首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会仲裁検討会

仲裁検討会(第12回)議事録

司法制度改革推進本部事務局



1 日 時
平成14年12月12日(木)13:30〜16:55

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室(永田町合同庁舎2階)

3 出席者
(委 員)
青山善充(座長)、秋吉仁美、加藤久喜、中野俊一郎、中村達也、松元俊夫、三木浩一、山本和彦、吉岡桂輔(敬称略)
(説明者)
高橋義明(内閣府国民生活局消費者企画課課長補佐)
(事務局)
古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、後藤健企画官、内堀宏達参事官補佐

4 議 題
(1)開会
(2)検討事項案その23(仲裁法制に関するとりまとめについて〔その4〕)
1 書面による通知の在り方について
2 紛争の仲裁適格について
3 仲裁契約の書面性について
4 妨訴抗弁について
5 仲裁権限の有無の判断について
6 時効の中断について
7 裁判所の証拠調べの援助について
8 仲裁判断書の預置について
9 仲裁契約の方式の準拠法について
10 裁判所の管轄について
11 多数当事者仲裁について
(3)検討事項案その24(仲裁法制に関するとりまとめについて〔その5〕)
(4)検討事項案その25(仲裁法制に関するとりまとめについて〔その6〕)
(5)次回の予定等、閉会

5 議 事

【開会】

○青山座長 定刻になりましたので、第12回仲裁検討会を開始いたします。
 年末に差しかかって、大変慌ただしいところでございますが、お集まりいただきまして大変ありがとうございます。
 本日は、日下部委員と谷口委員、お二人が御欠席でございますが、そのほかの方々は皆さん御出席いただいております。
 今回の検討会は、第9回及び第10回の検討会におきまして実質的な部分についてなお検討すべきであるとされている部分を集中的に議論していただき、できれば本日の検討会で最終的な方向を示すことができればと考えております。
 それでは、まず本日の資料につきまして、事務局に説明していただきたいと思います。

○近藤参事官 本日御議論いただく内容は、検討会資料の36、37及び38でございます。これらの資料の送付について、今回、直前になってしまったことをお詫び申し上げたいと思います。
 また、参考資料として17、18を本日配布させていただいております。参考資料17は、後に検討します消費者保護の関係の解除権構成の場合についてわかりやすくなるようにということで工夫したものでございます。
 それから、参考資料18は、後に御発言がありますが、仲裁制度における消費者保護の特則に関する意見ということで、国民生活局から御提出いただいたものです。また、委員の方のみの席上配布の資料としまして、日本経済団体連合会、全国消費者団体連絡会、自由法曹団の意見書、また消費者関係の方から多数の意見をいただいておりますものを配布させていただいております。

○青山座長 それでは、早速、議論に入りたいと思います。
 最初の議論は、書面による通知の在り方ということでございます。これにつきまして、まず事務局から説明をお願いいたします。

【検討事項案その23 〜1 書面による通知の在り方について〜】

○近藤参事官 書面による通知につきましては、モデル法3条の規律によるべきであるとの意見で、大方まとまったものと理解しておりますが、裁判所の援助については具体的な案を今まで示しておりませんでした。
 第9回の検討会においては、重要な書類については、実務上、配達証明郵便等の方法で送付しているが、実務では受領拒絶の場合が少なからずあること、また受領拒絶か不在かが判然としないことがあるという御指摘があったと思います。
 そこで、そのようなニーズを前提として、当事者ないし機関が配達を試みたが、不在又は受領拒絶によって配達されなかった場合に限って、裁判所への送達援助の申立てを認めることとしてはどうかという案を提案させていただきました。
 なお、申立てがあった場合でも、裁判所が送達をする必要はないと認める場合には、援助をしないということもあり得るという案になっておりますことを付言いたします。

○青山座長 送達につきましては、裁判所が援助すべき場合の案がこういう形で示されたわけでございますけれども、これにつきましていかがでしょうか。

○秋吉委員 訴訟手続におきましても、普通郵便などの相当と認める方法による通知をすれば足りるものというものがいろいろありますし、送達という厳格で確実な手段が要求される場面というのは限られていると思いますので、送達を行う必要性がある場合に送達の援助を行うという規定自体は妥当なものだと思います。
 しかし、受領拒絶などがなされた場合の手当てについてですけれども、これについては仲裁廷でも書留郵便に付する送達のようなものができるように仕組んだ方が便利なのではないかと思います。
 裁判所におりますと、相手方の住所に書類が届けられたけれども、相手が受領を拒絶したり、不在のため郵便局に留め置かれたものが、相手が取りに行くのを怠ったために裁判所に戻ってきてしまうということがままあるわけですが、そういう場合は民事訴訟法の107条による、書類を住所地などにもう一度書留郵便に付して発送して、この場合に、発送時に送達があったとみなすという形で送達されている例が結構多いのが実情だと思います。
 仲裁廷でこのような事態になった場合に、事務局案ですと、仲裁廷の側には、1つは何ら証拠の残らない普通郵便で発送するという方法か、あるいはもう1つは証拠は残るけれども厳格な手続である裁判所の送達を利用するか、その両極端の手段しか残らないことになってしまうと思うのですが、むしろ今お話があったような受領拒絶の場合には、事務局の案のような送達の援助に加えて、もう1つ、例えば再度書留郵便などを発送した時点で、送達があったものとみなすというみなし規定も設けておいて、仲裁廷において裁判所による送達とみなし規定による通知のどちらを利用するかを選択できるようにした方が、実際には使い勝手がよい制度になるのではないかと思うわけです。
 確かに、モデル法3条では、受領拒絶などの場合のみなし規定は設けられていないということですが、合意をしながら通知の受領を怠った当事者を保護する必要性が高いかと言われるとそんなに高いとも思われません。仲裁廷の利便性を高めるという観点から、日本でよく行われている、民事訴訟法107条の趣旨を生かした規定を追加した方が便利ではないかと、裁判実務を担当している者としては思うのですが、そのあたりについても仲裁機関の方の御意見も伺えるとありがたいと思います。

○青山座長 それでは、仲裁機関、国際商事仲裁協会あるいは日本海運集会所はいかがでしょうか。あまりそういうことをしたことはないと思いますが。

○中村委員 御質問の趣旨が必ずしも把握し切れていない部分がありますが、実務上は、配達証明付書留郵便、あるいは現在では国際宅配便といった、配達証明が得られる手段でもって通知をしているというのが現状です。
 しかしながら、本人がいても受領拒絶という場合はもちろんあります。また、本人がいない、不在という場合もございます。ただ、受領拒絶の場合は、これは難しい問題でございますが、通知がなされたというふうに解釈できる余地がなくもないという理解のもとに、手続を進めたという例はあったかと思います。

○近藤参事官 今、中村委員がおっしゃったように、受領拒絶の場合に全く送達の効力は生じたと言えないのかどうかというのは、1つの解釈の問題だと思うのです。それから、今、仮にそれをみなすという形にした場合に、モデル法から離れてしまうことがどうかという問題点があるのではないかと思いまして、事務局のような案で御了承いただければモデル法とそれほど離れないので、裁判手続上の問題について特則を設けていくというモデル法の趣旨とも合致するのではないかとは思っているところです。

○青山座長 私の方から秋吉委員に質問させていただいていいですか。
 この107条の書留郵便に付する送達は、106条の補充送達や差置送達をすることができるという規定、これは裁判所から見ますと、日本の裁判権が及ぶ者に対して送達することは当然できるという前提で、補充送達や差置送達の規定を置いて、それができない場合に、今度は郵便に付すればそれで足りるということになっているのではないだろうか。
 そうすると107条というのは106条とセットで、日本の裁判権が及ぶということを前提としているのではないかと。今、秋吉委員の方で言われるのは、仲裁合意があるということはそれと同じようなことだと、日本の裁判権が及ぶのと同じように仲裁合意をした人にはこういうことをしてもいいのだという、そういうことまでお含みになっておられるのかどうかということを、ちょっと質問したいのですけれども。

○秋吉委員 すみません、もう一回御質問を。

○青山座長 裁判所が送達をするというのは、日本の裁判権が及ぶ人に対して送達をするわけですから、裁判所の書類を送達するにせよ、仲裁機関から依頼された書類を送達するにせよ、それは裁判所で送達することはもちろんできるのですが、今言われる107条の書留郵便に付する送達をするというのは、発送者が一度送ったけれどもだめだったということ、106条の送達をやったけれどもだめだったことを要件としているわけですね。
 それを仲裁機関ができるかという御説明はどういうふうに説明したらいいかということなのです。

○秋吉委員 規定を設ければ、そこがクリアできるのかと考えたのですが、難しいのでしょうか。

○青山座長 私は規定を設ける実質的な根拠というか、それを設けることができるのだろうかと。裁判権が及ぶということを前提とした106条とセットに107条ができているとすれば、仲裁機関の場合には、裁判権が及ぶというものではないですから、仲裁契約があるという前提だけですから、これを持ってこられるかどうかということです。
 きょう突然伺ったものですから、私もここのところを勉強していないものですから、もし何かお考えがあったらお示しいただきたいということだけです。

○秋吉委員 すみません、よく検討しておりませんので。

○青山座長 わかりました。

○中村委員 私もそのあたりよく存じ上げませんが、受領拒絶の場合に、送達という言葉が的確かどうかわかりませんが、いわゆる通知がなされたものという解釈はできるのだろうとは思ってはいますが、他方においてそこには疑義がなくはないと思います。
 したがって、受領拒絶した場合に、裁判所にお願いして、例えば差置送達ができるわけですので、それによって受領拒絶の場合であっても送達完了ということができるという手当てのためにこの規定が置かれているというのが理由の1つかと理解していますので、その点で意味があるというふうに、もちろん国内の話ですが、その場合にはこれが生きてくると理解しております。
 外国の場合には、話が違いますので、適用できませんけれども。

○近藤参事官 「これが」というのは、この検討会資料36の1に示したことがということですね。これが生きてくるということですね。

○中村委員 はい、国内の場合に生きてくると。

○青山座長 ほかに御意見は。

○松元委員 実際には受領拒絶というのは非常に多く発生するわけではないのですが、拒絶されても何回でも送って、要するに機会を十分与えているのだという意味で、書留郵便なりクーリエなりの証明をとっておきますので、それで実際に送達がなされたものとしてどんどん進めているのですが、万一、どうしてもだめな場合であれば裁判所の手を借りるということで十分ではないかと思ってはおります。

○中村委員 1点補足ですが、受領拒絶の場合、例えば仲裁協会から書面が届いたとしても、中身がわからないわけですね。そうすると、仲裁の申立てを受けたのかどうかということがわからない上でもって、通知が適式になされたかどうかというところが争われる余地がなくはないということは、いつも実務をしていて気になるところです。
 したがって、国内の場合、手当てができるとすれば、差置送達とか、そういった送達でもって適式な措置がなされるような手当てをしておくということは、意味のあることだと思うのです。

○青山座長 ほかにいかがでしょうか。

○秋吉委員 先ほどの点なのですが、私が想定したのは、仲裁合意をしていながら、受領拒絶をしたり、不在にしたまま取りに行かない人に、仲裁廷の方から、「一度受領の機会を与えたのに取りに行かないのであれば、郵便に付す形で送達の効力を生じさせますよ」と言っても不合理ではないのではないか。こういう意味合いで考えていたのですが、仲裁契約をした当事者であっても、やはり付郵便のような規定を設けることは問題になるのでしょうか。

○青山座長 ちょっとよくわからないのですが、仲裁契約自身が争われる可能性は常にあるわけですね。その場合に、付郵便送達にすればみなし規定ですから、かなり強い意味を持っていると思うのですね。それは、私の理解では、裁判権が及ぶ、裁判所の制度だからこういうことができるので、一民間機関たる仲裁機関が送ってみたけれども受領拒否されたときに、それを今度は書留郵便で送りさえすれば、着こうと着くまいと出した時に送達の効力が生じたことになるという、そのみなし規定を置くこと自身が実質的な根拠として十分だろうかということをちょっと考えたのです。裁判権が及ぶというのと仲裁契約があるというのと、同視できるのだということが疑問なく言えれば、あるいはそういう中間的な扱いのみなし規定を置くのは、確かにそういうことができれば合理的だと思いますが、若干、大丈夫なのかという危惧がちょっと感じられるものですから。
 ほかの方、どうぞ。

○吉岡委員 この間、ちょっと岡山の例を申し上げたのですが、後でよく聞いてみましたら、岡山の方で、仲裁判断書を書留で送るということでよろしいのかどうかという話を裁判所にしたらしいのですね。裁判所は、仲裁判断書というものは、恐らく執行にも絡むのだと思うのですけれども、書留では足らなくて、特別送達にしなければいけないということで、実情、岡山の方ではそういうようになっているようです。ただ、今までの実例としては、まだそれを使うまでに至っていないということです。
 そういうことからしますと、何らかの形で法的効果ということとも絡んでくる、送達といってもいろいろな書類があるのでしょうけれども、少なくとも仲裁判断書であるとか、そういった類になってくると、単なるみなし規定ではなくて、きちんとした民事訴訟法の規定に基づく送達ができるような、そういうようなことにしておく必要があるのではなかろうかと思いますけれども。

○三木委員 秋吉委員がおっしゃるように、選択肢が増えるということは抽象的には望ましいと思うのですけれども、やっぱり座長がおっしゃることや参事官がおっしゃることを含めて、何点か疑問点が解消されていないように思います。
 1つは、先ほど座長がおっしゃったことの繰り返しになりますが、民事訴訟法107条の付郵便送達というのは、その前の差置送達等を受けての規定で、差置送達それ自体がかなり裁判所の権力的な行為ですから、それを行って、かつそれでも送達ができない場合に限ってということで107条が認められているわけで、みなし規定ですから、要件は厳格に絞られているわけです。差置送達等に相当するものがない状態で107条と同じような効果を付与できるかというところは、よくわからないところだと思います。
 それから、もう1点は、近藤参事官がおっしゃったことですが、国際仲裁を考えた場合に、モデル法と違う送達の仕組みをつくったときに、外国の当事者や関係者がかなり不安感を覚えるのではないか。通知というのはいろいろな効果に結びつきますので、ほかのところ以上に国際標準を意識しなければいけない分野であろうと思いますので、その辺がよくわからないということです。

○中村委員 実務の話をいたしますが、書留郵便とそれに類似した方法が、もうほとんど必ずといっていいほど利用されていると思います。普通の郵便で通知をするということは、まずあり得ない。申立てがあったという通知は当然配達証明付き書留送達というものが利用されているというのが現状です。

○青山座長 わかりました。ほかに御意見ありますでしょうか。
 それでは、きょうはたくさんの事項をなるべくとりまとめていかなくてはいけませんので、この問題についての私の、こういうふうに受け取りましたということを申しますと、秋吉委員は、裁判所で民事訴訟法の規定による送達の援助を行うことについては、これでよろしいと。しかし、その前に民訴107条のような、付郵便送達のような規定が考えられないかというアイデアを出していただきましたが、今、何人の方から若干疑義が出ております上に、これはUNCITRALにも規定のない新しいことでございますので、原案の形でこの検討会としてまとめさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。秋吉委員、いかがでしょうか。

○秋吉委員 結構です。

○青山座長 ほかの方もそれでよろしゅうございますでしょうか。
 では、そういうふうにさせていただきます。
 それでは、次は仲裁適格、仲裁契約の書面性、妨訴抗弁及び仲裁権限の有無の判断について、これは一括して御議論いただきたいと思いますので、一括して御説明をお願いいたします。

【検討事項案その23 〜2 紛争の仲裁適格について、3 仲裁契約の書面性について、4 妨訴抗弁について、5 仲裁権限の有無の判断について〜】

○近藤参事官 仲裁適格について、これまでの議論を整理しますと、中間とりまとめではA案とB案とを掲げておりましたところ、第9回の検討会において折衷的な案を示させていただきました。今回の案は第9回の案と同じです。
 第9回の検討会では、「和解」という言葉を使用することについて御意見が出ました。事務局としましても、そのような御意見を前提に、他に適切な用語がないかも検討しましたが、現段階では和解概念を使用して立法するのが一番適切ではないかと考えております。
 どのような用語を使用するかは法制的な側面で問題となり得るところです。実質的に考えているところは、検討会の委員の皆さんの間では相違はないのではないかと考えております。
 次に、仲裁契約の書面性に関しましては、2ページの下からですけれども、口頭等による引用を認める規定をUNCITRALの決定に先駆けて入れるかどうかという点が、残された問題です。事務局としては、現在、議論が続いている状況であること、場合によっては、−−これは少ないのかもしれませんけれども−−ニューヨーク条約の改正という意見も出ていること等を踏まえますと、第9回検討会でも議論しましたけれども、今回は口頭等による引用の部分については見送る方向が安全ではないかと考えております。
 次に、妨訴抗弁についてですが、これは「ただし、やむを得ない事由があるときはこの限りではない」とする明文規定を設けるかどうかということで御議論をいただいたところです。
 第9回の検討会の議論では、モデル法と同様の規律として、このただし書を削除すべきであるとの意見が多かったように思います。特に、やむを得ない事由が、どういうものがこれに該当するのかが明確でないことと、また本案について主張立証した後は制限されるという趣旨が相手方との信義則を前提にして考えられていることを踏まえますと、解釈でそのような例外を一切許さないという趣旨でもないのではないかと考えられるところです。そのようなことを前提にしますと、モデル法に従った規律にした方が適切ではないかと思っております。
 最後に、仲裁権限の有無について、これは3ページの一番下のところですけれども、仲裁廷が仲裁権限を有しないと判断した場合に、裁判所に対して権限有無の判断の申立てを認めるべきか否かという問題です。
 これも第9回の検討会でも議論しましたが、モデル法制定時においてUNCITRALにおいてもこの点について議論されて、このような事務局で示しているような案になったわけです。このような経過を踏まえますと、モデル法と同様に、仲裁廷が仲裁権限がないと判断した場合には、裁判所への申立てを認めないということとしてはどうかということです。

○青山座長 わかりました。それでは、今、仲裁適格、仲裁契約の書面性、妨訴抗弁、仲裁権限の有無の判断の4つの事項についてまとめて御説明いただきましたけれども、議論は、4つ一緒にやってしまいますと混乱いたしますので、まずはじめの2つ、紛争の仲裁適格と仲裁契約の書面性について御議論いただき、それをまとめてから妨訴抗弁と仲裁権限の有無の判断についてに入りたいと思います。それぞれについて15〜20分くらいずつ、御議論いただければと思っておりますが、まず紛争の仲裁適格と仲裁契約の書面性についてはいかがでしょうか。
 仲裁適格については、こういう規定を置かなくてもいいというお考えが当初示されていたわけですが、何らかの規定を一般法について置くべきではないかと。では、どういう言葉がいいかということで、ここでもいろいろなアイデアが出ましたけれども、結局、「和解可能性」という現行法と同じところにたどり着いたというのが事務局の検討の経緯でございますが、これについていかがですか。

○吉岡委員 前回の議論を読み直してみたのですけれども、かなりいろいろ議論した中で、いずれにせよ狭くするものではないということは皆さんほぼおっしゃっていたのですね。そういう中で「和解」という言葉が本当にいいのかどうか。それについては事務局の方でもう一回検討しますということだっただろうと思うのです。
 ですから、今、座長のおっしゃった「たどり着いた」というあたり、先に検討の経過を御説明いただければなおありがたいと思うのですが。

○近藤参事官 前回、「処分可能性」ということの方が適切ではないかというような御意見もありました。ただ、処分可能性といった場合に、それが和解可能性よりも広いかどうかというのは必ずしも判然としないところがございます。「和解可能性」の方がより適切ではないかというのは、現行法の規律の内容が和解可能性としておりまして、その現行法とどの点をどういうふうに変えるのかという点について、今回の文言を変えるとすれば、そこについての何らかの説明が必要になると思うのです。
 しかし、現行法について和解ということについて、−−狭くとらえる方、広くとらえる方はいらっしゃるのかしれませんけれども−−現行の範囲のものについて、特に今回その実質について動かすということを考えているわけではないことを前提にしますと、文言自体を変えることは適切ではないのではないかと思っているところです。

○青山座長 内容について、私法上の和解と訴訟上の和解というのが対比されてきまして、訴訟上の和解の方が私法上の和解よりも広いものを付け加えて、それがいつごろから出てきたかということも議論がありましたけれども、現在では解釈としては、私法上の和解でできるものは当然、それから訴訟上の和解でもできるという方が多数説ではないだろうかと。
 そうすると、別の言葉を使わなくても、解釈でそこのところは賄えるのではないか。もっといい言葉があればそれを選ぶわけですが、いろいろ考えて、そういう解釈で十分ではないだろうかという、たどり着いた結論というのは、非常に平凡は平凡ですけれども、そういうことでございます。

○吉岡委員 狭める趣旨は全くないのだということを確認させていただければと思います。

○三木委員 まず、2の仲裁適格の方ですが、これにつきましては、今吉岡委員がおっしゃったことと基本的に近い意見を持っております。今回、結論として和解概念を採るということに反対するものではございませんが、一応、確認のために議論の経緯を踏まえて若干整理させてもらいたいと思います。
 既にこの検討会でも出ましたように、和解概念を使うことについてかなりの抵抗があるということも事実でございます。
 1985年にモデル法ができて以来、多くの国が仲裁法を改正しましたが、その中で和解概念を採用した国というのはごくわずかにとどまっており、多くの国が今では和解概念を採用していないということもございます。
 また、国際商事仲裁の実務に携わっている方々の声を伺いますと、和解概念というものが法制的に入っている国の仲裁法を使うときには、「和解」ということの意味が、我が国でもそうですが、世界的に見ても非常に内容の不明確な概念だということで、トラブルを招きやすいという指摘も、よく聞くところであります。
 そういったところから考えまして、さらにこの検討会でのこれまでの議論を踏まえますと、仮に和解概念を使うとしても、それは吉岡委員がおっしゃったように、和解概念の解釈に広狭があるとすれば、それはかなり広い意味でこの検討会は立法の案をつくったのだということについては、恐らく大きな異論はないものと私は考えております。もちろん、この検討会の議論とか個々の委員の発言が将来の解釈を拘束するものではありませんけれども、この検討会の議論の流れとしては和解概念というのは狭く解釈する意味で用いたのではないということを確認しておきたいと思います。
 次に仲裁契約の書面性の方ですが、こちらも結論としましては事務局案に賛成いたします。その理由は、今、参事官がおっしゃったように、現在、UNCITRALでの議論がまだまとまっておりません段階で、口頭による引用を書面概念にとり込むということに抵抗のあるということも理解できますので、その議論を見守るという趣旨で、今回はこの原案の形でやむを得ないのではないかと思っております。
 ただ、UNCITRALに政府代表として出席している者の立場から2点ほど申し述べておきたいと思います。
 1点は、仮に現在の案で立法がされたとしても、それは解釈上、口頭による引用がこの書面概念に含まれるかどうかをこの立法が固めたものではないということであります。現在のモデル法は、今回のこの検討会の案よりもさらに狭い、厳しい形で書面性を仕組んでいますが、それでも多くのモデル法採用国あるいはモデル法を参照して立法した国の実務、判例において、口頭引用が書面概念に合致するという判断、解釈をされているところは多々ございます。
 我が国でも、これもまた将来の解釈の問題ではありますけれども、書面概念に口頭引用が含まれる余地というのは依然として残っているということを確認しておきたいと思います。
 それから、第2点ですが、これは希望ということになりましょうけれども、将来、UNCITRALの議論が固まってモデル法が改正される、あるいはそれに応じてニューヨーク条約が改正されるか、もしくはニューヨーク条約の解釈宣言が出るという事態になったときには、速やかに我が国もそれに合わせて仲裁契約の方式についての法改正がなされるべきだろうと思います。
 仲裁契約の方式については、仲裁法制の中でも世界的な統一が最も必要な分野であり、ここが乱れますと我が国はニューヨーク条約体制からの脱落ということすらあり得るわけですから、今回の立法が、少なくともこの点に関してはUNCITRALの動きを見守るという趣旨もあるのだということを申し述べておきたいと思います。

○松元委員 書面性に関連しまして、表現としては事務局がおつくりになったことでよろしいと思いますが、検討会資料3ページの2(1)「両当事者の署名した文書」に関して、以前にも申し上げたのですけれども、私どもで発行しております船荷証券の書式には既に仲裁条項が入っております。ドイツの仲裁法を見ますと1031条では「傭船契約中に記載された仲裁条項を明示的に引用している船荷証券が発行される場合にも、仲裁契約があるものとする」としておりますが、それよりも一歩進んで、船荷証券自体にも仲裁条項が入っているというケースですから、そのような場合も解釈として書面要件の中に入るのだということをどこかに記録を残しておいていただきたいと思います。

○近藤参事官 表現ぶり自体はさらに検討していかなければいけないと思っておりますが、この2項のところの実質としては、「両当事者が署名した文書云々」のほか、最終的には「後の参照に供することのできる媒体等を用いた云々」ということで、かなり広げて、そういう記録性があるようなものについては入り込んでくるという理解をしておりまして、船荷証券が入らないということではございません。

○青山座長 よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、仲裁適格につきましては、こういう事務局の原案を採ったからといって、それを狭く解するということは決してないと。むしろ、広く解されている現在の解釈論を前提としたものであるということで、仲裁適格はこれでよろしいということでよろしいでしょうか。
 それから、書面性については、口頭によるもの、今、UNCITRALで検討中のことをどうするかという議論をされていたわけですが、こういう法律ができても、その解釈は将来の解釈論に委ねるという以外に何とも言えないと思います。そういう口頭による意思表示というものも書面性に入るという解釈論が出てくるのは決して不思議ではないし、諸外国がそういうことであれば、恐らくその時点でそういう解釈が出てくるのではあろうと思います。
 それから、三木委員の言われた第2点は、これは私がそうだと言う権限はありません。私としても三木委員と全く同じように、政府にそういうことを要求したいと思っているということでございます。
 それから、松元委員の言われた船荷証券についても、明文の規定を置くかという規定は、今、近藤参事官の言われたように、明文の規定を置かなくても、十分それはカバーできるのではないか。従来、それでカバーしていたので。判例がなかったでしょうか。

○松元委員 日本では船荷証券についてはありません。アメリカの連邦最高裁です。

○青山座長 わかりました。今の点、議事録に残していただきますが、多分、解釈論で十分やっていけるのはなかろうか。船荷証券だけについてここに規定を置くのも少しぎらつくような感じがいたしますので、原案でよろしゅうございますでしょうか。

○吉岡委員 消費者に絡むことは最後にまとめて整理するということでいいですね。

○青山座長 はい、まとめて別の資料で検討します。
 それでは、先ほど御説明いただいた妨訴抗弁と仲裁権限の有無の判断について、どうぞ、御意見ございますでしょうか。

○加藤委員 1点確認してよろしいでしょうか。
 仲裁権限の有無の判断の、特に「有しない」と判断した場合に、裁判所に申立てをできないとなっていますけれども、議論がいろいろあったということなので、教えていただきたいのです。やる気がないのが明らかな場合に仲裁を行わせるのは難しいと思うのですが、仲裁廷が悩みながらもできないと判断したような場合に、例えば裁判所なりに判断していただいて、仲裁廷自身も悩んでいるようなグレーのところは再度仲裁に付してもらうことも議論としてはあり得ると思うのですけれども、そういう議論も踏まえた上で、こういう形で落ち着いたということなのでしょうか。そういう考え方も可能性としてはあるのではないかと思ったのです。

○近藤参事官 落ち着いたというよりも、まさにこの検討会でも3、4回にわたってそこのところは議論されてきて、特に前回の議論の時に、モデル法制定時にUNCITRALでもその点が議論されましたので、それを踏まえて違う規律にするのがいいのだろうかというようなことになって、むしろモデル法と同じような規律にした方がわかりやすいのではないかと。
 ほかの裁判所の援助というところも、仲裁廷が仲裁手続を続行していくということの方向で裁判所が何か手を差し伸べて援助していく、その援助というのは非常に簡易な形の援助ということになっていまして、例えば仲裁権限の有無については仲裁判断取消しのところでも問題になるのですが、取消しの手続としては、手続規定として、この検討会では双方が立ち会うことができるような期日にしなければいけないのではないかという、手続保障的なものを置いてもう少し厚い手続にしているわけです。ここでの援助というのはそういうような手続保障もあまり厚くない手続で、非常に簡易な形でやる形になっておりまして、仲裁廷の判断が裁判所で仮に出たとしても、ずっと争っていれば再度仲裁判断取消しの判断の場で争うことができるという規律になっている。手続的な違いということも前提にされているのです。
 そういうことを前提にした場合に、ここで徹底的に争わせなければいけないのだろうかということが議論になったということです。

○青山座長 これは、両方どちらの場合も裁判所に不服申立てを認めるべきだという考え方も一時ありましたけれども、それは1つにはUNCITRALのモデル法と違うことになる。UNCITRALのモデル法をつくる時も、この点はさんざん議論した上でそういう片面的な不服申立てを認めたということが1つと、それからもう1つ、仲裁廷が自分自身が権限がないと言ったのに、裁判所に行ったら、やってくれと言われて戻ってきても、仲裁廷としてはやれないのではないか。仲裁の権限を有しないと判断した場合には、これは裁判所で訴訟でやってほしいという判断をしたということではないか。それが従来の経緯であります。

○吉岡委員 抗弁のところですけれども、ただし書を設けないということが議論になっていまして、前回までに私の方がある意味では少数説を申し上げていたことになるのですが、先ほど信義則という話が出ましたけれども、真実は仲裁合意があるのに、仲裁の片方の当事者である方があえて訴訟に持ち込むと。片方は、うっかりするというか、そこがどの範囲まで責められるかということでしょうけれども、いずれにせよ、本案の弁論をしたらそこでもってあとは訴訟一本やりになってしまうと。
 どちらでいくか、早くはっきりしろということなのかもしれませんが、前回の繰り返しかもしれませんけれども、これは私たち弁護士が普段話を聞くときに、必ずしも最初にすべての情報が提供されるわけではないわけですから、全く機械的にやってしまうのか。
 一方、やむを得ない事由について、あまり冗長にしすぎてもいかがなものかというのもよくわかるものですから、ここのところは、事務局が信義則とおっしゃったのですけれども、何らかのごく例外的な場合には救われる余地もあるし、またそうしてほしいという意見だけ述べておきたいと思います。

○青山座長 どういう場合に信義則が働くのか、具体的に解釈を詰めているわけではありませんけれども、信義則という一般条項で救われるものは救われるのではないだろうかというのは私の解釈でございます。
 それから、もちろん留保しておけばそれは全然問題がないので、仲裁契約をした当事者が仲裁抗弁を持ち出さないということは実務でまず考えられないというのが入り口にありまして、もし仮にそういうことがあるようだったら、何か留保できないだろうか。
 それから、本当に救うべきものが、何か信義則みたいな形で救われる可能性が最後には残っているのではないか。もし、救われないようなものを後から出すというのは、それは切らなくてはいけないのではないだろうかというのが私の考え方でございます。
 よろしゅうございますでしょうか。妨訴抗弁のところと仲裁権限云々の判断両方についてでございますけれども。

○中村委員 私は仲裁権限なしという場合でも裁判所に対する不服申立てができるという立場を述べさせていただいたかと思いますが、そこはなくてもあっても、早くその問題について裁判所で決着させるという必要性があるのが1つと、それから、仲裁判断の取消しの段階で争われ、仲裁権限ありと裁判所が判断した場合、また仲裁廷は請求についての当否を判断しなければならないということで、早期処理をすべきだということを申し上げたところでございます。
 したがって、あとは残された道としては、確認でございますけれども、仲裁契約存在の確認の訴えを起こすということでもって、仲裁契約のあるなしについての決着を早期に図るということが実務としては行えるのだろうという理解でよろしゅうございましょうか。

○近藤参事官 それは、相手が争っている限りはできると思います。

○中村委員 結論はそれで、私としても、原案に賛成いたしたいと思います。
 ただ、その後の立法で、例えばイギリスなどの仲裁法は、仲裁権限があってもなくても不服申立てという制度がありますので、その点は別にUNCITRALの85年段階のものが今でもすべて普遍的に制度として求められているというものではないというだけは付言させていただきたいと思います。

○青山座長 それでは、ほかに御意見がなければ、この妨訴抗弁のところと仲裁権限の有無のところは、原案どおり御承認いただいたと受け取ってよろしゅうございますでしょうか。
 それではそういうふうにさせていただきたいと思います。
 次は時効の中断について事務局から御説明をお願いします。

【検討事項案その23 〜6 時効の中断について〜】

○近藤参事官 時効の中断については、従来、4ページの下に甲案、乙案と書いている2つの案を検討していただいていたのですが、どちらもわかりづらいのではないかという御指摘をいただいておりました。そして、ADR基本法の中で検討すべきではないかという御指摘もいただいたところです。
 モデル法制定時におけるUNCITRALの議論においても、開始時を時効中断時期と関連させるべきではないかという意見が強く、ただ時効について訴訟法で規定していたり、実体法で規定していたり、時効ではなくて停止であったり、各国法制が様々であることから、このモデル法の中に規定を置くことはされなかったと理解しております。
 そういう流れからいきますと、やはり開始時期と仲裁の時効中断事由とを何らかの形でリンクすることができるのであれば、リンクした方がモデル法の議論に沿うのではないか、国際的な理解もされやすいのではないかと思うところです。
 そこで、従来提案していた甲案を基本に立案できないかと考えております。ただ、甲案では「不合理な合意をした場合を除く」ということをただし書の中で長々と書かれておって、これは非常にわかりづらいとされていたところですので、不合理な合意という場合については、これは稀有な事例でもありますので、解釈に委ねるということにして、非常に単純化を図った形の立案を考えていきたいと思っております。
 ちなみに、ドイツ法では、民法ですが、同じように仲裁手続の開始時期に時効の中断の効果が生じるというような形の規定になっておりますので、そういう規定ということもあり得ないではないと思っております。

○青山座長 これは新しい観点からの事務局の提案ということでございまして、初めてこういう案が出てきたということなのかもしれませんが、それは甲案の中に入っているものを、ただし書を簡略化した、ただし書を取ってしまったという案でございますが、これはいかがでしょうか。

○中村委員 質問ですが、「当事者間に別段の合意がある場合を除き」とございますが、そうすると当事者が別段の合意をして、仲裁手続の開始日に時効が中断するということにした場合は、その時点で時効が中断するということでよろしいわけですか。

○青山座長 はい。

○中村委員 その場合に、相手方の受領が条件ということについて若干議論があったかと思うのですが、そこのところはこの案では特に書かれていませんが、いかがでしょうか。

○近藤参事官 甲案の形の実質をとると、そこについては、解釈になると思うのですけれども、基本的には開始の時期を当事者間で合意をすれば、そこに時効中断効力を付与するというのが骨格になります。

○中村委員 そうすると、申立ての通知が相手方に受領されなかったといった場合はどうなるのですか。

○近藤参事官 これは規定ぶりとして、この規定だけではなくて、多分、裁判上の請求と同じような形ということになって、取下げだとか却下の場合については、時効中断の効力を生じないということについてもセットの形として条文は整理されるようになると思います。
 ですから、相手方に全然届かないという場合は、実質的な判断ができなかったということで、やはり時効中断の効力が生じないという形に全体としてはなると思います。ただ、通常の場合であれば、機関に提出された時に時効が中断するという形になるのだと理解していただければと思います。

○中村委員 アドホックの仲裁もありますので、アドホックの仲裁で当事者が仲裁の申立てを相手方にした時点で時効を中断するという合意をしたという場合にも、この時効の中断は開始日に発生すると。

○近藤参事官 当事者が合意していればそういうことになると思います。

○中村委員 通知が届かなかった場合には、時効の中断は遡って効力は生じないというふうな解釈がとれるような条文になるのですか。

○近藤参事官 はい、そういう形になろうかと思います。

○青山座長 ただし書を置いたのは、この前の御説明のように、時効の中断を当事者の合意で決めてはいけない、それは制度上のものだと。そうすると、当事者の合意で開始時期を定めるわけですが、その開始時期が時効の中断に連動すると、時効の中断を定めたようなことになるのではないかという議論がありまして、それではその合意は合理的な範囲内でなくてはいけないということから、合理的な範囲内の時期というのがただし書の中で、この時点からこの時点までの合意であれば、それはできるという枠をはめようとしたのですが、その枠をはめなくても、そういうとんでもない時期に開始することを合意をすることはほとんど考えられないのではないだろうか。そうすると、この規定はなくても同じではないだろうかということから、事務局原案は非常にすっきりした形で書いています。
 あとは、今のような解釈論が出てくるような、時効の中断という点になると、当然、取下げだとか何とかということも規定しないと整合性がありませんから、民法の規定を引用するかどうかわかりませんけれども、それはこれからの事務局の条文化作業にお任せしていただいて、そして相手方に届かないのに時効の中断だけはあったというのはやはりおかしいので、そういうことがないような解釈論ができるような仕掛けというのですか、手掛りだけはつくっていただくようなことをしたいと思います。

○近藤参事官 条文案の内容と、却下とか取下げの問題が一緒に議論されたのでちょっとわかりづらかったのかもしれないのですが、却下や取下げの問題について、今、座長がおっしゃったような形で、決着としてはそういう決着になるような方向で考えます。
 ただ、それが準用になるのか、何らかの規定を設けなければならないのかということについては、なおこれから条文化作業の中で考えたいと思っておりますので、その点については事務局の方で、これからの条文化作業の中でお任せいただければと思っているところです。

○青山座長 よろしゅうございますでしょうか。

○加藤委員 確認ですが、今の「当事者間が合意すれば」というところで、乙案の(2)にあるような、仲裁機関の場合には、仲裁機関の規則の中で、受け取った時に開始するということを書いてあれば、それに基づいて両者がやっているということなので、それは当事者の合意に当たるという理解でよろしいですか。

○近藤参事官 そのとおりだと思います。

○青山座長 当事者がその規則に従ってやるということですから、その規則は全部当事者が合意したということでございます。

○吉岡委員 甲案と乙案、裁判上の請求があったこととみなすというような規定にするかどうかという点も違っていると思うのです。
 その点ちょっと御説明がなかったのですけれども、私としては、民法153条の問題などございますものですから、例えば6か月ぎりぎりに催告の上で仲裁に行って、期間を合意したというときに、どうなるのかということを考えますと、「裁判上の請求」という乙案の方の規定の仕方に魅力もあるしすっきりするし、いろいろな場合の手だても民法に従って次々と出てくると思うのです。その方がむしろよろしいのではないかと思っているのですけれども。

○近藤参事官 今のは規定ぶりの内容になってくると思うのですけれども、甲案の場合も、どういう表現ぶりにするのかということとの関係もあるのですが、民法の3つの時効中断のうちの第1号の「請求」の中に細かくいろいろ書いてあるわけです。裁判上の請求だとか、破産参加云々ということが書いてありまして、考え方としては民法上は破産参加というのは書いてあるのですが、会社更生だとか民事再生についてはそこだけでは読めない、会社更生法とか民事再生法で規定されているところです。
 それと同じような条文として、請求の具体化として、この仲裁による請求ということを位置づけるような規定ぶりが考えられないかというのを今のところ考えています。
 そういう意味では、この裁判上の請求と同じような横並びで民法の中で体系的にも位置づけられるような形の規定ぶりにできればと考えていますので、今、吉岡委員がおっしゃったような御懸念は、実質は、今、甲案と言っておりますけれども、その中でも解消できるような形で考えていきたい。それは条文をどういう記載の仕方にするのかという問題になってくるのではないかと思っているところです。

○吉岡委員 そうですか。それでは、「裁判上の請求」を捨てたというわけではないという理解でいいのですね。

○近藤参事官 「裁判上の請求」という表現を使うかどうかということは別にして、実質はそういうことになるかと思います。簡明な形にはしていきたいと思っています。

○吉岡委員 明文的にもきちんと争いがないようにしていただけるという意味ですね。

○近藤参事官 解釈の余地がなくなるかということでしょうか。

○吉岡委員 いやいや、条文上は何かそういう手当てをするのかどうかということです。

○近藤参事官 手当てをするかというのは、「裁判上の請求」という言葉を使うかということですか。

○吉岡委員 ええ。

○近藤参事官 「裁判上の請求」という言葉は多分使わないのだと思います。

○吉岡委員 今、会社更生法のことをおっしゃったからちょっとわかりにくかったのですけれども。

○近藤参事官 条文がどういう形になるのかはまだはっきりしないのですけれども、現段階では、例えば民事再生法でいきますと98条は「再生手続参加は、時効中断の効力を生じる。ただし、再生債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、この限りでない」、こういう書きぶりになっておりまして、これが破産参加のところと横並びの規定ぶりという形になっていると思うのです。そういうことも手掛りとしながら条文化を考えていきたいと思っております。

○山本委員 吉岡委員の御懸念は、民法153条の催告の規定が適用になるかどうかではないかと思うのですが。

○吉岡委員 そうなのです。153条の催告に、今参事官がおっしゃったように、裁判上の請求とか破産参加は例示で出ていますね。ですから、民法が改正されてこの中に仲裁の開始とかなればいいのですけれども、ないのであれば、それを補うものとして、例えば私が考えましたのは、労働基準法の85条5項には「審査又は仲裁の開始は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす」というふうな規定ぶりもあるわけです。ですから、同じように、これを裁判上の請求とみなすというふうにどこかできちんとつなげておいていただければ、そういう争いがなくなるのではないかという趣旨です。

○近藤参事官 非常に細かい点になるかと思いますので、その表現ぶり等について関係すると思うので、そこのところについては、今の御意見も踏まえて、事務局の方に任せていただければと思います。

○青山座長 ほかに御意見ありますでしょうか。
 それでは、今の時効の中断については、一応、事務局の原案を御承認いただいたというふうに受け取りますが、ただこれを立法する時にはこれだけ立法すればいいというものではなくて、民法の時効の中断が生じた場合あるいは生じなかった場合の手当てとワンセットで考えていかないと、これだけ浮いてしまいますので、それも一緒に考えさせていただく。それは多分、条文をつくる時の作業になると思いますので、それはお任せいただくということでよろしゅうございますでしょうか。
 今、御懸念があったような点も、実質は入るような形での検討をさせていただく。そうすると、甲案を原則とするということを申しましたけれども、甲案プラス乙案的なものが条文の段階では入ってくるというようなことになると思いますが、それでよろしゅうございますでしょうか。事務局はそれで大丈夫でしょうか。

○近藤参事官 実質について、それを確保できるような形ということで受け止めさせていただいているということでよろしいでしょうか。

○青山座長 よろしいでしょうか。
 それでは、そういうふうにさせていただきたいと思います。
 それでは、次は裁判所の証拠調べの援助の問題でございます。これもまず事務局から御説明をお願いいたします。

【検討事項案その23 〜7 裁判所の証拠調べの援助について〜】

○近藤参事官 裁判所の証拠調べの援助につきましては、申立てを却下する裁判に対して即時抗告を申し立てることができるとの案に対して、即時抗告を認める必要はないのではないかという意見と、却下できる場合を明確化すべきではないかという意見があったように思います。
 しかし、即時抗告については、仲裁手続への援助は裁判と異なり、証拠調べに関する決定の当否を上訴審で争うことはできないことから、不服申立て手段を認める必要は高いと思われます。また、却下できる場合について、一般条項を超える規律を設けることは現時点では困難ではないかと思っているところです。
 また、第10回検討会の裁判所の管轄の議論の時でしたが、外国の仲裁廷から日本の裁判所に対して直接証拠調べの援助を申し立てることを認めるべきであるという意見があったと思います。
 しかし、日本の裁判所が外国の仲裁廷からの共助に応じる根拠に問題がないのかどうか、それから諸外国の立法例にもこういうことを正面から規定しているというところがそれほど多いのか、そういうことを考慮しますと、(2)ですが、海外からの援助申立てについての規定ということは今回は設けないということで整理させていただければと思っております。

○青山座長 これについてはいかがでしょうか。

○秋吉委員 教えていただきたいのですが、この案によりますと裁判所というのはどういう資料に基づいて何を判断して、どういう場合に却下して、どういう場合に認めるということになるのでしょうか。

○近藤参事官 これは前にもこの検討会で議論されたと思うのですけれども、仲裁廷が証拠調べの必要性があると判断をして申し立てたことについては、その必要性の判断については仲裁廷の判断を前提として裁判所は取り扱う。したがって、その申し立てられた証拠調べが適法であるのかどうか。例えば民事訴訟法に基づく証拠調べによらないような手続についての申立て、そういうことについては却下できるというのは争いはないところだと思います。
 ただ、この検討会でも御議論があったところですが、一般条項として権利濫用に当たるような場合については、それはもちろんはねることができるのではないだろうか。例えば、この検討会でも議論になったのは、1つの立証事項について非常に多数の証人の申請をやって、明らかにそれは不合理であるとか、一人の証人の申請について、例えば何十時間、何百時間聞いてくれというような証拠の申立てをしてくるというような場合について、それが権利濫用に当たるというような場合については却下することができるというようなことになるのではないかと思っております。

○秋吉委員 裁判所としてはどんな資料が求められるのかというところが非常に気にかかるのですが、そうしますと申立書の内容から判断して、適法だとうかがわれる限りは、特にそれがおかしいなと思わないときにはもう援助すべきだと、こういう判断になるのでしょうか。

○近藤参事官 はい、そうです。

○秋吉委員 その点なのですけれども、私は証拠調べの援助については、やはり濫用的な申立てや不当な申立ては援助しないことができるという旨の規定を明文化すべきではないかと考えます。
 おっしゃるように、証拠の必要性の判断については事案を熟知しておられる仲裁廷が基本的に判断すべきであるということには合理性があると思うわけですが、しかし裁判所を通じて国民に義務を負わせて、強制にわたるような行為を許す以上、裁判所はそのような強制を行うことが濫用でないかどうかということをチェックできる必要があるということも、また異論がないのだろうと思います。
 例えば、従前の検討会で山本委員が例に挙げられたような場面ですね。申立人と相手人がグルになって、第三者から文書を提出させるためだけの目的で仲裁合意をして、裁判所に証拠調べの援助を求めてきた場合とか、あるいは暴力団で組織する仲裁機関が第三者を証人として呼び出させるような場合というのが挙げられたと思うのですが、そのほかにも例えば、借金の取立てのために取立屋が債務者の親族を証人尋問の援助で裁判所に呼び出させて帰り道を待ち伏せして威圧を加えようとする場合とか、あるいはある会社の商品に不満を持つ人たちが嫌がらせ目的で社長さんとか専務さんとか、それから商品開発者とかあるいは規制立法にかかわった人とか、いろいろな人の証人尋問を要求してきて、追及的に尋問しようと考える場合とか。濫用というのはそんなに机上の空論というものではなくて、いろいろと考える余地はあるのだろうと思うのです。しかもそれが3人集まれば容易にできてしまうという制度というのは、やはり問題ではないかと思うわけです。
 今、一般条項として、権利濫用等を理由として申立てを却下することができるというふうに解し得るという御説明はいただいたわけですが、不明瞭なまま解釈に委ねるよりは、濫用的な申立てをしても裁判所が排除できるのだということは明文で規定しておく方が、仕組みとしては使いやすいのではないかと思います。
 個人的には、例えば1項で「仲裁廷は、必要な場合に、裁判所に証拠調べの援助を求めることができる」。2項で「裁判所は義務を負わせるのが相当と判断した場合には援助することができる」という形で、必要性は仲裁廷で、義務を負わせることが相当かどうかは裁判所でというような規定が、本当は一番いいのではないかと思うわけですが、そこまでは難しいとしても、少なくとも必要性の判断は、基本的には仲裁廷にあるとしつつも、相手に義務を負わせることが不当でないか、濫用的であったりしないかということに関しては、それが濫用であったり、不当な目的の場合には援助を却下できる根拠となるような条文を、何とか仲裁廷の権限と抵触しないような形で規定できないのかというような感じがいたします。

○三木委員 今、秋吉委員がおっしゃった濫用のケースは、それは通常の裁判所における証拠調べにおいても起こり得るケースがほとんどでないかと思います。それについて、民事訴訟は特に濫用に関する規定を設けていないということでありますから、特にこちらの方だけそういう規定が必要だということにはならないのではないかと思います。
 また、この証拠調べの援助に関する規定は、もちろんモデル法に条文があるわけで、各国、ほとんど変更せずに採用しておるところでありますから、日本だけがこういう濫用に関する規定を置くということは、国際協調の意味からいっても問題があると思いますし、海外の当事者に余計な混乱を与えることもあろうかと思います。

○松元委員 仲裁廷というのは、できれば裁判所にこういったことをお願いすることは避けたいわけです、時間がかかるわけですから。当事者から裁判所における証拠調べの申立てがあれば、仲裁廷はそれが適当かどうかを審理し、必要と認めて、はじめて成り立つわけだと思うのです。
 先ほど秋吉委員がおっしゃった暴力団云々というのは非常に極端な場合だろうと思うのです。しかもその場合に3人とも一方に偏った仲裁人が選ばれて、仲裁が進行するということが果たして考えられるのでしょうか。今でも実際にそうした仲裁が行われているとは思われませんし、そこまで規定する必要があるのかという疑問があります。

○山本委員 私は秋吉委員の御不満自体は非常によくわかります。今、松元委員がおっしゃったように、まともな仲裁機関はほとんど裁判所での援助というのは必要ないし、実際にほとんどされていないのだろうと思います。むしろ、今、秋吉委員がおっしゃったような例は、本当に仲裁するつもりなんか別にないわけですね。3人が集まって、何か嫌がらせの目的とか、そういうことだけのために、裁判所の証拠調べをするためだけに、外見上、仲裁契約を結んだ形をとるというような例を想定されているのだろうと伺いました。そういうことは、私も実際に起こり得ないとは決して言えないのだろうと思います。そして、そういうものを裁判所は取り調べるべきではないというのは、この検討会において、それは全く意見の一致を見ているのだろうと思います。だから、問題は、それを法文にどういうふうに表現するかということだけの問題であろうと思っております。
 結論的には私はそういうものを特に設けなくても、解釈で十分対応できるのではないかという印象を持っておりまして、今のおっしゃったような例、濫用的なもの、あるいは不当な目的に基づくものというのは、これはどういう解釈をとっても、それは許すべきではないということについては異論が出るような話ではないような感じがいたしますので、先ほど三木委員がおっしゃったようなこともありますし、またそういう一般条項的なものを要件として書くというのもなかなか法制上の問題もあろうかと思いますので、ここでの検討会の認識としては、そういうようなことで基本的には認識していると思いますし、また将来の解釈も恐らくそういうようなことで理解されていくのではないかと思いますので、あえて明文まで設けなくても、裁判所の御判断でよいのではないかと私は個人的には期待しているのですが。

○近藤参事官 先ほど秋吉委員が「濫用不当」とはじめおっしゃったのですが、主に濫用であるということに焦点を当ててよろしいのではないかと思います。濫用のことについては今山本委員がまとめられたように、この検討会での認識としては一致しているのではないかと思うのです。
 きょうの検討会においては、実質においてどうなのかということを中心に、まとめられるところはまとめていただきたいと思っておりまして、実質において濫用的なものは排除できるということは、今確認されたのだと思います。
 条文化の作業というのは今後事務局の責任においてやっていくわけですけれども、今、山本委員がおっしゃったように一般条項をこの中に書き込むということができるかというとなかなか難しいのではないかということが第1点ありますが、それについて工夫する余地があるのであれば、工夫をしていきたいというところでおさめていただければ、実質はわかりましたので、ただそれはもしかしたらそういうことが条文の表現としてなかなか難しいこともあり得るということも承知していただきたいと思っておりますが、いかがでしょうか。

○青山座長 よろしゅうございますか。

○秋吉委員 1点よろしいですか。
 お話の御趣旨はよくわかりました。ただ、もしどうしても条項が入らないという場合に、証拠調べの援助の申立てに関して、当事者や仲裁廷が、信義に従い、誠実に申立てをしなければならないという趣旨の条項を規定することもできないかどうかも御検討願えればと思います。
 ここも、もし民事訴訟法2条が当然に適用になるということなのであれば、それはそれでいいのだろうと思うのですけれども、証拠調べの援助に関して、民事訴訟法の証拠調べに関する章のみが準用されるような規定になっているわけですね。そうしますと、準用されるのがそれだけだという誤解を招く恐れがあるかもしれませんので、援助の申立てにそういう責務が準用されるということが、もし条文でだめなら、何らかの形で、条文以外の解説のような形ででも残していただけたらと思います。

○三木委員 後で申し上げますが、7の(2)の関係で、ちょっと海外について調べた結果ですと、この証拠調べの援助というのは、援助の申立てをするところまでは仲裁法の所管領域で、申し立てられた後は諸外国では大体裁判所法とか裁判所規則の問題になるという理解のようです。
 そうしますと、今、秋吉委員御自身もおっしゃいましたけれども、これは私の解釈ですが、その後は、それが訴訟でなくて非訟なのかもしれませんが、いずれにしても民事訴訟法の2条にある信義則の規定がやはり適用されるのだろうと思いますので、仲裁法に置くべきことかどうかという点については疑問があります。事の実質は私も、信義に従ってやるべきだということに争いがあるわけではありませんけれども、恐らくそれは裁判所に関する法律なりの問題だろうという気がいたします。
 (2)の話に入りますが、前回の検討会で海外のことを少し調べろという御命令を受けまして調べてみたのですが、結果的にはなかなか判然としたことがよくわからなかったというのが結論ですが、わかった範囲で申し上げたいと思います。
 海外からの援助申立てについて、それを明らかに認めていると思われるのはシンガポールの法制でした。これはシンガポールの裁判所規則39条で、明文で認めているようであります。
 アメリカ合衆国についても、その分野のかなり権威のある方に問い合わせをしたのですが、これは連邦法と州法があるのでそれぞれについて見なければいけないということでした。
 それで、連邦法の方ですが、正面からこれを認めるあるいは認めないという規定はないようであります。問い合わせた方の御意見等を踏まえて判断しますと、連邦法の解釈の問題になろうかと思います。
 判例を見ますと、1999年とか2000年とかごく最近の判例では、海外からの証拠調べの援助については民間の仲裁は入らないという判例がどうも主流ではないかということでありました。
 ただ、仲裁全部が入らないかというと、行政型の仲裁であれば入るかのような判例もございます。これはたまたま日本の会社が当事者になっている2000年の事件ですが、傍論になるのかもしれませんが、行政的なADRからの申立てについては援助ができると。例えば、日本の特許庁の名前も挙がっていたようであります。
 州法につきましては、これは州ごとに違いますし、ほとんどケースがなく議論もない。それから、連邦法と同じく、正面から認める、認めないいずれの規定もないということですので、解釈の問題にはなるのですが、解釈自体がよくわからないというところでありました。
 それ以外の幾つかの国にも照会を出したのですが、基本的にはよくわからないという答えが返ってまいりました。その趣旨は、正面から認めるという明文規定を置いているというものは少ないようであります。しかし、逆に、認めないことを明らかにしている規定とか、認めないという解釈が確立しているという例もないようでありました。
 ですので、結論としまして、前回山本委員がおっしゃったことの御趣旨に私は賛成ですので、明文規定を置くのは難しいということは事務局原案のおっしゃるとおりだと思いますが、解釈の余地がある形でおさめていただくのが一番いいのではないかという気がいたしております。

○中村委員 従前、私、この件については意見を申し上げましたので、もう繰り返しはいたしませんが、結論的には賛成いたします。
 ただ、外国の例ということで今御紹介がございましたが、少なくともドイツの仲裁法は、モデル法を採用して、証拠調べに関する裁判所援助の規定は、要するに仲裁地が外国であっても適用するということで、仲裁地に連結はさせていないわけですね。したがって、外国が仲裁地である仲裁廷からの証拠調べの援助の申立てがドイツにあった場合には、ドイツの裁判所はそれに協力すると読めると思うのです。そういった例があるということ。
 それから、最終的にこういうことで決定されることになると思うのですが、私自身は外国の仲裁廷と日本の仲裁廷とで証拠調べに関して違いが実質的にどこにあるのかということはよくわかりません。したがって、外国の仲裁廷からの証拠調べの申立てについては排除するということの最終的な理由だけお聞かせいただければと思います。

○近藤参事官 外国の私人から日本の裁判所に対して証拠調べの依頼があって、それを実施するということがなぜ正当化できるのかというのは、私は逆によくわからないのですが。日本の裁判所は日本の国民の税金で成り立っているものであって、それに対して利益を還元するものでも何でもないものについて、それをやっていくというのは。国際協調的な考え方からすると、それも当然入るのだという考えもあるのかもしれませんけれども、無限定にそういうものを認めていっていいのだろうかという感じも若干はしているのです。
 ほかの規律との関係でも、外国から率然と裁判所に対して申立てを認めるというものが今のところないと思いますので、それを仲裁の場合だけ国際性があるからということで認めてしまうというのも、よくわからないなという感じがしているのです。あまり理由になっていないのかもしれませんが。

○三木委員 今の議論にどんな実益があるのかがよくわからないところがありまして、海外からの援助申立てといっても、それは仲裁実施地が海外であるということでは必ずしもないのだろうと思います。御承知のように仲裁地概念は観念的なものですから、例えばアメリカ国内でアメリカ人同士がアメリカの仲裁機関で仲裁をやっていても、仲裁地は日本であると合意すればそれは日本仲裁になりますので、これは援助申立てを受けざるを得ないということになるのだろうと思います。
 ここから先が、解釈がよくわからないのですが、従来、仲裁地をアメリカとしてやっていたのが、援助申立てを受けたいがためにその時点で仲裁地を日本だというふうに合意を変更して、その証拠調べが終わったらまたアメリカに戻すというようなことができるのかどうか。できるのかどうかというのは、そういうことをした場合に、国内からの援助申立てとなるのかどうかということは、恐らく判例とかはないのだろうと思いますので、解釈の問題だろうと思います。
 もろもろ考えますと、先ほどの繰り返しになりますけれども、規定を置く、置かないといっても、事の実質がどのくらい意味があるのかわからないところもありますので、解釈に頼るしかないのではないかという気がいたします。

○中野委員 今、三木委員及び中村委員がおっしゃったことに基本的には賛成できるのですが、仲裁地が外国だということであったとしても、実際にはその審問自体を日本でやっているということは十分あり得るわけですし、その場合、実際に外国で審問しているとしても、日本で証拠調べをやってくれというときには、証人あるいは証拠物が日本にあるという意味で、日本と何らかの関連性があるわけだろうと思いますので、それを排除する必要もないのではないかと思います。

○青山座長 これは、海外からの援助については援助しないという規定を設けるという趣旨ではありませんで、援助をするという明文の規定は設けておかないということですから、あとは運用と解釈ということに帰着するのではないかと私自身は思っておりますけれども。

○中村委員 確認でございますけれども、そうするとドイツの仲裁法ですと1025条の適用範囲というのがありますが、そのような規定は置かず、あくまでもモデル法の適用範囲の規定にするということでよろしゅうございますか。

○近藤参事官 1条のような規定を置くのだと思います。1条のような規定を置いて、仲裁法の裁判所の援助というのは1条の仲裁地が国内にある場合を前提としている証拠調べの援助というものがあるという前提で、それ以上のものができるかどうかについては解釈に委ねさせていただければと思っております。

○中村委員 したがって、ドイツの仲裁法のように仲裁地が外国にある場合であっても証拠調べの援助を行うという意味での適用範囲に関する規定を設けないということですね。

○近藤参事官 はい。

○青山座長 よろしゅうございますか。
 それでは、この問題につきまして、まず裁判所の証拠調べの援助につきましては、即時抗告の点は、認めるという点については御異論がなかったと受け取らせていただいてよろしゅうございますか。裁判所が却下した場合に即時抗告ができるという点を聞き落としたのですが、秋吉委員、それはよろしいですか。

○秋吉委員 要件がはっきりしていればやむを得ないのかもしれないのですが、濫用的なものを排除することが期待されていつつ、でも原則として出さなければいけないといったときに、例えば暴力団が暴力団ですと自ら申立書に書いてくるわけではありませんので、そうすると、即時抗告を認めると本当に濫用的なものをどこまで排除できるのかというところとの兼ね合いだと思うのです。
 裁判所がそこまで関与しなくてもいいということなのであれば、即時抗告に結びついても仕方ないのかとも思うのですが、濫用的なものの排除を期待されつつ、言うに言われぬ、証拠としてはなかなか書けない資料で、これは濫用だと排除したものについて、即時抗告で争わせるというのは、制度としてはおかしいのではないかというような気はいたします。

○近藤参事官 よくわからないのですが、濫用的なものは却下したいけれども、却下した場合には即時抗告は認めないという御趣旨ですか。

○秋吉委員 むしろ、どういう仕組みを期待されているのかがわかるようにしていただきたい。自分が暴力団と名乗って来ない人たちが申立書を出してきたときに、裁判所としては、そういうのは実際には証拠を挙げて却下するというのはなかなか難しいわけですけれども、その場合には疑わしくても出すべきだとおっしゃるのであれば、即時抗告にも親しむのかもしれません。ただ、そこのところは裁判所が裁量で柔軟に判断すべきだとおっしゃるのだと、裁量部分について即時抗告までされて、何を判断するのですかというところで、疑問があります。

○近藤参事官 繰り返しになるのですが、基本的には適法、違法ということについて判断して、それからあと一般的な濫用の場合でも却下ということはあり得るのだと思うのですが、仲裁合意を結んでいる以上は裁判手続に行くことができないということで、仲裁合意に服しない第三者等の証拠調べということについては、裁判所に頼らざるを得ないような手続構造になっております。それは民事訴訟法上の規定上は、必要性がない場合や却下した場合は上訴審の判断を仰ぐという形で手続保証されているのですが、そこではカバーし切れないということで、そこのところはどうしても調べてほしいというところについて、再度考えるチャンスというのを何か組織的な形として仕組んでおかなければいけないのではないかというのが、この即時抗告ということの考え方です。
 それから、中心論点とは違うのですけれども、暴力団であるからだめだろうかというのは、それは必ずしもそういうことにはならないのだと思うのです。手続を支配して、証拠調べをやるのは裁判所ですので、手続の遂行上不相当なことをさせないこととするのですが、暴力団の申立てがあったらそれは調べませんよということには必ずしもならないのではないかという感じがしております。

○後藤企画官 裁判所は一般的に濫用的な申立てについて検討しないということは、民事訴訟でもあり得ないと思うのですね。濫用的なものかどうかについては、どんな申立てだって必ず判断しなければいけない。仲裁のときに濫用的な申立てについては判断しなくていいという仕組みはあり得ないので、そこは全く通常の民事訴訟における一般論と同じ意識なのではないでしょうか。
 仲裁のときに濫用的な申立てがあるかどうかというのは、一応、いろいろ教室事例として挙げられておりますが、それは民事訴訟一般のときに比べて、実際どのくらい多いのか少ないのかということについては、必ずしも検証できているとは思えないのです。ですから、そこについては一般的な規律で、もちろん濫用的なものについては一般的に排除できますと。実際に不適法として却下した場合には即時抗告も認められるのではないか。それは通常の仕切りと同じにするのだという、こういう理解になるのではないでしょうか。

○秋吉委員 わかりました。

○三木委員 今、企画官がおっしゃったことを改めて確認しておきたいのですが、先ほどから濫用の場合、排除するとおっしゃっていますが、確かに本当に濫用であれば排除するべきだと思います。しかし、そこで言う濫用の排除の基準というのは基本的に訴訟の場合における濫用の排除の基準と同じでなければならないわけです。
 仲裁合意を結ばれれば訴権がなくなるわけですから、それは訴訟と同じだけの証拠調べの機会が与えられなければいけない。したがって、仲裁だから濫用の認定が緩やかでいいということには全くならないということを確認しておきたいと思います。

○青山座長 それではよろしいですか。まとめさせていただきます。
 即時抗告を認めるかどうかの点については、却下の裁判に対しては即時抗告を認めるということにさせていただきたいと思います。それから、秋吉委員がきょう御提案されました要件の明確化の点については、実質はここではもうほとんど異論がない。その実質を何らかの言葉に表現しなければ秋吉委員の言われるようなことが実現できないのかどうかという点は、法制マターでもありますので、少し検討させていただくということでよろしゅうございますでしょうか。どうなるか、私も今ここで何とも言えませんので、事務局の方で検討させていただくと。

○秋吉委員 はい、事務局の方にお任せするということで。

○青山座長 はい、わかりました。
 海外からの援助の申立てにつきましては、従来、いろいろな御議論があったけれども、今回はそれについて海外からの援助の申立てを直接日本の裁判所が受けるという、その仕組みを明文の規定に置くということは断念するということでよろしゅうございますでしょうか。

○青山座長 それではそういうことにさせていただきたいと思います。
 ここで10分間、休憩をとりたいと思います。3時20分から再開させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(休 憩)

【検討事項案その23 〜8 仲裁判断書の預置について、9 仲裁契約の方式の準拠法について、10 裁判所の管轄について、11 多数当事者仲裁について〜】

○青山座長 それでは審議を再開させていただきたいと思います。
 次は、仲裁判断書の預置、仲裁契約の方式の準拠法、裁判所の管轄、多数当事者仲裁、この4項目について、一括して御説明をお願いしたいと思います。

○近藤参事官 これらについてはいずれも第10回検討会において議論されたものですが、まず仲裁判断書の預置については、廃止の方向の意見が多数を占めていたと思いますので、その方向でどうかと思っています。また、仲裁契約の方式の準拠法は、先ほど御議論いただいた仲裁契約の方式とも関連しますが、渉外実質法の規定ではなくて抵触処理をするということでよいのではないかと思っております。
 それから、裁判所の管轄については、仲裁判断の取消し、仲裁判断の承認及び執行以外では裁量移送を認めないこととしていることの関係で御意見があったところです。これについて、その他の各種援助の申立ては非常に簡易な手続で迅速な判断をすることを前提としておりますので、裁量移送まで認める必要はないのではないかと思われるところです。第10回の検討会においても、この事務局案を支持していただいた方が多かったと思っております。
 最後に多数当事者仲裁についてですけれども、これは従前からの案と少し異なります。第三者が既存の仲裁手続に参加する場面と、仲裁手続の併合に関する規律の場面について、従前の案では、どちらも、全当事者の合意があっても、仲裁廷において仲裁手続の遅延の恐れその他相当でない場合は参加ないし併合を許さないことができるというところに、若干ながらも規定の意味があるということで、案を提案させていただいたところです。
 しかし、当事者の全員及び少なくとも仲裁廷の過半数が参加及び併合を許可してよいとすれば、当事者全員及び仲裁人全員の了解の場合と実質的には大差はないと考えられることと、さらに仲裁人のうち少数の者が反対しているということが前提になるわけですが、その場合に参加ないし併合を強制できるとすると、仲裁人契約との関係をどのように考えるのかといった点で理論的な問題もあるところです。
 これらの点も踏まえて、一番必要性の高い仲裁人の選定のみの規律にしたいというのが今回の事務局の提案でございます。

○青山座長 それでは、4項目ございますが、まず、仲裁判断の預置の制度を廃止するということについては何か異論がありますでしょうか。
 なければ、これは廃止するということにさせていただきたいのですが、よろしゅうございますでしょうか。

○吉岡委員 前回、私が任意的に残すのはどうかということで意見を申し上げましたけれども、多数がそういうことであれば、こだわらないということで、結構でございます。

○青山座長 どうもありがとうございました。
 それでは、次は仲裁契約の方式の準拠法を、従来のような実質法的なものとして処理するのではなくて、抵触法的な処理をするというふうに変えたわけでございますが、これにつきまして御意見をいただきたいと思います。これでいいかどうか。

○近藤参事官 補足しますと、抵触法的処理をすると書いてありますけれども、これは1条の規定のところで適用範囲を書くわけですけれども、日本に仲裁地があるものについて、本則の規定が適用になりますというふうに規定したいというのがこの抵触法的処理をするということの実質的な内容になります。
 従前の渉外実質法的な処理という場合、それに穴をあけて、仲裁地が日本にある場合及び海外にある場合についても、7条の方式の規定を適用するというふうに書こうということを従前は考えていたのですが、UNCITRALのモデル法改正の検討状況との関係等も踏まえて、そういう形ではなくて、先ほど言ったように、ほかの規定と同じように、仲裁地が日本にあるものについてこの方式の規定が適用されるということにとどめたいという趣旨でございます。

○三木委員 確認のためだけの発言ですが、そうしますと仲裁地が日本ではない場合について、そこにどこの国の法律が適用されるかは、あげて解釈の問題であるということですから、解釈の仕方によっては日本法が適用されるという余地も封じられてはいないという理解でよろしいでしょうか。

○青山座長 それはそうですね。

○中村委員 確認的なことですが、仲裁法で仲裁に関する国際私法を規定するかどうか相当議論がされたかと思いますが、結局、結論としては規定を明文では置かないという理解でよろしゅうございますか。

○青山座長 はい。

○中村委員 それで、抵触法的処理というのは結局、仲裁契約の方式ですけれども、仲裁契約の準拠法については例のリング・リング・サーカス事件の最高裁判所の判例がありますので、それからしますと、恐らく仲裁契約の方式については法例8条ということで処理されていくのだろうというような理解でよろしゅうございましょうか。

○青山座長 これについては中野委員、何か。

○中野委員 外国が仲裁地の場合に、解釈の余地を認めるということになりますと、中村委員がおっしゃいましたように、通常オーソドックスな解釈としては法例8条によるということになろうかと思います。が、8条を使うということになりますと、仲裁契約の準拠法まではよろしいのですが、それと選択的に、仲裁契約の締結地といういささか問題のある連結点が入ってまいりますので、そこはよろしくないという意見も当然あり得るのではないかと思います。そうすると条理だと。そこから先は仲裁地がどうだとか、いろいろな考え方の余地が出てくるだろうということです。

○青山座長 ほかに御意見ございますでしょうか。
 これはUNCITRALの検討状況も踏まえて、渉外実質法だとしてガチガチに固めてしまいますと、UNCITRALの方で変わった場合に日本の仲裁法が浮いてしまう可能性がある。それだったら、渉外実質法ではなくて抵触法的な処理にしておけば、法制が変わっても日本としては受けられるということで、解釈の余地が広がるということになると思うのですが、そういうことでよろしゅうございますでしょうか。
 それでは、先に進ませていただきます。次は裁判所の管轄でございますけれども、特に裁量移送は先ほど御説明のあった2つの場合、つまり仲裁判断取消しの裁判と仲裁判断の承認、執行の裁判については裁量移送というのはあり得るけれども、それ以外は管轄違いによる移送しか認めないということですが、これでいかがでしょうか。裁判所の方のお考えはいかがでしょうか。

○秋吉委員 特に意見はございません。

○近藤参事官 仲裁判断の取消しと承認・執行の裁判について特に裁量移送を認めた趣旨というのは、前にも出ていますけれども、これは基本的に、判断する原因事由が同じですので、その判断を統一化させることが必要であるという趣旨から裁量移送を特に設けるという趣旨でございます。
 そういう意味からも、ほかの援助の申立てとは質的な違いがあると思っております。

○青山座長 はい、どうもありがとうございました。では、これはよろしゅうございますか。

○松元委員 管轄とは違うのですが、裁判所に関連しまして、モデル法5条に裁判所の介入範囲というのがございますね。あれはどこかに規定されるのでしょうか。

○近藤参事官 これと似たような規定は置きたいと思っております。
 それから、補足して資料の説明をさせていただければ、この資料の7ページのところですが、検討会資料33のⅩの1(1)のイのところの(注)は、この注自体は第10回の時はなかったのですが、口頭説明の時に仲裁廷の仲裁権限の有無についての決定については入らないということを事務局は検討会の直前に考えたという口頭説明をして、御理解をいただいたと思っておりまして、その趣旨で書かせていただいております。
 ここは第10回の時に、実質的な議論としては、皆さん御了承いただいたということで考えておるところですので、一言それだけ追加説明させていただきたいと思います。

○青山座長 そういうことでよろしゅうございますか。
 それでは次の多数当事者仲裁ということでございますが、今御説明がありましたように、はじめは3つの項目で、参加と併合の規定まで設けていたわけでございますけれども、検討してみると、かなり難しいと。それで参加と併合の方はこの際落として、基本的な1のところの部分、仲裁人の数の問題だけにしておくと。
 それについては、それだけだったら要らないという考え方ももちろんあると思いますが、これがあるとあとは仲裁機関の工夫とかいうことで2とか3とかいうことも入ってくるだろうし、解釈も、多数当事者仲裁の基本的なことが出ていれば、あとは解釈の余地といいますか、そういう工夫の余地もあるということで、1だけ残すというのが原案でございますが、いかがでしょうか。

○中村委員 私は賛成いたします。それで、確認でございますが、つまるところ、多数当事者仲裁で仲裁人の選定が当事者間でできない場合に、裁判所は仲裁人の数を決めたり、あるいは選定を行う。したがって、モデル法では二当事者仲裁しか対象にしていないところに手当てをしていくというのが趣旨ということでよろしゅうございましょうか。

○青山座長 はい、そういう趣旨ですが、いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
 私としては、もう少し時間があれば、もっと検討してという気持ちもあって、当初は欲張った案を事務局にお願いしてつくってもらったものですから、今、戦線を縮小するのは何となくもったいないという気もいたしますけれども、時間との競争ということもありますので、そういうことでお許しをいただきたいと思っております。
 それでは、次は検討会資料37、38に移ります。
 消費者と事業者との間の仲裁に関する特則及び個別労働関係紛争に関する仲裁の特則について御議論をしていただきたいと思います。
 まず、労働関係から議論し、その後、消費者の特則について議論したいと思っております。それで、まず御説明をお願いいたします。

【検討事項案その25(仲裁法制に関するとりまとめについて〔その6〕)】

○近藤参事官 労働関係については、前回、労働法関係の方にも参加していただき議論したところですが、それを前提として事務局としては、将来紛争に関する仲裁契約について暫定的に無効とする考え方でどうかという案を提示させていただいているところです。なお、これに関連して日本経団連から経過措置について考慮してほしい旨の意見書が出ております。

○青山座長 それでは、今、御説明のように、暫定的な無効という案ですけれども、それを実質として御議論いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。前回ヒアリングで、こういう方向でどうかということを出席していただいた方々がお述べになりまして、それを事務局として、こういう形でまとめたらどうかということできょう提案されているわけですが、いかがでしょうか。

○松元委員 経団連から出ていますこの意見の場合にはどうなりますでしょうか。これを取り入れて、何らかの手当てをすべきであると思います。

○近藤参事官 日本経団連から出ている意見は、現在、有効に締結されている仲裁契約がどうなるのかということで、現行の仲裁法と新しく制定される仲裁法との経過措置に関することになると思うのです。多分、ここで言われているような形の仕切りにはなると思いますが、経過措置的なものですので、ほかとの並びとかいろいろありますので、それについては事務局の方でなお検討させていただきたいと思っております。

○中村委員 暫定的措置というのは具体的にはどういう内容なのでしょうか。

○近藤参事官 この前のヒアリングを踏まえますと、労働の関係についていろいろな立場がありまして、今現在、この検討会で最終的な案をとりまとめる段階ではないと考えております。
 そういう意味で、暫定的に、本来の労働法制について考えるべきフォーラムで議論していただくまでの間、とりあえずの間は将来紛争に関する仲裁合意については無効とするということで運用を開始して、しかるべき時期に新たな手当てについて考えていただくということを考えております。

○吉岡委員 細かいことですけれども、立法形式とも関連するのですけれども、どういう立法形式を考えておられるかということですね。そうすると今有効なものをこの規定の仕方としては新しい仲裁法が成立した、効力発生ですか、施行日以降の合意を暫定的にどうするという趣旨なのですか。細かいことがわからないのですが。

○近藤参事官 それはまさに経過措置との関係になると思うのですけれども、基本的にはそういうことになるのだと思います。

○青山座長 多分、立法形式はかなり法制局とも相談をしなくてはいけない。事務局の方もいろいろお考えがありますけれども、ここでこういうことになりそうだということはちょっと言えない段階だということはお許しいただきたいと思います。
 いずれにしても、仲裁法というものをつくったときに、将来の紛争についても有効なものとしながら、すぐその後にこれこれは除外するとかいうような形にはならないような工夫が法制的にできれば、そういう形にしてもらえばいいのではないかと思っています。

○近藤参事官 経過措置についてちょっと歯切れの悪いことを言っておりますのは、普通の契約とちょっと違いまして、労働契約の場合だと、就業規則の問題だとか労働協約の問題だとかということもありまして、その関係についても効力発生時点以降の契約については無効にするという形だけで足りるのかどうか。なお検討しなければいけないのではないかと思っておりますので、実質的にはこういう形になると思うのですけれども、その点についてまだ検討は十分ではありません。
 ただ、今まで結んでいた仲裁契約について、それが新しくその後できた法律によって、法的な地位が変動が生じるということは普通の一般法的な形からするとおかしいものですから、そういうことは多分あり得ないのだと思います。
 ただ、どういう形の規定になるのかとか、どういうふうにすれば一番いいのかということについては、なお検討させていただきたいと思っております。

○青山座長 いかがでしょうか。こういう形の扱いで労働の方はよろしいかどうかということですが、よろしいでしょうか。
 それでは、次は消費者の関係での仲裁について事務局から説明していただきたいと思います。

【検討事項案その24(仲裁法制に関するとりまとめについて〔その5〕)】

○近藤参事官 検討会資料の37になります。消費者の問題については、I案、II案、2つの案をお示しさせていただいております。
 消費者の問題についてもただいまの労働と同じように、現時点で最終的な決着をつけるのは難しいのではないかと思っております。その意味でI案、II案、双方とも暫定的な措置ということになっております。
 I案の方は労働と同様に将来の紛争合意について無効とする案でありまして、II案の方は同じく将来の紛争合意について解除構成をとる案ということになっております。解除構成については、今まで事務局が示していた解除構成というのがわかりづらいのではないかというような御議論もありましたので、参考資料17として図式化したものを御用意しております。将来合意について、無効であるというのと解除構成とがどういうふうに違うのかということを考える際の参考にしていただければと思っております。

○青山座長 それでは、消費者仲裁のことについて御議論いただきますが、今御説明のように、I案は従来の乙案がベースになっておりまして、II案は従来の丙案がベースになっております。ただし、いずれも当面の暫定的な措置ということにしたのが今回の新しい御提案ということになりますが、これについてもどなたからでも結構でございますが、御意見をいただきたいと思います。
 まず、国民生活局からの意見のお申し出がありますので、どうぞ。

○説明者(高橋氏) 国民生活局の高橋と申します。このような機会をいただきましてありがとうございます。
 内閣府の方は事務局と密に連絡をとりながら意見交換させていただいておりましたし、前々回だったと思いますが、国民生活局の中間とりまとめにおける意見はお配りさせていただいていると思いますけれども、最終とりまとめに入っているということですので、現時点の我々の考え方を述べさせていただきたいと思います。
 我々としては、前提としてですけれども、消費者が仲裁を利用しやすくなるようになることは評価しておりまして、その意味では仲裁法ができるということは望ましいのではないかと考えております。
 その中で解除構成について、事務局をはじめとして、欠席時の取扱い等について努力していただいたことには感謝しておりますが、しかし我々内閣府としては依然として無効構成が望ましいと考えております。
 その理由ですけれども、1つは消費者紛争の解決にありまして、仲裁というのはあっせん、調停、少額訴訟、そして裁判と並んで紛争解決手段の中の1つであるということでありまして、紛争が起きた際に、その解決をどのようなやり方で、どの機関で、どのように解決を図るかということについて、消費者が選択肢の中で選んでいく。その際に納得して選択できる制度設計が必要だと考えております。
 きょうお配りはしておりませんが、国民生活局に国民生活モニターというのがありまして、5月に調査した中で、紛争が起きたときにどのような解決方法が望ましいかということについてですけれども、第三者に判断を委ねる解決について望ましいといっているのが19%で、本人同士が話し合いを尽くす解決がいいというのが41%になっております。
 さらに分野ごと、解決の紛争が起きた内容ごとに見てみますと、ここでも調停というのが基本的には多くて、通常の契約取引においては35%が調停、仲裁は19%、あっせんで13%、住宅は多少高くて調停は38%、仲裁は23%、あっせんが12%です。一方、安全にかかわる部分については、調停、仲裁、あっせんというところの割合は低くて、事業者への行政による指導監督というのが6割を超えている状況にあります。
 一方、インターネットトラブルについては、調停、仲裁、あっせんが大体同じくらい、20%前後という状況になるということでありまして、消費者にとっては選択肢を適切に選べるということがまず前提になるのではないかと思っております。
 海外においても、消費者紛争に仲裁を使おうというのが注目されている1つの理由は、オンラインの取引が増えているという分野であると考えておりまして、今までの流れからいうと、一般的には調停が多用されてきたと理解しております。例えば、海外の紛争解決機関ですけれども、フランスにおいては競争・消費問題・詐欺防止総局というのがフランスにおいて消費者行政を担っておりますが、そこの支援において消費者、事業者双方のかかわる形で調停委員会というのが置かれております。ドイツも同じく、消費者担当部局が支援しておりますけれども、消費者センターというのが各州に置かれておりまして、そこであっせん、調停がメインに使われております。さらに、ドイツにおいては商工会議所が消費者苦情調停所を置いています。
 また、スウェーデンも含めた北欧においては消費者オンブズマンというのが消費者行政を担っておりますが、その事務局にあっせん調停のための消費者苦情処理委員会というのができておりまして、さらに近隣の韓国においては消費者保護院という、日本でいうと国民生活センターに近い機関ですけれども、こちらに消費者紛争調停委員会というものが置かれて、調停をしようとしている国が出ています。
 一方、仲裁を利用している国としては、アメリカがあると思いますけれども、アメリカにおいてもどちらかというとインターネットの分野で特に仲裁が使われていると認識しております。
 例えば、米国仲裁協会におきましては、1999年にコンシューマーデュープロセスプロトコルというものがつくられておりますけれども、そのつくった目的のところに消費者による電子商取引の拡大を受けてということが書かれておりまして、さらに仲裁だけではなくて、調停の選択肢を残すというものも含めて、原則が11まで掲げられております。
 さらに、実際、消費者から特に信頼を置かれておりますベタービジネスビューロー(BBB)、それからトラストイー(TRUSTe)というような機関におきましては、助言からはじまりまして、調停を受けて、それでも解決しない場合に仲裁にいくという形になっております。
 また、スペインは1999年に消費者仲裁委員会というのを新しい仲裁法を受けてつくっておりますが、こちらについては消費者が申立てをした場合のみ使われるというスキームを持っておりまして、片面的な形になってつくっております。この仲裁委員会にかける事業者については登録制をとって、現在は5万社が登録しているということになります。
 以上を踏まえまして、我々としては仲裁を消費者紛争に適用する場合については、仲裁に信頼を置いて臨んでもらうための制度設計が必要だと考えておりまして、そのためには特則が必要であると考えている次第であります。
 今回の解除構成と無効構成、2つ示されておりますけれども、我々としては依然として無効構成が望ましいと考えておりまして、理由は参考資料18に載せております。
 1つは消費者の理解力と選択権の確保、それから熟慮期間の2点です。
 御覧いただいていると思いますが、紛争発生前の仲裁契約においては、消費者が仲裁条項の存在を認識していなかったり、あるいは訴権を失うという重大を意味を理解していない場合が多いと考えております。消費者契約法の第1条、目的のところにも書かれましたが、消費者と事業者の間には、情報力、交渉力の格差があるという前提から出発すべきと考えておりまして、将来発生する紛争を対象とする仲裁契約に拘束力を持たせることには、やはり問題があると認識しております。
 それから、②になりますけれども、書面の交付というのがあるわけですけれども、説明を受けてから解除ができるとされていますが、仲裁を選択するか否かというところの熟慮期間というのが短いのではないかと我々としては思っております。そういう中で、消費者の選択権を十分に保障できるということからは、紛争が起きた後に、仲裁だけではなくてほかの選択肢、裁判だけでなく、あっせん、調停も含めて選択肢が選べるという形がいいのではないかと思っております。
 事務局がつくられたペーパーでも出ておりましたけれども、まず英国、オーストラリア、ニュージーランドでは、そもそも消費者の紛争の少額案件については仲裁から適用除外になると聞いておりますし、アメリカの州法、スウェーデン、香港などにおいては無効構成をとっているということでありますので、そういう意味で消費者紛争に関する仲裁契約については、情報力格差にかんがみて二重三重の措置がとられていると理解しております。
 我が国においても事前合意というものが現存するということでありますけれども、例えば銀行業界をはじめとして企業にも事後合意が存在しておりますし、そういう事実もあろうかと思います。
 さらに、無効構成が消費者のためにならないという意見があるとお聞きしておりますけれども、そもそも仲裁を活用したいと思っている消費者については、当然、紛争が起きた後であっても、仲裁合意が得られると考えておりますので、無効だから消費者のためにならないということはないと考えております。それよりも問題は仲裁を望んでいない消費者がいた場合に、仲裁契約を結ばされてしまうという点だと思いますので、その点からも無効構成が望ましいと思っております。
 本日付けで消費者団体、弁護士有志から検討会あてに意見が出されているように聞いておりますけれども、その中でも無効を支持するものが多いということですので、消費者の分野においては解除権構成への抵抗感は強いのではないかと思っております。
 以上の点を踏まえまして、我々の希望といたしましては、暫定無効として引き取らせていただければ一番ありがたいと思っております。本日の議論、我々もお聞きさせていただいて、結論をなるべく得たいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○青山座長 どうもありがとうございました。それでは、どうぞ御自由に御意見をいただきたいと思います。

○加藤委員 今御意見も出ましたけれども、まず、出発点のところで、私ども仲裁をやっているわけですけれども、建設工事の仲裁というもの自体が我々としてはいいことをやっているとむしろ思っておりまして、そこのあたりで「仲裁ってどんなもの?」という御懸念が消費者の方にあると思いますが、その点は大丈夫ですというのが1点。それから消費者の方で機会があるのだから後で合意すればいいではないかという御議論がありましたけれども、実態としてはむしろ事業者の方が出てこようとされないので、あらかじめ合意しておかないと、後で合意しましょうといっても事業者が拒否するという実態があるということは、私ども運用している実態として、あるのではないかと思っております。
 そういう意味で、仲裁制度というのは簡易迅速で柔軟な紛争処理システムだということで、むしろ消費者の側から事前の合意での活用をされている実態もあるということでございますので、もちろんいろいろな懸念があることは理解できますけれども、それは別の担保をとるのであって、今言ったような無効という形で抑えるべきではないのではないかと考えます。
 今回、案は出ておりませんけれども、紛争審査会の委員の先生方の大方の意見としては、解除が可能とか無効とするのではなく、むしろ何も設けないで消費者契約法なりに委ねるべきだという意見がもともとあるわけですけれども、今回の示された2案から選ぶとすれば、解除権行使を認めるII案というのがよろしいのであって、少なくとも無効とする構成はとるべきではないのではないかと思います。
 繰り返しになりますが、消費者の中にもむしろ使いたくないという人もいますけれども、事前にちゃんと契約しておいて、仲裁に行きたいのだという方も多くいらっしゃいますし、事前合意による弊害がどのくらいあるのか、私どもは寡聞にして聞いておりませんし、そういう状況の中で、無効にすると、今機能している仲裁の事前合意まで全部できないことになりますので、それは現段階では私どもとしてはとるべきではないのではないかと思います。
 何度も申し上げますけれども、無効になると逆に事業者の側にテーブルについてもらえないということは御理解いただきたいと思います。どちらも選べるのではなくて、むしろ仲裁の機会が減るというようなことも考えていただいた上で、どうするかということからすると、消費者の側から解除できるという構成が今の御懸念への答えにもなるのではないかと思っております。
 消費者保護というのはもちろん必要ですし、不公正な仲裁があってはならないということは私どもとしても同じ気持ちでございますので、配慮が必要だとは思いますけれども、本来であればむしろ、消費者だからというよりは、消費者に不利益をもたらすような類型、こういう類型は悪いと規定した方がよいのではないかと思います。前回申し上げましたけれども、そういうものが本来望ましい形ではないかと思っておりまして、暫定的な措置ということですので、その辺は、今後もし御議論いただくような機会があるのであれば、そういう中でむしろ、当事者が誰かということではなくて、こういう類型はいけない、こういう類型は無効だというような形で構成する方がいいのではないかということも思っております。
 そこは議事録なりに残していただいて、今後議論があればするといたしまして、当面、示された暫定案としての2つの案ということであれば、私としてはI案ではなくて解除権行使のII案ということに賛成いたします。

○中村委員 今の御意見、私も賛成でございます。現実に消費者が建設工事紛争審査会のような仲裁機関でもって紛争解決をされているわけです。したがって、将来の争いに関する仲裁合意を、例えば請負契約の締結時に消費者が選んで、そして仲裁合意を結んでそれで将来紛争が発生して仲裁によって解決されているというのが実際にあるわけです。
 そうすると、先ほど国民生活局の御担当の方から御説明がありましたけれども、消費者の選択肢という面から考えると、例えば今の請負契約の締結時に、消費者が仲裁によって解決したいのだという希望があっても、これを無効にしてしまうと、それが有効に成立しないということで、仲裁が使えないということですから、逆にいえば消費者の選択肢がなくなるわけです。
 そういうことを考えますと、消費者といってもいろいろな方がいるでしょうが、仲裁を使いたいという人がいれば、これは使える道を残しておくべきであって、すべて無効ということはあり得ないし、また、現状の仲裁機関による解決ということを見ても、I案は採用できないと考えます。

○松元委員 今のお二方の意見とほぼ同じでございます。あとは、当面の暫定的な措置というのも、先ほどの労働の関係と同じかもしれませんが、これも十分お考えいただきたい。暫定的ということは、将来は、例えば消費者契約法なり何なりでそういった問題について規定すればここから外れるとか、何かそういうことも考えられているのでしょうか。

○近藤参事官 そういう可能性もあり得るのだと思いますが、現時点ではどういうことになるかというのは何とも言えないところでございます。

○松元委員 であるならば、無効構成については今お二方がおっしゃったとおりですから、やはりII案でいかないと仕方がないと思います。

○吉岡委員 国民生活局の方にお伺いしたいのですけれども、今も御質問に出ましたけれども、当面の暫定的な措置のその先を、具体的にどのように現在考えておられるのかということがないと、判断にも影響すると思うのです。今のところのお考えが、もしお聞かせ願えるならお聞かせ願いたい。
 労働の方は、前回の労働の検討会の方が来られまして、いわば座長の一種の仲裁裁定的な形で、かなりまとまりがあるように思われたのですけれども、それについていかがなものでしょうか。

○青山座長 今の御質問、お答えいただけますか。暫定的な無効みたいなものが今はいいというふうに言われたので、暫定的なものがどういう形に将来なるかということについて何か見通しがあったらお聞かせいただきたいという御質問です。

○説明者(高橋氏) そこは残念ながら、消費者と事業者の間の情報力・交渉力の格差を考えると、将来的に仲裁機関がどういうものが出てくるかということとセットに考えざるを得ないということでありますし、調停についてもADR検討会の方で検討が進められておりますし、さらに国民生活審議会の方で新たな消費者政策、消費者保護基本法の見直しも含めて検討するということになっておりますので、将来の姿の中で仲裁がどういう役割を担っていくかという、それを踏まえて検討せざるを得ないという状況ですので、どういうものになるかというのは現時点ではわからないというお答えしかできないのではないかと思います。

○吉岡委員 将来どういうふうになるかというのはもちろん検討の結果なのですけれども、直ちに検討を開始する御用意があるのかどうかという、その予定を、もしわかればお伺いしたいと思ったのです。

○説明者(高橋氏) 今言いましたADR検討会と国民生活審議会の動きからすると、この仲裁法ができてしばらく経たないと難しいのではないかと思います。

○中村委員 御質問させていただいてよろしゅうございますか。
 先ほどの繰り返しになりますけれども、消費者が仲裁を使いたいと契約時に望んだ場合、I案ではそれはできないわけですね。そうすると、消費者の利益を害するI案だということだと思いますけれども、そういった点からして、国民生活局のお立場として、消費者の利益というものを保護する必要性を考えておられないのかどうか、その点について御意見をお伺いしたいと思います。

○説明者(高橋氏) 無効であっても、できないとなるわけではないと思っております。というのは、紛争が発生してから選べるわけですので。そもそも仲裁を事前に望むということは後からも望むということですので、そこは消費者にとっては選択権が制限されていない。問題があるとすると、先ほど言われた事業者が逃げるということだと思いますけれども、事業者が逃げるということは、次の時は仲裁合意をしないということだと思いますので、そこについては、−−基本的には事業者の方が仲裁契約の契約書を用意しているということからすると−−1回多くあったということに過ぎないと我々は認識しております。

○青山座長 ちょっと今のことがわからなかったのですが。

○説明者(高橋氏) 消費者の方が仲裁を望んでいて、事業者が望んでいないという場合ですけれども、事前に結んでおけば消費者の方が望んでいて、事業者が望んでいなくても、契約自体は存在しておりますので、仲裁に行くということだと思いますけれども、そもそも事業者の方が契約の書面を用意していると。消費者側から、これにサインしてくださいと持っていくことは基本的にはないと思っておりますので、そうした場合については、その時は事業者はもう結ばれておりますので従うと思いますが、次回以降は、仲裁には持ち込みたくないということで、消費者と仲裁契約をしないと。

○中村委員 よくわかりませんでした。消費者が、例えば請負契約の締結時に仲裁によって紛争を解決したいという意思表示をして、事業者もそれに応じて意思表示をしたら、それで仲裁の合意ができるわけですね。ところが、このI案ではそれができないわけですね。その点についての御意見をお伺いしたいのであって、それに対するお答えとしては明確ではなかったと思いますので、もう一度御説明をしていただければと思いますが。

○松元委員 高橋さんが今おっしゃったのは、紛争が起きてからのことについて少し誤解されていると思うのですが、紛争が起きてから仲裁契約を結ぼうといったときに、事業者が結びたくないといったら仲裁契約は成立しないわけですね。そうしたら、裁判に行くしかないわけです。したがって、はじめから無効とせずに、将来の紛争であっても、解除の方式の方がいいだろうということなのです。

○説明者(高橋氏) それはだから1回限りだと。

○松元委員 1回限りというのは、例えばどういう意味ですか。

○説明者(高橋氏) その事業者は仲裁でもうやりたくないという理解になれば、そもそも消費者にそういう仲裁契約を結ばせようというインセンティブが働かない。

○松元委員 たまたま問題になった消費者は、その事業者との間に仲裁できないわけですね、嫌だと言えば。問題が発生してから仲裁契約を結ぼう、いや、仲裁契約を結ばないと言っている場合。
 それで、1回限りとか2回限りということがよくわからないのですが、同じ当事者が2回も3回も契約するのでしょうか。

○説明者(高橋氏) 消費者側は違う人です。普通、事業者が約款と一緒に仲裁契約書を用意していると思いますので。

○近藤参事官 ちょっとよろしいですか。
 今、かみ合っていないのは、多分、国民生活局の高橋さんがおっしゃっているのは、仲裁が好きか嫌いかというか、仲裁というものをどう評価するかという一般的なことを前提としておっしゃっていて、中村委員や松元委員は現実に発生する紛争がどういう紛争状況で生じて、これをどういうところで解決したらいいかという個別事案との関係で、仲裁が選択されないことがむしろ現実としては多いのだと。
 だから、仲裁がいいか悪いかという、そういう抽象論で区別されるべきものではないのだという前提で中村委員、松元委員がおっしゃっているから、そこで全然かみ合っていないのだと思うのです。
 現実の仲裁機関に携わっている方の目から見たら、仲裁がいいか悪いかということで仲裁を選択するか選択しないかというよりも、現実に発生する紛争について、この場合にどこへ持っていったら不利になってしまうのか。裁判所に持っていって、長くしようと思えば、こちらの方が長くできるような選択をされるのではないかというような、そういう個別具体的な事例を前提にしておっしゃったのが中村委員、松元委員だと思うのですね。だから、そこのところが今全然かみ合っていないのだと思うのです。

○中村委員 よろしいですか。例えば請負契約で消費者がその請負契約から発生する将来の紛争について、仲裁によって解決したいと。例えば、建設工事紛争審査会の仲裁機関を使いたいということで、契約時にそういう意思を持っていたと。そういう意思表示を事業者に伝えて、事業者がそれを受け入れたとすると、仲裁契約がそこで成立し、消費者は、その後、紛争が発生した場合、自分は仲裁を選んだわけですから、それを実現しようとするわけですね。
 ところが、それを実現しようと思ったときに、今の規定だとこれはできないということを問題として指摘しているわけですね。

○近藤参事官 だから、事業者側が自分は負けるだろう、仲裁廷でも負けるだろうし、裁判所でももしかしたら負けるだろうと思った場合でも、どちらの方がずっと引きずって責任回避ができるかということを選択するのではないかということを、中村委員や松元委員がおっしゃっていたと思うのですね。
 だから、それは仲裁がいいか悪いかという単純な問題ではないのではないかということの御指摘だと思います。

○説明者(高橋氏) まず、1点目は消費者が事前に仲裁の契約を望んでいた場合で、事業者もそれでいいと言った場合については、当然、紛争発生後であっても消費者が望んでいるわけですし、事業者もそれに当然応じているわけですので、紛争発生後にもう1回結び直してもそこは差異はないと。

○中村委員 そのとき、事業者が反対したらどうなのですか。

○加藤委員 まさに今のような事例こそ事業者が拒否するのですね。お互いが事前合意で仲裁に行きましょうといって、例えば請負工事をしたばあいに、事業者が、かなり手抜きをしたな、瑕疵があったと思ったら、そのときに、消費者は仲裁の方が専門家がいて早くできるし、見てほしいと思っても、事業者は自分がこれはまずいと思ったら、引き延ばせたり、あるいは、いろいろな手段が使えるという意味で、むしろそのときに事業者は仲裁を選択しないわけです。
 では、次に、また請負をするときは、今度はきちんとできると思えばまた結ぶわけで、1回目が結ばなかったらまた次は使わないということではなくて、まさにケース・バイ・ケースで、まさに仲裁を使わなければいけないときこそ、事前に合意しておかないと、事後では結べないと。
 むしろ、消費者が弱いような立場のときこそ、先に結んで、仲裁廷に来ていただくという方が解決になっているというのが紛争の実態です。同じ商品を売っていらっしゃる場合はどうかわかりませんけれども、まさに請負工事の場合であれば、今みたいなことで、まさにそういうときにこそ結んでいただきたいし、そうだとすれば無効構成をとってしまうと、むしろ正直者というか、変なことになってしまった弱い方が苦しむ立場にならないかということを懸念しております。

○山本委員 私も結論的には第II案の方が相当ではないかと思っております。先ほど国民生活局の方から、消費者の選択権を保障する、理解力に問題がある、熟慮する機会を保障しなければならないという3点くらいの理由を、I案を支持すべき理由として挙げられたのではないかと思いますが、これはこの検討会でかなり議論されてきたことだろうと思いますけれども、選択権の点はまさに今お話があったところだろうと思います。
 消費者の選択権という側から見れば、第II案の方が選択権は広いわけでありまして、消費者が訴訟を選べば訴訟に行きますし、仲裁を選べば仲裁に必ず行くわけです。今、御議論がありましたけれども、I案であれば消費者が仲裁に行きたいと思ったときに、仲裁に行けるとは限らないわけでありまして、相手方が同意すれば仲裁に行けますけれども、同意しないということがあり得ることは先ほど実情御紹介があったとおりであろうと思いますので、少なくとも理論的に見れば、それは必ず仲裁に行けるII案の方が選択権が広いことは私は明らかではないかと思います。
 それから、理解力の点、これはよくわかるところでありますが、紛争発生前に仲裁契約を結ぶ場合に、訴権を失うという仲裁の意味が十分理解できない、これはそのとおりだと思います。私もこの理解に基づいて、従来まで、仲裁契約に完全な拘束力を認めることには反対してきたわけでありまして、その点から、紛争が発生した後に選択権を行使できる構成が相当ではないかということを申し上げてきました。
 紛争発生後については、この場合においてまで消費者に理解力がないといえるのか。私は紛争発生前にやはり拘束力を持たせるのは問題ではないかというのは、やはり一定の契約、例えば売買契約とかを結ぶときに、その点について紛争が発生した場合にどうなるかというところまで考えて契約を結ぶ消費者というのは通常にないだろうと思うからでありまして、それはやはり合意の真意性というものに疑問がある。しかし、いったん紛争が発生すれば、それはもう自分の問題として、普通の消費者は真剣に考えるだろうと思います。その真剣に考えた結果の選択まで理解力がないというのは、それは消費者の判断力をあまりにも否定していることになりはしないかということを思います。熟慮の末に仲裁がいいと消費者が判断したのであれば、やはりその判断は尊重されるべきであろうと思うわけであります。
 最後に、その熟慮の点でありますけれども、これは御懸念はわかる部分があるわけでありまして、その点に配慮して、第II案というのは当事者に考慮の機会を与えることにかなり慎重な配慮をしているのではないかと私は認識しております。まず、書面を送付すると。そこで、考慮の機会を与えて、仲裁廷に出頭した時にもう一度説明して再考を求めるということだろうと思います。
 ただ、それでもなお不足があるということかもしれませんけれども、確かに書面を送っても、その書面を十分読んでこない、あるいはその書面を読んでも十分理解できない消費者がいたとすれば、その仲裁廷で説明を受けて、そこでいきなり解除するかどうかを判断せよと言われても、十分な判断ができない場合があり得るとは思います。それは恐らくその時点で留保の機会を与える必要はあるのだろうと思います。ですから、例えばですが、仲裁廷における説明の内容としては、その仲裁契約が解除できることに加えて、解除の判断を留保できると。留保すれば、例えばその後弁護士事務所に行って、もう一度弁護士とかに相談して、そこで判断するというような機会を与えるということは考えられるのではないかとは思います。
 そういうような熟慮の機会を十分に与えれば、その結果は尊重すべきだというのが私は21世紀における日本社会のあるべき姿ではないかと思っておりますものですから、そこは仲裁に行ける可能性を奪うような構成というのは望ましくないのではないかということです。
 ただ、この点については、やはりこの検討会自体に消費者の代表者が入っていないということは、結果論としてですが、非常に大きな問題点であったと認識しておりますので、事務局御提案のように、これはあくまで暫定的な措置であって、最終的な結論は消費者の代表が参加されているような機関でなされるべきであると。そして、その機関においては、ここで暫定的な結論として仮に第II案のようなものがとられたとしても、それはそこで見直される可能性は残ると。
 そういうような形で、最終的な結論は消費者の代表が参加したところで結論を出していただければいいのではないかと思いますが、この検討会ではやはり今までの御議論もありますし、今お話ししたような理由からして、やはりII案のような形で暫定的な結論を出すべきではないかというのが私の意見です。

○三木委員 今、山本委員が述べられたことに、私も基本的に賛成です。
 まずI案とII案の関係ですが、I案、II案、それ自体がいいかどうかという問題は留保しておけば、どちらが望ましいかということであれば、より消費者の保護に手厚いのがどちらかという観点で考えれば、それはII案であることは明らかだろうと思います。
 既に山本委員がおっしゃったことの繰り返しになって恐縮ですけれども、改めてもう一度申し述べたいと思いますが、高橋さんの先ほどの御説明は紛争発生前に合意を結ぶ場合と発生後に結ぶ場合とで動機が同じだということを前提に議論されていましたけれども、それは全然違うわけで、事業者も、紛争発生前であれば仲裁合意を結ぶことが自分にとっても有利だと思って結ぶかもしれないですけれども、ひとたび紛争が発生しますと、それは紛争の内容によって、これが仲裁になったら不利だと思えば逃げようとしますし、有利だと思えば使おうとする。
 そうしますと、I案ですと、これは事業者の方がつまみ食いができるということになります。もちろん、消費者もつまみ食いができますけれども、I案は事業者、消費者ともにつまみ食いができるという案であります。それに対してII案は消費者はつまみ食いができるけれども、事業者はつまみ食いができないということでありますから、これは明らかにII案の方が消費者に有利だということになります。
 それから次に、そもそもI案をとればII案とかなり違った結果になるのかどうかも疑わしいように思います。無効構成をとったとしても、紛争が発生して、仲裁手続がはじまりまして、そこで消費者の側がひとたび仲裁に応じますと、これは紛争発生後の合意が黙示で結ばれたと見る余地が大いにあるわけでして、I案であれ何であれ、紛争発生後の合意は有効だということにしているわけですから、それが解除構成と比べてどのくらい違うのか、私にはやや理解できないところがあります。
 それから、3つ目の熟慮期間の点は、山本委員がおっしゃったところに基本的に賛成ですが、一言付け加えますと、消費者が一方当事者になる仲裁の手続の進行とか、要する期間というのをどうイメージしておられるのかということも、やや問題ではないかと思います。
 私は消費者が当事者になるような仲裁というのは、もちろんいろいろなケースがあるでしょうけれども、普通はごく短時間で終わるのが、争われている金額とか紛争の内容から考えても当然であろうと思います。1回とか2回とかの期日で終わってしまうというのがノーマルだと考えた場合に、熟慮期間ということの意味がよくわからなくて、はじまればすぐ終わってしまう場合に、熟慮ということはもともと与えようがないのではないかということがあります。
 実際には、本当の熟慮の期間というのは、事業者側から仲裁申立てがあってから第1回の仲裁手続が開始されるまでの間にそれなりの期間があるはずでありまして、その間に熟慮がされるということで、手続がはじまってからの熟慮というのは、これを与えるという構成を組んでも、実際にはあまり意味がないことが少なくないのではないかと思います。
 最後ですが、先ほど吉岡委員がおっしゃったことと関係するのですけれども、その後、国民生活局はどういう御予定でしょうかという御質問をされました。その御懸念というのは私も共有できるところでございます。
 仲裁検討会は、山本委員がおっしゃるように消費者の代表が入っていないですから、ここで最終決断を出すことは難しいという意味で、暫定案をつくるということには賛成なのですけれども、しかし我々にも責任があるわけですから、めくらめっぽうの丸投げというのは委員としては不安であるので、将来どういうことになっていくのかということについて関心があることは当然だろうと思います。
 これは、ややこういう言い方をするとどうかとも思いますが、前回の労働の場合には、いらっしゃった方々は皆さん、−−仲裁に対して力の弱い労働者に対する懸念をも一方で示される御意見もありましたが、そういう方も含めて−−仲裁というのが全く労働紛争にとって意味のないものではない。何がしかの可能性はあるので、いいところは伸ばしていって、悪いところを摘んでいけばいいというお立場でしたので、我々はそちらの方に将来の解決を委ねてもいいという思いがいたしたわけですけれども、仲裁というものに対して、私は諸外国の法制を見ても、消費者にとって有利な仲裁が組み込まれている例というのはあると存じております。先ほど御紹介なさったですけれども、例えばイギリスには消費者のための仲裁のスキームというのがあると理解しております。そうしたものを1つの念頭に置きながら、消費者にとって有利な仲裁、不利な仲裁というものをどう育てていくかという展望のもとに、今後の議論をしていただきたいという思いをいたします。

○秋吉委員 私もII案がよいと思います。この問題意識というのは、紛争が発生する前に、事前によく考えないで仲裁契約をしてしまった人をどう救うかという問題で、その意味から選択権を保障しなければいけないということで、これまで私自身も消費者契約法に委ねてしまうことには反対してきたわけです。よく考えない人の保護というのは解除権を認めることで図れるわけですけれども、また、よく考えて仲裁契約した人の保護というのも考えなければいけないわけで、その利益を守るというのでうまく調整が図れているのがII案ではないかと考えます。

○吉岡委員 消費者保護の問題と仲裁による解決を図ることの、調整なり調和の問題だと思うのです。もともと今度の新仲裁法を立法するに当たって、全く裸のままであると消費者に対する保護がないということで、この検討会でも消費者保護について検討してきて、新仲裁法の施行に当たっては、恐らく消費者保護法の改正であるとか、何らかの消費者立法は遅れてしまうだろうと。そのタイミングギャップといいましょうか、そこを埋める何らかの規制が必要だということから議論されてきたのだろうと思います。
 そういう意味では、そもそも手続法である仲裁法では何も設けなくてもいいのだという意見からはじまって、あるいは一定の場合だけ無効にすればいいとか、いろいろあったわけですけれども、ここへきて何らかの制限が必要だというときに、事務局の方から暫定論が出てきたと。方向としては山本委員がおっしゃるとおり、暫定論はここで最終結論を出さないという意味では私はふさわしいと思うのですけれども、その暫定案で、I案でいくのかII案でいくのかという、そこの選択になったわけですね。
 私は、今、個人的に考えることは、やはりI案では影響がやや強すぎるのではないかという感じがするのです。何らかの消費者保護の規制が必要だとしても、今の生活局さんのお話からも、例えば直ちに国民生活局の方で消費者保護のための立法にとりかかるということならまだしも、そうでもなく、しばらく様子を見るのだということになると、最初に申し上げました、消費者保護と仲裁によって図る解決の利益がどうなるのか。
 というのは、現実には、弁護士会の仲裁にしても、少額事件あるいは消費者側からの申立てが、必ずしも裁判によらなくても、簡易迅速に解決されている実例はあるのですね。
 そういうことから考えると、私も今の委員の皆さん方の意見を見ますと、何らかの規制が必要だという中で、現実論としてまとまるのはやはりII案ということにならざるを得ないのだろうかと思います。
 ほかのことでもよろしゅうございますか。

○青山座長 はい。

○吉岡委員 無効だとしても、先ほど来から出ているとおり、事後仲裁についてはそこで結局は有効に転化するわけです。これはちょっと混乱させるつもりはありませんけれども、事前仲裁のときに方式規制というのが議論されたわけですけれども、私は事後合意についても、やはり一定の方式規制は考えなければいけないのではないかと思っています。現に弁護士会の仲裁センターなどでやっているものも、事後仲裁ではあっても、きちんと別の書面で、仲裁は訴権が失われるということも説明した上で、納得した上で仲裁を選択していただいております。
 今回は、将来の仲裁合意の効力についてだけがたまたまテーマになっているので、ちょっと落ちておりますけれども、私は事後仲裁についても方式規制、すなわち独立書面、自署、そして何より仲裁廷がきちんと説明すると。例えば、今回の資料のII案の(2)のアに書いてありますように、仲裁契約が消費者が出訴を制限するものであり、仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するものですということをきちんと説明する必要があるのではないかと思います。
 それから、ついでと言っては申しわけございませんが、一番最初に出ました通知の問題なのですけれども、少なくとも仲裁判断書の送達については、行方がしれない場合のみなし規定というのがモデル法に基づいてあるわけですけれども、ここも場合によっては消費者については何らかの特則を設けて、例えば消費者が仲裁手続を選択して、解除権を行使せずに手続を進めていくと。しかし、その後になってから例えば住所を変えてしまって行方がしれなくなるとか、そういう場面もないこともないのです。そういう場合に、最後の住所地に送達するだけで、直ちに執行その他次の手続に入っていいだろうかということについては若干懸念があるので、今後の仕組みをどうするかということもありますけれども、その部分に関しては何らかの消費者保護の特則があってもいいのではないかと考えております。

○青山座長 今、吉岡委員が後半に言われました方式規制の問題につきましては、ほかの御意見はどうですか、あるいは事務局の方でこの辺についてどういう考えがありますか。

○秋吉委員 今、事後の合意について方式規制というお話があったのですけれども、今まではほとんど事前の合意をどうするかということで議論してきまして、先ほどちょっと山本委員がおっしゃったように、事前の場合と事後の場合というのは、消費者の意識というのも随分違うと思うのですね。そうしますと、今回、暫定的に制度を取り入れようという話になっておりますので、事後についてはある程度、実際に取り入れてみたときの問題などをクリアにした上で、そこに議論を委ねるということもあるのではないかと思っております。

○近藤参事官 事後の合意についての方式の問題なのですけれども、これまで解除権構成、無効構成もそうなのですけれども、先ほど山本委員がおっしゃったように、紛争発生前において紛争を予定してその解決の場ということまで判断することはなかなか難しいのではないかということが前提になっていて、それは逆にいうと、紛争発生後については、消費者といえどもそれがわかるということが前提であったのだと思うのです。
 売買契約とかほかの契約などでも、消費者について特則とか何かそういう方式のものというのが別段設けられていないということの平仄等もございまして、特に事後の場合、それがまさにメインになっている場合にそこのところでさらに方式を法律として設けなければいけないかどうかということは、かなり消費者の能力自体を法律で制限して、逆な言い方をすると見くびってしまうみたいな形になりはしないかという懸念があります。
 もちろん各機関が手厚くやるという意味で、消費者についてそういう合意をとったり、合意書面とか自署をとるという手当てをするということは大変重要ではないかと思うのですが、法律でそこまで規定できるかどうかというのは、若干疑問が私としてはありますと共に、今、秋吉委員がおっしゃったように、もしもそこで何らかの問題が今後生じてくるとすれば、それについてはI案、II案、いずれにしても、その後の検討の中で検討していただければどうかと考えているところです。

○三木委員 結論的には秋吉委員と近藤参事官のおっしゃることと同じですけれども、若干、理由を付加したいと思いますが、事後の合意の方式ということになりますと、これは仲裁合意の締結方式そのものの問題になり得るわけであります。そうしますと、これは先ほど来議論しておりますUNCITRALの議論そのものともかかわってきますし、ニューヨーク条約ともかかわってきます。消費者だからニューヨーク条約が関係ないかといいますと、消費者紛争でも非常に大きな金額のかかわる紛争が皆無とは言えないわけでして、その場合には海外で執行しなければいけないということもあり得るわけです。
 そのときに、ニューヨーク条約やモデル法と違う方式を定めますと、これは海外で執行できなくなってしまうわけでして、そういうところも考えなければいけないので、あまり軽々に特殊な方式をつくることも問題があろうと思います。

○中野委員 結論的に申し上げますと、私も先ほど山本委員並びに三木委員のおっしゃったところに賛成でございまして、第II案をとるべきだろうと考えるのですが、1点、先ほどとの労働との関係でお伺いしてよろしいでしょうか。
 労働のところでは無効構成をとられますね。当然、問題の性質が違いますので、ルールが違うのはしかるべしということだろうとは思うのですが、暫定的なものとはいえ、ルールをつくる以上は、その使う側の立場からすると、なぜこちらは無効構成、なぜこちらはそうではないのかという疑問も、あり得るところかと思うのです。
 先ほど来、この第II案は、消費者の側により広い選択権を認めるものであると。それはそのとおりだと思うわけですが、以前、労働のところで議論をお伺いしておりますと、労働仲裁の場合には、その労働者の日々の糧に直結する、より保護の必要性の度合いの高い問題だという御意見も聞いたように思いますので、その点、扱いの相違をどのように説明するのかについてだけ御説明いただければと思います。

○青山座長 私もこれは重要な問題だと思いますので、一委員として発言させていただきまして、その中で、今の中野委員の提起された疑問にも、私なりの意見を申し上げたいと思っております。
 私もI案とII案と比較しますと、やはりI案というのは湯垢とともに赤子を流すような案なのではないだろうかと思うのです。また、I案というのは消費者の能力というものを不当におとしめる案ではないだろうかという感じもいたします。ですから、やはり選択肢の広いII案というのが一番落ち着きどころがいいのではないだろうかと思っております。その理由は、今出てきたのと私も大体認識を共通いたします。
 それではもう1つの、労働については暫定無効、消費者については暫定的な解除構成というのがどういう整合性があるのか、どこが違うのかということですが、私は労働契約と消費者契約は、労働の方は継続的な関係での紛争ですし、ところが消費者の方は恐らく一回一回のアドホックの契約なのではないだろうかということが、この両者に差異を設ける1つの理由だと思います。
 2番目の理由は、消費者についてはそれを仲裁で扱っているケースが現にあるし、そういう機関もあって、それはそれなりの評価を受けている。例えば、建設工事紛争審査会などが消費者の方からも評価を受けている。この間の朝日新聞に原後山治弁護士が投書されていましたが、それに全面的に賛成するということではもちろんありませんけれども、そこで主張されているような事実は確かにあって、歴史もあるわけです。ところが、労働の方にはそういう労働仲裁という機関がまだ育っていない。
 無効構成をとってしまいますと、今、日本で健全に育っている仲裁機関の芽を摘んでしまうのではないか。現在活躍している機関の仲裁権能を奪うような立法はやはりすべきではないのではないだろうかというのが2点目の理由です。
 それから、3点目は、将来の仲裁契約について有効かどうかということについて、最高裁判所の判決は、建設工事紛争審査会について、それが有効だという確定した判決がある。その最高裁判決の重みというのは、やはり我々は尊重しなければいけない。労働についてはまだそういうことがないわけですから、そこのところが違うだろうと思います。
 それから、あえて4点目を追加しますと、この間のヒアリングの際に、労働の方は何となく、暫定無効だけれども、すぐにとはおっしゃいませんけれども、将来検討の機会を設けて検討するという、将来の展望が我々にも見えてきたという気がしますけれども、消費者の方は、先ほど吉岡委員、三木委員の指摘されたことと全く同じように、将来どうするかという手続的な仕掛けもまだはっきりしない時に、全部無効ですからあとはよろしくというのはこの検討会としては少し無責任な感じがするというのが4番目の理由です。
 それから、これはまた別のことなのですが、この検討会に消費者の代表が入っていないということは全く事実ですけれども、だからこそ、我々は9月の段階に消費者の代表の方に来ていただいて、その日はたっぷり一日、この問題について御意見を伺わせていただき、そして我々の意見もお伝えした。その後、消費者の方からありがたいことに非常にたくさんの御意見をちょうだいしております。それについても来るたびに委員全員に配っていただいて、そしてそれを検討していただいている。きょうもたくさん御意見をいただいていますが、そういうものを前提として議論をしているということは、多分、消費者の方にも御理解いただけるのではないだろうかと思います。私はそういうふうに理解しております。
 これは一委員としての発言をさせていただいたということですが、なおほかに御意見があればこれについてどうぞ。

○山本委員 労働との違いは、まさに座長のおっしゃるところだと私も認識をしていますが、1点だけ、私が重要だと思われる理由を付加させていただくとすれば、座長が第1点として言われた継続的契約という性質の1つの反映なのだろうと思いますけれども、解除権を実際に行使できるかどうかという事実上の可能性について、前回のヒアリングの結果、労働契約については、それが常に、完全に労働者が自由意志のもとに解除権を行使できるということが私は十分確信ができなかった。この点は労働の弁護士の方に御質問を申し上げたわけですけれども、紛争が開始した後であっても、やはりその労働契約においては解除権を行使できない場面が実際に想定されるという御返答でした。
 そういう懸念があるとすれば、解除権があるからといって、自由な選択権が保障されるということは、やはり労働等の場合、言い難いところがあるのだろうと。消費者については、座長がおっしゃるように、そういうような場合はまず想定できないと考えていいのではないかと思いましたので、労働についてはこの第II案的な構成はとることはできないのではないかと考えたいところです。

○青山座長 どうもありがとうございます。私が舌足らずのところを山本さんが補ってくれました。

○加藤委員 先ほど労働の方で経過措置のお話がございましたけれども、こちらの仲裁契約についても、もう既になされている契約については、同じように、事後、消費者の方から解除権ということはなくて、今までどおりというような規定を経過措置で置くということになるでしょうか。

○近藤参事官 そうなるだろうと思いますが。

○加藤委員 後の議論のために。
 消費者が必ず弱くて、事業者は必ず強いと。基本的にはそういう構図が多いのでございますけれども、中にはそうではないケースもあって、まさに仲裁というのは当事者がイーブンでやっているということです。もし保護するとすれば、消費者によくない契約の類型はこれはおかしいということであって、消費者だからといって全部が全部という考え方ではなくて、類型化する考え方がいいのではないかと思っております。実際、紛争の調整に携わっている者として、そこはいろいろなケースがあるということは御承知おきいただいて、今後の検討の時にまた参考にしていただきたいと思います。

○中村委員 個別労働紛争の関係を蒸し返すつもりもございませんが、実態を少しだけ述べさせていただきたいと思います。
 私ども仲裁協会で、私がけさファイルを見たところ、最近のものとして、扱っている件数はわずか2、3件ですけれども、雇用契約から生じた紛争の仲裁もありました。例えば、外国法人の東京支店の代表者とその雇用主との間での契約書の中に仲裁条項が入っているわけです。そして、雇用契約を一方的に解約されたということで、実際に仲裁判断を出したケースが数年前にありました。それから、数年前に、個別労働紛争の対象になるかどうか、私はよくわかりませんが、プロ野球選手と球団との契約の、これはいわゆる賃金の不払いということで紛争になったというものもございました。
 それから、私どもがよく電話等で相談を受ける事案の中に、特に外資系の企業ですが、いわゆる雇用契約の中に仲裁条項を入れた場合に有効ですか、無効ですかというような問い合わせは少なからずございます。したがって、確かに現状としては少ないということになるのでしょうけれども、ニーズとしてはなくはないし、将来そういったものも出てくる可能性はあるのだろうと思います。

○青山座長 恐らくその問題は今後労働関係の紛争解決の処理の検討の場で十分議論していただければいいと思っております。
 ほかに何か御意見ございますでしょうか。

○三木委員 今後のために、先ほど加藤委員がおっしゃったことに賛成する意見を付加しておきたいと思います。
 先ほど、私の発言の時に、I案、II案がいいかどうかはともかく、どちらかといえばII案に賛成だという言い方をいたしました。それは、I案はもちろんですが、II案にしても、これは仲裁契約の中身を一切問わずに一方的に解除権を与えているという仕組みです。
 EU指令等を見ても、そういう内容を問わない形ではなくて、何が不合理な仲裁合意ということをなるべく抽出する努力をして、それだけをはずすという試みが見られるわけであります。
 私は、今回の検討会では時間がないこともあって、この案でやむを得ないと思いますが、しかし将来の展望ということまで考えますと、こういったやり方が一番望ましいとは個人的には思っておりません。少なくともこの検討会ではII案を支持する意見が大多数というか、圧倒的多数でありますが、しかしそれは委員のすべてがこのII案がベストな案だと思ってやっているわけではないということを記録にとどめておきたいと思います。

○吉岡委員 先ほどの事後仲裁はきょうのメインテーマとちょっと外れたかもしれませんが、先ほど言ったとおり、消費者と仲裁の調和と、もう1つは国際性との調和があるのだろうと思うのです。ですから、今回の仲裁検討会が新仲裁法のベースとして、国際性を背景に、確かにUNCITRALのモデル法を十分やってきたということは通常はそれなりに意味があると思いますし、それを決して否定するわけではありませんけれども、今言った調和を考えたときには、先ほど来、議論がありました書面による通知についても、例えばみなし送達であるとか、契約の書面性についての大幅な緩和とか、これはこれで1つ国際的な面からは十分理解できるのですけれども、一方、消費者の方が今後仲裁というものについて、今、労働も含めてまだまだ利用が少ない。これは何となく漠然とした不安とか何かがあるのだろうと思うのです。
 ですから、新仲裁法をつくってそれがもっともっと利用されるという観点からすると、やはりその調和、たくさんの調和の中で消費者に対する特則というものはやはり私は考えていいだろうと思っておりまして、決してモデル法のことを離れて私は議論しているつもりはありませんので、一言申し述べておきます。

○青山座長 わかりました。ほかにいかがでしょうか。高橋さん。

○説明者(高橋氏) 最初にいろいろ述べさせていただきましたが、消費者が仲裁を利用できることは歓迎しておりますので、そういう意味で新仲裁法ができた後の状況も踏まえて、内閣府としても消費者が仲裁を魅力を感じて使えるようにということを考えて制度設計したいと思いますので、その中で皆さんの御意見を伺えればと思っております。
 1点、選択肢の話を述べましたが、現状は消費者のところでは訴訟は少ないし、仲裁についても少ないという状況で、その中で何が使われているかというと、都道府県をはじめとする消費生活センターが、助言・あっせんということで65万件扱っているわけです。その実態と仲裁をどう調和させていくかというのも我々としては大きな課題だと思っておりますので、その点も踏まえて仲裁の在り方を検討したいと思います。よろしくお願いいたします。

○青山座長 この検討会の委員全員、消費者保護が大事だとお考えであるということですから、どうぞ国民生活局の方でも御検討いただきたいと思います。
 それでは、この消費者仲裁につきましては、きょうは全員この問題について御発言いただきましたけれども、この検討会としては原案にあるようなII案ということでまとめさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。
 それでは、そういうふうにさせていただきたいと思います。
 これで本日予定しておりました事項はすべて終了させていただきました。事務局から今後の進行の予定について御連絡をお願いしたいと思います。

【次回の予定等、閉会】

○近藤参事官 本日は実質の内容については今回の検討で方向性を出していただいたと思っておりますので、それを前提にこれから条文化の作業に入っていきたいと思っております。
 次回の検討会は来年2月13日ということにさせていただきたいと思います。以前、もしかしたらということで予備日ということを1月に入れさせていただくかもしれないということを言っていたのですが、条文化の作業をしていくということで2月13日ということでよろしくお願いします。
 これから具体化の作業に入っていくわけですけれども、2月13日までの間に適宜内容についての各委員の方に御意見を伺うような機会があり得るのではないかと考えております。それから、次回の開始時刻は一応1時30分ということにさせていただいておりますが、場合によっては時間をずらさせていただくということもあり得ると思っています。
 実質の内容について、きょうで一応出していただきましたので、次回にはそれほど大きな議論がないのではないかと事務局としては期待しているところですので、そうすると時間をずらさせていただいて、検討会終了後、1時間程度、会費制で最後の懇親会的なものも設けさせていただければと思っております。事前に、これについては御連絡を差し上げたいと思います。

○青山座長 きょうで12回になりまして、1年の間によくもここまで検討を進めていただいたと、座長としては大変感謝しているのですが、ただ、ちょっとお断りさせていただきたいのですけれども、きょうまでとりまとめさせていただいた案は、多分、法制審議会に御出席になっていた方はよくわかると思うのですが、法制審議会ではほとんど字句まできちんと要綱の時に固めてしまうところまでいくのですが、ここはそうではなくて、実質内容について議論していただいてとりまとめていただいたということになると思います。
 これから条文化までの間に事務局がしなければならない作業というのは、法制審議会で要綱をつくった時よりもずっとたくさん事項が残っている。それは事務局にお任せいただいたということで了解させていただきたいと思います。ただ、事務局も具体的な案をつくっていく時に、細かな点については、ひょっとしたら先ほど近藤参事官が言われましたようにお知恵を拝借したい、場合によっては電話で、この点こういうことでいいのかというようなことを御相談させていただくことがあるべしということでお願いしたいと思っております。
 締めくくりでございますけれども、あと1回残されている。それはちょうど2か月後の2月13日の木曜日ということですけれども、実質的には今回で打ち上げということになります。1年間、大変タイトな時間にもかかわらず精力的に御審議いただいて本当にありがとうございました。同時にできました検討会は10ありますけれども、その検討会の中では法曹養成検討会が一番早く結論を出されました。この仲裁検討会は仕事を終わった2番目の検討会になると私は認識しております。本当に長い間、恐らく仲裁漬けになられた委員の方、たくさんいらっしゃると思いますけれども、事務局とともに重ねて感謝いたします。どうもありがとうございました。
 それでは、本日の検討会はこれで終わりたいと思います。

(以 上)