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知的財産訴訟検討会(第4回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年1月31日(金)13:30〜17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬厚、加藤恒、小林昭寛、櫻井敬子、末吉亙、中山信弘(敬称略)
(事務局) 古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、滝口尚良参事官補佐

4 議題
(1)侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する検討
(2)その他

5 配布資料
資料1: 侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する現状と課題
資料2: 参照条文
資料3: 判例タイムズNo.1032(2000.8.15)120頁〜144頁
      最高裁平成10年(オ)第364号 同12年4月11日第三小法廷判決
資料4: 高部眞規子「判解」最高裁判所判例解説民事編平成12年 231頁〜277頁
      最高裁平成10年(オ)第364号 同12年4月11日第三小法廷判決
飯村委員提出資料①「侵害訴訟における無効の判断の実情について」
②「グローバル・ネットワーク時代における特許侵害訴訟 −我が国における侵害訴訟における特許無効の抗弁を中心として」
櫻井委員提出資料 「いわゆる公定力について(補足とコメント)」
日本弁理士会村木清司氏提出資料 「日本弁理士会提言についての補足説明」

6 議事
(1) 侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する検討
① 現状説明
・事務局より資料1の1頁から15頁に基づいて、現行の特許紛争処理制度、侵害訴訟と無効審判の関係に関する問題点の指摘等、提案される方策とその長所・短所(検討の方向性)について説明がなされた。
・飯村委員より、飯村委員提出資料①「侵害訴訟における無効の判断の実情について」に基づいて特許裁判の実情に関する説明がなされた。
・櫻井委員より、櫻井委員提出資料「いわゆる公定力について(補足とコメント)」に基づいて公定力について説明がなされた。

② 各論点についての具体的協議

A 侵害訴訟と無効審判の役割分担のあり方についての検討
 事務局より資料1の16頁から19頁に基づいて検討案とそれぞれの長所、短所が説明がされた後、櫻井委員より櫻井委員提出資料「いわゆる公定力について(補足とコメント)」に基づいて特許付与行為の公定力と侵害訴訟における無効主張排除の問題について、また日本弁理士会村木氏より提出資料「日本弁理士会提言についての補足説明」に基づいて前回のヒアリングに対する補足について、説明がされた。その後各委員から次のような質疑、意見が出された。

 (○:委員、●:事務局)

○C案で挙げている韓国の優先職権審理制度は魅力的だと思うが、これはA案の無効審判を廃止した場合のバリエーションとしても考えているのか。

●資料1のC案においては、現在の無効審判制度を前提として侵害訴訟と無効審判が並走した場合に進行調整において無効審判の審理を早くするために利用する手段として紹介しているが、抜本的に改正することを前提としてA案の無効審判を廃止した場合の代替手段としても考えられなくはないと思う。

○現在、特許庁において侵害訴訟が係属している特許の無効審判について特に急いで審理をしているが、これをさらに迅速にするためには当事者に与えられている答弁期間を短くする必要も生じてくる。むしろ、現在、無効審判が侵害訴訟の末期に請求されることが多いという請求時期の問題の方が大きい。侵害訴訟と無効審判を時期的にリンクさせる工夫が必要である。

○そもそもこの議論は侵害訴訟と無効審判の並走状態がありキャッチボール現象が生じることが問題とされていた。紛争の一回的解決のためには体制整備を前提として無効審判を廃止し特許査定取消訴訟のような制度を設けるべき。

○特許査定取消訴訟とはどういうものか。この場合特許の特殊性が考えられないので一般の行政訴訟と同じ制度と思って良いか。

●一般の行政訴訟と同じ制度も含めて御検討いただければと思っている。

●資料1の11頁において、問題点として迅速性、判断の相違、当事者の対応負担の増加問題を挙げているが一番重要なニーズは何か。

○3つとも重要でありプライオリティをどこにおくべきか判断が難しいが、特に迅速性が重要と考える。

○富士通半導体最高裁判決が出た後は裁判所で無効についても判断できるので、キャッチボールは少なくなっているはずであり、問題は解消されているのではないか。

○明白性の問題が残っているためキャッチボールはまだある。

○職権主義審理の特許庁と当事者主義審理の裁判所の判断が違うということは国家全体の制度としてまずいということになるのか。

○2つの国家機関の判断は同じである方が好ましいということである。

○侵害訴訟と同時に係属している無効審判の件数は少ない。件数の少ない侵害系の無効審判のために無効審判制度を廃止すると、数多くの独立系の無効審判が影響を受けてしまう。一般に行政審判は簡便で利用しやすい。従ってB案ないしC案が良い。

○産業界の意見としては、独立系の無効審判に馴染んでいるのでA案の無効審判の廃止は困る。B案については新無効審判制度が何人も請求可能であるためダミー請求の可能性があり根本解決はできない。また明白性の要件については、もう少し工夫 をして明らかにして欲しい。

○日本知的財産協会でも無効審判がなくなるのは不安だという意見が多い。B案とC案で意見が分かれている。無効審判の請求を2年か3年に制限するというような考えもある。
 以上の協議の結果、今後も継続して議論することが委員の間で了承された。

B 侵害訴訟における特許の有効性に関する主張・判断のあり方についての具体的検討
 事務局より資料1の20頁から24頁に基づいて検討案とそれぞれの長所、短所が説明された後、各委員から次のような意見が出された。

B−1 「明白性」要件の要否の検討

○「明白」という言葉は明らかでない。紛争のときにはもめ事の元になるのでA案が良い。

○一回的解決の観点から明白性の要件ははずして欲しいのでA案が良い。裁判所に質問だが、実務において「明白性」をどの程度気にして判断しているのか。

○裁判所の得意、不得意によって分かれるところがある。当初は、冒認や新規性については判断しやすいので明白性は関係なく判断できるが、進歩性については判断しづらいだろうと考えていた。実際には無効の判断を広くやっており明らか性が問題となる範囲は狭くなっている。もっとも無効主張が出された場合でも訂正すればクリアしてしまうケースのように、無効の主張を認めると安定した解決にならないような場合には明らかでないと判断している。

○明白性の要件はあった方が良い。また資料1の16頁にD案として現行制度を維持するという案も入れて欲しい。

○明白性の要件を外すと審判に関わっている人を裁判所に移す必要が出てくる。迅速化というが訴訟手続を中止して特許庁で審判をやることとどれ程違うのか。現行の審判を合理化すれば十分に早くなるのではないか。

○無効理由が20も30も出た場合に侵害訴訟では権利者の負担が増大するというが、無効審判でも同じことである。侵害裁判所が無効理由が明らかとは言えないと判断した場合に上級審など法的な救済手段があることはわかるが、実際にはこの現行制度が問題だと指摘されているので、これをどうするかを検討することが重要である。無効審判の運用の改善も検討しているが、特許庁だけではどうしようもない部分もあり、訴訟とのリンクが重要であると考えている。

○日本弁護士連合会では全ての説が出ているところであり意見はまとまっていない。ただし代理人の立場では、明白性の要件がもう少し明確にならないかと考えている。

○明白性が非常に微妙な基準であることはよく分かっているが、もう少しクリアになると、ユーザとしてはそれに従った道の分け方に整理して訴訟に取り組める。

○明白性の要件が分かりにくいということは重要な問題だと思う。持ち帰って審理、判断に反映させたいと思う。今言えることは、無効理由は抗弁として出されるので非充足の場合は無効を判断しないこともあり、また当事者の作戦等の問題もあり、個々の事件ごとに訴訟の状況を見ながら明白性の要件を決めているところもあるので、無効理由の明白性の内容を判決で示すことは難しいということである。
 また権利者側は仮処分を申請し本訴も提起する等一日も早い救済を求めている場合に、被告が苦し紛れに無効理由を20も30も挙げて撹乱しようとすることもある。このような場合、権利者側は全てに反論しなければならず権利者に酷に思われるようなケースがある。

●無効審判と侵害訴訟は職権主義と当事者主義の違いがあるので当事者の反論の仕方が若干異なると思うがどうか。

○確かに理論上は違うが、20も30も無効理由が出された場合、権利者は心配だからいずれにしても一通りの反論はすることになるので負担は同じ様なものになる。

●明白性を外すと侵害訴訟が長期化するとも言われているが、トータルとして長期化しなければそれで良いという意見か。

○これまでの産業界のヒアリングにもあるように我々の方としてはそう考えている。
 以上の協議の結果、今後も継続して議論することが委員の間で了承された。

B−2 仮に「明白性」要件を撤廃した場合に、侵害訴訟において特許無効等の主張・判断を認めるための法律構成の各案についての検討

○22頁⑤「類推的に適用」と書いてあるが「直接適用」ではないか。

●争点訴訟はあまり利用されていない制度であり、現時点では手続がどのような仕組みになるかわからないので類推的としている。

○21頁④aの「特殊性に着目して」とあるが何が特殊か。

○特許権は、衣は行政法でも実体は民と民の争いである。このような完全な私権の設定を行政庁が行うところが特殊である。

○物権というなら分かるがなぜ完全な私権と言えるのか。

○実体としてそうだからである。また譲渡、相続、担保、差し押さえの対象となるの私権であり、特許権もこれに当たる。

●ここで示した法律構成の各案は、明白性の要否が決まることが前提になる問題であるが、法律構成の考え方を示していただければ、明白性の要否も検討しやすくなるのでこれについても議論いただきたい。

○A案は、無効と判断された場合は権利行使ができないことを実体法として設けるということか。

●A案では法律を設けることも御議論いただければと考えている。

○B案は立法にならないのではないか。権利濫用の要件を法律に書き込むということか。

●それ以外にも例えば特段の事情を書き込む等のように、柔軟に御検討いただければと考えている。

○B案は最高裁判例との関係をどう考えるのか。判例では明らかであるから権利濫用を認めるという構成であるのに、明白性がいらないというのは当時と事情が変わったという前提か。

●最高裁判例の権利濫用の要件等の現状を一歩進めるという考え方である。

●この案がキルビー判決と同じかどうかということになると、24頁において明白性の要件を維持した場合に権利濫用を認めるという法律構成案をB案として紹介しており、これがキルビー判決と同じである。法律にするのはおかしいとの指摘になるのかもしれないが議論のたたき台として挙げている。

○法律的なテクニックは別にして、A案とB案の違いがよくわからない。どういう効果の違いがあるのか。またこれまでは一部無効の場合等は明らかな無効理由がないとして処理することもできたが、明白性を外すとどうなるか十分に議論できていない。明白性要件を外すと他の理屈にはね返る要素があるので十分に検討して欲しい。

○無効の抗弁は公定力の理論上難しいのか。

○現在は公定力の理論は中身がないので、法律を変えれば良い話である。特許無効の抗弁ができると規定すればその限りにおいて公定力が減縮する。政策的な決断をすれば良い。

○A案の特許無効の抗弁も抗弁としてはB案と実質は同じようなものである。どのようなときに無効の抗弁を認めるべきかを別途検討する必要がある。
 以上の協議の結果、今後も継続して議論することが委員の間で了承された。

C 侵害訴訟における特許無効の主張に対する権利者の防御手段についての検討
 事務局より資料1の25頁から26頁に基づいて検討案とそれぞれの長所、短所が説明された後、各委員から次のような意見が出された。

○B案が良い。A案のように訂正を侵害裁判所で行うことは理論上極めて難しいと思う。ただし迅速化のため優先審理等を特許庁で利用して欲しい。

○裁判所で訂正のような細かい議論はやりにくい。B案でなければ難しいと思うが、 さらに一工夫必要である。

○侵害裁判所で訂正をするA案は至難のわざである。B案を前提として現状の問題を解消するように工夫すれば良い。

○訂正審判は特許権者と特許庁の間だけの手続であるので審理を早くしやすい。ただし現行法では無効審判係属中は訂正審判をできないことや、訂正審判は審判官が認容審決を出せば確定するが、無効審判における訂正は無効審決が最終的に確定しないと訂正内容も確定しないように、効果の発生時期が異なることを考慮して十分に検討する必要がある。

○訂正審判において、訴訟の原告に訂正を認めた場合、被告は訂正に対する反論の機会はないから、訂正に対する被告の再抗弁の機会を認めることも検討して欲しい。

○権利者側の武器と非権利者側の武器がバランスしていることが必要である。

○急いで結論を出す必要はなくA案、B案の両方を見ながら検討していくべき。
 以上の協議の結果、B案をとることを前提としてA案支持者の指摘する問題を解消するような工夫を検討していくことが委員の間で了承された。

D 侵害訴訟における無効判断の効力について
 事務局より資料1の26頁に基づいて検討案とそれぞれの長所、短所が説明された後、各委員から次のような意見が出された。

○対世効がどうしても必要であるなら特許庁を呼んで判断させるような手段もあるかもしれないが、そこまでする必要はないと思う。

○相対効であっても実質的な対世効が確保できれば良い。

○同意見であり実質的な対世効が確保できれば良い。特許原簿への記録はできるのか。

○公示機能が必要ということなら特許原簿への記録以外の方法もあり得る。

○判決の理由中の判断にどこまで効力を及ぼすのか十分に考える必要がある。

○米国では一つの侵害訴訟で無効と判断された後も次々に訴訟を起こす者がいるためエストッペルとして抑止しているようであるが、日本において無効と判断されながら次々と訴訟を起こすようなケースがあるのか。

○そのような事もあるが、同じ証拠資料が出されればすぐに結論を出している。

○実質的な対世効の確保について、判決が出た場合は良いが、和解の場合はどうする のか。

○世界中の訴訟において和解内容が公開されることは無いし、国家機関が和解の内容を公開するようなことはすべきではない。

●和解の場合は裁判所が認定するというような基礎がないので同列には議論できないのではないか。
 以上の協議の結果、相対効を前提として事実上の効力を及ぼす工夫が必要であることが委員の間で了承された。

(2) その他
 事務局より、1月28日の第2回知的財産訴訟外国法制研究会において、諸外国における知的財産訴訟において専門家を訴訟手続に参加させる制度等について、調査発表、意見交換がなされたことが報告された。

次回検討会(2月28日(金)13:30〜17:00)では、専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度に関する検討を行う予定。