首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会知的財産訴訟検討会

知的財産訴訟検討会(第6回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年3月14日(金)13:30〜17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬厚、加藤恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉亙、中山信弘(敬称略)
(事務局) 古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、小田真治主査

4 議題
(1)侵害行為の立証の容易化のための方策に関する検討
(2)その他

5 配布資料
資料1: 侵害行為の立証の容易化のための方策に関する現状と課題
資料2: 参照条文
資料3: 知的財産訴訟検討会開催予定(平成15年4月〜平成15年11月分)

6 議事
(1) 侵害行為の立証の容易化のための方策に関する検討
① 文書提出命令における文書提出義務の範囲
・事務局より資料1の1頁から5頁に基づいて、文書提出命令における文書提出義務の範囲について、説明があった。

・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○D案が妥当。立法技術的に可能であれば、「正当な理由」の考え方を規定するC案もありうる。特許法105条にいう「正当な理由」については、損害額の立証の局面よりも侵害行為の立証の局面において、営業秘密の保護により重きがおかれるべきとの意見もある。しかし、こうした区別に対する反対論もある。

○各案の効果としての差異は何か。

●C案とD案をとると、インカメラ審理の枠内であるが、A案とB案をとると、インカメラ審理は論理上不要となるのではないか。

○特許訴訟における証拠の偏在の問題を解決するには、営業秘密であることを提出拒絶事由から除外するという極端な考え方に振ることも大事である。弊害は営業秘密の保護措置で手当てすべき話である。これは訴訟の迅速化にも資する。

○侵害の立証と損害額の立証とは表裏一体であり、差異を設けるべきではなく、いずれの場合も、営業秘密であっても文書提出命令の対象となるようにすべき。もちろん、営業秘密の保護が厳しく担保されることが条件である。

●証拠偏在の問題は、営業秘密であること、文書として特定できないことのいずれに起因するものか。

○両方である。

○原告の立場としての意見はよく理解できるが、被告の立場としての意見はどうなのか。

○営業秘密を守ってもらいたいと思う。105条の問題については、後で議論されることとなるインカメラ審理の見直しや非公開審理の制度化とセットで、現行の枠組みの中で対応することは可能ではないかと考えている。

○侵害していないのに、訴訟を起こされ、営業秘密を取られてしまうこともあるのか。

○あると思う。

○文書提出命令の枠組みを離れて、営業秘密を根拠に不正競争防止法上の訴訟を起こす場合や営業秘密を積極的に証拠として訴訟に提出する場合も含めて、総合的に検討してほしい。

○A案又はB案がよい。営業秘密の保護をしっかりやればよい。

○B案がよい。出された営業秘密が流用されないような保護が必要。これが現実的でないのであれば、C案でも仕方がない。

○文書提出義務の範囲の議論は、営業秘密の実効的な保護の議論と密接不可分であり、保護の中身が決まらないと、義務の範囲の議論はしづらい。

・営業秘密を含む文書の提出義務の範囲については、営業秘密の保護と密接不可分の関係にあり、どの案が合理的かは直ちには決められないが、拡大すべきとの方向で概ね意見の一致をみた。

② インカメラ審理における文書の開示について
・事務局より資料1の6頁から12頁に基づいて、インカメラ審理手続における文書の開示など手続規定の整備のあり方について、説明があった。

・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○①はD案が妥当。②はA案がよい。①については、技術としての難易度等営業秘密の特性に応じた柔軟な対応が可能となるのでよい。

○インカメラ審理で営業秘密を誰かに見せるという前提では、営業秘密を出す側からすると、大事な情報であればあるほど敗訴するとしても出さない。営業秘密を見せるということは、それほど大した秘密ではないということが前提ではないか。情報は出してしまえば事後的に救済できない。罰則を設けたとしても、実効性の観点からは疑問。

○民事訴訟であれば、大事な営業秘密は出さないというのはそのとおりである。

○営業秘密を出さないことの不利益をどう判断するかは被告の自由である。

○現行法の枠内では、インカメラで侵害していなければ保護に値するノウハウとして正当理由があるとされ、侵害していれば保護に値するものでないとされる。被告の説明だけでこれを判断することは公平でないとの批判がある。インカメラを避けるため、特許発明の構成と対応する非侵害部分だけを提出する等のやり方もある。問題は、侵害しているのに証拠を提出したくないという場合をどうするかということである。

○営業秘密を提出拒絶事由から除外してしまうと、インカメラは無用であり、裁判所の許可も不要である。

○インカメラで被申立人とその代理人だけが裁判所に説明するのがアンフェアである。日弁連としては、B案が適当であると考える。

○B案の短所・問題点についてはどう考えるのか。

○いずれの問題点も乗り越えていかなければならないと考える。

●侵害かどうかという重要な情報を当事者に知らせずに判断することはできるのか。

○事実上は難しいが、やってやれないことはない。

○本当に難しい事案では、代理人のみでは不十分である。

○もともとインカメラはこっそり秘密を見るものであり、いろいろな人に見せてしまったらもはやインカメラでない。裁判官が技術をわかっていないというのがインカメラに対する不信感であり、これを解決するには、C案のような考え方が適当。

○インカメラは、相手方に立会権限がないので不満の残る制度である。よりプレッシャーの強い制度に変えていけば、訴訟上の合意を得る等スムースな運用が可能となる。これまでインカメラの実績は乏しいが、本案中での保護が十分になれば、とりあえず出してもらうことはありうる。

●D案を採用することとした場合、インカメラで営業秘密の提示を受ける人の範囲については、事案に応じて申立人の意見を聴きながら裁判所が決めるということになるのか。

○営業秘密の提示を受ける人の範囲は、最終的には裁判所が判断すべきものであるが、申立人側は、営業秘密の特性や技術の難易度・重要度等を考えて、提示を受けるべき人の範囲について意見を言うことになる。ただ、従業員の保護ということを考えると、従業員がインカメラに関与するのは制限的にならざるをえないと考える。

○権利者としては侵害の有無に関心があり、営業秘密かどうかはわからない。

○優秀なエンジニアが相手方の営業秘密に触れてしまうと、その後の研究開発に影響が出るのではないか。

○そういうリスクはありうる。

○産業界も同じ悩みである。会社の従業員がインカメラで営業秘密をみるというのは、技術がむずかしい、会社の存亡にかかわるといった極限的なケースである。

●営業秘密を見るために提起された訴訟に対する濫用防止についても一緒に考える必要がある。

○故意に営業秘密を盗むための訴訟かどうかは、相手をみればわかる。蓋然性の問題であり、そういうケースでは負けるとは思わない。もし問題があれば営業秘密を出さない。しかし、そういうことを恐れていては、事態は進展しない。

●相手方当事者の立会いを裁判所の許可にかからしめる場合、許可・不許可の判断のために文書を見るインカメラが別途必要とならないか。

○濫用的申立てに対して、許可すべき要件を決める必要があるが、濫用かどうかを判断することは難しい。

・インカメラ審理手続における文書の開示手続については、種々の意見があり、今後さらに議論を続けることとなった。

③ インカメラ審理において開示された営業秘密保護の方策について
・事務局より資料1の12頁から16頁に基づいて、インカメラ審理において開示された営業秘密の保護の方策について、説明があった。

・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)

○個人が義務を負うのか。

●刑罰を前提とした場合は、義務を負うのは個人ではないかと考える。

○個人が義務を負うことを前提としつつも、両罰規定により法人が義務を負うこともあり得る。

○営業秘密は適正な裁判のために提出されるものであり、その意味では不正競争防止法よりも公益的側面が強いから、制裁としては刑事罰が適当。義務の根拠は裁判所の命令とする案、義務者の範囲については画一的とする案が適当。禁止の範囲については、残留情報をどこまで認めるかといったことについて深彫りが必要。期間については、営業秘密の価値を守るには、終了後も義務を負う必要があると考えるが、営業秘密の価値に応じた柔軟な対応が必要。

○①については、当事者の申立てを必要とするA案が適当。②については、営業秘密を見た従業員の守秘義務違反をモニタリングする義務を企業も負うべき。③については、裁判外では使えないとするB案が適当。④については、B−2案にならざるをえない。義務者には酷だが、開示を受けた以上やむを得ないと考える。⑤については、A案プラスB案が適当。

○①については、必要なら当事者が申し立てればいいので、A案。②については、裁判所の命令でその範囲を決めればいいが、原則は開示を受けた者となろう。ただし、従業員が退職した場合において、その職業選択の自由との関係から、今般の不正競争防止法の改正時の議論と同様の配慮が必要か。③については、裁判外では使えないとするB案が適当。④については、一定期間を定めた方がよい。ただし、例えば一年目に保持者が営業秘密の管理を放棄したような場合はもう守る必要がない。⑤については、金で済むならやり得であり、罰則とすべき。

○制裁は罰則がいいと思うが、通常の刑事手続を前提とした場合、親告罪としても検察官の起訴により営業秘密が公開の法廷に出されることを考えると、実効性に疑問がある。米国のような裁判所侮辱ならまだいいが。刑事罰は威嚇的に置いておいて、担保をつけるというのもありうる。

○営業秘密を不正に開示・使用し、公正な裁判を侵害したということであれば、現役かOBかの区別をする必要があるか。

○不正競争防止法の罰則とは違う意味合いがあり、そのような区別は不要と考える。

●残留情報とは何か。

○開示を受けた営業秘密そのものではなく、それをベースに善意に改良された情報の扱いの問題である。産業界としては原則使用できると考える。

●見た営業秘密は全く使ってはならないというのが、議論の根本だったのではないか。

○改良していいとなれば、みんな少し改良して使うのではないか。ただ、ノウハウの場合、どこまでできるのかは議論がある。

○そんな状況ではあぶなくて営業秘密を出せない。前に戻るが、インカメラでは調査官がみるべき。市井の人にみせると危険である。

○インカメラにおける提示とはなにか。見せるが紙は渡さないというのか、メモはとってもいいがコピーはだめということか、それともコピーも許されるのか。紙が渡ると一人歩きする恐れがある。

●しかし、持ち帰らないと検討できないのではないか。

○現行法では、インカメラは実体審理でないので、裁判所に提示されたものは返却しており、提示を受けただけでは訴訟記録とならない。仮に立会いを認めた場合、どのような有体物を示すかは、訴訟指揮によって、情報の性質、渡った場合のリスク、検討の困難性等を勘案して決められるべきものと考える。②—④の選択肢は、①の根拠の選び方によって答えが違ってくる。⑤の制裁は、実効あらしめるには刑罰が適当。

○義務を課せられた人の立場からすれば、どのような営業秘密を守るのかということがわかる相手方の文書もなしに義務違反の制裁が課されるのは困る。

●裁判所が秘密保持期間を決めるのは難しいのではないか。

○技術情報であればずっと。売上データ等簡易なものであれば、一定年数で切ってしまうのも一案。

●インカメラにおいて開示を求めうる者としてC案を採用した場合には、今議論した営業秘密保護の方策は制度としていらないということか。

○そのとおりである。

・インカメラ審理において開示された営業秘密の保護の方策については、種々の意見があり、今後更に議論を続けることとなった。

④ 営業秘密が問題となる事件の非公開審理について
・事務局より資料1の17頁から30頁に基づいて、営業秘密が問題となる事件の非公開審理について、説明があった。

・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)

<非公開審理の必要性について>

○裁判所では準備手続でほとんどやっており、口頭弁論期日は形骸化しているから、公開審理による不都合は経験したことがない。そもそも論の議論はあるのかもしれないが。

○非公開審理の話は、当事者尋問・証人尋問を想定している。

○現実は期日外で証拠調べすることもある。

●柔軟にやっているようだが、法律上本当にできるのか議論があるところである。

○営業秘密保護の観点から、閲覧制限の申立てについては、広く認め、閲覧を制限するようにしている。

○知財訴訟においても、営業秘密保護のため非公開審理が許される領域があるはずである。

●立法事実はあるのか。

○立法事実は少ない。証人尋問が行われることは稀であり、仮に行われたとしても営業秘密が尋問事項として語られることはまずない。

○不正競争防止法上の侵害を考えると、営業秘密の保護をきちんと図っておく必要がある。

○営業秘密の実際の事件を見てみると、本当に重要なものは日本では争いとなっていない。諸外国では争いとなっている。潜在的な問題としてあるはず。

○調停の場で争うということは、事実上の代替手段としてありうる。

○幸いにも営業秘密を盗まれ訴訟となったことはないが、今後技術者の流動化に伴う営業秘密流出の問題は増えてくると思う。

○10年前と違い、情報のデジタル化、人材の流動化、中国・韓国への技術の流出等が起こっているから、潜在的な問題としてはある。

<営業秘密が問題となる事件の審理のあり方について>

○A案がいい。

○公序良俗の判断を全部運用に任せるというのはいかがか。

○非公開審理に対する反対論は、憲法上の障害だけか。弁論準備手続の当否を外国からよく問題にされる。

○裁判所法70条の民事事件での適用事例がないというのは、非公開審理に対する躊躇があるということか、それともニーズがないということか。

○人事訴訟の例を見てみると、ニーズはあると思う。70条の統計はない。

○10ページの関与を求める者というのは、代理人プラス第三者(専門家)というのもありうる。

○人事訴訟の場合は、身分関係の確定という必要があり、公の秩序の議論も、営業秘密の場合とは質的に違うのではないか。

・営業秘密が問題となる事件については、非公開審理を認めるべきとの意見が多かったが、非公開審理を認める場合の要件、憲法の公序との関係等について更に議論を深めることとなった。

(2)その他
・次回検討会(4月15日(火)10:00〜13:00)では、知的財産訴訟の在り方について検討を行う予定。