第2回配布資料一覧

仲裁検討会資料6

仲裁廷の管轄(権限)についての検討項目案



I 仲裁廷の管轄(権限)に関する仲裁廷自身の決定権限について

1 仲裁廷の管轄(権限)に関する仲裁廷自身の決定権限について
 仲裁廷は,自己の管轄(権限)の有無,範囲等について,みずから決定する権限を有するものとすることでよいか。
 また,仲裁手続において仲裁廷の権限の有無や範囲が争われた場合に,この点についての仲裁廷の判断を最終的なものとする合意(いわゆるKompetenz-Kompetenz-Klausel又は仲裁権限最終裁定条項)の効力について,どのように考えるか。

【コメント】
 仲裁廷の管轄(権限)に関しては,後記のモデル法(模範法)第16条第(1)項と同様の規律とすることが考えられるが,仲裁権限最終裁定条項の効力については,学説は賛否両論に分かれる。
 もっとも,同条項の効力を認める積極説にあっても,仲裁権限の有無が強行法規違反にかかわる場合にはその制約に服し,また,同条項の有効性に関する限りでは裁判所のコントロールが留保されるとしている(小島武司=猪俣孝史「仲裁手続と訴訟手続との抵触」(現代仲裁法の論点)293頁〈有斐閣,平成10年〉)。
 仲裁権限最終裁定条項について規定を設けるべきか否かは別として,考え方について整理をしておきたい。

(参考)

2 仲裁廷の管轄(権限)の有無についての判断の時期,方法及びその判断に対する司法審査について
 仲裁廷の管轄(権限)の有無について,仲裁廷において判断をすべき時期及び方法並びにその判断に対する司法審査の在り方は,それぞれ密接に関連すると思われるが,これらについてどのように考えるか。例えば,次のような考え方はどうか。
 (1) 仲裁廷は,その管轄(権限)の有無についての判断を最終的な仲裁判断の中で示し,司法審査に関しても,仲裁判断後の仲裁判断取消しの訴え又は執行許否の裁判における抗弁によってのみ不服を申し立てることができるものとする考え方
 (2) 仲裁廷により仲裁判断権限を有するとの判断が中間的判断の形式でされたときは,司法裁判所に対する独立の不服申立てを認めるものとする考え方
 (3) 仲裁廷による仲裁判断権限を有するとの判断に対しては,直ちに司法裁判所に対して不服申立てをすることができるものとする考え方

(注) (2)又は(3)の立場でも,仲裁判断権限を有しないとの判断がされたときは,その判断は終局判断となり,(1)と同じ規律となろうか。

【コメント】
 (1)の考え方の変形として,仲裁廷において仲裁判断権限の有無について,いつでも判断することができることを前提として,仲裁判断取消しの訴え等のほかに不服申立てを認めないとする考え方もありうる。
 (2)の立場は,仲裁判断権限の有無についての判断が中間的判断以外の形式でされた場合には,これに対する不服申立てを認めず,仲裁廷が仲裁手続を続行することを前提としている。仲裁判断権限の有無が中間的判断の形式でされた場合にも,仲裁廷は,仲裁手続を続行することができるとすることでよいかも問題となる。
 (3)の立場では,仲裁判断権限の判断の形式について限定を付する必要はないか,例えば,仲裁廷は中間的判断の形式によるべきであるとの考え方もありうるであろう。また,この場合にも,仲裁廷は,仲裁手続を続行することができるとすることでよいかも問題となる。
 また,(2)及び(3)の各立場では,司法裁判所の判断に対する不服申立てを許容すべきか否かも問題となる。

(参考)

II 仲裁廷の暫定的保全措置について

(前注) 後記のとおり,モデル法(模範法)第17条は,interim measure of protection なる語を用いている。これは,その策定時点では,仲裁手続中に紛争の対象物が変形したり損なわれたりするおそれがある場合に出される保全措置を意味するものとされており(澤田壽夫「UNCITRAL国際商事仲裁模範法3」〈JCAジャーナル昭和62年11月号〉4頁),当面,「暫定(的)保全措置」の訳を充てることとする。

 仲裁廷による暫定的保全措置について,どのように考えるか。

(検討対象事項)
1 措置の内容(どのような措置を想定するのか。司法裁判所の保全処分との関係についても,留意すべきではないか。)
2 要件(司法裁判所の保全処分における保全の必要性と被保全権利の存在の要件と同様の枠組みとすることが考えられるか。また,申立てによるものとするか。)
3 手続上の要件(申立人の一方的審尋のみでこのような暫定的保全措置を講ずることができるか。)
4 担保の在り方(仲裁廷は,当事者に対し担保の提供を命ずることができるものとするか。また,その手続についてどのように考えるか。)
5 執行力の有無(仲裁廷による暫定的保全措置は,執行力を有するものとすべきか。)

【コメント】
 仲裁廷が講じうる暫定的保全措置の内容をどのようなものとするかについて,そのイメージをはっきりさせる必要がある。
 まず,措置の相手方については,仲裁廷による暫定的保全措置も仲裁合意に基礎を置くことからすれば,合意の相手方に対してのみ措置を講ずることができるとすべきではないか。
 そして,不動産等を対象とする仮差押え,処分禁止の仮処分等登記を要するようなものについては,司法裁判所の保全処分で対応する方が簡便と思われるが,どうか。このように解すると,仲裁廷による暫定的保全措置としてどのようなものが考えられるのか。
 この点については,仲裁廷による暫定的保全措置に執行力を付与すべきか否かとも密接に関連すると思われる。
 なお,現在,UNCITRAL仲裁作業部会において,仲裁廷による暫定的保全措置に関し,同措置が執行力を有することを前提として,具体的な執行の在り方(手続的要件,拒絶事由等)に関し,モデル法(模範法)の改正が検討されている(仲裁検討会参考資料8参照)。

(参考)