【開会】
○青山座長 それでは、ただいまから、第11回仲裁検討会を開会いたします。
本日は前回御案内いたしましたとおり、臨時の検討会として開会することになりました。委員の皆様には、お忙しい中をお集まりいただきましたが、所用のため出席できない秋吉委員と日下部委員を除きまして、全員御出席いただきました。誠にありがとうございます。
また、これまで検討会に参加していただきました中央建設工事紛争審査会の本東委員が転勤になりまして、本日からは、後任でいらっしゃいます加藤委員にこの検討会に御参加いただくことになりました。加藤委員、一言御挨拶をいただけますでしょうか。
○加藤委員 加藤でございます。よろしくお願いいたします。
○青山座長 どうぞ、よろしくお願いいたします。
本日の検討会では、前回の検討会でも御議論いただきました個別労働紛争に関する仲裁の問題につきまして、少し時間をかけましてゆっくり御検討いただきたいと思います。そのために、本日は、大変御多忙の中を、労働紛争の問題に関わりの深い5人の専門の方々にこの検討会に御出席をお願いしております。
私の方から順に御紹介させていただきますが、日本労働組合総連合会の髙木剛副会長でいらっしゃいます。
○説明者(髙木氏) 髙木でございます。よろしくお願いいたします。
○青山座長 次に、IBM World Trade Asia CorporationのDirector of Employee Relationsの小島浩さんでいらっしゃいます。
○説明者(小島氏) 小島でございます。
○青山座長 次に、水口洋介弁護士でいらっしゃいます。
○説明者(水口氏) 水口です。よろしくお願いします。
○青山座長 次に、石嵜信憲弁護士でいらっしゃいます。
○説明者(石嵜氏) 石嵜です。よろしく。
○青山座長 最後になりましたが、東京大学法学部長の菅野和夫教授でいらっしゃいます。
○説明者(菅野氏) 菅野でございます。
○青山座長 これらの方々には、後ほど、適宜お話をいただいた上で、本日の個別労働紛争に関する仲裁についての議論にも御参加をお願いし、一緒に検討してまいりたいと考えております。
では、初めに事務局から本日の検討会の進行予定等について説明をしていただきたいと思います。
○近藤参事官 本日の検討会では、今、座長からもお話のありましたとおり、個別労働紛争に関する仲裁について集中的に御議論いただきたいと思っております。時間の関係もございますので、今回の検討会ではこの問題に限って御議論していただき、仲裁法に関するその他の論点についての検討会は次回以降にしたいと考えております。
個別労働紛争に関する仲裁の問題について、中間とりまとめに対する意見募集において多くの意見が寄せられております。これも消費者に関する仲裁の問題と同様、時間を割いて慎重に議論することが必要であると思われます。前回の検討会でも、検討会委員の皆様には御議論いただいておりますが、更に検討を深めるために、本日は先ほど紹介のありました専門家の方々に御出席いただきまして、御意見を伺いつつ議論に御参加いただくことを考えております。
具体的な進行につきましては、まず本日の検討会に御出席いただきました5名のうち、仲裁の当事者及び代理人となり得るお立場の4名の説明者の方から順次お話をいただきたいと思います。お一人5分程度の非常に限られた時間内でお願いすることになりますが、よろしくお願いします。
その後、説明者の方も含めて、じっくりと自由討議をしていただきたいと考えております。
菅野先生には、中立的なお立場から御意見をいただきたいという趣旨から、仲裁検討会の委員の方の意見がある程度出た段階で、御意見をいただければと思っております。自由討議の時間はおよそ1時間30分程度を予定しております。これが本日の検討会の中心となります。
以上のような進行を考えておりますが、本日は通常の検討会に比べて時間が非常に限られておりますので、どうぞ、積極的な御議論をお願いしたいと思います。
○青山座長 それでは、今のような次第で検討会を進めさせていただきたいと思います。 まず本日の配布資料について確認したいと思います。事務局から説明をお願いいたします。
○近藤参事官 まず、本日お話をいただく関係で、日本労働組合総連合会、小島ディレクター、水口弁護士、石嵜弁護士から、それぞれ資料を御提出いただきましたので、事前に送付いたしました。
また、事務局作成資料として、検討会資料35及び参考資料14ないし16を事前に送付しております。
参考資料14は、厚生労働省提出の意見書でございます。
参考資料15は、日弁連のADRセンター作成の仲裁統計年報の抜粋で、各弁護士会の仲裁センターの労働関係仲裁等の受理件数及び解決件数が各表の10という欄に掲載しております。
参考資料16は、日本労働研究機構作成の「個別紛争処理システムの現状と課題」という報告書の抜粋です。第二東京弁護士会の仲裁センターに関する記述の部分を抜粋したものですが、このうち54ページ以下に「仲裁センターにおける労働関係事件」という項目があります。この辺を御参考にいただければということで配布しております。
次に本日の席上配布資料ですが、国土交通省から提出されました、中央建設工事紛争審査会及び住宅紛争処理機関に関する資料がございます。
また、委員の皆様には弁護士会あっせん・仲裁センター及び第二東京弁護士会仲裁センターから「仲裁法制に関する意見書」が提出されておりますので、席上配布してございます。その他、司法制度改革推進本部に寄せられた要望書・投書のリストを配布しております。これは、これまでに事務局にあてて寄せられた様々な意見を当検討会に限らず網羅的に記載したもので、仲裁だけに関するものを取り上げたものではございません。皆様に参考に配布するものです。このように事務局に寄せられた各意見の原本自体は事務局に保管されておりますので、必要に応じてお問い合わせくださればお見せすることができると思います。
○青山座長 それでは、まず国土交通省から提出されました資料につきまして、加藤委員からごく簡単に御説明をお願いできますでしょうか。
○加藤委員 加藤でございます。よろしくお願いいたします。
それでは、お配りしております資料で、まずアンケート結果の方から御覧いただきたいと思います。これは実際に仲裁を行っています中紛審(中央建設工事紛争審査会)の法律の専門の委員62名に対してアンケートを行ったものでございます。回収率は8割弱ということでございます。
内容でございますけれども、仲裁契約の効力、方式について聞いてございます。
1つ目が契約の効力で、これは中間とりまとめの案ということで、甲乙丙の案になる前のもので聞いてございますけれども、一番下に結果が出てございます。実際に実務を担当して仲裁をやっております中紛審の委員の先生方の御意見としては、A案、特段の規定を設けずに、必要があれば消費者契約法等の規律に委ねるべきとするものが7割程度ということでございまして、中間とりまとめの各界の御意見とかなり異なる結果となってございます。
1枚おめくりいただきまして、御意見の中身をかいつまんで御紹介させていただきます。事務局の方で手を加えずに、いただいた委員の先生の御意見をそのまま載せておりますが、例えば①でございますけれども、ADRの拡充、活性化は、現在の裁判所の規模、体制から見ると、国民の利益につながる、選択の道を狭くすべきではないということで、必要があれば、消費者契約法等の適用で懸念を解決すべきというような御意見。
②で、消費者保護のためには、ADRの拡充、活性化が求められているが、新仲裁法は手続法であるので、必要な規定があれば、消費者保護の部分は消費者契約法に委ねるべきだということでございます。
飛びまして④の中紛審の実態でございますけれども、受けました仲裁の受理件数のうち、かなりの部分が消費者に関わるものでございますが、この中でも過半のものが消費者の方の申立てによって仲裁が行われており、消費者の側が必ず弱くて事業者の側がうまく利用しているというようなことではないということでございます。
④の中段でございますけれども、B-1、B-2の場合は、むしろ事業者が仲裁契約を避けるというようなことも考えられますので、こういう場合には仲裁の利用、発展を期した趣旨に反するのではないかというようなことでございます。
先ほども申し上げましたけれど、⑤にございますように、事前の仲裁合意は消費者にとって一律に危険なものであるとの立場を前提とするというのは、実務をしている立場としては賛同しがたいというようなことで御意見をいただいておるということでございまして、委員の先生方の御意見はA案が7割ということでございます。
ちょっと飛ばせていただいて4ページに、それぞれB-1、B-2、B-3の案を支持する方の御意見がございます。
消費者の保護を徹底するものであればB-1がベストというのが、B-1案の①でございます。
B-2でございますけれども、③にございますように、訴権の放棄というようなことを含むということであれば、消費者がよく理解した上で仲裁を選択できる形が望ましい。
B-3につきましては、無条件破棄ということであれば、仲裁制度そのものの否定を意味するということで、ある程度の制約を中身によって加えればいいというようなことで、それぞれ御意見がありますが、A案が多数だということでございます。
それから、5ページでございますけれども、仲裁契約の方式については、A、B、C、D、Eという案について伺いました。6ページに結果が出てございますが、こちらにつきましては、とりまとめの各界意見と基本的には同じような立場でございまして、A、B、C、あるいはA、B、C、Dということで重層的に採用いたしまして、別の書面で、自署でかつ明記をするというような形が望ましいという結果になっておるところでございます。
以上お話ししましたとおり、実際、事前の合意で消費者の側から活用されているというのが私どもの実務の中で多いわけでございまして、将来仲裁が活用される形になれば、ほかの仲裁のいろんな仕組みの中でも、将来の争いに関する利用も想定されますので、そういう活用の芽を摘むようなことのない考慮を、ぜひしていただきたいというような御意見が多かったということでございます。
それから、もう一枚、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」というのをお配りしてございますけれども、これは2枚目に仕組みが出てございますので御覧いただきたいのですが、法律の2つの柱ということで、1つは、住宅の性能を評価して、適切な住宅をつくっていただく。2つ目は、この適切につくられた住宅について評価書があることを前提に、指定住宅紛争処理機関で、あっせん・調停・仲裁が受けられるという仕組みになっておりまして、ここの処理機関には全国の弁護士会が指定をされておるという仕組みになっております。建設工事紛争審査会の方は請負だけでございますが、これは請負と建売等の売買の両方を含めまして紛争の処理をするという仕組みになってございます。
1枚戻っていただきまして、2.のところ、「消費者にとっての品確法上の仲裁合意」ということでございまして、こちらの方の実態を申し上げますと、2段落目にございますけれども、「一般に、紛争処理機関への申請の直前又は申請後に、具体的トラブルに関連してなされる」ということで、こちらの仕組みは事後の方が実態としては多いわけですが、可能性としては、下線が引いてございますけれども、事前の仲裁合意であっても、消費者はあえて希望する場合もあるということでございまして、将来の争いに関する事前の仲裁合意が絶対的無効という形になると、このような仕組みがなかなか機能しにくくなるということでございます。
現在この仕組み、11万件ぐらいの戸建住宅で性能評価の申請がありまして、約3万件ぐらいが実際にこの評価書が出されています。紛争になった例はまだ数件でございますけれども、将来このような住宅の品質を確保するという仕組みを進めていく上でも、紛争処理の体制、事前の仲裁の合意が可能な形で制度を仕組ませていただきたいというような御意見が出ておりますので、お時間をちょうだいいたしまして説明をさせていただきました。
○青山座長 ありがとうございました。
それでは、引き続きまして、事務局から、本日の検討会資料について御説明をお願いいたします。
○近藤参事官 それでは事務局の用意しました検討会資料35について一言説明させていただきたいと思います。
個別労働紛争に関する仲裁については、労働者と使用者との間の情報や交渉力の格差から生じる問題点が挙げられております。消費者と事業者との間の仲裁と同一の側面を有するものと考えられます。
そこで意見募集の結果や消費者と事業者との間の仲裁についてのこれまでの検討結果に照らし、労働紛争に関する仲裁について、消費者契約に関する仲裁契約に準ずる措置を講ずることが考えられます。
枠内では、検討会資料31で示した消費者と事業者との間の仲裁契約の特則についての甲案から丙案に対応するものとして、A案からC案をそれぞれ示しました。
A案は仲裁法において、仲裁契約の成立及び効力については特別規定を設けないこととした上で、方式について一定の要件を設けるものとする考え方です。
次にB案は、将来の争いに関する仲裁契約を無効とする考え方です。
C案は、個別労働紛争に関する仲裁契約も有効であることを前提に、将来の争いに関するものは、一定の場合には、労働者側から解除権を行使し得るとした上で、仲裁廷に労働者に対する説明義務を課し、また労働者が審問に出頭しなかった場合等に、労働者が仲裁契約を解除したものとみなすという考え方です。
なお、意見募集の結果においては、労働者は消費者よりも更に契約の諾否の自由が制限されている、あるいは労働契約が継続的契約であることから、仲裁契約について解除権を行使することは困難である、等を理由として、契約締結の時期を問わず無効とすべきであるという意見も多く寄せられております。
しかし、弁護士会の仲裁センターにおいては、参考資料にもあるとおり、現に個別労働紛争に関する仲裁が行われておりまして、これについて別段問題も指摘されていないことから考えますと、これを一律に無効として仲裁を利用できなくするということについては、消費者契約に関する仲裁と同様、問題があり得るのではないかと、事務局の方では考えております。
○青山座長 それでは、先ほど事務局から説明のありました進行予定に従いまして、まず説明者の方から御意見を伺うこととしたいと思います。
お話しいただく順序でございますけれども、議事次第にありますように、まず労働紛争の当事者のお立場を伺うという意味で、髙木副会長からお願いしたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
【個別労働紛争に関する仲裁の特則について ( i )髙木 剛氏】
○説明者(髙木氏) 髙木でございます。お手元に連合の考え方を書いておりますペーパーをお配りしていると思います。
結論から申し上げますと、紛争発生後に、当事者が仲裁することを合意した場合に、仲裁手続がとれるということで考えております。
仲裁につきましては、ある意味で裁判を受ける権利との関係がある手続でございますし、仲裁に付されますと、その執行力等を含め、裁判代替ということがありますので、極力当事者が納得をしてといいますか、当事者の真意に従って手続に入るということでなければいけないのではないか。
とりわけ個別労使紛争等が発生した場合、労使間の力関係の格差には大きなものがあるケースが多いので、具体的な仲裁に入りますこと及び、例えば仲裁人あるいは仲裁機関の関係、あるいは具体的に仲裁を進める手続等についても、いろんな配慮を心がける必要があるのではないかと思っております。
なお、新しく仲裁法を直していただいた後、どれぐらい労働事件が仲裁の仕組みの下で解決されていくのだろうか。もう一つ、私ども将来の展開がよく読めておりませんので、本日、事務局の方からも説明がございましたようにいろんな考え方があると思いますが、できるだけ当事者というか、当事者双方が仲裁に付することについて完全に合意をしてから始める手続だという点をきちんとしておいていただきたい。
雇用契約書あるいは就業規則に書かれている場合とか、いろいろな例が挙げられておりますが、これはとてもでないけれど、その程度のことでは間に合わないのではないかと思います。労働協約に関しては、様々な議論がございますけれども、労働者一人一人が仲裁に付す、付さないという意味で、たとえ労働協約に書かれていても、紛争の発生の当事者が真意で仲裁に付すことを了解することを当然含意されていないとできないのではないかと思っております。
以上、簡単でございますが、意見を申し上げさせていただきます。後はペーパーをお読みいただきたい。11時45分頃に中座をさせていただきますので、どうぞお許しいただきたいと思います。
○青山座長 どうもありがとうございました。
それでは、引き続きまして、使用者側といたしまして、小島ディレクターにお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【個別労働紛争に関する仲裁の特則について ( ii )小島 浩氏】
○説明者(小島氏) 私は日本経団連の司法制度改革労働検討部会長というのをしておりますので、その関係もあって、きょうお招きいただいたかと思います。日本経団連として、特にこの件について意見をまとめているというようなことはございませんけれども、日頃の議論なども踏まえて若干申し上げたいと思います。
今回の司法制度改革の中で、1つの重要な項目がADRの充実ということでございまして、仲裁もそういう意味ではADRの一環として、強化されていくということが方向として既に出ておりまして、利用者の選択肢を増やすということになりますので、結構なことだと考えております。
ただ、制度はあくまでも利用者のためのものでございますから、法律をつくるということはわかるのですが、利用者はやはり、早く・安く・簡易に、公正かつ納得性の高い解決策を求めることができるのかどうかという観点から評価するということになりますので、もう少し、法的整備もさることながら、人的・物的整備についての議論が深められる必要があるのではないかと思っております。
御高承のように、これまでのところ仲裁が労働関係に活用されてきたというようなことは寡聞にして知らないというのが実情でございます。私も40年以上こういう仕事をしていますけれども、企業間の係争で一回だけ仲裁というものをやったことがございますけれども、労働紛争で仲裁というのは、経験したことは全くございません。まして個別紛争ということになると、日本の場合は極めて稀な例であって、法律が整備されたから急に仲裁が増えていくというようなことは、どうも常識的には考えられないと思っております。
やはり、どんな仲裁制度になるのか、どういう仲裁人が、あるいはどういう仲裁機関が使われるのか、仲裁の出てくる結果がどうなのかというようなことについて、今のところ皆目わかりませんので、そういう状況で仲裁がたくさん使われるというようなことはないのではないかと思っております。
そこで、そういう前提で考えると、現在いろいろ議論されています労働分野を、特に別の観点から扱うという必要は、ほとんどないのではなかろうかと私は考えております。どうしても何か必要なのだということであれは、アクセスしたいという人にアクセスさせないというような制度をつくるのではなくて、アクセスした後、何らかの保証があるというようなシステムを考えるべきではないかと思っております。これはモデル法との関係があってなかなか難しいかと思いますけれども、やはり不安があるのは、仲裁人や仲裁機関に一体どんな人が出てくるのか、そういう資格や要件をある程度制限する必要があるのではなかろうかというような議論、あるいは仲裁人は当事者が合意しない限りは選ばれない、したがって仲裁というのは起こらない、などというような特則を設けるとかという方がまだわかりがいいのであって、労働関係は最初からここへは近づけないというような方法は、ちょっと私には理解しがたいということでございます。
以上でございます。
○青山座長 どうもありがとうございました。
それでは、次に労使双方の代理人の立場といいますか、弁護士の方からお話を伺いたいと思います。まず水口弁護士からお願いします。
【個別労働紛争に関する仲裁の特則について ( iii )水口洋介氏】
○説明者(水口氏) 弁護士の水口です。日本労働弁護団という、労働側の立場に立つ弁護士団体の常任幹事をしております。
私自身、労調法に基づいて労働委員会に仲裁を申し立てたこともありますし、じん肺という職業病に関する労災損害賠償事件についてADRをつくりたいということで、仲裁制度の活用を提案しています。私は、仲裁制度自体についての意義、必要性を一律に否定するものではありません。
事前にペーパーを配布しました。いろいろあれこれ書き過ぎてわかりにくいかと思いますが、言いたい点は2点です。
第1点は、現在、個別労働契約について仲裁は全く活用されていません。しかし今度、新仲裁法ができて整備をされていけば、すぐかどうかは別としまして、将来的には活用されるのではないかと私は思っております。
というのは、現在日本は雇用システムが大きく変わっています。終身雇用制が変容し雇用流動化がどんどん進んでいる状況です。しかも企業人事制度は今までの集団的管理から、個別的な処遇にどんどん変わっていると思います。その典型例としては、例えば成果主義賃金あるいは年俸制が導入されていると、こういう状況があるわけですね。
ですから、こういうことになってきますと、例えば年俸制や成果主義賃金についての査定について従業員に不満が生じてくるだろうと思います。その苦情や不満というものを将来、企業が仲裁によって解決をしようとするのではないかと私は思っています。というのは、簡易・迅速ということで仲裁のメリットがありますし、同時に、企業の実情を十分反映して解決するというのが仲裁の1つの特色ですから、企業の方が企業の事情に明るい仲裁人を選任して利用しようとする動機、ニーズはあるだろうと思います。実際、アメリカではそういう傾向がどんどん強まっていると聞いています。
そうなりますと、個別労働契約で仲裁合意を定めるとどうなるかというと、髙木さんが述べられたとおりです。使用者が仲裁合意をすることを採用条件にした場合に、労働者はそれを拒めないということです。労働法における従属性という問題です。やはり対等な交渉力を持たない個人の労働者が仲裁を押しつけられて、裁判に訴える権利が奪われてしまうという、この危険性は直視すべきではないかと思います。したがって、新仲裁法制定の際に何らかの配慮をすべきだというふうに思っています。これが1点目です。
2点目は、では、どんな方法があるかということですが、事務局の方がきょういろいろ整理をされて、事前にも説明をお伺いしました。結論的に申し上げると、きょうの資料のB案、紛争発生後の事後合意限定説、これが一番適切ではないかと思います。紛争発生後であれば、労働者の方は、裁判提訴か、仲裁か、自分の責任において判断をして決めることができるだろうと思います。事前にそれを、先ほど言ったような交渉力の差を無視して労働者を拘束するようなことは仲裁の理念からいってもおかしいのではないかと、私個人としては考えています。
事後解除権説もですけれども--これを説明を受けましてよく読みますと、労働者の方の保護に厚いような気もいたします。特に仲裁廷に欠席すればみなし解除とする扱いは保護に厚いというふうに思っておるのですが--、しかし1点気になることは、労働契約が継続契約であるという点です。つまり労働者が労働契約を締結しながら、いったんは使用者と合意をした文書を解除できるのかという問題です。要は法律的に解除権があったとしても、実際上解除権を行使できるかどうかは別問題だと私は思っているのです。
それはなぜかと申しますと、例を挙げますと、今、企業の再編で労働者の転籍という問題が頻発しております。ある企業から別の企業に労働者が転籍をするというケースが今どんどんあって、私も結構相談を受けているのです。転籍については民法に基づいて労働者の承諾が原則として必要と民法に明確に書かれています。
しかし、転籍するについては、承諾するかどうかは自由なんですよと、使用者が働いている人に説明しているかというと、私が聞く限りでは必ずしもそうではないのです。転籍を拒否した場合には何らかの不利益が生じるかもしれないという示唆をする企業さえあるという状況です。
そういう状況から見ると、仲裁合意についても、本当に労働契約の途中で、例えば成果主義賃金だとかセクハラだとかということを申し立てるときに、本当に解除権が自由に行使できるのだろうかという点が1つ非常に心配な点です。その意味では、事後合意限定説が最も適切ではないかと思っております。
労働協約の関係については、時間がありませんので、時間があればお話をしたいと思います。
○青山座長 どうもありがとうございました。
それでは、引き続き石嵜弁護士にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
【個別労働紛争に関する仲裁の特則について ( iv )石嵜信憲氏】
○説明者(石嵜氏) 石嵜です。私の方は、労働弁護団に対応しているような、使用者側にも経営法曹会議という、使用者側の労働事件を扱う弁護士の集団がありまして、そこの常任幹事をしております。24年ぐらい弁護士生活をしていますが、労働事件一筋にやってきて、ほとんど民事とか刑事はありません。
その私でも、正直に言いますと仲裁の経験は1件もないのです。そういう意味では、まさに小島委員が言われましたように使われてこなかった。私たちも経営者側としてそういうものを使おうと依頼者にアピールしたことはほとんどないだろうと思います。ただ、現時点で将来を見つめた場合に、個別労使紛争が非常に増加していく、これは明らかですので、これを多くのいわゆる機関を使って有効に早く解決していくという意味で、その1つの方法として仲裁という、こういうことができることについては、やっぱりプラスだろうと思っております。
その意味では、これも小島委員のおっしゃったように、その仲裁機関が使用者側からも労働側からも一定の信頼を受けられる機関であり、そこのいわゆる仲裁人、人材の選定がどうなされるか、ここに一にかかるということは、私もそうだと思います。
それを前提に少し弁護士的発想をしますと、確かに労働契約については、使用者が一応優位な立場にある。零細企業になると本当にそうかという気持ちはあるのですけれども、一応それはそれでいいでしょうと。加えて、継続的な契約関係である、こういうことがいわゆる特徴となって、普通の契約でないことだけは私もそう思います。
しかし、ですから特別かというと、でも真意で約束すればいいのではないか、真意なら。その真意は、個別的な、つまり事後的同意だけではなくて、入社時のいわゆる合意でも、それが真意として評価されるのであれば、それはそれで拘束力を持ってもいいのではないか、法的に考えれば。
それは比較でいいのかどうか別としましても、出向、これは労働者にとって不利だと思います、現実は。でも、その不利な内容でも、入社時にそれが真意と認められる外形的なものがあれば有効であるという実務処理を実際にはしているのですね。そうしなければなかなか動いていかない。
確かに仲裁というのはそういう意味と少し違うかもしれないけれども、逆に言えば、今度は仲裁は労働者が不利とは言えないわけですよね。労働者にも争議の解決を求めるという有利性もあるわけですから。
したがって、私は包括的同意、入社時の同意も一定の真意が担保され、そして真意と評価される限り、それはいわゆる拘束力を持ってもいいのではないかという形を考えています。
なぜ、そう考えるかは、やはり実務をやっていまして、賃金とか配転・出向の問題は、権利紛争というよりは利益紛争であって、したがって早期に解決したい。なぜならば、企業が円滑に動くためには必ず使用者と労働者の信頼関係が要るのです。この信頼関係がなくなったら、組織もうまく動かないし、労働者と使用者もなかなか職場でうまくいかないから、労働者もいづらくなる。したがって、ある紛争はできる限り早く解決したい。したがって、司法手続、判決手続によるよりは、仲裁手続で早くやる方が、信頼関係に対するダメージが少ないのではないか。恐らく少ないだろうと思っております。
使用者側も、どうもあっせん・調整でうまくいかなくても、誰か、第三者的なところに言ってもらえばそれでいいですよというような、こういう事案はたくさんある。
そういうことを考えると、私は今、法的担保としても包括的同意でいいだろう。ただし、それについては、何らかの形式をきちんと用意して、そしてそれに仲裁の内容を十分記載してあって、使用者側はそれを説明するという、真意を確保するためにこういう手続はとらせるというふうな理解でおります。
ただ、1つ、解雇だけは、手続上難しいということはわかるのですけれども、解雇は継続的契約関係を前提としませんので、契約を解消された後の問題で、完全に権利義務関係になってしまいますので、使用者側にとっても労働側にとっても、解雇した人は仲裁で原状回復とぽんと言われるとか、もうそこで終了と言われると、これは余りにも重大な結果を招くので、この点については、私は労働側だけではなくて、いわゆる零細企業の部分も考えると、使用者側にも対等な立場で解除権というものが与えられてもいいのではないか。解雇だけについては若干違った考え方を考えております。
「なお」書き以降は付け足しですが、特に御説明するつもりはありません。
【個別労働紛争に関する仲裁の特則について ( v )自由討議】
○青山座長 どうもありがとうございました。菅野教授には中立的なお立場から、自由討議の中で適宜御発言をいただきたいと考えております。
それでは、ただいま4人の方にお話をいただきましたが、大変窮屈な時間の中で非常に貴重な御意見を表明いただきまして大変ありがとうございました。後からの討議でも、今の4人の方にまた自由に御発言いただきたい、その際、今、時間の制約でお話になれなかったことも適宜そこでお話しいただきたいと考えておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
それでは、引き続きまして、労働問題を所管する厚生労働省の関係官が来ていらっしゃいますので、ここで御意見を伺っておきたいと思います。労働基準局監督課の説明者(伊澤氏)にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○説明者(伊澤氏) 厚生労働省でございます。厚生労働省といたしまして御意見を述べさせていただきたいと思います。参考資料14というので御説明させていただきます。
この中でお示ししておりますように、私どもといたしましては、労働協約により仲裁条項が定められた場合を除き、労働者と使用者との間の仲裁契約のうち将来の争いに関するものは無効とする措置を講ずることが必要というふうに考えてございます。
このように申し上げる背景には、労働契約なり労働関係の特殊性というものが挙げられるかと思います。すなわち個別的労働関係におきましては、一般的に使用者は経済的実力の点で労働者に対し優位に立ち、また労働力の利用についても組織体として種々の統制を行うということから、例えば労働契約の締結に際しては、労働条件が一方的に決定されたり、あるいは労働契約の展開過程においても労働者の従属的な地位が生じがちとなるということがございます。
こういったことから、個別的労働関係については、民法の原則に委ねるのではなく、労働基準法などの関係法令において、賃金、労働時間、安全衛生などの労働条件について、使用者が守るべき最低基準を定め労働者を保護しているところでございます。
このような観点から、今回の仲裁契約を考えてみますと、お配りした資料の(理由)というところに書いてございますけれども、第1に仲裁法による仲裁契約は、対等な契約当事者が、双方の同意の下に締結することが想定されていると考えられるわけですが、無制限に仲裁契約の締結を認めた場合には、交渉力の弱い労働者が不利な立場で適用されるおそれがあると考えられるわけでございます。
それから、第2に、これまでの判例等によれば、就業規則において、例えば新たに条項が設けられるというような場合に、当該条項が合理的なものである限りは、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されないと解されておりまして、要するに仲裁条項について、個々の労働者が特段の同意をしなくても仲裁条項が盛り込まれた就業規則が適用されてしまうのではないかという問題点があろうかと思います。
また、仮に個々の労働者が、採用時、労働契約の締結時になろうと思いますけれども、そういった時に仲裁契約に明確に同意した場合とか、あるいはあらかじめ就業規則に設けられた仲裁条項に明確に同意した場合であっても、当該労働者が事前に仲裁の意味を明確に意識していない場合があると考えられます。
採用される時に、将来の紛争のことについてまで考えて労働契約を結ぶことはなかなか想像しにくいことではないかと思いますし、仮にそういったことを意識していたとしても、同意しなければ採用しないというようなことを使用者から言われた場合には、これに応じざるを得ない場合が多いのではないかと考えております。
このように、労働関係の特殊性にかんがみますと、厚生労働省といたしましては、将来の争いに関する仲裁契約の効力を認めることについては、一方的に当該労働者の訴権を奪うことになるおそれがあるのではないかということから、問題ではないかと考えております。
なお、仲裁を含めました労働分野における紛争処理の在り方ということについては、今後、労働関係の特殊性に配慮した観点から、その枠組みについて、更に総合的に検討を行う必要があるのではないかと考えているところではございますが、今回、労働分野における仲裁という問題が新仲裁法の検討の中で急速にクローズアップされてきたということもございまして、今、ここでもそうでございますけれども、検討が先行しているということもございますので、とりあえず我々といたしましては、現時点では、先ほども申し上げましたように、個別的労働関係につきましては、労働者と使用者との間の仲裁契約のうち、将来の争いに関する部分については無効とする、という旨を新仲裁法の中で措置していただくことが適当ではないかと考えておるところでございます。
それから、最後に第3のところに書いてございます集団的労使関係の中で、すなわち労働協約により仲裁条項が設けられた場合でございますが、これは労働組合と使用者とが対等の立場により交渉した結果、合意が形成されたというふうに考えられますので、今まで縷々述べさせていただいた個別的な労働関係について述べてきたような問題は生じないのではないかと考えておるところでございます。
以上でございます。
○青山座長 どうもありがとうございました。
それでは、早速自由討議に入りたいと思いますけれども、まず初めに、先ほどお話しいただきました髙木さん、小島さん、水口弁護士、石嵜弁護士の4名の説明者の方への御質問があればまず御質問を伺い、それから自由討議に入りたいと思いますが、どなたか、御質問ございますでしょうか。
○説明者(石嵜氏) 今の厚生労働省の説明で1点だけ確認なのですけれども、そうすると厚生労働省は仲裁条項を労働条件とお考えになっているのですか。②で、就業規則において新たに仲裁条項が設けられた場合、これが合理的であれば労働者を拘束するという書き方をされていますから、最高裁の秋北バスの判例を使っておられますよね。あれは労働条件に関することだから、仲裁条項は労働条件とお考えの上でこういう御主張をされたのかということだけ御質問させていただきたかったのです。
○説明者(伊澤氏) 私どもとして具体的に、仲裁条項が秋北バスの判例のように適用されるかどうかについて、必ずしも十分に検討しているわけではございませんが、恐らくあの判例を類推いたしますと、同様の理論が適用されることになるのではないかという考え方です。
○三木委員 厚生労働省の方への御質問でもよろしいですか。
○青山座長 はい、結構です。
○三木委員 今の御説明ですと、事務局の資料との関係で言うとB案に賛成ということになろうかと思うのですが、労使双方が納得して、自分たちは裁判をしたくない、仲裁で労働紛争を解決したい、ちゃんとした信用できる仲裁機関を見つけている、あるいはつくっているというときには、どうすればよいということになるのでしょうか。将来の紛争に関するものは無効だとすると、そういう場合はどうすればよいということになるのでしょうか。
○説明者(伊澤氏) 恐らく、例えば採用の際に、労働者の真意でそのようなことを考える場合も場合によってはあるのかもしれないのですが、一般的に採用に当たって、特に労働者の方が将来の紛争について、実際に仲裁の意味を十分理解して、仲裁契約を事前に結ぶことはなかなか想像できにくいことではないかと思いますし、それから、実際に紛争が起こった場合に仲裁契約を結んでいただくことについてまで私どもは反対しているわけではございません。
○三木委員 御質問の趣旨は、むしろ納得して、労使双方で裁判でなく仲裁というスキームをつくりたいときに--そういうことがあるかどうか、どのぐらい件数があるかどうかという話は別にして--、そのときにはどう結ぶということを前提の御意見でしょうか。
○説明者(伊澤氏) 今の段階では、ここに書いてございますように、そのようなことについては余り想像しがたいということもございまして、とりあえずは私どもが申し上げていますように、将来の争いに関するものについては無効ということで対応していただくしかないのではないかと考えておりましす。
○三木委員 将来のスキームはつくれないという前提でよろしいのでしょうか。
○説明者(伊澤氏) そうでございます。
○青山座長 三木委員の御質問について、水口弁護士、何かそれに関連する御意見がありましたらどうぞ。
○説明者(水口氏) 厚労省の方と同じ意見です。労働事件についての紛争は非常に範囲が広いですから、それが実際に起こってないときにすべて仲裁でいいですよというのは、基本的には想定できないと思います。
○中村委員 厚生労働省の意見書についてでございますが、理由の②の内容について御質問させていただきたいと思います。といいますのは、私の理解が不十分で内容をよく理解していないというところがございます。つまり仲裁条項が合理的であっても、無効とするという御趣旨でございましょうか。
○説明者(伊澤氏) そのとおりでございます。
○中村委員 そうすると合理的な仲裁条項であっても、仲裁条項は無効だということですか。
○説明者(伊澤氏) 合理的云々の判断をそもそも誰がするのかという問題、契約締結時に誰がするのかということもございますし、合理的か否かという問題自体が将来において生ずる可能性もあると考えられることから、労働者にとって不利なものとして当初から無効というような形にしておくべきではないかというふうに考えております。
○加藤委員 労使双方に伺いたいのですが、議論の前提を伺っていますと、裁判と仲裁というのは、何となく仲裁の方がむしろ使用者側の方に強くて労働者側に不利なのではないかという御認識があるのではないかと感じますが、このあたりを少し伺いたいのです。
というのは、私ども仲裁、紛争処理をやっていますと、事業者の方のほうが煙たがっておられて、むしろ消費者の側の方が使っておられる形になっているのですね。少なくとも、うまく機能するような仲裁の仕組みというのは、それはどちらかに有利、不利というような形のものではないと思います。中立的に機能するという前提があれば、少し議論は違ってくるかもしれないと思ったりするものですから、仲裁の仕組みについて、どのような御認識なのかについて伺いたいと思います。
○説明者(水口氏) 冒頭申し上げたとおり、仲裁を利用しようという発想もあります。ただ、今の現状でどういう仲裁機関かというのが全く見えていない以上は、有利か不利かはわからない。わからない以上で配慮しなければいけないということだと思います。その上で、紛争発生後に仲裁を活用するとして、どういう仲裁機構をつくっていくのかというのは、労働側と経営側が公正な話し合いを通じて今後つくっていくものです。今の段階では有利か不利かもわからない。不利な可能性もあることを前提にして考えるしかないのではないかと思います。
○説明者(小島氏) 使用者側は仲裁が有利だなんて全く考えておりませんで、今、水口先生のお話があったように何も見えないわけですから、どうなのかということもわからない。おっしゃったような前提ではおりません。
ただ、今、厚生労働省の御説明など伺うと、昔から教科書に書いてあったような前提の、労働者というのは法律のことも知らない愚かな人たちなのだという、まず前提がある。それから、労働契約というのは、使用者側の一方的な力の行使によるものだと言っておりますけれども、今、世界の動きを見ていますと、むしろ逆で、タレント戦争というものがあって、完全に労働者に主導権が行っているというところがいっぱいあるわけです。これからも労働力不足になってきますから、今の理工系の新卒の採用などを見てみればすぐわかることですけれども、変なことを使用者が言っていたら、その人を採れないという問題が起きるわけですね。今、会社が採らない、採らないと言っているのですが、それよりも会社が採れないことの方がだんだん問題になっている。
そういうようなことを長期的に考えていきますと、今までの教科書を前提にしてやるのがいいのかどうか、ちょっと疑問です。
○説明者(髙木氏) 加藤委員の御質問ですが、仲裁の本質みたいなところから来ると思いますが、仲裁に付して問題を解決しようということから受けるリスクというのですか、そういう意味では一人一人の労働者にとっては--いろんな例が積み重ねられて、大体こんなことで、こういうケースの場合はこんな仲裁が行われるということが見えてきたら別かもしれませんが--、少し動き出すまでは、どうしても仲裁は--あっせんなり調停とは違う面があることは承知しておりますが--、力の強い側に寄せられるのではないかということを危惧する気持ちが、一人一人の労働者という意味では相対的に多いのではないかなと思われます。
ただ、これが動いてみまして、かなり実績等が出てまいりましたら、またそういう受け止め方も変わってくるのではないか。
小島さんは、タレントが強い、一人一人の労働者が強いとおっしゃるけれども、なかなかそういうところまではいっていない。小島さんのところはそうかもしれないけれども。
○説明者(石嵜氏) 私どもの認識は、契約締結時のお話なら、それは強者、弱者により不利があると思います。
仲裁を有利、不利と考えるのではないですよ。それはその機関を、労使、人の人材をどう配置するかの問題であって、したがって、ここは前提として、司法と同じように公平にやってくれる、こういう前提で物を考えています。だからやってください、それをできるような機関と人材を揃えてください、そういうことを前提に仲裁が司法の判決、訴権を奪うということ、ここの議論ですから。
それについて考えたときに、果たして裁判所での解決、いわゆる司法的手続で決定的に決着をつけてしまって--決着は仲裁でもつくのですけれども--、司法の権利義務で決着をつけて信頼関係を破壊するよりは、労使双方にとっては、やはり早くかつ簡易に、そしてある程度その利益調整をした形での仲裁という形での処理は、労使の双方にメリットがあるのではないかという考え方を私は持っております。そういう趣旨で説明しました。
ただ、解雇だけは、いろいろあるので労使双方という平等の立場、ですから、労使双方という、立場どうこうではなくて、仲裁利用の問題は平等、その確保を前提に議論するつもりでこういうお話をしているということです。
○中村委員 今の御議論を聞いていまして、1点確認したいことがございます。仲裁というのは、今、新しい仲裁法をつくるということになっておりますけれども、裁判に代わる代替的な強制的紛争解決手段であるということは一致しているのだと思います。ところが今の議論ですと、要するに、仲裁というのは仲裁機関あるいはADR機関がまずあって、それが十分利用者のニーズに応えられるようなものがなければ、仲裁というものは機能しないので、よって仲裁契約を無効にすべきだというような議論につながっていくような気がしますが、ただ、仲裁というのはそもそも当事者が第三者に紛争の解決の判断を委ねてその判断に従うという仲裁合意を結んで、それでその仲裁合意に基づいた仲裁判断に強制力を付与するという、そういった、制度として国が提供している司法制度ですね。
したがって、私はまず仲裁機関が不十分だとか、人的・物的施設がどうのこうのというのは、それは法律の問題でなくて、今、私が申しましたような、制度自体に個別労働契約が即さないかどうかという視点からまず考えるべきであろうかと思います。
もちろん仲裁には仲裁機関を使う仲裁もありますけれども、アメリカなどでは仲裁は頻繁に利用されており、2001年の連邦最高裁判所で出たサーキットシティストアーズ事件判決では、個別契約の仲裁契約の有効性について争われましたが、この仲裁条項を見ても、いわゆるアドホック仲裁、仲裁機関を使わない仲裁ですね。そういった仲裁契約の有効性について判断を示した事件です。
つまり、仲裁機関を使わなくても、我が国において個別労働契約の中で仲裁条項が規定されて、その仲裁条項の中で、紛争が起きたら仲裁によって解決しましょうというような合意も十分あるわけですね。そういう合意により仲裁人の選定がどうなるのかというと、仲裁人の選定についてできないという場合には新しい仲裁法の中で、最終的には裁判所で仲裁人を選定していただくというようなスキームになっていくことになっています。
したがって、裁判所の方で中立公正な仲裁人を選定されて、そして労働者と使用者の間の紛争を解決するということで、理論上何ら問題がないのではなかろうかというように考えております。
○青山座長 今の御意見については、説明していただいた方、どなたか。もしできれば、水口弁護士さんはどうお考えになりますか。
○説明者(水口氏) 理論的にはおっしゃるとおりなのかもしれないのですが、私どもは実務家ですから、利用者がどう見るのかという観点から見ます。
それとアメリカは、私がいろいろ読む限りは、やはりまだ混沌としているようです。アメリカは労働協約に基づく仲裁が発展してきた。その後、個別契約を認めることになっていますが、いろんな問題があるというふうに、本を読む限りではいろいろ問題点が指摘されています。
要は仲裁人を選ぶ時に、仲裁人を労働者側が選べるかというと、それは実際ではそうではないだろうと。
言いたいのは、裁判をやるのか仲裁をやるのか、それは自由に選ばせてという、当たり前の普通の国民の発想ですね。これを大事にすべきなのではないかと思います。
○中村委員 今の点は、要するに仲裁契約の成立の形成をきちんとするというところの問題ではなくて、先ほどおっしゃられた交渉力の差によって生ずる問題であり、そういったものは別に仲裁契約に限ったことではなくて、一般の契約でも当然出てくる問題でございますので、別に仲裁法の中で、交渉力の差があるから仲裁契約は無効というような特別な規定を設ける必要はなくて、もっと一般的なこととして問題をとらえるべきであろうかと思います。
それから、もう一点は、恐らく将来的には、仲裁は労働契約で使われる可能性は低いのかもしれません。他方、過去どうだったかといいますと、個別労働契約中の仲裁契約が問題になったものはまずないわけですね。現行法上それが特に規制がされていないということでございますので、そうすると新しい仲裁法でもって、仲裁法のその部分に、変更、改正を加えるということも、過去に問題のないもの--また判例等も全くそういった問題についてはありません--、そういった問題も何もないものを、言い過ぎかもしれませんが、単なる憶測でもって仲裁は悪だというような考え方で仲裁契約を無効にしてしまうということは、根拠はないように考えます。
○説明者(石嵜氏) よろしいでしょうか。考え方なのですけれども、ただ、労働契約を他の契約と同じように考えるのだろうか。
つまり、少し生意気ですけれども、国は国民の安全と食わせるということを約束していまして、食わせる方法を税制と賃金という組み合わせでやっています。日本の場合はそれを賃金で食わせると。したがって、そういう手法をとった法制度をつくってある。ですから完全雇用政策があり、雇用調整助成金などがある。退職すれば、というか仕事を失えば雇用保険でやる。つまり食わせる、生きるというところに関わっているわけです。その生きるところに関わっている労働契約ですから、したがって、通常の商取引みたいな形では解せない部分がある。
したがって、その部分の特殊性から、労働の場合にこの契約についていろんな問題が出てくるので議論をしているので、これは割り切れないと思っている。
労働契約は日本だけではない、アメリカはとおっしゃるけど、アメリカが持っている労働契約の価値と言えば、あそこは解雇自由ですから、そういう形で流動性を持っている。その中でのいろんな議論をしている。
こちらは流動性は今から出てくると思います。これは小島先生が言うとおり増えてくる。でも今のところ、企業に契約を結べば、ある程度そこで生きるという、家族とともに生きていくのです。
その契約の特殊性は、これがほかのものと同じなんて言われたら、それは誰も労働事件に携わっている人は絶対納得しないと思うのです。
○青山座長 ほかにどうぞ、山本委員。
○山本委員 水口先生に御質問なのですが、先ほどのお話の中で、事務局の提案のケースだとC案という、解除権を労働者に付与するという構成について、かなり評価できる部分もあるけれども、なかなか労働契約の継続性というところからすると、実際上解除権の行使が難しいのではないかという御発言があったかと思うのです。私自身は労使紛争について全く何の知識もございませんので、実態がよくわからないので、ぜひそこをお教えいただきたいと思うのですが、通常の民事訴訟であれば、訴訟を起こすというのが一種の宣戦布告のような感じの実情があるのかなと。そういう状況になれば、仲裁を解除して訴えにいくということ、例えば消費者のことを考えればそれほど無理なことではないような感じがするのですが、そこは労使関係の実情という点からすると、訴えにいくかどうかという局面になっても、解除権を行使するというのは実際では非常に難しいということなのかどうかということをお教えいただければと思います。
○説明者(水口氏) すべて難しいというふうに申し上げるつもりでなくて、難しい場合もあるだろうと。つまり弊害というのが考えられるのではないかという趣旨です。
石嵜先生と意見が一致するところは、労働契約を締結しながら、何か苦情を解決するとき、裁判より仲裁の方がいいと考える労働者もこれから増えると思いますし、そのニーズはあると思うのですね。それは、紛争が発生してから、そうやって理性的に考えればいいというのが私の立場ですけれども、ただ、経営側の方の、これは小島さんあたりから憶測だというふうに言われるかもしれませんが、「あんたはいったん約束しているものを解除するのか」というふうに言われたときに--そういうふうに言ってくる経営者が全部とは思いませんが、そういう経営者がもしいた場合に--、そこにおける、理論的に考えられる「合理的な労働者」は別として、実際生活している労働者がどういう心理状態になるかなというふうに考えたときには、その弊害がやはり気になるということですね。
○青山座長 よろしいですか。ほかにどうぞ。もう具体的に検討会資料の35の中に入っておりますので、これも含めて、どうぞ御議論いただければと思います。
○松元委員 髙木さん、それから水口弁護士に伺いたいのですが、先ほどの御発言からすると、仲裁になったら、どうしても力が弱い方が負けるといったようなお考えではないかと思いました。先ほど中村委員が言われたように、仲裁人は、新法では当事者間に別段の合意がなければ3名とし、選ばれないときは裁判所に選んでもらうことになるようですが、仲裁人はそれぞれ中立の立場の第三者だと理解しています。
初めから仲裁になると、使用者側の意見が採られるといったようなおそれを持っていらっしゃるのではないかと思うのです。その辺いかがでしょうか。
○説明者(髙木氏) 私が申し上げたかったのは、足して2で割るとか、いろんな事例を私どももいっぱい今まで扱ってきました。その中で何かでもめごとが起こるときに、妥協点をさぐるという意味で、これは五分五分、6:4、7:3いろいろあるのでしょう。それぞれの、勧告的な意味も含めた受けとめ方の問題として、いわゆる調整型の問題解決というのは、それは、心理強制みたいなことも含めて、力関係というものが投影される側面は私は否定できないと思っています。
それから、もっと個人的に言えば、先ほど中村委員がおっしゃった、そもそも仲裁とはこういうことなのだと、裁判所が仲裁人の選任にも力を持つよというようなことも意識しておっしゃっておられますが、労働事件でもめたときに誰が仲裁人になってくれるのか、裁判所はどういう人を推薦するのだろうと、今の現状からいえば。例えばそういう人たちが何となくイメージできる過去を引きずっています。だから、先ほどの中村さんのおっしゃる論で言えば、そういうスキーム自体に対する信頼感が高い、低いといった面も根っこにはあります。
だから今おっしゃられた、雇用契約というのもそもそも契約じゃないか、だから特別扱いする必要はないよと、もし、そういうふうに扱われるなら、ほかのところで労働者は自衛措置をいっぱいやらなければならなくなります。
厚生労働省がつくられたペーパーの労働協約という表現についても、協約の中でいろいろ我々が懸念と思うことをかなり詳細に協約の中で書いたその協約という意味でこれを読ませていただくしかないなと我々は思っているわけでして、そういう意味では、今までのいろんな経験の中から得てきた、だから何でも先回りして心配するくせがついているというのも含めてご理解いただくしかないかなと思います。
○説明者(水口氏) 私どもは仲裁になったら労働側は全部負けるとか、仲裁人が悪だという前提には全然立っていません。それは全くそんなことはないと。仲裁は当然公正・公平な機関であるべきだと思っています。
○中村委員 話がずれるかもしれませんが、小島先生にお伺いしたいのですけれども、現在の個別労働契約の中で、労使間の紛争についてどういった紛争解決条項が盛り込まれているのか。特に外資系企業の場合、仲裁条項というのは必ずしもなくはないのではないかと私は考えております。最近の事例ですと、東京地裁の平成12年の、アメリカの航空会社と日本の従業員との個別労働契約の中で紛争解決条項としてアメリカの裁判所が国際裁判管轄合意として契約されていたというのがございました。
実情として、今の現段階において、企業の、特に外資系企業が多いのかもしれませんが、労働者と使用者との間の紛争解決条項というのがどういうふうになっているのか、実態について教えていただければと思います。
○青山座長 そういう広い問題意識ですけれども、お答えいただけたらお願いしたいと思います。
○説明者(小島氏) 非常に難しい御質問なのですが、確かに仲裁というようなものを労働契約の中に入れている事例はあると思いますが、今までのところ非常に稀なケースではないかと思います。一般論として、今でも就業規則に入れようと思えばできるわけですけれども、そういう就業規則は私も見たことがありません。つまり書いてみても、そういう機関がないのですから、そんなものを入れても意味がないということなのですね。
純粋外資、本当に日本に小さな支店みたいのを置くというようなところは、仲裁にした場合は、もちろん英語でやることもできるだろうし、国の外でやろうと思えばできるだろう。いろんな柔軟性がありますね。そんなことがあって、今、中村先生の御指摘があったような事例がないことはありませんけれども、非常に稀な状況だと思います。
アメリカのお話がいろいろ出ていますが、私の知っている限りでは、個別労使紛争を仲裁でやっているという事例は結構あります。私どもの会社では、基本的には紛争は社内で処理するということで、最終的に社長に直訴することができるというような仕組みがあるのですが、そのほかに社内の陪審員制度というのがありまして、そちらを選ぶこともできる。いずれにしろ、会社の中では再審というのがありませんから、そのどちらかということになりますね。それでも満足できない人は、場合によると、その後、裁判に行くということになりますが、会社はその場合に、裁判へ行くよりもなるべく仲裁機関を利用するということを奨励していまして、その場合には経費は会社が全部負担するというようなことで仲裁機関を使うような例が、いくつかはございます。
やはりアメリカの場合も仲裁機関を使っているところは、超有名な大学教授が仲裁人になって事案を判断していく、あるいはある程度時間的な点で早いというようなことがあるのです。
きょう冒頭に近藤参事官が二弁の仲裁センターの話をされましたけれども、実は使用者側でADRの機関を評価するためのアンケートをとりましたときに、数は少ないですが、意外にこの仲裁センターを評価している声がありましたので、興味を持って少し調べてみたところ、別に仲裁センターに行ったら有利な結果が出るということではないですね。なぜ気に入っているか、あるいは気に入ったのかというと、こんな有名な人がやってくれるとは思わなかったというような話ですとか、親身になって話を聞いてくれたとか、法律の条項云々よりもどうしたら両方にとってプラスになるのかというような観点から非常に実務的な判断をしてくれると、そういうことが評価が高かった理由として挙がっているのです。
だから、要は制度の中身次第なのであって、私は中村先生が言われていることに基本的に賛成なのですが、最初からだめだ、だめだというようなことで現在有効なことまで無効にしてしまうのはおかしいのではないかと思います。
○青山座長 吉岡委員、もしよろしければ、今の話の続きで、仲裁統計年報に「職場の紛争」というのがありますけれども、この辺のところの実情をちょっと御紹介いただけますか。
○吉岡委員 先にちょっと質問を。後で御紹介いたします。
今まで議論が出てきた中で、厚生労働省の先ほどの理由②のところの、就業規則において新たに仲裁条項が設けられた場合の懸念とか、それを拒否することは許されないと書いてあるところについて若干聞きたいのですけど、こういう場合に、例えば労働者側で懸念する仲裁条項で予定される仲裁機関というのは、どういうようなことを考えておられるのか。
つまり--日本で今まで仲裁機関での仲裁が労使紛争で使われたというのは、恐らく仲裁センターぐらいしかないのかもしれないのですけれども--、そこのところが、消費者問題であれば、例えば、事業者がすぐそのような事業者寄りの機関をつくってしまうということは比較的推測に難くないわけですけれども、労使紛争において、例えば一方的な仲裁機関の懸念というのは、具体的にどんな場合を考えておられるのか、お尋ねしたいと思います。
○青山座長 伊澤課長、よろしゅうございますか、お答えいただけますでしょうか。
○説明者(伊澤氏) 実際にどのような仲裁機関というのが出てくるのかというのを私どもも十分承知しているわけではないわけですけれども、恐らく一つ言えるのは、使用者側が自分の有利な仲裁人を指名するような形での仲裁契約というようなものを仮に事前にするような形になりますれば、恐らく我々の懸念しているような状態になるのではないかということでございまして、そういう意味では、具体的にということを今申し上げているわけではないのですけれども、場合によっては、そういう使用者側に有利な形の仲裁へ持っていくという可能性があるのではないかということから申し上げております。
○吉岡委員 せっかくですから、事務局で用意されました資料ですけれども、これは第二東京弁護士会のデータ、引用されているのは1995年までのものですので若干古いかもしれませんけれども、この中でも、個別労働紛争に関して弁護士会の仲裁センターが各地で使われておると。しかも、応諾ケースというのですけれども、申し立てられたときに、相手方が仲裁機関に来てくれるケースが一般の事件よりも高いという指摘があるということですね。
それから、弁護士、特に相手方にも弁護士が付くという関与の度合いが高いがというふうに言われていることは、私の場合には東京弁護士会の仲裁センターでございますけれども、そこで関与していることを考えても同じような感想は持っています。
それから、ここに出てきている例のほかに最近東京弁護士会の方での例をちょっと調べましたところ、個別労働紛争と思われるものが、平成6年から平成9年の10月までの間に11件、その後の平成9年11月から平成13年9月まででやはり11件。これは解決事例だけでございますので、申し立てられたものはほかにもあるわけですけれども、解決事例がございました。
それを見ますと、いずれもすべて労働者側からの申立事件でありまして、使用者側からの申立ては1件もございません。それで、額もそんな大きなものではございませんけれども、早期に、例えば不当解雇による退職金その他、賃金の未払いのものを払ってもらいたいというようなものが、比較的に早期に解決されていると。そういう意味では、もちろんこれは事後の合意ではございますけれども、身近な労働紛争が解決されているということは参考になるのではないかと思いまして、御報告させていただきます。
○青山座長 どうもありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。
○谷口委員 私は労働分野の実情につきまして詳しく知る立場にございませんので、甚だ一般的な感覚で御意見申し上げることをお許しいただきたいと思うのですけれども、現行法の下では個別労働紛争についてのADR規定として雇用均等法の調停、近時では個別労働紛争のあっせんの規定というのができているようでございまして、これらの規定を設けるに当たっては、仲裁の規定を置く、置かないという点も含め様々な御議論がされたのではないかと推察いたしますけれども、大きな流れとしては、そういったADR規定の整備は、労働者の権利保護という観点から見れば前進であるというふうに私などは受けとめて理解いたしておりました。現時点では仲裁に関する規定というのが現実に法律に置かれている状態ではないけれども、将来的な検討としてはそういうこともあり得るのであろうというふうに受けとめておりました。
ただ、現状の下では、先ほど来御紹介がありますように、仲裁規定はなく、また具体的に実績を上げている信頼された仲裁機関がないという状況のようでございます。大きな流れとしてADR機関を整備していくということは、今のお話を伺っていても、労働者側の方を含め、あるべき道筋とお考えのようですので、ぜひそういう芽を摘まないような議論がされるべきではないかという気がいたします。ただ、その一方で、現に具体的にこういう仲裁機関が利用されることになるだろうというイメージが持てない段階で、一労働者が、裁判が将来できるのがいいのか、仲裁が将来できるのがいいのかということを、どれだけ実質的に判断できるのかという御懸念は、一般的な分野の紛争に携わってきたこともある身としては、理解できると思うところでございます。
そういう意味では、そういった懸念を解消できるような実績がないという点で、建築紛争審査会のような機関が信頼できる仲裁の実績を有し、高いレベルの専門家がそこに携わっているという実情がある分野とは、もしかしたら違うのかなという印象も受けるものでございますが、そうだとすれば、それは理論的な問題というよりは、現在の実態論という面もあるかのように思いますので、実態的な整備を待ちつつ、当面一定の事前の仲裁合意に制限を加えるということも検討されるべきだとしても、それを一般に固定的な姿として、仲裁合意は将来のものについては無効としようと一律に切ってしまうということでないような解決が、何かないのかなという気がいたしますとともに、建築等の分野につきましては、裁判は裁判、仲裁は仲裁で一定の成果を上げておりますと思いますので、そういった成果を上げている、既に実績のある分野に、現状よりも制限的な制度が導入されてしまうようなことにつながらない議論というのを望みたいと思う次第でございます。
○山本委員 私も谷口委員の御発言に近いような感触を持っておるのですが、現状、信頼できる仲裁機関がまだ余りなくて、その利用もまだないというところはそのとおりで、ただ、将来にわたっては、先ほど来、説明の方々から御指摘のとおり、日本でも労働紛争について仲裁が利用される可能性があるし、また労働紛争の中にはそういう解決が望ましいものもあるということもある程度共通認識があるように伺いました。
そのためには、この段階で、この検討会ないし今の段階の立法で、将来にわたって完全に事前の仲裁合意を無効とするというような決断をするのは時期尚早の感を否めないという感じを持ちました。そういう形で事前仲裁合意を無効にして、事後ならいいと言ってみても、そういう形ではなかなか新しい仲裁機関が育ってこないのではないかと思われます。
ただ、他方で、髙木副会長や水口委員、厚生労働省側からの御発言の御懸念も、十分わかる感じがします。消費者契約に比べても、なお、労働契約の場合は、先ほど来の御指摘のとおりの従属性というのは、少なくとも現在の日本の現状を見る限り否定できないとすれば、それは紛争前の段階で仲裁合意を結んでも、それが真意のものではない可能性がどうしても残るということであるとすれば、現段階で完全な形で他の契約と同じように仲裁合意に労働者を拘束するような形で規律をするというのもやはり難しいという感じがいたします。どこか中間的なところで解決を図ることを我々としては考えていく必要があるのではないか。
今、谷口委員がおっしゃったように、問題は消費者契約と類似している面はありますけれども、やはり違うわけですから、それは消費者契約と完全に揃えた解決をする必要はないのではないかとは思いますけれども、現段階でどこまでできるかということを考えながら、我々としては結論を出していかなければならないのではないかというのが私の意見です。
○説明者(髙木氏) うまくやっているところもあるのだから、バックグラウンドも何もできていないところをそう心配しないでというのは、お考えとしては理解できないわけではありませんが、先ほど来ADRで労働局がいろいろやっておられますし、各都道府県には労政事務所がございますし、最近は地方労働委員会も個別労使紛争を扱っておられますし、あるいは、私ども労働検討会の方では--菅野座長がお見えになるので私が余計なことを言う必要はないかもしれませんが--、労働調停という民事調停の一類型を予定しているのです。
多くの労働紛争がきちんとした処理解決機関でされないままで泣き寝入りみたいなこともたくさん現実にありますし、そういう意味ではADRのチャンネルの多元化、その中で使い勝手がよく、それなりの納得性が高いという解決をしてくださる、ADR機関の競争でみんなの評価が高いところは使われるようになるだろうし、そういう意味ではADR全体について、今、いろんな努力が行われている。その中の1つとして仲裁、--裁判へ持っていきますと、事件によって10年というのもあったりするものですから--迅速性という要請から、こういう仲裁みたいなものもたくさん使われるようになるのだろうというのはそのとおりと思います。
先ほどのように、そういうふうにいろいろ選ぶことも可能だから、心配するなという論理だけで、一般契約と同じように、こちらでそういう処理をされますと、それでは中身の方は労働検討会でもう一遍そっちの方をやり直さないといけないのか、労働検討会の立場での議論をするのかという議論になりかねません。だから、きょうここですべての話が終わると思ってお伺いしたわけではございませんけれど、労働の現状というものもあっての議論だということについては、ぜひ御理解をいただいておきたい。
○説明者(石嵜氏) 労働契約について従属性という形で議論されていますけれど、必ずもう一つ、継続性、この継続性ということを強く御認識しておいていただきたいということを、使用者側の立場から希望します。使用者側としても、この継続的な契約の中で、継続を前提とした賃金とか、出向の、こういう利益紛争に近いところは迅速にやりたい。さっきからくどいようですけれども、信頼関係の維持という意味で、仲裁は使用者側も魅力のあるものだろうと思っています。
1つだけ私が思うのは、私は労働側の弁護士ではないのですけれども、継続を前提としますと、労働者側は事後合意でも実際は難しいのではないかと思うのですね。使用者側が仲裁合意と言ったときに、本当に嫌だと言えるか。実際紛争が起きても、労働基準監督署に自分の名前を出して、そして会社に名前を言ってもいい、あっせんも裁判もやると、これはよほどのことがないとできないですよね。
という意味では、翻って言ってしまえば、それこそ最初から仲裁の合意を仲裁契約で採用時にきちんとしておいて、会社として社内手続で解決するように第一にやると。でも納得がいかなければ、仲裁を使ってもいいのだよという、使用者側から、最初からここを使えるのだよという、したがって、そこできちんとした真意でとれるような形だけ担保して、ここに行けるのだというような1つの示唆をすること自体は労働者側にとっても不利ではないのではないか。どうですか、皆さん、私はそんな気がするのですけど。
○中村委員 今の点に関しましては、継続的契約関係ということからすると、公の法廷で争う裁判に比べますと、仲裁のメリットというのは相当あるのだろうと思いますので、先ほど来のお話のように、コスト・パフォーマンスの問題も当然仲裁では出てくるだろうし、迅速性という問題も出てくるだろう。今おっしゃいましたように、継続的な関係を維持するということであれば、裁判というのはふさわしくない面が非常にあるのだろうと感じました。
先ほど事務局案について言及がされましたけれども、消費者契約の問題とほぼ同じような特則の内容になっているかと思いますが、消費者契約よりも雇用契約の方がより深刻だと思うのですね。結局、仲裁を受けなければ採用しませんという部分が、私は一番の問題点だと、従前からも同様に消費者契約についても申し上げたかと思います。
したがって、条文としてはどういうふうになるのか私はわかりませんけれども、結局、仲裁合意を同意することを条件に雇用契約の申込みをしてはいけないという形でもって、アメリカで言ういわゆるミーニングフルチョイスといいますか、そういった、労働者が納得して、それで仲裁契約を結ぶというような道にしておけば、雇用時に仲裁契約を結ぶことに何の問題もないのではなかろうかというのが1つ。
その際、消費者に比べて労働者の方が、仲裁の意義あるいは仲裁判断の効果、そういった問題については知らないで契約することが相当あると思いますので、したがって、消費者契約の場合と同じように、仲裁契約の締結をする際に、使用者側から労働者に対して仲裁の意義等についての説明義務を課すと。つまり、説明義務と、仲裁合意を受けることを採用条件にしないという、2つを要件として押さえておけば、仲裁契約というものは将来の争いに関するものであっても、無効にする必要はないのだろうというのが従来からの意見でもあり、個別労働契約についても同じように考えられるのではなかろうかと考えております。
○青山座長 わかりました。ちょっと私の方で議事進行を図らせていただきますが、ここで菅野教授から、労働と仲裁についてのお話をいただき、その後、今度は菅野教授の御説明に対する質疑を兼ねて、少し御意見を交換していただきたいと思っておりますが、それでよろしゅうございますでしょうか。
それでは菅野教授、お待たせしました。どうぞよろしくお願いいたします。
○説明者(菅野氏) ありがとうございます。私は、1974年から76年にアメリカに最初の留学をした時に、アメリカの労働関係における仲裁制度を学びまして、私の知っている高名な労働学者の方々は皆アービトレーターとして仲裁をやっていましたから、そういう手続なども拝見させていただきまして、いたく感銘を受けました。
その後もずっとアメリカに行くたびに、知り合いの弁護士さん、大学教授等によってそういう機会を持って勉強して帰ってくるのですが、全然これが日本に帰っても役に立たなかったわけですね。その後、組合が設けるそういう労働協約による労働仲裁が、組合の組織率がどんどん低下して、適用範囲を縮小していったのに代わって、組合がない優良企業での個別契約による仲裁で同様の手続がかなり普及していったのも知りまして、3年前にそういう企業をインタビューしに行って、それに関与している弁護士事務所等もインタビューしてきました。しかし、それでも、なお、日本ではまだまだ関係がないようなことだったのですが、やっとそういうのが議論され始めたなという思いであります。
4点にわたって申し上げたいのですが、第1点は、私は紛争後の仲裁合意と将来の紛争のための仲裁合意は、労働関係独自かどうかわかりませんが、基本的に違うだろうと思います。紛争が起こった後の合意は、具体的な紛争があって、自分がそれをどう解決するかということを考えながら利害得失を考えて仲裁に付することを決断することだろうと思いますが、将来の労働関係紛争の仲裁付託合意は、典型的には採用の際になされるので、まず紛争が起こるなどとは思っていませんし、法的にこれを採用の条件にすることを許すかどうかは別にして、実際上は採用されたいというのが大部分ではないか。
それから、アメリカのように組合があって、組合と使用者間が設定したスキームを提供することはあり得るのですが、日本の場合はそれはまだない。組合のない企業が増えている上では、使用者が用意するスキームを選ぶというか、それに同意するかどうかということであるわけで、基本的に違うかなと思います。
第2点として、皆様御存じのように、現在あるいはこれまでは、労働関係の紛争を仲裁で解決するというのは行われてきていないと言っていいと思いますが、私は将来の紛争に関する合意を基礎にした労働仲裁制度は、労働関係紛争の解決については大きな可能性を持ったADRだと思います。大きな可能性を秘めていると感じておりまして、これはアメリカではまさしく、労働関係における使用者の恣意を排除して労働協約で獲得した権利を確保し、かつ解雇や懲戒において公正な取扱いを確保するという意味で、アメリカの労働運動の最大の業績であると言われてきているものであります。
組合の組織率が低下して、その後は優良企業が有能な技術者や従業員を確保する、あるいは生産性を高めると、そういった観点からこれを採用していますが、その場合でも労働者にとって利益になるという側面は非常に大きいと思います。そういうふうな可能性を秘めているわけでありまして、日本でも、言われましたように、成果主義の賃金とか成果主義の処遇というのがどんどん広まってきている。その場合、典型的には年俸制、そのほか業績賞与ですが、評価というのは、裁判所とか外部の者にはわかりにくいので、企業の中のことをよく知った人が終局的に紛争解決するのが、紛争解決の在り方として有効なのではないか。そういう場面がこれからどんどん増えていくのではないかという気がいたします。ですからかなり高いサラリーをもらう技術者、そういった人たちの労働関係紛争の部分には必要ではないかという気がするわけです。
それから、日本の組合運動にとっても、苦情処理というのは1つの課題だと私は見ているわけでして、そういうのをいろいろ考えて、個別労働関係紛争が今後増えていく中でのADRの発展という観点からは、個別労働紛争の仲裁というのは大きな可能性を秘めていると思います。それは一定のスキームに基づいてやるとしたら、事前の合意に基づくということが1つの典型的な形になるわけで、これを閉ざしてしまうのは適切ではないのではないかと思います。それが2点目です。
3点目に、例えば一方では、そういう可能性を秘めていて、今の時点で終局的に将来の紛争に関する合意を全面的あるいは基本的に無効としてしまうとか、解除権を与えるという形で終局的な解決を図ってしまうのは将来の発展可能性を閉ざしてしまうという気がいたしますが、しかし他方では、全面的に今から有効としてしまっていいかというと、それも私は懸念を持っております。転職市場を持っている強い立場の労働者が増えてきているとは思いますが、大勢はまだ採用の際には弱い立場にあるだろうという気がするわけでありまして、個々の書面とか自署とか、そういうような様式だけでそういう懸念を払拭できるか。
それから、石嵜委員が言われたことと同じだと思うのですが、労働基準法を始めとする労働保護法の体系があって、そういうものとの関係が一体どうなるのかということが1つあります。それから労働委員会が不当労働行為の解雇について救済命令を出すとか、そういうようなことについて、解雇を始めとする紛争をすべて仲裁に付するという場合にそのことはどうなるのか、そういういろんな問題がございます。
それで何よりも事前の合意の場合は、仲裁機関を始めとするインフラの問題が重要なわけですが、それは法律上の問題でないと割り切ってしまっていいのかどうか、その辺の検討も何もまだなされていない。要するに不適格な--もちろん仲裁ですから、労使いずれにも有利になり得るわけですが--、企業が用意するスキームの中において、仲裁の適格性、実際上のかもしれませんが、適格性の問題が全然検討されなくていいのかという感じがいたします。
4点目としては、私は、当面の暫定的な措置というか処理ができないのかというふうに実は思っておりまして、将来の紛争に関する合意については、とりあえずの措置ができないか。それについてはいわば効力を停止しておくような形で、労働関係についての検討を早急に行う必要があるのではないかと思っております。以上でございます。
○青山座長 どうも貴重な御意見をありがとうございました。
それでは、まだ時間がございますので、今の御意見についての御質問なり、意見表明なり、あるいは資料35についての具体的な言及なり、どこでも構いません、どうぞ。
○三木委員 私は労働問題、労働法制に関しては素人ですので、細かいことはよくわかりませんが、基本的には、今、菅野先生がおっしゃったように、この問題はいろいろ膨らみのある問題ですし、労働法制一般とかその他の問題とも広く関連していますので、この場で最終結論を出して仲裁法に盛り込むのはやや検討不十分ではないかという気がいたします。その点で、先生の御発言に基本的に共感を覚える次第です。
1点、先生に伺いたいのは、将来の検討に向かうために、とにかく暫定的な措置を講じておくという場合の中身ですが、今のお話ですと、既に生じている紛争については別に問題ないのですけど、将来の紛争に関する仲裁合意についてはとりあえず効力を停止しておいて、早急な検討をしてはどうかという御趣旨だったように思います。ただ、現在の仲裁法では、将来紛争に関する労働関係の仲裁合意も一応有効として扱われていると思います。その数は極めて少ないだろうと思いますが、既に存在して動いているものがあるとした場合に、現状をいったん変更して、効力を停止して、その後、場合によっては、部分的にかどうかわかりませんが、効力を認めるというやり方がよいのか、効力を現状のまま一応認めておいて、しかし早急に検討していくのがいいのかという点がちょっとわからなかったものですから、お伺いしたいと思います。
○説明者(菅野氏) 今までは有効だったのだからというのですが、どなたかがおっしゃいましたけれども、新仲裁法ができて仲裁に関する手続が整備されると、これが1つのきっかけになり得るのかなという気がするわけで、しかも、古い法律で、実際上我々は労働関係については何ら意識していなかった、労働関係にいる方々は意識していなかったと思うのですが、これがこういう議論を経た上で、全面適用というか、労働関係についても有効だと、問題があれば将来検討するというようなことにしてしまうと、検討がいつ始まるかということもありますし、例えば外資企業などで、日本の労働法制に非常に違和感を持っているようなところなどは、それならというようなことも考えられるかなという気がしまして、大分懸念があります。
○三木委員 検討するというやり方をどういう形で目に見える形で盛り込むかということにもよろうかと思いますが、例えばですが、比較的近い将来に検討するということを外部に見える形で盛り込んだ場合は、効力が近い将来どうなるかわからないわけですから、仲裁法が新しくなっても、それを機に一気に労働仲裁が増えるとも思いがたい。さほど懸念がないようにも思いますが、いかがでしょうか。
○青山座長 これはお答えいただかなくていいですか。
○三木委員 意見だけです。
○加藤委員 今の議論の前提で、無効説をとって、後で事後合意すれば、労働者の側に選択肢が残っているというような御議論と思うのですけれども、そうすると逆に言えば、両者が合意しないと仲裁に行けないというふうにして、逆に使用者の側からも止められるということになると、結局仲裁は育たないのかなとも思います。予め事前に合意というところで--当然、仲裁はもちろん両者に公平なものという前提ですので--、ということであれば、将来のものについても有効に機能するという形にしておけば、仲裁を労働者が後で使えますけれども、無効にしておくと、もし仮に仲裁が労働者の側に有利だと使用者の方が思われれば、労働者の側からはそれを使えなくなるという意味で、私は将来のものを完全に無効にしてしまうというのはいかがなものかと思います。
それから、しばらく無効にしておいて、早急に検討してはという菅野先生の御意見がございましたけれども、逆に今まさに事例はほとんどないわけですから、その中で無効にしますと、ますます事例がないという中で検討することになってしまう。それとは逆に、少し動かしてみて、事例を作ってみるということもありえます。ただし、早急に検討して、むしろ仲裁法ということではなくて、労働関係の法律の中で織り込んでいくという前提ですが。この両方の形が考えられます。私ども実際仲裁を行っている機関として、割ときちんと機能していると自負しているものですから。うまく機能するとすれば、少し動かしてみて、事例ができてから特例を入れるということも考えうるのではないか。附帯決議か何かできちんと労働関係について検討して早急に労働法に盛り込むというふうにしておいて、仲裁法自体は特段の規制を設けずに当面走り出すというのも1つ案として考えられると思うのですけれど。
どちらがよろしいのか。止めておいて考えるのか、少し動かしておいて考えるのか、両方のやり方があるのではないかと思うのですね。
○山本委員 私も三木委員と同じように菅野先生の御発言に賛成です。私、前回の検討会の席上で労働検討会の検討状況の関係について御質問をしたと思いますけれども、この問題は、結局日本における労働関係の紛争を日本の民事司法制度全体の中でどういうふうに解決するのが望ましいかということでありまして、労働検討会で御検討になっておられるという労働調停制度や、あるいは裁判所における参審制度の導入の問題などとも当然密接に関連している問題であろうと思っております。
私はよく知っているわけではありませんが、ヨーロッパ、例えばフランスなどでは労働仲裁は基本的には禁止されているわけですが、しかし他方では、労働審判所という労使双方から選挙された者が裁判官となっている制度が存在して、そこで調停前置の下で調停が一定程度機能し、そして事実上仲裁に代替するようなスキームが裁判で実現しているという側面があると思っております。
そういう意味では、全体の制度の中で考えていくべきであるとすれば、各検討会の日程の関係で、この仲裁検討会が先に結論を出さなければいけない状況になっておるわけでありますけれども、この問題が非常に重要な問題であることはコンセンサスがあるのだろうと思いますので、仲裁検討会だけで最終的な決断を下すのは私は適当ではないと思っております。
それで、その後、いったん効力を停止して後の検討に委ねるか、あるいは一応仲裁の適用範囲に含めて検討するかという問題ですが、これは今までの御議論からも明らかなように、この労働問題に仲裁契約を適用するということには相当程度の懸念があって、その懸念については十分な合理性というものがあるのではないかと私は思っておりますので、暫定的には、とりあえずは労働問題については、将来の紛争に関する仲裁契約の適用対象に含めない形で出発して、あとはその後の全体の制度を見ながら、仲裁をどういうふうに利用していくかということを、専門の方々を含めて御議論を進めていただくというのが適当ではないかと考えております。
○青山座長 どうもありがとうございました。中野委員、もし何か御意見があれば。
○中野委員 私も山本委員がおっしゃられたことに基本的には賛成でございます。労働検討会等での関連問題についての議論をも含めて、将来的に考えていくべき問題ではないかと思います。
○説明者(菅野氏) 停止して、暫定的な措置をとって、あとは検討をと言ったのですが、労働検討会の座長としては、労働検討会でお引き受けするとか、そういうようなことまでは言えませんので、それはそちらの方のいろんな課題がございますので、その点は留保させていただきたいと思います。
○山本委員 私が申し上げた趣旨は、労働検討会で御検討いただきたいということではなくて、労働検討会での検討の状況も見ながら、どこか適当な場所で御検討いただきたいという趣旨です。
○近藤参事官 事務局としてなのですが、労働検討会では、改革審の意見書の中で労働関係事件に関する裁判所の改革が提言され,それを中心に検討しておりますので。むしろ、司法制度改革の問題の中で、この労働関係紛争についての仲裁の問題というのは、この仲裁検討会の方で検討しましょうという仕組みになっておりますので、その点をちょっとお含み置きいただきたいと思います。
○青山座長 よろしゅうございますでしょうか。時間が迫っておりますので。
この問題は、きょう5人の方に来ていただきまして御意見をちょうだいいたしまして、非常に理解が深まったというふうに認識しております。ただ、もちろんきょうで結論が出るという問題ではございませんので、さらに引き続いて検討させていただくことにさせていただきたいと思います。
本日、予定していた検討事項はこれだけでございます。お忙しい中を貴重な時間を割いて検討会に出席いただいた5名の方につきましては、誠にありがとうございました。御礼申し上げたいと思います。
次回の検討会資料の、特に労働に関する部分についての作成に当たりましては、事務局の方で、菅野先生ともよく御相談した上で作成するということでありますので、それを踏まえまして検討を続行したいと思っております。
事務局から次回の検討会の予定について御連絡をお願いしたいと思います。
【次回の予定等、閉会】
○近藤参事官 次回の検討会は12月12日木曜日午後1時30分から予定しております。消費者関係及び労働関係について更に御検討いただくほか、それ以外の点で問題の残っているものについても議論させていただく予定でございます。当初は12月12日ですべての検討を終了する予定ということでしたけれど、次回ですべて検討を終了することができるかどうかについては、次回の議論を見てみないとわからないと思っています。なるべく御意見が次回でまとまるようにと思っていますが、仮にそれができない場合には、臨時の日程として来年の1月14日午前中を設定させていただくということもあり得ると思っております。
○青山座長 最後に私から1つ御報告事項がございます。11月11日に開かれました第7回司法制度改革推進本部顧問会議に呼ばれまして、この仲裁検討会の検討状況を御説明いたしましたので、その模様について簡単に2、 3分で御報告させていただきたいと思います。
3つありまして、まず第一に推進本部事務局長から、第一審の裁判の結果が2年以内に出るようにするという、裁判の迅速化のための法案の検討状況の報告がありました。2番目に、法務省民事局長から、現在、法制審議会で進めております民事訴訟法、人事訴訟手続法、民事執行法の改正の検討状況について御説明がありました。最後に私から仲裁法改正の検討状況についての説明をいたしました。
仲裁に関しましては、私は余り質問はないものと思っておりましたけれども、かなり多くの質問が顧問の方々から出ました。簡単に紹介いたしますと、例えば佐藤座長から、日本の仲裁法は古色蒼然と言われているけれども、それで今までやってこられたのはなぜなのかという御質問。それから、小島顧問から、日本の仲裁が弱いと聞いているけれども、他国と比べて日本での仲裁はどのくらいの件数があるのか。これも座長からの質問ですけれども、仲裁法を整備すれば、それでおのずから仲裁が使われるようになるのかどうかという御質問。笹森顧問から、仲裁において、弱い立場の労働者や消費者に対してはどういう配慮がなされるのかという御質問。また小島顧問から、国際仲裁では、ITをフルに活用できるような道を開いておかないといけないと思うが、この点はどうかという御質問。今井顧問から、モデル法採用国の主な国はどんな国であるかという御質問。大宅顧問から、裁判に比べて仲裁の方がメリットがあるというイメージが自分は湧かないのだけれども、それは具体的にどんな場合か。佐々木顧問から、裁判を2年間で終わるという迅速化の問題と仲裁法の整備はどういうふうに関係するのか等々の御質問でございました。
これにつきましては、私、適宜お答えしておきました。例えば、きょうの議論で言いますと、仲裁法を整備すればおのずから仲裁が増えるというものではなくて、もちろん人的・物的な整備の方がはるかに大事であるとか、なぜ日本で古い仲裁法でやってこられたかというと、それは日本の法律解釈学者が非常に優秀であるし、日本の仲裁機関も大変努力して、任意規定である仲裁法に独自の仲裁規則を加えているからだというような御説明をいたしました。
全体的な雰囲気といたしましては、意外に仲裁に関しまして関心が高かったということ、それから、引き続きこの検討会で鋭意がんばってほしいと、そういう励ましの雰囲気でございました。
私の御報告は以上でございます。
少し時間を超過して恐縮でございますが、この検討会の方も残された回数が少なくなってまいりました。先ほどご案内のとおり12月、1月、2月と3回しかございません。委員の皆様にはどうぞ引き続き検討をお願いしたいと思っております。
本日は、説明に来てくださった5人の方々を含めまして、ご苦労様でした。ありがとうございました。