仲裁検討会資料7
(参考)
- モデル法(模範法)第18条
「当事者は平等に扱われなければならず,各当事者は,その主張,立証を行う十分な機会を与えられなければならない。」- ドイツ法第1042条第(1)項及び韓国法第19条も,同内容である。
2 仲裁手続に関する当事者の合意について
モデル法(模範法)第19条に倣い,当事者は,強行法規に反しない限り,合意によって仲裁手続の準則を定めることができ,そのような合意のないときは,仲裁廷は,仲裁法の規定に反しない限り,適当と認める方法で仲裁を進行させることができるものとすることはどうか。
(参考)
- モデル法(模範法)第19条
「(1) この法律の規定に反しない限り,当事者は,仲裁廷が手続を進めるに当って従うべき手続準則を,自由に合意して定めることができる。
(2) かかる合意がないときは,仲裁廷は,この法律の規定に反しない限り,適当と認める方法で仲裁を進行させることができる。仲裁廷に付与された権能は,証拠の許容性,関連性,重要性及び証明力について決定する権能を含む。」
(注)仲裁手続に関する合意については,仲裁手続の準拠法についても当事者自治を認めるべきかどうかが問題となる。この点については,後に準拠法の検討課題の一つとして取り上げる予定である。
3 職権探知主義について
仲裁手続における職権探知主義について,どのように考えるか。これを申し立てられた証拠方法では事実認定が不十分である場合の補充的なものとすることでよいか。
【コメント】
後記の公催仲裁法第794条第1項は,仲裁廷が必要とする限りで事件関係を探知すべきものとしており,補充的な職権探知を定めたものとされている。
なお,モデル法(模範法)は,職権探知には直接触れず,第26条において,当事者が別段の合意をしていない限り,仲裁廷がみずから鑑定人を選任することを認めている。職権探知について規定すべきか否か,鑑定について規定すべきか否かについて議論していただきたい。
(参考)
- 公催仲裁法第794条第1項
「仲裁人ハ仲裁判断前ニ当事者ヲ審訊シ且必要トスル限リハ争ノ原因タル事件関係ヲ探知ス可シ」- モデル法(模範法)第26条
「(1) 当事者が別段の合意をしていない限り,仲裁廷は,
(a) 仲裁廷が判断すべき特定の争点について意見を徴するため,1名又は複数の鑑定人を選任することができ,
(b) 当事者に対し,関連ある情報を鑑定人に供与すること,又は関連ある文書,物品その他の財産を検認のため提出し,もしくは検認できるようにすることを求めることができる。
(2) 当事者が別段の合意をしていない限り,当事者が要請するか仲裁廷が必要と認めるときは,鑑定人は,書面又は口頭による報告を行った後,審問に参加しなければならない。その審問において,当事者は,鑑定人に質問する機会,及び争点につき証言させるために〔他の〕鑑定証人を出席させる機会を有する。」
(参考)
- モデル法(模範法)第20条
「(1) 当事者は,仲裁地について自由に合意することができる。かかる合意のないときは,仲裁地は,当事者の利便を含む事件の諸事情を考慮して,仲裁廷が決定する。
(2) 本条(1)項の規定にかかわらず,仲裁廷は当事者が別段の合意をしていない限り,仲裁人の合議,証人,鑑定人もしくは当事者の審問,又は物品その他の財産又は文書の検認のために,適当と認めるいかなる場所においても会同することができる。」
(検討対象事項)
(1) 時効中断事由及び中断効が生ずる時期(例えば,相手方が仲裁付託の申立てを受領したときに時効中断の効力を生ずるものとすることはどうか。)
(2) 時効中断効の喪失事由(例えば,仲裁手続が仲裁判断に至らずに終了した場合や後に仲裁判断が取り消された場合には,時効中断効が生じないものとすることはどうか。)
【コメント】
○ 時効中断の事由及びその時期に関しては,仲裁手続の開始の時期と一致すると考えるか否かも問題となる。後記のとおり,各国の仲裁法では,仲裁手続の開始時点について規定が設けられることが多いが,その理由又は趣旨について,手続開始時点が時効期間の算定との関係で重要であると指摘されることが多い(澤田壽夫「UNCITRAL国際商事仲裁模範法3」〈JCAジャーナル昭和62年11月号〉6頁)。学説にも,時効中断は手続開始のときに生ずるとするものがある(小山昇「仲裁法〔新版〕」(法律学全集)162頁〈有斐閣,昭和58年〉)。
これに対し,機関仲裁であるか否か,現在の争い又は将来の争いのいずれであるか,仲裁人が選定されているか否か等により区別して時効中断の時期を律する見解も多い(上田徹一郎「注解仲裁法」128頁〈青林書院,昭和63年〉,河野・前掲書492頁など)。
○ 後記のとおり,モデル法(模範法)第21条は,「仲裁手続の開始」として規定しているが,仲裁手続の開始時期を定めるのみであり,開始に伴う具体的効果は明らかではない(この点については,モデル法(模範法)策定の際,時効に関する規定を設けるべきであるとの提案がされたが,各国でその法制に適合した解決を見いだすべきであるとの委員会の立場を記録にとどめることにしたとされる(澤田・前掲書6頁))。
(参考)
- モデル法(模範法)第21条
「当事者が別段の合意をしていない限り,特定の紛争に関する仲裁手続は,かかる紛争を仲裁に付託すべき申立を,被申立人が受領した日に開始する。」- ドイツ法第1044条及び韓国法第22条第1項も,同趣旨の規定である。
- 仲裁合意の対象となっている権利の時効中断については,ドイツ民法220条に独立の規定が設けられている。前掲ドイツ法第1044条は,時効中断には適用されず,民法220条は,改正前と同様に効力を有するとされているようである。
「(1) 第209条から第213条まで、第215条、第216条、第218条、第219条の規定は,請求権が仲裁裁判所,特別裁判所、行政裁判所又は行政庁において行使すべきものである場合について準用する。
(2) 仲裁契約においては,仲裁裁判官の任命がされていないとき,その他の理由によって仲裁裁判官の任命を必要とするとき,又はその他の要件を満たした後でなければ仲裁裁判が開始しないときは,消滅時効は,権利者が事件の終結のために自己の側で必要とされることをすることにより,中断する。」
(注)ドイツ民法第220条第(1)項で準用される規定で仲裁に関係すると思われる主要なものは,次の各かっこ内記載の事項を定めている。
第211条(訴えによる中断の終了時期)
第212条(訴えの取下げの場合の中断効の消滅)
第218条(判決によって確定した請求権の消滅時効の期間)
2 仲裁手続の開始について
前記のとおり,仲裁手続の開始については,時効期間の起算日と関連させて論じられることが多いが,必然的関係があるわけではない。仲裁手続の開始時点を画する機能や意義について,どのように考えるか。また,この点について規定を設けるべきか。
【コメント】
「仲裁手続の開始」とは,一般に,仲裁事件の係属といった意味で観念されているものと思われる。この点について,仲裁における審理手続の開始とは,特定の仲裁人が確定し,その者と両当事者間で特定事件につき審理をする関係が成立することであるとし,この点が裁判所に対する訴えの提起及び被告への訴状送達による訴訟係属を生ずる判決手続の差異であるとする立場もある(上田・前掲126頁)。仲裁手続の開始時期は,仲裁付託期間や仲裁期間の算定上意義を有すると解されるが,他に実質的意義があるか,規定の要否と併せて検討する必要があると思われる。