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知的財産訴訟検討会(第5回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成15年2月28日(金) 13:30 ~17:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤眞座長、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、加藤 恒
小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉 亙、中山信弘
(事務局)
古口章次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、坂口智康参事官補佐
(関係省庁・団体)
法務省、最高裁判所、特許庁、日本弁護士連合会、日本弁理士会

4 議題等
(1)専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度に関する検討
(2)その他

5 議 事

○伊藤座長 それでは、定刻になりましたので、第5回の「知的財産訴訟検討会」を始めさせていただきます。
 本日は、御都合によりまして小野瀬委員が御欠席をされておられますが、そのほかの皆様には御出席いただいております。お忙しいところを有り難うございます。
 今回は、専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度に関する検討をしたいと存じますが、検討に入る前に事務局からお手元の資料の確認をしていただきます。

○近藤参事官 それでは、お手元の資料を御確認ください。
 資料1として、「専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度に関する現状と課題」。
 資料2として、「参照条文」。
 委員提出資料として、阿部委員及び加藤委員御提出の「論点1(侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等)に関する意見」という表題の資料でございます。
 同じく委員提出資料として、飯村委員御提出の「裁判官の技術的事項に関する知見の取得と調査官の活用の実情」という表題の資料。
 それから、メインテーブルのみに配布させていただいておりますが、実際の調査報告書写し、これは最高裁の封筒の中に入っているものでございます。
 また、日本弁理士会の村木清司様から御提出の「意見書」という表題の資料でございます。
 以上です。

○伊藤座長 ただいま御紹介がありましたけれども、前回の検討会の論点1に関しまして、阿部委員及び加藤委員から御意見を出していただきましたので、本日の検討に入る前に御意見の御紹介を頂きたいと思います。
 これは、加藤委員からお願いできますでしょうか。

○加藤委員 お手元の資料の「論点1(侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等)に関する意見」ということで、ペーパーを出させていただいております。ちょっと御覧いただきたいと思います。
 大きな論点を申し上げることではないんですけれども、念のためと申しますか、万が一でも誤解を避けるために確認として意見を申し上げたいと思います。
 前回までに訴訟の一回的解決という言葉は、再三にわたり出てきておるかと存じます。これについて若干、舌足らずと申しましょうか、意見を十分にお伝えできなかった面がありますので、この点について触れたいと思います。
 この論点1に関しまして、産業界が主張しております一回的解決と申しますのは、侵害訴訟における当事者同士が攻撃と防御を一か所で行うことを意味しておるわけでございます。これが産業界が要望しておる一回的解決の意味でございます。つまり、このためには侵害訴訟の場で特許の有効性を争うことができるという基本方針が重要であるというふうに考えておるという意味でございます。
 つまり逆に申し上げますと、侵害訴訟が係属中に訴外の第三者が同一特許について無効審判、万が一無効審判がないとしても無効確認訴訟等になるかと思うんですけれども、これを提起されてくるということは完全には避けられないわけでございまして、こういったものまで含めて一回的解決を要望しているわけではございません。つまり決してどんぶりの一回的解決という意味ではなくて、当事者同士の争いが一回的に解決してほしいということを要望しているわけでございます。
 したがいまして、無効審判にしましても、訴訟当事者によるものと、訴訟当事者以外によるものというのが当然存在することになろうかと思いますので、前回無効審判の存続を希望すると申し上げておりましたが、これは後者のケースのことを指しております。これによって、ダブルトラックというものが生ずるというふうには産業界としては考えておりません。
 以上、念のための意見を申し上げさせていただきました。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。阿部委員、何か。

○阿部委員 前回頂いたレジュメで、A案、B案、C案という中のどれにも、これがどれに入るのか若干よく分かりませんでしたので、我々が言っていることはこういうことだという確認でございます。

○伊藤座長 分かりました。どうも有り難うございました。
 それでは、本日の論点に関する具体的な検討に入りたいと思いますが、まず事務局にたたき台となる資料を用意してもらっておりますので、まずは検討の前提となる現状について事務局から説明をお願いします。

○近藤参事官 先ほど御確認しました「知的財産訴訟検討会資料1」に基づいて御説明をしたいと思います。
 本日御議論いただく「専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度に関する現状と課題」につきましては、資料1の1ページにもありますように、知的財産戦略大綱において検討の必要性が指摘され、司法制度改革推進本部において検討を行い、結論を得ることが要請されているものです。
 また、司法制度改革審議会の意見においても、知的財産権関係事件訴訟の更なる充実・迅速化を図るため、訴訟手続に関する制度的整備と合わせて、裁判所の執務体制の整備強化など、知的財産権関係事件に関わる人的基盤の強化等を図っていかなければならない、そのことから、専門性が強化された裁判官や技術専門家である裁判所調査官の集中的投入、先端的技術的分野にも対応し得る専門委員制度の導入など、東京・大阪両地方裁判所の専門部の専門的処理体制を一層強化すべきであるとありますように、知的財産訴訟における専門的処理体制の必要性が挙げられております。
 具体的な論点について御議論いただく前に、まず資料1の2から8ページに基づいて、専門家が裁判官をサポートするための現行の制度や産業界等からの意見などについて御説明いたします。
 まず、2ページ目を御覧いただきたいんですが、専門家が裁判官をサポートするための現行制度について記載しております。まず、1番目の裁判所調査官制度は、裁判所法57条に規定されており、第1項では「最高裁判所、各高等裁判所及び各地方裁判所に裁判所調査官を置く。」、また、第2項では、「裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件(地方裁判所においては、工業所有権又は租税に関する事件に限る。)の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。」と規定されております。
 また、現在東京地裁には7人、大阪地裁には3人の知的財産訴訟に関する裁判所調査官が配置されております。
 知的財産関連訴訟において、裁判官以外の専門家が裁判に関与するその他の制度として、例えば、鑑定や調査嘱託があり、またこのたび法制審議会から答申された専門委員制度がございます。
 3ページ目を御覧ください。ここでは「知的財産関連訴訟に関する裁判所調査官の制度趣旨及び沿革」を紹介しております。
 昭和39年8月の臨時司法制度調査会意見書において、裁判の質の向上及び能率の増進という見地から、裁判所調査官の充実化を図る必要があること。また、工業所有権に関する事件や、租税に関する事件等は、内容の複雑なものが多く、審理期間が長期に及んでおり、裁判官の負担が極めて大きいことから、専門的・技術的な知識を有する者が裁判官の命を受けて必要な調査に当たり、裁判官の判断の資料を提供することは、裁判官の負担を軽減し、事件の能率的な処理を図る上において、有効適切な方策であると考えられると指摘されております。
 この意見書を受けて、昭和41年に裁判所法の一部改正がされ、地方裁判所に裁判官を補助する裁判所調査官を置くこととし、裁判官の命を受けて工業所有権又は租税に関する事件の審理及び裁判に関して、必要な調査を掌らせることとしました。
 具体的には、裁判所法57条第1項において、新たに地方裁判所という文言を入れ、また第2項において括弧書きを追加して、地方裁判所においては工業所有権又は租税に関する事件に限るとしたところです。
 なお、このページの枠囲いの外に記載されていますように、改正前の高等裁判所の裁判所調査官については、東京高等裁判所において工業所有権に関する事件及び海難審判に関する事件の調査を行っていたところでございます。
 次に4ページを御覧ください。ここでは、知的財産関連訴訟に関する裁判所調査官の現状を説明しています。4ページ目、5ページ目では、幾つかの文献に基づいて裁判所調査官の権限及び業務内容を紹介しています。まず、4ページは、裁判所法逐条解説の抜粋です。裁判所調査官の権限について、次のように記載されています。
 裁判所調査官の職務は、事件の審理及び裁判に関して必要な調査を掌ること。
 審理及び裁判に関して必要な調査とは、裁判所が審理及び裁判をする前提として準備すべき資料を収集、整理すること。
 裁判の前提となるべき資料のうち、事実関係の資料は、裁判所の審理そのものにおいて当事者から提出されるのが建前であるから、裁判所調査官の収集、整理すべき資料は、それ以外のものが中心になってくること。
 工業所有権に関する事件や租税に関する事件等特殊事件にあっては、これら特別法について法律的分野のもののほか、自然科学及び技術の専門的分野についての資料の収集、整理が含まれること。
 裁判所調査官の調査は、事件そのものに対する判断まで含むものではなく、判断そのものは裁判官の職務であること。また、例えば一定の判例又は学説等を具体的な事件に適用した場合、論理的にいかなる結論となり得べきかの関連を整理、指摘することは、調査の範囲に含まれること。
 例えば、証拠調べのような審理そのものを裁判所調査官においてすることはできず、訴訟上は裁判所調査官は何らの職務権限を有しないこと。
 続いて、5ページ目を御覧ください。上の枠囲いは、昭和41年の裁判所法の一部改正についての解説の抜粋で、ただいま御説明した調査官の職務をより明示的に挙げております。
 具体的には、ここに書かれているようなものですが、これにつき裁判官が調査官の調査結果を利用する関係については、訴訟法上は裁判官が例えば読書等によって自ら獲得した知識を利用することと同視すべきである、また裁判官は、判断の資料として調査結果を利用することも、利用しないことも自由であるとされています。
 また、下の枠囲いは調査官の調査実務の具体的な内容を紹介したものです。特許権関係事件を例に取れば、その調査事項は、明細書、特許公報、記載の技術用語及び技術内容、出願当時の技術水準、出願手続で表明された出願人の見解の技術的意味並びに侵害物件の技術内容等であると説明されております。
 次に6ページを御覧ください。ここでは、訴訟手続の流れの中で、調査官の関与のイメージを表としています。現行の調査官の関与としては、まず訴訟の初期段階において裁判官に対して特許発明の技術内容の概略説明を行い、また、争点整理手続の段階において、例えば釈明を要する事項について検討し、裁判官へ資料を提供すること、争点及び証拠の整理、証拠調べの範囲、順序について参考意見を述べること、資料の収集、整理を行うこと、裁判官からの質疑に答えることなどを行います。
 また、証拠調べの段階においては、裁判官に対して証人などの供述のうちの、専門用語について説明することなどを行います。
 また、最終弁論の段階に限らないようですが、裁判官に対して書面又は口頭で報告を行います。
 また、判決に用いる図表等の作成をいたします。
 6ページの3ですが、現行の調査報告について、この資料1の末尾に別紙1として添付してございます。イメージ的なものとして添付してございます。この別紙1は、裁判所から御提供いただいたもので、後ほど飯村委員から詳しく御説明願えるんじゃないかと思っております。この説明は省略したいと思います。
 次に7ページを御覧ください。4では、裁判所調査官の身分上の地位について記載しております。裁判所調査官は、特別職の国家公務員であり、任免及び勤務裁判所の指定は、最高裁判所が行うことになっています。服務の宣誓も行います。
 分限、懲戒、補償、服務等については、一般職の国家公務員の地位に準ずることになっています。
 オでは、裁判所調査官の在職は、一定の要件の下の判事等の任命資格としての法曹の経験年数に通算されるとあります。ここで一定要件とは、裁判所法では、司法修習生の修習を終えた後の年数に限りとされております。司法修習を終えた者が裁判所調査官になった場合に、その在職年数に限り法曹の経験年数として通算されるということです。
 次に現行制度に対する産業界などの意見についてですが、詳細は別紙2として資料1の末尾に添付してございます。別途御参照いただきたいと思いますが、これまでのヒアリングなどで伺った意見を整理しますと、おおむね7ページから8ページにかけて記載しているような内容になるんじゃないかというふうに考えています。
 具体的には、1では、専門家の権限の拡大について、専門家は特許法及び技術に関して高い専門性を有するものとすること、論点又は証拠の整理を行うなど、審理・訴訟指揮に参加できるようにすること、特許の有効性判断、侵害判断等に関し、専門家の合議への参加も検討すること。
 また、2では、透明性・中立性の確保について、専門家の報告書を当事者に開示し、当事者の意見・反論の機会を設けること、現行よりも透明性を高めること、当事者に忌避権を与えることというものです。
 8ページ目の5のところ、「検討すべき事項」ですが、以上の産業界からの意見を踏まえると、この8ページ目の枠囲いにある①~⑤ということが検討事項になろうかと思います。これについて、これから本日御審議いただきたいと思っております。
 以上です。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。ただいま説明にありましたように、現行の調査報告については、裁判所から資料1の別紙1と、それから飯村委員からサンプルを提出していただいております。そこで、飯村委員から15分ほどで調査報告書の説明と、知的財産訴訟における専門家関与の実情などについて御紹介願いたいと存じますが、よろしゅうございましょうか。お願いいたします。

○飯村委員 資料としてお配りしましたものを使いまして、簡単に説明させていただきたいと思います。裁判官の技術的事項に関する知見の指摘と、調査官の活用の実情についてということです。
 第1に、特許訴訟等の知財訴訟における裁判官の技術に関する知見の指摘ですが、私は個人的な体験で第1回目のときは行政部で、租税調査官と一緒に仕事をしたことがあります。
 東京地裁の第2回目は、知財部でやはり知財の調査官と仕事をしておりました。
 高裁では、建築紛争調査官、それから海難審判の調査官と一緒に仕事をしました。
 また、高裁で偶々、家事抗告の集中部でもあったので、家裁の調査官とも一緒に仕事をしたことがあって、結局裁判所のすべての調査官と一緒に仕事をしたことがあります。
 様々な経験を通して重要と感じることは、やはり、裁判の過程で、組織の内部で専門職務を担当される方にいろいろ相談するということに関連して、公平、透明な裁判を実施するための配慮が大切であるということでございます。裁判官として基本的な態度、内面的にも外見上からも、公平な手続を実践するということが必要だと思っております。
 その関係で、私自身の問題点の解決として、現在心掛けている点は、次のようなことです。第一番目は、当事者との接触は、すべて裁判官が自分自身で行い、自分の言葉で説明して、結果を自分で判断するということを徹底しています。
 第2番目は、自分自身の判断は、最終的に判決書において明確に余すところなく記載するということを徹底しております。事実認定過程と法律論理のすべてを記載するということです。
 第3番目に、知財の場合には、判決理由は企業の実務の行動指針になっておりますので、言葉を選びながら、一般論として書いている部分があるということです。このような方法が、裁判官が、当事者から見られた場合に、当事者のあずかり知らない情報によって判断しているのではないかということについて、私なりの解決の方法と対処の仕方だと思われ、それを実践しております。
 もとより、それ以外にも、適切な法律判断をし、かつ、その内容を高めるという意味で、ほかの形態も存在し得ると思いますけれども、1つの回答としてそういうことをやっております。
 その説明も含めて、レジュメの1を御覧ください。
 民事訴訟は、公平な手続の下で具体的な紛争を解決するということで、研究の場でもありませんし、実体的真実を探求する場でもなく、具体的な紛争を、高い質を確保した上で解決を図る制度であるということでございます。そのために、法律上設けられている1つの方法が、当事者主義、弁論主義、ないし「主張と立証の区別」ということでございます。それが1つの方向性ということ、(1)~(3)までの問題点でございます。つまり、②の当事者主義又は弁論主義等の要請と③の職権探知主義の排除と④の主張と立証の峻別ということだと思います。
 それから、もう一つの問題点は、迅速審理との関係でございます。これは、時間制限、それから計画審理に基づいて行うということで、後から出された場合にはそれにある一定の制限を設けて取り上げないということもございます。
 これらの原則を採用する結果、実体的な真実と、少しずつずれが生じてくるのですが、結局のところ当事者が勝訴するために必要な資料を、適当な時期までに提出しない以上は、敗訴を免れない、当事者が、裁判所を理解させるための努力をしない以上、敗訴を免れないということでございます。
 裁判所は何をするのかというと、基本的には公平・中立な立場で臨むのであって、初めから後見的な立場で臨むということは、基本的には許されないであろうと。裁判所の求釈明、分からない点の解明努力というのもおのずから限界があるということでございます。
 それを一言でまとめると、誤解があるいは生じるかもしれませんけれども、実体的真実の追求のみが目的ではなく、手続の中で保障された手続的な事実を基礎にした判断ということになります。
 しからば、専門的な要素の高い技術的事項の獲得方法として、どのような方法が民事訴訟法上あるのか、専門部の調査官を配置されたところでは、どのような活動の仕方をしているのかということでございます。
 これをアラビア数字の2で挙げました。当然ながら書面が中心になります。
 それから、知財訴訟では確かめる作業、被告方法、たとえば製造中に使用した触媒のpHのどの範囲に入っているのか。それから、流体であれば、その物性が、特許発明の技術的範囲に入っているのかというのを確かめる作業がございます。確かめた結果を実験結果として出すとか、実験をするとか、検証をするという作業がございます。
 ③、④、⑤で、訴訟代理人の行う技術説明がありますが、これは正規の証拠方法ではありませんので、後日書証や検証で提出することによって、裁判所が証拠として扱うことができます。また、鑑定人尋問、専門家の取調べ等がございます。
 活用頻度としては、東京地裁のような調査官がいる裁判所においては、現状では一部書面媒体によって行われる場合と、それからものを確かめる作業である検証、実験によって行われる場合が極めて多いということでございます。このような審理方式を前提にした調査官の役割は、今どういうことになっているのかと言いますと、基本は民事訴訟法の原則に由来する制約の中で、裁判官だけで実施する審理において、質の高い解決を実現する上での補助ということになると思います。
 原則は①で書いているとおり、すべて当事者が手続の中で提出した訴訟資料に由来するものであって、それ以外の方法で裁判官に到達する情報はないという前提でございます。これは裁判官がよほど自覚し、注意しないと、その限度を超えてしまうことがあるので、その点は毎回、毎回、それから、裁判官が代わるごとに、その点を確認していくということが必要になります。
 2番目としては、同じことですけれども、証拠の内容を前提として、裁判官が調査官に技術的な理解が十分でない部分を補助してもらうということでございますが、調査官に民事訴訟法の構造を理解してもらうことが大切となります。
 これを徹底するために、調査官が新しく来られた場合に、やはり民事訴訟法の原則の理解と、それから職権探知ということが絶対にあり得ないという点と、それから裁判所においては法律適合性のみをもって判断するということの基本的なことだけを徹底することになると思います。つまり、行政目的から、さまざまな審査基準が発せられていますが、裁判においては、法律のみが基準になるということでございます。
 次に観点を変えまして、訴訟手続の進行の中での調査官の関与でございます。平成10年ごろから迅速審理中心の審理の工夫がなされております。それが現在まで引き継がれているわけですけが、その中で手続がどのようにして行われ、どの段階で、どういう情報が裁判所に入ってくるかということをここで示しております。最も効率的、かつ質の高い審理を目指すために、現在ではこういう審理を行っております。
 次に、審理の実際です。通常、法廷で行う口頭弁論期日は第1回目だけで、第2回以降は準備手続で行い、一件一件、ある程度の時間をかけて行っております。概ね、期日ごとに、1件、30分から1時間ぐらいの時間をかけて行っております。その中で、従来から言われている特定論、侵害論、損害論を審理することになります。
 迅速審理で平均して1年ぐらいを目指していますと、裁判官としては、大体3回目ぐらいに暫定的な心証形成をしないと、当事者をリードした裁判所の解決イメージを反映させた究極的な解決が図れません。そこで、3回目のころには、ある程度、最終の結論と変わりのない心証を形成することを目標として行っております。
 調査官の手続の関与でございますが、そのような審理を前提にした場合に、どういうことを考えて協力してもらうかですが、現在の調査官の数、仕事の内容を前提にしますと、自ずから決まってしまいます。つまり、我々は月曜日から金曜日まで30分ないし1時間刻みで、ほとんど事件に関与していて、それと同じような態様で調査官に入ってもらうと、調査官を有効な領域で活用できないということになります。それから、裁判官だけが当事者と接する方が、より裁判官の考え方が当事者に分かっていただけるという配慮もあって、調査官の期日の立会いに関しては、初回の口頭弁論期日は入りますけれども、それ以外、弁論準備期日も入らないし、ましてや和解期日も入らないし、証人調べ期日も入っていないというような形態が現状でございます。私は、5年間になりますが、例外なく、このような形態で行っております。
 しからば、裁判官と調査官との協働関係はどのような場合に発揮されるのかということです。まず、一番多く必要な場面は、共同実験の実験条件の設定に関してです。侵害論の審理を進めるに当たって、どういう実験がされると確かな情報として入手できるのかということについて、当事者に任せたままですと質の高い結果が出てこない。裁判官が最終的に判断するにしても判断できないということなので、共同実験の実験条件の設定ということについては、調査官とかなり綿密な打合せをします。
 それから、先ほど申し上げました、暫定的な心証形成に関しては、可能な限り裁判官が争点の絞り込みをして、そこについて心証形成ということですが、技術事項については、技術概念が分からないと、それ以上、理解を進められいことがあるので、その場合には、裁判官と調査官の協働関係、お互いの信頼関係の中で、いろいろと事件の早期から技術事項を確認するということを行ってざいます。
 一言で言えば、日常的な仕事を通じて、日常的な意思疎通を図るというようなスタイルで、形式ばらないで行っております。
 調査官については、調査マニュアルもないし、それから行動指針も一切作っておりません。
 レジュメに戻りまして、裁判官の意思決定がどのように形成されるかというのが重要ですので、合議体の裁判所の判断がどのようにして形成されるかということに触れています。評議の特徴という項目を改めて書いてございます。合議体の評議ですけれども、いずれにしてもすごくナイーブな問題であって、クレームの解釈一般をどうするか、当該事件における当該クレーム解釈の基準をどうするか、文言を厳格に解釈するのか緩やかに解釈するかというようなことについて、評議の対象にします。結局のところ実務の行動指針になるということなので、時間をかけて、1件1件につき、裁判官全員が意見を出し合いながら、やっているというようなことであります。その結果が、その後の合議体の裁判官個々人の判断指針にもなり得るので、裁判官だけで、全責任を負って評議を行っているというのが実情でございます。しかも、法律的な判断を伴う評議で、2度目、3度目というのはおかしいので、1回だけで結論を引き出すという態度で臨んでいます。また、裁判の評議は、判決理由で採られている論理構造を前提にした、論点ごとの評議をしております。
 それでは、調査官にはどういうことをお願いしているのかということですが、その合議体の判断が誤らないための専門的な観点からの検討です。これは後で実例で御説明したいと思います。結論的には、事件ごとにいろいろあって、一様の形式は存在しません。技術的な事項を、1回のみならず2度、3度説明してもらうこともありますし、1回だけということもありますし、全員で聞くこともあるし、個別に聞くこともあるということでございます。事件の性格により、詳細な場合もあるし、簡単な場合もある。あらゆる場合があるということでございます。
 調査報告の具体的な例を挙げて説明をする前に、もう一度、一般論に戻りますが、裁判の中で、各裁判官が、どのような情報を獲得し、しかも専門性の高いものについて、裁判官が、どのような論理思考に基づいて判断するかは、世界中で悩んでいる共通の課題であります。そのためのシンポジウムも行われています。
 これについて、私の結論は、要するに、当事者はどれだけ訴訟に金とコストと時間をかけるか、プレゼンテーション能力を高めるかという問題に帰結するということと考えております。しかも、それぞれが代替方法を有していて、手続の中で裁判官に情報を伝達して理解させる活動は、1つだけではないということであります。
 当事者に期待しないで、裁判所が専らその負担を負う場合には、当事者の説明能力が低くてもよいわけですし、当事者の説明能力を高めるようにするのであれば、裁判所はそれほど能動的にしなくても良いということになりますが、そのバランスの問題です。現在の形態は、39年の地裁の調査官配置に基づいたモデルで行っております。要するに、当事者が訴訟にかけるコストとの関係だという割り切りをしています。
 具体的な調査報告の実情ですが、お手元にありますサンプルを御覧ください。まず、調査報告は、特定の事件処理を前提とした内部的な資料で、残しておかないのが原則ですので、簡単なメモで説明を受けた場合はもちろん廃棄しております。類似の事件があったりして今後の参考になるというような意味で残しているものでございますので、この分類に沿ったものかどうかは、必ずしも保証の限りではありませんけれども、とりあえずこのような説明の実例として出しました。
 いずれにしても、個別で具体的なもので、極めて機密性の高いものと考えておりますので、お読みになった後は、その内容について外で説明を一切されないようにお願いいたします。
 実例ですが、まずアは実物はありませんが、口頭意見聴取がございます。これはお互いの信頼関係の中で自由な意見を聴取するということなので、このようなことは裁判官同士の日常生活、日常の執務の中でも結構行われていて、例えば契約関係について新しい判断をした裁判例があれば、その裁判官に、どういうような考慮要素でそのような判断をしたのかを聞きにいくというようなことというのは、比較的多くされておりますので、そういう関係と同じような場合でございます。
 事案によっては、法律論で判断することもできるし、個別の事実認定で判断できるものかを、裁判官が法律判断で決めることを前提として、そういう観点からの意見、あるいは事実関係はというような、質問を限定させて聞くということもありますので、いろいろな答え、質疑応答というのがあるというのが容易に推測できることかと思います。
 イ以下ですけれども、簡易メモがサンプルAですが、文字通りの簡易メモの実例は残ってなくて、これは簡易ではなくて詳しいものになるかと思います。実例に沿って説明しても技術事項ですので、分かりづらいので、どこどこに何々があるということについて、例えばこういうデータが入った場合どうなっていくかということを示すために書いてあるということです。必ずしも簡易なという例には当たらないかもしれませんが、こういうことも行われております。
 それから、サンプルA-2ですが、これも調査官自らが書いたのではなく、既存のものを貼り付けて作成したものでございます。図だけではどういう説明内容かは分かりませんけれども、このような補助メモを使いながら、口頭説明の資料に使っているということでございます。
 続いて、専門文献にラインマーカーをつけて資料とした実例ですけれども、これは余り適切なものはありませんでした。強いて言えばこういう例があります。これは医療関係の事件でございますけれども、具体的な疾患に関して、疾患名とその内容を既存の文献で説明をされた例でございます。
 それから、サンプルCの技術用語説明資料の報告ということですが、これもかなり古い話で、今こういうものを理解してどうのということもないと思いますけれども、一般文献をコピーして、その中の必要なものを説明されるというような形態の報告の仕方もございました。
 D、Eは、侵害訴訟事件の中の特定の論点についての報告と、それから全体的な論点についての報告の例として挙げております。Dは、特定の論点についてということなんですけれども、これは極めて特異な例でございまして、始めに判決原案に関する見解というような書き方をしております。先ほど裁判官の合議の話を申し上げましたけれども、合議体には結論を出し、さらに判決の書き方、論理の構成、どのような判断基準を設定して、どのような判断をするのかという細かい合議までするのですが、判決を書いた後に、やはりもう一度専門的な観点からの意見を聞いてみたいということで、原案ができた後にある項目について意見を聞きました。それについての回答の報告でございます。そういうことで、かなり特殊な調査官意見でございますけれども、そういうことでの結論の意見を言うということでまとめられたものでございます。
 それから、サンプルE-1は、極めて簡略で要点を得た報告になっておりますが、これですべての項目が書かれております。
 それから、サンプルE-2は、それと違ってかなり細かく説明がされております。これはかなり多岐にわたった論点がありましたが、総括的な報告でございます。
 私からの説明は、その程度で、質疑応答の中で御説明したいと思います。最後に、もう一つ補足して説明しておきたいことがあります。訴訟手続において、裁判官に対する情報伝達として、どういうようなものがあり得るのかという点に関しては、我々は、あれこれ工夫しながらやっております。裁判所は、試験的に、当事者からの技術説明を受けて、その検証結果を他の裁判官と検討したり、自分自身でフィード・バックして、別の事件でも試してみるということを行っております。そのときでも、私の場合には、調査官が立ち会わないで裁判官だけで聞く方法を試みてみました。当事者の作成した技術説明書をこれから回覧したいと思います。つまり、技術説明の資料として、当事者側がこういう説明資料で数十分かけて説明するということです。
 それから、もう一つ、裁判官の合議メモですけれども、必要事項、差し障りのある事項は抜いております。裁判官の合議をするための資料については、差し支えのある部分は予め抜いておりますが、それも回覧しましたので御覧ください。調査官の報告との関係で、当事者の技術説明、裁判官の合議のための資料も比較の参考になると思います。
 以上です。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。それでは、先ほどの事務局の説明及びただいまの飯村委員の御説明について、何か御不明な点、御質問などありましたらお願いいたします。
 いかがでしょうか。どうぞ、阿部委員。

○阿部委員 1つ質問なんですけれども、この飯村裁判官の資料の3ページのところで、調査官の手続への関与ということがありますが、どういうことでしょうか。

○伊藤座長 調査官の関与のところですね。

○阿部委員 確認したいんですけれども、初回の口頭弁論期日に立ち会って、後のb、c、dの期日と弁論期日、弁論準備期日、和解期日、証人調期日、これは立ち会わないというふうに、先ほどの説明を聞いたんですけれども、そうでしようか。

○飯村委員 そういうふうに説明しました。5年間で弁論準備期日は一度も立ち会ってもらったことはありません。それから、証人調期日はもしかしたら1件ぐらいあったかもしれませんけれども、いずれにしても立ち会ってないケースが多いと思います。和解はもとより裁判官が行い、立ち会うということはしていません。

○阿部委員 有り難うございました。

○伊藤座長 ほかにいかがでしょうか。どうぞ、櫻井委員。

○櫻井委員 観念的な質問で恐縮なんですけれども、裁判官が結局判決を書くわけですけれども、裁判官が、外ないし当事者から見たときに、どういうふうに行動すべきかという話をされたかと思いますが、そのことと、調査官など技術についての専門的な人たちをどういうふうに裁判手続の中で関与させていくのかということについて、その点についての信念と言いますか、どうして自分の言葉で考えて、自分で理解して、調査官は飽くまでも裏方の方に徹していただくというに考えておられるのかということを、教えていただけると有り難ういのですが。

○伊藤座長 飯村委員、ただいまの御質問いかがでしょうか。

○飯村委員 すべての過程において、当事者から説明を受けたときに、裁判官自らの考えや、その事件をどのように解決するのが妥当であるかを、自分の言葉で説明することが、裁判官自身の責務だと思っております。ということで、当事者と接するときには、裁判官が、関与するということが必要だと思っております。
 先生の質問については、調査官が立ち会うべきか、立ち会わない方が良いかという事柄とは、原則的には関係ない、違う話でございます。

○伊藤座長 いかがですか。

○櫻井委員 つまり物理的に調査官が存在しているかどうかという話とは、もちろん意味としては違うんですね。御自分の裁判とはどういうものであるのかみたいなところが、ちょっとお伺いしたかったところなんですけれども、そういう問題意識はお持ちなんだろうというふうにお話は伺ったんですが。

○飯村委員 この問題点について、ご説明するについては、自分自身の訴訟観、裁判像をご説明しなけばならないので、なかなか難しいんです。訴訟指揮の機能とか、判決書の機能とか、いろいろ分けて説明しなければならない関係があって、短時間の間には説明できないのです。例えば、判決書はだれに向けて書くのかとか、一般的なものについてどれだけ触れるかとか、個別的な当事者に対してどれだけ書くのかとか、そういうものとかかわり合ってくるので、その点についてはなかなか難しい、一言では答えられないと思います。
 私は、当事者に対しての責任という意味では、全過程を見て、訴訟進行中に説明した裁判官の内容について、当事者が理解しているか、理解していないのか、それから当事者がこのような判決を書いた場合に、納得できるだろうかどうかを確認して、既に、納得できる事柄については判決理由には書かないし、納得できないことについては、丁寧に書くというようなことで、全過程を自分の目で確かめるというのが、その考え方から出てくる答えだと思います。

○櫻井委員 有り難うございます。

○伊藤座長 中山委員、どうぞ。

○中山委員 非常に興味深く伺わせていただきましたけれども、この話は飯村コートの話なのか、それとも他の東京地裁の部でも大体同じようなことをやっているのか、あるいは大阪地裁の専門部でも大体似たようなことをやっているのか、そこら辺はいかがでしょうか。

○伊藤座長 お分かりになる範囲でおっしゃってください。

○飯村委員 検討会に出席する前に、事前に確かめてみましたけれども、証人調べ、それから当事者の行う技術説明の場合に、調査官が立ち会っているかどうかの違いがありますが、それ以外の関与の在り方については同じと聞いております。

○伊藤座長 よろしいですか。どうぞ、加藤委員。

○加藤委員 飯村委員御提出の資料の第3、調査報告の概況という中で、(2)実例、ア、口頭による意見聴取という項について御説明いただいたんですけれども、私は会社の人間でして、会社においても恐らく裁判所と一緒だと思うんですけれども、いろいろな場面で意思決定なり判断しなければならない場面というのはたくさんあろうかと思います。そういった中で、当然会社においてもそういったときに自由な雰囲気の中で率直に意見を言うことができるということは、非常に重視しておるつもりでございます。飯村委員のここに書かれている口頭による意見聴取という点についてもおおむねそういう意味合いでよろしいのでしょうか。
 特に、またその頻度についても、頻度と言いますか、重要性と言いますか、役に立つ度合いというのは、この口頭による意見聴取というウェイトについては、かなり高いというふうに理解してよろしいでしょうか。もちろんケース・バイ・ケースはあろうかと思いますけれども。

○伊藤座長 お願いします。

○飯村委員 1件の事件を進行する過程で、どの程度調査官と意思疎通を図って、意見交換をするかというとについては、その裁判長の性格、それから調査官の性格、主任裁判官の性格、人間関係、いろんな要素があって、なかなか一概には言えません。ただ、割と頻繁に意思疎通を図っていくことが大切だということなので、そのような方法を活用するように促しております。
 最終判断に至るまでに、口頭による意思確認だけで結論を出すことができるというように考えているわけではありません。ただ、事件によっては、最終段階に行くまでのある程度のところで結論を出して、それを訴訟指揮に反映させたり、和解進行を促したりして、早期解決を図るというようなことがありますので、結果として、口頭による意見聴取、意見確認だけで終わる事件もあることはあります。

○伊藤座長 それでは、沢山委員、どうぞ。

○沢山委員 こういう話をお聞きするのは初めてで、私自身も非常に興味深いところではあるんですが、飯村さん御自身の御経験として、ある問題となっている技術的事項のいろんな情報に接するわけですけれども、自分がその問題にとっての技術的事項を理解したかどうかというのは、何か判断基準というのは持たれているんですか。それはどうやって認知するものですか。

○飯村委員 具体的に場合を分けなければならないんですが。

○沢山委員 例えば、武田の方が来られて、先端技術の中には、こんな技術は世界で1人か2人しか分からぬのですよと言われる技術はあるわけですね。そういうものに裁判官として直面して、判断しなければいかぬときに、自分はもう判断するに足るレベルに達したかどうかというのは、余り関係ないんですかね。

○飯村委員 質問の趣旨は分かりました。まず、特許権の侵害訴訟で難しい技術があっても、特許を与えている以上、だれかが理解して、それが権利を付与しております。つまり、出願人が審査官に説明して、審査官が理解して、権利を付与する過程があります。裁判官が、侵害訴訟において、それと被告物件との対比する場合に、自分自身が分かったと認識するかどうかは別にして、責任を持って、誤りなく判断するということはできるいえます。それができない事件というのは終結していませんので。
 それで、秋元さんのプレゼンテーションだと思いますが、世界中で1人か2人しか判断できない、理解できない事項は、多分特許になっていないと思います。特許になっている以上、客観的な資料に基づいて第三者に説明できるようにされているので、その客観的な判断基準をあてはめて判断できるわけで、権利者である原告が、訴訟手続の過程で、同じように説明できる人までたどっていって、その意見を聞いて、それを資料で出してくれば、それ自体は、裁判官が理解できると思います。

○伊藤座長 どうぞ。

○阿部委員 ちょっと雑駁な質問で申し訳ないんですけれども、この調査官は裁判官から見た場合には、手足、あるいは辞書のようなものであって、相談相手ではないという感じで理解してよろしいでしょうか。

○飯村委員 各国の比較や、当事者がどういう印象を受けるかという事柄と関連します。裁判官が、審理において、公正な手続を前提として、しかも、一定水準の内容で、誤らない判断をするには、どのような協力関係が大切かということを考えてみると、一方では、意思疎通は大切ですが、裁判官の内面的なものも含めて、行動指針を設けないで、審理判断するということは、望ましくないだろうと思っております。
 そういう意味で、当事者から受け取った資料に基づいて、その範囲で裁判所、裁判官が誤って判断する事柄かどうかをチェックして、それで相談するというのが望ましいと思います。
 そういう意味で、上下の関係、あるいは依頼を受けるという関係ではなく、協力関係ということになるという説明をしました。

○伊藤座長 どうぞ。

○近藤参事官 今の阿部委員の御質問がよく分からなかったんですが、手足か相談相手かという質問でしたが、手足かという意味は裁判官が必要だと思ったときに意見を求めるということで言っていて、相談相手かという意味は、自分から必要だと思ったときではない場合に、調査官からもこれはこうではないかということを、相互的に意見交換をするという趣旨でお使いになったんですね。

○阿部委員 はい。

○近藤参事官 それに対して、飯村委員からの御回答としては、相互的なものではなくて、飽くまでも主体は裁判官が判断するものであるということを前提にして、裁判官が必要なときに意見を求めるという形の利用の仕方をしているんだという御回答だということでよろしいでしょうか。

○飯村委員 事件には個性があるので、完全にイエスというわけではないんですけれども、多くの場合にイエスです。ただ、仮処分の事件等で急ぐような場合に、意見交換を密にということもあると思います。

○伊藤座長 それでは、今の議論はまた個別具体的な論点に関しても出てまいりますので、何か、小林委員。

○小林委員 質問というわけではないので、ほかの方の質問がなければ、むしろ今の点にも関連して、あるいはほかの論点にも関連して最初にコメントを述べさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。

○伊藤座長 どうぞ。

○小林委員 飯村判事の方からいろんな実態を御報告いただきまして有り難うございました。今の御説明のペーパーですとか、あるいは配布されているサンプル等を見ましても、調査官がいろいろな業務、多岐にわたる業務をやっているという実態がよく分かったなという感じがしております。
 例えば、個別の日常的な活用であるようなサンプルから、さらには個別の報告、全体報告であるサンプルのE-1とかE-2という形で、非常に多岐にわたった議論があるんだろうと思いました。ただ、恐らくここで御報告されたのは、飽くまでも地裁において行われている侵害訴訟に関連するものが多いんだろうと思います。
 その点で、特許庁の方からは調査官を東京地裁、それから大阪地裁・高裁、それから東京高裁ということで、4つぐらいの裁判所に派遣をさせていただいておりまして、その意味で言いますと、調査官全体で見ますといわゆる侵害訴訟系と審決取消訴訟系、その双方が含まれております。そういった実態があるものですから、若干その実態も踏まえてコメントさせていただきたいのと、それから今日の議論の進め方全体にも関連することだと思いますので、その観点からも2点ほどコメントさせていただきたいと思います。
 まず、第1点は、訴訟類型の違いを明確に意識して、これからの議論を行う必要があるのではないかということでございます。
 調査官に求められる役割とか、あるいは業務と言いますのは、訴訟類型によって当然共通する部分も多いわけでございますけれども、やはり大きく異なる部分もあるというふうに考えています。
 実は、調査官の経験者に対して、特許庁の方でヒアリングを、ある種定量的に行ってみたんですけれども、その結果分かった点で、1つ大きな点というのは、当然のことでございますけれども、侵害訴訟と審決取消訴訟では、業務の実態というのもかなり違うということでございます。
 審決取消訴訟では、普通の場合、審判において争われた争点というのが、そのまま訴訟に持ち越されることが多いわけです。
 しかも、その争点は突き詰めて言えば、これは特許の場合ですけれども、発明に特許性があるかどうかと、これは拒絶された不服審判に対する審決取消訴訟、あるいは特許の無効審判でも同じことかと思いますけれども、そういった言わば技術的論点であるということが多いわけでございます。
 したがって、技術専門家であって、しかも特許庁の審査・審判の経験ある特許庁派遣の調査官というものが貢献できる余地が、相対的に大きいということかと思います。
 したがいまして、審決取消訴訟系では、調査官の関与も自然に深くなる傾向があるということが伺えております。
 また審決取消訴訟の場合は、限定された争点と言いますか、発明の特許性というような限定された争点がございますから、自然と調査官が争点を担当すれば、それが全体の争点であるというふうな事態が自然に多くなっているような傾向があるわけであります。
 これに対して、侵害訴訟ではかなり事情が違うというふうに思っておりまして、侵害訴訟の論点というのを考えてみますと、1つには侵害物品が特許発明の技術的範囲に属するかどうかというふうな、ある種技術的な争点もあるわけですけれども、それだけでなくて当然侵害が認定されれば、その後の損害額の決定というようなこともあるわけでして、これは全くの非技術的な事項、技術的事項とは到底言えないような事項もあるわけでございます。
 侵害の有無自体だけは技術的事項であることも多いんだろうと思うんですけれども、例えばそれを取ってみても、ライセンス契約の有効性だけが争点になっているというのも当然あるわけです。これはもう純粋に契約法の問題であって技術的な事項ではないので、調査官が貢献の余地もないし、使われる余地もないということだろうと思います。
 他方、キルビー判決で出た権利濫用の抗弁、これは無効理由が存在することが明らかかどうかということでございますが、これはある種無効審判と共通するところもございまして、ほぼ純粋な技術的事項というのがかなり含まれているんだろうと思います。
 このように、侵害訴訟では技術的論点、法的論点、事実問題、あるいは法的問題という形で、いろんな多岐にわたる争点があるわけですから、自然と調査官の関与というのは争点全体のうちの一部というふうなことになる傾向が強いんじゃないかというふうな実態がございます。
 こういうふうな訴訟類型による相違があるということを明確に意識した上で、今後調査官に求められる役割というものを検討する必要があるんじゃないかと思います。
 それから、今、実態のことを申し上げましたけれども、先ほどのレジュメの中で民事訴訟から受ける制約というのがございましたけれども、行政訴訟で考えると若干職権色があるわけですから、その点でも多分役割の違いというのが少し出てくるんではないかという感じがいたします。
 こういった形で、どの訴訟において調査官の役割を論じているのかというのを明確に意識した上で議論しないと、多分議論がこんがらがってくるのではないかという気がいたします。
 同じ理由から、議論するには、現在訴訟類型ごとの業務実態に共通する部分と相違する部分、これらが全体としてカバーされるような形で検討していかないといけないのかなと思います。確かにいろんな御指摘点、ユーザーの方からもありまして、現在の調査官制度というのが改善の余地が仮にあるとしても、他方でそれがうまく機能している部分があるというのも事実だろうと思いますから、現実に行っている業務というのがカバーできるような制度というのを考えていく必要があるだろうというふうに考えております。それが第1点でございます。
 第2点としましては、これは今回の議論全体に関係することでございますけれども、調査官というのをどういう立場の人と位置づけるのかという基本的な整理がまず必要ではないかというふうに考えております。
 この訴訟の専門家関与の話につきましては、事務局ペーパーでも後段のところで触れられていますけれども、専門委員制度というのがかたや民訴法の改正で実現しつつあるわけでございます。他方で、IP分野だけを見ますと、現在調査官制度というのが現実に動いているわけでございます。
 それから、制度ユーザーのヒアリングでも指摘された、いわゆる技術裁判官というアイデアもあるわけでして、これはただ今回の議論対象ではないので、特段触れることはいたしませんけれども、少なくともそういった3つぐらいの制度についてのアイデアが出されている。1つはもう既に動いている、1つはこれから動き出すかもしれない状態だということでございますから、それぞれの制度、あるいは制度案の中で、その専門家というのがどういうふうな立場の人だというふうに位置づけられているのかという基本的な性格とか区別、それを検討する必要があるんじゃないかというふうに考えております。
 事務局ペーパーを見ますと、調査官の業務範囲とか権限について、いろいろな選択肢が並べられて、論ずるようになっているのですが、そもそも専門家という人が、どういった立場の人かということが決まらないと、単に選択肢の中からメリット・デメリットだけで選ぶというのでは処理がつかないのではないかという感じがいたします。
 仮に専門委員と同じような立場の人だというふうに現行の調査官を位置づけるんだとしたら、これは二重の制度をつくるだけですから全く意味がないというふうに考えますし、むしろ異なる立場の人だというふうに位置づけて、一方がカバーできない業務範囲を他方がカバーするというのであれば、検討の意味があるんだろうと思いますけれども、そういったことも含めてどういう位置づけにするのかというのを考える必要があると思います。
 当面、現時点で私どもの考え方といたしましては、これは理解が間違っていれば御指摘いただきたいんですけれども、今、考えられている専門委員制度は、釈明処分のための鑑定というのがうまく機能しない実態を踏まえて、それを改善したものだというふうに、もともとの法制審議会での議論の出発点はそこではなかったのかもしれないんですけれども、中間要綱試案とか、あるいは最終答申を見る限りは、そのように理解できるわけでございます。
 したがいまして、専門委員というのは、裁判所の内部機構ではなくて、むしろ裁判体から離れたところに立っている人だというふうなことだと思います。そして、その専門訴訟で裁判官が争点整理などに困難を感じることが当然あるわけですから、その業務遂行を容易にするという観点から、専門委員に中立的な立場から専門的知見に基づく鑑定的な意見を述べさせると。あるいは、当事者とのやり取りを行わせたりすると。そうしたやり取りを判断材料として、裁判官が使って争点整理等々の訴訟の業務を行えるようにするというふうな組立てになっているのが専門委員制度で、今、考えられている専門委員制度ではないかというふうに考えております。
 これに対しまして、では調査官は何かということなんですけれども、これは現在の裁判所法の解釈でもそうなっていると思いますけれども、最初の内部補助機構だというふうに位置づけられていると思います。
 要は、裁判官の手足というふうな言い方があるわけですけれども、裁判官の手足のように裁判体と事実上一体になって、裁判所の業務遂行を補助するという立場の人だというふうに位置づけられているというふうに理解をしております。
 要するに、専門委員は裁判体の外部にいる鑑定人的なものであって、それに対して調査官は裁判所の内部で裁判体と一体になって働く裁判官補助者であるというふうな位置づけなんだろうと思います。
 仮にこういう切り分けがもし可能であるとすれば、それを前提としますと調査官の業務範囲とか権限というのはある程度自然に定まっていく部分があるんじゃないかと思います。
 例えば、これはまた後の議論で、結論を先取りするつもりはございませんけれども、裁判体と事実上一体となって働く調査官が、その裁判長の許可を得て発問とか求釈明をするのはあり得るような気がするんです。
 他方で意見陳述というふうなことがこのペーパーでも後で議論されるようですけれども、意見陳述をそういった立場の人が行うというのはどういうことかというふうに考えますと、裁判体と一体になって動いている人が意見陳述をする。それは裁判官が意見陳述をするというような感じもいたしまして、何かおかしな整理になるんじゃないかというような気もするわけで、ですからどういう業務の役割を期待するかという点については、調査官は一体どういう立場の人なのかというのをまず決めなければならないのではないかという感じがいたします。
 以上、1点目は訴訟類型による違いというのを明確に意識して、しかも今の実態を踏まえた上で検討すべしという点と、2点目としまして、調査官をどのような立場の人だというふうに、専門委員とかとの関係で、どういう立場の人だということを明確に整理をした上で議論をしないと、こんがらがるのではないかという2点をコメントさせていただきます。

○伊藤座長 御指摘有り難うございました。今の小林委員の御発言、それぞれの具体的な論点について議論をする際に、それを踏まえて皆さん御議論をいただければと存じます。
 そこで、まず知的財産訴訟において、調査官が裁判官をサポートすることの意味、今の小林委員の御発言にもあった問題でございますが、それと裁判所調査官の権限拡大について御検討いただきたいと思います。
 事務局から、資料1の8ページから13ページ辺りについての説明をお願いします。

○近藤参事官 資料1の8ページを御覧ください。「知的財産関連訴訟において調査官を裁判官をサポートすることの意味」について御説明いたします。
 まず、調査官の権限拡大等の検討の前提となると言われましたので、ここで知的財産関連訴訟において、調査官が裁判官をサポートすることの意味という節を設けさせていただきました。
 現行の裁判所調査官制度の趣旨について、昭和41年、第51回国会において、この種の事件の審理及び裁判の適正迅速化を図るためと説明されており、これについては臨時司法制度調査会意見書において、専門的・技術的な知識を有する者が裁判官の命を受けて、必要な調査に当たり、裁判官の判断の資料を提供することが、裁判官の負担を軽減し、事件の能率的な処理を図る上において有効・適切な方策であると考えられるとされています。
 この趣旨を踏まえて、知的財産関連訴訟において調査官が裁判官をサポートすることの意味について、幾つかの観点でお尋ねしています。
 具体的には、4点でございまして、1番目として、侵害訴訟は民事訴訟であり、当事者主義の審理構造を取る訴訟手続であるところ、この中で、主張・証拠の提出は当事者の責任においてなされるのであるから、専門的知見は当事者の側から訴訟に提出するのが原則であるということに対して、調査官制度との関係をどのように考えるか。
 2番目として、知的財産訴訟において調査官による調査は、どのように位置づけられるべきか。
 3番目として、知的財産訴訟において調査官による報告は、どのように位置づけられるべきか。
 4番目として、1ないし3の位置づけにより、調査官の裁判への関与の範囲、限界が、どのように画されると考えるべきか。特に裁判官が裁判をすることとの関係をどのように考えるべきかという、根本的と思われる4つの観点を挙げております。
 次に、裁判所調査官の権限拡大について御説明します。9ページから10ページにかけて、調査官の権限に関する産業界等の意見を掲載していますが、ほとんどが調査官等の専門家の権限を拡大すべきであるという意見です。
 まず、10ページの(2)には、裁判官以外の者に対して、期日への立会いや、意見陳述を認めている現行制度を挙げています。その現行制度としては、家庭裁判所調査官、司法委員、調停委員、参与員、この4つでありますが、家庭裁判所調査官については、少年審判及び家事審判のいずれにおいても、審判の期日に出席し、所定の条件の下で意見を述べることができるようになっています。
 司法委員については、和解の試みの補助や、審理の立会いと意見の陳述、証人への問いを発することが認められております。
 調停委員については、専門的な知識・経験に基づく意見を述べたり、事件の関係人から意見聴取を行うことができるとされております。
 参与員については、立会いや意見陳述が認められています。
 そこで、3の検討の方向性ですが、産業界等からの権限を拡大すべきとのニーズと現状から、調査官の権限拡大を行うことについての必要性・妥当性についてどう考えるかをお聞きしています。
 例えば、主張・証拠の提出は、当事者の責任においてなされるとする、当事者主義の審理構造との関係、裁判官の専権事項との関係等についてどう考えるか。
 また、現状でも「裁判所調査官の調査は、事件そのものに対する判断まで含むものでなく、判断そのものが、裁判官の職務であることは、いうまでもないが、例えば、一定の判例又は学説等を具体的な事例に適用した場合、論理的にいかなる結論となるべきかの関連を整理、指摘することは、調査の範囲に含まれるものといえよう。」と解されていることとの関係についてどのように考えるかを聞いております。
 これらの検討を踏まえて、具体的方策としては、11ページの4を御覧ください。11ページの4に①、②、①の中に3つの○を掲げて、案を示しております。なお、枠囲いの中にも書いておりますように、裁判官をサポートする訴訟手続への新たな参加制度としての、裁判所調査官の権限拡大については、上記に列挙した権限以上に更に拡大すべきという意見があり得るところです。
 これについては、4月に予定しております、第7回知的財産検討会において、知的財産訴訟の在り方の議論の中で検討することとし、ここでは検討を留保することとさせていただきたいと思います。今、小林委員から御指摘のあった具体的な技術裁判官ということについては、4月に議論したいということです。
 次に、5では上記具体的方策の検討を行うに当たって、次のような観点を挙げています。まずアでは、方策案について現在事実上一部の裁判体で当事者の同意の下に実施されているものを、一定の要件の下で法律上の根拠を与えて、専門家の権限をより明確にしたものであり、産業界から提言されているように、裁判所の専門訴訟対応能力の強化に資するというメリットがあるとしております。
 またイでは、具体的方策案で挙げた各権限の当否についてお尋ねしております。
 またウでは、仮に権限拡大が認められた場合に、その範囲がどのようなものかを各権限ごとに示しています。
 例えば、①では、裁判官に対する専門的知見に基づく意見陳述の範囲について、上記イのaの権限拡大が認められた場合、その範囲はaの特許発明、被告製品、先行技術等を理解する上で前提となる技術的事項に限られるのか。
 bの被告製品等の技術内容や特許発明の技術的範囲の認定に及ぶのか。
 cの被告製品等と特許発明の技術的範囲との対比に及ぶのか。
 dの特許無効の理由の有無の判断に及ぶのか。
 eの関連事項全般に及ぶのか。
 という5つの考え方を提示しております。
 また、②、③、④として、当事者に対する求釈明。当事者、証人及び鑑定人に対する発問、裁判の評議に対する参考意見についても、①と同様に、a、b、c、d、eの5つの考え方を挙げて、権限拡大の具体的な範囲がどうあるべきかについてお尋ねしております。
 以上です。

○伊藤座長 それでは、議論していただく順序として、ただいま近藤さんが言われた11ページの4の具体的方策案に入る前までのところ、つまり調査官が裁判官をサポートすることの意味、それから裁判所調査官の権限拡大のそもそもの是非、すべきかどうかという辺りについて、特に当事者主義を取っている民事訴訟の審理構造と調査官の制度をどう考えるかとか、現行の調査官の権限を拡大すべきか否かということ、言わば基本的な問題につきまして、まず御議論を頂きたいと思います。
 どなたからでも、どうぞ荒井委員。

○荒井委員 質問ですが、8ページの一番下の「①侵害訴訟は民事訴訟であり」という、一番最初の書き出しがこうなっているんですが、今も小林委員が言ったように、例えば東京高裁の審決取消訴訟なるものは別のこととして言っているんですか。要するに、全体の争いごとの中には両方が、非常に知的財産関連訴訟として大きな問題になっていますね。特に特許になるかどうかの判断、東京高裁での技術的判断がいいかどうかという議論もあるわけですね。それから、地裁でやってスタートして、地裁から高裁にいくものも、もちろんあるわけですが、そっちの方はどこに書いてあるんですか。

○近藤参事官 そこのところも一緒に議論しなければいけないことであるというふうに思いますので、ここのところでは侵害訴訟を念頭に置いてこういうふうに書かれていますけれども、一緒に議論していただければというふうに思います。高裁の調査官のことについてですね。

○荒井委員 だから、今日は地裁の議論をするだけじゃなくて、高裁の議論もするという理解なんですか。

○近藤参事官 はい、両方やっていただければと思います。

○荒井委員 そうだとすると、さっきの飯村先生の意見は非常に参考にはなったんですけれども、あれは地裁のケースで、高裁のも教えてもらうと本当に参考になりますけれども、実態が、調査官というのは高裁ではどういう機能を果たしているかとか。

○近藤参事官 高裁の関係で、飯村委員の方から知り得るところについて何か紹介をしていただければ有り難いと思うんですが、事務局の方として、調査官の今までの職務の内容について報告されている論文等は、それほど多くはないんですが、その中では地裁と高裁の調査官の職務の在り方については、基本的に同じであるという紹介をされているのではないかと思います。私の知っている限りではそういう紹介をされております。
 ただ、小林委員が御紹介になったように、争点としてどういう事件の中のポーションとしてどの程度の関与の仕方をしているのかとか、その関与の在り方をまさに特許庁の審判制度と同じような形のものが再度高裁で争いになっていることなので、そこのところの事件の関与の度合いというか、その辺のところについてはやはり小林委員が御指摘になったような違いというのは、なくはないのかなというふうに、先ほど伺っていて思ったんですが。少しその実態というのは、事務局の方でも余りよく分からないところでございます。

○伊藤座長 もし飯村委員、何か今の段階で御発言いただくことがありましたら、お願いします。

○飯村委員 私が、正確に、説明できるのは地裁で、しかも、東京地裁のよその部や大阪地裁の実情については、正確に、責任を持って話すことはできません。結局、私自身が直接認識して、責任を持って話せるのは、自分の事柄だけです。多分、同じように進めていますし、あるいは、説明が印刷媒体になって書かれていることも含めると、ほかの地裁も同じように進められているだろうと思っております。
 高裁に関しては、説明に誤りがあるとまずいので、もし説明するのであれば正確な情報を得た上で、改めて御説明したいと思います。
 ただし、先ほど御指摘になった行政訴訟だから当事者主義が後退しているというのは、実態は、そうではないと思います。現代型の行政事件は、典型的な行政事件である一般の処分取消訴訟もそうだし、東京高裁が行う審決取消訴訟もそうですけれども、実態は、当事者主義的な進行そのものだと思います。

○伊藤座長 それでは、どうでしょうか、今日の段階では、現在私どもの前にある情報を前提にして議論をしていただくと、その上でなお何か必要があるということであれば、また考えてもらうことはないわけではないと思いますが、一応今まで御説明いただいたり、お話をしていただいたことを前提に、ただいま申し上げましたような調査官が裁判官をサポートすることの意味と権限拡大との関係についての御意見をいただければと思います。

○村木日本弁理士会知的財産制度改革推進会議副議長 外からよろしいでしょうか。弁理士から、現在東京高裁の調査官に1人なっていますが、お仕事を伺うとやりがいがあるような感じです。
 東京地裁の侵害訴訟の場での調査官の方の仕事の内容を、今日初めて我々も知りました。現在、1人の弁理士が地裁の調査官になろうとしています。具体的には分かりませんが、先ほど飯村委員が調査官は第1回の期日だけ出てあとは出ないというふうにおっしゃっておりましたけれども、これは時間の都合のようにも伺えました。侵害訴訟の場での調査官というのは、その後期日に出頭することによってかえってマイナスになるのかなというふうにも受け取れるので、今日は侵害訴訟の方に絞っていただいてやっていただき、審決取消訴訟の場合は資料の出たところでもう一回どこかの場で検討していただきたいというふうに思います。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。いかがでしょうか、総論的な問題、考え方について。どうぞ、阿部委員。

○阿部委員 私の侵害訴訟、幾つか経験した中で一番時間がかかっているのは、当業界の技術用語の理解、あるいはそれをどういうふうに理解するのが一般的なのかということについて、何かみんな分かったような感じで訴訟が始まっているんだけれども、最後の最後でそもそも合金反応というのは何かというところで、全然違うことを言い出して話がおかしくなるということがあるんです。
 私は、そういうのを聞いていると、調査官というのがいながら、例えば冶金の中での1つの技術常識みたいなものを、どこまで理解されて本当におったのかな。そういうことについて、調査官が聞かれたことだけに答えているんで、この事件全体からしてここのこういう反応が非常に重要なんだというようなことについて、積極的に関与していけば、同じことというか、また元へ戻って、御破算で願いましてはみたいな議論になるようなことはなくなるんじゃないかというふうにいつも感じております。
 これは冶金だけだと思っていたんですけれども、昔数年前まではうちは半導体の事業もやっていまして、そういう半導体に関する理解についても、当業界の常識であるものを、裁判官が最後に判決で言われたときに初めてこの技術をどういうふうに理解していたかというのが分かったというのがあるんですけれども、そこは何とかしてほしいという気がするんですけれども。

○伊藤座長 今の阿部委員のお話は、先ほどの御質問と関係をして、調査官から場合によっては積極的に、一番この当該紛争に関しての重要な専門的知見はこれだとか、その内容はこうだとか、この点について考えないといけないとか、そういう意見と言いますか、それを述べるというようなことですか。

○阿部委員 はい、それを述べるというのと、やはり述べなければいけないなというのは、いろんなところに立ち会っていて、状況を理解していたときにそういうことがよく分かってくるんじゃないかというふうに思います。できたら当事者側からも調査官にこういうことを御説明されたらとか、ちょっと手を挙げて言ってしまいそうになったことが何回かあったんですけれども。

○伊藤座長 いかがでしょうか、そういう意味での調査官の役割、権限の強化・拡大ということに、短く言えばそういうことになるのかもしれませんが。どうぞ、飯村委員。

○飯村委員 問題の所在と解決方法が定まらないのでありますし、制度の議論をしておりまして、それとちょっと別かも知れませんが、裁判所の訴訟指揮に対する御意見であれば、早速やってみます。現行法でも権限の範囲内だと思っていますので、いろいろな工夫をしてその結果の検討は是非必要だと思っております。

○伊藤座長 どうぞ。

○近藤参事官 先ほどの高裁は別にした方がいいんではないかというような御意見があったんですが、石井良夫さんという方が調査官の仕事ということで書かれている文献では、侵害裁判でイ号として表現された侵害品若しくは侵害方法が、本件発明の構造を充足するか否かが問題となる点では違いがありますが、判断手法は特許庁における新規性の判断と基本的には同じですというような形で、基本的に高裁の判断手法と地裁の判断手法というのはそれほど変わるものではないですよということを書かれている方もいらっしゃいまして、特殊性はあるかもしれないので、その特殊性についてはまた再度いろんなことで議論をしていただきたいと思うんですが、法制度としての調査官の役割というのは、裁判所法で同じような形のものとなっていますので、今回の議論は地裁に限ってだけを議論して、高裁についてはまた違った形でということではなくて、一応制度としては高裁・地裁のものを踏まえた形で議論をしていただいて、これがなるべく高裁の特殊性なり何なりをこの検討会でまた御紹介をしたいと思いますので、両方を踏まえた形で、先ほど小林委員が御指摘になったように、ちょっと違った観点があり得るんではないかということは、それはそれとして、それを前提にして議論していただければと思っております。

○伊藤座長 どうぞ、荒井委員。

○荒井委員 その関係で少し申し上げたいのは、多分法律の仕組みだけから見れば、裁判官と調査官の関係は、抽象的にはそうなると思いますけれども、ただ実際に民間の方というか、技術者サイド、被告サイド、あるいは実際にそういうことで訴えた方の立場から見て、高裁に行って技術的なことが9割ぐらいもめていると理解するか、あるいは地裁で侵害しているときには6割ぐらいと見るかによって、どれぐらい裁判官が技術を分かっていてくれるということの意味合いが違うんだろうと、実態的にかなりそれによって違う。だから、そういうことで裁判官がきちっと今お話ありましたような侵害のときにももうちょっと技術の問題を分かった上で判断してほしいと。建前は裁判官は全知全能、それはみんな分かっているということになるだろうけれども、だけど本当に分かっていて侵害訴訟をやってくれた場合とで、ちょっと納得の度合いが違うと。
 同じように、高裁の場合にはもっと納得の度合いが違うんじゃないかという意味で、建前は地裁も高裁も調査官制度は同じですということに、多分なってしまうと思うんですが、ただ実際の当事者の立場からして、いい判決をしてほしいという立場からすると、彼らが納得できる形をみんなでつくらないといかぬと思いますので、そういう実態的に見たときに期待される調査官の役割、あるいは裁判官に対してどんな形でサポートしていったらいいかということが、ちょっと違ってもいいんじゃないかということで述べさせていただきました。

○伊藤座長 阿部委員からは、先ほど申しましたように、調査官の権限を拡大・強化すべきだというような意見があり、また資料にもありますように産業界の意見としてはそういう御意見が多いようですけれども、それに対して調査官の権限を拡大するべきではないというような方向での御意見というのはありますか。そういうことは民事訴訟、あるいは行政訴訟も含めて問題であると。そういう方向での議論は問題があるのではないかというような御意見はあるでしょうか。
 もしそういうことは一切するべきではないということでなければ、何らかの意味での強化・拡大ということが必要であるいうことであれば、具体的には資料1の11ページの4)にあります、具体的な方策案について議論をしていただくのがよろしいかと思いますが。
 小林委員、どうぞ。

○小林委員 具体的方策案に入る前に、その直前に書かれている問いでございますが、裁判所法の逐条解説かと思いますが、当然裁判所調査官の調査は事件そのものに対する判断まで含むものではなく、判断そのものは裁判官の職務であることは言うまでもないが、例えば一定の判例又は学説等を具体的な事件に適用した場合、論理的にいかなる適用が行われるべきかの関連を整理・指摘することは、調査内容に含まれるものと言えようということで、現状こういうふうな整理がされているんだろうと思いますが、例えば今回見せていただきました資料のサンプルでございますが、そのDとか、あるいはE-1、E-2でしょうか、そういったカテゴリーの報告書というのは、ここに該当するといいますか、こういったものは当然に今までもこの逐条解説の考え方からいけば、報告書という形で位置づけられているというふうに理解をしてよろしいんでしょうか。
 これは、ただの質問といいますか、確認なんですけれども。
 先ほどのDとかEのサンプルがございますけれども、そういった類型のものが報告書の形で地裁では出ていて、高裁ではまた別の形だと思いますけれども、こういったものがこの事務局の方のペーパーで言いますと、この11ページの上の部分でしょうか。上の部分のまた以降のところで説明されているような解釈に基づく裁判所調査官の位置づけということで読めているというふうな理解でよろしいんでしょうか。

○阿部委員 済みません。それに付け加えて、この調査報告書というのは、裁判官の求めに応じて出されたものか、それとは関係なく調査官が出されたものであるのか、その点をちょっと併せて。

○伊藤座長 そこは、飯村委員、お願いします。

○飯村委員 小林委員からの質問は、私が答えるのがよろしいでしょうか。

○近藤参事官 それでは、まず私から答えますと。この調査報告資料のサンプルというのは、今日我々も見せてもらったわけで、これ自体がどういう運用をしているのかということ自体も、事務局の方でも把握をしているわけではなかったので、それについてどうこう言えるという立場ではございません。
 ただ、御指摘のように裁判所法の逐条解説の中で、今まで調査官というのは何ができるかというのは、事務局の資料にあるような形のものができますというふうに書いてあります。その限度で御理解いただければと思います。

○伊藤座長 飯村委員、お願いします。

○飯村委員 調査報告書は事件すべてについて当然出されるということではなく、事件の必要に応じて出してもらうというか、報告してもらうというものでございます。調査報告書の報告事項、それから報告内容、報告の形式、そういうものについて一切マニュアルはありませんので、適宜裁判官の個別の事件についてのリクエストに応じて、それを説明する事項の難易度とか、そういうものとの関係で報告の内容、形式が決まるものでございます。
 たまたまその結果がこういうものもあるし、別の形のものもあるということで、いろいろなサンプルをご説明したということでございます。
 それから、逐条解説の中の説明と我々の理解との関係についてですが、基本的には裁判官が自分が判断するということで、それ以上に、報告のとおりに考えないといけないとか、そういう話ではないので、意見を記載してもらって何ら差し支えはないだろうというような感じを持っております。報告書に、裁判に対する判断とか、技術的範囲の解釈についての判断とかが書かれていても、それが何か問題になるというような意識は持っておりません。

○伊藤座長 阿部委員よろしいですか。

○阿部委員 こういうテーマについて、報告書を出してくださいというような感じで調査官に依頼されるのでしょうか。それともこの事件一般について、あなたはどう思いますかというふうな感じてなされるんでしょうか。

○飯村委員 私自身の答えでよろしいでしょうか。

○阿部委員 はい。

○飯村委員 私自身は、紛争解決に必要最小限度の審理を図るためにできる限り、争点を絞り込んだり、あるいは争点の重要度に軽重をつけて、判断したいと思っております。自分自身の心配ごと、合議体の場合裁判官3人が、一番心配をしているところを、調査官に説明して、そこについての報告を求めます。
 ただ、究極的な目的は、間違いのない判断を実現することですから、調査官の目から、間違いやすいだろうと思われる注意点については、できる限り指摘していただいた方がいいと思っていますので、そういうことからしてリクエストだけではなく、別の観点で何か意見があれば、そういうものも報告してくださいということで依頼するというようなイメージです。

○阿部委員 分かりました。

○伊藤座長 どうぞ、櫻井委員。

○櫻井委員 今の一般論ですけれども、基本的には裁判官をなぜサポートする人間が必要なのかというと、決定の判断について専門的な話が出てきたときに、当事者が言っていることが分からないと困るというのが基本ですね。だから、言われていることの意味をちゃんと翻訳して、わかりやすい言葉で説明してくれる人として存在しているんだと思うんです。
 そのときによく分かるようにするというときに、調査官がある程度積極的に活動しますと、判断資料が豊富になりますから、そういう意味では理解ができるということはあるとは思うんです。
 ただ、よく分からないのは、今の裁判所調査官の権限を拡大しましょうという話にはなっているんですが、実際にどういう弊害が具体的にあって、それから飯村委員にお伺いしたいと思うんですけれども、実際に現時点でどのぐらい不自由を感じておられるのかというところが、今一つ実感として分からないんですけれども。

○伊藤座長 弊害と言うか、先ほど阿部委員がおっしゃったことも、その問題点の1つだというふうに、少なくとも阿部委員が受け止めておられるんではないでしょうか。

○阿部委員 同じことですけれども、ある一定の当業界の技術常識というのがあって、その常識の上に立って、その争いをしているというときに、その常識を覆すようなことをいろいろ言い出しているときに、全くそれに対して訴訟指揮がないとか、そこについて新たにまた議論が始まるとか、そういうふうになっているところがかなり見られて、それが時間と費用の無駄使いにつながっているんではないかと。

○櫻井委員 それは、当事者としての説明不足ですかね。

○阿部委員 我々が見ていると、そこのレベルまで裁判官の知識が上がっていれば、そこはうまく裁いてくれるはずであるというふうに思われるんですけれども。

○櫻井委員 こんなことも分かっていなかったのかという感じなんですね。

○安部委員 そうですね。

○櫻井委員 もう一つ、今の阿部委員の御意見でふと思ったのは、確かに当事者として何か言うときに、直接裁判官に言うよりは、いつも調査官がそばにいてくれれば、その人に言って、分かるように言ってくださいと言いたくなる気持ちというのは割とあるなという気がして、単に調査官の権限を拡大という積極的な意味の拡大だけではなくて、意見を受け止めてくれるような存在としてもいたらいいかなという印象は持ちましたね。

○阿部委員 だから、こちらの弁護士が我々の水準と言うか、技術屋レベルの常識レベルまで持っていれば、そういうことをきちんと裁判官に説明できるんでしょうけれども、今はそういう技術弁護士がいませんから、たまたま個人的に得意だという人はいるかもしれませんけれども、したがって、調査官を通訳にと言うか、うまく説明すれば、裁判官にうまく伝わるはずだし、あるいは我々訴訟を受けている側から見ると、ここら辺が理解が行き届いていないんだけれども、その辺はちゃんと理解しているのかということを、調査官を経由して裁判官に確認したりとか、いきなり裁判官に確認すると、その確認行為だけでまた時間がかかって、要するに通じない言葉でお互いに会話をしなければならぬということになる。そこにもう少し機能を発揮してもらいたいということでございます。

○伊藤座長 ちょっと、荒井委員、休憩を取りますが、どうしますか、その前に御発言なさいますか。

○荒井委員 ちょっとだけ今の関係で、私もいろんな方に聞いて歩いて、多分不満は2種類あって、裁判官が分かってくれないという部分と、あえて言えば、判断のときに分かっただけでは不十分なので、次に適正な判断、技術的なこともしてくれないという2段階持っているんです。
 ところが、今まではあえて裁判官が分かっていないところだけ言うんだけれども、しかし単にやっと分かりましたというんでは、それで十分な判断をしてくれるんですかということを本当はみんな思っているんです。ただし、そういうことは余り裁判所には言えないし、裁判官はもっと立派な人ということに、本当に立派な人なんですが、だけど本当はやっと分かったというだけでは足りませんよという部分も不満を持っています。
 だから、要するに理解をしてくれるかという部分と判断が適正かと、技術的な部分、本当は両方言わなければいけないんですが、今までは理解さえしてくれれば必ずいい判断をしてくれるはずと言っているんですが、もう一つここにあって、それがいろんな方の不満だと思います。それは私の理解です。

○伊藤座長 どうも有り難うございました。では、飯村委員お願いします。

○飯村委員 最初の現行の調査官制度で、裁判所にとって、何か不自由を感じているのかどうかという櫻井委員の質問に対しては、裁判所としては現行の制度で、不自由を感じているということはありません。
 ただ、調査官の制度は、当事者から誤解を与えやすいとか、透明性について誤解を生じやすいというような問題点があれば、それについて、現状では、運用で、そのような誤解を与えないよう配慮して進めているという状況だということをお伝えしました。
 裁判官が分かるまでに時間がかかるとか、裁判官が分からないいうことについてです。個人的な経験で恐縮ですけれども、私も当事者として7年間行った経験がありますが、裁判所が、当事者自身の考えているような判断をしなかった場合に、なぜ裁判所が分からなかったのかということを、常々考えていました。また、地裁の裁判官を経験して、地裁で判決を書いて、高裁で維持されなかった場合に、何故、分かってもられなかったかを考えたこともあります。当事者の場合は、必ず、どちらかが負けますので、ある意味で、どちらかが疑問を持つのは自然のことだと思います。ただ、そのような疑問のすべてが、裁判所側にあるものでもないと思います。
 今、我々がやっている審理の実情は、現行法で決められている調査官制度の中で、調査官の活用を図りながら、調査官と意見交換をして進めているので、確かに透明性とかそのような問題はあるかもしれないけれども、裁判官が技術が分からない、時間がかかり過ぎる、非効率だということに対しては、かなりの程度応えているのではないかと思っています。
 現状を前提として、なおかつ、当事者から裁判所に対する情報伝達ないは説明が、裁判官の基礎的な理解力がないことに帰着するというのであれば、前に申し上げたような当事者からの疑問もやむを得ないと思いますが、基本的にはないと思われますし、まだ、理解不足があるのであれば、その問題点を、引き続き先議論して、その解決策を模索していくべきだと思います。
 先ほども意見があったように、たまたま裁判官がその分野について得意であればということなんですけれども、裁判官は、そもそも事件が選べないし、当事者は裁判官を選べませんので、ありとあらゆる分野の専門家をそろえておいて、それでやらない限りは絶対に問題点の克服というのはできないということではないかと思います。しかも、客観的な資料に基づかないで、裁判官が自らの知識で判断してしまうことの問題点も生じて来るように思われます。

○伊藤座長 それでは、ここで15分ほど休憩を取りたいと思います。

(休 憩)

○伊藤座長 先ほどの議論の続きということになるかと思いますが、調査官の権限の拡大という基本的な方向について、なお御意見があるかどうか。
 それから、余り抽象的、一般的に議論してもあれですけれども、11ページの具体策方策案に書かれている幾つかの事項ですけれども、こういったことについて果たしてどうなのかという辺りについて御意見をちょうだいできれば思います。その前に近藤さん、お願いします。

○近藤参事官 産業界の方にお伺いしておきたいなと思うんですが、調査官制度というのが現にあるわけなんですけれども、その調査官制度自体が必要ではないんじゃないかということではなくて、一応調査官制度自体は必要だということを前提にして、何らかの機能アップというものを図っていくべきではないかという御意見だと理解しているんですが、そのところはそういう御意見だということでよろしいんでしょうか。

○加藤委員 産業界としては、やや大胆な言い方を申し上げますと、事実の内容を説明し、かつ判断に加えていく権限というのはもっともっと重くなってくるだろうなと考えております。
 したがって、現状の調査官制度の枠組みの中での拡大では不足ではないかという基本的な認識がございます。これは今回の協議の内容ではないと既に御説明は頂いているんですけれども、元にもありました、一回的解決、無効判断を含めてやるためには、言葉が適切であるかどうかは別として、技術判事というものが参画すべきであろうという考え方が産業界にはあると私は理解しております。
 したがって、現行の調査官の枠組みの中で広げる方向性はそうなんですけれども、更にもう一歩踏み込んだ拡大、つまり、技術判事そのものか近いといったらどうなるか分からないですが、その領域まで踏み込まないと、結局のところ本当のいい知的財産訴訟の仕組みはできないのではないかと考えているのが産業界の一般的な意味でのとらえ方だと理解しています。

○阿部委員 現実的な問題として、今の調査官にもう少し枠組みを超えて、例えば当事者の意見も聞いてくれるとか、あるいはこちらから信号を発することもできるという形で、言わば権限を拡大した形で対応していただきたいというのが当面のあれです。
 やはり人材をどこから供給するのかということを考えた場合に、当面はそういう方向でしか余り現実的な解はないんじゃないかと思います。
 技術判事ということについても、我々はそれならばそれでいいと思いますけれども、ただ、技術判事ができても、その判事そのものはそれぞれ自分の技術しか知らなくて、ほかの人の技術は多分知らない。オールマイティーな技術屋などというのは出現しない感じがしますので、そうなったとしても、やはりサポートする部分は必要なんだろうと思っています。

○伊藤座長 技術裁判官、技術判事の話はまた機会を設けてすることにいたしまして、当面、本日の段階ではここに具体的な法制があると書かれているような調査官という地位を前提にして、その権限の拡大ということについて果たしてどうなのか。その辺りもう少し個別的な御議論をいただければと思います。

○加藤委員 技術判事の話はちょっと置いておきまして、裁判所の調査官の枠組みに立ち戻ってお話し申し上げたいと思います。
 まず、私の個人的な侵害訴訟に対する経験から申し上げますと、まず特許権者としての原告の立場に立った場合について、自分たちの権利をどのように裁判所に理解していただいたかについては、私としては基本的に満足しています。間違っていなかったと思っていますし、たまたまですけれども、被告になるわけですけれども、それについても大きな問題はなかったなという、経験からはそういうことが言えると思います。
 ただ、産業界としての一般的な意味での心配は、今後も侵害訴訟の技術高度化が進むであろうという一般的な理解がございます。したがって、現行のシステムのままでは不安であるというのがごくおおざっぱにまとめた意見ではないかと思っております。
 そういった意味で裁判所調査官という枠組みを取るならば、権限拡大が必要であろうと考えるところでございます。
 そこで具体的方策案として、事務局の方から出されているベースに従って言えば、11ページの具体的方策案の枠組みの中で少なくとも①の意見陳述、釈明、発問、これについては、裁判所調査官に与えるべきではないと考えております。

○荒井委員 技術判事ができたらいいと思うんですが、そうではない場合、調査官としては①と②の両方の役割を持ったらいいんじゃないかと思います。

○伊藤座長 そういう御意見についていかがでしょうか。

○櫻井委員 技術判事という概念そのものが私にはよく分からないんですけれども、それはそれとして、産業界としては、裁判所にいろいろ問題があるというのもいいんですけれども、技術弁護士とか、弁護士関係については全然おっしゃらないんですか。
 結局のところ、調査官がちゃんとすればいいという話もそうですけれども、裁判官が分かるようにちゃんと説明すればいいわけです。これで随分解決できる部分も本当はあるんじゃないかなという気がして、かつ裁判所の方でも特に不自由を感じておられないのであれば、どのくらい、どういう具体的な弊害があるのかというのが分からない。この資料からは全然分からないので、そこら辺が抜けたまま、この辺を改革すべきだというのはちょっと乗れないかなという感じがするんです。

○伊藤座長 言わば訴訟代理人の専門的知見のレベルを高めること、これが第一番に重要なことなんじゃないかという御指摘だと思いますが、どうぞ。

○加藤委員 その点については、弁理士法改正もございまして、弁理士も、共同ではありますけれども、弁理士の訴訟代理権が認められるようになった。もちろん、一定の研修と言いますか、試験が必要ですけれども、そういった意味で、特定の分野について非常に強い弁理士を選ぶということは可能になったのではないかと考えております。
 したがって、弁護士だけに頼ることなく、弁理士の活用という面も道が開けましたので、代理人という面については、私としては、完全かどうかは別として、道が用意されてきていると考えておりますので、もし裁判ならば、今度は舞台の方の話として、裁判所の仕組みについては検討は必要ではないかと考えております。

○櫻井委員 その場合、弁護士会の方はおっしゃらないんですか。

○加藤委員 これは私個人的な意見ですが、これは司法制度改革の一貫なんですけれども、もっと弁護士枠を広げて、技術系出身の弁護士さんもどんどん出てきていただければ、産業界としては非常に有り難い。これは少しステップが弁理士の訴訟代理権付与からすれば少し時間がかかりますけれども、方向性としてはそういうことが一応用意されているのではないかと考えております。ただ、時間的には少し弁護士さんの方には遅れるのかという気はしております。

○阿部委員 弁護士の方もだんだんパテント・アトーニーみたいなのが出てくるようなインフラができつつあるだろうし、現に最近は工学部であるとか、法学部以外で弁護士さんになっている方も増えていまして、我々相談している弁護士も10人近くいますけれども、そのうちの2、3人は、応用化学であるとか、船舶工学であるとか、いろんな専門の学校を卒業した上で司法試験を受けるというような人が現にいます。
 だけれども、それとこれとはちょっと違う話じゃないかと思います。どんな大学、工学部を出ても、本事件にぴったりの人というのは、余りいないので、それはそれなりに我々は、研究者であるとか、あるいはその分野に得意な弁理士さんとか、そういうものに相談しながらやっているわけです。したがって、裁判所に対して請求する者もそうであるし、判断する裁判所の方も、そういう体制を整えておいた方がいいのではないかと思う。
 双方でそういうのを整えることによって、質の高い技術論争ができると思います。

○中山委員 調査官の権限を拡大し、明確化するというのは必要かもしれないと思います。しかし、特に産業界の意見を聞いていますと、裁判官、あるいは裁判所と言ってもいいのかもしれないですけれども、期待が大き過ぎる。これは先ほど阿部さんもおっしゃったとおり、どんなことをやったって、最先端の専門家を全部そろえるのは技術裁判官をつくろうが何しようが不可能なんです。
 世界の裁判所、特に、侵害を見ていましても、そんなのはないんです。ないというか不可能なんです。アメリカのCAFCだって、理科系がバッククグラウンドの裁判官はいますけれども、何十年前に化学を学んだ人間が、今じゃ最先端の化学が分かるかというと、分からないんです。技術的な感覚を持っている人はいるでしょうけれども、本当に難しい問題になると、これはやはり専門委員になるかどうなるか分かりませんけれども、そういうところをやるしかないと思うんです。これは弁護士だって同じだし、裁判官だって同じだし、調査官だって同じだと思うんです。
 ですから、本当は全部を裁判官にして、ちゃんと判断して、ちゃんと正確に判断するというのは不可能です。
 これは特許だけではなくて、例えば医療過誤だったら、裁判官は医療のことが分かるかとか、原子力発電所の問題などは分かるはずがないんです。また税法のデリバティブを用いた証券などはまず判らない。裁判官にはわからない難しい問題は常に存在しており、裁判所にすべてを期待することはできない。ということは、やはり当事者が弁護士なり鑑定人を使うとか何とかやって補うしかないので、これは調査官の権限を拡大しなきゃと思うんですけれども、なかなか完璧なところまではいかないと私は思います。

○加藤委員 先生のおっしゃるとおりだと思っております。ただ、できる範囲でどこまでできるかを我々は考えないといけないと思っておりますので、組合せというのも1つの解決策かなと思っています。もし、現行の裁判所調査官、あるいは私どもの希望はこれが技術判事のレベルまで上がってくれることなんですけれども、今は恐らく一般的な技術専門家という役割を負うんじゃないかと思います。
 多分事件によって非常に高度、特に特定専門的なものがあると思いますので、そのようなときに外部の専門員というものも活用されるだろうなと。先ほど小林委員の方からあった専門委員が外部機関で、調査官が内部機関、この組合せという意見がございましたけれども、基本的な枠組みとしては、私はそれでいいんだろうなと思っております。補い合う仕組みをつくっていかなければいけないと思っています。
 ただ、先ほどから完璧に裁いてくださいというところまでやるのは虫がいいと思っておりますし、我々も納得してもらう説明を果たすことは当然自覚しております。

○中山委員 専門委員でもできそうだということなんですけれども、そのとき裁判所法57条をいじくるという意見はないんですね。あれはあのままで専門委員をつくるという議論でよろしいですね。

○近藤参事官 専門委員の議論というのは、民事訴訟法の中でつくるということで、裁判所法のところを、専門委員との関係で何か改正するということではございません。

○飯村委員 法的紛争が発生した場合に、その法律的紛争を、法律を適用することによって解決するまでの道行きは、いろんなものがあるわけです。次のような考えを述べたいと思います。
 第1点です。紛争解決に時間がかかるとか、紛争解決を困難にする要素は、裁判過程で、裁判官が理解できないということが理由ではなく、それまでの業界における慣行、つまり当事者同士が行ってきた紛争解決の慣行との不一致にあると思われます。当事者は、当然に自分たちは分かるということを言われるわけですが、説明内容を客観視化して、第三者でも分かるような資料を作成するということが不十分だったことに存在するというもいえます。特許制度は、ある技術思想を独占するための制度でありますが、それは第三者に理解させられて、初めてオーソライズされるんであって、そのための準備は当然に図っていくべきだと思っているんですが、それが全然欠けていることがあると思います。
 第2点は、侵害訴訟が発生した場合に、侵害かどうかを判断する物差しですが、そこにもまた法律的ではない判断基準が存在しています。
 いろいろな問題があるんですけれども、発明性にしても、特許性にしても、侵害の有無にしても、そういうような争点をどうやってオープンな中で、正々堂々と議論して、それに答えを出していくかということについてのトレーニングができていないなというのが実感です。そこさえ解決がつけば、先ほど櫻井委員からの質問で、法律による解決、裁判官としてどうなのかという根本的な質問をされたと理解していますけれども、あとは一般論の問題なので、それは一般常識で判断して何の問題もないだろうと思います。
 結論ですが、事実認定の基礎である技術事項は、当事者の説明能力の向上ということを前提とすれば、それほど難しい事柄ではないだろうという現状認識と将来像を持っています。

○伊藤座長 この点、なかなか一回で結論が出るような問題ではありませんけれども、この問題についての検討は次回に引き継ぐことにいたしまして、少し先に進ませていただきたいと思います。
 「透明性・中立性の確保」で、資料1の13ページから18ページ辺りについて、事務局から説明をお願いします。

○近藤参事官 今、議論していただいたところが非常に専門家の関与ということで根本的な問題で、裁判がどうあるべきかということとも絡んでくる問題なので、今後、更に技術裁判官、専門委員ということと相まって議論をしていきたいと思います。
 そういう検討をする中で産業界の意見として13ページに挙げてありますように、今の調査官の活動というのは、透明性・中立性という面で問題があるんではないかという御指摘が多々ありましたので、その観点の問題としてまとめたものが14ページ以降に書かれているところでございます。
 ここで議論するときに気をつけなければいけないところとしては、3つの側面がありまして、透明性・中立性の観点から調査官はどうあるべきかという、除斥、忌避、回避の問題とか、自己の専門性についてどう開示していくのかという問題。
 2番目に、調査官の調査はどうあるべきか。調査官の調査範囲について、何らかの制限を設けていくべきかどうかという問題。
 あと、報告はどうあるべきかという問題。その報告の仕方として、14ページから15ページの枠内で書かせていただいていますが、口頭で期日でやるのかどうか。書面の場合に当事者に反論させるのかどうか。書面の場合にどういう形で、例えば判決の理由中で要旨を掲げればいいのかどうかということについて、A案からF案まで示させていただいております。そのときにいろいろ注意しなければいけない問題として、開示の方向性というのは非常に出されているんですが、そのときの反対の方向の問題としては、そういう開示することによって争点が拡大したり、遅延したりしないかどうかということについても目配りをしなければいけないんではないか。
 それから、先ほど小林委員から御指摘がありましたように、内と外という考え方に、内の問題として考えた場合には、それが評議を漏らすということにつながっていかないかどうかということについても考えていただければというふうな形でいろいろな案を示させていただいております。主には14ページから15ページに書いてあります具体的方策案について、①から③について御議論いただければと思います。

○伊藤座長 今、近藤さんからの発言にもありましたが、14ページの「3)具体的方策案」①から③、かなりいろいろな形での考えられる透明化の方策が挙げられておりますが、こういったことを中心に御意見をお願いできればと存じます。

○櫻井委員 議論の前提として、透明性と中立性の定義を教えていただきたいんです。

○近藤参事官 透明性というのは、調査官がどういう形のことをやっているのか、当事者から見えるか見えないかということが前提になって調査官をどうするかということです。中立性というのは、例えば具体例として、審決取消などを調査官がサポートする場合に、特許庁出身の人でいいのかどうかとか、そんなことを念頭に置いてここでは議論をしていただければと思っております。

○櫻井委員 現行制度では裁判官は透明性があるという前提ですか。

○近藤参事官 裁判官は一応現行制度では透明性はあるんではないかと思っているんですが。

○伊藤座長 例えば①の透明性・中立性両方に係るものです。除斥、忌避、回避、このとき中立性の話だと思いますが、B案、C案というのは、透明性にも関係してくると思いますけれども、この辺りいかがでしょうか。

○中山委員 その前提として、調査官というのは、部につくのか、事件ごとに分けるのか、どういうふうな組合せになっているのか、そこが分からないと透明性というのがよく分からないんですけれども。

○伊藤座長 これは飯村さんにお願いできますか。

○飯村委員 まず、裁判官の話からします。東京地裁だけの例で申し上げますけれども、裁判部への配点は、事務分配規程に基づいて部が決められます。部の中の裁判体も、規程と部内の規程に従って配置され、主任裁判官が決まります。裁判官は一切事件を選ばないシステムになっています。
 次に、調査官に関してですが、現在、東京地裁に、調査官は7名おりまして、電気・機械・化学、3部門に分かれております。事件をだれに配置するかは、その中の調査官の1人にお願いしまして、その方が事件の難しさとか、専門分野とか、そういうものを見ながら適宜配点しています。その中でも化学分野と機械分野と相互にまたがるものについては、2人にお願いしたりとか、そういうのは適宜の工夫や調整をしております。

○中山委員 ある事件に調査官が張り付いたらずっとやるわけですか。それとも問題点に応じて変えていくとか、そういうことはないんですか。

○飯村委員 事件が成長していて、専門分野が変われば、当然ほかの方に相談するということもあり得るでしょうし、その辺、担当分野がはっきりしないということもございます。

○伊藤座長 よろしいですか。

○近藤参事官 今、中山委員の御質問からすると、現行ではその事件について、当事者から見たらどの調査官が担当しているのかというのは分からないシステムになっているということが前提ということでよろしいんだと思います。

○伊藤座長 この①のA案、B案というのはそれを明らかにするという前提に立って、かつこういった除斥の制度や専門性の開示という制度にするという考え方ですね。

○荒井委員 質問なんですけれども、さっきのお話だと、初回のときだけ立ち会うというお話じゃないですか、そのときにはその調査官はいるんですか。

○飯村委員 当事者の出された主張と証拠は、当事者の協力を得て、調査官の分までコピーを頂いております。調査官がそのコピーに基づいて見るという形式で進めます。

○荒井委員 初回も。

○飯村委員 初回は立ち会いますけれども、それ以外は立ち会っていない。その限度で当事者と接していないということです。

○伊藤座長 御質問は、初回に立ち会っているからだれがいるか分かるじゃないかという御質問かと思いますが。

○飯村委員 それは第1回の期日が、複数事件が同時刻に指定されているもので、どの事件で立ち会っているか、当事者からは分からないかも知れません。

○末吉委員 日本弁護士連合会の方でもいろいろ意見を集約している途中で、途中経過を報告しておきたいと思うんです。
 代理人の立場から一番調査官制度について不満と言いますか、不信は、透明性だと思うんです。今、飯村委員がおっしゃいましたけれども、第1回目は調査官が大体2人とか並んで座っておられると、どちらが担当か分からないし、今日、大変貴重な資料を見せていただきましたけれども、こういうやり取りをしているということも、当然されているということは想像されるわけですが、どういうアドバイスを受けておられるのかというのは、当事者の立場からは全く窺うことができません。
 あるいは代理人の立場から言うと、これは産業界の立場も似ているかもしれませんが、具体的な経験に基づいてどういう裁判があったか、どういう判決をもらったかということで若干考え方が違うというか、こんなことがあった、こんなことがあったということで、不満の程度とか、何に対して不満を抱いているかというのは随分違うところがございます。それは今後集約してまいりたいと思うんですけれども、現行の中間的なまとめということで申し上げますと、この調査官制度については、現在、民事訴訟法で改正作業が進んでいる専門委員の特則のような形で権限を拡大した知財専門委員制度みたいなものを提唱していきたいということになろうかと思います。
 その意味では先ほど論点になった権限の点ではかなり幅広く認めてよろしいのではないかというのが今の議論の主流でございまして、今、更に14ページ、あるいは15ページの論点につきましては、透明性・中立性につきましてはC案のような形で、いろんな組み合わせてできるだけ担保すべきではないかという意見が強いところでございまして、さらには利害関係がないというところについて一筆取ると言いますか、証明書のようなものを出させてはどうかという意見がございます。
 それから、2点目の調査官の調査については、当然調査範囲に何らかの制限がつくのではないかというところまでは集約しているんですが、具体的にどの範囲に絞っていくかというのは大変難しい問題なので、これはもう少し検討してまいりたいと思います。
 それから、調査官の報告についてなんでありますが、これもまだ意見が割れているところでありまして、A案でもいいしB案でもいいというところで、ただ、C案では困るというのか代理人の立場でございます。
 それから、③-2のところの「報告書の開示と当事者からの意見・反論の機会」とございますが、これはまだいろんな考え方がございまして、A案という考え方もあれば、C案という考え方もある。さらには場合によってはD案でもいいのではないかというところでございまして、更にこの点について意見を集約してまいりたいと思います。
 先ほど申しましたとおり、これは先ほど来、櫻井委員が御指摘されているところであって、何が一体問題なのかという点と併せて、代理人の立場で議論を整理しないとどうも論点の整理が集約できないところでございまして、ここは更に検討を進めてまいりたいと思っております。

○伊藤座長 末吉委員の御意見でちょっと確認をさせていただきたいんですが、日弁連の検討状況ということで、お考えは分かりましたが、例えば調査官が口頭の報告とか、あるいは書面による報告書で当事者に対して一定の手続によって開示をするということ以外の、開示されない形での調査官の裁判官に対する情報の供給とか、そういうことは認めないという意味での意見なんですか。

○末吉委員 認めないわけにはいかないだろうと思っています。

○伊藤座長 それでは、そういうものと並んで、今、ここに書かれているような形のしかるべき方策を考えるべきだと。そういうことですか。

○末吉委員 そういうことです。

○伊藤座長 分かりました。

○荒井委員 知財専門委員というのはどんなイメージなんですか。普通の専門委員とはかなり違ったのを今、議論中なんですか。

○末吉委員 実はこの専門委員制度と言いますか、調査官の問題について日弁連で議論していた当時は、まだ、専門委員の考え方が中間要綱の段階でございまして、先日最終的な要綱案が発表されて、実は日本弁護士連合会も民事訴訟法の改正については意見書をお出ししているんですが、その際も知財については特段の配慮をすべきだということを申しておりまして、現在、かなりまとまりつつある民訴法上の専門委員制度に更に拡張した形で専門委員制度をつくっていけば、知財の専門委員になるのではないかと。今、ここまで見えておりまして、ただ、どこをどう乗せていったらいいかというのがまだよく議論がまとまっていないという段階なんです。

○中山委員 要するに、今、考えている専門委員というのは常勤ではなくて、アドホックなものだと思うんですけれども、今まで我々が考えてきた調査官の形は常勤だと思うんで、その点についてはどうですか。

○末吉委員 そこもまだ。すみません。

○小林委員 今の点にも若干関係するんですが、冒頭申し上げたとおり、調査官制度と専門委員制度というのと明確に切り分けていく必要があると思うんですけれども、今の日弁連の方の中間的な考え方だと、専門委員制度をふくらませるわけですね。そこで今度規定されるかもしれない一般的な専門委員とは別に、知財特有の専門委員というのを考えたらいいのではないかということで、その場合において、調査官制度をそれに鞍替えするということなのか、現行の調査官を拡大して、その調査官でもっとサポートする部分というのは、それはそれでやろうとしているのかというのは相当話が違うと思っていまして、専門委員制度だけでIP特有で拡大するというのであれば、しかも調査権がないというのでは、下手をすると機能不全に陥りかねない部分があるのではないという感じがするんです。

○末吉委員 常勤の調査官制度は前提にせざるを得ないという意味でですか。

○小林委員 そうですね。

○末吉委員 常勤の専門委員のようなものもつくれば、機能不全というのは解決できるんでしょうか。

○小林委員 そういうことではなくて、位置づけに応じて、権限とか業務範囲も変わってくるのではないかという気がしているんです。専門委員の拡大バージョンであるとすると、今、考えられている専門委員は、結局、鑑定人の延長線上のようなものだと思いますから、やはり裁判体の外にいる人であって、その人が意見陳述をするということは何もおかしくないし、逆に言うと、当事者からの反論を直ちに受けるというのもおかしくはないような気がするんです。
 ところが、今の調査官はそういうような位置づけではなくて、飽くまでも黒子ですから、裁判官を補助して、裁判官に何がしかのアドバイスをする人、あるいは技術的知見を提供する人、手足になっているという人という位置づけですから、その人が意見陳述をするということがどういう意味があるのかというのがよく分からないんです。
 立会いをして、発問をしたり、究釈明をしたりするということは、裁判所の訴訟指揮の下に服する限りは、これまたおかしくないと言いますか、自然だと思っていまして、そうでないと理解が深まらないし、裁判官に対する知見の提供もできないと思いますから、それはそれであり得ると思うんですが、例えば意見陳述と書いてありますのは、それはある種専門委員の方の発想から来たものではないかという気もしています。
 もちろん、こういうふうに意見陳述の機会が必ずあると明定をすれば、今行われている口頭での報告というのも、当然明確化されてくるという副作用があるのかもしれませんけれども、それはそもそもそういうふうな規定がなくても、当然のことながら、裁判官の命を受けて報告しているのは当たり前でしょうから、その意味では何の意味もないと思います。ここで言っているのは、当事者がいるときに、その場でその当事者に対して意見を述べるということだと思いますので、およそ裁判官がそういうことをしていない以上、調査官がそういうことをしなければならないか、する必要があるのかというのはよく分からなくなるのではないかと思うんです。
 そういうふうに考えると、ある種別のニーズに基づく別の制度のことを一緒に議論しているような気がしていまして、ということで今、お聞きした次第です。

○村木日本弁理士会知的財産制度改革推進会議副議長 我々も補佐人として出たときに調査官がおられたということだけで、何をしておられるのか分からないのが実情であります。
 それから、今日の議論を実際は透明性・中立性、こちらが先で、次に権限の拡大を議論すべきで、本当は順序が逆じゃないかと思っております。透明性という場合に、一体調査官の方は何をしているのか。我々が裁判官に訴えたときに、果たしてちゃんと裁判官は分かっているんだろうか。そのときに、我々は調査官に訴える、話す機会があるんだろうか。そういうようなよく分からないというのがあります。
 そのためには、まず名前を出していただきたい。だれがどう関与しているのか。関与しているとして何をしているか。少なくともそれは規定しておく必要がある。ただ、今までやってこられたような裁判官の補佐をするというところは別に、我々はそこに異論は全然唱えているわけではなくて、より有効な補助するにはどういうふうにしたらいいか。少なくとも今よりは権限の拡大した方がいいんじゃないかと考えています。
 当事者に対して調査官が発問するということ、これは本来裁判官がすることじゃないか。裁判官に対して助言その他はするにしても、ただ、調査官が何をしたかというのは当事者が分かっている必要があろうかということで、少なくとも調査官と裁判官との間での助言、口頭あるいは書面で何かやり取りがあれば、それは当事者に開示する必要がある。そんなふうに考えています。
 ただ、鑑定人とか証人とか、かなり専門性のあるところは、ここは調査官といえども専門委員に専門性がありますので、調査官として裁判官を助ける意味で直接発問して、具体的に論点を明らかにしていく必要があると思います。。
 ただ、日本弁理士会としても最終的な意見がまとまっておりませんけれども、今のところ大体そういうふうな観点です。
 専門委員として、裁判官を助けるというスタンスと調査官とでは少し立場が違うんじゃないかと思います。

○小林委員 今、①の議論をしていると思うので、①に限ってコメントさせていただきます。
 除斥、忌避、回避の規定の案につきましては、専門委員の方でもそういうふうな議論になっていると思いますし、裁判所の書記官でもそうなっている。書記官は、当然かもしれませんが、そういうこともあり、特段こういう規定があってしかるべきだという感じは受けております。
 他方、B案の自己の専門性について開示するという案があるわけですけれども、これは特段否定するわけではないんですけれども、位置づけの整理とも関係してくるんですけれども、調査官は技術の一般的な知識を持っていて、しかも特許法関係の知識を持っていて、そういった専門的な知見から裁判官を補佐する役割と。他方、専門委員というのはもう少し特殊な専門的知見の観点から鑑定人のような形の働きをするというふうな切り分けを前提にすると、専門委員、ないしは鑑定人は自己の専門性について開示するのは当然だと思うんです。なぜかというと、その専門性だけが命であるからだと思うんです。
 他方で、これは現在の実態でもあると思いますけれども、調査官が自分の専門分野以外の事件を担当しているということはざらにあると思うんです。例えば化学の専門の調査官が機械系の事件を担当することだってざらにあると思います。ヒアリングの結果もそういうふうに出ていたんですけれども、そういったことで、なぜそれが成り立っているかというと、調査官にその特定の事件の技術専門性について鑑定人とかに求められるほどの専門性が求められていないという前提があるからだと思うんです。
 そう考えますと、調査官に自己の専門性を開示させて、何が役に立つのかという感じはいたします。もちろん、透明性が大事だというので、それは知りたいというのであれば、拒む理由はほとんどないと思いますけれども、それと氏名を開示すれば当然経歴は分かりますから、反対する趣旨ではございませんけれども、少なくともこういうところにもきちんと制度の位置づけの整理をしないと、すべてこんがらがるのではないかという例示で申し上げたわけです。

○伊藤座長 それでは、先に飯村委員からお願いします。

○飯村委員 先程来、裁判官は透明性があるのかという質問に対して透明性があるという前提で議論があって、調査官も裁判官と同じような制度的な手当があれば良いということでした。しかし、我々裁判官自身も、どんなキャリアがあって、過去にどんな仕事をして、どんな事件をやったのか、全然開示していないでやっているのです。開示することがどれだけの意味があるのか、全然理解できないんです。ただし、担当が決まって、その事件についての担当という考え方があるのであれば、あるいは少なくともこの事件に関して、こういう人が利害関係があるから、排除しなければいけないという意味で、除斥、回避の規定が整備されること自体は望ましい考えだと思います。
 私の認識では、裁判官は、訴訟事件を判断するに当たって、自己の専門でない事柄に関しては、判断を誤らないように広く意見を求めて、確認するというようなイメージです。我々は、法律事項や審理計画等についての参考意見を同僚の裁判官に聞いたり、通常事件的な発想が必要な場合には、通常の事件の裁判官に意見を聞いたりということがあります。
 調査官は、同じ裁判所で仕事をしているわけで、調査し、裁判官を補佐する権限を持ってございますので、意思疎通を図り、いろいろなことを聞いています。確かに、その性質は、文字どおりの調査ではなく、技術的な観点からの専門的な知見の開陳だと思います。
 私自身は、損害額に関しては、租税の調査官にもいろいろ聞たり、いろいろな方々の意見を参考にしながら事件を進めているというようなことがございます。
 それから、調査官自身が期日に臨まれて、それで質問したりというのは、当事者の了解がなければいけないんだと思いますけれども、裁判長は、訴訟指揮の一環として、許されるという前提で考えています。
 ですから、調査官の権限の拡大については、現行法上も、広く活用できるという認識を前提としてから、あるいは、権限に限界があれば限界があるということを前提として、その上で議論しないと、議論が混乱するのではないかという印象を持っています。

○伊藤座長 どうぞ櫻井委員。

○櫻井委員 今のお二方の意見と基本的には同じかもしれないんですけれども、大きく言うと、調査官を積極的に活用することを認めるとしても、それは飽くまでも裁判官の理解を助けるためであるという大前提があるはずで、そういう意味では、裁判官の頭の中で何が起きているのかということと同じなわけです。そういう前提で制度をつくるのだとすると、14ページ、15ページに書いてあるようなことというのは、あける必要はない。あけてしまいますと、理論的に言うとかえって矛盾するわけです。飽くまでも判断するのは裁判官ですから、先ほど15ページの③のB案を取る可能性があるんじゃないかというのをおっしゃいましたけれども、判決に報告書を添付するということはむしろあってはいけないと言いますか、影響を与えていないはずですから、参考意見にはなるけれども、直接反映はしていないとしませんと、裁判制度そのものが根本的におかしくなります。技術判事という形で、本当にそういうスペシャリストみたいな人を法廷に上げるということに踏み切ってしまえばまた別の議論があると思いますが、上げない以上、それは許されないし、上げたら制度は崩壊するということになると思うんです。
 そういう意味で何がしかの措置を取る可能性はあるかもしれませんけれども、筋としてはそういうことではないかと思います。

○阿部委員 だんだん聞いていて透明性というのは何だかよく分からなくなって、調査官自身の、どういう人であるかということの透明性を言っているような議論にも聞こえるんですけれども、我々が言っているというか、要望している透明性というのは、調査官と裁判官との間にどういう情報交換がなされているか。つまり、その調査官がどういう考えを本件について持っていて、それをどういうふうに裁判所にインプットしているのか。それをどこかで確認するというか、知り得るチャンスが欲しいということであって、先ほどの調査官の権限の問題と非常に関わってくるんで、11ページの権限のところを見ると、裁判官に対して専門的な知見に基づく意見を陳述することというふうにあるんですけれども、当事者の要望に応じて専門的知見に基づき意見を陳述するいうことが入っていないというのはちょっと気になる。それがあればこちらの方の中立性というのは、ある程度我々納得的なものになるんじゃないかというのが1つです。
 それから、ここに書いてある具体的方策の案というのは、どうもある事件に対する調査官というのが、だれか決まっているという前提で理解すれば何となく理解できるんですけれども、たくさんの事件を抱えていて、とっかえひっかえ違う調査官が出てくるといったときに、余りぴんと来ない気がするんですけれども。

○近藤参事官 先ほど11ページのところの裁判官に対する専門的な知見というところで、そのプラスαとして、当事者の要望に基づいて、裁判官に対して意見を陳述するということも付加すべきじゃないかということですか。当事者の要望に基づいて調査官が裁判官に意見を陳述すると。

○阿部委員 もっと平たく言えば、当事者の質問に答えてほしいということでもいいんです。

○近藤参事官 それは裁判官に対して、調査官というのは、当事者の要望を聞いてそれを裁判官に伝えるという役割を付加するということでしょうか。

○阿部委員 本件について、調査官はどういう考えを持っているかということを確かめたいときがあるんです。方法はどうでもいいですけれども、それが確認できる方法があるという。

○近藤参事官 趣旨としては分かりました。

○伊藤座長 本件についてというのは、もうちょっと具体的には、ある特定の事項なり、ある特定の専門的知識、事項についての専門的知見という意味ですね。

○阿部委員 そうです。

○中山委員 櫻井さんの発言と根底では通じていると思うんですけれども、調査官というのは知財の専門部だけではなくて最高裁にもありますね。最高裁はどの調査官がやったか分からないです。一応判事ではあるかもしれませんが、最高裁判事ではないし、どういう意見を具申したかも全然分からないようになっているんですけれども、それに対しては中立性とか透明性という意見はあるんですか。
 つまり、これは知財だけに特有な問題ではないはずです。知在の専門部について透明性がひつようなら、最高裁の調査官についても必要なはずです。どうして知財だけに透明性が必要なのか。裁判官がどこかで本を読んできて情報を得るのと同じだという位置づけならば透明性は要らないはずなんです。どうして知財だけが必要で、最高裁は必要ないのか、その辺が私はよく分からないんです。

○近藤参事官 いろんな意見が出ていまして、いわゆる事件をどうするかという防御をしていく内実に関わっているものについては、別にそれを公表するとかいうことではなくて、それは評議そのものであるということだと思うんです。他方で、調査官の権限をどうとらえるかということとの関係で、それを鑑定的な、1つの証拠的なものとして位置づける色合いがあり得るとした場合に、それは当事者が途中で知りたいということなのかと、今の御意見を聞いていたのですね。そこのところは調査官の権限をどういう形で落ち着けていくのかというところとの密接不可分な関係があって、そこをどちら側で、裁判官そのものの問題というふうにとらえていけば、③のところの透明性の問題というのは余り出てこないと思うんです。それが証拠方法としての鑑定と同じような側面があり得ると、専門的な知見が裁判官の方に導入を勝手にされている、どう導入をされているのか、どういう意見が言われているのかということについて、当事者としても反駁をする機会が欲しいということであって、鑑定と同じような形の側面が強調されてくると、そこについて透明性が要るという議論なのかなと伺っているんですけれども、枠組みとしてはそういうふうな議論ですか。

○阿部委員 私の感じはそういうことです。多分、1つの事件に一人の調査官がずっとついているというわけではないとしたら、そういう一つひとつの調査官の知見とか、そういうものがどういうものなのかということを確認したいということなんです。

○伊藤座長 それは当然重要なものであって、言わば訴訟の帰趨を左右するような可能性のあるものですね。

○阿部委員 そうです。

○伊藤座長 どうぞ。

○飯村委員 誤解を与えるような説明をしたのかもしれません。原則的には一つの事件に一人の調査官が関与して、期日ごとに変更するとか、ある一定の時期にローテーションで変わるということはありません。ただ、特殊な事情とか、事件の性質が変わったりしたときに、変わることがないとは言えないという点がございます。
 裁判における結論の形成過程において、調査官によって影響が出るということはあり得るわけで、それをどうやってチェックするべきかとか、その前提として、調査官由来の情報が知られてなければいけないとかという問題はあると思います。これはかなり難しい問題があると思うんですが、私自身は、判決の理由で詳しく書いて、それを読んだ当事者あるいは第三者が、その判決から理解するということ以外にはないと考えています。
 また、裁判官が、訴訟過程でどのような心証を得たか、どしてそのような結論に達したかについては、どの範囲で、当事者に説明するかという問題点に帰着するのではないかと思います。その昔は、裁判官は、訴訟進行過程の心証を一切開示しなかったし、裁判官はどの程度当事者に対して当事者の主張を理解したかということは一切伝えないで事件を進めるのが理想だと考えられていました。
 しかし、現代では、やはり、紛争解決を迅速にする目的のために、裁判所が、ある程度の考え方を示した方が、当事者のその後の行動決定に役に立つ、その事件の解決を当事者に考えてもらすという前提でいろいろと心証開示、裁判官の考え方を訴訟上で伝えるということをしているわけです。それでも、具体的な事件によっては、心証開示によって、紛争が拡大するような場合であれば伝えないとか、いろいろな問題があります。したがって、結局のところ、当事者がその時点でどれだけの立証努力をしたかということに尽きるのではないか、つまり、入念な立証努力をすれば、裁判所は理解されていると考えてよいのではないかと思っています。
 最近の裁判は、長々事件がかかるということを想定していないものですから、判決書いて、それに不服があれば、少なくとも、地裁段階では控訴審もあるし最高裁もあるということです。訴訟提起により、裁判所に対して判断を求め、裁判所は、迅速に判決書きで判断し、その当否に関して当事者の批判にさらすというのが、あるべき姿ではないかということです。

○伊藤座長 この点、大分御意見を頂きましたので、また、次の機会に引き継ぐといたしまして、続いて、専門家としてどのような者を活用すべきか。いわゆる給源の問題ですが、これにいて御意見を頂きたいと思います。この事項につきましては、権限の拡大の問題だとか、中立性・透明性の問題、その辺りが決まらなければ議論しにくいというところがありますけれども、調査官の給源について具体的なイメージを議論していただければ、そのことが元に戻って、拡大や透明性・中立性の議論の参考にもなると思いますので、少しお考えいただきたいと思いますが、資料1の18ページから20ページ辺りのところについて事務局から説明をお願いします。

○近藤参事官 今、座長から御説明があったように、この給源をどう考えるかのかということについては、権限をどう考えていくのか、位置づけをどう考えていくのかという密接不可分な関係にございますので、あり得べきものとしてAからD案ということで、法律だけではなくて、法律・技術両方というのから、技術だけというのまでいろんな切り分けがあり得るんだということでA案からD案を挙げさせていただいております。
 このときに、自分が考える調査官というイメージはこうなんだと。その場合に、こういうA案がいいだとか、B案がいいだとか、そういう関連性などについても一言説明をしていただければと思っております。
 よろしくお願いします。

○伊藤座長 それでは、今説明のありました19ページの具体的方策案AないしDに対し、こういったところを、近藤さんから説明のあったことを踏まえて、御意見をちょうだいできればと思います。

○荒井委員 質問ですが、これによって法律の書き方とかが変わるのですか。それとも単に運用上、だれになってもらうかという話なんですか。

○近藤参事官 法案がどうなるのかということまで、今のところ全然検討ができていないです。やはり具体的にどんなイメージで調査官というものを考えるようになっているかによって書きぶりが決まってくると思います。

○荒井委員 私の考え方は、調査官でできるだけ機能が大きい方がいいという前提のときに、そこは広く人材を求めたらいいと。コアになるのは、今のところは経験的にも歴史的にもA案の特許庁審査官、審判官が1つのベースであるけれども、そのほかにも弁理士とか弁護士にもいい人はいる。更に最近では会社の知財部にも立派な人が出てきているから、最近ものすごく若い人でも立派な人がいるんで、研究所の技術者、企業の技術者であって、調査官にふさわしい人がいれば幅広く求めたらいいという感じなんです。
 そういうことを言って、だから後は、ではどういうふうにやっていくか。そういう調査官にふさわしい人を適正に任用したらいいかもしれません。それから必要なものについては、必要なトレーニングをするということで、ここにも書いてありますが、能力担保という表現がありますが、きちんとしたものにしたらいい。
 それから、この調査官は常勤的なものなんだから、当然のことながら中立性的なものとか何とかについては、前の議論と同じように、同じ出身会社というのはよくないとか、そういうことは当然やっていくということで担保されるんだから、考え方はA案が中心でしょうけれども、広く求めていくということによって問題解決ができる。
 言いたい点は、必ず人材がいないから調査官の範囲を狭くとか、それは逆転の発想をしていただきたいということなんです。

○近藤参事官 その前提としての権限としてなんですけれども、権限としてはどういう権限をという。

○荒井委員 できるだけ広いと。

○近藤参事官 技術だけしか知らない人であっても、直接当事者に対して発問したりすることは認めてもいいという考え方ですか。

○荒井委員 それは最近の例えば知財部の企業の方でも、技術だけで弁理士試験を受かったり、ものすごく法律関係も詳しい人もいますね。

○近藤参事官 分かりました。そうすると、今のは法律関係もある程度詳しいということを前提にして、別にそれに限定がなくてもいいじゃないかという、そういうことですか。

○荒井委員 そうです。だから、そこはここで言う専門委員とは違う。専門委員は純粋な技術だけの専門家という、非常勤ということにして、この調査官は裁判所で裁判官をサポートする人ということで、技術は中心にしているけれども、更に法律知識を持っている人をきちんと選ぶというのがいいんじゃないですかということです。

○阿部委員 今、荒井さんのおっしゃったとおりなんですが、これは確認ですけれども、ここで言う専門家とは違う調査官、つまり常勤のものであるという前提はそれでよろしいんですか。

○近藤参事官 今のところ、そういう前提の発想で議論は進んでいるのだと思います。

○伊藤座長 荒井委員から具体的な御意見がありましたけれども、ほかの方、いかがでしょうか。

○中山委員 常勤ということは、当然弁護士・弁理士登録抹消、企業だったら退職してくるという前提ですか。

○近藤参事官 そういうことなんでしょうね。
 今、荒井委員から御指摘のあったのは、単なる技術ということではなくて、法律的な素養ということも加味して考えなくてはいけないんではないかという御指摘であって、それがここではA案かB案で書かれているような、出身がどこであったのかということを問うべきではなくて、むしろ実態を見るべきだという御指摘だと思います。

○荒井委員 その間は抹消でしょうけれども、また、何年かの任期が終わったら回復するとか、そういうことは可能なんでしょう。ちょうど特許庁の人が調査官として行って帰ってきて、また審判官をやるとか、そういうことは中立性の担保の仕方だと思います。そういう制度設計は可能じゃないかと思います。

○阿部委員 ただ、企業の人が入って、また企業に帰ってくると、何か怪しげな感じが出てくるかなというのはあります。

○伊藤座長 よろしいですか。そういう法的素養のある人、技術専門家を幅広く考えるというイメージですが。

○飯村委員 調査官については、特許庁の審査官なり審判官及び弁理士が当てられているのですが、私の考えは、調査官制度だけが、裁判所が欲しい情報を得る唯一の方法だと思っていないということがあります。さきほどの裁判官が審理に必要な専門情報をどのように獲得するかに関しては、国際シンポジウムもされていることです。私個人は、当事者の裁判官に対するプレゼンテーション能力、一般的な説明能力の向上に関心を寄せています。
 私が、試みていることは、基本的には、当事者からの技術説明です。例えば、和解の過程で、当事者同士が、広い範囲で紛争を究極的に解決したいと望むことがあます。訴訟の対象になってない特許権侵害事項も和解に含めたいと希望することがあります。そのような場合も、忙しい調査官にサポートしてもらうというよりは、裁判官自身が、訴訟対象になっていない周辺紛争に関して、両方の当事者から直接技術説明をしてもらって、それで簡易な判断をした上で、トータルな紛争解決をするということがあります。そのような試みをすると、当事者の技術説明は、極めて水準が高く、しかも客観的であり、一方当事者の立場からの主張とを切り分けた説明をする例に接します。そういう意味では、広く、企業内、弁理士に人材を求めることもあり得るでしょうし、そもそも、当事者の行う技術説明でまかなうということもあり得るかも知れません。

○伊藤座長 そういたしますと、専門家として、幅広く活用すべきだという点については、余り御異論もないようだと思いますので、そのことを踏まえて、更に事務局で検討していただきたいと思います。
 続きまして、法制審議会で議論をされまして、先ほどから話題となっておりますけれども、要綱としてまとめられております専門委員制度との関係、これについての検討を頂きたいと思います。
 これも調査官について、その権限とか透明性・中立性をどうするのかという基本的なところが決まらなければ議論がしにくいというのはあるとは思うんですけれども、それは鶏と卵のようなものですから、ひとまず今日の段階で議論いただいて、また元に戻っていくという形でやっていただきたいと思います。先ほど小林委員からは調査官と専門委員との関係についてかなり具体的な御発言もございましたが、是非この点も検討いただきたいところであります。資料1の20ページから24ページについての説明をお願いします。

○近藤参事官 専門委員との切り分けのことについては、冒頭で小林委員から御指摘があったところで、ここは今後のシステムの構築には非常に重要なところかなと思っております。
 まず、そこに書いてある専門委員制度の要綱というところについて御説明をしたいと思います。今国会に提出予定の民事訴訟法の内容として、専門委員制度が入るということになっています。その中で一番重要なのは、「一 専門委員」というところでございまして、専門委員の関与として、(一)、(二)、(三)とございますが、争点整理と行う場面と、証拠調べの場面、和解の場面、この3つを切り分けております。
 争点整理を行う場面では、当事者の意見を聞いて、裁判所が必要と認める場合には専門委員が関与するという形になっています。(2)のところで、その争点整理の場面で説明を聞く場合、裁判長は専門委員に書面又は当事者双方か立ち会うことができる期日において口頭で説明させることができるという形で透明性を図っているということになります。
 (二)の証拠調べについては、これは更に2つに分かれておりまして、(1)のところは、証拠調べの立会いについては、当事者の意見を聞いて必要と認めれば専門委員を立ち会わせることができます。(2)の方は、当事者の同意を得て、立ち会った専門委員が当事者本人又は鑑定人に対して直接に問いを発する、発問する場面では当事者の同意が要りますよという形になっています。
 (三)は、和解を試みる場合において、当事者の同意を得て期日に立ち会うことができるという形になっていまして、冒頭小林委員からも御説明がありましたけれども、基本的には争点整理の場面で多く利用しようということで当事者の意見で、証拠調べのところでも立ち会うことはできるんですが、発問については当事者の同意が要りますよと。和解についても当事者の同意が要りますという形になっています。あと3のところで「専門委員の関与の裁判の取消し」というところがございます。これは当事者双方の申立てがあったときには、必ず取り消さなければならない。専門委員を関与させることについて必ず取り消さなければならないというのは、3でちょっと規制がございます。
 こういう規定が入りましたのは、法制審の議論で私も幹事として立ち会っていたんですが、主に医事関係訴訟を中心として、医事の関係だと、大体被告側になるのが医事関係の関係者で、専門委員として関与する人も医事関係の関係者という被告側の立場の人ということになりますので、その場合に信頼できるかどうかということが問題になりまして、3番目のような枠組みというのは当事者双方で排除できるということは必ず必要なんじゃないかということが議論されたということです。
 あと専門委員の指定だとか、除斥、忌避について、4番目、5番目のところで書いてありまして、先ほど来、除斥、忌避については専門委員と同じような形でという議論が出たところですが、除斥、忌避については、専門委員については、こういう形で法文上は明らかになる予定であるということです。
 そういうことを前提にして、具体的方策案で、4番目のところで、専門委員と調査官ということの切り分けをどう考えていくのかということについて、審理の関与についてA案は、調査官が原則として関与して、専門委員は必要に応じて審理に関与する。専門委員は、非常勤の職員ということを前提にしております。
 B案は、調査官も専門委員も原則として審理に関与する。
 C案は、事案によって調査官、専門委員のみが関与する。又は両者が関与すると、事案によって使い分けております。これはイメージの問題としてです。
 ②の方の要求される専門性の範囲として、A案、B案というのを掲げさせていただいておりますが、A案の方では、技術的知見及び特許等の法律上の判断に関する範囲が専門性として必要なのではないか。
 それから、専門委員の方では、技術について調査官では対応が困難な非常に特殊分野についての技術専門性というのは要求されるというのがA案。
 B案というのは、調査官及び専門委員に要求される専門性は、技術的知見及び特許等の法律上の判断に関する範囲で、調査官と専門委員の要求される専門性の範囲について特段に差異を設けないということで一応挙げさせていただいております。
 ここで専門委員との切り分けのことを考える上では、専門委員が具体的にどうなっていくのか、運用がどうなっていくのかということは重要なんですが、それもまだ必ずしもはっきりしているわけではございませんで、今まさに検討されているところだと伺っております。この点について関係機関の方から何かございますでしょうか。

○伊藤座長 もし今の段階でお話しいただくことがあれば、最高裁の方からお願いします。

○定塚最高裁判所事務総局行政局第一課長 基本的にはこの検討会で調査官の役割と専門委員の役割がどうなるかということを承って制度設計していきたいと考えておりますが、専門委員制度というのは、民事訴訟法改正の関係で、この知的財産権訴訟以外にも医療訴訟とか建築関係訴訟等を念頭において検討されておりまして、そちらの方では、非常勤の、その事件ごとに、あるいは期日ごとに入るというイメージで制度設計がされております。
 ですから、今の常勤の調査官と、民事訴訟法の改正の中で議論されてきた専門委員とを単純に掛け合わせると、基礎的な技術について調査官にサポートしていただき、ヒトゲノムとかコンピュータ関係とか、先端的な技術に関しては、専門委員が期日ごとに来ていただくというイメージになるのかなと。これは今の現状、あるいは民事訴訟法改正の議論のことを踏まえると、そういうイメージかなと思っておりますが、それはこれから調査官がどういうふうになっていくのか、あるいは知財だけ専門委員を置く別な事情という、ここでの議論を踏まえて、検討してまいりたいと思っております。 以上です。

○伊藤座長 どうも有り難うございます。

○近藤参事官 今の御発言なども踏まえて、具体的方策案の、先ほどの関与の在り方と、要求される専門性の範囲について、何回かこういう議論を重ねなければいけないんですが、現在のアイデアとしてどういうことが考え得るのかということについて意見交換をしていただければと思います。

○伊藤座長 それでは、この23ページの具体的方策案に書かれていることを中心に御意見をいただければと思います

○加藤委員 専門委員に関しては、少なくとも全件関与というのは必要ないと思います。むしろ国費の無駄使いの部分が出てくるかと思います。ただ、どの段階で切り分けるかは少し慎重に考える必要があろうかと考えています。

○伊藤座長 今の加藤委員の御意見は、例えばここに書かれてある案で言うと、A案ですね。

○加藤委員 A案に相当するかと思います。

○伊藤座長 それから、専門性の範囲についても、どちらかというとA案の考え方ですね。

○加藤委員 私が申し上げておりますのは、先ほど定塚課長がおっしゃったような非常にハイテクのプログラムとか、バイオとか、それだけではなくても、専門委員が関与しなければならないのは相当数はあるだろうと思いますけれども、ちょうどその裏腹の極めてやさしい権利と言いますか、そういうのがたくさんございまして、私の経験から言っても訴訟にも上がってまいります。それに対して専門委員というのは無駄ではないかというのが私の意見でございます。

○近藤参事官 先ほど加藤委員がおっしゃった、これは次回議論するということで言っているんですが、技術裁判官という形にした方がいいのではないかという御意見だと思うんですけれども、そういうことになった場合にも専門委員というのは全件でなくていいだろうというふうに伺ってもよろしいですか。

○加藤委員 そういう意味で考えております。私の持つイメージは、現在の調査官を拡大していくと、技術判事、技術裁判官とほぼ同等になろうかと思います。それについては当然、全件関与するはずでございますので、一方簡単な事件もあろうかと思いますので、それについて無駄なことをする必要はないというのが考え方でございます。

○中山委員 専門委員が全件関与というのは費用も無駄だし、時間もかかるし、全件関与というのは考えられない。事件によっては法的な判断だけの場合も結構多いし、必要ないと思います。
 それから、この専門委員の方なんですけれども、これはまだ確定的ではないので何とも言えないんですけれども、近藤さんおっしゃったように、医療過誤と言いますか、そっちの事件の方を読んだだけでもすぐ浮かぶわけで、果たしてこのようなことを知財の専門委員でやってうまくいくかなという感じがするんですけれども。これは定塚さんに伺った方がいいのかもしれませんが、専門委員は一種類だけですか、知財の専門委員とか医療の専門委員とか、いくつかの種類の専門委員をつくるという流れは今のところないわけですか、民訴の方では。

○定塚最高裁判所事務総局行政局第一課長  法制審議会に私も幹事として関与しておりましたけれども、そういう議論はございませんでした。ただ、今、中山委員御指摘のとおり、医療過誤を念頭に置いてこういう非常に厳しい縛り、透明性の縛りをかけていったという経過がございます。それはお医者さんが専門委員として関与するということになったときに、果たして医療過誤の事件について、医者をかばうことなしに、中立的な意見が言えるだろうかということで非常に弁護士の先生から疑念の声が出たということがございまして、それでも中立性が確保できるのかということで、かなり厳しい縛りがあったという経緯がございます。
 その過程で知財のことも出てまいりましたが、知財は大丈夫だと。知財はそれぞれの代理人とも非常に優れた知見を持っている方がついていらっしゃるということもあって、それから役割も、医者と患者というふうに役割が違っているわけではないということがあるので、知財はそんなに縛りがきつくなくても大丈夫だろうなという意見は出ていました。

○近藤参事官 専門委員という横断的な専門性が必要なものについての要件として、厳しいものから緩いものまで考えたら、一番厳しいところで条件設定をしないといけないだろうということで要件設定をされている。知財の関係では、ここで要件として問題なのは、当事者の同意ということが問題になると思うんですが、知財の関係で同意を当事者に求めた場合に、どちらかがいやですよということは余り考えづらいんではないかなということが念頭に置かれていたんだと思います。例えば証拠調べの発問などについて、当事者の同意がなければいけないんですが、発問することについて、専門委員の方に発問されては困るということで一方がかたくなに拒み続けるということは知財では余りないのかなということが前提になっている。ただ、そこについて懸念があり得るということで、この専門委員の民訴の特則として、知財について、同意じゃなくて意見を聞いてもいいんではないかということとか、先ほどの当事者双方の申立てがあったときに排除できるということについても、特則を設ければいいじゃないかということがあり得るんであれば、更にまた知財訴訟の特則としての専門委員という制度設計というのはあり得るんだと思います。それについて何か御意見があれば伺っておきたいなと思います。

○中山委員 安全ボタンがついていても、だれも押さなくては安全ボタンがないのと同じだというのはそのとおりだと思うんですけれども、これは末吉先生に伺った方がいいかもしれませんけれども、知財の訴訟はそういうものなんですか。安全ボタンがついているから押してしまおうという、そんなことはないですか。

○末吉委員 比較的医療紛争と違うという認識は正しいと思うんです。恐らくもう一度意見を集約してこようと思いますが、現行の民訴法の専門委員制度ではちょっと使い勝手が悪いんじゃないか。縛りが厳し過ぎるというのが代理人の認識です。それを具体的に緩めていただくというか、それについてもう少し検討したいと思うんですけれども、まずはその点は挙げることができると思うんです。

○飯村委員 専門委員制度ができて、実施された場合の使い具合なんですけれども、やはり使いづらい面があろと思っています。一例を申し上げます。東京地裁では、知財専門調停制度を設けました。この制度は、知財事件が起きた後に、事件を調停に回して調停をしてもらう制度です。調停成立率が高く、極めて存在意義の高い制度であると自負しております。しかし、調停に回すことについての当事者の同意を得ようとしますが、双方の同意が得られないことが実に多くあります。当事者から、調停委員候補者の略歴等について質問されて、どちらかに有利になればどちらかに不利だということがチェックされるからです。また、今まで進行していた裁判過程から調停過程という別な手続に移行することについて、必ず利害関係か出てくるので、同意にかからしめるとなかなか動かないということは現実に起きます。

○荒井委員 23ページについての意見ですが、①A案、②A案がいいんじゃないかと思います。

○阿部委員 技術的知見と特許等の法律上の判断に関するというのと、違うものなんですね。

○近藤参事官 違うという前提で考えていたんですが。

○阿部委員 技術的知見を除いたところの特許等の法律上の判断というのは、結局、法律家ということですか。

○近藤参事官 ここではその前の問題との関連があるんですけれども、そういうことではなくて、特許法についての具体的な枠組みの問題だとか、進歩性だとか新規性だとか、そういうことについての相場感みたいなものがあるかないかということで、その場合に法律家というのが何を指すかというのも問題なんですが、先ほどの荒井委員のおっしゃったことからすると、企業の知財部門の方とか、そういう方も入ってくる要素はあるんだと思うんです。特許法等の法律的な事項についての知識ということであれば。
 それとまた違って、バイオとかについての具体的な知識とか、亀の子の知識とかはまた別の問題ではないかと思っているんです。

○阿部委員 もしそうだとすると、①はA案でいいんですけれども、②はB案にしておいた方がいいんじゃないかなという気がするんです。

○荒井委員 ②はB案の方が、調査官だけを比較すると、狭いんですか、広いんですか。

○近藤委員 調査官は同じなんですが、専門委員について、②についてB案であれば、法律上の判断も加えなければいけないということです。

○荒井委員 ただ、専門委員が特殊専門分野という理解に立てば、そこまで求めなくていいのかと私は思うんです。

○阿部委員 その技術分野では進歩性があるかないかという判断は、法律の判断というか、技術的知見というか。

○伊藤座長 そうですね。なかなか専門委員についての法律上の判断、あるいはそれを求めるということが一切できないのかどうかという問題もあると思うんです。

○中山委員 そうしますと、大学の理科系の教授などはほとんど失格ですね。企業でも知財部の人は別として、知財部以外のエンジニアはほとんど失格ということですか。

○阿部委員 そのとおりです。

○小林委員 委員がおっしゃっているのがそうだとすると、純粋な意味での鑑定人と専門委員とはまた違うという前提でおっしゃっているんですか。例えばノーベル賞の小柴先生は鑑定人には当然なり得るんだと思いますけれども、阿部委員がおっしゃる意味での専門委員にはなり得ない。

○阿部委員 分かりませんけれども。

○伊藤座長 それでは、先ほど来の御意見を伺っていますと、①についてもA案、②についてもA案という御意見が何人かの方から表明されましたが、同時に阿部委員のように②についてはB案の方がいいのではないかという御意見もありましたので、これも特にどちらかに、現在の段階でとりまとめるということはしないで、議論を続けたいと思います。
 以上で本体についての議論は終えさせていただきまして、去る2月22日に外国法制研究会が開催されましたので、この報告と次回の検討会の案内を事務局にお願いします。

○近藤参事官 ただいま座長から御紹介ありましたとおり、今週の月曜日に第3回知的財産訴訟外国法制研究会が開催されました。
 研究会では事前に各メンバーが作成した報告書の素案に基づいて、証拠収集手続の更なる機能強化に関する制度等について評価・発表が行われ、活発な検討会が行われました。この結果については、前回申し上げたとおり、5月の検討会でこちらの方に報告したいと思います。
 また、次回、第6回の本検討会は3月14日、午後1時30分から5時まで、同じくこの会議室での開催を予定しておりますので、よろしく御参集お願いいたします。

○伊藤座長 それでは、長時間にわたりまして有り難うございました。どうぞまた次回お願いいたします。