丸島氏、作田氏、秋元氏から、知的財産訴訟の現状、課題について説明がなされた(資料1、資料2、資料3)。これに対して、次のような質疑がなされた(▲:丸島氏、△:作田氏、▽:秋元氏、○:委員、●事務局)。
○特許訴訟における法律家の裁判官の意義をどう考えるべきか。
▲特許訴訟では、技術的な要素が大きく、理想的には、法律の知識と理系の知識の双方を有する裁判官が判断することが好ましいが、そうでなければ、それぞれの知識を有する複数の人間で機能を果たせるようにすべき。
△特許訴訟では法律的判断と技術的判断の双方が必要。私人間の紛争解決である以上最終的には法律的な判断になるが、特許訴訟では技術的な要素が入らないといい判断ができない。
▽知財訴訟では、まず権利の有効性を判断した上で権利侵害の有無が問題となり、権利が有効で侵害の事実があれば、どういう法律を適用してどういう判決を出すかという話になる。技術と法律の知識を備えたオールマイティの人がいないなら、特許の有効性・権利侵害は、調査官や専門家が判断し、法律の適用の部分は裁判官が判断するようにしてはどうか。
○バイオは特別という話があったが、最先端の技術の場合、本人以外はよく理解できないということになると、専門家でも理解できないことになり、結局はコモンセンスの体現者たる法律裁判官が判断すべきことになりはしないか。
▽米国では複数のエキスパート・オピニオンを得て、よりどちらが正しいかは裁判官が判断する。問題は、調査官一人の意見だけで判断すると、マイナーな論理に入っていってしまうが、裁判官はそれが分からない。
○訴訟において営業秘密を含む証拠には、代理人だけでなく当事者の一人もアクセスできるようにすることが必要ということだが、相手方の営業秘密にアクセスして判断できる人となるとある程度高レベルな担当者である必要がある。この場合、その人には相当の圧力がかかるとか、仕事に差し支えるとかの問題はないか。
▽米国で訴訟をすると、企業内の人間も営業秘密にアクセスするが、あまり問題はないと認識している。
▲見通しを立てるには、真実を知ることが必要。担当者一人では理解できないケースは、弁護士も理解できないが、米国では証人尋問等によって明らかにできるプロセスがある。ただし、営業秘密を見ることで自分の仕事が拘束されるから、できるだけ必要のないものは見ないということが大事。
△技術情報はなるべく相手方当事者にはわからないようにすべきである。それを補うのが証人尋問等である。
○専門家は裁判官として参加するのか、裁判官の補助者として参加するのか。
△裁判官は法律専門家であるべきだが、将来的には技術もわかる人が裁判官となるべき。それができない段階では、技術的にサポートする人が必要。大事なところは、事実認定である。
▲理想は法律と技術の両方がわかる人が裁判官になることだが、現実には難しいから、妥協案として、合議への事実上の参加も含め、今の調査官の関与のレベルを上げることが必要。
▽事実認定や合議には専門家が参加し、判決にそれを明示することが必要。裁判官は、判決で専門家の見解を明らかにし、もしそれを採用しないのであれば、その理由をかけばいい。
○特許裁判所はどうか。
▲△方向性としては賛成。今日出した意見は、実現可能な妥協案である。
○ディスカバリーはどうか。
▲米国のディスカバリーは対象となる範囲が広すぎる。侵害行為の特定のために必要なものに限定する必要がある。
▽米国でのディスカバリーでは、トラック2台分の証拠ということもよくある。それはやりすぎだが、それでも米国での訴訟は速い。日本では侵害特定に必要な証拠に限定すれば、より効率よく速くできるのではないか。
○特許の有効・無効は裁判所で判断すべきということだが、どうして無効審判でなくて裁判所なのか。
△紛争の一回的解決の観点からは、侵害訴訟で特許の有効性も判断できるようにすべき。特許の有効性も、特許の侵害もいずれもクレーム解釈の話であり、異なる土俵で議論すべきではない。
○無効審判では限定して、侵害訴訟では拡大して特許の範囲を主張することがおかしいと言うことが根底にあるのか。
▲争いごとは一カ所でやるべき。侵害訴訟は裁判所でしかできないのだから、ここで特許の有効性も判断すべきである。
○将来的には無効審判はいらないということか。
▲予防的な手段として、簡易で便利な無効審判は必要である。
▽無効審判と訂正は特許庁でやるべき。
△禁反言や均等論は米国から来た考え方であり、侵害裁判所においても日本独自の法理論を築き上げていくことも必要である。
○裁判の予見可能性の向上が必要との指摘があるが、裁判は裁判官の個人的判断に委ねられるものであり、本質的に予見可能性を確保することは難しいことである。解釈の分かれることを一つのリスクとして捉えて対応すべきではないか。
▲各事件ごとに事実も異なり、同じ裁判はありえないが、どういう法律判断が下されるのかが予見できないと、企業活動にとって大きなリスクである。方向性がわかるように判断を積み重ねていって欲しい。
▽米国ではCAFCもあり、予測可能性が高い。
○キルビー判決の「明白性」の要件は不明確であるとのことだが、事案ごとに適切な判断ができるという意味では、「明白性」の要件は必要ではないか。
△今の判断基準では不明確。
▲明白の場合には無効だという御都合主義をやめて欲しいという趣旨である。明白に無効と言えない場合に備えて、特許庁に無効審判を提起しなくてはならない。「明白性」の要件の明確化を求めているのではなく、裁判所で特許の有効性の判断をやって欲しい。
●キルビー判決以前のように、特許の有効性の判断を特許庁の無効審判でのみ行うこととすると、それはそれで分かりやすいが、問題か。
▲同じところで攻撃防御できるようにすることが大事。侵害訴訟と無効審判でクレーム解釈に関する主張が一致しないことも問題。
●秘密漏洩に対する実効性のある罰則はどのようなものか。
▲訴訟以外の目的で使用しないということが基本。ペナルティの内容は、抑止力のあるようなものが望ましい。米国で弁護士が違反すると資格剥奪となるから、営業秘密の漏洩に対してはとても慎重。企業人に対しては刑事罰が必要か。
荒井委員より配付資料に基づいて説明があった後、各委員からは次のような意見が出された。
○知財制度の改革においても、他の法制との平仄は大事。いかに理念が立派でも、大きな法体系に影響を与えるようなものは難しい。知財の特殊性を論証しながら、具体的な改正を実現していくことが必要。なお、東京・大阪地裁への管轄の集中は理解できるが、東京高裁の専属管轄化は判例の統一には役立たない。
○より専門化した法曹、特に技術に強い法律家をどう育成していくのかということも大事。この人材育成の視点は、大綱にも則っている。
○事務局案の1−3のうち、1と2は特に企業人にとって痛切な問題である。どう変えたらよいかというアウトプットを目標にして、1−3の論点を集中してやるべき。
○知財訴訟では、まだ裁判所に対する期待が大きい。社会のニーズに対する感受性を持たないと見捨てられる。三つの論点を核にして、緻密な議論をしていくべき。実質的な知財裁判所の機能創出の観点から、技術判事が可能かどうかも射程にいれるべき。
○マンデートとして与えられている三項目に加え、ITCや専属管轄、さらには荒井委員の提言についても、時間的・労力的制限も踏まえつつ、ニーズがあるのであれば検討してはどうか。ただし、最終的には成果を得る必要があり、濃淡をつけつつ行うことが大事。知財の特殊性はこれまであまり検討されていないので、それを踏まえた検討が必要。侵害訴訟と無効審判の重複の問題については、この二つが同時に生じているケースについて検討すべき。
○機関の充実の観点からは、東京高裁の専属化の方向性や水際措置の充実化も議論すべき。また、マンデートの三項目の検討に際して、憲法をタブー視しない大胆な視点も必要。
○基本的な法体系との整合性は大切。改革審意見書・知財戦略大綱を踏まえると、事務局のあげた3つの論点は優先的課題と認識。現在、法制審では控訴審の管轄の問題も含めて議論を行い、来年の通常国会に法案提出予定。
○3つの論点を中心に議論すべき。これらはいずれも難しい問題であり、スケジュールがタイトであること、成果を出す必要があることを踏まえると、これらに絞り込んで議論を進めていくことが必要。改正によって使い勝手の悪い制度となると問題なので、十分比較評価をした上で制度設計すべき。
○他の機関の検討も踏まえつつ、検討項目を決めていく必要がある。ただし、証拠収集手続と営業秘密の関係についても、憲法問題だけでなく、証言拒絶事由や文書提出義務の範囲をどうするのかという根本問題であり、また、営業秘密を漏洩した際の罰則も、刑事的なものとするのか、法廷侮辱的なものとするのか、いろいろと難しい問題を含んでいる。3つの論点に限っても根の深いものばかりである。
○日本における法的整合性も大事だが、国際的に技術競争をしている状況では、国際的な視点も大事。