第1回配布資料一覧

仲裁検討会参考資料1

司法制度改革審議会意見書(抜粋)



II 国民の期待に応える司法制度

第1 民事司法制度の改革

8 裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化

(1) ADRの拡充・活性化の意義

○ 司法の中核たる裁判機能の充実に格別の努力を傾注すべきことに加えて、ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図るべきである。
○ 多様なADRについて、それぞれの特長を活かしつつ、その育成・充実を図っていくため、関係機関等の連携を強化し、共通的な制度基盤を整備すべきである。


 社会で生起する紛争には、その大小、種類などにおいて様々なものがあるが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争解決方法を整備することは、司法を国民に近いものとし、紛争の深刻化を防止する上で大きな意義を有する。裁判外の紛争解決手段(ADR)は、厳格な裁判手続と異なり、利用者の自主性を活かした解決、プライバシーや営業秘密を保持した非公開での解決、簡易・迅速で廉価な解決、多様な分野の専門家の知見を活かしたきめ細かな解決、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることなど、柔軟な対応も可能である。
 我が国におけるADRとしては、裁判所による調停手続、また裁判所外では、行政機関、民間団体、弁護士会などの運営主体による仲裁、調停、あっせん、相談など多様な形態が存在する。しかしながら、現状においては、一部の機関を除いて、必ずしも十分に機能しているとは言えない。一方、経済活動のグローバル化・情報化に伴い、国際商事紛争を迅速に解決する仕組みの整備について国際連合等において検討が進められ、また、諸外国においては、競争的環境の下で民間ビジネス型のADRが発展するなど新たな動向を示しており、我が国としても早急な取組が求められている。
 こうした状況を踏まえ、国民がより利用しやすい司法を実現するためには、まず司法の中核たる裁判機能について、これを拡充し、国民にとって一層利用しやすくしていくことに格別の努力を傾注すべきことは当然であるが、これに加えて、ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきである。
 各ADRがそれぞれの特長を活かしつつ充実・発展していくことを促進するため、関係機関等の連携を強化し、共通的な制度基盤の整備を推進すべきである。

(2) ADRに関する関係機関等の連携強化


○ ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するため、関係諸機関による連絡協議会や関係省庁等の連絡会議等の体制を整備すべきである。
○ 訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるととも^に、インターネット上のポータル・サイトなど情報通信技術を活用した連携を図り、ワン・ストップでの情報提供を実現すべきである。
○ ADRの担い手の確保については、人材、紛争解決等を含む情報の開示・共有を促進した上で、必要な知識・技能に関する研修等を充実させるべきである。

 ADRの拡充・活性化については、個々のADRの性格に応じた多面的な検討が必要であるが、情報提供の強化、担い手の確保、財政基盤の確立、制度基盤の整備など、各ADRにおおむね共通する横断的な課題も多い。このため、ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するため、関係諸機関による連絡協議会や関係省庁等の連絡会議等の体制を整備すべきである。
 運用面での具体的な連携として、まず、ADRに関する情報提供面での連携を強化することが、利用者の利便の向上、ADRに対する認知度・信頼性の向上の見地から重要である。このため、訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるとともに、インターネット上にADRの総合窓口サイト(ポータル・サイト)を整備するなど情報通信技術を活用した連携を図り、手続、機関に関する情報を始めとする各種情報をワン・ストップで国民に提供できるようにすべきである。
 さらに、担い手の確保面でも連携を図り、ADRの質的充実に活かしていくことが重要である。このような見地から、担い手、解決事例、解決手法等の各種情報について、プライバシーや秘密保持にも配慮しつつ、裁判所を含む各機関が積極的に開示した上で、ポータル・サイトの活用や人材の相互交流等により、関係機関間での情報共有を促進していくべきである。その上で、ADRの担い手に必要な知識・技能に関する研修等を充実させるべきである。

(3) ADRに関する共通的な制度基盤の整備


○ 国際的動向を見つつ、仲裁法制(国際商事仲裁を含む。)を早期に整備すべきである。
○ さらに、総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律(いわゆる「ADR基本法」など)の制定をも視野に入れ、必要な方策を検討すべきである。その際、例えば、時効中断(又は停止)効の付与、執行力の付与、法律扶助の対象化等のための条件整備、ADRの全部又は一部について裁判手続を利用したり、あるいはその逆の移行を円滑にするための手続整備等を具体的に検討すべきである。
○ 隣接法律専門職種など非法曹の専門家のADRにおける活用を図るため、弁護士法第72条の見直しの一環として、職種ごとに実態を踏まえて個別的に検討し、法制上明確に位置付けるべきである。同条については、少なくとも、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するため、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め、その規制内容を何らかの形で明確化すべきである。

 ADRの共通的な制度基盤に関し、まず、仲裁法制については、現在も明治23年制定の法律が、新民事訴訟法制定の際の改正作業から分離され、「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」としてそのまま残されており、国際連合国際商取引法委員会における検討等の国際的動向を見つつ、仲裁法制を早期に整備すべきである。その際、経済活動のグローバル化や国境を越えた電子商取引の急速な拡大に伴い、国際的な民商事紛争を迅速に解決することが極めて重要となっていることから、国際商事仲裁に関する法制をも含めて検討すべきである。
 さらに、総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律(いわゆる「ADR基本法」など)の制定をも視野に入れ、必要な方策を検討すべきである。その際、例えば、ADRの利用を促進する見地から、時効中断(又は停止)効の付与、執行力の付与、法律扶助の対象化を可能とするための具体的要件を検討すべきである。また、ADRと裁判所との手続的連携を促進する見地から、ADRの全部又は一部について裁判手続を利用したり、あるいはその逆の移行を円滑にするための手続整備等を具体的に検討すべきである。
 担い手の確保に関する制度の整備としては、隣接法律専門職種など非法曹の専門家のADRにおける活用を図るため、弁護士法第72条の見直しの一環として、職種ごとに実態を踏まえてその在り方を個別的に検討し、こうした業務が取扱い可能であることを法制上明確に位置付けるべきである。弁護士法第72条については、少なくとも、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するため、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め、その規制内容を何らかの形で明確化すべきである。