事務局から、検討会資料27について説明がされ、これについて次のような意見交換がされた。
(1 援助の請求権者について)
○モデル法と同様に、許可を得た当事者にも申立権を認めるべきである。例えば一方当事者が日本人、他方当事者がアメリカ人、仲裁人がフランス人、仲裁地が日本、手続法日本法の国際仲裁を考えると、日本の裁判所に共助を求める手続をフランス人の仲裁人にさせるのは負担が大きい。当事者が勝手に申し立てるのでは手続が混乱するが、仲裁廷が許可するのなら仲裁廷自身が申し立てるのと同じだから、日本法を熟知している当事者が申し立てる道は残す必要がある。
●当事者申立てだと、必ずしも仲裁廷が証拠調べの必要性を吟味せずに、当事者が言うから許可する場合が増えないかが懸念される。なるべくそういう余地を狭めて、裁判所は証拠調べの必要性の判断はせずに適法要件の審査に純化した方が、システムとしてはうまく動くと思われるが、どうか。
○仲裁廷にとって、裁判所に援助を求めるなどやりたくないのが普通で、軽々に許可を与えることはないと思う。
○モデル法と異なる規律をする合理的な理由はないのではないか。
(2 対象となる証拠調べの範囲について)
○諸外国は証拠調べの範囲を限定していない。制限的立法を置くことによってわが国の仲裁法のイメージを損なうおそれもあり、慎重に検討すべきである。
○A案では証拠調べをし得ない場合が生じ、真実発見能力が欠けてしまい、確定判決と同一の効力を有する紛争解決手段として不都合である。B案は仲裁廷がなし得るか否かで区分しており、理論的には成立しうるとは思う。C案では仲裁廷でも裁判所でも証拠調べをなし得る場面が出てくるが、C案を採ったとしても、調査嘱託・送付嘱託・鑑定は公法上の義務を課する以上仲裁廷にはできないと考えるので、実質的にはB案とC案はそれほど違わないと考える。
○援助を行うための要件(後記3)は、裁判所は実質に踏み込んでの必要性判断はできないだろうから、どうしてもA案又はB案的な判断しかできないと思われる。とすれば、証拠調べの範囲で必要性を絞る必要がある。B案か、あるいはB案では不明確であればA案も考え得る。
○仲裁廷にとっては、裁判所に援助を求めるのは自らの存在意義を損なうことであり、インセンティブはわかないはずである。そういう現実において、あえて日本だけが諸外国と異なる規定を置くのは、望ましいとは思えない。
(3 裁判所が援助を行うための要件について)
○B案の濫用的申立ての審査は、解釈で論じる余地はあるが、わざわざ規定を置くのは疑問である。諸外国の立法例もないと思われる。
○他の制度では、裁判所が関与するのは、強制力を伴う措置や、人権に関わる場面である。強制力の可否や人権侵害のおそれなどを後見的に判断する趣旨であれば理解できるが、そうでないのであれば、何故仲裁に関与するかが疑問である。
○実務上は、裁判所に依頼すると時間がかかるので、当事者が望まない。
(4 裁判所の決定に対する不服申立てについて)
○仲裁廷等が必要不可欠な証拠と考えたのに却下されることも想定され、即時抗告程度の再度の審査は意味があるのではないか。
○裁判所の高度の裁量に属すると思うので、不服申立制度は不要である。
(5 援助に係る証拠調べの在り方について)
○援助の申立ては仲裁廷が行うから発問権者は仲裁廷とも考えられるが、発問権を有するのは当事者か仲裁人か。
●仲裁廷の証拠調べに代わる尋問なので、仲裁手続の当事者が発問権を有することを考えている。
(6 仲裁廷が行う証拠調べへの援助について)
○需要があるなら必要かもしれないが、理論的には、仲裁廷の面前での証拠調べには裁判所は責任を負えない立場にある。仲裁廷で侮辱的な質問がされる場合等も想定されうるが、その場合に過料の制裁をもって出頭を命じてよいかは疑問である。また、出頭義務と証言義務は連続しており、仲裁廷が証言拒絶権を認めるのであれば、出頭を強制する意味がない。慎重に考えるべきである。
○現実に利用されることは少ないと思うが、実務からすると、裁判所で証拠調べというのは考えにくい。利用するとすれば、強制力を得て仲裁廷で証拠調べをするケースであろう。
○仲裁廷への出頭を命じる規定は英米法系の国では置かれており、特に問題も生じていない。大陸法系の国では規定を置く例は少ないが、規定がないからといって仲裁廷への出頭を命じることができないとは思われない。ドイツなどに例がないか調べたらどうか。
○英米法系が仲裁廷への出頭を認めるのは、法制全体の問題とも絡むのではないか。英米法系では法廷侮辱罪が広く認められているが、仲裁廷が極めて不適切な尋問等をした場合に、裁判所が仲裁廷にcontemptをかけることがありうるとも考えられ、その点も含めて調べてほしい。
(7 援助に係る証拠調べの費用について)
○仮に当事者に援助申立権を認めた場合は、当事者が申し立てた場合は当事者が納付義務者になるのか。
●そう考えている。
○このような規定を置く必要はあるのか。
●枠内の記載通りの規律とするのであれば、現行の法令のままで対処可能である。これと異なる規律とするのであれば、規定を置く必要がある。
(8 援助に係る証拠調べの結果の取扱いについて)
○証拠調べの結果は裁判所が嘱託者に返すのではないか。当事者が介在しないと返っていかないのか。
●裁判所から嘱託者に返す仕組みも考えられ、韓国法はそのような扱いにしているが、事務局案はそのような仕組みを採っていない。