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仲裁検討会(第4回)議事録

司法制度改革推進本部事務局



1 日時
平成14年4月22日(月) 13:30 〜17:35

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室(永田町合同庁舎2階)

3 出席者
(委 員)
青山善充(座長)、秋吉仁美、谷口園恵、中野俊一郎、中村達也、本東信、松元俊夫、三木浩一、山本和彦、吉岡桂輔
(事務局)
古口章事務局次長、近藤昌昭参事官、後藤健企画官、内堀宏達参事官補佐

4 議題等
(1)開会
(2)仲裁の実情紹介
  I 社団法人国際商事仲裁協会
  II 社団法人日本海運集会所
(3)仲裁判断の承認及び執行についての検討項目案
(4)準拠法についての検討項目案
(5)その他の事項についての検討項目案
(6)閉会

5 議事
(□:座長、○:委員、●:事務局)

【開会】
□ 全員おそろいのようでございますので、第4回仲裁検討会を開会いたします。
 本日は御多忙中のところ、御出席いただきましてありがとうございます。本日は○○委員が所用のため御欠席ということでございますが、それ以外は全員出席いただいております。
 本日は、3つの問題を御検討いただくことになっております。
 まず、仲裁判断の承認執行の問題。2番目に準拠法の問題。3番目にその他の問題点という順序で御審議いただきたいというふうに思います。
 前回にお知らせいたしましたように、はじめに○○委員から国際商事仲裁協会の仲裁の実情について、また、○○委員から日本海運集会所の仲裁の実情について、それぞれ御紹介をいただくことになっております。
 その質疑応答を終えた後で、引き続きまして、○○委員からドイツにおける仲裁判断取消手続につきまして御説明をいただきたいというふうに思っております。
 まず、本日の資料につきまして、事務局から御説明をお願いいたします。

● 配布資料目録がお配りしてあると思うんですけれども、本日の検討会資料は11から13まで、事前に送付させていただいております。
 ○○委員から提出の資料といたしまして3つございまして「国際商事仲裁協会の仲裁の実情について」、「統計資料」を事前に送付させていただいておりまして、本日席上にて「商事仲裁規則」について配布させていただいております。
 ○○委員から御提出いただいた資料として「TOMACの仲裁の現状」というものを事前に送付させていただいております。「2001年新仲裁規則」については席上に配布させていただいております。
 ○○委員から「ドイツ民訴法における仲裁判断取消手続」というものを、前回の議論の関係で提出していただいておりますものを本日配布しております。
 これも前回御議論がありましたものですが、○○委員からの「仲裁合意書」と同規則を席上に配布させていただいております。
 仲裁合意書についてご説明をお願いいたします。

○ お手元の「仲裁合意書」というのは、現在、東京弁護士会で使っている書式であります。
 東京弁護士会の仲裁規則が裏にありますけれども、仲裁手続規則の2条のところで、仲裁契約をする場合には、必ず本センター所定の仲裁合意書を用いなければならないということを定めております。
 これはまだ、一般に仲裁がなじみがなくて、妨訴抗弁となることなど当事者が仲裁合意の意味を十分理解していないままに合意するのを避けるために、この用紙を使って、しかも仲裁人が十分に説明して合意をもらうということになっています。
 これはコピーですが、本物は3枚つづり、複写式になっております。センターで一番上を使います。当事者双方が持つものの裏には規則が細かく印刷されていまして、そういう点で、少なくとも仲裁合意の内容について疑義がないようにしましょうという趣旨で使っております。
 なお、仲裁規則と手続規則は、その後若干変わりまして、これは古いままの用紙だったものですから、そこだけは少し御注意いただきたいと思います。
 以上でございます。

□ 資料の御説明と、○○委員から資料の内容にわたった御説明をいただきましたけれども、資料の御確認はよろしゅうございますでしょうか。
 それでは、資料を見ながら、まず○○委員から国際商事仲裁協会の仲裁の実情をお話しいただけますでしょうか。

【(社)国際商事仲裁協会の仲裁の実情について】

○ では、お手元の、「国際商事仲裁協会の仲裁の実情について」という2枚ほどの紙がございますが、これに沿って御説明をさせていただきたいと思います。
 まず「1.沿革」でございますが、1950年3月に日本商工会議所を中心として、経済団体連合会など経済7団体が発起人となって、日本商工会議所の中に国際商事仲裁委員会というものが設立されました。発起人の中には、経済団体連合会のほか、日本貿易会、全国銀行協会連合会などがございました。
 その後、1953年8月に日本商工会議所から独立して、社団法人国際商事仲裁協会として改組され今日に至っております。
 次に「2.協会の仲裁手続の概要」でございますが、まず、手続の方は、お手元にお配りいたしました「商事仲裁規則」、これは1997年10月1日施行のものが、現在有効のものでございますが、この規則に基づいて行われております。
 仲裁費用については、この規則とは別に「仲裁料金規程」「仲裁人報償金規程」というものがございます。これも「商事仲裁規則」の配布資料の中に入っております。
 また、手続規則といたしましては「商事仲裁規則」以外に、UNCITRALの仲裁規則を利用する場合の「UNCITRAL仲裁規則による仲裁の管理および手続に関する規則」というものが用意されております。
 また、それとは別に、主に国内企業間の紛争の解決のために制定された「国内商事仲裁規則」というものもございます。
 しかしながら、現在はまだいずれの規則も利用された実績はございません。
 次に「(2)手続の特徴」を申し上げますと、「仲裁人の選定」につきましては、まず仲裁人の数は、当事者間に別段の合意がない限り原則1人となっております。これは、規則23条、24条に規定がございますが、単独仲裁人は当事者が選定するということになっておりまして、仲裁人が3人の場合は、当事者がそれぞれ仲裁人を選定して、選定された仲裁人が第三仲裁人を選定するというのが25条の規定でございます。
 いずれの場合も、規則上、所定期間内に仲裁人が選定されない場合は、協会が選定することになっております。
 協会が選定する単独仲裁人、又は第三仲裁人の国籍でございますが、当事者が協会に対して、第三国籍を要求することができる。かかる要求があったときは、協会はその要求を十分に勘案しなければならないというようなものが規則上規定が設けられておりまして、実際に協会の手続におきまして、このような要求が出た場合には、それをすべて受け入れておりまして、第三国籍人を仲裁人に選定しております。
 また、仲裁人選定につきましては、当事者の便宜をはかるために仲裁人名簿というものが用意されております。これは、規則8条に規定がございます。
 仲裁人名簿は、今申しましたように、当事者に対し仲裁人選定をするための便宜をはかるために用意されているものでございますので、その中から仲裁人を選定しなければならないというものでは全くございません。
 現在、名簿に登載されている者は、ここに書かれていますように、日本人が71人、アメリカ人18人、ドイツ人2人、イギリス人1人の計92名ということでございますが、現在、仲裁人名簿に非居住者の外国人を登載するとか、日本人の登載者を増やすとか、いろんな面で検討をして見直し中でございます。
 ただし、この名簿が現実に当事者に利用されるということは少ないということでございまして、名簿の意義がさほど大きくないというのが現実でございます。
 次に「仲裁合意」というところがございますが、これは国内の仲裁機関の関係で申し上げますと、私どもで扱っている仲裁は、仲裁付託契約によるものは、非常にまれでございまして、そういったまれな例外を除きましてすべて仲裁条項、将来の紛争のための仲裁契約です。その仲裁条項による仲裁でございます。
 「仲裁費用」でございますが、仲裁料金は、「仲裁料金規程」によるということで、主な料金は、管理料金ということで、請求金額に応じて管理料金が決まるように規定がされております。
 例えば、請求金額が1億円の場合には、130万円。
 他方、仲裁人の報償金につきましては、タイムチャージによりまして、現行の仲裁人報償金規程によりますと、時間単価は4万円、3万円、2万5000円ということで、時間単価については、当事者と仲裁人との間で別途合意ができますので、実際にそのような合意がされている事件もございます。
 今、タイムチャージというふうに申し上げましたが、仲裁人の報償金については、請求金額に応じた上限というものが定められておりまして、例えば請求金額1億円の場合には、単独仲裁人の場合400万円。仲裁人が3人の場合には、その3倍に0.8を掛けた960万円というのが上限として規定上設けられております。
 「仲裁手続の国際化の動き」というのが書かれておりますが、いわゆる1996年の外弁法の改正によって、国際仲裁手続の代理を外国弁護士が一定の要件の下にできるということが明確となりましたが、その結果、外国人が代理人となり、それに伴って外国人が仲裁人に選定される事件というものが出始めておりまして、96年の外弁法の改正前には見られなかった、いわば仲裁手続の国際化という現象が生じております。
 これは逆を申せば、従前までは仲裁人も代理人もすべて日本人という仲裁が行われておりましたが、現在では外国人が代理人となり仲裁人となる、仲裁手続の国際化というものが進んでおる状況でございます。
 「(3)取扱事件の概要」につきましては、別紙の4ページものの統計のデータがございますが、それを若干御説明申し上げさせていただきます。
 5年間の仲裁事件の件数でございますが、御覧いただきますように、1997年から2001年まででございますが、受理件数でいきますと、1997年の13件から、2001年には17件ということで、大体十数件というのが、現在扱っている仲裁事件の数でございます。
 事件の契約類型別の内訳が下の表でございますが、継続的売買、ライセンス、物品の単純な貿易売買。
 その他のものといたしましては、海外建設工事請負契約とか、業務委託契約といったものがございます。
 2ページ目の方は、当事者の所在国別の内訳でございますが、当事者の一方が、ほとんどの場合は日本企業でございますので、日本が一番多くて、あとは米国、その他、ここに挙げられている国が当事者の所属する国でございます。
 3ページ目でございますが、仲裁人の数につきましては、5年間の統計的なデータを見ますと、3名よりも1名の場合が比率的には多いということでございます。
 仲裁人の職業でございますが、ほとんどの場合、弁護士、大学教授、いわゆる法律家が仲裁人になっておられます。実業家はわずかでございます。
 仲裁人の国籍でございますが、やはり日本人が圧倒的に多いんですが、先ほど仲裁手続の国際化ということを申し上げましたが、若干アメリカ人、カナダ人等、外国人が仲裁人になるというケースが出始めております。
 最後のページでございますが、事件の処理の期間でございますが、仲裁判断の平均所要期間といたしましては、ここに掲げております14.7か月。
 仲裁人による判断につきましては、10.8か月。
 和解内容を仲裁判断にした場合は、24.4か月。
 取下げによって終結したものは、10.1か月というようなことになっております。
 最後に、請求金額でございますが、御覧いただければ分かりますように、大体1億から10億円ぐらいの請求金額の紛争が一番多いというような状況でございます。
 簡単でございますが、以上です。

□ どうもありがとうございました。質疑は、○○委員の御説明が終わった後ということにさせていただきたいと思います。
 それでは、引き続きまして○○委員から日本海運集会所の仲裁の実情について御説明をいただけますでしょうか。

【(社)日本海運集会所の仲裁の実情について】

○ 海運集会所の仲裁につきましては、お手元の資料を御覧いただきたいと存じますが、まず、表題で「TOMAC仲裁の現状」と書きましたのは、the Tokyo Maritime Arbitration Commission 、海事仲裁委員会のことをそういう呼び名で呼んでおりまして、イニシャルを取りましてTOMACと言っております。あえてTokyo としましたのは、もともとは日本海運集会所の英語名、The Japan Shipping Exchange の、Japan と言いますと、どうもきらわれるというところがありまして、Tokyo としたわけであります。
 集会所は、1921年に創立されておりまして、細かいことは本日お持ちしましたパンフレットに書いてありますけれども、運賃、あるいは傭船料の引合いのための海運取引所として設立されたものでありますが、その後、1933年に社団法人に改組されております。
 仲裁業務は、1926年に仲裁部を設けて始めたのが最初でございます。
 社団の構成員としましては、海運、造船、商社、荷主、保険、シップ・ブローカー、倉庫など、おおよそ海事に関連するところ、金融なども含めまして入っております。法律事務所なども入っております。
 集会所の主な業務としまして、仲裁のほかには、標準的な契約書式の制定というのがございまして、傭船契約書、あるいは船舶売買契約書、船荷証券等の印刷書式をつくっております。その他、出版関係の業務がございます。
 仲裁に関しましては、現在、規則は3つありまして、一般の「仲裁規則」というのと、「簡易仲裁規則」、これは、係争金額2000万円以下のものを対象としております。そして「少額仲裁規則」、500万円以下を対象としたものの、3種類があります。
 10年間の実績としましては、受理したものが147件。1ページの下の方に書いてありますが、双方が日本国のものが79件。いずれか又は双方が外国人の場合が68件といったようなものになっております。
 仲裁判断書を交付したものが65件。仲裁人の和解で解決したものが38件。取下げが34件であります。
 取下げの大部分が、時効中断のために仲裁を申し立てた後、当事者間で示談解決したといったもので構成されております。
 紛議の内容は、定期傭船契約、船舶売買契約、航海傭船契約、運送契約、造船契約、船舶金融その他おおよそ海事に関連するものでございます。
 仲裁契約は、海事関連の各業者は大体こういった標準書式を使うことが多いので、大体印刷されている仲裁条項によって、仲裁を申し立てるという場合が多いところでございます。
 そのほか例えば、船舶の衝突の場合には、もともと契約関係がありませんので、仲裁契約を結んでもらっております。
 特に、海事関係の仲裁では、ロンドン又はニューヨークが非常に多く、ロンドンが一番多いわけです。そして、我々、東京と言っておりますけれども、件数からすればけた違いで、比べものになりません。
 TOMAC仲裁規則の特徴でございますけれども、仲裁人の選任につきましては、当事者が直接選任するのではなくて、仲裁委員名簿に記載された約200名の中から選任を希望する仲裁人を7名まで事務局に通知するようにしています。
 変な数字なんですけれども、実は集会所の仲裁人の大半が実業家でありまして、取引関係等で当事者と何らかの関係があるという場合がありますので、2、3名では少ない。それを避けるために7名以内にして、その中で関係の薄そうな方を委員会で選ぶ。
 第三仲裁人は仲裁委員会の正副委員長会議で選定しております。原則として、仲裁人名簿に記載された人から選定をしております。
 特に仲裁人につきましては、忌避の問題がありますので、選ばれたときに自分が当事者その他と関係があるかないかといったようなことを開示することを細かく規定しまして、仲裁人の忌避といったことが後で起こらないように、なるべく早目に処置をしようという意図でございます。
 仲裁人の忌避の問題が出たときには、仲裁人が自分の忌避問題を扱うということは一切ありませんで、忌避審査委員会というものを仲裁委員会の中に設けて、第三者が忌避を認めるかどうかといった審査をすることにしております。
 今まで忌避が問題になりましたのは、当事者と仲裁人が過去に上下関係にあったといったようなこと。あるいは、当事者の代理人と仲裁人の間に顧問関係といったようなものがあったとか、あるいは、仲裁人に対して証人を申請したけれども、仲裁人が3人ともそんなものは必要ないという途中の判断を示しましたところ、それに対して仲裁人忌避の申立てがあったといったようなケースがありますけれども、いずれも忌避に理由がないとして退けられております。
 その他、仲裁人の義務につきましても、細かく規定をしておりまして、仲裁人倫理規定を設けて、当事者に対しては、事件の内容を聞くことに徹して、判断内容を予見させるようなことを述べてはならないといったようなことまで細かく書いております。 また、当事者も事件の内容を漏らさないという義務を負っております。
 更には、最近の科学技術の進歩に伴いまして、オンライン仲裁といったようなことも手掛けておりまして、申立書は書面を提出しなければならないのですが、その後の書類のはファクシミリでもEメールでもいいと。最近終わったケースでは、仲裁判断もEメールだけでもいいですという人もいましたけれども、公催仲裁法799条によりまして、裁判所に原本を預け置くことが義務でございますから、書面を作成して仲裁人が署名、捺印してつくりました。
 また、遠隔地に居住する当事者あるいは証人のために、審尋期日に出席できない相当の理由がある場合に、スピーカー付き電話機あるいはテレビ会議システム等を介して審尋に参加することができるようにいたしました。
 現在、これを使ったものは、まだ経験はありませんが、そういう申し立てがあれば行えるようにしております。
 この場合に、例えば海外であれば、仲裁の協力協定を結んでいる仲裁機関の協力を得て、確かに審尋を受ける人が、その当事者であるか、証人であるか同一性を保障してもらうといったことが可能かと思っております。
 仲裁に使う用語は、日本人同士の場合は日本語。海外との間のものは英語としております。
 また、一部和解による解決も行っておりまして、仲裁廷が、積極的に和解を進めるというのではなくて、当事者からの要望というものを尊重しております。
 仲裁費用ですけれども、こちらに書いておきましたけれども、仲裁人報酬、謝礼も含めまして、それぞれの当事者が予納する金額になっております。
 仲裁判断を公表していますが、72年以降は、固有名詞を伏せています。判断全集は5巻までつくっております。
 仲裁費用に関連しまして、日本の当事者が、勝つ自信があるときにロンドンで行うという場合が多うございます。これは、英国のアービトレーション・アクトの59条で、リーガルコストも当事者の仲裁費用の中に入っておりますので、弁護士費用まで負けた当事者に負担させるというような意図があります。もしもその点も法律で規定できれば、日本から逃げていくのが少しでも少なくなるのかなと思っております。
 もう一つは、調停前置仲裁ということも試みとして置いておりますけれども、まだ現実には受理しておりません。
 駆け足ですけれども、大体以上です。

【質疑応答】

□ どうもありがとうございました。それでは、○○委員、○○委員の御説明につきまして、何か御質問がございましたら、どうぞお願いいたします。

○ ○○委員と○○委員に1点ずつ伺いたいと思います。
 まず、○○委員の方ですが、いただいた統計資料の4ページに「金額のない請求」という分類がありますけれども、どのようなものか、もし分かるようでしたら教えていただければと思います。
 ○○委員への質問ですが、私がやや聞き逃したのかもしれませんが、資料の2ページの「3.仲裁契約」の御説明のときに、ロンドンの方が圧倒的に多いというお話があったように思いますが、数字などが分かりましたら教えていただければと思います。

□ では、○○委員、お願いします。

○ 今の「金額のない請求」につきましては、これは主に確認請求というものでございまして、例えば合弁契約が存続していることを確認する。あるいは、ライセンス契約が存続していることを確認するといったようなものの請求でございます。
 これに関連しましては、仲裁料金規程の1条に、経済的価値の算定ができない、又は極めて困難である請求については管理料金が100万円ということで、そういった内容の請求が金額のない請求として、ここに挙げている5件でございます。

□ よろしゅうございますか。
 では、○○委員。

○ 件数ですけれども、海運集会所では、せいぜい受理する件数が二十数件が多いところです。
 ロンドンの場合には、特にロンドンの仲裁の統計というのを見たことがありませんけれども、著名な仲裁人によりますと、自分は100件扱っているといったことを言います。件数ではとても太刀打ちできないというのが現状でございます。

○ おそらく正確な数字はお分かりにならないかと思いますが、ロンドン、あるいはそれ以外の外国を含めてで結構ですけれども、日本企業が絡むものがどのぐらいあるという推測などはできますでしょうか。

○ それはちょっと分かりませんが、ただ日本人同士でロンドンでやるというのが何件かあります。それは、私どものPRが下手だったのかもしれませんし、先ほど申しましたように費用、勝てたら向こうから取れるといったようなところもあってやるのかもしれません。

□ ほかに何か両委員に対する質問はありますか。よろしゅうございますか。
 それでは、○○委員、○○委員、ありがとうございました。
 引き続きまして、先ほど申しましたように、○○委員からドイツの仲裁判断取消手続について、非常に内容に立ち入った御説明の資料をいただいておりますので、これは前回の補充でもあるように承りましたので、御説明いただけますでしょうか。

【ドイツにおける仲裁判断取消手続について】

○ 前回の検討会で問題となりましたドイツのZPO1059条につきまして、若干調べてまいりましたので、報告をさせていただきます。今日は、不十分なものになっておりますので御指摘いただきましたら幸いでございます。
 まずは「2 執行・取消手続と口頭弁論」の関係でございます。1063条の1項では、通則といたしまして、裁判所は口頭弁論をせずに決定で裁判できると。ただし、相手方を審尋しなければいけないとしておりますけれども、2項では「仲裁判断の取消しが求められた場合」、あるいは執行宣言申立てがあって「1059条2項の取消原因が問題となる場合」には「口頭弁論を命じなければいけない」というふうにしております。
 そうすると、口頭弁論を命じるとなると、秘密を守れないという面で問題があるのではないかというお話が前回ございまして、特にこの点、仲裁だからということで口頭弁論のやり方について配慮したような扱いは取られていないかという御質問がございました。
 調べてみたのですが、特に仲裁だからということで特殊な扱いをするというような記述は見あたりませんでした。
 すなわち、ここで言う口頭弁論は、通常の口頭弁論の意味に解されておるようでございます。
 次に「3 申立期間」の問題であります。1059条の3項は、モデル法の34条3項にほぼならっておりまして、当事者による別段の合意がない限り、仲裁判断の取消しの申立ては、仲裁判断が申立人に送達された日から3か月の期間内にしなければいけないというふうにしております。
 この目的としては、仲裁判断の効力について妥当な期間内に明確性をもたらすということが指摘されております。
 ここで言う取消申立期間は、モデル法の場合と同じく、職権で審査されるべき2項2号の取消事由についても妥当する。1041条1項6号の定める回復事由、これは日本で言うと再審に当たるものかと思いますが、これについては、仲裁判断言渡後、かなり時間が経ってから明らかになることもあるけれども、これは例外的なケースになるので、それについては損害賠償の方で手当てすればよろしかろうという記述がございました。
 申立期間の期間の性格をどうとらえるかにつきましては、必ずしも一般的な理解かどうか分からなかったんですが、あるコンメンタールを見ますと、次のような説明がございました。
 すなわち、原状回復、これはZPO233条に、当事者が過失なく不変期間を遵守できなかった場合、申立てによって当事者に原状回復を認めるという規定があるんですが、これは認められないんだと。むしろ、当事者に責めを負わせることができないような期間の不遵守の場合であっても厳しく排除がなされるのであるという記述がありました。
 そのほかのコンメンタールを見てみましたところ、やはりこの場合にも、損害賠償の可能性を認めておくだけでいいんだという説明がございましたが、ただ一部には批判もあるというコメントもございました。
 この1059条3項に定めます申立期間と執行宣言手続での取消事由の主張の関係でございますが、1060条2項に規定がございます。
 その内容は、取消事由を2つに分けまして、取消事由のうち、仲裁契約の無効など申立人が主張しなければいけない事由。これは2項1号に書かれておりますが、これについては3か月の申立期間経過によって、執行宣言手続でも主張することはできなくなる。他方、当事者の主張を要しない事由、すなわち仲裁適格及び公序。これは1059条2項2号に書かれておりますが、これについては3か月の期間経過後も執行宣言手続で主張できるというふうに、分けて扱っておるようであります。
 この点、私は前回の検討会では、両者の区別をせずに説明をいたしましたので、不正確でございましたので、ここで訂正をさせていただきたいと思います。
 執行宣言後の取消申立てでございますが、これは1059条3項に同じく規定がございまして、執行宣言後は、もはや取消申立てができないとしております。その理由としては、この場合債務者としては、執行宣言手続の中で取消しを主張できたということが挙げられておるところでございます。
 次に「5 仲裁判断取消しと仲裁契約」の関係であります。1059条5項によりますと、当事者により別段の合意がない限り、取消し後も当事者は新たに仲裁契約を締結する必要はなくて、仲裁手続を再開することができるとされております。ただし、これには解釈上の例外もあるようでございまして、仲裁契約の無効でありますとか、あるいは仲裁の可能性がないといった理由で仲裁判断が取り消された場合には5項の適用はなくて、国家裁判所への提訴が可能になるというふうに指摘がされております。
 ところが、仲裁契約が復活する場合には、従前の仲裁廷の任務は、一旦仲裁判断を下したということで終了いたしますので、当事者は別段の合意がない限り、新たに仲裁廷を構成し直さなくてはなりません。そうすると、かなり面倒なことになりますので、この手当てとして4項で仲裁廷への差戻しが規定されております。4項によりますと、裁判所は適当と認める場合、そして当事者の申立てがある場合に、仲裁判断を取り消して、事件を仲裁廷に差し戻すことができます。この差戻しがございますと、仲裁廷の任務は例外的に終了しなかったこととなると、1056条の3項に規定がございます。
 前回は、私はこの点につきましても、この規定を十分理解せずに5番の場合、6番の場合を混同した議論をしておりますので、この点も訂正させていただきたいと思います。
 従前の仲裁廷は、この場合、仲裁判断取消しを導いた事由を顧慮しながら、新たに仲裁判断を行わなければならないとされております。
 モデル法は「手続を停止しうる」という規定を置いておりますが、これに対してZPOの方が「仲裁判断の取消し+差戻し」という構成を取りました理由としては、新たな仲裁判断においては取消事由が原則として除去されていることからすると、取消手続もその前に終結させておいた方がよろしかろうという理由が挙げられておりました。
 簡単ですが、以上でございます。

□ どうもありがとうございました。何か御質問があればお願いしたいと思います。

● ただいまの○○委員のお話にも関連したところでございますが、本日の検討会資料11の3ページでございますが、若干、訂正、補足をさせていただきたいと存じます。1059条第(3)項、3ページの下から8行目ぐらいですが「仲裁判断の取消を求める申立ては、3か月の期間内に裁判所にしなければならない」となっております。
 ところが、原文をよく見ますと、これには「当事者間に別段の定めがない限り」というふうな制限が付されておりまして、あるいは取消申立期間についての規定の除外が定められておりますので、この点について、今申し上げました「当事者間の別段の合意がない限り」という、このような文言が入っているということを、口頭ですが補足させていただきます。
 それから、第1回の検討会で、ニューヨーク条約と4か国の対照表(事務局注:参考資料5)をお配りしましたが、ここにも同じように1059条が出てまいりますので、併せてお手元にお持ちの分を、現段階では事実上ということにさせていただきますが、御訂正いただければと思います。
 以上でございます。

□ どうもありがとうございました。どうぞ。

○ 1点だけお伺いしたいんでずか、1063条の1項の規定、○○委員の最初のページの2の冒頭ですが、私は今日条文を取り寄せて簡単に見てみたんですが、今年の1月1日から改正になって、口頭弁論なしに言い渡すことができるというのが決定に掛かっている文言だと思いますが、その部分が削除されているようなんですが、そのことの意味が私には十分に了解できなかったので、もしお分かりであれば。

○ それは、存じませんでした。どの部分が削除されておりましたか。

○ 口頭弁論なしに言い渡すことができる、あるいは行うことができるという、「決定」に掛かっている部分です。der ohne mundliche Verhandlung ergehen kann という部分が削除されているんです。
 2001年7月27日の民事訴訟法の改正ですが、なぜこれが削除されたかというのが、余り実質的な意味はないのかもしれないんですが、少し気になったものですから。

○ 私の持っていた資料も決して最新のものではなかったようなので、また調べます。

○ 自分で調べます。

□ その後の、相手方を審尋しなければいけないというのはあるんですか。

○ あると思います。ですから、単純に1項は、裁判所は決定によって裁判すると。裁判の前に相手方を審尋しなければならないという条文になっているんです。

□ そうですか。ちょっとよく分からないですね。中は同じですよね、決定ですから。
 私の方から、よろしゅうございますか。2ページ目の申立期間のところの3か月の期間を取消訴訟で提起しない場合に、もう取消訴訟は提起できなくなったと。今度は、執行を申し立てたときに、取消事由を持ち出せるのと、持ち出せないのがあると。これですと、要するに持ち出せるのは仲裁適格と公序に関係するものだけ持ち出せるということで、あとの、能力とか何とかというものは持ち出せないという理解でよろしゅうございますか。

○ そのとおりです。当事者の援用を要する、1号の方の事由については、3か月の期間内に言うことができたわけだから、それをしない以上は、もはや言うことができないという発想なんです。

□ 分かりました。
 それから、形式的なことなんですが「3 申立期間」のところ、2ページ目になるんですが、第2パラグラフの「この規定につき」というところから始まって、コンメンタールを引用しているんですが、1041条1項6号というのは、これは旧法か何かの規定ですか。現在の1041条というのは、einstweiligen Rechtsschutzes 、仮の権利保護の措置という規定なんです。それで、6号はないんです。
 この回復事由というのは、さっき言われたように、再審事由を取消事由にしていたときの規定の解説かなと思って読んだんですけれども。

○ そうですね、これはまだ立法の段階の資料ですので、まだ旧法の段階の条文です。

□ はい、分かりました。何かほかにありますか。よろしゅうございますか。
 これは今日の議論の、執行のところにも非常に参考になる議論だと思います。どうもありがとうございました。

● 今、議論に出ていた、○○委員から御指摘の1063条の関係なんですが、分かりましたら事務局の方に教えていただければと思うんですが。事務局の能力を超えるものですから。よろしくお願いいたします。

【仲裁判断の承認及び執行についての検討項目案について】

□ それでは、本日3つの議題があると申しました、最初の議題であります、仲裁判断の承認及び執行の問題を御議論いただきたいと思います。
 まず、現行法では執行するためには、執行判決を得る必要があるわけなんですが、執行判決請求訴訟というようなものの件数を、できれば○○委員から御説明いただければと思っておりますが。

○ 前回と同じように、東京地方裁判所と大阪地方裁判所の近年の件数を御報告させていただきます。
 執行判決を求める訴えについては、東京地方裁判所が平成10年が4件、平成11年が5件、平成12年が1件、平成13年が5件というふうに聞いております。
 大阪地裁の場合は、平成10年から平成12年までは、いずれも0件、平成13年のみ1件というふうに聞いております。

□ 分かりました。その程度の数があるということでございます。
 それでは、はじめに承認・執行の要件、あるいは、拒否事由の問題ですけれども、この点につきまして、まず、事務局から御説明をいただきたいと思います。

【I 仲裁判断の承認及び執行について 〜1 承認及び執行の要件(承認及び執行の拒否事由)について】

● 執行許可の裁判を設けるべきであることについては御異論はないのではないかと思いますが、許可するための要件についてモデル法に準ずるものとすることでよいかどうかについて確認をさせていただきたいと思います。
 この問題は、前回御議論いただきました仲裁判断の取消事由と裏腹の関係にありますが、モデル法も、細部を除いてニューヨーク条約第5条の執行拒否事由とほぼ同内容の規律になっております。
 なお、資料11の4ページに記載しておるんですが、執行許可の裁判については形式的要件も問題になりますが、これは仲裁判断書の原本又は正本あるいは謄本の提出を求めることでよいのではないかと思われますが、仲裁合意書面の提出を要するかどうかについては立法例が分かれるようです。この点についても触れていただければと思います。

□ 前回の仲裁判断の取消しの裁判のところでも議論がありましたけれども、基本的には、仲裁判断の取消事由と同様なものを、同様なものというのは、それがないことを執行判決の要件、あるいは取消事由と同じものを執行の拒否事由として定める。そういう拒否事由がない限り執行を許可するというのが国際的な立法の動向のように拝見いたします。
 もし、そういう前提に立ちますと、拒否事由としてどのようなものを考えるのか。ニューヨーク条約やモデル法と同じようなものでよいかどうかということについて、まず御意見をお聞かせいただきたいというふうに思います。どなたからでも結構ですのでお願いいたします。

○ 私は、原則的には、仲裁判断の取消事由と、仲裁判断の承認執行拒否事由とは同一であるべきだというふうに思っております。

□ 分かりました。ニューヨーク条約やモデル法にならうということでございますね。
 更に細かなことが何かありましたらどうぞ。ならい方にしても全く同じになるのかどうかというようなことで。

○ 検討会資料の1ページに書いてあるんですが、モデル法36条とニューヨーク条約の5条1項はほぼ同内容なんですが、一部分だけ当事者の能力問題についてだけ少し文言が違っているということです。
 これは、能力の準拠法の問題と関連してくるのですが、今ここでお話しさせていただいてよろしいでしょうか。

□ どうぞ。

○ まず、なぜ、モデル法がニューヨーク条約の5条の文言からわざわざ外れたのかというところなんですが、調べてみましたところニューヨーク条約に書いてあります「その当事者に適用される法令により」という文言を入れますと、あたかもいわゆる属人法主義のような、つまり国際私法の規定であるかのように読めてしまう。
 そうすると、モデル法としては、各国の国際私法の内容にはできるだけ立ち入りたくないので、こういう文言は入れない方がいいんではないかという議論が起草過程であって、最終的にそれが通って、この部分だけが削除されてしまったということのようです。
 では、その後、モデル法の採用国はどうしているのかというのを少し見てみたんですが、モデル法の規定は余り評判がよろしくないようで、むしろモデル法の採用国としては、多くの国はもう一度ニューヨーク条約の5条の文言に戻っている。ドイツなんかもそうでした。
 つまり、やはりニューヨーク条約にならっておいた方が、将来の承認・執行という点で問題は少ないと思ったことによるようです。
 では、ニューヨーク条約の解釈として「その当事者に適用される法令により」というのは一体どういう意味なのか、まさに属人法なのか、本国法なのかという議論が出てくるわけですが、多くは調べておりませんが、私の見た範囲では、国際私法的な意味はない。この点については、各締約国の国際私法で判断していいんだという説明がございました。
 以上です。

□ 分かりました。どうもありがとうございました。この点、どちらに従ったらいいのかという疑義がありましたので、1つの答えが見えたような気もいたします。
 ほかの点はいかがでしょうか。

○ 先ほど仲裁判断の取消手続との関係で、ドイツ法について御紹介がございましたけれども、取消手続と執行手続との関係については、若干モデル法については不備があるような気もいたします。
 前回も座長の方から、モデル法の、いわゆる仲裁判断取消事由を執行手続で主張できるかどうかといった辺りの御質問を受けたかと思うんですが、それについては、モデル法の立法過程のコンメンタールを見ましたが、それについては特に議論がされなかったということで、3か月間の短期間の不変期間だけを設けたということが1点と、あと、仲裁判断取消手続が行われている最中は、執行手続の裁判所による二重の法的審査を防止するということで、停止という手続を認めているわけです。
 したがって、取消手続との関係で、例えばさっきのドイツ法のように、ある一定の取消事由について取消申立てをしなかったといった場合には、執行手続においてそれを主張することはできないというような規定を設けるかどうかといったところは議論する余地があろうかと思います。
 また、逆に取消の手続で、取消事由を主張したけれども認められなかったといった場合に、認められなかった取消事由に相当する執行拒否事由は、執行拒否事由として執行手続で主張できないといったようなことは、解釈できるのかも分かりませんが、ドイツ法を若干検討した上で、取り上げる余地はあるんではないかというふうに思います。

□ 後の点は、ドイツ法にちゃんと書いてあるんですね。取消訴訟で排除された事由は、再び持ち出せない。

○ 公序、あるいは仲裁可能性の問題を除いてということだったと思いますけれども。

□ 含めてではないですか。公序の点も取消事由で主張して、はねられたものは後から出せない。

○ はねられたら、そうですね。申立てをしなかった場合には、公序の方は出せると。

● 今の点は、外国仲裁判断の場合も国内仲裁判断の場合も、同じような形で規定をすべきであるという御意見ですか。

○ いや、外国仲裁判断は、外国の仲裁法の手続によって規律されるわけですから、それは我々の仲裁法で規律することはできないと思うんです。
 したがって、今のは、国内仲裁判断の取消しと執行との関係についてです。

● 執行宣言の方の手続として、外国でその事由について判断された場合について、日本の執行の手続において、それは判断できないという仕組み方は、あり得ないんだと思いますが、その場合は除いておくと。

○ そこは更に検討の余地があるのかもしれませんが、少なくとも言えることは、ニューヨーク条約上は、仲裁地法で取り消された仲裁判断というものは、執行拒否事由に当たるということで執行できないという考え方で、例外の判例もありますけれども、一般的な考え方としては、取消しされた場合には執行できないということまでは一致しているんだと思います。

● それ以上のことについは、まだそうおっしゃっているわけではないと。

○ それ以外の部分については、いろいろ議論があると思いますけれども、今の、ドイツ国内における仲裁判断の取消しの手続と執行手続との関係において取消しの主張をどう見るかというのは、ある程度取り入れる部分はあるんではないかというのが私の意見です。

□ 先に進ませていただいて、よろしゅうございますか。

○ 形式要件の方の話が、まだしていないと。

□ そうですか。どうぞ。

○ 資料ですと4ページの(注)の2つ目だろうと思いますが、先ほど座長の御説明にあったように、モデル法では、形式要件として仲裁合意書の原本又は謄本プラス仲裁判断書の原本又は謄本の提出が要求されていますが、既に何回か前の検討会でもやりましたように、仲裁合意の成立要件として書面性を要求するかどうか自体が大きく揺らいでおりまして、古典的な意味での書面性を要求しないということには、ほぼ争いがなくなっていると。
 そうしますと、承認・執行の段階で、仲裁合意書の提出を要求するというのは、やや態度矛盾のきらいが出てくるということで、ドイツのように仲裁判断書だけでいいという選択肢を取るかどうかというのは、態度決定をしておかなければいけない問題だと思います。

□ ○○委員に伺いたいんですが、ニューヨーク条約は、仲裁合意書の提出を求めていますね。ドイツや日本がそれを要らないというふうに言うと、これは条約違反にならないんですか。それはどこから読むんですか。

○ 条約には、直接の明文はなかったかと思いますが、解釈として、条約が定めた要件よりも緩やかな要件を各国が規定することは妨げないという解釈が一般的かと思います。

□ 3条に、国内法よりも、国際仲裁判断の承認について重い要件を課してはいけないというのは明文で書いてあるんです。
 だから、国内法よりも国際仲裁の承認を重くしてはいけない。しかし、同じにするという場合に、4条で合意の書面を要求している条約に違反しないというのは、どこから来るんですか。

○ ニューヨーク条約7条1項の後段の規定がございますが、「仲裁判断が援用される国の法令又は条約により認められる方法及び限度で関係当事者が仲裁判断を利用するいかなる権利をも奪うものではない」ということですから、国内法で、今の要件の問題が含まれるかどうかというのは若干疑義がありますけれども、国内法でそういった定めがあれば、それを使って仲裁判断の執行を求めることができるんだというのが7条1項から導き出される余地はあると思います。

□ そうですか。分かりました。○○委員の言うように、取消訴訟の場合には、多分、相手方が取消事由があると言って出てくると思いますが、承認・執行の段階で、わざわざ常に仲裁合意書まで出せというのは、そこまで必要ないんではないかという気がいたしまして、私の結論は○○委員と同じなんですが、それらの条約違反にならないかどうか、少し心配したものですから。ありがとうございました。
 それでは、形式的要件はそういうことで、次に裁判の種類のところに関しまして、どうぞ事務局からお願いします。

【I 仲裁判断の承認及び執行について 〜2 仲裁判断の承認及び執行の裁判について】

● 裁判の種類については、前回の仲裁判断取消の裁判について、御議論いただいたものと同じようなものですので、特に説明することはございませんで、これについてまた議論していただければというふうに思います。

□ これについて、何か。要するに裁判の種類、決定と判決ですが、この辺が仲裁法の、民事訴訟の思考とは全く違うところに入ってきていると思うんです。
 特に取消しと承認・執行とが裏腹になっていて、しかも、取消事由が主張された場合には、口頭弁論を開いてより慎重にやらなければいけないという考え方が一方にあると同時に、それを判決でやるのか、決定でやるのかという問題が絡んでいると思います。
 いろいろな考え方がここにあるんですが、さて、どういうのがいいかということについて、まず、これも○○委員に。

○ 前回の検討会で、取消しの裁判の方について、判決手続か決定手続かという議論をした際にも、私は決定手続でいいのではないかという意見を述べましたが、仲裁判断の承認・執行の裁判の方は、より一層決定手続でいいと考えます。
 取消しの裁判の場合、あるいは後で議論になるかもしれませんが承認・執行の裁判で取消原因が主張された場合については、やや議論の余地があると思いますが、まず承認・執行を求めるという段階で、重い判決手続でなければいけないという見解は、従来の学者の書いたもの等を見ましても、現在では余りないのではないかと考えます。
 また、比較法的に見ましても、ほとんどの外国の立法例で決定手続ないしそれに近いような手続が取られていると理解しております。
 問題は、取消原因が抗弁として主張された場合の話でありますが、これは仮に決定手続を維持するとしても、ドイツのように口頭弁論を必要的に開かなければいけないとする余地はあろうかと思います。
 ただ、私個人的には、果たして必要的口頭弁論をしなければいけないかどうかについては、疑問を持っております。口頭弁論というときに、決定手続における審尋とどこが違うかと考えてみますと、大きく2点ぐらいかなと思います。
 1つは、一般論としては、対審性の保障が口頭弁論の方が強い。
 それから、公開原則が口頭弁論の方がはたらく。
 そうしますと、前者の対審性の保障というのは、取消原因が問題になるような場面では必要かもしれない。しかし、それは決定手続における審尋のままで対審性を保障することは可能なはずです。
 他方で、公開原則の方は、むしろ仲裁の本質に反するわけですから、必要とは思われない。ということになりますと、必要的口頭弁論ではなく、決定手続における審尋で、かつ相手方の審問請求権を保障するような制度ということでよろしいのではないかと考えております。

□ 何かほかに意見がございますでしょうか。
 外国判決の執行は、今でも執行判決なんですが、それとのバランス論というのは、どうでしょうか。
 ○○委員、もし御承知だったら教えていただきたいんですが。ドイツは、仲裁判断も決定手続で執行できると。外国判決も執行の場合に決定手続に移行したというふうに理解してよろしゅうございますか。少しそこのところがはっきりしないものですから。

○ 私もすべて知っているわけではないのですが、ブリュッセル条約、ブリュッセル規則に基づく域内からの判決については、すべて決定手続でやるというふうに、国内法を整理して変えておるところです。

□ 分かりました。外国判決の執行判決制度まで手を伸ばして改正できるかどうかはともかくとして、仲裁判断については決定でよろしいと。
 決定も口頭弁論を開かないで、しかし、今おっしゃるように、例えば双方が立会いできる期日で審尋をするというようなテクニックをすれば、対審構造も実質的には保障できるかなということだと思いますが、そういう方向性でよろしゅうございますか。

○ 5ページの一番下の(注)のところに書いてありますが、決定でいって確定した後に取消しの裁判ができるかどうかという、例の既判力の問題なんだろうと思うんですけれども、では決定でいくといった場合に、このとおりで次の取消裁判の申立てができなくなるというふうな帰結になっていくのか、あるいは、それが変わってくるのかというのを少し教えていただきたいんですけれども。

□ この(注)は現行法のことを言っているんですかね。今は、判決なんですが、執行判決をしてしまったという場合には後から取消裁判はできない。それは、既判力で説明しているんですか。それを、決定手続だから既判力みたいなものがないとすれば、執行判決した後でも取消手続はできると不安定だということですね。それをどうするかと。

○ どう理解したらいいのかと思います。

○ しかし、既判力で説明できているんですか。執行判決請求権という訴訟物は取消請求と違いますね。

□ 取消事由がないということを。

○ それは、理由中の判断ではないですか。

□ 理由中の判断だと思います。だから狭義の既判力ではないと思います。

○ 取消事由が一応問題になって審理されてということも、その中に入っているのかなと。

○ 争点効を認めれば、争点効は及ぶだろうとは思いますが。

□ 現在は、条文がありますから、そうなっていると。今度はそれをどうするかですね。やはりそれは考えておかないといけないですね。

○ 考え方としては、3つほどあります。
 1つは、決定であるということを別にしても、○○委員がおっしゃるように、判決理由書の判断が問題になることがしばしばありますので、既判力論で説明するのは難しいだろうと思いますが、今日では最高裁判例でかなり確立してきている訴訟上の信義則のようなものに委ねることにして、解釈に委ねるというのが1つです。
 第2としては、立法で何か確定力のようなものを仕組むということもあり得ます。
 3つ目としましては、取消事由に関しては出訴期間がありますので、出訴期間に委ねて、3か月以内であれば、蒸し返しも理論的にあり得ますけれども、そういうことはめったにないだろうということで、出訴期間に委ねるという、3通りぐらいではないでしょうか。

○ 同じような問題で、執行の申立てをして、それが決定を得て決着された後に、もう一度執行申立てをしてくるということはあり得ると思うんですが、それはおそらく今までは既判力で遮断できたんだろうと思うんですが、決定手続にした場合には、当然には遮断できなくなるのかなという感じもするんですが、何か明文の規定が必要なのか。

□ 分かりました。これはかなり具体的な立法マターになっていますから、問題点の指摘があったということでよろしゅうございますか。

● 取消事由があったときに、口頭弁論を命じなくてよいという御意見が出ていると思うんですが、他方で、取消事由が問題になったときには口頭弁論を開くべきではないかという議論も実質的に昔からずっとされていたので、その点についてほかの方の御意見も少し伺っておきたいなと思いますが。

□ その点は、○○委員は。

○ 意見があるわけではないんですが、私は、○○委員が言われた整理だろうと思うのです。私自身は口頭弁論はそれほど至高のものとして考えているわけではありません。実質対審の部分が重要なのであって、私は民事訴訟の公開の部分は合意で放棄できてもいいのではないかというような見解も持っておりますものですから、必ずしも公開の部分を重視していないので、一般的な民訴学者の見解とは違うとは思いますが、私自身は、必ず口頭弁論を開かなければいけないという必然性はないように思ったんですが。

● 逆に言いますと、決定手続の場合は、任意的口頭弁論ということで、裁量によって口頭弁論的なものにするかどうかというのは任されているということも考えられるんですが、先ほどの○○委員からの御説明の仲裁の本質との関係で、口頭弁論がいいかどうというのは、逆に問題になってくるような気がするんですが、その点はいかがですか。

○ いや、それほど深くは考えていなかったんですが、おっしゃるのは、例えば当事者が非公開でやってくれというふうに言った場合には、任意的口頭弁論もできないと。

● 先ほどの説明からすると、その方が流れとして自然かなと思うんですが、任意的口頭弁論で、口頭弁論を開くこともできるというふうに考えた方がいいのかどうかということです。

□ ドイツ法の条文の改正というのは、ひょっとしたらその問題に関係しているかもしれませんね。口頭弁論を開くことを要しないというわけでしょう。それを落としたと。ひょっとしたらその問題は関係するかもしれないので、やはりこれは○○委員に調べていただいて。
 先に進ませていただいていいですか。私、1点だけ少し疑問があるんです。執行宣言裁判というのは分かるんですが、承認の裁判というのはあるのかどうか。承認の裁判というのがどんどん出てきますから、承認の裁判というのは一体何なのかと。
 つまり、私の疑問は、これは自動承認でいいのではないかと。そうすると、なぜ承認の裁判というのが出てくるのかということです。ニューヨーク条約でも、承認や執行を求める場合には、こういう文書を出せと言っていますから、裁判をするというんですが、裁判がなければ効力が生じないのかということだけ少し確かめておきたいので、これをどういうふうに理解しておられるでしょうか。
 私の考え方は、自動承認なんで、当然効力がある。ただ、それを何かのために前提問題として使うという場合には、そういう書面を出せということを言っている。そして、当事者が承認の裁判だけを単独で求めてくると、確認だと思うんですが、そういう場合も承認の裁判として受けるという前提でできているんではないかと。
 普通だったら日本の場合は確認判決なんですが、確認決定という、承認するという決定みたいなものをするということに立法上踏み切るのかどうか、この辺のところを考えていくと、なかなか難しい問題なので、問題点だけ出しておきます。

○ 少し関連しているんですが、国際的にはそういった例がございまして、スイスの仲裁判断で請求が棄却され、棄却された仲裁判断の承認をフランスに求めて、フランスで承認の決定がされ、その後、もう一度仲裁手続が行われて、請求認容の仲裁判断がフランスで執行を求められ、先取りして承認の決定でそこを押さえておくということが実務でございました。

□ そういう承認の裁判を求める場合も、もし日本法でそういうのをつくるとすると、決定ということになりますかね。執行判決ではなくて、執行決定をするということになると、裁判の種類としては決定なのか、承認の方は判決なのかという議論にぶつかるんですね。

● 民事執行法の24条の外国判決の執行判決については、執行判決を求めるということで、承認自体についてここでは規定されてなくて、民訴法の118条で自動承認と言われて、要件があれば自動承認。
 だから、座長がおっしゃられたような形で、承認については自動承認で、ただ、執行については、多くの説は執行判決については形成訴訟的に考えていますので、執行力を付与するのは、国家の執行力なので、そこで形成的なものを付与すると。そこを分けて考えているのかなというふうに、私自身は思っていたんですが。

○ しかし、それはモデル法もニューヨーク条約もドイツ法も、全部「又は」にしていますね。執行又は承認を求める決定とか申立てという言い方をしていますね。承認を申し立てる決定が単独であるような書きぶりになっていますね。

□ あるように見えるんです。ニューヨーク条約は、承認を求めるためには、これこれの文書を出せというふうに書いてありますから、自動承認は自動承認だけれども、特に確認しておきたいという場合には出せという意味でしかないというふうに読むと、それを認めると。その場合の裁判手続は何なのかということを、やはりどこかでその問題にぶつからざるを得ないというような気がするんです。

○ 確かに、決定手続にして既判力が生じないとすれば、確認をするということの法的意味が分からなくなるわけです。ドイツ法は依然として承認を求める申立てというのはあるようにも読めるので、どういうふうに考えているのかなと。

○ ○○委員に少し伺いたいんですが、モデル法もドイツ法もと今おっしゃったんですが、モデル法の35条1項を見ますと「仲裁判断は、それがなされた国のいかんにかかわらず、拘束力のあるものとして承認され」と言って、その後に「管轄を有する裁判所に対する書面による申立があれば、本条及び第36条の規定に従い、執行されなければならない」というと、裁判の申立ては執行の部分だけで、承認の部分は自動承認のようにも読めるんですが、そこは違うという御理解でしょうか。

□ 36条の方はどうですか、○○委員。「仲裁判断の承認又は執行は」と。

○ これは、拒絶事由の方ですから「又は」で受けているんではないかと思いますけれども。

○ しかし、36条1項(a)号は「承認又は執行の申立を受けた管轄裁判所に次の証明を提出した場合」と。

○ おっしゃるように。ただ35条の1項は私が思ったようには読まないということでしょうか。

□ 分かりました。私も、簡単に答えていただける人がいたら、ついでに長年の疑問を解消したいと思ったんですけれども、問題があるということで、先に進ませていただきたいというふうに思います。

○ 1点よろしいでしょうか。例えば裁判所の方に本訴が提起されて、それに対して被告の方が仲裁合意があるということで争って、それが控訴なりして高裁なりに行って普通の訴訟事件でかかっているというときに、仲裁廷の方が仲裁判断をどんどん出したということがあり得るわけですね。それに対して、やはり執行許否の裁判がかかってきたときに決定で出せると、こういうふうになりまして、しかも取消事由などもその中ですべてやってしまうとなると、何か、裁判所から見ていると、いろんなところにいろんな手続でかかるというのは、まずいのではないかという感覚があります。
 少し話を戻すようで申し訳ないんですが、それからいくと、執行許否の決定は簡単に出すけれども、本当にその点が争われたときには、判決手続にすると。
 今は昔と違いまして、訴訟手続というのもかなり早くできるようにはなってきておりますので、決定というのでいくのもいいと思いますけれども、いろんな形で取消事由、特に仲裁合意がないということがかかり得るということを考えますと、余り決定でということを、すべて前提事実で議論を進めていただかずに、異議が出たときの手続をどうするかということと含めて、統一的に解決するためにはどれが一番いいかという観点も必要なのではないかと思いまして、一言申し上げさせていただきました。

□ 分かりました。いろいろなお考えがあると思いますので、それでは少し先に進ませていただきます。
 次は、仲裁判断の承認・執行の裁判に対する不服申立てということです。これもまず事務局から御説明をいただきたいと思います。

● この問立て自体は、今の○○委員から御指摘があった、決定を前提にした場合はどうなのかというのがむしろ多く問題になるのかなという気がしているんですが、不服申立て、判決であれば、判決の控訴、上告というのは通常であると思いますが、決定の場合を前提にするとどうなるのか。それも併せて御議論いただきたいと思います。
 参考に挙げているドイツ法の1065条というのが少し分かりづらい規定ではないかと思いますので、若干コメントさせていただきますと、これはまず決定をして、ここに終局判決と書いていますが、ファイナル・ジャッジメントというような意味のようでして、終局の判断によるものであって、これに対して上告が認められているものとしたような場合という、仮定法で書かれているようですので、それと同視できるような場合については特別抗告ができるというような規定なのかなというふうに理解しています。
 韓国法について、判決によるとして、特別の規定は見あたらないと記載させていただいて、それにとどめておりますのは、必ずしも韓国法の全体構造がよく分かっておりませんので、判決の場合に控訴、上告という形になるんではないかと思うんですが、この点についての確認はできていないので、委員の方でどなたかに教えていただければというふうに思っております。

□ 今の点いかがでしょうか。確かにドイツ法の1065条は、このままでは何を言っているのかよく分からないのですが、今のような意味だということです。
 韓国法も、裁判所の承認、又は執行判決によるというふうに言っていますから、仲裁判断の承認・執行は、裁判所の承認、裁判所の執行判決ということのようです。これが、先ほどの疑問にもつながっているわけです。
 それから、ドイツ法は、仲裁に関する裁判管轄、いろいろな裁判がありますけれども、いきなり高等裁判所に提起する。それについて特別抗告は連邦裁判所に行くということになっています。日本法は管轄は地裁だということになっていますが、この管轄の点も、後から出てくるように、日本でも高裁に集めてしまうのか、地裁なのかということが問題になるかなというふうに思います。
 不服申立てはどうでしょうか。決定だとすれば、決定に対する抗告となるという理解でよろしいでしょうか。通常の方法ですけれども。異議というようなことにして、異議が出たら今度は判決手続に戻すというような考え方ももちろんあると思います。かつての仮差押、仮処分の考え方ですね。けれどもそれは非常に複雑になるので、決定に対する通常の抗告だけを保障すればいいということでよろしいですか。

○ 今のと関連するんですが、先ほど少し先走った話をしてしまったんですが、それからいくと、異議が出れば、その理由によるんでしょうけれども、取消事由が主張されたのであれば、なぜ判決手続ではそんなにまずいのかです。双方審尋の場合には、やはり主張する機会は十分保障しなければいけませんから、書面のやりとりなどである程度時間は掛かるんでしょうし、口頭弁論にして判決手続にしたからといって、今のように弁論準備とかを活用したり、期日間の書面審理を充実させれば、さほどの違いはないような気がするんですが、なぜ決定がいいのかというところを教えていただければと思います。

○ 公開原則の点は、いかがでしょうか。

○ 公開が一番主だと。

○ いや、一番とは思いません。やはり決定の方が手続は迅速だと思いますけれども、分かりやすいのは、公開と思っています。

○ 先ほどお話ししたような形で、仲裁の妨訴抗弁などが出た場合。

○ 私は、妨訴抗弁のケースも含めて全部決定でいいと思っているので、前提が違うと議論にならないんですけれども、そもそも口頭弁論の方がいいとおっしゃるときに、仲裁の密行性の本質と口頭弁論の公開原則との関係はいかがお考えでしょうか。

□ 妨訴抗弁の方のことは、後から私の方も聞きたいんですが、日本法とドイツ法は昔から判決手続だったわけです。ドイツ法はあるときから、判決手続がやはり遅いということで、決定手続に直しまして、ただ取消事由が主張された場合には、口頭弁論を開いて、しかも判決でやるということにしたわけです。2、3年前の改正で、それもやはりおかしいということで、全部決定手続にしたと。更に今年の改正で、口頭弁論を開かなくてもいいとか、開いてもいいということまで落としてしまったというのは、要するに仲裁というものできちんと執行を命ずるような判断が出たのであれば、それを迅速に執行すべきだという流れだと思います。
 これは、外国判決の執行のときにも同じ問題がありますけれども、外国で判決をしたのに、更にまた国内で、もう一度判決手続で本当にそれが執行していいのかどうかと判断するのは、二度手間ではないかと。国際的な協調という意味から、それを信頼していいのではないかという流れがあると思うんです。
 仲裁についても、仲裁機関がきちんとした判断を出せば、そこで手続保障を尽くしている以上は、執行については簡易迅速にやっていいんではないだろうかという流れでございます。

○ 分かりました。どうもありがとうございました。

□ それは、そういうことなんです。
 さっきおっしゃった、妨訴抗弁が出て、高裁まで行っているというときに、片方で仲裁手続が進んでいるというのは、裁判所は、仲裁契約が無効だからということで、裁判所の裁判手続をしているのだろうと思うんです。しかし、仲裁機関の方は、仲裁契約が有効だという判断の下に仲裁手続をどんどん進めていったというと、司法裁判所も判決を出すし、仲裁機関でも判断を出す。
 この両者の関係はどうなるかという問題は、ちょうど国際訴訟競合の場合に、両方とも管轄がある。日本にもある、アメリカにもあるということで、双方で裁判がなされている場合に、では最後にどうなるかと言うと、これはたくさんの説がありまして、○○委員の方が詳しいんですけれども、最後に外国の判決に基づいて強制執行してこようという場合には、既に日本の判決が確定していれば公序に反するとか、そういうことになるんではないでしょうか。
 だから仲裁判断と判決が出た場合も、両方競合して片方が違っていて双方が衝突するというようなときは、最後は公序で処理されることになるのではないかと思いますが、非常に難しい問題ですし、統一的な見解は多分ないのではないかと。

○ 分かりました。どうもありがとうございました。

□ 不服申立てが、もし判決だという場合には、通常の控訴、上告まで保障される。決定となると抗告が保障されるという通常の形ということでよろしゅうございますね。

【II 外国仲裁判断の承認及び執行について 〜1 仲裁判断執行力具有の原則ならびに承認及び執行の要件について、2 外国仲裁判断の承認及び執行の手続について〜】

□ それではその次に、外国仲裁判断の承認・執行の要件や手続はどうかということでございます。
 資料11の7ページの上の方に、外国仲裁判断とは何かという点について、こういうふうに争いがありますが、とりあえずここでは、このうちのイの手続地説、外国仲裁判断というのは、日本の領土以外のところで仲裁手続が行われて、仲裁判断が出たということを念頭に置いて議論をしていただきたいというのが事務局の要望です。

● 資料11の7ページ及び8ページの1、2を一括して御議論いただきたいと思うんですけれども、モデル法は、国際商事仲裁の大きな枠の中で内国仲裁判断と外国仲裁判断とを区別せず、承認及び執行の対象になるものとしており、ニューヨーク条約の考え方を国内法化するという方向性がよいかどうかといことについて、8ページの記載のとおり、手続面でも国内法と同様の規律でよいかということについても御確認いただきたいと思います。
 ただ、ドイツ法は、多少別の規定をしておりまして、内国仲裁判断の承認及び執行と外国仲裁判断のそれとの規定を別にしております。内国仲裁判断については、承認及び執行の要件を設け、外国仲裁判断については、ニューヨーク条約に従うという形になっております。
 規定ぶりの点は別として、何か特別に考えるべき点があるかどうかということについて、御指摘いただきたいと思います。

□ そういうことでございますが、何かありますでしょうか。私がお伺いした限り、内国仲裁判断も外国仲裁判断も一律に考えていいのではないだろうかと。おそらくそういう前提で議論なされてきたと思いますが、いや違うんだということがあればおっしゃっていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 これは、要するに司法裁判所以外のところでやったという意味では、それは外国の土地でなされたか、日本の土地でなされたかはほとんど問題にならない。要するに司法裁判所外の判断だという意味では、一律に扱っても一向に構わないような気がしますけれども、そういうことでよろしいでしょうか。

● 先ほど○○委員から御指摘の取消事由の主張の遮断の関係について、それが内国仲裁判断の場合と、外国仲裁判断の場合とで違いがあるかどうか。外国仲裁判断の場合は、外国の取消訴訟というのを予定されているわけですね。その場合について同じ記述でいいのかどうかについては、なお検討しなければいけないのではないかという御指摘があったと思います。

□ それは確かにね。よろしゅうございますか。
 それでは、次に準拠法に入ってしまっていいですか。

○ ちょっとよろしいですか。結論的には、内容の実質としては内外の仲裁判断の問題はほぼ同じ規律でいいと思うんですが、ですから規定ぶりの問題になるのかもしれませんが、先ほど○○委員がおっしゃったことも含めて、外国仲裁判断の承認・執行の場合には、内国仲裁判断には出てこない固有の問題が出てきます。
 例えば、今、事務局がおっしゃった、当該外国で仲裁判断を取り消された場合の承認・執行の問題とか、そういうのは規定ぶりとしては、内国仲裁判断の承認・執行と外国仲裁判断の承認・執行規定と分けて規定しないと、一括に規定すると、内国仲裁判断の承認・執行に関しては、空振りになるという理解でよろしいんでしょうか。

● 空振りになるかどうかというのは規定の仕方ですね。

○ 空振りになる点は、さほど問題ではない。1つは空振りになる問題が生じ得るのかなというのと、もう一つは、ニューヨーク条約の内容の実質を書いて、それが内国仲裁判断にも外国仲裁判断にも適用されるという規定ぶりにした場合に、それはニューヨーク条約の国内履行法として外国から見られるということになるのかどうか。ここがよく分からないのですが。

○ 前提として、国内履行法になるんでしょうか。日本国憲法の解釈としてはよく分からないんですが、条約は法律に優先するという理解が有力なのかなという気がするんですが。ニューヨーク条約加盟国の仲裁判断については、一次的にニューヨーク条約は適用になる、国内にどんな法律があろうと条約適用になると。

○ そこはそれでいいと思うのですが、ただ、ニューヨーク条約は、承認・執行の裁判手続の点は、国内法に委ねているわけです。もともとニューヨーク条約には規定がないと。裁判手続というのは、各国が独自に規定しなければいけない。そこは、ニューヨーク条約が法律に優先するといっても、もともとない事項ですから、やはり問題になるのではないかと思います。

□ おそらく、ニューヨーク条約をそのまま国内法化するためには、内国仲裁判断と外国仲裁判断とを分けて、外国仲裁判断の承認・執行はこうだというのをニューヨーク条約と全く同じ条文をつくってしまえばと思うんです。それなら国内法化したことがはっきりします。
 しかし、それと内国仲裁判断と内容的に全く同じだったら、外国とか内国とか含めないで、ただ仲裁判断の承認・執行はこうだという規定を置けば、それが条約違反にはならないし、条約を国内法化したということがはっきりするのではないだろうかというふうに思っているんですけれども。
 ドイツ法は、非常にはっきりしていまして、条約が直接適用だということを国内法で宣言していますから、そういう行き方もないわけではないんですけれども、日本法の立法の建前は、条約を使うというような法律の規定は多分ほかにないものですから、内容を書き下すという形でいいのではないだろうかと思います。
 ただ、微妙に違うところが出てくることはおっしゃるとおりなので、それはそのときに考えるということでよろしゅうございますか。

【準拠法についての検討項目案について】

□ それでは、いよいよ準拠法の問題なんですが、準拠法は仲裁契約の準拠法と、仲裁契約の方式と、仲裁可能性、それから手続の準拠法と、たくさんあるわけです。
 最初に事務局の方から仲裁契約の準拠法についてお願いいたします。

● それでは、仲裁の準拠法について御説明いたします。
 資料12が準拠法についての検討項目案となっております。この中で、一言お断りがあるんですけれども、前回○○委員の方から仲裁研究会による仲裁法試案の2001年改訂版というのをいただきましたが、今回の資料の作成に当たって、これを十分検討する時間的余裕がなかったために、今回のレジュメでは、依然として平成元年版の条文を記載させていただいております。新しい試案の内容については、議論の中で適宜御紹介いただければ幸いだと思っております。
 それでは、準拠法の説明に入りたいと思います。検討会資料12の冒頭のところにありますように、「前注1」「前注2」のところに書いてありますが、準拠法は仲裁契約が妨訴抗弁として主張される場合、仲裁判断の承認・執行や、仲裁判断の取消しの場合など、さまざまな場面で問題になります。また、準拠法を検討するには、国際私法上の理論的問題、日本の法例との関係等にも配慮しなければなりません。
 準拠法について、どのような事柄を取り上げて、どのように法文化するかということ自体大変難しい問題ですし、議論の仕方についてもいろいろとお考えがあろうと思いますが、第一読会では、今後立案作業をする上での思考の整理をするという意味で、準拠法が問題となる代表的な事項について、実務的な観点を含めて、一通り御議論いただきたいというふうに思っております。よろしくお願いいたします。

□ どうもありがとうございました。それでは、資料12の「I 仲裁契約の準拠法について」の問題から取り上げたいと思います。これについて、もう少し詳しく御説明いただけますでしょうか。

【I 仲裁契約の準拠法について 〜1 仲裁契約について〜】

● それでは、1ページの「I 仲裁契約の準拠法について」というところを御覧ください。
 この問題につきましても、御議論をいただくと収拾がつかなくなるのではないかと思うほど問題がいろいろあると思います。本日は、仲裁契約の準拠法についての規定を設けるべきか否かも含めて、立法するに当たって参考になる御意見をいただきたいと思います。
 1点付言いたしますと、ニューヨーク条約5条1項(a)、モデル法の36条1項(a)(i)というところでは、仲裁判断の承認・執行について当事者の合意が認められない場合には、仲裁地法によるとしておりますが、モデル法の34条の方の(2)項(a)(i)、これは取消しの方ですけれども、仲裁判断取消事由について法廷地法によるという規定になっております。ただ、モデル法上、仲裁判断の取消の裁判の国際裁判管轄は仲裁地にのみ認められていますので、ニューヨーク条約とモデル法の立場は、当事者の合意が認められない場合には仲裁地法によるという立場とまとめて整理することができるのではないかと考えます。
 資料の3ページの下3分の1から4分の1のところに(注)がありまして、仲裁契約締結能力の問題というのがあります。先ほど○○委員の方から御説明があったと思いますが、ここに当たります。

□ どうもありがとうございました。座談会でも、準拠法のところはかんかんがくがく大議論が展開されているところで、これは国際私法学者の最も得意とするところで、私のような手続法学者は非常に不得意とするところなので、○○委員の方から御紹介をいただけますでしょうか。あるいは、お考えを聞かせていただけますでしょうか。

○ 仲裁契約の準拠法決定という問題につきましては、従来の通説、判例は、法例7条の類推適用、あるいは条理というものによりまして、当事者自治が妥当するというふうに考えてきたわけであります。
 その第1段階としては当事者の明示の意思、それがなければ当事者の黙示の意思、黙示の意思も不明のときは、行為地すなわち契約締結地法を準拠法に選ぶというわけでございます。
 仲裁合意の承認について規定をするニューヨーク条約の2条でありますが、ここには仲裁契約準拠法について規定はありませんが、これについては、条約の5条1項(a)の規定から、第1段階として当事者自治、それがないときには仲裁地法が準拠法になるというふうに理解をされております。モデル法36条1項も同じでございます。
 このようなことからすると、仲裁契約の準拠法決定については、第1段階としては、当事者の明示の合意があれば、それを尊重するというところまでは問題なくいいうるかと思われます。
 しかし、仲裁契約について当事者が明示的に準拠法を合意するかと言いますと、これは極めてまれになってきますので、実際上問題は、明示の意思が不明の場合にはどうするのかという点に帰着してまいります。
 これにつきましては、主契約につきまして、明示の準拠法合意がある場合、ない場合、仲裁地の合意がある場合、ない場合など、さまざまな場合が考えられます。
 まず、第一に問題になりますのは、当事者自治という場合に、そこで言う当事者の合意の中に、当事者による黙示の合意を含むかどうかということでございます。
 国内法の解釈上は黙示の意思探求というのが一貫して認められてきたわけですが、ニューヨーク条約の解釈上は相違がございます。
 黙示の準拠法合意も含まれまして、したがって主契約準拠法が指定されておれば、それによって仲裁契約準拠法もまた指定されているといういうふうに理解するものもありますが、しかし、黙示の合意を含まないんだという見解が、むしろ私の見た範囲では有力なようでございます。
 これによりますと、主契約と仲裁契約は目的が違うので、主契約準拠法イコール仲裁契約準拠法とは言えない。主契約準拠法が指定されておっても、仲裁契約準拠法について明示の合意がない以上は、第2段階として仲裁地法が準拠法になるという説明になります。
 日本の国内法の解釈上も黙示の意思探求という作業の中で、主契約準拠法と仲裁地のいずれを重視するのかという点については、必ずしも意見の一致はないように見えます。
 いわゆるリングリングサーカスの事件の最高裁判決では、この場合仲裁地が連結点とされておりまして、従来の学説上は、これと同様の理解を示すものが多かったわけですが、この事件では主契約についても明示の準拠法合意がなかったと。そして、いわゆるクロス式、つまり申立人の方が被申立人の本拠地に出向いて仲裁を申し立てなければいけないという、かなり特殊な合意があったという点が重要でございます。
 クロス式仲裁合意だという特殊性に着目しておる論者からは、むしろ、主契約準拠法について黙示の意思を探求して、それを仲裁契約の準拠法にすべきだったという批判も聞かれるところであります。
 仲裁法改正の座談会では、主契約についての明示の準拠法合意があれば、それが仲裁契約準拠法になるという見解がどうも多かったようでございますけれども、先ほどお話に出ました仲裁法試案の2001年の改訂案では、第1段階として当事者自治、第2段階としては仲裁地。その仲裁地も定まらないという場合には、実体関係の準拠法、つまり主契約の準拠法が仲裁契約の準拠法になるという規定になっておりますので、そこにはいろんな解釈があるのかもしれませんが、仲裁地が主契約準拠法の上に位置づけられているという理解になろうかと思います。
 この点、比較法的に見ましても、当事者による明示の準拠法合意がない場合の扱いについては、いろんな考え方があるようです。スイス法のように、選択的適用を認めて、仲裁契約の有効性を広く認めるものがございますし、あるいはスペインは、明文規定を置いていますが、第1段階として当事者自治、第2段階として主契約の準拠法、第3段階として仲裁地法、第4段階として仲裁契約の締結地法という4段階の連結を取っております。
 むしろ、多くの立法例は、明文規定は大抵置いていないわけですが、仲裁地、主契約準拠法のような要素を重視して、諸般の事情を考慮しながら、客観的連結を行うという扱いを取っておるようです。
 なお、仲裁契約の締結地、あるいは、純然たる法廷地は、主契約準拠法も仲裁地も明らかでない場合の、いわば最後の受け皿としての地位を与えることはもちろん可能なわけですが、仲裁契約と締結地あるいは法廷地とは、通常、十分な関連性を持たないということを考えますと、主契約準拠法や、あるいは仲裁地以上に重視することは難しいんではなかろうかと、基本的にはそのように考えております。
 そうすると、結局、主契約準拠法と仲裁地の優劣について、明示の合意があるかないか、あるいはクロス式の場合はどうかという点を念頭に置きながら考えていくことになろうかと思います。
 個人的には、仲裁判断の執行、あるいは取消しにつきましては、ニューヨーク条約の規定をできるだけ忠実に取り込んでいくのがよろしいと思いますので、この問題につきましても、ニューヨーク条約の規定を尊重しながらある程度解釈の余地を残すようなものであっていいんではないかなという感じを持っております。

□ ちょっと質問ですが、今、主契約準拠法というふうに言われたんですが、試案改訂版では、まず、第1段階が当事者が指定する法律、指定がないときには仲裁地、又は仲裁が行われることが明らかな地の法律、それもない場合には、仲裁の対象となる法律関係に適用されるべき法律と書いてありますが、仲裁の対象となる法律関係に適用されるべき法律というのは、主契約の準拠法と言う意味ですか。

○ もう少し実際には広くなります。つまり、契約関係だけではないわけです。例えば不法行為、あるいは物権といった問題も出てきますので、そういう一般的なことを考えると試案改訂版のような表現になろうかと思いますが、そこで考えられているのは、主として契約の準拠法です。

□ 分かりました。

○ ○○委員に質問してもよろしいでしょうか。私も聞き逃している可能性があるので、もしそうでしたら申し訳ないんですけれども、黙示の合意は含まないという解釈が有力であるという御説明が途中であったかと思うんですが、それはどういう人たちの間で有力なのかということと、どうして明示の合意しかだめで、黙示の合意というのは考慮する余地がないという論拠は何なのかという、2点を教えていただきたいと思います。

□ ニューヨーク条約の解釈上の問題ですね。

○ はい。

○ 私も、たくさん調べたわけではないので、多い少ないは言えないわけですが、私が調べた範囲では、例えばシュロッサーでありますとか、あるいはバンデンベルクといった非常に権威のある人たちは、ニューヨーク条約の解釈としては黙示の意思は入れていかない方が、条約の解釈の明確性という点からはむしろよろしいであろうと。
 とりわけ、バンデンベルク辺りは、主契約の準拠法よりも、やはり仲裁地の方が、仲裁との密接関連性という点では重要だと。そうすると、黙示の意思ということになりますと、やはり主契約の準拠法が出てまいりますので、それよりも文言どおり、明示の合意がある場合でなければすぐに仲裁地法に行くというふうに扱った方がいいんではないかという説明であります。

○ これは、過大な質問かもしれませんが、今、ドイツ以外の英米法の国とか、他の大陸法の国なんかでも同じような議論をされているんでしょうか。

○ そこまでは。

○ 分かりました。

○ ニューヨーク条約の解釈として、黙示の合意を認めないという解釈で、仲裁地法が二次的だとして、仲裁地法が明らかでない場合はどうなるかという点については、何か議論があるんでしょうか。

○ 少し不正確かもしれませんが、その場合は、確か締約国の国内の国際私法に委ねてしまってよろしいという解釈を読んだ記憶があります。

○ 各国が決められる。

○ そうですね。

□ 準拠法について、承認・執行、あるいは取消しのところに仲裁契約が有効に成立しているかどうかという問題になる。そこの箇所に入れるというのであれば、ニューヨーク条約やモデル法にそのまま乗っかれるわけなんですが、そうではなくて、独立に仲裁契約の準拠法というような形で、単独に条文をつくるとなると、うまくできるかなという気もしまして、その点はどう考えたらいいんでしょうか。単独に仲裁契約の準拠法はこれこれだという一条を置くのかどうか、その辺のところは。

○ 私も、よく分からないながら、座長がおっしゃるような疑問を持っておりまして。仲裁契約の準拠法が問題になる局面というのは、さまざまありまして、今の○○委員が御紹介されたニューヨーク条約5条というのは、言うまでもなく外国仲裁判断の承認・執行が問題になる場面に限っての話で、その議論が他のあらゆる局面で一律に妥当するのかしないのかは、にわかに判断がつかない。
 ○○委員に、質問と私の意見を兼ねてということになりますが、かねて私がよく分からないでいるのは、仲裁地を第2基準にするということの意味と妥当性です。
 確かに、古典的なというか、従来型の仲裁を考えていく場合には、第1基準が当事者の合意で第2基準が仲裁地というのは、さほど不自然な感じはしないし、また、現在でも妥当な結論を導ける場合も少なくないんだろうと思います。そこは私も異論はないんです。
 ただ、比率は存じませんが、外国の職業仲裁人なんかと話をしていますと、近年は仲裁地を転々として仲裁を行うケースが少なくない。というのは、大きな国際商事仲裁事件で仲裁人に選ばれる人というのは、大体世界を飛び回っているので、仲裁人の行き先に応じて当事者が付いていって行うというようなことがよく言われます。
 それから、これから電子商取引の問題がいろいろ出てくると、紛争解決も電子上である程度行われてくることが増えてくるんだろうと思いますが、仲裁地という概念がやや抽象化していくと。
 そのときに、考え方によっては、仲裁地と仲裁実施地というのは別だという議論もあり得るかもしれません。ここで言う、準拠法決定基準の仲裁地というのは、仲裁実施地とは違うんだと、これは仲裁実施地が転々としていこうと、一義的に仲裁地は定まるんだという議論は立つかもしれませんが、しかし、現実に当事者が仲裁実施地と別に仲裁地を意識しているかどうかと言われたら、そうではないケースも少なくないんだろうと思うんです。
 そういう場合にも仲裁地というのは第2基準として合理的だということになるんでしょうかという疑問が、質問のような意見のような話ですけれども。

○ 大変難しいところであろうかと思います。仲裁地という概念をどういうふうにとらえるのかというのは、後で仲裁手続の準拠法のところでも、また話をせざるを得ないと思うんですけれども、最近の傾向としては、手続地、あるいは審問地とはまた別の、ここに仲裁の本拠を置くんだというようなものとして仲裁地を構成して、その仲裁地を中心にして、いろいろ難しい問題を整理していくという考え方がおそらく強いと思うんです。
 そうすると、あちこちで手続をするということはおそらく余り障害にはならないのではないかと。当事者がそのような本拠地というべき仲裁地を選ぶということを前提にして、それを中心にして仲裁契約の準拠法もまた定めていくというふうにすれば、分かりやすい話になるかなと。

○ 学者の議論としてはそれでいいと思うんですが、私の疑問は、当事者が仲裁実施地と別に観念上の仲裁地というのを意識しているか、もう少し言うと、これは後から裁判になった場合に、振り返って仲裁地はここだったから準拠法はこうだという議論になるわけです。そのときに当事者にとって不意打ちになるような解釈になりはしないかということを少し危惧しているんです。

○ これは仲裁手続の準拠法で議論がされるんだと思いますが、私の理解は、仲裁地というのは、フィクティシャスなネイチャーだということで、UNCITRALモデル法の作成の段階でもこれは議論されています。
 したがって、仲裁地というのは実際に仲裁手続を行う地とは全く違うものだということは、大体国際仲裁の分野においては、認知されているんだと思います。
 特にODR、オンライン・ディスピュート・リゾリューションの場合では、仲裁地については、そういった性格のものだということで、仲裁法と連結させるための仲介にすぎないんだということで、見解は大体一致していると思うんです。
 そういう概念としてとらえた上で、仲裁地を連結点にもっていくかどうかということを議論しないと、仲裁人がイギリスにいて、フランスにいて、ニューヨークにいたから、仲裁地が3つであるという議論は、もうないと思います。これが私の意見です。
 もう1点は、準拠法の問題については、リングリングサーカス事件が大きく取り上げられていましたので、議論の対象になっていますけれども、国際的に見て、余りこういう仲裁契約の準拠法が仲裁の中で規定されているのは、ないと思います。
 したがって、仲裁に関する準拠法の規定を仲裁法の中でどこまで規定するかという問題については、やはり相当検討の余地があるんだと思います。
 仲裁法試案については、別途準拠法についての規定がありますけれども、ほとんど仲裁法を見ても、準拠法だけ別途規律した仲裁法というのは、ないと思うんです。その辺りで、本当に必要なのかというところは議論する余地があるんではないかなと思います。

● まさにその点をお伺いしたいんですが、リングリングサーカス事件の判断の枠組みが仲裁契約について出ていて、実務上は、今のところ全く不都合はないというふうに伺ってよろしいんでしょうかということについて、○○委員と○○委員に是非伺いたいと思うのですけれども。

□ ○○委員、いかがでしょうか。

○ 私どもは、仲裁契約の準拠法で、実務上はそれほど問題になるということはないんです。
 英国の96年法でシート・オブ・ジ・アービトレーションというのがありますけれども、実際に仲裁が行われるのがどこであろうと、おっしゃったような本籍地のようなもので、問題はないんではないかと思っております。

● リングリングサーカス事件で、当事者自治の問題で、黙示の合意ということになっています。判例が前提とする判断枠組みとしては、第2順位というふうに言っていいのかどうか分かりませんが、黙示の合意もないときに7条2項という形になっていますね。多分、黙示の合意の解釈でほとんどの問題というのは解決されるということを前提にされた構造だと思うのですけれども、そういう構造で今のところ全然問題がないということであれば、別に立法に当たって何か新しく規定を設けなければいけないかどうかというのは、それほど必要性がないということになるんですが、今の御意見は、余り実務上はないだろうと。

○ 実務上は、私どもでは余りございません。

○ 私が最初に○○委員に、黙示の合意はどうしてニューヨーク条約の解釈として入れていないのかというふうに聞いた発想には、今、事務局のおっしゃったことがあって、大体、現在立法がないものですから、我が国の場合で言うと、黙示の合意という概念がフルに機能して、大体すわりのいい解決に落ち着いていることが多いんだろうと思います。立法でわざわざ、第1基準の当事者の合意というのは明示の合意だけだという前提のもとに、第2基準は仲裁地と決めてしまった場合に、当事者は黙示的には、例えば主契約の準拠法だと思っていたケースももちろんあろうかと思うんです。そういった場合に、黙示の合意をフルに働かさないで、第2基準、あるいは第3基準を固めていった場合に、現実に即さないようなケースが出てくるのではないかと。
 むしろ、確かに今の黙示の合意は枠組みとしては不明確なんですが、しかし一般条項的に機能して、すわりのいい回答を導いていくという、そういう点で、明示の合意プラス仲裁地という仕組み方に少し不安を感じるところです。
 もう1つは、○○委員がおっしゃった、仲裁地という概念は、果たして観念上のものとしてだれも争いがないんだという言えるかどうか、私はよく分かりませんが、例えば高桑先生の論文を見ると、これは仲裁手続の準拠法との関係で論じていますけれども、仲裁地という概念は、仲裁判断が下れば、仲裁判断がなされた地だと。そうではない場合には、仲裁判断がされるまでの間に仲裁地が変わることもあり得ることになるが、それはやむを得ないだろうという記述をしておられて、高桑先生のような大家がこういうふうに書いておられるのに争いがないと言い切るのがいいのかどうか、よく私には分からないんです。

○ 今の、仲裁判断地と仲裁地の問題も、いろいろと議論があります。UNCITRALのモデル法を御覧いただいたら分かりますように、31条3項で、仲裁判断を仲裁地でなされたものとみなすという、みなし規定を置いているわけです。そういったことで非常にフィクティシャスな形で仕組まないと、これは回っていかないというのが現実の立法だと思います。
 高桑先生のおっしゃっておられるのも過去にはあったと思いますが、現在の国際的な文献なんかを見たところ、仲裁地の概念として、実際に仲裁手続が行われる地であるということを主張されている外国の学説は、ほとんどないと思います。

□ ○○委員のお考えは、当事者の合意だけでいいということですね。第2基準は置かないでいいと。それは、ニューヨーク条約との関係はどうなるんですか。

○ 2つあり得て、ニューヨーク条約は、先ほど申し上げたように、外国仲裁判断の承認・執行の局面だけですから、そういう規定を置いて、それがニューヨーク条約とは違うとしても、その外国仲裁判断の承認・執行の局面ではニューヨーク条約は上位にありますから、そちらの方が優先的に適用されるということもできますし、また多くの場合には、当事者の黙示の合意として、仲裁地が定まっていれば仲裁地法が準拠法だという解釈はできるでしょうから、矛盾しない場合も多いだろうというふうに思います。
 私は座談会のときには、この資料で言うと(2)の、第1基準は当事者の合意で、第2基準は法廷地という意見を言ったんですけれども、それは黙示の合意を非常に広く認める立場を前提にして、仲裁地も多くの場合には黙示の合意で、当事者が仲裁地の法を仲裁契約の準拠法とするという解釈はできるだろうし、あるいは主契約もできるだろうと。その主契約の方の黙示の合意ができない、つまり主契約の準拠法がよく分からない。仲裁地もよく分からないという場合には、もう法廷地しかないだろうという意味では、第1基準の枠を黙示の合意として非常に広く取って、あとは法廷地しかないというので第2基準という意味で言っているんです。
 ですから、(1)と(2)は、もしかしたら並列に並べるのは望ましくないかもしれない。つまり、(2)は黙示の合意という概念が非常に広くあるのに対して、(1)はおそらく明示の合意しか認めないという立場を前提にしているんでしょうから、並列的に並べられると誤解を招くかもしれないですね。

○ 先ほど、実務的な観点からということでお話がありましたが、私は、実務上そんなに大きな問題が出る問題ではないと思います。
 リングリングサーカス事件は、あれは異例な事件で、要するに法人の締結した契約が法人の代表者に及ぶという極めてまれなケースです。
 したがって、それは実務上、そういったことは含まれないんだということを当事者間で合意をしていないといけないという1つの警告を発したんだと思うんです。リングリングサーカス事件において、アメリカのニューヨーク連邦地裁の判例がありますけれども、あのときには、法廷地法をそのまま適用しただけであって、準拠法の決定については全く考慮していないわけです。
 私もニューヨーク条約の2条の問題について判例を調べましたけれども、法廷地法をそのままずばり適用している国というのは結構あるわけです。
 したがって、仲裁契約の準拠法は、問題になる場面はあるんですけれども、実際上は問題にならないんではないかと思います。問題になったのは、リングリングサーカス事件が唯一であって、それは、当事者が契約するときに、法人代表者は仲裁契約に合意しないんだというものを規定しておくということの注意を喚起したというか、そういうふうなことに留意しないといけないということを判決は言ったんだと、実務としてはとらえた方がいいんだろうと思います。

□ 準拠法の問題は、きりがないのでこの辺で、大体いろいろな議論が出たということにとどめさせていただきたいと思います。
 休憩前に、もう一つ、仲裁契約の方式について少し意見を伺わせていただきたいんですが、これも事務局から御説明をお願いいたします。

【I 仲裁契約の準拠法について 〜2 仲裁契約の方式について〜】

● それでは、検討会資料12の4ページになります。2のところに仲裁契約の方式についてということで記載があります。
 法例第8条のような一般的原則を排して仲裁法の中に規定を設けるべきか否かについて御議論いただきたいと思います。

□ これは、いかがでしょうか。

○ これは、いわゆるUNCITRALのモデル法を採用するということにおいては、UNCITRALモデル法7条に仲裁契約の方式についての規定がございますので、少なくとも日本を仲裁地とする仲裁の仲裁契約の方式については、UNCITRALのモデル法7条の規定が適用されるということで、法例8条の適用はないというふうに理解いたします。

□ これも済みません、○○委員、仲裁契約の方式について少し御説明いただけますか。

○ まず、ここで法例8条という言葉が出てきますので、これはどういうものかと言いますと、契約の方式につきましては、国によっていろいろ相違がありますので、できるだけ国際契約を有効なものにしようということで、契約の準拠法だけではなくて、行為地の法律も選択的に適用して、国際契約をできるだけ方式上有効にしようという規定でございます。
 通常の渉外契約につきましては、基本的にこの考え方が広く受け入れられておりますので、仲裁契約の方式についても、これと異なる扱いをする理由はないというのが、ここで挙げられている(1)説の発想でございます。
 もっとも、仲裁契約と通常の渉外契約との質的な相違からいたしますと、必ずしも両者を同一扱いしなければいけないということにもならないわけですし、そもそもモデル法7条2項の発想は、仲裁契約の方式について、国家間で統一ルールを採用して、法抵触問題自体を克服しようというものでありますから、その点からしても法例8条とは別の法的処理をする余地が多分に出てまいります。
 その場合にも幾つか発想はあるわけですが、まずモデル法は1条に適用範囲の規定を置いておりますが、2項では、7条の2項を除外しておりませんので、方式の規定もほかの規定と同様に仲裁地が国内にある場合に適用されるということが、一応あります。
 では、仲裁地が外国にある場合にはどうであるかというところは、実は余り明らかではありませんで、ドイツ法は適用範囲、あるいは方式の双方についてはモデル法の規定を採用するわけですが、仲裁地が外国にある場合につきましては、解釈問題だというふうに見るようで、この場合ドイツの国内の国際私法の規定を類推適用して、方式準拠法を決めるという解釈が取られておるようです。
 つまり、日本に引き付けて言うと、仲裁地が外国にある場合にだけ法例8条説を取るということでございます。
 モデル法と従来の国内の国際私法とのスムーズな接合を図るものになるんですが、やや適用関係は複雑になるかという問題があるように思います。
 他方、仲裁地が外国にある場合には、仲裁地である外国法によるという考え方もあります。ドイツ法などよりも、どちらかと言うと簡明なルールになるわけですが、この場合にはあえて法例8条と発想の異なる抵触法規則をここでつくるということについて何らかの説明が必要になるという気がいたします。
 最後に仲裁地が外国にある場合にも、内国で仲裁契約の効力が問題になる限りは、常にモデル法7条2項で方式の有効性を判断すればいいという考え方もあります。
 検討会資料の(2)がこの考え方に属するわけですが、これは上に見た考え方とは違って、そもそも連結点による準拠法選択という発想を取らずに、あらゆる仲裁契約について端的に内国法を適用するというものですから、ここでは渉外実質法という呼び方がされるわけであります。
 個人的には、最後の考え方が一番簡明でよいのではないかというふうに考えておりますけれども、この考え方を取って、更にモデル法1条のような適用範囲の規定を置く場合には、おそらく1条2項が定める例外の中に7条2項を書き加えるということになるんではないかと思います。

□ ○○委員の考え方も、抵触法的な処理ではなくて、渉外実質法として、すべての国の仲裁契約について、どこに仲裁地があるかに問わず、方式については日本法を適用するという考え方ですね。

○ いえ、私は違います。仲裁地の渉外実質法規定になる、それは仲裁地法という考え方。

□ そういう考え方ですか。そうすると、何か条文を置かないといけないということですか。

○ 解釈でできなければ、UNCITRALモデル法で今の適用範囲の問題がありますけれども、UNCITRALモデル法は、日本を仲裁地とする仲裁の仲裁契約の方式について7条で規定がされているということですので、日本以外に仲裁地がある仲裁の仲裁契約の準拠法が日本の裁判所で問題となったような場合に、7条がすぐ適用されるわけではないと思うんです。
 ただ、7条の考え方というのは、仲裁地の渉外実質法を方式として適用すべきだという思想だと思うんです。
 したがって、それを一般化すれば、外国が仲裁地の仲裁契約が日本の裁判所の問題になった場合には、仲裁地法を適用して問題を解決すればよろしいというのが私の考え方です。

○ 言葉の問題だけなんですが、○○委員のお考えというのは、よく分かるんですが、それは渉外実質法という呼び方は、多分しないんだと思います。仲裁地法説。

□ ○○委員の説が、渉外実質法説ですね。分かりました。
 方式の点で、ほかにいかがですか。

○ 私は、○○委員がおっしゃった渉外実質法説でよろしかろうと思います。

□ そうすると、条文を1つ置くわけですね。

○ おっしゃるように、1条2項に書き加えるのが一番分かりやすいと言うか、そうしないと、そうならないんでしょうか。

□ 分かりました。よろしいですか。それでは、少し遅くなりましたが、ここで3時50分まで休憩ということにさせていただき、3時50分から再開いたします。

(休 憩)

【I 仲裁契約の準拠法について 〜3 仲裁可能性について〜】

□ 審議を再開したいと思います。
 次は、仲裁可能性の準拠法について御議論いただきたいと思います。
 事務局から御説明をお願いいたします。

● 仲裁可能性の準拠法の問題についても、いろいろと説が分かれているようです。
 ニューヨーク条約とモデル法は条文上は、検討会資料12の5ページの(1)のような規定ぶりになっておりますけれども、我が国の学説上は、(2)のような規定ぶりも有力なようです。法律の立案の参考となるような御意見をいただければと存じます。

□ この点についても、申し訳ないんですが、まず、○○委員から簡単な御説明をいただけますでしょうか。

○ まず、従来の我が国の多数説ですが、仲裁可能性について類型を2つに区別いたしまして、将来の紛争についての仲裁禁止のような、いわば手続法的な観点からの仲裁の可否については仲裁契約の準拠法によると、しかし、独禁法紛争、あるいは身分関係紛争の仲裁の可否のように、実体法律関係の性質に基づくような仲裁禁止は、これは実体準拠法によるんだというふうにしてまいりました。
 もっとも、法律関係の性質に基づく仲裁禁止だということと、実体準拠法の適用がストレートに結び付くかどうかについては、なお説明が要るように思われますし、比較法的にも、今の考え方は余り見られないようでございます。
 これに対しまして、ニューヨーク条約の5条2項(a)の解釈といたしましては、検討会資料の(1)説のように、仲裁可能性が法廷地の司法秩序の維持に関わるということを重視いたしまして、端的に法廷地法の適用を認めるものが増えておるように見えます。ただ、この考え方は、仲裁人が自らの管轄を判断するような局面につきましては、別個の考慮を必要とする。それに加えまして、妨訴抗弁の判断という局面につきましては、仲裁契約の効力が法廷地のいかんによって異なる判断を受けるという問題がございます。
 他方、仲裁可能性が仲裁契約の有効性に関わるというふうに見ますと、それは基本的には仲裁契約の準拠法の適用範囲に属するということになります。仲裁契約の当事者は、仲裁契約の準拠法を、先ほどの議論で出ましたように、自ら選ぶことができるわけですから、仲裁契約準拠法を使っておけば、当事者の予測可能性を害することもないという理屈であります。ただ、この場合にも法廷地の法律の介入を全く排除するということは難しいことになりますので、公序によって限定的な法廷地法介入の余地を認めるか、あるいは、検討会資料にある(2)説のように法廷地法と仲裁契約準拠法の重畳的な適用が主張されることになります。
 これらに対しまして(3)説は、仲裁地で仲裁できる紛争かどうかが問題の核心であるというふうに見まして、端的に仲裁地法によって、仲裁可能性を判断しようということです。仲裁契約準拠法は、実際上は、仲裁地法になることが多いということからいたしますと、仲裁契約準拠法との違いは余り大きくないということが言えるわけですが、この立場では仲裁地が定まっていない場合について別個の取り扱いが必要になろうかと思われます。
 私個人としては、仲裁契約の準拠法説がよいように思っているんですけれども、明文規定を置くところまで十分議論の蓄積があるかということになりますと、むしろ懐疑的でございます。
 仲裁研究会試案の2001年の改訂案は、従来、重畳適用説を取っておったのですが、ここでは規定を置かないという立場に後退しておりますのも、おそらく同様の配慮に基づくものかと思われます。

□ どうもありがとうございました。仲裁可能性の準拠法について、非常に全般的な御説明をいただきましたけれども、その上で何か御意見があれば。
 2001年試案の考え方は、要するにそれについては特別規定は置かないと。ただ、承認・執行要件と取消事由の中には何か入れるんでしょうね。その場合には、法廷地法というニューヨーク条約にあるものを入れておくということだけでよろしいということですね。
 そうすると、妨訴抗弁なんかが問題になった局面ではどういうことになるんでしょうか。つまり、日本に訴えが提起されて、それに対して被告が仲裁契約があるというふうに言って、しかし日本法の立場からはその対象は、仲裁適格があるとかないとか、そういうことが問題になる場合に、それは日本法で判断していいのか、それとも仲裁地が定められているようなときに、そこで判断しなければいけないかというのは、承認・執行のところに法廷地法を入れただけでは、どうも解決できないような気もしますけれども、試案の改訂はそこのところはどういうふうに考えているんでしょうか。

○ そこは解釈に委ねるという判断だと思います。

○ 私は、結論的には、3の仲裁地法だと思いますけれども、1つの理由としては、モデル法の34条の取消事由の中に仲裁地法を採用しているからです。それから、ニューヨーク条約の5条の問題は、仲裁可能性の問題は5条2項(b)の公序に包摂される概念であるという考え方が有力ですし、5条2項(a)の仲裁可能性の準拠法が法廷地法であるからと言って、妨訴抗弁の場合に法廷地法が適用されるというところには直接つながらないと思うんです。
 モデル法で言えば、仲裁地の法律によって仲裁可能性がない場合には、仲裁判断が取り消されるということは、モデル法の考え方というのは、仲裁可能性は仲裁地法によって決すべきだという思想だと思います。
 したがって、仲裁地国の法律によって仲裁可能性を判断すればいいという考え方が、私の結論です。

□ その場合の仲裁地というのは、これはどこかで説明がありましたけれども、それは取消訴訟でしょう。だから、法廷地というのと一緒になるんではないんですか。

○ 取消訴訟は、国際的には仲裁地国が専属的管轄を有するということですから、イコールなんです。

□ だから、仲裁地イコール法廷地ですね。

○ ただ、例えばイギリスを仲裁地とする仲裁判断の妨訴抗弁が日本の裁判所で問題になった場合には、イギリス法を適用して仲裁可能性の有無を決するということだと思います。

□ それは妨訴抗弁でも。

○ はい。そういうのが私の考え方です。

● 今の点について少し質問してよろしいでしょうか。○○委員の御説明ですと、今のような、イギリスに仲裁地があって日本で妨訴抗弁が出てくる場合には、仲裁地法であるイギリス法の規定に従って判断するということですけれども、ニューヨーク条約との関係では、ニューヨーク条約と同じ基準を適用するとそうなるというふうにニューヨーク条約は読めるということになるわけですか。

○ ニューヨーク条約は、妨訴抗弁における仲裁可能性準拠法については規定がないというふうに、私は理解しています。

● ニューヨーク条約の適用場面との整合性については、別の局面であるという理解で説明するということですか。

○ 整合性というのは、先ほどの仲裁契約の準拠法の5条と2条との関係がリンクしてくると思いますけれども、仲裁可能性については、そこと同じ項目にありますが、仲裁可能性については公序の1つとして考えるべきだという考え方が有力な説としてございます。したがって、執行段階での法廷地法の適用が妨訴抗弁における法廷地法にも適用される理由はないと思います。

● ニューヨーク条約が適用される承認・執行の局面とその適用のない妨訴抗弁の局面は、直接の関係はなく、切り分けられるということですね。

○ はい。

□ 公序というのは、法廷地の公序ですか。

○ 妨訴抗弁でも法廷地の公序は、一般の国際私法の考え方として公序が働く場合が出てくると思いますけれども、ずばりニューヨーク条約の公序というのは、執行許否事由に書いてあるわけです。執行許否事由としての公序に仲裁可能性も包摂されるという考え方は、例えばバンデンベルクもそうやって言っていますから、そういう考え方というのは、今有力だと思うんです。
 したがって、仲裁可能性の執行段階での問題と、妨訴抗弁での問題とは全く違うと思います。

○ 一般論として分からないんですが、妨訴抗弁の場合の準拠法と、執行の場合の準拠法が違ったとすると、妨訴抗弁としては認められて訴えは却下されるけれども、執行では有効な仲裁契約と認められなくて執行できない。つまり、日本国では訴えは提起できないし、強制執行もできないという事態が発生し得ることになるんだろうと思うんですが、それはよろしいんですか。

○ そこは、ニューヨーク条約というのは、公序の問題は、5条の2項(b)にございますので、私の理解ですと、5条の1項の(a)で仲裁契約の準拠法の規定がありますが、仲裁契約が有効に成立するためには仲裁可能性がないとだめだということで、仲裁可能性がない場合には、仲裁契約が無効だということで、5条の1項でもってカバーできると思います。

□ 例えば、さっきのロンドンの例で、ロンドンが仲裁地になっていて、そこで仲裁をやるという契約がある。日本にそれが訴訟で出てくると、当然被告の方はロンドンを仲裁地とする仲裁契約があるんではないかというふうに抗弁を出して、訴えの却下を求めます。その仲裁契約の対象となっている事項は、日本法の公序として考えると仲裁適格がない、しかしロンドンでは仲裁適格があるという場合、日本の裁判所は、日本法から見るとこれは仲裁ができないはずだから、訴訟でやりますということが言えるんですか、言えないんですかという質問です。

○ そこは、公序が働くかどうかという問題は、一般の国際私法の考え方として、考えるべきだと思いますけれども、今の妨訴抗弁における公序則の発動というのは、どこまで働くのかという問題は、そこは議論があると思います。
 ただ、妨訴抗弁における公序則と、仲裁判断の執行段階における公序則は全く違うと思います。

□ それで○○委員の質問に入ります。日本が、ロンドンを仲裁地とする仲裁契約は有効だと、だから訴えを却下すると。それで向こうで仲裁をしたと。それを日本で強制執行しようとする場合には、まさに日本の公序に反するということで執行を拒絶すると。

○ 当然拒絶する余地は出てきますね。日本で執行する場合は、執行段階での公序というのは当然チェックが入ると思うんです。妨訴抗弁の公序のチェックとは違うと思うんです。

□ それが、座談会などで盛んに言われているところで、妨訴抗弁でははねておいて、仲裁をやってきなさいと。今度は仲裁で強制執行するときには、これは公序ではねるということになると、一体当事者はどうなるのかということが指摘されているんですけれども。

○ 妨訴抗弁で日本の裁判所が仲裁可能性の有無について判断するということもありますけれども、だからといって必ずしも仲裁判断が日本で強制執行されるということではないと思います。ニューヨークで執行される場合もありますから。それぞれの国の公序に照らして判断されるべきことですから、そこは分けて考えてもおかしくはないと思います。

□ これは、○○委員が座談会で言っておられたところではないでしょうか。

○ 学説として言えと言われれば、3の(2)のような重畳適用説のような考えに近いんですが、解釈としてはいいと。
 しかし立法として置くのがいいかどうかと言われると懐疑的で、仲裁可能性が仲裁契約の問題かどうかという出発点から含めて議論が成熟していないという理解ですので、立法は困難ではないかと思います。

□ 試案の改訂版の立場ですね。分かりました。よろしいですか。

● これについても実務的に、何かこういう記述がなければ困るという形のものはないというふうに伺ってよろしいでしょうか。
 ○○委員が、今、うなずいてくださいましたので、そのように伺っておきたいと思います。

【II 仲裁手続の準拠法について】

□ 分かりました。それでは、次に仲裁手続の準拠法。これがまた非常に難しい問題で、まず事務局からお願いいたします。

● 仲裁手続の準拠法については、検討会資料12の6ページに記載があります。
 仲裁手続については、基本的に当事者の自治が認められるところ、当事者の合意がない部分について国家法により補充したり、当事者の合意がある部分について国家法秩序の観点から制限を加えたりすることがあり得ると考えられますが、そのような国家法をどのように定めるべきなのかというのが、仲裁手続の準拠法の問題だと考えられます。
 これについても、法律の立案に参考となる御意見をいただければと存じます。
 なお、資料7ページ第3段落の「なお」以下に書きましたけれども、ニューヨーク条約は、執行許否事由としてこの点を定めていますが、まずは当事者の合意、それがなければ仲裁地の法律に従っていたかどうかを問題としており、ここでいう当事者の合意が6ページの2のような考え方を示すものか否かは必ずしも明確ではないようです。
 ニューヨーク条約のような規定の在り方の適否も含めまして、御議論いただきたいと思います。

□ この問題につきましても、申し訳ないんですが、また○○委員にざっと御説明をいただけますでしょうか。

○ 検討会の資料の方に要領よくまとめていただいておりますように、ここでは、仲裁地法の属地的適用だけでいいのか、それともそれに優先するものとして当事者による仲裁手続準拠法の指定を許しておく必要があるのかが問題になります。
 この点につきまして、従来の通説は、仲裁の自治的性格を強調しまして、当事者自治を認めておりました。解釈論としては、条理ないしは法例7条の類推という形になります。立法例としては、フランスの民訴はこの立場を取っております。
 これに対しまして、モデル法1条2項は、8条、裁判所による仲裁付託命令、9条、保全措置及び35、36条の承認・執行ですが、これを除いて、モデル法の規定は、仲裁地が内国にあるときに適用されるというふうに規定をいたしました。
 そのため、ドイツ、韓国、英国を始め、モデル法採用国の多くは、同様に仲裁地法の属地的適用を明文で定めるに至っております。
 ただ、現実には仲裁手続の準拠法が独立に指定されるということは余り考えられませんので、当事者自治説におきましても、通常は仲裁地を最重要要素といたしまして、黙示の意思探求を行い、結論的には仲裁地法を手続準拠法と見るということになります。
 したがって、両説の差異が出る局面はかなり限定されるわけでありまして、例えば日本が仲裁地であるときに、外国法を手続準拠法として合意する可能性を当事者に認めておく必要が果たしてあるのかないのかといった点に帰着するものと思われます。
 これを考えるに当たりましては、議論の前提となる仲裁地という概念の中身につきましても押さえておく必要があろうかと思います。
 これは、仲裁手続に対する裁判所の援助、あるいは取消訴訟の管轄問題とも関連する論点ということになります。従来は、現実に仲裁手続が行われる地をもって、仲裁地と呼ぶことが多かったわけであります。
 先ほど少しお話が出ましたように、高桑先生のお考えなどもむしろ従来型の仲裁地概念に基づいているということになります。
 これに対しまして、先ほど○○委員からの方から御説明がありましたように、最近では、審問地とは全く異なるような場所を仲裁地とする。つまり、当事者がいわば虚構的な仲裁地を選ぶということも認められるようになってまいりました。モデル法20条もおそらくこれを前提にしているというように考えられます。
 そうすると、例えば、スポーツ仲裁の場合のように、日本で審問手続が行われるんだけれども、仲裁地はあくまでスイスのローザンヌであって、仲裁手続の準拠法はスイス法であって、取消訴訟はスイスが管轄するということがあり得るわけであります。
 このような、いわば虚構的な仲裁地の選択可能性を前提として、仲裁地法の属地適用を認めるということは、結果として見れば、仲裁手続準拠法について当事者の自治を認めるということとほとんど変わらないわけですし、当事者自治という視点から説明した方が理論的にはすっきりするんではないかと個人的には考えておるんですけれども、仲裁地法説の基本的な発想としては、裁判の場合に法廷地は選べるけれども、法廷地法は選べないのと同じように、仲裁地は選べても、仲裁手続準拠法はそもそも選択することができないんだという考え方がどうも強くあるようでございます。
 また、仲裁法が整備された段階で、日本を仲裁地としながら外国法を仲裁手続準拠法として指定することを認める実益がどれほどあるか。あるいは、仲裁法の適用範囲の明確性といった点も、おそらく仲裁地法説を支持する論拠になり得ると思います。

□ どうもありがとうございました。日本を仲裁地としながら外国仲裁手続法を準拠法とする実益ということを言われましたけれども、例えば、イギリスの会社が日本で仲裁をやると。彼らにとっては、なじみの深いのはイギリス仲裁法だという場合に、イギリス仲裁法に準拠して日本で仲裁をやるというようなことがあり得ると思うんです。
 この場合に、手続準拠法としてイギリス仲裁法を指定するのか、あるいは実質法的な指定であるという意味で、そこまでの当事者自治を許すのかという2つの行き方があると思うんです。
 私は、仲裁地法を属地的な規定としても、実質法的な意味での当事者の自治は認められるんだろうと思うんです。つまり、属地法ですから、日本の仲裁法が適用される。だから、日本の仲裁法の強行規定に反することはもちろんできないけれども、例えば手続をUNCITRAL仲裁規則でやるということができると同じように、ワンセットでイギリスの仲裁法を適用するというのは、実質法的な意味での指定はあり得ると思うんです。
 だから、そこまで認めておけば、仲裁準拠法を全部丸ごと日本の仲裁法を排除してしまって、全部イギリス仲裁法でやるという実益は、余りないのではないだろうかというふうに思っています。
 もし、仲裁地法というふうに考えても、そういう実質法的な指定ができるという解釈ならば、そちらの方が簡明かというふうに思っていますけれども、この点は、○○委員は違う考えでしょうか。

○ いや、私は不勉強で、質問自体が失当であればお許しいただきたいんでけれども、仲裁手続の準拠法を当事者が指定するというのと、他国法を実質法として当事者が指定するというのは何が違うんでしょうか。

□ 他国法を仲裁手続として準拠法的な、抵触法的なという意味で指定すれば、その他国法しか手続の準拠法がないわけです。だから、日本法は登場する余地がない。
 でも、実質法的な指定だったら、仲裁地法が日本だということになれば、その強行規定はそこに乗っかってくる。そこのところが違うと思います。

○ 学説はいろいろ議論があるかと思いますけれども、実際の立法例を見ますと、先ほど○○委員もおっしゃいましたが、イギリスもそうです。UNCITRALモデル法もそうですが、大体主たる国は、仲裁地という抽象的な概念で適用範囲を決めているわけです。
 したがって、仲裁地を指定することによって、当事者は準拠法を決定することができるんだという考え方は、私はほぼ世界的に一致しているんだと思います。
 ドイツにしても、従前は、例えばフランス法を準拠法として、ドイツを仲裁地とするというのが認められましたけれども、改正によって、ドイツを仲裁地とする仲裁においては、ドイツ法が適用されるという形で考え方を変えたわけです。UNCITRALモデル法の考え方に変えたと。そういった考え方というのは、大体諸外国みんな同じような考えと思います。
 そういった世界的なハーモナイゼーションを見れば、仲裁地を基準として仲裁手続の準拠法が決まるんだという考え方を取らないと、手続の準拠法について抵触関係が生じてしまうという問題がありますので、これも仲裁地を基準にするということは大前提だと思います。
 付言させていただきますと、仲裁地を選択することによって、議論がありましたように、ロンドンを仲裁地とすればイギリスの仲裁法が適用されるわけですが、東京で審問をやりたければ、そのように書けばいいわけで、例えばモデル法の20条でも、仲裁地というのは、当事者の合意がなければ仲裁人が決める。2項で、当事者が別段の合意をすれば、仲裁地以外で審問を行うことができると書いてあるわけですので、したがって、審問地は東京だと、仲裁地はロンドンだというふうにすれば、当該仲裁手続に適用されるのはイギリス仲裁法であって、物理的な審問を行うのは東京だというような仲裁は可能だと思います。

□ おっしゃる意味は分かりますけれども、仲裁地の効果にいろいろなものがありまして、仲裁地と定めることによって、外国仲裁判断の承認・執行にニューヨーク条約が適用されるかどうかというのが1つあります。
 今、手続準拠法もそれに連動するとなれば、仲裁地が定まると手続準拠法も定まる。
 もう1つ、取消訴訟も仲裁地というものに連動させている。
 援助の問題も仲裁地、仲裁をする具体的な地ではなくて、仲裁地だと思うんです。
 そういういろいろな効果があって、当事者が準拠法を選択しようと思って仲裁地を選ぶのか、あるいは外国仲裁判断の承認・執行のニューヨーク条約の適用を求めて、あるいはそれを回避するために求めるのか、ねらっていることが完全に一致するわけではないものですから、仲裁地を仲裁手続の準拠法としてしまっていいのかという問題だと思います。

○ 今の点は、おそらくニューヨーク条約の適用の関係、あるいは自分がやりたい仲裁手続法、一番望ましい仲裁手続法を持っている国に仲裁地を置いて、かつニューヨーク条約の締約国であるかどうかもチェックをした上で仲裁地を選択するというのが当事者により通常行われていることだと思うんです。

○ いずれにしても仲裁地が非常に大きな要素を持つという点は、1も2も変わらないし、私も別にそこに異論があるわけではないんですけれども。先ほど座長がおっしゃったような形で仕切れるとすれば、手続準拠法を指定するか、他国法を実質法として指定するかで、強行規定の点が違うということですが、それ以外はほとんど同じことになるわけですね。ですから、大した差はない。
 そういう意味では、余り詰めた議論をする必要はないのかもしれませんが、私が個人的に気になるのは、実務的にそんなに意味があるかどうかしれませんが、座談会などで申し上げたのは、手続に関して国籍というのが本当に必要なのかどうかという問題です。要するに無国籍仲裁というのは日本法は認めないという宣言を立法でしてしまっていいのかどうかと。

□ ニューヨーク条約を取っている限り、無国籍仲裁というのはないんではないですか。つまり、外国仲裁判断かどうかということを判断するという。

○ 承認・執行が問題になれば、そうですが、承認・執行が問題にならない事件が圧倒的に多いわけです。任意履行で終わったり、あるいは確認的な仲裁であればそもそも執行判決は要らないと。そういうときに、仲裁手続は必ず国籍を背負わなければいけないかと。
 私ももちろんそういうニーズがどのぐらいあるかはよく知らないんですが、しかし、近年ではそういう議論もされているようですけれども、いかがでしょうか。

○ アナショナル・アウォードというのは、20年ぐらい前によく議論されて、私はこの議論は終わったと思うんです。結局、問題は、フランスで80年代に、仲裁判断取消の管轄権はうちにはないというふうにしてしまって、無国籍仲裁というのをいろいろ学者等が議論されました。
 しかしその後、フランスは法律を変えて、フランスはどこの準拠法でも結構だと、国際仲裁について取消しの手続は、フランスが仲裁地である限りは、フランスがすべてそこはコントロールするというふうに変えたわけです。
 したがって、私は今は、もう無国籍仲裁判断はないと思うんです。あるとすれば、ICSID(事務局注:投資紛争解決国際センター)だとか、国際法上設立された特殊な仲裁においては、取消訴訟はないですし、出るとすれば、執行段階で初めて裁判所の関与が生じると、選任についても、ICSIDの仲裁では仲裁人選定で裁判所が関与することもないというように、国際法上の条約に基づいたものしかないと思います。
 フランスは、非常にリベラルな国で、仲裁判断の取消しに対しては、一旦管轄なしというふうにしましたが、その後変えて、やはりフランスを仲裁地とする仲裁においては、フランス国が定める取消事由がある限り、取消しができるんだということでもって、やはり仲裁地国は責任を持って仲裁判断というものをコントロールすべきだという考え方に変えたんです。
 私は、アナショナル・アウォードという考え方はないと思います。

○ 今、ICSIDの例を出されましたけれども、これが実際に問題になり得るのは、当事者の一方が国家のような場合だと思うんです。そういうときに手続に国籍があるというのは、いかにも奇妙な気がしますけれども。

□ 国籍というとあれなんですけれども、私の言っているのは、仲裁地という概念はあってもいいんではないかという意味です。

○ それは、仲裁地の法が手続準拠法だという前提があってのお話ですね。私は、手続には特定の国家法というものが必ずかぶらなければいけないとは言えないんではないかと、先ほどの○○委員の説明を聞いても。

○ その点については、最近は、ベルギーもそうしましたけれども、要するにエクスクルージョン・アグリーメントというものがあります。仲裁判断取消しの訴えについては、当事者が排除して、できないことにするという合意を認めている国は、例えばスイスがあります。ベルギーも当事者が合意すればできると。それはある種の無国籍仲裁です。自分たちは、国家手続によらなくてもいいと。仲裁判断の結果が出たとしても取消しができないんです。そういったものは無国籍だという人もいます。
 そういった仲裁判断というものは、今でも国の法制によってはできるわけです。そういったことを当事者が望めば、そこに仲裁地をもっていけばいいわけです。そこで排除合意をして仲裁をすれば、仲裁判断が取消されることは全くないという意味においては無国籍になるわけです。
 だから、国籍というのを観念する場合に、仲裁の国籍というものは何かというところを突き詰めて考えると、私は仲裁判断が最終的に取消しの対象になるかどうかというところになってくるのではないかと思っております。

○ ちょっと議論がかみ合っていないです。○○委員はさっきから判断の国籍、私は手続の国籍を言っているので、判断に至らない段階で国籍が問題になるのはおかしいという局面があるんではないかという意味で言っているんですけれども。

● 無国籍仲裁というのは、前から出ているのですが、手続の中で、仲裁可能性だとか、妨訴抗弁だとか、いろんな形で無国籍仲裁が問題になり得る場面というのは、ずっと出てくると思うんです。
 その場合に、どういう形の規定にするかという。

○ いやいや、私は正面から無国籍仲裁を認める規定を置けなんてことは全く言っていなくて、おそらく比較法的にも仲裁手続準拠法に関する記述を一般的に置く例は余りないと思うんです。執行の局面とか何かではあっても。
 一般的にも置くと、日本の法律は、仲裁手続には必ず国籍があるという前提を取っているという宣言になるかもしれないんですけれども、いいんですかということです。

【III その他】

□ 分かりました。議論は尽きないと思いますけれども、少し先に行きまして、資料の12のところで「III その他」というところに「その他仲裁の準拠法について論ずべき事項があるか」というのがありますが、これはいかがでしょうか。仲裁判断の具体的内容ということは、準拠法として書く必要はないだろうという前提ですけれども、よろしゅうございますか。

【その他の事項についての検討項目案について】

□ それでは、次に進みましょう。資料13のその他ということで、いろいろなものがここに入っていますが、まず、仲裁の公開・非公開の問題でございます。
 これは、事務局から御説明いただきたいと思います。

【I 仲裁の非公開性について】

● 検討会資料13の1ページから2ページにかけて御覧ください。
 仲裁のメリットの1つとして、その非公開性があるとされております。非公開の場面も、おそらくすべてが非公開であるということが前提とされているという理解でよろしいかと思います。
 この点に関しまして、仲裁手続、仲裁判断、あるいは仲裁関係書類を含む事件記録等について、実務の状況を踏まえて御確認いただければと存じます。
 それとともに、仲裁判断を中心としたお話になるかと思いますが、非公開の例外について、どのように考えるかについて御議論をお願いいたします。

□ 以上のようなプレゼンテーションですけれども、何か公開・非公開のことについて御意見があれば承りたいと思います。

○ 私は、この非公開の問題は、2つに分けて考えるべきだと思います。仲裁の非公開という、いわゆる審問に第三者が入れないという非公開と、仲裁手続で開示される情報に対する守秘義務という問題を分けて議論を整理すべきだと思います。
 おそらく、これは表裏一体の関係に立つのかもしれませんが、国際的には、仲裁手続が非公開であるというものが法理として認められておりますけれども、最近はこの守秘義務に関してかなり例外を認めるべきだという議論がございますので、したがって、仲裁の非公開とここで言っているのは、第三者が仲裁手続に入れないんだということだとすれば、その裏として、仲裁手続に関する情報に対する当事者等の守秘義務についての規定をどうするかという問題の2つがあるというふうに考えております。

□ 分かりました。後の方の、守秘義務の緩和というのは、どういうことでしょうか。

○ 守秘義務については、私は結論的には、守秘義務を立法で手当てするのは非常に難しいのではないかと思うんです。
 イギリスの立法例も見ましたが、さんざん議論したけれども、どこまで例外を認めるべきかという線引きが非常に難しいということで、仲裁手続に関する守秘義務については規定を設けなかったということがございます。したがって、これは大問題だというふうに思っております。
 ただし、仲裁手続が非公開であるということは、世界的に認められていることなので、これは法文上書けるんだと思いますが、書かなくてもこれは一般的に認められたものなので、必要はないかなと思います。

○ あるいはこれは特則かも分かりませんが。世界中で認められている原則だと言われれば、そうかなと思うんですが。例えば、国内仲裁で、消費者と企業が、裁判手続では費用等の面でペイしないので、仲裁手続を構成して紛争解決をするというようなことを考えたときに、問題になるのは、これはもちろんデフォルトのルールですので、公開や非公開について争いがある場合だと思うので、仮に消費者側が公開を求めて、企業側は非公開を望むというような場合に、果たしてデフォルトルールとして、国家が非公開なんだということを書いてしまっていいのかどうかということについて、私はやや疑義があります。
 そういう場合は、私は最終的には仲裁人の判断によるということがあってもいいのかなと。つまり、一般の手続の問題として、当事者の合意がなければ仲裁人の判断によるということでもいいのかなというふうに思いまして、もちろん機関仲裁では、ほとんど非公開というふうに書かれてあるんだろうと思うので、デフォルトルールが働く場合というのは、極めて限定的な場合だろうと思いますけれども、最終的に既判力を生じるような判断がなされる場が非公開であるべきだと国家が宣言すべきかどうかということについては、私は疑義を持っております。

□ そうすると、仲裁のメリットというふうに盛んに言われているけれども、場合によっては公開するというふうに仲裁人に決められると公開になることがあると。

○ 両当事者がそれをメリットだと感じていれば、当然、非公開にできるわけですね。

□ 一方は公開してほしいと。しかし、企業側は、絶対に非公開だという場合に、非公開だと思って仲裁を選んだけれども、そうならないこともあるということですね、今のお考えは。
 消費者の問題に限定するんでしょうか、そうではなくて一般的にそういうことで。

○ 実質的に問題があるのは、消費者の場合であると思いますが。

○ ○○委員がおっしゃったことと同じことを言うのか、違うことを言うのか分かりませんけれども、座談会でも今から言うようなことを言ったと思いますが、結論的には、○○委員の結論に賛成で、先ほど言いましたように、一般に常設仲裁機関は非公開をうたっていると思いますが、しかし、法律で非公開を定める必要はないことです。これから、仮に仲裁が発達していった場合に、ある特定の仲裁機関が、うちは公開ですと、非公開でのメリットはないですけれども、その代わり予測可能性とか、審理の透明性とかは高いですということを売りものにする機関が出てきたって構わない。それは、自由競争に任せればいいと思います。法律で非公開でなければいけないと決める必要はないと。

□ この点は、機関仲裁の方はいかがですか、○○委員、○○委員。

○ 機関の場合には、今、御意見が出ていましたように、非公開ということを書いていますので、手続については、非公開は当然だと、○○委員がおっしゃったように、世界的にメリットとされているというのがありますけれども。
 やはり問題があるのは、今のような、機関でない場合だろうと思います。

○ 私は、仲裁は本質的に、AさんとBさんが仲裁合意をして、Cさんという仲裁人を選んで、そこで紛争解決をするわけです。例えば、この部屋で仲裁をやると。その中に部外者が出てくるということは、まずあり得ないと思うんです。仲裁というのはそういうものですから。したがって、さっきの議論の中で、仲裁判断を公開するべきか、しないべきかというところはまた別ですけれども、仲裁手続の中に部外者が入ってくるということは、仲裁の本質からしてあり得ない話だと思うんです。
 したがって、規則で書いていないところも結構ございます。だからといって、第三者が入って来た場合に、それを拒むことはできます。

□ 一般公開というんではなくて、関係人公開ですかね。

○ 私も今おっしゃったのは少し違うのではないかと思います。確かに一般人が傍聴するというのは考えにくいですけれども、問題は、仲裁合意の当事者ではなくても、強い利害関係を持っている者をかませるという手続はあり得るんだろうと思います。かませるというのは、傍聴だけであれ、事実上意見陳述を認めるのであれ、いろいろ話としてはあり得る。

● 先ほどの○○委員の説明であれば、非常に重要な問題であるから、今日は新聞記者に来てもらうことにしたと、一緒に入れて審問したいと。まさに問題になるのは、そういうことですね。

○ そういう場合もあるでしょうね。

● そういうものを一応認めるという前提で、相手方が嫌だと言っている場合でも認めるという前提にするのかどうかということだと思います。

□ それは、仲裁人の判断に任せるということですね。

○ やはり、弁護士会のものも、手続としては、非公開というのを規則に書いてありますね。
 ですから、今、○○委員がおっしゃったような場合に、確かに法律で禁止してしまうと、この件は、特に仲裁人が関与させてもいいかなというときまでだめにしてしまうのはいかがかと、こういう趣旨なんですかね。
 実は、余りそれは考えたことがなかったので、問題提起としてはおもしろいと思いますけれども、通常は私も○○委員の言うとおり、ほとんど仲裁というのは頭から非公開と、少なくとも手続に関しては。後に仲裁判断についてはまた出てくるでしょうけれども、手続については、そういう頭がありましたけれども。

○ 建設工事紛争審査会については、この資料の2ページの真ん中辺で、建設業法の25条の20の規定を引いていただいているんですけれども、「公開しない」と書いた上で「審査会は、相当と認める者に傍聴を許すことができる」というふうな規定を置いております。
 実例としまして、当事者あるいは仲裁人の弁護士事務所で修習している司法修習生ですとか、あるいはアメリカからロースクールの学生が来て傍聴を許したという例があるようでございますけれども、いずれも、許可する場合には、委員の方から当事者に了解を求めるというふうにいたしましてやっておりますので、当事者が反対の意思を表示しているのに傍聴を許可するという運用は、していないというのが実態でございます。
 ちなみに、条文では調停・仲裁だけ書いてありますが、審査会では、あっせんの手続もございまして、同様に非公開ということで運用しております。立法においてどういう考え方なのかよく分かりませんが、全部非公開というのが原則です。

○ いずれにしても、当事者が嫌だと言っているのに、仲裁人の権限で公開というのは、まず無理ではないかと思いますけれども、そういう規定を置いていいものかどうか。

□ 今の建設業法の規定は、「審査会は、相当と認める者に傍聴を許すことができる」という、この字面だけから見ると、両当事者の合意があるかどうかは問わないという書きぶりにはなっていますね。

○ 今、御紹介のあった建設業法25条の20にしても、公害紛争処理法の方にしても、調停・仲裁の手続は公開しないという書き方をなされていたと思いますが、「公開しない」の意味は、「公開しなくてよい」ではなくて、「公開してはいけない」という趣旨だと解されていると思うんです。
 そういうふうに書くことまでが仲裁手続の本質にかなうのかというと議論の余地はあると思うんですけれども、先ほど○○委員がおっしゃっていたような仲裁の本来の私的な性格ということから考えれば、少なくとも公開しなければならないという要請はないように思うんです。
 そうしますと、何も規定しないというのであれば、それは1つの在り方だと思うんですけれども、何か規定を置くという場合に、行政ADRならまだしも、一般的な仲裁法という中で、当事者の合意の有無を問わずに、相当と認めたら公開できると書いてしまっていいかというと、そこは疑問があるように思います。
 今、仲裁手続の公開の規定のことがずっと問題になっておりまして、まだ仲裁判断の公開の問題については御議論が出ていなくて、それぞれ御意見がおありではないかと思うんですけれども、私の意見を申し上げますと、仲裁手続について仮に公開しない等の規定を置くとしても、仲裁判断のところは別に考えるべきではないかなという気がいたしております。仲裁手続の非公開性の規定を置く趣旨としては、その方が審理が円滑に進むし、一方、憲法上の公開の要請のようなものもないといった辺りから説明されているように思いますが、仲裁の審理が終わって、仲裁判断がされた後ということになってまいりますと、今度は、仲裁の判断というものに対する一般的な信頼なり理解の確保ですとか、先例としての意義といったところが前面に出てまいりますので、そこのところは、もう少し公開について広めに考えてもいいのではないのかなと思います。
 今、行政のADRについては、その点については何も規定を置いていないということになるのではないかと思いますが、規定を置いていない以上、相当と認めるときは、公開もできるという理解ではないかと、私は理解しておりました。
 この点は、問題提起がされておりましたので、あえて申し上げますけれども、下手に公開してはいけないというような規定を、仲裁法の中で仲裁判断について置いてしまいますと、従前公開を禁じない趣旨で何も規定を置いていなかった行政ADR法にも影響してしまうのではないかという感じを少し持ちましたので、問題提起として申し上げます。

□ 分かりました。この辺はよろしいですか。もう少し詰めますか。○○委員の考え方は、規定を置かなくて当然だというお考えですね。公開しないという規定を置かないと。

○ 世界的に見ても、カナダのブリティッシュ・コロンビア州国際商事仲裁法ぐらいしか規定がないと思います。

□ ○○委員も公開に関する規定を置かないと。

○ 趣旨は違いますが、結論は同じです。規定は置かなくていいのではないかと。

● 1点確認させていただきたいんですが、今の御議論は、純粋に公開というお話なのか、あるいは相当と認められる者の範囲には傍聴を許して、傍聴を認められた者も守秘義務は負うというようなとらえ方でよろしいのか。それともそうではなく、本当に公開として、その場で得た情報は一般にも再伝達していいという意味まで含んだ公開という話なのか。

○ 今の御質問は、守秘義務が当然に掛かるという前提ですが、私はそこにもやや疑問を持っています。
 常設仲裁機関でルールがあって、守秘義務を課しているのであれば、それは契約上で課されて、傍聴が認められた場合にもかぶるということが言えるんだろうと思うのですが、アドホックの場合に、そういう規定とか、あるいは個別の契約なしに認められる場合にも、当事者について守秘義務というのは掛かるんだろうかと、つまり、国家法として守秘義務を掛けることができるのかということについては、言論の自由との関係でかなり難しいという気がしております。

○ 先生が今おっしゃったのは、当事者に対する守秘義務なんですか。仲裁人の守秘義務は当然前提で。

○ 仲裁人は、任務を負っているわけですから、当然守秘義務はあるだろうと思います。

□ 難しいんでしょうね。訴訟だってそうでしょう。訴訟の当事者というのは、守秘義務はありますか。

○ 当事者で、実は弁護士会で問題になりかけたのがありまして、銀行と消費者との事案で、消費者の方に有利な判断が出まして、その人が、ほかにも同じような被害を受けた人がいるかもしれないというので、その結果をインターネットに載せていいかと、事務局の方に問い合わせがありまして、その仲裁はお互いに公開しないという前提での仲裁だったものですから、事務局としては問題がありますということで、とりあえずお引き取り願いました。ただ、その後に実際に載ったかどうかフォローはしていないんですけれども。
 今のお話で思ったのは、当事者の守秘義務みたいなことをどこまでかぶせていくというのは、後の方で出てくると思いますが、刑罰法規まで仮に置くかどうかとなると、かなり複雑な問題になってくるという感じがするんです。

● ○○委員がJCAジャーナルで書かれたもので、当事者の守秘義務が問題となっていて、それが仲裁合意の解除原因になるかならないかということが争われていて、信義則上の著しい違反には当たらないということで、スウェーデンの最高裁が、それは当たらないということで、損害賠償にとどまるんだという判示があったと思うんです。当事者にも守秘義務は一応かかっているが、違反しても損害賠償にとどまるというふうに考えるのが一般的なのかと思っていたのですが、今のお話を聞くと、必ずしもそうではないと。

○ ストックホルムの控訴院の判決を今おっしゃられたと思うんですけれども、最高裁は、結局守秘義務がないというふうに判決したんです。
 要するに、仲裁手続で出された仲裁人の決定を、一方の当事者がアメリカの雑誌に公表したわけです。それに対して、相手方当事者が、それはとんでもないと、仲裁契約違反だということで、仲裁契約の解除を求めたわけですけれども、結論的には、確か、スウェーデンの最高裁は、当事者に守秘義務はないんだという結論を下したんだと思います。したがって、それは許されると。

□ よろしいですか。仲裁判断の公開の問題についてはどうでしょうか。
 日本海運集会所はいかがですか。

○ 今、仲裁判断の両当事者が反対の意思表示をあらかじめしない限り、公表しています。たまにどうしても出してくれるなというのがありますけれども、ほとんどのものが公表されております。
 ただし、先ほど申し上げたように72年からは、当事者名その他固有名詞を載せないと。ただ船名まで載せないのはどうかというので、船名だけは載っています。ですから、知る人ぞ知るで、船名から当事者名を推定できます。
 アメリカのニューヨークの海事仲裁機関などではフルに公表しています。
 ロンドンでは、割に詳しく、ただしその場合も固有名詞を入れずに紹介しております。あと、海事関連というのは、割に似たようなタイプのがあるので、多分ほかの人に参考になるということもあるんだろうと思っております。

□ 分かりました。一般に手続について、公開の規定を置くか置かないかがこれだけ議論がありますけれども、仮に何かの規定を置くとすれば、仲裁判断については、現在の実務がそれによって変更させられるようなことにはならないような規定ぶりを考えたいと、その辺のところでよろしいですか。

○ 弁護士会も同じように、研究目的のために結果を開示するということは、例えば二弁などでは規則の中に入っています。それは有益な面もあろうかと思いますので、今おっしゃったことでお願いしたいと思います。

□ 分かりました。それでは、少し先を急ぎますが、次は仲裁費用と仲裁人の報酬についての問題を取り上げたいと思います。これも、まず事務局から御説明をお願いします。

【II 仲裁費用及び仲裁人の報酬について】

● 費用の問題につきましては、モデル法には規定はございませんが、実務上は重要な問題ではないかと思われますので、挙げてみました。
 議論していただきたい点は、検討会資料13の2ページの下から3ページにかけて記載したとおりでございます。多少詳しくなっておりますが、基本的には費用としてどういうものを想定するか、額や負担者をどう決めるか、予納の在り方をどうするかといった問題です。
 これらを当事者の合意によって定めるか、合意がない場合あるいは当事者から授権がある場合には仲裁廷が決定するということでよいか。決定主体の問題についても併せて検討する必要がありますので御議論をお願いします。
 予納がない場合の手続の進行をどうするかといった点や、費用の決定に対して不服申立てをどうするかといった点も問題になります。
 仲裁人の報酬については、これを費用に含めるかどうかは別途議論の余地があるかと思いますが、お手盛り防止といった配慮も必要かと思います。
 本日は、詳しい御議論や、まとまったお話は難しいかと思いますが、大まかな御議論をいただければと思います。
 以上でございます。

□ どうもありがとうございました。仲裁法に、こういう何らかの規定を置く必要があるかどうかということについて、まず御意見を賜わりたいと思いますが、これはいかがでしょうか。

○ 結論から言うと、置く必要があると思います。モデル法にはございませんが、近年モデル法を採用した国は、私の知る限りでは、ほぼ例外なく、規定を置く例が増えてきていると思いますので、ニーズは高いのだろうと思います。

□ 常設仲裁機関の方々も仲裁法にそういう規定を置くということ自身はよろしいですか。

○ 特に反対はありません。

○ 特にアドホック仲裁では必要になることだと思います。

□ 分かりました。

○ 当然ながら、機関仲裁の費用の定め方とは抵触しないような形での規定ですね。

● 基本的には、デフォルト規定という形になりますので、機関仲裁で当事者が合意していれば、規定は適用にならないという形になると思います。

□ そうすると、具体的な内容は、検討対象事項として3ページに1から4まで書いてありますが、このようなことでいいのか、更にもう少し何か、これが抜けているということがあればおっしゃっていただければと思いますが。これはかなり細かなところまで資料で準備していただいておりますので、私の見る限りは、全部尽きているんではないかと思って読んできたんですけれども、何か。

● 今、デフォルト規定というふうに、大まかに説明してしまったんですが、仲裁人の報酬について、それが不相当だった場合に、裁判所に対して何らかの不服申立てができるかどうかということを規定した場合には、それはデフォルト規定というよりも、強行規定的な意味合いを持つのかなという感じがします。それはまた別個の問題かなと思います。原則的には、デフォルト規定になるかと思います。

□ 特に4です。「仲裁廷の費用についての決定に対する不服申立て」というふうに書いてありますが、こういう規定を置く必要があるかどうかというのは問題になるのかもしれません。しかし、そういう規定を置いている国はあるわけです。

● 費用と報酬を一緒にした方がいいのか、それを分けて考えた方がいいのかというのは、1つ問題があるのかなと思っています。
 費用というのは、当事者同士でどちらかが負担しなければいけないという問題なので、仲裁判断書と一緒に示しておけば、後でそれを取り立てるということが考えられると思うのですが、報酬の問題というのは、仲裁人と当事者との問題なので、ほかの費用と同じでいいのかどうか。それを別に規定している国もありますし、一緒に規定している国もあります。むしろ、一緒に規定している国の方が多いのかもしれません。その辺のところをどういうふうに考えるのかというのは、若干問題があり得るなと思います。

○ 決定の仕方は若干違うかもしれませんが、いわゆる最終的な負担割合を決めて、対象となる費用としては、仲裁の報酬もほかの費用も変わらないと思います。
 したがって、例えば敗訴者負担というふうにした場合に、仲裁の報酬についても負けた方が負担するということになれば、それは費用として当然認められるべきなので、その点においては区別する必要はないと思います。

● その前提としては、やはり、予納がされていて、一方当事者から支払われているから、ほかの費用と一緒に両当事者同士の分配の問題になるということが前提となっているのが一般的だと、そういうことですね。

○ そういうのが仲裁手続だと思います。したがって、仲裁人に予納の請求権が当然あると。予納に対して連帯債務を当事者が負う。かつ最終的に予納金の支払いに応じないとした場合には、仲裁手続を仲裁人が終了あるいは停止できるというところまで規定しておかないとだめだと思います。
 あと、もう1点よろしいですか。デフォルトで規定するとした場合に、よく外国人の当事者から言われることは、仲裁費用の種類として、いわゆるイギリス仲裁法等にも見られますけれども、当事者のリーガル・フィーです。それを請求できないのかと。リーガル・フィーというのは何かと言うと、結局代理人弁護士費用なんです。
 諸外国の立法例を見ますと、そういう規定があるものが見受けられますし、国際仲裁に限って申し上げますと規則ではほとんど入っております。
 そういった費用について、デフォルトで認めるのかどうかという部分は、費用の額としては一番大きいものですから、弁護士費用の問題が、裁判手続との問題もありますけれども、仲裁で認められる費用、要するにリカバーできる費用として挙げられるかどうかというところは、国際仲裁を考えた場合に非常に関心の高い対象だと思います。

□ 関心が高いことは分かりますけれども、非常に難しい問題であると。

● 先ほど○○委員がおっしゃった。

○ そうですね、日本から逃げていく1つの理由だと申し上げました。

● それを正面から規定することが立法手続を円滑に進める上でいいかどうかという問題がありまして、その辺のところはなかなか。いかがでしょうか。

○ 非常にデリケートな問題だと思いますが。
 ただ、実情を言いますと、国内仲裁の場合、弁護士会の場合は、弁護士代理人のいない事案というのもけっこうありますものですから、訴訟の場合の敗訴者負担とはまた別な面の検討も必要かと思います。

□ 本当にリーガル・フィーも仲裁費用の中に含めてしまって、敗訴者負担だとすることによって、東京仲裁を活性化できるんでしょうか。

○ 一部はあるのではないかと思います。確かに、日本の法人同士でロンドンで仲裁を行ったというのがありまして、その本当の理由を聞きましたら、勝てると思っている方は、リーガル・フィーまでカバーできると言われました。負けると思っている方は、本当は持っていかない方がよかったと思いますが。
 例えば、諸外国のものを見ると、リーガル・フィーまで含めている。ただし仲裁人が言うのは、リーガル・フィーは何でも構わないと言っているわけでないし、幾らでもいいと言っているわけではありません。

○ それは、各仲裁機関の仲裁規則では対応できないのですか。

○ 今のところは、まだ仲裁規則にそこまで入れていません。

○ だから、今の点はデフォルトの逆でもよろしいわけですね。当事者の別段の合意があれば、そういった費用も仲裁費用として認めることができるという解釈が成り立つんであれば、規則に書きたいと思うんですけれども、ただ現行法上よく分かりませんので。訴訟手続だと弁護士費用を含められませんですね。そうすると、そういったことを書いても無駄なのかなということで、書いていないのが現状です。

□ 大体問題点は、分かりましたね。どうもありがとうございました。
 それでは、続いて裁判所の管轄の問題です。説明をよろしくお願いします。

【III 裁判所の管轄について】

● これまでの検討会で管轄の問題を含めて幾つか取り上げてまいりましたが、仲裁におきましては、随所に裁判所が関わる条文が出てまいります。そのような裁判所が関わる手続を具体的にどこの裁判所が取り扱うかということがここでの問題です。
 検討会資料13の6ページ以下に記載しましたとおりでございますが、基本的には仲裁地をベースとしつつ、これに補充的な管轄裁判所を設けるか、あるいは仲裁地が仮に定まっていない場合どうするか。更にこれを専属管轄とするか、あるいは合意管轄といったものを認めていくか等、種々問題となりますので、全般にわたり御議論いただければと思います。
 なお、若干付言させていただきますと、資料の7ページの(6)、真ん中辺でございますが、現行法の805条に仲裁手続不許の訴えというふうに解される条項がございまして、この内容をどうとらえるかについては、いろいろと問題があるようでございますが、今後仲裁法制を整備するに当たって、この種の裁判手続をどのように考えるか、設けるかも含めてですが、問題になります。
 ただ、1点申し上げますと、8ページ末尾の(注)に記載してありますように、学説上は、これを仲裁契約の不存在や仲裁契約の無効の確認訴訟といったものとしてとらえる例があるようですが、9ページの上の方に挙げたように、最判昭和50年7月15日の第1審及び原審がその点についてどのように解しているかについては、やや不分明なところもございます。
 少し管轄とは外れるところですが、併せて御意見等いただければと思います。

□ これだけの事項を裁判所が取り扱うということで、1から8まで並んでおりますが、これ以外にもあるのか、あるいは必要ないものがあるのか、その辺のところをお話しいただければと思います。
 また、これを規定する規定ぶりも、現行法は805条ですか、まとめているような書き方もあるでしょうし、あるいは法律の適用範囲みたいなもので書いていくという規定ぶりもあるかもしれません。その辺についても御意見を賜わりたいと思います。

○ たくさんの事項にわたるので、一々は申し上げられませんけれども、専属管轄にするかどうかという論点を挙げておられますが、ドイツの場合でもこれは仲裁合意中に掲げられた裁判所が管轄を有する。これは専属的合意管轄であって、いわゆる本来の専属管轄ではないんです。
 ですから、専属的合意も含めれば、合意管轄を認めないという考えはあり得るんでしょうか。
 もともと仲裁自体が合意ベースのもので、当事者が合意したときに、裁判所の管轄も何か公益に反する要素があれば別ですが、なければ合意管轄を認めていいと思います。

● 国内の仲裁手続の場合と、外国仲裁手続の場合と両方あり得ると思うんですけれども、外国仲裁手続の場合でも合意管轄、例えば手続法が仲裁地法を取るということを前提にして仲裁地がロンドンだと。その場合に、日本の裁判所が援助すべきだと当事者が合意をしたという場合に、その合意管轄の合意が有効なのかというのが1つ問題になるかと思います。日本国内の関係だと、それほど問題ないという感じがします。

○ 土地管轄の問題は、国内の問題も問題でしょうが、今、おっしゃられましたような、国際的な裁判管轄という観点から見ますと、UNCITRALのモデル法でいけば仲裁地が原則になるんだと思うんです。ただし仲裁人の選定に関しては、ドイツの仲裁法に見られますように、やはり仲裁人が決まらないと仲裁地も決まりませんので、したがって、仲裁手続が動かないということについて手当てをしておく必要があると思うんです。
 したがって、仲裁人の選定に関しては、仲裁地が決まっていない場合、例えば当事者の営業所、常居所の所在地の裁判所が仲裁人選定に関する権限を行使できるというふうな規定は必要だと思うんです。
 あと、証拠調べに関しては、証拠方法の所在地が管轄裁判所になるんだろうと思うんです。したがって、仲裁地でない場合であっても、証拠調べについては、その裁判所が仲裁について援助を行うというようなことでもって、仲裁地の原則に例外を規定すべきだと思います。

□ ほかにいかがでしょうか。

○ 7ページの(7)ですけれども「地方裁判所に限定するのが相当と思われる」と。預置などをしているのが地裁なので、そんな感じだと思うのですけれども、それ以上に何か理由はあるんですか。

● 簡裁は仲裁の手続をやるについては少し重たいかなと、仲裁法自体の内容を理解した上でやらなければいけないものですから。そういうことが一番大きいんですが。

○ どちらでもいいのですが、ドイツは通常は高裁が管轄しますが、証拠調べの件については特に簡裁の管轄にしていますね。証拠保全についても地裁と簡裁の管轄を認めていると。場合によっては証人の所在とか、簡裁の方が便利であるということもあり得なくはないのかなと思います。

● 事項によっては簡裁を重畳的にした方がいいのではないかと。

○ そんなに強い主張ではありません。そこをどう考えるかなという程度です。

● この中に、規定としては明確には設けていないんですが、前に議論された送達というのが、現行法上は判断の援助という形で、その規定に入るかどうかというのが問題になっているところがあるんですが。この中では、現行の規定を前提にしながら、送達については前の議論で、モデル法の3条になって簡易な送達の仕方を認めようということを前提にして、そうすると当事者でできるのではないかと。あえて裁判所が援助をするまでもないのかなという感じはしているのですが、その点は一応それでよろしいんでしょうか。
 今日、ここで決めなくても結構なんですが、方向性がもしもそうであれば、そういう方向で一応整理しておきたいということです。

○ 日本が仲裁地で、実際に日本語で日本の証人をという話であると、まだ想定できるんですけれども。今、国際仲裁の場合もというお話があったんですが、仲裁地に仲裁手続の準拠法があるかどうかという議論を先ほどされたわけですけれども、その辺りも確定していない中で、例えば国際仲裁で仲裁地は外国にあるけれども、証人が日本にいるというようなときに、手続は仲裁地である外国の手続でしていて、日本の証人を調べるときに、裁判所に援助がくるということも想定しておられるのかどうか、少し教えていただければありがたいんですけれども。
 分かりにくかったでしょうか。

□ いやいや、非常に明快なんですが、答えの方が難解なんです。
 外国を仲裁地とする、外国仲裁手続に日本の司法裁判所が援助の手を差し伸べるかどうかということですね。共助のようなルートで来るんではないかと思うんですけれども、それを受けるかどうかですね。向こうの仲裁地から、そこの司法当局に共助の申し立てをすれば、共助のルールに従って、日本の最高裁判所に来て、最高裁判所から具体的な地方裁判所に下ってくると、私は、あれが使えるんではないかと思っているですけれども。それならば普通の裁判所と裁判所との関係と全く同じだと思っているのですが。

● 基本的には民訴条約の証人尋問の規定で、関係機関か裁判所が外交ルートを通して、日本の裁判所に依頼をして、日本の裁判所は日本法に従った証人尋問をやって、それをまた外交ルートで自分で調書を送り返すということになるというふうに基本的には理解していましたから、この規定によって直接に外国の仲裁廷から日本の裁判所に依頼があるということではないのではないかと。

□ 私もそういう理解です。だから、その国の仲裁法が、証拠調べなどについて協力するということを決めていれば、そういう形で外国にも手が伸びてくるということなんではないだろうかというふうに思います。

○ 分かりました。どうもありがとうございました。

○ 逆に言えば、日本の仲裁機関は、日本の最高裁判所か何かに共助を申請することができるという理解ですね。

□ 現行法はそうなのではないですか。

● 日本の仲裁廷が対応する裁判所にお願いをして、その裁判所から最高裁を通して、外務省を通して、その国の方にお願いすると。

□ 直接最高裁に行くわけではないんです。

○ 対応する裁判所にお願いできるというのは、今の仲裁法でも証拠調べの協力ということで、できるんですか。

□ 「仲裁人ノ必要ト認ムル判断上ノ行為ニシテ仲裁人ノ為スコトヲ得サルモノ」と、そこにいくんではないでしょうか。

● そういうふうに理解していたのですが、それでよろしいでしょうか。

○ 私は、民訴条約は仲裁の適用はないというふうに理解していたんですけれども。

□ そうですか。では、外国の証拠調べはどういうふうにやるんですか。

○ そういったことは現実にはできていないということですね。今回のUNCITRALのモデル法のようなものは、私は逆に直接裁判所に仲裁廷なら仲裁廷が援助を求めることができるということを仕組むのかなというふうに思ってはいたんです。
 いわゆる国際司法共助のルートでやるということであれば、相手の国の考え方もありますね。おそらく今のルートだと、裁判手続以外の仲裁手続の証拠調べは、民訴条約には載らないと、我々実務サイドはそういう理解をしています。

□ そうですか。しかし、現行法はあるわけでしょう。仲裁人の「判断上ノ行為ニシテ仲裁人ノ為スコトヲ得サルモノ」については、裁判所は援助する。

○ それは、外国の司法共助にも通じる話なんですか。

□ そういうふうに読めるのではないかと、私は考えていたのですけれども

○ もちろん、国内ではそうだと思うんですが、外国に証拠調べを嘱託する場合に、民訴条約が仲裁手続に援助できるものかどうかというと、私はできないんではないかと思っていました。

□ 分かりました。

● この点について、事務局の方でも確認してみたいと思います。

○ これと関係するようなことですが、さっき観念的仲裁地の話が出ましたけれども、仲裁手続が一旦決まると観念的仲裁地というのはもう変えられないんですか。一度決めると途中で変更というのは可能なんですか、不可能なんですか。仲裁実施地ではなくて、観念的仲裁地です。

○ おそらく結論的にはできるんだと思います。

○ そうすると、観念的仲裁地を日本に移せば、とたんに日本の仲裁法が適用になって、日本の仲裁法に従って裁判所の援助を求められることにはならないんですか。

○ だから、仲裁地を援助の基準にすれば、そういうふうにせざるを得ないですね。
 そういった不便を当事者に掛けないということであれば、別に仲裁地がイギリスであっても、日本に証人がいるんであれば、証人の証拠調べに対して、日本の裁判所は協力するというのは自然なことだと思います。

○ 私はもともと仲裁手続の準拠法を仲裁地法にする立場を取っておりませんから、私の立場を言っているんではなく、○○委員のお立場ですと、観念的仲裁地によって仲裁手続の準拠法が決まると。それが途中で変更できるのであれば、共助などと言わなくても、観念的仲裁地をこの時点では日本に移しましたと言えば済む話かなと。
 それがいいと言っているんではなくて、もともと観念的仲裁地で手続準拠法を決めるのはおかしいと思っているから、やや批判の意味で言っているんですけれども、そういう話ですかということです。

○ 今の議論になっている点は、仲裁に対する裁判所の協力について管轄ルールをどうするかということに帰着すると思うんです。
 以前、この点について仲裁研究会で少し議論があったことがあって、そのときに仲裁地という管轄原因を非常に重く見る方がおられて、その方の議論というのは、仲裁に対する裁判所の援助というものはすべて仲裁地でやらなければいけない。例えば、さっきのローザンヌ仲裁のような、審問手続は日本でやっているんだけれども、仲裁地はスイスだという場合には、裁判所の援助がほしかったら当事者はスイスに行かないといけないと。確かにここまで言う方もおられました。そうすると、先ほど座長がおっしゃったように、その場合にはスイスから司法共助の手続を経て日本に要請してこいという厳しいことになるわけです。
 しかし、それが絶対だと個人的には思っていないので、もう少しリベラルに仲裁手続に裁判所は協力してやるという管轄規則の立て方もおそらくあると思うんです。
 つまり、仲裁地は一応連結点にするにしても、裁判所の援助については、現実の審問地を管轄原因にする。スイスでそういう迂遠な手続を取るのも結構だけれども、日本で援助してやるということは可能になってくるんではないかと、そっちの方がいいんではないかと思います。

○ それはそういう管轄だけの問題ではなくて、裁判所の援助規定自体の適用がなければだめですから、どの国の手続規定が働くのかということが必要で、管轄だけでは決められないと思います。

○ その場合に、日本にいわば補助的な援助の管轄を認めるとすれば、その範囲で、仲裁地法ではなくて、現実の審問地である日本の仲裁法を適用して援助をすると、おそらくそういう枠組みになると思います。

○ そういう手もありますが、それが唯一ではないと思います。

○ 先ほど申し上げたのが、日本の手続で進行してきたものを日本で証人をとか、証拠調べの援助もどこまで必要かは私自身は少し疑問があるんですけれども、援助ということも考える必要があるのかなとか、いろいろ個人的には思うわけですけれども、ただ、外国の手続が進んできたものを直接日本で証人尋問をするから、この点だけは日本へと言われると、今までの手続を理解するところからして、かなり苦労があると思いますので、かえって仲裁の円滑な進行のことを考えますと、そういうルートでいきなり来られても困るのではないかというのが個人的な感覚なんです。
 ですから、他国の手続によって、他国の準拠法で進行しているようなものについて、日本の裁判所に援助を求める必要があるというんであれば、本当に日本の管轄を認める必要があるのか、十分慎重に御検討いただいた方がありがたいかなというふうに思います。

○ 今のは、ドイツの仲裁法の1050条に、仲裁地を外して、実際の証拠調べについて裁判所は協力するという規定があったので申し上げたので、具体的な仕組みはこれから議論しないといけないと思っていますが、今のお話の中で、他国の仲裁手続によって仲裁手続が進行しているという部分は、仲裁法というのは、仲裁手続が一旦始まりますと、ほとんど関係してこないんです。
 実際に関係してくるのは、仲裁規則であったり、もろもろの細則を決めた規則です。そういったものに基づいて仲裁手続が行われていますので、その部分だけ見ると、どこで仲裁をやっていても、証拠調べのルールというのは、いわゆる当事者が合意したルールであって、それが日本であろうが、アメリカであろうが、イギリスであろうが、やっているルールというのは、同じルールという場合が多いと思うんです。だから、イギリスの仲裁法だからこういう証拠調べだと、アメリカの仲裁法だからこういう証拠調べだという違いが出てくるという場面は、私は非常に少ないんだと思うんです。

● 今の○○委員のお話に関連しまして、ドイツ法の1025条第2項は、1050条の規定は仲裁地が外国に存する場合、又は仲裁地がいまだ定まっていない場合にも適用するというふうになっていて、1050条というのが、証拠調べの援助です。
 その場合には、裁判所が証拠調べを不適当と認める場合を除き、証拠調べ又はその他の裁判所の行為について適用される手続規定に従い、この要請を実施するということでありますので、裁判所の手続法に従った証拠調べということなのかなというふうに、文面からは理解されますが。

○ おそらく国内法に抵触しない範囲でという程度だと思います。そういうチェックは入っています。

□ よろしいですか、このくらいので。
 そういたしますと、次は仲裁に関する期間についてです。時間が少し超過しておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
 期間の問題をどうぞよろしくお願いいたします。

【IV 仲裁に関する期間について】

● 前にも若干、幾つかの場面で出てまいりましたが、検討会資料13の9ページから10ページに記載したとおりであります。
 期間そのものについては、モデル法には包括的な規定はありません。したがって、当事者の合意なり、あるいは仲裁規則に委ねるのか、あるいはそれ以外に法律で規定すべき事項があるかといった点を含めて簡単に御議論をお願いしたいと存じます。

□ この3つの期間について、1、2、3と書いてありますが、これについて何らかの規定を置くべきかどうかということでございます。
 もちろん、これは特別に1つ1つの条文というんではなくて、仮に規定するとすれば、多分どこかに条文の形としてはめ込まれるようなことになるんだろうというふうに思います。
 いかがでしょうか。

○ 1の付託期間というのは、少し難しいだろうと思います。
 2の選任期間については、モデル法にも規定があるわけですから、十分あり得る話だと思います。
 3の審理期間又は判断までの期間というのも、もちろん、諸外国の立法例で見たことがありますので、置く可能性はある。順番から言うと、2、3、1ぐらいの順で置く意味があるのかなという気はします。

□ ほかにお考えはありますか。
 2は、多分これは何らかの形でなくてはいけないんだろうと思います。もちろん、当事者が別段の合意をすれば、それによりますけれども、ない場合は、申立てをしてからいつまでとか何とかしておかないと動かなくなってしまう。
 3の方は、規定を置いても、これは訓示規定みたいなものになるんでしょうかね。

○ 仲裁人の責任、損害賠償とかの関係で働くぐらいだと思います。

□ 分かりました。

○ 例外かもしれないのですが、台湾に調査に行ったときに、台湾の仲裁法21条に審理期間の規定を置いているんです。6か月間に仲裁判断を下さなければいけない。では、下さないときにはどうなるのかというと、仲裁手続が終結したものとみなすという、非常に厳しい規定を置いていまして、彼らに言わせると、非常にいい規定があると、だから台湾の仲裁はいいんだということを言うんです。現実的には、ここまでの規定を置けるかというと、非常に疑問には思います。

○ 実務からすると、2は当然仲裁人の選定期間というのはデフォルト・ルールで必要ですけれども、1と3というのは、これは必要はないと思います。
 実際に、仲裁条項があったとしても、将来いつ紛争が発生するか分かりません。したがって、そのことに対して期間は設けられませんし、3についても今おっしゃられたように、6か月間で仲裁判断が出るような事件もあれば、10年掛かるものもあるわけです。したがって、デフォルト・ルールとして置くまでは必要ないと私は思います。

□ 分かりました。どうぞ。

○ 私も3番は慎重に考えた方がいいかと思います。やはり、いろんな事案がございますので、裁判で10年掛かるところを仲裁では3年かかる、それでも十分早いと思いますけれども。

○ 期間につきましては、むしろ当事者から書類提出延期願いが出されることがありますので、いきなり期間だけ定めるというのもどうかと思います。要らないと思います。

□ 意見は出尽くしましたね。よろしいですね。
 それでは、次に罰則の規定でございますが、これにつきまして事務局からお願いいたします。

【V 仲裁手続に関する罰則規定について】

● それでは、資料13の10ページの末尾からですが、罰則についての説明をしたいと思います。
 ここに記載しましたように、現行の刑法では、仲裁人は贈収賄に関して公務員とほぼ同様に扱われています。仲裁人について今後も同様の処罰規定が必要かどうかというのが1つ目の問題です。
 次に、国際取引や移動・通信手段の発達等を反映し、国際仲裁を中心として仲裁人が外国に所在する場合が増えていると考えられますが、国外で仲裁人にかかる贈収賄が行われた場合の取扱いが問題になります。現行刑法では、収賄側についても贈賄側についても国外犯処罰規定がありません。この点をどのように考えるかという問題があります。
 それから、先ほど御議論がありましたように、基本的に仲裁には秘匿性が要求されていると考えられますが、これが破られることを防止する方策が必要だと思われます。現行法上は特に罰則規定がありません。そこで仲裁人等による秘密漏示について、処罰する必要があるかどうかということについても御意見をいただきたいと思います。
 なお、罰則については、他の分野の規定との整合性等種々の問題があり、関係部局と相談して、慎重に作業を進める必要があると考えております。本日は、実務的な観点を含めて、処罰の必要性の有無を中心に御議論いただきたいと思います。

□ どうもありがとうございました。それでは、仲裁人の収賄罪について(1)と(2)があります。秘密漏示のことでも、どの順序からでも構いません。収賄罪辺りから御意見を賜わればと思います。
 今の刑法の収賄罪を廃止するということが必要かどうかですね。これはそのままにしておいていいのではないかと思いますか、何かお考えがあれば。
 それから、問題は国外犯をどうするかという問題で、○○委員、何かお考えは。

○ 仲裁においては、国際仲裁は非常に重要な役割を占めているとすれば、国外犯の処罰規定があってもいいんではないかという印象を持っています。収賄側についても贈賄側についてもです。
 贈賄については、日本の刑法は、一般的には処罰規定は置いていませんけれども、最近の立法例では、そういう規定を置く例も出てきておりますので、それは置くべきではないかと。
 ただ、刑法典にこの規定がある、公務員と同時に規定されていることによって、立法が技術的に困難であるということがあるのかもしれませんけれども、そこは何とか、規定を置いていただければというふうに思っております。

□ 何か国際倒産の方の関係で、前に言われましたけれども。

○ 国際倒産については、管財人等の贈収賄について、国外犯を罰する規定を承認援助法、あるいは破産法等の一昨年の法改正で置いておりまして、その理由は、国外で活動するということから、実質的には国外の処罰規定を置かなければ、いわば尻抜けになってしまうというところにあるとすれば、国際仲裁についても立法理由としては同じことが言えるのではないかということだろうと思います。

□ ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。

○ 秘密漏示の件ですが、これは守秘義務というか、証言拒絶権を認めるかどうかということとも関係するのかなというふうに思います。
 民事訴訟法上の証言拒絶権を認められている人は、いずれも刑法134条の秘密漏示罪の対象になっているのではないか、そこは何か表裏の関係として立法上とらえられているような感じがするものですから、そこは証言拒絶権の問題も考えて規定していく必要があるのかなと。

□ 分かりました。

● 秘密漏示について、仲裁人についての罰則規定は必要だということでしょうか。

○ いや、そこまではまだ。

○ 先ほどの仲裁判断の事例の公開とか、そういうところも少し関連してくるということがあるので、慎重に考えなければいけないと思います。
 それから、関係者というのは、どこまで言うか。当然機関の職員とか、そういうところまで考えなければいけない。結論が出ているわけではありませんが、慎重に検討される必要があるんではないかなと思います。

□ これは、最初の説明のように、ほかの法律との非常に難しいバランスがありますので、今のような御意見を承るということで第一読会はよろしいでしょうか。

【VI その他】

□ それでは、一番最後に「VI その他」というものがあります。
 今日は、仲裁手続の第一読会の最後の段階でございます。今まで4回にわたって議論をしていただいたうちで、これは落ちているというようなことが、今までお気付きのことがあったら、ここで御指摘だけでも指摘していただきたいというふうに思っていますが、よろしゅうございますでしょうか。

○ 既にここの検討会で発言したと思いますが、念のために。確か、事務局側のペーパーになかったので、二読で入れていただきたいと思うのは、仲裁人の免責に関することです。

□ この前に確かに承りました。仲裁人の免責以外で、ほかにございますか。

○ ちらほら出てきましたけれども、例の消費者保護との関係ですね。二読では何からの形で出てくるんではなかろうかと期待しているんですけれども。

□ はい、分かりました。ほかにお気付きの点はございますか。
 第一読会で出なければ、二読は絶対にだめだというつもりはございませんので、また自由に御議論いただきたいと思います。それでは、今日はよろしいですね。

【閉会、次回以降の予定】

□ 今日は、本当に長時間にわたって御議論いただきましてありがとうございました。時間を大分超過いたしましたが、何とか予定した議題を全部議論していただきました。
 事務局から、次回以降の御連絡をお願いいたします。

● まず、次回以降の確認をする前に、二読の考え方なんですけれども、先ほど座長の方からも御説明がありましたように、仲裁の関係は本当に論点が多くて、一読で全部を消化し切れていないという状況だと思いますので、二読のところでまた初めて論点を出すということも十分あり得るということで御理解いただきたいと思います。
 次回以降の日程ですが、次回は、5月27日月曜日、午後1時30分からです。
 次回から3回にわたって、二読として、全般的な事項について再度御議論いただくというふうにしたいと思います。
 その際に、立案の方向性が出るものについては、ある程度方向性を出してまいりたいと考えております。
 また、夏から秋にかけて、できればパブリック・コメントを行うことも考えていますので、できるだけ具体的な検討をお願いしたいと思います。
 資料は、同様に1週間前までにお送りする予定です。
 次に、前回あらかじめ申し上げましたように、秋以降の検討会の日程を調整させていただきたいと思います。
 10月開催分なんですが、第8回ということになろうと思いますが、10月17日1時30分から、これは木曜日になりますが、そのようにさせていただければというふうに思っております。
 御都合の悪い方はいらっしゃいますか。事前に伺ったところでは、特に都合が悪いという形の御返答はいただいていなかったと思いますが。
 11月分として第9回ですが、11月7日木曜日の1時30分からです。
 12月開催分の12月12日木曜日1時30分からです。
 なお、来年の予定はまだ定かではないんですが、仮の候補日として、2月13日木曜日1時30分からを一応入れさせていただければと存じます。
 指定をさせていただいた中で、仲裁法ができ上がればというふうに思っているのですが、場合によってはまた御相談をさせていただくこともあるかもしれません。そのときは早目に御相談させていただきますので、よろしくお願いいたします。

□ 確認ですけれども、次回は5月27日で、その次が6月11日。7月は8日が入っていると思います。8月、9月と休みますが、9月は休みで大丈夫ですね。

● そのときにパブリック・コメントをさせていただくことにしています。

□ それで、今、お諮りしましたように、10月、11月、12月と、来年は2月13日ということでございます。
 これからも今日と同じように、一回にたくさんの議題を審議していかなければいけないかと思いますが、引き続いてどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、本日はどうも長時間にわたりましてありがとうございました。

(以上)