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知的財産訴訟検討会(第13回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成15年11月10日(月)13:30〜17:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤 眞(座長)、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬 厚、加藤 恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉 亙、中山信弘(敬称略)
(説明者)
内閣官房知的財産戦略推進事務局 土井俊一参事官
(事務局)
山崎潮事務局長、古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、平瀬知明参事官補佐
(関係省庁・団体)
法務省、最高裁判所、特許庁、日本弁護士連合会、日本弁理士会

4 議題
(1)知的財産訴訟における専門的知見の導入について
(2)侵害行為の立証の容易化のための方策について
(3)「知的財産裁判所」に関する検討
   −特に「知的財産高等裁判所」について−
(4)その他

5 議 事

【開会】

○伊藤座長 それでは、定刻になりましたので、第13回知的財産訴訟検討会を始めさせていただきたいと思います。御多忙の中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 今回は、前半に知的財産訴訟における専門的知見の導入について3巡目の検討、及び侵害行為の立証の容易化のための方策について3巡目の検討を行って、後半に知的財産裁判所についての3巡目の検討を行う予定でおります。
 それでは、事務局からお手元の資料の確認をお願いします。

○近藤参事官 配布資料の御説明の前に、一言申し上げたいと思います。
 昨日の朝日新聞に知財高裁について、東京高裁内に設置する案が有力になっているという趣旨の報道がございました。まさにこの案については、今日の検討会において初めてお示しして、皆様方に議論していただいて、今後検討していくというものでございまして、そういう方向性等は一切今のところ出ておりませんので、その旨お含み置きいただいて、御議論いただきたいと思います。
 続きまして、配布資料についての御説明をします。
 配布資料目録がございますけれども、資料1として「知的財産訴訟における専門的知見の導入について」、第2論点のレジュメでございます。
 資料2は「侵害行為の立証の容易化のための方策について」、第3論点のレジュメでございます。
 資料3は「『知的財産裁判所』に関する検討−『特に知的財産高等裁判所』について−」のレジュメ、及び「甲案及び乙案において考えられる効果及び方策案」という1枚紙を用意してございます。
 委員配布資料としては、阿部委員より御提出の「『知的財産高等裁判所』に対する意見」というものがございます。
 それから、内閣官房知的財産戦略推進事務局配布資料といたしまして、「権利保護基盤の強化に関する専門調査会 委員名簿」、「『知的財産高等裁判所の創設』について」、専門調査会第2回における「中川丈久委員配布資料」、専門調査会第2回における「竹田稔委員配布資料」。以上の4点を資料としていただいております。
 また、席上配布資料といたしまして、権利保護基盤の強化に関する専門調査会の当面の検討事項に関する意見募集に対する意見書が、日本弁護士連合会及び大阪弁護士会のそれぞれから当事務局宛てに送られてきていますので、これらの資料について、委員の席上に配布しております。
 配布資料は以上です。

○伊藤座長 それでは、お手元の資料、間違いがないようでしたら、早速議事に入りたいと思います。
 本日の前半の議題でございます「知的財産訴訟における専門的知見の導入について」と、「侵害行為の立証の容易化のための方策について」の3巡目の検討をお願いしたいと思います。
 なお、知的財産訴訟における専門的知見の導入につきましては、前回までの御議論、御意見を伺っておりますと、いわゆる技術系裁判官の導入の是非については意見が分かれているように思いますが、裁判所調査官の権限を拡大することについての反対意見はなかったように思います。
 そこで、まず初めに裁判所調査官の権限の拡大について議論をしていただくことにいたしまして、いわゆる技術系裁判官につきましては、知的財産裁判所について議論いただく際に、併せて御議論をいただくのがよろしいかと思いますが、御異論がなければそのようにしたいと思います。
 それでは、早速ですが、事務局から資料1及び資料2に基づいて説明をお願いします。

【知的財産訴訟における専門的知見の導入について、侵害訴訟の立証の容易化のための方策について】

○近藤参事官 それでは、知的財産訴訟における専門的知見の導入について御説明をいたします。資料1を御覧ください。
 1ページの第1に「検討の方向性」として、本検討会において、まだ議論が継続となっている主な2点について挙げております。1番目として「知的財産訴訟における専門的知見の導入に関する改善のための方策として、裁判所調査官の権限の拡大を図るべきか、それともいわゆる『技術系裁判官』を導入すべきか」、2番目といたしまして「裁判所調査官の関与の在り方についての透明性の確保のための方策はどうあるべきか」という2点でございます。
 この技術系裁判官については知財高裁のところで御議論いただくということですので、このレジュメでは甲案についてのみ御説明いたしたいと思います。
 まず権限の拡大についてですが、裁判所調査官が裁判官の命を受けて調査報告を行うほか、②に記載しているように、裁判官の知見を補充するために、裁判所が調査官に対して2−1から2−5に列挙した事務を行わせることができるとしています。すなわち、期日に立ち会うこと。口頭弁論又は弁論準備手続の期日において、当事者に対し直接に問いを発し、又は立証を促すこと。証拠調べの期日において、証人、当事者本人又は鑑定人に直接に問いを発すること。和解を試みる期日において、裁判所が和解を試みるに当たり、手続に関与すること。その他、裁判所が争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、必要な事務を行うことです。
 なお、1ページの最終行に注2として記載していますように、(2−5)における必要な事務としては、進行協議期日(民事訴訟規則第95条)又は特許法第105 条第1項に規定する『正当な理由』を判断するためのインカメラ審理において、調査官が立ち会い、専門的知見に基づく意見を述べる等することが考えられます。
 また、2ページの③では、裁判官の知見を補充するために、裁判所が裁判所調査官を裁判の評議に出席させ、参考意見を述べさせることができるとしています。
 次に「透明性・中立性の確保」については、④として、除斥・忌避等の規定を設けるほか、⑤として、裁判所調査官と当事者の理解・認識の共通化のイメージをここでお示ししています。これは前回までの議論において、調査官が作成した報告書を開示する方策案について、反対意見が多かったこと、及び裁判所調査官と当事者との間で意見交換ができるような機会があればよいという意見が出されたこと等を踏まえ、実質的に意見交換を行うための考えられる運用イメージをまとめたものです。
 すなわち、裁判所調査官が今回の権限拡大によって当事者に釈明を求めることができるようにします。するとその際に必要に応じて裁判所調査官が技術的事項等についての自らの理解・認識を裁判官の面前で当事者に示すことができ、そのことで裁判所調査官、ひいては裁判官を含む裁判所側の認識と当事者との間で、事件全体についての理解・認識の共通化を図ることとするものでございます。
 例えば当事者双方において争点についての前提となる技術的事項等について理解・認識が異なっている場合、裁判所調査官が、原告側の理解認識と、被告側の理解認識の相違点について、当事者双方に指摘した上で、適宜双方に釈明を求めるなどして、理解・認識の共通化を図ることなどが考えられます。
 これによって当事者双方も裁判所調査官の理解・認識を知ることで、裁判所側の理解・認識を知ることができるようになるわけです。
 なお、2ページに注4として書いておりますように、この案によれば裁判所調査官の理解・認識の開示は裁判官の面前で行われます。すると、単に調査官の報告書を開示する案の場合に生じ得る裁判官の認識・心証と異なる報告書が開示されることがなくなり、それにより生ずる弊害を回避することが可能と考えられます。
 更に具体的な運用のイメージの一例として、最終ページの別紙1に、訴訟手続の流れに応じて裁判所調査官がどのような関与をしていくのかという運用イメージについて記載しておりますので、これも御参照くだされば幸いです。
 また、⑥の権限の範囲については、裁判官の命を受けてすべての手続に関与することから、権限の範囲については特段の制限を設けないとしています。
 ⑦の新たな調査官としてどのような者を活用すべきかという点については、制限を設けないという前提で、特許庁審査官・審判官、弁理士を中心として、中立性・公平性の確保等に留意をしつつ、幅広く適任者を活用するとしています。
 ⑧の専門委員との関係はどうあるべきかという点については、新たな調査官は、技術的知見及び特許法等に関する知識を有する者とし、原則として審理に関与することとする。専門委員は技術的知見を有する者とし、例えば新たな調査官では対応困難な最先端分野をはじめとする種々の技術分野について、必要に応じて審理に関与することとするとしております。
 資料1については以上でございます。
 続きまして、資料2の侵害行為の立証の容易化のための方策について、御説明いたします。
 1ページ目の「第1 議論の方向性」について、文書提出命令における文書提出義務の範囲、インカメラ審理における文書の開示、訴訟において開示された営業秘密保護の方策、営業秘密保護が問題となる事件の非公開審理が、議論の方向性として、論点として指摘されるところであります。
 具体的な方策案として、2ページ目を開いていただければと思います。
 「1 秘密保持命令(仮称)等について」と書いてございます。その具体例として、インカメラ審理手続においてどのような具体案が考えられるかについて御説明したいと思います。
 ①としまして、特許法105 条の規定の枠組みを維持しつつ、秘密保持命令や公開停止の手続規定を整備することで、営業秘密を含む文書を提出しやすくするようにするということにしております。
 従前105 条の正当な理由について、営業秘密を除くという案はどうなのかということの提案がございましたが、そういう案ではなくて、①のような形としてはどうかということでございます。
 ②としまして、当事者等が、インカメラ審理のために提示された文書等の開示を受けることができることとする。ここには注1と注2がございますが、注1は、当事者が法人である場合には、開示を受け得る者は法人の代表者、又は法人の役員、代理人、使用人その他の従業者のいずれかになると考えられる。また、訴訟代理人だけが開示を受けることも可能である。これはいずれにしても、3ページの(1)の具体案についての議論の際の視点の最初のところに書いてございますが、幅広く対象を考える。2つ目の○は、裁判所の裁量によって開示するという形を前提としていることでございます。
 注2に戻りますが、注2は、前回のこの検討会でも議論があった、第三者の専門家、具体的には専門委員に開示するという案についてでございます。
 この専門委員というのは、いまだ施行されておらず、ここでも議論が分かれましたが、まだ導入されていない専門委員というものがどのような形で運営されていくのかということが、まだ確たるものとなっていないという現段階において、専門委員を対象とするということについては、慎重に検討した方がよいのではないかということで、今後の検討課題とするという案で一応とりまとめてございます。
 これについては、前回もまだ議論が分かれていたところなので、なお議論していただきたいと思っております。
 ③ですが、秘密保持命令の内容として、2つの内容があります。2つの内容というのは、訴訟に営業秘密が現れている場合、裁判所は当事者の申立てにより、当事者等に対して、訴訟追行以外の目的での当該営業秘密の使用及び当該命令を受けていない者へ開示を禁止することを内容とする秘密保持命令ということを考えてはどうか。もう1つの問題としては、この秘密保持命令の違反に対しては、所要の罰則を科すということでございます。
 3ページ目に移りまして、この具体案の議論の際の視点ということで、(2)の上から3つ目の○について、「営業秘密の記載のある文書が書証として提出される場合のほか、例えば、主張段階においても、営業秘密が、訴状・答弁書・準備書面等に記載されることが考えられ得るが、立証段階とは別に、主張段階における秘密保持命令(仮称)による手当ての必要性についてどのように考えるか」。これについては、新しい問題提起でございますので、議論していただければと思います。
 その下のところでは、秘密保持命令の違反については、親告罪とすることはどうか。また、従業者等の違反について、両罰規定を設けることはどうかということについても、提起させていただいております。
 3ページの「(3)秘密保持命令(仮称)の効力が存続する期間をどう定めるべきか」ということでございますが、ここでは「訴訟終了後も、秘密保持命令の名宛人となった者等からの申立てにより、命令の取消しの決定がされない限り、命令の効力が継続するものとする」という案を示させていただいております。
 これは従前、いろんな意見があって、事務局の方も検討しなければいけないということでつくったところですが、民事訴訟法92条3項の閲覧等の制限に関する規定では、これと同じように、取消しの決定がされないときには閲覧制限等の決定の効力を有するという形で規定しているところでございます。
 他方で前回までの議論の中で、取消しの申立権者には、秘密を保持していないことから、秘密の3要件についての消滅等について、よくわからない。その点についてどうするのかということが問題になっていたわけですが、民事訴訟法92条3項を立案する時の資料を見ますと、そこでは立証責任は営業秘密の保持者側に負わせるということでバランスを取っているということでございますので、実質的には取消しの申立てをして、本当に営業秘密としての3要件が失われているのかどうかというのは営業秘密保持者側の方で立証していくということで、同じような規律が考えられるのではないかと考えております。
 5ページ目「公開停止規定の整備について」ですが、これは10月6日の検討会において、長谷部先生、戸波先生からヒアリングを行って、皆さんの御議論を承ったところでございます。
 基本的には、考えられる要件及び考えられる手続について、同じことを書いております。1点、更に御議論いただきたいと思いますのは、考えられる要件のうち、①のところですが、「当該事項について十分な陳述をすることができないという真にやむを得ない事情があること」の前提の要件として、前回は、括弧内に書いてあります「その当事者の当該営業秘密に基づく事業活動の継続が困難になることが明らかである」という形で表現をさせていただいておりました。この表現について、戸波教授、それから阿部委員、中山委員からも、かなり厳し過ぎる要件ではないかという御指摘があって、その後事務局の方でもいろいろ考えまして、その選択肢として、ここに掲げているような、「その当事者の当該営業秘密に基づく事業活動に著しい支障が生ずることが明らかである」に代替することも考えられるのではないかと思い、これを提示させていただいております。これについても御議論いただければと思います。

○伊藤座長 それでは、ただいまの事務局からの説明のうち、まず、資料1の「裁判所調査官の権限の拡大について」の具体案、これにつきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見をちょうだいできればと存じます。

○末吉委員 弁護士会でも議論をしてまいりまして、ここに示された具体案に全面的に賛同したいという意見をまとめてまいりました。
 1点質問があるのですが、資料1の2ページ目の注4、先ほど近藤参事官が御説明されたところですが、先ほどの御説明も加味して考えると、この「口頭による報告」というのは、裁判官の認識、心証と異なる場合はないということを意味するのでしょうか。それとも、必ずしも裁判官の認識・心証と異ならないという保証はないけれども、報告書という形態でなくて、あくまで口頭の開示であるという点で問題点を少なくしようとする趣旨なのか、この関係がわからなかったので、この点は質問です。

○近藤参事官 裁判官の面前で調査官が意見について述べている場合に、裁判官の心証と違うこと、技術的事項について違うことについて説明をし出せば、裁判官がそこで当然制止をしたり、それについて修正するということが考えられますので、当事者に誤解を与え、審理が混乱することは避けることができると思っています。
 通常、裁判官が裁判体を審理していく上で、違う心証に基づく説明をした場合には、それは訂正するのは当然であって、それをそのままにしておくということは通常考えられないことです。
 そういう意味で、そういう問題が生じないだろうということでございます。

○末吉委員 わかりました。

○沢山委員 私も同趣旨の質問ですが、裁判官の分身という位置づけだろうと理解していたのですが、権限の拡大のところで書かれていることは、裁判官と事前の打合せなしに、自分のイニシアチブでどんなことも発言できるし、どんな意見も述べることができるという理解でいいですか。

○近藤参事官 裁判官の分身であるというのは補助者でありまして、その基本的な認識はそうだと思うのですが、具体的に当該部の裁判官と調査官がどういう形でやるのかというのは、当該裁判官の訴訟指揮に委ねられているところがあると思うのです。事前に十分に打合せをして、ここまでは言っていい、これはだめだという形で仕切った形で審理に臨む裁判官もいらっしゃると思うし、それが理想だと思うのですが、そうではなくて、おおまかなところである程度のアローワンスを与えながらやっていくということも十分考えられると思うのです。後者の場合にそういう問題が生じると思いますので、後者の場合においても、裁判官の心証と異なっている場合には、そこで適宜審理の中で修正するということは当然考えられるので、そういう問題は生じないのではないかというのが今のお答えでございます。

○沢山委員 さっきの末吉委員の質問が典型的な例ですが、裁判官の心証と違う意見開示があった場合、近藤さんは、多分、混乱を避けるために裁判官が制止したり、何らかのアクションを起こすだろうと言われますが、それも広い意味での裁判官の訴訟指揮の中に服しているわけですから、そういう保証は何にもないということになりますね。原告と被告が出ていて、調査官の意見だけを聞いていて、あとで誤解をするということは十分考えられると思うのですが。

○近藤参事官 どこまで裁判官と調査官がどういう話の下に運営していくのかというのは、おっしゃるようにその裁判体に任されていると思うのですが、やはり、誤解が生じているというのがわかるような場合に、裁判官がそのまま進行させて何も言わないということは、ちょっと考えづらいのではないかと思っております。

○沢山委員 私も考えづらいとは思うのですが、皆、敏感になっていますから。調査官の権限が拡大して、調査官がどう考えているかが非常に大きな意味を持つわけですね、この訴訟の場において。

○近藤参事官 場面は全然違うのですけれども、合議体で審理をしている場面で、陪席裁判官がいろいろ質問することもよくあります。その中で違う観点とか違うことを前提にして質問をしている場合には、あとで裁判長が更に引き取りながら、そこについて修正をするというのが通常だと思います。
 それと同じように、後の審理に支障が生じたり、混乱が生じるということについて、そのまま担当裁判官が放置しておくということを前提にするような制度設計でなくても構わないのではないかと思っております。

○伊藤座長 私から確認をさせていただきたいのですが、裁判官の心証と異なるということだけれども、調査官が心証そのものについて、何かそれに関わる事項を発言するとか、それを開示するということは、実際の訴訟の現場ではなかなかその区別は難しいと思うけれども、そういうことは想定していないのでしょう。言わばその前提となる技術的事項とかいったことについての知見を披露するとか、意見を言うということだから、観念的には区別はできると思うのです。ただ、実際に訴訟の現場でその2つが截然と区別できるかというのは非常に難しい話だと思うけれども、そこはどうでしょう。

○近藤参事官 心証というのは何をもって心証と言うのかということもあるでしょうけれども、その具体的な訴訟の中で一番の争点が、技術的事項についての理解の相違であって、そこが核心的な部分であるというのは、あり得ると思います。そこについて、調査官が、こういうことで理解していいのではないかということを基にして、そういう事件であれば事前に裁判官とやりとりしているのが通常だと思いますが、それがやりとりもしなくて、違ったことを言ってしまったという場合には、そこについて、裁判官は、そういう考え方もあり得ますねということを言うのではないかと思っております。
 心証と言っているのは、訴訟の勝ち負けということを前提にしているのではなくて、技術的事項を前提にしているということでございます。

○伊藤座長 今回、かなり具体的に甲案という形で、期待される権限の内容をある程度理解できる形で示してもらったのですが、それについて何か御意見ございませんか。

○加藤委員 甲案に賛成いたします。
 1つだけ確認させてください。つまらないところかもしれませんが、2ページ目「除斥・忌避・回避の規定を準用する」について、調査官が審査官あるいは審判官として、当該特許を審査又は審判した場合については、除斥・忌避が適用されるというイメージでよろしいでしょうか。前審関与という言い方なのかどうかは別としても、関連事件に関与しているという、そんな考え方になるのでしょうか。

○近藤参事官 規定ぶりとしては、除斥・忌避・回避の規定を裁判官について書いてあるものを準用するという形で考えています。公平と見られるかどうかということが、忌避などでは問題になるわけで、今おっしゃるように、審査官として当該特許の査定に関与したような人が、その事件について調査官として関与するという場合に公平に見られるかどうかという解釈の問題になると思います。今の例で考えれば、該当するという解釈になるのではないかと思いますけれども。

○加藤委員 わかりました。

○伊藤座長 ほかに御意見ございませんか。
 ただいま末吉委員、加藤委員、沢山委員から、内容については賛成という御意見がございましたが、皆様の意見がそういうことであれば、そのようにとりまとめたいと思いますが、それでよろしいですか。
 それでは、当検討会の意見として、裁判所調査官の権限の拡大につきましては、甲案に示されているような内容でよいということでとりまとめさせていただきます。
 次に資料2「侵害行為の立証の容易化のための方策について」、これも御質問、あるいは御意見、いずれでも結構ですので、審議をお願いしたいと存じます。
 いずれの点からでも結構でございます。

○荒井委員 5ページの①で括弧の中の「その当事者が当該営業秘密に基づく事業活動の継続が困難になることが明らかである」という部分、これだと厳し過ぎると思いますので、括弧の外の「事業活動に著しい支障が生ずることが明らかである」、そちらの方が適切ではないかと思います。できるだけ当事者の営業秘密が保護できるようにしていただく方がいいと思います。

○伊藤座長 ただいま荒井委員が御発言になった箇所について、ほかの委員の方、いかがでしょうか。

○加藤委員 荒井委員の意見に賛同いたします。ぜひ「著しい支障が生じる」くらいにしていただきたいと思います。
 ただ、産業界で1つだけ意見がございますのは、逆に緩和側に働いた場合に、営業秘密だから何でも公開停止という、多分、これは裁判所の運用に委ねられる部分だと思いますけれども、余り濫用的な場合については、裁判所の裁量によって、やはり公開原則という点について御配慮いただきたいと思います。
 もう少し具体的に言いますと、産業界で想定している公開停止、秘密が保持されるのは、多くの場合が技術情報が該当するのではないか。例えば特許の侵害や技術ノウハウの漏洩事件のようなところで、例えば被告の製造方法が開示されてしまうと非常に困るという例が典型的なケースでございます。
 前回、末吉委員の方から御指摘のあった、経営情報に関わる情報をどう扱うかが若干問題が残るところだと思います。例えば被告、あるいは原告の利益率、あるいはライセンス関係のようなものが通常ならば、経営情報として営業秘密の範囲に入ってくるはずですが、そういった情報に該当するから直ちに公開停止というのは、少し行き過ぎの部分もあるのではないか。特に原告の立場から見た場合に、そういう意見もございますので、産業界としては技術情報が主な対象になるのであろうと考えております。この点については、多分裁判所側で最終的には公開にするか非公開にするか御判断される事項とは思いますけれども、余りにも拡大してしまうと、かえって弊害もあるのではないかと思います。文言としては、「著しい支障」でよろしいのではないかと考えます。

○近藤参事官 逆に言うと、経営情報ということが入らないで、技術的な情報を中心とすることを示すようなことにするということも考えられるということでしょうか。

○加藤委員 私はそこまでは申し上げておりませんが、そこまで言うとかえって制限を働かせてしまう、非常に難しいところでございます。経営情報でもどうしても秘密にしなければならないことがあり得るので、それはそれでいいのですが、裁判所の運用の方で適切に御判断いただきたいところです。

○近藤参事官 御指摘の点を踏まえていろいろ考えてみたいと思います。

○櫻井委員 せっかく予定調和的に話が進んでいるのにあれなんですが、アカデミックな観点から言いますと、手続的にはよろしいと思うのですけれども、これは憲法の話とは直接関係ないと私は思っておりまして、この間のヒアリングにどういう意味があったのかよくわからないのですが、基本的には裁判の公開停止という話は政治的にはなかなか乗り越え難いところがあるので、それで憲法学者のお墨付きをもらって、まあいいと。いいからいいんだという以上の意味は余りなかったのではないかと思っているのですが、この規定で法律上は問題ないと思いますけれども、これでちゃんと法律化できるというお見通しなのでしょうか。

○近藤参事官 まず、憲法との関係で言えば、最終的に公開停止をするのか、公開停止できるかできないかというのは、憲法の解釈で決まってくるというのは、御指摘のとおりだと思います。
 ただ、その公開停止ができることを前提とする手続等の要件を法律に規定することになった場合に、その規定自体が違憲ではないかどうかというのが問題になってきて、前回のヒアリングでは、こういう規定であれば違憲にはならないだろうということだと思うのです。
 だから、この規定を置いたからといって、公開停止ができるかできないかということが、すべてクリアしているかというと、そうではないということは御指摘のとおりだと思います。
 一応憲法論的に、こういう形の法律をつくった場合に、82条に違反するものではないという形で前回一応お墨付きをいただいたと思っておりますので、それを基にして法律の規定を考えたらいいのではないかと考えております。

○櫻井委員 法制局とか法務省というのはすごく厳密な議論をしているのかと思ったのですけれども、憲法論をクリアーするについて、あのくらいの論証で通るんだったらそんなに大したことないというのが私の率直な感想で、少なくとも学術論文としては全然論証になっていなかったなという点は指摘させていただきたいと思います。

○伊藤座長 今の公開停止について、特に要件で荒井委員、加藤委員から、「事業活動に著しい支障が生ずることが明らかである」という要件の方が合理的だという御発言がございまして、前回もその趣旨の御発言があったのは先ほど近藤さんから御紹介があったとおりですが、そこはほかに御意見ございますか。この場での御意見として、著しい支障、これを要件とするのが合理的だというのは、この場での全体の御意見と承ってよろしいですか。
 それでは、その点はそのようにさせていただきます。
 では、秘密保持命令、どうぞ櫻井委員お願いします。

○櫻井委員 2点ほどありまして、1つは、レジュメですと3ページ目になりますけれども、秘密保持命令について、違反した場合に刑事罰を設けるということですが、これはコメントということになりますが、基本的にロー・エンフォースメントという観点からいきますと、刑事罰というのは、最後の手段であるという前提だろうと思うのですけれども、この場合はいきなり罰則を設けているので、罰則の使い方としては、最近の議論からしますと、非常にレトロな制度設計であるということが言えるだろうと思うのです。
 ですから、本当はもうちょっと中間段階の、行政的な措置と言いますか、刑罰にいかないところでの実効性確保みたいなことを考えた方がよろしいのではないかと思うし、知財みたいな最先端のところで随分レトロな議論をなさっているなというのが感想でございます。
 2点目は、4ページ目で秘密保持命令の効力の存続期間の話ですが、これは利益衡量としましては、民事訴訟法92条の話がありまして、それはそれとしてわからないではないですけれども、これは、刑事罰との関連で見ますと、構成要件に当たる部分を命令でもって構成し、それを取り消すという形にしているわけですけれども、一般論から言うと、行政処分を取り消すというのは基本的にはアブノーマルな話なので、制度のつくり方として、通常のノーマルな形で命令の取消しを想定することにはちょっと違和感があります。むしろ、例えば秘密保持命令を出す、実質的に保持する必要性がなければ意味がなくなるということはあるのですけれども、あるいは、政策的に、例えば10年とか5年とか、その辺はわかりませんけれども、ある程度期間制限を設けて、10年と仮定しますね。だけれども、10年前であっても、実質的に言うと、あるいは当事者の感覚からするともういいんじゃないかということで、例外的に取り消してもらって、大丈夫なようにしてあげるということで取消しという制度を使うというならばわかるのですけれども、これをそのまま基本形として設けることについては、技術的というか物の考え方として問題があるのではないかと思います。

○近藤参事官 必ずしも御回答ということではないのですが、これを考える上である一定の期間、例えば、10年というのは考えなかったのですが、5年とか3年とかで、前回の議論にもあったように、秘密保持命令を申し立てる側が、自分の権利を守っていくという観点から、それを延長していくという形は考えられないかということは、事務局内でも考えました。
 ただ、そうすると、例えば5年という形で、もうすぐ期間が満了しそうだという時に延長の申立てをして、それが4年と11か月と29日目か何かに申立てをして、あと審理の時にその責任というのは裁判所が負って、それまでに判断しなければいけないということになるのかどうかとか、かなり切れ目、切れ目のところは問題になり得るのかなと思いました。
 そういう問題を解消するという意味では、この取消しという形は、1つはきれいな形。申立てをしたら、その間更に継続しますという形にするということも考えられますけれども、屋上屋を重ねるような形で、非常に複雑になってきてしまうかなと。
 あと、これは別の話ですが、秘密保持命令の真の目的というのは、営業秘密を保護していきましょうというのが内在的にある保護法益だと思うのですけれども、これの直接的な保護法益というのは、やはり、司法において秘密保持命令を出したという司法秩序的なものが前面に出ているのではないかと思います。そこのところで、取消しがない以上は、その命令に違反する者について刑罰を科すという形の切り分けというのは十分考えられるのではないかということで、今、具体案を示させていただいているということでございます。

○櫻井委員 よくわかるのですけれども、その場合に、それにしても相手方の立場が大分不安定になるという感じはしますね。だから、取消しということで、それしかないということになりますと、何か不定期刑みたいな感じになってしまうので、どうかなということです。
 ただ、そこの弊害を回避する形で期間設定をして、取消しということを、選択肢として残すということは筋が通るかなと思います。

○近藤参事官 その辺は議論を踏まえて検討したいと思います。

○伊藤座長 今の秘密保持命令や、特に具体的な取消しの問題とか、前提となる秘密保持命令が効力を持つ期間の考え方について、ほかの委員の方、いかがでしょうか。櫻井委員の御発言に関連してでも結構ですし、御自身の御意見でも結構ですが、どうでしょう。加藤委員、沢山委員は、場合によっては、そういう秘密保持命令の名宛人になる可能性のあるお立場として。

○沢山委員 私は最初から、近藤さんの言う効力の継続期間ですけれども、名宛人が申し立てるのは何とか工夫していただけませんかということを申し上げておって、やはり営業秘密の保有者からのアクションによって、要件が立証されることによって延長されるというメカニズムがいいなと個人的に思っておりましたが、これでもやむを得ないかというふうに思うようになりました。
 もちろん、命令のことばかり書かれていますが、この対象物は何かで特定されるのですよね。それを保持者が公知したようなことになると、その時点で自動的に消えるわけですね。その場合も命令の申立てをしないといけないのですか、その事実をもって。

○近藤参事官 先ほど櫻井委員からの質問のところで御説明しましたように、何かの形で公知になった場合でも、これはやはり裁判所の方に申立てをしていただいて、その秘密保持命令自体を取り消すという手続は必要ではないかと思っております。

○沢山委員 そんなことモニタリングできませんよね、訴訟が終わってしまえば。すぐ関心がなくなりますから、だれが公知にしたとか、しないとか、やっていないだろうと思うのですけれど。

○加藤委員 その点についての私の理解ですが、今の近藤さんの考え方は、ちょっと意外でした。実は、名宛人の申立てにおいて命令の取消しの決定がされるまでは効力が存続するというのは、やむを得ないかなと、名宛人になる可能性のある立場として思いました。
 もともと本件を検討したこの検討会の場で申し上げたのは、できるだけ期間が初めから定まっている方が望ましいという意見は言わせていただいたとおりですが、内容的に見て、取消しの決定がされるまでということはやむを得ないということで、本案でよろしいかと思います。
 ただ、3ページ目の一番下の親告罪、又は両罰規定との関係ですが、罰則の適用において、私は実は営業秘密の3要件、公知性によって既に営業秘密たり得なくなった場合については、自動的に刑罰適用要件を欠いて刑事罰の適用はないものとされるのではないかと理解いたしました。したがって、公知の場合でも名宛人は裁判所に申立てをして決定を受けなければいけないというのは、少し実態から見ても、現実的に見ても厳し過ぎるような気がいたします。
 それから、親告罪としたらどうかという点については、私は基本的に親告罪にすべきものだと考えております。
 1つは、刑事罰の適用については、刑事裁判の中で営業秘密自体が公開される可能性があるわけですから、その点については親告罪としないといけないだろうということ。原告、つまり営業秘密が漏洩されてしまった側から見ると、依然として営業秘密であるかどうかは、きちっと調べた上で、刑事罰の適用をお願いする、つまり、告訴するということになるのではないかと思いますので、その方がフェアですから、親告罪という点については賛同したいと思います。

○近藤参事官 今、沢山委員と加藤委員から、実質的な3要件を欠いているということについて、それをどう考えるのかということですが、現実問題として、3要件を欠いていて、取消決定がされないもので、実質的に営業秘密でなくなっているものについて、だれかに伝えたという場合に、それに刑事罰が発動されるということは非常に考えづらいと思います。実質的に守るべき利益がなくなっているので。
 ただ、実質的な3要件があるかないかということを構成要件的な事実として記載をしておきますと、3要件が具体的には消滅していなかったのに、私は消滅していたというふうに錯誤してしまいました、だから開示したのですという主張を許すことになって、これは事実の錯誤になりますから、そうすると、その営業秘密を漏洩しても、刑事罰は科せられないという形になってしまいます。そこのところを構成要件として取り込むのがいいのかどうかということは慎重に考えなければいけないのではないかと思っております。

○吉村企画官 更に今の点ですが、刑罰を免れるためには、名宛人が自ら営業秘密を公開して、そうすると自動的に適用されなくなって、自己矛盾的なところもありますので、それを回避する仕組みは何らか必要かなという検討も私どもはしておりました。

○沢山委員 しかし、それ自体が第三者に開示しないことの義務違反ですよね。

○吉村企画官 つまり、二匹目のドジョウとか、後に続く人たちが出てきた場合とか、同じ営業秘密の秘密保持命令を受けていたAさんとBさんがいて、Aさんが自ら犠牲になって営業秘密を開示し、Bさんは、これはラッキーということでそれを使い始めるということも、チームプレーとしてあり得るのではないかと、いろいろ検討していたところでございます。

○沢山委員 近藤さん、確認ですけれども、2ページの具体案の③のところですが、「裁判所は、当事者の申立てにより」というのは、開示側当事者という意味ですね。

○近藤参事官 秘密保持命令を発令する方ですね。

○沢山委員 そうです。③の1行目です。

○近藤参事官 通常は秘密を保持している側の申立人からということが考えられます。

○沢山委員 そうですね。
 だれを名宛人にするかというのも、申立てによるのですか。

○近藤参事官 そこのところは1つ工夫をしなければいけないところだと思っているのですが、当該訴訟においてだれが接していいのかというのは、相手方の意見も聞きながら、適切な人を絞り込んでいかなければいけないというシステムとして考えていきたいと思っています。

○沢山委員 名宛人は法人というのはあり得ないのですね。

○近藤参事官 基本的には、法人ではなくて個人を考えています。

○沢山委員 もっと正確に言うと、「開示側当事者の申立てにより、相手方当事者等に対し」ということで理解していいですね。

○近藤参事官 相手方当事者等に対してというのは、自然人であるということを前提にしてですか。

○沢山委員 はい。

○近藤参事官 そう理解しています。

○伊藤座長 ほかに秘密保持命令に関しまして、御意見のある方、おいでになりますか。

○飯村委員 制度を具体化するのはこれからだと思うので、具体化されない前提での意見ですが、3ページの(2)秘密保持命令規定の新設の2番目の○の②、秘密保持命令(仮称)を受けていない者に対して営業秘密を開示する行為を禁止することでよいかという点に関してですが、個々具体的な秘密保持命令において、どの範囲の者に対して開示して、どの範囲の者には開示すべきでないという区別がされることが必要になるのではないかというイメージを持ちました。秘密保持命令を受けていない者に対してすべて、一律に、開示してはならないということまでは必要がないという気がしました。
 3番目の○ですが「営業秘密が、訴状・答弁書・準備書面等に記載されることが考えられ得るが」という点に関しては、準備書面で記載されるものが営業秘密ということもあり得ると思いますが、訴状・答弁書は、当事者において工夫することによって、営業秘密を含まないような形で進めることもできるということ、それから、訴状が秘密保持命令の対象になってしまうと、受けた当事者が代理人に相談できなくなるとか、いろいろとスムーズな進め方ができなくなってしまうので、訴状・答弁書に関しては、外すべきではないかという感じを持っています。

○近藤参事官 訴状・答弁書についての御指摘というのは、今のお話を聞いていてもなるほどと思うところがございますので、ちょっと工夫させていただきたいと思います。
 前段の、2番目の○の秘密保持命令を受けていない者ということに関して、今、御説明があったのですが、にわかによくわからなかったものですから、敷衍して御説明していただければありがたいのですが。

○飯村委員 秘密保持命令の具体像が必ずしもよく分からないので、分からない前提で意見を述べたということで御理解いただきたいと思います。
 秘密保持命令を出した後での裁判所側のガードの仕方とか、情報管理の仕方に関係してくるのですが、それから、名宛人側の、どういう事柄を守るべきかということにも関連してくると思います。
 秘密保持命令で禁止される前から、既に情報を知っている人間がいるわけで、そういう者に対して、開示してはいけないということは意味がないのではないかという気もしています。
 例えばインカメラで正当理由があるかどうかを判断するために入ってきた、原告側の従業員のA、B、C、D、Eがいるとします。結局、裁判所は、被告側に正当理由があるか否かを判断する前提で、秘密保持命令をかけることになると思うのですが、審理の結果、正当理由もないし、秘密もなかったということも考えられますが、正当理由がなく、しかも、秘密もなかったのであるから、それ以上、秘密保持命令を維持する必要性はないと思われます。
 これに対して、審理の結果、秘密はあるけれども正当理由がない場合に、被告が、その秘密情報の含まれている書面を出してきたようなときには、インカメラの時に秘密保持命令をかけていた人については、結局既に知っているので、その後に営業秘密を含む書面を出した時に、その時の秘密保持命令における開示対象者をだれにするかということについて、問題点が出てくるのではないかという気がしました。結局、個々の営業秘密について、固有名詞まで挙げて、だれ以外の者に対して開示するなということを義務づける規定とする余地が残されていた方がはっきりするのではないという気がしました。一応意見を言わせていただきました。

○近藤参事官 命令の名宛人を、だれだれ以外の者に対して開示してはならないという形で、明確にした方がいいのではないかという御趣旨ですか。

○飯村委員 命令の名宛人というか、命令の内容ですね。

○近藤参事官 わかりました。

○伊藤座長 ほかにいかがでしょうか。
 それでは、秘密保持命令の名宛人、効力期間、取消し、内容等につきましては、ただいまこの場でいただきました御意見も踏まえまして、更に事務局でその内容を詰めさせていただきたいと存じます。
 そういたしますと、「裁判所調査官の権限の拡大」及び「侵害行為の立証の容易化のための方策」の2つの論点につきまして、大きな方向性としては、ここで提示されていたたいたような考え方に御賛成いただけるというふうに承りまして、具体的な制度設計等に係る問題、もちろん、法制上の問題、こういったことにつきまして、事務局で整理をしてもらうことにしたいと思います。

【「知的財産裁判所」に関する検討−特に「知的財産高等裁判所」について−】

○伊藤座長 それでは、今の問題について特にほかに御発言がなければ、引き続きまして、知的財産裁判所に関する問題、特に知的財産高等裁判所につきまして、検討していただきたいと思います。
 まず初めに、知的財産戦略本部の専門調査会における知的財産高等裁判所に関する議論の状況について御紹介したいと存じます。
 専門調査会の阿部会長からは、先日の専門調査会における議論の内容を御紹介して、本日のこの検討会における検討の参考にしてほしいという御依頼を受けております。
 そこで、知的財産戦略推進事務局の土井参事官から、今後の予定等も併せて御紹介いただきたいと存じます。
 土井さん、よろしくお願いいたします。

○土井参事官 知的財産戦略推進事務局の土井でございます。10分くらいお時間をいただきまして、御紹介をさせていただきます。
 前回、この検討会で、我々の方の知的財産戦略推進事務局でも専門調査会が始まる旨の御説明を簡単にさせていただきました。その後10月8日に第1回の専門調査会、10月28日に第2回の専門調査会を開催しております。
 当日提出された資料や議事録につきましては、首相官邸のホームページに出ておりますので、詳しくはそちらを見ていただくとして、ポイントのみ今日御紹介をさせていただきます。
 まず第1回の専門調査会では、当面の検討課題の確認ということで、知財高等裁判所及び特許審査迅速化法について、まず年内に集中して議論をするということが決まりました。その上でコメントをいただきまして、第2回の会合で知財高裁について鋭意検討したわけでございます。
 今日お配りした資料でございますが、1つ目が委員名簿でございまして、もう一つが資料6「知的財産高等裁判所の創設について」、この資料が第2回の専門調査会のときに議論した主たるペーパーということでございます。
 第2回の専門調査会ではこれ以外にパブリック・コメントの結果報告もしてございまして、99件のパブリック・コメント、個人が82、団体17、そのうち知財高裁については71件のパブリック・コメントをいただきまして、賛成が62件、反対が4件という結果でございました。
 それに加えてお手元の資料6でございますが、ごく簡単に要点だけ御紹介をさせていただきます。この資料は、第1回の専門調査会で委員の方々から出された意見、及びパブリック・コメントの中で指摘があった意見、こういったようなものをまとめて整理をしたペーパーでございます。
 2ページを見ていただきますと、知財重視の国家的意思表示が必要だ。これは産業界の方からの主たる意見として提示されたものでございます。
 3ページは「深刻化する模倣品・海賊版問題」。今は中国で模倣品が出ているけれども、将来は日本の国内にどんどん流入してくるという危機感。
 4ページは、アメリカのCAFCの例でございます。
 5ページは、世界における知的財産に関する裁判所。もちろん、これは各裁判所の組織、管轄等は各国の事情により異なりますが、知財の裁判所ができてきている。
 また、6ページにまいりますと、紛争のスピード解決、30億円から84億円と損害賠償も高くなり、企業の経営判断上、知財訴訟は生命線であるという認識でございます。
 また、7ページは技術専門性への対応。最近は事件が特に、先端技術、均等論、特許無効判断、国際紛争という点でますます複雑化し、専門性が深化してくる。こういう意見に基づいてつくりました。
 8ページは、特許訴訟は技術面での論争が中心だということでございます。
 9ページ、これが甲案、乙案という形の両論併記になっている点でございまして、甲案は先ほどこの検討会でも議論がありました調査官あるいは専門委員の話を取り扱ったもので、技術専門性に対応するために専門的知見を補完する体制とする。一方、乙案は技術判事を導入するという案でございまして、パブリック・コメントなどでは技術判事の導入という意見もございましたが、委員からは技術判事に反対、あるいは知財高裁の問題と技術判事は切り離して整理すべきという意見が多くございました。
 10ページにいきますと、A案とB案、これはこれからこの検討会で議論いただく整理表にも一部取り入れられていると思いますが、A案は、第9番目の高裁として既存の東京高裁から独立した裁判所をつくるという考え方。B案は、東京高裁の中に知的財産高等裁判所を創設するという案でございまして、会議では、A案を支持する方がいらっしゃる一方、あとで簡単に御紹介します竹田委員、中川委員、その他の先生からは、B案を支持する意見もございました。そういう状況でございます。
 11ページは参考資料でございまして、知財高裁をもし仮につくるとした場合の規模。
 12ページは、知財高裁という独立の裁判所をつくるメリットの1つとして、知財の適性を持った裁判官を育てるという考え方。
 13ページは、地方アクセスの拡大、これも推進してほしいという考え方でございます。 若干補足しておきますと、左側にございます「巡回裁判」にクオーテーションマークが付いております。日本弁護士連合会から意見が出ておりまして、具体的には裁判官が地方に出張し、尋問等の証拠調べや検証を行う、これを是非積極的に地方アクセスの拡大という観点からやってほしいということでございます。
 14ページは、独立した知財高裁をつくる意義・メリット、今まで御紹介した内容を網羅的に整理をしたペーパーでございます。4つございますが、国際交流、情報発信、司法アクセスの拡大、人材育成の評価、こういったような創設による効果があるという整理でございます。
 15ページは、2003年の民訴法改正による東京高裁の管轄。
 16ページは、そのうち知財高裁をつくったときに、特許権等に関する訴えをどうするか。審決取消訴訟と特許権等に関する訴えは知財高裁の専属管轄とすればよいと。この点については、特に専門調査会では御異議がございませんでした。
 また、著作権等に関する訴えの管轄でございますが、①②③案の3つを提示しました。第2回の専門調査会では余り突っ込んだ議論はなかったと思いますが、第1回の会合では、①案がよい。あるいは③案では今よりも後退することにならないかという御指摘がございました。
 18ページは、専門技術的事項を欠く事件の扱いでございます。改正民事訴訟法では、東京、大阪地裁から他の地裁への移送という形で、専門技術的事項を欠く事件についての問題解決をしましたというのが18ページ。
 それを前提に19ページでア案とイ案という案を提示いたしました。これについても、詳細な議論というまでには至りませんでしたが、どちらかというと、移送の問題はむしろ立法技術的な問題として考えていくべきだという意見が多うございました。
 以上がこの資料6でございます。
 資料7もお手元にあると思いますけれども、中川委員からの意見でございます。
 ポイントは、知財高裁をつくる必要性を明確にした上で、2ページ目でございますが、A案とB案の下にB1、B2、B3が書かれておりまして、ニーズを解決するためにどういうやり方がいいかをよく考えるべきだという御意見でございます。
 また、資料番号が付いておりませんが、当日机上で竹田稔委員から案が提出されました。ポイントは1ページの1のところに、技術専門裁判官制の導入をリンクさせるべきではないと書いた上で、知財高裁の提案として、2ページでございますけれども、法律によって根拠づけられることを前提として東京高裁内に知財高裁を設置する等々を提案されたペーパーが提出されました。
 このほかにこれを議論する前ですけれども、参考人という形で最高裁の方から知財訴訟の現状の報告をいただきました。そこでは、審理の迅速性、専門性の確保、知財高裁は東京高裁内につくるべき、この3点をポイントとして御説明をいただきました。
 2番目でございますが、司法制度改革推進本部事務局から、現在のこの検討会での検討状況を報告され、甲案と乙案、この両端の案のメリット、デメリットを検討し、あるべき姿を考えていくという御報告がありました。
 3番目の参考人は、日本知的財産協会でございまして、企業の方から見れば知財立国というのは企業の生命線であり、知財訴訟をきちっと充実した形で整備をしてほしいという旨の意見がございました。
 以上でございます。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。ただいまの土井さんからの御説明につきまして、何か御質問があればお願いしたいと思います。

○中山委員 荒井さんに伺った方がいいかもしれませんけれども、知財高裁をつくる最大のメリットは看板効果、イメージが上がるということだと思います。恐らく唯一と言ってもいい効果ではないかと考えていますけれども、看板というものはプラスのイメージの場合もあればマイナスのイメージの場合もあると思うのです。この場合はプラスのイメージに決まっているということを前提としていると思うのですけれども、どうしてこれがプラスのイメージかということをお伺いしたい。
 と言いますのは、アメリカのCAFC、これを特許裁判所と訳している人もいますけれども、完全に間違いで、何年か議論した結果、特許裁判所はいけないということでつくったのがCAFCだし、ドイツでも、韓国でも、侵害事件は特許裁判所では扱っていないわけです。場合によってはマイナスイメージになるかもしれないという可能性もあると思うのです。ところが日本の場合にはこれをプラスイメージだと決めてやっているわけですけれども、なぜこれがプラスイメージで、世界に冠たるものになるかというところが判りません。一番心配しているのは、戦艦大和のように、日本は世界に冠たるものをつくったと思っていても、使いものにならなくて轟沈したわけです。
 これが本当に立派なもので、看板効果があるという理由を教えていただきたいのです。

○伊藤座長 土井さん、もし第1回、第2回の調査会の中で、今、中山委員の御発言に関連したような御発言や、議論がございましたら、御紹介いただければと思います。

○土井参事官 中山先生のおっしゃられた内容に関して、近い御意見というのは、多分産業界の方から出ていると思います。日本の産業界は、国内でもそうだと思いますし、海外でも知財訴訟、自分の権利が侵害されたら闘わなければいけない時代だということを申されましたし、技術も複雑尖鋭化してくる。そういう中で自分の権利が、模倣品が出回ったのに何もしないということになれば、適切な言葉がどうかわかりませんが、なめられるというか、きちっと闘うべきところは闘うという姿勢を示すことが最大の抑止力だという議論をおっしゃってございます。
 それは国家レベルとしても一緒であって、日本全体が日本国の知財を最重要視して、きちっとした体制をつくって、それを裁くという抑止効果を明確に出す。これが看板効果と言いますか、アピール効果上重要だという意見が専門調査会では出ております。
 また、看板効果という言葉、それが適切かどうかわかりませんが、委員の方はそれをアピール効果と呼んでおられました。
 それに加えて、14ページのところに知財高裁のメリットを全部まとめた表を付けてございますが、委員の方々からは、看板論以外に、つくることによって今の知財の国の施策、これをきちっと実行し、あるいはつくられた制度を人的、あるいは予算的にも担保して実行していく。こういうような意見が述べられているわけでございます。

○中山委員 知財を重視してきちんとやっていかなければいけないという点はもちろんわかるのですけれども、それと知財高裁が結び付くというところがわかりません。先ほど言ったように、アメリカはそれはだめだということでCAFCをつくったわけです。そのときに日本はやると言って、果たしてプラスのアピール効果があるという論証はありますかということを聞いているので、今、土井参事官がおっしゃったこと自体は、私もそう思います。

○伊藤座長 後で時間を取ってこの議論をいたしますので、その際に荒井さんからも詳しいお話があると思いますが、とりあえず客観的な調査会の審議の状況ということではよろしいですね。そういう議論があったという御紹介をいただきました。

○土井参事官 伊藤座長の方から今後のスケジュールというのがございましたので、先ほど話し忘れましたが、次回以降のスケジュールを申しますと、11月28日が第3回でございまして、第4回が12月11日となってございます。
 第1回の専門調査会では、基本的に11月28日の第3回で知財高裁の概要をとりまとめる。第4回は、特許審査迅速化法を議論する。これは当面のスケジュールでございますが、そういう形になってございます。
 その上で、前回の議論を踏まえて、最終的な阿部会長のとりまとめでございますが、こちらの知財訴訟検討会の資料3の一番後ろに、我々の専門調査会での議論を整理した紙が38ページから41ページまでに付いてございます。中身はまた見ていただければと思いますが、41ページの一番最後のところに議論のとりまとめというのがございまして、これは阿部会長がおっしゃったられた言葉を議事録から取ってございます。独立した知財高裁をつくるというA案を是非という明快な方が何人かいる一方、B案支持の方も、A案のメリットをなるべく入れたB案にしたいということで、それに対してB案よりも現状がいいという意見はなかったと思いますので、事務局には各委員と個別に接触して11月10日の知財訴訟検討会の議論も踏まえ、次回に結論をうまくとりまとめてほしいという要請がございました。とりまとめてほしいと言っても、できるだけという感触ではございましたので、次回に向けてできる限り調整を進めるという状況でございます。

○櫻井委員 戦略推進事務局の議論というのは、驚くような議論が多いのですけれども、そもそも裁判所というのは、よくも悪くも歴史があって、伝統があって、人類の歴史そのものみたいなところがあって、それをこういうポンチ絵だけで議論しているということ自体が私は理解できないのですが、お伺いしたいのは、専門裁判所を盛んにおっしゃっているけれども、専門性というのはどういうことなのかという点について、ちょっとお答えいただきたいと思います。
 19ページのところに、移送の話が出てきますけれども、これは専門と関わるので、移送をしても専門裁判所であるということですね。それも含めて専門性というのはどういうふうにお考えになっているのか。それから、高裁レベルでの専門性を言われていますけれども、その内容についても少しお聞かせください。

○土井参事官 ここでいう技術専門性というのは、1つは、特許に関わり合いの深い事件であり、かつ、技術的な判断要素を伴うというものを念頭に置いてございます。それをつくったときに、ここの19ページは、地裁レベルでも移送という考え方を専属管轄に対して取り入れたわけですから、それを高裁レベルでも取り入れて、専門性が低ければ、地方の高裁で事件を処理してほしいという人たちのことも考え、移送するか、あるいは移送はせずに知財高裁の方にも通常事件を判断する人材がいるわけですから、知財高裁の方で整理をするか。どちらがいいかというのを提示したのが19ページでございます。

○櫻井委員 知財高裁が専門的であるということの意味ということでお伺いしているのです。地裁が移送するから同じようにやるというのでは意味ないですね。

○土井参事官 専門裁判所をつくったとしても、一部移送というニーズがあればそれを取り入れるという御意見も一部ございましたから、案を出しているということでございます。

○櫻井委員 専門性の定義を。

○伊藤座長 櫻井委員のおっしゃっているのは、地裁段階では東京・大阪地裁で専属管轄。専門性がある事件として、移送がなされないで判決がされる。それに対して控訴があって、知財高裁に行った。にもかかわらず、更に控訴審段階にいって、専門性が欠けているということで移送がされるというのは一体どういう場合を想定されているのかという、そういう御趣旨の質問ですね。

○櫻井委員 そういうことも含めてです。

○土井参事官 専門性の定義を言いますと、多分、それはつくり方にもよりますが、16ページが基本になるのではないかと思います。審決取消訴訟、及び特許権等に関する訴え、これについては少なくとも知財高裁でやるべきだと。専門性が高い事件。こういうふうな理解が一般的にあるのではないかと思います。

○櫻井委員 それでは答えになっていないですね。

○伊藤座長 そこは後で議論しましょう。それぞれ意見として言った方がよいですので。

○中山委員 こういう議論もあったかどうかという点でお伺いしたいのですが、専門裁判所というのは知財に限らず、世界中どこでも議論されて大事な問題なので、これはその国の裁判制度全体にかかわる問題だと思うのです。仮に日本で知財裁判所をつくれば、当然、労働はどうかとか、行政はどうかとか、他の裁判制度に対して非常に大きな影響を与えるはずです。そういった日本の裁判制度全体についての議論からしたのでしょうか。知財しか議論していないのでしょうか。

○土井参事官 先ほど御紹介した竹田委員のペーパーの中には、他への波及という御指摘がございました。それ以外の方は、むしろ知財立国という観点から知財高裁の検討を進めるという意見でございました。

○中山委員 知財立国の目的で進めるのはいいけれども、他への影響というのは議論していないのですかということです。必ずほかに影響を与えるのですけれども、議論はしていないのですかというです。

○土井参事官 専門調査会では、先ほど申し上げました竹田委員以外の御指摘はございません。

○伊藤座長 その点は議事録を見ていただければいいと思いますが、私は、どの案がいいということについて具体的な結論を支持してということは申しませんでしたけれども、裁判制度全体の設計の中で、それから国民の利益に反しないような制度設計を十分考えなければいけないのではないかという趣旨の発言はいたしました。
 土井参事官、どうもありがとうございました。
 御意見をさえぎったような形で申し訳ありませんが、後で十分時間を取ってございますので、事務局から資料3に基づいて説明をお願いします。

○近藤参事官 「『知的財産裁判所』に係る検討−特に『知的財産高等裁判所』について−」という資料3がございます。それから、「甲案及び乙案において考えられる効果及び方策案」と記載されている1枚紙を配布させていただいております。
 まず資料に沿って説明をしたいと思います。レジュメ自体については、大部ですので、おおまかな説明にとどめまして、具体的方策案を中心に説明をさせていただきたいと思います。
 1ページ目ですが、知財高裁の創設の課題を検討するに当たっての全般的な論点、そして、具体的方策案を提示するということですが、1ページには、第1として「検討の方向性」を示しております。具体的には、知財高裁の創設の効果は何か、知財高裁の創設にあたり解決すべき課題は何か、知財高裁の内容はどのようなものが相当かの3点です。
 その下から4ページ目にかけては、第2といたしまして、第10回、7月15日の検討会における議論の概要を紹介させていただいております。
 ここでの議論では、知財高裁の創設に積極の御意見と慎重な御意見の両方が出され、主な積極の御意見としては、国家政策の観点から、看板効果ないしアナウンスメント効果を付加することの意味は大きいというものであったかと思います。
 一方、慎重な御意見としては、裁判官の視野が極めて狭くなるという問題、知財高裁の職分管轄を定めると管轄を巡る紛争にエネルギーが割かれるという問題、知財特有の裁判制度を考えるのであれば地方裁判所から考えるべきであるといった意見が出されました。
 また法曹資格のない、いわゆる技術裁判官につきましては、消極の意見が大多数であったと思います。
 4ページから6ページにかけて、第3として、知財戦略本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会の第1回会合における委員の意見を紹介しております。
 御案内のとおり、知財高裁の創設については、司法制度改革推進本部と知財戦略本部が連携を密にして検討を進めることとされておりますので、この検討会においても、専門調査会での議論を参考にしていただければと思います。
 専門調査会の第1回の会合においては、先ほど知財事務局から御説明があったように、フリートーキングが行われ、知財高裁の組織の在り方について、9番目の高裁とすべきとの意見が出された一方、推進計画は9番目の高裁やそれ以外のものなど、かなり広い含みのあるものではないか、利用者の利便を重視すべきで、最終的に負担を引き受ける国民にとって十分納得できるものか検証すべきとの意見も出されました。
 また、知財高裁の機能として、看板効果だけではなく、知的財産訴訟の迅速化や独立の司法行政機能も必要であるとの意見が出されました。
 また、専門調査会の第2回の会合における委員の意見につきましては、38ページ以下で御紹介しております。この会合では、司法制度改革推進本部事務局の方で、本日配布しました資料を基に、この検討会での検討状況を報告させていただきました。そして、知財事務局から具体案として、先ほどの、知財事務局から出された資料6の中で、一番関連すると思われるのは、10ページ目の組織の在り方というのがございますけれども、具体案としてA案、9番目の高裁を創設する案と、B案、東京高裁内に創設する案が提示されまして、委員からは両案それぞれ支持する意見。更には知財事務局とこちらの事務局から提示した案のいずれもあり得るとの意見が出されているという状況でございます。
 続きまして、資料3に戻りまして、7ページから13ページ目にかけて、知財高裁の創設の論点を全般的に提示しております。
 (1)のとおり検討の視点は大きく4つに分かれるのではないかと思います。
 1点目は知財高裁の設立の理念はどうあるべきかです。知財高裁の創設の問題は知財だけの問題にととまらず、国の裁判制度、ないし司法制度の根幹に関わるものですので、その観点から、特定の訴訟だけを扱う専門裁判所の設立の理念や、労働や行政など他の分野の事件を専門に扱う裁判所との切り分けなどについても検討する必要があると思います。更には、知財高裁に期待される機能として、看板効果のほかにも、判例の統一や審理の迅速化などが指摘されていますので、関連する論点を掲げております。
 2点目は、知財高裁の裁判所の中での位置づけはどうあるべきかです。ここでは裁判権の範囲の在り方などについて検討する必要があると思います。
 3点目は、知財高裁の組織、裁判官、人事はどうあるべきかです。特別の裁判所を創設した場合の弊害として、裁判官の視野が狭くなる。裁判官の考え方が硬直化するといった弊害が指摘されておりますので、関連する論点を掲げております。
 そして、4点目は知財高裁において取り扱う事件の管轄、移送はどうあるべきかです。特にこの点については、具体的方策案との関連で御説明させていただきたいと思います。
 続きまして、14ページ目からは、具体的方策案の検討について記載しています。知財高裁の具体的方策案として、これまで知的財産訴訟検討会の委員の皆様、それから、知財戦略本部員の方々、専門調査会の委員の方々の御意見などを踏まえて、たたき台として両極にある甲案と乙案の2案を提示しております。ただし、ここで甲案と乙案を取り上げたのは、両極端な案についてのメリット・デメリットを指摘し、検討していただくという趣旨で、この中間がないという趣旨ではありません。
 そこで1枚紙の一覧表を御覧ください。この一覧表は、各案において考えられる効果等について対比したものです。甲案、乙案はいずれも看板効果を目的とした案でございますが、甲案は東京高裁から法的に独立した組織として知財高裁を創設し、知財訴訟を控訴審段階で専属的に取り扱うというものです。
 これに対して乙案は、今般の民事訴訟法改正により、知財訴訟を東京高裁の知財専門部で集中的に取り扱うことで実現された実質的な知財高裁を、いわゆる看板効果を目的として、例えば知的財産高等裁判所と呼称するというものです。
 このような基本的な考え方に関する検討課題としては、専門裁判所を設立する理念や、他の専門分野を取り扱う裁判所の創設の要否等についてどう考えるか。看板効果として具体的にどのような効果が考えられるのか。今般の民訴法改正による効果に加えて看板効果のほかにどのような効果が必要かという点を挙げております。
 次に看板効果ですが、看板は知的財産高等裁判所という名称にするかどうかは別として、各案とも看板効果を目的とすることは共通ですが、甲案は比較的大きく、乙案は比較的効果は小さいということになるのではないかと思います。看板効果に関する検討課題としては、独立性を高めることと、それによって使い勝手等の紛争解決のための機能が低下することとの相関関係についてどう考えるか。2番目として、アナウンスメント効果に差がないとの指摘をどう考えるのかという点を挙げております。
 次に技術的専門処理体制の充実のための方策として、例えば技術的素養を有する裁判官の集中的配置、今般の民事訴訟法改正により導入された専門委員の積極的活用、裁判所調査官の権限拡大の3つが考えられます。
 これらの方策については、各案ともに採用することができるのではないかと考えられます。
 なお、検討課題として、法曹資格を持たない、いわゆる技術裁判官の導入の是非の問題があります。この点については、これまでの検討会での議論では、①裁判官は法規範を扱うものであり、法的素養が必要不可欠である、②技術裁判官はプロであるがゆえの偏見がある、③技術的素養がある人が、ロースクールを経て法曹の資格を取ることで対応すべきといった、否定的意見が多く出されているところです。この点につきましては、専門的知見の導入についてのレジュメ、資料1の4ページ以下も御参照ください。4ページ目後半から5ページ目にかけて、いわゆる技術判事を考えるに当たり検討すべき課題を挙げています。
 次に考えられる観点としては、取り扱う事件、管轄や司法アクセス等という点かと思います。これまでこの検討会について、管轄の柔軟性、安定性は検討すべき重要な論点であることは指摘されているところです。各案を対比しますと、甲案は硬直的であるのに対し、乙案の前提とする法制度は現行法のままであるので、柔軟な対応が可能であると考えられます。
 管轄の点を考えるに当たり避けて通れないのが知財高裁の職分管轄の在り方の問題です。
 レジュメの28ページに指摘しているように、職分管轄とは、種々の相異なる裁判事務を、機能を異にする裁判所の間に配分する定めと説明されております。これは、知財事件専門の裁判所では、通常裁判所に代わってどの範囲の知財事件を担当するのかという問題であり、その代わりに、知財事件専門の裁判所で扱う事件は通常裁判所では扱えないということを意味しております。
 甲案のように、法的に独立させた組織とすると、このような職分管轄の考え方に従えば、独立した知財高裁を創設する以上、そこで取り扱う事件は、その他の裁判所では取り扱えないこととなります。そのような意味で甲案の管轄は硬直的であると言えます。
 この点について更に御説明を加えますと、現在の管轄ですが、同レジュメの32ページを開いていただきたいと思います。現在の東京地裁、大阪地裁に専属管轄化され、東京高裁に専属管轄化される特許権等に関する訴えについての御説明がございます。枠囲いにありますように、特許権等に関する訴えとしては、①から⑤までの類型の訴えが含まれ、これらは東京地裁、大阪地裁の専属管轄ということになっています。このうち①の差止請求であるとか、②の損害賠償請求というのは比較的問題が少ないと思われますが、⑤の契約に基づく使用料請求や、権利の帰属に関する訴訟としては、相続財産に特許権が含まれている事件等も、特許権等に関する訴えの類型に含まれることになります。これらの中には必ずしも専門性があるものばかりではなく、むしろ専門性のない事件が多いものと思われます。
 現行法上、そのような事件は本来の管轄裁判所に移送して、当事者の地理的利便性とのバランスを取っております。東京、大阪地裁管内の事件であれば、移送せず、知財部ではなく、通常部で担当しております。
 したがって、これらの事件は控訴されると、東京高裁の専門部では取り扱わないということになっております。ところが、甲案を採用した場合には、これらの事件も知財高裁で取り扱うことになり、レジュメの17ページの「(2)甲案のデメリット」②の(i) のところで指摘されているように、事件処理が遅延することにならないか。また、これらの点を回避すべく「特許権等に関する訴え」という概念について見直しをするということにした場合、厳格な概念として規定することになると思われますが、そうすると、管轄違いかどうかということが次に問題になってくるのではないか。そうなると、本題の争いの審理前に管轄違いが問題となり、最高裁まで争われるというケースも出てくることになると思われます。 また、18ページの(iii) で指摘しているのは、関連請求の取り扱いが硬直的であるという点です。これは12ページの具体例に当てはめて説明しますと、12ページの上の方の※印で「具体例1」「具体例2」というのがありますが、具体例の2は、会社を退職した元従業員が会社に対して未払い賃金などの支払いを求めて訴えを東京地裁に提起したケースで、元従業員の勤務態度や勤務成績が悪いとの会社側の主張に対して、元就業員は特許発明をさまざま行ったことを理由として反論し、更に会社に対して職務発明の対価の支払いを請求するという例です。
 これまでであれば、第一審の東京地裁は知財部へ事件を配てん替えしてこれらの請求を1つの訴えとして判決を出し、控訴は東京高裁に提起する。
 ところが、知財高裁の職分管轄を設けると、この管轄に属しない未払い賃金支払請求の控訴は、知財高裁ではなく東京高裁に、職務発明の対価の支払請求の控訴は、知財高裁にそれぞれ提起せざるを得なくなります。このように当事者の負担が二重になるとともに、1つの紛争であっても、別々に審理判断されることになる結果、妥当な解決が得られなくなるおそれがあるのではないかということが指摘されるところです。
 更に18ページの(iv)と(v) で指摘しているのは、地域密着型の事件が多いと言われている著作権等の事件の取扱いが硬直的になるおそれがある点です。今年の改正民訴法では、各地方裁判所と東京又は大阪地裁の競合管轄化により、専門性や地域性に応じて専門的処理体制の整った両地裁の知財部での処理や、本来の管轄裁判所への移送が可能となります。
 ところが、知財高裁の職分管轄を設けた場合には、仮に著作権等事件をその管轄に含めなければ、もはや知財高裁において取り扱うことができませんので、専門性の高い事件についてのニーズは満たされないということになると思います。
 逆に、仮に著作権等の事件をその管轄に含めれば、本来の管轄裁判所へ移送することができませんので、地域密着型の事件について、当事者に地理的な不便を強いることになると思われます。
 知財戦略本部の専門調査会においては、職分管轄の問題は立法技術的な問題である、知財高裁の管轄は、今般の民訴法改正で専属管轄化された東京高裁と同じものとすればよいとの御意見も出されておりますが、ただいま御説明したとおり、この管轄の点は、知財高裁をどのような理念で創設するのかという問題にも関わるものでございますので、是非御議論をお聞かせいただきたいと思います。
 一方、乙案の知財高裁は東京高裁から法的に独立した組織ではないことを前提としておりますので、法的問題は生じないと思われます。したがって、知財高裁としての職分管轄の問題を考える必要はありません。管轄は現在の東京高裁、もっと言いますと、その中の知財専門部と同様ということになりますので、例えば著作権等事件についても、通常裁判所と知財高裁の双方で取り扱えることになり、また、本来の管轄裁判所へ移送することも可能ということになるのではないかと思います。
 もっとも乙案については、法的に独立していないので、アピール性が弱い、知的財産の推進計画の趣旨に沿っていないのでないかという御意見もあろうかと思います。
 そのように、アピール効果を大きくするために独立性を高めることと、それによって使い勝手等の紛争解決のための機能が低下することとの相関関係についてどう考えるかという点、更には、司法の中で知財に関する裁判所だけを切り出すことがよいのか否かなどが、主要な検討課題になるのではないかと思います。
 甲案、乙案のほかに、先ほど見ていただきました1枚紙の中にも書きましたが、専門調査会においてはB案というのが提示されました。B案は知財高裁を創設するという点では甲案と同じですが、甲案が有する管轄の問題点等を避け、現在の知財専門部を独立させようとする案です。この案は専門調査会の第2回会合においては、企業内カンパニーの延長線上として、産業界の吉野委員から支持が表明されているほか、竹田委員からも、本日の配布資料にもありますとおり、法的に根拠づけられることを前提として、東京高裁に知財高裁を設置する案が提示されているところです。
 説明は以上です。

○伊藤座長 いろいろ御意見があると思いますが、ここで15分ほど休憩を取らせていただきまして、その後で審議をお願いしたいと思います。

(休  憩)

○伊藤座長 それでは、先ほど事務局から説明がありました知的財産高等裁判所及びいわゆる技術系裁判官について、御意見・御質問などを伺いたいと思いますが、まず、本日御欠席の阿部委員から意見書をいただいておりますので、事務局から紹介をお願いします。

○近藤参事官 阿部委員から、委員配布資料として提出されている「『知的財産高等裁判所』に対する意見」というのがございます。これについては「事務局から提示された甲案(A案およびB案)乙案について、次のように簡単に意見を申し述べます」と書いてありまして、「はじめに」というところが、前に意見を出したという経過等についても書いてあるのですけれども、「2.事務局案への意見」として、「知的財産高等裁判所を創設すべきである、という上述の主張は、『東京高等裁判所の知的財産専門部』を『知的財産高等裁判所』と呼称しようということではありません。組織的にも東京高等裁判所とは別のものを考えています。したがって、事務局の乙案は論外と考えます。
 知財高等裁判所の機能を充実しようとするならば、東京高等裁判所からより独立性の高い組織であるほうがよいと考えるのが通常であると思われます。人事、予算等の司法行政についても独立性の高いほうがよいと考えるべきではないでしょうか。そういうことから、事務局案の甲案(A案またはB案)を採用すべきだと考えます。さらに、その中のA案がより適切なのではないかと考えます。
 ただし、A案を選択するとしても、裁判制度全体が円滑に機能することが前提です。仔細に検討しないとわかりませんが、例えばいわゆる職分管轄の問題が実務上致命的な不都合をもたらすとか、他の裁判制度に重大な影響をもたらすおそれがあるとか、普通裁判所と整合性がとれないことから制度運営が麻痺するおそれがあるとか、費用対効果の面から非常に不合理であるとか、A案に固執することによってそれこそ逆に看板倒れになるようなことでは元も子もないと言わざるを得ません」という御意見でございます。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。
 それでは、資料3、先ほど事務局から説明いただいたものですが、この7ページ以下の具体的方策案を検討するに当たっての視点も踏まえながら、14ページ以降に記載の甲案、乙案の具体案について、また、更に戦略推進事務局から説明がございましたB案について、どなたでも結構でございますので、御意見をお願いしたいと存じます。

○加藤委員 産業界の方の委員の一人である阿部委員の意見も紹介されましたので、知財高裁については、産業界のニーズに立脚して検討していただいているという点から、先に産業界の立場と申しますか、意見を申し上げた方がよろしいかと思いますので、口火を切らせていただきたいと思います。少々長くなりますが、御了承ください。
 1点目の看板効果とか言われるものについて、少し言及したいと思います。
 言うまでもなく、知財高裁を設立してほしいという理由は、判例の早期統一とか技術的専門性強化とか迅速化という点にあることは間違いないところでありますけれども、では、看板効果と言われる点が指摘されておりますので、その内実は何かという点についてやや疑問があるという指摘がございました。
 始めに結論を申し上げますと、私としては甲案、A案に賛同したいという立場でございます。
 1点、今までの看板効果等に係る点について、議論がややなされなかった点について言及したい点がございます。
 この点は何かと申しますと、他の事件、あるいは労働事件などと異なって、知財の世界の特殊性については、国際性が非常に高いという点がございます。言うまでもなくこれは特許独立の原則があるわけでございますけれども、これは我が国国民と言いますか、市民の立場から見た場合、我々は例えばアメリカの特許裁判の動向はどうなっているかを見る場合については、端的に申し上げますとCAFCの動向を見ると。CAFCを注視すれば、ある意味では足りるのでないかという考え方が成り立つかと思います。
 御承知のとおり、この検討会でCAFCというのは、独立控訴裁判所ではありますけれども、知財だけを扱うのではないことは御説明いただいたとおりでありますけれども、市民感覚からいたしますと、我々企業で知財をやっている者から見ても、実質的に特許を専門とする控訴裁判所であるというとらえ方をしていると認識しております。
 一方、逆に、他国から日本の知財の判例の動向を見られた場合、どこを参照するだろうかというのを考えた場合、この知財裁判所ができれば、恐らくそこが同じように見られるのだと思います。
 そのときに重要なことは、CAFCとか、近い将来ヨーロッパもそうなっていくと思われますけれども、共同体特許裁判所、統一裁判所になるであろうと想像されます。そういったところと比肩した組織でないと、やはり我々産業界としてはやっていけないという考え方がございます。
 つまり、現在もそうでございますけれども、知財の訴訟というのは、決して日本だけで起こっているのではなくて、重要な発明になればなるほど、各主要国で争われます。米国、欧州等も巻き込んで争われるのが、他の事件と違った大きな特徴、特質ではないかと思います。
 そういうことから、国際競争の中で日本の知財高裁と呼ばれるものは非常に信頼性の高いものでないと産業界としては困るというのが理由でございます。
 もっと極論的に申し上げますと、高裁の中の専門部を知財高裁と呼んだり、あるいはB案のように、高裁の母屋を借りてつくった裁判所が知財高裁であるとすると、むしろ看板効果という点からすると逆効果にもなりかねないという点がございます。
 したがって、是非独立した組織である独立専門の裁判所たる知財高裁にしていただきたいというのが産業界の第1点目の要望でございます。
 別の視点から第2点目に、知財高裁の組織と人事の在り方から、独立裁判所にしてほしいという点を見ていきたいと思うのですけれども、知財高裁の裁判官はどういった人たちがやるべきなのかという議論については、通常訴訟と知財訴訟との両方の経験を踏まえつつ、知財に関する専門性が強い人がなっていくというイメージではないかと思います。これは産業界の言葉で言いますと、T型人間と呼んでおります。つまり、ジェネラリストである一方、特定の部分についてかなり深い知識を持っているという人たちのことをT型人間と呼んでおります。恐らく同じようなイメージで、知財高裁の裁判官というのは育成されていくべきだろうと考えます。
 そうしますと、これは言うは易く、企業でも同じですけれども、大変な教育というか、お金の面も含めて育成しないとできるものではないと思います。
 そういった点から相当に高い、強い独立権限を持った裁判所でないとこういった非常に大変な、育成に時間もお金もかかる裁判官ということになりましょうから、独立権限の与えられた裁判所であるべきではないかと思いますので、その点から甲案が適切であると考えるところでございます。
 3点目に、職分管轄の問題ですけれども、現実的、実質的に見てみますと、知財訴訟において、知財訴訟とともに関連訴訟が生ずるケースというのは、独禁法しかり、権利の帰属しかり、ライセンシーの未払いとか、想定はされると思いますけれとも、現実を見ますと、数の上では相当少ないのではないかという、我々調査してみましたけれども、そういう結果になっております。
 先に述べましたとおり、知財高裁の裁判官に期待するイメージというのは、ジェネラリストをベースに、更に技術知見や知財の知識が高い人でございますので、こういった関連訴訟についても、同裁判所に委ねても大きな不都合はないのではないかと考えます。
 したがって、職分管轄自体は独立裁判所をつくる上での非常に強い反対の理由にはなり得ないのではないかと考えるところです。
 それから、4番目に、他の専門領域との関係で、先ほど中山先生の方から御指摘のあった、労働事件や行政事件に与える影響についてどう考えるかということでございますけれども、知財高裁というのは、技術に関わる専門性という点で、労働専門裁判所とかと違って、非常に専門性が高いという点。それから、一番最初に述べましたとおり、国際競争の中で我々産業界は常にさらされているわけでして、この国際競争力の維持強化というのは、日本の最重要課題の1つでありますから、政策的見地から見ても、ほかの事件とは飛び抜けて、必要性が現段階では高いのではないかと思います。その点で現在、この知財高裁が必要ではないかという議論がされているのは、ここに理由があるのではないかと思います。
 もちろん、現段階でほかの専門裁判所が設立という問題はないように理解しておりますが、仮に本当に必要になったらば、それはそれで考えればよい事項ではないかと思いますので、知財高裁だけをつくれという主張では決してございません。
 以上、少々長くなりましたが、まとめて意見を表明させていただきました。

○櫻井委員 質問してよろしいでしょうか。知財が特殊であるということですけれども、本当にそんなに特殊なのかというのは根本的な疑問としてあるのですが、仮に特殊だとしましょう。だとすると、確かに甲案、B案、乙案ございますけれども、その中でB案、乙案は敗北主義的と言いますか、内容が中途半端な案でございますので、どうせつくるんだったら甲案がいいんじゃないというのは、私もそうだと思います。ただ、甲案はいろいろ問題もあるのですけれども、仮に甲案でいくとしますと、特殊性があるということであれば、技術判事というのがつかないと意味がないと思います。それから、そういう特別の専門裁判所をつくるのであれば、高裁だけではなくて、地裁もつくらなければいけません。それから、裁判機能というのは、特許庁の審判機能ということも当然含めて考えなければいけません。とすると、地裁を専門化するということと、特許庁の改革をセットでやらないといけないと思うのですが、その点についてはどういうふうにお考えになっていますか。

○加藤委員 特許庁を含めたセットでやるということについては全く反対しておりませんし、この検討会の場でも無効審判の点も含めた形での検討はされておりますので、その線に沿った動きではないかと考えております。
 それから、地裁レベルでの知財の専門性を高めなければならないということだと思いますけれども、理想的には先生の御指摘のとおりだと思います。
 ただ、先ほど言いましたとおり、我々が知っている知財裁判官のイメージというのが、T型人間と申しますか、ジェネラリストかつスペシャリストであるという、非常に理想的にも高い要求を掲げております関係上、地裁も含めて相当数の裁判官にそういう点を求めるのは現状では少し無理があるのではないか。せめて高裁レベルで、まず最初に高裁レベルで、知財高裁のようなところから手がけてほしいという考え方でございます。

○伊藤座長 技術裁判官とセットですか。

○加藤委員 技術裁判官の話でございます。私自身は既にこの検討会で述べておりますとおり技術判事賛成派でございますけれども、なかなか現実的な難しさはあるように感じております。したがって、その点については、できるだけ早く理系の人がロースクールに入って、そういう人たちを目標的にも知財高裁の裁判官の方向へ向かっていただけるようにすることが次善の策なのではないかと考えております。

○櫻井委員 理想的に全部やった方がよろしいということですけれども、では、何で高裁レベルでの専門裁判所なのか。その順番でそこだけをターゲットにするということを合理的に説明していただかないと、そこだけ切り出すと弊害だけが生じてくるのです。だから、せめてとおっしゃったけれども、専門裁判所を作るならば高裁よりは地裁が先ですし、とりあえずここだけというのは、制度がめちゃくちゃになりますから、そこのところはどういうふうにお考えになって、どうして今回は東京高裁のところで専門裁判所をつくるのかという点について教えていただきたいのですが。

○加藤委員 その点については民事訴訟法の改正で特許に係る事項を東京高裁へ一本化する際に、欠点もあるという点は踏まえた上で議論されて、それでよしとされたのではないでしょうか。したがって、その議論がそのまま当てはまるのではないかと思います。

○櫻井委員 だとしますと、看板効果に尽きるということに話は戻ってくると思うんです。看板効果ということであれば、甲案を採るという実益はないわけでして、であるとすると、純粋に看板を作ったらよろしいわけですから、B案ないし乙案とかの方がまだましということになるのではないですか。

○伊藤委員 お二人だけのやりとりになってしまいますから、それぞれ御意見をおっしゃっていただいて、その中でもちろん、委員同士の質疑も結構だと思いますので、どうぞお願いします。

○荒井委員 私は結論から言えば甲案がいいのではないかと思っております。
 まず、看板効果というのは、表現が必ずしも適切ではないと思っておりまして、創設効果と呼んだ方がいいと思います。先ほどの資料の中にも、あるいは今の加藤委員のお話の中にも知財高裁をつくるときのメリットとしてお話、説明がありましたが、知財高裁の国家的意思表示、あるいは紛争のスピード解決、判断の早期統一、予算人事の運用強化、あるいは知財訴訟にふさわしい訴訟運用や手続、こういうことが言われてくる。そのことのために、具体的には技術専門性を確保して、そのために必要な人材養成もするとか、あるいは地方のアクセスを拡大するとか、国際交流を活性化するとか、情報発信を強化する。そういうことが全体として生まれてくるということだと思いまして、これは個別個別の項目を取り上げれば、それぞれ今でもできるではないかとか、あるいは知財高裁をつくらなくてもできるではないかということにはなるわけですが、ただ、全体として、こういうことをやろうということからすると、知財高裁ができた方が総合的、体系的にでき上がっていくということだと思いますので、単に看板効果というよりも、創設効果と呼んだ方がいいのではないかと私は思っております。
 その関係で、今、日本経済が新しい局面にいこうとしている。それから、大学の改革もしようとか、いろいろな要請の中で、知財の改革を進めていこうというときに、知的財産を最終的にしっかり裁判所が守ってくれるかどうかということが一番の基本ですので、そういう司法に対する期待だと思うのです。知的財産をしっかり権利として裁判所が守ってくれるのであれば、産業界も研究開発に力を入れる。大学もそういう産学連携を進めるとか、総合的に進むと思います。司法への期待にどのように応えていくかということが、このポイントだと思いますので、是非これは甲案というかA案というか、そういうものをつくることによって実現するということが、国家的な要請に応えるのではないかと思います。
 もう1点だけ補足いたしますと、そもそもこの知財訴訟検討会の属しているのが司法制度改革推進本部ですので、今回の司法制度改革の原点が国民にとって、より利用しやすく、わかりやすく、頼りがいのある司法制度をつくるということだと思いますので、そういう観点からしたときには、是非知財高裁をつくっていただくのが、司法制度改革の理念、原点からもふさわしいのではないかと思います。

○中山委員 まだよくわからないですけれども、なぜ看板効果があるのか。これは仮に例えば職分管轄などで、よけいなトラブルを招くようなことになった場合に、逆看板の効果ということだってあり得るわけですね。
 先ほど加藤さんが、数を調べてみたとおっしゃるけれども、どこで調べたかわかりませんけれども、知財の専門部の事件ですか。現在の専門部に来るのはそういう事件でないものが多いので、職分管轄は問題になっていませんが、これからどんな事件が来るかわからない。さっきの分類でいくかどうかわかりませんけれども、知財と言ってもどこまでの範囲が来るかわからない。これからの問題です。今までの専門部で係っているのが少なかったからと言って、少ないとは限らないですし、確かに国際的な事件というのは非常に大事であって、日本だけではなくて、世界中で起こるというのが確かにいっぱいある。しかし、絶対数からするとそんなに訴訟の数は多くない。日本で訴訟をやっているけれども、外国でやるという数は、割合としてはそんなに多くないわけで、果たしてこれは、本当にプラスになるならば看板効果というのはあると思うけれども、アメリカは特許裁判所などはやらない。CAFCができた理由は全く違うのです。日本で今やっているような状況とは全く違う下にできたから、あれは余り参考にならないし、ドイツなどでも侵害訴訟を扱わせるという議論は、私は知りません。そういうときに本当に看板効果があるのかということがわからない。

○加藤委員 中山先生の国際訴訟という点について申し上げますと、日本で裁判が行われているものを数えた中で、外国でもされているかという数から言いますと、過半数には至っていないと思います。ただ1つには、この検討会ができる一番最初の方にも、日米両方で権利主張ができるのに、なぜ日本でやらないでアメリカでやったかという御説明があったかと思いますけれども、今はかなり違ってきていると思いますけれども、その理由はアメリカの方が信頼性が高いから、やりやすいからだということだと思います。
 ただ、今後は経済がこれだけ、アメリカでも売られる、日本でも売られる、アジアでも売られる、ヨーロッパでも売られるということになったときには、国際訴訟、同一発明に対して、関連発明について、国際訴訟が増えることはまず間違いないだろうと思います。とりわけポイントは、アジアが今まで以上に絡んでくるということだと思います。そのときに日本の産業界の希望は、母国での裁判制度が信頼を得られるものになっていてほしいと。自分の母国で裁判をやるのが通常は有利なのに決まっています。アメリカが日本企業を訴えるのに、アメリカで訴えるというのがほとんどであるのは、やはりそこに理由があると思います。ですから、CAFCが仮に特許専門裁判所でないとしても、我々知財の人間のほとんどが、アメリカのCAFCは特許を専門的に扱う控訴審だと実質的に考えているわけですので、それと同等のものが日本にないと、我々はハンディキャップを負わされるだろうということではないかと思います。

○中山委員 まだわからないのは、なぜ甲案でつくるかという点がわからないのです。おっしゃることもわかるのですけれども、なぜ甲案か。
 もう1つは、アメリカで訴訟を起こすのは、アメリカのマーケットが大きいので、アメリカで勝負がつけば大体勝負がつくというのが大きいわけで、恐らくこれは甲案を採ろうと、乙案を採ろうと、B案を採ろうと、多分アメリカのマーケットが世界を支配している以上はアメリカに行くケースは増えると思います。

○沢山委員 私も産業界代表ですから、基本的にはA案を支持します。先ほど荒井委員の方から創設効果というお話が出ましたけれども、これを日本でつくることを決めて、我々がアメリカとかヨーロッパの同業の皆さんと特許訴訟の話になったときに、全然態度が違うだろうと思うのです。こうやって日本はある専門裁判所をつくって、それに向けて裁判官を育成していただくし、なおかつ技術的事項がわかるように専門委員制度だとか調査員制度を充実したという話をしたら、それは全然見る目が違う。それも1つの大きな創設効果だと思います。
 先ほど近藤さんからお話があったとおり、甲案を実際のスキームとしてつくり上げていく上ではいろんな問題もあるだろうということは容易に想像されるわけですから、阿部さんと同じように、A案に固執して起こるデメリットと、これをつくったときのメリットの比較衡量の問題ですから、そういう場合はB案に移行することもやむを得ないのではないか。少なくとも現状のままで呼び方だけ変えて呼ぶというのは、余りにもレベルが低過ぎるのではないかという感じがします。

○近藤参事官 今のお話の中で気になったのは、このレジュメの7ページの下の方の※のところで書いてある、三ケ月章先生の「民事訴訟法研究 第四巻」の記述ですけれども、「特別裁判所のさきに掲げた利点が屡々一方的に誇張され、その結果として、通常裁判所の充実という課題の重要性の認識を曇らせ、極端な場合には通常裁判所、ひろくは司法一般に対する軽侮の念を培うおそれすらあるということである。特別裁判所の存在理由を追って行けば−とくにこれを新しく導入しようとするときにはっきり出てくるのであるが−必ずや一般裁判所では到底駄目なのだということをその存立乃至導入の根拠として主張せざるをえぬ筈であるからである。かくて特別裁判所の重視は、司法の本流−通常裁判所−に対する否定的評価の上にのみなり立つという関係がある」。こういうことでいいのだろうかということは、法務大臣もされた三ケ月先生がそういうことを言われていまして、若干今の議論としては、司法全体として考えた場合に、すべてのものを扱う司法の本流ということが、今の議論も、知財は重要だから特別の裁判所をつくるのだという議論は、本流の普通の裁判所というのは大して機能していないということを言っている感じもしないではないので、その点についてはどうお考えなのかということもちょっとお伺いしたい。

○荒井委員 質問ですけれども、これは私、読んで奇異に感じたのですけれども、どんなコンテクストでこれが書かれているかというのがわからなかったのですが、今まで何か特別裁判所をつくるとか具体的な話があって、その時に一般裁判所を否定したのですか、それとも、これは一般論としてこういうことだと書かれたのですか。

○近藤参事官 これは一般論としてです。

○荒井委員 決して一般の裁判所を軽視するとか、そんなことを言っているのではなくて、全体の司法制度をよくしようという議論が、今、司法制度改革の流れであるわけですから、一般的な裁判所を充実してもらうという、これは国民的な要望だと思いますので、そこは三ケ月先生がおっしゃっているような懸念は今起きていないし、全体の司法制度を立派にする。これはゼロサムではなくて、全体を立派にするし、その中で専門的なところもしっかりしようということですから、三ケ月先生が懸念されているような事態になっていないのではないかと私は思うのです。

○近藤参事官 先ほど言った、知財というのは国際競争力の観点で非常に重要で、普通の高等裁判所から独立させなければいけないのではないか。独立させないという形であれば、何ら意味がないと。海外から見た場合に、それは評価されないということが前提になっているように思うのですけれども、それは通常の裁判所の中で知財を扱うということでは評価されないということではないのですか。

○荒井委員 評価されないというか、よりそちらの方が評価されて、日本の司法制度全体としてしっかり機能していますということになると思うのです。
 病院だって、専門病院で専門科ができたから一般のところがだめということでも何でもなくて、まさにT型人間というか、ジェネラリスト的な機能の部分はしっかりするし、それに加えて深い専門的なところも出てきて、日本は総合的に司法制度がしっかりしているというプラスの評価が、外国との関係でもなると思いますし、国内でもそうなると思います。大先生にこんなことを言うのは恐縮ですが、ちょっとコンテクストがわからなかったもので、質問兼私の意見を申しました。

○伊藤座長 更に一歩を進めるのが、荒井委員のおっしゃる創設効果だと。そういうことですね。

○荒井委員 それで一般の裁判所を含めて司法に対する信頼がトータルで高まると思います。

○中山委員 病院とはわけが違うと思うのですけれども、確かにこれは外国人には、私は実務家は知りませんけれども、法律家に言えば、びっくりする効果はあると思うのです。間違いなくあると思いますけれども、だからと言って、これはいいというので、みんな日本を評価して、世界中そういう傾向になるかというと、かなり疑問で、侵害事件全部を特別な裁判所に持っていくということは、どういう評価を受けるかということは、わかりません。もう少し検討する必要があるのではないか。評価を受けるということがプラスだということを前提に議論をしているような気がするのですけれども。

○櫻井委員 議論として、甲案と乙案で、何か乙案は名前だけなんてとんでもないという話ですけれども、前提としては、甲案と乙案と同じですよ。実質的にかなり充実させるということがあって、こちらのペーパーでも同左と書いてあるわけですから、実質は同じなのです。もし仮に創設効果ではなくて、実質的な意味が何かあるとすると、そこに何か実質的な内容が盛り込まれないとおかしいと思うのです。
 だから、実質は何なのかというと、先ほど申し上げたように、技術判事が入ってこないと何のために甲案にするのかという実益がよくわからないということです。
 それから、看板効果という意味では、平成13年の中央省庁改革というのは、我が国の行政官庁の看板を全部替えたわけです、実質が変わったかどうかは別にしまして。あれがどういうふうに評価されているのかということもよく考えた方がよくて、別に国土交通省というのができたから国土交通行政ができたと思っている人はいないわけだし、総務省というのはごみばこ省と言われているので、つくればいいというものではないわけです。だから、それはやはりばれてしまうので、外国人だってわかるわけですから、つくるのであればちゃんと実質を伴った形で看板を付けないといけないと思うのです。
 もし内容がちゃんとあるのでしたら、甲案で、ここが乙案と違うということを是非言っていただきたいし、日本国のためにというのであれば、是非お伺いしたいと思います。

○伊藤座長 今後のこの検討会での審議の進め方とも関係しますので、ただいまの御発言にもありましたし、先ほど来出ていますが、技術判事の部分、これも前にいろいろ御意見を承っているところですけれども、今日の甲案について、言わば甲案の長所と言いますか、それと密接不可分に結び付いたものとして考えるのではないかという御発言もありましたので、まず、そこだけ議論をしていただきましょうか。技術判事というのは、甲案のメリットということで、密接不可分に結び付いているとお考えなのか、それは必ずしもそういうことではないということなのか。その辺りいかがでしょうか。

○小林委員 今の御指示に若干反するかもしれませんけれども、技術判事のことと、一般的なコメントを併せて申し上げたいと思います。
 以前、技術判事の話が確かにあったわけで、ただ、その時の議論では、既にロースクールが実現して、それが動き始めているところなので、それを期待するという議論があったと思いますので、将来性としては当然そういうものを念頭に置いて、どの委員も考えられているのだろうと思います。
 したがいまして、必ずしもリンクするということではないと思いますけれども、ただ、リンクしないからと言って、この話が全く無意味かというと、そういうことはないのではないかという感じがしております。
 先ほどの三ケ月先生の話ではないですけれども、他の通常分野を否定するという趣旨で申し上げるのではないですけれども、知財の保護というのは、多分、これからますます重要性を増していく事項だろうと考えております。その意味で、日本が知財の保護を重視していくという国家的な姿勢、これを内外に示すということは重要なことだろうし、意義があることだろうと考えます。
 知財に関して、最終的なよりどころは、何と言っても司法制度なわけでして、最近は知財訴訟に関する国民的な意識の高まり、期待感の高まりというところを見ても、知財分野における司法制度の役割というのはますます増加するのではないかと考えます。
 もう1点ありますのは、事件の専門性といいましょうか、そういったものも今後一層高度化、複雑化することが予想されるわけですから、裁判所の抜本的な体制整備というものも併せて考えていくことが非常に重要だろうと思います。
 ですから、2点あって、1つは内外への国の姿勢のイメージという点と、それを支えるための専門処理体制の抜本的な整備ということだろうと思います。
 先ほど、いわゆるアピール効果とか呼ぶのがいいのかどうかわかりませんが、姿勢を示すということについて、逆に言えばマイナスもあり得るのではないかという御指摘もあったのですけれども、ここのところはある種、受け取る人の印象の話なので、必ずしもロジカルなものではないと思っていますし、ロジカルでないことの方が重要な部分もございますから、アピールという観点だけをとらえれば、余り議論しても意味がない。むしろ事実がそこにあるということだろうと思います。
 いずれにしましても、その2点、内外に姿勢を示すということと、それから抜本的な処理体制の整備を実現していくということは否定できないニーズではないかという感じがします。
 そういう2点の観点から見ますと、ここで提示されている乙案、呼称の変更案というふうに考えていいと思いますが、それでは必ずしも十分ではないのではないかという感じがしております。確かにペーパーでも指摘されているように、先の民事訴訟法の改正によりまして、専属管轄化もされたわけですし、五人合議制も入ったと。それから専門委員制度も導入されたという種々の改善がされておりますし、したがいまして、東京高裁の知財専門部が、いわゆる実質的な知財高裁だとまで言えるという状況が整ってきたというのは事実かもしれませんけれども、それはあくまでも基礎が整ったというだけだと思いますので、内外に向けて、更に知財重視の姿勢を示していくという観点からは、いささか迫力不足という感じがいたします。
 それから、実際の体制整備を今後とも継続的に行っていくためには、司法行政機構の機能の強化というのが大事だろうと思うのですけれども、必ずしも専属管轄化したから、そこの部分が強化されたというわけではないと思いますので、その点でも乙案にすれば体制が強化されるということにはならないのではないかという感じがいたします。
 他方、ここで言う甲案、独立組織の創設案でございますが、これについては職分管轄の問題も含めて幾つかの問題点が指摘されているわけですけれども、その問題を考慮するに当たっては、多分マグニチュードの問題があると思っていまして、マグニチュードについては精査できる立場にないものですから、確定的なことを申し上げるのは差し控えたいと思いますけれども、ただ、知財保護重視の姿勢を強力に示すとか、あるいは体制整備に現実に資するようにするという点でいけば、甲案にメリットも存在すると思いますので、甲案を頭から否定するということではなくて、指摘される問題点が本当に克服できないものなのかどうかという点について、更に検討したらいいのではないかという感じがいたします。
 また、知財戦略本部の専門調査会で出されたB案につきましても、基本的にはこういうメリットを生かすためにということで多分出された案だろうと思いますので、こうした案も含めまして、知財重視の姿勢をアピールできて、かつ、体制整備にも資するという案を検討していったらいいのではないかと思います。

○飯村委員 知財高裁に関しての基本的な考え方ですが、私自身の意見は、第10回の検討会で述べましたので、基本的にはそれに付け加えるような事柄はありません。私は東京高裁内知財専門裁判所、知財高裁、乙案ないしB案の基本的な思想に強く引かれて、強く支持するものであります。
 その理由は、仮に甲案を採用した場合に、現実にいろいろな問題点が存在する危険性があるということでございます。
 まずメリットと記載された点の検討から申し上げたいと思うのですが、甲案で言われるメリットの第1の点ですが、知財立国を内外に示すという効果が期待されるという、看板効果ということでございます。創設的な効果も間接的にあるかと思います。それから、先ほど言われたように、インデックス効果と言うか、どこの裁判所がやったかということが海外で意識されるということもあるかと思います。
 このような大きな枠組みでの看板的効果は、結局看板だけであれば数か月で効果が消えてしまうのであって、将来の知財裁判所における審理の内容や充実の度合いを客観的に分析して、プラス評価になるのであれば、もちろん、看板ということが意味を持つと思うのですが、プラスの評価を得ない限りは、消えてしまうということだと思います。
 要するに、宣伝の効果があるかどうかは、内容の充実度にかかってくるということになると思います。
 内容の充実度に関しては、既に改正され、施行に向けて運用の工夫が、いろいろとシミュレートされております。民事訴訟法で改正された下における東京高等裁判所内の知財専門裁判の運用で十分に結果が出てくるのではないかと思っています。
 宣伝効果とその内容の充実との関連性ということについて、もう少し意見を補足して述べたいと思います。過去の話になりますけれども、東京高裁の知的財産権部のプレゼンスの高さを、あまりに強調してこなかったという点が指摘できるかと思います。その点では反省材料になるでしょう。それは裁判は実質こそが大切であって、外向けの宣伝というのは必ずしも必要でないという伝統的な考え方に由来するものだと思います。
 昨今、外国からどう見られているとかとか、裁判所を利用したことのないユーザーからどういう目で見られているかという観点も大切なので、やはり理解を得る必要が大いにあると思っています。
 ただ、そういうことを前提にした上でも、東京高裁の知財部がどういう役割を果たしてきたかということについて、今なお、検討会の中でも誤解を受けている側面があるのではないかと思っています。東京高裁の知財部は、既に50年以上の歴史があります。単に長いばかりでなく、その事実上の判例統一機能、それから実務に対する指導的機能は、知財分野における事実審の最高の裁判所ということで、並々ならぬプラスの評価がされていると思います。
 例えば、東京高等裁判所の知財部の審決取消訴訟の取消率は35%とか、年によって違いますけれども、30%を超えているという驚異的な数字が示しております。他の行政訴訟はかつては極めて低いのが実情であったことと比較しますと、東京高裁の知財部が果たしている機能は、実質的にきわめて高いということが言えると思います。
 また、現在のプラクティスの基礎になっている富士通半導体訴訟にしても、均等論を認めたボールスプライン訴訟の判決にしても、その引き金となったのは東京高裁の知財部であり、問題提起をしたものであり、そのような点は高く評価されているかと思います。
 このような東京高裁の知財部の今までの実績から判断しますと、現状が技術的な専門性が低いとか、充実していないというような批判がされている向きもありますけれども、その批判自体が果たして当たっているとは言えないと思われます。
 これは制度を改正するための逆宣伝の結果なのではないかと思っています。確かに、迅速性についての問題点とか、言われることはありますけれども、仮に、そのような点に問題があるのであれば、その点は特に看板効果ということとは関係なく、個々の問題点について問題の所在を発見して、それについて個々的な解決で対処できるのではないかと思います。
 次に甲案のメリットの第2についてですが、独立の高裁にすると、長たる裁判官に人事権を与えたり、予算執行権を与えたりということで、知財訴訟の強化が図れるという点が挙げられると思います。
 これに対しては、乙案であっても、東京高裁内に知的財産専門の裁判所を創設して、長たる裁判官に権限を付与するということは可能でありますし、権限の委任を行うことによって、当然知財の体制強化を図るということができるわけであって、甲案独自のメリットであるとは言えないと思います。この点についても、補足して詳しく説明ないし意見を述べたいと思います。
 現在、知財関係では、独立の知財裁判所が存在するわけではないですけれとも、既に体制強化が目覚ましいということは言えると思います。おおづかみな数ですけれども、東京高裁の民事訴訟の事件数は、1年間で9,000 件の事件が持ち込まれているわけです。民事事件を担当している裁判官はこれに対して全体で90人強でございます。これに対して知財事件を同じ年で見ますと、年間700 件前後でございます。全体の事件数の比較で申し上げますと、知財事件は7.7 %になります。そうすると、知財担当の裁判官の数は、大体7人弱で足りるということになるわけですが、現実的には、倍以上の16人が配置されていて、充実が著しいわけです。
 通常事件の中には、大型の、東京大気汚染訴訟事件であるとか、薬害事件などの公害事件であるとか、東京高裁の中には上告事件もあるわけでありますが、その中でもいかに知財部門が、独立の裁判所でない現在でも、なお、一般事件を担当する裁判官や最高裁の理解を得ながら、充実させているかということの証だと思っています。
 今後、事件が多くなれば、更なる強化も考慮されるわけでありまして、独立しなければ充実しないということになるわけではないと思います。
 むしろ、独立すると孤立化してしまって、裁判所内部で他の通常事件を担当している一般の裁判官に対して、知財事件の真の重要性を理解されなくなってしまうという危険性が生ずるかと思います。
 のみならず、知財裁判所が、いろいろな新しい試みをしている通常事件を扱っている裁判官を発掘したりするとか、相互刺激をしたりするということができなくなるのではないかと危ぶんでおります。
 また、人的体制の強化という面では、特に知財高裁を創設しない場合には、例えば、知財の大型事件が係属して、知財部門の運営が困難となった場合には、通常部から、速やかな応援を受けるということも可能なわけです。しかし、独立するとそういうことが困難になるということがあって、硬直化する可能性があるかと思います。
 次に観点を変えまして、独立の裁判所にした場合のデメリットに関して申し上げたいと思います。
 一番挙げられることは、昨今は行政、あるいは国家の組織のスリム化が叫ばれているわけです。このスリム化に関しては、財政負担であるとか、コストがかさむこととか、コストパフォーマンスが悪いということで、マイナスの面が指摘されています。主として財政負担の観点からの問題点です。
 ただ、より重要な点は、それ以上の事柄があって、いったん組織をつくってしまうと、柔軟性がなくなって、中にいる人間が、組織を守ろうという意識が高くなりすぎて誤りを犯すという危険性が高くなるということがあると思います。
 しかも、行政組織ではなく、紛争解決に関する基本的なシステムですので、一旦つくってしまうと後戻りができないということからも、より慎重な検討が必要だと思います。
 専門裁判所が創設されますと、担当する裁判官が視野が狭くなるという問題もありますけれども、組織上の問題点は、もっと大きいと思われます。
 それは過去の歴史がよく示していることだと思います。かつて大きな社会問題となったものとして、その社会問題の反映として、大量の特殊な類型の訴訟事件が提起されて、裁判所の処理能力を超えたことがありました。戦後の、労働事件であるとか、交通事件であるか、公害事件であるとか、現実に事件が増えたわけではないですがPL訴訟であるとか、いろいろな事件の問題がありました。
 その時の解決策として、固有の司法の領域ではないのですが、新たな組織をつくって、対処するという手法が行われてきました。しかし、その後、十数年ないし数十年経った後、社会状況が変容して、そのような社会問題が解消したにもかかわらず、過去の特別な状況において生じた出来事に対応するためにつくられた組織だけが残っているということが、現在においてもあります。
 そのような組織が、現代の社会状況を前提としたユーザーニーズに十分に対応して機能しているかどうかについては、疑問があるという印象を持っています。
 その場合に、結局どうなったかというと、裁判所はそのまま動いておりますので、従来どおりの裁判所が受け皿になって、10年経った後、当然のごとく通常の裁判所に事件が持ち込まれて、裁判所によって紛争が解決されているということがあるわけであります。
 しかし、今、検討しているのは、通常裁判所を残さないシステムを作ろうとしているのであって、紛争解決権限のすべてを新たな裁判機関に移そうという議論であって、元に戻ろうとしたときに裁判所がないということになるので、過去の教訓に照らしてみると、危険性が高いと言わなければならないと思います。
 そういうことですので、そのような問題点についてより深い議論が必要かと思います。
 甲案のデメリットの2番目は、繰り返しになりますけれども、裁判官の視野の問題であります。適切な判断ができなくなる危険性というのは確かにあると思います。今の法律状況や社会環境は、常に活発に動いております。他の分野の新しい動きをキャッチする感覚が裁判官にないと、新しい法律判断はできないと思います。新たに創設された裁判所の性格づけについては、ちょっと問題点があるのですが、流れで言うと、知的財産権の保護を強化しよう、保護を図ろうという観点のみの期待が高まり、適切な裁判というバランスの取れた観点がややもすると後退するのではないかという危険性、懸念があります。
 本来、裁判所の役割は、中立であって、法律のみにしたがって判断すべき存在であります。プロパテントという言葉が適切かどうかわかりませんけれども、プロパテントの流れ、コンテクストで設立されたということが暄伝されると、やはり方向性を失う可能性があるのではないかと思います。
 CAFCの裁判官にかなり詳しく聞いたのですが、裁判官に聞きますと、裁判官は一様に、特許を強化するために、CAFCをつくったのではない。そういうように思われること自体を嫌っていて、そのような話題が出ると必ず強く否定するということがあります。
 甲案に関するデメリットの3番目は、職分管轄の問題でございます。職分管轄については、7月15日で申し上げましたし、今日事務局で紹介があったことがそのまま当てはまると思いますので、それと重なる点については割愛させていただきたいと思います。
 ただ、職分管轄の問題については、実態について知られていない点があると思いますので、その点について紹介したいと思います。
 現在、知的財産部の取扱い事件の種類については、ただ漠然と知財に係る事件とのみ規定されていて、それ以上の詳しい規定は置かれておりません。知財に関する権利が契約等移転した場合に、その契約等の効力が問題となるような事件、知的財産権がアウトプットとして作り出されるような請負契約を巡る事件、知的財産権の実施契約に基づく実施料請求の事件、知財部が扱う事件か通常部が扱う事件か、あいまいなままにケース・バイ・ケースで臨んでいて、真に専門性の高い事件は専門部で、そうではない事件は通常部で、審理しているのが実態でございます。
 事件を審理している過程で、当事者が、知財に関する請求原因を追加したり、というときには、ややこしい問題が生じますが、同じ裁判所同士なので、通常部と専門部が協議して決めているということでございます。
 通常事件として提起されて、後から専門性が問題となるような事件のほとんどは、当事者側が、担当部を変更しようとして、知財権を人為的に法律構成して主張しているというものが多く、専門性が低いので、現状では専門部は、断っていることが多いかと思います。
 もしこの点を法律で規定しますと、通常部の裁判官は、事件を審理している過程で困難を極めた後に、当事者が請求原因なり抗弁を一本追加させると、専門部の事件に変わってしまうということで、事件の担当を変更させて、専門部に送り込むという危険性、可能性が生じます。しかも、専門部は、それについて対抗措置がないので、重大な弊害を生じるということがあるかと思います。
 今、高裁の問題が問われていますが、地裁では、通常事件で提起されたものについて、潜在的にそれが専門事件に化ける事件に関しては、手形訴訟であるとか取締役間の訴訟であるとか、そういうものについて、審理の途中で人工的に知財に関する争点を無理矢理法律構成して、つくり出して送り込もうとする事件が全体の事件の15%くらいあるかと思います。これに対しては、断固として反対しているのが実情でございます。
 あと、最後に、メリット・デメリットということではなく、一般的な話として個人的な考えを申し上げたいと思います。
 我々が今検討している検討会は、平成13年6月に出された司法制度改革審議会の意見書に挙げられた課題を検討するという趣旨で検討会を始めたわけであります。
 その意見書を見ますと、東京高裁、東京地裁、大阪地裁の専門処理体制という、知財に関しての強化策が挙げられ、その中のまとめとして、実質的な特許裁判所機能の強化ということが挙げられて、それを実現するために、当検討会で、その課題を検討しているわけであります。意見書が、実質的な、とか、機能のというような言葉を選んだのは、やはり専門性の強化を大切にすることが大切であること、それと同時に組織の創設については、管轄の問題であるとか、地方尊重という問題であるとか、裁判官の多様性の確保の問題であるとか、いろいろな問題があったので、それと一応区別した紛争解決を構築しようということの表明であると理解しておりました。
 また、平成14年7月の知財戦略大綱でも、同様に知財分野の問題にターゲットを絞った検討の結果、アウトプットが出たわけであります。その時にも、同じようなフレーズ、同じようなワーディングで、実質的な特許裁判所機能の創設という言葉が使われております。
 今回の民事訴訟法の改正も、また、実質的な機能強化のためにはどうしたらいいかということで、その宿題を果たしたという位置づけができるかと思います。
 このような配慮を考えますと、組織の在り方については、今まで50年間着実に努力して、それなりの成果を挙げてきた東京高裁のプラクティスを尊重して、その上に積み重ねるという方法が妥当ではないかと考えている次第であります。以上です。

○中山委員 基本的には飯村裁判官と同じですけれども、私自身は知財訴訟の強化というのは賛成で、やらなければいけないと思っています。しかし、それと特別裁判所とが直結するかどうかという問題を議論しているわけで、もし独立した特別裁判所がそんなにいいものなら、当然外国でやっていると思うのです。審決取消訴訟は別として、侵害訴訟も独立した裁判所でやるという例はほとんどない。それはなぜか。先ほど私はアピール効果があるかと言ったのは、そこにもいくわけですけれども、問題は以前から出ている2つで、職分管轄と裁判官との問題です。
 職分管轄は、知的財産戦略推進本部の方だと、そんなの法律家が考えろということで済ましているようですけれども、実はそれがものすごく大問題で、世界的に進まない大きな問題だと思うのです。いろんな問題が起きてくる。先ほど飯村さんがおっしゃったのは1例ですが、いろんな問題が起きてくるわけです。
 あと、人の問題ですけれども、これは聞いていますと、従来と同じような人事をやる。交流をするということのようですけれども、それでは特別裁判所をつくる意味がない。櫻井委員がおっしゃったとおりで、特別裁判所をつくる以上は、特別なんだから特別な人を置くということでないと意味がないわけですけれども、そうすると、これは非常に大きな問題が起きてくる。この2つで世界的に進んでいないと思うのです。
 そういうときに日本が慎重な検討なしに進めていいのか。先ほどのアピール効果もそこにあるわけで、本当にアピール効果があるのかということを問題にしたいと思います。
 したがって、現段階では独立した特別裁判所というのは私は行き過ぎではないかという気がします。

○末吉委員 日弁連としてこの問題についてはまだ結論が出ておりません。お手元の、11月5日にパブリック・コメントに対してお答えした意見書がございますが、その中でも知財高裁を導入した場合の問題点について指摘するにとどまっておりまして、したがって、弁護士会の結論をこの場で申し上げることはできないのですが、私の考え方としては、知財の訴訟というのは、今、飯村委員が発言されましたけれども、知財に関わる裁判官の努力によって、非常に改善されてきたのではないかと思います。
 いろいろな見方があると思いますけれども、現況においては、国際的な競争力もあるのではないかと思うのです。恐らくそれはいろいろ検討すればそういう検証結果も出るのではないかと思います。
 したがって、飯村委員のような意見、乙案ないしB案というのは、それなりに傾聴に値するのではないか。
 日弁連の結論は出ていないのですけれども、知財政策推進本部というところで議論したところ、少なくともB案の形が、もし知財高裁を設けるとしても、限界ではないかという意見でございました。
 そのこころは、このB案というのは、平成15年の民訴法の改正にほぼ乗っかった形で制度設計をすることができ、しかも、甲案で言われている実質的な利点をほぼすべて獲得することができるのではないか。その意味で、これはまだ知財政策推進本部での議論でございますが、仮に産業界の御意見を尊重して、知財高裁をおつくりになるとしても、B案に賛同したいというのが意見でございます。

○小野瀬委員 民事訴訟法の改正を担当した者でございますけれども、今回の民訴法等の改正によりまして、事実上の判断の統一化が期待できるということを含めて、実質的な機能が実現されているのではないかという気はしております。
 更に知財高裁という形にするかどうかというのは、恐らくそれによるメリット、あるいはそれに伴う問題、あるいは広い意味ではコストというか、そういうことについてどう考えるのかということによるのではないかと思っております。
 もし、独立の裁判所をつくるという場合ですと、恐らく知財高裁と例えば東京高裁の間の事件の割り振りの仕方という点が問題になると思うわけですけれども、これまで東京高裁の内部であれば事件の配てんで済んでいたものが、移送の決定となるとすると、その意味では新たな手続ということになりますし、そういうことをめぐる紛争が生ずるという、実際上、あるいは現実的な問題も起きるのかなという感じもしております。
 この問題を考える際には、そういったような実際的なことも考慮すべき1つの事情には含まれるのではないかと思っているわけでございまして、そういう意味ではいろんな選択肢を含めてもう少し検討するのがよいのではないかというのが私の考えでございます。

○櫻井委員 2点申し上げたいのですけれども、先ほど三ケ月先生の特別裁判所という問題がありましたけれども、これはヨーロッパ型の普通の特別裁判所を考えておられると思いますけれども、そういう意味で言いますと、甲案で出てきている裁判所、裁判所もどきと言った方がいいのかもしれませんが、多分三ケ月先生だったらびっくりするような、こんな専門裁判所あるのというたぐいのものでございまして、もし、きちんと法律を勉強していたとすると、およそ出てこない案ではないかと私は思っております。もう少しまじめにきちんと議論していただきたいということがあります。
 2点目としましては、私はこの検討会に出るのは最近むなしい感じがしておりまして、ここで何を言っても、結局、知財高裁もどきができるのではないかという感じがあるわけです。それはそれで仕方のないことなのかもしれませんけれども、是非事務局に強く強くお願いしたいのは、仮にこういうものができるとしましても、どうぞ知財の世界に限っていただきたいということで、申し訳ないけれども、専門裁判所として行政裁判所であるとか労働裁判所であるとか、そういうところはすぐ引き合いに出されるけれども、一緒にされたくない。してはいけないと思いますし、裁判制度の根幹に関わることでございますので、その点は是非お願いしたいということを申し上げたいと思います。

○小林委員 意見というわけではないのですけれども、先ほど飯村判事が御説明された中で、1点だけ、審決取消訴訟に関しての数字ですが、若干、補足的に御説明をさせていただきたいと思います。その理由は単に数字の訂正とかもありますけれども、この機会にちょっと御紹介しておきたいということと、今議論になった知財訴訟がある種特殊なんだということとも関係しているようにも思いますので、少し御説明をしたいと思います。
 先ほどの数字は東京高裁で審決が取り消される率が一般的に三十数%という数字が出ていたかと思いますけれども、私どもも調べてみているのですけれども、特許分野、これは一番ぶれが大きいと思いますが、特許分野において、特許の訂正というのがございまして、これは審決取消訴訟が出た後にも特許の訂正ができるものですから、審理対象が変わってしまうということで、高裁が審理範囲を超えるということで取消しをされるという事案があるのですが、この事案を除きますと、審決取消訴訟において審決が取り消される率というのは18.2%、これは今年の上半期でございますが、そうなります。
 数字自体はそれなんですけれども、面白いことに、アメリカにおけるUSPTOの審判部とCAFCとの間で同じことが起こる率がほぼ同じくらいで、18.2%に近い数字でございます。
 もう一つは、日本において特許における民事訴訟、侵害訴訟が主だと思いますが、これは第一審と控訴審との間で結論が変わる率がやはり同じくらいでございます。これは多分行政事件の中では高い率だと思いますし、侵害訴訟、民事訴訟を見ても、割と高い比率かもしれないのですけれども、同じように、2割前後がどうしても判断が違ってくるというものがあります。これがアメリカにおいても同じようなことだとすると、多分、これはその国ごとの、あるいはその裁判所、その特許庁の問題ということではなくて、ある種共通する構造的な問題なのだろうと思います。それは多分、いわゆる知財、とりわけ特許の分野かと思いますが、その特殊性の1つが表れているのだろうと思います。すなわち、なかなか判断しにくい事案が多いということになるのだろうと思います。

○飯村委員 失礼があったかと思います。東京高裁が機能していないわけではないということの例証として挙げましたので、控訴事件の取消率が高いというのも、東京高裁が機能しているということの証になると思います。

○小林委員 誤解があったら申し訳ないです。それを否定する趣旨ではなくて、むしろその逆でして、だからこそ東京高裁は通常の裁判所に比べて大変よくやっているという趣旨で申し上げました。

○中山委員 独立した特別裁判所をつくることの看板効果という点についてまだ私も全然納得していないのですけれども、それは置いておいて、先ほどから判例の統一だとか、あるいは迅速化という効果もあるという話でしたけれども、私はこの2つはないと思っています。
 スピード化につきましては、今、裁判官等の大変な努力で現在国際水準になっていまして、実務家の意見を聞きましても、早過ぎて困るという意見はあるけれども、遅過ぎて困るという意見は最近ほとんど聞いたことはありません。特に特許裁判など半年でやってしまうということはまず考えられない。審理が雑になることは目に見えていますので、迅速化という点は限界に近いくらいに来ていると思います。
 統一化の点については、改正された現在の民訴以上の判例の統一ということは考えられない。東京高裁は事実審ですから、最高裁がありますし、判例の統一ということは考えられない。もし判例統一をやるならば、そもそも第一審を重視して裁判制度全体として控訴審は法律審にする、例えばそういうことまで議論をした上で判例統一効果を持たせるというならわかる。しかし、事実審という点を現状のままにしておいて、判例統一ということは考えられないわけで、私はこの2つのメリットはないと思います。

○荒井委員 先ほどの飯村さんのお話の関係でちょっとコメントさせていただきたいのですが、1つは、デメリットとして国家行政組織のスリム化の話があったと思うのですが、司法制度がどういう状況にあるかというと、むしろ今まで司法の方が、さっきも話がありましたように、控え目だったというか、小さな司法というような感じが国全体としてあったのではないかということで、特に事前規制型から事後監視型に変わっていく中で、従来のどちらかというと小さな司法が適正規模の司法になってほしいというのが全体の要請だと思いますので、スリム化との関係で、これ以上財政負担が増えるから問題だという声は、もちろん、すごいお金を使うのは別ですけれども、ここでお話をしているようなことであれば、そんなことにはならないと思います。全体としては、是非司法がますます立派な機能を果たして欲しいということだと思いますので、その点が第1点でございます。
 第2点は、裁判官の視野ということで、確かにアメリカのCAFCをつくる時にそういうことが出たということも承知しております。アメリカの裁判官は途中から採用して、あとは終身ということですので、日本のようなキャリア判事制度ではないという、ここに違いがあると思います。ですから、今度知財高裁をつくるに当たっても、日本のキャリア判事のよさと、先ほどのお話のような専門的なT型の判事が育って欲しいという要請とを組み合わせていくことは可能ではないかと思いますので、飯村さんのところを見ていると、視野の広い方がきちっとおられるので、そういうことで視野が狭くなるという問題は余り心配しなくていいのではないかという印象を持ちますので、コメントさせていただきます。

○加藤委員 先ほど技術系裁判官との関係について御指摘がありましたので、この知財高裁の在り方との関連で申し上げたいと思います。
 以前の議論でも私は申し上げたのですけれども、法曹資格のない、いわゆる技術判事については、私自身はまだ魅力だと思っています。それは、言わば速効性の面では産業界のニーズに応えるだろうと思うからでございますけれども、結論的には法曹資格がないとだめということになったかと思います。代わりにというわけではありませんが、理系のロースクール卒業生を早期に育成することでこの点を補おうということであったかと思います。
 いずれにしろ結論的には、技術に強い裁判官を育成するということについては、この検討会においても合意というか、その方向でいいということになったものと理解しております。この結論は結論で、私はこれでやむを得ないと思います。ただ、現実にそれをするには、相当なコストと労力と組織体制が要るのだろうと思っております。そのために、繰り返しになりますけれども、独立した知財高裁にこの役割が相当程度負わされるのではないか。あるいは相当強力な権限がないと、技術裁判官をしっかり育てていくということはできないのではないかと思います。
 中山先生御指摘のとおり、判例の早期統一とか迅速化については、甲案、B案、あるいは乙案によっても一定程度達成可能だと思いますし、独立した甲案である必要はないかもしれませんが、技術的専門性の強化という面から見ると、やはりこの甲案の機能にロースクール卒業生を含めた育成機能というところにも、産業界から見て必要性というか、魅力があるのではないかと考えるところでございます。

○飯村委員 荒井委員の発言の国家組織のスリム化との関係で、司法全体のキャパシティーが今まで小さすぎて、そもそも司法全体がスリム化している状況なので、これをまたスリムにするということは当たらないということについての意見ですが、私も、司法の機能に応じた組織の増大ということは重要だと思うのですけれども、司法全体が重要なのであって、それとの関連で考えていくことではないかなと思っています。
 知財事件は、7、8年前と比べると倍くらいになっているのですけれども、通常事件も倍になっておりまして、そういう意味で司法全体が重視されるべきというのが、現在の状況であると考えています。
 それから、確かに、視野の狭さが広くなるかというのは、運用次第であるという面もあると思います。私のことを引き合いに出されたのですけれども、私は地裁の裁判官であって、特に一般の事件をいろいろとやっている裁判官という位置づけでお話ししています。
 もう一度、繰り返しになりますが、何か特別な制度目的の下でつくられたのだということが、創設の時に性格づけがされてしまうと、中にいる人間はそれを超えられなくなってしまうのではないかという懸念を持っているということとの関係で申し上げました。

○中山委員 今のスリム化の問題ですが、私も荒井さんの意見に賛成です。従来、司法はスリム過ぎたと思っていまして、もっと大きくするべきだと思うのですけれども、なぜそれが甲案に結びつくのか、と言う点がわからないのです。B案にしておくことだってできるので、もっと司法を大きくしていいということと甲案とは直結しないと思いますし、それに、キャリア裁判官のよさを生かしつつというなら、むしろB案になるのではないか。甲案というのは、どちらかというと、人事を硬直化すると言うと言葉は悪いですけれども、なるべく専門化させるということであると思うので、むしろキャリア裁判官のよさを加味するならB案になるのではないか。
 ここは加藤さんにお伺いしたいのですけれども、なぜ甲案だと技術専門性が高まるのか。裁判官は従来どおり交流させると言っているわけですね。そうすると、余り従来と変わらないというか、甲案と乙案と同じではないか。甲案について、技術性を高めるならそこにずっととじ込めているというか、ずっとそこにいていただいて研究してもらう、勉強してもらうということが大事で、私はそれは逆のデメリットがあると思うのです。
 私は弟子に対してしょっちゅう口をすっぱくして言っているのは、知財しかわからない法律家は使いものにならない、気持ち悪いということを日夜言っているわけですけれども、そういう裁判官をつくらないためには交流しないといけない。交流するとなると、むしろB案の方がいいのではないかというので、なぜみなさんの目指している点の結論が甲案に結びつくというのがわからないのです。

○加藤委員 甲案に期待しているところは、そういった人事交流なりをする教育的な施策に対しては、相当な権限と予算が要るのではないかというところから来ております。独立した裁判所でないといけないとは申しておりませんけれども、独立した裁判所の方がいいというのは、予算と人事権に対する権限の大きさの方は甲案にあり、教育と言ったらおこがましいですけれども、人を育てることは我々企業としても体験しているところですけれども、大変なことであって、いわんやT型と言いますか、一般法律知識とともに、その中で更に知財知識を深めるという、やや虫がいいとまでは言いませんけれども、大きなミッションを課せられるためには、相当な権限が組織としては要るだろうというところから来ている考え方です。

○中山委員 その場合の権限というのは何ですか。

○伊藤座長 司法行政上のある程度独立した権限があるということが、専門性を育てる上で有効に機能するという、私はお話をそう伺いましたが。

○中山委員 その場合の権限の具体的内容は何を指しているわけですか。

○加藤委員 一般的な意味でしかわかりませんが、1つは予算権もあるのではないでしょうか。

○中山委員 予算権というのは。

○加藤委員 交流なり、人を育てることに対しては、予算的バックアップがなければできないことだと思いますし、それから同じように人事権というのは非常に強いものがないとなかなか達成できないという意味でございます。そのためには、一般論として、組織として独立したとろでないとやりにくいだろうということです。

○中山委員 具体的なイメージがわかないのです。

○伊藤座長 なかなかそこの認識はまだ現在の段階で一致しないと思いますけれども。

○村木氏(日本弁理士会) 外から質問してよろしいでしょうか。

○伊藤座長 どうぞ。

○村木氏(日本弁理士会) 日本弁理士会の村木でございます。伺っていますと、企業の方は甲案で、法曹の方はB案という感じがします。実は配られた資料を読んでまいりますと、何となくネガティブなんですが、各国の制度が書いてございまして、この中では侵害訴訟はやらなかったとされている韓国を見てみますと、もともと特許法院をこしらえて、現在は侵害訴訟に関しても高裁レベルでやろうということで、現在法案が国会に出ていると書いてあります。
 質問というのは、実はこの中で、そんな例はないと記載されていますが、韓国で今そういうアプローチをしていて、それが検討されているにもかかわらず、この資料に出ていません。韓国はもともと特許法院をこしらえて、なおかつ侵害訴訟をやろうということで法案が出ているわけですから、同じ問題を抱えているのではないかと思うのです。是非それを参考にしていただきたいと思います。
 もう一つ、本日配布された資料の中に、知財高裁にすると裁判官の視野が狭くなるというのが6か所くらい出てまいります。先ほど飯村裁判官もそういうふうにおっしゃいましたけれども、もともとCAFCとかの話が伝聞で出てきているのではないかと思います。これは具体的なデータとしては、かつてやったことはないわけで、本当に視野が狭くなってしまうものか。単なる杞憂ではないか。要するに幾らでも是正する方法はあるのではないかと思っていまして、それも決め付けないでいただきたいと思います。

○近藤参事官 後者の点についてはコメントする限りではないのですが、前者の点に関しては、韓国ではそういう法案が提出されたと聞いております。特許法院において、今まで審決取消だけを扱っていたのですが、侵害訴訟についても扱うべきではないかという法案が出ているというふうに伺っております。
 ただ、この法案については、かなり消極的な意見も非常に強くて、これが通るかどうかという見通しについてはかなり消極的な意見が多いと聞いております。
 別の話ですが、これは知財事務局の方の資料でして、今日お答えいただかなくても結構ですけれども、うちの検討会と専門調査会での意見の整合性を取るという意味で、著作権等に関する訴えの17ページのところで、A案、うちの方の検討会で言う甲案を取った場合に、①②③の選択肢があるという形で書いてありまして、うちの知財訴訟検討会の方では、専門的な裁判所というものをつくった場合に、両方競合的な管轄ということはあり得ないのではないかという前提で、②③のどちらかではないかという形で指摘させていただいているところですので、これについて①というのがあり得るということについて、一番冒頭で櫻井委員からの指摘があった、専門裁判所の専門性は何かということとの関連だと思いますが、そこのところについてもう少し敷衍した議論をしていただきたいと思っております。
 19ページのところの専門的事項を欠く事件の取扱いについても、アの移送ができるというのは、これは特許等に関する事件の管轄があり得るということで、他の高裁に移送ができるとすると、ア案というのは、乙案、ないしはB案ということを前提にしているのではないかと思われるのですが、それについてのコメントがないことと、イ案についての考え方について、東京・大阪地裁の通常部でやっている事件についても知財高裁に行くのかどうか。それから、仮に特許等に関する事件の管轄ということであれば、他の地裁に移送された事件についても、当然知財高裁に行かなければ論理的には一貫しないのではないかと思われまして、その点について、専門調査会の方ではこの職分管轄とか移送の点については、技術的な問題なので後で考えればいいのではないかというのがちょっと出てきているようですけれども、かなり問題はあるのではないかと指摘されているところですので、その点についての検討をお願いしたいと思います。

○伊藤座長 それは荒井委員にお伝えいただくということでよろしゅうございますね。

○荒井委員 私が承りました。お伝えいたします。

○伊藤座長 よろしくどうぞ。
 それでは、本日の御議論を伺っていますと、甲案、乙案、B案、いずれについても支持の御意見があったように思います。それぞれについて長所、短所の御指摘がございまして、本日の段階でこの案に決める、あるいは絞り込むというのは難しいと思いますので、このテーマにつきましては、具体的には3つの案ですけれども、それらを基本といたしまして、引き続き検討をこの場で行っていきたいと思いますが、そういう扱いでよろしゅうございましょうか。
 それでは、御異議がなければ、そのようにいたします。
 本日の議論はこの程度にしたいと思いますが、次回の検討会のことであります。本日、議論いただいた項目のうちの知財高等裁判所につきましては、まだ議論が尽きないところと思いますし、また、司法の根幹に関わる問題であると思います。そこで、私といたしましては、これらの議論のうちの法律上の問題点の参考とするために、次回の検討会におきまして、憲法、裁判所法、民事訴訟法等を専門とする学者の方をお呼びいたしまして、この点についてのヒアリングを実施してはどうかと考えておりますけれども、そのような進め方でよろしゅうございましょうか。
 それでは、ただいま申しましたヒアリングを実施することにいたしたいと思いますが、どなたにお願いをするかにつきましては、座長代理の中山委員と私とに御一任いただければ大変ありがたいと思います。
 それでは、第13回の検討会を閉会させていただきたいと思います。次回の検討会の日程につきまして、事務局から連絡をお願いします。

○近藤参事官 次回は第14回の検討会になりますけれども、12月5日金曜日、午前10時から12時まで、今日とは違いまして、午前中ということになります。同じくこの会議室で予定しております。いつもとは開催時間が異なりますので、御注意ください。よろしくお願いします。

○伊藤座長 どうも長時間ありがとうございました。

(以 上)