首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会知的財産訴訟検討会

知的財産訴訟検討会(第14回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成15年12月5日(金)  10:00 〜12:10

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤 眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬厚、加藤 恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉 亙、中山信弘(敬称略)
(説明者)
内閣官房知的財産戦略推進事務局 土井俊一参事官
竹下守夫駿河台大学学長
三木浩一慶應義塾大学教授
安念潤司成蹊大学教授
(事務局)
山崎潮事務局長、古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、平瀬知明参事官補佐

4 議題
(1)知的財産戦略本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会(第3回)の議論の紹介
内閣官房知的財産戦略推進事務局
(2)「知的財産裁判所」−特に「知的財産高等裁判所」−についての憲法・法律上の論点に関するヒアリング
成蹊大学   安念 潤司教授  
慶應義塾大学 三木 浩一教授  
駿河台大学  竹下 守夫学長  
(3)「知的財産裁判所」に関する検討 −特に「知的財産高等裁判所」について−

5 議 事

【開会】

○伊藤座長 それでは、定刻でございますので、第14回知的財産訴訟検討会を開催いたしたいと思います。御多忙のところ本日はありがとうございます。
 今回は、知的財産裁判所に関する論点につきまして、特に知的財産高等裁判所を中心にお話をいただくために、有識者の方々にお越しいただきました。
 まず、法制審議会の会長、そして司法制度改革審議会の会長代理として民事訴訟制度改革の議論に関わっていらっしゃいました、駿河台大学の竹下守夫先生でございます。

○竹下駿河台大学学長 竹下でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○伊藤座長 民事訴訟法を御専攻であり、管轄について造詣の深い、慶應義塾大学の三木浩一教授でございます。

○三木慶應義塾大学教授 三木でございます。よろしくお願いいたします。

○伊藤座長 そして、憲法を御専攻であり、今回のテーマについても積極的に提言をされていらっしゃる、成蹊大学の安念潤司教授でございます。

○安念成蹊大学教授 安念です。よろしくお願いいたします。

○伊藤座長 以上のお三方にお話をいただきまして、質疑応答を通じて議論を深めていきたいと思います。
 竹下先生、三木教授、安念教授におかれましては、御多忙のところ検討会にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。
 それでは、まず事務局からお手元の資料の確認をいたします。

○近藤参事官 それでは、配布資料について御説明します。
 資料1としまして「『知的財産裁判所』に関する論点−『知的財産高等裁判所』を中心として−」というものがございます。
 資料2としまして「知的財産高等裁判所(仮称)の具体的方策案についての補足説明」。 資料3としまして「知的財産戦略本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会(第3回)における委員の意見」でございます。
 資料4としまして、竹下学長からのレジュメがございます。
 資料5としまして、三木教授作成の「知的財産高等裁判所について」と題する資料でございます。
 これらの資料とは別に、内閣官房知的財産戦略推進事務局配布資料といたしまして、「知的財産高等裁判所の創設について(案)」というカラーのものと、「知的財産高等裁判所の創設について(とりまとめ)(案)」という資料がございます。
 配布資料としては、以上でございます。

【知的財産戦略本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会(第3回)の議論の紹介】

○伊藤座長 それでは、本日の議題に入ります前に、11月28日に行われました、知的財産戦略本部の権利保護基盤の強化に関する専門調査会第3回会合につきまして、知的財産戦略推進事務局の土井俊一参事官より、議論の概要の御紹介をお願いしたいと存じます。
 それでは、土井参事官、よろしくお願いいたします。

○土井参事官 土井でございます。前回も権利保護基盤の強化に関する専門調査会の御紹介をしておりますので、今回は、どういう議論が行われたか、更に提出した資料のうちどの辺りが変わっているか、この2点を中心に御紹介をさせていただきます。
 お手元の資料でございますが、我々の事務局の配布資料の資料2と資料3がお手元にあると思います。まず、資料2でございますが、1枚めくっていただきまして目次を見ていただきますと、1から8という形で整理がしてございます。そのうち、1から6に関しましては、独立した知財高裁をつくる意義、メリットを整理したものでございまして、委員の間でそう大きな異論がございませんでしたし、前回御紹介した資料とほぼ同じでございますので、変わったところのみ簡単に紹介し、7、8の組織のあり方及び管轄について更に御紹介をするようにいたします。
 まず、資料2のうち9ページを見ていただきたいと思います。前回と変わった点でございますが、前回の資料では技術専門性を確保する手段として、裁判所調査官、専門委員を積極的に活用する案と、技術判事を導入する案がございました。ここは、委員の意見の大勢が前者の方に集約されましたので、そういう形に整理をしたということでございます。一番下の(注)のところに、技術判事の問題は、知的財産高等裁判所の創設とは切り離し、別途検討すべきと整理をしてございます。
 次に、13ページを見ていただきたいと思います。A案と、前回御紹介したのはB案ということでございましたが、より具体的な提案が委員の方からありましたので、A案とT案の対比という形で整理をしてございます。
 前回、この知財訴訟検討会において、私の方から進捗状況を御紹介した際に、A案とT案について管轄及び移送の問題をより具体的に整理してほしいという意見がございましたので、次の15ページに、A案、T案の場合に管轄はどういうふうになるかを前回よりもより具体的に整理してございます。
 14ページを見ていただきますと、A案の場合、管轄は審決取消訴訟、特許等に関する訴え、それに加えた関連請求・併合請求になるのではないか。その場合、地裁レベルで他の裁判所へ移送された特許等に関する事件も、知財高裁に集約するという形になるのではないかという案にしてございます。
 T案の方は、2003年の民訴法改正下での東京高裁の管轄と同じという整理でございます。
 15ページは著作権等の管轄でございまして、A案の著作権の管轄はT案と同じという形で書いてございます。つまり2003年の民訴法改正下での東京高裁の管轄と同じ。T案の場合も同様という案を提示して議論をいたしました。
 お手元の資料3でございますが、これは資料2の内容を文章にして整理したものでございまして、内容的には全く同じと御理解いただければと思います。
 そこで、議論の概要でございますが、知的財産訴訟検討会資料3というのがお手元にあるかと思います。この1ページ目を見ていただきますと、まず「全般的な考慮事項」でございますが、全部を御紹介するのは時間がかかりますので、主要な発言のみ御紹介をいたしますが、○の2番目、産業界としては、「知的財産高等裁判所」を9番目の高等裁判所として創設するA案がよい。
 また、4つ目でございますが、9番目の高裁として知財高裁をつくることで、教科書にもそれが載って、知財の重要性を若い人にも教えることができる。
 その次は、民事司法制度の運営や改革については、利用者たる当事者の観点から検討すべきである。
 次のものは、T案は東京高裁内に裁判所を創設するもので、現在の司法制度と本質的に整合し、連続性、法的安定性があるというような御意見がございました。
 次に「いわゆる看板効果と組織の在り方」というタイトルの部分でございますが、2つ目の○を見ていただきますと、T案ではアピール度が激減する。裁判所内裁判所は一般人や外国人には理解できない。
 また、その次のもの、T案の代表判事よりもA案の高裁長官の方が地位が高い。ナンバーツーではインパクトが弱いという意見もございます。
 一番下の○、なぜA案ならメッセージ性が強いと言えるのか。アメリカのドラッグコートの例を御説明して、宣言の仕方一つであるという御意見がございました。
 また、1枚めくっていただきますと、一番最初の○でございますが、予算、人事は最高裁がやる。その意味では、A案もT案も差がない。重要なことは、知財高裁の長が最高裁に対する発言権を確保することである。
 また、その次の○、アナウンスメント効果というが、アメリカの少額裁判所と宣伝されていたものは、裁判所の中のある部がやっていた手続の一つでしかなかった。しかし、その機能は大きく、日本の簡裁の少額裁判の基になった。このように独立させた上で看板を掲げることで変わってくるものではない。
 また、移送の問題でございますが、2つ目の○を見ていただきますと、T案では土地管轄の狭い東京高裁が、どうして全国の管轄の事件をやることができるのか。奇妙である。
 次に、著作権等は本来はすべて知財高裁で処理するのがよいが、地方の問題もあるということであれば、東京高裁管内のものでもよい。
 一方、東京高裁の管内だけは知的財産高等裁判所で著作権を扱ってもらえるというのはおかしい。仮に家庭裁判所は東日本だけにあり、西日本の家庭関係の事件は地方裁判所で扱うということになるとそのおかしさが分かるのではないか。
 また、A案では東日本の著作権だけ知的財産高裁で扱うということになると、法の下の平等の問題が生じる。
 「巡回裁判」という欄を見ていただきますと、1つ目の○でございますが、裁判官も巡回裁判で視野が広がる。地方のニーズについては、巡回裁判の導入で、地方アクセスの問題が解消できる。
 他方、アメリカの巡回裁判は法律審、日本のように事実問題を扱っている事実審で巡回裁判をすると限りなく難しい。ユーザーが不便になる。
 こういったような意見が前回はございました。その上で、最後の欄の「議論のとりまとめ」でございますが、メリットとデメリットの論点がほぼ出そろいました。できれば次回とりまとめたい。本日の議論を踏まえて、事務局に最終的なとりまとめを目指した論点整理・調整をしてもらい、次回、とりまとめ案について議論したい。こういう会長からの発言がございました。
 次回の専門調査会は12月11日16時から18時でございます。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。
 何か、ただいまの御説明に関して何か御質問ございますか。よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。
 それでは、本日の議題でございます、知的財産裁判所に関するヒアリングを進めてまいりたいと思います。事務局に知的財産裁判所の論点について、メモをまとめてもらっておりますので、まず事務局から説明をお願いいたします。

【「知的財産裁判所」−特に「知的財産高等裁判所」−についての憲法・法律上の論点に関するヒアリング】

○近藤参事官 資料1のうち、カラー刷りの表を御覧いただきたいと思います。これを基にして御説明していきたいと思います。
 これは、前回11月10日に示した案と若干違っております。といいますのは、従前示した案では、B案は参考という形で、こちらの検討会では甲案、乙案という、両極端の意見ということで、ここで掲げられているA案と乙案をメインとして議論していただきました。
 B案は、前回いろいろと議論をしまして、それから専門調査会の方でも議論されまして、かなり有力な意見になってきたということで、これも正式な意見として取り上げたということでございます。
 甲案は、法律上創設案とか、知的財産高等裁判所、これはあくまで仮称でございますが、これを法律上根拠があるものとして創設するというのがA案とB案。他方、乙案は、そういう法律上の創設ではなくて、事実上の創設、知的財産高等裁判所というふうに呼称をしようということでございます。
 更にA案とB案の内容について若干御説明したいと思いますけれども、A案は、東京高等裁判所等の従来ある高等裁判所と同等の組織、横並びの組織として知的財産高等裁判所を創設するということでございます。
 B案は、東京高等裁判所の中に、法律上の組織として、知的財産高等裁判所を創設するということでございます。
 検討課題というのが右側に書いてございますが、資料1の1枚目を見ていただきたいのですが、1から5までに論点としてどんなことが考えられるかということが書いてございます。
 まず、1番目としては、特定の民事事件のみを取り扱う専門裁判所の在り方という考え方との関係で、知的財産高等裁判所というものの在り方をどう考えるのかという非常に総論的な問題でございます。
 2番目としては、知的財産高等裁判所に期待される機能は何なのか、看板効果というようなことも言われているわけですが、そのほかに何かあるのかないのか、それがどういうふうに図られていくのかということでございます。
 3番目、4番目、5番目については、それぞれの案についての是非の問題を中心にして論じられております。
 3番目は、甲A案を採った場合に、これまで職分管轄の問題というのが指摘されておりますが、その問題点と解決策についてどのように考えるかということでございます。
 4番目としましては、甲A案と甲B案に、憲法上、法律上の問題点が何かあるかどうか、法律上創設した場合について問題点がないかどうかということでございます。
 5番目としましては、乙案についてどういう問題点があるか。それについてどう考えるかということでございます。
 表に戻っていただきたいと思いますが、それに対応するものが検討課題として右端に、今の指摘のような具体的な例が書かれているのですが、従前、技術的な専門処理体制の充実化というところの検討課題として、技術判事の導入の可否ということが、この中には記載されておりました。しかし、前回の議論を踏まえますと、技術判事の導入については否定的な御意見が多かったということを踏まえて、これは論点として落としております。ちょっと議論を集約させていただければということでございます。
 判断統一の効果についても、右側の検討課題のところでは、全裁判官参加による大法廷というのがずっと昔に議論されたことがありまして、それについても一応指摘はしております。最近の議論ではそういう議論がございませんので、それについてもこの検討課題からは落とさせていただいております。
 前後して恐縮ですけれども、このA案、B案というのは、今、土井参事官から説明していただいた、専門調査会におけるA案がA案、専門調査会におけるT案がB案に対応しているということでございます。
 資料2を見ていただきたいと思います。甲A案、甲B案、乙案の具体的な内容について記載しております。甲B案、乙案については、11月10日の専門調査会の議論との関係でも別段御説明を付加することはございませんが、甲A案について若干説明を付加しておきたいと思います。
 先ほど、土井参事官の方からも御説明があったように、管轄の点について、この検討会における検討と、専門調査会におけるA案の前提とする管轄の点について、若干違った考え方があったので、そこのところについて整理をしていただきたいということで考えました。
 違うところは、枠の中の取り扱う事件の(注1)著作権等に関する事件についてというところですが、知財訴訟検討会の甲A案は、一応、著作権に関する事件を取り扱わないということを前提にして整理しております。これは、11月10日の段階でもそういう整理でございましたので、事務局案としては、そのままということにしております。
 それから、その下の方の(注3)というのがございますが、ここでは巡回裁判を行わないということを注記してございます。この巡回裁判を行わないというのは、所在尋問等については法律上の規定がございますので、それを行わないという趣旨ではなくて、口頭弁論等を実施する、いわゆる巡回裁判ということの法規上の規定を設けるかどうかということでは、それは設けないということを前提にしているということでございます。事務局案については、それを注意していただければと思います。
 なお、今の取り扱う事件との関係で、先ほどの専門調査会の配布資料2を御覧いただきたいと思います。この14ページのところで、左側に書いてあるA案ですが、これは従前こちらの方で整理していたものと同じことになっていると思います。知財高裁というのは、専門の事件を扱うために専属管轄を認めていて、知財高裁の権限を認めていくと。他方で、他の高裁はその事件は扱えないということを前提にしまして、東京、大阪地裁から専門的事項を欠く事件として移送された場合でも、知財高裁が取り扱うことになるだろうと。この整理としては、知財訴訟検討会の事務局の考え方と一致しております。
 15ページの著作権等についてのところですが、先ほど言いましたように、知財訴訟検討会での資料と若干違っているところは、左側のA案では東京高裁管内の著作権等の事件については知財高裁で扱って、他の高裁管内の事件は他の高裁で扱うということがこのA案ということで、ここでの整理というのは若干違っているということを意識していただければと思います。

○伊藤座長 それでは、引き続きまして、本日お越しいただきました3人の先生から、知的財産裁判所についての論点につきましてお話をいただきたいと存じます。
 初めに、安念教授からお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○安念教授 安念でございます。このような機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。座長先生ほか、皆様に感謝いたします。
 紙をつくろうかなと思ったのですが、昨日ワープロを打ち始めたら2、3行で終わってしまいまして、別に格別申し上げることもないものですから、もともとがしゃべる商売でございますので、書面をもって陳述するというのはやめさせていただいて、しゃべらせていただきます。
 1つは、私が誤解していたのかもしれませんが、第一の問題は管轄、仮に独立の知的財産高等裁判所とやらをつくった場合の管轄の問題であると。そこが結構ホットイシューになっていたという話を、どなたからかは分からないですけれども、いろんな人からいろいろな話を聞いていますからごっちゃになっておりますが、どうやら著作権等、そこでいう著作権等というのは、これもどうやらいわゆる文芸的著作物とでも申しましょうか、プログラムの著作物のようなインダストリアルなコピーライトに関わるものではなくて、古典的な、歌であるとか、小説であるとか、絵であるとか、そのような言わば文芸的な著作物に関する事件が、西日本では大阪高裁に行ってしまうが、東日本では、新しくもし創設するとすれば知財高裁に行くと、それが不平等なのではないか、あるいは裁判を受ける権利との関係で問題なのではないかということが論点になっているやに伺っていたのですが、どうも今、近藤参事官の話だと、その話はもうやめだと。
 そうでもないのですか。

○近藤参事官 そうでもないのです。

○安念教授 でも、主たる論点でなくなってしまったのであれば、言ってもしようがないのかもしれませんが、そのような仕組み、今のような西日本と東日本で控訴審段階での管轄裁判所が違うということから、格別何の、特に現行法上の問題を見つけ出せと言われると、私の学力では別に見つからなかったというのが正直なところでございます。
 知財高裁も要するに高裁なのでありますから、その裁判は高等裁判所の裁判、終局判決であればそれは高等裁判所の終局判決なのであって、他の高等裁判所の終局判決と、要するに、ステータスというかポジションは何も変わらぬわけでございますから。
 しかも、何か特別の手続を取るというなら別ですが、知財高裁の場合だと特別に非公開でやるとか、特別な手続があるということであれば、これはまた問題になるのかもしれませんが、これは多分民事訴訟法上の控訴審の手続でやるわけでございましょうから、そうだとすると、手続が同じなのだから、たまたま、ジェネラルなジュリスディクションを持っている裁判所とスペシファイされたジュリスディクションを持っている裁判所があって、たまたま地理的にジェネラルなジュリスディクションの裁判所に行くか、それともスペシフィックなジュリスディクションの裁判所に行くかというだけの話であって、そこに格別いかなる問題があるのかがよく分からない。訴訟法的にはどっちも同じ高裁であろうという点で同じなのではないかと思うのです。
 確かに、毛色が違うと。知財高裁は毛色が違うのだから、違うところで裁かれる人と裁かれない人が出るのは違うんじゃないか。そうかもしれませんが、しかし考えてみますと現在数本の請求を併合する場合、こんなことを伊藤先生と竹下先生の前で申し上げるのは、全く釈迦に説法ですが、民訴の一般原則だと、同一の手続でないと現実的には併合できないというシステムになっているが、その原則をしかし行訴法や、最近は人事訴訟法もそうでしょうか、例えば行訴法で言えば、取消訴訟というのは独特の、そう言っても実際に議論しているわけではないけれども、建前の上では独特の手続的な要素、例えば職権証拠調べとか、参加に関するどうでもいいような規定があるわけですが、そういうのがあって、一応独特と言えば独特ですが、それに一般の民事訴訟も併合される場合があるわけです。
 そうしますと、関連請求に関わる部分の手続は、原告が併合してくるかしてこないかで、原告の選択によって、ある場合にはAという手続であり、併合しなければBという手続であるというふうに、変わってくることがあり得るわけです。
 このように、被告の意向ではコントロールできない形で手続が、あるときにはA、あるときにはBとなり得るのが、別にそれで格別問題がないとされているのであれば、ある場合にはジェネラルなジュリスディクションを持った裁判所に行き、ある場合にはそうではないと言ったからといって、それほどの問題があるのだろうかというのが私の考えでございます。
 判事の数も、ジェネラルな裁判所と知財高裁で変わってくるのかもしれませんが、それを言うなら、行訴法の場合は3人、一般の民事訴訟の場合は1人の場合もあるわけですから、関連請求として併合されるかどうかで、1人のものが3人になるということもあり得るわけです。
 ついでに申し上げれば、ユーザーのサイドからすれば、3人であろうが5人であろうが、人数が多ければありがたいということは別にないわけでして、それは裁判所の御都合の話であって、ユーザーサイドからすればある意味でどうでもいいことでありましょう。
 要するに、私としては何が問題であるのかよく分からぬという結論でございました。
 ついでに言えば、もしこういう、平等の問題とか、裁判を受ける権利がどうしても御心配だとおっしゃるのであれば、要するに著作権等、私が先ほど使わせていただいた言葉を使えば、文芸的著作物に関する事件は知財高裁では扱わないという結論にするか、あるいは、そういうものも全部知財高裁だけで扱うとするか、とにかくある意味で非常に簡単なのであって、解決しようと思えばすぐに解決できるというだけの話でございますので、ますますもって心配する必要はない。
 あるいは、知財高裁と他の高裁、例えば大阪高裁にも管轄権があるとしても、平等の問題に関する限りは、当事者に選択権を与えてしまえばいいわけです。これは抽象的にはそういうことです。つまり知財高裁に行きたいのであれば知財高裁に行けるという選択肢があるのは、何の問題もないはずであります。
 いずれにいたしましても、紙の上で解決するのは、別にどうという問題ではないと私は考えております。これはしかしテクニカリティーの問題でありましょう。テクニカルなディテールについてはもちろん詰め切れていないところが当然のことながらあるわけでございましょうが、最大の論点はもちろん独立した、第9番目の高等裁判所としての知財高裁を設けるか否かということであろうと思います。そのことと比べれば、先ほどの管轄をどうするかとか、移送をどうするかというのは、もちろんそれは技術的にその詰めは困難ではあれ、問題のマグニチュードは、しょせんはセカンダリーであり、マージナルな問題にすぎないと思います。独立の高裁を創設するかどうかというのが最大の論点でありましょう。
 その場合、ではお前はどう思うのかと聞かれれば、それは創設に賛成である。独立の高裁に賛成である。なぜ賛成であるかというと、賛成だと言っている人がほかにいるからであるというのが、私の理由であります。これは、お前は何を言っているんだとお叱りを受けるかもしれませんが、こういうことでございます。
 知財高裁を設ければ、何らかのメリットはあり、何らかのデメリットはあるだろう、それは当たり前の話です。問題は、どういうメリットがあり、どういうデメリットがあるのかと聞かれたら、その答えが出るのかということでございますけれども、これはちょいと不謹慎なたとえですが、総理のおっしゃるように、そんなこと私に聞かれたって分かるわけないじゃないですかというのが、これが学問的には正しい答えだと思います。
 と申しますのは、これは産業政策としてつくるわけですから、産業政策上どういうメリットがあるのか、デメリットがあるのかということを議論するには、そのような効果、あるいは不効果というか、そういうものを数量化して分析するツールがなければ、議論してもしようがないわけです。ちろん、私もこういうメリットがあるだろうということは記述はできます。例えば、看板効果があるだろうと、あるいは専門性があって技術性があると迅速になるだろうと。これはその定性的に起こり得る効果を並べることはできます。あるいは、定性的に起こるかもしれないデメリットを挙げることはもちろんできると思います。でも、そんなことはだれでもできるのです。それはどうでもいいことです。どうでもいいというか、それがそこまでであれば何の意味もないわけです。それをできる限り数値化して、どちらであると、つまり経済学的な言葉を使えば、社会的な総余剰は創設した方と創設しない方とどっちが大きいのかということを明らかにしなければ、それはどれだけ議論しても、学問でないという意味では茶飲み話になってしまうわけです。
 定性的な記述は、制度創設に関して言えば、少なくとも産業政策として創設するとすれば、それは意味がない。私は、そういう分析のツールを持っておりませんので、先ほども申しましたように、こうなるとこういう効果が上がってくれるといいなというぐらいのことは、もちろん申し上げることはできるわけだが、私にはそれ以上の能力はないわけです。その意味で、私に幾ら言われたって分かるはずないでしょうと、学問的な誠実さを持って言えば、そうとしか申し上げようがないのです。
 ついでに言えば、日本のローヤーは大体それは率直に言って分からぬだろうと思うのです。ですから、それはそれだけの話なのです。つまり、失礼ながら正しい質問を誤った人間になさったということになると思うのです。要するに、私には学問的に責任を持ってお答えすることはもともとできないのです。
 ではだれかできるものがいるのかという話になるわけですが、これは多分いないでしょう。それは分からないと思います。
 こういう話をすると、大抵長期的な効果を問題にしなければならぬと言う人が出てくるものですが、それは分かりませんな。ケインズの言うごとく、長期的には我々はみな死んでいるだろうと。それだけのことです。長期的な効果は分かりません。ついでに言えば、短期的な効果だってよく分かりません。責任を持って、つまり学問として言うことは、どっちみちできないのです。将来の予測に関わることの多くは、学問としての誠実さを持って言うことはできないですが、では決めるのはどう決めたらよいのか、これは簡単です。私の考えでは簡単です。それはユーザーの意見で決めればいいのです。
 この場合は、これも非常にあいまいな言葉ですが、産業界としか言いようがない。なぜなら産業界が使うからです。使う人は産業界です。産業界が使うのだから、産業界がそうしてくれと言えばそうすればよい。というか、それ以上に責任を持った言い方ができないのです。
 この場合、産業界という言葉がそもそも英語にならないような大和言葉だと思いますが、したがって、定義をするのは難しいけれども、産業界の言うことを聞くべきだと考えるのは、しかしただ単にユーザーだというだけの話ではありません。ユーザーであっても、フリーライドするユーザーであれば、これは納税者にとっては迷惑な話です。しかし、タックスペイヤーから見ても、知財高裁を創設すること自体には、どっちみち大したイニシャルコストがかからない。別に新しい建物をつくる必要はありません。今は都内の一等地であっても、ビルの一棟割りできるところが幾らだってありますから、要するに借りてしまえばいいわけで、人間の手配だってそんなにする必要はない。設備、ファシリティーだって、別に工場をつくるわけではないわけですから、どうってことない話です。つまりタックスペイヤーにとっての直接の打撃は、極めて軽微であると考えられます。
 その場合、では、フリーライドしないというだけでよろしいのかということですが、問題は産業界がつくってくれと言った場合の、その判断はラショナルなものであるのか、合理的なものであるのかということですが、これは合理性というものの定義はなかなか難しい話であって、単に主観的にそう思っているということをもって合理性だと考えるのが、実はミクロ経済学の大前提なのですが、しかしその場合は市場を前提にしているために、主観的な合理性というのは、実は非常に豊富な情報を持っているということを前提にしているから、そう言えているわけです。
 この場合、情報量はどうかというと、それは我々よりも産業界の方があるに決まっているし、ついでに言えば産業界の意見を聞くべき最大の理由は、彼らが要するにリスクも負っているということです。フリーライドもしないしリスクも負っていると。つまり成功したときのベネフィットは産業界が受けるわけです。だって我々は別に発明するわけではないし、実施もしないのですから、要するに、我々にとってはどうでもいいと。利害得失の因果関係が非常にあったとしても、極めてリモートなものです。
 それに対して産業界は、制度の創設が成功であれば、ベネフィットを受けます。失敗すれば、ばかを見ます。つまりリスクも負っているわけです。というわけで、納税者から見てフリーライドされるという心配も確実にない。ベネフィットもリスクも両方受けるという人々がやってくれと言っているなら、それに反対するというのは、よほど頑健な理論的根拠がなければ反対する理由はない。
 つまり、ステークホルダー、使っている人の大部分がもしある方がいいとおっしゃるなら、創設した方が、近似的ではあるけれどもパレート改善になるんです。近似的であれパレート改善になるものを反対するという論拠を見つけ出すことは、少なくともエコノミストの立場からすると、エコノミストの立場って私がエコノミストの立場というと僣越だけれども、これはよほどローバストな、頑健な論拠がなければならないのであって、そういう頑健な論拠は、私の能力では発見し難い。だから、要するに、ほかの人が賛成しているから私も賛成しますとそういうことでございます。
 ついでに言うと、裁判所のお立場からすると、今までの裁判所の制度、あるいは実務の在り方からすると、いろいろ座りが悪い、不都合があるとか、そういう御批判は当然あろうと思いますが、これは非常に雑駁な議論になって恐縮ですが、それは仕方ないでしょうというのが、私の大体の感想です。サービス業なんだから、お客様がこうしてくれとおっしゃるなら、それは合わせるのがサービス業というものでしょうと、そういうふうに私は思います。いろんな不都合、裁判官の方から見ての不都合はお国のために飲み込んでいただくしかないと思います。
 大変雑駁な感想でございますが、以上でございます。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、三木教授からお話をお願いしたいと思います。

○三木教授 三木でございます。私は、民事訴訟法の研究者という立場からお話しさせていただきたいと思います。
 これまでの検討会の御審議におきまして、知財高裁の具体案が3案ほど提示されておりますが、結論から申し上げますと、高等裁判所と同格の、法的には独立した組織、すなわち第9番目の高裁を創設する甲A案につきましては、幾つか懸念するところがございます。他方、それ以外の案につきましては、そのような懸念は余りなく、あとはいわゆる看板効果等々を考慮して、国民の利益実現に資する案を選択すべきであるというのが私の考えでございます。
 それでは、具体的な内容につきまして、お手元にありますレジュメに沿って御説明を申し上げます。
 まず、知財高裁にどのような機能が期待されるかという点でございます。専門的知見を要する訴訟事件への対応強化の必要性につきましては、かねてよりさまざまな方面からの御指摘がありますが、民事訴訟法の面から見ますと、平成8年と平成15年に大きな改正が加えられまして、専門的処理体制を充実・強化するための方策が講じられました。
 まず、平成8年改正では、特許権等に関する訴えにつきまして、東京地裁及び大阪地裁への競合管轄化が図られました。また、平成15年改正では、特許権等に関する訴えについては、第一審レベルでは東京地裁及び大阪地裁への専属管轄化が、第二審のレベルでは東京高裁への専属管轄化が図られました。
 これらに加えまして、著作権等に関する事件につきましては、東京地裁及び大阪地裁への競合管轄化が図られました。
 平成15年改正では、更に専門委員制度の導入も実現されることになりました。また、事実上の判例の統一のために、5人合議制の導入も決定されました。
 そこで、こうしたこれまでの民事訴訟法改正の一連の流れを踏まえまして、今後の制度設計の目的について考えてみますと、今般新たに知財高裁を創設するに当たっては、このような専門的処理体制を充実する方策につきまして、これまでの成果をきちんと引き継いで、更にそれをより一層充実させるということが望まれるのではないかと思います。
 そして、その際には、直近の平成15年改正によって実現された機能と同等、またはそれ以上の機能が期待できるものでなければならないことは当然であろうと思います。
 それでは、知財高裁に期待される機能とは何であるかということになります。知財高裁という考え方が打ち出されるようになった、そもそもの発端は、判決の予見可能性の向上という要請に応えるための事実上の判例統一機能であったと承知しております。しかし、この第一の要請につきましては、先ほど述べました民事訴訟法の改正に基づく管轄の集中や5人合議制の導入などによりまして、事実上期待できることになったと思います。
 これを更に超えての判例統一機能ということになりますと、現在の最高裁を頂点とする司法権の枠組みを定めた憲法との関係で、重大な問題を生ずることになりますので、この判例統一機能という点につきましては、ほぼ限界に近いところまで既に対処がなされていると思います。
 第二の要請として、知的財産推進計画においてうたわれております、いわゆる看板効果ということがございます。このような看板効果の重要性自体は、決して無視できないものであると認識しております。
 法的に承認された知的財産に関する裁判所ということにつきまして、何らかの看板が掲げられるのであれば、それは知財重視という国の姿勢を端的に内外に示すということになるわけであります。しかし、看板効果というのは単に看板を掲げれば達成されるというものではないと思います。あくまでも看板を掲げた組織において、どのような充実した裁判が、かつ迅速に行われるのか、その中身こそが評価を左右するものであろうと思います。
 第三に、知財高裁の目的の1つとしまして、司法行政権の独立ということも言われていると思います。これは司法行政権の独立という言葉の意味にもよりますが、少なくとも裁判所の予算や人事に関する限りは、最高裁の裁判官会議の決定事項でありますので、仮に独立の組織として知財高裁を創設したとしましても、そのような意味での司法権の独立ということはあり得ないと思います。
 次に各論としまして、それぞれの案につきまして具体的な検討をしたいと思います。まず、甲A案を見てみたいと思います。
 この甲A案では、特許権等に関するすべての事件は、第9番目の高等裁判所である知財高裁の職分管轄に属するとされております。しかし、特許権等に関する訴えという管轄概念は極めて広いものでありまして、これによりますとライセンス契約に基づく使用料請求事件のように、通常の契約事件とほとんど何ら変わらない専門技術性のない事件も包含されることになりまして、知財高裁で処理すべき事件が本来の目的を超えて増加するということが懸念されます。更に、関連請求や併合請求の取扱いも気になるところであります。
 これらを知財高裁の管轄に仮に含まないとしますと、せっかく第一審で一体的に処理されてきた関連請求や併合請求の事件が、第二審で分断されることになります。また、共通する争点について、いわゆる重複審理の弊害が出てまいります。
 また、これとは反対に、関連請求や併合請求を管轄に含むといたしますと、専門裁判所の職分管轄に専門技術性のない事件が含まれるということになりますし、関連性があるかないか、併合要件があるかないかという点を巡って、新たな紛争の発生が懸念されます。
 もちろん、考え方といたしましては、特許権等に関する訴えの中で、特に専門技術性のある事件だけが知財高裁の職分管轄に属するというふうに、職分管轄を制限するということも理論的にはあり得ます。しかし、専門技術性があるかないかというのは、事件によっては極めて微妙でありまして、やはり同じように範囲を巡る争いが発生し、本来の紛争の解決が遅延するという事態が懸念されるところであります。
 更に、これまでの民事訴訟法改正との整合性という点も考えなければならないと思います。
 これまで行われてきました民事訴訟法改正では、高度に専門性のある事件についての審理の充実及び迅速化ということを目的としまして、一連の管轄集中が行われてきました。その場合の方法ですが、事件に応じて柔軟な事件配点が可能になるように、専門部における処理体制を充実するという方向で改正が行われてきたと言ってもよいと思います。
 ところが、甲A案では、この柔軟性を捨てて画一性を取るということになりますから、これまでの改正趣旨との連続性が欠けることになると思います。そういう理念的な問題だけではなくて、特に、現実に問題となるのは、これまでの民事訴訟法改正における専門部への事件配点という方針は、第一審と第二審との連続性を十分に意識されたものであるのに対し、この甲A案ではそのような意識が見られず、第一審との連続性が失われるのではないかという点であります。
 例えば、特許権等に関する訴えであっても、受訴裁判所の判断によって、専門性がないとされて、第一審では通常部にいわゆる配点替えされた事件というのが、第二審では専門裁判所である知財高裁の管轄に属するという奇妙なことが生じます。
 これは、そもそも知財高裁の議論におきまして、民事訴訟における審級制度の途中の段階である第二審のみを切り出して議論していることから来る問題であり、第一審から順番に議論されていないこと自体が、民事訴訟法の観点からは奇異に感じられます。
 次に著作権等に関する事件であります。著作権等に関する事件の管轄につきましては、同じく第9番目の高裁を創設するという案の中でも、本検討会の甲A案と先ほども御説明がありました知財事務局のA案とでは、その内容が異なり、知財事務局のA案は東京地裁を含む東京高裁管内の事件のみが知財高裁で取り扱われるという案であると見ております。
 仮にこのような案を採りますと、職分管轄については一定範囲の専門性ある事件を一手に引き受け、他方、土地管轄については全く制限のない、いわゆる超広域管轄とするという理念の基に構想された知財高裁が、この場合には特定地域の事件のみを取り扱うことになりまして、設立理念との関係で果たして合理性があるのかという疑問がございます。
 また、より本質的には、裁判を受ける権利や法の下の平等という憲法上の要請との関係で、種々の指摘があることは既に御案内のとおりであります。
 また、これを離れて一般的に考えてみましても、独立した知財高裁を設ける場合には、著作権等に関する事件をすべて取り扱うか、全く取り扱わないかという、二者択一の硬直的な制度になってしまいます。
 しかし、著作権等に関する事件につきましては、非常に高い専門性を要する事件と地域密着型のいわゆる専門性の低い事件とが混在しておりますから、そもそも硬直的な制度設計にはなじみにくい面があると思います。
 もっとも、あるいは著作権等に関する事件だけについて競合管轄とするというような御意見があるかもしれませんが、それは知財高裁の理念との関係で整合性が疑われるということになりましょうし、現実問題としても特許権等に関する事件と著作権等に関する事件が併合されている場合には大きな混乱を来すことになると思われます。
 ところで、これまで主として述べてまいりました、管轄の問題でありますが、それはあくまでも技術的で瑣末なものにすぎず、新たな裁判所の創設という国家戦略の方向性を左右するものではないという御反論があるかもしれません。
 しかしながら、知財訴訟の当事者は、知財訴訟という手段を利用して、あくまでも私的な利益、いわゆる私益を追求しているのであり、いかに自分にとって有利に紛争解決できるかということこそが目的であります。
 そして、その私益を巡る争いにおいて、いずれの裁判所が事件を担当するかということは、非常に大きな問題でありまして、これによって裁判の結果が異なることもありますために、管轄の所在というのは、現実の訴訟を見ておりましても、当事者が非常に敏感に反応する重要な問題でありまして、現実にも、管轄を巡る争いが紛糾して、本来の事件の迅速な解決が妨げられるということも決してまれではございません。
 また、管轄の定め方が硬直的であったり、管轄制度創設の理念が一貫していないという場合には、管轄を巡ってさまざまな戦術的な争いが可能になりますから、しばしば訴訟の引き延ばしの手段や、相手方から不当な情報を引き出すための手段に使われることもございます。
 また、御承知のように、アメリカのCAFCでは、その管轄を巡る問題が既に大きな争いになっております。
 我が国では、アメリカなどと比べてこれまで管轄を巡る紛争や問題というのは比較的少なくて、その意味では相対的に望ましい状態がこれまで続いてまいったのですが、そこに今回の制度設計によって大きな落とし穴ができることになりますと、それは望ましいことではないことは言うまでもなく、是非とも避けるべきであると思います。
 管轄の問題は、国民にとって利用しやすい制度という観点と密接に関わるものであり、単なる技術的な問題ではないということを申し上げておきたいと思います。
 最後に、甲B案につきましてですが、甲B案における知財高裁というのは、東京高裁内の1つの組織でありまして、独自の職分管轄はありませんので、甲A案について懸念される管轄の問題というのは生じません。これで管轄を巡る争いといった周辺的な争いを防止しつつ、法的に独立した組織を創設して、知財立国の実現といういわゆる看板効果を生み出すこともできるのではないかと考えます。
 また、平成8年改正及び平成15年改正との連続性をも十分に踏まえつつ、更にこれを発展させた案であるものと評価いたします。
 その意味で、現時点では最も適切な制度であると考えます。
 なお、乙案につきましては、看板効果の点を除きまして、基本的な検討内容結果はこれと同様であろうと思いますので、ここでは省略をさせていただきたいと思います。
 以上をもって私の発言を終えさせていただきたいと思います。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。
 引き続きまして、竹下先生からお話をお願いいたします。

○竹下学長 本日、こういう機会に私の意見を陳述する時間を与えていただきまして、ありがとうございます。
 私は、元来民事訴訟法、裁判法等の研究者でございますが、先ほど伊藤座長から御紹介いただきましたように、司法制度改革審議会の会長代理、法制審議会会長をいたしまして、今般の司法制度改革における知的財産訴訟、ないしその裁判機関の在り方に関する議論に深く関与してまいりました。
 そのような立場から、両審議会での検討の経緯を踏まえまして、現在当検討会で御審議中の知的財産高等裁判所の在り方について意見を申し上げたいと思います。お手元に簡単なレジュメを用意いたしましたので、その順番に従って申し上げます。
 まず、司法制度改革審議会におきましては、民事司法の領域での最重要検討課題の1つは、民事裁判の充実・迅速化、殊に専門的知見を要する事件への対応強化にございました。そこで、同審議会意見書におきまして、専門訴訟固有の充実・迅速策の方策といたしまして、御案内のように専門委員制度の導入、鑑定制度の改善、法曹の専門性の強化を提言したわけでございます。
 とりわけ、専門訴訟の中でも、知的財産訴訟につきましては、特別に1項を設けまして、民事司法改革の中におけるこの問題の位置づけを次のように鮮明にしております。
 知的財産権関係訴訟事件の充実・迅速化については、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部として位置付け、これを推進するための各種方策を講じているところであり、我が国としても、こうした動向を踏まえ、政府全体として取り組むべき最重要課題の1つとしてこの問題を位置付ける必要があるということでございます。
 知的財産訴訟への対応の具体策として提言しているところは、多岐にわたりますが、これも御承知のように、本日の議題に関連するものに限って申せば、その提言は次のとおりでございました。
 すなわち、東京・大阪両地方裁判所を実質的に特許裁判所として機能させるため、専門性の強化された裁判官や技術専門家である裁判所調査官の集中的投入、専門委員制度の導入、特許権及び実用新案権等に関する訴訟事件について、東京・大阪両地方裁判所への専属管轄化などにより、裁判所の専門的処理体制を一層強化すべきである。東京・大阪両高等裁判所の専門的処理体制の強化の方策についても検討を加え、必要な措置を講じるべきであるというものでございました。
 司法制度改革審議会意見書の提言のうち、固有の民事司法制度の改革に関するものは、法務大臣の諮問を受けまして、法制審議会で具体的立法のための要綱の作成作業を進めてまいりました。法制審議会では、知的財産訴訟に関し、司法制度改革審議会の提言を実現し、更にこれらの訴訟への対応を一層強化するために、5点の改正を内容といたします、民事訴訟法の一部改正法案要綱を決定いたしました。
 その5点と申しますのは、先ほどの三木教授のレジュメの1の2)のところでAからEまで列挙されておりますので、繰り返すことは避けることにいたします。
 政府は、この要綱に基づきまして、さきの国会に民事訴訟法等の一部改正法案を提出し、同法案は本年7月9日に可決され、同16日公布されました。同法は、明年4月1日より施行される予定と聞いております。
 以上の改革は、東京・大阪両地方裁判所、東京高等裁判所の各専門部を充実させて、事実上の知的財産裁判所として機能させ、それによって、知的財産訴訟の充実・迅速化を図ることを基本的方針、ないし基本的政策としているわけでございます。
 最高裁判所もこの基本的政策に従い、東京・大阪両地方裁判所、及び東京高等裁判所の知的財産専門部の充実を図ってきたことは、既にいろいろなところでも書かれているとおりでございます。
 そして、この改革は、民事訴訟法研究者、知的財産訴訟に関わる実務家、産業界など、各方面からおおむね高い評価を受けていると考えております。
 しかしながら、本年7月8日に知的財産戦略本部で策定されました、いわゆる知的財産推進計画におきましては、知的財産の保護政策の1つの重要な柱として、紛争処理機能の強化を挙げて、その第一の方策として、知的財産高等裁判所の創設につき、必要な法案を2004年の通常国会に提出することを目指し、その在り方を含めて必要な検討を行う旨が定められております。
 しかし、これまでの司法制度改革における知的財産訴訟への対応は、先ほども申しましたとおり、東京・大阪両地方裁判所及び東京高等裁判所の知的財産部に必要な人材を集中的に投下し、事実上の知的財産裁判所として機能させることを基本としてきたところでございます。
 しかも、この改革は、法律的には明年4月1日に民事訴訟法の一部改正法が施行されて、初めて実現するものであります。ところが、もし知的財産高等裁判所を創設するための法案を、明年の通常国会に提出するということになりますと、政府提出の法案が国会で可決成立した後、その施行前に、既にその内容の一部変更を含む新たな法案を再び政府が提出するということになりますので、この変更は従来の方針と整合性のあるものであるように慎重に考慮する必要があると考えるものでございます。
 しかしいずれにせよ、この知的財産推進計画で定められたところを受けまして、当検討会、及び知的財産戦略本部の専門調査会の議論が行われているところでありまして、それを拝見いたしますと、本日配布された資料にございますように、知的財産高等裁判所なるものの在り方を巡っては、甲A案、甲B案、乙案という3つの考え方が並立しているようでございます。
 しかし、いずれの案におきましても、基本的にこの本日配布された資料によりますと、専門処理体制と言われておりますけれども、現在の東京高等裁判所の知的財産専門部に専門化された裁判官、裁判所調査官を集中的に投入し、また新たに導入される専門委員の制度を利用して、知的財産のすべての領域をカバーし得る、幅広く多数の専門家の協力を得られる体制を整備し、これに専属的に知的財産訴訟の第二審の審判を担当させるという点、また、審理の充実と併せて、判例統一の機能を果たし得るように、5人の裁判官による大合議制を採用する点には、相違がございません。
 これは、我が国における現状では、これ以上に知的財産訴訟の専門性に適正に対応し、充実した審理に基づき、適正・迅速な判決を得る体制は、他に考え得ないからであると思われるわけであります。
 そこで、議論の実質的な争点は、以下の3点に絞られるのではないかと思います。
 1つは、いわゆるアナウンスメント効果の実現という問題。
 2番目は、「知的財産高等裁判所」に係る司法行政の在り方の問題。
 3番目は、「知的財産高等裁判所」の権限の範囲。殊にプログラム著作権を除く著作権、商標権等に係る訴訟に関する知的財産高等裁判所の権限の問題でございます。
 このうちまず、いわゆるアナウンスメント効果が何を指すかということは、必ずしも明確ではございませんが、しかしその趣旨は、内外に対し知的財産重視の国家政策を明確にすることによって得られる効果を指すと考えられます。
 そして、知的財産高等裁判所の設置との関係で、その意味でのアナウンスメント効果が意味を持つのは、極度に国際化の進んだ知的財産の領域におきまして、各国の企業が自己の行動の基準として、他国の裁判例にも関心を払わざるを得ない状況が生じており、そのような状況の下で我が国の司法が知的財産に関し、安定性のある裁判例を迅速・的確に発出する体制を整備していることを内外に知らしめ、また、それによって世界の知的財産に関する裁判をリードする役割を果たすところにあると考えられる次第であります。その意味で、アナウンスメント効果はやはり重視すべきものと私は考えております。
 ただ、このようなアナウンスメント効果は、ただいま三木教授も指摘されましたように、単に知的財産高等裁判所を創設すれば得られるというわけではなく、創設された知的財産高等裁判所が実際に、国際的にも尊重される質の高い判決を迅速に下し、それを対外的に発信していくことによって、初めて得られるものであると思います。
 アメリカ合衆国の連邦巡回控訴裁判所、CAFCが、知的財産の分野において国際的に大きな役割を果たし得てきたのも、アメリカ経済を背後に持つことと並んで、何よりもその裁判の迅速性と質の高さによるものであったと思われます。
 このように考えますと、知的財産の専門性への対応、審理の充実・促進の体制に違いがない以上、アナウンスメント効果の点で甲A案、甲B案と乙案とで、それほど大きな違いはないと一応は言えるのではないかと思います。ただ、強いて言えば、単に東京高等裁判所の知的財産専門部を知的財産高等裁判所と呼称するという乙案よりは、甲A案または甲B案の方が、外国の企業、個人にも分かりやすく、注目を集めやすいという意味でアナウンスメント効果を得やすいと言えるのではないかと思います。
 次に、知的財産高等裁判所に係る司法行政の問題でありますが、甲A案を支持する立場から、同案によれば知的財産重視の司法行政体制を法律上構築することが可能であるとの意見があるようでございます。しかし、司法行政権は司法権の独立の一つの内容として、憲法上最高裁判所に帰属すると解されております。
 したがって、仮に9番目の高等裁判所として知的財産高等裁判所を創設したといたしましても、その人事、予算は最高裁判所に帰属する司法行政権の行使として決定されることになるはずであります。
 むしろ、私がここで知的財産高等裁判所に係る司法行政として問題といたしたいと思いますのは、知的財産高等裁判所内部の司法行政の在り方、具体的には所属裁判官の配置に関することでございます。一般に、各下級裁判所内部において、当該裁判所に所属する裁判官の配置は、毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議で定めることとされております。そこで、甲A案によりますと、知的財産高等裁判所に配属されている裁判官は、最高裁判所により、本人の同意を得た上で他の裁判所に補職されない限り、常に知的財産事件のみを裁判することになるわけでございます。
 しかし、とりわけ経験年数の少ない裁判官の場合には、このような専門化が裁判官の在り方として好ましくないことは、アメリカの連邦巡回控訴裁判所が知的財産のみを管轄する専門裁判所として構成されなかった経緯と関わって、よく知られているとおりであります。
 また、逆に知的財産高等裁判所に補職された裁判官が、必ずしも予想に反して適任ではないという場合に、通常部に配置することも不可能になるという問題点がございます。
 これに対しまして、甲B案、乙案では、知的財産高等裁判所も東京高等裁判所の一部でありますから、その裁判官を他の部に配置することは、東京高等裁判所の裁判官会議で機動的にすることができるわけであります。
 したがって、長期的に見ると、知的財産高等裁判所が質の高い判決を迅速に出し続け、先ほど申しましたアナウンスメント効果を維持し続けるには、甲A案よりもむしろ甲B案、乙案の方が優れていると言えるように思います。
 第3に、知的財産高等裁判所の権限の範囲の問題でございますが、甲A案によりますと、知的財産高等裁判所の権限が特許権、実用新案権等の事件の一般的種類によって画一に定められることになります。しかし、本来知的財産高等裁判所を創設する趣旨は、知的財産訴訟の専門性に着眼して、それにふさわしい事件処理体制を構築するにあったはずであります。したがって、それにふさわしい事件をその裁判機関に担当させることが、人的資源の有効活用という上からも適切であるというふうに思われます。
 逆に、プログラム著作権以外の著作権及び商標権等の事件は、高度の専門性のある事件でも知的財産高等裁判所の裁判を受けられないというのが、甲A案の趣旨のように思われます。これは、当事者の権利救済の点で、平成15年の改正よりも後退することになるわけでございます。
 しかし、この権限の問題、あるいは職分管轄の問題は、既に三木教授が詳細に論じられまして、私の持ち時間との関係でこれ以上立ち入ることは割愛させていただきたいと思います。
 最後に、今般の司法制度改革における知的財産訴訟への対応に関する基本的政策とこれら3案との整合性に触れつつ、結論を述べることといたしたいと思います。この整合性は、先ほど申しました、立法府が制定した法律の施行前に、行政府がその内容の一部変更を含む法案を提出することの相当性とも関連すると思われます。
 今般の司法制度改革におきましては、知的財産訴訟については、繰り返し申しておりますように、東京・大阪両地方裁判所、東京高等裁判所の各専門部を充実させ、それによって知的財産訴訟の充実・迅速化を図ることを基本的政策としてきたところでございます。
 この基本的政策に最も適合的であるのは乙案であるということは、言わずして明らかであろうと思います。しかし他方、これも内閣の下に設置されております知的財産戦略本部におきましては、内外に対し知的財産重視の国家政策を明確にすることの必要性が強く意識され、その重要な方策として知的財産高等裁判所設置の方向性が打ち出されていることもまた、無視することは許されないと思います。
 そして、知的財産高等裁判所設置のアナウンス効果にも一定の重要性が認められるとすれば、先ほども申しましたように、この点で劣る乙案にこだわることは相当でないように思います。
 甲A案は、確かに知的財産重視の国家政策を内外に明確に示す上では、最も優れていると言えるかもしれません。しかし、そのアナウンスメント効果を継続的に発揮するためのもっとも重要な条件は、先ほども申しましたように、創設される知的財産高等裁判所が実際に、国際的にも尊重される質の高い判決を迅速に下し、それが対外的に発信されることであります。
 そのような観点から見るとき、甲A案には、専門性と併せて広い識見を持った裁判官を持続的に確保する上でも、またその権限の画一性、硬直性という点からも、かえって世界の知的財産に関する裁判をリードする役割を担う裁判所を創設するという趣旨に沿わない恐れがあるように思います。また、今般の司法制度改革における基本方針にも沿わないという難点が指摘できると思います。
 これに対しまして、甲B案は、従来の基本的政策を基礎とした上での発展と言うことが可能でありますし、また知的財産戦略本部が重視しておられる、内外に向けて知的財産重視の国家政策を鮮明にするという効果も果たし得ると思われますので、その意味で私としては甲B案が最も適当と考えるところでございます。
 ちょっと時間を超過いたしましたが、以上でございます。

○伊藤座長 竹下先生、どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまお三人の先生から御説明いただきました、知的財産裁判所の論点についての御意見、御質問をお願いしたいと思いますが、私から特に審議の進行との関係でお願いがございます。限られた時間の中で、すべての委員の方から多くの意見をいただきたいと存じますので、御質問、御意見の開陳に当たりましては、特にその点を御留意ください。
 どうぞ、どなたからでも結構でございます。

○櫻井委員 基本的といいますかベーシックな話ですけれども、安念先生のお話、大変面白く伺ったのですけれども、私がこの検討会の委員に参加しておりまして1つ思うのは、司法制度自体が非常に大きな時代的な変わり目にあるというところがあって、アンシャン・レジームの延長上に制度をつくるのか、新しい発想でつくるのか、割と深刻に悩むことが多いのですが、その点、安念先生は大変割り切っておられて、ユーザーがやりたいと言っているのだからいいじゃないかと。しかも私的な紛争ですので。それはそうかなという感じもするわけです。
 産業界のおっしゃる改革案というのは、そのとおりつくると、私から見ると多分、知財立国でなくて知財亡国になるだろうなと思ったり、先ほど両先生のお話もございましたけれども、いわゆる法律家のオーソドックスな目から見ますと大変問題があるのだけれども、別に自分たちがやりたいと言って、その改革をやって、知財高裁をつくって、失敗して滅びるのは産業界ですので、まあいいかという気持ちもないでもないのです。
 その点でちょっと共感するのですが、ただ本当にそこまで割り切ってしまっていいのかなと思うのは、やはり産業界の方の御意見は、いろいろと前提の知識がないのではないかと思うことも随分あって、その辺りが、意思決定できない人に意思決定していいよと言ってしまう、そこまで割り切れないなという点があって、どうしてそんなに割り切っておられるのかを伺いたいと思います。
 三木先生、竹下先生の両先生にお聞きしたいのは、先ほど管轄の話もございましたが、これも本人にとっては大変重要だけれども、もう本人たちが専門裁判所をつくってしまって、それでいいと言っているわけですので、そこをどういうふうに専門家として受け止めて、レスポンスしてあげたらいいのかなとも思いますし、また専門裁判所という意味では、こんな荒唐無稽な専門裁判所なんてないと思うのですけれども、単に民事訴訟だけではなくて行政訴訟の観点から見ても、高裁レベルで専門化するなんてちょっとおかしいわけです。おかしいけれども、本人たちはいいと言っていますので、それはそれでやってみるということもあろうかと思っておりまして、その辺り御専門の、特に民事訴訟法の観点からはどういうふうに理解されているのか、関心がございますので、よろしくお願いいたします。

○安念教授 そんな割り切っていいかって言ったって、ほかに決めようがないからそう申し上げているわけです。つまり定量化できない因子をいくつ並べたって、それはどっちみち決定できないんです。
 訴訟法上はこういう問題点が出る、それはそのとおりです。出ますでしょう。問題は、それは定量的にどういう、コストとしてメジャラブルかということです。メジャラブルでないことを幾ら議論してもしようがないわけです。しようがないというか、少なくとも学問としての答えは何も出ないんです。出ない以上は、ベネフィットとリスクが帰属して、かつ我々タックスペイヤーから見てどっちでもいい、タックスペイヤーから見る限りニュートラルである、そのような立場の人が、いいと言っているか、悪いと言っているかによって決める以外に決めようがないと私は考えているから、それは割り切らざるを得ないんです。それだけのことでございます。

○櫻井委員 ただ、失敗してもう一回すぐやり直すということもあるわけですね。

○安念教授 もちろん、そうです。

○櫻井委員 それは、タックスペイヤーとしては黙っていられないのですけれども。

○安念教授 どうしてですか。

○櫻井委員 だって、そんなこと最初から分かっていると思っている人間もたくさんいますから。

○安念教授 主観的にはですよ。

○櫻井委員 私はそう考えています。

○伊藤座長 済みません。なかなか御意見が一致しないと思いますので、ちょっと管轄の点について、櫻井委員からの、訴訟当事者と言いますか、制度の利用者の利益を考えたときに、今回提案されているようなことにつきまして、管轄の基本的な考え方をどう考えるのか、更に三木教授、竹下先生の御意見を伺いたいという御質問もございましたので、それをお願いいたします。

○三木教授 まず、安念先生がおっしゃった、知的財産紛争をどう解決するかという問題のステークホルダーは産業界である、その産業界が望むのだからいいのではないかということですが、知的財産紛争をどう解決するか、制度をどうつくるかということのステークホルダーは、もちろん産業界だけではないのであって、国民一般もステークホルダーである。知的財産紛争がどう解決されるかということは、我が国の知的財産制度がどう発展するかと密接に関係します。そのことは、ひいては国民に当然跳ね返ってくる問題であり、国民経済ということだけをとらえてみても、それはステークホルダーが国民でないということにはならないと思います。
 それから、同じようなことでありますけれども、管轄の問題で、訴訟の当事者に将来なるであろう産業界が、この制度を望むと。そのつくられた制度が管轄については紛争がいろいろ生じやすい制度である、しかしそれは産業界がそういうデメリットを含んだ上で望んだのだからいいではないかというような御意見であったかと思いますけれども、これもまた、司法というものは、国民の税金等で運営されておりますし、それはお金の問題だけではなくて、人材の投入とか、国家全体が司法に費せる総時間の問題、これは全部司法資源と言いますけれども、この司法資源が投入されているわけです。これは有限な資源でありますから、これを効率的にどう使うか、配分するかということが問題になり、これは国民の利益である。産業界が司法資源の主体ではなくて、国民全体が主体である。だから、国民全体の目から考えなければいけないのであって、産業界が望めばいいということにはならないというのがとりあえずの答えであります。

○竹下学長 御質問は、管轄をどう定めるかというのは、ユーザーである産業界が望んでいるのであれば、多少理論的におかしい、あるいは従来の訴訟理論から見て問題だと思うようなことがあってもよろしいのではないかというのが第1点。第2点は、高裁レベルで専門化を図ることの是非といいますか、この2つであったかと思います。
 第1点については、今、三木教授が言われたことと全く同じことで、今回の司法制度改革全体が、国民の視点から見て司法制度はどうあるべきかということから、いろいろな提言をしているわけでございます。この知的財産に関する訴訟、あるいは裁判機関の問題というのも、そういう観点から見る必要がある。
 産業界がユーザーだと言いますけれども、その産業界というのは一体どの範囲のものを指すのか、その範囲に属する人たちがみんな同じ意見なのかと言えば、それはそれこそ定量的には分からない話だと思うのです。
 ですから、やはり、司法制度を構築するという責任を負っている政府としては、国民全体の立場から見て、それこそ司法資源の最大効率ということを考えて、制度構築をすべきだろうと思います。
 ですから、管轄の問題についても、産業界の組織のためにというだけで決めるわけにはいかないだろうと思います。
 それから、第二審で専門裁判所を突然持ち込むことの問題は、これも先ほどの三木教授の御指摘のとおりだろうと思います。端的に現われておりますのは、第一審のレベルでは、確かに知的財産訴訟ではあるけれども、問題になっているのは知的財産の専門性のところではなくて、ライセンス費用の請求とか、普通の契約関係と違いがないようなものは、一般のほかの裁判所、ないしは東京・大阪両地方裁判所でも通常部でやることになっていたのが、第二審になるとそういうものも全部知的財産裁判所にだけ管轄を移すということにするのは、これはどう見ても不合理で、これは単に産業界が言うからいいではないかというだけでは済まない問題ではないかと思います。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。どうぞ、ほかの委員の方も御発言お願いします。

○末吉委員 この問題は大変難しい問題で、実は日弁連でもまだ結論が出ておりませんが、私、知的財産権の事件を扱う弁護士として、3先生の御意見を大変興味深く伺いました。
 法律論としては、竹下先生、三木先生のおっしゃるとおりだと思っているのですが、安念先生が御指摘された、ユーザーの声も尊重すべきであるという点については、大いに傾聴すべきものがあるのではないかと思います。
 私の実務経験は、知財に関しては、特許と著作権が大体半分ぐらいございまして、その実務経験から申し上げた上で、特に看板効果について先生方に補充してコメントがいただけたらと思って発言いたします。
 私は、著作権でも、編集著作権とか、データベースで判例をつくってまいりまして、現在では雑誌の編集著作権、あるいはゲーム対ゲームの似ている似ていないの事件を、今、取り扱っております。これらは御案内のとおり、全く技術ではございません。いわゆるここで言われているプログラム著作物ではございませんし、芸術と言っていいかどうか分かりませんが、少なくとも技術的な著作権ではございません。
 そういうものを扱う中で、私は、実務家としては、この15年改正後の大阪高裁の位置づけというのが、もしかしたら非常に重要かなと思っております。それはどういうことかというと、例えばちょっと事例は違いますが、商標の並行輸入の問題でも、最後まで東京・大阪の闘いがあって、最終的には大阪高裁の考え方に最高裁も従ったという実例がございますが、コンテンツの場合には往々にして大阪高裁に行く場合が多いのではないかと。
 そこで、私の問題意識は、知財立国の中でコンテンツの保護というのも非常に大きな柱の1つになっていて、著作権の管轄の問題で考えますと、大阪高裁の意義と言いますか、今後の意義づけということで言うと、B案の方が座りがよいのではないかと思っております。
 その意味で、コンテンツの保護も知財立国の大きな柱の1つとして標榜する場合、ユーザーの声という部分もございますが、どちらかというとユーザーの声が技術に傾いていはしないかという疑問を持っているところでございまして、その点も加味して考えると、A案、B案と限定して考えさせていただきますと、A案、B案の看板効果ということで言うと、大阪高裁の意義も考えると、B案も決して看板効果というのは劣らないのではないかと私は個人的には思っているのですが、この私の考え方について、特に何か御意見がおありになれば拝聴したいと思いまして、発言させていただきました。

○伊藤座長 いかがでしょうか。今の末吉委員の御発言で、プログラムでない著作権の関係についての、今の大阪高裁が果たしている役割を踏まえたときに。

○末吉委員 役割は、15年改正でも大きくなるのではないかと思っております。看板効果として、A案とB案を比較した場合に、その観点からはどのように思われるでしょうか。私はその観点から考えましてB案も劣らないのではないかと思っているのですが。

○竹下学長 では、私が最初に発言させていただいて、後から両先生に補足をしていただきたいと思います。別の御意見かもしれませんが。
 私が先ほどアナウンスメント効果、看板効果という言い方でもいいのかもしれませんが、何となくやや軽い感じがして、ネガティブな印象がするものですから、アナウンスメント効果という言い方をしたのですけれども、やはり知的財産高等裁判所をつくることのアナウンスメント効果ということに焦点を当てておりましたので、そういう点から言うと今の、著作権について大阪高等裁判所が非常に重要な役割を果たしているということについての配慮は、それはちょっと私の先ほどのプレゼンテーションの範囲からは抜け落ちておりました。ですから、実質的には、ただ、看板効果と言われる、あるいはアナウンスメント効果と言われるものの実質的な内容は、結局日本の裁判所で安定性のある、そして質の高い判決を迅速に出すことだと。それが、結局はほかの国が日本に注目をして、日本の知財紛争処理体制を評価することにつながると考えておりますので、先ほど申した意味での看板効果ではございませんけれども、おっしゃるように大阪高裁が優れた判決をこれから出していって、それが認められるようになれば、十分看板効果、アナウンスメント効果はあると思います。
 アナウンスメント効果の話が出ましたので、ついでに補足をさせていただきますと、私は本来の知的財産高等裁判所についても、今の大阪高等裁判所の問題についても、やはり今の時代には、日本で幾らいい判決を出したと言っても、それが外国人に読める形になっていないと、結局アナウンスメント効果は著しく減退してしまうので、別の話ではありますけれども、なるべく迅速に英文化して世界に発信していくことが必要なのではないかと。今の大阪高裁のものも、そういうことが可能になれば、実質的には十分おっしゃるような効果が得られるのではないかと思います。

○三木教授 看板効果ということですが、竹下先生がおっしゃったことと重複すると思うのですが、アメリカのCAFCが世界的に有名だということで、有名だということで言うと、まさに看板的な効果が発揮されているのかもしれませんが、CAFCが独立のサーキットコートとしてつくられた、つまり組織として独立の裁判所だから看板があるというふうには私は聞いておりません。
 他方で、これも検討会で恐らくもういろいろと議論があっただろうと思いますけれども、イギリスやシンガポールのように、裁判所内の組織としてつくられているところも、それぞれの内容については、さまざまな人からいろんな評価があるのかもしれませんが、少なくとも、独立の裁判所ではないから内外にアピールできないということは、シンガポール人やイギリス人からも、話を聞いたことはございません。
 したがって、組織の独立性とか司法行政の独立性と看板効果が結び付くという議論は、どうも私にはよく分かりません。
 もう1つだけ例を挙げますと、我が国では家庭裁判所というのがあるわけです。これは、世界的に見ると我が国のような家庭裁判所を持っていない国もたくさんありまして、世界に誇れるものだと思います。
 我が国の家庭裁判所は、これは地方裁判所とは別の独立した裁判所です。国によっては普通の裁判所の中に家庭事件を扱う専門部があるところもある。したがって、独立の裁判所であるけれども、残念なことに我が国の家庭裁判所のことは余り世界で知られていなくて、知財でいう看板と意味は違うかもしれませんが、そういうアピールが全然なされていない。アナウンスメント的な役割が果たされていないと。独立しているからアナウンスメント的な役割を果たせるわけではないということです。
 今年の夏にメキシコで世界学会があって、世界中の家庭裁判所制度についての報告とかをしましたけれども、やはり家庭裁判所制度が世界的に知られている国というのは、結局、竹下先生がおっしゃったような、発信がなされている。やはり世界的な言語である英語とかフランス語で文章になったもので、いろいろとよく紹介されたり、あるいは彼ら自身が発信をしていくからこそ、よく知られているし、評価もされているのであって、日本のように国内では立派にやっていても、だれも世界中で知らないということになることもあろうかと思います。

○安念教授 末吉先生のおっしゃる難しい問題だとおっしゃるのは、誤りだと思います。それは回答不能な問題なのです。難しいが理論的に回答できる問題と、もともと回答不能な問題は、学問上ははっきり分けるべきであって、この知財高裁を設けることによるコストとベネフィットは、分からないという意味で、これは回答不能な問題なのです。私は、回答不能な問題について決断しなければならないときには、それはベネフィットもリスクも受けるユーザーの言うことを聞くしか方法がないだろうという、そういう決め方の問題を申し上げたわけです。ほかには私は分かりません。
 先ほどもおっしゃったけれども、国民全体もステークホルダーだとおっしゃるのは、もちろんそのとおりです。だけど、そのステークホルダーのステークホルダーたるゆえんは、余りにもリモートです。業界だけだってどういう意見か分からないのに、国民全体の意見なんか、ますます回答をコントロールすることはできにくくなります。つまり、より少なく回答をコントロールしにくい問題よりも、より大きく回答をコントロールしにくい問題があるということを指摘して、だから前者の問題提起がだめだというのは、これも少なくとも論理的ではないと思います。回答不能な問題であるということを認識することは、少なくとも学問としては非常に重要なことだと思います。
 ついでに言えば、大阪高裁はもちろん面白いです。真正商品の平行輸入の問題も面白かった。それから、ゲームソフトの頒布権の判決もとても面白かった。しかし、これは我々が場外で見て、リング外の乱闘があって面白いと言っているだけの話で、だからどうだというのは別の話です。判例はいろいろあった方が面白い。我々の商売のためにはなる。しかし、それは面白いというだけの話です。

○末吉委員 私が申し上げたかったのは、面白いということではなくて、コンテンツの企業からすると著作権の問題が唯一の問題に近いのかなと。著作権の管轄を巡るまとめで言うと、どちらがいいかとコンテンツの企業に聞くと、私はB案もそれほど違和感がないのかなと思っているのです。

○安念教授 コンテンツというのは、もちろんエクスプレッションという意味でのコンテンツは十分あり得ると思います。私は調べていないから、責任を持っては申し上げられないが、それはあり得る結果だろうと思います。

○末吉委員 私が申し上げたかったのは、ここで言うユーザーというのは、少し技術に傾いてやしませんかということです。

○伊藤座長 分かりました。

○加藤委員 産業界に身を置くものでございます。特にエレクトロニクスのところで働いております。竹下先生から御指摘いただいた、国際競争の環境という点につきましては、看板効果との関係で、産業界も全くそのとおりだと考えております。もう少し踏み込んでみますと、イメージ的な言葉で恐縮ですが、アジアの中心的な裁判所というものを求めているのかなと考えております。もちろん、属地主義とかありますので、日本の判決がアジアの他国にどう影響するかというのは、別の問題ではございます。
 1つ、技術のユーザーとして申し上げたい点は、最近景気回復してきておりまして、その中でデジタル家電が1つの牽引車かなと。DVDとか、デジタルカメラとか、デジタルテレビとか、これは全部日本の開発技術でございます。完全に日本の開発技術と言ってよろしいかと思います。もちろん、知的財産権でばっちり保護していると産業界は思っております。
 ところが、既にこういったもの、DVDとか、模倣品、侵害品の流入は始まっております。何とかしなければいけない。ユーザーとして何を考えるかというと、やはりアジアの中心的裁判所で裁いて、早く判決をいただいて、ディフェンスをかけなければいけない。当たり前だと思います。そのときに我々が考えている、先ほどの知的財産高等裁判所のA案とB案を対比してみた場合、産業界がA案、独立組織を望んでいるもう1つの理由は、比較的単純、極めて単純かもしれませんけれども、CAFCは、ほかのものもくっ付いておりますけれども、独立控訴審でございます。EUもこういう裁判所が、時間はかかるかもしれないけれども、そちらの方向に動いていると認識しております。にもかかわらず、やはりアジアの中心を占めていかなければいけない我々が、アジアの中心としてやはり、独立性はそれでも問題だということでございましょうか。知的財産高等裁判所のA案とB案を比較した場合に、産業界はA案の若干の問題点は当然認識はしておりますが、やはり今言ったようなことから、独立性の方を欲しいというのが産業界の意見でございます。
 その点について、先生の御指摘のところとの関係で、B案の方がまだそれでもいいのだという点について、もう少しお聞かせいただきたいと思います。

○竹下学長 問題意識は十分よく分かります。そういう日本の知的財産を侵害から守らなければならないという必要を痛切に感じておられということは分かりました。
 私が申し上げているのは、1つはA案には確かにおっしゃるような効果があるでしょう。しかし、好ましくない副作用もある。つまり裁判官がずっと固定されてしまうと、これも先ほどもちょっと触れましたけれども、御承知のようにCAFCをつくる時に、専門裁判所としてつくるかどうかという議論があって、裁判官が一定の種類の事件だけしかやらないことは好ましくない、やはり裁判官というのは一般の事件も適切な判断ができるような高い識見を持って、教養のある人でないと、知的財産をやるにしても、本当に適任とは言えないという考え方で、ほかの事件もやることになっているわけです。
 それと同じようなことが日本でも起こり得るのではないかと、そういう意味で、ネガティブな効果があるのではないかと。
 それから、管轄の問題でついでに言いますと、先ほど末吉委員から御指摘があったように、著作権のようなほかのものは全部排除されてしまうという意味では、非常に硬直化してしまうのです。
 そういう問題が一方であり、他方ねらっておられるような意図は、B案では達せられないかというと、B案でも東京高等裁判所の中の独立の組織として、知的財産高等裁判所という名称で、代表判事というような言い方が言われているようですけれども、これは別に知的財産高等裁判所長というふうにしても、それは名前の付け方ですから、長官というわけにはまいらないと思いますけれども、十分可能なわけです。
 そうだとすれば、対外的に日本にも知的財産高等裁判所というのができて、そこの判決が出たということになれば、十分おっしゃるようなねらいは達せられるのではないか。
 つまり、B案でも好ましい効果が得られるということと、A案の方があるいはより一層対外的なアピール効果があるかもしれないけれども、しかし副作用もあるという意味で、B案がいいのではないかと申し上げているわけでございます。決して、A案がおっしゃるような目的に沿わないということを申し上げているわけではありません。

○伊藤座長 分かりました。
 先ほどから手の挙がっている順番で、阿部委員、飯村委員、荒井委員の順番でいきたいと思いますが、時間の制約がございますので、もちろん3人の先生方に対する御質問も結構ですが、その際にA案、B案、乙案、それぞれどの考え方が一番合理的か、もう既にかなり承ってはおりますけれども、今日はその点もお述べいただきながら陳述をお願いいたします。

○阿部委員 私も経済界に身を置く者でありまして、A案がもし採れればA案がいいだろうと思っております。
 ただ、A案を採ることによって、先生方がおっしゃるような、制度の利便性が失われるとか、円滑性がなくなるということで、使い勝手が非常に悪くなるという、そこを犠牲にしてまでその主張をすることはないのではないかと思っております。
 その関係で、看板効果を言うのであれば、著作権を知財高裁から外すと何のための看板かという感じもするのですけれども、著作権も入れて、競合管轄という考え方は成立するのでしょうか。それとも、成立するけれども、非常にやっかいだということでしょうか。

○竹下学長 私は十分あり得ると思います。B案にそこまで細かく書いてあるのかどうか分からないですけれども、第一審は、今度平成15年の民事訴訟法改正が施行されると、著作権でも専門性の高いものは競合管轄になりますから、東京・大阪両地方裁判所にまいります。それに対する控訴という場合に、B案では東京地裁の判決に対しては東京高裁、大阪地裁の判決には大阪高裁と考えているようですけれども、第一審競合管轄で、東京・大阪に来たものについては、特許権や実用新案権と同じように、第二審は東京高裁へ持ってくるという選択肢はあり得ると、私は理解しております。
 これは全く理論上の問題でありまして、ただそうすると大阪が空洞化するとか、そういう問題があるかと思いますけれども、それは理論上の問題とは別なものですから、理論的に考えれば、私は選択肢としてはあり得るのではないかと思います。

○飯村委員 確かに、学問的な立場からは、解決困難か不能かという問題があると思います。紛争解決のシステムの問題に関しては、誤った選択をするとか、失敗をするとかは、許されないと思います。
 今まで経験していなかった職分管轄によって、分けて実施しようという試みは、巨大な実験でもあるので、メリット、デメリットについて、検討を尽くしていかなければならないにもかかわらず、余りにも検討をしないままに結論を出そうとしている印象が深いと思っております。
 実務家の立場として、2、3、気になる点を申し上げたいと思います。A案の独立高裁型にすると、柔軟な対応が取れなくなるという危険性はやはり大きいと思います。実務的な感覚から言うと2つの問題がありまして、1つは三木先生がおっしゃったように、まさに、知財に係る事件というような書き方をしたとしても、余りにも多様なものが含まれていて、専門性を要求する事件もあれば、必ずしも専門性を要求しない事件があるというように、その線引きの仕方が困難ということがあると思います。
 現在は、知的財産に係る事件を専門部が扱うとしているわけですが、慣行的にはライセンス料の支払い事件とか、特許権に係る契約に基づく事件は、数が多過ぎるということと、専門性が低いということで、専門裁判官が関与していなかったわけです。
 今までは適宜振り分けて、限られた人的資本を効果的に活用していたわけで、同じ裁判所の内部的な事務分配の下での問題なので、柔軟な対応ができたということを挙げることができると思います。
 2番目は、いずれの裁判所が扱うかという法律問題になるとすると、必ずそこに線引きをしなければならないことになります。線引きしない場合であっても、ある種の事件は、通常裁判所で扱うべきであるとか、知財高裁で扱うべきであるという判例が確立された後は、どちらかに行かない限り、法律違反ということになります。
 しかし、紛争類型としては同じであるにも関わらず、当事者が選択した法律構成を違えることによって、知財事件にすることもできるし、知財事件でなくすることもできる、という場合は少なくないといえます。
 例えば、従業員が会社からノウハウを持って退職して、その後、そのノウハウを使用したという事件は、多くの場合には形式的には、会社と従業員間の契約が存在しますので、契約上の請求も主張することができます。そして、原告が、審理の途中で、裁判所が採用してくれないと分かった時点で、不正に営業秘密を取得したと主張して、不正競争防止法上の請求に変更することは少なくありません。そのような場合、現在は裁判所は、柔軟に対応して、同じ紛争類型であり、社会的な事実も同じであるから、裁判所を変えることはせずに、そのまま進めることができたわけです。しかし、職分管轄裁判所を設けた場合には、裁判所を変更しなければならない事態が生じます。そのため、当事者の側によるフォーラムショッピング的な現象が生じることもあるし、通常裁判所の側による事件移送という状況も生じることが予想されます。
 第一審段階で、請負代金請求事件と特許権侵害反訴事件が併合されている事件を想定してみます。控訴理由で請負代金請求に不服があれば通常裁判所、反訴の特許権侵害請求に不服があれば知財裁判所というようなことになってしまって、どこが争われるかによって分かれてしまうという事態もあり得ると思います。実際には、学問上というか理念の問題として不都合な点を考慮して解決すべきだと思いますけれども、御意見を伺わせていただければと思います。
 それから、アナウンスメント効果の問題については、結局、裁判所がどういうような考え方で裁判を進めていくかを広く伝えるかどうかによって、大きく変わってくる問題だと思っています。
 今日、たまたま朝早く起きて資料を見ていましたら、日経新聞にこういう記事が出ていました。工業所有権に関する事件に関しては、専門的な知識を必要として、専門的知識のない裁判官が扱うことについては、能率の点から見ても、裁判所も困るし、当事者も迷惑される。そこで、専門部ができたら、もっと裁判所は利用できるようになる。そこで東京地裁では、事件の増加、裁判の迅速化を望む声が多かったことから、先駆けて工業所有権に関する訴訟事件について専門部を創設することになった。専門部ができて事件が早く解決するようになった。
 また、読売新聞にも同じような記事があって、目覚しい技術革新の波は、多くの発明や特許を生んでいるが、いきおい、特許を巡って紛争が続発している。東京地裁では民事部に専門部を設けて、紛争解決の処理にのり出した。外国からの特許が絡めば、国際信用にも関わるとあって、審理が遅れるという事態があったが、専門部を発足させて、裁判所の権威と審理のスピードアップをねらったわけであるということが紹介されています。
 これは、今の新聞記事ではなく、昭和35年と36年、東京地裁が専門部を設けた時の記事です。東京高裁は、それに先立つこと約十年以上前の昭和25年に専門部ができています。その時、まさに、この裁判の専門性の問題点を我々は解決する方策を講じて、その後も着々と専門性を高めてきたと信じております。
 この点は、何も裁判所が専門性が高まったということを宣伝することではなく、中身を伴うことによって、信頼性を獲得するのであって、中身こそが大事だということだと思われます。
 そういうような中身の問題に関しては、まだ、現在でも問題点が存在するというのであれば、その点を検討して、法律改正をすることが必要かと思います。現に、民事訴訟法の改正で、より集中化を図り、パワーアップを進めています。
 専門部方式で現在やっていて、実績を積み上げていることと、先ほど指摘しました管轄上の問題でいろいろと問題点があることを踏まえてなお、知財高裁を創設する必要性に関して、御意見はどうでしょうか、お伺いしたいと思います。
 最後に、これは、今朝の日経新聞ですけれども、東京高裁に関しては、今まで民事・刑事という部ですけれども、それとは異なり、そのような部に加えて、知財を扱う知財専門部を設けて、知財専門部に第1部、第2部、第3部、第4部とナンバーを付けること、裁判官に所長代行者が就任し、民事訴訟法改正で新設されました、裁判官5人の大法廷の裁判長も兼ねるということ、法律によらない知財専門部体制を進める記事が紹介されていますが、このような工夫で十分に対応できるのではないかと確信しております。その点も含めて、なお御意見を伺わせていただければありがたいと思います。

○伊藤座長 管轄に起因する問題については、先ほど三木教授、竹下先生のお2人から御意見、御説明がございましたので、それ以上特にということも必要ないように私は承りますが。

○近藤参事官 時間にもかなり切迫しておりまして、今日は12月ということで、押し迫って、この検討会の各委員の皆様の御意見というのも承っておきたいと思っておりますので、質問されるところは質問と言っていただいて結構だと思いますけれども、各委員の方々は御意見を言っていただいて、その中で質問もあるということで言っていただいて、最後にまとめて先生方にお1人ずつ御発言していただくということで、よろしければそういう形にしたいと思います。

○伊藤座長 今、事務局から提案がございましたとおりですが、管轄、あるいはアナウンスメント効果、いずれも先ほどの御意見の中にも出ておりますので、また最後に述べていただくことにいたしまして、それでは、荒井委員、ただいまの趣旨を踏まえて御発言をお願いいたします。

○荒井委員 それでは、意見ということで、私は甲A案がいいのではないかと思っております。アナウンスメント効果、その他の関係で、いろいろ実をそろえることが大事だというお話がございましたが、名実ともにというのが一番いいと思います。
 まずは実質をよくすると同時に、それをよくするためには、名目もきちんとやれば、国際的な発信もできるとか、そういうことができてくる。それから、特にこの知財組織の関係で、裁判所というか、司法機能が国際競争に実際上入っておりますので、是非そういうことが外国からも分かる、名実ともにということで、これは名があった方が実も上げやすいと思っております。
 もう一点は、連続性と発展性の関係ですが、本当に先生方の御努力で、平成8年、15年と改正がなされてきて、そういう方向で進んでいくものとして現に調査官の機能を更に拡大するにはどうしたらいいかとか、証拠調べはどうしたらいいかということで、知財を大事にするという方向での連続性を考え、発展性を考えて、そういうことからすると更に専門の独立裁判所をつくるというのは、その流れに乗っていくことだと思います。
 それから、デメリットについては、裁判官の硬直性の問題は、アメリカの場合の途中から採用して終身でいくのと日本の場合は違いますので、この場合にはキャリア判事を前提にしますので、そういうデメリットもネガティブな面もなくて済むのではないかと思っております。

○伊藤座長 これまで、A案、B案、それぞれについての支持についての御意見がございましたが、その点を踏まえまして、支持される意見、考え方をなるべく簡潔に述べていただければと思います。

○中山委員 私はBがいいと思っているのですけれども、何か新しい裁判所をつくって看板を上げると、看板効果はプラスのイメージである、プラスのアナウンスメントであるということを前提に議論しているように思えます。アナウンスメントにはプラス・マイナス両方あるわけです。CAFCの場合は、これはアメリカのいろんな事情があって、これをどこかのサーキットコートに付けるわけにはいかないので、独立せざるを得なかったし、EUは一国の体をなしてないので全然話が別なので、私は、竹下、三木両先生おっしゃるように中身だと思いますけれども、アメリカなどでも、散々議論した結果、特許裁判所はだめである、よろしくないということでCAFCをつくったわけです。そういう状況の下において、この看板は絶対にプラスであるという点については、いかがお考えでしょうかということをお伺いしたいのですけれども。

○伊藤座長 それでは、それも後で述べていただくことにいたしますが、ほかにまだ御意見をおっしゃっていない委員の方、いかがですか。

○小野瀬委員 平成15年の民事訴訟法の改正との整合性ですとか、あるいは司法制度改革との関係等の問題につきましては、竹下先生、三木先生の御指摘のとおりと思っております。それぞれの意見をということでございますが、そういう点をも考慮いたしますと、もし法律上知的財産高等裁判所を創設するという考え方を採るのであれば、A案ではなくB案が相当ではないかと考えております。

○沢山委員 前回と一緒で、私はA、ないしB、はっきりしなくて申しわけありませんけれども。A案を重めに検討を進めていただいて、問題が多いということならばBでもアクセプタブルだと考えます。

○小林委員 基本的にはこの前御説明した立場のままでございます。すなわち、たぶん、本件について一番大事なのは、少なくとも知財重視の国家的姿勢をアピールしていくという点と、現実に専門処理体制が進むような形で体制整備がなされることだと思います。その観点で、乙案というのは迫力不足でもあるし、実効性がないのではないかという感じは依然として残ります。
 他方、甲A案とB案との関係につきましては、前回も申し上げたのですけれども、いくつかの問題点が指摘されていることは十分分かりますし、理論上の問題点があることも分かるのですけれども、問題はそのマグニチュードだと思うのです。これについては、精査できる立場にないので確たることは申し上げられないのですけれども、今までの説明を聞いていてまだよく分からないのは、問題点はあるのでしょうけれども、その問題点はどの程度のものなのか、あるいは克服できないものなのか、ほかに手がないのかということが、まだ検討されていないように思います。
 したがいまして、申し訳ないのですけれども、乙案については否定的なことは申し上げられますが、甲A案及び甲B案については、なお、甲A案も含めて、検討する余地は十分にあるのではないかという感じがします。

○櫻井委員 私は、本音の所を言うとどれでもないといいますか、一国の裁判制度の話ですので、やはり、拙速に議論をするのは一番いけないことで、きちんとした決断の下できちんとした時間をかけて審議するのが基本だと思います。この検討会でそのような検討をされているとは認識しておりませんので、その意味では全部反対なのですけれども、もし検討するとすれば、A案ではまだまだ足りなくて、特別裁判所が必要ならばやはり地裁レベルからきちんと議論すべきと考えています。
 ただ、現状ですと、A案は全く採用できないと思っているものですから、そうすると、B案ということになるのですけれども、B案は、私の理解では、要するに知財高裁を設立すると称する案とあまり変わらないので、まあ、何か出来レースのようですけれども、B案でみんなが落ち着けるのならB案で仕方ないかなという感じでございます。

○伊藤座長 分かりました。3人の先生方、最後になって恐縮なのですが、特にアナウンスメント効果について、何人かの委員から更に質問等ございましたので、今日のここでの審議をお聞きになって最後の一言をいただければと存じます。

○安念教授 私は、技術移転会社というのを所有しておりますので、その意味では産業界の隅っこの隅っこの方におります。その感覚から言えば、もちろん、飯村判事を初めとするスーパースターを並べたドリームチームを作ってもらいたい。なぜそれがいいかと言えば、結局は質です。外国のお客様に説得力が増す。どうぞ日本でご商売をなさっていただいて安心でございますと、こう言えるわけでございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○三木教授 A案について種々述べました問題点について、技術的に克服できないかとのことですが、何らかの手を打つことはもちろんできますが、いくら手を打ったとしてもB案には及ばないというか、B案が達成している点まではできない。しかも、B案が達成している点というのは平成15年改正が達成している点で、それよりもA案を採ることによって後退するようでは困るというのが、まとめの意見でございます。

○竹下学長 アナウンスメント効果につきましては、内容の理解は最初に申し上げたとおりです。
 荒井委員が名実ともにとおっしゃったのですが、私は、Bは名がないと言うことにならない、Bでも十分名実ともになるのではないかと考えています。
 それから、中山委員から、アナウンスメント効果と言うけれども、マイナスの効果もあるのではないかとの御指摘がございました。これは、充分気を付けなければいけないと思いますけれども、ただ、アメリカのCAFC設立当時の議論を、産業界の方はよくご存じかもしれませんけれども、そのマイナスイメージがそのまま日本の知財高等裁判所を作ったときに出てくるかというと、そこは分からないのではないかと。しかし、おっしゃるような、マイナス効果が出ないように十分配慮しないといけないと思います。
 その点について、先ほど申したことなのですが、英訳をして外国に発信する、これは裁判所がやる必要は全くないと思うのです。裁判所は国内に向けて知財の判決は即時にインターネットで見られるようにしております。それこそ、こんなことを言うと荒井委員に怒られるかもしれませんが、知財戦略本部などでお考えいただいて、どんどんスタッフを揃えていただいて、知財高等裁判所ができたら、日本の裁判所の判決を英訳してどんどん外国に発信していただくことをやっていただくのは、非常に重要なことで、ぜひとも知財戦略本部の方でもお考えいただければありがたいと思っております。

○伊藤座長 確認をさせていただきますが、飯村委員、先ほど、結論は明示的な形ではおっしゃらなかったようですが。

○飯村委員 乙案がいいと思っています。甲案のデメリット、リスクについての十分な検討ができていないので乙案にしました。

○伊藤座長 末吉委員は、B案とおっしゃいましたか。

○末吉委員 はい、B案です。

○伊藤座長 加藤委員は。

○加藤委員 甲A案です。

○伊藤座長 分かりました。そういたしますと、甲A、甲B、乙案の御支持の御意見が本日ございました。B案については、B案も支持しうるというA案との選択肢も含めて、そういう意見がこの場では、相対的な数としては多かったように思いますが、本日の議論を踏まえまして、更に次回の検討会で検討を深めたいと思います。
 それでは、安念先生、三木先生、竹下先生、御多忙の中貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。心から御礼申し上げます。
 次回の検討会でございますが、いよいよ大詰めでございまして、全論点についてとりまとめができればと思いますので、皆様にはどうぞよろしくお願いを申し上げたいと存じます。
 それでは、これをもちまして第14回知的財産訴訟検討会を閉会させていただきます。次回の検討会の日程につきまして、事務局から連絡がございます。

○近藤参事官 第15回の本検討会は12月15日月曜日、午後1時半から5時まで、同じくこの会議室で予定しておりますので、よろしくご参集ください。

○伊藤座長 本日は、若干時間を超過いたしましたが、どうもありがとうございました。

(以 上)