仲裁検討会資料4
(前注)いわゆるarbitration agreementの日本語の呼称をどうするかについては,今後検討することとし,当面「仲裁合意」の語を用い,仲裁合意を定めた条項を「仲裁条項」と称することとする。
【コメント】
これまで,具体的には,人事関係に関する紛争,知的財産権に関する紛争,独占禁止法等に関する紛争,証券取引に関する紛争等の仲裁適格性が議論されてきた。
ちなみに,アメリカでは,伝統的には特許,独占禁止法,証券取引などに関する紛争の仲裁適格は否定されてきたが,近時は,これらを含め仲裁適格の認められる紛争の範囲が拡大されてきている。
この点については,現行法(後記(参考)を参照)と同様に,和解可能性を仲裁適格の判断指標とする意見があり,現在の多くの立法例も同様であるとされているが,このような意見の当否はどうか。
2 仲裁合意の方式(書面性)について
(1) 一般的要件について
仲裁合意は,裁判を受ける権利に重大な制限を加えるものであるため慎重さを求める必要があることから,仲裁合意の内容に対する十分な理解と認識のないままこれに服することとなる危険を防止するとともに,その内容を明確化することによって仲裁手続において迅速な解決を期する必要があること,ニューヨーク条約2条1項及び2項や模範法7条2項が仲裁合意は書面によらなければならないとしているのを始めとして,各国の立法の多くが仲裁合意に書面性を要求していること,実務上もほとんど書面が作成されていると認められることなどにかんがみ,仲裁合意は,書面によらなければならないものとすることでよいか。
(2) 仲裁合意の書面と認められるための要件について
仲裁合意の「書面」として認められるための要件について,どのように考えるか。
(検討対象事項)
a 文書による場合,署名又は記名(押印)を必要とすべきか。
b 例えば,次のような通信手段や情報の記録伝達媒体について,どのように考えるか。
ファクシミリ,電磁的記録によるもの(フレキシブルディスク,光ディスク等),電子メール,オンライン取引における電子データの送受信(例えば,コンピュータに接続されたディスプレイの画面上で契約内容が表示され,同意ボタンをマウス等でクリックすることによって契約が成立する場合)
【コメント】
前記のとおり,仲裁合意に書面性を要求する趣旨は,仲裁合意が裁判を受ける権利に重大な制限を加えるものであり,慎重さを求める必要があることから,仲裁合意の内容に対する十分な理解と認識のないままこれに服することとなる危険を防止するとともに,その内容を明確化することによって仲裁手続において迅速な解決を期する必要があることにあるものと考えられる。
一方,通信手段その他のテクノロジーの著しい発達と定着,これに伴う取引の方法や慣行の変容等にかんがみ,仲裁制度をより利用しやすいものとするため,仲裁合意の「書面」の範囲を拡大する必要性や有用性も高いものと考えられる。
そこで,これらの諸要素を勘案しつつ,仲裁合意の書面性を検討する必要がある。
(3) 事後的合意(仲裁申立ての相手方が仲裁合意の存在を争わない場合等)について
申立人が仲裁を申し立て,相手方が仲裁合意のあることを争わない場合,あるいは,訴訟において,被告が仲裁合意の存在を主張し,原告がこれを争わない場合は,仲裁合意があるものとすることはどうか。
(4) 仲裁条項を含む文書を引用する場合の取扱いについて
仲裁条項を含む文書を引用して取引契約等を締結する場合,仲裁合意の成立が認められるための要件について,どのように考えるか。
【コメント】
この点について,模範法7条2項は,「契約における仲裁条項を含む文書への言及は,その契約が書面でなされ,かつその言及がその条項を契約の一部とするようなものである限り,仲裁合意となる。」としている。
このような規定については,仲裁合意の成立が認められるためには,仲裁合意の特定的指示文句による引用でなければならないか,あるいは,仲裁条項を含む文書の一般的指示文句で引用することで足りるかについてなお検討する余地がある。要は,仲裁条項を援用しようとする両当事者の意図の存在を認定するための要件として,どのようなものを想定するかという問題になるものと思料され,規定の要否も含めて検討する必要がある。
なお,他文書の引用は,省力化のため,普通契約約款,事業者団体の取引規則,他の契約書等様々な文書について利用される一方,消費者保護等の見地から消費者が関与する仲裁合意について特別の規定が設けられる例もあり(例えば,ドイツ法1031条5項(後記(参考)参照)),実態を踏まえた適正な規律を設ける必要がある。
【コメント】
想定される措置としては,(i)裁判所は,当事者に対し,仲裁に付託すべき旨を命ずる,(ii)裁判所は,訴訟手続の中止を命ずる,(iii)裁判所は,訴えを却下するといったものが挙げられる。
(2) 妨訴抗弁の提出時期について
被告は,口頭弁論等において留保なく本案について答弁したときは,妨訴抗弁として仲裁合意の存在を主張することができなくなるものとすることはどうか。また,この点についての規定を設けるべきか。
2 仲裁合意の効力の及ぶ人的範囲(仲裁合意の対象となる紛争に係る権利義務の承継移転があった場合)について
仲裁合意の対象となる紛争に係る権利義務関係の承継移転があった場合,仲裁合意の効力が承継人に及ぶか否かについて,どのように考えるか。また,この点について規定を設けるべきか。
(検討対象事由)
(1) 当事者の死亡,法人の合併等包括承継の場合
(2) 特定承継の場合
(3) 当事者について破産手続や会社更生手続が開始し,破産管財人や更生管財人が就任した場合
(4) 第三者が紛争に係る権利や財産を差し押さえる等した場合
【コメント】
この問題については,判例・学説上争いがあるが,基本的には仲裁合意の効力をめぐる解釈によって決せられるものであり,したがってまた,この点についての規定を設けないものとすることも考えられる。
【コメント】
いわゆる仲裁合意の分離可能性又は独立性の問題であるが,この点については,学説上もほぼ一般的に承認されているものと思われる。
2 その他
その他に仲裁合意に関し,論ずべき点があるか。