(□:座長、○:委員)
【開会、議事録の顕名について】
□ それでは、予定した時刻が参りましたので、第10回仲裁検討会を開催いたします。
本日は御多忙のところを御出席いただきましてありがとうございます。本日は全員出席でございます。
今回の検討会は、前回に引き続きまして、意見募集の結果を受けた第三読会の議論をしていただく予定でございますが、その検討に入る前に、前々回の第8回検討会で○○委員から御提案がございました、議事録を顕名にするかどうかという問題につきまして、皆様に御協議をいただきたいと考えております。
前々回にいただきました○○委員の御意見は、顕名にすべきであるというものであったと了解しておりますけれども、○○委員、そのとおりでございますね。
○ そのとおりです。
□ それでは、顕名にした方がよいかどうか、他の委員の皆様の御意見をお伺いしたいと思います。御自由に忌憚のないところをお述べいただいて結構でございますので、よろしくお願いいたします。
なお、仮に議事録を顕名にするという結論になった場合も、顕名にするかどうかの議論をするまでは顕名にしないでおこうというふうに思っておりますが、よろしいでしょうか。
それでは、そういう扱いで御自由に御議論をいただきたいと思います。
この議論もそういう趣旨でございますので、非公開にしたいと思います。
では、報道機関の方、いらっしゃいましたら御退出いただけますでしょうか。
(報道関係者退室)
協議の結果、今回の検討会のこの後の議論から、議事録に発言者名を記載することとなった。
(報道関係者入室)
○青山座長 今後、議事録を顕名にすることにして、それでは、議論に入りたいと思いますので、資料の説明をよろしくお願いします。
○近藤参事官 本日御議論をいただく内容を記載した検討会資料は、32、33、34です。これらは事前に配布させていただいておりますので、御確認ください。
検討会資料32ではモデル法第6章以下の規定に関するものについて、検討会資料33ではモデル法に規定のない事項に関するものについて、それぞれ、意見募集の結果、意見が分かれた項目を中心に論点を絞って取り上げております。また検討会資料34は、今回初めて御議論をいただく項目ですが、個別労働紛争に関する仲裁の特則について取り上げております。この問題は、労働検討会の議論や中間とりまとめに対する意見募集において、労働関係の仲裁について特則を設けることを検討すべきであるとの意見をいただいたことから取り上げることとしたものです。
なお、本日席上には、大阪弁護士会から提出がございました資料について、委員の方のみに配布しております。
○青山座長 資料の点は、よろしゅうございますでしょうか。
それでは、本日の検討の進め方についてお諮りしたいと思います。
○近藤参事官 前回と基本的には同じですが、本日でひととおりの検討項目について三読の御議論を終えたいと思っております。検討事項も多くて、大変密度の濃い検討会になると思われますが、よろしくお願いいたします。
各検討事項については、前回同様、初めに事務局から意見募集の結果について簡単に紹介をした後、それも踏まえた御議論をしていただければというふうに考えております。
○青山座長 そういうことにさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、時間の関係もございますので、早速検討に入りたいと思います。
最初は、検討会資料32の「VI 仲裁判断及び仲裁手続の終了について」の「1 仲裁判断のよるべき準則について」というところから始めたいと思います。事務局の方、よろしくお願いします。
【VI 仲裁判断及び仲裁手続の終了について 〜1 仲裁判断のよるべき準則について〜】
○近藤参事官 仲裁判断のよるべき準則についての意見募集の結果は、資料12の106ページ以下に掲載されています。枠内1の案は、中間とりまとめ第6の〔1〕の1(1)及び2と、また枠内3は1(2)とそれぞれ同趣旨のもので、モデル法では、第28条第1項及び第3項の規定とほぼ同様のものです。意見募集の結果は、いずれもこれに賛成するものが多数でした。
また、枠内2は、中間とりまとめ第6〔1〕の3のB案に相当するものです。中間とりまとめでは、この点について、モデル法の採用する立場であるA案とドイツ法や韓国法の採用する立場であるB案の2案を示して意見を聞きました。これについての意見募集の結果は、参考資料12の112ページにあるとおり、ほぼ拮抗したものでございました。しかし、最近の立法としてはB案の例が多いこと、予測可能性や法的安定性の確保のためにはB案の方がより優れているというふうに考えられることから、枠内ではB案を提示しております。
枠内3は、モデル法第28条第3項を基本的に採用しておりますが、友誼的仲裁人については除外しております。
更に枠内4は、モデル法第28条第4項の考え方を採用したものです。
今回は、特に枠内2について、モデル法と異なる考え方、韓国法、ドイツ法の考え方を採るということで示させていただいておりますが、これについてどうかを御検討いただければと存じております。
○青山座長 そういうことでございます。前回とりまとめのA案、B案のうちのB案を採用して2というものにしたわけでございますけれども、これを中心に、紛争の実体に適用する仲裁判断の基準となる準則をどうしたらいいかということでございますが、どうぞどなたからでも結構でございますので、御意見をいただきたいと思います。
○三木委員 結論として、1項から4項まですべて事務局案に賛成いたします。
○本東委員 私も賛成でございますけれども、少し細かいところの確認ですが、3項で、衡平及び善により決めることができるかどうかということにつきまして、「明示して指定したときに限り」となっておりまして、これは解釈としましては、中間とりまとめの補足説明でも書いていただいていますが、仲裁機関の規則で定めている場合には、これは当事者の指定があるということになるのだろうと思うのですけれども、ほかのところでは「当事者が合意した場合には」というのを受けて仲裁機関の規則で定めるということで、ここの法文がどうなるかにもよりますけれども、「明示して」と書くと、仲裁機関の規則で定めるのは明示した指定に当たらないという解釈が出るおそれがないのかなと、ちょっと法文レベルの話なのですけれども、その辺はいかがでございましょうか。細かい話で恐縮ですけれども。
○近藤参事官 規則で書いた場合には当たらないというふうになるかどうか。そうなる余地はなくはないと思います。これはむしろ、教えていただければと思います。
○三木委員 結論的には、解釈に委ねられることで、この場で予測することは困難ですけれども、あえてモデル法が、この場合にexpresslyとしているのは、衡平と善についてはかなり議論があったところで、こういったものの必要性を高く主張する国もかなりありますし、また、法律に従った仲裁を強調する国もありまして、妥協的な産物です。
我が国に関して言いますと、余り正面から深く論じられていないところですので、注意的にこの場合、モデル法に合わせてやや違った表現をすることは、やむを得ないと考えております。それが解釈にどういう影響を与えるかという点は、先ほども言いましたように、必ずしもわかりませんけれども、個人的には、規則に指定してあって、その規則を理解してその仲裁機関の手続を当事者が採用した場合には、明示して指定したということに十分当たり得るだろうと考えております。
○吉岡委員 仲裁合意書をつくるときに、例えば弁護士会だと、そういう規則をきちんと付けています。そうやって、それに基づいて合意するということになれば、今言われたように、明示して指定したというふうに認められると思います。
○中村委員 善と衡平以外の友誼的仲裁人もモデル法には規定がありますけれども、この案ではそれが削除されておりますが、それはどういう理由でございましたでしょうか。
○近藤参事官 友誼的仲裁人というのは、UNCITRALにおける議論の最後の段階でこれが入ったという経過があって、それまでは「衡平と善」という言葉で同じような意味を表わしているのではないかと。ただ、各国の法制によっては、衡平と善というよりも、友誼的仲裁人という概念を使っているところもあるということで、最終段階で入ったと認識しております。
その内容が本当に違うのかどうかということについても、いろいろと争いがあるところで、ドイツ法、韓国法においても、衡平と善という形で、友誼的仲裁人というのは基本的には採用していないということになっておりますので、そうするとあえて日本の法制の中で衡平と善のほかに、友誼的仲裁人という概念を導入した場合に、非常に混乱が生じるのではないかと思っておりまして、むしろ衡平と善一本にしておいた方が、わかりやすいし、諸外国との関係でも、そういう形の文言にしたからと言っておかしいと非難はされないのではないかということで、こういう形にしております。
○中村委員 わかりました。
○青山座長 よろしいですか。本東委員、先ほどの明示的の件もよろしいですか。解釈は分かれるだろうけれども。
○本東委員 そういう意味では、モデル法の解釈は統一されていないという理解でよろししいのでしょうか。
○青山座長 モデル法は機関仲裁のことを余り書いていないものですから、ちょっとはっきりしていないのだろうと思うのです。
○近藤参事官 先ほどの三木先生の御発言の確認ですが、「明示して指定したときに限り」と、そのままの表現ぶりになるかはどうかは別にして、表現としてはこういうふうな表現にしておいてもいいという趣旨と理解してよろしいのでしょうか。違うような表現にした方がいいということでしょうか。
○三木委員 こういう表現にしておいてもいいというよりも、より積極的に、こういう表現の方が望ましいという考え方です。繰り返しになりますけれども、国際的な仲裁にも、もちろんこの法律は使われるわけで、理解に争いのある善と衡平の概念に関する問題ですので、なるべくここはモデル法に表現を合わせた方がいいと思います。
○青山座長 よろしゅうございますか、どうぞ。
○吉岡委員 細かい話になりますけれども、国内仲裁を考えた場合、例えば4項のところには「商慣習を考慮」となっていて、「商」と入っているわけですね。ですから、国際商事仲裁だと商慣習でいいのだろうと思うのですけれども、国内事件を扱う場合には、いわゆる「商」のない「慣習」も、あるいは対象になるかもしれない。
もう少し細かく言いますと、当事者が明確に指定した場合には、1項のところで法律その他の準則というふうになっておりますけれども、指定しない場合は、2項で密接な関係のある国、それなら日本の国内だと日本の法律となります。そうすると、ここが「法律」だけだと、1項で「法律その他の準則」となっているのに、2項が「法律」というと少し窮屈な感じがするのです。
中間とりまとめの時は、ここは「法」となっていたのです。これは前に少し議論して、「法律」だとやや狭いから、「法」というのはいかがでしょうかと、たしか私が発言したと思うのですけれども。その辺りを、もう少し幅を持った、仲裁機関が対応できるような規定ぶりにしていただけないかと思います。
○近藤参事官 2つ御質問がありましたが、まず、一番目の方の第4項の関係については、確かにモデル法28条というのは、国際商事を前提にしておりますので、そういう意味では4項の規定自体がこのままでいいのかどうかという問題があり得るということで、事務局として問題意識はございました。
ただ、商事関係でない場合には、取引に適用される商慣習を考慮しなければならないというのは、空振りになるというような理解で、あえて4項について商事に限るというような前提を置かなくても読めるのではないかと思っておりました。それでこういう形にしております。ここは、実質にも絡むところですので、是非御議論していただければと思います。
2項の、法律を適用してというのは、これは抵触法の関係の規定、法例の関係の問題になりますので、その前提としては、どこの法律なのかという、法律を前提にしているというのが一般的な理解ではないかということで、ここでは法律という形にそろえさせていただいたということでございます。
「法」とか、「その他の準則」とした場合には、抵触処理の問題が出てくるのかどうかということ自体が非常に問題になりますので、むしろここでは準則の指定がないときに、どこの抵触法の規定を適用するのかという、法例の規定の一部というような位置づけになるのではないか。そうすると、当然、法例が前提としている「法律」と、ここでは書かれなければいけないのではないかということで、こういう形にしてあります。
ただ、御指摘はわかりましたので、少し法制的な問題もありますので、なお検討させていただきたいと思います。
○中村委員 今の点ですけれども、私は「法」と「法律」は同じ概念だというふうにとらえていますが、それは間違いないでしょうか。
と言いますのは、法律は国家法である。国家法以外の規範は非国家法で法の規定であると、あるいは法律の規定であるというふうに理解しておりますが、そういう理解でよろしゅうございましょうか。
○近藤参事官 「法」と「法律」は、基本的には違うものと思っていたのですが。法律というのは形式的な国内法、国家法が法律ですが、「法」と言った場合、実質的な意味で内容がどうなのかという場合に「法」という表現の仕方をしているものが多いのではないかと思っております。
○中村委員 英語で言うとlawですね。lawを訳すと「法律」あるいは「法」、両方あるかもしれませんが、私は同一の概念だと理解しておりまして、あえて言うならば、「法律」は制定法に限る場合も、場合によってはあるのかなという理解だったのですが、ただ、法例では法律という言葉を使っておりますので、その法律というのは、制定法に限ったことではないと理解しておりますが、そういう理解であるとするならば、ここで言う「法律」は国家法であると。
今、吉岡委員の御指摘の点は、当事者が国家法以外の非国家法の規範を判断基準の準則とすることができるのかどうかという問題であろうと理解しております。
○吉岡委員 単純に、制定法に限らないという趣旨で、「法律」と「法」の違いということで発言したので、もし教えていただければ、ほかの方にも教えていただきたいと思います。
○青山座長 一般的には、「法」の方がずっと広い意味で、憲法も法だし、法律より下の政令、省令、条例とか、規則とか、そういうものも全部「法」と言って、そのうちの「法律」というのは、日本で言うと国会で法律という形で制定されたものが法律で、最高裁判所の規則だとか、そういうのは法律ではない、法ではあるけれども法律ではないというふうに一般的には理解しているのですが、しかしここで法律と言った場合に、そういうガチガチの概念なのか、やはり中村さんのおっしゃったように少し広い概念なのか、それはあり得ると思うのです。
普通、「法令」という言葉で少し広げているので、あるいは法律というのではなく、「法令」とか、もう少し広げられるのかもしれませんね。
○中村委員 例えば、イギリスとかコモン・ローの国であれば、制定法以外に判例法があるわけですね。そういったものを当事者が合意した場合には、当然それは適用されることがモデル法の考え方だと思いますので、そうすると、今のような国会が制定した法律だけということでは適当ではないという結論に至るのではないでしょうか。
○近藤参事官 今の吉岡先生の議論は、1項のところについての御質問ではなくて、2項について、2項の2行目の「法律」というのが、それが法律でいいのかどうかという御質問だと思うのです。
2項は抵触法処理のことについてどういう形でやるのかということの関係ですので、今、中村委員のおっしゃった、1項の方の問題としては、「法律その他の準則」ということで、法律だけではなくて、もっと広いものも含まれますという形にはしてあります。
○中村委員 今、青山座長がおっしゃられたような、法律概念のとらえ方、国会が制定した法律だけが「法律」であるという考え方にするとすれば、コモン・ローの国であればそれ以外の法があるわけなので、今の密接関連地法説を採った場合であっても、「法」というのは法律に限らないということだと思うのです。
○後藤企画官 これは、抵触規則のところの条文の表現の仕方の問題ではないかと思うのです。実質としては、おっしゃるように法律だけを適用するという意味ではないのだろうと思うのです。
ただ、どこの国の法律になるのかということを書く場合の抵触規則の書き方が、我々の今の段階の知識では、日本の制定法では、法例その他、準拠法に関する法律があるのですけれども、その中でみんな「法律」という表現を使っておりますので、今のところは「法律」という表現にしておりますが、確かに、どういう表現がいいかということについては、今後更に法制的に考えなければいけない問題だと思いますので、御指摘を踏まえて考えさせていただきたいと思います。青山先生がおっしゃったように「法令」と書くこともあるかもしれませんし、あるいは「法」と書くのもあるのかもしれません。
○中村委員 確認ですが、いわゆる制定法に限ったものではないという理解はよろしいわけですね。いわゆる英語ではlawと書いてあるものですが。
○青山座長 当事者がこれに合意している場合ですね、合意してここでやりたいという。
○中村委員 合意していない場合、仲裁廷が最密接関連地法説を適用するという場合の「法」という場合は、ここでは「法律」と書いてありますが、これは制定法に限らないという理解でよろしいわけですね。
○中野委員 この28条との関係でいいますと、先ほど中村さんがおっしゃったように、国家法に限らないというのが前提になろうかと思います。法例は、基本的には裁判所で使うことを念頭に置いておりますので、「法律」といういささか固い表現になっておりますが、仲裁法の場合には、必ずしもそれに引きずられる必要はないのではないか。むしろ、非国家法も含む、もっと広い概念だということを表わすためには、「法」とした方がいいのではないかと思います。
○近藤参事官 それは、2項の準拠法の関係の規定についても「法」にした方がいいのではないかということですね。
○中野委員 例えば仲裁研究会の試案も、89年の段階までは法律としているわけですが、2001年の段階では、その辺のことを考えまして、「法」というふうに改めております。
○中村委員 私は、今のと認識が違うかもしれませんが、最初の当事者自治を認める部分は、国家法以外の非国家法も実体判断の準則として認めましょうと。ただし当事者間にかかる合意がない場合に仲裁廷が決める準則については国家法と、それは制定法に限られないというのが私の理解でございます。
UNCITRALのモデル法は、rules of lawで書いてあると思うのです。rules of lawというのは何かと言うと、国家法以外の非国家法、発効していない条約あるいは制定法の一部を合意するだとか、UNIDROITの契約準則を合意するとか、そういったものがそれに当たるというふうに私は理解しております。
○中野委員 確かに今おっしゃった1項、2項はモデル法の場合は、lawとrules of lawと書き分けておりますので、確かにそういう解釈がありますし、また別に、密接関連法の場合にも、非国家法を含むという解釈もドイツなどでありますので、そこは両説あり得るのではないかと思います。
○近藤参事官 ここについては、実質はそんなに皆さん思っていることは違わないと思うのですが、法例との関係でどういう表現ができるのかという、表現ぶりの問題になってくると思うのです。その辺については、少し事務局の方で調整をさせていただくということで御了解を願えないかと思うのですが。
○中村委員 1点だけ、今、中野先生の御指摘のとおり、当事者間に合意がない場合の仲裁廷が指定する法について、国家法に限らないという議論は当然ありますので、それを国家法に限るか限らないかというのは、非常に重要な点だと思いますので、当事者自治の範囲内でのみ非国家法を認めるのか、あるいは仲裁廷が決める場合においても非国家法を指定することができるかどうかという部分については、重要な点でございますので、ここはノートしておいていただければと思います。
○青山座長 わかりました。それでは、その点はテイクノートしまして、しかし大筋で、字句の点や、今の点をどの程度明確にするかは別として、大筋でこれでよろしいということでよろしゅうございますか。
○松元委員 1つ伺いたいのですが、UNCITRALのモデル法をそのまま採用したとか、あるいはほぼそのとおりであるといった表現がありますけれども、その場合、英語に直したらモデル法になると考えてよろしゅうございますか。
○近藤参事官 まだ、英語に直す作業をやってないものですから。でも、かなりそれも意識しながら、一応そういう作業も進めてはおります。
○松元委員 普段の議論などでも、特に日本法独特のところも一部ありますので、要するに、外国人にわかりやすい表現にしてほしいということです。
○青山座長 ありがとうございました。それでは、次は「2 仲裁判断書の預置制度の存廃について」ということでございます。
まず、事務局の方から御説明をお願いします。
【VI 仲裁判断及び仲裁手続の終了について 〜2 仲裁判断書の預置制度の存廃について〜】
○近藤参事官 仲裁判断書の預置制度に関する意見募集の結果は、参考資料12の125ページ以下に掲載されております。預置制度を廃止することについて賛成する意見が多数でしたが、これを存続すべきであるとする意見もございました。仲裁判断書原本を確実に保管する手段として、預置制度によることの効率性等も考慮しつつ、検討していただければと存じます。
○青山座長 この問題は、第二読会でしたか、廃止することがよいのではないかというのが多数意見であったと思いますけれども、意見募集の結果も踏まえて改めて、廃止するということでよいのかどうかということについて御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
○吉岡委員 強制的に預置をするような制度は廃止してもいいだろうと思うのですけれども、アドホック仲裁とか、いろんなことを考えた場合に、任意の預置制度みたいなものを置くかどうかだろうと思うのです。
そういう意味では、そういうものを任意的に残すという道はあってもいいのかなとは思うのです。
○青山座長 そうすると、アドホック仲裁などの場合には、自分の手元に置いておくのは嫌だから、裁判所に預かってもらいたいということですね。
これはどうでしょう、裁判所に関係しますけれども、秋吉委員。
○秋吉委員 裁判所全体の意向がわかっているわけではないのですけれども、本当にそれだけの必要性があるのであれば、やむを得ないのだろうと思いますが、現在のところほとんど預置がないという中で、それだけの必要性が本当にあるのだろうかというところをよく吟味いただいて、どうしても必要だということでなければ廃止いただくのが一番合理的ではないかと思います。
○青山座長 今、預置をしているわけでしょう。
○中村委員 今は法律で、する義務がございますから。
○青山座長 それだけはやっているのですね。
○中村委員 はい。今、吉岡委員がおっしゃられましたように、そういった必要性があるのであれば、義務でなくて、「できる」という規定ぶりに変えていくということも1つの方法かと思います。
○近藤参事官 今、吉岡委員が御発言されたように、任意的な制度を残しておくというのは1つの道だと思うのですけれども、任意的な制度にした場合に、預置制度というのを制度として残しておく意味というのは、かなり減殺されてしまうと思います。
これは、必要的であるからこそ、何か問題があった場合には、裁判所に必要的に預置されているから証明ができる。任意のものとすると、その意義というのは非常に減殺されてしまうということが第1点。
もう1つ、これから今後の仲裁制度をどういう方向で発展させていくのかと考えると、やはり機関仲裁が中心になってくるのではないかという気がしております。そうすると、各機関が仲裁判断を保管しておくという方法で、かなりの部分がそれで足りていくのかなというふうに思っておりますので、この制度自体を存続させるということは、やはり効率性の点からすると余りないのではないかという気がしているのですが。
○吉岡委員 そこのところは確かに、どれだけの利用が見込まれるかとか、そういう意味では目くじら立てて議論する話でないのかもしれないのですけれども、今の制度が確かに強制ですから、何らかそういう道も残しておくということは一考に値するのではないかと思います。
なぜかと言うと、結局、仲裁判断を執行する場面であるとか、そういう場面でやはり裁判所の世話になるわけですから、そういう場合にどこに預けておくかというと、裁判所が一番ふさわしいということになるのではなかろうかと思うのです。
○本東委員 預置を受けられる裁判所の方の御負担もあると思うのですけれども、預置をする仲裁機関の側にとっても、自分のところできちんと正本を保管するのに原本をわざわざ裁判所に持っていくというのも手間ではございますので、そういう意味では、機関仲裁については余り必要ないのではないかというのは、そのとおりだろうと思います。
ただ、機関仲裁だけを念頭に置いて考えていいのかどうかというのは、また問題でございますので、基本的には当事者の選択と言いますか、当事者の意思によって、預置を希望する場合には預置できるというふうにするので、特に不都合はないのではないかと思います。
○青山座長 当事者の選択ですか。仲裁人ではなくて。
○本東委員 当事者の同意にするのか、申立てにするのかは、そこは余りよくわかりません。
○青山座長 選択制にするかどうかというのは、今日初めて出てきた問題なので、もう少し御意見を聞きたいと思います。
○松元委員 仲裁判断は、要するに当事者がその判断に従って任意に履行すれば、それで完結するわけですね。預置は執行や取消しの申立てをする際に関係しますから、当然それを主張するいずれかの当事者は、自分が正本を持っているはずです。その正本が真正なものであるかどうか、それは証明の問題になりますし、あるいは仲裁人に証人に出ていただくといったことで解決できると思いますので、裁判所に預けることは無意味であると思います。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。山本委員、何かお考えありますか。訴訟法としての立場から。
○山本委員 結局、証拠方法を的確に保存する方法ということだと思いますが、そのために裁判所を金庫として使うというのは、制度としてはやや異例な感じがしますね。ただ、需要があるならば、秋吉委員がおっしゃったように、そういうこともあるのかなと思いますけれども、制度としてはやや異例かなという程度の印象です。
○本東委員 先ほどの資料の126ページで幾つか御意見がございますけれども、反対説として、例えば相続人が被相続人の関係した仲裁判断書を所持していない場合などというのが1つ挙げられておりますし、あと私は実態はよくわかりませんが、預置制度を問題にする外国における執行の際には、日本で預置制度が存続している方が実務上執行が容易であるので、是非存続すべきであるという御意見もございますが、この辺の実態はいかがなのでしょうか。
○中村委員 少なくとも後者については逆の効果が働いておりまして、預置ができなければ執行はできないというような意見を述べているアメリカの裁判官がいました。したがって、預置というのが仲裁判断の執行においてネックになることがありました。
それと、預置というのは、今、現行法上は送達の証明が必要ですね。そこを連結させるか、させないかという問題はどうなのでしょうか。単に預置をするのか、送達をしたという証書を付けて預置をさせるのか、どちらをお考えになっているのですか。
○近藤参事官 預置を残すという場合の選択肢としては、両説あり得ると思いますが。
○中村委員 もちろんあります。今の原案というのは、どちらでお考えでございますか。
○近藤参事官 少なくとも、それを連動させておくと、非常に問題が多いと思います。
○中村委員 そうすると、連動させないと。単に裁判所に仲裁人が仲裁判断の後に預置をする義務を課すかどうかという問題ですか。
○近藤参事官 そうですね。制度として仕組むとすると。そうすると、先ほどの山本委員がおっしゃったように、任意にすると、本来であれば当事者が保管していればいいものを、申し出た場合に裁判所が預からなければいけないという義務をなぜ生じさせることができるのかという疑問が若干出てくるのかなという感じはしております。
制度として判決と同じような制度があって、それについてはすべて裁判所が預かっておきます、どういう仲裁判断が出ているのかということについて、裁判所に行けばちゃんとわかるようになっていますというのであれば、完結はしていると思いますが、任意にしてしまった場合に、そういう制度というのは、非常に中途半端な感じはしますね。
○本東委員 それは預置を受けるのが裁判所だからそう思われるわけであって、この御意見にもあるようですが、むしろ公証人役場に預けるというか、公証してもらうとか、そういう制度ならまだわかると思います。
○近藤参事官 だから、私は常設仲裁機関が保管しておくということが、一番ADRとしての仲裁には沿っているのではないかという気がしているのですけれども。
○本東委員 機関仲裁の場合には、さっきも申しましたように、仲裁機関側としては、面倒なのでやらない方がいいと思うのですけれども、問題はアドホック仲裁のときにどうするかということですけれども。
○中村委員 まさしく今おっしゃられましたように、これは法律の条文を考えているわけなので、機関仲裁ということを念頭に考えるべきではないと思います。したがって、確かに統計的なデータはありませんが、国際仲裁でアドホック仲裁はかなり使われているという意見もございますので、したがって、そういったことも考えた上で、規定をどうするかというふうに考えるべきだと思います。
○青山座長 預置制度というのは、もともとドイツ法から来ているわけです。ドイツ法は仲裁裁判所のことをSchiedsgericht、仲裁人はSchiedsrichterと言うように、仲裁というものが一国の司法権の一翼なのです。だから最終的な判断を判決と同じように裁判所が預かるのは当然だという、そこから来ているわけで、それが日本法にも入り、韓国法にも入ったわけです。
ドイツ法は、この間改正して、預置制度というのはやめる、仲裁は国家の司法機関とは独立のものだという方向に大きく踏み出しましたので、UNCITRALのモデル法に準拠して、これから仲裁を考えていくとすれば、そういうところで裁判所と連結をとるのではなくて、実質的に裁判所の援助が必要なところは大いに援助してもらおうという方向ではないか。ただ単に、最終的なものだから、国家の司法権の一翼だから、裁判所が預かるという形の連結のとり方は、仲裁の目的から見ても余り望ましいことかどうかは、私は前から疑問に思っています。
吉岡委員はそうおっしゃいましたけれども、そういう必要性がそんなにないとすれば、仲裁人の保管、それから仲裁判断をもらった本人がそれをきちんと保管するという方法をどうすべきかという部分について、預置制度がなくなった場合に、そこのところをきちんと解説書にでも書いてもらって注意をしていただくというようなことで、選択制でなくて、すべてやめてしまうというのはどうだろうかと私は思っているのですが、いかがでしょうか。座長が余り強引な指揮をしてはいけませんけれども。
○中村委員 私は賛成です。
○青山座長 よろしいでしょうか。
○吉岡委員 皆さんがそうおっしゃるならあれですけれども、やはり日本はまだ、公正証書は公証人役場で預かられているという、国民の中には、ずっとそこに保管されているという信頼があるわけですね。そうすると、判決があって公正証書がある。仲裁判断書というのは、後のことを考えてみると、ある意味では公正証書よりも上位のものになりますね。ですから、全く勝手に持っていてくださいというような仕組みでいいのかどうかです。やはり任意的に預ける、もちろんそれは裁判所ではなくて、どこか貸金庫でいいのかとか、いろいろあるにせよ、やはりこれは権利、義務に関して、いざとなったら強制執行できるものだというのであれば、預けるところとしては、ほかには裁判所しかないのかなと。そうするとやはり任意的なものを置いておくというのが意味があるのではないかというふうに私は思いますので、その意見だけ述べておきます。
○青山座長 わかりました。そういう意見がありますので、更にこちらで検討させていただくということで、今日は廃止という結論を出すことではございませんので、よろしくお願いいたします。
それでは、次に進ませていただきまして、今度は「VII 仲裁判断の取消しの裁判について」ということで、取消原因についてお願いします。
【VII 仲裁判断の取消しの裁判について 〜1 仲裁判断の取消原因等について〜】
○近藤参事官 仲裁判断取消原因についての意見募集の結果で、参考資料12の134ページ以下に記載されています。中間とりまとめでは、モデル法第34条第2項とほぼ同様の案を示し、これに対して賛成の意見が大勢を占めました。そこで枠内の案は、モデル法第34条第2項の事由とほぼ同様の事由を取消原因とすることとしております。
ただし、枠内では、仲裁契約の当事者の契約締結能力の規律については、検討会資料4ページの説明にあるとおり、ドイツ法と同様、ニューヨーク条約第5条第1項(a)に準じて、当事者が、仲裁契約を締結する時に、その当事者に適用される法令により当該仲裁契約を締結する能力を有しなかったことが取消原因となるものとすることを提案しています。
また、枠内1(2)は、仲裁判断取消事由として、仲裁廷の構成または仲裁手続が当事者間の合意または仲裁法の規定に従っていなかった場合についての考え方について提案するものです。中間とりまとめでは、この点について、違反の程度が軽微である場合については取消事由にならないとする、ドイツ法の規律にならった考え方をお示ししました。これは、仲裁廷の構成または仲裁手続に関する瑕疵がある場合には必ず仲裁判断を取り消すべきものという考えが基本になるものです。
一方、この点についてのモデル法の規律では、裁判所が瑕疵の程度等を考慮して、裁量により、申立てを棄却することができると解されております。枠内に示した案は、このモデル法の考え方を採用したものです。
以上の考え方については、枠内の(注)に記載がありますので、こちらも参考に御議論いただければと思います。
なお、枠内2の考え方によった場合は、仲裁判断取消しの裁判と仲裁判断の承認・執行の裁判とで不統一が生じることが考えられますが、この点の不都合を避ける方策として、検討会資料32の5ページ(4)に記載があるように、例えば、執行決定の申立人に対し、仲裁判断の取消しの申立てがあった場合には、裁判所にその旨を通知する義務を負わせることとし、執行決定の申立ての受訴裁判所において適切な措置をとることを期待する等の方策が考えられると思っております。
○青山座長 この点は、資料だけではなくて、モデル法やニューヨーク条約を前提に置いて考えていただかないと、ちょっと御理解が難しいかもしれませんけれども、取消原因はモデル法の34条、あるいはニューヨーク条約の5条に従うわけです。
ただ、食い違いがあるところは、契約締結能力を判断するのに、ニューヨーク条約はその者に適用される法令によって判断するという明示の規定があるのですが、モデル法はその部分がなくなってしまっている。一体どちらに従うのかというのが(1)の問題です。これは、ドイツ法と同じようにニューヨーク条約でいきましょうということです。
1の(2)は、仲裁判断がなされた、しかし手続に軽微な瑕疵があった場合に、それをすぐに取消原因に結び付けるのはいかがなものかということで、これもドイツ法の考え方と、モデル法の解釈の考え方が少し違っている。これはモデル法の解釈で、取消訴訟を受けた裁判所の裁量の余地を認めようという考え方で、こういう原案ができているのです。
そういう裁量を認めますと、執行判決の方と食い違う、執行もできないし、取消しもされないということが理論上考えられるので、その場合には取消訴訟が来ていますよということを被告の方から通知するということで、前後不統一が生じないようにするという、かなり細かに考えた案ですけれども、これでいいかどうかということについて御意見を承りたいと思います。
○中野委員 1の(1)のところは賛成なのですが、1の(2)並びに2についてですが、裁量の余地を認める必要がなぜあるのかという点が十分得心がいかなかったのでお伺いしたいのです。つまり、判決の承認・執行の場合とのバランス等を考えますと、取消事由がある場合には取り消すし、拒絶事由がある場合には当然拒絶する。裁量の余地は認めないというのが、むしろ筋が通るのではないかと思っていましたが、お伺いしたいと思います。
○三木委員 この条文に限りませんけれども、UNCITRALでまだ議題として取り扱っておりませんが、将来議題の1つとして、取消原因があるようなものでも、軽微なものであればなるべく救っていくというような措置を講じる必要については、明示的にモデル法の修正にも入れる必要があるのではないかという議論が既にあるところです。
先ほど中野委員は、裁判との比較でおっしゃいましたが、裁判と違うのは、やはり仲裁の場合は、なるべく仲裁廷の判断を尊重するという要請がありまして、裁判所が重箱の隅をつつくようなことまですべきではないという哲学もありますので、裁量の余地を認めるというのは、決しておかしいことではないと思います。
○近藤参事官 中野委員がおっしゃった、取消事由があったのに取り消さないというのはおかしいのではないかというのは、事務局も当初そういうふうに考えまして、ドイツ法の国内の仲裁手続については、そういうふうな形になっていると思ったので、中間とりまとめの段階では、その点について参考にさせていただいて、こういう形で公表させていただいたのですが、他方でモデル法、ニューヨーク条約は、may be set asideとなっていまして、そのmayというのは裁量であるというのは、コメントでも書いております。
他方、ドイツ法も外国についてはニューヨーク条約をそのまま準用するという形になっておりまして、外国の仲裁判断については、必ず取り消すという形ではなくて、むしろ裁量を認めていくということになっているのかと思われます。
そうすると、立案を考えている新仲裁法において、国内と国外を区別しないで考えていく場合に、ニューヨーク条約との整合性を考えていく場合には、やはり裁量を認めていくという方向でそろえていかないと、平仄がそろわないのかなと思いまして。もしもドイツ法的にやるとすると、国外の場合と国内の場合の規律を分けて、国外の場合についてはニューヨーク条約と同じにして、国内の場合について必ず取り消すという形で規律を分けるということであれば、整合性は取れるのかなと思うのですが、そこまでの必要性もないだろうと思いますので、この際、ニューヨーク条約の規律、モデル法の規律に沿った形で全面的にそれを採用した方がいいのではないかと思います。
中間とりまとめの段階では、事務局の方が少しフライングぎみに、目についたドイツ法の規律をまねてしまおうとしたところに問題があったのかなというふうに、事務局としては反省しているところです。
○青山座長 多分、中間とりまとめから見ていますと、少し態度が変わったかと思われるところだと思います。中野委員、さすがに鋭く指摘されましたけれども、実態はそういうものがあって、これでどうだろうかということでお諮りしているわけでございます。
○中村委員 私は、別の点でございますけれども、1項に対しまして、「その当事者に適用される法律により」というニューヨーク条約の規定を採用すべきであるということが今回の案だと思いますが、私は結論的には、ない方が適当と思っております。モデル法自体にないわけですね。ニューヨーク条約にその規定があって、「その当事者に適用される法律」というのが抵触法的規定なのかということ自体も議論がなくはないと思うのです。
したがって、それがなかったとしても、私は結論的には変わりがないのではなかろうかと思っております。
モデル法で、どうしてそれを排除したのかという理由は私は存じ上げませんが、モデル法は85年、ニューヨーク条約は58年ですから、その後にできた法律ですから、そちらをどうして採用しないのかなと。ドイツがしたから、日本もそれにするということだけなのか、その辺りはどうなのでしょうか。
○中野委員 モデル法の立法趣旨の議論を少し見てみたのですけれども、この文言が入っていると、明らかにこれは国際私法的な規定だと思われてしまうわけです。しかし、モデル法としては、そこまでは踏み込みたくないということで、したがって、これを外してしまおうということでモデル法をつくった。
ところが、いざつくってみると、その後の各国の採用状況を見てみますと、この部分だけはニューヨーク条約に戻しているという国がむしろ多いのです。それはなぜなのかというと、これを属人法と呼ばなければいけないのかというと、必ずしもそうではなくて、いろんな解釈の余地はあるわけですね。「当事者に適用される法により」としか書いてありませんので、属人法と言う人もいれば、それは各国の国際私法に任されていると、むしろその意見の方が多いですけれども、いろいろ解釈の余地はある。いずれにせよ、ニューヨーク条約に合わせておいた方が、出てきた仲裁判断の国際的な執行の問題がなくなるであろうと、恐らくはそういう読みでニューヨーク条約型のものを採用する国が多いと。
実質的に何か違いが生じるかと言われると、恐らくはないのでしょうけれども、どっちかを選ぶと言われれば、ニューヨーク条約型に合わせておいた方がいいのではないかと思います。
○中村委員 確認ですけれども、それは、なくてもあっても、日本の国際私法である法例が適用されるという理解でよろしいのでしょうか。
○青山座長 日本でなされた仲裁判断でということですか。
○中村委員 この規定というのは、仲裁地に連結する規定かどうかというところは、まだ議論があるのかもしれませんが、少なくとも、仲裁判断の取消事由ですね、その中でも当事者の行為能力についての準拠法の決定について、「その当事者に適用される法律」によるといった場合に、具体的にどういうふうに決定するのかというプロセスですが、法例に従って決定するということであれば、なくても同じことだと思うのです。法例以外の抵触規定があるということであれば、それは規定する意義があるのでしょうけれども、ないとすれば、なくてもあっても結論は実質的に変わらないと。
ただし、今、中野先生がおっしゃられましたように、国際的な趨勢としてニューヨーク条約へ戻す方向に行っているということであれば、それはそれでそれを採用すべきだと思いましたが、ただ確認したかったことは、これがなくても日本で行為能力の準拠法について裁判所が決定する際に法例を適用するということがあるのかどうかというところでございます。
○青山座長 これは中野委員いかがでしょうか。仲裁地は日本ということで。
○中野委員 通常は日本の法例を使うということでよろしいのではないかと思いますが、それも含めて解釈に委ねられていることだと思います。
○近藤参事官 この(1)は、二読の段階だと思うのですけれども、取消事由のところで、中野委員から、この点については是非ニューヨーク条約でという御意見があって、それが世界の趨勢だということもありましたので、そういう形で採用しようと考えていたところでございまして、モデル法と違うのですが、規律の内容としてモデル法採用の時に懸念を表明されていたような、これが抵触法のことについて規定をしているというふうには、必ずしも読まれていないということを前提とするのであれば、ニューヨーク条約を採用してもいいのではないかと思っているところでございます。
○中村委員 別の点でございますが、さっきの仲裁判断取消事由の処理についての裁量の部分ですけれども、私も結論的にはモデル法の規定を採用することで賛成しておりますが、事務局の御説明の中にも、いわゆる仲裁判断との因果関係とか、手続上の瑕疵の重要性といったことが考慮されるということで書かれてありますが、私はそれ以外でも、例えば、当事者の合意に反して仲裁人が職権で証拠調べをしたような場合、仲裁判断との因果関係がなくても、仲裁判断取消事由に相当すると思うのです。
したがって、ここの御説明の中で、瑕疵の重要性だとか、仲裁判断との因果関係等を考慮してという部分で裁量の内容をお書きになられていますけれども、そういうものでは必ずしもないのではなかろうかというふうに考えておりますが、その点はいかがでございましょうか。
○近藤参事官 その辺はいかがでしょうかと言われても非常に困るのですが、大きな点としては、やはり重大性とか、仲裁判断との因果関係というのは、非常に大きな点というふうに思います。
当事者主義か職権主義かというところが違っている場合に、瑕疵の重大性に当たらないのかどうかというのは、いろいろな考え方もあり得るのではないかと。ただ、これは裁量ということですので、一律の問題ではないと思うのです。
○中村委員 ただ、私が懸念していたのは、仲裁判断との因果関係とかを調べていくと、仲裁判断の中身にどんどん入っていきますので、その辺りは余り踏み込んで書くというべきではなかろうと思います。裁量権は確かにモデル法の立場だと思いますけれども、そういったことの例示が適当かどうかということについては、私は疑問に感じています。責問権放棄という問題がありますので、そこはそれで処理ができますが、責問権を放棄しないで、例えば今のような職権証拠調べを当事者合意に反してやった場合に、判断に影響はないけれども、当然取消事由に当たると私は思うのです。
だから、結論は賛成ですが、コメントに対しては若干納得のいかない部分がございます。
○青山座長 これは考える参考のための説明でございますので、将来を拘束するものではありませんので。
○中村委員 もう1つ、先ほど仲裁判断の取消裁判と仲裁判断の執行裁判の関係でございますが、仲裁判断の執行裁判の係属中に仲裁判断の取消裁判が提起された場合に、その旨を当事者に通知する義務を課すということですね。そうすると、当事者がそれを通知した場合、裁判所は、2つの裁判手続をどのように調整されるおつもりでおられるのか。その後の処理についてどういうふうにお考えですか。
○青山座長 それは、そのところでやらせていただいてよろしいですか。承認・執行のところで出てきますから、そこで議論させていただきたいと思います。
○三木委員 今の2項の関係ですが、この点については、今、中村委員がおっしゃったことに賛成です。このままの形で条文に書くということではないと思いますので、なお条文化の作業の際に考慮すればいいことだと思いますが、手続法学的に考えれば、手続的に瑕疵がある場合に、それが結果に必ずしも影響を与えない場合でも、瑕疵の重大性によっては、手続を取り消したり無効にすることはあり得るわけですので、仲裁判断との因果関係というのを明示で書くというのは、やや踏み込み過ぎかなという気はいたします。
○近藤参事官 そこは考えてはおりません。
○山本委員 私も中村委員の御指摘と同じですが、仲裁判断の承認・執行については裁量権を認めないという趣旨かなと思うのですが。承認・執行については、執行拒絶事由がある場合でも裁判所の裁量に基づいて執行を認めるということは採らないということで理解してよろしいのでしょうか。5ページの(4)の説明はそういうふうに読めるのですが、「不統一が生じることは否定されない」ということは、そういう趣旨でしょうか。
○近藤参事官 そういう趣旨で記載したつもりではなかったのですが。両方とも裁量が認められる、ここの場面でも取消の場面でもです。
○山本委員 そうですか、そうであれば結構です。それは明示的に書くということですか。
○近藤参事官 「取り消すことができる」という形になると思うのですが。
○山本委員 こういった執行拒絶事由がある場合でも、裁量により執行決定をすることができると。
○近藤参事官 そこまで明示的に書くかどうかは検討しますが、以下の事由があった場合にのみ取り消すことができると。
○山本委員 取消しの話ではなくて、執行の話をお伺いしているのですが、執行でも、条文を置くかどうかは法制的にわかりませんが、趣旨としてはそういう裁量があるという前提で考えると。
○近藤参事官 そういう前提です。
○山本委員 それならば結構です。
○松元委員 今の枠内(2)の「仲裁廷の構成または仲裁手続が当事者間の合意又は」、UNCITRALのモデル法では、その後に、「かかる合意がないときは」とあって、前の中間とりまとめでも「合意がないときは」というのがあるのですが、これを削除されたのは特に理由があるのでしょうか。
と言いますのは、当事者間の合意、機関仲裁であれば仲裁規則に従って手続が行われたところ、中には屁理屈と言いましょうか、この規定が任意規定で仲裁法の規定に従っていないから取消しの原因になるというような主張をして取消しの申立てがなされる可能性もあると思われます。
○近藤参事官 仲裁法の規定に従ってという場合に、「当事者間の合意がないとき」という明示をすべきではないかということですね。
○松元委員 はい。
○近藤参事官 わかりました。それはおっしゃるとおりだと思いますので、明示するようにしたいと思います。
○本東委員 さっきの御議論ですが、取消例を列挙されて、さっきおっしゃったように取り消すことが「できる」規定で書くということであれば、枠内の2は、別に法文に書かなくてもいいのではないかと思っておるのですが。
○近藤参事官 枠内2は、これをこういうふうに書いたのは、中間とりまとめの時に、こういう形でお出ししているものですから、そこから少し方向転換ということがありますので説明している趣旨です。
○本東委員 法文として書くということではないと。
○近藤参事官 ということではございません。趣旨を明確にするという趣旨でございます。
○三木委員 1の(1)は結論的にはニューヨーク条約の表現に従うということで異論はございませんが、念のために中野委員に、ニューヨーク条約の表現を採る場合と、モデル法の表現を採る場合で、結局何が違ってくるのかを改めて簡単に御説明いただければと思います。
○中野委員 先ほど申し上げましたように、実質的に解釈に違いを生じるというものではありません。
○三木委員 しかし、何か違うからこそ、こちらを採るべきだという御意見だと思うので。確定的に違うということにならなくても、何か違ってくる余地があるからこそ御主張されたわけですね。だからその余地の部分をわかるように教えていただければと思います。
○中野委員 いや、あえてニューヨーク条約と違う文言を導入するだけの理由はないということにすぎません。
○三木委員 すると、何も違わないという理解で。
○中野委員 具体的な違いはないと思います。
○青山座長 よろしいですか。それでは、次の問題に移りたいと思います。
今度は「2 仲裁判断取消しの裁判の審理の在り方について」という問題でございますけれども、またこれも事務局の方からお願いいたします。
【VII 仲裁判断の取消しの裁判について 〜2 仲裁判断取消しの裁判の審理の在り方について〜】
○近藤参事官 仲裁判断の取消しの裁判の形式を決定とすることについては、意見募集の結果においてもほぼ異論がありませんでした。そこで、ここでは、裁判の形式を決定とすることを前提として御議論をいただきたいと思います。この場合には、口頭弁論が任意的なものとなることから、当事者の手続保障のために仲裁判断取消しの裁判の審理の在り方をどのような規律にするかが問題となります。意見募集では、枠内のような考え方を具体的に示してはいませんでしたが、これまで検討会で議論されたところですので、改めて御議論いただければと思います。枠内は、当事者の手続保障を徹底する見地から、当事者の審尋を必要的なものとするものです。
もっとも、当事者の審尋を原則とする考え方を採る場合でも、取消事由がないことが明白であるような場合にまで相手方の審尋を必要とすべきか否かという問題があり、また、必要的審尋とする場合でも、常に当事者が立ち会うことができる期日において審尋を行うものとすると、機動的な対応に支障が生ずる場合があるのではないかとも考えられます。 この点は、裁判所が事案に応じて適切に裁量を働かせることに期待するという方向も考えられるのではないかと思われます。
この点は、いろいろとバリエーションが考えられますので、当事者の手続保障を旨として、御議論いただければと存じます。
○青山座長 それでは、これは取消しの裁判を決定とするということを一応前提として、そうなると任意的口頭弁論で行われる。口頭弁論を行わない場合に、どういう形で手続保障するかということで、ここでは当事者が立ち会うことができる期日で行うという方式を出しているわけですけれども、これはいかがでしょうか。こういうことでいいかどうかです。
これはもう手続法の方から、三木委員なり、山本委員から説明いただけますか。
○山本委員 これで結構だと思いますが、我々手続法学者は、判決手続を決定手続化したというと、民事保全の保全異議をすぐ頭に思い浮かべるわけですが、まさに保全異議のところでも当事者の必要的審尋と、それから現在は削除されていますが、保全法の30条であった第三者審尋の規定、参考人審尋の規定も手続保障の趣旨として入っているのだろうと思います。
もう1つ、31条というのがございまして、審理を終結するには相当の猶予期間を置いて審理を終結する日を決定しなければならないという、要するに当事者が攻撃防御方法を提出できる、弁論の終結に当たる期限を明示して、攻撃防御方法の提出の万全を図るという規定がございまして、あるいは当事者の手続保障を図る趣旨からは、この規定も参考になるかなというふうに思いますが。
この内容自体はよろしいのではないかと思います。
○青山座長 どうもありがとうございました。
○近藤参事官 仲裁判断が明らかに公序違反だというふうに思われる場合に、公序違反かどうかというのは職権で判断すべきことですが、職権で判断すべきことで明らかに公序違反だというときにも、審尋をする機会を与えて相手方に出てこさせなければいけないかどうか。この点についてはいかがでしょうか。
○三木委員 結論的には、それも必要だろうと思います。審尋というのは、性格的に主張の部分と証拠調べの部分との区別が明確ではないのですけれども、今、おっしゃった場合は、やはり主張として職権探知事項であっても、両当事者が言い分を尽くす機会を保障するという趣旨の法として、やはりそういう規律はかぶっていいのではないかと思います。
○後藤企画官 逆に、まるっきり濫用的な申立てで、相手方の言い分を聞くまでもなく、そんな取消申立ては却下すべきであるという事案についてまで、相手方をわざわざ呼ばなければいけないのかということはいかがでしょうか。
○三木委員 実務的にはおっしゃることはわかりますが、しかし1回だけ設ければいいわけですね、それがどれほどの負担となるかということかと思いますが。
○後藤企画官 やはり立ち会うべき期日を設けてやった方がいいという見解でしょうか。
○山本委員 確かにあるかもしれませんが。訴訟でも口頭弁論を開かないで却下できる場合もあり得るわけですが、しかし。非常に例外的な場合には、あるいはあるのかもしれませんけれども、法文で書くようなことかどうかというのはちょっと。
○後藤企画官 仮処分の場合には、命令を出す場合に相手方の意見を聞くというような手続になっている場合があると思うのです。
ですから、同じような形で、取消しの決定を出す場合には必ず聞くけれど、認められる可能性が全くないような申立てのときには、それは意見を聞かなくても却下決定ができるというような方法というのは、いかがなものでしょうか、あり得るのでしょうか。
○三木委員 今、お話を伺っていて、あり得ないことはないと思いますが、それであれば明文で書いた方がいいのではないかと思うのです。一定の場合には審尋の機会を与えず却下できるというような形式、どういう表現になるかはわかりませんが、それはあってもいいとは思います。解釈でそれがやれるかどうかはややわかりません。
○青山座長 わかりました。大体この問題は、よろしゅうございますか。
○吉岡委員 今の点、当然客観的に却下事案であろうと、やはり一回審尋期日が入るということは、実務的に言うと、時期の予測その他も含めて、かえって親切かなと、当事者も納得するのかなという感じがしますので、やはり審尋を1回やるということで、私も実務的にはかえってその方がいいのではないかという感想を持っていますけれども。
○青山座長 それでは、この問題は大体了解、大方の合意ができたようですので、少し先に進ませていただきまして、次は「3 仲裁判断取消しの裁判の申立てを受けた裁判所がとり得る措置について」と「4 裁判所の決定に対する不服申立て等について」の2つを併せてやらせていただきます。
【VII 仲裁判断の取消しの裁判について 〜3 仲裁判断取消しの裁判の申立てを受けた裁判所のとり得る措置について、4 裁判所の決定に対する不服申立てについて〜】
○近藤参事官 まず、仲裁判断取消しの申立てを受けた裁判所のとり得る措置について御説明いたします。
この点に関する意見募集の結果は、参考資料12の139ページに記載のあるとおりです。枠内のAを支持する意見が70%。しかし、一方で枠内Bの、モデル法第34条4項と同様の措置をとることができるようにすることが望ましいとの意見もありました。この論点については、検討会でも、さまざまな意見をいただいているところです。意見募集の結果やこれまでの検討も踏まえて、改めて御議論いただきたいと思います。
次に、裁判所の決定に対する不服申立てについては、中間とりまとめでは特に取り上げてございませんが、即時抗告を認めることでよろしいかどうか。その場合の即時抗告期間をどうするかについて御意見をいただければと思います。
○青山座長 それでは、取消しの申立てを受けた裁判所は、常に取り消すだけなのか、それとも一度仲裁廷に戻して、そこで是正するような措置を認めるかどうか。それがA案、B案という形で書かれております。
それから、不服申立てについては、即時抗告ということでいいかどうかという点でございます。どうぞ御自由に御発言いただきたいと思います。
○中村委員 私は確たる理由はございませんが、A案に賛成いたします。A案の方がすっきりしていますし、B案というのは、実務でどのぐらい行われているのか存じ上げませんが、かなり手続が複雑になるだろうと思います。
したがって、諸外国でA案が採用されている国があるとすればA案で、−−全くなければB案ということも検討する余地はあると思いますが、−−A案ということで規定されている諸外国の立法があるとすれば、A案というのが、私はすっきりしていてよろしいかと思います。
○近藤参事官 韓国がA案を採用しているということです。
○青山座長 ほかにいかがですか。
○三木委員 確認ですが、A案を採る場合には、こういう規定をあえて置くわけではなくて、モデル法の4項に相当するものを置かないという趣旨だと理解してよろしいのですか。
○近藤参事官 そうです。
○三木委員 したがって、解釈あるいは運用上は、−−実際に行われるかどうかはわかりませんけれども−−、一時裁判所の方の手続を停止して、事実上仲裁廷の再考を促すというのも、条文上行えないわけではないということですね。
○近藤参事官 あくまでも本当の事実上になると思うのですが、その場合に解釈上の問題となるところとしては、仲裁廷の任務終了時期の規定との関係で、この34条4項の場合を除くというのが、仲裁廷の任務終了の規定になっていて、この場合に権限が復活しますよということで、モデル法は整合性が取れている。だから、そこの点についても事実上であるということを前提にすれば、そのとおりだと思います。
○三木委員 おっしゃったとおりだと思いますけれども、仲裁廷の任務終了云々に関しては、両当事者の合意と仲裁機関との間の合意があれば、いかようにもできるという面もありますので、あくまで可能性ということですけれども、あり得ないわけではない。
○青山座長 ほかにB案という方は、いらっしゃいませんでしょうか。よろしいでしょうか。
決定に対する不服申立てですが、これは即時抗告ということでよろしいでしょうね。これはほとんど問題ないと思いますが。
それでは、即時抗告期間をどのぐらい置いたらいいのか。取消しの裁判、あるいは取消申立てを却下した裁判に対して、どのぐらいの不服申立ての期間を置いたらいいのか、通常の即時抗告の期間でよろしいのかどうか。
取消申立てですから、日本が仲裁地という前提ですね。しかし、当事者は外国である場合もある。
○山本委員 定見があるわけではございませんが、判決、控訴から決定に移すということですから、そういう意味では、1週間にする必要性がどうしてもあるならともかく、2週間を保証しておいてもいいのかなという気はしますが。
○松元委員 私も今、おっしゃったように、2週間もあれば十分だろうと思います。
○青山座長 どうもありがとうございました。
それでは「VIII 仲裁判断の承認及び執行について」というところの「1 仲裁判断の効力について」の点と「2 仲裁判断の執行許否の申立てについて」という2つの問題を一緒にお願いしたいと思います。
【VIII 仲裁判断の承認及び執行について 〜1 仲裁判断の効力について、2 仲裁判断の執行許否の申立てについて〜】
○近藤参事官 まず、仲裁判断の効力について御説明します。枠内の案は、内国仲裁判断、外国仲裁判断を問わず、仲裁判断の承認及び執行について、モデル法第35条第1項の規律に従うものです。意見募集の結果は、参考資料12の146ページ以下に外国仲裁判断の効力について、156ページ以下に内国仲裁判断の効力について、それぞれ記載されており、枠内の考え方をすることについてほぼ異論のなかったところです。枠内のように考えることでよろしいかどうか確認させていただきたいと思います。
なお、【説明】の部分には、現行公催仲裁法と同様、内国仲裁判断について、確定判決と同一の効力を有するという規定を置く予定であると記載しています。しかし、この考え方を採る場合には、確定判決と同一の効力を有することと、内国仲裁判断の承認との関係や、内国仲裁判断の強制執行のために執行許可の裁判を要することとしたこととの関係についても整理しておく必要があるように思われます。内国仲裁判断について、確定判決と同一の効力を有する旨の規定を置くかどうかについては、なお法制的な問題も含めて検討していかなければならないことだと思うので、この点については事務局の方にお任せいただければと存じます。
いずれにしても、国内の仲裁判断についても、実質的には枠内のような規律をすることになると思っております。
次に、仲裁判断の執行許否の裁判の申立てについて御説明します。この点の意見募集の結果は、参考資料12の143ページ及び147ページにそれぞれ内国仲裁判断及び外国仲裁判断について記載されております。中間とりまとめでは、ニューヨーク条約第4条やモデル法第35条第2項の規律と異なり、執行許否の裁判の申立てに当たり、仲裁判断書またはこれに準ずる文書の添付を要求しつつ、仲裁契約書の原本または謄本の提出を要求しない案を示していますが、意見募集の結果は、これに賛成するものが多数でした。枠内でも同様の考え方を採っております。これはドイツ法と同様の規律ですが、このように規律することについては8ページの【説明】の2にあるとおり、特段問題は生じないものと思われます。検討会でも特別異論はなかったと思いますが、改めて御確認させていただきたいと思います。
○青山座長 ということでございますけれども、この2つの問題はいかがでしょうか。効力の点については、それがされた国のいかんを問わず拘束力があるものとして承認され、裁判所に対する申立てによって、要件を備えている場合には執行されなければならないというものだけを規定する。
このほかに、内国仲裁の場合には、先ほど説明されましたように、確定判決と同一の効力を有するという、現行の規定と同じものを置く方向で検討している。
しかし、そうなると、一方ではそれ自身が確定判決と同一の効力を有しながら、執行するのに執行許可の裁判をもらうということになる。これは現行法がまさにそうなのですけれども、それはきちんと整理されているのかという問題です。それは、これから事務局の方で預からせて検討させていただきたいという含みで、これでいいかどうかと。
それから、執行の場合に、仲裁判断書の原本または認証された謄本だけで、仲裁契約書の方は付けなくてもいいということに踏み切ってよいかどうかという問題でございます。
後者の方につきましては、ニューヨーク条約やモデル法とも違う行き方をすることになると、そこのところがどうかということで、これについて三木委員から少し御説明いただけますでしょうか。
○三木委員 仲裁契約書の添付を要しないという件は、既に何回も検討会で御案内のとおり、ドイツ法が既に採用しております。
座長がおっしゃったように、現行のモデル法ともニューヨーク条約とも表面上違うことになるわけですが、まず、モデル法に関しては注記がありまして、より緩和的な国内立法を妨げないということが明示的に書かれておりますので、モデル法とは全く問題を生じないことは明らかだろうと思います。
他方、ニューヨーク条約との関係は、やや気になるところではありますが、モデル法を採択した時に、ニューヨーク条約それ自体の改正はしませんでしたが、ニューヨーク条約についても、この点に関しては、モデル法の趣旨に沿った解釈運用がされて構わないという前提でつくられておりますし、現在のUNCITRALの事務局の意向を内々に、これは公式見解ではないという意味ですが、内々に確かめてもニューヨーク条約とは抵触しないという感触を得ておりますので、問題なかろうと思っています。
○青山座長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○中村委員 私は、今の仲裁契約書の提出手続というのは排除することで賛成いたします。 恐らく、三木先生がおっしゃられましたのに加えて、ニューヨーク条約には7条という規定がありますので、7条を使って国内法による執行ということもできますので、したがってその規定がこれに当たるということで、ニューヨーク条約との抵触関係は生じないというふうに理解しております。
○青山座長 手続規定の一部と見るということですね。
○中村委員 7条の more favorable right provision、そちらに当たるのだろうと思います。
○青山座長 これは恐らく、実際にその点が争われて契約が無効だということになれば、当然それは後から資料を提出しなければならないのであって、その点は裁判所のやり方としても同じではないかと思いますが、よろしゅうございますか。
最初の、仲裁判断の効力の点は、モデル法とニューヨーク条約と同じ規定にしようということでよろしいでしょうか。
○三木委員 説明に書いておられる、確定判決と同一の効力を有する旨の規定を置くかどうかというのは、事務局のお話にありましたように、事務局の御検討に委ねるということで結構だと思いますが、方向としては、やはり置く方向で検討していただきたいというのが個人的な意見であります。
言うまでもございませんが、ドイツ法にも韓国法にも同種の規定が明示的に置かれておりますし、この説明にありますように、我が国の公催仲裁法にも既にある規定ですので、あえてなくすというのは、何か意図を持って外したというふうに見られやすい規定ですので、外す場合には相応の説明が必要になろうと個人的には考えております。
おっしゃるように、確定判決と同一の効力というのはどういう意味かという問題は生じますが、これは既に各国の立法が似たような規定を置いているところでもありますし、我が国も100年以上同じ趣旨の規定を置いておりますので、確定判決そのものの効力とは違うのだということについてはコンセンサスがあろうかと考えております。
○青山座長 よろしいでしょうか。
○近藤参事官 今の点は、レジュメをつくった段階では置くことを前提に考えていたのですが、外国の仲裁判断の拘束力のことを考えると、平仄が取れるのかどうかというようなこととか、あと承認・執行の場合のことをどう考えるのかということを考えて、そのまま置くことができるかどうかということについて、もう一回検討しなければいけないと思っているところであります。
実務の流れとして、手続がどうなるかということには全く影響はしないところですので、この点については事務局の方でもう少し検討させていただければと思います。
○吉岡委員 形式的に国際仲裁から見ると全くこのとおりなのですけれども、最初から国内仲裁判断を頭を置くと、2つの規定が並列して並ぶような、おっしゃったように規定の仕方を少し工夫しないと何か妙な感じの印象を受けるような気がいたします。
○青山座長 おっしゃるとおりで、ここに書いてある規定で、それがされた国のいかんを問わず、拘束力のあるものとされ承認されという、これでもう十分なはずなのです、日本で出された場合も。しかし、片や仲裁判断が今まで権威を持って扱われてきたとすれば、それは確定判決と同一の効力を有するという条文があって、それが仲裁判断の執行力の源泉だと考えられていたことになりますので、これを2つ置くと、確かにこれはどうなるのかなと、吉岡委員がおっしゃるような議論は当然だと思います。私どもも当然考えております。これはまた検討させていただきます。
それでは、3時10分まで休憩します。
(休 憩)
【VIII 仲裁判断の承認及び執行について 〜3 仲裁判断の執行許否の判断係属中に仲裁判断取消しの裁判の申立てがされた場合の取扱いについて、4 仲裁判断の執行許否の裁判の中止等について】
○青山座長 それでは、次に「3 仲裁判断の執行許否の判断係属中に仲裁判断取消しの裁判の申立てがされた場合の取扱いについて」「4 仲裁判断の執行許否の裁判の中止等について」という2つの問題でございます。一括して事務局からお願いいたします。
○近藤参事官 まず、仲裁判断の執行許否の裁判が係属している間に仲裁判断取消しの裁判の申立てがされた場合の取扱いについて御説明します。
この点についてはモデル法には規定はございませんが、枠内は、仲裁判断の取消し及び執行許否の裁判において、取消原因または拒否事由がある場合にも、裁判所の裁量的判断が許容されていることから、両裁判の不統一が生じることを避けるため、仲裁判断の執行許否の裁判の係属中に仲裁判断の取消しの裁判が申し立てられた場合には、その旨を通知する義務を当事者に課すものです。取消しの裁判と執行許否の裁判をいずれも裁判所の裁量にかからしめると、取消しも執行もできないような場合が生じ得るということについては、検討会でも若干議論が出たところですが、枠内のような規律を考えてはどうか、御意見をいただければと思います。
次に、仲裁判断の執行許否の裁判の中止等について御説明します。枠内の案は、モデル法第36条第2項及びニューヨーク条約第6条にならったものです。
中間とりまとめでは、補足説明の(注)で検討の必要性について触れておりますが、仲裁判断の取消しの裁判と承認及び執行の裁判の重複または矛盾を防ぐため、執行許否の裁判のほかに仲裁判断取消しの裁判が係属している場合に、期間を定めて執行許否の裁判手続を中止することができる旨及び、裁判所は申立てにより相当な方法により担保を立てることを相手方に命ずることができる旨を定めるものです。
枠内のように考えることにつき、御意見をいただければと思います。
○青山座長 これは執行と取消しとの競合の問題でございますけれども、最初の、当事者に通知義務を課するという問題はいかがでしょう。これにつきましては、先ほど中村委員から既に御質問がありまして、通知を受けた裁判所は一体どうするのかという御質問が出ておりました。その点も含めて、どなたか口火を切っていただければと思います。
○近藤参事官 先ほどの中村委員の御質問に対しては、執行許否の裁判の中止ということのほかに、移送の関係で、必要と認めたときには裁判所が自由に移送できるというような形で、判断の統一を図るということができるような仕組みを考えております。それはまた管轄のところで議論していただきますが、そういうことによって、なるべく別々の判断が出ないようなことを考えた方がいいのではないかと思っております。
○中村委員 私は、手続法のことは全く素人でわかりませんが、決定の手続を仲裁判断の執行手続に吸収させてしまうというようなことはできないのですか。
要するに仲裁判断の執行裁判の係属中に内国仲裁判断の取消裁判が提起された場合に、2つ裁判手続があるわけですね。当事者に告知義務を課して移送させると、そうすると同じ裁判所で決定手続と判決手続を行うということですね。そうすると、理屈としては結論が異なる場合もあり得るわけですか。
○青山座長 そちらの方も決定という前提で、どちらも決定なのです。だから、片方は取消しの申立てで、これは取消決定をする。片方の方は執行許可決定をする。どちらも決定手続で、判断の要件は同じですから、表側から判断するか、裏側から判断するかですから、それが矛盾していたら非常に困るわけです。だから、移送をして併合をしてということになるのではないか。そのきっかけとして通知義務という当事者のイニシアティブを認めたらどうかということです。
○中村委員 勘違いしました。そうしますと、両決定手続を併合させて、それで決定の抵触が生じないようにするということですか。そのために告知義務を課すということですね。
○近藤参事官 それを前提にして、管轄が取消しの場合と執行の場合、後で管轄のところでやりますが、幾つかの管轄がありますので、違う裁判所に係属することがあり得るということを前提にして、そのための調整のきっかけをつくっておきたいという趣旨なのです。
○中村委員 それと、外国仲裁判断の場合には、中止のところで手当てするという考え方ですか。
○近藤参事官 その道も1つあります。
○中村委員 併合できないですから、そういうことですね。
あとは、枠の中に「その効力の停止の申立てがされた場合において」と書いてありますけれども、その、効力の停止の申立てというのは、それはどこにあるのでしょうか。
○近藤参事官 36条の2項です。
○中村委員 モデル法でございましょうか。
○近藤参事官 はい。
○中村委員 これは、要するに外国仲裁判断の場合ですか。日本では、その効力の停止の申立てという制度はあるのですか。
○近藤参事官 これはつくらないということで、先ほどでは大体異論がなかったので、それは外国に限られるということになると思います。
○中村委員 さっきの分ですね、わかりました。
○吉岡委員 確認ですけれども、仮にこの規定を置いたとした場合に、まず申立人に義務を課すわけですね。これは一種の訓示規定なのか、義務違反の場合の効力を何か考えるのかどうかということですが。
それから、申立人だけに求めているわけですけれども、通常は相手方の方で直ちに上申書を出すとか、そういうことがあるだろうと思いますけれども、相手方の方がそういうふうに何かやれば、申立人はこういう形式的に告げる義務もなくなるのかどうか。その2点を少しお伺いしたいのですけれども。
○近藤参事官 訓示的と言うよりも、やはりこういう義務を課せられるということを前提にしておりまして、ただ、これについての違反の効果ということについては、違反の効果は何も考えておりません。また、実質的に相手方からそういうものが出てくれば、こういう義務というのは、当然果たされているので、義務は解除されるというふうに理解していいのではないかと思っておりますが。
○青山座長 要するに、これは自分の方で強制執行したいという人間ですから、むしろ黙って手続をどんどん進めたいというインセンティブが働くと思うのです。だから普通は相手方から、取消しの申立てをしたら、執行決定請求事件でも自分は相手方になっているわけですから、直ちにその事件の方に、自分は取消しの申立てをしたということで、上申書が出てしまうと思うのです。
だから、これは念押しの規定で、果たして要るかどうかというのは若干疑問の余地がある規定なのかなと思っています。
しかし、何もないとつながる余地がないものですから、ここに置いておくと、とにかく最終的に2つはつながるのだということが、この規定によってわかるという、それだけの意味です。
中止の方は、これでよろしいでしょうか。外国に取消訴訟が起こっているという場合に、日本の執行許可請求事件については、一定の期間を定めて中止する。場合によっては、担保を立てさせて執行までいく、執行許可決定を出してしまうという扱いは、これでよろしいでしょうか。
○山本委員 相当の方法により担保を立てるという、「相当な方法」というのは、民事訴訟法76条の規定による担保の提供というふうに理解してよろしいのですか。
○近藤参事官 基本的には、そういうことだと思っています。
○山本委員 要するに民事訴訟法の担保に関する規定が準用されるという理解ですね。
○中村委員 私は、言葉遣いだけの問題ですが、枠内のところに「仲裁判断の基礎となった法令の属する国」とありますが、これはニューヨーク条約の公定訳だと思いますが、法令に対応する英語はどうなっているか、さっきの法律と法令との関係をクリアーにしておいていただきたいと考えております。
○三木委員 細かいところで申し訳ないのですが、モデル法では「相当な担保」か「相当な保証」ですかね、ニューヨーク条約も、英語の表現は違うのですけれども「相当な保障」と。事務局案の方は「相当な方法」と使い分けているのは何か意味があるのでしょうか。
○近藤参事官 御指摘はわかりましたので、ちょっと検討させていただきたいと思います。
○青山座長 1点だけ私の方から、中村委員が先に指摘された取消訴訟の係属する国について、ここでは仲裁判断がされた国、つまり仲裁地国または仲裁判断の基礎となった法令の属する国の裁判所としています。ですから、基礎となった法令の属する国でも取消訴訟が起こされるということをここは認めているわけです。
しかし、どこかの国で日本法を基礎として仲裁がなされた場合に、日本に取消訴訟を起こす余地を認めるかというと、それは、後の管轄のところで出てきますが、認めていません。日本法としては、日本で仲裁判断をした、そういう仲裁判断だけを日本では取消訴訟をやるということにしているのですけれども、ニューヨーク条約やモデル法の関係では、そういうことがあるものですから、外国の方については、こういうことを入れておかないと、どうもまずいのではないかということから、この文言が入っているということを御了解いただければと思います。
この点は、よろしゅうございますか。次は、また難しくなってきまして、検討会資料の33でございますが、今度は準拠法関係の「1 仲裁契約の成立及び効力の準拠法について」ということでございます。
まず、事務局の方から御説明をお願いいたします。
【IX 準拠法関係 〜1 仲裁契約の成立及び効力の準拠法について〜】
○近藤参事官 仲裁契約の成立及び効力の準拠法についての意見募集の結果は、参考資料12の158ページ以下に記載があります。中間とりまとめにおいては、まず第3の1(1)で、局面を限定せずに、枠内と同様の考え方について意見を求めておりますが、これについては賛成の意見が多数でした。しかし、寄せられた理由を見ますと、仲裁判断の取消しや承認及び執行以外の局面について適用することを積極的に求めるものはむしろ少数で、仲裁判断の取消しや承認及び執行の場面を想定しているものというふうに解されるものが多数でありました。また、規定を設けることに慎重な意見もありました。
中間とりまとめ第3の1(2)では、当事者の指定がなく仲裁地が未定である場合に、仲裁の目的である権利または義務の準拠法によるとすることにつき意見を求めておりますが、これについても賛成意見が多数でした。しかし明文の規定を置くことにつき慎重な意見もございました。
これまでの検討会では、仲裁判断の取消しや承認及び執行以外の局面について明文の規定を置くことについては、慎重な意見もいただいており、実務上の要請も余り感じられないというふうに理解しております。
これらの状況に比較法的見地からの観点も加味して、枠内では、モデル法やニューヨーク条約第5条第1項(a)にならい、仲裁判断の取消しと承認及び執行の局面についてのみ規定を置くことを提案するものです。このような規律とすることにつき、御意見をいただければと存じます。
○青山座長 それでは、枠内のように考えることについて、どなたからでも結構でございますが、御意見をいただきたいと思います。
中野委員、いかがでしょうか。前の中間とりまとめだと、まだこういう局面ということは書いていなかったのですが、今度はこういう局面ということを書いていますが、そういう立法の仕方ということについても、御意見を賜われればと思います。
○中野委員 理想論といたしましては、あらゆる局面について規定を設ければ一番よろしいと思うのですが、現実問題としては、ここにお書きいただきましたように、比較法的な趨勢がまず1つある。あと、実務的な必要性の度合いというものもあります。また、第3段階をどうするのかという点について、今まで十分なコンセンサスというのは、恐らくはないと。そうなりますと、このモデル法ないしはニューヨーク条約の線にとどめるというのが現実的な解決ではないかと思います。これに賛成でございます。
○青山座長 いかがでしょうか。
○山本委員 よくわからないのでございますが、これは結局条文としては、準拠法の指定としては、いわば未完結な形で規定を置くことになるわけですね。第3順位については、解釈に委ねるという規定ぶりになると思うのですが、こういうような規定の仕方はできるのでしょうかという疑問なのです。
○中野委員 今、申し上げたように、理想的な形ではないと思いますけれども、現実には各国の立法はここまでしか書いていないというのが大多数です。
○山本委員 日本の準拠法の規定の仕方として、こういう制定はあるのですか。要するに完全に完結した形が書かれていないというのは。
○近藤参事官 今、議論が錯綜しているように思うのですけれども。この意見も、それから中野委員もおっしゃっているのも、モデル法と同じような形で、取消しとか承認・執行の場面で裏から規定するという形にして、準拠法として独立にこの場面だけを規定するということは考えないという前提です。
○青山座長 規定がばらばらになるのです。こっちにも規定があり、あっちにも規定があるということを前提にする。しかし、それでも完結していないということは、そのとおりです。仲裁地法が定まっていない、仲裁地法がわからないと。
○山本委員 その点が疑問です。
○中村委員 私は、この局面において仲裁地が未定ということは、仲裁判断取消裁判ではないと思います。必ずあるので、仲裁地国の裁判所に取消しの裁判を起こされる。妨訴抗弁の話は別だと思うのです。
○山本委員 わかりました。完結しているということですね。
○後藤企画官 承認・執行と取消しに関しては完結ですね。ただ、妨訴抗弁については何も言っていないということになってしまうと。
○山本委員 わかりました。
○青山座長 それでは、御異論がなければ、こういう方向で更に検討を進めさせていただきまして、次は「2 仲裁契約の方式の準拠法について」と、これも難しい問題ですが、お願いいたします。
【IX 準拠法関係 〜2 仲裁契約の方式の準拠法について〜】
○近藤参事官 仲裁契約の方式の準拠法については、中間とりまとめでは、新仲裁法の仲裁契約の方式に関する規定を渉外実質法とする立場を示したところです。これに対する意見募集の結果は、参考資料12の161ページ以下に記載がありますが、賛成する意見が多数でした。
しかしながら、検討会資料3ページの【説明】欄にありますとおり、現在のUNCITRALでの検討状況も踏まえて考えると、現在UNCITRALで検討されている方式に関する案を採用しないで新仲裁法を制定した後、数年後にモデル法が改正され、それを採用する国が出てきたということを前提に考えますと、我が国の方式を渉外実質法ということにしますと、改正モデル法に従った外国仲裁判断を執行することができなくなるのではないかという問題があります。したがって、渉外実質法として規定することの是非についてはなお検討する必要があると思われますので、枠内ではそのような記載としております。この点について何か御意見があればお願いしたいと思います。
○青山座長 これは、中間とりまとめと少し別なニュアンスが入ってきたものですから、今のような説明になったのです。抵触法的な処理ではなくて、渉外実質法の形でやったらどうかという意見が、この前あったのですが、その後、今UNCITRALの議論の中で、それと違うことが数年後に実現した場合に、日本の仲裁法は宙に浮いてしまうのではないかという御疑念から、もう一度両方を検討してみたらどうかという考え方です。
これは、まず、三木委員に御意見を聞いて、その次に中野委員の御意見を聞きたいと思います。
○三木委員 考え方として、両様あり得ると思いますが、私の個人的な考えとしては、結論から言うと、渉外実質法として規定してもよいのではないかと思います。
理由ですが、現在UNCITRALで議論されている書面要件の緩和というのは、これも受け取り方に両様あり得ますけれども、多くの国は、現在の規定を実質改正するのではないと、つまり、現在「書面によらなければならない」という規定は、電子、光学的な処理も口頭引用も、明示的に書面要件を満たしているものとは書いていませんが、この規定でもそこは解釈で認めるという国もあり、もちろん海外にはその裁判例もあるわけです。 したがって、日本法がモデル法に準拠して、更に電子とか若干の緩和を置いた規定を置いて、それを渉外実質法にした場合に、それは口頭引用等のより緩和的な手段を排除はしていない、少なくとも解釈上読む余地はあるというふうに、諸外国では受け取ってもらえると思うのです。
国内の裁判も、そうした経緯を御理解いただければ、ここで言う「書面」は口頭引用は絶対に含まないということにはなるべきではないし、ならない余地が高いのではないかと思いますので、それでいいと私は考えております。
○青山座長 中野委員、いかがですか。
○中野委員 本当によくわからないのですけれども、果たして裁判官にそこまでの解釈を期待して本当によろしいものだろうかという確信を持てなかったものですから、日本としては口頭引用を認めないという形の規定をもし法律の中に置いた場合、そして渉外実質法だという前提で法律をつくった場合には、判断をする側としては、外国が仲裁地であるような場合についても、日本の若干厳しめの書面性を前提にして判断をするという形にならざるを得ないのではないかと思うのです。そうすると困ったことになるのではないかと。
そうすると、やはり抵触法的な処理、仲裁地の法律を使うとか、あるいは仲裁契約の準拠法を使うとか、そういう形での処理を考えていく必要が、今後は出てくるのではないだろうかというふうに個人的には考えています。
○中村委員 今のこの問題は、前回の検討会の検討事項案その17というところで、仲裁契約の書面性についてというのを議論しました。どういった書面要件にしようかという議論だったと思いますが、それとの関係において、やはり議論すべきだと思います。
この問題に相当するモデル法の条文というのは7条がそれに相当するわけですが、7条の規定をどこまで書面要件を緩和するかというのを前回議論したわけですが、7条の規定というのは、モデル法を踏襲するとすれば、モデル法を採用した国に仲裁地がある仲裁契約の方式について定めたものであると私は理解しております。
ということは、要するにモデル法の立場というのは、仲裁契約の方式の準拠法については、仲裁地法によるのだということを示していると私は理解しています。
その場合に、仲裁地法としてどういった書面要件を内容とするかというところは前回議論したところですので、したがって私は、結論的には今回の準拠法規定として仲裁契約の方式について特に定める必要はないというふうに考えます。
すなわち、日本はモデル法を採用するとすれば、仲裁契約の方式については仲裁地法によるという立場を採るわけですから、それを改めて書く必要もないというのが私の理解です。
○青山座長 前回の議論は、日本で仲裁をする場合の議論として、書面性はあそこまでは緩和しますと、そういうことを言っているので、よその国の仲裁契約の方式についてまでは、そこでは何も言っていないと思うのです。
○中村委員 ただ、仲裁地に適用関係を連結させているわけですので、したがって日本でやる仲裁については方式は日本法に従わなければ、それは違法になるということですね。ということは、要するに仲裁地の定める仲裁契約の方式要件を満たさない仲裁契約は無効だということです。
○青山座長 例えば、書面性を日本より更に緩和していて、口頭による引用でもいいという場合に。
○中村委員 だからその場合は、例えば妨訴抗弁になったとした場合に、A国が仲裁地であるとした場合、A国の仲裁地法の定める書面要件を満たしておれば、仲裁契約の方式としては有効であるというふうに日本の裁判所が判断するというふうに私は理解していますけれども。
○後藤企画官 まさにそこのところをどうしたらいいかということを、ここで議論しようということなのです。
○近藤参事官 だから、中村委員がおっしゃるのは、渉外実質法とすることはよくなくて、抵触法処理にすべきだと。抵触法処理にすべきで、その基準としては仲裁地ということで。
○中村委員 抵触的処理については、モデル法の7条に対応する規定でもって、抵触法という規定は内在されているというふうに私は理解しています。
7条の規定というのは、仲裁地が当該国にある場合の仲裁契約の方式について、実質を定めているわけですね。したがって、日本で仲裁をやる場合に、仲裁契約の方式はどこの国の法律によるかといったら、日本の法律によるわけですね。ということは、要するに仲裁地法によると言っているのに等しいと思うのです。
○後藤企画官 日本がそういう制度を採るかどうかということと、外国がどういう制度を採った場合に日本がその外国制度を尊重して適用するかというのは、全然別の問題であって、その問題をどう解決するかというのは、まさにここで議論することではないでしょうか。
○中村委員 私は、少なくとも日本は仲裁地に連結させているということは、一般化すれば当然、仲裁地法に従って仲裁契約の方式を決定するというふうになるのだろうと思いますので、規定する必要は特にないというふうに理解しています。
○青山座長 一般化はできないと思うのですけれども。なぜ一般化ができるのでしょうか。
○中村委員 一般化できるか、できないかというのは議論があるかもしれませんが、ただ、もし設けるとすれば、渉外実質法の中身の話をされておられたように、そういった面ではなくて、日本の仲裁法の7条の規定は仲裁地法によるのだから、仲裁地法が仲裁契約の方式の準拠法とするというように規定を積極的に設けるかどうかという議論につながってくることだと思うのですけれども。それと違う規定を設けることは、モデル法7条の規定の趣旨には反すると私は思います。
○青山座長 方式について、日本法として仲裁地にするという、そこは全然構わないのです。よその国で方式についてどういう法制を採っているかわからないときに、書面性を渉外実質法として規定した場合に、よその国でそれと違う方式を採った場合、日本でそれを承認・執行できなくなってしまう。
○中村委員 渉外実質法という規定を設けずに、抵触法で規定するとして、今のモデル法の7条の仲裁地に連結する考え方を一般化すれば、当然、仲裁契約の方式については仲裁地に客観連結させるという考え方に到達する話だと思います。
○近藤参事官 1つわからないところは、渉外実質法を採らないというのは趣旨としてわかったのですが、抵触法的処理をした場合、仲裁地法によって処理をするというのは、どの条文から読むのですか。
○中村委員 抵触法的処理ということであれば、次にどういう抵触ルールをつくるかということが問題になりますね。したがって、そこのルールを考えないと、この議論は終わりませんね。
したがって、一般化できないということであれば、一般化するためにはモデル法の考え方をくみ取って、仲裁契約の方式については、仲裁地法によるという規定を設けるべきだと思います。
○中野委員 恐らく、今、何も規定を置かないとすると、モデル法の1条に、本法の規定は仲裁地が内国にある場合に適用されるという規定があります。この規定が書面性の規定にもかぶってくると思うのです。したがって、日本が仲裁地であれば、日本の仲裁法が及ぶ、書面性の規定が適用されるという点では、中村さんがおっしゃるとおりの結果になると思うのです。
ただ、そうすると外国に仲裁地がある場合にどうするのかという点は、書いていないと思うのです。そこは全くブランクであって、解釈の余地が出てきて、もし日本が仲裁地であれば日本の仲裁地法によるのだったら、外国が仲裁地の場合にも外国の仲裁地法によるのだろうという反対解釈を採る余地は当然あり得ると思います。
○近藤参事官 今、中野委員がおっしゃった場合に、通常多くの見解からすれば、抵触法処理をする場合には、法例の規定によると。8条の規定によるかどうかというような形で解釈されていくというのが、割とオーソドックスな解釈ではないかと思うのですが。抵触法処理にする場合ですが。
それから、渉外実質法の定めによるのだとすると、前にも言ったかもしれませんが、1条の適用のところで、仲裁地が日本国内、国外にある場合を問わずに、7条の方式規定というのは適用されるというのが、渉外実質法的な規定の処理の仕方になってくるのではないかと。
○中村委員 もう少し付言させていただきますと、私は国際私法のことはよくわかりませんが、恐らく考え方としては、日本を仲裁地とする場合には、日本の仲裁地法である日本法を適用して、仲裁契約の方式の準拠法を決定するということですね。要するに仲裁契約の方式の準拠法は、日本を仲裁地とする仲裁については日本法が適用されるということですね。それはいわゆる一方的抵触規定ですね。それを双方化すると、要するに仲裁地がA国にあれば、A国が仲裁契約の方式の準拠法になるというふうに一般化できるわけではないのですか。
○近藤参事官 いや、その場合にはその条文で、7条については仲裁地がある国の法律によるとか、何かそういう規定が必要になってくるのではないかと思います。
○中村委員 もちろん、したがって、渉外実質法的規定という余地は全くなくて、一方的抵触規定が今既にあるわけですから、それを双方化するという考え方を採るとすれば、さっきからの繰り返しになりますが、仲裁地に客観的に連結させることになると思います。
○三木委員 さきほどの中野委員の御発言に戻るのですが、中野委員は先ほど、例えばモデル法7条に相当する日本法の規定で、口頭引用の条項を置かなければ、口頭引用を認めないという立法判断をしたという前提でお話しになったのですけれども、そこはそういうふうに言われると困るのではないかと思います。
今までの議論の経緯からしますと、確かに現在、モデル法の修正とニューヨーク条約の処理が固まっていない段階で、口頭引用の規定を置くことが立法的に困難であるのは確かですが、その場合にその規定を置かないというのは、UNCITRALの議論の推移を見守るという趣旨であって、置かないという立法決断をしたわけではないと、つまりペンディングにしているということですので、置かないという解釈を一種の検討会の解釈として固めたような前提で以下の議論を進めることには、大変危惧を覚えます。
つまり、仮にその形で立法された場合、国内だけのことを考えてみても、もちろん、議論がどうなろうと裁判所は自由な解釈の余地があるわけですが、しかし立法過程における議論としても、そこは解釈を固めたわけではなくて、まさにオープンだと。特に7条に関しては、ニューヨーク条約体制の中で動いていますから、UNCITRALの議論に従うという前提で話が進んでいるということまででとどめておいていただかないと困るというふうに思います。
そのことを前提にしますと、渉外実質法処理であっても、後は運用上、実務上両様の解釈があるにすぎないと私は考えます。
○近藤参事官 今、三木委員がおっしゃったことは、非常によくわかるのですが、仲裁合意は書面によらなければならないという文言が書いてあって、口頭引用を採用した国が出てきた場合に、口頭の引用でもいいというふうに、解釈として当然に読めるとまで言えるかどうかというのは。
○三木委員 当然に読めるとは言えないですね。でも、当然に読めないとも言えない。
○近藤参事官 中野委員のおっしゃった危惧というのも非常にあり得るのではないかと。仮にその危惧があり得るとした場合に、渉外実質法とした場合には、問題となり得る余地があり得ると。そうすると抵触法的な処理をしておいた方が安全ではあるだろうというのが、今回事務局の方で示させてもらった案の内容です。
○三木委員 そこは、いろんな考え方があり得ると思うのですが、抵触的法処理にするにしても、現在、諸外国の立法で口頭引用のことを明文で書いている国はないのです。みんなUNCITRALの推移を見守っていると。
そうすると、日本法の解釈と外国法の解釈をする場合に同じとは言いませんが、しかし、外国法だって書面と書いてあって、口頭引用は書いていないというときに、やはり裁判所はUNCITRALの議論等を考慮して解釈をすべきだと思いますので、つまり抵触法的処理をすると解決されるかと言うと、やはりされないのであって、結局、渉外実質法的処理であれ、抵触法的処理であれ、ここで言う「書面」というのが世界的にどういう認識で議論が推移しているかということは、考えざるを得ないということを申し上げたいと思います。
○青山座長 よろしいですか、UNCITRALがそういうふうに口頭引用などを認めた場合に、日本法としてさかのぼって、「書面」をそれに合わせて緩和するということにすれば一挙に解決するわけですが、そちらの方は動かないかもしれない。
他面、外国ではどんどんそれに従って法律ができてくるという場合に、それを日本で強制執行を申し立ててきた場合に、三木委員のように裁判所がすべて解釈してくれれば問題はないのですが、やはりかなり苦しいと思うのです。日本は渉外実質法としてそれを指定しておいて、片方では書面はここまでだと言っていて、口頭の仲裁契約が出てきたというときに、それも承認・執行してくれるかというと、開明的な裁判官はしてくれるかもしれませんけれども、そうではない裁判官もいるだろうと。そうするとどうなのかなということなのです。だから、少し弱腰になっているというところです。
○三木委員 もう少し付言しますと、もちろん、裁判官がどう解釈するか予想することはできないのですが、しかし今の議論のような経緯で立法されると、結果的には、日本の裁判官はUNCITRALの議論などは無視して裁判をする危惧が高いという前提で日本は立法を行ったということになるわけです。UNCITRALのモデル法に準拠した規定を置いた場合には、当然各国の裁判官はUNCITRALの議論の推移を尊重するのだという前提で立法を行っている中で、日本の裁判官はそんな議論は無視して裁判しかねないから渉外実質法ではやれないというような議論は、やはり危険な議論かなという気はします。
○近藤参事官 7条の議論とここのところは非常にリンクしていると思うのですが、ニューヨーク条約の解釈の宣言が採択されて、それによってニューヨーク条約まで当然読めますよということがあれば、やはり三木委員のおっしゃったような形の解釈になってくるのだろうと思います。
だから、ニューヨーク条約の解釈宣言がどういうふうになっていくのかとの関係を見極めていかないと、やはり危険性は随分あるのではないかと思っています。
○三木委員 それはおっしゃるとおりで、これも予測ができないのですけれども、少なくとも今まですべての会議に参加した経験からしますと、解釈宣言を更に超えてニューヨーク条約の改正プロトコールが出るかどうかが今議論されていますが、少なくともそれがつぶれた場合に、解釈宣言も更につぶれるということは、−−予想ですから、つぶれた場合に私は責任取れないわけですけれども−−まず考えられないと思うのです。
○青山座長 ほかの方、中村委員も中野委員も抵触法的な処理でよろしいということですね。
○中村委員 今のUNCITRALで議論しているのは、書面要件をどこまで緩和するかという話であって、それは渉外実質法にするとか、抵触法的処理をするとか、国際私法のルールについては議論はされていませんので、その問題とはまた違う問題だと理解しております。
○青山座長 もちろんそうなのですけれども、ここでの案をどうするかということで、ほかの方はいかがでしょうか。
重箱の隅をつつくような議論かもしれませんけれども、やはりかなり大事なことではあると思います。
では、これはもう少し検討させていただいてよろしいでしょうか。
それでは、その次に行かせていただきたいと思います。
次は「3 仲裁可能性の準拠法について」の問題と「4 仲裁手続の準拠法について」の問題です。
【IX 準拠法関係 〜3 仲裁可能性の準拠法について、4 仲裁手続の準拠法について〜】
○近藤参事官 まず、仲裁可能性の準拠法について御説明します。中間とりまとめでは、枠内同様、仲裁判断取消し並びに承認及び執行の局面につき規定を設ける案を示しました。これについての意見募集の結果は、参考資料12の162ページ以下にあるとおり、賛成意見が多数でした。
また、これまでの検討会の議論でも、仲裁判断の取消しや承認及び執行以外の局面を含む一般的な形で規定を設けることについては、なお慎重な意見が多数でした。枠内は、これらを踏まえたものですが、このように考えることについて、御意見をいただきたいと思います。
次に、仲裁手続の準拠法について御説明します。この点の意見募集の結果は、参考資料12の164ページ以下に記載があります。中間とりまとめでは、枠内と同様の案を示しましたが、これについては、賛成意見が多数でした。
仲裁手続の準拠法については、新仲裁法の適用範囲に関する規定の一環として位置づけ、その条文において、新仲裁法の規定は、原則として仲裁地が日本にある仲裁にのみ適用する旨の規定をすることになると考えられます。検討会では枠内のように考えるということで特段の異論はなかったと考えておりますが、御確認いただきたいと思います。
○青山座長 これはいかがでしょうか。まず、仲裁可能性の準拠法ですが、仲裁判断取消しの方は、これでいいと思うのです。もともと日本で仲裁判断しているわけですから、日本法が仲裁可能性を認めないものについて仲裁判断してしまえば、日本で取消しになる。
ところが、承認・執行の局面ではどうなのでしょうか。外国では仲裁可能性が非常に広く認められている。法廷地である日本で強制執行をやるときに、日本では認めません、よその国に行って執行してくださいということでいいかどうかということについて御議論をいただきたいと思います。
○中村委員 モデル法もニューヨーク条約も、いわゆる執行地国法にしてあります。したがって、それを変える理由はないと思います。恐らく実質的には、仲裁可能性は公序に関わる問題ですので、私は公序と同じ要件でもって判断されるのだろうというふうに思います。したがって、規定としては認めていいと。
○青山座長 それでよろしいですね。それでは仲裁可能性の準拠法については、そういうふうにさせていただきまして、仲裁手続の準拠法、これは仲裁地法ということで、前から議論があって大体こういうふうに落着したと思いますが、よろしゅうございますか。
よろしいですね。それでは、次は裁判所の管轄の問題をお願いいたします。
【X 裁判所の管轄について】
○内堀補佐 では、私の方から説明させていただきます。
裁判所の管轄についての意見募集の結果は、参考資料12の166ページ以下に掲載されているとおりでございます。
ます、事物管轄については、中間とりまとめにおきまして、地方裁判所のみに管轄を認めるA案と、地裁及び簡裁に管轄を認めるB案の2つの案を設けましたが、意見募集の結果ではA案が多数となっております。枠内でもこれに沿った考え方を示しておりますが、寄せられた意見の中には、簡裁の競合管轄を認めてもよいのではないかという意見もございました。
土地管轄についての枠内の案は、中間とりまとめで示された案に準じたものであります。しかし、レジュメの6ページ【説明】の2(2)以下に記載しましたとおり、何点か変更を加えております。変更を加えました場所及び理由については、それぞれレジュメに記載したとおりであります。意見募集につきましては、基本的な方向性としては、中間とりまとめに示された案に賛成する意見が多数となっておりますが、証拠調べの援助につきまして、仲裁地が外国にある場合にも援助の対象とすべきであるという意見も若干ございました。また、当事者が管轄合意をした場合には専属管轄を定めたものと解すべきであるという意見もございました。
従前の検討会でも特に仲裁地が外国にある場合の援助については議論があったところだと存じます。
以上の点につきましては、意見募集の結果も踏まえて御議論いただければと存じます。
○青山座長 これはかなり長いのですけれども、まず、事物管轄と土地管轄に分けまして、事物管轄は地裁。
土地管轄は項目が4つありまして、仲裁人とか仲裁廷に関して裁判所に援助を求める場合、証拠調べの援助の問題、取消しの問題、承認・執行の問題と、この4つに分けまして、それぞれこういうふうに管轄を定めると。
まず、仲裁人の選定という入り口の問題は、仲裁地が日本にある場合はa、b、cのうちのいずれか、仲裁地が未定である場合には、イのa、bというもののいずれかと。
証拠調べの場合には、証拠物があるところというようなことでア、イと。
取消しの場合には、仲裁地がもう決まっていますから、仲裁人の援助の場合と同じ、このいずれかに申し立てる。
執行の場合もアのほかに、これは実際に強制執行しますから、差押えの目的物があるような場合に、あるいは目的物がある地、あるいは相手方の財産の所在地というようなところというように個別的に並べてある。
3のところでは、先ほどの中村委員の御指摘も含めて、移送する。特に取消しの問題と執行の問題が出てきた場合には、3の(2)(3)でその問題を処理するという原案でございます。管轄の問題をこれだけ詳しく議論していただくのは、実質的には今回が初めてだと思いますので、どこからでもどうぞ。
○近藤参事官 1点、レジュメをつくった後で問題意識を持ったところなのですが、2の(1)のイのところで、仲裁地未定の場合ですが、その場合に(1)の場合を一応全部前提にして、管轄を定めているというふうな形で考えておりました。
ただ、この中で仲裁廷の仲裁権限の有無についての決定について、仲裁地未定の場合に、仲裁権限の有無というのはいろんな問題があって、例えば仲裁可能性の問題だとか、各国、仲裁地によってかなり違うというようなこともありますので、イのところというのは、言わばサービス的に何か日本とのとっかかりが将来あるかもしれないものについてやってあげましょうというところがイのところなのですけれども、仲裁廷の仲裁権限の有無のところについては、よくよく考えていくとなかなかそこまでやると難しいのかなと。
逆に、仲裁廷の仲裁権限の有無が問題となる場面というのは、通常は仲裁地がもう決まっている場面の方が多いのであって、仲裁地未定の場合にあえてこういうことを裁判所がやらなければいけないということにした場合には、なかなか難しい問題が生じるのではないかということを、事務局の中で昨日から議論をし出したところで、ここについてはもしかしたら除外する可能性もあってもいいのではないかと思っております。
まだ、事務局側の方も方向性が出ているわけではないのですが、そこのところについては見直しのことも考えたいというふうに思っているということで、その点も念頭に置いて御議論いただければと思います。
○中村委員 証拠調べの援助というところでございますが、確認事項ですが、国際仲裁を視野に入れた場合には、証拠方法が外国にある場合には、外国を仲裁地とする仲裁手続においても援助協力するということでよろしいのでしょうか。
○内堀補佐 基本的には、証拠調べの援助を定める規定は、第1条の適用範囲の問題として、仲裁地が外国にある場合には適用対象にはしないということを考えておりますので。
○中村委員 ただ、2の(2)は(1)とはかなり変えていますが、(2)というのは国際裁判管轄の規定という部分にも触れているように思うのです。そうだとすれば、イは証拠方法がある裁判所という場合には、外国が仲裁地である仲裁手続を排除しているかは、この内容からは読み取れないと思うのですけれども。
というのは、さっき青山先生がおっしゃられましたように(1)の仲裁地が未定である場合というのは、まさしく内国仲裁であるかどうかはまだわからないといった渉外的な仲裁も視野に入れているわけですので、(1)では国際裁判管轄に関する規定も当然適用があるのだということだと思いますので、その関係から申し上げますと、(2)についても国際裁判管轄規定だというふうに読むのが自然だと思って質問した次第でございます。
○内堀補佐 その点は、これは管轄について定めたところでございまして、日本の裁判所がどの範囲で権限を行使するかは、実はモデル法の1条2項に対応する規定とカップルで定めて考察しなければならないところです。
基本的には、モデル法第1条2項と同じように、仲裁地が日本にある仲裁についてのみ適用されることです。
証拠調べの援助に関する規定もそこからはみ出すものではないということを予定しておりますので、基本的には証拠調べの援助も、日本に仲裁地がある仲裁について援助対象とする。その場合の管轄を定めるものが、この枠内の案ということです。
○中村委員 ただ、仲裁地が未定の場合には、仲裁人の選定等々については、日本の裁判所は援助協力するということですね。
ということは、さっきのモデル法の1条の適用関係からすると、適用を排除しているわけですね。要するに日本に仲裁地がなく、未定であっても、仲裁人の選定については、日本の裁判所は仲裁人を選定してあげましょうというのがお立場ですね。
仲裁人の選定については援助してあげるけれども、証拠調べについては援助しないというようなことでは平仄が合わないのではないのですか。
○内堀補佐 そこはいろいろ考え方はあろうかと思いますが、仲裁地未定である場合も常に援助対象としているわけではなくて、相手方または申立人の住居所等、つまり日本と一定のつながりがあって、援助の必要性が認められるだろうという範囲で、援助対象としています。
○中村委員 とすれば、証拠調べについてはもっと関係が深くて、証拠方法が日本にあると、そうすると国際司法共助というルートは経ないで、直接日本の裁判所に対して証拠調べの援助を求めることができるというのは、もっと利便性が高いのではないですか。
○近藤参事官 それは前にも議論をさせていただいたところだと思うのですけれども、ここで、一応事務局の方でつくっている案としては、この証拠調べの援助自体は、国内に仲裁地がある事件についての援助を定めて、国際司法共助のルートで裁判所経由で来るものについて、それについて援助するというのは、また別のルートで考えるという形で仕切ったらどうかと。
○山本委員 その議論の時に、外国では本当にそんなことをやっているのですかということを私が質問したような記憶があるのですが、要するに仲裁機関が外国の裁判所にまず何か申立てをして、外国の裁判所から日本の裁判所に来るという話ですね。その外国の仲裁機関が外国の裁判所に何かを申し立てるというようなスキームがあるのかどうかというのが、日本だけがそういうことを前提にして立法したとしても、ほかの国で全然そんなことがなかったら何か意味がない規定になってしまいますね。中村委員がおっしゃるように極めて利便性が低い手続になってしまうような気がするのですが、その辺りは大丈夫なのでしょうか。
○近藤参事官 ドイツなどでは証拠調べの援助を裁判所がやるということがございますね。証拠調べの証人尋問だとか何とかというのは、裁判所の事件として受けた場合に、民訴条約等によって、更に日本の方に嘱託するというのは当然あり得ると思いますが。
○山本委員 仮に日本でやろうとして、例えばイギリスに証人がいて、日本の仲裁機関が聞きたいという場合には、日本のどこかの地方裁判所にイギリスにいる人の証人尋問をしてくれということをまず申し立てるという前提ですか。
○近藤参事官 裁判権の問題との関係でも、日本の国内にいない人、日本国籍のない人が、裁判所に対してこういうことをしてほしいということを申し立てること自体、なかなか法理論的には難しいことではないかと思っているのですが、その点はいかがでしょうか。
というのは、日本の領土内にもいなくて、属人主権としての日本国民でもない人が、例えばアメリカで日本の裁判所に対して直接に証拠調べをしてほしいということを申し立てていくということを直接に認めるべきなのでしょうか。
○山本委員 しかし、今のようなイギリスにいる人に対して、日本の裁判所に証拠調べの申立てをするというのも何か変なような気がするのですけれども。そもそも日本の裁判所の司法権が及ばない人に対する証人尋問の申立てを日本の裁判所にするということですよね。それは逆に、イギリスの裁判所はイギリスに住んでいる人に対して、証人として喚問する司法権を有しているわけですから、イギリスの裁判所に申し立てる方が、司法権の関係からすれば素直な気がします。
○近藤参事官 司法権は国家主権との関係がございますので、国家主権をまたぐ場合に、何か条約だとか、何かしかのものがどうしても必要になってくると思うのです。
○山本委員 これは、どの程度共助と考えるかによりますけれども、しかし、今は結局証拠調べは、私人が申し立てることにしたわけですね。私人の申立てによってやるわけですから、それは申し立てる人がイギリス人であろうが、アメリカ人であろうが、別に国家主権との関係は特に問題ないのではないでしょうか。
○近藤参事官 少なくとも領土主権の範囲内に入っているとか、何かしらの関係が。
○山本委員 その証人が日本にいればというのが前提ですが、アメリカの仲裁機関の当事者から日本の裁判所に日本にいる証人の尋問をしてほしいという申立てが直接来たとしても、それは私は特に違和感は感じないですけれども。
○三木委員 いずれにしても、山本委員がおっしゃる趣旨は、もちろんこの場で諸外国の立法例や運用例の御紹介があったかどうか記憶がないのですけれども、要するにほかの国で直接的な証拠調べの共助体制が整っているときに、日本だけがはみ出すようなことにはならないようにしてくれということだと思うのです。
それはもっともなことで、どこの国もやっていないことをやれということではないし、逆にほかの国が一般的にやっていることを日本だけやらないということにもしてほしくないと。そこは世界的な趨勢にと言うか、現状に合わせていただきたいということだと思うので、是非その趣旨で。どちらであるかは存じませんが、いずれにしても我が国の立法が、そういう世界の共助体制から一国だけはみ出すというようなことだけはないようにしたいということは間違いないところだろうと思います。
○中村委員 少なくともドイツは、仲裁地は外国であっても援助すると書いてあるわけですから、その部分はドイツにならっても別におかしくないと思います。
○秋吉委員 国際的にやりとりするときは、裁判所対裁判所でも、送達でも何でも共助の関係でお願いしていますのに、仲裁廷の場合だけ直接に援助の申立てができるというのは、やはり全体の枠組みと大きく離れると思いますので、なぜ裁判所対裁判所の場合に、共助を通していかなければいけないのに、仲裁で私人になると直接にできるのかというところは、やはり説明をしていただく必要はあるのではないかというふうに思いますけれども。
○中村委員 これはもう既に議論が済んだ話であって、日本が仲裁地である場合には、証拠調べに関して裁判所に私人が援助を申し立てることができるというところは、もうコンセンサスが得られているわけですね。
○秋吉委員 日本がですね。
○中村委員 日本が仲裁地で、仲裁地をここでやる場合です。次は、私人がだれか、国籍はどこかと、住所はどこかという話ですね。そうすると、ブラジル人が日本で仲裁をやっているという場合に、ブラジル人の仲裁人が裁判所に証拠調べを申し立てる場合と、ブラジルで日本人が仲裁をやっていて、日本にいる証人の証拠調べを裁判所に申し立てる場合と、その違いはないのではないですか。
○秋吉委員 裁判所としては、事件の実態というのは基本的には把握していない、本当に援助させていただく、こういう立場ですが、想像ですけれども、日本の仲裁廷等であれば、容易に連絡が取れて疎通も図りやすいだろうと思うのですが、そこが外国になると、やはり随分違ってくるのではないかという認識があります。
○青山座長 その点はちょっと。(2)の証拠調べの問題で、外国で仲裁が行われているものについて、日本の裁判システムで受けられるかどうかという点については、もう少し世界の趨勢を見て。
○三木委員 今のこととは別ですけれども、確認を若干したいと思いますが、2の(1)のイに関しては、これはモデル法の1条2項に相当する規定の列挙条文に入れるという趣旨ですか、入れないという趣旨ですか。
○内堀補佐 多分、これは別項を設けて、仲裁地が未定であるが、これこれの場合には何条も適用するという形で規定することになるのではないかと、今のところ考えております。
○三木委員 わかりました。私もその方が、明らかに域外適用の規定に入れるよりもよろしいかとは思います。
これも同じく確認の趣旨ですが、2の(1)のアのa、b、cについては、どれを優先的に適用するかという点について軽重を設けておりませんけれども、これはaの合意があった場合には、それが専属的合意か、付加的合意かという解釈にかかってくる、まさに解釈に委ねると。
多くの場合、合意があれば、それは専属的合意と解釈されるべきことが多いと思うのですが、それは、そう解釈されればa項が優先的に適用されるというだけの話だと、そういうふうに理解してよろしいでしょうか。
○近藤参事官 専属的合意だということであれば。
○山本委員 しかし、3の(2)の裁量移送においてはかぶるということは当然だと。専属的合意だとしても、同じ条件でほかの裁判所へ移送ができると。
○近藤参事官 専属管轄ではございませんで、あくまでも合意管轄ですから移送ができると。
○山本委員 これはもちろん、消費者対事業者が、あるいは労働者がどうなるかわかりませんが、その間の合意にももちろんこれは適用され得ることがあり得るとすれば、そこは確認しておいた方がよろしいかと。
○青山座長 3の移送についてはどうでしょうか。これについて若干御意見を賜わりたいのですけれども。
○吉岡委員 今の点ですけれども、移送の場合の職権というのは、2の(3)と(4)に絞ってしまったのですよね。前の中間とりまとめの時には、多分そういう制限はなくて。
ですから今消費者の問題はどうなるかと思いますけれども、例えば2の(1)とか(2)の場面で、特に(1)の入り口の場面でも、遠隔地や何かで、行きたいけれども少し遠い、何とか裁量で移送してもらえないかという余地がなくなるということになりませんか。
○近藤参事官 取消しや承認・執行と同じような形の裁量移送というのはございません。
○吉岡委員 そうですよね。だからそれはむしろあった方がいいのかなと思うのです。つまり、今言ったような形の事例で、せっかく説明を受けて、この際、仲裁に乗ってもいいかという人が、でも遠いから少し気が進まない、せめて移送してほしいという場面を切り捨てることになりますね。なぜ絞ってしまったのか、ここでは合理化を図っているという説明しかないのですが。
○近藤参事官 今の問題提起は、消費者の問題とか、そういう問題を念頭に置かれていると思うのですが、それについてどういうふうにするのかというのはまた別途考えているところですので、一般的な場合を念頭に置いて議論していただいた方がいいかなと思っておりますが。
○吉岡委員 特別な移送の規定をどこかでつくるという発想ですか。
○内堀補佐 合理化を図っているということについて、ちょっと付言させていただきますと、もともと仲裁人の選定の時は、1つは援助として迅速に機動的に対応することが求められていることと、それに対応して、不服申立てもない裁判手続になると思います。そのような手続について裁量的な移送を認めた上、更にそれに対して不服申立てを認めるということになると、移送を巡る裁判手続だけがやけに肥大化すると言いますか、やや過重装備ではないかということで、簡易とは言いませんが、迅速に機動的にさっさとやる必要がある手続でございますので、第一次的判断で決着をつける、あとは仲裁人選定や忌避を巡って手続をしていただくという形ではどうかという形で提示したものでございます。
○吉岡委員 つまり、その部分は、遠くても、そこで済ませていただきたいという趣旨ですか。
○山本委員 実質的に見て、(3)とか(4)というのは、さっきの議論のように、口頭弁論を開いたり、当事者が立ち会うような期日を設定して行う、判決手続に近い手続ですから、どこでやるかというのはかなり重要と思うのですが、(1)とか(2)の手続というのは、恐らくよほどのことがない限り書面手続で判断するような、その程度の手続ではないかと思いますので、どこでやるかということは、それほど重大な問題にはならないのではないかという感じはしますけれども。
○青山座長 よろしいでしょうか。移送の余地をもう少し認めたらいいのではないかという吉岡委員の考え方もありますので、更に検討させていただくということにさせていただきたいと思います。
それでは、次は、多数当事者仲裁という一番難しい問題でございますが、まず、事務局の方から説明をお願いいたします。
【XI 多数当事者仲裁について】
○内堀補佐 引き続きまして、私の方から説明させていただきます。
多数当事者仲裁の問題につきましての意見募集の結果は、参考資料12の175ページ以下に掲載されているところでございます。
その結果によりますと、大枠といたしましては、当事者の合意を基礎として多数当事者仲裁の形成を許容するという考え方に賛同する意見が多数となっております。しかし、寄せられた意見の中には、規定を設けることは時期尚早ではないか、あるいは具体的な規定を設けることは困難ではないか、かえって手続の柔軟性を失わせるのではないかといった指摘もございました。
枠内の案は、中間とりまとめで示された案にほぼ沿ったものとなっておりますが、レジュメの9ページの1の【説明】欄に掲げました点、具体的には参加の時期についてですが、既存の仲裁手続の仲裁廷が構成された後にのみ認めるという形に、実質的な変更をしております。
意見募集の結果や従前の検討会の御議論も踏まえて御検討をお願いしたいと存じます。
○青山座長 これは、3つに分かれておりますが、まず1が、当初から3人以上の者を当事者として仲裁を行う場合。2は、既に行われている仲裁手続に後から第三者が参加していくという場合には、全員の同意がなければだめだと。3は、仲裁手続の併合、2つの手続が行われている場合に向こうの手続をこっちへ持って来いということを言うには、仲裁廷も含めて全員の同意がなければならないという案でございますけれども。
多数当事者仲裁は、これ以外にもたくさんの場合があると思いますが、これは基本的には3つの場合だけ、非常にシンプルな形に整理したという案だと思いますが、これについて御意見を承りたいと思います。
○中村委員 私は、前回の案の時にも申し上げましたが、今回の案を見ても同じことを感じました。
つまり、併合、参加の規定は、結局実質的には仲裁人と関係者すべての同意が条件になっている。したがって、もし2項、3項の規定がなくても、併合あるいは参加して手続を進めるということを当事者並びに関係者、それと仲裁人、すべての者が同意すればできることであって、それを書いただけにすぎないので、したがって2項、3項は、私は規定する必要は全くないと考えております。
1項については、内容的にはいじるところがあるかと思いますが、詰まるところは結局、多数当事者仲裁の場合に、仲裁人が選定できない場合にどうするのかと。今、アドホック仲裁ということを視野に入れて申し上げておりますが、その場合、モデル法の規定ですと、10条に当事者は自由に仲裁人の数を定めると、その定めがないときは仲裁人を3名とすると書いてありますので、したがって、この規定は多数当事者仲裁というものを視野に入れていないのだと思いますし、かつ、それは多数当事者仲裁には不適当ということになることは異論のないところだと思うのです。したがって、多数当事者仲裁の場合に、仲裁人の選定ができない場合に裁判所が援助してあげるというところが必要になってくると思います。
1項の中にいろいろお書きになられておりますけれども、私は結局のところ、当事者が仲裁人の選定を行うことができないときは、裁判所は当事者の申立てにより必要な数の仲裁人を選定するというぐらいの規定で、例えば必要な数の仲裁人が選定されないときに仲裁人の数を定めるというのが入っていますけれども、仲裁人の数を定めた場合に、次に仲裁人の選定方法をどうするかとか、いろんな問題が出てきます。
したがって、多数当事者仲裁で仲裁人の選定ができないときには、裁判所は必要な数の仲裁人を選定してあげるというポジションを取って、その旨条文として規定をしたらもっとシンプルでわかりやすい規定になるだろうと感じております。
○松元委員 今の中村委員の意見に賛成です。ここに書かれていることは、説明としてはよいと思いますが、法文として載せるのであれば、非常にシンプルなものでよろしいかと思います。
○三木委員 私は、2項、3項の原案のような形で置くことに賛成です。確かに全員の同意が基本形になっていますから、条文がなくても解釈で認められる余地が高いとは思いますが、あえてこのような規定を置いて、できることを確認するということに十分な意味があろうかと思います。
また、2項であれば(3)、相当でないとか、手続が遅延するおそれがあるときには許可を与えないこともできる。あるいは3項で言えば(2)で同様の規定が置かれているということで、必ずしも全当事者が合意すれば無条件というわけでもないということも規定されており、この規定自体も仲裁廷の後見的な機能という意味から妥当な規定と思いますので、これは必ずしも解釈で導かれるとは限らないわけですから、十分意味のある規定だと思います。
○本東委員 私も、運用でできるとしても、2項、3項を含め規定しておく方が、運用しやすくなるという効果は非常にあると思います。
○青山座長 ほかはいかがですか。これは今日初めてですので。
○吉岡委員 参加とか併合という手続があり得るということで、やはり規定しておいた方がいいだろうと思います。
ただ、ここにある2項、3項に、確かにここまで書くわけではないのでしょうけれども、末尾にあるとおり、もう少し大綱的にも言えるのかどうか、なお検討していただければと思います。
○青山座長 よろしいですね。では、そういう御意見があったので、更に検討させていただくということにさせていただきたいと思います。
それでは、仲裁費用と仲裁人の報酬をお願いします。
【XII 仲裁費用及び仲裁人の報酬について】
○内堀補佐 では、引き続き御説明させていただきます。仲裁の費用及び仲裁人の報酬の問題についての意見募集の結果は、参考資料12の207ページ以下に記載しております。
今回の枠内の案は、中間とりまとめにおいて示された案をほぼ踏襲しておりますが、中間とりまとめにおきましては、費用の予納命令に関しまして、命令の名宛人でない他方の当事者に、予納すべき額を代わって支払う機会を与えるものとされていたのに対し、今回の枠内の案では、手続の遅延を抑止する見地から、このような手順は採用しておりません。
意見募集の結果では、中間とりまとめで示された案に賛成する意見も多かった一方、この問題は、当事者と仲裁人間で律せられる事柄であり、規定は不要ではないかといった意見、あるいは仲裁人の報酬を仲裁廷が定めることが妥当かといった意見も寄せられております。
従前の検討会の議論におきましては、何らかの形で規定を置くということについてはほぼ異論のなかったところだと認識しておりますが、その具体的規律を枠内のような案とすることについて、御意見をいただきたいと存じます。
○青山座長 これは仲裁機関の関係者から、まず御意見を伺いたいと思いますが、国際商事仲裁協会の中村委員。
○中村委員 まず、ちょっとわかりづらいところがございまして、質問させていただきたいと思いますが、1(1)の3行目の「また、仲裁廷が定めた仲裁費用又は当事者が合意により定めた仲裁費用について」というところの意味が、前後の関係からして、何をここで規定しているのかよくわからないというところがございます。
と言いますのは、当事者間に別段の合意がある場合を除いて、仲裁廷は仲裁に関して当事者が支出し、また負担した費用のうち、仮に1000万円使ったけれども、仲裁廷がそのうち手続上必要だというふうに判断したものを仲裁費用として、その旨の範囲を定めて、そして各当事者が負担する額を定めるということだけでいいのではないかと思って読んだのですが、「また」という部分ですが、これはどういう意味をここで付けておられるのか、そこをまずお伺いしたいのですが。
○内堀補佐 まず、前段部分の「該当するものの範囲」というのは、各当事者が支出なり負担した費用のうち、仲裁手続に必要な費用として、具体的にはどれが当たるかというものの枠を定めるということです。
○中村委員 枠というのは、項目も含めてですか。
○内堀補佐 項目も含めてです。
○中村委員 例えば、代理人弁護士費用を1億円使ったとしたとした場合に、代理人弁護士費用の1億円というものを仲裁廷に対して当事者がそれを仲裁費用としてくれという申出をしますね。そうすると、まず、それを項目として認めるか、認めないか。認めた場合には、1億円が妥当かどうか、必要かどうかというのが(1)(2)となっているわけですね。
○内堀補佐 はい。それは当事者が定めていなくて、仲裁廷が定めるというのは前段ですが、具体的範囲、例えば総額幾らかかったけれども、仲裁費用として計上するのはこれだけにしようと当事者間で合意ができていれば、それはそれでいいことかと思いますので。
○中村委員 それは、「当事者間に別段の合意がある場合を除き」という最初に書いてある部分とのつながりでは読めないのですか。
○内堀補佐 それは、その範囲につき当事者間で合意がある場合ということですね。
○中村委員 「除き」というのがかかるのは「範囲を定め」までですか。
○内堀補佐 「当事者間に別段の合意がある場合を除き」は、意味的には全部にかかっているので。
○中村委員 そうすると、「また」以下の「仲裁廷が定めた仲裁費用」というのは何を指しているのですか。
○内堀補佐 前段に基づいて仲裁廷が範囲として定めた仲裁費用です。
○中村委員 「又は当事者の合意により定めた仲裁費用」というのは。
○内堀補佐 当事者の合意があるために、仲裁廷自体では定めていないけれども、計上されるべき費用と。
○山本委員 この「別段の合意」というのは、二重の意味があるのでしょう。確かにこの文章の書き方は、法文としてはあまりよくないと思います。範囲までだけ定めている合意の場合もあるし、負担の額まで定めてしまっている合意もあって、両方同時に書いてしまっているということではないですか。
○三木委員 これはもちろん、立法化する時には、項を分けるとか何かするのでしょうから。意味的にはこれでよろしいのではないかと思います。
○中村委員 それから、実務的な側面から申し上げますと、仲裁人の報酬の2項ですけれども、「当事者間に別段の合意がある場合を除き」と書いてありますけれども、これは実務で考えられなくて、合意があるとすれば、「当事者と仲裁人との間に別段の合意がある場合を除き」だと思うのです。当事者同士が勝手に仲裁人の報酬を決めるということは、まず考えられないですね。これは誤記かもしれませんが、「当事者と仲裁人との別段の合意がある場合を除いて、仲裁廷は」ということだと思います。
「相当な額」ということですけれども、当事者と仲裁人との間に合意がない場合に、例えば仲裁人が10億円の報酬を定めて、当事者がそれを不服だと言った場合に、その合理性について裁判所に不服の申立てはできないのかどうかといったところを、非常に私は懸念しております。
というのは、機関仲裁でそういったことはありませんが、アドホック仲裁の場合に、仲裁廷が相当の額を決めた場合に、相当の額が相当ではなかったといった場合にどう処理するのかというのが解決されなければいけないのかなと。
もう1つは、仲裁人の報酬に加えて、仲裁人の旅費などの費用もここでメンションしておかなければいけないと思います。
以上が気がついたところでございます。
○青山座長 どうもありがとうございました。ほかの仲裁機関で、この規定で障害があるかどうか、いかがでしょうか。
○松元委員 表現上の問題は別としまして、「当事者間に別段の合意がある場合を除き」と、今、御説明がありましたように、代理人の費用なども考えられるということですから、結構だと思います。
○青山座長 建設仲裁の方はいかがですか。
○本東委員 行政型の組織ですので、少し仕組みが違うところがございます。特に強い懸念はございません。
○青山座長 弁護士会の仲裁の方はいかがでしょうか。
○吉岡委員 これは、「当事者間に別段の合意のある場合を除き」ですから、機関仲裁はそれぞれ定められるということですから、全く支障はないと思います。
ただ、形式上、冒頭に「当事者の別段の合意がある場合を除き」というふうにしてしまった方がすっきりするのではないでしょうか。今の話は全部1、2、3それぞれに来ていますけれども、全体的に、そういう別段の合意のほかにこうするというふうにした方が、先ほどの御質問などのところもすっきりするように思いますけれども。
○青山座長 これは全部同じ言葉が入っているのですね。わかりました。
○近藤参事官 先ほどの中村委員からの御質問の関係ですが、2項のところの「当事者間に別段の合意がある場合を除き」というのは、主に機関仲裁のことを考えておりますので、規約でできるという根拠はまさに当事者間の別段の合意の問題なので、仲裁人と当事者で合意すればいいからそういう形の語句ではないかというのではなくて、むしろやはり当事者間の別段の合意ということを前提に書いておいた方がいいと思ったのですが。
○中村委員 私は、機関仲裁の場合には、仲裁規則というのがありますけれども、それに拘束されるのは当然当事者が申立てして、被申立人は仲裁契約しているわけですから、仲裁規則に拘束されますね。
○近藤参事官 仲裁規則に拘束されるという根拠は、当事者間の合意だからということですね。その合意に根拠があるのではないでしょうか。
○中村委員 合意に根拠がありますけれども、ただ仲裁人がその後仲裁規則に合意することによって、初めて関係当事者すべてが別段の合意をすることになるわけですね。したがって、当事者間の別段の合意だけでは足りないのではないでしょうか。
○三木委員 ただ、仲裁人の報酬の合意は、当事者と合意するとは限らずに、仲裁機関と仲裁人が合意するということが恐らく普通ではないかと思うので、今、中村委員がおっしゃっているのは、それは通常の契約法理の問題に還元される問題で、仲裁法としては、原案のように当事者間の別段の合意ということで押さえておけばいいと思います。
○近藤参事官 もう一点の「相当な」というところなのですけれども、法文としては「相当な」としか書かなくて、不相当な場合は別途民事訴訟で争っていただくということになるのではないかと、これは弁護士報酬でも現行のものと同じことになるのではないかと思っています。だから、それについては別に何も法文の手当てをしないというふうに考えております。
○中村委員 不服申立てを認めないわけですね。
○近藤参事官 不服申立て云々の問題ではなくて、民事訴訟法上で、仲裁人の方からもっとよこせと言うのか、債務不存在確認を起こすのかという形で解決すると。
○三木委員 恐らく、不服の申立てという問題ではなくて、仲裁人に関する契約の有効性とか、相当性に関する裁判の問題になろうと。
○中村委員 私は、単にイギリスの仲裁法にたしかそういう規定があったと思いましたので、申し上げただけでございます。
○山本委員 今の点は、私もそれで結構だと思います。
その場合に仲裁費用に含めると、仲裁費用の部分の判断は、仲裁判断になってしまうわけですね、その争い方はどうなるのですかね。つまり、一種の既判力が生じるような気がしますけれども。
○三木委員 山本委員の御疑問は、今、伺っていてもっともな面もあると思います。この原案は、仲裁費用を含めることによって、執行の問題をクリアさせるために置いた規定だと思いますので、その点の手当ては要ると思いますが、他方で、山本委員のような疑問が生じないようにするという手当ても必要だろうと思います。
○近藤参事官 考えておりましたのは、仲裁判断に仲裁費用として含めさせられてしまって、債務名義としてでき上がった場合には、それが不相当であるということで請求異議という形でそれを排除していくか、別途に訴訟法上のことで争っていくと思ったのですが。
○山本委員 請求異議は難しいのではないでしょうか。基準時後の事由ではないですから。既判力をもろに破るという話になってしまうと思うのです。あるいは、この部分については既判力を与えないとするか。
○内堀補佐 仲裁判断として仲裁費用を示された場合には、相手方当事者との関係で既判力が生じるということはそのとおりだと思いますので、例えば2対1の割合で負担せよといった場合、過剰に負担する分をバックしてもらうという形になると思いますが、それが仲裁人との関係で既判力が生じていることではないので、この案の意味の前提としては、理屈から言いますと、不当利得の返還になるので、それでやるか。
○山本委員 仲裁廷が自分の報酬は10億と決めて、10億を訴訟費用にしてこっちに払えというような命令を出した場合に、仲裁当事者間の判断について既判力が生じないかどうか、生じるというのは、今の話からすれば明らかに不適当なので、そこは何らかの手当てを考えなければいけないのではないかと。
○内堀補佐 その点の問題は、あろうかと思います。
○青山座長 費用と報酬の問題は、いろいろ御指摘いただきましたので、更に考えさせていただきたいと思いますが、この資料の最後の11ページに後注の1と2がございます。これについて、事務局の方から御説明いただけますでしょうか。
【後注 仲裁人の責務等及び守秘義務について】
○近藤参事官 後注には、仲裁人の責務等と仲裁人の守秘義務について記載しました。これらの項目は、いずれも中間とりまとめでも取り上げた事項です。仲裁人の責務等についての意見募集の結果は参考資料12の150ページに、仲裁人の守秘義務については180ページに掲載されています。
このうち、後注1の仲裁人の責務については、例えば、次のような問題が考えられます。 仲裁人の行為規範や責任の問題は、本来、当事者と仲裁人の間の契約関係により定まると考えられるところ、一般的な義務や責任制限の規定を設ける場合には、契約上の義務や責任との関係をどのように考えるか、また、民法の一般的な規律を変更することの根拠をどのように考えるか、そのような規定を仲裁人にのみ設けることをどのように根拠づけるか、更に、仮に新設する規定を任意規定とするのであれば、そのような規定を置く意味はどの程度あるのか、等の問題です。
以上のような問題を考慮すると、特に仲裁人の責任制限について、他の諸制度と整合的に、かつ、妥当な規律を設けることは難しいのではないかと思われます。
また、後注2の仲裁人等の守秘義務については、どの程度審理を公開にするかという仲裁手続の在り方に応じて、当事者と仲裁人との間の契約に付随する義務として具体的に定まると考えられるところ、そのような義務とは別に、かつ、違反に対する制裁等の効果論と連動させることもなく一般的に守秘義務を定めることの意義や、契約上の義務との関係をどのように考えるのかが問題となると考えられ、一般的な守秘義務だけを取り出して規定することの当否については慎重に検討する必要があるように思われます。
このような問題点も踏まえて後注とさせていただいたところです。
○青山座長 それでは、この2つの後注について、何か御意見があればお伺いします。
○松元委員 イギリスの96年法には、仲裁人の使用人やエージェントについても免責の規定が置いてあったと思います。そういう意味で、ここでは仲裁人契約上で処理できるのではないかという御趣旨だと思いますが、注意的にでも、規定があった方がよいと思っております。
○中村委員 後注2の仲裁人等という「等」は、だれが当たるのですか。
○近藤参事官 機関の関係の方です。
○中村委員 当事者は、どうなるのでしょうか。
○近藤参事官 当事者も入ってきます。
○中村委員 そうですか。そうすると、仲裁人、当事者、それからその他手続に関与した者というようなことですね。
○近藤参事官 はい。
○青山座長 ほかによろしいでしょうか。
○近藤参事官 今、松元委員から御意見がありましたけれども、後注1について、そういう責任制限を置いてほしい、そのことによって今後安んじて仲裁人になれるということを慫慂するのだという御意見はよくわかるのですが、ほかの民法の体系との関係で、ここだけこういう形で置くことができるのかというのは、なかなか難しい問題点があるのではないかというふうに認識しております。
○松元委員 ということは、最終的に例の法制局や何かの関係でということで。
○近藤参事官 いや、そういうことではなくて、難しいことがあるのではないかと思っておりまして、なかなか規定として置くことができないのではないかと思っておりますが。
○青山座長 私が一番心配しているのは、理論的な問題よりも、時間的な問題で、そこまでいくのはかなり難しいと思ったのです。
○三木委員 座長がおっしゃるように、なかなか厄介な問題ですので、時間的に難しいという御意見はそのとおりだろうと思います。
ただ、この場で決めることではないかもしれませんが、後注に書いていますように、他の紛争解決メニューとの関係を考えなければいけないということで、ADR検討会の方の問題かとも思いますので、ADR検討会での検討にも期待するということではないかと思います。
○青山座長 わかりました。そういう発言があったということで、議事録にも残りますし、また、向こうの方もそういうことで受けてくださるのではないだろうかというふうに思っております。
○吉岡委員 守秘義務のところの、「違反の効果を勘案しつつ」というのを、もう一回お願いします。
○近藤参事官 当初、仲裁人の守秘義務について、刑罰のことも考えたらどうかということを議論させていただいて、刑罰までというのはなかなか重たいものがあるのではないかというような御異論で、そこは外れたという経緯があったと理解しています。
刑罰等と連動しない、せいぜい損害賠償請求の問題だというふうに考えた場合に、仲裁人の守秘義務ということを法文で書いておく意味というのがどの程度あるのかということについては、かなり疑問が出てくるのではないかということです。
○吉岡委員 わかりました。ですから、機関仲裁その他は別の話として、法律の中に特に入れるかどうかと、そういう趣旨ですね。
○近藤参事官 はい。
○山本委員 証言拒絶権の話もあるのかなと思うのですけれども、この点もADR検討会の方で、守秘義務とか証言拒絶権をADR主宰者の点で議論されているように伺いますので、そちらの方で更に議論がされるという理解でよろしいでしょうか。
○青山座長 はい。
○本東委員 余りこだわるつもりはないのですけれども、議論の過程では、民事調停法とのバランスと言うか、それを参考にしていて、そこはもし規定しないとすると、どういう頭の整理になるのでしょうか。調停ですら、そういう義務は課されていると。
○近藤参事官 民事調停法の調停委員の方は、一応地位としては、国家公務員という地位にございますが、仲裁人については、必ずしもそういうような身分的なものがございませんので、一律に同じような形では論じられないというふうに思っております。
○山本委員 ただ、収賄罪の適用はありますね。その全体のバランスの中でと。
○青山座長 それでは、時間の関係もありまして、先に進ませていただきたいと思います。仲裁検討会資料の34、項目は1つだけでございますけれども、非常に難しい問題でございます。
「1 個別労働紛争に関する仲裁の特則について」という初めての議題ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
【個別労働紛争に関する仲裁の特則について】
○後藤企画官 それでは、私の方から御説明させていただきます。
個別労働紛争に関する仲裁については、今、座長からもお話がありましたとおり、労働検討会での議論及び意見募集の結果を受けて、今回初めて取り上げた論点です。問題意識といたしましては【説明】1にも記載しましたが、使用者が作成する就業規則や労働契約書に仲裁条項が挿入された場合、労働者は、労働契約締結時には、紛争解決手段について注意を払わず、理解もしないことが多いのではないか。また、仮に仲裁の意義を理解しても、そのことを理由に仲裁条項を含む労働契約の内容の変更のための交渉をしたり、職に就くことを断念したりすることは期待できないのではないか。そのようなことを考えると、労働契約に関し、将来の紛争を対象とする仲裁契約について何らかの手当てをすることができないかという問題意識に基づくものでございます。
意見募集の結果としては、参考資料12の第1〔1〕1の「対象となる仲裁の種類について」という項目でまとめております。参考資料12の4ページに記載がありますが、新仲裁法は労働契約について適用しないこととすべきであるとか、労働契約に関しては将来の紛争に関する仲裁契約を無効とすべきである等の意見が多数寄せられております。
個別労働紛争に関する仲裁についての諸外国の立法例を、簡単なものですが、2ページの冒頭の方に掲げてあります。
なお、検討していただく際に御注意いただきたい事項を2ページの(注1)以下に記載いたしました。まず、労働問題に関する仲裁としては、団体的労使関係に関する仲裁という問題もございますが、この問題については、実際上特段の問題は生じないのではないかと考えております。また、労働関連法令、労働関係調整法その他ですが、こういうものがございますので、新仲裁法の制定による影響もほとんどないものと考えております。そこで、議論のポイントは、個別労働紛争に関する仲裁ということに絞っていただいてよろしいのではないかと考えております。
次に個別労働契約についての現行法の規律については(注2)に記載したとおりです。 個別労働紛争に関する仲裁については、今回初めてお出しする論点で、次回以降引き続き議論する必要があると思われますので、本日は、どのように考えたらよいかということについて御意見を自由に述べていただければと思っております。
○青山座長 どうもありがとうございました。そういうことでございますので、今日はフリーディスカッションという形にさせていただきたいと思います。原案があるわけではございません。どなたからでも結構ですけれども、では吉岡委員から。
○吉岡委員 逆に少しお伺いしたいのですが、今、事務局に寄せられている労働紛争に関する要望等々について、前回のアンケートにもありましたけれども、その後、現時点で何かございましたら教えていただきたいと思います。
○近藤参事官 やはり、適用除外という意見と、将来の紛争に関する仲裁合意については無効にすべきであるという意見が多く寄せられています。
○吉岡委員 消費者問題について幾つか対案を議論しているわけですけれども、消費者に対する規律のやり方等と何か別な特段の声などもあるのかどうかというのを教えてください。
○近藤参事官 寄せられた意見の中では、労働者の立場というのは、労働を糧として日々の食料を得ていくということなので、諾否の自由がないという意味では、消費者以上に過酷な状況であり、消費者以上に保護すべきであるという意見がかなり寄せられております。
○吉岡委員 第1回ですから、私も十分検討しているわけではありませんけれども、確かに弁護士会の中でも、消費者の問題についていろいろ議論していく中で、労働紛争についてはいかがなものかという声がかなり出てきたことは事実です。
ただ、残念ながら、まだ労働紛争についてどういうふうにしていくということについては、こちらとしても十分に議論が進んでいるわけではなくて、ある意味ではこれからまとめて議論しようというような段階であります。
もう1つは、労働紛争についていろいろと、ここに注もありましたけれども、それぞれ歴史も古くて、それぞれの保護規定というのがあると思いますので、その辺りの背景がどうなるのかということも少し研究しないといけないのではないかと、今日は感想程度のことですけれども。
○近藤参事官 日弁連の御意見として受け取っているのは、将来紛争に関する仲裁合意は無効とすべきであるということを第一次的におっしゃっていて、更に、それが採用できないとした場合に、昔のB−2案という解除構成的なもの、解除権を認めるべきであるというような御意見を承っているところです。
○吉岡委員 中間とりまとめに対する回答については、文書で書いたとおりなのですけれども、なかなか、現実にどういうふうにするかということについては、まだ内部としても議論が十分足りているとは思いませんし、今まさにこれからそこの点について知恵を絞ろうというところでございますので、その点だけは少し補足させていただきたいと思います。
○青山座長 わかりました。
○中村委員 今日、これを拝見して思ったのですが、比較法的な調査でドイツ、フランス、イギリスが出されていますが、それ以外に、今朝私が調べたところでは、イタリアの仲裁法の808条の2項に、いわゆる個別労働契約に関する一定の制約の規定がありますので、そこも参照すべきであろうと思いました。
それよりももっと重要なことは、消費者契約もそうですが、アメリカでの個別労働契約における仲裁条項の有効性についての議論というものを見るべきであろうと思います。
私が今朝見ただけでも、アメリカ仲裁協会は年間1万4000件以上個別労働契約の紛争を扱っていまして、その内容というのは、セクハラであるとか、不当解雇であるとか、あるいはプロモーションされなかったとか、ディスクリミネーションとか、そういった問題が扱われております。
日本では、こういった雇用上の差別の問題は少ないのかもしれませんが、今後セクハラだとか、そういった問題が出てくるのだと思います。
アメリカの連邦仲裁法上は、消費者仲裁同様に、アメリカ連邦最高裁判所は、労働者、消費者との仲裁契約は有効であるということになっていますね。アメリカが、消費者仲裁もそうですけれども、個別労働仲裁についても先進国であろうと思います。したがってその辺りは、比較法的には十分見るべきだろうと思います。
若干、感じからすると、やはりヨーロッパの方とアメリカの方では考え方が違うのかなと、アメリカは自由な考え方を取っていると、ヨーロッパはどちらかと言うとネガティブだという感じを受けていますので、したがってネガティブのところはいろいろ出ていますけれども、アメリカをもしここに入れて、それこそ消費者契約の話ではないですけれども、量的に考えるとすれば、圧倒的に世界的には消費者仲裁や個別労働契約における仲裁条項というのは有効だということになっていますので、そういったところも視野に入れながら結論を出していくべきであって、ネガティブな法制の部分だけを取り上げて検討するのは問題であろうと感じております。
○本東委員 2つ申し上げたいのですけれども、まず、第1点は、議論の前提といたしまして、ここの説明でも書いてあるのですが、就業規則や労働契約書に仲裁条項があると、それだけで仲裁合意が成立するかのように書いてあるのですけれども、前々回に私が御紹介しました判例でもはっきり出ておりますように、約款に単に仲裁条項があるということだけで、仲裁合意があるというふうに裁判所に認定されているわけではございませんで、個別の事情を十分勘案した上で判断されると。
そういう意味で、消費者保護条項の問題もそうですけれども、議論の前提が誤っているのではないかというふうに思っております。
もう1つ、今、中村さんがおっしゃったことにも関係しますけれども、昨年から個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律というのが施行されておりまして、都道府県の労働局に紛争調整委員会というのを置いて、あっせんだけですけれどもやるということで、数字は忘れましたが、1年間で何千件ぐらい、非常に利用されているというようなことでございます。
ただ、あっせんですので、合意が成立しなければ解決しないということでありますし、将来的にこういう場で仲裁をやるということも十分あり得るのではないかと考えます。
そうしますと、余り仲裁による個別労働紛争の解決をネガティブにとらえるということでやってしまうのはいかがなものかというふうに、私も思います。
○松元委員 私も、今お二方がおっしゃったように、仲裁を振興するという考え方からすれば、ネガティブにとらえるべきではないと思います。消費者問題と同様、労働問題に関連していろんな意見が出てくるのではないかと思うのです。そうしますと、将来の紛争についての仲裁合意を無効とするか、あるいは取り消し得るとするかわかりませんが、時間との相談もありますので、余りそこに時間をかけずに進行してはどうかと思います。
○青山座長 ほかに御意見はございますか。
○後藤企画官 労働の問題に関しましては、次回に専門家の方に来ていただくことを考えておるわけですけれども、消費者以上にいろいろな仕組みについて考えていかなければいけない問題があるのだと思うのです。そもそも個別の労働紛争をどこで解決するかということについての考え方が、先ほど中村先生がおっしゃったように、仲裁機関を主に使っているという構成も確かにございます。アメリカ、カナダ、オーストラリア等はそうだということです。逆に行政機関がやるのを中心にしている国もありますし、あるいは裁判所が中心になっている国もある。あるいは労働についての特別な裁判所をつくっている国もあるというわけで、これは本当にシステム全体とも絡んでくる。その個別労働紛争をどういうふうに解決するかという大きな問題とも絡んでまいりますので、是非次回以降、よく御研究いただいて、一緒に御議論いただければと思います。
○山本委員 質問なのですが、まさにこの問題は、労働紛争を国家の全体の紛争解決システムの中でどのように解決するのかという問題と関わってくると思うのです。その点はまさに労働検討会が御検討になっているというふうに承っているのですが、我々の検討会で仲裁について一定の立場を示す、例えば全然無効にしてしまうということになると、仲裁は選択肢としてなくなってしまうということを意味するわけですが、それは労働検討会との御議論との関係で、どういうふうに考えるべきなのかと。
○青山座長 これは、最後に言うことだったのですが、どうぞ。
○近藤参事官 労働検討会でも、意見書のマンデートとしては、労働調停の導入、これは裁判所の中でです。あと労働参審を導入すべきかどうか。それから労働裁判において何らか改善すべき点がないかどうかということの3点が、意見書で指摘されている事項として検討されているところであります。
仲裁に関しては、労働検討会では議論されておりません。ただ、労働検討会の委員の方の中から、今検討している仲裁の関係で問題点があり得るのではないかという御指摘をいただいて、それについて事務局の方もいろんなところで感触を当たってみたところ、やはり皆さんかなり大きな問題として認識されているというふうに事務局の方も判断したので、仲裁検討会としてその問題については検討していくべき課題であるというふうに考えております。
したがって、この問題については仲裁検討会で、労働紛争に関して仲裁をどのように位置づけていくのかということについて、仲裁検討会で議論をして結論を得るという形で御議論いただきたいと思っています。
もちろん、先ほど松元委員がおっしゃったように、一方で推進計画が閣議決定されていまして、我々公務員の身としては、来年の通常国会に法案を提出しなければいけないという重い十字架を背負っておりますので、時間との勝負というところもあるのですが、どこまで検討できるかということは、精一杯やらせていただいて、それで結論を得ていきたいと思っています。
○中村委員 私は、アメリカのを今朝ざっと見た範囲ですと、やはり消費者仲裁と同じ問題を抱えていると思うのです。要するに雇用契約をする場合に、労働者が裁判を受ける権利を放棄しないと雇用されないというところですね。消費者契約であれば、同じように裁判権を放棄しないと役務の提供を受けられない、あるいは物を買えないというところが議論の焦点のようです。
したがって、そういったところですので、従前私がここでも申し上げましたように、何も規定しないというのが一番いいだろうと思いますけれども、もし規定するとすれば、やはり雇用契約の際に仲裁に関する説明義務を使用者側に課する。それから、それを条件として雇用契約を結ぶことはだめだと。したがって、労働者がその段階で仲裁と裁判のどちらかを選択する自由があると。そこで労働者が仲裁を選べば、そこで仲裁契約は成立すると、その後は裁判の道は全くなしというすっきりとした形の姿を、同じ問題としてとらえていくべきであろうと思っております。
○青山座長 ほかによろしゅうございますか。
○秋吉委員 個人的な感覚ですけれども、消費者問題よりは、仲裁で解決してほしいという将来の需要というのは、労働関係では大きいのではないかと思っております。裁判所というのは、どうしても大企業と同じような勤務体制ですので、いろいろな勤務体制に応じた具体的な判断を現場をよく知っている人にしてもらえるというようなメリットをずっと伝えていくと、事後的な選択によって仲裁を選びたいという方は、宣伝が行き渡れば多いのではないかと思います。
そういう意味では、仲裁の持たれる意味というのは、労働関係では大きいと思うのですけれども、それを事前に奪ってしまうのがいいかどうかということを考えますと、やはり実際に紛争になった時に、そこをよく説明されてそれで仲裁を選択するという道を採ることによって、この紛争機関で解決してもらうのが一番いいなと納得したところで紛争解決が得られるという利益を確保しておいた方がいいのではないかというような気がします。
○吉岡委員 今のところとも絡むのですけれども、需要がどの程度あるのか。仲裁法というのは、明治時代にもあって、確かに訴権を奪われるという面があって、消費者の問題などはもちろんこちらから提起したわけで、その延長線にあるところはあるのですけれども。ただ労働は労働で、伝統的に別の紛争解決チャンネルも、先ほど来出てくるようにありまして、その労働者保護の法制があるだろうと思うのです。ですから、ここで仲裁法を新規につくるわけではありませんので、この機会に新仲裁法になって、どれほど労働紛争が解決されていくのかどうかというのは、恐らく今後いろいろヒアリングなどもすると思うのですけれども、そういう辺りの部分を見ながら行かないと、何でもかんでも仲裁が全部引き取ってしまうというのは、今までの議論は違和感があるのですけれども。ただ、そういう形で仲裁に乗っかっていくというか、そういう需要があるというならば、もちろんそれに対する配慮が必要だと思いますので、その辺りは次回以降、事務局でもお考えでしょうから。
○青山座長 わかりました。消費者問題と個別労働問題は、後から視野に入ってきました。消費者契約と仲裁の問題は夏休み前後から急に盛り上がってきまして、それと連動して、では今度は個別労働紛争はどうするかというのが出てきたのです。
これについて、適用除外にするならするで、どうしてそうなるかと、現行法と違うわけですからきちんと根拠を定めなければいけないし、入れるとすれば、現行法のようにただ放って置いていいのか、どうもそうではない。そうすると、やはり我々の研究ももっと早くするべきだったという気がしますけれども、状況がそういうことなものですから、これからヒアリングをさせていただいて、集中的にこの問題を詰めたいと思っております。
あとは、さっき山本委員が言われた、一国の労働紛争をどう解決するかという大きな政策問題に絡むことは認識しておく必要がある。
それから仲裁をやるといっても、これは非常に専門的な次元ですから、そういうことができる専門家をこれから育てていかないと、なかなか仲裁自体も育たないということもありまして、近くヒアリングをさせていただいて、更に詰めていきたいと思います。
ここの問題は、今日の資料でもわかると思いますが、何らかの規定を設けるべきかというだけで、フリーディスカッションから始まっている段階ですので、次回以降に、それこそ先ほどの御発言にもあったように、それぞれの委員に御研究をいただいて、更に議論をしていただきたいと思っております。
今日は時間も超過しておりますので、今日の検討はこれで終了させていただきたいと思いますが、よろしいですか。
それでは、次回以降の説明をお願いします。
【次回の予定等、閉会】
○近藤参事官 次回は、臨時の検討会を開催するということでお願いいたしたいと思います。
日程については、事前に御連絡いたしましたが、11月28日午前10時からの予定です。
次回は、今回最後に取り上げた個別労働紛争に関する仲裁について、労働団体、消費者団体、労使双方の弁護士、労働法の学者の先生においでいただいてヒアリング的なことを行った上で、これらの方も含めて実質的な協議をしていくということを考えております。 もしも時間が許せば、前回、今回議論が残った論点についても検討したいと思うのですが、多分時間的に余裕はないだろうと思っております。次回は主に個別労働紛争に関する仲裁についてヒアリングを含めてその場で議論をしていただくという形になります。各出席者の方からペーパーを出していただける予定ですので、それを事前に配布させていただくというふうに考えております。
○青山座長 次回は、臨時の検討会ということで大変恐縮しておりますけれども、今、そういう状況になってきておりますので、是非個別労働事件についての仲裁を検討させていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、どうも御苦労様でございました。