加藤委員より、阿部・加藤・沢山委員提出資料「知的財産高等裁判所の創設を求める」に基づいて説明があり、次のような質疑応答・意見が出された。(○:委員)
○当初は、いわゆる特許裁判所の中身について少し時間をかけて検討しても良いのではないかと思っていたが、今回の民訴法改正による特許専門部だけを独立させて知財高裁と呼ぶことで、対外的な知財重視との意識向上となれば、むしろ創設した方が良いとの結論に至った。
○「いわゆる知的財産高等裁判所」とあるが、いわゆる知的財産高等裁判所とは、別組織の高等裁判所ではないということか。
○正式な9番目の高等裁判所の創設を求めている。「いわゆる」は知財高裁という言葉が正式なものでないから用いたのであって、他意はない。
○知財高裁では予見可能性が確保されるとあるが、今まで知財高裁がなく、予見可能性が低くて困ったという具体的な事例はあるのか。
○知的財産の分野では、均等が認められるか否かなど、最高裁で判例統一されるべき大きな論点もあるが、一方で、ワンランク下の論点も残っていると考えている。具体的な指摘はできないが、控訴審レベルでも一定の判例統一機能があった方が良いというのが、産業界の意見である。
○前々回の検討会では、知財高裁は必要ないという意見ではなかったのか。どのような心境の変化があったのか。
○その後、知財高裁の旗を立てることが必要であると考え直すに至った。
事務局より資料3に基づいて、説明があった。これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)
○産業界としては一回的解決を重視していることから、明白性要件は不要で、無効審判の遮断は必要であり、侵害裁判所で訂正の可否を判断するというのが、基本的な考え方である。ただし、無効審判自体は、無効判断を求める一つの手段として馴染んでいることから存続させて欲しい。
このような考え方で選択肢を選ぶと、1についてはB−1案を基本にしてC−1案を併用し、2のアについてはD案とF案、2のイについてはG案、2のウについてはK案を採用すべき。3についてはL案とM案の折衷案として、裁判所で訂正の可否を判断させることとし、細かい点については訂正審判で対応し、早期審理の対象とすることではどうか。ただし、全てを訂正審判で対応することとしてもやむを得ない。結論としては、ほぼ甲案に近い。
○裁判所における訂正は、相対効となると考える。基本的には、紛争の一回的解決の観点から裁判所における訂正を認めるが、裁判所で判断しきれない事案については、特許庁で判断することとすべき。
○新無効審判ではダミー請求が可能となることから、無効審判の遮断は、実際には効果がないのではないか。
○遮断の効果については、どの程度ダミー請求が発生するのかにもよる。
○無効審判を遮断すると、かえってダミー請求を誘発することにはならないか。
○ダミー請求を完全になくすことができないのは、そのとおり。
○キルビー判決前後の地裁、高裁の判決を調査したところ、訂正が未確定のクレームについても、侵害の有無等の判断がなされているのが実情である。訂正の前後で結論が一致している事例だけであるが、その限りにおいては、侵害訴訟において相対効的な判断がなされている実情がある。
○事例があるのはそのとおりであるが、これは、紛争を広く解決させる観点から裁判所の考え方を示すことが好ましいとの考え方に基づき、サービスとして未確定のクレームについて付加的に判断をしているに過ぎず、事実上の紛争解決機能はあるとは思うが、法律的には意味がない。
○ダミー請求の問題については、代理人の立場ではあらゆる手を尽くすことを考えると、ダミー請求は通常あり得るのではないか。無効審判請求を遮断するとダミー請求を誘発し、かえって特許庁で同様の争いが生じる構図ができてしまうのではないか。無効審判を遮断しない方が、結果的には、裁判所と特許庁との間の情報交換により、円満な紛争解決ができるのではないか。
○基本的には、丙1案が良いと考えている。考慮要素としては、①審判の遮断、②無効審判の審理期間、③明白性要件の要否の3点がある。
①については、無効審判と侵害訴訟とは、当事者適格、職権探知機能の有無、訂正請求の有無、対世効の有無、無効判断を請求それ自体に対してできるか否か等の点において本質的に異なるから、2つの制度は並存せざるを得ない。訂正審判の遮断についても、第三者との関係で必要となっても訂正審判を排除するのは、権利者にとって酷であること、ダミー請求中で訂正請求が可能であり実効性がないこと、ダミーの無効審判請求による訂正請求は、侵害訴訟情報の共有の点から好ましくないことから、無効審判と同様に、訂正審判も遮断すべきではない。査定系の訂正審判に対して反論機会を持ちたいとのニーズがあるが、訂正審判請求直後の無効審判請求をする運用により、実務上の解決が図られている。紛争の一回的解決というユーザーのニーズに応えるためには、侵害訴訟の間口を広げるべきである。
②の無効審判の審理期間については、現在、14.2ヶ月かかっているところ、期間管理の徹底のほか、当事者の応答期間の合理化により、12ヶ月に短縮できる見込み。さらに、侵害訴訟関連については、期間管理を徹底すれば、12ヶ月を割り込むこともできるだろう。12ヶ月という審理期間は、特許庁の調査によれば、特許・実用の侵害訴訟で判決によって終局しているものの審理期間は22〜23ヶ月を要していることからすると、無効審判請求の時期が早ければ、訴訟の終結までには十分間に合う。
③の明白性要件については、撤廃するのが制度的に優れていると思う。ただし、実務をうまく動かすためには、要件撤廃による安全弁が必要であり、その安全弁として、裁判所で扱いきれない無効判断を無効審判で行うことが良いのではないか。
〇侵害訴訟の中で大事なことは和解である。無効審判における有効性判断が和解の取引材料になることがあり、無効審判を遮断しダミー請求しかないとすると、なかなか和解できないことを指摘しておきたい。審理期間の問題については、侵害訴訟の審理期間は実感としては1年ぐらいであり、無効審判が契機で和解や取下げがされることもあるから、無効審判の審理期間が12ヶ月だから十分というものではない。
○無効審判の審理期間の短縮については努力したいが、ここで議論をしなくてはいけないのは、判決まで行っているものについて、無効審判の審理が間に合うかどうかということである。
○基本的に丙1案が良い。明白性要件は判例の基準としては分かるが、立法としてそのような要件があるか疑問だ。特許無効の抗弁については別の考え方が良い。特許無効の抗弁を立法化するならば、政策的には苦渋の決断となるであろう。制度設計にあたっては、無効審判と侵害訴訟の両制度を上手く接木するべきであり、無効審判前置という考えが、傷が少なくユーザーのニーズに応える、きれいな制度となるのではないか。
○明白性要件はあった方が良い。30も40も抗弁が出る場合だけでなく、裁判所において微妙な無効判断を行うとなると、特許庁と裁判所との間で判断の齟齬が生じ、事後処理が大変になる。
○明白性要件だけが無効判断の遊びの機能だけを果たしているのではない。明白性要件に代わる、別の安全弁があるのではないか。
○一番良いのは、無効審判の期間を短縮することである。
○有効性判断や侵害判断のみならず、イ号との対比による合理的なクレーム解釈ができることや国際的な動向を踏まえれば、有効性判断も侵害訴訟の場でなされるのが制度的に優れている。侵害訴訟の間口を広げるべきだが、専門的事案については裁判所で判断できない、対世効にこだわるというのであれば、無効審判で判断すればよい。
○明白性要件については、実際に審理をしないと明白か否かが分からないという致命的な欠陥があるから、安全弁としての明白性要件は成り立たない。
○実務上は、無効理由が存在するのか否かが明白ではないのはそのとおりであり、立法措置を講じるのであれば、むしろ明白性要件は要らないと思う。
○乙1案が良い。
○明白性要件を撤廃すると、当事者の負担が大きくなるのではないか。
○甲案が良いと思う。紛争の一回的解決に向けて、B−1案、D案又はE案、G案、K案、L−1案、N案の組み合わせが良い。
○弁護士会では結論が出ておらず、甲案或いは丙2案を中心に検討すべきという意見であった。私見では、産業界の意向もあるので、無効審判・訂正審判を早期審理の対象とする丙1案が良い。一番迷っているのは明白性要件の要否であり、仮に撤廃するとしても、合理的な訴訟遂行を行う当事者ばかりではないことから、遅い段階で20も30も無効理由を掲げる者に対しては、時機に後れたものとして手続法的に対処することも必要ではないか。
○丙1案を支持する。
○経済界は紛争の一回的解決を要望しており、その観点から、甲案の何が悪いのかというアプローチが必要ではないか。丙1案が検討会の成果なのかと言われると、つらいのではないか。
○丙1案で明白性要件が必要であるとの案があれば良い。
※以上の協議の結果、事務局で議論を整理した後、さらに議論することが委員の間で了承された。
飯村委員より飯村委員配布資料「審決取消訴訟の審理について」に基づいて、説明があった。これに対して、次のような質疑・意見が出された。(○:委員、●:事務局)
●一巡目の議論の際に、東京高裁の審決取消訴訟については、地裁の侵害訴訟と比較して、調査官の関与の仕方に違いがあるのか否かが問題となったが、基本的には、調査官の関与の仕方は第1審と同じであるという趣旨の説明と理解して良いか。
○裁判官が法律の適合性を判断する過程では、基本的には同じである。
●調査官の関与の仕方については、何か差異はあるのか。
○調査官の関与については、かなりの部分は裁判官の自由に任されており、期日の入れ方や心証形成の仕方など、色々と広がりがある。しかし、どのように結論を得るのかという点については、基本的には共通点の面があるという印象である。
●高裁における調査官の関与のあり方は、各裁判官によってバリエーションがあるとのことだが、それは、第1審における関与のあり方は定型化されており、違いがあるということなのか。
○第1審の裁判長の立場からは、調査時期や内容をある程度予測できるような進め方ができるという面もあるが、そのことはあまり本質的ではない。事件の個性等によって、調査官の関与の仕方はかなりばらつきがある。
○そのばらつきは、訴訟類型の違いから来るものなのか。それとも個々の裁判官の実務から来るものなのか。
○侵害訴訟については予測不可能な面もあるが、その中でできる限り負担を減らし、どの時点で調査を依頼するのか、分かりやすくする努力はしている。審決取消訴訟については、審決があるのである程度予想はつくが、個々の裁判官の合理的な審理を進める工夫がばらつきとなって出てくる。