【開会】
○伊藤座長 それでは、定刻になりましたので、第15回知的財産訴訟検討会を開会いたします。御多忙のところお集まりいただきまして、ありがとうございます。
本日は、これまで御議論いただいた内容を踏まえまして、3つの論点について、事務局に改正の方向性を整理した案を作成してもらっております。事前に事務局が皆様の御意見を伺っておりまして、御異存は少ないものとは承っておりますけれども、最終的には本日ここで正式に方向性を出したいと考えております。順次後ほど御意見を承ります。
なお、知財高裁につきましては、政府部内でさらなる調整が必要であるということで、一定の方向性を出すにはいまだ流動的な状態でございますので、本日は第1論点から第3論点までについて検討を行うこととしたいと存じます。年の瀬で御多忙のところ恐縮でございますけれども、別途知財高裁の議論を行う期日を、御相談の上で年内に設定したいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、事務局からお手元の資料の確認をしてください。
○近藤参事官 それでは、配布資料について御説明いたします。資料1は四読用のレジュメでございまして、第1論点から第3論点まででございます。
それから、内閣官房知的財産戦略推進事務局配布資料として「知的財産高等裁判所の創設について(とりまとめ)(案)」というのがございます。
委員席上の配布資料といたしまして、日本経済団体連合会からの「対外的にインパクトのある知的財産高等裁判所の創設を求める」というペーパーと、第14回の議事概要を配布しております。
○伊藤座長 それでは、まず本日の議論に入る前に、今月11日に行われました知的財産戦略本部の権利保護基盤の強化に関する専門調査会の第4回会合につきまして、知的財産戦略推進事務局の土井俊一参事官から議論概要の御紹介をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
【知的財産戦略本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会(第4回)の議論の紹介】
○土井参事官 お手元に、「内閣官房知的財産推進事務局配布資料 資料1」と書いてある資料がございます。この資料が12月11日に権利保護基盤の強化に関する専門調査会でとりまとめられたペーパーでございます。会議の席では特段の修正はございませんでしたので、これはとりまとめ版ということでございます。
11日の会議の概要でございますが、冒頭、阿部会長の方から、知財高裁の創設の必要性や意義といった大枠については意見が大分集約されてきた。ただ、どういう知財高裁をつくるかについては両案あったので、各委員の御意見を最大公約数的にとりまとめたのが資料1だという御発言がございました。
それを受けて、事務局の方からこの資料の説明をしてございます。
説明に当たりましては、阿部会長と同様の発言になりますけれども、これらの議論を踏まえて、各委員の御意見を最大公約数的にとりまとめたものであるという御紹介をした上で、1.知的財産重視の国家的意思表示の必要性、2.紛争のスピード解決の重要性、3.技術専門性への対応、4.知的財産重視の独立した司法行政の確立、この4点について簡単に御説明をいたしました。
これらの内容につきましては、前回、前々回の検討会でも、当方の専門調査会の資料を配っておりますから、前2回に私が御説明した資料の内容とほぼ同じものだと御理解いただければと思います。
その上で、4ページが知財高裁の創設についての提言でございます。事務局の方からは、知財高裁の組織の在り方に関し、独立した9番目の高裁として創設するというA案と、東京高裁の中に法律上の知財高裁を設置するというT案の2案があり、A案がよいという意見の方もいらっしゃれば、T案がよいという意見の方もいらっしゃる。そこで最終的にどのような案で行くのかは政府の検討に委ねるという形で、A案とT案の両方に共通するものを最大公約数的にとりまとめた。それを整理したのがこの4ページの提言であるという説明をいたしました。
提言中の1は、知的財産重視の国家的意思表示を内外に示すとともに、知的財産紛争の迅速かつ専門的な解決を図るために、知的財産高等裁判所を創設するということでございます。
2は、その知財高裁は法律に明確に規定された裁判所とする。また、司法行政面での独立した権限が法律上確保された組織とする。人事、予算、訴訟運営などについては知財重視の運用を行うということになってございます。
A案の場合は、9番目の高裁ですので、当然法律に明確に規定された裁判所となりますし、司法行政面での独立した権限が法律上確保されることになります。
T案の場合でも、竹田委員からの御説明では、東京高裁の中に設置する知財高裁は法律によって根拠づけられる裁判所ということになりますし、司法行政面での法的措置が講じられるということでございましたので、2のようにとりまとめをいたしております。
3は、紛争のスピード解決及び判決の予見可能性を確保するため、5人合議制等の体制を整備するということ。
4は、審理における技術専門性を確保するため、調査官や専門委員を積極的に活用する。あるいは技術的素養を持つ法曹有資格者、及び知財や技術に強い弁護士の任官を進める。
5は、地方における司法アクセスの拡大を図るために、テレビ会議、電話会議システムの活用、または出張により尋問や検証等の証拠調べを積極的に行うということでございます。
6は、政府においては、知財高裁を創設するための法案を速やかに作成し、2004年の通常国会に提出すべきであると、こういういうふうになってございます。
このとりまとめの後は、先ほど申しましたように、政府において知財高裁の具体的内容について、更に関係機関と検討しながら、検討を進めていくということでございます。
こういった事務局からの説明の後に、阿部会長の方から更に指摘がございました。とりまとめには反映されていない意見も多々あります。ただし、専門調査会の過去の資料や議事録はすべて公開されているし、多くの関係者が本調査会での議論を聞いております。したがいまして、今後の政府の検討においては、できる限り各委員の御意見を参考にしていただこうということで、会長としてその点を強く要望したいという御発言がございました。
その会長の発言の後、委員の方からは、特段意見がございませんでしたが、1点、伊藤座長の方から、知財訴訟検討会においてもこのとりまとめを尊重して検討することとしたいというコメントがございました。
議論の概要は以上でございます。
○伊藤座長 どうもありがとうございました。ただいまの土井参事官の御説明に関しまして、何か御質問等ございますでしょうか。
特に御質問ございませんか。それでは、どうも土井参事官ありがとうございました。
それでは、第1論点から第3論点までの検討を進めてまいりたいと思います。
まず、第1論点でございます侵害訴訟と特許無効審判の関係等について、事務局から、資料に基づきまして、説明をお願いします。
【侵害訴訟と特許無効審判の関係等について】
○滝口企画官 資料1の1ページ、2ページ目、侵害訴訟と特許無効審判の関係等につきまして御説明いたします。
本日ここにお示しした案は、この論点につきまして、前回御議論いただいた際の乙案をベースに作成している案であることを、前もって御紹介しておきます。
まず「1 侵害訴訟における特許権に基づく請求の制限」ということで、侵害訴訟において、特許が第123 条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することを理由として特許権の行使を認めるべきではない、そういう抗弁が主張された場合には、特許が無効であることが明らかである場合に限らず、当該事由の有無を判断することができることとし、当該特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるときは、当該特許権の行使を認めないことができるものとするといたしております。
下に(注1)がございますが、こうした考え方は、出願公開に伴う補償金請求権の行使につきましても、同様の手当てを行うこと。
(注2)といたしましては、キルビー判決において「特段の事情」として考慮される場合としては、訂正審判の請求という事情が想定されていたわけですが、もし、新たに創設されることとなる抗弁を、特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められることを要件として規定する場合には、そもそも訂正審判の請求の事情は、特段の事情として考慮すべき事情には当たらないのではないかということにさせていただいております。
また(注3)といたしまして、この裁判所の判断、判決理由中の判断ですけれども、これは当事者限りの相対効。また、当事者以外の第三者に対する情報提供の観点から、裁判所、あるいは特許庁のホームページにおいて、特許番号の情報を付加する等により、特許番号に基づいて判例を検索できることとする。以上が1点目でございます。
2点目といたしまして、「侵害訴訟と特許無効審判の判断齟齬防止、審理の迅速性の確保等」です。
まず、(1)といたしまして、判断齟齬の防止を図るため、特許無効審判を審理する審判合議体が、必要に応じて、侵害訴訟において提出された上記1の抗弁等の関係資料を裁判所から入手できるようにすること等により、裁判所と特許庁の進行調整を充実させるとしております。
ここにございます関係資料といたしましては、その抗弁に関する資料、あるいはその判断の前提となる特許請求の範囲の文言の解釈についての主張・立証に関するようなものも想定されるものと理解しております。
(注1)を御覧いただきますと、ここは甲案、乙案で議論のあったところですが、対世的な無効を求める非権利者側当事者の特許無効審判の請求は、侵害訴訟係属の有無を問わず制限しない。乙案型であることを記載させていただいております。
ページをめくっていただきまして、(注2)でございますが、紛争の実効的解決の観点から、同時係属している特許無効審判については、早期に審理する対象とすることで判断齟齬を防止する。また、両者の判断が齟齬するおそれがあるときは、裁判所は裁量により訴訟手続を中止する。これは現行の特許法第168 条の規定により可能なことであると考えております。
1ページに戻っていただきまして、一番下の(2)ですが、1の抗弁が審理を不当に遅延させることを目的としてされたものと認められる場合には、裁判所はこれを却下できるようにするということでございます。
続きまして、「3 特許権者の防御手段」ですが、現行法上の特許権者の防御手段には変更を加えない。具体的に申しますと、注にございますように、特許庁において訂正審判等を請求できることとし、紛争の実効的解決の観点から、訴訟係属中に請求のあった訂正審判等については、早期に審理する対象とすることといたしております。
「4 特許権以外の知的財産権侵害訴訟と無効審判の関係等について」ですが、特許権侵害訴訟のみならず、実用新案権、意匠権、商標権の侵害訴訟と無効審判の関係等につきましても、同様の問題があることから、これと同様の手当てを行うこととするという、以上の4つの観点からのとりまとめをさせていただいております。
○伊藤座長 どうもありがとうございました。ただいま説明がございました侵害訴訟と特許無効審判の関係等につきまして、どなたからでも結構でございますので、御質問、御意見をお願いいたします。
○加藤委員 若干、念のためになるかもしれませんけれども。産業界の一員として、紛争の一回的解決を目指す立場から、明らか要件の除去とともに、侵害訴訟開始後の特許無効審判請求を遮断することを提言していたところでございます。
本案によりますと、明らか要件は外していただけるということになったものの、無効審判は並行して請求可能ということになっております。ただ、私としては、最も希望することと言いますか、最も大事なことは、やはり明らかか否かにかかわらず、侵害訴訟の中で無効主張ができるようにすることと考えますので、その点が盛り込まれたことについては、まず感謝申し上げます。
残る無効審判遮断の問題につきましては、とりわけ和解を視野に入れたような交渉材料をつくるためを主たる目的とする審判請求を抑制するために、ペーパーの第2項に書いてあるような裁判所、特許庁間の連携が図られれば、完全とは言いませんけれども、相当程度の抑制効果は期待できるのではないかと考えますので、全体として本案を支持させていただきたいと思います。
この意味においても、ペーパー記載の判断齟齬の防止、あるいは審判の迅速性確保は非常に重要なポイントになるのではないかと思いますので、条文の規定ぶりだけではなくて、かなりの部分、実務的に無効審判、訂正審判を早くやっていただくとか、あるいは裁判所においては柔軟な訴訟中止手続をとっていただくとかしていただく必要がありますので、この点、特段の配慮をお願いしたいと思います。全体として本案を支持させていただきたいと思います。
○飯村委員 第1論点に関しては、侵害訴訟と特許無効審判の関係について、一元化、あるいは矛盾のある判断が出ないようにという要望があって、それについて検討してきたわけでございます。侵害訴訟において、迅速でかつ質の高い紛争解決を目指すのであれば、その解決方法としては、2つが考えられて、しかも、それ以外は考えられないように思われます。その1つは、無効審判の判断が速やかになされて、その結果を前提として侵害訴訟の判断が出されるという方向での解決策であり、もう1つは、侵害訴訟の判断について、加藤委員が言われたような、例えばその審理の結果を尊重させて遮断効を創設するとか、紛争解決能力を高めるという解決方法があり得ると思います。
ところが、侵害訴訟において、現在の判例であります、無効が明らかであるという場合に限らず、無効でありさえすれば請求を棄却するという判断ができるというのは、侵害訴訟における判断と無効審判の判断の違いが直接的に侵害訴訟の判決の効力に影響を及ぼしてしまうということになってしまって、その意味では、紛争解決能力が著しく低下するおそれがあり得ます。侵害裁判所が、判断の違いによる紛争解決機能の低下をミニマムにするためには、審理をより重くして、迅速解決という要請については、後退するのではないかという懸念を持っております。
結局、運用面では、迅速審理に対する悪影響をある程度やむを得ないものとして受け入れざるを得ないように感じます。その点について、前回の議論でも、制度のよしあしについて、ユーザーに聞けということですけれども、ユーザーがそういうことでいいということであれば、この案もやむを得ないであろうと思っております。その点について、ユーザーの意見を改めて確認したいと思います。
○伊藤座長 それは加藤委員などの御意見を求めたいということですか。
○飯村委員 そうです。
○伊藤座長 先ほどこの案で賛成とおっしゃったのは、そういうことも含むかと思いますが。
○加藤委員 その部分も、ややマイナス面も出てくる、それはあり得ると思いますけれども、全体のメリットの方がやはり大きいのではないかということで、産業界として受忍しなければいけないポイントがあるとすれば、それは受け入れさせていただくことはもちろんでございます。
○阿部委員 先ほどの加藤委員の賛成の理由に加えて、もう1つ我々として、この案で妥当ではないかと思うのは、紛争の一回的解決という意味が、裁判所で全部を片付けるということではなくて、同じ当事者間の争いをもう一回繰り返さないという意味で、実質的に、出戻りしないで片付けるという意味に理解すべきではないかと思います。
そういう意味において、一回的解決が図れる意味があるということでございます。
○荒井委員 第1の侵害訴訟における特許権に基づく請求の制限でございますが、現状よりも評価されているという意味で、評価したいと思います。
(注3)にございます裁判所や特許庁のホームページの充実、ここのところを是非早く、しかも検索しやすい形でやっていただきたいという希望を申し述べたいと思います。
2の、裁判所と特許庁の進行調整を充実させるということでございますが、これは前からの懸案ではございまして、なかなか従来、こういうことを言っても、実際には、効果を上げている場合もあれば、必ずしも効果が上がっていないケースもございましたので、是非、今回は体系的に、裁判所と特許庁の進行調整がもちろん早めに調整されて、効果が上がっていくということについても期待をしたいと思います。
3点目の特許権者の防御手段ですが、是非早期審理を充実するということで、これは特許庁においても、一層の御努力をお願いしたいと思います。
○小林委員 本案につきましては、基本的には前回までに議論していた乙案ということで、私どもとしては、乙案が一番バランスが取れているのではないかということを申し上げてきたことから、結論においては賛成したいと思います。
今、何人かの委員の方から、審判の早期審理につきまして特段の配慮をすべきという御指摘を承りました。これにつきましても、前回までに何回か申し上げたことでございますけれども、いろいろな手段を講ずることによって、現在でもかなり迅速化しておりますし、更に一層の迅速化ということを特許庁としても目標にいたしておりますので、その点については特に配慮をして、今後もよりそういった審理が可能になるように進めたいと考えております。
他方、裁判所との間の情報共有ですとか、進行調整につきましては、私どもだけでできる話ではないので、裁判所の方とも相談させていただきつつ、実効性のある運用ができるように努めたいと思います。
○櫻井委員 先ほど飯村委員がおっしゃったことですけれども、理論面ということで言いますと、明らか要件を外して、無効事由の有無を裁判所が審理できるようにするという点については、公定力という観点から言いますと、制度としては、今まで傷がなかったものに傷をつけた、もしくは、問題があったことを更に問題を大きくしたという面があります。しかも、相対効で、一般的にホームページで公表するということでありますので、そういう大きな疑念があり、それをお含み置きいただいて、産業界の方が賛成されるということであれば、過渡的なものとして理解するより仕方ないと思います。そのうち抜本的な改革がいずれ必要になるだろうということはあろうかと思っております。また、法文ができた段階でそれを理論的にどう整理するかということは、別途考えるべきことだろうと思っております。
短期的には、そういう意味で制度的な欠陥はあるのですけれども、それを2のところで、判断齟齬を防止する措置を運用面に委ねるということで、裁判所と特許庁の御負担が大変重くなるだろうなということでお気の毒ですねというのが感想でございます。
○伊藤座長 ほかにございますでしょうか。
そういたしますと、何点か要望、確認、感想がございましたけれども、事務局の案そのものについては、御異議がないというふうに承りまして、事務局案のようにとりまとめさせていただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。
ありがとうございます。
引き続きまして、第2論点でございます、知的財産訴訟における専門的知見の導入、特に裁判所調査官の権限の拡大・明確化等について、資料に基づいて事務局から説明をお願いします。
【知的財産訴訟における専門的知見の導入−特に裁判所調査官の権限の拡大・明確化等−について】
○坂口企画官 それでは、知的財産訴訟における専門的知見の導入について御説明いたします。資料の3ページを御覧ください。
知的財産訴訟において裁判所が専門的処理体制を一層強化し、審理の更なる充実・迅速化を図るため、次のように、裁判所調査官について、その中立性を確保しつつ、その権限の拡大・明確化を図ることとするとしております。
まず「1 裁判所調査官の権限の拡大・明確化」として、裁判所は、必要があると認めるときは、高等裁判所又は地方裁判所において知的財産権に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官に、当該事件において次の事務を行わせることができることとし、この場合において、当該裁判所調査官は、当該事件において、裁判長の命を受けて当該事務を行うことができることとするとしております。
ここの意味ですが、まず前段では、裁判所調査官がこのページの(1)から(4)の事務を行うことについて、包括的に決定するのは裁判所、すなわち合議によるものとしており、一方、後段では、裁判所調査官が事件ごとに具体的にどのような事務を行うかについては、裁判長の命、すなわち訴訟指揮によるものとしております。
具体的な権限ですが、(1)として、口頭弁論の期日等において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すこととしています。この表現は、民事訴訟法149 条、裁判長の釈明権の規定と合わせているものです。裁判所調査官は裁判長の訴訟指揮の範囲でその権限を行使することから、表現を合わせているものです。
なお、裁判所調査官が釈明権を行使し得る具体的な期日、手続については、(注1)として記載しておりますように、口頭弁論期日のほかに、弁論準備手続、書面による準備手続、証拠保全手続、インカメラ審理及び進行協議期日等が考えられます。
具体的な権限の(2)ですが、証拠調べの期日において、証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発すること。(3)和解を試みる期日において、専門的な知見に基づく説明をすること。(4)裁判官に対し、事件についての参考意見を述べることができるものとしております。なお、この参考意見については、(注2)に記載していますように、裁判の評決に至るまでの評議の過程で参考意見を述べることも含まれるとするものです。
次に「2 裁判所調査官の中立性の確保等」についてです。
今回、このように裁判所調査官の権限が拡大されることに伴い、その中立性を制度的に保障するために、除斥・忌避等の規定を準用することとしております。
また、これまでこの検討会で御議論いただいた内容のうち、運用事項に相当するものと思われるものを(注1)から(注3)として整理しています。
まず(注1)では、裁判所調査官と訴訟当事者の間の理解・認識の共通化のイメージを記載しております。裁判所調査官が、上記1(1)〜(3)に掲げた権限を行使する際に、必要に応じて、技術的事項等についての自らの理解・認識を裁判官の面前で当事者に示すことで、裁判所調査官、ひいては裁判官を含む裁判所側と当事者との間で、事件全体についての理解・認識の共通化を図ることが可能となるとしております。
また(注2)では、いわゆる給源について書いておりますが、知的財産訴訟に関与する裁判所調査官としてどのような者を活用すべきかという点については、特に法令上の制限を設けないこととし、運用の在り方としては、特許庁審査官・審判官、弁理士を中心として、中立性・公平性の確保等に留意をしつつ、幅広く適任者を活用することが考えられるとしています。
また(注3)では、裁判所調査官と専門委員との関係について、その運用の在り方としては、①裁判所調査官は技術的知見及び特許法等に関する知識を有する者とし、原則として審理に関与することとすること、②専門委員は技術的知見を有する者とし、種々の技術分野について、必要に応じて審理に関与することとすることが考えられるとしております。
○伊藤座長 どうもありがとうございました。
それでは、ただいま説明のあった事項につきまして、どなたからでも結構でございますので、御質問、御意見をお願いしたいと思います。
○阿部委員 質問をいいですか。(注2)で給源の話が出てきておりまして、「特許庁の審査官・審判官を中心として」と書かれております。中立性、公平性の確保等に留意しつつとなりますと、民間からということは当面は考えないということで理解してよろしいのでしょうか。
○近藤参事官 ここに書かれているもの自体は、今後の運用の問題でして、今まで出てきた議論として、どういうイメージでなされていたのかということを確認するために書いてありまして、民間から今後あり得ないということを書いているつもりではございません。それはその時の情勢によって、そういう者でも中立性、公平性の点で問題なかろうということであれば、そういう認識になってくれば、そういうことも当然あり得ると思っています。
○阿部委員 分かりました。
○飯村委員 今の阿部委員の質問に対してですけれども、特許庁職員などの公務員から採用する場合は別ですが、それ以外に給源を求める場合は、原則的には公募という形にしますし、また、弁理士資格を持っている者に限るということにはならないという考え方を持っています。時々の状況に応じていろいろな態様はあり得ることだとは思います。
○阿部委員 もう1つ、ここに書かれたことは、法律か何かに決めるということで理解してよろしいのでしょうか。
○近藤参事官 このレジュメ全体を通じてですけれども、大きな文字で書かれているものについては、基本的には法律事項。今の調査官の権限の拡大の明確化についても、1の「裁判所は」から、(1)から(4)まで書かれている、こういうところは法律事項になるだろう。2も、本文として大きな文字で書かれているところは法律事項になるだろうと考えております。
○末吉委員 全体として反対ではなくて賛同したいのですが、意見を申し上げたいと思います。
かねてより、調査官の認識と当事者の認識に齟齬があって、当事者が十分に攻撃防御方法を使い切れない場合があるのではないかという問題点を指摘してまいりました。確かに中立性の確保のところで議論してまいりましたが、よく考えてみると、もともとは調査官の権限の問題のようにも思います。
3ページから4ページにかけての(注1)では、「上記1(1)〜(3)に掲げた権限を行使する際に」という記載になっておりますが、もう少し広く、基本的には調査官の認識と当事者の認識の齟齬がある場合に、それを是正する方策を取られることが望ましいのではないかと考えます。それはもしかすると、法律事項にもなるかもしれませんし、どちらかというと、項番2番よりは項番1番の問題になるのかもしれません。
○近藤参事官 今の末吉委員からの御発言が、まさにこの第2論点のところで最大の論点になっていたと思います。調査官がつくる報告書についての開示の在り方をどうするのかということが問題となって、その開示の在り方について、開示をすることによって、かえって審理が硬直化したり遅延したりという混乱を招くのではないかという意見を経て、この(注1)のような形で、普通の裁判官と当事者と同じような関係を調査官においても構築をして、その中で心証をとることを考えたらどうかということにだんだん落ち着いてきたのではないかと思います。
ただ、末吉委員がおっしゃるような懸念も十分分かりますので、運用面の問題になってくると思いますが、是非、こういう議論があったということを踏まえて運用していただけるような形も考えていっていただきたいと思います。
○伊藤座長 末吉委員、よろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。
よろしいですか。そういたしますと、この点につきましても、御要望等ございましたけれども、事務局案そのものにつきまして反対ないし御異議があるということではないように承りましたので、この案のようにとりまとめさせていただきたいと存じますが、よろしゅうございましょうか。
ありがとうございます。
それでは引き続きまして、第3論点であります侵害行為の立証の容易化のための方策につきまして、資料に基づいて説明をお願いします。
【侵害行為の立証の容易化のための方策について】
○小田主査 それでは御説明申し上げます。資料の5ページ以下を御覧ください。
第3論点では、3つの事項につきまして、改正することを考えております。1つ目が秘密保持命令についてでございます。2つ目が営業秘密が問題となる訴訟の公開停止。3つ目、これは6ページに書いてございますが、いわゆるインカメラ審理手続の整備でございます。
1点目の秘密保持命令から御説明申し上げます。5ページの1の(1)を御覧ください。
まず秘密保持命令の要件についてでございますが、準備書面又は証拠の内容に営業秘密が含まれていること。これが要件の1つ目でございます。要件の2つ目が、当該営業秘密の訴訟追行以外の目的への使用又は開示を防止する必要があることにつき疎明がされた場合。この(a)と(b)、2つにつき疎明がされた場合には、当事者の申立てにより秘密保持命令が出るということになります。
その秘密保持命令の内容でございますが、当事者と訴訟代理人又は補佐人に対して当該営業秘密につき、訴訟追行以外の目的への使用又は秘密保持命令を受けた者以外の者への開示をしてはならない旨を命ずるということになります。
そして、秘密保持命令に違反した場合の効果でございますが、秘密保持命令に違反した者に対しては所要の罰則を科すこととするという内容にしております。
(2)でございますが、これは取消し等について記載してございます。秘密保持命令の申立てをした者又は秘密保持命令を受けた者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、秘密保持命令の要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として秘密保持命令の取消しを申し立てることができるものとしてございます。
議論のございました効力の存続期間についてでございますが、秘密保持命令はこの取消しがあるまで有効であるとしております。
その下に注が3つ付いてございます。(注1)は当事者等の定義についてでございます。
(注2)についてでございますが、秘密保持命令が発令されるのは、当該営業秘密が当事者等が当該訴訟の過程において初めて知り得たものである場合に限られるものとしてございます。
(注3)でございますが、後記2の場合、つまり公開停止の場合ですが、この場合についても秘密保持命令が出せるということを考えてございます。
「2 営業秘密が問題となる訴訟の公開停止」、非公開審理につきましては、不正競争による営業上の利益の侵害又は特許権等の侵害を理由とする差止請求、損害賠償請求若しくは信用回復措置請求又はこれらの請求権の不存在確認請求の訴訟において、当事者等がその侵害の有無についての判断の基礎となる事項であって、当事者の保有する営業秘密に該当するものについて、当事者本人又は証人として尋問を受ける場合においては、裁判所は裁判官全員の一致により、次の①及び②の要件に該当するものと認めるときは、公開を停止することができるものとするとしてございます。
要件でございますが、①として、その当事者等が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより、当該営業秘密が非公知性・秘匿性を失うことによってその当事者の当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に著しい支障を生ずることが明らかであることから当該事項について十分な陳述をすることができないという真にやむを得ない事情があること、これがまず1つ目でございます。②として、当該陳述を欠くことにより、他の証拠のみによっては当該事項の判断の基礎とすべき不正競争による営業上の利益の侵害又は特許権等の侵害の有無について適正な判断をすることができないという、現に誤った裁判がされるおそれがあること。この2つについて疎明があった場合には、当事者の尋問等を公開しないで行うことができるというものでございます。
6ページの(2)でございますが、その際の手続といたしましては、①上記(1)の要件に該当するか否かの適正な判断を確保するための手続として、裁判所が公開停止の決定をするに当たって、あらかじめ当事者等の意見聴取の手続をとらなければならないものとし、上記(1)の要件に該当するか否かを判断するための審理において、営業秘密の保護を担保するため、インカメラ審理に類する規定を設けるという、この2つを考えてございます。
②公開停止の決定に基づく非公開の尋問手続の適正を確保するための手続規定としては、裁判所が公開停止の決定に基づく非公開の尋問を行うに当たっては、当該事項の尋問を公開しないで行うときは、公衆を退廷させる前に、その旨の理由とともに言い渡すこととし、当該事項の尋問が終了したときは、再び公衆を入廷させなければならないものとするなどの規定を設けることを考えてございます。
3点目の、いわゆるインカメラ審理手続の整備でございますが、特許法第105 条第2項等の定める文書提出拒否事由の審理においては、営業秘密を含む文書について当該審理により提出拒否事由の有無の判断がされる場合における手続の透明性を確保するため、裁判所が提出拒否について正当な理由の有無を判断するのに必要と認める場合には、裁判所の裁量によって、当該文書提出命令の申立人、訴訟代理人又は補佐人から意見を聴取するため、これらの者にインカメラ審理の対象となる文書を開示することができるものとするとしてございます。
この場合には、当事者の申立てにより、先ほど申し上げました秘密保持命令を発令することができるものとしてございます。
(注)が付いておりますが、当事者自身が必ず開示を受けなければならないものではございませんで、訴訟代理人、または補佐人のみが開示を受けることも可能であると考えております。
○近藤参事官 今の説明に対して若干補足をさせていただきたいと思います。
5ページ目の秘密保持命令の(1)で、要件の(a)として「準備書面又は証拠の内容」と記載されておりまして、「準備書面」という形にさせていただいております。これは前回の検討会の時に、「訴状又は答弁書、準備書面」という形で書いておりまして、飯村委員から、訴状、答弁書はどうだろうかという御指摘がありました。それを事務局内で持ち帰って検討して、訴状については、やはりこの中に含ましめることは訴訟手続上もいろいろな困難を招いてしまう。送達等においていろいろな問題があるので、これは省いた方がいいということで、訴状は除いております。
答弁書は除かれているかというと、答弁書は必ずしも除いている趣旨ではございません。民訴法上、答弁書も準備書面であるという言い方をされておりますので。答弁書をあえて除かなければいけないということになるかというと、必ずしもこれを除かなくても、それほど手続上の困難というのは生じないと思いまして、これは除いておりません。その点を付加させていただきます。
それから、6ページの公開停止の要件の①のところで、前回は、事業活動の継続が困難というのと、事業活動に著しい支障が生ずるというのと、両方の案を提示させていただいておりました。前回の御議論の中で、事業活動に著しい支障が生ずることが明らかであるという要件の方がいいのではないかという御議論がございましたので、それを採用させていただいているということでございます。
○伊藤座長 それでは、ただいまの事務局の説明、補足も含めまして、これにつきまして、御意見、御質問をお願いいたします。
○阿部委員 秘密保持命令は裁判所が発すると思うのですけれども、それに違反した場合には、罰則ということになりますと、ここの部分は検察官が公訴を提起するというところから手続が始まるのだろうと思うのです。端緒は告訴とか告発というところから始まると思うのですけれども、親告罪にするということについてはどうでしょうか。
○近藤参事官 営業秘密というものが最終的な保護法益に入っていることは間違いないと思いますので、親告罪にするという選択肢も念頭に置いて検討しております。
○加藤委員 確認でございます。5ページ目の「2 営業秘密が問題となる訴訟の公開停止」の1行目に「不正競争による営業上の利益の侵害又は特許権等の侵害」と書いてありまして、「等」の問題でございますが、私の理解では、ボトムラインから先に申し上げますと、不正競争防止法上の営業秘密、それから特許権、実用新案権、ここまでは確実に公開停止の対象となり得る訴訟という理解は非常に素直に出ますが、特許権「等」と書いてございますので、意匠権、商標権、著作権、とりわけ著作権の中でもプログラムに関わる著作権も含むという理解でよろしいのでしょうか。
私の意見を若干言わせていただきますと、プログラム著作権では、ソースコード、オブジェクトコードという問題もございますので、当然対象となり得るだろうと考えられます。
意匠権、商標権については、余り出てこないと思うのですが、さりとて一方では、これを積極的に除くというのはないような気がいたします。そういった意味で、私の感覚としては、入るのかなと思うのですけれども、その意味での確認でございます。
○近藤参事官 どの範囲で実行するのかということについても、これは大きな問題ではあると思っております。今おっしゃったボトムラインとしての不正競争防止法、特許侵害、それから実用新案権の侵害、これについては、この規定を設けるべきであるというのが、この検討会での主な意見であって、そういう方向で進めているところでございます。
他方、それ以上に広げられるのかと言いますと、なかなかそれだけの立法の必要性、立法事実があるのか。立法事実があるのかどうかというのは、かなりこの検討会でも議論していただいて、なかなか議論自体が出てこなくて、どうだろうかというところもありました。また、余り広げてしまうと、なかなか全体としての立法もしづらいというところもありますので、現在考えているのは不正競争と特許、実用新案ということで、そこで規定を設けていない部分については、現行法と同じように、そこは公開停止ができないというわけではなくて、憲法の解釈との関係で公開停止ということは当然あり得る、公開停止が全くできなくなってしまうということではないという解釈をしております。
○加藤委員 そうしますと、不正競争防止法、特許法及び実用新案法の中に、公開停止といいますか、この点が規定されるという理解をすればよろしいということになりますか。
○近藤参事官 はい。
○沢山委員 秘密保持命令についての確認ですが、(注1)を見ますと、秘密保持命令の名宛人は、全員自然人のように見えるのですが、訴訟の対応をしているときに、会社のメンバーは変わる場合が非常に多くて、そういう場合は追加という手続が必要だと、この人に秘密保持命令を課していただきたいという手続を取ってくださいという御趣旨だと理解していいですか。
○近藤参事官 そうです。
○阿部委員 余り起こらない話かもしれませんけれども、刑事手続に入ったときに、裁判所は秘密保持命令を出すという話にはならないのでしょうか。
○近藤参事官 ここで検討しているのは知財訴訟の民事訴訟の問題についてで、私ども刑事の方はよく分からないところがありますし、憲法上も、公開の問題は民事と刑事は一応区別されて考えられておりまして、ここでの議論というのは民事を前提に今までやってきまして、その検討の結果のこの秘密保持命令も、民事のことを念頭に置いて考えられていて、刑事手続において、こういうことを導入するということは考えておりません。
○末吉委員 秘密保持命令も不競法と特許法、実用新案法における立法という理解でよろしいでしょうか。それとももう少し一般的な立法をお考えでしょうか。
○近藤参事官 秘密保持命令が具体的にどんな場面かというのは、議論の経過から申しますと、インカメラ審理のところから議論が始まっておりまして、インカメラ審理のときに、ほかの人にも見せることができたらどうだろうかという形で御指摘があったと思います。
インカメラ審理として、こういう視点を設けなければいけないものというのは、特許・実用新案に限らず意匠・商標、著作権にもインカメラ審理手続というのはあって、そこで同じようなインカメラ審理についての拡張の形を考えざるを得ないということになりますので、秘密保持命令についても、公開停止よりも広い範囲で考えていくということだと思います。
○伊藤座長 ほかに御質問等ありましたらどうぞ。
それでは、よろしいでしょうか。そういたしますと、この事務局の案そのものについては御異議がないようですので、第3論点につきましても、このような形でとりまとめさせていただきます。
そこで、これらの3つの論点の改正の方向性については、本日御了解をいただいたことにさせていただきたいと思います。立法化の必要なものにつきましては、事務局におきまして、更に法制上の問題点等について詰めてもらいまして、最終的には内閣として法案を提出してもらうことになるかと思います。
それでは、知財高裁につきましては、日程調整の上、年内に一度議論の機会を設けたいと思います。大変御多忙のところ恐縮でございますけれども、御協力を賜れればと存じます。
そこで次回の日程について、事務局から御連絡申し上げます。
○近藤参事官 大変急な話で申し訳ないのですが、先週の金曜日に皆様の御都合を伺う御連絡を差し上げました。その調整をした上で、次回は12月25日木曜日、午後5時から1時間、同じくこの第1会議室において、知財高裁についての御議論をお願いしたいと思います。(事務局注:次回(第16回)検討会は、1月21日水曜日午後1時からに延期された。)
また、予備日として設けております1月26日がございますが、まだ流動的ですので、なお、予定をお空けいただけるようにお願い申し上げます。
○伊藤座長 ということですので、恐縮でございますけれども、当面、御協力を賜れればと思います。
それでは、格別の御意見がなければ、これをもちまして、第15回の知的財産訴訟検討会を閉会させていただきます。どうもありがとうございました。
(以 上)