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知的財産訴訟検討会(第7回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年4月15日(火)10:00〜13:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 伊藤眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、加藤恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉亙、中山信弘(敬称略)
(説明者) 内閣官房知的財産戦略推進事務局 久貝卓参事官
(事務局) 古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、小田真治主査

4 議題
(1)侵害行為の立証の容易化のための方策に関する検討
(2)知的財産訴訟の在り方について
・いわゆる「特許裁判所」・「技術系裁判官」に関する検討
・証拠収集手続の機能強化(日本版ディスカバリー)に関する検討
(3)その他

5 配布資料
資料1:「知的財産戦略本部」について(内閣官房知的財産戦略推進事務局)
資料2:知的財産訴訟の在り方(その1)
−いわゆる「特許裁判所」・「技術系裁判官」に関する検討−
資料3:知的財産訴訟の在り方(その2)
−証拠収集手続の機能強化(日本版ディスカバリー)に関する検討−
資料4:法制審議会民事・人事訴訟法部会参考資料11(司法制度改革審議会における審議概要(2))
資料5:知的財産訴訟検討会開催予定(予備日)案(平成15年12月〜平成16年1月分)
荒井委員配布資料:バイオ特許裁判に関する科学ジャーナリストの見方
日経BP社先端技術情報センター長 宮田 満 氏
(日経BP社メールマガジン2003年4月4日号より)
日本弁理士会村木清司氏配布資料:証拠収集手続の機能強化について(意見書)

6 議事
(1) 知的財産戦略本部の状況等
 内閣官房知的財産戦略推進事務局の久貝参事官より、資料1に基づいて説明があり、質疑応答がなされた。
(2) 知的財産訴訟の在り方に関する検討
① いわゆる「特許裁判所」について
・事務局より資料2の1頁から16頁に基づいて、説明があった。

・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員)

○今回の民訴法改正による東京地裁、大阪地裁、東京高裁への専属管轄化で実質的に特許裁判所の機能を持っているので十分である。

○次の3つの理由から特許裁判所の設立が必要である。

①大法廷の導入を前提に判決の統一を図り予見可能性を高めるため。
②タイ、韓国、シンガポール、アメリカ、ドイツにならい、技術立国・知財立国のプレゼンスの意味で必要。
③技術系裁判官を導入する基盤とするため。

○経済界でも侃々諤々の議論がされている。時間とコストの要素を無視できるのなら、知的財産を重視する象徴になりえ、将来的には賛成である。しかし、現実には、特許裁判所の技術系裁判官の担い手がいないので絵に描いた餅になる。技術のわかる人が法曹の資格を取ることが安定した方向であるが、そのような人が出てくるのか疑心暗鬼になっている。今回の民訴法改正の効果を見た上で、特許裁判所の議論を行うべき。10年から15年先の話ではないか。

○日弁連としては、まだ意見は決まっていない。一部にはデメリットも無いし、前向きに検討すべきとの意見もあるが、大方は、今回の民訴法改正と調査官制度の見直しや知財専門委員を考えることで、実質的な特許裁判所を実現する方が先だと考えており、現況では必要がないという意見である。特許裁判所は人事や予算の面でも心配がある。判断の統一も難しいと考えるし、むしろ現況においては判断統一に走らず、地裁等で意見が分かれた上で、最高裁で判断が統一された方が良いのではないか。
 アメリカのCAFCとの対比においても、例えば独禁法事件において、特許無効の抗弁が出されてもCAFCの専属管轄にならないように、すべてをCAFCで扱うわけではない。また、歴史的にもアメリカの裁判は、日本よりもっと大きい不統一があったが、今の日本はそこまでひどくはない。またCAFCの判断統一の理由の一つには、ジャッジがフランクであることがあり、補充意見、反対意見が公表されるし、裁判官がロースクール等で日常的に考えを示し意見交換しているが、日本はそこまでの環境整備がなされていないので、環境整備が必要である。

○CAFCは法律審であるのに対して、日本の控訴審は事実審であるから判例統一には無理があると思うし、参考にならないと思う。

○法律審と事実審の両方を担うことを前提に、相当程度法律審のウエイトが高くなるものと期待している。また、最高裁で均等論の5要件が示されたように、最高裁の手前でも判断統一して欲しいと考えている。

○15人合議については、審理遅延になるのではないか。

○重大な事件についてはある程度の遅延は覚悟して、判断統一を図ることを優先すべき。

○特許裁判所を作るべき。アメリカにCAFCのような専門裁判所があること、また、今年3月にEUにおいて、特許裁判所を作ることを決めたことは非常に重いことである。国際ビジネスにおいて、アメリカ、EU、日本が中心となるべきところ、日本だけ特許裁判所をつくらないのは、司法で遅れをとることになる。「バイオ特許裁判に関する科学ジャーナリストの見方」(委員配布資料)については、司法が外の人からこのように見られていることをどう考えるかが大事である。知的財産の技術専門性に司法がどのように応えていくかが時代の要請であり課題である。

○特許裁判所の内容は、例えば、知財高等裁判所を作ること、これは現在の東京高裁の4か部を独立にするイメージ。メリットは、判例統一の工夫がなされることや大法廷制度を導入することにより、ビジネスや技術開発のルールが明確になることである。また、1つの案は、技術系裁判官と法律の裁判官の組合せによりおかしな判決が出ないようにすること、大学や企業の研究開発者に対して日本の司法インフラをPRすること、などである。逆にデメリットはほとんどない。

○委員配布資料にある事例は、ずっと以前の事柄である。知財訴訟は平成10年ごろから大きな変化があり、審理期間が平均1年と短くなっているが、この事例は変化以前の例であり、現在は違っている。また、挙げられているTPAの特許紛争は大事件であるが、これは特許権の範囲をどこまで認めるかという法律審であり技術の枠組みを超えている。また、裁判所における事実認定は、客観的資料に基づいて、予断、偏見、私的知識を除いて裁判するものである。技術の専門家から見るとまどろっこしいように見えるかもしれないが、それが訴訟構造の限界である。
 現在、知財訴訟に関する裁判官は少なく、広く人材を集めることが実現できればいいが、実際は難しいだろう。また同じ人が長く同じ部門にいると経験は豊富になるが、競争関係がなくなる。CAFCの判断の統一についても、CAFCが発足してからも均等の判断が右に左に動いているのが実情。予見可能性がない方が模倣者が出てこないという政策論もあったようである。PR効果については、信用を勝ち得ていく地道な努力の方が大切である。

○委員配布資料にある意見について、現在の特許制度や三権分立を理解しているのか疑問がある。この程度の理解で特許裁判所が必要というのは困る。このように見られていると意見があったが、見られてもかまわない。もっと緻密な議論が必要である。家庭裁判所の例があるが、行政が司法に移ったことをどう理解するか。司法権の概念が国によって違うのではないか。

○TPA事件はよく知っているが、この意見は一般論としては不適切なように思う。アメリカの例では一審は陪審員が判断するので、小学校レベルで説明がなされる。むしろ素人にわかりやすく説明するのが現在のシステムである。

○科学関係の人と法律関係の人が交流する仕組みが必要。委員配布資料の事例は古いとの指摘があったが、新しい時点での問題事例は以前に紹介した。組織が独立するか、どうかは、会社でもある話であり、どちらが効率がいいか検討すべき。

○審判と裁判の基本構造の関係を変えるべきではない。また審級構造も変えない方がよい。職権主義や行政処分を有し原告適格を問わない行政審判の完全代替は難しい。ユーザーニーズは無効審判と侵害訴訟が同時係属した場合のみ調整すべきとの意見であり、その他の多数の無効審判については維持すべきとの意見である。また、議論は機能論と組織論に分けて考えるべきであり、機能論のうち、判断の予見可能性については訴訟当事者になりうる特許庁からみても望ましいことである。

※以上の協議の結果、今後も継続して議論することが委員の間で了承された。

② いわゆる「技術系裁判官」について
・事務局より資料2の17頁から24頁に基づいて、説明があった。
・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員)

○技術系裁判官の概念がよくわからない。技術だけの素養では裁判官の職責は果たせないし、納得も得られない。専門的知見については、裁判官の分身となる人の意見を聴取して、裁判官が最終判断をする方が納得性が得られる。

○今後さらにバイオや情報通信などの先端技術が増えることを考えると、専門委員が活用されるという前提に立っても、法律的かつ技術的に当該事件の中にあてはめていく技術統括的な役割が必要であり、これを技術系裁判官の役割にすればよい。給源としては、特許庁審査官、審判官、弁理士、弁護士等になるだろう。

○特許裁判において、技術の側面を補わないと公正で迅速な裁判はできないということから問題が始まっている。専門家の関与としては、今の調査官のように裁判官から求められたら相談にのるということなのか、評議に参加するということなのか、評議に参加し評決にも参加するということなのか、という3つのパターンが考えられる。どれが不足を補えるのかということについて考えると、調査官制度を変えて評議に組織的に参加するのがいいと思う。技術一般という分野はなく、皆、それぞれの専門で教育を受け、実務を経験しているので、専門分野での貢献が望ましい。また、裁判は、法に則って、良いか悪いかを判断するものであり、技術の専門家を判決に参加させる必要はない。参加すれば、当事者は参加した人の善し悪しを詮索することが起こりうる。技術的素養のある人が法曹の資格を取ることができるようにして欲しい。司法試験に合格させるためには技術科目を入れる必要があるかもしれない。

○裁判官は法の支配の担い手でありこれがどういうものかを議論しないと結論は出ない。法、正義、公正を含む広い意味での法的素養が必要であることは当然の前提であり、法的素養をはずすことはできないし、はずすと憲法違反のおそれがある。22頁における大学の理工学の教授等をいきなり裁判官とするというのはおかしい。特許の話は、技術を人間社会でどう扱うのかという話であって、あらゆるテクノロジーを社会的に認知させるために判断をするのが裁判官である。裁判官は制度化された社会通念を解釈、適用して、認知する/しないを判断することになる。これを行うのは技術の専門家よりも一般を代表する裁判官の方が良い。
 日本では、明治憲法以来の大陸法的な法治主義が根付いており、法の支配は法治主義的に理解されていた。しかし、最近のアメリカの動きを見ると、我々が理解している法の支配とは全然違う。そういう意味でも日本国憲法における法の支配とは一体何かについて検討を行う必要がある。

○裁判官は、法のプロであってもそれ以外では素人でなければいけない。知財だけでなく他の分野でも同じこと。十分に説得力ある主張を行うことは当事者の義務である。むしろ専門家はプロであるがゆえの偏見がある。裁判官は事実を扱う者ではなく規範を扱う者であり、最終的には裁判官が判断する。ただし、専門家による裁判官のサポート体制は、現在でも不十分である。

○技術専門家であっても、任命にあたっては研修等のトレーニングを受けることで法的素養を担保することは可能。法律の他では素人である方がいいというのは、国民の感覚と違い、納得されない。憲法論についても、裁判を受ける権利が法曹資格者による裁判だけを前提にしているかというと疑問がある。適正な判断ができることが必要。法曹資格者だけの小さな司法では国民との間のギャップがある。本来の姿はロースクールで技術的素養をもつ裁判官が出てくることだが、国際競争の激しい中でいつ出てくるのか、日本のペースでいいのかと、考えてしまう。国際的な法の支配から日本がはずれてしまうのではないか。

○国民とのギャップを埋めるためには、アメリカのように素人を入れるべきということになってしまう。また、技術は細分化しているので、プロを集めるには無理がある。

○ギャップを埋めるには、素人が埋めるという方法と、裁判官のキャパシティが広がっていくという方法の両方の組み合わせが必要である。

○納得できる判断をするために他国ではいくつかのやり方がある。アメリカで、陪審員が機能する理由は分厚い層のパテントアトーニーがいて、わかりやすく説明するからであり、またCAFCには法律と技術のダブルメジャーをもつ裁判官がいる。ヨーロッパでは、ドイツのように技術系裁判官がいる国もあるし、そうでない国もある。また日本のように調査官のいる国もある。これらのどれがいいか議論する必要がある。また憲法論との関係でどの程度の法的素養が必要かを検討する必要がある。
 資料2の24頁における技術が日進月歩との話は、調査官や特許庁審判官についてもあてはまる話。しかし自然科学の分野の人々は次々と知識を蓄積しているため、問題は生じない。

○アメリカの制度がよく引き合いに出されるが、連邦地裁の裁判官は、カレンダーシステムにより、刑事事件を担当したり特許事件を担当したりしている。これを補うのは当事者やパテントアトーニーの調査力、プレゼンテーション力である。裁判官と当事者の負担量の比率は、日本で1対3とすれば、アメリカでは1対20、30か50になるくらいの違いがある。このような前提を抜きに議論すると方向を誤ってしまう。CAFCでは、裁判官は技術バックグラウンドを有しているが法律審をやっている。また12人の裁判官に対して40人のロークラークなどの支える人がいる。特殊な世界で特殊な経験をした人が裁判をするというのは、技術系裁判官以前の問題であり良くないことである。裁判はコモンセンスに基づいて行われるべきもの。日本の裁判では裁判官の独立性が強く合議では激しい議論がなされるが、このような意思決定のプロセスが重要である。この中に技術は知っているという人が入ると意思決定が難しくなる。また現行の地裁や高裁にも大学の理工系出身の裁判官もいる。また法的素養を無視するのは知財立国の信用をおとすことになる。

○日弁連は、基本的に必要ないというのが大方の意見である。

※以上の協議の結果、今後も継続して議論することが委員の間で了承された。

③ 証拠収集手続の機能強化(日本版ディスカバリー)について
・事務局より資料3の1頁から12頁に基づいて、説明があった。
・最高裁より証拠収集手続の拡充に関する民事訴訟規則についての検討状況等の紹介があった。
・これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、△:関係機関等、●:事務局)

○②はF案でよい。ただし証拠収集の困難さについての改善は必要。アメリカのディスカバリーは、早期和解のためのシステムと考えられる。日本では、裁判所の早期審理が進んでおり、適切な心証開示、和解が行われているので、アメリカ流の制度の導入は不要。ただし文書提出義務の拡充は相当程度必要。

○実務上、裁判になる前に証拠を出させるまでは必要ないが照会させるなどの制度があったらいい。このような制度でその時点で相手がまいったという可能性がある。②のどの案になるかわからない。強いて言うと、範囲が同じかどうかわからないが、②のA案になるのかもしれない。米国のディスクロージャーの導入はマイナス効果の方が大きい。

○②はF案、①はB案がよい。

○提訴前の文書提出命令は、イ号特定のためというイメージ。

●A案をとった場合、提訴前には、訴状がないので請求原因がはっきりとせず、イ号物件が動きうると思うが、その中で強制的に文書を出させることについてどのように考えたらよいか教えていただきたい。

○提訴予告通知の中で明らかにするとか、また出さなかったことについて何らかのサンクションを設ける等が考えられる。

○日弁連では検討できていないが、アメリカのディスカバリーは不要。大方の意見は、民訴法改正の運用を見極めるというG案である。提訴後の文書提出命令の違反について、制裁を厳しくすべきという意見もある。

△弁理士会としては、1つめの意見として、②のF案を提案する。2つめの意見は、弁護士、弁理士と依頼者間の通信文書の保護、秘匿特権について、現行の民訴法ですでに保護されているかもしれないが、外国のことを考えると、明確な保護を検討して欲しい。

●現行の民訴法220条4号ニにおいて、広くクライアントと代理人の通信文書も含め、また弁理士だけでなく他の士業も含めて全体で保護されていると思われるが、今回の提案は、日本の法制がアメリカの法制と違うことが不安なのでそれを解消して欲しいという意味と理解してよいか。

△そういうこともあるが、知財訴訟の特殊性を前提として、知財訴訟における、依頼者と代理人の関係についても検討して欲しいと考えている。

※以上の協議の結果、秘匿特権については、本検討会の検討課題とするかどうかについて、座長と座長代理に判断を任せるということで、侵害訴訟における証拠収集手続の在り方については、今後も継続して議論することが委員の間で了承された。

(3)その他
・5月から約1か月程度、司法制度改革推進本部事務局のホームページ等において、当検討会の検討事項に関するパブリックコメントを求め、寄せられた御意見等について、6月の検討会で委員に紹介する旨を、事務局より説明し、委員の了承を得た。

・事務局より、3月20日の第4回知的財産訴訟外国法制研究会において、侵害訴訟における無効判断と無効審判の関係等について、調査発表、意見交換がされたことが報告された。また、次回の検討会での発表に向けた準備をするため、5月9日に再度研究会を開催することが報告された。

・知的財産訴訟検討会開催予定(予備日)案について、事務局より資料5に基づいて説明がされ、委員の間で了承された。

・次回の第8回検討会(5月20日(火)13:30〜17:00)では、知的財産訴訟検討会外国法制研究会について研究発表を行う予定。