- (1) 専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度に関する検討
① 現状説明
- ・事務局より資料1の1頁から8頁に基づいて、専門家が裁判官をサポートするための現行制度等、知的財産関連訴訟に関する裁判所調査官制度の趣旨及び沿革、知的財産関連訴訟に関する裁判所調査官の現状、現行制度に対する産業界等からの意見及び検討すべき事項について、説明があった。
・飯村委員より飯村委員提出資料「裁判官の技術的事項に関する知見の取得と調査官の活用の実情」に基づいて、発表があった。
・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員)
○ 裁判官が全面的に関与し、調査官は裏方とするとのことだが、そのようにする理念はどのようなものなのか。
○ すべての過程において、当事者から質問を受けたときに、裁判官が自らの言葉で説明することは、裁判官の責任だと考えている。
○ 他の裁判所でも同じことをやっているのか。
○ 若干の違いはあるが、どの部でも同じである。
○ 会社でも、自由な雰囲気の中で率直な意見を交換することは非常に重視している。調査官からの口頭による意見聴取についても、そういう意味合いがあるのか。その頻度、重要性については、どのように理解すればいいのか。
○ 裁判所が一件の事件の中でどの程度調査官と意思疎通を図るかについては、様々な要素があるが、頻繁に意思疎通を図ることが大切だと促している。口頭による意志疎通だけで事件が終了することもある。
○ 裁判官が、問題となる技術的事項を理解したかについて、その判断基準はあるのか。世界で一人か二人かしか分からないような技術について、判断するレベルに達し得るのか。
○ たとえ難しい技術であっても、特許としての権利を与えている以上、誰かが理解できるものである。理解できる人から意見を聞けば、判断は可能である。
○ 第1に、民事訴訟である侵害訴訟と行政訴訟である審決取消訴訟という訴訟類型の違いを明確に意識して考えるべきである。第2に調査官を専門委員や技術判事との対比でどういう立場に位置づけるのかという基本的な整理が必要である。
- ② 知的財産関連訴訟において調査官が裁判官をサポートすることの意味及び裁判所調査官の権限の拡大について
- ・事務局より資料1の8頁から13頁に基づいて、知的財産関連訴訟において調査官が裁判官をサポートすることの意味及び裁判所調査官の権限の拡大について、説明があった。
・知的財産訴訟において調査官が裁判官をサポートすることの意味について、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)
○ 侵害訴訟と審決取消訴訟のいずれを念頭に置くのか。高裁についても調査官の実態を教えてもらえると参考になる。
● 侵害訴訟と審決取消訴訟の双方を念頭に置いて議論いただきたい。従前の文献では、地裁と高裁とでは、ほとんど同じであると紹介されているようである。
○ 印刷媒体になっている文献を見ると、地裁の部については、同じように進めていると思っている。
○ 侵害訴訟を経験した中で、一番時間がかかっているのは、当該業界の技術常識について、共通の理解を得ること。業界の技術常識があって、その上に立って訴訟をしているときに、他方当事者が、技術常識と違うことを言い始めたときに、何らの訴訟指揮もないことがある。調査官が、聞かれたことについてのみ関与するのではなくて、より積極的に関与し、また裁判官の技術知識が十分なら、そのようなことはないのではないか。
○ 侵害訴訟と審決取消訴訟では、技術問題の比重にも違いがあり、期待される調査官の役割は違ってくるのではないか。
○ 報告書は、裁判官の要求に応じて提出するのか、自発的に提出することもあるのか。報告するテーマは、絞り込んで説明を求めるのか。
○ 事件の必要に応じて報告してもらう。調査報告書の報告事項、報告内容、形式は決まっていない。効率的に進めるために、できる限り絞り込んで、報告してもらっているが、判決を誤らないために、幅広く意見をもらうことは歓迎している。
○ なぜ裁判官をサポートする人が必要なのか。どういう弊害が具体的にあって、現時点でどのような不自由を感じているのか。
○ 当事者の持つ不満は、裁判官が技術を分かってくれないということと、裁判官が技術的に適正な判断をしてくれないという2種類がある。
○ 現行の調査官制度については、不自由を感じていない。裁判官が理解していないとの不満は、敗訴する側としては、自然な感覚だと思うが、現行の調査官制度は、透明性等の問題を別にすれば、かなり当事者の要求に応えていると思う。
○ 産業界としては、現在の調査官の権限は不足で、技術判事に近いものまで踏み込まないと、本当によい知的財産訴訟制度はできないのではないかと考えている。
○ 技術判事はあればそれでいいと思うが、現実的な問題としては、調査官の権限を拡大してほしいというのが当面の意見である。オールマイティーの技術者などというのはあり得ず、技術判事でも、必ず何らかのサポートが必要である。
○ 個人的には、現在でも裁判所の技術的事項の理解は正確であると思うが、産業界としては、より技術の高度化が進んだ場合に、現行のシステムでは不安であるというのが一般的な感覚である。
○ 資料1の11頁の①と②の双方が必要である。
○ 弁護士の体制については問題はないのか。
○ 弁理士法改正もあり、代理人については、既に対応されてきている。弁護士の枠を広げて、技術系の弁護士も出てくれば、産業界としては有り難い。
○ 弁護士も技術的バックグラウンドを持つ者が生まれるインフラが整いつつある。判断する裁判所の方も、そういう体制を整えておいた方がよいのではないかとの印象を受ける。
○ 裁判所に対する期待が大きすぎるのではないか。
○ 裁判所調査官は、一般の技術専門家としての役割を持ち、専門委員は、特殊な専門知識について補充することでいいのではないか。
○ 事件を解決する場合に、仲間内の常識というのが隘路になっている。見ず知らずの第三者に理解されて初めて、保護が必要と判断されるのであるから、第三者に十分に説明するための用意が必要である。
・以上の協議の結果、今後とも継続して議論することが委員の間で了承された。
- ③ 透明性・中立性の確保について
- ・事務局より資料1の13頁から18頁に基づいて、透明性・中立性の確保について、説明があった。
・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)
○ 調査官は、事件毎に付くのか。調査官は一つの事件で固定されるのか。
○ 調査官に対する事件配点は、調査官の中の一人が、事件の難しさ、専門分野を見ながら適宜行っている。複数の分野にまたがる事件については、調査官を二人を付けたりもする。
● 当事者からは、どの調査官が担当かは分からないのか。
○ 当事者からは、当然には分からない。
○ 代理人の立場から調査官制度について不満があるのは、透明性だと思う。
現時点の中間的なまとめとしては、調査官制度については、専門委員に準じて、知財専門委員制度を提唱したい。
権限については、かなり幅広く認めていいのではないか。
資料1の14頁の②については、制限があるという点で一致しているが、それ以上は議論がまとまっていない。③−1)については、C案では困るというのが一致した意見。③−2)については、いろいろな考え方がある。
今後、何が問題なのかと併せて、代理人としての立場で整理をしていきたい。
○ 調査官制度と、知財専門委員制度との間の関係はどう考えるのか。知財専門委員委員のみで、調査官制度を廃止すれば、機能不全を起こすのではないか。
○ 14頁の①のA案については、調査官についても、除斥や忌避の制度があってしかるべき。他方、B案については、専門委員はともかく、調査官について、自己の専門性を開示しても余り意味がないのではないか。
○ 裁判官もキャリアを開示しておらず、①のB案がどのような意味を持つのかよく分からない。
○ ③−2)のD案は、判断するのは裁判官で、調査官の意見は直接は反映されないというのが原則であるから、許されないのではないか。
○ 経済界として要望しているのは、調査官と裁判官との間にどのような情報交換がされているかを確認するチャンスが欲しいということである。
○ 調査官は知的財産権事件以外にも置かれているのだが、なぜ知的財産権事件だけ透明性が必要なのか。
○ 調査官への反論の問題は、裁判官の心証をどの限度で開示するかに帰着するのではないか。実務では、紛争解決に役立つ場合には、積極的に心証を開示している。
● 調査官を鑑定に引きつけて考えれば反駁の機会が欲しい、判断権者の例に引きつければ当事者の反駁の機会は不要という整理が一応できようか。
・以上の協議の結果、今後とも継続して議論することが委員の間で了承された。
- ④ 専門家としてどのような者を活用すべきか(給源)について
- ・事務局より資料1の18頁から20頁に基づいて、専門家としてどのような者を活用すべきか(給源)について、説明があった。
・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員)
○ 資料1の19頁のA案を中心に、広く人材を求めればいい。
○ 企業の中などにも、裁判官に対する高い水準のプレゼンテーション能力を持っている人がおり、広く人材を求めることができる。
・以上の協議の結果、給源を幅広く求める方向でさらに検討することが委員の間で了承された。
- ⑤ 専門委員との関係はどうあるべきか
- ・事務局より資料1の20頁から24頁に基づいて、専門委員との関係はどうあるべきかについて、説明があった。
・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局、△関係機関)
○ 専門委員については、全件関与は不要で、国費の無駄使いである。資料1の23頁の①と②は、いずれもA案がいい。
● 技術裁判官を採用しても同じ結論か。
○ 全件関与する必要がないことは同じである。
○ 全件関与は到底考えられない。もっとも、現在提案されている専門委員制度は、要件が厳しすぎる。知的財産権事件に特則を作るという指摘はないのか。
△ 現在提案されている専門委員制度は、医療過誤を念頭に置いて、厳しい制限を課したという背景がある。審議の過程で、知的財産権は別だという意見はあった。
● 現在提案されている専門委員の要件は、一番厳しいところで要件設定されている。知的財産権事件については、専門委員を使うことなどに同意しないことはないということを前提とする議論であった。民訴の特則を知的財産権について設けることを考える余地はある。
○ いまの専門委員では縛りがきつすぎるというのが弁護士の共通の認識である。
○ 現在の知財専門調停がほとんど使われないのは、当事者の同意が得られないためである。
○ 資料1の23頁の①と②は、いずれもA案がいい。
○ 技術と法律の区別が難しいことからすれば、資料1の23頁の①はA案、②はB案がいい。大学の理科系の先生や知的財産権部以外のエンジニアは専門委員になれないことになるが、それでよいと思う。
・以上の協議の結果、今後とも継続して議論することが委員の間で了承された。
- (2) その他
- ・ 第4回知的財産訴訟検討会における議論について、阿部委員及び加藤委員より、阿部委員・加藤委員提出資料「論点1(侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等)に関する意見」に基づいて発表があった。
・ 事務局より、2月24日の第3回知的財産訴訟外国法制研究会において、諸外国における証拠収集手続の更なる機能強化に関する制度について、調査発表、意見交換がされたことが報告された。
- 次回検討会(3月14日(金)13:30〜17:00)では、証拠収集手続の更なる機能強化に関する検討を行う予定。