、公正な裁判を実現するための、いわば制度的・手段的な担保でありますから、それ自体が目的であるわけではありません。そうすると営業秘密の保護を求める当事者に対しまして、すべて一律に公開しろというふうに言う必要もありませんし、むしろそういうことになるとかえって適正な裁判が行われなくなるというおそれさえ存するということにも配慮しなければいけません。
ですから、82条の公序の方が憲法原則との関係、それから当事者の営業秘密の保護との関係、しかもそれが人権とすると、人権保護との関係で、幾つかの複雑な要素があります。もちろん、関係は裁判所対非公開を求める当事者というように簡単なのですけれども、調整の仕組みはなかなか難しいということです。
ただ、結論としましては、非常にいたって常識的なところで、長谷部教授の意見と余り変わらないのですけれども、営業秘密の開示が社会的に不当に当事者の権利利益を害するものと判断される場合、−−つまり公序の考え方ですが−−、裁判を公開して、営業秘密を公開することが、社会的に見て営業秘密の保護という観点から不当であると判断され、つまりこういう意味で社会秩序に反するような場合には、むしろ裁判は非公開としなければいけないということになるかと思います。
ただ、公開原則そのものは、やはり憲法上の原則で、権力行使に対しての基本的な枠ですから、それはやはり尊重しなければいけないということで、①から③に書いたような理由から、営業秘密の保護のために非公開とされる場合というのが、公開原則に対して例外として、ある程度限定されて考えなければいけないということであります。
こうなりますと、民法90条の場合には、私人間の権利の調整の点から、不当な暴利行為であれば違法だというのですけれども、単に不当だというだけではなくて、もう少し公開原則との関係では、公開することについて強い不適切性というのが認められる必要があるという前提で、もう少し具体的に考えてみますと、①、②と真ん中に書きましたが、①営業秘密の秘匿の高度の必要性が認められ、②その公開が保持者(企業)にとって極めて重大な損失を実際にもたらすことが明らかであることが必要だと、一応言えるのではないかと思います。
3のところにつきましては、私も余り詳しいことは知りませんので、これも簡単に触れますが、1のところで、以上の私の考えからしますと、知財訴訟に限らずに、もう少し一般的に民訴一般でもって営業秘密の保護というような制度を入れてもいいのではないかとも考えています。ただ、やはり実際に何を営業秘密とするのか、どういうような場合に非公開とするかというようなところの、個別の判断というのは、ケースによっても違いますし、事情によっても違いますから、差し当たり知財訴訟でもって公開の事由を決める。それで、秘密を決めて非公開事由を定めるという行き方が適切なように思います。
それと知財訴訟そのものが、やはり現在営業秘密の保護を含めた、特許権訴訟としての円滑な、あるいは公正な競争原理の確保ということが要求されておりますから、そういうところでやはり営業秘密の保護ということも、特別にやはり要求されるべきであるということを、そのページの一番下に書きました。次のページの(2)のところで「非公開に関して法律で定めることの妥当性」、これは82条の2項は法律で定めることを前提としていないように読めるのですけれども、そこに書きましたように、やはり公序説に立って、そこで公の秩序の内容について、それを害するおそれがあると認められたときには非公開にできるわけですから、そうするとそれを法律でもって類型化するということは、可能でもありますし、また好ましいことでもあるのではないかというふうに私は考えています。やはり基本的なことは法律で決めて、どういう場合に非公開の決定ができるのかということを、ルールとして定めるというのが妥当ではないかと思います。
最後に「(3)非公開の要件」のところですが、先ほどから紹介がありましたように、人事訴訟法では2つの要件が挙がっておりまして、当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずることが明らかであるという、当事者の事情を考える。それから、適正な裁判をすることができないという、裁判の適正の要件を挙げております。
私は、切り方としてはこれでいいのではないかというふうに考えていますが、「著しい支障を生じることが明らか」というのはややきつすぎはしないか。基本的にスタンスの問題になりますけれども、やはり現代におけるプライバシーの保護、それから個人の私生活の保護、裁判の公開が現実にこのような訴訟で要求されることがあるということを考えますと、もう少し秘密の決定の範囲を広げてもいいのではないかというようにも考えます。
それから、これに対して知財訴訟に関しては、先ほど事務局から出た2つの要件、これは大体人事訴訟法と同じような要件が付いておりますが、これも原則的にはこれでほぼいいのではないかと思いますが、ただ個人的には秘密の保護の範囲をもうちょっと広げてもいいのではないかというふうにも考えております。
つまりレジュメの①の中にあります「その当事者の当該営業秘密に基づく事業活動の継続が困難になることが明らかであること」という要件ですが、確かに、秘密であるというだけですべて公開を停止するというのは妥当ではありませんけれども、他方でこの営業秘密が公開されると、事業活動の継続が困難になるというのはやや過大な要求ではないか。実際にある企業でもって営業秘密を公開されるときに、実際に会社として支障が出るということになるとは思うのですけれども、今の社会通念といいますか、一般的な社会的な公序からしますと、会社にとって企業秘密だとか営業秘密は大切なので、やはり十分に保護していいのではないかという意識が一方であり、それから実際に訴訟でもって、秘密を確保しながら、その訴訟目的を達成していくということになりますと、事業活動の継続が困難になるという要件よりも、もう少し実際に著しい支障が生ずれば、実際に損失が出なくても秘密にできると、そういうふうに書いてもいいのかなと思います。
全体としましては、裁判の公開原則に対して、現在強く要求していくことに疑問を呈しながら意見を申し上げました。
ありがとうございました。
○伊藤座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいま長谷部、戸波両先生から御説明をいただきました、営業秘密が問題となる訴訟における公開停止についての憲法上の論点につきまして、御意見、御質問をお願いしたいと存じます。どなたからでも結構でございますので、よろしくお願いいたします。
○飯村委員 憲法上の議論をするときには、例えば憲法に定められた権利を侵害するような立法をした場合には、裁判所が、その立法が憲法違反だということを判断するという構造の下で、裁判所がどこまで踏み込んで判断できるかということが憲法論のテーマになり得るわけです。三権分立の制約など、そういう観点から、明白性の判断基準等いろいろな判断基準が出てくるわけです。憲法82条違反の行為をする主体は、裁判官自身であって、裁判所が、実際の事件で公開を停止するかという、裁判所自身の行為が憲法82条違反かどうかということが問題になると思います。
そこで、非公開に関する特定の立法をした場合に、ある要件の下で公開を禁止することができるというように法律で書いた場合、裁判官自身が全員一致で、その要件に適合するとの判断をして、公開を停止したというような場合、その行為が憲法に適合するか否かの判断基準は、例えば、違憲立法審査のような場合と、何か違いがあるのでしょうか。憲法規範に照らして、憲法違反かどうかというのを、裸のままで判断するのでしょうか。
○長谷部教授 とりあえず私の方から申し上げまして、足りないところを戸波先生に補っていただきます。先生御指摘の憲法適合性の判断につきましては、おそらく憲法学界の標準的な考え方ですと、これはあくまで個々の適用上の判断になってくるだろうと思います。
つまり、これはまた憲法学者のジャーゴンを使わせていただきますと、法律そのものが全体として違憲になる、要するに、法令違憲になるという場合。それから、個別の適用行為が違憲となる、あるいは、この場面に適用される限りにおいて違憲である、適用違憲の判断というのがあり得ますが、原則としての違憲判断の在り方というのは、これはあくまで適用上の適合性の判断でありまして、ですから例えばある法律が、裁判の公開停止について一定の要件を定めて、それに基づきまして裁判官が非公開の決定をしたという場合におきましても、それが本当に個別の適用場面において公開を停止してよい場合に当たるのか当たらないのかということにつきましては、これは更に適用上の違憲性というのは問題になり得る話であります。これはあくまで理論的にはそうであるということでございます。
これはおそらく、例えばこの知的財産に関して営業秘密を保護するという、そういう局面に照らして公開停止の要件を定めるという法律をつくったといたしましても、その法律に従っているから憲法上の問題は何も起こらないということではないだろうと。最終的には、これはあくまで個別の合憲違憲の判断というのは、更に必要だろうと思います。
ですから、立法の際に考えなければいけないのは、この要件にしたがって裁判官が全員一致の決定で公開停止ということになっても、大体のところはそんなに違憲になるということはないだろうと。そういう要件の定め方をするということがおそらく考えられるところではないかと。私はそう思いますが、いかがでしょうか。
○飯村委員 例えば薬事法であれば薬事法の特定の条項が、憲法に違反するかどうかを判断する必要が生じたときに、違憲であることが明らかであることという要件を要求してみたりとか、そうでないのか、については、いかがでしょうか。
○長谷部教授 違憲審査基準が何になるかという話でしょうか。
○飯村委員 それに関連した質問です。
○長谷部教授 先ほど申しましたように、まずは個別の場合の適用場面における違憲判断が問題になりますけれども、おそらく憲法学の標準的な考え方ですと、その場合の違憲審査基準というのは、厳格な審査基準ということになりまして、コンペリングインタレストに基づいた必要最小限の措置になっているかと、そういうことになるかと思います。済みません、趣旨を取り違えてしまいました。
○飯村委員 質問の趣旨が、はっきりしなくて済みません。先ほどの御説明に関連した別の質問ですが、例えば密室裁判ということだと、裁判の公正さに疑問が生じたり、審理の信頼性が保てないというような一般的な懸念があるので、公開が原則であるということですが、それはあくまでも制度的な保障であり、憲法自らで定めた例外的な場合に当たると認定できれば、公序良俗に反する場合で全員一致であれば非公開ということもその余地があるわけです。そこで、公序良俗という意味を、裁判に対する現代的な観点から再構築して、より効率的な裁判の実現とか、いろいろな高い価値が付加できるようなときには、非公開理由を広める余地があるということなのですが、裁判官がその判断を誤った場合、手続内での是正方法は、どういうことが想定されるのでしょうか。
○戸波教授 誤った場合というのは。
○飯村委員 裁判所が、非公開とすべきでないにもかかわらず、非公開とすべきであると誤った判断をした場合に、その判断は、結果はおそらく判決に影響を与えないことになると思うので。
○戸波教授 要するに、裁判の公開原則違反だという形でもって違憲事由になりますから、それは違法収集証拠と同じようなことになるのではないかと思うのですけれども。別途即時抗告や何かでもって争うという道は当然ありますし。
それから、長谷部さんがおっしゃったように、法律の合憲性と、その法律に基づいてなされた処分の合憲性というのは、若干違うのです。法律に定められたとおりのことをやって、その処分が違憲だという場合に、その違憲性の根拠というのは法律にあるわけですから、法律の違憲性が当然問題になる。ところが、法律は合憲でも、憲法違反のような形で、例えばこの法律の原案のところでいうと、事業活動に支障が生じるというところですけれども、実際には生ずるのに、生じないとして公開にするというと、これは営業秘密、あるいは裁判の公開との関係でもって違憲な処分だということになりますね。
そうすると、その違憲な処分を、違憲な公開決定をしたとか、あるいは非公開決定をしたとかということになると、それは別途裁判の過程での瑕疵として、上級審で是正されるということになると思うのです。
○伊藤座長 少なくとも、絶対的上告理由になることは間違いないですね。
○飯村委員 しかし、当事者は、普通は、その点を争わないと思うのです。通常、非公開にしたからといって、論理的に判決の過誤につながることは考えられませんので。
それから、営業秘密とか、特許侵害訴訟を想定しているわけですけれども、例えば、裁判官が、営業の内容が公序良俗に違反するとか、業務態様が社会的に違反する度合が強くて、子どもが傍聴したような場合、その傍聴人たる子どもの心情を害するということを考慮要素にして、非公開にしたという場合まで広げていいとお考えですか。
○戸波教授 今の後半の例はよくわからないですけれども、前半のところは御指摘のとおりで、非公開にすべきところを公開にする決定を下すと、これは当事者は争えますね。逆の場合ですね。非公開にしてはいけないけれども非公開にしたというと、当事者はだれも傷付いていないわけですから、だれがどう争うのか。
○飯村委員 裁判官の行った非公開措置が憲法違反であると主張して、だれが争うかという問題が生じます。憲法82条は、制度的な保障なので、それをだれが争うかが、究極的には、問題になり得ると思います。
○戸波教授 御指摘のとおりです。これは現在の権利保障型の、当事者の権利を救済するという形では、基本的には争えないということになっております。
○長谷部教授 絶対的上告理由ですから、負けた当事者であれば、上告するのが自然だと思いますけれども。もちろん裁判によっては本当は憲法問題があるにもかかわらず、結局途中で事件が終わってしまうということはもちろんあり得るわけで、そういう場面がここでも起こるということはあり得ることではあるかなとは思います。
○戸波教授 負けた方が非公開は違憲だと訴えて上告する可能性はあるわけです。不利益を受けていなくても。
○近藤参事官 今の飯村委員御指摘の論点としては、こういう法律の規定が全くない場合に、82条の下で非公開をするかどうかは、裁判所法上の手続にのっとってやるということが、従前は想定はされていたわけですね。その場合と、根本的には異ならないと思うのですが。
○戸波教授 その場合、裁判官は当事者に相談しますかね。非公開でどうでしょうかとか、同意を得て、それとも一方的に。
○近藤参事官 必ずしも相談をしなければいけないという規定はないと思います。実際上は、非公開が相当なのかどうなのかということを、当事者とやり取りはすると思いますけれども、全員一致で決定しなければならないということは定めてありますが、手続的に当事者に対して意見聴取しなければならない等は全くありませんので、それが何らかの形で違法になるということはないと思います。
ただ、憲法の解釈として、本来は公開しなければいけなかったものを非公開で仮にやったという事例があった場合に、やはり絶対的上告理由なので、上訴の中で、その手続はどうなのかということが判断されて、仮に憲法違反であるということになった場合には、それは証拠排除決定をされて、更に証人尋問をするというのが筋ではないかと思っております。
○飯村委員 ここで、想定している条文として、営業秘密が存在する場合に、一方で、営業秘密を法廷で陳述してしまうと事業の継続が困難となるような場合で、他方で、これを陳述しないで、他の証拠で立証しようとすると、適正な裁判をすることはできないという、自己撞着みたいなケースを想定しているということなんですけれども、そういう場面というのは、例えば、情報公開請求に対する非開示決定の取消訴訟のような場合の秘密性の立証のような場合にも出てくるわけです。そもそも秘密を立証しようとするような場合は、論理的必然のものとして出てくるのですけれども、そういうような論理的な場合と、この規定で要件として定めている場合と、本質的には同じというふうに考えられるのでしょうか。
○戸波教授 私はそう考えます。ただ、無限定に秘密であれば非公開だというわけにはいきませんから、何らかの形で裁判所の方で考えて、差し当たり幾つか、一個一個今、詰めているという段階だと思うのです。ですから、差し当たりはこういう要件、法律でもって、非公開の決定をするということにしてはどうかと言っているのだと思うのですけれども、御指摘のとおり基本的な問題はあると思うのです。プライバシー、自己情報開示にしても、今のところ出てくるとは思います。
○飯村委員 1人で質問して申し訳ございません。例えば、傍聴人の心情を害するとかというような場合には、さすがに、要件に当たらないのでしょうか。
そういうものまで当たるというお考えではないのですか。
○戸波教授 余り考えていませんけれども、傍聴人はおそらく、当事者ではないですからだめでしょうね。それは具体的にどういう場合ですか。
○飯村委員 具体的な事件としては、在監者と面会しようとして拒否された処分の取消しを求めた行政事件ですが、子どもと面会をさせるのを拒否する理由として、子どもの心情を害するということを挙げた事件を、裁判の非公開理由に当てはめてみたということです。
○戸波教授 その判例は違憲だとかつて議論したことがあります。子どもの心情を配慮して刑務所長が面会を拒否するのは権限外のことではないかと。ただ、法廷ですからね。
子どもの心情のために裁判を非公開とするということはできないのではないですかね。裁判所の訴訟指揮として、その子どもさんにもし非常に問題だったら、傍聴を個別に禁止するということはできないのですか。子どもさんがいるから、裁判の公開を停止するというわけには、これは裁判の公開原則との関係で理由にならないと思います。
○長谷部教授 具体的にどういう場合を想定すればよろしいのか、なかなか難しい話で、何となくどうもそのまま、イエス、ノーを言うのは難しいところがありますけれども。
○飯村委員 憲法82条2項は、自己完結的ですので、特別の立法を待たずに、今でもできるのですね。そこで、特定の条文をつくった場合に、立法をしたということから、その特定の訴訟類型では、立法で許された場合だけに限られるというような解釈が成り立つのかどうかということに疑問をもったものですから、あえて質問させていただきました。
○荒井委員 別件でよろしいですか。知的財産の場合には非常に国際性も問題になるわけです。ただ、御存じのとおり、日本でも特許になるし、ほかの国でも特許になる、それに基づいて売った製品が、日本でも侵害になるし、ほかの国でも侵害になるというようなことで、どこの国でも知的財産訴訟は起こし得るということなわけですが、今日のお二人の先生のお話の関係で、知財訴訟、あるいはこういう案については、国際的に見たときに、どのぐらいの位置づけなのでしょうか。と申し上げますのは、今までやや日本の営業秘密の、特に憲法との関係が厳しめに運用されてきたというふうに見ておりますので、国際的に見たときにいかがなものでしょうかという質問です。
○長谷部教授 トレードシークレットに関する限りは、これは私も生半可な勉強でございますけれども、アメリカでも控訴審レベルではトレードシークレットを害することになるからということで、公開の制限を認めるということであるという認識をしております。
トレードシークレットの問題であるからということで、だからといって非公開にはできないというふうには普通はなっていないだろうというふうに私は考えております。
○戸波教授 私も素人ですから、余り口幅ったいことを申し上げられませんけれども、荒井委員御指摘のように、国際的な場での知財訴訟と、その中で特許だとか営業秘密が出てきたとき、傾向としてはやはり秘密保護の方に行くと思います。それが世界趨勢だとすると、やはり日本の訴訟もこの場でそういう形でそろえていく必要があるのではないかと思います。
○櫻井委員 お二方にお尋ねしたいのですけれども、憲法上の82条の公序の理解の仕方なんですが、二人とも民法の90条を引かれて、そこでは狭義の意味での国の秩序というものに限らず、家族的なもの、それからもう少し広く経済的なものが含まれていると。それに限定される必要もないのではないかという形で、もう一回憲法に返るというような御議論だったと思いますけれども、これはどのぐらい意識されているのか、多分意識はされていると思いますけれども、まず文言が違いますね、公序と公序良俗ということで。それから法律の性質が違いますね、憲法と民法典であるということで、しかも民法典でもって憲法を解釈することはおかしい話で、まず憲法としてどうかというのが順序だと思うのですが、そこはどうなっておられるかということが1つです。
それから、それと関係するのですが、長谷部先生の御意見を伺っていて思いましたのは、憲法論としての公序という言葉は余り意味がないということで、要するに裁判の公正さと、国民の裁判への信頼を確保すると、そのために必要なものは公開するし、そうでないものは非公開でよろしいということなのですけれども、それはつまり目的論的解釈ということですね。ということになると、随分文言を軽視しているのではないかという感じがしまして、この点はおそらくお二方に共通するのかなという印象を持ったのです。
長谷部先生のメモの1ページ目の注の2というところで、これは憲法学説の理解として私はよくわからないところで、是非お伺いしたいのですけれども、例示説と、それから公序を広く解釈すべき説というのを、今の長谷部先生のメモですと、例示説というのは、公序を広く解釈するという見解の中に入ってくるということですけれども、目的論的解釈だということになると、むしろ私の感覚からすると、それがまさに例示説なのであって、どうして公序というところに無理やり入れようとなさっているのかというのがよくわからないというか、必然性がないのではないかと思われるのですが。
○伊藤座長 そうすると、憲法上の概念と民法上の概念との関係、それから憲法上の概念について、先ほどお述べいただいたような考え方を採ることの根拠というと失礼になるかもしれませんけれども、そこをもう一度お願いしたいと思います。
○長谷部教授 民法と憲法の文言の問題ですが、民法90条は「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス」という文言で、憲法の82条2項は「公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合」ということで、文言自体として、特に違いがあるようには私には見えないのですが。
○櫻井委員 では、両方入れて公序ということが憲法ということですか。
○長谷部教授 つまり民法90条の場合、特に公序良俗と要するにひとくくりにして、法律行為の効力を否定すべき場合は一体どういう場合なのかが、要するに民法の先生方の考えておられることであると。
ですから、これは憲法82条2項の場合で引き直してみますと、どういう場合に裁判の公開停止をすべきことになるか、その要件を公序良俗という言葉を使って定めようという話になります。
そうなりますと、民法の場合におきましても、これはおっしゃるいわば目的論的解釈になるのかもしれませんけれども、どういう具体的な状況において法律行為を否定すべきなのか、そういう考え方になってまいりますし、憲法82条2項の場合に置き直して、この公開制度の趣旨に照らして、どういう場合にはむしろ公開を停止するべきだということになるのか、そういう要件を定めて、そういう概念というふうに理解をするのがこの公開制度の趣旨にかなっているのではないかという話でございます。
これは、文言を軽視しているようになるのではないかというお叱りを受けたわけなんですけれども、目的的な解釈と言われればそうなのかもしれないのですけれども、やはり法律的な規範の問題というのは、そこに含まれている個々の概念の意味をあらかじめ1つ1つ固めていった上で、それでそれを全部足し合わせるとどうなるかというよりは、むしろ全体としての規定の趣旨を考えた上で、その上でどういう要件の下で、どういう効果を認めるのが適切なのか、という形で考える方が、これは民法に限らず憲法の場合でも、適切な答えを得られることが多いのではないかというふうに考えております。
その辺は、ひょっとすると先生のお考えと違うかもしれませんけれども。
○戸波教授 櫻井委員の御指摘はそのとおりで、1つには憲法学者が公序良俗について独自の概念として詰めて考えてこなかったというのが、率直に言うとそうですし、それから考えられる最初の趣旨は、性犯罪について公開にするとやはりまずいのではないかという配慮が込められていると思うのです。
問題は、営業秘密みたいなものが出てきたときに、本来の公序には率直に言うと入ってないと思うのです。問題は、しかしさっきから言っているように、営業秘密は裁判の公開の例外として、どこかでもってカバーしていかなければいけないというときに、どうやって説明するのかということで、私も今日の報告ではどっちかというと、民法ではどっちかというと財産にこういうものを入れているんだと言ったり、財産秩序というのも公序なんだと言ったりして、だからこの公序というのもそういう形で広げて、そこで営業秘密の非公開の憲法上の根拠をそこに求めるのがいいのではないかと申しました。確かに御指摘のとおり目的論的解釈で、本来の憲法学の公序というのをやっていないという面は率直に言って認めます。
ただ、厳格に解釈すると入らないんだと言うわけにはいかないと思うのです。御指摘のように例示説の方がいいのではないかという御意見もあり得るところですが、基本的なスタンスは今のようなものだというふうに御理解いただければと思います。
○長谷部教授 1点、櫻井先生の御質問に答えそびれといいますか、例示説の話でございますが、私のメモもちょっとミスリーディングだったかもしれないのですけれども、例示説と言われているのは佐藤幸治先生で、ただ佐藤幸治先生御自身は自分は例示説でないとおっしゃっているとかいないとかといううわさも実は伺っているのですけれども、例示説というのは結局公序説に帰着するのではないかという私の趣旨は、これは例示だというと、ほかには一体何があるのかという話に当然なってくるわけです。そのときに、例示ですから、ほかにいろいろありますと言うだけでは話にならないのであって、どういうプリンシプルに基づいて、この82条2項の適用範囲を定めるかという話に当然なってくるはずであります。そうなりますと、公序説と考え方としては軌を一にすることになるのではないかという趣旨でございます。
○櫻井委員 解釈論ですから、法が直接規定していない事柄が存在すると、そういうときにどこの文言を使って決断するかという話ではもちろんありますけれども、それにしても、公序でも公序良俗でも結構ですが、最後の整理のところが何でそこにぽんと行くのかが依然として、そこは少し飛躍があるのではないかと思ったのです。
それから、今のお二方のお話と、戸波先生のメモの方ですと6ページ目でしょうか、(2)というのがあって、非公開に関して法律で定めることの妥当性ということで、1項目起こしておられて、これが典型的に表れているかなと思ったのですけれども、せっかくの機会なので申し上げてしまいますと、憲法学の先生には不愉快だろうと思うのですが、行政法学者が非常に好んで使うフレーズで、「憲法は滅びても行政法は存続する」というのがあります。あの議論はもともとオットー=マイヤーが言ったような議論とはちょっと違うので、違うということはよくわかっているのですけれども、あのフレーズがずっと語り継がれてきているということは、そこに1つの何がしかの真実があって、それはつまり憲法というのは基本的な指針を定めているにとどまりますから、結局のところ具体化するのは法律なんですね。実定法の問題ということで、その点については憲法82条だって例外ではないはずで、したがってその82条を前提とした上で法律をつくるのは当たり前のことで、その点についてわざわざ論じておられるということは、つまり憲法が滅びても云々というフレーズが含意していた、今の行政法学者が非常にそこに思いを込めて言っている、憲法があって、統治構造といいますか、規範構造といいますか、憲法典と実定法の関係というものについての問題意識が多分行政法学者と憲法学者とで共有されていないのではないかという感じがするのです。
結論的には、営業秘密等々の場合について、非公開審理ができないという解釈論はあり得ないと私は考えておりまして、あとはどうやって正当化するか、きれいな理屈をつくるかということだと思うのですけれども、そうすると私は公序とか無理に入れるのも1つですし、あるいは例示だと言うのも1つだと思うのですけれども、もう一つそこに違う考え方といいましょうか、憲法典と法律の関係というか、もともと憲法典というのはそんなにすべての世の中に広がって直接適用されるものではないのではないかと思っていまして、だから非常に戸波先生の方の(2)の1項目を起こされているというのは、ある意味では違いを象徴しているといいますか、違和感を覚えるということでございます。
○長谷部教授 そこのところの考え方ですけれども、これは最初の飯村先生の御質問に対してお答えしたことと関係していると思うのですが、結局裁判の公開停止が合憲か違憲かというのは、結局具体的な適用場面の判断になってしまいます。ですから、これは法律ができるかどうかとはつまり関係のない話でして、法律のとおりにやっていて、公開停止すると、やはりこれは憲法違反だということがあり得るわけです。
ですから、最終的に個別の判断の場面で直接の憲法の問題というのが当然出てまいります。ですから、戸波先生がここでこういうことをあえておっしゃっているのは、だったら結局憲法を直接にいつも適用すればいいわけで、わざわざ法律の規定を設ける必要はないのではないかという議論が出てき得るのですが、そこはそれ、いろいろ実際上の考慮があるのであって、法律をつくることにも十分な意味があるという、それは議論を要するところだと思いますので、おそらく櫻井先生のお考えと、ちょっと議論がずれているところがあるのではないかというふうに考えております。
○戸波教授 私のはもう少し実際上の問題で、憲法と行政との関係という迂遠な議論ではなくて、1997年の民訴法改正の時に、裁判の公開の例外について、法律でもってあらかじめ、こういうような事由があった場合には裁判を非公開とできるという規定を設けたらいいのではないかという提案に対して、それは憲法違反ではないかという有力な意見が出たのです。つまり82条の条文を見ますと、裁判官がケースごとに非公開を決定するというふうに書いてありますから、その決定権を奪うことにならないかという有力な反対が出ました。
それとの関係で、そうではなくて、やはりどういう場合に非公開にするかというのは、一定のきちんとしたルールで決めておいた方がいいのではないかということで、私はこの(2)を書いたので、そういう趣旨で御理解いただけたらというふうに思います。
○櫻井委員 わかりました。
○伊藤座長 時間の制約がございますが、戸波教授からは、具体的な論点といたしまして、事務局のメモにございます、「営業秘密に基づく事業活動の継続が困難になることが明らか」という要件がやや厳し過ぎるのではないかと、「事業活動に著しい支障が生ずることが明らか」というようなことでもいいのではないかというような御説明、御意見がございました。その辺りについては、何か御質問、あるいは御意見のある方いらっしゃいますでしょうか。
○阿部委員 私もこの事務局の要件を見せていただいた時に、全く同じことを感じたものですから。それでずっと自分でも「事業活動の継続が困難」ということと、「事業活動に著しい支障」というのを両方頭に置いた場合に、どのぐらい違うのかというのがだんだんよくわからなくなってきて、やはり著しい支障があると継続が困難になるのだろうなというふうに思って、もっと気が利いた言い方はないのかなと。こういう質問なのですけれども。
○中山委員 「事業活動の継続が困難」という意味ですが、会社の倒産までは要らないと思うのですけれども、「事業活動の継続が困難」というのは、どういうことなのでしょうか。小さい単位の事業活動という話だったら、いいかなという気もするのですけれども。
○近藤参事官 ここで事業活動と言っているのは、必ずしもその法人とか、事業を行っている事業活動全体のことを指しているわけではなくて、当該営業秘密に基づくもので、全体として倒産するような場面でなければいけませんということを意味しているわけではございません。
だから、当該営業秘密に基づく事業活動が、この営業秘密が明らかになることによって、継続していくことが困難になるということが明らかであるという趣旨でございます。
継続することが困難という意味がどういう意味なのかというのは、また更に問題になるのですが、物理的にこれができなくなるということだけを指しているわけではなくて、いろいろな諸事情から継続することが得策ではないということで、事実上やっていっても仕方がないということも含まれるという、ある程度主観的なものも入ってくるのではないかと思っております。
必ずしも非常に客観的な表現で全部理解していただくと、非常に限定的になってしまうのですけれども、そこまで、倒産することが明らかな場合でなければいけないことを前提にしているわけではないということです。
○中山委員 もちろん、倒産ではないと私も思っていたのですけれども、例えば顧客名簿などを持って行かれても、持って行かれてしまった方も普通は営業しているわけですね。だから営業しているが、損害はあるという場合はどうなるのでしょうか。そのときは事業活動が困難と言えるのでしょうか。
つまりそこのところの雰囲気が、事業活動の困難と対案との境目だと思うのですけれども。営業秘密を盗まれても、事業活動ができなくなってしまうというのは少ないのではないかと思うのです。
○近藤参事官 先ほど言ったような主観的な面までも含まれるという考え方を前提にすると、営業秘密が明らかな場合と、そうでない場合を比べて、それが主観的に困難になるというふうに思われることが明らかだということであれば、そういう顧客名簿等の場合も、これは含まれ得るということが解釈されるのかなと。
なお、この文言については、今、御意見をいただきましたので、ちょっと事務局内部でも検討をさせていただきたいと思います。
○阿部委員 私の感じでは、著しい損害を被るという感じですね。どっちかというと。
○飯村委員 今の点、戸波先生のお話に関連しますが、1997年ごろの考え方では、裁判の公開を停止するような場合、憲法82条に違反するという意見がありましたということですが、そのころの一般的な学界の多くの方の考え方と今とは、大分状況が変わってきているのでしょうか。
○戸波教授 率直に言いまして、憲法学者で82条の裁判の公開と例外について、一生懸命にやっているという方は多くない。ですから、昔の通説はこうで、それがこう変わったというのはなかなか言えないというのが1つです。
それから、基本的には、余り違った考え方が出てきて、それが注目されているというわけでもないですから、余り変わっていないのではないかという気がします。
○飯村委員 例えば、裁判を公開しないことができるという規定、特定の要件の下では、裁判を公開しないことができるという規定を設けた場合に、その立法が82条2項に反するかどうかという観点に関連する質問ですが、裁判官は、自ら判断して、特定の法律の要件以外でも裁判の公開を停止するということができるという考え方なのですか。
○戸波教授 ただ、82条そのものは、憲法学者もそうですけれども、条文もそうですけれども、基本はやはり公開原則なのですね。82条2項で、それが非公開の例外を定めてありますから、やはり公開原則なのです。私の今日の議論というのは、少し逆転しているところがあるから、その意味では憲法学説の一般的な議論とは私自身思っていなくて、かなり今日思い切ったことを言ったという感じです。82条の解釈としてはやはり原則公開で、それが制度目的であろうが、手段的なものであろうが、やはり公開が原則で、特別な理由があるときには非公開とするという構造だと思うのです。そういうものとして解釈いただければと思います。
○近藤参事官 今の確認をしておきたいのですけれども、こういう形で裁判を公開しないで行うことができるという条文があって、これは条文としてつくった場合には、特許とか不正競争ということを前提にしてこれをつくりましょうという条文だと思うのです。
そうすると、知財の関係でそれ以外の場面で問題となり得る場面というのは、個別の事案では出てくることがあり得ると思うのです。その場合は、憲法の解釈から直接に非公開をするということは当然あるというふうに理解しているのですが、それはそれでよろしいですか。
○戸波教授 いいと思うのですけれども、82条2項がそういう構造になっていて、原理的には裁判官が非公開の決定をするということになっていますから、法律でもってある要件を決めて、その場合にはできるというのと違って、裁判官の非公開決定でできるという余地が残っていると思うのです。
○中山委員 先ほど荒井委員のおっしゃった国際性の問題ですけれども、実はこの問題を議論するときに余り出てこないけれども、荒井委員と同じく私は極めて重要だと考えています。10年ほど前に不正競争防止法の中に営業秘密が入った時に、裁判の公開の問題も入れようかという議論もあったけれども、反対があって入れられなかったわけです。そのときに、日本の不正競争防止法の改正を記念して国際シンポジウムをやって、私が状況を説明したら、アメリカの法律家から、自分は日本国憲法を読んだことがないけれども、そんな憲法があるはずないと言われました。その心は、そんなことでは日本の訴訟はできないのではないか、日本はちゃんとした裁判をやれるのかという、多分そういうことを言いたかったのだと思うのです。
そういう観点からすると、国際性というのは極めて大事ですけれども、憲法の文言は公序良俗とあるだけです。国際性という問題を公序良俗という中に織り込んで解釈することができるのか、できればどういうふうに考えたらいいのかという問題です。あまり書いていないと思うのですけれども、その点はどうでしょうか。
○長谷部教授 憲法の言葉どおりにやって、すぱっと正解が出てくれば、だれも困らないわけで、そういうときに憲法解釈というのは必要だということだと思うのです。ですから、元も子もない話ですけれども、やはり少なくとも我々はアベイラブルな武器は限られていると思います。
戸波先生から幾つかの解決策が提示されておりますが、その中でどれを選ぶかということになりますと、公序概念を柔軟に考えていくしかあり得ないのではないかと考えております。
○中山委員 つまり言いたいのは、例えば同じ事件が国際的にあちこちで起きるというときに、日本だけぽこんと穴が開いて裁判で秘密が漏れると困る、そこで公序概念に入るか。つまりそれも適正な裁判という概念でとらえることができるのか、いや日本国憲法は日本だけだから、そんなのは関係ないというのか。
○長谷部教授 国際性といっても、いろいろなレベルがありますので、ほかの国でやっているのとちょっと不整合が起きたというだけでいいのかどうか、そういうことがあると思います。やはりそこは、これがないと国際的な事業の展開の中で、到底それではやっていけませんよという、そういう本当にベーシックな条件に欠けているということになりますと、そこは公序の中で考えていくということは当然あり得るのかなとは思います。
○戸波教授 私はむしろ、私の立論ですと公序を広げざるを得ないと思うのです。やはり特許訴訟だとか、知財訴訟というのが国際性があって、公共的な公正な競争を確保する、それが公序だというふうに言うのであれば、国際的な観点というのも当然入ってくると思うのです。ただ、それが本来の憲法解釈で、82条が公開が原則で、82条2項の例外が決められているという解釈からすると、広がっていることは事実ですから、今のように公序を広げないで、例えば国際人権規約や何かを参照しながら、別の立論でいくというのも、櫻井先生が言われたように、私はあり得ると思うのですけれども、でも公序に入れた方が憲法解釈としては条文に沿っているかなという気はします。
○荒井委員 戸波先生のメモは、裁判の公開の原則が、近代的な司法制度の発展過程の基本となったとありますが、そうやって基本的なものが、どうして日本のだけ固くなって、ほかの国ではそんなことはないのかとお伺いしたい。
それから、刑事法分野と民事法分野ではこの公開に対する要請が違うと思います。もちろん、憲法の解釈も違っているわけです。そういうときに例えば当事者がこの営業秘密を漏らすと困ると言っているときに、漏れてもしょうがないということを言うメリットは何だろうかというのがよくわかりません。そんなに秘密を保護してやらなくてもいいのではないかというのは、どんな観点から出てくるのか、教えてください。
むしろ国全体の健全な発展を考えると、当然必要なものは保護した方がいいし、それからもちろん裁判は公開という原則の下に、あとは例外として非公開でやるときに、そんなにこの条文条文とおっしゃっているメリットが、どんな点にあるのかなと思いまして、質問しました。
○戸波教授 私は、基本的には条文を離れて、かなり柔軟に解釈する立場です。だから、おそらく少数説だと思います。基本はやはり公開だと、普通の学説はそう考えているのではないかと思います。学説自体、余り考えられてきていないという感じがするのですね。
○長谷部教授 最近はいろいろな人が考えて、拳法界の流れも私や戸波先生のような考え方になってきているというのが私の認識でございます。
○戸波教授 それから、さっきの公開原則の転換というのがあると思うのです。それが実は民事訴訟法全体が被っている問題で、例えば当事者主義や口頭弁論中心主義でという原則がだんだん実際上形骸化してきているという流れもありますから、公開原則だけではないのではないかという気はするのです。
○伊藤座長 どうもありがとうございました。憲法学界を代表するお二人の御発言ですから、決して少数ではないと思いますが。
○末吉委員 どうも伺っていると、訴訟類型を事務局案では限定をしているのですね、例えば特許権侵害訴訟とか、営業秘密侵害訴訟とか。先生方の御意見を伺っていると、例えば営業秘密が問題となる訴訟であれば、すべて合憲と判断する余地があるのか、あるいは、やはりそこに訴訟類型を限定することは前提要件になるのでしょうか。
○戸波教授 私はならないと思います。どこかに書きましたように、訴訟一般についてなり得ると思うのですけれども、やはり一歩一歩確実にやっていくというのが事務局案のようで、それも1つの。
○末吉委員 そこは立法政策の問題だということですね。
○戸波教授 そうですね。
○末吉委員 長谷部さんの御意見だと、合憲性を支える事実になるのでしょうか、訴訟類型の限定というのも。
○長谷部教授 これは、ちょっと繰り返しになってしまうかもしれませんが、最終的にはこれは個別の適用場面における合憲性の判断の問題でありまして、そういう意味で、立法をつくるかどうかというのはむしろ二次的な話で、いかにしてその立法のとおりに従ってやればほとんどの場合に合憲的な適用になるというような仕組みになっているかどうかということであって、末吉先生のお話との関連では、これ以外の場合でももちろん公開停止にして合憲だという場合も当然あり得るということだと思います。
○伊藤座長 それでは、まだ御質問、御意見あるかと思いますけれども、大分時間が予定より過ぎておりますので、このぐらいにしたいと思います。
長谷部先生、戸波先生、御多忙のところ大変貴重な御意見をちょうだいいたしまして、誠にありがとうございました。心からお礼を申し上げます。
それでは、ここで15分ほど休憩を取りたいと思います。
(長谷部教授・戸波教授退室)
(休 憩)
【侵害訴訟と無効審判の関係等について】
○伊藤座長 それでは、本日2つ目の議題であります、「侵害訴訟と無効審判の関係等について」の第3巡目の検討に移りたいと存じます。
初めに、事務局から資料6に基づいて説明をお願いします。
○近藤参事官 資料6の1ページ目の「議論の方向性」のところを見ていただきたいと思いますが、3点指摘させていただいております。
具体的には、1番目として紛争の合理的解決の観点からは、侵害訴訟と無効審判の役割分担にも配慮しつつ、侵害訴訟においても一定の場合に特許の有効性に関する主張・判断をできることとすることについて、どのように考えるか。
2点目としまして、その場合には、侵害訴訟における無効判断と無効審判の判断との齟齬防止、審理の迅速性の確保等の観点から、どのような方策を採用すべきか。
3点目としまして、侵害訴訟における特許無効の主張に対する権利者の防御手段は、どのように確保すべきか。
続いて、2ページ目から、今、御説明した議論の方向性の1から3に対応する形で、甲案から丙案までの3つの具体案を提示しております。
これらの3つの案においては、侵害訴訟中の無効判断は相対効となっております。
まず甲案ですが、この案の主な特徴は明白性要件を撤廃して、無効理由の存否を判断することとしているとともに、侵害訴訟係属中は訴訟当事者による無効審判請求を遮断している点です。
具体的には、1として、侵害訴訟における特許が特許法の第123 条1項の各号の一に該当する旨の抗弁が主張されたときは、裁判所は明白性の要件なくして、これを判断することとし、その主張に理由があると認められるときは、差止請求・損害賠償請求等の権利行使を認めない。
2番目として、侵害訴訟係属中は非権利者当事者による無効審判の請求は認めない。
3番目として、侵害裁判所において訂正の主張をできるようにする。
(注1)では、他の乙案、丙案においても共通する考え方としまして、出願公開に伴う補償金請求権についても、権利行使を認めないこととするという考え方について紹介しています。
また(注3)としては、侵害訴訟において訂正の主張を認める代わりに、特許庁に対し、訂正審判を請求することで対応することとしてもやむを得ないとの意見もあったことを紹介しております。
続いて、乙案ですが、明白性要件を撤廃して、無効理由の存否を判断することとしている点で甲案と同様ですが、この案の特徴は侵害訴訟係属中の訴訟当事者による無効審判請求を制限することなく、請求のあった無効審判を早期審理の対象とすることとしている点です。
具体的には、1として、侵害訴訟において、特許が特許法123 条第1項の各号の事由のいずれかに該当することを理由として、権利濫用である旨の抗弁が主張されたときは、裁判所は特別の事情のある場合を除き、明白性の要件なくしてこれを判断することとし、その主張に理由があると認められるときは、差止請求・損害賠償請求等の権利行使を認めない。
2として、対世的な無効を求める当事者の無効審判請求は制限しないが、侵害訴訟係属中に非権利者側当事者から請求があった無効審判については、早期審判の対象として、判断齟齬を防止する。また、無効審判を審理する審判合議体が侵害訴訟における特許無効に関する主張・立証の内容を入手できるようにする等、両者の進行調整を充実させる。
3として、特許庁においても訂正審判を請求する現行法の下で、侵害訴訟係属中に訴訟当事者から請求があった訂正審判については、早期審理の対象として権利者の防御を図る。
また(注1)として、無効事由そのものではなく、権利濫用の事由が抗弁の内容となることとして、例えば「提訴時に現に係属し又は提訴後に請求される無効審判により特許が無効とされるものと認められること」等を要件とすることも考えられることを指摘させていただいております。
(注3)として、訴訟遅延を目的とする濫用的な権利行使阻止抗弁が提出された場合に、これを却下できるようにする。あるいは、そのような抗弁の提出を「特別の事情」に含ませて、権利行使阻止抗弁を機能しなくさせるような手当ても考えられることを挙げております。
最後に丙案ですが、これは明らか要件を維持しつつ、特許の無効理由の存在を理由とする権利濫用の抗弁を認めることとするものです。この丙案は、キルビー判決の最高裁判決を条文化したというふうに考えられますが、丙案の2と3において、乙案と同じような手当てを施すということで、現状よりもよりよいものにしようという趣旨でございます。
次に5ページからは、今、御説明した3つの具体案について、御議論いただく際に考慮すべき論点を挙げております。
1番目の「明白性要件の意義」のところですが、まずキルビー判決において要求している明白性の要件は何のために必要であるのか。
特に一番下の、キルビー判決の判示内容を変更し、仮に明白性要件を撤廃して権利行使阻止抗弁を認めることとした場合の、訴訟当事者の利益・不利益についてどう考えるか。
なお、キルビー判決の最高裁判所判例解説では、無効理由が存在することが明らかな特許権の行使は、衡平を欠くものであるが、単に特許登録要件を欠くというだけで、権限ある行政庁の判断を経ることなく、特許権の行使を許さないとすることは、逆に特許権者にとって不利益である旨の指摘がされております。
2の、理論的、実務的な観点というところで、①として書かれているところは、行政と司法の権限の区分として、特許権が行政庁の公定力ある行政処分により付与され、その無効は特許庁自らの審判のみによって対世的に確定される制度の構造の下で、有効なものとして存続している特許権に基づく侵害訴訟における判断事項は、法律上特許庁の専権事項である特許の有効・無効そのものではありえず、権利阻止抗弁として権利濫用を基礎付ける別の事実(例えば、特許が無効であることが明らかであること等)でなければならないという考え方について、どのように考えるか。
②として、仮に明白性の要件なしに被告が特許無効の抗弁を主張できることとなると、真に有効な特許権を侵害された特許権者としては、有効な特許権に基づいて権利侵害の排除、又は被害回復のために訴訟を提起しているにもかかわらず、侵害者の主張するすべての無効事由に対して、相当の労力と費用を費やして、相応の反論と反証を尽くさない限り権利を実現できないことになり、特許権者と侵害者との間の衡平を損なうとともに、審理の大幅な遅延をもたらす結果を来すとの考え方について、どのように考えるか。
③として、他方仮に明白性要件の存在を前提として、特許無効の抗弁を主張できることとした場合、対世的な無効まで求めない当事者が安全を見込んで、結局特許無効審判を請求せざるを得ない不利益について、どのように考えるか。
ちょっと飛ばしまして、3の仮に明白性要件を撤廃する場合の別途の手当てについてという部分ですが、明白性要件を撤廃した場合の手当てを別途設ける必要性について、以下のような意見が出されているがどう考えるか。
①として、要件撤廃による安全弁が必要であり、その安全弁として、裁判所で扱いきれない無効判断を無効審判で行うことがよいのではないか。
②として、合理的な訴訟遂行を行う当事者ばかりでないことから、遅い段階で20も30も無効理由を挙げる者に対しては、時機に後れたものとして手続法的に対処することも必要ではないか。
③として、特許庁と裁判所との間で判断の齟齬が生じ、事後処理が大変になる。
④として、明白性要件を撤廃すると、原告・被告間のバランスを欠き、非権利者側が強くなり過ぎ、権利者側にとって酷になるのではないか。権利者側はそのような多くの無効理由について、全部逐一反論を加えなければ救済されないということになると、権利者と非権利者の新たなアンバランスを呼ぶ。
これらの意見を踏まえて、どのようなことを考えるかということで、最初の○としては、上記①の意見に対しては、裁判所は、無効審判の請求を促し、早期審理に対応することはどうか。
それから、上記②④の意見に対して、訴訟遅延等を目的とする濫用的な権利行使阻止抗弁が提出された場合には、これを却下できるようにすることはどうか。あるいは、そのような抗弁が提出されたことを、「特別の事情」に含ませて、権利行使阻止抗弁を機能しなくさせることはどうか。
上記③の意見に対しては、侵害訴訟が係属している無効審判を早期審理の対象とすることで対応することはどうか。両者の判断が齟齬するおそれがあると認められるときは、裁判所は裁量で訴訟手続を中止することはどうか。さらに、侵害訴訟と並行する無効審判を審理する審判合議体が侵害訴訟における特許無効に関する主張・立証の内容を入手できるようにすることはどうか。
4として、「特別の事情」による抗弁の否定というところですが、訂正審判又は無効審判における訂正請求によって、侵害訴訟における無効判断と無効審判等のおける判断の基礎となる特許請求の範囲が異なってしまう場合等「特別の事情」がある場合には、適正判断の確保・侵害訴訟の早期解決・事案の合理的な解決の観点から、権利行使阻止抗弁を認めないこととすることはどうか。
濫用的な権利行使阻止抗弁が提出された場合も含めることができるか。ということを指摘させていただいております。
5として、紛争の一回的解決ないし合理的解決に当たり考慮すべき事項として記載されているところとしては、2つ目のポツの無効審判の請求を遮断することについては、一回的解決を重視すると、無効審判の請求の遮断は必要である、というような肯定的な意見がある一方で、無効審判制度の存続を前提とすると、特許の無効について対世効を求める当事者に対して無効審判の請求を一時的にせよ制限することは、裁判を受ける権利との関係で問題ではないかとの指摘もある。
さらには、無効審判の請求を遮断した場合の効果を疑問視する以下の①②のような意見があるが、どう考えるか。無効審判の請求を遮断した場合の問題を解決する方途はあるか。かえって無効審判の請求があり得ることを前提にこれを積極的に活用することを考える余地はないか。
①としては、無効審判請求を遮断するとダミー請求をかえって誘発するのではないか。無効審判を遮断しない方が、結果的には裁判所と特許庁との間の情報交換により円満な紛争解決ができるのではないか。
②としては、無効審判を遮断するもののダミー請求があるとすると、なかなか和解ができないのではないかという指摘でございます。
6としまして、無効判断の実質的効力を担保するための手当てとしまして、そこで書かせていただいているのは、裁判所又は特許庁のホームページの活用。判決について特許番号の情報を付加し、ホームページにおいて特許番号に基づいて該当判決を検索できるようにするということはどうか。
7として、訴訟と審判における判断相互の関係ですが、侵害訴訟における権利阻止抗弁の主張についての裁判所の判断と無効審判の請求についての判断との間に齟齬が生じた場合における再審等の規定の要否についてどのように考えるか。
8として、特許以外の知的財産権の取扱い、これまで特許侵害訴訟を中心にして議論しておりますが、特許以外の実用新案権・意匠権・商標権の侵害訴訟においても、特許権に関する権利阻止抗弁と同様に、登録無効事由の存在等を理由とする権利濫用等の抗弁を認めることとする必要はあるか。
以上です。
○伊藤座長 それでは、ただいま事務局から説明がございました、侵害訴訟と無効審判の関係等について、御意見、御質問をお願いしたいと存じます。ただいま説明がありましたが、5ページ以降の考慮すべき論点について御配慮いただきながら、具体的に甲案、乙案、丙案のいずれが最も合理的かといったことにつきましても、御発言いただければと存じます。
○加藤委員 私としては、基本的に甲案を支持したいと思います。乙案との関係についてはまた別途後で述べますが、まず甲案において特に重要な第2項、非権利者当事者による無効審判の請求は認めない。つまり無効審判の遮断をすることは、やはり紛争の一回的解決ということを第1目的として考えた場合については、こうせざるを得ないのではないかと考えます。
なお、ダミー請求との関係においては、非権利者当事者のみならず、当該非権利者当事者が第三者をして請求させることも認めないというような形にしたらいかがかなと思います。ただし、この場合は立証可能性等の問題が若干残りますので、少し考える必要はあろうかとは思います。
それから、甲案第3項の侵害裁判所において訂正の主張をできるようにするという点については、これを希望するものでありますが、前回も出させていただいたとおり、特許付与が行政処分という性格を考えた場合に、特許庁において訂正審判によるとなることについては、やむを得ないという考え方を持っております。
なお、乙案との関係でございますが、乙案第2項、第3項に言っている、同一対象特許について無効審判請求が係っていた場合については、早期審理の対象とするとか、特許庁及び裁判所の進行調整を充実するとか、あるいは訂正審判について早期審理の対象とするという点については、これは否定するものではなく、むしろ支持するものであります。つまりいかなる甲案、乙案、あるいは丙案が選ばれたとしても、こういった早期審理型の促進というのは、必要になってくるものではないかと考えます。つまり本来の利害関係人が既に無効審判を請求してきた場合ですとか、侵害訴訟を提起する直前に非権利者当事者が無効審判を請求してきた場合については、仮に無効審判を遮断したところでこういった早期審理の促進というのはいずれにしろ必要になることではないかと考えます。
そういった意味で、甲案を基本的に支持したいという意見でございます。
○中山委員 今の御意見について内容的にお伺いしたいのですけれども、裁判で無効の主張が出ると、訂正は特許庁にもっていくわけですね。その限りでは並行してやってもらうということですか、その場合は裁判は停止するのでしょうか。訂正審判の審決が確定するのを待って、そしてまた改めて前の無効と違う無効を言うということになるのでしょうか。
○加藤委員 訂正主張がされた場合については、ここは一旦特許庁へ行かざるを得ないということまではわかりましたということを言っているのです。
○中山委員 そうすると、一回的解決の趣旨からすると、同じようなことになるのではないかという質問です。
○加藤委員 ですから、侵害裁判所において訂正主張ができるのは、一回的解決が当然望ましいわけですけれども、訂正の問題の大きさ、性格からして、これはどうしようもないじゃないですかという意味で、無効で争う点については、侵害訴訟の方で一本化したらどうかという意味合いでございます。
つまり、紛争の一回的解決を基本にするために、やはりできる範囲では無効審判を遮断することはできるのではないかと。ただし、訂正を主張して、訂正を実際にかけるという点については、侵害裁判所ではやりようがないので、そこはあきらめますという考え方でございます。
○阿部委員 もう一つ、失礼ですけれども、加藤さんに。その場合に訂正の主張だけをしますと、特許庁では対審構造にはならないだろうと思います。無効の審判をやって、その後訂正をやれば対審構造で、そうするとやはり自分も入れろというふうに言いたいのだろうと思うのです、一回的解決と言っているから。そうすると、無効審判がまず前提にないと、対審構造にならなくなってしまうので、そこがどうなってしまうのかが若干気になるところなのですけれども。
○中山委員 それを聞きたかったわけです。訂正しますよね。そうすると、またそれについて裁判の方に戻って、裁判でまた新たな無効の主張をすると、それでまた訂正をする、そしてまた訂正審判を提起するという、かえって時間がかかるのではないかと、その辺を聞きたかったわけです。だから、一回と決めてやるならもう訂正審判なんかやめてしまうという以外にないのではないか。それがやめられないのなら、一回的解決というのは可能かなということを聞きたかったわけです。だから、阿部委員と同じ趣旨の質問なのですけれども。
○飯村委員 加藤委員に対する質問です。甲案の2では、非権利者による無効審判の請求を認めないのですが、これは侵害訴訟係属中はという期間的な限定が付いています。そこで、非権利者が、侵害訴訟において、無効の主張が通らなかった場合には、侵害訴訟が終わった後においては、更に無効審判請求を起こせることになりますが、そうすると究極的な紛争の一回的解決の実現等の目的には沿ってないのではないかという気がするのですが、その点はいかがでしょうか。
○加藤委員 飯村委員の御質問のポイントは、非権利者当事者が侵害訴訟において負けたケースということですか。
○飯村委員 負けたケースにおいては、より鮮明に出てくるという意味で質問しました。
○加藤委員 基本的には、多分非権利者当事者が勝ったケースについて、侵害訴訟終了後無効審判がかかるということは、余り多くないのではないかと思います。したがって、負けたケースを想定して考えますと、多分侵害訴訟係属中というのは一審なり二審なり進んで、それで決着が付いた場合だと思います。そこで、それでも納得いかないということで、無効審判請求というのはあり得るとは思いますけれども、ケースとしては非常に少ないのではないかと。したがって、そこまでは考慮しておりません。
ケースとしては、もちろん侵害訴訟係属中でしか無効審判の遮断はできないという前提に立っておりますので、終わった後無効審判を再度請求して蒸し返してひっくり返る可能性はやむを得ないと考えてございます。
○伊藤座長 加藤委員への御質問が相次いでいるようですが、加藤委員もちろんお答えになっていただくのは結構ですが、それぞれ皆さんの支持されるお考えを述べていただくのがいいのではないかと思いますので、どうぞその点御配慮いただいてお願いします。
○小林委員 甲案、乙案、丙案の3つのうちの選択という観点からいいますと、乙案が一番合理的ではないかと思っております。
1点目の、明らか要件につきましては、以前までの会合で申し上げたとおり、侵害訴訟が係属したときには、有効・無効の論点だけではなく、ほかの論点も含めて全体的に解決するというのが、制度としては合理的なのではないかと思います。
議論になっていました、2.の無効審判の請求を遮断することの是非につきましては、何点かコメントさせていただきたいのですけれども、まず第1に前回までの議論の中で、無効審判制度と侵害訴訟中の無効判断というのは、制度としては全く別物だという理解で議論が進んできていると思いますけれども、そうだとすると特許等の無効につきましては、無効審判制度が基本型だと思っておりまして、少なくとも侵害訴訟が起きていないときには無効審判を使うことになると思います。
侵害訴訟中の無効判断について、拡充すべきだとしても、これはあくまでも補助的なものにとどまるのではないかと考えております。
それぞれの制度によって、それぞれのメリット、特徴があるわけですから、必ずそこはニーズがあるということで、それを強引に1つにするのは、かなり無理があるのではないかと考えております。
2点目としましては、非権利者側の訴訟当事者と権利者との間の利益のバランスということでございますけれども、非権利者側の訴訟当事者は、今の遮断の案でいきますと、侵害訴訟が提起されると突然に侵害訴訟中の無効判断しか求められないということになって、無効審判制度を利用することができなくなるということになると思いますけれども、そうしますと無効審判制度の特徴である対世効であるとか、職権審理、あるいは訂正請求についての反論の機会、また、現在訂正審判が行われると、それに対する反論ということで無効審判がその後すぐに行われることがありますけれども、そういった形での制度の利用ができなくなると思います。
そもそも翻って考えてみますと、特許権者が侵害訴訟を起こしたという事情はあるのですけれども、だからといっていきなり非権利者側当事者の攻撃機会が、それでもって制限されなければならないという理由はないだろうと思うのです。攻撃の数の観点から見ますと、通常の場合には無効審判請求が2件以上されることはあり得るわけですから、侵害訴訟が係属したことだけをもって、そのときには無効審判が請求できなくなる、そういうふうにしなければならないという合理的な理由はないだろうと思うのです。
確かに、真に権利が有効で、かつ真の侵害者を訴えているケースというのは、特許権者にとって有利に扱ってあげたいという気持ちはわかるのですけれども、ただそれは訴訟の結果明らかになることであって、最初からそこはわからない、ひょっとしたら無効の理由を含む権利でもって、侵害ではない人を訴えているという可能性もないわけではないですから、単に侵害訴訟を起こしたからというだけで、そのような取扱いをしていい理由はないだろうと思います。
それから、そういう考慮があったかどうかわかりませんが、ほかの国でも一般論からいけば、対世効を持つ無効判断というのは、常に侵害訴訟中の抗弁とは別に認めているのが国際相場だろうと思います。
3点目としましては、これは先ほど飯村委員の方から御指摘のあった点ですが、事前又は事後の無効審判請求というのが、どちらにしても増えてしまうのではないかと思うのです。事前と申しますのは、侵害訴訟が提起されれば反撃の手足を縛られるわけですから、当然警告書等のやり取りがあれば、その時点で無効審判を請求することが一番得だという話になって、かえって予防的な無効審判請求が増えてしまう。これは権利者にとっても必ずしも好ましいことではないと思います。事後的な無効審判というのは、侵害訴訟中で権利が有効だという判断が出た場合には、結局のところその侵害訴訟の係属が終われば、少なくとも無効審判を請求することができるようにしなければならないと思いますから、そうだとするとせっかく一回で解決できたはずのものが、あとから無効審判が請求されれば、その結論はどうなるかわからないわけですから、結局全体の解決が長引いてしまうという結果にもなりかねないというような不具合もあるかと思います。
4点目は、裁判所の体制ないしは運用との関係ですけれども、このペーパーの中でも明らか要件を撤廃する代わりのある種の安全弁として、裁判所が当事者に対して無効審判の請求を促す運用というのが提案されておりますけれども、ところが無効審判請求ができないとなってしまうと、そういう運用も取りようがないということになります。そういう運用を取ろうと思うケースというのは、無効審判請求させる方が適切だという事案だと思いますので、それを全くなしにしてしまうということは、かえって無効審判請求人だけではなくて、両当事者にとって不都合があるのではないかという感じがいたします。
ということで、審判請求の遮断につきましては、むしろしないでおいたままで、他方で明らか要件を取れば、そもそも念のための無効審判請求というのが減っていくと思いますし、それから仮にそれがあったとしても、ここで提案されているような無効審判の処理ですとか、あるいは諸情報の共有ですとかで対応できると思います。裁判所の方からの促しということで審判請求があるのかもしれませんが、中止等のことにつきましても触れられておりますとおり、裁判所が両フォーラムの判断が食い違う可能性があるという場合には、現行でも中止規定がございますし、中止しないまでも、別の争点を審理しておけば無効審判の審決が出るということも十分考えられるわけですから、そういった形で判断の齟齬を防止するということもあろうかと思います。
確かに、いわゆる二重対応負担の問題というのが、どうしても残る部分があるわけですけれども、通常の場合に無効審判の請求事件に対して対応する以上の負担が果たしてあるのだろうかという気もしますし、それから、一見2フォーラムであるので、二重対応負担のように思えますけれども、結局のところ争点自体が増えているわけではないと思いますから、形式的に2フォーラムであっても、同じ時期に両者の判断が出そろって、かつ多分侵害訴訟の方で無効審判の審決を見ながら、また新たな争点があり得るのかもしれませんが、そういうところも含めて一番合理的な解決をするというものになると思いますから、その限りにおいては形式的に2フォーラムであっても、必ずしも二重対応負担、あるいは紛争の一回的解決ではないということはないのではないかと考えます。
以上でございます。
○飯村委員 今、乙案がいいという理由を4点、ないし5点挙げられて、無効審判請求の方が主であってというのは、そのとおりだと思いますし、それから利益バランスの点もあり得ると思うのですが、3番目に挙げられた、もし甲案のように侵害係属中は非権利者からの無効審判請求を認めないということにすると、予防的無効審判請求が事前に出る、あるいは、事後に無効審判が出るということを言われたのですが、事後的に無効審判が出るというのは、乙案であっても不満な当事者は事後的に無効審判請求を起こすことになるので、乙案だからといってそれの防止にはつながらないと思いますが、その点はいかがでしょうか。
○小林委員 乙案と甲案が違いますのは、侵害訴訟の係属中に無効審判を請求することができるかどうか、訂正のところは除きますと、そういうことだと思いますので、その同時期といいますか、侵害訴訟が係属して無効審判を請求することができれば、両方の判断がその時点でもらえるわけですから、あえて事後的な無効審判を請求するということは多分ないと思います。
逆に同時係属時に無効審判が請求できないからこそ、後に不満を残すことになるのだろうと思いますし、事前についても同じだと思います。侵害訴訟が起きてから無効審判が請求できるのであれば、訴えられない可能性もあるものについてあえて予防的に無効審判を請求する人はいないと思いますから、その点でいいますと、どうしても不満が残る部分についてふたをしたとしても、どこかに歪みが出てきてしまうのではないか、ふたをしなければむしろそれは出てこないのではないかという考え方です。
○飯村委員 御説明はわかりました。どうもありがとうございました。
○阿部委員 私は大分迷っているのですけれども、乙案が妥当ではないかというふうに思っております。私の背後にいる多くの企業からは、甲案のような主張を期待されているのですけれども、ただ甲案を主張する前提は、今度新しくできた新無効審判制度をもう一回元に戻してというか、当事者適格を利害関係者に限ったらどうかという前提が付いているのと、もう一つは、訂正については、対審構造でやるべきだと。一回的解決の中での訂正ですから。
そうしますと、実務的にはやはり特許庁に戻してやるとすれば、やはり無効を前提としてやるしかないのではないかということは、結論的には乙案のようなものになってしまうのではないかというふうに思いまして、乙案が妥当だと思っております。
○末吉委員 2読目の時に、私の私見として乙案を述べたのですが、今回3読に当たりまして、日弁連の意見を集約してまいりまして、ほぼ乙案でお願いをしたいという形になりました。
いろんな議論があったわけですが、やはりダミー請求というものについては、なかなか回避ができないのではないかということなどを踏まえて、乙案の方がベターであると。
それから、実際問題として進行調整であるとか、早期審理が今以上に活性化するということになれば、かなりダブルトラックであっても公正な審理になるのではないかと言う意見が多数でございました。
ただ、進行調整や早期審理に関して、できれば立法による制度化を是非お願いしたい。なかなか難しい面もあるかもしれませんが。そういう意見がかなりありました。
○飯村委員 早期審理に関しての立法は、イメージとしてはどういうことを考えておられるのでしょうか。
○末吉委員 訴訟が係属した場合の審理目標のようなものが入っていればよろしいと思います。
○飯村委員 進行調整のための早期審理でしょうか。
○末吉委員 進行調整と早期審理は、一応別々に制度としてあり得るのではないかということが前提なのですが。
○飯村委員 立法化の対象としては、進行調整と早期審理の両方という意味ですか。
○末吉委員 そうです。
○飯村委員 早期審理は、侵害訴訟が提起されたときの問題になるのかもしれません。進行調整としてのイメージは、現行法上もあるわけですが、それに加えて何か特別のことをお考えなのでしょうか。
○末吉委員 侵害訴訟が起こった場合についての進行調整についても、立法整備ということではないかと思います。進行調整はそれ以外にもあろうかと思いますけれども、特にこの乙案に敷衍して、もう少し制度化を考えていただきたい。いろいろ考えてみると難しい問題があるのではないかということが前提でありますけれども。
○小林委員 今の早期審理のところだけ、無効審判の早期審理のことをおっしゃったと思うので、特許庁の方からコメントを出させていただいた方がいいと思うので、発言をさせていただきます。
前回会合までに無効審判全体、とりわけその中でも侵害訴訟と同時係属した場合の無効審判が特に重要かと思いますけれども、これにつきましては現行の審理期間を更に短縮して、当然のことながらできるだけ優先的に審理することが実現できるような体制を検討しておりますということは、何回か申し上げたとおりでございます。
他方、そのような運用をすることを、法制化という手段で確保するべきかという点につきましては、仮に例えば何か月以内ということを規定で置いたとしますと、硬直的な面が出てくるのではないかということを一番危惧しております。
もちろん早くすることは重要ですし、早くするつもりですけれども、当事者の主張をさせないわけにはいかないので、事案によって当然長いものも短いものも出てきてしまうということもありますので、この点でいうとある種硬直的な手で書いたところで、実際上余り意味がないのではないかという気がしております。
また、今飯村委員がおっしゃったことと関係いたしますけれども、無効審判が何か月ということだけでは実は余り意味がなくて、他方で、判断の齟齬があり得る場合には訴訟を中止するなり、あるいは審理の進行を調整するということがセットでないと、全体は回らないわけで、そこまで全部確定するつもりならお話はあるのかもしれませんけれども、そうではない部分があると思いますので、法制化について直ちにこの場で特許庁として賛成するわけにはいかない立場でございます。
○荒井委員 私の意見は結論から申し上げると、甲案の1と2、それから乙案の3、これを組み合わせたものがいいのではないかと思っております。侵害訴訟と無効審判の、できるだけ一回的解決に近づけるという趣旨から、甲案の1と2、それから乙案の3だと思っております。
○櫻井委員 今の荒井さんの意見に反対するわけではないのですけれども、まずこの論点、一回的解決という話自体が、基本的に問題の立て方の筋が悪いと思います。それはなぜかというと、無効審判と侵害訴訟の両方、異質の手続があるわけですから、そもそも違うものが同化するということはあり得ない話で、できないことをやれという話になっていると思います。
ですので、そういう観点からしますと、まず甲案というのは、侵害訴訟の中で無効の抗弁をストレートに認めていくという話ですので、これは理論的にも受け入れられないと思っております。
もし甲案を産業界の方がお考えになるのだったら、甲案でいくのであれば、これはもう侵害訴訟だけではなく、無効審判もセットでこの論点を議論しないといけませんので、そうすると議論の対象が司法制度ではなくて、行政改革、特許庁改革みたいなところまで入らないとだめなんですね。だから、この事務局では荷が重いというか、別の場をちゃんと設定して、両方で議論するというふうにしないと、本来できないことを要求しておられると思っておりますので、そういう点で甲案というのは採用できないと考えます。
それから、丙案ですけれども、これはキルビー判決をそのまま明文化するという話で、いかにも芸がないなというのが1つと。それから、判例上の要件というのと、明文化したときの意味というのは違ってくるわけで、明文化した途端に独立した要件になりますから、独立した要件解釈の対象になるわけですね。したがいまして、かえってそれでは同じことを載せたつもりで違う話になりかねないということで、また別の想定してないような紛争が起きてくるのではないかと考えております。
消去法というわけでもないのですが、結局キルビー判決をどう理解するかということでもあるのですが、これは配られている飯村さんの資料にも書いてありますけれども、要するにこの最高裁判決は、権利濫用という理屈の中で妥当な解決を図るということでありますから、2本立ての話に全然踏み込んでいないわけです。だから、理論的にはきれいにできているわけです。きれいにできているけれども、中途半端なところがあるので混乱が生じているわけですけれども、そういうことですので、そうするとキルビー判決の趣旨を善解する形で法文化するということになりますと、この3つの案の中では乙案にせざるを得ないのではないかと思っております。
乙案の中の1ですけれども、権利濫用である旨の抗弁となっていて、これは別にいいと思うのですが、(注1)がございますが、その主張の内容、例えばということで権利濫用に引き付けた形の抗弁にするということでしょうか。そういう形の方が、おそらく趣旨に合っているので、よりよろしいのではないか、文言とか要件をもう少しまた詰められたらいいのではないかと思います。
それから、これは質問になるのですが、1のところで明白性の要件なくしてということで、これを取ってしまうわけですが、明白性の要件は独立した意味があるわけではないので、結局制度設計の中でどういう位置づけになるかということだと思うのですけれども、これを取ってしまうというのはどういう意味合いなんでしょうか。権利濫用の抗弁の中に読み込めるということなのか、あるいは特別の事情の中に読み込めるということであれば、なくてもいいのかなとも思うのですが、そうではないとすると、あるという選択肢もあるかなという気がしております。これは質問でございます。
○近藤参事官 甲・乙・丙、この案そのものは、いわば実質を議論していただこうということで、必ずしも条文がどういう形になるかということではございません。
従来、明白性ということが議論になっていたので、それを表からこういう形で書いた方が、実質がわかりやすいだろうということで、こう示させていただいております。
その明白性が、最終的な条文で、明白性なくしてというのが残るのか、ほかのところの特別の事情の中に入ってくるのかとか、それからこの乙案でいきますと(注3)のところで、明白性が担保している1つのものとして、こういう濫用的なものを判断しなくていいよというのが、明白性が果たした役割ではないかというふうに言われているところですけれども、そういうものについては別に規定を設けるとか、特別の事情の中に入れていくとか、いろんなことがあり得ると思うのですが、ここで書かれているのは明白性の要件というものを条文として残しておこうとか、そういうことでは一切ございません。
(注1)との関係でいいますと、条文化するに当たって、明白性なくしてということが今までずっと議論になっていたものですから、規定ぶりとしてはどういうことになってくるのか。無効事由ということを全面的に出せるのか出せないのかということも、本来的な筋とした場合に、特許の場合は無効審判のところで判断されるというのが本来的な筋だということが、法文の上でも明らかにしなければいけないのかどうかということも、将来的には問題になるかと思いまして、その点で注記的に書かせていただきました。
○沢山委員 前回も申し上げたと思いますが、産業界の代表の方が来られて言われていた、紛争の一回的解決というのを実現するためには、今、櫻井先生からもあったとおり、この程度の検討ではとても無理で、もっとダイナミックに抜本的な改革をしないと、その要請には応えられないと。だから、一回的解決の要請というのは、もうスローガンとしてはよくわかるけれども、私どもの委員会のスコープには入っていないとまず理解すべきだと思います。
私は、乙案がいいと思いますが、まず1で明白性の要件なくしてということで、後いろいろ書かれております、権利者と非権利者のバランスを失するのではないかという議論。確かにそういう議論はあるでしょうけれども、やはり訴訟というものを起こそうと決意したときに、当然乗り越えるべきハードルの1つなわけですから、相手から無効の抗弁がたくさん出てこようが、その1つ1つをクリアーしていかないといけないというのは、もう覚悟すればいいだけの話ですから、余り問題になることはないだろうと。
それから、やはり無効審判の請求を認めないという、ある時間限定が付いた部分が一番問題でして、やはり対世効という違う効果を求めるというニーズは常にあるわけですから、被告になったからといって、その権利を奪うのはいかがなものかと。特に、簡単に書いてありますが、2の中で無効審判と侵害訴訟の判断の齟齬を防止するところは、簡単にしか触れておりませんが、具体的なメカニズムとしてここのところを集中的に検討していかなければいけないだろうという気がしております。
○伊藤座長 甲案、乙案、それぞれ種々の御意見がございましたが、例えば丙案という考え方、ないしそれに基づいての御意見等をお持ちの方はおいでになりますか。
○飯村委員 櫻井先生が言われた事柄と、それから沢山先生が言われた事柄とほぼ共通の事柄ですが、要するに問題の所在がよくわからないという点がまず第1点です。
まず、一元化は、そもそもが産業界、ユーザーのニーズでした。一元化が目指す究極的な目標は、例えばアルゼとサミーの事件のような、侵害訴訟の判断と審決との結論が違うという点を問題であるとして、その是正を求めているのか、それともフォーラムが2つあることによる当事者の負担が重いので、その是正を求めているのか、その両方なのか、その点に関する問題の所在がわかりません。
いずれにせよ、このような問題の解決のためには、当然ながら、無効審判請求の制度と、それから侵害訴訟の制度の両者を機能的に理解して、制度を改正するのでなければ、答えが出ないはずです。
仮に、侵害訴訟制度を変えてみようとしても、当然ながら原告の請求を棄却するための抗弁事由と、そのような抗弁を認めて棄却した場合の効果、無効審判請求に対する影響という点を機能的に議論しなければ、何ら問題の解決にはならないわけです。
ところが、この検討会の1読である第4回目の時にも意見を申し上げましたし、2読である9回目にも意見を申し上げましたけれども、要するに、全体的な機能的な解決という観点が薄れて、ただ単に、侵害訴訟における特許無効を理由とする棄却の要件論に収斂していって、要件だけの議論に終始しているように感じます。要するに、原告の請求を、無効理由があるということにより棄却するためにはどういう要件が必要かという問題です。一方で、明らかという要件が付加されている場合には、明らか性は予見可能性がないので、要件から削除したらどうかという議論です。明らか性の問題点は、確かにあり得ると思いますが、そのような要件論は、紛争解決の一元化の問題とは全く関係ない話であって、それを何かいじったからといって、決して、それで問題が解決する話ではないわけです。
問題解決の鍵は、なぜ富士通半導体訴訟のような判決が出たかということの分析から始まるのだと思います。
要するに、通常の行政処分であれば、3か月経過してしまうと、争わない場合にはそれで確定してしまいます。したがって、有効を前提に法律関係を議論すればいいわけで、例外的に無効を主張しても、例外的な場合を除いて、いじれないわけであります。
しかし、特許の場合には、新無効審判制度の場合には、いつまででも、誰でも正規のルートを利用することによって争うことができ、かつ訂正もすることができるわけです。そして、その付与する効果は、所有権と同じような私権です。そこで、例えば、自分の土地について第三者が侵入してきたから、ここから出て行けという訴訟を起こした場合に、原告が勝って確定した場合であっても、その後にその土地がだれのものか、だれからでも、たとえ100 年経っても、権利者側に相続が起きても、なお争えるという状態が続くとしたら、奇妙に感じるわけです。
そういうような争いの場合、早く確定してほしいといったニーズがあった場合、そのニーズにこたえられるのかというところが問題だったわけです。
富士通半導体訴訟は、そのような現象を解消したわけですが、その理由として3点挙げていて、迅速・衡平・手続コストということです。手続コストと、原・被告間の衡平という点以外にも、迅速ということを言っているわけです。この迅速性というのは特許特有の話で、有効か無効かということが、例えば、無効審判手続において、早期に決められて、それを基礎にして侵害訴訟ができるような運用が実現しているのであれば、何も富士通半導体判決というのは存在しなかったわけです。富士通半導体判決は、せめて特許権侵害訴訟の中で被告の地位を早く解放させるということを実現するために、無効が明らかな場合には権利濫用として原告の請求を棄却するというような、1つの結論を採ったわけです。
それは、当然ながら緊急避難的な判決であって、それが広く使われるようになるかどうかは、その後の下級審判決の実務に委ねられたわけですけれども、あまり想定していなかったと思われます。しかし、結果としては、無効が明らかであるとして、原告の請求を棄却してきた下級審の判決が多く存在することになりました。
ただ、土地であれば自分の土地かどうか、特許であれば有効かどうかということが決まっていて、争えない状態になっているということが、重要なポイントです。ところが、新無効審判制度になって、結局、被告が侵害訴訟の中で無効を主張したけれども、それがうまくいかなかった場合に、なおかつ別のフォーラムで争える、ということになる。一事不再理があるから、理論上は、何度でもということではないですけれども、実際には、それができるような状況が出現します。しかも、侵害訴訟で被告が、顕名主義の下で、名前を明らかにして争った後、自分の名前を出して、後で蒸し返しの審判を起こすことにちゅうちょを感じるような場合や批判をあびるような場合であっても、第三者の名前で起こせるというようなことになるわけで、その中で侵害訴訟の紛争の一回的な解決をどうやって図るかというのがここでの問題だと思います。
そこで、第4回目の意見でも申し上げたのですが、無効審判制度と侵害訴訟では、効果が対世効か相対効かということ以外に、制度の趣旨が大きく違うし、運用実体も違っていると思います。無効審判制度は、職権主義でもあるし、それから厳に存在している具体的な紛争解決を目的としているのではなく、ユーザーニーズの実現と、社会資本の確立という趣旨があり、また、スクリーニングという側面もあると思います。
それから、無効審判制度は、権利の死活についても、訂正問題が絡んでくるとかなりバーター的な使い方がされているという面もあると思います。
これに対して、侵害訴訟は、あくまでも当事者主義であって、具体的な紛争を背後に控えて、その紛争解決を迅速にというような問題があると思います。
今申し上げたような社会資本の確立とか、公益的な観点からの権利の存否という観点は全くないわけで、必要最小限度の審理をして、原告を勝たせるべきかどうかを中心に審理、判断することになります。
しかも、侵害訴訟ですから、企業同士の侵害訴訟で、多くの場合には心証を開示して、その場合には、無効にしたくない当事者のニーズと、それから被告側の経営見直しのニーズとの接点を探っていくという和解的な解決をしているので、その中でどういう要件が必要かということを考えた場合、当然ながら、何も立法改正をしないで、今までどおりの富士通半導体訴訟のモデルで進めていくのがいいのではないかと思います。
甲案、乙案、丙案ということで、強いて言われるのであれば、丙案に近いというか、今までどおりのものを条文にするのであれば、そういう考え方が望ましいのではないかと思っております。
○中山委員 私も結論的には丙案がいいと思いますし、今の飯村委員のお話にもありましたけれども、2、3は別として、基本的には現在の判例で矛盾はないと考えます。
○近藤参事官 先ほど問題の所在についてという議論が出ておりましたので、若干その点について確認をさせていただきたいのですが、産業界側からこの議論が出てきたのは、特に明白性の要件があると判断してもらうかどうかが最終段階までわからないということで、それで無効審判を請求せざるを得なくなってしまうというところに不満があるというのが一番大きい問題であったと思います。それ以外にも判断齟齬や主張の広狭ということもいろいろと言われていたのですが、基本的には、キルビー判決でも、被告とされた者があえて対世的な無効審判まで求めなくてもよいようにという形で判断するという判旨があるわけですけれども、結局は、明白性要件がある限りはなかなかそうならないというところが一番大きくて、甲案とか乙案という話が主張として出てきたものかと思っております。
ただ、甲案の場合は、権限分配の形で見た場合に、審決取消訴訟の場合でも、審決に対する取消しであって、特許査定についてまで、本来の行政処分まで裁判所が判断するという形にはなっていないということがありまして、訂正の問題がどうなるかというのは、前の検討会でも、訂正まで裁判所が直接扱うというのは、従来の流れからするとどうなのだろうかと、それは不安があるという話もあって、甲案を支持される加藤委員も、(注3)のような形で裁判所ではなくて特許庁で扱うのもやむを得ないのかなという意見があったところと理解しております。
そうすると、(注3)のようなところで、仮に訂正について特許庁がやるとすると、これは先ほどの阿部委員がおっしゃったような、今までは無効審判の中で訂正審判も一緒に扱って、当事者対立的な形で処理できていたことが、うまくいかなくなってしまう問題があるのではないかというようなことと、甲案の場合に、先ほど沢山委員が指摘されておりましたけれども、特許無効の審判を仮に準備をして、請求をしようと思っていた人が、たまたま侵害訴訟の訴状が送達されたら無効審判が起こせなくなってしまうということをどういうふうに説明していくのかという問題が出てきているのかなと思います。
乙案と丙案との関係では、そもそも論として明白性の要件をなくすということが、特許権者と非権利者のバランスとして本当にいいのか、制度設計としてそれが一番妥当な利益衡量なのかどうなのか、やはりキルビー最高裁判決のように明白性要件があった方が、判断齟齬の関係の問題、それから迅速性の関係、そのそれぞれについて、一番バランスとしてすぐれていて、無効審判を請求せざるを得ないというようなデメリットよりも、むしろそちらの方に重点を置くべきではないかというのが丙案だと思います。
そのような整理になると、事務局としては理解しておりますが、そのような整理でよろしいのかどうか、もしも違っている点があれば御指摘していただければと思います。
○伊藤座長 いかがでしょうか。ただいまの事務局からの説明、ないし事務局の理解についての御質問や御意見ございますか。
○小林委員 紛争の一回的解決というのが、非常に多義的に使われているので、なかなか理解しづらいところもあると思うのですけれども、今、近藤参事官がおっしゃったことに1点加えるとすると、紛争の一回的解決と言われているものの中には、無効判断、その権利の有効性の判断とともに、侵害の有無の判断というのが常に、侵害訴訟では出てきていて、その両者は少なくとも特許の場合には切り離せないという背景があるので、侵害訴訟が一旦起きたならば権利有効性の判断もそこでやってほしいというニーズにつながっているのだろうと思います。
前回の会議で、制度的にはそちらの方が優れているのではないかと申し上げたのは、まさにその点です。要は、無効審判が幾ら用意されていたとしても、無効審判では侵害の有無は判断しないわけで、イ号物件との関係でないと権利の解釈が決まらないというのが本質的な事情としてあるので、そうであれば侵害訴訟が起きたときに無効判断をすることの方が合理的ではないかと。したがって、外国でもそのようにしているのではないかというふうに思います。
それをある種の紛争の一回的解決と言ってもいいのかもしれませんが、それは決してダブルフォーラムのことを言っているわけではないわけです。
○加藤委員 小林委員が代弁してくださったのですけれども、我々の言っている一回的解決というのは、前も念のため申し上げましたけれども、権利者と非権利者当事者、当事者間における一回的解決を意味しているということは、何回も申し上げているとおりでして、裁判所があって特許庁があって、そこで侵害訴訟が裁判所で行われ、無効審判は特許庁で行われる、このダブルトラックそれ自身が問題ではないということは何回も申し上げているとおりでございます。
したがいまして、甲案を主張している者として、念のため、妥協という意味ではないですけれども、もう少しステップバックした場合、どこまで考えられるかを申し上げますと、現状私も当事者として侵害訴訟にタッチしますと、幸いにも権利者側なのですけれども、相手側はほとんどのケースで無効審判を請求してまいります。目的をよく見てみますと、決して対世効を求めているとは思えませんし、明白性の要件有無によって念のため無効審判を請求しているとも思えません。多くは大体、向こうの取引材料をつくるというのが1つの目的ではないかと思っております。そういった意味で、むだな無効審判請求は、非権利者当事者には侵害訴訟が始まったら認めるべきではないというふうに考えているものです。
一歩下がって、ダブルトラックとの関係でいいますと、仮にそういった無効審判が請求されたとして、裁判所と特許庁との間で、乙案の2で書いてある両者の進行調整で、例えば審判の合議体の方で侵害訴訟における特許無効に対する主張とか立証が容易に入手できるようにする。また、その逆もあると思います。裁判所側が無効審判における無効主張の内容を容易に入手できるようにすると、2つトラックがあったとしても、トラックが随時相互に連携していると申しますか、密接につながっていると、我々が考えている当事者間における一回的解決にはかなり近づいてくる可能性があると思います。
我々が言っている一回的解決という意味は、同一当事者間において違うトラックで違った主張をして齟齬が生じるのは、やはり不公平であろうということを申し上げておるのでして、制度そのものが2つあるから、どうにもならないことを産業界は要望しているという点については、はっきりと違うと申し上げておきたいと思います。
○近藤参事官 今の御趣旨からすると、乙案の2で書かれているようなところでも、構わないという趣旨ですか。
○加藤委員 乙の2の両者の進行調整を充実させていくと、仮に無効審判を認めたとしても、我々の要望に近づく可能性があるのではないかということを申し上げておるわけです。
ですから、非権利者当事者には絶対に無効審判を認めてはいかんということに固執をしなくても、一歩下がって我々の要求の当事者間における一回的解決に近づく可能性があるのではないかということを申し上げておるわけです。
ですから、具体的にこうしたらいいというすぱっとした意見はまだクリアーには頭の中には入っていませんけれども、無効審判請求を非権利者側に絶対認めるのが嫌だと言っているわけではなくて、目的はあくまでも当事者間の一回的解決に近づけばいいということです。
○近藤参事官 仮に乙案の2というのが、まさにそういうことを考えているわけですけれども、それは丙案の2でも同じなのですね。2と3は乙案と同じなので、明白性云々というところではなく、当事者間限りで一回的に解決するということが、まさに一番問題で、そこのところの主張だとか、その辺のところが共有化できるような手立てというものがあり得れば、そうすると乙案でも丙案でも構わないということになるのでしょうか。
○加藤委員 産業界として、丙案の1つの問題点は、やはりキルビー判決における明白性の要件が、被告に立った場合については、やはり無効主張してみたいから、明白性云々で、要件が被さってくるのは嫌ですというのが、丙案は望まない理由です。
○飯村委員 今の議論の趣旨もよくわからなくなってきたのですけれども、司会者は問題の所在は何かという質問だったと思うのです。小林委員のお答えも、加藤委員のお答えも、問題の所在に関してのお答えだったと思うのです。小林委員のお答えは、紛争の一回的解決の意義は多義的であるということで、権利を与える立場でも、実際には権利の解釈というのが確定的にできない部分もあって、むしろ侵害訴訟で被告の製品がはっきりした段階で、侵害かどうかを判断する際に、権利の解釈を判断した方が、適切であって、その中で無効を判断する方が、より紛争の解決に役立つというような意味合いで言われたと理解しますけれども、それでよろしいでしょうか。
○小林委員 先ほどのコメントを、もう一回質問に対する答えの形で明確に言うとすると、少なくとも私の目には3つ問題があると見ていまして、私の考えるところでは、一番優先的に求められているのは、明らか要件のところですけれども、侵害訴訟が起きたときに、侵害の争いと無効の判断というものが、同じ裁判所の中で判断していただけるというのが、多分第一の優先課題で、それを一回的解決というふうに呼ぶこともできますけれども、そう呼ばなくても構わないと思いますが、そういったことで。
2番目に大きな問題は、判断の齟齬だと思っています。なぜかといいますと、侵害訴訟と同時に無効審判が起こることを前提とすれば、判断の齟齬は常にあり得るわけですから、それをどのような制度ないし運用で極力減らしていくのか。
ただ、同じ結論にならなければならないということを申し上げているわけではありません。審決の方が先に出れば、それと違った合理的な判断、その後の主張等を含めた合理的判断で違う判決が出ることも十分あり得ると思いますので、そのことではなくて、整合性がとれた、正当化できるという形での両者の判断が出るというのが2番目だろうと思います。
多分3番目に来るのが、ダブルフォーラムの問題だろうと思っていまして、ダブルフォーラムの話は、それも一回的解決と呼ぶのかもしれませんが、3番目ぐらいに来る話ではないかと思っております。
○飯村委員 究極的には紛争の一回的解決という場面で考えるのが適切かどうかはわかりませんが、判断の齟齬に関しては、生身の人間が判断して、しかも専門技術性の強い内容について判断をする場合、微妙な食い違いが生じて、それが結論に影響するということは当然あり得るとは思われます。今のお答えでは、判断の齟齬に関して、整合のとれた解決というのが図れるという際の、整合性のとれたというのは、具体的にはどういうことをイメージしているのでしょうか。
○小林委員 このペーパーでも論点と思いますのは、例えば侵害訴訟の請求を促すとか、あるいは中止ないしは進行調整するというのが、まさに提案されているわけですが、それが念頭に置いているのは、今、申し上げたことだと思いますけれども、審決と侵害訴訟中の無効判断がおそらく同じになるであろうと裁判所が考えるときに、待つ意味はほとんどないわけで、待たなくても同じ結果になるでしょうから、そのまま進めればいいと思いますし、他方、違うと考えたときにどちらを優先するかというのは1つの議論だと思いますけれども、少なくともここでは無効審判を急げということになっているのだと思います。
他方、そのときに全く食い違うことがあり得ないのかというと、そんなことは当然あり得ないわけで、審決が出た後に更なる抗弁を認めるか認めないかが1つあると思いますが、仮に認めるとしたら、当事者は当然審決も援用するでしょうけれども、審決に不利な判断を出された他方当事者は、別の主張や立証をするでしょうから、そうすると判決内での無効判断というのは、審決と異なることが当然あり得ると思うのです。ただ、それはその後の主張立証があって、裁判所がそのような判断をされたから食い違うのであって、食い違うこと自体がいけないわけではないわけですから、そこのところを申し上げているのです。
○飯村委員 食い違いが生ずることがいけないとかということを議論しているのではなく、食い違った事態が生ずる制度の方がいいのか、それともそれが防止できる制度の方がいいのかというのを議論していると思うのです。
今の御発言でも、侵害裁判所は多分特許庁の判断も同じであろうという予測の下に、何らかの論理過程を経て原告の請求を棄却するという判断をした場合に、その要件が何か、その要件としてどういうものを設定すると、混乱の生ずる事態を回避できるかという要件論を議論していると思うのですけれども、その点についての御意見はどうでしょうか。
○小林委員 まさに飯村委員がおっしゃっているとおりだと思うのですけれども、食い違うこと自体は当然合理的な面があると思うのですけれども、食い違いがないようにすることの方が確かに重要だと思いますから、そのための制度運用を考えるべきだと。そのための案として今、出されているのが、無効審判は早期審理をする、それから必要な場合には待つということが考えられているのだと思います。
他方、翻ってそれのための手当てとして明らか要件が本当に機能していたのかどうかというのも、多分反省しなければならなくて、この会合のかなり最初の時に、特許庁が調べたデータを出させていただきましたけれども、現行では半分以上で権利濫用抗弁がなされている。それが当然のことながら審決が出たものもあると。その中で、それほど多いケースではございませんけれども、裁判所が有効と言って、特許庁が無効と言ったケースもありますけれども、その逆に、本来であればあるはずのない、裁判所が無効と言って特許庁が有効と言ったというケースも現に存在しているわけです。
明らか要件が本当に機能しているのであれば、そんなことがあるはずがないわけでして、多分機能していないのだろうと。だとしたら、それには理由があるはずであって、そこが問題なのであれば別の手立てをもってその改善策を考えればいいのではないか。この明らか要件が唯一絶対最善の手段ではないのではないかというのを申し上げたいと思います。
○伊藤座長 お二人のやり取りになっていますけれども、ちょっとそこはまだ今回で打ち切りというわけではありませんので、私の方から是非ほかの論点として御意見を承りたい点がありますので、そちらについて御意見をお願いしたいと思います。
と申しますのは、事務局で用意した資料の8ページのところで、7というのがございます。「訴訟と審判における判断相互の関係について」ということで、権利阻止抗弁の主張についての裁判所の判断と無効審判の請求についての判断との間に齟齬が生じた場合、ただいまのお話にも若干関係がございますが、その場合に再審等の規定の要否について、どう考えるかという論点、やや訴訟技術的な問題でございますが、これについてももし本日の段階で御意見が承れれば大変ありがたいと思いますが、いかがでしょうか。
○近藤参事官 前提として若干説明させていただきたいと思うのですが、侵害訴訟で特許の有効を前提として損害賠償請求権を認めたという訴訟があって、その後に無効審判において特許が無効であると判断されたという場合には、これは前提になる行政処分が異なったということで、これは再審ということになっているわけです。
その逆の場合というのはどうなのかというのがこの論点でして、侵害訴訟の中で特許が無効であるという前提の判断をして、その後に無効審判において特許は有効であると判断された場合。そうすると、侵害訴訟において前提とする特許の有効・無効の判断と、無効審判の判断の結果の行政処分というのは違ってきているわけです。
特にこの論点においては、特許の有効・無効について、侵害訴訟においても判断するのであれば、やはり一緒に判断をしましょうという形で、積極的に判断をするという甲案、乙案の考え方に基づいているわけで、そうすると先ほど申し上げたような侵害訴訟で無効で、審判で特許が有効だという場合に、再審事由ということを考えていかなければいけないのかどうか。また、考えることができるのかどうかということが、これは民事訴訟法との理論との関係で問題になりうると思っておりますが、その点についても若干御意見を伺っておきたいと思っております。
○阿部委員 今のケースでは、裁判所では無効だから請求は認められなかったということですね。そうすると、やはり権利者側としてはもう一回、有効だという前提で侵害訴訟を起こしたいですね。これを認めないと、それが遮断されるということになるのですか。
○近藤参事官 再審を認めなければ、請求棄却された損害賠償請求権は、そのまま確定をしてしまうわけですが、これについても再審事由として考えるべきかどうか、再審事由として新しく法定しなければいけないかどうかということになるかと思います。
○飯村委員 両方の場合があります。今、問われているのは後の場合で、今だと侵害訴訟で特許に無効理由があることが明らかであるということで、原告の請求を棄却し、その棄却判決が確定した後、無効審判請求で請求不成立というような場合にどうか。
特許査定ないし登録によって、対世的な効力が生じていて、その効力に関しては、無効審判請求不成立が確定しても、実体的には何ら変わりもないわけで、ただ要件に関して、無効審判請求人が出してきた特定の要件について特許庁が判断し、それが確定したということだけですので、理論的にも再審事由になるはずがないという感じがします。
○阿部委員 だから、前提となった行政行為に変化がなかったということですよね。だけども、当事者としては負けたと言われたのだから、そんなのないと言いたいですね。
○近藤参事官 ここのところは、非常に純理論的なところもあるのですけれども、今回の第1論点の案は、基本的には、権利濫用的な構成としてつくっておりまして、裁判所が特許権の有効・無効について確定しているというわけではなくて、特許の有効・無効を確定するのは、あくまでも特許庁の無効審判と審決取消訴訟のラインで確定していくと。ただ、侵害訴訟の場合に常にそちらの方に行きなさいということであっては困るから、そこで特許が無効かどうかという判断も前提としてできますよということを、付加的にやりましょうという話なのです。
付加的にやりましょうと言ったときに、それがどこまで付加的なのかということの問題として1つ表れるのが、今の再審の問題の議論になってくるのではないかと思います。侵害訴訟においては、あくまでも理由中の判断、前提問題としての判断で、訴訟物の判断ではないということが問題です。
それから、あと民事訴訟の方は当事者主義で、当事者が主張・立証して、ちゃんと主張できなかったら負けてしまうと。特許庁の方の行政処分というのは、やはり職権主義的なものもあって、そこのところは同一レベルではなかなか議論できないところがあるのではないかと思います。
ここでの議論でも若干気になるのは、そこのところが全く同じという前提の議論も、時々出てきているという感じもありまして、そこのところはしっかり議論しておいた方がよろしいのではないかという気がしたのですが。
○加藤委員 私の意見としては、本件については、再審事由にならないことは仕方がないのではないでしょうか。といいますのは、裁判所で一旦請求棄却になりますね。その後特許が有効に出てくる無効審判なんて、やろうと思えば幾らでもできると思います。しようもない無効資料を出して無効審判をやっていきますと、みんな有効が成立しますね。それを防ぐ手当てはありようがありませんので、そのときはもうあきらめざるを得ないと思います。
ですから、これは前者のケースと完全に違うと思います。有効が確定したというよりも、無効請求が成り立たなかっただけですから、そんなの幾らでも出せるわけです。その点の性格を考えると、これは再審事由にしたらおかしいことになると思いますので、これは理論的にやはり無理だと思って、産業界としてはこれはあきらめざるを得ないということになるのではないかと思います。
○阿部委員 裁判所が無効だという誤った判断をしたということですよね。それに対して、救済の道が閉ざされるわけですか。
○伊藤座長 閉ざされるというよりも、無効審判がなされたということを理由にして、それを理由にして前の判断を覆すことができるかどうかですね。
○阿部委員 再審という構造でなければいけないのですか。
○近藤参事官 再審という構造でなければいけないということは、地裁、高裁、最高裁までいくかわかりませんけれども、確定していれば、既判力として、一応損害賠償請求権が、高裁の口頭弁論終結時までに発生した損害としてはこれがありますというのが当事者間で確定するわけです。
それを覆すためには、既判力がある判決ですから、再審がないとそれは覆すことができないということになります。
○中山委員 私も加藤委員と同じで、これはどうしようもないという気がします。
それから、他の一般の行政事件の例を考えても難しいと思うし、これは理屈上難しいのではないかと思います。
むしろ問題なのは、特許は無効であるので権利濫用として請求棄却判決の後に、無効審判で権利は有効と判断され、侵害訴訟の口頭弁論終結後も、侵害者と言われている人がそのまま実施している場合に、口頭弁論終結時以降の損害賠償請求や差止請求ができるか、という点だろうと思います。これは既判力はないけれども、理由中には無効の判断が出ているので、訴訟上の信義則として遮断するのはどうか、そちらの方がむしろ問題で、口頭弁論終結前のものはもうしようがないと、あきらめてもらうしかないと思います。
○伊藤座長 それでは、時間もありますので、大体のお考えはわかりましたので、それを前提にして事務局にもう少し詰めてもらうことにします。
それから、甲・乙・丙案の3案につきましては、いろいろ御意見の交換がございましたが、いずれの案についても支持する御意見がございましたので、本日ここで最終的に決めてしまうということではなくて、ただいまの議論を前提としてもう一度3つの案を基礎として事務局に検討をしてもらうということにしたいと思いますが、それでよろしゅうございますか。
(「異議なし」と声あり)
○伊藤座長 それでは、本日の議論はこれくらいにいたします。
次回の検討会ですが、次回はいわゆる第2論点である「調査官の権限拡大・明確化」、第3論点の「侵害訴訟における立証の容易化」、そして「知的財産高等裁判所について」、3巡目の検討を行う予定でございます。
これで閉会にいたしますが、次回の検討会の日程について、事務局から連絡をお願いいたします。
○近藤参事官 次回、第13回の本検討会は、11月10日月曜日、午後1時30分から5時まで、同じくこの会議室で予定しておりますので、よろしく御参集お願いいたします。
○伊藤座長 本日は、長時間どうもありがとうございました。また次回どうぞよろしくお願いいたします。
(以 上)