- (1) 知的財産訴訟における専門的知見の導入について
事務局から、資料1に基づいて知的財産訴訟における専門的知見の導入のうち、裁判所調査官の権限の拡大・明確化について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
○日弁連としては、甲案について全面的に賛同する。第2頁の(注4)の趣旨は、調査官による口頭の報告は、裁判所の認識・心証と異なることはないということか。
●もし、調査官の発言内容が裁判官の心証・認識と異なる場合には、裁判官が、制止・訂正するのが通常であろう。
○調査官は裁判官の分身と理解しているが、事前の打合せなしに、調査官は自分のイニシアチブで発言できるのか。裁判官の心証と異なる意見開示があった場合に、当事者はそれを裁判官の心証と誤解することは十分あり得る。
●事前に打合せをすることが通常と考えられるが、裁判官の訴訟指揮に委ねられることである。調査官に対しある程度のアローワンスを与えることもあり得る。ただ、その場合に、裁判官の心証と異なる発言があれば、訂正するものと思われる。
□調査官が口頭で表明する内容は、通常は心証の前提となる技術的事項に関することであり、心証そのものを開示するということがあるか。
●技術的争点に関する内容についての発言であり、直接訴訟の勝敗に関わることを発言するという趣旨ではない。
○甲案に賛成である。特許庁出身の調査官が前審の審判に関与している場合には、除斥・忌避・回避の対象となるのか。
●忌避の場合は公平と見えるかどうかが問題となる。例えば審判官として前審関与した人が調査官として公平と見えるかどうかの具体的運用は解釈に委ねられる。
・ 以上の議論の結果、裁判所調査官の権限の拡大・明確化については、甲案でとりまとめることとなった。
- (2) 侵害行為の立証の容易化のための方策について
事務局から、資料2に基づいて侵害行為の立証の容易化のための方策について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
- ○営業秘密の適切な保護の観点からは、非公開審理の要件の①については、「事業活動の継続が困難」よりも「事業活動に著しい支障が生じる」という方がよい。
○同意見であるが、あくまで裁判の公開が原則であるから濫用的な申立てがなされないような配慮が必要である。また、問題となる多くの場合は技術情報であると考えている。利益率やライセンス関係といった経営情報について、ただちに公開停止となるのは行き過ぎであるが、どうしても秘密にしておく必要のあるものはあり得る。
○前回の検討会での憲法学者からのヒアリングの意味は何か。このような要件で、非公開審理の立法ができるという見通しがあるか。
●ヒアリングでは、憲法82条の解釈に基づいて、このような規定を設けることが憲法の規定に違反しないことの見解が示されたので、それをもとに立案することになると思う。
○秘密保持命令違反の制裁を刑事罰とすることは、レトロな感じがする。法執行上の観点からは、刑事罰はあくまで最後の手段であり、中間的に行政罰のようなものを課すことはできないのか。また、命令の効力が取り消されるまで存続することとし、命令が取り消されないことを刑事罰の構成要件とすることは異例である。例えば、命令は10年間存続することとし、10年を経過する前でも例外的に取り消せるという方が適切に思う。
●一定期間命令の効力は存続することとし、必要があればさらに延長するということも検討したが、期間の終期のギリギリのタイミングで請求されたような場合には、更新段階で空白の期間が生じるという問題もある。また、秘密保持命令の真の目的は営業秘密の保護であるが、直接的な保護法益は、司法秩序の維持にあり、この観点からは取り消されるまでは存続するとするということになる。
○刑罰を逃れるのが取消しかないということになると、命令の名宛人の立場からすると不安定であり、不定期刑を科されているようなものである。
○営業秘密の三要件を充足するかは名宛人にはわからないから、できれば営業秘密の保有者のアクションによって延長・更新されるようなスキームの方が好ましい。秘密保持命令では、秘密保持命令の対象は特定され、公知になれば秘密保持命令の効力は消失するのか。
●取消手続が必要である。
○名宛人の立場では、訴訟が終わったらモニタリングを続けることは現実的でない。
○秘密保持命令の存続期間は定まっている方が好ましいが、取り消されるまで効力が存続することもやむを得ない。ただ、秘密保持命令の対象となった情報が公知になったような場合には、自動的に刑罰の適用要件を欠くことになると思っていたが。親告罪とすることはよい。
●営業秘密の三要件を実質的に欠いている場合には、刑事罰が発動されるとは思えない。ただし、取消しをかませないと、命令を受けた者が勝手にもう営業秘密でないと思ってしまった場合に、その営業秘密を開示してしまっても、それは事実の錯誤として刑事罰を科すことができない問題がある。
また、ある名宛人が自ら開示して三要件を欠くようになれば、他の名宛人に対する制約がなくなってしまうという問題もある。
○命令の申立人は、だれを名宛人とするかも申し立てるのか。
●相手方の意見も聞きながら、名宛人として適切な人を絞るシステムを考えている。
○名宛人として法人はあり得ないのか。
●名宛人としては、自然人を考えている。
○秘密保持命令の内容では、どの範囲の人に開示してはいけないのかを明らかにすべきである。また、訴状や答弁書は当事者の工夫によって営業秘密を開示しないことは可能であり、秘密保持命令の対象から外すことが適当である。そうでないと、当事者は代理人に相談できないことになってしまう。
□秘密保持命令の名宛人、効力の存続期間等については、さらに事務局でつめてもらうこととし、この論点の方向性はおおむね了解していただいたということにしたい。
・ 以上の議論の結果、秘密保持命令の名宛人、効力の存続期間等については、さらに事務局でつめることとなったが、この論点の方向性はおおむね了解された。
- (3) 「知的財産裁判所」に関する検討−特に「知的財産高等裁判所」について−
① 内閣官房知的財産戦略推進事務局土井俊一参事官より、知的財産戦略推進事務局配布資料に基づいて知的財産戦略本部における権利保護基盤の強化に関する専門調査会について説明があった。その後、次のような質疑応答がなされた。(○:委員、△:説明者、□:座長)
- ○知財高裁の最大のメリットは看板であるということであるが、プラスのイメージもあればマイナスのイメージもある。例えば、米国では知財裁判所の設立は否定されてCAFCが設立されている。また、特許裁判所のあるドイツや韓国でも侵害訴訟は扱っていない。
△産業界からは、国内外で知財訴訟が起こっており、技術も複雑化してきているとの指摘がある。また、模倣されても何も対応しなければ相手方企業からなめられる。それは国家レベルでも一緒であり、きちんとした体制で裁くことが必要であり、そうした国家としての意思表明がアピール効果であると考えている。また、資料6の16頁にも知財高裁の意義・メリットを書いてある。看板論以外にも、人的・予算的担保の意義がある。
○知財重視の政策がなぜ知財高裁に直結するのか理解できない。
△専門調査会では、11月28日に知財高裁についての内容をとりまとめる予定である。
○専門調査会では、「専門性」についてはどのように考えているのか。知財高裁の専門性の定義がよくわからない。
△特許に関するもので技術に関係の深いものが専門性の高いものと考えている。
○専門裁判所の創設にあたり、その他の専門性の高い労働や行政訴訟の扱いについては議論しているのか。
△竹田委員以外からは特にご指摘はない。
□専門調査会では、裁判制度全体の設計の中で、利用者の視点を考えて議論すべきではないかという趣旨の発言はした。
- ② 事務局から、資料3に基づいて「知的財産裁判所」に関する検討−特に「知的財産高等裁判所」について−について説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。(○:委員、□:座長、■:関係機関等、●:事務局)
- ○産業界の立場は、甲案・A案に賛成である。
まず、知財訴訟は、行政や労働訴訟と異なり国際性が高い。米国の知財訴訟の動向はCAFCを注視しており、逆に他国から日本を見る場合には、知財高裁の動向を見ることになる。知財高裁は、CAFCや欧州の共同体特許裁判所と比肩する組織で、信頼性の高いものである必要がある。この点、通常裁判所の母屋を借りるB案や乙案は、看板効果からすると逆効果である。
組織・人事の面から見ても、知財高裁の判事としては、通常訴訟と知財訴訟の両方の経験を持つ、いわゆるT型人間である必要があり、その育成は大変なことであるから、独立した組織・権限の裁判所であるべきである。
職分管轄の問題のうち、関連訴訟については、その件数が相当少ないと考えられ、また、仮に関連訴訟を知財高裁で扱うとしても、通常訴訟と知財訴訟の両方の経験を有する判事が担当するのだから、問題はない。
また、知財訴訟は技術専門性が高く、国際競争にさらされていることから、他の専門訴訟である行政や労働訴訟よりも、専門裁判所の創設の必要性は高い。なお、他の専門訴訟も必要になれば専門裁判所を創設すればいい。
○仮に知財訴訟が特殊であり、知財の専門裁判所が必要であるというなら、甲案で、技術判事もセットにしないと意味がない。地裁レベルでも知財裁判所を作り、特許庁の審判制度の改革もセットで行うべきである。
○特許庁の審判制度のあり方は、現在侵害訴訟と無効審判の関係の論点でも議論されている。地裁レベルの知財裁判所は理想ではあるが、現状では無理がある。また、すべての知財の裁判官にT型人間を求めるのは無理だから、とりあえず高裁からである。なお、技術判事には個人的には賛成しているが、現実的には困難であるから、次善策は理系出身者がロースクールを卒業して裁判官になることであると考えている。
○とりあえず高裁レベルだけを切り出してというのでは、弊害が多く、制度がめちゃくちゃになる。
○高裁レベルについては、既に民事訴訟法の改正で東京高裁に専属管轄化されている。
○そうだとすると、結局は知財高裁のメリットは看板効果しかないことになり、B案や乙案の方がましである。
○甲案がいい。なお、看板効果というのは、創設効果と呼んだ方がいいと思う。国家的意思表示や判断統一や組織・人事という個々のものは今でもできるが、知財高裁の創設により、全体としてできてくることになる。
日本経済が新しい局面を迎え、大学でも新たな技術が生み出されるようになってくると、裁判所が知財を守ってくれるかどうかという司法に対する期待に応えることが必要になる。甲案を採用することで、こうした国家的要請に応えることになる。
また、司法制度改革の原点は、国民にとって利用しやすい・分かり易い司法である。この点からしても、知財高裁は作った方がいい。
○知財高裁を作っても必ずしもプラスの効果だけでなく逆看板効果はあり得る。CAFCは特許裁判所を作るのとは異なる議論で生まれた。ドイツの特許裁判所でも侵害訴訟を扱うことはありえない。
○米国での訴訟が多いのは、米国の訴訟の方が信頼性が高くやりやすいからである。これからはアジアがからんでくるので、国際的な訴訟が増えることは間違いないので、母国での裁判制度が信頼できるものであってほしい。母国で争う方が有利に決まっているからである。
○だからといってなぜ甲案でなければならないのか。米国で訴訟を起こすのは、米国のマーケットが規模も大きく支配的であるからである。
○経済界としては、基本的には、A案に賛成である。知財高裁の創設で、他国の同業他社の態度は変わってくると思う。ただし、甲案を採用することにより発生する問題は容易に想像されるので、阿部委員の意見等のとおり、それぞれの案のメリットデメリットを比較考量して決めればよく、B案もあり得る。
なお、呼称の問題だけの乙案は論外である。
●三ケ月先生の論文では、一般論として、特別裁判所の議論は通常裁判所の否定的判断につながる懸念が指摘されている。
○現在の議論は全体の司法制度をよりよいものにしようとするものである。知財高裁の設置により専門性を深めることが、必ずしも通常裁判所を否定することにはならない。
○甲案も乙案も実質的には差異がない。技術判事を入れるならわかるが、甲案の実益はよくわからない。中央省庁改革で省庁の看板を変えたが、それによって実質が変わったと思っている人などだれもいない。
○技術判事は、将来型としてはロースクールに期待しており、知財高裁とは必ずしもリンクするものではない。
知財高裁の創設は、知財保護の重要性が増す中で国家的姿勢の表示・専門的処理体制の整備という点で意味がある。その創設の効果は受け取る人の印象によるものであり、必ずしもロジカルでない。要はそうした組織が存在するということが重要である。
乙案では十分ではない。民事訴訟法の改正で、専属管轄化・五人合議制・専門委員等により実質的知財高裁が創設されたということは、単に基礎が整ったということにすぎず、迫力不足である。司法行政の機能強化の観点からは乙案では不十分。
甲案の問題を議論する際には、問題となる事案のマグニチュードが重要である。要は、国家的姿勢・体制整備に資する観点から、どの案がいいのか検討すればいい。
○乙案・B案の基本思想を支持する。甲案には、現実的に問題がある。
甲案のメリットとしては、①看板効果、②独立による機能強化の指摘がある。①については、創設による看板効果はすぐに消えるので内容的にプラスの評価を受けなければ意味がない。東京高裁の知財部は50年の歴史があり、これまでも判断統一に貢献してきている。審決取消率も30%を超えており、実質的に判断機能を持っているということである。また、キルビー判決も均等論のボールスプライン事件も東京高裁が実質的な判断を示したものである。②については、権限委任により乙案でも可能であり、甲案独自のメリットではない。現在でも、知財専門部は訴訟件数に比して著しく充実しており、独立した組織とならなくても可能である。
また、甲案のデメリットとしては、①国家組織のスリム化の流れに逆行する、②裁判官の視野が狭くなる、③職分管轄の問題がある。独立すると孤立化し、適材の裁判官の発掘や通常部からの応援が受けられない。独立の組織がいったんできてしまうと、後戻りできなくなる。また、事件処理も硬直化するが、今のままだと曖昧のままで処理ができる。
なお、司法制度改革審議会意見書や知財戦略大綱において、実質的な知財裁判所の創設といったのは、それなりの理由があってのことである。
○乙案又はB案を支持する。知財訴訟制度を強化することには賛成であるが、それは必ずしも独立した裁判所を設置すべきということにはならない。外国でもこうした裁判所がないのは、職分管轄の大きな問題と人の問題があるからである。裁判官の視野の問題を解決するために従来と同じ人事交流を行うとしても、それでは、独立した裁判所を作っても意味がない。
○日弁連の知的財産政策推進本部としては、知財訴訟は裁判所の努力により改善されてきており、現状でも国際的競争力は十分あると認識しており、改正するとしてもB案が限界であると考えている。B案は、実質的にはA案の利点を有しているのではないか。
○民事訴訟法改正により、実質的な知財裁判所が創設されるとともに、事実上の判断の統一が図られることとなった。これをさらにすすめて、独立した裁判所を設けるかどうかは、そのメリット・デメリットを比較した上で検討する必要がある。東京高裁と知財高裁の間の移送をめぐる紛争といった実際的な問題も考慮すべき一つの事情である。
○三ケ月先生も、ヨーロッパ型の専門裁判所を念頭に置いていたはずで、このような知財高裁を知ったらびっくりするはず。仮に知財高裁を創設するとしても、他の専門訴訟に波及しないように、知財だけの話にとどめてほしい。
○先ほど審決取消率の話が出たが、特許分野では訂正があるため審理対象が変更され、審決が取り消され差し戻されるケースも多い。これを除くと、審決の取消率は18.2%であり、アメリカのCAFCでの審決取消率と変わりない。また、侵害訴訟の第1審判決も同程度の割合で結論が変わっており、これは判断しにくいという特許問題の特殊性によるものだと考えられる。高裁が機能しているともいえる。
○独立裁判所を設けること、そしてその看板効果については納得できない。現在での知財訴訟の審理期間は限界まで短くなってきており、また事実審のままで判例統一機能を担わせるなどということはおよそあり得ないことである。
○司法のスリム化の話があったが、これまでの司法は控えめであった。事前規制型から事後解決型社会への移行に伴い、適正規模の司法になることが必要である。また、裁判官の視野の問題も、日本の裁判官は、米国の裁判官のように弁護士からの採用でなく、キャリアシステムを採用しており、T型判事の養成は可能である。
○技術に強い裁判官の育成には、その労力・コスト等を踏まえると相当強力な権限がないとうまくいかないと思う。その点で甲案がいい。
○司法が充実することと甲案を採用することは必ずしも直結しない。キャリア裁判官システムのよさを活かすのであればむしろB案のほうがいい。甲案で技術的専門性を担保しようとすると人事交流が行われないほうがいいということになってしまう。
■企業は甲案、法曹界はB案支持との印象。外国法制研究会報告書を読むと、韓国の特許法院では侵害訴訟も扱えるようにする法案が提出されていると聞く。また、知財高裁を創設すると裁判官の視野が狭くなるというのは杞憂ではないか。
●韓国のその法案については、消極論も多いと聞いている。
●専門調査会の方で、著作権等の訴えの管轄をどうするのか、専門技術的事項を欠く事件の取扱いをどうするのかについても検討をお願いしたい。
・ 以上の議論の結果、いずれの案についても支持する意見があったので、さらに検討を進めることとなった。
- 次回検討会(12月5日(金)10:00〜12:00)では、知的財産裁判所に関して、憲法、裁判所法、民事訴訟法の学者からヒアリングを行う予定。