首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会仲裁検討会

仲裁検討会(第5回)議事録

司法制度改革推進本部事務局



1 日時
平成14年5月27日(月) 13:30 〜17:20

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室(永田町合同庁舎2階)

3 出席者
(委 員)
青山善充(座長)、櫻井和人、谷口園恵、中野俊一郎、中村達也、本東信、松元俊夫、三木浩一、山本和彦、吉岡桂輔
(事務局)
古口章次長、近藤昌昭参事官、後藤健企画官、内堀宏達参事官補佐

4 議題等
(1)開会
(2)ドイツ民訴法2001年改正の仲裁法関連部分について
(3)検討事項案その1(第1 総則的事項について)
1 立法の形式について
2 目的規定の存置について
3 法律の適用範囲について
4 その他
(4)検討事項案その2(第2 仲裁合意について)
1 仲裁合意の意義(定義)について
2 仲裁合意の方式について
3 仲裁合意の分離可能性について
4 妨訴抗弁について
5 裁判所に対する保全処分の申立てについて
(5)検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について)
1 仲裁人の数について
2 仲裁人の資格について
3 仲裁人の選定手続について
4 仲裁人の忌避について
5 仲裁人の退任(任務終了)について
6 代替仲裁人の選定について
7 仲裁人の責務等について
(6)検討事項案その4(第4 仲裁廷の審理判断権限について)
1 仲裁廷の審理判断権限について自ら判断する権能について
2 仲裁廷による暫定的措置について
(7)検討事項案その5(第5 仲裁手続の進行について)
1 仲裁手続における当事者の平等及び主張立証の機会の保障について
2 仲裁手続の準則の決定について
3 職権証拠調べについて
4 仲裁地の決定等について
5 仲裁手続の開始時期等について
6 仲裁手続の言語について

5 議事
(□:座長、○:委員、●:事務局)

【開会】

□ それでは、予定した時刻がまいりましたので、第5回仲裁検討会を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして、ありがとうございます。
 本日は○○委員が急に体調を崩されたということで御欠席でございますけれども、御意見は書面でちょうだいしておりますので、該当個所で御披露いたします。
 本日から第二読会ということになりますが、これからの進め方につきまして、事務局から御説明をお願いいたします。

● 今回と次回の6月11日、更に7月8日の3回を二読ということで議論していただいて、パブリックコメントを8月ころ実施することを考えております。
 今回と次回で全体について一読の結果を踏まえて議論していただいて、議論が残ります論点について、7月8日に議論を深めていただくということを予定しております。
 その後、パブリックコメントに付する案文につきましては、検討会の議論を踏まえて、座長と御相談の上、事務局の方で原案を作成させていただきたいと思います。その後、原案について各委員の皆様に個別に御意見を伺った上で確定させたいということを考えております。そのような段取りでいきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

□ ただいまのような段取りで進めるということで、御了承いただけますでしょうか。
 それでは、そういうふうにさせていただきます。
 それでは、二読の進め方につきましては、今の事務局からの御提案のとおりにいたします。本日は、御議論いただきます論点が非常に多くなっております。お送りしました資料も、大変ボリュームがあるものでございますが、どうぞよろしくお願いしたいと思います。
 本日は検討に先立ちまして、前回の検討会で話が出ました、ドイツ法の仲裁判断取消し及び承認・執行の裁判に関する最近の法改正につきまして、○○委員から御報告をいただきたいというふうに思っております。
 その後、検討会資料に従いまして検討を進めていきたいというふうに考えております。また、本日は○○委員から、UNCITRALでのモデル法の改正作業状況についてのペーパーを御提出いただいております。この点につきましては、各論点を御議論いただきます際に御説明をいただきたいというふうに思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、まず本日の資料につきまして、事務局から御説明をお願いいたします。

● 資料の説明をする前に、推進本部全体の関係で、推進本部顧問と各検討会の座長との連絡の会議を開催しようということになりました。その会議の場では、各検討会の進捗状況等について御説明をして、それから今後の司法制度改革推進についての意見交換を行うということになっております。その場で、この仲裁検討会につきましても、今までの進捗状況等について座長の方から報告をするという機会が持たれるということについて、一応御報告をさせていただいて御了承いただきたいと思います。
 資料の方ですけれども、第5回仲裁検討会配布資料目録を御覧いただきたいのですが、14から18まで、これは事前にお送りさせていただいております。一読の議論では、モデル法とほぼ同様の趣旨の規定を置くことに御異議がないであろうと事務局で判断したものについては、議論を省略させていただきましたが、パブリックコメントのことを考えますと、一応皆様の御意見を確認しておく必要があると考え、二読のレジュメで初出の論点もございます。この点も御了承願いたいと思います。
 また、○○委員から御提出いただきました資料も事前にお送りいたしましたので御確認ください。
 先ほど座長が触れられました、○○委員御提出の資料は席上配布させていただいておりますので、こちらも御確認ください。
 以上です。

□ 資料の確認はよろしゅうございますね。それでは、まず○○委員から、事前に送付していただきました「ドイツ民訴法2001年改正の仲裁法関連部分について」というペーパーに基づいて、御報告をお願いしたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

【ドイツ民訴法2001年改正の仲裁法関連部分について】

○ 前回の検討会の席上、○○委員の方から適切に御指摘いただきましたように、ドイツの民事訴訟法の改正法が昨年の7月に成立し、本年1月1日から施行されております。
 その関係で、仲裁法に関する部分のごく一部ですけれども、文言が変わっておりました。その点について、なぜ変わったのかという点だけ調べてまいりましたので、ごく簡単に御説明いたします。
 まずは、1063条、通則でございますが、これは前回御指摘いただきましたように、旧法では「裁判所は口頭弁論なしに下され得る決定で裁判をする」となっておったところを、新法では「口頭弁論なしに下され得る」という部分が削除になりまして、「裁判所は決定で裁判をする」となっております。
 これはどうしてかと申しますと、民事訴訟の前の方、口頭弁論に関する通則的規定、128条の4項で、「判決を除く裁判所の裁判は、別段の定めがある場合を除き、口頭弁論なしに行うことができる」という規定が新たに設けられましたことから、従来は個別の規定中で口頭弁論が要るか要らないかを書き込んでおったわけですが、その必要はなくなったので「口頭弁論なしに下され得る」という部分を削除したということでございます。
 ページを繰っていただきますと、その次の1065条の不服申立てについても一部変更になっております。
 結論だけ申し上げますと、特別抗告、あるいはRechtsbeschwerde、法律違反を理由とする抗告と訳すこともありますが、これにつきまして新しい574条の方に通則的な規定が設けられたということで、たくさんの条文を準用する必要がなくなったということによる文言の変更であったという程度でございます。
 以上でございます。

□ どうもありがとうございました。何か御質問、ございますでしょうか。○○委員には、毎回御調査いただきまして、ありがとうございます。

【検討事項案その1(第1 総則的事項について)】

□ それでは、検討に入りたいと思います。検討会資料14の「総則的事項について」でございます。今回の仲裁法の改正につきましては、モデル法をベースに作業を進めるということにつきまして、御異論がなかったわけでございますけれども、具体的な立法の形式につきましては、モデル法の形式との関係を含めて、事務局から御説明をしていただきたいというふうに思います。

● 総則的事項につきましては、既に第一読会で御議論をいただいた点の確認的なところも多いわけですので、資料14については一括して検討していただければと思います。
 まず立法形式については、第一読会で1の枠内に記載してあるとおりで、大体異論がなかったように思われます。
 また、その場合の新仲裁法の具体的な章立て等をモデル法にどこまで合わせるかということが問題ですが、これについては基本的に、章立てや条文の位置はモデル法にできるだけ沿う形にしたいというふうに事務当局としては考えております。
 ただ、手続法として見た場合の法律全体のバランスや、法制的な問題等で相応の変更はあり得るということについては、御了承願いたいと思います。
 2の「目的規定の存置について」は、モデル法には規定がございませんが、近時の立法例に合わせて規定を置くかどうか、また置くとした場合に、どのような内容を盛り込むかについて御意見を賜りたいと思います。
 3の(1)の適用される法律の種類については、2ページの説明欄に記載したとおりですので、この点については御確認をお願いいたします。
 また、(2)の地域的適用範囲の問題については、検討会資料にあるとおり、準拠法のところで検討させていただきたいと思います。
 4の(1)の書面による通知方法については、一読で御議論いただきましたが、モデル法3条の規定にならった規定を置くことにつき御意見をいただければと思います。ただ、コメントにもあるとおり、海外にいる当事者に対する通知やオンラインによる通知の在り方については、なお検討する必要があると思います。
 4の(2)の異議権の喪失についての設問の趣旨は、4ページの説明に記載のとおりです。モデル法では、規定ぶりは若干異なりますが、4条に同趣旨の規定が置かれております。そこで新仲裁法にも同趣旨の規定を置くこと及びその規定ぶりにつき御意見をいただければと思います。

□ どうもありがとうございました。1から4までありますけれども、議論を整理するために、まず1から3まで、つまり立法の形式、目的規定の存置について、それから3の法律の適用範囲について、この3つの問題について、どうぞ御意見があれば承りたいというふうに思います。どなたからでも結構でございます。
 これは一読でもお話を大体伺って、それをこういう形に一応まとめたわけでございますので、大体二読としてはこんなところでよろしいでしょうか。
 それでは、4のところが、ひょっとしたら問題があるか、御意見がおありかと思います。4について何か御意見があれば伺いたいというふうに思います。4は、書面による通知の方法というものと、異議権の喪失ということでございますが、まず書面による通知の方法ということで、仲裁機関の実務の観点等からもし御意見があれば伺いたいと思います。
 どうぞ。

○ 書面による通知の方法でございますが、実務上は重要な書類は書留に付して配達証明を更に付するというやり方でやっております。それで、配達証明が返ってくる場合はよろしいんですが、問題は転居して転居先不明というような場合でございまして、そういう場合には配達証明は返ってこなくて、一般の郵便物のように転居先不明ということで封筒に判が押されて返ってまいります。したがって、配達証明付き書留郵便を依頼したときの受領証、それと返ってきた封筒を保管しておけば、この中で提案されているような文言に該当するということで、取扱いも到達したものとみなすということであればいいのではないかと思います。
 ただ、問題としましては、転居しているわけではなく、現住所は明らかなわけですけれども、何らかの事情で受領されないという場合がたまにあるわけでございます。これは、一般の郵便物でも、不在のときに配達されて、1週間以内に引き取りに来なさいということで取りに来ないので戻ってきてしまったと。あるいは、端的に受領を拒否されて受け取らないという場合がございますので、こういう場合の対応がこの文言では読めないものですから、そういう受領拒否の場合にも到達したような効果が生じるような手当てがされないと困るのではないかと思います。逆にそういう手当てがなければ、この中にも書いてございますけれども、裁判所への援助協力の一環ということで裁判所にお願いするような方法も認めていただければという気がいたします。

□ ほかにございますでしょうか。どうぞ。

○ コメントの中で、海外にいる当事者に対する通知についても妥当するのか、その点について、モデル法の趣旨からして当然海外にいる当事者も対象になっているものだということで理解しておりますし、また我が国の仲裁法をつくるに当たっても、内外問わず適用されるべきだというふうに考えております。

□ 私からもよろしいですか。このモデル法の3条の参考のところに書いてありますけれども、モデル法の3条というのは、別段の合意をしていればそれによりますけれども、別段の合意がない場合の「書面による」通知の受領についての規定なんです。こういう場合には受領したものとみなすという規定なので、それ以外のことについては、このモデル法3条は働かない。そうしますと、「書面以外の方法」による通知を当事者が合意して採用した場合には、それについての通知の受領というようなことがモデル法では出てこない。それはもう全く当事者が合意すればそれに任せてしまうのか、その辺のところもさっきの受領拒絶のような場合にどうするかという問題が、多分これから出てくるのではないかというふうに思います。
 海外の当事者の問題は、私も○○委員のおっしゃるとおりではないかというふうに思います。
 どうぞ。

● 先ほど○○委員から御指摘があった受領拒否の場合の手当てなんですが、何か具体的にこんなことを考えているというようなことはございますでしょうか。

○ 具体的にはございません。難しいのは、積極的に受領を拒否していらっしゃるのか、それとも郵便物が来ているのに、たまたま取りに行くのを忘れて返ってきているだけなのか、その辺の問題もございます。

□ どうぞ。

○ この話は、効果との関係で言いますと、仲裁判断書もこれに含めるという趣旨なんですね。

□ はい。

○ そうすると、確かにこれは便利なんですけれども、仲裁判断書が知らぬ間に送達ということになって、不服申立期間も過ぎてしまったとか、そういう深刻な問題も当然あり得るわけですね。
 それでモデル法の方は、「妥当な調査をした後にも明らかにならなければ」という形で、何らかの調査をして、その上でやっていることだと思うのですけれども、この枠の中だけだと、その辺りのニュアンスが出てこないので、バランスをどうするかが問題だと思います。

□ ほかに何か問題点、御指摘、あるいは御質問、御意見。よろしいでしょうか。それでは、今の件を含めまして、モデル法3条にならった規定を置くけれども、それだけでは足りない問題、あるいはここに書いていない問題も含めまして、少し検討しました上で次の案を考えるということにさせていただきます。よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、(2)の異議権の喪失、これは初めて出てきた問題でございますが、こちらはいかがでしょうか。
 何らかの意味で、そういうサンクションは必要だと思います。モデル法のグランドでもそうなんですが、こういうような規定を置くということでよろしいでしょうか。

○ これは、「知りながら」というところが特別だろうと思うのですけれども。例えば訴訟だと必ず弁護士がそばに付いているだろうと思うのです。仲裁なんかだと、特に消費者などのケースで、弁護士会仲裁もそうですけれども、弁護士が付いていない場合が結構あるんですね。確かに、急ぐということもよく分かるのですけれども、では逆に弊害はないのかと。
 また、ここで言っているいろんな手続は、具体的にはどんなケースを想定するのかということをお尋ねしたいと思います。
 これは見ようによっては、非常に広くなりますね。もちろん強行法規違反ということではだめなんでしょうけれども、例えば仲裁人の選任方法だとか資格とかという重いものから、本当の細かい手続の問題から、全部含んでいるということですか。

● 例えば、仲裁人の選定というのも、任意規定と思いますので、そういうことも含まれるということです。
 それから、もっと非常に細かいところも、合意をすればということだと思いますが。

○ 繰り返しますけれども、場合によると、「知りながら」、「それは知らなかった」という争いがずっと尾を引くということがあっても、とりあえずはこれでということなんですかね。

● 民事訴訟法上の規律からすると、「知り、又は知ることができた場合において」というふうなんですね。これは一応「知りながら」ということで、過失は含まれないような形になっているのですが、モデル法自体はそういう形になっていて、そこがどうして違うのかというのが一つの問題点であるかなと思うのですが、それをもっと固いことにした方がいいのではないかという御意見ですか。

○ そこはちょっとまだ、ただ訴訟と違う点もあるかなということなんですけれども。

□ この参考に挙げられているものでも、要件が、ドイツ、韓国、日本の民訴、モデル法とありますが、少しずつ違っていますので、この辺のことも勘案しまして、次回には今の御趣旨も踏まえて、失権効が広く拡大することのないように考えたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、そういうふうにさせていただきまして、検討会資料の15に入りたいと思います。15は、仲裁合意でございますけれども、最初に仲裁合意の意義について御議論いただきたいというふうに思っております。
 まず、事務局から説明をお願いいたします。

【検討事項案その2(第2 仲裁合意について) 〜1 仲裁合意の意義(定義)について〜】

● 仲裁適格の問題ですが、これは第1回の検討会でも、相当御議論いただきました。大変難しい問題ですので、二読でも改めて御議論いただきたいと思います。
 (1)の枠内に示した考え方は、仲裁適格について何らかの規定を設けるべきであるとする考え方に基づいたものですが、一方で、当事者が合意して求めさえすれば仲裁を認めるべきであり、仲裁判断について執行できるかどうかは別問題であるとする見解も、一読の際に提示されたところです。
 本日の議論は、仲裁適格の規定を置くかどうか、また置くとした場合にはどのような規定を置くかについて、更に議論を深めていただきたいと思います。
 また、(2)の仲裁合意の対象となる紛争についての仲裁適格以外の要素について御確認をお願いしたいと思います。枠内の考えは、モデル法7条の規定にならったものです。このような考え方につき問題点があれば御指摘いただきたいというふうに思います。

□ この仲裁適格について、前回も、規定を置かなくていいという考え方と、やはり置くべきではないかという考え方が、多分真っ二つに割れた問題だというふうに思っておりますので、どうぞ御自由に御議論いただきたいというふうに思います。
 日本が批准していますニューヨーク条約の5条2項(a)というのは、御存じのように、仲裁による解決が不可能なものは執行を拒絶するということになっていますので、そこでは仲裁による解決が可能かどうかを、承認執行の段階で審査するということになっているわけです。
 そこで、日本法として何が仲裁可能な紛争かどうかを、立法という意味ではなくても、明らかにしておく必要があると。そうでなければニューヨーク条約との関連性が付かなくなる。そこで、明らかにする問題、仲裁適格があるかどうかを、立法によって明らかにすべきだというのが、前回の仲裁適格を規定すべきだという考え方の方々の御主張だと思います。
 そうではなくて、この仲裁法には規定を置かなくてもいいと、その他の法令で個別的に仲裁適格があるとかないとかを規定するならそれは構わないという考え方もあったかと思います。そこで、仲裁法に何らかの規定を置くかどうかということについて、御意見を更に聞かせていただきたいということでございます。
 どうぞお願いいたします。

○ 前回私もこの件については発言いたしましたが、仲裁法に全く規定を置かなくてもいいという趣旨で発言したつもりではありません。ただ仲裁適格の問題は、仲裁法が対象としない、他の法律の所管事項である事項について、更に国家の政策判断に委ねられる事項にも関わってきますので、そうした法律の所管事項に不当に干渉しないように、仲裁法に規定を置く場合には、最大限に広い立場で仲裁適格を規定すべきだと思います。
 広いという意味は、むやみに広ければいいという意味ではありませんで、政策的な判断に委ねられるべき事項であり、かつ仲裁法の所管事項ではない事項について、そうした法令、あるいは機関の政策判断を不当に制約しないようにという限度で定めを置くべきだというつもりで申しました。
 パブリックコメントに掛ける場合に、ここにお書きになったA案とかB案、あるいはほかにもあるのかもしれませんが、そういった形でいろいろと問うということ自体は結構なことだと思います。
 一つ、私の方であれ以来少し考えてみて、いまだに分からないところがありますので、皆さんの御意見をお教えいただければと思うんですけれども、ニュージーランド法が例に挙がっておりますが、それを参考にしますと、仲裁契約が公序良俗に反する場合と、他の法律が仲裁を禁じている場合を除いたものについて、とりあえず仲裁適格を認めるという立場だろうと思いますが、それとB案との関係で、公序良俗に反するものと他の法律が仲裁による解決を禁じているものを除いて、それ以外で処分可能性が問題になる事項というのは、具体的にどんなものがあるかちょっと分かりませんので教えていただければと思います。

□ 私もニュージーランド法がよく分からないのですが、A案は、「当事者が仲裁による解決を合意した紛争であって」、これは枕言葉なんですが、「仲裁合意が公序良俗に反し」、反していることになると仲裁合意の無効の問題であって、仲裁適格の問題でないような気もしますけれども、条文がこうなっていますからこのまま取り上げたのですが、「又は他の法律に照らし仲裁による解決ができないとされていないもの」というのは、もうニュージーランドの仲裁法は仲裁適格の問題については他の法律が禁止していない限りできるのだと。できるんだけれども、それを認めることが公序良俗に反するような紛争のタイプ、殺人契約とか、麻薬取引契約とか、武器取引契約とか、そういうことであればそれは外すという趣旨で、かなり広いと思います。
 B案の処分可能性は、そういう公序良俗に反することにはもう当然禁止されていて、そのほかに、当事者が処分できない、例えば婚姻の無効だとか、そういうような処分可能性がないというようなものも仲裁の対象にならない。こちらのB案の方が狭いという理解でございます。

○ おっしゃるように、私も一般に処分可能性というときには典型的な例の一つとしては、身分関係の一部ということかと思いますが、これもよく考えてみると分からないところがございまして、例えば訴訟の場合と対比しますと、人事訴訟の場合、確かに当事者の処分が一部、人事訴訟手続法上制約されている面がございます。処分権主義、あるいは弁論主義が基本的に制約されている。
 ただ、これは人事訴訟の場合には判決に対世効がありますので、自由な処分を認めると第三者の権利を侵害するおそれがあるということが主たる理由だろうと思います。
 ところが仲裁判断の場合には、対世効はもちろんございませんで、仲裁合意の当事者間にしか効力が及ばない。そうしますと、例えば婚姻無効を例に取りますと、当事者間で婚姻が無効であると、あるいは有効であるという仲裁判断が下りましても、それが子であるとか親であるとか、あるいはその他の親族、更にそれ以外の第三者にはもちろん及ばない。そうすると、例えば子が自らの相続権が害されると思うときには、たとえ仲裁判断は婚姻無効という結論を出しましても、婚姻有効の確認を訴訟で求めることは何ら問題がない。
 そうしますと、これは仲裁の場合、当事者間でのみの処分可能性も考えなければいけないということになろうかと思いますが、当事者間での処分可能性すらないということになるのか、これはあるということになるのか、つまり第三者の権利を害さないという仮定を下し得るとしますと、それでも処分可能性がないということになるのかどうか、ちょっとよく分かりませんので、御議論いただければと思います。

□ 従来の理解は、身分関係に相対的な身分関係というのはないと、身分関係というのは社会生活の基本であって、だから戸籍制度と結びついて対世的なものだという前提で考えていて、そうだとすると当事者間での処分も不可能だというふうに理解していたと思います。
 多分、○○委員のおっしゃるようなことを学説上主張した見解は私は寡聞にして知りません。

○ 確認なんですけれども、このニュージーランド法ということになりますと、他の法律に照らし、仲裁により解決ができないという射程距離は、今の通則との関係で言うと、およそ人訴があるとすると、他の法律に照らして解決できないとなってすべて外れるというふうになってくるのですか。

○ これはまさに解釈問題で、他の法律として何を想定するのか、民法を想定するのか、あるいはそれ以外の法律を想定するのか分かりませんが、民法にも仲裁での解決ができるできないということを正面から書いている規定はもちろんありませんので、民法なりその他の法律の解釈として、当該法律が仲裁による解決を認めている趣旨ではないという解釈になるかどうかという問題だろうと思います。

● これは一読の際の資料とつくりを随分変えております。一読の際はニューヨーク条約、モデル法を列挙していたのですが、モデル法やニューヨーク条約自体が仲裁適格について具体的な案を示しているというよりは、各国に委ねているのではないかとの御指摘もありましたので、それを踏まえて、仲裁適格の内容について考える場合にはモデル法やニューヨーク条約を提示するのは適当でないということで省かせていただいています。
 そこで資料では、内容について考える場合に、A案的なものB案的なものというのが考えられるのではないかというような形で整理させていただいたところです。
 あともう一つは、○○委員がおっしゃっていたところの、他の法律の政策判断で決めればいい問題について容喙しない方がいいのではないかという御趣旨だと思うんですが、広くとらえて、だめなところをつぶしていくというやり方と、狭くとらえて、いいところを穴を開けていくというやり方と、両方あり得ると思うのです。その両様の在り方ということについても、前提にして議論していただければというふうに思います。

□ どうぞ、○○委員。

○ モデル法に仲裁可能性についての規定がないという御指摘でございますが、前回私が申し上げたかと思うのですが、モデル法の1条5項にもニュージーランドの10条1項と同じような、公序良俗の問題を除いて、他の法律に照らし仲裁で解決できない紛争は、仲裁可能性が否定される旨の規定が置かれているわけです。したがって、A案をニュージーランドというふうに書かれて、説明の中でモデル法については、その仲裁適格について触れていないというのは、若干正しくないのかなというふうに思います。
 ニュージーランドの仲裁法というのは、たしかモデル法をベースにつくられたものだと思いますが、この10条1項というのは、モデル法の1条5項をベースに若干の変更を加えたものだというふうに私は理解しております。

□ ○○委員のお考えは、前回もそうでしたけれども、モデル法と同じでよろしいということですね。

○ 結論的には、積極的には書かずに、今、事務局がおっしゃられたように、他の法律でもって仲裁可能性を否定しない限りという形の書きぶりで、広く仲裁可能性を認めてもいいのではないかというのが私の考えです。

□ そういうお考えに対しまして、今日はお休みですけれども、○○委員のお考えは、裁判所に持ち出されるときに、仲裁可能性があるかどうかということをきちんと判断できないと困るというお考えだったように思います。
 ○○委員は、いかがでしょうか。

○ モデル法の1条5項ですと、一定の紛争を仲裁に付することを禁じる法律に影響しないということなので、法律で明らかに禁じている場合だけを除外しているように見えるのですけれども、今日のニュージーランド仲裁法の書き方というのは、法律で解決できないとされていないではなくて、「法律に照らし」ということで、解釈によって仲裁による解決にそぐわないものというところまで拾っていて、何かもうちょっとやわっとした規定なのかなというような気がいたします。
 結局は、何がこれに当たるかどうかというと、解釈問題になっていって、ではどう解釈するかというと、おそらくその当事者に処分可能性があるかどうかというところに行ってしまうのではないかなという気が、私としてはいたします。
 そうであるならば、むしろこういう解釈の指針が必ずしも出されていない書き方をするよりは、処分可能性なのか、和解可能性なのか、何かいい言葉を考えて、実際にイメージしている解釈基準に近いものを書いておいた方が、やはり利用する側にとっては仲裁で何をしてもらえるかということのイメージが持ちやすいのではないかというふうに思います。

□ ○○委員のおっしゃった、他の法律で禁じていることのほかに、この1条5項は、許す場合も影響がある、両方あるんですね。そこでB案ならB案の立場を取りまして、処分可能性なり和解可能性なりを採ったうえで、他の法律がこれと異なる定めをする場合には、その規定の効力を妨げないという形で、証券取引だとか、特許だとか、あるいは人事訴訟もあるのかもしれませんけれども、そういうものでそれを広くすることもできるし、狭くすることもできると。しかし、そういうことがなければこの処分可能性なり、和解可能性なりというようなことで考えるというような方向はいかがでしょうか。

○ 和解につきましては、既に我が国に多数の文献もありますし、前回の議論でも出ましたように、これが果たして適切な基準になるのかという点は争いがあると思います。和解概念自体一義性がないことは、既に承認されておりますし、かえって混乱を招くという議論は有力にされております。
 また、私が知る限りは、近年の仲裁立法は、和解概念を捨てる傾向にあると理解しております。したがって、和解可能性という概念が妥当かは、慎重に吟味すべきだと思います。
 他方で処分可能性が和解と比べてどうかということですが、この言葉そのものを使うという趣旨ではないと理解しておりますが、そうは言っても処分可能性に類した表現でなされた立法は存じないわけで、卒然と考えますと和解よりもなお不明確な概念のような気がいたします。
 議論を少し戻すようで恐縮ですが、重要な問題ですので、座長がおっしゃった身分関係の事件を例に取ってもう一度考えてみたいのですが、身分に相対的な解決はないというのが従来の一般的な考え方とおっしゃったわけですが、私の理解では、それは訴訟による解決においては相対的な解決はないということではないかと思います。当事者間の私的な和解において、我々の間では親子関係がないということにして一家の相続問題を処理しましょうという、私的な和解を結ぶことは、民法は禁じているわけではないというふうに思います。
 そうしますと、仲裁も私的な和解の延長線上にありまして、私人間で紛争の解決を第三者に委ねるという私的な合意ですから、その限りでの相対的な解決というのがなお法で禁じられているのかどうか、あるいは一般的な理解と異なるのかどうかが、やや分からないところです。

□ 細かな問題に入ってきましたが、これはそういう考え方があるということで議論しなくてよろしいでしょうか。何か一言あれば。

○ 問題提起ということでも結構ですが、あえて申し上げるなら、おそらく私的合意は、仲裁としてできますよと書かなくても、個人の間で勝手にやることはできるわけですね。そうすると、それに加えて仲裁という法手続に乗れると、しかも国の規定する法律に乗せる形でできるということを拾い上げて規定する必要があるのかどうかという問題なのかなと思いまして、その後にいろいろつながっていく規定上の効果ということを考えると、今、○○委員が言われた領域まで単なる私的合意より一段上の仲裁というところに乗せていく必要性が、どうもないように思われるのですが。

○ これを議論すると長くなると思いますが、私の理解では、前回のお話を聞いていまして、執行までできるかどうか、例えば今の人事の問題も同じだと思うのですけれども、例えば認知なんかの場合もそうですね。例えば、当事者間で遺産を分けるときに、そこで決めることもできるわけです。実際、弁護士会の仲裁にもあるわけですね。
 そうすると、仲裁適格という形で一つ定義を置いて、つまり申立ての入口から、仲裁判断から、最後の執行まで同じようにパラレルにいくのか、それとも入口は仲裁適格によってはね飛ばさないで、入口はある程度広くしておいて、途中で和解もあるという含みのこともあってもいいのかなと。
 そうしないと、仲裁適格の段階で、およそそういうものはだめですよというふうにはねられてしまうという感じもするので、私も○○委員と同じように、そこは仲裁適格で絞り込んで、はね飛ばさないようにしていただきたいという感じはします。
 前回の議論のときも、座長はそれは一貫性があるんだからと、確かに一貫性があると言えばそのとおりだと思うのですけれども、そこのところはいま一つ難しい問題だなと思って。

○ 実は、私が言っているのは、今、○○委員におっしゃっていただいたところでありまして。そんなに網羅的ではなくて、過去に仲裁適格が問題になった事例を少し調べたことがあるんですが、真っ当な争いをしているケースは私が見た限りでは少なくて、多くの場合には争う側は、こう言っては言葉が余り適切でないかもしれませんが、何と言うか紛争の解決を遅らせるためにごねている、仲裁適格をてこにしてごねるというケースが少なくないと理解しております。
 したがって、仲裁適格を、今、○○委員のおっしゃる言葉で言いますと、入口の段階で余り絞りますと、本来争うべきものを争わせるというよりも、不当なごね得を許すということが増えるように懸念いたしますので、なるべく広く取っていただきたいという趣旨です。

● この言葉を余り使ってはあれなんですが、ごね得を許してはいけないということだとすると、むしろ、かなり明確な形で仲裁適格を規定しておいた方がいいということにはならないでしょうか。

○ 広く明確であればいいのですが、狭く明確だと、今度は仲裁制度の健全な発達を損なうことになります。

● 一応訴訟と仲裁との関係でどちらか、二者択一だと思うんです。今のお話は、もしかしてそこのところがぼやっとしているところが、両方に出るんだということを前提にされていないかというのが懸念されるのですが、妨訴抗弁との関係で、合意があって仲裁適格があるものは訴訟にいけないという規律だと思うのです。それを両方行けるんだと言うことはなかなか難しいのではないかなと思っているのですが。

○ 2点ありまして、代案である和解可能性とか処分可能性というのは、ぼやっとしていないかという問題が1点。
 2点としましては、繰り返しになって恐縮ですが、近年の諸外国の立法は事務局の表現によると、ぼやっとした規定の例が増えているように理解しますので、それで問題が生じているということは余り聞いておりませんので、なお調査が必要かとは思いますが、それで大きな問題が生じてないとすれば、杞憂の部分もあるのかもしれない。

□ 仲裁合意は、まだ更にもう1回議論しないとなかなか結論は出ないと思いますので、そのくらいにさせていただきまして、次は「仲裁合意のその他の要素について」、資料の3ページの(2)でございます。これについては、特に御異論がないというふうに考えてよろしいでしょうか。契約に基づくものかどうかを問わず、あるいは既に生じ、又はこれから生ずるものも仲裁の対象になり得ると、この点はよろしゅうございますね。

【検討事項案その2(第2 仲裁合意について) 〜2 仲裁合意の方式について〜】

□ それでは、次は仲裁合意の方式の問題に入りたいと思います。これについては、まず○○委員からUNCITRALの改正状況について御説明いただけますでしょうか。

○ お手元に配布されました、「UNCITRALにおける審議の状況」というペーパーのうちの、1ページの7条と書いてあるところがこの論点に関係します。この点に限って簡単に御説明申し上げます。
 現在UNCITRALでは、御承知のように仲裁合意の書面要件の緩和ということの議論を進めておりますが、具体的には現行のモデル法7条をどう改正するかという問題であります。
 本年3月の作業部会で、基本的に7条の改正案はまとまりました。その結果は、まだわずか2か月前ほどですので一般に公開されておりませんが、一応私訳ということで今回お示ししたところでございます。
 改正案の話ですが、具体的には7条の1項は従来のモデル法の7条1項と同じであります。
 2項以下が改正される部分でありますが、2項は第1文で「書面によらなければならない」として、書面要件を維持するという形を取っております。これは、従来お話し申し上げていますように、ニューヨーク条約の改正が困難であるということで、書面という言葉は残さざるを得ない。しかし、以下でその実質を可能な限り緩和するということでございます。
 2項の2文ですが、書面は合意の記録を提供する形式又は後の参照に供し得るアクセス可能なすべての形式を意味するということで、従来の仲裁モデル法の規定ぶりと電子商取引モデル法の規定ぶりの、どちらの表現をもカバーするという規定ぶりになっております。
 特に、電子商取引の問題が重要であるということで、3項でデータメッセージという概念の定義を具体的にするという形を取っております。
 4項は、現在のモデル法に含まれている、当事者双方の請求及び防御に関する書面の交換の中に、仲裁合意を否認しない形で応答がされている場合には、その書面を仲裁合意の書面とみなすという規定でございます。
 5項ですが、これが従来の審議状況の中間案と大きく変わったところで、注の4に書いておりますように、従来議論されてきました改正案の4項、6項、7項をすべて統合しまして、文言と内容を整理する形で落ち着きました。
 最終的にまとまった5項は、結局引用に関する条項ということになります。仲裁条項を含む書面を引用した場合には、それを引用した契約が口頭によるものであれ、行為によるものであれ、又はその他の書面以外の手段によるものであれ、これを書面とみなすということでございます。つまり書面要件は、引用される書面の方で満たしていれば、それを引用した方の契約が書面である必要はないということで、従来よりも理解しやすい形になっておりまして、この形でこれから大きく動くことはないものと考えております。
 これで一応まとまったわけですが、これが最終的に決定ということにはなっておりませんのは、この7条の改正が問題となったわけではなくて、この後この7条を内容とするニューヨーク条約の解釈のための宣言をどうするかという議論になって、そこで従来からくすぶっておりました、いっそニューヨーク条約そのものを改正すべきだという改正派と、ニューヨーク条約の解釈の宣言でいくべきだという派が、またその議論を蒸し返してもめたということで、7条の採択までには至っていないということですが、7条の改正はこの形でほぼ大きくは動かないものという解釈でした。
 以上です。

□ どうもありがとうございました。方式でございますけれども、まず事務局から御説明をお願いします。

● 仲裁合意の書面性については書面によらなければならないとする方針自体については、一読でも異論がなかったところだと思います。ただ、その場合の書面の意義等の規定ぶりや、消費者が一方当事者になる場合の特則の要否についてなお検討する必要があるということになったと思います。
 2の(3)の枠内のアは、仲裁手続内でやり取りがされた書面の記載から、仲裁合意の存在について当事者間に争いがないことが看取される場合についてですが、これについてモデル法7条2項にならい、書面による仲裁合意があるものと考えて差し支えないと思います。
 他方、訴訟において被告が仲裁合意の存在を主張し、原告がこれを争うことを明らかにしない場合について、訴え提起すること自体が仲裁合意を肯認しない趣旨の表われであると考えられることから、その取扱いについて一読の際にも御異論があったところであり、なお検討する必要があると考えられます。
 モデル法には、その点についての規定はありませんが、英国法等にその旨の規定が置かれております。
 新仲裁法でも、そのような場合にまで拡大して仲裁合意があるものとすることが妥当かどうか御議論いただきたいと思います。
 2の(4)については、モデル法7条2項のように、8ページの枠内のような規定を置くことにつき御意見をいただきたいと思います。この場合の引用の程度については、その情報を確実に契約内容の一部とする趣旨に基づくものであることが必要であると思われますが、仲裁条項を含む文書への言及が、単に一般的指示文言で引用すれば足りるか、あるいは紛争解決について特定の仲裁条項によるとの特定した引用でなければならないかは、なお議論があるところです。
 なお、○○委員から御説明がありましたように、UNCITRALの仲裁作業部会では改正が検討されており、契約本体が口頭で行われるサルベージ契約等の場合についても含むものとする方向のようですが、今後こちらにも注意しながら検討していく必要があると思います。
 契約当事者の一方が消費者である場合の規律については、今後更に検討していきたいと思っておりまして、今日の検討会の最後に○○委員の方からも若干コメントをいただけるということであります。

□ それでは、仲裁合意の方式についてでございますけれども、(1)の書面性は、書面によってしなければならないということ自身は問題ないと思いますが、(2)の書面の意義、範囲について主として御意見をいただきたいと思います。(2)についていかがでしょうか。書面の要件をここまで広げておけば大丈夫だということでよろしゅうございますでしょうか。
 それでは(3)に入りまして、申立書と答弁書で、一方が仲裁契約があると言い、相手方もこれは争わなかったという場合に、それによって仲裁契約があるものとするという(3)でございますが、これについてはいかがでしょうか。特に訴訟になった場合に、仲裁契約ができるとするのかどうか。仲裁手続の中ではもう当然のことですけれども、訴訟でもそれでいいのかどうかという点でございます。

○ イの方は、ちょっと疑問があるように思うんですけれども、先ほども御説明あったと思いますけれども、訴訟を起こしたこと自体が仲裁を否定するということになるわけですね。果たしてこういうふうなところまで広げていいのかどうか。
 先ほど消費者の問題も出ましたけれども、例えば本人訴訟であるとか、代理人が付かないで訴訟が起こる場合もあるわけですね。そんなようなところまで広げていくと、そういう例外も考えられるのではないかという感じがするのですけれども。

○ ○○委員のお話はもっともですが、逆にこれが認められないとすると、結局訴訟の方は訴え却下判決になっているわけです。訴え却下判決の既判力として、仲裁合意が存在するということは既判力をもって確定されているわけで、仮に仲裁手続で仲裁契約がないという判断に至った場合に、原告は紛争を解決してもらう手段を失ってしまう危険性があるのではないかという問題があろうかと思います。

○ ちょっと細かいことになってしまいますけれども、妨訴抗弁を主張したと、ただ主張しただけかもしれないし、もちろんそれが立証が付けば先生の言われるようになるんだろうと思いますけれども、これが例えば抗弁としてちょっと言ってみたのに、真偽を問わず相手が争わないときにまで拡大されるような趣旨があったものですから申し上げたんですけれども。

○ 妨訴抗弁について、基本的には弁論主義が妥当するというふうに考えられていると思いますので、原告が争わない場合には自白が成立して、訴え却下の判決がされることになるわけですね。

○ 私は、○○委員がおっしゃることはこういうことだと思うのですが、○○委員がおっしゃった擬制自白という言葉で申しますと、いつ擬制自白が成立するかという話と関係するのですが、言うまでもなく却下判決がおりなければ擬制自白は成立しないわけですね。つまり訴訟の途中の段階でまだ争ってないというだけでは擬制自白にはならないと、口頭弁論の終結までいかなければいけないわけです。
 そうすると、アとイを並べて書いていますが、これはちょっと意味が違っていると思うのです。つまりアの場合は、仲裁手続の中ですから、仲裁手続が終わったことまで要求しているわけではなくて、アの方の相手方が否認していない場合というのは、これは仲裁手続の早い段階で、つまり手続が続行中であってもこの効果が発生するという趣旨だと思うのです。ところが、イの方は、内容というよりは規定ぶりの問題かもしれないのですが、イの方で原告がこれを争わない場合にも合意があるという表現ですが、この「争わない」ということをどういう意味で書いているのか、アと同じように訴訟の途中の段階で既に書面による仲裁合意があるとみなすという趣旨であれば、何かおかしいと思いますので、イの規定を置くのであれば、同じ争わないとは言っても、アとは時点とか趣旨が違うんだということを少し明らかにする必要があるのではないかと。

● ○○委員のおっしゃるとおり、これは訴訟において最終的に争わないというふうに弁論の全趣旨で認められて、そういう訴え却下の判決がされてしまうということが前提ということで、ちょっと舌足らずだったのですが、一応御理解していただきたいと思います。

○ 私が申し上げたいのは、私もこのイに賛成だということでは必ずしもなくて、私が申し上げたような事態というのは、原告が争った場合に仲裁合意の存在が認められた場合も同じようにあるわけですね。つまりその場合に、訴え却下された後、原告が仲裁を申し立てたところ、被告は実は仲裁合意がないという主張をして、仲裁手続が争われて、結局仲裁合意がなかったという判断になれば、やはり原告は自分の紛争解決をしてもらう手段を失ってしまうことになって、これはむしろ仲裁合意の存在というよりは、被告側の信義則に反した、つまり訴訟では仲裁合意があるというふうに主張しながら、仲裁では仲裁手続がないと態度を翻すという、禁反言のような問題なのかなという感じがいたしておりまして、それを解決するには仲裁合意があるというような形でそれを解決するのが適当かどうかということは、なお考えてみる必要があるのかなというふうに思いまして、直ちにイに賛成しているわけではないということです。

□ よろしいでしょうか。これは、モデル法ははっきりしませんけれども、イギリス法の5条と、仲裁法試案の今度の2001年改訂版に、訴訟の答弁書においてということが出ているということですが、多分こういうことにするとかなりぎらぎらするものになるので、私はさっき言われたように信義則の問題として考えればいいのではないだろうかというふうに思っているのですけれども、それは更に今後検討するということでよろしゅうございますか。
 それでは、その次は「(4)仲裁条項を含む文章を引用する場合」はどうかということです。この原案は、引用する場合に引用する方は書面でなければいけないと、そして契約の一部とする形で引用するという、前のモデル法の7条2項で、それを取り入れようということですが、今、○○委員の御説明だと、引用する方は口頭でいいというところまで踏み切ろうとしているということで、○○委員にお聞きしたいのですが、サルベージ契約で援助契約なんかで現場で行ったような場合、口頭でということがあるかもしれませんけれども、本当に口頭なんでしょうか。やはり書面に戻すのでしょうか。

○ その点はUNCITRALでも、実情を調べなければいけないということで、事務局も実情調査を行い、またUNCITRALに参加しております常設仲裁機関からも種々発言がありまして、大分現状が明らかになったところですので御報告したいと思います。
 まず、私のペーパーで言いますと、口頭というのと行為というのが例で挙げられているんですけれども、まず口頭の方の例ですが、これはサルベージ契約の例でありまして、現実にしばしば行われている例として、海事のサルベージ契約は、緊急性が高いのが背景ですけれども、ラジオ無線を通じて口頭で行い、その際にロイズ・オープン・フォームを始めとする、既存の仲裁のモデルフォームを引用する例が実際にしばしば行われているということであります。
 もう一つの、行為で仲裁契約が完結する場合でありますが、これは国連のいわゆるウィーン売買条約18条に基づく契約などにおいてしばしば見られるところで、具体的にはいわゆるGAFTA、グレイン・アンド・フード・トレード・アソシエーションの標準条項を引用することを当然の前提として、日本法で言う意思実現、行為の形で契約が完結される場合というのが、通常日常的に行われているということです。

□ ○○委員、何か補充することはありますか。

○ 今おっしゃったロイズ・オープン・フォームというのは、救助契約書でございまして、その中に仲裁事項が入っているわけです。それで、日本の業者に聞いたところでは、前にも申しましたように、口頭でというのは非常にまれであろうということでした。
 もう一つ言いますと、日本の関連の業者ですと、実際に例えば海運集会所のフォームを使っている場合でも、仲裁や調停に付託するのが非常に少ないものですから、口頭でやった場合はどうかといったようなことが問題にならないのですね。ヨーロッパでは、そういうことが行われているのかと思います。

□ 分かりました。これはUNCITRALのモデル法が正式な改正がなされるかどうか、どういうふうに改正されるか分からない。そこで、こちらとしてはしばらく様子を見るという考え方と、改正されるかどうかはともかくとして、日本法としてそういう実質がよければそれはまた取り入れるという考え方もあり得ると思うので、これはその両様の考え方をにらみながら、今後更にUNCITRALのモデル法の改正状況を見ていくというようなことでよろしゅうございますでしょうか。
 それでは、そういうふうにさせていただきます。

【検討事項案その2(第2 仲裁合意について) 〜3 仲裁合意の分離可能性について、4 妨訴抗弁について、5 裁判所に対する保全処分の申立てについて〜】

□ その次が、資料15の3の仲裁合意の分離可能性について、4の妨訴抗弁について、5の裁判所に対する保全処分の申立てについて、この3つの事項について、事務局からまず説明いただきたいと思います。

● まず、仲裁合意の分離可能性については、モデル法に準じて枠内のような規定を設けることが考えられます。この点について、御意見を確認させていただきたいと思います。
 なお、この規定を置くとした場合、9ページの説明にあるとおり、モデル法では仲裁廷の管轄決定権限の規定中に規定されているところでありますが、独立に規定した方が内実からするとよろしいのではないかというふうにも見られるというところです。
 妨訴抗弁の主張時期につきましては、一読の御議論を基にA案とB案を挙げさせていただいております。B案は下級審の裁判例(事務局注:東京地判昭和48年10月29日判時736号65頁)に基づくものです。A案は、モデル法に準じたものです。A案、B案いずれの立場からでも結構ですので、御意見をいただきたいと思います。
 4の(2)の妨訴抗弁の効果については、モデル法8条1項は、仲裁に付託すべき旨を命じなければならないというふうにしておりますが、そのような仕組みを直ちに設けることについては慎重な検討を要するところですので、ドイツ法や韓国法と同様に、訴え却下とすることでいかがかということで御意見をいただきたいと思います。
 一読においては、却下とする場合には時効が完成しないような仕組みが必要との御議論がありましたが、それについてはコメントを参照していただきたいと思います。
 4の(3)では、モデル法8条2項と同様に、仲裁廷は仲裁合意の対象となっている事項につき訴え提起がされ、その訴訟が係属している間も仲裁手続を開始又は続行し、仲裁判断することができることにつき御意見をお伺いします。
 なお、コメントに記載があるとおり、仲裁合意につき仲裁廷と受訴裁判所の判断が異なった場合について、どのように調整するのかについては、なお検討の必要があると思われますので、この点についても何らかの御示唆をいただければと思います。
 5の枠内の考えは、モデル法9条にならい、仲裁合意と裁判所による保全処分が両立するものであるとの原則を示したものです。民事保全法には、起訴命令に関し裁判所による保全処分が可能であることを明らかにする規定がございます。コメントにも記載がありますが、後に御検討いただく仲裁廷による暫定的な措置を認める場合には、これとの調整をどうするのかということの検討も必要があると思われます。
 以上です。

□ どうもありがとうございました。仲裁合意の分離可能性、妨訴抗弁、裁判所に対する保全処分の申立て、この3つの事項でございますが、まず仲裁合意の分離可能性は、よろしゅうございますね。位置の問題はちょっとあるかと思いますが、よろしゅうございますか。
 そういたしますと、妨訴抗弁でございますが、(1)は主張時期でA案とB案があります。この辺から御議論をいただければというふうに思います。どなたからでも結構でございます。どうぞ。

○ 私は、A案の方がよろしいと思います。B案は、妨訴抗弁の主張が訴訟の完結を遅延させたりしない場合にはいいということで、訴訟のことだけ考えればそれでいいのかもしれませんが、仲裁の最大のメリットの一つは迅速性でありまして、こういう後の時期まで引っ張れるということになりますと、仲裁で解決できるかどうかの判断が、場合によっては何年にもわたってつかないということになりますので、これはA案の方が趣旨に沿っていると考えます。

□ 何かほかに意見ございますか。
 このA案はモデル法の8条1項そのものではなくて、「留保なく」という限定が入っています。8条1項の場合には、「留保なく」本案について答弁したということではなくて、本案について答弁すればもうだめだというのが非常にはっきり出ているのです。しかし、このA案は「留保なく」というのがありますから、妨訴抗弁は後から出すということさえ言っておけばいいというふうに読めるので、この辺だと日本法として採れるのかなということで、これは少しB案に近い考え方かもしれません。

○ そうですね。実務的にはB案でも。だらしないのかもしれないですけれども、急ぐということもよく分かるんですけれども、全くどこまで制限しないといけないかということだろうと思うのです。確かに留保なくですからいいと思うんですけれども、ただやはり一応請求趣旨に対して答弁は型通りするということは、前にも言いましたけれどもあるんですね。請求原因については言わなくても、請求の趣旨だけについてはとりあえず出してしまうということはありますので、どこまでそれを現実に厳しくカットするのかという感じがしなくもないのです。
 B案程度でもよろしいのではないかと。感じだけですけれども。

□ そうですか。どうぞ。

○ 私は、基本的にはA案がよろしいのではないかと思っております。民訴の管轄違いの答弁を主張できる時期ですとか、この仲裁の関係で後で出てきます仲裁廷に審理判断権限がないという主張をできる時期との兼ね合いからすると、どうもA案でないと整合性が取れないように思うのですが。
 自分で考えてよく分かりませんでしたのは、仮に訴訟を進めていて、もうこれは訴訟ではらちが開かないから仲裁しようと、途中で仲裁合意をした場合にどうなるのかなというのがちょっと気になりまして。仲裁合意を仲良くしたんですから、普通訴え取下げで終わりそうに思うのですけれども、また気が変わって、仲裁合意を主張したのに訴訟を取り下げなかったなんていう事態が仮に起こったら、A案では読めないのかなという気もしまして、あり得ない心配かなと思いつつ、懸念をどなたか解消していただければと思います。

□ 訴え取下契約をしたにもかかわらずということですか。

○ 仲裁合意をしたのに、訴えは当然取り下げるだろうと思って放っておいたら残ってしまったという場合が仮に起こったら。

□ 訴訟法に今まであった例として、和解をして訴え取下契約をしたにもかかわらず、訴えを取り下げなかったという例がありますね。同じように訴え取下契約が出てくれば却下したという例ですから、途中でも仲裁合意できるのではないでしょうか。

○ そうすると、それに訴え取下の趣旨も含まれている、それを証する書面が提出されたとして訴えの方を終了させればよいということですね。

□ そうですね。妨訴抗弁の事由が発生した後で、それが主張されていればということになるのではないでしょうか。

○ 現実には、そのような行為を途中でしたことがあります。その合意をするときには必ず今の訴えを取り下げるということで、取り下げたことも仲裁人は確認をしますね。それが機関仲裁ではない場合、慣れていない場合にどうなるかということはあるかもしれませんが、今おっしゃったようなことで解決できると思っております。

○ ありがとうございました。

□ ほかにどうですか。A案、B案ということで、そんなには違わないですね。「留保なく」という用語は法文としてはちょっと難しいかなと思うので、何か別の言葉になると思うんですが、その言葉の使い方によってはB案に近くなるということだと思います。

○ ですから、注のところに、各事例ごとに諸事情を考慮して判断すると書いてあると、ほとんどB案だなという感じがしたものですから。

○ A案を取ってもB案的に条文を仕込むのは望ましいという御趣旨を含んでおられるのでしょうか。それとも、結果的にそうなってしまうとおっしゃったのでしょうか。
 先ほど申しましたように、モデル法を始めとして、仲裁法一般の考え方は、もともと迅速な解決を望んで仲裁合意があるにもかかわらず、一方の当事者のごね得によって解決を遅らせる事態を防ぎたいという趣旨があると思いますので、A案で留保なくに類した言葉を入れる場合であっても、無制限に口頭弁論の終結時まで引っ張れるということにならないような工夫が必要だと考えております。

□ 分かりました。そのぐらいの議論でよろしゅうございますか。
 それでは、妨訴抗弁の効果でございますけれども、訴え却下ということでないと、なかなか日本法としてはうまくいかないというのが事務局の考え方です。モデル法によりますと仲裁付託を命ずるという主文があるんですけれども、それは日本法としては外すということでよろしゅうございますか。
 では、これはそういうふうにさせていただきたいと思います。
 そうすると、一方では妨訴抗弁が出されており、他方では仲裁が続いているという場合に、両方で判断が矛盾することがあるかもしれないけれども、しかし仲裁廷としては仲裁手続を続行するということはよろしゅうございますか。
 実務の方では、こういう例はありましたか。裁判所でも裁判が続き、仲裁人は仲裁人として手続を進めていったという例はありましたでしょうか。

○ 一つ今、係属中の仲裁事件がございまして、それは当事者は仲裁合意そのものの存否を争っておりまして、仲裁手続の中では仲裁合意ありという判断で進めようとしたのですけれども、不服があるということで別途訴訟で争われているということで、この事案の対応としては訴訟のなりゆきを見た上で進めようかというような対応になっておりますが、この辺はケース・バイ・ケースの判断で、訴訟を待たずにどんどん進めた方がいいという場合もあろうかと思いますので、この案のとおりでよろしいと思います。

□ 分かりました。そして、矛盾した判断がどうなるかというのは、もうこれは日本の判決と外国の判決が矛盾する場合もありますので、それはもう解釈論に任せるということで、立法的な手当てはとてもできないというようなことだと思いますが、よろしゅうございますか。

○ 一つ質問なんですが、原告が訴えますね。それで別途仲裁が動いていると。ただ訴訟を起こした側は仲裁合意の範囲外だと思ってやっておると思いますが、そうしますと仲裁の方にはある意味では協力をしないと言いますか、我々は訴訟でいくんだということになろうかと思うのですが、その場合には手続を開始・続行するというのは、当事者においては仲裁の方に協力する一種の義務と言いますか、そういったものまでも含むというふうに理解するのか、それとも原告が訴訟を起こした以上は、その判断が出るまでは原告の判断に任せるということになるのでしょうか。

□ それは、協力するという言葉を使うかどうかはともかくとして、仲裁は普通に進んでいくと、だからそれに対応せざるを得ない、対応しないと負けるということになります。

○ 分かりました。

□ よろしいでしょうか。
 それでは、裁判所に対する保全処分の申立てということでございますけれども、これについてはよろしゅうございますでしょうか。これは従来から、仲裁契約をしたからといって一切裁判所に持ち出せないということではなくて、それは仮差押、仮処分というような必要がある場合には、裁判所にそれを申し立てることができる。そして裁判所の裁判が出れば、当然それについては執行力があるという考え方で、これの規定を置くということでよろしゅうございますか。
 それでは、一応資料の15は終わったということでございます。

○ 一つだけ、先ほど申し上げればよかったのですが、本日15の追補で出されましたものに、ドイツ法の1031条が引用されておりますけれども、1031条の2項で、仲裁契約が一方の当事者から他方の当事者にあてた書面において記載されている場合であって云々とありますけれども、以前皆様に参考資料としてお渡ししました、私どもの船荷証券、B/Lの規定が当てはまるのでしょうか。こういう規定がなくても、今、御審議いただいていたような規定でも大丈夫だと思っておりますが、中には仲裁の入口で時間稼ぎに悪用されることもあることを考えると、今のドイツの規定が大いに参考になってよいと思っております。

○ 私もこの資料15に関して、8ページの「仲裁条項を含む文書を引用する場合について」ですが、先ほどUNCITRALの議論を紹介しましたように、現在では口頭による契約だけではなくて、行為による契約の締結、その他書面によらない契約の締結を広く含んで議論がされておりまして、ここには下から2行目で「サルベージ契約等特定の分野についてのもののようであり」と書いてありますが、行為による場合は、先ほど言いました国連の国際物品売買契約条約の18条で日常的に行われている場合をも含みますので、特定の場合だけではないということをパブリックコメントの際に正確に記していただければと思います。

□ 広く行われているかどうか分かりませんけれども、前から口頭による契約というのはサルベージ契約の場合が多いというふうに言われていましたね。サルベージ契約等の分野ということでよろしいですか。

○ 今、言いましたのは、口頭ではなくて行為の方です。私は必ずしも実務は知りませんけれども、聞くところでは、広く行われるという紹介がされました。

【検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について) 〜1 仲裁人の数について〜】

□ それでは、検討会資料の16の仲裁廷の構成でございますが、まず仲裁人の数と仲裁人の資格の問題について議論していただきたいと思います。まず、御説明をお願いいたします。

● 仲裁人の数については、一度ここで御議論いただいたところでありますが、当事者間で合意できるということが前提となりますので、合意がない場合のデフォルトルールとしては、モデル法第10条にならって3人とすることがよいのではないかと思われます。
 また、仲裁人の資格については、一つ目の議論を受けた枠内の2つの案について御検討いただきたいと思います。なお、当事者の合意で仲裁人の資格を制限できることは特に御異存はないのではないかというふうに思っております。

□ 仲裁人の数と資格でございますけれども、いかがでしょうか。
 この数については、大体この前の御意見で当事者は合意ができると、合意がない場合には3人ということでございますが、よろしゅうございますか。

【検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について) 〜2 仲裁人の資格について〜】

□ それでは、その次に資格でございますが、資格はA案、B案ということで、特定の規定を設けないというのと、B案は自然人でなければならないというふうにした上で、仲裁合意で特定の団体を指定しているという場合には、その団体は仲裁人になるというのではなくて、仲裁人選定権限が与えられているというみなし規定みたいなものを置くという考え方でございます。いかがでしょうか。

○ このB案の説明、2ページの下から3行目辺りのことなんですけれども、紛争は仲裁機関の仲裁による旨定めるにすぎない場合が少なくないと、例えば仲裁協会で仲裁をいたしましょうというような合意があったと、そういう場合に備えたのがこのB案であるという理解でございましょうか。つまり、仲裁機関の仲裁によるという定めがあれば、仲裁機関の規則で仲裁人は決まりますので、特にこういう規定を置く必要はなくて、ただ当事者が仲裁機関ではない会社とか、そういうものを仲裁人として契約の中で言及していると、それはかなりレアケースだと思うのですけれども、そういう場合に備えるべきものがこのB案ではないかと私は理解したのですが、いかがでしょうか。

● 御質問の趣旨が余り判然と分かっていないところがあるんですが、B案というのは手続について仲裁機関を使えますよといったところではなくて、仲裁人をどこどこの機関としますよというふうに書いた場合に、その機関、団体が仲裁人になれるというふうにした場合に、前回も御議論がありましたように、忌避の問題ですとか、いろいろなところでどういうふうに考えるかという問題が出てくるので、そういう場合は端的に選定権だけを付与したものだということにして、仲裁合意自体の有効性は維持しようと。そこが揺らいでしまって仲裁合意自体が無効ではないかという形になってくると、紛争がこじれてしまうのではないかということを懸念して設ける規定ということです。

○ 今のですと、説明書きが正しくないと思います。紛争が仲裁機関の仲裁による旨定めているというのは普通のことでございますから。

□ ○○委員のおっしゃるとおり、仲裁機関を指定した場合はいいですけれども、例えばそうじゃなくて、金融関係の紛争で全銀協の仲裁によるとか、何かそういう特定の団体で仲裁をやってもらおうということになると、一体団体が指定されたのか、団体は何をしていいか分からないということがあるので、それを含めてB案を考えているということで、仲裁機関と書いてありますが、必ずしもそれだけではありません。

○ ただ、B案には「仲裁合意で法人その他の団体が仲裁人として指定されているときは」と書かれていますね。そこの説明では、そうは言っていないですね。

● 説明のところに紛争と書いてあるのが不正確だったというのは、御指摘のとおりだと思います。一応この案としては、仲裁人について団体を定めている場合ということの御趣旨として御議論いただければと思います。

□ このA案、B案はいかがでしょうか。実質から見ると、法人は仲裁人になれないという理解でよろしいのでしょうか。まずそこを確かめたいと思います。実質から見ると、法人も仲裁人になれるんだということになると、B案はそういうことを排除しているわけですから、規定を置く意味があります。これに対して、法人は仲裁人になれない、規定がなくても自然人しか仲裁人になれないんだという理解ならA案でもいいということになります。そこのところの前提の理解をどういうふうに考えるかという点はいかがでしょうか。
 この前言いましたけれども、私自身は仲裁人は裁判官と同じなんだから、法人の仲裁人なんてないという前提で考えているものですから、それではA案でもB案でもそう大して違いないと思っているのですが、このところはいかがでしょうか。

○ 自然人だと思っております。ただ、そういうふうにはっきり自然人でなければならないと書くと、レアケースですけれども、おっしゃった全銀協もありましょうし、ただどこそこの仲裁機関ということもあるでしょうから、私はむしろA案のように何も設けない方がいいかなというふうに思っております。

□ そうすると、全銀協の仲裁に任せるというと、その契約は無効になるということになりませんか。そういう解釈規定をB案は置こうということですね。

○ 解釈規定ですね。分かりました。

○ ただ、現実に仲裁人として法人とかその他の団体を指定するということはないと思うのです。仲裁を行っていない機関を仲裁機関として規定することはあるかもしれませんけれども、仲裁人として団体を指定するということは実務ではまずないと思うのです。

□ しかし、アドホック仲裁があり得るのではないですか。

○ 理屈としてはあるのでしょうが。

○ 政策判断の問題として、例えば全銀協を仲裁人とする仲裁契約というような、かなりアブノーマルな仲裁契約を、果たして法律として救ってやる必要があるのかないのかという判断になろうかと思うのですが、私としてはそこまで救ってやる必要はないのではないかと。つまりA案のままでいいのではないかというふうに考えております。

○ 資料の3ページに載せていただいている、台湾の仲裁法では、この枠囲いのB案とは違う考え方で、仲裁人についての約定がないものとみなすということになって、どうしてそうなっているのかよく分からないのですが、強いて考えますと、このB案の場合に、その他の団体が、ある種暴力団のような団体であって、消費者契約みたいなことを想定するのか、仲裁契約の無効みたいなことになるかもしれませんけれども、そういう場合を想定すると台湾法みたいな形になるのかなという気もいたしますし、そういう非常によろしくない団体が指定されているときに、その団体に契約をしたというのはいかがなものかと。そういうケースは余りないかもしれませんけれども。

○ 今の御説明の趣旨が分からないのですけれども、台湾法だと仲裁契約が無効になるわけではなくて、仲裁人についての約定がなくなりますから、モデル法ですと11条等に従って、デフォルトルールが適用されるということになるだけですから、台湾法でもB案と結局似たような処理になると思います。

○ B案では団体に仲裁人選定権限を付与したものということで、大分違うように思います。

○ 失礼しました。最後は違いますね。

● 暴力団のような関係は、別途手当てしないといけない問題だと思っていまして、それについてはこれとは別にまた検討はしたいと思っております。
 資格の関係については、なお検討しないといけない点もあるかなというふうに思っておりますので、この程度で。

□ 分かりました。それでは、次にいきたいと思います。

○ 済みません。A案、B案は、この後の議論にパブリックコメントを踏まえて入れた方がいいと思うのですが、座長がさっきおっしゃったように、パブリックコメントでA案を提示するというときの前提ですけれども、特段の規定を設けないというのは、自然人しか仲裁人になれないというB案と同じ認識を前提にして、あえて規定までは要らないという趣旨で提示しているのか、それともこの仲裁契約は無効になることもあり得るという趣旨で提示しているのかは、ちゃんと議論した上でないといけないだろうと思います。

□ 第1回にも、例えば会社更生の管財人は、銀行その他の法人も更生管財人に入るという議論があったと思うのです。だから、ひょっとしたら法人仲裁人もあり得るかという議論がちょっと出たと思うのです。そのときに私は、いや裁判官と同じではないだろうかということを申し上げたのですね。しかし、そこのところはまだここでは大きな意思が固まっていないと思いますが、いかがでしょうか。法人の仲裁人というのはあり得るんでしょうか。そこのところが分からないものですから。
 ○○委員は、どういうふうにお考えですか。

○ 私も、先ほど何人かの委員、あるいは座長もおっしゃったように、自然人でなければならないという前提でA案もB案も考えております。個人的には、法人による仲裁人というものを認める必要があるとは思っておりません。

● 逆に法律の規定から見た場合に、日本国の法律の規定の中で、法人というのも一つの権利主体として認められているわけで、そうすると何かここで排除されている前提というのが、あるのかないのかというと、これはかなり疑問の余地はあるのかと。裁判官の場合だと、任命とか資格要件がありますので、それは自然人でなければいけないというのがあるのですが、仲裁人の点についてはなお解釈の余地は残ってくるのではないかと。
 解釈の余地として自然人でなければならないということを前提にするというのは、十分あり得るんではないかという整理だと思います。

□ 法人の選定手続、忌避、解任、死亡とか、そういうものをずっとこれから規定するわけですから、そうすると全体から見ると、法人というのはないということがかなりはっきり浮かび上がってくると思いますが、自然人でなければならないという規定を置くかどうかが問題なんですね。そこのところが悩ましいところなんですが、今日のところはよろしゅうございますか。
 では、ここで休憩にいたします。10分間、3時20分まで休憩にします。

(休 憩)

【検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について) 〜3 仲裁人の選定手続について〜】

□ それでは、審議を再開させていただきたいと思います。
 検討会資料の16の3、仲裁人の選定手続についてということでございますが、御説明をお願いいたします。

● 仲裁人の選定手続について、モデル法11条2項ないし5項にならった規定を設けることにつき御意見を伺いたいと思います。仲裁人の選定手続については、当事者が合意により定めることができるとしつつ、合意がない場合の選定手続を3の(2)の枠内のように規定することが考えられますが、このような考え方について御意見をいただきたいと思います。
 また、(3)の、当事者間で合意された仲裁人選定手続が功を奏さなかった場合には、裁判所に対して仲裁人選定等必要な措置を求めることができるとする規定を設けることでよいかどうかについても御確認いただきたいと思います。この点、モデル法の11条4項は、裁判所に対し必要な措置を取るよう申し立てることができるとするにとどまっているので、具体的な立案に当たっては、更に検討の必要があるということです。

□ それでは、(1)(2)(3)(4)まであるんですけれども、(1)の方は当事者が選定手続を定めることができると、これはついては御異論がないと思いますので、デフォルトルールであります(2)辺りから、これでいいのかどうかということを御検討いただきたいと思います。どなたからでも結構でございます。

○ (2)のαのdのところですが、aにより各当事者が選定した2名の仲裁人を選定後30日以内に更に1人の仲裁人を選定しないとき云々というのがありまして、これについて5ページにコメントが付されておって、選定された仲裁人の就任の承諾に至らずとも同期間は進行を開始すると解することでよいかも問題となるというふうにされておりますが、この点で実際の実務の方ではどういうふうにやっているのかという点、もしどなたか教えていただければありがたいと思います。つまり私が思ったのは、仲裁人を選ぼうというときには、内諾を取ってから仲裁人にするのではないだろうかと、そうするとこの辺は余り気にしなくていいのかなと思ったものですから、その点教えていただければと思います。

○ 実務としましては、結論的には仲裁人への就任承諾があった後に仲裁人選定がなされるということになっております。逆に言うと、仲裁人への就任承諾なくして仲裁人選定はないということです。

□ おたくの方は、まとめて選定しますからね。そうではなくて、このルールはある当事者が自分で仲裁人を選定すると。

○ だから、選定するという意味が、仲裁人になる人が仲裁人を引き受けたということの後に、あるいは同時に仲裁人選定をするという意味だと思うのです。

□ それを相手方に通知するわけですね。だから、承諾が当然あるという前提ですね。

○ はい。

□ 分かりました。あって初めて選定をすると、そこから30日以内にと。

○ 実務もそうですし、この条文自体をそのように理解しておりました。

□ 分かりました。このコメントは、そういう理解でお願いいたします。
 それから、先に仲裁人を選定した者の相手の方ですが、相手方も仲裁人を選定するという意味は、30日以内に承諾を取れということになりますか。このαのcですが、同意まで得なければ裁判所に申し立てることになりますか、それともあとの方はこの人を自分は選びたい、交渉中だということを言えばいいのか、その辺のところはどうでしょうか。

○ 私は同じ結論だと思います。

□ そうですか。日本海運集会所の場合はどうでしょうか。

○ 私どもでは、こういうやり方をしておりません。当事者が希望仲裁人の名前を言うと、あとは委員会で利害関係のなさそうな希望仲裁人の都合を聞いて選びますから、主体が委員会の方に移っています。ただ、この規定は当然承諾も必要だと思います。

□ 建設工事紛争審査会も、これでよろしいですか。

○ 仕組みはこれとは違いますけれども、内諾と言いますか、承諾をいただいた上で選定しています。

□ 弁護士会は、この規定で特に妨げはないですね。

○ そうですね。ですから、自分で持ち込みの仲裁人というか、自分でこの人をというときは、ほとんど内諾を得ているということは事実だと思います。

□ それでは、(2)はそういうことでよろしいと思いますが、(3)の、うまくいかなかった場合、第三仲裁人を選べなかった、あるいは相手方が仲裁人を選定しなかったというような場合に、裁判所に申し立てることができるという規定はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。大体こんなことになるということで。

○ ちょっとそれた話で申し訳ないんですが、こういうふうな場合に、裁判所に申し立てる場合の貼用印紙なんかはどういうふうになるのかと考えたのですけれども。費用との絡みも出てきましょうし、余り高くすると国際的にも日本のは高いというふうになってしまうでしょうし。

● 費用は、非訟事件の横並びでいけば600円ぐらいでしょうか。裁判所の手続は、保全でも1500円ぐらいですし、非訟事件関係は大体600円とか300円ぐらいですね。それの横並び的になる可能性が強いのではないかという気がします。今は何とも言えませんが。

□ 今は仲裁人の選任の訴えというのがありますね。あれは印紙は幾らになるんですか。

○ 訴えの方は、訴額95万円として扱われるのではないでしょうか。

● 8200円ですね。

○ 例えば、民訴費用法の別表でいきますと、特別代理人選任申立て等の、いろいろな、人を選んでくれという申立ては300円になっていますので、数百円というイメージのような気がします。

● 先ほど私から冒頭で説明をさせていただいた中で、このモデル法との違いのところが若干分かりづらかったかと思うのですが、この案で示させていただいているのは、仲裁人の選定、その他所定の数の仲裁人を確保できない場合に、裁判所は端的に仲裁人を選任することを協力するというような形にしたらどうかと考えているところです。
 モデル法の場合は必ずしもそうではなくて、機関に選定を依頼するという合意に伴って、その前提条件としてこれこれを満たさないといけないという合意もあった場合に、その前提条件が充足されるように裁判所が助力をするようなことを想定しているのかな考えておりまして、そうすると、合意を尊重するということは非常に大事なんですが、なかなかうまくいかない可能性が非常に強いので、端的に仲裁人の選任をするというような方向で絞った方がよろしいのかなというふうに思っているのですが。

○ 記憶が定かではございませんが、モデル法の作成過程の議論について書かれた書物がありますが、そこを見ると、ここの意味は裁判所自ら仲裁人を選定するというふうに解釈すると書いてあったと思います。

● では、そこは問題にならないということでよろしいですね。

○ 条文の文言上は私も分からなかったんですが、作成過程の議論を見ますと、今、申し上げました内容だということのようです。

● ありがとうございます。安心できました。

□ よろしいでしょうか。もしよろしければ、次に進みたいと思います。
 不服申立てはよろしいですね。できないということで、これは多分横並びから見てそうだと思います。忌避手続はまた次にありますものですから、選任決定についてはそういうことで先に行かせていただきます。

【検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について) 〜4 仲裁人の忌避について〜】

□ それでは、今、申しました仲裁人の忌避の問題、資料16の4でございますが、まず御説明をお願いいたします。

● モデル法の12条の1項、2項にならった枠内の考え方によって差し支えないかどうか、改めて御意見を伺いたいと思います。イの「不偏又は独立」が括弧書きになっていますが、これは具体的にどのような言葉を使うか、法制的な問題でもありますので、更に検討・調整の必要性があるという趣旨で括弧書きにさせていただいております。
 (2)についても、一読で御議論をいただきました。こちらは枠内のような規定を設けるということで、異論がなかったように思われます。
 (3)の手続ですが、モデル法13条にならったものです。忌避手続をこのような枠組みで仕組むことにつき御意見をいただければと存じます。なお、11ページのコメントにありますが、忌避手続でも仲裁廷の判断と忌避の申立てを受けた裁判所の判断に齟齬を生じる場合があります。この場合の取扱いについては、なお検討を要するものと思われますが、この点も意見を賜ればと思っております。

□ それでは忌避でございますけれども、まず(1)の忌避事由については、アとイの2つを忌避事由とする。イの方については、不偏又は独立についてはまだ十分固め切っておりませんけれども、こういうのを忌避事由とするというようなことでどうかということですが、この点は何か御意見ございますでしょうか。
 それでは、忌避事由はこういうものとして、(2)の忌避事由の開示義務という点はいかがでしょうか。同じことを開示しなければいけないという点です。
 この点は、8ページのドイツ法のところが、芸の細かな決め方をしておりまして、ドイツ法の1項の方では、開示の方は自己の不偏独立について正当な疑いを生じさせ得るようなあらゆる事情を開示しなければいけないということで、開示事由の方は少し広い。
 これに対しまして、2項の実際の忌避事由は正当な疑いを生ぜしめるような事情が存在するときということで、正当な疑いというのをわざわざ入れておりまして、開示事由は多少広く、そして実際に忌避事由になるのは狭いということをしているようでございます。
 モデル法の方は、どちらも正当な疑いということだけで、開示事由が広くて忌避事由が狭いというような扱いをしておりません。この辺のところもどうするのかなということが、あるいは問題になるのかもしれません。
 原案は忌避事由の開示事由について、疑いを生ぜしめるような事情をすべて遅滞なく、「すべて」と書いてありますから、広く開示をしろと、そのうちで開示されたもののうちの実際の忌避事由はもっと狭いんだというのは、当然のことなのかもしれません。
 開示事由のところは、よろしいでしょうか。
 そういたしますと、実際の忌避手続の(3)でございます。これについては、こういうことでいいのかということでございますが、いかがでしょうか。ア、イ、ウとありまして、最終的には裁判所のウのところで判断しますけれども、そうでない限りは当事者が合意によって忌避手続を定めることができる。それで、そういうものがない場合にどうするかということで、イで標準的な手続としてまず仲裁廷に申し立てると。申し立てられた仲裁人が自分から辞めればいいし、では辞めさせましょうと相手方も合意した場合はそれで仲裁人は退任するわけですが、そうでない場合には仲裁廷自身が忌避申立てについて判断をすると。ウは、そういう忌避の申立てが却下されたという場合には、今度は裁判所に忌避の申立てをすることができるという、仲裁廷の第1段階の判断、それから却下された場合には裁判所の第2段階の判断という手続を定めようというわけでございますけれども、これはいかがでしょうか。

○ 2つございますが、11ページのコメントの黒ポツの2つ目でございますが、仲裁判断がされた後に、その取消しを求める裁判において再び忌避事由の有無を問題にする余地があると解されるというふうに書かれているのですが、以前申し上げたかもしれませんが、忌避の申立てを裁判所に行うときは、裁判所の方で忌避事由があるかどうか判断するわけですので、暫定的な判断ということで、判断した後に更にもう一度仲裁判断の取消しの段階で忌避事由の当否が判断されるということは、すべきではないのではないかと思います。もしそうであれば、忌避の申立てという独立の手続を設ける意味はないのではなかろうかというのが1点でございます。
 もう1点は、忌避手続に関連してでございますが、やはり当事者は仲裁人の忌避事由、あるいは資格について異議がある場合は、遅滞なく異議を仲裁廷又は相手方当事者に対して、その旨提出すべきであり、それを怠った場合には、責問権の放棄になる旨の規定を設けてもよろしいのではないかというふうに思っております。というのは、忌避をするかどうかという意思表示をしなくて、それで手続が終わって仲裁判断取消しの段階で初めて仲裁人に忌避事由があるということを主張することは、これは信義則に反するものではなかろうかというのがもう1点です。

□ この第1点は、確かに裁判所が忌避事由があるか一度判断したにもかかわらず、またもう一度できるというのはどうもおかしいという感じがしますけれども、ここで問題にしている場合には、上訴はできないというふうに書いてあるんですね。そこの並びで、暫定的に上訴しないで決定するから、仲裁判断が出たときの取消しのところでは上訴ができるわけですから、原案としてはそういう整理になっているのではないだろうかと思っております。
 あとの点は、確かに途中で忌避を言わないでおいて、負けてしまったときに忌避事由があるということで持ち出されるのは、大変困ることですが、それを責問権の放棄ということで抑えられるかどうかということですね。忌避があるにもかかわらず主張しなかったのはだめだという明文の規定を置こうというわけですか。

○ 責問権の放棄という旨の明文の規定を置くかどうかは別にしても、たしかスイスの仲裁法にあったと思うのですが、要するに、仲裁人の資格だとか、それに類するものに関して異議がある場合には、仲裁人と相手方当事者に対してその旨提出しなければならないというような規定は必要だと思うのです。
 提出しない場合の効果として、責問権の放棄になるかどうかというのは、先ほどの議論にありましたように、異議権の喪失というところが任意規定にしか適用されないとすれば、おそらく忌避事由は強行規定でしょうから、異議権の喪失にはつながっていかないのだと思うのです。
 しかしながら、これは従前の問題でもありますが、私は異議権の喪失にすべきであり、後々仲裁判断の取消しの段階で、不意討ち的に仲裁人に忌避事由があるということを当事者に主張されるのはおかしいというふうに思っております。

□ 分かりました。どうぞ。

○ 基本的には、○○委員のおっしゃったことに2点とも賛成なんですけれども、ただ最後におっしゃった異議権の喪失について規定を置くかどうか、そこだけはおそらくないというふうに考えております。
 ドイツも厳しい考え方をこの部分に関して取っておりまして、○○委員がおっしゃいましたように忌避が裁判で認められなかったというときに、もはや執行取消訴訟では一切主張をさせない。
 更に第2点として、所定の期間内、ここでは30日でしょうか。異議申立てを却下する決定の通知を受けてから30日以内に出すべき異議を言わないときは、やはり取消訴訟においても言うことを一切許さないと。つまり忌避についてはできるだけ手続の早い段階で確定させてしまうと、それによって安定性をつくり出そうという価値観に基づくもののようでございます。

□ 30日以内に裁判所に持ち出さなかった場合はそうなんですが、持ち出して負けてしまったという場合に、これはドイツも上訴を許していませんね。取消訴訟の方は上訴ができるんですが、それもだめだと書いてあるのですか。
 忌避事由があると思って裁判所に持ち出したんだけれども裁判所でやはり負けてしまったと。当事者は一貫して言い続けているわけです。禁反言ではないわけです。

○ 仲裁手続で1回争えて、それでだめで、更に裁判所でも1回争ったけれどもだめだと、それでもう確定させてしまおうという考え方だと思います。

□ 分かりました。○○委員の2点とも、確かにそれがないと動かないかなという気がいたします。

○ 今の○○委員のドイツの説明の中で、重要な部分だと思うのでクラリファイしたいんですが、30日以内に不服申立てを「しなければならない」のか、「することができる」のかと。ドイツの方は「しなければならない」ということでしょうか。

○ そういうふうに理解されております。

○ モデル法の場合は、そういうことができるという、不服申立権なんですね。したがって、私は権利でもよろしいのではないかと思っております。

○ 規定の書きぶりの問題で、30日に限って申立てができると、だからそれを越えてはだめだということなんです。

○ 私は、もしやるとすれば30日以内にしなければいけませんよと。やらないとすれば取消しの段階でもできるけれども、ただし忌避事由があるよということは、相手方、仲裁廷に対して提出しなければいけないということは、別途規定すべきだと思うんです。

○ そうすると、忌避を主張する人間が、決定後30日間に申立てをするか、それともその段階では黙っていて、取消訴訟になってから同じ異議を持ち出すかという、選択権を持つと。

○ 選択権を持つというのがモデル法の規定だと思ったのですけれども。shallでなくmayで書いていますからね。

□ mayであっても、それは両方の解釈があり得ると思います。

○ ただ、仲裁廷の管轄権に対する異議申立権についてはshallで書いてあるんですね。だから、多分使い分けをしているのではないかと思っています。

○ 私が疑問に思いますのは、なぜ選択権を忌避申立ての場合に与えなければいけないのかということですね。

○ そこは、私も判然としませんが、ただ権限として与えることについても、さほど大きな問題にならないのではないかと、要するに取り消されるかもしれないということが分かっていて手続を進めるということであれば、それはそれでいいと思うのです。

○ 忌避を申し立てる人間は分かっているかもしれませんが、申し立てられる側にとっては、法的関係が非常に不安定になってしまうのではないでしょうか。

○ ただ、一度忌避事由について異議を提出しているわけですから、相手方にとって、取消しの段階でもう一度それを持ち出すかもしれませんよということは、分からないわけではないわけです。

□ この問題は、勝ったら、絶対忌避しないわけですね。負けたから問題にする。じっと見ていて、仲裁の判断を投機の対象に使うということでは許されない。だからそういう意味で、○○委員が言われた考えというのは、上訴を許さない手続であっても、そこで確定させようという考え方ですね。それはそれで納得がいく考えだろうと思います。
 ほかにこの点、よろしゅうございますか。

● 11ページのコメントの上の方に書かれている、仲裁判断に熟してしまった場合に、裁判所がまだ忌避の事由があるかどうかについて、まだはっきりしていないと、その場合にどうするかということについて、これについてはどういうふうにお考えになるのでしょうか。

○ ドイツの立法理由書に少し書いてあったのですが、ここのところに限らず、仲裁手続と裁判手続が競合するという場合は、ほかにもあり得るわけですね。その場合、確かに心配されておられますように、こういう問題は起こり得るのだけれども、ドイツの立法者の考え方によれば、裁判手続が始まってしまった場合に、仲裁人がそれでも仲裁判断を出すんだというふうにして、仲裁判断を出してしまう場合というのは、相当限られた例外的なことだと、裁判手続が始まってしまえば、普通は仲裁人としてはもう手続を止める、それが原則だということのようです。
 ただ、相手方の方が言わば手続の引き延ばしをねらって、裁判手続に持ち込んでいるような場合にだけ、手続の遅延を許さないという趣旨で、仲裁人としては仲裁判断を出してよろしいと、そういうふうな規定ぶりにしているということでした。

● 先ほどのコメントの11ページの上の方では、なお裁判所の方としては忌避権について裁判をするということなんですね。

○ そういうことなんですけれども、実際はそういう場合は非常に例外的であるという、説明にすぎません。

□ 仲裁判断が出てしまうと、忌避の申立ての方は、訴えの利益がなくなってしまうのではないですか。

○ 事務局が心配しているのは訴えのムートネスの問題ですよね。

● 取消権が行使できなくなってしまうということだと思うのですが、ドイツの基本的な考え方を前提にされると、やはりそこで最終的に、判断までは取っておこうということだと思うんです。○○委員のおっしゃっていることは。

○ 今の御説明はよく分かりませんが、ドイツでは訴えの利益がなくならないという趣旨で仕組んであるのではないですか。つまりほとんどの場合には裁判所は裁判の手続が始まれば、仲裁人はその推移を見守るだろうけれども、そうでないこともあり得るというのは、一方が他方に優先するという趣旨は含まないということですね。

○ そうですね。

○ だから、訴えの利益はなくならないという、めったに起きないことだけれども、訴えの利益があるかないかと言えば、なくならないという趣旨だと私は理解していたのです。

□ そうすると、仲裁判断は出てしまった。仲裁人は任務を終了したと思っている。そうすると、後から仲裁人に忌避事由があるということになると、仲裁判断はどうなるのでしょうか。
 私は、もし忌避申立て中に仲裁判断が出てしまった場合には、仲裁判断取消しの申立てに切り換えていかないと続かないのではないかというふうに思ったのですけれども、これは後から資料の17ページにも同じ問題が出てきますけれども。もし、仲裁判断後も忌避申立て手続が残り、忌避事由ありということになると、仲裁判断はなくなるのですか。

○ 少なくとも、忌避の処理については、私の見た範囲では書いていなかったと思います。

● これは全体の構造とも絡むのですけれども、今、事務局の方で考えているのは、こういう不服申立てを許さないという裁判は、続行手続を認めていますので、そうすると続行する上で障害となるものについて裁判所が非常に簡易な形で協力するという形で仕組んで、仮に仲裁判断が出てしまったら、そこではもう協力する意味がないので、もうやらないというような形でどうかと考えております。
 他方で、取消しの問題というのはまた別にあって、取消しの方は上訴権まで保障する、もうちょっと重たいものであるということで切り分けた方がいいのかなと、そういう整理ができないかということを前提にしてつくらせていただきました。だから、全体の構造にもかかわるところですので、この局面に限定しないで、適宜御意見をいただければと思います。

□ 規定は多分しないけれども、それがどうなるかということだけは、前提を考えておかないと。それが規定に反映してくるかなという気がしますので、もし御意見があれば伺いたいと思います。

○ 意見ということではありませんが、座長がおっしゃったように、私の見る限り、モデル法の細則だけそういう問題があちこちに出てくるのですが、そのような規定を置いている例は余りないのではないかと思います。ですから、後は解釈問題なんですが、それは両方考え方としてはあり得ると思います。しかし、一般的には、当然には訴えの利益は失われないと理解されているのではないかと思います。
 したがって、仲裁判断が出たのに、例えば忌避の方が裁判で通ってしまった場合どうなるかというと、その限りでは直接的な効果はないですが、将来取消しの訴えのときにその判断が一つの証拠となるか、事実上更に拘束力を持つかという話になる。あるいは、損害賠償等の問題の前提になるということだろうと思います。

【検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について) 〜5 仲裁人の退任(任務終了)について、6 代替仲裁人の選定について〜】

□ それでは、先に行かせていただいてよろしいでしょうか。
 次は、仲裁人の退任と代替仲裁人選定という問題です。説明をお願いいたします。

● 仲裁人の退任については、一読でも御意見をいただきましたが、二読でも引き続き御議論をいただければと思います。論点としては、退任事由としてどのようなものがあるのか、及びその規定の方法。
 それから、解任及び辞任の要件として、13ページのコメントにある事項について検討いただければと存じます。
 3番目としましては、仲裁人の任務遂行の不能又は困難、任務懈怠等の判断手続が挙げられます。この点につきましては、事務局においても整理ができていない部分もございますので、二読においても御議論をいただき、更に検討させていただきたいと思います。
 また、6の忌避、退任等により、仲裁人が欠けた場合で、仲裁合意がなお消滅しない場合の新仲裁人の選定について、モデル法15条の規定と同様の規定を設けることについても、御意見をお願いしたいと思います。

□ それでは、どなたからでも結構でございますので、資料の12ページの仲裁人の退任、あるいは任務終了についてということでございますけれども、こういうふうに個別的に規定するのか、あるいは包括的な規定ができるのかというようなことも含めて御議論いただきたいと思います。

○ 5の解任事由という(1)の中に、アに辞任、解任、忌避、死亡等がございまして、イに具体的な事由が列挙されていますが、項目の立て方なんですけれども、例えば仲裁人が任務を怠っていることは、ある見方をすれば、そういったことがあるから仲裁人を解任することができるということで、このアとイの関係が、例えば解任事由として仲裁人が任務を怠っているかどうかというような関係に立つようにも読めるのです。したがって、アとイの関係がどうも判然としないというふうに感じました。
 それから、あと解任、辞任の要件ですけれども、いろいろ文献等で見ますと、やはり当事者が合意によって仲裁人を解任するには理由は必要ないというのが、どうも国際的な趨勢のようだと思います。逆に、仲裁人が勝手に辞任できるのかという点については、そうではないという考え方のようです。

● ここで記載させていただいた退任事由のアのところの解任については、当事者間で合意がある場合の解任ということを念頭に置いて解任というふうに記載させていただきまして、そのほかにイのような場合に何らかの解任的な手続が取れるのかどうかというような切り分けを前提としております。ただ、内容とか関係についても、事務局としてもはっきりしていないものですから、今、○○委員のおっしゃったような形の理解の仕方というのも、今のところ事務局の考えているところと非常に似ているところがあるのですが、そのほかの方の意見もその辺についてお伺いしたいと思います。

□ 何かございますでしょうか。

○ さっきの○○委員の御発言とも関連するのですが、やはり違った観点でもアとイの関係は整理された方がいいのかなと思います。
 例えばドイツ法なんかでは、仲裁人の辞任のことを書いていますけれども、それは任務が遂行できなくなった場合には辞任できるという文脈ですね。ですから、辞任と任務遂行の不能又は困難というのをこうやって分けて書くことができるのかどうかとか、そういうことも含めて、両者はもう少しリンクするのではないかと思います。

● 今の点ですが、モデル法の13条から15条までを見ますと、この中に辞任ですとか、あるいは一方の当事者による忌避についての他方当事者の合意ですとか、当事者の任務終了の合意ですとか、いろいろ言葉が出てくるのですが、例えば14条を見ますと、法律上又は事実上その任務を行わない、あるいは不当な遅滞なく行為をしないときという場合について、終了事由としては辞任、それから任務終了の合意、争いがあるときは、裁判所の任務終了決定ということによってもありますので、もちろん整理ができているわけではないのですが、例えば無理由で行う当事者の合意に基づく解任といった場合のほかに、イに掲げたような事由もありはしないかということで、羅列的ではありますがこういう挙げ方をしているところでございます。

□ そういう考え方でこの資料はつくられているということでございます。

● なお、御指摘の点を踏まえて事務局の方で検討したいと思います。

【検討事項案その3(第3 仲裁廷の構成について) 〜7 仲裁人の責務等について〜】

□ それでは、次に7の仲裁人の責務等についてということでございますが、これも御説明をお願いいたします。

● 仲裁人の責務についての規定は、モデル法を始め、ドイツ法、韓国法にも規定はございません。枠内のような趣旨の規定を設けることにつき、御意見をいただきたいと思います。
 また、仲裁人の職務上の行為を原因として、当事者に損害が生じた場合、どのような要件の下に仲裁人がその損害を賠償する責任を負うかについては、更に検討をする必要があると思われます。
 一読でも、免責規定を設けるかどうかという御議論をいただいたところですが、更に規定の存置に加えて、規定する場合の要件等を含め御意見を伺いたいと思います。

□ それでは、仲裁人の責務等について、何か御意見ございますでしょうか。こういう抽象的な、一般命題的なことを規定することについて何か御意見ございますでしょうか。

○ これは是非置いてもらいたいと思います。それでないと、次の責任との関係がはっきりしてこないのではないかという感じがします。

○ 仲裁法試案に例がありますが、これは公正、迅速、誠実で、公正、迅速はともかくとして、この枠内に掲げられている公平というのは入っていないわけですね。以前から議論がありますように、誠実というのはいいと思うんですが、公平というのを置いていいかどうかは、3名構成の仲裁廷の場合に、2名は一方当事者の利益代表であることがありますので、なお検討を要すると思います。

□ それは、公平という言葉を置くこと自身が問題だという御指摘ですか。

○ 現在議論されております、UNCITRALの調停のモデル法にも、同様な責任規定の議論がありまして、中立とか公平とか偏頗なきというような規定を置くべきかどうかについては、非常に激しい議論がありまして、常に問題になるのは3名以上の構成の場合でして、各当事者が自らの利益代表を送り込んで、第三仲裁人を選ぶというケースを排除するように読めるというところが問題だということです。

□ むしろそちらですか。当事者から選任された仲裁人は当事者の利益代表であってよいという、そういう実務を許そうということですね。

○ 現実に、そういうことが広く行われていますので、その点の妨害にならないようにということです。

○ 今の点は、さっきの仲裁人の忌避事由の中に、当事者選定仲裁人であろうが、単独仲裁人であろうが、第三仲裁人であろうが、不偏、独立という一応暫定的な案が出ていますね。そうすると、法律上は不偏でなければいけないわけですね、実態はどうあれ。
 公平と不偏はどういう場合に違いがあるか分かりませんが、不偏について、おそらく仲裁人の違いを認めないというのがモデル法の考え方だと思うのです。したがって、規定としては仲裁人の行為規範について規定を置く必要はないと思っていますが、仲裁人は当事者選定であろうが、第三仲裁人であろうが、不偏性については同じ基準で判断するべきだと思います。

○ 8ページで、不偏は問題があるからこそ、かぎ括弧に入っているんだと思います。独立まで入っていますが。あえてかぎ括弧に入っているのはそういう趣旨だと思います。

○ ただ、そこでおっしゃっておられるのは、当事者選定仲裁人と第三仲裁人とを区別するということではないのでしょうか。

○ 区別するという規定を置けという趣旨ではなくて、そういう場合もあるので、こういう文言を置くことには慎重でなければいけないと。規定として、3名構成の場合特に区別して書けという趣旨ではありません。

□ これは哲学の対立のところなんですね。しかし、今日はこれ以上は議論を深められないと思いますので、そういう問題があるという御指摘だけにとどめておきます。 民事上の責任については、これはなお検討するということですから、二読はよろしゅうございますね。何か御注意いただくことがあれば、御発言をいただきたいと思います。よろしいでしょうか。

【検討事項案その4(第4 仲裁廷の審理判断権限について) 〜1 仲裁廷の審理判断権限について自ら判断する権能について〜】

□ それでは、検討会資料の16が終わりまして、17に移りたいと思います。17は、ちょっとややこしいのですが、「仲裁廷の審理判断権限について自ら判断する権能の有無について」、これについてまず説明をお願いします。

● 仲裁廷の審理判断権限が問題になった場合には、モデル法16条1項にならい、枠内のように考えることについて特段の異論がないところだと思われます。主張の提出時期については、モデル法16条2項に規定がありますが、枠内の規定はそれに準じたものとなっております。一読では、この点が議論の前提になっていたのではないかと思います。
 また、当事者が各事由を適切な時期に主張しない場合に、後の仲裁判断取消訴訟の場で主張できるかどうかということも問題になり得ますが、これについては後に触れることにいたします。

□ (1)の方、仲裁廷自身が自らの権限を決定することができるという点については、余り御異論がないと思います。前回もそれはいいということだったと思います。 問題は2番目の、いつまでにその主張を提出しなければいけないかということですが、これはモデル法16条で大体本案についての答弁がされる前にしなければいけないという基本方針でよろしいかどうかということですが、これはいかがでしょうか。

○ 仲裁手続を迅速に進行させるということを考慮しますと、このような規定の方がよい気がいたします。

□ この前○○委員がおっしゃったことでしたか、仲裁の途中で仲裁権限をオーバーするような事項があれば、それはそのときに言えばいいということをおっしゃったと思いますが、これはイのところでそのことが入っている。その事由が生じた後、速やかにしなければならないということの中に、御意見は含まれているというふうに思いますが、そんなことでよろしいでしょうか。

○ そうすると、効果としてもずっと取消しまでも言えないという問題になるんですか。

□ これは後から取消しのところで出てくるということです。(2)の提出時期についてはよろしいですか。
 それでは、その次の(3)と(4)を続けてお願いいたします。

● 「仲裁廷の判断の態様について」は、一読でも御議論をいただいたところです。一読では、説明のところにありますように、不服申立てを一切許さない形と、不服申立てを直ちに許すというような形と、仲裁廷が適宜に判断して不服申立てを許す場合については中間的な判断をするというような形で、(3)のものについて示させていただいたところです。
 一読のときには、この枠囲いにあるような考え方を採用していいのではないかというこが大勢であったのかというふうに思っております。
 次に仲裁廷の判断についての裁判所に対する不服申立ての方法については、2つの案を設けました。
 A案は、モデル法16条3項とほぼ同様の考え方に基づいたもので、これによりますと、6ページのコメントにありますとおり、仲裁廷がそれ自身には審理判断権限がないとの判断を示したときは、それについての裁判所に対する不服申立手段を用意しないことになります。また、仲裁廷が中間的な判断において、審理判断権限を有するとの結論を示し、これに対する裁判所への不服申立てがされ、裁判所が仲裁廷には審理判断権限がない旨の決定をした場合にも、これに対する不服申立てはできないことになります。B案は、この点を排除したものです。したがって、A案とB案との差異は、仲裁廷が自身の権限がないと判断した場合に、どのように規律すべきかに帰着すると思われます。
 また、A案によった場合には、6ページのコメントの3行目以降にありますような問題点についても検討する必要があります。そのような点も踏まえて、御議論をお願いいたしたいと思います。

□ ちょっと複雑ですけれども、仲裁廷が自分の権限について判断をするには、中間的な判断もあるし、終局判断の中でやるということもあるというのが先ほどの御説明ですが、この判断についての裁判所の不服申立てでA案、B案があると。A案によると、仲裁廷が仲裁権限がないというふうに言った場合と、仲裁権限があるというのに対して裁判所に不服申立てをして、裁判所が仲裁権限がないというふうに判断した場合と、当事者はそれ以上争えない。①、②、どちらもそれ以上裁判所で争えないということになる。本案を裁判所に提出する以外にはないということになります。これはどうなのかというので、B案の方は、審理判断権限があるといった場合であれ、ないといった場合であれ、どちらも裁判所に対する不服申立てを認めようという考え方。これがA案とB案の違いだというのが今の御説明です。

○ さっき私読み間違ったのですが、裁判所に対する異議申立てですが、これについて仲裁人の忌避については30日以内に「できる」と、仲裁廷の管轄権については「しなければならない」というふうに申し上げたかというふうに思いますが、モデル法の16条3項を見ますと、同じようにmayで書いていますので、解釈にもよるかと思いますが、同じ書きぶりですので、「できる」というふうに解釈すれば、必ずしなければならないというものではないということだと思います。今日の資料ですと、裁判所に申し立てて争うことができるということですが、ここでは権利とする案が一案として挙がっているというふうに理解しております。
 私は結論的には、この却下の場合もB案でいくべきであって、確かにモデル法は、管轄があるという場合に不服申立てが裁判所にできるということしか書いていませんが、ただしそれを禁じるものでもないですし、学説も、モデル法はそう書いてあるけれども、却下の場合も裁判所に対して不服申立てをすることができるという形で、パラレルにしてもいいのではないかという考え方もありますので、私は却下と却下でない場合とを分ける必要は特にないのではないかと思います。
 それから、コメントの中に書いてあるところですが、却下の場合でも、仲裁判断として却下の仲裁判断をする場合もあると思うのです。したがって、却下だから裁判所の審査はないということにはならないと思います。
 したがって、先ほどの管轄裁判所に本案の訴えを提起するということもありますが、却下の仲裁判断を仲裁人がやったとした場合に、それに対して仲裁判断の取消しの訴えが理論上可能な余地はあるというふうに考えます。と言いますか、全部管轄権がないといった場合には、当然費用の精算は仲裁人として行うことになりますが、その費用の精算によって償還請求権が発生するという場合には、当然それは強制執行の対象になりますから、仲裁判断として出さざるを得ない。却下プラス仲裁費用の精算を主文に書いて、それで仲裁判断にするということは実務上はあると思います。したがって、却下だから裁判所の審査がないということではないと思います。
 確かに、仲裁判断の定義いかんの問題も出てくると思いますので、そこは本案に限るということであればまた別でしょうが、理屈としてはそういう余地はあるのではないかと思います。

□ 却下の仲裁判断に対する不服申立ても、それは取消しの訴えという形になるのですか。

○ 理屈としてはあり得るのではないかと思います。全部管轄権がないと判断した場合ですね。

□ ここで考えているB案というのは、権限があるという判断に対しても、ないという判断にしても、非常に簡易な不服申立てを認めようという案です。

○ 手続上の問題はあると思いますけれども、仲裁人は本案について判断するのであって、管轄権について裁判所と判断が違ったとしても、裁判所の判断に従うことに対して仲裁人は別に抵抗ないと思うのです。したがって、管轄権については裁判所の判断に従って、自分たちが判断したことで管轄権がないとしても、裁判所があるとした場合にはあるということで判断していくということについて、実務上も障害にならないと思います。

□ 分かりました。費用のことは考えていなかったものですから、却下判断に対して費用の決定までやってしまったと、それを取り消すには少し大掛かりなことをやらないといけないのかなという気もしますし、簡単に取り消して、更に仲裁手続を続けなさいという決定をするのか、その辺のところがB案でもよく分からないのですけれどもね。事務局はどういうふうに考えていますか。

● 裁判手続と仲裁手続があって、仲裁の方で行ったのだけれども、当事者間に争いがあって、それは仲裁の権限ではないということを一方が主張して、それに合わせた形で仲裁人が一旦そういう判断を出したという場合だと思うのです。その場合については、もともと裁判というのは最終的なラストリゾートなので、そういう場合は全部訴訟に来なさいと。仲裁廷が仲裁権限がないと判断した場合には、ラストリゾートとしての裁判手続があるから、仲裁権限の有無について不服申立手続まで保障する必要はないという割り切りが、このモデル法などにあるのではないかという意見です。

□ それがA案ですね。B案の場合の、不服申立てを受けた裁判の形式は何になるのでしょうか。これは取消しになるんですか。

● A案と同じような簡易なものとしての不服申立てということを一応考えております。

○ ただ、それは一部と全部で違ってくると思うんです。手続の途中で一部については管轄がないとした場合には、仲裁手続が進んでいきますね。仲裁手続が進んでいる中で不服申立てを裁判所に行うと、その場合の判断が一つあります。
 それと、仲裁手続の途中ではなくて、最後で却下という場合の2つありますね。最後の場合には、私は仲裁判断になる余地があるのではないかと思うんです。

● その仲裁判断になるという訴訟費用の関係でというのは、もちろんこれだけではなくて、終了決定のところも、訴訟費用の関係については別途仲裁判断になるような決定をしないといけないと思うのです。仲裁の取下げなどがあったような場合にも、その部位についてですね。
 だから、ここだけが費用のことで特出しに出てくる問題ではないように思います。

○ 費用も、債務名義として強制執行の対象になるようにしておかないといけないという問題が残ると思います。

□ 今の議論を聞いていたら、大分内容がお分かりいただけたのではないかと思いますが、A案とB案とどうでしょうか。○○委員はB案だということですが、ほかにございますでしょうか。

○ 私もイのb、終局的な判断において仲裁申立てが却下された場合は、裁判所に対する簡易な不服申立手続を認めて続行させるという手続はあってもいいのかなというふうに思います。事務局も言われるように、訴訟がラストリゾートとというのが一つの考え方ではありますけれども、すべての場合に訴訟にいって、そこでまた仲裁合意があったかどうかということが争われて、訴え却下判決を得てからでないともう1回仲裁の続行はできないと、そこまで重い手続にする必要は必ずしもないのではないかというふうに思います。
 コメントのところで、①と②がパラレルに書かれていますけれども、②の場合はしかし裁判所が1回は判断しているわけですね。そうすると、①の場合にアプリオリに裁判所の判断を一切認めないという理由にはならないのかなというふうに思っています。

● 一つ○○委員に確認したいのですが、A案的な発想というのは、モデル法ではこういう形で立案されているというのは、それでよろしいですか。

○ それはそう認識しております。

○ ○○委員のおっしゃった立場だと、B案を取る場合の立場、あるいは裁判の形式は、確認判決、給付判決、あるいはそれ以外でしょうか。

○ 決定手続かなと思ったのですが。

○ 判決になぞらえればですが。

○ それは仲裁契約の有効性を確認する。

○ 確認的に、つまり命令性はないと。

○ よく分からないのですけれども、一般的に裁判所が仲裁廷に対して命令をするということはあり得るのでしょうか。

○ おそらく日本法では取らないでしょうけれども、手続の続行命令とか、そういう仕組み方は諸外国にはあると思います。

○ 命令構成を取れるのであれば、先ほど来の問題の場合でも、裁判所で争われた場合に、仲裁手続を一時中止するような命令ですね。そういう権限も与えられてしかるべきではないかと思うのですけれども、そこまではおそらくいかないというお話かなというふうに伺っていたので、そうすればここは命令でというよりは、むしろ仲裁契約の有効性について確認的な判断をして、それに仲裁廷が従って手続を続行していくということがいいと思います。

○ 事実上従うであろうということに期待するということですか。

○ そういうことですね。

● ○○委員は、簡易な手続で権限なしの判断に対し不服申立てができる方がよいという立場であるとおっしゃったと思うんですけれども、基本的に仲裁廷としてはおしまいにしてしまうという意味では、常に終局的な、権限はないという判断になると思うんです。
 ですから、通常の認容の仲裁判断について取消しが認められるのと同じような形で、却下について何か不服申立てを一般的に認めるということになると、簡易とおっしゃる意味は、上訴はそこではできないような簡易なものという趣旨でしょうか。

○ そういう趣旨です。

● そうすると、今度は権限があるとして続行しますね。最終的に仲裁判断が出て、それについてはもう逆の側から取消しができない仕組みにすると。

○ 取消しの申立ては認められるのではないでしょうか。

● またそれはそれで認められると。

□ 同じ論点について。

○ はい。だからこそ簡易な手続なわけで、そこを拘束することはできないのではないでしょうか。先ほどの忌避のところの議論と関連するのですけれども、忌避のところで拘束できるということであれば、それはここでも拘束するという議論は十分成立すると思いますけれども。

● だから、おっしゃっているのは、一応簡易なものとして一旦できて、またあとは別に、一般的な仕組みとして考えるというお考えでしょうか。

○ そういうことです。

○ 私は、仲裁人の忌避の問題と共通するものがあると思いますので、却下の場合であろうが却下でない場合であろうが、裁判所が判断したものについては、後の裁判所を拘束するということでなければ、仲裁判断がひっくり返ることにもなり、手続自体がむだになりかねませんので、それは避けるべきではないかと思います。手続上の問題はどうなるかよく分かりませんが、そこは5ページでも書いてあるように、説明の黒ポツの2行目、後に仲裁判断が取り消される場合の時間と費用の浪費についての懸念ということでもって、管轄があるといった場合の判断は終局的なものだということを意図されているのだと思うのです。逆の場合、却下もそれを認めるのであれば、却下の裁判所の判断も同じように、仲裁判断はひっくり返ることはないということにしないと、これは平仄が合わないような気がします。

● 今の点で、この場合の却下かどうかというところでは、仲裁合意がその部分、全部か一部かという問題はありますけれども、一部にしてもその部分仲裁合意があったかないかという基礎の部分に関わるので、それについて最終的な裁判所の判断がなければ、訴権を奪うことができないのではないかという一つのテーゼなのではないかと思います。
 ただ、却下の場合で、それはないよと、訴訟で行きなさいと言っている場合には、それは簡易にネグってしまうということはできなくはないと思います。
 ただ、権限があるよと言って当事者が争っている場合に、それを最終的に裁判所で司法の手続で決定できないということはあり得ないのではないかと、取消しでも最終的な上訴などを保障したような形で争わせる道というのを、○○委員がおっしゃっていましたけれども、それは残しておかないといけないのではないかと。
 だから、却下のところをどうとらえるのかというのは、非常に技術的な問題がありますが、ただモデル法の考え方というのは、A案的な形でとらえているということで、一応は説明ができなくはないかなというふうには考えております。

□ ○○委員は、A案の方がいいということを言われているわけですか。

○ 実は定見を持っておりませんで、B案がいいという○○委員の議論にもそれなりの説得力を感じましたが、裁判の仕組み方とか、おそらく決定で仕組むのでしょうが、おそらく既判力があるということにはできないと。それから、命令決定もできないと、確認的で既判力のない決定になるというものを−−もちろん裁判所の権威ということで事実上の効力はある、そこに期待するという見方もありましょうが−−わざわざ仕組むだけの意味がどれほどあるのかについて、なお自信がないということです。

□ 私自身はどうも、仲裁権限があるといった場合には争わせなければいけないと思いますが、ないと言った場合にはもう裁判所に行ってもいいのではないか、そうすると、A案でいいのではないかと、これがモデル法の考え方ではないかと思っていました。しかし今、○○委員が言われたように、裁判と仲裁をどう考えるか、裁判というのはラストリゾートだと言ってしまえば、もう裁判所に行くならだれも文句を言う必要はあるまいという考え方になるし、そうではなくてADRの一環としての仲裁と裁判が並び立つものであるというようなことになると、どちらを選択するかというのは当事者にとって等しく関心があることなので、却下された場合であろうと、認容された場合であろうと、どちらも不服申立てを認めるというB案というのもあり得るかなと、今、議論を聞きながら考えているところです。まだいろいろ議論は尽きませんけれども、先に進ませていただきたいというふうに思います。

【検討事項案その4(第4 仲裁廷の審理判断権限について) 〜2 仲裁廷による暫定的措置について〜】

□ それでは、2の仲裁廷による暫定的措置についてでございます。これもまず事務局の方から御説明をいただいてからと思います。

● 仲裁廷による暫定的措置については、第2回の検討会でも時間を割いてかなり議論していただいたところですが、モデル法17条の規定に相当する一般的な規定を設けること自体については、特段の異論のないところだと思われます。
 7ページの説明にも記載がございますが、UNCITRAL仲裁作業部会においては、仲裁廷による暫定的措置の執行の問題について検討がなされており、こちらの動向も見つつ検討していかなければならないところです。今回も一読に引き続いて、皆様の御意見をお伺いしたいと思います。
 なお、席上に○○委員からのペーパーを配らせていただいておりますので、目を通していただければと思います。

□ それでは、最初に○○委員から、先ほどいただいた資料に基づきまして、UNCITRALの改正作業状況について御説明をお願いしたいと思います。

○ 席上配布のペーパーの1ページの下から5行目辺りの「第17条」と書いてあるところから最後までです。
 そのうち、17条に書いてありますところは、現行の17条の改正案に関する現時点での中間案であります。
 3ページの冒頭から新条と書いてありますところが、現在モデル法にはなくて新設しようとUNCITRALが考えている条文の現在の中間案ということになります。
 まず、17条の改正というのは、この後の新条、すなわち執行力に関する規定の議論とリンクしております。と申しますのは、後で申しますように、新条を設けて執行力を置くということについてはUNCITRALでは争いがありませんので、それを前提に、執行力を置くのであれば、発令手続につきましても現在の17条のように簡単な条文ではなくて、執行力を認めるにふさわしい詳細な規定にしなければならないということであります。
 したがって、執行力を認めることを前提に17条を改正するということであって、現在の17条自体に何か問題があるとか、執務上不都合を生じているということではございません。
 ただ、17条にしましても次の新条にしましても、先ほど御紹介しました7条の方と違いまして、ほぼ固まったという状態にまでは至っておりません。ただ、至っておらない理由ですが、それは専らこの17条の改正、2ページの(5)というところですけれども、5項、6項、7項辺り、一方当事者の審尋だけで暫定的保全命令が出せるかという問題が専ら大変な議論になっておりまして、そこばかりが争われていると。逆に言うと、それ以外のところではほとんど争いがないという状態であります。
 我が国では、裁判所による保全処分で一方当事者の審尋によって出さなければいけない場合もあるということが−−密行性を要する場合ですが−−一般に承認されておりますので、またそれは大陸法の他の諸国においても同様でありまして、余り問題意識を感じないのでありますけれども、他方で英米法の国では、アドバーサリーシステムの伝統の下で、一方審尋というものに対する強いアレルギーがありまして、そこで言わば法文化的な相克があるということで、そこが議論されているところであります。
 次に新条でありますが、これは先ほど申しましたように執行力を認めることを前提として、どういう仕組み方をするかということでありまして、執行力を認めるということに関しましては、参加しているすべてのメンバー国、すべてのオブザーバー国、すべての常設仲裁機関が、等しくその必要性を認めているところであります。
 規定の仕組み方に関しても大きな争いはありませんで、基本的には現行のモデル法の36条にならって拒否事由等を定めるが、しかし仲裁判断の場合とは違って自動的な承認システムは取らずに、執行国の方において拒否又は変更ができると。仲裁廷の発した保全命令の承認、執行に関して、拒否又は変更が幅広く認められるという仕組みになっています。

□ どうもありがとうございました。○○委員の意見書はお目通しいただいたと思いますが、かなりこの点は、時期尚早であるという強い御意見のようでございます。
 ほかに何か御意見ございますでしょうか。どうぞ。

○ 以前から裁判所サイドで時期尚早であるという御意見があることは承っておりまして、この点は議論や意見があるということで、これから議論していけばよろしいと思いますが、パブリックコメントとの関係ですけれども、現在の検討会資料17の7ページから8ページに掛けてを見ますと、現行モデル法17条にならって仲裁廷による暫定的保全措置の発令権限を認める点については、四角囲みで提案がされておりまして、その問題は正面から取り上げられておりますけれども、執行力の付与に関しましては、説明の中で触れられているにとどまっております。
 先ほど申しましたように、UNCITRALでは、この問題と先ほどの書面要件を議論することを主要な目的として、わざわざ十数年ぶりに仲裁作業部会が再開されるというほどの重要な事項であり、参加各国各機関もすべてこの執行力の付与を緊急課題として必要であるという前提で議論されておりますので、我が国で最終的にどういう結論を取るかは議論に委ねるとしましても、やはり論点として起こしていただきたいということをお願いしたいと思います。
 我が国は立候補して、UNCITRALに選挙で選ばれたメンバー国でありまして、UNCITRALに対してもそれなりの責任がありますので、正面から議論をせずに一定の結論を出すというような形を取ることは望ましくないと考えております。

● 進め方のパブリックコメント云々のところは、意見を紹介して、その意見が多数であればその方向で立案をするということが前提になると思うのです。その前提として、現在の状況で一方審尋の方が議論になって、基本的にはそこの議論にとどまって、ほかのところの条文の記載についてなかなか議論が及んでいなかったというふうに、3月のときに報告いただいたと思います。
 それから、裁判所の保全処分との関係で、どういう効力規定を考えるかということも、これからの検討課題というふうに考えられているということで、どういう条文であればUNCITRALとの関係で整合性が取れることになり得るかということで、事務局サイドの方でもある程度案的なものが固まるのであれば、そういうことも考えてみたいと思いますが、なお検討させていただきたいと思います。

○ おっしゃるように条文案との関係ですが、確かにUNCITRALの方では条文案は出ているんですが、先ほどの7条と比べて議論があって無視できないし、かなり長大な条文案ですので、これを示して議論するというのが困難であるという事情も分からないではありません。
 ただ、我が国の民事訴訟法及び現行仲裁法の母法であるドイツが、1041条で執行力を認める規定を仕組んでありますので、これをたたき台に議論をするということで、とりあえず議論のたたき台はあろうかと、私としましては考えております。

□ ほかに御意見ありますか。

○ 今、パブコメの方に話が行っておりますが、内容についての議論ということでもよろしいですか。

□ はい。

○ 十分○○委員の御意見も伺った上でと思ったんですが、なにぶん時間も来ていますので、私の方から述べさせていただきます。
 私も結論としては、現時点では、民事執行が可能という意味での執行力の付与にまで踏み込んだ立法をするということができるほどには議論が熟していないのではないかという思いを持っております。
 仮に執行力を有するというふうにした場合であっても、現在の資料の全体を見ますと、裁判所による民事保全処分というのもまたできるものとして仕組むということが前提とされているようですが、そのようにいたしますと、裁判所に保全処分の申立てがされたときにも、仲裁廷の方に暫定的措置の申立てをできるのか、逆の場合はどうなのか、更に裁判所による保全処分がもう出ているときに、仲裁廷による暫定的措置の申立てというのが来た場合にはどう対処すべきなのかといった、いろいろな手続上の問題が生じてくると思いますので、一つ執行力を入れるということを決断すればいいのではなくて、それに伴って検討しなければいけない論点というのがたくさんあるのだと思います。ところが、少なくとも私のようなものが手に入る文献で見る限り、今までその辺りについて踏み込んだ議論というのは日本の国内ではされてきていないように思えるものですから、立法としてみんなが使っていくのに耐えるだけの規定を設けられるかというと、はなはだ自信がないように思います。そのような中で、ともかく執行力を有するということだけ決めてしまうと、受け手の裁判所の方でもどういう立場を取るべきか混乱いたしますし、かえって手続が混乱していくのではないかという気がいたしております。
 今、御指摘のあった、ドイツ法の規定をたたき台として話をしてはどうかという点については、確かにドイツ法は今申し上げたようなことの一部を規定しているようですので、参考になるとは思うのですが、この規定を見ますと、裁判所の方と、それから仲裁廷に対する暫定措置の両方の手続があるような場合には、裁判所の手続の方を優先していくという思想なのかなと理解いたしました。
 ところが、従前の仲裁廷による暫定的措置が要るという議論を見ていますと、せっかく仲裁合意をしたのに一方当事者によって裁判所に持ち込めてしまうということに対する不利益というのも大分指摘されているように思います。そういうことを強調していくと、むしろ仲裁廷による暫定措置に執行力を与えたら、裁判所への保全処分というのはできないふうに仕組んでいくという方に親しむようにも思いまして、どちらの哲学が正しいのかという辺りも、私などは非常に分かりかねている、結論が出ていないという状況です。
 そのように考えますと、既存でも認められてきました裁判所による民事保全処分というのは今後も認めるということにして、仲裁廷による暫定的措置という規定は、設けるにしても、例えば民事調停法12条の調停前の措置というのが、執行力を有しない仮の措置というものを認めておりますが、このようなイメージで規定を導入してはいかがかなというふうに思っております。

□ ありがとうございました。○○委員、外国仮差押仮処分なんかの場合の手法について、ドイツ法についてはどうなっていたか、もし御記憶があれば教えていただきたいと思います。

○ 多くは2国間、あるいはブリュッセル条約のような多国間の条約、現在では規則化されておりますけれども、それによって対処されておるということです。基本的には、外国の保全処分であっても、それを内国で執行していこうという形になっております。
 その場合に、一つ問題がありますのは、先ほど○○委員がおっしゃっていたところなのですが、一方的な審尋しか経ていないような保全処分を外国に持っていけるかというと、それについてはEC裁判所の判決があって、それはだめだと、つまり両当事者を審尋したものでなければいけないと。裁判所の保全処分については、そういうことになっております。おそらく保全処分についても、同じような議論が出てくるのだろうなというふうに思います。

□ これは非常に難しいのですが、日本の場合には外国判決の場合、本案判決しか承認執行を認めていない、仮差押、仮処分みたいなものについては、承認・執行の可能性を認めていないわけですね。仲裁の場合に仲裁廷がなした保全処分を、日本の裁判所で執行力を与えると、そこのところのバランスがどうかという感じが、私としてはどうしてもするのです。どちらかがというと、やはり仲裁廷がした保全処分よりも、外国裁判所がした保全処分の執行可能性をまず認めて、それから仲裁廷の保全処分の執行可能性を認めるということではないだろうか。ドイツ法もそうで、ドイツ法はまず外国裁判所の仮処分について執行を認め、仲裁廷の保全処分についての執行は最近ということですから、どうもそういう順序ではないだろうかという気がしまして、ちょっとまだパブコメに出すのが早いかなという気がしているのですけれどもね。

○ 若干異論というか、今の点はおそらくUNCITRALでの認識とも違うと思います。
 もっと強い効力を持つ判決と仲裁判断の関係でも、判決には一般的に外国での承認執行は保障されておりませんけれども、仲裁判断の方はニューヨーク条約が1958年という早い時期から締結されて、130か国以上がそれを批准しているという状態の下で、もともと仲裁の方が先行しております。これは言うまでもなく、仲裁でなければ現実には国際商事紛争は解決できないという実情があるからでして、その前駆段階である保全の方で承認執行が裁判所の保全よりも先行するということは、何ら論理的におかしいことではないというふうに考えております。
 これは私個人の考えではなくて、一般にそういう認識の下に議論が進んでおります。

□ 仲裁廷の保全処分の場合には、ニューヨーク条約は掛かるのでしょうか。

○ UNCITRALでは、そこの結論は出ておりませんし、ドイツ法を始め各国の仕組み方としては、必ずしもニューヨーク条約に乗るという前提では組んでいないと思います。そこは連動させる必要は当然にはないと思います。

□ しかし、承認執行の可能性を認めるとすれば、同じような仕組みをつくっていかなければいけませんね。そうすると、これ自身がかなり膨大な作業になることは、今度の作業部会の議論からも分かるのですけれども、そこまで1年の間に検討できるかどうかというと、かなり難しいのではないかというのが私の予想なのですけれども。

○ 言うまでもなく、仲裁廷の保全の執行力の問題は、国内事件でも同様に生じる問題ですから、両方ありまして、国際の問題を解決しないうちは国内の問題もしばらくは議論しないという選択もありましょうし、執行力を認めるという前提を先に取って、国際的な仕組みについては、個々に整理していくということもあり得るかとは思います。

□ ほかの委員の方々はいかがでしょうか。この問題は、非常に悩ましい問題でございまして。

○ 議論の末の問題ですから、結論としてどちらになるかという問題とは別に、この問題は先ほど申しましたように、世界的に一致して取り組んでいる問題であり、その重要性はUNCITRALが初めてではございませんで、御承知のようにこの前のICCAの総会でも、これをテーマとした会議が開かれたことでもありますし、更にほかを見ますと、これは昨日今日出てきた問題ではありませんで、1980年代からずっと議論されている問題で、例えば1994年には『国際商事仲裁における仮の救済』というタイトルの、この問題だけを扱った本も出されております。この本は、理論書とか研究書ではありませんで、実務書でして、主要な世界各国のこの問題に関する法制がどうなっているかというものを整理したものでございまして、つまり実務家の間ではそういう本が必要なぐらいこの問題は広く議論されているということですから、正面から取り上げて、今回立法に反映できないのであればどの点がネックになって反映できないのか、あるいは取り入れられるのであればどういう議論で取り入れられたのかというようなことを明らかにしておくことは必要であろうというふうに考えております。

□ ○○委員の御意見は十分分かるつもりでいますけれども、ほかの委員の御意見がもしあればお聞かせいただきたいと思います。特に仲裁機関の方で、こういう保全処分の規定が必要だという御認識であれば、またそれを考えたいと思いますが、いかがでしょうか。
 ○○委員、どうぞ。

○ スケジュールのことなんですけれども、来年の通常国会で仲裁法を出すということとの関係で、UNCITRALにおいて条文が固まるのはいつごろの見通しなのかを教えていただければと思います。

○ いつかというのは、私もお答えしかねるところがあります。もちろんそんなに遠い将来でないことは確かですが、次期通常国会に間に合うまでに案がまとまるかどうかは私には分かりません。

□ さっきの書面の扱いについては、これは大体動かないということであれば、内容を取り入れることはあるのですが、これはまだ固まっていないし、どうなるかまだ分からないという段階でパブコメに出すかどうかというのは、ちょっとためらわれるところがあるんですね。執行力を与えることについてどうかと言うだけならいいのですが、パブコメだったらやはりある程度の内容を添えて出さないと、何をしているかというようなことにもなるということがあるものですから、ちょっと懸念をしているということでございます。
 どうぞ。

○ あれば便利だろうと思っておりますが、あるいは○○委員がお出しになっているように、「債務者保護のために検討すべき課題」云々というところは、おそらくこれは一般消費者のことを考えていらっしゃるのかと思います。あとは時間的な問題で、間に合わないのであれば、もう少し議論は別途深めることにしておいて、今回は見送ることもあり得るかと思います。機関としてどうしてもなければ困るというほどではないけれども、世界的にそういう方向であるならばそれに合わせた方がいいだろうなという程度です。

○ 私どもは国際紛争を扱っていますので、外国企業から何回かそういう申立てがありました。日本ではできないということで、結局断わっていますが、10年ぐらい前からそういった需要はございました。そういう需要は、多分国際商事仲裁には多いと思うのです。
 さっき時間の問題が○○委員から出ましたが、○○委員から御提案が一つありました。ドイツの法、国内の暫定的保全措置の問題ですが、それが既にあるということであれば、それを前提に議論するということであれば時間的にまだ間に合うのではないかというふうに思っておりまして、したがって、クロスボーダーの方はまた別途改正するなりするとして、国内の仲裁廷の暫定的保全措置に執行力を付与するというのは、もう既にドイツ法にあるわけですから、それをもう一度こちらに持ってきて議論するということであれば、時間的にまだ間に合うのではないかというふうに感じています。

○ 基本的には私は○○委員と○○委員のおっしゃったことに賛成でございまして、最終的には日本が国として仲裁にどのように協力していくかという問題だと思うのです。日本で仲裁をやる。しかし、保全は執行力のあるようなことはできない、それはもう裁判所にいかなければだめだとすると当事者間の秘密もどんどん公開の法廷であばかれてしまうということは、政策としては余りよろしくないのではないか。そうすると、将来的な方向としては、○○委員がるる説明されたように執行力を認めていく。国際が難しければ、○○委員がおっしゃったように、まずは国内というふうに考えてはいかがかというふうに思います。

□ 分かりました。大分意見が出ましたので、更に事務局と検討させていただくということでよろしゅうございますか。

【検討事項案その5(第5 仲裁手続の進行について) 〜1 仲裁手続における当事者の平等及び主張立証の機会の保障について、2 仲裁手続の準則の決定について〜】

□ それでは、これで資料の17が終わりまして、資料18、仲裁手続の進行についてですが、まず1と2、仲裁手続における当事者の平等及び主張立証の機会の保障の問題と、仲裁手続の準則の決定という、この2つについて事務局の方からまず御説明をいただきたいと思います。

● 1については一読で御意見を伺っております。この規定を置くことについて異論がなかったように思っております。
 2については、枠内の案はモデル法19条にならったものです。当事者間の合意は強行規定に反してはいけない。仲裁廷は任意規定も含めて、新仲裁法の規定に反してはいけないという趣旨を表しておりますが、このような趣旨でよろしいかどうか御確認を願いたいと思います。

□ この当事者の取扱いについては、いかがでしょうか。これで大体よろしいでしょうか。この前「十分な機会」というところに若干御議論がございましたけれども、一応現在のところは十分な機会ということで書いてございます。
 仲裁手続の準則の決定も、これも前回御議論があったところですが、大体こんなところでいいのではないだろうかということであったように記憶しておりますが、もし御意見があれば承りたいというふうに思います。

○ 今のを仮に英文に直したときには、「十分な」というのはどんなふうになりますか。fullなんていうことにはなりませんね。モデル法で懸念されていたのは、そんなことがありましたものですから。

● モデル法はfull opportunityですが、fullというのは非常に強いですね。

○ 次から次へと書類を出してくるのを避けるために。前に○○委員がおっしゃったと思いますけれども、「相当な」とか「合理的な」という方がよろしいと思います。

□ これはそういう意味ですね。含んでおりますので。
 1と2はいいですか。よければ、3の職権証拠調べと4の仲裁地の決定についてに入りたいと思います。では、説明をお願いいたします。

【検討事項案その5(第5 仲裁手続の進行について) 〜3 職権証拠調べについて、4 仲裁地の決定等について〜】

● 職権証拠調べの関係では、一読では仲裁手続における職権探知主義ということで、資料を提出させていただいた上で議論をさせていただきました。そこでの議論も踏まえて、職権証拠調べができることについてのみ規定を置くということではどうかということについて御意見を伺いたいと思います。
 また、仲裁地について、(1)の仲裁地の決定及び(2)の仲裁地以外の場所における審理のいずれもモデル法にならったものです。一読では、その点について異論がなかったものと思いますので、このような趣旨の規定を設けることでよろしいかどうか御意見を伺いたいと思います。

□ 職権証拠調べでございますけれども、これはまだ今の段階では十分検討がなされておりませんので、なお検討するということで今日提案させていただきました。
 仲裁地の方については、モデル法の20条のとおりでいいのではないだろうかというのが今の御説明でございますけれども、何か御意見ございますでしょうか。
 どうぞ。

○ 今の職権証拠調べにつきまして、実は先週開かれたICCAの会議で、集会所の者が出席いたしましたところ、職権探知主義というものが非常に欧米でも賛成する人が増えてきていると言っていました。実は資料を持ってきておりませんので、速やかにまとめて事務局にお送りしますので、何かの参考にしていただければと思います。

● 職権証拠調べではなくて職権探知主義のことですね。

○ 職権探知主義です。その場合に、証拠調べに若干出てくるかと思うのですけれども。

● 一読の議論では、職権探知主義ということで議論を提出させていただいて、職権探知主義とまで規定するのはどうだろうかと、せいぜい規定を置くとしても職権証拠調べの規定を設けることでよいのではないかということが議論の大勢だったと認識しておりますが、今、○○委員から、むしろ職権探知主義の見直しの機運があるということです。

○ 今まで反対していた欧米が、むしろそういうようなやり方がいいと言う人が増えてきたそうです。

○ 質問をよろしいでしょうか。職権探知主義と職権証拠調べの関係があるのですが、職権証拠調べを超えて職権探知主義まで取るとなると、自白の拘束力を否定するとか、主張のない事実を証拠で斟酌できるとかというところまで入るというのが日本の理解ですが、そこまで含んで議論されているのでしょうか。

○ そこは定かではありませんので、明確にした上で提出します。

□ それは次回までに、よろしくお願いいたします。

【検討事項案その5(第5 仲裁手続の進行について) 〜5 仲裁手続の開始時期等について〜】

□ 少し先を急がせていただいて申し訳ないのですが、問題があると思いますのが、5の仲裁手続の開始時期等についてでございます。これは時効の中断とも関係しますものです。事務局から御説明いただけますでしょうか。

● 仲裁手続の開始時期については、モデル法21条に規定がございますが、時効中断の規定ぶりも踏まえて、なお検討する必要があると思われます。今回の検討でも、皆様から時効の問題等につきアイディア的に御意見を伺って、時効中断は、難しい問題がございますものですから、第7回の検討会で引き続き検討したいと考えております。
 また、紛争を仲裁に付する申出については、今回初出の論点ですが、相手方に対する紛争を仲裁に付する申出や仲裁機関あての仲裁申立てがされた事実及びその時期の確認を容易にし、また時効の中断を認める場合に必要となる請求の特定を確保する見地から、仲裁に付する申出や仲裁機関あての仲裁申立ては書面によることとし、その記載事項を定めることが考えられます。この点につき御意見をいただければと思います。
 なお、ここでは「申出」という用語を用いておりますが、これはアドホック仲裁の場合には申立てということは考えられないため、相手方に対する仲裁に付する旨のリクエストという意味で申出という用語を用いております。
 一方、仲裁機関への申立ての場合には、アドホック仲裁で問題となる申出という概念は、常に申立ての中に含まれるというふうに考えられるので、双方を通じて申出という概念を想定でき、枠内のような考え方でまとめることができるのではないかというふうに考えているところです。

□ それでは、この(1)の仲裁手続の開始時期は時効中断にも関係するので、まずこの(1)と(3)を合わせて御議論いただきたいというふうに思いますが、いかがでしょうか。

○ コメントに書かれているような、機関仲裁と、アドホック仲裁と言いますか、機関以外の仲裁等を分けて、機関仲裁の場合には申立て時を起点とし、それ以外について申出書面を受領した時点とするという方向が実質的に妥当なのかなという印象を持っていまして、それを実現するためには(1)の方でモデル法21条のような規定を導入して、時効の方は仲裁手続の開始の時点で中断するという規定を設ければ、つまり機関仲裁の場合には、当事者が開始時点については申立ての時点を合意したものとみなすと、そういう規則が置かれておれば申立ての時点で時効が中断するという効果が達成できるかなというふうに思います。

● そうしますと、機関というのが、何か概念的に設定できるのかどうかという問題が一つあると思います。

○ 合意内容です。機関でなくてもいいわけです。当事者で合意して、申立ての時点で手続を開始しましょうという合意ができれば、それはその時点で時効が中断するということです。

● 時効中断時期に、直接ではないのでしょうけれども、当事者の合意によって時効中断時期に変動が生じることがあるんですね。

○ そこがこの構成の巧妙なところで、ただ時効中断時期を当事者の合意で設定するというのは、時効は公序則であるという民法の基本原則に反すると思うのですが、当事者が合意している内容は仲裁手続の開始時点を合意しているだけですので、時効時点を左右しているわけではないわけです。それで、結果として時効時点が左右されているわけですが、しかしそれは時効が公序則であるということとは抵触しないのではないかと思います。

● 試案の考え方がそのような考え方でした。

○ そうですね。

□ いかがでしょうか。

○ ○○委員が自らおっしゃったように、巧妙な考え方だと思いますし、少なくとも開始時点に関しては、モデル法21条で別段の合意ができるということはうたってありますから、開始時点が機関仲裁の場合に申立ての時点だと意思推定をするということが十分に可能だろうと思いますので、そこは解釈の問題として、時効の仕組み方としては別段、仲裁手続の開始時点をとらえれば、十分できると思います。

● 分かるのですが、開始時点というものを合意によって動かすことができるということを前提にすると、やはり時効の中断時点も当事者の意思で動かすことができることを規定していることになるのではないかという感じがするのです。法制的には、時効の本質との関係でなかなか難しいのではないかという感じはしているのですが。

□ 開始の場合の効果というのは、時効中断だけではないですね。機関仲裁の場合は開始というのが、それだけではなくてほかの効果が多分結び付いているんだろうと思うんですね。だから、時効の中断だけを動かすために開始の時期を合意したという構成を取らなくてもいいのかなという、私はどちらかというと○○委員の考え方はなかなか巧妙だと思っていますけれども、ほかに機関仲裁の方はどうでしょうか。
 国際商事仲裁協会は、開始の時点に基準日か何かを結び付けていましたかね。

○ 基準日ではなくて、手続開始日というものが、申立書が協会に提出された時点ということです。

□ 開始日には、ほかにも何か。

○ 効果としては特にないですね。

□ そうですか、例えば仲裁人選任の判断基準時とか。

○ 基準日は、申立ての受理の通知を発する日が起算点になりますね。

□ 申立ての受理の通知は、どのぐらいの期間内に発しなければいけないという規定はないのですか。

○ ないです。おそらく、いわゆる時効の関係で手続開始日というのを規則上規定したということだったと思います。

□ そうですか。どうぞ。

○ 私どもは、仲裁申立てを受理した日は、仲裁手続を開始した日とみなすという規定を置いておりまして、何のためかというと時効中断のためということです。と言いますのは、昔の判例では仲裁人が選任されて初めてスタートだというのがありますので、機関仲裁としてあえて開始日について規定しました。
 仲裁人選任期間について規定がなくても、事務局が速やかに手続を進めています。

□ 分かりました。これはなお、時効中断と手続開始日とをどう関連付けるのか、付けないのかということを検討していただきますので、今日はこのくらいにさせていただきます。
 そういたしますと、飛ばしました(2)の問題、(2)は仲裁の申出はこのようなことを書いたらどうかということですが、この問題についていかがでしょうか。これは今回初めてですね。

● 初出なんですけれども、これはモデル法の規律とは違っておりまして、モデル法の規律自体だと、主張とかそれを理由づけるものは後からやればいいということなんですが、この(2)で示させていただいているのは、早期の段階で一番最初に出す書面の中である程度その辺をはっきりさせるというふうに規律したらどうかということでございます。

○ 申出は書面によることとすると、書面性を要求するわけですが、そうでないといけない理由みたいなものは何かあるのでしょうか。つまり、仲裁合意の場合には書面制度が前提になっているわけですが、申出の場合はデフォルトルールとしては書かなくてもいいという気がしたのですけれども。

● 当事者の合意がない限りなので、合意がある場合にインターネット仲裁等については一応できるということを前提にして、今の実情から考えるとやはり書面による申立て、申立てと言っていいか分からないですが、その方が実態としては合致するのかなというふうに思いまして、そういう形ではどうかというふうに提示させていただきました。この点についても御意見を伺えれば。

○ 私は○○委員と同意見でして、申出に関してはオンライン申出が今、急速に普及しつつありますので、ちょっと時期遅れというか、これからつくる立法としては、書面までをデフォルトにするのはどうかという気がいたしております。

□ 仲裁機関の方はどうでしょうか。

○ 集会所では、申立書だけは書面というふうにしています。

□ これは、申立ての時の料金とかそういうこともあるんですか、申立書に添えて管理料金を納めるとか。

○ 現実には、請求書を送って、受理料を納めてもらうというふうにしておりますけれども、原則としては受理料を添えて申し立てるべしということです。

□ しかし、こういうような、書面によらない申立ても認めるというような規定をつくった場合も、ちゃんと機関としては受けられますでしょうか。

○ 今は当然書面でやっておりますけれども、将来的には、書面に代えて電子的な手段でもよいというふうになっていくのだろうと思っております。

● 仮に書面の制約を外すと、口頭でもいいということになりますね。その場合に、特にアドホックで口頭でやりましたときに、これはそういう趣旨ではなかったとか、後で問題になるのではないかと。機関よりも更にアドホックの方が更に心配かなという気がしているのですが。

○ 英語だとin writingというふうに書くのだと思いますけれども、書面によるという意味がどういったものを指すのか、紙だけではないと思うのですね。そこも書面によるという内容をはっきりさせておく必要があるのではないかと思います。

□ 仲裁合意を添付するということですか。

○ そうではなくて、オンラインが今流行しはじめていますので、そういったものは当然できるという前提だと思うのです。できるのですが、この規定があるとできなくなる可能性がありますね。私はない方がいいと思いますけれども、ただ、「書面による」というのは、例えばイギリス仲裁法では書面とはどういうものかというような定義づけがありますね。そういう、書面というのはどういったものだとどこかで規定するのであれば、書面性というのは広がっていくわけですね。そういう電子媒体も入ってくるということだと思うのです。
 申立ては、確かに機関仲裁であれば、口頭では受け付けられないですね。何らかの媒体で保存がきくものということだと思うのです。だから、そういう意味での要件は必要だと思うのです。今おっしゃられた口頭までは−−実務上おそらくそういったことはないと思いますけれども−−そういうことは難しいなと思います。

□ 口頭は外しましょう。書面の場合に、相手方に送付しなければいけませんね。そのための副本は出さなくてもいいということですか。

○ 私から言えば、外すというのは電子を想定しているんで、電子の内容がそのまま送られますから、私も書面を外した方がいいと思いますが、どうしても置くのであれば、せめて先ほどの仲裁合意のときのように、後に記録を残す方法とか、参照の用に供する方法とか、それぐらいまでは広げておかないと、実務には耐えないと思います。
 ただ、そこまでの丁寧な規定を仲裁合意のように置く必要があるかというと、その必要はないと思いますので、いっそ書面による要請を外した方がいいという趣旨です。

○ 機関仲裁であれば、当然今でも書面でほとんどやっていますし、それはオンライン化しても時代に対応していけると思うのです。ここの事務局の理論というのは、おそらく、この真ん中に書いてある、一体何がなされたのか分からない場合。例えば、請求の特定も分からないとか、時効中断の問題も、結局そちらの方に基準を置くとすれば、やはり意義があるのではないかというふうに思うんですけれどもね。

● オンライン仲裁をやるには、多分機関がやり出すと思うのですけれども、機関ではそういう規則をつくりますので、当事者の合意がある場合としてそれは問題なくできると思います。やはりアドホックなんかでどういう規律を取っていくのかということで、当事者の合意がない場合ですね。オンラインをやるときは、同意をもらってやるのかなという気もするのですが、必ずしもそうではないのでしょうか。

○ そもそも仲裁の申出か何なのか分からないようなものが出されて混乱しないようにという趣旨なのかなというふうに読んだのですけれども。

□ これは書面というものをベースにしましょうと、当事者が別段の合意をすれば、その限りではないということしか書いていないですね。○○委員の御意見で、当事者の合意があろうとなかろうと、書面以外のものを認めるということになると、アドホックなんかの場合には非常に困るかなという気がしているのですけれども。

○ 結局、具体的に問題になる局面は、時効の起算点ということで理解してよろしいのでしょうか。つまりそこを心配して書面要件をかませているというふうに。

● 一番最初の段階ではそうですね。それからあと、書面的なものをベースとして要求しないというときに、申立てはしたと当事者が言っていても、それがはっきりしないということで手続上混乱が生じることがないかどうか。

○ 当事者の方は、別に申立書面に限らず、出した出さないという問題が起きるわけですから、そこだけ要求する意味は余りないので、結局今の話ですと専ら時効の関係を考えているというふうに理解されるのですが。

● 仲裁手続の進行について、これから手続を進めていく上で、基本的な請求の内容というものは、やはりそこのところは一番初めにはっきりしておかないと、後で混乱してしまうのではないかと思うのです。それに伴って、いろいろ口頭で言っていたのだけれども、そうではなくて違うことを言っていたんだということを後から言われて、それがはっきりしないと。
 だから、途中で権限があるかないかが問題になった場合に、一番最初に言っていたのはそうではなかったですよということを言い出して、何が仲裁廷にかかっているのかよく分からないということが問題にならないかなということです。

○ 仲裁合意はもう既にあるわけで、その仲裁合意の書面が必要なわけですから、しかも将来の紛争一般に関する仲裁合意はできませんから、ある程度特定化した対象についての仲裁合意はあると思います。
 あとここで問題になっているのは、手続に関しての申出だけの話ですから、それはたとえ口頭であっても−−ほとんどないと思いますけれども−−単に証明の問題に委ねて結構だと思います。

● 証明の問題にして解決できるというのは、理論的には分かるのですけれども、そうなると手続の進行としては難しくないかなというのが、事務局としての率直なところなんですけれども。

○ 一番時効のところが心配だろうと思うのです。現実には、私どもの規則で申立書面と書いてありますけれども、書面については定義していません。現実には時効の完成直前にファックスで申立てをしてくることがあります。後日郵送することを条件に受理します。
 今の時代の流れからすると、Eメールでそれをやってくると、それはほとんど同時に来ますので、そういうのを考えられるかという気がしますね。
 書面の定義を頭に描きながら、アドホックの場合でもEメールでもよいのか疑問があります。

□ 分かりました。このままの案で、書面で、しかし別段の合意ができるというふうに考えるか、もう一つは書面というにして、書面の内容としてこういうものも書面だというふうにするか、2つの行き方があると思います。いずれにしても、リジットな形の書面というものだけではなくて、やはり仲裁ですから、ちょっと広げた考え方の方がいいのかなという気がしますけれども。

【検討事項案その5(第5 仲裁手続の進行について) 〜6 仲裁手続の言語について〜】

□ ちょっと時間が超過しておりますが、お許しいただきたいと思います。次は6の仲裁手続の言語の問題です。説明をよろしくお願いいたします。

● モデル法22条にならって、仲裁手続で用いる言語についての規定を置くことについて御意見を伺いたいと思います。
 これはモデル法と同じような条文ということでどうか、ということです。

□ この点はいかがでしょうか。当事者の合意で1又は2以上の言語を定めることができると、そういうものがない場合には、仲裁廷がその言語を定めるということです。そして、その定められた言語は、当事者の書面による陳述、それから審問、仲裁廷の判断、決定、その他で用いると。仲裁人同士の協議は、何を使っても構いませんけれども、こういう(3)に書いてあるようなところでは、その言語を用いるということですが、いかがでしょうか。これも初出でございます。
 国際商事仲裁協会は、こういう事件を扱う場合に、これで不都合がないかどうか。

○ 大体このような内容の規定が規則上も盛り込まれていますので、特に問題ないと思います。

□ よろしゅうございますか。日本海運集会所も。

○ はい。

□ 分かりました。それでは、特に御異論がないようですので、そういうふうにさせていただきます。

【次回の予定等、閉会】

□ これで今日の資料は一応全部検討したということにさせていただきます。本日の検討会は、これで終了いたしますが、何か今までの議論で、この点はという点がもしあったら伺いたいと思います。

○ どこで申し上げようかと思ったのですけれども、何回か出ています、消費者の契約をどうするかということを、第二読会の2回目か3回目にまとめて御議論をしていただいた方がいいのではないかと思っています。
 国際商事仲裁を中心でいくということは、これは当然の前提としながら、しかし国際商事仲裁の言わば世界の先端のものと、一方で消費者契約を含めて仲裁を組み立てるとすると、かなり異質のものがこの中に入ってくると思うんです。できれば次回にもペーパーをまとめてきたいと思っていますけれども、中には消費者契約についてはおよそ仲裁法を適用すべきではないというような意見すら私の方に寄せられております。しかし、ここでは全体として俎上に上げようということでありますので、その辺りをどうするか。
 消費者も前提にするとすると、今日のような細かい条文の一つひとつについて、この場合はどうだというふうに議論していくのかと思うのですが、一度まとめて御検討願いたいと思います。

□ それは大変ありがたいことですので、是非お願いいたします。次回に出していただければいいですか。

● 消費者保護の観点からの規定ぶりにつきましては、第7回、次々回のときに議論をさせていただきたいと思います。今回と次回の第6回で、一読でやった手続のところについて一通りの議論をして、その中で積み残した大きな問題について、今日でいくと時効の中断についてはもっと議論しなければいけないことですし、消費者保護、それから手続全体の構造についてどうするのかということも議論しなければいけないと思っております。ちょっと重たいものを一番最後の7月8日の時に議論させていただきたいというふうに思います。
 その意味で、次回に前出しという形で意見書を御提出いただけるのであれば、非常に参考になると思いますので、よろしくお願いいたします。

□ ほかにございますか。なければ事務局の方から何かございますでしょうか。

● 次回は、6月11日火曜日、午後1時30分からです。引き続き第二読会ということで御議論いただきたいと思います。資料は1週間前までにお送りするということで予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

□ それでは、これでようやく終了いたしました。長時間どうもありがとうございました。

(以上)