- (1) 知的財産訴訟外国法制研究会の研究結果の報告
①各国の裁判機関及び専門家の参加制度
- 研究員より、アメリカ・イングランド・ドイツにおける裁判機関及び専門家の参加制度について報告がされた後、次のような質疑応答があった。(○:委員、△:研究員、●:事務局)
○調査対象国はどのようにして選ばれたのか。
○一般論として申し上げると、調査対象国は、知的財産関係訴訟の研究をする上で定評のある国を選定した。国際競争力を高める知的財産訴訟制度の設計という観点からも参考になると思われる。
△仏の特許制度は無審査主義であり、手続き的にも大きな違いがあることから、調査対象国から落ちている。また、EUは超国家的存在で単純に比較できないが、制度としての意味が大きいため、調査対象とした。
○行政法の世界では、仏と独が対照的な制度としていつも調査対象となるが。
○無審査主義は世界の主流でなく、知財学者で仏に留学する人はいない。その点で、行政法や民法とは異なる。
△英の制度は米とは異なり、ちょうど米と欧の中間くらいの制度である。米と欧の制度を参考にしてきた日本の制度と近いのではないかと思う。
△特許の世界では英の制度は重要である。
○CAFC以外の巡回控訴裁判所で侵害訴訟は扱うのか。
△著作権等の侵害訴訟はCAFCではなく巡回控訴裁判所の管轄である。
○著作権等の侵害訴訟の控訴審は、事実審か。
△控訴審は基本的に法律審だが、新たに審理するデ・ノボ(de novo)の場合は事実問題も扱う。
○CAFCは法律審か。
△そのとおりである。
○CAFCでは、事実の問題も審理されている印象がある。
△例えば、クレーム解釈は、法律問題としてデ・ノボ(de novo)で一からレビューされるのでそう思えるのかもしれない。
○CAFCは実質的には日本の高等裁判所と差がないということか。
●CAFCでは新たな証拠調はするのか。
△法律問題・事実問題の切分けは日本とは異なる。この問題は、トライアル・レベルの地裁と、アパレット・レベルの控訴裁判所・最高裁と分けて理解すべきである。法律審であるアパレット・レベルでは、新証拠の追加ができず、その意味では、日本の高等裁判所と異なる。
○事実を審理できないということではないとの理解でよいか。
△そのとおりである。
○CAFCで扱っている事件の種類はどのようなものか。また、排他的管轄ではなく扱っているものはあるか。
△CAFCで扱う事件の種類は、特許以外にも、農務省・商務省の行政処分や退役軍人の年金等多岐にわたる。また、CAFCはこうした事件については専属管轄を有している。
○CAFCの創設に際して、裁判官はジェネラリストであり、いろいろな種類の事件を担当させなければならないといった議論はあったのか。
△CAFCは既存の裁判所が 統合してできた裁判所である。これらの裁判所で扱っていた事件について専属管轄を有することとしたもので、巡回裁判所で扱うものも管轄に含めようという発想はなかったと思う。
○英のパテンツ・カウンティ・コートはあまり利用されていないのではないか。もしそうであれば、我々の議論の際に参考にする必要性は低いのではないか。
△パテンツ・カウンティ・コートは、高等法院での訴訟には時間・費用がかかるという問題を解決しようという経緯で設立された。しかし高等法院の手続改革により両者の差が小さくなってきたため、パテンツ・カウンティ・コートは大成功を収めているとまではいえない。なお、どの程度利用されているのかという数字はわからない。
○報告書では、CAFCには、技術のバックグラウンドを有する裁判官が多いとあるが、これはCAFCに限られたことでなく連邦地裁にも当てはまることであり、ロースクール入学者のバックグラウンドが多様であるということと同じことではないか。英のパテンツ・コートの裁判官の多くは、高度な科学的学識を備え、特許訴訟の実務経験があるとのことだが、これも同様か。
△CAFCについては、御指摘のとおりである。
△英のパテンツ・コートの裁判官については、特許訴訟を行うパテント・バーの中から選ばれるため、技術と法律の両方を知っている人が多いということだと思う。
●日本のキャリアシステムとは異なり、英米では裁判官は弁護士の中から選ばれるという法曹一元のシステムをとっているということも関係していると思う。
- ②各国の情報収集と秘密保護
- 研究員より、アメリカ・イングランド・ドイツ・フランス・ベルギーにおける情報収集と秘密保護について報告がされた後、次のような質疑応答があった。(○:委員、△:研究員、□:関係機関等、●:事務局)
□弁理士法が改正され、共同訴訟代理ができるようになったが、米国において、弁理士−依頼人間のコミュニケーションは秘匿特権として認められやすくなるといえるか。
△日本の弁理士は、米のパテント・エージェントとパテント・アト−ニーの中間的な位置づけであり、秘匿特権が認められるかどうかはわからない。
□英では、どういう経緯で、弁理士−依頼人間のコミュニケーションに対し秘匿特権を認める立法がされたのか。
△英では、法廷代理人でないソリシターに対しても秘匿特権が認められているので、秘匿特権を認めることに問題が少なかったのだと思う。
□米において、日本の弁護士に秘匿特権が認められるのは、コミティの考え方によると聞く。同様のことは日本の弁理士に対してもできるのではないか。
△コミティは抵触法の問題を議論する場合の考え方である。
○仏の鑑定レフェレには和解成立のインセンティブがあるのか。
△そのとおりである。独の独立的証拠調べも仏の鑑定レフェレをまねたものであり、和解促進の効果が期待されている。
○仏の鑑定レフェレや独の独立的証拠調べは実際そのように機能しているのか。
△定量的なデータは示せないが、そうだと思う。
●今般の改正民事訴訟法に盛り込まれている提訴前の証拠収集手続の導入は、独の独立的証拠調べの発想のものも含まれるのか。
○改革審での議論では、独の独立的証拠調べも参考に検討されたようであるが、今回の民事訴訟法の改正内容は証拠調べとしての性格を持つものではない。今回の改正によって訴えの提起前でも専門家の意見を事前に聞くことができるようになるが、あまりに高度に専門的なものまでカバーできるかは、提訴前という性質上議論のあるところである。
- ③各国の特許権侵害訴訟と特許無効手続の関係
- 研究員より、アメリカ・英国・ドイツ・EUにおける特許権侵害訴訟と特許無効手続の関係について報告がされた後、次のような質疑応答があった。(○:委員、△:研究員、●:事務局)
○独における無効手続はスピーディであるということか。
△そうである。侵害訴訟の判決が出る前に特許の有効性についての判断は出ている。したがって、厳格な二元的手続法構造でも問題はない。
○独では、侵害裁判所は中止に慎重であるとのことだが、無効手続が早いのならむしろ中止してもいいはずだと思うが。
△中止すべきかどうかは個々の事案によるのだと思う。
○キルビー判決で使われた理屈は、権利濫用であり、一般法理である。厳格な二元的構造をとる独の侵害裁判所においても、こうした一般法理に基づき特許の有効性を判断することは可能と考えるが、どうか。
△おっしゃるとおりだと思う。ただ、未だそのような判断はなされていない。
○独における無効手続の審理期間はどの程度か。
△統一的な統計はないのでわからない。
○米のCAFCにおける特許の有効の推定を覆滅するための基準(「明確かつ確信できる」証拠による裏づけ)は、連邦地裁や特許庁においても同様か。
△地裁レベルでは、裁判所によって、特許の有効の推定を覆滅するための基準に違いがあるが、CAFCの示した「明確かつ確信できる」証拠による裏づけという基準に従いつつあるように思う。なお、特許庁における再審査については、この基準ではない。
○米では、裁判所が訴訟当事者に当該特許権について再審査を請求することを勧める場合もあるとあるが、本当か。
△そのようである。
○英では、特許が無効と判断された場合の効果は、侵害手続による場合と取消手続による場合とで違うのか。
△取消手続で特許が取り消されると対世効がある。侵害手続で特許が無効と判断された場合は法的には当事者だけを拘束するが、後の訴訟において先の無効判断を覆すには強力な付加的な証拠が必要であるとされ、事実上はもっと強い効力があるように思う。
○独の特許裁判所の設立経緯からして、裁判所と行政庁や、司法権と行政権はどのように区別されるのか。特許庁の抗告部が特許裁判所になっても審理範囲が変わらなかったということは、どう理解するのか。行政から司法に移れば、本来審理範囲は変わるはずではないか。
△理論的には御指摘のとおり。特許裁判所ができたのは、特許庁の抗告部については、その職権の独立性が基本法の基準に達していないと判断され、基本法の裁判所のリストにのっていない抗告部を裁判所とみなすことはできないとされたためである。
○分析していくと、日本における司法権の捉え方はヨーロッパよりリジッドであるのだと理解している。
○裁判所で特許の有効性を判断する場合、職権探知はあるのか。
△独の特許裁判所では職権探知がある。英・米では、一般の民事訴訟と同様、職権探知は認められていない。
●英の特許庁で特許の有効性を判断する場合はどうか。
△手続規定をみると、当事者主義を採っているようにみえる。
- (2) その他
- 次回の第9回検討会(6月23日(月)13:30〜17:00)では、侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等について、二巡目の検討を行う予定。