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知的財産訴訟検討会(第17回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成16年7月20日(水) 16:30 〜17:30

2 場 所
永田町合同庁舎共用第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、加藤恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉亙、中山信弘(敬称略)
(知的財産訴訟外国法制研究会研究員)
大渕哲也東京大学教授、杉山悦子一橋大学講師、茶園成樹大阪大学教授、菱田雄東北大学助教授、平嶋竜太筑波大学助教授
(説明者)
内閣官房知的財産戦略推進事務局 土井俊一参事官
(事務局)
山崎潮事務局長、古口章事務局次長、近藤昌昭参事官

4 議題
(1) 「知的財産推進計画2004」の紹介  内閣官房知的財産戦略推進事務局
(2) 知的財産高等裁判所設置法及び裁判所法等の一部を改正する法律・成立の報告

5 議 事

【開会】

○伊藤座長 それでは、定刻になりましたので第17回の「知的財産訴訟検討会」を開催いたします。お忙しい中、また、お暑いところをお集まりいただきまして、有り難うございます。
 また、この検討会におきまして、外国法制との比較研究の観点から、大いに尽力を頂きました知的財産訴訟外国法制研究会の研究員の皆様にもお越しいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
 さて、皆様既に御承知のとおりでございますが、去る6月11日に知的財産高等裁判所設置法、及び裁判所法等の一部を改正する法律が国会で可決・成立いたしました。本日はこれらの法律の成立の報告を事務局からしていただく予定になっています。
 それでは、まず事務局からお手元の資料の確認をお願いします。

○近藤参事官 それでは、配布資料について御説明いたします。
 資料1としまして、「国会審議経過等の概要」と題した書面がございます。
 資料2といたしまして「官報」でございます。平成16年6月18日号外第130 号4分冊の1ということであります。
 それから「知的財産推進事務局配布資料」といたしまして、「知的財産推進計画2004」というものがございます。これは推進計画の抜粋を、この検討会の関連項目について抜粋をしたものでございます。
 配布資料は以上です。

【「知的財産推進計画2004」の紹介】

○伊藤座長 それでは、去る5月27日に、知的財産戦略本部におきまして、推進計画の改訂版といたしまして「知的財産推進計画2004」がまとめられたと聞いております。
 そこで、知的財産戦略推進事務局の土井参事官からこの「知的財産推進計画2004」について御紹介いただきたいと思います。

○土井知的財産推進事務局参事官 土井でございます。お手元にお配りしました1枚紙の資料、「知的財産推進計画2004(知財訴訟検討会関連項目抜粋)」という紙がございます。この紙に沿ってごく簡単に推進計画の関連項目を御紹介いたします。
 昨年の7月に策定された知的財産推進計画では、4つの項目が盛り込まれておりました。
 1つは、知財高裁の創設を図るという項目。
 2つ目は、専門的知見の充実を図るという項目。
 3つ目は、証拠収集手続を拡充する。
 4つ目は、紛争の合理的解決を実現するという4項目でございましたが、その4項目を受けて、この知財訴訟検討会で議論を頂き、結果として、先ほど御紹介にありましたように、知財高裁法案と裁判所法等の一部を改正する法案という形で実を結んだということでございます。あいにくこの知財推進計画2004がつくられる際には、今、申しました両法案が国会を通過する前の段階でございましたので、この推進計画2004は、もし仮にその提出されている法案が国会を通過したとすれば、こういう取組を政府として行うという条件付きの推進計画となっております。
 まず、紙の1番目でございますが、「(1)知的財産高等裁判所(仮称)に期待する」という項目を盛り込んだ趣旨というのを御紹介いたしますと、知的財産戦略本部の本部員のキャノンの御手洗社長の方から、知財高裁に関しましては、意見書というのが知財本部に出されました。その意見書を簡単に御紹介をいたしますが、知財高裁の設置については、今国会で法案が通ることによって仕組みができることになるので、あとはいかに魂をつぎ込むかが大事なので、運営面においても是非注力していただけるように切望しますという趣旨の意見書が出ております。
 更に意見書では、知財に関する訴訟においては、迅速な対応と的確なジャッジが重要で、スピード及びクオリティーを確保するためにはまさに人材が鍵になる。そのために法律に精通していることは勿論だけれども、技術やビジネス感覚にたけた裁判官を是非配置するようにしていただきたいと思いますという意見書が出ておりました。こういったような意見書も踏まえ、政府部内でも調整をした結果、この推進計画2004の(1)の文言ができたわけでございます。
 ポイントは最後の4行でございまして、知的財産高等裁判所において、知的財産や技術に精通した専門人材を活用し、経済社会の実態に合った運用を行うなどの各方面の期待に応え、より一層適正・迅速な裁判を実現することが望まれるということでございます。
 (2)は「証拠収集手続を拡充する」という点でございまして、これはまさにこの検討会で議論して、出された法案が成立した場合に、これらの手続が活用されるよう周知を図るというのが1番目の項目でございます。
 2番目の項目の2行でございますけれども、これは経済産業省の方から提案があった項目でございまして、2004年度から刑事訴訟における営業秘密の保護の在り方について、憲法上の公開原則にも配慮しつつ、産業界等のニーズを調査するという点が盛り込まれております。
 (3)は紛争の合理的解決に関する項目でございまして、下にi)、ii)と2つの項目が出てございます。1つ目は、侵害訴訟と無効審判の連携をより円滑にするため、侵害訴訟との進行調整を経済産業省の方で充実させるという項目。
 2つ目は、この検討会でもとりまとめの中にあったと思いますが、侵害訴訟係属中に請求のあった無効審判、訂正審判については、早期に審理する対象とする。こういう項目が盛り込まれているわけでございます。
 以上でございます。

【知的財産高等裁判所設置法及び裁判所法等の一部を改正する法律・成立の報告】

○伊藤座長 土井参事官、どうも有り難うございました。
 それでは、続きまして、知的財産高等裁判所設置法、及び裁判所法等の一部を改正する法律につきまして、事務局より説明をお願いいたします。

○近藤参事官 それでは、御説明させていただきます。
 先ほど配布資料説明の中で、席上に配布してあるパンフレットについて触れず、失礼しました。このパンフレットは、「より身近で、速くて、頼りがいのある司法へ」という、この司法制度改革のパンフレットでして、これは今日できたてのほやほやでして、通常国会を通過したことを踏まえて、今の司法制度改革でどこまで改革が進んでいるかということを示したパンフレットでございます。
 開けてもらうと2ページ目のところに知的財産関係の総合的対応強化ということがありまして、4ページ目に知的財産関係事件の総合的な対応強化というのが既にとり行われたという形で紹介されているパンフレットでございます。司法制度改革全般の中で、知的財産についてはこういう形で進んできたということ含めて、広く宣伝するためにつくったパンフレットでございます。
 次に本国会の審議の経過の概要ついて御説明申し上げたいと思います。
 資料1と資料2を御覧ください。
 知財二法は、資料1にありますように、3月2日に閣議決定がされ、国会に提出されました。衆議院では衆議院法務委員会に付託され、3月19日と3月23日の2回にわたって質疑が行われました。この質疑の内容については後ほど御説明いたします。
 同日の衆議院法務委員会で全会一致で可決され、3月30日の衆議院本会議で同様に全会一致で可決され、参議院に送付されました。
 衆議院では司法制度改革で関連する法律を10本出していたわけですけれども、先頭を切って衆議院では審議していただいて、可決をされたということでございます。
 引き続いて参議院では、参議院法務委員会に付託されて、6月3日に質疑が行われました。6月10日の参議院法務委員会で同じく全会一致で可決され、翌11日の参議院本会議でも全会一致で可決されて、成立の運びとなりました。
 知財2法は資料2の「官報」のとおり、6月18日に公布され、来年の4月1日から施行する予定となっております。
 法案審議過程で出された主な質疑内容について御説明いたします。
 まず知的財産高等裁判所に関しては、知的財産高等裁判所の設置に至った経緯はどのようなものか。
 諸外国の知的財産に関する訴訟を専門的に取り扱う裁判所と比較して、日本の知的財産高等裁判所はどのような特徴を有するのか。
 地域経済の観点からすると、東京に知的財産高等裁判所を設けるのは、費用が余分にかかることになり、不都合ではないか。テレビ会議や電話会議では十分な対応と言えないのではないか。
 知的財産高等裁判所に支部をつくることはできるか。
 知的財産高等裁判所をつくることでコストはどれだけ増えるのか。
 司法アクセスを改善するための方策については、どのように考えているのか。法案提出に当たってはどのような検討がされたのか。
 通常の支部と知的財産高等裁判所ではどこが違うのか。東京高等裁判所の専属管轄になって、わずかしか時間が経たないにもかかわらず、新たに知的財産高等裁判所を設置する必要はどこにあるのか。等の質疑が行われました。
 次にいわゆる第1論点に関しましては、無効審判と侵害訴訟で有効性の判断が食い違う可能性か残っており、法案として不徹底ではないか。
 無効審判と侵害訴訟で有効性の判断が食い違わないようにするために、どのような手当をしているのか。
 侵害訴訟により無効主張を認めると審議が遅延することにならないかとの質疑が行われました。
 次に、いわゆる第2論点、裁判所調査官に関するものとしましては、諸外国では専門的知見の導入はどのように図られているのか。
 知的財産に関する訴訟における裁判所調査官の権限を拡大するのはなぜなのか。
 裁判所調査官が使われる割合はどのくらいか。
 現状の裁判所調査官のどのような点について不十分だと考えているのか。
 裁判所調査官が持つ認識を当事者がただす方法としては何があるのか。
 報告書を当事者に開示しないのはなぜか。
 裁判官が専門性を高める必要性がある。
 知的財産の専門の裁判官を養成していく必要があるのではないか。
 専門委員はどういう範囲の人から選ぶのか。選任の過程はどのようになるのか。
 裁判官が主導権を持つことの担保はどのように図られているのか。
 正規の法曹資格を持たない者を裁判官にするというのは無理解によるもので、乱暴な議論ではないか、等の質疑がなされました。
 次に、いわゆる第3論点に関しましては、秘密保持命令を導入するとのことであるが、現行制度の問題点と導入の必要性は何なのか。
 いわゆる、インカメラ審理において書類を開示できるとする理由は何なのか。
 侵害行為の立証の容易化と営業秘密の保護はセットで行わなければならない。この点で秘密保持命令は画期的な制度と言えるのではないか。
 営業秘密は私益であって、これを理由に裁判の公開を停止できるというのはおかしいのではないか。どういう合理性があるのか、等の質疑が行われました。
 これまでの質疑などで、かなり疑問点ということも出されたんですが、検討会の場での皆様方の意見等も踏まえて、それから諸外国に関する質問も数多くありました。外国法制研究会での研究成果等も踏まえて、適切な回答ができたのではないかと思います。
 その結果、全会一致で可決ということになって、附帯決議も全く付いていないという形になっております。
 それから、先ほどの知的財産推進計画で周知を図るということがございましたので、今までの観点で事務局の方で行っているものとしては、各雑誌、例えば『NBL』『法律のひろば』『Law&Technology』。今後予定する雑誌としては『パテント』『コピーライト』『民事法情報』『知財プリズム』『法学教室』等の雑誌等で法律の内容について説明をしていきたいと思っております。
 そのほかにも機会をとらえて適切な説明をしていきたいと思っております。
 最後に事務局の体制について御報告をいたします。
 知的財産検討会を担当していた事務局員のうち、平瀬知明は4月1日に特許庁に審査官として転出しました。6月21日には滝口尚良が特許庁が審判官として、7月1日には吉村真幸が東京地方裁判所に裁判官として、片岡智美が東京高等裁判所に裁判所書記官としてそれぞれ転出しました。
 以上でございます。

【コメント】

○伊藤座長 ただいまの事務局からの説明及び今回の法律につきまして、委員の方々、及び外国法制研究会の研究員の方々から、お一人ずつコメントを頂きたいと存じます。それでは、恐縮ですが、中山委員からお願いしてよろしいでしょうか。

○中山委員 今回の改正についての細かい点は、いろんな論文等でも報告されているところでありますし、今後も公表されますので、詳しく申し上げませんけれども、印象だけを申し上げたいと思います。
 今回、法律が通りまして非常に結構なことだと思います。
 これだけいろいろ議論をした結果、マスコミ等にも大々的に広げられまして、その結果、国民の知的財産制度に対する意識も非常に高揚しました。また、一番論ぜられました知的財産高等裁判所につきましても、このような結果になって、例えば職分管轄のような極めて面倒くさいというか、将来トラブルを起こすような問題もなくなりまして、非常に結構な改正だと考えております。
 ただ、1つだけ心配なのは、マスコミでこれだけ取り上げられたのは非常に結構な話なんですけれども、それが故に逆に上滑りになるんじゃないかという心配もあるわけです。
 例えば、今回の改正ではないのですが、ロースクールにおきましても、すべてのロースクールで知財の授業がなされているということ自体は非常に結構なことなんですけれども、裏から見ればどの程度のレベルの授業がなされているかというのは今後の課題なわけです。つまり一時の線香花火ではいけないのであり、この改正を機に、これからも長く改革と言いますか、努力を続けていただきたいと考えております。
 以上です。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。では、末吉委員お願いします。

○末吉委員 先ほど知的財産推進計画2004の御紹介も頂きましたが、我々、実務家にとっては、まさにできた法律をこれから運用、あるいはそれに協力していくのが極めて重要ではないかということです。既に4月1日から専門委員制度が導入されておりまして、私ども実務家にとっては死活問題でございまして、この専門委員制度にどう命を吹き込んでいくか。必ずしもいきなり使い勝手がいいものではございませんで、時に有利に時に不利に働いたりしておりますが、そういうものを乗り越えてできるだけ合理的な審理に資する体制に来年4月1日以降だと思うのですけれとも、今回の法律ももっていけたらと心から念じております。
 以上でございます。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。沢山委員お願いします。

○沢山委員 事務局の皆さんのお陰で立法が成って大変うれしく思っています。会社の方でもこういうマスコミ報道を受けて、どういうふうに変わるんだという勉強会を既に知的財産部とか、私の所属している法務部とかを中心に勉強会も始まっておりまして、その移行処置を説明しておるんですが、非常にダイナミックに変わって、非常に結構な変化だという受け止め方がほとんどであります。
 来年の4月からいよいよ現実に、もう一部動いているところもあるんですが、新しい制度の下でこういう知的財産の問題がスピーディーに解決されることを期待しております。
 以上です。

○伊藤座長 有り難うございました。櫻井委員お願いいたします。

○櫻井委員 私は行政法の立場で参加させていただきまして、知財の世界は、非常に産業界の力が強くて、社会の動きの中で司法制度であるとか、それからロースクールもそうなんですけれども、我々法律の世界の人間は、唯我独尊的なカルチャーもありましたので、そういう意味では産業界のパワーをうまく受け止めて上手に制度に生かしていくという1つの過程を拝見させていただいたという印象でございまして、大変得難かったかなというふうに思っております。
 ただ、産業界の方に申し上げたいのは、企業活動の桎梏になっているのは行政規制で、行政関係ですと、この推進本部の中には、知財と労働関係と行政の検討会があるわけですけれども、本来、行政事件訴訟法の改正の方は別途また検討が続くというお話なんですけれども、なかなか純粋に公益に関わる制度なものですから、余り産業界の方に関心を持っていただけないので、ダイナミズムに欠けているところがあるかなと思っておりまして、これは是非関心を持っていただいて、後ろから押していただきたいなと思いますし、また、山崎局長には、是非新しい発想で知財に見習って、思い切った制度改革の火を消さないようにしていただきたいと思います。
 以上でございます

○伊藤座長 有り難うございました。小林委員お願いいたします。

○小林委員 今回の改正はどの論点を取っても非常に議論が多かったところでございますし、当初はどうなることやらと心配しておったわけですけれども、伊藤先生を始め、知的財産訴訟検討会の各委員の方からいろんな意見を出していただき、結果として制度ユーザーのニーズに応えるようなものになったのではないかと考えております。
 特許等の産業財産権を所管する特許庁としましても、大変うれしく思っております。
 それから、知的財産訴訟検討会での結論を踏まえて、改正法案を作ったりそれから国会を通すというところまで御尽力を頂きました事務局の方にもこの場を借りてお礼を申し上げたいと思っております。
 特許庁の方ですけれども、正確には1枚紙の方でも指摘されておりますし、各委員からも御指摘のあったところでございますが、これからの運用というものも大事でございますので、例えば侵害訴訟と無効審判との関係、これは特許庁だけでできることではございませんが、裁判所の方と協力させていただきつつ、円滑に運用できるようにしていきたいと思っております。
 ただ、侵害訴訟係属中に請求された同時係属の無効審判につきましては、早期に審理する対象とするということで知財推進計画2004にも書かれておりますし、以前の検討会でもその都度そのようにお答えしてきたつもりでございますが、いろんな総合的な施策を講ずることによりまして、同時係属の無効審判につきましては、請求から9か月というものを目標にこちらとしても立てております。その目標が達成できるように、是非頑張っていきたいと思っております。
 以上でございます。

○伊藤座長 有り難うございました。

○近藤参事官 小林委員は異動されたということでしたので、前の審判企画室長から審査第一部材料分析審査長に御栄転されたということを御紹介させていただきます。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。それでは加藤委員お願いいたします。

○加藤委員 産業界からの委員として、やや無理なお願いや主張もさせていただいたかと思いますけれども、皆様方のお陰をもちまして、大変すばらしい改正法案が通りましたこと、非常に有り難く、かつうれしく思っております。
 一番大事なことは、この場で行われた議論が実質的に改正された後、現場で生かされることが一番大事なのではないかと思っています。
 私自身も知財訴訟に関わっておりますので、私自身も努力いたしますが、例えば無効主張の拡大規定や営業秘密保護の規定が正しく生かされるように、現場でそうあることが大事だと思っておりますので、引き続き皆様の御支援と言いますか、サポートを是非頂きたいなと思っております。
 この場を借りまして、厚くお礼を申し上げます、有り難うございました。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。それでは、飯村委員お願いいたします。

○飯村委員 検討委員会で検討された課題の第1論点、第2論点、第3論点、それから知財高裁の創設に関する論点すべてにわたって満足いくような意見が出され、それが法律に反映された大変有り難いと思っております。
 何よりも司法制度改革審議会の最終の意見書で盛り込まれた意見が、民事訴訟法の改正とともに、今回の特許法の改正、それから知財高裁の設置法と相まって、知財の訴訟環境が改善されて、よりよい方向に進んだということについて、それを運用する立場の人間としても大変望ましいことだと思っております。
 今後は、それぞれの論点について、今まで御意見があったように、その心を無にしないというか、その趣旨を無にしないような形で発展させて運用していきたいと思っております。
 既に法律が通って施行はまだ先でございますけれども、実務ではそれを踏まえた説明をしております。いろいろと実際に制度を動かしていくに当たっては、問題点が新たに発見されることが多いと思いますけれども、それを超えていって、できる限り迅速性と透明性と技術的専門性をすべて満たすような知財訴訟にしていきたいなと思っております。
 以上です。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。荒井委員お願いします。

○荒井委員 知財訴訟検討会で検討された結果が今、事務局からお話がありましたように全党一致で可決されたということは、大変画期的なことだと思いますし、ここで真剣な議論がなされたことが各方面、立法府を含めて、高く理解され、評価していただいたことだと思っております。
 企業のいろいろな知的財産の訴訟が現に行われておりますが、今後ともこういうことは続くと思いますし、それは会社にとっても大事なことですが、同時に日本の経済や社会にとっても非常に大事なことになっていく時代が来ているということが背景にあると思います。
 知財高裁が創設されるようになったということは、これは大変画期的なことだと思います。裁判所の調査官の権限が強化されたり、今年の4月から専門委員が既に任命されているわけですが、是非、知財高裁に裁判所調査官、専門委員、こういうものも併せまして、人事や予算の面でも立派な裁判所になっていくことを期待したいと思います。
 それから、営業秘密の保護強化のための裁判の公開停止手続や、侵害訴訟と無効審判に関する紛争の実効的解決についても是非新しい制度が完成されて、知財の特性に応じた適切な訴訟運営によって充実した審理がなされることを期待したいと思います。
 以上、いろいろ申し上げましたが、伊藤座長始め、委員の皆さん、それから山崎事務局長、近藤参事官を始め事務局の皆さんに、心からお礼を申し上げたいと思います。有り難うございました。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。阿部委員、お願いします。

○阿部委員 この検討会の場で、きちっとした議論が真剣に、時間をかけてなされて、その結果として非常に合理的な制度ができたんじゃないかと思います。
 平成7年くらいから特許関係の法律がたくさん変わって会社の中ではこれを説明するのにあたふたしているわけでございますけれども、今回の改正についても、この2か月間をかけて10か所の工場と研究所、それから大きな営業所を全部回って、説明終わったところでございます。
 非常に重要なんだけれども、現場からみると、何でこんなことをやっているんだろうかというような改正もあったようでございまして、とんちんかんな質問なども飛び出したわけですけれども、我々としては一番大きいのは、証拠収集の手続の拡充のところだと感じました。特に工場では、操業データとか運転マニュアルとか、それぞれの思うような形で持っているわけですけれども、裁判にそういう証拠が出るかもしれないという意識でやっているところは非常に少のうございまして、今回からはそういうふうに隠し立てはできないと。生産システムなんかについても、出せと言われたら出さざるを得ないんだよという話になったときに、みんな目の色が変わるという感じでございました。
 いずれにしろ、この制度がうまく運用されるといいなと思います。裁判所の訴訟指揮もきちっとやっていただきたいし、特許庁の行政手続についても、力を入れて、わかりやすい指導をしていただきたいと思います。
 以上です。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。それでは、杉山研究員お願いします。

○杉山研究員 私は外国法制研究会の一員として、外国の制度のうち専門家の専門的知見を利用する方法と、もう一つは証拠収集制度の拡大及び営業秘密の保護の在り方という点について調べる機会を与えていただきましたので、それらに関する改正について感じたことを述べたいと思います。
 専門家の専門知識を利用するという点でありますが、今回の改正で従来権限等が曖昧であった裁判所調査官の権限が明確化されるとともに拡大されたということで、良いことだと思いますが、他方で従来から問題視されていた手続の透明性というのが、本当にこの改正で図られたのかということが少し疑問であります。当事者の忌避権という形で、当事者の権利が保護されているので十分であるという趣旨だと思いますが、やはり民事訴訟法を勉強する立場から見ると、それで十分であるのかというのは疑問でありますし、当事者から見えないところで裁判官と調査官が会談する場合に、忌避権があるといっても、具体的にどのような形で、忌避権の機会を保障していったらいいのかなどについては解釈論とか、あるいは運用によって対処していかなければならないという気がいたしております。
 また、調査官と専門委員の役割が重なってくる場合に、専門委員に課されている厳しい要件を調査官にも何らかの形で課していく方がいいかとか、その辺についてもやはり解釈の形で考えていかなければならないとは思っております。
 証拠収集制度の拡大と営業秘密の保護については、若干の感想ですが、これらが問題となるのは、必ずしも知的財産に関する訴訟のみではありませんで、従来から、例えば秘密保持命令の可否やインカメラ手続における当事者に対する手続保障などは、そのほか一般の民事訴訟においても問題となっておりましたので、これらについても、今後の課題として考えていきたいと思っております。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。それでは茶園研究員どうぞ。

○茶園研究員 私も外国法制研究会の一員として、イギリスの裁判制度の研究をさせていただきまして、今回の制度改正にわずかでもお役に立てることができたことに対しまして、大変うれしく思っております。私自身、裁判制度について、これまで余り研究しておりませんでしたので、研究の機会を与えていただいたことに感謝いたします。
 今回の研究を通じて感じたことですが、知的財産に関しましては、権利取得では日本だけのことではなく、外国でどうするか、国際的にどうするかということを考えます。おそらく、裁判につきましても、日本でするのか、外国でするかが一層考えられるようになって、各国の裁判所の競争状態が強まるのではないかと思います。だからと言って、もちろん、日本の裁判制度を外国と同じにすべきということではないのですが、裁判の空洞化の問題もありますので、今後はこれまで以上に、外国でどのようなことが行われているかということを検討しつつ、日本の制度を考えていく必要があると思った次第です。

○伊藤座長 有り難うございました。それでは、大渕研究員お願いいたします。

○大渕研究員 私も外国法制研究会のメンバーとして、外国法制の調査研究を担当させていただきました。この分野につきましては、断片的には今まで若干調査研究等をしたことがありましたが、このようなまとまった形で、特に今回は知的財産法の研究者だけではなくて、民事訴訟法の研究者の参加も得て、総合的な形で調査研究を行えたことは大変よい勉強をさせていただいたと思っております。
 このような調査研究にあたって私の感じたところは、別冊NBLNo.89 の序文に書いておりますので、ここで繰り返すことはいたしません。ただ、ここで一点だけ申し上げますと、知的財産訴訟における比較法研究というのは非常に重要なのですが、実際にやってみますと、やはり非常に大変な作業だと、一言で言うとそういうことに尽きるかと思います。各国ごとに検討の大前提となります一般の司法制度自体ないしは憲法制度自体が非常に多岐にわたっておりまして、その大きな制度の中での一部として、知的財産訴訟というものが運営されておりますので、その全体にまでさかのぼって、かつ、その中で知的財産訴訟を位置づけて、正確に把握していくというのは、困難で骨の折れる作業です。ただ、そのような大変で地道な作業も、報告書として結実し、かつ、知的財産訴訟検討会の検討においても、この成果を十分に活用していただきまして、その結果、先ほど御紹介のあった知的財産高等裁判所設置法、裁判所法等の一部を改正する法律という形で結実いたしました。そして、その結果というのが、いろいろ意見はあるところかもしれませんが、座りのよい、落ち着きどころのよいものとしてまとまったことは、基礎的作業を担当しました者としては、大変喜ばしいことだと思っております。
 このように法律ができますと、次は当然のことながら、できあがった法律の解釈運用ということで、それが次の非常に重要なステップとなっていくわけでありまして、この点を知的財産法に関係するものの一人として、注目していきたいと思います。
 制度というものにとっては、これを支える人材が非常に重要になってくるのですが、御案内のとおり、今年の4月から、司法制度改革の一環として法科大学院が開校しております。既修組・未修組を合わせて、本学のロースクールには約300 名入学してきていますが、いろいろな機会に新入生の方とお話しする機会も多く、そこで将来どんな法律家になりたいかという話になりますと、ほかの分野の仕事をしたいという方ももちろん相当数おられますが、未修組の理系出身者を含めて、非常に多くの人が将来知的財産関係の仕事に就くことを希望しています。このように知的財産制度ないし知的財産訴訟制度を将来担う人材の裾野が広がっており、大変に喜ばしいことだと思います。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。それでは、菱田研究員お願いします。

○菱田研究員 私は外国法制研究会におきまして、アメリカとイギリスの訴訟制度について研究させていただきました。不十分ではございましたけれども、それが少しでもお役に立てたら大変な喜びでございます。
 でき上がった法案を拝見させていただきますと、アメリカやイギリスの制度と似ているところもあれば、似ていないところも多々ございまして、我が国の現状において、きちんと機能するような制度をつくるという観点から慎重な検討がなされたのではないかと推察させていただいております。そのとおりにきちんと機能していくことを現在では期待しております。
 細かいことになりますけれどけも、その後の運用についてなんですけれども、私も民事訴訟法の研究者でございますから、裁判所調査官の関与の仕方の透明性については若干気になるところでございます。
 それにつきましては、事案も千差万別ですし、関与の仕方も千差万別なので、こういう法案できちんとした条文にするというのが適切ではございませんとは思いますけれども、今後の運用の中で透明性を高めるようなガイドライン等ができていくことを期待しております。
 以上でございます。

○伊藤座長 有り難うございました。平嶋研究員お願いします。

○平嶋研究員 私の方も外国法制研究会で主として第1論点、第3論点で、特にアメリカについて研究させていただきました。それでアメリカが知財法制、それから合理的解決を含めて、こういった一連の議論の1つの例というか、議論の発端のようなところがあるかと思うのですが、取り分けアメリカ法の関心が高いということもあって、私の方もいろいろこれまで余り触れてこなかったので、大変参考になりました。
 また、報告に際しても、これを基に法案を出していただいたということであれば、大変喜ばしく思います。でき上がった法案について拝見させていただきまして、知財高裁の設置法も、当初いろんな議論があったようでして、かなり法制度全体との連続性というと、かなりラジカルな部分が批判されていたということもあったようですが、非常にその結果として連携のとれた形で、非常にバランスよく、根本的に合ったニーズのようなものはある程度くみ取られてつくられているのかというように思っていまして、アメリカにおいても、CFCの議論が非常に出ておりましたが、最近また奇しくもアメリカでもいいろ議論が出ている。設置後20年を経た中で評価という議論を一部の学者がしているようですけれども、これもかなり肯定的な議論が、主たる研究者なども論文を書いているようなんです。それでやはり特許についてはある程度解釈論の明確性とかいうことに寄与しているということはある程度否めないだろうという評価が出ているということでありますので、是非この日本の知財高裁も、10年後、20年後そういった形で日本の現行制度の特徴を生かした形で、是非そういった形で評価が20年後、肯定的な形で出てくるよう期待しているということです。
 それから、合理的解決の方も、特許法の一部の改正という形で改正がされているという形でありますが、これもある意味では現状のいろんな議論をまとめたところで条文をある程度大枠としてつくられたいのかという気がしますが、これはどう解釈していくかというのは、むしろ私ども知財の研究者が解釈論としてまたやらなければいけないことだと思っておりますので、また、これを機にいろんな研究をさせていただきたいと思います。
 大変貴重な機会を与えていただきまして、有り難うございました。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。最後に私からも一言申し上げさせていただきたいと思います。
 私は本分は民事手続法の研究と教育でございますけれども、今回の制度改革は民事手続法一般にとりましても、大変大きな意義があるのではないかと思っている次第であります。
 1例を申し上げますと、秘密保持命令という制度ですが、20年前は勿論、10年前、極端に言うと5年前でもこういうことを、勿論、学者の議論としてはございましたけれども、それが現実の制度として日本で実現するということを予想した人は非常に少なかったのではないかと思うわけであります。
 新しい制度や手続をつくるというのは、我が国では大変乗り越えなければいけない多くの問題があるということにつきましては、これは山崎事務局長を始め、事務局の皆さんが特に御苦労された点であると思いますが、それが可能になったというのは、結局のところ知的財産保護というのは立場を超えて社会の共通認識となっているということがまず前提でございますし、今般のこの検討会に関して言えば、委員各位の御尽力、そして外国法制研究会研究員の皆様方の御協力、こういったものの上に立って、最後に事務局の様々な努力ということで新しい制度が実現できたのではないかと考えております。
 民事手続法の研究者といたしましては、新しい制度が合理的な形で運用されていくために、理論家としての視点から様々な提言をしていくための研究をしてまいりたいと考えておる次第でございます。
 議事進行につたない面があったかと思いますが、こういう形で成果がまとめられたことにつきまして、心よりお礼を申し上げる次第でございます。有り難うございました。
 それでは、事務局より連絡事項があるようですので、お願いいたします。

○近藤参事官 知的財産訴訟検討会は今回をもって終了とさせていただきたいと思います。 ここで事務局を代表いたしまして、山崎事務局長よりごあいさつをさせていただきます。

○山崎事務局長 一昨年の10月ごろですか、第1回の会合をもちまして、それからもう17回ということで、本当に回数を重ねてまいりました。この間、本当に皆様方には熱心な御討議を頂きまして、座長、委員の方々に厚く御礼を申し上げたいと思います。
 また、外国法制研究会の皆様方につきましても、短期間に、本当に成果を出していただきまして、私もその成果を随分いろんなところで使わせていただいたということで感謝を申し上げております。
 先ほど大渕座長の方からも御指摘がございましたけれども、なかなか裁判制度の基が違っているものですから、これをどう意識しなから相手に説明していくかというところが非常に難しかったと思っております。そこが研究される方々も大変難しかったと私も理解しております。
 今回の改正につきましては、司法制度改革全体がユーザーの使い勝手のいい司法はどうあるべきかということがテーマでございまして、それは全体はそうなんですけれども、この知財の関係は特にユーザーの方の要請が強かったという分野だろうと思います。パーフェクトにお答えできたかどうか自信がございませんけれども、一応の結論は出たのではないかと思っているところでございます。
 確かにいま、伊藤座長からお話がございましたけれども、5年前で秘密保持命令の議論をしても、まず難しかったのかということでございまして、やはり司法制度改革全体の改革の中で、これだけ社会的要請が強いんだと。そういう背景、これがあったからこそ、これが実現したと思っております
 こういうチャンスにきちっとしたことをやらないと、波に遅れますと、なかなか改正もできないということで、今回のことはそういううまいタイミングに乗れたということでラッキーであったと思っております。
 いずれにしましても、皆様方からの御要請、ボールを受け取りまして、今度はボールを投げ返しますので、今後は本当によき運用、よき慣行を早めにつくっていただきたいと思っております。
 また、最先端を行く対象でございますから、いろいろやっているうちに、またいろんな問題が出てくるかもしれません。今までは司法全体が改革について非常に消極的というか、何か時代が変わってもそうすぐには改正をするというようなシステムになっておりませんでしたけれども、今回、全面的に、あらゆるところについて改正を加えたわけでございますけれども、今後はことあるごとにきちっと見直していくという態度が必要なんだろうと思います。
 また、そういう時がくれば、きちっとそれぞれ司法で対応していく。こういうことをしていかざる得ないと思っております。
 これを超える問題、最終的には司法の問題になるかもしれませんが、それとは若干違うところでも、この知的財産の問題は様々な問題として、これから改革を加えていくということが必要だろうと思います。
 その点につきましては、荒井委員の方にお任せをいたしますので、是非よろしくお願いをしたいと思っております。
 最後になりますけれども、本当に皆様方にはいろんな御労苦をおかけしまして、本当に有り難うございました。大変御苦労様でございました。

【閉会】

○伊藤座長 それでは、これをもちまして、第17回「知的財産訴訟検討会」を閉会させていただきます。
 委員の皆様、また、外国法制研究会の研究員の皆様には、これまで長期にわたりまして御検討いただき、また、数多くの貴重な御意見を出していただきました。心よりお礼申し上げます。どうも有り難うございました。