首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会知的財産訴訟検討会

知的財産訴訟検討会(第9回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成15年6月23日(月) 13:30 〜17:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤 眞(座長)、阿部一正、荒井寿光、飯村敏明、小野瀬 厚、加藤 恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉 亙、中山信弘(敬称略)
(説明者)
内閣官房知的財産戦略推進事務局 久貝 卓参事官
(事務局)
古口 章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官、滝口尚良参事官補佐
(関係省庁・団体)
法務省、最高裁判所、特許庁、日本弁護士連合会、日本弁理士会

4 議題等
(1)推進計画案について−内閣官房知的財産戦略推進事務局
(2)パブリックコメント募集の結果について
(3)侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する改善の方向性について
(4)その他

5 議 事

【開会】

○伊藤座長 それでは、定刻でございますので、第9回「知的財産訴訟検討会」を開催させていただきます。御多忙のところどうもありがとうございます。
 今回、7月を目途に知的財産戦略本部で現在作成中の推進計画案について、知的財産戦略推進事務局の久貝参事官より御紹介いただいた後に、パブリック・コメントの結果について事務局から発表してもらおうと思います。
 その後に、第1論点の侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等について、第二巡目の検討を行い、最後に、第5回検討会の時に委員より宿題をいただいておりました、東京高等裁判所における調査官の実情につきまして、飯村委員から説明をお願いする予定です。
 それでは、事務局からお手元の資料の確認をお願いいたします。

○近藤参事官 それでは、確認をお願いしたいと思います。
 まず、資料1が知的財産戦略推進事務局の配布資料でございます。資料1−1と資料1−2の2つが推進計画案でございます。それから、資料1−3として、知的財産戦略計画の策定に向けた提言というのがございまして、これは自民党の提言でございます。
 資料2は、パブリック・コメント、意見募集の結果概要でございます。これは後ほど私の方から説明させていただきたいと思います。
 資料3、これは「侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する改善の方向性」と題しておりますが、今日御議論いただくメインの内容ということでございます。
 委員配布資料として、阿部委員、加藤委員、沢山委員の3名からの「知的財産高等裁判所の創設を求める」という意見書がございます。
 それから、同じく飯村委員から「審決取消訴訟の審理について」という1枚紙でございます。これが配布資料でございます。
 なお、メインテーブルの席上に、第8回の議事概要、それから日本弁護士連合会から「産学官連携に対する取り組み」というパンフレットがございますので、御確認いただければと思います。

○伊藤座長 お手元の資料、よろしいでしょうか。
 よろしければ、初めに知的財産戦略推進事務局の久貝参事官より、推進計画案についての御紹介をいただきたいと存じます。久貝参事官、どうぞよろしくお願いいたします。

【推進計画案について−内閣官房知的財産戦略推進事務局】

○久貝参事官 よろしくお願いいたします。
 それでは、お手元の資料、知財訴訟検討会1−1から1−3までございますが、そのうち1−2、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画(案)」というのがございます。これが先週金曜日、第4回の知的財産戦略本部会合で御議論いただいた案でございます。
 この案について簡単に申し上げますと、これは知財本部の有識者の皆様10名、こちらにいらっしゃる中山先生もメンバーでございますけれども、有識者による計画案の作成ということで、この方々に2度ほど会合を開いていただきまして、その後調整をいたしまして、まとめられた案でございます。これを有識者会合による案ということで、金曜日に議論していただいたものでございます。
 内容でございますけれども、開けていただきますと、1ページ目に目次がございまして、総論がございます。その後「第1章 創造分野」、「第2章 保護分野」、「第3章 活用分野」、「第4章 コンテンツビジネスの飛躍的拡大」、「第5章 人材の育成と国民意識の向上」という項目がございますので、これに沿って簡単に御説明をいたします。
 まず、総論の方に入りまして、5ページのところに、「『知的財産立国』実現に向けた取組方針」というのがございます。ここで3つの視点というのがございまして、一番下の方に書いてございますように、経済社会の変化のスピードは極めて早いということで、将来に対するビジョンを模索しているという状態に我が国はある。知財立国という目指すべき方向が明らかになった今こそ、まさに社会の情勢の変化を先取りする改革を行って、早急に経済を再生させる必要がある。こういう基本認識の下で、3点書いてございます。
 1番目は「従来の枠にとらわれない、知的財産に関する特例を作る」ということでございます。やはり予算とか機構とか定員とか、そういうことを考えますと、知財の特例という観点が必要であるということでございます。
 2番目は「国際競争力のある、世界に通用する制度を作る」ということで、ボーダーレスエコノミーの中で、企業が国を選ぶ時代だと。事業者にとって魅力ある知的財産制度を構築した国に世界の国の企業が集まってくるんだという認識の下で制度をつくろう。
 3番目が「時期を逸することなく、迅速に改革を行う」。これは総理も常々おっしゃっている、スピードが重要であるということでございました。
 そういう視点の下に「実施体制」というのがございまして、基本的にはこの計画は本部の方でつくりますが、その推進体制というのは各省庁で、各省庁が複数に及ぶ場合には、その省庁がすべて名前が記されているということでございます。
 更に、この知的財産戦略本部は総合調整を行う。そういう意味ですべての施策の実施に関与するということが書いてございます。
 7ページの真ん中ほどに「さらに、重要性の高い政策課題については」というのがございますけれども、本部令に基づいて戦略本部に専門調査会を設置するということもここで求めております。
 もう一つは、知財立国は国民全体が意識を共有することが大事だということで、今年の秋以降のミニ・タウンミーティングの開催というのも記載されてございます。
 その後に「スケジュール」がございまして、「2003年度中に取り組むべき施策の着実な実施とともに」の後に、「2004年度に開かれる通常国会に、できる限り多くの知的財産関連法案を提出する」というのがポイントでございます。
 「また、2003年度末を目途に推進計画の進捗状況をフォローアップ」するということもここに書いてございます。
 それから、3.のところに配慮事項が3つ書いてございます。
 1つは「中小企業・ベンチャー企業への支援」ということでございます。
 次のページに「地域の振興」というのがございます。各自治体においても知財の大綱というか、本部をつくる動きがかなり出ております。そういうことに考慮して書いたものでございます。
 3番目が「行政・司法のサービス向上」ということでございます。
 それから、4番目が「競争政策の重要性と表現の自由などの重視」ということであります。
 10ページ以降から各論に入りまして、先ほど申し上げました5章立てのうち、「創造分野」から入ります。創造はまさに知的財産の創造を推進するということでございます。特に12ページの(2)から「大学等における知的財産の創造を推進する」という項目が入ってまいります。13ページのところの②にございますように、「研究開発評価において知的財産を活用する」ということでありまして、2003年度以降、研究費配分その他に知財に関する指標を活用するに際しては、特許件数も参考にしながら、ライセンス実績、特許等における特許・論文の被引用度といった質的な側面等を重視した総合的な評価指標を用いるということが記載されてございます。
 反対側の14ページの方にも、③「研究者に多様なインセンティブを付与する」ということで、これは2003年度以降、国立大学の法人化に合わせまして、大学等において、研究者の発明に関する権利を承継するわけですから、実施料収入を得た場合には、発明者個人に還元する。こういう金額の支払いのルールを明確化するということがございます。
 それから、④では、知的財産権の取得・管理といった知財活動に関連する費用、これも法人化後の大学、特許権を大学で一元管理ということですので、また、国内外の特許出願件数の増加というのも予想される。こういう中で特許の出願経費等、十分な予算を確保すべきであるということが、ここで書いてあることでございます。
 15ページには、その体制といたしまして、⑤で「大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)といった、知的財産に関する総合的な体制を整備する」ということもここで書いてございます。
 特にア)のii)に、「国際競争力のあるスーパー産官学連携本部を整備する」ということもございまして、大学の知財本部が30くらいできると聞いておりますけれども、その中で更に集中的にこういう体制を強化する、そういうものを優先して支援を強化するという記載がございます。
 それから、次に20ページへ飛んでいただきますと、「①特許法の職務発明規定を廃止又は改正する」というのがございます。これはだいぶ訴訟等も出ておりまして、非常に注目されたところでございますけれども、これにつきましては、21ページ「所要の検討を行った上で、2004年の通常国会に特許法第35条を廃止又は改正する法案を提出する」というのが計画案として出ております。
 それから、24ページから「保護分野」に入ります。保護につきましては、まず権利化を促進するということで、特許審査の迅速化、「(1)特許審査迅速化法(仮称)を制定する」という項目がございます。ただし、これにつきましては、この法律をつくるということに合わせまして、審査待ち期間の短縮の目標と達成時期を定める、あるいは特許審査官の大幅な増員ということが必要になってまいりまして、これはまさに有識者本部員の起草によるものですので、これに対して今関係省庁と調整中ということでございます。注1から4に書いてございますように、財務省、あるいは総務省と調整中のところがございます。
 それから、27ページ、「知的財産の保護制度を強化する」のところで、「(1)医療関連行為の特許保護の在り方を検討する」。これは既に総合科学技術会議の方で、再生医療の関係で医療行為に対する特許の保護を与える方向というのが出ておりました。今年の夏には特許庁の方で審査基準の改訂も行われるという状況でございます。更にこれを一歩進めていこうという方向でございました。これについては、そこの結論で、「医療関連行為の特許法上の取扱いについて幅広く検討するための場を設け、2004年度中の早い時期に結論を得る」ということでございます。
 それから、29ページ「4.紛争処理機能を強化する」ということで、「(1)知的財産高等裁判所の創設を図る」ということでございます。「今回の民事訴訟法の改正により、特許権等の知的財産訴訟の管轄が東京高裁に集中されることは高く評価できる。日本経済の国際的な優位性を引き続き保つ上で決定的に重要な知的財産の保護を強化し、内外に対し知財重視という国家政策を明確にする観点から、知的財産高等裁判所の創設につき、必要な法案を2004年の通常国会に提出することを目指し、その在り方を含めて必要な検討を行う」となってございます。ただし、この表題のところにつきましては、現在、関係省庁と調整中ということでございます。
 それから、保護の関係では、34ページ以降「模倣品・海賊版対策」という項目の中では、38ページに「水際及び国内での取締りを強化する」という項目がございます。「(2)効果的な水際、国内取締りを行うべく一層の対策強化を行う」ということで、これは権利者である企業と連携して、知財侵害の再犯を防止するということで、税関において模倣品、海賊版の輸入差止めがなされた場合、つまりこの判断をした場合ですけれども、税関が輸入者、輸出者の氏名等の情報を権利者に開示できるようにする。このため、必要に応じ2004年通常国会に関税定率法等関連法の改正法案を提出するもので、これによって水際が更に一歩進むことが期待されるわけでございます。
 もう一つ、次の39ページ、議論としてITCの話もございましたけれども、これにつきましても、ITCや欧州の裁判所の活用制度等を参考にしながら、水際におきまして、当事者の主張を基にした迅速な侵害判断を下すことができるように、行政審判機関の整備とか、裁判所の活用とか、税関手続の改正などを含め、幅広く検討する。2004年度中に結論を得るということで検討を求めているところでございます。
 41ページから「活用分野」に入ります。43ページで「(5)知的財産の管理及び流動化の促進に向けて信託制度等を活用する」、これが新しいものでございます。これは2つに分かれておりまして、管理信託、いわゆる各事業会社が特許の管理会社をつくって、そこで特許の管理を一元的に行う。これをできるようにするための所要の法改正、法的手続をとるというのが1つでございます。
 ②の方は、信託の流動化。つまり、資金調達目的で知的財産を活用しようとするものでございます。そこにありますように、知的財産を信託業の対象とするというのが最大のポイントで、このために信託業法の改正を行うということでございます。
 それから、活用の関係ではもう一つ今回大きく取り上げましたのは、43ページの「2.国際標準化活動を支援する」ということでございます。これにつきましても、相当書き込んでおりまして、総合科学技術会議の知財専門調査会と連携を図りながら、必要な措置を講ずるとなっています。
 50ページにまいりますと、第4章で「コンテンツビジネスの飛躍的拡大」というのがございます。コンテンツは昨年の戦略大綱では、活用の中に一部入ってございましたけれども、コンテンツビジネスが世界に優位であるという視点を持っておる。これの飛躍的な拡大が日本の経済再生にも非常に大きいということで、今回は独立した章立てにしたというのが1つの大きなポイントでございます。
 その内容につきましては、50ページのところで、下の方にまず「魅力あるコンテンツを創造する」。そのための「人材を育成する」というところから始まりまして、その後、54ページには、コンテンツの保護に関するさまざまな計画がございます。これが55ページ、56ページとありまして、そして57ページからこの保護されたコンテンツを流通させる、あるいは、海外市場への進出の支援等が列挙されてございます。60ページには、コンテンツ業界の取引の適正化、構造改革といったものについても触れてございます。
 このコンテンツの最後、61ページに「施策の実施」というのがございます。コンテンツビジネスの振興のために、コンテンツ関係法律の一括改正を含めて、コンテンツの振興策について調査検討をする。結論を得た事項について2004年度以降、関係省庁において、速やかに実施するということで、これについても、検討の場を設置するということが示されております。
 最後は62ページ、「第5章 人材の育成と国民意識の向上」でございますが、これにつきましては、1で専門人材を育成するということで、「弁護士・弁理士の大幅な増員と資質の向上を図り、知的財産に強く国際競争力のある弁護士・弁理士を充実する」という項目がございます。
 それから、63ページの下の方に「(2)知的財産に関する大学院、学部、学科の設置を推進し、知的財産教育を魅力あるものとする」。その中で特に本部員の何人かの方から御指摘がありましたが、①の「夜間法科大学院の開設」というのがございます。ビジネスマンが受講しやすい夜間部をつくって欲しいということを書いたところです。
 それから、64ページ以降は法科大学院に加えまして、あらゆる段階における知的財産教育を推進するということで、知財専門職大学院とか、技術経営大学院とかでございます。
 簡単ですが、以上が知財の計画案のポイントでございます。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。ただいまの御説明につきまして、御質問のおありの方はお願いをいたします。どうぞ、どの点でも結構でございます。

○櫻井委員 圧倒されてお話を拝聴したのですが、大変元気な内容だなと思って伺いましたが、24ページに下線が引いてあって、調整中となっている案件が幾つかございますけれども、これは現時点でどういうふうになっていて、どういう展望を持っておられるのかという点について少し御説明いただけるとありがたいのですが。

○久貝参事官 下線が入っている、つまり調整中のものは2つございます。1つは、特許審査迅速化法、もう一つは、知的財産高等裁判所のタイトルでございます。
 これにつきましては、特許審査迅速法で有識者本部員の提案のとおりにやろうとしますと、当然審査官を増やすということが大きなポイントになるわけですけれども、そうなりますと、今まさに行政改革ということで公務員の定数を縮減するという方向になっております。その中で、特許関係については特別な扱いをするのかどうか。そういう点について、まさに政策の調整が必要だということで、調整中ということになってございます。
 スケジュールとしましては、来月の8日に第5回の会合がございます。知的財産戦略本部としての官民合同会議でございますが、そこで最終的な、本部としての計画案を決定するということになりますので、それまでにこの調整が済むように今、こうしたらどうかとか、ああすべきではないかということをしているというのが今の状況でございます。

○櫻井委員 この司法制度改革推進本部との関係でいくと、29ページの「知的財産高等裁判所の創設を図る」というのが、こちらは削りたいけれども、調整の対象としては図るという関係ですか。

○久貝参事官 一応これにつきましては、本文の方は大体この有識者の意見、考え方ということを整理されまして、それに各省と調整の上でこれでいいということになっておりますが、タイトルについて、「図る」がいいのか、あるいはもう少しほかの表現がいいのかということにつきましては、司法関係の関係省庁、それから司法制度改革推進本部、それから財政当局が問題になりますので、そういうところで表現ぶりについて調整をしているということです。これについても、7月8日には決着がつくということでございます。

○伊藤座長 ほかにございませんか。もし、これ以上御質問がないようでございましたら、この点についての質疑応答は終わりにしたいと思います。久貝参事官、御多忙のところどうもありがとうございます。

【「知的財産高等裁判所の創設を求める」と題するペーパーについて】

○伊藤座長 それでは、「知的財産高等裁判所の創設を求める」と題しましたペーパーが、3名の委員の連名で提出をされております。お三方を代表して、どなたか御説明をお願いできますでしょうか。

○加藤委員 私の方から御説明申し上げます。
 「知的財産高等裁判所の創設を求める」ということで、当委員会の産業界から出席しております3名の委員の意見書という形で提出させていただきました。確認的意味を含めて、この場を借りて知的財産高等裁判所の創設をお願いしたいという点を申し述べたいと思います。
 ごく要点のみ申し上げますと、第1点目、第2段落からでございますけれども、知的財産訴訟につきましては、今般の民訴法改正によって東京高裁の専属管轄化、及び5人の合議制が図られるということになりまして、経済界、産業界としても、これを高く評価しているところでございますが、第1点目として、知的財産立国の1つの象徴的意味も含めて、高裁の知財専門部を独立させて、知的財産高等裁判所をつくっていただきたいというのが第1点でございます。
 第2点目、次の段落として、いわゆる最高裁における判例統一機能につきましては、もとよりこれが最高裁が終審であることからして、当然最高裁に判例統一機能が集約されることは、これはそのとおりでございますが、私どもとしては、知的財産訴訟という1つの専門的な訴訟形態からして、まず第1ステップ、つまり、知的財産高裁の中での一定の判例統一機能が図られることが有益であると考えているので、この点を申し述べております。
 3番目が、技術と法律の双方がわかる人材の育成という意味においても、知的財産高等裁判所が専門裁判所として、そのセンター的役割を持つのではないかという意味で、専門裁判所として位置づけられる意義があると考えております。
 このような3点から、産業界としては知的財産高等裁判所の創設を望むものでございます。一応確認的な意味を含めて3名の委員の代表の形で意見を表明させていただきました。

○伊藤座長 どうもありがとうございます。阿部委員と沢山委員、もし何かありましたらどうぞ。

○阿部委員 では、私から若干補足をさせてもらいます。知的財産高等裁判所の中身をどうするか。例えば地裁第一審レベルまでも知財高等裁判所管轄の中に入れて一審、二審、両方特別裁判所的な運用をするのかどうか。それから、機能の内容として、特許庁が今されている無効審判の機能もここで全部持ってきて、そこに一括したらいいのかどうかという、いろいろ考えてもう少し時間をかけてやったらいいという考えもあって、私個人としてはそちらでもいいのではないかと思っていたのですけれども、今回の民訴法の改正でなった専属管轄の高等裁判所の特許専門部分だけを、今回知的高等裁判所と呼ぶということで、中身がはっきりしているという前提で、そういうふうに呼ぶことによって、いろいろ対外的にもあるいは意識の高揚にも役に立つのではないかということであれば、むしろ早くやった方がいいというふうに考えたわけでございます。

○伊藤座長 沢山委員、よろしいですか。

○沢山委員 特にありません。

○伊藤座長 それでは、どうもありがとうございました。御質問がありましたら。

○中山委員 ペーパーの上から2行目「いわゆる知的財産」、「いわゆる」というのはタイトルにないのですが、「いわゆる」というのは、第9番目の高等裁判所というか、それとも、事実上のものなのか、どちらなのでしょうか。

○加藤委員 正式な形としての、第9番目の高等裁判所としての知的財産高等裁判所ということで、「いわゆる」を付けましたのは、正式にこれが知的財産高等裁判所という名前になるかどうかは別として。

○中山委員 実態は第9高等裁判所ですね。

○加藤委員 そういうことです。ほかの名前になるかもしれませんけれども、そういう意味での「いわゆる」でございまして、他意はございません。

○中山委員 もう一つ、私は別に反対しているわけではなくて、わからないところだけを伺いたいのですけれども、予見可能性が確保されると先ほどおっしゃいましたが、最高裁があるわけだし、高裁は事実審ですし、今まで知的財産高等裁判所がないために予見可能性がなくて困ったというのはどんな事件があるのでしょうか。

○加藤委員 具体的にこれが困ったということはないと思いますけれども、我々の意識から見ますと、最高裁に行って、判例統一機能に関わるような議論のところは、かなり大きな知財における論点、例えば均等論がどういう要件で認められるのかどうかとか、かなり大きなレベルについて最高裁での判例統一機能が働いているように産業界からは見られます。
 一方、知財には、そこまではいかなくても、かなり微妙な、もうワンランク下のレベルの問題点、まだ明らかでないところというのが相当部分残っているのではないか。そういうところについてこの知財高裁の一定の判例統一機能が機能する余地があるのではないかというふうに考えております。

○中山委員 まだ具体的にイメージがわかないのですが、例えば判例統一ということで感じたのは、映画の頒布権の事件、裁判所により見解が分かれてしまったわけですが、あんな事件を考えているのかなと思ったのですけれども、あれは大き過ぎるわけですね。

○加藤委員 大きいところも三審制を取れば必ずここを通りますけれども、そこまで行かないまでも、具体例がぴしゃっとという気もしますけれども、一定の判別のつくものがあってほしいという部分が相当、知財のもめごとの中に残っているという意識が産業界にはございます。

○伊藤座長 議論は発展すると思いますけれども、とりあえず今日の段階ではこの程度に。

○櫻井委員 1点だけよろしいですか。今の点ですけれども、私、議事録を確認していないのですけれども、お三方とも特に要らないと発言されていたような気がするのですが、ここに来て突然創設を求めるというのはどういう心境の変化があったのでしょうか。

○加藤委員 私は少なくとも要らないとは言っていなくて、知財高裁必要であるという観点で申し上げておりましたので。

○櫻井委員 特段強い必要性があるという趣旨ではなかったかと思うのです。

○沢山委員 少し考え違いをしておりまして、東京高裁の専属管轄化で十分だという意見をここで申し上げたと思いますが、よく考えてみましたら、やはりそれでは足りないと。日本がこれから生きていく上でも、知的財産専門の高等裁判所があるという旗を立てることが非常に有用だというふうに考え直しまして、こういうことになったわけです。

○櫻井委員 さようですか。

○伊藤座長 それでは、引き続きまして、事務局から、5月中に行っておりましたパブリックコメントの結果についての説明をお願いしたいと存じます。

【パブリックコメント募集の結果について】

○近藤参事官 既にお知らせしておりましたように、本年5月に知的財産訴訟の在り方について、これまでの検討会における議論を御紹介し、広く意見募集を行いました。その結果をとりまとめましたので御紹介したいと思います。
 資料2を見ていただきたいと思います。この資料の構成としては、32ページまでが寄せられた意見について論点別にまとめたものです。その後に「提出された個別の意見の内容(別紙)」というのがございます。それが19ページで、合わせて51ページになると思います。後半の部分は、寄せられた意見をそのまま掲載してございます。
 寄せられた意見は全部で12件で、うち団体、法人からは7件、個人の方からは5件の御意見がございました。その他の1件としておりますのは、知財訴訟とは直接関係のない御意見だったものです。
 具体的な団体、法人につきましては、1ページ目のところに記載してあるとおりでございます。
 これを見ますと、産業界からの御意見というのは随分出てきているように思います。
 掲載媒体としては、ホームページのほかNBL、判例タイムス、月報はつめい、弁理士会のJPAAジャーナル、それから弁理士会ホームページ等です。
 各論点についての御紹介に入らせていただきたいと思いますが、まず2ページ目を御覧ください。
 「侵害訴訟における無効判断と無効の審判の関係等」の「改正の必要性」ということについて聞いておりますが、意見の概要としては、この点について触れてある意見については、すべてが何らかの方策を採るべきであるというようなものでございました。
 3ページ「(2)検討されている方策案」のところも、侵害訴訟と無効審判の役割分担について、無効審判を廃止するか存置するか、存置するとしてどうするのかということについての意見募集ですが、この点については、A案を支持する意見が1件。将来的にはA案がよいとする意見が1件。将来的にはA案がいいが当面B案、やむを得なければC−4案がよいとする意見が1件。B案及びC−4案を支持する意見が1件。C−4案を支持する意見が1件。このほかに、更に検討すべきであるという意見がございました。具体的な内容については、ここに書いてあるので、読んでいただければと思います。
 5ページの「侵害訴訟における特許の有効性に関する主張・判断の在り方について」「『明白性』要件の要否について」でございますが、明白性の要件を不要とするA案と、明白性の要件を必要とするB案ということで聞いているのですが、A案を支持する意見が2件。B案を支持する意見が2件。そのほか、明白性の要件の明確化を検討していくべきであるという意見が1件という状況でございます。
 次に6ページ「侵害訴訟において特許無効等の主張・判断を認めるための法律構成の各案について」。これは、特許無効の抗弁か、権利濫用の抗弁か、または行政訴訟の形で特許の有効性を争えるようにするのかということでございます。特許無効という行為を認めるべきであるというものが1件。権利濫用を支持する意見が1件。行政訴訟でやるべきという意見が2件。このほか更に検討すべきであるという意見が1件。ばらばらに分かれているということでございます。
 「侵害訴訟における特許無効の主張に対する権利者の防御手段」。訂正を裁判所でやるか、特許庁でやるかということでございますが、裁判所でやるという意見については1件で、現行どおり特許庁でやるという意見が4件ございました。このほか更に検討すべきであるという意見が1件。これは、特許庁でやった方がいいのではないかという意見は、この検討会の場でもそういう意見でございましたけれども、それと同じような方向性が示されているのかと思われます。
 「侵害訴訟における無効判断の効力について」、制度上対世効を担保するというのと、相対効とするという意見でございますが、対世効を担保すべきだという意見が2件ございましたが、相対効でよいのではないかという意見が4件ということでございます。この検討会でも相対効の方が多かったように思っております。
 次に、9ページ「専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続の新たな参加制度」について、改正の必要性があるかないかということについての問いですが、これについて触れた意見については、やはり改正が必要であろうという意見が大半でございました。
 次に10ページの検討されている方策案として「調査官の権限の拡大について」、(イ)から(ホ)に書かれている役割と、具体的に訴訟手続上何をするのかというABの組み合わせでどのように考えるべきかということについての意見募集でございます。
 それについては、(イ)から(ホ)と、A及びBの役割を組み合わせるべきであるとする意見が1件。それから(ハ)とAの組み合わせを支持する意見が1件。それから、提示された役割に加え、評決権を与えるべきであるという意見が1件。また、列挙されたような調査官の権限拡大には特に反対しないという意見が1件。こういうような形になっております。
 11ページで「透明性・中立性の確保について」、調査官はどうあるべきかという意見。すべての案がC案、つまりA案とB案の組み合わせをした方がいいという意見が出ておりました。
 それから、「透明性・中立性の観点から、調査官の調査はどうあるべきか」。調査範囲を制限するかしないかということですが、制限するという意見が1件。制限しないという意見が3件という形でございます。
 11ページ下のCのところでは、調査官の報告について、当事者の立会いの機会を設けるA案。口頭弁論又は弁論準備手続の期日において、裁判官の立会いのもと、調査官が自己の判断を当事者に開示し、調査官と当事者が意見交換を行うというB案。特にそういう機会を設ける必要はないのではないかというC案ということで意見募集を行ったところでは、A案を支持する意見が2件。B案を支持する意見が1件。C案を支持する意見が1件ということで、これもちょっとばらけている感じでございます。
 それから「報告書の開示と当事者からの意見・反論の機会」ということについて、これもA案からF案まで、その意見について反論する機会を設けるかどうかということで細かく分けているのですが、A案の当事者に開示し、当事者が意見・反論を述べる機会を設けるべきであるという意見が3件。暫定的な中間報告書を開示し、調査官が判断を示すことで、当事者が意見・反論を述べる機会を設け、意見・反論を聞いた結果作成した報告書は非開示とするというC案が1件という形になっております。
 「専門家としてどのような者を活用すべきか」という案については、A案からD案を支持する意見がそれぞればらけておりまして、1件ずつという形になっております。
 それから、「専門委員との関係はどうあるべきか」。これは調査官が原則的に関与して、専門委員は必要に応じて審理に関与するという考え方が2件。調査官も専門委員も原則として審理に関与する。または事案によって調査官のみが関与、専門委員のみが関与または両者が関与するという事案によるという意見。それぞれ1件ずつでございました。
 それから、「要求される専門性の範囲」について、具体的なことは14ページに書いてありますが、これは調査官に技術的法律上の専門的知見の判断を求め、専門委員には技術的な知見を求めるというA案。それから、調査官、専門委員、両方ともに技術的知見及び特許等の法律上の判断の両方を求めるという意見。それぞれ2件ずつございました。
 「侵害行為の立証の容易化のための方策について」でございますが、これも改正の必要性については、寄せられた意見ではすべて、何らかの方策を採るべきであるという意見でございます。
 それから「検討されている方策案」の「文書提出命令における文書提出義務の範囲について」、特許法105 条1項のただし書きの「正当な理由」から、営業秘密を除外し、同条の文書提出義務を営業秘密を含む文書に及ぼすべきであるという意見が2件ございました。それから、文書提出義務を営業秘密保護手続の拡充により実質的に拡大するという意見が2件。それから、この今の実質的に拡大するという意見と、文書提出義務についてC案的なものも考えているという意見が1件ということでございます。
 それから、インカメラ手続において文書の「開示を求め得る者」というのが17ページにございますが、この点についても、意見が分かれておりまして、申立人に開示するべきであるというのが1件。それから、代理人のみが開示を求めることができるというのが1件。代理人のほかに第三者の専門家の開示ということも考えるべきであるという意見が2件。それから、いずれかを選択すべきであるという意見が1件でございます。
 それから、「裁判所の許可の要否」については、相当と認めるときに裁判所が許可をするという意見が、触れてある意見ではすべてでございました。これについては、この検討会でも大体こういうような方向が多かったように思っております。
 それから「秘密保持義務発生の根拠」についてですが、これについては、裁判所の命令によって発生するという意見が2件。インカメラ手続で開示を受けた者は自動的に発生するという意見が3件でございました。
 それから、「秘密保持義務者の範囲」について、19ページですが、営業秘密の開示を受けた者に画一的に秘密保持義務を課すという意見が3件。それから、原則的には営業秘密の開示を受けた者に秘密保持義務を課すけれども、裁判所が必要に応じて一部を解除する措置を講じることはできるという意見が2件。
 それから、「禁止する行為の範囲」についてですが、開示のみを禁止するというA案と、開示のみならず目的外使用も禁止するというB案でございますが、B案を支持する意見が、寄せられた意見ではすべてでございました。
 「秘密保持義務が存続する期間」については、訴訟終了後においても不正競争防止法の要件を満たす限り継続する義務とすべきという意見が比較的多かったと思われます。
 それから「制裁」についてですけれども、所要の罰則を科すという意見が5件中4件ということで多く、担保を積ませて、違反の場合に民事上の不利益を与えるという意見が1件ございました。
 「営業秘密が問題となる事件の非公開審理について」の関係では、A案の82条の制限の範囲内で非公開審理ができる要件及び手続を法定するという意見が2件。それから、期日外証拠調べで対応すべきであるという意見が3件。ここのところもちょっとばらけていると思います。
 22ページの「いわゆる『特許裁判所』の創設の当否」に関してですが、この点について触れてある意見は7件ございますが、知的財産裁判所創設は必要であるという意見が5件。創設は不要であるという意見が2件。
 創設を必要とする理由としては、知的財産立国に向けた我が国の姿勢を内外に示すことができることを挙げられております。
 これに対して創設を不要とする理由としては、今回の民事訴訟法改正による実質的な知的財産裁判所で十分であるということが挙げられております。
 それから、特許裁判所の内容については、東京高裁の知的財産専門部を独立させるという意見が挙げられており、その効果については、判決の予見可能性が確保されると言われています。これは先ほどのお三人の方の意見書に沿った内容と思われます。
 それから、25ページに行きますが、「いわゆる『技術系裁判官』について」です。この点に触れてある意見の中では、裁判官にも技術の知識を有する者が望ましいということを前提としつつも、法曹資格のない専門家を裁判官とすることには消極な意見が多かったようです。ここに寄せられているのは、みなそういう意見でございます。
 法曹資格のない専門家については、裁判に参加し、裁判官と同様に合議に加われるが、最終判決の評決権を持たない、または制限すべきというような意見もございました。
 「証拠収集手続の機能強化(日本版ディスカバリー)」ですが、この点について触れた意見は5件ございますが、証拠収集手段の範囲について、これはBのところですが、攻撃防御方法に関する一切の事項とするのが1件。それから、主張されている侵害行為を立証するために必要な証拠に限定すべきだというのが3件。
 次の③、証拠収集手段の方法、ここのところもいろいろと意見が分かれておるのですが、A、C、Fのいずれかというのが1件ありまして、C案というのも1件。それから、F案、文書提出義務の範囲を拡大するという意見が2件。それから、G案の今回の民事訴訟法の改正に加えて、ディスカバリー制度も検討すべきであるという意見が1件ございます。
 主だった意見としては、そのようなところでございます。

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する改善の方向性について】

○伊藤座長 それでは、ただいまの御説明なども前提にいたしまして、これから侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する改善の方向性についての検討に入りたいと思います。
 既に本年1月の第4回検討会におきまして、この論点を御議論いただいておりますので、本日は第2巡目の検討ということになります。そこでまず事務局から資料3の5ページまで説明をお願いしたいと思います。

○近藤参事官 それではお手元の資料3に基づいて御説明いたします。この資料は侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等について、第4回検討会における各論点ごとの御議論を御紹介した上で、委員の御意見を踏まえて考えられる選択肢について、まず網羅的に示し、御議論のたたき台として具体案をパッケージとして複数お示ししたものでございます。
 まず、第4回検討会における各論点ごとの御議論の概要ですが、これは1ページ以下で書かれておりますが、(1)の侵害訴訟と無効審判の役割分担の在り方については、紛争の一回的解決のためには、体制整備を前提として無効審判を廃止し、特許査定取消訴訟のような制度を設けるべきとの意見が出された一方、産業界は独立系の無効審判になじんでいるので、無効審判の廃止は困るとの意見が出されました。
 また、無効審判制度の存置を前提とした場合には、無効審判の請求を遮断する案、ないしは裁判所と特許庁の手続の進行調整等により対応する案がよいとの意見が出されました。
 なお、無効審判の請求を遮断する案については、新無効審判制度では、何人も請求可能であるため、ダミー請求の可能性があり、根本的な解決にはならないとの御指摘もありました。
 また、裁判所と特許庁との手続の進行調整等により対応する案につきましては、韓国の優先職権審理制度のような制度は魅力的である。特許庁の無効審判の審理迅速化のためには、当事者に与えられている答弁期間を短くする必要がある。また、無効審判が侵害訴訟の末期に請求されることが多いということも問題であるとの指摘もございました。
 次に、2ページ目の(2)の「侵害訴訟における特許の有効性に関する主張・判断の在り方について」出された御意見を御紹介します。
 まず明白性の要件の要否につきましては、明白要件は明らかでないことや、紛争の一回的解決の観点から、明白性要件は撤廃すべきであるという御意見。被告が無効理由を20も30も挙げてきたような場合、明白性要件を外すと、権利者はすべての無効理由に反論しなければならないので、権利者に酷であり、審判を合理化して対応すれば十分との理由から、明白性要件は維持すべきとの御意見。そして、明白性の要件自体が明確化すればよいとの御意見が出されました。
 また、侵害訴訟において特許無効の主張、判断を認める法律構成案については、特許無効の抗弁と権利濫用の抗弁の差が不明である、実質は同じではないかとの御意見。明らか要件を撤廃した権利濫用の抗弁を認めるということは、最高裁判例との関係をどのように考えるのか、判例では無効理由を有することは明らかであるから権利濫用を認めるという構成であるのに、明白性が要らないというのは、当時の事情が変わったという前提かとの御指摘。更に、政策的な決断の問題であるが、無効の抗弁を認めることと、公定力理論との関係については、特許無効の抗弁ができると規定すれば、その限りにおいて公定力が減縮するとの御意見が出されました。
 また(3)の侵害訴訟における特許無効の主張に対する権利者の防御手段の在り方については、多くの御意見は特許庁の訂正審判を利用すべきとの御意見だったと思いますが、一方で迅速化のため、優先審理等の工夫が必要であるとの御意見。訂正審判を利用できない時期があることをどう考えるかの御指摘もありました。
 また、(4)の侵害訴訟における無効判断の効力については、相対効でよいとの意見が多数でしたが、実質的に対世効が確保されるような手当てを望むという声がありました。
 続いて4ページ目、委員の意見を踏まえまして、選択肢について御説明したいと思います。
 1番目の「紛争の合理的解決のための侵害訴訟と無効審判の役割分担の在り方について」は無効審判を廃止するA案と、無効審判の存置を前提として、無効審判の請求可能時期を制限するB案。それから、侵害訴訟と特許無効審判が同時に係属した場合には、いずれかの手続を裁量的に中止できる現行の制度を前提として、更に幾つかの方法により、両者の進行調整等により対応するC案が考えられると思います。
 B案を更に具体化したものとして、侵害訴訟における非権利者側当事者は、当該侵害訴訟の係属中は無効審判を新たに請求することはできないとするB−1案。侵害訴訟における非権利者側当事者は当該侵害訴訟提起後一定期間経過した後は、訴訟手続が完結するまで無効審判を新たに請求することができないとするB−2案。B−3案、B−4案とあります。
 更に、C案を具体化するものとして、例えばC−1案のように侵害訴訟係属中に訴訟当事者から請求があった無効審判については早期審理の対象とし、早期に審決を出すようにするという案が考えられますし、C−1案を採用する場合に、C−2案も採用する必要があるのかどうかということも更に御議論していただければと存じます。
 次に、「侵害訴訟における特許の有効性に関する主張・判断の在り方について」ですが、まず侵害訴訟において特許無効等の主張判断を認めるための法律構成の各案としては、特許無効の抗弁を認めるD案。それから、権利濫用の抗弁を認めるE案が考えられると思います。更にF案として、D案またはE案に加え、公知技術の抗弁、自由技術の抗弁とも言われておりますが、それを認めるという案もあると思います。
 次に、イの明白性の要件でございますが、無効理由が存在することが認められるときには、特許無効ないし権利濫用の抗弁を認容するG案。無効理由が存在することが明らかな場合に限り特許無効ないし権利濫用の抗弁を認容するH案。更にはH案の中で、法律で明らか要件の明確化を図るという案。あるいは運用・裁判例で明らか要件の明白化を図るという案もあると思います。
 また、ウの特段の事情の要件については、特段の事情がある場合には、裁判所は特許無効ないし権利濫用の抗弁を認めないことができるとするJ案。特段の事情の有無にかかわらず、裁判所は特許無効ないし権利濫用の抗弁について判断するK案というものが考えられると思います。
 侵害訴訟における特許無効の主張に対する権利者の防御手段については、大きく分けて、侵害裁判所において訂正等の手続をできるようにするL案。それから、現行法どおり特許庁において訂正審判をするというM案が考えられると思います。
 最後に侵害訴訟における無効判断の効力については、第4回検討会での御議論を踏まえますと、相対効としつつ、実質的に対世効を確保できるよう手当てを講するということが考えられると思います。
 今説明させていただいた4ページ、5ページ目のものは、6ページ以下で先ほど言いましたように具体案をパッケージとした場合、どういうことが考えられるか。どうしてもパッケージ案を示すときに網羅的な案として提示することができませんので、事務局において考え得るパッケージ案を示させていただいていますが、これでも非常に多くなり過ぎているかなと思っております。
 ただ、自分はこういう案ではなくて、別の案がいいのではないだろうかというふうにお考えになられる方もいらっしゃるのではないかということで、個別的に論点的なものについて説明をするというのが4ページ、5ページ目でございます。
 具体的にはパッケージ案の中で詳しく御議論していただければというのが事務局サイドの意見でございます。

○伊藤座長 それでは、ただいま事務局から資料に基づいて説明をしてもらいましたA案からM案までの選択肢について、御質問ないし御意見がございましたらお願いいたします。
 よろしいでしょうか。それでは、ただいま事務局からも説明がございましたが、具体的な選択肢としてパッケージ案というのを用意してありますので、それについて説明をしてもらって、そこでまた内容にわたる議論をお願いしたいと存じますので、引き続きまして、事務局から資料3に基づいて、議論のたたき台となる選択肢を組み合わせた具体案、及び考慮すべき論点についての説明をお願いいたします。

○近藤参事官 では、資料3の6ページ、7ページを御覧ください。ここでは制度の全体像を御議論いただくため、先ほど説明した選択肢を適宜組み合わせた具体例を議論のたたき台として提示させていただいております。
 以下、各案について御説明いたします。
 まず甲案ですが、甲案は紛争の一回的解決の観点から当事者の攻撃防御・フォーラムの多様性を制限することにした案でございます。
 2つございまして、侵害訴訟において明白性の要件を不要としつつ、特許無効の抗弁ないし権利濫用の抗弁を認めるとともに、侵害訴訟係属中の無効審判の請求を認めないこととしております。
 2つ目として、特許権者の防御手段は訂正審判、無効審判係属時は訂正によることとしておりますが、侵害訴訟提起後は、一定期間経過後は訴訟手続が完結するまで訂正審判の請求を認めないこととしております。こういうものが甲案ということになります。なるべく訴訟の場に限定していこうということでございます。
 乙案は、当事者の攻撃防御・フォーラムの多様性を確保しつつ、進行調整等により対応するという案でございます。
 乙1案の内容をまず説明させていただきますと、これも内容として2点御指摘しましたが、1点目としては、侵害訴訟においてキルビー判決の枠内で、明白性要件を必要としつつ、特段の事情のない限り権利濫用の抗弁を認めるという案で、必要に応じ進行調整等により対応するというものでございます。
 2番目は訂正等についてですが、特許権者の防御手段は訂正審判によることとしております。
 乙2案というのは、乙1案では明白性の要件を必要としているわけですが、乙2案は明白性の要件を不要とした案でございます。
 それから、丙案というものを3つ示しておりますが、丙案というのは、甲案、乙案というのは、乙案が進行調整で、甲案というのは両者を存続することを前提として一定限度制限をしていこうという選択肢ですが、丙案は更にその中間的な案ということでございます。
 丙1案ですが、これも2点指摘したいと思います。
 侵害訴訟において明白性の要件を不要としつつ、特段の事情がない限り、特許無効の抗弁ないし権利濫用の抗弁を認めるという案で、侵害訴訟係属中に訴訟当事者から請求のあった無効審判については、早期審理の対象とするということにしております。
 2番目の訂正関係ですが、特許権者の防御手段は訂正審判により対応しますが、侵害訴訟係属中に訴訟当事者から請求があった訂正審判についても、早期審理の対象とする。両方とも進行調整として早期審理の対象としてはどうかという案が丙1案でございます。
 丙2案ですが、並行する審判を早期審理の対象とする丙1案と異なって、訴訟提起後一定期間経過後は審判請求を制限するということで対応しようとする案です。具体的には侵害訴訟において明白性要件を不要としつつ、特段の事情がない限り、特許無効の抗弁ないし権利濫用の抗弁を認めるとともに、無効審判の請求を侵害訴訟提起後一定期間経過後から訴訟手続が完結するまで制限することにより両者の関係を整理しようとする案でございます。また、両者が並存した場合には、必要に応じ、進行調整等により対応するということにしております。
 それから、訂正等に関しまして、訂正審判により対応しますが、無効審判請求と同様、侵害訴訟提起後一定期間経過後は、訴訟手続が完結するまで訂正審判の請求ができないということにしております。また、必要に応じて進行調整等はあり得るという案でございます。
 最後に丙3案ですが、丙1案、丙2案と異なって、明白性要件を必要とする案です。具体的には侵害訴訟において明白性要件を必要としつつ、特段の事情のない限り権利濫用の抗弁を認めるというキルビー判決の枠内での仕切りを前提としつつ、権利の有効性に関して特許庁に対して求意見制度、または鑑定嘱託制度等を導入するとともに、侵害事件関連情報として、侵害訴訟における侵害論及び無効論に関する資料等を裁判所から特許庁へ通知・送付するという案です。
 それから、特許権者側の防御手段については、訂正審判により対応するということにしております。
 次に、資料8ページからは、今御説明した具体案について、御議論いただく際の論点として考えられるものをお示ししたものです。
 1番目として、侵害訴訟における無効判断と無効審判の関係の論点としては、知的財産関連訴訟においては、紛争の早期解決と攻撃防御方法の多様化のいずれに重点を置くべきかということを指摘するとともに、紛争の一回的解決とは何か、その観点から、侵害裁判所において行うことができる望ましい手続というのは何かということを聞いております。
 次に紛争の合理的解決の観点から、侵害訴訟係属中に当事者による特許庁の手続の利用をどこまで排除すべきかという論点を挙げるとともに、特許庁の手続の利用の制限はかえって権利保護の迅速性が損なわれる恐れがあるという指摘。
 更には、新特許無効審判は何人も請求できるということから、ダミー請求を排除できず、審判手続の請求の遮断には実効性がないという指摘を紹介しております。
 そして、9ページの上の方ですけれども一回的解決を求めるユーザーニーズはどこにあるのかとして、特に判断齟齬防止、迅速性、対応負担、当事者の反論の機会、いわゆる二枚舌の防止という、5つのユーザーニーズを御紹介しております。
 2番目の、侵害裁判所における具体的な手続の在り方の(1)の特許の有効性を争う手続では、まず、侵害訴訟における特許無効の主張を認める場合の法律構成についての論点について触れております。
 特許無効の抗弁は、特許等の有効性について争うことを認める考え方とし、権利濫用の抗弁は、キルビー判決に示されたような特定の要件のもとで特許権等の行使を認めないとする考え方とすることについてどう考えるか。更に、特許無効の抗弁の考えの中でも、この抗弁は特許等の無効を主張するものであるとする考え方と、無効事由の存在する特許権等については、無効審判の判断を待たずに特許権等の行使は認められないと主張するものであるとする考え方が考えられるのではないかということを御紹介しております。
 次の論点として、いわゆる自由技術の抗弁についてどう考えるかということを挙げております。
 また、明らか要件については、現実の裁判例では、多岐にわたる無効理由に基づいて権利濫用の抗弁が認容されており、明らか要件に起因する問題は顕在化していない。すなわち明らか要件が必要ではないとする立法事実は存在しないのではないかとの指摘。他方、明らか要件を削除すると裁判が遅延するという主張があるのは、明らか要件で排除される案件が存在することを自認していることになるのではないかとの指摘、これらを紹介しつつ、その要否についてお尋ねしています。
 更に明らか要件を前提として、その要件の明確化を図るべきという考えについても、尋ねております。
 さらにキルビー判決で示されたように、特段の事情がある場合には、侵害裁判所において特許の無効を判断しないことについてどう考えるのか。特段の事情としては、どのようなものが想定されるかということを論点として掲げております。
 次に、訂正を認める手続についてですが、まずキルビー判決以後、侵害訴訟と無効審判または訂正審判が同時並行的に係属した際に、無効審判中の訂正請求、または訂正審判による訂正が確定していないにもかかわらず、当該未確定の訂正特許について審理判断がされている実例を御紹介しつつ、現行法の枠内で侵害訴訟において相対効的な訂正についての主張を行うことが可能なのかどうかをお尋ねしています。
 次に、侵害訴訟における特許無効の主張に対抗する権利者の防御手段を訂正審判によることとした場合、現行法ではその請求ができない期間があり得るという指摘を御紹介しております。更に判断の経済性、訂正審判の迅速化等の観点から、独立特許要件を廃止するという考え方についてお尋ねしています。
 最後に「(3)その他」として、特許権以外の知的財産権の扱いをどうするのか。例えば実体的審査を経ずに登録される実用新案権や、政令で定める期間経過のため実体的審査なしに登録された商標権についても、特許権と同様の扱いをすべきかという論点を指摘しております。
 判決理由中の特許無効の判断について広く知らしめるための手段についてどのような方法がいいのかというのが最後の○で指摘しているところでございます。
 説明は以上ですが、具体案の提示として、おおまかに言いますと、明白性の要件をどうするのかという、明白性の要件の要否の問題が1つ大きな問題でございます。
 それから、ここで具体案として提出しているのは、侵害訴訟と無効審判の並行存置を認めているものですから、その関係について、何らかの制限を設けて一定の期間、無効審判の請求をできなくするかどうかという組み合わせが1つあり得ると思います。
 それと同じような形で、訂正についても、その関係をどう考えるのか。その3点が、大きな具体案のたたき台としては、考慮要素になってくるのではないかということで、御説明させていただきました。

○伊藤座長 それでは、ただいまの説明に基づきまして、議論をしていただきたいと思いますが、ここで15分くらい休憩をして、その後に議論をお願いしたいと存じます。

(休  憩)

○伊藤座長 それでは、再開いたします。先ほど近藤さんから具体案と、それについて考える際に考慮すべき論点をお話しいただきましたが、基本は明白性の要件を不要とするか、必要とするか、手続間の調整をどうするか。訂正審判についてどう考えるかといった辺りかと思いますが、どの点からでも結構ですので、御質問や御意見をお願いいたします。

○加藤委員 一応あらかじめ予習と言いますか、検討してまいりましたので、たたき台になっても結構でございますので、考え方、こうして欲しいという点を申し述べたいと思います。
 初めに、基本的な考え方を申し上げます。産業界として、紛争の一回的解決を重視していただきたいということで、これは本検討会においても再三申し述べておるとおりでございますので、まず明らか要件を不要にしていただきたい。したがって、特許無効の抗弁を認めてほしいということでございます。
 無効審判については、新無効審判になっても存続を前提にしていただきたいということでございます。これはペーパーによれば、産業界は無効審判になじんでいるからという書き方をされておりましたが、それもありますし、無効審判によって当事者間による解決の1つの手段として無効審判を選ぶ道も現実にありますので、これを存続させていただきたいということでございます。
 訂正防御につきましては、少し突飛な点もございますが、一回的解決という意味からしても、侵害訴訟において訂正主張を認めていただきたい。したがって、侵害裁判所においその可否を判断する道を開いていただきたい。一方、裁判所は訂正審判による確定を待つということができるものとするということにしたらどうかというのが基本的な考え方でございます。
 これにしたがって、各選択肢を選んでいくことになろうかと思いますが、まず4ページにあります「紛争の合理的解決のための侵害訴訟と無効審判の役割分担のあり方について」は、B−1を基本としてC−1を併用するということになるのではないかと思います。つまり、紛争の一回的解決を重視して、侵害裁判における特許無効の抗弁を認める以上、訴訟提起後、被告と言いますか、非権利者側に無効審判請求を認めることは論理的に矛盾してしまいますので、B−1を選ばせていただきました。ただし、訴訟提起前に相手側が既に無効審判を請求している場合もあり得ますので、この場合はC−1、早期審理の対象とする必要があるのではないかと思います。したがって、B−1プラスC−1も併用するという形になろうかと思います。
 2.のア「侵害訴訟において特許無効等の主張・判断を認めるための法律構成の各案」てございますが、D、つまり無効の抗弁を認めるとともに、F案、自由技術の抗弁を認めることは差し仕えないのではないかと考えます。
 つまり、特許無効の抗弁と権利濫用の抗弁には実質的差異がないようも思われます。現実の裁判事例、キルビー判決後でございますけれども、見ておりますと、明らか要件が重大な分かれ目を形成しているようには思われないと考えます。更に公定力の問題につきましては、特に無効の抗弁ができると法定すれば足りるという御見解もありましたので、これが妥当するのではないかと考えます。
 なお、自由技術の抗弁については、特許無効の抗弁と極めて近接した関係に立ちますので、特許無効の抗弁が認められた場合、これを積極的に排除する理由はないのではないかということで、含めて差し支えないと考えるものでございます。
 2.イ「『明白性』要件の要否」でございますけれども、先ほど言いましたとおり、G案になろうかと思います。特許無効の抗弁を認めるということで、繰り返しになりますが、一回的解決を重視することから、明白性の要件は是非とも撤廃していただきたい。以前、明白化を図る努力もあり得るのではないかということを発言させていただきましたので、この点再考したのでございますけれども、明白化の努力は結構かと思いますけれども、それが適用されるケースが、ごく少ない場合にしか当てはまらないのではないかと。実効性が少ないという意味合いで、明白化の努力よりも、明白性の要件を撤廃することの方が合理性があるように思われます。
 1つは、2.のウの「『特段の事情』の要件の要否」でございますけれども、これについては、やや検討不足の点はありますけれども、とりあえずK案で特段の事情の有無にかかわらず、無効要件を判断するということにさせていただきたいと思います。
 それから「侵害訴訟における特許無効主張に対する権利者の防御手段について」でございますけれども、L案とM案の折衷を新たに考えるようなことを第1案として考えております。
 つまり、侵害裁判所において特許無効の主張をされた権利者は、訂正主張をこの侵害裁判所の手続の中で行うことができるものとし、裁判所は訂正の可否を一応判断できるとしたらいかがかなと。例えば明らかにこの訂正が認められるか否かは、もう裁判官に委ねてよいのではないか。
 一方、訂正内容によっては、裁判所は、非常に細かい技術内容に及ぶ可能性がある部分については、訂正審判によるべきという判断もできるものとし、この場合については訂正審判を請求させて、早期審理の対象とするという考え方を取ったらいかがかと思います。
 なお、この点については、産業界としても、訂正審判の問題の大きさをよく理解しているつもりですので、早期訂正確定を前提として、すべて訂正審判に行くことになってもやむなしかなというポジションを取るものでございます。
 最後に「侵害訴訟における無効判断の効力」については、相対効で結構ではないか。ただし、特許公報への掲載や裁判所ホームページ等、インターネットを活用した形で積極的に内容を公表することを是非行ってほしいということでございます。
 それらをまとめますと、基本的に事務局の言うところのパッケージで言いますと、ほぼ甲案に近いものになるのではないかというのが意見でございます。

○伊藤座長 わかりました。そういたしますと、最後におっしゃったように、基本的には甲案に近くて、ただ、一部C−1のようなものが。

○加藤委員 修正を加えていただく必要があるのではないかということです。

○中山委員 侵害裁判係属中は無効審判請求はできないとすると、訂正を認める必要はないのですけれども、無効の抗弁はできる。そのときは訂正を主張するわけですね。

○加藤委員 訂正主張はあり得ると思います。

○中山委員 裁判所が認めるのは相対効だけですか。裁判所が訂正を認めたとして、それはどういう意味ですか。

○加藤委員 裁判所が仮にその訂正ならばいいでしょう、無効理由が回避されますと裁判所が判断した場合については、当然相対効になるのではないかと思います。

○中山委員 当事者間だけに。

○加藤委員 当事者間だけに適用される訂正ということになるのではないかと思います。

○中山委員 その裁判だけで一部を放棄したと同じですね。細かい点で難しい問題があったら訂正審判もいいと。

○加藤委員 基本的にはすべて裁判所で訂正を認めていただくことが、我々が希望している一回的解決には沿うわけでございます。ただし、訂正審判の内容からして、我々としては独立特許要件もあるべぎだと思っておりますので、細かい点に及ぶ可能性があるので、裁判所で判断しきれないという訂正案が出てきた場合については、特許庁に行きなさいということが許されても構わないのではないかということでございます。

○中山委員 そういうふうな判断を前提にした場合、明らか要件ですけれども、こちらは徹底して無効は裁判所でできるはずだと。訂正はできない、そういうことですか。
 明らか要件は要らないということは、裁判所でどんな細かいことでも見られるという話ですね。訂正の場合は、細かいことは裁判所はわからないという話ですか。

○加藤委員 もしその点に御指摘のような論理矛盾があるというのであれば、すべて訂正審判でも構わない。

○中山委員 裁判所をそこまで信頼しているということですね。
 もう一つ、無効審判というのは、だれでも請求でき、この場合にはもちろん訂正できるわけですね。無効審判を第三者が提起した場合です。そうしますと、これは実際問題、余り効果がなくなってしまうということはないのですか。

○加藤委員 実際に効果がなくなるというのは。

○中山委員 第三者はダミーでも何でもできるわけですね。そうすると、昔のように利害関係人だけが無効審判請求できるということでないとおかしいようにも思うのだけれど、それは、そういうことはないですか。

○加藤委員 侵害訴訟が起こった場合に、非権利者側が第三者をして無効審判を請求させるという意味でのダミーがどの程度発生するかということにもかかわるのではないかと思いますけれども。

○中山委員 無効審判を請求してはいけないということは、無効審判請求をする人がいるということだと思います。要求があるから、無効審判をしてはいけないという法律をつくろうというわけですね。禁止しても、第三者である弁理士、あるいは弁護士に頼んで、無効審判を請求してもらえばいいわけで。

○加藤委員 私が申し上げておりますのは、侵害訴訟の中で無効主張するわけですから、その当事者が無効審判を提起するのは矛盾でしょうということです。

○中山委員 矛盾ではないです。無効主張は当事者間だけの問題ですし、無効審判は特許権を消してしまうという話ですから。どっちがベターかという問題はあるけれども、矛盾ということはないと思うのです。それは置いておいても、無効審判を請求したかったら、弁護士、弁理士にやってもらうということを残しておけば、事実上は請求できるのとほとんど同じになる可能性があると思うのです。

○加藤委員 可能性としてはそのとおりだと思うのです。ダミーを完全には防ぎ切れないというのは御指摘のとおりでございます。

○中山委員 ということは、昔のように利害関係を入れるように戻すという主張にまではいかないわけですね。

○加藤委員 新無効審判に新しく変わったばかりですので、そこまで言うのは時期が適切ではないと考えます。

○小林委員 全体についてのことは後ほど申し上げたいのですけれども、今出た論点1の訂正のところだけ、若干補足的なコメントです。
 2ページの括弧のところにも書かれておりますが、キルビー判決以後だけではなくて、それ以前のものも含めて、かなりの数の地裁・高裁判決をさらってみたところ、こういうふうな結論だったのです。注目すべきは、訂正審判であれ無効審判中の訂正請求であれ、審決が確定しないと訂正の効果は発生しないのですけれども、ところが、訂正を請求されたクレームがまだ未確定の時期に裁判所ではもう判断されている事件が幾つかあります。
 ということで、現在の状況を見てみても、訂正審判なり訂正請求という行為自体は特許庁に対してするのですけれども、事実上その訂正が確定しない、すなわち対世効も何も持っていない状況で、当事者の間だけで裁判所が未確定な訂正請求クレームに基づいて侵害の有無とか、有効性の判断をしている現実がございます。したがって、そこだけ見ますと、もう既に、裁判所でも判断できる事案については、訂正請求についての審理が行われているというのが実態だろうと思うのです。

○中山委員 今の話だと、特段の事情というのは、明らかに全部除いてしまうというのだから。それでもそうですか。

○小林委員 今のところ、明らかということと、訂正請求を認めるかどうかということをリンクさせて判断した事案がないので分かりません。

○中山委員 特段も含めて。

○小林委員 特段の事情というのは後ほど議論させていただきたいのですが、今ある事案は、訂正前のクレームも訂正後のクレームも同じような結論で非侵害であると、あるいは無効であると言えるような事案、あるいはその逆に、訂正前のクレームも未確定の訂正後のクレームも、同じように侵害であり、有効だと言えると。多分、結論が一致したケースしか事例がないのです。ところが、他方でキルビー判決の特段の事情の典型例とされている、訂正前は無効理由があるけれども、訂正後には無効理由がなくなる、しかも、それは侵害行為を形成するという事案についての判断は、されていないのです。
 その点については、たまたまそういう事案がないということなのか、あるいは実際にそういうふうに運用すべき事情があるのか、そこはよくわかりませんけれども、ただ1つ言えますのは、訂正審判、ないしは訂正請求が確定していなくても、そのクレームでもって訴訟の審理が進められているというのが今の現状ですから、その限りにおいては、もう既に相対効的な訂正の取扱いというものは実務上されているということだろうと思います。それをどういうふうな法律にするかというのは、別途いろいろ議論があるだろうと思いますけれども、とりあえずその点だけ。

○飯村委員 今の御説明で、侵害裁判所が、訂正が未確定の間に、訂正後のクレームについても充足性、及び有効性に関して、判断した事例があり、訂正前であっても訂正後であっても、その結論が変わらなかった例しか出てこなかったということでございます。裁判所、及び裁判官の気持ちとしては、紛争解決の観点から、原告側が、訂正であれこれ争うけれども、結果は同じですよということを念のために付け加えているにすぎないのであって、それがあったからと言って、訂正未確定のものについてまで判断したということにはならないと考えるのが妥当だと理解すべきだと思います。

○伊藤座長 今の論点はどうでしょうか。

○近藤参事官 今、飯村委員の方から御指摘がありましたが、10ページの注のところで、①②ということで、未確定のまま判断した事例ということで出させていただいております。①の方は、未確定の訂正後のクレームに基づいて解釈することに当事者に争いがないということを前提にしております。②の方は、訂正前及び未確定の訂正の両方について判断をして、どちらの場合でも最終的な結論は一致していたということについて、未確定のままの訂正後のクレームについて判断をしているという事例があるということだと思うのです。
 これを前提にした場合に、今、飯村委員の発言は、キルビー判決で訂正後に結論が異なってしまったり、訂正後のクレームについて解釈が当事者間が争いがある場合について、そのまま裁判所で訂正後のクレームについて判断することができるかどうかということが論点だと思うのです。そこはちょっと絞った方がいいのではないかと思います。

○伊藤座長 今の点はいかがでしょうか。判断して、いずれにしても結果は一緒だという例であるということを飯村委員がおっしゃいましたけれども、それは本当は言わなくてもいいけれども、当事者がしきりにそれを言うものだから、その点についても一応判断を示しているということですか。
 しかし、論理的には必ずしもそういうふうになるとは限らないですね。

○飯村委員 キルビー判決の前であっても、無効であると判断した事例は幾つかありまして、それも非充足と判断した上で、根拠となる特許権の有効性についても、付加的に書いてある事例は幾つかありました。
 侵害裁判の理由書きで、これと同じように、有効性に関して、いずれにしても原告の請求が認められない場合に、原告側から訂正であれば有効であり侵害に当たるという主張が出てくるわけですけれども、そのような主張に対して、ある意味ではサービスというか、−−言葉は適切かどうかはわかりませんが、厳密に言えば、被告に対してのサービスになるのですけれども、−−ということで付加的に判断していて、それ自体はほとんど法律上は意味がない理由だと思うのです。そうであっても、紛争解決の事実上の効果というのは、なくはないものですから、実際に原被告間の紛争に関して、裁判所としてどんな考え方を持っているかということを示した方がいいだろうという考え方から判断していると思います。
 東京地裁でも大阪地裁でも高裁レベルでも、いずれもそういう判断があるというのは、法律上の効果ではありませんけれども、広く解決させたいという気持ちを込めて書いているのだと思います。
 最高裁キルビー判決について、あの判決理由を、未確定のものについて原告の請求を認めるということを許容していると理解するのは、無理だと思われます。

○伊藤座長 今の点についての議論を続けるということもありますし、先ほど加藤委員から全体的な問題についての御意見の開陳がありましたので、それに対応する形で他の委員の方もそれぞれ御自分の御意見をおっしゃっていただいても結構だと思います。

○阿部委員 私は大体加藤さんと同じような考え方でいたのですけれども、ダミーの問題がありまして、ダミーの問題はもっとよく考えたらいいのではないか。どういうダミーが現実にあるのか。実務的にどういう不都合が生じているのか。それはそれでまたあとで、ゆっくり考えたらいいのではないかと思っていたのです。しかし、現実に訴訟とか、あるいは審判で頼まれた代理人としては、あらゆる手段を尽くすことを考えるだろうと思うのです。したがって、それがいいとか悪いとかは別問題として、闘い方としてダミーを使うということは、ノーマルにあり得るというふうに考えないといけないのではないかと、だんだん思うようになってきたのです。
 そうしますと、侵害訴訟を起こしたときに、当事者間において無効審判を遮断するということをやったとしても、当事者まがいの人が無効審判をするということは通常起きるという前提として考えた場合に、要するに、同じ人たちが裁判所で争い、特許庁でも争うという構図が生じてしまうのではないか。
 そのときに、形として第三者が無効で争っているのだから、裁判所は関与しないということでいいのか。あるいはそれはもう当事者でございますといってやった方が、両者間の情報交換もスムーズにいって、結果的には早く円満に解決できるということもあり得るのではないかと思うようになってきています。
 そうすると、当事者間で無効審判の道を閉ざすということに、本当に合理的な解決の道があるかどうか。むしろそこが形だけ違う仕組みになっているばかりに、お互いに特許庁と裁判所で情報交換ができにくくなるというふうになってしまうと、かえって困ってしまうのではないかと思っているのです。ただし、ダミーの実情がよくわからないし、私自身は余り使ったことがありません。

○近藤参事官 これは新無効審判になった時にダミーが生じるという形なので、今はダミーも出てきていないので、ダミーの問題というのは来年度からあり得るのではないかと思います。

○中山委員 その件ですけれども、現行法になる前は、利害関係人が請求できると書いてあったのです。ところが利害関係人という要件を取ってしまった。主語がなくなった。したがって現行法の解釈としては、条文上はどちらかわからないということになり、事件は結構あった。一番有名な事件が弁理士が請求した事件ですね。あれは正義感に燃えた弁理士かもしれないけれど、普通は多分ダミーだろうと思います。しかし、本当に無効審判をやろうとすれば当然弁理士、弁護士に頼んでも請求するでしょう。だから、来年からあり得ると思います。あるということを前提に議論しないと、恐らく実態に合わなくなるのではないかと思うのです。

○阿部委員 今の新無効審判の当事者適格をまたひっくり返してというのは、とてもできない。

○小林委員 具体策の提示の6ページのところですが、私としましては丙1案、これがいいと思います。多少の変型はあり得るという点につきましては、必要に応じてコメントさせていただきますけれども、基本的には丙1案を基本とするのがいいのではないかと考えています。
 丙1案と申し上げましたので、無効審判請求の遮断の是非についてまず論点が1つあります。また、そうなりますと、無効審判が同時係属することがございますので、それをどのくらいの審理期間で行うかという論点も1つあります。3番目としまして、丙1案ですから、明白性要件を不要としつつという理解でございますので、明白性要件を残すべきかそうでないかと、おおむね3つくらい論点があるかと思っています。
 まず、第1の論点の無効審判請求の遮断につきまして、考え方を述べさせていただきます。前々から申し上げていることですけれども、無効審判と侵害訴訟中の無効判断というのは本質的に異なるものだと考えています。1つは今議論になっています当事者適格という問題がございます。とりわけ新無効審判の場合には顕著になってくるものでございます。
 それから、職権探知機能というのがございまして、無効審判は行政審判でございますので、しかも、ほかの審判に比べて更にと言っていいくらいに、極めて職権色が強い実務になっておりまして、無効理由の職権探知というのを通常行います。訴訟においてはそういうことはないということでございますから、この点も違いがございます。
 とりわけ特許の場合ですけれども、権利の内容が変わってしまうという訂正の請求、こういった行政処分が無効審判の中に含まれているという点でも決定的に違う点がございます。
 それから、審決の効力という点で対世効の部分でもまた違いがございます。
 それから、更に大きな違いと言いますのは、無効審判の場合には、無効の判断それ自体が請求になり得るわけですし、そうせざるを得ないわけでして、したがって、逆に言いますと、特許庁は必ず無効かそうでないかを判断しなければならない。そういう性格のものであるわけですけれども、侵害訴訟中の無効判断は、キルビー判決でもそうですし、今、議論されている範疇でもそうかと思いますけれども、無効の判断それ自体が請求というわけではなくて、あくまでも理由の1つ、非侵害であるということを言うための理由の1つということですから、裁判所として見れば、ほかの事情が整えば無効理由の存否について直接判断する必要がない事案もたくさんある。逆にこれは請求人の方からいけば、必ずしも有効・無効の判断が示されないということにもなるわけで、その点でも決定的な違いがあると思います。
 このように、本質的に2つの制度は違うということを前提に考えていくべきだと思いますから、基本的には並存せざるを得ない制度だろうと思います。並存を全部取り払うということであれば、行政審判の今の特徴というのをなくしてしまう。逆に言うと、侵害訴訟の方にそれを入れてしまうということまで含めて、検討せざるを得ないわけでして、それをやらないというのであれば、それは基本的な違いはあるという前提の下で議論していかなければならないのだろうと思います。
 その観点から、時期的遮断の問題点というのを検討してみますと、まず訂正審判でございますが、訂正審判は遮断する必要がないというふうに加藤委員もおっしゃったかと思いますし、それから以前の議論でもその前提で議論が進んでいると思いますけれども、そのときに訂正審判を侵害訴訟中のある時期、制限するというのはどういうことを意味するかというと、訴外第三者との関係で訂正が必要になったときに、訂正ができないということを意味するわけです。侵害訴訟の相手方の攻撃に対処する目的で訂正審判することができるのは当然ですけれども、これを遮断してしまうと、要は訂正審判ができないということですから、第三者との関係で、例えばライセンス交渉などをしていて無効理由を突き付けられたという全然別の理由で、別の形の訂正審判を起こす必要がある場合が当然あるわけですけれども、その権利を完全に剥奪してしまうということになりますから、それはちょっと権利者にとって酷ではないかと思います。
 訂正審判の2番目としましては、またダミーの問題ですけれども、先ほど中山先生がおっしゃったとおりでございまして、無効審判が請求できるとなれば、訂正請求ができますから、どのみち特許権者はダミーで訂正請求ができる状況をつくり出すことができるわけです。ダミーというのは、異議申立てではかなりの程度使われておりますし、実務上も確立していますので、必要があればそういうふうに動くであろうというのは想像に難くないところでございますから、結局は実効性がないということになります。
 3番目としましては、それではダミーの訂正審判なりダミーの無効審判による訂正請求というのは、本当にいいのかどうかということですが、これは阿部委員がまさにおっしゃったことだと思うのですけれども、本当にそういった形で請求された無効審判で、しかもそれは侵害訴訟と同時係属しているわけで、本当の争いは侵害訴訟そのものにあるわけです。そのときに、本当は当事者が出るべきであるにもかかわらず、ダミーを立てて、無効審判で争うという実務が本当にいいのかどうか。本当に事案の解明にきちんと役立つのかという疑問が、どうしても実務家としてはあります。
 現在特許庁では、侵害訴訟と同時係属する無効審判は極力侵害訴訟の情報を取り込む形で、これは恐らく当事者に対して釈明を求めるという形で情報を取り込むと。それから、どうしても収集できなければ、侵害裁判所に対して調査をかけるということもあるかもしれませんが、そういった形で情報をきちんと取って、情報を共有できるような形で審理を進めようということで、実務を整備しつつありますけれども、そういった方向から見ると、全く逆行する方向になるのではないかという気がいたします。
 結論としましては、その意味で訂正審判は遮断すべきではないと思います。
 ついで、無効審判のところにも同じような考慮がありますが、無効審判の遮断も同じように、すべきではないと考えます。論点は同じですけれども、ダミーの無効審判請求が可能である以上は、実効性がまずないだろうと思いますし、それから、ダミーを誘発するようなことになれば、先ほどと同じように、侵害訴訟との間での情報共有というのも出てくるわけですから、これまた好ましくないだろうと思います。
 もう一点、無効審判を遮断すべきでない理由があると思います。訂正審判に対する改善のニーズというのがありまして、訂正審判というのは特許庁と特許権者だけしか関与しない、いわゆる査定系と言っておりますけれども、一方当事者しかない審理形態を取っております。それに対して、他方で侵害訴訟が起きているということになると、当然相手方はその訂正審判の帰趨に対して利害を持っていますので、意見を申し述べたいわけです。ところが、訂正審判だけではそういうことはできません。ところが、今、実務上それがどうやって解決されているかというと、訂正審判が出た直後に無効審判が請求されるのです。そうすると、運用上どうするかというと、訂正審判を中止しておいて、無効審判の審理を進める。そうすると、無効審判の手続中で訂正請求をすることができますから、権利者には問題がない。他方で無効審判請求人は、その訂正請求の可否について意見を言うことができるということで、実務上解決が図られています。
 したがいまして、訂正審判を遮断しないというのであれば、それに付随して、直後の無効審判もやはり遮断すべきではないと考えます。
 以上申し上げた幾つかの理由から、訂正審判であれ、無効審判であれ、遮断というのはすべきではないと考えます。
 もちろん、だからと言って、紛争の一回的解決を望むユーザーの声というのは、意味がないと言うつもりは全くなくて、それは好ましいことだろうと思うのですけれども、逆にそれを実現するためには、侵害訴訟の方の間口を広げるというふうにすべきであって、それをせずに、あるいはそうした傍らで本来違う制度である無効審判、訂正審判を無理やり排除しようとしても、どこかに歪みが来るのではないかという気がします。
 それから、第2の論点として、無効審判の審理期間の短縮の問題がありまして、ペーパーの中にも早期審理の話とか、あるいは韓国の優先審理の話が載っています。これは特許庁として今考えていることですけれども、平成13年の実績では、特許と実用新案に関して14.2か月ほどかかっているのですが、今、いろいろな期間管理の徹底をしておりまして、内部の期間管理の徹底をやっておりますし、それに加えまして、当事者に応答期間がかなり長い間与えられていまして、訴訟の場合には大体1か月ごとに期日が入ってきますけれども、無効審判の場合には、最初は2か月、その後も2か月、それから外国に至っては3か月プラス3か月で6か月ほどということがあって、審理期間に占める当事者の応答期間の割合が高いということがございますので、これも当事者に今、御協力をお願いしているところでございます。
 そういった改善をやりますと、平均で12か月までには短縮することができるだろうと、それを目標に今頑張っているところでございます。
 とりわけ侵害訴訟関連につきましては、更に強力な期間管理を進めるということをすれば、12か月を大きく割り込むことも不可能ではないと思っております。
 他方で韓国の優先審理制度というのがありますけれども、これは4か月が目標だと一応言われております。ところが、実態を彼らに聞きますと、全審判の平均で10か月かかっています。これは全審判の平均ですから、とりわけ無効審判にだけ着目するとさらに長いだろうというのが実態だと思いますので、恐らく彼らにしてもそのくらいかかっているのが普通ということだと思いますが、そうだとすると、12か月を割り込む目標というのは、それほど無理なものではないと思いますので、その辺のところを目標にがんばろうと思っています。
 では、12か月ないしそれ以下というのは、訴訟との関係で十分なのかどうかという点ですけれども、第何回かの会合のときに、裁判所側から侵害訴訟の審理期間の統計というのが提出されて、それはたしか15.6か月という数字だったかと思います。ところが、それは特許、実用、意匠、商標、著作権、すべての法分野の侵害訴訟であって、かつ取下げ、和解も含んだ数字だと思うのです。その中で特許及び旧実用新案の判決が出た侵害訴訟だけを、パブリックにアベーラブルになっている数字を用いて計算し直すと、恐らく22、23か月だと思います。
 そうすると、22、23か月に対して12か月ですから、それほど遅い時期に請求されたものでなければ、訴訟の終結までに十分に審判の結果が出るだろうと考えます。
 いずれにしましても、特許庁は特許庁で速く審理することは当然ですから、それはやろうと思っていますし、それで多分十分であろうという予想を立てています。
 3番目の論点として、明らか要件の問題ですけれども、これにつきましては、明らか要件がなぜあるのかということがまだきちんと検討されていないということがあるのだろうと思いますけれども、いずれにしましても、侵害訴訟の中でいろんな論点を全体的に判断するという制度がいいことなのか、そうでないのかということをまず考える必要があると考えています。恐らく日本の制度はドイツ型の制度から発達してきたと思うのですけれども、当のヨーロッパではドイツ型というのは非常に人気のない制度になってきておりまして、ドイツ型というのは全然採用されないようなことになってきているのですが、それにはそれなりの理由があるのだろうと思います。
 とりわけ特許の場合にはクレーム制度というのがございます。権利の範囲を特許請求の範囲で確定しているのですが、これはアメリカの発明で非常にいい制度なのですが、欠陥もありまして、発明という概念を文言で表すものですから、どうしても解釈の余地があるのです。幾らきちんと表すと言っても解釈の余地がある。したがって、いわゆる均等論みたいな議論も出てくるのですが、均等論までいかないまでも、必ず解釈の余地がある。 したがって、クレームだけを見ていたのでは、権利範囲とか発明の範囲が決まらないのです。どういう場合に決まるかというと、先行技術との対比です。これは審査でも審判でも同じ。それから、裁判所での有効性の判断のときも同じです。それが1つ。
 それからイ号物件との対比です。侵害だと言われる物件との対比で初めてクレーム解釈が決まってくるのです。
 ということで、侵害の問題もあれば、その傍ら有効性の問題もあるということで、幾つかの論点が必ず同時に出てきてしまう。そのすべての論点が一遍に出るのは侵害訴訟の局面しかないのです。だとすると、侵害訴訟の局面で、すべての判断ができるようにしておく方が制度的に優れている。そういう背景があるから、諸外国でもこの方向に向いてきているのだろうと思います。
 したがって、その意味で言いますと、明らか要件を撤廃して、どのようなものでも対応できる体制にするということが制度的には優れているのではないかという気がします。ただ、現在の状況で明らか要件がない制度が本当に動くのかどうかというのは、これはまた別問題でして、これはむしろ裁判所の体制整備の進捗状況だとか、そういうことも関係してくるだろうと思いますけれども、もし仮にそれが直ちにできないというのであれば、明らか要件をなくしたこととの関係で、安全弁というものは必要だろうと思います。
 恐らく同時係属の審判があれば、それは1つの安全弁になるだろうと思います。丙1案ではなくて、丙3案の方でも求意見制度、鑑定嘱託制度というのが議論されていますけれども、丙3案では、明白性要件を必要としつつとしておりますから、求意見制度、鑑定嘱託制度というのは、入れることは無理だと思いますけれども、むしろ丙1案においてこそ、同時係属する審判をどのように安全弁として使うかという検討をしたらいいのではないかと思います。
 要は、安全弁として考えるべきは明らか要件ではなくて、別の制度でもって安全弁を担保すれば、明らか要件というのはなくても、うまく機能するのではないかという感じがいたしますので、その点を検討したらいいのではないかと思います。
 以上でございます。

○飯村委員 ダミーを使うことの弊害についてです。阿部委員がおっしゃったことに関連して、侵害訴訟の中で一番大事なのは、究極的な紛争解決である和解だと思っています。被侵害者と主張された被告が、無効審判請求を提起していた場合、侵害訴訟における和解の材料になって、被告が無効審判請求を取り下げることによって和解ができるというパターンが数多くあります。仮に和解において、被告は無効審判請求を提起したり、原告の当該特許の有効性を争わないと約束したとしても、被告自身は起こせないけれども、ダミーであれば、原告の特許の無効を争えるということであれば、なかなか和解ができないというデメリットはありますという点を加えて指摘したいと思いました。
 小林委員の意見に関連する点で感想を申し上げたいと思います。1つは、侵害訴訟の審理期間の問題です。統計上どういうふうに出るかは別にして、時間としては大体1年前後です。判決で終了しているものはもっと長くなるということなのですが、決してそのようなことはありません。できる限り法的紛争をより広い範囲で、究極的に解決したいという努力をしていまして、それが無効審判の進行状況及び予測との関係で、当事者が和解するかどうかを決定している状況ですので、判決、和解あるいは取下げによる終了で、実質的な差はないというのが実情です。
 紛争解決を任されている立場から言えば、仮に判決の平均期間が22コンマ何か月であるから、無効審判の期間が14.6か月から15か月にすると、間に合うというものではないと思います。それが感想の1つでございます。

○小林委員 審理期間の点だけ申し上げます。言わば12か月でもまだ長いというお話かもしれないのですが、当然努力はしますが、この場で12か月をどのくらい割り込めるかというのを私が約束しても何の意味もないので、侵害訴訟関連で言えば12か月を更に割り込むこともありますということを重ねて申し上げたいと思います。
 確かに判決が出ていない和解、取下げのものはもっと短いというのはそのとおりだと思うのです。ただ、和解、取下げのケースに本当に無効審判を待つ必要があるのかどうかという気がします。今でも無効審判を待たずに和解、取下げになっているケースがそれだと思いますので、ここで議論しなければいけないのは、判決までいくケースにおいて、更にその中での有効性の争いがされているものについて、審判が間に合うかどうかだけを考えればいいのではないかという気がします。

○櫻井委員 先ほどの小林委員の意見に私は基本的に賛成で、まさに私が言いたいことはそういうことだったのですけれども、少し補足という形で申し上げたいと思います。
 まず、ここでどういう議論を立てるかということもあるのですが、明白性の要件みたいな話は、一般論として見ますと、これが要るか要らないかは、結局はどういう制度設計にするかということにかかってくると思いますけれども、一般論としては、判例のある種の基準として、明白性の要件を要求するということはあり得るだろうと思うのです。けれどもこれは広い意味では法律の執行上、運用上の要件ということでありますので、それを実際に制度化するという形になったときに、この明白性の要件というのを立法化するというのは、こんな要件のつくり方があるのかという感じで、それは産業界の方がおっしゃるとおり、技術としては拙劣なのではないかと思いますので、ここは明確に無効の抗弁なら無効の抗弁という形にした方がいいのではないかと思うのです。
 ただ、問題は無効の抗弁というものを、今の議論の大前提としては、実体的に無効の主張を認めるという議論として立てられていたと思いますけれども、しかし、無効の抗弁をストレートに正面から認めますと、これは公定力に正面から抵触するということになると思います。
 公定力については、資料の3ページの方で、これは私の意見ですけれども、法律を変えればいいというふうに書いてございますが、これは引用の仕方が全く違っているのでして、趣旨はそういうことではありませんで、法律は最終的には変えなければいけないのですけれども、政策的な決断というのは、要するに苦汁の決断でなければいけないということが言いたいわけでして、その大前提にあるのは、先ほど小林委員がおっしゃったように、無効審判と裁判所でやっていることは全然違う話である。トータルとして、特許制度の中でどういう役割分担をしていくのかということを考えなければいけませんので、一回的解決というのは、結局のところ両者の関係がうまく回っていけば一回的解決になるわけです。
 だから、裁判所が無効の判断をしているかのような言い方がされていますが、キルビー判決からすれば、これは極めて巧妙に公定力には抵触しないような形で論理が組み立てられています。だけれども、実際の受け止め方とか運用の仕方としては、無効の判断をしているというような様相を呈しているわけですけれども、それはちょっと違うのではないか。判決を踏まえて新たに制度設計をするのであれば、両者が全く違うものである、両者の連携をうまいことつくっていくというのが基本だと思うわけです
 だから、申し上げたいのは、1つは、例えば無効の抗弁みたいなものを言葉として使うとしても、無効の抗弁が侵害訴訟の方で出たら、本当に一番美しい一本化の方法というのは、無効審判前置です。混ぜるのではなくて、両方で無効の判断をするのではなくて、上手に継ぎ木をしてあげるというか、あるいは時間的な調整をするとか、今やっておられるような形でうまく回してあげるという方向性が、一番傷が少なくて、かつ、ニーズにも合う。
 結局、裁判所の方が中途半端に無効の判断をしますと、そうは言っても無効審判の方で対世効付きのきっちりとした判断が出るわけです。ですから、双方に齟齬が生ずるのは当たり前で、しかも相対効について、ホームページに載せるなどと、変なふうに対世効を認めてしまいますと、かえって無効審判が無効だったらどうするのかという感じがするわけでして、傷もどんどん大きくなってしまうので、制度設計をする以上は、裁判所は努力されているのかもしれませんけれども、きれいな制度としては、そういう形でつくるのがよろしいのではないかと思うわけです。
 結局は公定力の話だということを申し上げたいので、具体案としては、結論的には私は6ページ目の丙1案というのがございましたけれども、私は基本的には丙1案みたいなのがいいだろうと思います。ただ、前提としては、無効の抗弁のとらえ方について、事務局の方が出された案と違うとらえ方で考えるのがよろしいのではないかと思います。

○伊藤座長 中山委員は時間の制約があるようですが、何か。

○中山委員 私は明白性はあった方がいいのではないかと思っています。と言いますのは、この程度の遊びがないと裁判は恐らく非常に難しくなるでしょう。30も40も無効が出た場合とかいろいろありますけれども、これは要するに裁判所をどのくらい信頼するかということだと思うのです。
 もう一つの問題は、無効審判をなくしてしまうというのは全然別。あるいは無効審判を非常に短くして、全部無効審判を経由してこいということが言えれば別論です。そうならば最初であれ途中であれ、無効審判を経てこいといっても問題はなくなりますね。しかし現実にはそうでないということを前提とする限り、今、櫻井さんがおっしゃったように、つまり、非常に細かいところまで判断すると、無効審判の結論と裁判の結論に齟齬が生ずる可能性が極めて高い。裁判所が自信をもって無効理由があるというところだけを判断し、あとは審判の方に任せるということにすれば、恐らくあとの事後処理が簡単だと。齟齬が一回生じてしまうと、結構事後処理は大変です。

○小林委員 今の中山先生の論点ですが、遊びの部分が必要だというのは、中山先生が今おっしゃったのですが、以前にも飯村委員とか、あるいは最高裁の行政局の方からも話があったかと思います。ただ、先ほど私が指摘したかったのは、明白性要件というもので遊びないしは安全弁と言っているわけですけれども、果たしてそれが唯一最善の策なのかということを検討してもいいのではないかということです。
 要は、明白性要件は結局何かというと、無効理由が存在することが明らかかどうかという基準なので、有効性の判断の審理をしてみないと明白かどうかが最後の最後まで言えないわけです。それは裁判官しかわからないわけで、事前に当事者にわかるわけではないので、当事者は念のために無効審判を請求しておこうということになって、しかも、その基準がよくわからないというのが今の話の源泉だと思いますから、安全弁というだけ、あるいは遊びをつくるというだけの機能を明白性要件が果たしているのであれば、何も明白性要件という形で裁かなくてもいいのではないかということだろうと思うのです。
 先ほど中山先生が裁判所で明らかに無効とまで言えないものは審判に任せろとおっしゃいましたけれども、それができるのであれば、なぜ最初からこの案件は審判ですることにして、あの案件は裁判所でやることにしてという、そういう形の安全弁ができないのかというのが私の疑問なのです。
 要は明白性要件が安全弁でしかないのであれば、もうちょっとましな安全弁があるのではないかという気がします。

○中山委員 すべて審判を経由するというのが一番いいわけですが、現実にはそれができないという前提で、では、どうするかというと困ったというだけの話です。

○小林委員 そこは先ほど櫻井委員がおっしゃっていましたけれども、一番きれいなのは審判の前置だとおっしゃっていましたが、私はそういうふうに言ったつもりはなくて、侵害訴訟の場であらゆる局面の議論がされるわけなので、その場で有効性の判断をするのが制度的には優れていると私は思います。だからこそ、世の中、国際的に見ればすべてその方向に動いているのだろうと思います。有効性と侵害という2つの論点だけではなくて、クレーム解釈というのは、どちらの論点でも生じるわけで、それが本当に一番合理的なクレーム解釈になるのは、侵害訴訟の場以外にないのです。無効審判でもそれは無理なのです。

○中山委員 裁判官が難しくて判断できなければ審判に任せるというだけの話で、あらゆることが裁判所ができるから、全部見なければいけないということはない。

○小林委員 そうではなくて、例えば典型例ですけれども、無効審判の場では、イ号物件との関係で議論はできないのです。できないから、今は実務で何とか改善しようとしているのは、侵害訴訟の場で何が起きているかを無効審判の当事者に言わせようという解決を一応しようとはしていますけれども、それとて結局釈明の域を超えないわけです。実際に判断権があるのは侵害裁判所でしかないわけですから、侵害訴訟の場で、もし仮に有効性の判断ができるようになれば、すべての判断がそこでできるという制度になるのだろうと思います。もちろん制約があるのはわかっています。今は本当にできるのかという議論があるのはわかっているのですけれども、そちらの方が制度的には優れているのではないかということを申し上げているわけです。

○櫻井委員 最初に言われた無効審判と裁判所の違いの話と、侵害訴訟で全部総合的に判断した方がいいという関係は、どういうふうになるのですか。最終的にはそうなると。

○小林委員 侵害訴訟を裁判所でするということが決まった事案については、侵害訴訟の場で、有効性の判断、侵害の判断、クレーム解釈、それは先行技術との関係であれ、侵害物品との関係であれ、判断できた方がいいに決まっているというのが私の考えです。それができないという主張があるので、それはなぜできないのかということになると、結局それは専門性の欠如ですという話があるので、裁判所の専門性では足りない事案があれば、その事案だけ審判に回せばいいではないですかということを言っているだけにすぎないのです。
 ですから、将来形としてみれば、すべて侵害訴訟と同時係属する無効審判は形骸化するのかもしれません。要するに裁判はそこまでできるという体制を組むのであれば、結果としてそうなるのかもしれない。そういうことだろうと思います。
 もちろん、そうは言っても対世効の無効判断ができるわけではないでしょうから、どうしても対世効にこだわるという当事者がいた場合には、無効審判が同時並行的に請求されるのはやむを得ない。ただ、受け皿として、侵害訴訟の場をどこまで拡充するかという議論を今はしているのだと思います。その限りにおいては、拡充できるのであればした方がいいのではないかと考えているだけです。

○櫻井委員 最終的に無効審判がなくなってもいいと。

○小林委員 そこまでできるのであれば。ですけれども、恐らく無効審判をなくすという前提で言うのであれば、侵害訴訟はそもそも民事訴訟ですらなくなるという前提を置いての話だと思います。

○近藤参事官 小林委員の御意見は丙1案で、明白性に関しても、不要でもいいけれども、不要とする場合には、今まで明白性について期待されていた安全弁というものについて何らかの考慮をすべきであるという形で理解してよろしいですか。

○小林委員 そうですね。それは無効審判の遮断をしないということでもかなり担保できているとは思いますけれども、他の安全弁があるのであれば、より好ましいのではないかということです。

○近藤参事官 逆に言うと、明白性を残すということも1つの選択肢だと。

○小林委員 明白性要件については、そもそもその中身がわからない、最後の最後まで裁判官に聞かなければわからないという致命的な欠点があると思いますから、安全弁としての明白性要件というのは成り立たないと思います。

○近藤参事官 わかりました。櫻井委員の御意見ですけれども、小林委員と同意見ですとおっしゃったのですが、明白性のことに関してはどういうふうにお考えになっているのでしょうか。

○櫻井委員 今の議論の大前提としまして、キルビー判決の示している基準としての明白性というのが実務的に不明確であるということは、企業の方がおっしゃるとおりだと思っていて、ですから、運用で改善するとかいうことであれば、もちろん残ってよろしいわけですけれども、もし、立法改正して、なるべくきれいな形にするのであれば、明白性という要件は要らないし、むしろ無効抗弁を含めて手続的なものに特化する形で特許庁と裁判所の役割分担をきれいにした方がいいということです。

○中山委員 明白性が一体どういう機能をしているかというのは、それは考え方が一致していないのではないかと思うので、私は裁判官ではないので飯村さんに伺いたいと思います。要は裁判官が確信するかどうか、確信した場合には無効と言うというだけのことではないか。結局、裁判官が両方の意見を聞いてみて、無効と確信を持てないというときには、無効にしない。それは結局審判に行くのでしょうけれども、それだけの話だと思うのです。そんなに難しい話ではないのではないかという気がします。

○小林委員 安全弁になっていないということですか。

○中山委員 なっています。あやしいときにも裁判官が有効が無効か判断しなければいけない。審判と同じことをやらないといけないということではないと思います。

○伊藤座長 明白性の要件というのは普通そういう意味で理解されているのですか。

○飯村委員 結局、無効理由があるだけでは抗弁としては成立するのではなく、無効理由が、何人が見ても無効理由が明らかである場合に抗弁が成立するということです。被告にとってそれだけ負担が重くなるはずです。実際には、無効理由がない特許というのは比較的珍しいので、相手方から指摘された場合には、大体訂正で逃げるということが一般です。それは、出願の際には、クレームを目一杯広く取っていますので、ちょっとした無効事由を理由として棄却するのは権利者に酷なのではないかという感じはしています。少なくとも地裁から見た場合、その点が気になるところで、せっかく良い発明をして、権利者が苦労してクレームを目一杯広く取って、その権利について模倣者が出て、訴訟を起こしたというような場合に、目一杯取っているというだけの理由で、ちょっとしたミスが発見されて、現状では無効であるという場合は結構ありますけれども、そのような場合に原告の請求を棄却するのがいいのかどうかというその価値判断だと思います。

○阿部委員 今のお話は減縮してもどうせ無効だというときが明らかという意味ですか。

○飯村委員 私は一審の立場で、判決の紛争解決機能を問題にしているのです。要するに、裁判の結果の安定性ということです。一審の判決が出された後に、最終的に確定するまでの間に減縮したりした場合には、結局のところ、地裁の判決が最終的に引っくり返されることになるのですが、そういう不安定な状態だったならば、中止規定もあるし、そこで中止した方がいいという考えです。そのためには、無効が明らかであるという抗弁内容でないと、論理的には中止ができないことになろうかと思われます。

○近藤参事官 今の明確性の議論の中で、私が今まで理解したのは、先ほどの小林委員の説明を使わせていただくと、クレーム解釈自体にイ号物件との関係と、先行技術との関係の2つがあり得て、イ号物件との関係では対立当事者の弁論主義の民事訴訟においては非常に明らかになってくる。先行技術の関係というのは、職権主義を取っている特許庁などは、先行技術にはどういうものがあるのかという、いろんなデータをたくさん持っていて、それは関連するのか、関連しないのか、侵害しているのか侵害していないのか、それについても、専門的にいろいろ見ていかなければならないという職責もある。しかし、裁判所の今の弁論主義の立場からすれば、それについても当事者が主張してきた事由について、それが先行技術との関係で明白性を満たしているか、満たしていないかということを考えなければいけないのだけれども、それを当事者が漏れなくちゃんと主張しているのか主張していないのかというのはなかなかわからないのではないか。
 通常、本当に対決する当事者であれば、一生懸命調べて訴訟の場では出してくると思うのですけれども、その中でそれが本当に十分と言えるのかどうか。当事者同士で争いの中で主張として出てきて、これは無効ということが明らかなものについては、それは無効だという判断をすることができるのですが、当事者同士では本当に十分に出てくるかどうかというのがわからない場合があるのではないかという問題が1つあるのかなと思ったのですが、私のそういう理解は違うのかどうか。それはいかがでしょうか。

○飯村委員 今の御質問に対して、実務家的な感覚で答えますと、侵害訴訟の戦略的な位置づけいかんによると思います。企業が、どれだけ人と金を投資して争うかということによって、訴訟資料の質が変わってきますので、本格的に大きな訴訟であれば質の高い無効資料が出てくるし、そうでなければ、つまり被告が事業を閉鎖してもどうでもかまわないと思えばそれほど質の高い無効資料は出てこないということかと思います。
 それから、イ号物件の関係ですけれども、イ号物件が示された場合に、それが影響を与えるかというと、それは影響を与えないと思います。

○荒井委員 全体の話でいいですか。
 7ページの選択肢の内訳がありますが、私の考えは、甲案がいいのではないかと思います。これは紛争の一回的解決が必要だという観点からでございまして、1番についてはB−1案。2のアについてはD案またはE案。2イはG案。2ウはK案です。3番は、M−1案ではなくて、L−1案がいいのではないかと思っております。4番がN案ということで、紛争の一回的解決という観点から甲案がいい。そういう方向に向かったり、いろいろな制度をつくったり、運用していくというのがいいのではないかと思っています。

○伊藤座長 それぞれ若干出入りがありますけれども、加藤委員と荒井委員からは基本は甲案だと。
 中山委員は、今確かめたところ、乙−1案に一番近いだろうという御意見のようでした。
 それから、丙1案については、小林委員と櫻井委員が、基本はこの考え方がいいのではないかというお考えで、大体大きく分けますと、3つくらいの考え方が出ているように思いますが、ほかの委員の方はいかかでしょうか。末吉委員、いかがですか。

○末吉委員 弁護士会でも議論してみたのですが、まだ結論は出ていないのですけれども、今回のレジュメの6ページに基づいても議論しましたところ、明白性の要件については、どちらかというと不要説の声が高かったです。その中で改革の実が上がる甲案、あるいは丙2案を中心に検討すべきではないかという声が弁護士会としては高かったのですが、まだ結論が出たというわけではありません。
 2回目の検討なので、私見を述べさせていただきたいと思います。
 産業界の一致した御意向というのがあって、レジュメのとおり、6ページの甲案から丙3案までの間で考えざるを得ないのかなと個人的には思っているのですが、自分自身が判断を一番迷っているのは、明白性の要件の要否です。ただ、明白性の要件の中身というのが私自身明確でないところがありまして、もしかしたら仮にこの明白性の要件を削るとしても、別途の手当てが必要になるのかもしれません。
 それは一言で言うと、合理的な訴訟活動をする当事者だけとは限らないわけで、そうでない場合の手当てみたいなものは別途必要になってくるのかもしれません。
 ただ、産業界の御意向として明白性の要件不要という御意見のようでありますので、そうであるとすれば、私は丙1案が妥当ではないかと思っております。
 一番の問題意識は、先ほど阿部委員が御指摘されたダミーの問題でありまして、実務家としては、紛争の一回的解決というのはよくわかるのでありますけれども、なかなかいろんな制約を課して、それを実現するというのは困難ではないかと、感覚でございますが、そう思っております。
 そうすると、できるだけ早期に紛争を解決する。あるいは紛争の一回的解決の一部かもしれませんけれども、できるだけ矛盾のないように解決していくというためには、どうしても手続、早期審理というものを特許庁にお願いせざるを得ないのかなと。
 それから、訂正についてもいろんな御議論があるようでありますが、私自身は訂正は基本的には特許庁における手続でやっていただいた方がわかりやすいのではないかと考えまして、基本的に個人的には丙1案というものに強く引かれているところでございます。

○伊藤座長 先ほど中山さんなどがおっしゃられたように、明白性の要件を不要とした場合の問題と言いますか、いろんな無効事由がわっと出てきて、そのことによって問題が生じるとか、そういう点はどうですか。

○末吉委員 ここの記載にもあるように、20も30も無効の原因を掲げるという訴訟追行が本当に合理的なものかというところが一番の問題なのではないかと思いますし、更にはこれは実務的には、私は遭遇したことはないのですが、例えば一審の審理のかなり終わりの方に無効理由があることを掲げて、仮に一審ではたまたま時機に後れた攻撃防御方法であるということになったとしても、それは高裁に行って、結果また無効事由から判断するということが、これは結構あるようであります。
 そういうことを考えると、言い方は適切ではないかもしれませんが、必ずしも合理的に訴訟追行する当事者ばかりではないので、そういうものに対する手当てというものが別途必要になり、もしかすると、明白性の要件の中で言われているものが、例えば民訴法157 条で運用されているわけでありますけれども、時機に後れた攻撃防御方法であるとか、それから無効の抗弁の出し方でありますとか、何か手続法的な手当てで対処できるものかどうか。私自身まだ固まっていないのですけれども、もし対処できるものであれば、そういう手当てをすることによって、クリアーできるのではないかと思っております。

○阿部委員 何か言えと言われたら、個人的には丙1案です。

○沢山委員 経済界は最初から、ヒアリングの時もそうですけれども、紛争の一回的解決ということをお題目のように唱えて、これの具体的内容が何を求めておるのかというのが最初からはっきりしなかった。今のお話、いろいろ伺っていますと、そんなこと言ったって無理よね、だって違うんだもんということになるのではないかという気がするのですが、皆さんの声が集まっている丙1案を選んだときに何がよくなるのか、今と何が、どう変わるのかというのが私には具体的に伝わってこない。
 ここの場の議論としたら、少し極端に振ってみて、例えば甲案で何が問題でというアプローチを是非取っていただきたい。どうもぬるま湯的で、丙1案、これがこの検討会の成果かと言われると、非常につらいという気がします。

○飯村委員 皆さん意見を言っていて、私だけ意見を言わないのは申し訳ないのですが、要するに、今はどこに問題の所在があるかがよくわからないのです。例えば甲案で一番上の紛争の合理的解決のために1を選んだとしてみても、無効審判請求制度で、ダミーで利用できる制度をつくってしまった以上、何ら紛争の一回的解決になっていないわけで、かつ、ダミーを利用すると紛争関係が複雑になって、真の紛争解決から遠ざかるということがあるわけです。
 また、明白性の要件についても、確かに明白要件はあいまいな概念であり、紛れが生ずるのですけれども、それでなぜまずいのかという問題点の指摘に対しては、どなたからも意見が出されていないわけです。一回的解決でいいかどうかというのは、もう少し検討した上で結論を出した方がいいのではないかという気がしています。

○伊藤座長 飯村委員、何か具体的にこの考え方が基本的にいいのではないかという、そこまでの御意見は本日はございますか。

○飯村委員 丙1案で明白性の要件が必要だという案があればそれに賛成します。
 あと、侵害していると言われた者から特許権者に対する債務不存在の確認の場合にどうなるかということも併せて考える必要があると思いました。

○伊藤座長 わかりました。そうすると、まだ結論を得る段階ではないように思いますので、それぞれの御意見を踏まえまして、事務局でもう一回議論を整理して、その上でさらに議論の機会を設けたいと思います。
 だいぶ時間も押しておりますので、次の議題に移りたいと思います。
 東京高等裁判所における調査官の実情につきまして、飯村委員から御説明をお願いしたいと思います。この件につきましては、本年2月の第5回検討会で飯村委員に東京地裁における調査官の実情についてお話をいただいた際に、ほかの委員から審決取消訴訟を扱う東京高裁における調査官の実情についても紹介してほしいという御意見をいただいたところでございます。
 それでは、飯村委員、よろしくお願いいたします。

【東京高裁における調査官の実情】

○飯村委員 調査官の役割に関する視点や考え方は、高裁の場合も地裁の場合と全く同じです。裁判官が、技術的な知見を理解して、事実認定をする上で、どのような点が必要であり、どのような点に留意すべきかということを視点として申し上げたいと思います。
 高裁が地裁と違う点は、担い手が高裁の裁判官であるという点です。これはかなり重要な意味合いがありまして、高裁判事は地裁の判事や判事補とキャリアが全然違うということでございます。現在の裁判官16人を見ても、その陪席裁判官のお一人は東京地裁の行政部の裁判長を長く努めておられた方です。いろいろ多様な経験を持たれた方が入っております。
 違いの2番目は、審決取消訴訟は、要するに行政処分の取消訴訟だという点でございます。多くの事件は形式的当事者訴訟ということになると思いますけれども、その性質は行政訴訟という点が違います。
 違いの3番目は、何よりも一審事件ということです。
 高裁の裁判官が、どういうような審理対応を取るかという性格に関して、私自身も高裁の通常部の裁判官を務めたことがあります。高裁で通常事件でしたが、知財の調査官に依頼したことがありましたので、初めに、その経験から簡単にお話しした上で、それとの対比で申し上げたいと思います。
 その事件は長野地裁からの控訴事件で、隣人間の訴訟で、原告が被告の塗装工場のシンナーによって健康被害を受けたという理由で損害賠償を求めた事件の控訴審事件でした。
 一審は、審理を尽くしているのですけれども、そもそもシンナーの成分がどのようなものか、どのような属性であるか、飛散、拡散がどういうメカニズムで起きるのか、シンナー成分が原告に到達するのかどうか、原告の既往症との関係とはどうか、シンナーにより健康被害があり得るのか、そういうような技術的な事項とか、医学的な事項などさまざまな論点があったわけです。
 原審で意見書や実験結果は出ているのですが、控訴審としてどのような審理をすれば的確な事実を正確に獲得できるのかということについて、いろいろと疑問が生じました。
 そこで、当時の知財部の部長を通じて、知財の調査官に専門的な観点から審理を充実させる観点から意見をお聞きしたことがあります。そのことは当事者にも伝えて、基礎的な資料はすべて当事者由来の証拠でという手順を踏みました。
 調査官からいろいろ専門的な観点から、ヒントをいただいて、留意点も教えていただき、熱心に調査していただきました。
 その事件の解決は図れ、その後も、別の事件でお願いした経験がありました。例えば、工場の従業員の感電死事件、工場の爆破事故死事件、車の暴走事故の事件、建築工事中に隣地の家屋が倒壊した事故の事件など、軽い調査ですけれども、お願いしたという経験がありました。
 法律判断としては因果関係の存否、原告が後から引越してきた事実をどう見るか、注意義務の存否の判断をどうするのか、があるわけですが、そういうものを総合して考えた上で、判断枠組みを決めて、その前提事実として、どのような事実が必要なのかということを判断して、紛争の本質を把握して審理していくことが決め手になるという点を強く感じました。
 そこで、高裁の審決取消訴訟、平成11年で特許庁からの資料では400 件、特許関係の審決取消訴訟、決定取消訴訟が400 件で、今はもっと増えて、600 件に近いくらいあると思いますが、審決取消訴訟を見てみます。
 審決取消訴訟は、今、説明したような通常訴訟とは、確かに形式的には事件の性質とか、審理とか、判断の構造が形式的に違う気がするのですけれども、今回、高裁の裁判官から、どういうところを留意して進めているのかということを聞きますと、事件の進行に関しては、かなりの部分で一般の民事事件と同じであるという印象を受けました。それを具体的にお話しします。
 私自身は毎年、その前年に出た審決取消訴訟の全件、かなり細かく目を通しておりますが、裁判官が判決に込める気持ちとしては法律による行政の原理の実践ということであるという点がよくわかるような気がします。
 第2の審決取消訴訟の判断の構造ということですが、判断の前提として、結局どういう要素が必要なのかということに関してです。要するに、審決取消訴訟は、行政事件の取消訴訟で、裁決の取消訴訟と違って、固有の瑕疵のみが違法を来すという取消訴訟類型ではなく、審判手続の手続及び判断内容の全体ということになると考えられています。審決は、カテゴリー別では理由付記が義務づけられている類型の行政処分ですから、その違法というのは、審決書に記載された理由が付けられた特定の審決のあらゆる実体法上及び手続法上の違法性の有無ということになるわけです。形式的に当事者訴訟とされていて、来年施行する新法の下では、形式的当事者訴訟的な要素が強くなって、しかも、処分理由の差し換えは一切できないので、行政庁側にとってはかなり厳しい判断がされる類型の訴訟になります。
 その審理判断の枠組みは、行政法一般理論で答えを出せばいいものですけれども、51年3月10日の大法廷判決、−−知財関係の大法廷判決はこれしかないので、大法廷判決と言えばこの判決を指すということですが−−、これが実際に審決の段階で判断されなかった事項について審決取消訴訟の中では審理判断することはできないという判断枠組みにしておりますので、裁判官は、その枠組みの中でより迅速で広い紛争解決を図るように、神経を使いながら審理しているわけです。
 51年の大法廷の判決は、裁判官の中で、それをそのままの姿として受け止めて審理をする方と、それを工夫しながらやや広い範囲で審理に反映させている方がおられ、その判断方法が微妙な影響を与える結果になり、実際の審理にもバラエティーを添えているということになると思います。
 今までは、前提で、続いて、裁判官が、審決取消訴訟の審理において、技術に関する知見を取得する方法に関してです。審決取消訴訟は、第一審であるけれども、原審決というものは、理由が付されており、結論の当否ではなく、審決が実際に記載した理由から結論を引き出す過程に違法があるか否かが取消事由になるということです。
 高裁は合議体で審理するので、各合議体でかなり違いがあるようですが、審理の実施のありようを見ると、数限りなく主張された違法理由をどのように合理的に整理して審理判断するかという工夫につきるということです。
 裁判官の感想としては、審決という対象は1つですけれども、それに対する取消理由は、便宜的に番号を付していても、違法理由相互間の重複とか、違法を来す論理に全く気を配っていない主張があり、その取消理由の多くは、必ずしも判断する価値があるか疑問と思われるような違法理由が多いということです。ただ単に、原審決の批判とか、恨みを書きつらねているようなものも少なくないわけです。
 審決は、責任を持って長年の経験を踏んだ行政庁の審判合議体が判断したものですので、1つの審決について、そう数多く取消理由が存在するものではなく、要するに、大きな違法理由が1個か2個くらいかと思います。
 そして、そのような実質的な違法の存否については、あるべき法律解釈という論理を大前提として、それに小前提に当たる事実を当てはめて、それで結論を引き出すという作業が必要になるわけです。
 その小前提に技術事項が含まれているという論理的な場合に、技術的な内容に関する理解が必要になるわけです。
 高裁においても、裁判官と調査官が、協働作業の中で進めることになりますけれども、主任裁判官はできる限り意味のある違法事由と、意味のない違法理由とをえり分けて、限られた人的エネルギーをできるだけ必要な事項に振り向けて審理をしていると聞いております。
 事件によっては、裁判官が、代理人に対して、電話をかけて、不要不急の違法事由を取り下げないかとかというようなことを促し、整理をしながら進めていくということです。
 裁判官は、そのような過程で、ある程度の事件進行がされた段階で技術事項について、調査官から入念な説明を受けます。多くの場合、書面を用いると思いますけれども、口頭でも受け、報告を参考にして、事件を進めるということになるわけです。多くの場合、主任裁判官が進めている場合には、その主任裁判官の判断で、報告書の作成を指示し、主任裁判官が心証をかためるということになりますけれども、原告と被告のどちらに分があるかというのは、審理の自然の流れの中で分かる場合が多いので、裁判官は、ある程度心証をかためた上で、報告を受けるということがされております。
 多くの事件では、その後、主任裁判官が判決原案を作成した上で、それを裁判官の3人の合議体で評議するということになります。
 かなりの数の判決を読んで見て、いろいろなことがわかるのですが、表面的に書いてある部分と、それからかなりの大前提の法律をどう解釈するかということについてヒントになるものが随分含まれているように思われます。
 具体的には、現行特許法の下で、ビジネスメソッドがどの範囲で特許性を有するかというすぐれた法律問題が含まれているような判決も見られますし、その判決理由が本来的にはかなり広がりのある、影響力のあるものとして読まれるべきかと思います。
 何人かの陪席裁判官に確認しましたけれども、審決は、一定の審査基準に当てはめて判断されますが、これに対して、法律を当てはめた場合にどのような結論が得られるかという法律による行政の原理の実践という観点で判断しているという言い方で回答なさった方が多かったわけでございます。
 簡単ですけれども、そういうことであります。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。今の飯村委員からの御説明について何か御質問、御意見等があればお願いしたいと思います。いかがでしょうか。

○近藤参事官 確認ですが、これは1巡目の議論の時には、高裁での審決取消というのは、特許庁の審判官がやる審決について、その違法性があるかないかという判断枠組みであって、その場合に、侵害訴訟の一審における特許の有効性について問題になる場合の調査官の関与の仕方というのは、審決取消と一審の侵害訴訟などの調査官の関与の仕方に違いがあるのかどうかという点が今、問題になったところですが、今の御説明からすると、調査官にいろいろと判断をしてもらうけれども、一般的な審査基準を法律の趣旨からどうなのかということを裁判官が見て判断をして、判決の起案とか合議とかの関係でも、基本的には一審と同じであるという御趣旨の御説明ということでよろしいでしょうか。

○飯村委員 まず、裁判官が判断する事柄を確定するという意味で、法律適合性を判断する観点では基本的に同じだということでいいと思います。

○近藤参事官 調査官の関与の在り方がやはり一番メインの問題だと思いますので、調査官の関与の仕方について何らかの差異があるのかどうか。調査官についての論点について次回検討する時に、その点が重要な問題点になってくると思いますので、その点についてお願いしたいのですが。

○飯村委員 調査官の対応に関しては、かなり多くの部分が各裁判官の自由に任されている関係があります。第一回期日をたっぷり取って、その間に出された書面を進めていく場合と、それから何回かの期日を設けて進めていく場合と、それからどの時点で集中的に心証を形成していくかということについて、いろいろなやり方がありまして、裁判官によりかなりの部分が違う面があります。
 ただ、最終的な結論を得るための争点形成と争点の絞り込みとしては、基本的には共通な面があるという印象を持ったので、先ほど申し上げた言い方でまとめさせていただきました。

○近藤参事官 高裁での関与の在り方は、各裁判官によっていろいろとバリエーションがあり得るという話ですね。それは一審の侵害訴訟などの調査官の関与の在り方というのは割と定形化しているということで、そこは違いがあるということでしょうか。

○飯村委員 一審の審理については、私自身が裁判長として関与しておりますので、調査官の仕事の忙しさがよくわかるものですから、その中で工夫していくということで、調査官の関与の在り方についてある程度コントロールできるという意味では、調査の時期、調査の内容の詳しさなどについて、注文を付けることができ、調査官の関与が、定形化されているのか、定型化されていないかについても、評価することができます。ただ、その場合であっても、全体的な傾向というものではありません。特に、その中でも、急いで判断する必要のある事件や仮処分の事件について、事件の性質上、調査官の関与の内容、関与の在り方が変わる例がかなりあります。そういう理由で違いはあります。しかし、法的な問題点の把握とその判断に必要な前提事実の取捨選択という意味では、それほど違いはありません。高裁と地裁の違いよりも、事件の個性や、裁判官の審理の仕方、リズムによって、調査の時期や内容が、大きく変わってくる要素が多いという結論になると思います。

○近藤参事官 次回論点の制度設計をする上で、ここはやはり留意しておかなければいけないというところがあれば、ポイントとして教えていただきたいのですけれども。

○飯村委員 具体的には調査官が立ち会うかどうかとか、発問するかどうかとか、そういう問題になるかと思いますけれども、そういう点でしょうか。

○近藤参事官 そういうものがかなり一審の調査官の関与の仕方と、高裁でのそれらの関与の仕方は違うということで理解してよろしいですか。

○飯村委員 現在の在り方ですか。

○近藤参事官 現状として。

○飯村委員 現在の在り方はかなりばらつきがあって、担当裁判官が、一回の期日で終わらせようとする場合には、それまでの裁判官と調査官との信頼関係、協働関係を前提として、第1回期日より前に、調査官と打ち合わせをして、一回で行う場合もありますし、何回かに分けて期日を入れる事を前提に進める場合には、当事者に主張をまとめさせたり、取り下げさせたり、争いない事実とさせたりして、その後に実質的な内容について調査官に依頼するということもあり、調査の在り方については、かなりのばらつきがあるという回答を得ています。

○伊藤座長 飯村委員、そのばらつきとおっしゃるのは、侵害訴訟と取消訴訟との間における違いを反映したばらつきですか。それとも、それとは別のことで、それぞれの裁判官のプラクティスによってのものであって、何も侵害訴訟であるとか、取消訴訟であるとかいう訴訟類型によって生じている違いではないというふうに承ればよろしいですか。

○飯村委員 地裁の話は、自分の経験に基づいてはっきり言えるのですが、侵害訴訟というのは一からつくり上げていくもので、当事者がどの事実について認め、どの事実について実質的な争点にするか、全く予測不可能な面があります。争点が確定した後に調査官と相談するのでは、迅速に事件を進めることができません。したがって、ある程度の争点に対する予想を付けたり、調査官の負担を考えたり、調査の依頼の時期を早めたりするとか、そういう点で工夫をして、迅速化に努力しています。これに対して、高裁の審決取消訴訟の場合には、まず原審決がありますので、かなりの部分で、そもそも一から順に審理をつくり上げていかなくても、ある程度は、訴状段階から進行の予想がつく話だと思うのです。その中で、それぞれの裁判官が、最も合理的な審理の進め方についての工夫をすることになり、ばらつきとなって出てくるということもあり得ると思います。侵害訴訟と審決取消訴訟とは、全体としては違う面もありますし、また、それぞれの訴訟類型の中であっても、個々具体的な合理的な理由から、違う面があると思います。

○伊藤座長 ほかに何か御質問等ございますか。特になければ、この程度にしたいと思いますが。
 それでは、これをもちまして、第9回の「知的財産訴訟検討会」を閉会させていただきますが、次回の本検討会の日程につきまして、事務局から連絡を申し上げます。

【次回の予定等、閉会】

○近藤参事官 次回は第10回の検討会になりますが、7月15日午後1時30分から5時までを予定しております。
 ここでちょっとお諮りしておきたいと思っているのですけれども、次回は専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度、それから、いわゆる技術裁判官、いわゆる特許裁判所についての検討を、相互に関連するところがございますので、一緒にやろうと考えております。これについて、そういう予定でよろしいかどうかということについてお諮りしたいと思います。

○荒井委員 専門家の関与の仕方と、いわゆる特許裁判所とかは、設計の仕方とかアプローチの仕方が違うと思いますので、分けて議論していただいた方がいいと思います。
 したがいまして、次回は専門家の関与だけを議論していただくのがいいのではないかと思います。

○伊藤座長 今事務局が言いました新たな参加制度に限ってという御趣旨ですね。

○荒井委員 はい。

○近藤参事官 事務局としては、新たな参加制度の内容と技術系裁判官というのは非常に密接不可分の関係がございまして、特に、評決権まで与えるかどうかという点で、非常に連続性を持った議論になるのではないかと思っております。
 また、その技術系裁判官という議論と特許裁判所というものも、非常に密接不可分の関連がございまして、多分、今日も結論が出なかったように、次回も結論が出ないまま進んでいく、その部分で残ったところについて更に検討をしていくということになると思いますので、どうしてもということでなければ、一応そういうことで予定を組んで事務局の方もやっておりますので、おしりの方がタイトになる関係もございますので、そういう形で進めさせていただければと思っております。

○荒井委員 冒頭で知財戦略本部の議論も御紹介いたしましたが、あちらの方の会議が次回は7月8日でして、その時にこういう裁判所の在り方などについての議論も相当出ると思います。その関係で特に3番目のテーマについて、どういう形になるかを見極めたいと思いますので、今日は留保させていただきます。

○伊藤座長 わかりました。今の点、ほかの委員の方御意見ございますか。
 荒井委員もその3つのテーマが内容的に関係があるということは当然前提にしていらっしゃると思いますので、少し事務局と中山座長代理と私も含めて、次回の議題内容については調整をさせていただくということにいたします。
 ほかに何か本日の議事全体についての御意見はございますか。
 それでは、どうも長時間ありがとうございました。また、どうぞ次回よろしくお願いいたします。

(以 上)