○ 産業界の言うとおりに作ると知財立国でなく知財亡国になる。失敗して滅びるのは産業界だから産業界の言うとおりにやればいいと割り切ってよいのか。産業界から出される意見は前提としての知識がないことに基づくものであり、意思決定できない人に意思決定させてよいのか。本人たちは管轄の問題があっても独立した専門の裁判所を作ることがいいと言っているが、専門家として、このことをどのように受けとめて、どのようにレスポンスすべきか。
△ 定量化できない因子を並べても決定できない。割り切らなければほかに決めようがない。
△ 知的財産紛争をどう解決するか、どのような制度を作るかについてのステイクホルダーは産業界だけでなく国民一般である。ここでの問題は国民にはね返る問題である。国民の税金、人員、時間等の司法資源を効率的にどう使うかを国民全体の問題として考える必要がある。
△ 今回の司法制度改革は国民の視点から見て司法制度がどうあるべきかということから提言をしている。知的財産訴訟に関する裁判機関についてもそのような視点から見るべきである。ただし産業界とはどの範囲のものを指すのか、皆同じ意見なのか、定量的にはわからない。司法制度を構築する責任を負っている政府としては国民全体の立場から最大効率を見て制度構築すべきである。
また第二審から専門裁判所を持ち込むということは、どう見ても不合理であり、産業界がいいというからいいというものではない。
○ 日弁連ではまだ結論が出ていない。特許権と著作権の両方について実務経験がある立場から言えば、データーベース、雑誌の編集著作権、ゲームなどの全く技術ではない著作権に関する事件について、これまで及び平成15年の民事訴訟法改正における大阪高裁の位置付けは重要であり、今後も重要性が大きくなる。商標の並行輸入の問題でも東京と大阪で意見が分かれたが大阪高裁の判断が最高裁で支持された。コンテンツ保護も重要政策の一つであり、著作権の管轄について大阪高裁をいかすことを考えると、甲B案の方が良い。ユーザーの声と言われているが、その声は技術に傾きすぎているのではないかと思う。このような意味で甲B案は看板効果として決して劣らないと思う。
△ アナウンスメント効果を出すための実質的な内容としては、日本で安定性のある質の高い判決を出すことが重要である。ただし日本で良い判決を出しても外国人が読める形になっていないと効果が著しく減退する。英訳して世界に発信することが必要である。
△ CAFCが有名なのは組織として独立の裁判所であるからとは聞いていない。イギリスやシンガポールのように裁判所内の一組織として作られているところもあり、独立の組織でないからアピールできないというようなことを聞いたことがない。日本の家庭裁判所は独立の組織であるが、余り世界では知られておらず、組織の独立性とアナウンスメント効果は関係がないことである。
△ 回答不能な問題である。知財高裁を作ることによるコストとベネフィットはわからない。回答不能な問題について結論を出さなければいけないときには、ベネフィットもリスクも受けるユーザーの意見を聴くしか方法がない。真正商品の並行輸入や中古ゲームソフトに関する大阪高裁の判決は確かに面白かったが、場外の立場では面白いというだけ。
○ 産業界に身を置く者としては、アジアの中心的な裁判所を求めている。DVD、デジタルカメラ、デジタルテレビ等のデジタル家電分野では、すべてが日本の開発技術であり、知的財産権でしっかり保護していると思っている。ところが模倣品・侵害品が出てきてしまう。このような場合、アジアの中心的裁判所で裁いてもらいディフェンスをかけたいと思う。甲A案を望む理由は、CAFCが独立の控訴審であり、EUにおいてもその方向に動いている。そのような中で、日本がアジアの中心的存在になるためには甲A案のような独立性が必要なのではないか。甲A案に若干の問題は認識しているが、それ以上に独立性が重要であると思うが、それでもまだ甲B案の方がいいと言えるのか。
△ 甲A案は指摘されたようなアピール効果があると思うが、裁判官の視野が狭くなるなどの好ましくない副作用もある。また著作権等についての管轄の問題もある。他方、甲B案であっても東京高裁内に独立の組織を作ることになるので、代表判事を所長とすることもでき、対外的に日本の知的財産裁判所をアピールでき十分に好ましい効果が得られるはずである。
○ 同じく産業界の立場として、もし採ることができれば甲A案がいいと思うが、甲A案を採ることにより制度の利便性を犠牲にしてまで主張することはない。看板効果を言うために知財高裁の管轄から著作権等を外すと何のための看板であるのかわからなくなる。そこで、著作権等について競合管轄という考え方は成立するのか、それとも成立させるには非常に厄介な問題があるのか。
△ 平成15年民事訴訟法改正により、著作権でも東京地裁の第一審判決の控訴は東京高裁、大阪地裁の第一審判決の控訴は大阪高裁で扱うことになるが、甲B案においては、第一審が競合管轄で東京地裁と大阪地裁で扱ったものについて、特許権等と同様に第二審を東京高裁とすることは理論上はできうると思う。
○ 紛争解決システムの問題で失敗は許されない。メリット、デメリットについて実質的な検討がなされていないまま結論を出すのは問題。甲A案では柔軟な態勢がとれない。実務的な感覚では2つの問題がある。①専門性を要求する事件と要求しない事件があり、その線引きが難しい。ライセンス料の支払等の専門性の低い事件は余りにも数が多く、今までは適宜振り分けて限られた人的資本を効果的に活用しているが、同じ裁判所内の事務分配の問題であるので支障を来すことはなかった。②社会的には同じ紛争類型でも見方や法律構成が違うことにより知財事件になったりならなかったりする。甲A案を採れば、早く解決したくない原告は別の裁判所に持っていくための手段を講じるし、通常裁判所が移送しようとしたときに特別裁判所は拒否できない状況になってしまう。併合請求の反訴で何を争うかによって通常裁判所か知財高裁かが分かれてしまう。
アナウンスメント効果については、裁判所がどのような考え方で進めているかを広く伝えるか否かによって大きく変わるものである。昭和36年に東京地裁の工業所有権の専門部ができ、昭和25年に東京高裁の専門部ができてから50年余り中身を伴うようやってきた。平成15年に民事訴訟法を改正し、より集中化し専門家を投じた。このような専門部方式での実績のある中で、管轄等の実務上の問題を超えてまでやる必要があるのか。
東京高裁では、今朝の日経新聞にもあるように、民事部、刑事部に加えて知財を扱う専門部を設け、筆頭裁判官が長官代行に就任する等、法律によらない専門部体制をアピールしており、このような活動で乗り越えられると思っている。意見としては乙案である。
○ 甲A案がいい。実質を良くするためには名目も良くすることが必要。知財訴訟の場合、司法機能が国際競争の中に入っている。連続性、発展性については、平成8年、平成15年の民事訴訟法改正のさらに専門の独立の裁判所を作ることはその流れに乗っていることになるから連続性はある。裁判官の硬直化というデメリットについては、アメリカのように途中から採用して終身ということと、日本の場合は違うのでデメリットはない。
○ 甲B案がいい。新しい裁判所を作って看板を挙げることによる看板効果はプラスの効果であることを前提に議論しているが、プラス、マイナスの両方があるのではないか。CAFCはアメリカなりの事情があって、どこかのサーキットコートにくっつけなければいけないし、EUは一国の体をなしていないので日本と比較できない。問題は中身である。アメリカではさんざん議論して専門裁判所は駄目だということになった。
○ 平成15年の民事訴訟法改正との整合性や司法制度改革との関係については、竹下先生、三木先生の御指摘の通りだと思う。その点を考慮すると、もし知的財産高等裁判所を創設するという考え方を採るのであれば、甲A案でなく、甲B案が相当である。
○ 前回と同じ意見であり、甲A案ないし甲B案である。甲A案を重めに検討していただいて、問題があれば甲B案でも受け入れられる。
○ 前回と同じ意見である。知財重視の姿勢をアピールする点と現実に専門処理体制が進むような形で整備すべきである。乙案では迫力不足であり、実効性はないのでないか。甲A案に幾つかの問題があるのはわかるが、問題はそのマグニチュードである。問題点がどの程度のものかがまだよくわからないし、検討されていないように思う。乙案には否定的だが、甲B案だけでなく甲A案も検討する余地がある。
○ 本音のところはどの案でもない。一国の裁判制度の話であるので拙速に議論すべきでない。きちんとした決断の下できちんとした時間をかけて審議すべき。この検討会では全くそのような検討がされていない。その意味で全部の案に反対である。もし検討するとすれば甲A案でまだまだ足りなくて、地裁レベルからきちんと議論すべきである。この甲A案は全く採用できない。そうすると甲B案か乙案ということになる。甲B案は、知財高裁と称する案とほとんど変わらないと思うが、皆が落ち着くのであれば甲B案でもいい。
△ 私は技術移転会社を所有しているので産業界の隅っこにいる。その感覚から言えば、スーパースターを並べたドリームチームを作ってもらいたい。外国のお客さんを連れてくることができる。なぜなら日本で商売してもらっても安心ですと言えるからである。
△ 甲A案の問題点について何らかの手は打てるが、幾ら打ったとしても、甲B案が達成している点、すなわち平成15年民事訴訟法改正で達成している点には及ばない。甲A案を採ることで、平成15年改正よりも後退することが問題である。
△ アナウンスメント効果については、名実共にという意見があったが、甲B案でも名がないということにはならない。甲B案でも名実共にということになる。ただしマイナス効果が出ないように配慮する必要はある。
・ 以上の議論の結果、甲A案、甲B案及び乙案についてそれぞれ支持する意見があったが、なかでも甲B案を支持しうるという意見が、多かったことを踏まえ、さらに次回の検討会で議論を継続して協議することとなった。