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知的財産訴訟検討会(第6回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成15年3月14日(金) 13:30 〜17:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤眞座長、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬厚、加藤恒、
小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉亙、中山信弘(敬称略)
(事務局)
古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、小田真治主査
(関係省庁・団体)
法務省、最高裁判所、特許庁、日本弁護士連合会、日本弁理士会

4 議題等
(1)侵害行為の立証の容易化のための方策に関する検討
(2)その他

5 議 事

○伊藤座長 それでは、定刻になりましたので、第6回「知的財産訴訟検討会」を開催させていただきます。本日は、お忙しいところをどうもありがとうございます。
 今回は、侵害行為の立証の容易化のための方策に関する検討をすることといたしたいと思います。
 具体的検討に先立ちまして、荒井委員におかれましては、従前の役職に変更があったようでございますので、まず事務局から御紹介をお願いできますか。

○近藤参事官 荒井委員におかれましては、従前の独立行政法人日本貿易保険理事長から、内閣官房知的財産戦略推進事務局長となられましたので御紹介申し上げます。

○伊藤座長 荒井委員、一言お願いいたします。

○荒井委員 どうぞよろしくお願いいたします。

○伊藤座長 それでは、検討に入る前に、事務局からお手元の資料の確認をしていただきます。

○近藤参事官 それでは、お手元の資料を御確認ください。
 資料1として、「侵害行為の立証の容易化のための方策に関する現状と課題」。
 資料2として、「参照条文」。
 資料3として、以前御了解いただきました、本年11月までの日程表となっております。
 なお、これは11月までの日程を前にお伺いして入れさせていただいているのですが、今のところ検討をしている状況から見ますと、予備に12月、1月についても日程を取っておいた方がいいのかなというふうに思っておりまして、次回、日程調整をこの場でさせていただきたいなというふうに思っております。
 また、第4回検討会の議事録が完成しましたので、メインテーブルに配布しております。
 以上です。

○伊藤座長 それでは、本日の論点に関する具体的な検討に入りたいと思います。事務局に検討のたたき台となる資料を用意してもらっていますので、この資料に沿って検討を進めていきたいと思います。
 まず、資料の1ページ〜5ページの文書提出義務の範囲について、事務局から説明をお願いします。

○近藤参事官 本日御議論いただく、「侵害行為の立証の容易化のための方策に関する現状と課題」につきましては、資料1の1ページ冒頭にありますように、知的財産戦略大綱において、知的財産関連訴訟における侵害行為の立証の容易化を図るために、2005年度までに知的財産関連訴訟の特性を踏まえた証拠収集手続の更なる機能強化について、証拠に関する憲法上の裁判公開原則の下での営業秘密の保護を含め、総合的な観点から検討を行い、所要の措置を講ずるべきものとされております。
 また、第2回・第3回のヒアリングにおいても、1ページに記載してありますように、特許権など知的財産権侵害に係る証拠は被告側に偏在しており、原告が十分に把握することは困難であるため、訴訟対象物を明らかにする限度において、営業秘密であっても速やかに証拠収集し、侵害を確実に特定できるような制度改革を行うべきである、それから、インカメラ手続の強化、拡充をすべきである、また、営業秘密を理由に証拠調べの非公開審理ができるようにすべきである等の意見が寄せられたところです。
 そこで、以下検討すべき主な論点としては、そこに書いてありますような枠囲いの、
1 文書提出命令における文書提出義務の範囲。
2 インカメラ審理における文書の開示と同審理において開示された営業秘密保護の方策。
3 営業秘密が問題となる事件の非公開審理。
が挙げられると思います。
 2ページ目にいきますが、「I 文書提出命令における文書提出義務の範囲」をごらんください。
 「1 現行法」というところですが、まず現行法がどのようになっているかについて見てまいりたいと思います。表のとおり現行の民事訴訟法においては、文書提出義務は一般義務とされ、例外に該当しない限り文書提出義務が認められるということになっております。例外として定められているのは、この検討会との関係では、技術又は職業上の秘密に関する事項で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書ということがこの対象になるということになっております。
 一方、民事訴訟法の特則である特許法105 条1項は、侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするために必要な書類は、提出を拒むことに正当な理由がある場合を除いて、これを提出すべきと定められています。
 これらの規定の解釈について触れたのが、2ページの最後の(2)です。民事訴訟法でも特許法でも、基本的には文書が提出されることにより、文書の所持者が受ける不利益と利益、それから提出されないことにより当該訴訟が受ける不利益の比較衡量によるというふうにされているものが多いようです。
 3ページ目の(3)のところでございますが、これは「運用」ということですが、刊行された裁判例を見る限りにおいては、文書提出義務が認められて、文書の提出が命じられている例が多いように見受けられます。
 2番目の「指摘されている問題点(産業界の意見)」というところですが、産業界から指摘されている問題点を挙げさせていただいております。その中で、ピックアップして申し上げますと、文書提出範囲の制限条項を限定する必要があることから、明文をもって営業秘密であることが正当な理由には該当しないと規定すべきであるという、日本知的財産協会の意見とか、日本経団連の意見で、侵害対象物を明らかにする限度において、営業秘密であっても速やかに証拠収集し、侵害を確実に特定できるような制度改革を行うべきなどの意見が出されております。
 総じて、特に営業秘密を含む文書についても、文書提出義務を認めるべきであるというような指摘が多いというふうに思います。
 4ページ目の3の「検討」というところですが、その検討の方向性として、文書提出命令において、営業秘密を含む文書の提出範囲はどうあるべきかが検討される必要があるということになろうかと思われます。
 それに引き続いて、「具体的方策案」というところですけれども、そこでこの点につい案として掲げたものが、4ページの3(2)のA案ないしD案ということになります。以下、各案について検討してまいりたいと思います。
 A案については、この案は特許法105 条ただし書そのものを削除してしまうという案です。この案の長所としては、営業秘密であることを理由とした文書提出拒絶ができない点があります。しかし、この案によりますと、文書提出義務の範囲が広過ぎ証人等が刑事訴追を受ける可能性がある事項まで提出義務があることになることや、営業秘密の保護が弱まること。それから、TRIPS協定上の問題が生じかねないことなどが問題になると思われます。
 B案については、この案は明文で営業秘密を特許法105 条1項ただし書の正当な事由に含まれないことと規定してしまうという案です。この案によれば、営業秘密であることを理由とした文書提出拒絶ができなくなります。
 一方、短所としては、営業秘密の保護が弱まる点、及びA案と同じくTRIPS協定上、そういう秘密の保護ということを配慮しなければいけないということがTRIPS協定にあるわけですけれども、そういうことで問題が生じかねないのではないかという問題があるかと思われます。
 C案については、特許法105 条1項ただし書の正当な事由は比較衡量によるというふうに先ほど解釈としてされているわけなんですが、この案は105 条1項ただし書の判断基準についてもう少し明確化できないかと。営業秘密を含む文書の一部について、文書提出義務を及ぼさせるというものです。
 この案の長所としては、従前の比較衡量という枠組みを用いるため、営業秘密保護の保護策との関係で柔軟な対応ができる点が挙げられます。
 短所といたしましては、営業秘密を含む文書のすべてが提出されるわけではない点があろうかと思われます。
 C案を採る場合には、どのような形で判断基準を具体化したらいいかについても御意見をいただければと思います。
 D案は、文書提出義務を、営業秘密を保護する手続の拡充によって実質的に拡大していくというものです。すなわち、正当な事由の有無を比較衡量で判断するに際して、後に検討します営業秘密を保護する手続の拡充が実質的には影響を与えて、提出される範囲が拡大されるということを前提とする案です。
 この案の長所としては、営業秘密の保護は弱まることがないという点があると思います。
 短所としては、営業秘密を含む文書のすべてが提出されるものではないということになろうかと思います。
 1についての説明は以上でございます。

○伊藤座長 それでは、営業秘密を含む文書の提出義務の在り方について御協議を頂きたいと思います。知的財産訴訟の特徴を踏まえて、特に営業秘密を含む文書の提出義務はどうあるべきかという問題ですけれども、ただいまの近藤さんの説明を踏まえて、御質問、御意見などをお願いしたいと存じます。
 どなたからでも、どうぞ、末吉委員。

○末吉委員 この論点に関しましては、基本的にはD案が妥当であるというふうに考えております。ただ、立法技術的に可能であれば、C案のような比較衡量をするという現況の判例を立法するということも十分入るのかなというふうに考えております。
 私ども議論している中で、1つ論点として示されたものは、もともとこの105 条の立法ぶりは、損害額の立証についての立法であったところ、それが侵害の立証のために広げられたという立法経緯があると思うんですが、侵害を巡る提出義務の場合と、損害を巡る提出義務の場合と分けて考えるべきかという点について議論いたしました。
 有力な説は、侵害論をやっている訴訟手続の中で、この105 条が議論される場合には、営業秘密の保護に多少重きが置かれるのではないかと。しかし、侵害が認められて、その後損害論に入る場合には、少し営業秘密保護に対するウエイトが低くなるのではないかという有力な説がありました。
 しかし、これに対してはまた反対説もあって、一概にそのように分けることはできないような議論を、今、私どもしているところでございます。
 以上でございます。

○伊藤座長 末吉委員からは、D案というのは、内容としては現在のものをそのまま残して、言わば正当事由の考え方の内容をこういう形で考えたらどうかということで、C案はそれと比較的近いですけれども、しかし正当な理由の判断基準を具体的に規定の形で書くことができれば、それも1つの考え方ではないかという御趣旨ですね。
 ほかの方、いかがでしょうか。どうぞ、阿部委員。

○阿部委員 B案とC案というのは、立法技術上大分違うんだと思いますけれども、その効果としては同じことをねらっているのかどうかいうところがもう一つはっきりしないんですけれども。

○近藤参事官 A、B案とC、D案というのは、かなり違いがあると思うのです。それで営業秘密というものについて、この後に検討するインカメラ手続であるとか、それについての刑事罰だとか、そういうことについて一定の何らかの、インカメラなんかでスクリーニングをするということだとすると、それは正当理由かどうかというところの一応網の中に入れておいて、それを判断していくというような考え方がC案、D案だと思うのです。
 むしろ、A案、B案というのは、そういう網から営業秘密は外に出してしまおうと、その意味ではかなり違うと思うのです。今の現行の考え方というのは、営業秘密かどうかというのは、インカメラ手続なんかでも問題になって、そこでいろいろ判断をされた上で、それでこれはやはり提出するべきものなのか、提出するべきじゃないものなのかということが判断されているというスキームになっていると思うのです。今のスキームと基本的にC案、D案というのは同じものということになると思います。

○阿部委員 わかりました。

○沢山委員 やはり実際に特許訴訟をやってみたときに一番感じるのは、4ページの産業界の意見の最初に書いてある、被告の側に証拠が偏在すると、あることがわかっているんだけれども、それが出てこないというところに一番のもどかしさを感じているわけです。
 今の末吉委員からはD案・C案が望ましいという御意見がありましたけれども、そのD案とC案の違いがよくわかりませんけれども、営業秘密を除外するという、ちょっと極端な方に振る必要があるのではないかというふうに考えています。
 当然のことながら保護の問題というのは、大事な議論になるわけですが、これから議論の過程で、営業秘密をどうやって保護するかというところについて、十全な保護措置を施せばその問題はクリアーされるんではないかと思います。それが結局その訴訟手続を早めに終結させるという目的にもかなうことになるのではないかという気がしております。

○伊藤座長 なるほど、沢山委員のお考えは、営業秘密であるかどうかというようなことを、例えばインカメラで審理をしたりすることではないと。その営業秘密の保護、非公開だとか、あるいは記録の閲覧だとか、そちらの保護の方の問題として考えれば足りると。

○沢山委員 非常に厳しい保護措置が必要だとは思いますが。

○伊藤座長 わかりました。そうすると、具体的にはB案というわけですね。

○沢山委員 はい。

○加藤委員 基本的に私も沢山委員と同じ立場でございます。末吉委員の方から、どちらかというと営業秘密の保護の、重い、軽いについて、損害額の立証のためについての書類の提出命令は比較的軽いといいますか、一方侵害の立証のためについては、より厳しい側に働くべきだという御意見かと思います。その側面、確かにあろうかと思いますが、実際の現場においては、侵害の立証と損害額の立証というのは表裏一体の関係にあることが多いです。
 具体的に申し上げますと、例えば被侵害製品がA機種、B機種、C機種とあった場合は、損害額の立証のためにはA、B、Cの販売額のデータを出してもらえばいいわけですけれども、Aは侵害するけれども、Bは侵害しないとか。A及びBは侵害するけれども、Cは侵害しないといったような、まさに侵害の特定を行わないと実は損害額の確定というのも、実はできないことというケースの方が非常に多いんではないかと思います。
 したがいまして、侵害の立証のために必要な営業秘密であっても、文書提出義務の範囲に入れるべきではないかと。もちろん沢山委員が申し上げましたとおり、営業秘密の保護は当然厳しく担保されることは条件ではございますが、侵害及び損害、その両者を含むことを前提として議論すべきではないかというふうに考えます。

○近藤参事官 沢山委員に御質問なんですけれども、被告側に証拠が偏在していて、その証拠が取れないというのが、それは営業秘密だからそのものが取れないのか、その文書として特定できないからなのかと。

○沢山委員 両方あると思います。

○近藤参事官 両方あるということですね。営業秘密の場合には、今の現行法だとか、先ほど言いましたように、文書が特定できていればそれがインカメラ手続で、それはいわゆる保護しなければいけない営業秘密なのかどうなのか、出せるものなのか、出せないものなのか、比較衡量の枠組みに入ってくるわけです。その比較衡量の枠組みに入ってきて、これは絶対欲しいものが取れてないと、その点についてもやはり改正しなければいけないという、そういう必要性のようなものを感じることがあるということですか。

○沢山委員 感じることがあります。

○近藤参事官 それは原告側の立場に立った場合には、裁判所がそれは文書提出命令の対象ではないというふうに判断した場合に、それが納得できないということですか。

○沢山委員 納得できないですね。頻繁とは申しませんが、あります。

○近藤参事官 それは即時抗告されたりするんですか。

○沢山委員 そこまではしません。

○中山委員 原告側の方の意見は聞くんですが、被告側の方というのは余り聞いたことがないんですけれども、末吉委員は両方やっておられると思いますが、どうなんでしょうか。確かに原告にすれば全部出た方がいいに決まっているんですけれども、被告の方としてはどうなんでしょうね。

○伊藤座長 では、末吉委員、お願いします。

○末吉委員 それは、営業秘密を守ってもらいたいと思うでしょうね。ただ、沢山委員の御意見、あるいは加藤委員の御意見でもありますが、私どもとしては原則D案とこの場ではしておりますが、ちょっと先走るようでありますけれども、それをセットにしてインカメラ手続というのはやはり見直していただきたいという要望を後で申し上げようと思っていることと、それから非公開審理の問題も、やはり制度化するべきではないかというような意見を後で申し上げようと思っているところで、ただそういうことをやりつつも、やはりこの105 条の問題としては、基本的には現行の制度の中で対応できるのではないかという意見を申し上げたということなんです。

○中山委員 一番聞きたかったのは、侵害もしてないのに侵害と言われて営業秘密をもっていかれちゃうとか、そういうことが本当にあるのかどうか、これはどうなんでしょうか。

○末吉委員 それはあると思います。ここに御参加の皆さんにはないかもしれませんけれども、世の中ではあると思います。
 これはもう是非、また別途御議論を頂きたいと思って、あとでまた御提案を差し上げようと思っていたんですが、本日のこの議論は、基本的に文書提出命令を軸として議論が進んでくると思うんですけれども、逆に営業秘密を根拠に訴訟を起こすような、不正競争防止法上の訴訟等が想定されたり、あるいは営業秘密を積極的に証拠として提出する局面というのは、これは被告側の営業秘密に限らず、原告側の営業秘密の問題もあろうかと思うので、その点はまた別途是非御議論を頂いて、営業秘密を訴訟の中でどう保護していくかというのを、トータルで一度検討いただく場を設けていただきたいと思っているところなんですけれども。

○荒井委員 私はA案又はB案で、営業秘密の保護をしっかりやるという考えなんですが、あるいは末吉委員からお話がありましたけれども、それは営業秘密の保護をしっかりやることでカバーできるんじゃないかと、今まではややそういう訴えられた場合のことを考えるということで、なかなか実際には保護されてないという実態だと思いますので、私はA案又はB案で営業秘密の保護をしっかりやるという方がいいんじゃないかと思っております。

○伊藤座長 文書提出義務のレベルで争うよりも、むしろそれはそれとして証拠として提出をさせた上で、その秘密保護の措置を取れば、その方が合理的だという御意見ですね。
 ほかにはいかがでしょうか。どうぞ。

○阿部委員 私どももB案を主張しております。その場合に、出された秘密を流用されないようにすることが非常に重要になってくるかと思うのですが、そこがもし現実的に担保できなければ、C案にいってもしようがないかなと、その辺はちょっとどういう仕組みがあるかとも絡むと思います。

○中山委員 私の心配しているのも、今おっしゃったとおりでして、もしそれが完全に守られるんだという一般論を取ればいいんですけれども、例えば出した証拠を当事者は見ていいかとか、だれがみるのか、とか、いろんな問題があるわけです。本当にそれでうまく担保できるかという、そこにかかってくるので、後の議論との絡みだと思うんです。

○阿部委員 まさにそのとおりですね。

○伊藤座長 それはおっしゃるとおりです。

○近藤参事官 先ほどの阿部委員からの御質問にお答えしまして、A案、B案だと、当然に営業秘密も出さなければいけませんということで、そこは何も判断的な要素が全然ないものですから、どの営業秘密なのかとか、そういうものは当然当事者が自分で認識をして、当事者が守るべきものであるということの規範でしかないんだと思うんです。裁判所がこの範囲について漏らしてはいけませんよとか何とかそういうのは、余りかかわってこないということです。当然にその営業秘密については漏らしてはいけませんという一般的な規範しかA案、B案はかからないということの問題点というのが、今、中山委員と阿部委員との間で、そういう問題点があり得るのかなということの御指摘だと思います。

○伊藤座長 ほかに、どうぞ、飯村委員。

○飯村委員 この問題については、中山委員と同じ結論です。営業秘密がどれだけ保護されるかということについて、実効的な制度的裏づけができれば、いろいろ意見も変わってくると思います。それが議論されていない中では、どれがより優越的な制度かというのは判断しづらい。ということだけ意見を申し上げさせていただきます。

○伊藤座長 わかりました。
 そういたしますと、それぞれAないしD案の中で、どれが最も合理的かということについての御意見はさまざまございましたけれども、営業秘密を含む文書についての提出義務の範囲をおよそ拡大すべきではないというような方向での御意見はなかったように思います。末吉委員の御意見もそういうふうに承ってよろしいですね。

○末吉委員 はい。

○伊藤座長 そうしますと、何らかの形で拡大すべきだということについては、大方の御意見が一致していて、ただそれは秘密保護が十分図られるかどうかという問題と密接不可分な関係にあるので、その問題を抜きにしてここでいずれの考え方が最も合理的かというのを、直ちに決めるわけにはいかないという点も多数の方の御意見だったように思います。そこで引き続きまして、訴訟手続における営業秘密保護の方策等についての具体的な検討をして、その上で更に議論を続けていただきたいと思います。
 そこで、次にインカメラ審理手続における文書の開示など、手続規定の整備はどうあるべきかについての検討を行いたいと思います。
 そこで、事務局から資料1の6ページ〜12ページについての説明をお願いします。

○近藤参事官 それでは、資料1の6ページのⅡの「インカメラ審理における文書の開示と同審理において開示された営業秘密保護の方策」ということについて、御説明したいと思います。
 まず、現行法とその運用について見てまいりたいと思います。6ページの1の(1)をごらんください。
 我が国で、いわゆるインカメラ審理とは、民事訴訟法223 条6項、特許法105 条2項で定められている手続を指します。それらの規定では、文書提出義務の有無を判断するために、所持者に文書を提出させ、提出された文書については何人も開示を求めることができず、裁判所のみがこれを見ることができるとされております。
 (2)ですが、このようなインカメラ審理において開示された営業秘密の保護の現状につきましては、まず現行法上民事訴訟法については、そもそも何人も開示を求めることができないのですから、特段の規定は置いていません。
 一方、もし仮に営業秘密を含む文書を申立人に開示することとした場合には、不正競争防止法が適用されるものと解されます。すなわち、不正競争防止法では、営業秘密の保有者から営業秘密を開示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為。これは不正競争防止法の2条1項7号ということに該当しますが、不正競争となって、インカメラ審理で営業秘密を開示された場合に、この規定が適用される。開示された営業秘密を使用し、又は開示すること不正競争に該当するということになると思われます。更に今国会において不正競争防止法の一部を改正する法律案が提出されておりまして、刑事罰を科す範囲を拡大することが予定されています。具体的には、従前は刑事罰が置かれていなかった不正競争防止法を、2条1項7号の行為のうち、営業秘密を保有者から示された役員等が行う行為などについて罰則が定められています。
 7ページ〜8ページにかけまして、現行の不正競争防止法及び提案されている不正競争防止法の改正法案を抜粋しております。例えば、8ページの真ん中の6号でございますが、役員又は従業員が不正競争の目的でその営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した場合には、3年以下の懲役又は300 万円以下の罰金に処せられます。
 次に8ページの実務の状況ですが、当然のことながら現在の運用においても申立人に提示された文書が開示されることはなく、裁判所において厳重に保管されているということです。
 (3)の諸外国の状況です。諸外国の状況を見てまいりますと、アメリカでは営業秘密であることを理由として、証拠開示を拒むことはできないとされているようですが、開示された営業秘密については、プロテクティブオーダーという制度で保護を図っております。プロテクティブオーダーに違反した者に対しては、裁判所侮辱罪等の制裁が課されています。イギリスでも、営業秘密であるというだけで、当然に不開示の権利が与えられるわけではないとされているようですが、開示を受ける人的範囲を限定し、開示を受けた者に守秘義務を課すという方法がしばしば用いられているようです。
 ドイツでは、裁判所は審理等で知り得た事実について、在廷していたものに対して、黙秘義務を課すことができるとされています。
 これらの外国法制の詳しい内容については、ただいま外国法制研究会の方で検討しておりますので、5月の検討会におきまして詳しい内容について御報告をさせていただきたいというふうに思っております。
 次に2の指摘されている問題点なんですが、これは産業界等の意見で、申立人等のインカメラ手続への立会い等の手続保障がないので、申立人の反論なしに文書提出義務の有無が判断されている。それから、開示された営業機密について、保護手段を講ずるべきであるというような指摘がされているところです。
 例えば、手続保障については、ヒアリングでは一番最初の丸ポツなんですが、裁判に先立ち営業秘密に属する資料を確認できるようにすべき、裁判官のみならず技術鑑定ができる専門家、専門委員及び当事者、これには企業内の担当者も含めるということのようですが、これらの者にも営業秘密資料の確認の権利を与えるべきではないか。
 その次のポツだと、代理人に加え、当事者のうち1名の者にも守秘義務を課した上で営業秘密の開示を認めるべきではないかとされております。
 また、保護手段については、当該文書に含まれた営業秘密については、その漏えいを厳しく禁ずるような手続を整備すべきであるというふうに言われているところでございます。
 提出された営業秘密について秘密を保持し、違反者に罰則を科す仕組みをつくるべきという意見も出されているところです。
 次に10ページ目の検討の方向性の方にいきますが、①として「インカメラ審理手続における文書の開示など手続規定の整備はどうあるべきか」。
 ②として「営業秘密の開示を受けた者に対する秘密保持義務の整備はどうあるべきか」ということの2点が問題になるのかなというふうに思っております。
 (2)の具体的な検討ですが、インカメラ審理における文書の開示は、開示を求め得るものと、裁判所の許可の要否の2つの側面から検討する必要があろうかと思います。
 まず、開示を求め得るものについては、10ページのAないしB案のような案が考えられ得るというふうに思われます。
 まずA案ですが、A案は所持人から提示された文書については、申立人も開示を求めることができるとする案です。この案によれば、申立人も当該文書の記載が営業秘密か否かについて反論ができるなど、その手続保障が図れること等の長所があります。なお、申立人が法人の場合には、その代表者、使用人及び代理人などが開示を受けられることになろうかと思われます。
 一方、短所としては、申立人に開示することで、営業秘密が第三者に漏らされる危険性があると。
 第2に、申立人も営業秘密を知ることで、以後の研究開発に障害を来すことなどがあろうかと思われます。
 特に後者の問題につきましては、加藤委員からも御指摘があったほか、引用しております財団法人産業研究所の報告書などでも指摘されております。
 次にB案ですが、B案は所持人から提示された文書については、申立人の訴訟代理人のみが開示を求めることができるとするものです。この案によれば、相当程度申立人の手続保障を図ることができる、また、開示された秘密の保護に関しても実効性が期待できるとの利点があると。
 他方、訴訟代理人のみの開示では、文書の内容を十分に検討できない、訴訟代理人に限定しても、支配人などの規定があり、抜け道を許すことになるんではないか、訴訟代理人に固有の権限を認める根拠が乏しいのではないか、当事者本人に開示しないまま審理をすることは、訴訟代理人のいる当事者とそうでない当事者との間に、不平等を生じるなどの短所があります。
 C案ですが、C案は申立てにより選任された第三者の専門家が、開示を受けられるようにする案です。この案によれば、調査官・専門委員等が開示を受けて意見を述べることで、裁判官による文書提出義務の有無の判断が客観化され、所持人の営業秘密の保護と申立人の手続保障との調和を図ることができるのではないかということになります。
 他方、短所としては、第三者の専門家は、申立人と同様の知見・能力があるか疑問な場合があり、手続保障が十分になされないおそれがあるのではないかということになろうかと思います。
 次に最後のD案ですが、D案は申立人がA案ないしC案を選択できるとするものです。この案の長所は、所持人の主張する営業秘密に応じて、柔軟な対応が可能となる点ですが、短所は以上のA案ないしC案の各短所が存在するということになります。
 12ページ目の裁判所の許可の要否については、裁判所が許可をするというのと、当然に開示するという、A案とB案の2つが考えられると思います。
 A案は、開示するに際しては、申立人の申立てにより、相当と認められるときに、裁判所が許可するとするものです。この案によれば、営業秘密の重要性などを総合的に考慮し、適切な範囲で開示することができる一方、開示の可否の判断が困難な事例では紛争が更に長期化する恐れがあるのではないかという点が短所になるのではなろうかと思います。
 B案は、申立人の申立てがあれば、当然に開示するという案です。この案は、文書の開示を受けたいというユーザーニーズに十分応えられると考えられる一方、申立人が営業秘密を知ることになり、営業秘密の保護に薄い結果となる。営業秘密を知るために、文書提出命令を申し立てるなどの濫用の可能性があるなどの短所も考えられます。
 以上です。

○伊藤座長 それでは、インカメラ審理における文書の開示について御協議いただきますが、主として具体的検討の①、開示を求め得るもの、A案ないしD案と。②、裁判所の許可の要否、A案又はB案。これについて御質問・御意見などをお願いしたいと存じます。 どうぞ。

○加藤委員 私としては、まず①の項目に開示される主体につきましては、D案が妥当ではないかと思います。先に結論といいますか、②については、裁判所の許可を前提とするというふうにしたらいかがかなというふうに思います。
 理由は、次のとおりです。営業秘密が申立人側にも開示されるという前提に立った場合は、一番の問題は営業秘密の特性に応じて、だれが最も中身を判断し得るかというところがポイントになってくるかと思います。
 訴訟代理人だけの場合で果たして足りるかどうかというケースは、やさしい訴訟、やさしい技術内容であれば多分できるかと思います。つまり原告なりは、訴訟代理人にこういうところがポイントですと教えることによって、相当程度判断ができるのではないかと思います。
 一方、非常に難しい高度な技術内容になった場合については、やはりそれでは難しい局面が相当程度出てくるのではないかと予想されます。したがって、申立人自身、あるいはその会社で言えば、会社の従業員に開示せざるを得ないという状況が出るのではないかと思います。つまりその技術内容を最もよく知っている者に開示されるという必要性が出てくるかと思います。
 同じように、第三者の専門家に見てもらうという必要性も出てくるものではないかと思います。ただその場合、例えば会社の立場で言えば、従業員に見させる場合については、当然のことながら相当程度高い秘密保持義務が課せられるという前提に立ちますので、まず人的にも非常に絞るでしょうし、見た本人も秘密保持義務が課せられますので、これは制限的に働くのではないかと。つまり従業員に見せることはできるだけ避けようという方向で働くと思うんですが、技術内容からしてやむを得ない場合については、訴訟代理人だけではなく、例えば申立人本人、従業員にも見させるということがどうしても必要になってくるのではないかと思います。
 したがって、営業秘密の内容、レベル、特性に応じてやはり、ここのD案にも書いてありますとおり、柔軟な対応が必要になってくると。営業秘密を開示する意味合いからして必要になってくるものではないかと思います。
 その意味で、裁判所の許可の要否についても、やはり営業秘密の特性等において、申立人が申立人、従業員、訴訟代理人だけでいいのか、あるいは第三者の専門家も含めるかどうかについては、裁判所の許可を前提とすることが合理的ではないかと。
 以上のように考えます。

○伊藤座長 ただいま加藤委員からは、D案と許可の要否については許可を要するというA案の組合せが最も合理的ではないかという御発言がございましたけれども、どうぞほかの方。
 それでは、櫻井委員。

○櫻井委員 前提として、もしインカメラ審理において申立人を含めまして、第三者も含めてだれかに見せるということになりますと、営業秘密を出す側からすると、どうなんですかね。それが自分の会社の存亡にかかわると思ったら、万が一ということを考えるわけですから。そうするととにかく敗訴しても出さないという行動に出るのが合理的になるんだと思うんです。
 だとしますと、第三者に見せ得るということを前提に制度設計するということは、秘密は秘密でもそれほど大した秘密ではないことを前提にすることになるのではないか。その辺の感覚はどうなのかなというのを企業の方にお伺いしたいと思います。
 情報は行政法の方でも情報公開法ですとか、個人情報保護法とかで、感覚としては放射性廃棄物のようなもので、出したら終わりなんですね。絶対原状回復はできないということになりますから、そうすると事後的に罰則を設けるといっても、それでは救済されない利益が含まれているということで、出さないのが華という性質のものでありまして、その点がどうかということが1つです。
 もう一つは、罰則についてですが、一般論として不正競争防止法の前提とする罰則というのは、動いている罰則というふうに考えていいでしょうか。罰則を設ければそれが動くようになるということなのか。普通、罰則って設けても余り動かないんですね。心理的な抑止効果はあるんですけれども、そうすると実効性の担保という点では弱いんじゃないでしょうか。という感じがして、経済的な制裁とか、もうちょっと違う形での担保手段が必要ではないのかなと思いました。

○中山委員 おっしゃるとおりなんです。仮にこれに刑事罰をかけた場合、刑事裁判を非公開にすることは非常に難しい。刑事については親告罪になると思いますが、親告罪で果たして告訴するかというのは、かなり疑問視する向きもあります。もう社会に漏れてしまったんでしようがないという場合は別ですけれども、漏れてないときには疑問視すべき点が多いようです。

○近藤参事官 今まで産業界からの意見として営業秘密を何らかの形で開示できるようにすべきじゃないかと、相手方もそれをわかるようにしないといけないのではないかということについて、いろいろな意見があったんですが、今、櫻井委員からの御指摘としては、そもそもそういう規定を設けると、それは営業秘密がより出てこなくなってしまうのではないかというような御指摘が含まれているのかなと思うのです。存亡に係るような、本当に大事な秘密については、とにかく出さないという方向に働く可能性が強くなるのではないかということではないかと思うのですけれども。

○阿部委員 要するに、本当に大事なものはどうせ出さないでしょうということであれば、そのとおりであって、知られたんじゃ元も子もないというのも、ないわけではないと思います。
 刑事罰ではなくて損害賠償の話ですから、お金で済む話であれば、どっちかというと、しょうがない負けてもいいから出さないという選択肢は、十分あり得ると思います。

○伊藤座長 それは、インカメラの問題というよりも、例えば文書提出命令に対して出さないという、そちらの話ですね。

○阿部委員 そうです。

○沢山委員 ただ、それは不利益を覚悟するわけですから、そういう選択肢は当然あっていいんです。だからそれはもう被告の判断ですから、勝手にされたらいいと思います。

○近藤参事官 このA案からC案まで、いろいろな開示の態様を書いているのですけれども、具体的にこの開示は何を満たすために必要なのかということを確認をしておきたいというふうに思います。例えば、訴訟戦略のためとかそういうことであれば、一定の人が開示を受けたからといって、ほかの人が知らなければ訴訟のやり取りがどの程度うまくなるのか。何のためにこの開示が必要なのかということを一応確認しておくことが、またどの範囲で開示させなければいけないのかということにつながってくるのだと思うのですけれども、この点については、産業界の方としてはどのようにお考えなのでしょうか。

○加藤委員 私としては、基本的には侵害しているか否かのところが一番ケースとして想定されるんじゃないかと思います。仮に先ほどの例で言えば、A機種を侵害したとして、ほかはどうなのかという、そういう侵害の特定の話が一番ケースとして想定されるんではないかと思います。
 簡単に言えば、侵害の特定のために営業秘密を言うことが必要になるということではないかと思います。

○伊藤座長 どうぞ、飯村委員。

○飯村委員 現行法の枠組みを前提にする限りは、被告が特許権を侵害していないのであれば、正当な理由があるとして、開示を拒むことができることになります。そして正当理由の存否について判断するためにインカメラに付するということです。ここで、正当な理由の中身は、今の運用では、仮に侵害していなければ、被告は自分の技術を使用しているはずでありますが、その被告の技術というのは、当然にノウハウであると言って差し支えないわけです。仮に、原告の特許権を侵害していれば、保護に値する営業秘密を使用していないという判断になります。すなわち、完全に表裏の関係に立つわけです。文書を出すかどうかの判断は、すなわち、正当理由が存在するかどうか、それはすなわち、その正当な理由があるか否かの判断ということで、判断基準は連動しております。
 そのような重要な事実関係に関して、果たして、被告側の一方的な説明だけで、侵害しているかどうかを判断するのは、公平でないという意見があるわけですが、その意見を反映すると、立会権を認めるべきである、すなわち、被告の持っている情報を権利者側も見た上で、権利者側にも意見を述べさせて、文書提出命令を出すかどうかの判断をすべきであるというのがここでの問題意識です。
 現行法の下でのインカメラ手続は、例が少ないのです。被告がインカメラ手続を利用しないで、非侵害を立証する例も結構あるんです。つまり被告が非侵害部分に相当する部分だけ自分の技術を明らかにした自分の製品、方法を開示して、裁判所はそこだけを判断して棄却することが行われます。
 ですから、被告が非侵害ということを自信をもって立証できる場合には、問題が顕在化しないということになり、そのため、インカメラの利用例が多くないのかもしれません。例えば、構成要件がA〜Dまであって、どういう触媒を使っているかが大事な場合であっても、加熱条件は秘密でないような場合もあり、その部分だけ出してくれば当たらないということはあり得るだろうと思います。被告は、その製造記録をインカメラに先だって開示することがあるわけです。
 そういうことで、インカメラが実際に働く例が少ないということもできますが、被告が何としてでも出したくないというときに、どうするかという問題や、部分開示で棄却が無理な場合が残ってしまう。そのときは、原告が立ち会って、被告の説明の当否について意見を述べるという方向に進んでいくわけです。
 また、原告から開示を求める事項についても、何の目的か、何のためかという侵害と判断するための基準を、裁判所が、原告からの意見を聴取しない限りは、適切な審理ができないのではないかと思われます。

○近藤参事官 今の飯村委員の御発言からすると、開示するか、開示しないか、今の現行の枠組みだとすると、基本的には侵害しているか、侵害していないかということと密接不可分で表裏の関係になって、それについての判断をするときに、その判断が適正になされているかどうかという意味で、そこに立ち会う必要があるのではないかという考え方ではないかと。基本的にはそういうことなのかなというふうに思ったのですが、それはそういったものでよろしいのかどうかというのは確認はしておいた方がいいのかなと思うのですけれども。

○加藤委員 私はそのように理解しております。

○飯村委員 はい。

○近藤参事官 先ほどのレジュメの方の4ページの具体的方策のA案、B案というところで、正当の理由というところで枠外にしてしまった場合に、同じような手法が取れるのかどうかというのはまた1つの問題だというのは、先ほどのところでも議論したところがそこで問題になっているのだと思います。
 当然に営業秘密というのは、出すか、出さないかということ自体は問題にならないということですので、今、言ったような正当理由があるかないか、開示しなければいけないかどうかということについての判断枠組みがそこでは、先ほどのA案、B案だと外れてしまうと。そうすると、また別の考え方を取らないといけないということになると思うんですね。
 その場合に、この立会いというのは何を認めるためなのかということではないかというふうに思っております。

○伊藤座長 近藤さん、さっきの前の方を外してしまうという案を採ったときには、このインカメラによるものというのはほとんど意味がなくなってしまうという、論理的にはそうなるんですね。

○近藤参事官 基本的にはそういうことになってくるのかなと、産業界の方の意見として、営業秘密を外すべきだというのと、インカメラ手続に立ち会わせるべきだという両方の御意見が、両方同時に出されていることがございますので、そのときの立会いというのは何を立ち会うのかと。

○沢山委員 テーマが細かく区分けされているので、そういっただけだと思います。我々、我々というか産業界の意見は、もうこのとおりになれば、インカメラ手続というのは、今、伊藤座長言われたとおり、もう無用の長物というか、不要になりますね。訴訟全体の中の問題ですから。

○伊藤座長 なるほど、あとはもう一般的な秘密保護の話ということですね。

○沢山委員 そうです。

○近藤参事官 そうすると、裁判所の許可とかというのもかんでこなくなるということになるのでしょうか。

○加藤委員 インカメラでなくなればそうですね。

○伊藤座長 どうぞ、末吉委員。

○末吉委員 私どもで議論しておりましたのは、もともとインカメラなので、裁判官がごらんになるのが原則だろうと思うんです。ただ、技術的な論点とかが絡んできて、当然裁判官もアシストを受ける必要がある場合があって、そこの実際上がよくわからなかったんですが、C案のいうところの専門家に調査官も専門委員も入って議論されているようなので、調査官あるいは専門委員と相談しながら判断を行うということが原則ではないかと。
 よく代理人の立場で問題にしているのは、被申立人が、多くは被告だと思うんですけれども、被申立人代理人だけが裁判官に説明する場合があるようであると。これはやはりアンフェアではないかと。もし、当事者から技術説明等を受ける際に、必ず両当事者で、私どもの案はB案なんでございますけれども、双方の代理人の立会いを求めて、しっかり技術説明をお互いがした上で、それで営業秘密に該当するかどうか、正当の理由があるかどうか御判断いただくというのがフェアではないかと、それが私どもの考え方です。

○伊藤座長 それは、先ほど飯村委員からお話がありましたように、営業秘密に当たるかどうかというのは、実質的には侵害しているかどうかの判断と、かなり重なり合う部分があるからということが、恐らくお考えの背景にあるんでしょうね。

○末吉委員 実務的に多くは、恐らく方法の特許を巡っての論戦というのがあろうかと思います。これは隔靴掻痒の感でして、お互いの代理人の立場でやるわけなんですが、インカメラの中でそれがどのように行われているかというのは、必ずしも一様ではないようにお見受けするので、できればそこのインカメラ手続をもう少しフェアといいますか、当事者が関与できるような場合もつくっていただけないかと、そういう考え方です。

○伊藤座長 B案の短所というか、問題点として指摘されている、これについて何か御検討の結果はありますか。

○末吉委員 まだ十分に検討できていないのですが、いずれの問題点も乗り越えていかなければいけないのではないかというのが、我々の考え方でした。それは、ここの問題に限らず、いずれまたプロテクティブオーダーの話も出てくると思いますが、訴訟代理人として、これは裁判所の許可を頂いての開示だと思いますが、あるいは秘密の根拠についてはまた後で御議論があろうかと思いますけれども、しっかり守秘義務を代理人に課して、やる手続を確立しなければ、営業秘密の保護の拡充というのはなかなか難しいのではないかと考えているところなんですが。

○近藤参事官 B案で、訴訟代理人のみ開示をするというようにした場合に、この問題として侵害しているかどうか、訴訟で非常に重要な情報になると思うのです。それは依頼者本人に知らせないということもできるのですかね。
 やはり依頼されてこの事件について受任した場合に、その基礎の一番大事なところなんで、そこについて代理人だけで、だれにも伝えてはいけないというのはなかなか難しいかなとも思うのですけれども。

○末吉委員 事実上は難しいと思います。難しいと思いますが、やってやれないことはないのではないかと考えます。

○加藤委員 その点については、先ほど来、私申し上げてありますとおり、相当数の事件においては訴訟代理人に情報を依頼者がインプットすることによって可能かと思いますが、本当に難しい、つまり営業秘密を見ることが本当に必要なケースについて、やはり訴訟代理人のみでは不足ではないかというのが産業界の基本的な意見ではないかと思います。つまり自らも本当に制限しますけれども、自らも本当にわかっている人間を出したいというのは当然の願望ではないかと考えます。

○櫻井委員 私は実態がよくわからないところがあるんですけれども、もともとインカメラ手続というのは、こっそり秘密で見るというのが基本でありまして、いろんな人に見せらたらインカメラじゃないんですね。
 その辺がどうなのかというのが1つありまして、だからインカメラ手続について、適正手続みたいなことを言い出すときりがないので、多分そういう話ではなくて、裁判官が技術的な事項について余りによくわかってくれないんじゃないかという、そういう不信感が出発点にあるという議論ですから、裁判官がきちんとそういったフォローアップする態勢があって、判断できるのであれば、目的は達するわけですね。適正手続だって、基本的にはそういう目的のために存在するわけですから、そうだとすると、A案からD案というのを見ますと、どうやって真に適正な判断に近づくかということを考えたときに、今、両当事者の方の側がいろいろ言っていくというのも1つの方法ではあるんですけれども、もう一つの方法はC案のような感じで、権限が拡大された調査官であるとか、あるいは専門委員のような、第三者的な専門家が裁判官の後ろにくっついてもらって、それで判断するというのがある意味では適切なんではないかという気がします。

○飯村委員 私自身は、正式なインカメラの例は、1回しか経験がありません。東京地裁の他の部でも、それほど多くはありませんが、インカメラの例はあります。やはり、申立人側に対して、立会いの機会、開示して意見を述べる機会を与えていないので、申立人側に必ず不満が残るような結果になっています。
 裁判所は、侵害論と正当事由の存否と、心証を分けており、つまり、先に侵害しているかどうかの心証そのものを取ってしまって、それを本案に反映させるようなことはしていませんが、やはり申立人に不満が残るという意味で、完全な制度ではないという実感を持っています。
 ただ、こういう制度が置かれているということだけでも、制度的な裏付けがあることが相手方に対するプレッシャーになりますので、訴訟上の当事者間の合意とか、訴訟の進め方に関する裁判所を交えた協議を促進するということで、制度の存在意義は大きいと思われます。
 結局のところ、当事者が訴訟上の合意をしたり、誓約書を裁判所に出させて、原告が知り得た情報を第三者に開示しないという前提で円滑に事件進行をしているのが通常です。それ自体は、正式なインカメラの手続ではなく、事実上見せるという運用ですが、そのような進め方が多いと思われます。
 そのような意味では、当事者に対し、より強いプレッシャーを与えるような制度に変更すれば、運用により、よりスムーズな進行が図れるのではないかという印象を持っております。
 なお、インカメラのイメージですけれども、原告は、被告の製造現場でどんなことをやっているか全然わからないので、方法特許で、例えばPH5から10までの間というようなクレームの場合に、被告はぎりぎりPH5のところか10のすれすれのところでやり、しかも、何か別の条件を加えることによって、すれすれのところであっても、経済的に成り立つ方法であるとして、実施しているわけです。そのプラスαの条件は、まさにノウハウであり、しかもPH5とか10のすれすれなので、そこは侵害か非侵害かがすごくわかりづらいんです。当事者の意見を十分に聴かない限り、正当事由があるか否か、つまり、侵害しているか否かが、判断できない場合は、非常に多いともいえます。
 そこで、インカメラ手続ではなく、むしろ本案の審理手続における秘密の保護が十分になってくれば、とりあえず文書提出手続では出してもらって、営業秘密の保護を図りながらの審理ということが、正当な方法であるかもしれませんけれども。

○近藤参事官 加藤委員に御質問したいのですが、先ほどやはりいろいろな場面があって、申立人だとか従業員だとか訴訟代理人だとか、いろいろな範囲で開示する必要性がある場合があり得るのではないかというお話で、それでD案を御支持されるということだと思うのですが、それはその事案に応じてその申立人の意見を聞きながら、どの範囲で開示させるかについては、裁判所が決めるというようなやり方というのもあり得るのですか、そのニーズに応えるというやり方からすれば。

○加藤委員 基本的にはあると思いますが、ただ申立人はなぜ、例えば自分の従業員にも見せないと、やはり開示の目的を達成できないというのは、申立人としては裁判官に説明して、それで許可を得るというのを前提にしております。
 もう一つ、先ほど来申し上げているとおり、申立人側も従業員のプロテクションは必要だと当然考えると思いますので、非常に限定的に働くのではないかと、つまり訴訟代理人で済むものならば、当然説明してここがポイントですからここでやってくださいというふうにできるんじゃないかと思うんです。
 ただ、本当に厳しい、先ほど飯村委員から御説明があったような、非常にストライクゾーンの厳しいところになってきますと、ノウハウベースにもなってきますし、やはり技術の問題であればそこの技術に熟知した申立人側の従業員に見せざるを得ないケースというのは、やはり出てくるのではないかと思うんです。ですから、そこの営業秘密の特性と、重要度と、だれに見せるかとの兼ね合いで決めていくべき問題かなという考え方を持っております。

○伊藤座長 その点についての最終的な判断は、裁判所がするというふうに承っていいわけですね。

○加藤委員 私は、それで結構だと思っています。

○阿部委員 申立人が開示を求めるという場合は、侵害の立証主体が、相手から書証を出せと言って出してもらって、それが侵害を立証できる証拠であるかどうかを判断するときに立ち会うというわけですね。そういうのは、微妙なケースでは我々としてはやはりそうせざるを得ないので、申立人が見れるようにしておかないと機能しないのではないかという気がします。
 ただ、それが相手の営業秘密かどうかというのは、それは申立人が全くわからないというか、判断できませんね。
 申立人は秘密でないと思っているかもしれないけれども、秘密であるかもしれないし、多分相手から秘密を盗もうと思って申し立てる場合は別でしょうけれども、侵害しているんだということに関心がある場合には、もう侵害の有無しかわからなくて、営業秘密に該当するかどうかというのはわからないというか、わかる場合もあるでしょうけれども、必ずしもわからないんじゃないかと思いますけれども。

○中山委員 11ページの一番上の産研の報告書に書いてあるんですけれども、アメリカの場合は従業員が秘密を知ってしまいますと、リスクを負うわけです。つまり守秘義務がかかっていますから、自分の会社で今度は使えないといったリスクを負う。会社としては、そういうのは非常に重要な技術でしょうから、多分最高のエンジニアを出さないといけないと思うんです。最高のエンジニアが相手方の秘密を知ってしまうと、かえってリスクを負うというか、自分のところでうまく仕事ができなくなるという危険性があるということを、産業界の方がこれをおっしゃったんですけれども、それはどうですか。

○阿部委員 それは、そういうリスクがありますから、そういう場合は申し立てないという選択肢も十分あると思います。
 それと、既に自分が持っている情報であるとか、ほかから正当に入手した情報であるとか、後からパブリックになったとか、要するに例外の場合についてはそれには該当しないというふうには扱われるでしょうから、恐らくそういう点は、自分は既に持っていたんだということを公に証明できるようにした上で申請すると思います。

○中山委員 実際問題、そこでまたトラブルが起きて、またそこで秘密を出す出さないということにもなりかねないわけですね。

○阿部委員 それはあり得ます。

○加藤委員 中山先生の御指摘と、多分産業界も同じ悩みを抱えると思います。ですから、当事者を出すというケースについては、非常に重要な、会社全体の生死がかかわるようなケースについては、それは第1番のエースのエンジニアを多分出すんだろうなと思います。
 ただ、それ以外のケースについては、当事者をインカメラの中に入れるということについては、先ほど来言っておりますとおり、制限的に働くことが非常に多いのではないかと、代理人に説明して、見ていただいて判断できる部分の方が、多分多数であって、ただし本当に重要な大きな特許侵害訴訟になったらば、秘密情報での侵害の有無にかかってくるとなれば、やはり一番高級なエンジニアを出さざるを得ないということはあるので、D案を入れておいていただきたいと。
 ただし、通常のケースは余り、申立人たる会社側は余り従業員側に見せるようなことをしないだろうという考え方を持っております。

○中山委員 通常かつまともなというか、まじめな企業はということではないかと思うんです。まじめじゃない企業はいっぱいあるわけですけれども、その心配はないんですか。

○加藤委員 一応まじめな会社に勤めておりますので、わかりませんが。

○近藤参事官 まさにその点、今、中山委員がおっしゃったように、これは王道のところを検討しているのですが、阿部委員の発言の中にもありましたが、本当にこの営業秘密を盗んでやろうというために、本来訴訟としては全然成り立たないのに訴え提起をして、この文書提出命令を申し立てて、営業秘密をとにかく見ることに意義があるというような訴訟というのは、このままそういう形で入れた場合には、否定はされなくなってしまって、とにかく相手方の営業秘密を見ることができますよという形になってしまうことはないだろうかと、その濫用の防止のところをどうやっておさえていくのかという、今までのインカメラ手続であれば代理人だけでも見ることができないということで、全然濫用は全くできないようになっていたわけです。今度は、その濫用ができるような形になったら濫用防止についてどういうように考えるのかということも、やはり一緒に考えないといけないことかと思いますが、その点について何か御意見等ございましたら。

○伊藤座長 先ほど加藤委員の御意見は、そこは裁判所の許可だから、相当の主張に理由があるかどうかというのを裁判所が判断して。

○加藤委員 一定の抑制効果はあると思いますけれども、今後そういったような濫用についてはゼロにするのは難しい話ではないかと思います。

○近藤参事官 仮にこの裁判所の許可にかからしめるということだとすると、やはりインカメラ手続において開示するかどうかに先立って、裁判所だけが見るという、更にインカメラ・インカメラ手続のようなものが必要になってくるのではないかというような感じがしないではないのです。やはり文書を見てみないと、どうなのかというのはわからない点はあるのではないかという気もするのですけれども、でも全然言っているのは違うよとはねるために、まず最初にちらっとでも見ておかないと、その許可・不許可について、原則許可するというときには、その許可にする要件がないと許可できないと思うのです。その点はどうなのでしょうか。

○阿部委員 近藤さんがおっしゃるような、私も言ったんですけれども、故意に秘密を盗むために訴訟するというケースは、大体訴訟して相手方がだれかというのを見れば、それらしいというのがわかると思いますし、そういう場合は出さないですね。恐らく、そういうケースは出さなくても済むというか、裁判は負けないというか、大丈夫だというケースがほとんどだと思います。
 それは蓋然性の問題ですけれども、最後はそこが非常に問題であれば我々は出さないということで対応するしかないと思います。そこを恐れたんだと、結局何も事態が進展しないんじゃないかということで、そのリスクをしょってでもある程度出させることができる方法の方がいいと思っているんですけれども。

○近藤参事官 私は、制度として営業秘密だけでも、何らかが出てくるという前提で制度設計しなければならないと思います。そういう場合にはもう出さないから、それでプロテクトできますよということなのですが、実際上はそうなのかもしれないけれども、一応でもインカメラ手続には営業秘密であっても、そうやって出てくるという制度として設計することになるんだと思います。今のお話からするとですね。それはそれで何とかなるかなということですが。

○阿部委員 何とかなると思います。

○伊藤座長 何とかなるというのは、裁判所の判断を信頼するということですね。

○阿部委員 信頼するか、もうその訴訟をあきらめて出さないかです。

○伊藤座長 近藤さんが言われるように、しかし裁判所の判断を信頼するとはいえ、裁判所としてもまずどういう順序で、だれに見せる必要がある文書かというのを判断するための手続が更に必要になるということも間違いないのかもしれないですね。
 ほかにいかがでしょうか。
 どうぞ、飯村委員。

○飯村委員 制度として、濫用的な申立てに対しての対応の方法として、出さなければ良いという選択肢はあり得ないと思います。個別の事件における被告の価値判断として、出さなかった場合のペナルティーの方が、訴訟に負けるというペナルティーより小さい場合に、結局、負けても構わないから出さないという選択肢はあると思います。
 制度として、いろいろなペナルティーが考えられますけれども、漠とした方が機能するような気はしています。そのような制度を創設した場合であってもなおかつ濫用的な申立てもされますが、許可するかしないかの要件を決めないで裁判所の裁量にまかせるのは、制度としてふさわしくなく、何らかの許可・不許可の要件を決めるのが普通だと思います。濫用かどうかは本来裁判所に、わからないことが多いので、やはりどういう場合に許可するかを規定するような制度に進めていくのか検討しなければいけないと思います。

○阿部委員 濫用の抗弁を認めるとか。

○伊藤座長 逆に言うと、請求や主張に相当の有理性があるということなんでしょうね。あるいは、それがなければ濫用的なものということになるんでしょうけれども、確かにその辺りは検討しなければいけないことだと思いますが。

○阿部委員 濫用の話は、代表訴訟のときに担保を積ませるか、積ませないかの判断をどうするかというときと、非常によく似ているような話ですけれども。

○飯村委員 現行の制度を前提にした場合、被告には開示義務があるわけですが、開示義務の前提としては、そもそも探索的な申立ては認められないわけですから、原告側に、相応の資料を出させたりとか、ある程度の訴訟協力を促して、その上で原告側から何も出てこない場合には、まさに探索的であるとして、申立てが濫用であるということで、手続を先に進めないというようなことを事実上やっていました。

○阿部委員 そうですね。有名な総会屋からの請求の場合、担保提供を認めた判例もありますね。

○伊藤座長 それでは、この点は具体的な御提案もあり、しかし必ずしも御意見が1つにまとまっているというわけではありませんけれども、それぞれ有意義な御意見をちょうだいしました。
 そこで、これは次の機会に更に引き続いて検討するということにさせていただきますが、ここで15分ほど、3時5分過ぎぐらいまで休憩をしたいと思います。

(休 憩)

○伊藤座長 それでは、検討会を再開させていただきます。
 引き続きまして、インカメラ審理において開示された営業秘密保護の方策について検討していきたいと思いますので、資料1の12ページから16ページについて事務局から説明をお願いします。

○近藤参事官 それでは、資料1の12ページから16ページまでの「開示された営業秘密保護の方策」について御説明申し上げます。
 この論点は5つございまして、1番目として「秘密保持義務発生の根拠」。
 2番目としまして「秘密保持義務者の範囲」。
 3番目として「禁止する行為の範囲」。
 4番目として「秘密保持義務が存続する期間」。
 5番目として「制裁」の5つの観点から検討することになろうかと思われます。
 まず「秘密保持義務発生の根拠」ですけれども、これはどのような根拠で当事者に秘密保持義務を発生させるのかという問題です。
 A案からD案まで書かせていただいておりますが、A案は秘密保持義務を当事者による申立てにより、裁判所が相当と認めるときに、裁判所の命令によって秘密保持義務を発生させるという案です。
 この案の長所は秘密保持義務発生の要否や時期、それから秘密保持を負う営業秘密の範囲を柔軟に調整できる点及び裁判所として刑事罰を基礎づけやすい点にあると思います。
 その反面として、秘密保持義務発生の要否や時期などが事前に明確でないため、訴訟当事者が開示を受けるべきかの判断に窮することがあり得るのではないということも短所になるかと思います。
 B案ですが、秘密保持義務をインカメラ手続で開示を受けた場合に裁判所の命令等を介さず自動的に発生させるという案です。この案によれば、秘密保持義務発生の要件が明確で予見可能性が高い。
 営業秘密の保護により資するという長所があるのですが、インカメラ手続で開示を受けたところ、営業秘密に該当しなかった場合にまで秘密保持事務が発生してしまいかねない問題。それから、秘密保持義務発生の要否や時期が固定的で窮屈過ぎないか。A案と比較すると刑事罰を基礎づけづらいのではないか。それから、秘密保持義務を課される営業秘密の範囲が不明確ではないかという問題点が考えられるところです。
 C案ですが、これは秘密保持義務を契約で発生させるとする案です。一般にこのような契約も有効と解されており、当事者同士の契約で秘密保持を約することで、秘密保持義務を発生させようとするものです。
 この案によれば、秘密保持義務の発生根拠としては説明が容易であること。秘密保持義務発生の要否や時期、秘密保持義務を負う営業秘密の範囲についても柔軟に対応することができるなどの利点があります。
 他方、合意が得られない場合には実効性がないこと、B案よりも更に刑事罰は基礎づけにくいということ、刑事罰に比して秘密保持の実効性に、本当にこれで実効性があるのかどうかという疑問があること、損害賠償などの制裁を実現するには、別途、民事訴訟を提起する必要があるという問題点があると思います。
 D案は、開示された営業秘密の方は不正競争防止法にゆだねるとする案。この案によれば、不正競争防止法によって統一的な処理が図れる一方、訴訟上の保護について十分な措置と言えるかどうかという点については、疑問があるということでございます。
 次に、秘密保持義務者の範囲の問題です。これは2つの案を示させていただいておりますが、A案は、インカメラ審理で開示を受けたものをすべて秘密保持義務者であるとする案です。この案には、義務者の人的範囲が明確で、利害得失の判断が容易であるという利点がある一方、義務を課すものの範囲を営業秘密の内容に応じて変えたり、秘密保持義務を一部解除したりするなどの多様な要求には対応できないという短所が考えられます。
 B案は、開示を受けた者に秘密保持義務を発生させるという点ではA案と変わらないのですが、裁判所はその一部を解除できるとする案です。この案は一部を解除するということで、多様な要求に対応できるとの利点があるのですが、反面、秘密保持義務を課される人的範囲が不明確であり、利害得失の判断が困難になるのではないかということが考えられます。
 次に3番目として「禁止する行為の範囲」です。
 これも2つの案を示させていただいておりますが、A案は開示のみを禁止するという案です。この案には開示という違法性の高い行為を禁止できるという利点がある一方、不正競争行為それ自体である使用が禁止されないという短所が考えられます。
 B案は、開示のみならず、目的外の使用を禁止するという案です。この案には、営業秘密を侵害する行為を広くとらえられる利点がありますが、禁止する行為の範囲が広過ぎないかを更に検討する必要があるのではないかと思います。
 「④ 秘密保持事務が存続する期間」でございます。
 A案は訴訟係属中のみ秘密保持義務を課すというものです。この案の長所は、義務存続期間が明確であるということで、短所は営業秘密の保護が十分ではないのではないかということです。
 B案は訴訟終了後も存続するという案です。この案はB−1案とB−2案に分かれておりまして、B−1案は、訴訟終了後も裁判所の定める一定の期間継続する義務とする案です。
 この案の長所は、必要な範囲で訴訟終了後も営業秘密の保護を図ることができることにある一方、適正な裁判を実現するために必要とされるはずの秘密保持義務が訴訟終了後まで継続することを理念的にどう説明するのかに問題があること、それから、適正な期間を定めることが困難ではないかということが考えられることが短所として挙げられております。
 B−2案は、訴訟終了後も、当該営業秘密が不正競争防止法の要求する営業秘密の3要件を満たす限りは、継続する義務とする案です。この案の長所は営業秘密の保護に十分であるという点ですが、短所としては、義務者によって当該営業秘密が不正競争防止法の要件を満たすか否かを知ることが困難な場合が多く、義務者に酷ではないかという点です。
 「⑤ 制裁」ですが、これは秘密保持義務に違反した場合にどのように制裁を科すかという問題です。A案、B案ありますが、A案は制裁として所要の罰則を科すという案です。この案の長所は罰則の内容によっては違反した場合の制裁として十分な抑止効果がある点、目的犯や親告罪とすることで処罰範囲を相当なものとすることができる点、短所は刑事罰等を科すことに国民的な納得が得られるか、他の同種罰則との均衡があるか十分な検討が必要だということです。
 B案は、営業秘密の開示を受けたものに担保を積ませて、秘密保持義務に違反した場合には、民事上の不利益を与えるものというものです。この案の長所は担保の額によっては十分な抑止効果がある点、短所は、受けた損害がすべて補償されるわけではないこと、担保額及び提供期間の決定が困難であるということにあろうかと思います。
 以上です。

○伊藤座長 それでは、論点が幾つかにわたりますけれども、ただいま説明がありました開示された営業秘密保護の方策について、どの点からでも結構ですので、御質問・御意見をお願いいたします。
 先ほども御意見をおっしゃっていただきましたが、産業界からの委員の方、いかがでしょうか。

○阿部委員 これは法人ではなくて個人が義務を負うんですね。

○近藤参事官 その考え方はいろいろあり得ると思うのですが、特に刑罰ということを前提にすると、その前提としては個人が前提になりやすいかなと思います。でも、法人の両罰規定もあり得ます。

○阿部委員 法人の内部で情報を流したというときにはどうなるのか。

○加藤委員 順序が逆になって恐縮なんですが、「制裁」の方から考えていった方が合理性があるんじゃないかということで、制裁については所定の刑事罰を科す方向でよろしいのではないかと思います。途中に不正競争防止法との関係が出てまいりましたが、前に伊藤座長の方から、仮に刑罰を科した場合については、その保護法益を見る必要があるだろうということで、不正競争防止法を見た場合には、基本的に私益だけれども、一定の公益面も二義的に持っているというものではないかと思います。
 ここで言っている営業秘密が仮にリンクした場合については、当然、営業秘密の所有者の私益が侵害されていることは明らかでありますが、同時に裁判過程において、公正な裁判を担保するために開示したものでありますから、公益面が更に強くなるだろうという両側面を持ったものだという面からは、刑事罰が科されるかと思います。
 重さについては、不正競争防止法とのバランスがありますけれども、そういった面で罰則というのは必要だと考えます。ですから「⑤ 制裁」については、A案ということになるのではないかと考えます。
 それに基づいて、戻って考えていきますと、まず、秘密保持義務発生の根拠として、先ほど言いました公益面がかちっとしているところから、裁判所の命令によって発生するものではないのかなというふうに感じます。すなわち、ここがA案になろうかと思います。②の範囲については、A案、B案ありますが、基本的にはA案の画一的な秘密保持義務になるのではないのかなと思います。ここについては、まだ十分な検討ができておりませんが、基本的にはA案でよろしいのではないかと思います。
 禁止する範囲については、A案、B案、少しまだ検討の深さが足らないというか、もう少し深掘りする必要があろうかと思います。少なくとも開示の禁止は当然必要ではありますが、それでは目的外の使用といった場合について、検討すべきは残留情報という考え方をどこまで認めるかという検討がもう一点必要かと思います。
 したがって、A案プラスαは必要ではないかと思いますが、そのαがどこまでなのかというのは、このベースだけでは、私としてはもう少し深い検討が必要ではないかと思っております。秘密保持義務が存続する期間については、当然のことながら訴訟終了後も一定の秘密保持義務が発生しなければ当然のことながら営業秘密の価値を守ることはできないかと思います。ただ、B−1案、B−2案、両方示されておりますが、これは1つは、もう少し柔軟な対応も考え得るかと思います。営業秘密の価値に応じて、通常の場合、3年ないし5年とか一定の期間で済むけれども、場合によっては営業秘密の3要件を満たす限りにおいて、秘密保持義務が継続するという考え方もケースによってはあり得るかと思いますので、ここは画一的な一定の期間というだけでは足りないように思いますが、言い換えればB−1案とB−2案のコンビネーションにある程度対応可能ではないかと考えております。

○伊藤座長 加藤委員のお考えは、秘密保持義務というのは、適正な司法の実現ということをも担保するためにあって、にもかかわらず秘密保持義務を遵守しないことは、その違反としての評価を受ける。そのことから制裁とか根拠だとか、その他、一定の範囲だとか効果を考えるべきではないかという御意見のように承りましたが、どうでしょうか。どうぞ沢山委員。

○沢山委員 ①については加藤さんの意見と一緒であります。申立てという行為が当然必要になるだろうと思います。
 それから、秘密保持義務者の範囲ですが、これは先ほど阿部さんからも質問がありましたが、法人に必ず関与させるべきであるという意見であります。当然、企業の人間が開示を受けた場合は、企業内といえども第三者には開示できないという厳しい義務を課すことになるわけですが、それをモニタリングするという義務を法人が負うべきであろう。ただ、流動性は非常に高くなっておりますので、企業の身分を離れたときは、そのものについては除外されて、個人の義務だけが残るということになるのではないかと考えます。
 禁止する行為の範囲ですが、目的外の使用というのがよく意味がわからないんですが、裁判で使うだけですね。当然B案になるのでないか。
 それから、秘密保持義務が存続する期間でありますけれども、本当は有限ということが有り難いんですが、B−2案にならざるを得ないんではないか。義務者に非常に酷な状況になりますけれども、これはやはり開示を受けたことによる自分の選択をして開示を受けた場合であればやむを得ないものではないか。
 制裁については、A+Bでいいのではないかと思います。

○近藤参事官 沢山委員のおっしゃった企業内で第三者に開示していないかどうかについて、企業の方にモニタリングをすると。具体的にはどういうふうなことですか。

○沢山委員 例えば半年に一回やってないかと。

○近藤参事官 それはだれが確認するんですか。

○沢山委員 企業の代表者でもだれでもいいんですけれども。

○近藤参事官 企業の代表者が確認をするという措置を取らなきゃいけないと。

○沢山委員 それを裁判所にレポートする。

○近藤参事官 もう一つ気になった点として、企業から個人が身分を離れた場合に、個人の義務だけが残る場合、モニタリングされて企業の代表者は知っているという状態で、その人が辞めてしまったら、その企業は営業秘密をどう使おうと別に罰則はかからないと。

○沢山委員 それはだめです。

○近藤参事官 さっき言った企業の身分を離れた場合に個人の義務だけが残るとおっしゃった趣旨がちょっとよくわからなかったんですが。

○沢山委員 その者についてモニタリングを継続していくという意味です。

○近藤参事官 わかりました。

○阿部委員 発生の根拠は必要だという人が申し立てることによるのであって、申立てをしなかった場合はそんなに秘密保持の要請はないんでしょうから、そういう義務を課す必要はないのではないかと思います。
 2番目の秘密保持義務者の範囲ですけれども、原則は秘密の開示を受けた者だと思います。ただ、B案の一部を解除する措置を講ずることができるということは、必要に応じと書いてありますけれども、どういう必要なのかよくわかりませんが、最初に裁判所の命令で義務を課すときに多分義務者の範囲を決めると思うんです。その際に何か条件が付けられれば、都合がよければB案の方がいいのかなという気がいたします。
 それと先ほどお話があったように、今の不正競争防止法の罰則の規定を見ていると、現役の従業員にはその罰則が科せられるんだけれども、OBの場合は外しているんです。それは何か職業選択の自由との関係等々いろいろ難しい問題があって外さざるを得なかったという立法者の説明なんですけれども、そういう観点から言うと、そういう配慮が必要になるんではないかなと私は思いました。
 それから、禁止する行為の範囲は目的外というのは裁判以外でもし使用するということであればそれはB案だと思います。
 4は、やはり裁判所が一定期間を定めた方がいいんだと思いますけれども、例えば3年とか5年とか定めた場合に、1年目ぐらいで営業秘密の3要件を欠くような行為を会社側がしたと、秘密を秘密として管理するようなことを放棄したといった場合にまで保護する必要はないんじゃないかなと思います。ですから、B−1案+B−2案となるんですね。
 それから、制裁は罰則なんじゃないかなという気がしました。金さえ出せばどうにでもなるんだというんじゃ、やり得になってしまうんじゃないかという気がいたします。

○伊藤座長 先ほど刑事制裁の実効性について中山さんから御意見がございましたが、この点どうでしょうか。

○中山委員 私も罰則だと思うんですけれども、この場合も検察官が起訴するという通常の刑事手続になるわけですね。特許法105 条つくるときにもいろいろ議論をして、結局普通の刑事訴訟手続でやると実効性がないんじゃないかというふうになって、それで105 条になったという経緯があるんですけれども。
 アメリカのように、裁判所侮辱罪でやってしまうということならいいんですけれども、その点はどうでしょうか。

○阿部委員 おっしゃるとおりで、そこは悩ましいところでございまして、今度はそっちの刑事裁判のところで、また秘密かどうかという話になって、そちらは出さないということはもっと難しいんではないかという気がいたしまして、私の思考能力を超えております。中山先生、よろしくお願いいたします。

○中山委員 前回も結局そこで行き詰まったんですね。裁判所で法廷侮辱罪をつくるかというと、これまた憲法上問題がありますし、それは非常に難しいですね。
 ですから、まあ刑罰は威嚇的に置いておいて、いろんな合わせ技のようなことはあり得ると思うんですけれども、担保として何年間か知りませんけれども、5年、7年担保するというのは大変ですね。しかもこの保証するだけの担保というのは、相当な額になるんでしょうね。何億円を何年間も積んでおけというのは。

○阿部委員 金利も付かないし。

○伊藤座長 そうですね、悩ましいところですが、どうでしょうかね。

○中山委員 あと阿部さんに伺いたいんですが、退職従業員の場合は、この不競法の刑罰に合わせて秘密義務を解除するという趣旨ですか。

○阿部委員 解除するというか、要するに会社の外に出てしまったときに、今、議論しているのはOBが会社の情報を持ち出して悪さをしたというときに、刑事罰になるかならないかという議論があって、結局外れてしまったわけですね。それとの比較衡量というか、それは必要あるのかないのか、ちょっとわかりませんけれども。

○中山委員 さっき加藤委員がおっしゃった、公正な裁判を受けるという観点を重視すれば、従業員であろうが退職後であろうがまかりならぬというふうになると思うので。

○加藤委員 私自身はその意見でして、退職後も当然秘密保持義務を課せられたままで、罰則の対象になると思います。
 それから、両罰規定なんですけれども、そもそも秘密保持義務を課されるのはだれかということですので、法理論から言えば当事者に限られるんじゃないかと思います。法人については、秘密保持義務というものを課せられるとすれば監督義務ですね。ですから、そこのところを一緒にすべきではなくて、刑事罰なりそこのプロテクトをきっちりさせるためには、当事者に対して退職後も秘密保持義務を裁判所が命令した期間なり条件でずっと守りなさいというのがごく自然な流れではないかと考えています。

○阿部委員 私もそういうふうにする方がよいと思っています。今の不正競争防止法の方もOBも対象にする方がよいと思うのだけれども、いろいろ難しい議論が合って実現できなかったという。

○加藤委員 したがって、私が冒頭申し上げたのは、不正競争防止法上の一般罰則とはちょっと意味合いが違う側面があると、そこのところから決めていったらいいがですかという意見でございます。

○伊藤座長 わかりました。

○近藤参事官 先ほど加藤委員のおっしゃっていた、禁止する行為の範囲の問題のところで、A案プラスαで、そのプラスαというのは残留情報ということを考えなければいけないというふうにおっしゃったと思うんですけれども、その残留情報というのを具体的に御説明していただけませんでしょうか。

○加藤委員 アメリカでは一般的に秘密保持契約があった場合でも、残留情報というものについては、使用は可能だというふうにされているんです。
 どういうのが残留情報かというのは一概に非常に言いにくいんですけれども、例えばノウハウを見ますね。それがその後ノウハウが頭の中で改良されていくわけですけれども、その改良されたベースになったものもずっと使えないのかとなると、余りにも公平を欠くと、そういった考え方が残留情報と言われるものだ思います。
 それまでも果たして使用を禁止できるかどうかというのは、実効性も含めて難しいんだろうと思います。したがって、そのものずばりの使用を禁止されるのは当たり前なんだと思います。開示もできませんし、使用されないのは当たり前なんだと思うんですけれども、当然産業界からは、では営業秘密を見たけれども、それに基づいて善意に改良された情報というのはどうなるんですかという質問が必ず来ると思いますので、その辺について一定の議論をしておく必要があるのではないかということで、私自身は残留情報をセーフにしろとかそういった意見は現段階では持っておりませんが、ここのところをこの整備の関係で必ず産業界から問われると思いますので、基本的には善意で改良された残留情報に基づいて改良されたものについては使用はできるというふうになるんだと思うんですけれども、そこの一定の議論は必要なのではないかと思います。

○近藤参事官 もう一回質問で申し訳ないんですが、営業秘密について秘密保持義務者である人が開示して見たと。それについて、そのノウハウを更に自分で改良をして、それを使用することはできるということなんですか。

○加藤委員 残留情報というのは、基本的にはそういうものだと思います。ただし善意というのかよくわからないんですけれども。

○中山委員 見たのは故意というか、見てしまったわけですね。それで善意というのは、どういう意味ですか。

○加藤委員 結果的に見た人の知につくり出したノウハウの中に、結果的に見たノウハウの一部が入り込んでいるという意味なんだと思います。

○中山委員 それは善意というか、事実として入っているということですね。

○加藤委員 事実としてはそうなんですけれども。

○伊藤座長 どうぞ。

○中山委員 それ非常に難しい問題ですけれども、ただ普通のノウハウの場合もないですか。正当に見せてもらったけれども、それを改良してしまったということはありますね。そのノウハウの契約の範囲がどこまでかとか、不競法の射程はどこまでか、そういう一般法の話になってくると思うんです。
 だから、結論を出すのは難しいんだけれども、これ特有の問題ではなくて、特許でも何でもそうですね、どこまでがそうかという範囲は。そういう争いではそれはあり得る。それは避けがたいと思うんです。

○近藤参事官 でも、基本的なベースの考え方としては、やはり開示を受けた者の秘密について、たとえそれに若干改良しても使ってはいかんというのがベースなのかなというふうに思っていたんですが、逆にそれが使えるんだというベースで考えられているのが、ちょっとよくわからなかったんですけれども。

○加藤委員 そうすると、逆の見方をしたらば、非常に優秀な人をしようがないから見させますね。その人が同じノウハウ領域の仕事をずっとできなくなる恐れが出てきてしまうという話にもなってしまうんです。それはちょっと酷に過ぎないかという議論があるというとです。

○阿部委員 でも、それはなまじっか見てしまうと、不都合なことになる、という抑制機能を働かせていくことになるんでしょう。

○加藤委員 もちろんそうです。

○中山委員 逆を言えば、改良していいなら、小さく改良してしまいますね。それは何でもそうですけれども、どこまではセーフかとか、どこならアウトかとか議論はあるけれども、それはしようがないので、一般論で解消する以外ないんじゃないかと思うんですけれども。

○加藤委員 その問題ではないのは知っておりますが、より一層厳しい罰則を科すという前提で考えた場合について、相当厳しく働くだろうなと思います。

○中山委員 でも、不競法でも罰則はあるので、基本はそんなに変わらないような気もするんですけれども。

○伊藤座長 私は全く素人であれですけれども、その基本というのは、例えば見たと、そこから示唆を受けて全く別のものを考え付いたと。それはいいけれども、それを基礎にして改良したり、何か付け加えたり、これはだめだということですか。

○中山委員 特許の争いは大体そこにあるんですけれども、ノウハウの場合はどこまでやったらいいかというのはなかなか難しいので、余り判例はないですね。ないというのは、今まで手続が余りよくないので、顧客名簿のような事件はあるんですけれども、本当の技術的なノウハウの事件というのは少ないので、ただこれからは、それは自分の見たノウハウとは違いますよという争いが出てくる可能性は多分にあると思うんです。それと同じで、難しいことは難しいけれども、ここで特に扱わなくても大丈夫じゃないかという気がするんですけれども。

○櫻井委員 今までの流れを伺っていると、危なくて営業秘密なんかとっても出せないなという感じがしてしまうんですけれども。私が言いましたインカメラの話で、11ページのC案の調査官と専門委員に限るという説ですが、この説の大きなメリットというのは、秘密保持義務をかける対象が非常に限定されているということと、やはり市井の人に回してしまうとどこまで行ってしまうかわからないので、罰則なども厳しくしなければいけないという、かえって反作用もあったりするところで、そこも大きなポイントではないかというふうに思います。

○伊藤座長 末吉委員の基本的にはだれに見せるかというところの意見を承りましたが、それを前提にしたときに今ここで議論しているような点については、何か弁護士会で検討されましたか。

○末吉委員 すみません。そこまでまだ検討ができていないんですが、ほぼ皆さんの御意見の延長線上に多分なるんだと思いますけれども、ちょっと一点だけよろしいでしょうか。その際、これは提示を受けたということは、あくまでも見せられただけで、つまり裁判所で見せられただけで、紙ベースは一切わたらないという前提で検討すればよろしいんでしょうか。
 そうだとすると、例えばメモも禁止であると。一番厳しいのはメモが禁止になって、その場限りで、つまり記憶に残った限度ということで検討を進めればよろしいのか、それとも例えばコピーは禁止だがメモは許しましょうということになるのか、いや更にコピーも許しましょうと。そのレベルの場合分けが実務的には1つ入るんじゃないでしょうか。

○阿部委員 裁判記録はどうなるんですか。

○近藤参事官 裁判記録としては、民訴法92条の閲覧制限というものがございますけれども、あれは当事者は普通のコピーが取れるということで、私が思っていたのは、そもそもはこの正当な事由に当たるか当たらないかというところの判断に入ってくるので、それについて十分な主張・立証ができなければいけないのではないかというような御意見だというふうに、それに立つ論者の方の御意見ではそういう御意見なのかなと。
 そうすると、普通の訴訟記録と同じような形で、それについてはコピーももちろんできるという前提ではあったのかなというふうには思っていたんです。ただ、それについていろいろな考え方がありますから、今まで全然何人にも見せていなかったわけなんで、今、末吉委員がおっしゃるように、ちらっと見せると、ぱっと。

○末吉委員 ちらっとじゃなくてもいいんですが。

○近藤参事官 そういう選択肢というのは、あり得るかもしれませんね。段階的なものというのはあるのかもしれません。

○末吉委員 確かに、紙ベースでわたるというのは、非常にリスクが大きいような気がするんです。紙は一人歩きいたしますからね。ちょっとその点も御検討いただけたらなと思ったわけです。

○阿部委員 将来そこの点が争いで控訴したとかというようなときには、どうなってしまうんですか。ちらっと見せたとかそういう記述があるとか。

○近藤参事官 でも特許や何かで、よくわからないですが、発想自体が問題で、これがそういうことでこうなっていたのかということがわかったこと自体が非常に大きな問題になるというふうに聞いておりますので、ノウハウの問題も必ずしも紙かどうかということよりも、やはり発想が重要なのかなという感じがしないではないんですけれどもね。
 そこを何か制限をしたり、仮にランクを付けるとすると、裁判所の訴訟指揮的なもので、これについてはここまで許すとか何とかという裁量的なものでやらざるを得ないんだと思うんですけれども、そこはそんなに効果として違うのかどうか。
 仮に紙で持ち帰らなければわからないようなものについてだとすれば、持ち帰ってもらわないと検討できないんじゃないかという気もしないではないんですけれども、いかがですかね。ちょっと御指摘があった点検討してみます。

○伊藤座長 どうぞ、飯村委員。

○飯村委員 今の関連ですが、インカメラ手続は訴訟の準備であって、実体審理とは異なるわけです。その記録は訴訟記録ではありませんし、裁判官が見たら返しています。インカメラの決定に対して抗告した場合、抗告審は何も記録はなく、その決定に対する審理をするに当たり、もう一度当事者から提出してもらって、それで判断するというようなことになります。閲覧制限も何もいたしません。そもそも記録には何も残っていないということです。
 仮に、インカメラ手続において、申立人の立会いを認める制度を設けた場合に、その立会人に対してどのような有体物を示すか、リークがされやすいかどうかとか、検討の複雑困難性とか、いろいろな問題を検討しながらということです。
 インカメラの手続ではないんですが、文書提出命令が確定した後の提出文書について、秘密を守らせながらの提出文書を分析する場合も、いろいろ工夫の余地があります。実例では、裁判所の訴訟指揮上の決定により、詳細な事柄を決めて、実施した例がありました。例えば、従業員の数を最小限度にして、従業員は部屋の外で待っていて、その都度相談するとか、分析のための詳細なルールを決めて、実施した例がありました。
 先ほど①〜⑤までの、それぞれの意見が出されたんですが、②〜④までは、①の保持義務の根拠をどうするかという点で、A案を選ぶかB案を選ぶかによって、当然に答えが違ってくる性質のものではないかと考えておりました。
 B案の場合には、インカメラ手続で開示を受けた場合に、法律により、自動的に保護義務を発生させるということになります。
 これに対して、A案の場合には、裁判所が命令によって決めるということなので、②、③、④の選択肢は、その裁判所が具体的にどういう内容で義務を課すかによって、義務の内容は異なると思われます。①について、A案を選んだ場合と、B案を選んだ場合で、②、③、④の意見は、大分違うことになるだろうと思います。
 13ページのB案の短所の①で書かれていることが、まさにこのとおりだと思うんですけれども、結局のところ営業秘密に該当しないような場合であれば、それきりのものだし、具体的な事件、あるいは出された資料によりけりなんだろうなというような気がしています。
 それから、罰則の問題は、比較的というか、この制度を実効あらしめるためには刑罰が必要だろうということは、皆さんの意見と全く同じです。

○沢山委員 先ほどの営業秘密をどういう形で公表するかという問題ですが、秘密保持義務を課せられたものから見たら、やはりドキュメントで詳細な、自分が開示したらいかぬという義務を負っている情報というのは何かというのは、絶対に要るだろうなとは思うんですけれども、それがないと期間が長いですから、どこまでセーフで、そのセーフ、アウトを判断する上でも、実務の感覚から、企業の側からいくと、それがないと話にならぬという感じがしますね。

○伊藤座長 なるほど、秘密保持を命ぜられる側の利益を考えたときに、単に記憶だけでそれをやれというのは困難だという御趣旨ですね。

○近藤参事官 今、飯村委員の御発言のA案、B案のどちらかを採るかによって、ほかのところの論点かというようなことと、仮にA案の裁判所の命令によって発生するということを取った場合、④の秘密保持義務が存続する期間というのは、どういう形になり得るというふうなお考えなんでしょう。

○飯村委員 B案で言えば、法律でどう決めるかの問題。A案で言えば、裁判所の命令によってどう決めるかの問題。特にA案の場合には、その出された機密、あるいは具体的に採ったインカメラ手続の具体的な内容によって決められることではないかと思われます。

○伊藤座長 ほかにいかがでしょうか。

○阿部委員 だんだん混乱してきたんですけれども、裁判所の命令によって秘密保持義務を課すというのは、当事者の意見も聞くんでしょうけれども、例えば秘密保持義務期間が5年だとか7年だとかというのを、裁判所が一方的に決めるということですね。

○伊藤座長 最終的にね。

○阿部委員 いや、決める方も大変だろうなと思いまして、決められる方も。

○飯村委員 刑罰の根拠になるものを、裁判所の命令で決めるのは大変だと思いますけれども。

○近藤参事官 具体的な場面を考えてみた場合に、裁判所がこの営業秘密の場合に何年間保持義務を課せたらいいんだというのを考えるのは、かなり難しいんじゃないかという感じもしているんですが、意外にそのノウハウ自体のいのちが長いというか、非常にいいもので、最初裁判所はこれは5年だといったんだけれども、6年目のときに、本当に開示してしまったらその会社がつぶれてしまうようなこともあり得ないわけではないんですね。
 だから、それも本当に裁量的にしかならないと思うんですけれども、何か要件立てをして、この要件をクリアーしたらあと付け加えるごとに1年ずつアップするというようなことにはならないので、なかなか難しいことは難しいかなという感じがしているんですけれどもね。

○加藤委員 ですから、多分想定ですけれども、通常の営業秘密のうち技術情報であれば、例の3要件を満たす限り義務が継続するという立場を取られるのかなと思います。
 ただ、一方営業秘密のうち極めて簡易なもの、例えば売上データですとか、通常ならば一定期間で簡単に区切れるもの、1年、3年等で区切れるものについては、むしろそのような3要件を満たすかどうかのあれが、やるまでもないことですから、年数で切ってしまえばいいというコンビネーションはあるんじゃないかと思います。おおむね、多分、想像ですよ、一般的には技術情報は、先ほど近藤さんが御指摘されたような問題が出る可能性がありますので、多くの場合3要件が満たされる限りという、半永久的なことになってしまう可能性が高いけれども、一方幾つかの営業秘密については期間で簡易かつ明確にやれるものはそうやるという運用になるんではないかと、産業界から見て想像します。

○近藤参事官 櫻井委員のお考えだと、先ほどのインカメラ手続のC案ということを前提にすると、そもそもこういうものは別に制度としては要らないということですか。

○櫻井委員 そういうことです。簡便でよろしいと思います。

○伊藤座長 それでは、この点も種々の御意見ございまして、大変有益な討論を頂いたわけですが、また次の機会に議論をしていただくことにいたしまして、次のテーマに移らせていただきます。
 続いて、営業秘密が問題となる非公開審理について検討をお願いしたいと思いますので、事務局から資料1の17ページから30ページについての説明をお願いいたしたいと思います。

○近藤参事官 それでは、17ページからの「営業秘密が問題となる事件の非公開審理」について御説明申し上げます。
 まず「1 現行法」のところですが、この問題は憲法82条と密接に関連する問題です。憲法82条1項は、そこに引用してありますとおり、裁判の対審及び判決は公開法廷で行う旨を規定しております。一方、同条2項は「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」がある場合に、対審を公開しないことができると定めています。
 この憲法82条の趣旨といたしましては、最高裁判例は裁判を一般に公開して、裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることになるとしているところで、憲法学で言うところの制度的保障であると理解しております。
 一方、近時は憲法82条はこのような制度的保障にとどまらず、裁判の公開を国民の権利として保障したものである等の見解を唱える学説も存在するところです。これはイで書かれているところです。
 (3)に移りますが、82条2項によれば、「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」があれば、裁判を公開しないことが許されるわけですが、この文言をいかに解釈するかについては、18ページから19ページの表のとおり、各種の学説があるところです。
 各説を簡単に見てまいりますと、一方で佐藤功説、宮澤俊義説などのように、これを安寧秩序又は風俗を害する虞があるときと、制限的に解する伝統的通説や、これを支持する種々の説がございます。
 他方で、座長の伊藤先生の説や、浦部教授の説、長谷部教授の説、戸波教授の説等、公の秩序を、伝統的通説のように厳格に解する必要はないとして、営業秘密についても非公開とし得るとする説であります。
 更に、佐藤幸治教授や鈴木教授のように、言わば82条には内在的制約があると解する説もあります。
 また、松井教授や高橋教授の説のように、憲法32条における裁判を受ける権利自体の中に、非公開審理を受ける権利があるとする説もあります。
 更には、鈴木教授や田邊教授は、我が国の批准している国際人権規約の文言を手がかりに、営業秘密に関する非公開審理を肯定されています。
 続きまして、82条で非公開とされた場合の手続についてですが、これは裁判所法70条が規定しております。対審を公開しない場合には、その旨を理由とともに言い渡すべきこと、判決を言い渡すときは公開しなければいけないこと等を定めています。
 19ページの一番下の(5)ですけれども、憲法82条に関連する主な判例は、純然たる訴訟事件は公開されるべきであるとするもので、「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」との文言を解釈した判例は残念ながら見当たりませんでした。
 20ページにいきまして、(6)ですが、「非公開審理に関連し得る法律の規定等」ということで、82条にもかかわらず、裁判所で行われる手続のすべてが公開されているわけではありません。手続が非公開とされる例について見てまいりたいと思います。
 まず、今国会に法案が提出されております、人事訴訟法の要綱においては、一定の要件で尋問を公開しないで行うことができるとされています。すなわち、引用しております人事訴訟法案要綱の第五、四、3の(一)を見ますと、自己の私生活上の重大な秘密に係るものについて尋問を受ける場合においてという前提で、当該事項について陳述することにより社会生活を営むのに著しい支障が生ずることが明らかであることから、当該事項について十分な陳述をすることができず、かつ当該陳述を欠くことにより、他の証拠のみによっては、当該身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判をすることができないと認めるときは、決定で当該事項の尋問を公開しないで行うことができるというふうにされております。
 この要綱案の趣旨を解説した補足説明によりますと、20ページの末尾のとおり、同条が規定する裁判の公開は、それ自体が目的ではなく、裁判を一般に公開することによって、裁判が公正に行われることを制度として保障したものと解されていると、したがって、1のように裁判の公開を困難とする真にやむを得ない事情があり、かつ裁判を公開することによってかえって適正な裁判、この適正な裁判の意味としては、身分関係の形成又は存否の確認が行われなくなると認められるという、言わば極限的な場合においてもなお同条が適切な裁判の実現を犠牲にしてまで、裁判の公開を求めていると解するのは相当ではない、というのが、法制審議会の民訴・人訴部会の認識ということではないかと思われます。
 それから、公開をしない場合の手続として、ほかにどのようなものがあるのかということで、以下幾つか関連することについて挙げさせていただいております。
 まず、②の「期日外尋問」ですが、これは民事訴訟法185 条等は裁判所外での証拠調べを定めております。この期日外証拠調べについては、これを非公開とすることができることに異論がないと思っております。
 この理論構成については説が分かれているようですが、証拠調べが行われる裁判所外の場所は、憲法82条の言う法廷ではない。あるいは、憲法でいう対審に当たらないということで、したがって証拠調べについては公開の必要がないというふうに解されております。
 次の21ページの下の方の「傍聴人の退廷」ですが、これは刑事訴訟規則には、傍聴人の退廷に関する規定が置かれております。これも審理の公開という一般公開を制限するものに関連しうる規定でございます。
 次の22ページの「④ 被告人の退廷」、これは刑事訴訟法には更に被告人の退廷の規定もおかれているところです。
 23ページの「閲覧制限」、これは先ほどちょっと話が出ましたが、民事訴訟法92条には営業秘密やプライバシーを含む訴訟記録について閲覧制限をすることができるというふうに規定されているところです。
 23ページ目の「弁論準備手続」、現行法の民事訴訟法の弁論準備手続は憲法82条の対審に当たらないというふうに解されて、非公開で実施されているというところです。
 24ページの「(7)運用」のところですが、現行法の下でも各種の営業秘密が訴訟上問題となることがあるわけですが、その際には適切な訴訟指揮で十分に対応できているとの指摘もある一方、不十分であるとの指摘もあります。
 その裁判例として、幾つか挙げておりますので、御参照いただければと思います。
 「(8)諸外国の制度」ですが、諸外国においては裁判の公開原則を憲法に定めている国は必ずしも多くなく、憲法として定めている国においても、憲法の委任によって法律により公開の例外を定め得るとされている国があるようです。
 次に25ページの2番目の「指摘されている問題点(各界の意見)」というところですが、各界の意見としましては、非公開審理に積極的な立場、消極的な立場のそごがあるところです。この点、経済産業省が行ったアンケートの結果を、26ページ以下に引用してありますが、この調査結果によりますと、27ページの棒グラフに表れるとおり、多くの企業が裁判の公開が問題であるというふうに感じているようです。
 他方、裁判を非公開とすることには批判もあって、平成8年の民事訴訟法改正の際には、マスコミや消費者団体、弁護士会などから強い批判が寄せられたというふうに認識しております。
 27ページの一番下のところが検討の方向性です。
 以上の各界の意見等を踏まえますと、営業秘密に関する審理はどうあるべきかを検討するべきことになろうかと思います。28ページですが、具体的な検討を行う前提としては、数点の考慮事項がございます。まずは、憲法82条の「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」とはどのような意味かについて検討する必要があろうかと思います。これは資料1の18ページ以下の表でまとめた、憲法に関する各学説をどのように解するか、どのような考え方を取るべきかという点です。
 次にどのような類型の営業秘密について公開審理が特に要求されるのかについて検討する必要があります。これを分けて説明しますと、公開の法廷に営業秘密が提出されることで、不都合が生じる例があり得るか。これは営業秘密の保有者が法廷へ営業秘密を提出することに積極的である場合であっても、これが公開の法廷に出てくると問題が生じる場合がないかを御検討いただきたいという趣旨です。
 公開の法廷に営業秘密が提出されないことで不都合が生じる例があり得るか、これは営業秘密の保有者が法廷に営業秘密を提出しない、又はできない結果不都合が生じることはないかという点を御検討いただきたいという趣旨です。
 3番目、どのような営業秘密について非公開審理が特に必要とされるのか、これは不正競争防止法の要件を満たす営業秘密にも様々なものがあるわけですが、その中で特にどのような営業秘密について非公開審理が要求されるのか御意見を頂きたいという趣旨です。どのようなニーズがあるかを御議論いただきたいと思います。
 更には、どのような訴訟の手続について非公開審理が特に要求されるのかについて検討する必要があろうかと思われます。
 その際には、非公開審理については、証人尋問、鑑定人尋問、当事者尋問に限定して認め、口頭弁論一般については弁論準備手続や記録閲覧制限等の現行の手続を手当するという考え方についてどう考えるか。
 ②として、口頭弁論一般に非公開審理を認める考え方についてどう考えるかについて検討する必要があろうかと思われます。
 これらを前提に考えられる案とし、事務局でまとめたものが28ページのA案ないしD案です。A案は、憲法82条の範囲内で非公開審理ができる要件と手続を法定しようとする案です。この案によれば、憲法82条の制限の範囲内で非公開審理ができる要件及び手続を明確化することにより、裁判公開の原則と営業秘密の保護の要請のバランスを取ることができるという長所があります。一方、非公開審理ができる要件及び手続が複雑なものとなる点が短所となります。この案を検討する際に、手続的な規定として検討の対象となり得る案を挙げております。まず、意見聴取手続は、非公開審理をするに当たって当事者の意見を聴取するというものです。非公開審理において開示された営業秘密を保護する手続は、非公開審理の過程で開示された営業秘密について、どのような保護手続を設けるかというものです。
 次にB案は、営業秘密の保護が必要な場合に、期日外証拠調べができるとするものです。この案の長所は、現行の実務に類似した手続による非公開審理を行うことができるとすることですが、期日外証拠調べが不相当な場合に対応できない。それから、憲法82条の潜脱となるんではないかというような短所がございます。
 C案は、中立な第三者である鑑定人等の前で証言させ、証言を弁論に上程するというものです。この案には、諸外国にも例があり、ユーザーのニーズにも合致するという長所がある一方、直接主義を踏まえた適正な裁判を担保できるのか。憲法82条の潜脱となるのではないかという短所がございます。
 D案は、実務の運用にゆだねるというものです。この案の長所は、実務の健全な裁量により、実情に応じた柔軟な対応を図ることができる点であり、短所はどのような要件で非公開審理がされるか事前に明確ではないという点もあろうかと思います。
 以上です。

○伊藤座長 それでは、議論の順番として、まず前提となる点ですけれども、営業秘密が問題となる事件の非公開審理の必要性、非公開審理が必要となる具体的な場面にどういうものがあるのか。これらについて議論をお願いしたいと思いますので、御質問、御意見を含めまして発言をお願いします。
 これも口火を切っていただくという意味で、どうでしょうか、産業界からの委員の方から、どういう場面でこういうことが必要になるんだろうかという辺りについて御意見をお願いできればと思いますが、どうぞ阿部委員。

○阿部委員 裁判所に行って見ていると、大体、弁論準備手続という期日以外のところで技術説明をしたり、お互いに当事者の争点をクリアにすることをほとんどやっていまして、口頭弁論期日は、書面のとおり陳述しますとか何とか言って終わって、次の期日を決めるだけで終わりますので、私は事実上困るという経験はないんですが、それで公開審理が担保されているかどうかというのはよくわかりませんけれども、不都合かどうかというふうに聞かれたら余り不都合ではないというのが実態なんではないかという気がしております。
 そもそも日本の裁判のやり方がおかしいんではないかという部分の議論があるのかもしれませんけれども。

○伊藤座長 今、阿部委員がおっしゃったのは普通言われる、狭い意味での口頭弁論についてですが、ここで主として考えているのは、証人尋問であるとか、当事者本人尋問であるとか、そういった証拠調べの口頭弁論を期日で公開法廷でやるという場合を想定しておるんですが、そういった場面について、余り非公開審理の実際上の必要がないということであれば、そもそも余りこの問題を議論する意味も大きくないということですが、どうでしょうか。

○櫻井委員 今、説明を伺っていてどうかと思ったんですけれども、2つぐらい場面が区別できるかと思うんです。1つは、公開の法廷に営業秘密が提出されることにより、どういう不都合があるかということですけれども、例えばある企業で、クローン人間などの技術を持っていると、むしろそっちの方が主目的かもしれませんけれども、むしろ公開したいというんですか、そういう気持ちもあって、それをぽんと出したときに、それをみんな見てしまうというようなお話が多分古典的なケースということなんですね。
 あと、この議論そのものが表に出るような話になってしまうと、事実上、裁判が受けられないということが不合理なんではないかという話であったのではないかと思うんですけれども、ただ先ほどの御指摘はそういうことではなくて、その前の段階でという、最初に申し上げたケースのところでおっしゃったというようなニュアンスに聞こえたんですけれども。

○近藤参事官 今、その論理がよくわからなかったんですが、裁判を受けることができなくなってしまうような場面で、それを保護するために、適正な裁判をするために公開の原則があるんだから、それは主客転倒しているのではないかという考え方というのはもちろんあるわけですね。

○櫻井委員 そうですね。それを議論したいんですよね。

○近藤参事官 先ほどのクローン人間云々というのと、また少しレベルが違うんだと思うんですけれども、裁判手続の場合というのは、普通は訴状を上げて、争点整理をやって、証拠調べをやるという手続なんですが、争点整理の場面までは、今、阿部委員がおっしゃるように、何か問題があれば、弁論準備とかは公開されないような形でやりますし、記録が出た場合でも閲覧制限という形でかけて、一般公開されないような形でやることが可能になるんです。
 やはりどうしても残り得るところというのは、証人調べの手続の中で、公開原則というのが強く働いていますので、やはり証人尋問したり、当事者尋問したりするときには、そこで本来出したくないものを一般に公開してしまうということがあり得るということになるのかと。
 ただ、阿部委員がおっしゃっていたように、余り不都合を感じていないというのは、別に裁判というのは公開されると言っても、インターネット公開されるわけでも、テレビ中継されるわけではないので、だれが法廷に来ているかということ、そんなにたくさんの人が来ることは通常は考えられないし、関係者以外は法廷には余り来ていないと思うんです。そして尋問調書になってしまったものについても、問題があったところについては、そこのところについて後で閲覧制限がかかってくれば、そこについてほかの人はアクセスできないということで保護はできるわけです。
 だから、まさに尋問しているときに、今日はどこどこの裁判の侵害訴訟で営業秘密の点について証言が出るはずだというふうにライバル社が聞きつけて傍聴席で聞いていろいろメモをとって、なるほどこういうノウハウだったんだというようなことがあり得るかどうかというのが一番問題ではないかなというふうに思います。

○阿部委員 今の場合は、証拠調べ自体も期日外で証拠調べをすることが現実にあるんですね。それも利用すれば、ますますないという感じはいたしますけれども。

○近藤参事官 今、実際上、それが問題になっている場合、現実の運用としては、今、おっしゃったような期日外尋問の運用というような形を柔軟に使ってクリアしていくというふうにも、私なんかも工夫していたところなのですが、期日外尋問というのは、そういう形で本当に使われるのかどうかというのは、ここでも短所として書きましたけれども、82条の潜脱になるんではないかという御指摘もありまして、普通期日外尋問の典型例としては、証人の人が病気で入院していって、今、聞かないと、直って退院してから聞くんだと、そうすると直らないでそのまま亡くなってしまう方がいるかもしれないと、そうするとその場で聞いておかなければいけないという場合に病院で聞くわけです。病院へ裁判所も代理人も一緒に行って、そこで尋問すると、それは非公開で行うというのは期日外尋問の典型的な例です。
 例えば、地裁の事件で、地裁の法廷で期日外尋問をやるというのは違法だという判例もございます。高裁レベルの判例だったと思いますが、それは証人が遠くに住んでいて、例えば那覇に住んでいて、那覇地裁に出てきてもらって、裁判体がそこへ行って期日外尋問をするというようなことはなくはないんですけれども、裁判所ではなくてもどこかで尋問するというのはなくはないんですが、余り必要性がない場合にどこまでできるのかというのは、82条の潜脱との関係で問題があり得るんではないかというふうには言われているところだと思います。

○飯村委員 実情の紹介ですけれども、営業秘密を積極的に開示さえすれば勝てるにもかかわらず、それをすると第三者に秘密が知られて、それでうまくいかないというようなことがどの程度あるかということです。一番多いのは、企業が、技術上の秘密を真似されたとして不正競争防止法違反事件を提起しようとかんがえますが、ただ公開法廷に出してしまうと、ひろく企業の信用にも傷がつくので訴え提起をちゅうちょするという例です。
 次に、インカメラと同じですが、被告は、特許を取らずに、あえてノウハウにしていたところ、訴訟を提起されて、特許権侵害の被告の立場に立たされた場合です。そして、被告は、その事件はどうしても勝ちたい、勝つためにはノウハウを出さなければいけないというような例です。
 相手方に知られるのは、それはやむを得ないにしても、第三者に知られることは阻止したいという場合、阿部委員の紹介があったように、裁判所は、当事者からの閲覧制限の申立てがあると、広めにとって、閲覧制限を認めています。裁判所は、真実閲覧制限の対象になる文書等に営業秘密が含まれているかどうかは、直接判断しないで、当事者からそういう希望があれば、一応閲覧制限申立てを認めるということでやっております。相手方は別に何ら制限されないわけですから、相手方は反対しません。しかも、第三者との関係で余り意見は述べられることはありません。ただ、仮に、要件を欠いたままに、閲覧制限を認めたときは、第三者が閲覧制限を認めた裁判について争って、裁判所や抗告審が、確かに閲覧制限をする理由がなかったと考えた場合は出さざるを得ないので、そういう意味で、完全に保証されている制度ではありません。
 ですから、確かに事実上はそれほど支障は生じないんですけれども、この制度だけで十分かどうかというのは、もう一度見直して、ぎりぎりのところを考えていただきたいなというふうに思います。

○伊藤座長 必要性の部分に関して、ほかにいかがでしょうか。

○末吉委員 私どもいろいろ議論しまして、実際の知財、特に特許訴訟の中で非公開の必要が生じるのは、証人尋問だけではないかと。
 ただ、期日外尋問というやり方もあり、ただ、それはまた潜脱ではないかとも言うわけです。せっかくの根本的に知財訴訟を見直すという機会でもあり、A案に立って考えていったらどうかというふうに、方向感を今持っております。
 82条はいろいろな考え方がありますが、伊藤先生の御説は大変理論的で、恐らく営業秘密というものをどうするか、それから裁判についてどうするかというのは、非常に微妙な判断だろうと思いますけれども、憲法上、この82条を踏まえても、非公開審理が許される領域というのはあるのではないか。その御判断を頂いて、合議体で決定を頂いて、もちろん、当事者の意見も聞くんでございましょうけれども、非公開の決定を必要な範囲で、最小限度認めるという制度をこの際検討してはどうかというふうに考えております。

○近藤参事官 現行法でも82条で、裁判所法70条があって、非公開審理ができることになっているわけです。
 まず、最初にその議論に入る前に、どれだけの人数が、どういう場面で、これがこういう場面で困っているから、これについては設ける必要があるんだという立法事実の点を確認させていただいた方がいいかなというふうに思っています。ここについてはいかがでしょうか。

○末吉委員 立法事実という意味では、極めて例は少ないんだと思うんです。というのは、御案内のとおり、特許訴訟で証人尋問が行われるというのは、まずまれだろうと思いますし、その中で営業秘密が主要な尋問事項として語られねばならないというケースは少ないんだと思うんです。
 ただ、期日外尋問があるからとして、何か訴訟の審理を狭めている部分もあるのではないかというのが意見なんです。
 ですから、立法事実が足りないという御指摘だとすれば、それはそうだと思います。

○伊藤座長 期日外尋問自体はあるわけですか。

○末吉委員 ないです。

○伊藤座長 それもない。

○末吉委員 ないと言うか、ほとんど経験を持っている代理人はいないと思うんです。

○伊藤座長 どうぞ、加藤委員。

○加藤委員 見方が少し変わって恐縮なんですけれども、産構審の不正競争防止小委員会の報告書によれば、結局、現在の特許侵害訴訟だけではなくて、純粋なノウハウ、営業秘密の侵害訴訟においても、この検討会にげたが預けられている状況だというふうに理解しておりますので、特許侵害訴訟の場合については、ある程度弁論準備手続とか、その辺りの非公開をうまく使えば足りると思うんですが、当然この検討会では、不正競争防止法に立った営業秘密の侵害訴訟が起きた場合についても、ここで検討しなければいけないというふうに理解しておりますので、証人尋問、鑑定証人、それから当事者尋問についても営業秘密の保護をきちんと図っておかないと、結局特許訴訟の方は何とかなったけれども、営業秘密の方の侵害訴訟については、結局どうにもならなかったではないかという結論になってしまうのを、私は危惧しております。
 つまり、一番広く営業秘密を保護しなければいけないのをベースにして、どの範囲までと定めておけば、特許等の侵害訴訟については、むしろやさしくなるのではないかというふうに思っているんです。
 したがって、範囲というのを相当程度広くやらざるを得ないのではないかと思っております。

○伊藤座長 どうぞ中山委員。

○中山委員 私も加藤さんの意見に賛成でして、実は10年前の不正競争防止法改正で、営業秘密のときも全く同じ議論があったんですけれども、しかし考えてみたら営業秘密だけではなくて、プライバシー等の問題もあるので、民訴一般の方に預けようということでボールを投げたら、投げ返されてしまって、投げ返されたらは今度はこっちの方に投げようということで、結局そういう状態になっているわけです。
 確かに特許はあちこち聞いても、余り事件は少ないんですけれども、営業秘密の事件を見ていますと、日本の場合はさっき言いましたように、ほかの業者の名簿だとか、そんな事件ばかりいっぱいあって、本当に重要な技術的ノウハウの事件というのは、ほとんどないんです。諸外国はあるんです。日本だけそういうトラブルはないのかというと、恐らくそうではない。何か裁判を起こせない事情があると思うんですけれども、やはり何か理由があって、裁判例がないのではないかと。
 したがって、現に訴訟を起こした結果、このような困った点があるということではなく、潜在的な需要というのはあるんではないかと思うんです。私は、やはり国際的な水準まで高める必要があるんではないか。これは外国からも言われることがよくあるんです。日本の営業秘密の公開はおかしいんではないかと。
 これは笑い話ですけれども、あるシンポジウムで私が説明したら、アメリカの法律家が、自分は日本の憲法を読んだことはないけれども、そんな憲法は世界であるはずがないと言われたことがあるんですけれども、世界的に見て、やはり営業秘密は非公開でやるというのが常識ではないでしょうか。

○伊藤座長 どうぞ、飯村委員。

○飯村委員 純粋な特許事件で代替手続になるかどうかはわからないですが、東京地裁、大阪地裁では調停制度を設けていて、調停の場で事実上、営業秘密事項を判断するというようなこともあり得るので、これも代替手段になり得るかと思います。
 技術上のノウハウの事件というのは、潜在的なニーズは高いんだろうと予想されるという御発言でしたけれども、その点について実際に産業界の方の御意見を聞かせていただければと思うんですけれども。

○加藤委員 幸いにも盗まれて訴訟に及ばなければいけないようなケースにまで発展したことはありませんが、リスクという面においては非常に高いというふうに思っております。
 それで、中山先生がおっしゃられたとおり、今後の問題だという、今後増えるという恐れを非常に抱いております。
 例えば、最近技術者が韓国とか中国とか、そちらへシフトしていって、そこで元にいた会社のノウハウがどんどん流出してしまうというのが典型的な例ではないかと思います。
 技術社会の構造がそちらへ動いていっておりますので、まだ幸いにも、現実の問題としては起きなかったんですけれども、今後のリスクとしては高まる一方ではないかというのは、産業界の一般的な意見ではないかと思います。

○中山委員  産業界ではないんですけれども、いいですか。これは審議会のときも、産業界から強く意見が出たんですけれども、やはり今後の問題としてはあり得ると思うんです。
 一つは、10年前の不競法の中で営業秘密が議論された時代と違いまして、情報がデジタル化しているから、極めて取りやすいし、また労働力が流動化しているので、営業秘密が流出しやすいという状況があります。
 もう一つは、韓国とか中国とか、東南アジアに営業秘密がどんどん流出しているという状況があります。これを何とかしてほしいという非常に強い要求があって、刑罰規定を今度入れたわけです。しかし、刑罰規定を入れたけれども、民事ではそういう動きはありませんというのは、何かおかしな感じがするので、やはり潜在的にはあるんではないかという気がしているんです。

○阿部委員 私どもは潜在的ではなくて、顕在的です。

○近藤参事官 大綱なんかで書かれているのからすると、知財関連訴訟で侵害行為の立証容易化を図るために、営業秘密の保護を図ると書いていまして、例えばこの関係で考えると、自分の特許を侵害しているというふうに訴え提起されて、被告側が、それは特許侵害ではなくて、全く違うノウハウだと。結果的な現象としては似た感じなんだけれども、方法か何かの特許を原告は主張しているが、被告は、そこの部分についてのノウハウなんて見せたくないというようなものが典型的なのかなというふうに思ったんですが、そんなようなことというのは、先ほどの話を聞いていると余りないんでしょうか。

○加藤委員 当然あると思いますが、今の議論においては、どちらかというと、特許の場面もありますけれども、純粋な技術ノウハウ、技術の営業秘密の場合の方が、やはりプロテクトをかける要請が圧倒的に高くなるのではないかと。
 今まで、保護が不十分だったからこそ、裁判さえかけられないと、それが問題だったわけですね。ですから、技術面の営業秘密においてはとりわけ必要性が高いという考え方なんですけれども、特許の場合は、ある程度何とかなることもあり得るということですけれども、純粋な技術ノウハウについては、どうしようもないという話ではないでしょうか。

○近藤参事官 その純粋の技術の場合にはどうしようもないという場合に、想定される訴訟というのは、どんな訴訟なのかということなんですか、具体的にはどんな訴訟を想定されて、今、おっしゃっていたんでしょうか。

○加藤委員 単純に言えば、当社の技術がそのまま盗まれたということです。元従業員とか、あるいは従業員から得た第三者が盗用して、そのまま利益を得ているということだと思います。
 したがって、それが盗まれたかどうかを立証しなければいけませんので、自分の技術も出さなければいけない。相手側はこういう技術だということは多分つかんで立証して訴訟すると思うんですけれども、当然のことながら、では同一性が判断されなければいけませんので、では自分のノウハウはこうですというふうに開示しなければいけません、そのケースが典型的なんではないでしょうか。

○飯村委員 抽象的な話でも結構なんですけれども、仮にそういう場面が想定された場合、現行の審理モデルを前提にして、訴訟に勝つためには、どういう証拠をそろえて、どういう準備をすべきであるけれども、それが揃えられないで困る点が出てきますでしょうか。
 特に消極的な意見を前提にしているのではないんですけれども、今、現実には、余り訴訟が起きていないのは、秘密情報が盗まれた場合を想定したガードの仕方というのが余りされていないからだと思うんです。仮に、企業が、そのガードをちゃんとして、訴訟による解決まで想定して、立証できるように準備し、システムを造っておいて、しかも、なおかつ盗まれたような場合を想定したときには、現行法上であっても、それほどの隘路はないんではないかなという気がしております。

○阿部委員 1つの例は、あるノウハウが、非常に重要なノウハウであるかということを相手が認識していなくて持っていってしまったと。それを返せと言うか、訴訟を起こすと、事の重大性が相手にわかってしまうので、それが言えないというようなことがあるんです。
 これは、訴訟にもできないので、訴訟の場で問題になったことはないんですけれども、そういうのはもうしょうがないと言えば、しょうがないと。

○飯村委員 それは審理公開の問題ではないですね。

○阿部委員 そうですね。

○櫻井委員 実際の法律を前提とする限り必要性が余りないんだというようなお話なんだろうと思うんですけれども、ただ、法律は憲法を前提にしておりますし、法律は改正される可能性があり、しかもどう変わるかわからないということであるとすると、そもそも憲法学者がここを議論しているのは、素朴に憲法のレベルで公開されるというのが大前提ですから、いろんな秘密、いろいろ言いたくないことも出さなければいけないんだとすると、訴訟をちゅうちょせざるを得ない場合があるというのは、おかしいのではないかというベースで話をしておりまして、直近の実益はないかもしれませんけれども、潜在的にはありますし、理論的にも重要な問題だろうというふうに思っております。

○伊藤座長 先ほど近藤さんから、人事訴訟法案の説明がありましたけれども、あの場合にも説明にあったように、一定の事項について、本人や証人が秘密にしたいと思っているもので、しかもそれを口頭の陳述の形で公開法廷にしなければ適正な審理ができないという状況がありますので、それを前提にしてああいう法ができているんだと思いますが、この問題についても、もう少しその点を検討してみる必要があるのではないかという、大体の皆さんの御意見として、そういう流れだというふうに承ってよろしいですか、別にそれが今あるとかないとか決めてしまうわけではありませんが、もう少し審理の具体的な対応との関係で、本当にそういう必要があるのかどうかと、今の段階でないというふうに断定してしまうのは少し早いと思いますので。
 あと、具体的な考え方で、先ほど末吉委員からは、A案の考え方がいいのではないかということがありましたが、仮に必要があるという前提に立ったときでも、A案ないしD案について何か今日の段階で御発言がありますでしょうか。

○加藤委員 産業界で、私としては、やはり非公開ができる要件及び手続を法定するというのは、産業界としても当然そうしていただきたいので、強くA案を希望いたします。

○伊藤座長 わかりました。ほかにいかがでしょうか。

○中山委員 私も憲法上の議論があると言っているときに、全部実務の運用に任せるというのは、やはり問題があるんではないかと思います。やはり規定すべきものは規定しておいた方がいいんではないかという気はします。

○伊藤座長 わかりました。

○阿部委員 私もそうです。

○伊藤座長 どうぞ飯村委員。

○飯村委員 そうすると、仮に、そこまでは意見が一致したとして、そのときの否定的見解の根拠としては、憲法上の障害だけというように考えればよろしいんでしょうか。

○近藤参事官 反対論ですか。

○飯村委員 メリットはあるけれども、すべきでない理由というのは、やはり憲法82条の障害、そこをどういうふうにクリアするのかということで、ここは論点を整理して考えればよろしいんでしょうか。

○近藤参事官 一番大きい理由は、憲法82条が公開原則を規定しているということだと思います。それを前提にして、民事に関して、今まで裁判所の実例として、非公開は裁判所法にはできると書いてあるんですが、非公開決定をして、非公開審理をした例があるかというと、物の本には別にあったということが書いてあるものがないので、今まで公開原則というのは死守されてきたんだと思うんです。
 憲法上、今まで実務上は、厳格にチェックされていた公開原則というものをどういうふうに考えていくのかというのが一番大きな問題ではないかと思います。

○飯村委員 例えば、現実の審理は、弁論準備手続が多いわけです。弁論準備手続で行うか、口頭弁論で行うかというのは、裁判官が、さまざまな要素を考えて、当事者の意見を聴取した上で、訴訟指揮の中で決定していくことだと思うんです。
 そのときの考慮要素として、すべての審理過程は、実質上第三者に公開されるべきだなというふうな印象を持っております。
 ただ、物理的な問題もあって、ラウンドテーブル法廷が活用できれば、そちらの方が審理もスムーズにいくだろうとか、そういうことを悩みながらやっているわけです。
 外国からの傍聴者に日本流の審理の仕方について意見を聴くと、やはり準備手続を進めることに対する疑問も出されます。確かに、形式論としては、弁論に戻した段階で、直接主義、公開主義が満たされるんですけれども、それはあくまで形式論であって、実質的な問題はまだ残されているように思われます。
 そういうようなこともあるので、我々は、憲法82条というのを余り意識はしていないんですけれども、やはり憲法82条の精神を検討した上で、もう少し深めて検討していきたいなという気がしております。

○伊藤座長 ほかにどうでしょうか、何か御意見ございますか。
 どうぞ、阿部委員。

○阿部委員 先ほど、裁判所法70条を適用した例というのが見当たらないという話があったんですが、それは裁判所が70条を発動するのが、後でいろいろ問題が起きるから嫌なのか、全くそんなケースに当たっていないからなのか、どちらなんでしょうか。

○小野瀬委員 具体的には、営業秘密の関係でという御指摘ですか。

○阿部委員 直接は営業秘密なんですけれども、一般にもいろいろあるんじゃないんですか。

○小野瀬委員 ほかの一般の例とすれば、人事訴訟法案で、このような手続を設けることとしていると言いますのは、これはやはりこういう必要性、ニーズは非常に高い、そういうケースはあるということが、法制審議会でも、裁判官の委員の方からも出ています。
 ただ、実際に70条は統計がないものですから、どの程度行われたかどうかわからないんです。ですから、ないとは言えないと思うんですが、一般的な感覚としては余り行われていないだろうと思います。

○阿部委員 社会的にニーズがあるところは、ちゃんと法が整備されているということですか。

○小野瀬委員 はい、そこを今回人事訴訟法案では、法律で手当てをしようということです。

○伊藤座長 よろしいですか。

○阿部委員 はい。

○伊藤座長 それでは、今の御意見を伺っていますと、営業秘密が問題となる事件につきまして、非公開審理を認めることについて検討を進めるべきだという御意見がかなりあったように思いますが、しかし、その場合の要件、もちろん、根拠がありますし、要件、それから憲法の公序との関係等、更に詰めなければいけない論点があるかと思いますので、今後更に議論を深めるということにさせていただきたいと思います。
 そこで、まだ予定の時間まで若干の余裕がございますが、特にほかに御意見がないようでしたら、第6回の知的財産訴訟検討会は、どうぞ中山委員。

○中山委員 10ページの開示を求めうる者というものでA、B、C、Dとありますけれども、これは代理人と第三者とか、専門委員とか、調査官の両方という案もあり得ると思うんです。組み合わせとしてはもっといっぱいありますけれども、それは代理人プラス専門家というのが更に考え方としては重要性を持つと思いますので、C’になるかどうかわかりませんけれども、入れておいていただけたらと思います。

○近藤参事官 先ほど末吉委員からも、C案というものを前提にして、C案プラスB案ということの御指摘があって、それからあとC案がいいんではないかという櫻井委員の御指摘もございましたので、今の中山先生の御意見も出たので、参考にさせていただきます。

○伊藤座長 どうもありがとうございます。ほかに何か御意見ございますか。

○櫻井委員 非公開審理のところなんですけれども、人事訴訟法案の要綱案の20ページから21ページですけれども、これは法制審議会の資料で、2のところに説明が出てきているんですけれども、結局これは家族関係というのは、家族法は昔は公法であるという考え方だったわけですけれども、何かそれに戻っているのかなという感じがするんです。公の秩序という意味ではです。これはそういう理解でよろしいんでしょうか。

○伊藤座長 そこは小野瀬委員が詳しいと思いますので、お願いいたします。

○小野瀬委員 20ページから21ページにかけて書いてございますとおり、適正な裁判が行われなくなると認められると、つまりこの制度の目的ということから考えて、適正な裁判というものを確保しようというところがポイントでございます。
 ただ、適正な裁判ということになりますと、例えば一般の民事訴訟すべてでこういう問題が出て、適正な裁判が行われなくなってしまうんではないかというような議論にもなるわけでございまして、やはりそこは人事訴訟の特質を考えているということでございます。
 そこで適正な裁判と言っても、その中身が問題であって、身分関係の形成、又は存否といったような社会的にも影響が非常に大きい問題についての適正な裁判ができなくなるという人事訴訟の特質というものを考慮したということでございます。

○櫻井委員 人事訴訟の特質というのは、公の秩序で、これが公法秩序ではないかと言っているんですね。それだとわかるんですけれども、そうすると、この憲法論の学説の状況もございますけれども、やはり佐藤功先生とか、宮澤先生の時代の通常の理解と、今、知的財産で言っているのとは、公の秩序の概念と言葉は同じですけれども、全然違いますね。しかも経済的な紛争でもって、こういう言葉を使うということになりますと、大もとの公序とは言えない可能性があるので、そうすると人事訴訟の案というのが、もし公の秩序に踏み込んでいるとしますと知的財産の場合には参考にならないのではないか、両者の間には相当距離があるんではないかと思っております。

○伊藤座長 わかりました。その点、先ほど申し上げましたように、いずれにしても公序概念との関係というのをもう一度知財訴訟との関係で整理をし直さないといけないと思いますので、十分検討することになろうかと思います。
 ほかにいかがでしょうか。
 もしございませんようでしたら、これで第6回の検討会を閉会させていただきます。
 次回の検討テーマ、日時等について事務局から説明をお願いいたします。

○近藤参事官 次回、第7回の検討会のテーマとしては、知的財産訴訟の在り方として、いわゆる特許裁判所、技術系裁判官及び日本版ディスカバリーを取り上げる予定です。
 また、次回の検討会は、4月15日火曜日の午前10時から午後1時まで、同じくこの会議室での開催を予定しております。
 次回のみ検討会の開催時間が異なって午前中ということになっておりますので、御留意いただきたいと思います。
 なお、外国法制研究会は3月20日に開催予定ですので、本日は研究会での議論の内容等について御説明申し上げることは特にございません。

○伊藤座長 それでは、ほかに特別御発言がなければ、本日はこれで終わらせていただきます。
 どうも長時間ありがとうございました。