第2回配布資料一覧

仲裁検討会資料7

仲裁手続についての検討項目案(その1)



I 仲裁手続に関する基本的視点について

1 仲裁における手続基本権について
 モデル法(模範法)第18条に倣い,仲裁における中心的な手続基本権のうち,次の2点について規定を設けるものとすることはどうか。
(1) 平等な処遇を求める権利
(2) 主張立証をする権利
(参考)

2 仲裁手続に関する当事者の合意について
 モデル法(模範法)第19条に倣い,当事者は,強行法規に反しない限り,合意によって仲裁手続の準則を定めることができ,そのような合意のないときは,仲裁廷は,仲裁法の規定に反しない限り,適当と認める方法で仲裁を進行させることができるものとすることはどうか。

(参考)
(注)仲裁手続に関する合意については,仲裁手続の準拠法についても当事者自治を認めるべきかどうかが問題となる。この点については,後に準拠法の検討課題の一つとして取り上げる予定である。

3 職権探知主義について
 仲裁手続における職権探知主義について,どのように考えるか。これを申し立てられた証拠方法では事実認定が不十分である場合の補充的なものとすることでよいか。

【コメント】
 後記の公催仲裁法第794条第1項は,仲裁廷が必要とする限りで事件関係を探知すべきものとしており,補充的な職権探知を定めたものとされている。
 なお,モデル法(模範法)は,職権探知には直接触れず,第26条において,当事者が別段の合意をしていない限り,仲裁廷がみずから鑑定人を選任することを認めている。職権探知について規定すべきか否か,鑑定について規定すべきか否かについて議論していただきたい。

(参考)

II 仲裁地についての当事者の指定権及び補充規定について

 モデル法(模範法)第20条に倣い,仲裁地の決定は,当事者の合意によるものとし,このような合意がないときは,仲裁廷が諸般の事情を考慮して決定するものとすることでよいか。
 また,仲裁廷は,別段の合意をしている場合を除き,必要があると認めるときは,仲裁地以外の場所での審理(審問,証拠調べ,評議等)を行うことができるものとすることはどうか。
(参考)

III 仲裁手続の開始等について

1 仲裁手続の開始等による時効中断について
 民法又は公催仲裁法には,仲裁手続と時効中断との関係についての規定はないが,大審院の判例は,「仲裁人が事件の審理に着手したる如き場合は勿論,仲裁判断により事件を解決するが為に必要なる事柄を当事者に於て為したるときは是即権利者に於て其の権利の行使を怠らざりしものなるが故に之に依りても亦時効中断の効力を生ずるものと解するを相当とし」とし,当事者間で仲裁人選任に関する手続をすることも「必要なる事柄」に当たるとして,時効中断効を認めている(大判大正15年10月27日新聞2681号7頁)。学説にも,仲裁手続の申立てについて裁判上の請求による時効中断の規定(民法第149条)の規定が類推適用されるべきであるとするものがある(河野正憲「〔第2版〕注解民事訴訟法(11)」492頁〈第一法規出版,平成8年〉)。
 仲裁合意の対象となっている権利についても,一定の事由をもって時効中断の効力が生ずることを認めるとする結論についてはさほど異論はないと思われるが,中断事由,法的構成等について,具体的にどのように考えるか。また,この点について規定を設けるべきか。

(検討対象事項)
(1) 時効中断事由及び中断効が生ずる時期(例えば,相手方が仲裁付託の申立てを受領したときに時効中断の効力を生ずるものとすることはどうか。)
(2) 時効中断効の喪失事由(例えば,仲裁手続が仲裁判断に至らずに終了した場合や後に仲裁判断が取り消された場合には,時効中断効が生じないものとすることはどうか。)

【コメント】
○ 時効中断の事由及びその時期に関しては,仲裁手続の開始の時期と一致すると考えるか否かも問題となる。後記のとおり,各国の仲裁法では,仲裁手続の開始時点について規定が設けられることが多いが,その理由又は趣旨について,手続開始時点が時効期間の算定との関係で重要であると指摘されることが多い(澤田壽夫「UNCITRAL国際商事仲裁模範法3」〈JCAジャーナル昭和62年11月号〉6頁)。学説にも,時効中断は手続開始のときに生ずるとするものがある(小山昇「仲裁法〔新版〕」(法律学全集)162頁〈有斐閣,昭和58年〉)。
 これに対し,機関仲裁であるか否か,現在の争い又は将来の争いのいずれであるか,仲裁人が選定されているか否か等により区別して時効中断の時期を律する見解も多い(上田徹一郎「注解仲裁法」128頁〈青林書院,昭和63年〉,河野・前掲書492頁など)。

○ 後記のとおり,モデル法(模範法)第21条は,「仲裁手続の開始」として規定しているが,仲裁手続の開始時期を定めるのみであり,開始に伴う具体的効果は明らかではない(この点については,モデル法(模範法)策定の際,時効に関する規定を設けるべきであるとの提案がされたが,各国でその法制に適合した解決を見いだすべきであるとの委員会の立場を記録にとどめることにしたとされる(澤田・前掲書6頁))。

(参考)
(注)ドイツ民法第220条第(1)項で準用される規定で仲裁に関係すると思われる主要なものは,次の各かっこ内記載の事項を定めている。
  第211条(訴えによる中断の終了時期)
  第212条(訴えの取下げの場合の中断効の消滅)
  第218条(判決によって確定した請求権の消滅時効の期間)

2 仲裁手続の開始について
 前記のとおり,仲裁手続の開始については,時効期間の起算日と関連させて論じられることが多いが,必然的関係があるわけではない。仲裁手続の開始時点を画する機能や意義について,どのように考えるか。また,この点について規定を設けるべきか。

【コメント】
 「仲裁手続の開始」とは,一般に,仲裁事件の係属といった意味で観念されているものと思われる。この点について,仲裁における審理手続の開始とは,特定の仲裁人が確定し,その者と両当事者間で特定事件につき審理をする関係が成立することであるとし,この点が裁判所に対する訴えの提起及び被告への訴状送達による訴訟係属を生ずる判決手続の差異であるとする立場もある(上田・前掲126頁)。仲裁手続の開始時期は,仲裁付託期間や仲裁期間の算定上意義を有すると解されるが,他に実質的意義があるか,規定の要否と併せて検討する必要があると思われる。